法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会               第4回会議議事録 第1 日 時  平成18年12月1日(金) 自 午後1時31分                       至 午後4時55分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度及び犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度の新設等のための法整備について 第4 議 事 (次のとおり)                議        事 ● 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会の第4回会議を開催いたします。 ● 本日は御多用中のところお集まりいただき,ありがとうございます。  前回と前々回の会議で,諮問事項の第1から第4までについて,具体的な論点についての一通りの議論を行いました。本日は,諮問事項第1の「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度」及び諮問事項第2の「公判記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大」について,引き続き議論を行いたいと思います。  議論の進め方ですが,これまでと同様,まず諮問事項第1について議論を行い,次いで諮問事項の第2について議論を行うこととし,その際,まず事務当局からそれぞれの諮問事項に関する資料の説明をしていただきたいと考えておりますが,このような進行でよろしいでしょうか。  それでは早速,諮問事項の第1についての審議に入りたいと思います。これにつきましては,第2回会議で用意していただいた資料を加筆修正したものと,諮問事項の主たる論点について第2回会議で示された意見等の概要をまとめたものが,本日用意されております。まず事務当局からこれらの資料の説明をしていただきます。 ● 今回用意させていただいた資料は2点ございます。まず1点目が,資料番号25の「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度(諮問事項第一)に関する資料」と題するものであり,これは第2回部会,以下便宜上「前回の部会」と呼んでいきますが,前回の部会における議論等を踏まえまして,その部会において使用した資料を加筆修正したものであり,その加筆修正部分にアンダーラインを引いております。  2点目が,資料番号26の「諮問事項第一の主たる論点について,第2回会議で示された意見等の概要」と題するものであり,これは本日の議論の参考としていただくために,前回の部会における意見等の概要を論点ごとにまとめたものでございます。なお,この意見等の概要につきましては,前回の部会において示していただいた御意見等を事務当局において適宜要約した上で作成したものでございます。できる限り御発言の趣旨に沿うような形で要約させていただいたつもりではございますが,御発言の趣旨が反映されていない部分がございましたら,御容赦いただきたいと考えております。  それでは,本日用意させていただいた資料の1点目の「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度(諮問事項第一)に関する資料」につきまして,その修正部分を中心に御説明させていただきます。  まず第1の5についてでございますが,ここは「二週間以内」としていたものを「一定の期間(例えば二週間以内)」と修正いたしました。これは,無罪等を理由として第1の1の請求が却下された場合においても,時効中断の効力等を維持させるための,いわば訴訟とのつなぎの規定という趣旨で記載したものでございますが,前回の御説明でも申し上げましたとおり,これにつきましては,技術的・細目的な事項になってくると思われ,他の規定との整合性をも考慮しながら更に検討していく必要があると考えていることから,現段階では,このような形にしておくことが適当と考えたものでございます。  次に,第2の4について,仮に裁判の方式を決定とした場合には,これに仮執行宣言を付することができることとするか否かという論点を追加させていただきました。これは,前回の部会における○○委員からの御指摘に基づくものでございます。第2の4の裁判の方式を判決とした場合には,当然に仮執行宣言を付することができることになると思われますので,この論点は,裁判の方式を決定とした場合に問題となる付随的な論点ということになるかと思います。なお,前回の議論におきましても,審理の方式を必要的口頭弁論とした場合には裁判の方式は判決となり,任意的口頭弁論とした場合には決定となることについて,特段の異論は見られなかったところでございますので,この仮執行宣言の論点につきましては,審理の方式をどうするかという第2の1の論点とも関連するものでございます。  次に,第2の5でございますが,これは,民事の審理の段階における記録の閲覧等に関する規定でございます。前回の部会におきまして,○○委員から,被告人が刑事記録にどのようにアクセスできるのかといった問題提起がございました。この点につきましては,被告人に限らず,被害者側においても問題になることでございますが,民事の審理の段階においては,通常の民事訴訟と同様に,原則として,当事者双方に記録の閲覧等の機会を与えるべきではないかと考えられたことから,この趣旨の規定を追加いたしました。なお,第2の5のただし書きにおいて,刑事記録については裁判所が許可したものに限って閲覧等を許すこととしております。これは,関係者のプライバシー等との関係で不相当な部分があるためでございますが,このような弊害がない限り,基本的には閲覧等が許されるべきであると考えており,その意味では,犯罪被害者等による公判記録の閲覧等や刑事確定訴訟記録の閲覧と同様の範囲になろうかと思われます。また,被告人側から申立てをすれば,その申立てをした部分の記録だけは裁判所から交付されるような仕組みについての御提案もございましたが,この問題は被告人のみに限られた問題でもなければ,本制度においてのみ生じる特有の問題でもなく,民事訴訟法又はその規則におきましても,そのような手当てがなされていないことから,御指摘のような制度とするのは適当ではないのではないかと考えております。  最後に,第3の2の当事者の移行権について修正いたしました。これまでの資料では,「被害者等にのみ移行権を認める考え方」をA案として掲げていたところですが,前回の部会におきまして,○○委員から,刑事判決の前後,第1回期日の前後で当事者の移行権についての要件を異にする考え方をお示しいただきました。そこで,このような○○委員の考え方をA案としたところでございます。また,B案及びC案につきましても,若干修正をしておりますが,実質的な中身は変わっておりません。  この当事者の移行権につきましては,移行を認める利益としてどのようなものが考えられるのか,当事者の公平の観点から双方に移行権を認めるべきか,この手続での解決を求める相手方の利益を保護するため,その同意を要件とするのかなどを検討する必要があると思われます。一方で,当時者に無条件の移行権を認めてしまいますと,結局被告人と被害者の双方の同意がない限りこの手続で審理をすることができなくなることと等しくなるのではないか,また,第3の3では,通常の民事裁判所に移行された場合には,この手続の記録を送付することとしていますので,この手続における審理の前に移行された場合には民事裁判所に刑事記録を送付することもできなくなるのではないかなどの問題も生じ得るところであり,この制度の実効性の確保の観点から,そもそも当事者に無条件の移行権を認めることが適当であるかという点についても,検討する必要があると思われます。  以上が修正部分の説明でございます。  なお,併せて前回の部会におきまして御指摘のありましたいくつかの問題について,簡単に御説明をしておきたいと思います。  まず,前回の部会におきまして,諸外国で導入されている損害賠償命令制度の概要及びその功罪について紹介してほしいとの御意見がございました。アメリカやイギリスで導入されている損害回復命令や賠償命令の概要につきましては,第1回部会において配布させていただいた資料番号18の「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度に関する外国法制の概要」において紹介されておりますので,そちらを参考にしていただければと思います。  また,このような制度を導入する場合の功罪についてですが,これも第1回部会において配布させていただきました資料番号17の「犯罪被害者のための施策に関する調査・研究(中間取りまとめ)」の30頁に記載されておりますので,参考にしていただければと思います。なお,その内容等を簡単に御紹介いたしますと,法務省におきましては,平成15年9月から,現行の制度に加えて更にどのような被害者の保護・支援の充実を図ることができるかについて,調査・研究するための研究会を開催しておりました。先ほどの資料17は,この研究会の中間的な取りまとめでございますが,これによりますと,諸外国で導入されている損害賠償命令等の制度を導入することにつきましては,「簡易迅速に賠償命令が出されるとすれば,被害者にとってメリットがあるのではないか」とされる一方で,「損害賠償命令の法的性質については,刑罰に近いものととらえる考え方と,民事賠償を命ずるものととらえる考え方があり得るが,仮に,その法的性質を刑罰ととらえるとした場合には,主刑,付加刑,付随処分等どのような性質の刑罰と考えるのか,また,本来の主刑の重さにどのような影響を与えるかを検討する必要があるのではないか」,また,「民事訴訟と同じく厳密に損害額の認定を行うのであれば,民事上の争点が刑事裁判に持ち込まれる結果,迅速な刑事裁判の実現を阻害するおそれがあるのではないか」,「その一方で,刑事裁判で取り調べた証拠の範囲で認められる損害額についてのみ,賠償命令を発するものとすると,被害者は,別途,民事裁判で残額の請求をせざるを得なくなり,被害の実態に即した有効な救済とならないのではないか」などの検討すべき課題が示されているところです。  また,前回の部会におきまして,全く争いがないような軽微な事件において,例えば督促手続のようなものを本制度とは別に設けることを検討すべきではないかとの御提案もいただきました。この点につきましては,正に御提案されたような制度として,現行法上,いわゆる支払督促の制度がございます。これは,金銭等の給付を目的とする請求につきまして,債権者からの申立てがあったならば,債務者の審尋をすることなく,また,証拠調べをすることもなく,債権者の主張するとおりの金銭等の給付を命ずる支払督促が発せられ,これに対して一定の期間内に異議が出されない場合には,これが確定判決と同一の効力を有することになる制度でございます。したがいまして,御提案のような制度を新たに導入するとしましても,この支払督促の制度を超える利点をどこに見出していくのかということが問題になると思われます。  以上,簡単ではございますが,資料等についての御説明をさせていただきました。皆様におかれましては,ここに記載した論点を含めまして,幅広い観点から御議論いただければと考えております。以上です。 ● ただいまの説明につきまして,まず御質問等はございますでしょうか。 ● 今日の第2の5で,前々回○○委員が質問した記録の謄写・閲覧の規定が入っているのですが,○○委員が質問した中身として,現在の民事訴訟におきましては,相手方当事者が提出する書面等については,相手方に直送するなり,交付するなりしているが,その現状はどうなるのかという質問が含まれていたと思うのですが,これは,今の民事訴訟の規定にも直送の規定とかはございますけれども,それがそのままこの損害回復の手続の中にも入ってくると理解してよろしいんでしょうか。 ● まず,被害者側が提出する証拠につきまして,相手方に直送するということにつきましては,技術的な面もありますので,関係当局とも協議しながら更に詰めていきたいと考えておりますが,基本的な考え方の方向性としては,現行の民事訴訟法の運用あるいは手続と変わるものではないと考えております。なお,今回の手続につきまして,当事者にそういったものを送るのかどうかということにつきましては,今回,その取り調べることとなる刑事訴訟記録というのは,いわば中立的なといいますか,刑事の裁判所と同一の裁判体である民事の裁判所においてその取調べをするということでございます。すなわち,例えば被害者側のものとしてそれが用いられるわけではなく,あくまでもいわば中立的といいますか,同一の裁判体である民事裁判所の手元に来て,それが取り調べられるということでございます。したがいまして,例えば被害者としてその閲覧・謄写が必要ということであれば,民事の関係で今回設けました閲覧・謄写の規定を用いて閲覧・謄写をしていただくことになりますので,そこは特に被害者側に偏った制度であるとは考えておりません。 ● 今の点に関連してですけれども,私が前回指摘させていただいたのは,主に念頭にあったのは刑事記録の問題でした。それについては今回も規定が出てきてはいるのですが,私自身が問題にしていたのは,被告人側がこの刑事記録の中でここを見たい,ここをもう一度点検したいと言ったときに,記録のこの部分は送ってもらえるのかといったことだったのですが,今回の規定は,裁判所の判断でそういうこともあり得ると考えていいのかということが一つ。  それと,刑事記録以外の損害に関する主張とか証拠書類は,当然に被告人側に副本が送られると私は思っているのですが,現在も民事訴訟法では,訴訟法の規定ぶりは同じですけれども,民事訴訟規則の137条で,副本を含めて2部提出し,場合によっては直送ができるという規定があるので,民事の損害に関する主張書面と証拠書類については,現行の民事訴訟規則と同じような規定が準用されると考えていいのか。今おっしゃるのを聞いたら,まだ検討事項のような感じでおっしゃったのですが,当然それは被告人側に送達されなければ話にならないと思いますので,その点はどうなのでしょうか。 ● まず1点目の記録の交付請求につきましては,今回設けました第2の5におきましても,その謄本等の交付請求をすることができるものとすると規定してありますので,要するに民事のステージに入って訴訟記録として取り調べられれば,あとはその謄本の交付請求の規定を使って,被告人としてもその記録を入手することができるということになります。  2点目の直送の規定については,繰り返しの説明になってしまうかもしれませんけれども,基本的な方向性としては,現行の民事訴訟の運用あるいは手続等を変えることはないと考えております。したがいまして,例えば被害者が独自に入手して提出する証拠というものについては,それは当然直送ということになってきますし,逆に被告人が同様の証拠を出すということであれば,それはやはり被害者側に送っていただくということになるかと思います。 ● これは変更された規定ではないのですが,第3の3,これは民事裁判所に移行されたときの記録の送付についての規定でございますけれども,刑事事件が控訴されたようなケースの場合にはこの規定はどのようになるのかということについて御質問したいのですが。 ● お尋ねの趣旨は,要するに刑事訴訟記録の原本というか,記録そのものは1つしかないので,刑事事件が控訴審に移って,また民事は民事で別にやるということになった場合どうするのかということでよろしゅうございますか。そこはお尋ねの中にその趣旨が少し入っているかもしれませんけれども,結論的に原本となるものは1つしかございませんので,あとは必要に応じて写しを作るということもあり得るのではないかと考えております。 ● ほかの点で,今回論点として付け加えられました第2の4の仮執行についてのところなんですが,ここを見ますと,「決定によるものとした場合には,これに仮執行宣言を付することができるとするか否か」ということで,これは任意的な仮執行宣言と理解していいのでしょうか。それとも,仮執行を必ず付けるといった必要的なものではないという理解でいいのでしょうか。 ● ここにつきましては,「仮執行宣言を付することができるとするか否か」ということで,まず,先ほど事務当局説明で少し触れましたように,そもそも第2の4の裁判を決定によることとした場合に,仮執行宣言を付することができるとするのか否か,そこがまず第1の論点になると思います。その上で付することとした場合に,それを委員御指摘のように,裁量的とするか,必要的とするかということは,更にその上での議論として俎上に上がってくるものではないかと考えております。 ● そのほかに御質問はございますでしょうか。