法制審議会国際扶養条約部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  平成20年1月15日(火)  自 午後1時32分                        至 午後3時45分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  「子及びその他の親族の扶養料の国際的な回収に関する条約」及び        「扶養義務の準拠法に関する議定書」について 第4 議 事 (次のとおり)                 議        事 ● それでは,時間になりましたので,法制審議会国際扶養条約部会の第11回会議を開催いたします。   それでは議事に入りますが,まず事務局から配布されている資料の説明をしてもらいます。 ● 今回の配布資料は事前に送付させていただいた資料でございまして,資料番号72番から76番までのものでございます。   72番が先般の外交会期で採択されました条約を含みます外交会期の「FINAL ACT」でございます。なお,この「FINAL ACT」は非常に長いものでございますので,後ろの署名の部分は省略をさせていただいております。   それから,73番が条約のほうの仮訳でございまして,お忙しい中,○○委員に仮訳をしていただいたものでございます。   74番は議定書のほうの仮訳でございまして,これも○○委員に仮訳をしていただいたものでございます。   それから,75番でございますが,○○委員に御作成いただきました外交会期の報告書でございます。   それから,76番ですけれども,この条約の策定について意見を述べるというのがこの部会に対する諮問でございますので,外交会期が終わりまして諮問に関する審議がすべて終わることになるものですから,最終的な審議結果の報告を総会に上げなければなりませんので,その報告案の案を76番としてお配りしております。これについて,今日御審議いただきまして,お取りまとめをいただきたいと考えております。   以上です。 ● どうもありがとうございます。   昨年11月5日から23日まで,ヘーグ国際私法会議第21外交会期が開催されました。本日の会議では,日本国の代表として出席されました○○委員から外交会期における議論の概要,結果につきまして御報告いただきたいと思います。その後,御報告についての質疑応答を挟みまして,法制審議会総会への報告案につきまして御審議いただき,確定させたいと考えております。   それでは,○○委員,こちらに移っていただけますでしょうか。   それでは,御報告をお願いします。 ● それでは,私のほうから今,御紹介がありました外交会期について御報告を申し上げたいと思います。資料の75に簡単な私からの報告書を添付してございますので,それに沿いましてポイントをお話しするという形で報告をさせていただきたいと思います。   今回の外交会期では,扶養のプロジェクトのまとめということで,扶養に関しまして条約と議定書を一つずつ採択ということになりました。そして,正式名称等は資料にお配りしたとおりでございますけれども,どういうふうにこの外交会期の議事が進められたかということを簡単に申し上げますと,全体会議がございました。この全体会議では最初のセレモニーといいますか,初めのところとそれから最後の条約とそれから議定書の確認,それから採択を行いました。期間としては非常に短く,3回開かれただけかと思います。   それから,実質的な議論は,条約本体に関しましては第一委員会というのをつくりまして,それから議定書,準拠法に関するルールに関しましては第二委員会というのをつくりまして,それぞれのところで議論するということにいたしました。どのくらいの期間,それぞれの委員会が活動したかにつきまして,私の報告書の2ページの終りのほうに書いてございますが,主として第一委員会がほぼ8割方を占め,それから第二委員会が2割ぐらいという感じだったかと思います。第一委員会も第二委員会もいずれもその場に来ている全員が出席するという形で行われたものでございます。もちろん,全体会議も全員で行われたという形でございます。   それから,ラポルトゥールはこれまでずっと特別委員会から同じでございますけれども,条約につきましてはスペインのボラスと,それからオーストラリア,現在,ヘーグの常設事務局にいらっしゃいますデーグリングと,この2人が共同ラポルトゥール,そして議定書につきましては,準拠法ワーキンググループの議長もされておりましたスイスのボノミさんがラポルトゥールも務められるということでございました。ちょっと申し遅れましたけれども,第一委員会のほうの議長はハンガリーのクルクツさん,それから第二委員会の議長はスイスのボノミさんがそれぞれ務められました。   今回の外交会期では直前ではありませんけれども,去年6月に作成されましたそれぞれの条約草案とそれから議定書草案ですが,それぞれ作業文書の29,30ということで,以前に資料としてお配りしたものでございますけれども,これをもとにいたしまして,それぞれ第一委員会と第二委員会とで議論をして,最終的な案文をそこで決め,そして,それを全体会議で確認した上で最終日に採択という形でございました。   以下では,まず条約の概要,それから議定書の概要を御説明申し上げまして,それから外交会期のそれぞれの委員会等で,議論がどの点について主として行われたかということをかいつまんで申し上げるということにしたいと思います。既に皆様御存じのことが多いかと思いますけれども,一応,条約,議定書,それぞれについて骨子をまず申し述べたいと思います。   まず,条約のほうですけれども,条約に関しましては,まず前文と第1条に条約の目的が書かれています。これはこれまでここで何回も出てきた話ではございますけれども,国境を越えて親族間の扶養,特に子に対する親の扶養が中心なわけですけれども,これらが国境を越えて行われる場合に,その実施を容易にして実効性を確保するということのために,国際的な行政協力の実施,それから扶養義務に関する決定の承認・執行というものについて定めるというのがこの条約の目的でございまして,柱としては,大きく行政協力,それから承認・執行という2つのものがあるかと思います。   適用範囲なんですけれども,大きく2つのカテゴリーに分けております。簡単に言いますと,子どもの扶養とそれ以外ということになろうかと思いますけれども,もう少し技術的に入り組んでおりますけれども,条文を見ながらというとちょっとややこしいですかね,報告書の3ページの下に書いてございますけれども,21歳未満の者に対して親子関係から生ずる扶養義務というのが一番コアの部分でございまして,これについては条約全体が適用されると。そして,今の親子関係に基づく21歳未満の子に対してなされる扶養の義務というものに伴って行われる配偶者の義務も,そこに付随してそこに入れられると,つまり,コアの部分に入れられるということでございます。ただし,年齢が21歳というのでは困るという国がありましたために,この21歳未満を18歳未満に変えるという留保が,選択可能になっているということでございます。   これがコアの適用部分なんですけれども,これ以外の親族間の扶養につきましては,各国が条約の全部あるいは一部をそこに適用するということを宣言できるという形で拡張することができる,要するに選択的に取り込むことができるカテゴリーということになっております。これは再三,部会でも出ておりますけれども,アメリカ等はこの子に対する扶養という,ここで言うコアの部分だけを条約に入れたいと,ほかの国の中にはそのほかの扶養義務についてもここに入れたいという国がありますので,それを調整するという観点で,かつ子どもに対する扶養が最も重要であるということに関しては衆目一致するところでありますので,コア部分をつくり,そして,それにほかの親族の部分については拡張ができるという形をとっているということでございます。   なお,公的機関が扶養に代えて行った給付について国境を越えて回収をするというのも,ここの中に入れるということになっております。   さて,条約の二つの柱であります行政協力とそれから承認・執行ですけれども,それぞれについて簡単に御説明したいと思います。   まず,行政協力ですけれども,これは,これまでの幾つかのヘーグの最近の条約と同じように,中央当局というものを締約国がそれぞれ定めて,その中央当局が言わば窓口となって扶養に関する義務の実現について尽力する,協力もしあうという,そういう仕組みをとっておりまして,これがこの条約の一つの柱になっているわけでございます。   中央当局の任務につきましては条約の5条と6条に規定がございまして,5条のほうは任務を一般的・抽象的に述べるものでございますが,6条のほうは,より具体的に当事者が扶養に関する申立てをしたときに,中央当局がどういうことをするかということを列挙してあります。その中でも第1項のほうは申立てについての援助を一般的な形で定めているわけですけれども,第2項のほうにより具体的なとるべき行為,措置というものについて列挙をしております。これらがこの条約に入った場合に,中央当局が具体的に援助として行うべきことのアイデア,どういうことであるかということの具体的な内容,イメージをつくるものとして重要なものかと思います。   もっとも,これらはいずれも便宜を与えることとか,援助することというようにリジッドな義務という形ではなくて,できるだけのことをするようにという趣旨で定められているというわけでございます。これについては,例えばアメリカなどは,最初はもう少しきちっとした義務を課すべきだという意見だったわけですけれども,余りかたい義務を課したのでは締約国が少なくなるのではないか,あるいは入りにくくなるのではないかという懸念等がございまして,結局,こういう,かなり緩やかな形の義務という形になっております。   