法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会               第5回会議議事録 第1 日 時  平成18年12月19日(火) 自 午後1時32分                        至 午後5時20分 第2 場 所  法務省地下1階大会議室 第3 議 題  損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度及び犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度の新設等のための法整備について 第4 議 事 (次のとおり)                議        事 ● ただいまから法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会の第5回会議を開催いたします。 ● 本日は,御多忙中のところ御参集いただきましてありがとうございます。          (委員の異動紹介省略) ● 本日は議論に入る前に,事務当局から,法務省が実施した諮問事項に関するパブリックコメントの結果について説明をしていただきます。 ● 法務省におきまして,法制審諮問事項第80号,刑事手続において犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るための法整備,この諮問事項に関するパブリックコメントを実施いたしましたので,その結果について簡単に御報告させていただきます。  もともと今回の諮問は,法整備に関するものでありまして,行政手続法がパブリックコメントの実施を義務付けている命令等を制定する場合に該当するものではありません。しかしながら,国民のだれもが被害者になる可能性があることなどを考慮いたしまして,制度を構築するに当たり,広く一般の意見を聞いた方がよいのではないかと考えられましたことから,パブリックコメントを実施することといたしました。  今回のパブリックコメントは,本年10月20日から11月30日までの間,通常のパブリックコメントと同様に,電子政府の総合窓口であるe-Govのホームページに,諮問事項その他の必要事項を掲載するとともに,法務省のホームページにおきましても,このパブリックコメントの紹介をいたしました。また,意見公募期間中におきましても,適宜,この部会に提示されました参考資料を追加して掲載するとの方法で実施いたしました。  その結果,個人や団体から合計61件の御意見が寄せられました。  寄せられた御意見につきましては,事務当局におきまして整理し,資料32の「パブリックコメントに寄せられた御意見の概要」として配布いたしましたので,そちらを御参照いただきたいのですが,その内容は,諮問事項に掲げられました制度等の導入を求めるもの,反対に慎重な検討を求めるものなど,様々であります。  皆様におかれましては,このような御意見につきましても,審議・検討の参考にしていただきたいと考えております。  なお,お配りしました資料32は,寄せられた御意見の内容を整理したものですが,寄せられた御意見そのものを御覧になりたいとの御要望がございましたら,個別に事務当局の方に申し出ていただければと考えております。  以上,諮問事項に関するパブリックコメントの実施結果について御説明させていただきました。 ● ただいまの説明について御質問等はございますでしょうか。  それでは,諮問事項第3の「犯罪被害者等に関する情報の保護」及び諮問事項第4の「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度」について,引き続き議論を行いたいと思います。  これらの事項については,第3回会議においても議論をいただきましたが,特に諮問事項の第4につきましては,更に議論をしていただく点が少なくないと思われます。そこで,本日は,まず諮問事項の第4についての議論を行い,その後,諮問事項の第3についての議論を行いたいと考えておりますが,このような進行でよろしいでしょうか。  それでは,諮問事項の第4についての審議に入ります。  諮問事項第4については,事務当局から資料が3点配布されております。また,本日席上に○○委員から提出された資料及び○○委員から提出された資料が配布されております。そこで,まず,事務当局,○○委員,○○委員から,それぞれ御提出の資料の内容についての説明をしていただいた上で議論をいたしたいと考えております。  それでは,まず事務当局から説明をお願いいたします。 ● それでは,事務当局から説明をさせていただきます。  今回用意させていただきました資料は,3点ございます。  1点目は,資料番号29の「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度(諮問事項第四)に関する資料」と題するものでありまして,これは,第1回及び第3回会議での御議論等を踏まえて,犯罪被害者等の関与の在り方として考えられる訴訟活動を具体的に列挙するとともに,各訴訟活動ごとに,犯罪被害者等の関与を認める場合の根拠として考えられるところと,関与の在り方を議論する際に検討すべきと考えられる事項をまとめたものでございます。  2点目は,資料番号30の「諮問事項第四について,第1回及び第3回会議で示された意見等の概要」と題するものであります。これは,本日の議論の参考としていただくために,第1回及び第3回会議における諮問事項第四に関する議論で示された意見等の概要をまとめたものでございます。なお,この意見等の概要は,第1回及び第3回会議において示していただいた御意見等を,事務当局において適宜要約した上で作成したものでございます。できる限り御発言の趣旨に沿うように要約することに努めたつもりですが,御発言の趣旨が反映されていない部分がございましたら,御容赦いただきたいと思います。  3点目は,資料番号31の「『犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度』についての参考条文」と題するものです。2点目の資料と同様に,本日の議論の参考としていただくために,1点目の資料において,犯罪被害者等の関与の在り方として考えられる訴訟活動として列挙したものに関する現行法上の条文を記載したものでございます。  それでは,1点目の資料について,その内容を御説明させていただきます。  第3回会議におきましては,この「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度」を検討するに当たり,刑事裁判における犯罪被害者等の地位や関与の在り方についてどのように考えるか,また,検討に当たって考慮すべき点としてどのようなものがあるかという,基本的な事項を議論していただいた上で,具体的に犯罪被害者等の方々にどのような関与を行っていただくかについて,配布資料に記載させていただいたいくつかのモデルを念頭に,議論をしていただきました。そして,この議論の中で,犯罪被害者等の関与の在り方として考えられる訴訟活動として,訴因の設定及び上訴,公判期日への出席,証拠調べの請求,証人等の尋問,被告人に対する質問,証拠調べが終わった後における弁論としての意見陳述が挙げられました。  そこで,今回の資料では,第1の項目として,「犯罪被害者等の関与の在り方として考えられる訴訟活動」との表題の下に,これらの訴訟活動を列挙させていただきました。  なお,ここに掲げました各訴訟活動は,第3回会議において議論されたものを列挙したものにすぎず,これ以外の訴訟活動を検討の対象から除くという趣旨ではありませんので,その点を御了承いただきたいと思います。  第1の項目で列挙いたしました各訴訟活動については,本部会の第1回及び第3回会議はもとより,犯罪被害者等基本計画が策定される過程での議論等においても,犯罪被害者等の関与を認める場合の根拠として考えられるところについての意見や,議論の際に検討すべき様々な問題点等についての意見も示されました。そこで,この資料では,第2の項目として,「各訴訟活動に関する論点」との表題の下に,第1の項目で挙げました各訴訟活動について,犯罪被害者等の関与を認める場合の根拠として考えられるところと,関与の在り方を議論する際に検討すべきと考えられる事項とを,これまでに示された様々な御意見を参考に,順不同で記載させていただきました。  その具体的な内容については資料に記載したとおりですが,概要を申し上げますと,まず,訴因の設定については,犯罪被害者等が殺人で起訴されるべきと考える事案が傷害致死で起訴される事案もあることから,公訴事実の同一性の範囲内で訴因を設定する権利を認めるべきであるとの御意見も示されましたが,他方で,私人による訴追を認めず,検察官が,法と証拠に基づいて,有罪を得られる高度の見込みがある場合に限って起訴するという我が国の現在の公訴提起の原則との関係をどのように考えるかとの御指摘もあったところですし,審理の対象が増えることによって,刑事裁判が複雑化することにならないかとの御懸念も示されておりますので,これらの点も検討する必要があるのではないかと考えております。  上訴につきましては,犯罪被害者等が判決に不満であるにもかかわらず検察官が上訴をしない場合があるので,犯罪被害者等が上訴をすることを認めるべきであるとの御意見も示されましたが,他方で,犯罪被害者等が検察官とは別個に上訴を行って刑事裁判を継続させることができるものとすることは,訴因の設定についてと同様,我が国の現在の公訴提起の原則との関係をどのように考えるかとの問題などが指摘されており,これらの点も検討する必要があるのではないかと考えられます。  次に,公判期日への出席につきましては,犯罪被害者等が傍聴席に置かれていることは,刑事司法からの疎外の象徴であり,犯罪被害者等の出席は最低限認められるべきであるとの御意見も示されましたが,他方で,出席を希望する者が多数である場合や,後に犯罪被害者等御本人が証人として証言することが予定されている場合など,出席を制限すべき場合があるのではないかとの問題などが指摘されており,これらの点も検討する必要があるのではないかと考えております。  次に,証拠調べの請求については,犯罪被害者等が訴訟当事者として刑事裁判に参加し,検察官とは別の立場で事実に関する主張・立証を行うことができるものとすべきであるとの御意見や,検察官の設定した訴因を前提としても,犯行の動機や犯行に至る経緯等について,検察官が重視していない点であっても,犯罪被害者等としては主張・立証したい事項があり得るのであるから,犯罪被害者等は検察官の同意を得て証拠調べの請求を行うことを認めるべきであるとの御意見も示されました。他方,検察官と犯罪被害者等との間の主張・立証の抵触が生じることにより,真実の発見が困難となったり,かえって被告人が利益を得る結果となることはないか,検察官や弁護人が取調べの必要があるとは考えていない証人等の取調べが行われることについて,その証人等の負担や迅速な裁判の要請との関係をどのように考えるのか,証人として予定されている犯罪被害者等が,その証言の前に具体的な主張や証拠調べの請求を行うことになるとすると,その証言の信用性が損なわれるおそれはないかとの問題などが指摘されており,これらの点も検討する必要があるように思われます。  証人等の尋問については,証人等の証言に対して,犯罪被害者等が,直ちに,その場で反論したり,チェックするために尋問を行うことは,事案によっては,真実発見のためにも有益であるとの御意見も示されました。他方で,黙秘権が保障され,弁護人の援助を受けることができる被告人とは異なり,尋問に対し証言をすることが強制されている証人等の負担をどのように考えるのか,検察官,弁護人等が尋問の必要があるとは考えていない事項の尋問が行われることについて,証人等の負担や迅速な裁判の要請との関係をどのように考えるかとの問題などが指摘されており,これらの点も検討する必要があるように思われます。  次に,被告人に対する質問については,犯罪被害者等にとって納得のできない被告人の弁解に対して,その場で犯罪被害者等が直ちに弾劾・反論するために質問を行うことは,犯罪被害者等の名誉の回復や立ち直りに資するのみならず,事案によっては真実発見のためにも有益であるとの御意見も示されました。他方で,犯罪被害者等が検察官の事実に関する主張立証の範囲を超える質問を行い得るものとすると,審理の複雑化や混乱が起こらないかとの問題などが指摘されており,これらの点も検討する必要があるように思われます。  次に,証拠調べが終わった後における弁論としての意見陳述につきましては,法廷で意見を陳述することが立ち直りの効果を持つことも指摘されており,現行の意見陳述に加え,求刑を含め,犯罪被害者等による最終弁論を認めることも考えられるとの意見が示されました。他方で,意見陳述を拡充すると,検察官の論告の内容と犯罪被害者等による意見陳述の内容に抵触が生じることにより,適正な事実の認定が阻害されるおそれはないか,裁判員に対して不当な影響を与えるおそれはないかとの問題などが指摘されており,これらの点も検討する必要があるように思われます。  なお,第3回の会議では,犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度全般について,新たな制度を設ける前提として,検察官と犯罪被害者等との意思疎通を一層充実させるべきであり,検察官は,犯罪被害者等の求めがある場合には,犯罪被害者等と相談して適切に対応するものとし,その上で,どこまで犯罪被害者等が直接的に訴訟活動を行うものとするかを検討すべきではないかとの御指摘もありました。そこで,個別の訴訟活動についての検討に当たりましても,犯罪被害者等と検察官の意思疎通を一層充実させるという観点を踏まえつつ議論を行っていただけるよう,このような点も資料に記載させていただきました。  以上,諮問事項第四について,今回配布させていただきました資料の内容を御説明させていただきましたが,資料に記載させていただいたもの以外にも,様々な御意見や検討すべき事項もあるのではないかと考えております。そこで,皆様におかれましては,第3回会議に引き続き,幅広い観点から審議・検討をしていただきたいと考えております。  以上でございます。 ● 続きまして,○○委員から御説明をいただきたいと思います。 ● お手元に配布されております日弁連会長名義の2006年12月15日付けの「法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会における審議事項について」という意見書について紹介をしたいと思います。  この意見の今回の第4の諮問事項についての部分だけを今回紹介させていただきますが,その際に引用しております昨年,2005年6月17日に日弁連が出しております「犯罪被害者等の刑事手続への関与について」という第1回でも配布をさせていただきましたものを御参考にしていただきたいと思います。  今回の意見書のうち,頁数が6頁のところを御覧ください。  6頁の第4の犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度(諮問事項4)について,まず結論が1ですが,犯罪被害者等が刑事裁判に出席し,検察官の事実に関する主張・立証の範囲において,「事件の当事者」としての立場で一定の訴訟活動を行うことができるものとする制度については反対をする。  理由は既に審議会に提出されている2005年6月17日付け意見書「犯罪被害者等の刑事手続への関与について」記載のとおりである。  現在,刑事訴訟に関して最も重視すべきは,裁判員裁判制度に対する市民の理解を広め,同制度を円滑にスタートさせ,定着させることであり,犯罪被害者等に関していうならば,まず(1)被害者等の検察官に対する質問・意見表明制度の導入,(2)犯罪被害者等に対する公費による弁護士選任制度の導入こそが必要である。犯罪被害者等の直接関与については,上記2制度を実現し,すなわち「公費による支援弁護士が選任され,被害者等を支援し,検察官と十分なコミュニケーションを図り意見を述べ,検察官がこれに配慮する」こととした上で,そうした制度の成果や限界についての検証を行い,その必要性等について改めて検討すべきであります。  先ほどの理由について,2005年6月17日付け意見書を見てください。  この意見書の4頁を御覧ください。  被害者等の刑事手続への直接関与という項目について,被害者等が刑事手続に直接関与する制度の導入には,次のような憂慮すべき重大な問題が生じるおそれがあるということで,2点を書いております。  第1点は現行刑事手続の仕組みに適合しないこと。第2は被告人の防御に困難を来たすおそれの2点であります。  第1点の現行刑事手続の仕組みに適合しないことについてですが,我が国では検察官が訴追及び訴訟遂行に責任を持つ仕組みとなっています。被害者の意見や処罰感情等は検察官において十分に考慮された上で,公益的立場からの訴追方針が策定されることとされています。国家機関である検察官が訴追及び訴訟遂行に責任を負う仕組みは社会公共の関心事である犯罪を国家が理性的に処理することが合理的であり,適切であるとされ,私的復讐が公的刑罰に昇華されていく歴史の過程で作られたものです。検察官によるこのような公益的立場からなされる訴追の在り方に,別途「当事者」ないし「補佐する者」として被害者等が直接加わることは,訴追方針の不整合を生じさせるなど,国家刑罰権の適正な行使に影響を及ぼすこととなり,適切ではありません。検察官が設定する訴因の枠内における関与であっても,訴追方針との不整合は生じるので,これを認めることはできないと考えます。  第2点の被告人の防御に困難を来たすおそれでありますが,無罪推定の原則,黙秘権の保障,検察官の立証責任等,被告人の防御権を考慮した様々な原則と権利が存在しているのは,被告人が強大な組織力と強制捜査権を背景とする検察官の訴追活動に対峙しなければならない極めて厳しい立場に被告人が置かれることによるものであります。しかし,被害者等の直接関与は被告人の防御に大きな困難を来たすおそれがあります。これについて4点の視点から論じております。  第1点は防御すべき対象の拡大であります。被害者等の直接関与により,検察官の訴追活動と異なる被害者等の訴訟活動が行われれば,被告人の防御すべき対象が拡大することとなり,被告人の立場が非常に厳しいものとなるおそれがあります。公判前整理手続では,争点中心の公判審理を実現することが目指されておりますけれども,それにもかかわらず,整理された争点から外れる質問等が被害者等によって行われることがあり得るのであって,その場合に被告人の防御に支障を及ぼすおそれは否定できないところであります。  