--御質問がなければ,議論に入りたいと思います。  これまでと同様に,「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度(諮問事項第一)に関する資料」,これは資料25でございますが,これに沿って議論を進めたいと思います。ただいまの説明にありましたように,本日新たに示された論点として,第2の4の仮執行宣言に関する論点,第2の5の記録の閲覧等に関する論点,第3の2の当事者の移行権に関する論点がございます。そこで,まず本日示されたこれらの論点について議論を行い,その後に第2回会議で示された意見等の概要をまとめた資料を参考にしながら資料の第1の項目から再度の議論を行いたいと考えておりますが,そのような進行でよろしいでしょうか。  それでは最初に,資料の第2の4,仮執行宣言に関する論点について議論を行いたいと思います。これは,先ほどの説明にもありましたように,裁判の方式に関する論点が前提になっており,また審理の方式に関する論点もこれにかかわるものでございます。  まず審理の方式に関する論点についてですが,犯罪被害者等基本計画において新たに導入することが求められている制度は,簡易迅速な手続とすることができる制度ということであります。前回の審議においても,このような簡易迅速な手続ということを考えた場合に,審尋でも審理を行えることとする方がよいのではないかとの御意見が多かったように思われます。また,先ほどの説明にもありましたように,審理の方式をこのような任意的口頭弁論とした場合には,裁判の方式は決定になるということについては,異論はなかったと思われます。そこで,裁判の方式を決定にするという前提に立って,仮執行宣言を付することができることとするか否かについて議論を進めたいと考えております。ただいま委員からありました御質問等も前提に,議論を進めていきたいと思います。どなたか御発言をお願いいたします。 ● 口頭弁論か審尋かというのは,その後の裁判の形式がどうなるかということに影響するんだと思うのですが,現実の審理の姿がどうなるのかということを考えたときに,特に拘束されている被告人が相手方になっているので,私もじっと考えると,これは押送してくるかどうかということも,この前も裁量なんだという話だったんですが,仮に押送してくると,結局警備の都合上,やっぱり法廷を使って,実際上の退席のような形でやらざるを得なくなるのかなと。ですから,結局非公開になるということだけの違いで,実際上の何か法廷の姿みたいなものが,実態としては口頭弁論と言っても審尋と言っても違いが余りないのかなと思うので,どこに具体的な審理の違いが出てくるのかということをもう少し,何か私が気が付かないことがあれば教えていただきたいのですが。 ● 説明が少し長くなるかもしれませんが,手続の基本をなすところですので,少し丁寧に説明させていただければと思います。  口頭弁論とは,公開主義,双方審尋主義,口頭主義,直接主義等の基本原則の下,裁判所の面前で,当事者双方が関与して口頭で弁論とか厳格な証拠調べを行って裁判資料を収集し,それに基づき裁判をする審理手続又は審理方式でございまして,民事訴訟法においてはこの審理方式が採られているということでございます。これに対して審尋とは,民事保全手続など,その性質上簡易迅速な処理を行う必要がある手続において採られているものでございまして,必ずしも公開を要せず,口頭又は書面により裁判所に対し一定の陳述をなし,適宜の方法による証拠調べを行って裁判資料を収集し,これに基づき裁判する審理手続又は審理方式であるということかと思います。  口頭弁論との具体的な違いでございますが,まず公開主義との関係では,口頭弁論においては公開の法廷で行わなければならないというのが原則であるのに対し,審尋においては必ずしも公開の法廷で行う必要はない,会議室等でも行うことができるということが言えるかと思います。また口頭主義との関係につきましては,口頭弁論においては当事者が出席して口頭で陳述をしなければならないというのが原則であるに対し,審尋においては書面の提出による主張も認められるということが挙げられるかと思います。さらに,直接主義との関係では,口頭弁論においては判決をする裁判官自身が弁論の聴取や証拠調べを行わなければならないのが原則であるのに対し,審尋においては例えば受命裁判官にこれを行わせることができるといったものもあるかと思います。  その他証拠調べの方法につきましては,例えば証人尋問につきましては,口頭弁論においては証人には不出頭や証言拒否に対して制裁が課されており,その尋問は定められた順序に従って証人に宣誓させた上で行われるのに対し,審尋においてはこのような制裁や制約のない適宜の方法,柔軟な方法でこれを行うことができるということが挙げられるかと思います。 ● 法廷の姿形というお尋ねでございましたが,現在の刑事事件の手続では非常に高いパーセンテージで弁護人がついているわけですけれども,この弁護人は,民事の手続に移行しました場合,どういうことになりますでしょうか。 ● この刑事の弁護人というのは,あくまでも刑事訴訟法上の訴訟行為について代理権を有すると考えられます。したがいまして,別個に民事手続上の訴訟行為についての委任を受けていれば格別,刑事の弁護人であるというだけで,民事の手続における訴訟代理権を有するということにはならないと整理しているところでございます。 ● 被告人の方で実質的に民事の関係でも,弁護というか,代理というか,それを依頼したいと思ったときの手続はどうなりますか。 ● あとは,いわば刑事ということを少し切り離して考えていただいて,例えば家族を通じて民事の訴訟代理人を頼むとか,そういった形で適宜の方法で選任するということが想定されるかと思います。 ● それでは,改めて第2の4のところの仮執行宣言を付することができるとするか否かについて御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 私は,審理方式とかはできるだけフレキシブルに対応できるような任意的な口頭弁論という形がよろしいと思いますし,そうなると決定ということになるのですが,理論上の面は専門の先生にお考えいただきたいと思いますけれども,できるだけ被害者が簡易迅速な手続で,そして実際に被害回復ができるということを考えますと,やはり仮執行宣言は付した制度が目的にかなうと考えております。 ● 任意的口頭弁論でも証人申請はできますし,それから証拠保全を別にやったところでも証拠でそこに出すこともできますので,あとは審尋の場合にも,被害者だけでもいいし,双方が立ち会う権利を与えてもらうとかといったことがきちんとできれば,判決でやる必要もないのではないかと思います。ただし,その場合には,決定でもいいんですが,決定には必ず理由は書いていただきたい。ただ処分ばかりで,決定理由は書かなくてもいいことになっておりますけれども,ぽんと出すのではなくて,ある程度のきちんとした理由を書いていただきたいなということが一つ。それから,仮執行宣言は是非必要的に付けていただきたいと思います。 ● 刑事裁判官の立場から申し上げますけれども,刑事で有罪の判決を言い渡す以上は,当然のこととして,原因論のところは間違いないという心証を取っているはずであります。そして,損害論についても間違いないという心証が取れる事案も少なくないはずであります。そのような事案を考えますれば,必要的という意味ではありませんが,仮執行宣言を付することができるようにしておくべきであると考えます。それが損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度の趣旨にもかなうものであると思います。 ● 2つあるのですけれども,1つは,私がかねてから問題にしている被告人側の手続保障,出廷であるとかという問題が不十分なままで仮執行を命ぜられるということが適切であるかどうかということ。もう1つは,この手続に乗っていけば,最終的に仮執行を付せられることがあるんだということになれば,必要的であればもちろんですが,任意的であってもそういうことがあるのであれば,そのリスクを避けるということを被告人は考えるし,また,例えば私が国選弁護人で,「先生,この有罪判決があった後,この手続に乗っていっていいのでしょうか」と言われたときに,私は被告人に,例えば財産があったり,仮執行されると困る被告人であれば,「それであれば,あなたはこの手続に乗らない方がいいよ」と。ですから,今回の移行権の問題でいえば,一切認めない考え方になれば,これは降りられないわけですけれども,被告人と被害者のどちらも有罪判決後は降りられる,通常それでいけるというのであれば,「そちらの方向を選択した方があなたにはリスクがないよ。あなたが何も執行されるものがない無資力であれば,どちらでもいいけどね」という形で言うことになるのではないかなと思うので,この裁判の効力を強くすればするほど,それの不利益を受ける被告人側はこの手続から降りようとするといった副作用というものも出てくるのではないかという点をどう考慮するかということも考えておかなければならないのではないかと思います。 ● 先ほどの御意見と重複するかもしれませんけれども,私も手続はなるべくフレキシブルな方がいいと思いますので,任意的口頭弁論あるいは審尋でやるということの方がいいと思います。その理由は,性犯罪の被害者の方などは出てきたくないという場合もあるでしょうし,また,証人の負担を重くしないという観点も必要だと思いますので,そういう意味ではフレキシブルな手続がいい。もっとも,○○委員がおっしゃったように実効性ということはやはり必要だと思いますので,そういう意味で,決定でということになると,仮執行宣言を付けられるということをはっきりしておいた方がいいという意見でございます。 ● 資産のある加害者は,刑事で負けそうになると,離婚したり,奥さんに財産を移したりという例はいっぱいあるんです。だから,この決定が出たときには仮執行宣言は必ず付けていただかないと,恐らく隠されてしまいます。隠された例が非常に多いんです。その面では,是非とも仮執行宣言を付けて逃げられないようにしていただきたいと思います。みすみす財産があった人たちが,隠してしまって,被害者の方は生活保護を受けるといった例もあるわけですので,是非その点をお考えいただきたいと思います。 ● 事務当局に質問なんですが,決定の場合に仮執行宣言を付すことができるようにするか否かという問題の立て方をするのは,要するに,判決ではなく決定ということになると,手続が簡単になるので問題が出てくるということだと思います。そこで,手続保障と仮執行宣言を付すこととの対応関係なんですけれども,民事訴訟法上,どういう場合であれば仮執行宣言を付することができるかといった点について,どのような議論がなされているかを教えていただけませんか。これは,仮に審尋の手続を採るとして,その手続の中身をどうするかという話にもつながってくると思いますので,その辺りを御教示いただけるとありがたいです。 ● 取りあえず私どもで確認した範囲で簡単に御説明しますと,まず民事訴訟法上は,基本的には判決ということで,これは仮執行宣言を任意的に付することができるということになっているかと思います。また,これは必ずしも仮執行宣言ではないんですが,民事保全法上,金員仮払いの仮処分というのがございまして,これなどは比較的手続保障的には双方審尋にした場合と近いのではないのかなと考えられるんですけれども,実質的な効果としては,仮執行を認めるのとほぼ同様なものではないかとは考えられるところでございます。その他の手続としては,例えば支払督促についても仮執行宣言を付することができますけれども,これはその代わり異議を申し立てることができるということがございますので,その手続に応じて,それぞれその手続保障とのバランスを取りながら,制度を組んでいるのではないかと考えております。 ● 補足ですけれども,基本的に今おっしゃったような制度があるということだと思います。判決についてはもちろん仮執行宣言を付けることができて,私の承知している限り,必ず仮執行宣言を付けるという形になっているのは手形・小切手に関する請求権で,これはその請求権の性質にかんがみてそういうことになっているんだろうと思いますし,それからあと少額訴訟について請求を認容する判決についてはそのような形,これは少額訴訟において迅速な権利救済と,それから後で覆ってもそれほど大きな影響はないということに根拠があるのかなと思います。決定については,今御紹介のあった支払督促,これは督促異議が出されない場合に仮執行宣言が付されるという形になっておりまして,一種の消極的な同意といったことがその背景にあるのかなと思います。  本制度に似ているものとしては,前にも御紹介がありました倒産手続上の否認の請求,あるいは取締役役員の責任追及についての査定決定という制度がありますが,これは明文上は仮執行宣言が付けられるという規定はありませんが,解釈論としては仮執行宣言を付すことができるという,かなり有力な見解があるということで,そのようなことで議論されていて,○○幹事の言う一般論としてどうということは余りないのかなという感じはしますけれども。 ● ○○幹事の御質問は,要するに,手続保障がどの程度であれば仮執行宣言を付けていいのかという御質問だと思うのですが,今既に事務当局あるいは○○幹事の方から御紹介があったように,今のところ,決定に仮執行宣言を付けるということとの関係で,手続保障がどの程度だから仮執行宣言を付けることにするとか,しないとか,そういう区分けは今までの立法ではなかったのではないかと思います。ただもちろん,督促手続について考えてみますと,今御説明がありましたように,督促手続では双方審尋が初めはないわけです。その代わり,債務者に異議を1回言う機会を与えた上で,そこで異議がないときに仮執行宣言を付けられる,という仕組みになっているわけです。今回,こちらの制度をどのようにするかにもよるわけでしょうけれども,恐らく今までの議論からすれば,決定手続とするにしても,双方審尋が前提であると思いますし,しかも,3回かどうかは別としても,数回の審理期日を開いた上で決定を出すということでありますので,私の考えでは,決定手続で審理するとしても,仮執行宣言を付けるということについては,問題はないと思います。ただ,その場合に仮執行宣言を必要的とするかどうか,ここは私もちょっと迷うところで,もう少し考える必要があるとと思います。 ● 理屈の話ではないんですが,刑事裁判官が新しくこの制度をやるということになったときの裁判官の感情というか,気持ちの面で申し上げます。つまり,先ほど○○委員もおっしゃっていましたけれども,有罪の判決をしている以上は,責任論のところについては間違いないという心証を持って恐らく臨むんでしょうけれども,損害額が幾らかということになって見ると,例えば慰謝料の金額を幾らにするかということに関しては,少なくとも刑事裁判官というのは,これまで余りそういうのはやっていないわけです。そうすると,自分の判断が民事の世界で通用するものかどうかというのは,はっきり言って余り自信がない場合が少なくないのではないかという感じもいたします。もちろんそこもしっかり自信を持って決定できる場合というのもあるように思いますが,事案によってはそこについて余り自信がないような場合もあり得るだろう。そうしたときに,必要的に仮執行宣言を付けるといったシステムになっていると,自分がした決定で執行まで本当にいっていいのだろうかということを迷うケースがないわけではないのかなという気がいたします。私も,こういう制度を組む以上は仮執行宣言を付けられるようにしておくということが必要なように思いますが,必要的ということまでいくと,実際にはやや困らないかなと。つまり,判断に自信がないために,事件を移行させるといった事態を招かないかやや心配な気がします。 ● もうしばらく御意見をちょうだいしたいと思いますが。 ● 3点ほど申し上げたいと思います。   まず,○○委員がおっしゃいました双方立会いうんぬんということですが,借地借家法45条に借地非訟事件について双方立会いを求める規定がございますので,それを参考にこちらの制度も組んだ方が仮執行宣言を正当化しやすいと私も考えております。  それから,仮執行宣言を必要的とするかどうかという点については,仮執行宣言を必要的とするということだけを限って議論するよりは,異議申立てがあった場合における執行停止の要件と絡めながら議論しないと,余り生産的ではないのではないでしょうか。つまり,必要的だけれども,異議申立てによる執行停止がとりやすい制度であれば,それはそれで一つの選択肢となり得るということではないかと思っております。  それと,○○委員がおっしゃいました資産隠しうんぬんは,仮執行だけでは対応できませんので,仮差押えをどうするかということも考えていかなければいけないということになります。