法制審議会 被収容人員適正化方策に関する部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成19年4月27日(金) 自 午後1時00分                       至 午後3時00分 第2 場 所  法曹会館 高砂の間 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会の第6回会議を開催いたします。    (委員,幹事の異動紹介省略) ● まず,前回の会議で○○委員から御質問がありました,アメリカにおけるメトロポリタン・コレクション・センターにつきまして,事務当局の方から御説明があるそうですのでお願いいたします。 ● それでは早速でございますが,前回の議事において,中間処遇制度の説明を○○から行った際に,○○委員から御質問がありましたメトロポリタン・コレクション・センター(MCC)の概要につきまして,当方で取り急ぎ調べましたところを御説明申し上げます。   MCCは,アメリカ合衆国の大都市,これはシカゴ,ニューヨーク及びサンディエゴということのようですが,中心部に設置されているすべての保安カテゴリーの被収容者を収容する連邦の施設であって,これから裁判を受ける者や裁判中の者,いわゆる未決拘禁者のほか,一般に24か月以下の比較的短期刑の受刑者を収容しておるということです。また,これより長い刑期の受刑者であっても,MCCが所在する地域の出身者などにつきましては,釈放後の生活設計を効果的に行うために,刑の終わりの社会復帰までの期間,収容することがあるようです。この場合の収容期間は,通常数か月が想定されているということでございます。   MCCで実施しております釈放前プログラムについてですが,これは連邦の他の施設に共通するものです。すなわち,円滑な社会復帰と再犯防止を目的として,官,民,コミュニティが釈放前受刑者に情報やサービスの提供を行っており,具体的には,健康とそれから栄養,就労,金銭管理,コミュニティの活用,釈放の条件と手続及び自分の成長という6つのトピックスに関してプログラムが用意されているということでございます。 ● どうもありがとうございました。   ただいまの御説明に関しまして,何か御質問がございましたらお願いいたします。   ○○委員の方から何かございませんか。 ● 結構です。 ● ほかにどなたかございますでしょうか。  ございませんようでしたら,本日の議題に入りたいと思います。   本日は,前回の会議で皆様にお諮りしましたように,イギリスにおける社会奉仕を義務付ける制度等について調査していただきました○○委員から,その調査結果について御報告をいただく予定でございます。   大体の目安ですが,まず○○委員から1時間程度御報告をいただいて,残りの1時間程度を報告内容に関する質疑応答などに充てさせていただくこととしたいと存じます。   それでは,○○委員,御報告をお願いいたします。 ● それでは,私の方から報告させていただきます。   まず,今回の調査の対象とその結果についての概観をまずお話しした後に,現在,特にこの部会での検討対象となる事項について規定している基本法でありますクリミナル・ジャスティス・アクト 2003(Criminal Justice Act 2003),2003年刑事司法法というものですが,これについて概観し,その後で,社会内命令,社会奉仕命令というものについての検討,そして仮釈放との関係でそういった制度がどう使われているかということについて言及させていただきます。   最後に,時間に余裕があれば,保釈との関係で,社会奉仕命令が使われているのか否かということについても一言触れさせていただきたいと思います。   それでは,まず,イギリスにおける刑事施設に収容されている者に関する状況の概要を説明いたします。   イングランドとウェールズの人口は約6,000万人ですが,オフェンダー(offender),すなわち有罪と認定された者は,現在20万人いるということです。そして,プリズナー(prisoner),すなわち刑務所に収容されている受刑者は,2004年現在では7万5,000人,この1,2年間では少し増えて7万6,000人前後であるということであります。この増加の原因は,人口構成の流動性などによるものと説明されております。プリズナー1人を収容しておくのにかかる費用でございますが,1年当たりで約952万円がかかっているそうです。これは,日本と比較すると相当高価であろうと思います。   これが現状でございまして,後でまた申しますが,現在,刑務所増築を進めているものの,この10年来過剰拘禁の状態がずっと続いておりますので,これから述べますような諸制度が検討されているところでございます。   次に,社会奉仕命令,コミュニティ・オーダーに関する説明に移ります。なお,用語につきましては,社会奉仕命令という言葉を使っておりますが,イギリスの法律上は,現在では「コミュニティ・オーダー(community order)」となっております。以前は「コミュニティ・サービス・オーダー(community service order)」とされておりましたが,このように名称が変更されたことからも,日本語で言う「社会奉仕」という観点は薄らいでおり,実態を見ても「奉仕」という観点は強くないのが現状だろうと思われます。 そこで,今後は,「社会内命令」あるいは「CO」と申し上げる方が適切だろうと考えます。その点について,ここで少し補充しておきますと,当初,コミュニティ・サービス・オーダー,すなわち社会奉仕命令と言われていたものは,イギリス国教会の伝統に従って教会が奉仕,サービスをするというところから始まって,宗教的な感覚から犯罪者に対する福祉あるいは彼らの社会復帰を目指して行われたものであり,したがって,サービスという観点が強調されてきたという伝統がございます。 ただ,現在では,後で述べますように,かなり純化された刑罰の一つ,あるいは他の処分としての機能が与えられておりますことから,社会内命令という方が適切であるように思われます。ただ,これは,本日報告をする上での暫定的な訳語とさせていただきたいと存じます。   この社会内命令という制度が導入された理由でありますけれども,二つございまして,過剰収容を解消するということと,短期自由刑の弊害を回避するということであります。   今回の調査では,社会内命令を実効化させるために,エレクトロニック・モニタリングと呼ばれている電子監視が使われており,その実施が民間業者に委託されておりますことから,その業者をも訪問いたしまして,実情について意見を伺いました。   仮釈放関係,前回話題となった中間処遇関係,あるいは保釈関係については,治安の関係上,現実に訪問をして施設を見ることはできませんでしたし,担当の方との面会も時期的になかなか困難な状況でございましたので,間接的な資料による情報提供にとどまっております。   中間処遇については,前回も,イギリスに関しましては,アプルーブド・プレミスイズ(approved premises),俗称ホステルというものですが,これについてお話があったところでございます。このホステル につきましては,その機能上,幾つかに区別できると考えられております。第1が,ベイル・ホステルと言われるもので,判決宣告前の被告人で保釈されている者を収容するという機能を担った場合です。第2が,社会内命令としてのレジデンス・オーダー(residence order)を受けている犯罪者を収容するものでございます。第3が,拘禁刑を途中で打ち切って仮釈放された犯罪者を入れておくという機能を持つものがございます。この第2と第3になりますが,レジデンス・オーダーを受けた犯罪者を入れておく場合と,仮釈放された犯罪者に対してオーダーをかけて入れておく場合を併せまして,プロベイション・ホステル(probation hostel)とも言われております。   この第1から第3のいずれの場合におきましても,アプルーブド・プレミスイズというものは,刑務所のような外観を有するものではありませんで,街中にひっそりとたたずんでいるものであります。仰々しくガードがあるものではございませんが,住民の不安感も強いので,24時間の監視体制がしかれております。   この中に入っている先ほど挙げた3つの類型の者たちには,通常,外出禁止命令が出されております。後で話しますカーフュー(curfew)というもので,通常は午後11時から午前6時までは外出禁止となっております。電子監視は通常科されておりませんが,近時は,このカーフュー,夜間の外出禁止命令の実効性を担保するために,各所におきまして電子監視も併用されるようになってきているそうでありますし,また性犯罪者に対しては,ほぼ原則として電子監視が科されているようでございます。このあたり,本当は現状を見たかったのですが,治安上の要請ということで,これは今回はかないませんでした。   そこで,次に,クリミナル・ジャスティス・アクト2003について説明させていただきます。2003年刑事司法法と日本語で訳されているもので,相当ドラスティックに従前のイギリスの刑事司法を変えるものでございます。   まず,同法の趣旨といたしましては,捜査から始まって有罪認定,正確に言いますとその後の処遇も含めてなのですが,刑事手続全体について改革を図りまして,従前あった組織,制度を統合してスリム化しようということを目的としております。また, 量刑に関しましては,イギリスでは,御存じのように犯罪事実の認定は原則として陪審員が行いますが,量刑宣告は刑事法院においては裁判官が行うのですけれども,その量刑の目的あるいは手続について,従前は統一的な基準がなかったものですから,そこにガイドラインを設けることを求めております。そうしたことも含めて,刑事手続全体における濫用の危険性を除去することを目的として作成されまして,2005年4月2日から施行されております。全体では,14編339条ですが,重要部分がかなり38の別表にも記載されているところでございます。   この法律に規定されているもので,この部会の関心事項に係る制度を概観いたしますと,まず社会内命令をどうやって,だれに出していくのかというのは,まさに量刑の個別化の問題でございますので,量刑手続の明確化という点が関連してまいります。   そこでは,個別処遇を徹底することと,その際にはバランスのとれた公平な基準であることが重視されております。そして,その前提として,量刑の目的として次の5つが挙げられています。犯罪者を処罰すること,犯罪及び再犯を減少させること,犯罪者を社会復帰させること,一般市民を保護すること,そして犯罪被害者に対する損害賠償も促進することということです。これらの趣旨に基づきまして,これから申し上げる具体的な制度が規定されております。   コミュニティ・オーダー,社会内命令でございますが,ここで取り上げますものは,18歳以上の犯罪者に限定させていただきます。非行少年は少年法の対象であり,別途特殊な法制度がありますが,非常に複雑ですので,ここでは割愛させていただきます。   2003年刑事司法法のコミュニティ・オーダーは,同法以前のコミュニティ・オーダーあるいはコミュニティ・センテンス・サービス・オーダー等に代わるものなのですけれども,かなり,その言渡しの形態が変わってきております。