法制審議会国際扶養条約部会 第9回会議議事録 第1 日 時  平成19年7月24日(火)  自 午後1時31分                        至 午後4時34分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  「子及びその他の親族に対する扶養料の国際的な回収に関する条約草案」         及び「扶養義務の準拠法に関する議定書草案」について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● 時間になりましたので,法制審議会国際扶養条約部会第9回会議を開催いたします。  (委員の異動紹介省略) ● それでは議事に入ります。  まず,事務局から配布されている資料の説明をしてもらいます。 ● それでは御説明申し上げます。   配布資料は配布資料目録の資料番号56-1から64まででございまして,いずれも事前に送付させていただいたものでございます。   まず,56と57でございますが,これは5月8日から16日までヘーグ国際私法会議の扶養に関する第5回特別委員会が開催されたわけでございますが,そこで取りまとめられました子及びその他の親族に関する扶養料の国際的な回収に関する条約草案,これの仏文,英文の正文が56-1,56-2でございまして,その仮訳,これは会議に御出席いただきました○○委員に翻訳をしていただいたわけでございますが,その仮訳が57でございます。   それから,58と59でございますが,これも同じく特別委員会で取りまとめられました扶養義務の準拠法に関する議定書の草案の仏文,英文,それと仮訳でございまして,この仮訳も○○委員にお忙しい中,翻訳をしていただいたものでございます。○○委員本当にありがとうございます。   それから,60でございますが,第5回特別委員会に御出席いただいた○○委員に御作成いただきましたこの会議の報告書でございます。   それから,61以下は○○委員が御報告いただく際にも参考にしていただければということで資料として配らせていただいているものでございまして,61が準拠法のワーキンググループのレポートでございます。   それから,62が条約草案,これは特別委員会にかけられた条約草案のその時点におけるexplanatory reportでございます。   それから,63と64が特別委員会で配られたWorking Documentの114のEというのと,116でございまして,特別委員会で出された提案でございます。   配布資料の説明は以上でございますが,常設事務局からは本年の9月17日までにこの条約草案と準拠法に関する議定書の草案に対する意見があればそれを常設事務局に提出するように求められております。そこで本日の御審議の結果を踏まえまして,意見を出すことを考えたいと思っております。   それから,この条約草案と議定書の草案につきましても,従前の案と同じようにexplanatory reportが配布されるということが予告されているのでございますが,現時点ではまだ配布されておりません。   以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   去る5月8日から16日までへーグ国際私法会議の扶養に関する第5回特別委員会が開催され,日本国からは○○委員が代表として出席されました。そこで今回の会議では○○委員から第5回特別委員会の結果について御報告をいただくことにしたいと思います。そしてその後,○○委員の報告書に沿って,御報告に関する質疑応答を行いつつ,条約草案及び扶養義務の準拠法に関する議定書草案の内容について御議論いただくことにしたいと思います。 ● それでは,御報告をお願いいたしたいと思います。 ● 資料60に私の報告書がございますが,これに沿いまして,かいつまんで今回の特別委員会の内容について御報告を申し上げます。   今回の特別委員会ですけれども,これまで4回,今回が5回目だったわけですけれども,従前の委員会と違いまして,条約草案全般について検討するというのではなくて,一部についてといいますか,これから申し上げる,大きく分けて二つのポイントについてだけ検討するというやや短めの委員会でございました。   議題の対象となりましたのは,一つは準拠法ルールをどうするかという問題でございます。それから,もう一つは条約草案のうちの14条と20条,14条が手続の実効的な利用と言われるものですが,それから20条が承認・執行の申立てに関する手続ですが,この二つについて条約草案を元にして検討すると。この二つが今回の特別委員会の議題でございました。この二つが対象となりました経緯は,前回の第4回の特別委員会でほぼ終了の予定だったわけですけれども,準拠法に関する議論がまだ足りないということと,それから,今申し上げました二つの条文につきましても,これらは重要だけれども,すぐに外交会議にかけるには,なお検討が足りないだろうということで,この二点につきまして,もう一度特別委員会を開きましょうということになった,そういう経緯によるものでございます。   具体的には準拠法ルールに関する部分が会期の前半,第一週目に四日間ぐらいかけて検討されました。それから,条約14条,20条の部分につきまして,第二週の三日間--実質的には二日半ぐらいですが--が充てられたというそういう次第でございます。   この会議,特別委員会の議論の結果を踏まえまして,その後,6月の下旬にお手元に資料58として配っております議定書の草案,準拠法ルールに関する議定書草案と,それから,最新の条約草案--これはお手元の資料56ですけれども--が作成,配布されております。   そこで,以下では資料56,58を中心に,それぞれの訳が57と59にございますけれども,それを中心にそれらを参照しながら特別委員会での議論をかいつまんで御報告したいと思います。   大きく分けまして準拠法の部分と,それから条約14条,20条の部分,この二つの部分でございます。   まず,準拠法の部分でございますけれども,この部分に関しましては,先ほど申しましたように四日間かけて議論をいたしました。この部分の議長は,かねてから準拠法ワーキンググループの座長を務めておられましたスイスのボノミさんが全体の議長も務められるということでございました。   議論のやり方といたしましては,今年の1月につくられております準拠法に関する作業草案,これは前回この法制審でお配りした資料の52で,翻訳が53にございますが,これを主なたたき台といたしまして,これの逐条的な検討を中心に議論を三日間ほど行いました。一通りの議論を終わったところで,特別に,アドホックですけれども,この部分についての起草委員会といいますか,起草グループを指名いたしまして,それが今のたたき台となったものをさらにブラッシュアップするというそういう草案をつくりました。それでつくられたものが,今日の資料でいきますと,資料番号63にございますWorking Documentの114番というものです。これが準拠法に関するDrafting Groupがつくりました作業草案でございまして,第一週の最後の日にこれをたたき台といたしまして一通りの議論をさらにしたというそういう経緯でございます。   その後,事務局が中心となって,さらにそれについての議論も盛り込んでつくりました最新の準拠法ルールに関する案というものが資料の58,翻訳が59であります。Preliminary Documentの30番というそういう関係になっております。   それで,準拠法に関する議論は大きく二つに分かれまして,一つは準拠法のルールをどういう法形式で条約に盛り込むかということ。もう一つは準拠法ルールの内容そのものでございます。   まず,法形式の方について御紹介いたしますと,私の報告書の4ページですけれども,準拠法ルールを今回の条約にどういう形で盛り込むかということに関しましては二つほど選択肢があると考えられておりました。   一つは条約本体の一部として,この準拠法ルールを組み込む。例えば一つの章を当てるということです。しかし,その組み込まれた準拠法ルールの部分について,各国がオプトインするオプトアウトするという形で,入るか入らないかは選択できるという形にするというのが一つの選択肢でございました。   もう一つの選択肢は条約とは一応独立の文書として,議定書を準拠法ルールに関してつくるというものでございました。   この二つの選択肢に関しまして,どちらがいいかということで議論がございましたけれども,これは圧倒的に議定書として定めるという第二の選択肢がよいだろうということになりまして,第二の選択肢であります議定書形式をとるということが特別委員会で決定されました。議定書方式が賛成を集めた理由はいろいろあると思うのですけれども,全体として,条約本体をシンプルにして,条約本体を明確なものにしたいと,オプトイン,オプトアウトするような少し面倒なことはやめたいというのが大きな理由だったかと思います。   それから,もう一つは条約本体とは切り離して,準拠法ルールの方にだけ加盟する道を残すというためには,これは条約とは切り離した議定書にする必要があるわけですけれども,そういうものを好んだ国もある--日本もそれですが--ということでございます。   例えば,アメリカとかオーストラリアなどは,そもそも準拠法ルールの統一には全く関心を持たないということでございまして,そもそも第一週にはアメリカは国務省の代表は送ってこないで,第二週だけ来たというような状況でございまして,そういう国々からは,とにかく条約本体に準拠法ルールを入れたりしないでほしいと。雑談で話したところだと,そのアメリカの代表の人は条約をクリーンにしたいということで--要するに彼らから見ると汚れの一種なのかなと思いましたけれども,とにかく準拠法ルールは別個のものにしてほしいという要望が強かったようでございます。特にそれに反対する意見もございませんでしたので,結局議定書方式を採るということになりました。   ただ,議定書方式を採る場合にもさらに選択肢が二つございまして,一つは条約の当事国だけが入れる議定書にするというもの。もう一つは条約の当事国でなくても,あらゆる国が条約とは関係なしに議定書に入れるというふうにするもの。この二つの選択肢がございまして,どちらがいいかということを検討する必要があるわけですけれども,これにつきましては多少の議論はございましたけれども,立場を留保する国が多かったために,まだ決定はしておりません。ちなみに,日本は条約の当事国でなくても入れるという方にした方がいいだろうという立場をとっております。   それで,以上の議論を受けまして,具体的な条文の草案としては,結局議定書方式のものがその後つくられることになりまして,それがお手元にございます資料の58,それから翻訳が59でございますけれども,議定書ということは要するに条約とは別の文章で,一応独立の文章ですので,条約とは別に最終条項等いろいろ入れる必要がございますが,それはヘーグの事務局が準備したものを組み込むという形で草案をつくっております。   ちなみに,条約の当事国だけか,それともあらゆる国かという選択肢は,今の草案でいきますと,第19条に二つの案が書かれておりまして,そこに出ております。19条に,第1案としては,条約の当事国だけがこの議定書に入れるという案。それから第2案が,そうではなくてすべての国に開放されるという案でございまして,これのどちらを採るかは今後決めるということになろうかと思います。   以上が準拠法ルールの法形式に関する議論でございます。   次に,準拠法ルールの内容についてでございますが,これは先ほども申しましたけれども,ことしの1月につくられました準拠法に関する作業草案,これは前回配りました資料の52番,それから翻訳が53でございますが,これをたたき台にして議論をして,結局のところ,その後,資料の58,59になります議定書草案がつくられていると,こういう状況でございます。   そこで,現在の最新草案であります資料の58,59を一応参照しながら御説明をしたいと思います。   それで,まず,議定書草案資料58,59の第1条から適宜条を追いつつ簡単にお話を申し上げたいと思いますが,第1条は範囲なのですけれども,これは2007年の1月の草案をほぼそのまま維持しております。それで,括弧の中に入っております[(父母の婚姻に関する身分上の関係を問わない。)]云々というのがありますけれども,これについて入れるか入れないかにつきましては,条約本体との関係もございますので,今回はそのまま括弧に入れたままということにしております。   それから,第2条が普遍的適用で,これは前回の1月の草案にはなかったのですけれども,内容的にはそういう理解がされていたわけですけれども,イメージ的にいわゆる普遍主義,つまり,準拠法が非締約国の法律である場合にもこのルールを適用するということを明示した方がよかろうということで,これを明示する規定を第2条に入れております。ちなみにこれは1973年の扶養の準拠法条約と同じ方針をとるということでございます。   以下が準拠法ルールの中身そのものですけれども,これは構造としては前回の案と変わっておりません。つまり,扶養権利者の常居所地法を原則的な準拠法にするというルールをまず立てて,それに対する例外を幾つか付けるという形,そういう構造でございます。   