法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会 第13回会議 議事録 第1 日 時  平成20年3月28日(金)自 午後3時17分                      至 午後5時04分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進す        るという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事  (次のとおり)                 議        事 ● それでは,ただ今から,法制審議会・被収容人員適正化方策に関する部会の第13回会議を開催いたします。 ● 3月26日に開催されました法制審議会第156回会議におきまして,法制審議会の議事録の作成方法について決定がありました。 そこで,本部会の開催に先立ちまして,事務当局の方から委員・幹事に対し,これについての御説明等をしていただき,その上で,第156回会議で決定されましたところに従い,委員・幹事の皆様から御意見を伺うなどしたところでございます。 私といたしましては,当部会の諮問に係る審議事項の内容,本部会の開催に先立ちまして伺いました委員・幹事の皆様の御意見等を考慮いたしますと,当部会の議事録につきましては,これまでと同様の取扱いとすることが相当と考えますので,そのようにしたいと存じます。 それでは,本題に入ります。 本日は,前回の会議に引き続きまして,「その他の社会内処遇及び中間処遇の在り方」のテーマについて,「『その他の社会内処遇及び中間処遇の在り方』の検討事項」というタイトルの資料に沿って御議論いただくことにしたいと思います。 前回は,二つ目のブロックとして,施設内処遇後に,仮釈放等の枠組みにより,継続して一定期間の保護観察を行うことを可能とする制度である資料の2の(2)から(5)までの各制度について,御議論をいただいている途中でございましたので,本日もこのブロックから御議論をいただくこととしたいと存じます。 その議論に入ります前に,前回の議論を踏まえ,事務当局の方で統計関係の配布資料を用意したそうですので,これにつきまして事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 資料29としてお配りしております,統計資料8について御説明いたします。 前回の議論を踏まえまして,今回のテーマの議論の参考となると思われる統計資料を準備させていただきました。なお,お配りいたしました統計資料はいずれも平成19年版犯罪白書に掲載されているものでございまして,これから申し上げます説明も,この白書の記載を参考としたものであります。 まず,統計資料8の1でございますが,これは「取消事由別執行猶予取消人員」という表題のものでございます。この資料は,平成14年から平成18年までの執行猶予言渡人員のほか,執行猶予取消人員について,取消事由の内訳などを示したものでございます。なお,ここでお示しした各年ごとの執行猶予言渡人員と,その年における執行猶予取消人員とでは,その対象が異なりますので,厳密な意味での執行猶予取消率を算出することはできませんが,各年ごとの執行猶予言渡人員に対する執行猶予取消人員の比率を知ることにより,各年における執行猶予取消しのおおよその傾向を見ることができると思われます。 なお,注3として記載しておりますが,この資料にあります「取消事由」のうち「再犯」とありますのは,執行猶予の必要的取消しについて規定しております刑法第26条第1号,すなわち,「猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ,その刑について執行猶予の言渡しがないとき」に該当する場合を意味しております。 また,「余罪」とありますのは,刑法第26条第2号,すなわち,「猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ,その刑について執行猶予の言渡しがないとき」に該当する場合を意味しております。 更に,「不遵守」とありますのは,執行猶予の裁量的取消しについて規定しております刑法第26条の2第2号,すなわち,保護観察について規定しております「第25条の2第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いとき」に該当する場合を意味しております。 そして,「その他」とありますのは,その他の執行猶予の取消事由であります刑法第26条第3号,第26条の2第1号若しくは第3号又は第26条の3に該当する場合を意味しております。 この資料によりますと,例えば,平成18年における執行猶予取消人員7,650人のうち,再犯により禁錮以上の刑に処せられたことを理由とするものは7,142人であり,その約93.4パーセントを占めております。また,先ほど申し上げましたように,飽くまで参考の数値ということになりますが,執行猶予言渡人員に対する執行猶予者の再犯による取消人員の比率は,約14.1パーセントでございます。 なお,検察統計年報により,執行猶予言渡人員に対する再犯による取消人員の比率を,執行猶予言渡罪名別に見てみますと,平成18年に,毒物及び劇物取締法違反の罪の執行猶予言渡人員133人に対する執行猶予者の再犯による取消人員は76人で,その比率は約57.1パーセントであり,窃盗罪の執行猶予言渡人員1万2,429人に対する執行猶予者の再犯による取消人員は3,154人で,その比率は約25.4パーセントであり,覚せい剤取締法違反の罪の執行猶予言渡人員4,935人に対する執行猶予者の再犯による取消人員は1,185人で,その比率は約24パーセントとなっております。 続きまして,統計資料8の2は「犯歴回数別・罪名別犯歴の件数構成比」でございます。 この資料は,平成19年版犯罪白書において,「再犯者の実態と対策」と題した特集を組むに当たり,法務総合研究所が行った調査に基づくものでございます。 すなわち,平成19年版犯罪白書におきまして,法務総合研究所は,昭和23年から平成18年9月30日までの間に確定した我が国に本籍を有する明治以前の出生者を除く自然人の犯歴であって,刑法上の過失犯及び危険運転致死傷罪並びに特別法上の道路交通に係る犯罪の犯歴を除いたものから,初犯者・再犯者の区別をしない犯歴100万人及び有罪の確定裁判を2回以上受けた者である再犯者に限定した犯歴50万人を無作為に抽出し,これらを対象として,様々な分析等を行っているところでございます。 統計資料8の2は,ただ今申し上げました初犯者・再犯者の区別をしない犯歴100万人を対象として,罪名別・犯歴の件数構成比を,犯歴回数別に見たものでございます。なお,平成19年版犯罪白書に掲載されております「犯歴回数別・罪名別犯歴の件数構成比」の資料には,各罪名ごとの数値は記載されておりませんが,犯罪白書に添付されておりますCD-ROMには,白書に掲載されている資料の根拠となった数値が入っておりますことから,これを基に,お配りした統計資料8の2には各罪名ごとの数値を記載しているところでございます。 この資料によりますと,何犯目であっても,高い比率を占める罪名は,傷害,窃盗,暴行,覚せい剤取締法違反であり,3犯目以降は,すべて,多い方から窃盗,傷害,覚せい剤取締法違反の順となっております。 