以前は,拘禁刑が予定された犯罪者に対してコミュニティ・センテンスを科すという判決を出したときに,その効果として社会奉仕命令が出ていたのですが,現在は12のカテゴリー,リクワイアメンツ(requirements)というものを規定いたしまして,その 1つに当たる場合には,各犯罪者に対してそれを科していき,かつ,それらを同時に科すこともできる制度に組み替えられております。 換言いたしますと,従前はコミュニティ・センテンス・サービス・オーダーは,拘禁刑が予定された犯罪にのみ適用できるということになっていたのですが,現在はそのような関連性を緩和し,これをほぼ解除しているところに特徴がございます。   そして,これは注意していただきたいのですが,このCOについては,いろいろな役割がございます。まず刑罰の一種であるということが大きな特徴でございます。後で話していくことをまとめて申し上げておくと,この社会内命令というものは,刑罰として機能する場合と,執行猶予の条件として機能する場合と,仮釈放における条件として機能する場合の三つの場面が想定されております。   社会内命令の実施に責任を負っておりますのは,内務省の下に位置いたしますプロベーション・サービスでございまして,スタッフは2万2,000人ということだそうでございます。   この刑罰としてのCOというものは,当然ながら,短期拘禁刑,短期自由刑を回避する機能を持っているわけですが,そのような機能を持つものはこれだけではございません。   まず,仮釈放がありますが,その他にも,12か月未満の拘禁刑を宣告すべき場合にこれに代えて科されるカストディ・プラス(custody plus)というもの,あるいはサスペンディッド・センテンス(suspended sentence),つまり執行猶予であり,それからインターミッタント・カストディ(intermittent custody)という,いわゆる週末拘禁のようなものがございます。   引き続き,制度の概観をいたしますと,電子監視,エレクトロニック・モニタリングというものがございます。以下,EMと略称させていただく場合がございますが,これも多様な場面で使われており,大きく分けて3つの場面を挙げることができます。第1に,社会内命令の実施を担保する手段として使われる場合があり,それは後に述べるように,義務的に使うべき場合と,裁量的に科している場合がございます。それから,第2に,仮釈放の条件を遵守しているかどうかをチェックするために使う場合があります。第3に,保釈の場合にも使われているそうであります。   こういった制度がありまして,これらの制度の実施に責任を持っておる機関といたしまして,ナショナル・オフェンダー・マネジメント・サービス,略してNOMS,ノモスと読むのでしょうか,日本語では全国犯罪者管理局と訳されることもあるようでございますが,ノモスというものが2004年6月に設立されております。この直前に有識者の方から,当時の行刑の状況が統一的な基準に従ってなされていない点,犯罪者の所内での処遇,あるいは出所後の処遇についても全国的な基準が必要である点につきレコメンデーションが出たころから,内務省におきまして,このノモスをつくりまして,ここに書きました犯罪者に対する処遇計画と刑務所内での処遇についての基準をつくり直したということでございます。   犯罪者に対する処遇計画といたしましては,量刑宣告前にプレ・センテンスレポートというものをノモスの監理官が提出いたします。判決前調査報告と訳すことがありますが,正確に言いますと,有罪認定をされた後ですから,量刑前の報告書と言った方が適切かもしれません。これは,ノモスの下にあります地方の部局が全国で42あるのですが,そこの職員である地方保護監察局の職員,OLPBと略称されていますが,これらOLPBが裁判所からの委託を受けて作成し,それを量刑を宣告するジャッジ又はマジストレートに提出するという仕組みをとっております。その際,OLPBは,有罪認定されオフェンダーとなった者と5,6時間程度面接をして身上調査をするそうでございます。OLPBがつくった書面につきましては,犯罪者は所定の手続に従って異議を申し立てることができます。   なお,このようなプレ・センテンスレポートは,常に存在する必要はないとされています。軽微な犯罪の場合,例えば,テレビライセンス,つまりテレビの受信料を払わなかったような場合は,犯罪事実が明確ですからこれは要りませんし,また重罪でもマーダーのように自動的に終身刑となる場合には,プレセンテンスレポートは要らないと言われております。拘禁刑の上限がコモン・ローの犯罪のように明文上はないものなどについて,このプレセンテンスレポートを活用して適切な行刑の上限,下限を決めているというのが実情でございます。   次に,ノモスが果たすべきだとされている第2の機能といたしまして,刑事施設内での処遇,そのための計画設定を行うことが挙げられます。これが,社会内命令として何を選択し,どのように実施するか等を決定する上で重要な意味を持つことになりますが,その詳細は後でまた説明いたします。   それと,もう1つの重要な機関といたしまして,センテンシング・ガイドラインズ・カウンスル,量刑ガイドライン評議会と訳されているようでございますが,これも2003年刑事司法法によって設定されています。   先ほど申しましたように,ジャッジあるいはマジストレートが量刑前報告書を読んで量刑をするわけですが,その量刑に当たってのガイドラインを出しているというのがこの法律の特徴でございます。それは完全に拘束的なものではなく,ガイドラインですから,義務的にそれに従わなければいけないわけではなくて,偏差は許容されますが,ガイドラインに従わなかった場合には,裁判所には説明義務が生じ,上訴の理由ともなるものです。   以上が,2003年刑事司法法によってつくられた新たな量刑のシステムと,そこに携わる機関のあらましでございます。   次に,コミュニティ・オーダー,社会内命令の実態についてお話ししたいと存じます。   まず,コミュニティ・オーダーというものは,包括的な,裁判所の命令によって執行されるべき処分だということでございます。   包括的,ジェネリックというのはどういう意味かといいますと,従前は1人の犯罪者について,例えば刑務所に入った段階ではある保護観察官が担当すると。所内で処遇の過程において,いろいろなニーズによってまた担当官が替わっていく,刑務官が替わったり,保護観察官が替わったりして,お互いにコミュニケートがうまくとれず,それが犯罪者の処遇にとって不都合,あるいは不必要な摩擦を生んでいたという反省が出たものですから,できるだけエンド・ツー・エンドの処遇をしようということで,理想としては,1人の犯罪者に対して1人のノモス所定の保護観察官,OLPBがついて,始めから終わりまで処遇計画を立て実行させるのだ,そしてその内容として,社会内命令というものも構築すべきだという理念に基づいて,制度が設計されております。   この文脈でお話しします社会内命令は刑罰でございますから,犯罪者がこれを同意するか否かを問わず科すことができるのは当然でございますけれども,医療効果を上げるため,あるいは本人の人権が特に問題となる場合において,具体的には薬物の治療でありますとか,アルコール中毒の治療にかかる社会内命令においては,犯罪者本人の同意が必要とされています。   このように,刑罰の一種ということでございますが,これらを刑罰としての厳しさの面から並べてみますと,一番重たいのが拘禁刑,それには,終身の拘禁刑があり,定期の拘禁刑がございますが,拘禁刑があり,その次に,COとしての社会内命令があり,その下に罰金刑,ファインというものがあるというのが,刑罰のピラミッドであります。他の処分としてのCOについては,先ほどお話ししました。   それでは,刑罰の一種としての社会内命令とはどのような要件で,どういった効果を持っているのか。そして,その命令に違反した場合,どのような処遇がなされるかということについて引き続きお話しいたします。   まず,刑罰の一種でございますので,社会内命令といっても,犯罪が十分に重大なものでなければ科し得ないという制約が条文上あります。軽度の犯罪に対しましては,罰金刑,つまりファインで対応しなければならないというのが,基本スタンスでございます。   そして,この「犯罪が十分に重大である」という要件をクリアした場合におきまして,さらに,以下に述べます12のリクワイアメンツ,これを要件と訳していいかどうかは難しいのですが,そのリクワイアメンツのいずれかを満たしたときには,その効果としてのコミュニティ・オーダーを科すことができるということになっています。先ほど申しましたように,この要件を複数同時に満たすことも可能ですし,またそうでないこともできます。   では,その12のリクワイアメンツ,要件とは何なのかということなんですが,「アンペイドワーク(unpaid work)」つまり無償労働を命ずるもの,「アクティビティ(activity)」つまり行動を命ずるもの,「プログラム(programme)」つまりプログラムを遵守させるもの,「プロヒビティッド・アクティビティ(prohibited activity)」つまり行動を禁止させるもの,「カーヒュー(curfew)」つまり夜間外出禁止,「エクスクルーション(exclusion)」つまり立入り禁止,「レジデンス(residence)」つまり居住制限,「メンタル・ヘルス・トリートメント(mental health treatment)」つまり精神面の治療,「ドラッグ・リハビリテイション(drug rehabilitation)」つまり薬物依存からの脱却,「アルコール・トリートメント(alcohol treatment)」つまりアルコール依存症の治療,「スーパーヴィジョン(supervision)」つまり監督,「アテンダンス・センター(attendance center)」つまり監視場所への出頭,という合計12のものが挙がっております。なぜ,これらが選ばれたのかということについていろいろ伺ったところなんですが,統計に基づいてこの12が演繹されたという御説明でございました。すなわち,今までの経験によって,犯罪者が刑務所内にいる際にいろいろと面接などをして,犯罪の原因あるいは社会復帰に何が障害となっているかを調査したところ,例えば,自分の怒りの行動を抑え切れないために粗暴犯に出てしまったとか,社会内に戻りたいのだけれども,手に職がないし,またすぐアルコールに走ってしまうようなことがあるとか,あるいは,しばらくは監督をしておいてもらいたい,そこで行動を直してもらって,自分も立ち直りたいんだというふうな事例がかなりあるそうでございます。このような調査を経て蓄積されたデータに基づいて,それでは刑罰としてこのようなものを導入しようということになって,12のリクワイアメンツが出てきたそうでございます。   このリクワイアメンツは,最終的には,各刑務所,刑事施設において実施されるのでございますが,その責任の担当官は,先ほど述べましたOLPBでございます。