第2は被告人の防御活動が萎縮する可能性についてであります。直接関与のうち「被告人に対する質問権」については,上記の問題点に加え,「被害者から質問を受ける」立場に置かれることが被告人に看過し難い不利益をもたらすおそれがあることを指摘しなければなりません。例えば,共謀を否認したり,過剰防衛を主張するなど,検察官主張については争いがあるが,犯罪に関与したことは争いがない事案などにおいて,被告人は生じた結果について道義的責任を感じていることが少なくありません。このような場合において,被告人が被害者や遺族等から怒りや悲しみなど,被害者であれば当然に持つであろう感情に支えられた質問を直接に受けたとすると,供述したいことを控えざるを得ないなど,被告人として本来行うことができる防御活動が萎縮する事態に陥る可能性が否定できません。  第3点は事実認定に与える影響です。事実認定者に対しては,判断資料となり得る適正な証拠のみが示され,心証形成に不合理な影響を及ぼすものは排除されなければなりません。ところが,被告人に対して被害者等が直接に質問をする制度が導入されれば,被害者等は,罪を犯したとされる被告人を前にして,怒りや悲しみなどの感情を前面に出して質問を行うことがあることは上記のとおりであります。これに対して,被告人が激しく感情的に反発することも十分にあり得ると言えます。このように,法廷で被害者が被告人と直接対峙して感情的な質問や応答がなされた場合,その印象は,特に裁判員裁判においては,一回限り初めて刑事裁判に関与する裁判員の情緒に強く働きかけ,「証拠」に基づいて冷静になされなければならない事実認定について,影響を与える可能性は否定できないと言わなければなりません。  最後,第4点ですが,被害者等が複数の場合の問題です。被害者の全員が主張立証,質問しようとした場合に公判に要する時間が増加すること,異なった観点から主張立証を行った場合に争点が増加し,複雑化することなど,訴訟の遅延や被告人の防御の負担の不合理な増大等の問題が更に拡大する。これらが先ほどの12月15日付け意見の理由であります。  もう一度先ほどの12月15日付けの意見書に戻っていただきたいんですが,日弁連としてはこのような制度には反対ですが,検察官に対する質問,意見表明制度の導入,公費による弁護士選任制度の導入を是非とも実現すべきだと考えています。これはこの部会でも検討されて議論がされていますけれども,具体的には次のような制度であります。  6頁の下のあたりですが,(1)として,犯罪被害者等又はその代理人弁護士が,検察官に対して,当該刑事手続に関し,説明を求め,意見を述べる制度を導入すること。2点目は,犯罪被害者等が,一定の要件を満たす場合に,検察官が弁護人に開示した証拠を公判前に閲覧できる制度を導入することであります。  第2の公費による弁護士選任制度の導入ですが,弁護士による犯罪被害者等支援の必要性については,ここに書いたとおりです。犯罪被害者等のための支援弁護士の活動としては,具体的にはここに述べておりますような起訴前の段階,起訴後の段階,不起訴の場合,裁判終了後,加害者との対話,経済的回復のためのアドバイス,弁護活動など,多岐にわたります。こうした弁護士の支援がなくして,犯罪被害者等が刑事訴訟手続を理解し,これに適切に対応することが困難であり,殊に何らかの訴訟活動を行うことは極めて困難であると言わざるを得ません。その意味で,犯罪被害者等の直接関与を論ずるのであれば,その前提として公費による弁護士選任制度の導入が不可欠であります。  以上です。 ● ありがとうございました。  それでは,続きまして○○委員から御説明をお願いいたします。 ● それでは,私の方で今日提出いたしました資料について御説明いたします。  これは今回のその直接関与,参加の制度について私がこういう案がいいのではないかと思って考えている案をまとめたものです。この案は,もとは2年前に私が所属します日弁連の犯罪被害者支援委員会が要項試案としてまとめたものを今回もう一度見直しまして,私の案として作成したものです。この案の概括的な観点ということは,この「はじめに」と書いてありますが,現行の刑事司法の骨格,つまり国家刑罰権,当事者主義,検察官制度に抵触せず,そして被害者の要望の核心を満たすという,そういう観点から,日本型といわれる,いわば日本型と言うべき被害者の参加制度を考えたものです。  そこで,被害者は,独立した当事者として参加するわけではなくて,検察官の補佐的な立場の参加人として訴訟にかかわるという制度を考えました。この諮問事項第4について,私が今まで会議でお話ししていた意見もこの制度に沿った形でお話ししております。  簡単にその制度の骨子をお話しします。  まず,参加の申出は簡単な書面にして,書面で検察官を通じて行うということです。それから,参加につきましては,明らかに不当な目的,例えば訴訟遅延の目的等,そういうこと以外の場合は原則認めるということにしております。  それから,この参加制度は弁護士を付けるということで,弁護士強制制度を採ります。その上で,被害者が適切に訴訟に関与していくためにも,証拠の開示請求権,閲覧・謄写請求権を持つとしております。  それから,冒頭陳述について検察官に事前に説明を受けたり,検察官への意見陳述を行うということを規定しました。  それから,弁護人に対しても証拠の開示,閲覧・謄写請求権を持っている,これもすべて検察官を通じてということではありますが,弁護人に請求することができるとしました。  そして,第1回公判後では,証拠調べ請求権を持つ,これも検察官の同意を得てということです。この同意を得てということは,検察官とその辺に関していろいろ協議をするということで,検察官との意思疎通を図り,そうであれば検察官の方から証拠調べを請求するということにもなるかもしれません。  それから,証人尋問権を持つ,参加人本人も,それから参加人の代理人,弁護士ですか,証人尋問することができるとしました。この証拠調べ請求権,証人尋問権はいろいろ御議論あるところかと思います。証人といっても一律な証人,同じような立場の証人ばかりではございませんので,この点についてはまた今回の会議も含めまして,委員の方々の細かい議論をいただきたいと思っております。  それから,被告人質問権,これを持っているとしました。  それから,最終意見陳述,これは現在の被害者に認められている意見陳述というものよりも広く事実関係にわたることも可という,そういうような意見陳述をすることができるとしました。証人尋問権,被告人質問権を持っているわけですから,それに基づいて最終的に被害者の意見をまとめて述べる機会を与えられて当然だと考えました。  上訴については,「はじめに」のところでも書きましたが,これは上訴権を持つのではなくて,検察官に上訴について意見を述べることができ,検察官はこれに配慮するという形を考えております。  その他,一応この制度については,特に罪名等による制限を設けておりません。ここについてはいろいろ御議論あるところかと思います。また,在廷は当然の前提として制度構想をしておりますけれども,在廷できる参加人の人数など,あと代理人の人数は,それは裁判所の方で一定の制限をすることができるとせざるを得ないと思っております。  大体こういうような形で私は直接関与の制度を考えております。  以上です。 ● ありがとうございました。  ただいまの御説明についての御質問や御意見は,これからの審議の中で述べていただくことといたしたいと思います。  早速議論に入りたいのですが,もし御異議がなければ,ただいまの資料のうち資料番号29,これに基づいて,各訴訟活動ごとに議論を行っていきたいと考えております。  なお,本日○○委員から提出された資料には,このほか今御説明のありました犯罪被害者等による証拠開示,それから閲覧・謄写請求権が取り上げられておりますけれども,この点につきましては,証拠調べの請求についての御議論の中でこれをしていただきたいと考えております。  以上のような進行でよろしゅうございますでしょうか。  それでは,資料29ですが,これの第2の1と2については,既に第3回の会議で比較的多くの御意見が示されております。そこで,この二つについては後ほど議論していただくということにして,まずは第2の3である「証拠調べの請求」から,その3から6までの各訴訟活動について順番に議論を行っていきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。  それでは,まず資料の第2の3の「証拠調べの請求」についての議論を行いたいと思います。ここにあります証拠調べの請求とは申すまでもないことかもしれませんが,犯罪被害者等が検察官とは別に証人や証拠書類の取調べを裁判所に対して請求するようなことを指します。例えば,検察官や弁護人からは取調べが請求されていない目撃者等について,犯罪被害者等が証人として取調べを希望して,その取調べを裁判所に請求すること等であります。犯罪被害者等が証人に対して尋問をすること自体については,次の第2の4で議論していただきたいと思います。  それから,先ほど○○委員から提出された資料で,検察官の同意を要件として証拠調べの請求を認めるとの御意見が示されております。また,先ほどの証拠開示,閲覧・謄写請求権の問題についてもここで併せて議論していただきたいと思います。前回までの発言の重複するものでももちろん結構でございますので,どなたからか御発言をいただきたいと思います。 ● 本日は,証拠調べの請求,証人の尋問,被告人に対する質問というふうに,順次,個別の論点について議論が行われると思うのですけれども,個別の論点も相互に,特に公判期日における手続という観点で連動しておりますし,最初に議論される証拠調べ請求権についても,そもそも我が国の刑事裁判の中でこれは何のための制度であるかという根本に立ち返って考えるべきものだろうと思います。  そこで,何のための制度かということを考えてみますと,これは訴訟における一方の当事者である検察官が,自ら設定した訴因を証明するために証拠調べを請求する。他方で,反対側の当事者である防御側がそれを争う場合には証拠調べを請求する。要するに,この手続は訴訟の当事者が,公判期日における証明の主題に必要な証拠を顕出するための制度であり,正に公判手続の中核,また当事者主義刑事訴訟手続の要に当たる制度であると位置付けることができると思います。  国家が訴訟の形式を通じて刑罰権を実現するに際して,これを原告側当事者たる検察官が担当するという前提を採るとすれば,被害者が,検察官とは独立に,訴因の設定すなわち証明の主題設定と密接不可分な証拠調べの請求の権限を持つという制度に仮になったとしますと,それは被害者に個別の訴因設定権,あるいは訴追権を設けるのと同様に,訴訟手続全体の構造から見て適切でないと私は考えます。  先ほど示された○○委員の御意見の中には,検察官の設定する訴因の範囲内で,あるいは検察官の同意を得て,被害者から見て足りないと思われる証拠の取調を請求する権限を認めるべきである,そういう御趣旨の提案がありました。確かに,訴因を設定し,有罪判決を求めて訴訟を追行する検察官の視点とは別に,被害者がこういう証拠を調べてほしい,公判に提出してほしいと考える,そういう要請はあり得るところであろうと思います。例えば,公訴事実を同一にする範囲内,あるいは検察官が設定した訴因の範囲内で,検察官は証拠調べ請求していないけれども,被害者としては重要と感じている犯情や量刑の事由に関連する証拠を調べてもらいたいと考える場合があるでしょう。○○委員の御提案は,このような被害者の要請に証拠調べ請求権という法形式によって対応しようとするものと理解されます。  しかし,本来訴訟当事者が行う証拠調べ請求権という形を採らなくても,私はこのような被害者の要請を実現する法制度上の設計は別にあり得るだろうと思います。それは,例えばいかなる証拠を取調請求するかという点も含め,検察官の訴訟活動について被害者の意向を検察官に伝達する道を設け,そして検察官がこれを真摯に受け止め自らの訴訟活動に関する十分な説明ないし相互にコミュニケーションを行い,被害者の意向を検察官が酌み上げて的確に対処する,そういう方策が十分考えられるであろうと思います。むしろそのような道を確保しておく方が全体として適切であろうと今は考えております。  また,○○委員の提案されました検察官の同意というのは,今述べましたような被害者と検察官との間のコミュニケーションを促し活性化する1つの方策であろうとは思いますけれども,そのような公式の同意がなければ証拠調べが請求できないという制度設計をすることは,かえって被害者の方にとって必ずしも適切でない効果を生ずるおそれもあるのではないかと思われます。  もう1点,被害者による直接の証拠調べ請求権を設けるのは適当でないと考える理由として,そもそも被害者は,特に犯罪事実に争いのある事件については,犯罪事実に関する最も重要な証拠を証人という形で公判に提供する,そういう立場にあります。そういう立場に一般的にあるはずの被害者の方が,同時に被告人を処罰する方向で証拠調べを請求するという形,被害者が立証主体にもなるという制度は,これを外から見た場合,重要な証拠を提供し得たはずの被害者の方が自ら証人として証言する場合を想定すると,その信用性に著しい減殺効果を与えてしまうのではないか。それは本来被害者の方が手続関与を求めているお気持ちと反する効果が生じてしまうような懸念もあるように思います。  以上のような点は既にこれまでの議論でも出ていることではありますけれども,これを勘案すると,証拠調べの請求権限は,現在の我が国の当事者訴訟制度の下では訴追側と防御側が担うべき事柄であり,独立に被害者の方がこれを担うのは,公判手続の全体構造から見て,適切ではないというのが私の意見です。 ● 今の点とも絡むのですけれども,○○委員にちょっとお伺いしたいところがありまして,先ほどの御説明との関連なんですが,今おっしゃった検察官の同意を得てということですけれども,検察官が証拠として取り上げる必要がないと思っていたものを,しかし被害者側がこれは取り上げる必要があるという形の場合に,検察官の同意を得て証拠調べ請求,申請をできるようにすべきだとおっしゃっているわけですが,同意を得たということは検察官が納得したということなので,納得した以上は,御説明の中に若干お触れになって,可能性があるとおっしゃいましたけれども,それは検察官が同意した以上,検察官による証拠調べ申請という形でいくことで解決できるものではないかと思うんですが,その辺はあえて被害者が証拠調べ申請をしないといけないということになるんでしょうか。 ● 実務的にはもっと微妙な場合がたくさんあると思うんですよ。つまりおっしゃっていることはよく分かるんですが,まず同意を得てとしない場合には独立した当事者として証拠調べ請求権を持つということは,私たちの前提からは出ないわけなんです。  それで,同意を得てというのは,例えば検察官の方は検察官としては,それは要らないだろうと,あるいはしてもしなくてもどちらでもいいというような場合,けれども被害者はその証人に非常に聞きたいというときに,検察官としてはあえて調べ請求するほどではないけれども,被害者として請求したいということについては理解を示して,あなたがやりなさいと,あなたがというか,代理人が付いている制度なので,代理人の方からやってみて裁判官が認めれば証拠採用されるでしょうというような事案が,実際の実務ではかなり微妙なことがたくさんあって,考えられると私たちは思ったんです。  それで,おっしゃるように,検察官が同意をするくらいであれば,検察官がやってあげましょうとか,そういうことに実務的に解消することも多いと思います。でも,そうじゃない場合もあって,結構そこでせめぎ合いといいますか,検察官は自分の方ではこれだけでいい,あなたがやるならそちらで勝手にやりなさいという場合も考えられるだろうということで,そういう制度設計をしました。  もう1つ,先ほど○○委員のお話なんですが,私も個別の論点ではなくて,一連の論点として考えた場合に,証人尋問を被害者がするということは非常に大事なことであると。それは被告人質問だけではなく,証人尋問をするというのは大事なことであって,そのときに,被害者は,例えば,検察官がこれを立証に,この証人に聞くだけが必要だと。検察官だけが決めた枠内で,被害者はこれを聞きたいと。そこでそういう限定をしていいのかという,そういう問題があったわけですね。そうすると,被害者は被害者として検察官の同意を得てと,そういう制度設計ではありますが,独自の証拠調べ請求権を持つとしても,あながち訴因の設定にまでかかわるほどの体系的な問題を生じるとは私は思ってないんです。そういう意味では,何とか被害者の証人尋問権を得たいというところから,証拠調べ請求権というのが出てきている部分もございます。ですから,一体としてということであれば,そういうような問題意識も持っています。 ● 1点だけちょっとあれなんですけれども,確かに微妙なことが実務的には少なくないというか,あるとおっしゃったわけですけれども,そういう場合に検察側と被害者側が意見が対立するということになりますよね。そのことによる問題は起こってこないのでしょうか。 ● 対立というか,仲良く一緒にというわけではないのでしょうけれども,対立とまでは余り考えてなくて,それからあと申し訳ないんですが,優秀な検察官ばかり考えているわけでもないんですよ。ある意味ではいろいろな場合が想定されるだろうと思って,それで被害者と検察官が証拠調べ請求についてよく話し合うという1つのきっかけにもなるというもちろん意味合いと,もし意見が違って,でもやるならやってと言われたときにやれるような制度ということを考えています。おっしゃるように,同意を得てでは意味がないという部分がないことはないというのは分かっておりますが,独立した当事者でない以上はそこまで認められるというのは,なかなか難しいのではないかと私は思っております。 ● ただ今の○○委員の御発言に対する質問になりますけれども,現在議論しているのは被害者に証拠調べの請求権限を認めるべきかどうかですね。今,○○委員がおっしゃいましたように,その中に証人尋問の請求はもちろん入ってくる。この後で議論される既に尋問されることになっている証人に対して,被害者が直接尋問できるかどうかという問題とは別に,検察官が犯罪事実及び重要な量刑事実について,申請しない,別の証人を被害者が独立に証人尋問として請求するような強い要請が果たしてあるのかどうか,あるいはそれは一体どのような場合なのであろうかというのが具体的にちょっとまだ分かりにくいところがあります。