裁判員制度に関する検討会(第6回)議事録 1 日 時   平成23年6月8日(水)16:28〜18:39 2 場 所   最高検察庁大会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,酒巻匡,残間里江子,四宮啓,      土屋美明,栃木力,前田裕司,松並孝二,室城信之,山根香織 (敬称略) (事務局)西川克行刑事局長,甲斐行夫大臣官房審議官,和田雅樹刑 事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,西山卓爾刑事 局参事官 4 議 題  (1) 裁判員制度の実施状況等について(報告)  (2) 意見交換    土屋美明委員    「裁判員裁判に関わる報道の現状について」    室城信之委員    「裁判員に分かりやすい立証等に向けた警察の取組について」  (3) その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成23年3月末・速報)   資料3:特別資料1(量刑分布)   資料4:特別資料2(求刑分布)   資料5:特別資料3(参考統計)   資料6:裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書(平成22年度)   資料7:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料8:裁判員制度の運用に関する意識調査   資料9:裁判員裁判の概況   資料10:裁判員裁判対象事件の累積起訴・未判決件数   資料11:裁判員裁判対象事件の月別起訴・判決件数   土屋委員説明資料:「事件・事故・刑事裁判と報道」   室城委員説明資料:「裁判員に分かりやすい立証等に向けた警察の取組について」 6 議 事 ○西山参事官 それでは,予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第6回会合を開会させていただきます。 井上座長,お願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中,皆様にはお集まりいただきまして,ありがとうございます。 本日は議事に先立ちまして,委員の交代がございましたので,その点について御報告をいたします。  人事異動に伴いまして,河合委員に代わり栃木委員が新たに委員になられました。  栃木委員,自己紹介をお願いいたします。 ○栃木委員 この4月に千葉地裁から東京地裁に異動になりました栃木でございます。河合委員の後に引き続きまして,東京地裁の第二代行となりまして,この検討会におきましても委員を引き継ぐことになりました。よろしくお願いいたします。 ○井上座長 続きまして,本日の資料につきまして御確認をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 刑事局参事官の西山でございます。 本日の資料は,議事次第,現在の委員名簿,インデックス付きの資料が1から11まで,それから土屋委員と室城委員からそれぞれ,配布の御希望がありました各資料でございます。 土屋委員からはレジュメ,説明資料一覧,右肩に資料番号が記載されております資料1から資料21,さらに机上配布資料一綴りがございます。  また,室城委員からはレジュメがございます。  資料の1から11については,後ほど詳しく御説明いたします。 ○井上座長 よろしいでしょうか。  それでは,議事に入りたいと思います。 まず裁判員制度の実施状況等について,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 それでは,裁判員制度の実施状況等につきまして,お配りした資料に基づき御説明いたします。 まず,本日お配りしているインデックス付きの資料1から11までについて,どのような資料かを簡単に御説明いたします。 資料1「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」は,平成21年5月21日の裁判員制度施行後,本年5月20日までの2年間における地検別,罪名別の起訴件数をまとめたものです。 資料2から6は,最高裁判所作成に係る裁判員裁判の実施状況等に関する資料です。いずれも,最高裁判所で行われた裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会において公表されたものです。 資料2は,制度施行から本年3月末までの裁判員裁判の実施状況に関する各種統計資料です。 資料3は,平成20年4月から本年3月末までの裁判官裁判及び裁判員裁判の判決を対象とした,罪名別の量刑分布表です。 資料4は,平成20年4月から本年3月末までの裁判官裁判及び裁判員裁判を対象とした罪名別の求刑分布表です。  資料5は,平成20年,21年の裁判官裁判及び制度施行から本年3月までの裁判員裁判を対象とした身柄処遇状況等をまとめたものです。  資料6は,平成22年1月から12月までの間に実施された裁判員裁判を対象とし,その裁判員等に対して行ったアンケート調査の結果を集計したものです。  続いて,資料7「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」は,ただいま御説明いたしました,最高裁判所から公表された資料2と6の主な内容を法務省において要約して1枚にまとめたものです。  資料8「裁判員制度の運用に関する意識調査」は,最高裁判所において裁判員制度に対する国民の意識を把握するため,一般の方々約2,000名を対象として,本年1月下旬から2月上旬にかけて実施した調査結果をまとめたものであり,これも有識者懇談会で公表された資料です。  資料9から11は,最高検察庁作成に係る裁判員裁判の概況等に関する資料です。  資料9「裁判員裁判の概況」は,制度施行から本年4月30日までの裁判員裁判における有罪判決件数,無罪判決件数,検察官控訴件数等をまとめたものです。  資料10「裁判員裁判対象事件の累積起訴・未判決件数」は,制度施行から本年4月までの間における起訴件数及び未判決件数を各月ごとに累計したものです。  資料11「裁判員裁判対象事件の月別起訴・判決件数」は,制度施行から本年4月までの間における起訴件数及び判決件数を月別にまとめたものです。  続いて,それぞれの資料の内容について,更に御説明をいたします。  まず,資料1によりまして,裁判員裁判の起訴件数・判決人員等について御説明いたします。  左から2番目の列に赤字で,罪名別起訴件数が記載されており,その一番下が合計欄で,本年5月20日まで2年間の全国の起訴件数は,合計3,660件となっています。これを1か月平均に直しますと,約153件が起訴されているということになります。  罪名別では,多い順に強盗致傷882件,殺人760件,現住建造物等放火335件,覚せい剤取締法違反306件,傷害致死265件となっており,これら5罪種で全体の70%を占めています。  また,検察庁別に見ますと,多い順に千葉が394件,東京が328件,大阪が300件などとなっており,罪名別及び検察庁別の順序は,いずれも前回の検討会で報告させていただいたところと変わりはございません。  一方,裁判員裁判の判決人員については,資料1の右にある二つの青枠の下のほうに記載のとおり,本年5月20日までで,判決言渡し人員は合計2,180人となっています。判決言渡し人員を件数に直しますと,2,422件になります。起訴件数は3,660件ですので,判決件数と比べてみますと,約66%について判決まで至っていることになります。  次に,資料2に基づき,本年3月末までの裁判員裁判の実施状況について御説明いたします。  まず,裁判員候補者の選任については,資料2の5頁の表4に掲載されております。裁判員候補者名簿に登載された方の中から,実際に個別の事件で裁判員裁判を行う段階で選定された裁判員候補者の数は,表4の上段にあるとおり,17万7,794人となっています。そして,調査票の回答により,辞退が認められる方等を除いた13万1,019人に呼出状が送付され,さらに,呼出状の送付後に辞退が認められたなどで,実際に選任手続期日に出席された方は6万6,203人,平均すると裁判員裁判1回当たり約32.1人となっています。  出席率は80.2%となっており,前回報告した昨年11月末まででは81.2%でしたので,おおむね同程度と言えます。  次に,5頁の表3によると,選定された裁判員候補者のうち辞退が認められた候補者の数は9万6,745人であり,辞退が認められた割合は54.4%となっています。第4回で報告した昨年7月末まででは51.5%,前回報告した昨年11月末まででは52.3%であり,やや増加している状況が見られます。  また,6頁の表5によれば,辞退の理由については,70歳以上などの定型的辞退事由を除くと,辞退が認められた事由として,「事業における重要用務」「疾病傷害」「介護養育」の順に多くなっています。この順序も従前と同様です。  次に選任手続となりますが,資料�Aの7頁の表7を御覧いただきますと,本年3月末までで選任された裁判員は1万1,889人,補充裁判員は4,241人となっています。終局件数,つまり終局した裁判員裁判の数が1,949件であり,終局件数1件当たりの補充裁判員の数は約2.2人となっています。  続いて,裁判員裁判のために要する期間等についてですが,資料2の7頁の表9では,公判前整理手続期間が自白,否認別にまとめられており,本年3月末現在で,公判前整理手続の平均期間は全体で5.4か月,自白事件で4.6か月,否認事件で6.7か月となっています。  前回報告した昨年11月末まででは,全体で5.2か月,自白事件で4.5か月,否認事件で6.5か月でしたので,全体としては少し延びております。また,公判前整理手続期間が6か月を超えている事件が636件ありますが,この中で最も長いものは617日,すなわち約1年8か月であるとのことです。  開廷回数については,7頁の表10にあるとおり,本年3月末現在の平均開廷回数が全体で3.8回となっており,開廷回数が3回又は4回の判決人員の数が全体の約78%を占めています。昨年11月末までの平均開廷回数は3.7回でしたので,回数がやや増えております。  なお,自白・否認別の平均開廷回数を見ますと,自白事件では3.5回,否認事件では4.5回となっております。  資料2の8頁では,表11−1が起訴から終局までの期間である審理期間,表11−2が第1回公判から終局までの期間である実審理期間,表12が評議時間について,それぞれ自白・否認別にまとめられています。  表11−1によりますと,本年3月末現在の平均審理期間は全体で8.2か月であり,自白事件につき7.2か月,否認事件につき10.0か月となっています。前回報告した昨年11月末まででは,全体で7.8か月,自白事件で7.0か月,否認事件で9.3か月でしたので,これも少し延びております。  また,表11−2によりますと,本年3月末現在の実審理期間は,最も多い3日が694人で約33.7%,次に多い4日が538人で約26.1%となっており,全体の6割が3日ないし4日ということになります。  さらに,表12によりますと,評議時間については,本年3月末現在,全体の平均評議時間が514.6分,すなわち約8時間半であり,前回御報告した昨年11月末現在では全体の平均評議時間が480.3分,すなわち約8時間でしたので,全体的に少し長くなっていると言えます。  以上のとおり,裁判員裁判に要する期間等については,全体的にやや長期化の傾向がうかがえます。  次に,量刑分布,求刑分布,身柄処遇状況等について,裁判官裁判と対比してまとめたものが資料3から5です。  資料3が量刑分布であり,例えば別紙1は殺人既遂の量刑分布ですが,右側の表及び左側の折れ線グラフのそれぞれ青色部分が裁判官裁判,赤色部分が裁判員裁判の結果となっています。そのほか,殺人未遂,傷害致死,強姦致傷,強制わいせつ致傷,強盗致傷,現住建造物等放火,覚せい剤取締法違反の各罪の量刑分布が掲載されています。  