法制審議会刑事法 (自動車運転過失致死傷事犯関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成19年2月26日(月)  自 午後2時00分                        至 午後4時27分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会の第4回会議を開催いたします。 ● それでは,早速審議に入りたいと思います。   前回の第3回会議で,要綱(骨子)につき,第1回会議の審議や第2回会議の関係各団体の方々の御意見を踏まえまして,私の方で論点をお示しし,その論点ごとに審議をしていただきました。本日はその続きを行いたいと存じます。   その上で,もし更に御議論をいただくべき論点がございましたら,委員,幹事の皆様に御指摘いただきたいと考えております。   このような形で二巡目の議論が終わりました後は,要綱(骨子)の事項ごとに三巡目の議論を行いたいと考えております。このような進行でよろしゅうございましょうか。  どうもありがとうございます。そのように進行させていただきます。   それでは,まず事務当局の方から,前回,事務当局の方で検討することとされていましたものにつきまして,御説明をお願いいたします。   また,今回,追加の資料が配付されておりますので,これについての御説明も併せてお願いいたします。 ● まず始めに,席上にお配りさせていただきました「業務上過失致死傷罪(刑法211条)改正の要望書」について御説明いたします。   この要望書は,埼玉県川口市で発生しました保育園児4名が亡くなられるなどいたしました交通事故の御遺族の方々から,先日,法務省に対して,御提出があったものであります。交通事故における業務上過失致死傷罪の最高刑を最低でも10年より重くしてほしい旨御要望をいただき,同時に21万人を超える署名の御提出がございました。   交通事故の被害者の方々や御遺族の方々の被害実態,御心情等をも踏まえて御議論いただくため,第2回会議において関係各団体からお伺いした御意見と共に,御参考にしていただければと存じます。   続いて,前回の部会における御議論を踏まえ,事務当局において,本日配布資料を追加いたしましたので,御説明させていただきます。   なお,これまでの部会において,配付資料として9点をお配りいたしましたので,本日席上に配付いたしましたものについては,配付資料の資料番号10,11としてあります。   これまでの御議論の中では,法定刑を引き上げることによる交通事故の抑止効果についての御発言や,交通事故を防止するためには刑事手続の分野のみならず,様々な諸施策が必要である旨の御発言などがございましたことから,今後の御議論の参考とするため,資料番号10として,これまで我が国において実施されてきた交通安全施策に関する資料を用意いたしました。   まず,資料番号10の1枚目は,内閣府の平成18年交通安全白書から抜粋しました「主要交通安全施策年表」であり,これに昭和30年から昨年までの間に我が国で講じられた主要な交通安全施策が年表となって記載されております。   そして,この年表の最後に,最近の施策として,「第8次交通安全基本計画」がございますので,資料番号10の2枚目以降に,やはり内閣府が公表している「第8次交通安全基本計画の概要」のうち,自動車交通に関係する部分を抜粋したものを資料としております。   なお,配布資料の資料番号11は,要綱(骨子)の修正案でございますが,その趣旨等につきましては,三巡目の議論の際に御説明させていただきたいと存じます。   以上,簡単ではございますが,追加配布資料の説明をさせていただきました。   なお,前回の第3回会議の際,重大な事故を起こした者もいわゆる交通刑務所に入所しているのかというお尋ねがございました。例えば,市原刑務所にどのような受刑者が収容されているのかを調べましたところ,執行刑期4年未満の交通犯罪の受刑者のうち,開放的施設処遇に適した者であって,交通事犯以外の犯罪による懲役刑又は禁錮刑を併有しないこと,交通事犯以外の犯罪による受刑歴がないことなどの諸条件を満たした場合に,市原刑務所に収容しているということでございました。   そして,危険運転致死傷罪に該当するような重大な事故を起こした者については,先ほど申し上げました諸条件を満たす場合には市原刑務所又は加古川刑務所に,また,執行刑期が4年以上の場合には加古川刑務所にそれぞれ収容されております。   また,前回の第3回会議で,自動車運転による過失致死傷事犯の再犯率を示した統計を出してもらいたいとのお求めがございましたので,私どもといたしましても調査をさせていただきましたが,この種事犯の再犯率という形での統計を見出すことができませんでしたので,御報告させていただきたいと存じます。   以上で,御説明を終わらせていただきます。 ● ただ今の御説明に対して,御質問がございましたらお願いいたします。   なお,意見につきましては,後で議論の際にお伺いしたいと思います。 ● 再犯率については,資料等を見てみたけれども見付からなかったということのようですが,これは元々そういう統計はとっていないから見付からなかったのでしょうか。統計はあるけれども,よく分からないということなのでしょうか。 ● いろいろと既存の各種統計を調べてみたところ,御要望のあった再犯率の統計を見出すことができなかったということでございます。 ● 昨年,飲酒運転等について非常に問題になりましたけれども,自動車事犯の中で,飲酒運転に関する再犯というのは,データはあるのですか。 ● それは事故を起こした場合ということでございますか。 ● はい。 ● 飲酒運転に限らず自動車運転による過失致死傷事犯についての再犯率があるかどうかということで調べましたところ,そういったものは見出すことができなかったということでございます。 ● ほかの交通人身事犯ではない犯罪については,再犯を示すデータはそろえられているのですかね。それは今回の調査の対象ではなかったということになるのですかね。つまり業過の犯罪以外の犯罪の累犯,再犯についてはどうですか。 ● 業過以外ということであれば例えば,警察で検挙された各種犯罪について,その罪名ごとにどういう前科があるのかということを調査した統計はございましたが,ただ,その統計も,業務上過失致死傷事犯については除くということでございました。そのような経過で,自動車運転による過失致死傷事犯の再犯率を示すような統計は見出すことができなかったということでございます。 ● ほかにいかがでしょうか。特にございませんようですので,本日の審議に入らせていただきます。   前回は,要綱(骨子)第二までの御審議をしていただきました。本日はその続きということで,今回の諮問内容からは少し離れる論点となりますが,第2回会議のヒアリングにおいて,悪質な自動車運転による死傷事故に対する法整備として,交通事故の被害者団体の方々から御意見のございました危険運転致死傷罪の構成要件を緩和することなどについて御議論いただきたいと存じます。   この点につきましては,第2回会議のヒアリングにおいて,交通事故の被害者団体の方々から様々な御意見がございましたが,その御意見を見てみますと,互いに関連する部分もございますが,大きく分けますと,2つの内容の御意見があったように存じます。   すなわち,第1に,危険運転致死傷罪の適用が極めて限られていることから,その要件から内心的要素を除外し,客観的な飲酒,スピード違反等の事実が認められれば,危険運転致死傷罪を適用することとするなど,その要件を大幅に緩和する法改正を行うべきであるとするとの御意見, 第2に,危険運転致死傷罪の法定刑と,事故後逃げて業務上過失致死傷罪と道交法違反とされた場合の処断刑との間には,大きな差異があり,逃げた方が得をするという法制度になっているので,これへの対処をすべきであるという御意見でございます。   このような御意見を踏まえまして,この論点について,委員,幹事の皆様方の御意見をいただきたいと思います。   まず,事務当局の方から,この点に関して御意見がございましたらよろしくお願いします。 ● 事務当局の方からこの危険運転致死傷罪の要件に関する考え方を申し上げさせていただきたいと存じます。   危険運転致死傷罪は,故意に危険な自動車の運転行為を行い,その結果人を死傷させた者を,暴行により人を死傷させた者に準じて処罰しようとするものでございまして,故意の特に危険な運転行為を基本行為とし,その結果人を死傷させる罪であって,暴行の結果的加重犯としての傷害罪,傷害致死罪に類似した犯罪類型として規定されているものでございます。 また,その有期懲役刑の上限も,傷害又は傷害致死と同程度とされております。   このような危険運転致死傷罪の罪質,法定刑等からしますと,危険な自動車の運転行為についての認識等をその成立要件から外すことは困難ではないかと考えられ,また,運転行為が終わった後の行為である逃げた行為などに対して,その処罰範囲を広げることについては,慎重な検討が必要であると考えておりますが,この問題は,被害者の方々の御要望の強い点でもございまして,是非委員,幹事の皆様の御意見をいただければと考えているところでございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の論点につきまして,事務当局の方から御意見がございました。この論点についての委員,幹事の皆様方の御意見をお伺いしたいと思います。 ● いろいろ御意見が出た中で,やはり危険運転致死傷罪がそんなに機能していないのではないかというお考えがもしあるとすればいけないと思いまして,御説明だけはさせていただきたいと思うのですが,私ども検察としても,基本的にはやはり同罪を積極的に適用したいと考えていて,実際にいろいろ御不満はあろうかと思いますけれども,送致罪名が危険運転致死傷罪ではなくても,処理の段階で同罪に認定替えをして処理・起訴している例はかなりございます。例えば,平成17年の統計ですが,危険運転致死傷罪の受理総数は259件であったところ,処理の段階では,公判請求件数が302件になっています。   また,いろいろな御意見の中に,逃げ得ではないのかと,こういう話があるのですけれども,確かにそれぞれの被害者や御遺族の方々にすれば,やはり御不満はあるのかもしれませんが,私どもとしても,警察と協力をして,できる限りの努力をしているというのが実情でございます。   飲酒運転をして事故を起こし,その後に逃げたということになったとしても,あるいは事故後に重ね飲みをしたということになったとしても,いろいろな捜査手法により,例えば最近ですと鑑定もできるわけですから,そのような補充捜査をして,飲酒量等を特定するなどした上で,危険運転致死傷の犯罪事実を認定できるのであれば積極的に活用していく形で対応しているところでございます。   ですから,そういう意味では,危険運転致死傷罪が機能していないという御指摘は当たっていないのではないかというような気もしておりますので,まず前提としてその点を御理解いただければありがたいと思います。 ● 今の御意見に対して,被害者側からすると疑問点がありまして,一つは,危険運転致死傷罪ができて,施行されてからの,施行というのは現実には警察にまず運用を任せる,つまり最初に立件する,罪を立てるというのは警察段階なのですね。その後,今おっしゃられたように,検察がその後に最終処理段階で罪名を切り替えることもあると。ただ,被害者側で見ますと,一度罪名を,例えば業過で立てたときに,それを危険運転に切り替えるということは,警察のメンツをつぶすという部分もありまして,非常に難しいのではないかというのが疑問点の第一です。   それと,二つ目に,警察が危険運転で捜査するについて,検察庁との協議がなされたのかどうか。その後の運用について警察庁独自でやっているのか,それとも検察との協議を重ねてやっているのか,これを伺いたいと思います。 ● まず,メンツという御指摘の点でございますけれども,私どもは,警察ももちろんメンツで事件捜査をやっておるわけではないのでございまして,やはり真相はどうなのかというところで勝負をするという考えです。   いろいろと御批判を受けるところもあるかもしれませんが,私どもはやはり真相解明をした上で処理をする。その結果が例えば送致罪名と違うのであれば,それはそのように処理をする。これはもう検察もそうですし,警察もメンツというようなことでやっているわけではないと思います。   それから,送致罪名に拘束されるのではないかというお話なのですが,これはほかの罪種でも同じだと思います。起訴時に罪名を認定替えするというのは幾らでもあることでございます。この罪種だけが特殊な処理をされているということはございません。すべて最終的には証拠の問題ということになってきますので,個別具体的な事案に則して事件を処理していくということで対応するほかないのだろうと考えています。 ● 先ほどの御質問の中に,検察と警察の協議が行われているのかというお尋ねがあったかと思いますが,もちろん法整備が行われて,その上で危険運転致死傷罪の解釈であるとか,あるいは一般的な方針といったようなことについては,基本的に,その段階では主として法務省ということになるかもしれませんが,法務省と警察庁との間で認識を共有するということを経て運用が行われているわけでありますけれども,個別具体的な事件についてどういう協議が行われるかということになりますと,正に現場の検察庁と所轄の警察との間のいろいろなやりとりということになろうかと思います。