それはどのような場合を想定されているのでしょうか。 ● 例えば,前も申し上げましたけれども,犯行に至る経緯,それから動機について,検察官は核心部分はすべてそういうことがあえてこの証人に聞かなくても固められたと思っていて,裁判の迅速性とか,あるいは非常に大枠では全部できているといった場合に,被害者はもっと違う部分を細かいところをちょっと言ってくれ。これは実際にあるんですけれども,検察官はそれを別に拒否しないんですよ。別に拒否はしないけれども,自分からこの人を聞いたらいいだろうと有効な証人を連れてくるほどのことまで考えないとかというときに,被害者がこの人に聞いてくれ,あるいはこういう証拠を出してくれということはあると思います。それがそのときに検察官が分かったといって,自分からそれを証拠調べ請求しましょうといったら,これは被害者でなくて検察官ということもあるのでしょうけれども,自分はこれでいいと思っていると,検察官もいろいろな方がいると思いますので,いいと思っている。だけれども,被害者が言うんだったら被害者の方でそれはやってみたらどうかということはあると思うんです。 ● 議論が細かくなりますが,そのような新たな証拠調べ請求を被害者の方ができるためには,連動して先ほど○○委員の御提案の中にあったと思いますが,検察官の,つまり国家が犯罪捜査のために収集した基本的な資料は被害者の方も知悉していなければそのような活動はできませんね。そこで,証拠開示の権利と連動してくるのだと思いますけれども,果たしてそのような制度設計が全体として見て本当に適切なのかどうか,証拠開示はもちろん大事な制度ですけれども,基本的にはこれは防御側が検察側の有罪方向の証拠について,防御の準備をするために開示をするというのが基本ですね。そのような目的とやや目標がずれてくるところがありますから,そこはいろいろなことを考えなければいけない。  それから,もう1つは,これは被害者の方にとって言い方が適切ではないかもしれませんけれども,先ほども私が触れましたとおり,被害者の方は同時に最も重要な証人になり得る立場である。つまり犯罪事実の証明にとって,非常に重要な有罪方向の証拠を提供させる証拠方法にもなる方である。そのような立場の方が事前に当該事件に関するそれ以外の資料に接しているということになると,それは実際にそれがどう使われるかは別として,全体の制度として,本来の被害者の方の証言,供述に対して全体としてその信用性を減殺する方向に働くおそれはあるように思います。ですから,非常に細かいですけれども,そのあたりのことも考慮はしないといけないのではないかという印象を持ちました。 ● いろいろ御意見いただいて,それは結構だと思うんです。これは私が考えている今現時点で望ましい案なので,そこまではとてもということであればよろしいんですが,私はもちろん記録にアクセスしているということが証人として法廷に出たときの信用性の問題にかかわるということはよく分かるんですが,ただ一方で全然民事と刑事とは違いますけれども,例えば民事の原告が法廷に立って証言したときはそれは単なる証拠なんですよというような,そういうようなことを考えますと,そんなに法律家としては申し訳ありませんが,余り違和感がないんですね。  それと,証人として出てきた場合は宣誓をするわけで,それは場面が違うということでいかようにも対応できるでしょうし,その記録にアクセスしているということで信用性に乏しいという何かそういう部分ができれば,それは被害者にとってマイナスに働いても致し方ないと,厳しい言い方でしょうけれども,そういうことになるのではないかと思います。  ただ,今の時点で例えばそこまではということであれば,それはそれで皆さんの御意見でそれこそ現時点でいい制度をここで御議論していっていただければと思っています。ただ,私は被害者は感情的にただ参加したいとか,被告人に聞きたいとか,そういうようなものを被害者の刑事手続の直接関与の目的に考えておりませんので,事実究明とか,検察官と一緒に共同して真相を解明していくとか,自分の名誉を回復するという点から考えていて,いわゆるいやしの効果とか,そういうことよりもそちらを考えたいので,そうしますときちっと事実にアクセスすることは必要だと今でも思っていますけれども,何でもかんでもぽんと飛び越えて,刑事訴訟を変えるとドラスティックに変わることになってしまうという御意見であれば,どの方法がいいのかというのは御議論いただいて結構だと思っています。 ● 質問させていただきたいんですが,○○委員のこの証拠調べ請求権なんですが,当然具体的には立証趣旨といいますか,証明する対象事実というのについては,この証拠調べ請求の段階で明らかにするということになるんでしょうか。 ● 当然だと思います。 ● その事実というのは,裁判において,この審判の対象になる。つまり判決でこれについての認定がされなければならないということになるんでしょうか。 ● この案で考えているのは,事実関係も含めてですので,単に情状とか,そういうことだけではないので,そうなります。ただ,検察官の同意を得てというので,検察官の立証の枠内というか,訴因の枠内ということになると思います。 ● そうすると,それは検察官が起訴状で主張している公訴事実を超えたものも含む,それについても審判を求めると,こういうふうになるんでしょうか。 ● 公訴事実のとおりじゃありませんか。 ● そうすると,おっしゃっているのは同じ公訴事実について,違う立証方法をすると,そういうことなんでしょうか。 ● 立証を付け加えるというような発想です。 ● 審判を求める対象は同じであると,こういうことでいいんですか。 ● 全く同じです。一番最初に言いましたように,ですから訴因の設定権とか上訴権とか,そういうものは一切認められないという前提です。 ● つまりここの文章に「名誉の回復を図り」と書いてあるので,名誉の回復を図る事実についても審判の対象になると,こういう御理解なのでしょうか。 ● 情状に関して,名誉の回復というのが必ずしも情状ばかりではないと思いますけれども,それは名誉の回復といった場合には,名誉の回復が事実関係に飛び出す部分になってしまった場合には,それは認められないとは思います。その範囲内で情状とか,あるいは公訴事実の範囲内の問題になると思いますけれども。 ● そうすると,それは公訴事実に例えば被害者の落ち度であるとかというようなことが記載されているとか,名誉に関する事実が記載されている。そういう場合に限るということなんですか。 ● 記載されてないと公訴事実に対象が違うということになるんですか。それはなりませんでしょう。 ● そうすると,検察官が行った冒頭陳述のようなもう少し詳細な事実について,被害者の方で主張すると,そういうことですか。 ● そういうことです。 ● そのほかの委員,幹事の方の御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 私たちは,証拠取調べ請求権,質問権等を求めて,5年間一生懸命運動してまいりました。これは被害者というものを全く無視した刑事手続はおかしいのではないかという,修復的司法からも出ている考えでもありますが,私は修復的司法は嫌いですけれども,その観点は非常に評価すべきであると思っております。そういうこともあって,一生懸命5年間やってきました。そして,一応の成果としてここで法制審議会で改正を審議するというところまでに至ったわけでございます。  ここに来て先生方の意見をちょっと拝聴してみますと,そういうのも含めて証拠調べ請求についても,なかなか現状の司法制度ということを前提として,そこからはみ出すことはなかなか無理ではないかと感ずるようになりました。今ひとつの盛り上がりがあって,今鉄を打って何かのものを作っておかないと,また10年,20年かかるかもしれないと。そう思いますと,私たちが主張したことでもありますけれども,捨てられるものは捨てて,ここでまとめていただきたいと,こういうふうに思っております。そこで,○○委員も頑張っていただきましたけれども,証拠請求,これは検事は証拠請求に当たって被害者の意見を聞かなければいけないと,あるいは被害者は意見を言うことができると,こういうふうなことを入れていただくことによって,自ら証拠請求をするという主張は撤回してもいいかなと,ここでまとめるためにそういうふうに私は今思い直しております。 ● そのほか御意見ございませんでしょうか。 ● ○○委員が本当に小異を捨ててというような感じでとおっしゃる以上は,私があえてここで強硬に主張するということはもちろんいたしませんので。 ● 改めて先生の御了解を得たいと思って,この間から追っかけていたんですけれども。 ● 全体の議論のおしまいの方で述べようと思っていたのですが,○○委員が今提案された検察官と被害者との間の意思疎通という点は,以前の会議において私も強調した点であり,そこは大賛成です。私は次の論点である証人尋問の問題についても慎んで反対意見を申し上げることになろうかと思いますが,しかし,検察官と被害者との間の十分な相互コミュニケーションというのがすべての前提にならなければいけないと考えております。今,委員が御提案されたような趣旨,すなわち検察官の訴訟活動に対して,被害者が何らかのチャンネルを通じて意見が言えて,それに対して検察官が必ずその意見を踏まえた上で考案し,その結果・内容を被害者に御説明するという制度ないし運用,それを確保することが極めて重要であろうと考えます。それにはいろいろなやり方があると思いますが,それを前提にこれから先の議論もしていきたいと考えている次第です。個別の事項について反対するところはありますけれども,私の考えにはこのような前提があるということを一言申し上げたいと思います。 ● それでは,証拠調べの請求についてはこのあたりでよろしゅうございますか。  それでは,その次の論点にいきたいと思います。  4の証人等の尋問についてです。御意見をちょうだいしたいと思います。 ● これは検察官が,あるいは被告人側が請求した証人に対する尋問手続に際して,被害者の方が独立して尋問を行うことができるかどうか,そういう問題です。やはりこれも我が国の刑事手続全体の中で,証人尋問という制度がどういうものであるか,そして更に次に議論する被告人に対して任意の供述を求める被告人質問と証人尋問とが,法律上かなり大きな意味で違ったものであるということを視野に置いて,議論すべき問題であろうと思います。  まず,証人尋問はそもそも犯罪事実等に関する証拠,つまり証人の証言という形で証拠を公判に顕出するための制度です。しかもそれは被告人に対して質問をする場合とは違って,偽証罪の制裁を背景とし,尋問に対し供述義務を負わせて,供述を法的に強制する,そういう制度です。証人については,被告人と違って供述するかしないかの自由は原則としてありません。供述しない場合には,処罰等の制裁が課される可能性がある。そのような形で尋問に対して答える義務をなぜ負っているかといえば,犯罪事実等に関する刑事裁判にとって重要な証拠を公判に顕出する,そういう制度だからであります。この意味で訴訟当事者ではない被害者が供述義務を課す形で証拠を顕出させる効果をもつ証人の尋問を独立して行うことは,独立に証拠調べを請求する場合と同様に,適当とは思われません。  それから,恐らく被害者の皆様が,あるいは被害者の遺族の方々が主として考えられている場面は,被告人側に有利な事項を証言するいわゆる情状証人に対して,検察官とは別の立場から,自分の意見と言葉に拠り,その証人の言っていることは違うのではないかとその場で問い詰め,問い糾したい,そのようなお気持ちないし要請があるのだろうと思います。私の理解では,そのようなお気持ちの表明は,証人に対する反対尋問という形式ではない,別のよりふさわしい機会において意見・心情を述べるという形で対応するのがむしろ適切であるように思われます。そもそも証人尋問については,例えば刑事訴訟規則に,証人に対し意見を求め,議論にわたるような尋問は原則として許されないということになっているわけでして,やはり証人尋問というのは基本的には強制的に犯罪事実等に関する供述を公判廷に顕出するための制度であると理解され,証人に対して意見や心情を表明するのに適した制度ではないように思います。  また,これは先ほども申しましたけれども,被害者の方は同時に自ら証人として証拠を提供される立場にもあります。そのような立場になり得る方が検察官の尋問とは別個独立に他の証人を尋問することができるという制度設計は,むしろ御自身の証人としての立場に立ったときの証言の信用性について,著しいマイナス効果を生ずるおそれがあるのではないかとも考えます。  以上のような問題点を勘案すると,被害者が直接証人尋問に携わられることは制度設計として私はふさわしくないと考えます。それでは先に触れた被害者の意向・要請にはどのように応えたらいいかを考えてみますと,先ほどの繰り返しになりますけれども,被告人側証人についての尋問,その証言内容の信用性の弾劾は,基本的には原告側当事者たる検察官の活動にゆだねるのが適切である。しかし,その前提としていろいろなチャンネルを通じて検察官に対してこういう点を聞いてくれ,こういう点を突いてくれというような意見を述べ,そしてできる限り検察官にそのような活動をしていただけるような道を確保する。一方で,情状証人の証言内容に対して被害者の方にも言い分があるという場合につきましては,御自身での意見陳述の機会において心情・意見を述べられるという形で,そういうお気持ち,あるいは法的な必要性に応えるというのが,全体として適切な制度設計になるのではないかと考えております。 ● 1つ例を挙げて話させてください。  これは会社員で上司と部下だったんですが,部下が使い込みをして上司になすり付けようとした。そして,最後には上司を殺害したと,こういうケースでございます。その上司には1人の娘がおりました。中学2年生です。絶えずその上司は娘にうそを付いてはいけないと,正直でなければいけないということをずっと言い聞かせて,娘はそういうふうな生き方をしなきゃいけないと思って信じて生きてきていた子でした。それが父親が殺された。そうすると,加害者の家族が一応断りに来ました。上司と部下だから付き合いはあったんです。ところが,非常に加害者の家族,妻の態度は悪くて,賠償なんか私はする義務はないし,しませんよと,こう言って帰っていったんですね。その場にも娘はいたわけです。  ところが,法廷になりました。その加害者の妻は出てきて,誠心誠意補償しますという証言を法廷でしたんです。それを後ろで中学2年の女の子が聞いていて,人間不信に陥ったと。お父さんは人間というのは絶対うそを付いてはいけないと,こう言って我々を教えてくれた。だけれども,あの人はうちでは一銭も払わないと言っていて,ここでは払います,助けてやってくださいということを言うと。大人は全く信じられないということになって,不登校になってしまいました。  そのときに,母親は傍聴席におりました。もし私があのときに法廷の中で,あなたはうそをついているじゃないのと,あのときにあんな払わないと言いながらここで払うと言う,そんなうそを付いていいんですかといって一言言ってやれば,それを聞けば,娘もやっぱりお父さんの言ったことをお母さんは守っているということで,落ち込みの程度は少なかったんであろうと。自分があそこでバーの外でも何でもいいから,一言言ってやらなかった。これが娘に対して私は非常な責任を感じておりますと,こういう話があったんです。  これは私も胸が詰まるんですが,こういう話はほかにもたくさん私の会員から聞きます。だから,あのときにたった一言,違うでしょう。それも検察官が言ってもいいかもしれませんが,常々正直にやれと言っていた,その夫の妻が子供のために追及してやるということをしてやらなかったというのが大変な後悔をいつでもして,立ち上がりが難しくなっております。その娘も今は学校に行っているようですが,しばらく人間は信じられないということで,不登校になってしまった。  そういうときに,検事が言うよりも,絶えずお父さんの言うそうね,そうねと言っていた母親がそこで一矢報いたならば,随分局面も変わってきたのではないかと,こういう事例があるんです。そういうことを前提にお考えいただきたいと思います。  ほかにもたくさんありますけれども,時間の都合で。 ● 事例ということが今出てきたので,また意見陳述の話もありましたけれども,今の○○委員のお話をお伺いしていて,私どもも通常十一,二人ぐらいの依頼人を抱えて,週に何回も裁判というのは,今は支援をやっている状況で,本当に裁判,裁判というものが日常的になっているんですけれども,今言ったことがとても大事で,私の事例も小学生の子が被害に遭いました。それで,意見陳述をどの時点でやるかというのも裁判によって随分といろいろと変わってきております。情状証人で,被告人の家族が出てきて,本当に涙を流しながら申し訳ない,謝罪するつもりはあるとか,何とか賠償したいとかと裁判官の前では本当に言うんです。だけれども,廊下に出て顔が会って,被害者だって分かっていたって知らんぷりで声一つかけないというのも,そんな例はたくさんあります。やった息子も悪いけれども,小さいころはとてもいい子で,でもやったことは悪いことで,弁償したいけれども,私もないなんて言って,よよよと裁判官の前ではしおらしくしているのに,一たび情状証人が終わると態度を変えたように知らんぷり,そういうことも一杯本当にあります。  この間のケースはお母さんが小学生の子が警察に届けたのもお母さんは悩んだけれども,お母さん,私と同じような被害者が出ないように罰してほしいんだということで警察に届け,次々に被害者が出てきて,立証にいったわけですけれども,お母さんは最終的に娘のために意見陳述をするということになりました。それで,娘さんが小学生なんだけれども,ちょっと具合が悪いといって学校を休んで,私は来るとは思わなかったのにお母さんの意見陳述を聞きに来たんですね。お母さんは損害賠償もしない,相手の誠実のないうそ付きだということも含めて,お母さんは苦しい,緊張しながら意見陳述をしっかりとやった。それを小学生の娘が傍聴席で聞いていて,人間不信にはなっているんですけれども,その姿を見て,娘さんは納得して大変だったねということで,検事さんも女性の検事さんだったので,いろいろ今日は大変だったねということでやってくれましたけれども,私が言いたいのは,そういう本当に情状証人として出てくる人もいろいろな人がいて,ただ意見陳述をどの段階,意見陳述がいいのかどうか分からないけれども,被害者側がきちっと裁判の中で相手に対して言える,そういう場というものは絶対に必要だし,私どもは裁判の中で被害者が刑事裁判ではかやの外に置かれているということが一番のショックであって,その中で被告人にこういう質問をしてほしいと検事に頼みたいという意見はとても多いです。