法制審議会保険法部会             第4回会議議事録 第1 日 時  平成19年1月17日(水) 自 午後1時29分                       至 午後5時00分 第2 場 所  法曹会館高砂の間 第3 議 題  保険法の現代化に関する検討事項について 第4 議 事 (次のとおり)                議        事 ● それでは,定刻でございますので,法制審議会保険法部会の第4回会議を開催させていただきます。   本日は本年の最初の部会ということになりますが,委員,幹事,関係官の皆様におかれましては,本年も昨年に引き続いて,スケジュールに沿いまして審議をお願いすることになりますので,どうかよろしくお願いいたします。  (事務当局から,会議用資料等の公開について,法制審議会第151回会議における決定事項につき報告がされた。)  (委員の異動紹介省略) ● それでは,まず最初に,配布資料の御説明を事務当局からお願いいたします。 ● 事前送付資料でございますが,部会資料5,「保険法の現代化に関する検討事項(4)」がございます。これはいつものレジュメでございますが,本日の審議のたたき台としていただく趣旨で作成したものでございます。別紙というのをつけておりますので,それも一体としてこの検討事項(4)というふうに理解していただければと思います。   それから,当日配布資料といたしまして「責任保険と被害者救済手段」と題するカラーの1枚紙がございます。こちらでございますが,これは本日御審議いただきます検討事項の中の責任保険契約に関する議論の際に,○○委員の方で御使用になるということで,事前に配布させていただいたものでございます。その際に御説明いただければと考えております。   以上でございます。 ● ありがとうございました。よろしゅうございましょうか。   それでは,具体的な審議に移りたいと思います。   それでは,本日は保険法部会資料5でございますが,そのうちの冒頭の「(8) 保険金の支払時期」から審議をお願いすることになります。   まずは事務当局から御説明をお願いいたします。 ● それでは,御説明いたします。   まず,(8)では保険金の支払時期について取り上げております。   本文では,①として,保険者は,被保険者から保険金の支払の請求があったときは,直ちに,保険金を支払わなければならないものとし,②として,①に規定する場合において,一定の調査をする必要があるときは,保険者は,①の規定にかかわらず,その必要な調査が終了した後,直ちに,保険金を支払わなければならないものとする案を御提案しております。   (補足)に記載のとおり,商法には保険金の支払時期に関する明文の規定はなく,解釈論や約款の定めにゆだねられております。損害保険契約において約款の定めがない場合には,保険金支払債務を不確定期限付債務と解する見解もあるようですが,一般には期限の定めのない債務と解する見解が多いようです。現在の実務においては,保険金の支払時期について(補足)に記載したような約款の定めを置くのが通例であるといわれております。   このうち,損害保険会社の約款について,最高裁平成9年3月25日判決は,「ただし書の文言は極めて抽象的であって,何をもって必要な調査というのかが条項上明らかでないのみならず,保険会社において必要な調査を終えるべき時期も明示的に限定されていない。加えて,保険会社において所定の猶予期間内に必要な調査を終えることができなかった場合に,一方的に保険契約者等の側のみに保険金支払時期が延伸されることによる不利益を負担させ,他方保険会社の側は支払期限猶予の利益を得るとするならば,それは前判示の損害保険契約の趣旨,目的と相いれないところである」とした上で,ただし書は,「保険会社において,所定の猶予期間内に調査を終えることができなかった場合にあっても,速やかにこれを終えて保険金を支払うべき旨の事務処理上の準則を明らかにしたものと解するほかはない」とし,保険会社は被保険者が所定の書類を提出した日から30日経過後の遅延損害金を支払う義務を負うと判示しています。   この最高裁判決に対しては批判もございますが,保険契約者及び被保険者保護の観点から,保険金が迅速に支払われるべきことについては異論がないと思われることから,本文では保険事故及び損害が発生し,保険者が保険金支払債務を負っていることを前提に,①において,保険金の支払請求があったときは,直ちに保険金を支払うことを原則として規定した上で,事案によっては保険金の支払に当たって,一定の調査が必要な場合も考えられることから,②において,このような場合にはその必要な調査が終了した後,直ちに保険金を支払うこととしております。   なお,本文は,損害保険契約に共通の事項として,保険金の支払時期に関する規律を設けることを提案するものですが,生命保険契約及び傷害・疾病保険契約についても同様の規律を設けることが考えられるため,生命保険契約及び傷害・疾病保険契約における保険金の支払時期に関する規律について,何か特有の問題がございましたら併せて御意見をいただきたいと思います。   (注)1では,先ほど御紹介しました判例の示唆しているところを踏まえ,本文②の「一定の調査をする必要があるとき」として,具体的にどのようなものが含まれるかについて問題提起しております。保険者が保険金を支払うに当たっては,損害保険契約においては,一般に,保険事故及び損害の有無,免責事由の存否,支払うべき保険金の額,告知義務違反による保険契約の解除等の当否等について調査することが必要となることがあります。   また,生命保険契約及び傷害・疾病保険契約においても,一般に,保険事故の有無,免責事由の存否,告知義務違反による保険契約の解除等の当否等について調査することが必要となることがあります。迅速な保険金支払の要請からすれば,本文②が保険者による不必要な調査や,不相当に長い調査期間を許容するものでないことは当然ですが,保険者の恣意的な判断により調査の対象となるべき事項を広げる余地を認めると,本文の規律の意義が失われますから,その余地を極力少なくするため,保険金の支払に当たり調査の対象となるべき事項については,明文をもってその例示を定めるべきであるとも考えられます。このように,調査の対象を明示することは,先ほど御説明した判例の趣旨にも沿うものであると考えられます。   そこで,本文②における調査の対象となるべき事項として具体的にどのような事項が含まれるかについて御意見をいただきたいと思います。   なお,先ほどの判例は,必要な調査を終えるべき時期についても言及しておりますが,約款であればともかく,法律において調査に必要な期間について一律に規律を設けることは困難であると考えられますことから,本文では,客観的に見て必要な調査が終了した時をもって調査を終えるべき時期とすることとし,具体的な期間については法定しないこととしております。   (注)2は本文の規定の性質について問うものでございます。   以上です。 ● それでは,ただいま御説明いただきました点につきまして,どの点からでも御質問,御意見いただきます。   ○○委員。 ● 損害保険契約は,損害をてん補,保障する契約でございますので,損害の有無の確認と損害の確定,このプロセスは必ずあるということでございます。お客様から請求書類一式をいただいた後,我々の方で提出書類の内容を確認して,それから損害額を算出,そして支払保険金を算出します。それから,お客様に支払保険金について御説明をし,それから御納得いただいた上で承認をいただいてお支払という,こういう流れになります。つまり,まず請求をいただいた後に,協定というものがございまして,それから支払という流れでございますので,請求,その後すぐに支払というわけではございません。   例えば,大きな工場での火災事故をイメージしていただければと思うのですけれども,こういう場合には,請求書類の中の損害品の明細書が膨大なものになりますので,書類を確認して支払保険金を算出するだけでもかなりの時間がかかります。このため,今の約款は,必要書類の提出後30日以内に支払う,あるいは調査の後,遅滞なく支払うとなっています。   資料1頁,先ほど御説明がございましたけれども,(注)1を見ますと,この協定に当たるものとして,支払うべき保険金の額が調査という概念の中に入っていると思われますので,協定のプロセスを調査とするのであれば,損害保険契約については,常に調査があって,協定を含めた調査が終了すれば,直ちにお支払することが可能と考えます。したがって,案の①,②のうち,②の方の調査が終了した後,直ちに支払うということをむしろこちらを原則にしていただくことを希望します。   また,調査が終了した後とありますが,実際には,調査が終了するとともに,事故の事実関係や損害内容等に関する請求のための必要書類をいただかなくてはいけませんので,いただかないと保険金をお支払できませんので,この案でも読めるのかもしれませんが,書類提出完了後に支払うということが読み込めるような表現にしていただければ有り難いと存じます。   以上です。 ● 今,②を原則とするとおっしゃったのは,これは①はどうなるわけですか。 ● 逆にするようなイメージがあるのですけれども,言葉上ちょっとどうするかというのはありますけれども,考え方としては,むしろ②の方がということでございます。 ● 現行の約款は,一応30日以内に払いますということから出発しておられるのですね。これも修正する必要があるということなのでしょうか。 ● いや,そこは。 ● 30日というのと,①は「直ちに」とある。そこはちょっと違うということはあるのですよね。①をどうするかということも考えておかないといけないかなと思います。   ○○委員,どうぞ。 ● この案というのは,最高裁の考え方を修正するものなのかどうかという問題が一番あると思うのですね。私は事前の検討,従来は必ずしもそうではなくて,これでいいのではないかなと思ったのですが,どうも最高裁の考え方でいった方がいいのではないかなと。どこか違うかという問題があるのですけれども,まず,この規定そのものは,基本的には直ちに払わなければいけない。ただ,請求があったときなのか,損害が発生したときなのか,最高裁が望ましいと言って非常にぼかしてはいるわけですが,その問題と。   次に,一定の調査期間を置くと,そのときの調査期間をどう考えるかと。最高裁は30日,それから推測するに5日というのがいいかもしれないと。しかし,それから先は遅延利息をつけなさいよと。私はこちらの考え方がいいのではないかと。というのは,いつまでもずっと遅延利息がつかないというのはおかしいことであって,結局保険会社側にもそういうものを急いでやるというインセンティブがないといけないと。遅延利息そのものは大したものではないのですね。6%,100万円で月5,000円ぐらいなものですから,でもそれはコストとしてなるわけですから,ですからこの規定そのものは,1項はちょっと後にしますが,基本的には直ちに払いなさいと。   次に,それは原則で,5日なり30日なりの期間を置くことは,それは約款で置くことはいいですよと。その日数については,これは監督されるところが余り長いのはよくないと,認可に当たってですね。そこは監督していただいて,リーズナブルな範囲でおさまると,こういう考え方が一番いいのではないかと。   それで,最高裁の判例をよくよく見ますと,保険契約者等が調査を妨害したなど,特段の事情がある場合を除いてというのがありまして,従来の考え方は,保険会社側の方に帰責事由があるかどうかを考えるわけで言ったのですが,要するに契約者側に問題がなかったら,基本的にはそこをつけるのだと,これはドイツの第11条の考え方ですね。私はそういう,だから最高裁がいろいろなことを苦慮されたというのは,よく考えた上でやっておられるので,従来必ずしも私はそういう意見を言ってなかったのですが,どうもそれに合わせてこの規定を考えると。だから,強行規定かどうかというその性質決定としては,2項の方は,約款でそういう約定をすることが,一定の期間について調査する期間を設けるということはいいですよという,そういう規定なのだという理解であります。   問題は,1項の方で,請求があったときに直ちに払うと。最高裁は,損害発生後遅滞なく履行されることが期待されていると,期待されているというところが問題なのですけれども,従来の通説は,損害発生時から遅延利息が発生するという考え方も,過去の通説と言ってもいいかもしれませんけれども,ここのところは,特に今問題になっている,その請求がなされなかった,不払で保険会社が手伝わないと保険金の支払ができないと。だから,ここに問題があるのだと思うのですけれども。   ここで質問なのですけれども,いろいろな生命保険会社の方も損害保険会社の方も不払の事件があったと,それはある程度保険会社の方でアドバイスをしないと保険金が払えないと。実際それでホームページで,こういう事由で不払があって,間違ったから払いますとされている場合に,利息はどういうふうにつけておられるのですか,それをちょっと教えていただきたい。これは質問です。 ● とりあえず今の質問について,実務の方から何かございますか。 ● 生損保それぞれ事情が違うのかもしれませんし,金融庁の方で統一的な指導をしておられれば,それを多分伺ってもいいと思います。   損保は遅延利息を損害発生時からつけているというわけではないのですか。従来の判決の場合は大体そうですよね。今回,不払でやった場合に,利息は30日経過後からつけておられるのですか。それが私の質問で,生保の方は,これはちょっと過去の大審院の判例があるので,微妙な問題があるけれども,5日間経過後から利息をつけておられるのではないかと思うのですが,そこを確認したいのですね。 ● どうぞ。 ● ○○委員の質問にダイレクトに答える形なのか分からないのですけれども,生命保険会社の実務は,まず,請求に必要な書類が本社に着いた翌日から5日以内と。ただし,必要な調査については5日とは別枠ですよというのが約款でございまして,今日の資料にも書かれていますけれども,事実の確認のため特に時日を要する場合のほかというのは,そういう必要な調査というのは5日と別にとっています,というのが今の生命保険会社の実務でございます。 ● 簡保は20日だとか,その熟慮期間が書いてありますけれども,本当は保険会社が助けないと請求が来ないといいますか,請求をし忘れているものについては,どうしておられるかというのが一番要の問題で,それは第1項にこれに関連するわけですよね。そこがキーになる質問,そこはまだ手持ちの資料でお分かりにならない。それも同じように。 ● そういう意味では,契約者の方がこれが支払に当たるかどうかよく分からないと。生命保険会社の人が助けて,これは請求しないといけないですよということで,アドバイスして請求が出てきたケースということの御質問ですか。 ● どうぞ。 ● そうです。それが問題になっているわけですよね,不払のケースでは。 ● まず,アドバイスしなければならないという義務の性質が法的な義務かどうかというところによってくると思うのですね。今回,新聞なんかで報道されているのは,約款に基づく義務ではないと。先生方によっては,案内教示義務という言葉を使っておられますけれども,そのよって立つところは,民法の一般原則である信義則から来ると。ですから,保険会社の方から案内しなければいけないというもの,そのレベルに達したものであれば,その義務は発生するのではないかと,そういうような考え方はあるのですね。   ちょっと○○委員の御質問とずれるかもしれませんけれども,ここで言っているのは,先ほど○○委員が御説明申し上げましたけれども,実際に調査が終了した後,いつからカウントするかといいますと,調査報告書が届いてから,そこからカウントするという実務をやっています。以前は20日というのがあったのですが,現在ではそういうことは考えておりません。 ● 問題は,肝心の事は実際どうしておられるかと,いろいろな理論構成はあると思うのですよね。今回,不払が問題になった時点で,それにもかかわらず指摘されて支払ったときにどうされたか。損保の方は,だから今日お手持ちになければ,まだファーストリーディングですから一度お調べいただいて,これはじっくり大事なことなので,次回なりその次にどうしているか,生保,損保ともにお答えいただいて,そうすると何か損保の方は原則に戻って,昔の判例的に損害発生時から利息をつけるというのがいいのかなという感じもするのですが,生保さんの場合は一定期間,これは裁判例の中でも分かれていますね。確か両方あると思います。だから,実際にはどうしておられるのかというのをちょっとまずディスクローズしていただかないといけないかなと思うのですけれど。 ● この問題は確かにそういう不払という最近の問題に絡んだ特有な問題もある。それはちょっと応用問題のようなところがあるので,まずここでは基本形を議論していただくということになるのだろうと思うのですね。その上で,幾ら不払とはいっても,何の問い合わせも何にもどこにもなければ,これは保険会社といえども知りようがないので,これは不払というのはなかなか難しいと思うのですね。それで,何らかの接触があった場合,問い合わせがあった場合に,そこで「いや,これは不払の事由ですよ」という,そういうやりとりがあったときにまたどうかというふうな,そんな問題がまず応用問題としてあるので,ここはまず第1は基本形で,事故が発生したので,契約者側としては請求を出したと,保険会社の側としては一定の調査が要ったと,そういう状況を前提にどういうルールを立てたらいいかということをまずそこをはっきりさせておいた方がいいと思います。   それから,さっきの○○委員の御質問について,何か分かることがありましたら,また次回でも実務の方から調べた結果を出していただければと思います。そのあたりどうでしょうか。   ○○幹事。 ● 先ほどの議論に戻るかもしれないのですが,原則パターンで,先ほど○○委員の方から少しメンションがありましたけれども,例えば,ドイツ保険契約法の第11条のケースですと,典型例としては犯罪捜査中であると。そのときにその約款所定の5日ですとか,あるいは30日の期間が過ぎておりますと,そういうときに例えば5日過ぎた,あるいは30日過ぎたところから遅延利息をつけるのかどうかと,遅滞に陥るのかどうかと,これが一つの典型的なパターンだと思うのですね。保険会社側としてそれで払えるかというところが一番究極の問題になるかと思うのですけれど,ドイツ法のケースでしたら,それは払わないでよいというのがドイツ保険契約法第11条の解釈ですね。その場合,いわば捜査が一定段落するまでは遅滞に陥らないという,払えない状況だから,客観的状況があるからということなので,その考え方を今御提案になっているところへ持ってきますと,いわばその一定の調査とか,あるいは必要な調査というその中身として,そういう典型的なケースを想定して,保険会社側として何を言えばよろしいのかと。遅滞の責任が発生しないということについて,何を言えばいいのかということが一番問題になるかと思うのですね。   ここに挙げていただいたような,保険事故及び損害の有無,免責事由の存否等々の中身は,一般的に当然支払の際に会社側として判断しなければいけない,確認しなければいけない部分ですので,それが確認できていないということを会社側が言われる。それだけの事実があるというのであれば,それはまさに遅滞の責任を負いようがないという問題になりますので,言ってみたら,会社側がそういう立証責任を負う形で処理できるのであれば,契約者側,権利者側に必ずしもそんなに不利益にはならないでしょうと。   