法制審議会間接保有証券準拠法部会 第18回会議 議事録 第1 日 時  平成19年7月17日(火)  自 午後1時31分                        至 午後4時44分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  ヘーグ間接保有証券準拠法条約について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● それでは,定刻になりましたので,法制審議会間接保有証券準拠法部会の第18回会議を開催いたしたいと思います。   (委員の異動報告省略)   審議に入ります前に,事務局に配布資料の説明をしていただきます。 ● 本日使います資料は,従前どおり22番と26番でございまして新たに配布するものはございません。 ● それでは,事務局から前回の部会以降の状況について説明をしていただきます。 ● 前回の部会以降の状況でございますが,ヘーグの在オランダ日本大使館から得た情報でございますけれども,EUでの検討の状況でございますが,昨年11月にEUの会合が開かれたことは随分前の部会で御報告を差し上げたわけですけれども,その際,一部の国から反対があって,この条約を批准する方向で作業を進めることにはならなかったということでございます。   その後の状況でございますが,現在はフォーマルな形での会議は開かれていないそうでございまして,インフォーマルな形で関係国で協議が続けられているということのようでございます。しかし,反対国の反対はかなり強いようでございまして,反対国の説得には時間が掛かりそうであるということでございます。   反対の理由でございますが,システミック・リスクの問題と各国国内法制の整合性の問題があると。そのほかに,口座管理機関等が準拠法を選択することができるというこの条約の当事者自治の考え方そのものに対する懸念も表明されているということのようでございまして,批准の方向に向けて合意を得ることは相当時間が掛かりそうだということでございます。   以上です。 ● ありがとうございました。   ○○委員,何かお聞き及びのことはございますでしょうか。 ● 特にございません。 ● ございませんか。   今の御説明に対しまして,御質問ございますか。あるいは,御意見でも結構でございますが。--ございませんでしょうか。   では,今,お話のありましたような諸外国の状況を踏まえまして,今後この部会をどのように進めていくかということについて,事務当局のお考えをお聞きしたいと思います。 ● これまでこの部会におきましては,アメリカ,ヨーロッパ等の状況を見ながら,それとの整合性をとりながら,この条約の批准に向けて検討をするということで御審議いただいてきたわけでございます。アメリカは前に御報告いたしましたように,署名をして,批准の作業に取り掛かっているらしいということでございますが,EUの状況は,先ほど御説明申し上げたとおりで,この先どのように進展するのか見えないという状況でございます。   他方で,この部会は法制審議会の部会の中で最も長い期間の部会になっております。これは条約ができる前から御審議を始めていただいて,条約ができた後も批准のための御審議をしていただいてきたという状況でございまして,このまま諸外国の状況を見つつと言っていても,この部会をいつまでやらなければいけないか,きりがないという状況になってしまうおそれがあると事務当局としては考えた次第でございます。   批准するかどうかというのは外務省が最終的にはお決めになる問題であり,その際にはヨーロッパの状況がどうなっているかということを踏まえながらでないと批准の可否は決められないと思います。ですから,そういう留保付きにならざるを得ないと思いますが,当部会としては当部会の御審議を進めていただいて,できますことならば,来年の2月ころに法制審議会の総会が予定されておりますので,その総会に部会の検討結果を報告するという形にしてはいかがかと考えております。ヨーロッパの状況が分からないわけですから,批准すべしとか,批准すべきでないとかいう報告は多分できないと思うんですが,この条約にはこういうメリットがありますとか,もう少し言えば,ヨーロッパも批准するなら批准するに値するものではあるとか,そういうような御報告をしていただけるのではなかろうかと思っております。   そこで,そういう御報告を取りまとめていただいて,部会の審議を終了して,総会に報告するということで今後の作業を進めさせていただければと思っております。これまでは,ヨーロッパの状況を見なければいけないということで,この部会は年に数回,3か月,4か月おきに開かせていただいていたのですけれども,今申し上げましたようなことを作業目標にするということから,今年の秋から月1回のペースで集中的に御審議をしていただきまして,できれば本年中に総会への報告の内容をお取りまとめいただくと。そして,来年の法制審議会総会に部会長から御報告いただいて,検討を終えるということにさせていただきたいと思っておりますので,よろしくお願いしたいと思います。 ● ただいまの事務当局からの説明に対しまして御質問ございますか。御意見でも結構でございますが。   はい,どうぞ。 ● それで結構だと思いますけれども,審議会ですので,諮問があったはずで,それに対するお答えをするというのが任務だと思うのですが,諮問の内容を私は記憶していないので,そこを伺いたいんです。その中に条約の批准とか,条約が適当かどうかだけではなくて,仮に批准しなくてもこの問題について国内法的にどうあるべきかというオプションもあり得るのかどうか。要するに,条約としては発効しないかもしれないわけですが,そうだとしても,日本法として法の適用に関する通則法では困る点があるとすれば,何か特則を設けなければいけない。その内容がもしかすると条約と同じになるかもしれませんけれども,そのような形もあり得るということも,答申の内容に含まれ得るのかどうか。それは諮問等の関係で決まるのではないかと思いますので,伺いたいと思います。 ● 諮問の内容を,今,正確には覚えておりませんけれども,まず第一に,この条約の作成作業の当時からこの部会は設置されていますので,条約の作成についての対処方針を議論するということと,条約ができた暁にはその批准についての意見を述べられたいと,こういう内容であったかと思います。○○委員がおっしゃるような選択肢の報告をするということも,論理的にはできないわけではないと思いますが,それが妥当なのかどうかということについては,慎重に御議論いただければと思います。 ● ほかに御意見あるいは御質問ございませんでしょうか。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   前回は,部会資料22の国際的な証券決済事例の説明諸図の事例2-2について,かなり長くやっているわけですが,部会資料26の第4の2に基づいて御議論いただいている途中で時間切れになってしまいました。   今回は,前回の御議論に引き続きまして,部会資料22の事例2-2に関する議論の途中から御議論いただき,部会資料26に基づきまして時間の許す限り御議論いただきたいと思いますが,先ほど事務当局からの説明がありましたように,本年中に総会への報告を取りまとめるという日程からいたしますと,これからはこれまでよりも効率的に検討を進めることが必要なのではないかと思われますので,御協力のほど何とぞよろしくお願いいたします。   なお,途中,区切りのいいところで休憩をとりたいと思っております。   では,事務当局から,前回の議論の概要と前回の議論に基づきまして事務当局で検討するとされていた点について説明していただきます。 ● 前回の議論でございますが,部会資料22の2-2,英国の例について,この条約を批准して日本法が準拠法となるとしたらどういうふうになるのかということについて御議論いただいていた途中で時間切れになったわけでございます。この議論はもう2回か3回ぐらいやっていただいているわけでございますが,前回時間切れになったときに議論していただいておりました内容は,2-2の例で言いますと,サブカストディX'''が顧客の証券を自己のものと偽って,この図には出てきませんけれども,Zに売却して,Zが自己の口座管理機関Yと合意している準拠法によれば,善意取得が認められるという場合であって,Aについていまだ減額記録がされていないという事例でした。この事例で,勝手に証券を売却されてしまった人は,ここに出てくる国内機関投資家Aになります。そして,Zについては増額記録がされたわけです。ところが,Aについてはなぜかまだ減額記録がされていなかったという場合に,Aが権利を失うのかどうかということについて御議論いただいていたところでございます。   それとの関係で,今まで議論してきました37ページ問題について,エクスプラネタリー・リポートではどういう取扱いになっているのかということについて,○○幹事から問題提起をいただいたところでございます。   そして,エクスプラネタリー・リポートにどのような記述がされているのかということを事務当局で改めて確認しますというお約束をしていましたので,調べた結果を御報告したいと思います。   4-43から4-51まであたりがこれに関係する記述でございます。4-43以下には,例として例4-12から4-18まで幾つかの事例が出ているわけでございますが,この前提としている事例はすべて,譲渡人側であるAの口座については減額記録がされているという例でございます。   前回御議論いただいたような譲受人側は増額記録がされたけれども,譲渡人側は減額記録がされていないという事例についての議論はされていないというのが第一点でございます。ただ,このエクスプラネタリー・リポートを見ますと,譲渡の例と担保権設定の例の双方が出ておりますが,いずれにつきましても,譲受人側,先ほど申し上げた例でいうとZでございますが,Zが権利を取得するかどうかは,どの事例の場合においても,Zとその口座管理機関Yとの間の準拠法によって定まるということが書かれております。   それから,Aの減額記録は既にされているという事例が前提ではございますけれども,その減額記録が取り消されるかどうかは,Aとその口座管理機関Xとの間の準拠法によって定まるんだと。もしもAとXとの間の準拠法によって減額記録が取り消されるということであれば,Aはその口座管理機関Xに対して権利を持ち続ける可能性があるわけですけれども,そうかどうかということはZの権利取得には何らの影響を及ぼさないということが書かれているわけでございます。   それから,○○幹事から前回御指摘いただきました37ページ問題の関係でございますが,確かに○○幹事が指摘されたとおり,このエクスプラネタリー・リポートの最終版においては,37ページ問題を正面から書いているくだりは見当たらないと思われます。   37ページ問題とは何だったかということをもう一遍確認しておきたいと思うのですが,先ほどのAの証券を勝手にZに譲渡してしまったという事例の場合に,1個のものを移したんですから,Aの証券という1個の証券をZに譲渡した場合は,ZとAの二重に権利が生ずるということはあり得ない。だから,Zが権利を取得すれば,その反射的な効果としてAの権利は失われるという議論でありまして,外交会議のときにはそういうことで合意がされたやに御報告をいただいておりますが,エクスプラネタリー・リポートではそういうような書き方をしている部分はないということでございます。   要するに,Zの権利がどうなるかは,Zとその口座管理機関との間の準拠法によって定まり,Aの権利がどうなるかということについては,Aとその口座管理機関との間の準拠法によって定まるということ。それ自体は当たり前のことなんですけれども,Aとその口座管理機関との間の準拠法によって,Zが権利を取得したときにはAの権利は失われるという実質法が準拠法となるのであれば,Aの権利は失われるということを書いているということでございますが,実質的にはそれが37ページ問題に対する答えなのかと思われます。ですから,実質が変わっているわけではないけれども,書き方が違っているということであろうかと思います。   多分その37ページ問題を意識して書かれたと思われるくだりが4-49でございます。その前から関係してくるんですけれども,口座管理機関は負債を二重に負担するというリスクを負うことになる場合があるということが書かれています。つまり,Zも権利を取得し,Aも権利を失わないということになると,口座管理機関はZにも権利を取得させて,Aにも権利を取得させなければいけなくなるという二重のリスクを負うことになるおそれがあるわけです。それは,4-49に書かれているところでは,証券の国際的な移転に関して常に存在してきたものであって,この条約によってそのリスクが発生したわけではないという説明をしているわけでございます。ですから,そういう二重のリスクが生じるかどうかは,準拠法がそれぞれどういうふうに定まるかによって決まる問題だけれども,そういうことは今までもあった問題であるということが書かれているわけでございます。   前回の部会で御議論があったAの口座に減額記録がされていない場合については,冒頭にも申し上げましたとおり,エクスプラネタリー・リポートが明瞭な答えを出してくれているわけではないんですが,逆の例が挙がっております。   例4-14のところですけれども,先ほど来御説明している事例で言いますと,譲受人側であるZの口座に,この事例ではCと書いてありますが,増額記録がされなかったという場合はどうなるのかということが書かれております。その説明は,Cの口座には増額記録されない例4-14において,CがYの口座に対する証券の増額記録に起因する何らかの権利を有するかどうかという問題は,Yの口座について本条約によって決定される準拠法によって規律されると。つまり,Yのところまで増額記録はされているから,Yで決められるという記述がされております。   