法制審議会民事訴訟法部会            第2回会議 議事録 第1 日 時  平成18年11月24日(金)  自 午後1時00分                         至 午後4時57分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  犯罪の被害者等の保護のための民事訴訟法の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり)                議        事 ● それでは,定刻になりましたので,民事訴訟法部会第2回会議を開催させていただきます。   本日は,事務当局作成の部会資料2によりまして,前回の議論の中で取り上げられました論点について審議をお願いいたします。   それでは早速,配布資料の確認を○○幹事からお願いいたします。 ● それではまず,事前送付資料が2点ございます。1つは,民事訴訟法部会資料2と書かれております「犯罪の被害者等の保護のための民事訴訟法の改正に関する論点について」というものでございます。本日は,これをたたき台にしていただきまして御審議をお願いできればと考えております。   それから,2番目でございますけれども,参考資料4といたしまして,「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」というものでございます。こちらにつきましては,今の刑事訴訟の中での遮へい,あるいはビデオリンクと遮へいの措置,少し具体的な内訳等につきまして,前回の部会でも御質問が出ましたので,それの参考のためでございます。簡単にこちらの参考資料の方を御説明させていただきます。   まず遮へいでございますけれども,刑事訴訟法上,被告人との間の遮へいと傍聴人との間の遮へいと2つございますが,その内訳がどうなっているかという御質問が前回の部会でございました。この表をごらんいただきたいと思いますけれども,証人尋問の際に遮へいの措置が採られた証人の数が全体として4,256件ございます。このうち証人と被告人及び傍聴人との間の遮へいが2,486件でございます。証人と被告人との間が1,581件,証人と傍聴人との間が189件ということでございますので,割合的には,被告人,それから傍聴人との間の両方を遮へいするという割合が非常に多くなっているということでございます。   それからもう1つは,ビデオリンク方式を採用した場合に,遮へいの措置と併用するということも規定上できるわけでございますけれども,それがどのぐらいあるのかという点でございます。ビデオリンクの欄で,ビデオリンク方式による証人尋問が行われた証人の数は全体として583件でございますが,このうち遮へいの措置が採られた証人の数が474件ございます。したがいまして,この統計を見ますと,ビデオリンクが採用されたかなり多くの割合におきまして遮へいの措置も併用して採られているという状況でございます。   それから,前回の部会で民事訴訟における当事者との間の遮へいの例,前回部会資料に掲げましたHIV訴訟の例などは,いずれも傍聴人との間の遮へいの例でございました。民事訴訟において当事者との間の遮へい措置を採った例があるかという御質問がございました。大変申しわけございませんけれども,これにつきましては,私どもは調べましたけれども,資料が見当たりませんでした。したがいまして,そういった措置が採られた例があるかどうかというのはわからないという状況でございます。   以上が参考資料の説明でございます。   以上が事前送付資料でございます。それから,本日席上に大きく分けまして2つの資料を置かせていただいております。これは,○○委員からいただいたものでございます。まず1つが,「犯罪被害者が置かれる現状」という○○委員の資料でございます。それからもう1つは,犯罪被害者支援に関係いたしますパンフレットを置かせていただいております。合計7点ほどございます。これらの資料につきましては,また後ほど○○委員の方から御説明いただければと思います。あわせて○○委員の方からはビデオもお預かりしておりますので,犯罪被害者の実情につきましてそのビデオの方もごらんいただければと思っております。   資料の説明は以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただいまの資料の説明に関しまして,御質問等はございますでしょうか。いかがでしょうか。どうぞ,○○委員。 ● ビデオリンクと遮へいの併用ということで今,統計の参考資料4の御説明をいただいたのですけれども,そのイメージといいますか,すみませんが,実際にビデオリンクと遮へいの併用というのは,ビデオリンクをされて,それで遮へいというのは,傍聴席との遮へいもというイメージだと考えればよろしいんですか。583件のうち474件あるものですが,その頭の中での想定なんですけれども,ビデオリンクをやられて,それでかなり顔が鮮明に映るということをお聞きしましたので,それを傍聴席から見えないようにされたといった理解でよろしいんでしょうか。 ● 大変申しわけございません。遮へいの欄ではかなりの割合で双方からの遮へいでございますが,ビデオリンクとの併用の474件の遮へいが双方なのか,それとも被告人との間だけの遮へいなのかにつきましては,我々の方で入手しておりますこの統計からは明らかではございません。ちょっとこちらの方でなお調査いたしまして,それがわかるのであれば,またお知らせしたいと思います。 ● では,そういうことでよろしゅうございますか。 ● はい,結構です。 ● ほかに御質問はいかがでしょうか。   それでは,他に御質問がなければ,具体的な審議に入りたいと存じます。まず初めに,部会資料2の前注及び第1,付添い等の措置の導入に当たっての一般的な論点の前半についてでございます。まず○○幹事から資料の説明をお願いしたいと思いますが,引き続き今回の諮問事項に関しまして○○委員より犯罪被害者支援の実情等についての御説明がある由を承っておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,どうぞ。 ● それでは,まず私の方から,部会資料2の前注から第1の1から3までにつきまして御説明させていただければと思います。   まず前注でございますけれども,今回の改正のための審議の出発点となる議論と認識しております。今回の改正の検討の方向性につきまして,このように考えてはどうかということで御確認させていただきたいという趣旨でございます。すなわち,今回具体的に問題となっております3つの措置でございますが,付添いと遮へいについては,これまでは訴訟指揮の一環として採ることが従来も可能であったが,それを法律上明確に規定することによってその実施の円滑化を図る必要があるのではないかと。それから,ビデオリンクにつきましては,これまでは遠隔地に住んでいる,遠いところに住んでいらっしゃる証人の方の尋問等につきましては法律上認められておりますけれども,こういう犯罪被害者の方の保護のためという観点からのビデオリンクにつきましては,これまでは法律上規定がなく,運用としてもすることができなかったという措置でございますので,これにつきましてはこういう制度を新たに設けるという方向で考えてはどうかということでございます。   続きまして,第1の1でございますが,付添い等の措置の目的でございます。これにつきましては,前回の資料で,犯罪の被害者等の不安あるいは緊張等を緩和すること自体を目的としてとらえるという考え方と,十分な陳述ができるようにして,むしろ適正な裁判に資することを目的とすること,そういった2つの考え方の案をお示ししていたものでございます。今回の本文の案でございますけれども,前回の御議論を踏まえまして,犯罪被害者等基本法の理念あるいは刑事訴訟法の規定の趣旨とのバランスというものを考えまして,前回の資料でいきますと①の考え方をとってはどうかというのが本文の案でございます。   ただ,前回の部会でも,その2つの目的の関係につきましてはいろいろと御議論いただいたところでございます。こちらの本文の案といたしましても,そういった被害者の方たちの不安や緊張等を緩和するという目的を実現することによって,その範囲で結果として適正な裁判につながるという目的が達成されると理解されますので,そういった目的というものが連続的なものであるということは理解しているところでございます。ただ,この目的をどのように考えるかといいますのは,その後の各論点の議論にかかわってくると考えられます。例えば,適正な裁判の実現のための他の理念,当事者の手続保障との調整をどうするかといった面でいろいろかかわってくると思われます。より直接的なかかわり方といたしましては,そういったほかの理念との調整の場はともかくとして,ここではそもそもどのような場面でどのような要件のもとでこういう措置が認められるのかといった議論に直接かかわってくるのではないかと思われます。前回の部会の際にも申し上げましたけれども,例えば刑事訴訟法にある被告人の退廷命令の規定上の要件との比較で考えますと,例えば法廷で陳述することによって心理的な外傷が悪化するという場合であっても,十分な陳述ができるという場合であれば,退廷命令などにおきましては,そういう措置を採ることはできないという解釈がされているという点がございます。今回の各措置でございますけれども,先ほど申し上げました犯罪被害者等基本法の理念等に照らしますと,そういった場合でも,十分な陳述が仮にできたとしても,法廷でしゃべることによって心理的な外傷が悪化するというのであれば,やはり保護する必要があるのではないか。そのような趣旨も含めまして,今回この目的につきましては,被害者等の不安や緊張等を緩和すること自体を目的としてはどうかということを提案させていただいているという趣旨でございます。   次に,2番の各措置を認める事案の範囲でございます。この点につきましては,前回の部会でも,そもそもこの事案の範囲という切り口で考えること自体が,本当にそれで適当なのかどうかといった問題点の指摘もございました。例えばその陳述者の切り口,例えば犯罪被害者が自分の受けた犯罪の事実について陳述する場合といった切り口が考えられないかといった御意見もあったと認識しております。   ただ,刑事訴訟法では,特に保護されます陳述者は限定されておりません。すなわち,精神的な状況に関します一定の要件が満たされておりますれば,それは犯罪被害者でなくても構わない。例えば事件の目撃者といった者も入るわけでございます。そうしますと,刑事訴訟法ではそういう限定がなく,民事訴訟法だけそういった点で限定するというのはなかなか難しいのではないかということを注1に書いております。仮にそういった陳述者を限定しないということになりますと,そういった陳述者の不安あるいは緊張等を緩和することが必要な場面は,いろいろな事案で生じ得るのではないかと考えられます。あるいはまた,事案を例えば犯罪に起因する事案というように限定いたしますと,そもそもこの事案が犯罪に起因する事案に当たるのかどうかということ自体がそこで争われるといったことも起き得るわけでございます。本文に掲げました案は,そういったことを踏まえまして,事案の制限を加えないこととしてはどうかというものでございます。   ただ,仮にこのように事案を限定しないといった場合に,果たしてこの措置が採られる範囲といいますのが適正に解釈あるいは運用されるのかどうかという点が問題になり得るということが,注2でございます。前回の部会資料にも掲げさせていただきました注でございますけれども,刑事訴訟でありますれば,犯罪事実を審理する手続でございますので,例えば証人といたしましても,犯罪被害者の方とか事件の目撃者が典型的に考えられるわけでございます。ところが,民事訴訟ということになりますと,また事案を制限しないということになりますと,いろいろな事案が出てくる。そうしますと,こういった対象につきましても,いわば必要以上に広く解釈されてしまうおそれはないかという問題意識でございます。そういう点を踏まえまして,1つの方策ではございますけれども,措置が採り得る場合として,具体的には犯罪被害者であって保護の必要性がある場合を例示してはどうかといった趣旨の御意見が前回あったと理解しております。そこで,今回もこの点についてどのように考えるかということを御議論いただきたいと思います。ただ,具体的には,果たして例示というものが必要なのかどうか。例えば,刑事訴訟法と同じような文言で要件を書くということになりますれば,それは民事でも刑事訴訟法と同じように解釈できるのではないか。しかし,民事の場合に事案を限定しないと,仮に同じような文言を使ったとしても,どうしてもそういった拡大のおそれが出てきてしまうものなのかどうか。そういう点も含めまして,例示することについてどのように考えるか,御意見をお聞かせ願えればと考えております。   それから,注3でございますけれども,事案の限定と関連いたしまして,前回の部会で,今回の規定を仮に置いた場合に,その規定から外れる場面につきまして,従来の運用による措置を採ることが可能なのかどうかといった論点の御指摘がございました。これは運用による措置でございますので,付添いと遮へいの問題ということになるわけでございますが,これにつきましては実は刑事訴訟法でも,ああいう規定を置いたことによりましてそこに規定されている以外の場面について運用上の措置が採れるのかどうかという点は既に議論になっているところでございます。例えば一つの議論といたしましては,刑事訴訟法でも,陳述者が精神的な不安あるいは緊張を抱えている場面というものを想定として規定を置いているわけでございますけれども,例えば薬物犯罪の捜査官が証言するといった場合には,別に精神的な不安や緊張はないのだけれども,顔が関係者あるいは傍聴人に見られることによって,今後そういった密行的な仕事ができなくなる。そういったことから遮へいの措置が採れないかといった解釈の論点がございます。刑事訴訟法におきましても,そこはもう解釈に委ねられているということでございます。本文の案は,民事訴訟法でもその点は解釈に委ねてはどうかということを前提としているものでございます。したがいまして,そういった措置を採ることができるかどうかという点をこの法律で否定するという決めは打っていないという趣旨の考え方でございます。   次に,3番は各措置を認める手続の範囲でございます。規定を設けるとした場合に,その手続の範囲としては,証人尋問,当事者本人尋問,それから法定代理人尋問とすることでどうかという案でございます。ただ,先ほど申し上げましたとおり,この手続以外に運用で付添い・遮へいの措置を採ることができるかという点につきましては,解釈に委ねるということを前提とした案でございます。   注2でございますけれども,前回の部会資料で,例えば証拠調べとしての審尋はどうか,それから口頭弁論等,いわゆる主張をする手続はどうかという点を掲げさせていただきましたけれども,いずれもそちらの方は特に規定を設ける必要性は余り大きくないのではないかということで,本文の範囲には含めなかったというものでございます。   なお,前回の部会資料には掲げておりませんでしたけれども,鑑定人質問あるいは専門委員の説明の手続につきましても,各措置について規定を置くかということは,一応は問題になり得るとも思われます。ただ,このような専門家の方が法廷でしゃべるという場面におきますれば,そういう精神的な不安や緊張ということは余り考えられませんので,その点についても規定を設ける必要性は乏しいのではないかということで,本文のような形にさせていただいたという次第でございます。   私の方からの資料の説明は以上でございますので,特に今回の資料の出発点,前注の考え方とも関係いたしますので,○○委員の方から犯罪被害者の方々の実情につきまして御説明をお願いできればと思います。 ● それでは,お時間を設けていただきまして,どうもありがとうございます。実は,私自身が平成2年,当時18歳だった長男を歩道に乗り上げてきた飲酒運転者によってひき逃げされて奪われました被害者遺族でもありますので,被害者の実態をぜひ皆様にお伝えさせていただきたいと思いまして,このようなお時間を設けていただきました。   私が被害者遺族になりました平成2年当時は,警察の初期支援制度も何もなくて,犯人が捕まったということさえもテレビのニュースで知るしかありませんでした。刑事裁判も,いつ始まって,いつ結審して,どのような刑になったのかということも何も関係者からは教えてはもらえませんでした。当然あちこちに聞きましたけれども,そこで返ってくる答えというのは「被害者に教えるように法律にない」,その一言が返るだけでした。苦しんでいた私たちに惜しみない支援をくれましたのは,アメリカとイギリスの被害者支援組織の人たちでした。そこで私たちが受けた支援といいますものを日本のどこにいても受けることができる社会にするということが私の役割ではないのかと考えまして,30年間勤務しました公務員をやめて,現在,被害者支援都民センターで働いているという経緯があります。   資料のレジュメの上の方にもありますように,欧米ではもう1960年代から,犯罪被害者への支援は国や社会が行うべき当然のこととして,被害者支援センターに税金も投入されて,被害直後から支援を受けること,あるいは刑事手続に関与すること,損害賠償を受けることもできるように,法律改正なども行われてきております。それに比べて日本では,昭和55年にできた,通り魔殺人事件被害者に対して出される見舞金制度の犯罪被害給付金があっただけでした。その制度ができて10年たった平成3年にシンポジウムが開催されましたことをきっかけに,日本でも被害者支援の必要性が指摘されまして,東京医科歯科大学の中に犯罪被害者相談室が設置されました。私が現在おります被害者支援都民センターは,その犯罪被害者相談室が発展的に改組されたもので,東京都公安委員会の指定を受けた犯罪被害者等早期援助団体になっておりますので,警察から生命・身体犯被害者の情報提供を受けて被害直後の被害者の方に適切な支援を行うことができるシステムになっております。都民センターのパンフレットにつきましては,クリアファイルの中に何種類か入れてありますので,それをごらんになってください。   