フロントページ > 国際テロリズム要覧 (Web版) > 西バルカン諸国へのISILの浸透

西バルカン諸国へのISILの浸透

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は,2017年6月,機関誌「ルーミヤ」第10号のボスニア語版を発出し,その中で,ボスニア紛争(1992~1995年)中のムスリム虐殺事件を引き合いに出し,セルビア系住民やクロアチア系住民に対する攻撃を呼び掛けるなど,西バルカン諸国(アルバニア,ボスニア・ヘルツェゴビナ,コソボ,マケドニア,モンテネグロ及びセルビア)に対する関心の高さを示した。

西バルカン諸国では,近年,ISIL司令官から直接指示を受けた大規模なテロ計画やテロ関連事案が摘発されている。

サッカーをめぐる主なテロ事件・計画
年月日 場所 概要
2016年
11月4~15日
コソボ,
アルバニア
 コソボの政府施設やセルビア正教協会,サッカー・ワールドカップ大会予選のためにアルバニア入りしていたイスラエルチームなどを標的とした一連のテロ計画が摘発され,コソボ人18人およびマケドニア人1人の計19人のISIL関係者が逮捕。家宅捜索で,爆発物などが押収
 アルバニア系コソボ人でISILの「アルバニア人」司令官ラフドリム・ムハシェリ(2017年6月,空爆で死亡)がテロを指示
2017年
11月30日
ボスニア・
ヘルツェゴビナ
 首都サラエボに所在する米国大使館付近のバス停で,ロケットランチャーや自動小銃など大量の銃器を所持していたとして,ISILへの参加で前科のある男が逮捕

ISILに対する掃討作戦が進展し,ISILの退潮が顕著となる中,西バルカン諸国からISIL支配地域に渡航していた戦闘員(約900人)のうち,約250人が帰国したとみられている。国連開発計画(UNDP)は,西バルカン諸国(特にコソボ)から多数の戦闘員がISIL支配地域に渡航した要因として,若年層の高い失業率や低い教育水準などを指摘しており,西バルカン諸国に帰還した戦闘員が社会に再び受け入れられる環境は整っていないとみられることから,これら帰還者の中には,就職の機会を求めて欧州への渡航を試みる者やテロネットワークに関与する者が出てくる可能性もある。実際,2017年には,コソボ人元戦闘員が,イタリアにおいて,テロを計画したとして逮捕されており,西バルカン諸国の帰還戦闘員が,西バルカン諸国のみならず,欧州全体にとって脅威となるおそれがある。

また,西バルカン諸国は,欧州(西バルカン諸国を除く。以下同じ。)からISIL支配地域に渡航した戦闘員の帰還ルート上に位置していることから,偽造パスポートによる入国事案や不法越境事案が発生している。西バルカン諸国の山岳地帯などには,治安機関による監視の届きにくい地域が存在するとされ,欧州への帰還を希望する戦闘員の一部がそうした地域にとどまっているとの指摘もあるところ,ISILが,欧州に対する攻撃拠点として西バルカン諸国を利用するおそれもある。

このほか,西バルカン諸国から多数の武器がISILに渡ったと言われていることに加え,西バルカン諸国出身のISIL戦闘員が,ISIL支配地域と西バルカン諸国を往復して活発に資金調達活動を行っていたこともあり,西バルカン諸国は,ISILにとって,ヒト(戦闘員),モノ(銃火器),カネ(活動資金)の供給地として重要な役割を果たしてきたとされる。

ヒト・モノ・カネの入手や欧州へのアクセスが容易で,監視の届きにくい地域が存在する西バルカン諸国におけるISILメンバーらの動向には注意が必要である。

このページの先頭へ

ADOBE READER

PDF形式のファイルをご覧いただくには、アドビシステムズ社から無償配布されているAdobe Readerプラグインが必要です。