次に,資料4が求刑分布であり,例えば別紙1は殺人既遂の求刑分布ですが,資料3と同様,右側の表及び左側の折れ線グラフのそれぞれの青色部分が裁判官裁判,赤色部分が裁判員裁判の結果となっています。資料3と同様の罪名について掲載されています。  次に,資料5の1頁の表1を御覧いただきますと,身柄処遇状況について裁判員裁判と裁判官裁判が対比されています。これによりますと,平成20年,21年の裁判官裁判において,勾留された人員中保釈された人員の割合,すなわち保釈率は,平成20年で4.5%,21年で5.5%であるのに対し,制度施行から本年3月までの間における裁判員裁判の保釈率は8.3%となっており,裁判官裁判に比べて保釈率がやや高くなっています。  2頁の表2には,保釈率の対比が罪名別に掲載されております。  さらに,3頁の表3では,控訴審における受理区分について,裁判員裁判と裁判官裁判とが対比されています。これによりますと,平成20年の裁判官裁判においては,被告人側の控訴が91.6%,検察官側の控訴が3.4%,平成21年の裁判官裁判においては,被告人側の控訴が89.6%,検察官側の控訴が3.2%だったのに対し,制度施行から本年3月末までの裁判員裁判においては,被告人側の控訴が99.2%,検察官側の控訴が0.5%となっています。  次に,裁判員等経験者のアンケート結果について御説明いたします。このアンケート調査は,平成22年1月以降同年12月末までに行われた1,430件の裁判員裁判に関わられた裁判員及び補充裁判員並びに裁判員候補者に対し,裁判所においてアンケートの協力をお願いし,4万4,040名から回答が得られたものです。  まず5頁を御覧いただきますと,問3「審理内容の理解のしやすさ」については,63.1%の方が「理解しやすかった」と回答されています。次に,6頁を御覧いただきますと,問6「評議における話しやすさ」については,77.3%の方が「話しやすい雰囲気であった」と回答され,問7「評議における議論の充実度」については,71.4%の方が「十分に議論ができた」と回答されています。  また,問11「裁判員として裁判に参加した感想」を見ると,「非常によい経験と感じた」と回答された方が55.5%,「よい経験と感じた」と回答された方が39.7%であり,合計95.2%の方が積極的な回答をされています。  また,資料6の9頁から12頁には,補充裁判員及び裁判員候補者に対するアンケート結果の要約も掲載されています。  そのほか資料6の121頁以降には,裁判員,補充裁判員,裁判員候補者,それぞれのアンケートにおける自由記載の回答内容が掲載されています。詳細な御説明は省略させていただきますが,各委員におかれて是非目を通していただければと存じます。  なお,以上の御説明のうち,資料2の実施状況及び資料6のアンケート結果については,資料7において主な内容をまとめておりますので,こちらも御参照いただければと思います。  次に,資料8「裁判員制度の運用に関する意識調査」について御説明いたします。この調査は,最高裁判所で一般の方に対する意識調査を実施され,2,025人から回答を得たものです。資料8の5頁のQ1によりますと,裁判員制度が実施されたことを「知っている」とされた方は99.1%にのぼります。また,資料8の11頁のQ4では,我が国の刑事裁判について裁判員制度が始まる前の印象として,「そう思う」と「ややそう思う」の合計数が多かったものは,「裁判に時間がかかる」86.8%,「裁判所や司法は近づきがたい」77.8%,「裁判の手続や内容がわかりにくい」76.1%などとなっています。  これに対し,33頁以下のQ7によると,現在の印象については,第3回検討会で御報告した平成21年の調査に比べ,「裁判がより公正中立なものになった」との回答が38.5%から46.8%に増加し,「裁判がより信頼できるものになった」が,40.9%から46.9%に増加し,「自分の問題として考えるようになった」が59.1%から64.3%に増加するなど,裁判員裁判に対する肯定的な評価が増えている状況も見てとることができます。  次に,資料8の49頁には,「裁判員として刑事裁判に参加したいと思いますか」という質問への回答が掲載されていますが,「参加したい」が4.6%,「参加してもよい」が10.4%,「あまり参加したくないが義務であれば参加せざるを得ない」が42.6%となっており,参加意思をお持ちの方はこれらを合計して57.6%となっております。平成21年度調査では62.4%でしたので,少し減少しているということになります。  次に,資料9から11は,最高検察庁が作成した裁判員裁判の概況等に関する資料です。  資料9の1頁から2頁には,死刑判決の件数,内訳が掲載されています。これによりますと,5名に対して死刑判決が言い渡され,そのいずれについても弁護人控訴がなされています。  さらに,2頁から4頁には,一部無罪等を含む無罪判決の件数,内訳や,検察官控訴の件数,内訳が掲載されています。  これによりますと,8名に対して一部無罪等を含む無罪判決が言い渡され,また,無罪判決を言い渡されたものを含む6名について検察官控訴がなされ,うち3名については控訴審の判決が出ており,その結果は破棄自判,破棄・原審差戻し,控訴棄却となっています。  さらに,4頁には被害者参加について,制度施行から本年3月末までの間の判決言渡し人員2,060人中223人について被害者参加があったことが記載されております。  資料10には,制度施行から本年4月までの間における各月ごとに累積の起訴件数及び未判決件数が,棒グラフで示されております。これによりますと,累積の未判決件数が増加傾向から減少傾向に転じた状況を見てとることができます。  この傾向については,資料11によっても分かります。つまり,資料11には,制度施行から本年4月までの間における月別の起訴件数及び判決件数が棒グラフで示されていますが,これによりますと,月ごとの起訴件数と判決件数の関係について,施行後,起訴件数が判決件数よりも多い月が続いていたのですが,平成22年7月に初めて判決件数が起訴件数より多くなり,その後も判決件数のほうが多い月が多くなっています。 ○井上座長 どうもありがとうございます。 関連しまして,先般の東日本大震災との関係で,裁判員裁判にも影響があったのではないかと思われますけれども,この点について,事務局から御説明いただくことがあれば,補充して説明していただければと思います。 ○西山参事官 その点につきまして,事務当局で把握している事項について御説明をいたしますと,このたびの東日本大震災の影響により,選任手続期日と公判期日の取消し,あるいは公判期日のみの取消しがなされており,仙台地裁で3件,福島地裁本庁で1件,福島地裁郡山支部で4件,水戸地裁で3件の公判期日等が取り消されています。 なお,4月末現在で福島地裁本庁,郡山支部の2件と水戸地裁の3件については,期日の再指定がなされております。さらに仙台,福島,盛岡の三つの地方裁判所においては,被災地の裁判員候補者に対して呼出状を送付しない措置をとっているところもあり,仙台地裁においては気仙沼市など13市町村と仙台市内の2区について,福島地裁においては南相馬市など5市町村について,また,盛岡地裁においては大船渡市など9市町村について,当面6か月程度呼出状を送付しない措置がとられていると承知しております。 ○井上座長 ありがとうございます。 それから,前回,前田委員から,裁判員裁判における被害者参加の割合と裁判官裁判における被害者参加の割合について御質問があったと記憶しますけれども,この点について説明していただけますか。 ○西山参事官 その点につきまして,現在,事務局で把握しているデータに基づき御説明いたします。 そもそも被害者参加制度の施行は平成20年12月,裁判員制度の施行が平成21年5月ですが,裁判官裁判と裁判員裁判,それぞれの被害者参加の割合を対比するための基礎データは,今のところ平成21年中に第一審の裁判が終局した事件についてのみとなります。 そのデータに基づき,まず殺人罪について,平成21年の終局人員のうち,被害者参加の申出があった割合を,裁判員裁判と裁判官裁判それぞれにつき計算しますと,裁判員裁判では16.7%,裁判官裁判では6.7%となりました。次に,強盗致死傷罪について,同様に被害者参加の申出の割合を計算しますと,裁判員裁判では11.1%,裁判官裁判では0.9%となり,いずれの罪においても裁判官裁判よりも裁判員裁判のほうが被害者参加申出の割合が高いという結果が出ました。 もっとも,平成21年における裁判員裁判の終局人員が少ないことや,平成21年における裁判官裁判の終局人員について,その中には被害者参加制度が施行された平成20年12月より前に起訴されたため,被害者参加の申出をしたくてもそれができなかった事例も相当程度含まれていると思われることなどから,ただいま述べた割合をもって一定の傾向を評価するには難があるとも思われるところでございます。 いずれにいたしましても,今後事例の集積を待って,更にデータの収集と分析に努めてまいりたいと思います。 ○井上座長 ありがとうございました。 もう一つ,前回,大久保委員から,裁判員経験者の意見交換会への出席に同意する方の割合について御質問があったと存じますけれども,この点について栃木委員からお答えいただけるとのことです。 ○栃木委員 具体的な数字というのは承知していないんですが,千葉地裁での経験を申しますと,千葉地裁で第1回の裁判員経験者の意見交換会をした際に,大体1割程度の人数の人が参加の申出をしてくれるのではないかという予想の下に募集をかけました。 それは,意見交換会をウィークデーの午後2時から3時などといった時間帯に実施するということで,なかなか参加が見込まれない可能性があったからですが,そのような予想の下で募集したところ,おおむねそのような程度の参加希望があったということなので,千葉地裁における私の個人的な経験で申しますと,大体1割程度であったような気がいたします。 ○井上座長 ありがとうございました。 たくさん御説明いただいたのですけれども,以上の説明,いずれについてでも結構ですが,何か御質問等ございましたら,御発言願います。 山根委員,よろしいですか。 ○山根委員 すみません,では一言。 全体で裁判にかかる時間がやや長期化したという御説明だったんですけれども,これは単純に,難しい裁判が増えたと理解すればよろしいんでしょうか。例えば,裁判員のほうからもっと議論を尽くしたいから予定より少し延ばしてほしいと希望が出て,延ばしたということも含まれているんでしょうか。分かれば教えていただけると。 ○井上座長 どうですか。統計からはそこまで読み取れないのかもしれませんが,栃木委員の感じではどうですか。 ○栃木委員 もともと事件ごとに職務従事予定期間が決められていますので,よほどのことがない限りは事前に決めた審理期間が延びるということはないと思います。やはり死刑事件とか,いろいろ複雑困難な事件が増えた影響が強いのではないかと,個人的には思っております。 ○井上座長 前田委員,いかがですか,そんな感じですか。 ○前田委員 そうですね。ちょっと実証的には全く言えないんですけれども,推測としてはそういうことが言えるのかなと思いますけれども。 ○井上座長 松並委員,何か補足されることはありますか。 ○松並委員 ございません。 ○井上座長 中身を見ましても,非常に厳しく争われる否認事件とか,極めて重い求刑が予想される事件とかが増えていますので,全般的に審理期間とか実審理期間が長くなっているのではないかと思うのですね。そういった事件の中身が影響しているのではないかという感じがいたします。 ○西山参事官 資料で御覧いただくとすれば,今回の資料6のアンケート結果の自由記載欄を御覧いただきますと,裁判員の御意見では127頁の第4に,審理時間が短かったとするもの,長かったとするものといった項目もございます。審理時間が短かったなどとする御意見が45件,自由記載であり,審理時間が長かったとするものも11件あったということでございます。 