具体的に申しますと,例えば,3犯目として犯した罪名は,窃盗が約19.7パーセント,傷害が約19.0パーセント,覚せい剤取締法違反が約7.7パーセントであり,更に9犯目として犯した罪名を見ますと,窃盗が約22.0パーセント,傷害が約14.7パーセント,覚せい剤取締法違反が約11.6パーセントとなっております。 続きまして,統計資料8の3は「1犯目の罪名別・再犯の有無別構成比」でございます。 この資料も平成19年版犯罪白書において法務総合研究所が行った調査に基づくものでございます。 この資料は,先ほど申し上げました初犯者・再犯者の区別をしない犯歴100万人及び再犯者に限定した犯歴50万人のうち,①生年月日が昭和5年1月1日以降であること,②裁判時に20歳以上であること,③平成18年9月30日において死亡が確認された者でないこと,という条件をすべて満たす者の犯歴を対象として,1犯目の罪名別に,その後の再犯の有無を見たものでございます。 なお,この資料において,調査の対象を今申し上げました条件を満たす者と限定いたしましたのは,平成19年版犯罪白書によりますと,今回の法務総合研究所の調査には,明治生まれの者が対象に含まれていないため,一定の時期までは年齢分布に偏りがあることへの影響を回避するとともに,死亡が確認された者を除外することによって,再犯率の算出等をより厳密に行うためであると説明されているところでございます。 この資料によりますと,再犯に及んだ者の比率が最も高かったのは,1犯目の罪名が窃盗の者であり,約44.7パーセントの者が再犯に及んでおります。次は,覚せい剤取締法違反の者であり,約41.6パーセントの者が再犯に及んでおります。3番目は,傷害・暴行の者であり,約33.3パーセントの者が再犯に及んでおります。 また,これらの者は,1犯目と同じ犯罪の再犯に及んだ者の比率が他の罪名の場合と比べて相当高く,例えば,窃盗の者ですと,約28.9パーセントの者が同じ窃盗の再犯に及び,覚せい剤取締法違反の者ですと,約29.1パーセントの者が同じ覚せい剤取締法違反の再犯に及び,傷害・暴行の者ですと,約21.1パーセントの者が,同じ傷害・暴行の再犯に及んでおり,同じ罪名の犯罪を繰り返す傾向が認められるということができると思われます。 他方で,1犯目の罪名が強盗の者及び強姦の者につきましては,再犯に及んだ者の比率は,資料中に参考として挙げております全体の比率である約28.9パーセントを上回ってはおりますものの,同一再犯に及んだ者の比率は,強盗の者については約2.0パーセント,強姦の者については約3.0パーセントにとどまっており,必ずしも同一再犯に及んだ者の比率が高いというわけではないように思われます。 また,1犯目の罪名が殺人の者につきましては,再犯に及んだ者の比率が約16.7パーセント,同一再犯に及んだ者の比率が約0.9パーセントであり,いずれも他の罪名に比べて相当低くなっております。 いずれにしましても,罪名ごとに,その後の再犯の状況をある程度類型的に把握することができると思われます。 統計資料8の4は「1犯目から2犯目までの再犯期間別構成比」でございます。 この資料も法務総合研究所が行った調査に基づくもので,先ほど御説明申し上げました統計資料8の3と同様の者を対象として作成された資料でございます。 まず,1犯目の罪名別に2犯目までの再犯期間を見たものが①でございます。そして,資料8の3で同じ罪名の犯罪を繰り返す傾向が認められました風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反の者,窃盗の者,覚せい剤取締法違反の者及び傷害・暴行の者のうち,同じ罪名の再犯のみを行っている者に限定して再犯期間を見たものが②でございます。 このうち,統計資料8の3で御説明いたしましたように,再犯に及んだ者の比率が特に高かった窃盗の者及び覚せい剤取締法違反の者について御説明いたしますと,1犯目の罪名が窃盗の再犯者及び覚せい剤取締法違反の再犯者は,2犯目までの再犯期間が短い傾向が見られました。 すなわち,窃盗の者については,約31.4パーセントの者が1年以内に,約50.8パーセントの者が2年以内に再犯に及んでおります。また,同一再犯のみを行った者に限定した②を見ますと,窃盗の者については,約36.0パーセントの者が1年以内に,そして約57.7パーセントの者が2年以内に再犯に及んでおり,更に顕著にその傾向が見られます。 覚せい剤取締法違反の者についても,約27.3パーセントの者が1年以内に,約48.9パーセントの者が2年以内に再犯に及んでおります。また,同一再犯のみを行っている者に限定した②を見ますと,覚せい剤取締法違反の者については,約28.1パーセントの者が1年以内に,約49.8パーセントの者が2年以内に再犯に及んでおり,更に若干再犯期間が短くなっております。 これに対し,窃盗の者や覚せい剤取締法違反の者と同様に,同じ罪名の犯罪を繰り返す傾向が認められました傷害・暴行の者については,再犯期間が2年以下の者が40パーセント弱,5年を超えた者が35パーセント前後となっており,窃盗の者や覚せい剤取締法違反の者に比べて,比較的再犯期間が長い傾向が見られます。 このように,再犯期間の特徴につきましては,罪名ごとに,ある程度類型的に把握することができるように思われます。 続きまして資料30として配布しております,統計資料9について御説明いたします。 統計資料9の1は「刑事施設の年末収容人員の推移」,統計資料9の2は「【未決・既決別】刑事施設収容状況の推移」でございます。 これらは,第10回会議において配布いたしました配布資料24と,第11回会議において配布いたしました配布資料25につき,平成19年12月末現在の最新の数字が出そろったため,改めて御提供させていただくものです。 ● どうもありがとうございました。 ただ今の事務当局の御説明につきまして,何か質問はございませんでしょうか。 この件に関しましてはよろしいでしょうか。 それでは,議題に入りたいと思います。前回に引き続きまして,「その他の社会内処遇及び中間処遇の在り方」のテーマについて議論していただきたいと存じます。 二つ目のブロックとして,(2)「必要的仮釈放制度の導入」から(5)「刑の一部の執行猶予制度の導入」について,更に御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。 ● (4)と(5)に共通の話ですけれども,前回も少し議論がありましたように,こういうものを取り入れた場合に,仮釈放との関係はどうなるかということが問題になると思います。刑法の仮釈放の規定を(4)と(5)の場合にも適用するのか,しないのか,その点は検討しておく必要があろうかと思います。 ● 御指摘の点は,(4)や(5)の制度を仮に作るとして,どういう対象者を念頭において,いかなる趣旨の制度とするかという問題と関係してくると思います。 前回までの議論の中でも出ていましたように,その一つは,アメリカのショック・プロベーションですとか,ショック拘禁のようなタイプの短期間の施設収容を伴う制度として作るという考え方,もう一つは,ある程度の実刑期間をとった上で,更に保護観察期間を十分に取るための制度として作るという考え方があると思います。 