その構造自体は変わっておりませんで,それから,原則的な準拠法ルールそのもの,つまりこれは第3条にございますけれども,これも前回と変わっておりません。変わっておりますのは,例外としてどういうものをどういう形でつけるかということについて若干の手直し等があったということでございます。   第3条は今申しましたように原則的なルールですけれども,扶養権利者の常居所地法を原則ルールにするという点で,これまで一貫してこのルールでいっているということで,特にこの点については大きな議論はございませんでした。   そこから以下,4条以下の例外ルールといいますか,特別ルールになるわけですけれども,まず,第4条の,これは子と親に関する特別のルールという題になっておりますけれども,これについては現在の条文の,つまり資料58,59の第4条を見ていただきますと,一方でこのルールが適用される範囲を決めて,2項,3項,4項で,どういう例外ルールが適用されるかということを説明しております。   例外ルールの内容というのは,前回と変わっておりませんで,第2項を見ていただきますと,このカテゴリーに入るものに関して言いますと,第3条の原則ルール。つまり権利者の常居所地法では扶養を得られないという場合には第2項の例外で,法廷地法を適用するというのが一つでございます。   それから,第3項がちょっとややこしいのですけれども,扶養権利者が義務者の常居所地で申立てをするという場合には,これはその場所,つまり義務者の常居所地であり法廷地でもあるわけですけれども,その国の法を適用すると。しかし,それを適用して扶養が得られない場合には原則に戻る形ですけれども,権利者の常居所地法を適用すると。こういうことでございます。   第4項は,これはまだ括弧に入っているのですけれども,今の2項,3項の例外によっても,それからもちろん原則ルールによっても扶養を得られないという場合に,両当事者,権利者と義務者の間に共通国籍があるという場合には,その国の法によって,もし扶養が得られる場合には得られるようにすると。こういう3段階の三つのタイプの例外を決めておりますが,これらは要するに広く扶養が得られるようにするという方向での例外であるわけです。   そこで,こういう例外をどういうタイプの当事者関係について適用するかということなのですが,ここは前回と少し変わっております。前回の案,2007年1月の案は21歳未満の子に関する扶養義務について,今のような特別ルールを適用するということだったわけですけれども,今回はそれをもう少し明確にしつつ広げております。4条の1項のa,b,c,と三つのタイプの扶養関係がありまして,1項のa号は子に対する親の義務ということで,この場合の子は年齢の制限をしないということですので,成人した子に対して親が扶養するものも含むということになります。それから,b号が18歳又は21歳,これはまだどちらか決めていないわけですけれども,一定の年齢未満の子に対する親以外の者の義務ということで,これは18歳か21歳未満の子に対して親以外の者が扶養義務を負う場合,それも今のカテゴリーに入れるということでございます。   それから,c号が親に対する子の義務ということで,子が親に対して負う義務についても今のような例外を認めるという形で,前回よりも広げる形でより広く扶養を取れる場合を認めていこうということでございます。   それから,この条文に関しましては,ある法律によって扶養を受けることができないときは次の法律にいくと,補充的に適用するということを決めているわけですけれども,その扶養を受けることができないときはということの意味について,抽象的なのか,具体的なのかということで,一応話題といいますか,議論が出ましたので,これについては改めて確認をするということではございましたけれども,具体的な扶養義務がその件について具体的に扶養がとれないと。何らかの要件がないので,一般的に叔父叔母関係では駄目だとかそういうのではなくて,具体的に扶養義務がないという場合に補充的な連結ができるということであろうということでございました。この点については,なお説明レポートなどで説明を加えるということになっております。これが第4条の子と親に関する特別のルールです。   それから,第5条の特別ルールは,これは配偶者,それから元配偶者間の扶養のルールでございますけれども,この点に関しましては,特別なルールがこのカテゴリーに必要だろうという点については大方の一致があるわけですけれども,具体的にどういう準拠法ルールにしたらいいかということにつきましては,なお議論がまとまりませんで,現在の案では1から3まで3案を併記するということにしております。   この点につきましては,2007年1月の草案では現在の第2案にほぼ同じような案が掲げられていたわけですけれども,それを見てみますと,2007年1月の案では「配偶者間又は元配偶者間の扶養義務は,総合的な状況に照らして明らかに,その扶養義務が両者の最後の共通常居所地国により密接に関連しているとみられる場合であって,配偶者又は元配偶者のいずれかがその国になお居住しているときには,その国の法律によって規律される。」と,こういう例外ルールであります。   これは現在の2案と大体と言っていいと思いますが,同じだと思うのですけれども,これにつきましては,ここの法制審議会でも同じような御意見が出ましたけれども,この,より密接に関連しているというのがいかにも曖昧で不明確なのではないかと。ルールとしては使いにくいのではないか,法的安定性を害するのではないかということでございましたが,特別委員会でも同様の意見がかなり出まして,もう少し明確性のある規定にしたらどうかという意見が出されております。それであれこれ出たのですが,結局決め手となるような案がございませんで,元の案を第2案に,ちょっとお化粧をしてありますけれども,残して,第1案,第3案を加えるという3案を併記にしております。   第1案の方は原則ルールに対して,配偶者,元配偶者の扶養義務に関する例外を認めるべき場合というのはどういう場合であるかというと,結局,扶養権利者の常居所地法では駄目で,ほかの法にした方がいいという場合なわけですけれども,扶養権利者の常居所地法では駄目だというのは,これは婚姻生活を営んでいた地から婚姻生活が終わった後,その扶養権利者が別の国に一人で出掛けて,そこで住んでいるという場合であろうと。つまり,今,扶養権利者が住んでいる国に一度も両者で婚姻生活を営んだことがないというそういう場合ではなかろうかということで,それがはっきり分かるような形で起草してあるのが第1案でございます。第2案よりは具体的で明確だろうということでございます。   第2案は基本的には元の案と同じなわけですけれども,ちょっと報告書には書いておきましたけれども,少し技術的な手直しをしております。   第3案なのですが,これはより不明確になるといえば不明確になるわけですけれども,ごちゃごちゃいろいろ議論が出たところで,イギリスのボーモンさんがそんなにいろいろごちゃごちゃ言うならば,もう正面から最密接関係というのを出したらどうかと,その例の一つとして,最後の共通常居所地というのを挙げておくという,そういう案の方がむしろすっきりするのではないかという案を出されまして,それを第3案として掲げていると。こういう状況でございます。   したがって,この三つの案のうちどれを選ぶかということは今後決めると。あるいは別にさらにいい案があればそれに変わる可能性もあるということだろうかと思います。   それから,報告書にはちょっと書き落としてあるのですけれども,第5条の柱書のところで括弧の中に入って,[[当事者][扶養義務者]の要請がある場合には,]という文言が今度新たに入っております。これは要するに当事者が求めた場合にだけこういう特別ルールを適用するのか,それともそうではなくて,客観的に配偶者間の問題であればこれを適用するのか,これもなお選択の余地があるのではないかということで,こういう選択肢が入っているということでございます。この点についても何か御意見があればお教えいただければと思います。これが第5条の配偶者,元配偶者の特別ルールです。   それから,第6条が抗弁についての特別ルールということですけれども,これは一定の場合に義務者がそういう義務はこれこれの法律に照らしてないので,自分はそういう義務を負わないという抗弁を主張することができるというタイプの特別ルールでございます。   同じようなタイプのルールは1973年条約にもあるわけですけれども,少し範囲等が変わっているということでございます。この第6条自体は2007年1月の準拠法草案とほぼ一緒でございます。文章にちょっと技術的な変更がありますけれども,ほぼ同質でございまして,もっとも2007年1月草案では全体が括弧に入っておりましたけれども,これはこういうルールを入れてもよかろうという方向で括弧を外すということが行われております。   中身をちょっと簡単に見ておきますと,これは要するに扶養義務者の常居所地法,それから当事者両者の共通の国籍法のいずれによっても準拠法義務がないという場合には,自分は扶養義務を負わないということを扶養義務者が言ってよいということにするわけでございます。   それで,この点につきまして議論がまだ少し残っておりますのは,どの範囲でこういう抗弁を認めるか,どのタイプの扶養義務について,この抗弁を認めるかということと,それからもう一つ,共通国籍国法に基づく抗弁というものを残すべきかどうかという点。この二点が,なお,今後議論が行われる可能性があるということかと思います。   範囲の方ですけれども,これは現在の案では「親子関係に基づいて子に対して生ずる扶養義務及び第5条に規定する扶養義務」を除きということです。1973年の準拠法条約ですと,これは傍系親族間,それから姻族間の扶養義務について今のような抗弁をそれについてだけ認めるということだったわけですけれども,今回は例えば今の表現で分かりますように,子が親に対して負う扶養義務についても今のような抗弁を認めるということになるわけでございます。   それから,ちなみにこれは法務省の事務局の方から御指摘いただいたのですけれども,今の6条の条文で,親子関係に基づいて子に対して生ずるというときに,これが未成年の子だけなのか,それともそうではないのかということが問題となり得まして,ボノミさんがつくった説明書を見ますと,どうも未成年に限っているような表現があるわけですけれども,この点についてはまだ今後議論をする必要があるだろうと思います。   これが範囲についての問題でございまして,日本の立場としては,子が親に対して負う扶養義務について,今のような抗弁を認めるというのは,ちょっとひど過ぎるのではないかということだったわけですけれども,そういう意見の国もありましたし,あるいは通常は認めてもいいけれども,親が健常ではないような場合には認めないという方がいいのではないかというようなことを言う国もありまして,この点については,なお議論をするということになるだろうと思います。   それから,共通国籍国がある場合の,共通国籍国法に基づく抗弁についてですけれども,これについては,ちょっと飛ばしてしまいましたけれども,共通国籍というものを基準として使うのはいかがなものかと,国籍を基準として使うのはどうかという意見が一般的な傾向としてあるわけですけれども,それの点と,それから共通国籍国法を使うとなると,これは中国の代表が言っていたわけですけれども,例えば香港と大陸中国の人には共通国籍があるわけですけれども,その人の間の共通国籍国法として一体何を使うのかについての基準が不明確であるというようなことも指摘されたりしまして,なお共通国籍国法に基づく抗弁を認めるべきかどうかということについては,この点についても少しいろいろ問題が残されているということでございます。   それから,第7条,第8条が,当事者が準拠法指定をするということに関するルールでございまして,第7条の方が個別個別の一つ一つの手続において準拠法を当事者が指定する場合,それから,8条がより一般的に当事者が個別の手続に限ってというのではなくて,当事者の関係として一般的に準拠法を指定するというタイプのルールでございます。   第7条,第8条は,これに相当するものが2007年1月の準拠法草案にもあったわけですけれども,それぞれについて若干の手直しをしてあります。   第7条ですが,これは個別の手続に関する法廷地法の指定ということで,個々の手続の中で,あるいは手続のために当事者がその手続においては扶養義務の準拠法をその手続をする国の法,いわゆる法廷地法を準拠法にするということを合意できるというものでございます。   実質的な変更は1月草案からはございませんで,例えば2項の方に書面によるというところを入れたわけですけれども,その書面についての定義規定のようなものを,全体としては定義規定をやめましたので,ここに組み込むという形で書き直してありますけれども,実質的には1月の草案から変わっていないと考えられるだろうと思います。   そして,この7条に関しましては,前回この法制審議会で御指摘をいただきました点,つまりこのルールに関しましても--8条で,後で見ますけれども--未成年の子とか,能力に問題のある成人に関して,それを保護する規定が必要なのではないかということを言いましたけれども,全体の雰囲気としては,これは個別具体的な手続における話なので,適切な法的代理がそれぞれそういう人たちについてはなされているはずなので,そういう意味で,その指定をさせないという形での保護をする必要はないのではないかという意見が多かったかと思います。   