法制審議会 被収容人員適正化方策に関する部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成19年3月23日(金) 自 午後1時00分                       至 午後3時00分 第2 場 所  東京地方検察庁304会議室 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会の第5回会議を開催いたします。 ● 本日はお忙しい中ご出席賜りまして,誠にありがとうございます。   本日は,中間処遇制度の在り方及び保釈の在り方について,ひとわたりの議論を行う予定でございます。   まず,中間処遇制度の在り方について審議に入らせていただきます。   このテーマに関しましても,諸外国では様々な制度が導入されているようであります。また,我が国でも現行法の下で実施されている制度の中には,矯正施設において開放的処遇として行われているものを中心としまして,中間処遇制度の在り方についての御議論に当たり参考となるものがあるようでございます。   そこで,まず事務当局の方から,諸外国における中間処遇の例について御紹介いただき,これを参考に御議論いただくのが適当だろうと存じます。同様に,現行法の下で維持している制度で参考となるようなものについても御紹介いただいて,これも参考にして御議論いただきたいと存じます。   そこで,まず事務当局の方から,諸外国における中間処遇の例について御紹介いただき,これを参考に御議論いただくのが適当だろうと存じます。同様に,現行法のもとで維持している制度で参考となるようなものについても御紹介いただいて,これも参考にして御議論いただきたいと存じます。   それでは,事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 御説明申し上げます。   資料19に諸外国における中間処遇制度等の例がありますので,その説明になります。あらかじめのお断りですが,この資料にありますことは,各種文献やホームページ等のほか,英米につきましては在外公館の協力も得て調査したものをまとめたものですが,現地調査や聞き取り調査をした結果という情報ではありません。誤りもあるかもしれないと思いますので,その場合は正していただければと思っております。   まず初めに,中間処遇の意義についてですが,必ずしも確たる定義というものがなく,施設内処遇と社会内処遇の間に位置付けられるものが広くこれに当たると言えるであろうと考えております。ここでは,刑事施設以外の施設,中間処遇施設に収容して,あるいは居住させて行うところの処遇ということで考えました。したがいまして,刑事施設に収容しつつ,外部への通勤・通学や外出・外泊等を認める制度については,広い意味では中間処遇と言えなくもありませんが,本質的には施設内処遇の一形態と考えられることから,取りあえず対象から除外をしております。ただ,我が国の刑事施設で行うようになりました開放的処遇の形態については,若干説明をさせていただきます。   本資料19の諸外国の中間処遇制度の実情について,各国の刑事司法制度の違いもありまして,なかなか正確に理解することは困難なところがございますが,主要国ではおおむね英・米・カナダには施設居住型の中間処遇制度があるのではないかと考えまして,そこにまとめております。これに対しまして,ドイツ,フランスにはこのような中間処遇制度がないのではないかという,取りあえずの理解でございます。   各国の中間処遇制度についてですが,まず一番左の英国でございますが,正確にはイングランド,ウェールズということになるかと思います。許可住居制度というのがあるようでして,そこにありますように,将来起こり得べき再犯を防止し,もって社会の安全を確保するため,公衆に対して危害を加えるおそれの高い犯罪者について,高度な施設収容型の監督措置を施すことを目的とするもののようでございます。対象者はそこにもありますように保釈中の被告人,それから住居制限を伴う社会内処遇命令,コミュニティ・オーダーに服している者,それから住居制限を伴う仮釈放者ということですが,最近は刑務所に収容されていた者の社会内処遇の強化のために利用することに比重が置かれているということで,3番の住居制限を伴う仮釈放者が主たる対象となっているようでございます。約半数というくらいの情報です。   許可住居の監督者は,入所から1日以内に,対象者ごとに管理プランを作成しまして,そのプランに基づき,職員はスキルラーニング等の処遇を行います。自由制限,監視警備については,夜間の外出,飲酒等の禁止,居室所有物の検査等のほか,一定の場所への立入り制限等個別に行動制限が定められる場合があるようです。それから最近,○○委員からお教えいただいたところでは,施設数はそこには2003年3月現在で100施設と書いておりますが,現在のところ,101施設ということのようでございます。それと電子監視等の関係では,夜間外出禁止命令に付されている者は夜から朝まで外出できないわけですが,プロベーション・ホステルに入っているときには,この電子監視装置は付されない,ただし,性犯罪者には電子監視が付されるということで,行動制限についても多様な対応があるのではないかということでございます。   それから,真ん中に書きました米国は,これは連邦行刑の制度でございますが,社会内矯正センターというものがございます。連邦法では,可能な限り受刑者をその刑期の10%又は6月を超えない合理的な期間を,社会復帰に備え,社会に順応する機会を付与する環境の下で服役させなければならないと定めておりまして,性犯罪者等の不適格事由に該当する場合を除き,受刑者は時期が到来すれば原則として社会内矯正センターに収容されるということのようでございます。2005年度で見ますと,受刑者の77.5%がこの社会内矯正センターへ移送されているということです。   沿革としましては,1960年代に受刑者の社会復帰を促すことが強く叫ばれ,社会内処遇の強化の一環として導入されて今日に至っているようでございます。これは刑期内の制度でありまして,収容期間の延長,短縮はないとされております。処遇内容あるいは自由制限につきまして,資料に記載のとおりでございますが,3段階に分かれておりまして,一番下のところで書いておりますが,社会内処遇段階,これは訳語が適切かどうか分かりませんが,コミュニティ・コレクションズと言われている段階のようです。それからその次が釈放前段階,プレリリース,それから自宅拘禁段階,ホーム・コンファインメントの3段階に分かれておりまして,各段階を経ることにより制限的でなくなるということのようでございます。   例えば,社会内処遇段階では,就労や裁判所の社会奉仕命令等による以外は,社会内矯正センターでの生活が義務付けられているということですが,次の釈放前段階に進むと,ボランティア活動への参加や夜間の外出等が許されることになるようです。これが釈放前段階と呼ばれておりますので,社会内矯正センターから出て自宅に住めるようになるのが,釈放,リリースだと理解されているものかと思われます。最後の自宅拘禁段階では,基本的には社会で生活しているのと同じになるようですので,この段階まで行けば,既に居住させての処遇ではなくなっている社会内処遇のようでございます。   それからその次,一番右に書きましたカナダですが,連邦矯正保護局所管の施設で,社会内居住施設というものがあるようです。これは,釈放について権限を有する当局が,犯罪者の円滑な社会復帰の促進のため適当と認める場合に,仮釈放又は法定釈放の遵守事項として犯罪者を居住させるというものです。仮釈放といいましても,カナダの仮釈放制度は割と複雑なようですが,主としてそこにもありますように,昼間釈放という,全面的仮釈放の前段階で許されるものがあり,主としてこの昼間釈放になっている者,あるいは法定釈放というのがありまして,これは例外はあるようですが,原則として一定の時点では全員が釈放されるというものでございますが,主としてこの昼間釈放,あるいは法定釈放の場合に,この社会内居住施設が多く用いられると聞いております。   このほか,先ほど申しました釈放後の遵守事項として犯罪者を居住させる場合以外にも,同行戒護を伴わない一時帰休の場合に,この社会内居住施設を使うこともあるようでございます。この社会内居住施設では,一般的なカウンセリング,その他の援助のほか,各種処遇プログラムも行われるということです。また,矯正施設で釈放前に作成される処遇方針に,条件付釈放の際に付すべきと考えられる遵守事項が明記されるということでございます。   次に,この中間処遇との関係で資料20を御覧いただければと思います。我が国における現在の制度について説明をいたしているものでございます。   昨年5月に,刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律が施行され,新たに外部通勤作業及び外出・外泊の制度が設けられております。これらはいずれも一定の要件を備えた受刑者について,刑事施設の職員の同行なしに刑事施設の外に出ることを許す制度でありまして,受刑者を信頼し,受刑者に自主的な行動規制を促すことにより,自律心と責任感を育て,もって円滑な社会復帰を図ろうとするものです。その概要等は書いてあるとおりですが,外部通勤作業については,刑事施設内の作業に就くだけでは取得できない技能を修得するほか,一般社会の中で正しい人間関係を築く方法を学ぶなどの効果が期待されます。また,外出・外泊については,家族関係の維持,修復,釈放後の生活のための準備を行う機会が与えられることになります。   