そういたしますと,今考えている手続に民事保全処分との関係での本案性を認めることを明らかにするという方向も1つ考えておく必要があろうかと思います。 ● 1点,先ほど○○委員の方から,手続保障とこの仮執行の問題は余り連動しないとおっしゃったのですが,今の民事訴訟法の259条は,必要があると認めるときは仮執行宣言が付けられるということで,必要性としか言っていないわけです。そういう意味では確かに先ほどの民事保全における仮払仮処分の場合に保全の必要性という要件が言われているのと言葉は似ているのですが,今,民事訴訟法の判決で仮執行がほとんど基本的には認められて付けられているという現状は,それは口頭弁論の手続による手続保障がされているから一審限りでも仮執行してもいいということなのであって,今回のような制度では,民事保全法の審尋に非常に近いように思いますので,そうすると,民事保全法における仮払仮処分などの保全の必要性というのは,今,現状の裁判では非常に厳格に判断されていて,今,生活にどう困っているのかということで,例えば労働者の賃金の仮払仮処分であっても,家計簿を出したり,どれだけの家計で今いっぱいいっぱいになっているのかどうかとか,借金をしてまで暮らしているのかどうかとか,そういう細かいところまで今保全の必要性は非常に厳しくやられているので,そういう点で言うと,やはり手続保障とこの効果との関係では,民事保全法における実態と今回のこういうものとは相当違いがあるのではないか。被害者の方が今生活に困っているかどうかという観点では判断しないということであれば,必要性であれば,本当にそのあたりはバランスを欠くのではないかなと私は思っています。 ● そのほか,御意見はございませんでしょうか。それでは,まだこの点については御議論があろうかと思いますが,取りあえずここではこの点についての審議を終了して,次にいきたいと思います。  それでは,次は第2の5の民事の審理の段階における記録の閲覧等についてでございます。この点についての御意見をちょうだいしたいと思います。 ● これは,先ほどもおっしゃったと思うのですが,確認なんですが,特に刑事記録についての閲覧・謄写などができる部分については,許可という形で裁判所の裁量にかかるということだったのですが,これはそうすると,被害者が通常公判の記録の閲覧・謄写という現行の規定に基づいて許可される部分と基本的には同じになると考えていいのでしょうか。 ● 結論的に全く同じになるかどうかは別にしましても,ほぼ同様になるものと考えております。この裁判所の許可なんですけれども,これにつきましては先ほど事務当局説明で御説明しましたように,刑事の訴訟記録の中には,第三者のプライバシーにかかわる事項が記載された供述調書のように,関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認められるような証拠とか,捜査の秘密にかかわる事項が記載された捜査報告書等のように,捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認められる証拠等が存在することから,原則的には「できる」規定になっておりますので,そういった閲覧・謄写ができるということにはしておりますけれども,一応裁判所の許可にはかからしめるということにしているものでございます。ただ,当然のことながら,今回公判記録の閲覧・謄写については,その要件を緩和しておりますし,また,この手続においては,当事者としていわば閲覧あるいは謄写をされるということですので,少なくともそれと同様の要件といいますか,判断基準によって閲覧あるいは謄写を認めるということになってくるのではないかと考えております。 ● そうすると,こう理解していいんでしょうか。現行法又は新たな立法で拡大される閲覧・謄写の範囲と,つまりこの手続を利用して閲覧・謄写をすると,手続を利用しないよりもたくさんのものが見られると考えていいのか,それは公判記録の閲覧・謄写だけでやって,それで例えばそれを通常訴訟の証拠に使うということでいえば結局同じなんですかという,どちらになるのかなということです。 ● 基本的に特段の差異が設けられるものではないと考えております。少し繰り返しの説明になってしまうかもしれませんけれども,今回公判記録の閲覧・謄写の要件につきまして消極要件にしましたように,原則的には閲覧あるいは謄写をしていただくということにしておりまして,今回の第2の5につきましても同様のものと考えておりますので,特段の支障がない限り,先ほど申しましたプライバシーの問題とか,例外的にそういった場合にはちょっと御遠慮願わないといけないと思うのですけれども,それ以外の場合には,やはり閲覧していただく,あるいは謄写していただくということになるかと思います。 ● 確認なんですけれども,結局この規定の一番の意味合いは,被告人側が押送に対して,前回確か○○委員の方から,記録にアクセスする方法はどうなんだといったことからできたのかなと思うのです。だから,先ほど言ったように,被害者は公判記録の閲覧・謄写があって,それでその確認なんですが,裁判所はその記録一式全部既にもう裁判にも出ていると,民事的に顕出しているといいますか,出ているという判断でよろしいんですよね。 ● まず,民事裁判所に出ているのかどうかということにつきましては,少なくとも刑事の記録につきましては,第1回の民事の審理におきまして,最初の期日において刑事の訴訟記録を取り調べるということになっておりますので,それ以降はそういったものが存在するということになるかと思います。  また,この第2の5の規定を設けた趣旨でございますが,専ら被告人のためなのかという趣旨の御質問が最初にあったかと思います。この点につきましては,確かにそういった読み方というか,解釈の仕方が可能なのかもしれませんけれども,もともと刑事における記録の取扱いと民事における記録の取扱いということをこれはやはり整理して考えなければいけないと思いまして,刑事においては,例えば被告人につきましては,公判調書の閲覧が一定の要件の下に認められる以外は基本的に認められないということになっているかと思うのですけれども,そういった形の規定,あるいは付随措置法において,被害者につきましては,公判記録の閲覧・謄写ということで認められるというように,刑事の方では刑事の方でいわば完結している。今度,その記録が民事に来る,あるいはそれ以外にも民事の審理中に当事者が証拠を出してくると,それについては今度は民事の手続の中での記録の閲覧・謄写として整理をしないといけないということで,この第2の5の規定を設けたということでございます。 ● 1つ質問をしたいんですけれども,この第2の5で閲覧等について適当でない部分については制限されることがあるのかと思いますが,第3の3で,民事裁判所に移行があったときに,民事裁判所へ送付される記録の中でも,「当該記録中被告事件の訴訟記録に係る部分については,相当でないものを除く」ということになっております。これと第2の5で当事者が閲覧できる部分との関係というのは,何か連動してくるところがあるのでしょうか。 ● そこは記録の取扱いに関する問題でもありますので,御議論いただければとも思いますけれども,取りあえずの粗々の考え方としては,基本的に民事裁判所に記録を送らないということは,それは送ることによって何か支障があるからと。その支障とは何かと考えると,やはりプライバシーの問題ですとか,あるいは捜査・公判に対する支障ということがあると思いますので,基本的な考え方としては同様の方向になるものとは思いますが,いずれにせよ,そこも含めて御議論いただければと考えております。 ● 先ほど○○委員の御発言の中で,訴訟記録一式を取り調べるという御発言がありました。それと関連するのですが,事務当局がお作りになった資料の第2の3のB案のところで,「被告事件の訴訟記録を取り調べなければならない」と書いてございますけれども,例えば,第3分類,第4分類と言っていますけれども,例えば被告人の身柄関係に関する,要するに勾留記録ですとか,そういうものまで本当に取り調べる必要があるのでしょうか。事務当局としてどういう整理をされているのでしょうか。 ● この第2の3のB案なんですけれども,この趣旨をまず考えますと,刑事裁判所が刑事裁判における心証をそのまま引き継ぐことによって民事の審理における事実上の拘束力を認めるという考え方を示したものと考えられるのではないかと思います。そのような趣旨からしますと,取り調べるべき訴訟記録の範囲ということにつきましては,もちろんこれは事案の内容によっても異なるということになるかと思うのですけれども,基本的には,その心証形成の前提となっている証人あるいは被告人の供述調書その他の証拠を取り調べれば足りるとも考えられまして,例えば今,○○幹事の方から御指摘のありました第3分類の書類,例えば勾留状とか保釈決定書などがあると思うのですけれども,そういったもの,あるいは第4分類はその他の記録ということで,例えば弁護人の選任届あるいは証人旅費等の請求書の写しなどがあるかと思うのですけれども,そういったものまではさすがにこれは必要ないのかなと考えております。 ● 要するに基本的には,公判調書類とか,書証として取り調べたものということになろうかと思うのですけれども,もう1点,確認させていただきたいと思います。例えば殺人について民事上の請求が起こされた場合に,それと全く無関係の,例えば覚醒剤とか,詐欺とか,何でもいいんですが,そういう罪名についても刑事の方では起訴されていると。そのときに,今の御説明の趣旨からすれば,殺人に関する証拠の部分を調べれば足りるのだろうと思うのですけれども,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ● はい,事務当局としてはそのように考えております。 ● 質問ですが,これは「取り調べた」と調書に書けばいいので,民事の記録として改めて作るわけではないですね。「刑事の記録を取り調べた」と書くだけでしょうね。 ● そこは専ら運用の問題になってくるかと思いますので,更に詰めていきたいと思いますが,例えば,刑事事件について,双方が上訴権を放棄したといった場合に,それでもあえて写しを作るのかといえば,多分それは必要ないのであろうということになるかと思います。いずれにせよ,そこは関係当局とも協議しながら更に詰めてまいりたいと考えております。 ● 例えば記録が刑事の控訴審へ行ってしまったという場合がありますね。そのときなどはどうなるのか。恐らく控訴審へ記録が行くまでに附帯私訴の審理が始まると思いますけれども,そのときに記録は取り調べたといったときに,また別に作るといったら大変ですよね。 ● 特に別に写しを作る,あるいはどのタイミングで作るかということにつきましても,やはり専ら運用の問題でもありますので,そこはまた関係当局あるいは部局とも協議しながら詰めてまいりたいと考えております。 ● ちょっと確認のための質問なんですけれども,今の第2の5のただし書きのところで,裁判所の許可を要求していますが,どういう場合に許可をするかという要件は特にありません。これは基本的には,少なくとも被害者側については,次の諮問事項第2のところの要件とほぼ同一になるという趣旨なんでしょうか。  それからもう一つの質問は,第2の5については,先ほどの議論にもありましたように,被告人側の閲覧請求もあり得るわけですが,そちらの許可の基準はどのように規律されるのか。以上の2点につき,教えてください。 ● まず規定振りの問題でございますが,最終的にはどういった場合に裁判所は許可するのかということは,これは書かなければいけないものと考えております。ただ,その辺りになりますと若干細目的あるいは技術的な話になってきますので,できればこちらで更に検討を進めてまいりたいと考えておりますけれども,基本的には,やはりそのような形で規定していかなければいけないのかなと思っております。その場合に,更に全く今の拡大というか,要件を緩和した公判記録の閲覧・謄写の書き方にするのか,それとも何か工夫の余地があるのかどうかということについても,またこれは詰めてまいりたいと考えております。  それと,2点目の御質問で被告人についてはどうなるのかという趣旨の御質問もあったかと思うのですけれども,この第2の5というのは,基本的に民事の当事者についての閲覧・謄写についての規律ということを考えておりますので,基本的には同じ方向になるものと考えているところでございます。 ● 一つ確認ですが,被告人が控訴しなければ2週間で確定するわけですから,その後に期日が開かれたときは確定記録になっているということだと思うのですが,この規定は,そういう意味では,でもその確定記録の閲覧の問題ではなくて,当事者としての権利と考えていいのかということが一つ。  それと,ちょっと違う問題なんですが,ここで謄写できた記録の利用の問題なんですが,今私たちが被告人の立場で問題になるのは,開示された証拠を,例えば民事の訴訟が起こされたときに,その反論のために使うということは,目的外利用ということで多分できないんだろうと思うのです。今回こういう手続で,民事上の手続で開示されたという証拠について,当然ながら被害者の方も,自分が関与する,この被告人に対する損害賠償請求はもちろんのこと,例えばその使用者であるとか,その関係者に対する損害賠償請求の証拠に使いたいということが多分あると思うのです。それが許されるのかどうかが一つ。  もう一つは,逆に被告人側も,今言いましたように,開示された証拠としては目的外なので使えないとすれば,今回のこの手続で閲覧・謄写を得た証拠については,この裁判で反論のために使うだけではなくて,被告人に対し,又は被告人が関与している民事事件の証拠として利用してもいいのかどうかという点をちょっとお聞きしたいんですけれども。 ● まず第1点目は,確定記録法についても刑事事件が確定した場合に訴訟記録の閲覧ということが認められているところであるけれども,それとの対比において,当事者の権利としてこれは認めるものなのかという趣旨の御質問であったかと思うのですけれども,確定記録法は,それは確定記録法の中で規律されていく問題でありまして,この手続における民事の記録の閲覧・謄写については,正にこの第2の5の規定によって規律されていくものと整理しております。  また,目的外使用の問題でございますが,これにつきましては,先ほど来御説明しているように,それぞれの法律によって,その開示された趣旨あるいはそこにおける規制というものを考えないといけないと思うのです。したがいまして,刑事でそういった,要するに刑事の防御のために開示されたということであれば,それはやはり刑事のために使っていただくものと思っております。他方,この民事の審理の段階に入って,民事記録として閲覧・謄写していいということになりますと,それは正に民事記録でございますし,現在の例えば民事の運用につきましても,民事裁判所で損害賠償請求訴訟が起こされていて,刑事事件の記録を送付嘱託により入手して,それが最終的に被告人の手元に行くと,その写しが直送などによって行くということはあるかと思うのですけれども,それをおよそ民事で使ってはいけないということにはならないと思うのです。ですから,それは民事の方の記録の取扱いについては民事の仕切りに従うということになるのではないかと思います。 ● 被害者の側の閲覧・謄写については,適当な条件を付することができるというのがあって,これが具体的には,例えばこういう目的以外には使わないこととかといったことが場合によっては裁判所ができるかもしれないんですが,この規定は,許可をするときに裁判所が,何々の事件について使うのはいいけれども,何々の事件以外にはそれを使ってはならないという条件は付することができるものなのかどうかはどうでしょうか。 ● 少なくとも今の第2の5の書き振りからすると,そういった条件を付けられるということを明示的に書いておりませんので,そこは素直な解釈としては,そういった使用制限というのは必ずしも付けることはできないのではないかと考えられるところではございます。ただ,あとは,刑事の訴訟記録を使うということですので,なおそういった条件を付けられるようにすべきかどうかということについては,ここは御議論があるところかと思いますので,また必要に応じて御審議いただければと考えております。 ● ちょっと補足しますと,刑事の判決が出た後に民事の審理をくっつけるという,ごくごく大ざっぱにはそんなイメージのスキームなんですけれども,その中で,刑事裁判に引き続き行うということで,その部分を刑事の規律というんですか,刑事的に考えるのか,あるいは刑事判決は出てしまったので,その後は民事訴訟のそっちの規律により寄せて考えるのかというところなのかなと思います。