それから,評議時間について見ますと,同じ資料の133頁,これも裁判員の御意見ですが,評議時間が短かったなどとするものが183件あり,長かったとするものは33件あったとのことです。 ただ今の山根委員から御指摘があったような裁判員の御意見については,このアンケート結果の上では以上のとおりとなっております。 ○井上座長 ほかに何か,御質問等がございますでしょうか。 ○酒巻委員 ちょっと気になっているのですが,審理期間というのは,資料�Aの8頁にありますとおり,受理してから終わるまでです。しかし,実際の裁判をやっている部分はその次の表11−2の実審理期間というところで,大体3日ぐらい集中して審理をやるというのは,事件によってそれほど昔と変わっていない。一方で,審理の前の部分がちょっと延びているのが気になっています。具体的には公判前整理手続のところが少し延びているのではないか。 制度を設計したときには,公判前整理手続は,もちろん裁判員裁判では必ず行うことになっているんですけれども,これが時間を要するのは基本的には争いのある事件を想定していた。被告人が自白している事件については,量刑についての証拠の整理などをするのだろうと考えていました。ただ,自白している事件で公判前整理手続がそれほど長くかかるというのは,余り想像していなかったのです。ところが,自白事件の公判前整理手続の期間が,ちょっと延びている傾向がありまして,確かに自白している事件の被告人にとって刑というのは大事なことですから,ある程度十分詰めるというのはよく分かるんですけれども,いささか気になるところです。 ○井上座長 この点も,延びたからそれが不適切だというものでもないのかもしれません。短いからいいというわけでもないので。もう少し様子を見ないと,全体としてどの辺に落ち着くか分からないのかもしれませんね。 ほかにございませんでしょうか。 ○大久保委員 裁判員裁判の場合は,保護観察になる人が増えているという結果が出ていましたけれども,増えたということで,保護観察制度そのものがしっかりと増えても機能するように,きちっと対応できているのかどうなのかということを,多分,裁判員の方たちも気になるのではないかと思いますので,もし分かれば教えてください。 ○井上座長 これは事務当局のほうで,どなたかお答えできますか。 ○西山参事官 後日,機会を改めまして御説明させていただきたいと思います。 ○井上座長 正確なところは,後日ということにさせていただきましょう。ただ,今までのところ,特に何か支障が生じているようなことは聞いていませんね。 ○大久保委員 はい,次回でも結構です。 ○井上座長 ほかによろしいですか。 それでは,また何かありましたら,後で伺いたいと思います。 次に,既に御案内のとおり,お二人の方から御報告をいただくことにします。まず土屋委員から,「裁判員裁判に関わる報道の現状について」というテーマでお話くださるということでございます。 御報告を伺った後で,意見交換をしていただきたいと思います。 ○土屋委員 お手元に資料を,ちょっと分厚いものを配りましたので,しかも字が小さくて大変読みにくいと思いますが,よろしくお願いいたします。時間は30分から40分ぐらいかかるのではないかと思っております。 本日は,裁判員法成立以降の状況を中心に説明させていただきます。 レジュメの三つ目の逆三角形になるんですが,「メディア団体の自主ルール」と書きましたけれども,その後が主な中身になります。 その前の経緯というのは極力省略いたしますので,詳しい内容は配布資料を見て,チェックしていただきたいと思います。 本日の説明は,委員としての個人の立場で行うものでありまして,日本新聞協会はもとより,メディア各団体の公的な意見ではありません。 ただ,私は,共同通信社の社内に設けられた編集局長を委員長とする裁判員制度検討委員会という組織があるんですが,その委員であって,また新聞・通信・放送・広告・出版などのマスメディア全体を横断する,日本では唯一の組織ですけれども,マスコミ倫理懇談会という組織の共同通信社登録社員でもありますので,ある程度の情報は把握できる立場にあります。 お配りした資料は,公表済みのものが中心ですけれども,中には公表されていない社内資料みたいなものもございます。そのような非公開資料は机上配布のみということにさせていただきたいと思います。 本日のお話の結論を先に述べてしまいますけれども,事件・事故・裁判の報道によって,今のところ大きなトラブルは起きていないと認識しています。裁判員や補充裁判員に予断を抱かせることなく,「公正な裁判」と「報道の自由」という,二つの理念の両立を目指すメディア側の指針ですとか各社の自主ルールが有効に機能している,そういうふうに認識しております。 ですから,メディアに対する法的な対処を考える必要はないと,少し先走った言い方ですけれども,そういうふうに考えております。 二つ目の逆三角形のほうに移りますが,裁判員制度と報道の問題からお話を始めます。 刑事裁判への国民参加制度がある国々では,被告人への偏った見方,いわゆる偏見ですけれども,それに基づく裁判を回避し,中立で公正な裁判を確保するという目的で制度の工夫が行われてきました。メディアについても,審理の前あるいは審理中に,陪審員らに予断を抱かせる報道を禁じるなど,予断排除の観点から法的規制の是非が論議されてきています。 その趣旨は,国民参加の制度を守るということと,参加する国民を守るという,その2点にあると言われています。 資料1を御覧いただきたいんですが,2003年に最高裁判所が作成した表です。これら三つのグループへの分類というのは,一応理解はできるんですけれども,少し異論もあります。 タイプAはそこに書いてあるとおりで,陪審員裁判が行われているイギリスでは,メディアに厳しい態度がとられていて,公正な裁判を害する報道があれば,1981年の裁判所侮辱法で罰則を伴う法的措置が設けられています。身柄の拘束もあって,時々新聞に出たりするということです。 しかし,陪審員制度でもタイプBに分類されているアメリカというのは,連邦法のレベルではここに書かれたとおりだと思うんですが,その下の州の法律のレベルでは違うところもあります。例えばワシントンですとか,オレゴン州などは,裁判所とメディア団体,弁護士らが一つの組織を作って,具合の悪い報道があれば自主的なルールの下で対処するという方式がとられています。 タイプCというのは,これは国によって千差万別でありまして,ちょっとくくりようがない。例えばフランスでは法的な規制は全くないですし,ドイツ・イタリア・スウェーデンなどはメディア側の自主ルールが大きな影響力を持っています。 外国の制度と照らし合わせると,裁判員制度の下で報道のコントロールを考えるときの視点は三つあるように思います。一つは,裁判の中立と公正の確保という理念。それから二つ目は,裁判員の保護。三つ目は,犯罪被害者らの保護です。これらの三つの視点に照らすと,ドイツ・イタリアなどのようにメディア側の自主ルールによるコントロールに任せるのが,私は最善だと思います。 自主ルールによって中立で公正な裁判が確保されるでしょうし,メディアの報道の自由も確保されるということです。犯罪被害者と裁判員の保護は既に立法措置が講じられておりますし,新たにメディアを対象とした法的措置を論じる必然性はそれほどないのではないかと考えております。そうすると,問題になるのは,メディア側にはこれらの要請を充足できるような自主ルールが設けられているのかどうか,ということになります。 しかし,その話に入る前に,裁判員法の立法過程で行われた議論に少し触れておきたいと思います。 政府の司法制度改革推進本部に設けられた裁判員制度・刑事検討会で,事務局が示した裁判員法案のたたき台があるんですが,これは社会的に偏見を招く報道をはじめとする,裁判の公正を妨げる行為や,裁判員等に対する接触などについて,いずれも罰則付きで法的に規制する案を示していました。これに対してメディア諸団体が,メディア規制だという理由で反発したのは御存じのとおりです。 新聞協会は2003年9月に,懸念を払しょくするために,取材・報道のガイドラインとなる指針を決定するということを表明しました。こうした状況の中で,自民党と公明党のプロジェクトチーム,当時の与党ですが,そのプロジェクトチームが裁判員への接触禁止は罰則のない訓示規定とする,偏見報道の禁止規定は削除する,メディアについては自主規制に任せるとする決定を行いました。罰則付きの報道規制が見送られて裁判員法が成立したわけです。 問題は,この経緯をどう受け止めるかということなんですが,多くのメディア関係者は,これで一件落着と考えてしまったようです。しかし,2007年に入ると,法曹関係の方々から,メディアは自主ルールの約束をしたはずなのにどうしたんだという声が聞かれるようになりました。 資料2なんですが,それを御覧ください。2007年のマスコミ倫理懇談会で,ゲストの最高裁刑事局の総括参事官が,容疑者の自白や前科などを伝える報道は,裁判員となる市民に予断や偏見を与え,刑事裁判の原則である無罪の推定を無意味にしてしまうと述べまして,憲法が保障する報道の自由は大変重要だが,その一方,公正な裁判の保障も大切だ,双方のバランスを図るにはメディアの側が配慮をし,報道のガイドラインを作るのが重要だと問題提起をしています。 こうした指摘を受け止める形で,自主ルールの制定に向けたメディア側の論議がようやく再開されました。 このマスコミ倫理懇談会という場は,1955年に設立された組織でありまして,事務局は新聞協会の中にあります。全国の新聞社・通信社・放送局・広告会社,およそ220社が参加しています。 次の逆三角形のところに入ります。メディア側は,新聞協会などが業界としての横断的な指針を作ったのに加えまして,各社も独自のガイドラインを設けて,この問題に対処しています。 新聞協会は新聞・出版などの活字メディアだけではなくて,テレビ・ラジオ・FM放送といった電波メディアもメンバーとする幅広い組織です。現在の加盟社数は,これは去年の11月現在の数字ですが,新聞が106社,通信社が4社,放送が23社,合わせて133社です。加盟社の新聞発行部数はトータルでおよそ4,900万部になります。そのうち読売新聞,朝日新聞と,共同通信に加盟している毎日新聞,中日新聞,日本経済新聞,産経新聞といった社を合わせますと,その読売・朝日・共同という三つのグループで大きな部分を占めるというのが現状です。 これから各社の自主ルールというのを説明していきますけれども,その際にはそういったシェアというのでしょうか,その大きさを踏まえて,これらの3社を中心に取り上げていきたいと思います。 新聞協会には,メディアの憲法とも呼べる新聞倫理綱領がありまして,資料3になっています。取材や報道は,基本的にこの綱領でカバーするということであります。しかし,更に踏み込んで合意されたのが,裁判員法成立後の2008年1月にできました「裁判員制度開始に当たっての取材・報道指針」です。これは資料4です。 その冒頭部分ですが,公正な裁判と報道の自由の調和という基本理念をうたっておりまして,こういう公正な裁判という言葉が登場したのは,メディアとしては初めてです。中段部分で三つの点を約束しております。そこに注目していただきたいと思います。 第一は,捜査段階の報道では,内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与えることのないよう,記事の書き方などに配慮をする。第二は,被疑者のプロフィールは,当該事件の本質や背景を理解する上で必要な範囲で報じる。第三は,識者のコメントや分析は被疑者が犯人であるとの印象を読者・視聴者に与え,植え付けることのないよう,十分留意するということであります。 この第一点は事実認定に際しての予断の排除,第二点は情状判断への影響の排除,第三点は犯人視報道の回避ということに相当すると思っています。 次は放送なんですが,日本民間放送連盟ですけれども,ここは今年1月現在の会員がテレビ局・ラジオ局・FM局など201社あります。民放連と呼んでいますが,その民放連とNHKは1996年に放送倫理基本綱領を定めておりまして,これが言わば放送界の憲法というものに相当する取り決めです。