法制審議会国際扶養条約部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  平成19年4月10日(火)  自 午後1時32分                        至 午後4時37分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  「子及びその他の親族に対する扶養料の国際的な回収に関する条約草案」         について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● 時間になりましたので,法制審議会国際扶養条約部会の第8回会議を開催いたします。 (委員,幹事及び関係官の異動紹介省略) (関係官の自己紹介省略) (事務当局から,会議用資料等の公開について,法制審議会第151回会議における決定事項につき報告がされた。) ● それでは議事に入ります。   まず事務局から,配布資料の説明をしてもらいます。 ● 今回の配布資料は事前に送付させていただきました資料のみでございまして,50番が条約草案,英文と仏文でございます。51番が条約草案の仮訳でございまして,これは○○委員にお忙しい中御尽力いただきまして,お作りいただいたものでございます。○○委員,どうもありがとうございました。   それから,52番でございますが,準拠法についてのWORKING DRAFTでございます。   それから,53番が準拠法に関するWORKING DRAFTの仮訳でございます。これも○○委員に御尽力いただいてお作りいただいたものでございまして,あわせてお礼を申し上げます。   それから,条約草案について,今までは注でいろいろ書かれておったわけですけれども,今回の条約草案は,別のPreliminary Document26番ということで,従前の注に相当するものが付けられている,それを54番の資料として配布させていただいております。   それから,55番でございますが,これが本日御議論いただくたたき台でございますけれども,この条約草案についての論点メモでございます。   それから,事前送付の際にも注記をさせていただいておりますけれども,資料番号35番の前々回の条約草案に対する日本政府の意見,それから37番のその英訳,それから部会資料44番と46番の,それぞれPreliminary Documentですけれども,これも適宜参照していただくことになりますので,よろしくお願いいたします。   それから,常設事務局からは,本年3月上旬に条約草案についてのレポートを配布するという連絡があったのでございますが,いまだ送られてきておりません。それからもう一点でございますが,5月8日から開催されます第5回特別委員会の結果を踏まえまして,本年9月1日までに条約草案に対する意見,この条約草案というのは第5回特別委員会の後にドラフティング・コミッティによって修正が加えられるものを指すわけですけれども,それに対する意見を常設事務局に提出するように求められております。   配布資料に関する御説明は以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   5月8日から開催される第5回特別委員会の対処方針の作成のために,条約草案,部会資料50,部会資料51について,部会資料55の論点メモに沿って御議論いただくことにしたいと思います。   なお,切りのよいところで休憩を挟みたいと思いますので,よろしくお願いいたします。   まず,事務局から,資料55の論点メモ,「第1 準拠法について」の部分につき説明をしてもらいます。 ● それでは,事務局から論点メモの御説明をさせていただきます。   なお,前注として記載いたしましたように,本論点メモに記載していない事項につきましては,これまでの審議結果等に基づき主張等してまいりました意見を原則として維持するという前提で考えておりますが,本日の御議論の結果を踏まえて再検討させていただきたいと考えております。   まず,「第1 準拠法について」の「1.扶養義務の準拠法に関する特別のルールについて」でございますが,これは英文ですと部会資料54,仮訳ですと部会資料55のD条からF条までについて御意見を頂戴したいというものです。   (1)は,D条の子に関する特別のルールについてでございます。   注1として記載いたしましたように,D条a号は,扶養権利者の常居所地国の法律によって扶養権利者が扶養義務者から扶養を受けることができないときには,法廷地の法律を適用するという規定でございます。法廷地の法律を適用するという点では,扶養義務の準拠法に関する法律第2条第2項及び扶養義務の準拠法に関する条約第6条と実質的に同じ規定でございます。   また,D条c号は,扶養権利者の常居所地国の法律及び法廷地の法律によって扶養権利者が扶養義務者から扶養を受けることができないときには,両者が共通の国籍を有する国の法律(共通本国法)を適用するという規定でございますが,共通本国法を適用するという点では,扶養義務の準拠法に関する法律でございますが,法第2条第1項ただし書及び条約,扶養義務の準拠法に関する条約でございますが,その第5条と実質的に同じ規定でございます。   しかしながら,D条a号,c号は,共通本国法を最後の順位で適用することとしておりますので,法及び条約が扶養権利者の常居所地法,当事者の共通本国法,法廷地法の順位で適用することとしているのと順位が異なるものとなっております。また,D条は法及び条約と異なり,扶養権利者のうち21歳未満の子に関する扶養義務についてのみ,法廷地法や共通本国法を適用しようとするものとなっております。   他方,D条b号は,扶養権利者及び扶養義務者が常居所を有する国の権限当局に申立てをする場合には法廷地の法律を適用するが,法廷地の法律によって扶養権利者が扶養義務者から扶養を受けることができないときには,扶養権利者の常居所地法を適用するという規定でございます。   この規定は,条約第15条は,扶養権利者及び扶養義務者が当該締約国の国籍を有し,かつ扶養義務者が当該締約国に常居所を有する場合には,当該締約国の当局がその国内法を適用する旨の留保を付することができるとしていたのと類似するものではございますが,今,申し上げたとおり,条約第15条は,扶養権利者及び扶養義務者が法廷地国の国籍を有することを要件とし,かつ法廷地法の適用をすることを留保に係らしめております。また,扶養権利者の常居所地法の適用の余地を認めるD条b号ただし書に相当する内容を規定しておりませんので,D条b号と条約とは異なる規律となっております。   また,我が国は条約第15条の留保を行っていないため,法とも異なる規律となっております。   (2)は,E条の配偶者間及び元配偶者間に関する特別のルールについてでございます。   注2として記載いたしましたように,E条は,配偶者間又は元配偶者間の扶養義務は,総合的な状況に照らして,明らかにその扶養義務が両者の最後の共通常居所地国により密接に関連していると見られる場合であって,配偶者又は元配偶者のいずれかがその国になお居住しているときには,C条の規定する扶養権利者の常居所地国の法律ではなく,両者の最後の共通常居所地国の法律によって規律されるというような規定でございます。   他方,法及び条約は,配偶者間については,扶養権利者の常居所地法,当事者の共通本国法,法廷地法の順位で適用することとしております。また,元配偶者間については,離婚,法律上の別居,婚姻の無効及び婚姻の取消しについて適用された法律を適用することとしておりますので,C条及びE条はこれらと異なる規律となっているものでございます。   (3)は,F条の抗弁についての特別のルールについてでございます。   注3として記載いたしましたように,F条は,親子関係に基づいて,子に対して生ずる扶養義務及び配偶者間又は元配偶者間の扶養義務の場合を除いて,扶養義務者は,扶養義務者の常居所地の法律によっても,また,当事者が共通の国籍を有する国,もしそのような国があればということでございますが,その法律によっても,扶養義務がないことを理由として扶養権利者からの請求を争うことができるとしている規定でございます。扶養義務者に扶養権利者からの請求を争うことを認めるという点では,法第3条第1項及び条約第7条に類似する規定でございます。   しかし,法及び条約は,扶養義務者が異議を述べることができるのは傍系親族間又は姻族間の扶養義務に限定しております。これに対しF条は,親子関係に基づいて,子に対して生ずる扶養義務及び配偶者間又は元配偶者間の扶養義務の場合を除いているのみで,そのような限定をしておりません。そのため,F条においては理屈の上では,例えば親子間における子の親に対する扶養義務についても,扶養義務者が異議を述べることができたりということになり,一面においては異議を述べることができる場面が広くなるようにも思われます。   他方,法及び条約は,当事者の共通本国法によれば,扶養義務を負わないことを理由として異議を述べることができるとし,さらに,当事者の共通本国法がない場合には,扶養義務者の常居所地法によれば,扶養義務を負わないことを理由として異議を述べることができるとしておりまして,これに対しF条は,当事者の共通本国法がある場合には,扶養義務者の常居所地法及び当事者の共通本国法のいずれによっても,扶養義務を負わないときのみ異議を述べることができるとしておりますので,他面においては異議を述べることができる場面が狭くなると思われます。   続きまして,「2.準拠法の指定について」でございますが,これは,準拠法の指定を認めるG条及びH条について御意見を頂戴したいというものでございます。   (1)はG条についてでございますが,G条は,当事者が個別の手続に関して法廷地法を扶養義務の準拠法として指定することを認める規定でございます。   (2)はH条第1項についてでございますが,H条は,扶養権利者と扶養義務者とが,いつでも両当事者の署名のある書面によって,指定時にいずれかの当事者が国籍を有する国の法律,指定時におけるいずれかの当事者の常居所地国の法律,当事者が夫婦財産制の準拠法として指定した法律,当事者が離婚又は法律上の別居の準拠法として指定した法律のいずれかを扶養義務の準拠法として指定することを認める規定でございます。   注1として記載いたしましたように,法及び条約においては,当事者が扶養義務の準拠法を指定することは認められておりませんので,(1),(2)とも法及び条約と異なる規律となっております。   (3)はH条第2項の18歳,21歳未満の子というブラケット部分についてでございます。   なお,条約本体自体の適用範囲については,原文ですと部会資料50の4ページ,仮訳ですと部会資料51の2ページの第2条第1項において,21歳未満の子と規定されております。   注2は,論点としては掲げておりませんが,H条第3項についてでございます。H条第3項は,H条第1項の規定により指定された法律の適用が明らかに不公正又は不合理な結果をもたらす場合には,その法律は適用しないとする規定であり,適用の結果が公序に反するという程度まで要求しているわけではございませんが,実質的には公序に関する法の第8条第1項及び条約第11条第1項と趣旨を同じくする規定ではないかと思われます。   「3.公序について」は,全体にブラケットが付けられているK条第2項について御意見を頂戴したいというものです。   注として記載いたしましたように,法第8条第2項及び条約第11条第2項は,扶養権利者の需要及び扶養義務者の資力を考慮することを必要的なものとしておりますが,K条第2項は,扶養権利者の需要及び扶養義務者の資力を考慮に入れることができるといたしまして,これらを考慮することを任意的なものとし,かつ全体にブラケットが付けられているというものでございます。   K条第2項は,別段の定めの適用を排除するものであるという意味で,公序的な規定でございます。公序則の濫用が懸念されているためではないかと思われますが,全体にブラケットが付けられております。   「4.準拠法ルールの形式について」は,準拠法ルールを議定書とするか,オプショナル・チャプターとするかについて御意見を頂戴したいというものでございます。   注として記載いたしましたように,部会資料44のパラ1から6までによりますと,議定書とすることには,主として国又は地域経済統合組織は条約本体自体の当事国となることなく議定書を締結することができること,あるいは条約本体と同時に議定書を締結する必要がなくなることなどの利点があるとされております。他方で,オプショナル・チャプターとすることには,主として子及びその他の親族に対する扶養料の国際的な回収についての包括的な条約ができることなどの利点があるとされております。   