さらに,それにプラスアルファといたしまして,ユートピア法--ユートピア法というのはCとその口座管理機関であるYとの間で決めた準拠法ですが--によって,Cは,Yが実際に証券をCの口座に増額記録したかどうかにかかわらず,権利を付与されるというような取扱いになることがあるだろうということが書かれているわけでございます。   では,減額記録がされていない場合はどうかということですけれども,減額記録がされていないということはAの口座に記録がされているわけでございますので,Aが減額記録がされていないにもかかわらず権利を失うのかどうかというのは,AとAの口座管理機関であるXとの間の準拠法で決まるということになるのではなかろうと思います。ですから,それは前回の御議論のとおりではなかろうと思っています。   以上です。 ● ありがとうございました。   何か御意見ございますでしょうか。   ○○幹事,御意見伺ってよろしいでしょうか。 ● 今,○○幹事からお話があったとおりだと思います。先ほど4-49の記述との関係でリスクに関するお話があったと思いますけれども,私がちょっと調べたところ,EUの一部で決済との関係でリスクがあるのではないかという話も,一つの口座管理機関が準拠法が違うと二重のリスクを負うような可能性がある,その点をとらえてそのような議論がされていると思います。ですから,口座ごとに法律が違えば二重に権利を負担するようなリスクがあるというような理解は,ヨーロッパにおいても同じような理解で,先ほど○○幹事からお話があったような,口座ごとに決めるということがエクスプラネタリー・リポートで言われているんだと私も理解しております。 ● ありがとうございました。   ほかに何かございませでんしょうか。   ○○委員,何かおっしゃることございますでしょうか。 ● ありません。 ● そうですか,どうもありがとうございます。   ほかに,この第4の2のこの条約によって日本法が準拠法となる場合の考え方について,さらなる御意見,あるいは,御質問はございますでしょうか。かなり長いことやっているものでございますが,よろしいですか。   御意見,御質問等がないようでございましたら,事例3に基づいて御議論いただきたいと思いますが,よろしゅうございますか。   では,部会資料26の第5の部分について,事務局から御説明をお願いします。 ● それでは,部会資料26の第5,事例3についてでございます。事例3はというのは,部会資料22の事例3(保護預り顧客の担保差入)でございます。これについて御議論をお願いしたいと思います。   御議論いただく内容は今までと同じでございまして,これは「現行法例」と書いてございますけれども,通則法ができましたので,通則法になるわけでございますが,通則法における準拠法はどうなるのかと。これは事例1-1の場合と同じと考えていいかという書き方をしております。事例1-1は大分前に御議論いただいたものでございまして,国内店頭取引などの場合,これは末端の投資家が国内証券会社に口座を持っていて,その間で取引がされるという場合だったわけです。しかし,証券は外国の証券でCSDも外国にあると。証券は券が発行されている場合もあるし,発行されていない場合もあり,発行されている場合はどこかの国に預けられていると。CSDの金庫にあるけれども,それがどこにあるか分からない場合もあると,そういう例だったわけです。   それについては,通則法にはもちろん何の規定もないわけですので,いろいろな考え方があり得る。券がある場合は,従来の基本的な考え方からすれば券の所在地によって決まるということになりそうだけれども,違う考え方もあるだろうというお話があったかと思います。それから,券がない場合,発券されていない場合については,それをどのように取り扱うのかというのは,現行の我が国の国際私法上ははっきりしないということであったわけでございます。この保護預り顧客の担保差入の場合もそれと同じ扱いになると考えてよいのかどうかというのが一番目に御議論いただきたいところでございます。   二番目に御議論いただきたいのは,この条約に加盟して,かつ,末端の投資家が証券会社との間で日本法を準拠法とした場合にどうなるのかという問題でございます。これもこれまで2-2までの事例で御議論いただいてきたわけでございますが,準拠法を日本法と定めれば,準拠法は日本法になるというところは非常に明瞭になるということがこれまでの事例では言われていたと思います。ただ,準拠法が明確になった場合に,実質法がどうなるのかということについては,結論にはあまり差はなかったと思いますけれども,社債株式振替法の類推適用,あるいは切出し適用によるという考え方,あるいは混蔵寄託の理論によるというような考え方など,理論的な説明の仕方は幾つかの御提案をいただいたと思います。それが保護預り顧客の担保差入の場合に違うところがあるのかということを御議論いただきたいわけでございます。   部会資料22の事例3を御覧いただきたいと思います。この事例が今までのものと違いますのは,まず第一に担保の差入であるという担保取引である点でございます。ですから,前回もちょっと御議論いただいた相対での取引に必然的になるわけでありまして,市場取引ということは考えられないわけでございます。この事例は,国内機関投資家Aが,外資系証券会社Bに担保差入をするという説明でございますが,Aは国内証券会社Xに証券を持ってもらっていると。Xは海外にあるXのカストディX’を通じて口座を管理していて,そのX’は海外のCSDの参加者というか,口座管理機関になっていると。Bの側は,海外のCSDの直接の口座管理機関である現地カストディY’を通じて,国内のカストディYを経由して口座を持っているという事例でございます。   したがいまして,AからBへ担保差入する場合は,Aの口座にも担保を入れたことが記録され,Yの口座に担保をとったと。質権なら質権をとったと,あるいは,譲渡担保であれば保有口に取得したということが記録されるわけですけれども,増額記録がされるほかに,X’,Y’それからCSDが持っているX’,Y’の口座にもそれぞれ増額,減額の記録がされるということになるわけでございます。その点では前回まで議論していただいた事例2-2などと変わらないわけでございます。ただ,担保の差入であるというところがこの事例の特殊性ということが言えるかと思います。そこで,この条約を批准していない現段階,現行の通則法の下でこの事例について準拠法がどうなるのかということを御議論いただければと思います。 ● それでは,御意見はございますでしょうか。 ● 担保という場合に,先ほども説明で申し上げたんですけれども,譲渡担保の場合と質の場合があり得るわけですね。譲渡担保の場合は,担保のためにする譲渡なんですけれども,通常の譲渡と同じだと考えていいのか。それとも,担保のためだということで,普通の準拠法の定め方と違うようになる可能性があるのかということを教えていただければと思います。   もう一つは,質入の場合,質権ですから,物権ということになりそうですけれども,券があれば質権の設定でも株式とか社債の質入れになるわけですが,物権の準拠法で物の所在地,したがって紙の所在地ということで,所有権の移転の場合と同じに考えればいいのか。それとも,もともと担保物は物ではなくて株式とか社債というものですので,券がある場合でも違うように考えるのかということ。   それから,券の所有権というのか保有権の移転のときにも問題になったわけですけれども,券がそもそも発券されていないフランスの株式とか日本の振替社債とかというものの質入れのときは,現行法の下でどう考えるのかということを,国際私法の先生方に御教授いただければと思うんですが。 ● いかがでしょうか。--はい,どうぞ。 ● 私が答えるのが適当かどうか分かりませんし,たくさんお聞きになったので,どこから答えればいいのか分かりませんが,少なくとも現行法の条文上は担保物権であれ物権であれ一つしか条文がないので,準拠法の決め方が違うということは条文上は出てこないですね。ただ,従来の議論というと,法定担保物権については,被担保債権の準拠法上それが認められる場合でなければいけないという議論がございました。私はそういう見解をとらないので,担保であれ通常の物権であれ準拠法の決め方は変わらないと思っています。   ですから,準拠法を決めた後,それが譲渡担保だったらどうなるかという話は実質法の話としてあるはずですが,形式上譲渡なのに何らかの取戻しの特約が第三者対抗要件までもって存在するということが仮にあるとすれば,それは実質法の問題なので,国際私法は関係ありませんということになるのではないかと思います。   この図でも,今,御質問のあった点でもそうなんですが,何を担保に入れるかで準拠法が決まるので,紙を担保に入れるのであれば,動産なのでその所在地法ということになり,たまたまその紙が特別の紙で権利を表章していて,無記名であれば,それを持っている人が権利行使できると。それは証券法制でそうなっているだけで,紙の所有権はないですかという話であれば,紙の所在地法だということになるのではないかと思います。ただ,その紙を入れるのではなくて請求権,何らかの債権的な権利を担保の目的とする場合については,最高裁の判決があって,当該債権の準拠法によるといっております。   この図の場合に,AのXに対する単なる取り戻す権利ですかね,自分が預けた物を返還してもらう権利を担保にしていると。それはその準拠法ということになるんだろうと思いますが,当事者としてはそういうふうに考えてはいなくて,会社なり発行者,国かもしれませんが,その発行者に対して持つ権利を譲渡しているつもりなんでしょうけれども,この条約の考え方だとそれぞれ準拠法が違ってくる可能性があるので,先の先まで見通した権利をAが持っているということにして,譲渡するのかどうかはよく分かりません。   もしやるとすれば,自分の証券会社が,上に持っている権利を,証券会社に対する権利をもって代位していくと。代位の代位というのでずっとつながっていくとすれば,全部の準拠法が認めないと駄目ということになるのではないかと思います。ですので,そこを条約のスキームがどうしているのか。現行法ならどうかというのはどうなんでしょうか,そこはそもそも何を担保の目的にしているのかということを決めていただければ,国際私法の答えは出すことができるのではないかと思いますけれども,国際私法が決める問題ではないのではないでしょうか。担保の目的は何かは当事者が決める問題ではないかと思います。 ● 今の○○委員のお話は,前にも何回か同じような議論があったところだと思います。対象が担保に変わっただけなわけですが,AがXに預けている証券を担保に入れるという場合は,少なくともAとBの間では,AのXに対する債権的な権利を担保に入れているということはなくて,Aの発行体に対する株式なら株式,社債なら社債を,Bに担保に入れているというのが実務の実情なのではないかなと思うんですが,○○委員,そういう理解でよろしいですよね。 ● そうですね。 ● そういう前提でさらに御説明いただくとすればどうなりますでしょうか。 ● そのためにはAが発行体に対する権利を持っていなければいけないですよね。それがそうであるかどうかは,紙が出ているのか出ていないのか,出ていなければ,発行体に対する最初の権利者の権利が何法によっており,それをずっとたどってAまでその権利がつながっているのかどうか。もしつながっていなければ,自分の持っていないものを担保に入れようとしているだけで,それは駄目ですと言いますか,うまくいかないと思います。 ● 階層になっているところを気にされていると思うんですけれども,これもほかの事例でこれまでに御議論のあったところだと思いますが,日本の保振法とか社振法は末端の投資家が直接発行体に対する権利を持つと。フランスもそうだと言われているようですが。それに対してアメリカとかイギリスなどは,各階層の口座管理機関が一定の権利を持っていて,末端の投資家というのは,自分の直近上位の口座管理機関に対する権利を持つという,信託的な構成ではあるんですけれども,実質的には発行体に対する権利を持つのと変わらない内容の権利を持つという形になっている。   ですから,前から○○委員が何回もおっしゃっているように,法律構成には違いがあるけれども,実質的にはそんなに違いがあるわけではないというお話なんですね。そうであるということを前提にこの条約もできているんだろうと思うんですが,それでも上から順番に一つひとつ考えないといけないということなんでしょうか。 ● 今の前提は条約がない場合にどうなるかという話ですよね。そのときに発行体がだれに対して債務を負っているかは,当該権利の準拠法によりますよね。株式であれば設立準拠法だと思いますし,社債であれば準拠法は決められるかもしれません。ただ,それで紙を出してしまうと,紙を持ってこないと駄目ということになっているとすると,紙の占有者というか権利者に話は変わってしまう。それは最初のところでどう決まっているかが決め手ではないでしょうか。 ● ちょっと話がずれてきちゃったと思うんです。というのは,今,発行体がだれに対してどういう債務を負うかという話をされたんですけれども,それはここで議論していただく対象外で,Bが担保権を取得したのかどうかという問題。どういう担保権,権利を取得したのかというのは発行体との関係がどうなるかということがあるわけですけれども,この条約が対象としているのは,Bが完全に有効な権利を取得しているのかしていないのか,そういう問題の決着を付ける準拠法を定めたのがこの条約でございますので,その条約がないとしたときに,Bが担保権を取得しているのか,取得していないのかというような問題を考える,その準拠法は何かということを御議論いただければと思うんです。   ちょっと言い方が悪かったかもしれませんけれども,発行体に対してどういう権利義務関係があるかというのは,この条約を批准しても,この条約が定める準拠法では決まらないということになっています。そこは発行体との関係の問題でして,例えば株式なら名義書換しなければいけないとかいろいろな問題があるのと同じ問題ですので,それはこの条約が準拠法の問題として議論している外になっています。