その上で,先ほどの御質問に関しては,前者のショック拘禁のような制度を考えた場合には,一定の期間収容することに意味があるわけですから,仮釈放はないということになるのに対し,後者のタイプの制度であれば,当初言い渡された実刑期間の中で,受刑者の行状等を考慮して,仮釈放で更に少し早く出すということはあってもおかしくはないと思います。 ● どうもありがとうございました。 ただ今の御発言は,制度の趣旨,性格付けとの関連で,仮釈放の運用等に差が出てくるであろうという御指摘ですね。 今の点いかがでしょうか。 ● ショック・プロベーションとして考えた場合には仮釈放はないということは私も分かります。それから,先ほど委員のおっしゃった保護観察期間を十分に取るという制度として考えた場合には仮釈放があり得るという点についても同様に思います。 なお,大きく違うのは,裁判官が保護観察期間を初めから決める,あるいは執行猶予の条件にする,執行猶予にするというようなことにするのか,行刑を行ってきた人たちが観察しながら,地方更生保護委員会等で,行刑の行状を見ながら決めるかという,その違いだと思うんです。その二つは多分見方が少し違うので,並列もあり得るのかなと思います。 ● ショック・プロベーションのようなタイプではなく,保護観察期間を十分に取る制度として考える場合について,行政的な判断で出すものと,司法的な判断で出すものとがあり,両者が並び立つという考え方もあるでしょうし,司法的に決めたんだから,そちらが優先するという考え方も,一応理屈としてはあるのではないだろうかと思います。論理・必然的にどちらかということではないのではないかという感じがいたします。 ● 司法的な側面及び行政的な側面という観点から,並列するのか,しないのかということが議論になっていますが,この点についていかがでしょうか。どうぞ。 ● 司法的な観点といった場合,恐らく前にも議論があったと思いますけれども,判決前調査のようなものがないままで,裁判官がその先まで見越した保護観察や執行猶予という形のものがやれるかどうかという問題があるので,そういうものが制度として必要になるのではないかなと思います。 ● こういう制度を使おうとすると,判決前調査みたいなのがあって,この対象者については保護観察期間を長くとった方が再犯防止,あるいは更生のために有益なんだよということが格別分かるのであればいいのですけれども,そうではないとすると,そういう判断を判決時点でするというのはなかなか難しいんだろうという気が私はしています。 そうすると,こういう制度は,ある程度類型的に,こういう者についてはむしろ実刑期間を長くするよりも,一定の期間,服役した後に,保護観察に付すことが類型的に望ましいという研究等があれば別ですが,一般的にそういうことが言えるのかどうかということも含めて,私はちょっとどうなんだろうかなという疑問を持っております。 ● (4)にしても(5)にしても,確かに判決前調査のようなものがあった方が望ましいのは確かです。けれども,例えばショック・プロベーションでも,すべての州がそうではないと思うのですが,拘禁後,プロベーションに付すときに,ジャッジの前に立つという制度も採られているようです。それは,フランスで刑罰適用判事がやっているのと同じようなことです。 日本の現状として,保護観察官,あるいはそれに類する人を増加させて判決前調査を充実することがなかなかできないというのであれば,事後的な形であれ,あるいは判決時に執行猶予を決定する際であれ,裁判官の司法的な判断ないし関与を増やすというのが,制度の在り方として必要ではないかと思います。 ● 対象者の性質によって制度の在り方が変わってくるということについてですけれども,(4)と(5)を意識的に使い分けるということも考えられるのではないかと思うのです。つまり,ショック・プロベーションのような場合には,(4)の分割刑方式で,例えば懲役2か月というふうに言い渡して,あとは保護観察3年,あるいは2年という,保護観察を主体とした刑の言渡しというのがありそうですし,そうでない場合の方は,今度は(5)の方で比較的長い実刑の期間を言い渡して,その一部を執行猶予とするということが考えられるのではないかと思います。   また,前者の形式を採る場合には,判決前調査制度がなくても,犯罪の性質等で判断できそうな気がします。後者については難しいかもしれませんが。 ● 行刑の現状で,ある種の犯罪者については刑務所に入ることによって,かなりそこでショックを受けて,少しきちんとしなくてはいけないという思いを持って,早く出してもいいのだけれども,ほかとの並びがあるので,結局ある程度収容され,それから仮釈放ということがあるような気もいたします。もし,そういう対象者が,実際の刑務所の中にいるのであれば,それは導入する道があるのかなと思うのです。要するに,入ってきたけれども,この人はもう1年もやったんだから,2年いる必要はないなというような人が結構いるのかどうかという感覚を聞きたかったのです。 ● ほかにいかがでしょうか。どうぞ。 ● 私の感覚から申し上げると,薬物事犯,しかも自己使用の薬物事犯に関しては,何かそういう機会があった方が,よりその社会に戻っていく過程で誘惑を断ち切るという期間を保護観察の期間にできるのではないかなという感じがします。 ● どうもありがとうございました。 罪種によってはそういう部分があるということですね。 ● 先ほど判決前調査制度もない中で,言い渡すのは難しいのではないかという御意見があったんですけれども,もし,個別に判断しなければいけないとすると,それはなかなか大変なことだろうと思います。 私も委員がおっしゃったようにある程度類型化して言い渡すべきだと思うのです。もし制度を作るとすると,それしかない気がいたします。その場合に,その方が効果が上がるという実証データはあるのかということも御指摘ありましたけれども,恐らく,施設内処遇から社会内処遇へスムーズに移行させる方が再犯防止の効果が大きいというのは,常識に属するようなことではないかという気がいたします。 それではすべての犯罪についてやればいいというのも一つの考えで,必要的仮釈放制度というのはそういうものだろうと思いますけれども,将来的にそういう制度を採るかどうかはともかく,現状において一気にそこまで行かないで,(4)や(5)のような制度を導入して,一定の類型について実施してみるということも十分考えられると思います。そういう二つを組み合わせた制度をやってみて,これはいいものだということが実証的に示されれば,全面的に導入するということも十分考えられるのではないかと思います。刑事法の世界で厳密なデータがなければ,制度が改革できないということになりますと,そもそも刑罰に再犯防止効果があるかどうかさえそれほど確かなことではございませんので,何もできないことにもなりかねませんので,今申し上げたような常識的な考え方に基づいて新たな制度を導入するということは十分考えられるのではないかと思います。 ● 正にその常識としていえるかどうかということが問題なんだろうと思うわけです。 委員がおっしゃった薬物については,確かにそういう面があるかなと。つまり,社会内で例えば尿検査を受けてもらうというようなことを,保護観察と組み合わせた場合には,もしかすると矯正施設内にいてずっと処遇して,いきなり外に出るよりも,高い再犯防止効果があるのではないかということは,私も想像としてはある程度浮かぶのです。