そういったちょっと実情をお話しをしたいと思って今言いましたけれども,ずれているかもしれませんが。 ● 先ほどの証拠調べ請求権のところで問題になりましたように,仮に被害者による証人尋問を認めるとしても,訴因の枠内という大前提があるはずですから,その枠を超えるような質問はできないということになると思います。その上で考えますと,証拠調べ請求権について,先ほど○○委員の御意見を伺っていて,私もなるほどそうかなとも思ったんですが,他方で,検察官としてはある事実の証明のために特定の証拠の証拠調べ請求が必ずしも必要でないと考えるけれども,被害者側がそれを請求したいというのであれば,やらせてあげてもいいじゃないかという場合,それは,訴因の枠内の話ですから,実際には,恐らく情状に関するような事実についての証拠調べ請求ということになるのでしょうが,それによって時間もとられるわけですので,全体としての訴訟の進行ということを考えた場合に,果たして,そこまでのことを認める必要が本当にあるのかという感想も持ちました。これに対して,証人尋問については,実際に証人が公判に出てきて尋問をしているわけですから,それに加えて質問するという程度のことであれば,訴訟の進行という点においても,必ずしも弊害はないのではないかと思います。その点で,証拠調べ請求と証人尋問とでは違うと考えてよいのではないかと思います。  その上で,○○委員がおっしゃった点,つまり,被害者が自ら証人尋問をするのではなく,検察官と打合せをして,検察官から質問してもらえばよいのではないかという点をどう考えるかが問題になろうかと思います。私は実際の公判での手続のやり方が必ずしもよく分かりませんけれども,例えば被害者が公判に出席でき,検察官の隣に座ることができたとして,証人尋問については,正に証人が証言をしたときに,それにすぐに対応することが必要なわけですから,その際に,自分が証人に聞きたいことを検察官に話して的確に質問してもらうということが本当に可能なのだろうかという疑問があります。その意味で,それは,事前の打合せということが十分にできる証拠調べ請求の場合とは少し局面が違うのではないかと思います。  そうしますと,次に考えるべきは,被害者による証人尋問を認めた場合にどういう弊害があるのかということになると思うんですけれども,考えられるとすれば2つあろうかと思います。1つは,被害者の方が,証人に対して検察官とは違うことを聞いたことによって,検察官が意図した立証が崩れてしまうというようなことが起きるのではないかいという点です。それは検察官からすると不都合なことなわけですが,実際にそのような事態が起きることがどれくらい考えられるんだろうかという問題はあろうかと思います。それからもう1つの問題は,被害者の方が,例えば訴因の枠を出るような尋問をしたとか,そうでなくても不適当な尋問をしたという場合,それは,裁判所が当然訴訟指揮によって止めるべきものだと思うんですけれども,実際問題として,裁判所がそれを適切に止めることができるかという点です。以上の2点が具体的な弊害としては考えられるところだと思いますので,それを踏まえて,証人尋問を認めていいかどうを考えた方がよいのではないかと思います。 ● 私も今の○○幹事が発言された最後の点を申し上げようと思っていたところです。○○委員から,この証人尋問の趣旨であるとか,それから被害者が尋問した場合の問題点というのを指摘されて,そのとおりではあるとは思うんですが,証人尋問の目的を踏まえて,裁判所が適切な訴訟指揮の下で尋問を行わせるというわけですから,そんなにそのことによって手続が混乱するということはないのではないかと私は思っております。  それで,ほかの委員の方の御意見によれば,ただ意見陳述の要素と証人尋問の要素が一緒になっている面もあるので,確かにそれは区別しなければいけないのではないかと思います。意見陳述は陳述で,その証人尋問はその場ではないということははっきりさせた上で,適切な訴訟指揮の下で証人尋問を許すということは十分に考えられると私は思います。 ● 証人尋問ですけれども,先ほどの○○委員の例で示された,これは多分弁護人側の請求した情状証人ということなんでしょうけれども,情状証人の場合は特に訴因からどうのこうのということの方はありませんし,不都合はないと思います。それに今の○○委員の例でいけば,意見陳述ではなくて,その場で面と向かって言われたお母さんが,そしてお子さんのそばでお父さんの話を聞いていたお母さんが言うと,あるいはお母さんの代理人が言うということで一番インパクトがあったんだろうと思うんです。  それから,もう1つ少年事件が逆送になって刑事事件になった場合に,少年本人に被害者が聞きたいというよりは,少年の親御さんにどうしても聞きたいということがあって,それは被告人質問とほぼ同レベルの要請,あるいはそれ以上の要請になると思うんですね。ですから,先ほど○○幹事の方がデメリットがあるならば,弊害があるならばと言われていたことについては,証人の性格にもよりますし,どうしても必要性の方がその方が高いという今のようなケースがありますので,それは必ずしもすべての証人尋問について被害者のすることはどうなんだろうということにはならないと思っています。  それから,○○委員がおっしゃったように,訴訟指揮で例えば証人への負担というのは十分それは配慮できますので,特にそれについても被告人質問と証人尋問とを余り大きく区別する必要性はそれほど高くはないのだろうと私は思っています。 ● ○○委員の提出されました意見書を初めて拝見いたしましたが,全体のこの基本的なお考えとして,被害者と検察官との間のコミュニケーションをしっかりよくするというお気持ちがあると思います。これは今日の冒頭で○○委員の述べられた日弁連の意見書にも同じ考えが流れていたと思いまして,この点については私もそれは適切なことではないかと思う次第です。  ○○委員に1つお尋ねしたいのは,証人尋問と被告人に対する尋問を等質的なものとして書いておられますが,これは先ほど○○委員が指摘されましたように,かなり性質が違うのではないかという気がするわけです。証人尋問の方は正しい事実を引き出すという,いわば結果を目標とした行動であるのに対して,被害者と被告人との質問,応答というのは,一種の人間的な対決であって,それはどういう結果を引き出すかということもありましょうけれども,むしろそれ以上に被害者が率直な心情を表明し,被告人がそれを誠実に受け取るかどうかというところがポイントになるので,性質がかなり違うように思います。この訴訟代理人の介入などを考えますと,証人尋問の方はむしろ弁護士である代理人に任せる方が適切でありましょうし,実際上そうなるのではないかと思いますけれども,被告人本人に対する質問の方はむしろ被害者本人がその任に当たられるということの方がより自然なのではないか,そこは単なる結果の問題ではないのではないかという感じが致します。  そういたしますと,代理人に頼むような訴訟活動はむしろ検察官との間での話し合いでも成り立つのではないか。殊更に検察官と異なる人物を立てて,訴訟活動をするという必要は大きくないのではないか考えるのですが,そのあたりいかがでしょうか。 ● ○○関係官のおっしゃることは十分分かります。そういう側面があることは,全くそのとおりだと思います。ただ,私たちがこの制度を作ったときには,ただ単に被害者が先ほども言いましたけれども,被告人に聞きたいとか,そういう逆に言うと非常に根源的なといいますか,人間的な欲求を満たすという,そういうような制度としては全く考えていなくて,本当に事実の究明というような,真相解明という,そういう被害者の方が打ち上げた目的に共鳴して考え出したものですので,ある意味で結果が非常に重要だったということで,この制度は証人尋問と被告人質問と余り差がなく書いております。  それから,もう1つ検察官と共同する,よく話し合う。これはとても大事なことで,それはそう思います。ただ,代理人を頼むなら検察官というんですが,代理人というのは全然私たちは実際にやっていると,検察官と役割は違います。本当に被害者と寄り添ってといいますか,被害者と一体になって,一周忌であればお線香を上げに行き,仕事ではなくて,ある意味でいろいろなことを聞きながらやっていく。つまり被害者の視点でいくわけで,検察官は検察官の視点,つまり被害者の代理人という要素だけではないわけですね。そういう意味でいけば,弁護士が付いて被害者にとっての十分な活動をするということは可能であって,それは私たちが望む制度であります。ただ,現時点で○○関係官がおっしゃるように,証人尋問とは性格が違うというのであれば,それは私たちは弁護士強制の制度を考えましたので,確かに弁護士がやることを考えましたけれども,そうであれば証人尋問については,例えば証人としての情状証人ということに限って認めるのかどうなのかと,そういうような選択の余地はあるかと思いますが,これは非常に必要な場合があるので,一律証人尋問はできませんよというのは,制度的には非常に被害者にとってちょっとまずいなといいますか,被害者をちょっと余りにもただ単に被告人と人間的に対決しなさいというだけを認められた制度となるのは,ちょっと私は釈然としない思いはいたします。 ● ○○関係官,よろしゅうございますか。  それでは,○○委員。 ● 先ほどから被害者と検察官のコミュニケーションの話でありますとか,あるいは証人尋問を考える上で,どういう尋問をするのかということについて,検察官と被害者がどういうコミュニケーションが取れるのかといったことが話題になっているわけで,その関係でお話をさせていただきます。この問題は広く言うと今回議論になっているいろいろな関与の形態すべてに共通する問題ではありますが,取り分けこの証人尋問,更には被告人質問も同じかもしれませんが,実際に法廷で尋問が行われている最中に被害者の方で直接質問,尋問をしたいと考えたときに,そのまま質問をしていただく,あるいは検察官と打ち合わせをして検察官が質問をするということになると考えられます。1つの問題として,既に議論されていることではありますが,訴訟の対象になっている訴因とそれを支えるいろいろな事実,被告人側にも防御のための主張というのがあって,それらとの関連で被害者の質問が枠を越えていかないのかどうかという心配や懸念をどうしても抱かざるを得ないような感じがいたします。  ○○委員の御意見でも,証人尋問,あるいは被告人質問の項目のところで,代理人を強制させることによって,そういったいわば混乱を防ぐという趣旨のことが書かれていまして,それは1つのやり方だろうと思いますが,代理人を必ず付けなければならないという制度が果たしてどうなのかという疑問もあります。もし代理人を介在させない尋問,質問というものを考えるとすると,どうしてもそこは検察官とのコミュニケーションを法廷の場でも何らか工夫をせざるを得ないのではないかという感じがしております。  被害者や遺族の方が直接質問をするというときに,もちろん代理人強制という形で代理人が相談をしながらその質問をするということは,1つの在り方としてあるのかもしれませんが,仮に代理人というものを置かない制度を考えるとすると,検察官に対して,証人はこんなことを言っているけれども,実際はこうだからこういうことを聞きたいということを検察官の方に言っていただいて,その上で質問をしていただくという制度を考えるべきではないがという感じがしております。先ほどの○○幹事が訴訟指揮で対応できるではないかとか,あるいはその場で検察官とコミュニケーションを取るのはどうなのかというふうなことを言われたこととの関連で思ったことですが,実際に立証を組み立てている検察官の立場からしますと,突然手を挙げて質問をされるという形を認めるということについては,訴因の枠内,主張の枠内で質問をしていただくことができるだろうかという点を考えたときには,疑問があるなという感じでございます。 ● 今度の基本計画は刑事訴訟は被害者のためにもあると,存在するということを書いてもらって,今までの最高裁が言っていたように,公の秩序維持のためばかりであって,被害者のために裁判をやっているのではないという,あの最高裁判決は基本計画で私は変えられたと思ってうれしく思っているんです。被害者のために刑事司法はあるんだと,被害者のための中には重要なのは,被害者の立ち直りのため,このためにも刑事訴訟というのがなければならないと,こういうふうに思っております。  さっきの例で言いますと,それは検察官に頼んで,証人は被害者の家に来たときには一銭も払わないと言っていたじゃありませんかと,今日ここで誠心誠意払うと言ったのは何ですかと,こう言って,それは聞いてもらうことはできるでしょう。だけれども,そこにいた中学2年の女の子は,大人は信用できないと,うそばかり付く,こういう思いにかられて,そこで検察官でなくて母親が父親にかわって,うそを付いちゃいかんでしょうと,あなたは家へ来たときにはこう言ったじゃありませんかと,何でそんなうそを付くんですかといって,父親の延長線上で追及してやれば,母親自体がもっと子供のその後の様子は変わったのではないかということを母親はいまだに自分を責めているわけなんです。一言言いたかったと言った結果が何が生まれるか,それは分からないけれども,しかし少なくとも子供にはいい影響を与えたと,こういうことを言っておられるんですね。 ● 審議の途中ですが,ここでいったん休憩をしたいと思います。            (休     憩) ● それでは,会議を再開いたします。  まず,○○幹事から御発言をお願いいたします。 ● 先ほどの証人尋問権を認めるとしても,裁判所が適切に訴訟指揮権を行使すれば訴訟がそんなに乱れることがないのではないかという御発言についてでございます。  おっしゃる趣旨は非常によく分かるわけですけれども,例えばある質問があったときに,その質問が検察官の主張の枠内にあるのかどうかということは,一言,二言を聞いただけでは必ずしも分からないという場合が実際には多いわけです。しばらく尋問をまとめて聞いてみないと,その尋問の趣旨がよく分からない,こういうことは通例よくあるところでありまして,そしてその結果が出た時点では既にそれまでの証言が場合によっては意味がなくなって,検察官の立証がかえって壊されてしまうというような事案想定されるのではないかとを思います。  それから,裁判所は今,被害者等基本法の精神を踏まえて,できる限り被害者の方の心情に配慮した訴訟運営というのを実際に努力しているわけですけれども,そういうこととの兼ね合いという問題も実際の訴訟指揮の面ではあるように思います。ただ,私が今ここで述べたかったのは,そのことよりも,今例えば○○幹事が問題にされているのは,正に訴因の枠内かどうかというような問題について,裁判所が適切に配慮できるはずだという御発言だったと理解しているんですが,どうも先ほどからの議論を聞いていますと,例えば○○委員がおっしゃっていること,○○委員がおっしゃっていること,いずれもそういうレベルの話ではないのではないかなというのが私の感想であります。つまりもともと○○委員も○○委員も検察官と異なることを言うんだと,こういう前提のお話をされているわけではなくて,検察官とコミュニケーションをとって,同じ方向を向いて訴訟活動をするんだけれども,特に被告人側の証人,つまり例えば被告人の親ですとかが正に敵対するようなことを言ったときに,その場で適切にどう対処するためには,証人尋問なり意見陳述なりが必要だと,こういうことをおっしゃっているわけだと思うんです。その意味で言いますと,問題の設定として証人尋問を中心に今まで議論してきたわけですけれども,むしろ被告人質問の方をどうしていくのかということを考えた上でないと,なかなか証人尋問をどうするかということの議論は難しいのではないかなという気がいたしました。これは感想でございます。 ● 私も一言発言させていただきます。  ○○委員の言われることも非常にもっともだと思われます。○○委員も言われたように,証人尋問は事実の究明ということが重要だと言われました。確かに,事実の究明という点で○○委員は証拠調べ請求権,証人尋問権をセットにして主張されておりますけれども,検察官が気が付かないような証拠を被害者が請求して立証の補強をする。また,検察官が気が付かない事項について被害者が証人尋問をするということは,それはそれで理由があると思います。  他方で○○委員が言われたように,被害者が重要な証人となる可能性があるのに,いろいろな形で証人尋問にかかわると証人としての信用性が弱くなるのではないかということを指摘されましたけれども,これも非常に重要な指摘だと思います。○○委員が言われるように,確かにそれは被害者の選択によって,もし証人尋問をすることで不利益になれば仕方がないと,それが心配だったらやらなければいいというのも,これも1つの考えだと思うんですけれども,実際上,被害者が証拠調べ請求をして資料に接し,そして証人尋問を積極的に行うということになりますと,いろいろな様々な資料に接するということによって,記憶が変容していくという可能性が,これは心理学の立場からも指摘されておりますので,それによって証人として証言した場合の信用性が相当減殺される心配があります。それから,対立的な立場に立つということによって,これまた信用性が減っていくということがあります。  あるいは先ほどどなたか委員が御指摘されたように,検察官と違う主張・立証をした場合に,事実認定の結果にかえって不利益な結果をもたらすこともあります。被害者に証人尋問を認めるかはそういうメリット,デメリットを考えた上で判断すべき事柄ではないかなと思うんですけれども,証人尋問は正確な事実認定をするということが中心的な課題であると思われますので,その場合に被害者が証人尋問をするという場合と,そこまではやらなくて,検察官と十分なコミュニケーションをとって,検察官に尋問してもらう,もちろん事前にも相談して,それから場合によっては公判中でも適宜に相談をする機会が与えられれば,重要な事項は取り上げられると思いますので,そういう意味ではどの程度結果が違ってくるのかということを考えますと,そんなに大きな違いが客観的に見て出てくるのかどうかということを考えますと,それほど大きな結果の違いは期待できるんだろうかなというふうに思います。他方,○○委員が指摘されていることですが,関係者の心情の回復でありますとか,あるいは名誉の回復ですとか,こういった問題はむしろ意見陳述とか,あるいは被告人質問,こういったところでやる方がより適切かつ効果的なのではないかと,こういうふうに考えます。 ● ○○幹事。 ● 前半におりませんでしたので,ちょっと流れからずれたらお許しを願いたいと思いますけれども,一つは証人尋問ということで,先ほど○○委員がおっしゃられましたように,被害者基本法ができたことによって,被害者の権利が認められた。それは全くそのとおりだろうと思います。それにこたえて国は恐らく制度を作っていかなければいけないということかと思いますけれども,他面刑事裁判というのは,例えば今話題になっている証人をとってみましても,証人は出頭義務を課されて,そして宣誓の上で応答義務を課されて証言をする,そういう第三者的な人が一定の義務付けを伴って供述を求められるという制度であるわけです。ですので,そのような証人の立場も視野に入れてどういうふうにバランスを図っていくのか,そういう義務を伴った存在に対して,証人として尋問するということは,当然そこに応答義務も課せられていくということになりますので,そこをどう見るのかということがあるのではないかと思います。  それから,先ほど○○幹事が言われたことで私もなるほどと思ったところがあるのですけれども,証人として尋問してみても相手が思ったように答えてくれるのかどうかというところはもちろんよく分からないわけで,そうなってくると,そこで思っていることを言いたいというのは,意見陳述に限りなく近づいていく面もあるような気がします。そうすると,今証人尋問ということで議論がされているわけですが,先ほど○○幹事は被告人質問も視野に入れてということを言われましたけれども,そういうほかの制度,例えば被告人質問,あるいは意見陳述みたいなものも視野に入れながら,少し総合的に見てみるということも必要かなというような印象を受けました。 ● そのほかこの論点について御発言ございますでしょうか。 ● 先ほどからいろいろ委員,幹事の皆さんが発言をしておられるのを伺っておりまして,私はこの問題に内閣府で議論されておりますころからの経緯をそれほどよく存じないものですから,昨晩基本計画を改めて読んでみました。そうしますと,基本計画では,この問題につきましては,まず現状認識というものが書かれておりまして,現在被害者の救済のために刑事訴訟法の意見陳述の規定等々が整備されたが,しかし,それでも現状では犯罪被害者等から自分たちは証拠として扱われているに過ぎず,事件の当事者にふさわしい扱いを受けてないという,そういう批判がある。  そこで,一層の情報提供と訴訟に参加する権利を認めるよう要望する声が多い。こういうことを現状認識として踏まえて,それを受けて犯罪被害者等が被害に係る刑事手続に適切に関与することもできるようにするための施策が必要であるといって,公訴参加制度を含めて犯罪被害者等が刑事裁判手続に直接関与することができる制度について,我が国にふさわしいものを考えようと,そういう経緯であるということを改めて確認といいますか,認識したのでございます。ところが,本日の議論で,検察官と被害者とが緊密なコミュニケーションを取って,被害者の意図を公判手続上,検察官を通じて,検察官の判断を介在させて,反映させるような手段がまたいろいろ考えられています。  そのこと自体は結構でして,例えば検察官が申請しない証拠の申請をするというようなことについては,これは事前に十分検察官と被害者とがコミュニケーションを取ればできることだと思います。けれども,証人尋問については,先ほど○○幹事,あるいは○○委員の方からもお話がありましたように,その場で尋問をするという必要が多いので,新しい証拠の申請の問題とは違う面があるのではないかと思います。  そこも検察官を通じてということにして,被告人質問は残るわけですけれども,後は全部検察官を通じてという制度では,この問題が出てきた現状認識の下で直接被害者が刑事裁判手続に関与できるような制度を考えろと言ってきた経緯からすると,それで十分に提起された問題にこたえたことになるのか,いささか疑問が残る印象を受けるわけです。  検察官と被害者とが十分コミュニケーションを取ってということを前提とすれば,恐らく被害者が直接自分で質問をしなければならないという事態はそれほど多くはないので,よほどの場合に初めて被害者としては自分で,あるいは代理人を通じて言いたいということになるでしょうから,これを認めてもよろしいのではないかという感想を持ちましたので,それだけ申し上げさせていただきたいと思います。 ● そのほかこの論点について御発言ございますでしょうか。 ● 証人尋問についていろいろ問題があるというのは,先生方の御指摘で分かりますが,証人尋問というふうに一律にくくらないで,情状証人の場合など,被害者が質問をする余地,尋問する余地を残していただきたいと思います。おっしゃっているような弊害がない場合というのが考えられるわけで,そのときにほとんど被告人質問と同様のような様相を生じるような場合というのはあって,そこも含めてすべて証人尋問は一律被害者はなし,検察官に言いなさいということではなくて,もう少し柔軟に情状証人なら,例えば検察官と打ち合わせの上,検察官の質問の後に補充的にすることはできるというような,そういうような制度構想もできると思います。この問題が出てきた経緯はひとえに被害者の方々の○○委員を中心にする動き,つまり公訴参加の求めということに応じて出てきた問題ですから,そういう意味からいきますと,できる限り被害者が参加して弊害のないところに関してまで一律に弊害論というような今までの論理でそれは駄目だというのは,私としてはそれは納得できないなと思っております。 ● 先ほど被害者が独自に証人尋問権を行使できると,例えば検察官の立証が崩れるのではないかというふうな懸念を言ったのですが,先ほど紹介しました日弁連意見書では,全く逆の立場で,被告人の防御の困難ということを指摘していまして,どういう証人かというのは分かりませんが,今おっしゃるので言うと,被告人側から出た証人についての尋問ということになると,弁護人は証人を立てるときに,証人と尋問の打ち合わせなどもするわけですけれども,その間に当然被告人側としての防御の観点から,いろいろな打ち合わせもしているというところで,被害者の方は全くそれまでの論議で出てきていないような質問事項であるとか,被告人が防御できない,また弁護人も被告人と打ち合わせをしてないようなことについて質問が及ぶということになれば,被告人側の防御の対象が拡大をしたり混乱するという点も看過できない問題点ではないかと思います。 ● この4の論点については,本日の時点では結論が出ていないと了解しております。この点については,今後審議を継続したいと思います。  それでは,次の5の被告人に対する質問の論点に入りたいと思います。  御発言をお願いいたします。 ● これまでの論点につきましては,私は結論として消極の意見を申し上げましたけれども,被告人に対する質問につきましては,結論は積極でございます。まず先ほどの議論と若干は関連しますけれども,私自身は単なる実務技術的弊害という問題とは違った次元において,証人と被告人とは基本的に立場ないし法的地位が違うという点から議論しているつもりです。証人は聞かれたことには答えなければいけない供述義務を負っているということは先ほども申しましたので,この点については私は証人尋問そのものを被害者の方に権限として認めることについては反対でございます。しかし,被告人の場合は事情が異なる。被告人に対する質問につきましては,まず大前提として,これは制度の基本的な枠組みの話でございますけれども,被告人には刑事訴訟法311条1項で包括的な黙秘権があり,かつ答えたい場合には答えることができるし,答えたくない質問には拒絶することができるという,そういう権利が保障されている,それが1つ,そこが証人とは全然違う。  もう1つは,現行の制度として,これでは不十分であるという御意見があることは承知しておりますけれども,事件の当事者として被害者の方,あるいは被害者の遺族の方は被害に関する心情・意見を陳述するという現行の制度がございます。そこで,この制度との関係において,事件の当事者として法廷で主体的に意見を陳述することができる,その意見陳述をより実質的,あるいは効果的にするため必要があるときに,その前提となる事柄について,被告人に直接自ら質問をすることができるという形で,現行の制度と整合性を保ちながら,そのような場を設定することができるのではないかと考えます。  なお,現在の意見陳述の制度は条文上は事件に関する心情意見ということになっていて,事実関係そのものについての意見陳述は制度上はできないということになっているわけですけれども,これは後の議論とも関係しますが,私自身は次の論点である証拠調べが済んだ後に検察官の論告求刑という制度が現在ございますけれども,それと類似の形で被害者御自身が事件について御意見を述べるという,これは別の制度として作る意味があると考えております。仮にそのときにそちらについて単なる心情意見ではなくて,事件全体,事実関係も含めて意見を述べるという論告的な制度を導入するということになれば,それとの関係でそのような論告類似の被害者意見陳述をより実効的,効果的に行うために必要があるとき,被告人に対して被害者の方が質問をすると,そういう形で被告人に対する質問の制度を設定するということは,意味のあることであろうと考えています。 ● 先ほどの3と4に関しましては,○○委員と全く同じ意見でございましたから特に述べなかったんですが,被告人質問に関しては,今の御意見と若干異なる見解を私は持っております。  前々回の会議のときにも私は申し述べましたけれども,今日もまた繰り返し出ておりますが,検察官と被害者側の方が十分なコミュニケーションを取るということを前提といたしますと,被告人質問の過程におきましても,基本的には検察官が現在の訴訟制度と同じように被告人に対して供述を求める行為を行うということで,かなりの部分はカバーできるのではないだろうかと思います。  ただ,先ほど来の○○委員の御意見にもありましたけれども,どうしても足りない部分があるということは実際上あるのかもしれませんが,ややもすると被害者サイドの方の思いというか,そういうものを被告人にぶつけるというような領域ではないんだろうかと。そうすると,法廷がそのような私的な感情に支配されるような場になるのではないだろうかという懸念がございます。したがって,そういう思いをぶつけるというのは,先ほど○○委員が御指摘にございましたけれども,現行の意見陳述の制度というものがあるわけですので,そこで意見を述べていただくということで足りるのではないかと私自身は考えております。  この制度が実施されるということになりますと,被告人にとっての萎縮効果といいますか,被告人の活動が心理的に制約を受けるということに事実上なってしまうということを弁護人という立場からは非常に懸念をする次第でございます。 ● 私は非常に大ざっぱなことを言いますと,被告人に対する質問は認めることのメリットは大きいが,デメリットは少ないということで被告人質問は認めるべきだという考えであります。  まず,被告人は事件の当事者でありまして,最も事件について知っている方であります。しかも事件の当事者でありますから,被告人も相当な緊張関係を持って対応するということが予想されますし,また被告人はそういう緊張関係を持って対応をしなければならない立場でもあるので,それは甘受せざるを得ないと思われます。  それから,今,○○委員が言われた防御権の観点は弁護権が保障され,弁護人が付いておられるので,その点について,その点を余り強く言われるのは少し誇張があるのではないかという印象を持っております。  他方,被害者の方々は直接に被告人に質問したいという強い要望を持っておられます。被害者のいってみれば要望の中核であるとも言えると思います。そういう強い要望を無視するということは,被害者等の疎外感を深める結果になるということが危惧されます。  そこで,そういう意味で適正な刑事裁判の実現,あるいは被害者の満足感の充足,あるいは被害者の立ち直り,こういうことを考えた場合に,一定の被告人質問は認めるべきではないかと思うわけであります。  ただ,主要な被告人質問は検察官が行うと予想されますので,どういう被告人質問が認められるべきなのかということをかなり詰めて,その上で被害者の独自の立場から,しかし検察官と重複しない形で適切な質問が行われるというために,もちろんここでも検察官とのコミュニケーションを十分に取った上で,被告人質問を行うということを考えていくべきではないかと考えます。 ● 私はこの被告人質問にも導入には反対という立場で発言したいんですが,先ほど○○委員の方は被告人の防御権というふうな点などからおっしゃったと思いますが,私は前から公判期日への出席も同様に,刑事訴訟の在り方という点から,この制度がどうかというふうなことをずっと考えております。  何を被害者,又はその遺族,特に今回の最高裁の確か統計でもあったと思いますが,意見陳述をしている方々のかなりの部分は御遺族であるということも考えると,こういうふうな形で被告人の前にわざわざ登場して,そういう権利を行使しようとする方はかなり多くは遺族の方ではないかと思うんですが,そういう点で言うと,遺族の方々がどこまでその犯罪の公訴事実に関する事実を知っていらっしゃるのかという点もありますし,事実についてはむしろ検察官がきちっとした理性的な言葉で質問してやった方が本当の意味での事実は引き出せると。そうすると,残るのは先ほど○○関係官がおっしゃったような人間的な対決というようなこと,対立ではないかと思うんですが,私は世界の刑事訴訟制度自身が被害者と被告人が直接対決するということを避けてやってきたということ自身は意味のあることで,それは被告人にとっても被害者,又は被害者側から法廷の場で反撃をされる。もちろん事件には当然被害者に何の落ち度もない事件もありますけれども,事件の中には被害者側にも落ち度があったり,加害者である被告人の方にも被害者に言いたいことがあるという事件がたくさんあると思うんですが,そういう中で法廷という場で被害者の方から,その心情的な意味での感情をぶつけられたり,反省を求められたりということに対して,被告人としては反発をするというふうなこと,それによって重い刑罰が下ったときに,被告人側から被害者側に対する報復感情も生まれるというふうな,そういうふうなことが予想されるのではないかと私は思います。そういう意味で,報復の連鎖と私は呼んでいますけれども,被害者にとってもかなりリスキーなことになりかねないような制度を設けるということ自身が私は刑事訴訟の制度の在り方としては,好ましくないのではないかと思っています。 ● 被告人質問の性格ということにもかかわると思うんですが,私自身は,被告人質問を意見陳述と共通するものと捉えて,被害者がその場で自らの感情を被告人にぶつけ,それによって精神的な満足を得て,立ち直りを図るといったことを正面から被告人質問の目的として認めるのはやはりおかしいと思います。一般的には,被告人質問は証拠調べではないと言われますけれども,そうはいっても,証拠となる一定の供述を引き出すという意味では,証人尋問と共通するものがあるわけで,その意味では私は○○委員がおっしゃったことに賛成です。したがって,被告人質問も証人尋問と共通の考え方でとらえた方がよいのではないかと思います。そうでないと,ただ今○○委員から御指摘があったように,被告人質問というのが,何か被告人と被害者が対決する場みたいになってしまいますし,また,質問に答えてもらうことが目的ではなくて,質問をすることそのものが目的になってしまうわけですから,それなら,意見陳述と変わらないということになってしまい,それは制度の在り方としてやや不自然ではないかという気がします。  他方,このように考えれば,証人尋問と同じ問題が生じるわけでして,被告人質問を認めることによるどういう問題点があるのかということを考えていく必要があろうかと思います。 ● 先ほど○○委員が防御権への侵害というのはちょっと誇張ではないかとおっしゃったので,それに関連して若干発言をさせていただきたいのですが,現在の意見陳述を何回か私自身も経験をしておりますけれども,起訴された事実は傷害致死であるのだけれども,被害者の遺族等の方が意見陳述をされるときには,殺人というふうに決め付けて意見陳述をされるケースもままあるということですね。どこかで私は述べたかもしれない。そういうことで,若干意見陳述について弁護サイドがそれに異議を申立てて裁判所からの制止を求めるというようなケースもあるのではないかと思います。  それから,捜査段階で黙秘をしていたことについての攻撃をされる。あるいは証拠意見,不同意にするという不同意の態度自体を責められるとか,そういうことがございまして,そのような意見陳述の実態を踏まえてみますと,被告人質問という形で被害者本人,あるいは被害者の遺族の本人の方々が直接に被告人に問いただすということになると,被告人自身にとっては萎縮をいたしますし,法廷も混乱をするのではないのかなという危惧を抱いております。そういう意味では誇張と,それは評価の問題ですから,いずれかの見方がありますけれども,かなり私自身は懸念を持っているということでございます。 ● 被害者による被告人質問といった場合に,感情的,報復というようなステレオタイプ的なとらえ方は私はおかしいと思っています。実際に殺人事件の御遺族と法廷傍聴に言っても,きちっと冷静に苦しいながらも傍聴席で座って,本当に一言一句聞き漏らすまいとしていらっしゃいます。つまり事実を知りたいわけです。被害者が法廷の中で感情的にわめき散らすというようなことで,何か実例で大騒ぎになった件がしょっちゅうあるならともかく,皆さん意見陳述でも内容的には弁護人からすれば,そんなことまで言わなくても思うことがあるかもしれませんが,意見陳述ですらきちっと事前に自分で作って検察官に目を通してもらってというようなことで冷静に対応しているのが現実です。  先ほど私も○○幹事と一緒で,被告人質問だからこうとかというふうには思っていなくて,今の意見陳述とは別途被告人質問という形で被害者の方が質問するという機会を設けるということが被害者の方の御希望なんだと思いますし,○○委員がおっしゃったとおり,例えば意見陳述を事実関係にまで広げるということで,理論的に意見陳述を十分なものにするためにという理論はそれは成り立つと思っています。だから,今の意見陳述ということにリンクさせると,被害者イコール感情的,心情的感情をぶつけるというようなことで被告人質問がとらえられるのは,それは実際の場面とも違うのではないかと思っています。  それから,法廷での萎縮効果ということですが,今まで被害者というものは具体的に現われてこないところで,それこそ被害者側から見れば,検察官と弁護人,被告人が勝手にやり取りをしていたと。