ただし,一般的にそのあいまいですねというだけでは,それは支払を拒絶するというか,遅滞の責任を負わないという理由にはなりませんねと,こういう切り分けかなとは考えておりました。ですから,立て方として御提案になっている①と②の形で特に私は支障はないかなと,この形でも別に実際的には影響ないのではないかなと思っております。 ● これは②だと,調査が必要な期間は履行遅滞責任を負わないと。よく我々が判決で見るのは,モラルリスクを疑っている場合に,捜査が終了したとも何とも分からないと。疑惑があって捜査をどうも続けているらしいのだけれど,何か起訴するとか何とか,そういうあれは一切いかない状態が1年も2年も続くと。こういう場合,②だとそこへ今,○○幹事が言ったように,客観的に払うだけの十分な証拠がないと判断できるような場合であれば,②ではずっと後まで履行遅滞責任を負わなくていいのか,それとも,これは必要な調査と言っても,一定の期間というのは合理的に何かあるのか,そのあたりはどういうことになるのでしょうかね。 ● (注)1で,結局「等」というのが入れてありますので,先ほど申し上げたように,ここの②の「一定の調査」というのを例示できちんと書くということに仮にした場合に,そのドイツの解釈論のように明確に書くということであれば,それはそれで一つの決着はつくとは思いますが,それについて賛成がどの程度得られるのかはなかなか難しいものがあるのではないかと個人的には思うわけでして,結局,それは免責事由の存否というあたりの関係で問題になるのではないかと思われます。もちろん警察の捜査,あるいは検察も含めて捜査ということになると,損害保険でどこまであるのかというのは,若干疑問がないわけではなくて,生命保険の方でむしろ問題になるお話かなと思いますが,今の○○委員のお話の点は,冒頭の御説明で申し上げたとおり,客観的な見地から見て,その調査をする必要があるかないかという観点から判断されるべきものですので,単にその捜査が続いているからそれが終わるまでというのは,なかなか難しいのではないだろうかと思っているのですが,そこがもし違うということであれば,それを明確にするということもあるのですが,そういう意見の方がどこまでいらっしゃるかという話だと思います。 ● ○○委員,どうぞ。 ● 今までのお話を伺っていて大変感じますことは,「直ちに」というのは大変極めて明瞭でございまして,ぜひそれはきちんと「直ちに」という文言を維持していただきたいなと思うわけです。   というのは,生保さんが5日,損保さんが30日というのがありまして,約款上そうなっていますけれど,現実に消費者相談の苦情なんかで言いますと,さっき○○委員御案内のとおり,棚の上に上げられたまま棚ざらしになっていて,払うのだか払わないのだか,何の調査をしているのか,ちっとも分からんというような,そういう苦情が実は現実にございまして,払わないなら払わないで争いようがあるのだけれど,払うのだか払わないのだか分からないと,そこに載っけたまま実は3か月,4か月,半年,1年たっちゃいますと,大変困っておりますというようなお話のそういう御相談は実はたくさんございます。そういう意味では「直ちに」ということで,ここで明文化をしていただくというのが大変意義のあることだと思っておりますし,今問題になっています遅延損害金の話も,その捜査云々というお話ございましたけれど,どこかで見切っていただかなくちゃいけないわけで,大変残酷な言い方ですけれど,見切っていただかなくちゃいけないわけで,調査をしました結果,では,お払いしますというお話になったら,そこの請求した時点に戻って,本来そこから遅延損害金が発生するべきであると,通常普通の消費者はみんな思いますので,その点をぜひ御検討いただきたいと思います。 ● ○○委員。 ● まず,最初に○○幹事がおっしゃったこの書き方の問題ですけれども,私は保険金支払のために必要な調査とか,そういう書き方でそれで十分だという気がしているのですけれども,それで第2番目の問題として,この2項の議論をするときに,モラルリスクの問題とデイリーの支払の問題と分けて考えなければいけない。モラルリスクの問題で,これ保険会社のビジネスとしては,これは8割方危ないとなれば,それは遅延損害金はいざとなって負けたときに払うことは覚悟して,それを払わないわけですよ。だから,余りここでその議論をするというのは私はどうかなと思って,問題は先ほど○○委員もおっしゃったように,これはそういう言い方が正しいかどうかよく分かりませんが,私が苦情をよく聞いている,例えば,外資系で通販的な自動車保険なんかも宣伝しているという場合に,担当者の方になかなか連絡とれなくて,査定が全然進まないと。そういうときに,まさに腹立たしい,どちらの責任があるかよく分からない。こういうものが30日過ぎたら利息がつき始めるとしないと,それがインセンティブも何もない世界ですから,ですから基本はまずちょっとマイリスクのところは,これは保険会社はその遅延リスクなんかは額に比べたら小さいわけですから,それはビジネス流の判断として負担を覚悟すればいいことなので,デイリーのクレーム処理の問題としては,つまり必要があればいつまでもいうのはまず駄目で,一定の期間,約款で制限した上で,それを超えたら利息を払うと,そうしないとよりよい事態に働く仕組みにはならないと思うのですけれども。   以上です。 ● ○○幹事。 ● 基本的には,今,○○委員がおっしゃったようなことかと思うのですけれど,保険契約自体は先ほど○○委員が最初におっしゃったように,射倖契約の類型ですし,実際にその保険事故が発生したかどうかということを確認してお支払になる。あるいは損害額が幾らかというのを計算してお支払になるということが前提にありますから,その事実が確認できない限りは払えないというパターンになっていくと思うのですね。   ただ,その事実を確認するのに,散々時間をかけているのではこれはいけない。それはビジネスモラルという関係からいっても,そんな散々遅れるようなそういう形ではいけないのでしょうし,迅速に払わなければいけないという意味で,このつくりですか,現在御提案になっているその案文で直ちに払わなければいけないという形になるのは,これは当然かと思うのですけれども,その保険金請求権の性格からいって,契約者側,被保険者ないし保険金受取人側が請求するその中身としては,多数の考え方なのでしょうか,民法の第412条の第3項の方の期限の定めのない債務ですということになれば,これは請求があって,それで履行期に達すると,こういうのが原則ですから,請求があったときにその事実を確認して,迅速に払いますと。   こういう基本を押さえた上で,しかし場合によってどうしても事実がまだ十分確認できないというケースについて,いわば例外的にどういうレベルまでその調査をしなければいけないか,あるいはどこまで確認した上で払うのかと。こういう話しになるので,多くの場合も8割,9割,もっとなんでしょうけれども,迅速にお支払になるというのが当然の前提で,その上で問題のあるケース,事実が確認できないケース,あるいは先ほど例外的には起り得るモラルリスクケースですとか,そういうところだけどういう形でこの保険会社側の利益を守るかという,そのバランスの問題だと思うので,大枠私はこの御提案になっている形でよいと思っております。 ● ほかにこの点いかがでしょうか。   ○○委員。 ● 今日は損保の方がメーンなので,我々はどこまでお話するのがいいのかどうかというのはあるのですけれども,今,○○幹事の方からお話がありましたように,生保もできるだけ早くお払いしたいというのは全く一緒で,最低限の手続として5営業日が要ると。それと別途特段の調査が要るときは,事実確認のための調査というのが要りますよと。それはちょっと5日とは別にちょうだいしないと,なかなか実務が回りませんということでして,そういう意味で,その事実確認にいたずらに時を過ごすということは,我々も決してやっているわけではないのですけれども,事案によっては相当事実確認に時間が要する,あるいはいろいろなところに確認しないと事実が確定できないというケースがあることも事実なので,そういうところも例外的ではあれ,あるということもちょっと意識した規定にしていただきたいなと。ただ,いたずらに時間をかけたいと思っているわけではないというのも,皆さん方おっしゃっているとおりなのですけれども,ぜひその辺を御理解いただければ有り難いと思っております。 ● 現在のこの案,「直ちに」とか,「必要な調査」が何を言うかというのはそこはいろいろな世の中にあるケースを,それぞれ信義則に従って合理的に判断しようということで,大体皆さん方の基本的なお考えはこういうルールで,あと具体的に若干細かいところの適用の問題があるかと思いますけれども,大方の意見はこういうルールでいいのではないかなと私は今感じていたのですが,どうでしょうか。   ○○幹事。 ● 先ほど○○幹事が言われたように,私も基本的にこれでいいのではないかと思っております。先ほどから少し問題にされていたこの②の「一定の調査をする必要があるとき」は,調査終了するまで保険金を支払わなくていいのだということになると,保険会社が必要だ,必要だと言っていれば,いつまででも支払わなくていいのかということになりかねないのではないかという,そういう御懸念があるかと思うのですが,しかしここで「一定の調査をする必要」というのは,(注)1に書いてありますように,それは客観的な必要性が要求されると。単に保険会社が必要だと思っていただけでは駄目だし,この書き方からすると,その必要性の立証責任は保険者側にあると考えられますので,したがってあくまでも原則は,その①の「直ちに」で,保険者側が調査の必要性があるということを立証できれば②でいくということになるかと思いますので,ですからこれでそれほどおかしなことにはならないのではないではないかというのが,私の印象でございます。 ● ありがとうございます。   ○○委員,いかがでしょうか。 ● 基本的には,実際に例で挙げてありますように,協同組合の場合,生損保兼営になっていますので,流れから見たら損保から始まっていますので,それで1か月以内というのを使っているということなのですけれども,実際に生命系でいいますと,ほとんど早いところでは1日,即日払いをやっていますし,そんなに多く問題はないだろうと思います。   したがって,基本的にはこの内容でよろしいのでしょうけれども,確かに○○委員が言われたように,いろいろな苦情を聞いております。ただ,すべて遅延利息をつけるということは,果たしてやっている方のそのプレッシャーになって,本来払わないでいいものまで払うというプレッシャーを受けかねない要素というのもあるのではないかという感じがするのですね。   正確に把握していないから分からないのですけれども,一般的に遅延利息は係争案件で延びた場合に払っているケースの方が多いのだろうと思うのですね。農協さんと生協はちょっと違うのですけれども,生協の場合,遅延利息は払っていないと思うのですよね。確か,正確ではないかもしれませんけれども,遅延利息が発生というか,和解といいますか,その係争でもめた場合にその分を支払ったケースというのは,記憶はありますけれども,一般的な共済金の支払で多少遅れたから遅延利息をつけるというケースというのは,余り私は経験がないので,これはちょっと特殊だと言われれば特殊かもしれませんけれども,一律的にその遅延利息を課せるという,どっちかというと事業者側に対して罰則ペナルティですよねという理解なのですけれども,それと裏腹の関係で,例えば,保険料の猶予期間もあるのでしょうけれども,そこに遅延の考え方というのは持たせてないわけですよね。そういう意味でその契約行為の中で事業者だけに負担が強いられる構造というのはいいのかどうか,別な問題もあると思うのですけれども,そういうことは検討が必要ではないかという感じはするのですよね。共済で消費者サイド側の○○委員の言われたことに,ちょっと違う見解ですけれども,いやバランスのとれたやり方をとる必要があるのではないかと私は思いますけれども。 ● 何か非常に保険特有の厳しいルールを設定するのではなくて,民法の考え方を具体化しようというだけの話であります。 ● 今,○○委員が補足していただいたとおりでございまして,要するに金銭債務ですから,それは弁済期を過ぎて履行遅滞に陥れば,それは遅延利息を払わなければいけないのは,すべての金銭債務に共通の原則であると,こういうことになろうと思います。したがいまして,約款等の特別な合意がない限りは,民法の原則に戻るということになるだけの話であろうかと思います。   ○○委員のおっしゃられたのは,例えばこの資料に書きました,この「共済団体の実務では……と定められることが多い」というところの,1か月を超えてその後に払った場合につけてないと,それはこのただし書に当たるという理解でつけてないということなのではないかと。ただし書に当たらないのだけれども,1か月を超えて払わないときに利息を払わないかというと,それはないのではないかなと思うのですけれども。 ● そうですね,実際に1か月以内と決めているわけですから,支払う責任というのは当然発生すると思うのですね。ただ,そこまで延ばすというのは何らかの問題があるわけで,そのことはちゃんと契約者に通知をして,また調査をやるということになりますので,時効の概念と同じなのでしょうけれども,またそこから始まるということですから,現実的には発生しないと,手続的に放置をするということではなくて,当然時間を要する場合はそういう手立てを打った上でやるということですから,ですから現実問題なかなか発生はしないという意味で言ったつもりです。 ● ○○委員。 ● これ自体文章を読んでいて,これでいいかなと思っていたのですけれども,直ちに支払わなければならないという規定を設けること自体は,非常に私どもも賛成をするところなのですけれども,この②の方の一定の調査をするときというのは,下に(注)に書いてあるのですが,先ほど○○委員の方からの御発言の中で,保険金を支払うために必要なという表現があって,むしろそっちの方がすっきりするのではないかなと。全部カバーできれば,今のその遅延利息の問題ともある程度そういう問題について,きちんとした規定ができるよというふうな表現になるのかどうかよく分からないのですけれども,素人的には先ほどの保険金を支払うために必要なという表現は,非常にすっきりすとんと落ちたということであります。 ● ありがとうございます。その意見もあって,規定ぶりの話かと思うのです。少し検討して……。   ○○幹事。 ● 前回議論された,保険事故が発生したときの保険契約者の通知義務と説明義務を規定するかどうかという問題と今回のその支払時期の規定とが,ちょっと連続性を持たせた方がいいのかなと思っているのですけれども,まず御説明いただいたところで,①のところで,保険事故が発生したことを前提としてとおっしゃられたかと思うのですけれども,保険事故が発生して損害が生じてというのがそれが保険金を支払う要件の大きなところだと思いますので,この保険金を払うところの規定の中に,これは規定ぶりだけの問題になってしまって,気持ちだけの問題かも分からないのですけれども,そちらに書いた方が保険金を被保険者から請求するときに,被保険者の方で一定程度その保険事故の内容について説明が必要であって,損害額も査定しやすいような形での一定の書類に基づく請求というような形にして,それであとこれが可能かどうか分からないのですけれども,そこを基本にした場合に,②の調査をすることによって,一定の期間支払わないでいいというようなことを効果を持つ②の規定は法律に設けないということも考えられるのかなと思ったのですが。   と申しますのは,説明義務を規定するかどうかということと,説明義務というのは調査のためのものだと思うのです。あと調査を抗弁とできるような規定が法律にあると,こちらを使われる方が被保険者としては厳しい状況になるから,考え方としては,ちょっと今の会社法の規定はすぐに思い出せないのですけれども,総会で会社側が株主からの質問について答えるのを濫用的なものを排除するのはどうしたらいいかというので,質問権ではなくて説明義務という規定にしたかと思うので,ここでも保険会社側の調査権ではなくて,保険契約者,被保険者側の説明義務というふうにして,実はその方が軽いのではないかということと,あとはそういうふうな法律上の規定にした場合に,現状の約款については不当条項でなければ説明義務もあるのだし,一定の説明をしたのに調査で30日とって,さらにまたとるのであれば,それは不当ですよとかという今の判例の考え方にも乗れるかなと思いましたので,ちょっと思いつきではありますけれども。 ● 一応説明義務というのと,ここで言っている調査というのは違うレベルの話だということで整理して,今の御意見はちょっとまた考えてもらおうかと思います。 ● 何度も申し訳ありませんが,3回目なので申し訳ございません。 ● 簡潔に。 ● これは第2項が民法の原則だとすると,この法律ができた後に今の30日とか5日の約款を消してしまった場合にはこれが生きると,そういう考え方ですか。 ● それは(注)2で任意規定と考えれば,もちろんそういうことになるのではないかと。 ● そうだとすると,ちょっと私は今の約款,5日が短いのであれば20日とお書きになった上で,その期間を過ぎたら利息が発生するというような最高裁の考え方の方がいいと思うので,もしそういうのだとちょっとなかなかそのまま飲み込めないようなところがあるのですけれど,それだけです。失礼します。 ● 御意見は分かりましたので,大勢としては①,②がいいかなと。ただ,いろいろな御意見ございましたので,なお引き続き検討してもらいたいと思います。  (注)1のところで,ほかにもこういう調査の事項として何かあるということがございましたら,また後ででも何か事務当局へ御連絡いただければと思います。   それでは,先もありますので,ひとまず先へ進ませていただきたいと思います。   次は,「(9) 残存物代位」と,同じく代位ということで,「(10) 請求権代位」の両方についてまず御説明していただいた上で,御議論をお願いしたいと思います。   それでは,御説明をお願いします。 ● それでは,御説明いたします。   次に,(9)では残存物代位について取り上げております。本文では,損害保険契約の目的物の全部が滅失した場合において,保険者が被保険者に対しててん補すべき損害の額の全部を支払ったときは,保険者は当該目的物について,被保険者が有する権利を当然に取得するものとし,一部保険の場合においては,保険者が取得すべき権利は,保険金額の保険価額に対する割合によって定まるものとする案を御提案しております。   残存物代位とは,保険の目的物が全損となった場合でも,火災後の焼残物において考えられるように,経済的価値のある財産が残ることがあるため,このような場合に全損に対する保険金を支払った保険者が法律上当然に残存物に関する権利を取得することを言うものであり,現行商法においては第661条にこれを認める規定がございます。   残存物代位の趣旨については,被保険者における利得を防止するために必要であるとする見解や,損害てん補を厳密に実行しようとすると,残存物の価額を算出した上でこれを控除して保険給付をする必要があるところ,それでは保険給付が迅速にできないので,残存物に対する権利を保険者が取得することとしたものであるとする見解がございます。   