もちろん刑務官という者がおりますけれども,OLPBがいろいろとアドバイスをしながら,先ほど言いましたように1対1でエンド・ツー・エンドの関係をできるだけ保ちながら,各犯罪者の社会復帰を目指して活動するそうでございます。   このコミュニティ・オーダーは,実施が命ぜられてから3年を超えて実施されてはならないことになっています。ただ,例外がございまして,例えば,無償労働,アンペイドワークというのは12か月以内にやるようにと言われておりますし,立入り禁止命令は,延長しても最大で2年までしか認められないということになっています。   後でまた詳しくお話しいたしますが,これらとの関係で,電子監視,EMというのはどうなっているのかにつきましては,電子監視は,独立したコミュニティ・オーダーではございませんので,コミュニティ・オーダーの実施を担保するための技術的な手段という位置付けになっております。ただし,夜間外出禁止と立入り禁止命令が出た際には,エレクトロニック・モニタリングを科さなければならないことになっておりますが,他のところでは裁量に応じて付けたり付けなかったりすることができるそうです。   なお,イギリスでも,アメリカと同様にホームディテンション・カーフューというものがあり,EMとともに実施されるのですが,これは2003年刑事司法法の規定する処分ではございません。   それでは,以下,社会内命令のうちの12のリクワイアメンツ,要件の内容について簡単にお話ししておきます。   まず,アンペイドワークの制度は,もともと,1972年にスタートしており,作業としては,教会の庭の清掃などから始まっております。さっき言いましたように,イングランドチャーチのサービスとして始まったということがありますので,まずチャーチの掃除をしようと。それから,公共物である公園の手入れをしたり,公園のベンチを掃除したり,それから,学校や病院の中を掃除したり,ケータリングサービスなどをすることが多いようでございます。現在もそうだということであります。   このようなアンペイドワークは,あくまで刑罰として宣告されるのですが,今,言ったような行動をとりますと,やはり自動的に,犯罪者に一定の職能を習得させるという機能も持つことになります。そこで,これは,パニッシュメントつまり刑罰であるけれども,現在は,リハビリつまり改善更生にも資する手段であるという評価がなされることが多いところでございます。   アンペイドワークの時間でございますが,以前は40時間以上240時間以下ということになっていたのですが,先ほど申し上げたようにリハビリにも役立つという観点から,その適用の拡張が図られてきていまして,現在では40時間以上300時間以下とされております。これは,通常,先ほど申したように12か月以内に実施する必要があるのですけれども,例外的には,この実施期間の延長が認められることもあるそうです。   何時間のアンペイドワークをいつまでになすべきかというのは,裁判所が量刑宣告において宣告するわけですが,具体的な実施はOLPBが行っております。通常は,1週間に6から7時間,週末に働くことが多いそうで,土曜日,場合によっては日曜日にも労働をしております。ただ,これでは科された時間をこなすことができないので,ノモスにおきましては,1週間の労働時間をもう少し増やすことを計画しているそうであります。   当然ながら,このアンペイドワークを命令する際には,犯罪者が例えば病気であっては労働できないわけですので,健康状態をチェックし,またこれまでの職業も勘案して,裁判所がOLPBから意見を聴取しながらこれを科しているそうでございます。   どんな仕事をどこでするのかといいますと,このOLPBというのは,地方の保護観察局で,全国42のエリア,管轄に分かれております。それぞれの地域において犯罪者はアンペイドワークに従事するのですが,地域ごとにできる仕事にかなり違いがありますし,また地域住民の受け入れ態勢も違っております。そこで,裁判官は,十分に,このOLPBと,更にそれを通じて地方自治体の関係者と協議をして,実施可能な仕事を確認しているのが実情だそうです。ただ,どういうふうな仕事をどうやって選んでくるのかということについては,中央では分からないので,地方に行って聞いてくれということだったのですが,残念ながら今回はそこまで調査することはできませんでした。   では,どういう犯罪者に対してアンペイドワークが科されているのか,罪種との関係でございますけれども,具体的には,窃盗罪,暴行罪,器物損壊罪あるいは道交法違反等の罪,これらはコミュニティに対する典型的な罪であると説明されているのですが,そういった罪を犯した者に対し,コミュニティに対するペイバックとしてアンペイドワークをしなさいというのが基本的なスタンスだそうでございます。   実情についてお話しいたしますと,2007年1月現在では,約5万件のアンペイドワークが実施されておりまして,アンペイドワークをやって何かをなし遂げようという計画が5万件,全国ではあるそうです。現に2005年から2006年におきましては,5万1,026件の事業がアンペイドワークによって完成されたと言われております。これは前年の2004年から2005年に比べますと33%の増加でして,かなり積極的に活用されているようでございます。   こうして毎年当たり換算いたしますと,延べ650万時間のアンペイドワークがされていて,費用に換算すると3,200万ポンド,76億1,600万円に相当する利益を社会に還元している,ペイバックしているんだと言われております。そういうふうなことで,費用対効果も優れているというお話がございました。ただ,そういうふうにアンペイドワークをやって社会にペイバックするというのは分かるのだけれども,犯罪をしたことによる社会に対する損害をどうやって見積もるのか,犯罪が引き起こした社会に対する損害は抽象的なものかもしれないのに,それをアンペイドワークをやって積算したお金とイコールなものと置いてよいのか。要は,罪刑の均衡ということをどうやって考えるのかという質問をしたのですが,それについては,回答はいただいておりません。   このようにアンペイドワークについて,社会への還元という点が現在強調されておりますのは,この少し前,2004年あたりにおいてですが,コミュニティの方からアンペイドワークが生ぬるいという声が起こってきたことにも反応したからだそうです。 その当時は重大な犯罪が多発している時期でもあったので,もっと刑務所に収容しろと,社会内命令,特にアンペイドワークは生ぬるいという声が相当起こったので,いや,しっかりやっておりますということで,社会に対するペイバックを強調し,そこでまず,どの地方でアンペイドワークを実施するかを決める際に,地方の代表者や関係者から,こういう仕事ができます,あるいは,こういう仕事をやってもらいたいですなどという意見を聴取する。そして,実際に実施しているときには,監督者に蛍光色のユニフォームを着せまして,比較的目につくようにする。そして,アンペイドワークが完成すれば,この仕事は犯罪者によって完成されたとのプラカードを掲げて公示する,ということを行っております。   例えば,現地で入手した写真資料には,アンペイドワークを命令された者たちがコミュニティの壁に落書きが書いてあるのを一所懸命消しているところや, 教会,学校,図書館等の器具・設備類の修善や製作をしているところなどが撮影されておりました。   また,そのような作業の監督者が蛍光色のジャケットを着ているところや,作業場所に「Community PayBack」と書いてあるディスプレイが設置してあり,社会に還元しているんですよと,この労働を社会に対してペイバックしているんですよということが強調できるようにされているところなども撮影されておりました。   そのほか,図書館,学校等の食堂で作業をしたり公共機関のタンクの修繕など,公共サービスの一環としての仕事があてがわれている場合もあるようです。   このようなアンペイドワークで手に職をつけることは難しいのかもしれませんが,例えば,家具類の修繕など大工のような仕事をする際には,就労の援助にもなるというふうに説明されております。   次に,社会内命令のうち,アクティビティ(activity)の方でございますが,これは,かなり一般的なものでして,特定の日時に特定の観察官のところに行きまして,自分の抱えている問題をグループでディスカッションしよう,などというもので,イギリスではよくあるものでございます。修復的司法ということも目指しているのかと質問しましたところ,当然そうであるというお答えもありましたので,犯罪者に自分の犯した行為についての認識を深め,内省を進ませるような行動だと理解しておけばよろしいかと思います。   その次は,プログラム(programme)というものなんですが,これは相当広い内容を有するものでございますけれども,例えば,かっとなって犯罪を起こしてしまったという場合,あるいは性犯罪を犯したり,薬物濫用から抜け切れないなどという個人が持っている悩みを,やはりグループディスカッション等を通じて自分で言わせまして,それに対する対応策を考えさせていくというプログラムで,心理療法の一つだと思ってよいかと思います。   その次のプロヒビティッド・アクティビティ(prohibited activity)というものですが,これは特に危険と思われるような行為の禁止が通常念頭に置かれているものでありまして,火器の所持,運搬,あるいは利用をすることが行動禁止の一例として条文上明記されているところでございます。これは当然のことかもしれません。   その次ですが,カーフュー(curfew),夜間外出禁止命令というものがあります。先ほど言いましたように,通常は夜11時から朝6時までの間,所定の場所あるいはホステル等に彼らを収容して外出禁止にいたします。現在ではカーフューを実施する際にエレクトロニック・モニタリングが科されることが原則となっております。EMの実施については,また後で述べさせていただきます。   それから,その次はエクスクルージョン(exclusion),立入り禁止ですが,これは,例えば,フーリガン,あるいは夜間に落書きをするような人たちの行動を規制するものでございまして,特定の日時のフットボールの試合を見に行ってはいけないとか,イギリスでは休日に公園で花火を上げる者も多いのですが,そういった夜間の公園に外出することを禁止するとか,あるいは繁華街のパブに入るようなことを禁止するなどというのがエクスクルージョンでございます。併せてEMを科すこともございます。   それから,その次のレジデンス(residence),住居,居住の制限でございますが,これもホステルに住まわせることによって再犯を予防するという場合でございます。   その次のメンタル・ヘルス・トリートメント(mental helth treatment),精神面の治療,ドラッグ・リハビリテイション(drug rehabilitation),薬物依存からの脱却,アルコール・トリートメント(alcohol treatment),アルコール依存症の治療につきましては,いずれも,医学的な専門知識が必要となっており,しかも,これらを犯罪者の意に反して執行することはヨーロッパ人権規約上も問題があるということで,これらの場合には,対象者の同意があって初めて科すことができるようになっています。   