ですから,そういうものではなくて,A・B間に権利の移転が起きたという言い方はよくないのかもしれませんけれども,Bが担保権を取得したのかどうかという問題について,現行の通則法の下ではどうなるかということに絞ってお話をいただければと思うんですが。 ● たびたびすみません。何を対象にしているかという話は抜きにできないので。担保に入れると言っているんですが,どの権利を入れたんですかということですよね。発行体までつながっていないのであれば,しょせん債権でしかありませんということになるんじゃないですか。「つながっているんです」と言うためには,最初のところからずっとつながってこないと,下から考えるわけにはいかなくて,債務者が負っている権利は決まっているはずですから,それ以上の人が債務を負うはずがないので。   一番上を見ないと一番下までつながっているかどうかは議論できないのではないかと私は思っています。下だけ考えればいいんだというか,AとBの下の方のレベルだけで考えればいいという発想は,security entitlementか債権か分かりませんが,上につながっていない権利という前提ならば,それでいけると思います。何度も同じようなことを言っているような気がしますが,つながっているかどうかは,一番上の債務者の負っている準拠法を抜きには考えられないと私は思っています。 ● もう少し御説明いただければと思います。今のお話は,例えば株主権のようなものの譲渡というふうにお考えなのでしょうか,つながっているというのは。 ● 株主権であれ社債であれ,最終的な債務者が一番上にいるはずで,そこにつながっている権利を取引しているんだという以上は,最初の人が負っている債務の準拠法を考えないで議論するというわけにはいかないでしょうと。ですから,上から順番に考えていくのではないかと申し上げているんです。 ● 何か御質問がございましたら,どうぞ。○○委員の御意見に対して。 ● ○○委員のお考えですと,A・B間で,Aが国内証券会社Xの口座に持っている証券,例えば株式をBに質入れするという合意がされていたとして,それについてどういうふうに準拠法が定まるのかというのが決まるためには,この3の図のような事実関係が全部明らかにならないと準拠法は決められないと,こういうお考えというふうに承っていいんでしょうか。 ● Aが何を担保に入れたのかが決まれば決まると思います。だれに対するどういう権利を担保していたのか,それはAが確かに持っている権利であれば担保に入れられますが,ずっと上の方の人に対する権利なんですと言われると,それはずっと見ていって,Aさんが権利者なのかどうかを確認せざるを得ないんだと思います。 ● 例えば現地CSDがアメリカのDTCだったといたしますと,少なくともX’Y’はsecurity entitlementということになるはずで,そうなりますと,security entitlementの中身の問題にもかかわるんですけれども,第一義的にはAのXに対する権利があって,XのX’に対する権利,X’のCSDに対する権利,CSDの発行体に対する権利と,こんな形になっている。しかし,実質はAが,それが株式なら株式を持っているのと同じようになるようになっているということなんですね。その場合に信託的な構成だとAのXに対する権利を質入れすると,BがXに対する権利を持つはずはないんですよね。   本来,質入れするのであれば,もとの権利を質入れするので,AのXに対する権利をBが取得するみたいな感じで,先ほど○○委員もおっしゃられましたし,我々もそんな感覚なんですけれども,少なくともsecurity entitlementを質入れするときはそうなるわけではなくて,質権者は質入れ側の口座管理機関であるXに対する権利をBが取得するわけではなくて,BはあくまでもYに対する権利を取得し,YがY’,Y’がDTCというような形で権利を有していることになります。しかし,取得する権利の内容が担保権という権利の内容になるということなんですよね。   そこをもう少し分かりやすく,○○委員あるいは○○幹事から御説明いただければと思うんですね。ですから,法律構成自体は,アメリカ法ですと全然違いますので,今,○○委員が言われたような仕組みでは説明できないのではないかという感じがするんですけれども,○○委員,○○幹事,いかがでしょう。 ● 間違っているかもしれませんが,例えばAがアメリカの法人に対する株式をBに担保に入れましたと。ところが,仮にAがつぶれて,管財人がBへの移転はおかしいと言って争っているというような例だとしますと,少なくとも私の理解では,いろいろな考え方があるというのが現状だと思います。ですから,考え方が分かれていてはっきりしないと。一つは,株式が証書に表章されているかどうかをまず見た上で,証書に表章されているのであれば,物権的な問題なんだから証書の所在地の法律によろうというふうな考え方は一つあるのかなと思います。   他方で,イギリスの判例で,株式の場合には株主権みたいなようなものがありまして,法人の設立準拠法によるという処理をしたような事案もあると思いますので,そういった考え方もあるかもしれません。日本国内でそういうことを明確に主張されている方はいないと思いますけれども,そんな処理の仕方もあるのかなと思います。   他方で,A,Bが日本法人の間ですと,山形地裁の酒田支部がやりましたように,担保設定契約というのは日本法を準拠法として,日本語で日本国内においてなされていると思いますので,そういった債権的な問題を物権的な問題にまで拡張して,占有改定とか指図による占有移転という日本法上の理屈を当てはめて処理をするのだというような考え方も,一つ裁判例はありますし,そういった考え方を支持されている先生もいらっしゃると思います。   他方で,この部会でも出てきましたように,証書自身があまり実質的な意味を持っていないという点に着目して,自動車の登録の判決例に寄せて,本件においては帳簿こそが大事なんだというようなことを解釈論上言って,帳簿の所在地法というような考え方もあり得なくはないと思いますけれども,この場合,帳簿が二つあるので,どっちの帳簿にするかというのは三つ目の考え方をとったとしても,なかなか容易ではないのかなと思います。   結論から申し上げますと,いろいろな考え方があるので明確ではないと。訴訟になればそれぞれの当事者が自分にとって一番有利な法律構成を主張するということになると思いますけれども,現状は少なくともそんなことになるのだろうと思います。 ● ○○幹事には,現行の通則法の解釈としてどうなるのか,いろいろな考え方があるんだというお話をしていただいたんですけれども,私が○○幹事に伺いたかったのは,DTCの下に入っている証券を担保としてやりとりするときに,security entitlementというのは信託的な構成なんですが,この例でいうとAの現地CSDがDTCだとしたときに,AからBへ証券を担保に入れるときに,Aが持っているのはAのXに対する権利という形がsecurity entitlementなわけですね。しかし,AのXに対する権利が担保に入れられるわけではなくて,Bが取得するのはBのYに対する担保権のようなものを取得するというのが,security entitlementというアメリカの実質法ではどうなっているんでしょうかということを伺いたかったんです。 ● 大変失礼しました。それは恐らく○○委員の方がお詳しいかと思います。アメリカ法の下では担保の設定の仕方が二通りあって,口座管理機関と提供者と担保権者との合意で担保権を設定する場合もあると思いますが,その場合とは別に,BがYに有する口座に担保目的で記帳がなされたということになれば,その記帳の有効性と,その記帳が担保の目的で第三者との関係でも有効になされたかというのは,AとXの間のAの権利が移転したかというとらえ方ではなしに,BがYに対して取得した記帳をAが争えるかというような形で争われるのかなと思います。 ● 争われ方を聞いているわけではなくて,実質法として担保権というのは一体どんなものなのでしょうかと。現地CSDというのは保管振替機構だとしたら,Aの持っている株式を担保に入れたなら,Bが株式質権を取得しますという形になるんですが,security entitlementというのは基本的には直近上位の口座管理機関に対する権利にプラスアルファが付いているという権利なものですから,譲渡の場合でもいささか問題はあると思うんですけれども,担保権の設定のときにBはだれのどういう権利を取得することになるのかということがもしお分かりなら教えていただきたいということだったんです。 ● それこそ後で○○委員に確認していただければと思いますが,記帳がBの口座に動いてきているようなシチュエーションにおいて,譲渡と担保で分けて考えるという考え方はしないのではないかなと思います。そういう意味では,担保目的でBがYに有する口座に記帳がなされたというのであれば,担保目的で,日本でいう譲渡担保と同じような考え方で,譲渡担保と同じ考え方というとおかしいのかもしれませんが,実質的にはBは担保取引の結果,口座管理機関Yに対して主張できるような権利を取得して地位を獲得するということになる。担保だからといってBが口座管理機関Aに対して主張できるような権利を持つわけではないんですよね,もともとはそういう権利だったわけですけれども。   それでお答えになっていればいいなと思うんですが,これ以上はぜひ○○委員に。 ● 基本的には○○幹事がおっしゃったとおりだと思いますけれども,実質法についての御質問であれば,アメリカの場合には,AのXの記帳を消して,Bの口座に記録がなされれば,Aはsecurity entitlementを法的には失い,Bがsecurity entitlementを取得すると,それだけのことで,それをどういう経済目的で使うかというのは当事者の自由ですから,譲渡であることもあれば,実質が担保であることもあるということだと思いますね。   ですから,日本のようにというか,Aが持っているsecurity entitlementを担保に入れますというか,そういうのはむしろ移さないで,Aの記帳はそのままにしておいて,幾つかやり方がありますけれども,UCCの八編によれば,例えばX,A,Bの三者で合意することによって,日本的な意味での制限物権というか担保権がそこで有効に成立し,かつ第三者対抗要件を備えたことになります。あるいは,もう一つ,より包括的に第九編に基づくファイナンシング・ステートメントを,別にこの商品だけではありませんが,ほかの動産などとあわせてファイルすることによっても,そっちの方で担保権という制限物権的な,日本で言えば担保権というものが成立すると,実質法はそういうことだと思います。   発言したついでにもう一点,前の方の問題に戻って一言よろしゅうございますか,○○委員がおっしゃった点ですが。私もどういうふうに申し上げていいのかよく分からない,実質はそんなに変わらないんですけれども,自動車であれ不動産であれ,動産の方がいいかと思いますが,目に見えるものについて,それを譲渡しましょう,担保に入れましょうというときに,国際私法はどういうふうに考えるかという考え方があって,次に目に見えるものが,例えば所有権が有価証券化された場合にどういうふうに考えるかというふうに考えていくといいと思うんですね。ただ,私が知る限り,例えば自動車が大量にあって,それを運送しますと,運送証券に保証しましたといっても,日本の実質法でいいますと,通常は所有権を表章したと構成しませんで,それに対する引渡請求権を表章しましたと通常は考えないんですね。   もっともその先で証券を渡したら物権的効力があるとか何とか,そういう議論は昔からあります。話をあまりややこしくしない方向で言いますと,問題は乗用車のように目に見えないものですから,部会長がおっしゃった株主権というんですかね,株式とか,そういうものは自動車と違ってないわけですね。ということは,紙がない世界であったら,日本法的に構成すればそれは発行会社に対して債権でしかない。ところが,紙がある場合には,これももちろん実質法によるんでしょうけれども,通常は紙を持っていないと,持っていることにならないという場合が多い。そうするとアメリカは,security entitlementというのはAのXに対する債権みたいに見えるかもしれませんけれども,日本法に即して言えば,アメリカの株式の場合には紙があって,日本法的に言えば混蔵寄託されているので,紙のプールに対する共有持分権なんですね。ですから,紙のプールに対する共有権がある,日本的に言えば。アメリカはそうは言わないで,security entitlementと言っているんです。   どういうことかというと,Aは必要なだけの紙を寄越せと言えるんですね。ただ,直接言えるかどうかいうのは別の話です。そういう意味で物権的。「物権」という言葉を使っていいかはよく分かりませんが。したがって,そういうものをAがBに担保に入れるなり譲渡しようという話を,国際私法の方でどういうふうにお考えなのか私は分かりませんけれども,それはいわば紙のプールに対する共有権で,共有持分を入れるのに,物権準拠法なんですか,債権準拠法なんですかという話だと思うんですね。   私のこれまでの理解では,伝統的に現在の法例なり通則法の考え方というのは,紙のプールであれ,そこに共有権という共有持分権についての譲渡を考える場合には,物権準拠法を適用しますと。すなわち,紙の所在地という考え方になるのではないかと思うんですが,私はよく分かりません。その紙のプールが,例えば紙が10か所にあって,10個まとめたものに対する共有持分権という構成になります。いってみれば自動車が10台バラバラなところにあって,それについてのプールしたものについての共有持分権を譲渡するときに,どう物権準拠法が適用になるかよく分かりませんけれども,ひょっとすると共有持分になった瞬間,物権準拠法ではなくて,債権準拠法で発想される考え方もなくはないかもしれません。   私がこれまで伺った範囲においては,それが紙であれ,自動車であれ,目に見えるものについての共有権というか,物権である以上は,そこは物権と性質決定する以上は,物権準拠法になると私は伺っていたということであります。