「第1 準拠法について」の御説明は以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,今,事務局から説明のあった点について,論点の順番に御議論いただきたいと思いますが,まず「1.扶養義務の準拠法に関する特別のルールについて(D条からF条まで)」の部分につきまして,御意見,御質問等ございますでしょうか。   それでは,○○幹事。 ● まず,D条b号の趣旨につきまして,もし御存じでしたら御教示いただければと思うんですけれども,通常,扶養義務の準拠法の考え方としましては,保護を必要とする扶養権利者の常居所地法を適用するというのが基本的な発想であって,そこがまさに扶養権利者の生活状態を反映している法ですので,それが準拠法となるというのが基本的な考え方だと思うんですけれども,b号では,特に保護が必要となると考えられる子どもについて,むしろ扶養義務者が常居所地の権限当局に申立てをした場合には,法廷地の法律を適用するということで,逆に扶養義務者の方を保護する可能性がある規定になっておりまして,そもそもb号がなぜ必要なのかというところがよく分からなかったので,もし御存じでしたら御教示いただければと思います。 ● きちんとお答えできるかどうか分かりませんが,以前議論された点との関係で申しますと,まず一つは,あくまでも扶養権利者がイニシアチブを持つということなんですね。したがって,扶養義務者が,そちらの方が自分にとって有利であるというふうに考えたときだけにこういう規定が適用されることになるということなので,選ぶ権利があるということで,必ずしも扶養義務者に結果として有利になるかどうかは分からない。むしろ扶養権利者にチョイスを与えるというのが一つの趣旨だろうと思います。   それから,法廷地の法律を適用するということになるわけですけれども,これは,この条項に限らず全体について言えることかと思うんですが,1973年の条約はアングロサクソン系の国は入っていないんですね。それはなぜかというと,法廷地法を適用するのがアングロサクソン,英米系の国の普通のやり方で,それから言うと,権利者の常居所地法を基本とするというのは,やはり基本原則として合わないということで,なかなか興味を示してもらえないと。今回もどうなるかは分からないんですけれども,できるだけ広い国の関心を得て,できるだけ広い範囲で批准なりオプト・インなりしていただきたいという観点からいうと,できるだけ法定地法を適用するという機会を増やした方がいいのではないかというのが背景にあるだろうと思います。   それもございまして,こういう場合に限れば,例えばこの場合ですと,この場合は扶養権利者の権利をそう損なうことなく,むしろ場合によっては有利な準拠法を選べるという形で,有利さを確保しつつ法廷地法を適用する場面をある程度増やすことができるということで,こういう考え方が入れられたのではないかと理解しております。 ● 今の点に関連してよろしいですか。   「扶養権利者が,扶養義務者が常居所を有する国の権限当局に申立てをした場合には」というのを入れたのは,要するにアメリカが,扶養権利者が扶養権利者の常居所地で申立てをするということを認めないということが背後にあるんでしょうか。何条でしたか忘れましたけれども。 ● 管轄の観点ですね。 ● はい。直接の管轄についてはこの条約は設けないわけですね。 ● はい。 ● アメリカが,何号でしたか留保するだろうというところで議論した記憶があるんですが,それもD条などをつくるときに背景として考えられていたのかなということを考えたものですから。 ● そうですね。この典型的な例でいきますと,例えばヨーロッパにいる扶養権利者がアメリカにいる扶養義務者から扶養料を取りたいと。その場合に,アメリカの扶養義務者のいるところで訴訟手続を始めて,そうするとアメリカは通常,法廷地法を適用するということですから,これになるということに多分なるわけですね。そうすると,○○委員がおっしゃったような場面にうまく適合するような話だろうと思いますが,そもそもこれをそういうことができるようにという形で考えついたのかどうかは,今,記憶が定かではありませんけれども,確かにそういう場合がうまくフィットする場合であるという感じはいたします。 ● 今のD条についてまだ少し分からない点があるんですが,Dのaは,Cを適用した後,扶養が受けられなければ法廷地法ということで,その法廷地法というのはどこかというのをお聞きしたいんですが,それとともに,Dのbは適用する順番が逆になっているわけですよね。ということは,Cを適用してDのaにいくときは,どこで訴訟するというのが前提になるのか,あるいは日本法的にいうと,別に訴訟はなくても扶養義務は発生しているはずなので,抽象的に実体法としての義務の有無を決める法律は何ですかという形のつくりかなと思うんですが,そういう理解でいいのか。そうであれば,そこで突然法廷地と言われても分からないなと思うんですが,そのあたりを御説明いただければと思います。 ● 私もよく分からないので,一緒に考えていただければありがたいと思いますけれども,どこで手続を始めるかという,具体的な手続との関係だけで考えてみますと,具体的手続をどこで始めるかに関しては,特に今回のプロジェクトでは直接管轄としておかないことになりそうなわけですね。   そうしますと,今,○○委員がおっしゃった関係でいきますと,Dのaというのは,どこかで手続が始まるということを前提として,それはどこであるかは必ずしもはっきりしないわけですね。もちろん,扶養権利者の常居所地であることもあるでしょうし,扶養義務者の常居所地であることもあるでしょうけれども,それ以外の場所で手続が開始されることもあり得るという前提だろうと思うんです。   そのときに,その法廷地がもちろん条約に入っていたらということだと思いますけれども,C条,つまり扶養権利者の常居所地法を準拠法として扶養義務のある,なしを決めると。Dのaの場合ですね。しかし,それで扶養料が取れないということであれば,その法廷地が自国の法を適用して扶養料を認めるということをDのaが決めているということだろうと思うんです。   だから,先ほどの御質問との関係でいきますと,具体的に扶養義務者の常居所地で手続が開始した場合に,C条とD条のaとbの関係はどうなるかということが必ずしもはっきりしないという御質問になるんでしょうか。 ● その場合にはDのbにいくのではないかと思うんですが,そうでない場合をCの1とDのaは考えているんだと思うんですけれども,それが仮に権利者の方の常居所地だとすると意味ないですよね,法廷地と同じですから。ですからそれ以外の地の管轄という,やや特殊な場合を想定した規定なんでしょうか。 ● そういうことに論理的にはなりますね。 ● そうですか。 ● 具体的にはどういうところがあるのかということなんですが……。 ● 財産所在地とか分かりませんけれども……。 ● あるいは合意した管轄がある場合とか,そういうことになるんでしょうか。 ● ヨーロッパのルールでは,身分関係についての,例えば親子関係の存否確認のような争いがあったときに,そこに付従的に扶養義務についての管轄を認めますので,そういう場合もあり得るかと思います。 ● さっきの○○委員の御質問はそれでオーケーなんですか。他にいろいろありましたよね。 ● これは日本としてはなじめないんですけれども,私としては。現在の扶養義務の準拠法に関する法律は,もっとピュアに準拠法をきちんと決めている。それがこの条約はそうでない色彩が入っていて,日本の法律として法廷地なんていうことを書くのが何の意味なのかというのはよく分からない。   これを仮に批准して国内法化するときに,日本で裁判になればという,それが扶養義務者の常居所地でなければちょっと違うルールになり,それが常居所地であればDのbに書いてあるとおりになるような,そういうルールを書くのかなと思っていたんですが,しかしそれが合理的なのかどうかと言われると分からない。ですから,今日の論点メモによりどう考えるべきかというのは,いかがなものかと思うんですが。 ● これは今,扶養の問題に関する理事会規則の草案の13条の2項をちょっと変えたものですよね。基本的にはそのとおりなんです。   ただ違うのは,私もこれがどうしてそうなっているのか分からないんですけれども,原則として扶養権利者の常居所地法にいくわけですが,扶養義務者の常居所地で訴えを提起したときには,扶養権利者が法廷地法を選べるという形で,自分の有利な法,基本的には扶養権利者の常居所地法にいくわけですけれども,あえて扶養義務者の常居所地で訴えたときには,扶養義務者の常居所地法を選ぶことができるという体裁になっておるわけですね。このハーグ条約案だと,あえて扶養義務者のところまで行って訴えてきたら,自動的に扶養義務者の常居所地法が適用されてしまうんですが,そこがオプションは認められていないんですね。   だから,もし扶養権利者の常居所地法というか,全体ができるだけ権利者を優遇するような形で方向付けられているんだったら,この場合にあえて扶養義務者のところまで行ったときには,もし権利者にとって有利であれば,扶養義務者の常居所地法を選べるというんだったら何となく,このハーグ条約の規定であると,先ほどもおっしゃったように,法廷地法の適用をできるだけ拡大しましょうというような政策的な配慮が入って,相手の常居所まで訴えていったらそっちの方になるし,もし扶養権利者の常居所で訴えるんだったらそれで行くと,そういう選択肢があるにもかかわらず,わざわざ扶養義務者の常居所の裁判所まで行くんだったら,扶養義務者の常居所地法しかないですよというような形にする理由があるんだろうかということですよね。扶養義務者の常居所地で訴えたときにも,なおかつ扶養権利者が自分の住んでいる場所の法律を扶養請求に対して適用できない理由も,もし権利者保護ということだけを貫いていけば,ないように思うんです。 ● おっしゃるとおりですね。それにつきましては,実はPreliminary Document22というのを今日お持ちいただいているんでしょうか。部会資料だと46ですが,お手元にないかもしれませんけれども,この部会資料46というのは,昨年7月にワーキング・グループの座長がお作りになったレポートなんですが,そこにもWORKING DRAFTが出てきまして,今回のものとそんなに多くは変わっていないんですけれども,幾つか変わっているところがありまして,その一つが今,○○先生がおっしゃった点でして,今は時間がないかもしれませんが,Preliminary Document22,つまり部会資料46のC条に2bisというのがありまして,そこにオプションが二つ掲げられていたんです。そのうちの,今回はオプション1をとった形になるんですが,オプション2の方に,○○先生がおっしゃったように扶養権利者が要求した場合にというのがあったんですね。   だから,候補の案としてはそういう考え方もあったんですが,それが今回の2007年1月の案で現在のようになっている,そちらの方を選んだということなんですが,実は申し訳ないんですが,2007年1月の案をつくるためのワーキング・グループの会合に私は出られませんで,これは昨年11月にあったんですが,そこでおそらく何らかの議論があってこちらを選んだのではないかと思うんですけれども,また機会がありましたらその辺の事情を聞いてみたいと思います。 ● D条につきまして,共通本国法のランクが下がっていますけれども,この点についてはどうなんでしょうか。1973年条約と比べて。 ● 一般的な背景だけ御説明しますと,全体に国籍あるいは本国法のプレゼンスが下がっているので,それに対応して地位を下げるべきだというのが全体の流れの背景にあるんだろうと思うんです。人によっては,本国法あるいは国籍というのを一切なくすという方向で考えた方がいいと言う人も多いんだろうと思いますが,そこまではいけないけれども,順序としては低い位置に国籍,本国を置くということが一つの背景にあるのではないかと思います。 ● 今の点に関しましてアジアの国々から何か反論はなかったんでしょうか。扶養というのは,親族関係とか,お互いの人的な関係にかなり影響されるところが多いので,私は,なぜ本国法が,先ほど○○委員が言われた疑問と同じに,なぜ共通本国法が後退したのかというのは実は疑問に思っていたわけです。 ● その点はまだ,準拠法自体についての議論というのがたくさんの人が参加する形でなされておりませんので,そういう方向からの意見というのは今のところ出ていないということだろうと思います。今回の特別委員会でアジアの国からそういう意見が出るかもしれません。   