それから,以上が5条,6条の話ですけれども,その次に私の報告書ですと5ページ目のb)のところですけれども,ここに「中央当局を介する申立てと「手続の実効的な利用」」という項目を立てております。これは具体的に扶養権利者,扶養を求めたい者がどういう申立てができるかということ,そして扶養を申し立てる者がどれだけの具体的な援助が得られるかということについての規定でございまして,この条約の中の行政協力の中では最も重要な部分というふうに考えられるかと思います。どういう種類の申立てができるかということにつきましては,例えば10条等に詳しく書かれております。   後でちょっと触れますけれども,手続の実効的な利用というのは,こういう申立てがなされた場合に当事者が,言わばただで,無料で無償でそれらのサービスを得ることができて,結局,最終的にも扶養料の回収ができるということにしなければいけないと。そうしなければ扶養料を求めたいような扶養権利者というのは,もともと余りお金に余裕がない人たちでありますので,申立てとか回収に費用が掛かるというのでは,実質的な救済にはならないという観点から,非常に安くやはり無償で,そういうことができるようにしなければいけないということで,ここの点について,この条約はかなりいろんな配慮をしているということでございます。   そして,手続の実効的な利用というのは最終的には14条から17条に規定が入ることになりました。この点につきましては後ほど申しますけれども,非常に議論がございまして,大きく分けまして二つの対立する議論の軸がありまして,一つはアメリカ等を中心とする考え方ですけれども,とにかく先ほど申し上げたような趣旨で,無償ですべてのことができると,申立てができ,回収ができるということにしなければ意味がないということで,申立て等を無償にしなければいけない。そのためには例えば無償の法律扶助というのをすべての案件について与えるということが必要だという考え方。他方では,やはり例えば無償の法律扶助といいましても各国にいろいろな事情がありますし,資金的なものもあるし,制度的な制約もあるので,条約でそこまでを要求するというのは,やはり無理であろうという考え方と二通りの考え方がありまして,これがかなり激しく対立したわけであります。   そして,これについてはなかなか議論が第一委員会でまとまらなかったために,非公式のワーキンググループというものをつくって,委員会の外で折衝,交渉,議論をするということが行われまして,その結果,一定の妥協案というのができました。それが最終的な条約に反映されております。それにつきましては後でまたもう一回触れるかと思いますけれども,最終的な形がどうなっているかということだけ確認しておきますと,14条に今申し上げましたような手続の実効的な利用についての原則的な規定がございます。そして,15条にそのうちの子の扶養に関する申立て,コアの部分になる部分については,無償の法律扶助を提供しなければいけないという規定を入れています。これが原則のやり方で,要するに実効的な利用をさせなければいけないし,そして子に対する扶養に関してはすべて無償の法律扶助を与えて,ただでできるようにしなければいけない。これを原則とするというふうにしているわけです。   しかし,先ほど言いました第二の考え方をとる国々がありましたために,それに対する妥協といたしまして,そうはいっても一定の場合には資産のテストといいますか,子に資産がある場合には無償の法律扶助を与えなくてもよいという,そういうことを国によっては認めてよいと,そういうふうに宣言して,そういうふうにしてよいということを決めておりまして,これが第16条であります。簡単に言いますと,そういうふうに子どもの資産についてテストするということ,資産テストを入れるということも,国によってはしてもよいという形で妥協をするということになった次第であります。また,これについては後で少し触れることになろうかと思います。   以上が行政協力に関する部分でございます。   それから,次に扶養に関する決定の承認・執行のほうでありまして,これが条約の第二の柱ということになります。この点につきましては,まず,承認・執行の対象として,どういうものがあるのかということが問題になります。これは既にこの部会でも御紹介しているかと思いますけれども,既にこれまでの特別委員会でいわゆる裁判,各国の司法当局が出した決定のみならず行政当局が行った行政決定も,承認・執行の対象に入れるという方向で固まっておりまして,実際に最終的な条約でもそのようになっております。   これは,国によって司法当局が扶養義務の命令を出すという国もありますが,他方,幾つかの国のように行政当局がまずは各ケースについて命令を出す。そして,それに不満な当事者がいる場合には,それが司法審査にかかるという形を採っている国が少なくない。そうやって出された行政決定も,外国でこの条約に基づいて承認・執行の対象としないと意味がないということでございまして,したがって,いわゆる判決だけではなくて外国の行政当局の決定も,承認・執行の対象に入れるということになっております。行政当局の決定というのがどういう場合にここの対象になるかということについては,一定の資格といいますか要件があります。例えば司法当局のレビューを受けたければ受けられるような,そういう状況であるというようなことが入っております。   もう一つ,対象として問題になりましたのは扶養に関する合意でございまして,もちろん,当事者が,例えば裁判所で行った和解のように司法機関や行政機関の前で,あるいはそれの下で行ったものはそちらの行政決定とか司法の決定のほうに入るわけですけれども,そうではないタイプの合意も,承認・執行の対象にしてほしいという要請が,例えばカナダなどから強くあったわけですね。そして,ただ,他方,行政機関とか司法機関が直接に関与して作ったというものでないものを承認・執行するということについては,ちゅうちょする国も少なからずありましたので,この辺については結局,こういう形で妥協が行われました。ちなみに,扶養の合意の形としては公正証書で作る場合と,それから,そうではなくて公正証書以外の形で私的な合意で,しかし,各国の当局の関与が何らかの形であるというものが合意の中に入るというふうにされておりました。   そして,最終の特別委員会の段階までは,公正証書による合意とそれから私的な合意という形の二段構えで二つのものとして,今のようなものが扱われていたわけですけれども,最終段階で扶養の取決めと,メンテナンス・アレンジメントという用語のもとに,これらのものをまとめて取り扱うということになりました。妥協の内容というのはどういうものかというと,これらも承認・執行の対象となるけれども,しかし,これを締約国が排除する,自分の国はそれを認めないということができるということにいたしました。オプトアウトの道を認めたという形で妥協をしております。まとめますと,司法当局,行政当局が行った決定,プラス扶養の取決めというものが承認・執行の対象となるけれども,最後のものについてはオプトアウトができるということになったということであります。   承認・執行の手続なんですが,これが今回議論された,いろいろ意見が対立したもののうちの一つなわけですけれども,簡単に申しますと当初の考え方,例えばアメリカとかあるいはヘーグの事務局もそうだと思いますけれども,推進していた考え方というのは,承認・執行の手続というのは各国に細かいところまで任せるのではなくて,基本的には各国に任せるとしても大枠として非常に簡易・迅速な手続を導入して,ここで時間が掛かったり,お金が掛かったり,手間が掛かったりすることがないようにしようと。そして,それを統一しておくことによって迅速・簡易な回収ができるようにしなければ,この条約は意味がないという考え方でこれまで推進がされてきたわけであります。   そして,その結果として最終の特別委員会の段階で用意されておりました考え方というのはどういうものかといいますと,外国の先ほど言いましたような決定の承認・執行を求められた場合には,まずはそれを登録なり,あるいは執行ができるという宣言をしてしまうと。その段階では当事者の意見も聴かないし,それから公序以外の問題点もチェックしないと。言わば自動的に公序の点だけをチェックして,自動的に執行ができる形にしてしまって,そして何か問題があるとしたら,当事者からの異議申立てを待って判断をすると。   実際に事務局等の説明によりますと,扶養に関する決定というのは争われる率が非常に少なくて,言われればしようがないから従いますというのが圧倒的多数であるので,それから金額も余り多いわけではないので,したがって,承認・執行の段階でそう慎重なチェックをしなくても,全体としては余り問題ないのではないかと,むしろ,迅速・簡易な実現をするのが全体としてはいいんだというのが事務局とか,あるいは例えばアメリカなどの考え方なわけですね。それに沿った手続が用意されていたわけです。   しかし,これについてはやはり幾ら少額であるとはいえ,あるいはかなりの部分が争われないとはいえ,やはり外国の判決とか行政決定を承認・執行するのに,余りに迅速・簡易に偏ったやり方はいかがなものか。特に債務者のほうの義務者のほうの防御権が十分に保護されないおそれがあって,そこは問題なのではないかという,そういう議論がかなり有力に反論として出されました。これについて大変議論になったわけで,この点につきましても非公式のワーキンググループが先ほどと同じワーキンググループですけれども,つくられまして,ここで議論され,結局,一定の妥協案が出されて,それが最終的に採用されました。   妥協案というのは,原則としては先ほど申しましたような簡易・迅速の手続を置いておくと。