これら二つの考え方はいずれも二者択一の関係にあるとは考えられませんが,現行商法制定時の資料によれば,損害てん補の趣旨を貫徹しようとすれば,目的物の全部が滅失した場合でも,危険発生前の保険価額と危険発生後の被保険者が有する利益との差額をてん補すべきものとなるが,このように解すればその計算のために無駄な費用と日数がかかり,保険の効用が減殺される結果となり,被保険者に不利益なだけでなく,保険者の利益にもならないという説明がされており,当時は先ほど挙げたうちの後者の迅速な保険給付を図る趣旨ということが重視されたものとうかがわれます。   (補足)に記載のとおり,本文は商法第661条の規律を現代語化したものですが,同条は,残存物代位の生ずる場合を「目的ノ全部カ滅失シタル場合」と規定しており,これは,一般に,保険の目的物が全損した場合を意味するといわれておりますが,ここで言う「全損」とは,例えば,建物の火災保険においては,建物が物理的に全滅したことまでは要せず,住宅や事業所など,その建物の従来の使用目的におよそ適していないような状態になる程度であれば足り,また修理・修復の費用が保険価額を超えるような場合も含まれるとされております。   このように,「全損」とはかなり緩やかな概念であるため,現行法の「目的ノ全部カ滅失シタル場合」との文言がやや狭いとも考えられることから,本文では「目的物について保険者がてん補することを約した損害の全部が生じた場合」という案を併記しております。   (注)1では,経済的価値のない残存物を代位の対象から除くことについて問題提起をしております。   商法第661条は,代位の対象となる残存物を特に制限しておらず,原則としてそのすべての残存物について当然にその所有権が保険者に移転することとなるため,残存物についての公法上の除去義務まで保険者に移転したり,残存物の売却が困難な場合には,廃棄のコストにより結果的に保険者に損失が生じたりするという不都合がございます。このような不都合を考慮し,損害保険の実務では,残存物の所有権は,保険者がこれを取得する意思を表示しない限り,保険者に移転しない旨を約款で定めるなど,残存物代位による権利の移転を制限する約定が行われるのが通例であるといわれております。   ただ,法律上当然に権利が移転する旨を定める規定について,これを排除する約定が無制限に認められるのかどうかについては,理論上は疑問がないわけではありません。そこで,実務上の不都合を解消するとともに,理論上の疑問が生じ得ない規律にするための一つの方策として,経済的価値のない残存物を代位の対象から除いてはどうかということも考えられます。この考え方については,残存物代位の趣旨を利得禁止と解すれば,まさに被保険者に利得が生じない場合を代位の対象から除外するものであり,その趣旨にかなうものと思われますが,他方で,迅速な保険給付を残存物代位の趣旨と解すれば,保険者が保険給付をするに当たり,残存物に経済的価値があるかどうかを判断する必要が生じるため,その本来の目的が全うできなくなるおそれがございます。これらの考え方を踏まえて,経済的価値のない残存物を代位の対象から除いてはどうかとの考え方について,特段の御意見がございましたらいただきたいと思います。   (注)2は本文の規定の性質についてのものでございます。   先ほど御説明したとおり,損害保険の実務では残存物代位による権利の移転を制限する約定が行われるのが通例であり,残存物代位の趣旨を利得禁止と解する立場からも,残存物代位が常に強行法的に適用されるものではないとの説明がされておりますが,法律上当然に権利が移転する旨を定める規定について,これを排除する特約が無制限に認められるのかどうかについては,疑問がないわけでもありません。そこで,本文の規定の性質について御意見をいただきたいと思います。   次に,(10)では請求権代位について取り上げております。   本文の①では,保険事故による損害が生じたことにより,被保険者が第三者に対して権利を取得した場合において,保険者が被保険者に対しててん補すべき損害の額を支払ったときは,保険者はその支払った金額の限度において,そのてん補された損害について被保険者が第三者に対して有する権利を当然に取得するものとする案を御提案しております。   一般に,請求権代位とは,損害保険契約において保険者の保険給付義務の発生事由と同一の事由に基づき,保険給付請求権者が第三者に対して損倍賠償請求権等の権利を取得する場合において,保険給付義務を履行した保険者が保険給付請求権者の第三者に対する権利を取得する制度であるといわれております。   例えば,自動車の損害保険契約において,第三者が運転する車に衝突されて損害が発生した場合に,保険者がその損害をてん補したときは,被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を保険者が代位取得することになります。請求権代位の趣旨については,複数の説明がされておりますが,主に損害保険契約における利得禁止の観点からこれを説明する考え方が一般的なようです。   本文①は,(補足)に記載のとおり,基本的に商法第662条第1項を現代語化したものでございますが,同項が保険契約者の第三者に対して有する権利についても代位の対象としている点については,被保険者の第三者に対して有する権利を取得すれば足りることから,従前から立法論的な批判がされております。例えば,甲の所有物を保管する乙が甲のために損害保険契約を締結し,第三者である丙がその物を滅失させた場合に,甲に対して債務不履行責任を負った乙が丙に対し有する不法行為債権を保険者が取得することを可能とすることに意味があるとされておりますが,保険者としては,端的に,甲の丙に対する損害賠償請求権を取得すれば足りるといわれております。そこで,本文では,保険契約者が第三者に対して有する権利を代位の対象としないこととしております。   本文②では,被保険者が第三者に対して有する権利の額が被保険者の損害額を下回る場合には,一部保険の保険者は,被保険者の権利を害しない範囲において,①に規定する権利を当然に取得するものとする案を御提案しております。これは,(補足)に記載のとおり,現行法の下で学説上争いのある問題について,立法による解決を図ろうというものでございます。   ここで保険法部会資料5の別紙を御覧ください。ここでは説例に従って御説明をさせていただきたいと思います。   被保険者Aが保険者Bとの間で,保険価額100万円の自動車について保険金額50万円の車両保険契約を締結したところ,第三者Cの運転する車に衝突されて100万円の損害が発生したが,過失相殺によりAのCに対する損害賠償請求権は80万円しかないという場合に,保険者Bがどの範囲で被保険者の有する損害賠償請求権を代位取得するかについて争いがございます。   まず,商法第662条第1項がそのまま適用されるという絶対説の立場によれば,被保険者Aが先に保険者Bから50万円の保険金支払を受けた場合,Bは50万円を支払った以上,50万円全額についてCに対する損害賠償請求権を代位取得することになり,その結果,もともと80万円しか債務を負わないCはBの代位額50万円を差し引いた30万円をAに支払うことになるため,Aの最終的な回収額は80万円になります。逆に,先に第三者Cから80万円の損害賠償を受けた場合は,Bに対する保険金請求権は消滅し,Aはもはや保険金の支払を請求できなくなるという説明がされております。   次に,第三者に対する権利のうち,保険金額の保険価額に対する割合部分のみが保険者に移転するという比例説の立場によれば,先に保険者Bから50万円の保険金支払を受けた場合,Cに対する損害賠償請求権80万円の2分の1に当たる40万円をBは代位取得することになるため,AはCから残り40万円しか回収できず,Aの回収額は合計90万円になります。逆に,先に第三者Cから80万円の損害賠償を受けた場合は,Aは残りの損害20万円の2分の1に当たる10万円を保険者Bに請求できるという説明がされております。   最後に,被保険者が損害の全部を回収し,それでもなお残る第三者に対する権利の部分だけが代位により保険者に移転するという差額説の立場によれば,先に保険者Bから50万円の保険金支払を受けた場合,Aは残りの損害として50万円があるわけですから,その全額をCに請求できるため,Aの回収可能額は合計100万円になりますが,その結果,Bは80万円からAの請求額50万円を差し引いた30万円しか代位取得できないことになります。逆に,先に第三者Cから80万円の損害賠償を受けた場合は,Aは残りの損害20万円全額を保険者Bに請求できると説明されております。   このように,各見解によってAの回収額及びBの代位額は異なりますが,被保険者の利得を防止するという請求権代位の趣旨からすれば,被保険者による利得が生じない範囲では保険者による代位取得を認める必要がないとする差額説による処理が最も素直であり,また被害者である被保険者の保護が最も厚くなると考えられますことから,本文②では差額説を採用することを御提案しております。一般に,損害保険の実務でも差額説による処理がされているといわれております。   これに対し,最高裁昭和62年5月29日判決は,比例説を採用しておりますが,最高裁判例解説によれば,絶対説は採りがたいが,比例説と差額説のいずれを採るべきかについては,政策的には価値判断を伴うように思われるとした上で,同判決は当時の多数説に従って比例説を採用すべきことを明言したものであると説明されており,必ずしも比例説がこの問題に関する論理必然の帰結であると考えられたわけではないことがうかがわれます。そこで,これらの考え方を踏まえて,本文②の規律について御議論いただきたいと思います。   本文③は,商法第662条第2項を現代語化したもので,保険者が被保険者の権利の一部を代位取得した場合について,保険者は,被保険者の権利を害しない範囲において,その権利を行使することができるものとする案を御提案しております。例えば,被保険者と保険者がそれぞれ40万円について,第三者に対する損害賠償請求権を有する場合において,当該第三者に50万円しか資力がない場合には,被保険者は40万円全額を回収できますが,保険者は10万円しか回収できないことになります。   (注)1では,この本文③の具体的な法的効果について問題提起しております。   商法第662条第2項は,「被保険者ノ権利ヲ害セサル範囲ニ於テノミ」権利を行使できると規定しておりますが,その具体的な法的効果については必ずしも明らかではありません。そのため,先ほどの例で,保険者が被保険者よりも先に40万円全額について第三者に請求した場合に,当該第三者は10万円を超える部分について支払を拒絶できるのか,また保険者が債務名義を取得し,第三者の財産に対して強制執行を申し立てた場合に,当該第三者又は被保険者は強制執行の停止又は取消を求めることができるのか等が具体的に問題となります。しかし,商法第662条第2項が保険者と被保険者との権利関係を規律するものであることからすれば,このような効果まで認められると解することは困難であり,結局のところ,被保険者から保険者に対する不当利得の返還請求ができるにすぎないのではないかとも考えられます。   (注)2は本文の規定の性質について問うものでございます。   先ほど御説明したとおり,請求権代位の趣旨については,利得禁止の観点から説明するのが一般的ですが,代位がないこととする特約の効力を否定するものでないとの指摘もございます。他方で,残存物代位と同様に,法律上当然に権利が移転する旨を定める規定について,これを排除する約定が無制限に認められるのかどうかについて,疑問がないわけでもありません。そこで,本文の規定の性質についてご意見をいただきたいと思います。   以上です。 ● それでは御意見を伺おうと思います。   まず,(9)の残存物代位の方から。   ○○委員。 ● それでは,損害保険会社の立場から残存物代位について意見を申し上げたいと思います。   実務の世界では,利得禁止の観点から,保険の種目によっても大分違いますけれども,残存物代位を行っておりましたので,こうした規定を設けるということは非常に意義があることだと思っております。ただ,先ほどの御説明にもございましたとおり,火災保険につきましては,例えば焼け落ちてしまった住宅の建物の柱とか,そういう焼け跡のもの,これにつきましては基本的には保険会社はその残存物の取り片付けをする費用を保険金としてお支払して,そしてその残存物自体は,基本的には契約者,所有者が取得をすると。したがって,約款上は,保険者がこれを取得する旨の意思表示をしない限り,保険者に所有権は移転しないと書いてございます。この方が現実的であろうとしておるわけでございます。   また,自動車保険につきましても,権利を取得しないことができると書いてございまして,こういうことから保険者が代位権を取得しないことができる旨の規定を設けていただければ,非常に実務に即して有り難いと。仮にそういうことができないのであれば,少なくとも約款の中で,その保険者がその代位権を取得しない,所有権を取得しないとすることを不当条項の観点から問題はないとしていただかなければ,非常に実務上私どもとしては困ると思っております。   なお,先ほど「全損」というところの表現で,括弧が二つございますけれども,先ほど御説明になられたことに加えまして,例えば盗難があった場合,盗難保険金をお支払するのですが,その後盗難物が出てきた場合には,出てきたものは御本人にお返しするわけにいきませんので,保険会社が取得をするわけでございますが,こうした場合に「滅失」という言葉はちょっと余り適しておりませんので,表現としては合わせまして何々の全部が「滅失」というのではなくて,その次の表現の方がよろしいかなと思っております。   以上であります。 ● あと運送の分野の話をしているときは,「滅失」といったら盗難でなくなったのも普通は入ると。 ● ここは確かに気になるところなのですが,純粋に法律用語としてどうなのかなということを考えますと,「滅失」というのは物が消滅してなくなることであると。一般的に物の物理的存在がなくなることを言い,紛失,盗難,火災等,その原因は人の行為,自然災害等,さまざまであるということですので,盗難もその滅失の原因ということになりますので,それは読めるということのようです。むしろ我々が気にしているのは,先ほど冒頭に御説明したように,いわゆる経済的全損ですとか,そっちは物理的存在は多分なくならないのではないかなと思いますので,ちょっと気になるところであると,そういう趣旨でございます。 ● (注)1は,実務はさっき○○委員が御説明になったような形で,実際は取得しないのが原則になるようなことなのですが,それを何か法律的に裏付けるかどうかということですね。私は従来はそういう実務でも,それは別に不当条項ではないのだろうと思っていたのですが,そのあたり御意見何かございませんでしょうか。そういう実務がおかしいという御意見をお持ちの方はおられないということでよろしいでしょうか。   ○○委員。 ● 私は現状で問題はないと。任意規定か強行規定かというと,いろいろ本当に問題が一貫した説明が難しいところがあるので,クオリファイして,現状を法文化したのだという前提で,現状はそれでいいと。基本的考え方はそういうふうにやるしか理論的にはないと,そう思います。 ● それでは,また,何かございましたら後ほど再開後に補足していただくことにして,ここで休憩をとりたいと思います。            (休     憩) ● それでは,再開させていただきます。   残存物代位の点に関しまして,何か追加の御意見ございませんでしょうか。   とりあえずはこういうことでよろしいですか。それでは,(10)の方の請求権代位に関しまして御意見をいただければと思います。   別紙があって,かなりテクニカルな問題も入っていますけれども,御意見。   ○○委員,どうぞ。 ● この事務当局の案でいいと思っているのですけれども,ちょっと1点だけ。特にこれはまた企業保険なのですけれども,比例説にするか差額説にするかというのは,実は保険料にも影響を及ぼすというところがございまして,企業契約の中ではそれを分かった上で比例説の立場でちゃんと契約をしていただくという場合がございますので,任意規定ということでお願いできたらと考えております。 ● ありがとうございます。   ○○委員,どうぞ。 ● 今の残存物代位の話は少し迷っていたのですけれども,期間の話とちょっと連動する話が何かあるのではないかと思いまして,「目的物について保険者がてん補することを約した損害の全部が生じ」というところにしますと,その残存物に経済的な価値があった場合にそれをどれくらいの価値があるのかというのを,保険会社が調べないといけないですね。そうすると,時間がかかると,いわゆる被保険者の受給がおくれるという問題がないのだろうかなということと期間の議論がございましたけれども,そちらが整理されれば,そこはクリアされるのかどうかというところがちょっと分からなかったということなので,現行商法が全部が消滅して,そのまま現代語化すればいいのではないかなという気がしております。   それから,請求権代位の話ですが,最高裁の判例としては比例説が採られているということですが,実務上は既に差額説が採用されているということであります。この差額説に基づいた立法がされるということであれば,この被保険者の損害全部の回収が優先をされるということでありますので,これまで以上に消費者利益が守られるということで,ぜひともそういう形で議論を進めていただきたいと思います。 ● 先ほど,これは判例は比例説であるけれども,これは当時の多数学説なので,今は違うという御説明だったけれども,今の研究者の皆さん方,よろしいでしょうか。   ○○幹事,どうぞ。 ● 私は当時大学院生で,判例批評を書いたとき差額説を支持いたしまして,当時の研究者の先生方からはとんでもないことだと,そんなのはおかしいと言われて,研究会等でボコボコにやられたことを記憶しておるのですけれども,時代が変わってよかったなと思っていますが,ただそれはちょっと冗談といたしまして,差額説の場合は当時の議論ですと,被保険者Aが先に第三者Cから損害賠償を受けたときに,損害額が80万円ですから,損害額があと残り20万円になったときに,保険金請求の方の比率の方が比例てん補と書かれているような場合には,それは半分になるのではないかという議論もややあって,そこのところで,実は,前後計算が合わないのではないかというような議論もあったと思うのですけれども,今回,この立法するに当たっては,立法資料としてのこの一つの資料が出ていることを前提に,この表については,差額説をとると,どちらを請求しても総額100万円になるということが共通認識であるということを前提に支持させていただいてよろしいのかどうか,その点だけ一応確認させていただければと思います。 ● 今,○○幹事から御指摘があった議論がかつてあったというのは十分承知しておるのですけれども,どうも最近の研究者の研究によると,これを差額説を採った場合もどちらが先になっても結論は変わらないのだと理解されているものと承知しておりますので,それに従いまして,それがこの規定ぶりで読めるのかどうかというのは,さらに検討したいとは思いますが,そういう趣旨でさらに規律を明確化する作業をさせていただければと考えております。 ● ほかにこの点でございませんでしょうか。   ○○幹事,どうぞ。 ● 特に,②と③との問題というのは非常にテクニカルな問題で,おそらく一般の人がこれを見たら,どういうケースのことを考えているのかというのは分からないのではないかと思うのです。ただ,先ほどお話いただいたように,②というのは過失相殺のケースで,③というのは加害者の資力が足りないケースが想定されているということで,それはそれでいいと思うのでけれども,1点気になったのは,これはまたテクニカルな問題で恐縮なのですけれども,②のところで,「被保険者の権利を害しない範囲において」という表現になっていまして,これは③でも同じなのですね。③でも「被保険者の権利を害しない範囲において」と。③の方は,これは権利としてはあるのだけれども,しかし加害者の資力が足りないので,だから保険者が先に権利行使してしまうと被保険者の権利を害される。だから,それを「被保険者の権利を害しない範囲において」という表現というのはぴったりくると思うのですが,②の方はそもそも被保険者と保険者がどの順序で,あるいはどういう割合で権利を取得するかという話なので,そこで「被保険者の権利を害しない範囲において」と言ってしまうと,ややこれはトートロジーになってしまうのかなと。   ②は,確かに,保険者の側から権利を取得すると書いてありますけれども,これは被保険者の側からすると,被保険者の権利を害しない範囲で被保険者の権利を取得ということになってしまうのではないかとちょっと気になったものですから,ですから実質的には被保険者の権利というのは被保険者の利益を害しないように,結局被保険者が先に権利を全部取得とするということだと思うので,ただこれに代わるよい表現があるかというと,私も代案がないものですから,ここでそれを申し上げることはできないのですけれども,ちょっとここの表現が本当にこれでいいのかどうかというのは気になったということを申し上げておきたいと思います。 ● これは昔からこういう用語は私も初めて勉強したときに何のことか全然理解できませんでした。ここは何かいい表現ぶりがあればまたお考えをいただいて,御提案いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。   とりあえずこの代位の点は,大体基本的には(9),(10)ともおおむね御異論は余りないということだったかと思います。   それでは,そういうことにいたしまして,次の「(11) 保険の目的物の譲渡」につきまして,まず御説明をお願いいたします。 ● 次に,(11)では保険の目的物の譲渡について取り上げております。   商法第650条第1項は,被保険者が保険の目的物を譲渡したときは,同時に損害保険契約によって生じた権利も譲渡したものと推定する旨を規定し,同条第2項は,保険の目的物の譲渡により著しく危険が変更し,又は増加したときは契約は失効する旨を規定しております。現行商法制定時の資料によれば,当時は目的物の譲渡に保険契約上の権利の移転を伴うことが多く,これが多くの譲渡人及び譲受人の意思に合致すると考えられたことから,このような規定が設けられたことがうかがわれます。   ところが,現在の多くの約款では,目的物を譲渡した場合は保険者に通知し,保険証券への承認裏書を求めるという手続が規定されるなど,目的物の譲渡とともに保険契約上の権利が当然には移転しないことが原則とされており,また実際にもこの規定により目的物の譲渡人が保険者に対して保険契約の承継を承認するよう求める事例は極めて少ないといわれております。さらに,自動車保険契約のように,被保険自動車が譲渡された場合でも,入替自動車について保険契約を継続させることを原則とする保険契約もございます。   このように,現在の実務においては,海上保険の分野における貨物保険契約などであればともかく,少なくとも陸上保険の分野においては,目的物の譲渡とともに保険契約上の権利が譲渡されることはほとんどないようです。また,従来から,同条第1項については,保険契約の義務の移転の側面については規定がなく,法律関係が不明確であることや,指名債権譲渡の対抗要件を別途具備する必要があるかどうかが明らかでないことなどの問題が指摘されており,同条第2項については,商法第656条が定める「危険カ保険契約者又ハ被保険者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ著シク変更又ハ増加シタルトキ」の一つにほかならず,必ずしも必要でない注意的な規定であるとの指摘がされております。そこで,商法第650条の規律については,削除するのが適当であると思われますが,このような考え方について御意見をいただきたいと思います。   以上です。 ● それでは,この点について。   ○○委員,どうぞ。 ● ただいま事務当局の御説明は,まさしく私どもの損保業界の認識と全く同じでございまして,事務当局案に賛成いたします。 ● この規定は保険法の研究において,昔から大議論がある最重要な規定だったのですが,現状をかんがみればこういうことかなということで,何かここでなくしてしまっていいのかなという若干感想がないではないのですが,結論としてはこういう提案になっているのですが,今,○○委員の方から実務的にはまさにこうだということでした。   ○○幹事。 ● この問題は引き続き危険の著増の問題の中で取り上げられる,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ● 要するに,譲渡によって危険が増加したことに伴う規律が適用があるかどうか,そういう話ですね。それはそうだと思いますね。   特にこの点,御異論はございませんでしょうか。   それでは,こういうことで大体意見が一致したということにさせていただきます。   それでは,続きまして「(12) 重大事由による解除(特別解約権)」の問題についての御説明をお願いいたします。 ● それでは,「(12) 重大事由による解除(特別解約権)」について御説明いたします。   本文は,(補足)に記載いたしましたように,重大事由による解除,あるいは特別解約権といわれているものを法文化することを提案するものでございます。   現行商法には,このような明文の規定は設けられていないものの,学説上保険契約は継続的契約であり,しかも射倖契約として当事者が信義則に従った行動をとることが強く要請されるなどとして,保険契約者などに不信行為があって,保険者に契約の維持を期待し得ないような場合には,契約の解除をすることができると指摘されており,生命保険契約や傷害・疾病保険契約の事案において,一般法理によって契約の解除を認めた下級審裁判例もあります。   実務の約款を見ますと,自動車保険契約や責任保険契約等の約款には,保険金請求に関し詐欺の行為があった場合には契約の解除をすることができるとされているほか,自動車保険契約の約款には,さらに,対人賠償保険契約を除き,保険者は保険契約を解除する相当な理由があると認めた場合には,契約の解除をすることができるとの規定があり,この規定については,実務の注釈書では,特別解約権が一般原則上認められるような契約当事者間の信頼関係を破壊する信義に反する行為があった場合に限って,契約の解除権が発生するものと解すべきとされております。また,建物更生共済の約款には,故意免責に当たる場合も解除事由に掲げられております。   さらに,生命保険契約や傷害・疾病保険契約の約款にも,保険金を詐取する目的等で事故招致をした場合,保険金の請求に関し保険金受取人の詐欺があった場合及び保険契約を継続することを期待し得ない同等の事由がある場合等が解除事由として掲げられており,この約款を適用して契約の解除を認めた下級審裁判例もございます。   以上のような状況に加え,法制審議会への諮問でも指摘されておりました保険の健全性を維持するという観点から,本文①では当該契約に関して当該保険者との信頼関係を損ない,当該契約の存続を著しく困難ならしめる事由がある場合には,保険者は催告や解約期間を置くことを要せず,直ちに契約の解除をすることができるとするとともに,解除の要件を明確化するため,典型的な場合を(ア)及び(イ)に例示として掲げることとしております。   なお,危険の増加に関する商法656条を道徳的危険の増加の場合にも適用し,殺人未遂等の時点で契約が失効したものと判示した下級審裁判もございますが,学説上はモラルリスクへの対策の必要性を認めつつも,このような場合が継続的な状態であることを要する危険の増加と言えるのかとか,要件があいまいである等の批判もされていることから,そのような場合を危険の増加によって規律するのではなく,要件を明確化した本文の規定によって規律することが相当であるとも考えられます。   続きまして,①の各事由について御説明いたします。   まず,(ア)では当該保険契約について,故意免責に当たる行為をした場合に,当該契約の解除事由となることを規定しており,典型的には自動車保険契約や責任保険契約等のように,保険期間中に複数回保険事故が発生することがある保険契約において問題となり,また火災保険契約において分損が生じた場合にも問題となると考えられます。この点,生命保険契約の約款では,保険金を詐取する目的又は第三者に保険金を詐取させる目的で事故招致をしたことが要件となっておりますが,前回御審議いただきました故意免責に関する規定では,保険金取得目的の有無を問題としておらず,また故意による事故招致がされれば,当事者間の信頼関係が損なわれたと言えると考えられることなどから,解除事由として保険金詐取目的であることを掲げないこととしております。   なお,解除事由として故意による事故招致の未遂に当たる行為をしたことをも例示の中に掲げるということも考えられますが,このような場面において刑事法でいうところの実行行為なるものを観念し,予備や嘱託といった未遂以前の段階と実行行為に着手した後とを明確に分けることができるのかなどという問題がありますので,民事基本ルールである保険法においては,未遂という概念を前提とした規定を設けることは相当でないと考え,これを例示として掲げることとはしておりません。   次に,(イ)では被保険者が当該保険者に対する当該契約に基づく保険金の請求について詐欺を行った場合を掲げております。ここに「詐欺を行った」とは,欺罔の意思,すなわち保険者を錯誤に陥らせ,これによって保険金の支払をさせようという意思で欺罔行為を行ったという意味で,保険金の支払を受けたことまで要するわけではありません。例えば,被保険者が保険事故を仮装するなどして,当該保険者との間の当該保険契約に基づく保険金請求権が真実はないにもかかわらず,当該被保険者に対して保険事故が発生したとして,保険金を請求した場合などがこれに当たります。   そして,(ウ)はいわゆる包括条項を設けるもので,例えば損害保険契約の約款では,保険契約者に保険金請求に関し詐欺の行為があった場合が挙げられており,これが包括条項に当たるとも考えられますが,いずれにせよ個々の事案ごとに,(ア)や(イ)の例示があることを前提として,当該保険者との信頼関係を損ない,当該契約の存続を著しく困難ならしめる事由があるかどうかが判断されることになります。   なお,これに関連して実務上,例えば自動車保険では物保険である車両保険,対人・対物の責任保険,搭乗者の傷害保険等が一体として契約されることが通例であるほか,人保険の分野においても,主契約で死亡給付が約定され,いわゆる特約として傷害・疾病保険契約が約定されることがあり,その一部について解除事由に当たる行為がされた場合に,どの範囲で契約の解除をすることができるのかということが問題となります。   そもそも私法上契約の個数が1個と評価されるものであれば,全体として契約を解除することができるということで問題ないと考えられますし,仮に私法上は複数の契約であると評価されるとしても,債務不履行による解除に関する議論を参考にしますと,常に個々の契約しか解除をすることができないわけではなく,上記のような場合には一つの契約部分に解除事由が生じた場合に,合わせて他の契約部分をも解除することができるとも考えられますし,また一つの契約部分に(ア)ないし(ウ)の解除事由があることが他の契約部分について(ウ)の事由に当たるとして,(ウ)によって解除可能な場合もあると考えられます。   次に,本文②では,①の規定により保険契約の解除をした場合においては,保険者は,①に掲げる事由があった後解除までの間に発生した保険事故によって生じた損害をてん補する責任を負わないという規律を設けることを提案しております。   この点,解除事由が生じてから契約の解除がされるまでの間に保険事故が発生した場合に,その保険事故に基づく保険金の請求が認められるかについては,法律の明文の規定のない一般法理の解釈としては,解除に遡及効が認められるかという形で議論がされております。そして,解除事由の存在は保険事故が発生した後に判明することがあり,重大事由が生じた時点までの遡及効を認めなければ解除権を認める趣旨が達せられないとして,解除に遡及効を認める見解も主張されておりますが,解除の効力について理論上は遡及効を導くのは困難であるという見解も主張されております。   ただ,現行法上遡及効を肯定しない立場からも,立法論としては重大事由が生じたときから解除までの間に発生した保険事故について免責とする余地を認めるべきであるとの指摘がされており,生命保険契約や傷害・疾病保険契約の約款では,解除の効力を将来効としつつ,解除した場合には保険金の支払を行わず,既に保険金を支払っていたときはその返還を請求することができる旨の規定が設けられており,下級審裁判例ではその規定が有効であることを前提としたものもございます。   以上のような状況を踏まえ,効果を明確化するために本文②の規律を設けることとしております。   この規律について,具体例で御説明いたしますと,例えば,自動車の車両保険契約で,1月に保険事故があり,保険金が支払われ,3月にも再度事故が発生し,その後1月の事故が被保険者の故意によるものであることが判明したことから,契約の解除をしたという事例であれば,1月の事故については前回御審議いただきました故意免責に関する規定によって保険者が免責されることから,保険者は保険金の返還請求をすることができるともに,3月の事故については本文②の規定によって免責とされることとなります。   続きまして,(注)1では,解除事由が生じた後保険者が契約の解除をするまでの間の保険料の取扱いについて問題提起しております。   本文の規定を前提とすれば,その間の保険料は当然には保険者の不当利得とはならないことになりますが,他方で,重大事由が生じた後に,それを理由として契約の解除をすれば,保険者は常に免責となり,実質的に危険を負担していないとも考えられることから,契約の解除をしたときに保険者がその期間中の保険料を取得するものとすることでよいかについて,検討する必要があるように考えられます。   とはいえ,告知義務違反の規律に関し,学説上は商法が将来効として規定しているにもかかわらずこれを遡及効と解し,解除までの保険料は保険契約者等に対する一種の制裁等として,保険者に対する保険料の返還請求は認められないとの説明がされており,この場合に制裁の必要があるというのであれば,重大事由によって契約が解除された場合には,なおさら一種の制裁等として保険料の返還が認められないものとすべきとも考えられます。   以上のような観点から,重大事由が生じた後の保険料の取扱いについて,御議論いただければと思います。   また,(注)2では,強行規定性について問題提起をしております。   以上です。 ● ありがとうございます。   それでは,この点についていかがでしょうか。   ○○委員。 ● 重大事由については,損害保険契約だけではなくて,各保険契約共通の問題ではないかと認識しております。その上で,現行約款にも規定している重大事由による解除権を法文で規定することには賛成でございます。   ただ,1点だけちょっとあれなのですが,第2回の部会で他の保険契約の告知義務,通知義務の規定を設けてほしいということで,要望を出させていただいて御議論していただいていますけれども,もしもこの規定がそこで設けられないというような場合にはでございますけれども,重大事由解除の規定が適用できるように,今のこの(ア)から(ウ)に加えて,例えばですけれども,生保さんの約款にございますような著しい重複の場合ということを明文で追加していただければと考えております。   以上です。 ● ○○委員。 ● この問題はとても重要な問題なのですけれども,私の基本的な考え方は,もうちょっと限定した形で法律に書くべきではないかと。それで,例えば最初の故意ですけれども,先ほど車両保険のような事例はまさにもっともだと思うのですけれども,これだと故意によって損害を生じさせたというだけですから,免責の効果とここでは解除という,法律にどうしても書かなければいけないことなので,約款だけでできるレベルなのかという議論が当然出てくるのだと思うのですね。法律に書かないと困るというのはどういうものかというと,遡及させる効果を持たせるところだと。そうすると,それは多分その保険金を詐取する目的で保険事故を生じさせたと,そういうような場合,これは初めて遡及効を認めようと。ほかの信頼関係を損なったとかいうものは,基本的には将来効だと考えるべきだと思うのです。   それで,実際この重大事由解除とかやったケースを見ますと,大体は保険契約の件数が多くて,本当は他保険告知の規定があれば相当解除できるものが多いと思うのですよね。その告知義務のところの重要事実と,通知義務のところの重要事実に他保険契約に関する告知のだれもが見たらこんなのはとんでもないというようなものが入るという前提で,この新しい法律ができたときに考えれば,相当なものはそちらで処理できるものがあるのではないかと。そういうわけで,約款で規定するというのはいいと思いますけれども,基本的にはその保険金を詐取する目的で保険事故を招致させたというものについてのみ遡及効を認めて特別解約権とすると,どうもそういうやり方がいいのではないかなと私は思っています。   保険料の取扱いはどうなるかと,この今の規定のままで,この案のままでいった場合には,それは内容はいろいろなものがありますので,これはペナルティを全部とっていいとはなかなか言えないと。でも,現在の生保の約款ではそうなっていますね。つまり返戻するという文がありますけれども,そういうふうに限定するのであれば,ペナルティとして返さなくていいという効果もいいのではないかと。強行法規かどうかという問題につきましても,その遡及させるというところについては,それは強行法規と言っても,このままだとこれはちょっとひど過ぎるのではないかと私は思います。   それで,この実質的な根拠は学説にもありますけれども,商法第656条にあるような危険の著増で失効すると,それは今回の改正でどうもなくなるみたいですけれども,しかしその前提にある考え方というのは,そういうものを保険集団の中に取り込んでおいたら保険はもたないと,だから失効させると。失効というところまではいかないですね。今回はそこまではその効果はもうちょっと一つ手前のところで解除させる。そういう趣旨を規定したものだと,そういうふうに限定した上で書いたらいいのではないかというのが私の考えであります。 ● 今,御意見が積極,やや消極と両方出ましたが。   ほかに。   ○○幹事。 ● 今の点にもかかわりますが,遡及効の問題にかかわって,この重大事由による解除権,特別解約権を契約が終了してから,変ですけれども,解除できるかと,解約できるかと,こういう話もあり得るのですね。先ほど例を出していただきましたけれども,後から故意の事故で請求していたことが分かったというようなケースで,その後車両保険などでもう一回事故が起きましたというケースで,最初の故意の事故の請求に対して,この特別解約権でもって解約を契約終了後打ちますと,こういうことがこの提案の中身では含まれているのかどうか。これは遡及効の問題にもなるのですよね。その契約自体は既に終わっているのですけれども,遡って有効だった時代の契約を後から解約できるのか。それができるとすれば相当モラルリスク対策としてはかなり大きな,事実上免責条項と変わらない機能を持つように至るわけですね。場合によったらそれも可能にしなければいけないことがあり得るかなと思っております。   それから,もう1点は,解約権について保険会社側で一応これは解約相当ですねという証拠があったと,確認できたとして,この解約権をいつまで行使できるのかというその解約権の行使期間について,告知義務違反のケースのように,分かってから1か月ですとかいう形の除斥期間のようなものをつけておかないと,これは逆に契約者側を相当悪い人かもしれませんけれども,不安定な状況に法的地位としては置いてしまうということもないわけではないので,そこは少し絞りをかける必要がないのかなと思いました。 ● 今の○○幹事のお話ですけれども,大きく分けて二つあったかと思うのですが,最初の方は契約終了後にという話ですが,それは要するに,保険事故が例えば故意による事故招致で既に起きたと,したがって契約は終了していると。先ほど冒頭の説明で申し上げた分損ですとか,複数回起こるとか,そういうケースではなくて一回切りのケースで起きていると。 ● 私は複数回起こるようなパターンを考えております。 ● 契約が終了しているのは,そうすると保険事故が起きたから終了したのではなくて,単に保険期間が終了したからということですか。 ● 単に保険期間が終了したからです。 ● それは告知義務違反の場合との関係もあると思いますので,ちょっとさらに検討させていただきたいと思います。   それから,後の方の解除権の除斥期間といいますか,その行使期間の関係ですけれども,それは内部で検討したときも,どうした方がいいのかなということで検討したのですが,この場合は信頼関係が一応損なわれて,契約の存続を著しく困難ならしめる事由があることが前提になりますので,それについて短期の除斥期間みたいなものを設けるのが果たして適当なのかと。放っておいても解除権ですので一般法理によって時効とかあるのだと思いますけれども,それ以上に短くする必要が果たしてあるのだろうかということを考えますと,やや疑問の余地も残るということで,とりあえず何も書いてないという次第なのですが,今の○○幹事はむしろ設けるべきであるという趣旨でしょうか。 ● 先ほど最初の第1の質問のところと重なるわけですけれども,要するに後からこの解約権を行使できるということになれば,これは結構引きずれるわけですよね。損害保険契約の通常のパターンで,例えば1年契約でしたらそんなに引きずるということは考えられないわけですね。それで,有効期間中しかこの解約権は行使できませんよと,こういう話になれば,およそずるずる後ろの方へ行くということはないのですけれども,先ほど言いましたように,後からでも契約保険期間が終了してからでも,この解約権を行使して複数回の事故が起こっていたその最初の事故について,詐欺的な請求でしたということが後から明らかになって,そこが既に信頼関係を破壊されていると。したがって,この解約権を行使できたはずであるから,後からさかのぼってこの解約権を行使する。その結果,契約がなくなりましたという構成ができるのであれば,その後の契約についての保険金もこれは払わないでいいということになりますので,そうすると大分後から発覚した段階でこの解約権を打つということができますので,そうすると除斥期間みたいなものもあり得るかなと思ったのですが,ただやっている本人が相当悪質なケースの被保険者等でありましたら,これについてわざわざ保険会社の方の正当な手段を縛るのも適当でないという面もありますので,そこら辺のバランスをどう考えるかというので,それは解釈論で対応するのですという御趣旨かどうかということを確認したかったということです。 ● 最初の方の問題は先ほど申し上げたようにちょっと検討させていただきたいと思いますので,そうするとそれにつれてということになるかと思います。 ● 今の第1の問題は,この現在検討中の案だと告知義務でも同様に生ずる問題なので,そこを詰めていただくことにしましょう。   ○○幹事,どうぞ。 ● この解除事由のうち,契約者又は被保険者の故意による損害発生というところなのですが,結論から申しますと,故意による事故招致というだけで信頼関係破壊というのは少し広過ぎるのではないかというのが私の感想です。   それは二つありまして,一つには違法性阻却事由がある場合はどう考えるのかという点が1点,それからもう1点は,これは傷害保険の事件で実際にあったケースですが,傷害についての故意はあったけれども,死亡についての故意はないという場合に,怪我をさせる故意があれば条文上はこれに該当するので,信頼関係破壊で解除ができるということになってしまうのではないかと思われる。   以上の点から少し広過ぎるのではないかと思っております。 ● 先ほど○○委員から今(ア)の点については,これは広過ぎないかという御意見があったのですが,それと別に(ア),(イ),(ウ)のほかに保険がたくさん重複しておる,著しく重複しておるというふうな場合も,明文の規定を置いたらいいではないかという御意見があったかと思いますが,明文の規定で解除事由を増やすという意見ですが,あるいは別の考え方としては,そういうのは(ウ)で読めるとか,いろいろな考え方があろうかと思います。このあたり御意見いかがでしょうか。   ○○委員,いかがでしょう。 ● 基本的にはこの考え方でよろしいのではないかと思っているのですけれども,一つは(ウ)の信頼関係を損ないという範囲の問題ですね。あくまで(ア)と(イ)に関連するものとして限定した方がいいのではないかと思うのですけれども,違う見方をすれば,「信頼関係を損ない」という範囲の問題として,どこをもってその信頼関係を損なうのかという議論は必ず出てくるだろうと思うのですね。   そうしますと,全体のつくりから言いますと,当然(ア)と(イ)に連動したものと範囲というのは解釈として出てくるかと思うのですけれども,各共済もそうですけれども,きちっとお仕事をされていますので,拡大解釈をして違うふうに使うというのは基本的にはないと思いますけれども,解釈が分かれるというのはちょっとどうなのかなと。言えるのであれば,準ずるといいますか,(ア)と(イ)に関連したような規定ぶりといいますか,そういう規定ぶりの仕方の方が先々この条項の下手な使い方を制限するという意味では,やっておいた方がいいのかなと思っております。   ○○委員が言われた重複契約は,これは基本的には危険の測定そのものについて,モラルの問題がありますけれども,危険の測定そのものにストレートに関係するということでは一般的にはありませんので,それは告知の問題のところでどう取り扱うのかと。最終的には保険金なり共済金,ダブっている場合はその支払の問題にかかわるもので,もともとその支払に該当しないものは免責として処理はされるわけですから,そういう意味ではこの重大事由という範囲に入らないのではないかという感じがいたします。 ● ○○委員。 ● この重大事由解除の規定なのですけれども,今回は損保さんの件だと理解しておりますけれども,研究会の取りまとめにありましたように,生命保険のところ,あるいは第三分野のところにも規定が入るということであれば,そのとき議論すればいいのかもしれませんが,生保の約款を御覧いただきますと分かりますけれども,今の解除につきましてはそれなりの必要があって,生保の特約の方の約款の書き方は,他の保険契約との重複によって被保険者に係る給付金額の合計額が著しく過大であって,保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれのある場合と,これを特約の解除事由として挙げているわけです。そういう前提がありますので,それぞれのところで規定していただければと思っております。   それから,この規定化することにつきましては,先ほど事務当局の方から御説明ございましたとおり,判例で認められているといっても,法律で規定していただくことは意義がありますので,ぜひその線でお願いしたいと。   それに関連して4点ばかり確認させていただきたいと思っているのですけれども,それは今回の案では(ウ)として包括条項というか,そういうものが入ったのですが,その中の「その他の当該契約に関して」という規定ぶりについて確認させていただきたいのですが,幾つかは先ほどの御説明にあったかと思うのですが,再確認という意味でさせていただきますが,まず一つは先ほど御説明しました,研究会の取りまとめにありました未遂のところはなくなったのですが,これは(ウ)の規定で解除可能という考え方,あるいはこれが任意規定であれば,約款で書くことは自由であるという考え方でいいのかどうか。   それから,2番目が先ほどもちょっと御説明があったかと思うのですが,特約が解除された場合に主契約が解除できるかということなのですが,現在の生保の約款では特約が重大事由によって解除された場合には主契約も解除できると,そういう規定になっております。これはどういう趣旨かといいますと,特約だけ解除するというのは,実際の場においてあり得るかということなのですが,信頼関係が破壊されますと特約の部分だけの解除というのは,むしろその人と保険者は契約をしたくないのだと,契約関係から離脱したいのだということであれば,主契約も一緒に解除するということになろうかと思うのですね。そうしないとさらにいろいろな問題が起きてくるのではないかと。   それから,3番目がこれも先ほどの御質問に含まれるかどうかですが,別口契約ですね。例えば二つの契約があって,一の契約は他人の生命の保険だとしますね。契約者と被保険者が別人の場合ですが,その被保険者を殺害したような場合,契約者と被保険者は同一の自己のためにする契約,あるいは自己の生命の契約なのですが,そういったもの,被保険者を殺害した場合に,その人自身の契約についても解除できるかと。我々としては,それは解除をしたいわけですね。その理由としては,そういった人との契約関係から離脱したいというのがあります。   それから,もう一つ最後なのですが,これが自社ではなくて他社の契約の解除をもって当社の契約を解除できるかということなのですが,単純にそれが可能とは思っておりませんけれども,そこにいろいろな要素が加わってきて,自社の契約から離脱することは許されないものだろうかということもあるわけです。これが「その他の当該契約に関して」というところの読み方かもしれませんが,確かに全然関係ないことについて,その当該契約を解除できるとは思っていませんけれども,そこら辺をどういうふうに考えるかということをちょっともう一回御説明いただければと思います。 ● ただいまの○○委員のお話でございますが,まず一つ目の未遂の件でございますけれども,未遂を入れなかったのは先ほどの冒頭の説明のとおりでございまして,特にこの損害保険の分野において,例えばこの括弧は,これ自体先ほど広過ぎるではないかという御指摘を受けたところではあるのですけれども,(ア)というのは要するに故意による保険事故の招致ですので,それの未遂というふうに言うのは簡単なのですが,具体的に何が未遂なのかというのが正直申し上げてさっぱり分からないと。ちょっと繰り返しになって恐縮ですが,未遂というのは刑事法の分野で主に論じられているものでして,いわゆる実行行為という概念を立てて,それに着手したけれども結果発生に至らないものと。そして,実行行為という概念についても,刑事法の分野できちんと厳密な議論がされているところであると。   それをここに持って来るということで,文言で書くのは簡単ですけれども,具体的に何が未遂なのかと,何が未遂に至らない状態なのかというのが分からないものですから,この要件の定立という観点からすると,そういったものは法律上書くのはなかなか難しいだろうということで,本文ではいわゆる既遂というのもよく分からないのですが,未遂ということを言う人の念頭に置いているところの既遂に相当するものを書いたと,損害を生じさせたということです。   他方で(イ)の詐欺の方は,いわゆる刑事法の詐欺罪を当てはめてみますと,財産的処分行為というところまでいって,その財物の交付がされないと既遂にならないわけですけれども,それまでは別に信頼関係を破壊という意味では要らないのだろうとあるので,いわゆる欺罔行為がされればそれで足りるのではないかと。それが多分未遂,既遂を言う人の考えに当てはめてみると,(イ)は未遂も入るということになるのかもしれませんけれども,そういうことで既遂とか未遂とか,さらに言うと予備ですとか,そういう切り口でここの規律を置くということがどうも分かりづらいということでございまして,こういうふうに書いているところでございます。   ○○委員の御質問で(ウ)に入るのかという話ですけれども,そういうことですので,そもそもこの場合の未遂というのは何なのかが分からないものですから,(ウ)に当たるのか当たらないのかもはっきり分からないわけですけれども,結局それが信頼関係を損なって,契約の存続を著しく困難ならしめるような事由に当たるのであれば解除されるということになるとしか言いようがないということでございまして,もう少し具体的に事例を設定できれば,それはそれで考えることができるのかもしれませんけれども,その抽象的な未遂とか既遂とか予備ということでは,なかなかよく分からないところではあるなというのが率直に申し上げるとそういうことでございます。   それから,2点目,3点目,4点目,これはおそらく基本的には同じような問題で,特約と主契約の問題,それから同じ法人格の主体同士での別口の契約である場合,それから他の法人格を持った人との契約の場合はどうかという多分応用問題だろうと思いますが,これも基本法で主契約とか特約とか,そういうのを書ければいいのかもしれませんけれども,なかなかそれは実際上難しいかと思いますので,結局単一の契約を念頭に置いた上で,基本的なルールは書くしかないということで,こうなっているわけでございまして,それも結局は(ウ)の解釈,当てはめの問題であって,一律にこうだからこうだとかいうのは,なかなか難しいところでございまして,そこはもう少し具体的な事例も念頭に置いて議論した方がいいのかなと思ったりもしています。   直接回答になっていないかと思いますけれども,なかなか難しいところでございまして,現時点ではそんな感じございます。 ● 生命保険のところとか,あるいは第三分野のところで具体例を挙げて検討していただければと思います。 ● ○○委員,どうぞ。 ● お話をちょっと戻してしまうのですけれど,先ほど○○委員がおっしゃったことに大変賛成でございまして,重大事由による解除,特別解約権ということで,故意の事故招致やいわゆる詐欺ですか,そういうものは解除されても致し方がないだろうと,それが公平だろうと思うのですが,(ア)と(イ)は結構なのですが,(ウ)の部分なのですが,この信頼関係をいわゆる破壊するというお話が具体例として何を指すのかということになりますと,故意と詐欺に近くてそれに準ずるものというのはそもそも何だろうかというのが先ほど重複契約のお話が出ましたけれど,それをちょっと念頭にしていなかったものですから,そうすると故意だとか詐欺だとかが立証が難しいから,底引き網みたいにそこから包括規定に持っていっちゃうというのはいかがなものだろうかなと。   例えば,信頼関係の破壊理論というのは裁判にはたくさん出てくるみたいですけれども,一般消費者にとっては大変近くない,どちらかと言うと遠い,何のこっちゃという規定でございまして,それはそういう意味ではそこでくくられるのはちょっと待ってくれと申し上げたい。他方,こういう故意だとか詐欺だといのうは規定をしなくちゃいけない部分があるのだと思いますので,せめてここでは限定ではなく,例えば故意とか詐欺,(ア)と(イ)に準ずるようなという,そういうエクスキューズをつけていただいて,条文化していただいた方が,一般消費者には分かりやすいのではないのかなと思います。   それと,もう1点ですが,本文②の方なのですが,これをいただいたときに散々ぱら読んで,ちっとも分からなくて,さっき1月と3月に事故を起こしたお話をいただいて,やっぱりそういう意味なのねというふうに分かったぐらい,文章自体が大変難しゅうございます。それで,だからそこの文言的にどういう規定ぶりをするかというのは,このままでは1月に故意をやった人が3月に普通の事故を起こしたとしても,3月の分は払わないよというふうにはとても読めないと思いますので,そこら辺を読むのに四苦八苦してやっとフィットしたので,なるほどと思ったのですけれど,そこをぜひ何とかしていただきたいという部分と。   それから,1月に故意をした人がその人が確かに信頼関係を破壊したのかもしれないけれども,3月に真正の事故を起こしたときに,真正という言い方はおかしいですけれども,そういうまともな事故を起こしたときに,それを払わないというのが本当にあらまほしい姿なのかというのは,多少疑問点がなきにしもあらずだと。故意性程度によりますけれどもと考えておりますので,そこの辺についてぜひ御検討いただければと思っております。 ● まず,○○委員から。 ● モラルハザードを防止する観点から,非常に意味のあるところだと思います。   今,○○委員からもあったところがあるのですけれども,これは当該契約に関して信頼関係を損なうということですので,この信頼関係が分かるようにしていただきたい。というのは,○○委員のおっしゃったことと同じなのですけれども,(注)1の方の話ですが,この解除事由が生じた後に保険者が契約を解除するまでの間の保険料,これの取扱いについては,当該期間のてん補責任は負わないということなのですが,その原因がこの保険契約者側なり被保険者側ということでありますから,制裁的な意味合いがあるというお話でしたけれども,どちらかというと私はモラル維持の点でいかがなものかなというところがありますので,そこまで返せというのはいかがなものかという感じがいたします。 ● ありがとうございます。   ○○委員。 ● 先ほど事例のお話がありましたけれども,ケースとして火災事故でよくあるのは,保険に過去お入りになっていて,いわゆる放火で契約解除という方が他の共済なりに流れてこられるというケースというのを今まで経験したことがあるわけですね。恐らくそういう方というのは,同じような事故を起こさせる可能性が極めて高いわけで,そういう事実というのは後でしか判明しないのですけれども,たまたま損保さんと共済団体と一緒に査定関係でやっている件もあるのですけれども,そこで事実として分かるケースというのがあって,事故が発生した場合に,明らかに故意にまず間違いないだろうというケースというのは現実的に発生し得るわけですね。   