そうだとしますと,どういう考え方かというのは国際私法レベルでの話だと思いますけれども,ものすごくラフに言いますと,紙があればこの世界は物権準拠法かなと,紙がなければ債権準拠法かなというふうに,私は理解してきたんです。したがって,結果は非常に単純ですけれども,途中のロジックが非常に難しいという感じがするということです。ただ素人の感想です。 ● ありがとうございました。   ○○委員,今の御意見について何か。 ● ○○委員がおっしゃった点はすべて私もそう思っています。共有持分権は物権というふうに考えた上で,そういう前提でお話をしていましたけれども,紙がある限りは紙の所在地法によるということですが,紙がなければ,債権なので,そしてずっと上までつながっているのであれば,さっきの話の繰り返しになりますけれども,下だけでは決められない。権利者と称している人たちの間だけで準拠法を決めたりはできません,債務者との関係ですので,債務者がどういう義務を負っているのかに左右されるのは仕方ないでしょうと思っています。 ● 今,○○委員は「紙があれば紙の所在地だ」とおっしゃったんですけれども,紙はこの図でいうと現地CSD,例えばニューヨークに紙がありますという場合に,ニューヨーク州法で考えるということでいいのか。先ほど「つながっているかどうかが問題なんだ」とおっしゃられたので,紙はニューヨークにあるんだけれども,つながっているかどうかがよく分からないときは一体どうなるんでしょうか。 ● 紙がある場合とない場合とで大きく分かれるので,紙があれば,そして,紙に権利が表章されていて,紙の所有者が権利者であるということになっているんであれば,最初の権利の状況で決まると思います。そうであれば,その紙の所有者はニューヨーク州であるなら,ニューヨーク州法で決まると。本来はAがBに担保を入れるときには,占有者に対して,間接的になるかもしれませんけれども,占有改定の連絡をしないと,今までは自分のものとして持ってもらっていたけれども,今後はBへの担保のために占有してくださいという連絡をしないといけないんだと思います。これは紙の前の方の話で,実際,証券会社でそういう連絡をしているかというと,していらっしゃらないような話でしたが,本来はしないと占有改定はできていないのではないかなと思います。 ● 占有改定のようなことが厳密には行われていないことはそのとおりで,これは前から何回も出てきていますように,上位の口座管理機関あるいは振替機関が持っている口座の記録は,オムニバス・アカウントなので,国によって違うところもあるらしいですけれども,少なくとも日本とかアメリカ,イギリスなどはオムニバスで,X’や,ここでいう現地CSDは内訳は分からない。つまり,現地CSDはX’が顧客全部の分として総数幾ら持っているかということは記録していますし,X’はXが自己分と顧客分それぞれ幾ら持っているかということは記録していますけれども,そのうちAの取り分が幾らあるのかということは,X’やCSDは記録していないし,そういうことをする気もないというか,そういうのが振替制度なんですね。だから,それを前提にお考えいただく必要があると思うんです。 ● 前から何回か申し上げていますが,ニューヨーク州法上,Aが権利者でないのであれば,Aは証券を物権的に担保には入れられないと思います,本来持っていないんですから。「Aは本当に権利者なんですか」とXにそう言われているだけであって,そうすると単に債権者でしかないと思います。みんな元気である限りはいいんですが,何か問題があったときに,ニューヨークにある権利のプールに対して,自分はその何万分の1持っているということを言えないのであれば,物権を持っているとは言えないですよね。それが現実だとおっしゃると,紙が出ていても,上まで紙には権利がなく,もちろん債権的にもつながってはいなくて,下の方だけの権利なんだと思います。 ● そうすると,紙が出ている場合でも,そのことだけではなくて,口座の記帳で証券を取得しているわけですから,上からつながっている一連の記帳の中に自分の持分が記録されているということまで示されないといけないと,そうおっしゃっているんだと思うんですけれども,準拠法を決めるについては証券が出ているということさえあればいいんですか。それとも,一連のつながりがあるということが決まらないと,準拠法も決められないんですか。 ● もともと発行体が何らかの義務を負うわけですよね。そのときに紙を発行する。その紙に権利を載せるということをいうわけでしょうが,載せるか載せないかは権利の準拠法次第ですね。載せることはできない権利であれば載せられませんから。紙がある限りは載せられますと,紙がある限りにおいては,紙を持ってこないと権利者ではありませんという扱いをするのであれば,その紙が問題になりますね。紙は発行地にあるとは限らないので,いろいろなところに分散されるかもしれませんし,移動するかもしれない。そうすると,だれのものかというのは,そのたびごとにその所在地法で決めざるを得ないので,イギリスに行けばイギリス法上だれのものですかということが問題になるわけです。そこまでのことしか申し上げていないんです。 ● 間接保有のことを言っているんですから,直接保有のことを言っていただいてもしようがないので。 ● そうであれば,そこから先,間接保有という名前はどうにでも付けられますけれども,実際には権利は物権的にはつながっていないことになるかもしれないですね。ベルギー法だと大丈夫ということになっているようですね。プールに対して物権的な権利があるような法制になっている国もあるかもしれませんけれども,そうでない国もあるかもしれないので,それは準拠法次第,所在地法次第じゃないですか。そこを抜きに下の方でどう約束をしようと,約束するのは勝手ですが,ものにはつながらない。上の方でつながらないと言っていればつながらないですね。 ● 私は非常に保守的な国際私法学者ですので,○○委員のように実質を見てというのは多分やらなくて,単純な話で,○○幹事がお伺いの点は,AからBに譲渡した場合ではなく,担保に入れた場合の準拠法はどうなるかということですよね。そうすると,これは権利がどうあれ,権利の支配が変わるか変わらないか,だれに帰属するかという問題ですから,現在の日本の実定国際私法ならば,指名債権の譲渡の23条か,物権その他の権利の13条しかないと思うんですね。そのどっちかの規定にいけないということであれば,条理に従って新しい国際私法を決める。この三つの選択肢しかないと思いますね。   そこで場合分けしまして,これが日本では一般的に有価証券と言われている社債とか株式であれば,伝統的な考え方であれば,支配権については紙の所在地と言われてきたと思いますし,それとは別に,今の支配の問題ですね,Aがどんな権利を持っているのかというのは別の問題として考えられてきたと思うんですね。Aはどんな権利を持っているのかということになると,それは権利自体の準拠法ですので,株式ならばまさに株券というか,株券が表章している権利はどんなものかというのは発行体を見ないと分からないので。   だから,もとの発行体までいく場合もあると思いますけれども,今お伺いの点だと,支配のところだけですから,先ほどのような物権の準拠法か,指名債権と見るか,上位にいくか,この三つしかないのではないかなと思います。ただ,普通の証券ではなく,大券が一枚発行されている,これも紙かと。確かに持分権が表章されていると言えば紙なんですけれども,移転の方式というのは振替でやっていくということになりますと,13条にいくというのはここで説が--これ以上伝統的な説はないと思うんですが,一番新しいところで説が分かれ得ると思いますね。   ですから,同じ発行体の一枚一枚,一人ひとりに証券を発行しているような場合でしたら,伝統的な考え方で紙の所在地法でいけたんですけれども,間接保有をやっているような,また,振替で権利を移転させると理解されているような場合は,むしろこれは13条ではないのではないかと。ここからちょっと外れるんですけれども,新しい考え方をした方がいいのではないかと。つまり,紙というよりも,むしろ口座の記録であるという方が実質に近いのであれば,記録の方がより支配の移転について最密接関係地であると考えた方がいいのではないかと思っております。最後のあたり,間接保有ぐらいになりますと条理説にいって。もちろんそれが券面を発行しないと,無券面の全くリマテリアライズした場合と同じように規定がないものとして,口座の所在地とか,記録のある地を見るしかないのではないかなと思っています。   記録が二つある場合はどうするかというと,ここからはまた伝統的な方法からは外れますけれども,投資家と証券会社のような争いの場合だったら,これは投資家に近いところが最密接関係地なのではないかなと思います。山形地裁の酒田支部は,物権的な支配関係を見るのに,先ほど○○幹事が説明されたように債権的な,いわゆる契約の準拠法を延ばしてしまいましたけれども,ちょっと「えい,やあ」っていう感じがするんですね。契約の準拠法を延ばすのではなく,むしろ支配関係の移転とか帰属についても,投資家と証券会社という仲介業者との間の準拠法で決めるんだというふうな,新しい国際私法というか規則をつくるべきだと思っています。 ● ありがとうございました。   ○○委員,今の御意見に対して何かありますか。--実務の方から何か御意見ございますでしょうか。 ● 非常におもしろい議論として聞いておりました。最近こういう形で担保をとるという例がほとんどないんですけれども,昔どうやっていたかというのを思い出しながらやりますと,6ページの3の図を見ますと,例えばアメリカの会社の株式の担保をとりたいという話がきまして,「これはアメリカの会社の株式ですね,あなたはそれを持っているんですか。」と聞きますと,「X証券会社に預けてあって,それはずっと上まで上がっているはずです。」と,それなりの説明がある。今度はアメリカの法律事務所に連絡をして,「Aという会社がアメリカのこれこれという株式を持っている。こういう間接保有に通じ,一番上はCSDであるそうだ。」ということで,そのときに,「それでは適切な担保をとるような処理をしてほしい。」というと,アメリカの法律事務所はCSDを含めた上のところを考えて,アメリカの発行会社等を含めて,ここのCSDを含めた上のところで,アメリカ法で担保がとれる手続を進めたという記憶ですね。   そのときの指示で,例えばCSDのXからYへ移転するような形にしなさいとか,こういう契約を結びなさいという形で,アメリカの法律事務所で処理をして,「アメリカ法上は担保が設定できました。」という意見書か何かをとっておしまいにした。そうすると,結果としては,CSDのX’からY’へのアメリカ法だけの担保設定が完了して,Y’からずっと下に下りてきた形が結果としてつくられるんだろうと思いますが,Aという投資家が途中でどういう権利を持っていたかとか,Bという新しい担保権者が途中の経過で国内カストディとか,銀行カストディという経緯で,どういうふうな権利を持っていたかはあまり気にせずに,上のアメリカの法律事務所で,「アメリカ法上権利が移転しました。」,あるいは,「担保権を設定しました。」と,ピリオドでおしまいにしていたような記憶でしたね。   そういう意味では,ここの間接保有の権利関係というのはほとんど無視して,今までのディスカッションからいうと,債権であるか,紙であるか,それの帰属はアメリカの法律事務所が決めて,「アメリカ法上は移転しました。」で,あとの日本にいる,あるいは,一番末端のAがどういう権利を失ったか,あるいは,どういう立場になったか,Bが最終的にどういう立場になったかというところまでは追いかけなかったような気がしますね。昔のやり方としてはそんな感じですね。というのは,紙がどこにあったか,あるいは,アメリカの場合はほとんどアメリカにあるので,アメリカの事務所が決めればいいんだ,あるいは,これがアメリカの発行会社に対する債権かどうかは向こうが決めて,現地の法律で確定的に成立しているなら,それでいいんだというぐらいのことでおしまいになったような記憶ですね。 ● この問題について,実務の方から御意見ございますでしょうか。 ● 外国の株式を担保にとるということはあまりやっていないのですが,国債,あとアメリカのエージェンシーサイドからはよく担保にとるんですけれども,CSDのところまでは見ていないですね。先ほど○○幹事がおっしゃった限界ですね。これはあくまでも債権として認識しているんですけれども,AのXに対する債権を譲渡すると,譲渡される債務者,Xが債務者になってしまうんですが,そこの理論的な難しさを解消するために,プールに対する共有持分権みたいなものを持ち出したのかと。特にオーソリテイティブなものを拝見して申し上げているわけではないんですけれども,それを解消するためには,何かの物権が移転しない限り,AのXに対する権利が,急にBのYに対する権利には構成できないので。これもUCCの条文そのものではなくて,アノテーションに書いてあったと思うんですけれども,それはそのために持ち出したのかなというような気はしています。   特にお客さんを大量に持っていると,自分の直近の上位機関以外は,気にしていると全く実務が回りませんので,少なくとも債権の方はそうやって処理していると思います。日本の既存の法律で処理しようとすると,○○委員がおっしゃったように,どういう権利かというのを定めないと条文には乗ってこないと思うんですけれども,先生方おっしゃったように,ここにきちんと乗る条文が今はないというのが現状かとは思います。 ● ほかに何か御意見ございませんでしょうか。 ● 一点,○○委員に教えていただきたいと思います。先ほど○○委員に米国法の御説明をいただいたんですが,二つ質問があるのです。まず第一に,日本だと,担保に入れる場合,譲渡担保と質という二つがあるわけですが,security entitlementの質はないと理解していいのか。つまり,常に譲渡担保のような形での担保設定しかないと考えていいのかというのが一つです。   二つ目は,今ここで御質問するのがいいのかどうかはちょっと問題なんですけれども,例えばXに口座を持っているAが担保に入れる場合,XとAとBの三者で合意をして,要は口座を担保に入れるというんですか,そういう形の方がむしろ普通で,振り替えるのは例外的だというお話だったと思うんですね。