外出・外泊を許す場合としましては,主として環境調整に係る用務のため,更生保護施設引受人,協力雇用主等を訪問する場合,出所後の円滑な就労を図るため,公共職業安定所,その他の公的機関を訪問し,又は企業等の業務説明会や,採用面接に参加する場合,それから出所後の居住先や婚姻関係,子の養育関係の調整等のため,親族等を訪問し,または雇用関係の調整等のため釈放後に就職を予定している企業等を訪問する場合等が想定されているところでございます。   実例としまして,外部通勤作業の例としましては,実際に刑事施設から約10キロ離れた外部事業所に数名の受刑者を通勤させまして,製品の梱包,運搬,仕分け等の作業を実施させている例がございます。また,外出の例としましては,実際に公共職業安定所のあっせんによる企業の採用面接のため,その企業による面接場所まで外出を許した例もございます。また,企業主が遠隔地の場合には,公共職業安定所に来ていただいて採用面接をするということで公共職業安定所までの外出を許した例もございます。   以上は,現行法下において実施可能な制度でございますが,このように従来からの開放的施設における処遇に加え,新法において新たに外部通勤作業及び外出・外泊の制度が設けられたことによりまして,施設内処遇と社会内処遇の間の格差をなるべく小さくし,あるいは橋渡しをするという中間処遇制度の目的機能の一部がこれらの活動によってまかなえる可能性は開かれたと言えるのかと考えております。ただ,限界といいますか,あくまでも開放的施設でありましても,刑事施設には違いはございませんので,そこから逃走すれば,刑法の逃走罪の対象にもなります。また,外出・外泊,外部通勤の場合に,帰着しない場合は,刑法の逃走罪とは別の罰則の類型にはなっておりますが,やはり帰着しないことについての罰則が設けられております。法定刑につきましては逃走罪と同じになっております。   もちろん,外泊でも最大7日以内という限界がありますし,基本的にはこれらの人についても刑事施設といいますか,新しい受刑者処遇法の処遇が適用になりますので,外部通勤作業も,やはり受刑者処遇法における作業ということで,賃金はもらわないで作業報奨金が支払われるという制度でございます。一面においては,国により生活は保障されておりますので,この人たちが生活費を負担するということはないということでございます。   このような限界がございますので,現行法下において実施不可能な中間処遇制度として,その類型を考えてみますと,第1に,米国のような受刑者の身分を維持しつつ,刑事施設以外の施設に移送して処遇する制度,それから第2に,カナダのようにといいますか,イギリスにおける主要対象のように,仮釈放あるいは満期釈放等により刑事施設から釈放した上で刑事施設以外の施設に居住することを義務付けて処遇する制度,これら第1と第2の類型はいわゆるハーフウエイ・アウトと言われているものかと思いますが,これのほかに第3としましては,刑の執行としてといいますか,あるいは刑の代替的な措置として刑事施設以外の施設に収容し処遇する制度,ハーフウエイ・インと言われるものかと思いますが,現行法下において実施不可能なものとしまして,このような類型があると考えられます。また,あるいは第4として,社会内処遇の強化として,刑事施設以外の施設に収容し処遇する制度も考えられるのではないかということでございます。   この第4の類型は,結局,社会内処遇の強化という方向から見ただけで,結局は第1から第3までの先ほど申し上げた類型に帰着するのかも分かりませんが,社会内処遇という概念が広いということもありますので,例えば医療や社会福祉へのつなぎの機能を主たる社会内処遇として,その一時的な間に一定の施設に収容する制度なども広い意味ではあるのかなということで,そのような類型が考えられるのではないかと考えました。   これらの制度の導入の当否を論ずるに当たっての論点として考えられますのは,効果的な処遇プログラムがあるかどうかという問題があるかと思います。したがって,処遇プログラムの内容によっては,対象となる罪名が限定されるということが考えられます。   それから,2番目の問題点としましては,コスト面で見合うかどうかということでして,施設建設や物的運営費は安くても,効果を目指して濃密な処遇を行うためには,職員が相当数要り,人件費も高くつくということも考えられるのではないかということでございます。   それから3番目は,被害者感情や一般国民感情が受け入れるかどうかということでございまして,再犯が起きてしまった場合の影響等も考慮する必要があろうかと思います。   4番目は,義務履行のための担保措置の在り方,逃走のリスクの防止や処遇プログラムを受講しない場合の制裁等についても,十分に考慮する必要があると思われます。   説明は以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただいま事務当局から御説明を受けたわけですが,この点につきまして御質問がございましたらお願いいたします。御意見は後で伺います。どうぞ○○関係官,お願いします。 ● 御質問したいと思いますが,受刑者に対して刑事施設で刑を執行している間,国がその衣食住をすべて提供するというのは,これは当然のことであると思いますけれども,その点が諸外国における中間処遇という段階では,どういうことになっておりましょうか。 ● 必ずしも正確かどうかは分からないんですが,イギリスとアメリカについて把握する限りでは,対象者がある程度の管理費を負担しているようでございまして,英国の許可住居制度では,管理費を負担しているということ,米国の社会内矯正センターの制度では,各対象者の収入の一定割合25%ぐらいを管理者の方に支払うと聞いております。 ● ありがとうございました。日本の現実問題に引き直しますと,この外部通勤あるいは外出・外泊という場合に,交通費とか食事代とかそういうものはどうなっているのでしょうか。 ● 外部通勤の場合は,すべて国が負担をしております。外出・外泊の場合につきましては,食費,交通費につきまして原則は自分の負担ということでございます。 ● ほかに御質問がございますでしょうか。   どうぞ○○委員,お願いします。 ● 先ほどの説明では,フランスとかドイツにはこのような中間処遇の制度がないようなことがちょっとあったんですが,物の本では,ホワイエという形でいわゆるハーフウエイハウスと同じようなものがあるというようなことを聞いたことがあるんですが,その辺についていかがでしょうか,分かる方がおいでになれば。フランスについてはそういうものがあるというふうに聞いているんですが。 ● ただ今の御質問に対して御存じの委員,幹事の方ございましたら,お願いします。 ● フランスにつきましては,把握している制度としましては,半自由と呼ばれる措置,半自由センターというのがありますが,この措置も刑事施設に収容されている受刑者について,日中,職員の監視がない状態で職業訓練や研修,家庭生活への参加等に必要な時間,施設外で過ごさせる制度ということで,取りあえずのところ,少しそういう意味で違うのかなというところで整理したということでございます。 ● ○○委員,今の段階でそういうことですが,よろしいでしょうか。 ● 結構です。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● もう一つだけ質問ですが,昨年だと思いますけれども,前法務大臣の杉浦大臣が北欧の中間処遇施設を視察してきたかのようなものが,杉浦大臣のホームページの中にあったんですが,それは法務省でも把握しているんでしょうか。ノルウェーか何かだったと思うんですが。 ● ノルウェーの施設を杉浦前大臣が視察されまして,これも中間処遇制度に当たるかと思いますが,受刑者の身分を持ちながら非常に開放的施設,ノルウェーの理解としては刑事施設の一種として,町の中のアパートの一角という非常に開放的なところに出して,そこでの処遇により次の保護観察ですか,完全な社会内処遇への準備をするという,そのような制度と聞いております。 ● どうもありがとうございました。   ほかに御質問はございませんでしょうか。もし御質問がございませんようでしたら,中間処遇の在り方について御議論をいただきたいと存じます。   例えば,いかなる制度をどのような目的,法的性格のものとして位置付けることができるのか,その際のメリットや問題としてはどのようなものがあるかなどについて御議論いただければと存じます。それから,先ほどの御報告の中でも,問題点が4点指摘されたわけですが,それにつきまして,もし御意見等がございましたら,よろしくお願いします。どなたからでも結構ですので,御発言いただきたいと思います。 ● 先日国会に提出された更生保護法案の中に,一定の施設に宿泊させるという形の特別遵守事項が設定できる旨の明文規定が置かれています。この関係で,以前,保護局から,自立更生促進センター構想についての御説明がありましたので,この構想と,先の特別遵守事項に関する更生保護法の規定を考え合わせると,これは,法務省として,まさに中間処遇ということを考えておられるのではないかと理解しました。   中間処遇と一言でいっても,様々な形態があり得るわけですが,諸外国にも,仮釈放した後に特別の施設に入れるという制度がありますので,このように,保護観察の遵守事項の一つとして,一定の施設に居住させ処遇を行うというのもその一つの方法であると思います。そして,現在の法制度の延長線上にあるという意味では,これが最も導入しやすい形なのかなという気がしています。 ● どうもありがとうございました。   どうぞ,御自由に御発言をお願いしたいと思います。 ● 日本では,伝統的に刑罰というのは非常に固い,固定的なものであるという考え方が強かったと思います。