これを条約の原則的な承認・執行の手続であるとすると。しかし,各締約国がそれではない手続で,しかし,それなりの効果がある手続を導入するということであれば,それでもよいと。そして,何でもいいというわけではありませんで,一定の原則的なものよりは簡易・迅速性は少ないけれども,それなりの条約の目的に適合できるような手続であればということでありますけれども,そういう形で代替的な手続を導入することを宣言することができるという形で妥協が成立いたしました。これがちょっと条文,その点だけ申し上げたほうがよろしいでしょうか。最終的なもので24条に代替的な手続をとることができるということの宣言があります。ちなみに,今の迅速・簡易な原則的な手続というのは23条のところにあります。これが承認・執行についての最終的な条文の形でございます。   それから,具体的な執行そのものについては基本的に各国,執行する国の法律に従って行われるということになっておりますが,これは32条ですね。ただ,そこも扶養権利者が迅速で実効性のある執行を確保できるようにということで,若干の規定が設けられております。34条をちょっと御覧いただいたほうがいいかと思いますが,34条に今のような趣旨の規定が入っておりまして,34条の1項では,「実効的な措置を利用することができるようにしなければならない。」ということをまず一般的なものとして宣言しておりまして,その措置としてどういうものが含み得るのかという例示が2項にいろいろ並んでおります。これも特別委員会の案で出ていたものが多いかと思いますけれども,例えば給与の天引きとか社会保障給付からの控除云々があります。   これについても結構議論がありまして,ものによっては各国の国内法制とか,あるいは場合によって憲法に反するような項目もあるんだということで,かなり強行に反対した国もありまして,これはあくまでも例示なんだからいいではないかということを言いましたところ,ある国はそれでは死刑というのを入れるのかというようなことを言ったりしまして,結構議論になったところでありますが,最終的には大体こういうところで落ち着いたということでございます。これが承認・執行に関する概要でございます。   そのほか,もちろん,この条約には,適用に関する一般的な規定,それから最終条項のようなものが出ております。その中で重要かと思われますのはフォローアップに関する規定であります。これは要するに,行政協力を内容とする,あるいは柱とするヘーグの条約は,例えば子奪取条約等もそうですけれども,条約を作ったというだけではなくて,条約を運用する段階でいろんな問題が出てくる可能性があるので,それらについて定期的にヘーグの事務局が中心となって特別委員会のようなものを開いて,フォローアップをして運用についてのチェックをし,あるいは話合いをして改善をしていくということを考えている,実際に幾つかの条約でやっているわけですけれども,この条約も行政協力を主体とする条約でございますので,同じような仕組みを取り入れて,発効後,事務局が定期的に特別委員会を開いてフォローアップをすると。そのために,例えば各国の実施状況についての資料等を事務局に提供するというようなことについての規定が入れられております。これは54条に条約運用の調査という形でそれが出ております。   そのほか,もう一つ書式の修正という55条の規定がございます。これは今回いろいろ申立てをしたり,あるいは中央当局間がやり取りをしたりというときに書式を作っておいて,これを使うと効率的だというふうに考えられますので,書式というものを作るわけですね。そして,その書式は条約に附属するわけですけれども,その書式について例えばさらにこういうふうに改善したらいいんではないかとか,あるいはこういうふうにしたほうが,なおいいというようなことが出てきたときに,迅速に対応できないと,つまり条約全体を改正しないと駄目だということになって,迅速に対応できないということで,書式の修正について55条という規定を置いて,より簡易,より簡易というのは条約そのものを改正するという意味ではない形で,会議のここにありますような特別委員会の決定によって修正することができるという,そういう規定を置いておりますので,先ほどのフォローアップと併せて実際に運用されるようになった段階で,こういう形で更に改善を図り,運用をきちんとできるようにするという,そういう用意を一応してあるということでございます。   それから,もう一つ57条という規定がありまして,これはいわゆるカントリー・プロファイルというもので,これまで御紹介が少しあったかと思いますけれども,各国が扶養義務に関してどういう法制を採っていて,どういう仕組みを採っていてということが一覧で分かるようにしておくと,各中央当局がどこかの国についてそれを調べるときに便利だし,また,当事者にとっても便利だということで,それを充実させようというのが今回考えられているわけですけれども,それに関連して各国が締約に当たって,この条約に関連する事項についての情報を事務局に提示して,それを事務局で集約するということができるように,こういう規定を置いているわけでございます。   そのほか最終条項等がございますが,これは特に変わったところはないかと思います。二国だけで発効するということになっているので,三国でなくて二国だけでいいということになっているところが,できるだけ早く発効させたいという事務局の意向その他でそういうふうになりましたけれども,そのほかは特に変わったところはないかと思います。   以上が条約に関しましての概要でございます。   次に,議定書のほうの概要について申し上げたいと思います。   議定書は,扶養義務に関する準拠法についてのルールを定めたものでありまして,これも既に御紹介申し上げたかと思いますけれども,条約本体には入れないと,そして条約とは別の文書でこれを作るということに決まっておりました。扶養義務の準拠法に関するルールは要らないというか,そういうものの統一には関心がないという国が相当数あるわけですね。例えばアメリカとか英米法系の国がそうなんですけれども,それらの国は基本的には自分の国の法を使って扶養の決定や命令を出すということでありまして,扶養義務の準拠法を特に考えるまでもないというわけですので,これまでのヘーグの扶養義務の準拠法に関する二つの条約がございますけれども,これらについて日本は両方とも批准しているわけですけれども,それらにももちろん今言ったアメリカ等の国は加盟しておりませんし,それから,今回,こういうルールができても入らないだろうということは明言しておられるわけです。   そこで,条約本体にはそれは入れずに別個作るということになりました。別個作る場合の問題は条約との関連でありまして,条約に入った国だけがこの議定書に入れるとするか,あるいは条約とは無関係にこの議定書に入ることができるとするかという点が問題となりますが,これについては条約とは無関係に入れることになるということになりました。これは余り大きな議論はなくて,日本もその意見でしたけれども,特に議論はなく,そういうことになりました。   そして,今回の議定書は先ほど申し上げました,ヘーグの1956年と73年の扶養義務の準拠法に関する二つの条約を事実上改訂するものなわけですね。したがって,実質としてはそれらを改訂するという,そういう国際文書になるわけです。   具体的に,扶養義務準拠法をどういうふうに決定するというふうなルールになっているかということですけれども,これにつきましては報告書の10ページの下のほうの2のa),「全体の構造」というところに枠組みをまず書いてあります。まず原則としては扶養権利者の常居所地法を準拠法とすると,これが第一の原則なわけですね。しかし,その原則に3種類の特則の例外があります。これは後で一つずつ順次簡単に申し上げますが,そして,さらにこれらの原則・特則によって準拠法決定がされるわけですけれども,それを覆すものとして当事者自治,当事者による準拠法指定が認められるということに今回なっております。もちろん,さらに最後に公序による排除というものがあるということになって,4段構えということになろうかと思います。   まず,第3条の原則でありますけれども,扶養権利者の常居所地法が準拠法となるというようなこれは,これまでのヘーグ条約の原則と変わりませんし,これ自体については余り異論がないところでございます。   特則ですけれども,4条,5条,6条と一つずつ特則があります。   第4条の特則というのは,21歳未満の者に対する扶養義務と,それから親子間,これは子から親,あるいは親から子,両方向ですけれども,これらにつきましてはより広く扶養義務が認められるようにしようというものでありまして,先ほどの原則の扶養権利者の常居所地法だけではなくて,法廷地法あるいは当事者の共通国籍国法を準拠法にできる道を開くという,段階的な連結の仕組みというのを取り入れるということでございます。それだけより広く扶養が認められるようにしようということです。   第5条の特則で,これは配偶者あるいは元配偶者間の扶養義務の問題でありますけれども,これについては1973年のヘーグ条約の規定が余りよろしくないだろうということで,これについては今回大幅に変えるということになりました。これについては後ほどちょっと簡単に申し上げますけれども,議論がある程度ございましたけれども,今回の外交会期でも議論がいろいろございましたけれども,結局,落ち着いたところはちょっと見ていただいたほうがよろしいですかね。議定書の5条にございますように,これらの者の扶養義務に関しましては当事者の一方が異議を述べ,かつ,他の国,特にこれらの者の最後の共通常居所地の法律が婚姻とより密接な関係を有する場合には第3条の規定は適用しないで,当該他の国の法律を適用するということになりました。