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ISILが活用する「音楽」 ~ナシード~

音楽を禁じる「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が活用する「音楽」とは?

ISILは,シャリーアの極端な解釈に基づき音楽を禁じているが,イスラム教の宗教歌であるナシードは,男声のみで歌唱されること,楽器を用いないこと,その内容が宗教的なものに限られていることなどから,例外的に活用している。

ナシードは,押韻に留意したリズムのよい詩に旋律が付されていることに加え,同じフレーズが繰り返されることが多いため,内容が聞き手の頭から離れにくくなる効果がある。さらに,旋律や歌唱の荘厳な雰囲気やミキシング技術により「感動的」に聞こえるよう工夫されていることなどから,聞き手の心理に強く訴えるものが多い。

こうしたことから,多くのイスラム過激組織がナシードを活用したプロパガンダ活動を展開しているが,とりわけ,ISILは,新たなナシードを次々に制作するなど,他のイスラム過激組織よりも活発にナシードを活用している(注1)。ISILによるナシードは,アラビア語のほか,英語,フランス語,ドイツ語,トルコ語,中国語,ウイグル語,ベンガル語など多言語にわたり,世界各地の戦闘員を見据えたナシードが制作されている(注2)

ISILのナシードの内容

ISILが制作するナシードは,戦闘員の士気高揚を目的とした内容や「殉教」を美化する内容のほか,関与したテロ事件を称揚する内容のものが多く知られている。例えば,2015年11月のパリの連続テロ事案を賛美する動画(2015年11月発出)の中に,戦闘員が,フランス語で興奮した様子で,フランスでの新たな攻撃を呼び掛ける場面の背景で,「前進せよ,後退せず,降伏せず(中略)やつらの住処で,やつらを血まみれにせよ」(フランス語)と勇ましいリズムで歌ったナシードが利用されている。
 また,自爆テロ犯を賛美する動画では,「去りゆく者よ,誓って,私はあなたを忘れない」(2015年7月発出の動画,アラビア語)などと歌ったナシードが利用されている。

ISILのナシード歌手

マーヘル・ミシュアルのナシード録音風景(2016年1月,「ラッカ州」が発出した同人の追悼動画より)

マーヘル・ミシュアルのナシード
録音風景(2016年1月,「ラッカ州」
が発出した同人の追悼動画より)

ISILのナシード歌手としては,アラビア語のナシードを担当したサウジアラビア人マーヘル・ミシュアル(注3)やドイツ語のナシードを担当したとされるドイツ人デニス・カスパート(注4)が知られている。また,フランス語のナシードに関しては,フランス人ファビアン・クラン(注5)が制作し,同人の弟のジャン・ミシェル・クランが歌唱を担っているとされる。

このように,ISILに参加する前からナシードをたしなんでいたとされる人材が各地から集まったことで,質の高いナシードを多言語で制作することが可能になったとみられる。彼らがISILに参加するに至った経緯は明らかではないが,ISILは,広報活動で,こうした者の能力を戦略的に有効活用するなど,ナシードを重要視していたことがうかがえる。こうしたナシード歌手が歌ったISILのプロパガンダは,世界各地の戦闘員や戦闘員予備軍を鼓舞することを狙い,映像とともにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを介して拡散し続けている。

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