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在外公館

経歴
 平成21年に任官後,東京,函館,神戸,山形,岡山の各地方検察庁で勤務。
 その他,法務省刑事局,在ジュネーブ国際機関日本政府代表部で勤務。
 また,カナダで在外研究を経験。

 

在外公館における職務

世界に目を向けると

 日本では,不幸にして犯罪の被害に遭った場合,被害者は警察に被害を訴えることができます。では,政府が統治能力を欠き,行政や司法も機能していない国に住む人々は,犯罪の被害に遭ったとき,どうすればよいのでしょうか?圧政に苦しめられ,基本的人権がないがしろにされている人々は,誰に助けを求めればよいのでしょうか?残念ながら,現実の世界では,必要な支援を受けられずに苦しんでいる人々が大勢います。こうした問題に対処するため,スイスの街ジュネーブには,国連憲章や人権条約に基づいて設置された国際的な人権保障システムとして,国際機関,国家から構成される会議体,人権条約機関等が置かれており,様々な人権問題を調査して議論する権能が与えられています。ここでは,日本を含む多くの国が「政府代表部」と呼ばれる在外公館を配置し,人権に関する議論に積極的に関わっています。

リーガルアタッシェの職務

 私は検事として捜査公判業務に十年ほど従事してから,ジュネーブにある日本の政府代表部に出向しました。ここでは,リーガルアタッシェ(法律家である外交官を指します。)として人権に関する各種国際会議に出席して日本の考えを説明したり,他国の外交官と様々な交渉をしたりしています。特に,当地で最も規模の大きい国際会議である国連人権理事会では様々な人権問題が討議され,決議の採択を通じた理事会としての意思表明がなされるので,これら決議の内容をどうするかをめぐって,何日にもわたって各国の外交官と膝詰めで交渉します。どの国も,外交官は,語学力に秀で,論理的で,かつ,大局観を持っていますが,同時に,自国に有利な内容で交渉を妥結させることを目指しますので,議論が白熱することもしばしばです。自分が取りまとめを担当する決議について,一部の国から強硬に反対された際などには,相手方の真の狙いを見定め,相互に納得できる内容を見つけるまで大変な緊張を強いられます。
 赴任当初は,検察の現場で刑事事件に長く取り組んできた自分が,どうすれば多国間外交の最前線で成果を上げることができるのか,暗中模索の思いでした。しかし,実際には,検事として培った力が外交でも役立つ場面はいくつもあります。例えば,各種文書の問題点を検討する上では,条文を解釈したり裁判例を分析するスキルが強みになります。また,他国や国際機関側の動向を関係者から聴取して正確に把握する上では,被疑者等から真相を聞き出す能力が活きます。こうした実務的・技術的な面だけでなく,各国の外交官やNGOの活動家など人権問題に携わる人々の「苦しんでいる人々を少しでも助けたい。」という思いは,検事の持つ素朴な正義感と共通するものがあり,検事の職務と同様のやりがいや熱意を外交官としての仕事にも感じられることを幸運に思っています。
 当地では,多くの国が自国の検事や弁護士をリーガルアタッシェとして各代表部に置いており,他国のリーガルアタッシェと法的な問題点を議論する機会もあります。対等に議論をするためには,法学を学び続けるだけでなく,語学力の向上に努めなければなりませんし,日本や世界各国の近現代史への理解を深める必要もあり,容易ではありませんが,新たな気付きを得て法曹としての幅を広げる格好の機会と捉えています。

国際分野における検事の職務

 当地以外にも,検事は,米国,ドイツ,英国,フランス,中国,韓国等の各大使館,さらにはEU代表部やASEAN代表部にも配属されています。そのほかにも国際機関に出向し,あるいは,途上国に赴任して法整備支援に当たる検事もいます。留学や在外研究のため,海外に派遣されている検事もいます。現在,日本政府は司法外交を推進しています。皆さんが任官される頃には,国際分野における検事の活動領域が更に広がっているかもしれません。捜査公判が検事の職務の核心であり続けることは今後も変わりないと思いますが,多種多様な経験を積むチャンスがあることもまた検事の職務の魅力の一つではないでしょうか。