フロントページ > 国際テロリズム要覧について > ISIL 最高指導者が素性を明らかにしない背景

ISIL 最高指導者が素性を明らかにしない背景

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)(注1)は、最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ(当時)が2019年10月に死亡して以降、2022年末までに3人の最高指導者が就任したことを発表してきた。しかし、いずれも、本名ではない名前を発表するのみで、最高指導者による動画、音声等いかなる声明も発出されていない。過去にバグダディが行ったように、最高指導者として姿を現し、自身の言葉で直接語りかけることが求心力を強めるためには効果的であるものの、素性の解明につながるおそれがある顔や声を出さない背景には、米国等に居場所が特定され、殺害されるリスクの軽減を優先していることがあると指摘されている(注2)

そのため、ISILは、今後も、最高指導者の安全が確保される環境が整わない限り、最高指導者の交代時に新最高指導者の素性を明かすことが困難であるとみられている(注3)

バグダディ以降の最高指導者

【アル・クラシを名のる理由】

ISILは、2014年6月以降、最高指導者が全てのイスラム教徒の代表者である「カリフ」であるとしており、バグダディ以降の最高指導者の名前にアル・クラシという名称を用いている。アル・クラシは、預言者ムハンマドが属するクライシュ族を意味し、クライシュ族であることはカリフの要件の一つとされている。そのほか、カリフの要件としては、①イスラム法の知識があり、独立して意思決定ができること、②公正で、高潔であり、正直であること、③政治的責務を遂行する能力を有し、戦時であっても政治情勢を理解し、公共の福祉を維持できること、④障害がなく健康であり、五体満足であること、が挙げられている(注4)

ISIL最高指導者がカリフの要件を満たしているのかを外形的に判断することは困難であるが、ISILとしては、最高指導者の名前にアル・クラシを用いることにより、同人の正統性を演出するとともに、ISILが「建国」を宣言している「イスラム国」の正統性も主張しているとみられている(注5)

このページの先頭へ

ADOBE READER

PDF形式のファイルをご覧いただくには、アドビシステムズ社から無償配布されているAdobe Readerプラグインが必要です。