この事例3は振り替える形をとっているわけですけれども,振り替えないという場合,これも後で議論していただくべき事柄だと思いますけれども,振り替えないで,三者間合意で担保を設定する場合も,この条約の定める準拠法で決まると考えていいのかどうか。振替という行為がない場合もですね。   その二点を教えていただければと思います。 ● 私もきちんと理解しているかどうかあやしいものではありますけれども,質権とか譲渡担保という概念は,残念ながら1:1対応をしていないと言わざるを得ないと思うんですね。ということは,譲渡担保一つとってみても,通常,譲渡担保というのは法形式上は譲渡と何ら変わらないけれども,実質は担保のために法的解釈に当たってもそれがされるのが通常であるという程度に定義するんだと思います。そうすると,アメリカの譲渡担保と日本の譲渡担保は同じかと言われると,決して同じと言う自信はないです。   そう申し上げた上で日本の質権に当たるものは何かと言われたら,それは今おっしゃった三者間合意だと思います。例えば,直接紙を持っている場合は紙を渡すんですね。これを英語では「クレジット」と言います。それと質と1:1対応するかどうか,しようがないから「質権」と通常は訳しています。それと同じでこの場合は紙はどこかに預けてないわけですから,まさに口座に対するコントロールと言っているんですけれども,支配権をBが取得すると。だから,口座を動かせないようにするということですね。三者間合意をするということは,Aの口座に記帳されている証券を動かさないというふうに,口座管理機関が合意することですので,言ってみれば紙を押さえているのと同じで,Bから見れば口座を押さえていることになるんですね。それをアメリカは「コントロール」という概念を使って,Bがコントロールという概念を取得することをもって担保権が有効に成立し,かつ,第三者対抗要件を満たしますと,日本法的に言うと。そういうふうに定めているので,それは質に非常に近い。あえて言えばそういうことだと思います。   二点目はどちらがよりポピュラーかということですが,私もよく知らないんですけれども,○○委員などはよく御存じかもしれません。大口の金融機関がやるような場合は基本的には譲渡担保というか,私が聞いたのはデビットし,クレジットしている。減額し,増額し,この絵でいいますと,Aの方を減額し,Bの方を増額しということをやっているようです。ですから,どっちが多いかというと,三者間合意の方が主流だとは言えない。ただ,リーテールでは三者間合意の方が多いという人もいます。例えば,Aが個人で,私が株式をわずか持っていると,Bからお金を借りますというようなときに,全部振り替えているかというと,それはしないで,私の口座を動かさない。口座ごとでももちろんいいですし,一つずつでも構いませんけれども,三者で合意すればそれは動かさないようにしてくださいということで済むわけであり,かつ,それで第三者対抗要件も備わるわけですから,そういう方法も利用されている。どちらが多いのかということについては,統計などは知らないんですけれども,両方あるということではないかと思います。   ついでにもう一言。 ● もう一点御質問させていただきたいと思います。そういうコントロールの場合も,この条約の適用があるかどうかというのは……。 ● それは一番重要なことですね。この条約はそれを念頭に置いてつくられたと言ってもいいと思います。もうちょっと言うと,この条約は,Aという人がXという口座管理機関にいろいろな証券を持っていると,その証券口座にはいろいろな証券が日々記帳されて,また売却されて変動している,こういう状態でAがファイナンスするにはどうしたらいいですかと,これが原点なんですね。AはそのときにBからお金を借りますと。どうしたらいいでしょうかというときに,ドイツの証券ならドイツ法,ニューヨークの証券ならニューヨーク州法,フランスの証券ならフランス法,全部において第三者対抗要件をチェックしないといけないのではたまりませんねというのが,この条約の原点なんですね。   そうではなくて,一つの準拠法ですべての証券について有効な担保権が成立するようにしましょうというのが,この原点ですので,そういう意味においては,その場合には三者間合意をしますと。その前に準拠法は何かがあるわけですけれども。AとX,個々の条約による準拠法が仮にニューヨーク州法になったとすれば,三者間合意によってすべての証券が,しかも変動する証券ですね。フランスの証券はドイツの証券に入れ替わるかもしれないわけですけれども,そういうものを含めてすべて第三者対抗要件まで具備できると。   ですから,もともと念頭にあったのは,むしろそちらと言っていいと思うんです。しかし,フランスとか日本が「いやいや,うちの法制では質入れというのはこっちへ移してもらわないと,有効な質入れになりませんよ。」という話が出てきたものですから。もちろん譲渡の場合はそうなるわけですから,その場合には37ページ問題は出てきますけれども,そちらの準拠法でそれが有効に,そこの場合で言えば譲渡担保権ですね。あるいは,B側の権利取得が有効に行われるかどうかは,この契約の準拠法で決めましょうという話を,後からしたというとちょっと大げさかもしれませんけれども,そういうことで。 ● その場合,三者間合意ですと,口座を持っているのはAで,その直近の上位の口座管理機関がXで,Bは三者間合意によって担保権を取得するということですから,その場合のBが権利を取得したかどうかというのは,AとXとの口座管理契約によって定まるものであって,BとXの間に何らかの合意があっても,それは関係ないと,そういう理解でいいわけですね。 ● はい,全くそのとおりです。ですから,日本が37ページ問題と言い出したのは,譲渡の場合を先に議論し始めたんですね。前回,譲渡が無数にある場合どうなるんだという御指摘があったと思うんですけれども,担保の場合は議論しているので,議論にならなかったんです。なぜなら担保の場合はBの記帳はないわけですから。AとXの準拠法しかないわけです。そこで日本やフランスは,「いやいや,B側だって担保する場合には,こっちの場合は移しますよ」ということを言っていたんですけれども,それでは議論にならないので,譲渡の場合を考えましょうと。Aの方は消えて,Bの方に増額記帳されますと。これが37ページ問題でしょう。ここから議論を始めたんです。   しかし,最終的には,質権の場合だって,フランスや日本の法制のように,B側に増額記帳しなければいかん,A側を減額して--フランスはB側ではないんですけれども,比喩的に申し上げているんですが--こういうものも理解はしてもらえたというか,そういうふうに進んでいったという経緯はあります。おっしゃった点については,よけいなことばかり言いましたけれども,おっしゃるとおりBの担保権が有効で,かつ,第三者に対抗できるか,2条1項に関する問題はすべてA側というか,AとXの間の準拠法で決まるというのは,全くそのとおりで,まさにそれがこの条約のメインとすら言えると思います。   ちょっと一点,実務の感想を申し上げてよろしいでしょうか。私ども何も知らない人間が感想を言うのはどうかと思うんですけれども,先ほどから話を伺っていると,私の感覚では準拠法が物権準拠法か債権準拠法かいうのはよく分からないものですから,外にあるものは,紙があろうがなかろうが,どうなっているかよく分からないけれども,上の方はちゃんとしてくれと。この絵でいうとそういう話で。しかし,何かあったら下のXとYが責任を持ちますよということで,実務は動くのではないかと思うんですね,通常。というのはわけ分からないものですから。しかし,X,Yは何かあったら責任を持ちますよというものの,仮に上に聞けば「大丈夫でしょうね。」と,上のこの黄緑色の部分,つまり,X’,Y’より上の部分については,X’,Y’が「私が責任持ちますよ。」とは言わないので,アメリカ法に従ってきちんと手続をとって決めなさいよという話になるんだと思うんですよ。   そうすると,上の部分はアメリカ法に従って,それが正しいかどうかはともかくとして,準拠法は日本法かもしれませんが,通常,紙は確かにアメリカにあれば,何州法かはともかくとして,紙がなくてもそれでやってきたと思うんですけれども,上の方は上の方でとにかく担保権は設定していますよというところはきちんとやっていただくと。空振りに終わるかもしれないんですけれども。しかし,それでも何かあったら責任を持ちますよという程度で動かしてきたというか,取引の規模が,その程度という表現はよくないと思うんですけれども,そういうことだったのではないかと思います。そういう話はほかにも多数ある話ですよね,ほかの分野にも。 ● では,ここで休憩に入りたいと思います。           (休     憩) ● それでは,再開したいと思います。   再開に際しまして,事務当局から今までの議論をまとめていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ● これまで,3の保護預り顧客の担保差入という事例につきまして,現行の通則法の下でどうなるのかという御議論をしていただいてきたわけですけれども,要するにさまざまな解釈があり得て,何が準拠法になるのかというのはよく分からないということなわけです。今まで御議論を承っていますと,これまで譲渡の方で御議論いただいたのとほぼ同じことの見解の対立であって,担保だから特に違うというところは出なかったのではなかろうかと理解いたしましたけれども,それでよろしいのかどうか確認させていただきたいと思います。   一点だけ,○○委員からは法定担保物権の場合は違う取扱いがあるというお話がございましたけれども,これは質にせよ譲渡担保にせよ約定担保物権ですので,そういう意味でも違いはないということになろうかと思います。譲渡の場合と同じ議論になるけれども,担保だから何か特別違うものがあるわけではないけれども,現行法の下ではどのようにして準拠法が決まるのかということについても,いろいろな解釈があり得てはっきりしないというのが,今まで議論していただいた結論になるのかなと理解したんですが,それでよろしゅうございましょうか。 ● ○○委員,○○委員,関連でよろしゅうございますでしょうか。   それでは,続きまして,第5の2のこの条約によって日本法が準拠法となる場合の考え方について,御意見,御質問等を承りたいと思います。特に今までの議論とは異なった御意見なり御質問なりございますでしょうか。 ● 先ほど○○委員から,コントロールと言いますか,三者間合意で口座の記帳を動かさないで担保を設定するという方法についてお話をいただきました。そこは後で別途御議論いただく必要があるのかなと思うんですけれども,その前に,譲渡の場合と同じように振り替える方,つまり減額記帳をし,増額記帳をするという方については,担保であるからといって,今まで御議論いただいてきた譲渡の場合と特段変わるところはないと理解してよろしいかどうか確認させていただきたいと思います。   変わるところがないとすれば,3の保護預り顧客の担保差入の事例で,Bが減額記帳と増額記帳によりまして,Bが権利を取得するのかどうかについては,BとYとの間で定められた準拠法--ここでは日本法だという前提で考えているわけですけれども--によって決まると。Aが担保権を設定したことによって自分の権利が失われる,あるいは,制限されるのかどうかというのは,AとXとの間の準拠法で決まると。だから,この条約では,上の現地CSDとかX’とかY’は関係がないということになるのではなかろうかと思います。   日本法だとしますと,Bに増額記帳がされていれば,Bは善意取得することになっていますから,Bが権利を取得するわけです。ただ,この事例は,日本の保管振替機構が振替機関になっているわけではなくて,ほかの国のCSDということですので,直接,保管振替法とか社債株式振替法の適用があるわけではないので,そこはこれまでの御議論での類推適用とか切出し適用といった理論を使って,国内の保管振替機構に入っている証券についての権利の帰属とほぼ同じ取扱いがこの証券についても適用されるというふうに考えると,そういうことでよろしゅうございましょうか。 ● 何か御意見ございませんか。--よろしいでしょうか。   ○○幹事,何かありそうな顔をしていらっしゃいますけれども。 ● おっしゃるとおり譲渡と担保で違いはないと思います。日本法が適用される場合にどうなるかも全く一緒だと思います。 ● それでは,次に事例3とはちょっと違いますけれども,○○委員が挙げてくださった事例で,AからBに振り替えるのではなくて,AとBとXの三者間で,Aの口座に証券が入ったままの状態でBがAの証券を担保にとるという,日本にはない制度ですけれども,アメリカにはあるわけです。そういうコントロールが行われた場合にも,先ほどの○○委員の御解説ですと,この条約は適用されると。この条約は適用されるんですけれども,この条約は口座名義人と直近の口座管理機関との間で定めた準拠法で決まるということになっています。ところが,Bは今のコントロールの例の場合は口座に記帳していないわけですので,Bが出る幕はないと。ですから,AとXとの間で定めた準拠法によって決まるというのがこの条約を適用した結果になると,そういうお話で,私もそのとおりかと思うんですけれども,その理解はそれでいいということでよろしゅうございますか。 ● 皆さんうなずいていらっしゃるようですので。   ○○委員,何か。 ● よく分からなかったんですけれども,AとXとの準拠法はきちっと決まるんですが,A・B・X間の契約はどういう位置付けになるのか。口座管理契約自体でもないんでしょうし,別の準拠法を勝手に選ぶとどういうふうになってしまうのか。自動的に口座管理機関の準拠法になるのかなというのがよく分からないところでして。 ● そのAとBとには担保権設定契約があるわけでして,振替の場合,つまり減額記帳,増額記帳をする場合であっても,担保権設定契約は別途A・B間であるはずなんですけれども,この条約はそこには着目しないで,記帳を受けた者と記帳した口座管理機関との間の準拠法でその者が権利を取得したかどうかを決めるというルールですから,A・B・Cの合意が何法に基づいてどのようにされたかということは,Bの担保権の帰属の有無あるいは内容にはかかわらないということになるんだと理解しているんですが。   ○○委員,今,うなずいていただきましたが,そういう理解でよろしいわけですね。 ● そのとおりです。 ● この条約の2条1項のどれに当たるという感じなんでしょうか。 ● 確かに2条1項bの方で,ディスポジションの定義が1条のhに入っています。1条のhの定義を見ると,処分に当たるのではないでしょうか。 ● よろしいですか。   では,ほかに何か御意見ございませんでしょうか。 ● 今のコントロールの場合ですと,AとXが定めた準拠法によって決まるということになるわけですね。こんなことをする人はいないと思うんですけれども,AとXが日本法を準拠法として定めたとした場合,日本にはコントロールという制度はないわけですよね,保振法にも社振法にも。その場合,Bがそういうアグリーメントをしたというだけで,日本法を準拠法に選択してしまったとしたら,Bは担保権を取得できないという結論になるという理解でよろしいんでしょうか。 ● はい,どうぞ。 ● そうですね。そうですというか,3の例ですと,XやAはむしろ日本の証券会社や投資家を予定しておられるでしょうから,私の直感で言いますと,ここだけニューヨーク州法を輸入して使いましょうという話は,仮に条約が発効していて適用があるとしても,不可能ではないかもしれませんが,通常は日本法を準拠法にしますよね。ですから,もしそうだとすれば,今おっしゃったとおり,そこでBが担保権を取得することは全くないというか,日本法上はあり得ないということになると思います。 ● ほかに何か。--はい,どうぞ,○○委員。 ● 例えば質権という場合,日本は全部消去するんだろうと思いますが,大本の有価証券がマテリアルライズされているのか,そうでないのか,そういうような区分で変わってくるでしょうか。実体法の方に入っているんですけれども,どういう契約ができるのかというのがイメージがわかないんです。 ● AとXが日本法を準拠法に定めて,AがXで持っている証券を担保に供したいという場合ですよね。 ● 日本の株式とか日本の債券とか国債という場合は組み方が分かりますけれども,例えばアメリカの株式とかヨーロッパの株式という場合にどういう契約を結ぶべきかというのが,実体法に入って申し訳ないんですが,なかなかイメージがわかないんですね。それらに例えば質権を設定するというようなときに。 ● 日本法を準拠法とする以上は,間接保有のものについては,質権の設定でも,振替をしなければ,担保権者は権利を取得できませんから。それがどこの国の株式であろうが社債であろうが,日本法を準拠法とする以上は,Bが口座を持ってBの口座へ振り替えるという形をとらざるを得ないということになるのではないでしょうか。 ● そうですか。一種の債権質みたいなものですかね。そうでもないんですか。なかなかイメージがわかないんです。まあ,後でいいです。実体法のことですから。 ● 今のことについて何か御意見ございますか。--はい,どうぞ。 ● 前に譲渡の場合にも議論したことだと思いますので,繰り返しはよくないかもしれませんけれども,今のお話は担保取引ですので。担保の対象となっているのは株式であり社債ですよね,国債もあるかもしれませんが。ですから,もちろん○○幹事がおっしゃったとおりなんですけれども,前に議論したように社振法を類推適用とか切出し適用しようとした場合に,社振法は紙があってはならない世界ででき上がっているんですね。紙がなければそれでいいんですけれども,紙がある場合に類推適用していいかという問題が,論理的にあります。ただ,あろうがなかろうが,どうせ動かないわけですし,口座の記帳で権利の得喪は行われているということですので,そこはあまり気にせずにいきましょうという話は前に議論したことと共通の問題で,質権に特有の問題ではありません。ここでは,質権の対象になるのは株式であり社債であるということであれば,先ほど○○幹事がおっしゃったとおり,それは振替でいきましょうということになるのではないでしょうか。 ● ○○委員,よろしゅうございますか。--何か。 ● 今,社振法は券がない場合を前提としているから,券があるものの末端の方だけ日本法にしたときに社振法の類推適用ができるのかという問題提起をいただいたわけですけれども,今の状態であれば保振法もありますので,保振法を類推適用すればいいということになると思うんですね。ただ,近い将来,保振法が廃止されてしまいますと,完全なペーパーレスのものである社振法しかなくなってしまうわけです。しかし,考えてみますと,社振法も保振法も帰属の規定は,書き振りは若干違いますけれども,中身は全く同じだと思うんですね。   そうであるならば,そこは券があるかないかということにかかわらず,間接保有の基本的なルールとして,振替によって権利が移転する,あるいは,担保権が取得される,それから,善意取得があるというようなことが,ファンダメンタルな基本的なルールとして日本法として存在するんだと言ってしまって,それで類推できると考えていいのではないかと思っていたんですけれども,それではまずいですか。 ● 全くそのとおりだと思います。 ● ほかに何か,御質問でも御意見でも結構でございますが。--はい,どうぞ。 ● 私も基本的にそれでいいと思うんですけれども,コントロールの合意というのは,今後は担保権者のために証券を管理しますというふうなことがエッセンスだと思うんですが,日本法の世界で,例えば山形地裁の判決がとったような考え方,必ずしも社振法の世界ではない考え方を当てはめますと,占有改定があったというふうな言いようもないわけではないような。株式を担保にするに当たって,株式について保管機関が今後はこの人のために保管しますというような意思表示をしているとしますと,そういった主張の余地もあるような気もしないではないんですね。   そういった考え方は,今の日本法が適用されるといったときに,占有改定とか指図による占有移転といった考え方が混入してくる,あるいは,そういった主張が許されるという世界は望ましくなくて,むしろ記帳によるという方に一本化していくという考え方の方が望ましいというか,そうなのかなという点は皆さんどうお考えなのかなと思いまして。指図による占有移転と解釈できるかどうかというのも考えようはあると思うんですけれども,そういった主張の余地はないわけではないようにも思いまして。いかがでしょうか。もしお考えをお持ちの方があればお伺いしたいなと思います。 ● 今の○○幹事の御質問につきまして,何か御意見ございますでしょうか。--はい,どうぞ。 ● この前に議論した話ですよね。社振法を切出し,類推適用できないという立場をとった場合には,例えば指図による占有移転とか別の解釈問題で解決しなければいけないんですよね。 ● 社振法ということであれば,そっちに一本化していって,それとは別に……。 ● そこは見解が分かれたと理解していますけれども,多数の見解は,○○幹事がおっしゃったようなことで,紙がある場合も含めて社振法の切出し適用,類推適用が合理的ではないか,社振法がある以上はですね。その社振法の制度の趣旨がということだったと思います。ただ,別の見解もポッシブルということがあり得るわけで,順番で言えば両方が同時にくれば社振法の方が勝つと思うんですね。これは前に議論したことですが,社振法の類推適用,切出し適用という見解がとれない場合には,次にどういう解釈の論理ですかという場合には,指図による占有移転という解釈論は当然いいというか,候補の一つとして出てくると思います。 ● ただ,社振法でいいではないかという御見解が多いと思うので,そういうものでは,仮に今いったような主張がなされたとしても,社振法が定めるような対抗要件具備というんですかね,口座振替していないですから,駄目ですよと。対抗要件を具備していませんよというふうなことで,主張を封じられるということでいいのかなと。○○委員もそういうお考えですか。 ● それは先ほどの言葉でいうと,紙が出ている場合に切出し適用していいかという話ですよね。 ● はい。 ● そこはもちろん意見は分かれ得るとは思いますけれども,間接保有をしている制度の趣旨から言えば,○○幹事のおっしゃったように考えた方がいいと思います。 ● そこで複雑に二つのアプローチが交錯するというのはあまり適切ではないと思いましたので,どうなるのかなと思って聞かせていただいたんですけれども,私もそう思います。 ● ほかに何かございませんでしょうか。   ないようでございましたら,第5のところはこれで終了するということにいたしまして,前に進みたいと存じますが,よろしゅうございますでしょうか。   次は,事例4に基づいて御議論いただきたいと思います。   部会資料26の第6の部分について,事務局から説明していただきます。 ● 第6は,事例が4(海外投資家の日本物取引)に変わるだけでございまして,御議論いただきたい論点は先ほど御議論いただいた第5と同じでございます。つまり,現行の通則法の下ではどういうふうに準拠法が規定されるのかという問題,それから,この条約を批准した場合にどうなるかということでございます。   部会資料22を御覧いただきたいと思います。これは海外投資家の日本物取引ということでございます。事例3までは全部,外国のCSDに入っているものを日本の投資家が日本の証券会社を使って取引するという場合についての事例だったわけですけれども,事例4の海外投資家の日本物取引は,CSDは日本の保管振替機構であるということでございます。そこが大きく違うところであります。ここに書いてありますように,海外投資家の日本物取引というのは,取引口座を持っている現地ブローカーとの取引ということになります。   この例で言いますと,X’の海外現地法人Xから,海外投資家Aが日本の株式を譲り受けるということになるわけでございます。この事例では,取引自体が海外で行われるわけでありますが,その結果として日本国内の口座管理機関X’,Y’の関係の一連の口座の減額と増額の記帳がされるということになるわけでございます。そこで,事例4につきまして,現行の通則法の世界で準拠法がどうなるのかということでございます。この点も,今までの各事例と変わらないということでよろしいのか,それとも,取引をする投資家が海外ですので,何か変わるところがあるのかというのをまず御議論いただきたいと思います。   次に,この条約に加盟して,かつ,日本法が準拠法となるという場合,そういう場合があるのかどうかということ自体が問題なんですね。つまり,AとYの間で日本法を準拠法として,日本の株式を取得するという場合です。仮にそういうことをした場合の準拠法は日本法になるわけですが,その結果,実質法がどうなるのかという問題について,これまで御議論いただいたような類推適用,切出し適用,あるいは,それが無理だとして混蔵寄託とかいうような,今まで議論してきた議論がそのまま適用されるのか,それとも,海外に投資家がいるということから,これまでは類推適用説あるいは切出し適用説が多数だったと思うんですけれども,そこが変わり得たりするのか,そういうことを2の(1)で御議論いただきたいと思っております。   それから,2の(2)は,この事例に特有の問題として質問させていただいております。海外投資家Aは,AのカストディYを通じて,さらにそのサブカストディY’を使って,保振機構に入っている株式を取得することになるわけですが,まず第一に,現行の株券保管振替制度の下におきましては,株券保管振替法というのは単層構造になっているものですから,株券保管振替法の参加者,この条約でいう「口座管理機関」に相当するもので,「参加者」という言葉が使われていますが,参加者になれるのはX’,Y’だけなんですね。AのカストディであるYは保振法上の参加者ではないということになっています。   それから,新しい社振法制度が施行されるとどうなるかということですけれども,その場合はAのカストディYが社振法上の,こちらは「口座管理機関」という言葉が使われていまして,現行の保振法の参加者と同じものですが,口座管理機関になることもできる。いわゆる間接口座管理機関というもので,ここは多階層にすることもできるというのが社振法の一つの特徴なわけです。しかし,Yが保振機構の間接口座管理機関になるかどうかは,保振機構の御意向もあるわけですが,Yの側の意向もあって,Yは社振法上のいろいろな義務を負うことが営業上よろしくないということであれば,口座管理機関にはならないという選択肢,つまり社振法上はYのみが口座名義人になる。さらに,海外投資家に対して口座を開いて,海外投資家のために口座名義人となって権利を取得するという場合があり得るわけでございます。   そのいずれであるかによって海外投資家Aが取得する権利の内容等に差が生ずるのかどうかというのが,この(2)の問題でございます。そのあとに「例えば」ということで書いておりますように,Yが日本の振替制度に参加しない場合は,先ほど申しましたように,Yは日本法上の参加者あるいは口座管理機関ではないということになって,口座名義人ということになりますので,Yが発行体との間では権利者ということになるわけでございます。つまり,ここは日本株式の例ですから,Yが株主で,Yは言わば信託的に株式をYの名義で取得しているという取扱いになるわけです。この場合に,この条約との関係ではYが権利者なのか,それとも,Aが権利者なのか,そこはどうなるのだろうかというのを一つ問題点として挙げさせていただいております。ほかにもいろいろ問題があり得るところだと思いますけれども,そこをどのように考えるのかということについて御教授いただければと思います。   次に,3で日本法が準拠法とならない場合についても挙げさせていただいております。先ほども申しましたように,海外投資家AとYとの間の口座管理契約ですから,日本法を準拠法とするということはむしろ例外的であって,Yの所属する国,例えば米国なら米国法にするのが普通なんだろうと思いますけれども,例えばニューヨーク州法が準拠法となる場合に,海外投資家Aはどういう権利を取得することになるのか。