では日本の犯罪被害者がどのような現状に置かれているのかということですが,犯罪はある日突然,何の前触れもなく,同じ社会に住む人からの不法行為によって理不尽に一方的に健康な体や大切な家族の命を奪われるため,その衝撃は非常に大きくて,人への信頼感,社会への安全感も失って,自尊心もなくし,その受けた傷というものは脳に深く刻まれて,一生消えることはありません。被害直後は,一体何をどうすればいいのかがわからずに混乱して途方に暮れて,日常生活はもとより,社会生活,職業生活なども送れなくなり,自分の努力だけで立ち直っていくということは到底不可能です。   資料1ページ,2の(2)と3に書きましたように,被害直後の犯罪被害者は,感情も感覚も麻痺してしまうために,自分が被害に遭ったという現実感さえも持つことができませんので,一見冷静に見えるために,周りの人の理解を得ることができないだけではなくて,時には「子供を殺されてよく平気でいるわね」とか「何て冷たい人」などと誤解されるということもよくあることです。   その一方で回避症状も出てきますので,事件に関することを聞かれたり触れられるということだけで苦しくなるために,その現実から逃れるがゆえに外出もできなくなったりして行動範囲が制限されて,普通に暮らすということもできなくなってしまいます。また,眠れない。食べることができない。いつも不安でびくびくしている。   また,感情が爆発してしまって,自分でもコントロールができないような過覚醒という症状にも苦しみます。被害について考えないように必死で記憶にふたをしても,毎日毎日目の前に事件がフラッシュバックしてきて,今また事件に遭っているような感覚に陥ってしまいますので,自分自身でも,このまま自分はおかしくなってしまうのではないか,そういう不安がどんどん大きくなっていってしまいます。時間がたてばもとに戻れるというわけではありませんので,何とか自分でその感情をコントロールするすべを身につけるだけで,悲しみや苦しみが消えていくということはありません。月日がかなりたって少し平穏な生活を取り戻すことができたとしましても,そのトラウマによる影響は大きいために,またいつ被害に遭うのかわからないといった恐怖感や不安感から逃れることができないので,いつも緊張しているため,普通に暮らしているだけで疲れ果ててしまいます。   また,自分には何の責任がなくても,自責の念がとても大きくなってしまいますので,人生観,価値観,道徳観なども根底から変わってしまうために,自分自身が生きている価値さえも見出すことができなくなってしまいます。   このような被害者の実態については,日本の社会ではまだ十分には理解されていません。犯罪被害者等基本計画策定の目的の中にこのように書かれています。「犯罪被害者等は社会の例外的な存在であって,自分たちとは関係がないという誤った認識や,犯罪被害者等は特別に公的に守られ,尊重され,加害者からの弁償に加えて十分な支援が受けられることで容易に被害から回復できているという誤解もある。こうした認識の誤りもあり,犯罪被害者等に対する支援についての社会の関心は高いとはいえない」と明記されていることからもおわかりいただけるかと思います。   その上,日本の被害者は,関係者や周囲の人々からの二次的被害にも苦しみます。二次的被害の一覧表につきましては,レジュメの2ページに書かせていただきましたので,2ページをごらんになってください。   まず,捜査とか公判の過程における配慮に欠ける対応ということですが,実は被害者にとりましては,刑事司法そのものが被害者を再び傷つけることにもなるわけです。それは,その事件に遭ったということがまだ信じられないとき,あるいは聞かれたくもない,触れられたくもないといった回避症状があるときに聞かれるということは,それだけで傷口が大きく開かれることにもなるわけです。それでも被害者はみんな,とにかく加害者をきちんと罰してほしいという思いで必死で事情聴取に応じたり,裁判傍聴支援に臨んでいるわけです。ですから,民事裁判におきましても,それは全く同じです。でも,つらくても苦しくても,その裁判の中で少しでも自分が思うことを話すことができたときに,ようやく少しゆとりが持てて,被害者はこれからの自分のことを考えられるようになります。ですから,二次被害を与えずして被害者が,例えば刑事裁判もそうですけれども,民事裁判においても,何らかの役割を果たすことができた,やれたという思いを持てるような対応がとても大切なわけです。都民センターで接している多くの被害者の方たちが皆さん民事裁判を起こしているわけではありません。それは,起こしても無駄だということを弁護士さんから言われたり,あるいは明らかに資力がないということがわかっているとき,費用だけでも大変だということであきらめることもありますが,中には,加害者,被告人から脅されたので怖くて起こせないという方たちもかなりの率でいらっしゃいます。   それと,メディアの過剰な取材といいますのは,メディアスクラムと言われることからもおわかりいただけますように大変な状況になりまして,プライバシーがさらされたりして,後で周りの人たちから何かを言われるということはよくあることです。   それと,まだまだ一般の方たちにも被害者が置かれる理不尽な状況が理解されておりませんので,友人とか知人,周りの人たちからの配慮に欠ける言動,あるいは明らかな中傷,風評などが流されることもあります。よく「頑張りなさい」とか「しっかりしなさい」と言われますけれども,そういう状況にない被害者がその言葉をかけられるだけで,「ああ,やっぱりだれにもわかってもらえない」と思うか,あるいは反対に「励ましてもらえても,それにこたえられない自分はだめな人間だ」ということで自分をまた責めてしまうということがよくあります。家の中で被害に遭えば,「何で家の中にいたの」と言われます。外で被害に遭えば,「どうしてそんなところを歩いたの」と言われます。つまり,どちらに転んでも被害者は特別な人,何かあったから被害に遭ったのではないか,そのように思われるということがまだ日本の社会の中ではたくさんありますので,何を言われるのかわからないと思うと怖くて外へ出ることもできないという状況に追い込まれていってしまいます。   左下の方には,家族間の不和とか虐待,養育放棄,あるいは生活に困る,経済的に困窮する,住む家がなくなるということを書かせていただきました。周りの人たちは,何か不幸なことがあると,それを家族そろって力を合わせて乗り越えると思っている方が多いようですが,極限状態に追い込まれてしまいます被害者の家族は,同じ家族であっても,支え合うといった力もなくしてしまいます。それと,同じ家族でも,悲しみの克服方法ですとか,あとそれにかける時間なども違いますので,かえって精神的にお互いを傷つけ合ってしまうということがあります。家の中ではいつもどなり合う声が響いているということがありますので,被害者遺族は特に家の中から崩壊を始めてしまうということがあります。もしそういう被害者の家庭の中に小さな子供あるいは思春期の子供がいれば,その子供たちがその家族の中で健全に育っていくということさえも難しい状況にあります。日常的に心理的虐待・ネグレクトが行われているのが被害者の家庭の中の実際の状況でもあるわけです。   加害者の矯正とか更生保護に関する年間予算は2,000億円を超えると聞いております。それに比べて,被害者に直接出される犯罪被害給付金は十数億円です。余りにもバランスに欠けるのではないかということを被害者支援の現場ではいつも感じております。   このような状況に置かれております被害者の本当の声を今日は聞いていただきたいと思いまして,ビデオを用意してきました。被害者支援都民センターでは,月に1回,被害者遺族が集って,家族にも言えない心の内を話し合うことでお互いに支え合い励まし合う場である自助グループを開いておりますので,そのある日の自助グループの様子をごらんになっていただきたいと思います。そこでは,精神的な苦悩の大きさ,加害者の誠意のなさ,家庭崩壊に至ってしまうこと,仕事も失ってしまうこと,残された兄弟たちの人生も崩壊してしまうことなどが語られておりますので,まずはそのビデオをごらんになっていただきたいと思います。10分間少々あります。            (ビデオ上映) ● ビデオ,どうもありがとうございました。   これが実は実際の被害者の本当の姿なんですが,人には知られないように,しっかりと生きていなければ周りからまた後ろ指を指されるということで,精いっぱい頑張っていきているわけです。ですから,この犯罪被害者等基本法というものを被害者たちは本当に待ち望んでいたわけです。   ビデオの中で前科14犯のひき逃げされた御遺族のお母様のお話がありましたけれども,この方は,損害賠償の民事訴訟を起こそうと思ったとき,刑務所から脅迫状が来たんです。それも2回も3回も来ました。巧妙に書かれた脅迫状だったので多分そのまま出されてしまったのだと思いますが,結局それが原因でこのお母さんは民事訴訟は起こしませんでした。断念する方たちもたくさんおりますので,少しでも恐怖感を持つことがなく,制度としてきちんと被害者が使えるようなものをぜひつくっていただきたいと思っています。   もう少し追加で説明させてください。レジュメの3ページをごらんになっていただけますでしょうか。このレジュメの3ページには,どのような支援が被害者のためになるのかということを書かせていただきました。2ページ目の二次被害となることと,被害の支援になること,太枠の部分を見ていただきますと,ほとんど同じような項目がそろっています。ということはつまり,被害者に二次被害を与えるのも人ですが,しかし被害者はやはり同じ人間から血の通った温かい人間として適切な対応を受けたということが回復していくときに大きな力になるということが,この2つの表からおわかりいただけるかと思います。   それでは,レジュメの4ページをお開きください。こちらの方では,犯罪被害者遺族73名の方に被害者支援都民センターとして調査をした結果を載せてみました。調査結果からわかりましたことは,被害直後の被害者は,自分でも一体自分に何が必要なのかもわかりませんけれども,それでも捜査状況とか刑事手続あるいは損害賠償に関する情報を求めているということがわかりました。それと同時に,病院とか警察,検察,裁判所などへ行くとき,不安でたまらないので一緒に行ってほしい,あるいは日常生活が送れなくなってしまったので日常生活の手助けをしてほしいということがわかりました。それと,精神的な支援といたしましても,長きにわたる精神的苦悩をしっかりと受けとめて,「あなたに今出ている症状は,犯罪被害に遭えば当たり前のこと,あなたが弱いからではない」ということを伝えて,もう一度健全な自己愛をつくり上げてもらうような支援が必要だということがわかりました。それと,先ほどの被害者同士が集って話し合いをする場の自助グループが必要だということがわかりました。   それでは,皆様のお手元にパンフレットが何種類かありますが,その中に「もう一度会いたい」という手記集も入れさせていただきました。この手記集には,先ほどビデオに出て話をしていました遺族の皆さんが1年に1回自分のさまざまな思いを書いているものですので,また後ほどお時間があるときにゆっくりとお読みいただければと思います。   それと,被害者支援都民センターの業務そのものにつきましては,この赤い字で書かれました「応援します あなたに笑顔戻るまで」を開いていただきますと,中にどのようなことを被害者支援都民センターとして行っているのかということが図でかかれております。それと,支援を受けるとどのような回復に役に立つのかということを右端の方にお2人の被害者御遺族の方が書いておりますので,またお読みいただければと思います。   ほかの3種類のパンフレットは,また皆様が仕事上,もしこのような方にお会いになったときにお渡ししたり説明したりするのに役立つのではないかということで,3種類,やや小さ目のパンフレットも入れさせていただきました。   それでは,またレジュメの5ページを開いていただけますでしょうか。8番のところには,犯罪被害者と話をするときに配慮すべきことということで,少し載せさせていただきました。実はこの内容は,犯罪被害者に限らずに,人生において困難な状況にある方に接するときに参考になるものですので,載せさせていただきました。   終わりに,犯罪被害者が受ける衝撃は脳に深く刻まれて,それは一生消えることはありません。それでも,被害直後から適切な支援を受けることができれば,人への信頼感や社会への安全感を取り戻して,自尊心も回復して,もう一度希望を持って生きていくことができるようになります。また,そのようにして回復した犯罪被害者の皆さんは,同じような被害に苦しむ人を出したくないという思いを強く持つようになりますので,被害体験を生かして社会に声を上げることができるようにもなります。被害者の声を受けとめて変われる社会というものは,だれにとっても安心で安全で暮らせる社会でもあるのではないかと思っています。欧米では,犯罪被害者支援の充実度はその国の文化のレベルと社会の成熟度を示すと言われているそうです。私たち被害者支援にかかわる者は,次の世代のためにも,この今回の犯罪被害者等基本法にのっとって,いつでも,だれでも,どこに住んでいても,被害直後から途切れることのない支援を被害者が望むことで受けられる社会を一日も早く構築するということを願いまして,被害者からも関係者からも信頼される支援活動を広げていかなければならないと考えております。それには,当然支援センターだけではできないことですので,またぜひ今後とも皆様のお力添えもお願いしたいと思います。   それでは,突然にお時間をとっていただきまして,本当にありがとうございました。これで私の話は終わらせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ● ○○委員,ありがとうございました。   それでは,部会資料の各項目の順に御議論いただきたいと存じます。   まず前注,それからその次にございます第1の1,付添い等の措置の目的のあたりで,御質問も含めまして自由に御発言をいただきたく存じます。どうぞ,○○委員。 ● この目的のことにつきましては,前回の部会で大きく2つ,不安や緊張の緩和というのと,十分な陳述を可能とすることによる適正な裁判ということのうち,位置づけとしては第1の点が目的であるというのが,今回の資料における御意見といいますか,考え方だと思うのです。ただ,注にありますとおり,目的が実現される範囲においては,十分な陳述が可能となり,適正な裁判にも資するという意味では,前回にもお話しさせていただいたとおり,1と2というのは必ずしもバッティングしている対立概念ではなくて,恐らくどっちを主に考えるかということではないかと考えているわけでございまして,1が目的で,結果的にはそれが2に資するであろうといった考え方をここで議論になったかと思うのですが,それはそういう認識でいいということをまず確認させていただきたい。それと,ただ,注にありますとおり,十分な陳述が可能であった場合でもこういう措置が採り得るのだといったことが書いてございますので,これは先ほどの退廷命令とパラレルに考えて,むしろ十分な陳述が可能でもこういう措置が採られるという意味で,目的を不安や緊張の緩和というところを前面に出すことの意義があると伺えたわけなんです。弁護士会でもこの目的についてはいろいろ議論がありまして,おおむね1が主であろうということではあるんですが,2に全く関係ないという意見は余りなかったように思ったものですから,その辺の理解が,1と2があるのだけれども,1が直接の目的で,その結果として2に資する,寄与するという説明をしていたものですから,それは説明の問題なのかもしれませんが,あくまでも1であるということで,あとはプラスアルファといった位置づけでいいのかどうか。ほかの論点もすべてこの目的論と,最後は事案の範囲のところに戻ってくるようなところがありますので,念のためその辺を確認させていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ● 基本的に私どもで御提案させていただいた案の背景の考え方は,今,○○委員がおっしゃったような考え方であると私も理解しております。先ほども申し上げましたように,また今,○○委員の方からもありましたとおり,どちらがより直接的な目的かということが退廷命令との関係の要件論に響いてきますので,むしろその関係でこの目的のところでは本文のような案を出させていただいておりましたけれども,この注の「なお」のところに書いてある一文にありますとおり,そういうことが適正な裁判にも資することとなるという点につきましては,今,○○委員のおっしゃられたことと私どもも同様の理解でこざいます。 ● わかりました。その点で,ただ,十分な陳述が可能ではあるが,その御説明で退廷命令とのパラレルということはわかったのですが,不安や緊張はあるが,十分な陳述が可能であるというのは,実際にはむしろ十分な陳述が可能なときには不安や緊張を緩和する必要はないのではないかといった御指摘がちょっとあって,そこはしかし,理屈から言えば不安や緊張があっても十分な陳述が可能である場合はあるだろうということで,そういう場合でも不安や緊張を緩和する必要性があるときにはこういう措置が採れるということになるのかなという感じなんですけれども。 ● おっしゃるとおり,ではその場面のずれが具体的にどういう場面で生ずるのかというのは,私どももはっきりと明確に意識しているわけではございません。ただ,刑事訴訟法でいきますと,同じ法律の中で2つの要件の書き分けをしているということは,これは法律上はずれる場面があるということを前提とした書き分けであると理解されるわけですので,そういう場面があるということを前提とした場合には,どちらの要件の方が相当であろうかということを判断したものでございます。 ● わかりました。 ● よろしいですか。 ● はい。 ● ただいま○○委員からこの目的の考え方についての御発言,御質問がございましたが,ほかの委員・幹事の方で今の点について何か御発言がございますでしょうか。どうぞ,○○幹事。 ● 私は,刑事訴訟法の書き分けの理由をよく勉強していないのですが,今回新しく入れられている157条の3の方は「供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれ」となっておりますので,これは十分な陳述ができないとまでははっきり書いていませんけれども,できないおそれぐらいあるのではないかと解釈しておりましたので,それほどこの2つの書き分けにそんなに違う意味があったのかなという感じを持っております。そういう意味で,今日資料でいただきました第1の1の注のところをよく読めば,刑事訴訟法の157条の2から4と書いてありますが,今読みましたのは3ですが,それと同じような趣旨と書いてありますので,誤解はないのですが,ここだけちょっと読みますと,十分な陳述が可能であっても,少しでも精神の不安や緊張等がある場合にはこの措置を採ると誤解されて読まれてしまうおそれがある文章だと私は思うので,ちょっとそういう意味で弁護士会の方から少し広げ過ぎではないかという議論もありました。要するに,十分な陳述が可能な場合であってもというところを余り強調されると,ちょっと制度としてどうかなという感じがありまして,そういう陳述ができなくなるおそれがある場合,そういうときにこの措置を設けるものであり,刑事訴訟法の157条の3,4はその趣旨から規定が決められているのではないかと解釈しているのですが,いかがでしょうか。 ● おっしゃるとおり,十分な陳述が可能なのかどうか,それからこういう精神の平穏を著しく害されるかというところは,実質的な陳述の困難さ,その原因と精神状況という点からしますと,余り差がないのではないかというのは,多分○○幹事の言われるとおりじゃないかなと思います。ただ,あくまでも質的ないわば切り分けとして,十分な陳述という面から見るのか,それともあくまでも精神状況という面から見るのかというところが,やはりニュアンスとして違っているということでございまして,この注の方も,少しでも不安や緊張があればよいという趣旨は決してないわけでございまして,そこは157条の3でいけば,精神の平穏を著しく害されるといった要件がかかってくるかと思います。ただ,157条の3でも,十分な供述といった要件がかかっていないということは,実際上どの程度の差があるかどうかはわかりませんけれども,理念的には若干のギャップが考えられるのではないかといった観点から,このような注の書き方をさせていただいたというものでございます。 ● ちょっと私からも確認ですが,あくまで裁判所から見た場合の判断事項というのは,精神的な問題を判断するのであって,十分な陳述が可能かどうかということは,実際上重なり合う面はそれは当然ありますが,第一義的な判断事項という意味ではない,そういう理解でよろしいわけですね,ここに示されている考え方というのは。 ● はい,そうです。 ● どうぞ,○○委員。 ● 今の点で○○幹事の補足で,実際に委員会というか,弁護士会の方で,当然,適正な裁判についても前回お話がありましたとおり,刑事と民事では裁判の目的は異なるだろう。裁判を受ける権利で憲法37条で保障された権利という裁判と,それから民事というのは,当事者対等なり,武器対等,当事者主義というところがあるものですから,その辺のところで,十分な陳述が可能である上にさらに保護するという,これは本当に理屈ですけれども,十分な陳述が可能であれば,武器対等,当事者主義という民訴の目的から言えば,それで十分なのではないかといった見方ができないわけではないという考え方がありまして,それ以上に保護すると,かえって民事でいう適正な裁判では一方に偏するのではないかといったニュアンスの意見がちょっとあったものですから,それで今,○○幹事が言うのは,十分な陳述が可能な場合であってもというのを余り前面に出し過ぎるといいますか,それから今,○○委員から補足がありましたとおりの説明をしようかと思いますが,いずれにしても,2番目の適正な裁判に資するのだということは,結果であれ,そのとおりだと思いますので,そこが余りにも一方に当事者主義というところのバランスを崩さないという配慮があった方がいいのかなという意見でございます。趣旨はよくわかりました。 ● それでは,その点はよろしいでしょうか。   前注は,これはいわば確認的なことになりますが,前回も委員の方から御発言がございましたが,このような理解ということでよろしゅうございますか。どうぞ,○○委員。 ● 従来訴訟指揮の一環としてされていたというのは,どうも民事訴訟のところはまだよくわからないところがあるのですが,今回改正するというときには,その要件をどうのこうのということではなくて,要するに解釈に残す部分は,今説明されたようにありますね,幾らか。その中で従来していた中で,被害者保護なりでここの1の目的に特化したところを取り上げるということでないと,従来やっていたことを要件化するとかといった話ではちょっとないのではないかということで,従来の運用で任されていた部分はいろいろなところで残ってしまうところがありますので,とりあえずはここの部分を抜き出して,できるだけ要件化してみようという趣旨ではないのでしょうか。念のためですが,そういうことだろうと思いますが。 ● 御指摘の趣旨を私が十分理解しているかどうかはあれですけれども,委員がおっしゃいましたのは,要するに犯罪被害者の保護という観点からの今回のいわば規定ではないかと。 ● はい。 ● 基本的にはそうなんでございますけれども,犯罪被害者等の「等」の中に一体どこまで入るかということでございまして,先ほども申し上げましたとおり,刑事訴訟法でも付添い・遮へいはこれまで訴訟指揮の一環としてできていたものを明文の規定を置いたと。明文の規定を置いて,犯罪被害者の方をその典型的なものとして念頭に置いていますけれども,必ずしもそこには限られていない。例えば,先ほど言いました目撃者という方も入りますし,あるいはいわばその人固有の病気,精神的な病気という点から,どうしても付添いの人がいないと法廷でしゃべれないという方も,刑事訴訟法の規定上の対象にはなっております。したがいまして,委員がおっしゃられますとおり,あくまでも今回の改正の趣旨は犯罪被害者等基本法の理念にのっとった改正ではありますけれども,若干その範囲自体は広がりを持ったものではございます。ですから,そういう点では,今回はどちらかといいますと,人の属性で切り出すというよりは,犯罪被害者の方というものを典型的に考えた場合には,法廷で非常に精神的に不安や緊張を覚える人,そういう精神状態に着目した陳述者の方の保護といいますか,そういう場面での切り出し方なのかなと私どもは理解しております。 ● いかがでしょうか。 ● 従来の訴訟指揮上そういう運用がされていたので,その要件を明確化するということなのか。何かそこのところで,従来の運用が実際にどういう場合に遮へいしたり付添いを認めたりしていたのかということにかかわるんですが,どうも注で残されたように,ここは解釈で残すとかと言われた部分がかなりあるような気がしましたもので,そこのところを考えると,従来されていたかもしれないけれども,今度の立法では要件化しないとかという部分が幾つか残ってくるような気がしますので,そのときにどういう縛りをかけたかというと,やっぱり犯罪被害者等基本法の範囲でとりあえずは考えてみましょうということではあったのではないでしょうかということで,従来の運用と多少ずれるのではないのかということ。それは別にずれてもいいと思いますから,その範囲で要するに要件化して考えてみましょうかという趣旨ではありませんかというのがこの前注の趣旨だろうとは思うのですけれども,一般的に書いてしまうと,昔もそうであったしという,それをただ要件化するだけだとかということになるのですが,必ずしもそうではないような気がして聞かせてもらっていたんですが。 ● そういう点では,前注の①はかなりラフな書き方になっているわけでございまして,むしろ②は新しく設けないとできませんよと,①の方は従来からもうできた部分がありますでしょうという,それとのいわば対比で書いているのが主なものですから,確かにこれまでの訴訟指揮のものを全部ここで明確化したというものでは決してございません。こういう精神的な不安や緊張という場面のところを従来の運用でされていたところを切り抜く,そんな感じの趣旨でございます。 ● 多分そういうことだろうとは思うのですが,すっと書かれるとちょっとというところがありまして。 ● そうですね。後から出てきます事案の範囲なども必ずしも限定しないといったこととも関連いたしまして,なかなか説明が難しいところかとは思いますので,御発言の趣旨は私にもよく理解できます。   ほかにいかがでしょうか。前注,それから第1の1の付添い等の目的のあたりは,よろしいでしょうか。   ほかに特に御発言がなければ,第1の2の各措置を認める事案の範囲で,特に制限を加えないこととすることでどうかというので,注1,それから先ほど○○幹事から説明がございました注2,注3,特に注2のあたりが御議論していただきたいかなという印象がございますけれども,2の事案の範囲について,それでは御質問,御意見等を承りたいと存じます。どうぞ,○○幹事。 ● これは,前回弁護士会から少し申し上げたことを書いていただいているのかという気がしてそのように読んでおりましたが,結論的にはやはり注2にあるように例示をする必要があるのではないかと思います。ただ,法律のつくり方として難しいのかもしれないですが,例示する必要があるのではないかと思います。もし例示をしないと,刑事訴訟法と同じようにといいましても,刑事訴訟法の157条の3と4には「犯罪の性質」ということが要件で入っているわけです。だから,民事訴訟法では同じように規定できないのですから,同じように規定できない以上,こういう例示をしないと,余りにも広く規定されてしまうのではないかというおそれを持っております。結局この措置を採る事案を限定するかどうかということと,それからどういう陳述者にこのような措置を採るかという問題は,別のことですよね。ですから,事案は限定しなくてもよろしいと思うのですが,どういう陳述者にこの措置を採るかという面からの例示は必要だと思われますので,やはり注2のような例示があった方がよろしいと思います。 ● なるほど。はい。   どうぞ,○○委員。 ● 今,○○幹事から話があった点の補足にもなるのですが,結局,刑事の場合には,特に制限はないとはいうものの,既に刑事裁判であり,そこの公判請求での陳述ということですので,基本的には証人というおのずから絞りがあるのかなというところがまずあるかと思うのですが,今,○○幹事から御指摘がありました事案の範囲を何らかの形で枠づけするということと,陳述者の限定というのは,ちょっと言葉の問題で恐縮なんですけれども,これは同じことをとらえているかどうかというのがまずあって,それは違うのかなと。事案の範囲をどう枠づけするかという問題と,陳述者の限定というのは,ちょっと違う概念ということで考えていいのかなと思ったんです。ただ,いずれにいたしましても,要件論に157条の2・3・4とパラレルにということになりますと,今指摘がありましたとおり,3や4については「犯罪の性質」というのが出てきますので,民訴や民訴規則で特に制限を加えないということになった場合に,その先の問題になってきますけれども,157条の3や4と同じようにというその「犯罪の性質」というのが唐突に,民訴法か民訴規則かわかりませんけれども,入ってくるとなると,前回申し上げたとおり,当然その犯罪というのは,刑事裁判の場合には,もう公判請求されて,その刑事公判でのことというおのずから絞りがあるわけですけれども,民事の場合には,犯罪というものをどこかで解説といいますか,そこを説明しないといけないと思うのです。そうすると,民訴や民訴規則の中に,刑法の構成要件に該当する事実について公判請求になっている事件,その先を言えば,既に裁判が終わって確定している事件,それから公判請求までいった事件,不起訴になった事件,そもそも警察に行ったけれども取り上げてくれなかった被害者の事案を民事だけでやろうとする場合と,その辺の絞り込みの非常に難しい領域があるわけだと思うのですが,いずれにしても犯罪という言葉を使う以上は,その問題は避けて通れないのかなと。今回の諮問は,確かに79号が犯罪被害者になっていますので,刑訴とパラレルにというのは,そこを何らかの形で翻訳しないと民訴にそのまま引き直せないというところがあるかと思うのです。そういう意味では,今,○○幹事からお話があったとおり,犯罪の被害者という例示をしても同じような問題が起こってきますので,結局この問題がこの改正の一番難しいところであり,また作業に相当ウエートがかかるのかなという感じがいたしております。   以上です。 ● ○○委員の御意見は,結局こういう形での例示の要否あるいは当否についてはどういう結論になるのでしょうか。 ● 当否につきましては,やっぱりあった方がいいんだろうなという感じがいたします。仮にこれは犯罪という言い方をしなければ,その分だけ今言った論点に深入りしなくていいことにはなりますから。ただ,今度は157条の3や4と同じような形でここに「犯罪の性質」を入れるとすると,同じ問題が出てくるのかなという感じがしますので,負担は同じじゃないかと。もともとこの諮問が犯罪被害者というところがありますので,やっぱりそこは避けて通れないのではないかなという感じがいたします。例示はあった方がいいという意見でございます。 ● わかりました。 ● 1点,ちょっと私の説明で刑事訴訟法とパラレルと申し上げた趣旨を補足させていただきますと,確かに何も,特に注2のような考慮を加えないということになった場合でも,御指摘のとおり,「犯罪の性質」という言葉をそのまま民事訴訟法に規定できるかというと,かなり難しい面もある感じがいたします。ただ,例示することについても同様の問題が生じるというのは,○○委員のおっしゃったとおりかと思います。私が先ほど申し上げましたのは,「犯罪の性質」といいますのはいわば判断する精神状況の原因の一つの事情として掲げられているものでございますけれども,要件として「精神の平穏を著しく害される」,ここの部分が刑事訴訟法と民事訴訟法と同じことになっていれば,最終的な精神状態がいわば通常程度の,法廷に行けば緊張するとか,そういう程度のものは入らない。刑事訴訟法ではここはかなり重たく判断されているのだということになれば,それは民事訴訟法でも同じようにこの「精神の平穏を著しく害される」というところで判断できるという考え方についてはどう考えたらいいのでしょうかということを申し上げたという趣旨でございます。 ● もしも「犯罪」という言葉を使わない場合には,確かに精神状態を直接要件にするのであって,その問題は結局その中に含まれて,のみ込まれて,いわば裁判長なり裁判所の判断の運用の中でおのずから達成できるんだということであったとすると,今度は後の申立権のあるなしの議論にもかかわってきますけれども,結局精神的な不安や緊張というのはどの人にもそういうことは言えるわけですので,今度はそれの絞りを今回の犯罪被害者というところに,そういう意味では先ほど○○委員からの御指摘と関係するかと思うのですけれども,今回の犯罪被害者のための,犯罪被害者の精神状態の保護というところを,「犯罪」という言葉を使わなくて本当に民訴らしく,ある程度の要件論なり,あれは規定せざるを得ないのではないかと思っているんですが,本当に「犯罪」という言葉を使わないでそのような絞り込みができるのかなということを率直に感じております。それが言ってみればこの改正の一番難しいところじゃないかなと思ったんです。 ● ただいまの点につきまして,いかがでしょうか,委員,幹事の方。○○幹事,何か御発言がありそうに感じましたが。 ● いや,特にはなかったんですが,犯罪に限定するのは難しいというのはそのとおりだろうという,実際にそういうことがあったと言われている例えばHIVのような裁判のことを考えてみても,あれは最終的に刑事でも起訴されたんだろうと思いますけれども,本当に犯罪なのかどうかということがその証言されている時点では必ずしも明らかではないということはあるんだろうと思いますし,そうである場合であっても,当然この規定の適用の対象にすべきである場合もあると思いますので,それはそうなんだろうなと。それで,例示は,今,○○委員や○○幹事がおっしゃったように,あった方がいいだろう。それは,極端に広がりを持ったものではないということを示すものとしては,あった方がいいのかなと思っています。   私は,その点はあれですが,ちょっとお伺いしたい点は注3との関係なんです。この原案の趣旨としては,例えば刑事訴訟法の157条の3のような規定を仮に民訴でも置くとすると,訴訟指揮による処分の範囲が残るとしても,例えば157条の3の第1項のような規定を置いた場合に,精神の平穏は多少害されるけれども,著しく害されるわけではないといった場合には,当事者と証人との間の遮へい措置というのは採れないという反対解釈が前提になると理解してよろしいかどうかということなんですが。 ● その点については,こちらの資料の案は今おっしゃられたとおりでございまして,精神的な不安や緊張の場面はもうここで切り出している。したがって,そこで切り出した場面については,何らかの要件を書いた場合には,そこの要件に該当しない場合には措置を採ることはできないという趣旨でございます。したがいまして,これは前回の部会でも御議論がありましたけれども,今の運用でできるものが今回の立法によって狭くなってしまうというのはかなり問題だと私も思いますので,そういった現実の運用もカバーし得るような,しかも適切な要件設定ということをしなければいけないのではないかと思っております。趣旨としては,今おっしゃられたとおりです。ここの精神的な不安や緊張という関係につきましては,そこの要件に当たらないものはできないという趣旨でございます。 ● よろしいでしょうか。   ○○幹事,何か御発言がございますか。 ● 要するにこれは先ほど○○委員のおっしゃったこととつながるのかもしれないんですが,今まで訴訟指揮でやってきたところをできるだけ広く規定して,ほとんどカバーできるように規定するのか,あるいはそれは訴訟指揮でやってきたところは訴訟指揮でやっていただいて,そのうちの特に犯罪被害者にスポットを当ててその部分だけを規定するのかというところなのではないかと思うのです。