これは資料5に掲げてありますので見てください。説明は省きます。 民放連は基本綱領を踏まえて,2008年1月に「裁判員制度下における事件報道について」という文書を公表しました。これが資料6です。 ここでは,公正で開かれた裁判の実現という観点に立って,「われわれの社会的責任を再確認することによって,『知る権利』に応える事件報道と,適正な刑事手続の保障との調和が図られる」と述べています。 具体的には,事件報道に当たっては被疑者・被告人の主張に耳を傾けること,一方的に社会的制裁を加えるような報道は避けるということなど8項目が掲げられています。 これらの内容は新聞業界の指針と軌を一にしておりまして,放送も新聞も歩調をそろえて,ともに中立で公正な裁判の実現を目指すと表明したことになります。 次は,日本雑誌協会なんですが,略称で言いますと雑協ですが,大体90社が会員になっておりまして,その会員社で雑誌の発行部数の80%程度を占めています。 雑協の姿勢というのは,2008年1月に公表されました「『裁判員制度』実施にともなう雑誌の事件報道に対する考え方」という文書に示されています。これは資料8です。 この文書では,新たな事件報道のルール作りが必要だとは考えておりませんと言明しています。ただし,「『綱領』に明記されているように『犯罪・事故報道における被疑者や被害者の扱いには十分注意する』ことは,改めてルール作りをするまでもなく当然の責務であります」と述べておりまして,ここにある「綱領」,つまり「雑誌編集倫理綱領」というのが資料7,これが雑協の立場です。 その綱領の3に「法の尊重」というのがありますが,これで足りるというのが雑協の見解だと,私は理解しています。 次は各社のガイドラインの問題です。基本方針を受けて,新聞各社は独自のガイドラインを設けて対処しています。いずれの社も,内容は非公開ですが,全国紙を含む一部の社は紙面で概要を公表しました。 毎日新聞は資料9です。2008年12月に掲載された「裁判員制度と事件・事故報道に関するガイドライン」というのがありまして,そこで強調されているのは,情報の出所明示と容疑者の主張も報道するという2点です。これが全国紙と言われる新聞では最初のガイドラインの公表ということです。 1枚めくっていただいて資料10です。読売新聞の「事件・事故 取材報道指針」というのは,2009年2月の公表ですが,その特色は,発表記事と独自取材記事とでは書き方を変えるということでした。公式発表は「県警の発表によると」という形で発表であることを明示しますけれども,特ダネのような独自取材は,「事件関係者,捜査関係者によると」と,どのような筋のニュースであるかを明らかにしますということです。これは読者に判断材料を与えて,どういう性質の情報なのかというのを区別していただいて,予断の排除に資するねらいだという,確かそんな説明があった記憶です。 資料11は朝日新聞社の取材報道指針です。これは2009年3月に公表されまして,発表は発表と明記するとうたっていますけれども,読売新聞のような独自取材との区別はしていません。原則的に情報の出所を明示することと,被疑者・被告人と捜査側の言い分を対等に報じること,対等報道と呼んでいますが,そういう2点に特色があると言えると思います。 共同通信社は加盟新聞社などと協議を重ねまして,合意に達した事件報道のガイドラインを2009年3月から運用しています。小冊子にして社内に配布しただけではなくて,配信を受け取る新聞社や放送局にもこれは届けられました。地方の新聞社や放送局もほとんどがそのまま使っています。実質的に新聞・放送を通じた基本的なガイドラインとなっていると言えると思います。 共同通信のガイドラインは2009年2月の岐阜新聞,資料12ですけれども,そこに載せられています。情報の出所は可能な限り明示する。起訴事実は,これまで「起訴状によると何々した」と断定した表現にしていたんですが,これは文末に「としている」と入れたりして,これは検察の見方であるということを明確にするようなことを一つの基準にしているということです。 全国紙の3社と大筋で共通する内容ですけれども,見出しでは断定した表現や容疑者を犯人視した表現は避けると書いて,見出しにも言及しているのが特色と言えるかもしれません。 読売,朝日,共同3社のどこが違うのかというのは,ちょっと分かりにくいと思いましたので,私が比較表を作りました。机上配布資料の�@として示してみましたので,参考にしていただければ幸いです。ただし,これは発表当時の内容で,現在,いろいろ変わっている部分がありますので,その点をお含みください。 放送各社の代表例としては,NHKを見ていただきたいと思うんですけれども,NHKは2008年12月に「裁判員制度開始にあたっての取材・放送ガイドライン」というのを公表しました。これが資料13です。内容は,「容疑者を犯人と決め付ける報道をしない。」,「情報の出所をできる限り明示して,容疑者側の主張をできる限り取材・放送する。」,「専門家のコメントは,容疑者を犯人と断定した言い方にならないよう注意する。」,「テレビニュースのタイトルや字幕スーパーも,容疑を断定した表現にならないように注意する。」,「容疑者の顔写真や映像は,必要以上の回数や長さで使わないよう注意する。」と書かれています。視聴者に強烈な印象を与えるタイトル,字幕スーパー,映像への配慮がうたわれたということであります。 これらのガイドラインは,公表後も各社が修正を重ねております。共同通信社を例に御報告しますけれども,一般には公表しておりませんので,机上配布資料で見てください。 机上配布資料の�Aですが,共同通信社では,用字用語などの大原則を記載した「記者ハンドブック」があり,記者全員が使っております。そこに基本原則が書かれているんですが,これだけでは実際に事件・事故・裁判の報道をするのに足りないものですから,社会部では独自に,そのハンドブックの内容を補う「社会記事を書くための基準集」というのを作っております。最新版は2010年12月,第9版になりますけれども,そこに第2章としてガイドラインを取り込みました。それが机上配布の資料です。 2回にわたる部分修正では,ちょっと細かくなりますが,被疑者が容疑についてどのような認否をしているのかということは必ず書くと,そういうことがうたわれました。 放送向けの記事は,この新聞用の記事を放送報道局というところで,話し言葉に書き直して配信しています。ここでは1990年から「放送ニュースの手引」というものが作られておりまして,内容は「社会記事を書くための基準集」と同じです。 机上配布資料の�Bが,「放送ニュースの手引」からの抜き書きです。具体例を見ていきたいと思うんですが,54頁から57頁に覚せい剤取締法違反で逮捕された容疑者のニュース記事を挙げておきました。 その上段が新聞用の原稿でありまして,中段がそれを書き直した放送用の配信で,下段に,対等報道の原則ですとか,何でそういうふうに書くのかという説明が書かれている,3段書きになっております。 裁判の記事の例は66,67頁です。中央大学教授刺殺事件の記事をコピーしましたが,ここも下段に裁判員裁判であることの明記ですとか,無罪推定の原則という刑事裁判の原則があるということなどの注意書きをしております。 次に,レジュメで逆三角形を付けた事件・事故・刑事裁判に関する報道へ移ります。資料14の宮崎日日新聞を御覧ください。2008年のマスコミ倫理懇談会で,このガイドラインですとか,容疑者逮捕記事,インターネット,犯罪被害者などをテーマに掲げて,実際の報道をもとに意見交換が行われています。新聞紙面や放送内容など報道の変化は,現場にいますと大きなものがあると感じるところです。 実際の事件を例にとって運用状況を紹介してみたいと思うんですが,その素材は共同通信が社内の記者研修ですとか,加盟の新聞社,あるいは契約を結んでいるテレビ局との会議などで使った資料です。資料15です。 2008年11月の朝日新聞記事を見ますと,目に付くのは見出しで,容疑者の名前に敬称の「氏」がついているということです。従来は逮捕状が出た場合は,もう逮捕は間違いなく,逮捕された場合は99%が有罪判決で確定するということを前提にして呼び捨てがなされ,その後,容疑者報道,容疑者付きで報じるということが始まったんですが,それが変わりました。まだガイドラインを公表する前の社内的な段階ではあるものの,端的に「氏」という敬称付きとされています。 それから取材源を明示した上,「何とかという」「何とかとされる」という言葉で受けて,まだ客観的な事実ではないと,留保した書き方になっています。弁護士のコメントも載せて,対等報道に努めているということです。 その横の毎日新聞も同様です。 資料16は,元厚生次官宅襲撃事件なんですが,これは読売新聞の例で,「警察当局の鑑定で」ですとか「捜査幹部によると」と取材源が明示されています。これは,ガイドラインが示した独自取材の書き方という,その一例です。 では,共同通信はどうなのかということなんですが,社長の諮問機関である第三者委員会がありまして,報道と読者委員会というのですが,そこで議論していただいた不同意堕胎事件という事件の配信記事を御覧ください。資料17の�@です。 ガイドラインでは,被疑者・被告人が否認している場合,それを見出しにとってリードにも書くということになっていて,そのとおり「容疑を否認」という紙面になっています。なぜ逮捕されたのかは,逮捕容疑として明記されています。 資料17の�Aは同じ事件の朝日新聞ですが,警視庁の発表であるということが明記されています。それから否認事件であるということがリードに入っています。これまでになかったリードだということですね。逮捕容疑は「捜査1課によると」何とかという「疑いがある」という形で,あくまで疑いという書き方に変わっています。 資料17の�Bは読売新聞で,「発表によると」何とかという「疑い」という,新しい表現が使われました。容疑の否認についても,これはリードではなくて,本文の真ん中辺りを見ていただくと書かれております。 こういうふうに変わってきているんですが,不名誉な例も一つ紹介いたします。他社の記事というわけにいきませんので,共同通信の配信記事をお示しすることにしました。 資料18です。これは外部には出ていない,2009年4月の配信記事なんですが,左と右の記事を対比していただきますと,左側の記事は最初の配信でありまして,受け取った加盟社から,ガイドラインと違うではないかというお叱りがありました。 まず見出しなんですが,「近所とトラブル絶えず」というのでは,これは悪いやつだという印象をいきなり与える。犯人視することになるというのが,第一点です。 それから,少し進みまして,「異様な雰囲気」ですとか「ごみ屋敷」とか,「声を潜める」とかいう表現が出てきます。そして,「つけで飲み歩き,生活保護費が入ると返済に回る日々」というのも,何かすさんだ生活を感じさせまして印象が悪い。それから,「事件後は外出が減り」というのは,まるで悪いことをしたので意識的に身を潜めていると,何かそんな雰囲気が出ているということですね。 社内で議論しまして,やはりガイドラインに反するからということで,そういう,今傍線を引いてある部分なんですが,そこを削除して配信をし直しました。差し替え記事は右側のように変わっております。これがどうして出てしまったのかということになりますと,やはり社内のチェック機関である整理部だとか校閲部などが見逃してしまったということであります。 裁判員制度の報道をめぐる最近の状況なんですが,新たに生まれてきている課題というのをお話ししたいと思います。 共同通信社の会議では,一部の報道について,加盟社から,犯人視報道を避けよう,情報源を明示しようとする余りに「関係者によると」が何回も出てきて煩わしいと批判を受けました。捜査関係の記事では,情報に接することができる関係者が本当に少なくて,捜査関係者と書けば,事実上特定されてしまう。こういう結果になりやすいので,情報源の明示というのは取材源の秘匿とも絡み合って悩ましいところなんです。 