精神面の治療におきましては,当然ながら経験深い免許医,精神分析医等がこれを行うことになっておりますし,薬物依存からの脱却においても本人の同意を得て,本人がアルコール中毒を脱したいという場合になって,初めて実施しなければいけないのでありまして,以前,本人の同意を得ないで,この薬物依存からの脱却を実施したところ,それは人権侵害だという訴えが犯罪者から起こりまして,ホームオフィスは訴訟で解決するのを避けまして,和解で終わったということでございます。そのようなことがあり,以後は同意をとるようにしたそうであり,このような経緯が2003年刑事司法法に反映されているように思われます。   それから,次のスーパービジョン(supervision),監督というものがございますが,これも歴史的に発展してきて,現在まで残っている要件であり,所定の意義,趣旨はかなり広いものであります。このスーパービジョンというものは,犯罪者の社会復帰を促進するためであると規定されているのでございますが,それは他のリクワイアメンツにも共通なので,実際にこのスーパービジョンでされることは,まず監督計画というものをつくりまして,どうして自分は犯罪に至ってしまったのか,どういったお金の使い方をして,どういった仕事の関係をしていたからこうなったのかということなどをきちんと認識させて,やはりここでも内省を積ませて改善更生を進め,そして,それをチェックするということをしております。   次の,アテンダンス・センター(attendance center)への18歳以上25歳未満の者の出席についてもほぼ同じ趣旨であると見てよいでしょう。   ここまでが12のリクワイアメンツの説明でございますが,日本人の目から見ると,12に分けられてはおりますが,かなりオーバーラップしている要件があることは否定できません。この点を質問いたしましたが,あるものは歴史的に残っているし,あるものは象徴的な意味があるというお答えでありました。ただ,先ほど申し上げたように,1人の犯罪者に対して複数のリクワイアメンツを選ぶことは可能ですから,その人の犯罪状況,改善の見込み等に応じて処方すれば構わないというスタンスで運用されているところでございます。   その次が,特別の個別の処分ではございませんが,電子監視でございます。   これは2003年刑事司法法215条に規定されておりますが,独立した社会内命令ではございません。社会内命令の実施を担保するための技術的な手段でございます。原則として,この賦課(賦科)は裁量的ですが,先ほど言いました夜間外出禁止と立入り禁止,例えばフーリガンの行動を防止するような場合にはEMがつけられております。 EMにつき,だれかの同意を得てやらなければいけないかというところについては,条文上は犯罪者の同意を得ることは要件ではございません。ただし,EMを実施する上でその者の同意がなければモニタリングができない人,例えば,ブリティッシュテレコムの職員であったり,電話の固定回線を引いてある住居を犯罪者に貸している所有者など,そういったテクニカルな観点から同意を得なければいけない人から同意を得てやればよいというのが条文上の要請です。しかし,実際の現場におきましては,やはりできるだけ,厳密には同意ではないのですが,当該の犯罪者に対し,これからEMを実施するという通知をしっかりすることによって,その者に納得させて行っているのが実態であろうと思われます。ただ,制度として同意を得ることは必要ございません。それは,刑罰の執行だからということなんでしょう。   そして,このEMなんですが,一般論としては,イギリスにおいて,このEMの執行に反対する見解は現在では皆無に近いそうでございます。その理由は,確かに犯罪者を動物のように扱うのかという議論は当初あったそうなんでございますが,EMを実施される犯罪者にとってみると,刑務所内に入ってしまって社会との関係が切断される,家族の支援もなく,無職になってしまうよりは,社会内にいてEMを実施される方がはるかによいということが,特に刑務官の経験者の方々などから強く主張されてきて,次善の策としてエレクトロニック・モニタリングをしようということで,ほぼ合意が形成されているからでございます。   また,その費用につきましても,拘禁刑を実施する場合に比べて約10分の1の費用で済んでいる。しかも,これは民間に委託しておりますので,予算を使うことが少ないという点もあって,更に積極活用の方向にありますが,これについても懐疑的な見解はほとんどないというのが現状でして,少し驚いたところでございます。   それで,ノーウィッチにあるセクロという民間会社が委託を受けてEMの実施をしているので,その会社を訪問いたしました。   そこで提供を受けた写真等を基にお話しいたしますと,まず手首への装着用のトランスミッター,あるいは,足首への装着用のトランスミッターがあり,こういったものを犯罪者に装着し,外せないようにしておきます。他方,受信機を自宅の固定電話機に接続してセットしておきます。   足首などに,どうやって装着するのかというと,セクロの民間の従業員がやって来て装着するわけです。これを付けてしまいますと,破壊しない限り外れません。破壊いたしますと,交信機などを通じまして,これはかなり大きいものなんですけれども,これを通じてノーウィッチにあるセクロの中央センターのコンピューターに瞬間的にデータが入ってまいります。セクロは,ノーウィッチという港に近いとてもきれいな町にあるのですけれども,セクロの中に入りますと,ワンフロアに全部パソコンが置いてあってそこで監視をしているわけです。彼らが監視をしているのは非常に広範囲であり,ロンドンは全域を見ておりますし,それからイングランドの中部,東と西のところ全域を,彼らがチェックをしております。そして刻々とコンピューターにだれかが器具を壊したというデータが入ってきます。こういうデータを見ながら違反事実があった場合には,まずセクロの係員が民間業者ですから電話をして,当該犯罪者にどうしたんですかなどと状況を確認します。そして電話がつながらないような場合や,あるいは違反があったと認められる場合には,直ちに警察に連絡をして,警察官を同行して現場に赴くということをしているそうです。ちなみに,どのようにしてこの器具を壊しているかというと,物にぶつけて壊す場合とか,たばこで焼いてしまうということが多くて,破壊されたものもたくさん見せていただきましたけれども,そのように破壊されたものが毎日,いくつか返ってくるそうです。   セクロでは,4,000人のスタッフで,6体制のシフトワークを敷いて1日中EMの実施状況を見ているのですけれども,先ほどからお話ししているようにカーフューというオーダーは夜11時から午前6時ですから,この時間帯が一番忙しくなります。その時間になると,わっと多数のスタッフが入ってきて,イギリスの約3分の1近いところ,スコットランドも今,視野に入っていますから,3分の1近いところをワンフロアにいる者全員で,これら全てのエリアを監視し,チェックをしているそうです。EMの実施条件についての違反については,確かにあるのだけれども,民間業者の人が出向いていって,殴られたりたりすることは余り多くはない,あるいは,なかったそうです。暴行を受けることも少しあったので,そういう際には警察官を同行させているというお話でございました。   なお,使われている器具はかなり大きいものですので,セクロでは,今後,例えば,これを小さくすることはできないのかとか,自宅の固定電話ではなく携帯電話を使って追跡することができないのかというようなことを検討しているそうです。しかし,これには予算がかかり過ぎるので,まだ実施には至っていないものの,将来的にはやりたいということでございました。これが電子監視の知り得た実情のところでございます。   さて,次に,このような社会内命令を科した場合に,その取消しや修正がどういうふうな場合に起こるかということについてお話ししたいと思います。例えば,アンペイドワークを科していたら犯罪者が病気になってしまった,あるいは,その仕事に適さなくなったというような場合,それを取り消す必要がございます。こういう場合には,原則としてマジストレイト・コート,治安判事裁判所が管轄権を持っておりまして,そこに,当該犯罪者とプロセキュータが出席して行審理を受けます。そこで,出された社会内命令の処分,社会内命令を認めた判決の取消し,あるいは修正などを求めて審理をします。実際見にいきましたけれども,次から次へと関係者が入ってきておりました。また,例えば,いついつまでにアンペイドワークをすべきだったのにできていないということから,これは違反なのかということや,違反を認めた場合にはどうするか,取り消して新たに重いものを科すのか,どう修正するのかということが週に3日ほど,ある裁判所では審議をされていたところでございます。   こういう取消し,変更の制度があるのは当然のことでありまして,判決を宣告する際に,ジャッジが量刑前報告を見てオーダーを決めていますが,事後の事情によってはこのように変更があるということでございます。   その次,先ほども少し触れました命令の違反でございますが,例えば,アンペイドワークを命じられているのにそれを行わない場合には,犯罪者に,まず警告が発せられます。警告に従わない場合には,それまでよりも厳しい処分が下されるのですが,それには,三つございまして,社会内命令を修正し,例えば実施期間を修正するなど,より厳しい命令を科す場合,社会内命令を取り消し,犯罪者が元々犯した罪につき有罪認定されたものとして再度量刑宣告をする場合,あるいは,社会内命令を取り消し,当該命令に違反したことにつき拘禁刑を科す場合がございます。   補充的に説明させていただきますと,この社会内命令に対する違反がどの程度あるかということなんですが,これは予想以上に多いようです。ある犯罪者に社会内命令が下り,これを実施すべきときから10日以内に,まず違反が非常に多く起こっているようです。違反をする人はすぐしてしまうということだと思うのですが,その際には,この違反を改めて認定し,その対応を協議することになりますが,その審理をするマジストレート・コートは大概満員でございまして,どんどん処理しておりました。後で述べます運用の評価にもかかわるところですが,そのような違反が生じないよう,違反に対する威嚇的な効果を持った命令に直すなど,どのようにして社会内命令の実効性を確保するのかということが今後の検討課題であり,この点については現在検討途中だそうでございます。   そこで,社会内命令の運用と評価という点に移らせていただきたいと思いますが,まず,イギリスでは,このコミュニティ・オーダーの実施について,現在では,地方都市ではむしろそれと目立つような形で実施しているようでございます。これに対し,ロンドン等大都市においては,衆人環視にならないように,犯罪者に不必要な恥をかかせないように実施されており,都市によって異なっているということです。   イギリスでも,以前は,例えば,囚人服を着せて実際やっていたところ,大衆がトマトを投げつけるなどして,コミュニティ・オーダーができなくなったので,現在では,ロー・プロファイルでやっているそうです。