できるだけそこは,もう刑事判決は出ていますので,その後の世界は恐らく民事の方の規律に従って制度を組んでいった方がいいんだろうとは思っていますけれども,もうちょっとそこはいろいろ検討したいと思っています。 ● そのほか,第2の5についての御意見はございますでしょうか。  それでは,次の論点に移りたいと思います。次は,資料の第3の2の当事者の移行権についての問題であります。先ほどの説明にもありましたように,この当事者の移行権については,移行を認める当事者の利益の問題と,それからこの制度の実効性の確保の問題があるように思われます。御発言をちょうだいしたいと思います。 ● まず移行権は裁判所が持つということはやむを得ないと思っておりますけれども,当事者の移行権ですけれども,この附帯私訴の制度を加害者が移行し始めたとなると,附帯私訴制度そのものが成り立たないのではないかなと思うのです。だから,加害者は移送はさせるべきではない。そういう前提を置いたときに,では被害者が移送をするときに,それでは余り加害者と比べて不公平になるのではないかという部分があるとすれば,それを取り上げて議論しなければいけないなと思っております。  そこで,被害者はまず判決があるまで,これはいつでも移行できる。どうもこの裁判官ではいい判決は下らないぞと思ったときには,民事附帯私訴を移行したいということがあるので,これは移行権を認めることとする。それから,刑事裁判が非常に遅れているというとき,民事を早くやりたいというときには,移行させていく。それから次ですけれども,それでは刑事の判決があってから附帯私訴の審理が始まるまでの間はどうだということになるわけです。その判決を見ると,余りにもこれは加害者に偏り過ぎた判決であるとなったときにも,これは移行させてやりたい。しかし,附帯私訴の審理が始まったときに,被害者だけが移行する権利を持つとすると,加害者が移行できないのに被害者だけが移行できるとすると,ちょっと不公平かなという気はしております。だから,私どもとしては,刑事の判決が出て附帯私訴の審理が始まるまでの間,この場合は私訴原告は移行権を持つ,それ以外は私訴原告,私訴被告も移行権を持たないとすべきではないかと考えております。 ● この第3の2のA案というものの考え方で,今,○○委員の方から紹介いただいたと思うのですが,そうすると,第3の2のA案の(2)のただし書きになるのですが……,その前の本文のところで言えば,第1回期日以降は,被害者と被告人と両方とも移行を申し立てることができるということなので,第1回期日が終了してしまったら,双方同意しなければ,もうこのままいかざるを得ない。だから,逆に言うと,被害者が移行したいと思っても,もうそこの段階に入ったら,被告人が「いや,私は移行を認めない」となれば,この手続で最後までいかないといけないということになるんでしょうか。 ● 双方同意で移行するということがまずあるかなということですね。有罪判決が出た。そうすると,加害者側としては,「おれはこの裁判官に裁判してもらいたくない」という場合があるでしょう。だが,被害者としては,「それは有罪判決を出した裁判官にそのままやってもらいたい」となるのではないかと思います。ただ,例外的には有罪の認定の程度が,被害者から見れば弱いし,加害者から見れば強過ぎる,両方とも移行してもらいたいということがまれにはあるかもしれませんが,そういう場合は余りないと思うのです。だから,我々もいろいろ考えたのですが,あるいはあるかもしれないぞと思ったのですが,余りまれな場合をいろいろ規定していると大変だから,加害者側は原則移行はできないと。被害者側は移行はできるけれども,民事の審理の第1回が始まった以上はもうこれはできないと。ではどうするかというと,不服なら取り下げて,民事で訴訟する以外に手がないんだと,事後の手当ては要りますけれども。そのようにいろいろ二転三転しながら,今の段階ではそのように思ってきたのですが,まだちょっと悩んでいる部分はございます。 ● 前々回の○○委員のお話を受けてA案を一応作ってみたんです。ここのA案に書いてあるということは,刑事の判決が出るまでの要するに刑事の世界の中では,被害者側だけに移行権を認めて,それについて被告人の同意は要らないという形になっています。それから,刑事の判決が出た後,民事の世界に入るんですけれども,ここに書いてあることは,その中では両当事者とも移行権を持つ。そのかわり第1回の口頭弁論なり審尋なり,そこに入るまでの間は双方の同意は要らない。その第1回が済んだら双方の同意が要る。そういう形のものを書いたんですけれども。 ● 何かそう言ったようにこの間おっしゃられて,「ええっ」と言ったのかなと思ったのですが,第1回目の民事の審理が始まるまでは,被害者は移行できると前回言わなかったですか。 ● 分かりました。そうすると,今の○○委員の御意見というかお考えは,刑事の判決が出て,それから民事の第1回が始まるまで,この間については被害者側だけが移行権を持って,それについて被告人の同意は別に要らない。それから,民事の第1回が終わった後は,当事者両方とも移行できないという考えでいいんでしょうか。 ● そう,同意を得てとか何とか言っても,なかなかそれは利益が対立するだろうということで,もう両方できないと考えたんです。これも二転三転しておりまして,議論するたびに違ってくるんです。だから,今日が最終的ということはありませんが,先生方の御意見を十分承った上で決めたいなと思っています。むしろいろいろ教えていただきたいと思っています。 ● ちょっと質問なんですが,今のお考えでいくと,刑事の判決が出た後,民事の第1回の前のその間は,被害者側だけが移行できて,加害者側は移行できないというのはどうしてなんですか。 ● これは,附帯私訴というのは刑事制度に乗っかって裁判してもらうという制度でしょう。それを加害者がどんどん移行し出したら,附帯私訴制度自体が成り立たないと思うのです。制度から来る問題だと考えているからです。特に,刑事判決が出た後,有罪になったと。そういうときには,加害者は移行したいと思うかもしれないですね。被害者だって,それは移行してもらいたいこともあるでしょうけれども,だけど原則は刑事訴訟に便乗して附帯私訴が行われているわけですから,その便乗から加害者がするりするり逃げたりしたら果てがないなと思ったわけです。だからと言って被害者だけが自由に動かせるようになると,やっぱりこれは不公平かなということで,第1回をやった場合は,これは両方移行できないようにしましょう。だけど,その同意を得てやるという考えもあるかもしれませんが,我々も仲間で議論しても二転三転しまして,むしろここで御意見をいただいてからまた考えたいなと思っています。 ● 基本的には,○○委員がお話ししたとおり,第1回の民事の審理が始まるまでは被害者だけでいいと思います。というのは,附帯私訴というのは,おっしゃったように,もう相手の同意だの何とかではなくて刑事手続に乗せていくというのが本来の制度ですから,そこで,今回終わった後にやる,民事は始まるといった形で刑事に影響が出ないようにというふうにしましたけれども,でも,基本的な考え方でいくと,それを使ってできる限り被害者のためにという制度であれば,これもう完全に被害者だけが第1回目までは移行権を持つ,それでいいと思います。その後ですけれども,私は同意で移行権としておいて,つまり被告の方が移行したいというのは,それはいいだろうと。被害者の方もちょっとこの裁判所よりも民事でちゃんとやった方がいいと思えば同意するでしょうし,嫌だったら同意しなければいかないわけですから,制度設計としてはそこで何もまた変えた議論をしなくても,移行権ということで,1回目以降は民事の取り下げのように同意にかからせるという感じでしても,被害者には特に問題はないのかなと思います。1回目以降は,民事的な当事者になって同じレベルになりますので,それは両方とも同意を得て移行権を持つということでそんなに理論的にはおかしくないかなと思っていますけれども。 ● すみません,ちょっと基本的な質問でありますが,この制度を利用しながら,一方で通常の民事訴訟をするということは,これはあり得るんですか。 ● それは,例えば支払督促をしながら別に民事訴訟を提起するのと一緒で,結論的には二重起訴ということで後訴が却下される,二重起訴の禁止に触れると考えております。 ● 今の二重起訴の点なんですけれども,つまりこの民事の手続を申し立てていることと,通常の民事訴訟の裁判所に別訴を起こすということ,それ自身が二重起訴という問題なのか,それともこの手続の決定に対して異議などが出て,通常の民事訴訟に移行した段階で別の起訴がされていると考えるのか,どの段階で許されなくなるのかですね,二重起訴という意味が。 ● この手続をやりながらこれと同時に別の民事訴訟を提起するというのは,少なくともその訴訟物が同一であれば,やはり二重起訴ということで問題になるのではないかと思います。 ● そうすると,後の別訴を起こすこと自身で,例えば被告人側が,この手続を別に刑事についてやっていますという抗弁を出せば,二重起訴ということで,別訴を起こしたものは却下されるということですか。 ● そうなるかと思います。 ● 私は,今の○○委員の御説明で,むしろ最初のA案よりもよく分かるようになったかなという気がいたします。御指摘のとおり,この種の制度を設けておいて,被告人側からの意向のみで民事の方へ移行できるということにしてしまうと,それはこの種の制度を作る意味というのが失われてしまうということになるだろうと思います。要するに,犯罪被害者の側に刑事の審理結果を生かして簡易迅速な救済を求める権利を与えるわけですから,そこのところは被告人の側としては,そこに訴えられたら受忍せざるを得ないということになるのではないか。あとは,それが何らか手続的な理由で制約される時点というのはいつなのかということを考えたときに,民事の訴えについて最初の審理を行ったときというのは,これは一つの切り方としてすっきりしているのではないか。少なくとも,両者に移行権があるような設計というのはやはりちょっとおかしいという感じがいたしますので,○○委員の言われたような切り方というのは,私は一つの整理かなと思いました。 ● 今の○○幹事の意見についてちょっと質問なんですけれども,前半の部分は分かったんです。つまり,第1回までは被告人には認めないということなんですが,今御意見が一緒だとおっしゃったのは,第1回が始まった後は,同意がない限り移行できないということなのか,そこは移行自身を認めないという結論をさっきちょっと○○委員はおっしゃったのですが,それについて同趣旨だという御意見でしょうか。 ● 私は今,同意があれば移行できるということでよろしいのかなというつもりで発言しましたけれども。 ● 私は混乱してきているんですけれども,刑事の判決がある前に被害者側だけが移行権を持つというのは,それは何となく理解できる。要するに別訴を起こせば,取り下げて別訴を起こしても同じことなんですけれども,それをしない代わりにこういう制度を使うんだということは合理性があるような気がします。他方,刑事の判決があって,例えば被告人側から見て自分にとって不利な,全面的に検察の主張どおりの判決が出たというときには,被告人がこの制度から逃げられるようではおかしいと,そこもよく分かるんですが,被害者の側から見て,例えば一部しか認定されない判決であるとか,例えば殺人の起訴をしたのに,裁判所は傷害致死という認定をしたとか,そういうときに被害者の方が,この裁判体ではない裁判所にやってほしいと思われる気持ちと,被告人側がこの裁判所でない裁判所にやってほしいと思う気持ちの間に,差をつけられるのかなというのが私はい今ひとつよく分からないんです。 ● それを逃げたいのは両方同じではないかというお話ですか。 ● 要するに裁判所選びを認めることになるのではないでしょうか。そういうことを片側だけができるという制度で本当に問題がないのかなというふうに思うのです。 ● 逃げたいのは加害者の方が多いだろうと思うのです。だから,加害者に逃げることを許すと,どんどんどんどん逃げてしまって,もぬけの殻になりはせんかなという気がするんです。簡易迅速に裁判でやる。そうすると,弁護士としては,「あれはもう逃げておいた方がいいぞ」という知恵を付けるでしょうね。そのように思いますけれども。私が加害者の弁護士だったら,「この裁判官はかなりきついから,別の裁判でやってもらえ」ということを言うでしょうね。どうもそんな気がしています。 ● 理論的になるかどうか分かりませんけれども,ちょっと理論的に考えると,民事の場合は原告が訴えをするわけです。だから,例えば嫌な部に,それこそ何部に当たりたくないとかありますが,配転でそこに当たったときに取り下げてまた出すとか,民事間でできるわけで,そういうことを考えると,この裁判官は嫌だというときに,比較的原告側である被害者が移行させて通常の民事手続に行くというのは,そのような形とパラレルに考えると,そんなにおかしいことではないのではないか。そのときは被告側というのは普通は登場しないわけで,原告側の主導権でそれをやるわけなんです。だから,そう思うと,それほどおかしくはないのかなとは思うのですが,いかがでしょうか。乱暴でしょうか。 ● 加害者が移行することがですか。 ● 被害者のみの移行を認めるだけでいいのではないかと,1回目までは。 ● それは,附帯私訴の審理が始まるまでの間ですね。 ● そうです。そういうことです。 ● それは,私たちもそう思っているわけですが。 ● 裁判所選びではないかと言われると,結果的にそういう側面を持つことは否定できないように思います。ただ,この制度を,一般的に,刑事手続の成果を民事手続において利用することが望ましいという趣旨で創設するのであれば,恐らく被害者側の移行権も加害者側のそれも同様にするということになると思うのですが,しかし,この制度は被害者の救済という観点から創る制度なわけですから,片面的なものであっても,それ自体としてはおかしい話ではないんではないでしょうか。 ● 被害者については,いつでも移行できる。加害者はだめという……。 ● 第1回の期日前ということで分けるとする理屈は立つのではないかと。それで,第1回期日後も被害者だけという筋も通ると思いますけれども,それは不公平だとおっしゃられれば,そこで切るというのは一つの……。 ● 私どもの案は,いつでも被害者だけはできるようにしてあったんですよ。どうもここへ来て議論しているとたたかれそうですから,ちょっと遠慮したので,それが本当は一番いいのです。ありがたいんですね,それが。 ● 民訴の世界では,第1回の口頭弁論をしてしまうと,相手方の同意がなければ取下げができないということだろうと思うのです。この刑事の判決があったということは,要するにその部分については,審理をしているわけではないですけれども,途中までは結論が出ているんだろうと思うのです。先ほど○○委員がおっしゃったような,訴えを提起したらどこの部にかかったから,その段階で取り下げるという場面とは若干違っているのではないかという気がするんですけれども。 ● それでは,ここでいったん休憩にしたいと思います。再開後,またこの論点につきまして御意見がありましたら,審議を続行したいと思います。  それでは,休憩にいたします。            (休     憩) ● それでは会議を再開いたします。  休憩前に議論しておりました当事者の移行権について,更に御意見がございましたらちょうだいいたしたいと思います。 ● 先ほど,第1回期日以降と以前を分けるというお話だったのですが,口頭弁論という手続を採っているのであれば,口頭弁論という期日はきちんと決まって,それが簡単に変更されないということで分かるのですけれども,審尋期日というのは基本的には軽く決めて軽く変更するということもあるので,その第1回期日というところで大きく変えるというのが,審尋と口頭弁論が一緒でいいのかというのが一つと,もう一つは私がさっき言った問題,つまり仮執行宣言の必要的かどうかとも関連するのですが,さっき○○委員がおっしゃった,第1回以降は同意がなければどちらも離脱できないと,特に簡易迅速な手続で不利益を受けるのは基本的には被告人の方なので,それが被害者が同意しなければそこから離脱できないするならば,その効果として必要的仮執行を付けるとすれば,それは余りに被告人にとっても不利益が大き過ぎるのではないかということで,仮執行の必要的・任意的と,この第1回以降を被告人が被害者の同意がなくても移行できるかどうかということは,重大な関連を持つのではないかと思うのですが,その2点についてはどうでしょうか。 ● 1点目は,期日のお話であったかと思うのですが,当然審尋においても期日を定めますので,その変更については,その容易さというのはともかく,いずれにせよ期日ということを観念できますので,そこに大きな差異はないのかなと思います。2点目については,正にそこは重要な論点として今御審議いただいているところかと思いますので,そこは更に御議論いただければと考えております。 ● 私,最初はこの第3の2のA案で基本的にいいのではないかと漠然と考えておりましたが,今日の御意見を伺いますと,○○委員とか○○委員の考え方に説得力があり,加えて,○○,○○両幹事の御意見にも納得できるものがあります。更により納得のいくためにお尋ねいたしますが,例えば,ただし書き以降の第1回の期日の後についても,より○○委員の考え方を徹底すれば,完全に相手の同意を得るということにしない,そもそも逃げられないんだといった形にするのか,あるいは,本文のところで,有罪判決があって,それから第1回の民事の期日がある前についても,一応移行の申立てはできるとして,ただし,この場合についても相手方の同意が必要なのだとしても,何か実態としては両当事者に移行権を認めない考え方と同じような実体になる可能性もあると思うのですけれども,そのような整合性といいますか,そういう観点から考えて,そのような可能性というのはお考えにはならないのでしょうか。 ● 附帯私訴の審理が始まる前にも,加害者側の同意を得て移行するということですか。 ● 始まる前はいいんですけれども,始まって第1回の民事の期日がある前の間についても,一応両当事者は移行の申立てはできる,しかし同意が必要だと。民事が始まったら,もう同意がなければだめだと,離脱できないという組立て方はないのだろうかということです。 ● 審理が始まる前というと,判決言渡しがあった後も相手の同意が要るということですか,被害者が申立てをするのに。 ● はい。 ● ちょっと○○幹事がおっしゃったような裁判官選びをするのはいけないというようなことにつながってくるかもしれませんですね。しかし,被告人は一審段階で弁護人がついて,かなりいろいろ争うことは争い,言いたいことは言っているわけですよね。被害者は,附帯私訴はやっても,じっとしているだけで,刑事判決がある前も何もないし,あった後も何もないんですね。そうすると,やっぱりいろいろやり合った被告人よりは被害者の方がより移行についての権限を持っていてもいいのではないかなと私たちは思うのです。その都度裁判所に向かって私訴原告がいろいろ言う機会があったらよかったんですが,何もなかったわけですから,ずっといろいろ言ってきた被告人と比べて差ができてもいいのではないのかなと思うのですけれども。そして,いつの時点で附帯私訴の審理が始まるか分かりませんが,刑事判決を言渡したその日に裁判があるわけですね。判決を送ってくるのはかなり遅れるわけなんです。だから,判決が来てから審理を始めるのかですね。そうすると,これはちょっと話は飛びますけれども,被害者にも刑事の判決は送ってもらいたいと思います。そういう制度を作ってもらいたいと思います,附帯私訴原告には。そうしないと,内容がよく分かりません。それから,その判決が来てから,この裁判官の裁判を受けるかどうかという判断を被害者はしなければいけないと思うのです。だから,刑事判決の送達という制度も作っていただいて,そして考慮期間を一定期間置いていただいて,民事の第1回の審理が始まるということにしてもらって,そこで移行するかしないかを決められるということにしないといけないと思いますね。判決を読まないと,この裁判官に裁判していただいていいのかどうかということもなかなか判断できないと思うのです。これは余り広げると,今日はあちこちへいくと思ったので言わなかったんですけれども,そういういろいろな問題があると思います,まだ詰めるときには,判決の送達ということは。 ● 短い期間内ですので,そういうことがあるのか,あってもごく少ないのか,それは分からないんですけれども,いろいろな事件があると思いますので,場合によっては,私訴が始まった段階で私訴の被告の方から,移行したいと,私訴原告の方も,それだったらそれでいいというようなことがあり得るんだとしたら,そういうことはないのかなということを思って御質問したのです。 ● 一方的にはできないけれども,被害者側が同意した場合はという趣旨ですね。 ● これは第2回のときか第1回のときにも○○委員からも指摘がありましたし,私も実感するんですが,つまり,民事に及ぶとなれば,被害者の落ち度などについても刑事で争っておかないと被告人に不利益になると。この問題を考えたときに,もしここでこの民事の手続に入って,被告人はとにかく決定に至るまで被害者の同意がなければ移行できないんだとなれば,より一層,弁護人は民事段階で無防備な被告人のために,刑事事件の中で被害者の落ち度であるとか過失相殺につながるような事実を争わざるを得なくなるという問題があるのではないかと思うので,被害者に利用しやすいようにといったことを考えれば考えるほど,そのあたりの争点が全部刑事裁判段階に来るということにならないのかなと。ですから,そういうこと自身がまた被告人にとっても,又はもちろん刑事裁判自身が延びるという問題もありますし,被告人にとっても,そこで争うことによる裁判員に対する心証の問題とかという点を考えると,事実上争えなくなる。そうなると,民事でも手続保障ができなくて,弁護士さんに争ってもらえないまま被告人が決定を受けなければならなくなるというところが,制度の設計としてはちょっと気になるところなんですが。 ● ○○委員のお話は入り口の話なので,それはもう反論しないんですが,今,○○委員がおっしゃった第1回の前のことなんですが,これは私もイメージがまだつかめませんけれども,メルクマールとして第1回期日というのがこの制度では一番大きいのかなと思うのです。○○委員もおっしゃったように,判決が言い渡されて,どのように,ではここから民事ですよといったところがちょっと見えにくい。そうすると,やはり期日を指定して,この期日までには,そこを限界として,その前,その後を決めた方がはっきりするのかなと思います。 ● 移行の問題は,取下げと絡めて議論した方がいいのではないかという気がいたします。検討している決定手続における被害者の申立ての取下げについて,民事訴訟における訴えの取下げと同様に扱うのであれば,第1回期日で相手方が争った以降は相手方の同意がなければ取り下げられないということになります。したがって,1回目の期日を基準時にするというのは,かなり説得力がある考え方だろうと思います。仮に有罪判決言渡し後第1回期日までの間の移行を認めないとすると,申立人の行動としては,取り下げてもう一度訴えを起こし直すということがあり得ることになります。その場合には刑事記録が使えないので,かなり不利になるんだろうと思います。そういう選択肢を採らせるのが適当なのかどうかという観点から考えますと,私は,申立人が最初の期日までは移行申立てができるとしておいた方が,今回の被害者の救済のためにフレンドリーな制度を作るという趣旨に合致しているのではないのかなという気がいたします。 ● そのほか御意見はございますか。  それでは,第3の2の当事者の移行権の論点はこのくらいにいたしまして,続きまして,資料の第1に戻って,再度の議論を行いたいと思います。  まずここでは第1の1で,対象犯罪に関する部分,これは第1の1の前半でございますが,その後半の部分が訴訟物に関する論点であります。それから後は,民事に関する審理の時期に関する論点,第1の6がございます。これを順次議論していきたいと思います。  まず対象犯罪の論点ですけれども,前回の議論では,被害者救済という視点からは対象犯罪を絞るべきではないという御意見もありましたが,本制度の在り方の問題や,現実的な捜査,裁判への負担の問題等から,一定の罪種に絞って制度設計をすべきではないかという意見が多かったように思われます。また,具体的な罪種の問題としては,業務上過失致死傷罪や財産犯を本制度の対象とするかどうかが問題となりましたけれども,まず財産犯については,特に大規模な事件ではすべての被害者に係る事件を立件することは現実的でない,起訴された事件の被害者と起訴されていない事件の被害者との間に不均衡を生ずるのではないかといった問題が指摘されました。一方,業務上過失致死傷罪につきましては,この種の事件の民事の審理では,類型的に過失相殺の問題や損害論等の審理に時間を要するのではないかという御意見とか,これは簡易迅速な処理にはなじみにくいのではないかという御意見が一方でありましたが,他方,むしろ業務上過失致死傷罪の事件の被害者の方々がこの制度を利用するのではないかという意見も示されました。  このように理解しておりますけれども,この点を含めまして御意見をちょうだいしたいと思います。今回は第2読会でありますので,前回までに御発言のありました委員・幹事の先生方,繰り返しても結構ですので,御発言をお願いいたしたいと思います。それでは,この対象犯罪について御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 私が対象犯罪は絞らない方がいいと言った者なので,やはり言わざるを得ないのかと思います。今でも気持ち的にはそう思っていますし,重大事件とか,それから被害者にこういう制度を使って,とにかく被害者を救済したい,するべきであるといった事件に絞ってということは分かるのですけれども,恐らくこの制度はもっと軽微事件も含めて役に立つところがあるだろうと思います。しかし,それは一方で政策的配慮とか,それから事件数とか,そういうことの絞りは当然制度で仕方がないと思いますので,ただ,この制度が回っていったときには,できる限り広げていって,恐らく限定的にこの場合はいいだろう,この場合はよくないということはないんだろうと思うのです。ですから,広げていってほしいという希望は述べさせていただきますが,あとはもう政策的配慮で決めていただくしかないのかなと思っています。 ● それでは,私たちも案を出しておりますので,この案では全犯罪ということになっているのですが,実際,この程度を立ち上げる場合に,余りにもふろしきを広げ過ぎると,なかなか立ち上がりが大変かもしれないと思います。そこで,○○委員もおっしゃったように,ある程度絞りをかけてやってみて,それからその運用を見ながら広げられるものなら広げていくといった現実的な方法を採らなければいけないだろうなと思っております。 ● 先ほどの移行にかかわる話で,○○委員の方から,被告人の方からの移行権を認めないとすると,刑事の中でいろいろな,例えば過失相殺の話とか,そういったことも持ち込まなければならなくなるのではないかというお話がありましたけれども,正に刑事裁判の成果を利用して,刑事裁判の証拠ないし心証を,つまり訴因に関する審理の結果をストレートに使ってやれる範囲というのがどのあたりなのかに、この部分はかかわってくるのかなと思います。制度の目的としては,被害者の負担を軽減して迅速な被害回復を図りましょうということかと思いますので,それにふさわしいようなものとして,刑事裁判の訴因に関する審理の結果をストレートに利用できるのか,それとももっと新しい証拠調べが必要となってくるのかというあたりが一つの問題かと思いまして,この点については前回,犯罪類型によってかなり違うのではないかといった御指摘があったのかなと思います。それと,本当に被害者の救済を一番最初に考えなければいけないようなところはどこなのかといったときに,保険でもカバーされないし,それから精神的なダメージが大きくてなかなか民事訴訟を独立に起こすということも考えにくいようなものは何なのかといった視点もあるのかと思います。そういうことで,犯罪の類型によってかなり違ってきて,そういう整理を考えると,限定をかけないよりはB案のような形で限定をかけるというのが適当なのかなといった感じを持っています。  間口を広げるとしても悪くないじゃないかという議論も,これはあるのだろうと思います。間口を広くしておいて,不適当なものは民事裁判所に移行すれば,別にこれは何ら問題ないのではないかという議論もあり得るかもしれませんが,ただ,間口を広げ過ぎて移行が常態化してしまうといったことになると,これは新しい制度を作る際に果たして適当なのかという問題があるように思います。そうすることによってかえって制度の意味が軽くなってしまって,定着していかないのではないかと。この附帯私訴のような制度というのは,定着しているところもあるかもしれませんが,しかしうまく定着していないところもあるわけでして,そういう中で,必要性も高くて確実に運用ができるようなところというのをきちんと見定めて制度を組み立てるということがひとつ望ましい在り方かなという気がいたします。 ● この対象犯罪につきましては,ある程度限定すべきであるという御意見が多いように思われますが,これに関連しまして,とりわけ業務上過失致死傷罪を含むべきかどうかということについて,御意見をちょうだいしたいと思います。前回までの御意見と同様のものでも結構ですので,審議をしてまいりたいと思います。 ● 若干派生的な問題ではありますが,業過を含めますと,現在のプラクシスからは,若干の事件は簡易裁判所に行くと思います。簡易裁判所でこの種の手続をすることが適当かどうか。あるいは,ドイツあたりでは訴額の制限ということも問題になっているようですけれども,日本でも簡易裁判所の訴額は確か140万円に限定されていると思いますので,その辺の問題は生じてくるということもあろうと思います。 ● 前回もいわゆる交通事故に関する民事訴訟の実情につきまして若干御紹介させていただきましたけれども,改めまして交通事件等を担当しております地方裁判所の裁判官の方にも確認してみたのですけれども,やはり実情としましては,地方裁判所において人身損害が問題となりますような民事訴訟におきましては,過失相殺割合が争点になる,あるいは後遺障害の程度や今後さらなる後遺障害が拡大するかどうかといった後遺障害の固定というような感じの問題が非常に大きな争点として審理されておりまして,その限りではかなり複雑な難しい事件の部類に属しているというのが実情のようでございます。もちろん,人身損害につきましても,比較的当事者間で争いの少ない,あるいは判断の容易な事件もあるのでございますけれども,こういったものにつきましては,どうも実情としましては,現在かなり損害保険の制度が発展していることから,多くの場合は損害保険会社等も関与することによって訴訟外の和解で解決しているというのが実情のようでございまして,地方裁判所の方に事件として起こってきますものは,やはりそれだけ非常に損害の判断等の難しいものが中心になっているようでございます。前回申しましたことの繰り返しになってしまいますけれども,そういう意味では,この刑事手続の成果を利用して業務上過失致死傷の事件をこの手続の中で簡易迅速に判断するということは,なかなかちょっと難しい面もあるのかなといった印象を持っております。  また,○○関係官から御指摘のありましたところは,現在の民事訴訟におきましては御指摘のとおりでございまして,140万円以下のものは簡易裁判所で,140万円を超えるものについては地方裁判所で事件が提起されてございます。そういう意味では,実は交通事故に関する民事訴訟でも,簡裁と地裁ではかなり性質を異にするところがございまして,簡裁では主に物損のみが問題となるような,つまり刑事犯罪にならない分野の交通事故に関する損害賠償請求事件がほとんどでございます。もちろん,非常に軽易な人身損害の事件につきまして,60万円~70万円ぐらいの請求の事件というのがかかってくるものも中にはあるようでございますが,そういったものも多くは保険会社等によって訴訟外で解決が図られているのが通例のようでございまして,簡易裁判所において人身損害が問題になるものは比率としては余り多くないように伺っております。また逆に申しますと,地裁の方は140万円以上ということで,単純に物損のみが問題となるような事件というのはほとんどないようでございまして,1割あるかないかぐらいだと。つまり,9割ぐらいは,物損と人身損害の両方がある事件もございますけれども,物損のみというのは1割あるかないかということで,そこはかなり地方裁判所レベルで実際上は審理されているといった実情にあるように伺いますので,ちょっと補足だけさせていただきます。 ● この論点に絡めてちょっとこの制度が一体どのように利用されていくのかということについて私の考えるところを述べたいんですが,つまり,私たちが例えば被害者の方から御相談を受けて,この制度を利用するかどうかというときに,例えば業務上過失致傷害とか致死であれば,加害者が保険に入っていらっしゃる。そうすると,確実に取れるわけですから,そうすれば,やはりできる限りきちんとした立証をして,高くなるような手続,又はいったん決定を取っても異議にいってまた2度の手続を経ないでいいような安定した手続を多分選ぶのではないかと思うのです。弁護士として費用をもらって付く以上は確実に被害者の利益になる手続を選択すると思うので,私は,そういう特に業過事件のような場合であれば,代理人としては通常訴訟を起こすという選択をするのではないかなと,自分は思うのです。  