その点では,むろん仮釈放あるいは執行猶予というのは大いに弾力化を図る制度であることは間違いないんですが,いったん仮釈放という形で弾力化した後,実際に外へ出したのをまた取り消して再収容をするかというと,その比率は非常に低いと言っていいと思います。この点は以前から議論はあるところで,最近も少年法の保護処分について若干の弾力化が提案されていると承知しておりますが,中間処遇というものを取り入れた場合にこの点がどうなるのか。今までよりはもう少し弾力化して,外へ出して中間処遇にするけれども,場合によってはまた戻すということが比較的活発に行われるようになるのかどうか。   言い換えますと,中間処遇の場合に様々な条件を付するけれども,それに違反したという場合の取扱いをどう考えるか。その辺が一つの問題ではなかろうかと思いますので,できれば皆様の御意見を伺いたいと思います。 ● どうもありがとうございました。   ただ今関係官から問題提起がございましたように,中間処遇の後の再収容の問題など,いろいろと検討すべき問題があると思いますので,その点につきまして,委員,幹事の皆様方,御意見を賜りたいと思います。 ● 関係官の御発言と関連するところでございますけれども,例えば,中間処遇に資する施設に入っている場合に,諸外国の例では,例えばその条件に違反した場合に,それが1回目のときには警告を発し,2回目になるとオートマティックに刑事施設に戻すという例もイングランドではあります。そういった対応が,社会との接点を保ち,収容者の気持ちの平穏を保つために最も大事なことではないかと思います。   そうした処遇をする前提といたしましては,この表にも表れているかと思うのですが,収容者を,例えば性犯罪を犯した者,精神障害によって罪を犯した者,その他の者というふうに幾つかに区別することが可能でありまして,最終的に社会復帰が可能な者には早めに社会との,あるいは家族とのつながりを保った上で,その精神に働きかけて更生を図ることが効果的ですし,コスト面でも有効だと思いますが,他方で,性犯罪,精神障害によって犯罪を犯した者に対しては更に別のケアも必要かも知れません。   何が言いたいかといいますと,先ほど4つほど問題点を指摘してくださった訳ですが,コスト面ということを除きますと,やはりそういった中間処遇に適する者は,罪質とその人の性状,その置かれている状況によって決まってくるもので,社会がその人に持つ安全感というようなものも,どのような罪質をだれが犯したかということで複合的に決まってくるものかと思います。そして,その社会に対する安全感という面では,先ほどノルウェーのお話もあったんですけれども,街角の中にぽっと収容しておく場合もありますし,あるいは刑務所のように外観から見て重々しい雰囲気を持たせる場合もありますが,イギリスのハーフウエイハウスといわれているものでは,街中にぽこっと存在しているものもあったりいたします。   ですから,先ほどの4つの御指摘の中では,3つの面は恐らく複合的に関連していて,犯罪者,犯罪,社会の受容の仕方ということに合わせて制度設計が可能かと,個人的には思っております。 ● どうもありがとうございました。○○委員にお伺いしますが,被害者の感情の点はいかがでしょうか。 ● 被害者の感情は,やはりその背景にありますその刑罰観というものによって,国,時代によって変わってきますので,各国により,あるいは時代によってかなり差があります。ですから,それはそれで幾つかの偏差を決めてここで取り上げるべき,論理的に詰めていくべき事項かと思っております。 ● ただ今,○○委員から,包括的な形で御意見が出されたわけですが,それと関連して,あるいはそれ以外でも結構ですので御意見をお願いします。先ほど○○関係官からお話が出ました点につきましても,御意見を賜りたいと思います。 ● 今お話があった○○委員や○○関係官のお話をちょっとお聞きしながら思ったんですが,基本的には確かに今仮釈放で出ている者が,それほど多く取り消されて戻っているということがないとするならば,恐らく中間処遇というのは仮釈放というのが現実には運用で行われている時期よりももっと前の段階で,まさに中間的なところで外に出してという形のものが必要だろうと思うし,それが段階的に自由度が増えていって,社会に一人で自立できるようにするという意味では理想的なのかなという気はします。   ただ,問題はやはりコスト面のところが非常に気になります。やはり例えば施設をつくるにしても,恐らく刑務所の中では10キロほど離れたところで外部通勤されているという例がありますけれども,やはり外で仕事ができるような環境が整うような場所ということになると,都心部に近いところでないとなかなか難しいのかなと。それから,またそうなると建設費がすごくかかるだろうと。これをどうクリアできるのかなというのが,ちょっとやはりこれを実現する上では非常に問題なのかなと。できれば予算がいっぱいとれれば,そういう方向ができれば望ましいなというふうには思っているんです。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ● 中間処遇と呼ぶのがいいのかどうか分からないのですが,最近書かれた本なんかを見ていますと,都心部に近いところに,メトロポリタン・コレクション・センターというようなものが,これはむしろ中間処遇というよりも中間刑務所というニュアンスのものでアメリカでは運用されているということが紹介されているんですね。このあたりのことについても,ちょっとどうなっているのかなと。私どもも物の本でしか分からないものですから。中間処遇施設というより中間刑務所的なニュアンスだというようなことが書かれている。   ですから,それは外にありながら中間刑務所というのがどういうことなのか,内に入っていればまたちょっと希望寮のような形のものとして理解できるんですけれども。 ● この場で正確に説明できるだけの知識を持ち合わせておりませんので,調べてみます。 ● 中間処遇のこの検討というのはすごく重要なことだと思っております。というのは,我が国のこれまでの矯正保護の場面でいうと,言ってみれば最も抜け落ちていたという部分だったという気がいたします。   矯正と保護との連携といいますけれども,我が国の場合,実態として,その連携が必ずしも有機的に機能していない部分がある。そういう意味で,私はこの中間処遇の場面が,今後の我が国の刑事政策の帰すう,行方を左右するような,それほどの重要な問題ではないかというふうに思っています。   例えば,満期出所という場合を考えますと,この場合,ほとんど何もガードあるいはケアされることなく,刑務所から出て行ってしまうわけで,また再犯を犯すということになっていると思うんです。それが我が国の典型的な縮図だろうと思います。   それで,中間処遇というのは前から言われているんですけれども,なぜか拡大しない。中間処遇という概念は,古くはハーフウエイハウスなどが我が国で随分紹介されているんですけれども,残念ながら実態を伴わないというのが現状だろうと思うんです。制度としてはあるんだけれども,制限的になされているというのが現状である。   また,仮釈放をするかどうかを考える面では,引受人があるかどうかが一つの大きなポイントで,どこかで引き受けないとこれは仮釈放ができませんので,家族から見放されている人など難しい対象者の場合には,仮釈放が難しくなる。その代替手段としてといいますか,更生保護施設というのがあって,それが引受人になるという形になっているんですけれども,ところがこれは民間の団体で100あるんですけれども,国立とか公立というのは今まではなかったわけなんですね。民間のボランティアでやっている団体であり,もちろん経営という面がありますので,難しい対象者というのは非常に引き受けにくいという現状がある。そうすると,結局放置されてしまうという現状があると思うんです。そういう意味で,仮釈放の場面でも更生保護施設というのは,非常に重要な意味を持っております。   それから,保護観察の場面で,先ほど議論がありましたけれども,更生保護施設に一定期間居住しなさいというように,居住指定という形で遵守事項を定めるということは,非常に有効な面があると思うんですけれども,これもなかなか難しい現状がある。更生保護施設がどれだけ受け入れてくれるのかということがあろうかというふうに思います。同時に対象者が拒否した場合,どうするのかという問題もありますので,その点も非常に拒否的な場合にどうするのかという問題も残っているという気がいたします。   先ほど言われた自立更生支援センターは,今非常に重要な構想である。ただし,一般市民,周りに居住している人がそういう構想をどういう形で受け入れるかということが,現在の大きな問題だろうと思います。つまり,犯罪者の改善更生には賛成なんですけれども,自分の近くでそれをされているということについては非常に拒否的な場合があり得る。あえていえば総論賛成・各論反対みたいな,そういう雰囲気というのは一般社会にあるわけで,この点もこういう中間処遇を考える場合の重要な問題です。無理をして強制的につくってもしようがないので,この点は一般住民の理解を得ながらということになると思います。 ● どうもありがとうございました。   ただ今,矯正と保護の連携の問題についての御指摘もございましたので,その点も含めて何かございましたら,お願いします。 ● 一点確認的な質問をさせていただきたいんですけれども。もしかすると最初に御説明があったのかもしれませんが,私どもも仮釈放になった方についてのその後の処遇というのは,十分よく存じ上げていないところがあります。