ただ,私は先ほど言いましたように,事業者側の方で範囲を広げて保険金なり共済金を払わないということは厳に慎むべきだとは考えておりますけれども,モラルリスク対策といいますか,その防止策として,ここは「当該契約」としてありますけれども,ある程度他の契約,もっと言いますと契約履歴,そういうものが一定モラルリスク対策のために,どのレベルで記載をしてもらうかという問題はあると思いますけれども,告知義務との関係もありますけれども,そういう対応も一定歯止めとしてやっておく必要があるのかなと。ただし,範囲を広げるというのはまずいということは変わりません。 ● いろいろな御意見が出て,なお検討する課題はいろいろあるという感じではないかと思うので,なおこれまた生命保険,第三分野のところでも出てくると思いますので,そのときに併せてなお検討を続けるということにしてはいかがと思います。   ひとます先へ進ませていただいてよろしいでしょうか。   それでは,2の「(1) 火災保険契約」,これはア,イ,ウから構成されておりますが,これらについてまとめてまず御説明をお願いいたします。 ● ここからは,各損害保険契約に固有の事項に入っていくわけですが,まず(1)では火災保険契約について取り上げております。   火災保険契約とは,火災によって生じた損害をてん補する損害保険契約をいい,商法では第665条以下に火災保険契約に関する特別な規定を設けております。   初めに,アでは火災による損害のてん補について問題提起しております。   商法第665条本文は,火災により目的物に損害が生じたものである限り,その火災の原因を問わず保険者はその損害をてん補する責任を負う旨を規定しており,これは一般に危険普遍の原則を明文化したものであるといわれております。また,同条ただし書は,危険普遍の原則を同条本文に規定した関係で,疑義を避けるために確認的に規定したものにすぎないといわれております。   この商法第665条については,保険者がその担保危険によって生じた損害について,その原因のいかんを問わずてん補すべきことは,その契約の内容から自明の理であり,火災保険契約だけに適用される原則ではないとの指摘がございます。また,現在の多くの火災保険契約の約款では,地震や噴火等によって生じた火災による損害は免責の対象としており,このような免責条項の定めは商法第665条との関係でも,その有効性が肯定されていますが,このうち特に地震免責に関しては従来からトラブルが頻発しており,その原因の一つとして,商法第665条が原因のいかんを問わずと規定していることが保険契約者の誤認を招くおそれがあるのではないかとの懸念もございます。そこで,本文では,商法第665条の規律については,明文の規定を設けないものとする案を御提案しております。   なお,最高裁平成16年12月13日判決は,火災保険契約における,いわゆる偶然性の証明責任が保険者にある旨を判示しており,本条を根拠規定の一つとして挙げていることから,明文の規定を設けないことになれば,この結論に影響を及ぼさないかが一応問題となります。もっとも,先ほど御説明したとおり,同条の規律は損害保険契約における自明の理であるといわれていて,明文の規定を設けないことにより,この規律が実質的に変更されるものではないですし,損害保険契約における偶然性の証明責任については,近時火災保険契約以外の契約類型でも同様の結論を導く判例が相次いで出されていることからすれば,同判決の結論に影響を及ぼすものではないと考えられます。   次に,イでは保険証券の記載事項について問題提起しております。   商法第668条は,火災保険契約における保険証券の特別な記載事項を法定するもので,第1号は建物を保険に付する場合の建物につき,第2号は動産を保険に付する場合に当該動産をおさめる建物につき,その所在,構造及び用法を保険証券に記載することを要するとするものでございます。   ここで,机の上に置かせていただいている箱の中にございます「損害保険関係」と記載されたファイルを御覧ください。   この中に火災保険契約の保険証券のサンプルがございます。そのうちの「保険の目的に関する項目」という中に,建物の所在,構造等が記載されているという形になっております。御参考にしていただきたいと思います。   それでは,部会資料の説明に戻らさせていただきます。商法第668条に列挙されている各事項は,火災保険契約における危険の測定にかかわる事項であり,火災保険契約に固有の事項として法定することにも一定の合理性が認められますが,他方で,このような細目的な事項についてまで基本法に規定を設けるまでの必要性は乏しいとの指摘もされております。そこで,商法第668条の規律を維持するかどうかにつきましては,保険法全体の体系や他の損害保険契約に関する規律との関係で総合的に検討する必要があると思われますが,特に火災保険契約における規律の要否について,何か特段の御意見がございましたらいただきたいと思います。   次に,ウでは消防・避難による損害のてん補について問題提起をしております。   本文では,火災保険契約においては消防又は避難のために必要な処分によって契約の目的物に損害が生じたときは,保険者はその損害をてん補する責任を負うものとする案を御提案しております。ここで言う消防又は避難のために必要な処分によって生じた損害には,一般に,破壊消防による建物自体の損害,消防注水により家財等が濡れたことによる損害,避難搬出により家財等が損傷したことによる損害等が含まれるといわれております。   商法第666条の趣旨については争いがあり,消防・避難による損害は一般に火災損害に含まれるものであり,同条は当然のことを確認した注意規定にすぎないとの見解や,理論上,保険者の当然負担すべき直接損害に属しないが,法が特に保険者をして負担せしめたものであるとの見解,さらに商法第660条の損害防止義務及び損害防止費用の負担義務を具体化したものとして把握すべきであるとの見解がございます。   もっとも,いずれの見解を採るとしても,商法第666条の規律自体には合理性があり,かつ,実務上も消防・避難による損害を火災保険契約におけるてん補の対象とするのが通例であるといわれていることなどから,本文では同条の規律を維持することを御提案しております。   (注)1では,商法第666条の適用範囲について問題提起しております。   一般に,商法第666条は,保険の目的物について火災が発生したことを前提とする規定であると解されており,この見解によれば,例えば,隣家に火災が発生し,保険の目的物に延焼する前に消防活動によって生じた損害については,同条によるてん補の対象に含まれないことになります。この点について,旧商法第665条は,「火災カ被保険者ノ方ニ起リタルト近傍ニ起リタルトヲ問ハス消防若クハ救済ノ処分又ハ窃盗其他類似ノ事由ニ因リテ被保険者ニ加ヘタル損害モ火災損害ト看做ス」と規定していたところ,現行商法制定時に,「本案ハ既成商法ノ如ク規定スルニ於テハ保険者ノ責任重大ニ過キルヲ慮リ窃盗其他類似ノ事由ヲ削除シ火災保険ニ於テ賠償スヘキ損害ノ範囲ヲ火災ニ際シテ当然免ルヘカラサルモノ即チ消防又ハ避難ニ必要ナル処分ニ因リ保険ノ目的ニ付キ生シタル損害ニ制限シタリ」として修正されたものであり,同資料を見る限り窃盗その他類似の事由が削除された点を除き,旧商法の規律を実質的に変更する趣旨であったかどうかは必ずしも判然としません。   そこで,保険法の現代化に当たり,改めて火災発生のおそれないし延焼のおそれがある場合を損害てん補の対象に明確に含める必要があるかが問題となりますが,この問題を検討するに当たっては,火災発生のおそれという抽象的な概念を持ち込むことにより,適用範囲があいまいにならないかという点についても,併せて御議論いただきたいと思います。   (注)2は本文の規定の性質について問うものでございます。   以上です。 ● それでは,この(1)の全体につきまして御意見を。   ○○委員。 ● まず初めに,火災による損害のてん補という点でございますが,先ほど御説明にもございましたとおり,この規律を削除することにつきましては異論はございません。実際には免責条項,地震とか戦争,核燃料物質等々いろいろ免責事由もありますので,大分当時とは違うのではないかと。   それから,あと火災保険は火災のほかに落雷とか破裂とか爆発とか,あるいは台風による風災とか,さまざまな損害を保障しておりますので,火災だけを殊更に取り上げる必要はないのではないかなと。   次に,保険証券の記載事項でございますが,第668条の記述は特段設ける必要はない,不要だと考えています。商法の第649条の総則の規定で十分でないかなと。もし種目別,商品別に設けるのであれば,自動車保険等々それぞれさらに各則を作るということなりますが,その必要性は少ないのではないかなと。   それから,併せまして消防・避難による損害のてん補でございますが,実際に現実の約款も実務もそうでございますが,消防による損害は火災に伴って当然生じる損害でございますので,現実に保険金の支払対象になっておりますし,あえて規定を設ける必要はないのではないかなと考えています。   それから,併せまして(注)のところでございますけれども,5頁のウの(注)1ですか。火災発生のおそれがある場合につきましても,含めるというふうに,この点に関してでございますけれども,破壊消防のように,保険の目的が既に発生した火災の延焼防止のために破壊されたような場合につきましては,これは当然因果関係があるものとして保険金の支払をしておりますが,火災が発生するのではないかなということで,まだ発生していないにもかかわらず,しかも周囲に全く火災がないけれども,火災が発生するかもしれないという,こういう予防的な費用まで保険の対象になるという誤解も招きかねませんので,予防する費用につきましては,損害保険で保障することはできませんので,この法律で規定するということにつきましては,問題があろうかというふうに考えております。   以上でございます。 ● ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   ○○幹事。 ● 火災発生のおそれの件なのですけれども,消防が火災発生のおそれがあるということで,住居,隣家を破壊した場合に,これはその火災の発生のおそれがあるか否かを問わず,消防がそれを壊したこと自体が保険事故になるとは考えられないのでしょうか。AとBの二つの家が並んでおりまして,Aが燃えている,Bはまだ燃えていない。Aを消火するためにはBを壊さないといけない。消防がBを壊した。これは火災が現に燃えていようが,それが燃えていなかろうが,消防がそれを壊したということ自体は,それ自体が保険事故であると,別にこの規定でカバーする必要はないという考え方もあるのではないかと思うのですが。 ● ○○委員,そこはどうですか。 ● 現実にAとBの建物があって,Aが燃えていてBは燃えていないと,消防の判断でBを破壊しましたという,これはもちろんBの火災保険で保険の対象になりますということで,そこは問題はないのですけれども,今私どもが心配をしておりますのは,起こるかもしれないと,火事はどこにもないのに,火が出て火事が発生するかもしれないという,そういう極めて広くとらえるとか,あるいは非常に遠くで発生して,そしてこちらまで来るかもしれない。そういうことを考えると,火事が来ないように緊急にこの辺で壁を作るかどうか分かりませんけれども,いろいろな形で費用がかかると,こういうところまで広くとらえるということはかなり問題があるかなと思います。 ● なぜウに反対かと,その理由をよく聞くと,書きぶりの問題かなという気がします。   ほかに。   ○○幹事。 ● 基本的に,私はこの御提案になっている方でよいと思っております。   消防法の第29条のところで,ここで対象になって,今御提案になっているようなところは,実は公的な保障の対象になっていない部分なのですね。ですから,これについては任意の火災保険をつけて,自分でカバーを得ておかないと保障がどこからも得られない。これ以外のところで消防上必要があって壊されたりなんかした場合は公的な保障があるということなので,任意の保険の方でせめてここは,現在はもちろんその約款でカバーされているので問題はないわけですけれど,原則としては任意規定でカバーされるというふうに置いておかれる方が妥当であると思います。 ● ○○委員。 ● 私は法律の専門家ではないので,大分乱暴なことを申し上げるかも分かりませんが、ここの火災保険の規定で最初の第665条を余り意味がないと。その理由は火災というファイヤーですが,実質的にはファイヤーではなくて非常に担保範囲が広くなっていたりとか,免責があるとか,そういうことで保険の実務の保険種目自体の内容が変わっているということだと理解いたしました。   そうやって考えますと,なぜ自動車がここにないのか,運送保険と火災保険があって,なぜ自動車がないのかというのが非常に素朴な発想として,法律論とはまた別の形かも分かりませんけれども,そういうふうに素朴に考えましたが,これは現代化ということですので,何かそういった現代の実態に合わせて,例えば火災保険の名前を変えちゃうか,あるいはここは約款レベルで解決できるところは解決して,できないところはもっと一般的な損保のルールに落とし込むとか,そういうことというのは余り法律論的には考えられないことなのでしょうか,御質問なのです。 ● 難しい御質問で,必ずしも答えになっているかどうか分からないのですが,現代化ですので,ちまたにある典型的な契約はなるべく取り込んでやっていくのがいいのではないかということで,第1回でやりましたように,例えば傷害・疾病保険契約を明確に位置づけるですとか,あるいはこの後御議論いただきますように,現在の商法ではほとんどない責任保険契約についての規定,問題提起しているのはわずかなところではあるのですけれども,そういうことを設けてはどうかとか,そういう提案をしておるところでございまして,自動車保険についてどうかということ,事務当局としては以前に内部でも検討したことはあるのですが,現在の自動車保険というのがかなり複合的な契約になっているということで,伝統的な物保険的な車両保険だけではなくて,責任賠償保険がむしろメーンでついていたりとか,さらに言うと第三分野の保険もついていたりとか,ということでこの基本法で典型契約として自動車保険というのをバンと打ち出すのはなかなか難しいかなということで,ばらばら分かれて責任保険とか,伝統的な物保険とか,そういう形で規定しているということでございます。火災保険について名前を変えるということは,ないことはないのかもしれませんけれども,具体的な提案等がございましたら,それはそれでと思いますけれども。 ● 特に提案というわけではないですが,アメリカ流に言うのだったら,例えばハウスオーナーズ保険だとか,そういったようなことも考えられます。ただ,余り格好いいかどうか分からないので。 ● そういう御意見を伺ったということで,ほかにこの点ございませんでしょうか。   おおむねあとは文言の話とか,そういうことではないかなと思います。   先に進みまして,「(2) 運送保険契約」についての御説明をお願いします。 ● 次に,(2)では運送保険契約について取り上げております。   運送保険契約とは,陸上運送の目的である運送品について,その運送に関する事故によって生じた損害をてん補する損害保険契約をいい,商法では第669条以下に運送保険契約に関する特別な規定を設けております。商法第669条は,保険期間について,保険者は運送人が運送品を受け取った時からこれを荷受人に引き渡す時までに生じる保険事故に対して責任を負う旨を規定し,同法第670条は,保険価額について,損害額の算定に関する同法638条にかかわらず,運送品発送の地及び時における運送品の価額及び到着地までの運送賃その他の費用の合計額をもって保険価額とする旨を規定し,同法第671条は,保険証券の記載事項について,同法第649条第2項の一般的記載事項に加えて,運送の道筋及び方法,運送人の氏名又は商号,運送品の受取り及び引渡しの場所並びに運送期間の定めがあるときはその期間を記載する旨を規定し,同法第672条は,運送の中止等について,危険の著しい変更又は増加に関する同法第656条及び第657条にかかわらず,一時運送を中止し,又は運送の道筋若しくは方法を変更したときでも,運送保険契約はその効力を失わない旨を規定しております。   (補足)に記載のとおり,運送保険契約においては,保険契約者が企業であることが通例であるといわれており,一部骨董品等の高価品の運送においては,個人が運送保険契約を締結する場合があるものの,その割合は非常に小さいことなどから,運送保険契約に特有の規律については,当事者の合意にゆだねるのが適当であると考えられます。また,現在においては,責任保険契約が運送保険契約の代替として広く利用され,運送保険契約自体の割合が小さくなっていることからすれば,運送保険契約に関する規律を殊更に法定する必要性も乏しいと思われます。そこで,本文では運送保険契約に関する現行法の各規律を削除し,特別な規定を設けないものとする案を御提案していますが,このような考え方について特段の御意見がございましたらいただきたいと思います。   以上です。 ● この点についていかがでしょうか。   ○○委員。 ● 事務当局案に賛成ということだけ表明させていただきます。 ● これも昔からある規定を削除してしまおうというので,勉強してきた者としては何か若干引っかかりはあるのですが,実態としてはこういうことで,特に御異論はないということでよろしゅうございましょうか。   それでは,次へ進みまして,「(3) 責任保険契約」のところですが,8頁を御覧いただきますと,「(4) 再保険契約」,それから9頁に「(5) その他」とございます。このあたりもあわせてまず御説明を伺って,御議論をすることにしたいと思います。   それでは,よろしくお願いします。 ● 次に,(3)では責任保険契約について取り上げております。   商法には,他人の物の保管者の責任保険契約に関する第667条という特異なケースを想定した規定のほか,責任保険契約に関する一般的な規定はございませんが,現代においては自動車賠償責任保険契約が国民に広く普及していることに加え,各種の責任保険契約が企業のみならず個人の経済活動において重要な役割を果たしていること等にかんがみ,ここでは新たに責任保険契約に関する規定を設けるかどうか,規定を設ける場合にはどのような規定が必要か等について問題提起しております。   まず,責任保険契約の意義についてですが,責任保険契約における保険事故には被保険者が他人に対して損害賠償責任を負ったことを保険事故とする責任負担方式,被保険者が他人から損害賠償請求を受けたことを保険事故とする請求事故方式及び被保険者が他人に対して損害賠償責任を負ったことが発見されたことを保険事故とする発見方式があるといわれているため,これらすべての方式に対応するものとして,責任保険契約とは,被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生じた損害をてん補する損害保険契約をいうとしております。   次に,本文では,責任保険契約において被害者が保険者に対して保険給付を直接請求することができる権利,いわゆる直接請求権を法定するかどうかについて問題提起しております。   従来から責任保険契約については,被保険者が自己の財産において生ずべき損害を保険者に転嫁することを目的として締結される損害保険契約であるなどとして,被保険者である加害者保護機能を中心にその存在意義が説明されており,保険者の給付する保険金により被害者の損害が回復され,一定の範囲で被害者の救済が図られることについては,単なる責任保険契約の反射的利益にすぎないといわれていたものと考えられます。