それから,第8条の方,つまり一般的な準拠法の指定,当事者自治の話ですけれども,これに関しましては若干変更がございました。変更点は8条第1項のc号,d号の書き方なのですけれども,1月の案ではこれは当事者が例えば夫婦財産制の準拠法として指定した法律をこの扶養準拠法としても指定することができるということだったわけですけれども,指定したという経緯で,例えば夫婦財産制の準拠法になったものに限らず,例えば法定で準拠法になっているようなものについても,それを扶養準拠法として指定する候補には加えていいのではないかという意見がございまして,それはそうだろうということになりまして,したがってc号,d号に関しまして,「当事者が指定した法律」のほかに,「又は実際に適用された法律」と,そういうものも入れるということになっております。この表現がちょっといいのかどうか分かりませんが,趣旨としてはそういうことで,当事者がもともと指定したものでなくても,例えば夫婦財産制とか,離婚に関して適用されるあるいはされた法律を扶養義務の準拠法に当事者が合意によって決めるということができるようにしたらどうかということでございます。   それから,8条の3項ですけれども,これは先ほどちょっと触れましたけれども,未成年の子とか,それから能力に問題のある成人について,この規定を適用しない,つまり合意ができないということにしておくということなのですが,先ほどの個別の指定に関してはこういう保護を与える必要はないだろうという意見が多かったと申しましたけれども,この一般的な指定に関しましても,そもそもこういう規定を置く必要はないのではないかという意見も出されております。つまり,これらの人に対しては法的代理が適切になされるのであれば,そこの段階で必要な保護がなされるのではないかと,そもそも合意ができないということにしておく必要はないのではないかという疑問が出されたところでございまして,これもまだ今後議論することになるだろうと思います。   それから,18歳がいいか21歳がいいかということにつきましては,これは○○委員の御指摘等もございまして,2000年のハーグ条約,1996年のハーグ条約と併せて,18歳未満なのではないかという意見を出しまして,そういう意見の国もございましたけれども,余りこの点については議論はなされませんでしたので,なお18と21が並存して括弧に入っているという状況になっております。   それから,8条の4項ですけれども,これは結局前の案と変わっていないのですが,議論の過程では,もう少しここを実際に適用に当たって判断の基準がもう少し明確になるようにしたらどうかという意見が出まして,資料の63番,つまりWorking Documentの114。つまり,いったん一応議論した後は起草委員会がつくったDraftの中ではもし選択がなければ適用された法律を適用した場合の結果と比較して,明らかに不公正,不合理かという,そういう比較の視点を入れるような条文が案としてつくられたわけですけれども,それをやるとまた,では選択がなければどの国の法が適用されて,その国の法を適用するとどういう結果になっていたかということまで裁判官が全部判断しなければいけないということで,かえって使いにくいのではないかというようなこともありまして,結局元に戻っております。これが第8条でございます。   それから,第9条,公的機関ですが,これについては1月草案から変化はございません。この点につきましては,実はほとんど議論する時間がなくて,条約本体の33条2項と,この9条との関係についてどう考えたらいいかという質問をしたのですけれども,この点についてもほぼ議論はできなかったという状況でございまして,なお,検討することになろうかと思います。   それから,第10条についても,第10条は準拠法の適用範囲ですが,これもほとんど実質的な変更はございません。議論が若干ありましたのはインデックス制度というものについて準拠法を適用するというのは一体具体的にはどういうことなのかということについて質問が出て,それにインデックス制度をつくっている国が若干答えるということでやりとりはありましたが,結果としては特にこれを例えば削るとかいうようなことにはならなかったということでございます。   それから,11条は新たに入った規定かと思いますけれども,これ自体としてはもともとの案が1月の草案では定義規定の中にこれに相当する,つまり法律という文言には抵触法ルールは入らないという趣旨の規定があったわけですけれども,定義規定そのものを外しましたので,そこを分散してどこかに置くということになりまして,今の法律の定義に関しましてはここに11条反致の否定という形で入れるということになっております。これは特に余り問題ないことかと思います。   それから,12条の公序ですけれども,これは1月草案のK条というところに若干の修正を加えております。1項の文言は変わりません。普通のいわゆる公序の規定でございます。   12条2項について若干議論がありまして,扶養料金額の決定に関して,準拠法がどういっているかを問わず,扶養権利者にどのぐらい必要性があるのかと,それから,扶養義務者がどのぐらい資力を持っているのかということを考慮に入れるべきであると。あるいは入れることができるようにするべきであるということで,こういう規定が入れられているわけですけれども,ここで今回少し変わっておりますのは,「入れることができる」にとどめるのか,あるいは「入れなければならない」ということにするのかということで,これはどちらにするかの選択肢をつくる形にしております。   12条2項全体が前回の草案では括弧に入っていたかと思いますけれども,それは外して,この種の規定を入れるということはそれでよろしいだろうと,ただ,それが認めるというだけにとどめるのか,それとも考慮しなければいけないということにするのかということについて,なお,今後決定するということになるかと思います。   なお,この公序と題する12条の2項に今のような規定を入れるのは果たして場所としていいのか,位置としていいのかという意見も出ましたけれども,報告書の16ページの下に書きましたけれども,何らかの意味で公序と関係するということですので,ここに位置としては置いて構わないのではないかということになっております。   以上が準拠法ルールで,前回までも既にあった規定がその後どう変わったかという話でございますが,議定書をとることにいたしましたので,先ほど申しましたけれども,それに伴って各種の規定を入れる必要があるということになりまして,その規定を13条以下に入れております。これは基本的にはヘーグの事務局が準備していた資料に基づきまして,その後,この議定書草案をつくるときに事務局が入れたということになろうかと思いまして,特に問題のあるところは余りないとは思うのですけれども,今後方針を決めなければいけないものとして19条と24条があります。   19条は先ほど来申しておりますように,議定書を条約当事国だけが入れるようにするのか,それともあらゆる国に対して開放するのかという選択肢で第1案,第2案が併記されているということであります。   それから,24条に留保の規定がありまして,留保を全く認めないのか,それとも,一定の条文について留保を認めるということにするのかということで,これは具体的にはまだほとんど議論されておりませんけれども,こういう議定書をつくるとなると,留保に関する方針も決めなければいけないということで,今後この点についても検討する必要があるということになろうかと思います。   ちょっと駆け足で恐縮ですが,以上が準拠法部分に関する説明でございます。   引き続きまして,条約草案の14条,20条の部分につきまして,御説明を申し上げたいと思います。最初に申しましたけれども,前回の特別委員会で,条約草案の全体を検討したわけですけれども,特にこの14条と20条につきましては,これらの今回の条約にとって大変大切な規定であるけれども,なお議論が必ずしも十分ではないと思われるということで,今回準拠法に関して特別委員会を開くに当たって,少し時間を割いてその点についてもさらに検討を進めておきたいというそういう趣旨で,この14条と20条が議論の対象とされたわけであります。   これは第二週に二日半ほどかけて行いましたけれども,基本的には14条の方に大分時間がかかってしまいまして,20条はごく簡単に,約一時間ちょっとぐらい議論がなされただけという状況であります。この部分の議長は前回も議長をいたしましたクルクツというハンガリーから出ている代表です。全体の委員会の副委員長でありますけれども,彼女が務めるということになりました。それで,14条と20条につきましてなされた議論は大体以下のとおりでございます。   まず,14条ですが,これはどういう規定かと申しますと,資料の56,57を御覧いただきたいと思いますが,翻訳は資料57の,翻訳ですと7ページですが,この14条というのは手続の実効的な利用という題が付いておりますけれども,要するに扶養に関する申立てをする者に対して,無償の法律扶助を幅広く与えることによって--扶養料を求める人は大体そのようなわけですけれども--経済的な余裕がない者にも本条約に定める手続を利用する機会を実質的に保障しましょうということを狙った規定でありまして,この規定はこの条約を推進している人たちにとっては,非常に重要な規定だと,本当に使えるかどうかを決める重要な規定だというふうに考えられているということでございます。   現条約草案の第14条は第1案というものと,それから第2案,二つの案が併記しております。第1案は14条だけでありますけれども,第2案は14条のほかに,14条bis,14条terという二つの条文,この三つの条,14条,14条bis,14条terが1セットになっているわけであります。   この第1案,第2案というのはもともとの1月草案にもあったわけですけれども,今回もなお併記が続いております。どちらの案を採るかにつきまして,まだ併記されていますので,なお今後議論がなされることになるわけですけれども,今回の特別委員会でもどちらの案がいいかということについて議論が行われました。   第1案,第2案の大まかな特徴は前回と今回とで変わっておりません。そして,その議論の様子ですけれども,私の報告書の18ページの下あたりに書いてありますけれども,第2案はアメリカとかEC,カナダ,オーストラリア等が推している案ですけれども,これを支持する声が圧倒的であったというのが率直なところだろうと思います。   この第2案というのは,14条のbisを見ていただくと分かるのですけれども,親子関係に基づく21歳未満の子,つまり未成年の子に対する親の扶養義務,これに関しては,第3章の申立てすべてについて受託国が原則として無償の法律扶助を提供しなければいけないということにしているというのが特徴であります。つまり未成年の子に対する親の扶養というのを取り出して,これを非常に厚く遇するというのが特徴であります。これは特にアメリカが推進しているといいますか,推している考え方なのですけれども,これがなければ余り意味がないというのがアメリカの言い分であります。   それで,第2案の支持が圧倒的だったわけですけれども,第1案についても,支持はもちろん多少ございまして,日本はそちらなのですけれども,日本のほか,今回は中国・チリ・ブラジルという国が第1案の方がいいのではないかということを言っております。多少でしたけれども支持国がありましたので,なお,1案が現草案でも維持されているという状況でありますが,第2案の優勢がかなり明らかでしたので,議長は第2案の規定の検討を中心に議事を行いまして,第1案についてはごく簡単に最後に触れるということになっただけです。   第2案の検討で,1月の草案からどこがどう議論されて変わったかということですけれども,形式的に幾つかの点が変わっておりますが,その点を除きますと,第2案の14条のbisの点で少し実質的な変化がございます。形式的な変更はどこがあったかということは,私の報告書の19ページのb)の真ん中あたりです。ページ全体の真ん中あたりにごく簡単に書いておりますので,形式的な変更はそこを御覧いただければと思います。実質的な変更としては無償の法律扶助の対象となる申立ての範囲を前回よりももう少し明確にするということが行われたものであります。現在はどうなっているかといいますと,第2案の14条のbisで1項ですが,受託国は親子関係に基づいて発生する21歳未満の子に対する扶養義務に関してということです。これが前回の1月の草案では「第3章に基づく子の扶養の申立てのすべて」としておりましたので,「子の扶養」の意味というのは明確ではないということだったわけです。これに対して今回は,親子関係に基づいて,21歳未満の子に対してということが明示されたということであります。   それから,今回は今の14条bisの1項のところに,扶養権利者によってされる申立てとするかどうかで,[扶養権利者によって]というのは括弧で入っておりますけれども,これは扶養義務者側からこういう関係の扶養義務に関して,例えば扶養決定の修正等の申立てがなされることもありますので,それを入れるかどうかということについて,なお今後検討するということなわけです。