では,それ以外の類型について,一般的に言えるのかということについては,少なくとも私の常識にはないような感じがするんです。 つまり,犯罪を犯す人の中にはいろいろな方がいて,一定の処遇をした結果として,順調に更生していく方と,やはりそうではない方とがいらっしゃって,それは例えば窃盗罪の場合にどちらなのかということを,どちらにした方がより高い効果が上げられるのかということを,社会常識として見極められるだろうという御趣旨でおっしゃっているとすると,それは必ずしもそうは言えないと思うのですが。 ● 確かに薬物は非常にそういう面があって,早く外に出して自分で自省するというのが再犯防止になるというのがあると思うんですが,ほかの部分については確かに不透明だということがあるとは思います。先ほどの統計資料などにもありますように,窃盗とか覚せい剤とかという罪名で刑務所の中に入っている人の数というのは非常に多いわけですね。その人たちが長くいればいるほど刑務所の中は一杯になるという関係にあって,その人たちが少し早く出ることによって,刑務所の過剰収容状態が少し緩和されるということになると,マクロ的な目で見れば,刑務所内での処遇もより厚くできるということになるはずなんですね。だから,その人ごとの再犯防止効果が個別的にどうなるかということが実証されているかどうかは別としても,なるべく社会内で処遇できる人は社会内で処遇することによって,刑務所内での処遇を厚くすることになり,それによってこれまで以上の再犯防止効果が得られることになるということを考えれば,早く外に出すということは,全体として再犯防止につながる面はあると思うんです。 ただ,またすぐ戻ってくるということでは困るわけで,どういう犯罪について,どういう人について,それが効果があるかというのはもちろん考えなければいけないことだろうと思いますが,刑期としてもちろん短くなった方がいいというのはあるにしても,刑期は一定だとしても,社会内で処遇する期間を増やすというのは,今申し上げたような意味で再犯防止効果につながる面があるのではないかと思いますし,そういう指摘がされているという書籍もあると思います。 ● 再犯防止のためには社会内に早く出した方がいい人と,そうではない人がいるというのはそのとおりだと思いますが,それを現在は,矯正と保護が判断しているわけですね。いま問題となっているのは,それを裁判官ができるのかという話だろうと思います。前回,(3)の考試期間主義というのは難しいのではないかという意見を申し上げましたが,判断資料という面からは,考試期間主義を採る方が望ましいことは確かだと思います。 ただし,その場合は,やはりそこに裁判官が関与しないと駄目でしょうから,その意味では,裁判所の判断能力という疑問を否定できないのであれば,発想を転換して,裁判所が執行に関与しないという制度そのものを見直し,裁判所が事後的に刑の一部の執行を猶予するというような制度まで踏み切ることを検討しても良いように思います。 ● 今日配布の資料を見ましても,窃盗ですとか,風営適正化法違反などの人が短期間で再犯,3犯以上を繰り返しているということは,やはり就労支援ということが非常に重要であって,その人のそれまでの経歴も勘案してのことでなければなりませんが,拘禁するだけではなく,社会に戻したときに,犯罪を繰り返さないような施策を考える必要があるだろうと思います。 そのときに(4)と(5)としましては,分割刑か刑の一部の執行猶予かということが入っておりますが,(4)に関連するものとして,断続的な週末だけの拘禁のようなお話も,以前,紹介したかと思うのですが,例えば窃盗犯について,ウィークデイは就労活動を義務付けると,しかし,週末になったときにはパートタイムといいますか,インターミッタントでカストディに入ってもらうというふうなショックを繰り返すという分割刑,きれいな分割ではなくて,断続的な分割というのもあり得るのではないかと思います。 ただしそのときに,(4)に共通して言えることなのですが,日本以外で分割刑を導入している国を見ますと,刑務所に入っている人たちが,例えば髪の毛を切って,ユニフォームを着てということではないわけですよね。普通の人と変わらない態様で入所している。そういったところも変えていかないと,こういう制度は日本ではなかなか採用しにくいとは思います。 そういった運用面を改めるということ,あるいは,分割刑ないし断続的な刑期ということも考えていったときには,現在の日本のように,裁判官が刑の執行には関与しないという枠組みだけで対応可能かどうかについては,検討を要すると思います。個人的には,宣告した刑の変更あるいは消滅について,司法的な関与を肯定することがポイントではないかと思います。 ● 確かに,個別の被告人について,将来再犯をするかどうかということは予測が困難な面があると思いますし,社会内処遇をした方が再犯率が必ず下がるということも,恐らくは分からないかと思うんです。しかし,現状でも例えば窃盗ですと,かなりの割合の者が再犯を行っているわけですから,全体として見た場合には,単に今の制度のように,実刑と少しの保護観察という仕組みよりは,両者をもっと有機的に結び付けた仕組みの方が,全体としては再犯の割合が少なくなるというのがむしろ一般的な考え方ではないかと理解しております。 もちろん必ず再犯率が下がるとまでは言い切れませんけれども,しかし,新しい制度を導入してやってみるという価値はあるのではないかと思います。 ● 社会内処遇をすることによって再犯防止に役立つ人がいるだろうと。それは当然のことでありまして,その方が一般的にもしそういうことが言えるのであれば,それは例えば必要的仮釈放ということを考えるべきなんだろうと思います。それは恐らく,そういうふうには少なくともこれまでは考えてこられなかったからこそ,人を見て,仮釈放をするかどうかということを考えてきたのではないかという気がするわけです。先ほど他の委員がおっしゃったことに最終的には尽きるのかもしれませんけれども,その判断をどうすれば最も適切に行えるかという問題ではないかと思います。 ● その点は私と少し考えが違うのかもしれません。必要的仮釈放制度は,かなりいい制度であると思っております。単に満期で被告人を釈放して,何も社会内処遇をしないより,やはり一定期間,社会内処遇を組み込むのが望ましい制度だと考えております。 ただ,すべての犯罪者が直ちに仮釈放に適するというわけではないでしょうし,ある程度長期の場合には,おのずから仮釈放の期間を一定程度取ることができる場合が多いように思いますので,すべての犯罪について導入する必要があるのかという疑問があるかもしれません。 もっと積極的に仮釈放をすればいいではないかという議論は当然あるわけですけれども,しかし現実にはそれは難しいということは歴史が証明しているわけです。本当なら必要的仮釈放に向かってもいいけれども,その一里塚というのでしょうか,社会内処遇をもっと充実させていく一歩として,(4)や(5)の制度を設けることは十分に考えられると思います。そのためには,現在の刑事訴訟の枠組みの中で一つ一つ判断するというのは難しいであろうから,一定の類型に限って,類型的に言い渡せばいいのではないか,例えば,窃盗もある程度類型的に言い渡していいのではないかと考えております。 