そうすると,ではこの手続を一体だれが利用するのかとなると,弁護士のサポートを受けていない被害者の方が御自分でやられるということが多くなるのではないか。その場合に,私たちは交通事故などの損害賠償で問題になるのが,責任よりも損害の費目で,例えば後遺症の存続期間をどのように主張立証するのか。それから収入などについても,サラリーマンなどについてはそういう源泉徴収とか給与明細があるからいいのですが,例えば自営業者の場合に,実額よりも低い申告をしている場合に,では申告書をそのまま出していいのかどうか,むしろちゃんと実額立証をして被害者の損害額を上げる努力をするのかとか,それから主婦の場合はどうするのかとか。それから,慰謝料についても,幾らが相場なのか,被害者は分からないで,例えば死亡であっても1,000万円か2,000万円で請求したといった場合に,恐らくこれは,処分権主義の適用があるのかどうか分かりませんが,被害者が1000万円しか請求していなければ,裁判所も多分1,000万円しか認めないことになると思うのです。そういう意味で,被害者御本人が主張立証していくということを考えると,せっかく保険制度があって,ちゃんとすれば取れたものを,被害者が自分ひとりでしたがために,低い金額で認定されて,そのままいってしまったと。そうしたら当然,保険会社のほうもその金額でよしということになってしまうので,そういう意味ではきちんと取れる保険のあるようなものについてまでこれを利用することによって被害者が不利になる場合があるのではないかなと私は考えるんですが。 ● 私は前回,業務上過失致死傷罪と危険運転致死傷罪は,どちらも交通事故という意味で同じような扱いにすべきではないかという考えを申し上げたんですけれども,先ほど,○○幹事から,業務上過失致死傷については,過失相殺の割合や,あるいは後遺症の点について争いになることが多いので,類型的に短い回数で解決するのは難しいのではないか,逆に争いのない場合は訴訟外で救済がされている,といった御説明をいただきました。この御指摘というのは,危険運転致死傷の場合には必ずしも当てはまらないということでしょうか。例えば過失相殺については,圧倒的に加害者側の過失が大きいので,余り争いにならないとか。後遺症の点は余り変わらないのかなという気もいたしますけれども,簡易迅速に救済を図るという点で,危険運転致死傷罪と業務上過失致死傷罪とでは類型的に違いがあるということなのかどうかについて,可能であれば○○幹事から御説明をいただければと思うのですが。 ● 実は危険運転致死傷罪にかかわる民事訴訟というのは件数自体が少ないものですから,類型的に違うのか,あるいは同じなのかという御質問に端的にお答えするのはなかなか難しい部分がございます。難しいというのは,今実務上どうかということを正確に御紹介することができないということでございますが,○○委員がおっしゃられるように,確かに過失相殺割合という観点から見ますと,危険運転致死傷罪の場合は,恐らく加害者の方の過失が100%に近いような事件がほとんどを占めることに結果的にはなるのではないかと思われますので,その意味では過失相殺というところが大きなポイントとして残るということはないのではないかという,予測としましては少し違いがあるのかなというような気はいたしますが,先ほどもちょっと御紹介がありましたような後遺障害の認定,特定の問題ですとか,あるいはそもそも逸失利益等を算定するときの収入についてどのように認定するかといったあたりにつきましては,同様に争点としては残るということになろうかと思いますので,程度の差があるということは間違いないかと思うのですけれども,質的に根本的に違うとまで言い切ってどうか,そのあたりはちょっと実例もまだ少なくて,私としてもなかなか確答しにくいところでございます。 ● 先ほどから難しい話で頭が混乱しておりますが,先ほど○○委員の方から,保険に入っていて,交通事故はほとんど保障されると。そうでない相談が私どもには大変あります。そして,死亡の場合はまたちょっとあれなんですが,大けがをして,仕事も失うようないろいろな状況に経済的に追い込まれても,自賠の120万円しかもらえなくて,本当にその後の生活はどうしたらいいのかと路頭に迷っている人もたくさんいます。ただ,私はA案に賛成なわけではなくて,いろいろな裁判上の混乱を考えると,どちらかというとB案なんですけれども,一言言いたかったのは,本当に無保険者は多いのです。それで,裁判にも何も統計には上がっていかなくて,その陰で,本当に交通事故の被害ということで,しかも危険運転にほぼ近いような,お酒を飲んでいたか,飲んでいないかが証明できなければ危険運転にならないという境目がありますけれども,本当に許し難いような危険運転と言っていいような事故であっても,現実,何の補償もされず大変な状況に置かれている交通事故被害者というのはたくさんおりますし,その辺については,今回入れてほしいということではなくて,皆さんに御理解いただきたいと。  犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律に関しましては,危険運転しか入っていないんですけれども,今回基本法ができまして,被害者の枠が広がりましたよね。業過も含むと,そのように被害者の枠が広がった。交通事故被害者の人は,いつも自分たちは軽く見られている,犯罪被害者だと思われていないのではないかという思いがいつもありまして,例えば「被害者の会などに入りたいと思っても,あなたは交通事故だからだめだよとぴしゃっとはねのけられる。私たちはいつも軽く見られているのではないか」という交通事故被害者,特に御遺族の思いなどがあるんです。だから,また非常に難しい問題がありますから,広げ過ぎて,本当にその後というよりは,徐々にできるところから広げていくという方法がいいと思うのですけれども,私はただ知っておいていただきたいのですが,交通事故被害者は「基本法でせっかく我々も入ったのに,またそこでいろいろな部分で差別されるのか」とすごく落胆するという人もいる。ただ,制度を決めていく上ではいろいろな問題がありますから,そこはかなり無理があるかなと思いますから,私はどちらかというとB案なんですけれども,ただ,交通事故被害者が保険によってすべて補償され経済的にちゃんとやっていけるなどというのは大きな間違いで,私どもは実際の御遺族のサポートもしていますし,電話相談の中ではとても多いんです。全然補償されなくて路頭に迷っている人がどれほどいることか,それだけ御理解いただきたいと思います。 ● それでは,お差し支えなければ,次の論点に移りたいと思います。  次は第1の1の後半の訴訟物に関する論点でございます。これについては,前回の議論では,刑事裁判の成果を利用して簡易迅速な手続で審理を行うという観点からすると,不法行為に基づく損害賠償請求権に限るべきではないかという御意見が多かったように思われますが,この論点について御意見をちょうだいしたいと思います。--特にございませんか。  それでは,時間の関係もございますので,その次の論点に移りたいと思います。次は第1の6の民事に関する審理の時期についてであります。この論点につきましては,刑事の証拠法則に基づいて行われた証人尋問等が当然に民事の証人尋問等としての効力を認めてよいかなどという問題点が指摘されました。仮に例外的であったとしても,刑事裁判中に民事に関する審理を行うことについては,消極的な御意見が多かったかと思われます。この論点について御発言をお願いいたします。 ● これは例外的に民事の取り調べをするということですね。これは,私どもは必要性を強調したのですが,余り賛成の方がいらっしゃらなくて,むしろ否定的な意見ばかり出ましたので,私だけが頑張ってこの附帯私訴という制度の発足が遅れてはいけませんから,撤回します。附帯私訴制度が発足してやっていく途中で,やっぱり必要だなということになれば,またその段階で見直しをするということにしていただいて,撤回してスピードを上げるように協力いたします。 ● ありがとうございます。 ● この5のところは,4,5のところで,無罪や免訴の裁判があったときは附帯私訴の請求を却下するとありまして,その却下決定があってから例えば2週間以内に訴えを提起するということになっておりましたが,これは,先ほど申しましたように,裁判の言渡しというのは早くありますけれども,判決書が来るのは遅いんです。そういうこともありますし,まず私訴原告に判決を送っていただくという制度を一つは採っていただきたいということ。それから,その判決が無罪判決の場合に,その判決があったのに損害賠償の訴えを起こすということになりますと,訴状を書くにもかなりの時間とか労力を考えなければいけないということがありますので,言渡しから2週間というのはとても無理ではないかと思うのです,判決自体もありませんから。だから,やっぱり送達をまず受けるという制度を作っていただくということと,それから30日ぐらいの期間を置いていただきたいなと考えます。それは今の論点ではないかもしれませんが,ついでに申し上げます。 ● はい,分かりました。 ● 前半の部分についてなんですが,要するに判決の謄本を送ってほしいという点なんですが,判決は公判廷で宣告することによって効力を生じて,被告人にも送っていないんです。 ● では両方に送るようにしてください。 ● いや,それは判決は必要がある方が謄写をしていただくという制度になっているんです。 ● ずっと後ですよね,判決書ができるのは。 ● 民事上の請求を起こして参加されることになる被害者の方に対して刑事の方の公判期日を通知するのかという問題もありますが,仮にそういう制度設計をするのであれば,判決宣告期日も当然被害者の方にも伝わっていると。基本的には判決宣告期日にも立ち会っていただくというか,傍聴席で見ていただくということだろうと思うのです。そうなると,中身というのは,大まかなところは宣告期日に理解していただく。被告人との関係ではそういう仕組みになっていまして,被害者との関係で別個の制度にするというのはいかがかと思うのですが……。 ● 加害者はいろいろ争ったりして,成り行きが公判廷で分かるでしょうけれども,被害者の場合はなかなか分からないし,被害者の方は毎回法廷へ出席できるかも分かりませんので,口頭で言渡されただけで,それに基づいて無罪判決だからということで,訴状を書くということは,なかなかこれは大変だと思うのです。そこのところをひとつ考えていただきたいと思います。 ● 委員のおっしゃっている趣旨はよく理解しているつもりなんですが,結局,例えば刑事の判決が出た後に民事の審理をする場面における訴訟記録に対するアクセスの問題については,今日の事務当局が作られた資料でいうと第2の5に書いてあるとおり,両当事者がそれぞれ閲覧・謄写を求めるという制度になっているわけでございます。それとのバランスで言うと,判決のところだけを切り離して被害者の方にだけは別個送るという制度にするのは,全体としてみるとやや違和感があるかなという感じはするんですけれども。 ● 附帯私訴が実効あらしめるようにするために,何か工夫をしてください。せっかく私も今撤回したばかりですから。 ● 今ので整理していただきたいんですけれども,判決書というのは,今の制度で公判記録の閲覧・謄写という手続で被害者側が取れるのかどうかということが一つ。それから,取れる時期はいつなのかということです。つまり,裁判が終わってしまって,例えば確定してしまったときに,被害者が取れるのかどうかという,ちょっと今その整理が付かないものですから。ですから,それができないので,この新しい制度の第2の5で取れるようにするのか。そのときにまた,判決書の全部を閲覧・謄写を認めるのか,やはりプライバシーに関する部分は削除するのかという点は,どっちになるんでしょうか。 ● まず公判記録の閲覧・謄写と,あと確定記録の取扱いについてのお尋ねでございますが,刑事被告事件の訴訟記録の閲覧・謄写をしていただくというのが公判記録の閲覧・謄写ですので,事件が係属していれば,そちらで行っていただく。例えば,事件が控訴審に行っている場合などは,そこにも判決書というのもつづられていて,それを閲覧・謄写するということはあり得るものと思います。逆に,確定した場合,確定記録には当然その判決書も入りますので,確定してそちらにつづられていれば,そちらの方をあとは見ていただくということになるかと思います。  それと,判決書の内容の一部について閲覧・謄写の制限ということがあるのかどうかというお尋ねですが,少なくとも運用上の問題としては,それは公判廷によって告知しているものでもございますし,プライバシーに対する支障とか,そういった問題というのも被害者自身についての判決書においてはなかなか観念しにくい部分もあるかと思いますので,少なくとも運用の問題としては,全部見ていただく,あるいは謄写していただくということではないかと考えております。 ● 刑事と民事を分けるという第1の6の考え方は,今ここで検討している案の1つの特色だと思います。B案であれば,一切行わないというのでありますし,A案も,原則としては刑事を先にやるという考え方であります。ただ,そうは申しましても,実際上,刑事の審理の中で民事責任に関する資料もある意味では豊富に集められることになるのではないか。裁判所としては,量刑の必要からいろいろ聞かれるということもありますでしょうし,当事者の方から持ち出されるということもあると考えます。その場合,その資料を民事の裁判のときにどう利用するかという点で,次の第2の3のところの表現が少し気になったものですから,ちょっと発言しているわけです。第2の3,刑事判決の拘束力についてというので,これは拘束力の問題として見る限り,A案とB案は,AかBかという形できちんと対立しておりますけれども,訴訟記録の証拠としての利用という点では,B案の方では取り調べなければならないわけですから,当然それを利用することもできるわけですが,A案の方にはその旨の記述がありません。これがない理由は,恐らく民事裁判は職権主義とはなじまないので,それを表には出さないというお考えであろうと思います。しかし,やはりこのままですと,訴訟記録の内容は当事者が引用しない限り使えないことになるのではないか。その件で,訴訟記録を裁判所は取り調べることができるという規定を入れておきたいような気がするのですが,どうでしょうか。 ● 今,○○関係官から御指摘のあったA案というのは,正に「あすの会」で最初にお示しになった案で,確か「あすの会」は,これは当然取り調べたものとみなすという,そのような規定を置いておられたのではないかと思います。それであえてここには書いていないという関係になるかと思いますけれども。 ● 刑事手続で取り調べた証拠は附帯私訴についても取り調べたものとみなすという規定を置いておりました。 ● それとセットになっているという位置付けで,あえて特に記載していないということで御了解いただければと思いますが。 ● このA案は私が言い出したものですから,これも撤回します。もうどんどん進行に協力しますので,是非私どもの主張するような制度を作っていただきたいと思います。 ● ありがとうございます。  それでは次は,既に議論しましたけれども,決定になる場合に仮執行宣言を付することができるか否かということについて,更に御意見がおありでしたら伺いたいと思います。 ● この決定手続になった場合に仮執行宣言を付するような制度設計にするかどうかということにつきましては,理論的な整理あるいは他の制度との整合性等はまた事務当局の方でも更に御検討いただけるところかと思いますけれども,先ほどの御意見の中で,仮執行宣言を制度として作るとした場合に,全件について必ず宣言をすべきなのか,あるいは任意的なものとすべきなのかというところで皆さんの御意見がかなり割れていたようにも伺いましたので,現在の民事訴訟の中で仮執行宣言が実際上どのように運用されているかというところを少し御紹介させていただきたいと思います。  現在の民事訴訟の制度につきましては,一般の判決については仮執行宣言を付するかどうかは,先ほど来御紹介がありましたとおり,事案の内容に応じて必要性の有無を判断して,裁判所が宣言を付するかどうかを決めるという任意的な規定という形になっているわけですけれども,実務上は,実際はほとんどのケースで仮執行宣言が付いているというのが実情でございます。ただ,この点をもう少し補足しますと,金銭の支払いを命ずる判決につきましては,今申しましたように,ほぼ全件に近いと思いますけれども,仮執行宣言が付されているというのが大方の実務の考え方ではないかと思うのですけれども,例えばそれ以外の,建物収去土地明渡請求,つまり建物を取り壊して土地から出ていけといった請求をする,こういった判決につきましては,その後仮執行の結果建物を取り壊した後になってから民事判決が控訴や上告で覆ったときに,原状に戻すことは不可能に近いということから,むしろ仮執行宣言を付けないといった運用がどちらかというとポピュラーなのではないかと思います。