先ほどから仮釈放の取消しというのが非常に少ないという御指摘が出ていると思うんですけれども,私自身の認識でも恐らく再犯を犯したケース以外は余り取り消されていないのかなという印象を受けておるんですが,実態はいかがなんでしょうか。遵守事項違反での取消しというのもある程度あるんでしょうか。 ● それは大体5,6%ぐらいで。そうですね,ある年に終わった,刑務所を出た人の終了者のうちに何人ぐらいかが遵守事項違反で取り消されたかというと,大体5,6%ぐらいです。 ● そこで取り消しの理由になっている遵守事項違反というのは,大体どういうものなんでしょうか。 ● 例えば無断転居とかもありますが,大多数が被疑者,被告人になっており,事件を起こしたというのが多いのは多いです。あと,再処分率という形で言っておりますけれども,刑期との関係で,刑務所を出た人たちの再犯という状況をどう表現するかという場合には再処分率ということで,終わった人間のうち,仮釈放中に刑が確定したと,その人たちがどの程度いるかという形で把握しておりまして,それだと約1.1%,期間中にはまだ被疑者,被告人の段階だというのはこれには計上していない。ただ,それをとらえるものとして,遵守事項違反による取消しの率という形で示すと,それが大体5,6%となります。 ● その中には,結局そうすると,再犯を犯したことから善行保持義務に違反しているということで取消しになったものも含まれているということですか。 ● はい。取消しの中にはかなりあります。 ● どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ● その点は,日本の保護観察のジレンマがあると思うんですけれども,国際的にもそうかと思うんですけれども,保護観察というのは一方では確かに刑事処分の一環としてあるわけですけれども,しかし,保護観察というのはケースワークという部分があって,処遇する人とその処遇される側との信頼関係を前提としていますので,不良措置というか,そういうものを前提に厳しくやるというのは,難しい設定になっているというところがあろうかと思います。 ● どうもありがとうございました。   どうぞ○○委員,お願いします。 ● 先ほど仮釈放の取消しのことを伺ったのは,私も中間処遇というのは,刑を円滑に終了させてその後社会復帰につなげるという意味で,これからもっと考えていくべきところではないかなと思っているんですけれども,そのときの視点として,どういうことを目的としてするのかということがあるだろうと思います。   例えば,ここに前回お配りいただいたんですが,諸外国における中間処遇制度等の例でも,処遇内容としていろいろなものが入っていると思います。一つは,ある一定の犯罪傾向をお持ちの方にカウンセリング等の処遇,更生のためのプログラムを受けさせる。特に今,薬物とか性犯罪,あるいは粗暴性ですか,怒りの制御に関するプログラムとか,そういうものを受けさせるというものがあり,これがうまく効果が上がるのであれば,それは好ましいことだろうと思います。   また,それとは別に,生活環境が安定しない限り再犯に陥る可能性が高いということから,まずは住むところ,そして仕事を紹介し,安定するまでの面倒を見るというような面と,恐らくこの二つの面が大きなところとしてあると思います。そのどれを重視していくのか,あるいはどう組み合わせていくのかというところが,まずあるのだろうと思います。   それとともに,そのような処遇をするために,先ほど御指摘があったように,仮釈放の期間をもう少し前に持ってくるということになると,例えばそこで受けさせることが想定されているプログラム等を受けないということについて,遵守事項違反のような形で仮釈放の取消しを,これまでよりも活用されていくことになるのか。先ほど,仮釈放の取消しは,それほど活用されていなくて,いったん仮釈放された以上はよほどのことがない限り戻さないということになっているのではないかということに関する御質問があったと思いますが,仮釈放中にいろいろな処遇を盛り込むんだとすると,それをきちんと受けない人に対してどういうサンクションを与えるのかということはやはり正面から議論せざるを得ないのかなと思います。   その関係で,果たして仮釈放の取消しというのは,どのようにすれば機能し得るのかということを伺いたいというところもありますので,そのあたりも含めて御意見を伺えればなと思います。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。きょうは第1巡目の議論ですので,また2巡目のときに改めて御意見をお述べになることも可能ですが,いかがでしょうか。   どうぞ○○委員,お願いします。 ● 仮釈放の取消しがなかなかなされていないということで,幾つか要因が挙げられたんですけれども,その中の一つの,保護司の方が担当しているのでなかなか難しい面があるという点については,恐らく中間処遇施設がもし実現すれば,保護観察官の方が正面に出て直接処遇なさることになると思います。もとより,そのほかにも要因があるので,それだけで解決するわけではないし,そもそも仮釈放の取消しをどんどんすればいいというわけでもないかと思いますけれども,その点は少し違ってくるという気がいたします。 ● 恐らく中間処遇の目的というのは,いろいろあるかもしれませんが,やはり中心的なものは改善更生であり,施設内処遇と社会内処遇を有機的に連携させ,橋渡しになるものであります。   それから,遵守事項を守らないとか,処遇プログラムを受けないのはどうするのかということですけれども,これが言ってみれば保護観察の妙味なんですが,仮釈放の取消しなどの一定の不良措置があるから処遇プログラム等を受けるという面があるわけで,その意味で,不良措置との相互関係があります。したがって,やはり不良措置というものを適切に適用できる体制をつくっておいて,それによって,対象者に対し,処遇プログラム等を受けようとするモチベーションを与え,それを高めるという面があると思います。 ● 結局,中間処遇の問題は,施設収容中の高度の制限と,それから社会に出た後の高度の自由,その間のバランスをとるのが中間処遇だと思いますけれども,諸外国の御説明を伺いますと,確かにそれは中間的なものだという感じを受けるわけですが,日本の現在やっている仮釈放はいろいろな遵守事項があり,また保護観察があるとはいえ,これはもうやはり自由の方に大きく軸足が傾いていて,制限は弱いと思います。   これに対して,今日お話を伺いましたこの外部通勤・外出というのは,日本ではこれはやはり制限の方が強いのではないか。その点をシンボリックに表すのは,外部通勤に行くときに受刑者にどれだけのお金を持たせるかということではないかと思います。先ほど交通費は国庫が負担するということであったと思いますが,恐らくお昼御飯も勤務先の事業所の給食を食べなさいということになり,結局,自分で使えるお金はなしで出掛けて行っているのではないかと思います。   そうすると,やはり受刑中の生活と同じものが外で行われるということに近いような気がするわけですが,このあたり,中間的な処遇にすれば,外部通勤あるいは外泊,外出のときに,思い切って一定のお金を持たせるというようなことが難しいかどうか。その辺,いかがでしょうか。 ● 外出と外泊の場合は,交通費あるいは食費も原則は自己負担ということでございます。ただ,もしもお金がないような人についてそれを許可するというときは,国費で例外的に負担するということになっております。   実際の運用上は,新法が施行されて間もないこともありますので,大分慎重に外出を運用しているということでして,現時点ではそんなに外出を許可できる人が多くはないという状況ではございます。外泊の事例というのはまだ把握しておりませんので,外出ですと日帰りですから,現実にお金がかかるとしましても交通費と食費ぐらいという実情でございます。 ● 日本で中間処遇に当たる制度をつくるとした場合,二つの考え方があるように思います。一つは,今御指摘がありましたように,刑務所というのは自由が厳格に制限されたところである一方,現在の保護観察というのは自由の制限は弱いものであるという前提のもとで,その中間段階に一定の施設をつくり,そこで処遇するという形で,すべての受刑者につき,制限の高い処遇から弱い処遇へと段階的な処遇を行うというものです。   アメリカなどの制度は,そういう発想なのかと思うのですが,ただ日本で実際に何が必要かというふうに考えると,例えば,自立更生促進センター構想で想定されているものは,現状では,出所後に更生保護施設でも受け入れてくれないような問題を抱えている受刑者がおり,そういった人が満期で出て,何の処遇も受けないままになってしまっている点をなんとかしようというようなことですから,そうすると,その対象となる人というのは限られてくることになると思います。また,対象となる施設という点から考えても,例えば,更生保護法案の規定により,特別遵守事項として一定の施設に居住することを義務付けるといった場合でも,今問題となっているような受刑者については,更生保護施設を居住施設として指定することは,事実上できないわけですから,新たな枠組みで施設をつくってそこに居住させるという形になるでしょうから,やはり限られた範囲になるように思います。  その意味で,中間処遇制度を作るとして,受刑者を一般的に対象とすることを考えるのか,あるいは必要な部分にまず対応することを考えるのかによって,制度の設計の仕方がかなり変わってくるのではないかという印象を持ちました。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ● 先ほど幹事がハーフウエイ・アウトとハーフウエイ・インという言い方をされましたが,その概念について御説明いただければと思います。 ● 私が間違って理解しているのか分かりませんが,ハーフウエイ・インと申しましたのは,刑務所に入れる前の施策といいますか,刑務所へ入れるまでもない,刑務所収容への代替策として制限のあるような住居に住まわせるというものをいうのではないかと考えておりまして,ハーフウエイ・アウトというのは,刑務所から出た後に社会へいきなり戻すのではなく,一定のところに住まわせながら社会復帰を図るというものをいうのではないかと考えて御説明申し上げたところです。 ● 新しい監獄法の改正で,前回以前にもいろいろな説明を受けましたけれども,性犯罪者プログラムだとか,薬物犯罪者に対するプログラムという,多分こういったものがある程度形としてできてこないと,多分その中間処遇をとっても具体的なプログラムが提供できないのではないかと思うのですが,そのあたりどうですか。現実にまだ1年たっていませんけれども,やってみての御感想なんですけれども。 ● 非常に難しい質問なのですが,試行錯誤しながらやっている面もございます。処遇効果の測定とか,そういうことも考えなければいけないんですが,まだそこまでは出ておりませんし,現時点では客観的にどうこうというところまでのデータはないんですが,ある程度新しい法律の施行とともに,人員的な手当て等で,心理技官,あるいは法務教官の者を刑事施設での処遇に当たらせるということもしておりますので,指導に当たっている職員などはある程度手ごたえを感じているというのはあるかと思います。   いろいろな困難にも遭遇はしておりますが,手ごたえを感じておりますので,確かにおっしゃいますように処遇プログラムの展開,今後に待つところは大きいわけですが,これを続けていけば,中間処遇施設で活用いただけるようなプログラムにもつながる面はあるかと考えております。 ● この種の中間処遇をする場合というのは,一つは要するに社会生活を送っていく上でのソフトランディングのための制度として何らかこういうものを設けて,場合によっては外部で就労させて就労環境をつくっていく。それ自体が一つのソフトランディングとしての意味を持っているということかと思います。   そのほかにも,その犯罪者の特性に応じたプログラムというのをどんなふうに考えていくのかという, プログラムの問題ももちろんありますけれども,保護観察,仮釈放へつなげていくようなものとして,きちっと就労環境を整えて社会にうまく入っていくための入口を設けるというような意味合いもあるのかなと思います。 ● 今,御指摘のとおりで間違いなかろうと思うんです。それとともに,先ほどもちょっと伺ったところで,その特定の対象者ごとの傾向に応じたプログラム,例えば,性的な犯罪傾向,薬物犯罪,粗暴性とか,そういうものについて,それぞれの類型別の処遇のためのプログラムについて,今,矯正の方で試みられていて,なかなかまだ効果測定までできている状況ではないけれどもというお話だったと思いますが,特に中間処遇で考える場合には,刑務所の中でそういうプログラムを受けさせる可能性というものもあり,それだけでは足りないのか,社会内に一度戻してからさらに受けさせなければいけない面というのが,どの程度あるのかということも考える必要があると思います。それで,もしそれを目的とするならば,処遇全体の計画を組むということなんだろうと思うのですけれども,このあたり諸外国の実情としては,やはり社会内においてもそういう個別のプログラム,特性に応じたプログラムが必要だという考えになっているということなんでしょうか。 ● 前回議論になりました電子監視にも関連してくるのですが,電子監視を受けてでもやはり社会にとどまりたい,家族との連帯を保ちたい,友人との関係を保ちたいというような方が多くて,そういう人の場合は刑務所に収容するより,社会において監視を付して,その状況の下で,施設内に収容されている場合と同程度のプログラムを与えた方が,効果的に社会に復帰するであろうということですね。ですから,○○委員がおっしゃるとおりに,先ほど問題点について挙げられましたプログラムの内容の点検,そのオプションをたくさん整備するということが,施設内処遇,社会内処遇,両方においても共通の必須の前提だろうと私も思います。 ● 前にも同じような発言をした記憶があるんですけれども,薬物などの場合に,やはり刑務所の中で完全にその薬物が使えない環境の中で,その薬物から離脱したというふうに仮になったとしても,社会に出てその薬物に接触できる。もう少しその社会に近いところでそういう状態の下で,さらにその処遇のプログラムを続けるということは,非常に効果があるのではないかと思うんですね。そういう意味で,その薬物犯罪などについては,まず施設内で処遇をして,その後中間的なところで処遇をして,さらに社会に出て行くと,それが全部つながっていくというのが非常に重要な犯罪類型なのではないかと思っておりまして,例えばそういうところで中間処遇というのは,かなり効果を持つのではないかというような気がしております。 ● おっしゃるとおりで,いわゆる中間処遇施設内での改善更生プランは非常に重要だと思うんですが,この中間処遇の意味というのは,そのプログラムを組んで改善更生にもっとその力点を入れるんだというよりは,むしろ刑務所から出すというところの意味が私はあると考えています。刑務所の中で,社会内に出た場合の生活の指導をするというのではなくて,社会内にいったん出し,例えば更生保護施設に入れて,社会内で生活していくための中間的なトレーニングをするところに意味があると思います。   その改善更生プログラムというのは,すごく過大な期待を持たれているように私には思えるのですが,余りに過大な期待を持たれてしまい,効果測定をやって,「いや,こんなのだったのか。」と失望されることも多い。それゆえ余り過大な期待を持たれない方がいいんじゃないかというふうに思います。 ● 御指摘のように,完全に再犯防止ができるとはもちろん考えておりませんので,ただ少しでも再犯が減るようにとそういう意味で考えております。 ● そのとおりだと思います。要するに,隔離したところでやるということではなくて,自由が一部あるという所で,それ自体が意味があるということなんだろうと思います,中間処遇というのは。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。この点に関しましては,意見が出そろったようでございますので,次の論点に入らせていただきたいと存じます。   もう一つの議題は,保釈の在り方についてでございますが,この点についての審議に入らせていただきます。このテーマに関しましても,やはり事務当局の方から諸外国の例について御紹介いただいて,それを参考にして御議論をしていただくのが適当だろうと存じます。そういうことでよろしいでしょうか。   御異論もございませんようですので,そのようにさせていただきます。   それでは,事務当局から,御説明をお願いいたします。 ● 前回の会議で配布いたしました資料21の「諸外国における未決拘禁・保釈制度の例」というタイトルの資料を御覧ください。   資料21は,本日の御議論において,保釈の在り方を御検討いただくに当たり参考にしていただくために,事務当局の方で,諸外国における未決拘禁・保釈等の制度について,把握し得た概要をまとめたものでございます。資料の作成に当たりましては,公刊資料等を参照するなどして可能な範囲で調査を行ったものでございまして,制度の詳細や運用の実態などにつきまして十分に承知しているものではないという点を御容赦いただければと存じます。   また,これらの諸外国においては,刑事手続そのものの在り方が異なることから,未決拘禁・保釈などの制度につきましても,一概に比較することは困難であるというところは当然ございますが,あくまでも御議論の際の一助として御参照いただければ有り難く存じます。   まず,資料の1段目の「未決拘禁の要件」は,未決拘禁のために,犯罪の嫌疑のほかに,いかなる理由が必要かということについて記載したものでございます。いずれの国においても,逃亡のおそれがあること,あるいは出頭の確保ができないおそれがあることなどが未決拘禁の理由となっております。そして罪証隠滅のおそれにつきましても,それぞれの国で規定振りは異なりますが,いずれの国においても何らかの形で未決拘禁の理由とされております。   例えば,イギリスにおいては,保釈条件の設定によっても,司法運営の妨害,証人威迫などが防止できない場合,それは未決拘禁の理由とされているようです。アメリカにおいても,これは連邦でございますが,保釈条件の設定によって,証人や陪審員になることが予想される者などに対する危害を防止できない場合が,未決拘禁の理由とされているようです。また,ドイツ,フランスにおいても,証拠の隠滅,証人威迫などのおそれが,未決拘禁の理由とされております。   さらに,いずれの国においても,これも規定振りは若干異なりますが,未決拘禁の要件,あるいは資料の2段目になりますが,未決拘禁からの解放の要件として規定することにより,再犯防止又は他者・共同体への危害防止のための未決拘禁が認められているようでございます。   また,ドイツにおいては,殺人等,一定の重大犯罪を犯したことが強く疑われる場合には,それだけで未決拘禁の理由となるようです。   次に,資料の2段目の「未決拘禁からの解放要件」は,保釈などによって未決拘禁から解放されるのがどのような場合かについてまとめたものでございます。イギリス,アメリカには保釈制度がありますが,ドイツ,フランスには保釈制度はないようです。ただし,ドイツには勾留状の執行を猶予する制度があるほか,フランスには司法統制処分の制度があり,これらは,未決拘禁によらずして,出頭確保等の目的を達成しようとする点で,実質的には保釈と同様の機能を果たしているようです。   