法制審議会刑事法 (自動車運転過失致死傷事犯関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成19年2月28日(水)  自 午前10時30分                        至 午前11時20分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  自動車運転による過失致死傷事犯等に対処するための刑法の一部改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● 予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(自動車運転過失致死傷事犯関係)部会の第5回会議を開催いたします。 ● 前回まで,諮問に付された要綱(骨子)や事務当局から提出された修正案につきまして,様々な観点から御議論をいただいたところですが,本日はこれまでの議論を踏まえ,詰めの審議を行った上,できれば総会に報告すべき答申案を決定したいと存じます。   まず,事務当局の方から,追加の資料が配布されておりますので,本日の議論に先立ちましてその資料の説明をお願いいたします。 ● 前回の部会における御議論を踏まえ,事務当局において,本日,配布資料を追加いたしましたので,御説明させていただきます。なお,これまでの部会において配布資料として11点をお配りいたしましたので,本日,席上に配布いたしたものについては,配布資料の資料番号12,13としております。   前々回の会議で,自動車運転による過失致死傷事犯の再犯率を示した統計を出してもらいたいとのお求めがございまして,前回も御報告させていただきましたとおり,この種事犯の再犯率という形での統計を見出すことはできませんでした。   しかしながら,前回の部会における御議論を踏まえますと,再犯に関係する統計があれば,御参考になるかと思い,資料12として,再入受刑者の前刑罪名別・再入刑罪名別の表を用意いたしました。   これは,新受刑者中,入所回数が2回以上の再入受刑者について,その者の前刑入所時の罪名について調査したものであります。例えば,平成17年の統計で見ますと,再入刑罪名,これは現に受刑中の罪名ということになりますけれども,再入刑罪名が業務上過失致死傷罪の者は187名おります。そのうち前刑,これは直近の刑ということでございますけれども,前刑入所時の罪名が業務上過失致死傷罪だった者が11名,道路交通法違反だった者が42名いるということを示しております。   ただし,この資料は,2回以上刑務所に入所した者の前刑入所時の罪名をお示ししているものですので,例えば,前刑が執行猶予だった者,罰金刑だった者,あるいは,起訴されずに起訴猶予だった者などが含まれていないことなどから,再犯率を示すものではございません。   なお,比較参考のため,主な財産犯についての同様の表も掲げさせていただきました。   また,前回の会議において,危険運転致死傷罪の起訴件数に関する御発言がなされ,事務当局の方から口頭で件数を申し述べましたが,今回,平成18年の仮集計結果も加え,一覧表にして資料13として配布させていただきました。   前回の部会において御発言のありましたとおり,危険運転致死傷罪については,受理件数よりも起訴件数が多いということや,平成18年は仮集計ではありますが,合計376件が起訴されており,前年に比べて大幅に増加していることがお分かりいただけるかと存じます。   また,「KENTO」等と表題が記載されている冊子がお手元にお配りしてあります。第2回会議におけるヒアリングに参加されました団体の「KENTO」が,そのヒアリングの際にこの冊子をお配りされようとしたものの,部数が足りなかったことから,後日事務当局に送付いただきましたので,今回,皆様に参考資料として配布させていただきました。 ● ただ今の御説明に対して御質問がございましたら,お願いいたします。 ● 今の資料の説明との関係なんですが,先ほど起訴猶予だとか,あるいは執行猶予については含まないという,いわゆる再入受刑者の関係であったのですが,当初お示しいただいたいわゆる重大事犯といわれる業務上過失致死傷と,それと業務上過失致死傷と道交法違反の例があるのですが,あれの中に前刑が執行猶予でそれがゆえにその再犯,いわゆる累犯のような形のものとか,そういったものは入っていなかったかどうか,それは分からないのですか。 ● この資料についてですか。 ● いや,この資料ではなくて,量刑が張り付いているという事例として示されたものの中に,累犯加重のようなものはなかったのでしょうかということなんです。 ● それはございません。 ● ほかにいかがでしょうか。   ほかに御質問がないようでしたら,審議に入らせていただきたいと思いますがよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議に移りたいと思います。   まず,審議の進め方ですが,本日,前回の部会において事務当局から提出されました修正案につきまして,これまでの御議論を踏まえて詰めの議論をお願いしたいと思います。そして,議論が終局しましたならば,部会としての意見の取りまとめに移りたいと思います。このような進行でよろしゅうございましょうか。   どうもありがとうございます。それでは,そのように進行させていただきます。   本日は詰めの議論ですので,修正案の全体について一括して議論を行いたいと考えております。御意見等がございましたら,よろしくお願いいたします。 ● 修正してほしいということではないのですけれども,前回まで,免除規定の問題が議論されました。要は検察の起訴については,起訴は法定主義を採らず,起訴便宜主義を採っておりまして,現実の起訴率が非常に下がっているという現状で,この免除規定は裁判所にあてられた規定ですので無意味だという御意見を伺いました。そうすると,この規定自体は削除してもいいのではないかという方向で,今後法務省の方で検討願えないかというのが私の思いです。 ● 今,委員の方からお話がありましたことも含めて,この部会でいろいろな委員,幹事の方が様々な御意見を出されました。そういうことも踏まえて,これから我々の方でもまたいろいろ検討していきたいと思っております。 ● 免除規定につきましては,これを導入する際の法制審議会,あるいはその後,国会審議等でも議論がされたところでありますけれども,私どもの基本的な考えとしましては,自動車運転による事故というもの,あるいはそういうものによる被害というものが,非常に悪質なものであったり,あるいは重大なものである場合,そういった事案に対して厳しい対処をする必要がある反面,多くの国民がかかわりのある犯罪ということで,非常に軽微な事案もあって,被害者側からの宥恕も得られる事案で,必ずしも処罰が必要とは考えられないような事案もかなりの数がございます。もともとこの免除規定と申しますのが,そういった自動車運転による事故の多様な実態を踏まえて,悪質なものに対しては厳しい処罰をする一方で,必ずしもそこまでの必要のない軽微な事案については,緩やかな対応をすることが相当であるという考え方を基本的には持っている,そういう考え方の規定だろうということで,その限度で合理性があるものだと考えているところではございます。   ただ,いろいろな御指摘・御意見の中で,それが安易に運用されて,ただ軽いから起訴猶予にする,不起訴にするといったような処理がなされるようなことがあってはもちろんならないわけですし,そういうことがないように,前回,最高検の方でもいろいろな指導をされているという発言ございましたけれども,そういった運用の在り方はきちんと誤りのないようにしていく必要があるとは思いますけれども,そういう合理性を持った規定であるということで,適正な運用がなされることが期待されるということでございます。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 今まで私,意見を言わなかったので,最後ですので言わせていただきます。今まで各委員,幹事の方がおっしゃったことと重複しますが御容赦ください。   まず,この業務上過失致死傷,重過失致死傷から自動車運転による過失事犯を取り出して類型化すること自体は,業務概念というのを日常用語の方に再構成するという意味もありますし,その類型を取り出すこと自体は,私自身は異論はないのですが,ただその説明として,この重罰化を7年に上げる,最高刑を7年に上げる説明として,特に事務当局の方で説明があったこの自動車運転による過失犯が重大な結果を生む危険性が高いから,そういう類型化をするんだというところが,どうも納得がいかないところでありまして。   これは,やはり列車事故,航空機事故,それからホテル,デパート,繁華街の火災などは,いったん事故が起きれば非常に重大な結果を生む危険性は常にあるわけでありまして,自動車事故の方が重大な結果を生む危険性が大きいという根拠には欠けると思います。   また,工場,流通系の現場では,個人の注意義務違反だけでなく,システム的なエラーが多いが,自動車運転というのは個人の注意義務違反による事故が多いと。