資料19が,マスコミ倫理懇談会の機関紙「マスコミ倫理」の記事なんですが,マスコミ倫理懇談会の内部に「メディアと法研究会」という研究会がありまして,ここは各社の委員がマスコミ判例の研究だとか意見交換などをする勉強会です。私も共同通信の委員をしておりました。 今年の4月号で,裁判員裁判で初めて無罪判決が言い渡された鹿児島地裁の事件を素材にして,日弁連とメディア各社との意見交換が行われ,その内容が紹介されています。 メディア側は,被疑者が否認していることも伝えていて,犯人と決め付けない紙面づくりに留意したと述べていますけれども,日弁連のほうからは,「黙秘を続けており,犯行動機などは依然不明のまま」などとする報道について指摘がありました。 新聞各社からは,社内でガイドラインの周知徹底が進まないという悩みが今,聞かれます。批判されても仕方がないと思う記事というのは,正直に言いますと,先ほど我が社の例を紹介しましたけれども,後を絶ちません。共同通信社でガイドラインの作成に携わった同僚の編集委員は,雑誌の「Journalism」というのがあるんですが,これは朝日新聞から出ていますけれども,今年の2月号で,新指針は仏作って魂入れずと書いています。予断・偏見問題の対応が報道側にゆだねられた重みを忘れずに,事件報道の課題に取り組んでいく必要があるんだというのが彼の意見です。そういったところから見ますと,メディア側の認識はまだ甘いと言わざるを得ないと思います。 最近,裁判員裁判に関する報道が低調だと言われるんですが,スタート当時のような大規模な報道は少なくなりました。それは裁判員裁判も何か特殊な裁判であるということではなくて,普通の刑事裁判なんだということが知られてきて,広く社会に受け入れられてきているのではないかなと私は考えます。 今のところ,読者・視聴者と報道機関の間で大きなトラブルはありません。ただ,裁判員との関係では,この後述べます記者会見で指摘されたことがあります。 課題というほどではないんですが,難しいのは,メディアの報道指針やガイドラインはどこまで及ぶのかという,その射程距離です。発行部数が少ない新聞社は新聞協会の会員にはなれませんので,新聞協会の報道指針は及びません。大体3万部以上が基準になると思います。また,FM局のような小規模な放送局も漏れてしまうということがありまして,懸念が皆無だとは言えませんけれども,時間をかけて広く理解を求めて徹底させていく,そういう努力がされております。 ホームページだとかブログ,掲示板,動画だとかインターネットへの対応も,非常に難しい部分があります。ガイドラインを設けた社が運営しているホームページなどならば,ブレーキは当然かかるわけですけれども,共同通信にはインターネット向けの部局がありまして,そこで先ほどお示ししたような新聞,放送関係と同じ基準でもって配信記事を作っております。それはJRの電車の中の文字放送などにも配信されており,同じ配慮もしているんですが,メディア全体を見たときには,懸念がないとは言えないかなと。 つまり,そういう対応ができている社はそれほど心配ないと思うんですが,では,どこまで及ぶのかという射程距離を考えると,その射程距離外にある,いろいろなメディアの対応というのが心配な部分はあります。ただ,トラブルは起きていないと申し上げておきたいということです。 次は,裁判員,補充裁判員経験者の記者会見です。最高裁判所によりますと,裁判員制度のスタートから今年4月までに,記者会見はおよそ1,600件行われて,実施率は82%と高い数字だということになっています。しかし,最近の実施状況が気になるのです。全国各地の記者クラブから地裁に対して,裁判員らの記者会見を申し入れる件数が激減しています。こまめに行っているのは東京地裁くらいで,各社が本社を置いている大阪でも,この半年以上は申入れ自体を記者クラブ側が積極的にはしておりません。記者会見の方法を考えないと,先細りの心配があると思っています。 今の記者会見がどういうふうに行われるのかということを簡単に説明しておきますが,2段階方式です。まず一次会見ですが,資料20に東京地裁の文書を,御了解いただいて出しておきましたので,御覧ください。判決の前に,記者会が地裁へ要望書をまず出します。裁判長が裁判員に出席の意向を聞いて,意向があれば実施されるということです。個人情報保護のために録音・録画はされませんし,不適切な発言があると,立会いの地裁職員が制止するということです。 それが終わりますと,次は二次会見,2回目の会見です。記者会側から裁判員経験者らに補足取材の要請をしまして,了承した人には録音・録画をしながら最初から聞いていきます。地裁の職員の立会いはありません。これによって,大挙して自宅へ押しかけて話を聞くようなことは避けられるという趣旨の二次会見の設定なんですけれども,余り行われていないのが実情です。 メディア側が問題視している記者会見の例というのが資料21で,これは民放連の文書に記載されました。いずれも裁判所職員が過度に介入したという批判です。仙台では,「テレビや新聞の影響はあったか」という質問に職員がストップをかけたということです。横浜地裁小田原支部では,裁判員の「量刑に大満足だ」という発言を,地裁が裁判員等の秘密を守る義務に違反すると指摘をしています。 先ほど申し上げましたが,裁判員,補充裁判員と報道関係者との間のトラブルはほとんどありません。ただ,甲府地裁で裁判員経験者が,新聞に載った法廷内イラストが自分に余りに似ていて,これでは個人が特定されるという申出がありまして,それで記者会見の写真撮影が中止になった,そういうことがあります。 記者会見については,メディア側から再三,最高裁判所へ様々な要請をしておりまして,例えば民放連は法廷内撮影の制限を緩和してほしいとか,記者会見の録音・録画を認めてほしいという要請をずっと続けております。 二つの問題が見えてきていると思うのです。まず一つは,2段階方式の問題です。 同じやり取りを繰り返す理由というのが,まず裁判員経験者には理解してもらいにくい。記者会見は1回で済ませることに基本的にしたいと思うのです。 それから,記者会見の実施が,判決言渡しの後ですので,夕方の遅い時刻になってしまって,家に帰るために皆さん,交通手段の確保だとかいろいろな心配が別に生じてしまっている。そういう事情もあります。 もう一つの問題は,裁判員,補充裁判員の守秘義務です。トラブルの多くは,その守秘義務に抵触するという懸念が原因だと思われます。裁判員経験者にとって,個人的な感想は話してもいいけれども,評議の中身は駄目だという区別が分かりにくいんだろうと思います。 今後の在り方なんですが,記者会見では大変貴重な意見が出ておりまして,この経験を後に続く人たちにも是非伝えていってほしいし,裁判実務に生かしてほしいと思います。国民の法的意識を変えていくという意味でも大変な意義があるだろうと私は思っております。そこで,裁判員法の守秘義務の規定を見直したいと思うのです。 裁判員法成立のときに,衆議院と参議院が附帯決議で守秘義務の範囲の明確化を求めましたけれども,一定の場合に,例えば学問研究だとか法曹関係者の研修だとか,そういう場で守秘義務の解除をして役に立つような話を聞かせてもらうようなことができるように,何とかできないかと思ったりもします。 最後になりますけれども,刑事裁判と報道では社会的な役割の異なる面がたくさんあります。表現の自由をうたっているアメリカの修正憲法第1条を持ち出すまでもありませんけれども,民主的な社会づくりの上で報道の占める役割というのは大きなものがあると思いますし,公正な裁判との関係でも十分に配慮されなければならないと考えます。 ただ,報道の現状に多くの問題があるのは否定しがたい面もありまして,肝心なのは,ガイドラインを作ったからということではなくて,その作るに至った精神というのを現実の報道に生かすことにあるんだと思うんです。そういうことなしに,社会の信頼を得ることはできない。報道の在るべき姿を自ら確立して,社会に対して示していく,その自律性が大事だと考えます。 予断を持たせるような報道であるかどうかというのは,記事の書き方の問題ではないんだと私は言っております。「何とかの疑い」と書こうと,中身が疑っていない中身であれば,意味がないということです。報道指針を設けて,ガイドラインを作っただけでは,報道の責任は果たされないということに恐らくなるでしょう。大事なのは報道の中身であって,無罪の推定に始まる刑事裁判の原則を,具体的な報道の中で貫いていくということが必要だと思うんです。報道の責任は重いんですが,では報道に対して法的な規制をかける必要があるのかということになりますと,これはちょっとまた違う問題があるだろうと思います。 まだ自主ルールは始まったばかりでありまして,成熟の過程にありますので,その点を踏まえて議論をお願いしたいと思います。 ○井上座長 ありがとうございました。 大変丁寧な御説明だったと思いますが,ただいまの御報告につきまして意見交換をしていただきたいと思います。  どなたからでもどうぞ。質問ももちろん結構です。いかがでしょうか。  それでは,私から。記者会見を申し入れるのが激減しているというのは,熱が冷めたということなのですか。 ○土屋委員 これは,熱が冷めた面もあろうかと思います。それから,いろいろ話してもらえると思ったら,実はストップがかかって,自分たちが聞きたい話が聞けないという,そういう面もあろうかと思います。 それからもう一つは,物理的な問題があるんです。先ほど帰宅手段ということを言いましたけれども,一次会見というのは裁判所の構内で行われるからいいんですが,二次会見は裁判所が閉庁してしまった後になることが多くて,外に出て別の会場を確保しなければいけない,そういう事情が地方では生まれています。 一番ひどいところは1.6キロも離れた施設に部屋を借りて,そこでやったケースもあります。ホテルを取って,タクシーで裁判員経験者らみんなが移動するという,そういうところもいっぱいあります。そういう面倒くささがあって行われないという物理的な問題があります。 1回にしたいというのは,報道側が便利なために1回でいいというだけではなくて,裁判員の負担を考えたり,あるいは率直に言いまして,経費の問題もあるわけですね。裁判員が受けてくれるか受けてくれないか分からない,そういう二次会見のために部屋を確保し,交通手段も確保しておかないと実施できないというのでは,やっていられないという問題です。 それからもう一つ,マスコミ内部の事情でいきますと,夕方のその時間帯というのは夕方のニュースの放送時間帯でありまして,非常に忙しい作業を各社が迫られるわけですけれども,それを取材できる人の手当てができないという問題が重なります。そうしますと,裁判員裁判だから必ず聞くということが,余裕のある東京地裁みたいなところはできるんですけれども,大阪のようにかなり内部的には余裕があるはずの記者クラブでも,先ほど申し上げたように,この半年以上申入れ自体に積極的になれない状態にある。いろいろな事情が重なっていると思います。 夕方というのは,検察庁担当者は,いわゆる検察回りで,私もやりましたけれども,大体,地検や高検の次席検事のところに今日一日の話を聞きに行く。裁判所では,訟廷事務室へ行って,どんな裁判が起こされたか,チェックしたりとか。閉庁間際の時間帯というのは,やることがいっぱいあるわけです。その時間ともろにぶつかってしまって,例えば一人しかいない社などはとてもできないということですね。最初から,著名な事件で,これはどうしても報道しなければならないと分かっている事案は記者会見に出ますけれども,そうでないと見送ってしまうこともあります。 実際に私が出た記者会見で,行ってみてびっくりしたんですが,新聞の幹事社とテレビの幹事社しかおりませんで,しかも法廷で聞いていたのは私だけということでした。ある地裁では,裁判員の方が怒り出してしまって,だれも法廷で報道関係者が傍聴していなかったということが批判されたことがあります。そういう会見状況が今生まれているということです。 ○大久保委員 土屋委員のお話で,メディアの方たちの対応等について,大変詳しく分かりました,ありがとうございました。 