いずれの国においても,未決拘禁からの解放を原則としているようですが,遵守条件の設定等によってもなお,未決拘禁の目的が阻害されるおそれがある場合には,未決拘禁からの解放が認められないことがあるようです。   また,いずれの国においても,重大犯罪については,未決拘禁からの解放が認められにくい制度となっております。イギリス,アメリカについては,一定の重大犯罪について,原則保釈が認められないような制度となっているほか,フランスにおいては,犯罪行為の重大性により公序に例外的混乱がもたらされた場合には,司法統制処分を用いず,未決拘禁をすることができるようです。ドイツについては,先ほども申し上げたとおり,殺人等,一定の重大犯罪を犯したことが強く疑われる場合には,それだけで未決拘禁の理由となるようです。   最後に,資料の3段目の「逃亡等の防止策」には,保釈等により未決拘禁から解放する場合に,逃亡等の防止のために,いかなる方策を講ずることができるのかをまとめたものです。いずれの国においても,保釈金の納入,関係者との接触禁止,住居の制限,治療プログラムの受講等,幅広い条件を課すことができるほか,電子監視の方法により,住居制限等の条件に違反していないかどうかを監督する制度を有するようです。   また,イギリスにおいては,保釈中に合理的な理由なく裁判所に出頭しないことが別途犯罪とされており,法定刑は,3月以下の懲役又は罰金であり,これらを併科することもできるものとされています。   以上でございます。 ● ただ今の事務当局からの御説明に対して,御質問がございましたらよろしくお願いいたします。御意見は後ほど承りたいと存じます。   どうぞ○○委員,お願いいたします。 ● 確認の質問なんですけれども,最初の方の未決拘禁の要件の説明のところで,逃走防止あるいは出頭確保が主であり,罪証隠滅についてはやや従たるものであるという言い方をされたかと思うんですが,それでよろしいですか。 ● 私の説明が不十分であったのかもしれませんが,御指摘のようなことはなく,未決拘禁の理由として,逃走を防止するということと,罪証隠滅を防止するということは並列する関係にあるものと理解しております。そのほか,各国では,再犯の防止についても,その理由としていることを申し上げたところです。 ● 未決拘禁となりますと,日本では逮捕72時間,勾留20日間というのが常に意識されるわけですけれども,諸外国ではこの未決拘禁の期間というのはどうなっているんでしょうか。 ● 起訴前の未決拘禁の期間として,例えば,イギリスでは,数日程度の短い期間である一方,ドイツ,フランスでは,数か月に及ぶような相当長い期間であったと承知しております。正確な数字を今持ち合わせておらず恐縮でございます。 ● 確認のための質問ですが,印象的なのは,この一覧表を見ますと,電子監視がかなり使われている。保釈制度と電子監視が結び付いている記載がありますが,運用はどうですか。 ● アメリカやイギリスにおいて,保釈された者に対する電子監視がどの程度実施され,どの程度定着しているかといった運用の実態についてまでは,恐縮ですが承知しておりません。ただ,制度としては,電子監視を手段として,例えば,保釈の条件どおりにきちんと在宅しているのかどうかというところを確認することができるということが取り入れられておりますので,この資料で紹介させていただきました。 ● 分かりました。 ● 質問でございますが,これはどちらかというと制度要件等の制度論だと思うんですけれども,実際の運用面ですと,どのぐらいの被告人・被疑者が,保釈になったけれども逃亡をしてしまっているかを示すデータ等があれば,お教えいただけませんでしょうか。 ● 諸外国における保釈の率,件数のような統計資料については持ち合わせておりませんが,ただ,例えば,若干古くなりますが,イギリスの1997年の内務省の統計によりますと,マジストレート・コート,治安判事裁判所での冒頭手続に出廷した被告人のうち,逮捕されずに出廷している者が55パーセント,逮捕後に警察で保釈された上で出廷している者が39パーセント,身柄拘束のまま出廷しているという者が6パーセントということのようです。そして,そのように身柄拘束のまま冒頭手続に出廷した者の25パーセントは治安判事によって保釈されております。したがって,身柄拘束のまま冒頭手続に出廷する者が全体の6パーセントであり,そのうち25パーセントが保釈されていますので,引き続き身柄を拘束されたまま審理を受けるのは,全体の4パーセントということになります。   そして,これも同じく1997年のイギリス内務省の統計ですが,保釈された被告人のうち,11パーセントの者が指定された日に裁判所に出頭しておらず,また,24パーセントの者が保釈期間中に再犯を犯したようでございます。 ● ほかに御質問はございませんでしょうか。 ● 質問としてなんですが,今回,この保釈あるいは勾留の在り方を考えるに当たって,どのような枠組みの中で考えるのか,さらにその枠組みを超えたものも考えるのか。多分,それぞれの国の制度が違う中に,ストレートに保釈があるいは起訴前保釈とかいろいろなものを含めて広げるとか,増やすとか,新設するといった形になるというものには,制度が違う以上ならないと思うんですね。今回ここで議論するのは,現行の今までのいわゆるその逮捕,勾留それから起訴というその制限期間がありますけれども,それらについては手を触れずに考えていくというふうな理解でよろしいんでしょうか。 ● 基本的には,最初の方でも申し上げたと思いますが,今回の諮問事項の趣旨・範囲内において調査審議いただくということでございます。保釈について言うと,諮問事項に掲げられている二つの観点,すなわち,被収容人員の適正化と再犯防止・社会復帰の促進との二つの観点から,保釈の在り方を見直すということでありますので,そういう観点で御議論いただければと思います。そこで,ただ今の御質問に則して申し上げますと,逮捕勾留の制度を変えるような保釈の在り方の見直しというのはもちろん理屈としてはあり得るとは思うのですけれども,そこはただ,諮問事項との関連の問題や,現実性の問題ということも当然ありまして,その点について根本的に議論を始めるというのは,いかがなものなのかなという気はいたしております。 ● 恐らく抜本的な大きな改革をしようとすれば,やはり小手先の議論では非常に難しいだろうと思うんです。日本の場合は,結局逮捕勾留されて以降,起訴されるまでの期間が非常に短い。これは諸外国と比べたら圧倒的に違うわけですよね。それに手を付けないままでどこまで議論できるのかなという,それはもうそれで動かさないという理解で臨むとすると,それなりに限界があるのかなという感じがちょっとしないでもないのですが。 ● これはちょっとある意味で御意見の方に入っておりますので,この質問が終わった後,どこまで守備範囲があるかという形での議論もお願いしたいと思います。   どうぞ○○関係官,お願いいたします。 ● 質問をもう一つですが,一般的に申しますと,ドイツ,フランスでは未決拘禁の期間がかなり長いというのは公知の事実だと思います。それで今いただいた表を見ましても,ドイツ,フランスでは罪証隠滅のおそれというのが,保釈を認めない理由として表に出ております。これに対して,アメリカにはそれがないので,どちらかといえば保釈は迅速に行われているということになるわけですが,イギリスで司法運営妨害という観念が表れておりますけれども,これはどういうものでしょうか。 ● これは,恐らくアドミニストレーション・オブ・ジャスティスの訳でして,司法運営と日本語で訳してしまいますとミスリーディングになるかもしれません。田中英夫先生以来,この言葉の訳については,非常に慎重な議論がなされているのですが,例えば,イギリスの場合は,裁判,法廷を主宰する者が国王の権威に沿ってこれを行っていて,ここに委託された権威を裁判官が代理行使していて,その権威に対する挑戦が,アドミニストレーション・オブ・ジャスティス違反となり,これはコンテンプト・オブ・コートになる,という流れだったと思います。   ですから,日本法の議論に,そのまま持って来られるかは分かりませんけれども,ジャッジが一定のオーダーを下したときに,その権威に違反して,条件等に違反した場合には,直ちに一定の犯罪が成立するというのが,英米法における伝統ですから,ここにもそれが事前に表れているんだろうと理解しております。 ● 分かりました。そうしますと,大陸法的な罪証隠滅とは違うようですね。 ● はい。 ● ほかにいかがでしょうか。ございませんようでしたら,保釈の在り方について御意見を承りたいと存じます。先ほどこの問題に入りかけていたのですが,○○委員,よろしかったらどうぞ。 ● 先ほど申し上げたように,抜本的な解決をするとなった場合には,いろいろなところに手を付けざるを得ないのかなという形で考えているんです。例えば,これはまだ個人的見解なんですが,やはりそれなりに自由が保障されるような保釈制度がつくられるということになった場合に,捜査との関係をどう考えるのかといった場合,日本の期間は非常に短いという部分について手を付けざるを得ないのかなという,ちょっと個人的な感想を持っているものですから,今の現状の期間はそのままにしながらということで何か考えられないかというのであれば,またそこでそれを議論しようというふうには思うんですが,先ほどの話ですと,多分そこまで手を付けないというふうにちょっとお伺いしたので結構ですが。 ● 当初お示ししました諮問事項に従ってその範囲内で御議論いただければと存じます。 ● 今回の諮問事項に関連する目的としては,被収容者,この場合は未決拘禁者ですが,その人数を適正化するという観点と,再犯を防止するという二つの観点が問題になるということになろうかと思います。その上で,実務家の方は,この二つの観点から見て,現在の未決拘禁制度,あるいは保釈制度というものに,どのような問題があるというふうに認識されておられるのでしょうか。そこが議論する上での出発点になると思いますので,もちろん個人的な見解で結構ですので,その点をお教えいただけませんでしょうか。 ● そういうことですので,まず実務家の委員,幹事の方からお願いします。 ● 実務家だけではなく,是非,刑事手続法をやっておられる研究者側にもお聞きしたいと思います。 ● それでは順番として,実務家委員あるいは幹事の方々の御意見を承った後,今度は手続法の学者委員の方々の御意見を賜りたいと思います。何かゼミナールの雰囲気になってまいりましたけれども,ひとつよろしくお願いいたします。 ● 私は,やはりこの勾留の要件というものがあるわけですけれども,やはり罪証隠滅のおそれというのが,かなり適正に運用されているのかどうかについては,昨今の志布志事件とかそれから富山県の事件とかを見ていますと,どの程度客観的な証拠があってそれが始まったのかということで,本当に罪証隠滅のおそれがあったのかどうかという部分について,今のままの規定でいいのかというような若干疑問を持っています。   そういう意味で,勾留要件についてはそこの部分について非常に強い関心を持っているのが一点と,それから保釈なんですが,刑事訴訟法上の条文からいうと権利保釈になっているものが,なかなか我々弁護人が保釈の申請をすると取れないというこの実情は,我々からするとかなり厳しい制約の中で保釈というので悩んでいるというふうに思っています。ですから,そういう意味では,そこをもう少し何か考えられないかというふうには思っているんですが,多分それは裁判官あるいは検察官の立場では,また微妙に違うのかもしれませんので,そのあたりの御意見も伺いながら,また議論していきたいと思います。 ● それでは,まず弁護士からということでございますので,○○幹事も何かございましたら,どうぞお願いいたします。 ● 同じような話ですけれども,実感としていうと,私自身の経験というよりはいろいろ聞いている話なども含めてですけれども,例えば,罪証隠滅のおそれにしましても,実際に被告人自身がどうということよりは,類型的に,例えば否認していたら罪証隠滅のおそれがあるというような形で,かなり定型的に駄目だというものがむしろ決まっているというような感覚だと思うんですね。そういうことで,数字的に見ましても,かなり拘束されている率というか,それは高くなって,保釈請求する数自体が減っているという側面もあるんだとは思いますけれども,全体として保釈されないままでいっている人の数が増えているということはあると思います。   そういうことで,本当に厳密にその罪証隠滅のおそれが,まさに現実的であるというようなことで保釈を運用していけば,もっと保釈は増えるのではないかというふうに思っております。 ● 検察官の立場からはいかがでしょうか。○○委員,お願いします。 ● 検察といいますか,事務当局として申し上げますと,基本的には,現在の刑事訴訟法の規定振りについて特段問題があるとは考えておりません。また,その運用につきましても,もちろん個々の事件の証拠関係,事案によるものでありますので,個別に云々というのはなかなか難しいところがございますけれども,これもやはり基本的には,刑事訴訟法の規定に従って裁判所において適切に判断されている,もちろん当事者の訴訟行為に基づいて適切に判断されているというふうに考えております。   ただ,その一方で,未決拘禁の場合は一部といっていいんでしょうけれども,一部の施設においてかなり過剰な状態が認められるというところでございます。   そこで,何らかの罪証隠滅の防止措置,逃亡の防止措置について,現行法にないものを新たに設けることによって,保釈が広がる部分があるかないかというところを御議論いただくのが,今回の諮問がなされた趣旨だと理解しておりますので,そういう観点から議論をするのが適当ではないかというふうに考えております。 ● どうもありがとうございました。   次は裁判官の委員からお願いいたします。 ● まず,先ほど志布志と富山のケースが引き合いに出されましたけれども,あの二つのケースを取り上げられるのであるとすると,むしろ勾留の要件や保釈の要件の問題というよりは,客観的にどれだけの根拠があったのかというのは,むしろ嫌疑の方の問題なのかという気がします。嫌疑については当然のことながら勾留の段階におきましても,当然,裁判官は,提出された資料あるいは被疑者の弁解内容等に基づき,勾留を認めるだけの嫌疑を確認した上で判断しており,そこに問題があるとは全く考えておりません。   保釈の運用の問題として,保釈率が非常に下がっているのではないかという指摘があり,これは私も当然承知しておりまして,実際かなり下がっていると思うんです。これについては,先ほど委員の方からも少し御指摘がありましたけれども,いろいろな御意見,いろいろな要素が絡み合っているところがあると考えております。   一つは,○○委員からも指摘がありましたように,保釈請求率というのが非常に下がってきている。実際に,経年的にずっと見ていきますと,保釈許可率というのは大体50%前後で推移していると。昨年の数値もまだ概数しか出ていないと思いますけれども,恐らく53%ぐらいの保釈許可率だろうと思います。私も,令状部で公判前の保釈を担当していたことがありますけれども,私自身も50%は超えていたという印象を持っています。   ところが,保釈請求率が下がっている理由については,いろいろな御意見があるところで,その理由を1つの要素で説明し切るのは多分無理だろうと思います。ただ,間違いなく大きな要素としてあるのが,保釈請求率の推移と国選弁護人選任率の推移というのが,完全に反比例の関係にあります。これはずっと統計を比べますと,明らかにそういう関係にあります。これは,国選弁護人を選任する事件は,多くの場合,経済的な余裕がない被告人のケースで,そもそも保釈請求が出てこないという事情があるのは間違いないだろうと思います。   それから,昭和40年代から50年代にかけて保釈請求率が下がっていった理由の一つの要因は,恐らく薬物犯罪が非常に急増した。これは覚せい剤取締法について,厳罰化が図られたことによって,非常にそういう事件が多くなった。薬物事犯については,非常に保釈がしにくい事案だというところがあります。ただ,これについては平成に入ったころからは,もう落ち着いていますので大きな要素にはなっておりません。   その次に,もう一つの要素として出てきたのが,外国人事件が平成に入ってから急増したということです。外国人の被告人については,日本に定住している方の場合には日本人と同じ扱いですが,そうではなく不法残留,オーバーステイ状態になっている方が非常に多いことから,これを保釈した場合に出頭の確保が非常に難しいということがあります。ですから,そもそも保釈の請求そのものが出てきにくくなっている。このあたりがかなり大きな要素として挙げられると思います。   ただ,それだけで説明が付くのかというと,それだけではなくて,例えば国選弁護人の事件だけではなく私選弁護人の事件でも保釈請求率が下がるという傾向がある。これについて弁護士の先生方からは,むしろ保釈が認められないから,請求そのものを控えているんだという御指摘が多分出ているのだろうと思うのです。   ここのところについて更にいえば,先ほど御指摘があったように,罪証隠滅のおそれというものを類型的に検討しているんじゃないかというような御指摘があるということも承知しています。ただ,私自身が令状部でかなりの件数の保釈事件を処理した経験からいいますと,罪証隠滅のおそれについて類型的な判断をしているということは決してございません。あくまでもその事件の内容を見て,権利保釈の除外事由があるかどうかを検討します。その際,罪証隠滅のおそれについては,その事件の具体的な証拠関係に照らした上で,証人として想定される人に対しての働き掛けなどの可能性というものを必ず具体的に検討しています。そういう検討なしで保釈を却下するということはしていないはずだと,私は考えております。ただ,そう言いつつも,何でこう保釈請求率が下がっていくのか,単に請求する方が請求しないだけなのかと,ここは確かに難しい問題があるんだろうと思います。   また,最近,裁判官サイドからの指摘として出ていますのが,いわゆる精密司法といわれる問題,要するに,非常に日本の裁判というものが罪体の認定だけではなくて,犯行態様,経緯とかも含めて詳細な事実関係を調べた上で量刑をしていくという傾向が,昭和から平成にかけて,ますます進んでいるというところがあったという気がしております。その中で,罪証隠滅のおそれのとらえ方というのが,単に犯罪の成否に影響を及ぼす事実というだけではなくて,量刑上,重要な影響を及ぼす事実についても罪証隠滅の対象であるというふうに考えられている。この考え方自体は,私は決して間違っていないと思うのですけれども,どこまでが量刑に影響を及ぼす事実なのかということについては,いろいろなとらえ方があり得るだろうと思います。   これについて,特に裁判員制度の導入をにらんだときに,果たしてこのままでいいのだろうかというような意見は,裁判所の中でも最近出てきています。もう一度刑事裁判の中で認定すべき事実というものについて,本当に必要な,重要なものは何なのかということを見直していく必要があるんじゃないか,その中で罪証隠滅の対象となる事実をとらえ直すということも必要じゃないかという指摘が,裁判官の間から出ているということは,私も承知しておりますし,恐らくその論文をお読みになった先生方もいらっしゃるのではないかと思います。