この個人の注意義務によって結果を推し量られているんだというような御指摘もありますが,これは一見,もっともなように聞こえるところではあるのですが,ただ実際にその事故が起きて,その自動車事故以外の事故が起きてその個人に過失があった場合を考えてみますと,やはりそういう自動車事故以外で重大な事故が起きて個人に過失があった場合というのは,やはりシステム自体が破綻している場合ですから,結局そうなると個人の責任もやはり重いのではないかと,そういう場合はですね。それは自動車事故の場合とそれ以外の場合とで,そんな大きな違いがあるのかなと。   例えば列車の脱線事故でスピードを出しすぎた場合と,自動車の事故でスピードを出しすぎた場合,しかも個人に過失がある場合ですね。これはおそらく同等ではないかと。自動車事故だからといって特に重いということではないと。確かにそういう公共交通機関等というのは,システム的な欠陥防止措置がなされていると思いますが,やはりそれが機能しなかったから始めてそういう事故が起きたわけでありますが,そこにやはり個人の過失があるのではないかと。そうすると,そのように最高刑に違いを設けることが果たして妥当かどうかという問題があります。   ただ,委員の方々がおっしゃっているように,典型的なものだけを取り出して評価をするんだと。先行させて自動車事故だけを先行させて,まず重く評価するんだというようなこともありますが,そういうことを委員の方々がおっしゃって,それはそれなりに理解できないわけではないのですが,逆にそれ以外のやはり事故については,これはマイナス評価をするということになるわけでありまして,そのようなことが妥当なのかどうかということはやはり疑問が若干あります。   もちろん自動車事故というのは,非常に身近な事故で,私も含めて一般に人が遭遇する可能性が非常に大きい事故ということで,被害者の方々も非常な苦労をされているということは分かるのでありますが,やはり正に許された危険ということでありますから,これは被害者の方,それから加害者のみに過重な負担をかけるのはいかがかと思います。これはやはり最高刑を上げていって,運転者に重い過失,重い刑をとるというのは,被害者の遺族の考えからすると当然そうしてほしいという気持ちは分かるのですが,あまりにその加害者になった人に過重な責任を課すのはどうかとこういうふうに考える次第であります。以上です。 ● 私は幹事の補足をする形になるかとは思いますけれども,今は乗り物だけを比較に出していますけれども,やはり大きな公害あるいは薬害事件といったものとか,それから自動車は危険だといいますけれども,その自動車をつくっている製造メーカーが欠陥品をつくってそれを流通してしまってそれで事故が多発したときに,やはり被害者は同じ立場に置かれます。これが5年と7年で私はどうしても納得できない。そういう意味で,今回の改正については非常に賛成しかねるものを持っています。   もう一つ,刑罰の謙抑性ということを申し上げましたけれども,私は,やはり今できることが何かという形でもって,それで足りなかったら何か刑罰も考えなくてはいけないという,そういうことが必要なんだろうと思います。前々回,警察庁の方から道交法改正の関係でいろいろな御説明がありました。そのときにあったと思いますが,昨年の上半期までは確かに交通事故がいろいろな形で大きく数が増えていて,しかも8月という段階で例の福岡の悲惨な事故があったわけですが,あれ以降,警察庁が挙げて取り組んでいろいろな形で摘発をしたり,いろいろなキャンペーンをしたり,いろいろな街頭活動,いろいろなことをする中で交通事故あるいは交通違反などが減っていったという,この事実というのは,私,すごく重要だと思うのです。刑罰を上げるだけではなくて,やはりそういったものがあって,なおかつ,しかも警察庁は今回,道交法改正で酒気帯び運転等,救護義務違反等について改正をされるわけです。それらを見極めてから,なおかつ足りないということであれば,我々も少し考えてみることがあるのですが,そこが今回一緒に上げなければならないというところが,どうしても納得ができない。   それともう一つは,やはりこういう形で法定刑が上がりますと,おそらく刑務所の中に収容される期間も多くなるだろうと思います。そういった場合に,その人たちの社会復帰をかなり難しくするのではないかということも非常に懸念しております。   ですから,前々回のお話,質問させていただいたのですが,今の収容期間で交通ルールとかいろいろな意味でもって,社会に出すには足りないというような側面もあって,もちろん応報刑的な側面があるのは分かるのですが,そういう側面もあって刑を延ばすという形の回答は得られていなかったわけです。   