要するに,婚姻とより密接な関係のある別の地がある場合には,権利者の常居所地ではなくてその国の法を適用すると。そういう法律の代表例としては最後の共通常居所地法だということですが,それに限るわけではないという形で一定の裁量を裁判官に与えている,決定する者に与えているということでございます。   それから,第6条の特則ですけれども,これは似たようなものが73年の条約にもあるわけですけれども,少し範囲等が違っております。6条の特則は親子関係に基づく子に対する扶養義務と,それから配偶者又は配偶者間の扶養義務を除く他の扶養義務,例えば姻族関係に基づく扶養義務とか,兄弟姉妹間の扶養義務等がこれに当たるわけですけれども,これらについては義務者のほうが一定の事由を示して,拒否をすることができるということにしています。拒否というのは権利者の常居所地法でそういう義務が認められるとしても,自分はその義務は負わないということを言うことができるというわけでありまして,これは扶養義務者の常居所地法と,それからもし当事者間に共通の国籍の国があるとすれば,その国の法とのいずれによっても扶養義務がないということであれば義務を免れることができる,そういうふうに異議を申し立てて義務を免れることができるという規定でございます。   それから,第7条,第8条に先ほど申しました当事者自治の規定があります。第7条のほうは個別の手続ごとに準拠法を指定するというものでありまして,第8条のほうはもう少し一般的に,事前に当事者の約束で準拠法を決めておくという,二つの種類の当事者自治がここに入れられているわけです。これについても特に当事者自治をすることによって,弱者が不当に不利益を受けることはないのかという,そういう懸念がいろいろ出されましたので,それに対してどういうセーフガードを置くかということをめぐって議論がなされて,最終的にはこういうような7条,8条に書かれているようなことになりました。この点については後でちょっと簡単に触れたいと思います。   それから,最終的に公序で排除ができるというのは国際私法の一般的な原則,ごく普通のことかと思いますけれども,本当の公序といいますか,普通の公序が第13条にあるわけですけれども,これまで公序と一緒の条文で規定されていましたものを別の条文にした14条というのが入れられております。14条のほうは扶養額の決定に当たって,実質的な考慮をこういうふうにしなければいけない,たとえ準拠法でそうでなくても,実質的なこういうような考慮をしなければいけないということを決めておりまして,実質法的な公序の規定というふうに位置付けられるかと思います。最終的な案,2007年6月の案では同じ条文に,1項,2項で入っていたかと思いますけれども,今のような性格の違い等もありますので,別の条文に別立てするということになって,扶養の額の決定という条文を新たに14条に立てたということであります。   これについて,内容はこれまでと基本的には一緒なんですけれども,もう一つ付加された要素がありまして,14条をちょっと見ていただきますと,「準拠法が別段の定めをする場合であっても,扶養の額を決定するに当たっては,扶養権利者の需要及び扶養義務者の資力」,これを考慮しなければいけないというのがこれまでの案だったわけですけれども,これに加えて「扶養権利者が定期的な扶養の支払に代えて受領したすべての補償についても考慮しなければいけない。」という一文といいますか,ワンフレーズが入りました。これは例えば定期的な扶養の代わりに一時金でかなりの額を渡したけれども,それを浪費してしまって,今は困っているのでやはり払ってくれといったようなときには,かつて幾らまとめたお金を払ったかということも一応考慮に入れた上で,これから払うべき金額を決めなければいけないということを言っているわけであります。具体的にどういうふうに考慮するかは各判断者によるという,そこら辺は裁量になるかと思います。とにかく考慮に入れなければいけないということにしたということであります。   それから,その他幾つかの点を12ページのf)のところで書いてあります。ちょっと特徴的なのはドミサイルというのが入ったんですね。これは第9条に入っております。これはちょっと分かりにくい規定ですけれども,どういうことかと申しますと,ちょっと読んでみますと,第9条,「家族問題の連結点として「ドミサイル」の概念を有する国は,その当局において取り扱う事案においては,第4条及び第6条の「国籍」をその国において定義される「ドミサイル」に読み替えることをヘーグ国際私法会議常設事務局に通知することができる。」。   通知してそのようにすることができるという,そういう趣旨ですけれども,これは国籍ではなくてドミサイルが基準となっている国があると。例えば英国はそうだということのようですけれども,そういう国にとっては国籍を連結点とするのはどうもしっくりこないと。国籍とドミサイルというのは言わば対等関係にあるのだから,ドミサイルも入れてほしいという,そういう議論がございまして,ただ,他方,ドミサイルという概念を知らない国も我々の日本のようにありますので,ドミサイルという概念を知らない国がドミサイルについての判断を迫られるということは困るということを日本からも申しましたところ,結局,こういう形で一定程度ドミサイルを使っている国は使うということができると。しかし,ほかの国,ほかの国とは例えば日本のようにドミサイルの概念を知らない国が直接,ドミサイルについて判断する必要はないということにこの条文によってなっております。   それから,あとは反致の否定等がございますけれども,特にこれはこれまでと大きく変わったものではないかと思います。   それから,20条以下は一般的な最終条項等が書かれております。それから,先ほど最初に申しましたように23条がございまして,この議定書は,すべての国による署名のために開放しておく云々とありまして,本体の条約とは無関係にこの議定書の締約国になることができるということでございます。   以上が議定書についての概要でございまして,あとは先ほど若干触れましたけれども,この外交会期で特に議論が集中した,あるいは錯綜したといいますか,対立した点について触れておきたいと思います。   まず,条約のほうですけれども,これにつきましては二点大きく問題となりました。先ほど申しました手続の実効的な利用の点,それから承認・執行の手続の点であります。どういう対立があったかは先ほどそれぞれについて申し上げたところなんですけれども,これは相当激しい対立でありまして,とても本会議場では収拾が付かないという状況でございましたので,そこにあります非公式のワーキンググループというのを委員長とか事務局のあっせんで作りまして,そこで集中的に議論,交渉をするということになりました。ワーキンググループには13ページの真ん中あたりに書いてありますけれども,カナダ,中国,EC,日本,ロシア,スイス,米国というのが入りまして,それからもちろん事務局のメンバーも入っております。   この二つの対立点ですけれども,いずれも対立している国の種別というのは一緒なんですね。つまり,片や米国,カナダあるいはオーストラリア,オーストラリアはここに入っておりませんけれども,米国,カナダ,オーストラリアのほうが例えば手続の実効的な利用についてはすべてただにすべきだというほうですし,それから承認・執行の申立て手続については簡易・迅速なスピーディーなものでやるべきだという考え方に立っておりまして,他方,ロシアと中国と日本もそちらに入るんですけれども,こちらはそうではないほう,つまり,手続の実効的な利用のほうについてはすべてただというわけにはなかなかいかないと,それから承認・執行の申立てについてはそう迅速・簡易だけを図るわけにはいかないという,そういううまくというべきかどうか分かりませんが,2グループに分かれていましたので,この二点をパッケージにして一緒に,今,申し上げましたようなワーキンググループで議論するということになりました。   実際には非常に時間が掛かりまして,日曜日の夜中までとか,いろいろやったんですけれども,これもうまくいくかなという感じであったんですけれども,結局,最終的にはうまくというか,とにかく妥協案というものができまして,その妥協案の結果というのは先ほどそれぞれについて申し上げたとおりです。報告書にはもう少しある程度詳しく書いておきましたけれども,先ほど申し上げたような,それぞれについて代替案がとれるようにするという形で妥協すると。手続の実効的な利用に関していうと,子の資産についてのテストができるようにするという代替案を示すと,それから承認・執行の申立てに関していうと,簡易・迅速の原則的な規定ではなくて,そうではない規定を手続をとることができるようにするということで,それぞれ主として中国,ロシア,日本向けの妥協案というのが代替案というのが示されて,それで一応の妥協ができたということでございます。しかし,原則としては先ほど言ったすべてただ,そして簡易・迅速な手続というものが原則として入れられ,それに対して代替案をとることもできるということになったということでございます。   それで,もし御質問がありましたら,また後でお答えしたいと思いますが,それで議定書のほうについてですけれども,議定書のほうは条約に比べますと,それほど大きな激しい対立というのはなかったかと思います。しかし,非常に割り当てられた時間が少なかったこともありまして,こちらについても一応非公式のワーキンググループというのがつくられました。これについては私の報告書の17ページの注2のところに書いておきましたけれども,幾つかの国でワーキンググループをつくって,こちらは全部で多分数時間ぐらいだと思いますけれども,集まって議論するということをいたしましたが,しかし,余り結局最終的には役に立たなかったかなというワーキンググループでありました。   