日本株式自体を取得するのか,security entitlementを取得するのか。それから,先ほどの2の(2)と似たような問題ですけれども,Yが日本の口座管理機関になる場合とそうでない場合とで,権利内容に影響が生じるのかどうかということを,実質法をも含めて御議論いただければと思います。   以上です。 ● ありがとうございました。   それでは,まず現行の通則法でどこの国の法が準拠法となるかについては,事例1-1の場合と同じに考えてよいかという点について,御意見がございましたら,承りたいと思います。この問題について,特に考える必要があるというところにつきまして,御意見ございましたら,承りたいと思います。   今は部会資料26の第6,事例4の海外投資家の日本物取引についてという,ちょっとひっくり返したような形の事例でございますが,これの1のところでございます。現行通則法における準拠法ですね。先ほど○○幹事が言われましたように,この部会が始まりましてから,時間がたちまして,その間に法例の改正がありましたので。通則法における準拠法はどうなるかということについての御議論を承りたいと思っているところでございます。   特にないようでございましたら,少なくとも現在のところはこのまま次に移ってよろしゅうございますでしょうか。 ● 今,問題にされているのは,海外というところのAとY,Aの権利かどうかというところですよね。XからAに移ったというのではなくて,Aの状態を言われているんでしょうか。 ● 御質問の意味がよく分からなかったんですけれども……。 ● 要するに,性質決定をしなければいけない法律関係は何なのかなと思ってちょっと分からなかったので。準拠法を適用すべき事実は何かというところで。 ● AがXから権利を取得したかどうかというふうに設定していただいたらどうでしょうか。 ● どんなケースかなと,具体的にこんな事例は起こるかなと思って。先ほど来の反対のパターンだったら考えられたんですけれども。何かもう少しヒントをいただかないと,いかに中立的な国際私法学者と言えども苦しいのですが。例えば紛争とか,どういう事例でしょうかね。例えば,海外投資家Aが法律顧問に「私の権利はちゃんと私に移転しているんでしょうか。」と聞いたときに,国際私法でどう答えるかと,そういう問題設定と考えていいんですかね。そうだとすると,さっきまでの話と同じなのではないかと思うんですが。基本となるのは,Aが権利に対する支配権を取得したか,支配権が有効にAに移ったかどうかということですから,それに日本の国際私法を適用してしまえば,選択肢は二つプラス条理しかないと思います,私は。 ● 二つプラス条理という解釈において,事例が逆の形になっているということは特段影響を及ぼすものではなくて,物権準拠法によるのか債権譲渡の準拠法によるのか,条理によるのかというのは,今まで御議論いただいたのと全く同じように考えればいいと。海外にAやXがいるということは何ら考えなくていいということでよろしゅうございますか。 ● と思いますけれども,もし違ったら訂正してください。 ● この点について御意見ございますか。 ● 私も上下が入れ替わることで基本的なルールが変わることはないと思います。 ● 実務でどんな事例があるかという御疑問をお持ちだったようですので,何か御紹介いただけるような事例がございましたら,伺った方がいいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ● 海外投資家が取得後日本に移住してきてというような場合があるかもしれないけれども,日本で訴訟を起こして,日本の国際私法で争うというのは考えにくいですね。あるいは,外国の紛争地関係で訴訟が起きるとか。 ● この場合ならば,海外投資家が自分の法律顧問とか,リーガル・オピニオンをもらうんだったら,海外が法廷地と考えますので,日本の国際私法はむしろ適用されないでしょうね。あえて言うならばという,先ほどの話……。 ● 日本でそういう実例はあまりないのでしょうか。確かにちょっと考えにくいですね。   何かございませんか。--はい,どうぞ。 ● 日本で海外の投資家が訴訟を起こしたいというのは,発行体との関係で,私が直接権利を行使したいというふうなケースが一番考えやすいと思うんですけれども,そうなると今までのとはちょっと別になるんですかね。 ● 最近の海外ファンドでプロキシー債権で契約という形になるかもしれませんね。 ● 発行体との関係で,発行体が日本にいるのでというふうな形で問題になるということは考えられるのかなと思うんですけれども。 ● それはおっしゃるとおりだと思うんですけれども,この条約に入らないとしたらどうなるかということですね。この条約の守備範囲である準拠法について御議論いただきたいと思うんですが,今おっしゃられた例はこの条約の守備範囲外の準拠法の問題ですので,そうするとあまり例はないということになるんでしょうか。 ● 先生方がおっしゃられるように考えにくいのかなと思います。だからといって,仮に争われたとして,先ほど来出ているように,海外と日本が入れ替わっていることによって,法廷地の日本の国際私法のルールが変わってしまうということはないと思います。 ● ほかに何か。○○委員,何か御意見ありますか。 ● 同じです。 ● それでは,この点についてこれ以上御意見がないのであれば,次に移りたいと思います。   今度は,先ほど御説明がありましたように,日本法が準拠法となる場合があるとして,あった場合にはどうなるかということでございますが,いかがでしょうか。 ● ちょっと確認なんですけれども,○○委員に教えていただければと思います。口座管理機関と保振機構との間の準拠法というのは,ここではX’とY’ということになっているんですが,これは日本法になるようにしておられるという理解でよろしいのでしょうか。 ● そうですね,明文の規定はおいておりませんけれども,日本法でやっているという理解でおります。 ● 社債については社振法が始まったわけで,多階層になったわけですけれども,直接口座管理機関と間接口座管理機関との間の準拠法については,ここでいうとY’とYですが,そこは自由に任せているんでしょうか。それとも,保振機構の参加者というとあれですけれども,参加した口座管理機関になるわけですから,それも日本法ということにされるんでしょうか。 ● 今のところ外国の人がいないので実例としてはないので何とも言えないんですけれども,まだ外国の機関が直接はもちろん間接というのは少ないので。実例としてはまだあれですけれども,日本法によらなければならぬということが言えるのであれば,そうしたいと思いますけれども,どうでしょうかね。 ● この条約は準拠法をどう定めるかについては何ら規制はしていないので,当事者の自由なんですけれども,前に○○委員からお話があったと思いますが,国によっては公法的な規制として準拠法を自国に限るとか,そういう定めをする国もあるし,それを何ら制限しているものではないと,そういう理解でよろしいんですよね。 ● すみません,ちょっと訂正させてください。間接口座管理機関についても日本法でやるという約諾をとっているということです。 ● 参加を認める際に個別の約諾をとっておられるわけですか。 ● はい。 ● Yとここでいう海外投資家Aの関係はもう自由……。 ● そうですね,そこは保振の間接の口座管理機関にもなっていないということであればコントロールは効いておりません。 ● いや,Yが保振の間接の口座管理機関になっているとして,その顧客との関係の準拠法をこうしろということは約諾されていないんですか。 ● そう書いてないですね。 ● 日本銀行さんはどうなんですか。 ● 日本銀行は外国間接参加者で押さえておりまして,現在125,126先もなっています。現在,私どもでは間接参加者も含めて契約を結んでおりまして,簡単な1枚ぐらいの「証」と称する契約なんですけれども,内容は大きく分けると二つございます。一点は,社債等振替法及びそれに基づいて定められている日本銀行の業務規程及びそれの細則について守りますという点と,日本銀行との間で紛争が起こった場合については,準拠法は日本法としますということと,法廷地は東京地裁で専属的管轄にしますということが定まっていまして,その「証」自体が有効かどうかについては,現地法のウェルガーロッピーの登録という形で,この「証」を有効に締結していますという形にさせていただいています。 ● ここの事例でいうYに相当するものも日本法という形にはしておられるわけですけれども,YとAとの関係については自由にゆだねているということなんでしょうか。それとも,Aとの関係も日本法によるようにしろということにしておられるんですか。 ● 正確な文言は失念してしまいましたけれども,間接参加者の顧客についても,社債等振替法と,さっき申し上げました日本銀行の定めています業務規程について遵守することを間接的に約束する形にしてもらっています。それが実際に何法に基づくかということは定まっていませんので,結果的に社債等振替法と業務規程を遵守してもらえるように,契約をコントロールしてくださいという形の内容にさせていただいていると思います。 ● それは国際私法でいうと実質法の個別指定をしているということなんでしょうか。○○委員,○○委員。 ● 正確な文章が分からないと分からないと思いますけれども,「社債法を守るように確保してください」ですよね。それがAが呑んでいるかどうか分からないですね,そもそも。ですから,そういう約束を日銀としているだけではないんですか,まずは。 ● 意見なんですけれども,これも前に申し上げたことの繰り返しなんですが,まず一点目にどういう約束をしていようと,現在の通則法の下では物権準拠法については約束は無効です。ですから,仮にこの条約を日本が批准して,適用があるようになった場合には16条の問題になると。すなわち,既存の契約で契約準拠法を定めている場合に,果たしてこの条約にいう物権準拠法の定めにも当然になるのか,書き換えなければいけないのかという問題になる。これが一点目のコメントです。   二点目のコメントは,現在定めている準拠法というのは,例えば保振で,先ほど御説明があった準拠法は,そういう意味で契約準拠法だと通常は理解するわけですけれども,末端の部分については証券業協会でひな型があって,強制ではないんですが。末端といったって,Yが証券業協会の会員かという問題はあるんですけれども,少なくとも証券業協会のひな型によると,お客さんのところも日本法にしましょうとなっています。なっていますというか,大体これに合わせてそうしたというか,タイミングからいうとそういうふうになっているということです。 ● Y・A間も日本法になっているということは,机上の空論というほど珍しいことでもなさそうな感じでもあるわけですね。 ● いや,3までのケースを考えると,逆に日本は海外物であっても,ここでいうYが,下が日本で,証券会社と証券業協会は日本法にしましょうと言っているので。日本のように鎖国的発想をする国か,その国の政策によって決まってくるのではないでしょうかね。それだから条約がいいとか駄目とかと言っているわけではないんです。ですから,末端まで全部日本法でやれという政策を採るかどうかで,そういうことを採ることも可能ですし,採らないことも可能ですし。そこはそれぞれの国の政策もあるでしょうし,業者の政策もあるかとは思います。 ● はい,どうぞ。 ● 実務の例の質問なんですけれども,仮にAとYの間は日本法ということを呑まされるとしても,AとYが日本の株式だけを取引していればそれでいいかもしれませんが,いろいろな取引があると,それは口座を分けるんですかね。アメリカの会社の株式も扱うし,イギリスの社債も一緒にAはいろいろ持っていて,全部カストディYを使っているかもしれないわけですね。一つは,日本の会社が入っているからといって,全部日本法というのはちょっと考えられないので,バラバラというか,Aとしては,あるいはYとしては,自分の使いやすい法律を全部Aとの間での準拠法にするという方が,もし口座を分けないのであれば,むしろ普通のような気がします。 ● その点はまさに議論されました。議論というか,少なくともこの条約を検討するときには,これも前に申し上げたことの繰り返しなんですけれども,この例でいうと,おっしゃるようにAが持っているのは日本の株に限らないわけですよね。しかも,日々,ドイツの株も買えば,フランスの株も国債もいろいろなところを買うというためにこの条約はあるわけですから,AとYは一つの,何法でもいいのかもしれませんけれども,おっしゃるように日本法というのは変と言えば変ですよね。通常は海外の,これがフランスに両方存在しているなら,フランス法に合意するとすれば,フランス法一本で全部やれますというのが,この条約が可能にしようとしているものですよね。   それが逆に,何らかの公法的規制があれ,どういう理由であれ,上が日本なら下も日本にせよということが,仮に法的あるいは事実上強制されてきますと,条約がない世界に戻るわけですね。そのときは,おっしゃるように,口座を分けるということになります。そのことはどこかに書いてあると思います,エクスプラネタリー・リポートにも。口座を分けているということは,証券ごとに別の準拠法にするということですから,言ってみれば条約の趣旨は減殺されるというか,損なわれるというか,現在と同じというか,日本のような国際私法をとっていれば。そのときに,こういうシチュエーションで,上から下まで日本法にせよという政策をとること自体は,禁止はしていませんけれども,この条約が達成しようとしている担保取引とかアナウンス取引を阻害する結果になるというか,この条約のメリットを減殺する結果になるという話は,前に申し上げたかもしれませんが,指摘されたと。そういう形で議論された。   ただ,御指摘の点について言えば,法的にというかテクニカルにどうするんですかと言われれば,口座を分けますというのは,そのとおりです。 ● 確認ですけれども,一つの口座なのにもかかわらず,そこに入ってくる証券がどこの国のものかによって,準拠法がそれぞれ異なりますと,そういうものはこの条約が認めている口座管理契約にはならないと。