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欧米諸国におけるテロの傾向と今後の展望

1 はじめに

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)シリア・イラク両国における軍事的劣勢が指摘される一方で,ISILの影響力は世界各地に拡散し,ISIL又はその影響を受けた者らによるテロが多発するなど,ISILによるテロの脅威が深刻となっている。特に,欧米諸国においては,多数の一般市民が集まるようなソフトターゲットを対象としたテロが頻発する事態となっており,その大半がISILに関連したものとされている。

これら欧米諸国におけるISIL関連のテロ事件は,大きく分けると三つのカテゴリーに分類される。第一は,ISILによる具体的な指示や支援は見られないものの,何らかの形でISILの影響を受けた単独又は少数の者が,計画・実行したテロである。これは,いわゆる「一匹狼」型テロと呼ばれるもので,従前から欧米諸国におけるISIL関連のテロ事件で最も多く発生している類型である。

第二,第三は,ISILによる新たな脅威とも言えるタイプのものである。第二は,2015年11月のフランス首都パリにおける連続テロ事案や2016年3月のベルギー首都ブリュッセルにおける連続テロ事案で見られたように,ISILから送り込まれた戦闘員らが計画的かつ組織的に実行したテロである。これらは,複数の実行犯が銃器や爆発物を用いて同時多発的に犯行に及び,多数の被害者を出すなど社会に与えた影響も大きく,欧米諸国におけるISILのテロ実行能力の高さを示す形となった。特に,ブリュッセルにおける連続テロ事案では,邦人被害も発生しており,我が国も他国の出来事として片付けることはできないものとなっている。

第三は,特に,2016年後半から散見されるようになったもので,通信アプリなどを介し,シリア又はイラクなどに滞在するとみられるISILの戦闘員からの一定程度の指示に基づいて計画・実行されたテロである。これは,パリ及びブリュッセルにおける連続テロ事案のような組織的なテロとも,「一匹狼」型テロとも異なる形態のテロとされる。

これら一連のテロ事件からは,欧米諸国におけるISILの影響力の浸透とテロの脅威の深刻さがうかがわれる。ISILは,シリア及びイラクでの軍事的劣勢が指摘されるようになって以降,2016年9月には,「ルーミヤ」(ローマの意)との名称で新たな機関誌を発刊するなど,欧米諸国におけるテロ実行の呼び掛けを一段と強化している。また,ISILによって欧米諸国における「グローバル・ジハード」の主導権を奪われた形となっている「アルカイダ」についても,その奪還を狙い,引き続き欧米諸国での「一匹狼」型テロの実行を呼び掛けており,欧米諸国においては,テロの脅威が依然として憂慮すべき状況にあると言える。

このような状況から,本稿においては,現下の欧米諸国における国際テロ情勢を分析するとともに,今後についても若干なりとも展望を試みることとする。

2 欧米諸国におけるテロ事件の概要

(1) 全般的な状況

米国連邦議会下院国土安全保障委員会が月別に公表している報告書「テロ脅威寸評」(2017年1月)によれば,欧米諸国を標的とし,ISILと何らかの関係があるとされたテロ計画は,2014年で18件,2015年で49件,2016年で74件把握されており(注1),年々増加していることがうかがえる。

米国内に関しては,ISILと何らかの関係があるとされたテロ計画は,2014年から2015年末までで19件である一方,2016年のみで20件を超えるとされ(注2),増加傾向にあることがうかがえる。

欧州内に関しては,欧州刑事警察機構(ユーロポール)が毎年公表している報告書「EUのテロ情勢と傾向に関する報告書」(2016年版)によると,イスラム過激組織に関連するテロ事案は,2014年から2015年にかけて急増し,テロ関連容疑での逮捕者数についても,2014年の395人から2015年の687人に増加したとされる(注3)。また,ユーロポールの「欧州テロ対策センター」が2016年12月に公表した報告書「欧州での脅威を維持するためにテロの戦術を変化させる『イスラム国』」によると,欧州ではその規模,頻度及びインパクトにおいてテロの脅威が上昇傾向にあり,対ISIL有志連合に参加する欧州諸国の中でも,特に,フランスがISILの最優先の攻撃対象になっていると指摘されている(注4)

このように,欧米諸国では,年々,テロの脅威が増大している。2015年以降は,実際にテロ事件も頻発し,その大半の事件でISILとの関連が指摘されていることから,ISILによるテロの脅威の高さを示すものとなっている。