つまり求める側が--扶養権利者が申立てをしたときだけに,今のような規定を適用するのか,それともこのタイプの扶養義務であれば,扶養義務者側が申し立てた場合も入れるのかということであります。   それから,もう一点ちょっと議論がありましたのは,今のように無償の法律扶助が原則なわけですけれども,やはり一定の例外は設ける必要があるというのは従前から言われていることで,その例外の範囲をどういふうにするかということについて,若干の議論がありました。14条bisの2項に,その例外があるわけですが,全体の構造としては余り変わっていないのですけれども,1月草案では三つの例外が規定されておりました。   一つ目は遺伝子検査の費用。それから,二つ目が根拠を欠くことが明白な申立て。三つ目が極めて裕福な申立人による申立て。これらの場合には無償の法律扶助を与えないことができるということになっていたわけですけれども,これらについて若干の議論がありまして,少し条文も変わっております。   第一の例外である遺伝子検査の費用ですが,これは,これも無料にすべきだという意見がかなり強かったのですけれども,やはり現状ではかなり高いことでもあるし,無料に必ずしろというのは難しいという意見もありまして,結局,括弧に入れて例外として列挙するということになっております。この点はなお検討するということなのかと思います。   それから,根拠を欠くことが明白な申立てというのは例外になるということなのですが,これ自体はいいのですけれども,その規定の仕方として,前回は少しややこしい規定の仕方になっていたのを今回の条文では少しシンプルなルールにしております。前回は受託国の中央当局が自国の適切な機関に送致して判断させると,国内でほかの機関に送って判断させるというようなことを書いてあったわけですけれども,今回はここを単純明快に,受託国が判断するということにしているわけです。実質は余り変わらないのかもしれませんけれども,シンプルにしたということであります。   それから,第三の例外であります極めてお金持ちの申立人を例外にするというものですが,これについて結構議論がございまして,現在はA・B・Cと3案挙げてあります。このうちの現在のB案というのが,前回の1月草案と内容的には同じ案でありまして,これは簡単に言うと,極めて富裕であるという理由に基づいて,法律扶助を与えないということができるけれども,その最終的な決定権限は嘱託国の方,頼む方の国の中央当局にあるというのが元の案だったわけです。これが現在のB案なわけです。   これに対しては,法律扶助を与えるのは受託国なので,嘱託国が最終的に決めるというのはおかしいではないかと,嘱託国の判断に受託国が従わなければいけないというのはおかしいのではないかという批判がまだされます。これと同じような御指摘はここの法制審議会でもあったかと思いますけれども,日本以外からもそういう指摘がありまして,その批判を受けてA案というのがつくられております。これは最終的な判断は受託国の方が行うと,嘱託国ではなくて受託国の方が極めて富裕なので法律扶助を与えないということを決定することができるということにしてある案であります。   ただし,それに対しては,アメリカが非常に抵抗を示しておりまして,というのはアメリカの市民が外国で申立てをすると,外国の当局にお願いするといったときに,要するにアメリカが嘱託国となって,ほかの国が受託国になる場合ですけれども,このときに受託国が法律扶助を与えるか与えないかを決めるということにしてしまうと,アメリカの経済水準は高いので,受託国が,特に途上国である場合だと思いますけれども,アメリカの考えでは法律扶助を与えるべきであるにも関わらず,富裕なので与えないという決定を受託国が勝手にしてしまうという恐れがあると。だからこそB案というふうにして,嘱託国が決められるというふうにアメリカは主張していたわけですけれども,そういう懸念があるということを繰り返し述べましたので,そこで妥協案といいますか,それに対する配慮として,A案のところの最後の方ですけれども,申立人の経済的な条件が非常に良好であるか否かの判断に際しては,嘱託国における生活水準を考慮に入れなければいけないということを入れております。   これに対して,逆の提案が出まして,つまりこれはC案なのですが,こういう例外を一切認めないと,つまりc号を削除するという提案がアメリカから出されております。要するに,富裕だから法律扶助を与えないというような例外はつくらないという案でございます。   アメリカによると,そもそもこういう富裕な者に対する例外というのは,実際には必要ないと。アメリカが考えているこの富裕な例というのは,そこに書きましたけれども,ハリウッドのスター女優が申請するような場合であると。そういう場合にだけ切ればいいので。しかし,ハリウッドのスター女優はこんな条約は使いませんということで,それだったらこういう例外は置かずに,そもそも富裕だからといって法律扶助を与えないというような例外はなくしてもいいのではないかというのがアメリカの案でありまして,これがC案になっております。なお,このA・B・Cで今後検討することになると思いますけれども,最初はB案もアメリカの前回の提案だったわけですけれども,現在はC案を第一順位に,それがどうしても駄目ならB案というのがアメリカの立場で,C案に賛成するという声も結構その場ではあったかと思われます。これが14条の第2案についてなされた議論でありまして,その結果として現在の14条の第2案が起案されているという状況です。   それから,第1案の方は余り支持がなかったために,それ自体としては余り議論がなされなかったわけですけれども,二点,現草案では変わっております。   一点目は,これは第5項の内容を一部修正しているというものです。これは1月草案では嘱託国で部分的に法律扶助等を得ていた者は,受託国での最も広範なあるいは最も有利な法律扶助や最も広範な費用免除を受けられるという規定になったわけですけれども,それはちょっとバランスがおかしいのではないかということで,これは日本からも,それからほかの国からもちょっと意見が出ましたけれども,そういう意見がございまして,前回のこの法制審議会でいただいた御意見をもとにして修正提案を出しました。これがWorking Documentの116で,今回の資料の最後の方にお付けしてありますけれども,これを取り入れるという形で第5項が変わっております。   それから,もう一つは,第7項というのが1月草案にあったのですが,これが今回はなぜか落ちております。これは子に関しては国同士が無償で法律扶助を与えるということを約束することができるという案ですが,なぜこれが落ちているのかがちょっと不明でございます。この点は報告書の22ページに書いてありますが,余り大きな問題ではなかろうかと思います。これが14条に関する議論とその結果でございます。   それから,第20条につきましてですけれども,第20条というのは,これは承認・執行が申し立てられた場合に,それを受けて受託国が行う承認・執行の手続に関する統一といいますか,統一ルールを決めておきましょうというものです。この点,つまり承認・執行の手続をどこまでこの条約で統一するかということに関しましては,大きく分けて二つの態度があり得て,一つは,やはりそれは各国の国内法に基本的にはゆだねるべき事項で,必要最小限の統一だけを図ればいいと,その方がよいという考え方が一方にありまして,日本はどちらかというとそちらでありますし,ロシアとか中国もそういう意見も繰り返し述べております。これに対しまして,多くの国は,アメリカ,EC,カナダ,オーストラリア等ですけれども,この承認・執行の手続というのがこの条約の一つの要であって,そこを各国の国内法に任せて統一をしないのでは,結局うまく機能しないのではないかと,これまでの例えばニューヨーク条約の例とか--ニューヨーク条約というのは扶養に関するニューヨーク条約で,これは失敗例ですが--あるいは子の奪取の条約の例--これは成功例だというふうに考えられていると思いますが--に照らしてみても,手続をできるだけ統一して迅速簡易なやり方でできるようにしておくというのが肝要であろうというのが多くの国の考え方であり,また常設事務局の考え方でもあるように思われます。   それで,最初に申しましたように,この20条については結局時間が余りありませんで,幾つかの国がそれぞれ意見を述べるという程度で,余り具体的な議論まではいかなかったのですけれども,その出された意見等を簡単にまとめますと次のようになります。   これは報告書23ページから次のページにかけてですが,アメリカ・EC・オーストラリア・カナダ等からは,こういう規定が先ほど述べたような意味で是非とも必要であるという意見が出されました。   それから,もう少し具体的な話としては条約草案の20条の現在の第4項,1月草案ですと第5項になっているのですけれども,現在の第4項の宣言又は登録を拒否できる理由の範囲についてまだ選択肢が残されているわけです。この内では19条a号に限るという案を採るべきである。つまり公序違反の場合に限って拒否ができるということにすべきだという意見が述べられました。17条,19条,もう少し広く拒否事由をとると,それだけ迅速な手続が妨げられるというそういう主張でございます。   これに対しては,今の現在の4項,1月草案の5項ですが,これの今の二つの選択肢に関しては19条a号に限るのは狭過ぎるという意見が,これは中国,ロシア,日本だけではなくて,スイスからも述べられているわけですけれども,そういう意見が述べられましたし,それから,現在の4項の第2文ですけれども,これはこの法制審議会でも随分問題になりましたが,宣言登録の段階では申立人も相手方も意見を述べる権利を有しないという規定が入っておりますけれども,これについては削除すべきであるという意見が,これは日本が述べましたし,それからスイスは,申立人は意見を述べられるべきで,相手方はやむを得ないがというような意見でしたが,そういう意見も少し述べられたところであります。   それから,現在の第6条,1月草案の第7条なのですけれども,現在の第6条に,何日間異議申立て,上訴ができるかという具体的な数字が30日,60日というふうに入っているのですけれども,これも具体的な日数を決めてしまうのはいろいろと問題があるので,各国法にゆだねるべきではないかという意見が日本と,それからロシアから述べられたという状況であります。   このように幾つかの点について意見が述べられましたけれども,先ほども申しましたようにこの点についてはほとんど議論する時間がなかったので,そういう意見が述べられたということをノートしておくということでした。それで,今の点について,議長は,今幾つか述べましたような懸念や問題点の指摘というのがあったけれども,この20条の基本的な構造と原則と必要性は圧倒的な支持を受けているというまとめをされておられました。   それで,20条に関しましては今のような意見表明等がありましたけれども,実質的には現条約草案は前の条文から形式的な点を除いてほとんど変わっておりません。ほとんど議論する時間がなかったということもありますし,それから,重要な規定なので有力な異論はないというふうに一応議長,常設事務局は理解しているのかもしれません。   以上が14条,20条に関するものでございます。これで準拠法に関する話と,それから14条,20条に関する話,どういう議論が行われたかということを,かいつまんでお話ししたということになろうかと思います。   最後のところ,報告書の25ページ,26ページに,全体の情勢といいますか,これについて書いておきましたので,これは後でお読みいただければと思いますけれども,簡単に言いますと,準拠法の方については,今述べたような議論が淡々と行われて,さらに進むだろうと思われますけれども,条約本体の方,特に14条,20条に関しては,かなり推進派のといいますか,アメリカ,ECを中心とするできるだけ広く無料の法律扶助を与え,それから,できるだけ簡便で迅速な統一手続ルール,承認・執行に関する統一手続ルールを導入するべきであると,現在の14条,20条を強く推進するという考え方がかなり強くなってきているという状況だろうと思います。   我が国のこれまでの方針に照らしますと,もし現在のこういう優勢な状況で条約が作成されますと,そして,それに日本も入るということに,もし,なりますと,二つの問題点が生ずる可能性があるということでございます。26ページに書きましたけれども,第一に,かなりの規模の財政的・人的なリソースを投じて,行政的な諸制度を整備,運用する必要が出てくると。中央当局システムをつくりあげて,それを運用するということも必要になりますし,法律扶助もかなり格段に充実させる必要が出てくるということであります。第二に,従来の国内の手続法とはかなり異質な手続を受け入れて,法制度を整備して運用する必要が出てくると。これは今の20条の点が特にそうですけれども,簡易迅速な承認・執行手続というのは日本の現在の考え方とはかなり違うものでありますし,それから,外国の行政機関による決定とかあるいは場合によっては公正証書とか私的合意についても承認・執行するということになるかもしれませんので,そうなりますと,その点についてもかなり大幅な制度の改編,導入が必要になってくるということでありまして,これらの問題,なかなかそれぞれ大変な問題ですので,現状の勢いの方向で条約が作成されますと,我が国にとっては,批准するのはなかなか難しい条約になってしまう可能性があるのではないかというふうに感じているところでございます。 ● どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの○○委員の御報告に対しまして,全般的な事項について御質問等がございましたら承りたいと思います。いかがでしょうか。 ● 一点だけお尋ねしたいのですけれども,各国の意見を御紹介いただいたのですけれども,米国とECがかなり音頭を取ってということはお話しいただいたのですけれども,このECの理解なのですけれども,西欧各国も同じようにECというところで,それを支えている国々の勢力という位置付け,理解をしていいのか。あるいはやはりECだけで加盟国は別のスタンスをとっている余地があるのかという,ちょっとそこだけすみません。 ● そこも私は詳しく分からないのですけれども,今回からECが独立のメンバーシップを持ったのです。したがって,ECの独立のメンバーシップに基づいて発言しているのだと思うのですけれども,しかし,毎朝,EU加盟国はECのコーディネーションミーティングという調整会議を事前にしておりまして,意見統一を一応しているのですね。ですから,ECが発言するときはまだコーディネーションが済んでいないので,この点については留保するがということが時々ありますけれども,そう言わないときは,一応,加盟各国も同じ意見であると,ECに従うということだと思いますけれども,同じ意見であるということだろうと思いますので,要するにかなりの数の国が同じ意見であるということと理解していいのではないかと思いますけれども,ちょっとその辺はもう一つよく分からないので,どなたかございませんでしょうか。 ● 私の知る限りで申し上げますと,EUの方でも別途EC規則をつくる動きが出ておりますので,いったんEC規則ができますと,各国が持っている立法権限が自動的にECの方に移ることになりますので,それとかぶるようなヘーグ条約を締結しようと思っても,今度は構成国の方が立法権限を失っていますので,そうなるとEC自体が締約国になるという扱いになると思います。それがあるので恐らく議定書の部分は外しておきたいという配慮があったのかと思いますけれども。 ● ほかにいかがでしょうか。   もし,全般的な事項についてないようでしたら,部会資料の56から59までとしてお配りしております改訂後の条約草案及び扶養義務の準拠法に関する議定書草案の内容につきまして御議論をいただきたいと思います。   ○○委員の報告書で取り上げられている事項に沿って御議論をいただいた後,時間の許す限りその他の事項についても御議論いただくということにしたいと思います。   それでは,○○委員の報告書,Ⅱ-2,準拠法ルールの法形式,条約との関係,報告書の4ページから順に議論をしたいと思いますが,まず,4ページのⅡ-2,準拠法ルールの法形式,条約との関係について御質問,御意見等ございますでしょうか。 ● 余り実益がある議論かどうか分かりませんけれども,この議定書の締約国を新しい条約の締約国に限るか限らないかの点についてですけれども,準拠法統一条約は別に権利義務を相手方とやり取りするわけではないので,もしそのどちらをとっても各国はこれと全く同じルールを国内法でつくることができるわけですよね。それを禁止することができないにもかかわらず,限定するとかしないとかという話は余り意味がないように思うのですけれども,国際私法の統一ということについて何らかのインパクトを与えたいというような,そういう別のことがあるのでしょうか。 ● おっしゃることは,つまり条約当事国に限ったとしても,同じ内容でかつ条約の当事国にならない国も,同じ内容の準拠法ルールをつくることは当然国内法としてできるのでということですね。 ● 具体的に言えば,19条について第1案が採用されたとしても,日本は現在の条約を破棄して,新しい条約を国内法としてつくればできるわけですから…… ● それはそうですね……それはそうだと思います。だから,別に当事国に限っても余り変わらないだろうということはそうですね。ただ,何となくというのは変ですけれども,どうせなら国際文書というか議定書なり条約に入る形で統一に加わった方がいいのではないかというイメージを持っていたのですけれども,それは機能的に考えると余り関係ないのでしょうかね。 ● ですから,日本は第2案を採っているという前提ですけれども,第1案に反対する理由として,第1案を採っても第2案は実現できるぞというのは,要するに第1案を採る意味がないということになると思うのですけれども。第1案をあえて採る必要はなくて,第2案にしておいても結局同じことでしょうと。 ● 第1案を採ったとしても……というか第2案に固執する必要は必ずしもないと…… ● いや,逆です。日本は第2案を採るということを決めているとすればです。第1案を推す国に対して,それを推すことの意味は余りないのではないかという…… ● 意味がないと言えると。 ● 余り一所懸命議論することはないけれども,何らかの別のことを考えているとすれば,そこは私は分からないので,教えていただきたいのですが,そうでなければ第1案に固執する国には余りその効果を本当には実現できないということを認識すべきであるということですか。 ● 第1案をはっきり言っている国は余りないのですけれども,要するにこの議定書に入りたければ条約に入らなければいけないということをてこにして,条約にたくさん締約国を寄せようという意図が多分あるのだろうと思うのです。それに対して今おっしゃったことが確かに言えますね。分かりました。 ● 議定書に入ったら条約にも入らなければしようがないということなのか,そうではなくて,条約に入った場合に議定書に入ることができるということですよね。 ● そういうことです。 ● ほかにございませんでしょうか。 ● 要するに条約に入らなければ議定書に入れないということになると,議定書に入りたいという国がその条約にも入るから加盟国が増えると,そう理解していいのですか。 ● そうです。 ● 分かりました。 ● いかがでしょうか。 ● 日本は第2案を採って,条約当事国以外の国にも開放する案を採っておられるそのときの理由として,議定書に参加することによって扶養義務準拠法ルールの統一の実質を維持できる道を確保しておいた方がいいというふうに報告書に書かれているのですけれども,そうだとした場合に,これも瑣末なことなので余り大した話ではないのですけれども,報告書にも書いてある今回の準拠法ルールというのが,1973年の扶養義務準拠法に関する条約の改訂版になると,そういうことであるとすると,しかも開放が本体条約の当事国以外に開放されるとなると,タイトルの付け方なのですけれども,議定書というふうに呼んでしまうことで,それだけに参加しようという国が余り多くならないのではないかということを,ちょっと報告書を拝見して感じたものですから,もしそういう日本のような理由で第2案を推されるのであれば,タイトルも議定書ということではない付け方というのもあるのかなというふうにちょっと思いました。 ● 独立の条約ということですね。 ● そうですね。ただ,余り大したことではないのでそんなに強く言ってもらいたいというほどの意見ではないのですけれども。 ● ほかにいかがでしょうか。   それでは,この条約との関係,法形式の問題について,もしほかに御意見がありませんようでしたら,準拠法ルールの内容にいく前に休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ● それでは,審議を続けたいと思います。   報告書6ページと7ページの準拠法ルールの内容のうち。a)範囲(第1条)から,c)原則的な準拠法のルール(第3条)までにつきまして,御意見,御質問ございますでしょうか。 ● 最初に非常に細かいことを,それは○○委員ではなくて,御存じの方に伺いたいのですが,遺伝子検査というのは今日本ではどの程度の費用がかかるのでしょうか。 ● 15万前後……10万から20万ぐらいですね。 ● 親子関係の確定なんかのときに。 ● はい。そうです。 ● 検出分から掛かっていますか。 ● 掛かっています。 ● そうですか。   やはり諸外国でも結構高いのでしょうね。 ● 分からないです。 ● 分かりました。どうもありがとうございました。 ● ちょっと調査したことがあるのですが,主流が15万円です。それは家庭裁判所がよくお使いのところで,しっかりしたところと言っていいと思うのですけれども,そこは15万円が普通で,民間でいろいろ簡易にやっているところもございまして,5,6万でやっているようなところもあるようですけれども,主流は15万円程度のようです。 ● やはり結構な金額ですね。ありがとうございました。 ● 1条から3条までいかがでしょうか。   それでは,7ページ,第4条,子と親に関する特別のルールについていかがでしょうか。 ● 先ほど御説明の中で,18歳か21歳かという議論がありましたが,後の方に出てきた14条のところは,もう21歳というのが第2案で一個しか書いてなかったのですけれども,こちらが21歳でいくとしたら,まあ違っても構わないことは構わないのですが,21という数字はよく分からない。もしかしたら前も議論したかもしれませんが,21歳というのはどういう区切りなのですか。執行の方ではそちらが21歳と当然のように書いてあることとの関係がよく分からないのですけれども。 ● 21がなぜかというのは,20ではなくて,22ではなくて,なぜ21かということですよね。それは21を成年にしている国が結構あるということですか,ちょっとすみません。私よく分からないのですが。 ● 成人年齢は,かつては南米で21歳のところもあったのですが,ほとんど18に下げてきていますので,成人とは関係なく,大学生などでまだ勉強していて自活する力がない人をもっと保護の対象に含めるという議論だったと思うのですけれども。 ● 日本だと22の方が合理的なのですけれどもね。だけど,なぜ21なのかというのは…… ● もう一つの,執行の方との関係は,あちらは余り議論がないから21になっているということですか。 ● 法律扶助の方,14条ですか。 ● 条約の方の14条。 ● 条約の14条ですよね。 ● 第2案の14条bis。 ● 私の理解が正しいかどうかはちょっと分からないのですけれども,子に対する扶養義務の準拠法に関する条約とかのときには21歳未満の者を子というように,昔のヘーグ条約ではずっと21歳未満の者を子というような形で伝統的に使われてきたのが,最近は18歳未満というふうに移ってきたということが影響しているのではないかと思います。   14条の関係もございますけれども,条約本体の方は2条1項に今回の子についての定義規定みたいなものを置いておりまして,こちらの方では一応21歳未満の子に対して親子関係から生じる扶養義務等について適用するというような一応原則的なルールを採用しているということでございます。 ● ほかにいかがでしょうか。   もし,ございませんようでしたら,9ページの第5条配偶者及び元配偶者に関する特別のルールについて。 ● この5条は3条の規定にかかわらずなので,3条が適用されることはなく,こちらだけでいくということだとすると,第1案だと空振りというか,こういう法律がない場合も出てくるのではないかと思うのですが,共通常居所地国が一度もなかった場合というのが本文についてはあり得ますし,ただし書が付くと,もっとない,その国には既にどちらも住んでいないということも最後の共通常居所地国には住んでいないということもあるので,第1案だと準拠法が決まらないことがあるのではないかと思うのですが,そうすると3条に戻るということなのか,3条に戻るなら3条の規定にかかわらずというのが……その規定があればということですか。ただ,第2案とか第3案だと,条文上,規定の差し替えのようには読めるのですが,最密接関係地国がない場合というふうには読む必要はないように思うのですけれども……というか最密接関係地国法によるとかそういう規定で理解できるので,何か第1案と第2,3案とは違う考え方に基づいているようにも見えますが。 ● 私の理解がちょっと間違っているのかもしれませんけれども,一応原則3条で,5条に当たるものがあるときは5条で,5条の決めた準拠法で,3条が全く消えているという意味ではないのではないかと理解していたのですけれども,それは間違いでしょうかね。 ● その英語の条文ですと3条の規定にかかわらずと,まさにかかわらずで,ここに書いてある法律によるということなので,丁寧に書くのならば,もしなければどうするかまで,もしそうなら書くべきだろうと思いますし,それが必要なのは第1案であって,第2案,第3案は要らない…… ● 第2案,第3案も例外規定の位置付けでやっている案というふうに私は理解していて,原則は3条で決まるのではないかと…… ● 確かに第2案はそうですね。第3案はもう差し替えなのではないですか。 ● そういうふうに理解する…… ● 第3案は最も密接な関連を要する国がないということはないですからね。1と2案だと…… ● 1と2の区別のところは私,間違えましたけれども。 ● すみません。このNotwithstandingというのは完全排除なのですか。優先を排除するという意味ではなくて。