例えば,週末,バスや地下鉄の運転までもが,犯罪者がこのコミュニティ・オーダーの一環として行うことがあるそうですが,それは部外者には分からないようにさせているということでした。他方で,地方では,現に犯罪を行った者が来るわけですが,彼らは怖くないし,ペイバックをしているということを見せるために,地域の特性に応じた運用をしているということでございます。   以下,少し数値を挙げさせていただきたいのですが,このコミュニティ・オーダーによって,結論から申しますと,再犯率は相当下がっているようです。先ほど言いましたように,10日以内の違反はすぐ生じるようですが,コミュニティ・オーダーを完全に履行した人との関係では,再犯率は相当に下がっているというデータが出ております。   まず,一般論として,コミュニティ・オーダーに付されて修了した者の再犯率は,予想された再犯率よりも3%プラスアルファは絶対に低くなっていると言われています。場合によっては5%強下がることもあると言われているようです。3%,5%というのは大したことはないと思うかもしれないのですけれども,コミュニティ・オーダーを受けた者と,コミュニティ・オーダーに付されず単なる拘禁刑に付された者とを比較しますと,平均して再犯率は約10から15%違っている。拘禁刑だけ受けて出所した者が再犯したのを100とした場合,COを受けた者の再犯率は約85程度というかなり低い数値になっていて,これは良好な運用を示している,との評価が一般的だそうです。   ただ,それはやはり犯罪によっていろいろでございまして,飲酒運転者に先ほど言ったプログラム等を科した場合には,やはり平均的に15%から場合によっては21%もそれを行っていない者と比べて再犯率が下がるのですけれども,性犯罪者の場合は余り芳しくございません。性犯罪者の場合は3.2%,このCOを付していない場合よりもいい結果が出たにとどまる程度でございます。しかし,飲酒運転者であるとか,窃盗あるいは粗暴犯に出た者については,窃盗の場合も,COを付していない場合より22%再犯率が下がったというデータも出ているようでありまして,罪種によって違うのは確かなのですけれども,コミュニティ・オーダーに刑罰としての犯罪抑止効果が相当にあるというのがあちらでの現状認識だとのことです。   そういうこともありまして,徐々に大都市においても,あるいは中核的な都市においても現在,コミュニティ・オーダーをやっているんだという表示をして,人々の受容度といいますか,コミュニティ・オーダーに対する理解を深めてもらう努力をノモスはしているというふうに,強調されておりました。   ただ,実際にこのコミュニティ・オーダーを受けた人からの異論もいろいろありまして,これは本当に厳しいのだと,イギリスでは,現在では刑務所に入っても刑務作業を行いますが,それは推奨しているだけでありまして,日本の懲役刑のように義務ではないわけです。そうすると,刑務所に入っている方が楽だという経験者もいまして,コミュニティ・オーダーを受けますと,強制的に労働をさせられて,週末も働いて,にもかかわらず報酬は受け取れない。これでは非常に厳しいという意見もあるそうです。  問題点といたしましては,先ほども申し上げましたが,いろいろな依存症にかかっている方や,性犯罪者などかなり犯罪性向が根深いような方との関係では,このコミュニティ・オーダーというものも余り芳しくないという結果が出ている。これに対しては,また別途の対応がなされているところは御存じのとおりでございます。   このように,かなり難しい領域があることは認識しながらも,最初に申しました過剰拘禁の状態を回避するために,イギリスにおいては,ますますこのコミュニティ・オーダーを使おうというふうな方向にあることは強調されていたので,この点を改めてお伝えしておきたいと思います。   ただ,そのコミュニティ・オーダーが有効であることは分かっていても,なおノモスの人員が足りないので,コミュニティ・オーダーの前提となるような制度もつくられておりまして,それがコンディショナル・コーション(Conditional Caution)という制度です。これは,検察官が犯罪を認定して訴追する十分な証拠がある場合にもかかわらず,訴追をしない選択をして,起訴猶予をするわけです。起訴猶予をするときに条件を付けまして,まずコミュニティ・オーダーを実施してください,実施しなければ訴追をするという警告を与えているそうです。これはごく最近導入されて,1年ほど前から実施が始まっていて,まだデータはありません。また,起訴猶予の条件としてここまでのことを科す根拠は何かということを聞いても,明確な答えは返ってきませんでした。   以上が,コミュニティ・オーダーの報告でございます。あとは,時間の関係で簡単に説明するにとどめますが,仮釈放との関係でどのような制度が過剰拘禁を回避するためになされているかということでございます。   要点だけお話ししていきますと,まずイギリスにおいては,宣告刑が12か月を超える定期の拘禁刑である場合,通常は2分の1の刑期を過ぎますと,自動的に仮釈放されます。それだけではどうかということで,現在では,仮釈放する際に条件を付けるというふうになっていて,その条件として,先ほど挙げた12のリクワイアメンツの中から幾つかを使っていくことになっています。  また,最初にお話ししたカストディプラス(custody plus)という制度があり,これは,12か月未満の拘禁刑を宣告する場合に,まず拘禁に付する期間を決め,その後は社会内処遇をするわけですが,そこに条件を付けるというものです。その条件として,アンペイドワーク等のリクワイアメンツが使われております。   特に,ここでもアンペイドワークが使われていまして,2004年におきまして,当時はカストディプラスはまだ施行されておらず,パイロット的なものとして実施されておりましたが,約18万人近くの者がこのカストディプラスに類する枠組みで,アンペイドワークに従事をしたそうです。そのようにして徐々に行われていて,例えば,2007年では,約5万件のアンペイドワークなのですけれども,大体これに科せられた人は,きついという不満はあるのですが,そのコンプレッションに向かって努力をしているというのが実情で,非常によく使われているそうでございます。   それから,サスペンディッドセンテンス(suspended sentence),これは執行猶予ですが,執行猶予の条件としてもリクワイアメントの幾つかが使えるということになっています。   執行猶予の際につけるリクワイアメントもジェネリックなコミュニティ・オーダーのそれと同じものとして,使われております。これには,刑罰としてという意味はないとは思いますけれども,使われているということになります。   最後に,インターミッタント・カストディ(intermittent custody)というもので,いわゆる週末拘禁に非常に近いものなんですけれども,社会内処遇を前提としながら,裁判所が指定した日に犯罪者が自ら刑務所に戻って拘禁刑に服するということであり,社会との関係を維持しながら,また過剰拘禁を回避するためにこれをやろうということで,実施に移されているそうであります。どの程度,例えば何千人の方がこれに服しているかというデータはまだいただいておりませんけれども,こういった試みが数々なされているところです。そして,インターミッタント・カストディの際には,電子監視を科すことができることになっています。   その次に,保釈関係を口頭でごくごく簡単に補充させていただきますと,未決の者に対する保釈でございますが,これに対してもOLPB,プロベーション・サービスの下,ノモスの地方の監理官等が関与していまして,量刑前報告書に類似したベイル・インフォメーション・レポートという,保釈に適するかどうかについてのレポートを作成して提出しています。それは,裁判所が保釈をする際の資料が要るから作成されているのですが,対象者が保釈に耐え得るか,社会内で再犯に至らないか,そういう危険性をできるだけ科学的に調査したベイル・インフォメーション・レポートが作成・提出されているそうです。そして,2005年9月以降は,保釈の条件としても電子監視を付すことが可能になったと言われていて,実際に性犯罪者等については活用の方向にあるそうでございます。   最後に,社会内命令,執行猶予,カストディ・プラス,インターミッタント・カストディと,これまで説明いたしました12のリクワイアメンツや,エレクトリック・モニタリングとの関係についてまとめておきます。   包括的という表現がよろしいかなと,現時点では思っているのですけれども,包括的社会内命令,あるいは執行猶予の条件としては,12のリクワイアメンツをすべて使うことができます。しかし,カストディプラス,あるいはインターミッタント・カストディの場合には,居住制限,精神面の治療,薬物依存からの脱却,アルコール依存症の治療の4つのリクワイアメンツについては使うことができません。電子監視は,一般的に裁量によりどれとの関係でも使うことができますが,カーフュー,夜間外出禁止と,エクスクルージョン,立入り禁止については,義務的に電子監視を科さなければいけません。また,一般的には,これらのリクワイアメンツは,対象者の同意は不要ですけれども,精神面の治療,薬物依存からの脱却,アルコール依存症の治療については,先に申し上げましたように,対象者の同意が必要ということです。   少し時間が長くなりましたが,以上で報告を終わらせていただきます。 ● どうもありがとうございました。   非常に詳細かつ有益な御報告だと思います。   ただいまの御報告につきまして,まず御質問がございましたら適宜御発言をお願いしたいと思います。 ● お話を伺って,イギリスのコミュニティ・オーダーというイメージが随分はっきりしてきたように思います。   皆さんからいろいろお話が出るとは思いますが,一つだけ翻訳の問題ですけれども,リクワイアメンツを「要件」と訳しておられる。日本では,法律の用語として,要件と効果というのを対比させるのが普通ですが,そうしますと,ここに列挙されているものは,むしろ要件よりも効果の方に属するように想われます。○○委員自身が途中で処分という言葉も使っておられたようですけれども,意訳してしまえば,日本語として一番近いのは「遵守事項」ではないかと想いますが,その辺いかがですか。 ● 大変難しいところを指摘されてしまいまして,訳すのは非常に難しいのですが,裁判官が刑の宣告として,12のリクワイアメンツのどれかを選びます。その後に,具体化をするのは現場において保護観察官等でありまして,処分と言いましたのは,その現場を意図していたのですけれども,少し整理が不足していたかもしれません。   おっしゃるように,「遵守事項」という方が日本人にはぴったりくるかもしれませんので,そちらで御理解いただければと存じます。 ● どうぞ,○○委員お願いいたします。 ● 私も同じ点についての質問なんですけれども,御報告の中で,リクワイアメンツは複数課せるけれども,一つの包括的な社会奉仕命令を科すことができるだけであるという趣旨の御説明があったんですが,これは,日本的に言うと,例えば,保護処分という形で包括的な一つの刑罰を科し,その遵守事項としてリクワイアメンツが並ぶというイメージかなという感じがしました。