ただ,少しだけ気になりましたのは,裁判員の方たち,あるいはもちろん一般社会に対してでもそうだと思うんですけれども,被告人に対して,予断とか偏見を与えないために,かなり配慮をして紙面を構成しているということをお聞きしました。それと同じように,被害者に対しても,きちっと配慮がなされているのかということと,配慮をするということを前提にして,この倫理を作るときにはしっかりと討議されたのかということをお尋ねしたいと思いました。 その理由は,やはり被害者も,例えば紙面1面にバーンと,これはトラブルかなどと書かれてしまいますと,世間一般から被害者は,あの人はトラブルを抱えるような人だから被害に遭ったのだ,自分たちとは関係ないということで,そこの地域社会で暮らし続けることができなくなるという現実がたくさん起きておりますので,その辺りのところを教えていただきたいと思います。 ○土屋委員 被害者に対する配慮というのが,業界の報道指針を作り,それから各社のガイドラインを作るときに,十分討議されて作られたということは申し上げておきたいと思うんです。お配りした資料の中でも,犯罪被害者についての配慮をすべきであるということは共同通信社も,ほかの社もうたっております。 それから,お配りした資料にはないですが,私が持っていますある民放キー局の2002年の文書は,1冊まるごと犯罪被害者報道です。これは外部に公表しておりませんけれども,その民放キー局は,1冊そういうものを作るくらいの議論をもう既にしております。そのような作業を下敷きにした上で,それぞれのガイドラインが作られているということです。ちょっと細かく見ていただければ,今日出した資料でも,マスコミ倫理懇談会の中で犯罪被害者報道という,ジャンルというのでしょうか,テーマを据えた分科会が開かれておりまして,これは数十社が参加しております。 それから,もう一つは,被害者保護というのを前提にしてガイドラインだとかそういうのが作られているのかどうかという部分です。これについてはちょっと,一番最初のところでお話ししましたけれども,ガイドラインだとか報道指針だとか,自主ルールを作る過程でいろいろ参考にした外国の例などでは,犯罪被害者に対する対処なども既に盛り込まれているわけです。そういうものを下敷きにして,ガイドラインを作ったり,指針を作ったりしたのですから,重要な判断指針をそこで示さなければならないという意識をもって検討されたと受け止めていただいていいと思います。 ○山根委員 資料の21に,記者会見での発言制止の例というのが載っていますけれども,この発言の制止というのは,職員の方が守秘義務違反のおそれを判断されると思うんですけれども,それはやはり場所場所でばらつきがあるというか,その判断にはいろいろ違いがあるなということは,参加されていてお感じになっているのでしょうか。 ○土屋委員 私個人はその制止を受けた場面に記者会見で立ち会ったことはないんですね。東京地裁での11の事件の記者会見に出ましたけれども,いずれもそういう制止がなかったんです。 ただ,記者会見に立ち会う地裁職員の方というのは,地裁によっては総務課の課長さんであったりするのですが,これはちょっと問題があるなという質問が出たり,あるいは回答が出たりしたときには,ちょっと皆さん,これ守秘義務違反になる可能性がありますから質問を変えてくださいですとか,あるいは,それについての回答はちょっと控えてくださいとかという形で出されています。 その水準が地裁によってばらつきがあるのかどうかといいますと,何とも言いようがないんですが,少なくとも裁判所レベルではそんなばらつきがないように最高裁事務総局のほうで各地裁にいろいろ伝えたりして,事前に連絡をしておりますので,恐らくそういう意味での平準化は図られているのだろうと理解しています。 また,これがメディアとの間でトラブルの種になるということも,裁判所側は分かっていらっしゃるので,無用なそういうあつれきを招かないように,言わば全国どこでも同じような基準で運用できるような対処をされていらっしゃるのだと思うんです。その結果がこういう形ですけれども,報道関係者から見ると問題だというケースとしてリストアップされたということだと思います。 ○井上座長 あと1点よろしいでしょうか。 自主ルールを作られるという方向に落ち着くまでの過程では,司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会などでもかなり厳しい議論をさせていただいたのを思い出しますけれども,自主ルールを作られ,見直しも不断にされているということなのですが,そこに外の声は入っているんでしょうか。 えてして,自主ルールというのは手前勝手になりがちなので,外部の,特に批判的な意見などをいろいろ聞いた上で,最終的には自分の責任で決めるというのがあるべき姿かと思うのですけれども,そういうことをされているのかどうかということです。 ○土屋委員 これもちょっと他社の例を引くわけにいきませんので,共同通信の例で説明しますが,それほど変わりはないだろうと理解していただいていいと思います。これは,必ず外部の方の意見を聞いてやっております。 共同通信の場合ですと,先ほど説明しました,報道と読者委員会という外部委員による委員会が関係します。現在は,東大の姜尚中教授が座長になって,共同通信の配信記事を全部読んだ上で意見を述べていただく場を,定期的に二月に1回ぐらい設けているんですが,その場でガイドラインそのものを出して,それから今ここで御紹介したような具体的な事件報道の記事についても出して,意見を伺うようなことをしています。それを基にガイドラインを作り,更に手直しを加えてやっている。 それから,共同通信独自のやり方としては,加盟社にアンケートを出したり,あるいは会議の場で意見を聞いたり,そういうことをやりまして,ガイドラインそのものに改めるべき点がその後出ていないか,どういう問題が全国各地の地方紙には寄せられているのかということを集約して,それで直していっているということです。 ○井上座長 ほかによろしいですか。土屋委員におかれては,お忙しい中,御準備いただきまして,ありがとうございました。 それでは次に,室城委員から,「裁判員に分かりやすい立証等に向けた警察の取組について」というテーマで御報告をいただきたいと思います。 ○室城委員 警察庁刑事企画課長の室城でございます。裁判員に分かりやすい立証等に関する警察の取組ということで,御説明させていただきます。 進行については,事前にお手元にあるレジュメと,今お配りいただいています資料に沿いまして,最初に警察庁としての取組について御説明させていただきまして,次に各都道府県警察において行っている実際の取組例などを御紹介しながら進めていきたいと思います。 最初に,裁判員裁判の下で捜査の在り方に関する警察としての認識ということでお話ししたいと思うんですが,まず,裁判員裁判の下においても,刑事事件の捜査や裁判の目的については,刑事訴訟法第1条に規定されているように,公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ,事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正かつ迅速に適用・実現するものであるという点で,基本的にその他の事件と何ら変わるところはないと考えております。 他方で,裁判員裁判については,法律の専門家ではない一般の国民である裁判員の方々が裁判に参加されるということに鑑みまして,警察としても裁判員の方々に分かりやすい立証等の観点から,捜査運営に当たり一定の工夫や配慮が求められるものと認識しております。 また,裁判員制度は,国民の司法参加を通じて,司法に対する国民の理解の増進と,その信頼の向上に資するということを目的に導入されたものと承知しておりますが,その意味では,警察の捜査活動の結果が,直接的に一般国民である裁判員の評価の対象となる場でもあるということを認識しております。 こういう観点から,警察としても裁判員の方々に分かりやすい立証に向けて,これから申し上げるような各種の取組を進めているところであります。 最初に,警察庁としての取組内容ということで御説明させていただきます。まず,警察庁においては,今申し上げたような観点から,裁判員制度の施行以前の平成18年4月の段階で,各都道府県警察に対しまして,裁判員裁判対象事件の捜査に関して留意すべき事項を取りまとめまして,「裁判員制度の実施に向けた捜査運営上の留意事項について」と題する通達を発出いたしました。 この中で,大きく分けまして,基本的な留意事項,捜査活動等に関する留意事項,公判対応に関する留意事項などに関し,各都道府県警に対して必要な諸施策の推進に努めるよう,指示をしております。 その内容について若干御説明しますと,まず基本的な留意事項としては,本来,これは裁判員裁判に限る話ではないんですが,すべての事件について該当する基本的な話であるわけですが,改めて客観的証拠の収集の徹底,捜査書類の簡潔明瞭化の徹底,捜査の適正の一層の確保,検察官との良好な協力関係の確保という,この4点を掲げております。 その上で,捜査活動等に関する留意事項として幾つかの留意点を掲げておりますが,今回の御説明ではその中でも,捜査書類作成に当たっての留意事項として示した点について,若干その内容を御説明したいと思っております。 そもそも警察においては,事件の捜査の過程で,実況見分調書,検証調書,鑑定書,供述調書など,各種の捜査書類を作成することになりますが,裁判員裁判の下では,一般の裁判員の方々が法廷でその内容を直接読み聞きして把握できる程度に,簡潔明瞭な書類の作成を心掛けることが必要と考えられます。そこで,それらの書類ごとに幾つか留意点をまとめて示しております。 例えば,事件が発生すると,警察では犯行現場の状況,犯罪の痕跡の有無などを明らかにするために,実況見分や検証を実施しまして,その結果を実況見分調書や検証調書に取りまとめます。こうした実況見分や検証それ自体について,綿密かつ網羅的に実施すべきという点は従来と変更すべきものではないと考えておりますが,しかしながら裁判員裁判の下では,検察官において公判における証拠の厳選という観点から,それらの書類のすべてを証拠として提出する場合もありますけれども,そうではなくて,そのポイント部分のみを抽出して証拠として示すということが必要になる場合もあると思われます。 そこで,こうした観点を踏まえまして,実況見分調書や検証調書の作成に当たっては,後にポイントをピックアップするという意味での抄本化等の便宜に資するため,写真や図面とそれらの説明文が各頁ごとに対応して構成されているという方式を取り入れるなど,工夫を行うよう求めております。この点については,後の犯罪捜査規範の改正のところでも補足して説明したいと思います。 それから,例えば殺人事件などが発生した場合,実務上,被害者の方の死因等について,法医学の先生などの部外の鑑定人の方に鑑定を嘱託する場合もあれば,犯行現場に残された指紋やDNAなどについて,警察部内の鑑定人に鑑定を嘱託する場合もあります。こうした鑑定の結果,作成された鑑定書については,その内容が専門的で難解なものになる場合もあることから,裁判員の方々に対して可能な限り,鑑定の手法や鑑定の結果を分かりやすく示す必要があると考えております。 そこで,例えば部外の鑑定人に対しましては,必要に応じて分かりやすい書類の作成を依頼したり,部内の鑑定人に対しては,本来の鑑定書を作成するだけではなくて,鑑定手法の内容等に関し分かりやすい説明資料を別途用意するなどの工夫を求めているところであります。 さらに,被疑者や参考人の供述内容をまとめた供述調書につきましても,裁判員の方々に分かりやすい立証に資する工夫を求めております。具体的な工夫の例としては,不必要な重複とか冗長な記載は避ける。また,もう一つ,例えば犯行の動機,犯行に至る経緯,犯行状況などのテーマ別に要領よく録取をする。もう一つが,供述者の生の言葉を基本にして,その表現能力に従った,分かりやすい日常的な言葉や表現を用い,必要に応じて図面とか写真を添付することを掲げているところであります。 