もちろん,およそ法律上の請求として,これが上訴審で覆ることがないといった確信が持てるような事件であれば,仮執行宣言が付される場合もあるかとは思うのですけれども,今申しましたように,事後的な原状回復が困難かどうかというあたりを斟酌しながら,現行の規定の下では宣言を付けるかどうかということを判断しているといった状況にあるのではないかと思われます。  今回,この制度の下で仮執行宣言を必要的とするかどうかというところは,先ほど来御意見がありましたように,この制度をどのような利益のどういった制度趣旨のものとして作るかということと密接に関係するわけではありますけれども,結論から申しますと,民事裁判官の私の感覚としては,できますれば任意的にした方が,裁判官のある種メンタリティーとしては,非常に運用としてやりやすいのかなというような気がしております。と申しますのは,今回この制度で,ほかの制度でも一般的にはないのですけれども,仮執行宣言を必要的にということになりますと,仮執行宣言自体は「仮」という名前がついておりますけれども,これは控訴や上告で本体が覆ったときにはその効力が失われるという意味での仮にすぎないわけでございまして,仮執行宣言に基づいて執行手続を始めたときには,これはいわゆる仮処分・仮差押えではなく,本執行ということになるわけでございまして,仮執行宣言に基づいて例えば不動産の差押えがされますと,その後各種の調査の手続を経た上で,不動産の売却決定を経て不動産自体が売却されるということ,そこまで仮執行宣言で進めることができるようになっているわけでございます。この執行手続の今の実務のタイムスパンといいますか,スケジュールについて申し上げますと,不動産の権利関係が複雑なものかどうかということによっても必要な期間は大分差が出るわけですけれども,比較的権利関係が複雑でない,単純な権利関係の不動産等につきましては,おおむね6カ月程度で売却段階にまで進んでいるといった形で,民事執行手続自体は非常に迅速に進んでいるところでございます。その意味では,仮に刑事手続の方の本体が控訴・上告という形で本体の判断がついていない段階であっても,単純な不動産等であれば,この手続は今申しましたような期間で実際の売却にまで至り得るようなことが実質的な今の運用の下では生じることになるといったところが1つあろうかと思います。先ほど申しましたように,事後的な原状回復の困難性といったところも含めて,ある程度裁判所の方に裁量的な判断の余地を認めていただいた方が,裁判所側の運用としては比較的動きやすいのではないかといった印象があるというのは,今申しましたようなところに由来するところでございます。  この関連では,先ほど○○幹事の方から,執行停止の要件を比較的緩やかに認めることで,執行手続自体を途中で一時的に止められるような,その要件の仕切り方でもバランスを取るという御指摘もございまして,一つの制度設計上考慮に値するところかと思いますけれども,ここから先は裁判官の私が言うのもいかがかと思いますが,執行停止の申立てというのは,なかなかこれは法律的な知識を伴う申立てでもございますし,また担保を積んでいただくといったことがほぼ必要的になろうかと思いますので,執行停止の要件でバランスを取るというのは制度的には確かにあるところなんですが,なかなか敷居の高い制度になるかなといった印象もちょっと持っているところでございます。  なお,○○委員から御指摘いただきましたような財産の隠匿とか,そういった点に対処すべきではないかという御指摘は,正におっしゃるとおりだろうと思いますし,取り分けこういう権利関係が複雑な際に財産隠匿等がなされるということは民事の世界ではまま見られるところでございますけれども,御指摘のような場面については,この手続による決定の仮執行宣言を待っていては,むしろその間に隠匿されてしまうおそれも非常に高いのではないかと。むしろこの申立てをする前に保全処分なりを打つということも併せていただきませんと,実際上なかなかそこまで対処するということも難しい場面も多いのではないかなという印象もいたしますので,この仮執行宣言だけで財産隠匿もカバーできるかといいますと,なかなか厳しい面はあるのかなと。ただ,冒頭申しましたように,現在の実務上は金銭請求についてはほぼ仮執行宣言が付くのが普通の民事実務の運用でございます。刑事の方の裁判官が当該事件を見てどういう形でいろいろな要素を斟酌するかということは,またあるいは新しい制度の下では少し違った面もあるかと思いますけれども,基本的な発想としては,同じ裁判官としてそれほど大きくそこに食い違いが出るということはないのではないかなといった印象を持っているところでございます。  ちょっと長くなりまして,大変失礼いたしました。以上です。 ● この論点について,更に御意見はございますでしょうか。もしありませんでしたら,次にまいりたいと思います。  次は第3の通常の民事裁判所への移行でございます。このうち第3の2の当事者の移行権については既に審議を行ったところでございます。それ以外の点で何か御発言はございますでしょうか。 ● 当事者に移行権を認めた場合の民事記録の送付との関係なんですが,2のA案ですと,刑事裁判の終局裁判の告知がある以前に通常裁判に移行させることができる。その移行をすると,この第3の2の(3)をそのまま適用すると,その記録は送付しなければいけないということになっているので,刑事裁判係属中に民事裁判が係属して,その記録の送付の問題が生じるということもあり得ますね。 ● 今,○○委員がおっしゃったのは,刑事の判決が出るまでの刑事の審理の間で移行権を行使した場合ということですね。その場合,ここで第3の3で記録を送付するという,その記録というのは,正に民事の記録,申立てをしたその民事の記録ということでございますので,そうしますと,刑事の審理の中ではまだ民事の審理は何もやっていないわけです。要するに,刑事の判決が終わった後,第1回の期日で,その中でしかるべきものを調べる。そこで初めてそれがいわゆる民事の審理の中における民事の記録ということになりますので,もし刑事判決が出るまでに移行権を行使した場合には,それはついていく証拠はないということになるんだと思います。 ● 被害者サイドでこの制度を使う最大のメリットの1つが,刑事の記録がそっくりそのまま民事の記録に--そっくりというか,一部はもちろん除外されるかもしれませんけれども--使えるということだと思うのですけれども,結局は刑事裁判が終結するまでは,民事の申立てをその以前にしても,記録は来ないということになるわけですか。 ● もちろん記録を流用できるということは大きな理由だと思いますし,正に刑事の成果という場合に,刑事の審理の中で取り調べられた証拠,それプラスその裁判官の心証というのは当然あるわけです。ですから,どの段階で被害者の方がもうこの手続を使うのをやめようかと決断をされたかという時期にもよるのでしょうけれども,そこはそういう判断で,一から民事訴訟を提起して記録を取り寄せるというのは今も現行でやっているわけですから,そういう道を選択されたということになるだろうと思います。 ● よろしいですか。  それでは,ほかに御発言がなければ,次の第4の不服申立てのところにまいりたいと思います。 ● ○○委員が言われましたように,同意を取れば加害者側から移行させてもいいのではないかというお話があったんです。そうでなければ両方が移行できないということになって,新しく私訴の原告は訴えを起こすということになるわけですが,確かに,原告・被告で利害関係が相反するから,移送の同意はめったに得られないだろうと私は申しましたけれども,そうでもないかもしれませんね。ここにいらっしゃる裁判官の方は皆さん御立派だから,みんな原告も被告もこの裁判官の裁判官を受けたいと思われるんでしょうけれども,中には原告も被告もあの裁判官は嫌だという人もいらっしゃるんです。そうなると,被告人も被害者も嫌だという点で一致する場合があるかもしれない。そういう気もいたしました。それで,移行権につきましては,今日ここでまだ決めないで,もう1回ぐらいありますから,それでもう一遍考えるということにさせていただきたいと思いますが。 ● よろしゅうございますか。  それでは,第4の不服申立てのところに入りたいと思いますが,何か御意見はございますでしょうか。  もしございませんでしたら,この資料,諮問事項第1についての議論をこれで終了したいと思います。今回の審議でこの諮問事項第1についての議論も二巡したことになります。御意見もおおむね出そろったのではないかと考えられます。まだ御意見が対立している部分もございますけれども,このあたりでこの資料のA案,B案等という選択肢になっている部分を含めて可能な範囲で1つの制度としての案をまとめた上で,全体を通して議論を行いながら,各論点について更に議論を詰めていきたいと考えております。こういうやり方でよろしゅうございますでしょうか。 ● 異議の申立てがあっても,付いた仮執行宣言は効力を失うということはないんですね。 ● そこは制度設計の問題になるかとも思いますので,更に詰めてまいりたいと考えております。 ● それでは,事務当局においてこの取りまとめの作業をしていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。  それでは次に,諮問事項第2についてですが,まず事務当局から資料の説明をしていただきます。 ● 諮問事項第2の「公判記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大」について,本部会の第2回会議における御議論等を踏まえまして,事務当局におきまして,以前お配りした資料に加筆修正した資料を作成いたしました。今回修正しました部分は,アンダーラインが引いてある箇所ですが,この修正部分の内容等について,御説明させていただきます。  それでは,資料27を御覧ください。  なお,今回,本部会の第1回会議でお配りしました資料11の参考条文についても再度配布いたしましたので,こちらも適宜御参照いただきたいと思います。  まず第1の「要件の緩和」についてですが,ここで公判記録の閲覧・謄写が認められる者につきまして,以前お配りいたしました資料では,「当該被告事件の被害者等」と記載しておりましたが,この点について,第2回会議で御質問があり,その際,公判記録の閲覧・謄写が認められる者は,現行の付随措置法第3条第1項に規定されている者と同じである旨お答えいたしました。そこで,この資料におきましても,この点を明らかにするため,下線部のように修正いたしました。  次に,第2の「対象者の拡充」についてですが,まず,ここで公判記録の閲覧・謄写が認められる者について,以前お配りいたしました資料では,「被告人又は共犯により被告事件に係る犯罪行為と同様の態様で継続的に又は反復して行われたこれと同一又は同種の罪の犯罪行為の被害者等」と記載していましたが,この点についても,同様に明確にするため,第2の1の(1)から(4)までのように,具体的に記載することといたしました。  また,第2回会議でも御説明いたしましたように,申出をした者が同種余罪の被害者等であるか否かを裁判所が判断することが困難であることも少なくないと考えられることから,申出人に疎明資料を提出させるとともに,裁判所への申出を検察官を経由して行うこととするのが適当ではないかと考え,第2の2を加えることによって,具体的な申出の方法について明らかにいたしました。  主な修正の内容等については,以上です。  次に,第2回会議におきまして,公判記録の閲覧・謄写の要件が緩和された場合に被害者等によって公判記録が悪用されないよう,何らかの予防措置を講じるべきではないかとの御指摘がありましたので,この点についても,若干御説明させていただきます。  現行法におきましては,付随措置法第3条第2項の規定により,裁判所は,公判記録の謄写をさせる場合には,適当と認める条件を付することができることとされ,また同条第3項の規定により,公判記録を閲覧・謄写した者は,それにより知り得た事項を用いるに当たり,不当に関係人の名誉等を害し,又は捜査・公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならないこととされております。  これらの規定は,公判記録が個人のプライバシーにわたる事項を含む場合が多いことなどにかんがみ,その濫用によって弊害が生ずることを防止するために置かれたものと解されております。こうした弊害を防止すべき必要性は,公判記録の閲覧・謄写の要件やその対象者を改めたといたしましても,変わることはないものと考えられます。したがいまして,公判記録の閲覧・謄写の範囲を拡大した後も引き続きこのような規定は必要になるものと考えられます。  このように,今回の法整備により公判記録の閲覧・謄写の範囲を拡大した後も,現行法と同様に,裁判所が一定の条件を付することが可能であることや,閲覧・謄写をした者に対してその濫用をしないよう注意義務は課されることに加えまして,仮に被害者等が閲覧・謄写いたしました記録を使って,被告人を含めて他人に損害を与えた場合には,民法第709条の不法行為が成立するほか,他人の名誉を毀損した場合には,刑法第230条の名誉毀損罪が成立することもあるなど,公判記録の閲覧・謄写により他人のプライバシー等が不当に害されることがないよう,既に一定の予防措置が講じられているものと考えております。  なお,被害者等による濫用を防止する観点から,例えば,公判記録の閲覧と謄写の取扱いを分け,謄写については弁護士のみにこれを認めるべきではないかとの御意見も前回ございましたが,その際にも併せて指摘がありましたように,弁護士が付いていない被害者をどうするかといった問題もさることながら,仮に,公判記録の謄写を弁護士のみに認めることとしますと,現行法では被害者等が直接公判記録を謄写することも認められていることにかんがみますと,被害者等による公判記録の謄写が認められる範囲が縮小される結果となり,「公判記録の閲覧・謄写の範囲を拡大する方向で検討を行い,その結論に従った施策を実施する。」旨を定めました「犯罪被害者等基本計画」の趣旨にも沿わないこととなるのではないかと思われます。  以上,諮問事項第2につきまして,第2回会議における御議論等を踏まえた修正点や,第2回会議で御指摘のありました点について御説明させていただきましたが,皆様方におかれましては,これらの点も含め,第2回会議に引き続き,幅広い観点から御審議・御検討をしていただきたいと考えております。 ● ただいまの説明について,まず御質問はございますでしょうか。 ● では3点ほど御質問いたします。まず,今日配布されております第2の2でございますけれども,検察官を経由して申出をする,その際に疎明する資料を提出するということになっていますが,これは裁判所に提出するという趣旨ですか。検察官に提出し,検察官が判断した上でということになるのか,ストレートに裁判所に提出されるという趣旨なのかが1点。  それから,これは今の最後の説明と関連するのですが,現状の運用についてお分かりであれば,あるいは裁判所の関係にお伺いしたいのですが,例えば現状において,被害者の方から閲覧・謄写が申請されて,閲覧をする範囲と謄写の範囲とを区別して許可をしたといったケースが現にあるのかどうか。  それから,現行法の第2項に,裁判所が謄写の際に使用目的を制限する,あるいはその他適当な条件を付することができるとありますけれども,このように裁判所の方で使用の制限あるいは条件を付されて謄写をさせられているということが現にあるのかどうか,そのあたりをお分かりでしたら御説明いただければと思うのですけれども。 ● まず私ども事務当局の方から,把握している範囲で御説明させていただきたいと思います。  まず1点目でございますが,疎明資料をだれに提出するのかというお尋ねでございますけれども,これも申出と同様,検察官を経由してと考えておりますので,検察官を経由し,最終的には裁判所に提出されるということを考えております。  それから2点目の閲覧と謄写につきまして,現行の公判記録の閲覧・謄写について,運用上差異が設けられているのかというお尋ねだったかと思いますが,この運用自体は個々の裁判所の方で行われていることでございますけれども,私どもが探した文献によりますと,謄写まで認めることは,その正当性あるいは相当性の観点から問題がないわけではないのだけれども,閲覧のみであればそのような問題はないだろうということで,閲覧は認めるけれども,謄写を認めないということもなされているように承知しております。  3点目でございますが,具体的にどのような条件を付けているのかというお尋ねかと思います。