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東南アジアにおける過激化

東南アジアでは,地元勢力等による組織的なテロが大半を占めている。また,域内各地のイスラム過激派関連テロの実行主体は,①分離主義運動から派生したもの(「イラク・レバントのイスラム国」〈ISIL〉支持勢力を含む。フィリピン南部等),②自国政府を打倒してカリフ制の導入などを図るもの(インドネシア,マレーシア等)-に大別できる。

こうした勢力においては,経済的事情や親族関係の係累から過激組織に関与している者が少なくないが(特に上記①),以下では,主として思想的な面で過激化が生じていると考えられるものについて,現地シンクタンクの報告書などを基に,東南アジアにしばしば見られるパターンを二つ取り上げ,具体例を挙げて考察することとした。(注1)(注2)

1 分離主義運動の支持者が過激主義に転じたもの

○ フィリピン南部では,かつて分離主義運動に関与していたイスラム過激組織指導者が多く見られる。例えば,ISIL支持組織「マウテ・グループ」指導者兄弟及び両人の父親(いずれも故人)は,元々「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)に属していたとされる。父親は,MILFが独立を否定し,政府と「バンサモロ枠組み合意」に達したこと(2012年10月)に反発し,組織から追放された後,同グループを設立したと言われる。

○ 分離主義の考え自体は,「アルカイダ」やISILなどが唱えるイスラム過激主義との間で大きな思想的隔たりがある(注3)。それにもかかわらず,分離主義からイスラム過激主義への「転向」が見られる理由としては,分離主義運動への「限界」を感じたり,内部での路線対立に敗れたりするなどの事情があったことが考えられる。

2 急進的なイスラム思想の影響を経て過激化したもの

○ 多元主義を国是とし,世俗的な憲法を有するインドネシアには,カリフ制の導入やシャリーアの施行等を掲げた,いわゆる急進的なイスラム思想を唱える各種の組織が存在する。こうした組織が全てテロを容認するわけではないが,これら組織で活動歴を有する者がテロリストに転じる場合がある。例えば,シリアでISILに加入したバフルン・ナイムは,非暴力でのカリフ制導入を掲げる「解放党インドネシア」(HTI)にかつて所属していたとされる。また,ISIL支持組織「ジャマー・アンシャルット・ダウラ」(JAD)の指導者で2017年4月に逮捕されたザイナル・アンショリは,「勧善懲悪」を掲げて酒場などを襲撃する「イスラム擁護戦線」(FPI)の元支部長であったとされる。

○ これら2人が過激主義に至った詳細な経緯は明らかではないが,一般的には,既存組織内で急進的なイスラム思想の影響を受けるうちに,組織内での活動に飽き足らず,過激主義に傾倒していくケースが見られることが指摘されている。

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