例えば,一定の犯罪類型については,3年以内の懲役・禁錮とするのが相当であると認めれば,検察官の側からこの事件は適当ではないという立証がなければ,原則として,(4)の制度の分割刑か(5)の制度の一部執行猶予を言い渡すという制度にすることも考えられるのではないかという気がします。 ● 今の点に関しまして,ほかの委員はいかがお考えでしょうか。 ● 我が国の刑事立法の歴史を見ますと,監獄法が100年ぶりに,更生保護法が60年ぶりに改正された。この部会の諮問事項を振り返ってみて,再犯防止,あるいは社会復帰の両面を考えて,被収容人員の適正化を図るということを考えますと,恐らく残された問題というのは,今のこの問題が焦点だと私は考えます。 つまり,社会復帰のなかなかうまくいかない人を満期という形で出してしまっている一方で,それほど再犯の危険性がない人を長く収容しておいて,ごく短期間の仮釈放で出しているという現状がある。そういうジレンマというか,それがどうしても我が国の刑事政策の中で解決できていない。刑務所の現状を見ますと,処遇困難な受刑者の割合が増えていることが注目されています。これはいわゆる単純な凶悪犯罪をどんどん犯すというタイプの人ではなく,むしろ,知的障害者とか,あるいは医療面で問題のある人,あるいは高齢受刑者といったタイプの人の割合が高い。彼らに対しては,刑務所に収容しておけばいいんだという従来の発想ではなく,刑務所に収容し続けるのではなく社会内でも適切に処遇することを考慮する,矯正と保護の連携の中でうまく賄っていくという方が犯罪処遇の上で有用であるという制度であり得ると思うんです。 この問題は恐らく世界中の国がそれで苦労をしているのが現状だと思うんです。もちろん万能薬というか,これをしたら全部うまくいくんだというような刑事政策というのはあり得ないと思います。しかも,仮釈放が全部成功することはあり得ないし,保護観察を行ったから全部成功するというのはあり得ない話なので,失敗は当然付きまとうわけです。その失敗,リスクを少なくしながら,この諮問事項にこたえるためには,どんな制度が可能なのかということだと思うんです。 分割刑とか,先ほどから出ているショック・プロベーションとか,あるいは刑の一部の執行猶予制度の導入という制度がやはりかぎになるのではないかと思うんです。それゆえにこそ,これだけ時間をとって議論をしているんだと思いますし,また,実際いろいろな論点や問題点があるのではないかと思います。 だから,現在日本にはない制度ですけれども,何とか,今日本の犯罪者処遇の面でなお残る問題点というか,重要な問題点を何とかしなければいけないのではないかという感じなんですね。 その点では,(4)や(5)の制度というのは十分検討に値するのではないのかと思います。 委員の感覚もよく分かるんですけれども,適切な判断というのは一体何なのかということだと思います。 ● 今,委員がおっしゃっていること自体に異論があって言っているわけではないのです。もし一般論として,社会内処遇を組み合わせた方が,刑事政策的に効果があるのならば,それはそのための方法を考えるべきであると思うのです。 問題は,それを仮釈放の運用としては困難であるから,こういう新しい制度を作れば,そこに穴が空くはずだという御議論のように聞こえたのですが,それはどうでしょうか。 例えば,法律で窃盗罪については,基本的に全員こういう制度の判決にするんですという刑事政策的な判断をされるのであれば,それは全く問題ないと思うのですが,そういう判断を裁判の段階で,そのところにある資料でできるかというと,今の刑事裁判はそういうシステムにはなっておりませんから,そこで裁判所が判断するというのは困難であると申し上げているつもりなんです。 ● 全員に同じ効果を持つ方策というものはないと思います。効果があるものである必要があると言われていましたが,それは一体何の効果なんですか。 ● 刑訴法上は,適切な刑罰を科すということではないでしょうか。 ● それは再犯防止とか社会復帰とかということを含んでいないと考えていいのですか。 ● それを私に説明しろと言われても,それが困難であるということは委員が多分一番よく御存じではないかという感じがいたします。 ● 我々は,何か架空の議論をしているわけではなくて,実際に外国でやられていることも踏まえてこういう方策があるのではないかという,言ってみれば前向きの建設的な議論をしていると思うんですね。 そういう点で委員にお願いしたいのは,こういう制度を設けた場合にどんな問題点が発生し,逆にどうしたら制度がスムーズにいくのかということを議論していただきたいということなんです。 ● 今の議論は仮釈放の運用も含めて,社会内処遇をいかに適切に組み合わせるべきかという議論をすべきであるはずなのに,やや分割刑制度,あるいは刑の一部の執行猶予制度の方に,ある意味それがありきの前提で議論をされると,それは必ずしもどうなんだろうかという感じがいたします。 ● それは誤解だと思います。私自身も何かこれが最終ゴールであるとかというふうに思ったことはなく,むしろ部会長もそういうふうに審議されていると思うんですけれども,この制度はどうか,あるいは問題点はどうかという形で議論を進めていると思います。 ● 今御指摘されているのが,やはり,この(4)や(5)の制度を設けた場合に,裁判官が個別の事案について適切に判断できるのかという御疑問,もちろん今の刑事裁判に出てくる材料で適切に判断できるのかという御疑問で,それは当然あり得る御疑問だと思いますし,それに対して,一つのアイデアとして,委員の方から出されたのが対象の類型化ということで,その判断の個別性というのを少しでも減らしていこうということだと思います。それによって,適正な判断が可能なようにしていくというアイデアを述べられたのだと思うのです。 それで先ほどの御発言をお伺いしていると,その一つのイメージとして考えられているのが,例えば罪名であり,刑期でありということだったのかもしれません。もし,可能であれば,もう少しどのような類型化があり得るのかということをアイデアとして皆さんからお伺いできれば一つの解決の道につながる議論ということになるのかなと思うのです。 ● 類型化の議論というのもありますけれども,もう一つ,少し発想を転換してみるということもあるのかなと思います。 保護観察を伴った社会内処遇というのは,やはり個別の人の特性を見て,その人を社会に戻しても大丈夫だという判断の下に個別的に運用すべきものなのだという発想を前提にして考えていきますと,では,そういうことが事前に判決段階で判断できるのか,むしろ釈放に近接した時点でなければ判断は難しいのではないかという議論の流れになっていくのかと思います。ただ,社会内における保護観察を付した処遇というのも,これは一つの刑罰の在り方であると,刑事施設に収容して行う自由刑とは違うある種の刑罰の在り方だと,それはもちろん何でそういうものを刑事施設に収容して行う自由刑とは別に設けるのかといえば,それは社会復帰に向けた,そういう刑事政策的な要請もあるのかもしれませんけれども,そういう考慮に支えられた一つの刑罰の在り方だというふうに考えれば,判決の段階で,被告人の行為責任の範囲内で,刑罰の在り方として,刑事施設に収容する実刑と保護観察を伴う社会内処遇とを組み合わせた量刑の判断をすることも十分に考えられるのではないか。