法制審議会保険法部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成19年2月14日(水)  自 午後1時30分                        至 午後5時30分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  保険法の現代化に関する検討事項について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● それでは,まだお見えでない方もおられますが,定刻でございますので,法制審議会保険法部会の第5回会議を開催させていただきます。  (幹事の異動紹介省略) ● それでは,まず最初に配布資料の説明を事務当局からお願いいたします。 ● 配布資料としましては,まず事前送付資料といたしまして部会資料6「保険法の現代化に関する検討事項(5)」がございます。これは本日の審議のたたき台として作成したものでございます。   それから,席上で配布いたしました資料としまして,「第三者のためにする生命保険契約に関する現行商法の規律」と題する1枚紙の図がございます。これは後ほど事務当局からの説明の際に使用させていただきます。   配布資料は以上でございます。 ● よろしゅうございましょうか。   それでは審議に入りたいと思いますが,まず,前回積み残しました保険法部会資料5「保険法の現代化に関する検討事項(4)」の8頁の下に,「(4) 再保険契約」というのと,9頁の方に「(5) その他」というのがございまして,一応前回,事務当局からの御説明を伺っておりますが,この二つにつきまして何か御意見があれば今いただいておこうかと思いますが,いかがでございましょうか。   ○○委員,どうぞ。 ● 再保険契約は,保険会社と再保険会社のプロ同士の契約でございますので,非常に純粋な企業保険と考えられますので,当事者の約定にゆだねるのが妥当と考えております。ドイツの契約法改正案など,諸外国につきましても再保険は契約法の適用除外となっている例が多いのではないかなと思っておりますので,我が国でもそのようにしていただきたいと思っております。 ● ありがとうございます。   適用除外というと除外する規定を置かないという……。この(4)というのは特別な規定は設けないとする。となると,一応保険法の適用はあるという……。同じ適用されないということだけれども,強行法の部分は適用除外を設けるとか,いろいろなやり方があるかと思うのですが,今の○○委員の御意見というのは,そもそも適用があったら困るという,そういうことなのですか。 ● いや,企業間の契約でございますので,特段,なるべく……。 ● 契約の自由が確保されてという,そういう御意見ですね。   ○○委員。 ● 再保険以外でもよろしいですか。 ● はい,どうぞ。 ● 一つは,これは全体にも関係しますが,損害保険というところの関係もあって,保険証書という使い方の問題ですね。やはりこれは保険証券という用語にするということをもう一度御検討いただけないか。いろいろ理由はあるのですけれども,一つは外航の貨物保険証券。これは日本法の下ではないのですけれども,日本で発行されている法準拠のもの,これは有価証券だという判例が,一応大審院の昭和13年8月31日にあって,この判例は,最近の商行為法の本でもまた引用されていて,死んだものとはされていないという点があるのですけれども,それ以外に,この規定は,業界の方は任意規定だから,ずっと保険証券という言葉を使い続けるというおつもりのようなのですね。そうすると,保険法の契約法は保険証書,実体に発行されるのはみんな保険証券と,こういうのがいいのかという問題があって,これは消費者にとっても問題ですし,企業にとっても本当は問題。今,私は弁護士の方に聞いたのですが,みんな,もう変えなくてもいいではないかと。今だっていろいろな企業関係のマニュアルでも,営業譲渡を事業譲渡と変えたり,もう大変で,そういう変なロスだけ発生するのではないかと。それから,言葉の平易化という問題からすると,辞書を引くと,「証書」というのは事実関係に関する書類と,広辞苑もそうですし,その以前の広辞林もそうなのですね。では,こういう保険証券は権利関係を証明する書類で証書なのだと。いわゆる国語的な普通の人にとっての意味はやはり証書なのではないか。つまり,日常用語と違う用語で証書というのを使うことになってしまうのではないかと,こういう問題がありまして,文章の平易化といいますか,そういう観点からしましても,もう一度やはり保険証券という言葉に戻すということを御検討いただけないか。   それから二番目。これも簡単にいたしますが,前回,○○委員が御指摘になったことでもありますけれども,特別解約権のところの解除の効力の問題で,これは同じような文言が生保の約款にもあるわけですけれども,その約款についても,将来に向かって解除できるというのは,これは保険料を取得できることを指す趣旨にすぎない。だからさかのぼると考える。従来,残念ながら保険法は将来効のような書き方をしてありますけれども,それは解除が遡及して保険料を取得するにすぎないということは,だれも異論がなかったのですね。前回,ちょっと○○委員の御指摘を考えると,やはり遡及効の方が分かりやすいのではないか。ただ,第2回のこの会議のときに私はそう申し上げて,○○幹事が反対された。その理由は,プロ・ラタにするときにできなくなるのではないかと。これはもう○○幹事はお気付きになっておられると思いますけれども,必ずしも規定の仕方をまだ提示しておられませんので,プロ・ラタだけれども解除はない。多分,その前に発言された○○委員も,重過失でプロ・ラタのときに解除があるとは多分思っておられないし,ドイツの政府草案は,また元に戻って何かプロ・ラタになったようですけれども,その場合の基本的な考え方は,重過失は解除権を基礎付けないというところは基本的な考え方で,ですから,書き方の問題ではありますが,かえって遡及効でやって分かりにくくなるというのは,それはちょっとあれですけれども,どうも従来どおり伝統的な考え方で遡及効とやるという形で書いていくということを,もうちょっと御検討いただけないかというのが二点目です。 ● 二点ほど重要な御指摘をいただきましたが,その二つについて何か関連して御意見ございませんでしょうか。それでは,なお,今の御指摘は検討していきたいと思います。   では,この再保険とその他は以上でよろしゅうございましょうか。   それでは,先へ進みまして,部会資料6に移りたいと思います。   まず「第5 生命保険契約に固有の事項」の「1 他人の死亡の生命保険契約等(他人を被保険者とする死亡保険契約等)における被保険者の同意」の部分について御審議いただきたいと思いますので,まず事務当局から御説明をお願いします。 ● それでは御説明いたします。   この1では,他人を被保険者とする死亡保険契約等における被保険者の同意について問題提起しております。   ここでまず,「被保険者」の概念について御説明いたしますと,損害保険契約における「被保険者」は,被保険利益の帰属主体であるとともに,保険事故が発生したときに保険金を受け取る立場にあったわけですが,生命保険契約における「被保険者」とは,保険事故の発生する客体,つまりその人の生存又は死亡が保険事故とされる者のことであり,保険金を受け取る立場の者である保険金受取人とは別の概念とされております。   また,第1回会議でも御説明しましたように,生命保険契約は,保険事故が発生したときに契約で定められた客観的な保険金額の算定基準に従って保険金が支払われる,いわゆる定額保険であるという点で損害保険契約とは異なっております。   このようなことから,一般に他人を被保険者とする死亡保険契約を無制限に認めると,保険金目当ての犯罪を誘発したり,人の生命が賭博の対象とされたりするなどの危険性があることから,これを防止する方策が必要であるといわれております。   このような弊害を防止する制度としては,大きく分けて利益主義,親族主義,同意主義の三つがあるといわれております。明治23年に制定された旧商法は,他人の生命等につき財産上の利益を有する者だけがその他人の生命等を保険に付すことができるとして利益主義を採用しておりました。しかしながら,生命保険契約は他人の生命等について財産上の利益を有することを理由に締結されるものではなく,また,利益主義には,いわゆる保険詐欺なるものが頻繁に行われる弊害があるなどとして,明治32年の商法制定時に,これが親族主義に改められました。その結果,保険金受取人は被保険者,その相続人又は親族であることが必要とされましたが,これも明治44年に改められ,結局現在のような被保険者の同意を要するという同意主義に改められました。ただ,明治44年の改正の際には,親族主義は弊害防止の方策として不十分であるという説明や議論がされていたわけではなく,むしろ親族等以外の第三者が保険金受取人となる余地を認めることによって保険事業の発達を図ることが改正の理由とされておりました。本文では,(補足)にも記載しましたように,現行商法第674条の規律を基本的に維持することを提案しております。   各規定について御説明いたしますと,まず①は,商法第674条第1項本文に相当する規律で,死亡保険契約の締結時に被保険者の同意が必要であることを規定するものでございます。この同意は,契約当事者である保険者又は保険契約者に対してする必要があり,契約の効力要件であって,同意を欠く契約は無効と解されております。そして,同意は内容が具体的に定まった個々の契約についてされるべきであり,その前提として,被保険者は,自己を被保険者とする死亡保険契約が締結されることはもちろんのこと,その契約の保険契約者,保険金受取人,およその保険金額や保険期間を認識している必要があるなどと解されております。   ここで,実務上どのように契約締結時に同意を得ているかを御説明しますので,机の上の箱の中から「生命保険関係」と書いてありますファイルを取り出していただきまして,その中の生命保険契約申込書をごらんください。2種類保険契約申込書が入っているのですが,そのうち黒とピンクの色で印字された方をもとに,御説明したいと思います。   こちら,左上に「生命保険契約申込書兼特約付加・変更申込書」と書いてあるものでございます。この申込書の左上をごらんいただきますと,「保険契約者は……被保険者の同意を得て保険契約を申し込みます。」と記載してあります。また,真ん中の左側の「被保険者」と書いてある枠の中には,「契約内容を了知し,契約締結に同意します。」と記載され,ここに被保険者が自署の上,押印することによって同意を得ているようでございます。もう一つ御用意いただいているものも被保険者が自署をするという形で同意を得るという形になっており,また,「共済関係」というファイルの中には農協の終身共済契約申込書も御用意いただいておりますが,それもほぼ同様の方法によって同意を得るという形になっております。   なお,商法第674条第1項ただし書は,被保険者が保険金受取人であるときは被保険者の同意が不要である旨を規定しており,明治44年の商法改正時には,養老保険の場合に同意が不要であることを明確化するために,この規定が必要であると説明されておりました。しかしながら,学説上,実質的には保険金を受け取ることとなるのはその相続人であって,このような例外を認めることの当否は問題であるなどと指摘されていることから,①では,これに相当する規律を設けておりません。この点については,当然にあらゆる例外を許容すべきではないことになるのかについて,傷害・疾病等を原因とする死亡に関する給付を行う保険契約における被保険者の同意の規律の在り方や,この契約を生命保険契約と位置付けるかどうか等の検討を踏まえて検討する必要があると考えられますことから,これについては,後日,傷害・疾病保険契約に関する固有の事項として再度御議論をいただくことを考えております。   次に,②の規律の御説明に移ります。この②は,商法第674条第2項に相当するものでございます。これは,他人の死亡の生命保険契約において,保険事故が発生する前に保険金請求権を譲渡したり,質権の目的としたりするときは,被保険者の同意がなければならないとするものでございます。   まず,保険事故が発生する前に保険金請求権を譲渡したり,質権の目的としたりするということの意味ですが,一般に,保険契約者が保険金受取人の指定又は変更権を有しているかどうかにかかわらず,保険金受取人は,契約締結時又は保険金受取人の指定時から抽象的な保険金請求権を取得し,これを譲渡等することができると解されております。そして,抽象的な保険金請求権は,保険事故が発生した場合に具体化し,その譲受人や質権者が保険金を取得するということになります。   続きまして,②の規律について御説明いたしますと,立法論としては,保険契約締結後は,後ほど御説明します2の免責制度があれば十分であるなどとして削除すべきであるという主張もされておりますが,我が国では一般にモラルリスク防止の観点から,あるいは被保険者に保険金請求権者がだれであるかを認識させるために,免責制度に加えて被保険者の同意を必要とすべきといわれていることから,現行商法の規律を維持することとしております。また,現行商法は,保険金請求権に質権を設定する場合について規定していないものの,解釈上,この場合にも同意が必要とされ,実務上は同意を得る取扱いとされているようでございます。そこで,本文②及び後ほど御説明します③では,保険金請求権を質権の目的とする場合にも同意が必要であることを規定上明確にしております。   なお,この②については,だれが保険金請求権を譲渡したり,質権の目的としたりすることができるのかということを検討する必要がございます。まず,譲渡については,保険金受取人が指定されている場合には,保険金請求権は保険金受取人に帰属しており,保険契約者が保険金受取人を自らに変更しない以上は,保険契約者が保険金請求権を譲渡することはできないと考えられます。また,質入につきましては,学説上,保険契約者は,第三者を保険金受取人に指定した後でも,保険金受取人の変更権を有している限り,保険金請求権を質権の目的とすることができ,この場合には保険金受取人は保険金請求権を失わず,質権者の権利が優先するにすぎないとされることがございますが,保険金受取人が保険金請求権を有しているとしつつ,保険契約者にも保険金請求権が帰属していることを前提として,これを質権の目的とすることができるという解釈には疑問もございます。そこで,この点についても御議論いただければと思います。   また,学説上,保険金請求権の転付命令を受ける場合には,譲渡に当たるとして同意が必要であるといわれることがございますが,この点については,学説上,民事執行法では発生がいまだ確定するに至らない債権は,転付命令の対象とはならないとされ,保険事故発生前の保険金請求権がその具体例として挙げられることもございますことから,その前提にさかのぼって御意見をいただければと思います。   最後に③ですが,これは商法第674条第3項の前半部分に相当する規律でございます。これは,他人の死亡の生命保険契約の問題ではないものの,被保険者の認識していないところで保険金請求権が保険金受取人以外の者に帰属するという点で②の場合と同じであることから,被保険者の同意が必要とされております。なお,同項の後半部分に相当する規律を本文では設けておりませんが,これは,①で同条第1項ただし書に相当する規律を設けていないことに伴うものでございます。   そして,②及び③の同意も効力要件であって,これがない場合には債権譲渡契約や質権設定契約の効力が生じないものと解されておりますが,この同意の相手方については必ずしも明らかではございません。そこで,保険契約の当事者である保険者又は保険契約者に対してする必要があるのか,それとも債権譲渡契約等の当事者である譲受人又は譲渡人等に対してすればよいのかについても,併せて御意見をいただければと思います。   なお,本文には掲げておりませんが,立法論として保険契約者を変更する場合にも被保険者の同意を要するものとすべきとの指摘がされ,約款では保険契約者の変更にも被保険者の同意が必要とされております。先ほど御説明しましたように,①では保険契約者がだれであるかを含めて認識した上で同意をする必要があるとされており,これを重視すれば,保険契約者を変更する以上,改めて同意を要するものとすべきとも考えられますが,他方で,保険金請求権者の変更を伴わない保険契約者の変更の場合にまで同意を要するとする必要はないとも考えられます。そこで,このような観点から御議論をいただければと考えております。   続きまして,(注)について御説明いたしますと,まず(注)1では,被保険者の同意は書面によらなければならないとの考え方について問題提起しております。この点,立法論として証拠の明確性の担保及び被保険者に事柄を認識させる機会を確保するために,書面によるものとすべきとの指摘がされております。   しかしながら,契約法である保険法において書面性を規定することについては,次のような問題点を検討する必要があるように考えられます。   まず,保険契約者等が被保険者に対して口頭でしっかり説明をし,明確に同意をとったような場合に,書面によっていないという理由で契約を無効とすることは,被保険者の同意の趣旨に照らしても不合理であるようにも考えられます。また,証拠の明確性ということについては,現行実務上は,先ほど御説明しましたように契約申込書に被保険者が署名・押印等をする方法で同意を得ておりますが,この申込書は保険者の手元にあり,仮に保険金受取人に同意があることの証明責任があるとすれば,同意の有無が争点となった場合に,保険金受取人はどのようにして書面で同意があったことを証明するのかという問題があり,結局,書面性の証明ができない場合に不利益を受けるのは,契約当事者ではなく保険金受取人である点にも留意が必要と思われます。さらに,保険業法施行規則では,書面以外にも「その他これに準じた方式」によることとされ,これは監督指針等において明確化されているようですが,被保険者の同意に関する規律は絶対的強行規定とされていることとも関連して,これらをすべて保険法で規定することの当否についても慎重に検討する必要があるように考えられます。   以上のような点を踏まえ,契約法で書面によるものとすべきとの考え方について御議論をいただければと思います。   次に,(注)2では,被保険者が未成年者である場合の規律の在り方について問題提起しております。   現行法上は,これに関する明文の規定はなく,民法等の解釈によることになりますが,ここでは専ら立法論として何らかの規律を設ける必要があるかという観点から御議論をいただければと考えております。   まず,被保険者が未成年者である場合に,どのようにして被保険者の同意を得るかという問題がございます。この点については,学説上,被保険者の同意は準法律行為であって,被保険者が未成年者の場合は,民法の法律行為の一般法則により,親権者等の法定代理人による同意が必要であるとされることがある一方で,この同意は代理に親しまないとの指摘等もされております。生命保険会社の実務上は,被保険者が15歳以上の場合には,原則として未成年者本人及びその法定代理人の同意を得ているのに対し,15歳未満の場合には法定代理人だけの同意を得ているようでございます。また,立法論として,未成年者,殊に幼児などの死亡を保険事故とする契約について法定代理人による同意を認めることは問題であるとか,被保険者と法定代理人双方の同意を要求すべきであるなどとのさまざまな指摘がされております。   なお,これと関連する問題として,未成年者を保険契約者兼被保険者とする保険契約をその法定代理人が締結する場合にも,未成年者本人の同意を必要とすべきではないかという立法論も主張されており,併せて御議論いただければと思います。   さらに,その前提問題として,そもそも,未成年者等の制限行為能力者を被保険者とする生命保険契約については,立法論として,諸外国の立法例を参考にしつつ,保険金額の最高限度を法により規制すべきであるなどとの指摘がされることがあり,この点についても検討する必要があると考えられます。   以上の各点については,被保険者の同意が必要とされている趣旨にかんがみて,現行実務などの取扱いによって何か現実的な問題が生じているのかをも踏まえた上で,御議論いただければと思います。   なお,仮に未成年者の法定代理人が保険金受取人であるときは,その者が被保険者の同意をしたり,未成年者を保険契約者とする保険契約を締結したり,法定代理人として民法第5条第1項本文の同意をしたりすることは利益相反行為に当たらないのかについても,併せて検討する必要があるようにも考えられます。   最後に(注)3でございますが,ここでは本文③の「保険金受取人」の範囲について問題提起しております。   現行商法の生命保険契約に関する規定では,「保険金額ヲ受取ルヘキ者」という文言が用いられておりますが,これは保険契約者によって保険金受取人として指定された者という意味で用いられている場合と,保険金請求権の譲受人及び質権者,さらには差押債権者等をも含む意味で用いられている場合があるといわれております。そこで,個々の規定ごとにどちらの意味であるのかを法文上明確化すべきであると考えられることから,今後,それぞれの箇所で問題提起をし,御検討いただきたいと考えております。   その上で,本文③の「保険金受取人」の範囲について考えますと,被保険者の同意が必要とされる趣旨からすれば,保険金受取人だけでなく,保険金請求権の譲受人や質権者を含むものとも考えられますが,これら以外に含まれるべき者がいないかどうかを含め,御指摘いただければと考えております。   以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました部分について御意見をいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。   ○○委員。 ● 説明する分量がいっぱいあるので,早口になるのはしようがないかと思いますけれども,ついていけない部分もありますので,すみません。   事務当局の御提案で異論はないのですけれども,現行商法第674条第1項のただし書を設けないということも,モラルリスクを可能な限り低減をするという意味でも賛成できるかなと。   それから(注)1,次の頁のところでございますが,他人の同意に書面という形式を求めるかどうかということでございます。やはり御説明を聞いてみて判断が非常に難しいのですけれども,基本法である保険契約法に形式の定義まで求める必要があるのか,あるいはないのかというのがよく分からないのですね。実務のことを考えますと,やはり同意があったかどうかということを後で確認できなければ,もちろんトラブルになってしまうわけでありまして,同意があったことを表す証拠は必要でしょう。しかしながら,ITの普及状況,あるいは技術革新など,また新たなツールが出てくるということが想定される中で,書面という要式を基本法上で義務付けることが本当に必要なのかなと。それが消費者の便益,利益にかなうものかどうかということもありますので,十分慎重な検討が必要かなと思います。