もちろん個々具体的にどのように協議がされるかというのは事案によって相当異なるところであろうかとは思いますけれども,通常,送致ということになりますと,特に交通事故でありますので,事故が起こってからある程度期間の短い段階で,例えば被疑者の逮捕あるいは送致といったことが行われます場合には,必ずしもその段階で罪名をどうする,あるいは証拠をどうするということについて,綿密な打合せ・協議というものが,必ずしもその送致の段階までに尽くされているということではない場合もあろうかとは思います。しかし,当然その後の捜査の過程におきましては,検察庁とその警察の間でどのように捜査をするか,どのような点について捜査をするか,どのような証拠を収集するかということについて,当然協議が行われる場合も多いだろうと思われます。   また,犯人が逃走してなかなか見付からないという場合の捜査の在り方ということについて協議をする場合も,それは場合によって,必要に応じてあるのだろうと思っております。そのあたりは個々具体的な事件に応じて,現場の検察及び警察において協議がされているということではないかと思います。 ● 実際に危険運転で処理されている件数が現在約290件ぐらい,最初の施行の年に320件ぐらいだったと聞いております。その後少しずつ減少しておると聞いておりまして,まずお聞きしたいのは,総数90万件ぐらいの業過の検挙件数に対する割合として,例えば起訴件数でいうと9万件ぐらいになりますけれども,それに対して危険運転致死傷罪全体として290件というのは少ないと思っておられるのか,多いと思っておられるのかということと,それから年々減ってきているという,危険運転の適用件数が減ってきているということについて,どうお考えなのかということをお伺いしたいと思っております。 ● 業務上過失致死傷の総数と対比した場合に,危険運転致死傷罪の割合が非常に少ないというのは,それは御指摘のとおりなのだと思います。これが多いのか少ないのかという評価は,恐らくその数字の見方・角度によっていろいろ違う意見が出てくるのだろうと思いますけれども,先ほど御説明しましたように,危険運転致死傷罪というのは,どうしてこのような重い法定刑の犯罪類型ををつくったのかというと,正に故意犯である暴行に匹敵するような危険・悪質な運転行為によって人の傷害あるいは死亡という結果が生じたものであり,傷害罪あるいは傷害致死罪に準じるものであることから,それらの犯罪と同程度の重い刑を科すのが相当であろうということで,このような構成要件ができたわけです。そして具体的に事故が発生したときに捜査を尽くした上で,危険運転致死傷罪の構成要件を立証できるだけの証拠を収集することができたものについて同罪により起訴しているという状況であり,個別具体的な事案ごとに証拠にのっとった判断が必要な事柄ですので,全体数がこれだけで,危険運転致死傷罪の割合が非常に少ないから,これは少な過ぎるのではないかという御批判は当たらないのかなと思います。   個々の事件について捜査をして,証拠上認められるものについては適切に処理していった結果が統計上の件数であって,何か意図的に要件の適用を非常に狭くしているとか,そのようなことをしているわけではないものと思っております。 ● 1点追加で申し上げさせていただきたいと存じますが,確定的な数値が出ているわけではございませんけれども,平成18年,これは平成17年に比べて危険運転致死傷罪の適用件数が増えている状況にございます。その点は申し添えさせていただきます。 ● 逃げ得ということについて言いますと,飲酒運転で特に限定された用法に用いられているようなのですけれども,実は私の扱っている事例でも,赤信号でありながら黄色だと言い張ったりとかというのは実際多いのですね。そういう危険運転の中でも,飲酒運転以外についての逃げ得事犯というのは,私は実は多いのではないかなと思っておるのですけれども,その点,どうなのでしょうか。 ● 今ちょうど信号の話が出たのですけれども,ことさら赤無視で最終的に処理をしたというのもあります。事件の約11か月後に逮捕して,いろいろ実況見分等を行った結果立証できるということで処理した例もありますので,ひき逃げした場合でも危険運転致死傷罪で処理している事案というのは,飲酒運転の場合だけではないということは御理解いただければと思います。 ● その事例は否認事例で年月がたってから送検された,そういう意味なのでしょうか。 ● 逃げていて,11か月後に逮捕して,その後いろいろな走行実験だとかやっていますので,おそらくは最終的に本人はどういう状況で走ったかとか,そういうことについてはかなり具体的に供述をしたのだろうと思います。 ● この論点につきましては,以上で大体よろしいでしょうか。   さらに,私がお示しした論点のほかにも,前回のヒアリングにおいて関係各団体の方々からいただきました御意見に関するものなどを含めまして,どのような点でも結構でございます。何か御意見がございましたらお願いいたします。当部会といたしましては,ヒアリングにおいて示されました御意見についても真摯に受け止めまして,かなり時間をかけて慎重に議論を進めてきておりますが,,そのような観点から,ヒアリングでの御意見に関するものを含め,ほかに何かございましたらお願いしたいと思います。   三巡目の議論のときに,それに関連していろいろ御意見が出てくると思いますが,三巡目の議論のときでも結構ですけれども,今の段階でもしほかに論点がございましたら御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。   特に御意見がございませんようですので,引き続きまして,要綱(骨子)について三巡目の議論に入りたいと存じます。   これまでの会議における委員,幹事の方々の御意見を踏まえまして,事務当局において要綱(骨子)の修正案をつくっていただきました。   まず,事務当局から要綱(骨子)の修正案の内容,理由等について御説明をお願いいたします。 ● 席上にお配りいたしました資料番号11の要綱(骨子)の修正案につきまして,その趣旨等について説明させていただきます。   改めました点といたしましては,要綱(骨子)第一につき,これまで「自動車の運転に必要な注意」としていたものを「自動車の運転上必要な注意」といたしました。   その理由について御説明いたします。   これまでの審議におきまして,どのような場合が「自動車の運転に必要な注意を怠り」に該当し,また該当しないのかについて,幾つかの具体例を題材にして様々な御議論がございました。   このような御議論を踏まえまして,更に検討をしましたところ,これまで御議論が多かった事例は,自動車のハンドル操作,ペダル操作等の自動車の運転行為それ自体の過失ではなく,それ以外の点の過失が問題となる事例であったことからいたしますと,要綱(骨子)の「運転に必要」との文言では,その注意義務の範囲が,運転行為,すなわち,自動車の各種装置を操作してこれを走行させる行為それ自体に関するものに限定され,それ以外の点に過失があるような場合が含まれるか否かが必ずしも明確ではないのではないかという懸念があると考えられます。   そこで,「運転に必要」としておりました部分を「運転上必要」という表現に改めることによりまして,運転行為それ自体についての注意義務だけでなく,運転を行う上で必要とされる注意義務に関する過失も含まれるという趣旨をより明確にすることが相当ではないかと考えたものであります。したがって,本罪が成立する範囲については,前回までに御説明した内容と異なるものとは考えておりません。 ● この要綱(骨子)の修正案につきましては,論点項目に従って議論を進める中で,御議論していただきたいと存じます。   それでは,論点項目に従いまして,三巡目の議論に入りたいと思います。   まず,要綱(骨子)第一に関する一つ目の論点といたしましては,論点項目の第1の1に「構成要件」としてお示ししておりますように,自動車運転による過失致死傷事犯につき,業務上過失致死傷罪とは別個に,要綱(骨子)第一のような形で新しい構成要件を設け,その懲役・禁錮の法定刑の上限を業務上過失致死傷罪・重過失致死傷罪より重くすることについてでございます。   この論点につきましては,これまでの議論におきまして,そもそも自動車運転過失致死傷罪は不要であるなどという御意見から,その新設に大いに賛成であるなどという御意見まで,様々な御意見がございました。今回,事務当局から自動車運転過失致死傷罪の構成要件につき,新たな案が要綱(骨子)の修正案として示されましたので,これに関する御議論を含め,この論点について御議論いただきたいと思います。   事務当局に対する御質問あるいは御意見も含めてでございますので,よろしくお願いいたします。 ● 変えたというのは,表現を変えたというだけで,意味は変わっていないと,そういうことでいいのですか。分かりやすくしたということですか。 ● 御指摘のとおりです。本部会のこれまでの会議において,具体例を基に,自動車運転過失致死傷罪のおおよその射程距離についての説明をいたしましたが,その内容・結論自体は同じです。ただ,それを表現するのに,今回修正してお示しした文言の方がよりふさわしいであろう,適正であろうという趣旨でございます。 ● 前回いろいろな議論があったと思います。積み荷の問題だとか,そのあたりのところも今度の表現によって変わらないということなのですか。 ● 御指摘のとおりでございます。 ● 何か運転というと,何か広がったようなちょっとニュアンスを感じるのですよね。例えば運転上と言った場合,普通,昔の運転手というのは,もう昭和30年代の人の話として聞いているのですけれども,実際上,車を運転するときに,きちっとハンドル操作がちゃんとできるか,ちゃんとトランクがなっているのか,ミラーがどうなっているのかとすべて点検をしてから運転をするというのが非常に昔は当たり前のようにやっていたと。でも,最近見ていると,それがないようだということで,モラルの低下ということはあるのかもしれませんけれども,そういったものも全部ひっくるめることになるのですかね。そこで何かちょっと問題,タイヤがちょっとおかしければ,そこで気付かなければ,それは運転上必要な注意になるとか,何か漠然と逆に広がるような気がするのですけれども。 ● 漠然と広がるということではなくて,先ほども申し上げましたように,趣旨をより明確にするということでございまして,今御指摘のあった点に関連して申し上げますと,やはり十分に点検をした上で運転をすること,あるいはちゃんと整備をした上で運転をすることということは,当然自動車運転手としてやっておくべき義務でありまして,そういったものにつきましても,より明確に補捉することができるよう,そういった趣旨を明らかにするためには,今回お示しした表現振りの方が適切ではないかということで,御提案させていただいたところでございます。 ● 更に広げて申し上げますと,例えば最近いろいろな分業化が進んでいると思うのですね。例えばトラック運転手が運転だけをして,基本的に荷積みは別の方がやるという場合があると思うのですが,その場合,荷積みの仕方が悪かったかどうかということについても,運転手が必ずチェックしなきゃならないのですか。いわゆるチェックしなければこの罪に当たる可能性があるということになるのでしょうか。 ● その点につきましては,やはり個々の事案ごとの判断が必要かと思われますけれども,証拠関係上,運転手がやはりチェックをすべきだという事案であれば,御指摘のとおり,そのような注意義務が課されることになろうかと考えております。 ● 更に申し上げると,場合によっては,そういった注意義務というのが車を運転する上で非常に重要なことになると思うので,運転手がチェックをしてなくて,別の人が,運転手が全く関与しないところでそういうちょっと積み荷についてかなり緩い縛り方をしたとか,そういうことが起こって,それに気付かずに運転手が運転していたという場合に事故が起こった場合,積み荷をいい加減にしてしまった人に対してもこの罪は成立するのでしょうか。 ● 前回の会議でも御説明させていただきましたけれども,基本的には,自動車を運転する者に対して,運転をする上で必要な注意義務を課すという趣旨でございまして,今の御指摘についても,やはり個々の事案ごとによりますが,一般的には,運転手の方に過失が認められないような場合につきましては,本罪は成立しないと考えております。 ● それとの関係で,前回御質問申し上げました,いわゆるかなり車にリコールが出ていて,かなり欠陥車でリコールが出ていて,そのリコールに気付かずに運転をしたがゆえに事故が起こったような場合については,これは業者の責任になるのでしょうか,それとも運転者の責任になるのでしょうか。 ● そのあたりになりますと,なかなか個々の事案ごとの評価ということになろうかと思いますので,趣旨としてはこれまで申し上げてきたようなところでございます。 ● いろいろな事例に対してどういうふうに当てはめができるのかというのは,もちろん事案によるというところになるわけですが,今の例えばリコールの問題も含めまして,もともと現在の業務上過失致死傷罪の成否という場合にも,そういう欠陥自動車の場合はどうなるのかというのはもともとある問題で,当然その場合も事案によって分析され,検討されるということになるのだろうと思いますが,同じようなことが今後も,自動車運転の上でどこまでの注意義務が必要なのかということが,個別に検討されるということだろうと思います。 ● 前回の会議で,こういった構成要件を設けることについての必要性の観点から消極の御意見もございましたことから,この論点につきまして,私どもが考えていることをお示しさせていただき,皆様方に更に御議論をお願いしたいと考えております。   これまでの会議の中で,委員の方から厳罰化をしても交通事故抑止の効果があるのか疑問であるとして,自動車運転過失致死傷罪の新設に反対との御意見がございました。しかしながら,自動車運転過失致死傷罪を新設するのは,交通事故の抑止だけを目的とするものではございませんで,これまでも御説明いたしましたように,近事の自動車運転による死傷事故には,飲酒運転中のものなどの悪質・危険なものや多数の死傷者が出るなどの重大な結果を生じるものがなお少なからず発生しているということや,平成14年以降の自動車運転による業務上過失致死傷罪の科刑状況を見ますと,法定刑や処断刑の上限近くで量刑される事案が増加していることなどから,自動車運転による死傷事故に対し,事案の実態に即した適正な科刑を行うことを趣旨とするものでございます。   また,交通事故抑止の点につきましても,前回も何人かの委員の方から御発言がありましたように,今回の改正は,自動車運転による死傷事故に対して,これまで適用していた業務上過失致死傷罪より重い法定刑により処罰するものでございますので,特に故意に飲酒運転などの悪質な運転を行う者に対し,そのような運転を避けるよう覚せいを促す効果が期待できるのみならず,一般の運転者にも,一層の安全運転に留意するよう促す効果も期待できるものと考えております。こういったことから,罰則強化による交通事故抑止を期待することができるのであろうと考えているところでございます。   この点で参考になりますのは,平成19年2月17日の産経新聞の報道であり,今回の諮問案につきまして読者の方々にアンケート調査をされた結果が載ったものでございます。その中で,今回の諮問案について,「交通事故防止に効果があると思いますか」という質問に,「イエス」と回答したのが65パーセントであったということです。   もとより,刑罰の抑止効果の有無あるいは程度というのは,世論調査の結果によって測られるものではないと思いますけれども,少なくとも,一般の国民の意識としては,今回のような法整備によって,自動車の運転者が一層注意を高めようとする効果があると考えていることは,重要であると考えております。 ● ただ今,事務当局の方からも御説明及び御意見があったわけですが,これに関して,何か御質問,御意見がありましたらお願いいたします。 ● 幹事の御説明いただいたことについて,産経新聞のアンケートみたいなものを御紹介いただきましたけれども,この質問のもとは,業過だけを対象にした質問なのでしょうか。それとも警察庁が出しておられる道交法も含めた質問なのでしょうか。 ● 新聞記事の記載しか承知しておらず,その詳細までは承知しておりませんが,その新聞記事によりますと,今回の諮問,要綱(骨子)についての意見を聞くという形でございますので,警察庁でやっておられる飲酒運転対策ということではなく,今皆様に御審議いただいているこのテーマについての質問だと紙面からは読めるところでございます。 ● 度々で失礼しますが,前回も言っておるのですけれども,業務上,職業運転手が運転をする場合について,やはり労働条件とか,その労働環境,そういったものを考えざるを得ないと私は思っているのですね。実際上,つい最近の毎日新聞に,例の吹田市の府道でスキーバスが事故を起こした関係があったと思うのですが,あの場合についても,何か過労の運転があったという形のものが報道されています。同時に,毎日新聞は,最近の事故の原因について過重労働があるのではないかというような指摘もしております。こういったものは,単に個人だけに起因するものではなくて,やはりもっと全体的な会社の在り方,あるいは交通ルール全体に対する厳しい目といいますか,そういったものを国民全体が共有する形でやっていかないと,本当に撲滅できないと思うのですね。   今回,この引上げをするということについて,私はやはりちょっと,一般のマイカー運転手についてはどうなのかと言われるとちょっと難しい部分があるのですが,少なくともこういう職業運転手の団体もかなり慎重な意見を述べていたのですが,その意味では,そういった部分もあるので,単に個人だけで帰責して,そこで過失行為だから重いのだという形にするのはいかがなものかという観点で,ちょっと反対せざるを得ないのですが,ほかの御意見を聞かせていただければと思うのですが。 ● 労働条件あるいは就業条件とか,それによって過酷な条件で運転させられているというのは,だからどうだということにつながるかどうかということが一つの問題だと思うのです。例えば,8時間以上運転させてはいけないという法律に日本がなっているかどうかということでは,まずなっていないのですよね。そういう中で,利益優先とか,営利優先の中で,会社の中で働かざるを得ない。そのことによって,居眠りしていて事故が生じたら,その責任を運転手が負わざるを得ないと。ある意味で,ほかの条件,諸整備というのは必要な中で,業過の注意義務の問題が議論されていると思うのですよ。ただ,それによって生じた結果というのは,非常に多くの人命が犠牲になるようになっていまして,しかも被害者数が増大しているということは明らかな事実ですから,それによって,最終的な手段として厳罰をすべきかどうかと,引き上げるかどうかと,そういう議論だと思うのですね。   数値は今回問題とされていませんけれども,私が40年前の話を何回か持ち出すのはけしからんという話も,暴論だという話もありますけれども,昭和43年の改正で,実に4割,100万人から60万人に減ったということは,歴史的な事実で,私は,日本の交通政策史上において一つの快挙だと思う。それは免許保有者,それから自動車台数も10年で非常に加速度的に増えていく中で4割も減ったということは,一つの私は証拠だと思っているのですね。その時のやはり歴史的な背景ということを真摯に見詰めるときに,国を挙げてやっていた,例えば検察も一生懸命やっていたとか,初犯から実刑をというキャンペーンを張っていたりしたというのを新聞で見ました。こういう法律を作るときに,国を挙げて行うという姿勢を示すことが,やはり一般国民に対しても必要なことだと思うのです。   そういう意味で,苦言を呈すると,例えば,検察あるいは裁判所について言うと,そういう運用を,ちょっとずつなされてはきていますけれども,相変わらず起訴率は10パーセントにとどまる。裁判所の方では,刑の言渡しについて,2年ぐらいだったのが,最近では,3年,5年,さらに,危険運転というのができて,15年,20年というのも出されるようになっている。私は,これは国民に対する一つのメッセージだと思うのです。   だから,やむを得ない措置で法定刑の5年を7年にするのであって,ほかに方法があるのかということを言うときに,ドライバー側の環境として,例えば,運転中にメールできるとか,居眠り運転をしてもそれ自体は道交法で罰せられないとか,そういう快適な環境というのですか,事故を起こしやすい環境がどんどんできてきていることを考える必要がある。それを最終的には,ドライバーに運転上の注意義務違反があって人身事故が起きた場合を重く処罰する のだと,これが今回の法律の趣旨だと思うのです。ですから,それに至る労働条件とかというのは,別の対策の問題だと私は思います。 ● ある程度私も理解できないことはないのですが,現実の問題として,ヒアリングの際にも出ていたように,要するに,かなり東京・大阪間のバスでも料金が大分過当競争の中で厳しく,金額が抑えられてきているとか,それから,現実には国土交通省の調査によると,もともと貸切りバスの例でいうと,99年度には2,336業者が2004年には3,743業者に増えたと。その7割が10台以下の零細の小規模事業者だと言われています。これは正に規制緩和という一つの小泉政権の中で行われてきた波の中で,そういう業者がいろいろな形で自由に参入できるようになる反面,かなり過当競争で,かなり経済的にも厳しい状況で労働者を使っているというようなことがあると私は理解しているのですね。したがって,一方で広げておきながら,それらに対し,何らの措置も講じないで,現実に刑罰だけを引き上げるということについては,ちょっと承服しかねます。 ● 運転手の組合の方の意見としては,今回の措置についてはやむを得ないという意見だと私は伺っております。消極的だったというのは,業界の方,つまりトラックとか,バスの要するに会社団体の方なのですね。そういうことでやるならば,どちらかというと,キーワードで言うと,人命を優先するのか,あるいは利益を優先するのかという究極の問題になると思うのですよね。   それと,これを厳罰,厳罰と言っておられますけれども,一つ私の方で言い忘れたことがありまして,例えば平成5年の犯罪白書でいいますと,日本の場合の交通犯罪の実刑率は世界の中でものすごく軽い。例えば韓国の4分の1,フランスの10分の1,ドイツの5分の1ぐらい。交通犯罪を起こした人の実刑率が日本の場合非常に甘い。当時500人から700人ぐらいの実刑者,今はようやく1,000人ぐらいです。実数の分母は多くなっていますから,率自体は,実刑になっている人の割合は変わっていない。相変わらず加害者が有利というか,加害者が天国という状況が続いていると思っております。   ですから,今回7年になることで非常に厳しくなったという感覚は,私自身は思っておりません。相変わらず,世界の中でも非常にドライバーに甘いのではないかと,そういう思いをしております。 ● この点につきましては,法定刑の問題として後で議論していただきたいと思いますが,構成要件の論点につきましては,以上で御意見をお伺いしたということでよろしゅうございましょうか。 ● 1点だけ述べさせていただきたいのですけれども,繰り返しになっちゃうかもしれないですけれども,やはりこういう議論をしながら,今度は日常的に今,道路を歩いていて感じること,やはり狭い道路で歩道もない,それで端っこに白線が引いてあって路側帯があるだけ。その狭い道路を次々と車が走っていく。これは大変歩いていても怖いことは間違いないのですね。間違いないのだけれども,だけどそれは本当に普通の人たちが,そこら辺の人たちもそうだし,お年寄りもそうだし,それから職業運転手もどんどん運転している。この場合に考えると,道路がそのままで車だけ 増えていると。運転者もどんどん増えていると。その状態が全国的に起こっている。そういう状況下で事故が起こらないことの方がむしろおかしいのであって,やはりむしろそういう事故全体が起こらないようにすることこそが大事なのですから,そこのところが,すぐにそこを変えろと言っても無理だというのは分かるのですが,従前そのままにしてきたしわ寄せを今度はたまたまミスを犯した運転手さんに乗っけるというような形,やはりこれは公平ではないと私は考えます。そういう意味で,やはり自動車運転によるものであっても,現行よりも上げる必要性はないと考えます。 ● まず,職業上のドライバーに関する御指摘がありましたが,前回,事業用及び自家用の乗用車,貨物車が第1当事者になっている交通事故件数について,いわゆる信号無視,最高速度,酒酔いを伴うものの内数を含めた統計資料をお示ししましたが,圧倒的に自家用 によるものがやはり多いのですね。そういう実態が一つあります。   それから,ここ数年で,法定刑や処断刑の上限に非常に近い重い判決が出ているということで,そういう事例の資料をお出ししておりますが,これに対し,委員の方から,職業上のドライバーによるものが多いではないのかという御質問がありました。それで前回御説明しましたように,その判決書によると,何件かは,自動車運転を職業としている者によるものでありましたが,さらに,量刑の事情を見ていきましたところ,委員が懸念されておられるような,過重労働を強要された末やむを得ず事故を起こしてしまったというような事情が認定されている事案はありませんでした。   また,委員から,刑罰の謙抑性という観点から,刑罰以外のいろいろな施策を十分に講じた後に罰則の強化を考えるという順序ではないかとの趣旨の御意見がございましたが,もちろん私どもとしても,刑罰を強化するということだけでこの問題についてすべて対処しようと考えているわけではもちろんございません。交通事故に対処するため,政府としてこれまで様々な取組みをしてきたというのは,本日資料としてもお出ししたところです。そして,現在においても,第8次の交通安全基本計画を策定し,順次様々な施策を行っております。   委員がおっしゃったように,確かに,道路状況等により,事故の起きやすいような場所があるというのも事実なのだと思いますけれども,ただ,その場所で頻繁に事故が起きているというわけではなく,その場所を自動車で通行しても事故が起きていないことの方が圧倒的に多いのですね。要するにごく普通の注意をしてそこを走行すれば,事故は起きていないというのが圧倒的に多いわけですので,運転者にそういう重い注意を求めるということがそれほど過剰なことなのかなという気がいたします。   そして,確かに,刑罰以外にも,いろいろな施策を並行してやっていくというのは,もちろん大事なことですし,政府としても十分そういうことに取り組んでいかなければならないのでしょうけれども,では,そのような施策の実施をすべて待ってから罰則の強化を考えるべきなのかという問題なのだと思います。   