ところが,近時では,責任保険契約が締結されていても,被保険者が経済的に破綻した場合には支払われた保険金が被保険者の一般財産に組み込まれ,被害者は他の一般債権者と同様に按分弁済が受けられるにすぎないという点が特に問題視され,責任保険契約における被害者保護的機能を重視する立場から,被保険者が経済的に破綻した場合であっても,確実に被害者が損害賠償を受けられるような法整備を行うべきであるとの指摘がされています。   そこで,このような被害者救済のための方策の一つとして,フランスにおいて同保険法典の解釈として採用されている考え方であり,そのほかにも幾つかの立法例で採用されているといわれている被害者の直接請求権を我が国においても導入すべきであるとの立法論的な提案がございます。確かに,被害者に保険者に対する直接請求権を付与すれば,被保険者が経済的に破綻した場合でも,被害者は保険金額の限度で,保険者から損害賠償額の支払を受けられるため,按分弁済により十分な損害賠償が受けられないという事態が回避できるほか,殊更に被害者に直接請求権を付与すべき場面を限定しなければ,被保険者が行方不明であったり,賠償交渉に不熱心であったりして責任の内容を確定させることが困難な場合等にも,被害者が迅速かつ簡便に損害賠償が受けられることになり,より徹底した被害者の保護が図られることになります。   他方で,被害者の直接請求権を導入することは,従来の責任保険契約の社会的・経済的機能を変化させ,ひいては損害賠償制度,ひいては紛争解決の在り方の仕組みを変容させることにつながる可能性があるとの指摘もあるため,その導入の当否の検討に当たってはさまざまな観点からの検討が必要になると考えられます。   例えば,(補足)の(ⅰ)に記載のとおり,被害者と加害者の紛争解決の場面においては,金銭賠償もさることながら,加害者の謝罪等を含めた直接の話合いということが重要である場面があることもあり,このような場合には直接の当事者である被害者と加害者が自ら話合いを行うことで,より円満な解決を実現する余地があるところ,被害者の直接請求権が導入されれば,被害者は少しでも高い金銭賠償を受けることのみに関心を持つようになり,他方で加害者は事案の解明に無関心になって,安易に責任を認めたり,保険者に対して保険金の支払を早期に行うことのみを求めたりするようになるおそれがあるとの指摘もされており,結果として損害賠償額の上昇やモラルの低下につながるのではないかという懸念も提起されることがあります。   また,(ⅱ)に記載のとおり,被害者からの直接請求権に関しては,保険者が直接の債務者となるところ,加害者が事案の解明に協力的でない場合には,一般に過失割合や損害の範囲等の判断が困難になることが予想されるほか,生産物賠償責任保険,いわゆるPL保険のように,そもそも加害者が損害賠償義務を負うかどうかを判断するのに高度の専門的知識が要求される責任保険契約もあるため,保険者による適正な紛争解決が期待できないのではないかという懸念も提起されることがあります。   さらに,このような場合に被害者からの直接請求に対応するとすれば,保険者において人員の確保やインフラの整備等を行う必要があり,その費用のために保険料の見直しを余儀なくされ,これが責任保険契約の加入率の低下につながり,結果的に被害者救済がより後退するのではないかという懸念も提起されております。   そのほかにも,(ⅲ)に記載のとおり,いわゆる自賠責のような強制保険であればともかく,保険に加入するかどうかが当事者の意思にゆだねられている任意の責任保険契約について,仮に法律により一律に被害者に対する債務を保険者に負担させ,当事者の合意によりこれを排除する余地を一切認めないとする場合には,保険者による自由な保険商品の設計を妨げ,同時に責任保険契約を締結する保険契約者の意思をも制約することになるため,このような法制度を設ける必要性及び合理性が認められるかどうかについても,慎重に検討する必要があると思われます。   そこで,まずはこれらを初めとするさまざまな問題点について十分検討した上で,被害者の直接請求権を法定することの当否や,仮に法定する場合にはどの範囲の責任保険契約について直接請求権を認めるか等について御議論いただきたいと思います。   次の頁の(注)では,直接請求権の導入に代えて,あるいは直接請求権を導入しない責任保険契約について,被害者の損害賠償請求権に関し,責任保険契約の保険金について,特別の先取特権を付与すべきであるとの考え方について問題提起しております。   このような特別の先取特権を法定した場合,被害者は,被保険者の債務不履行があったときは,被保険者が保険者に対して有する保険金請求権を差し押さえた上で,他の一般債権者に優先して損害賠償請求権の弁済を受けることが可能となるため,これができれば,一定の範囲で被害者の救済が図られることになります。また,特別の先取特権については,直接請求権と異なり,保険者に被害者に対する債務を負わせるものではないため,従来の責任保険契約の枠組みを変更させる必要がないことや裁判所の命令を通じた手続であるため,保険者にとって過度の負担とならないこと等を理由に,直接請求権を導入するよりも障害が少ないのではないかとの指摘がされることもございます。   しかしながら,一般に,先取特権とは,公平の観点から要請される債権者平等の原則の例外として,他の一般債権者に優先して債務の弁済を受ける権利であるところ,被保険者がたまたま責任保険契約を締結していたという事情により,被害者が優先的な取扱いを受けることについては,その原資となる保険料自体がそもそも一般財産自体から拠出されたものであることを考えると,その合理性については慎重に考える必要があるとも考えられます。   また,実効性のある制度という観点からは,先取特権の実行手続においては,債権者が担保権である先取特権の存在を証明する書面を裁判所に提出する必要があるところ,通常の不法行為を念頭に置いた場合は,そもそも契約関係を前提としない当事者間を前提とする債権債務関係に基づき,加害者において任意に締結される責任保険契約に基づく保険金請求権を対象とする担保権の存在を被害者がどのように書面で証明するのかは極めて難しい問題であり,果たして実際に被害者がこれを円滑に実行できるのかについて疑問がございます。そこで,特別の先取特権を付与すべきとの考え方については,これらの理論上及び実務上の問題を踏まえて,直接請求権の採否と併せて御議論いただきたいと思います。   次に,(3)の責任保険契約全般に関する後注として,まず1では,いわゆる防御給付について問題提起しております。責任保険契約一般においては,被保険者が責任追及に対して防御するためにかかった費用を保険者がてん補することが約定されているのが通例であるといわれているため,これを保険者の責任の内容として法定すべきであるとの考え方がございます。しかし,責任保険契約の本質は損害のてん補であり,防御給付は付随的なものにすぎないと考えられること,防御給付にはさまざまなものがあり,当事者間の約定にゆだねるのが適当であると考えられること等から,防御給付を保険者の責任の内容として法定する必要はないとの指摘もございます。そこで,これらの考え方を踏まえて,防御給付について法定するかどうか,法定する場合の防御給付の範囲等について御議論いただきたいと思います。   次に,2は責任保険契約に関するその他の規律についてですが,特に検討すべきものがあれば御意見をいただきたいと思います。   次に,(4)では再保険契約について取り上げております。   再保険契約とは,リスクにさらされる企業,消費者等から直接そのリスクの移転を受けるために締結されるいわゆる元受保険に対して,そのような元受保険の保険者が保険の引受けに基づいて保険給付をしたことにより被る損害をてん補するために締結される損害保険契約をいいます。(補足)に記載のとおり,再保険契約はいわゆる企業保険の分野に属する損害保険契約であり,元受保険の保険者が保険契約者になる特殊な損害保険契約であるため,個々の契約内容については当事者の約定にゆだねるのが妥当であると考えられることから,本文では再保険契約に関する特別な規定を設けないものとすることを御提案しております。   他方で,商法の多くの規定は元受保険を前提とした規律であるため,個々の規定につき再保険契約に適用がないことを明示する必要があるかどうかについても検討する必要があると思われます。これは個々の規定が任意規定か強行規定かにも関連する問題ではございますが,この点について何か特段の御意見がございましたらいただきたいと思います。   最後に,(5)ですが,そのほかに損害保険契約に固有の問題として検討すべきものがあれば,御意見をいただきたいと思います。   以上です。 ● それでは,まず責任保険について御意見をいただきたい。   ○○委員,お手元に配布されている本日配布資料に基づいて御説明をいただくということになっております。よろしくお願いします。 ● それでは,お手元に「責任保険と被害者救済手段」という1枚の横長の紙がございます。   ここには真ん中に三つございまして,通常の賠償責任保険,白く囲んでいるところが被保険者,つまり加害者,それに第三者,これ被害者,保険会社,保険契約は加害者と保険会社の間で結ばれていて,そこに被害者が登場すると。通常は加害者が被害者に対して損害賠償をすると,賠償金を支払ったものを保険会社が賠償責任保険で保険金として払うと,こういう関係でございますが,今,直接請求権という形は,第三者,被害者が加害者に対する請求をするのではなくて,保険会社に対しても損害賠償請求をすることができるという仕組みでございます。   それから,さらに先ほど御説明ありました特別な先取特権につきましては,第三者,被害者が保険会社に直接請求するのではなくて,保険会社が加害者,つまり被保険者に対して保険金を支払う,あるいは保険金請求権に対して差押え等々ができないように,支払担保をすると,こういう仕組みでございます。   まず,賠償責任保険は,これからの日本社会におきましては,相当恐らくさらに重要になってくる保険でございますし,これについては今後いろいろな展開があると思うのでございますけれども,今回この直接請求権を法文化するということにつきましては,保険会社が先ほど御説明いたしましたように,保険金の支払にとどまらずに,その紛争解決の当事者となりますので,本当に事故が起ったのか,それから加害者の責任はどのくらいあるのか,過失割合はどうなっているのか,この辺につきまして判断をするということが必要になってくると。   その加害者,被害者,これは一般的には加害者は,例えば企業であって,被害者が個人ということも考えられますか,企業対企業,加害者も被害者も企業ということもありますし,加害者が個人で被害者が企業ということもありますし,いろいろなパターンがあるのですけれども,例えばPL保険,生産物賠償保険の場合につきまして,製品に欠陥があったかどうか,これにつきましては,保険会社が実際にその製品に欠陥があったかどうかは,製造工程は詳しく分かりませんし,企業秘密にかなり属するところでございますので,そういうものにつきましては,本当に保険会社が主体的に紛争解決のために,お客様の企業の秘密に全面的に立ち入るということが本当にできるのかどうか,これはかなり現実には難しいのではないかなと。   それから,契約者がどういう保険をつけているかにつきましても,非常に高い免責金額,自己負担額を設けて,その上にある一定の保険契約をするけれども,それが非常にレイヤーリングといって,細かく契約状況によって変わっているとか,いろいろな条件がつけられているというような,いろいろな形で企業がそれぞれほかの会社に分からない形で,自分の企業に一番合理的な保険契約をしておりますが,そういうことにつきまして,被害者から請求があった場合には,そういうことを開示しなければならないのではないかということになりますので,非常に企業秘密的なものを知らせることが本当にできるのかどうかというような問題もございまして,実質的に一般的な賠償責任保険に直接請求権を導入するということは,非常に実務上も難しい問題があるのではないかなと考えています。   問題になっておりますのは,加害者が破産,倒産した場合に保険金が被害者のために使えないと,こういう懸念がございますので,そのためには先ほど御説明しました3番の特別な先取特権を設けるということが,より現実的ではないかと考えています。   以上です。 ● ○○委員。 ● 直接請求権を採用するということは,被害者救済にとっては非常に意味のあることだなと思うのですけれども,実務上の問題はとにかくとしまして,幾つか分からない点があるということですけれども。この7頁の(ⅰ)のところですが,ここにありますように,紛争解決コストの上昇とか社会のモラル低下と,こういうものが起きてくると。自動車保険は既に実務上この直接請求権を付与しているというわけでして,自動車事故の当事者,これは個人対個人,あるいは個人対法人とか,いろいろありますけれども,そういう中でモラル低下みたいな問題が起きていないとすればどう考えるのかということがまず一つ。   それから,私は弁護士の懲戒請求の最終審査といいますか,綱紀審査会のメンバーで,よく案件で自動車保険をめぐってトラブルになるケースがあって,それは代理人はけしからんというようなことで,懲戒請求を受ける案件が結構あるのですけれども,調べてみますと,結構代理人の問題というよりは加害者のサイドに余り当事者意識がなかったというようなのが幾つか実例として何件かあったということがありますので,本当に直接請求権を簡単に付与していいかどうか,正直なところ今はちょっと非常によく分からないというところがあります。自動車保険全体を見て物を申しているわけではないので,ここら辺は専門家なり実務者の方の御意見を伺ってみたいというところであります。   それから,(補足)の上の方にフランス保険法典等において採用されていると。この「等」というところがほかにどういうところがあるのかなというふうなのがありますけれども,もしそこの採用されているということであれば,そういった懸念事項というのはどうなっているのかなというところがもう少し知りたいなと,そうしないとよく分からないなということであります。   それから,(ⅱ)のところですが,これは保険会社,○○委員の方にお伺いした方がいいのかもしれませんが,自動車事故みたいなものは既にデータが蓄積されていて,相当程度責任割合も定型化しているというようなことですけれども,自転車保険とか,そういうものはどうなのかなと。データも余りないでしょうし,それからPL事故のような製造者でないとどこに責任があるか分からないような場合,保険者が紛争当事者になり得るのかという実務上可能なのかどうかと,先ほどのお話にもありましたけれど。   それから,事務当局案の本文では,この「保険者に対して,保険金額の限度において」とありますけれども,賠償責任保険では1事故当たりとか1名当たりとか,あるいは保険期間中のこの賠償限度額というのが定められてしていると思いますけれども,例えば5000万円の被害者の方が10名出たというような事故に対して,加害者は1事故当たりの限度額が1億円しかないというようなときに,直接請求権の取扱いというのはどうなるのかなというのがちょっと疑問に思います。   それから,保険会社の方は通常この保険契約者との契約を超えた範囲まで責任を負うものなのかどうかというのは,負うことはないのではないかなと思うのですが,そうなると,同一の保険事故について損害賠償請求の時期が早かった方が優先されるのか,あるいはその順番を証明するにはどうされるのか,よく分からないわけでありまして,加害者側が保険を手配していたときと入っていなかったときとの関係も似たような話だと思いますので,そういうことを伺いますと,直接請求権を得られるか得られないかが当事者とは関係なく,極めて偶然性が高いような状況に置かれるというのも何となく気持ちが悪いなということでありまして,そこら辺のその疑問,懸念が解消されるような形でちょっとお話をお伺いしたいと思います。 ● 今,○○委員の方からかなり難しいお話を幾つかいただいたのですけれども,例えば,今お話しになった中でも,複数の被害者がいた場合にどうなるのかという話,これはこの立法論を論じる際には常に出てくる問題かと思うのですが,逆に言えば今回それを明らかにするという意味で,こういう規定を設けるということも考えられるわけでして,要するに直接請求権を規定した上で,早い者勝ちなのか,あるいは按分なのかとか,そういうことも含めてちゃんとした規定を設けるということも,考えられなくはないということだろうと思います。ですから,それは悩ましい問題であるとともに,逆に規定を置くことのメリットにもつながる話かなという感じがしておりますが,他方で保険金額を超えてというのは多分ないのではないかと思われます。   あとは,フランスにおいてどうだというのはちょっと……。 ● フランスは責任保険一般について,強行法的に直接請求権があるといわれているのですが,ヨーロッパのほかの大陸法の国はある国が多いのですが,その認められる責任保険のカテゴリーは国よってかなり違いがあると。強制的な責任保険に限るとか,あるいは自動車保険に限るとか,そこはいろいろな被害者保護の必要性との関係で適用範囲が適宜設定されておると。責任保険全般というのは割と珍しい方ではないかと,それは確かだと思います。   ○○委員。 ● この(補足)の(ⅰ),(ⅱ)の論点の中で,ちょっと特に重いと考えているところだけ申し上げます。   直接請求権が導入されますと,我々保険者は,先ほどの○○委員の説明にもありましたように,経済的損失の保障だけではなくて,事実上ですけれども,紛争の解決を担うということになると考えております。しかしながら,保険者は,紛争当事者の一方である被保険者の損失を保障する立場が基本でして,仲介者とか調停者ではありませんし,それから事実,原因の調査や捜査の権限を与えられているものではありませんので,被保険者,被害者双方ともに満足いただける解決を実現するのは非常に困難だと考えております。さらに,このような状態でもしも解決を図ろうと保険者がしたときには,結局賠償額のアップを招来する。すなわち賠償額高騰の構造を創出するというようなことになってしまって,保険制度的にも一人一人の契約者からいただいた保険集団の資金を,保険会社がディープポケットであるというような表面的な事実から,必要以上に費消するような不合理な結果になってしまうのではと考えております。   ちなみに,自動車保険についてなのですけれども,実際は実況見分調書とか,それから過失割合に関する判例の積み重ねや支払基準等の類型化された解決パターンの存在,それから示談代行の併用,こういうことによって今申し上げたような問題に対して,現実的には一定限度の歯止めがかかっているというのが実情ではないかと考えております。   すなわち,保険会社が単に基本的な保険者の立場からの真の紛争解決を行っているわけではなくて,類型化された解決パターン等の一定条件の備わった分野に限って,初めてある程度は機能できるという,これが実態ではないかと考えております。   