(2) 欧米諸国における主なテロ事件

以下は,欧米諸国における2015年以降に発生した主なテロ事件の概要である。

【2015年】
月日(注5) 発生場所 概要 備考
1月7~9日 フランス 首都パリで,銃で武装した男2人が,週刊紙「シャルリー・エブド」社などを襲撃し,12人が死亡,11人が負傷 「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)が犯行声明を発出AQAPが標的の選定や計画の策定,資金調達を実施との指摘
1月8~9日 フランス 首都パリで,銃で武装した男が,警察官を殺害し,その後,ユダヤ系食料品店に立て籠もるなどし,5人が死亡,1人が負傷 実行犯について,ISILの影響を受けたとの指摘
2月3日 フランス 南部・ニースで,刃物を持った男が,ユダヤ系施設などの警備に当たっていた同国軍兵士を襲撃し,2人が負傷 実行犯について,ISILの影響を受けたとの指摘
5月3日 米国 南部・テキサス州ダラス近郊のガーランドで,銃で武装した男2人が,イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画展を襲撃し,1人が負傷 ISILのラジオ局「アル・バヤーン」が犯行を主張
6月26日 フランス 南東部・リヨン郊外で,刃物を持った男が,米企業所有のガス工場を襲撃し,1人が死亡 ISILの機関誌「ダービク」(第10号)が犯行を主張
8月21日 ベルギー オランダ・アムステルダム発フランス・パリ行きの国際高速列車がベルギー国内を走行中,銃などで武装した男が,車内で発砲するなどし,3人が負傷 実行犯に対し,欧州に潜伏中のISILの戦闘員を通じて指示が与えられたとの指摘(注6)
11月13日 フランス 首都パリ郊外の競技場,同中心部のレストラン,劇場などで,銃撃や自爆などによるテロが相次いで発生し,130人が死亡,約350人が負傷(「フランス・パリにおける連続テロ事案(注8)」) 「ISILフランス」名の犯行声明が発出ISILの対外作戦機関が関与したとの指摘(注7)
12月2日 米国 西部・カリフォルニア州サンバーナディーノで,銃などで武装した男女2人組が,障害者支援施設を襲撃し,14人が死亡,21人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
【2016年】
月日 発生場所 概要 備考
1月7日 フランス 首都パリで,刃物を持った男が,警察署の入口にいた警察官を襲撃(死傷者なし) 実行犯について,ISILの影響を受けたとの指摘
3月22日 ベルギー 首都ブリュッセルの空港及び地下鉄駅で,爆発物によるテロが相次いで発生し,32人が死亡,340人(うち邦人2人)が負傷(「ベルギー・ブリュッセルにおける連続テロ事案(注9)」) 「ISILベルギー」名の犯行声明が発出ISILの対外作戦機関が関与したとの指摘
6月12日 米国 南東部・フロリダ州オーランドで,銃で武装した男が,ナイトクラブを襲撃し,49人が死亡,53人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
6月13日 フランス 首都パリ郊外のマニャンビルで,刃物を持った男が,警察官を襲撃し,2人が死亡 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張実行犯に対し,ISILの戦闘員から指示が与えられたとの指摘(注10)
7月14日 フランス 南部・ニースで,トラックに乗った男が,同国の革命記念日を祝う花火見物客の群衆に突入するなどし,86人が死亡,434人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
7月18日 ドイツ 南部・ビュルツブルクを走行中の列車内で,刃物を持った男が,乗客らを襲撃し,5人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張実行犯に対し,ISILの戦闘員から指示が与えられたとの指摘(注11)
7月24日 ドイツ 南部・アンスバッハで,男が,野外音楽祭会場付近で爆発物を爆発させ(注12),15人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張実行犯に対し,ISILの戦闘員から指示が与えられたとの指摘(注13)
7月26日 フランス 北部・ルーアン近郊のサンテティエンヌ・デュルブレで,刃物を持った男2人が,キリスト教の教会で人質を取って立て籠もり,1人が死亡,1人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張実行犯に対し,ISILの戦闘員から指示が与えられたとの指摘(注14)
8月6日 ベルギー 首都ブリュッセル近郊のシャルルロワで,刃物を持った男が,警察本部を襲撃し,2人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
8月10日 カナダ 南東部・オンタリオ州ストラスロイで,爆弾テロを計画した男が,自宅に呼んだタクシーの後部座席で,爆弾を爆破させ,1人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
8月31日 デンマーク 首都コペンハーゲンで,銃で武装した男が,警察官に対して発砲し,3人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
9月17日 米国 東部・ニュージャージー州のマラソン会場付近及びニューヨーク州のマンハッタン地区で,男が,爆弾を爆発させ,31人が負傷 実行犯について,ISIL及び「アルカイダ」の影響を受けたとの指摘
9月17日 米国 中西部・ミネソタ州セントクラウドで,刃物を持った男が,ショッピングモール内の買い物客を襲撃し,10人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
10月11日 スウェーデン 南部・マルメで,男が,シーア派モスクに放火(死傷者なし) ISILのアラビア語週刊誌「アル・ナバア」(第51号)が犯行を主張
10月16日 ドイツ 北部・ハンブルグで,刃物を持った男が,少年少女を襲撃するなどし,1人が死亡 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
11月28日 米国 中西部・オハイオ州コロンバスで,男が,自動車で大学構内の通行人をはねるなどし,11人が負傷 ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張
12月19日 ドイツ 首都ベルリン中心部で,男が,トラックでクリスマスマーケットに突入し,12人が死亡,48人が負傷(注15) ISILと関連を有する「アーマク通信」などが犯行を主張

次節では,これらテロ事件について,様々な観点からの分析を試みる。

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