そうしますと,例えば,アンペイドワーク自体が刑罰というよりは,刑罰としてあるのはコミュニティ・オーダーであって,アンペイドワークは,その条件というような位置付けになるのでしょうか。 ● 非常に分かりやすく言うと,日本的に倣うとそうかもしれませんね。   包括的と言いましたのは,やはり日本の場合は1人の犯罪が何罪犯したかということで,最後に罪数処理をして量刑に移るということになるんですけれども,そういった発想が余りないものですから,犯罪者1人に着目してという意味で包括的ということは強調されていますが,おっしゃることは御指摘のとおりだと思います。 ● ○○幹事,どうぞお願いします。 ● コミュニティ・オーダーについて拘禁刑が予定された犯罪にのみ適用できるという従前の制約はなくなったということなんですが,拘禁のどのぐらい分とか,そういうこととの換算というのは一切ないということなんでしょうか。 ● それは,随分質問したんですけれども,何年の拘禁に相当するのがどれくらいの時間のコミュニティー・オーダーだという発想は,ほとんどないようでございます。ただ,コミュニティー・オーダーとして苦役を科すのだからこれも刑罰なのだというのでスタートして終わっているような印象でした。 ● 日本の制度が念頭にあってする質問なので変かもしれませんけれども,執行猶予にする際にも,こういう社会内命令というのを付加して出せると,それと刑罰としての社会内命令,ジェネリックな命令とはどういう関係に立っているんでしょうか。 ● 本当にそれはラベルの問題ではないでしょうか。執行猶予のときに付けるものも,それは刑罰としての社会内命令をかけることの延長という意識なのかもしれませんが,おっしゃるとおり,私もそこはよく分からないところでした。 ● 刑罰の一種としてのCOということで,拘禁刑,社会奉仕命令,罰金刑と並んでいるわけですが,それと,サスペンディッド・センテンスとの関係,位置付けというのが,はっきりしないのですが。 ● おそらくは,あちらの人の意識によれば,連続しているものなんでしょう。おっしゃるとおりでして,拘禁している場合,拘禁しないで社会に置いておくけれども社会内命令を科しておく場合と,執行猶予として置いておく場合とは,連続しているものであるという発想があるのではないかと思うんですね。   ですから,お金を払わないという観点において,あとは同じことをやっていて,社会復帰のための効果を待つ行動をさせているけれども,それをどちらに収容しておくかの違いだという区分けなのではないかと思います。ただ,おっしゃるとおりの疑問は私も持っているところでございます。 ● 訳語のことなので恐縮なんですけれども,インターミッタント・カストディというのを週末拘禁と同じようなものなどと言われたように思うのですが,これは断続的拘禁というふうに訳すのが正しいのではないかと思います。   それから,全体にすごく興味深い御報告だったんですが,カストディ・プラスというのは,あえて日本語に訳すと何と思われますでしょうか。 ● まず,最初のインターミッタント・カストディの方はおっしゃるとおりで,字義どおりとすればそうなのですが,インターミッタント・カストディに入るのはほとんど週末だそうですので,実態的には,ウィークエンド・カストディなのかもしれません。でも,ありがとうございました。   カストディ・プラスの訳は,そうですね,それは委員にお答えいただいた方がよろしいかと思いますけれども。 ● 最初の訳語というのは難しいもので,すごくそれがリードしますので,○○委員が考えていただいたらと思います。 ● 全然,これに関しては自信がございません。 ● どうぞお願いいたします。 ● コミュニティ・オーダーについて,御説明では刑罰の一種ということを強調されたと思いますが,この点は,○○委員の書物でも言われていたことです。しかし,お二人のニュアンスが同じなのかなという点が少し疑問なのですが,○○委員は,多分このコミュニティ・オーダーというのは,単に刑罰を緩和するのではなくて,やはり刑罰の側面はしっかり持っているのだと,だんだんそういうふうに考えられてきたのだとおっしゃっていたように思います。これに対し,今日○○委員から詳しく伺ったところでは,12種類のものがあり,その中には,確かに刑罰につながるものもありますが,薬物とかアルコール治療などもあり,処分を刑罰的なものと矯正ないし改善更生的なものとに分けると,その両方が混在しているように感じました。その点どうでしょうか。 ● まさに御指摘のとおりで,今日紹介していないのですが,あちらでいただいた他の資料等を見ますと,この12のリクワイアメンツの持っている要素というのが幾つか書いてあるのですね。例えば,刑罰的なものである。あるいはリハビリテイトなものである。それから,アンチソーシャル・ビヘイビアを直すようなものである。いろいろ程度が違っていて,だからこそ幾つかオプションがありますから,あとは裁判官の量刑判断によってそれを選んであげてくださいということでありました。では,刑罰の領域ということに関して言うと,今日は説明で省いたのですが,前回,前々回の会議で申したかもしれませんが,応報思想からリハビリ思想に戻って,また応報思想に戻っているというところがありますが,その両方のバランスをとって,量刑ガイドラインをつくろうとしているそうですので,その対象であります刑罰といわれるものの広い意味での制裁処分の中にも,先生ご指摘の両方の側面があり,かつ,一つ一つにおいてバランスの程度は違っているのであろうと思います。   答えになっているかどうか分からないんですが,向こうで強調されたことは,やはり拘禁するだけが刑罰ではないと。その人の犯罪性向をその人のために治してやると。それが同意を得る場合もあれば同意を得ない場合もあるけれども,それだって刑罰なのだと。まさに教育刑のような話を聞いているんだな,目的刑論が強いんだなという思いを持って聞いたのですが,かなり日本よりは刑罰という概念自体が広いと思います。 ● 素朴な疑問なんですが,先ほどのインターミッタント・カストディですか,週末拘禁的なニュアンスというところなんですが,これが過剰収容に対応できているというのは,施設がなければ週末であっても収容できる場所がないはずなんですが,そのあたりはどういう考え方をお持ちなんでしょうか。 ● そこは,シフトをしていると思います。ある人は週末,ある人は平日,それはその人が以前仕事をどう持っていたかによって,シフトして入れていると思います。 ● CO中に,かなりリハビリテートな性格を持った部分があるというのはおっしゃられたとおりで,そういうところから見ていくと,COの結果として再犯率が下がってくるというのも一つの見方だと思うんですけれども,他方で,COに付される者と拘禁刑に付される者との初めの仕分けが,もし拘禁刑に付される方が犯罪性の進んだ者であるということだと,ある程度の再犯率の差が出てくるのも仕方がないかなという感じもします。そのあたりについて何か議論はあるんでしょうか。 ● それは,ノモスといいました日本でいうと保護観察局の方々なんですが,彼らが専門は犯罪学,心理学等をなさっている方で,プレ・センテンス・レポートで詳細な資料を作成・提出してきます。プレセンテンス・レポートには,今日は触れませんでしたが,オエイシスというデータがあって,犯罪者の分析を詳細に示してくるものです。それを見て,担当者が相応の意見を付けて裁判官に提出しているので,結果はともあれ,割り振りをするときには,ほぼ科学的に客観的な区別がなされているというのが一般的な評価でございます。したがって,オエイシスに基づくプレセンテンス・レポートに対する異議申立ては余りないとも伺っております。 ● しかし,逆に言うと,コミュニティ・オーダーに適性があると認められる者に対してコミュニティ・オーダーを科しているということですね。 ● もちろん,それはそうですね。 ● 今の質問とも関連して,コミュニティ・オーダーの対象者についてなんですが,コミュニティ・オーダーは拘禁刑が予定された犯罪にのみ適用できるという従前の制約は削除された一方で,コミュニティ・オーダーの要件としては,犯罪が十分に重大なものでなければ科し得ないということになっているとのことでした。そうすると,結果としては,やはり,元々拘禁刑に科されるような人についてコミュニティ・オーダーを科すということなのか,それとも,逆に,今まで罰金刑だったような人についてもコミュニティ・オーダーを科すようになったのか,そのあたりの実情はどうなんでしょうか。 ● 拘禁刑を科すべき者にコミュニティー・オーダーを科すという制度的な仕組みは切れているんですけれども,やはり重かるべきものは重くという発想がありますので,罰金刑相当のものには,罰金刑で終わっていると思います。   拘禁刑かあるいはこのCOかと迷ったときに,罪質を見て,かつ適性を見てCOに割り振っているという話ですね。 ● そうすると,これまでであれば罰金刑相当の事案であったが,先ほどおっしゃったように,コミュニティ・オーダーには社会復帰を促進するような側面もあることから,こちらの方がいいのではないかという理由でコミュニティ・オーダーを科すことはないということですか。 ● そうですね。その場合には,罰金刑は罰金刑でいっていまして,ただ,罰金刑の支払いが不能な場合,デフォルターズというのがかなり多くなっているので,それに対してはまた別の話なんですが,このCOに類似したもので,それはCOとは言いませんけれども,反社会的行動の改善プログラムのようなもので対応するという動きはございます。 ● 統計数字に関しては,プリズナー7万5,000人でなお増加傾向にあるという御指摘でありましたが,イギリスの関係者は,過剰拘禁問題に対してどういう問題意識を持っているのでしょうか。 ● これは慣れてしまっているという面もあるのかもしれないのですけれども,犯罪認知件数は大体同じ程度で推移して,若干増加している程度なのですけれども,むしろイギリス国民による犯罪ではなくて,移民が今かなり増えているので,移民の方々による犯罪が激増していて,そうすると今までやってきた刑事政策では対応できないと。例えば,こういったものをやって過剰拘禁を消そうと思っていたら,予想を超えた外在的状況によってまた過剰拘禁になってきているので,ちょっとお手上げだなというのが現状かもしれません。かといって,刑務所の中の整備であるとか,刑務所の中の処遇はよりよくする方向に動けと,EU指令が来ており,それをやっていかないといけないので,現在は所内での状況改善を図るとともに,収容人口を少しでも減らしたい,しかしCOを行うにも制約があるということで,新たな制度がないかなというふうな意見は伺いました。それで,日本には似たような制度はないのかと,逆に質問される場面もございました。   過剰拘禁ですので,まずは物理的な外枠を増やすということで,この数年で確か2,3個は刑務所が増えているはずですね。しかし,それは,予算の関係と,現在の水準に合わせた所内の整備が要るということで,ドラスティックに施設が増えるわけではございませんので,やはり後追いの状況になっているというのが一般的な認識かと思います。 ● EMそのものについては,現状ではそれほど反対がないというふうなお話だったんですが,これはイギリスではテロが起こったりなんかしていまして,それにもかかわらず,かなり監視カメラが全国に配置されて,いろいろな形の状況が生まれていると思うんですよね。