ちょっとその辺が私の理解が間違っているかもしれませんけれども,私の理解では3条が一応原則であるけれども,5条が適用される場合には5条の例外を使って,駄目なときは戻るつもりでいたのですけれども,それは結構大きな違いですね。そうではないとすると。 ● もちろん5条も括弧書がある場合には当事者は扶養義務者の要請がない場合には3条にいくということなのでしょうかね。 ● この括弧書が入らないときにどうなるかということですね…… ● これも解説が出るのですよね。 ● はい。それは出る予定です。 ● それを見れば,1案,2案,3案と3条の関係が分かるかなとは思いますけれども,なかなか…… ● 第3案は完全に置換えであることは間違いないと思うのですけれども,第1案を採った場合には○○委員がおっしゃられたように,この第1案に当てはまる状況があるときにのみ置き換わると,優先して,当事者の最後の共通常居所地国法になるというふうに考えないと○○委員が冒頭に指摘されたように,準拠法が定まらない場合が出てきてしまいますが,そんなことは考えていないはずなので,そこは○○委員がおっしゃられたとおりなのではないのでしょうか。ただ,今3案を併記した形でまとめて書いてあるので,それがやや読みにくい形になっているということにすぎないのではないかと思うのですけれども,結論的には準拠法がない場合が出てくるというのはあってはならないことですので,そんなことは特別委員会で考えられているはずはありませんから,第1案の場合にはここの場面に当てはまるときにだけそうなるということに多分なるのだろうと思うのですけれども。 ● では,そうしますと先ほどの御説明の中で配偶者の今住んでいる国に一度も行ったことがない他の配偶者が一度も行ったことのない国の法律に基づいた扶養義務を負うのは困るということは,場合によっては防げないということですよね。それよりはその婚姻について密接に関係している国の法律の方がいいというふうには確かに考えられるので,ですから,第1案をもう少し丁寧に書いて空振りにならないように,もしそうなら何かすべきであって,これだけですぐにあきらめて3条に戻ってしまうと,この5条を置こうとしている趣旨が生きないのではないかと思うのですけれども。 ● それはおっしゃるとおりですね。 ● これ3案を提起されておって,外交会議でも議論がされるわけなのですけれども,冒頭に申しましたように,取り立てて意見があれば9月17日までに出せということになっているのですけれども,9月の段階でどれが望ましいということは述べた方がよろしいのでしょうか。あるいは述べるとすればどれを志向するということを述べるべきなのかということは委員幹事の皆さんいかがでしょうか。 ● 日本の都合で言えば,法適用通則法の婚姻の準拠法の段階的連結の順番を書くのが日本には一番都合はいいですが,多分同一本国法というわけにはもういかないとすると,それを外して,同一常居所地法がなければ,最密接関係地法とか,何かそういう日本の規定に合うような書き足しが一つあり得る話で,それは第1案の修正意見ということになると思いますけれども。あるいは第3案を取り入れた意見ということになるかもしれませんが,何か言うべきではないでしょうか。 ● これは今度の9月17日までのタイムリミットで意見書を出さなければいけないのですけれども,ただいまの○○委員の意見に対して,ほかの方はどのようにお考えでしょうか。○○委員のお考えだと国籍が出てくるのですよね。 ● 本国法はあきらめるとしてですが。 ● 一応私の理解している範囲内ではこの規定がどうして出てきたかというと,例えばもともとスウェーデンに住んでいたカップルで,スイス人の妻の方がスイスに戻ったというような場合,通常ならスイス法が扶養権利者の常居所地法として,離婚した後も請求できるのだけれども,もともとがスウェーデンは一人で生きろという前提でやっている国なものですから,離婚後の扶養なんてあり得ないと,そういうつもりで離婚したはずであるにもかかわらず,妻が自分の本国に帰ってしまって,現在の常居所地の法律だと,スイス法だと離婚後の扶養も請求できると,だけど,そんなことは夫の方も考えてはなかったと,こういうときにスイス法は困ると,むしろ準拠法はスウェーデン法にしてほしいという必要性からこういう5条のようなスウェーデン法の適用に道を開いていくと,今いったような状況が出てきたという背景だと理解しておるのです。もし,そのように理解しますと,基本はやはり3条がデフォルトとしてある。だけど,3条によったのでは当事者双方,配偶者双方の準拠法,扶養の可能性についての予見と違ってしまうことが起こってくるから,それよりはより密接に関連するスウェーデン法という最後の共通常居所地国という基準が出てきたという。これをどういうふうにして導いてくるかというと,今言ったような状況,法技術として1案,2案,3案とあるのだというふうに理解しておるのです。   恐らく,最後はどの案も3条には戻ると,それが不都合な場合があるということで御議論いただいた方がいいのではないかなと思います。これは間違っておるかもしれませんけれども。 ● おっしゃられたことは第1案の本文にはクリアに表示されているというふうに理解できるので,非常に明確でそれがよいと思うのですけれども,このブラケットが付くと,ちょっとわけが分からなくなるのかなと。 ● 1案のブラケットは,ただしです。 ● 今の設例で言いますと,義務者の方がスウェーデンにいればスウェーデン法だけれども,どこかほかに移っていると決まらなくなってしまうということになりますですか。 ● ただし,この場合,もし居住していないという場合には,やはり3条にまた戻るのではないですか。 ● スイスになる。 ● そうです。 ● 先ほどの目指したところと違う結論にいってしまう。 ● その場合はやはり他方配偶者も別の国にまた居住しておるわけで,ずっとスウェーデンの離婚のときの処理が以後も続いているとまでは言えないだろうということ。   恐らく,これを言い始めた人が想定しているのは,今言った,扶養権利者の方は本国に逃げ帰って,扶養義務者の方はそのままにとどまっているという状況の場合にはやはり最後の共通常居所地。そうでないときはやはり原則だと。より密接に関連する地としてのスウェーデンは出てこないという,これはやはり原則を貫くべきだということなのではないでしょうか。 ● ですから,私はそれよりは,離婚の場合に適用された法律の方がいいだろうと思うので,その場合には恐らくスウェーデン法でしょうか。所詮お金の請求の話なので,だからどうということもないですけれども,第1案を仮に採るとすると,最後の共通常居所地国の法律があればそれによるけれども,なければ夫婦の間の離婚と婚姻というと同じ規定でできるかどうかもよく分からないのですが,離婚の場合には離婚について適用された法律だし,婚姻については婚姻の効力に適用された法律という書き方の方がいいのではないかと思いますけれども。 ● もし,○○委員が何かおっしゃることがなければ私ちょっとよろしいですか。   今の扶養義務の準拠法に関する法律の4条の規定を変えようとしてこうなっているわけです。やはり離婚の時点で準拠法を固定するというのは望ましくないというのが,離婚の準拠法にした場合には一つある。というのは,その後の生活について,離婚の時点で関係性のあった国とは配偶者は全く関係なくなっていると。現時点の扶養権利者が現実に生活する必要があるというのはやはりその人の常居所地の社会環境と法律のもとに発生するわけだから,それは離婚をしようとすまいと,それは権利者の常居所地法に本来よるべきはずなのだということ,これがもう大前提になっているものだから,今の離婚の準拠法によるという処理,1973年のヘーグ条約のように,扶養義務の準拠法に関する法律の4条のように,離婚した配偶者間の扶養の問題を離婚の準拠法で固定してしまうというのは望ましくない。これはやはりちょっと動かし難いと思うのです。ですから,離婚の準拠法がいいというふうにはなかなかいかないと思いますけれども。 ● 今の御議論をずっと聞いていますと,5条の趣旨というのが3条で不適当な場合という趣旨であるとすると,最初は○○委員が,第1案でこれに当てはまらない場合に,準拠法が決まらない場合が出てしまうのではないかという問題点から第1案の修正,もしくは第3案を取り込んだ形のという御提案をされたと思うのですが,第1案が今の御説明だとこれに当たる場合にはこれが適用されるということで,そうでなければ原則のデフォルトの3条でいけるということがはっきりしていて,1案の読み方に特別不明瞭なところがないのであれば,1案でいいのではないかというのが意見です。   それから,先ほどの例で考えると,今度逆に気になるのが5条の柱書というか最初の冒頭部分なのですけれども,どういう場合にその第1案なら第1案が適用されるかということなのですけれども,今ブラケットで入っている当事者それから扶養義務者の要請がある場合にはというところで,扶養義務者の要請がある場合というのはよく分かるのですけれども,当事者の要請というふうに書いてしまうと,ちょっと英語の方見ていないのですけれども,もしこれpartyだとすると,義務者の方はスウェーデン法がいいと言い,権利者の方がスイス法がいいと言ったような場合にちょっと解決できなくなるのではないかと思いますので,このブラケットをなくしてしまうか,もしくは入れるのであれば,扶養義務者の要請がある場合というふうにするのがいいのではないかという意見です。 ● どうもありがとうございます。 ● 今の○○幹事の後の方の御発言ですけれども,英文を見ますとat the request of a partyになっていますから,両方がしなければいけないのではなくて,いずれか一方が要求したときだということなのではないかと思われます。ただ,問題は扶養義務者の利益を守ろうという場合なのに,扶養権利者の要求によってこの規定を適用するようなことを考える必要があるのかどうかということがいささか問題なのかなという気はするのですけれども。 ● どちらかの要請があればということですから,要請の中身は必ずこれを適用するようにという要請なわけで,本来は義務者の方からの要請を想定はしているのでしょうね。さっき私が発言申し上げたときには意見が違う場合が出てくるのかなというふうに考えたのですけれども,要請はこれを適用してほしいという要請だということなので,そこは分かりました。今,○○幹事がおっしゃったとおり,権利者の方からの要請というのは余り考えなくていいように思いますので,やはり先ほどのとおり扶養義務者からの要請という文言にした方がいいのではないかと思います。 ● ほかにこの点についていかがでしょうか。   第2案,第3案を支持する御見解はございませんか。 ● 今の当事者の部分なのですけれども,扶養権利者の要請によるようなものも認めるべきかという問題ですが,ちょうど先ほど例に挙げられたスウェーデンからスイスに移ったという例の逆の場合を考えればいいのかなと思うのですけれども,つまりスイスで結婚していたのだけれども,離婚して扶養権利者の側がスウェーデンに移ったとするとスウェーデン法だと扶養が受けられないと,そこで最後の共通常居所地であるスイス法で扶養料を払ってくれということを認めるべきかどうかという問題なのかなという気がするのですけれども。 ● この点はよろしいでしょうか。 ● こういう一方当事者の要請の有無で適用ルールが変わるというようなことに対しては問題点というのは特にないのでしょうか。何となく不安定な感じがするのですけれども。 ● これは裁判所で,手続の中でという限定は付いていないですね。これは多分。この点については特に…… ● 疑問は確かにそのとおりで,決まってなければいけないのに決まっていない状態が生じているわけですよね。要請があるかないか分からないということですので,ですから,確かにそういう問題点はあるのではないかと思いますので,そこもちょっと気を付けた方がいいですね。 ● でも,ただそれは6条で抗弁というのがあって,これは既に日本が入っている条約にも抗弁で準拠法を変えるというのが異議という言葉になっていますけれども,ですから,それは変わり得ることは既に飲み込んでいるのではないかなと思うのですけれども,それが5条を適用する場合に,もし裁判所であれば,何も言わないのに裁判官が過去の共通常居所地を探さなければいけないとか,それは結構大変だということはあるかもしれないので,もしかすると裁判所から見るとこういう主張があって初めて5条の適用をみるという方が便利でいいかもしれません。ただ,それが一般にいいかどうかは別の話だと思いますけれども。 ● ちょうど抗弁のところが出ましたので,6条に移りましょう。 ● その前に,聞き漏らしていたら申し訳ないのですが,4条のところの4項,ブラケットのところはもうそれは決まったのでしょうか。4条の4項のブラケットに入っている部分ですが……,要するに,これを外すかどうかというところで…… ● 特別委員会ではまだもちろん決まってはいないのですけれども,ここの意見でという,そういう御趣旨ですね。 ● 皆さんのコンセンサスがということがちょっと伺いたくて。私がひょっとして聞き漏らしたかと思って。 ● 特にこのまま外すとも,外さないとも,どちらの御意見もなかったように思いますけれども。 ● すみません。では私は外す方に賛成したいと思います。 ● 外すというのは,ブラケットだけを外して残すという意味ですか,それとも規定を削除する…… ● 要するにブラケットは4項は外した方がいいということです。