でも,具体的な被害者は見るべきであって,見ることによって萎縮効果がある程度あっても,○○委員が言うように仕方がないことで甘受すべきことというのがあると思います。ですから,それも認めないという積極的な効果にはならないと思います。だから,私は被告人質問は現行の意見陳述とリンクさせるというよりは,被告人質問として認めるべきであると考えています。 ● 一言だけ,先ほどの私の発言の趣旨を明確にするための発言です。先ほどの証人尋問と被告人質問の区別という点で,私と○○幹事の考えは多分ちょっと違っているのではないかと思います。私自身の先ほどの発言は,私は制度として証人尋問と被告人質問はかなり違ったものである。同質ではないと考えています。それが1つ。  それから,その上で現行の意見陳述制度というものをてこにして,かつこれから後で議論するであろう別途の意見陳述という新しい制度をもてこにして,それとの関係でこれに必要な場合に被告人に対する被害者の方による質問という制度を導入することは理論的に十分成り立つことではないかと,そういう意見です。 ● ○○委員と○○委員は基本法の18条の参加をどういうふうに理解されていらっしゃるんですか。聞いていると,これを否定する側の発言ばかりされているように思っちゃうんですね。基本法18条をどうとらえておられるんですか。 ● 私の意見ですが,私自身はこの基本法18条の趣旨を関与という点で言うといろいろな関与があるだろうということで,この基本計画についての直接の関与ということについては,私たちは日弁連の方の委員も反対をしているわけですけれども,ですから私もここでは基本計画に出ているような直接関与を前提としたということについて,私はとらわれる必要はないと考えて発言をしています。 ● 先ほどから被告人質問を認めると,感情的,情緒的な応報の場になるという御意見もあるように思うんですけれども,感情的,情緒的な応報にならないような制度設計ができないかということをまず考えてみたらどうかという気が私はするんですね。もともと被告人質問をできるようにしようとおっしゃっている方も,それによって法廷が感情的なやり取りの応酬の場になっていいということをおっしゃっているわけじゃなくて,そうならないやり方があるのではないかということを思っていらっしゃるように思うんです。例えば,今日ずっと出ている議論ですが,要するに基本的には被告人質問においても検察官と被害者が良好なコミュニケーションを築いて,基本的には検察官に被告人質問をやってもらうんだろうと。それで,なお検察官と被害者が相談をして,この尋問については正に被害者本人の方がされた方がよく事実も分かっているし,効果もあるというようなものを被害者の方がかわって行うと,そこはもしかしたら事故例としてどうしても直接行うと感情的になってしまうような場合もないわけではないかもしれませんけれども,制度設計としてはそういうふうにならないような制度設計をしていくということが考え得るのではないかなと私は思っております。 ● 私自身は先ほど○○委員が述べられたような整理が私が描いているイメージに比較的合っているかなという感じがしたわけで,メリットとデメリットの比較衡量の中でどのあたりに線が引けるのだろうかと考えたときに,どうなるのかという問題なのかなと思っております。  先ほど○○委員が被告人質問と証人尋問との差として,最初の御発言の中ではっきりと述べられておりましたけれども,証人の場合については供述の義務付けがされる,それに対して被告人の場合にはそういうものがない。それは大した差ではないという見方もあるかもしれませんけれども,しかし供述を義務付けられるというのは,証人の立場から言えば,これはある意味非常に大きな利益と申しますか権利に対して義務付けが働いているというわけでして,そういう状況の下での供述を求められる立場に立つことを果たして求め得るのかどうか。  私はいろいろ聞けるということもいいことだと思いますけれども,そして場合によっては被告人質問を越えて証人尋問もできるんだという考え方だってあり得るかとも思いますが,証人の立場も視野にいれると,ちょっとそこまでいくことには躊躇を覚えるところがあります。それに対して,被告人質問の場合には,被告人は包括的な黙秘権というふうに先ほど○○委員が言われましたけれども,そういうものを享受する立場にあって,言うも言わぬも自由な立場にある。そして,従来から被害者の方々から言われてきた直接参加の理由として,被告人自身に問い質したいんだということは非常にコアなところにあったと思いますので,ここの部分については,そういうものをバランスしてみたときに,積極的に考えてもよいのではないか。感情が持ち込まれてということは言われて,先ほど来意見陳述の話と対比しながら議論がされていますけれども,ある意味意見陳述という制度を導入したことによって,被害者が被害者としての立場で何か物を言うということには,窓は開かれているわけで,そこから一歩進めてみたときに,一番考えやすいのはこの被告人質問のところかなと思っております。 ● 私の結論から言えば,被告人質問は入れていいのではないかと。いろいろな被害者の方がいらして,本当に刑事裁判に行くのもやっとという思いの方,いろいろな方がいるんですけれども,意見陳述と被告人質問は違うという部分を感じるんですね。本当にエネルギーがなく,大変な裁判を傍聴しながらでも,聞こえてくるのは自分でというか,被告人に質問,こういうことを聞いてみたい,聞きたかったんだという声はあるわけで,現実いろいろな経験からしますと,はっきり言って検察官とのコミュニケーションはよくないと思います。その部分で,かなりエネルギーがないから本人が被告人に聞けないけれども,検事さんにこれを聞いてほしいとか,そういう思いを伝えることもできることによって,自分もかやの外ではないという思いも持てるかもしれないけれども,自分の口で被告人に質問をしたいと。報復の連鎖とか,かなりそこまでやろうとしている人は私から見ると,いろいろなことも覚悟の上で裁判に臨み,被告人にも質問したいと思っている方なのではないかなという印象をちょっと持っているんですけれども。 ● 被告人質問は是非やらせていただきたいと思いますね。これは検察官と密接なコミュニケーションを取ってやりますから,全然かけ離れたことを聞くことはないと思います。  ただ,この問題については被害者が聞いたならば,非常に効果的だという質問があると思うんです。第三者の検察官がやるよりも被害者が直接聞いた方が非常に効果があるという例があるんですね。DVの事件にしても,そのほかの事件にしてもあると思うんです。だから,そういうふうな場合には被害者は直に確かめると。それから,被害者の名誉を著しく害するような発言があったときは,事実と違うときは検察官の同意を得て,自ら質問をして訂正するということがあると思います。  検事に答えるのと被害者に答えるのでは違ってくるんです。顔つきがまず違ってくるというのがあると思いますね。それはたとえは悪いんですが,だました奥さんから直接問いただされるのと奥さんの親が来て問いただすのと多少顔色を考えれば違うでしょう。そんなようなところで違いが出てくると思うんですね。卑近な例を出して失礼しましたけれども,どうしてもこの件は自分が確かめたいと,確かめさせてほしい。被害者のためにも確かめたいということがあるわけで,被告人に対しては黙秘権もあることですし,確かめさせてほしいと思います。  どんなうそを言われてもじっとしていなきゃいかんというのはつらいんですよね。それがうそが直らなくても,一言そこで聞いて質してみたということで随分違うと思います。 ● ほかに御意見ございませんでしたら,次の論点に移りたいと思います。  6の事実又は法律の適用に関する意見陳述の点です。  御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 先ほど被告人に対する質問のところでも触れましたとおり,私は現在の既に存在する被害に関する心情を中心とした意見陳述とは別の仕切り,整理で,新たにまだ具体的な細かいところまでは十分考えを詰めておりませんけれども,例えばちょうど公判審理の最後に行われる両当事者による事実及び法律の適用に関する意見の陳述,訴追側であれば検察官が行う,いわゆる論告求刑と類似の独立の意見陳述の制度を設けることが,被害者の方の御意見を法廷に提出する場として別途意味があると考えております。 ● ○○委員へのちょっと御質問になるかもしれませんけれども,○○委員の制度設計によりますと,現行の意見陳述制度と別個に弁論の段階での意見陳述ということで,二つ意見陳述の制度があるという,これは同じようでございますけれども,○○委員の制度設計によりますと,どちらかが選択できると,こういう制度設計ですよね。 ● するかしないかですね。 ● だから,最終的な段階での意見陳述を選択する場合には現行の意見陳述はしないという制度設計ですね。○○委員のおっしゃったのは両方それはあり得るんだという,そういうことになるんでしょうかね。方法がというか場面が違う。 ● いろいろな組み方はあると思いますけれども,現在の意見陳述は現在の制度のままですと事実については述べられないですね。私が今提案し,賛成だと申したのは,それと別の法制度として設けることを考えています。内容が違ってくる可能性はございますので,両方併用可能である。しかし,ついでに申しますと,これは証拠の提出ではなく,主張,あるいは意見の陳述でございますから,それ自体が例えば証拠になるということではないだろう。それに対して,これと違う意見がある場合には,それぞれの手続関与者が意見を陳述するという形で整理されることになるのであろうと想像しております。 ● 私の方のペーパーに書いてある制度は,つまりかなり記録にアクセスした上で,被害者が被害者として検察官の補充,補佐的な立場と言いながら,証拠調べ請求権を持ち,証人尋問をしということだったので,そういうふうに参加してきた被害者が最終的に意見を陳述するという制度が必要だと。  一方で,例えば参加しない被害者に関して,現行の意見陳述制度は別に現存していてもいいだろうというところだったんですが,ちょっとそういうこの制度設計は全体としてそういうような論調で書いておきましたけれども,今日の議論の流れで考えますと,○○委員がおっしゃるように,意見陳述そのものを現行のもの心情などに限定せずに広げて,それで主張だということで考えられるならば,それが私もそれに賛成です。証拠にはならないけれども,主張であるということで,量刑の資料になるということには現行と同じなんだろうと思いますので。 ● そうではないです。 ● 量刑の資料には○○委員は考えている。現行法ですよね。だから,性質上は現行だけれども,中身の話が広がると,心情などに限定されないということにおっしゃっていらっしゃると理解しておりまして,私はそれに賛成しています。そうではないのでしょうか。 ● 関連すると思いますので,私は現行の意見陳述制度とこのいわば最終意見陳述,これとの関係をどう理解するかですが,やや微妙なんですけれども,取りあえず私が考えているのは,現行は現行の意見陳述制度としてそのまま残す。ただ,現行では心情等の意見に限定されております。しかし,量刑上の資料になるということで,これはまた大きな効果を持つものですから,それはそれとしてその制度設計はそのまま残して,このいわば最終陳述権,被害者の最終弁論権とも言うべきものは,これは言ってみれば被害者に思いのたけを十分に述べていただくというものだと考えております。思いのたけを述べていただくためには,内容としては自分の思いのたけを述べる前提となる事実関係,それから法令の適用も含めて,そういう意味では今の意見陳述よりも大分広くなると思うんですけれども,そういうものを含めた上で自分はこの事件についてこう考えているということを述べていただくものである。あくまでもそれは思いのたけを述べていただくということですので,これは○○委員の言われたように証拠にはならないというような形で位置づけるのがいいのではないかと,そう考えております。 ● そうすると,質問ですけれども,今おっしゃった思いのたけを述べる前提として,事実関係についても,それから,法令の適用についてもという意味は,例えば傷害致死で起訴されているけれども,私は殺人だと思う,故意があると思うとか,例えば業務上過失致死で起訴されているけれども,危険運転致死罪だと思うというような法律的,又は事実に関する主張も含むと,こういうことになるんですか。 ● そういうことになると思います。ただ,あくまでも最後の思いのたけ,感想ですので,事実認定について何か影響を与えるような,そういうようなことが意図されるような,そういうものではなくて,自分はこの事件についてはこう思ったんだということを正に意見として言っていただくと,そういうことです。 ● 公訴参加した場合ですか,公訴参加しない場合,今のお話は。した場合もしない場合も同じように事実関係,証拠を量刑まで含めて意見を述べれると,こういうことで……。 ● 公訴参加した場合に限られないと思います。  なお,最終陳述についての私のイメージでは本当に簡潔な意見を言うのであって,事実関係を長々と言ったりとか,法令の適用についてもこうだからというような形で,長くやるものではない。あくまでも意見は意見としてふさわしいような,そういうような範囲での前提事実というか,それを入れるということですね。おのずと適切な範囲があると思っています。 ● それは参加した場合も参加しない場合も同じように意見陳述は言えると。参加した場合の意見陳述と参加しなかった意見陳述と,これは違いはないわけですか。 ● 基本的には同じだと思います。 ● 私の先ほど述べました論告と類似の形で被害者の意見陳述というのを設定した場合は,私は○○委員とは違いまして,当然それが行われる手続段階はそれまで行われた証拠調べの結果に基づいたものであり,これまでの検察官の論告も弁護人の弁論もそういうものでございますから,基本的にはそのような枠組みの下で行われるべき意見陳述であると考えております。  それから,○○委員の御質問に対しましては,これは刑事訴訟における被害者の直接関与の権利としてそういうものを認めるということでございますから,委員がおっしゃっている公訴参加というのは,民事の方のその参加した場合とどこが違うかという……。 ● そうじゃなくて,公訴参加の制度ができても,公訴参加しない人もいますね。その人の場合には,意見陳述がどうなるのですかと,こういう質問を。 ● 私自身は委員のおっしゃっている公訴参加というのがどういう場合か,もし誤解していたら申し訳ないんですけれども,これは犯罪の被害者という立場にある方にとっての基本的な権限としてお認めするのが当然であろうと思っております。区別はないだろうと思います。 ● 現行の意見陳述と今,○○委員が言われたような意見陳述とが,どういう関係にあるのかと,ちょっと私自身ももやもやとしていたのですが,整理としては,先ほど○○委員が言われたように,現行の被害感情にかかわる意見陳述は被害感情にかかわるもの,新しい事実又は法律の適用に関する意見陳述はそれとは別に事実等を含めて意見を述べられる,その意見を述べるのは多分最終弁論の段階で述べるというようなことになるのではないかと思います。この点では,私は○○委員の御意見に賛成です。ただ,訴因を超えて意見を述べられるかというところは,違う考え方です。この意見陳述は,その段階まで恐らく立ち会いをずっとしてきているということが前提なんだと思いますが,そういう立ち会いをしてきたことを踏まえて最後にそういう立場から述べる意見ということになるかと思いますので,それを公訴参加と呼ぶなら公訴参加と呼んでもいいのですけれども,そういう立場でやってきた方が述べられる意見ということなのではないかと思います。  そういう形で法廷にいなければ,事実関係について意見を述べろといっても,その基礎がなくなってしまうわけで,そこをどう考えるのか。その場合,事実や法律の適用に関する意見陳述を認めることは難しいように思いますが,ただ,そのような場合にも現行の被害感情を述べるような意見陳述というのは,多分なくならないということなのではないかと思います。  それから,ずっと立ち会ってきた場合に,もし仮に最後に意見が述べられるということにするとすると,それと重複してさらに被害感情に関する現行のような意見陳述を考えるのがいいのかどうなのかというところは,1つにすっきり整理してしまう考え方と2段で残しておく考え方と両様あり得るかと思います。2段に残していくと,被害感情に関する意見陳述の後,それも踏まえて検察官が論告できるということにもなっていくということかと思いますけれども,そこは後は整理の仕方の問題かなと思います。  私自身は最終弁論の段階で何か述べられるとすれば,それは何か立ち会いをしてきたことを踏まえてのものとして位置付けられるのではないかなと思います。そうではなくて,現行のような被害感情を述べる意見陳述というのも,これはそういうことのない被害者については,また別途残っていくというような整理かなと思いました。 ● 先ほどの○○委員が公訴参加した場合に認めるのか,あるいはしていない場合にも認めるのかという関係で若干議論の整理をしておいた方がいいかなと思って申し上げますが,あすの会の訴訟参加制度要綱もそうですし,本日の○○委員の御提案もそうなんですが,参加という手続に乗っていくための申立てをして,それが認められた場合にその後いろいろな権利行使ができるという形で制度が作られていますので,恐らくそれを前提にして,○○委員は公訴参加した場合,していない場合と言われたんだろうと思います。  もちろんそういうやり方をする場合もあり得るでしょうし,そうではなく別途被害者について,例えば被告人質問ができるとか,あるいは意見陳述ができるとかということを個々の訴訟活動について要件を考えて決めていくというやり方もあるのではないかと思いますので,恐らくそのような議論の前提が違っていると議論が進まないかなという感じがいたします。 ● 訴訟に参加を決めているということになりますか,場合もあると。 ● ですから,個々の訴訟活動ごとに要件を決めて,その要件に合うかどうかで判断していくということがあるのではないかと思います。ただ,最終意見陳述の場合に,先ほど○○幹事が言われたように,およそそれまで何にも現われなかった被害者,遺族の方が突然現われて,それまでの法廷の証拠関係に基づいて意見を言うということがあるのだろうかという実際上の問題はあるので,結局のところは何らかの訴訟活動をやってきた人,あるいは少なくとも法廷に在席して法廷での証拠調べを見た上で,意見を言うということになる場合が多いような気はいたしますが,公訴参加という枠組みを作らないとそれができないというものではないのではないかという意味でございます。 ● ちょっと考えまして,公訴参加というと裁判所の許可を取って,一応法廷でも検事の隣に座れると,座っていくことができると,こういうことですよね。スポット的に現われた被害者,その被害者も同じように検事の隣へ座って,そのスポットごとにやって,最後は意見陳述をするという,その意見陳述の事実関係,それから評価,量刑といくとすれば,そこまで行かせるわけですか。私の考えたのは,参加しない人は今の制度で心情を述べると,こういうことになるのかなと思っていたんですけれども,そういう制度は制度で別に反対もしませんが,ただスポットで参加したり,これはやめたいというのも,ちょっとこれもおかしいなというような気がしてましてね。 ● 恐らく制度の作り方の問題だろうと思うんですが,これは後で議論をすべきことかもしれませんが,在席ということを考えてみた場合,最初に申立てをしたときから最後まで,一貫してずっと常に在席を認めるという制度ももちろんあるでしょうし,それに対して公判期日ごとにやることは違うわけで,場合によって後に証人として出廷することが予定されているような被害者について,期日ごとにこのときは在廷してもらうけれども,このときは外してもらうというようなこともあり得るのかもしれないと思います。何か訴訟参加,公訴参加というものですべてがワンセット,ワンパッケージで決まるかどうかというのは,正に作り方の問題かなという感じがいたします。 ● 今続いておりました御議論を手続的に散文化して申しますと,この6の意見陳述については,裁判所の許可なり検察官の同意なり,何らかの規制を置くということになるのではないでしょうか。 ● 今の点ですが,今回のこの整理された資料の検討すべき事項の②,③に,証拠に基づかない意見や法に反する意見の陳述がなされ,審理に不当な影響を与えるおそれはないか,それから,裁判員に対して不当な影響のおそれはないかという点は,私は正に同意見でありまして,被害者に証拠に基づく意見と証拠に基づかない意見というものをきちっと区別をして主張させるということ自身は,それは難しい問題ではないか。特に否認事件において,きちっとした証拠に基づいて裁判員に認定してもらわなければならないのに,被害者が証拠に基づかない,又は自分の推測に基づく意見を開陳できることになるとなれば,職業裁判官はそこを区別できるかもしれませんけれども,一般の市民裁判員がそこをきちっと区別をして判断できるかどうかについては,極めて危ういなと思いますので,そういう意味で証拠に基づかない意見というものが混入するおそれがあるという点では,犯罪事実に関する意見というものを被害者が自由に言えるという制度は好ましくないと思いますし,現行の意見陳述制度が犯罪事実に関しないものとした意味は,正にそこにあったと思いますので,それを今回裁判員制度という新たな制度が導入される中に更に入れていくというのは,不適切ではないかと私は思います。 ● ちょっとよく分からなくなってきたんですけれども,○○委員や○○委員がおっしゃった案というのは,現行の意見陳述制度はあって,それプラス論告求刑的なというか,その事実にわたる意見も簡潔にではあるけれどもと○○委員はおっしゃったけれども,入れるという制度なわけですか。 ● 改めて整理して申し上げます。私が最初に述べましたのは,今,○○委員がおっしゃったように,現行の意見陳述制度はそのままとする。しかしそれとはまた別の手続として検察官の論告類似の意見陳述制度を設けたらよいのではないかという意見です。  それから,この機会に発言の趣旨を明確化しますが,○○委員の御質問にありました参加という手続について申し上げます。私の頭の中には,一貫して参加される方とそうでない方という区別はなくて,むしろ事件の当事者たる犯罪被害者の手続関与の権利ないし機会の創設という観点から,先ほど○○委員が御説明されたように一定の要件を立てて,それに当たる方は権限があるという,そういう頭で考えておりました。○○幹事が先ほどずっと参加していなかった人が全体について意見を言うのは適切でないかもしれないという御意見でしたけれども,それも一つの見方でしょう。しかし制度の作り方によっては,論告はやはり法廷に提出された証拠に基づいてなされるべきものですから,そこから外れる意見を述べるのはまずいですけれども,それまでの手続や訴訟活動を知るチャンネルがあれば,例えば,それは先ほど来私が強調している検察官と十分打合せの上,あるいは○○関係官がおっしゃったような検察官を介した何らかの手続,その上での裁判所の許可とか,いろいろなことが考えられると思います。そのような明確な手続を介在させ,個別の関与権限の要件を作れば,最初から終始在廷している方に限るという理由はないように思います。これは制度の組み立て方に関する技術的な問題だろうと思います。 ● 私も,最初,○○委員の御質問の趣旨がよく分からなかったものですから,混乱しておりました。最終的には私も○○委員の言ったような仕切りでいいのかなと思っております。実際上は○○幹事の言われるように,相当程度訴訟活動を行っていないのであれば,事実上も意味のある最終弁論を行うことはなかなか難しいのではないかという気がしておりますけれども,ただ最初に公訴参加人かどうか,そこで資格を決めて,その資格がないと駄目だというのはちょっと硬過ぎるのではないかなという気がしております。  それから,最終陳述では訴因以外のことも言えると言いましたのは,私は殺人罪が成立すると思ったんだけれども,証拠が十分でないと検察官が判断されて,傷害致死で審理されてきましたという,そのぐらいのことは言っちゃいけないのかなと,そういう感じを持っております。 ● 今の○○委員にちょっと1点だけお伺いしたいんですけれども,さっき○○委員がおっしゃった点との絡みですけれども,私は反対とかそういう意味でなくて,今回導入される裁判員制度との関係で,主張と証拠が思いのたけを述べるとなると証拠にならないといってもごっちゃになるおそれはないのかと,その辺どう歯止めをかけたらいいのか,その辺どうなのでしょうか。 ● これは手続的に一番最後なものですから,ここからは意見を述べていただきますという形で,裁判員制度の場合は実際どうなるか分かりませんけれども,裁判官からそういう説示なりしていただいて,事実認定とは明確に区別するということは不可能ではないとは思っておりますが。 ● また制度論に戻るんですが,私たちが考えたのは,裁判員の許可を得て参加人になると。参加人になれば公判前整理期日にも出て傍聴もできると,それから記録の謄写もできると。それから,一審が始まりますと集中審理になると,記録を取ったり何かをしている余裕はほとんどなくなるでしょう,ぱっと一気呵成にいきますよね。そうなったときに,あるときに出てきた被害者がその日は参加人になった。明くる日は参加人にならなかったと,そういうようなことで参加人になるのが何らかの手続をなしにずるずる,ずるずるいっちゃっていいのかなというような気がするんです。何か法律に従って進んでいく訴訟が,そのとき,そのときで参加人という人が出たり,引っ込んだりということでいいのかなという,そういう疑問がわいているのですが。 ● 今,まずどういう訴訟行為をするのかという観点から議論をしているので,こういう議論になっています。それで,恐らく先ほど○○委員のおっしゃったような組み方もあるでしょうし,あるいは今,○○委員がおっしゃったような,まず参加の申出をして参加の申出をした人はこれこれの行為ができるという形の組み方もあるんだろうと思うんですね。そこはもう少し何の訴訟行為ができるのかという観点から議論をして,全体像が見えた段階でもう一度議論した方がいいのではないかというのが私の意見です。 ● それでは,この論点につきましては,次回の審議のために事務当局の方でどのような制度が考えられるか,論点の整理をお願いしたいと思います。  それでは,資料29の1頁に戻りまして,第2の1の訴因の設定,上訴というところにまいります。むろんこれは別の訴訟活動ですが,考えられる根拠や検討すべき事項において共通する点もなくはないということで,便宜的にまとめて議論していただきたいと思いますが,よろしくお願いいたします。 ● 訴因の設定の問題ですが,これまで論じてきた項目について,かなり積極的な御意見を伺いましたので,少し安心して訴因の設定については消極意見を述べます。  ここに例示されている殺人で起訴されるべきと考える事案が傷害致死で起訴されたというような例でありますと,いわばずれが余り大きくないので,割と受け取りやすいわけですけれども,制度を作ってみますと,いろいろな場合が出てきますので,場合によっては非常に大きなずれを処理せざるを得ないかもしれません。  以前,熊本水俣病というのがありまして,あの事件については関係企業の幹部社員が業務上過失致死傷で起訴されて有罪になったわけですが,その過程で被害者の方々からは殺人罪での告訴が提出されました。それが不起訴になると,今度は検察審査会への申立てもありました。私は当時,被害者の方の心情としては,もっともなところがあると思いましたし,またそういう社会的な活動がそれなりの意味を持ったと考えましたけれども,しかし今回のように刑事手続そのものの内部で訴因の設定という形になりますと,検察官が過失犯と考えているものを故意の殺人として訴因を設定するというような場合,非常に大きなずれを生じて,これは恐らく適切でないというように考える次第であります。その意味で,私は訴因設定の権限については,疑問を感じるわけです。 ● 訴因というのは,私が言い出したということで大騒ぎになっておりますので,私の方から申し上げさせていただきます。  御意見を聞いておりますと,なかなかこれは難しそうだなと,こういう気がいたしております。  それで,これにかわるべきものとして,検察官は起訴,不起訴の処分をするときに,被害者の意見を十分に聞かなければならない。被害者は意見を言うことができる。そして,今度被害者の意見と異なった起訴をした場合には,その起訴状とともに被害者に文書で理由を付け,送ると。それを受け取った被害者は,明治で言うと再度の考案といいますか,もう一遍考えさせてくださいと,こういう申立てを検察官にできると,こういうような制度を作っていただくことによって,いただければ訴因は撤回します。そして,審議会が進むように協力したいと思います。 ● 検察官の訴訟活動について,今日も被害者とのコミュニケーションが非常に重要で,むしろそれによって実質的な問題が相当程度解決するというか,カバーされるというお話が続いたわけであります。起訴に当たってどういう訴因を設定するか,何罪で起訴するかというのは,公判というところから見れば正に出発点でありますので,その段階で検察官が被害者と正にコミュニケーションを取る,その意見を伺う,あるいは心情をお伺いするということについては,特に基本計画,あるいはその前提となる基本法ができて,検察官の活動として,そういう被害者の心情に配慮しなければならない,すべきであるということからすれば,方向性としてはそういうことが必要なんだろうと思います。  後はそれを具体的にどういう制度として作り上げられるのかという問題だと思いますので,訴因設定に限らず,そのほかの訴訟活動も含めて,どういうふうなことが考えられるのかについては,私どもとしても更に検討したいと思います。 ● それでは,この点についてはただいまの事務局の発言で,次回以降の審議にいたしたいと思います。  そのほかこの第2の1の論点について,何か御意見ございますでしょうか。 ● 上訴の問題についてもよろしいでしょうか。 ● どうぞ。 ● 上訴につきましては,いささか複雑な経緯があると思います。ドイツ刑事訴訟法では,確かに公訴参加人に対して,いわば全面的な上訴権を認めているわけですが,アメリカ法ではこの種のものは全く認められておりません。のみならず,アメリカ法では検察官の上訴すら規制されていて,事実認定を争う検察官上訴はむしろ憲法違反であると考えられている次第です。日本でも憲法に御承知の二重の危険の規定が入りました関係で,憲法施行直後から検察官上訴は憲法違反であるという議論がある程度ありまして,それに対して最高裁判所は合憲であるという判断を比較的早い時期に示されましたので,一応議論が鎮静したのでありますが,しかし今でも憲法学者の中には全く火種がなくなっているわけではありません。そういう状況を踏まえますと,今ここで被害者による独立の上訴権を認めるということについては,再び何か議論を誘発するのではないかという懸念を感じます。もっともこれはある意味で分かりにくい議論であるかも知れず,持ち出すのは申し訳ないような気もいたしますけれども,多少ともそういう心配があるということを付け加えておきたいと思います。 ● 被害者に上訴権を認めるかどうかは,国家訴追権との関係をどう捉えるかという問題になると思うんですが,国家訴追権というのは訴追するかどうか,またどの範囲でするかを検察官が決める権限を持つということだけではなくて,訴訟の追行を国家機関たる検察官が主体となって行うということも含むものであると思います。そうしますと,被害者に独立の上訴権を認めた場合,検察官が上訴しないで被害者だけが上訴したときには,恐らく被害者の方が依頼した弁護士が代理人として上訴審での訴訟追行を行うというような形になると思うんですが,それは国家機関ではない主体が訴訟追行を担うということになりますので,実質的には国家訴追権に反することになると思います。そう考えますと,被害者に独立の上訴権を認めるというのは難しいのではないかと思います。 ● 私も上訴権は難しいという結論は同じですが,それとともにこれは何度も繰り返して申し上げて恐縮ですけれども,被害者の方から見た場合に,自分は上訴してほしいのに検察官がなぜ上訴しないかというところで不信を抱かれる事例があるとすれば,それはできる限り避けるべきであり,どういう制度設計かは,またこれから先議論すべきですが,訴訟追行の各段階で検察官がその重要な訴訟活動の理由について十分に被害者の方に御説明をし,納得を得るための説明の機会というのを何らかの形で設けるということを併せて提言したいと思います。 ● これも私が出したややこしい問題ですから,この上訴権というのは,無罪の判決が出た場合と,それから私どもが訴因を追加した場合に,それが無罪になったということでしたけれども,考えてみますと訴因の追加がないということになれば,それは一つは消えます。  それから,無罪になった判決で,被告人が上訴をしたとしても,今度は検察官がいないと。また,検察官事務取扱の弁護人を選任してもらわなきゃいけないとか,非常にややこしい問題が起きますから,ここは撤回をしまして,そのかわり,やはり上訴しない理由を丁寧に説明すると。○○委員がおっしゃられたように,その理由をできれば書面で出していただきたいと,こういうことですね。  私どもの事件も被害者が1人ですからといって,頭からそれを言われちゃって,何で被害者が1人の場合には死刑にならないんですかということ。ただそうか,そうかと言われるのは非常に嫌なんですね。もう少しその辺を工夫されて,死刑の要件自体も工夫されて,命を数量化しないような格好での納得のできる説明をやはりされる必要があると思います。 ● それでは,この論点も,次回に審議を継続したいと思います。  当部会は,ともかく審理を尽くすということを最も重要に進行しておりますが,既に予定した時刻が過ぎております。ただ,もしできましたら,今日予定していた論点について,一とおりの議論をしていただきたいと思います。  そこで,次に,この2頁の2の「公判期日への出席」についての御意見をちょうだいしたいと思います。 ● これは前回,前々回,この第4の議論をした前回の会議のときですけれども,私の方が出席する権利,在廷権ですか,在廷するということは最低限ですよねということで申し上げたところは,皆さんに御同意いただいたと私自身は理解しておりますので,違うのでしょうか。まず何をするかはともかく,そこで何ができるかということはともかく,バーの中に入るということに関しては多くの方の御賛同を得たというか,確認をさせていただいたと理解しているんですが,いかがでしょうか。 ● 私は,少なくとも同意をしておりませんので一言申し上げますが,理由は,これまでも何度も述べておりますし,先ほど私が被告人質問のところで述べたような刑事司法制度の在り方として,被害者が被告人と共同して処罰を求めるというスキームになるのは好ましくないということが1つ。やはり前回も私は申し上げましたけれども,弁護人は被告人に対して,拘置所の中などで犯行に至った経緯などをいろいろ説明をするということを求めたりしているわけですけれども,被害者が在廷をし被害者が目の前にいることによって,被害者の前で何を言ってももう意味がないでしょうということで,なかなかそういうことを主張できない被告人もいると私は思っています。  前回,○○委員はそんなことを萎縮する凶悪犯はいないとおっしゃいましたけれども,様々な被告人がいるわけで,犯行の手口が凶悪であっても,犯行後に反省をしたり自分を責めている被告人もいるわけですから,そういう被告人が法廷で自分の生い立ちであるとか,犯行の経緯であるとかを言いにくい環境に置くというのは,刑事裁判の在り方ではないと私は思っておりますので,この在廷についても導入することについては,賛成ではないということを申し上げたいと思います。 ● 私も基本的には○○委員と同じなのですが,○○委員の仮に在廷を認めるという立場に立ったときには,この○○委員のおっしゃっているような検察官の補佐的な立場ということでしか参加の形態としてはないのかなと考えております。そのことだけ申し上げたいと思います。 ● 前半の議論におりませんでしたので,先ほど順番をよく心得ないまま,在廷権を当然の前提としてそれを延ばして意見陳述というようなことを申し上げてしまいましたが,そこで申し上げたとおり,在廷ということは認められてもよいのではないかと考えています。ただし,先ほどちょっと○○委員の方からのお話にもありましたし,前回の議論のときに少し述べたかもしれませんけれども,やはり被害者が証人として尋問を受けるような立場にある場合について,ずっと在廷することで,いろいろなほかの情報を知ってしまうという問題は残っているわけで,そこの調整をどうするかという点については,少し考える余地もあるのではないかということだけ申し上げておきたいと思います。 ● 私はやはり裁判の場で,被害者と加害者とが対峙して裁判が進められるというのが,これが公平な,唯一公平な方法だと思いますので,被害者が出てきたら萎縮するとか,被害者だって怖い加害者がおれば萎縮しますよ。