以上が,捜査書類作成に当たっての留意事項の主な内容になります。 その他の留意事項については,時間の関係もありますので,詳細の御説明は割愛させていただきますが,先ほど申し上げたこの通達の中では,例えば検察官との緊密な連携の確保,各都道府県警における指導体制の整備・強化に関して指示をしているところであります。 次に,先ほど申し上げました実況見分調書や検証調書の作成に関して,補足して申し上げたいと思います。警察においては,警察官が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構えや捜査の方法などについて,犯罪捜査規範という,これは国家公安委員会規則でありますが,これが定められておりますが,従来,実況見分調書などの作成については,一般的な注意事項は定められていたものの,具体的にこういうふうに作成するんだというようなことについては,各都道府県警察にゆだねられている面がありました。 これらの実況見分調書等については,大きく分けますと,通常,警察官が犯行現場などの状況を見分した結果を,文章形式で説明する文章の本文部分と,それから写真や図面などの部分の二つに分かれるわけなんですが,都道府県警によっては,最初に一括して文章形式の説明がなされて,その後に写真や図面がまとめて添付されるという構成で作成される運用がなされておりました。 しかしながら,犯行現場などの写真を添付した部分に,その都度その説明部分を付記する構成のほうが,裁判員の方々にも分かりやすいと思われますし,また,公判段階では書類の一部分を抄本化して,裁判員の方々にそれらの書類のポイント部分のみを抽出して示すということも考えられることから,後の抄本化の便宜に資するということで考えたわけであります。 そこで,平成19年8月に犯罪捜査規範を改正しまして,実況見分調書の作成方法に関する規定を新たに設けることとし,「実況見分調書を作成するに当たっては,写真を張り付けた部分にその説明を付記するなど,分かりやすい実況見分調書となるよう工夫しなければならない」という規定を具体的に設けたところであります。 さらに,警察庁としては,裁判員制度の趣旨や,御説明したような捜査上の留意事項等について,各種の協議会や教養の場を通じまして—警察では,教養という言葉を教育訓練という意味で使っております。そういう場を通じまして,各都道府県警に対する指導・教養を実施しているところであります。 以上が,警察庁としての主な取組内容であります。 次に,各都道府県警察において,こうした警察庁としての指示に基づいて,担当警察官と連携の下で,個別の事件の内容に応じた,様々な取組が行われているわけでありますが,警察庁で把握している幾つかの具体的な取組例ということで御紹介申し上げます。 まず,実況見分調書や検証調書,更には鑑定書などの書類作成に関する取組例ということであります。実況見分調書,検証調書については,先ほど申し上げたとおり,警察庁としても通達を発出したり,犯罪捜査規範の改正などで分かりやすい工夫を行うよう求めておりまして,これに基づいた運用がなされているものと承知しております。 なお,実際の裁判員裁判における運用としては,検察の段階で裁判に提出する証拠を厳選するという観点から,先ほども申し上げたように,ポイント部分のみを抽出して,一つの捜査報告書にまとめた上で,公判の証拠として提出しているという例が多いと聞いておりまして,警察としてはあくまで綿密かつ網羅的な書類を作成する中で,それと同時に簡潔かつ明瞭な書類作成というのを心掛けているものであります。 話を戻しますと,実際の事件における具体的な例として,先ほどの犯罪捜査規範の規定に基づいた書類作成がなされる例がありますが,それ以外にも,例えば犯行現場の状況等について,裁判員の方々に視覚的にも理解が得られるよう,従来以上に写真や図面を多用したり,写真についても様々な角度から対象を撮影するなど,工夫がなされております。 その中でも,例えば写真を添付するに当たって,どの場所からどの角度で撮影したということが一見して分かるように,写真を添付した同じ頁の中に,撮影方法を図示した図面を添付するといった取組を行っている例もあります。 配布資料で,大き目のものがございます。この資料は,警察で作成している検証調書の一部のサンプルでございまして,左側は工夫例ということで,右側が従来の一般的な例ということなんですが。右側の従来の例を見ますと,最初に説明がずっとありまして,その後に写真を添付するという構成で作成されておりますが,左側の工夫例,先ほど申し上げましたとおり,写真を張り付けた部分に説明を記載するという形になっております。写真の下に,撮影方向を図示した見取り図を添付している。このような形で,裁判員の方々にも分かりやすい形で書類作成を行っているということであります。 なお,この配布資料は実際の事件の例を基に本日の検討会用に加工したものでありまして,申し訳ございませんが,イメージだけ御記憶にとどめていただいて,後ほど回収させていただきたいと思っております。 それから,裁判員の方々になじみが薄いような,特殊な凶器を使用した殺人事件といったものについて,その凶器の破壊力とか殺傷力を視覚的にも明らかにするための実験を実施したといった例もあります。 これはクロスボーという矢を使った殺人事件の例ですけれども,クロスボーを板とか牛肉などに向けて発射する実験を実施しまして,その状況を動画とか写真で示すことによって,その破壊力を明らかにしたというような例を聞いております。 さらに,包丁を使用して被害者の方に傷害を負わせたといった事件につきまして,包丁が被害者の方の体のどの部分からどういう角度で入っていったかという状況を視覚的に明らかにするため,被害者の方のけがの治療を行った病院の協力も得まして,被害者の方の体のCT画像を利用した三次元CGを作成したという例があります。お配りしたこの2枚目のものでございますけれども,この資料は白黒で申し訳ございませんが,今お話ししたようにCG画像の一部分の静止画ということになります。 実際の事件では,このような静止画を多数準備しまして,ぐるっと360度回転して,どんなふうに刺さっているということを御覧いただけるような画像を作成しております。この画像は実際の事件の例をもとに,やはり本日の検討会用に作成したものですので,実際の事件のものとは異なっておりますが,右側の腰の辺りから包丁が刺さっているという状況は,棒のように見えますが,これ,包丁をこういう角度から撮ったという状況であります。 これにつきましても終了後回収させていただきます。申し訳ございません。 次に鑑定書についてですが,実況見分調書などと同様に,個別の事件に応じて書類作成に当たって,裁判員の方々にも理解しやすいような工夫を実施していると聞いております。例えば,部外の鑑定人の方に対して,分かりやすい内容の鑑定書の作成を依頼したり,部内鑑定においては,従来であれば結論部分を最後に記載していたものを,結論を冒頭に持ってくるといったこと,あるいは難解な専門的な用語を,可能な限り分かりやすい言葉に置き換えるといった工夫をしているということを聞いております。 また,実際の裁判員裁判においては,例えば捜査段階でDNA鑑定や指紋の鑑定などを実施した警察部内の鑑定人が,証人として法廷に出廷する例も多いと思われますけれども,このような科学的な鑑定は内容が専門的であるために,従来どおりの証人尋問を実施しましても,裁判員の方々の理解を得ることが難しいということも考えられます。 そこで,こうした鑑定人が証人出廷をする際に,可能な限り鑑定方法等に関して御理解を得られるように,いろいろな工夫をしております。 例えば,捜査段階で,各都道府県警の科学捜査研究所などでDNA鑑定を実施する場合がありますが,鑑定人の証人尋問に当たっては,担当の検察官との連携の下で,鑑定方法等に関する理解を得るために,事前に法廷でDNA鑑定に関して警察庁が作成しております広報用のDVDを上映したり,事前に作成したパワーポイントの資料を使用して,鑑定方法について分かりやすく説明するなどした上で,証人尋問を実施するといった工夫をしている例があります。 今申し上げたDVD,20分ぐらいの内容のものです。分かりやすくDNA鑑定の原理などを解説したものを作っております。 また,お配りしている資料で,これは警察部内の鑑定人が証人出廷した際に,DNA鑑定の方法などについて説明した際に使ったパワーポイントでありますけれども,これもすみませんが,後ほど回収させていただきたいと思います。 また,薬物事件など,一般の裁判員の方々になじみが薄いと思われる一定の事件については,従来の刑事裁判では余り実施していなかったと思われるような警察官の証人尋問が行われる例もあると聞いております。例えば,覚せい剤の営利目的での密輸入罪などは,裁判員裁判の対象にはなりますけれども,こうした薬物事件について,一般の裁判員の方々はなじみが薄く,薬物犯罪の悪質性といったことに関し,必ずしも深い理解をお持ちでないといったことも考えられるところであります。そこで,こうした事件について,当該事件の捜査には従事していないけれども,他方で薬物事件の捜査経験が豊富であるという警察官が,いわゆる情状証人として出廷しまして,薬物犯罪が暴力団等の資金源になっていることや,薬物中毒に起因して重大・凶悪な事件が発生した実例があることなど,薬物犯罪の悪質性について裁判員の御理解を得られるような証言を行ったような例があるということを聞いております。 そのほか,警察において,捜査段階において,被疑者や参考人の供述調書や各種捜査報告書など様々な書類を作成しているところですが,こうした書類作成に関する具体的な取組例については,時間の関係で割愛させていただきますが,個別の事件の内容に応じて,可能な限り難しい言葉を分かりやすい言葉に置き換えたり,書類の構成も分かりやすいものになるよう,いろいろな工夫を重ねていると聞いております。 以上,裁判員の方々に分かりやすい立証に向けた,警察庁としての取組,各都道府県警における取組について御説明させていただきました。 もちろん個別の事件によっては,まだまだ取組不十分という点もあろうかと思いますが,私どもとしても今後とも引き続き,緻密な捜査を通じて事件の真相解明を図りつつ,他方で裁判員制度の趣旨を踏まえまして,裁判員の方々に分かりやすい立証に向けて,各都道府県警に対する指導・教養を徹底してまいりたいと思っております。 ○井上座長 ありがとうございました。 ただいまの室城委員の御報告につきまして,御意見あるいは御質問等ございましたら,どなたからでも御発言願います。 いかがでしょうか。 では,私から。各都道府県警でいろいろな事例が集積されていると思うのですけれども,それを集めて,取組みなどの改善を不断にやっておられるのでしょうか。 ○室城委員 例えば,各管区警察局という単位があるんですが,管区ごとに各県集めまして,そこで研究会といった形式で,警察庁からの指導もあるんですけれども,各県,事例発表をするようなことを繰り返し繰り返しやっているという状況であります。 警察庁としても,実際にどういうケースがあってどういう工夫をしたということを,みんなで共有するということが重要だと思っておりますので,そういう取組をしております。 ○酒巻委員 先ほど検察官と連携の上で,事前にDNAの解説ビデオとかあるいはパワーポイントですか,それを上映というか御覧いただくというのは,これはその裁判員裁判のうちの公判手続の中でということですね。 ○室城委員 はい。 ○酒巻委員 それをまず御覧いただいた上で,本題のDNA鑑定の証拠調べをするという,そういうことですね。あるいは,先ほどの3次元CGというものですか,これはやはりあらかじめ,もちろん検察官と御相談の上,そういうものを作って,それを例えば,凶器の刺さった状況というのを立証趣旨にして証拠調べをするという,そういうことですね。 これはもう本当に学者のこだわりなんですけれども,一体どこからが証拠で,それを分かりやすくするための手段がどこまでなんだろうというのが,今後,しかと整理しておくべき問題となるということを研究者としては感じています。