それから,刑罰というものの持つ意味について,事故を抑止するためだけにあるのだという設定の仕方をしてしまえば,それはいろいろな抑止をするための方策はあるのでしょうということになるのかもしれませんけれども,今般,必ずしも交通事故を抑止をするためだけに自動車運転過失致死傷の罪の新設を行うわけではなく,何度も繰り返しになりますけれども,飲酒運転中の事故など,そういった悪質な事故がやはり依然として後を絶っていない。そして正にこれが非常に社会問題化しているという現状があるわけです。その中で,その被害者あるいは遺族の方々はもとより,社会一般の相当数の方々がこの種事犯に対する量刑あるいは法定刑に対して疑問を示され,その規範意識に合致しないという声も聞こえてきている。そういう中で,実際にお示ししましたように,自動車運転による業務上過失致死傷罪の科刑状況につき,法定刑,処断刑の上限近くで量刑される事案が増大しているところであります。   こういったことを併せ考えますと,もちろん刑罰以外にいろいろな交通事故を防ぐための諸施策は必要ですし,これからもそういう努力は続けなければいけないのでしょうが,やはりこのような諸施策と併せて,事案の実態に即した適正な科刑を行うことができるるようにするため罰則を強化する必要があるのではないかと考えています。 ● 1点付け加えさせていただきますと,自動車運転者を使用する立場にある者が,厳しい労働をさせることによって事故が生ずる事案や実情があるとすれば,それをきちんと是正していくという施策も当然のことながら必要であろうと考えているところであります。   もともと道路交通法の中でも,そういった運転を命ずる立場にある使用者の義務が規定されていて,特に過労運転になるような運転を命じたり,容認してはならないという規定があって,そのような下命・容認行為に対する罰則も設けられているところでございます。   今般の道路交通法の改正の中でも,そういったことについて,その罰則をどうするかということについて検討がされているところであるとも聞いておりますので,そういった施策も併せて必要なのだろうと考えております。 ● 事務当局の今回の改正の御提案についての趣旨を伺っている限りでは,あくまでも業過一般ではなくて,業過の中でも特に悪質な,例えば飲酒を伴うもの,あるいはお配りいただいている事例の中でいえば,かなりの長時間にわたるわき見をしたものなど,本当に少し注意すれば事故を防ぐことができるような,運転者としてのモラルに反する行為が基となり業務上過失致死に至って,しかも複数の死傷が出たというような重大な結果を伴う事案を想定されているのだろうと思います。そういう事案を想定されているからこそ,法定刑の引上げがそれなりの抑止力を持つことになるのだろうと思いますし,逆に言えば,単純でささいな不注意による事故を想定しているのではないのだろうと思います。そういう意味でいうと,あまり御心配いただく必要はないのかなと思います。   過労運転の事例についても,事案を見てみないと分からないのですが,本当にぎりぎりの労働条件をほぼ拒絶することができずに強制された結果起こした事故ということであれば,おそらく法定刑の上限ぎりぎりの量刑には多分なっていないのではないだろうと思います。だから,そういう意味では,多分それなりのモラル違反がうかがえるような悪質な事案であったからこそ,この ような重い量刑になっているのかなと思います。ですから,改正の御提案が想定されている事案を考えていけば,恐らくそれほど御心配いただく必要がないのかなという気がしているところです。   あと,もう一つ,業過全体を上げず,自動車運転だけを上げるのがいいのかという論点もあったと思います。前回,若干御議論があったところだと思うのですけれども,これについては,事務当局の御説明は,むしろ立法事実がない,要するに,自動車運転によるものと違い,それ以外のものについては,それほど法定刑の上限ぎりぎりの事件が出ていないという御説明でした。確かに,それはそれなりに納得いくところなのだろうと思うのですが,他方で,前回御説明しましたように,下級裁からの意見の中には,やはり自動車運転以外の類型でも同様に悪質なものがあるのではないかという意見は出ています。おそらく,事務当局のおっしゃるのが,そういう事件がおよそないという趣旨だとすれば,異論があり得るのではないでしょうか。例えば,あの福知山線の列車脱線事故で,運転手がもし生きていてたらどのような量刑になるでしょうか。これも事件の具体的内容をよく見てみなければ分からないですが,現行の法定刑で適切な量刑が行えるのかという危惧はあるのだろうと思います。   ですから,例えば5年を超える量刑が必要になる事案がおよそないというわけではないのだろうと思うのです。ただ,他方で,前回の会議でも,複数の委員から御指摘があったように,典型的に必要性が生じているところから法を整備していくという意味で,自動車運転に伴うものについては類型的には必要性が認められることから,まずこの点について整備するという趣旨であれば,これも一つの切り分けとしてあり得るかなという気がしております。 ● 立法事実等に関して,議論がかなり展開されてまいりましたので,問題点は明確になったかと思います。   もう既に議論は法定刑の中身の問題に入ってきておりますので,次の段階として,論点項目の第1の2に,「法定刑」としてお示しいたしました自動車運転過失致死傷罪の法定刑について御議論いただきたいと思います。   この論点につきましては,委員,幹事の皆様から既に様々な御意見が出されております。自動車運転過失致死傷罪の法定刑は,第2回会議の関係各団体の方々からのヒアリングにおきまして,交通事故の被害者団体の方々からの御要望の強かった点でございますので,この点につきまして,更に御議論していただきたいと存じます。   この論点についての委員,幹事の皆様方の御意見をお願いいたします。 ● 前回の議論が途中で終わっていると思うのですが,飲酒運転そのものの道交法違反で今度刑を引き上げることと,飲酒運転も含む自動車運転過失致死傷で刑を引き上げることが二重処罰に当たるか,当たらないのかということについて,委員の間で微妙に意見が違っていたようなことがあったので,そのあたりもう少し議論する必要があるのではないかと思うのですけれども。 ● 道交法違反と自動車運転過失致死傷罪とで,理屈の上では,保護法益というのでしょうか,違うわけですから,二重処罰の問題は生じないのだと思うのですね。ただ,実際上二重処罰にならないように運用する必要があるのではないかというのが委員の御意見の趣旨ではないかというように思います。 ● おそらく今の道交法の処罰規定が,もはや単なる行政犯規定でなくなっており,私の言葉でいうと刑事犯化している面があり,それとの関係で若干問題はあるのだろうと思うのです。ただ,まだ実現もしていない,検討中の道交法の改正の問題と,ここでの問題とはひとまず切り離して議論するほかはないのではないかと思います。 ● 切り離して議論というのは,理屈上は理解できないわけではないのですが,現実問題として,通常国会で,道交法の改正はもう近々上がるという話もありますので,そういう状況の中で,新たに刑法改正も併せてやはり議論しておく必要があるだろうと思うのですね。   私が思うに,前回もちょっとお話ししましたけれども,仮に道交法違反の酒酔い運転や救護義務違反等の刑が上げられますと,現在までの運用の中で懲役刑が科せられて,禁錮刑が科せられている事案について,法定刑が張り付かない状況になるのですね。そうだとした場合,それで不十分かどうかという議論があるのではないかと思うのですね。私はそれで十分ではないかと考えているのですが。 ● 自動車の運転に関する死傷事故については,既に刑法第208条の2で,危険運転致死傷罪として特定されている部分がありますね。そのような死傷事故うち,危険運転致死傷罪に至らない事故について今回規制されようとしていると私の方では思っている。そういう意味で,業過の中からの切出しは既に一部切り出されておって,それが危険運転致死傷罪として類型化されている。そうすると,今の二重処罰の問題について,危険運転致死傷罪の適用の関係で問題となっておるのかどうかということでいいますと,実際それは問題とされていないと私は思っております。そういう意味で,二重処罰の問題はクリアされているのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ● 委員の御意見というのは,要するに,今般,道路交通法の改正により飲酒運転の罪などについて大幅に法定刑が重くなるから,それで十分ではないのかという御意見なのだと思いますけれども,今般,我々が問題にしているのは,もちろん飲酒運転に伴う事故,これは非常に悪質な運転の一つの代表例ではありますけれども,これがすべてと申し上げているわけではないのでして,こと飲酒運転の場合だけを念頭に,自動車運転過失致死傷罪を設けようと議論しているわけではないので,道路交通法で手当てがあったからといって,それで十分ではないのかという御議論はちょっと当を得ていないと思います。 ● 二重処罰の問題を御指摘されるわけですが,基本的な考え方として言えば,やはり業務上過失致死傷にせよ,今回設けようとしている自動車運転過失致死傷にせよ,過失の行為によって人の生命・身体に害を加えるという,生命・身体の保護に対する罪と,道路交通法の趣旨・目的からくる飲酒運転についての規制違反とは,基本的に,保護法益や趣旨・目的の異なる罪である以上,二重処罰という意味では,問題とならないと考えております。また,私どもも道路交通法の改正を度外視して,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の検討をしてきたわけではありませんし,当然それも視野に入れながら,その上で,なお,どの程度の法定刑が必要かを考えた上で,7年が適当ではないかと考えたところでありまして,理論的に,二重処罰の危険といったような観点から問題があるとは考えておりません。 ● 今回検討している改正案は,法定刑の引上げがメインであります。かつて刑法改正について,非常に強い批判を生じた時代がありましたけれども,そのときは犯罪化,重罰化ということに対して社会的な批判が寄せられました。今回の改正は,新たに犯罪をつくり出そうとするのではなく,現行法でも処罰されるはずのものについて法定刑の引上げを考えるものでありますので,「重罰化」の問題ではありますけれども,「犯罪化」の問題ではないわけです。   ところで,その法定刑の引上げが何を意味するかですけれども,私の考えるところ,法定刑の引上げは,立法の段階,それから刑事司法の段階,最後に刑の執行の段階と,この3つの段階で様々な現れ方をしてくると思いますけれども,まず立法の段階においては,一つは,国家の持つ価値基準を明示するといいますか,人身,財産あるいは名誉というようなものに対して,国がどういう評価をするかということを示す。それはおのずから時代によって変化をするわけで,今日において生命あるいは人身の自由というものに対する評価が非常に高くなっていることは御承知のとおりであります。   今回の改正案も,いわばその一環であり,単に生命・身体という法益のみならず,その侵害への対応,自動車運転によるという,その点も含めて国はこういう評価をするということを示す点に意味があるのではないかと考えております。   併せて,抑止力というのは,犯罪の性質によって随分違うものでありますが,過失致死傷事犯については,ある程度抑止力を肯定的に考えることができるのではないか。そういう点で,立法の意義があると考えて,この席に列している次第であります。   ただ,これは刑の量定あるいは刑の執行という段階になりますと,これはおのずから問題は別でありまして,法定刑が5年から7年に上がったことによって,量刑の点でどういう変化を生ずるか。現在,既に業過については,5年の上限に近いところで刑を言い渡しておられる例が少数ながらあると存じておりますが,その種のケースについて,5年より7年に近い刑が言い渡されるということはあり得るだろうと思いますけれども,しかし,それは決して全般的な現象にはならないのではないか,法定刑の引上げが即量刑全般の変動ということにはならないだろう,この点は裁判所を信頼申し上げるほかはないのでありますが,恐らくそうではないかという気がするわけです。その点,法定刑の下限の引上げはまた全く別の問題でありますので,今申しておりますのは,もっぱら上限の方の問題でありますが,先ほどから話題になっております道交法との関係も,結局は同じようなことで判断できるのではないか。検察は重かるべきは重く,軽かるべきは軽くということで起訴し,求刑をするでありましょうし,裁判所もまたその方針で臨まれるだろうというように考える次第であります。 ● ただ今の御意見は根本的な観点からの御意見だと思います。   これに関連しまして,法定刑の上限について,被害者団体の多くの方から懲役10年以上にすべきという意見が出ておりますが,この点に関しましては,これは責任主義との関連の議論が前回十分に出てきておりませんでした。今回の自動車運転過失致死傷罪における法定刑の上限の問題について責任主義とか,行為責任とか,意思責任とかの根本的な観点からの御議論もあった方が,ヒアリングに対するこの部会の回答という面も出てくるかと思います。 ● 法定刑の話の前に,先ほど,危険運転致死傷罪の起訴件数に関する御発言がございましたので,その統計の件数をまず御紹介させていただいた上で,法定刑の話に移らせていただきたいと思います。   平成14年から平成17年まで統計がございまして,それについて申し上げます。平成14年は,危険運転致傷罪が259件,危険運転致死罪が52件,合計すると311件になります。平成15年は,危険運転致傷罪が272件,危険運転致死罪が60件,合計して332件でございます。平成16年は,危険運転致傷罪が275件,危険運転致死罪が41件,合計して316件でございます。平成17年は,危険運転致傷罪が256件,危険運転致死罪が46件で,合計302件でございます。   なお,平成18年は,まだ統計の確定数値が出ていない段階でございます。   続いて,自動車運転致死傷罪の法定刑でございますが,ただ今,部会長から,責任主義の観点からのお話がございました。私どもも自動車運転過失致死傷罪の法定刑を考えるに当たりまして,その点も考慮したところでございまして,やはり自動車運転過失致死傷罪は過失犯として構成しております以上,現行刑法が故意犯と過失犯と峻別し,過失犯は原則として処罰せず,処罰をする場合もその法定刑に相応の差異を設けていることや,自動車を運転する多くの国民のだれもが犯す可能性のある犯罪であることを考えますと,自動車運転過失致死傷罪の法定刑をあまりに重くするということには,慎重な検討が必要であると考えられたところでございます。   こういった観点をも踏まえまして,更に御議論をいただければと考えております。 ● この点に関しまして,何か御意見はございますでしょうか。 ● 危険運転致死傷罪について,先ほどおっしゃられた責任論との関係で,故意なのか,過失なのか。危険運転については故意で,起こした事故については,衝突の直前の行為,これは私はあくまで過失だと思っておるところですが,その点は構成要件上は危険犯,特殊な危険犯的な外観を呈しているのですけれども,そこら辺は私の理解は間違っているのでしょうか。 ● 先ほど危険運転致死傷罪の罪質について御説明しましたように,危険運転致死傷罪は,故意に暴行を行ったことによる結果的加重犯としての傷害罪もしくは傷害致死罪と類似する犯罪類型だと考えております。つまり,刑法208条の2に,一定の危険運転行為の類型が掲げられていますけれども,その行為の実質的な危険性にかんがみますと,これは暴行に準じるものであるといえます。したがって,そのような運転行為を故意に行った結果,人を死傷させた場合,暴行による結果的加重犯としての傷害罪あるいは傷害致死罪に類似するものであるという理解でございます。 ● 具体例で申し上げますと,例えば昨年9月,博多で起こりました事故で,検知量で0.2ミリグラムですか,非常に全体の酒の量からいうと少ないような感じはします。運転者の衝突のときの認識ですけれども,普通の衝突事故と私自身はそんなに変わっていないのではないかと思っているところで,その適用に関して,今の御意見は,暴行に準じる,あるいは,故意犯に正に質的に転換しており,過失ではなく,故意犯だという認識でいいのでしょうか。 ● 正常な運転ができないという点についてはいかがなのでしょうか。 ● ですから,正常な運転ができないということについては,故意だということは私も認識しているのです。その次の事故自体の過失行為,これは切り離して考える。例えば,飲酒して車に乗る。それは故意なのですね。その結果事故を起こした。危険運転致死傷罪が新設されるまではあくまで,例えば,衝突直前の前方不注意などの過失としてとらえられてきたのですね。それが危険運転致死傷罪が新設されてからは全然違ったものになったのでしょうか。 ● 構成要件が変わっていますからね。その点に関して,どうぞ。 ● 危険運転致死罪は,事務当局から御説明がありましたように,結果的加重犯であって,といっても基本犯が処罰されていませんが,それは道交法の罪として処罰されるから規定する必要はないという御理解だと思いますけれども,そういう犯罪でありますので,加重結果である致死傷の部分については過失で足りるというのは当然で,その部分について故意があれば,これは傷害罪,傷害致死罪,殺人罪になるべきものだということだと思います。 ● 今の御意見についてですけれども,つまり飲酒して車に乗れば,すなわち故意になるという,起こした結果について,死傷について故意になる,という理解ではないのですか。 ● 危険運転行為については,構成要件上,故意が必要ですが,その上で,危険運転行為の正に重大な危険性の現実化として,人の死傷という結果が発生した場合に危険運転致死罪が成立します。その死傷の発生の部分については,もちろん故意は要らないわけであり,判例の解釈によれば結果的加重犯の加重結果については過失が要らず,因果関係があればよいことになるので,その部分については結果的加重犯の一般的な解釈と同じです。 ● わかりました。 ● 判例においても,学説においても,一種の結果的加重犯だという理解がなされております。 ● ただ,現実の裁判記録を見るときに,危険運転について故意であるのかどうかという議論ではなく,結果についても認識したのかどうかという議論がよくなされているので,その結果的加重犯という意味が普通の場合とちょっと違うのではないかと,こう思っておるのですけれども,その点どうでしょうか。通常の結果的加重犯と同じ構造なのか,違うのではないかと。危険運転をすることについての故意があったら,その結果について結果責任を認めなきゃいけないと。そういう議論だと思うのですけれどもね。 ● 通常の結果的加重犯と同じような思考経路で判断されていると理解していますけれども。 ● 理論的にはこれまで御説明があったとおりでございますが,委員の方から具体的な事件の記録を見てというお話がございましたので,それに関して申し上げますと,おそらく,例えば,警察が業過で送ってきて,検察庁で危険運転致死傷に認定替えをした場合などは特にそうですけれども,被疑者のどういうところが悪かったかということなどの供述調書を作成した場合に,明確に過失犯であるということが後で調書を読んだ方に分かるような調書になっているのかというと,ケースによってはそうではない調書があるのかもしれません。これは道交法ほかの構成要件でも昔は少し問題になったようなところもあるわけでございますけれども,あるいはそういうようなところから委員の御疑念なりが出てきているのかなとちょっと感じましたので,申し上げました。 ● いろいろと考えてみますと,ちょっと思いつきで,私の意見というわけではないのですけれども,被害者の団体からいろいろ聞いてみますと,10年という希望もありました。できたら下限をちゃんときちっと決めて,その下限のない状態はやめてほしいという意見もありました。そういうことを考えてみると,場合によって,自動車運転過失致死傷罪の第2項を設けて,道交法に違反しまたは重大な過失によりという形の,ある種の行為でも限定をして,そこでそこについては7年以下という形のものとか,あるいは下限をきちっともう決めちゃうということが考えられてもよかったと思うのですが,そのような検討はなかったのでしょうか。 ● 自動車運転過失致死傷罪の法定刑につきましては,被害者,御遺族の方々の被害実態,御心情等をも踏まえて,事務当局といたしましても様々な検討をいたしました。   第2回会議におけるヒアリングの場面に限らず,それ以前から,法務省に,交通事故被害者,御遺族の団体の方々から,自動車運転による過失致死傷事犯の法定刑の上限を10年以上にするなど重くする必要があるのではないかとの御要望が寄せられていたところでございます。   そのような御要望を踏まえ,自動車運転による死傷事故に関する罰則の法定刑の上限を10年以上とするとした場合に,どのような案が考えられるのかにつきまして,大きく分けますとおおむね二つの方向性について検討をいたしました。もちろん検討はこれから申し上げるところに尽きるものではなく,多岐にわたるものでございましたが,これからの御議論の参考までに御紹介させていただきたいと存じます。   一つは,今委員から御指摘があったところでもございますけれども,自動車運転による死傷事故を過失犯と構成すると,どうしてもその法定刑には限界が出てまいりますので,自動車運転の危険性に着目し,何らかの形で,危険運転致死傷罪とまではいかないまでも,一定の危険な運転行為を類型化して,新しい構成要件を故意犯として新設し,その法定刑を相応に高いものとすることができるかというものです。   もう一つは,これまでの御議論の中にもございましたけれども,自動車運転過失致死傷罪の法定刑を重くすることの問題として,法定刑がそのままとなる業務上過失致死傷罪等との法定刑のバランスの問題がございましたので,自動車運転過失致死傷罪を過失犯として新設して,その法定刑を例えば10年とするとともに,業務上過失致死傷罪等の法定刑についても引き上げることによって法定刑のバランスをとることができるかというものです。   しかしながら,1つ目の考え方につきましては,危険運転致死傷罪とまではいかない危険な運転行為の類型化に相当に慎重な検討を要する上, 自動車運転中の死傷事故の事案について,危険運転致死傷罪の対象となる事件,新設する罪の対象となる事件及びその他の事件の三つに分類する結果となることについては,実務上,そのような立証及び認定が可能なのかなどの点から,相当に慎重な検討を要すると考えられました。   他方,二つ目の検討案につきましては,自動車運転中以外の業務上過失致死傷事犯は,まず1点目として,量刑の実情を見ても,その法定刑を引き上げるべき理由は直ちには認められないという立法事実の問題がございます。 また2点目として,自動車運転中以外の業務上過失致死傷事犯は,企業等の事業活動に伴って発生することが多く,企業等における安全確保のためのシステムの在り方と個人責任の関係についても慎重な検討を要します。 さらに3点目として,業務上過失致死傷罪は刑法におけるの過失犯の中での中心的な役割を果たしており,その法定刑の見直しには過失犯全体の法体系の見直しの検討が必要であり,それには相当の時間を要するといえます。以上のことなどから,このような法改正を直ちに行うことは困難であると考えられました。   そこで,私どもとして,最も妥当と考える案として御提案申し上げたのが,今回の諮問の要綱(骨子)でございまして,自動車運転過失致死傷罪を新設し,その法定刑の上限を7年にするというものであったという次第でございます。 ● 委員の言われたアイデアは,おそらく今説明のあったした二つの考え方とまた少し違う部分もあるのだろうと思います。基本は過失犯を前提にして,その中で一定の重い悪質な自動車運転による致死傷事犯を7年なら7年とするということなのだと思いますので,少しまた違う角度ではないかと思われますが,ただ,どちらにしても,そういう悪質なものを取り出すことになりますと,そうでない過失のものが,5年なら5年という形で残ることになりますので,自動車運転による死傷事故全体で見ますと,危険運転の類型,取り出した重い類型,それから一般的な類型というように,3類型に分かれることになります。そのような体系の在り方がそもそもいいのかどうか,あるいは実務的に使えるのかどうかといった問題は,私どもの検討した中の問題と共通する部分があるという感じがしております。   それからもう一つは,やはりどういうものを悪質なものとして取り出すかということは,飲酒運転は入るとしても,それ以外のものというのは,正にいろいろな態様があって,それを要件として書き出し,類型化して,これだけは重いのだと規定することが実際上できるのか,その類型化自体に相当議論も必要ですし,そもそもそういったことの可否自体にも相当疑問があるというようなことがありまして,私どもとしては自動車運転というものの危険性に着目して,その全体をその他の業務上過失致死傷罪のものとは一定の差別化をした上で,その法定刑の上限を7年とするという案が相当ではないかと考えてきたということでございます。 ● 今般,法定刑をどうするのかということも含めて,特に交通事故の被害者あるいは遺族の方々から,これまでも低過ぎるし,私どもが御提案しているような7年でもやはり低くて,最低でも10年とすべきだという御意見をヒアリングでもいただいているところですし,これまで提出いただいた要望書あるいは署名にも示されているところです。おそらく被害者の立場に立てば,正に自分の大事な家族を亡くされた方にとってみれば,人の命がどうしてこんなに軽いのかと思われるのも,非常にごく自然のことだと思います。しかしながら,自動車運転過失致死傷罪の法定刑の上限を10年以上にすべきという御要望については,これまで何人かの委員,幹事の方から御発言がありましたように,故意犯と過失犯における刑責の差異等,いろいろな理由がありますけれども,そこまでの御要望におこたえすることはなかなか難しい状況です。   ただ,刑事司法制度の中で,被害者の方々の思いにこたえるというのでしょうか,被害者の方々の権利,利益を一層保護するという観点から,私どもとしては,この問題もそうですけれども,別途の法整備も現在並行して準備しているという状況です。   御案内のとおり,犯罪被害者等基本法ができまして,その基本理念として,被害者の方々について,その個人の尊厳を重んずる,その尊厳にふさわしい処遇を保障するという,そういう権利が正に法律上明定されたところです。