だから,先ほど○○幹事がおっしゃったようなHIVまでもカバーするような規定をつくるのか,それはそれで訴訟指揮で今までどおりで,そこは入らないけれども,犯罪被害者を保護する規定にするのかということで,前者をとる方が後の訴訟指揮はやりやすいのか。HIVというのは,緊張なのか不安なのか,あるいはプライバシーという点から遮へいされている可能性があると思うのです。ですから,そういう意味では,犯罪被害者特有の規定だとするのであれば,注2のような例示があった方が使いやすいのかなという気がします。 ● どうぞ。 ● 犯罪被害者特有ということになりますと,これは例示で済むのか,それとも犯罪被害者の要件を立てることになるかというと,後者の場合にはまたいろいろと問題が出てこようかと思います。こちらの方は,プライバシーが果たして入っているかどうかというのは,これ自体もまた恐らく場面の中に入るかどうかの解釈問題になろうかと思います。例えば,刑訴の157条の3で傍聴人との遮へいにつきましては,「名誉に対する影響その他の事情を考慮し」ということになっておりますので,名誉が関係するような部分についてはここの適用場面になっているといった理解かなと思っております。 ● どうぞ,○○幹事。 ● 例示した方が,諮問に答えたというのがよくわかっていいのかなという気もするんですけれども,具体的なイメージとして,実質要件,緊張とか名誉とかといったことを書く部分と犯罪被害者というところが同じ条文に同居できるのかなというのが技術的に非常に難しいのではないのかなという気がしておりますし,私自身は,余り犯罪被害者にこだわらなくて,一般的に尋問を受ける者の人格権の保護だという立場から立法した方が筋がいいのではないかという気がしているんです。まさに今回,適正な裁判ということは背景的な機能としてはあるにしても,目的としては,証人等の内心の問題を中心に考えていくというのであれば,人格権保護という形からアプローチした方がいいのかなという気がしております。それと,先ほど最初に申し上げました,技術的に同居できるのかというところが非常に見通しがつきませんので,私としては余り例示にこだわる必要はないのではないかなという気がしております。 ● ありがとうございました。   ○○幹事の今おっしゃったお考えを前提にして仮に立法がなされたときに,さっきの前注や何かに出てきております,それ以外の部分は訴訟指揮である程度従来のとおりということは成り立つことになりますか。 ● 人格権保護の観点からこの要件だということで,注3で挙がっています捜査云々というのはその外の問題だということで,従来の運用を妨げるものではないということは言えるのではないでしょうか。 ● なるほど。いかがでしょうか。なお2の事案の範囲,それから例示等の関係で御発言がございますか。実際にどういう形で規定ができるかということになると,なかなか難しい問題がまだ残っているようには思いますが。○○委員,いかがですか。 ● なかなか難しい問題だと思いますが,諮問に答えるという観点からすると,何らかの「犯罪被害」等の文言が条文に全くあらわれないという立法でいいのかというところは,私はまずいのではないかという気がします。ただ,要するに証人等の不安や緊張というものと犯罪との関係というのがうまく要件というか条文になるかというと,私も難しいかなという気がします。ただ,それが例示ということであれば,犯罪にかかわったという,あるいは犯罪被害者であるということが一つの重要な原因であって,その結果として陳述することについて過度の不安や緊張があるという,そこを何とか条文化する必要が例示としてはあるのではないかと思います。 ● ほかにいかがでしょうか。今までの皆様の御意見を伺っておりますと,こういう特に制限を加えないという基本的な考え方に立ちながら,注2に書いてございますように,いわばその立法の前提となっている事実を明らかにするという意味での例示としてこのようなことを考えたらどうかと。従来の実務運用や今後の一般的な訴訟指揮に基づく実務運用の話はちょっと別の話になりますが,ここでの考え方としてはそういう理解で大体皆さんの御意見が一致していると承ってよろしいですか。○○幹事,どうぞ。 ● 一応確認させていただきたいのですけれども,この例示の目的は,保護法益を明らかにするという理解でよろしゅうございますか。むしろ,そうしますと,今の御発言と違いまして,限定する機能という視点なのではないかなという印象を持ちまして,その点では私は○○幹事の発言に共感するわけですが,目的としましては,あくまで犯罪被害者の権利利益の保護を,人格権という言葉を使うかどうかは別としまして,一定の付款ないし条件をつけた形での証言陳述を許すという形で認めるということが立法の目的だといたしますと,それを実現できればよろしいわけで,そこをまず踏まえて,そこを確認させていただきたいのが第1点です。   そうしますと,この例示はどういう形で例示するのかにかかってくるような気がしまして,制度の目的を明らかにするための例示なのか,保護法益を限定するための例示なのかというところにかかってくるような印象を持っております。   以上です。 ● 具体的に,先ほど来,技術的にどうなのかという御指摘もありますとおり,例示といってもどういう例示が可能なのかはこれからちょっと事務当局でも考えなければいけないと思っております。私どもの趣旨は,先ほど○○幹事の方からお話がありましたとおり,こういった人格権的な,そういう精神的な側面を切り出すという点にあるわけでございまして,例示の方としてみると,私どもの理解では,これまでの御議論を聞いてみますと,むしろかなり幅広く,必要以上に認められてしまうのではないかと。そうすると,結局要件として,例えば「精神の平穏を著しく害される」とあるけれども,これは刑事と同じ言葉を使ったとしても,民事の場合にはこの言葉が必要以上に広く解釈されてしまうおそれがあるのではないか。そうすると,例えば今,○○委員の方から,そういうことを原因としてそういうことが生じるといったことの例示が一つ考えられるのではないかという御意見をいただきましたけれども,「犯罪の被害を受けたことによって精神の平穏を著しく害される」といったスタイルの例示ということになりますと,それは「精神の平穏を著しく害される」という要件が適切に解釈される。そういう原因として一つ例示するということも十分考えられるのではないかと思った次第です。ただ,いずれにしましても,そこは今日の御議論も踏まえて,事務当局の方で十分に検討させていただきたいと思っております。 ● どうぞ,○○委員。 ● 今の点ですけれども,全く限定されなくて「犯罪」という言葉を使うのは非常に難しいというのは,もう自分で言っていてそう思っているんですけれども,ただ,それを全く置かないと,確かに民訴のところに唐突に「犯罪」というのは,例示にせよ,その実体的要件にしても,ちょっと違和感があることはあるし,御指摘のあったとおり,なるほど,人格権と言いかえるのはそうかなとも思ったんですが,ただそれを,では精神的な不安や緊張とか,そういうアプローチだけで本当に今回の諮問には,それに全体的に答える形になってもいいとは思うのですが,実際に証人尋問で,我々は仕事ですから証人尋問を何度も経験して,そうしますと,嘘を言うつもりはなくても,自分がちゃんと言えないとこの訴訟に影響があると考えるようなまじめな人ほど緊張するんです。なれっこだという人は気をつけた方がいいし。それからあと,我々反対尋問をする立場から言うと,嘘を言う人については恐らく緊張しているはずなので,嘘を言うところを反対尋問で崩そうと思っているのが実際の現場だと思うのです。そうしますと,本当のことを言う人もごまかそうという人も一様に緊張していますし,精神的には皆不安定になっているはずだし,前の日に眠れませんでしたというのはよくある話です。ですから,そういう意味での精神的な不安が高いという程度の問題からのアプローチだと,先ほど○○委員のいろいろなアドバイスがあって,貴重なビデオを見させていただきましたけれども,犯罪被害者というのはああいうものなのかなと。あと性的被害者の問題もありますけれども,そこを今回は,基本法の趣旨からいうと,犯罪被害者というのは通常よりも精神的にハンディを背負っているのだと言うことがもしできれば,この言い方も適切じゃないのかもしれませんが,犯罪被害に遭ったことによって本来の自分ではない精神状態,そこをカバーするんだという目的があるのだとすると,端的にそういうところを何らかの例示なり要件論の中に反映できないと,それは質的に違うというアプローチができないとちょっと漠として,それを「犯罪」ということを書かずにのみ込む形で何とかそれに近い形でやろうとするのは,もちろんこれは技術論にもかかわりますけれども,ちょっとだけ考えたんですけれども,実際にはなかなか難しいのではないかという気がして,端的に民訴の中に「犯罪」というのは,ちょっと異物みたいな違和感はありますけれども,それなくして今回の改正の目的を達することができるのだろうか。それだと,先ほど○○委員や○○幹事からあったように,今回の改正にできていた要件を入れるというのは,かえって絞るんでしょうか,それとも保護すべきところが広がるのでしょうかという,そっちの議論にもかかってくるのかなという気がして,非常に技術的にも難しいので,本当に「犯罪」ということなり,限りなくそれに近い言葉でないと,絞り込みは本当にできるのだろうかという素朴な疑問を感じております。 ● どうぞ,○○幹事。 ● 例えばこの注2のように,民訴法で違和感があるかどうかは別として,「陳述者が犯罪の被害者であって」といった文言を入れた場合,これは法制局的に通るのでしょうか。そこが通らないというのであれば,もういろいろなことを考えなければいけないと思うのですが。 ● 法制局には最後の段階で御相談いたしますので,まず事務当局の方で十分に検討させていただきます。 ● 今回だけは少し法制局からのあれをいただかないと,ちょっと言葉を変えれば済むという,以前やったようなお話ではないような気がしますので,根拠か理由かとかというのもありましたけれども,それよりも「犯罪」とか「犯罪被害者」という言葉を民訴法上入れられるかどうかというところでその御見解をいただいた方がやりやすいのではないかと思うのですが。 ● そこはよく検討させていただきます。 ● もちろんそういうことも頭の中に置いておかなければいけませんが,しかしここは法制審議会ですから,実質の議論をしていただいて,それでしかるべく落ちつくのではないかと思っております。   そういたしましたら,なおこの例示を入れることがどういう意味を持ち得るかというあたりについては,もうちょっと今日の御意見を踏まえて事務当局に詰めていただきたいと思いますが,基本的な考え方としては,事案は限定しないという立場に立ちつつ,今回の立法の目的等を考慮して,何らかの形でこういう例示的なものを入れるという方向で検討するというあたりでよろしゅうございますか。○○委員。 ● もう1点だけ確認ですけれども,そうすると,この本文の案の場合に,157条の2,3,4の規定と同じ趣旨とするという趣旨は,これは先の話になりますけれども,「犯罪の性質」という言い方も当然工夫するという前提で,今の段階でそこまで詰めていなければそれでいいんですけれども,「犯罪の性質」という表現は工夫されるという前提でお考えになっているということでしょうか。 ● 私どもも,これが一番最初に出てくる考慮事情あるいは原因事情として書かれておりますので,「犯罪の性質」という言葉がそのまま民事訴訟法に置けるかどうかというのはかなり難しいのではないかと,そこはなお検討させていただきますけれども,そういう面はあるかと今のところは認識しております。 ● そういたしましたら,3の各措置を認める手続の範囲,ここでは証人尋問,当事者本人尋問及び法定代理人尋問ということで,そのほかのものについては必要性が乏しいという考え方を注2にお示ししておりますが,このあたりについてはいかがでしょうか。格別の御発言はございませんか。   もしよろしければ,3の注1は,先ほど来の御議論とちょっと関係がありますので,若干まだ詰めるべき点があるかと思いますが,3に掲げた考え方,そして注2の説明等については,ここで御了解いただいたものと承ってよろしいでしょうか。もしそれでよろしければ,そのようにさせていただきます。   そういたしましたら,ここで休憩ということにさせていただきます。            (休     憩) ● それでは,再開いたします。   ○○幹事から資料の第1の残り部分の4,各措置を採る場合の一般的な手続の在り方について説明をお願いいたします。 ● それではまず,アの陳述者,当事者の申立権でございます。申立権につきまして,本文の案は,注1にありますとおり,刑事訴訟法あるいはほかの民事訴訟法における規律とのバランス,あるいはその実務への影響等を考慮して,申立権は認めないということにしてはどうかという案でございます。ただ,もちろん職権によるということにするといたしましても,職権発動を促す申出,これはできるわけでございますので,事案が相当である,要件を満たしていると認めれば,裁判所としては措置を採ることになろうかと思います。ただ,前回の議論でも,これは先ほどの事案の限定とも絡んだ議論でございましたけれども,例えば一定の範囲に限って権利性を高めて申立権を認めてはどうかといった趣旨の御議論もございました。ここで「申立権」と書いた趣旨は,申立てがあれば,必ず裁判所は措置を採らなければならないという趣旨のものではございません。そこまでの強い権利を認めることにつきましては,前回の御議論でもいろいろ問題があるのではないかという御意見はあったと理解しております。したがいまして,ここでは申立てがあれば必ずそれに応答しなければならないという趣旨の申立権でございます。ただ,仮に申立権を認めるということにいたしますと,例えば不服申立てをどうするかといった注2に掲げましたような問題が出てくることも考えられるところでございますので,そういう点も含めて御意見をお聞かせ願えればと考えております。   それから,イの決定主体でございますけれども,こちらの本文の案は,注にありますとおり,付添い・遮へいにつきましては現在の運用,それからテレビ会議システムの採用の決定主体は現行法上裁判所とされていることに合わせるということでございまして,特にこの点の規律を変える必要はないのではないか。あるいはまた,先ほど来出ていますとおり,運用で残る部分は,従来どおり付添いと遮へいについては裁判長が行うということになりますと,それとのバランスも考慮した方がいいのではないかといったことに基づくものでございます。   それから,ウの不服申立てでございますけれども,注にございますとおり,現行法上,裁判長の訴訟指揮につきましては,裁判所に異議を申し立てることはできるとなっておりますので,仮に付添い・遮へいにつきましてはイの本文の案のように裁判長が決めるということになりますと,それにつきましては裁判所に異議の申立てをすることができるということになろうかと思います。ただし,ビデオリンクにつきましては,イのところにありますとおり,もし裁判所ということになるのでありますれば,初めから合議体であれば3人の裁判官により慎重に判断するということになりますので,さらに同じ裁判所でもう一回判断する必要はないのではないかということに基づきまして,本文の案にさせていただいたというものでございます。   それから,当事者の意見聴取でございますけれども,本文の案は,注1にございますとおり,当事者の質問権への影響を考慮いたしまして,意見聴取を必要的なものにしてはどうかという案でございます。ただ,そのような実質的な規律が相当であると考えるといたしましても,その規定をどこに置くかという点につきましては,注2にありますとおり,民訴規則に置くことが相当ではないかと考えておりますけれども,その点についても御意見をいただければと思います。   以上でございます。 ● そういたしますと,これも順次御意見を承りたく思います。まず最初にアの陳述者,当事者の申立権につきましては,これを認めないということの意味については今,○○幹事から説明があったとおりでございますが,これについては皆様方の御質問あるいは御意見はいかがでしょうか。どうぞ,○○委員。 ● 陳述者,当事者の申立権で,当事者申立権を認めると訴訟の円滑な進行を阻害する場合も生じ得るということで,例えば具体的にどんな場面をここでは想定されているのか,教えていただけるとありがたいんですが。何となくわかるんですけれども,例えばというように。 ● これも,職権発動を促す申出があった場合と,それから申立権がある場合の申立てとでどう違うのかという問題なのかもしれません。ただ,いろいろ申立権を認めるということになりますと,その要件が備わっているかいないかということについて申立てに対して一つ一つ応答していくということで,先ほど言ったように,それが職権発動の申出とどの程度違うかというのは,むしろ御意見もお伺いしたいところでございますけれども,観念的には,申立権を認めるということになりますと,そういう点で阻害する場合も生じ得るのではないかということを考慮したものでございます。 ● 申立権と言っても当然に申立てをする権利ではないということと考えられるのですが,現実問題,申立権を認められる場合と認められない場合で,例えばこういう場合で違ってくるのだというのが何かありましたら,ご説明願いたいのですが。実際の場面では多分,申立権と言うか言わないかは別として,こういう措置を採ってほしいと一方の当事者側が言い,裁判所が双方から意見を聞いて,ではこうしましょうということが想定できるんですけれども,現実問題,申立権がないよりはある方が権利性としては認めることになるんだろうと思うのですが,認められるとこの点が違ってくるのだという具体的なものがあるとちょっと説明しやすいんですけれども。 ● もしいろいろ実務の観点からまた教えていただければありがたいと思いますけれども,ですから私も観念的なお答えしかできないんですが。