そういう意味で,私は今回の改正については反対という立場であります。 ● 被害者の立場から私の方で,弁護士ですけれども,述べさせていただきます。   自動車事故をどう考えるかというのは,基本的にはドライバーの視点で考えるのか,あるいは被害者の視点で考えるかという大きな流れがあるように思います。車が快適で非常に便利だという乗り物,事故も一瞬の出来事だというのが加害者側の考え方だという思いがします。被害者側で言いますと,いったん被害に遭うと,車は非常に危険な乗り物で,時としてそれは凶器になるんだと,非常に危険な凶器になる。こういう考え方が基本にあるかと思います。そういう中で,今までの日本の交通制度の改革について見てみますと,昭和43年に業務上過失致死傷罪の法定刑が3年から5年に引き上げられたということで,国が一体となって撲滅に取り組んだところで,非常に免許保有者数も増大しながらも,交通事故の被害者数が4割も減ったという,歴史的な事実が1つあります。   それが今,昭和53年の被害者数60万人が,いまや116万人から119万人まで倍増しているという事実があります。これは30年にわたってですけれども,その10年前は一応10年間で4割減ったと。その後2倍,100パーセント増大していると,こういう事情があります。それで部会の冒頭で統計として出ました死者数の減少についても緊急医療体制の進歩によるもので,一応1万人は割っていますけれども,1年以内の死亡に拡大しますと,1万人をまだ超えております。重度後遺症被害者も,法務省の説明にありましたように増加傾向にあります。1人の被害者の背後には,家族の崩壊あるいは社会的な被害があって,被害者数の116万人とか119万人の増大というのは,社会的な損失の面からも非常に危機的な状況にもちろんあると思います。   事故撲滅のために道路整備を含むいろいろな施策が実施されております。この半年でも実施されておりますけれども,一番大事なドライバーのモラル対策という点については何ら手付かずであると,昭和43年の法定刑引上げ以来40年にわたって手付かずに来た。   私の方でもう一言言いたいのは,手付かずどころか,逆に検察庁の起訴率減少政策により,7割から1割に減った,あるいは法務省からその政策を追認したような形で,例えば平成5年度の犯罪白書で,任意保険があれば被害者が納得するかのような見解が一時言われていた。非常に交通事故を軽く扱うような政策がとられてきた。つまり,厳しくなったり軟らかくなったりしたという時代があった。そのためにモラルが非常に緩和されて,ドライバーのモラルが著しく悪化したといって過言ではないと思います。100万人を超えた時点で非常に危機的な状況だと私は思うのですけれども,そういう危機意識は,今回の法務当局の方にありますけれども,国民全体のそういう危機意識には結び付いていない。ただ,一般の国民が自動車に対して,非常に危険な凶器であるという認識を持っていることは間違いないと思います。悲しいかな,非常に甚大な被害を生む事故が多発するために,その対策が言われてきていますけれども,そういう中でも,被害者数あるいは多発的に人命が奪われるという事故が起こっているのは,間違いない事実であります。   片やドライバーの方につきまして言いますと,この30年間でカーステレオあるいはカーナビ,携帯電話,メールなどの普及によりまして,事故を非常に起こしやすい環境になっておりまして,わずかな不注意,基本的な不注意があれば甚大な被害を生む状況に至っております。正に法務当局の言われた運転者だけに任せている環境であり,これは自動車事故だけを切り出してもやむを得ないのではないかと。やむを得ないというより,自動車事故は,正にそれしかないと思います。運転者だけに任せられているということが言えると思います。ですから,ほかの飛行機であるとか,船舶であるとか,システム的なチェック体制が整っている環境とは,自動車の運転環境はちょっと違うのではないかと,私の方では明らかに違うと思っております。   ですから今回の措置については,私の方は基本的には賛成です。 ● もう既に申し上げたことが基本なものですから,くどくは申しませんが,やはり交通事故にしても,要は,これは将来に向かっていかに防ぐかということ,これが基本だと思うのですけれども,それは今,始まるのですが,本来は,例えば自動車,モータリゼーションを進める,その時点で本来考えてなければいけなかったことであると思うわけです。ヒアリングにおける被害者団体の方の中からも,やはりそういう防止が大事であるということ,そしてそのために刑罰はもちろんだけれども,それ以外のことを含めた,例えば交通法だったら交通法みたいなトータルなものをつくれないかという御意見もあったくらいで,それは大変大事な意見だと私は思いました。   