そういうことも踏まえまして,被害者の方が被害を受けた事件の当事者として,刑事司法,刑事事件の裁判の推移,そういったものに重大な関心を持たれることは当然であるという観点から,今般,別の法制審でありますけれども,被害者の方あるいは御遺族の方が一定の要件の下で刑事裁判に参加して,正にそこでいろいろな活動ができるというような制度も今並行して検討しているところです。   今回新たに御提案しております自動車運転過失致死傷罪の被害者の方々につきましても,刑事裁判に参加していただけるよう,現在,法整備の作業も並行して行っているところです。   私どもとして,被害者あるいは御遺族の方々の御意見,御要望をこれからも真摯に伺いながら,いろいろな法制度の中でどんな形でそれにこたえていくことができるのか,これを今後とも考えていきたいと思っております。 ● 被害者の人たちの話を聞いて,なるほどなと私自身思いますのは,今の御意見は前提の上での話なのですけれども,例えば,危険運転は20年で,片やそれに漏れる,それに近い人たちはせいぜい7年ではないかという一つの議論ですね。   それと,道交法のひき逃げの法定刑が,刑法とは全然違うのですけれども,1年だったのが3年になって,5年になって,今度またそれが引き上げられようとしているという,ひき逃げが故意犯だと言えば,それでお終いなのですけれども,故意犯とはいえ,1年,3年,5年,10年になるというのが,業過の刑の評価よりももっと重い罪になるということになると思うのですよね。ですから,交通犯罪全体でいうと,命のあるいは身体の重みということを非常に重視しているということを被害者側も思っていると思うのですよ。ですから,そういう意味では10年というのもあながち私は否定できないのではないかなと思っているところです。今の議論はそれを前提として,過失だからと,その延長で7年になるのだと言われたら,なるほどなと私自身は思いましたけれども,そういった率直な感覚,警察庁がそれに呼応しているということもあるのでしょうけれども,非常にそういった2つの法律があるということで,バランスがうまくとれていないのではないかなということだと思います。 ● 今のお話を伺っておりますと,最初の,自動車運転過失致死傷罪として切り分ける必要性のところの議論とかなり重なっているなと思いました。被害者の方の御意見などを聞いていて,飲酒運転というのは故意犯でしょうと言われているのですが,確かに酒を飲んで運転しているということについては故意かもしれませんけれども,どのような状況で,どのように車を使って走行するかということが明らかではない。人の死傷という結果との関係で考えるべきで,故意か,過失かはその段階では分からないわけですよね。先ほど委員の御意見もありましたけれども,道路交通法においては,道路交通の安全を一般的に保護していて,その枠組みの中では,死傷するかもしれない人の安全も守られているのでしょうが,それは予備ないし未遂的な段階で人を守るだけというのが前提だろうと思われます。   他方,刑法典の中で今考えているものは,結果犯として,人の致死傷という結果が生じた場合に,故意,過失を問うというものですから,刑法の罪と道交法違反の罪の両罪が,2つの罪が別個に切り分けられているのであって,二重処罰にもなりませんし,また,故意,過失を議論するときにも,運転行為それ自体と生じた結果との間ではやはり分けて考えないと,そもそも刑法と道路交通法が分けられている体系に沿った改正案はできないのではないかなと,個人的には思いながら聞いておりました。 ● 危険運転致死傷の刑と業過の刑とでギャップがあり過ぎるということで,その間を埋めるために,中間部分を作る,ないしは下を大幅に上げるべきである,という発想の意見が,被害者の方のヒアリングとか,あるいはこの部会でも出てきていると感じておりますが,どうもそのギャップというのは現行刑法の基本的な考え方そのものに起因するものであるということを一言だけ申し上げたいと思います。   つまり,先ほども事務当局から発言がありましたとおり,やはり危険運転致死傷というのは,暴行の行為がない場合を暴行の行為がある場合と同じに扱う,通俗的な表現を使えば,暴行の行為があると言われても文句が言えないような場合を厳格に類型化して,この行為が行われた場合については,暴行と同じに扱って,いわば暴行から傷害へ,傷害から傷害致死へというラインに乗せるという,そういう規定です。したがって,かなり例外的な,かなり特例的な扱いであって,厳しい構成要件になっているのも,その意味で,やむを得ないことです。そうであるとすれば,この構成要件に該当するかどうかというのは,正にオール・オア・ナッシングの世界でありますので,該当すれば重くなりますけれども,該当しない場合には,やはりそれは通常の過失犯ということにならざるを得ない。そこには,現行刑法が故意,過失を分けていて,その間に大きな差を設けているのは正に現行刑法の基本的考え方の反映にほかなりません。その意味で,多少のギャップが出てくるのはこれはやむを得ないことであります。先ほど事務当局から発言がありましたが,危険運転致死傷に準じるような罪,いわば準危険運転致死傷罪を作るというのは,確かに一つの案かもしれませんが,そうなると,3段階となり,非常に類型化も難しいでしょうし,理屈で中間形態をどう説明するのかというのも難しい,おそらく不可能ではないかなと思うのです。結局,現行刑法の基本的考え方に合う形の改正としては,業過の中から自動車運転を切り分けて,ワンランク重くするというのが穏当な線ではないかなと思います。 ● 第2回会議のヒアリングにおきまして,交通事故の被害者団体の方々から自動車運転過失致死傷罪の懲役・禁錮の法定刑の上限を最低でも10年としてほしいとの御意見がございました。   その一方で,被害者団体の方々からは,ひき逃げを防止することができるよう,ひき逃げ事犯に対する厳罰化を求める御意見がございました。ひき逃げ,あるいは道路交通法上の救護義務違反が行われる理由を客観的に分析することは困難でありますが,被害者の方々の御意見の中には,危険運転致死傷の適用を免れたいという意識,あるいは飲酒検知を免れたいという意識があるという御指摘があり,そのような観点から,ひき逃げをした場合は,かえって法定刑・処断刑が重くなるようにすべきであるという御意見があります。   このような御意見は,もっともな点を含むわけですが,そもそも現場から逃走する運転者の多くが,そのような刑の計算をしているというより,むしろ事故を起こしたという気持ちの動揺とともに,とにかく発覚を免れたいという意識が強いのではないかとも思われます。その点は別にいたしましても,一つ明確にしておく必要がございますのは,どのような場合であっても,逃走自体によって刑が軽くなるということはなく,真相が解明されれば,基本的には,救護義務違反の罪が加わることによって刑は加重されるということであります。  飲酒の点についても,時間の経過によって捜査の内容が変化するにしても,捜査機関は真相の解明に努めており,本日の冒頭,検察庁の委員から御発言がありましたように,その場から逃げても,少なからず危険運転致死傷罪の立件が行われていると承知しております。   問題があるとしますと,逃走によって刑が免れ,あるいは軽くなるという誤解があって,そのような誤解が逃走を助長するのではないかという点であるように思います。   そのような点を前提とした上で,ひき逃げ事犯の処断刑の問題について申し上げますと,前回御説明がありましたように,現在,警察庁では,道路交通法の改正を予定されておりますが,その内容を前提といたしますと,要綱(骨子)案のように,自動車運転過失致死傷罪の法定刑が7年以下の懲役・禁錮の場合,飲酒運転中の過失致死傷事犯の処断刑は,酒気帯び運転の場合が10年以下の懲役,酒酔い運転の場合が10年6月以下の懲役となります。そして,その上で更に逃げた場合の処断刑は15年以下の懲役となり,事故後逃げた場合に明らかに処断刑が重くなります。   これに対し,仮に自動車運転過失致死傷罪の法定刑を10年以下の懲役・禁錮といたしますと,酒気帯び運転の場合の処断刑は13年以下の懲役,酒酔い運転の場合の処断刑は15年以下の懲役となりますものの,その上で更に逃げたとしても,処断刑は15年以下の懲役であり,特に酒酔い運転の場合,事故後現場から逃走しても,処断刑は変わらないことになります。そうすると,逃げても処断刑が変わらないのですから,今回の救護義務違反の法定刑の引上げによる抑止効果がある程度制限されるのではないかという懸念が生じるように思われます。   最初にも申し上げましたように,この問題は,そのように単純なものではないと考えておりますけれども,ひき逃げ事犯の処断刑について関心が高いこともありますので,述べさせていただきました。 ● 今の点,ひき逃げを警察庁が10年とするということを前提としての話ですね。 ● はい。 ● 次の論点に移ってよろしいでしょうか。   次は,論点項目の第1の3,「刑の免除規定」でございます。   現在,刑法第221条第2項として規定されている刑の免除規定について御議論いただきたいと思います。   この論点につきましては,委員,幹事の皆様から既に様々な御意見がありましたほか,これに関連して,軽微な交通事故事犯についての捜査や事件処理の在り方等についても御意見がございました。この論点についての委員,幹事の皆様方の御意見をお伺いしたいと思います。 ● 前回,1,2週間のけがの場合に,そもそも送致されていないのではないかという御指摘がありましたが,現実に1週間,2週間のけがであっても送致をされて起訴猶予になったという例もございます。ただ,ほとんどがそういう形で事務的に処理されているのではないかという御懸念もあるので,御説明しますと,最近,脳脊髄液減少症というのでしょうか,数年たってから被害者が申告をしてきたという例もかなりございます。そういうことで,事案を再起して起訴したという例もございます。この傷害自体が,学会の中で認める先生もあれば,そうでない方もおいでのようですし,あるいは因果関係の立証も難しいということもございますけれども,例えばそのようなものについても,被害者から申告があり,再起して捜査して処理しているということがございますので,当初軽微な事案で送致されたからといって,すべて事務的に機械的に処理されているというわけではないという点が一つです。   また,今お話しいたしましたように,警察庁でも同じお考えだと思いますけれども,私どもも,1週間,2週間の怪我だから立件されていない,送致されていないというような取扱いはないと考えておりますので,その点も御理解をいただければと思います。   先ほど事務局の方から,被害者との関係で幾つか今後考えるべきところがあるということでお話がありましたので,この機会に付け加えさせていただきますと,従来,私どもの対応が,ある意味被害者あるいは遺族の方々にとって十分だとは感じていただけなかった部分もあるのではないか,私どもが意図的にそのようにしていたということではありませんけれども,やはり受け取られる方の受け取り方ということもございますので,この辺りは,最終的には私どもの方は捜査を遂げた上で証拠に基づいて処理せざるを得ないわけですが,できる限り丁寧に説明をさせていただきたいと思っておりまして,どういう形で徹底するかは今後検討を要しますが,改めて従前以上に被害者の方々あるいは遺族の方々に対して十分な説明をしなさいと,御理解をいただけるように努力をしなさいということで現場に徹底をしていきたいと思っておりますので,この機会に併せて御説明をさせていただきました。 ● 今の検察庁の御意見について,一つは質問的なことがあるのですけれども,まず,現実の運用として,昭和61年に東京高検で始められた起訴基準の改定ということで,これは明示はされていませんけれども,3週間以内の傷害は起訴しないという基準を作成されたのは間違いないのでしょうか。それともそれはないのでしょうか。 ● 私どもの事件処理というのは,傷害の結果だけでやっているわけではございませんで,これは委員も十分御案内かと思いますが,態様でありますとか,いろいろな情状を含めて判断しており,その中には被害者あるいは遺族の方の被害感情も含めて判断しております。ですので,その結果の軽重だけですべて判断しているというわけではございませんので,御理解いただければと思います。 ● 私が読んだ本の中に,東京地検の交通部長をされておられた方が,61年にそういう基準ができたということで,起訴率が1年間で66パーセントから16パーセントまで激減したと書かれたものがありまして,もう一つ基準があって,例えば飲酒していても3週間以内の傷害であれば起訴しないのだと,そういうルールも確立したと,そう聞いているのです。そうすると,行為と結果と総合的に勘案して起訴を決めるのだという抽象的な話をされましたけれども,被害者側から見たら,現実は全然違うのではないか。その結果,73パーセントの起訴率が今や11パーセントあるいは10パーセントにまできているのではないか,それが現実なのではないかと私の方では非常に疑っているところであります。だから,今のお答えは,表にはできないのでしょうけれども,現実の慣例として,そういう数字と基準があるのではないかというのが,ダブルスタンダードと言ってもいいと思うのですけれども,つまり飲酒していても3週間以内の傷害だったら切り離して考えるとか。 ● これはもう私どもが御説明をしても,御理解いただくのは難しいかも分かりません。事案ごとの,個別具体的な判断でございますから,そのように画一的に処理しているということではないことは御理解をいただければと思います。