保険業法とか約款で柔軟に対応できればいいのではないかなという感じはしております。   それから,(注)2でございます。これもどっちがいいのかよく分からなくなってしまったのですが,親が自分の子供に保険を掛けて,子供の親権者としてその契約に同意をするということが,法解釈的に他人を被保険者とする死亡保険契約には他人の同意が必要という条項の趣旨に反するのかどうなのか,よく分かりません。今後の議論を聞いてみたいと思います。   それから,実態として,自分の子供に生命保険を掛けておく,あるいは成人になったら自分のための保険に切りかえていく。そうすると保険料が安くて済むとか,そういう商品もあると聞いております。そういう,親が子供に保険を掛けるというのは,いろいろな組合せでさまざまな商品が出ていると聞いておりますけれども,基本法で何らかの制約をつけるにしても,やはり,もう少し実態を踏まえた検討が必要かなと思います。もちろん,最近の世相は,親が子を殺し,子が親を殺すというようなこともありますので,保険金目的で自分の子供に多額の保険金を掛けるということも可能性は否定はできないというわけでありますし,モラルリスクが常に伴うこういった商品につきましては,立法上でどうするのか,あるいは商品開発上どうするのか,それから契約手続上のチェックと3段階ぐらいで,あらゆる面においてリスクの低減を図っていく努力はすべきではないかなと思っております。その一方で,そうではない善良な一般の消費者もいっぱいいるわけでありまして,そういうことを考えますと,やたらにそこを厳しくしていくのでいいのかどうかというのも,ちょっと分からないところなのですけれども,約款と個別契約の審査時に,保険の申込者とか,あるいは被保険者の年齢とか収入とか資産とか,そういうものにきちんとチェックをかけた上で,保険者が保険を引き受ける,あるいは引き受けないという判断をすることで事足りる面もあるのではないかなと思いました。ここら辺については,ちょっと私,今のところどっちつかずな話になってしまいますけれども,そういう感じがしております。   それから,(注)3のところの「保険金受取人」の,これはこのとおりでいいと思いまして,保険金請求権の譲渡人,あるいは質権者等を含めるということが妥当ではないか。ただ,先ほど事務当局からの御説明がありました,このほかにどういうものがあるかというのは,もう少し専門家の先生方の御意見も聞いてみたいと思っています。   以上です。 ● ありがとうございます。   ○○委員。 ● 今の○○委員の御疑問に答えられるようなものだといいのですけれども,とりあえず同意のところは,私も自信が完全にあるわけではないのですが,やはり基本は書面にする方向で考えるべきではないか。理由は,保険法上の問題だけではなくて,やはり人格権的な要素が含まれていると,ここは余り異論はないのではないかと思うのですね。被保険者のもとにも,同意を取りつけることは--団体保険はちょっと別に考慮するということで,多分実務上同意取りつけとかは確保されている。問題は,そこに被保険者もという,そういう証拠が残るかと,そういう問題はあるかと思いますが,方向性は書面によるという方向ではないかと,こう思うのです。   それから,二番目の被保険者が未成年である場合の問題。これが,要するに日本と諸外国が極めて違っている。特に議論を混乱させないために最初に申し上げる必要があると思うのですけれども,死亡保険と生存保険と,その他のいろいろな生保に付帯する保険,後遺障害とか分けなければいけないと思うのですね。私は,学資保険等で生存給付金的なものとか,それから後遺障害的なものでやるのはいいと思うのですが,保険法研究会で一番問題になったのは,小さな子供に死亡保険金をつける意味はあるのかという問題で,ここはきちんとした御説明はなかった。諸外国はどうなっているかというと,ドイツでは,これは非常に複雑なシステムですけれども,基本的な理解は,議論のスタートは,7歳未満は葬儀費用だけ。それから,フランスは,保険法典第132条の3で,12歳未満はそもそもつけてはだめだということですね。スイスなんかも葬儀費用で,結局1万スイスフランですから90万円ぐらい。これも葬儀費用ということではないかと思うのですけれども,小さな子にそれ以上保険をつけて保険金をもらってどうするのかと,こういう問題です。要するにこれは,確かに保険会社の方としては,保険料をもらって保険金を払っているというシステムになりますが,本当に必要なのかという問題がある。ですから,私は,議論の出発点は,やはり何歳か。これはある保険会社は15歳未満の方に死亡だけの保険を売っておられないという御説明を,私,保険法研究会で伺いましたけれども,それは一つの見識で立派なことで,中学卒業まではということでしょうね。基本は,まずそういう状態で,そういうものを売るのは本当は問題ではないかというところは議論をすべきです。   でも,それでは保険を売る商売として立つ瀬がないと思われるかもしれませんが,本当の需要のあるところを売られればいい。具体的には,小さな子には,やはり後遺障害ですよね。つまり,学校でけがをして,体操で植物人間になってしまったとか,そういう後遺障害部分を中心に売って,それと貯蓄を主に売って,死亡保障は低く抑える。実際私は調べてみますと,生保も損保も--損保はまたあれにしても,後遺障害,高度障害のみに近い売り方をしておられるわけですよね。死亡保険金を200万にして,高度障害2000万とか3000万と,そういうのを本当は子供に対して売る。損保だと後遺障害のみというのもありますけれども,高度障害保険金というのは,これは戦前に第一生命さんが最初にお売りになって,戦後,日本生命さんも追随されて,だんだんカバーの内容を増やして保険料もしっかり取るようになった。ここが子供にとって必要なものなので,やはりそういう商品の内容をもうちょっと変えて,実際のニーズに合ったもので,また新しい商品をつくられてもいいと思いますが,小さな子供に対する死亡保険は,基本的には葬儀費用だけにする。ゼロでもいいと思いますけれども,葬儀費用相当額ぐらいにすると,そういう方向で考えるべきではないかと私は思います。 ● ○○委員。 ● 私の方もまとめていろいろお話ししたいと思うのですが,まず,同意主義をとることについては賛成したいと思っております。それから,被保険者と保険金受取人が同一の場合のただし書を削除すると,これについても賛同したいと思います。   書面による同意なのですが,今,○○委員がおっしゃったのですけれども,団体保険は別ということですが,そのとおりだと思うのです。我々も原則としては書面でやっておるのですが,この業法の施行規則にありますように,団体保険につきましては,特に総合福祉団体定期保険,これで被保険者の遺族が受け取るようなものについては,書面による同意ではなくて通知同意方式という例外を採用しているのです。これはどういうものかといいますと,団体の方は従業員なり所属員に対して契約内容を詳しく通知して,反対であれば申し出てくださいと。そうすればその人は保険をつけないと,そういう例外です。これも事務当局の方から御説明がありましたように,これからどういうものができてくるか分からない。それから,電磁化もしておりますので,いろいろな多様化が考えられますので,硬直的な規律というのを契約法に設けることについては慎重な検討をお願いしたいと思っております。   次に,未成年者の保険でございますけれども,先ほど御説明がありましたように,15歳以上の契約者になる場合は,原則としては本人及び親権者の同意と,それから14歳以下の方が契約者になる場合には,本人ではなくて親権者の同意をいただくと,こういう対応を行っております。   それから,保険の販売状況でございますけれども,新契約といって,保険契約締結時点でどのぐらい契約があるかといいますと,生保各社全体では未成年者を被保険者にした契約は概算で全体の15%あります。それから保有契約ですが,これは手前ども○○生命の例でいいますと,概算ですが,17年で約190万件,全体の16%を占めているわけですね。それから14歳以下の場合でも140万件,12%あります。こういったことから,未成年者が被保険者の保険契約というのは社会的にニーズがあって有用なもので,既に定着しており,その必要性は広く認知されていると,そういうふうに考えております。したがって,こういった中で未成年者を被保険者にした保険契約は,今,○○委員が御指摘のように,いろいろの制約をするということになりますと,社会的ニーズに保険会社がこたえることはできなくなる。あるいは,保険市場,保険会社の経営に非常に大きな影響を及ぼすことになると思われます。消費者というか,国民の経済的な自由を制限すると思われますので,慎重な御議論をいただきたいと,そういうふうに考えております。   それで,給付内容について制限したらどうかというお話がございましたけれども,我々としましては,確かに死亡以外のニーズもかなり大きいものがありますが,私どもが販売しておりますのは死亡保障もついて,医療だ,高度障害だといろいろなものをくっつけて販売しております。そういうのがまた子供保険以外にも人気があるわけでございます。先ほどちょっと出ましたけれども,若いうち,小さいうちに入るということが,現在平準保険料方式をとっておりますので比較的安く入れる。そして,○○委員からお話がございましたように,成人しましたら自己のためにする契約に変える,契約者の変更をする,あるいは受取人を親から自分の妻や子にすると,そういったようなことが実際は行われているわけですね。もう一つ言えば,今,契約の転換というのがございますが,自分で必要な保険形態に変更することができる。今の死亡保障については,確かにニーズとしては少ないかもしれませんけれども,高度障害だけの保険というのは,生保から見ると余り考えられない。なぜかといいますと,一つの例として,高度障害が固定する前に亡くなると,全く保険金が払われない。そんな保険があっていいのだろうか。やはり高度障害と死亡というのは一緒にあった方がお客様の納得が得られると,そういうふうに考えております。   保険金額につきましても,以前,何年か前に国会で取り上げたことがありまして,業界としても問題意識を持って,昔ですとホフマン方式で遺失利益を参考にして,それでも成年者より低い金額でしたが,1億円程度に限定しておったのですが,今では金額をかなり下げて2000万とか5000万とか,そういう取組を行っております。   もう一つ,親が子を殺す,子が親を殺すという話がございましたけれども,実際にはどのぐらい保険金目的で親が子を殺すかという例を調べてみますと,この数年,全くそういう事例はなくて,親が子を殺す事例で多いのはやはり無理心中なのですが,それは保険を目的としたものではございません。むしろ保険目的であれば,妻が夫を殺すという方が多いわけでございまして,御心配のモラルリスク的なところというのは実際には起きておりません。そういった意味から,契約法で金額制限を設けるということについては慎重な御検討をお願いしたいと,そういうふうに考えております。   それから,ドイツのお話もございましたので,ちょっとお話し申し上げると,確かにドイツではそういう規定もあるようなのですが,しかし,ドイツでも父母以外の第三者を契約者とする場合は,保険金額の多寡にかかわらず親権者が同意することが認められている。7歳未満の子供を被保険者とする生命保険につきましては,一定の場合は後見人,あるいは補充保佐人を立てることが求められておりますが,手続が複雑・煩雑であるために,死亡保険金の限度以内に抑えるために,第三者である祖父母を契約者として後見人を立てることを要しないという契約形態がとられておるようでございまして,子供に多額の保険を掛けることが禁止されているとか,そういう実態ではないわけでございます。   以上でございます。 ● ○○委員。 ● 例えば,消費者の方からいろいろな生命保険の苦情を承る機会が大変多かったのですが,その中で,被保険者の同意の話はかなりのレベルで問題となってありまして,私が知らないうちに掛けられたというたぐいのものとか,そういうものがたくさんございました。ある意味では,今回の被保険者同意のこういう書面を厳格にとるとか,人の命の保険ですので--被保険者って,正直に申し上げればいいことは一つもございませんで,保険はつけられるのだけれども受取人になれないという,そういう立場なので,そういう人がやはり自分の命をそこに保険の対象にしてつける以上は,きちんと厳格に同意をとるべきであります。これは今,生命保険固有のお話ではありますけれども,傷害保険と医療保険のところでも,よくクレジットカードに付合した保険というのが今たくさん売られております。それでは知らないうちに被保険者にされたというトラブルが幾つかございます。そういう事例を見ていると,やはり被保険者同意は,この人の命を担保にするという部分がございますので,きちんと厳格にとるべきだし書面化すべきだという,原理原則の部分ではそういうことをなさるべきだと思っております。   それから,未成年者のお話です。先ほどの解説でも大変難しいお話がいっぱい出てきましたが,先ほど○○委員のお話がございましたけれども,○○委員もおっしゃっていただいたので,私はあえて言わせていただくと--あえて言わないと,本当はだれも言わないのではないかと思っていたのですけれども,皆さんおっしゃっていただいたので,私も言います。未成年者を被保険者にする死亡に関する保険というのは,ぜひおやめになっていただいた方がよろしいのではないか。現実に今,たくさん売れているとか,そういう実態の部分が確かにあることはよく存じ上げています。よく存じ上げているのですが,実際の,では,子供を被保険者にして保険をつけるときの販売はどういう形で行われるかというのを考えますと,基本的に,例えば学資保険ですと,子供の命ということは二の次,三の次でございます。基本的には契約者であるお父さん,お母さんが何かあったときの育英年金になりますよという売られ方をしていて,事のついでに,例えばお子さんが病気になったときにということなので,つまり,それにくっついてくる死亡の部分について,では,契約者が本当に認識して,それを必要として入って--必要として入ってもらっては困りますけれども,そういうことをしているかと考えますと,そこら辺は,私は契約の実態という意味もあるにしても,学資保険の売られ方を考えれば,せめて学資保険ぐらいしか存在意義がないのではないかと実は思っているのですけれども,そこのところが問題なのかなと。   そこら辺も考えて,例えば,お子さんが小さいうちに,つまり被保険者の年齢が低いうちに保険に入ると保険料が安いというお話がさっきございましたけれども,20歳になってから入るのと,10歳のときに入っているのと,この期間の経過を考えれば,本当にそれが契約者にとって利益か,本当に安いかという話は計算してみないと分からないと思っていますし,その辺はそう思っているので,そういう意味で申し上げれば,大変乱暴な意見に聞こえるかもしれませんけれども,未成年者の命を担保にして保険に掛ける--つまり保険は,その方が亡くなったときの遺族の保障だと経済的利益を考え,それの保障だと考えれば,その原理原則から言えば,それは本来あってはならないものではないのかなというふうな気がいたします。 ● ○○委員。 ● 今,○○委員からありました同意の話と,それから未成年者のところなのですけれども,まず被保険者の同意についてはきっちりとるというのは,まさしく我々も今やっていることですし,その基本的な考え方というのは全くそのとおりだと思っています。ただ,書面という形に本当に限定してしまって,こういう法律に書くことが本当にいいのかというのが我々の疑問である。例えば,これから将来に向かって,先ほども議論が出ていましたけれども,例えば電磁的方法だとか,そういう技術革新に伴ってきちんと証跡も残り,御本人の確認がとれるような形態が出てくる可能性もある中で,書面ということで,がちがちに法律で決めてしまうのが本当にいいのか。そこについて慎重に御議論をいただきたいということであって,同意がいいかげんであっていいとは全然思っていないというところについては,御理解をいただければと思います。   それから,未成年者の保険のところです。先ほど○○委員のお話にもあったのですけれども,私ども,今,未成年者に売っている保険というのは,15歳以上はちょっと別にして,15歳未満のところは純粋な掛け捨て死亡保険というのは売っておりません。学資保険というのが一番典型なのですけれども,あと,例えば養老保険で,20歳になったら満期になって,そのときに満期の保険金が出ますと。併せて20歳までの間に万が一死亡事故が発生したときにも同じ金額をお支払しますよと,こういった保険なので,これはいわゆる生死混合保険といわれている部分です。ほとんどが資産形成ニーズがある保険を売っております。純粋な掛け捨てもそうですし,例えば倍率が高くて死亡にウエートが置かれたような商品も売っていない。そういう中で,例えば販売占率で1割を超えておる。弊社でも概算ですが新契約で毎年15万件,保有契約でも170万件あるということは,そういったニーズもやはり現実にはある。現実にあるニーズを法律でふたをしてしまっていいのかというところは,少し慎重に検討する必要はあるのではないか。無制限にどんな金額までいいとか,死亡にもう極めて傾斜をしたような保険を売っているのであればあれだと思いますけれども,いろいろなニーズがあり,いろいろな考え方の人がおられるところを,法律でビシッとこれはだめですよというような形で規律するのが本当にいいのかというところについては,本当に慎重に御議論いただければ大変ありがたいなと,このように思っております。   ちなみに,私ども○○生命でいきますと,15歳未満ですと生死混合保険でも上限を3000万,6歳未満ですと2000万ということで,極めて,極めてと言うとちょっと考え方があるかもしれませんけれども,そんなに高いところに設定しているわけではないというところについては,御理解を併せていただければありがたいと,こういうふうに思っております。 ● ○○幹事。 ● 私の方としては,意見としては,未成年者を被保険者とした保険契約の同意のことなのですけれども,生命保険会社の方から,実務上,実際にかなりの数そういう契約があるので,それを法律,基本法でできないというふうにする,それが妥当ではないという御説明をいただいていて,それから弊害の例もさほどないということなので,あえて理屈で覆すところまではできないとは思うのですけれども,少なくとも何らかの規定は法律上,規整は設けるべきではないかと思っております。それはどういうことかというと,民法の解釈だと御説明もいただいていますけれども,では,その同意はどういう同意なのかというところの説明がきちんとできないと,やはり運用でも,ちょっと混乱が生じかねないのではないかと思います。   それで,生命保険契約で,他人に自分の生命について付保されない利益というのは,例えば未成年でいうと労働契約が,親権者が未成年者に代わって締結することができないと法律上規定されています。そうだったら,未成年者を被保険者とする保険契約は,親権者が本人に代わって同意できないという規定を一つ設けて,そうしますと,労働契約の場合には多分--余り詳しくなくてあれなのですけれども,今日のためにちょっとだけにわかに整理しただけなのですが,労働契約の場合,民法第823条第1項の準用--そこの段階で準用するのか,ちょっと整理はついていないのですけれども--によって,親権者の許可を得て未成年者が労働契約を締結すると思います。そうすると,親権者の同意を得て未成年者が被保険者である生命保険契約というのができることになるので,現行の大体の部分は追認できる形になるかと思います。   その場合に,それでは,本人が同意するという意思能力がない子供の場合はどうなるかということなのです。ここの部分に関しては,まだ自分でも整理できていないのですけれども,労働契約の場合に,幼児がテレビに出演するとか,その部分に関しては,親が契約を締結する無名契約だといわれているようです。それでは,幼児を被保険者とする保険契約は,親が幼児に代わって同意できる無名契約というふうにできるかというと,これはちょっと弊害が出てくると思います。そこの部分については,生命保険について利益主義とか同意主義とかいろいろあって,結局のところ同意主義が一番弊害が制限できるというところに現状落ち着いているかと思いますけれども,利益主義というものを全く無視する同意主義ということもないと思いますので,そのときに利益主義という考えを少し大きく出してきて,幼児を被保険者とする保険契約を結ぶ必要がどれだけあるのかというところまでくると,おそらくは,先ほど○○委員から御説明がありましたドイツの場合で葬儀費用に限るとか,そこまでしないまでも,ある程度保険金額を現状よりも多少低目にするのか,何らかの制限を設けるというところまで基本法の方で規定するか,又は思い切って○○委員がおっしゃったように,幼児の場合には,幼児を被保険者とする生命保険を締結することはできないという規定まで設けることも考えられるのではないかと思います。   以上です。 ● ○○幹事。 ● 未成年者の保険のことについて,少しコメントを申し上げたいと思います。   未成年者の保険をどう扱うかという問題について,主として二つ問題があるのかなと。一つは,やはり同意をどうするかという,モラルリスクを防止するという問題です。これについては,先ほど実際には保険金目的の親の子殺しというのはそれほど多くはないのだというお話がありましたけれども,そのモラルリスクの問題とともに,もう一つ,今の議論を聞いていますと,未成年者の保険に対して抑制的であるべきだという御意見を述べられた方の,その背後には,やはり現在の未成年者を被保険者とする保険の売り方というのは,必ずしも消費者の真のニーズに合致していないのではないかと。確かにこれは非常に売れているのだという話がありましたけれども,それは本当に買いたい保険がほかにないので,仕方なしにそういう保険を買っているのかなという,どうもそういう疑念がぬぐい切れないわけですね。先ほど,○○委員から,いわゆる養老保険ですね--20歳満期で2000万円の満期保険金と,そういう場合に死亡した場合に同額の死亡保険金が支払われる,そういう養老保険というのは非常に人気があるのだというお話がありました。しかし,生死混合保険というのは,別に満期保険金と死亡保険金を同額にする必要というのは全くなくて,満期保険金は2000万円にして死亡保険金は200万円にするという,そういう生死混合保険というのは可能で,それはそれだけ保険料は安くなるはずですから,そういう保険があれば,そして消費者がそういう保険があるのだということが分かれば,そういう保険をどんどん買ってくれる可能性があると思います。   それからあと,○○委員の,高度障害の保険については未成年者についてもニーズが高いので,これは積極的にお売りになってはどうかという御意見に対して,高度障害と死亡というのはセットだから,高度障害になった瞬間に死亡してしまったときには保険金が支払われなくなってしまう。あるいは,非常に低額の保険金しか支払えないような商品だと,これは消費者が買ってくれないのではないかというお話がありました。