それに対しても,我々が一般的に見ていると,イギリスの人たちはそれほど反対しているようには見えないんですが,一部には反対があるようなことも聞いているんですけれども,実際上,EMについて全くそういう意見は出ていないんですかね。 ● 皆無ではございません。おっしゃるように,CCTVによるサーチということについても反対される方はおるのですけれども,今,変わりつつあるのですが,イギリスでは,外ではそもそもプライバシーという権利はないと言われていて,外を歩いているときにカメラで撮られたり写真を撮られるというのは,自分が同意しているんだから何ら問題はない。したがって,CCTVで撮られるのは問題がないという話と,それからエレクトロニック・モニタリングについても,刑務所に入って,さっき申しましたように,今,刑務作業を請願として行っていますが,行動の自由を制約されて労働するなんていうのはナンセンスというのが基本的な発想ですから,それよりは自分の意思で事実上とはいえ,EMに同意をして,社会内にいて,家族等との絆を維持した方が良いというのが大多数の意見のようです。   ただ,おっしゃるように,それはテロの以前から少し増えてきている傾向ですけれども,イギリスにおける憲法上の基本的人権をもっと重視しようという活動をする学者,団体がおりまして,そういう人たちは今おっしゃったようにCCTVやEMに対しては,原理的な反対はなさっております。 ● おそらく最初に御説明のあったプリズナー1人にかかる費用というのが日本の2倍ぐらいですか,3倍ぐらいですか,かなり金額がかかっているよう私は思うんですが,これは一体どういうところにお金がかかっているんですかね。 ● まず前提ですが,今は円安でございますので,正しい評価ができているかは疑問でございます。数年前と比べても円が70%ぐらいまで落ちていますので,現地の感覚としてどこまで高いかというのはちょっと私たちには分かりかねるんですが,一般に労働市場が拘束的といいますか,どの職に就くにしても給与は高めにとまっておりますので,そういうことと,それからまた,現実とは違いがあるかもしれませんが,雑居的な収容というのは好ましくないという発想が強く,近時できた新しい刑務所でも個室完備というふうになっていて,テレビも見られるし,電話もかけられるというふうに,日本とは違って,他のファシリティをいっぱい付けているというところがあります。そういったことや,刑務所内にCCTVを大量に付けるということもあってトータルとして,非常にお金がかかっているんだろうと思います。   それから,ここは私も分かりませんが,だからこそ民間委託を進めているのですけれども,そこまでいったところを換算してこの値段が出ているかどうかは分からないのですが,私も何度も,どうしてこんなに費用が高いのですかと質問しました。そうすると逆に,日本はどうしてそんなに安くできるんだと言われましたけれども,それはお答えできませんでしたが,そういう状況です。 ● 我々はもっとお金の話をすべきである,犯罪白書などもその点は上品過ぎるという趣旨のことを○○委員が書いておられたと思いますけれども,○○幹事に早速お尋ねして恐縮ですが,イギリスでプリズナー1人に年間約950万円という数字が示されております。これは日本から御覧になっていかがですか。 ● びっくりするほどコストがかかっているなと思うんですが,ただ日本の場合は,今この場でいろいろな問題を比較しなければならないかとは思うんですが,いろいろな工夫をしておりまして,端的なことを申し上げますと,炊事は受刑者が未決拘禁者の分も含めてやる。それから,食料品もまとめて購入して受刑者につくらせる。所内の清掃等も受刑者がやるというふうなことをしておりますので,そのようなことも含めまして,要するに民間ベースで計算すれば,日本の場合もそれ相応のコストはかかるかもしれませんけれども,日本では,長い間コストを下げるような工夫がされてきているのではないかなというふうに思っております。 ● ○○委員の御報告を伺っていますと,人的な側面でもイギリスの方がかなりゆとりがあるような感じがしますね,関係している職員の数も。 ● そうですね。職員の方の人数,日本との比較は分からないのですけれども,感じたことといたしましては,犯罪が起こって,犯罪者が出たというのは,やはり社会全体の責任であるという考えが伝統的に強いようでございまして,自分たちの社会で受けとめてそれを直さないといけないし,彼らも仲間の一人なんだという意識が,伝統なんだと思いますけれども,かなり強いと思いました。それと,あちらでは解釈論というよりは,むしろクリミノロジーの方が非常にポピュラーなのですが,科学的な分析をしてどういった原因によって犯罪が起こったのか,罪種によって区別をして考えようというスタンスが非常に強いです。したがって,こういう犯罪を犯した人,でもそれは原因はいろいろあって,それに対しては,こういうインターベンションをすれば取り除かれるはずだということを徹底してやっているところは見習うべきではないかと感じたところでございます。 ● イギリスのプロベーション・オフィサーの数と日本の保護観察官の数と比較すると歴然とした差があると思います。ただ,日本の場合は,保護司さんが4万6,7千人 いること,さらに,イギリスのプロべーション・オフィサーは家裁の調査官のような仕事もしていることは留意する必要があります。 ● 御説明ですと,EMを実施している民間業者の担当範囲というのはイギリスの3分の1近くという御説明だったんですけれども,ほかの3分の2はどうなっているのでしょうか。 ● ほかの業者が内務省に入札をしておりまして,現在2社が分けあって担当しておりまして,3年間の契約を結んでいるそうです。ですから,それが済むとまた別の業者が新規参入してくる。だから,自分も契約を継続できるか分からないと言っておりました。 ● 関連ですけれども,その業者というのは,これを専門にやっているんですか。それとも,セキュリティ関係の業務の一つとしてEMを実施しているのですか。 ● EM専門です。今回見に行ったところの担当者,広報担当の方は,もともとノーウィッチの刑務所の刑務官だった人で,再入所する人が非常に多い。それはやはり社会と断絶されて拘禁することに原因があるというふうに思ったらしくて,それから改めて刑事学を勉強し直して,EM実施の請負をするに至ったとのことでした。 ● 確認なんですけれども,いわゆるCOにおいて直接対象者に接している人のことを何と言っていますか。 ● 彼らの説明では,地方の保護観察官だと言っていました。 ● その下請の人はいませんでしたか。 ● いませんね。ですから,例えば,レジデンスオーダーの場合は,レジデンスの管理人にいわば委託をしているということになりますが,制度的に言うと,OLPB,地方の保護観察官がやっているということです。 ● 日本で言う保護観察官ですか。 ● はい。 ● これは観察官にとって,非常に重い労働,重い仕事というか負担だと想像するんですが,この点は保護観察官はどう言っているんでしょうか。 ● 非常にヘビーでして,理想はエンド・ツー・エンドのサービスですから,1人の保護観察官が1人の犯罪者につかなければいけないんですが,平均して保護観察官1に対して6ですね。それが場合によって1対7,1対10ぐらいまでになっていると。そうなってくると,監督もできなくなる。したがって,しようがないからシフト制にして,カーフューをかけて夜間置いてみたり,あるいはEMをかけて見るしかない。EMをかけていても自分たちはできないから,信頼できる民間団体に委託をしよう,そういう流れかなと思います。 ● ありがとうございました。 ● ほかにいかがでしょうか。   もし御質問がございませんようでしたら,ただ今御報告を受けました内容に関して,この際,意見として御発言したいという方に,積極的にお話しいただきたいと思います。   ○○委員,どうぞお願いいたします。 ● 質問といいますか,意見ではないんですけれども,ちょっと離れるかもしれませんけれども,実際,イギリスにおけるホステルというのは何か所ぐらいあって,大体そのためにどのくらいのお金が実際上かかっているのか。もし,日本でやるとした場合の参考になるようなことを伺っておきたいんですが。 ● 数は,それはちょっと別のところで書き留めたかもしれないんですが,今,失念しておりますが,中規模の都市には必ずあります。例えばケンブリッジにあるのですかと質問しましたら,あそこにはあるよということをおっしゃっていまして,大体普通の都市に行きますと,それであるとは分かりませんが,病院ですとかそういった公共の建物のそばにあって,よく見ると電子監視が非常にしっかりしているというふうな建物があります。ですから,最低42はあります。現在,42の保護観察局の地方の支部に分かれておりますので,その数はあると思います。 ● 先ほど伺うと,無償労働の中には相当幅広いものがあるようで,運転とか何とかというのも言われたような気がするんですが,そういう技術を要するようなもので,もし事故とかそういうものが起きた場合にどうするとか,そういうのはどこが監督しているんでしょうか。 ● 事故というより,妨害事例を聞いたのですけれども,例えばアンペイドワークをするときでも,最初の約6分の1程度の時間は技術の確認に当てる,あるいは習得させる場合もあるそうです。   運転の場合は,もともと運転経験がなければだめだと思うのですが,例えば,大工のような作業をする際には6分の1ないし5分の1の時間を当てて,まず技能を習得させてそれから当たる。そして,運転の場合の監督は非常に難しいと思いますが,他の場合ではここに見られますように,監督官がきちんと現場で監視ができるような形で立っていますので,ほぼこれで事故等は防げているというふうには伺っています。   ただ,さっき言いました10日以内で違反が多いというのは,時間に出頭しない,要するにこのオーダーから逃げてしまうという場合が多いんですね。時々,こんなことをやっていられるかと言って暴行を働く人もいるそうですが,最近は減っていると聞きました。それは,この制度が周知されてきたからかもしれませんけれども。 ● 実際に,COが科せられる刑罰というのはある程度重大でなければいけないということなんですが,現実には,さっき言われた窃盗とか,それほど重大でもないというか,もともと短期刑のもののような気はするんですが,それはそういう理解でよろしいんでしょうか。 ● そうですね。ただ,性犯罪あるいは精神的な病気もあいまっての暴行,住居侵入,放火等についてもこれは科されておりますから,先ほど挙げました窃盗等というのは,COの成功比率が高いものとして挙げているわけで,もちろんそれよりも罪質として重いものも多数入っているというふうに理解しておけばよいかと思います。 ● 意見というわけではないんですが,むしろまだ質問の部に入るかも分かりません。大変詳細な御報告で非常に興味深く,約30年の運用を経て進化した社会奉仕命令の姿がよく分かりました。こういう形でイギリスで発展している理由とは一体何なのか。何か感じられたことはありましたか。 ● それは,本当に難しいです。 ● 宗教的な面があるのでしょうか。 ● それは,宗教にかかわらずなんですけれども,サービスといったときに,自分たちが帰属している社会に対するサービスというのは,すぐに皆さんが認識しやすくて,それは広い意味では公共道徳と言っていいのかどうか分かりませんが,そういった観念が共有されている面はあります。ですから,今でもやはり犯罪を犯したということがシェイムフルだという伝統は残っていますし,それによって刑務所に入れられるというのはもっとシェイムフルなので,世の中にいて,でも償いをしたいと,そのための手段があるんだったら活用したいという発想につながるのではないでしょうか。   ただ,もともとは,イタリア等から始まっているわけですけれども,おっしゃったように宗教的な話があって,そのサービスを広げていって,みんなコミュニティに戻るんだから,何とか戻りやすい状況をという発想は非常に強いですね。ですから,重大犯罪や病気に起因する人に対する処遇というのは,もちろん強くなければいけないのですけれども,そこでも科学的な対応がなされていて,処遇に対してお金がかかっても,だからお金がかからないようにしようという発想は余りないですね。そこは,もちろん○○委員の方がお詳しいのですが,基本の発想が違うのかなとは感じました。 ● 結構です。 ● 一つ教えていただきたいんですが,イギリスの刑務所は慈善団体の方が活発に活動しておられると聞いておりますけれども,他方,このCOにおいては,慈善団体の人が人的基盤としてバックアップしているということはあるんでしょうか。 ● 明確には聞いていないのですが,さっき言いました,地方によってCOの受け止め方が違っていて,例えばアンペイドワークをするときに,うちではどういう人に来てもらって,どういう仕事をやってもらいたいと,今提案できるようになっているのですが,その際には,日本でいうと篤志家のような方々の影響力がかなり強いそうですね。ここに来て,こういう仕事をやってもらいたいと提案するなどして,その社会で受け止めるというふうな地域もあれば,例えば,マンチェスターのように重大犯罪が多いところだと,そうはいかないのですけれども,少し小さな田舎町だったら,日本でいうと昔ながらの伝統が残っていて,そういう人を入れて受け止めて改善をしようという発想が残っているエリアも多いようであります。結論として,御指摘のとおりかと思います。 ● 外国の制度としてお話を承っているときには,ゆとりを持って聞いていられますけれども,これが日本で実施できるかというお尋ねになると,なかなか答えが難しいですね。 ● 御意見ということですが,日本で実施できるかどうかということだけではなく,感想とか,そういったことも含めて,もしお気付きの点がございましたら御発言をお願いしたいと思います。 ● イギリスにいると,同じ英語圏であるアメリカの情報はすごく集約的に入りやすいと思うんですが,イギリスの学者や実務家は,アメリカの電子監視というものと自分の国の電子監視を比較して,どういうふうに感じているんでしょうか。アメリカは特殊なものだと思っているんでしょうか。 ● これは,前々回,電子監視の話になったときに私が申し上げたことかもしれませんが,イギリスでやっているEMは,ピンポイントでそこにいるかということを確認するものですね。夜間外出禁止命令,カーフューがかかって,11時から6時に居宅のラインフォンがある所にいるかどうかチェックできるのですね。少しそれがゾーンディフェンスのようになってきて,ここからここまではだめだとか,どこに動いているかが追跡できるようにもなりつつあります。しかし,本来は,ピンポイントの,割と古典的な,原始的なサーチがなされるのですが,アメリカの場合は,本当にオンタイムでずっと追っていくようなものが増えてきていますね。ですから,そこまでやるようになると,前々からここでも御意見が出ているように,EMを科すということがその人の人権上どうかという問題が出てくるのではないかと思います。 ● ありがとうございました。分かりました。 ● 一番たくさん使われているのは,アンペイドワークのようですけれども,これも日本語でどう訳すのか。働かせて給与を与えないと正面から言い切ることが許されるかどうか。もちろん一方で,財産刑というのがあって,財産を剥奪できるわけですけれども,そのバリエーションとしてとらえることができるのかどうか。その辺,なかなか実際やろうとするといろいろ問題が出てきそうな気がするんですけれども,イギリスではそういう角度からの疑問はないわけですね。 ● これは,財産刑との比較は出てきませんでしたけれども,COは刑罰である,しかも,拘禁をしないであげてやっている刑罰なんだと。それでどうして不満があるのか,というのが,制度をつくっている方の意見です。COの最長時間が300時間まで延びていますから,やっている本人の不満は先ほど少し申しましたように,あることは確かですが。これだけ無償で働くというのは相当厳しいというのは確かなのですが,制度をつくるときには,やはり刑罰であって,同意は不要というところで切るしかないのではないでしょうか。 ● そこのところで,先ほどお話が出た一種の刑罰だという概念規定が効いてくるんだろうと思います。一方,そうなりますと,日本の感覚では手続法の問題ではなくて,実体法の問題であり,刑法に規定しなければいけないのではないかという気がしますが,クリミナル・ジャスティス・アクトというのは,手続法でしょうか。 ● はい,そうです。ですが,量刑宣告などというのは,やはり量刑目的からスタートして犯罪者の顔を見て決めていくものなので,刑法と刑訴が,まさに領域が重なっている問題ですね。さっきも申しましたように,リハビリ思想,応報思想の相克がありますものですから,半分ほどがやはり実体刑法の話かなと思っております。 ● 一つだけ質問ですけれども,このアンペイドワークの仕事というのは,どうやって調達してくるんでしょうか。 ● 報告でも,御質問にもお答えしたと思うんですが,最近は,ちょっと楽になっているようでして,地方の人が,うちの地方では,あそこの落書きを消してほしいとか,あそこのチャーチの墨を落としてほしいとかいろいろなことを言ってきて,そこで行ってやるそうですね。   具体的なことは分からない部分もありますが,一つ言われていたのは,自分の住居エリアに戻ってこさせても良い場合と,悪い場合があるわけですね。犯罪者だといって石を持って追われる地域もあれば,逆に犯罪者が被害者を見付けて二次的被害を与えることもあるので,そういった事情にプラスして,どういった仕事ができるのか。それからその緊急の度合いですね,災害が起こったときに橋を直してくれとか,あるいはチャーチの窓が割れたので直してくれと,そういったものが来ることに危険がないと思えば,そこに派遣をしてやらせているということを,伺いました。   もっとも,イギリスでも,例えば,仕事を受注する際の民間業者との競争などというのはどうなっているのか,という話があり得るのですが,あちらでは今まで余りそういう話はなかったそうです。それは,民間業者がやらない仕事をアンペイドでさせているという面があるからだと思います。 ● やらせるべき仕事がなくなってしまうとか,そういうことはないんですか。仕事がないから,しばらく待っているなどということはないんでしょうか。 ● 例えば,さっき言いましたけれども,仕事と言えるかどうか分かりませんけれども,まず,公園の草刈りをしないといけないですね,すぐ伸びますし。それから,ベンチの掃除をしないといけません。日本人が余りしないような,彼らが言う仕事というのは幾らでもあるんです。それは,お金には換算できませんけれども,やはり社会に対して戻していくという意識が強いので,大都会でやるとすれば,地下鉄の駅周辺でごみを拾ったり,そういったことになると思うのですが,それを地方でもやると。ですから,さっきから出ていますように,仕事とあるべき報酬との1対1の対応というのは無理やりしないことにしていまして,だから仕事を見付けてこれるのだろうと思います。 ● 民間業者との競合は余り問題になっていないという意味では,やった方がいいけれども,やらなくてもいいみたいな,そういう仕事が多いということなんですかね。 ● そうですね。あるいは民間業者が業としてできない仕事ですかね。やるべきなんだけれども,社長さんがいても社員が来ないような,お金を払ってもみんなが余り進んでやりたくないような仕事をさせているのかもしれません。   例えば,さっき出ていましたけれども,チャーチでお墓の掃除をするというのは,それは進んでやるべき仕事なのですけれども,お金をとってまでやらせるか,民間業者がするかというと,それは抵抗がある。そこに,公共道徳を養わせるためにさせているというのがスタートのようです。その延長上に,どのような仕事まで取れるのか,ということがあるように思います。 ● 今の質問と関連するんですけれども,私がアメリカに行っていたときに,まさにこういう社会奉仕みたいなことをやらせるのと,あと委員もちょっとおっしゃっていた修復的司法の話を絡ませて,例えば窃盗に入った家で捕まって,まさにその家の例えば芝刈りとか,落書きを消すとか,そういった命令しているのを見たことがあるんですが,イギリスではそういった例というのはあるんですか。 ● やります。やりますが,今言ったみたいに,被害者が望んでいないとか,あるいは犯罪者が本当にそれに従って心からやらない場合などというのは,別のところに配置してやらせるそうですね。 ● そろそろ予定した時間がまいりました。   ほかに御質問,御意見ございますでしょうか。  ございませんようでしたら,本日の議題の事項については以上で終わることにしたいと思います。   ○○委員には,非常に長時間にわたって御報告と質疑応答をしていただき,どうもありがとうございました。   さて,前回,お諮りいたしましたように,今後は諸外国の関連する法制度の調査につきまして,その結果を順次御報告いただき,質疑応答や意見交換を行いたいと思っております。   次回に御報告いただける調査結果があるかどうかにつきまして,事務当局にお伺いいたします。その点いかがでしょうか。 ● 前にも御説明いたしましたけれども,神戸大学の○○先生にお願いして,ドイツにおける公益給付を義務付ける制度等につきまして調査していただいているところでございますので,次回は,その結果について御報告いただく予定でおります。 ● それでは,次回は○○先生からドイツにおける公益給付を義務付ける制度等につきまして,御調査いただいた結果を御報告いただいて,それについて質疑応答をさせていただきたいと考えております。   それでは,次回の日時,場所等につきまして,事務当局の方から御確認をお願いいたします。 ● 次回につきましては,6月22日金曜日午後5時からということで予定しております。場所につきましては,法務省地下1階の大会議室でございます。 ● ただいま御案内がございましたように,次回は6月22日金曜日に,法務省地下1階の大会議室において会議を行うことといたします。   開始時刻につきましては,ただいま御案内がございましたように午後5時からということですが,恐縮ですけれどもよろしくお願いいたしたいと存じます。   それでは,本日はこれで散会といたします。   どうもありがとうございました。 ―了―