先ほど御説明したような傷害期間としては軽いものであっても,最終的に被害者の申立てを踏まえて再捜査をすることもありますし,あるいは処理の前の段階で捜査を更にすることもあるわけですから,これはもう事案に即して,それぞれ個別具体的に判断していくことが最終的には基本だと申し上げざるを得ないのかなと思います。 ● 私の方で,もう1点だけありまして,今の点は一応お聞きするという形になるのですけれども,被害者の遺族が検察庁の方の対応の姿勢に問題があるのではないかと言うのは,実は副検事さんが交通部ですべてほとんど捜査では対応されるということで,非常に扱いを考えていない事件処理をされているのではないかと。一つは資格の問題ですね。それと,そこら辺の対応がこれから変わるのかどうかということも含めてお聞きしたいのですけれども,やはり副検事を中心とした事件処理をされるのでしょうか。 ● どの検察官を中心にということではなくて,それぞれの事案に即して適切に,あるいはそのときの業務量もありましょうし,個々人の能力ということもありましょうから,その判断をしていくことになるのだろうと思います。そういう意味では,これからどうなっていくのだろうということになりますと,それは最終的な態勢の問題,事件数の問題,それから,そのときどきの庁の業務量の問題等もかかわってまいりますので,一概に御説明することは難しいだろうと思います。   それから,今のお話のように,資格の問題とおっしゃったので,あえてお話をしますと,副検事だから,法曹資格を持っていない人間だから,ぞんざいな処理をしているのではないかと,こういう御懸念がもしあるとすれば,それは違いますとお話し申し上げたい。これは,私自身の恥をさらすようなことでもありますけれども,私が若いころでしたら,私よりもずっと知識の豊富な副検事というのもおります。立派な捜査をして,よい処理をしているという者もおりますので,これは資格の問題ということではないだろうと思います。それから,いい加減な処理をしているからぞんざいな対応になるのではないかという御懸念があるとすれば,それも違うとやはりお話ししたいと思います。   ただ,私どもの職員,あまり御説明するのに慣れていない人もおりまして,それがひょっとすると,そういう人たちが舌足らずな説明をして誤解を受ける,あるいは,いろいろな御不満を生じさせているということはあるのかもしれません。ですから,それは今後,もしそのようなことがあるとすれば,私どもとしても十分注意をしていかなければいけないと思っていますし,こういうお話を伺うという機会もございましたので,いい機会を見つけて,今後とも対応については十分配慮するように徹底していきたいと考えております。 ● 犯罪被害者等基本法に基づいて,犯罪被害者等基本計画というのが平成17年12月に閣議決定されておりますが,その基本計画を作る際にも,特に交通事犯の捜査処理に当たって,副検事を中心に対応の問題があるのではないかとか,あるいは被害者,遺族のことがよくわかっていないとか,あるいは心情をもっとくみ取ってほしいなど,様々な御意見がございまして,基本計画の中でもそういったことを意識した項目が記載されたと記憶しております。そういった検察庁の検察官あるいは事務官を含めた職員の対応の在り方について,研修を含めてもう少しきちんとするようにということについて,それは一つの我々の課題でございまして,現に取り組んでいるところでございますので,先ほどの御指摘も含めて,更に一層の努力に当たっていきたいと考えております。 ● 非常に失礼な話をしていて,個人的にしているわけではなくて,こういう場でしか検察に対する被害者の不満というのは言う場がないものですから,私もだれに言ったらいいのか,法務省に言うべきではないなと思って,そういうことで,非常に失礼な話であれば申し訳ないと思っております。 ● ありがとうございます。 ● 今の免除規定という話なのですが,起訴率が今非常に下がっておりまして,かつて73パーセント,7割を超えておりました。昭和60年,急激に変わって減ってきていまして,平成になって,平成5年犯罪白書以降もずっと減少して,今1割しか起訴されておりません。人身事案が90万件生じまして,そのうちの1割しか起訴されていない。一方において,厳罰化,危険運転等ができて,悪質な事案に対する対応というのは,非常に国の方も全力を挙げてやっておりまして,私自身が思うのは,被害者数の増加というのは,実は運転者のドライバーに与える効果というのは,検察の一つのそういう政策,非常に甘い起訴率を運用してきている,ますます起訴率を下げてきている,そういう運用にあるのではないかと私自身は思っております。ですから,ドライバーを含めて処理する側の警察の士気も非常に低くなっている。つまり,どうせ不起訴だったらやる気がしないというのは当たり前でありまして,そういった検察,警察を含めた構造的な問題が,ドライバーのモラルに影響を及ぼして被害者数を生んでいると。ですから,かつての厳罰化のような,国を挙げての厳罰化でやれば,初犯から実刑をというキャンペーンもやったそうですけれども,今やそれがなくて,法律だけが今回一人歩きをするのではないかという危惧を持っております。その点は検察とあるいは警察庁の方にどういうお考えなのかということをお聞きしたいと思います。 ● 交通事犯につきましては,私などが30年,40年前に見聞していた事例と比較いたしますと,現在,既に処罰は非常に重くなっていると思います。今,起訴率が下がっているというお話もありましたが,その影響も多少あるかもしれませんけれども,しかし,起訴率は依然として高いはずの致死事件につきましても,一昔前の量刑は実に驚くほど軽いものでありました。それが現在,既に大きく変化してきているわけで,その意味では今回,5年を7年に法定刑の上限を高めるということは,上限に関する限り,40パーセントの引き上げでありますけれども,これは決して裁判所に対し,宣告刑を40パーセント上げてほしいというメッセージを含んでいるものではないと思います。   刑罰というものは,それなりに難しいといいますか,一種のコストを伴うものであります。数年前,法務省に訪ねてきたイギリスの学者と話しておりましたときに,その人は関西あたりで既に刑務所,少年院等を見学してきておりましたが,日本の刑事施設は非常に整然と効率的に運営されていて,敬意を払うという前置きとともに,一つだけ驚いたのは,所長さんにコスト意識が全然ないことだったと申しました。最近は,日本でも過収容という問題が表面化しまして,コストの問題がある程度出てきているわけですけれども,刑罰のコストというのは,もっと広い意味で,経済的なものに限らず,社会に対する影響あるいは犯罪者そのものに対する影響という意味でやはり考慮すべき点があり,今回の改正が実現しましたときに,それによって直ちに実刑率が上がったり,刑期が長くなったりするということは望ましいことではないと思います。   ただ,現在,既に業過の5年の上限では律し切れないような若干の事件が生じていることは確かなので,それに対しては適切な対応が必要であると思いますけれども,一般的に言えば,宣告刑の基準を一挙に高めるような必要は全くないし,もしそうなれば,かなり有害な結果になるのではないかという懸念を持ちます。 ● 免除規定の問題だと思うのですよね。起訴率が下がっている以上は,ほとんど無罪扱いされていますから,免除規定は意味がない。前回の議論のときにも,関係官の方から,免除規定は裁判所にあてられるもので,あまり意味がないとおっしゃったと私は記憶しているのです。そうすると,この免除規定の意味というのは削除した方がむしろいいのではないか,今回の刑の引上げとの関係で。私は削除してほしいと思っております。 ● この点に関して,何か御意見はございますでしょうか。 ● この点は前回も御説明させていただきましたが,やはり現行の刑法第211条第2項は,自動車運転による過失傷害事犯の中に,軽傷で情状もよく,明らかに刑の言い渡しを要しない軽微なものが少なくないことを踏まえて,そのような軽微な事案については,法律上刑の言渡しをしないことができることを明らかにすることが適当だと考えられたことから,平成13年当時の法制審議会の御審議・答申を経た上で,平成13年の刑法の一部改正により,自動車運転による過失傷害事犯のうち,事案軽微のものに対する刑の裁量的免除規定として新設されたところでございます。   そして,そのような免除規定を置く必要性は,自動車運転による過失傷害事犯を対象とする自動車運転過失傷害罪の新設後においても変わるところではないので,現行制度と同様に,本罪のうち事案軽微なものに対する刑の裁量的免除規定を設けておく必要があるものと考えているところでございます。 ● おそらくこの点も議論がちょっとかみ合っていないような気がします。○○委員の御疑問は,要するに免除の規定は,起訴されてその上で裁判所が免除にするために必要となるはずであり,そもそも起訴猶予にするのであれば,免除の規定など要らないのではないかという御疑問なのだろうと思います。しかし,おそらく平成13年の改正のときに免除の規定が設けられた趣旨は,起訴した上で裁判所が免除にするという運用を考えていたということではなく,立法の段階から,免除もあるということを前提とした上で起訴裁量を働かすことを想定されてつくられた規定なのだろうと思うのです。そうであるとすれば,今それを変える必要がないという,事務当局の御説明になるのかなと思うのですけれども,その辺りを明らかにしていただいた方がいいのではないでしょうか。 ● 御指摘のとおりでございまして,このような刑の裁量的免除規定は,軽傷事犯であっても,情状のよいものについてのみ免除が可能であるということを明らかにするものでありまして,これにより,事案の実態に即し,メリハリの効いた,きめ細やかな事件処理を行う上での基本的な指針が法律上明らかにされることになるという意義があるものと考えております。また,これによって,明らかに処罰する必要のない事案において,例えば,捜査書類の作成を簡略化するなどして捜査の効率化を図り,真に罰すべき事犯の捜査を充実させることなどに資すると考えられます。このような趣旨もありまして,平成13年の刑法の一部改正において,刑の裁量的免除規定が設けられたということでございます。 ● 予定していた時間を若干オーバーしておりますが,非常に議論が白熱化,活発化しておりますので,しばらく続けさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。 ● 起訴率が落ちている,それから警察の捜査の処理はどうかというお尋ねがありましたが,事故がありましたときに,警察でまずやることは事実を明らかにすることでありまして,それにより,刑事処分が異なることになりますし,また,免許の行政処分にも必要なことでございまして,事実を明らかにするということであります。それで,その結果,事件が起訴されるかどうかというのは,その事件の事実関係,証拠関係等の総合判断で決まってくるのだろうと思いまして,その間,やはり被疑者に立てられた運転者は警察に何回か呼び出され,実況見分に立ち会い,それから地検に行きますと,またそこで呼び出されて調べられるということで,相当な負担をその過程で受けているわけでございます。そういうことで,警察の実務をしている者からしますと,おそらくこの根っこにあります事実を明らかにして,その結果が行政手続にも,刑事処分にも流れていきます。その過程でかなり被疑者についても負担を覚えながらも,その手続に沿った進行がなされていくということであり,その結果起訴になるかどうかが,決定的にその仕事の進め方に影響してくるというわけではないだろうと思っております。 ● 交通事件の処理というのは,実は構造的な問題がありまして,こんなことを言うと大げさかもしれませんけれども,被害者側からすると手抜き捜査をしているのではないかとか,手抜き処分をやっているのではないかという事件が非常に多いという声が,例えば今回の免除規定がそのまま設けられたことによって,そういう言い訳的な部分が通用してしまうという問題があるのではないかと思います。つまり軽傷とか,軽微とかという何も法律上書かれていませんから,免除できるということは裁判所にあてられたものとしても,今のそういった運用の実情というのですか,非常に警察官の数も,この20年ぐらいで1割しか増えていない。ところが,事件は倍近くになってきている。そういった処理の問題もあると思うのですよね。だから,警察の立場というので事務処理上の負担というのが非常に多くなっているというのが,私のデータを見ても,道交法違反がかつては非常に多かったのですけれども,今は業過と同じぐらい少なくなってきている。そうすると,業過に占める仕事の比率が非常に多くなってきている。そういう中で,片や被害者は実況見分を見られるかというと全然見られない。交通事故とはいえ犯罪扱いされていますから,捜査情報を全然見られない。そうすると被害者の人たちは,どうして見せてくれないのだと,ずさんな捜査をされているのではないか,実際ふたをあけてみると,実況見分で簡単な図面でなされていると,処理がされていると,そういったことで悩んでおられる。この間の遺族のヒアリングでもそういったことを一部言われている方がいましたけれども,今回の法制審議会は立法ですから,あまり関係ないようですけれども,実は関連しているという問題なのです。ですから,ヒアリングの中では捜査の問題も言われていましたけれども,非常にそれが関連しているということを私の方で言いたいことなのですね。