確かに,これは成年を被保険者とする保険であればそうだろうと思うのですけれども,未成年者の子供のニーズ,子供が高度障害になった場合に真に必要なニーズというのは,結局,高度障害になったまま,生涯何十年も生きていかなければいけないという,その資金を保険で確保する,それが一番大きなニーズだと思うのですね。ですから,まさに年金のような形で,高度障害状態になった場合,一種の介護保険みたいな形で被保険者が生存している限り年金という形で支払う。しかし,死亡すれば保険金はずっと低額にするというような商品というのは,これはやはりニーズはあると思うのです。ですから,高度障害と死亡をセットにしなければいけないというのを言われても,余り説得されないですね。   それからあと,小さいうち,子供のうちに保険に加入しておいて,二十歳を過ぎれば保険契約者を変更して自己のためにする保険にすればいいのだというお話がありましたけれども,これも子供のうちは,別に死亡保険金を最初から2000万円にする必要はなくて,それこそ葬儀費用程度の200万円の保険に加入しておいて,そして二十歳になったときに保険金を増額すればいいわけで,これが例えば二十歳の人が加入して40歳で増額するとなると,健康状態が悪化していて,これは入れない,増額することはできないということはしばしばあることですけれども,二十歳の人が既に健康状態が悪化して,保険金を増額しようとしてもできなくなるというのは余り考えにくい話なので,ですから,未成年者の純粋な死亡保障を,まさに葬儀費用程度にして,それ以外のニーズにこたえるような保険を販売するということというのはできることだと思いますし,むしろ私は一消費者の立場からすると,そういう保険があればむしろ積極的に加入したいなと思いますので,ぜひそういう方向で考えていただければと思います。 ● ○○幹事。 ● 私も,今おっしゃった○○幹事の意見に賛成なのですが,加えて,理論的に確認が多少必要になるかと思うのですが,生存保険の場合,特に年金型などの場合に,従来は生存保険の部分については特に同意をとるということは考えていなかったと思うのです。それは特に先ほど御説明がありましたように,同意を要求する理由として,生命を賭博にするとか,あるいはモラルリスクの問題があるという観点から,特に死亡の保険について同意を要求するという考え方が強かったと思うのですが,○○委員も少し御指摘になりましたように,個人の人格を尊重するとか,人格権の問題をもし考えるのであれば,これは生存保険であっても,知らないところで自分の生存について,いつの間にやら保険が付されているのにはやはり不快感を持つという方も当然いらっしゃると思います。そこを同意をとることを法制的に要求することが本当に必要かどうかという点は,もちろん検討しなければいけないのですけれども,一応現時の人格権的な問題を考えるに当たっては,検討はしておく必要はあろうかなと思っております。ですから,場合によったら,それはやはり生存保険であろうが--現在,単純な生存保険だけという商品はないと承知しているのですが,もしあれば教えていただきたいのですけれども,常に死亡とセットで売られているのが通常だということですので,基本的には同意を要するということになるのでしょうが,生存型だけのものであったとしても,場合によってはそれは同意を要するという法制を考えても十分成り立つなと思います。   それに加えて,先ほどの未成年者の部分でありますけれども,やはり○○幹事がおっしゃったことがほぼ私も全く賛同できるので,死亡については,一般的にはやはり葬祭費程度が常識的な範囲ではないかと思っております。 ● ○○幹事。 ● ○○委員,それから○○幹事,○○幹事がおっしゃったことに基本的に賛成です。それとの関連で二点だけ,意見というのですか,あるいは今後検討していただいた方がいいかなということも申し上げたいと思います。   一点は,検討する必要もないのかもしれませんが,一つは,同意が書面によらなければならないかどうかという点です。○○委員や○○委員がおっしゃったように,この先,書面とは違う形での同意の求め方というのも出てくるかと思います。ですから,そういうことについての対応は必要だと思いますけれども,しかし,原則として書面を要求するということを定めた上で,それに準ずる手段というのを講じていくという方向で考えればよろしいのではないかと思っています。規定を,保険契約法というのでしょうか,あるいは契約法の中に置くことの当否という問題がございましたけれども,例えば先般,数年前に改正がございました民法の保証の規定の中には書面を要求するという規定が入っておりますので,基本的な契約法の中に要式主義を求めるという規定が入ること自体はそれほどおかしくないのではないかと思います。これが一点です。   それからもう一点は,先ほど来,未成年者の問題が出ております。それについては各委員,幹事がおっしゃったとおりなのですけれども,同意について,成年であるけれども意思表示をすることができないとか,あるいは制限能力者であるというような者についてどうするのかというのも,併せて考える必要がないのかということを申し上げておきたいと思います。これは,ニーズの問題としては未成年者に比べると小さいのかもしれませんが,先ほど○○幹事もおっしゃいましたけれども,理屈で考えたときに,同意をすることができない人に保険を掛けることができるのか。中には掛けなければいけないという場合もあるのかもしれませんけれども,だとすれば,一体どういう場合に,どういう例外というのをつくるのかということを,未成年の場合と併せて考えていくということが必要ではないかと思います。   以上です。 ● 書面の点については,IT化された場合のことというのは,それはそれとして一つの問題としてある。それを除いて,一方で書面に限った方がいいという意見と,それに対して事務当局はどうも,実際は同意していたのだけれども,それは証明できるけれども,書面がなかったというだけで,かえってこれは保険契約を無効にすることでいいのでしょうかという疑問を持っているようなのですが,そのあたりはいかがでしょうか。確かに,書面にしないということで,一方では同意が非常にあいまいなものになるというのですかね,そういうおそれはあると思うのですね。そういう意味では書面にするということではっきりはするわけですけれども,常に書面がないと契約を無効とする必要まであるのでしょうかという疑問を持たれた場合に,それはそういうルールだそうだからそうなのですということなのか。その辺の感触はいかがですかね。   ○○幹事。 ● どういう局面で同意がないということが問題になるかというと,それはやはり無効という主張をされる側が同意がなかったということを言われるのではないかと思うのですね。保険金を請求する側が同意がなかったというわけがないので,そうすると,無効と言わなければいけないのは保険会社側ということに通常はなるかと思うのですけれども,保険会社側が,もし,それは同意がなかったので無効ですと言われるのだとすると,その契約自体を締結された保険会社は何をやっておられたのかということになるので,ちょっと私,どういう局面を想定されているのかが,ぴんとこなかったもので,教えていただければありがたいなと思ったのですが。 ● そこは何かありますか。 ● 今の点に対する事務当局の疑問をお話しする前に,ちょっと実務の実情を教えていただきたいと思うのです。   といいますのは,先ほど○○委員,あるいは○○委員の方から,被保険者の同意を確実にとるということ自体には異論がないというお話がある一方で,例えば通知をして,何か異議があれば申し出てくださいみたいな形で同意をとることもあるのだというお話がございましたけれども,例えば,その通知で同意をとるというケースの場合に,通知自体が契約で被保険者とされた人に確実に届いているということは,どういう形でチェックされているのかなというあたりを,ちょっと教えていただければと思うのですけれども。 ● いわゆる通知同意方式といわれている方式を採用しておりますのは,企業保険での総合福祉団体定期保険という,企業拠出型で受取人が御遺族というケースにおいてです。これは,企業様から全従業員あてに,こういう保険に企業として加入しますよと,これについて御異議があれば言ってきてくださいと。御異議があるという意思表示がされれば,その人については付保対象から外して保険を契約させておる。個別通知同意方式をとっておるのは,現時点ではそのパターンだけでございます。そういう意味では,いわゆる個人で御契約をしていただいているケース,あるいは企業保険でも個人が拠出される--これはBグループと言っておるのですけれども,これについてはきちんと同意をとっておるという形ですので,生命保険会社の今の実務でいきますと,基本的にはそういう総合福祉団体定期保険の通知同意方式を除けば,全部書面で同意をとっておるというのが現在の実態です。 ● そうしますと,実際,その通知といいますか,自分は外してくれという人を募って,現にその人を外しているかどうかは,その契約をまとめてする会社に,言ってみればゆだねているということになるわけですか,言い方を変えると。 ● ただ,会社から,この人は外しますという固有名詞が全部保険会社に来ます。例えば,○○は同意しなかったので○○は外してくださいと,例えば従業員100名で,○○という人が不同意だとなれば,○○を除いた99名で付保してくださいということで,固有名詞を書いたリストも含めて全部来ます。そこは,いわゆる例外を先に引き出すみたいな形ですけれども,逆に言うと,意思表示されていない人というのはきちんと同意されているということで,いついつまでに言ってきてくださいということも含めて,きちんと企業さんでそれは個人個人に御連絡をしていただいておりますので,そこで知らないうちに保険が付保されているということは決してない形になっております。 ● 分かりました。ありがとうございました。そうしますと,○○幹事の話に戻るのですが,私どもとして保険金受取人が不利益を受けるという考えを確定的に持っているということではなくて,今御紹介いただきました点で一つ疑問が解消しましたけれども,そういう点も含めて,本当に書面を求めるということにして問題がないのかということを,ちょっといろいろなケースを想定して検証していきたいと,こういうことで今考えておりますので,また○○幹事も含め,こういう点ではやはり書面を求めることが,先ほども御指摘がありましたけれども,まさしく硬直的な規律ということになって,かえって契約法の規律の在り方としてマイナスではないかといったところをぜひ御教示いただき,あるいは御議論いただきたいと考えております。 ● ○○幹事。 ● 同意に書面を求めることが,本当に保険契約者又は保険金受取人のためになるのか,かえって立証の困難性になるのではないかということなのですが,この点は,企業保険というところの技術的なことはちょっと置いておいて,基本法としてどういうふうにしたら書面で確実に被保険者の意思を確認して,なおかつ保険金を請求する側に,それが不利益にならないかということを考えた場合に,○○幹事がおっしゃっていた,保証を書面でやるということに関しては,その書面は債権者である方に残るので,その要式をとることが債権者の権利行使の障害にはならないと思うのですけれども,おそらく保険契約で同意を書面にした場合には,書面を債務者となる保険会社に差し入れてしまうから権利者の手元に残らないということが想定されて,それが立証の困難性になるのではないかということだと思います。そうしましたら,意思の確実な確認ということ,真意を確認するということと,それを書面という技術的なもので満たして,それが権利行使の障害にならないようにと基本法に決める場合には,ちょっと行き過ぎかも分からないのですけれども,検討の材料としてなのですが,他人を被保険者とする生命保険は,その被保険者の同意がある書面による契約によらなければならないという形にすれば,契約書がいつも手元に残るかという問題もあると思うのですけれども,通常は保険契約者の方に保険契約書というのは残ると思いますから,その上に同意の文言が双方に残る。そこまですると契約の要式に過度に介入し過ぎるかも分からないのですけれども,債権者側に同意の文言が残るというようなテクニックにはなるのではないかなと思います。 ● 書面の点は,そういう御意見が今日いろいろ出ましたので,なお御検討いただくことにします。   もう一つ,先ほど来の御意見で,今のような未成年者を被保険者とする保険を販売すること自体について,かなり批判的な御意見というのが今日多かったかと思いますが,これは商品性とも関連して,では,保険契約法でどういう保険なら許容できるのかというようなことを何か決められるか。未成年の死亡の入った保険というのは一律にだめだというなら,これは話は簡単ですけれども,決してそうはいかないと思うのですね。そういうことを考えると,商品性がいかにあるべきかというのは,それはそれで一つの社会的な課題ということではあるのですが,決してそれで未成年者の保険は全部なくなるわけではないとすると,この同意をどうやってとるかというあたりの問題を一応考えておかざるを得ないと思うのですけれども,これも親権者が同意できるのか,また,親権者自身が受取人になっている場合とそうでない場合でまた違いがあるのかというふうなことで考えていかなくちゃいけない。現在のところは,おそらく親権者が同意もできて,受取人になっても利益相反関係ではないということで,特に何か特別代理人を選任するという扱いはしないで契約が行われてきていると思うのですけれども,そのあたりについて御意見はどうでしょうか。   ○○幹事。 ● 私,先ほども申し上げましたが,葬祭費程度ならということは,実はそこは今,○○委員がおっしゃったように,親権者の同意というのですか,親権者が未成年者である被保険者に代わって,その部分については同意を与えられる。だから,実質的には親権者が未成年者を被保険者として保険契約を締結できると,そういうふうに考えておりました。 ● 葬祭費程度であればと。 ● はい,そういうことです。 ● それ以上のものになると,本来の厳格な……。 ● はい,そのように思っております。 ● そのあたりは,民法の解釈にもまた関わってくることかと思いますが,なおそのあたりは検討していただくということで,どうぞ。 ● すみません,よろしいですか。今,○○幹事,あるいは何人かの委員,幹事から「葬祭費程度」という御発言が幾つかあったのですけれども,葬祭費というのはどれぐらいの金額のイメージで……。一方で,商品開発部門では,別途商品問題として今後の我々の政策問題としてあると思うのですけれども,皆さん方が言われている「葬祭費」というのは,どの辺のイメージなのか。 ● 何かイメージがありますか。 ● 私が申し上げてどうかとは思いますけれども,常識的には,ちょっと豪華な葬儀ということがもしあるとしたら,それでも子供さんということを想定しますと,せいぜい300万から500万程度が限度ではなかろうかなと……。私の直感的,経験的な判断でございますけれども,そういうふうに思っております。 ● その他,この1に関しては,先ほど事務当局からの御説明の中で,保険契約者が変更された場合にも同意を要するということでいいのでしょうかとか,それから,本文の②とか③の場合の同意の相手方というのはどうなるのでしょうかというふうな問いかけが少しあったかと思いますが,このあたりはいかがでしょうか。契約者が変わるときは,当然同意が要るのかなと私は考えてきたのですが,受取人は変わらないというようなときまで要るのでしょうかという,先ほどはそういう御疑問だったと思うのですけれども,掛けている人が変われば,やはりそこは同意という形で,一応それについてチェックをするということはある話ではないかなと私は従来は思っていたのですけれどもね。   ○○幹事,どうぞ。 ● その点は,もしかしたら,これから先に議論される第三者のためにする契約としての保険契約で,その保険金受取人というのが当然に権利を取得するという構成で,多分今回そういう形ではなくなる方向の御提案かと思うのですが,その場合に,保険契約者が保険金受取人を指定する権利というのがあることが前提だと,やはりそういう権限を有する人が変わるということについての同意というのは必要かなとは思います。 ● ○○委員。 ● 簡単に,先ほど○○委員がおっしゃったとおり,契約者が変わるというのは,やはりその人だから,その背景に何かあるわけですよね。その上で同意しているわけですから,それは人格権的な要素ということがありますし,当然必要だと。それから,同意の相手方。これもちょっと自信はないですが,要するに契約の当事者は全部分かっていないと,有効要件ですから,当然理論的にはそうなると,そういうふうに考えているのですけれども。 ● ほかに,このあたりございませんか。   では,○○委員。 ● 資料1頁の(補足)の3行目の括弧書きに関連して,傷害・疾病保険契約のところで検討していただけるということですので,そのときに改めて御説明させていただきますが,傷害保険や疾病保険契約には,家族全員を包括的に被保険者にする傷害保険や,それから海外旅行保険があるのですけれども,そのほかにイベントや遊園地などの入場者の傷害保険や,自動車保険の搭乗者傷害保険のように被保険者が特定できない契約方式が広く普及していますので,被保険者の同意について,単純に生命保険契約と同じ規整を及ぼすのではなく,あるいは,これをベースにするならば例外的な規定が必要だと考えております。いずれにいたしましても,改めてそのとき議論させていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ● その点は,またそのテーマのときに御議論いただきたいと思います。   それでは,とりあえず1のところはよろしゅうございましょうか。   それでは,続きまして,「2 保険者の免責」に入りたいと思いますので,御説明をお願いいたします。 ● 御説明いたします。   次に,2では保険者の免責について取り上げております。   まず,本文①では,保険者が保険金を支払う責任を負わない場合として,(ア)で被保険者が自殺によって死亡したとき,(イ)で保険金受取人が故意に被保険者を死亡するに至らせたとき,(ウ)で保険契約者が故意に被保険者を死亡するに至らせたときを掲げております。現行商法第680条第1項は,これらをいずれも保険者の免責事由として規定していますが,その趣旨は,被保険者の自殺については,一般に,被保険者が自殺をすることにより故意に保険事故を発生させることは,生命保険契約上要請される信義誠実の原則に反するものであり,また,そのような場合に保険金が支払われるとすれば,生命保険契約が不当な目的に利用される可能性が生ずるから,これを防止する必要があること等によるものと解されており,保険金受取人又は保険契約者の故意による被保険者の殺害については,一般に,生命保険契約において,保険契約者又は保険金受取人が殺人という犯罪行為によって故意に保険事故を招致させたときにも保険金を入手できるとすることは公益に反し,信義誠実の原則にも反するものであるから,保険金の支払を制限すべきであるというところにあるといわれております。これらを保険者の免責事由とすることには合理性があると考えられ,かつ,実務上も免責事由として約款に定めるのが通例であるといわれていることから,本文①では法定の免責事由として維持することを御提案しております。   また,本文①の(イ)のただし書では,複数の保険金受取人のうち一部の者が被保険者を死亡させた場合について,保険者は当該保険金受取人に支払うべき部分についてのみ免責となり,他の保険金受取人に支払うべき部分については免責とならないものとする現行商法第680条第1項第2号ただし書の規律を維持することとしております。   なお,最高裁平成14年10月3日判決は,保険契約者又は保険金受取人の故意による死亡を免責事由とする約款の条項につき,「保険契約者又は保険金受取人そのものが故意により保険事故を招致した場合のみならず,公益や信義誠実の原則という本件免責条項の趣旨に照らして,第三者の故意による保険事故の招致をもって保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価することができる場合も含むと解すべきである。」と判示し,保険契約者又は保険金受取人が会社である場合に,取締役の故意による保険事故の招致をもって会社の行為と同一のものと評価する余地があることを認めております。そこで,保険契約者又は保険金受取人と同視すべき第三者に関する規律を設けることも考えられますが,このような第三者の故意による事故招致については,保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価できるかどうかという観点から,事案に応じてケース・バイ・ケースで判断するのが適当であると考えられるため,本文では明文の規定を設けないものとしております。   次に,本文②では,戦争,内乱その他これらに準ずる変乱による被保険者の死亡を免責事由として掲げております。これは,損害保険契約と同様に,生命保険契約においても現行商法第683条第1項で準用される同法第640条の規律を基本的に維持しようとするものであり,その趣旨及び規定の性質等につきましては,保険法部会第3回会議において御説明させていただいたところでございます。   現行の生命保険契約の約款の中には,戦争その他の変乱を保険者の免責事由とした上で,保険計算の基礎に及ぼす影響が少ない場合には保険金の全額又は削減した金額を支払うと定めるものや,保険者の免責事由とはせずに,保険計算の基礎に影響がある場合には保険金を削減して支払うことができると定めるもの等がございます。これらの約款の定めは,保険金受取人等の保護の観点から,戦争等の場合にも保険者が一定の範囲で保険金を支払う旨を約定するものであると解され,このような約定をすることは許容されるべきであると考えられますが,一般に,戦争,内乱等による死亡について,その発生の蓋然性を測定することが困難であり,保険料の計算の基礎に加えることが難しいという点は否定できないことから,これらを免責事由として法定すること自体には合理性があると考えられます。そこで,本文②では,戦争,内乱等による死亡を法定の免責事由として維持することを御提案しております。   なお,本文の規律は,被保険者の死亡を保険事故とする死亡保険契約に関する規律であり,いわゆる生存保険契約に関しては法定の免責事由を設けないこととしております。   (注)1では,本文①の(ア)の規律に関し,免責事由を一定の期間に限定すべきであるとの考え方について問題提起しております。   生命保険契約の実務においては,保険者の責任開始後,一定期間経過前の自殺に限り免責事由とするのが通例であり,従来は免責期間を1年とするものが一般的であったようですが,近時では2年又は3年の免責期間を定めるものが多くなっているといわれております。