ただ,本国法を全部なくしてしまえということに対しては,それはちょっと行き過ぎだろうという理解は共有されているのではないか。したがって,少し地位は下げるけれども残すということです。 ● 最後に括弧に入っていますよね。 ● そうですね。 ● これでいいのかなと実は疑問に思っていたものですから。 ● いいのかなというのは,なければいけないという趣旨ですか。 ● ええ。私は残さないといけないのではないかという気がしているわけです。ですから,せめて括弧を外した方がいいと思うんです。 ● この共通本国法を準拠法の一つにするということにつきましては,近年のハーグ条約で,国籍が連結素として余り重要な部分と見られていないということも一つあるかと思いますが,理屈の上からいきますと,共通国籍を持っている人と持っていない人ではオプションが違ってくるわけですね。共通国籍がないと,今の扶養義務の準拠法に関する法律ですと,いきなり法廷地法,日本法にいってしまう。共通本国法を持っているとその間にもう一つ選択肢が入ってくるので,同じ国籍者同士の間だと,何で3本準拠法の可能性が出てくるんだと。ないと何で2本だと。特に共通国籍を子どもが持っていないという場合は,非嫡出子の場合が多いわけで,これを共通国籍を持っている場合に選択肢の幅を広げるということは非嫡出子に対する差別になるということで,基本的に余り理由がないのではないか,差別的だという考え方ということではないかと思います。他方で,では全く理由がないかというと,そうでないときもあるだろうということで,3番目でいくということではないかと思います。 ● 今の御議論ですと,D条のc号,今,ブラケットに入っていますけれども,少なくともブラケットは外して存置すべきだという御意見と承りましたが,順序については第3順位に下がるというのは,それはそれで致し方ないという…… ● それは今までの話からそう思います。 ● もしD条はなければ,E条,いかがでしょうか。離婚の際の扶養あるいは離婚した配偶者間の扶養につきまして。特にございませんか。   これはイメージとしてなかなか,このE条の規定はどういうことを言っているのか,○○委員,もし御説明いただけるんだったら。 ● 私もよく分からないんですが,具体的に挙げられていた例で申しますと,スカンジナビア諸国では,元配偶者間の扶養というのは原則的に実質法上認めない,あるいは非常に限定してしか認めないということのようなんですけれども,例えば,スウェーデン人の夫婦がスウェーデンでずっと婚姻していて離婚しましたと。そして,元妻の方がスイスに移住して,そこで扶養の問題になりましたというときに,スイス法ですと,元夫婦の間の扶養はかなり大きく認めるということのようですけれども,ということになりますと,本来,夫はずっとスウェーデンに住んでいて,スウェーデンで離婚したんだし,私はもう払わなくていいと思っていたのに,妻がどこかほかの国に行ってそこで請求すると,権利者の常居所地法が適用されて,いわば不意打ちの扶養料を払わなければいけなくなるということになって,そういうことに関して,スウェーデンあるいはスカンジナビア諸国は,やや危惧を抱いているということが例として挙げられておりました。   その場合には,もしこの規定を使えば,夫がスウェーデンに住み続けているのであれば,スウェーデンの法を適用するということになりますので,もともと夫が考えていたように,妻への扶養はしなくていいということになるのではないかと思います。そういう例が挙げられていたように思います。 ● E条はいかがでしょうか。   もしなければ,今度はF条。 ● 私はF条がちょっと理解しにくかったんですが,親子関係に基づいて生ずる扶養義務と,配偶者間又は配偶者間の扶養義務の場合を除いてという書き出しで始まるわけですね。今日の論点メモでは,親子間の扶養義務についても扶養義務者は異議を述べることができるというふうに指摘されておられるんですけれども,そういう場合も想定をしている……。 ● 理屈の上ではというふうに先ほど御説明しましたけれども,扶養義務が否定されているような国があれば,準拠法として,理屈の上ではあり得るのかなと。あるいは直系血族間でというのがさらにさかのぼれば,異議は述べることができる…… ● 子どもに対する扶養義務をそもそも認めない。 ● ええ。そういう法律があり得ればと,あるいは孫が祖父母に対して扶養義務を負う場合とかですね。あと,場合によってはこの規定で関係してくるのは,パートナーシップとかの扱いがどうなるか準拠法上分かりませんけれども,仮にそういったものも入ってくるのであれば,配偶者間で見てやるのか,あるいはその他に入ってくるのかの問題もあると思いますけれども,どちらかに入ってくる可能性はあると考えております。 ● それは二つ目の点で,その一つ前の段階で,F条が親子関係と婚姻関係の扶養義務のケースを除いてという形で言っていますので,そもそもそこは議論しなくても,その間の話は異議は申し立てられないというのはあり得ますよね,理解の仕方として。 ● もう一度言っていただけますか。 ● 親子関係の扶養義務と配偶者間の扶養義務を除いて,扶養義務者は異議を申し立てることができるというふうに読めますよね。そうすると,親子関係の場合とか配偶者間の扶養義務については,異議を述べることを前提としないというふうに読めますね。そうであると,先ほど指摘されたような問題点は出てこないということになりますね,除くということになれば。 ● 親子関係ということですか。 ● ええ。 ● これは「親子関係に基づいて,子に対して」なので,子が親に対して負っているような場合はという…… ● そうか,分かりました。それはクリアしました。   それで2番目のところで,私は2番目の趣旨が,先ほどの話で少し分かったんですけれども,21歳未満の子を議論の前提にしていますよね。そうすると国によっては,成人年齢を幾つにするかというようなところがあって,扶養義務の発生が少しずつ,年齢のところは違うかもしれないので,その点の年齢のところでこれについて出てくるのかというふうに思ったんですが,今の話でいけば,そういうことではなくて,まさに子どもに対する扶養義務がない場合,それを前提にした規定だというふうに考えるということですね。分かりました。これで理解できました。 ● 他に御意見ございませんか。--ございませんようでしたら,次にG条,いかがでしょうか。法廷地法の選択を当事者がした場合には法廷地法によるという処理,いかがでしょうか。 ● これは昨年のドラフトのときから入っているので,もしかすると議論したのかもしれないんですが,特定の手続に関してという,英語で言うと「for the purpose of a particular proceeding」ですが,これはどこの国で請求するかということを前提にして,そこではこの法律を適用するというふうな合意でなければならないんですか。明示でなきゃいけないというのは,もっと一般的に,AさんとBさんの間の扶養義務についてはX国法によろうという合意もあり得ると思うんですが,それではだめで,特定の手続についてそうしようと,そういう合意まで必要だという趣旨ですか。 ● おそらくそうだと思います。 ● この手続については黙示ではだめなんでしょうか。そこまで明示でやれということは余りなさそうな気がするんです。 ● どこの国でやりますということも含めて明示でなきゃいけないことはないのではないかということですね。 ● これも何か手続を前提にした議論で,純粋に国際私法の準拠法の選択の議論とやや違うような気がするんですけれども。 ● その点はおっしゃるとおりだと思います。おそらく考えているのは,非常にプラクティカルな話で,実際にどこかの国で手続が始まったか,あるいは始まるかのときに,そこの手続ではどの準拠法にしましょうということを両当事者で合意するということをイメージしていると思うんです。 ● そういう場合もあると思うんですけれども,争いがあって,では和解しましょうというので裁判外で紙をつくるということは十分あると思うんですけれども,そのときに念のため準拠法もきちんと書いておくというような場合,何かぴったりしないんですね,この手続というのが入ってくるので。ですから,条文としてはできればこの部分は削除するということができると,国際私法らしいというか……。 ● この部分とおっしゃるのは,全体ですか,それとも個別の手続に関して…… ● 「for the purpose of a particular proceeding」がなければもっとすっきりすると思うんですが,それがなければ意味が違ってくるんだということであればそうはいかないと思うので,その議論は必要ですが,今おっしゃったことであれば,なくても対応できるような気がします。 ● そうるすと,H条との関係といいますか,GとHで違うものをイメージしているんだろうと思うんですけれども,Hのいわば一般的な指定というか,約束に形としては似てくるのかなと思うんですが,それでいいかどうか。いいかというか,それでワーキンググループの人たちがいいと思うかどうかだと思うんです。   ○○委員がおっしゃった個別の手続に関してというのを削除するという趣旨は,一般的にも認めた方がいいだろうということですか。それとも,そうではなくて,この文言があるので国際私法らしくなっていないので……。 ● そこは何らかの混乱を生ずるような気がする。おっしゃるように,実際訴訟が起きていて,その場で準拠法だけまずは決めましょうというときにはぴったりだと思うんですけれども,それは言わずもがな,特定の手続,この手続についてやっているということは明らかだと思いますが,その場合でなきゃいけないということであれば,もっと違う書き方もありそうな,裁判上と書くとか,裁判官の前でとか,いろいろな書き方はあると思うんですが,そうなのかそうでないのか分からなくて,Hとの関係を私は余り考えていなかったのでいけませんけれども……。 ● Hも含めていきましょうかね。 ● 今の○○委員のお考えですけれども,G条には2項もありますよね。2項は手続の開始前における個別の手続に関する指定というのがあることを前提にした規定ですね。私が思っていたのは,G条の2項というのは,どこの国で扶養義務について争うかということについて,管轄の合意をするのとあわせて準拠法の合意もしてしまうような場合をG条の2項は考えているのかなと思っていたんですけれども……。 ● ですから,Gの1を直せば2も直さなきゃいけないと思います,私が言うように直すのであれば。ですから,今おっしゃるように手続の開始前か開始後かというのは,また分かりやすい基準なので,それを1に盛り込むのもあり得る選択だと思いますけれども,それがそういう意味なんだと。この個別手続に関してというのはそういうことを意味しているだけだというんであれば,またそれも一つの分かりやすい説明ではあります。 ● 今の2項があるということは,そんなには狭くないのではないでしょうか。個別具体のどこの国におけるどういう扶養義務の裁判手続に関してと,そういう意味なんじゃないんでしょうか。 ● それを裁判手続前にすることも可能だということですか。 ● そうではないかと思うんです,2項があるということは。 ● そうですね。 ● 多分,GとHというのは,ドラフトとしてはまだ完成されていないので,まずGはかなり確実に採用されるというか,1973年の条約は法廷地法の指定なんて認めていないのに,現実にはオランダの判例はやっているんですね,法廷地法の選択を。その実務慣行をただG条で表現しているだけだと思います。これはある意味では実績。条約違反かどうかはともかくとして,実績がある規定だということですね,オランダでは。   Hは多分まだ,こんな処理を認めている国はないだろうと思うんです。それでこれを分けた上で,すべてが運命をともにするというのは避けるために,こんな規定ぶりにしたのではないかと思っているんですけれども。   一般的に準拠法の指定というのは,どうなんでしょうか。事前に……。 ● 私は,これは法律行為なので,当然できるというふうに思って,それで,それを制限している規定だと理解していたんですが,そもそもができないんですか。お金を払うというだけの話ですから,できたって全然構わないような気がしますけれども。 ● お金を払うのは事実ですけれども,さっき法律行為とおっしゃったんですが,扶養義務というのは一定の身分的な地位に基づいて自動的に発生するものではないんでしょうか。だから,何らかの行為とか合意とか,そういうものによるというよりは,そういう場合もあるとは思いますけれども,そうでなくても,親であり子であることとか,夫婦であることによって,自動的に発生するものですから,そうすると不法行為とか事務管理などと同じように考えると,合意というのにやや違和感がないわけでもないような……。 ● 今おっしゃる法律行為というのは,幾ら幾ら払うという話ですか。 ● そうです。 ● そういう合意をすれば,それはあり得ると思うんですけれども,そうじゃないのをデフォルトにしているわけです。だから,身分関係があるということに基づいて請求できるかどうかという,それをどの準拠法でやるかという話で,その準拠法だけ合意できるかどうかという話だと思います。 ● H条2項には,子又は自らの利益を保護することができない成人の保護の規定があるんですけれども,G条の方にはありませんで,場合によっては法廷地法の方が21歳未満の子にとって不利益であるということも考えられますので,何らかの保護規定がG条の方でも必要なのではないかと思います。 ● 法選択それ自体はどうなんでしょうか。夫婦財産制の準拠法は指定できるものですから,それとの夫婦間で,例えば夫婦財産制とセットで準拠法の指定をやるというようなことがあり得るんだったら,法選択の可能性を,当然,限定はH条のようにつくんでしょうけれども,そのこと自体は否定できないと考えていいんですかね。夫婦財産制等の類推からして。 ● 一般的には,こういうふうに選択肢が限定されていれば,当事者の意思による合意は認めても構わないと思いますけれども。 ● 他に,G,Hについていかがでしょうか。   あと,「a child below the age of[18][21]」というブラケット部分についてはどういうふうに……。 ● 21歳で賛成です。 ● そうですか。 ● 18から20歳程度ですと大学生であることも多いので,保護の必要性があるのではないかというふうに思います。 ● これは,「子及び能力の障害又は欠如のために自らの」,これは2000年の成年者保護条約の文言そのままですね。その成年者保護条約は18歳以上の者です。ですから整合性,要するに判断能力の十分でない方が法選択をしたときには,法選択を認めないということからしますと,扶養の問題というよりは判断能力の有無の問題になってきますので,これは整合性からいうと18歳,1996年の条約,それから2000年の成年者保護条約との関連でいくと,年齢では1996年条約が18歳を基準にしておるわけですし,成年者保護条約は18歳以上で判断能力の不十分な成年者というふうにしておりますので,これは18の方が整合性がとれると思いませんか。 ● D条の方で21歳となっているんですけれども,これとの関係はどのようにお考えになっていますか。 ● これは扶養の要否の判断で,判断能力が十分か十分でないかという問題とは違うと思いますけれども。 ● 分かりました。 ● 他の条約との整合性から18歳がよいということでしたら,了解いたしました。 ● そうしましたら,公序のK条はいかがでしょうか。   K条は法律と違って,考慮に入れることができるというふうに任意的な規定になっているんですかね。 ● 任意的な規定になっていることに加えて,しかもブラケットに入っているわけですけれども,このブラケットに入っているということは,考慮に入れてはならないという意見も相当有力であったということを意味するのでしょうか。 ● ちょっとそこがはっきりしないんですが,以前のPreliminary Document22,部会資料46についています案によりますと,この点に関しては二案あって,一つは資料46のArticleIというところにあるもの,それからArticleJというところにあるものと,このArticleIとJがこの点と関係するんですけれども,このArticleIに入っていたものをそのまま今回のK条の2項にブラケットを付けて入れたという状況のようです。   すみません。「shall be taken」だからちょっと違いますね。入れなければいけないという案が入っていたのが,今度,入れることができるというふうに変わって2項に入ったという状況のようです。このあたりはどういう事情で変わったのか,申し訳ありませんがちょっと分からないんですけれども……。   多分,実質法の中に,どちらかを考慮に入れないというものがあるんだろうと思うんです。それに対して,おそらく多くの国は,考慮の際に,どれだけ必要なのか,あるいはどれだけ払えるのかということを考慮しないと適正な額が決められないと考えているために,少なくともそこは考慮ができるようにしてほしいという意見が強いんだろうと思うんです。入れなければいけないというところまで言われると,今度は実質法の方でそういうことは考えないというふうにして,例えば幾ら払えるかを重視しないというところも少しあるんだろうと思うんですけれども,そういう国が,うちの実質法がそれだけ弱められてしまうということで不満であるということで,それの妥協で入れることができるということにしているのではないかと想像いたしますけれども,その辺の事情はよく分からないです。 ● 他に御意見がないようでしたら,準拠法との関係では最後に,準拠法ルールの形式,議定書にするかオプショナル・チャプターにするかという選択肢で,日本としてはこの点についてどういうふうに対応したらいいかということです。 ● これは両方意見があり得ると思うので,様子を見ながらということでよろしいかと思うんですが,今回の条約の,もしオプショナル・チャプターにしてしまいますと,それを日本がにわかに受諾できるかどうか,なかなか難しいことがあり得ると。   他方,せっかく73年条約に日本は入っておりますので,73年条約が内容的に改定されるわけですね。したがって,ほかの国々は73年条約から新しい準拠法ルールの方へ乗り換える可能性がありますので,そうなると,議定書の方にして,日本は少なくともその議定書には入れて,新しい準拠法ルールの仲間に入れる可能性を少しでも広くしておいた方がいいかなという気は若干,プラティカルな観点からはしております。 ● いかがでしょうか。 ● 今の点で,前にもこれは議論しませんでしたか。 ● しました。 ● しましたね。私も今,○○委員が言われた方に賛成したいと思います。 ● 他に御意見ございますでしょうか。おそらく皆さんも,今,○○委員がおっしゃった方向で考えておられると考えてよろしいでしょうか。 ● それでは,ちょっと確認をさせていただきたいんですけれども,先ほど御議論いただいたE条とF条ですが,これはどちらもブラケットに入ったままになっておりまして,削られてしまうということもあり得ないわけではないわけですけれども,少なくともこういうルール,現行の扶養義務の準拠法に関する法律とは違いますが,配偶者間,元配偶者間に関する特別のルールとか,抗弁についての特別のルール自体は残しておくべきだということは,そういう理解でよろしゅうございますか。それとも議論の大勢が,こういうのは設けないで,全部C条のルールでいくんだということになれば,それでもいいということになるのかというところは,いかがでしょうか。 ● E条ですと,離婚した配偶者間でも,債権者の常居所地を一貫して貫いていくという処理の方がいいというふうに考える。それからF条については,子が債権者になっている扶養義務とか,21歳未満,それから夫婦間扶養の問題を除くと,義務者が異議を唱えたときは共通本国法と扶養義務者の常居所地法を援用して異議を述べることができるという処理は,特にとらなくてもいいと考えるか,とった上で,多分○○委員がおっしゃったのは,他の親族関係がすべて一緒くたになってしまっていると,姻族と傍系という扶養の問題と,例えば判断能力の要保護老人である父母の扶養との問題が一緒の準拠法の処理になってしまうというのはという御疑問があったのかなと思いますが,そういう点での疑問なのかというようなことでしょうか。 ● E条について○○委員の方から事例の説明をしていただいたんですけれども,基本的に不意打ちのようなものを防止するという趣旨ではないかと私はとらえたんですが,そういう意味で考えると,ここには要件として,配偶者又は元配偶者のいずれかが元の国に残っていなければならないという要件がありますけれども,果たしてこれがなぜその要件として定まっているのか。両方がほかの国に行ったとしても,最も密接に関連している最終の共通常居所地法があるのであれば,それで規律されるという考え方もあり得るのかなと思うんですけれども,いかがでしょうか。蒸し返しのようで申し訳ないんですが。 ● おっしゃるとおりで,これは要件をかなり厳しくしているわけですね。不意打ちと申しましたけれども,簡単に言うと,夫婦と両方,あるいは婚姻と密接に関係している地の法であって,なおかつ今も関係があるという国の法ならば適用するという趣旨で,今も関係があるというところを入れるために,多分これを加えたんだと思うんです。   議論の過程ではこれはなかった時期もあると。今おっしゃったように,最後の共通常居所地法を適用するということが,もちろんそれは密接に関連しているという条件付きですけれども,あったと思うんですが,それがもう少し要件をきつくして,今も関係があるということを何らかの形で入れるという趣旨で入っていると思うんです。   おっしゃるとおり,さっきのスウェーデンの例でいきますと,妻はスイスへ行ったけれども,夫はスウェーデンにいなくてデンマークに行きましたとか,あるいはフィンランドに行きましたという場合は,似たような状況だけれども適用されなくなってしまうということになりますので,確かにどの辺で線を引くかというのは難しいことだろうと思いますが,片方だけが,自分が住居を変えることによって有利な地を選ぶことができる,有利な準拠法を選ぶことができるようになってしまうということを避けたいという趣旨から,元の人はそのまま残っているのに片方だけがほかの国へ行った場合というのを想定して,この条文を入れていると思うんです。しかし,おっしゃったとおり,現在も片方が元の国に住んでいるということを要件とするかどうかというのは,一つの問題ではあろうかと思います。   ちなみにこれは,Preliminary Documentの22のときには入っていない要件なんですね。今おっしゃった最後の,つまり現在もその常居所地に片方が住んでいるというのは,たしか入っていなかったんですが,その後の,多分昨年のワーキンググループの会合のときにこういう要件を入れた方がいいということになったんだろうと思うんです。ですから,そのあたりももし必要であれば聞いてまいります。 ● ちょっと別の観点なんですけれども,今の○○関係官の御質問にも関係するのかもしれないですが,扶養義務の準拠法に関する法律ですと,離婚した元夫婦の場合は離婚について適用された法律ということになっておりますね。そうすると,最後の共通常居所地であるかどうかは,そうである場合もあればそうでない場合もあると思うんですけれども,これは離婚する際に,今後扶養義務を負うのか,どれぐらい負うのかということも考えて離婚するんだから,離婚するときの法律に合わせて扶養義務を決めましょうということなんだろうと思うんですけれども,そういう73年条約の考え方とは全然違う,最後の共通常居所地というものに絞って特例を設けるということになったのは,どうしてなんでしょうか。 ● その点は,73年条約の中で今の点が各国にとって一番評判が悪いといいますか,変えた方がいいだろうという意見が強かった部分だろうと思うんです。   その理由は,詳しくは部会資料の46,先ほど申し上げたPreliminary Documentの22のボノミ座長のレポートの8ページのパラグラフ32以降に出ておりまして,特にパラグラフの34というところに,73年条約のやり方がどこが問題なのかということが詳しく出ております。   それで,いろいろ書いてあると思うんですが,一つは,今,○○幹事がおっしゃったように,離婚するときに決めるんだったら離婚の準拠法とかなりリンクしているわけですけれども,離婚した後に,それから何年も経ってといいますか,後にそれとは別にやるときも,73年条約だと離婚に適用された法が扶養の準拠法になるということだったんですが,それはどうもおかしいのではないかというのが一つ言われているわけです。それが後半部分です。   あと幾つかのことが書かれておりますが,日本ではこの点は問題だという意識は余りなかったように思うんですが,この点は変えた方がよさそうだというのは,広い共通の理解が他の国にはあるということのようです。   きちんとしたお答えにならなくて申し訳ありません。状況としてはそんな感じです。 ● 先ほど○○委員が御説明されたスウェーデンの例で,離婚する際には扶養義務を負うとは思っていなかったのに,離婚した後の配偶者が別の場所に行ったために扶養義務を負う形になるのを避けたいという趣旨からすると,離婚のときの法律が可能性としては一番あるのかなという感じがしないでもないんですけれども,そういうふうには考えないわけですか。 ● そうですね。