そのように,ある種ざっくりとした議論,考え方をする余地というのも出てくるのではないかと思います。 分割刑についての検討事項として,保護観察の法的性格が挙げられていますけれども,その辺りの発想の転換をするのかしないのかということも,一つの議論の対象ではないかと思います。 そして,どういう類型についてそういうことが言えるのかということが,次の細かい議論になるのかと思います。発想の転換をしないという前提でやろうとすれば,考試期間的な考え方で一番近接した段階で,もう少し細かく見て判断していくというようなやり方もあり得るのかなと思いました。 ● これまで話に出ておりますように覚せい剤の自己使用というのは恐らく異論のないところだろうと思います。 窃盗罪については,私は実態を知りたいという気がいたしております。例えば,窃盗で実刑になっている場合,その刑期については,懲役2年や3年など様々だと思われますが,仮に刑期を基準に対象を考えるとすると,どのような刑期で分けるのかということも類型化に当たっては議論をしなければいけません。仮に,刑期が3年の場合を上限として制度の対象にすることとした場合,対象になる実刑になっている人は,どういう事件を犯した人が多いのか,そのような人の刑期のうち2年を実刑とし,残りの1年の執行を猶予するという言渡しをするのでは駄目なのか,ということを知りたいと思います。もちろん駄目な方もいるのかもしれませんが,私の発想としては,原則としては,現行制度で刑期が3年の人は,うち2年を実刑とし,残りの1年の執行を猶予するということでいいのではないかと考えております。 飽くまで議論のための例としてお聞きいただきたいのですけれども,駄目な人はもちろん対象から外れていくんでしょうが,例えば,刑期が3年の人はそのうち2年を実刑とし残り1年の執行を猶予するとか,刑期が2年の人は1年を実刑とし残り1年を執行猶予にする,刑期が6月の人は3月を実刑とし残り3月を執行猶予にするということではいけないのだろうかと思っております。例えばこういう事例は不適当ですよというものをむしろ教えていただければという気がするんですけれども。 ● 今日の部会審議は冒頭の資料の御紹介から罪名による区別というところに力点が置かれていたのが特徴であったかと思います。その後の一連の御議論を伺っておりましても,例えば,薬物犯罪について前回から言及しておられた方もいらっしゃったと思いますけれども,薬物に対して有効な処遇というものが施設外で考えられるとすれば,刑務所の中である期間,薬物から遮断しておいて,その後,いきなり社会に戻すのではなくて,その社会内での処遇をしっかりした上で,社会復帰させるというようなことも考えられるのかなと思います。 窃盗罪も話題になりましたけれども,そうなりますと,ここの検討事項は言わば刑法総則の改正だけを念頭に置いてやってきているわけですけれども,選択肢としては刑法の各則,あるいは特別法の罰則そのものを動かすということも考えられるのではないかと思います。立法技術的に難しい点があろうという感じはいたしますけども,一つの選択肢として,そういうことも考えていきたいという気がいたしました。 ● どうもありがとうございました。 この審議の在り方等に関連して,やはり実現可能な制度を前提にして,仮にある制度を導入しようとした場合にどういう問題点が生じ,それにどう対処するかということもここでの審議の射程に入っておりますので,むしろそういった観点から,今御提案がございましたように,どの法律でこれを規定するのかという問題も検討していただきたいと思います。次の作業としてはこの立法作業に向けて具体案をこれから策定していかなければならないのですが,今はその準備段階としてとらえております。制度としての導入と,導入した場合の問題点という観点から御議論をいただいておりますので,改めてその点について御検討をお願いします。 ● 先ほどの委員の御指摘の点ですけれども,窃盗罪で服役している人がどういう人なのかについて,やはりデータで少し明らかにした方がいいかなという感じがいたします。 今日配布のあったデータは,非常に貴重なものだと思うのですが,例えば窃盗罪で現在服役されている受刑者の中に,初犯の人がどれぐらいいて,再犯の人がどれぐらいいるのか。あるいはそのうち累犯で服役している人とそうではない人の区別ぐらいはできそうな気がいたします。そういうデータは出るのでしょうか。同じようなことが覚せい剤についても言えれば,それはかなり参考になる気がします。 ● 今,類型化という話が出ているんですけれども,罪名を絞って,その場合に限ってこうした制度を入れるというような制度設計が,本当に成り立つのだろうかというのは,率直に言って引っ掛かりを感じます。というのも,この制度は,再犯を防止して社会復帰を図るという点から導入しようとしているものなわけですから,そうすると,それは最後は個別的な判断にならざるを得ないような気がします。 もちろん,このような制度ができたとして,裁判所がそれを使うかどうかを判断するときに,例えば覚せい剤使用で再犯をした人について,この制度の利用をまずは考えてみるといった運用がなされることは考えられますし,その意味での一種の量刑基準としての類型化なら分かりますが,最初から窃盗とか覚せい剤だったらこういう制度を原則として適用し,それ以外には認めないという制度を作るのは,一部執行猶予の場合に当然に付くことになるであろう保護観察の性格からしてもなかなか難しいのではないかという気がしています。 ● 御意見として,そういう立場もあると思いますが,先ほど他の委員がおっしゃられたのは,一定の類型について共通する要素があるとすれば,それについて類型的に,原則として制度の対象にするという処理をしてもいいのではないかという御提案だったと思います。その点についてはいかがでしょうか。 ● 今日配布された資料でも,窃盗や覚せい剤取締法違反などは,確かに再犯率は高いんですけれども,そうは言っても50パーセントないわけですよね。そうすると,この罪は再犯率が高いから,この制度を原則使うんだというのは,やや制度としては強引ではないかなという印象があります。 ● 先ほど委員がおっしゃった類型化という意味は,罪名のこともあったかもしれませんけれども,もっと何か対象者の,あるいは人間的なというか,あるいは社会的なというか,環境的な要素とか,何かそういうものを含んだ類型化ではなかったかと思うのですがいかがですか。 ● 同じ覚せい剤の中でも自己使用という形で類型化するように,窃盗の中でもいろいろな窃盗,職業的なものもあれば,生活苦から窃盗するという類型もあるし,うまく類型ができれば,類型化すればいいんだろうと思うのですけれども,そこはなかなか難しいのかもしれません。けれども,難しいのでこの制度をやめるというのは,ちょっと惜しい気がするんですね。 それから,私もこの制度にだけこだわっているわけではなくて,主眼は施設内処遇と社会内処遇を有機的に結び付けて,かつ,収容人員を減らすということだろうと思います。それがよりよく実現できる制度があればそちらの制度を採ればいいと思うんですけれども,考試期間主義がそのような制度かというと疑問があるように思います。