このような約款の定めは,生命保険契約締結の動機が被保険者の自殺による保険金の取得にあったとしても,その動機を一定期間を超えて長期にわたって持続することは一般的には困難であり,一定の期間経過後の自殺については,当初の契約締結時の動機との関係は希薄であるのが通常であること,自殺の真の動機,原因が何であったかを事後において解明することは極めて困難であること等を理由に,一般に有効な約定であると解されております。また,免責期間を一定の期間に限定し,免責期間経過後の自殺について保険金を支払うこととすることは,被保険者の遺族等の保険金受取人の保護に資するという側面もございます。さらに,諸外国の立法例の中には,被保険者の自殺につき,契約締結時から2年又は3年の免責期間を法定するもの等がございます。   他方で,現行商法の自殺免責の趣旨として,生命保険契約が自殺促進機能を持つとの非難を回避するためであるとの説明がされることもあり,このような趣旨を重視すれば,現行商法が被保険者の自殺については全期間の免責を規定しているにもかかわらず,これを一定期間の免責に改め,法律の規定により当該期間経過後の被保険者の自殺について保険金を支払うものとすることは,免責期間経過後の被保険者の自殺を助長することにつながらないかとの懸念もないわけではございません。   なお,昨年の貸金業の規制等に関する法律の改正により,一定の例外を除き,借主の自殺によって貸金業者が保険金の支払を受けることとなる生命保険契約を貸金業者自身が締結することが禁止されたという例がございますが,これは,貸金業者が借主の死亡を保険事故として生命保険契約を締結することが不適切な取立行為を招き,ひいては借主等の自殺を誘発しているのではないか等の社会的批判が見られたことを踏まえたものであると説明されております。   また,最高裁平成16年3月25日判決は,「1年内自殺免責特約は,責任開始の日から1年内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って,自殺の動機,目的を考慮することなく,一律に保険者を免責することにより,当該生命保険契約が不当な目的に利用されることの防止を図るものとする反面,1年経過後の被保険者の自殺による死亡については,当該自殺に関し犯罪行為等が介在し,当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別,そのような事情が認められない場合には,当該自殺の動機,目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても,免責の対象とはしない旨の約定と解するのが相当である。そして,このような内容の特約は,当事者の合意により,免責の対象,範囲を一定期間内の自殺による死亡に限定するものであって,商法の上記規定にかかわらず,有効と解すべきである。」と判示し,免責期間経過後の自殺について一定の留保を付した上で,免責期間を1年とする特約の有効性を認めております。   そこで,免責期間を一定の期間に限定するかどうかを検討するに当たっては,法律の規定により免責期間を限定することの必要性及び合理性に加え,自殺の助長につながらないかという点や,免責期間を法定した場合には免責期間経過後の自殺について一律に保険金が支払われるのか,免責期間としては何年とするのが適当か等の問題につきましても併せて御議論いただきたいと思います。   (注)2では,現行商法第680条第1項第1号が定める「決闘其他ノ犯罪又ハ死刑ノ執行」を法定の免責事由として維持することの当否について問題提起しております。   現行商法がこれを免責事由として規定した趣旨は,一般に,遺族等の保険金受取人に保険金を残すことにより,安んじて犯罪に走るというモラルハザードを防止することにあるといわれております。ここでいう「其他ノ犯罪」の意義についてはさまざまな見解があるようですが,下級審の裁判例の中には,約款に定める免責条項の解釈として,「自己の生命に危険を及ぼしかねない犯罪行為をいう」とするものや,「決闘ないしこれに類する生命を賭しての犯罪であって,しかも被保険者の犯行の動機,犯意等,また法益侵害の程度,危険等の主観的・客観的要素を総合考慮した上で,公益的見地から見て黙視すべからざる強度の不法性を有する行為をいう」とするもの等がございます。この規律については,生命保険契約の存在が犯罪を誘発するとは考えにくいこと,犯罪に対する制裁は犯罪者本人に科されるべきであり,遺族等の保険金受取人は不利益を受けるべき立場にないこと等から,立法論的に批判がされています。また,現行の生命保険契約の約款には,これらを保険者の免責事由としないもの,被保険者の犯罪行為のみを免責事由とするもの,犯罪行為及び死刑の執行を免責事由とするもの,これらを免責事由とした上で免責期間を一定の期間に限定するもの等,さまざまなものがございます。従来は,犯罪行為や死刑の執行による死亡に保険金を支払う特約は公序良俗に反するものとして無効であるとの見解もあったようですが,現在では,犯罪行為等による死亡の場合にも保険金受取人に保険金を支払う旨の約定の有効性を肯定するのが一般的な立場であるといわれております。そこで,これらの立法論や実務の取扱い等を踏まえて,決闘等の犯罪や死刑の執行による死亡を法定の免責事由とすべきかどうかについて御議論をいただきたいと思います。   (注)3では,本文①(イ)の「保険金受取人」の範囲について問題提起しております。   現行商法第680条第1項第2号の「保険金額ヲ受取ルヘキ者」には,保険金受取人に限らず,保険金請求権の譲受人,質権者及び差押債権者も含まれるとの指摘がございます。そこで,本文①(イ)の「保険金受取人」の範囲について,保険金請求権の譲受人,質権者及び差押債権者を含めるべきかどうか,それ以外にも含めるべき者としては何が考えられるか等につきまして御意見をいただきたいと思います。   (注)4は,本文の規定の性質について問うものでございます。   本文①のうち,特に保険金受取人の故意による殺害については,これを絶対的強行規定と解する見解もございますが,故意に被保険者を殺害した者にも保険金を支払うこととされる生命保険契約は,免責事由の適用を待つまでもなく,保険契約自体が公序良俗に反して無効であるとも考えられます。このような考え方につきましても御議論いただきたいと思います。   以上でございます。 ● それでは,ただいまの2の部分につきまして御意見をいただきたいと思います。どの点からでも結構ですが,いかがでしょうか。   ○○委員。 ● 私どもとしましては,この免責条項を任意規定であってほしいと思っております。   それから,免責期間の件でございますけれども,これは時代とともに変わってきていまして,短くなったり長くなったりして,現在では2年の会社,3年の会社があります。そして,実は免責期間経過後の自殺というのは,1年のときもそうでしたし,2年のときもそうでしたが,やはり増えるのですね。そういった実態は確かにあります。   それから,決闘その他の犯罪の条項ですけれども,これにつきましては,先ほど事務当局から御説明がありましたとおり,会社によって採用している会社と採用していない会社,種々ございまして,これも任意規定でこの約款が否定されなければ,私どもとしてはこだわらないというところでございます。   以上でございます。 ● ○○幹事。 ● 自殺免責のところですけれども,これは全期間免責ということになっていますが,今,御紹介がありましたように,今は長いもので3年だと思うのですね。たしかドイツも現行法は3年だったと思うのですけれども,3年以上に延ばされるということは,5年,6年という自殺免責期間というのは私自身ちょっと考えにくいのですけれども,実態的にも3年と任意規定として置いておけば足りるのではないか。それで,逆に言えば,この自殺免責規定の趣旨は満たされますし,全期間の自殺免責を置く意味が実際どれほどあるのか。先ほど確かに期間経過後に保険金取得目的で亡くなられるという場合がありますという御説明がございましたけれども,それは,一般の善良な契約者の場合ですと,その後の事情の変化が原因ですね。病気ですとか,あるいは仕事上の問題で非常に苦しんで,家族のことを思って死ぬ。しかも契約から5年,10年たって亡くなられるというようなことで,その辺がたまたま保険もあるからということで亡くなられたからといって,これは保険金を払わないというのは,いささかやはり社会的に支持を得られない考え方だと思いますので,一般的には,やはり期間制限を任意規定として設けるのが適当だろうと思うのですね。   それから,先ほどもう一つ例として上げられました貸金のお話ですけれども,あの場合なども,いわば自殺をしょうようするという,ある種自殺幇助みたいな形の行為になっておりますので,それ自体は最高裁判例とのかかわりで言えば,犯罪行為がかかわっているような形になっておりますし,それはまさに一般の解釈で切れると思われますし,むしろ全期間免責の自殺というのは,ほかの立法例から見ても,ちょっとまだ古めかしい感じがいたします。 ● ○○幹事。 ● 今,○○幹事がおっしゃられたことで,基本的には私も同意できると思うのですけれども,ただ,やはり理論的に考えなければいけないのは,最高裁の判例が出た後でも,実際の下級審の判例の中では,例外の特段の事情に当たると,無理矢理でもそういう解釈をして,意外に最高裁の判例が維持されていないという実態があるわけですね。これは,やはりそれだけ事例としてモラルハザードが生じているという事例が存在していて,その特段の事情,あるいは公序良俗違反ということで解決せざるを得ない実態というものがあるということが否定できないのだろうと思います。そのときに,最高裁のフレームワーク自体が全期間免責があるから出てきているフレームワークなのか,それとも別途,公序良俗という民法第90条の規定を使って解決しているものなのかということを一応理論的に整理していただいた方がいいような気がしまして,原則全期間免責だから,例外的に約款が妥当する範囲では,その期間を超えた部分については有責となるけれども,例外的にはそれが約款の効力を否定して原則に戻るのだという解釈が必須なものであるとするならば,そこの部分は検討する必要があるだろうと思います。これは理論的な整理だけの問題だと思います。ただ,私自身としては,やはり先ほど○○幹事がおっしゃられたように,そこの部分さえクリアされるのであれば,諸外国の立法例に合わせて,やはりある一定の範囲というものを明示していくという立法で,最終的にはそういうふうにしていただきたいと思うので,その点についてだけ,一応ここで議事録なり何なりにクリアな形で有権的な解釈の手がかりを与えておいていただければ,私は方向観としては,○○幹事がおっしゃられた方向でいいのではないかなと思います。 ● ○○委員。 ● ここで私,一番心配しているのは,もし仮にこういう規定の置き方をしたときに,要するにどこかの保険会社と言ったら失礼かもしれないけれども,自殺は一定の条件で持つよというのはないか,自殺は常に持たないという商品を出すというのを,それで本当にいいのかなと。ですから,結論は○○幹事と同じように,ドイツと同じように3年なら3年にして,任意規定だから,保険を売る以上は何らかの期間がたったら必ず自殺を持つようにせよとは言えないのですけれども,それが全然ない保険というのも,やはりちょっと問題だと思うのですよね。だから,不十分かもしれませんが,やはり○○幹事と同じような形で,その3年というのはドイツでも任意規定にされていますから,そういう形の規定がやはりあった方がいいのではないかなという感じがいたします。   それから,「決闘其他ノ犯罪」のところで,やはり犯罪をどう限定されるかというものが,限定されていないというところが一番の問題だと思うのですけれども,私は,これは基本的には,学説は必ずしもそうではないかもしれませんが,ほかのものを含めて,やはり任意規定的に考えていいのではないか。受取人の場合だけは絶対的強行法規だと考えるべきだと思いますが,この規定を使って,(イ)の場合が常にそうなるかというと,それはそういう仕組みを使って,しかしお金は遺族のところに行ったり,お金は保険金受取人がやるのかもしれないけれども,スキームとしては,何かどこかにお金が行くことを目的としてやった場合には,それは保険会社が払わなくてもいいとする必要はないわけです。だから,理論的に整理せよと言われれば,被保険者が死亡して,保険金受取人が金を手にすると,そういう事例は絶対的な強行法規で免責としなければいけないと思いますが,それに限らないわけですから,全体としては任意法規的に考えればいいのではないかと思うのです。   ただ一点,ここで省略されています第680条第2項の問題との関連があって,積立保険料を返すかどうかというのが,一定のやはりリンクがあると思うのですよね。そこも本当は強行法規的に何かバランスはあるのかもしれませんが,そこも定型的に書けないので,そういう配慮だけはする必要があると,そういう感じがいたします。 ● 「決闘其他ノ犯罪」などの免責の規定は任意規定として法定するという……。 ● そこは申し上げなくてすみません。書かなくてもいいのではないかと,そう思います。失礼しました。 ● 自殺の免責期間をどうするか。(ア)のように一応法律の規定としては全期間免責にしておいて,あとは実務というか,約款の定めにゆだねようとするか,両方の考え方があると思うのですが,もうちょっと分布を知りたいなと思うのですが,いかがでしょうか。なかなか難しいところだと思うのですけれども。   ○○委員。 ● そういう意味で,今,2年ないし3年が現行実務の一般的なところで,弊社でいくと今3年。確かに,もともと自殺目的で加入していて,今の御時世からいくと3年ぐらいがリーズナブルだろうというのは,多分そうだろうと思うのですね。ただ,自殺問題というのはいろいろな見方が現実にはあって,では,これから10年,15年,20年後に,3年というのがやはり合理的な期間かどうかということについては,ちょっと正直言って,いい意味でも悪い意味でも自信がない。そういう意味でいくと,ビシッと法律で書いてしまうと--例えば3年と書きましたと。では,時代背景でやはり5年ぐらいにしないといけないですよとなってきたときに,保険会社が勝手に,いわゆる免責期間を延ばしているというふうに,要は消費者にとって不利益な方ですよね。そういうふうになってしまうのも非常につらいなという部分があって,そういう意味で,今後のそういった社会情勢に応じて期間を,我々の都合ということではなくて,世の中のやはりその辺の自殺に対する考え方に応じて変えられるような規定にしておいていただければというのが,実は正直なところなのです。そういう意味で,答えにはならないですけれども,期間を入れるのがいいのかどうかも含めて,非常にやはり悩ましいなと思っております。 ● ○○委員。 ● 自殺の保険会社の免責の約款が1年,2年,3年と延びてきたことを,よく肌身をもって知っているのですが,その感覚で申し上げれば,もうここのところで,幾ら任意規定とはいえ,自殺によって死亡したときは全然払いませんよと言っておいて,現実には1年だったり2年だったり3年だったりというふうに延びるというのが大変分かりにくい。分かりやすくするべきかどうかという議論もあるのですけれども,大変すっきりしないという部分があります。そういう意味では,先ほど来,○○幹事がおっしゃっているみたいに,3年というのも一つの方法だと思うのですけれども,私の周りのいわゆる消費者問題に絡んでいるような人とお話をしたときには,ざっくり5年というのをやっておいて,5年というので切っておいて,それで任意規定になさるなら,保険会社,消費者契約法にも別に抵触しませんし,5年だったらいいのではないかというような,割とそういう,ひどく乱暴な5年の根拠--でも,3年の根拠だって根拠がはっきりしてはいないのですから,5年でもいいのではないかというような意見はありました。御紹介でございます。 ● 難しい問題です。   ○○幹事。 ● ここのところは,基本法で何年というのを入れるのは,やはりちょっと感覚的には,個人的な感覚かも分からないですけれども,なじまないというか……。やはり刑法とかで同意殺人とか,でも自殺は犯罪ではないとか,そういうちょっと初学者的な議論があるとして,だからといって,やはり宗教ではなくて法律として自殺を何か後押ししているようなきっかけというのがあるのは,やはり好ましくないのではないかなと思うのです。確かに基本法で全期間免責になっていて,あとは約款で1年になったり2年になったり3年になったりとするのは,消費者側からまぎらわしいということはあるし,私も個人的に保険契約と身近でなかった者なので,本当は全期間免責だと思っていたのです。でも,やはりこれが法律で2年とか3年とか5年とか書かれたときに,一般の人が「ああ,5年たったら亡くなってもいいのだ」というような,自分の中に素人的なところがあるとしたら,そういう素人的な基準を与えてしまうのではないかなと思うので,具体的な数字はやはり約款レベルで,多少まぎらわしいかもしれないけれども,基本法では設けない方がいいのではないかなと思っております。 ● ありがとうございます。   ○○委員。 ● 専門的なところが少し分からないまま発言をしますので,間違いがありましたらお許しください。   私は,自殺免責については二つの観点から考えるべきではないかと思います。一つは,既に御議論で一部に出ましたが,契約締結の時に,もう自殺をしようと,保険事故を生じさせようとして契約を締結した。それは,やはりその契約は否定的にとらえるべきだろうと思います。したがって,免責,あるいは別の方法でもいいかもしれません。しかし,契約締結のときにそういう意図がない場合に,保険事故を自殺によって生じさせてしまったというときには分けて考える場面があるのではないかと思います。一つは,これも保険法に詳しい,詳しくないというだけではなくて,心理学とか精神医学みたいなところかよく分からないのですけれども,非常にクリアなというか,健康な精神的な状態で自殺をする。それはおそらく契約締結の時から時間がたっていても,まさに自分で引き金を引いた保険事故の招致ですから,それはやはり保険金を支払わないという方向の解決というのが制度化しやすい。しかし,自殺の場合には,往々にしてそうでない場合に自殺に至るということがあって,それは遺族の保障というような観点,あるいは自殺をした人自身に責任を問うべきような基礎が十分でないという観点から,保険契約を維持して保険金が支払われるという解決があっていいのだろうと思います。   最後のところで申し上げたのは全然違う局面かもしれませんが,過酷な勤務状態で,それで心臓疾患などで亡くなれば,今,過労死というか労災になるのはそう問題がないと思うのですが,それで自殺をされたときにどうするかという問題がありました。やはり最後が自殺であっても労災になる場合があり得るという解決がなされるようになり,それはおそらく社会的には支持されていて,私もそれは正しい方向だと思いますので,大分離れたケースを今最後に挙げましたけれども,やはり自殺についてはそういう考え方でとらえるべき場合がある。そうすると,そこをうまく書けるのかどうかというようなことになりますと,よく分からないわけですが,それがもしかすると,あるいは期間というところで完全に対応はしていないのですけれども,答えを出すということであるならば,任意規定であるとしても基本法である保険契約法の中に期間を書き込む。それは2ないし3ぐらいなのかなと今私は思いますけれども,そういう解決というのがあってよいのではないかと思います。   最後にちょっと一つ質問なのですが,生命保険会社の方か,あるいは事務当局の方に教えていただきたいのですが,心理的・精神的に必ずしも健康な状態でなく,しかし最後の手段としては自殺というので亡くなった場合には,現在どういうふうに扱われているのですか。免責の中に自殺と書いてある,それに当たるとするのか,それとも何らかの解釈的な方法を使って,それは自殺に当たらないとして免責にしないというようなこともあるのでしょうか。その辺について,もう一定の知恵,工夫があるならば,今申し上げたことも少し変わってくるかなと思うのですが,そこをかなり形式的に判断されているとすると,やはり今申し上げたところを配慮した形のルールを考えるべきなのではないかなと思います。 ● 一般論としては,自分で判断能力がある状態かどうかというか,精神障害中の自殺かどうかということで区別をしているということで,○○委員,いかがですか。 ● 今,○○委員がおっしゃったとおりなのですが,精神障害中の自殺というのは,いわゆる商法でいう「自殺」に当たらないのだということで判例もありますし,実務もそのように扱っております。ですから,例えば1年以内,2年以内,3年以内であっても,精神障害中の自殺は病死としてお支払すると,そういう実態でございます。 ● そういう解釈,理論が一方であり,また犯罪絡みのときは,さっき○○幹事が言われたような,また特別の解釈,理論があり,かなりややこしい状態なのですけれども。   ○○幹事。 ● どちらの意見もあって,なかなか難しい問題なのですけれども,全期間免責にするにしても,法律で期間を書き込むにしても,いずれにしてもこれは任意規定になるわけで,1年から3年まで,2年又は3年まで延びてきたという,この経緯を見ますと,将来的にも,仮に3年とか5年と書かれたとしても,それを短くするような約款というのはおそらく出てこない。出るとすれば,仮に3年と定めたときにも全期間免責にするような会社が,あるいは法律で全期間免責としているのだったら別にいいではないかということで,まさに現在の2年ないし3年という免責期間を全期間免責にする会社が出てくる可能性は,まさに○○委員がちょっと懸念されたところだと思うのです。その全期間免責の約款を,そういう商品を売る会社が出てきたとして,自殺というのは死亡原因の中でも割と高い方ですから,必ず保険料は安くなると思うのですね。ですから,それなりにニーズはあるかもしれない。自分は絶対自殺なんかしないという人がおそらくそういう保険を買うのでしょうが,しかし,○○委員も先ほどおっしゃいましたように,人生というのはいろいろあって,保険に加入した時と,その後,10年,20年たってからやはり変わると思うのですね。そういうときに全期間免責の保険を買った人,その遺族のことを考えると,果たしてそういう方向に進みやすい法律にしてしまう--つまり,3年という期間を基本法で書き込むと,幾ら任意規定といっても,約款で全期間免責にするのは,やはりちょっとハードルは高くなると思うのですね。その両者を比べますと,やはり全期間免責の商品が大々的に売られて,それを消費者が買うという事態というのは,やはり余りよいことではないのかなという,これは法律論というよりは人生観というか,社会観の問題になるのかもしれないのですけれども,個人的にはどちらかというとそういう感覚を持っております。そうだとすると,法律で3年,あるいは5年という期間を設けるのは,それがいいのかなという気はいたしております。ただ,5年と定めてしまうと,3年に短くするのは公益的な問題からどうかなというふうにも判断されるおそれがひょっとしたらあるかもしれないということで,ちょっとそこは難しい問題ではあると思うのですけれども,ですから,どちらかというと期間は設けた方がいいのではないかというのが私の現在の気持ちでございます。 ● ○○幹事を説得しなければいけないと思っているのですけれども,反論をさせていただきます。   ○○委員がおっしゃったことはもっともで,まさにそのとおりだと思うのですけれども,ただ問題は,すごくめちゃくちゃに忙しい人は病院に行く暇もなくて,診断も受けていないまま自殺するという場合だってあって,確かに痲痺狂という,当時の用語で判断力を失っている場合には,自殺しても,それは自殺免責の適用はないという大審院の判例はありますけれども,やはりそれで救われない部分もある。それで,御存じのように,あしなが育英会には自殺遺児という方もいらっしゃるわけですよね。私は,自殺自身は倫理的には許されないという立場なのですけれども,商法上違法ではないにしても,幇助や何かは罰せられる。いろいろな議論があると思うのですけれども,何を言いたいかというと,やはり遺族のためのものだというところが重要で,ですから,任意規定だとしても,これが基準ですよという宣言的な効果をねらってやはり書くということがいいのではないかと,その点だけ申し上げたいと思います。 ● いろいろな意見が出て,問題点が大分,分かってきたと思います。なおこれで検討してもらおうかと……。   ほかに,このところはいかがでしょう。犯罪免責,ぜひ法定すべきだという御意見はありますか。これはないということでよろしいでしょうか。   それから,さっきの1のところでもありましたけれども,(注)3の受取人と現行法では書いてある範囲というのが,実質はもうちょっと広いのではないか。どこまで含めるかということで,これは解釈の問題があり,それから,何か規定の上で表すかという,そういう問題がある。何かこのあたりの御感触,御意見ございませんか。これは最終的にはドラフティングの問題ではあろうかと思うのですが,またちょっとお考えを聞いていただいて,何かまた後でありましたら御指摘いただきたいと思います。   それでは,大分時間も回りましたので,2のところはこれぐらいにして休憩に入りたいと思います。           (休     憩) ● それでは,再開したいと思います。   次は,3頁の「3 被保険者死亡の通知義務」の箇所でございます。まず説明をお願いします。 ● 次に,3では被保険者死亡の通知義務について取り上げております。   本文では,保険契約者又は保険金受取人は,被保険者が死亡したことを知ったときは,遅滞なく,保険者に対し,その旨を通知しなければならないものとする案を御提案しております。損害保険契約における損害発生の通知義務につきましては,保険法部会第3回会議において御審議いただいたところでございますが,生命保険契約における被保険者死亡の通知義務につきましても,その趣旨や効果等は基本的に同じであるといわれております。また,生命保険契約の実務でも,約款で商法と同様の通知義務を保険契約者及び保険金受取人に課すのが一般的なようです。そこで,本文では,現行商法第681条の規律を基本的に維持しつつ,損害発生の通知義務と同様に,殊更に発信主義を採用することはせず,到達主義の原則によるものとすることを御提案しております。   なお,本文の規律は,被保険者の死亡を保険事故とする死亡保険契約に関する規律ですが,実務上は,いわゆる生存保険契約に関しても約款で保険契約者等に保険事故発生の通知義務を課すのが通例のようです。商法第681条の趣旨は,一般に,免責事由の有無,告知義務違反の有無等を調査するに当たり,証拠の散逸等のおそれがあること等から迅速に調査に着手する必要があるため,保険契約者等に被保険者死亡の通知義務を課すものであるといわれておりますが,生存保険契約においては必ずしも同様の事情がないこと,実務上は保険契約者側からの通知がなくとも事前に保険者側から生存保険金の請求案内を行っているといわれていること等からすれば,生存保険契約において保険事故が発生した場合の法律上の一般的な義務として,このような通知義務を保険契約者等に課す必要まではないと考えられますが,この点について特段の御意見がございましたらいただきたいと思います。   (注)1では,実務上,損害保険契約と同様に,約款で保険契約者等に課されているいわゆる説明義務を法定すべきであるとの考え方について問題提起しております。   現在の多くの生命保険契約の約款には,保険契約者又は死亡保険金受取人が,会社からの事実の照会について正当な理由がなく回答または同意を拒んだときは,その回答または同意を得て事実の確認が終わるまで保険金を支払いません等の定めがございます。確かに,生命保険契約においても,保険者が免責事由の有無等を調査するに当たり,保険契約者等の調査が必要な場合もあるとの指摘がされる一方で,説明義務を保険事故が発生した場合の一般的な義務として課すことにつきましては,保険法部会第3回会議において御議論いただいたとおり,免責事由に関する証明責任を実質的に転換することにつながるのではないかとの問題等も指摘されているところでございます。そこで,説明義務を法定すべきであるとの考え方について,何か生命保険契約に固有の問題がございましたら御意見をいただきたいと思います。   (注)2では,本文の「保険金受取人」の範囲について問題提起しております。   現行商法第681条は,「保険金額ヲ受取ルヘキ者」と規定していますが,これには保険金受取人以外の者が含まれるのか必ずしも明らかではないため,被保険者死亡の通知義務を課すべき者として保険金請求権の譲受人,質権者等を含めるべきかどうかにつきまして御意見をいただきたいと思います。   (注)3は,本文の規定の性質について問うものでございます。   以上です。 ● それでは,ただいまの3の部分につきまして御意見をいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。   ○○委員。 ● まず通知義務のところですけれども,規定いただくということと,発信主義から到達主義に規定を変えられる,新しくいわゆる到達主義に変えられるところにつきましては,我々,基本的にこの方向で問題ないと思っております。   それから,死亡と書かれておるのですけれども,生存保険,特に終身年金なんかで,我々,いわゆる生存していることの証明をいただくのですけれども,それは個々に規定しなくても,一方で約款でやられていることが否定されないのであれば,そこについても問題ないものと思っております。そこがまず通知義務のところです。   あと,(注)のところの説明義務の関係です。これにつきましては損保のところでも御議論があったのですけれども,私ども生命保険としては,ぜひ立法化をお願いしたいと考えております。この理由なのですが,生命保険の場合は5日以内にお支払するということでやっておるわけですけれども,生命保険に固有の問題といたしまして,調査の対象が人の身体の状況ということで,医療機関等に対して情報収集をしていかないと,なかなか亡くなったときの状態が確認できないというケースがございます。特にそういうセンシティブ情報という中で,最近の個人情報保護法の関係で,契約者,あるいは医療機関の協力が得られないと,なかなか調査が進まないといった現状にもございまして,そのことが結果として,いわゆる保険給付金の支払の迅速化に対する支障になっているというケースもありますので,そういう観点から立法化をお願いできればと思っています。   ただ,一方で,この義務に違反された場合のペナルティーを重くするというのは,これまたいかがなものかと思っておりますので,協力がいただけなかった場合については,その調査義務が履行されるまでは我々は給付義務を負わない,いわゆる遅延利息の付利期間に入らないというぐらいの,いわゆるペナルティーという形で,そこについては軽いものにしていくという中で,そういう調査協力義務的なところを立法化していただければ大変ありがたいと,こういうふうに思っております。 ● 損害保険のところでも似たような議論がありましたので,今の御意見を踏まえて,なお検討していただくということで,ここの部分はほかにございませんでしょうか。   それでは先へ進みまして,「4 第三者のためにする生命保険契約」ですが,ごらんのようにこの部分は大変長うございまして,いろいろ複雑な問題もございますので,まずは4頁の「(1) 保険金受取人の指定又は変更の意思表示」の「ア 生前の意思表示による保険金受取人の指定又は変更」の部分につきまして,したがいまして6頁の上5行目までですか,そこまでをまず御説明していただいた上で御議論いただこうかと思いますので,よろしくお願いします。 ● それでは御説明いたします。   この4では,第三者のためにする生命保険契約,つまり保険契約者と保険金受取人とが異なる契約に関する規律について問題提起をしております。   先ほど御審議いただきました1との関係を若干整理いたしますと,1は,保険契約者と被保険者が別人の場合の規律の問題でございました。例えば,保険契約者と被保険者と保険金受取人とが全部別人である場合には,1とともにこの4の規律も全部適用されることになります。これに対して,保険契約者と被保険者とが同一人で,保険金受取人だけが別人だという場合には,1の①や②の規律は適用されず,1の③や4のうち(1)のウの規律を除いた部分の規律が適用されるということになります。   (1)では保険金受取人の指定又は変更の意思表示について問題提起をしております。この(1)はア,イ,ウ,三つの部分に分かれておりまして,アでは生前の意思表示による指定変更,イでは遺言による指定変更,ウではその他の規律ということで,被保険者の同意の問題について記載をしております。ひとまず,まずアの生前の意思表示による指定変更について御説明をいたします。   まず,そもそも保険契約者が保険金受取人の指定又は変更権を有するかどうかについて御説明いたします。   この点については,現行商法第675条第1項ただし書が規定しているといわれており,保険契約者は,保険金受取人の指定又は変更権を留保した場合に限り,保険金受取人を指定し,又は変更することができると解されております。しかしながら,生命保険契約は長期契約であることが多く,また保険金受取人の指定は保険契約者との属人的関係に立脚した極めてデリケートな心理的要因に基づくものといわれていることなどから,保険契約者が指定変更権を留保していなければ指定又は変更することはできないというのは,必ずしも合理性を有しないと考えられております。また,実務上も指定又は変更権を留保するのが通例といわれております。そこで,本文では,指定又は変更権を留保したかどうかにかかわらず,保険契約者が保険金受取人の指定又は変更権を有することを前提としております。   この点に関連し,保険契約者が指定又は変更権を有する場合でも,保険契約者がこれを放棄した場合には,その後保険金受取人を指定し,又は変更することはできなくなると一般に解されております。この「放棄」ということの法的性質等は必ずしも明らかではございませんが,契約相手方である保険者に対する意思表示によってする必要があるように考えられ,また,保険契約者がいったんそのような意思表示をしたとしても,保険金受取人がいる場合において,その者の同意を得たときは,再度保険金受取人を変更することができるとも考えられます。本文も,このようなことが可能であることを前提としておりますが,これらの点についても御議論をいただければと思います。   なお,商法第675条第1項ただし書の「別段ノ意思表示」については,指定又は変更権を留保するという意思だけでなく,そのほかに保険金受取人の権利取得の時期,内容,態様等に関する種々の条件に関する意思が含まれるという指摘がされることがございますが,法律上規定するまでもなく,形成権としての性質上許容されないものでない限り,かかる特別の約定は許容されると考えられますが,もし何か法文上規定をしておく必要があるものがございましたら御指摘いただければと思います。   次に,保険金受取人の指定又は変更の意思表示について御説明いたします。   この意思表示は,保険契約者の一方的意思表示によって行使される形成権であって,その行使に当たって保険者や新旧保険金受取人の同意は不要であるということは争いございません。しかしながら,意思表示の方法等については,現行商法上明文の規定がなく,学説上,(注)1に記載した各点について議論がされております。   まず,この(注)1の(ⅰ)の相手方のある意思表示かどうかについてですが,学説上は相手方のない意思表示と解する見解がございます。この点については,現行法上,相手方のない意思表示と解されているものには遺言や財団法人の設立行為等がございますが,その多くは法律上要式行為とされ,効力発生時期についても特別の規定に服しており,これらは意思表示による効果の重大性等にかんがみ,意思表示があったかどうか等を明確化するという考えによるものと考えられ,これらの趣旨は保険金受取人の指定又は変更にも妥当するとも思われますが,現行法よりも方式等を厳格化してまで生前の指定又は変更の意思表示を相手方のない意思表示とする必要はないようにも考えられます。また,近時,遺言による指定又は変更を導く前提として,相手方のない意思表示である旨を判示する裁判例がございますが,参考に掲げました昭和62年の最高裁判決は,このアで御議論いただく,生前の意思表示による指定又は変更について,相手方のある意思表示としたものといわれているところでございます。そこで,アの本文では,これを相手方のある意思表示であることを前提とした案を提示しております。   次に,(注)1の(ⅱ)の相手方がだれかという点については,昭和62年の最高裁判決は,保険者又は新旧保険金受取人としたものといわれておりますが,学説上はこれ以外の者に対する意思表示も否定されないという趣旨の指摘もされることがございます。しかしながら,相手方のある意思表示の相手方がだれでもよいということは,法的安定性等の観点から相当ではなく,相手方のある意思表示としての性質を有する形成権について,その相手方がだれでもよいとされている例は見当たらないようにも思われます。   そこで,まずA案としては,保険者又は新旧保険金受取人に対して意思表示をするものとする考え方を提示しております。   他方で,以上のような考え方に対し,学説上,保険金受取人の指定又は変更の意思表示は,旧保険金受取人やその債権者等の多数の者の利害関係に及ぼす影響が大きいことや,保険金受取人の指定又は変更の要件が緩やかであればあるほど,保険契約者の意思の尊重であり望ましいという発想には疑問があることなどから,少なくとも立法論としては意思表示の相手方を保険者に限定することなどが必要であるとの指摘がされております。そこで,立法論として考えるときは,契約当事者以外の者に対して意思表示をする必要があるのは具体的にどのような場合なのかということと,そのことによる弊害はないのかなどを分析した上で,あるべき規律を検討する必要があると考えられるところでございます。そこで,B案として,保険者に対する意思表示によるものとする考え方を提示しており,以上のような観点から御議論をいただければと思います。   さらに,ここで併せて(注)1の(ⅲ)についても御説明いたします。   この(ⅲ)は,保険金受取人の指定又は変更の意思表示の効力発生時期について問うものでございます。この点について,少なくとも保険者に対する意思表示については,到達時に指定又は変更の効力が生ずるとする大審院の裁判例がございますが,学説上は批判が強く,現行商法の下では保険契約者が意思表示を発した時に指定又は変更の効力を生ずるという学説が多いといわれております。しかしながら,隔地者に対する意思表示は,その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずると規定する民法第97条第1項本文の規律がある以上,意思表示を発した時に指定又は変更の効力が生じるとするためには法律の特別の規定が必要で,立法に当たっては発信主義による旨の規定を設ける必要があるかどうかという形で御検討いただければと考えております。この問題は,主として保険契約者が保険金受取人の指定又は変更の意思表示を発した後,これが到達する前に保険事故が発生した場合に,指定又は変更の効力を生じさせる必要があるかという問題であり,この点については保険契約者の意思を尊重するという観点から肯定的に解することも考えられるものの,他方で契約締結後に複数回にわたって行使されることがあり得る権利の変動を伴う形成権を発信主義の規律に服させることが法的安定性を害することにならないのかなどについても検討する必要があるようにも考えられます。   続きまして,(補足)のなお書きのところで対抗要件について御説明をしておりまして,ここについて御説明いたします。   ここに記載しておりますように,現行商法第677条第1項は,保険者に対する対抗要件を規定したものとされているところ,A案を採用する場合には,保険者が二重弁済の危険にさらされることを防止するために,これと同じ規律を設ける必要があると考えられます。これに対し,B案を採用する場合には,保険者は指定又は変更の意思表示によって指定又は変更の事実を認識することができることから,別途,対抗要件としての保険者に対する通知を要求する必要がないことになります。ただし,(注)1の(ⅲ)において問題提起しました到達主義か発信主義かという点について,仮に発信主義を採るとすれば,保険金受取人の指定又は変更の効力は保険契約者がその旨の意思表示を発したときに生ずることから,対抗要件制度を別途設けることが必要となりますが,その具体的内容としては,意思表示のほかに別途通知をするまでの必要があるのかなどについて検討が必要と考えられます。   この対抗要件に関する実務上の取扱いを御紹介しますと,単に書面による通知を要求するものと,保険証券への裏書又は表示を要求するものなどがあるようでございます。書面性を要求しているのは法律関係を明確にするためといわれておりますが,法律上も書面性を要求すべきかについては,例えば民法の債権譲渡の通知について書面性が要求されていないことや,保険法の適用の対象とする保険契約すべてが当然に書面性を要求すべきものであるのかなどを踏まえて検討する必要があると考えられます。また,保険証券への裏書又は表示については,保険者がするかどうかの裁量を有するものではないとされておりますが,対抗要件が具備される時期については,理論上は裏書等がされた時と考えることも可能と思われるものの,学説上,保険契約者から裏書等の請求があった以上は,裏書等がされる前であっても対抗要件が具備されたものと言うべきなどという指摘もされております。なお,この対抗要件は,その性質上,保険事故が発生した後でも保険金が支払われる時までは具備することができ,保険契約者が死亡したときは,その相続人が具備することができるとされるのが一般的でございます。   続きまして(注)2ですが,これは,保険金受取人の指定又は変更について保険者の同意を効力要件とすべきであるとの考え方について問題提起をするものでございます。   この考え方は,保険契約締結時には,保険者は,保険金受取人がだれであるかを考慮した上で保険を引き受けるかどうかを決することができるのに対し,契約締結後は保険金受取人が新たに指定されたり,変更されたりしたとしても,保険者がこれを拒絶することはできず,モラルリスク防止の観点から問題であるという問題意識によるものと考えられます。しかしながら,学説上,保険金受取人の指定又は変更について保険者の同意を必要とする旨を約款等で定めたとしても,保険金受取人の指定又は変更を自由とした趣旨から無効であるなどといわれることもあり,保険金受取人の指定又は変更を自由としつつ(注)2のような規律を設けることの当否については,慎重に検討すべきとも考えられます。   また,契約締結後のモラルリスクを防止するための制度としては,先ほど御審議いただきました保険金受取人の故意免責や,後ほど御説明しますウの被保険者の同意の規律があり,このほかにも保険金受取人の指定又は変更の意思表示の効力が詐欺,脅迫や公序良俗違反等によって否定されることもあり得て,さらに重大事由による解除の規律等によってもモラルリスクが防止されると考えられます。そうすると,これら一連の制度だけでは不十分であって,その危険性が保険金受取人の指定又は変更について常に保険者の同意を必要としなければ防止することができないものなのかどうかについて検討する必要があると考えられます。そこで,以上のような観点から御議論いただければと思います。   最後に,(注)3は強行規定性について問題提起するものでございます。   まず,契約によっては保険金受取人の指定又は変更を認めないという必要がある場合もあるとして,保険金受取人の指定又は変更に関する規律は任意規定とすべきとされることがございます。例えば,死亡保険契約については,団体生命保険契約等でこのような実例があるようですし,生存保険契約については,約款等において被保険者を保険金受取人とした上で,約款に保険金受取人の指定又は変更に関する規律が設けられていないものがあり,これは保険金受取人の変更を許容しない趣旨とも考えられます。また,消費生活協同組合法に基づく共済においては,あらかじめ約款で配偶者や同居の親族等を保険金受取人とする旨を画一的に規定して,又は変更権を認めないことを原則としつつ,指定又は変更の必要があるときに限って共済事業者の承諾を得て保険金受取人の指定又は変更をすることができるとされているようでございます。これは,制度自体が遺族の生活保障を趣旨としていることを受けた規律といわれております。これらのほかにも強行規定性が問題となり得るケースがございましたら御指摘いただき,これらを踏まえて御議論いただければと考えております。   以上でございます。 ● それでは,ただいまのアの部分について御意見をいただきたいと思います。いかがでしょうか。   ○○委員。 ● 私は,最初説明された,ここに書いていない案ですね。相手方のない単独行為という,そういうのがいいのではないかなと思っているのです。ですから,A案でもB案でもない。単独行為は,遺言とか財団設立と言いましたが,それはいろいろな波及効果があるわけで,ここはそんな難しい問題ではないので,単独行為であっても,単独行為とするためにはそういう要件があるという,そういうことではないのではないかと。   それで,この問題は,私は,今回の保険契約法改正で,生命保険契約に関して今後の高齢化社会における役割の重要性にかんがみていろいろ考えろと。これ,遺言のところの判例でもそうなのですけれども,当初は内緒にしておきたいとか,いろいろな要請があると思うのですよ。生命保険の使い方の今までの議論は,いろいろ現状の法を前提にして議論していますが,保険業界の新しい商品とか,そういうような観点からどういうものを描くかによりますけれども,考えたときに,ここは相手方のない単独行為にしておいた方がいいのではないかと,そういう感じがしているのです。   それで,(注)2の保険者の同意のところ,これは確かに引受けのときに一定の場合に保険金受取人について審査しておられますから,非常にお気持ちは分かるのですけれども,効力要件まではちょっととてもいかないのではないかということですね。   それから,あと,強行法規かというところは,要するに契約で,例えば相手方の単独行為になると,それを加重して,いや,相手方がない限りは認めないとか,そういう話にはなると思います。