そういう前提で考えた場合に,これまでやるべきことをやらずに,どんどん自動車を普及させてきた,あるいはそういうふうにおっしゃったようなカーナビだとかいろいろなことを,そういうインフラの方をきちんとしないままに,そこをどんどん進めてきた。こういう意味では,ある意味ではむしろそこに本来先を予見をして防ぐための対策を立てるべきだったのが怠ってこられた。その結果,今のような状態になっているわけですから。   にもかかわらず,そういうことを許していたもの,端的に言えば,簡単に言えば国家なんでしょうけれども,それが運転者にすべての責任を押し付けるみたいな感じの発想を持つとしたら間違いだと思います。もちろん,全体が皆さんそうではなくて,例えばこの警察庁の方とかが大変御尽力なさっているとか,そういうことはもちろん十分お受けになってはいるのですけれども,もっと大きなことがあると思います。   ただ,もちろん,そうは言っても,現在この状況をすぐに,インフラの整備がすぐできるわけではないというのはもちろんなんですけれども,だけどやはりここで悪質だとかいろいろ言われている中で,特にやはり強調されていた酒酔い運転ということも言われているわけですけれども,そういった酒を飲んで運転するなんて,正にそれは極めて危険なことをあえて行う,これは故意の行為なんですから,それはそれできちっと処罰するなり何なり,対策を立てることをした上で,後,その結果というのは,やはり事故が起こるか起こらないか,それから結果が重大になるかどうかは,正に偶然性が非常に大きな作用を持つことなんですから,そこはやはり過失という問題については,過失犯という考え方を逸脱するべきではないと思うわけです。   そういう意味では,先ほど委員が言われたように,ほかの大きな結果が起こりかねない過失犯,それとの権衡ということも考えると,自動車だけを取り出して引き上げるというのは,やはり妙に全体的なバランスとしてはおかしいと思いますので,私としてはやはり賛成しかねるという意見でございます。 ● 私は,賛成する立場から2点申し上げたいと思います。   一つは,自動車運転に関してのみ,他の過失傷害ないし致死から取り出すことについてでございますけれども,これは繰り返しになりますが,関係官がおっしゃっておりましたように,車が「走る凶器」であるということと,それから何よりもその道路の場というのが,いろいろな交通が錯綜する危険な場所でございます。また,委員がおっしゃったように,車は自在に走りまして,止まるのも走るのも曲がるのも,およそこの運転者が支配してやっておるわけでございまして,そういうことからしますと,やはりこの運転ということに関して,運転者に対して大きな注意義務というものを求めるのは合理性があると思いますし,その責任追及においても,その責任の大きさの幅を持たせるということについても,合理性があるのであろうと思うわけでございます。   それからもう一つの,交通事故防止のためにいろいろな対策があるではないかということでございますが,これはまさしくそのとおりでございまして,交通安全対策をやっているものの人口に膾炙していることは,スリーEの原則ということです。つまり,エンジニアリング,エデュケーション,エンフォースメントでございます。確かに,エンジニアリング的に,交通環境を整え,信号機を付け,過失が起きないようにしてあげるということで事故は減ります。また,安全教育や,あるいは社会システムで違反や運行管理がなされるということによりまして事故が減るのもそのとおりでございます。また,その交通事故の現場で法執行をし,これに制裁を科すことによりましてもできます。これによりまして対策を進めてきております。   確かに,飲酒運転につきましては,昨年9月からの対策によりかなり減少しておりますが,その前の平成13年の道路交通法の改正では,飲酒運転関係には相当な重罰が科されるようになり,これによりまして,飲酒運転中の事故がほぼ半減しております。また,シートベルトにつきましても,様々な効果やその必要性についてのキャンペーンによりまして,長らく対策を進めましたけれども,着用率がはかばかしくないということで,こちらは罰則ではありませんが,免許の違反点数を付すことにより,これが格段に進みまして,事故防止,被害軽減に寄与しております。   そういう意味で,確かに,様々な対策があることは間違いないわけですけれども,そういう中で制裁なり罰則の強化というものもこれは有用であり,また必要であると考えるわけであります。   