応答義務というものが法律上生ずるのと生じないのとでは,やはりその応答の仕方,一つ一つの申立てに対する対処ということについて違いが生ずるのではないかと私も思いますけれども,もし実務の観点から補足していただければありがたいと思いますが。 ● どうぞ,○○幹事。 ● 申立権があると,それを却下するかどうかということは調書記載事項になってきますか。そこが違いますか,まず。申出ですと,法廷で「いいでしょう」と言えばそれで終わるところを,却下して,それが調書に記載される。そこが違いますか。 ● どうぞ,○○幹事。 ● 多分,手続的には,今,○○幹事がおっしゃられたとおり,調書の記載を要するかどうかといった差は出てくると思いますけれども,むしろ実務上は,条文上申立権があるということで,必ずしも実質要件を満たさないような場合であっても,ある種少し期待して申出をしてくる証人というものがやや増えるのかなといった印象はちょっと持っておりますが。 ● どうぞ,○○委員。 ● 今はどうやって決めているのかというのが気になるんですが。要するに遮へいなり何なりするというのは,裁判所が適当に判断して勝手にやっているのですかということですが,その当事者が職権発動なりを促すということをしていて,さらにそれで足りないで陳述者から申立てがあれば,それについて認めるかどうかというのを決めましょうということなのか。今はその辺を陳述者が言って裁判所が判断するということなのか,当事者が言って,多分そっちなのかなという気はするんですが,それ以外に陳述者が申し立てるというルートを認めるのか,あるいは職権発動にしても,陳述者は言えるのですか,言えないのですかというところははっきりしないといけないような気がするんですが。 ● なるほど。ちょっとそのあたり,裁判所の委員・幹事の方,いかがでしょうか。例えば,これは申立てか,それとも申出かという法律構成とは直接関係ないんですが,実際にこの要件に当たるか当たらないかにかなり限界的な事例の場合には,裁判所あるいは裁判長としても,単にだめですと言うだけではなくて,何らかの若干説明的なことをする場合もあるかという気もするんですが。それから,特に当事者の場合はまだあれだけれども,純然たる証人の場合には,果たして申立てであれ申出であれ,そういうことを手を挙げて言うのは,さっきの○○委員の御発言のように,慣れた人はそうかもしれないけれども,初めての人がそういうことを「実は」というふうに言うのかどうか,そのあたり,ちょっとイメージ的な実務感覚で結構ですので,何か御発言があればありがたいと思いますが,いかがでしょうか。 ● 恐らく,今まで実務運営上遮へいなりをしてきた例というのは,当事者サイドからの申出があって初めて裁判所としてもそうした措置を訴訟指揮として採るべきかどうかという判断をしてきていると思われます。それは今後こういう制度ができたとしましても,第一義的に申出をされるのは当事者側からになっていくのではないかなといった印象は持っているところでございます。もちろん,例えば先ほど来議論のありますように,基本的にこの制度によって犯罪被害者の方の精神的な負担を軽減するといった趣旨の制度だということになれば,類型的にそういう犯罪にかかわるような民事訴訟の中で,犯罪被害者の方が証人として実際に申請された場合に,当事者が何も言ってこなくても,裁判所としてある程度斟酌する必要があるかどうかということを判断することが必要となる事案というのは出てくるかと思うのです。必ずしもそうした事情が明確に明らかになっていないような事案も出てくるかとは思いますので,そういったものについては第二次的には当事者からの申出あるいは本人からの申出というものを待って判断するということにはなろうかと思います。その場合に申立権という形で構成するのがいいのかどうかといいますのは,一般的な訴訟指揮のレベルの問題としましては,現在の民事訴訟法上も必ずしも個々の当事者あるいは個々の証人等の申立という構成をとっていないわけですので,そういったものとのバランスから考えますと,むしろ職権発動の申出のような形での制度設計をしていただいた方が,現在の他の制度とも整合的になるかと思いますし,また運用上もそれで十分対処できるのではないかといった印象を持っております。 ● ありがとうございました。ただいまの点,いかがでしょうか。どうぞ,○○委員。 ● 多分そんなイメージかなと。例えば,次は実証計画を立てて,次の期日は証人尋問だという場合に,多分証人には同行か呼出しかということで,来てその場で遮へいしますかというのは無理だと思いますので,その証人尋問期日が決まった段階でそういう議論になるんだろうと思うのです。ですから,そのときに申立権とやってしまうと,確かに裁判所の運用としては非常にやりにくいだろうなという感じはいたします。   ただ,申立権ではない,さっきの議論にちょっとかかわってきまして,申立権としては認めない,事案も限定しない,あと法律の書き方にもよりますけれども,犯罪ということも規定しない。そうすると,職権発動を促して,裁判所が適当と認める場合には少なくとも付添いや遮へいを認めるということになると,そこに何らかの精神的な要件があったとしても,○○委員から御指摘のとおり,今までとどう違うのだろう,何が変わったのだろうという,余りにも裁判所の一存に委ねるしかないといったところが,今度の制度設計はそもそも何だったのだろうというところにちょっと戻ってきてしまって,申立権を認める,認めないの議論というよりは,そもそも論のところに返ってきて,今までできたものが少なくとも付添い・遮へいについては要件を入れることの意味は何だったのだろうという,かえってできることが狭まるような印象を受けたりしないか。そうすると何らかの例示を入れておいた方が,その例示に当たるような人は無条件でと考えてもいいのかなという感じにまた戻ってくるような気がいたします。 ● なるほど,わかりました。   どうぞ,○○幹事。 ● この部分は前回も同じ問いかけがあって,○○委員か私が弁護士会の意見として,申立権があってもいいのではないかということを申し上げた覚えがあります。これは犯罪被害者の権利ということを考えれば,現状を明確にした方がいいという観点もあるし,民訴法上も申立てという制度はなじむということで申し上げたのですが,今回は少し翻りまして,結論的にはこれを認めないことでよろしいのではないかと思います。いずれにしろ,例示を入れるか入れないかにもかかわりますが,入れても入れなくても,だれがどういう場合に申立権があるかというところがきっちりとした決め方ができないわけで,非常に裁量の幅の広い決め方にならざるを得ないので,そうである以上は,申立権のあるやなしやでまず入り口のところで争う,それはだれが申し立てられるのかというところで争うようなことは余り好ましくない。そういう意味で申立権を認めない方が使いやすいし,本当に救われるべき人が救われるのではないかと思います。 ● ありがとうございました。   どうぞ,○○委員。 ● 今,○○幹事のお話を聞いて,確かに前にそういう話をして,弁護士会でもそんな議論をしたんですけれども,申立権を実際に認めると,確かに御指摘のような混乱みたいな非常にやりにくさがあるだろうなというのは容易に想像がつくんですけれども,ただ申立権まで認めるとすると,実際にそのことによってどのぐらいの実務が可能かは別として,かえって裁判所がいずれにしても判断しなければならないという分だけ,煩わしいといいますか,手間がかかるとは思うものの,今回の改正という意味では,権利にまで高めると,犯罪被害者については申立権が,それは証人にまで入れるかどうかは別として,ということになると制度の今回の意味が少し説明しやすくなるかなと。実際のやりやすさ,やりにくさとは別に,説明の仕方としては,今回は犯罪被害者が証言するときの保護の必要性について認められ,そしてそれが権利にまで高められたという説明にはなるかなという気がしましたけれども,○○委員,どうですか。 ● ○○委員,何か御発言はございますか。 ● 今ちょっと考えていたんですが,証人尋問のときに証人が証言拒絶などという権利がありますねということなので,それと同じようなことで,当事者は職権発動でいいが,この場合に問題になるのは,陳述者が遮へいしてくれとか,あるいは付添いをつけてくれと言えるのかなと。言えるとしたら,むしろはっきりしておいた方がいいかなという気がするんです。現実には今までは当事者が職権発動を促してといったところがありますけれども,そこのところを陳述者を中心に考えた場合に,申立権というものが要るのかどうかはちょっとわからないんですが,そういうことが言えますよというルートを何らかの形で示しておいた方がいいのではないのかということです。証言拒絶みたいに本人が拒絶しますといった強い権利であるとは思いませんけれども,それに準じたような,陳述者が要求する,当事者は「遮へいもなしにやれ」とか「傍聴人に見せてやれ」と言うことがあっても,陳述者は拒否できるというところがあってもいいのではないのかなという気はしています。そこが申立権になるのかというと,ちょっと難しいんですが。 ● どうぞ,○○委員。 ● 私も今,○○委員のおっしゃったようなことを漠然と考えていたんです。それで,現在の訴訟指揮であるとか,あるいは刑事訴訟法の157条の2以下の規定もそうだと思うのですが,その証人なり,あるいは具体的に言えば犯罪被害者のそういう権利を現在のところは裁判所の職権発動によって後見的に保護するといった仕組みになっているわけですが,これまでの犯罪被害者等基本計画等で法制審に諮問されたことを踏まえますと,何かそれだけでは足りないのではないかと。申立権ということまでは必要ではないと思いますけれども,何らかのそういう申出ができますといったことをどこか制度の,あるいは規則でもいいのかもしれませんけれども,今,○○委員がおっしゃったようなルートを設けておく必要があるのではないかと思います。 ● ただいまの○○委員あるいは○○委員の御発言に関連いたしまして,他の委員・幹事の方,御意見はございますか。どうぞ,○○幹事。 ● ○○委員や○○委員がおっしゃったことと結論的には似たような意見ではないかと思いますが,陳述者と言っても要するに証人ですが,証人と当事者本人とは分けて考える必要もないとは言えないのかなという気がします。実際の運用はそうではないと思いますけれども,法律の制度としては,証人は過料・罰金・勾引という強制的な出頭義務を担保する制度がありますので,制度上はいやだと言えないわけです。ですから,そういう強制措置を背景に呼出しを受けたりすることがあり得るわけで,やはり何か,申立てと申出で何が違うかと言われると,現実の差異というのは余りないかもしれませんが,制度としては申立権を証人には認めるという余地もあるのかなという気はします。 ● ○○幹事の御発言は,証人についてですが,申立権というところまでいくということですか。 ● 申出を規定するということにはさらに意味がないので,規定するのなら権ではないかという気はします。 ● そうですか。先ほど○○委員から御発言がございましたが,その場になって云々ということは普通はないですね。事前に証人を申請するような段階から,この人はこういうものだということがかなり明らかになっていますので,その場であるいは証人独自に申立権を認めるということにそれほど意味があるかなという感じもしますが,御意見の趣旨はよく理解できます。○○委員。 ● もしそういうことであれば,例えば今度は,裁判所の負担はそんなにかからないだろうと思いますが,今は多分呼出証人のときには,いつ来てくださいと,注意事項というのは送っていると思うのですけれども,その中に「あなたの場合にはこのようなことを申し立てる権利がありますので,事前にいついつまでにお申出ください。遮へい」とか何とかと,そんなイメージになる。これはまた,ではどの証人にそういうのを送ったらいいのか,今度はまさに要件論に関係してきてというイメージはちょっと浮かんだんですけれども,それにしても実務的にはなかなか大変は大変かなという感じはします。 ● なかなか難しい問題ではありますが,いかがでしょうか。○○幹事,ただいまの件はいかがでしょうか。 ● 定見はないのですが,やはり私も,申立権というところまで認めるのは,ほかの制度の取り扱いとのバランスがややという感じと,それからもちろん刑事訴訟法においてもそういう申立権は認められていないということもあるので,○○委員とか○○委員の御指摘を受けてちょっと考えていたのですが,後で意見の聴取というのが出てくるんですけれども,これは当事者だけの意見聴取を規定しているんですが,証人からも意見を聴取するということは考えられるのかなと思います。それで,御承知のように,人事訴訟法の22条の当事者尋問等の公開停止の規定は,当事者と並んで「証人の意見を聴かなければならない」という規定ぶりになっているので,そういう意見聴取の一環として事実上何か申出を促すようなこともできないのかなとかと思いながら考えていたのですが,特に固まってはいません。 ● ありがとうございました。当事者本人にせよ,証人にせよ,申立権という,これは法律的な話になりますとやや難しい問題があるのは,今までの御発言やこの資料に書いてあるとおりですが,他方,申立権を否定するというのは,それだけがひとり歩きすると,本来のここで審議している出発点からややずれているような印象を,誤解だと思いますが,与えかねませんので,何らかの形で,今何人かの委員・幹事からの御発言にあったような意味で,陳述者がそういうことを裁判所に対して主張といいますか,求める機会を失わないような形での手当てが必要だということは,恐らくここで御異論がないところだと思います。ただ,当然そうなると私自身は思っていますけれども,それは実務運用ということでいいのか,さらに何かもうちょっと制度的な手当てを考えるのがいいのか,そのあたりのことかと思いますが,さらに御意見がおありの方はいらっしゃいますでしょうか。どうぞ,○○幹事。 ● 先ほど○○委員からも御指摘があったように,例えば事前に裁判所から注意書きを送れないかといったことは確かに一つ考えられるわけですけれども,今回,精神的な圧迫や不安を感じるかどうかという実質要件でこの措置を採るかどうかを考える以上は,すべての証人に対してそういう注意書きを送るというわけにもなかなかまいりませんし,かといって選んで送るというのも実際上かなり難しいところだろうと思うのです。裁判所側として,どう考えてもこの人はこの制度を知っていればその申出をしてくるのではないかといった証人が,仮に第三者証人で,当事者双方から特段助言も得られないような場面であれば,そこはある程度裁判所としても事前に本人の意向をある程度聞いて対応するということもあり得るかと思うのですけれども,一般的に制度として,あらかじめ何か事前にノーティスを与えるということをいたしますと,多分要件を満たさない証人にも変な期待を抱かせることにもなって,これはこれでかなり実務上は混乱を与えるおそれが高いのではないかという気がいたしますので,できますればある程度,先ほどもちょっと御指摘のありました意見聴取の規定を設ける過程に少し絡めるとか,何かもう少し申立権的なものでない形で,運用上ある程度適切に対処できるような方策をとっていただくような方向にしていただければ幸いかなと思っております。 ● ○○委員,今までの議論をお聞きになっていて,いかがでしょうか。 ● そうですね。実は私も法律の知識が余りない者としては,最初にこれを読んだときには「えっ」という感じがしたんです。それで,御説明を伺って,申立権という言葉にそんな意味があるのかといった印象だったので,私は別に国民の代表でも何でもないんですけれども,一般の何も法律の特別な知識を持たない方にとってそういう道を閉ざしかねない危惧はちょっと感じるんです。ただ,今度はその裏返しで今御指摘のあったような部分もあるということになると,やはり何らかの,法律に書き込む,書き込まないということではなくて,そういう機会を失うことがないような制度上の手当てというのでしょうか,そういうものを考えた方がいいのかなという印象を持ちました。 ● ありがとうございます。   それでは,ただいま○○委員が御発言になった点については,恐らくこの場の委員・幹事のどなたも御異論がないと思いますので,それを前提にして少しまた議論を事務当局で整理してもらうことにいたしたいと思います。   そのほかの決定主体,不服申立て,当事者の意見聴取,このあたりについてはいかがでしょうか。それぞれについて一応,原案といいますか,事務当局から考え方が示されておりますが。どうぞ,○○委員。 ● 申立権の話は,確かに裁判所の負担なり,実際にはどういうところに出すのか,注意書きをやるのかという問題は非常に重たいんだろうなという感じはよく理解しておりますし,あえてそういうことをぜひしてほしいということを申し上げたわけではないんですが,それを補完するという意味では,今,○○委員や○○委員からありましたとおり,何らかの意見聴取をするというところで今まで意見聴取なり証人になる陳述者の気持ちを酌むというところがあると,この制度の特色なり,改正で何が変わったのかというところが出てくる。まさに申立権を認めなくても,多分そこで実際には実現できる可能性があるのかなということを今御意見を聞きながら感じました。ですから,そういう意味ではこの辺を実際には多分今でもそれぞれ聞いているのだろうとは思いますけれども,これを何らかの形で必要とするという形にすれば,大分意味合いが出てくるのかなと。   それから,先ほど○○幹事からお話があったとおり,人訴法の22条の2項の「あらかじめ,…証人の意見を聴かなければならない」,これは公開停止のことなんですけれども,実際の運用としては,この証人の意見を聴く場面というのは,同行とか,多分多くは当事者の方で,つまり原被告の代理人の方であらかじめ言えるのだろうと思うのですが,第三者証人を双方の裁判所が呼出しをやるようなときの証人の意見の聴き方が一般的にはこうだということがもしおわかりになれば,ちょっと参考になるかなという感じがしますので,教えていただければと思います。 ● ただいまの○○委員からの御質問に関して,裁判所の委員・幹事の方,何か御発言はございますか。 ● すみません,今現在,人訴でどのようにしているかというあたりはちょっと本日のところは把握しておりませんので,また何かわかりましたら,後ほど御報告させていただくということにさせていただければと思います。 ● はい,わかりました。どうもありがとうございます。   ただいまの○○委員の御発言にもございましたが,陳述者の意見というのか,どちらかというと気持ち的なものだと思いますが,これはもちろん意味としては違うわけですね。当事者の意見聴取の当事者の意見というものと意味は違うけれども,その意向というか,気持ちを述べる機会を何らかの形で失わないように手当てすることが必要なのではないかという御趣旨ですね。どうぞ,○○幹事。 ● 一応確認でございますけれども,本件のエはよくわからないんですけれども,人訴の22条2項の方は公開停止をする場合にはという前提だと思いまして,このエも,どう理解するのかわかりませんが,率然と読む限りは,措置を採る場合にはという趣旨だと理解させていただいたのですけれども,今問題となっていますのは,措置を採らない場合に証人その他の人の権利を害さないかということでございまして,もしその場合にも常に意見聴取は必要となりますと,先ほど○○幹事がおっしゃられたように,予想されるすべての場合にこの機会を設けなければいけないということにもなりかねませんので,これは立法上の問題もあろうかと思いますので,なおそのあたりも含めて御検討いただければと存じます。 ● ありがとうございます。そのとおりかと思いますが。   どうぞ,○○委員。 ● そうすると,本文の案は,申立権のところが「陳述者又は当事者からの申立権」という書き方で,エの方は「当事者からの意見聴取」ということで,これは本文の案は「陳述者」は除くという趣旨と理解してよろしいんですか。 ● そこは,エのところは「陳述者の意見聴取」ということは必要としないということを案としては考えておりました。これは,刑事訴訟法の方でも特に,もちろん当事者からもないわけでございますけれども,そういう点で論点として「当事者からの意見聴取」しかそもそも挙げていなかったわけでございます。   若干長くなって恐縮でございますが,補足いたしますと,御指摘のとおり,人事訴訟法の場合には,これは当事者のみならず証人の方も意見聴取ということになっておりまして,果たしてそれと同じようにするかどうかというのはやはり論点にはなり得るとは思います。ただ,今,○○幹事の方からお話がありましたとおり,これは「各措置を採るに当たり,意見聴取を必要とする」という規定でございますので,仮にそういう規定を設けようとしますと,どうしてそういう規定を設けるかという説明ぶりは,事前に聴くというよりは,こういう重大なといいますか,そういう効果を持つ手続をするかどうかの判断を慎重にするためであるという人訴と同じような説明ぶりになるのかなと思っております。人訴の場合には,結局公開停止をするための要件,その前提として法廷で陳述することが非常に困難であるといった陳述者側の要件が当然問題となってきますので,公開停止という非常に重大な効果を生ずる手続の要件を判断するに当たって,そのような証人からの意見を聴かないで判断するということは,これは手続的に許されることではない。そういうことを理由に人訴ではああいう規定になっているわけでございます。したがいまして,今回,もし「陳述者」をここで入れるということにいたしますと,その説明としては,こういった各措置の効果に照らして,陳述者からの意見を聴かないでそのような措置を採るということは手続的に許されないといったことが言えるかどうかというあたりが人訴と同じ並びの議論にはなってくるかなと思われます。   以上です。 ● どうぞ,○○幹事。 ● そういうことを申し上げたのは,今,○○幹事が言われたように,本件の要件も刑事と同じように「供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがある」といった要件をもし立てるとすれば,そういう事情が発生しているかどうかということを最もよく知っているのはもちろん陳述者なわけですから,やはり陳述者の意見を聴いてみる。そして,おっしゃるように全件について聴かなければならないというのは問題だと思いますので,そのようなおそれがその証人の立場,その事件との関係等にかんがみて裁判所がそういう可能性があり得るのではないかと考えた場合には,何か意見聴取の一環としてそのようなことがあるのかどうかということを確認するような手続があって,そこでこういう事情があるんですという意見が出てくれば,それを踏まえて裁判所が最終的にそういう措置を採るかどうかを決定する。何かそのような構想にできないのかなということだったのですが。 ● どうぞ,○○幹事。 ● 私はよくわからないんですが,意見聴取と要件判断のための事情聴取というのが分けられるものなのかどうかというのが先ほど来わからないんです。要件判断をする以上は,何らかの事実を裁判所としては調達しなければいけないはずなんですが,それが当該陳述者を抜きに判断できるということはなかなか考えにくいという点と,できれば措置を採ってほしいと思う当事者の気持ちの問題ですね。先ほど意向と○○委員はおっしゃいましたけれども,そこを意見聴取だとすると,何か後者だけのようなイメージになっていまして,もともと事情聴取は必ず必要なのではないでしょうか。傍聴人の退廷命令の規定は,何もそのようなことは規則上書かれていませんけれども,あれだって「あの傍聴人の前では私はしゃべれません」ということを言ってもらわないことには発令できないと思うのです。そこの問題というのを分けずにやってしまうということなのかどうなのかというあたりはちょっと整理がつかないんですけれども。 ● はい,どうぞ。 ● おっしゃるとおり,判断資料の収集という面では,実際上それを聴かないで判断できるのかというとかなり難しい問題がありますけれども,何らかの一定の手続上の要件を判断する際にはこういう資料を必ず収集しなければいけないという趣旨の規定を置くのか,それともそういう規定は置かないけれども,普通はそういうことでやるでしょうと委ねるのかというのが一つの問題になろうかと思います。そこで,恐らく公開停止の場合には,公開停止という非常に重大な手続をやるのだからということで,あえて判断に当たってこういう資料の収集までしなさいということを書いたのかなと理解しております。ただ,御指摘のように,では今の人訴は「当事者等及び証人の意見」ということで,いわば当事者も含んで意見ということで一括して規定してしまっているものですので,これだけを見ますと,そういう判断材料の収集といわゆる純粋な意見部分というものが包括的に規定されているということになっていますけれども,いわば人訴の規定も趣旨としてはそういう判断材料の収集ということを念頭に置いて,ただ当事者等も同じように一括して規定しているものですので,その「意見を聴かなければならない」という表現になっていると私は理解しております。おっしゃるとおり,理念的には2つの問題を分けて考えなければいけないと思います。 ● どうぞ,○○委員。 ● ○○幹事の御説明でちょっと質問があるんですけれども,人訴の22条の2項で確かに「当事者」という言葉も出てくるのですが,これは尋問の対象者という意味で「当事者」と言っているのではないんでしょうか。その訴訟の主体としての当事者の意見を聴くというのとは話が違うように私は読んだのですが。 ● これは,本人尋問の場合には当事者だけなんですが,証人尋問の場合には当事者プラス証人となるというのが立案の趣旨でございます。 ● なるほど。わかりました。 ● どうぞ。 ● ○○幹事の意見なり,あるいは○○幹事のお答えとの関係でまた一つ質問があるんですけれども,今の刑事訴訟法の規定,例えば157条の3というところには,確かに意見を聴く相手方は刑事訴訟の当事者で,陳述者の意見というのは出てこないわけですが,この場合の意見を聴くというのは,むしろもうその措置を採るということ,その要件の判断は一応形成されたという前提で,しかしこういう特別な手続をとるので当事者の意見を聴くという構造になっているわけでしょうか。 ● 私もそのように理解しております。 ● そうすると,先ほど来の今日の議論でエの当事者の意見聴取というところに陳述者も入れるかどうかということを考えていくと,もしそういう案をとるとすると,これは構造上あるいは条文としても,刑事訴訟とは違うような形になるということになるのでしょうか,表現としては。 ● 表現は,もちろん陳述者というか,入りますので,そこの部分は違ってこようかと思います。 ● ただ,それは,先ほど○○幹事が指摘された問題,要するにもうやることは一応判断がされてから聴くのか,それとも判断する資料を得るという目的も含めて聴くのかというところにかかわると思うのですが。 ● そこはまた実質の話にも絡みますし,人事訴訟法の規定とのバランスというのがありますので,本当にぎりぎりとした形で,事前に聴くということをストレートに規定するということになると,これはなかなか難しい規定になる感じもいたします。ですから,人訴と同じように決定を本当にするときには意見聴取をしなければいけないという形にしておいて,そのまま,いわば実際の運用として,どうかなと裁判所が思うものについて事前に聴くとか,そういった運用レベルで適正なことができるという考え方も十分にあるのではないかなと思います。 ● どうぞ,○○幹事。 ● 結局,もともとの出発点は,端緒をだれがつくるかという問題だったはずなんですが,決定がある程度固まってからしかできないというと,端緒づくりとしての当事者の申立権にかわる何らかのものというところからも外れてくるということになってしまうのではないのかなという気がいたしまして,代案がないので何とも言えないんですが,必ずしも陳述者の意見聴取をすることが申立権の代替措置としては余り意味がないという結論にならざるを得ないのではないかという気がするんですけれども。 ● 今御議論があったのは,端緒づくりの問題と,それから人訴の方はそういう判断材料の収集という観点が主なのですが,端緒はともかくとして,そういう後者の観点からここでも陳述者は入れておいた方がいいかどうかという点については,もし御意見をいただければと思いますが。 ● そうですか。そういう次元の話としてはいかがでしょうか。どうぞ,○○幹事。 ● それはあってしかるべきだと思うのですけれども,ただ,規則の傍聴人の退廷命令のところの現状の規定との平仄をどうするかというのがやはりあるのではないのかなという気がしますけれども。 ● ○○幹事,いかがでしょうか。 ● 特にございませんが,先ほど来出てまいりますように,刑事訴訟法もそうなっていないような印象でございまして,これは法制的な問題ですので,この時点で議論すべきことではないことかもしれませんが,もし刑訴以上に証人等を保護するとすれば,その理由がやはり要るのではないかという印象はぬぐえないところでございます。ただ,その上で直ちにそれをある意味で覆すような発言をするのかもしれませんが,もしかしますと,刑訴は,これが意味を持つのは検察官側の証人だろうと思いますので,検察官がそれ相当の手当てをするということを前提にした立法なのかもしれません。そこは何とも言えませんので,それなりの手当てが必要なのかもしれませんが,そこについては,申しわけございませんが,現在の段階では必ずしも定見はございません。 ● それでは,陳述者からの意見聴取につきましては,ただいまいろいろ御意見がございましたので,それを踏まえまして,さらに事務当局で検討してもらうことにいたします。   ということで,第1の関係ではほかに何か御意見等はございますか。   よろしければ,第2の各措置の要件,内容についての論点についての説明をお願いいたします。 ● それでは,第2の1は,遮へいについての特有の論点でございます。遮へいにつきましては,訴訟代理人が出頭していない場合,相手方の本人との間で遮へい措置を採ることができるかという論点がございます。これにつきまして本文の案は,注にありますとおり,民事の場合には,その尋問権が憲法上保障された権利ということまでは言えない。それから,本人のみの場合には遮へい不可ということにいたしますと,そのときだけ例えば代理人を解任するといったケースも出てくる可能性がないとは言えない。これに対して刑事の場合には,必要的弁護事件あるいは任意的弁護事件でも国選弁護人がついているといった事件では,被告人の意思により自由に弁護人を抜かすということはできないことにはなっております。その辺の民事と刑事との関係をどう考えるか。あとは,むしろ実際のニーズを考えると,相手方が本人訴訟で本人だけが出頭しているという場合にこそ,その人の前でしゃべるということに精神的な不安や緊張を覚えるのではないか。そういった最もニーズが高い場合にこの措置が採れないということでは,今回の立法の目的が達成できるのかといった問題もあるわけでございます。そういうことを考慮いたしまして,今回,本文の案では,訴訟代理人が出頭していない場合でも,当事者との間の遮へい措置を採るができることとしてはどうかという案を出させていただいたというものでございます。   次に2番のビデオリンクでございますけれども,前回の部会におきまして,当事者の質問権,当事者の質問のあり方に対する影響を考えますと,むしろ当事者との間の遮へい措置の方がビデオリンクの措置よりも影響が大きいのではないか,そうしますと,ビデオリンクの措置の要件につきましては傍聴人との間の遮へい措置と同じぐらいでよいのではないかという御意見があったと理解しております。この点につきまして私どもの方で検討いたしましたけれども,ビデオリンクは直接主義,特に裁判官が直接面と向かって話を聞くことができないという点がございます。それから,これまで付添いと遮へいの方は訴訟指揮によって実施することができたけれども,テレビモニターを通じた尋問といいますものは法律の規定がなければできないことになっていた。それから,決定主体につきましても,付添いと遮へいの方は裁判長ということになっておりますけれども,テレビ会議システムの方は裁判所となっている。こういった諸々のこれまでの規定,それから措置のことを考えますと,質問に対する影響ということは理解できるわけですが,遮へいの措置よりも緩やかな要件とする説明がなかなか難しいのではないかということを考えまして本文のようにさせていただいたということでございます。   それから,イの実体的要件に関する特則,具体的には刑事訴訟法157条の4第1項第1号のような性犯罪の被害者等に関する要件の特則を設けるかということでございますけれども,このような特則を設けますと,そういった犯罪の被害者であること自体が問題になるということも考えられますので,民事訴訟法においては,このような特則は設けずに,一般的な規定を置くということでよろしいのではないかというのが本文の案でございます。   それから,ウの陳述者の在席あるいは出頭すべき場所でございます。前回の御議論では,既に民事訴訟におきましては,遠隔地におけるテレビ会議システムが認められておりますように,同一構内に限らないというものが既に導入されております。ただ,証人等の出頭する場所につきましては,いろいろその手続に関する事務等の観点から,裁判所以外の場所まで認めるのは相当ではないのではないかという御意見もございました。そのようなことを考慮いたしまして,今回の案は,裁判官等が在席します裁判所と同一構内の場所あるいは他の裁判所に出頭させてするということでどうかという案でございます。   なお,注2にありますとおり,仮にこのような規律にするといたしましても,現在のテレビ会議システムにおける規律と同様,この点については民事訴訟規則に規定を置いてはどうかということでございます。   最後にエでございますけれども,ビデオリンクによる尋問をビデオ録画することができる旨の規定は,民事訴訟法上は設けないことでどうかというのが本文の案でございます。   これは,注1にありますとおり,民事訴訟におきましては,証拠能力に制限はございませんので,前の公判廷での供述調書,証人尋問調書がそのまま書証として証拠として使うことができる。あるいはまた,後に同一の事実についてもう一回法廷で尋問を受ける可能性ということを当該訴訟の審理の段階で裁判官が判断するということはなかなか難しい。そういうことが想定される事案は余りないのではないかと思われること。それからもう一つ,これも前回の部会でいろいろと御議論,御意見をいただきましたけれども,もしビデオテープが訴訟記録ということになりますと,民事の場合には閲覧・謄写,この場合には複製ということになりますけれども,そういった規定との関係も考慮しなければいけない。例えば,加害者である被告が,これは当事者でございますので,その複製をすることができるということになりますと,犯罪被害者の方が法廷で陳述している,そういうビデオをいわば加害者が自分の手元に持つことができるようになる。そういうことにより被害者の保護にむしろマイナスの影響が出るのではないかということも考えられます。以上のことを考えまして,本文の案では,ビデオ録画することができる旨の規定は設けないことでどうかとさせていただきました。   なお,この点につきましては,注2にありますとおり,ビデオ録画をすることができるといった規定であれば,それを置いてもよいのではないかという意見もございましたので,その点について改めて御審議いただければと思います。   以上でございます。 ● そういたしましたら,また順次御意見を承りたいと存じます。   まず1の遮へいで,要するに当事者本人のみが出頭している場合についても遮へいの措置を採ることができるという考え方が示されておりますが,この点についてはいかがでしょうか。注にございますように,確かに本人のみが出頭している場合にこそということはございますが,そういうことも考慮して,こういう方向でよろしいか,しかしなお検討すべき点がないかどうか,いかがでしょうか。○○幹事,いかがですか。 ● この注の趣旨どおりだと思いますので,私はこういう形でいいと思います。 ● そうですか。   どうぞ,○○幹事。 ● 私も,最終的にはこれで結構だと思うのです。ただ,証人等の証言する際の表情等を見ながら,それを認識して尋問できるというのは,ここに書かれています憲法上保障されているかどうかはともかくとして,当事者権の一つの重要な内容であることは確かだと思いますので,問題は,尋問をしようとしている当事者が本当にちゃんと弁護士代理人をつけようと思えばつけられるということがあるかどうかという点なんだろうと思います。