そういうような動きは現にあり,さらに,特に裁判員制度の下における連日的開廷をにらんだ場合には,罪証隠滅のおそれの問題だけではなく,裁判員裁判の場合必ず刑事訴訟法89条1号の「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮」という権利保釈の除外事由に当たることになってしまうものですから,除外事由に当たる場合でも,裁量保釈をより弾力的に行わなければ,連日的開廷における被告人の防御が難しくなるのではないかという,そういう議論が今なされているところだろうと思っております。   現在の私自身の問題意識としては,今申し上げましたようなところがあるということでございまして,これまでの運用自体は,それなりに私は根拠のあるものだと思っておりますけれども,これから連日的開廷の中での審理をしていくということになったときに,本当に刑事裁判の中で解明する必要がある事実の範囲について改めて考えてみるということはあるかなと思っております。   他方で,それでは今申し上げたことが,被収容者数の適正化という観点から意味があるのかということになると,私が疑問を感じるのは,圧倒的多数の事件というのは,3か月前後で終わっております。そうしますと,あるいは保釈の運用によって,その被収容者数が減る部分というのはかなり限定的になってくるんだろうと思うのです。連日的開廷がより広範に行われるようになれば,今まで審議が長くかかっていた否認事件についても,当然審理期間が短くなります。それによって収容期間も短くなるという関係がある上に,更に保釈が進むかということがあるかもしれませんけれども,そもそもそれは全体の事件の中でいうと,恐らく10%に満たない事件だということになりますので,そういう意味でいうと,被収容者数の適正化という観点からすると,保釈というのは影響は少ないかなとそういうように考えておる次第です。 ● 警察庁の関係で何かございますでしょうか。 ● 起訴前の勾留についてはとりあえず対象にはならないということではありますが,他方先ほどイギリスの話で不出頭,逃亡とは違うかもしれませんが,不出頭の人が,保釈された者の11%ですか,仮に,我が国でも,そういう実情になるとすれば,警察が身柄を確保するという立場から考えると,なかなか逃亡については,保釈の判断に当たって慎重に検討されなければいけないと思いますし,また,関係官の方から御指摘がありましたとおり,日本の司法というものについて,国民の方から,かなりきっちりしたものだと見られているとすれば,保釈された被告人の多数が逃亡する,あるいは再犯を犯すという事態になったときに,刑事司法に対する国民の信頼という観点ではかなり影響が大きい部分もあるのではないかなというふうに個人的には思っております。 ● どうもありがとうございました。   それでは,学者委員の先生方から,ただ今の実務家の委員,幹事の方々の御意見を踏まえて御発言をお願いいたします。 ● 実務の運用につきましては,今のお話の中にも現れていましたように,全く違うことが言われていて,実務を経験していない者としては,その点についてコメントのしようがないというのが正直なところです。それから制度自体としては,罪証隠滅のおそれが身柄拘束の要件になっていることをどう考えるかということが問題となるところかと思います。この点については,学界では,罪証隠滅のおそれを身柄拘束の理由から削除すべきだという意見も根強くありますが,私自信は,罪証隠滅のおそれを理由とすることには十分理由があると考えています。   その上で,保釈についてですが,先ほど,現在とは違う何らかの措置で逃亡の防止なり,罪証隠滅の防止を図れないかという御意見のほか,現状として,被告人には資力がない人が多いので,保釈金が払えないため,なかなか保釈請求もされなくて,結果的に保釈が認められない場合があるのではないかという指摘がありました。外国の例などを見ますと,必ずしも保釈金を払わないと保釈は認められないというわけではなく,それに替わる措置をとって保釈ないしそれに類似する形での身柄の保釈を認めるのが一般的なようですので,その辺りから新たな制度設計を考えていくのが,ここでの議論の一つの可能性ではないかと思います。 ● 先ほど委員の方からかなり包括的な御説明がありましたので,なかなか付け加えて申し上げることもないのですけれども,一つは,前提として,我が国の場合,逮捕・勾留される人の割合というのが,英米の場合に比べると,必ずしも多くない。恐らく3割前後,統計で現在,4分の1から3分の1ぐらいの間が身柄拘束されている。それ以外は多分身柄不拘束の状態でという処理になっているわけでして,そこのところも踏まえて数字を見なければいけないだろうと思います。その意味では,勾留の要件のところについて,ある程度絞りがかかっている中で,あと保釈というのがどうなっているかということですけれども,おっしゃられたように公判期間が短くなっているというようなこともかかわってきましょうし,いろいろな事情がそこはあるということだろうと思います。   保釈は確かに権利保釈が原則ということですけれども,それがもし今,狭い運用しかされていないとすれば,先ほど来御指摘があるように,罪証隠滅のおそれというのが権利保釈の除外事由に入っているというところが一つの原因であり,それについては,先ほどこれもまた委員から御紹介ありましたように,罪証隠滅のおそれというのは,それは厳格に認定しているかもしれないけれども,そこで言われる罪証というのがかなり広く情状証拠等も含めて考えられているということかと思います。では,そこの解釈をここで細かく議論するのかというと多分そうではありませんので,別途,罪証隠滅防止のためのうまい方策というのがあるのか,というようなところが一つのポイントになってくるのかなというふうに思います。   それから,これも先ほど委員が言われたとおりですけれども,保釈の問題について,やはり被収容人員の適正化というところから議論するというのは,なかなかピンとこないところがあります。これから公判中心の裁判をやり,あるいは連日的な開廷というのをやっていくときに保釈をどうしましょうかという政策論と結び付けながらだと議論しやすいのかもしれませんけれども,ちょっと被収容人員の適正化というところで保釈の在り方というと,何かピンとこないところがあるというのも,これも言われたとおりかと思います。 ● どうもありがとうございました。   先ほど精密司法ということが出てまいりましたが,ほかに何かございましたらお願いいたします。 ● 先ほど○○委員から詳細なお話を承りまして感銘を受けました。私自身,20年ほど前に「刑事裁判の経年変化」という論文を書きまして,その中で保釈請求率が低下している,それと国選の増加ということと相関関係があるようだというようなことは,指摘したつもりでありましたが,本日,委員から更に進んで,犯罪現象の変化,薬物犯罪,外国人犯罪というような点の御指摘もありましたし,さらに,今の精密司法と申しますか,罪証隠滅の対象と考えるべき罪証の範囲が広がってきたのではないかという御指摘もありまして,なるほどと思いました。   その最後の点はなかなか難しいですけれども,そういう意味で裁判所の琴線に触れるような証拠というのは,被疑者の取調べに関する限りは,大体被疑者段階の問題であろうと思います。そこで被告人になった後,保釈してどうなるかというのは,ほかの証人との接触の問題ですけれども,これは本日の前半の議題で議論されました保釈する場合の条件,ここにこれこれの者と接触してはならないというようなことを加えることによってある程度防げるではないかという気もいたしました。 ● どうもありがとうございました。   予定した時間が近づいておりますが,ほかに何かございますでしょうか。   ほかに御意見がございませんようでしたら,この論点につきましては,第1巡目の議論を終えたいと思いますが,いかがでしょうか。 また2巡目もございますので,そのときに改めて御意見を述べていただければと存じます。   では,ほかに御意見もございませんようですので,本日の審議はこの程度にしたいと存じます。   今回で,諮問の内容に関しましては,ひとわたりの議論を行っていただいたことになります。   前回お諮りしましたように,今後は,諸外国の関連する法制度の調査につきまして,その結果を順次御報告いただいて,質疑応答や意見交換を行いたいと思います。次回に御報告をいただける調査結果について,事務当局から説明願います。 ● 既に,○○委員におかれまして,イギリスにおける社会奉仕を義務付ける制度の在り方等につきまして,御調査いただいているところでございますので,その結果を御報告いただくことが可能であると承っております。 ● ○○委員,次回にお願いできますでしょうか。 ● 承知しました。 ● ありがとうございます。   それでは,次回は,○○委員から,イギリスにおける社会奉仕を義務付ける制度の在り方等につきまして,御調査いただいた結果を御報告いただくことにいたします。   次回の日時,場所等について,事務当局の方から御確認をお願いいたします。 ● 次回は4月27日金曜日に,法曹会館高砂の間において会議を行う予定でございます。開始時刻につきましては,午後1時からということでございます。 ● ただ今御案内がありましたように,次回は4月27日金曜日に法曹会館高砂の間において会議を行うことといたします。開始時刻は午後1時からでございますのでよろしくお願いいたします。   それでは,本日はこれで散会といたします。   どうもありがとうございました。 ―了―