以上の2点でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。特にございませんようでしたら,次の段階に入りたいと思いますが,よろしいでしょうか。   事務当局の修正案の各事項につきましての御議論は,ひととおり終息したようです。そこで,その他の点も含めまして,修正の御提案等がございましたらお願いいたします。   修正の御提案は特にないようです。また,部会としての意見の集約をこれからいたしますが,その前に是非とも発言しておきたいということがございましたら,今の段階で御発言をお願いいたします。これは今までの御発言と重複しても結構でございます。最後に何かお話したいことがありましたら,お願いいたします。 ● 先ほど来,私だけではなくて皆さんも共通して言っていることだろうと思うのですが,今回,この改正案が要綱という形になるとした場合,やはり我々は今日,実際上,被害者の声を聞きました。かなり悲惨な状況があります。彼らはやはり自分たちと同じような悲惨な状況の家族をつくりたくないというすごく強い思いがあった。これは私もそれはすごく,それは何かこたえてあげなければいけないと思うのです。   ですから,この部会で刑法改正ということがなったとしても,やはり,親委員会の方に,これは国を挙げて,いや,国だけではなくて国民全体ですね,国民全体がこういうある種の悲惨な事故をなくすために交通モラルを上げていくという運動を展開するという形の中で,この刑法改正と併せて被害者たちにこたえていく必要があるのではないかと思うので,そういった意見をこの部会の中で,もし皆さんが一致できるなら,総会の方にも持って行って,こういう意見がありましたという形で,それをまた国会の中でもきちんと議論していただくということが必要ではないかと思いますので,意見として述べさせていただきます。 ● ほかにいかがでしょうか。   ほかにございませんようですので,それでは,これから部会としての意見を取りまとめたいと存じます。   諮問第82号は,自動車運転による過失致死傷事犯等の実情等にかんがみ,事案の実態に即した適正な科刑を実現するため,早急に,罰則を整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたいというものであり,その別紙として要綱(骨子)が付されておりましたが,この要綱(骨子)については事務当局から修正案が提出されたところです。   そこで,採決の方法ですが,事務当局による修正案の要綱(骨子),すなわち配布資料11としてお配りしている要綱(骨子)を一括して採決の対象とさせていただきたいと存じますが,それでよろしいでしょうか。   特に御異議がございませんようですので,一括して採決をしたいと思います。   それでは,採決に移ります。   配布資料11の要綱(骨子)に賛成の委員の方は,挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● 反対の意見の方,挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● どうもありがとうございました。   事務当局から採決の結果を発表していただきます。 ● ただ今の採決の結果を御報告いたします。   賛成の委員の方11名,反対の委員の方2名でございました。   出席委員総数は,部会長を除きまして13名でございます。 ● ただ今御報告がありましたとおり,配布資料11の要綱(骨子)につきましては,賛成多数で可決と認めます。   諮問第82号につきましては,配布資料11の要綱(骨子)を部会の意見として総会に報告することに決しました。この決定は,部会長から総会に報告いたしますが,部会長報告につきましては,慣例として部会長に御一任いただくということになっておりますが,そういうことでよろしゅうございましょうか。   どうもありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。   それでは,本日予定しておりました議事はすべて終了いたしました。この際,特に発言しておきたいということがございましたら,よろしくお願いいたします。 ● 先ほど委員から総会の方にこういう意見を持って行ってほしいという要請があったのですが,それについて御議論いただけませんでしょうか。 ● 今の点につきまして,さらに委員の方から何か補足とかございましたらお願いします。 ● かつて何かこういうことが,こういう部会の中で附帯決議のような形で,附帯決議ではないですかね,何か意見を付してこういうことが議論としてありましたよということで報告がされたような記憶があったのですが,そういう形で,単にこの諮問について,我々はこのような要綱案をつくりましたということではなくて,やはりそれ以外の,交通による被害者を撲滅するという意味合いでのいろいろな施策を,国もまた,国民もまた考えていって交通ルールのマナーの問題なんかも向上させようという形の意見が出ていたということをきちっと報告いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ● 部会長から部会の審議の経過・結果を総会に御報告いただく際に,部会の中での御議論を御紹介していただく,あるいはそれを総会に報告していただくということは,これまでも例がございますので,例えば,交通の安全を確保するための様々な施策が必要であるとか,あるいは国民全体のそういったモラルの向上というものも重要であるといったようなことを,部会の皆様方の御意見ということであれば,そういう形で御報告していただくということもあり得るのではないかと考えております。その点について,もちろん御議論をしていただいた上で結構でございますが,そういった御議論を踏まえてどういった表現で総会に報告するか,あるいは,また部会長に御一任いただくという方法もあろうかと考えております。 ● それでは,今お話がございましたように,部会長報告でその点についても御報告させていただきたいと思います。この際ですから,今の点につきましても,御意見がございましたらお願いいたします。 ● 先日の被害者・遺族の方のヒアリングをお聞きしまして,いろいろな問題点が含まれていたと思うのですね。今回の刑罰の改正についても10年と言う人たちが非常に多かった。今日までの法制度については,被害者はほとんど排除された状態で法律がつくられてきております。自動車に絡む犯罪といいますと,非常に新しい犯罪です。日常的でありますけれども,非常に新しい。国民にとって非常に密接ですけれども,自分が被害者になるとは思えないということから,価値観がちょっと離れたところがある。たまたま大きな事故が起こると非常に密接に感じる。そういう犯罪なんですね。   例えば,裁判の場で言いますと,被害者の意見陳述等は認められてきております。記録の謄写請求も認められてきております。ただ,ほんのわずかな事件です。ほんのわずかの1パーセントの事件なのですね,事件全体でいいますと。非常に被害者の遺族の人たちのクレームといいますか,不服,不満という,国に対する不信感というのはいろいろなところに向けられておりまして,大きく分けて,この刑以外に二つあります。一つは,捜査情報の開示をしてほしいということです。例えば,ドイツでは送検時に書類を開示しております。アメリカにおいては実況見分がなされたら,2,3週間で,事故レポートとして開示する。当たり前の制度になっている。どうしてかというと,すぐに賠償問題が起こって保険会社との交渉があります。民事面でもですね。日本でもそれが現実になされている。それに目をつぶって法務省は開示しない。こういう法制度はおかしいのではないかと,私自身は非常に思っております。   ですから,今回,被害者法案などとの関係でも,被害者を準当事者として扱って質問権を与えるという形になっておりますけれども,捜査段階で捜査情報は是非開示していただきたい。できましたら,送検時までに開示していただきたいというのが,一つの,被害者側に立った問題です。   それから,是非こういう法制度の改正に関連しまして,交通事故とはいえ,非常に被害者の意見を酌み入れてほしい,これからも酌み入れてほしい,こういうふうに思っているところです。 ● この要綱が仮に国会で通って法案になりますと,正にドライバーに対する行為規範になるわけです。ただ,これは一般のドライバーの中には新聞も読まない,ニュースも見ないという人もいるわけで,そういうドライバーに対する教育として,やはり免許更新のときに是非この刑の重さ等を知らしめて,ドライバーの教育をしていただきたい。免許更新を単にビデオを見て終わるというだけでなくて,きちんとこの辺の行為規範を知らしめるということが重要ではないかと思います。 ● 今の御提言につきましては,私どももそのようにさせてもらいたいと思います。 ● 再犯のことに関するデータが出なかったのは,がっかりというより,私,正直言って驚いた部分があります。   警察の捜査記録等を,死亡事故だけでも私,150件やっておりまして,大体前科前歴が付いている中で,法務省の把握が縦の連携でできないのかどうか分かりませんけれども,一応今回,入所者のデータを見ますと,再入所者というのが道交法でも非常に多いのです。業過でも200人ぐらいいる。