それはあいこであって,被害者だけが加害者だけが萎縮するということはあり得ないので,やはりやった者,やられた者が対等に,前に立って向かい合って裁判をしてこそ初めて公平な裁判になるんではないかと,こう私は思います。 ● 論点2について,ほかに御意見ございますでしょうか。 ● また具体的なことで申し訳ないんですが,やはり犯人が否認していた場合,証人,被害者が主に,私どもだと性被害の被害者とかが多いんですけれども,否認していた場合に裁判のそのときまで来ないようにとかいう,やはり検事さんからの指示があったり,私どもは代理傍聴というのもしておりまして,やはりとても犯人も見たくないし裁判に行くのも怖いんだけれども,でも否認しているから行かなければならないというのもあるんだけれども,例えば3回目に証人尋問に行く予定だとすると,1回目,2回目とかは私どもは代理傍聴で,一応報告書とかを書いているんですけれども,そういうのを渡すのも検事さんの方に渡していいかどうかというのも,一応自主的にお伺いを立てて,それは渡さないでおいてほしいとか,そういったことも現実にあるんですけれども,そういったふうに証人として出ていく場合のいろいろな問題も確かに,ちょっといろいろ難しいなと。現実のいろいろなものを考えると思ってしまうんですが,すみません,まとまらない感想ですけれども。 ● そのほか御意見ございますでしょうか,あるいは諮問事項第4全体について,本日是非御発言をという方はお願いいたします。 ● 先ほどの在廷権のことなんですが,在廷を認めた場合に被告人が萎縮するですとか,あるいは被害者の方が証人となる場合に証言に影響が生じるというのは,恐らく傍聴の場合も同じような問題があるはずで,そこは程度問題なのかなという気がします。そうしますと,それを考慮した上で,在廷権を認めることにどういう意味があるのかということになるかと思うんですが,1つは,傍聴席ではなくバーの中に入るという点で,象徴的な意味合いがあると思いますし,それから先ほど出ておりました検察官とのコミュニケーションという点からすれば,傍聴席にいるのと,バーの中に入って例えば検察官の隣に座っているという場合とでは,やはり事実上の違いがあると思いますので,そういう観点からも,私自身は在廷権を認めるのがよいのではないかと思います。 ● この論点とちょっと外れるので,ここでしか発言できないと思いますので申し上げますが,やはり今回,日弁連も提起をしている検察官の意見表明であるとかという制度の大前提は,やはり今捜査を担当されている検事が非常に忙しくて,なかなか被害者にそれだけの配慮をするだけの余裕が持てていないんではないかと。現実に検事が一生懸命やっていらっしゃるというのはよく分かりますし,私たちが検討,折衝をする中で,本当に夜遅くまで働いていらっしゃるので,やはりこういう制度を導入する前提は,やはり検察官の増員をきちっとしていかなければ,私は実際にはなかなか声だけになってしまうんではないかと思うので,ここの議題ではないですけれども,大事なことだと思いますので申し上げたいと思います。 ● 諮問事項第4につきましては,本日様々な御意見をちょうだいいたしました。  事務当局にお願いですが,これらを整理して次回の審議のための資料を作成していただきたいと思います。 ● 起訴は申し上げたかと思いますが,起訴したらできるだけ早く検察官の手持ちの証拠を見せていただきたいと。そうしないと,集中審理になったらなかなかそれも取れなくなりますから,そこも御検討いただきたいと思います。 ● それでは,残りの時間で諮問事項の第3についての審議をお願いしたいと思います。  これについては,まず事務当局からの資料が1点配布されております。また,先ほどの○○委員からの提出された資料の中に,この諮問事項第3についての点もございます。そこで,まず事務当局から,次いで○○委員から,その資料の内容についての御説明をお願いいたします。 ● それでは,諮問事項第3の「犯罪被害者等に関する情報の保護」につきまして,本部会の第3回会議における御議論を踏まえ,事務当局において,以前お配りしました資料に加筆修正した資料を作成いたしました。今回修正した部分は,アンダーラインが引いてある箇所ですが,その修正部分の内容について御説明させていただきます。  資料28を御覧ください。  まず,第1の「公判手続における被害者特定事項の秘匿」についてですが,以前お配りした資料では,1の(1)において,被害者特定事項の秘匿の申出を行うことができる者を「当該被告事件の被害者等」と記載していましたが,この点につきましては,前回御審議いただきました諮問事項第2の「公判記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大」の場合と同様に,下線部のように具体的に記載することといたしました。  また,第3回会議でも御説明しましたように,第1回公判期日前に申出が行われた場合には,当該事件が,特に1の(1)の③の事件に該当するか否かを裁判所が判断することが困難であることもあり得ると考えられることや,申出をする被害者等の方々の便宜などの点を考慮すると,この申出は検察官を経由して行うこととするのが適当ではないかと考え,1の(2)の記述を加えることによって,この点を明らかにいたしました。  次に,第1の2についてですが,以前お配りした資料では,身体・財産への危害等が加えられるおそれの有無が問題となる対象者を「被害者等」と記載していましたが,この点についても,下線部のように,具体的に記載することといたしました。  次に,第1の4についてですが,以前の資料では,裁判長は「訴訟関係人のする尋問又は陳述」を制限できると記載していましたが,この点について,第3回会議で「制限を受ける訴訟関係人に被告人や証人は含まれるのか」との御質問があり,被告人や証人も含まれると考えているということをお答えいたしました。もっとも,被告人の供述や証人の証言が「陳述」に当たることは明らかであると考えられますが,例えば弁護人の行う被告人質問が「尋問」に当たると言えるか,疑義が生じる余地もあると考えられることから,これも含まれることを明らかにするため,下線部のように修正いたしました。  次に,第2の「被害者特定事項の秘匿の要請」についてですが,まず,以前お配りしました資料では,身体・財産への危害等が加えられるおそれの有無が問題となる対象者を「被害者等」と記載していましたが,この点についても,第1の2と同様に,下線部のように具体的に記載することといたしました。  また,第3回会議で「公判前整理手続における証拠開示に際しても,検察官は被害者特定事項の秘匿の要請をすることができるのか」との御質問があり,要請をすることができることとすることが適当であると考えているということをお答えしました。そこで,第2の2の記述を加えることにより,その旨を明らかにいたしました。  以上,諮問事項第3について,第3回会議における御議論を踏まえた主な修正点について御説明させていただきました。皆様におかれましては,これらの点も含め,引き続き幅広い観点から審議・検討をしていただきたいと考えております。 ● 先ほどの日弁連の意見書を12月15日付けの5頁のところを紹介したいと思います。  5頁の第3,犯罪被害者等に関する情報の保護(諮問事項3)について。  まず公判手続における被害者特定事項の秘匿についての意見です。  法制審議会配布資料22の第1の1(1)(2)に係る事件,すなわち性犯罪や児童の福祉を害する事件については,裁判所が犯罪被害者等の申出があるときは,検察官,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨を決定する制度の導入には賛成をすると,これが第1点です。  第2点。同資料22の第1の1の(3),つまり名誉,社会生活の平穏が著しく侵害されるおそれがある場合,それから,資料第1の2,身体,財産に対する危害,畏怖,困惑がされる行為がなされるおそれ,これは犯罪類型は問いませんが,この事件についての制度導入については,基本的な方向としては賛成であります。ただし,非公開とする要件については,広範かつあいまいであると考えられるので,更に検討する必要があります。また,起訴状朗読前にその要件が存在することを主張するために,公訴事実記載事項以外の事実が検察官によって裁判官に主張立証されると,予断排除の原則に反することとなるので,その疎明方法についての工夫が必要でると考えます。そのためには,例えば,要件存否の判断に際し,疎明資料よりも弁護人の意見を重視し,事実上その同意を要する扱いとすることも考えられます。  2の被害者特定事項の秘匿の要請についてでありますが,基本的な方向としては賛成であります。ただし,検察官の弁護人に対する要請は,訴訟の一方当事者から他方当事者に対する要請であり,拘束力を有するものではなく,弁護人に何らかの義務を負わせるものではないこと,及び被告人の防御に関し必要であるか否かは,専ら弁護人の判断にかかるものであることを明確にする必要があると考えます。  また,かかる制度が法制化されることにより,検察官が被害者特定事項を弁護人に開示しない扱いが広がるなどということは,決して許されません。被害者特定事項を関係者に知らせるか否かは,被告人の防御に必要であるか否かを踏まえた弁護人の判断と職業倫理にゆだねられるべき問題であります。  以上が,日弁連の意見の要旨です。 ● ありがとうございました。  それでは,資料28に基づいて審議をいたしたいと思います。  これは,第1と第2に分かれておりますので,まず第1の点から御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 質問なんですが,第1の1に関しては,検察官を通じて申出をするということになっております。この2については,これは特に検察官の申出とかという手続なしに決定するという,そういう制度設計なんでしょうか。 ● 前回御説明させていただいたとおり,おっしゃるとおりでございます。 ● 前回,○○委員がおられなかったので,例の予断排除の問題,前回ちょっと私も発言させていただきました。改めて,この第1の1の(2)と第1の2という日弁連の方で2段に分けて考えていること,ここについて私の意見を述べたいんですが,前回,○○関係官の方からも,この予断排除の原則,起訴状一本主義というのは,その後,公判前整理手続など関係で見直しはされてきているんだというお話があったんですが,私も予断排除という問題がどういうものか,いろいろ学者の先生方の文献も調べたんですが,余り詳しく論じられているものがなくて,犯罪事実に限るという見解のほかに犯罪事実に限らないという見解もあったので,私自身はこの被告人に関する予断,被害者に関する予断,広く予断を含むんではないかと思っていますけれども,日弁連の意見書もその予断排除の原則というのは,同じような広い意味でとらえてかかっているんだろうと思います。  日弁連の意見書は,この予断を与えるということを避けるために,疎明資料ではなくて弁護人の同意でというふうなスキームに提案をしているんですけれども,私自身はこの秘匿の決定の制度というのは,被害者の権利それから公開裁判を受ける被告人の権利,それとともに裁判の公開という憲法上の要請,これはむしろ国民の知る権利というものがかかわっている問題なので,公開裁判を受ける権利のある被告人又は弁護人が同意をすれば終わるというものでも,制度的にはないのではないかなと思ったりしています。  それで,その予断排除の原則に私は反すると考えて,このスキームを作るのであれば,やはり起訴の前の段階ですから,他の裁判体に判断をさせるというスキームがなければ,その問題をクリアできないのではないかと私は考えております。ですから,もしそういうスキームができにくいということであれば,この第1の(2)と,それから第1の2については法制化することはやめて,現在の運用による弁護人の同意などで行われている方法で行うべきではないか。制度化するなら,先ほどの予断排除の原則に抵触しないような仕組みが必要なんではないかと私は考えております。 ● 私の方から質問してよろしいでしょうか。この文章にある予断排除の原則に反することとなるとおっしゃる意味が,私にはよく分からないのです。どういう筋道で「予断」となり,それが起訴状一本主義の規定の趣旨に反するようなことになるのかが理解できないので,御説明いただければ幸いです。 ● すみません。私もそんなにきちっと勉強していないので,私の理解をするところを申し上げたいと思いますけれども,やはり特に,この第1の2の身体,財産に危害又は畏怖,困惑ということがなされるおそれという中に,被告人側からというふうなこともあり得るんではないかと。それは,やはり被告人又は被告人の関係者が,そういう人たちであるというような予断を与えるというふうなことが裁判の公平に反するんではないかと私は理解をしていて,そのことを問題にしているつもりなんですが。 ● そのことを知るのは,裁判官ですね。その職業裁判官が,そういうふうに考えるだろうということですか。しかし,今問題にしているのは,起訴状に記載主張されている公訴事実とは別の事柄ですね。ですから,そこの関係が私にはよく理解できないので。予断というのは,起訴状に記載され検察官が主張している犯罪事実について,裁判官が第1回公判期日前に証拠書類等に接して,それからその犯罪事実に関する一方的な偏った心証を得ることが予断である。少なくとも刑訴法256条が禁止しているのはそこであると考えられます。その話と今のお話はどこが関係するのかが理解できないのです。 ● ですから,○○委員のおっしゃるこの予断についての対象が犯罪事実に限るという見解と,犯罪事実に限らなく,もっと広いものまで含むという見解があるので,私の方はその後者の見解を採っているのでそうなるので,そこは委員と多分全然違うんだろうと思います。 ● それはおっしゃるとおりであろうと思います。しかし,後者の見解の根拠は,どこから出てくるのであろうかというのがいま一つ理解できません。おそらく,裁判所の公平らしさの外観の重視と,起訴事実に関する一方的な証拠に限らず職業裁判官は第1回公判前に被告人に関する何等かの情報に接すれば必ずや被告人に不利益な心証を抱くであろうという考えを前提とすると思われるその後者の見解を採りますと,起訴された被告人の犯罪事実のみならず被告人を取り巻く何等かの主張そのもの,更には起訴されていること自体を裁判官が知ればそれも「予断」であるというおかしなことになりませんか。また,現に立法として存在している公判前整理手続も,これは裁判官の主宰の下で当事者が犯罪事実をめぐる主張を交換する手続でありますが,それもほとんどすべて違法であるということになるんだと思います。しかし一般にはそのようには理解されていないだろうと思うのです。公判前整理手続はそのような頭では作ってありません。その観点との整合性という点からも,予断の問題を考えれば,御心配になるような問題ではないのではないかと思うんですが。 ● この議論はそのあたりで,今日のところはよろしゅうございますか。 ● どういう運用になるのかちょっと分かりませんが,前回の議論の中でも,疎明資料をどうするのかというようなことがあったと思うんですけれども,この第1の1に関しましては,もう起訴状だけで恐らく判断をされる,事件はもちろんですけれども,③につきましてもそういうことになるのかなという気がするんですね。ただ2は若干,この起訴状だけで果たして判断できるのかと。何らかの別の情報に基づいても判断をすることになるだろうと。その別の情報というのは,では具体的にどういう形で裁判所の方が入手されるのかと。そのあたりが,我々サイドで若干心配というか,その辺のちょっと危惧があるという,そういうことで質問を○○委員もしているんであろうとは思うんですけれども。 ● 基本的には,要するに検察官経由と,今回新たに書き加えたところですけれども,被害者の申出には,こういう理由だからと当然書いてある話なんだと思いますけれども,それについての検察官の意見を付して,裁判所に提出すると,そこで裁判所は判断できるだろうと思います。これが,2の方は,検察官経由としていない,要するに職権で判断するということになりますけれども,結局,職権の発動を促すということにならざるを得ないだろうと思います。要するに,裁判所がそういう訴訟外のことは一切分からない状態ですから,当然検察官としてはそういう事情があるということで職権発動を促す。そのときに,そういう事情について何らかの意見を付すというか説明をすると,そういう流れになっていくんだと思いますけれども。 ● 今日のところは,このあたりでよろしゅうございますか。それでは第2について,御意見ございますでしょうか。 ● 先ほどの日弁連の意見書の記載についてなんですが,日弁連としては,現行の刑訴法299条の2の要請についても,検察官の弁護人に対する要請によって,弁護人に何らかの義務が生じるものではないと考えております。そういうことについて,事務当局としてはどうお考えになっているか。今回の件についても,そういうふうなことがないということであれば,この問題については賛成できるという意見なので,その点について事務当局の見解を伺いたいと思います。 ● 現行法の解釈にも絡む話なんだと思いますけれども,私どもとしては,弁護人に被害者特定事項を秘匿,配慮する,一種の法的な義務,これをいわば負わせる性質のものだと理解しています。ただ,法的に負わせるというだけで,それを強制的にどうこうできるという話ではないんだと思いますけれども。 ● 法的義務は発生すると,こういう見解ですね。 ● と理解しています。 ● よろしいでしょうか。そのほかございませんか。それでは,本日の審議はこの程度にしたいと思います。  次回の審議の予定ですが,特に御異論がなければ,諮問事項第1から第4まで,この全体についての議論を行いたいと思っております。先ほどお願いしましたように,諮問事項第4については,事務当局から,その資料を作成していただくということでございますけれども,諮問事項第1から第3までについても,これまでの議論を踏まえて資料を作成していただきたいと思います。これらの資料に基づいて議論を行いたいと考えておりますが,それでよろしゅうございますでしょうか。  それでは,次回の部会の日時,場所についてお願いいたします。 ● 次回の部会は,12月28日,木曜日の午後1時30分から,法務省の第1会議室で会議を行うこととなっております。この会議室は,この法務省ゾーンの20階の赤レンガ側にございます。 ● 次回は,12月28日,木曜日の午後1時30分から,場所は法務省の第1会議室であります。  それでは,これで本日は散会いたします。どうもありがとうございました。 -了-