つけられるのにつけない当事者については,それはこういう形で尋問するということになってもやむを得ないのかなと思うのですが,ですからそこは基本的にもう法律扶助に委ねる,お金がなくてつけられないということはないんだということで,つけようと思えばつけられて,つければ少なくとも訴訟代理人は証人等の表情を見ながら尋問できるということは保障されているのだという説明で通れば,これでよろしいのかなと思うのですけれども,そこを担保するためにさらに何か制度上のものを設けるかどうかという問題なのかなと思いました。 ● ありがとうございます。   今お2人の方から御意見を伺いましたが,この基本的な考え方自体については皆さんの御意見が一致するということでよろしいでしょうか。どうぞ,○○幹事。 ● 結論的にはこれで結構かと思うのですが,刑訴の場合は,被告人席が裁判官の正面であるということがそもそも前提となっているわけじゃないんでしょうか。つまり,当事者席に訴訟代理人と威迫しそうな当事者が座っている場合に,分けて遮へいするということがそもそも技術的に可能なのかどうかというのがよくわからないんですけれども,法廷構造として。ですから,その点も含めて,原案どおりでよろしいのかなという気がするんですけれども。 ● 今の点,裁判所側の委員・幹事,何かちょっとその具体的なイメージを補足していただけますか。 ● 刑事の法廷でも,被告人がどこに座っているかは結構いろいろだろうと思います。裁判官の正面の場合もありますし,むしろ検察官席寄りの側に座っている場合もあるかと思いますので,技術的にはいろいろあり得るかと思うのですが。 ● 弁護人の方ですね。 ● 失礼。弁護人の方です。 ● つまり,多分刑事の場合は,これとあわせて被告人をどこに座らせるかということが訴訟指揮の一環としてできるということが前提になっているようなイメージを持っていたので,それがない民事訴訟法で,被告はどこに座りなさいということは今までほとんど考えてこなかったのではないかなということでございます。 ● なるほど。   ○○委員,○○幹事,何かこの点,補足していただくことはございますか。この考え方でよろしいでしょうか。 ● これは先だっても○○委員から申し上げたように,当事者本人訴訟の場合ほど多分遮へいの必要性が大きいであろうという面から,この規定には賛成です。 ● それでは,この点は考え方としてはこの考え方を御了解いただいたということにいたしまして,次にビデオリンクのまず実体的要件の在り方で,刑訴法のこの規定と同様の要件にすると。その理由については先ほど○○幹事から注に即して説明があったとおりでございますが,これについてはいかがでしょうか。注の後半といいますか,後段といいますか,そこに記載してあるようなことから,こういう要件でよろしいでしょうか。ここは御意見はございませんか。○○幹事,いかがでしょうか。 ● 意見というほどのものはないんですが,ただちょっと,この注に書いてあることで,ここまであれかなという感じもしないではないというのは,今民訴で認めているテレビ会議システムの場合は,遠隔地に居住しているというだけで認められるわけですね,あと裁判所が相当性を判断して。それからすると,何か,著しいというところまでが本当に要るのかなという感じもしなくはないのですけれども,ただそんなにこだわるわけではありません。 ● そこは説明の仕方としてはいろいろあり得るとは思うのですけれども。 ● それはあり得ると思いますので,結構ですが。 ● 特に御意見がなければ,こういうことでよろしいでしょうか。どうぞ,○○委員。 ● 結局,先ほど来の議論に戻るわけです。結局,絞りをどこに持っているかというところにやっぱり戻ってくるような気がして,今,○○幹事のお話にもありましたとおり。ただ,ビデオリンクは,これは法律がないと訴訟指揮ではできない分野ですので,遠隔地でなくてもこういうことができるというメリットはあるわけだと思うのです。ですから,それはそうなんですけれども,ただ,遠隔にいたら,確かに○○幹事の御指摘のとおり,別にこういう要件は必要なく,遠隔ですというだけでできてしまうような感じがするので,そういう意味からすると,同一構内でない場合というのは,遠隔地で,しかもこういう犯罪被害者ですと言えばビデオリンクができるわけですけれども,犯罪被害者だと言わなくても遠隔地だと言えばできてしまうような気はするので,その辺のバランスというんですか。ですから,今回の制度設計によって何が前進したのか,誰の保護を図った権利性はどこに特徴があるのかというところにやっぱり戻ってきてしまうのかなという感じがしております。   以上です。 ● 1点補足させていただきますと,実体的要件という言葉が余り適切ではないかもしれませんけれども,精神的な状況に関する要件を具体的にどうするかというところは,今のところ事務当局としましては刑事訴訟法を参考にして考えることになるのかなと思っておりますけれども,資料ではまだそこまで明確にしてはおりませんので,ここは言ってみれば,遮へいよりもビデオリンクの方を軽くするということはバランス上ちょっと難しいのではないか。そうすると,仮に遮へいとビデオリンクを同じ要件としても,その実体的な要件をどうするかというのはあるいはまた今日の御議論を踏まえた論点というのがあるのかもしれないとは思っております。ただ,遠隔地の場合と今回の場合ですけれども,遠隔地の場合には,一応規定の目的は,立法当時の議論を拝見いたしますと,どうも遠隔地の証人の負担を軽くすること自体が目的ではなくて,それによっていわば迅速な裁判を実現するという裁判の迅速性,手続の円滑さを確保するということが主たる目的として考えられていたように理解しております。そういったあたりが,これもまた結局目的論に絡むかもしれませんけれども,その要件を考える際に少しかかわってくるようにも思われます。   以上です。 ● いかがでしょうか。どうぞ,○○幹事。 ● 先ほど○○幹事が遠隔地で現在認められているものとの対比でおっしゃったことに私も,感覚的な問題ではありますが,近いような感想を持っております。先ほど遮へいと比べてビデオリンクの要件を軽くすることは考えにくい,むしろ重くすべきだという御説明だったんですけれども,果たしてそうなのかどうかについては,よくわからないというか,納得して聞いてはおりませんでした。遮へいの場合は被尋問者の顔が見られないわけですけれども,ビデオリンクの場合は,もちろん遮へいと組み合わせれば別ですけれども,純然たるビデオリンクでは見られるわけですので,どちらがより直接主義に近いかというのは,常にビデオリンクの方が遠いということでもないような気がします。この注に書いております,これまで訴訟指揮によっては実施することができなかったというのは,これは私はよくわかってはおりません,間違っていたら御指摘いただきたいんですけれども,それは直接主義の関係というよりは,同一法廷内でやらないという法廷外の証拠調べとかと同じような意味合いではなかったのか,それから決定主体が裁判長か裁判所かというのが要件の重い軽いとリンクするのかどうかという点もちょっとよくわかりませんので,感想程度ですけれども,遮へいより重くなければいけないとは余り思いません。 ● 確かに,ビデオリンクと直接主義との関係というと,これはどちらからもいろいろな言い方ができると思いますから,このような言い方と違う考え方もあり得るとは思いますけれども。どうぞ,○○幹事。 ● 私も感覚的には,遮へいを伴わないビデオリンクだけ考えると,今の民訴法で204条ですか,遠隔地の要件よりこんなに重くなるというのは少し違和感があると思います。それに遮へいを伴うから問題が出るのだけれども,遮へいの要件を重くしておけば,ビデオリンクは少し軽目でもいいのではないか。実際には,統計からいけば,恐らくビデオリンクだけということは余りないようですから,遮へいの要件がほとんどはかかるのでしょうが,実際はそれで直接主義とかいろいろ難しい議論はありますが,204条の遠隔地というのは比較的気軽に使われているんです,民事訴訟法の中では。当事者の一方が強く反対すれば余りやらないとは思うのですが,割合,大阪から東京まで来られなくもないでしょうけれども,遠いなどと言われると,両当事者が反対しなければ使われているという実情があります。 ● どうぞ,○○幹事。 ● 実際にテレビ会議とかを私自身も使ってみたことがあるわけなんですけれども,先ほどの直接主義との関係で申しますと,これはビデオリンクの場合も,裁判所の目の前で話をするわけではありませんので,テレビ会議を通してやるのと,直接目の前でやるのとでは,やっぱり臨場感といいますか,それは相当程度違うというところは率直に言うとございます。それは,遮へいの場合ですと,当事者サイドの一方が見られないというところはありますけれども,裁判所サイドとしては顔は見られますので,そこはちょっと大きいかなという感じはいたしております。かつテレビ会議の場合,これは要件上は余りきちんとした絞りはないわけですけれども,実際の運用といたしましては,遠方で結構病気なので来られないとかというケースで使っているのが私自身などの経験からすると多かったもので,いわばやむを得ないケースで使っているなという印象は受けております。 ● ありがとうございました。   どうぞ,○○幹事。 ● 私が経験したのはそれほどの要件ではなかったのですが,確かにコアになる証人ではなくて,もう1人証人を立てればその方がいいといった案件だったと思います。それを申し上げておきます。 ● 必ずしも御意見の内容が一つになっているというわけではないことは理解いたしましたので,もう少し本日の御意見を踏まえて,さらにどういう考え方があり得るのか,そのあたりを事務当局に検討してもらいたいと思います。   そうしましたら,その次のイの実体的要件に関する特則の要否,性犯罪の被害者に関する要件の特則というものを刑訴とは異なって置かない,設けないということがここに示されている考え方でございますが,このあたりはいかがでしょうか。理由は先ほど○○幹事から説明があったとおりですが。どうぞ,○○委員。 ● 何度もくどくてあれなんですけれども,結局そうすると,性犯罪の被害者というのは,犯罪の被害者の中の特に1号にある性犯罪というさらなる絞りになっていますので,そもそも犯罪の被害者というところの絞りをかけた上での話になるのかなと。そうでなければ,犯罪の被害者ということは規定されなくて,いきなり性犯罪の被害者というのはいかにも唐突感がありますので,多分その辺の議論のさらに延長にあるのかなという感じを受けています。○○委員には,むしろ性犯罪の被害者というのと,先ほど来交通事故で亡くなられた遺族というのとはどんな感じかというのを聞いてみたいところでありますが,被害者という意味では同じで,ただ性犯罪被害者特有のといいますか,その辺の心理的な痛みみたいなものがさらに加わっているのかなと推測はしているわけですが,そういう意味ではこの辺も,さらにここまで絞りをかけてしまうというのは,その全体の議論がまず先行するのかなという感じはいたしております。 ● わかりました。そういたしますと,ただいま○○委員の御指摘の他の冒頭の部分との関係があるということは御指摘のとおりかと思いますが,一応この考え方としては,ここで改めて性犯罪の被害者云々という形での要件を設ける必然性はないということでよろしいですか。--はい。ありがとうございます。   そうしましたら,次にウの陳述者の在席,出頭すべき場所で,これは前回もそれほど御異論がなかったように思いますが,他の裁判所でもよい,同一の裁判所の構内である必要はないという考え方ですが,これはいかがでしょう。特にここで,同一の裁判所の構内でなければいけないと改めて限定するというのも,民事訴訟においては意味があるかどうか疑わしいと思いますので,これでよろしいですか。--はい。   それから,エのビデオリンクによる尋問をビデオ録画することができる規定を設けないという考え方と,注2に書いてありますように,しかしそういうことをすることができると書く分には,特にそれで何か弊害が生ずるということはないのではないかという考え方ですが,ここはいかがでしょうか。○○委員。 ● このとおりだと思います。この案には合理性があるように思われます。確かに,被告が複製できるというのはすごく説得力があります。 ● そうですね。当事者である以上は制限できないですね。 ● 民訴において大事なのは,調書があれば証拠としては十分だと思います。 ● ○○幹事,何か。 ● 前回も,法律に置くのはどうかなということで,例えばということで規則ということがあるかなと申したんですけれども,それは,その規則ということに強い意味があるのではなくて,法律には置かずに何か規定を置くというやり方もあるのかなという趣旨で申し上げたのですが,その規則に置く云々という点は,その是非はわかりませんので,今はちょっとおくとしまして,法律には,置いたことの副作用の問題を考えますと,置かない方がいいかなと思います。 ● わかりました。どうもありがとうございます。   それでは,ただいまの御発言を踏まえまして,こういう考え方でさらに検討を進めるということにさせていただきたいと思います。   第2の各項目につきまして,何かさらに御意見はございますでしょうか。   ございませんでしたら,第3,その他について○○幹事から説明をお願いいたします。 ● 第3のその他でございますけれども,これは前回の部会では余り時間がございませんで,十分に御審議いただいていない事項かと思いますので,少し御説明させていただきたいと思います。   現在,犯罪被害者等基本計画に基づきまして,この法制審議会の民事訴訟法部会のほかにも,刑事法部会でいろいろな施策について検討がされているところでございます。そこで,その中で犯罪被害者等基本計画において刑事手続に関しまして被害者情報の保護の制度というものが検討されております。この計画の中には,具体的には,①にありますとおり,起訴状朗読の際,被害者の氏名等を朗読しないこととするなど,公開の法廷において被害者の氏名等を明らかにしないようにする制度,それからもう一つ,②でございますが,検察官又は弁護人が,証拠開示の際に,相手方に対して,被害者の氏名等が関係者に知られないようにすることを求めることができる制度,この2つの制度について検討することとされております。   今回の民事訴訟法部会の検討の中心的な対象となっております3つの措置自体が,刑事訴訟法に規定があるにもかかわらず,民事訴訟法には規定がないけれどもどうかという問題意識から生まれた問題点でございますので,このように刑事の方で今2つの制度を検討しているということを踏まえますと,民事訴訟に関して同様の制度を検討する必要性があるのかどうか,この点についてもこの部会で御意見をいただければと考えている次第でございます。   なお,②の点で若干補足いたしますと,これは既に刑事訴訟法の299条の2という規定がございます。前回の部会のときにお配りいたしました参考資料の1で申し上げますと8ページでございます。これは,いわゆるお礼参り等のおそれがあるといった場面でございますけれども,そういった場合には,検察官又は弁護人は,証拠開示をするに当たりまして,こういった証人とか鑑定人,通訳人もしくは翻訳人等の方の氏名あるいは住所などが被告人を含む関係者に知られないようにすること,その他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができるという規定が既に前例としてあるわけでございます。刑事法部会では,こういった前例に倣いまして,被害者情報の保護の観点からも,同様の制度を設けてはどうかということを検討しているという状況でございます。   この点につきまして,今回の資料の6ページでございますけれども,民事と刑事との違いといったものを踏まえて,民事訴訟法においても同様の規律を設けることの必要性あるいは合理性があるかどうかという点について御審議いただければと思っているところでございます。例えば①の起訴状朗読等の際の保護でございますけれども,民事の場合には,書面を陳述するという場合でも,別に法律上,書面の朗読という制度はございませんし,また現実の実務の運用上,朗読ということは余り行われないわけでございまして,単に「この書面を陳述します」とだけ述べるのが通例でございます。また,こういった被害者等の情報が公の法廷で明らかになる場面といたしましては,尋問の場面でそういった事項が出てくるということも考えられますので,尋問の制限等の場面でも同じようなことが問題になり得るわけでございます。これにつきましても,民事の場合には,書面の記載に基づいて内容を確認するといった尋問方法が広く行われているところでございますので,そういったことも活用して被害者情報の法廷における陳述を避けることは十分に可能ではないかとも考えられます。このようなことを考えて,①のような制度を設ける必要性,合理性についてどう考えたらよいのかという点について御意見をお聞かせ願えればと思います。   それから,②でございますけれども,これは刑事の場合には,先ほど申し上げましたように,既にお礼参りを防止するための規定がございます。ただ,刑事の場合には,弁護人がついている場合には,基本的に弁護人に証拠開示をするということになっております。したがいまして,配慮を求める相手方といたしましては,被告人はその配慮を求める相手方の範囲には入っておりません。弁護人ということになっているわけでございます。これに対しまして民事の場合には,当然その証拠自体は被告本人に渡るわけでございます。したがいまして,訴訟代理人にのみ配慮を求めることができて,被告本人には配慮を求めることができないといった制度を仮につくったとしますと,それは余り意味がないのではないかとも思われます。それであれば,そういうことに意味があるようにするために,例えば被告本人に配慮を求めることができるという規律を置くことが果たしてできるのか。仮にそういったことを考えた場合に,その求めたことの効果をどう考えるのか。そういう観点からしてこういう規律を設ける必要性あるいは合理性があるのかという点につきまして等も含めて,御意見をいただければと思っております。   