業過だけで見ますと年間1,000人の実刑者がいましてそのうちの200人。道交法はもっと率は高くなると思います。おそらく30パーセント以上にはなるのではないか。そうすると,非常に飲酒運転と同じような癖のある人たち,つまり同じことを,赤信号無視だったら赤信号無視を繰り返す。速度違反だったら速度違反を繰り返す。こういう人たちが非常に多いと思っております。遺族の中にも,前と同じことをやったという,その非常に強い怒りを覚えている人たちも非常に多いです。   ですから,再犯に関してはもう少し,データを含めて法務省には一生懸命動いていただきたいと,こういうことです。 ● 私も今の意見に賛成でして,今日いただいた表によりますと,業務上過失致死傷という欄の中には,おそらく道交法とセットのものも含まれているのではないかと思うのですね。見ていますと,全部カウントしていますと,道交法違反だけのものと,それと業務上過失致死傷,危険運転致死傷,重過失致死傷という形になっているとすると,おそらくこの中では,何度やっても酒を飲んでやっている人もいるかもしれない,いないかもしれない。そういったものは,私はやはりある程度の故意的な要素の部分というのは,やはり徹底的に直さないと再び起こるということがあり得るので,そういうのはやはりデータとしてきちっと残しておいた方がいいのではないかなと思います。 ● 統計としてなかなか出ませんので,委員の方々がただ今のような御指摘をなさるのだと思いますが,個人の履歴自体としましては,運転者管理ファイルというのがございまして,その者に対して違反があったか,事故があったかというのは,いろいろな処分あるいは免許の更新の期間などのベースになるものですから,これは全ドライバーについて履歴は把握しているわけでございます。   それで個別の事案のことですけれども,例えば違反のときに反則告知いたしますけれども,このときには一々は調べませんけれども,それが送られてきますと免許センターに全部それが記録されて,それによって累積点数によりまして処分されるということでございます。   ただ,事故それから交通切符が付された者などにつきましては,これは前歴も必要でございますので,その際には前歴を調べてそれで地検の方に送致するということにしておりますので,個々の処理につきましては,いわゆる前歴なり,犯罪とかも再犯とかになりますと,これは十分に把握されカウントされておるものでございます。 ● ほかにいかがでしょうか。特にございませんようです。事務当局の方から何かございますでしょうか。 ● 事務当局を代表いたしまして一言ごあいさつを申し上げます。   委員,幹事,関係官の皆様方には,御多忙のところにもかかわりませず,特に今回の諮問につきまして短期間に5回にわたり部会を開催するという非常に厳しい日程の中で,毎回長時間にわたり大変熱心な御審議をいただきました。厚く御礼を申し上げます。   また,部会長には,議事の進行,意見の取りまとめに格段の御尽力を賜りまして,誠にありがとうございました。   本部会の冒頭でも申し上げましたけれども,近時の自動車運転による死傷事故の実情等にかんがみますと,事案の実態に即した適正な科刑を行うために,早急に,刑法を改正する必要があると考えているところでございます。また,この部会におきまして,交通事故の被害者団体及び職業ドライバー関係の団体,合計13団体の方々から,諮問事項に関しまして,直接御意見を伺う機会がございました。このような御意見や,またこの部会でも,本日も含めまして様々な御意見・御指摘があったわけでございまして,今回法律上の手当てをしようとしていること以外の運用上その他いろいろな問題につきましても,より一層の改善に努めていかなければならないと感じているところでございます。   最後に,今後のスケジュールでございますが,本日の部会における諮問第82号に関する御決定は,3月5日に開催が予定されております法制審議会の総会に部会長から御報告いただき,速やかに答申を頂戴いたしました上で,法案の立案作業を進め,関連する法律案を今通常国会に提出いたしたいと考えておりますので,委員,幹事,関係官の皆様方には,今後とも引き続き,御支援,御協力の程をよろしくお願い申し上げます。   どうもありがとうございました。 ● 皆様の御協力によりまして,採決に至ることができました。どうもありがとうございました。ただ今,委員からもお話しがございましたが,非常にタイトなスケジュールの中で,しかも充実した御議論をしていただきまして,部会長として感謝申し上げます。   それでは,これにて散会いたします。   どうもありがとうございました。 ―了―