それで,議論が若干ありましたのが先ほどの最終的な議定書の5条になりました,配偶者間あるいは元配偶者間の扶養義務の点でございまして,この点については最終的な外交会期前の案の段階では意見がいろいろ分かれていましたわけですね。ここで御議論を確かいただいたと思いますけれども,私の報告書の15ページから16ページにかけて書いてありますような1案,2案,3案というのがありまして,これらは配偶者,元配偶者の扶養義務をどう決めるかといったときに,最終の共通常居所地法というのがもし現在の扶養権利者の常居所地法という原則規定ではないとすると,最終の当事者たちが共通に常居所を持っていた国のほうが多分一番候補に挙がりやすい,そして適当な準拠法だろうという点では大体意見が一致しているんですが,果たしてそれに限っていいのか,それとももう少し裁量を判断者に与えて,より柔軟な規定にするかという点で議論が分かれていたところなわけですね。   そして,柔軟にすれば,もちろんそれだけ予測可能性が少なくなりますが,しかし,リジッドにすると個別の事案で適当ではない場合が出てくるんではないかと,そのジレンマなわけですけれども,そこをどうするかということで,結局,これについてはもとの案ですと,第3案に近いものに落ち着いたということだろうかと思います。基本的には裁量を判断者に与えると,婚姻に最も密接に関連する国のほうを準拠法にすると。ただし,その際に,当事者の最後の共通常居所地法というのが一番,その候補としては有力ですよという示唆はしておくということなわけです。結局,予測可能性とか明確性というのが多少犠牲になるわけですけれども,やはり柔軟性や具体的な事案での妥当性を重視すべきであろうという見解が最終的に優勢になりまして,この方向で第5条が作られたということでございます。   それから,もう一つ議論になりましたのは,準拠法指定の当事者自治に関するところでありまして,当事者自治を入れることについては余り大きな異論はなかったんですけれども,当事者自治を入れた場合に,弱者保護が必要になるんではないかということで,そのセーフガードをどのように用意するかということが特に議論になりました。要するに,当事者が自分に不利な準拠法の指定を合意させられるようなことがあっては不公正だろうということで,そうではない,それに対する何らかのセーフガードが必要だろうということだったわけですね。   それで,2007年6月の草案では私の報告書の17ページの上にありますように,第3項,第4項にセーフガード案というのが作られていたわけです。第3項は選択がそもそもできないカテゴリーの人たちをつくりましょうと。それは18歳あるいは21歳未満の子,子どもについてはそういう合意はできません。それから,能力の障害又は欠如のために自らの利益を守ることができない成人,vulnerable adultと言っていましたけれども,そういう人たちについてはそれができないようにしましょう,合意ができないということにしましょうということだったわけですね。それから,第4項には指定された法律の適用が明らかに不公正又は不合理な結果をもたらす場合には,その法律は適用しないという条項を入れておきましょうという,そういう案が用意されていたわけです。   この第3項について,つまり,一定のカテゴリーの人については,こういう合意ができないようにしようということについてなんですけれども,これにつきましては,結局,年齢が18か21かというのも問題でございますけれども,これは日本からも多分言ったと記憶していますけれども,18歳未満とするほうが他の条約との平仄が合うということで,18歳にするという意見が強かったわけですね。   そして,成人についてが特に問題になったわけですけれども,これについては国内法にその保護はゆだねて,ここでセーフガードを成人についてvulnerable adult,保護すべき成人について用意する必要はないんではないかという意見がありましたし,あるいは他方,成人とそれから成人の代理人との間の契約だけはできないというふうにしようと,合意だけはできないようにしよう。例えば後見人が自らも扶養義務者であるような場合というのがあり得るわけですよね。そういうものとそれから被後見人ですかね,成人との間での合意というのはできないようにしようというような案も出されました。それで,いろんな案が出されたわけですけれども,この点についてはそれらの案は余り支持が得られなかったということで,結局,6月の草案のような方式,18歳をとってということですけれども,18歳を採用して,6月のような仕組みを採るということになりまして,これが現在,最終的な議定書の8条の第3項になりました。   それから,6月草案の第4項のほうですけれども,これは明らかに不公正又は不合理な結果をもたらす場合,適用しないという,そういうセーフガードだったわけですけれども,これは予測可能性や法的安定性を損なうのではないかという懸念がかなり出されたわけですね。つまり,合意しておいたのに,そして,それが守られると思っていたのに,いざというときにこういうかなり裁量の余地が広いような規定によって,ひっくり返されるというのは法的安定性とか予測可能性の点で,当事者自治を入れるのであれば問題なのではないかと,当事者自治の実質を損なうことになるのではないかという,そういう危惧なわけですね。   そこで,こういうセーフガードは削除すべきだという提案が一方でなされました。しかし,他方,やはり何らかのセーフガードは入れたほうがいいのではないかということで,それで折衷になるのかどうか分かりませんけれども,折衷案として当事者が準拠法を指定した結果を十分分かっていたのであれば,それならばひっくり返すことはできないことにしたらどうかという意見が出されました。これは確かECから出されたんだと思いますけれども,その案に対しましては知らされていても結果が不合理,不公正だったら,やはりひっくり返さないとおかしいんではないかという,ある意味ではもっともな意見,批判も出されたりいたしました。   しかし,全く削るのには余り多くの賛成はありませんで,結局,妥協案としては今のような方向でやるのがいいんではないかという意見が最終的には強くなりまして,それで最終的な議定書の8条の5項のような規定になりました。8条の5項は「指定時において,当事者がその指定の結果について十分に知らされ,かつ,認識していた場合を除き,当事者により指定された法律の適用が当事者のいずれかにとって明らかに不公正又は不合理な結果をもたらす場合には,その法律は適用しない。」ということになったわけであります。それと併せて,第4項に新しい別のタイプのセーフガードも最終段階でひょいと入りました。権利の放棄ができるか否かというのは,扶養権利者の常居所地法によって決定しましょうと。常居所地法でできないのであれば放棄はできないと,放棄をしてもそれは無効だということにして,それで一定のセーフガードにしましょうという規定が入りました。   以上が議定書案に関して議論があった大きな二点,二つの点でございます。   以上で雑駁でありますけれども,外交会期の報告を終わらせていただきます。   「おわりに」というところでちょっと書いておきましたが,今回は最終日にアメリカが条約に署名するということで,我々は一様に驚きの声をもって迎えたわけですけれども,アメリカはここにもちょっと書いておきましたけれども,要するに現在まで実績を積み重ねてきた国内とか州際とか,あるいは二国間の協定による扶養料の回収というものを,この条約を使ってマルチに広げようということを考えているわけで,これまでの実績からいって非常にこれはうまくいくに違いないと考えていて,かつ,既にこれまでの実績を通じて,これを実行するだけの受入態勢というのは十分整っているわけですね。つまり,州際問題とか二国間問題に使っているものをそのまま転用すれば,すぐにでも,明日にでも,こういう実務をすることができるという状況になっておりまして,それだけに今回の条約に非常に熱心に関わってきたわけです。その意欲を示すためかどうか分かりませんけれども,最終日に署名をするというところまで来ております。   ほかの国もここに書きましたように,幾つかの国は非常に積極的でありますし,それから一番かぎを握るのはEC,ヨーロッパ諸国だと思いますけれども,そちらもかなり積極的である可能性が高いということで,条約としては比較的早目に発効して,それなりの締約国を獲得する成功した条約になる可能性があるのではないかと,予測でありますけれども,考えられるわけであります。   日本にとりましては,先ほど言いました代替案が二点について入れられた点は,かなり受け入れやすくなったとはいうものの,かなり国内法制とのすり合わせ等で,もし,この条約に入るとすると,かなり整備をしなければいけない点がございます。それから,議定書のほうは日本が批准している条約の改訂版ですので,そこに入っている国々が新しい議定書のほうに移るとすると,そちらのほうがスタンダードになりますから,日本としては議定書の批准についても時期を見て考える必要があろうかと思います。   そんな状況ですけれども,では,とりあえず以上で報告を終わらせていただきます。   それから,外交会期では○○さん,それから○○さん,○○さんと私の4人で参りましたけれども,お三方に本当に助けられました。この場をかりてお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。 ● どうもありがとうございました。   ただいまの○○委員の御報告等につきまして,御質問がございましたらお願いしたいと思います。特に条約,議定書の順序を問いませんのでお願いしたいと思います。   ○○委員。 ● 細かいことで恐縮なんですけれども,議定書のほうなんですが,先ほど国籍のドミサイルへの読替えという御説明があったと思うんです。