前にもちょっと申し上げたかと思うのですけれども,やはり当事者が共通に持っている本国法というのは,かなり重みを持っているということですね。特にこの前も少し申し上げたかと思うのですけれども,例えば,甲国人の人が,日本でなくてもいいのですが,先進国乙で働いていて,そして甲国の家族にせっせと仕送りをしたと,その場合に,そこに孫も居て,そのお陰で孫が高等教育を受けることができて,今度は孫が丙国に行ったと,丙国もやはり先進国であったとします。そうすると乙国でも丙国でも祖父母と孫との間に扶養義務を認めていないと,けれども甲国というのがそれを認めているというような場合があるのではないかと,結構そういう例は考えられるのではないかと思うのですけれども,そういう場合も考えますと,やはり本国,国籍が共通の国がある場合にはそれを考慮すべきだと私は思うということです。 ● そのとき,法廷地は日本ですか。 ● 日本かどうかは分からないのですが,乙国にしても,丙国にしても法廷地になるとして,要するに扶養権利者の常居所あるいは扶養義務者の常居所,どちらが法廷地になったとしても,どちらかの方がいろいろな形で3条及び4条の関係がある国が,要するに権利者の常居所地法か,義務者の常居所地法というのが出てくるわけですが,どちらでも,要するに扶養義務というのは認められていないにもかかわらず,本国では認めているというような場合というのはあるのではないかということです。 ● どうもありがとうございました。 ● ついでに,そちらへ戻るのであれば,こういうつまらないことを言うのはよそうかと思っていることなのですが,日本語では表現されていないのですが,英語でもフランス語でも,一つあればというふうに,英語ですとif there is oneと書いていますが,二つあることもあると思うので,これ二つある場合は外すつもりなのか,もし二つあったらそのどちらでもいいというのであれば,if there is oneでない方が,if anyで,そのanyのどの法律でもオーケーならオーケーというふうなdraftingの方がいいと思います。 ● 多分一つでもあればという意味ですね。 ● でも,そうは読めないのかもしれないので,つまらないことですけれども。 ● その趣旨だとは思うのですけれども,どうもありがとうございました。 ● その場合,どうやって,どちらに……その場合はどちらかでもということですよね。三つあるときはどれかで認められるというのがこの趣旨でしょうか。 ● 程度が違うかもしれないので,そのときどうするかはまた。 ● 分かりました。   今度は6条,抗弁いかがですか。--御質問がまだない段階でちょっと,この親子関係に基づいて子に対して生ずる扶養義務の中には,これは4条のb,cは親子関係に基づいて子に対して生ずる扶養義務ではないですよね。だから,これは4条のaのような場合…… ● ただ,先ほどちょっと申しましたけれども,これがボノミさんの解説ではちょっとこういう修文をする前のレポートなので,その関係もあるかもしれないのですけれども,未成年の子に対して生ずる扶養義務だという前提の説明があるわけですね。ただ,この4条の1項のaは年齢の制限がないということですので,こういうふうに書いてあると,現在の6条を素直に読むと,子の年齢関係なしで。子に対して生ずる扶養義務ということになりそうなので,そこがはっきりしていないかと思います。ここをはっきりさせる必要があるだろうと思いますけれども。 ● 4条のbというのは後見人?親以外の者の…… ● これは扶養を受ける者が21歳,だから子というのがちょっと変で,これは21歳未満の者というのが正しいだろうと思うのですね。親族関係で,この条約の範囲に入ってくる場合はすべて入って,かつ権利者が18歳,21歳未満のときにすべてという,つまり21歳未満の者に対する親以外のという意味だろうと思います。ちょっと表現が悪いのかもしれないです。 ● ただ,第4条は子と親に関する特別のルールですよね。でしたら,この射程は常に親子関係ですよね。 ● それが難しいのですが,確かにおっしゃるとおりの疑問はあるのですが,これもともとは表題に子どもだけが出ていたのです。それがparentsと入ったのですが,表題で親子関係だけだと4条が言っているというふうに限定しますと,確かに1項のbもおっしゃったように考えられそうなのですが,ただ,そうすると親子関係以外は排除しているということになると,親以外の者の義務というのは意味をなさなくなる。 ● つまり親子関係が発生したけれども,親が死亡してしまって現在は後見人だと。そういう意味じゃないと4条の特則がなかなか統一的に理解できないのではないか。 ● ただ,後見人というのは要するに親が死んで,後見人が出てきて,後見人が扶養義務を負っているということなのですか。 ● もともとは親子関係があった者という意味ですよね。 ● そうですね。ちょっとそこは考えさせていただければと思います。 ● ちょっと先ほどの発言を訂正させていただきたいのですが,私,孫と祖父母なんて言いましたけれども,子と親の場合に変えていただいて結構です。   それから,よろしいですか,ちょっと今のところから外れますけれども,扶養を受けることができないときというのは,扶養を受けるというのは要するに内容まではもう入らないわけですね。例えばボノミさんはスイスの方ですよね。 ● 国籍はイタリアですけれども,代表としてはスイスです。 ● 確か日本と同じように生活保持と生活扶助の……スイス法は確かそう。それを中川善之助先生が日本に持ってこられたという。御存じだとは思いますけれども,そういうのがあるのですが,その実質法の内容にまでは入らないわけですか,比べてどちらがより手厚いかということで,扶養義務はあるのだけれども,どの程度の扶養義務かというところ,そういう議論はなかったのでしょうか。 ● それはそこまでは考えないという方向の話だと思います。つまり,あるかないかだけということだったと思いますけれども。 ● 分かりました。 ● 6条関係いかがでしょうか。  ● ここの価値判断というのが日本の社会通念に合うのかどうかということなのですけれども,かわいそうなのは子どもであると。それから,元配偶者あるいは配偶者であると。それ以外はそれほどかわいそうではないという価値観があって,そうでない場合には義務者の方の考慮を見てみましょうという発想だと思うのですけれども,伝統的には多分日本は逆で,親を子が扶養するのが当然だろうという方がよりあって,そこはそうでなくなっているという点が一つと。それから,子どもの方は成年になってもまだ保護されるという解釈はちょっと過剰ではないかと思うので,未成年に限るならまだしもと,それから,先ほどの元配偶者がそれほどかわいそうかというのは,私は価値観が違うので,それはお互いさまであろうと思うので,それと子どもを一緒にするのは,最後に私が申し上げたように21歳あるいは18歳以下の子どもと同じように保護を厚くするのはいかがなものかなと思いまして,現在の条約の傍系親族とか姻族とかというなら分かるのですが,何か特定の価値観に基づき過ぎているように思われるので,日本が本当にこれに批准できるのかというときに,そこは問題になる得るのではないかと思いますけれども。 ● 現行のというか,73年条約ぐらいがいい…… ● そこまでバックはできないかもしれませんが,少なくとも子どもの方を未成年に限り,さっきの5条をどうするかによって大分違うのですけれども,5条だって外したっていいのではないかと思うのです。要するにさっきのスウェーデンに残っている側がスウェーデン法に基づいて拒否できるということで,すなわちこの5条を外せば,扶養権利者の方が外国に行こうとも扶養義務者の方で自分の住んでいる国の法律で拒否できるということですから,それはそれでもいいのかなと思うので,そうすると5条の発想が多分違ってくると思いますから,そこはもっと形式的な議論ではなくて,日本としてどうなのかという議論をした方がいいのではないかなと思います。 ● 今の○○委員の意見についてなのですけれども,子に関しては成年未成年の問題と扶養の必要性の問題とは分けて考えた方がよろしいのではないかと思います。つまり原案どおり未成年という条件を付けないと,限定を付けないという方がよいのではないかと思います。先ほど○○幹事がおっしゃられましたように,大学教育の必要性の問題等もありますので,その点は実質法に任せるということでよろしいのではないかと思いますが。 ● 6条関係…… ● 議論として御紹介のあった親が健常でないときは抗弁ができないという意見が出たということなのですけれども,これはその概念,vulnerableというのは概念としてはっきりしているのでしょうか。こういうものが入ってくると非常にどういう場合に抗弁できるできないというのが不明確になるように思って反対したい気分なのですけれども。 ● やはり自国内で後見開始の審判を受けているとか,外国の後見開始の審判が承認されるという前提で…… ● 実際に,もしそれを条文に反映すると,多分もう少し明確に区別が付くようにするという前提で,実質的な内容の議論としてvulnerableなときはということが出てきた段階にとどまっていると思います。ですから,もし本当に入れるのであれば,何らかのある程度明確な線引きというか,基準が必要になってくるということは前提になってくるだろうと思うのですけれども。   入れろと主張されている意見の方は,ちなみに,そのvulnerableの内容というのは精神的な非健常のことを言っているのでしょうか。それとも何か扶養を必要とするような身体的なものも含めて言っているのでしょうか。 ● そこはちょっとはっきりしなかったのですね。もう少し漠然とした意見として出てきて,つまり親一律ではなくて分けたらどうかという意見が出てきて,もう少しぎりぎり詰めないといけないところだと思いますけれども,どちらかはちょっとその意見の内容は分からない状況ですけれども。 ● いずれにしても,実情に応じて何か変わるというのは変な感じがいたします。 ● よろしいでしょうか。   そうしたら次,7条・8条,双方を含めて,当事者による準拠法指定に関するルールについて御議論いただきたいと思います。 ● 細かいところからで恐縮なのですけれども,8条の1項のcとdについて御質問させていただきたいと思います。   cとdそれぞれ夫婦財産制の準拠法と,それから離婚又は別居の準拠法として当事者が主観的に法を選択していて,それが準拠法となる場合と,客観的連結の場合も両方を含めるというお話しだったと思うのですけれども,今のこの文言ですと客観的連結の方が実際に適用された法律となっておりまして,例えば離婚の準拠法として客観的連結で決まっている法の適用がまずいということで,公序で排除した場合に,実際の手続の中で適用された法というのが基準となるように読めるのですけれども,そういう趣旨でお書きなのか,あるいはあくまで客観的連結によって本来準拠法となるべき法というのを想定していらっしゃるのかというところをもし御存じでしたらと思いますけれども。 ● そこまで詳しくは議論を多分していないのだろうと思うのです。ただ,全体のいろいろな議論の趣旨から言うと,例えば公序で排除されたような法がある場合にはそれは入らないで,しかし,公序の後どうなるかというのがまた違いますけれどもね。公序の後,例えばどこかの法が適用されるというのがはっきりすればその法になるのだろうと思うのですが,そこはまだきちんと議論していないのではないかと思います。 ● 73年条約の離婚に関する特則のところで,実際に離婚について適用された法という文言になっているのですが,これは公序なので排除された場合には,その排除されて実際に適用された法となっていて,それについてボノミさんもかなり批判されていたと思うのですが,今おっしゃっていたように公序で離婚を認めない法の適用を排除して,離婚を認めるという結論を出したとすると,そもそも準拠法としてどこの国の法を適用しているのかが分からないというようなこともありますので,その点御議論いただければと思います。 ● いかがでしょうか。 ● 質問ですが,よろしいでしょうか。   7条1項及び8条1項で,4条1項c号の規定にかかわらずとありまして,a号,b号は外れておりますが,この4条1項a号,b号の場合には,3条は排除されずに適用されるというふうに理解してよろしいでしょうか。   まず,第一段階が扶養権利者の常居所地国ですね。この7条・8条によりますと,扶養権利者の常居所地国にかえて,当事者が合意した国の法が適用されるのか,あるいは4条1項a号,b号の場合には3条がそのまま適用されるのかどちらなのかが知りたいのですけれども。 ● 4条1項c号に該当する子が親を扶養するという場合には7条・8条の適用があるのですよね。逆に言うと第4条第1項a号b号の場合には7条・8条の準拠法の指定はないのですよね。 ● それでしたら分かりました。 ● ちょっと一つ質問としてお聞きしたいところが。8条の準拠法の指定で,準拠法の指定のメリットというのもいろいろあると思うのですけれども,当事者が合意したら基本的に準拠法は固定されますよね。新たに準拠法のやり直しがない限りは。しかし,他方でその後,準拠法の合意をした後で事情が変わってしまったというような場合に,ずっと縛られてしまうということになりますね。