今の現状がなかなか大きく変わらないので,裁判所にお願いするみたいになってしまうんですけれども,事前によく分からないからこそ思い切ってできるということもあるのかなという気がするんです。目の前に,個別の収容者を見て判断しようとすると,つまり考試期間主義を採ると,仮釈放の時期が今より早くなることはなくて,ただ保護観察の期間だけが増えてしまう方向にどうしても働いてしまうのではないかという気がしてならないのです。 将来のことは分からないから,この人は制度対象とするのに適当ではないという資料がない限りは,類型的に早く出せる制度にすることで施設内処遇と社会内処遇を結び付けるということが今以上に可能になるし,収容人員も減ることになるのではないかと思うのです。 ● 先ほどの議論から言うと,判決前調査の難しさを言われているので,それに代わるものという形でこれを今議論しているのではないか,あるいは,そういう類型化があれば,判断できるんだというのであれば,そういう意味でのデータの収集は可能ではないかというふうに思われますが。 ● 今,委員がおっしゃったような類型化のイメージなんですけれども,それは法制度としての類型化であれば,それは大いにあり得ると思うのですが,そういうことをおっしゃっているのではないんですよね。 ● はい。それは社会学的な,あるいは心理学的な,あるいは精神医学的なという観点だと思います。 ● そうすると,裁判官の規範としてはどういうものを想定されているのでしょうか。 ● そこでおっしゃる規範とは何ですか。 ● 要するに,裁判官としては法律を適用しなければいけないので,立法政策として類型化があるとすれば,それはやはり規範になっていないと使えないわけですよ。 ● 分かりました。つまり,判決前調査にどれだけこだわるかという問題があると思うんですよね。その判決前調査がなければ,この制度ができないということではないように思われるのです。つまり,判決に当たって適正に判断するために必要な様々な判断要素というのは,いろいろな形でそろえることができるのではないかというように私は考えています。 ● 今の点ですが,判断事項として,これと,これと,これを考慮して判断すべきだという御趣旨ですか。 ● そういうことです。 ● そういう意味では規範化がそこでなされるという御主張のようにも思われますが‥‥。 ● 一定の基準というか,マニュアルというか,それも可能ではないかというように思いますけれども。 ● これは例えば検察官の求刑とか,あるいはそういう判決をしたときに控訴するかという観点からすると,これは必ずしも裁判所だけの問題ではなくて,検察の問題でもあるように思うのですが,その辺りについて,事務局としては難しいのでしょうが,一検察官としての御意見も是非お聞きしたいのですが。 ● 私の個人的な経験からすると,よく論告の中で再犯のおそれのようなことを強調して,この被告人については,例えば施設内処遇が必要だということを強調することがありまして,そこで何を考えているかというと,やはり特別予防的な面,そういったところをも考慮して求刑をしているというイメージを持っております。量刑不当で控訴するかどうかの判断の場面でも同様と思います。 ですから,そういう意味からすると,例えば,(5)の刑の一部執行猶予のような制度が新たに導入された場合に,検察官として,捜査の結果,この事案では,被告人の特別予防等の観点からは,一定の実刑だけではなく所要の社会内処遇を行うことが望ましいというような判断を行ったときは,論告の中で,そのような求刑を行うということが考えられるように思います。また,裁判所がそういう制度の下で判決をした場合にも,やはり特別予防等の観点を踏まえ,例えば,その事案では,全部実刑が相当なのか一部執行猶予が相当なのか,その量刑の当否を検察官として判断するということもあり得るように思われます。 ● 委員の御質問の中には,控訴するかどうかという点もあったと思うのですが,その辺は,検察官あるいは弁護人の立場としてはいかがなのでしょうか。つまり,刑罰の在り方の一種としてこれをとらえた場合に,本来全部実刑あるいは一部執行猶予とすべきにもかかわらず,そうしなかった判決に対する対応はいかがなのでしょうか。 ● 必ずできるとかできないとかを申し上げるのはなかなか難しいんですけれども,可能であれば法律で類型化していただいた方が判断が簡単だというのは原理的に当たり前のことであります。やはり法律において,その立案の趣旨としてどういう目的で,どういう対象者を念頭に置いているのかというようなことが,ある程度分かった方がもちろんいいのだろうと思います。 検察官は,捜査を踏まえて求刑であるとか,控訴の判断をいたしますので,そういう制度の趣旨であるとか,イメージしている対象者というものを踏まえて,現状でやっていない捜査かもしれませんけれども,そういう制度が仮にできたとして,新たに捜査としてどこまで明らかにできるかというところにかかってきて,それがある意味,判決前調査制度と言っているものの代替にどこまでなるのかという問題なのかもしれないんですけれども,そういう意味で,どういう制度のイメージで,我々,あるいは警察の方でその辺りの捜査がどこまでできるのかという問題なのかなという印象ではあります。 ● 先ほど再犯のおそれというような話がありましたが,窃盗の場合には,そもそも再犯を繰り返している,もう本当に再犯を繰り返さざるを得ないような生活実態というのですかね,そういうような人というのが一定程度いるような気がするんですね。それは刑務所に入ったらそれが変わるかというと,変わらないわけで,再犯をせざるを得ないのは個人の責任であると同時に,やはり社会にそれをサポートするものがないというのが原因になっているというのが相当数あるんだろうと思うんです。 それで,類型化の議論とちょっと離れて言いますと,窃盗で実刑になった人が,社会の中で生きる場所がないということが刑務所の中の人口を増やしている面もあって,それに対するサポートもないまま,また外に出したところで同じことだということがあるので,分割刑を考えるとしても,結局社会内処遇としてどんなことができるのかということと,やはりセットにしないと難しいのかなという気がするんです。それはもちろん罪名との関係でどういう処遇が必要かというのはもちろん個別に違うんだろうと思いますけれども,そういうサポートなり,あるいは社会内での教育などとセットにして,それも一種の刑罰みたいな形でそれを受けなければならないと,義務としてやって,それが再犯の防止につながるというような,そういうメニューがあれば,刑務所での実刑の次にそういうメニューを与えるという意味での刑罰というようなもので,それは,外に出してしまうよという意味ではなくて,そういうことであれば,そういう一種の刑罰として言い渡すというようなこともできるのかなと思います。むしろそういうことが必要なものというのもあるのではないかなという気がするんですね。それは一般論としてどうこうというよりは,やはり個別の罪名との関係でこういう刑罰というものもあってもいいのかなという気がするんです。 それの一番分かりやすい例が,薬物なのではないかなという気がします。実刑の続きのような形で,社会内でも一定の期間は義務を負って,薬物から離脱するために一種の刑罰的なものとして処遇を受けるというようなことを一度に言い渡すということはできるのではないかと思うのです。 ● 私も幹事と全く同じ考えを持っています。