9条ですか。これを提案したのはイギリスだということ,だったと聞いて。 ● はい,そうだと思います。イギリスだと。 ● そうですね。ほかのいわゆるドミサイルを使っている国々からは,必ずしもそういう意見は出てはいないということですか。 ● 主として英国の代表が言っていて,ほかの人たちからは特に。 ● 特にこの議定書のほうに入らないと言っているような国々でドミサイルが使われているんですね。イギリスがそれであえて,イギリスも多分……。 ● 入らない。 ● なぜ,そう言ったのかなということにちょっと疑問を感じたものですから。 ● そうですか。その背景はちょっとよく分からないんですけれども,状況からいいますと,まず,これは背景と言えるかどうか分かりませんけれども,英国の代表のボーモン教授がこの点については,特に積極的にいろいろ御発言になって,このように決まって……。 ● スコットランドだったんではないですか。 ● そうです。 ● そうですね。スコットランドはちょっと大陸法系が入っていますから。 ● そうですね。英国代表でとにかく来ておられたんですけれども,ボーモン教授の個人的と言っては何ですけれども,とにかく大変にあの場では御存じのとおり活躍されている方ですので,このまま国籍だけで押し切られるでのはちょっと問題だと思われたんではないかと思うんですね。それで,ドミサイルを国籍と同じように扱うべきだという御意見を出されたんではないかと思いますけれども。 ● ○○関係官。 ● 若干補足ですけれども,ドミサイルに関してはワーキングドキュメントをECとして提出はされておりました。ただ,実際に会議場でこの点を強く主張されたのはイギリス代表ということで,実質はイギリス恐らく一か国がEC内部で強く主張して,それでECとしての意見が出たということではないかなというふうに想像いたしました。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 承認・執行の関係の24条という新しい規定が設けられて,我が国の意見が相当取り入れられたということなんですけれども,この24条の代替的な手続というのは先ほどの○○委員の御報告ですと,それ自体,迅速で適正な承認・執行を確保するものというお話があったと思うんですが,外国判決の承認・執行の手続というのがどれぐらい迅速なのかという問題はあると思うんですけれども,日本法のままでも大丈夫ということなんでしょうか。それとも,もうちょっと何か迅速性みたいなものが要求されるんでしょうか。24条を見た限りでは,文言上はそういうものは要求されていないように思ったんですけれども。 ● かなり文言上は一般的,柔軟な書き方になっておりますので,ただ,もう少し具体的に詰めないと多分いけないと思うんですけれども,問題がないわけではなくて,例えば6項に上訴のときの執行の停止の話があります。もともとは執行の停止ができないということだったんですけれども,これは日本等からそれでは困るということで,一応,この「例外的な事情があるときを除き」というのを入れていただいたわけですね。ですから,例外事情があれば執行停止できるということではあるんですけれども,原則は上訴されている段階では執行停止できないということにしなければいけなくて,これは現在の国内法制そのものではなかなか難しいんではないでしょうか。 ● 私のほうから若干御説明させていただきますと,私のほうで気付いておりました点は,日本の場合ですと,恐らく執行判決をしなければいけないということになると思うんですが,それが確定して初めて普通は次の手続,具体的な強制執行手続に入るという形になるかと思うんですが,この条約に入ったときに確定を要求することができるのか,執行判決について確定を要求することができるのかというのが一つ疑問になってまいりまして,恐らくなかなかそこは難しそうな感じが,その場での議論からすると感じておりました。そうしますと,代わりに何か例外的な場合には執行を止められるような規定が要るのではないかということで,この6項のような規定を日本からもお願いして,一応入れてはいただいたんですが,このあたりは日本の法制とは直ちに現在整合しないところなのかなというふうに認識しております。 ● 今,24条の6項の問題が取り上げられまして,そこは私も○○関係官がおっしゃるような問題があると思っていましたが,日本の場合は民事執行法の22条第6号で確定した執行判決のある外国裁判所の判決でないと強制執行ができませんから,執行判決が確定するということが要求されている上に,執行判決は24条ですけれども,執行判決というのは外国裁判所の判決の強制執行を許す旨を宣言するという,そういう判決ですので,それ自体に仮執行宣言とかいうのはちょっと考え難いので,何かこれを取り入れようとすると,外国判決の承認の仕組みを少なくとも扶養については,抜本的に変えなければいけないのかなという感じが私もいたします。   それはさておき,その前の5項なんですけれども,5項は「期限が到来した支払についてのものである限りにおいて,その債務が履行されたことを理由として」承認・執行を拒否できるというふうに書いてあるんですけれども,これは反対解釈をしますと,期限未到来のものについて前払いしたということを理由には,承認・執行は拒否できないという,そういうことを意味しているんでしょうか。 ● ○○関係官。 ● 私のほうの認識としましては,部会等で論点メモ等に一度確か記載させていただいたことはあるかと思うんですけれども,私どもの認識といたしましては,この点についてはある意味,当たり前のことを記載しているのかなというふうに認識しておりまして,この条文について反対解釈をして,前払をしたということでの主張が禁止されるとか,そういったことまでは必ずしもそこまでを予定した条文ではないのかなというふうには思っていたのですが,ただ,厳密に反対解釈がされる条文なのかどうなのかという点につきましては,具体的な議論まではなかったように記憶しております。 ● ○○関係官。 ● ちょっと議論が前後して申し訳ないんですけれども,先ほど○○幹事が言われた一点目のほうなんですけれども,この条約で問題にすべき確定という部分は二つ問題にしなければならなくて,一つは扶養決定自体の確定の要否,それと,それを承認・執行を受ける側の国で,それを承認・執行判決ないしは決定をした,その決定ないしは判決自体の確定というこの二つについて問題にしなければならないということで,今の日本の制度では両方について確定が必要というふうにされております。一つが先ほど○○幹事から説明があった24条ですけれども,もう一つの執行判決自体の確定については民事執行法22条6号で債務名義となるということになっておりまして,この条約ではその二つ,外国における外国判決の確定自体も要件としておりませんし,今度は執行を求められた国における執行判決というものの確定も,先ほどの仮に宣言しても24条の6項というところで,特にこれから読むと,それの確定も要件としていないというこの2点について,日本法制とは異なるということなので,そこの二つについて検討をもし仮にこの条約に入る際にはしなければならないのだというふうに思います。 ● どうぞ。 ● 一つ前提問題として付け加えた方がいいかと思うのは承認・執行の対象ですけれども,先ほど申し上げましたように行政決定も入っておりますので,その点でも現在の日本の法制そのままというわけには多分いかなくなるんではないかと思いますけれども,つまり,外国の行政決定を承認・執行の対象とするということは,今の法制そのままでは多分できないんではないかと思うんですが,いかがですかね。 ● 今の点ですけれども,確かに民事訴訟法,民事執行法は外国の裁判所のというふうに規定しているんですけれども,コメンタールなんか見ますと,裁判所というのは日本でいうところの裁判所に相当する機能を果たすようなものということで,機関としては行政機関に属するものであっても,裁判というのにふさわしいものであれば,承認・執行の対象になり得るようなことが書かれているものもございます。ですから,行政機関だから絶対駄目ということはないと思うんですけれども,しかし,日本においては裁判所と見られるようなものでなければなりませんので,ここの行政機関のする決定というのが日本の裁判所に準ずるようなものではないものであるとすると,そこは今の日本の枠組み,外国判決の承認・執行の枠組みを超えているということになるんではないかと思いますけれども。 ● 御参考までに申し上げますと,例えばオーストラリアなんかはこの行政決定を使っているわけですけれども,そこでどういう機関がやっているかというと,日本でいうと多分厚労省の出先機関のようなところで,かつ一番問題なのは法律家がやっているかどうかだと思うんですけれども,いわゆる法律家がやっているのではないということだったかと思いますので,やはり今の点は検討する必要があることになってくるかもしれませんね。 ● ○○幹事。 ● 23条についてよろしいでしょうか。前回の部会での電話会議に関する御説明の中で,ここで言う本則としての23条の執行のための登録・宣言というのが,それで直ちに執行できることまで意味するのか,場合によっては,それだけでは執行しないということも可能なのではないかということについては,両様あり得るというようなEC代表の話があったという御説明があったように記憶しておるんですけれども,この点は結局24条が新たに入ったというようなことも含めて考えると,宣言・登録ということの意味は,むしろ前者,直ちに執行できるということを指すというような理解になるのでございましょうか。 ● この点は。 ● 申し訳ありませんが,御質問を確認させていただきたいんですが,直ちに執行できるというのがどの点との兼ね合いであったかを少し確認させていただきたいのですが。 ● 前回の議事録でいうと6ページに書かれている御説明なんですけれども,当事者の意見は聞かず公序の事由だけ審査して,それで宣言や登録がなされたとしても,直ちにそれによって執行がなされるというわけではない,すべてのチャレンジについての結果が出るまでは執行はしないということが可能であるのではないかというのがECの代表の見解でしたと,どう読むとそうなるのかはっきりしないが,という御説明のことについて聞きたかったんですけれども。 ● 失礼いたしました。私のほうからでよろしいですか。そこの点につきましては,この承認・執行の手続の中では手当ては難しいであろうと。ただ,具体的な強制執行の手続というのは,32条1項で,「執行は,執行を求められた国の法律に従ってされなければならない。」というこちらのほうで,強制執行を例えば停止する,承認・執行手続の中でまだ争いがあるので,登録みたいなものがされている,あるいは承認・執行の決定みたいなのがなされている,ただし,具体的な強制執行手続については,そちらの争いが終了するまでは執行しませんというような立て方はあり得るのではないかという意見がECだったと思いますけれども,述べられました。ただ,この手続の中で何か執行を止めるとかいうことは23条の10項ですけれども,「例外的な事情があるときを除き,決定の執行を停止する効力を有しない。」と,この限りでしか手当てがされていないというような理解でございます。 ● まだ質疑は中途ですが,いったん休憩を入れたいと思います。           (休     憩) ● それでは,質疑を再開させていただきたいと思います。   いかがでしょうか,御質問。   それでは,○○委員。 ● 一点,細かなことの確認なんですが,申立ての書式がどうなるかというのが少し議論されたんですが,結局,「ヘーグ国際私法会議により推奨され,かつ,公刊されるであろう」書式を使用してすることができるという文言がありますが,この「ヘーグ国際私法会議により推奨され」というのは,全面的に事務局にその作成はゆだねられているということに現状ではなっているんでしょうか。 ● いいえ,これに関してはフォームコミッティーと言っていますけれども,要するに書式の委員会というのが前からございまして,そこが幾つも今まで作っているんですね。委員会があって,そこが作るんだろうと思うんですね,実質的には。ただ,それ自身はまだここには付けられていないですね。 ● では,○○関係官。 ● ちょっと私も記憶で恐縮なのですが,「FINAL ACT」の最終ページの中にRecommendationsというのが入っておりまして,今後のフォームですとか,そういったことについては確か一般的な支持といいますか,そういったものが与えられていると,全体会議としてそういったものが与えられていて,今後,特別委員会とかを随時開催しながら,そういった申立て書式については,なおこれまで提案されていたものから改善を図っていくと。最終的には恐らくまた一式,書式が整えられて,随時改訂とかがなされていくのではないかというように認識しております。 ● 「FINAL ACT」のCの3のところです。ページはふってないですね。資料の72の一番最後のページのCの3のところだと思います。そこに。 ● ○○委員,一番後ろのページです。 ● 資料72の一番最後ですね。 ● 3番です。 ● では,後で確認していただいて。 ● 議定書の8条の準拠法の指定のところの3項でございますが,前からこの「人的な能力の障害又は不十分さのためにその利益を守ることができない成年者」とは,具体的に何ぞやということがこの部会でも問題になったと思うんですけれども,その点は外交会期ではかなり明確になったんでしょうか。 ● この点につきましては条約本体のほうにも,定義規定で申し上げると3条のfに同じような,似たような規定が入っておりますが,この関係については○○委員のほうからも,こういうような規定が入るのであれば,その定義を明確にしていただきたいというような趣旨のことを非公式ワーキンググループの中で御発言いただいたのですが,この文言自体は成年者保護条約だったかと思いますけれども,従前のヘーグ条約の文言とほぼ類似の文言を使うということで,これまでの運用上,支障が生じていないというような説明がなされて,必ずしも我が国のより明確にしてもらいたいというような意見は入れられなかったところでございます。   また,一方で例えば日本でいう後見開始の審判がされているというような要件を盛り込むというようなことも,ちょっと感触を御確認いただいたのですが,むしろそういう要件を入れてしまうと,そういう後見開始の審判の承認・執行ですとか,そういった別の法的な問題が生じてしまうので,この条約としてはむしろこれまでのヘーグ条約との連続性の観点からも,成年者保護条約で採用されたような定義を盛り込むことでというような意見の一致があったというように認識しております。 ● その成年者保護条約の内容は必ずしも十分承知していないんですけれども,ここでいう「能力の障害又は不十分さのためにその利益を守ることができない」というのは,そうすると形式的な被後見人とか被保佐人であるということではなくて,実質的な意思能力に問題があるという,その実質で見るという理解でいいんでしょうか。 ● 私の認識としては恐らく条約及び議定書上はそういうふうになっていくんだろうと思います。 ● この条約及び議定書の報告を見てみないと何とも言えませんね。条約及び議定書固有の概念であるということはともかくとして,この条約及び議定書の独自の解釈による場合に,各国の国内法上の措置をとったものに限定するというふうなことも,もちろん条約及び議定書独自の解釈としてあり得るわけですから,それをちょっと見てみないと分からないですね。恐らく実質的に能力制限いかんのことは,こういう能力を制限するこれは重大な事柄ですので,やはり明確でないと,画一的な何らかの裁判がないと具合が悪いですので,全く実質的にこの条約及び議定書独自の解釈でvulnerable adultというのを確定するというわけにはいかないのであろうなとは思いますけれども,そのあたりはこの条約及び議定書の関係では何も言わないということなのかなとは思います。   ほかにございませんでしょうか。   もしございませんようでしたら,よろしいでしょうか。   この議定書,条約が採択されたということを前提としまして,この部会では部会資料76としてお配りしております報告案について御審議をいただきたいと思いますが,よろしいでしょうか,こちらのほうに進んで。   それでは,よろしいようでしたら事務局から部会資料76について説明をしてもらいます。 ● それでは,部会資料76の「諮問第67号に関する審議結果報告案(案)」につきまして,御説明をさせていただきます。   この資料の1ページ目の(2)のところに記載しておりますように,諮問第67号というのは「ヘーグ国際私法会議において作成のための審議が行われている国際的な扶養の実現に関する条約に盛り込まれるべき内容について,御意見を承りたい。」という諮問でございます。したがいまして,既に本条約と議定書が採択されましたので,盛り込まれるべき内容についての意見はすべて述べ終わったということになるものですから,これについての報告を総会に上げ,総会から法務大臣に答申という形で上げていただくということが必要になるわけでございます。   そこで用意しましたのがこの報告案でございます。事前に送付させていただいておりますので,一々読み上げることはいたしませんけれども,構成といたしましては,まず条約採択に至る経緯としまして,(1)としてヘーグ国際私法会議におけるこの条約,それから議定書の検討の経緯を簡単に書きまして,それから(2)として我が国における経緯を先ほども申し上げました諮問第67号が発せられてから今回に至るまでの検討の経緯を簡単に書いているわけでございます。そして重要な点は1ページの一番最後に書いていますけれども,本条約及び本議定書についての日本国政府の意見や対処方針は,すべてこの部会における審議の結果を踏まえて作成されたのだということでございます。   2ページ目からは本条約及び本議定書の内容について触れておりまして,(1)が本条約の内容で,(2)が本議定書の内容でございますが,これは先ほど○○委員から御報告いただきました部会資料75の報告にもありますことをかいつまんで,条約と議定書の内容を記載させていただいたものでございます。   5ページにちょっと飛んで恐縮ですけれども,(3)で本条約及び本議定書の内容についての我が国の意見がどうであったかということを書いております。先ほども申しましたように,諮問67号が盛り込まれるべき内容について意見を承りたいというものなものですから,どういう意見を述べたのかということを書くことが必要なんですけれども,それを逐一書いていたのでは切りがありませんし,この5ページの(3)の冒頭に書いてありますように,「多数の事項について意見を述べ,その多くは受け入れられた」と,受け入れられた内容はその前に書いてある条約と議定書の内容として反映されているわけでございますので,受け入れられたことはそこを御覧いただきたいということで,受け入れられなかった事柄について,その主要なものを本条約と本議定書について,それぞれ若干挙げさせていただいているというのが(3)でございます。   (4)は,言わば諮問からしますと追加的な記載ということになるのですけれども,今後どう在るべきかということについて,若干のコメントを付しているというものでございます。   