口座ごとに一つの準拠法が定まってなければならないという理解でよろしいんでしたよね。 ● 一つの口座に一つの準拠法,かつ,2条1項列挙のすべての事項について一つの準拠法と,この二つは重要になってきます。 ● ○○委員,よろしゅうございますか。   ほかにございますでしょうか。 ● 今までのお話で,この条約に加盟したとして,YとAの間の準拠法が日本法というふうに仮に口座管理契約で定められたといたしますと,これは外国のCSDに入っているものについてのものだったので,類推適用とか切出し適用,あるいは,混蔵寄託ということを今まで議論してきたわけですけれども,保振機構に入っているものについてのものですから,日本法をYとAの間で適用すれば,切出しとか類推とかいうまでもなく,直接適用されると考えていいということなんでしょうか。   Yが保振機構の間接参加者になっていれば直接適用になると。そうでなくて,社振法上はYが口座名義人であって,口座管理機関にはなっていないとすると,そこの部分は類推適用ということになると,そういう理解でよろしいでしょうか。 ● 私はそこは類推適用はしない方がいいと思っているんです,結論としては。もちろん類推適用という考え方も可能ですけれども。どういうことかというと,日本法の適用がある場合には,Yが株主でAはその下にいると。それは債権的な関係になります。その先を言う必要はないと思いますが。なぜそうかというと,社振法の趣旨ということにもなると思うんですけれども,口座管理機関になっていなくても,口座管理機関と同じようなことをやっていれば類推適用しますというのが,全部,日本で完結している場合にそういう考え方ならいいと思うんですけれども,そうではないですよね。   だれが株主かはっきりさせようというのがありますよね,一番下の人が株主だと。表現はいいかげんかもしれません。この場合,Yが一番下なわけですよね。ですから,その下にAがいるというのは自由ですけれども,そこだけ類推するというのではなくて,日本法が適用になる場合には,あくまで全部日本と同じ。全部,日本であったとすれば,当然日本なんでしょうけれども,適用されれば。Yが株主であってという方がいいと思います。すなわち,ここの言葉でいうと,条約の2条1項a号があるから,Aが株主にならなければいけないわけではありません。そんなことはないわけでありまして,Yが株主であって,日本法が適用されるということまでは言っています,この条約は。要するに,2条1項a号の問題についての準拠法をこの条約が決めますから,その結果,日本法になった場合,その後どうなるんですかという御質問ですので,それはYが株主でAは株主でないという方がいいと私は思います。 ● 今,○○委員がおっしゃられたことは,私も全くそのとおりだと思うんですけれども,株主がだれかというのは発行会社との関係の問題なのではないでしょうか。そうだとすると,発行会社との関係は当然日本法になりますので,Yが株主になる。私が言いたかったのは,Aが権利を取得したかどうかが何によって決まるかという,振替で増額記帳されたときに権利を取得したことになる,それから,善意取得があるとか。そういう規定は類推適用されないとまずいのではないかと,そういう問題意識だったんです。ただ,Aが取得する権利は株式ではないと思うんです,Yが間接口座管理機関になっていなければ。 ● それならあまり違わないのかもしれないんですけれども,社振法は発行会社との関係だけを定めているわけではありませんので,株式はだれに帰属するか,株式をいつだれがどういう方法で取得するかも定めているわけですよね。そういうことで言いますと,発行会社との関係ではなくて,この条約の結果,日本法が準拠法になれば,Yが株主であって,それをいつどうやって取得するかも全部,それはYで決まる。すなわち,Yの上のY’が口座管理機関だとすると,Y’における記帳で決まるわけですよね,Yの口座に増額記帳されることによって。ですから,おっしゃるように,その下のAは株式は取得しないですね。   ただ,○○幹事の御質問のAがぶら下がっているところの権利は何だかよく分からないけれども,Aが取得する権利の性質,あるいは,権利の得喪はというと,それは日本法ですよね。でも,それは社振法ではないですね。というのは,Yの下にぶら下がる権利が物権か債権かというところから議論しなければいけませんけれども,両方ありまして,分かりやすい方で言いますと,債権ならばAは何らかの債権的な権利,例えばYが株主として受け取った配当金とか何をAに渡しますという債権契約を両者でしているとすれば,それはそういうものとして,そういう権利をいつどうやって取得するかは日本法で決まりますが,社振法では決まりませんよね。その場合は民法とか会社法--まあ今の例で言いますと会社法ではなくて民法になりますが--をもって決まるということではないでしょうか。 ● 今の問題は,既に議論した2-2の例でも同じなのではないでしょうか。つまり,AとYの関係が日本法だったときに,社振法を類推適用するというのが,○○委員のお考えであり私の考えでもあるわけですけれども,そうだからといってAが株主になるとは限らない,上がどうなっているかによって。つまり,株式を取得するのか,security entitlementを取得するのかというのは,日本法を類推適用したから株式を取得するということにはならないのではないかなと思っていたんです。 ● 大きな違いは,上が外国で下が日本の場合には,下にいる,例えば2-2の場合には,XかYが社振法上の口座管理機関になることはあり得ないんですよね。なぜなら上が外ですから。ですから,あり得ないからといって,常に一番下のAが物権的な権利を,今日の議論で株式とか社債を取得することはあり得ないと言ってしまえるかというと,そうではないでしょうというのが切出し・類推適用だと私は思うんです。Aの権利の得喪について,社振法の例えば善意取得の規定を類推ないし切出し適用しましょうというのは,XやYは社振法上の口座管理機関ではないにもかかわらず,類推適用しましょうという議論だったと私は理解しているんです。   でも,それは理由がある。おおよそ口座管理機関になり得ないわけですから,上が違うわけで。逆に上が日本の場合には,口座管理機関になるという選択肢があるわけですね。にもかかわらずなっていないわけです。その場合にも類推適用していいかという問題であって,類推適用するという見解が成り立ち得ないと私は思いませんけれども,上が社振制度であれば,口座管理機関になることもできるし,ならないこともできるわけですから,なっていない以上は,そこが一番下の株主であると,日本法を適用するときの問題ですけれども,そういうふうに考えた方がいいように私は思うんです。 ● 部会資料26の2ページを御覧いただきたいと思います。2ページの上の方の(2)の社振法が類推又は切出し適用される範囲というところです。73条から77条までだろうという話だったと思うんですね。そうすると,取得する権利が何であるかということとは関係がないのではないかと私は思っていたんです,類推されるかどうかは。事例2-2のAについても類推適用されて,73条から77条までに相当する部分が類推適用されますと。   それから,事例4のAについて,AのカストディであるYが社振法の間接口座管理機関にならないという場合でも類推適用はされて,73条から77条までは適用されると。だけれども,Aが取得する権利は株式なんですかというのは全く別の問題であって,Yが社振法上の間接口座管理機関になっていないのであれば,Yは口座名義人なわけですから,Yしか社振法上株主になれる人はいないので,Aが取得するものは株主であるYに対する何らかの権利でしょうと。それは信託的なものなのかもしれないし,security entitlementなのかもしれないし,そこはこの条約の守備範囲とは別の事柄なのかなと思っていたんですけれども,そうではないんですか。 ● Aが取得するというか,有する権利の性質は,発行会社を別にしますと,この条約の守備範囲だと思います。それは債権か物権かは問わない。ちょっと誤解を招く言い方かもしれませんけれども。したがって,日本法が準拠法になれば,Aが有する権利が物権なのか債権なのかを含めて日本法で決まる。ただ,○○幹事がおっしゃっているような見解も可能だとは思います。例えば,Aは債権しか持っていない,株式は持っていませんと,何らかの債権的権利しかないけれども,その取得には社振法の善意取得が類推適用されますと。それはもちろん可能だと。ですから,両方あり得ると思います。   私は類推適用しない方がいいのではないかなと申し上げているので,○○幹事はする方がいいとおっしゃっているのかもしれないんですけれども,そこは感覚の違いかもしれません。社振法というようなブックエントリーの権利になぜ善意取得を認めているかというと,口座管理機関が口座管理機関として存在しているからだと思うんですね。すなわち,帳簿の管理をする人に対して,日本で言えば登録制とかです。それに登録していない人がやったものについて,善意取得まで認める必要はこちらのケースはない。   ただ,繰り返しになりますけれども,事例2-2のような上が海外の場合には登録のしようがないわけですから,ここは切出し・類推ということを言わざるを得ないと。そこが違いだと思うんです。確かに対称的ではない,非対称的になってしまっているんですけれども,全部日本法だといったときに,口座管理機関の登録もしてないのに,権利の得喪だけ社振法を使いますというのは,ちょっと抵抗があるというのが先ほど申し上げた感じです。 ● おっしゃることは非常によく分かる気がする反面で何となく引っかかりますのは,○○委員がおっしゃるように,日本について,間接口座管理機関になっていなければ,社振法の類推適用はすべきでないと考えるのであれば,事例2-2の場合でも,国内カストディのYが,クレストの間接口座管理機関というのかどうか分かりませんが,社振法でいうところの間接口座管理機関になっていないときに,多階層構造だからなろうと思えばなれるはずであるというところは変わらないんだと思います。その場合でも類推適用をして,善意取得まで認めていいのかという,同じ問題があるような気もして。そこら辺はどう考えたらいいんでしょうか。 ● それは事例2-2のときに議論したと思うんですね。それゆえに,類推適用や切出し適用は無理ではないかと。だから,先ほどではないですけれども,指図による占有移転とか混蔵寄託とか,そこは社振法の外の民・商法の一般法理にいきましょうという意見があり得るのは,そういうことだったと思うんですね。にもかかわらず,多数と言い切れるかどうかはともかくとして,多くの意見は,2ページに書いてあるとおり,これは切出し適用でいいのではないかという考えに立った。   これは口座管理機関になれるでしょうと言ったって,なれるのもいろいろありますけれども,上からつながっているという事例2-2の上がイギリスだとしますと,なれるのは第一にクレストの下の口座管理機関になれるかどうかであって,日本の社振法上の口座管理機関ではないですよね。せいぜいそうであって,ひょっとするとクレストの規制よりも日本の規制の方が厳しいかもしれません。今のは抽象的に言っている話で具体的に申し上げているのではありません。ですから,なれるといっても,外の口座管理機関の公法的規制に服するだけですから,直接,社振法の類推適用だけをもって理由にはならない。   第2に,日本の社振法の下の口座管理機関になれますかといったら,こういう構造のものとしてはなれないですね。そうなると,まさに類推・切出しの意味になるんですけれども,あたかも全部日本だったら口座管理機関になっていたであろうかどうかぐらいの程度で決めざるを得ないと思うんですね。こちらの場合は思い切って「えい」といくしかないので,やや実質論になるかもしれませんけれども,73条から77条で言えば,そういうときにこういうものを「えい,やあ」っと類推していいのかはちょっと待てと,民法,商法の一般法理でいきましょうというのと,相当分かれ得るところであるし,見解は分かれ得ると思うんですね。   しかし,ここでの御議論は,今のをもう一遍考え直さなければいけないということなのかもしれないんですけれども,そのときの○○幹事の御意見は,それは切出し・類推でいいのではないかということであって,だからといって,今日初めて出てきた日本がトップにあるときに類推にはならないと思いますということを,最後に申し上げてみようと思っています。 ● まだ議論の途中でございますが,予定の時刻を既に回っておりますので,今日の御議論はここまでにいたしまして,次回この議論を続けていきたいと思います。   それでは,次回以降の予定につきまして,事務局から御説明願いたいと思います。 ● 本日は,早速,日程の変更に伴いまして非常にスピーディーな御審議をしていただきまして,ありがとうございました。こんなに進むとは思ってなくて,事例3まで終わればいい方かなと思っておりましたところが,事例4の1までは終わったということで,非常にありがたいと思っております。   事例4の2のこの条約に加盟した場合に日本法が準拠法となる場合の考え方の(1),(2)を議論しているところで時間切れになってしまいました。次回はそこから,とりわけほかの委員,幹事の方のお考えをお聞かせいただければと思っておりますので,よろしくお願いいたします。   次回以降の日程を申し上げたいと思います。まず次回は9月18日,その次が10月30日,その次は12月4日,いずれも火曜日,開始時刻は午後1時30分から,今日と同じでございます。場所は3回とも法曹会館2階の高砂の間でございます。   次回は,先ほど申しましたように,事例4の2の(1),(2)あたりから議論を再開していただくということになりますので,よろしくお願いいたします。 ● 今後の日程についてはよろしいですね。少し詰めて審議会を開くことになりますが,何とぞよろしくお願いいたします。   それでは,これで本日の会議を終了させていただきます。長時間に渡りまして,いつものように熱心に御議論いただきまして,ありがとうございました。これで散会といたします。 -了-