それはちょっと,そこまで認める必要はないのではないかと思いますが,あと,これには直接関係しませんが,今,普通の個人が入る生命保険で受取人の順位づけ指定を実際はできない形ですよね。つまり,理論としてはできるとみんな考えているわけですけれども,これは,たしか法制審議会,そこ自体でたしか御発言もあって,団体保険や何かだと受取人のところが法定相続人となっている場合もある。それはおかしいのではないか。それと同じ議論なのですけれども,やはりこれからは新しい--つまり,みんないわゆるファミリーエステートプランニングというか,死んだときにどうしようということを考えるときに,もうちょっと融通のきく形にしなければいけない。現行法のもとでも,保険会社の方はもう少し団体とか,それから簡易保険がそうですね。そういう順位をつけることを普通の皆さん個人が入る保険でもできるようにもっとする。これは法を変えなくてもできることですけれども,その上で,またイのところで申し上げますけれども,いろいろな保険の使い方があって,そのときに相手方があるというと,いろいろな障害が私はあると思うのです。ですから,そういうふうに考えてはどうかと考えております。 ● ○○委員。 ● 私どもの考え方を申し上げますと,このA案,B案と書いてありまして,先ほど御説明がありましたように,私どもは遺言との関係で,遺言の方が相手方のない意思表示ととらえたのでこういうふうになっているのだと理解していますけれども,したがって,実務を御紹介しますと,現在会社の方に受取人の指定又は変更のお申出をいただきますと,会社所定の書類を出していただいて,それを保険証券に表示を受けないと会社に対抗できないと,そういう考えでやっております。いずれのこのA案,B案を採るにしましても,保険者による過誤払とか二重弁済の危険を回避できるという観点と,それから,後から出てきます遺言による変更の場合との整合性を勘案した上で検討をお願いしたいと思っております。   それから,先ほどの到達主義の話ですけれども,保険者に対する意思表示を効力要件とするのであれば,私どもとしては到達主義をお願いしたいと考えております。   それから,今の効力主義ですね。受取人変更に対して保険者の同意を効力発生要件とするというのは,そういうふうにお願いしたいところはありますけれども,そう私どもとしては強くこだわりません。これは,最近の話では,例の保険買取会社に対する,あれは契約者変更と受取人変更,両方一緒に出てきたのですが,受取人変更で出ていくこともあるでしょうけれども,そういった面から同意を求めるという動きも確かにありました。しかし,今お話がありましたように,そう強くこだわるものではありません。   以上です。 ● ○○幹事。 ● 私はB案を支持するつもりです。といいますのは,保険金額自体を考えますと,ノーマルな保険金の金額,例えば1000万とか2000万,あるいは3000万,5000万とかという何千万単位の金額になるのが通常です。この受取人を変更するのに,契約相手方である保険会社に何も言わないで簡単に受取人が変わるものか。一般の方々がそういうふうにお考えだろうかというのが一つ疑問であります。一般的な意識と同時に,契約の受取人,権利者はだれですかというのを決めるのは,やはり契約の内容として相当重要な要素の一部だろうと思うのですが,それについて契約当事者である相手方に何も言わないで,そんなに簡単に変えられるのか。一般の契約の意識では,おそらくそういうことはお考えになっていないだろうと思うのですね。それが一つです。   それから,かといって契約者は,保険料を払って保険契約を維持して,それで保険の利益を自分の家族なり何なりの受取人に与えようとしていると,こういうことなので,その保険契約について自分がどう使うか,だれに与えるかということを,やはり自分で判断したいと思うのでしょうし,それについてまで保険者の同意を求めるということは一般に考えておられないだろうなと思うのですね。そうしますと,保険金受取人の変更について,できるだけ契約者の意思を尊重するということは当然重要だと思うのです。その際に,どういう形を要求するかということを考えた場合に,A案ですと,新旧の受取人どちらでも,意思表示したらそれで受取人は変わるのですよと,こういうことになった場合は,なぜその新旧の受取人だけに対する意思表示で変わるのか。ここの説明はちょっと理論的につきにくい。これ以外の人に言ったらなぜ変わらないのですかというところがちょっと分かりにくくなりまして,自由に変えられるといっても,この新旧の受取人以外の人に,あるいは保険会社以外の人に言ったら変わらなくて,新受取人という,これは新たに受取人になる人ですから,ある意味ではだれでもいいわけですね。だけれども,それ以外の人に言ったらだめですよと,こういうことになると,ちょっと法的に不安定な要素が出てくるなと思いました。ですから,A案の場合ですと,そういう法的不安定さをちょっと招く可能性がありますし,B案の場合ですとそれはまぎれもない。保険会社に言わなければ変わりませんね。しかし,保険会社に言えば自分の意思で変えられるのですと,この自由性は十分担保されていると思うので,巨額の金額を受け取れる人を変えるという場合には,やはり原則としては契約当事者に言うのが普通でしょうという考え方で法的安定性を保てればいいのではないか。   ただ,では,いつ受取人の効力が発生するのですかという問題が次に出てきますけれども,到達主義でいきますと,これは結局受取人の指定変更の意思表示自体が,いわば保険会社に到達するということは効力発生要件であり,同時に現状で言えば対抗要件も満たしてしまうということで,効力要件であると同時に対抗要件で,これでもう1回で終わりということになるのですけれども,ただ,そうすると,めったにないことかもしれませんが,発した後,交通事故で不運に亡くなられるということになるとどうなるのかという問題も出てくるという,ちょっと発信した後の問題がないわけではないかなと思いますが,そういう意味では,到達主義まで要求しないでもいいのではないか。発信主義を法定して,あとは対抗要件を保険会社側に備えるというルールにしておけば,それで安定性は保てるだろうなと今は考えております。   以上です。 ● さっき○○委員が,相手方のない意思表示でもいいのではないかと……。具体的なイメージとしてどういう……。遺言の話は後でまた出てくるのですが。 ● 信託証書に書くとか,それに今の議論もそうなのですが,私も最初そう考えたのですが,実際相続の遺言をつくられる方はどうしているか聞くと,もちろん時間の余裕がある場合は,保険会社に連絡して受取人指定・変更をしているわけですよね。それはしているのです。きちんとやる。しかし,これは要するに死に臨んでやるものですよね。要するに家族が,じいさんは生きていればいい,面倒は見ない。あとはお金だけだというようなときは,だんだんなってきて変えたい。だから,自筆証書遺言に対応するようなもので遺言のような方式をとらないという場合に,保険会社の同意をもらわなければいけないのか。だから,私は何か狭い--そこまで徹底しなくても,そういうだれだれさんへと書いてやればいいのかもしれないけれども。 ● 一応書面みたいなイメージがある。 ● そう。書面は必要だと思いますが,だから,やはり死に臨んで巨額なお金というのは,それは重要なのですけれども,それを自分の思うように処分したいというところをどう考えるかという問題だなと思ったのです。だから,確かにそうした方がいいのですけれども,もっと肝心なものが犠牲にならないかという,そういう思いなのですけれども。 ● ○○幹事。 ● 反論というわけではないですけれども,要式性といっても,要するに保険会社に対して通知をすればよろしい。別に契約者の意思を全然ないがしろにするというようなことではなくて,よく問題になるのは,病床で死亡直前に,それこそ今おっしゃられたように受取人を変えるというようなことなのですけれども,ただ,そのケースは非常に実際は支払に困られるようなケースがしばしば起こるわけですね。ここはクリアにしておかないと,本当にだれに支払ったらいいのだということが常に問題になる究極的な場面だと思うので,そこの法的安定性はやはり確保しておく必要があるのではないかというのが私の考えです。 ● ○○委員。 ● 説明の中で共済の部分も触れていただきましたので,若干補足をさせていただきます。   この案でいいますと基本的にはB案で,なおかつ同意ということが必要だろうと考えております。これは生命保険会社さんにもそのとおりということではなくて,あくまで協同組合としての家族主義といいますか,そういうところから出てくる物の考え方であって,確かにモラルリスクの問題だとか,いろいろあるかと思うのですけれども,基本的な協同組合の立法の趣旨との関係でいった場合に,やはり同意といいますか,当然契約時に説明をするわけですが,そういう中でどうしても需要がある場合は変更するということはありますけれども,おのずから新しい受取人の範囲というのは,当然法の趣旨に沿った範囲でしか認めないということで実際の今の実務はやっております。したがって,通知だけされて全く関係ないところに共済組合員が行ってしまうというところは,法の立法趣旨と非常に異なってしまうということがございますので,一応一律的にここまでの範囲ということで切るのではなくて,一定の申請があれば内容を見て諾否を決めるという意味での同意という実務を実際にやっております。そういう部分で,全体にそういうふうにすべきだということではなくて,協同組合の需要としてそういう実務をやっているということについて御承知を願いたいということであります。 ● ○○幹事。 ● ちょっと確認をさせていただきたいのですが,この生前の意思表示による保険金の受取人の指定又は変更のところで,A案,B案とあって,そして先ほど○○委員からC案として,相手方のない意思表示という考え方もあり得るということだと思います。それと,次の遺言による保険金受取人の指定又は変更との関係なのですけれども,仮にA案又はB案のように,ともかく相手方のある意思表示であると規律してしまうと,単に遺言書の中で保険金受取人を甲から乙に変更する,あるいは乙に保険金を受け取らせるのだということを書いた場合には,それは相手方のない意思表示だから,それだけでは意思表示としては意味のないものになってしまう。だからイの遺言による保険金受取人の指定又は変更という,ここで別途立法しなければいけないという,そういう関係にあるということで,C案のように相手方のない意思表示であると考えれば,遺言書の中で甲から乙に変更すると書いていた場合も,これは意思表示としては有効なので,遺言に関して特に明文の規定を設けなかったとしても,解釈によって,それは意思表示として有効であるから受取人は変更されるという,そういう関係にあると理解してよろしいのでしょうか。 ● 今,御指摘いただいたとおりの理論的な関係に立つと考えておりますが,その上で,なお遺言の場合に,遺言独自の問題点といいますか,遺言プロパーの何か規律が必要かどうかは考える必要があるだろうと思っております。 ● ただ,遺言として受取人変更の効力を認めるということになると,おそらく民法の遺言規整に従うということになるのでしょうから,遺言として無効であれば,例えば日付が書いていないとか署名がないとかいう場合には,これは受取人変更の意思表示としても効力を生じないということになってしまうと思うのですね。だから,保険金受取人変更に関しては,できる限り保険契約者の意思を尊重すべきであるという,その要請からすると,A案又はB案を採った上で,かつ遺言に関しても遺言のルールに乗せて規律するという考え方というのは,確かに法的安定性には資すると思いますけれども,保険契約者の意思をできるだけ反映するということからすると,ややマイナスの方向に働くかなという気はするのですね。そういうことで,私はA案,B案が本当にいいのかなという,どちらかというと○○委員に正面から同調はしないけれども,親近感を覚えているというところでございます。   それから,もう一つは,到達主義が必要かどうか。発信主義でいいのか,到達主義によるのかということなのですけれども,先ほどから話題になっている保険契約者兼被保険者が,まさに病床で死の直前になって受取人を変更したいというときに,長年お世話になってきた保険外務員の人を呼んで,あと念のために弁護士さんも呼んで,そこで変更すると意思表示をしたとしても,保険外務員は,おそらくそういう意思表示の受領代理権はありませんから,それを保険会社に持ち帰るまでに死亡してしまったら,おそらくこれは到達主義であると,それはもう意思表示としては無効であるということになってしまうわけです。おそらくそうなのでしょうね。実際問題として,おそらくそういうケースというのは結構あると。被保険者死亡の直前のときになってばたばたして保険金受取人を変更するということはありますので,ですから,そういうことも考えますと,仮にA案又はB案をとるとすれば,(注)1の(ⅲ)も例外を定める必要というのは私はあるのではないかという気がいたします。 ● ○○幹事,どうぞ。 ● 私も今のC案に賛成です。というのは,生命保険の場合の保険金というのは,今の昭和40年の判例とは異なると思うのですけれども,やはり被保険者の遺産性が強いと思うのです。ということは,その受領権者をだれに指定するかという行為は,やはり遺言となじむことだと思うのです。というのは,遺言というのは要式行為性という意味ではなくて,亡くなる方の最後の自分の財産の処分の意思はできるかぎり尊重するという契機が働くという意味なのですけれども,そうしますと,やはりだれに向かってというのではなくて,例えば形成権として,旧受取人から新受取人にその受領権が移る形成権の行使というのは,どちらかにするというよりは,最後の意思なので秘密性が高いですし,保険者に利害が--もちろん利害があるときには別途の形で規整できると思いますし,そうすると単独の意思表示ということになって,単独の意思表示であれば,いつしたかとか,そういう明確性のためには要式性はある程度備えなければならない。では,要式性を備える場合に遺言の程度まで必要かどうかとなると,そこまではない。そういう立法論もあるかとは思うのですけれども,書面を要求するというレベルにして,だから書面になされた遺言状も有効であるし,又は保険契約上,保険会社に対して受取人はだれそれと書いてある,それも書面行為なので有効である。途中で気が変わって,やはり次女の方がいいやとかと思ったときには,書面をどこかに残しておけばよいということになるのではないかなと思います。   そのときに考え方として,生命保険の保険金というのが被保険者の遺産ということが強いのではないかというところと,昭和40年の判例との関係なのですけれども,おそらくその判例の背景には,第三者のためにする生命保険契約というのは,そのような契約が締結されたときに,当然に第三者が利益を享受するというところにひっかかってしまって,そうすると,停止条件付きであれ,その請求権というのは指定された者に帰属しているから相続財産ではないのですよと言わざるを得なかったのではないかと思うのです。ですので,今回当然に帰属するのではなくて,ころころ変わり得る保険契約者の意思というのを尊重するという形であれば,そこのところも場合によって遺産性も認められてということになるのではないかなと思います。 ● ありがとうございます。   ○○幹事。 ● もう一点補足したいのですけれども,生命保険契約が一本というか,一つの契約だけであれば,全財産をだれそれに遺贈しますとかという形で,場合によったら,その意思解釈として受取人変更もあったと解釈するということはあるかもしれないですけれども,遺言の残し方でも非常に厄介な残し方があって,例えば何千万はAさん,何千万はBさんとかという形で指定した場合,複数の保険契約があった場合,どの保険契約のどの保険金をだれに払うのだという問題が当然出てきますよね。ところが,不明確な指定の仕方,あるいは変更の仕方で実際に払えるのかという問題が,また紛争の種になってくるというようなことを考えると,一点,明確化というのですか,安定性を保てるような要式性を要求しておかないと,これは実際,遺産相続とかいう場面であったとしても,非常にまた紛争を大きくするだけになってしまうという懸念を持ちますので,それで繰り返しになりますが,B案ということを申し上げております。 ● ○○委員。 ● そういう意味で,保険会社の立場から言いますと,できるだけ契約者の意思は尊重したいということと,一方で,保険会社として迅速な支払だとか正確なお支払ということに対して制約とか,そこで二重払いになるようなことは回避したい。そういうのが,先ほど○○委員からもお話があったように我々の基本スタンスなのですね。そういう意味でいくと,相手方のない意思表示がいいのか,遺言のところの規律も含めて,あるいは相手方のある意思表示にしつつ--多分そうなると,A案というのは非常に不安定性が増すので,相手方のある意思表示であれば多分B案しかないのだろうなと思っているのですけれども,そのときに相手方があるという方がいいのか,ないという方がいいのか。多分遺言の問題と相当絡みながら整理をしていかないと議論が進まないのではないかなという感じが実は正直なところしておりまして,ここだけで本当に議論がきちんと完結するのかなという気がしておるのですけれども。 ● それはそのとおり,絡んではきますね。民法の先生方,いかがでしょうか。昔から,私なんかもそう書いていたかもしれませんが,相手方のない意思表示なるものが保険法の本には書いてあるのですね。おそらく事務当局の人というのは,保険法を初めて勉強して,何と変なことが書いてあるのだろうという印象をおそらく持たれていると思うのですね。では,何で学説が相手方の意思表示なんていうことを言ってきたのかというと,昔は遺言で何とか認められないかねと,その一つのとっかかりみたいな理屈だったと思うのですけれども,それは一応,今日の案は次のイのところで遺言は遺言で別に考えましょうということになると,それ以外に相手方のない意思表示というのというのは,何か民法の一般原則からいうといかがなものでしょうかねということで,おそらくA案,B案というふうなものが出てきたと思うのですが,そのあたり,どうなのですかね。今日は割と意見としては,相手方のない意思表示という意見も出てきたと思いますけれども。   ○○幹事。 ● 遺言の場合以外に,相手方のない一方的な意思表示というのをどうやって認められるかという問題が確かにあると思うのですけれども,これ自体は不可能ではないと思います。ただ,ここで規律を決めるに当たって,その性質論でいくのがいいのかどうなのかということがあると思うのですね。今,○○委員もおっしゃいましたし,その前に○○幹事もおっしゃったと思うのですけれども,遺言の場合にどういうふうに規律するのかということとの関連というか,見合いでないと議論しにくいところがあると思うのですね。私は,先ほどから議論を伺っていて,どちらがいいのかなと思っていたのですけれども,どうも後ろの方をどういうふうに規律するのかというのと併せていかないと議論しにくいなと。それぞれ込み入った問題であるのは分かるのですけれども,イについての御説明を伺った上で,またアも含めて議論をさせていただく方がよろしいかなと思いますが。 ● それでは,一応アのところの説明についての御意見は出てきておりますので,イとも関係しそうだということで,では,ひとまずイの御説明を伺った上で更に議論を続けたいと思います。   それでは,事務当局の方でお願いします。 ● それでは,続きましてイについて御説明いたします。   現行法上の議論の状況につきましては,資料の(補足)に記載いたしましたとおりでございまして,保険金受取人の指定又は変更は,遺言事項として法定されているわけではないことから,そもそも遺言によって保険金受取人を指定し,又は変更することができるのかなどは,必ずしも明らかではございません。また,学説上は遺言の場を借りて指定変更の意思表示をしていると見るべきとの見解も主張されるなど,さまざまな議論がされております。とはいえ,近時は遺言で保険金受取人を指定し,又は変更することができる旨判示する裁判例が複数あり,保険実務上も遺言で指定又は変更されたものとして取り扱っている場合もあるといわれております。   そこで,イでは,保険金受取人の指定又は変更を正面から遺言事項として法定して遺言ですることができるのかという論点に決着をつけるとともに,遺言でする場合の法律関係等について明確化することを提案しております。   検討すべき問題点については(注)1で説明しております。それぞれ御説明いたします。   まず(ⅰ)では,保険者に対する対抗要件をだれが具備するのかという問題提起をしております。この点,保険者は通常,遺言で指定又は変更がされていることを知らないと考えられることから,対抗要件制度を設けることを前提として検討する必要があると考えられます。そこで検討しますと,遺言者である保険契約者は,指定又は変更の意思表示の効力が生じた時には既に死亡していることから,一般原則からすれば保険契約者の相続人が対抗要件を具備することとなると考えられます。しかしながら,遺言で保険契約者の相続人以外の者が保険金受取人に指定又は変更されていた場合には,保険契約者の相続人が対抗要件を具備することを期待することはできないという指摘もされております。また,遺言者が生前に通知をしておかなければならないとすることも考えられないではございませんが,保険金受取人の指定又は変更を遺言事項とする意味を減殺させるほか,保険者の地位が不安定になりはしないかという点について検討を要するように考えられます。このほか,遺言認知や遺言による相続人の廃除,取消し等を参考にして,対抗要件の具備を遺言執行者がしなければならないものとすることも考えられるものの,他方で遺言執行者を選任するには費用等がかかり,保険金受取人の指定又は変更を遺言事項とすれば,保険金受取人は民法第1010条の「利害関係人」として遺言執行者の選任の請求をすることができるとも考えられることなどからすれば,法律において必ず遺言執行者がしなければならないとするまでの必要があるのかという観点からの検討も必要と考えられます。そもそも,ここで議論すべき対抗要件は,保険者が二重弁済の危険にさらされないようにするための制度であるところ,このような観点からどのような制度にすべきかについて御議論いただければと思います。   次に,(注)1の(ⅱ)ですが,保険契約者と被保険者とが別人の場合にも遺言による指定又は変更を認める必要はあるかについて問題提起しております。この場合には,確かに,保険契約者が死亡前に保険金受取人を変更しない旨の意思を表示していない限りは,保険契約者の相続人が保険金受取人を変更することができ,また,保険契約者の相続人は契約を任意解除することもできると考えられます。しかしながら,保険契約者の意思を尊重するなどという観点からは,殊更に遺言ですることを否定する必要はないようにも考えられ,これを認めることによって何か問題は生じないのかという観点から御議論いただければと思います。   