ですから,免除規定はむしろない方がいいというのが被害者の立場です。 ● 委員ももう御理解いただいているのでしょうから,私の方で更にというのもちょっと大人げないのかなと思いますけれども,おっしゃるように手抜きをしているわけではない。警察の皆さんも深夜何件も事件が起きても,起訴になろうが,不起訴になろうが,やはり一生懸命に捜査をしていただいているわけで,私どももそんなに形式的にやっているものではないないと,そこのところはちょっと認識がずれたままになってしまうのは仕方ないのかも分かりませんが,一言だけお話はしておきたいと思います。 ● 手抜きしている事例をとらえて手抜きと言っているのではなく,私の方で,例えば事件が起こって,人身事犯が起こって9割も不起訴,つまり無罪扱い。この人たちは一体どうなるのだと。例えば社会奉仕活動をペナルティで課すとか,一切の処分が何らなされませんよね。行政処分がなされているといえばなされているのですけれども,実際はわずか短期間の講習で,1日講習で済んでしまって,ほとんど回復措置がされている例ばかりです。ですから,人身事犯を起こしても,ほとんどが処罰されないまま済んでしまって,それを私の方で手抜きという表現をしているのですけれども,そういう表現がまずかったら撤回しますけれども,9割の人たちが何のおとがめもなく済んでしまって,次に事故を起こす。しかも,先ほど法務省の方から再犯のデータはないのだとおっしゃっていました。そうすると,再犯という意味で,被害者側でまた起こした,また信号無視ではないかという声は非常に国の方に届いていないのですよね。少なくともデータぐらいとってくださいと私は一言言いたいぐらいですけれども,ですから,非常にモラルの問題として,事故を起こした人たちに対して別のことも考えて,起訴率を上げることも考えたらいいのではないかというのが率直な感想なのですね。ですから,手抜き,手抜きと言ったことが,オーバーなのですけれども,ですから9割というのは,本当に正直言ってあんまりではないかというのが率直な感想ですよ。 ● ほかにいかがでしょうか。   もしございませんようでしたら,次の論点にいきたいと思いますが,よろしいでしょうか。これは危険運転致死傷関係の問題でございまして,論点項目の第2としてお示ししてあります。これは危険運転致死傷罪の対象を自動車と改め,二輪車もその対象に含めることについての問題でございます。   この点について御意見をお願いいたします。 ● 前にその議論をされて,ほとんど反対がなかったように思っているのですけれども,もし反対というか,消極的な意見があればそれを先にお聞きしたいです。 ● 今の点ですと,大部分の委員,幹事の方が賛成だったわけですから,もし反対の御意見がありましたらお願いしたいということでございます。 ● そういう整理の仕方の議論はおかしいとは思うのですけれども,いずれにしても意見を申し上げようと思います。   前回にちょっと資料についてお伺いしたわけですけれども,二輪による死傷事故が増えて結構あるということで,しかし,その中で運転者自身が死亡するものもかなりある。しかし,それは比率がどうなっているか資料がないと,こういうお話だったのですが,そうすると,前に言ったように,事例ということで幾つか大変危険と思われるような事例があるということももちろん紹介していただきましたけれども,何年間かに幾つかの事例があるからといって,あえて危険運転致死傷罪に二輪車まで含めなければならないような立法ニーズがあるとはどうも言えないのではないかと思います。そういう意味で,これを加えることについては非常に大きな疑問を感じております。 ● まず,自動車とすることによって,二輪車が入るということなのですが,これは原付が当然入るということになっていますけれども,何か定義規定を刑法上設けるのですか,別の定義規定を引用するのでしょうか。 ● 特段,定義規定を設けるということではございません。今の危険運転致死傷罪も自動車という概念を使っておりますけれども,それについても特段,定義規定は設けておらず,このような解釈をしているということでお示ししているところでございます。 ● 原付自転車と自動二輪車では,多分運転する人たちがちょっと違う部分が,全部がということではないですよ,ある部分でですね。要するに自動二輪というのは結構マニアがいまして,技術的には結構慣れた人がいるのですけれども,原付自転車になるとかなりそれがもっと広がって,いろいろな人が運転するというパターンがあるのですが,そこら辺の部分を全部引っくるめて一緒に扱うということでいいのでしょうか。 ● 自動二輪がマニアかどうか,ちょっとそこはよく分かりませんけれども,自動二輪か,原動機付自転車というのは,要するに,原動機の排気量が50cc以下かどうかで切っているだけの話で,では70ccに乗っている人がマニアかと言われれば,必ずしもそうではないのかなと思います。   それで,50ccとはいえども,本当にかなり高速度を出す原動機付自転車も実際走っていますし,あえてそこで,原動機付自転車だけを除く理由というのも見出し難いと思います。実際,既に資料としてお示ししたように,二輪車の危険・悪質な運転による死傷事犯に関する事例その中で,原動機付自転車がそのような重篤な事故を起こしている事例も少なからずあるわけですから,その中であえて原動機付自転車を除外するというのは,あまり理由がないのかなと思っております。 ● それと,やはり通常の四輪車と二輪車というのはちょっと種類が違うわけですよね。ある種の意味では安定性という観点からも違うという部分も,それを前回質問したときには,それは過去の危険運転致死傷罪の議論のときにはそういう議論があったけれども,今回はそれとは違うのだというふうな御説明だったのですけれども,やはりその部分の考慮というのは何かないのですか。 ● 確かにおっしゃるとおり,四輪と二輪では運転者自身を守っている状態というのでしょうか,そこは確かに差異があって,自動車同士なら自動車の相手方を負傷させることがあっても,例えば,原動機付自転車が自動車に衝突しても自動車側の者がけがをしにくいということは類型的に言い得るのかもしれません。しかし,今問題になっている,正に公道上での危険性ということを考えたときに,対歩行者という関係で見れば,やはり原動機を付けた車両の危険性は無視できないほど大きいものなのだと思います。四輪と二輪とに差があるからといって,構成要件の中で区別するとか,あるいは二輪の方に特殊な構成要件を別途設けるというのは,おそらく難しいだろうと思いますし,また,実際に,二輪車の悪質・危険な運転による死傷事故が少なからず発生している状況ですから,発生件数自体は四輪よりは二輪の方が少なくなるだろうとは思いますけれども,構成要件に差異を設けるというのはやはりなかなか難しいのだと思います。 ● 構成要件に差異を設けるというのでなくて,あえてする必要がないのではないかという観点からこちらは述べているわけですが,例えば危険運転致死傷罪の2項がありまして,「走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人または車に著しく接近して」パターンは,小回りのきく自動二輪の方がかなり適用場面が増えるのではないかと思うのですけれども,そこら辺はどうですか。 ● それはよく分かりません。そういうふうになるのか,そうならないのか,あるいは二輪というのは正に無防備の状態でドライバーが運転するわけですから,本当にそんなに危険な行為をするのかどうか,そこはちょっと予想はつきませんけれども,ただ実際問題として,御指摘のように通行中の人に著しく接近するような,非常に危険な行為を二輪車がとっているというのであれば,それを除外する必要というのはやはりないのだろうと思います。 ● これまでの御議論を伺っていて感じた素朴な疑問なのですが,委員が前提にされているのは,自動車と二輪車という関係において,危険性が二輪車の方が劣るのではないか,そのことからして,危険運転致死傷罪の対象に二輪車を含む必要はないという御意見だと思います。しかし,二輪車が裏道を高速度で走って,歩行者に与える危険性ということを考えてみますと,そういう場面では,むしろ自動二輪と四輪車を区別する理由がどこにあるのでしょうか。そもそも,かつて危険運転致死傷罪が設けられたときに,私個人は,なぜ二輪車を除いたのかを疑問に思っていました。歩行者のような常に弱者にある立場の者から見れば,およそ危険性は変わらないことからすると,逆に二輪車を除くべきであるとか,あるいは,原付自転車を除く必要があるならば,むしろ,その理由をお伺いしたいというのが率直な感想であります。 ● 委員のどうも売り言葉に買い言葉と言っては申し訳ないのですけれども,やはり今おっしゃったように,これがつくられたときに,やはりそれは除かれたわけですから,その除かれていたものを今度は加えるというからには,やはりそれなりの根拠が必要なのだと思うのですよ。確かにおっしゃるように,もちろん場所とか,いろいろな状況を想定すれば,危険な行為があり得るということは,それは十分に分かるのですけれども,やはり法律ですから,それを変えるためには,前につくられたときとの違いというのは一体何なのかということを考えるべきなのではないのでしょうか。 ● おっしゃるとおり,そうした疑問もあって,委員とは逆の視点からではありますが,今回の議論で,なぜこの時期に自動二輪を含めることになったのか,かつての議論ではどうして除外されたのでしょうかと,最初の会議で質問申し上げました。その際,事務当局の方からは,最も大きな理由として,二輪の事故がかなり増えてきたという状況の変化や,すでに以前の立法化の際にも,今後の状況の変化を見て自動二輪も適用対象に含めることの検討が予定されていたとの説明がありました。そうであれば,状況の変化を理由にこの際自動二輪も加えようというのもやむを得ないのかなと思ったのですが,やはり,なぜ後から自動二輪を付け加えることになったのかが,素朴な疑問としてありましたので,改めて申し上げた次第です。 ● 第1回の会議でも御説明したところでございますけれども,その点は,国会の審議,危険運転致死傷罪を新設した国会の審議の中で附帯決議がされまして,引き続き二輪による事故の実態を踏まえて,自動二輪について危険運転致死傷罪の対象とする必要がないのかどうかを引き続き検討するように求められたところでございます。そこで,私どもとしては,その後,二輪車による事故の統計的なところだけではなく,二輪の運転者が業務上過失致死傷罪により公判請求された個別具体的な事件の状況を調査していったところ,第1回の会議で御説明いたしましたように,二輪車の運転者が公判請求された事案において,酒酔い運転などの危険かつ悪質な運転行為によって被害者の方を死亡させ,あるいは1か月以上の重傷を負わせているという事案が少なからず発生しております。そういった状況や,国会の附帯決議による御指摘などを踏まえ,この機会に法改正をするのが適当だろうと考えたところでございます。 ● 大阪高槻で起こった事故は,今回の部会の資料の中にも含まれておりまして,前回,国会で附帯決議された「今後の事故の実態を踏まえる」ということでいくと,非常に悪質な事案だと思います。河川敷の道路を自転車で走行していた女の子を後ろから飲酒していたバイク,これがひいた事案です。事故自体は四輪と全然変わらないというより,むしろひどいのではないか。と言うのは,車が来るとはまさか思わないような所,正に今おっしゃられたように道路を我が物顔で走行するなど,バイクは四輪車よりも非常に危険な側面,つまり歩行者と接触する場面というのはものすごく多いのですよね。まともに車道を走るバイクもあるでしょうけれども,そうではなくて,歩道を走ったり,違う所を走る。だからそういったことも含めて,むしろ危険性という意味では非常に大きいのではないか。単純に被害者を衝突して死亡させる可能性が少ないのではないかという抽象論ではなくて,人が人に当たるわけではないですから,正に死傷の結果が生じるというのは当たり前の話でありまして,それと,道路交通においては,例えば大きい車だから危険というのではなくて,例えばバイクであれば蛇行運転をするものをよく見かけます。反対車線に当然入ったりするバイクもあります。そういった意味で,車よりも迅速性,行動性が大きいという意味ではより危険だと私自身は思っておりますので,当然危険運転致死傷の処罰の対象にするべきだと,こういう意見です。 ● どうもありがとうございました。   ほかにございませんようですので,本日の審議はこの程度にしたいと思いますが,よろしいでしょうか。今回の審議で,要綱(骨子)の全体について議論も三巡したことになり,改正に向けての御意見もおおむね出そろったように思われます。次回は詰めの審議を行い,できれば答申案の決定まで行きたいと考えております。   なお,前回も申し上げましたが,委員,幹事の皆様方には,要綱(骨子)の修文案,あるいはそのような堅苦しいものでなくても,良い法律を作るための御協力としての御意見等がございましたら,次回の会議までに,と申しましても明後日なのですが,できるだけ早く事務当局に事前に御提出いただければと考えておりますのでよろしくお願いいたします。   それでは,次回は2月28日水曜日に法務省の20階の第1会議室において会議を行うことになりますが,開始時刻は午前10時30分からです。よろしくお願いいたします。   それでは,本日はこれで散会させていただきます。どうもありがとうございました。 -了-