今の場合は確かにそういうことが言えるかと思うんですが,それを離婚に適用された法という形で,いわば固定して全部に適用することになると,いろいろ弊害が生ずるのでということではないかと思うんです。 ● 離婚の準拠法の決め方というのは,身分関係としてあったものを解消するのに最も密接な関係を持つ法ということで,日本でも,まずは同一本国法があればそれによるとなっていると思うんですけれども,扶養義務の場合には生活のために必要になる扶養の額をどう決めるかということですので,身分関係の解消とはまた別に考えた方がいいというのが現在の発想だと思うんですね。それで離婚の準拠法によって,離婚後の元配偶者間の扶養義務を決めるよりも,現実に扶養権利者が原則として生活しているところの法によるべきだろうというのが一つの理由と。   それから,今,○○委員がおっしゃったように,離婚時に準拠法となった法となりますと過去の一時点に固定されてしまいますので,その後,20年なり経た段階でも同じ法律が元配偶者間の扶養義務を規律するのはおかしいだろうというようなことが今回の改正の理由として挙げられていたと思います。   なので,E条のこのようなルールがいいのかどうかというのはまた議論があり得るところだと思いますけれども,今回のように,現時点で少なくとも一方の元配偶者が最後の共通常居所地にまだ住んでいるという状態で,現実は法律関係として,現時点で見た場合でも密接な関係があると言える場合ですので,その意味では,過去の最後の共通常居所地としてしまうよりも,現在でも少なくとも一方が住んでいて,まだ密接な関係のあるところという要件をかけているのは,その意味では妥当かなという気がいたします。 ● そうしますと,今までの御議論を伺っていますと,E条,F条の個別具体の中身の細かいところについては,いろんな御意見があり得るところではありますけれども,こういう特別のルール自体はC条とは別に残しておいた方がいい,だからブラケットは少なくとも取られて,何らかの特別のルールは維持されるべきだということにおいては,コンセンサスがここではあったというふうに理解したんですけれども,そういう理解でよろしゅうございますか。 ● 特に御意見はないようですので,ではそのように理解してください。F条についても同じ。 ● F条についても同じだと思っておったんですけれども,そういう理解でよろしゅうございますか。 ● F条については私も結論は出せていないんですが,子の老親扶養の問題について抗弁権を与えた方がいいのかどうかについては迷いが残るところです。 ● 私が申し上げているのはそういうことではなくて,抗弁についての特別のルールを設けないという人はいないと。この範囲でいいのかどうかについては御議論があったけれども,ルールを一切設けないで,全部C条に基づく扶養権利者の常居所地国の法律で決めてしまう,F条は設けないという御意見はなかったという整理でよろしいかということを伺ったんですけれども。 ● 少なくとも姻族については,抗弁について特別のルールが必要だと思います。 ● 問題は,先ほど○○委員もおっしゃった,今,扶養義務の準拠法に関する法律で定まっていない直系の親族間の扶養までここは含めしめているわけですけれども,それがいいのかどうかについては,なお慎重に議論する必要があるということですね。 ● はい。 ● 特に他に。--それでは,ここで休憩いたします。 (休  憩) ● それでは,再開させていただきたいと思います。   それでは,「第2 申立てについて」の部分に移りたいと思います。   事務局から○○関係官,説明をお願いします。 ● 「第2 申立てについて」のところから御説明申し上げます。   「第2 申立てについて」の「1.申立ての種類について」は,条約草案においては,原文ですと部会資料50の7ページ,仮訳ですと部会資料51,5ページの第10条第2項でございますが,これは,扶養義務者は決定の変更の申立てをすることができるという規定ですが,さらに,決定の承認の申立て又は決定の申立てをもすることができるとするかどうかについて御意見を頂戴したいというものです。   注として記載いたしましたように,部会資料54,3ページ,第10条第2項のところで問題提起されているものでございます。   第15条をご覧いただきますと,こちらの方では,一定の場面において扶養義務者が決定の申立てや決定の変更の申立てをすることができるという管轄ルールが規定されてございますので,こちらの方と平仄をとろうとしているものかとも思われるところです。   「2.国内法に基づく執行について」は,原文ですと部会資料50の18ページ,仮訳ですと部会資料51,16ページの第28条第3項でございますが,これは,中央当局を介した申立ての場合であって,決定の執行可能性が宣言され,又は決定が執行のために登録されたときには,申立人によるそれ以上の行為を必要とせずに,個別具体的な強制執行がされなければならないという規定です。この規定については削除を主張することとしたいというものでございますが,御意見を頂戴できればと思います。   なお,中央当局を介した申立てに関する決定の執行可能性の宣言又は決定の執行のための登録については,原文ですと部会資料50の14ページ,仮訳ですと部会資料51,13ページの第20条第2項が規定しております。   注1として記載いたしましたように,第28条第3項のような規定は,これまでの条約草案には設けられておりませんでしたし,このような規定については,これまでの特別委員会においても議論されたことがなかったものと思われます。   また,注2として記載いたしましたように,部会資料54の6ページ,第28条第3項のところでは,中央当局を介する申立ての事案においては,それ以上の費用の負担なくして執行がされるとするかどうかについて検討する必要があるというように問題提起されております。   これに対し,我が国の法制においては,承認・執行の申立てとは別に,個別具体的な強制執行の申立て及びその費用を必要とすることとしておりますので,第28条第3項については削除を主張することとしたいと考えておりますが,それでよろしいか御意見を頂戴したいと存じます。   「3.申立ての内容について」は,原文ですと部会資料50の7ページ以下,仮訳ですと部会資料51,5ページ以下の申立ての書式,内容に関する第11条の第1案と第2案についてでございます。   これまでは,日本文ですと部会資料35,英文ですと部会資料37のいずれも2ページ,4のとおり,書式の改定の容易さ及び条約の運用の柔軟性の観点から,書式の利用を義務的なものとはしない第11条第1案が望ましいと主張してきたところでございます。   しかし,○○委員の御報告によりますと,フォーム・ワーキンググループ及び常設事務局により,ケース管理システムの設計がかなり具体化されてきたことに伴い,書式の利用を義務的なものとすることに反対するのは難しくなってきているという情勢のようでございます。   注として記載いたしましたように,原文ですと部会資料50の8ページ,仮訳ですと部会資料51,6ページでございますが,第11条第2案の「追加的な情報又は文書」が,申立書の必要的な記載事項又は必要的な添付文書に限定されるものではないということが確認できれば,なお必要であるという情報又は文書については追加的な情報又は文書として要求することができますので,第11条第2案を支持しても差し支えないか御意見を頂戴したいというものでございます。   「4.手続の実効的な利用について」は,法律扶助に関する第14条についてでございます。   (1)は,原文ですと部会資料50,9ページ以下,仮訳ですと部会資料51,7ページ以下でございますが,前回草案から実質的な変更はされていない第1案と,子の扶養の申立てとその他の扶養の申立てとを区別して規定する第2案のいずれを支持するかについては,第1案を支持することとしたいが,それでよろしいか御意見を頂戴したいというものでございます。   注1として記載いたしましたように,申立人が受託国において受託国の国民よりも有利な法律扶助等を受ける権利を有することとなるのは不合理であると考えられますので,申立人が受託国において法律扶助等を受けることができるか,どのような内容の法律扶助等を受けることができるかについては,受託国において判断されるべき事項であると考えられます。   しかし,第2案における第14条bis第2項c号は,その判断を嘱託国の中央当局の判断に係らしめる規定でございますので,これを受け入れることは困難であろうと事務局としては考えております。   もっとも,論点の(2)として記載してございますが,全体にブラケットが付けられている第1案第14条第5項は,決定国において部分的に法律扶助又は諸費用の免除を受けていたにすぎない扶養権利者までもが,承認・執行を求められた国(受託国)において最も有利な法律扶助又は最も広範囲な諸費用の免除を受ける権利を有するという規定であり,この規定は合理性がないものと考えられます。   したがいまして,注2として記載いたしましたとおり,第1案第14条第5項については,第2案第14条ter・c号のように,承認・執行を求められた国(受託国)において,同じ条件のもとで受けることができるのと同等の法律扶助又は諸費用の免除を受ける権利を有するという規定とするのが合理的ではないかと事務局としては考えております。   そこで,基本的には第1案を支持しつつも,第1案第14条第5項については,第2案第14条ter・c号のように修正すべきことを主張してはいかがかと考えておりますが,それでよろしいか御意見を頂戴したいと存じます。   「第2 申立てについて」の御説明は以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,事務局から説明のあった点について順番に御議論いただきたいと思いますが,まず「1.申立ての種類について(第10条)」,いかがでしょうか。   特に規定はまだないんですけれども,オブザベーションズに記載されてあることについてどう考えるかということです。いかがでしょうか。   ○○委員はどんなふうに。 ● この辺はよく分からないので,申し訳ありません。 ● 特に御意見はありませんか。 ● 日本法だと,承認の申立ての方は原則としてできない,されていないと思います。ただ,義務者からの決定の申立ての方はできることになっているので,そこでは前者と後者とで,我が国の法制度に対する影響というのは異なると思います。その点を留意していただきたいと思います。 ● 御説明があったことを繰り返すことになるのかもしれませんが,今の点と同じことなのかもしれませんけれども,前者の方の承認の申立てというのは,具体的なニーズとしてはどういう場合を想定されていらっしゃるのかということですね。そこを少なくとも御確認いただければという感じがいたします。   第19条のc号ですか,この形では,少なくとも先に申立てがあった場合には,後からはできないわけですので,義務者側が先に申し立てる場合ということで,どういう場合を想定されていらっしゃるのかというのを確認させていただきたい。もしそのニーズがあればということですが,それによって,当然のことながら権利者の権利実現を妨げることはあってはならないと思いますけれども,余り考えられないので,その点はよろしいのかもしれませんが。 ● 想定されている状況をクラリファイしてということですね。最低限しなきゃいけないということでよろしいですかね。   他に。--それでは,第28条関係に移らせていただきたいと思いますが,第28条第3項については削除すべきであると主張することでよいかということですが,いかがでしょうか。この規定も突如あらわれてきたかのように見えるわけですが。 ● 具体的な趣旨がもう一つよく分からないので。 ● 提案の趣旨をクラリファイするということですかね。そのようなことでよろしいでしょうか。まず明らかにしてクラリファイケーションを求めるということで。その上で,基本的には削除という方向でよろしいでしょうか,よほどのことがない限りは。   それでは,次に「3.申立ての内容について(第11条)」で,第11条の第1案と第2案,どちらを採用すべきかと。今,○○関係官は第2案を支持するということをおっしゃられましたが,これでよろしいでしょうか。 ● 質問ですが,書式なんですけれども,今の段階だと,10条1項aの申立てについては,添付の書類とかチェックする欄がいろいろあって,はっきりしているところはあるんですけれども,それ以外のところについては漠然とした形になっているように思われるんですが,この状態のままで経過するのか,それともさらに書式を加えてもう少し詳しいものをつくられる予定なのか,そこら辺はどういう予定になっているか教えていただければ。 ● 書式につきましては特別委員会がつくられておりまして,そこが今つくっているところだろうと思いますので,ほかのタイプの書式につきましても,今度の委員会か,少なくとも条約の次の草案が出る段階でもう少し詳しいものが出てくるのではないかと思っております。 ● 書式にもよるんでしょうけれども,追加的な情報,文書を要求することができるということですので,一応は第2案を方向的には支持するということでよろしいでしょうか。--では,そのようにさせていただきたいと思います。   次に,「4.手続の実効的な利用について(第14条)」,最初のbis上メーキングしなければいけないのは,第1案と第2案で,第1案を支持するということでよいかということです。その次に,第1案を支持すると前提とした場合に,第14条第5項のような規定はどう考えるかということで,ある意味では,これまで第14条第5項のような規定については主張が日本からあったわけですけれども,まず第1案をとるか第2案をとるかということです。いかがでしょうか。   第1案でよろしいですか。--それでは第1案ということで。   それでは,従来から議論されておりました第1案をとるとして第14条第5項について,いかがでしょうか。   そうすると,○○関係官の説明では,5項の規定というよりは,むしろ第2案の第14条の3のcのような形にするべきであるということでしょうか。これは前に意見書を求められたときも,日本は実質的にはこのような対応をしてきたということですね。 ● これまで日本が主張してきました主張を条文化するとすれば,このような形になるのではなかろうかと考えております。 ● 特にこれまでの主張を変更するような理由がなければ,これまでの立場を維持したいと思いますが,それでよろしいでしょうか。--では,そのように処理させていただきたいと思います。 ● すみません。一点,先ほど○○関係官から御質問がありました書式の関係なんですけれども,本日はお持ちいただくような形で,配布資料等の目録には挙げておりませんでしたが,部会資料41にフォーム・ワーキンググループのリポートというのがありまして,暫定的なものですが,こういった書式がさらに改定されながら,おそらく必要的な書式になるのではなかろうかと思いますので,現時点でのものではありますが,こういった書式の内容を踏まえて御検討いただければと思います。 ● どうもありがとうございました。   それでは,「第3 承認・執行について」に移りたいと思いますが,この部分は論点が多く掲げられておりますので,まず「1.承認・執行の原因について(第17条)」,そして「2.承認・執行の申立てに関する手続について(第20条)」の部分について事務局の説明を受けまして,御議論をいただくということにしたいと思います。   まず,事務局からこの部分の説明をお願いしたいと思います。 ● 「第3 承認・執行について」の「1.承認・執行の原因について」は,原文ですと部会資料50の13ページ,仮訳ですと部会資料51の11ページでございます。   間接管轄として合意管轄を規定する第17条第1項e号が,判断能力の十分でない成年者に関する扶養義務には適用されないとすることについて,御意見を頂戴したいというものです。   注として記載いたしましたように,部会資料54,6ページ,第17条のところで問題提起されているものでございます。   「2.承認・執行の申立てに関する手続について」は,原文ですと部会資料50の14ページ以下,仮訳ですと部会資料51の12ページ以下の第20条が規定する承認・執行の手続について御意見を頂戴したいというものです。   (1)は,第5項第2文は,承認・執行の決定がされるまでの手続における申立人及び相手方の意見を述べる権利を否定しており,第6項とあわせて読みますと,申立人及び相手方は,決定に対する不服申立ての段階に至って初めて意見を述べることができることとなるというものでございます。   しかし,このような取扱いは,部会資料31の2ページ,7(2),日本文ですと部会資料35,英文ですと37のいずれも5ページ,10(2)のとおり,本来執行されるべきでない決定であっても,扶養義務者が意見を述べることができない間に執行されてしまったり,いったん不当な執行がされた場合には国境を越えた取戻しが必要となってしまったりといった深刻な問題が生じ得るものでございます。   したがいまして,承認・執行の決定がされるまでの手続においても当事者に意見を述べる権利を与えるべきであると考えられますので,第5項第2文は削除すべきであると主張することとしたいと考えております。   また,第5項第2文を設けるとの立場が大勢を占める場合には,少なくとも執行の決定についての不服申立期間内に不服申立てがされないか,もしくは不服申立手続が終了するまでは執行を開始することができないようにすべきであると主張することとしたいと考えております。   この点に関連しまして,注1として記載いたしましたとおり,部会資料54の6ページ,第20条第11項には,上訴手続が係属している間,執行の停止又は中止を認めないことができるとするかどうかについては検討する余地があると問題提起されております。   また,承認・執行の手続において,当事者に意見を述べる権利が与えられたとしても,拒否事由を第19条a号,公序違反のみに限定した場合,第17条及び第19条が規定する公序違反以外の事由については,先ほど申し上げたような不当な執行などの問題が生じるため,承認・執行の拒否事由に関するブラケット部分については,第17条及び第19条とすべきであると主張したいと考えております。   (2)は,不服申立期間を通知後30日又は60日以内と規定する第20条第7項について,日本文ですと部会資料35の6ページ,英文ですと部会資料37の5ページのいずれも10(4)のとおり,地理的状況や国内法制を大きく異にする国の間で締結される本条約において,不服申立期間を一律に規定することには問題があること,また,本条約の適用がある事案か否か必ずしも明確ではないケースもあり得るところ,不服申立期間が本条約の適用の有無によって異なることは法的安定性を害するため,不服申立期間については各国の国内法の取扱いにゆだねるべき問題であり,第7項は削除すべきであると主張してまいりました。   しかし,この点についてはブラケットが外され,文言が存置され確定してしまっているようですので,改めて御意見を頂戴したいと考えております。   (3)は,不服申立てに関する決定に対しては,法律上の理由に基づいてのみ一度限り不服申立てをすることができるとするかどうか。決定の執行の停止又は中止がされた場合には,担保又は保証の納付を求めることができるとするかどうか。一定期間内に不服申立てに関する決定がされない場合において,求めがあるときは遅滞の理由についての説明をしなければならないとするかどうかについて,注2として記載いたしておりますように,部会資料54の6ページ,第20条第11項において問題提起されておりますので,御意見を頂戴したいというものです。   「第3 承認・執行について」についての「2.承認・執行の申立てに関する手続について」までの御説明は以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,順番に従って議論をお願いしたいと思います。   まず,「1.承認・執行の原因について(第17条)」,vulnerable adultsに関する扶養義務には適用されない,第17条第1項e号,これについてはどう考えるかということです。これは特に規定が現在あるわけではないんですね。 ● この規定の趣旨の確認でございますが,「判断能力の十分でない成年者」というのはどういうものを指すのかという点と,逆にこれがない場合には,あらゆる成年者について合意管轄は生ずるというのもいかがかと思いますし,その点の御確認をいただければということで,文言にどう書くかはこの段階ではお任せいたしたいと思います。 ● 結局,vulnerable adultsというのは規定の上にないものですから,一般的に法律上の文言ではないと思うんで,理解としては判断能力で,実はvulnerable adultsという言葉は2000年の条約でも用いられていないんです。ただし,もし2000年の成年者保護条約と同じような意味合いで使われているとすると,単に日本の民法のような判断能力の不十分な者という意味だけでなくて,身体障害を受けた成年者も入ってくるんだろうと思っています。ともかくvulnerable adultsというのはどういう成年者のことを言うのかということは,クラリファイするべきではないかと考えております。 ● 趣旨としては,合意について判断能力があるかないかというだけではなくて,要保護性といいますか,扶養を与える必要性がより高い,子どもにせよ,vulnerable adultsにせよ高いので,ここからは外すという趣旨なんでしょうか。 ● 管轄合意した場合に,合意の意味を理解していないとかということが懸念されているということなのではないですか。 ● やはりそうですか。そうすると要保護性というよりは,むしろ判断能力というか,理解能力というか,そういうことですか。 ● そういうことではないかなと思っておるんですが,その点も含めて明確にして。 ● 今,○○委員が言われたようなお話であれば,例の準拠法に関する作業草案の中で,準拠法の合意についての判断能力の云々がありますよね。それとパラレルな形になると,合意に対して十分判断できないということで対象から外すという話で,そこは一貫するような気がするんですが。 ● ともかくクラリファイして,そういう意味でいいかどうかということでしょうか。   他に御意見ございませんでしょうか。--ないようでしたら次の第20条関係。第20条は,まず第20条第5項第2文の問題ですね。不服申立期間内に不服申立てがされていないか,もしくは不服申立手続が終了するまでは執行できないようにすべきであるという点,これは従来からというか,前回の意見書の点でも,日本の立場であったわけですけれども,今回もこの立場を維持するということでよろしいでしょうかということです。   特に立場を変更するというものがなけば,今回も従来の立場を維持するような主張をするということにさせていただきたいと思います。   次に,第20条第5項第1文の,ブラケットになって選択関係に立っている部分があるんですが,単に公序の問題だけでなくて,第17条,第19条全体を選択するという主張でよろしいでしょうかということで,これも従来からの日本の立場を繰り返しているということになろうかと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,特に立場を変える理由もないように思われるという点について御賛成いただいたということで,論点メモに記載されてあるような形で主張することにいたしたいと思います。   次に,(2)不服申立期間について定めています第20条第7項についてどのように考えるか。これは,日本は各国の国内法の問題だという形で主張していたんですが,ブラケットが外されてしまっております。ということは,30日,60日という期間は比較的固まりつつある規定なんだろうと思いますが,これでよろしいというふうに考えるかということなんですが。 ● 関係官からの御説明もございましたように,理屈といたしましては,日本国内法制との関係で申しますと,日本の立場を維持していただくのがよろしいかと思うんですが,外れるということで,どう押し戻すかという具体的戦略までは提案できないのは心苦しいところですけれども,日本の国内法制との関係では,なお従来の立場を維持する方向でもう少し御検討いただければと存じます。 ● 他に御意見はいかがでしょうか。 ● ちなみに,日本の法制だと日にちが具体的に,これですと長過ぎるということになるんですか。国内事件との差があるというのももちろん一つ問題なんですが,具体的な日にちとしては長過ぎるということですか。例えば何日だといいですよということが言えるのか,それとも,そもそもこういうふうに決めるのがよくないのかということなんですけれども。 ● ドイツだとこの日にちでよろしいというか,ヨーロッパはおそらくこの日にちでよろしい国が多いのではないかということだろうと思うんですが,日本ですと,私の理解ですと2週間なんですが,例外規定はなかったですよね。 ● つまり,ドイツなどは国内法制と同じだということですか。 ● 日本は2週間で間違いないと思うんですけれども,私は,従来からおっしゃっている日本の立場を維持されることには反対はないんですが,これで固まりつつあるときに,これで決まったときに,果たして日本が何らかの不利益をこうむるかということを考えますと,異議を申し立てる側から言えば長いことですから,これでいいのではないかという感覚を持ったんですけれども,今の○○先生の話を伺うと,逆に義務者の方からすると長過ぎて困るという懸念があるのかと言われると,ちょっと分からないんですが。   