以上でございます。 ● それではまずその他の①で,刑事関係で検討されていることに対応して,準備書面等の陳述に際して,被害者の氏名等を明らかにしないようにする制度の要否,これについて御意見をいただきたいと思います。事務当局からの説明は今,○○幹事からあったとおりでございまして,こういうことを言うと,口頭主義を強化するという立場からはおしかりを受けるのかもしれませんが,しかし朗読するということに制度上なっていないのは所与の前提でございますので,そのあたりも踏まえて,いかがでしょうか。どうぞ,○○幹事。 ● まず質問なんですが,今,刑事法部会の方で検討されているのはこの①,②ということですと,尋問の場合に,被害者の氏名を明らかにしないような尋問まで制度として検討されているのかというのが一つございます。住所まで尋問で明らかにしながらやることは余りないと思うのですが,当然氏名はどんな尋問をするにしても出てくると思うので,それが検討されているのかということが一つございます。それで先ほどおっしゃいました口頭主義の点からかなり不満があるのですが,訴状,答弁書,準備書面の方は確かに「陳述する」と述べていることが通例だということは認めますので,それを通例として議論されてもよろしいと思うのですが,尋問の場合は,幾ら陳述書が出ていても,「陳述書のとおりです」ということはいたしておりません。その場合,先ほどの刑事訴訟法のことから,名前を言わずに尋問するということまで考えなければいけないのか。刑事訴訟法ではどう考えられているのかわかりませんが,民訴で名前を言ってはいけないという尋問はやりにくいので,当事者権という立場からかなり問題があると思います。 ● ありがとうございました。 ● 今の点でございますけれども,刑事訴訟におきましては,先ほどの参考資料の1で申し上げますと,7ページから8ページにかけて295条の2項という規定がございます。これはやはりお礼参りの関係の規定でございまして,そういったおそれがある場合には,証人,鑑定人等の住居,勤務先その他云々につきまして尋問を制限することができると。ただし,検察官の側で言えば,「尋問を制限することにより犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがあるとき」,それから被告人の側からしますと,「被告人若しくは弁護人のする尋問を制限することにより被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは,この限りでない」。したがって,実質的に当然必要な尋問は制限できないのですが,そうでないようなものについては,こういう事項について尋問を制限することができるという規定が既にございます。刑事法部会の方では,この規定があることを前提といたしまして,犯罪被害者の方の氏名も含めて,そういった犯罪被害者の特定につながるような情報について,尋問の制限というものを考えてはどうかということが議論になっていると理解しております。 ● 今やっているわけですね。 ● はい,現在,刑事法部会で審議しております。   あとは,氏名につきましては,これはなかなか実務的なことにかかわりますので,余り私から申し上げるのもどうかとは思いますが,この資料で「書面の記載に基づいて内容の確認を求める」というのは,例えば,ある意味ではもう余り問題ではないような客観的に明らかな事項につきましては,陳述書等の書面の記述に基づいて,「このとおりで間違いありませんね」といった内容の確認を求めるということでもできるのではないかという趣旨で書いているものでございます。もちろん,それが本当にその事案にとって必要なことであって,その人の氏名が何であるかというのが非常に重要なものであれば,仮に先ほど述べた295条の2項のような規定を置いたとしても,それはもともと制限できないものではないかなと思います。 ● ○○幹事,よろしいですか。 ● 要するに,尋問において氏名を明らかにしないということを民事訴訟法の法制度として考えるという意味ではないという御趣旨ですね。 ● そういう趣旨です。 ● そういう趣旨。 ● はい。 ● もしそういう趣旨であると,これは法律を規定しなくていいのではないかとおっしゃっているのですが,規定しないと,そんなことはしませんよ,だれも。要するに,尋問で被害者の氏名を明らかにしないように尋問しろというのは,もう法律に縛られなければやるはずがないと思うのです。やります,必ず,氏名を明らかにして尋問は。そうすると,できるから規定は要らないのではないかというのは問題の立て方としておかしくて,むしろそういう必要があるのだったら,そういう規定をすべきではないかという問題の立て方にされないとおかしいのではないかと思いますが。 ● なるほど。現在の実務慣行から見て,そのようにならないということですね。 ● ええ。準備書面の方はまだ「陳述する」ということでほとんど済ませておりますから,今の何も規定しないままでも氏名等を明らかにしないで済む可能性もございますが,尋問については,規定しない限りは,議論は必要です。 ● なるほど。   どうぞ,○○幹事。 ● 私自身も,この制度としてつくるということは,多分かえって硬直的になって非常によろしくないのかなと思うのですが,どちらかといいますと,先ほどの○○幹事の説明やこの書面を見て私が抱いていたイメージとしましては,例えば強姦の被害者が証人として立つときに,これが普通の証人尋問ですと,裁判所としても証人の人に証言台に来てもらった上で,出頭カードをもとに,「名前はだれそれさんですか」という質問をしたり,あるいは「住所はどこそこの何番ですか」ということを聞いたりするわけですが,恐らく今のようなケースですと,そういった名前や住所を傍聴人に聞かせるような形で読み上げるということは差し控えることになっているのではないかなという気もいたします。そのような事例で,出頭カード等を実際に代理人の方にも事前に見ていただいて,本当に申請されているその人なのかどうかということは出頭カード等で確認していただくにしても,その名前を裁判官があえて読んだりしなくてもいいのではないか。その意味では,そういう事案であれば,当事者の方にもある程度御協力いただいて,質問のときには「証人は」とか「あなたは」といった形で呼びかけていただければ,特に名前を言わなくても済むような形での運用というのはできるのではないかなという気がいたしまして,そういう趣旨で法律をつくらないといったこの注の考え方に賛成できるかなと思っていたのですけれども。 ● 多分,名前をおっしゃるかは,本人確認のときにはおっしゃるとおりだと思うのです。あと尋問の場合の「証人は」とか「原告は」ということで聞ける場合があるのですが,非常に臨場感のある場面,「ここであなたはどう言いましたか」と言ったら,「A子さんなんですか」と「A子さん」と言い,そういうときには「証人」とは言いません。そういうときにどうするのかという問題があって,そう簡単に尋問で名前を出さずにできることを前提として議論されると,ちょっとどうかなという気がします。 ● そうすると,○○幹事がおっしゃったような現在の実務のあり方からすると……。 ● 規定を設けないのはよろしいんですけれども,その規定を設けないことの理由がちょっとどうかなという気がしましたので,あえて質問してということです。 ● なるほど。積極的に規定を設ける方がいいという御意見ではないんですね。 ● そうではないんです。かなりの部分,配慮はできるとは思うのですけれども,それにしても,特に尋問の場面ではできないことの方が多いのかなという気がしますので。 ● どうぞ,○○委員。 ● 起訴状朗読の場合とか,起訴状をずっと,要するに犯罪の被害者になったときとその民訴のかかわりみたいなものになりますが,当事者になったら,まず名前はなしでよろしいんですか。当事者に,訴訟の原告とかになったときに,名前を伏せたまま訴訟できるのですか。 ● ですから,準備書面を陳述するときには,「準備書面のとおり」だけというのもあるし,たとえ「それを読み上げよ」と言われても,「原告は」とかということで済む場合が多いと思います。全部読み上げると,本当に全部名前を伏せられるかというと,特に証人の場合は難しい場合があります。ただ,準備書面の場合は,確かに口頭主義に違反するんでしょうけれども,余り細かく読み上げはしておりませんので,それは法廷で名前を言わずに済むと思うのですが,証人尋問というのは割合いろいろなバリエーションがあって,名前を言わずに尋問できるかというか,こちらの尋問では言わなくても,証人の証言,その証人はここで保護される犯罪被害者とは限らず,被告本人ということもあり得るわけですから,そういう人に名前を言わないで証言しろというのはちょっと難しいでしょうという話を申し上げたわけです。 ● 場合によっては言わなければしようがないというところがどうもあるみたいに感じましたもので,できたらそれを明らかにしないようにする制度というのがもしあり得たら,できたらいいんでしょうけれども,民訴ではどうも限界が出てきそうだということをお聞きしていて感じたんですが,一般的な制度でそんなものがつくれるかというのも,その運用であとは何とかということはわかりますが,そんな制度を構築できるのかというのがどうも気になるんです。 ● どうぞ,○○委員。 ● ちょっと別の件なんですけれども,アの①の関係で,準備書面等は朗読しないから特に問題はないという御趣旨はよくわかったのですが,訴訟記録の閲覧との関係で何らかの新たな規律はなくて済むのでしょうか。 ● おっしゃるとおり,本当に情報の保護ということを考えますと,そこまで議論が及ぶことが考えられます。ただ,果たして今回の立法でそこまで大きく議論の対象を広げられるのかという問題がございます。刑事の場合には,あるいはこの議論というものは刑事における閲覧の制度を前提とした規定だということになっているのかもしれませんけれども,一応制度としては,閲覧は別個の制度の規定であって,こちらの刑事訴訟法の先ほど申し上げました295条の2項のような規定も,これは公開の法廷で明らかになることを防ぐということが趣旨の規定でございますので,今回の資料で私どもが提案させていただいておりますのは,一応その限りにおいての御検討でどうかという趣旨でございます。 ● ただ,傍聴人に当たるような一般の第三者が中身を知ってしまうという問題は記録についてもあって,今の民訴の92条では,保護主体として「当事者の私生活」ということでプライバシーという保護はあるのですけれども,証人等の,あるいは被害者の,そういう保護主体はないものですから,どうかなと思ってお聞きしたわけです。 ● わかりました。   どうぞ,○○委員。 ● 今の○○幹事の話と関連するのですけれども,付添いにしても遮へいやビデオリンクにしても,いわば直接主義や,証言をする人の心理的な抑圧からの保護というアプローチだったと思うのですけれども,口頭主義というところになるとまたちょっと,陳述する側の,尋問する側のということになると,当事者主義,武器対等という議論が実は今なされておりまして,そこにまた口頭主義についても制限があるというような,直接そういう法律をつくるべきだという議論ではないということは○○幹事が言ったとおりなんですけれども,そういう尋問の制限ということになると,さらに一層,武器対等といいますか,そういうちょっと重たい議論に入ってきてしまうところがありまして,さらに陳述書の弊害という議論もまたいろいろなされているところなので,どうもそれを理由にしても,それがあるやり方ができるのではないかと言われると,非常にここは特に弁護士サイドとすると妙に目立つところでございまして,それだけは一言申し上げたいと思います。 ● そうしましたら,積極的にこういう制度をつくれという御意見はないようですが,ただ,それはどういうことを根拠に,つくる必要はないという判断に達するのかということについては,もうちょっと事務当局で本日の御意見を踏まえて検討してもらえればと存じます。   それから,②の方についてはいかがでしょうか。先ほど説明があったとおりですが,こういう制度を考えるにしても,被告人になる場合が多いんでしょうが,本人についてその配慮を求めるということができるかどうか,あるいは意味があるかどうかということで,これも必ずしもそういう制度をすぐ検討すべきだということにはなりそうもないという印象ではありますが,いかがでしょう。   これは,先ほどの①とは違って,その結論においても,またそれについて検討する際の議論としても,特に,ここで示したというか,こういう制度を積極的に検討すべきだという御意見はございませんか。どうぞ,○○委員。 ● お礼参りとか何とかというのは民事事件でも結構あるのではないかと思いますので,それに対する配慮というのはできるのならしておいた方がいいとは思います。その仕組みが難しいということでしょうけれども,不法行為訴訟などを考えたら,刑事事件と同じような形でお礼参りはあり得ると思います。現実にちらほらそういう話を聞きますから,できればということでしょうが。 ● ○○幹事,そういう実態などを踏まえて,いかがでしょうか。 ● 私は,民事訴訟でも,それはなるべく伏せてやった方がいい場面があることは確かだと思うのです。ただ,それがすべてマスクしてできるかというと,先ほどの証人尋問などは,もちろん規定されるのも困るし,規定がなくてもなかなかそこは配慮できない場面があります。それから,むしろ証拠開示手続などというのは,刑事ほど民事は厳しくやっていませんし,それこそいつやったかわからないような状況で,弁論準備の中で書証を見せ合って,特に読み上げもせずにやっておりますので,規定しても害はないし,規定しなくてもマスクはできるという感じがいたします。 ● それでは,特に②の方については,それほどこういう制度を積極的につくるべきだという,あるいは潜在的な必要はあるのかもしれませんけれども,ぜひ制度としてつくれという御意見はないように思いますので,一応そういうことで今回は終わらせていただきたいと思います。   全体につきまして,何かさらに御意見等はございますか。どうぞ,○○委員。 ● 中身というより資料のことで,今日は参考資料4で非常にいい資料を出していただいて,それでまたおねだりして恐縮なんですけれども,今日のテーマにも性犯罪がどうかということがありましたのと,○○委員の貴重なお話を聞けて,できましたらなんですけれども,このうちの特に,多いところは多いのでちょっと言いにくいんですけれども,どういう犯罪でこういう措置が採られたのか。特に大きく分ければ,性犯罪が多いのかなという感じはするんですけれども,157条の4第1項第1号ですか。ただ,ちょっと数が多いので非常に言いにくいんですけれども,恐らく民事でも参考になるような感じがしまして,厳密ではなくてもいいんですけれども,おおよそどんな事件にこういう措置が採られているのかというのが,何罪,何罪と細かくでなくてもいいんですけれども,大ざっぱに,要するに例えば性犯罪とそれ以外の財産犯と身体的犯罪とか,何かそんなのでおおよその目安をやっていただければ非常に参考になるかと,非常に御負担をかけて申しわけないんですけれども。 ● では,具体的にどんな事案が採られたかということで,公刊物等によってちょっと見てみますと,施行前,施行後を含めて,統計としてはちょっとないんですが,具体的な事案だけで公刊物等で申し上げますと,今,委員から御指摘のあった性犯罪の被害者,殺人事件の目撃者とか,恐喝,傷害などの粗暴犯の被害者とか,あとは青少年愛護条例違反における被害児童といった事案の場合に採られているという報告がございます。 ● それは公刊物なんですか。 ● 公刊物では,一般的な記述はあるとは思いますけれども。 ● それだけで結構です。数の内訳というんですか,どれくらいありますか。 ● そこまであるかどうか,少し次回までに調査してみたいと思います。 ● 一番気になっているのは,例えば交通事故の中で,先ほどのビデオでは,非常に交通事故の被害者が多くて,確かに心理的,精神的に参っている被害者の方や遺族は多いと思うのですが,民事的に言うと,交通事故というのは,酒酔い運転でかなり故意に近いものもありますけれども,過失犯です。過失犯にまでこういう遮へいを採ることを刑事でやられているか。民事でももしこの規定を入れると,そういうことが考えられるのか。そうなると,刑事では有罪で,民事的には過失相殺をかなり証人尋問でやりたいところだという要請もありますので,そのあたりはどうかと思います。今のお話ですと,過失犯で遮へい等を採られていることは余りないのでしょうか。 ● いかがですか。 ● 今私どもで集めた公刊物等では,どちらかというと強行犯とか性犯罪とかというのが典型的な採られた例として挙げられておりまして,公刊物等では過失犯というのは,ぱっと見たところではちょっと見当たらないという感じであります。 ● ただ,先ほどの要件に戻るのですけれども,要するに陳述可能かどうかというところは余り要件にしないで,不安や緊張を和らげるという要件を前面に押し出すと,かなり交通事故などでもそういう措置が採られる場合が出てきてしまいますか,では。そうなるとちょっと,かなり弁護士会では恐らく抵抗が出てくるんですが。 ● なるほど。では,そこはいずれにしても,もし調べられるものがございましたら,お願いいたします。   それでは,もし他に特にございませんようでしたら,最後に事務当局から今後の予定等についての事務連絡をお願いいたします。 ● それでは,次回でございますけれども,第3回は12月15日の金曜日,時間は本日と同じでございまして,午後1時から午後5時を予定しております。ただ,場所が前回と今回と違いますので,御注意をお願いしたいと思います。場所は,法務省の20階の法務省第1会議室でございますので,よろしくお願いいたします。   次回は,本日までの御審議の結果等を踏まえまして,要綱案の第1次案を議論のたたき台として事務当局の方で準備させていただければと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ● それでは,本日は大変長時間にわたりまして熱心な御審議,ありがとうございました。また次回もどうぞよろしくお願いいたします。 -了-