これも私どもが文献で調べてみたところ,その結果では,例えばでございますが,「謄写した訴訟記録の写しを民事訴訟以外の目的に使用しないこと」という条件でございますとか,あるいは「謄写物の再複写をしてはならない」とか,あるいは「逸失しないように保管には厳重に注意しなければならない」とか,様々な条件が付された例があるものと承知しております。 ● 第1回のときにも御説明したと思うのですが,この点,一切閲覧・謄写を認めなかったものについては統計を取ってございまして,その数は極めて限られているんです。それ以外に,一部閲覧・謄写をお断りしたというものについては,そもそも統計がないものですから,ましてやどれについて閲覧は許したけれども謄写は許さなかったといったことは数の上では出てこないわけです。感覚的なことで申し上げますと,恐らく今,○○幹事の方から御説明があったとおりで,事例によっては,閲覧はよいけれども,謄写は困るというものがないわけではないと承知しておりますが,それほど数が多いのかなというのが私の感触でございます。それから,その使用目的制限につきましては,今,○○幹事がおっしゃったとおりだろうと,そういう条件を付けている例が多いものと承知しております。 ● 文献ではなく,実際に支援をしている実態としてお話ししますと,例えば殺人事件の御遺族--その事件の場合は,娘さんが殺された方と被害者本人とお二人いたのですけれども,どちらも謄写をしたいということで,何でかというと,民事に利用するというのは,ほとんど犯人に資力がないから,損害賠償を求めるとか,そんなことは毛頭最初からなくて,はっきり言っていいのかどうか分からないのですが,最近多いのは,意見陳述書を書くための謄写が多いんです。それで,当然弁護人だけになどと限ると,そんな資力がなくて最初から弁護士が被害者につきませんから,結局,つらいけれども,自分でやるわけです。そうすると裁判所に行って,だれに疎明を出すかというと,検察庁ではなくて,私どもの支援例では,検事さんが「申し出るといいですよ」と言って裁判所に申し出て,裁判所の方で,これとこれとこれとかという必要なものと,ちょっと遠方までその遺族だという証明をするための書類を取りにいったり,それを持ってきて2週間ぐらいかかって,検事さんと裁判所と弁護士さんと全部に了解を得て,できるかどうか決めてから謄写ができますというので,謄写に行くまでにかなり時間がかかるんです。それで,謄写は本人しかだめということで,支援員は外で小銭を用意したりなどしていますけれども,当人にとってはすごくハードな作業であると,実態はそういうところなんです。 ● 実態は,今御説明いただいたように,いろいろなケースが恐らくあるんだろうと思います。そこで,今般,要件的には原則と例外をひっくり返すという形にしています。ですから,前々回,○○委員からも御意見がありましたように,裁判所のマインドも相当変わるのかなと。別に今が悪いという意味ではないんですけれども,原則と例外がひっくり返り,原則的に見せるものだということでこれから運用をされていくんだろうと思います。我々もいろいろ気を付けていきたいと思っています。 ● 今日訂正されたところではなくて,前回から議論になっているところで質問したいんですけれども,今回の公判記録の閲覧・謄写の拡大の原因になっているものとして,単に事件の内容を知りたいというものが正当な理由に当たらないと今までは解釈されてきたということがあると思うのです。実際に私も,私が持っているものでは,当時の法務省の関係者の方が書かれた「逐条解説犯罪被害者保護二法」というものがあるのですが,確かにそこに書かれているものとして,「『その他正当な理由』に該当し得る例として」ということで,「訴訟を提起するかどうかの判断資料としたり,民事保全や保険金請求の資料に使用する場合のほか,例えば,」「被害者等による意見陳述の制度に基づき,意見陳述をする前提資料とする必要がある場合もこれに当たり得よう」と,ここまではいいんですけれども,問題は,「他方,単に被害者等が事件の内容を知りたいという場合には,条文上損害賠償請求権の行使のための必要性を例示しており,これと同等の理由が必要であると考えられることから,必ずしも正当な理由があるとは認められない」ということで書いてありまして,ですから,ここに「単に知りたい」といった言葉を書いて,当たらないとしているのですが,確かに被害者の方々がこの事件の内容を知り,それによって自分の精神的な被害の回復を図るということが,今知りたいということの目的で言われていると思うのです。ですから,現行法の解釈としても,被害者の方が単に知りたいと書かずに,「私は精神的な被害の回復のために事件の内容を知りたい」と書いている場合は,現行法でも認められるという解釈なのか,現行法ではそれも難しいので広げていくんだということになっているのかということをちょっとお聞きしたいなと思っています。 ● 個々の場合に,どのような場合に正当な理由があると現行法上認められるかどうかというのは,恐らくケース・バイ・ケースなんだと思っております。今御指摘のあった書籍の記載につきましても,「必ずしも正当な理由があるとは認められない」という書き振りになっておりまして,正当な理由があるとは絶対に認められないという趣旨では恐らくないのだろうと考えております。それで,では今回は一体どういう趣旨でここを改めているのかというお尋ねがございましたが,これは前回も御説明させていただいたとおり,今御指摘のような,一定の法律上の請求権等に裏打ちされたところの正当な理由というのを現行法上求めているところ,平たく言えば,そのような法的な権利に裏打ちされたものでなくても,正に正当な理由であればというか,今回,要件を逆にしていますので,正に正当な理由がないという場合でなければ,閲覧・謄写を認めることにするという趣旨で,このように「損害賠償請求権の行使のため」という文言を削るとともに,その原則と例外を逆転させたというものでございます。 ● では,お差し支えなければ,議論に入りたいと思います。まず,資料27の第1の「要件の緩和」の部分について御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 私の意見なんですが,そのような形で被害者の知る権利にこたえていくということは,私も1つの必要性があるのかなと思うのですが,その場合にこの条文の構成とか定め方をどうするのかという問題なんですが,1つは,さっき言った解釈で出ましたように,この今の条文が一定の権利行使と同等でなければならないような書き振りになっているということがこういう知りたいということを否定する原因になっているのであれば,例えば1つは,この例示をしてある「損害賠償請求権の行使のため」という例示を外すことによって,例えば「正当な理由」ということ一本にして,後は法務省の解釈本のようなもので,このような知りたいということについても,これは正当な理由に当たると解釈することによって,現行の規定は余り動かさずに今の被害者のおっしゃる要求にこたえることができるのではないかと一つ思いますのと,又は,やはり例示がないと正当な理由についての解釈に支障があるということであれば,むしろこの公判の審理内容を知りたいということを例示列挙として追加するとかという形で,現行の原則・例外を全く逆転させるのではなくて,現行の条文の体裁を維持しながら知る権利に寄与するような立法をすることも可能なのではないかと思うのですが,そういう選択をされなかったのはどういうことかも含めて,教えていただきたいと思います。 ● これは,犯罪被害者の保護というところから,基本法を初め,基本計画という形で積み重ねてきたわけです。そこで,犯罪被害者の方が生の事実を知りたいという御主張というか,それももっともなものだというところから,まずこの出発点があるんだと思います。それ以上になると,これはある意味で政策判断なのかもしれません。○○委員が今言っておられるようなことで何でだめなのかというよりも,では何でそうしなければいけないのかということなのかなと思います。被害者の方にとってみれば,これは見たいんだと。でも,よほど正当な理由とか相当な理由とか,そういう場合はだめなものはあるのだけれども,原則としては見たいとおっしゃったものを見せるというのが,これまでの基本計画が積み重ねてきた一つの政策判断なのかなと思っております。 ● ○○委員のようなお考えもあると思うのですが,以前の事務当局のお答えによれば,この案は,まず,事件の内容を知りたいということも正当な理由に入るのだということで,現在の制度を転換し,その上で,さらに,原則と例外を逆転させている点で,二重の意味で被害者の保護に資する形にしています。それは基本計画の考え方に沿うものだと思いますので,私はこの案に賛成です。 ● 正当理由が例示列挙されていて,それでそれを判断するといった思考回路だったことによって,各裁判官がかなり恣意的に判断されていて,かなりブレーキがかかっていたという,○○委員がそういう文案だとそうなるが,原則・例外が逆転すれば違うとおっしゃっていましたけれども,だから多分そういう形になることが被害者としては非常に望ましい。被害者であるということで,正当にアクセスすることが認められるということで,これでよろしいと思います。 ● 恣意的と言われると,お答えしなければいけないわけですが,要するに現在は,訴訟記録は検察官及び被告人又は弁護人以外の者に見せてはいけないと,これが大原則になっていて,それを法律でこういう場合には見せてもいいと例外を設けているわけです。そうなっている以上は,裁判所としては要件に合っているかどうかということを考えて,要件に合っていないものについてはお断りせざるを得ない,そういう仕組みになっているわけです。それで,今回法律をこのように変えることについては,私は被害者保護法の趣旨から考えて賛成であります。このように変えた場合には,それは法律が違うわけですから,裁判官の判断も当然ながら変わるであろうと思います。 ● 第1の「要件の緩和」について,更に御意見はございますでしょうか。 ● すみません,1点だけ。前回にも○○委員からも指摘があったと思うのですが,この公判記録の目的外利用の問題は,前にも言いましたけれども,被告人については,公判手続で調べられた後もその目的外利用は罰則が科せられる。もちろん,被告人に開示されているものと被害者に一部制限して開示されるものとの違いはあるのですが,その被害者にも多く開示されるということによって,このアンバランスというんですか,これが,さっきおっしゃった被害者はこの訓示規定で,あとは被告人から損害賠償請求を受ければいいというだけの実効性だけで足りるのかという問題意識から,私は,条文の構成を余り変えない方が,このアンバランスが広がらなくていいのではないかと考えておりまして,先ほどのような,なぜそういう条文にするのかということについては,私自身は,被害者に対する罰則を強化するといった方向ではなくて,現状のままでいいと思っているんですけれども,そのためには,被告人に対して科されている罰則を,本来は日弁連はこれは外すべきだと言ってきたのですが,仮に外せないとするのであれば,そのアンバランスを解消するためには,この条文の構成は余り大きく逆転させない方がいいという意味で,私は提案しているものであります。 ● それでは,お差し支えなければ,第2の「対象者の拡充」のところに移りたいのですが,この点について御意見はございますでしょうか。 ● 先ほど質問したことと関連するのですが,検察官を経由して疎明資料等も裁判所に出るんだということですが,大体どんなものが想定されることになりますか,具体的には。と申しますのは,被告人の立場で,結局当該裁判所にそういう資料が出ることによって何らかの裁判所に対する影響が出てくるのではないかということをちょっと懸念しないわけでもないのですけれども。要するに,そのほかにも関連被害者がいっぱいいるんだといったことが明らかになる資料ということになりますね。被告人の立場からすると,ちょっとどうだろうかという懸念があるので。 ● ここで提出が求められるところの疎明資料としては,個別具体的な事案の内容によりますので,一概にすべて挙げるということはなかなか困難でございますけれども,例を挙げさせていただければ,例えば,いわゆる同種余罪が詐欺であって,被告事件も詐欺であるような場合に,その詐欺が銀行振込により金銭をだまし取られたといった事案であれば,その振込日時や振込先などが記載されている預金通帳の写し,あるいは振込明細書の写しなどというものが,疎明資料の1つとして考え得るのではないかと思っております。 ● 同じく,そこの関連ですけれども,今おっしゃった具体的な例で言えるかどうかは分からないんですが,この間ずっと予断排除というのは何なのかという議論になっていまして,○○委員は,それは公訴事実の認定につながるようなものだというふうに非常に狭い解釈をされていて,私はもっと広いのではないかと,例えば被告人に関することや,被害者に関することや,事件全体ではないかと私は思っているのですが,今回のこの被告人が当該被告事件以外にもほかでもこういうことをやっているという資料が提出される。特に,これは検察官が提出するのではなくて,被害者が書いてきたものをそのまま提出するといったことになると,正に今,今回問題になっている公訴事実の認定に対しても,ほかでもやっているのだからこれもやっているのだろうという形で,正にそれこそ予断になるのではないかなと思っているんですが,このあたり,私,予断排除の原則の解釈が間違っているのかどうか。前からちょっと私は疑問で,私の知り合いの刑事訴訟法の学者に聞いても,それでいいんだという人もおられますので,例えば○○関係官などに,本当に狭いのか広いのか,ちょっとお聞きしたいなと。私自身の勉強が間違っているのかなとも思いますので,ちょっとその辺,いつもここはすれ違ったままになっているので,ちょっと御意見を聞かせていただきたいと思うのですが。 ● 突然のお尋ねでございますが,予断排除,実は私は予断防止という言葉を使っておりますけれども,いわゆる起訴状一本主義は,戦後の刑事訴訟法改正のときに突如として挿入された規定でありまして,日本側の関係者としては非常に驚きをもって迎えた規定でありました。にもかかわらず,それを受け入れてやってみると,適切なところも大いにあるということで,今日まで60年実行してきているわけですが,ただ,たまたま起訴状一本主義という強烈なネーミングが生まれましたために,いわば物神化されたといいますか,一切の資料との接触はいけないのだという観念が少し強くなり過ぎていたと思います。その点に関する反省が,最近ある程度動き出して,それが公判前整理手続に関する議論にもあらわれており,○○委員が引用されたような文献の表現にもなってきているのかと思います。今回のこの手続がどうなるべきかということについては,これは私の意見というよりはこの場の皆さんの御判断にお任せしなければなるまいと思います。 ● よろしゅうございますか。それでは,お差し支えなければ,予定しておりました時間も経過いたしましたので,本日の審議はこの程度にいたしたいと思います。 ● ちょっとさかのぼりますけれども,附帯私訴の審理及び裁判というところで,諮問事項第1の第2の2ページのところでございますけれども,この第2の2の審理期間ですけれども,「特別の事情がある場合を除き,一定の回数(例えば3回程度)以内の期日において,審理を終結しなければならないものとする」とあって,「3回」とあるのですが,これは2回でも3回でも早めにやっていただければそれにこしたことはないんですが,3回では済まないから移行してしまえというようなことになってもいけませんので,これは4回ぐらいに何とかしていただけないでしょうか。せっかく私も大物を2つ譲りましたので,1日ぐらい譲っていただいて,これを4としてもらえば,我々の仲間の実務家の意見とも合いますので,そういうふうに一つまけていただきたいと思います。 ● それでは,事務当局の方で御検討をお願いしたいと思います。  それでは,次回の審議の予定ですが,特に御意見がなければ,次回は諮問事項第3の犯罪被害者等に関する情報の保護及び諮問事項第4の犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度について,再び議論を行いたいと考えております。それでよろしいでしょうか。--もし御異論がなければ,そのようにさせていただきます。  事務当局の方から次回の部会の日時・場所について御説明をお願いいたします。 ● 次回の部会は,12月19日火曜日の午後1時30分から,法務省大会議室で会議を行うこととなっております。この大会議室は法務省の地下1階にございます。 ● 次回は12月19日火曜日の午後1時30分から法務省大会議室で行います。  それでは,本日はこれで散会いたしたいと思います。どうも長時間ありがとうございました。 -了-