御承知のとおり,この条約の本当の意味での最大の問題点というのは,子奪取条約やその他のヘーグ条約で非常に加盟国が多いものでも日本が批准できていないのは,中央当局制というところにあるわけでございまして,それと同じ問題はこの条約についてもあるわけですけれども,当部会に課せられた諮問の内容というのは,条約に盛り込まれるべき内容についての諮問なものですから,中央当局制が採用されているので日本が加盟することにかなり困難が伴うという,言わばここのメンバーにとっては当たり前のことは,書くのは妥当ではないだろうというふうに考えまして,この条約を締結するかどうかを考えるに当たっては,本条約や議定書に我が国の主張が受け入れられなかった部分が数は余り多くないけれども,あるということに留意する必要があるということと,議定書については従前の条約を改正する内容なものですけれども,相当異なるというところをどう考えるべきかという問題がある。ここは当部会でも何回か御議論いただきましたけれども,今回の議定書のほうがはるかにいいということには必ずしもなっていなかったかと思いますので,そこは別途また本議定書を締結するかどうかを検討する際に,また改めて検討する必要があるということを書かせていただいたということでございます。   私からの冒頭の説明は以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   どの点でも結構ですが,総会への報告案,資料76について御質問がございましたら,お願いします。御意見でも一向に構いません。   ○○幹事。 ● (4)の追加的記述の箇所ですが,私としましては最後の「本条約又は本議定書と,我が国の法制との間には,相当異なる部分が生じていることに留意する必要があると考えられる。」という記述にいたしますと,何か最初から批准に消極的な感じになってしまいますので,ここにはやや疑問を抱きます。確かに条約本体のほうにつきましては,法律扶助の現在の実務を変えなければならないことや承認・執行制度を扶養に関しては相当変えなければならないということで,大変だということは分かるんですけれども,議定書のほうにつきましては全面的に賛成というわけではありませんが,それほど重大な問題はないのではないかと思いますので,慎重論を書くといたしましても,議定書のほうについてはそんなに慎重でなくてもいいのではないかという気がいたしますけれども,それから書くといたしましても,子に対する扶養義務の準拠法に関する条約は現在,わずかな国との間で適用されるだけですので,もし出すのであれば一般扶養条約のほうを出すべきではないかと思います。   以上です。 ● どうもありがとうございました。   一つ,○○幹事のおっしゃっておられるのは条約,議定書双方について消極的な表現が目に付くということ,それともう一つは条約との比較において,議定書はそれほどの困難が相対的にあるわけではないので,同じ消極的でも議定書についてはそれほどちょっと差を付けるべきではないのかと,両方とも相当困難があるということ,相違があるということについてはそのとおりかもしれないけれども,もう少し表現が違っても困難さの程度が違うから,相違する点が現行法と違う,その程度が違うんだから,そこに何らかの差を付けても同じ消極的でもということなんでしょうか。二つのことを言っておられるんですけれども,一般的に……。 ● そうです。 ● そうですか。 ● ○○幹事から消極的だという御指摘をいただいたのですけれども,ここに書きましたのは我が国の法制との間で相当異なる部分が生じているという客観的なことをいっているだけでして,それに留意して検討する必要があるというだけですので,できる限りニュートラルに書いたつもりなんですけれども,どう書けばよろしいでしょうか。 ● 確かに表現は難しいと思いますけれども,議定書のほうにつきましては以前の条約を改正するもので,異なる部分が生ずるのは当然ですので,相当異なる部分が生じていることは当然のことなので,特に書かなくてもいいのではないかというふうに思いますけれども,それに対して条約のほうにつきましては,法律扶助と承認・執行法制で大幅な実務の変更ないし法律の特別法の制定が必要ということで,大変だということを留意する必要があるとは思いますけれども。 ● 留意する必要があるから,もし批准等を考えるときは改めてそのための検討をしないといけないということが結果として導かれるので,だから批准の可能性はないということは確かに言っていないですから,もし,そうでもないということになったら,議定書はどうしてそんな批准しないのかという議論にもなってまいりますので。 ● では,これは検討の必要性を強調するものであって,必ずしも批准に消極的ではないということであれば結構です。 ● ほかにございませんでしょうか。   ○○幹事。 ● 今のような○○幹事の御説明のあったような客観的な記述という意味では,6ページの(b)のところの最後のように,むしろ相当異なる規律ということを加えておくことも,なお必要なのではないでしょうか。そうしたほうがいいと思っておるわけですが,6ページの1行目のような文章のフィニッシュを(b)の規律することとされ,相当に異なる内容となったというようなことを書かれるとよいのかなと思ったんですが。 ● それは7ページの最後,この報告案の最後の箇所の表現……。 ● もちろん最後は維持しつつ,今,(4)の議論があったと思うんですけれども,6ページの一番上の行に今,異なる内容の規律という話と,6ページの下から3行目のところに規律を異にする点が少なくないと各論で書かれていますけれども,肝心の(b)のところにその文言がないので。6ページの(b)。 ● (b)の承認・執行の要件との関連で……。 ● そうです。そこが一番異なるところだと思うので,そこにも異なると書いた上で(4)のような最後のまとめをされるのが,念が入っているのではないかと思って申し上げただけです。 ● 異なるポイントをここでも。 ● 異なる具体的な内容は書かれていますが,まとめの文言がないので。 ● 文言として。分かりました。実質的には内容ではないと思いますので。 ● お任せいたします。全然こだわるものではないんですけれども,ほかのところは異なる内容を書いた上で,異なる内容の規律というまとめを各論ごとにされていますので,三か所のうち一か所だけないのは何かなと思っただけです。 ● そのあたりは必ずしも実質的な内容の変更ではありませんので,字句等につきましては後で考えさせていただきたいと思いますが,いかがでしょうか。もし報告案につきましても御質問,御意見がほかにございませんようでしたら,先ほどの御発言等も含めまして考慮いたしまして,実質的内容の変更にわたらない限り,最終的な報告案の字句等を決定したいと思います。これは私と事務局に御一任いただきたいというふうに思います。   本日予定しておりました議事は終えましたので,今後の予定等につきまして,事務局から説明をしてもらいます。 ● 本日も熱心な御審議をありがとうございました。本日で当部会における審議はすべて終了することになります。そして,来月中旬に法制審議会総会が開催される予定でございますので,この総会におきましてただいま御決定いただきました報告案に基づいて,部会長から御報告をいただくということを予定いたしております。   以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   審議の終了に当たりまして,○○民事局長からごあいさつがございます。よろしくお願いします。 ● どうも恐縮でございます。民事局長の○○でございます。一言,お礼のごあいさつを申し上げます。   諮問第67号に関する審議結果報告案をお取りまとめいただきまして,誠にありがとうございました。当部会におきましては平成16年5月に開催した第1回会議から本日の会議まで,実に3年半以上の長期間にわたりまして,計11回に及ぶ熱心な御審議を続けていただきました。この条約と議定書の作成作業におきまして,我が国政府として意見書を提出したり,対処方針を作成するに当たりまして貴重な御意見をちょうだいし,その御意見の多くがこの条約と議定書に取り入れられたものと承知しております。これもひとえに当部会の審議の取りまとめの労をおとりいただいた○○部会長,それから外交会期や5回にも及んだ特別委員会のほか,随時開催されたワーキンググループの会議に幾度となく御参加いただきました○○委員を始めといたして,当部会の委員及び幹事の皆様の多大なる御尽力があったからこそと深く感謝いたしております。先ほどもちょっと御議論になっておりましたが,お取りまとめいただいた審議結果報告案にありますように,この条約とそれから議定書におきましては,我が国の主張が採用されなかったという事項も若干ございますが,これは多国間での交渉の結果でありますので,やむを得ないものと考えております。   ところで,本条約につきましては米国が外交会期の最終日に署名をしたという事情があるようでございますが,本条約や本議定書がそれぞれその所期の目的を達成するものになるかどうかということは,ヨーロッパ諸国を始めとする諸外国の多くがこれを締結するかどうかということにかかっておりますところ,この点については本条約が採択されて日が浅いということもありまして予測が困難な面がございます。そこで,事務当局といたしましては諸外国の今後の動向を注視し,しかるべき時期がまいりましたならば,本日お取りまとめいただいた審議結果を踏まえ,関係省庁と連携いたしまして本条約の締結に向けての検討に着手したいと,このように考えております。委員及び幹事の皆様のこれまでの長期間にわたる御尽力に重ねて厚く御礼を申し上げまして,ごあいさつとさせていただきます。   本当にどうもありがとうございました。御苦労さまでございました。 ● 私からも一言,ごあいさつを申し上げたいと思います。   長期間にわたりまして熱心に御審議を賜りましてありがとうございました。   それでは,法制審議会国際扶養条約部会第11回会議を閉会しまして,これをもちまして当部会の審議を終了させていただきたいと思います。   どうもありがとうございました。 ―了―