両当事者が最初は日本でこれからも生活するという前提でおったにもかかわらず,その後,事情の変化があって,日本と無縁になった理由があるとしても,これはずっと日本法だと。こういうときに扶養料の変更とか,そういうときに,合意した準拠法の枠組みの中で問題を考えなければいけないのか,場合によっては準拠法の合意それ自体を御破算にするという方法はないのか,特に扶養権利者の利益保護のためにというようなことについては議論はなかったのでしょうか。 ● 今の御懸念,確かにそのとおりで,それに対応する一つの手段が4項の,指定された法律の適用が明らかに不公正,不合理な結果をもたらす場合,その法律は適用しないということでいったん固定して,その後状況が劇的に変わっているので,それを適用すると不合理だという場合は一応そこから外すことはできるようにはしてあるのですが,ただ,これで十分かというと…… ● これはどちらかというと,ボノミさんのPreliminary DocumentのA,B,C,D条となっていた説明では,一方が他方の無知を利用して,非常に扶養が認められないような国の法律の準拠法に合意させたと。要するに準拠法の指定の当時の事情から考えて,不公正,不合理というふうな説明であったのですが,つまりこれは今の○○委員の御説明だと準拠法を合意した後の事情まで考えて,事後の事情も考慮して,不合理ということが判明した場合も,合意した準拠法は適用しないということになるので,これはその後の事情も4項でカバーできると,考慮できるのだと,考慮して合意した準拠法によらない場合を認めるのだと,こういうふうになるわけです。 ● その点は議論がきちんとされていないと思うのですが,したがって,ひょっとすると指定当時の事情だけを前提に考えるという考え方もあるかと思うのですが,ただ恐らく一般的な文言の解釈としては実際に問題となったときまでの事情が考慮できるというふうに考える方の方が多いのではないかと思うのです。そうなると,今言ったような使い方もできるのではないかと私は個人的には思いますが,ただ,それがどの程度共通の理解か分かりませんので,そこは是非確認したいと思います。もしそうでないとすると,今最初に先生がおっしゃったような懸念に対応する仕方がまた別途必要になってくるということなのかもしれませんですね。 ● あと,申し上げるともう一つ。これは準拠法を合意しているところで,遡及効があり得るのですか。 ● そこは議論されていません。遡及効というのは要するに…… ● 例えば第7条で法廷地法を選んだという場合にはもう当然ですよね。ある特定の扶養料の請求をしていて,手続の中で法廷地法を選んだというときは,それはそうなのでしょうね,遡及的に適用されるのでしょうね。それとも,3条の2項の原則に戻って遡及しないと,これは準拠法,客観的な連結と同じように。 ● すみません。ちょっとそこ記憶が曖昧で申し訳ありません。どちらだったかあるいは議論がきちんとあったかどうかすらちょっと覚えてませんですが…… ● では,他に。 ● ちょっと今のところ,伺いたいのですけれども,準拠法の合意をもう一度やり直すという問題ですか。 ● いや,いや,ではなくて初めて選んだ場合。最初は何らかの形で扶養権利者の常居所地法か何かで決まっていたのだけれども,当事者が法廷地法を選んだという場合です。 ● さらにそれをまた選び直すということ…… ● それはもう,その可能性もあるのだろうと。その辺はある程度。 ● at any timeという言葉が書いてありますけれども,これはどういう意味でat any timeかちょっと伺いたいと思ってはいたのですが。 ● すみません。どこでしょうか。 ● 8条ですか。 ● 「いつでも」です。 ● この「いつでも」は意図としては7条との対比だと思うのですけれども,第一次的にはですね。ただ,おっしゃるとおり,まさに「いつでも」ですので,いつからの分についてというのかまで言えるかとか,いろいろ考え出すと指定の内容についてもう少しきちんと詰めなければいけないところがありますね。 ● ほかに準拠法の指定関係で,合意関係でどうでしょうか。   ないようですと9条から12条まで,公的機関,準拠法の適用範囲,反致,公序までいかがでしょうか。 ● 公序に関係するのですけれども,先ほどの8条4項の適用と12条1項の適用との関係なのですが,8条4項の方が厳しくチェックするのでしょうか。ちょっと8条の方に戻ってしまうことになりますけれども,なぜこれだけにあるのかというがよく分からないので,12条に取り込めるものなら取り込んで,準拠法の選択によって選ばれた法律についてはさらに不公正,不合理かどうかを精査するというそういう趣旨でしょうか。場所も8条4項という位置が適当なのかどうか。 ● おっしゃるとおりです。趣旨としては8条4項も公序の系列に属する規定だと思いますので,ただ,多分,公序のような大げさなといいますか,非常に厳しいものではなくて,もう少し公序までもいかなくてもという趣旨が8条4項にはあるのだろうと思いますけれども。 ● 私もそう解釈しないとおかしいと思うのですけれども,それがこういう書き方で明らかに不公正,不合理。そうなりますとその違う基準が今度は12条1項で適用されるということですよね。いろいろな解釈が出てくるおそれがあって,何かそれが適当なのかどうか。 ● 今の点ですが,これは準拠法の指定がされなかった場合との比較の問題があるというような議論がちょっとあったような記憶があるのですが,それはどうなのでしょうか。 ● そうです。そういう議論がありました。Working Documentでは途中でそういう条文も入れられたのですが,ちょっとそれでは実際に適用するのは難しいだろうという話で元に戻っています。 ● だから,ベースにはそういう考え方があるということでしょうか。 ● そういう考え方というのは,要するに指定しない場合と比べたときに,程度が甚だしくどちらかに不利だ不合理だということ…… ● そうすると,あれよりも少し絞られてくるかなという感じがしたのですが。 ● また戻りまして,9条から12条までいかがでしょうか。   もしなければその他,13条から27条まで。   --それでは準拠法についてはよろしいでしょうか。もしよろしいようでしたら条約の方で,18ページのⅢ-2,第14条(手続の実効的な利用)という14条関係について御意見,御質問をお願いしたいと思います。   14条の第1案と第2案。日本国としては第1案。第1案を支持するのはほかにどの国があったのでしょうか。大体発展途上国…… ● 日本のほか,中国,チリ,ブラジルですね。 ● 日本でのプラクティス,現在のプラクティス次第ですが,日本の支援法による下で構築されていますよね。それと,第2案との乖離というのはどれくらいあるのでしょうか。恐らく,もし乖離が少しでもあれば外国の扶養権利者だけを特別扱いにするというのは,なかなか受け入れにくいと思いますので,それが相当あるのであればおよそ駄目だと思いますが,入ることはできなくなるだろうと思うのですが。 ● おっしゃるとおりでございまして,今の日本の法律扶助で,これは○○幹事に御説明いただいた方がいいのかもしれませんけれども,扶助を受けなければ訴訟ができないような,そういう資力要件というのが当然要件になっております。ところがこの条約案の第2案の14条bisですと,2項のC案なんかは論外ですけれども,仮にA案であっても,経済的な状況が非常に良好という要件になっていますので,これは日本国民が日本で法律扶助を受ける場合よりも,はるかに有利な条件になってしまうという問題がございます。ですから,自国民よりも他国民を優遇しなければいけないという問題が起きますので,従来,第2案は日本は採れないので,第1案でないと無理であるということを主張していただいてきたわけでございます。 ● もともとこの条約起草の最初のころから法律扶助の点は,日本の今の法制とかなり乖離があると思っていまして,それは資力要件のところだけではなくて,だれが法律扶助を受けられるかという点でもかなり乖離がありますので,もし本当に入るとなれば相当整備が必要なのではないかと思っているのですけれども,それは例えば,今そもそも外国人の場合,日本に一年以上居住する在留資格のある人しか法律上は対象になっていませんし,それから,日本国民であっても,外国に居住する人は法律扶助の対象になっていないのです。それがほかの国に在住する人からこの条約の仕組みを通して,日本が受託国として法律扶助を提供するということになりますと,今現在認められていない外国に住んでいる人がそもそも対象になることを考えていますので,その点でもう相当な違いが一つあります。   それから,資力要件のことなのですけれども,確かに申立人の経済的な状況が非常に良好であることといったような場合だけを除外するということになると,相当今日本の資力要件とは乖離がありますけれども,ただ,法律扶助の中身なのですけれども,私も諸外国をすべて知っているわけではないのですが,日本のような償還制度は非常に例外的というふうに聞いていまして,でも,ごめんなさい,今自分で言いながら思ったのですけども,これは償還ではないのにかなり裕福な人にも認めようということなのですね。日本の場合,償還でありつつ,しかも資力要件が結構きちんと付いていますから,相当厳しいので,資格の点も,それから資力の点も,それから,これは償還かどうかかということは,結局受託国の法律扶助の制度でいいということなのかもしれないのですけれども,相当諸外国とは中身に違いがあります。何かコメントとして,意味のあるコメントをしたかどうかよく分からないのですけれども。 ● 14条,まだ御意見があるかと思いますが,20条の承認・執行の申立てに関する手続についてはいかがでしょうか。--これは余り議論はされなかったのですか。 ● 時間がなかったのです。一時間ちょっとしか…… ● ということは外交会議で結構時間が取られるかもしれませんね。   20条以外でももし何か御意見,御質問がありましたらこの際いかがでしょうか。 ● 一点よろしいでしょうか。   22条のところで,この承認の申立てに関する手続という規定が挙がっているのですけれども,これは承認要件を具備しているということを積極的に確認してほしいというような訴えが提起されたときに,それを手続として認めなければならないという趣旨なのでしょうか。つまり,我が国だと外国判決の無効確認というのはやっていると思うのですけれども,積極的に承認要件を具備しているかどうかという,その積極的確認を認める形での訴訟類型を認めるかどうかというのは争いがあるところですので,22条の趣旨についてちょっと伺えればと思います。 ● ちょっとはっきりいたしませんけれども,これは多分前提としては執行を抜いて承認だけということですよね。それが求められたときに準用するということで,認めなければいけないかどうかも決まっているのか,それとも,そもそもそういう申立てが認められるかどうかは各国に任せられているのかという問題だと思うのですが,すみません,ちょっと申し訳ありませんが,そこは今すぐには分かりませんですね。ただ,承認の申立てとあちこちに出ていますね。例えば20条の2項,承認・執行の申立てというのは承認だけではなくて,承認と執行がワンセットというのが前提なのでしょうか。私から質問してしまいすみません。   日本だと承認・執行のときって,執行だけ申し立てると全体として承認されているかどうかが判断されるという仕組みですよね。 ● ただ,積極的な確認類型というのはまだ認められてきていないと思いますので,消極的にその承認要件を具備していないということの確認訴訟はありますけれどもね。 ● だから,そもそも承認・執行の申立てというもの自体も変といえば変ですかね。日本の目から見ますと。これは何となく執行の申立てを念頭に置いて考えていたのですけれども,よく見ると承認・執行の申立てになっていますね。   ありがとうございます。ちょっとそこは確認したいと思います。 ● ほかにいかがでしょうか。   --そうしたら,そろそろ時間でございますし,予定しておりました本日の議題につきましては御意見をいただけたかと思います。へーグ国際私法会議に提出する意見書につきましては,本日いただいた御意見を参考として作成させていただくということにいたしまして,詳細は私と事務局に御一任いただきたいと存じます。   最後に事務局から今後の日程等について連絡をしてもらいます。 ● ただいまお話しがありましたように,へーグ国際私法会議に提出する意見につきましては,部会長とも御相談させていただいて対応させていただきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。   外交会議の日程でございますが,まだ暫定的な日程ということで確定には至っていないようなのでございますけれども,一応11月5日から23日までハーグにおいて開催する予定であるという暫定的な連絡がきております。そこで,それを前提といたしまして,次回の部会でございますが,10月16日の火曜日,13時半から法曹会館高砂の間におきまして外交会議のための対処方針の作成のための御審議をいただきたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。   今日はありがとうございました。 ● それでは法制審議会国際扶養条約部会の第9回会議を閉会させていただくことにいたします。本日は御熱心な御審議をいただきましてありがとうございました。 -了-