次に,(ⅲ)では,(ⅱ)を肯定する場合には,ウで後ほど御説明します被保険者の同意をどのようにして得ることになるのかということについて問題提起をしております。被保険者の同意は,被保険者が死亡するまでに得る必要がありますが,保険契約者が死亡し,遺言の効力が生じた後に得ることでもよいのか,被保険者はいつ,だれに対して同意の意思表示をするのかなどについて御議論いただければと思います。   続いて(ⅳ)では,遺言の必要的記載事項を法定する必要はあるかについて問題提起しております。遺言で保険金受取人が指定され,又は変更された場合に,どの契約について指定又は変更の意思表示がされたのか,指定又は変更された保険金受取人はだれであるのかを特定することが必要ですし,保険金受取人が2人以上であった場合には,だれからだれにどの割合で変更されたのかも確定する必要がございます。この点,遺言の解釈方法については,遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく,遺言者の真意を探求すべきものといわれており,遺言による指定又は変更の場合にはこれが妥当するとも考えられますが,そうであったとしても,保険金受取人の指定又は変更が関係者に与える影響等を考えると,遺言の必要的記載事項を法定することによって,その意思表示を明確にしておくべきとすることも考えられることから,その必要性も含め御議論いただければと思います。   なお,ここで遺言による指定又は変更に関する規律を法定した場合の法律関係について若干整理しておきます。   まず,保険契約者が遺言作成後に別人を保険金受取人とする生前の意思表示をしたり,その旨の遺言を作成したりした場合には,民法第1023条の規定により遺言は撤回されたものとみなされることになると考えられます。   また,先ほども御指摘がございましたところですが,遺言がその方式に違反したことなどにより無効とされる場合には,保険契約者の死亡時に指定又は変更の効力が生じることはなく,遺言作成時に指定又は変更の効力が生じたとされることもないようにも考えられますが,学説上は相手方のない意思表示とすれば,遺言が無効であっても遺言作成時に指定又は変更の効力が生じるとされることもございます。この点は,そもそも相手方のない意思表示とするかどうかという問題のほか,遺言事項としつつ,遺言が無効である場合には,遺言作成時に意思表示の効力が生じたと考えることがそもそも可能なのか,ほかにそのような例があるのかなどを踏まえ,御検討いただければと考えております。   さらに,保険契約者と被保険者とが別人の場合において,遺言作成後,保険契約者が死亡する前に保険事故が発生したときも,指定又は変更の効力は生じないようにも考えられますが,併せて御検討いただければと考えております。   このほか,現行の保険実務で問題とされている点や民法の相続法などの観点から,何か検討すべき問題点などがございましたら,併せて御指摘いただければと考えております。   (注)2は,アの(注)2及び3と同じ点が問題となることを注記したものでございますが,ここで若干強行規定性について御説明いたします。   この点,遺言に関する相続法の規定は強行規定であるといわれることがあり,例えば民法の各規定は強行規定と考えられますし,保険法に,例えば遺言執行者に関する規律を設けた場合には,それも強行規定であるとも考えられますが,先ほどアで御説明したとおり,保険金受取人の指定又は変更を全く認めないことも仮に任意規定としたならば可能であるということになり,遺言で指定又は変更をすることができる旨を定めるイの本文の規定についても,その適用の排除が可能であるとも考えられます。また,保険金受取人の指定又は変更をしない旨の意思表示をしていたときも,遺言で指定又は変更をすることはできないとも考えられます。このほか,検討すべき問題点がございましたら御指摘いただいた上で,強行規定性についても御議論いただければと思います。   それでは,併せて最後のウのところについても御説明いたします。これは,現行商法第677条第2項の規律を維持するものでございます。ここでは,被保険者を保険金受取人に指定し,又は変更する場合に同意を不要とする規律は設けておりませんが,これは先ほど冒頭に御説明しました1の①と同じ理由によるものでございます。   なお,ウについては,(補足)にも記載いたしましたように,冒頭に御審議いただきました1の(注)1及び2と同じ問題がございますので,第三者のためにする生命保険契約に特有の問題がございましたら御指摘いただければと考えております。   以上でございます。 ● それでは,イの部分について,先ほどのアと関連しますが,当然その部分も含めてで結構でございますので御意見をいただきたいと思います。   ○○委員。 ● まさに遺言と一緒に,またそれ以外のことも本当は一緒に考えなければいけないことだと思うのですけれども,結局,結論として,まず遺言事項にはしない方がいいのではないかと私は思っています。遺言の上で書くことはできる。また信託の公正証書のように書くことはできる。そして,遺言に対しても有害的な効力を与えない。だから,意思表示が記載された場合であっても,また信託証書に書かれた場合でも無効の効力に影響を与えないという前提で考えた方がいいのではないか。   特に私が非常に心配しているのは,特別受益権とか遺産分割との関係でいろいろ議論があるのですが,最高裁は一応別物だと考えた。遺言事項にして,相続法のもとにあるような保険法があるというのは,私はちょっと--これは先ほど○○幹事が遺産になじむとおっしゃったのですが,そこは商法学者はみんな違う。そうは考えていないと思うのです。みんな違うと言ったらせん越で撤回いたしますが,従来の判例は固有権的なもので考えてしまっている。私はそこを守っていくことが,国民のいろいろなニーズにこたえることができるのではないか。ですから,遺言については,遺言事項と支払が遺言の上に乗っけられるということをきちんとした法律で書く。そうすることによって意思を生かすことができる。   この平成10年3月25日の,要するに遺言執行者を保険金受取人にした事件,これは相手方なき単独行為と考えていいといった事件で,弁護士さんも有名な方で裁判長も有名な方ですけれども,これを見ると何が問題かというと,やはり,要するに法定相続人の人に内緒にしておきたいのですよ。特に相続人以外の人にあげるときに秘密にしておきたい。もちろん税制上不利ですよね。不利でも保険料は1700万ぐらいで保険金は二千何百万。税がかかっても十分賄える。ですから,そういう意思を実現する手段として,いろいろ保険の世界,そういうことまでしなければいけない。それをもっと使いやすくすると,そういう形で遺言の上に乗っけることはできるということを正面から規定した方がいいのではないかと思います。   それからあと,ですから,対抗要件は遺言執行者がもちろんとる--この事件でもそうだったのですね--ということでいいと思いますけれども,あと,6頁のこの(注)の(ⅲ)のところ,新しい被保険者の同意,将来変えたときにどうとるのか。これも私は,保険会社はもうちょっと,保険というものを人にとって魅力的なものにするいろいろな工夫があると思うのですよ。例えば,私がいろいろお聞きした中で十分考えられると思ったのは,例えば,息子は先に死んでしまった。息子にお嫁さんがいるけれども,お嫁さんは相続権がない。その下に連れ子がいるということですね。連れ子もいるし,自分の血のつながった子もいる。しかし連れ子の方には何も行かないというときに,この奥さんを保険金受取人にする。しかし,あなたは結婚してもいいよ,結婚したときは受取人を子供にするよと,そういう条件付きの承諾を最初にもらっておいてやるというやり方は認めてもいいと思うのですよね。だから,どういうふうにとるか。いないではないかということかもしれませんが,それはいろいろなやり方があると思いますので,そういう何かコンテクストの中でもうちょっと考えてはどうか。信託証書に書いてもいいし,さっき言った判例は,遺言執行者は使いましたけれども,信託の受託者を保険金受取人にする,若しくは信託財産の中に生命保険を入れるということだって,それで保険金受取人を変更,受託者若しくはその他の相続人に与えるとか,いろいろなやり方があると思うのです。そういうことを考えるときには,やはり単独行為がいいのではないかということなのですけれども,そんな意見です。 ● 今,遺言ですることができるけれども遺言事項ではないというお考えというのは,では,その遺言が要式性を欠いて無効……。 ● なっても残ると。先ほど……。 ● ということは,先ほどの○○幹事の意見と同じで,指定変更の部分だけは残ると。ただ,その場合に,遺言の中身は本人は一体として考えているので,指定変更のところだけ効力が残るというのは,何か本人の意思に非常に反するような結果が生ずるのではないかなという気は前からしているのですけれどもね。そういう意味では,このイのように遺言は遺言と。   それから,相続性との関係ですけれども,これは保険金を遺産の対象とするのではなくて,指定変更行為が遺言事項になるということなので,固有権性は維持されるのではないかなと思うのですね。 ● それはそういう理解です。それは分かります。 ● 本人が誤解しやすいという面は,それは確かにあるのですけれどもね。   どうぞ,○○委員。 ● 私どもの考え方を申し上げますと,遺言による受取人の指定変更なのですが,現在では裁判例とか学説が分かれていますので実務で慎重に対応しておるのですが,これを法定するということになりますと,契約者の意思尊重とか,あるいは一定のニーズがあるというのであれば,まず規整を明確化していただきたいのです。やはり私どもが一番心配しますのは,保険会社の過誤払とか,遺言に直接利害関係のない保険者が遺言の解釈をめぐる争いに巻き込まれて,迅速・確実な保険金の支払に影響を及ぼすことのないように,そういう意味で要件の明確化をお願いしたい。   それで,例えばどういう点かといいますと,一つは保険金受取人の変更である旨の明示ですね。今,遺言として出てくるのは,そこら辺がはっきりしないものが多いのですね。それから,対象の保険契約。先ほど来出ていますけれども,複数契約がある場合等もありますので,明確にそこを規定する。それから,新受取人を特定できると,そういうようなことをお願いしたいと思うのですが,そのほかに,やはり遺言執行者というのを必ず置くということもお願いしたいと思うのですね。そして,その遺言執行者から保険会社に通知をいただかないと対抗できないとすることを法定化することが考えられる。   それから,契約者と被保険者が別人の場合なのですが,先ほど御説明がありましたように,遺言を作成するときに同意をとっておくのか,あるいは死亡後,同意をとることを条件に有効にするのか,いずれにしても被保険者の同意というのは必要だと思うのですね。そうしますと,遺言作成時ですと公正証書でつくって,そこに被保険者も公証人役場に出向いて立ち会うとか同意するとか,そういったことも考えられると思うのですね。いずれにしても明確化していただきたいと思います。   以上です。 ● この(ⅱ)のような,要するに契約者と被保険者が違うときに契約者が遺言でというのは,これを認めるニーズはあるのですか。今まで事実上,契約者と被保険者が同一人物であるという前提で考えてきたのですが,ぜひこういうものも認めた方がいいという御意見はありますか。   どうぞ,○○幹事。 ● すみません。結論としては認める必要がないのではないかと思います。それが先ほど申しました保険金の受取人の固有権だというところは動かないにせよ,被保険者の死亡によってある人が財産を取得するというのが,やはり--すみません。先ほどのお話なのですけれども,その遺産の処分というところになじむということで,だから遺言に書くということがなじむのだと思うのですけれども,これが他人を被保険者として保険契約を結んで,自分の父を被保険者として保険契約を結んで,それは同意をとって娘にしていたけれども,最後に息子にしたいというのが,亡くなる方の意思としてさほど重視しなければならないものかというと,ちょっとそこのところは違うのではないかなと思います。 ● ○○委員。 ● 今,○○委員がおっしゃった場合は,私は認めてもいいのではないかと思います。実はそれは次の頁の(注)1とも関連するのですけれども,先ほど言ったように,父親がいて,長男は先に死んで奥さんがいる。奥さんを被保険者,受取人にして自分は保険料を払う。主眼はその下にいる子供にやるためだというような場合に,一時払で払って,奥さんが死んだら子供に行くように条件付き同意をとっておく。相続人が解約するではないかという話が次の問題で,それがまたそのときに,私は解約できないようなものも,今の現行法ではできなくても少し考えてもいいではないかと。保険会社はもうちょっと--つまり,公正証書をつくるとか,信託を使ってもらうとか,いろいろ大変ですよね。もうちょっと簡便な形で自分の意思を実現するようなものを考えてもいいのではないかと思いますけれども,それはちょっと後の話にして,だから,ここは一概に否定する必要はない。いろいろな工夫をしてもらう前提として否定する必要はないと,こう思います。 ● ○○委員。 ● 先ほどの発言と矛盾するところがありますが,遺言そのものを法定化するかどうかというのは,また別の問題としてあると思うのですけれども,遺言そのものの性格から考えた場合に,一定,例えば約款等で明確に入れるとかいうことはしなくても,現実的にそういうお話が来た場合に,先ほどそれぞれの法律の立法趣旨といいますか,そこを損なわない範囲ということを前提で考えた場合,ノーということにはならないだろうと現実的には思うのですね。ただし,その中身がきちんと,これらの契約についてはこの方とか明確に書いていないと後で大変になりますので,そういうきちんとした遺言であれば,なおかつ一定の指定される方についての範囲について問題がなければ,実務として認めることについてはやぶさかではないのではないか。ただ,表に新しく遺言もできますよという形まではやる必要はないのではないかと思っています。 ● ○○委員。 ● もし,この規定が第三分野にも適用又は準用されるのであればということなのですが,そうすると,傷害保険や自動車保険の死亡保険金についても問題になる可能性がありますので,基本的にはいろいろな具体的なトラブルが出そうであれなのですが,それなりに遺言で指定変更ということの意味は一定理解できますので,基本的には生保委員さんと同じような意見なのです。けれども,仮にこれを導入するということであれば,例えばいろいろ,逆に先ほど申し上げたトラブルができるだけ回避できるように,記載事項についても,例えばすべての保険の受取人をだれそれに変更するというのではわけが分からなくなったりしますので,保険会社とか保険種類とか証券番号のような保険を特定できるような事項を書いていただくと,こういうような形で仮に規定を設けるにしても,この辺は明確にしていただければと思います。 ● かなり意見をいただきましたが,特に遺言で指定変更すること,これを絶対認めるべきでないという御意見もなかったようには思います。認める場合にはいろいろ詰めるべき問題が多々あるというふうなこと,それから,後の関係をどう整理するかという,なかなか難しい問題があるということは,今日十分御指摘いただいたと思いますので,遺言による指定変更も認めるようなことを一応仮定して,いろいろな問題を更に詰めていくというふうな方向で更に検討いただいたらどうかと思います。   ほかに,このあたり御意見ございませんでしょうか。 ● 更に検討を進める上で,また教えていただきたい点が二点ほどあるのです。   その一つは,○○委員から,受取人には知らせたくない,あるいは,特に相続人以外の人を受取人とするような場合に隠しておきたいというか,知らせたくない,知られたくないというニーズがあるというお話だったのですが,受取人の変更をした場合に,それはどういう形で旧受取人,あるいは新受取人に伝わることになってしまうのかというのが,もう一つぴんとこないのですが。もともと先ほど○○幹事からもお話がありましたとおり,第三者のための保険契約を結べば,それは受益の意思表示も何もなく,その人は受領権,保険金請求権を持つという理解と思っていますけれども,それとの関係で,指定変更したら,第三者とは無関係のところで,もうこの人を受取人にするよと言って契約を結べば,その人は権利を持ちます。変更しても,その人と関係ないところで変更が行われているだけのことのような気もするのですけれども。 ● 私が言ったどの部分か,ちょっとよく……。 ● 実務の方でお答えしたいのですが,今,○○幹事がおっしゃったように,私どもとしては被保険者の同意を得て契約者による受取人変更をやりますけれども,受取人には基本的に伝えることはやっていません。 ● 一つ考えましたのは,受取人とされる者は何らかの機会に知って,長男が「今でも私は受取人ですよね。まさかおやじは次男に変えていないでしょうね」と問い合わせをしてきたときに教えるということはあるのでしょうか。 ● どうですかね。 ● 基本的には個人情報の保護の関係がありますから,契約者からの問合せにしか保険会社は回答いたしませんから,受取人の人から問合せが来てもお答えをしていないというのが実情だと思います。 ● 今後,こちらも検討したいと思いますし,こういうケースがあるのではないかというのがあれば御教示いただきたいと思いますが,今のが疑問の一点です。   もう一点は,先ほど○○幹事がおっしゃったことかもしれませんが,保険の勧誘員などには意思表示の受領権がないからということを確かおっしゃったと思うのです。それはまた一般的な理解なのでしょうか。私としては,保険契約というのはすべて勧誘員を相手に契約締結行為,申込みも,あるいは保険金の請求もすべてやっていて,その人に受領権があるというのを素人考えで思っていたのですけれども,違うのでしょうか。 ● 例えば,保険金とか給付金の請求なんかは,いわゆる履行遅滞に陥るかどうかというのは,いわゆる本店に書類が到達した時と確か規定をしていると思います。そういう意味で,営業職員を通じて書類を出していただいたときも,その人から,例えば営業部を通じ,支社を通じて本部に伝えるべきということなので,受領権のあるなしというのとちょっと違いますけれども。 ● では,死ぬ直前に外務員さんが受け取って,受け取ったことは受け取った。それで,死んだ後に本店に回送されましたというときに,どう処理されるのでしょうか。 ● ちょっと具体的に実務はどうしているか分からないですけれども,今のところ,到達主義だとかなんとかいうあれにはしていないと思うのですね。明確にやはり意思表示があったという事実があり,今,新旧の受取人に確認をしたいとか,いろいろな条件をクリアすれば遺言による変更というのを認めているのが実務だと思います。ただ,もう極めて例外でして,年間に1けたぐらいしか遺言による受取人変更は起きていないですから,そういうような例が本当にあるのかどうか。 ● 受領権がないということは,それはそういう世界でおかしい,おかしいけれども,おかしい結果にならないように解釈論でいろいろ工夫して,あたかもそうであるかのように四苦八苦しているというのが実情で,そうすると,その理屈が残るときに,こういう極限なときにそれが問題になってくると,そういうことなのですね。だから,問題意識は全く同感なのですけれども。 ● そこら辺も詰めるべきと。 ● ○○幹事。 ● 先ほど,冒頭の御質問の件で,理論上は確かに知らないところで変更が可能なのですけれども,おそらくみんなが議論しているのは,通常病床にいるときに,保険会社に何らかの形で伝えなければいけないというときには,だれかに手伝ってもらったりしなければいけませんよね。あるいは,それこそ外務員の人を呼んできてくれということを言うと「ああ,何か変えるのかな」と,こういうことなのですよね。ですから,病床のところで自分で紙にきちんと書いて,その保険金受取人を変更してほしいということを書いて,それを枕の下に入れるというのだけでいいのかどうかという,その方が簡便な手続でできるかどうかということだけにこだわっておられるところでありまして,それが法制度上はまさにおっしゃるとおり,受益の意思表示が全くないところで,知らないところで移っているわけなのですけれども,結局知られてしまうということを問題としていると,そこを保護すべき法益として考えるかどうかというのを議論すべきなのではないかなとは思います。 ● その書きつけなるものが,本当に真意に基づいて判断能力がある状態で書いたのかということが究極の争いになるので,そういう争いを誘発してまで融通をきかすのがいいのかどうかという,そのあたり,かなり難しい政策判断だとは思いますが,なおこれは詰めていただこうかと思います。   それでは,時間も気になるところですが,もう一点だけ,(2)のところだけちょっと御議論いただきたいと思いますので,事務当局より説明,いいですか。 ● それでは,(2)について御説明いたします。   ここは(1)とは全く別の問題でございます。ここでは保険金受取人が指定されたことを前提として,その保険金受取人が被保険者よりも先に死亡した場合の規律について問題提起をしております。   まず本文の①は,現行商法第676条第1項の規律を維持しようとするもので,同項の趣旨についてご説明いたしますと,保険金受取人の指定は,その者の個性を重視して行われることが多いことから,保険契約者が保険金受取人の指定又は変更権を留保していなかった場合でも,その保険金受取人が死亡した以上,別の者を保険金受取人とする余地を認めるべきであるという点にあるといわれております。   ここで,本日席上配布いたしました「第三者のためにする生命保険契約に関する現行商法の規律」と題するカラーで印刷しましたペーパーをごらんください。これは事務当局において作成したものでございまして,この前提としている事案は,一番下の※のところに書いておりますけれども,保険契約者と被保険者と保険金受取人とが全部別人であって,かつそれぞれの死亡時期が異なるという事案をもとに,商法の規律の適用結果を記載しております。   それで,今御説明しました商法第676条第1項は,この表でいいますとB,上から2段目に書いてあるものでございます。この点につきましては,先ほど御説明しましたように,(1)のアでは,保険金受取人の指定又は変更権の留保の有無にかかわらず,保険金受取人を指定し,又は変更することができるといたしましたが,他方で保険契約者が保険金受取人を変更しない旨の意思を表示したときは,保険金受取人を指定したり,変更したりすることはできなくなるというふうに考えられるところでございます。こういった場合を念頭に置いて,商法第676条第1項と同様に,保険契約者が新たに保険金受取人を指定したり,変更したりすることができるという規律を設ける必要があると考えられるところでございます。   また,保険契約において契約締結後の指定又は変更に関する規定の適用を除外した場合でも,その約款等で,保険金受取人が死亡したときにだれが保険金受取人になるのかが定められていないときには,同様に保険契約者に別途保険金受取人の指定又は変更権を認める必要があるようにも考えられます。   