あと,(補足)の(ⅲ)の方に関連してですけれども,一律に直接請求権が規定されるのは問題が多いと考えておりますので,もし導入するとしても任意規定的に直接請求権が約款で定めることができるとされるのが現実的ではないかと考えております。   以上です。 ● ○○委員。 ● 責任保険の問題は,今回も見直しのポイントの一つの重要項目にも挙げられているわけですね。今,損害保険会社の方がおっしゃったことは,本当にそうなるのかという問題なのだと。どういう仕組みにしたらそうならないでできるのかと,こういう問題だと思うのです。この問題は突き詰めると,消費者保護とか,そういう問題ではなくて,結局その責任保険をつけたところで保険金請求権が発生してしまったときに,一般債権者がそれを期待してはいけないと。保険金請求権についてまで自己の債権の一般的担保として期待してはいけないと。それは保険料を払ったかもしれませんから,その時点で解約したときの解約返戻金ぐらいは,それは差し引いてもいいかもしれませんけれども,そうしないと被害者が保護されないと。これは法人・個人問わない問題で,そういう意味ではその点だけに限るという前提で,直接請求権を認めるというのが現実的なのかなと。それで,この7頁の(ⅰ)とか(ⅱ)とか(ⅲ)という問題が本当に起きるのかと,私は起きないのではないかと。   例えば,BAPってありますよね。示談代行はないけれど直接請求権は認めていると。それで,この(ⅰ)とか(ⅱ)というのは,賠償額がアップするとか,そういうことは起きていないわけで,もっぱらその点だけを,だから債務引受けという法律構成でも私はいいと思うのですけれども,少なくとも直接請求権だけは法定して,これは賠償責任保険一般に関する問題ですから,そういう形でやって,(ⅲ)の問題は当事者の問題ではなくて一般債権者との問題ですから,こういうことは余り考えなくてもいいのではないかと。   だから,試金石はBAPが,これは何と言うのでしたか,普通自動車賠償責任保険でしたか,その試金石であって,直接請求権を認めてもそういう辺は起きないのではないかと。だから,その範囲で,つまり損害保険会社の方には飲み込んでいただけるのではないかと考えている次第なのですけれども,だから直接請求権を認めた上で,先取特権というのもそれはいいと思います。先取特権は,確かに,実際のときなかなか難しい,どっちか一つもし選べといったら直接請求権の方がいいのではないかと思うのですよね。両方あればもちろん現場はこのような形の方がいいと思いますけれども。   ですから,そういう前提で,つまり余り多くは被害者保護のために何とかせよとかというところまで言わなくて,単に直接請求権を認めて,実際には当事者間で示談したりやらざるを得ないわけですから,余り警戒されないという前提で,心配されないという前提で直接請求権を認めるべきだという意見を申し上げたいと思います。 ● 今の御意見は,要するにこの(ⅰ)から(ⅲ),特に(ⅰ),(ⅱ)なんいていうのは,被害者が保険会社に直接権利を持つということは,当然保険会社がそれに応じて防御をするなり何なり対応をとらざるを得なくなると,そこが問題だということを懸念しているのだろうと思うのです。今の○○委員の御意見というのは,そこのところは。 ● 理論的にはそうかもしれないけれども,実際にはそうなっていないのではないかと,現実にある商品で。だから,それは制度の運営として,もちろんこういう可能性はあるわけですが,現実にそうなっていなのではないかという,だから余り御心配にならなくてもいいのではないかと,そういう議論です。 ● という御意見ですが。  ○○委員。 ● 自動車保険とそれ以外の保険,今回,賠償責任保険で直接請求権を導入するとなると,自動車に限るわけではございませんので,自動車以外の商品につきまして,こういうものが入るということは,先ほどお話もありましたように,支払責任の関係等々のいろいろな基準が全く今決まっておりませんので,相当混乱が生じることは私どもの実務をやっている者からすれば間違いないことだと思っておりますし,そういう商品をつくる保険会社があって,そういう商品を世の中に出してやってみるという会社があるということは,別にそれは問題ないと思うのですが,法律の中にそこまで書いて決めていくということになると,非常に実務で混乱が起こるのではないかなと考えています。 ● どうぞ。 ● 私は先ほどそれは起こらないというのではなくて,いろいろ起こっている自動車保険でこういう工夫をして押さえているという説明をしたつもりですので,現実に起こっていないという話ではございません。逆です。 ● ほかに御意見は。   ○○委員。 ● 責任保険について,例えば,いわゆる消費者問題の中でたくさん苦情があるかというと,そんなにたくさん件数があるわけではないのですが,ただ例えば,被保険者が個人の場合もあるし,それから被害者が個人の場合もあるのですけれど,そういう場合において,被保険者とそれから被害者と,両方ともこれ本来払うべきというのは変ですけれども,そういうものであるのだけれど,現実に被保険者がつけている保険会社が首を縦に振ってくれないから,だから払えないですよみたいな,それは本当かどうかも全然検証できませんけれど,そういう申し出があるということは現実にありますし,それから被保険者がちっとも協力をしてくれないし,なかなか書類もそろえてくれないから,払いたくても払えないのだというお話もたくさん承ったりするのですね。   そういう観点から考えれば,今,皆さんのお話を聞いていると,大変仕組み上難しいからなかなかやれないのではないかと聞こえるのですけれど,責任保険で被害者救済を反射的な部分だというお話がありましたけれど,本当の根っこのところを考えれば被害者を救済するために被保険者をパススルーしてお金が出ていくのだと,そういうふうに考える方がこの保険の目的を考えれば目的なのかなとこう思うのですね。   そうすると,なかなか仕組み上難しいのであれば,例えば,一定の定型性の条件を与えるとか,要保護性の条件を与えるとか,そういう条件を与えても,そういう条件を課すことによって,一定の難しい部分をクリアすることができれば,今回のこの責任保険の直接請求権というのは,保険法改正の大きな目玉だろうと思うし,そのことがすごく保険法を変えてよかったねということにつながっていくのだと思っておりますので,その辺はなかなか保険会社の方は難しいとおっしゃいますが,ぜひそこは何とかしていただきたいと私は思います。 ● ○○幹事。 ● これは非常に重たい問題で,発言すべきかどうかもちょっと迷っているのですが,私が関心を持ったというか,気になったところは,その保険会社が紛争の当事者となると,そもそも加害者に責任があるかどうかというその判断のところで,非常にそこに直接関与をしなければいけなくなって,そのコストが大きくなるということを実務家の方から御指摘がありましたけれども,ただこの図で言うと,1の通常の賠償責任保険の場合でも,被害者と加害者の間で責任があるかどうかを判断する。そこで紛争があったときになれ合いで,実は責任がないのに責任があったとして,保険会社に責任保険金が請求されるということになってはいけないので,ですからそこのところ本当に責任があるかどうかというのは,保険会社としても必ずチェックしているはずなのですね。ですから,1だったらコストはかからないけれども,2だったら非常にコストがかかって,およそ維持できないという,そこまで極端なことになるのかなと,程度問題ではないのかなという気がするのですけれども,そのあたりをもう少し,いや違うのだということを納得させられるような御説明をいただければ有り難いですけれども,いかがでしょうかね。 ● これはいかがですか。 ● 今のとおりなのですけれども。 ● 1の方式をとったとしても,その責任があるかどうかのところは必ずチェックはしなければいけないと思うのですね,保険会社としては。ある程度その紛争に関与していくということになるのではないかと思うのです。 ● 一応,事前に打合せをしないで,どんどん責任を決めていくということは通常ありませんし,それから例えば加害者が企業である場合,企業は当然弁護士を雇って企業としての責任というのを明らかにして,そしてそれが保険会社とも相談をしながらやっているのですけれども,例えば2のケースだと直接保険会社に話がいきますので,保険会社として相当強力に企業の中に介入していって,そして企業の責任というのはどこにあるのかということを相当細かく介入しなくちゃいけない。実際,保険会社にとってみれば,契約者が,あるいは被保険者がどこまで責任を負うかということは,単に保険金を払うだけではなくて,例えば,その被保険者のレピュテーションリスクとか,あるいは例えばそれが企業であれば許認可問題とか,いろいろなところに影響しますので,責任をどこまでとるか,あるいは責任を超えてどこまでやるかということは,企業あるいは被保険者の相当重大な経営判断によるところだと思うのですが,そういうものも保険会社にいきなり被害者の方から請求が来た場合には,保険会社として判断しかねるというのがいろいろ私どもが懸念しているところでございます。   ですから,お金を払うということだけではなくて,ある責任を負うということ,ある事故が起こって,それに対して被害者に対して加害者が責任を負うということは,非常に経営そのものだと思うのですね。それを部外の保険会社がどこまで責任があるかと,幾ら払えばということが簡単に決められる話ではないのではないかなというのを非常に心配しておりまして,ちょっと企業の実務はちょっと分かりませんが,おそらく企業の法務というのは大きな事故が起ると,それは相当大きな布陣を敷いて対応すると思うのですけれども,そういうものをいきなり保険会社に投げられたとしても,実はそんなに保険会社に能力はございませんので,対応し切れないというのが実情でございます。 ● 先ほど申し上げたつもりなのですけれども,結局言葉がよくないかもしれませんけれども,加害者の方も被害者の方も,特に加害者の方がまず当事者意識がなくなってしまうということ,それからあと被害者の方と話をするときに,当事者意識がなくなると,そもそも何が起ったのか,それからどういう責任賠償額をお払いした方がいいのかという,そこの調査自体も自分でそもそもできないし,申し訳ないですけれど,調査権とか何もないわけですから,よりその漠然とした前提でお客様,被害者の方と接しなければいけないということを申し上げているつもりです。   一方で,中途半端にまたお答えせざるを得ないのですけれども,その中で一定の線で一生懸命お答えをしたとしても,ちゃんと誠意を見せた対応をしてくれなかったということで,今度は逆に加害者の方のところへ行ってしまうとか,そういうことが実は結構起きているということがありますので,それを御満足いただける形にするのであれば,もう本当かどうか分からないままにという対応をせざるを得ないということをしてしまう。それはそれでいいのであれば,どんどん高くなってしまうという,こういうことを懸念しているということで,その傾向は既に自動車保険で見られていて,それを抑えているのがいやいや基準がありますからという形とか,判例に乗ってやるとか,それからあと示談代行をしているということは,スキームとしては加害者さんの方とはちゃんと話ができる,御納得いただけるという構図になっていますので,それで半分抑えられているという,そういう御説明をさせていただいたつもりでございます。 ● ○○幹事から,どうぞ。 ● 私もちょっと自分の頭が整理し切れてないので,発言をすべきか迷いつつ皆さんの御意見をお聞きしていたのですけれども,確かに直接請求権というのは,自動車の賠責保険のような定型的なものではなくて,それで直接保険会社があたかも紛争の当事者となるような立場に立つというのは,実務的にも,それからこれは自分できちんと線を引かなければいけないのですけれども,それが本当にその法律事件を保険会社が扱っているというようなことにならないのだろうかというのが今ちょっと懸念されたということ。   それから,あとは被害者の救済という意味で,加害者に保険給付がなされたときの保険給付金の保全の措置なのですけれども,ここに特別先取特権ということも御提案されていますし,それから信託的な規定ができないだろうかということも,ちょっと今思ったのですが,保険会社が加害者に支払うときに,この金銭のこの支払金の受益者は被害者であるというような形を言うは易いのですけれども,それを法律上に規定するのか,それとも各約款上に規定すれば,それで支払金というのが加害者のもとで財産として隔離できているのかという,どのレベルですればいいのか分からないのですけれども,そちらの方策ができれば,あえて広く直接請求権を認めるということにしなくてもいいのかなと今のところは考えております。 ● ○○委員,どうぞ。 ● 私が先ほど発言した後の議論を伺っていて,こうなると法人と個人を分けて議論を整理した方が早いと思うのですが,法人の場合はこれは法人の能力によって契約を考えればいい。例えば,飛行機事故があったら,それは飛行機会社が正面に立って,余り出ない方がそれはいいかもしれないし,それは契約でおやりになればいいと。   そうすると,問題は個人の場合ですね。自動車保険,私は必ずしも説明には納得ができないのですけれども,自動車保険以外の保険を今度は考えると。その場合だって保険会社は関与は何か逃れられるという前提で議論しておられますけれども,少なくとも最高裁の昭和57年9月28日の判決では,代位請求をしかも無資力を要求しないでできると。ということは,弁護士がつけば必ず巻き込まれるということですから,その前提がどうも違って,だから保険料が上がるとか,そういうことではなくて,そういうことはどこかで心の片隅で覚悟しておかなければいけないことなのではないかと。   そういうレベルでまず議論をして,その後で一般的な賠償責任保険,自転車保険とか,そういう保険のときに,自賠責のノウハウは使えないのかと,それは使えると思うのですよね。だから,私は多くは要求しないけれども,引受けという形でいろいろな故意免責を主張したっていいと思いますが,しかし直接請求権を認めるというのは重要な一歩だと,こういう考えます。 ● ○○委員,どうぞ。 ● 今,当事者が個人であるとか,法人であるとか,そういう話がとても重要なのですけれども,ただこれはむしろ商品の方から見ていく必要があると思います。責任保険の場合は,それこそパーソナルラインの保険からコマーシャルラインの保険までかなり多様で,むしろ個々が個人であるとかということよりも,その商品の特性というのがすごく大きいのではないかと思うのです。   それで,パーソナルラインの場合は,例えば,これまで示談代行がこれに似たようなことをやってきましたし,また先ほど○○委員がおっしゃったように,例えば個人賠償なんかで,保険金支払の目に見えない障壁みたいなものがあったりすると,そういったものを解決するには,多分こういった制度というのは非常に有効かと思うのですけれども,ただ一方でD&OとかPLとかE&Oみたいな,そういったコマーシャルラインの保険にまで一般的にこの直接請求権を規定するということは,これは一般的には難しい話かなと私は考えています。 ● ○○幹事。 ● これは抽象的,一般的に議論すると結論が出ないのだろうと思います。おそらくこれは法定したとしても,適用される保険種目やその保険の適用対象となりますものは,ある程度限定的なもので,類型的なものが想定されざるを得ないと思いまして,例えば,ある一定の業ではありませんけれども,ある一定の行為を行うことが構造的に損害をもたらす危険性を持っているけれども,その行為自体が社会的要請があるために,被害者救済のためのファンドをある程度用意することがその行為を許された危険として行わせることを許容するといったような,そういう社会的実態を持っているものに関しては,むしろそこで被害者が直接にファンドから救済を受けることを前提にして,被害者・加害者が常に相互性を持っているということを前提とした形での救済措置があることが社会にその行為の許容性を認めるという,こういう構造があるものがあり得ると思うのですが,そういうものについては,まさに自動車保険がそのティピカルなものであって,それに類似性を持っている保険については同様の法的措置を講ずることが,むしろ社会においてはある一定の行為を許容するときの前提条件になるのではないかなと思いますけれども,今お話がありましたように,責任保険そのものがカバーしているその他のかなり個別性のあるものに関しては,すべてこれが妥当するとは言えないのではないかなと。したがって,ある程度どれを対象にしてこの制度を適用していくのかということを限定してから,改めてそこにおいて,さらに一般則が必要かどうかということを議論する必要があるのではないかなと思います。   それと,直接請求の話をしたときに,何かちょっと議論がずれている感じがするのは,被害者の方は,必ず直接請求権があったら保険会社の方に行かなきゃいけないというわけではありませんので,むしろ加害者にどうしても謝罪してもらいたいというのであれば,そういうことをベースにしてやればいいだけの話ですから,何となくこの(補足)のところに書かれていることが少しミスリーディングな部分があるのではないかなとも感じましたので,よろしく御検討いただければと思います。 ● ○○幹事。 ● 問題点は2点だと認識しておりまして,損害賠償債権の存在が前提となっているときに,それがあるかどうか,内容についての確定をどうするかという問題と,優先的に確保するという点をどうかということでして,後者は要保護性をどう考えていくかという問題ですけれども,事前に交渉ができないような場合にどうかと。それをしかもこの場合の財産ですと,それがなければ入ってこない財産だということで,一般的な被害者の保護よりももう少し説明がしやすい。しかし,さらに一歩進んで要保護性をどう考えていくかというのが今,○○幹事が一つの視点を出されたところだと理解しております。   前者の方の損害賠償債権があるということが前提であるところも,それをどうやって確定していくのかという問題があって,そこが非常に今議論になっているかと思うのですが,その際に加害者の当事者意識というようなことが問題であるならば,例えば,第一次的な調査解明義務があるのだとか,それに協力する義務があるのだということを法定することによって,一部解消するというようなことはできないだろうか。これがおよそ駄目になる理屈というよりは,そこをさらに手当てするということを考える余地があるのではないかと思いましたので,その点だけお伝えしたいと思います。 ● まだまだこの問題は非常に重要な問題で御意見あろうかと思います。次のラウンドでもまた十分議論していただきたいと思います。   今日はいろいろな問題点が指摘されたかと思います。それも踏まえまして,なお検討していこうかと思います。   不手際で,「再保険」と「その他」はちょっと御意見をいただく時間がございません。これも次回冒頭に何か御意見ございましたらいただくということで,今日はこれで終了させていただきたいと思います。   それでは,次回につきまして,事務当局から。 ● 次回でございますが,来月,2月14日,水曜日の午後1時半からということになります。場所はこちらではございませんで,前回までの法務省の20階の第1会議室になります。   審議していただく事項は,ただいまの再保険のほかは生命保険契約に固有の事項について,1回目ということでお願いしたいと考えております。   どうぞよろしくお願いします。 ● それでは,今日はこれで終了いたします。   どうもありがとうございました。 -了-