ただ一方で,そういうことをやれば,裁判員の方に理解が深まるというのはとてもよく分かることなんですけれども。 例えばアメリカでは,これは証拠だから陪審の評議室に持っていっていい,これは証拠ではないから持っていってはいかんというような,かなり明確な仕切りがあります。日本国はちょっとその辺がやや今あいまいになって,プレゼンテーション,主張なのか,証拠そのものなのか,証拠としての供述内容を明瞭に提示するための手法なのか,はっきりしないということもあり,その仕分けがいささか不明瞭になってきているような気もしているものですから。その辺りは,今後の課題と思っています。 ○室城委員 警察としては,一応,こういうものができますので,こういうものを作りますと。そこから先は,検察官の判断ということになります。 ○酒巻委員 もとより,検察官と弁護人と裁判所がしかと整理すべきことだと思うんです。 ○残間委員 この工夫例と従来の例ですけれども,これは全部ではないですよね。これ,抜粋したものなので,つまり,工夫したところが全然分からない,かえって分からない感じがしたので。まず写真の添付とかがあるわけですか。 ○室城委員 そうです。本来であれば,この右側の従来の例というのは,文章が大量に続きまして,その後に写真が大量に続くということでありまして。従来が非常に分かりにくいものを作っていただけではないかと言われれば,そういうことかもしれませんが。 ○残間委員 ただ,工夫というところが何か工夫ではなくて,ただ割愛しているだけで,編集の仕方としては何か工夫したほうが分かりづらいので,本当はこれは,いろいろな写真がもっと添付されるんですよね。 ○室城委員 もちろん,そういうことです。 ○残間委員 そうですよね。これ,あんまり例として,工夫したほうが分からなくなっていますよ。 ○室城委員 イメージとして説明用にお作りしたものなんですけれども。 ○残間委員 従来のほうが何か分かるもの,これだと。 ○四宮委員 先ほど,各管区でいろいろな御経験を集められて,それについていろいろ討議なさって,それをまたフィードバックしていらっしゃると伺いましたけれども,2年たって,現場で何か新しい困難といいますか,例えば証拠の作成ですとか,あるいは従来の証拠ではなかなか説明が難しい問題だとか,新たな現場での課題というようなものがもしあれば,教えていただければと思うんですけれども。 ○室城委員 具体的にこういう点が困難ということもあるんだと思うんですが,もっと基本的な話から申し上げますと,今,工夫としていろいろお示ししたものというのは,かなり手間のかかるものでありまして,そういう従来は作っていなかったものを作ることが求められるという意味では,業務の負担はやはり大きくなっているということはあると思うんですね。 検察官も,そういう意味ではできるだけ分かりやすいものをということで,補充的にこういうものを求めるということで,警察に対して話があるというケースも増えておりますし,それから時間的余裕という面でも,短時間でそういうものに対応しなければいけない。という意味では,負担がかなり増えているということは事実だと思いますし,それがやはり困難だといえば,一番の困難なのかなと思います。 ○土屋委員 殺人事件で被害者の写真など,悲惨な写真を見た裁判員の人が気分が悪くなって退出したケースがあったんですよね。こういうことというのは,予想されることではありますし,またこれからも起きる可能性があると思うんです。非常に悲惨な状況は分かってほしいということはあるでしょうし,また一方では,気分が悪くてその後評議ができなかったり,そうしてもう審理に臨めなくなっても困るし,いろいろな面があろうかと思うんですが,実際起きてみて,警察庁のほうではその対処について何か検討されていますか。写真あるいはその図解でも,人によっては気分が悪くなったりすることもあるのかなと。私などはあんまり,見てもひっくり返ったりしないと思うんですけれども。 新聞記者でも,新人記者が現場に駆けつけたら,交通事故の現場だったんですが,遺体を見てひっくり返ってしまったことがありました。警察官より先に現場に着いてしまったんですけれども,警察官が現場に来たら,だれか倒れているのがいるという,笑えないような話が実際あるんです。 記者でもそういうことが起きますから,一般の方はなおさらだと思うんですが,その辺りの立証とのかね合いは,警察庁の問題でもあろうかと思うんです。工夫としてはどんな議論をされていますか。 ○室城委員 先ほど申し上げましたけれども,警察としてどういうものが作れるのかとか,どういうものがというのは,可能な範囲こういうものができると。そこから先は,正に裁判において,どういうものが使われるかということだと思うんですが。 例えば,写真についても,カラー写真と白黒写真で随分印象が違うとか,この場合は白黒でも十分状況は分かるだろうと,カラーにするとやはりちょっと気分を悪くするような人もいるだろうとか,そういうことはあるのかもしれません。 ですから,そういうものに応じて対応ができるようにしていかなくてはいけないということだと思うんですが,あくまでも当方としては,必要だと検察官が判断しているものには対応できるようにしていこうということになろうかと思います。 ○残間委員 裁判員裁判になって,写真の撮り方ですね,そういうものが少し変わったということはありますか。つまり,写真というのは極めて客観のようでいて,実は主観ですよね,撮っている人の。行ったときの印象がとても残忍な犯行現場だと,残忍だということが先に立って,やはり撮っている人も人なので,そこに少しは意識が働いて,そのような角度だったりあるいは視野だったり,いろいろなことがあると思うんですね。それから,ズームにするのか引いて撮るのかとか。 その辺に対して,裁判員裁判で素人の人が見るということを視点に置いて,何か留意点みたいなものを鑑識の写真の人に言っているんですか。 ○室城委員 例えば,実際に撮るものがこれぐらい小さなものであっても,それが一体どういう状況でどこにあったかというのが分かるようにするために,鑑識の撮影の仕方としては全体から撮っていって,だんだんそこに近づいていくような撮り方をする。そういうのは当然,裁判員裁判よりも前から,ずっと当然やるべきこととしてやっています。全体の状況の中で,個別のものがどうかということです。 それの中で実際に分かりやすくするために,どの写真を選んで書類化するかということなんだと思いますので,そこは特に裁判員裁判だから変わるということではないと思っております。 ○残間委員 ちょっと違う気がするんですよね。つまり,長年ある種の視点に立った写真をずっと見続けている専門家と,ある種の写真を初めて見た素人というのは,やはり写真が物語るものはすごく大きいと思うので,そこはちょっと違うような気がするんですが。 従来やっていらっしゃることは多分一緒なのは一緒でいいんですが,今後視点として,その辺は少し留意しないといけないのではないでしょうか。角度もそうですけれども,写真のカットの仕方というか,そのようなものや,それから全体の書類の中で,白スペースのどこにその写真を置くかによって,ものすごく印象が違うんですね。ですから,その辺はやはり少し,かつての専門領域における資料としての写真と,見せるという行為の前での写真は,内部で少し検討したほうがいいような気がします。 ○室城委員 あくまでも,その状況が分かりやすいということが目的だと思いますが,おっしゃるような御趣旨も踏まえる必要があるのかもしれませんので,実際の裁判の中でいろいろな御指摘があれば,それに対応していきたいと思います。 ○大久保委員 それに関連しまして,一言よろしいでしょうか。 今,写真がその裁判員の方たちに与える衝撃というお話が進んでいるかと思いますけれども,犯罪被害者の場合は,その衝撃が最近和らげられて,例えばイラストで描いたりということもあるということを聞いていますけれども,実際にそういう被害に遭った人の立場になりますと,これだけ悲惨だったということを裁判員の方,あるいは関係者の方たちに理解をしてもらいたいので,そのまま使っていただきたいという声がとても大きいということを,ちょっと付け足させてください。 ○井上座長 よろしいですか。 室城委員もお忙しい中,御準備いただきまして,ありがとうございました。 今の室城委員の使われた資料ですが,これは回収資料ですので,お持ち帰りにならないようにお願いします。 また,土屋委員から配布していただいた資料のうち,机上配布資料の,綴じたものとは別に配布されているものにつきましては,社内資料である等,公開を前提としない資料であるということから,公表しない扱いにしたいと思います。委員の皆様には,お持ち帰りいただいても結構ですが,取扱いについては慎重にお願いしたいと思います。 それで,本日の御報告2件はこれで終了させていただきたいと思います。 そのほか,この会議の全般について,何か御意見等がございましたら,承りたいと思いますが。 ○残間委員 先ほどの土屋委員のお話にも重なるんですが,つまり何か裁判員裁判が特別なこととは思われないで,ある部分普通になってくるということが,ある意味では望ましいことでもあると同様に,まだ時期としては,もう少しいろいろな形で報道されたほうがいいような気がするんですが,やはり人々というのは次の刺激を求めているということがあって,俗に言うと飽きてしまうということもありますよね。熱が冷めたという言い方をしていらっしゃいましたが,飽きてくるという。 だから,今度はメディアの側ではなくて,裁判所の側も,もう少し広報のやり方とか,多分,これは事件の内容自体がセンセーショナルで,きっと扱われるのではないかとか,あるいは裁判員裁判の視点が入ったことによって,更にこの裁判がメディア的にはある種の情報発信の価値があるというふうなことを,前もってやはり内部で少し,シミュレーションというとちょっとやり過ぎですが,今ここで裁判員裁判が風化して,あ,そうというふうに言われていいのかどうか,何か広報上は,その辺りをちょっと一回検証したほうがいいのではないかなと思いました。 ○井上座長 分かりました。御意見として承っておきます。 そのほか,何か御意見ございますでしょうか。 よろしいですか。 次回の検討会なのですけれども,これにつきましては,これまでの皆さんの御議論の中でも話題に上がりました,鑑定と法廷通訳につきまして,ヒアリングを実施してはどうかと考えております。 鑑定につきましては,鑑定といってもいろいろあるわけですけれども,中心になる法医鑑定と精神鑑定のそれぞれの専門家からお話を伺いたいと思っております。専門性の高い鑑定内容をいかに裁判員に分かりやすく伝えるか,そういう取組みについてお話を伺うことが中心になろうかと思います。 また,通訳につきましても,言語が多数あるわけですけれども,複数の言語の通訳人経験者それぞれから,裁判員裁判によって従来と変わった点や,どういう工夫をされているのかといったことなどについて,御経験に基づいてお話ししていただけたらどうかと考えております。それでよろしいでしょうか。 (「異議なし」との声あり) ありがとうございます。それでは,御同意を得たということで,次回,鑑定人及び通訳人の経験者の方からのヒアリングを実施したいと思います。 具体的な人選等につきましては,ただいま申し上げ御同意いただいた趣旨に沿う形で行うという条件で,私に御一任いただければと思うのですけれども,それでよろしいでしょうか。 (「異議なし」との声あり) ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。 予定した議事は以上でございます。最後に事務当局から,次回の予定の確認をお願いします。 ○西山参事官 次回でございますが,委員の皆様の日程調整をさせていただきました結果,9月27日火曜日,午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等についてはおって御連絡,御案内を申し上げます。 ○井上座長 第6回の検討会はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございました。