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欧米諸国におけるテロの傾向と今後の展望

4 テロ組織による対欧米テロに向けた動向

(1) ISILによる欧米諸国でのテロ呼び掛け

ISILは,米国が主導する有志連合が,シリア及びイラクでISILに対する空爆を開始した2014年夏以降,これら有志連合に参加する欧米諸国などを攻撃の対象として度々名指ししてきたほか,欧米諸国に居住するイスラム教徒らに対しては,自身が居住する国でテロを実行するよう呼び掛けてきた。

例えば,有志連合による空爆開始直後に発出された報道担当(当時)アブ・ムハンマド・アル・アドナニによるとされる声明(2014年9月付け)では,米国,オーストラリア,カナダ,フランスなどの欧米諸国に対し,「我々はお前たちを苦しめる用意を既に終えた」などと,これら欧米諸国を直接的に攻撃する旨警告したほか,欧米諸国に居住するISIL支持者らに対しては,「あなたは,暴君の軍隊を攻撃しなければならない。警察,情報機関関係者及びそれらに協力する裏切り者たちを攻撃せよ」などと,治安機関関係者らに対するテロを呼び掛けている。

これ以降も,ISILは,アドナニや最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディなどの幹部声明のほか,英語機関誌「ダービク」(2014年7月創刊)やフランス語機関誌「ダール・アル・イスラム」(2014年12月創刊)などを通じて,有志連合に参加する欧米諸国などを「十字軍」として敵視し,攻撃を呼び掛けてきた。

2015年には,欧米で,こうした呼び掛けに呼応したとみられるテロ事件が増加の傾向を見せた一方で,ISILは,同年後半以降,有志連合による空爆やその支援を受けた治安部隊による掃討作戦などを受け,シリア及びイラクにおいて大幅に支配地を減少させた(注28)

軍事的劣勢に立たされたISILは,シリア及びイラクにおける劣勢を払拭するため,これまで以上に欧米諸国におけるテロ実行の呼び掛けを強めたほか,欧米諸国で発生したテロ事件について,積極的な広報活動を展開してきた。特に,2016年5月に,報道担当アドナニ(当時)によるとされる声明が発出され,「欧米諸国中心部でのごく小さな行動は,我々の大きな行動以上に貴重である」,「ラマダンの攻撃は殉教と称えられるだろう」などと,欧米諸国における「一匹狼」型テロが強く推奨されて以降,欧米諸国では,ISILに影響を受けたとみられる「一匹狼」型テロが続発し,ISIL側も,こうしたテロを自組織の「成果」として,顕著に宣伝するようになった。

また,ISILは,2016年9月以降,「ルーミヤ」との名称で新たな機関誌を発行し,欧米諸国に居住するISIL支持者らに対して,テロ実行を繰り返し呼び掛けている。「ルーミヤ」では,過去の「成功事例」を称賛することで「読者」を鼓舞しつつ,テロ実行に際しての手段や標的などが詳しく「指南」されていることからも,ISILが,これまで以上に欧米諸国におけるテロの発生を希求していることがうかがわれる。

(2) 「アルカイダ」による欧米諸国でのテロ呼び掛け

「アルカイダ」は,1996年,最高指導者オサマ・ビン・ラディン(当時)が対米「ジハード」を宣言したのに続き,1997年には,「ユダヤ・十字軍に対するジハードのための世界イスラム戦線」の結成を宣言し,全てのイスラム教徒に対して,米国人とその同盟者を場所を問わずに殺害するよう求めて以降,米国を始めとする西側諸国などへのテロを呼び掛けている。

「アルカイダ」は,2001年9月に米国同時多発テロ事件を自ら実行するなどしたものの,米国主導の「テロとの闘い」によって多数の幹部が殺害されるなど,著しく勢力を減退させ,また,各国で取締りが強化されたこともあり,近年は,欧米諸国でテロを実行し得ていない。こうした状況の下,最高指導者アイマン・アル・ザワヒリは,2013年9月,「米国を緊張と不安の状態にとどめるには,ここかしこで,2,3の雑多な攻撃を行うだけでよい。(中略)雑多な攻撃は,兄弟たちが単独又は2,3人で実行することが可能である」などと,「一匹狼」型テロの実行を初めて明確に呼び掛け,2015年9月にも,「西側諸国の中心やその町,軍事施設,経済の中心地,産業の中心地,金融の中心地」で「殉教作戦」を実行するよう呼び掛けている。

また,イエメンで活動する「アルカイダ」関連組織の「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)は,2010年以降,オンライン英語機関誌「インスパイア」の中で,「一匹狼」型テロを最も体系的に,緻密に理論化したとされる(注29)ムスタファ・セトマリアム・ナサル(別名アブ・ムスアブ・アル・スーリ)の著作「世界イスラム抵抗運動の呼び掛け」(注30)の主な部分を抜粋して掲載するとともに,同テロを実行するためのマニュアルを連載している。具体的には,マッチや装飾用電球,鉄パイプなど容易に手に入る材料で爆弾を製造する方法や,AK-47(カラシニコフ自動小銃)などの使用方法を豊富な画像を交えて説明しているほか,最近では,「最小のコストで最大の効果を得る作戦」として,「暗殺の仕方」を紹介するなど,専門知識のない者でもテロ組織や犯罪組織などと接点を持たずにテロを実行できるだけの情報を多く載せている。さらに,AQAPは,標的国として,米国や英国,フランスなどを挙げ,過去にイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載した新聞社の関係者や米国の財界人などをリストアップするとともに,米国でボストンマラソン爆弾テロ事件(2013年4月)が発生した際には,実行犯のツァルナエフ兄弟を称賛し,その手法を評価するなど,テロ志願者に一定の指針を与えている。

このほか,AQAPは,2016年,「インスパイア」の別冊版として,「一匹狼」型テロの手法などに関する分析を明らかにする「インスパイア・ガイド」の配信も開始しており,「一匹狼」型テロを重視する姿勢を一層鮮明にしている。

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