あと関連して,期間の問題ではないんですけれども,20条7項には通知後というふうに通知しか書いてないんですが,これは日本の場合と同じように,通知が到達したときという理解でよろしいんでしょうか。 ● 通知の方はおそらくそうだと思いますが,確認した方がいいかもしれません。通知到達ということだろうと思いますが。   長過ぎるのでよくないということなのか,それとも,国内法制に任せるという仕組みがそちらの方がいいということなのかと聞かれたときに,長過ぎますということだと,どのぐらいにしたらいいかという話になるかもしれないんですが,そのあたり,何かめどといいますか,感じが分かるとありがたいんですけれども,私は最初,○○幹事がおっしゃったように,日にちとして,日本国内法より短くなるとかなり問題だと思うんですが,長い分にはいいかなと実は思ったものですから,そのあたりの感覚を教えていただければと思うんです。 ● 日本のルールがどうなっているかということですけれども,まず控訴することになるわけですが,控訴期間は14日間という,先ほど○○幹事が言われたとおりでございますが,民事訴訟法第96条第2項に「不変期間については,裁判所は,遠隔の地に住所又は居所を有する者のために付加期間を定めることができる。」ということになっていて,付加期間を定めれば,その定められた付加期間の分だけ延びるという扱いと理解しているんですけれども,それでよろしいですか。 ● 第97条でさらに追加については,外国については2か月という余裕を与えていますので,これをすべて使いますと延びる可能性はあるということで,そのものに応じた手当てをすることはできるということになろうかと思うんですが,差し当たり,今,○○幹事から御発言がございましたように,96条2項が適用されるということになろうかと思います。その例がどのくらいあるかまでは存じませんが。 ● そうすると従来の立場を維持すると。維持できないということになったときに,この期間を短くするというのだったらあれですが,この期間が短いとも当然言えないと思うんですが,どうなんでしょうか。日本国内法上はまだおそらく余地はあるんでしょうね,もっと長くとか。 ● これも裁判所の方の感触をお伺いした上でかもしれませんけれども,先ほど来申し上げておりますように,日本の裁判所については,少なくとも他の事件と同じ程度の扱い,同じような扱いができるということが望ましいというのが,基本的に日本法にゆだねるということの意味だと思いますと,特にこの期間については,私自身,今のところ定見はございませんが,短くすればよいとか,そういう問題ではなく,いったん決まればそれに従うというのはあり得る選択肢ではないかと思います。   ただ,直前に述べております不服申立期間内に不服申立てがされない限り執行できないという我々の主張とかみ合わせますと,先ほど来出てきていますように執行が遅れるという問題が出てきますので,その日数については,この段階ではおそらく執行できるということを想定してこの日数が定められているのではないかとも推測されますので,その点については全体との整合性という問題が残り得るということではないでしょうか。 ● 結局,申立てがない場合は執行できるという前提をとったときに,この期間の問題をまた考えるということになりますね。   とりあえず国内法で主張して,もしだめだったら,それはそれで,期間が確定すれば守るという○○幹事がおっしゃったような方向ということですか。ということで,余りディフィニットな対応ではないかもしれませんが。 ● 先ほどの○○幹事の御発言どおり,通知の意義,起算点をもう一度確認……。 ● 通知到達後か否かということですね。ですから,従来の立場を維持して,確定したらその点をクラリファイしていただいてということになりましょうか。   それでは,次に(3)の不服申立てに関する決定に対して,オブザベーションズ,これは規定にはあるわけではなくて,第20条第11項のところでドラフティング・コミッティがノーとしているポイントについてどのように考えるかということで,規定自体はまだ出ていないという段階ですが,まず不服申立てに関する決定に対しては,法律上の理由に基づいてだけ一度限り不服申立てをすることができるという点については,いかがでしょうか。このようなことを起草委員会で述べる権限があるのかどうなのかよく分かりませんですけれども,こういう立場をとる考えを抱く人もおられるようですから。   特にこの点に限らず,(3)に記載されている事項について御意見を伺えたらと思うんですが。 ● (3)の第1文の一度限りにするかどうかというところなんですけれども,これは日本としては受け入れがたいのではないかと思っています。というのは,日本の憲法上,憲法違反を理由とする上訴は最高裁にできなければいけないわけですので,これを受け入れるということは,憲法違反の条約を受け入れるということになってしまうのではないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。 ● もしこれを受け入れて日本で制度をつくる場合に,どういうふうにつくるかの問題とも関係すると思うんですけれども,多分イメージとしては,異議申立てというのは,原審へもう一度やってくれと。それから上訴とあるのは上級審だと思うんですね。だから,上訴だとすると,上訴をさらに一回だけ争えるということですよね,この案は。ということは,一回あって,それを上訴して,さらにもう一回できるというので,シングルアピールと言っても,おそらく実質三審制的なものになるのではないかと思うんですが,そうでもないですか。つまり,つくりの仕方によっては,最高裁まで何らかの形でいけるということができるのかもしれないんですが,その辺はよく分からないですが。それから,シングルというと最高裁までいけないとは限らないような気もするんですけれども,その辺はいかがでしょうか。 ● アピールの意味ですね。 ● そうですね。 ● そしたら,まずそこのところを確認してということですかね。そのような理解で。 ● 趣旨はもちろん,迅速に確定したいということだと思うんですね。 ● そうですね。   「法律上の理由に基づいてのみ」という点はどうですか。 ● この点は,最初の条文の第20条第11項というのがございまして,仮訳ですと13ページの下の方ですけれども,さっき○○幹事がおっしゃったように,確かに上訴の権利というのが阻害されるのは問題だという意見もあると思うんです。確かにあって,それもあって,憲法上の権利であるようなものを阻害するような形で条約をつくるわけにはいかないという趣旨もあって,それで20条11項は今のところ入っていると思うんです。   ただ,ドラフティング・コミッティの案が,例えば11項をなくしてしまうという趣旨なのかどうなのか,メモ書きなので,そもそも趣旨がはっきり分からないんですけれども,とにかく早く確定して迅速に最終的な執行ができるようにしようという趣旨だろうとは思うんですが,どこまで,例えば憲法上の上訴の権利などを考えているのかが,起草委員会のメモからでははっきりしない。 ● そうすると,11項の規定を今まで日本としても異存はなかったということで,これを維持するということで。 ● これを実行すればよろしいんですかね。ここに一回限りと書かなければ……。というか,さらにですから,これは今のところ二回目を認めているんですね。これをさらに制限してしまうかどうかという提案だろうと思うんです。 ● そうですね。それにあと担保とかいろいろな規定を……。多分これは四つのポイントが連関していると思うんですけれども,とにかくこれはまだ正式のプロポーザルではないものですから,方向的には11項の規定を現状維持という形で維持しておいて,適宜対処としていただくしか,どういうプロポーザルとして出てくるか予見できないですから,それしかないのではないでしょうか。 ● これに関連して確認的な質問で申し訳ないんですけれども,さっきの,実質的に三審になるかどうかの話とも絡むんですが,20条の中で,日本語の訳で言うと「異議申立て又は上訴は」という言い方が何回か出てきますね。英語の原文で言うと「A challenge or an appeal」という言葉になっているんですけれども,11項の現在のプロポーザルのドラフトの11項ではFurther appealと書いてありますし,今議論している(3)の,まだドラフティング・コミッティの方で案文になっていないところでも,the challenge or appealについての決定がa single appeal,もう一回だけアピールできることになるという言葉で,アピールが同じ言葉で使われているんですけれども,日本語で言うと「異議申立て又は上訴」,「A challenge or an appeal」と言っているときは,審級としては同じようなものを,国によって言葉遣いが違うからorで結んで言っているので,それに対して,アピールについてディシィジョンが出たら,それに対してもう一回だけできるとか,その国が許した場合だけできるという,今の11項のような,この場合のアピールは同じ言葉ですけれども,審級は違うものを想定して言っているのか,もしくはもともとの「A challenge or an appeal」というのが審級が違うものが想定されているのか。   私は,今のこの書きぶりの理解では,「A challenge or an appeal」は同じ審級のものが書かれているように理解していたんですけれども,そこは,もし教えていただければありがたいんですけれども。 ● 私は上訴と訳しましたので,審級が違うという理解で訳しているということだと思いますけれども,それは正しいかどうか分かりませんので,今,○○幹事がおっしゃったような理解も当然あり得るだろうと思います。そうなりますと二審しかないということになりますね。 ● 今のところは,普通,アピールと言うときは審級が違うので,これはおそらく国によって,同一審級の別の裁判官に不服申立てをするというやり方の国と,上級審に不服申立てをするという国の両方があり得て,そのどちらでもいいということを示すために,日本語で言いますと「異議申立て又は上訴」という言葉を使っているだけなのではないでしょうか。 ● 分かりました。 ● そのあたり明確にしていく必要がありますね。   その他,オブザベーションズの20条11項について,指摘されているような点について他に御意見があれば。--もしないようでしたら,11項は現状維持という基本方針で臨んでよろしいかと思います。   それでは,承認・執行についての残りの部分について,○○関係官の方から説明していただきたいと思います。 ● 「3.本章の範囲,公正証書及び私的な合意について」は,公正証書及び私的な合意の取扱いについて御意見を頂戴したいというものです。   (1)は,締約国が本条約を公正証書及び私的な合意に関して適用するかどうかを宣言することができるとすることについて,(2)は,仮に本条約を公正証書及び私的な合意に関しても適用することとした場合,その承認・執行の申立ても権限ある当局に対し直接することができるとするかどうかについてでございます。   注1として記載いたしましたように,部会資料54の5ページ,16条において問題提起されているものです。   (3)は,原文ですと部会資料50,17ページ,仮訳ですと部会資料51,15ページですが,執行可能性の宣言又は執行のための登録の拒否事由に関する第26条第4項a号の[第3項]あるいは[第3項a号]というブラケット部分についてでございます。   注3として記載いたしましたように,第20条第5項第1文と同様に考えますと,拒否事由を第3項a号の公序違反のみに限定した場合,第3項が規定する公序違反以外の事由について不当な執行の問題が生じ得るため,承認・執行の拒否事由に関するブラケット部分については,「第3項」とすべきであると考えられますが,そのように対処してよろしいか御意見を頂戴できればと存じます。   「4.暫定命令と確認命令の利用に関する相互取決めについて」は,全体にブラケットが付けられている第27条は,原文ですと部会資料50,17ページ,仮訳ですと部会資料51,15ページのとおり,ある国においてされた暫定命令とそれを確認する他の国の命令について規定するものですが,この規定について御意見を頂戴したいというものです。   この規定ぶりからしますと,暫定命令と確認命令とをあわせて見れば,原文ですと部会資料50の14ページ,仮訳ですと部会資料51の12ページの第17条第6項の決定と同視することができるとも思われ,そうであるとすれば,ブラケットを外し,規定を存置するとの立場を支持しても差し支えないように考えられますが,そのように対処してよろしいか御意見を頂戴できればと存じます。   