そこで,本文の「保険金受取人を変更しない旨を約したとき」という文言は,これらの場合を想定しておりますが,このような実質的な規律でよいかについて特段の御意見がございましたらお願いいたします。   次に,本文の②は,保険金受取人が死亡した場合の規律について問題提起をするものでございます。この点,保険金受取人が死亡した後,保険契約者が別の者に保険金受取人を変更すれば,その者が保険金受取人となります。また,保険契約者が順位を付して保険金受取人を指定することができるとし,そういった指定をした場合や,また約款で保険金受取人が死亡した場合の規律を定めていたような場合には,それに従って保険金受取人が定まるということになります。そこで,ここで問題にしておりますのは,だれが保険金受取人となるかについて,保険契約者が何らの意思表示もしないでいる間に保険事故が発生した場合に,だれが保険金受取人となるのかという規律でございます。この点については,(注)1でも触れております商法第676条第2項が関連していますので,この規定についてまず御説明いたします。   同項は,保険金受取人が死亡したにもかかわらず,保険契約者が保険金受取人を更に指定する権利を行使しないで死亡した場合には,保険金受取人の相続人を保険金受取人とすると規定しております。ここにいう「保険金受取人ノ相続人」という文言の意義につきましては,(補足)にも引用いたしました平成5年の最高裁判決が,保険金受取人として指定された者の法定相続人又はその順次の法定相続人であって,被保険者の死亡時に現に生存する者を指すとしており,これは,法定相続人が複数存在し,保険契約者兼被保険者が法定相続人の一人である場合においても同様に妥当するという判示をしております。この最高裁判決の理論構成については,学説上,保険金受取人の指定が失効したと見るべきかどうかという形で議論されているようですが,指定が失効しないといっても,保険金受取人の相続人が保険金受取人の権利を相続によって取得するのではなく,その権利を原始的に取得するものであるといわれており,本文②では,端的に保険事故が発生したときにだれが保険金受取人として保険金を受け取ることとなるのかを規定することとしております。以上は,先ほど御説明しましたペーパーでいいますとCの規律,すなわち保険金受取人が先に死亡し,その次に保険契約者が死亡した場合に,だれが保険金受取人となるのかという規律に関する問題でございます。   続きまして,このペーパーのDの場合について御説明いたします。   このDは,保険金受取人が死亡した後,保険契約者が保険金受取人を変更しない間に保険事故が発生した場合に,だれが保険金受取人となるのかという問題でございます。これについては,現行商法上規律が設けられておりません。学説上は,このような事案で保険金受取人が死亡した場合には,指定が失効して自己のためにする保険契約になると解した上で,保険契約者が死亡する前に保険事故が発生した場合には,保険契約者が保険金受取人となるとする見解もあるようでございます。しかし,先ほど御説明しました保険契約者が保険事故の発生前に死亡したCの場合と,ここで御説明しています保険事故の発生時に保険契約者が生存していたDの場合とで,だれが保険金受取人となるのかが異なるのは合理的ではないように考えられることなどから,本文②ではCの場合とDの場合とを同様に規律するということにしております。   さらに,このペーパーには記載しておりませんが,保険契約者と被保険者とが同一人であった場合にはどうなるのか,保険契約者と被保険者と保険金受取人の全部又は一部が同時に死亡した場合にはどうなるのかという問題もあり,これらの場合にも異なる規律とする合理性はないと考えられることから,本文②に規定した者が保険金受取人となるものとすべきとも考えられますが,この点につきましても御議論いただければと思います。   なお,本文②に規定する場合については,約款でも同様の規律が定められているようでございます。   次に,本文②によって定まった保険金受取人が複数いる場合に,いかなる割合によって保険金を取得することになるのかが問題となりますが,保険法に何らの規定も設けないとすれば,分割債権に関する民法第427条が適用され,約款等で別段の意思表示がされていない限り,同条により平等の割合で権利を取得することとなります。この点については,平成5年の最高裁判決が現行商法第676条第2項について民法第427条により平等の割合になると判示していることが参考になると考えられます。   続きまして,(注)1について御説明しますと,ここでは商法第675条第2項の規律を削除すべきであるとの考え方などについて問題提起をしております。   これは,席上配布しましたペーパーのAに記載してある規律でございます。同項は,保険契約者が死亡したときは保険金受取人の権利が確定する旨を規定しており,これは保険契約者の意思を尊重すると同時に,保険金受取人に指定されていた者の地位の安定のために,保険契約者の相続人が保険金受取人の指定又は変更権を有しないこととしたものといわれております。しかしながら,保険契約者の相続人は保険契約者としての地位を承継し,保険契約を任意解除することができることや,相続人が保険金受取人と特別の個人的関係にあるとは限らないことや,保険料が支払済みでなかった場合には保険料を支払うのは保険契約者の相続人であることなどから,立法論としては,一般に,保険契約者の相続人が保険金受取人の指定又は変更権を有するものとすべきとされ,実務上もそのような取扱いとされているようでございます。   そこで,商法第675条第2項の規律を削除することが考えられますが,その検討に当たっては,先日御審議いただきました任意解除権を法律上定めることとの関係に御留意いただければと思います。すなわち,現行商法とは異なり,保険法において保険契約者の任意解除権を定めた上で,商法第675条第2項に相当する規律を設けないとすれば,保険契約者が保険金受取人を指定し,又は変更しない旨の意思表示をし,かつ保険料をすべて支払った上で死亡したとしても,保険契約が任意解除されてしまえば保険金受取人が保険金を取得することはできないこととなってしまいます。ただ,保険契約者の任意解除権が仮に放棄可能なものであれば,保険契約者が死亡前にそれを放棄することによって現行商法下におけるのと同じ効果を導くことも可能とも考えられますが,任意解除権の放棄が可能なのかについては必ずしも明らかではないところでございます。以上のような観点から,商法第675条第2項の規律を削除することの当否について御議論いただければと思います。   なお,商法第676条第2項,先ほどのペーパーでいいますとCの規律ですが,同項では,保険金受取人が死亡した後に,保険契約者が更に別の者を保険金受取人に指定する権利を行使せずに死亡した場合には,保険金受取人の相続人を保険金受取人とすると規定しております。これは,ただいま御説明しました商法第675条第2項,このペーパーによりますとAの規律と同じく,保険契約者が死亡した以上は,保険金受取人の権利を確定しようという趣旨と考えられますが,この第675条第2項を削除するとすれば,第676条第2項の規律のうち,保険契約者が死亡したときは保険金受取人の相続人が保険金受取人として確定するという規律をも同時に削除することとなるものと考えられ,本文ではこのような考えを前提とした規律としているところでございますが,この点についても併せて御議論いただければと考えております。   続きまして,(注)2では,強行規定性について問題提起しております。   本文①の規定については,だれが保険金受取人となるのかをあらかじめ定めておくことを許容するか等について,(1)のアの(注)3と同様の観点から検討する必要があると考えられます。これに対して,本文②については,保険契約者が異なる指定をしたり約款等で異なる定めを置いたりしている場合には,その指定又は定めが優先するものとすべきと考えられることから,任意規定とすべきとも考えられます。   以上でございます。 ● 保険法のうちでも一番ややこしい問題の一つなのですが,ただいまの御説明に……,○○幹事,どうぞ。 ● 幾つか指摘させていただきたいと思います。   まず,①のところは確かに御指摘のとおりで,もし変更しない旨の約定を認めた上で,保険金の指定受取人が先に死亡した場合に変更権がないということになりますと,これは自己のためにする保険契約になってしまって,もしこれが契約者と被保険者が同一人物だった場合には相続財産に組み込まれてしまいますので,そうしますと,本来他人のためにする保険契約として契約を結んだ趣旨,その意思というのが尊重されなくなりますから,やはりこのような形の規定を設ける必要があるのではないかなと思います。   ②の部分ですけれども,②の部分については,やや気になるのは,最高裁判所の判決が示しているフォーミュラと,それから約款が示しているフォーミュラの中に,末尾に保険事故発生時に生存している者という条件を最後につけているわけなのですが,これがどういう意味を持つのかということは,もう一度分析した上で外していいかどうかということを検討していただいた方がいいかなと思います。といいますのは,確かに多くの場合は,保険金受取人が途中で死亡したときには,その相続人に承継されていきますから,生存している者という条件が働く可能性というのはほとんどないわけなのですけれども,例えば相続人を持たない者が最終的な受取人になっていて,その者が--要するに保険事故発生時において相続人を持たない者が先死亡していた場合のその保険金受取人の請求権ですね。未必的保険金請求権の帰属というのが,もしかすると生存している者ということによって排除されるというロジックになっている可能性がありまして,そこがよく分からないのです。よく分からないのですけれども,先に保険金指定受取人が死亡した後の相続人というか,承継していっても,もしかすると相続人のいない人というのが途中で死亡している可能性があるわけなのですが,この人の分についてはどうなるのかということが,この規律だけで説明できるのかどうかという,ただそれだけなのです。結論的には,それが国庫に帰属することはあり得ませんので,ほかの方々のところに応分な形で分配されていくことになるのですが,この規定でそれが読めるのかどうかということだけを確認していただきたいと思います。   それから,3点目は,もう先ほど来からありますように,保険契約者の死亡時に保険金受取人を確定させるという商法の考え方は明らかにおかしいと私も思いますので,これ自体はここに御指摘のあるような形で,保険事故発生時までの間は契約者の相続人が指定受取人を変更できるという規律にしていただくのが望ましいと思います。そういう意味では,今,現行の第676条第2項の確定時も,保険契約者の死亡時ではなくて保険事故発生時にすべきだと思います。 ● ○○委員。 ● 全然整理もできていないし,よく分からないというところが正直なところなのですけれども,①については,これは保険契約者に受取人を変更する権利を留保するということで,第三者のためにする保険の本来の趣旨に沿ったものではないかと思います。   それから,受取人と被保険者の死亡の問題が取り上げられているのですけれども,例えば立て続けに死んだ場合みたいなときですね。交通事故に遭って,まず受取人の人が即死してしまった。3日後に被保険者が死んだといった場合に,保険契約者の作為により受取人変更ができない,することは難しいのではないかなと思いますが,そういう場合どう考えたらいいのかなというのが,ちょっとよく分からないところだったのです。余りないケースだと思いますので,よく分からないで質問している部分もありますけれども,何らかの……。 ● 保険契約者側も交通事故で再指定をする暇もない。 ● 暇もなく死んでしまったと。 ● まさにそういう場合にだれが受取人かを決めないと非常に困るわけで,そこで,世の中にはいろいろな家族関係,いろいろなケースがあるかもしれないけれども,一番最初に指定された受取人の相続人の流れに沿って保険金が渡るというのが,一番多くの人の意識には合致するのではないかなという感じで,この最高裁の判例が出てきて,それを明文化しようというのが②ではないかなと思います。 ● 分かりました。 ● よく分からないのですけれども,この②の(補足)の中の「なお」以下で,最判の平成5年9月7日を引いて,民法第427条の規定により,別段の意思表示のないときは相続人の間で平等の割合になるというのは何となくおかしい感じがしていまして,私はやはり相続分に従って配分されるべきではないかという気がしています。   それから,次の(注)1のところです。さっきの任意解約権の問題とかにもかかわってきますけれども,特に保険料を継続して支払わなければならないときなんかは,保険契約者の相続人が嫌だと言えば失効させることだってできるわけですし,そういうことを考えれば,やはり相続人が受取人の指定の変更もできると考えた方がいいのではないかなという気がしています。   以上です。 ● まず,○○幹事から。 ● すみません。今,○○委員がおっしゃられた前半の割合の点については,私もずっと前からこれは相続分でやった方がいいとは思ってはいるのですが,最高裁,これとはまた別の事件で,平成4年だったでしょうか,法定相続人というふうに指定した場合には,割合を何も指定していなくても,それはそこをずっと見ていると相続分の割合でというのが浮かび上がってくるだろうという意思解釈をして相続分の割合でという合理的解釈をしていて,民法第427条の適用を排除してきた。それと全く同じ事例ですね。要するに兄弟がたくさんいて,しかも兄弟の中にも,おい,めいの方で代襲相続人がいるというようなケースの場合の公平性を考えれば,これは,遺族の中に例えば配偶者がいて兄弟がいるというとき,頭割りでやってしまったり,あるいはおい,めいがたくさんいて,たまたまそれが先にお兄さんならお兄さんが死んでいるということであれば,兄弟間の不公平も生ずるということであれば,完全に相続分でやるのが最も合理的だとは思うのです。ただ,このフォーミュラを当てはめて,最後にもらう人を決めてから相続分のというと,相続関係にない人たちもみんな受取人の中になってくる可能性があるので,そのやり方はできない。そうすると,結局は1回ずつ,一つずつ株分けにやっていかなければいけなくなるので,これはたしか○○委員はそういう御意見を御指摘になっておられた記憶もあったと思いますけれども,そうやってやれば理論上不可能ではありませんが,かなり複雑な計算になってしまうということで,最後は妥協しているということなのだと思います。   ただ,私はできますれば,そこは○○委員がおっしゃられたように,最もやはり正義にかなった方法にしていただいた方がいいかなとは思います。 ● ○○委員,どうぞ。 ● まず相続分かどうか。これは○○幹事の論文もあって非常に難しいのですが,ただ,実際の約款は2種類あるわけですよね。つまり,第一生命さんはたしか頭数で,日本生命さんは相続分でと,理論的に詰めるといろいろあるのですけれども,ここはちょっと法律家でない方の意見を後で,もし可能であればお聞きしたいところです。   それから,次に(注)1のところですけれども,これは○○委員もおっしゃったように,理論的にはこのとおりなのですよね。でも,やはり私の周りの研究者の方とか,私がそう誘導したからかもしれませんが,これはやはり,少なくとも契約者の意思の方向とは違うわけですよね。特に受取人が相続人ではない方の場合に,相続人は一致団結して自分の方に持ってくるわけで,それはやはりちょっとおかしい。そこで,先ほどの単独行為か遺言かという話とも,これは,今,保険契約法を改正して,生命保険のところでこれはというのがなかなかないのですけれども,要するに任意解約権の解除は,それは議論はあるでしょう。だから,法としてもう固定する。先ほど言ったような例ですと,おじいちゃんが血のつながらない自分の息子の奥さんと子供の方にやって一時払で払う。死んでしまうと,相続権のある別の次男,三男が受取人を自分の方へ持ってくるというのは,それはないから,そういう類型の生命保険というのを,これは業界に御検討いただければという趣旨なのです。ですから,これは信託ではないけれども,つまりいろいろな保険としても,例えばこのおじいさんの契約者の債権者がどういうふうにできるかと,いろいろあるかもしれませんが,少なくともそういう類型を新たにつくることも考えた方がいいのではないか。あくまでこの(注)1については,これはそのとおりなのだけれども,これは表裏逆にして,やはり法のルールとしては,この上の①,②でやはりいった方がいいのだと私は思うのですね。そういうことを申し上げたいと思います。 ● ○○委員。 ● 屋上屋を課すようなことなので簡単に申し上げます。②の平等の割合のところでありまして,実質,○○委員初め何人かの御発言があったとおりであって,私も相続分で分けるべきだと思います。そして言わずもがなかもしれませんが,平成5年の最高裁判決は,現在の第676条第2項がこう書かれているのでそうなったということもあろうかと思いますので,そこをはっきり,相続分で再指定するというのでしょうか,法によって再指定するという形にすれば,問題なくそういう解決が出てくるのではないかとかと思いますので,そういう方向で御検討いただけるといいなと思います。 ● ○○委員。 ● 法律家ではないと言われたので私かなと思って,お返事をしないといけないなと思ったのですが,とても精緻な議論の中にこんなことを言うのは大変申し訳ないのですけれども,要するに,整理をすれば,お金を払っている人が自分の意思を貫きたいというお話ですよね。そうすると,今のここの議論だけで言えば,皆さんが先ほど来おっしゃっているように,受取人が先に死んでしまって保険事故が起きていないという段階で,受取人の相続人が受け取るのだって,もうそれしかないのだというお話になったときには,やはりそれは普通の人が考えて相続分で法定相続で分けるだろうと,そう想定する方が多分普通だと思うのですね。ですから,そういう意味ではそれをそういうふうに申し上げたいと思います。 ● ほかに,このあたりございますか。   それでは,かなり意見が出て問題点も分かったかと思いますので,何か事務当局,ありますか。 ● 質問ばかりして申し訳ないのですけれども,今の○○委員なり○○幹事,あるいは○○委員の御指摘で,相続分がいいのではないかと,そう思う反面,先ほど○○幹事がおっしゃったように,最高裁の判例は,一方で相続人とだけ言わないで,相続人であって被保険者の死亡時に現に生存した者と言っていることとかがちょっと関係するのかなという気がして,単純に相続人であれば,もう相続分でいけると思うのですけれども,何かそれだけではなくて,現に生存していた者と言っていますので,相続人の中で欠けている人が出てくる。そのときの相続分というのを観念できなくて平等の割合と言ったのかなとふと思って,ちょっと,もし今日の段階で御意見があれば伺って,また検討したいと思うのですが。 ● おそらく,今の二番目の②のフォーミュラを当てはめていきますと,例えば実家の御両親と配偶者とかという,全く相続関係のない人が最終的に受取人になるという結論になることもあるわけなのですね。この状況で相続分の割合でというのを初めて当てはめようと思うと,これは無理なわけなのです。そこで結局,もと持っていたものを次の人にバトンタッチするときに,そこは必ず相続関係がありますから,その相続関係のところで細かく細かく相続が起こったというふうに分けていくと,いろいろパズルが組み合わさって,最後自分のところに来たのは幾つかということになると,本来相続関係にはない人同士が--相続という図式の中では相続人になり得ない人たちですね。そういう人たちがいても,必ず株分け方式でいけば計算は可能ということになるのだと思います。 ● 受取人が死ぬたびに一応観念的には相続があったと考えて,持分が観念的に決まって,その人がまた死ぬと,またそこが枝分かれしてくると,そういう理屈であるのですね。 ● そうしますと,分かったような気もするのですが,一方でそうだとすると,○○委員がおっしゃった,いや,相続分が一番分かりやすいのではないかというのとは逆で,相続分によることによって分かりにくくなるということでもないですか。 ● 保険金も相続関係で代々受け継がれていくのだろうということで,最終的にやはり血の濃さというのですか,そういうものでやはり分け前が決まるという感じには,基本的になってはいくのではないですか。   ○○幹事から,ちょっと。 ● 同じことを言おうと思っていたのですけれども。 ● では,○○幹事。 ● 先ほど○○委員がちょっと言われましたけれども,これは条文の書き方の問題で,ここに載っている案のような条文だと,相続分で一回一回決めていくというのはちょっと難しいと思うのですけれども,受取人が死亡するたびに再指定があったものとみなす。その再指定に当たっては,相続分で保険金を分けるというふうに再指定があったものとみなすというような形の条文にすれば,うまくできるのではないかという気がするのですけれどもね。 ● おそらく実質的な判断としては,先ほどもちょっと申し上げたのですけれども,被保険者の配偶者が一方にいて,今の核家族の世界でいくと,この方が家計をともにしている人なのですが,子供がいなかったような場合に兄弟姉妹の方に行った場合,その兄弟姉妹の中にたくさんの兄弟がいて,さらには先に死亡している人がいて,そこの子供たちがかなりたくさんいるというようなときに,これは本当に頭割りをしてしまいますと,やはり一般の人たちの社会常識に反する形の保険金の分け方になってしまうわけですよね。そうすると,本来生計をともにしていた配偶者の人はほとんど保険金をもらえずに,兄弟姉妹,さらにはその兄弟の中でも代襲相続人が多いような人たち,めい,おいが多かったというようなケースの場合に大量に保険金をもらうというのは,兄弟間でも不公平ですし,配偶者との関係でも不公平だと。そういう意味では,そこはまさに○○委員がおっしゃっておられる社会常識的に見た公平性の問題なのではないかなと思います。 ● 私はこだわっているわけではないのですけれども,ただ分からないので素朴にお尋ねしたということです。 ● 確認なのですけれども,今の御提案の中では,基本的に任意規定で整理をする。約款等で受取人の指定がきちんとされている場合は,そちらの方が優先しますよと,この提案は相続人ということになっていますけれども,そういうことでよろしいのですね。 ● そこはそのとおりです。 ● よろしいでしょうか。それでは,このあたり,なお今日の議論を踏まえて詰めていただきたいと思います。   ちょっと最後の5が残りましたが,これは次回ということでお願いしたいと思います。   では,事務当局から。 ● 次回ですけれども,次回の第6回会議は,来月3月7日水曜日の今日と同じ午後1時30分から,場所は法曹会館の高砂の間での開催を予定しておりますので,日程の確認をお願いいたします。場所は,前回,第4回会議の場所と同じでして,本日の積み残し分と,生命保険契約に固有の事項の後半部分をテーマとしたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ● では,今日はこれで終わります。どうもありがとうございました。 -了-