「第3 承認・執行について」の御説明は以上でございます。 ● それでは,まず16条関係及び26条の公正証書,私的な合意について,この点については,オブザベーションズは,16条との関連で,締約国は58条の規定に従い,この条約を公正証書及び私的な合意にも適用すると宣言することができるという,宣言を認める規定をサジェストしておるわけで,当然に含まれるということですね。こういうオプショナルな選択を公正証書,私的な合意との関連で認めた方がいいのではないかという御趣旨でしたかね。 ● オプションとしてそういったものが盛り込まれるということについてどうかと。これまでは,条約の適用対象とすることについて反対してきたわけなんですが,さらにオプションとして宣言することができるということについて,どこまで柔軟に対処し得るかというような趣旨でございます。 ● 反対していた立場からすると,こういう宣言をしてもいいし,宣言しなくてもいいということは,従来からの立場に,サジェストしているような宣言に関する規定というのは,整合的だということは言えるということですね。 ● 今,○○先生がおっしゃったこととほとんど同じような話なんですけれども,情勢判断として,今まで反対してきたことがなかなか通らなくて,このままでいくというのであれば,オプションで残る方がいいということになるのではないかと思います。オプションの余地を認めてもらった方が,マンダトリーよりいいということです。 ● そうすると,Preliminary Document26の5ページに,16条関係で述べてある段落でサジェストしているような宣言を必ずする,オプトイン・プロビジョンをむしろとる方がいいというふうに考えてよろしいですかね。 ● 私もそう思います。ただ,おそらく情勢としては,オプトインではだめだと,全部入れろという意見が非常に強いだろうと思うんです。だから,そのときには全部入れるのには反対せざるを得ないだろうと思うんですが,私的合意が主たる手段である国というのは幾つかあるようで,カナダなどはそうらしいんですけれども,そういう国はオプトインでは,結局有用性が低くなるということをおそらく強く主張するだろうと予想されますので,そのあたりは様子を見ながらということですけれども,最終的にはオプトインにしてもらえれば,日本としてはいい方だろうという気がいたします。 ● まず,原則的にはオプトインということでよろしいですか。最終的にはではなくて,最初からオプトイン・プロビジョンとして提案するというようなことでよろしいですか。   それでは,仮に本条約が公正証書及び私的な合意に関して適用されるとした場合に,この承認・執行を直接請求できる,申立てできるかという点はどのように,これはオブザベーションズにある事柄ですよね。これはどうなんでしょうか。多分,規定の論理的な関係ではこれは直接できるようになるんでしょうね,もし採用された場合には。 ● 仮訳の方の26条6項に「宣言することができる」となっていますけれども,宣言した場合に,これはどういう取扱いになるのかがよく分からない。全体がブラケットに入っているんですね。 ● この26条6項の宣言をすれば,中央当局を介してしか受け付けないということになるんだろうと思うんです。裁判の場合には直接承認・執行を求めることもできるという前提だと思いますけれども,私的な合意や公正証書の場合は,それだけ信頼度というか,公的な度合いが低いので,それは直接はだめで,中央当局が必ず関与しなければだめだというふうに言えるという趣旨だと思うんです。 ● その場合の中央当局の内容なんですけれども,今まで言われていたのは転達するという話だったので,結局は同じ,そのままきてしまうと思うんですけれども。 ● そうですね。明らかに変なものはスクリーニングして外すということだと思うんですが,どこまで内容に踏み込んでできるのかということについては,かなり疑問がありますので,実質的には余り関係ないかもしれませんね。   ただ,直接,一私人が日本の裁判所に私的合意を持ってきて,これを執行してくださいというのは困るので,その人が住んでいる国の中央当局と日本の中央当局を通じて,そういうルートに乗せなければ受け付けませんということはできますというだけのことかと思います。やはり余り意味がないとお考えでしょうか。 ● ただ単なる転達であると余り意味がないのかなという気がして。ただ,転達でなくて,中央当局で何らかの作用があって,加工した状態で持ってくるというのであれば,この宣言の意味というのはすごくあるかなというふうに思うんですけれども,そこのところは条約の起草委員会の想定としては,何かあってこの宣言を認めているような気がするんですけれども,そこはどういう理解なのか教えていただければと思うんですが。 ● これは12条の関係で,さっき○○委員の方から御指摘があったように,中央当局が関与することによって条約としては一定のスクリーニングを経るという限りで,中央当局を介した方がいいかどうかということだと思いますけれども。 ● 今,○○関係官がおっしゃったように,より具体的には12条の1項,2項あたりで,嘱託国,つまり頼む方の中央当局が一定の関与をして書類をそろえさせたり,2項で,要件を充足していると認めたときは転達するということで,充足していない場合には転達しないという,そこで一定のスクリーニングがあって,それから12条の8項で,今度は受ける方の中央当局も,申立ての処理を,一定の場合,これはごく例外的だと思いますけれども,拒否できるということで,何にもなくていきなり来るよりは少しスクリーニングがかかっているということかと思います。 ● そうすると,この条項を入れてしまうと,法体系的には相当影響が大きいものだということになりますかね。 ● ここで言う私的な合意,private agreementとなっていますけれども,それであることの要件,私的な合意といえば,当事者間で口頭で約束しただけでそれに当たるのか,そうではなくて何か一定の要件がないとだめなのかというところは,あるんでしょうか。 ● 例えばカナダで私的な合意というのはどういうものかという説明がごく簡単にあったんですが,これは単なる私的な合意ではなくて,カナダ法に基づいて一定の要件を満たして,初めてここで言う私的合意になると。   具体的にどういうものかはちょっと分からないんですけれども,例えば26条の1項を見ていただきますと,「締約国で作成された公正証書又は私的な合意は,作成国において決定として執行しうる場合には」とありまして,要するにその国で,カナダならカナダでそれが執行できるようなタイプの私的合意が,国境を越えて承認して執行してもらいたいと,そういうことの趣旨のようです。   ですから,あらゆる約束がこれに当たるのではなくて,それぞれの国で執行の対象となるようなものだけがここに入るということでは,抽象的にはあるんですね。しかし,具体的にそれが何かというのは,各国が何を執行の対象としているかということで決まってくるので,条約そのもので決めているわけではないのではないかという気がします。 ● 先ほどのオプトイン条項とかもあったんですけれども,日本で私的な合意という,確定判決以外のものについて執行力を認めるというのは,かなり大きな転換になるのではないかと思うんですが,むしろ受け入れにくいのはそこの部分,私的な合意についての承認・執行をしなければならないという部分の方が大きいのかなと。どうしても26条全体がオプトインにならない場合には,ここの部分,私的な合意については外すとか,そういった可能性というのは,先ほどのカナダの話からすると難しいということですか。 ● 条約の中からですか。 ● はい。規律の範囲外とするということ。 ● これはなかなか難しいかなと思います。留保して,そこはうちの国は入りませんという,オプトインより一歩後退しますけれども,そういう選択肢はあるかもしれませんが。 ● ファイナルでない段階で留保で持ち出すのはちょっとまずいので,今のところはオプトインということで,どうしても入ってしまうと不都合が生ずるということであれば,それは最終的には留保の可能性も含めて,最後の外交会議で主張するしかないということになるのではないでしょうか。   では,今回はオプトインということで提案していくということで。   それから次に,第26条第4項a号は,承認要件のところのパラレルな関係ですので,論理的に第3項全体が拒否理由になるんだろうということで,それがロジカルだと思うんですが,よろしいでしょうか。--では,そのように処理させていただきます。   それでは最後です。「4.暫定命令と確認命令の利用に関する相互取決めについて(第27条)」という規定がブラケットで出てきているんですが,いかがでしょうか。これは正直なところ私もよく分からないんですが,どういうシチュエーションのことを言っているのか,想定しているのかということについて。 ● 私も余り詳しくは分からないんですが,コモンウェルスの国でこういう仕組みをとっている。部会資料54の27条のところにもごく簡単に説明がありますけれども,要するに,ある国で暫定命令を出して,それを前提として確認命令を,ほかの国でということだと思いますけれども,コモンウェルスの間で出して,それを二つあわせて一つの命令が出たようなものとする仕組みがあるようなんですね。   それは○○関係官がさっきおっしゃったように,それを一つの,ちょっと条文は忘れましたけれども,承認・執行の対象となるものと考えるとすれば,これをこの条約の枠組みの中に取り込んでもいいのではないかということになるのではないかと思いますけれども,そういう御趣旨ですね。 ● これはコモンウェルスにとっては有益だということですね。 ● そうです。コモンウェルス国はこういうのをやっているので入れてほしいということだったと思います。 ● そのことについて,特に日本との関連から見て不都合だということもないですよね。 ● そうではないかと思うんですけれどもね。 ● そうしたら,特に反対をする理由もないというような態度で,よろしいのではないかと思います。   それでは,その他御発言がございましたらお願いしたいと思います。次回の特別委員会で日本として主張すべき点があるとすれば,どういう点があるかということについて御意見を伺えたらと思いますが。   特にございませんようでしたら,予定した論点について御議論いただいたと思います。   5月8日から開催される第5回特別委員会の対処方針は,本日御議論をいただきました結果を踏まえて作成させていただきますけれども,詳細につきましては私と事務局に御一任いただきたいと存じます。   最後に,事務局から今後の日程等について連絡をしていただきたいと思います。 ● 第5回特別委員会が5月8日から16日までヘーグにおいて開催される予定でございまして,この特別委員会に今回また○○委員に御出張いただく予定になっております。   それから,この第5回の特別委員会は外交会議前の最後の特別委員会になる予定でございまして,外交会議が今年11月5日から23日までヘーグにおいて開催されるという,まだ暫定的な決定のようですけれども,そういう予定になってございます。   それで,そういう日程でございますので,次回のこの部会でございますが,第5回の特別委員会の結果報告と,9月1日までに条約草案に対する日本政府の意見を出さなければいけないという冒頭に申し上げました事情がございますので,それも含めまして,結果報告をしていただいた上で,さらに日本政府の意見を決めるための御議論もしていただくという趣旨で,7月24日(火曜日)13時半からこの法務省第1会議室において次回会議を開催させていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。   その後,9月1日までに条約草案に対する意見を次回の会議の結果を踏まえて提出するということにしたいと思っております。   その後の会議の日程につきましては,外交会議前にいつ修正が加えられた条約草案が配布されるかとかいう問題がございますので,次回は7月24日ということで,その先についてはまた別途御連絡を差し上げるということにさせていただきたいと思います。ただ外交会議前にもう一回は部会を開いていただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。   以上です。 ● どうもありがとうございました。   それでは,法制審議会国際扶養条約部会の第8回会議を閉会させていただきます。   本日は御熱心な御審議をいただき,ありがとうございました。 ―了―