実は,午前中に塀の中に落ちるか,塀の外に出られるかという限界事例の論告,求刑を受けました。そのような事件を担当しますと,家族やいろいろな人たちを見てみた場合,塀の外と中では,犯した罪にもよりますけれども,今の事案では,求刑4年を受けておりまして,これで外か中かだと大きな違いがあるんですよ。この被告人は恐らくかなり今まで世の中を甘く見ていた男で,それゆえに社会に迷惑を掛けてきたということがどうも本人が分かったらしいんです。しかし,これは塀の中に入ってしまえば,これは4年なら4年,求刑が4年ですから,それは3年5月か3年か分かりませんけれども,それだけの期間刑務所に行くよりも,もう彼は分かり切っているんだから,ある意味で1年行ってくれて,あるいは2年行ってくれて,残りの部分を保護観察付きの執行猶予にしてあげるという選択肢があった方が,弁護人としてもやりやすい。多分,裁判官も塀の外か中かではすごく迷うと思うんです。その場合には,やはりそういうメニューがあった方がやりやすいのではないかなと思うのですが,いかかでしょうか。 ● 委員がおっしゃったのは,多分初犯者で正に実刑か執行猶予かぎりぎりの人で実刑になるという場合にそういう制度があってもいいのではないかと,これはある意味,ちょっと刑は長いかもしれませんけれども,ショック・プロベーションに近い類型の話だと思うんです。 その話と,先ほどから議論になっている,一定の実刑はもう免れないんだけれども,これまでの刑事政策上,余りうまく処遇できていないというか,再犯防止に役立っていなかったような人たちについて,社会内処遇を組み合わせた方がいいからこの制度を入れるべきだというふうにおっしゃっている議論の中で想定している人とは,必ずしも一緒ではないのではないかという感じがします。もう少しやはり,どういう対象者を念頭において議論するのかというのを絞って議論をした方がいいかなと思います。 ● そういう意味では少しニュアンスが違ったと思います。例えば,再度の執行猶予を認めるか,認めないかというところで,覚せい剤の自己使用のような場合について,この場合にはもう再度ですからすべての刑期の執行を猶予するのはなかなか難しいと思うんですよ。やはり裁判官として悩むと思うんです。しかし,彼が,きちんと社会において,薬物に関するきちんとした教育を受けて,なおかつ尿検査等をしながら離脱していくという処遇を受ければ,もしかしたら社会内でもやっていけるかもしれないので,弁護人としては,全部実刑か再度の執行猶予かというメニュー以外の選択肢があればとが思うこともあるのですが,そういうことは裁判官としては考えないかどうかというのはいかがでしょう。 ● これまでの経験ではそういう制度がありませんから,私は,考えたことはないですね。今おっしゃった,考えないかと言われたら,考えるケースもあるかもしれないなぐらいの感じでしょうね。 ● 今,矯正が判断が難しいと言っているようなことを,前倒しで,先を見て裁判官が,早く出せば立ち直るかもしれないという判断をすることは非常に難しいと思います。裁判官は何も知らないので,その方が判断しやすいのではないかという考え方もあるかもしれませんが,裁判官としては,やはり,適正な判断をしなければいけないというふうに考えますので,裁判所が判断するということであれば,判断の素材となる資料を調べられるような制度を作っていただく必要があると思います。検察と弁護で恐らく御意見が違うわけで,判断の材料を当事者が適切に裁判所に出していただいて,裁判官が判断するという制度にしていただかないと,裁判官が何もなしで未来を見越して判断するというのは,非常に難しい判断を迫られることになるのではないかと思うのです。裁判官が判断をしろということであれば,それなりの判断材料をきちんと出してもらえるように制度設計をしないといけないんだろうなという感じがするんです。 ● そうすると,もっと後の段階,執行の段階で司法チェックができるかどうかということになろうかと思うんですね。多分その最初の段階では,実刑としては何年と言い渡しておきながら,その一部について執行猶予をするというのは難しいとしても,少年の試験観察と同じような意味で,まずは刑事施設に収容しておいて,それで何か月か後にそれをもう1回見ますという形の制度だったら可能なんですか。 そこで,例えば,行刑機関からの資料を頂いたり,いろいろなものを見ながら裁判官は,あなたについてはこうしますと,もうちょっと入っていなさいと,あるいは,ここの段階で残りは執行猶予にしましょうという判断は可能なんでしょうか。 ● どんな資料が出てくるかによるのではないかと思います。 もちろん適切なものが出てくれば,判断することは可能ではないかと思いますが,やはり出てくるものによるのではなのかなという感じがします。そこが余り見えていないので,要するに検察と弁護がどういう素材を裁判所に提供してくるのかということが分からないので,それを分からないまま裁判所にやれと言われても,なかなか難しいかもしれませんねという話になるのではないかなという気がするんですが。 ● 少し違った観点なんですけれども,その対象者の分類ということで罪名別に考える,あるいは対象者の個人的な属性で考えるというお話がありましたが,両方を使うという話もあるかもしれないと思われます。裁判官の方が,こういった制度についてなかなか判断をしにくいと言われるのは,例えば分割刑にしたり,一部執行猶予にして,その後犯罪を犯すというふうなことがあればどうなるか,ということを大変案じておられるからだと思うのです。その際には,他の委員も指摘されていますし,また(4)や(5)の制度の紹介があったときに,私を含めて言っていたかと思うのですが,こういうものは,宣告をする際に,トータルで刑罰の宣告をするのであると考えて,対象者が社会内に戻っても,規範的には刑の執行は続いているのだから,そこで他の犯罪,あるいは条件違反をしたときには,また別途犯罪が成立する,あるいは,元の犯罪の施設内での刑が執行されるというふうな心理的な強制をきちんとかけておく,こうして,再犯に至ったときの対応もしっかりとっておけば,それほど判決を下すときに,裁判官の方がちゅうちょすることはないのではないかというふうに思います。 要は(4),(5)のところで,まずは現在の状況を見て,特定の罪種の方が多く刑務所の中にいるけれども,施設内処遇の効果が上がっていないという事実がある以上は,少し制度を改めてみる必要があるのだろうと思いますし,その際に(4),(5)をするときに,判決前調査が望ましいのですけれども,そこもできないということであれば,心理的な強制の側面をきちんと担保するような制裁に関する制度を付けるべきではないかと思っております。 ● これまでの御議論を聞いておりまして,裁判所がその処遇の必要性みたいなところを判断できるかどうかというところが結構議論されていたかと思うのですが,ややちょっと発想を変えることも考えられるように思います。これは,先ほど他の委員や幹事がおっしゃっていたことと同様かもしれませんけれども,現行制度では,例えば懲役刑の実刑を科す際に,その刑期すべてについて懲役刑という形で言い渡しておりますが,行為責任の範囲内で,実刑としての懲役刑と,保護観察付執行猶予に付された懲役刑とを適宜組み合わせた内容の刑罰を科すという発想で量刑することが考えられないか,つまり,分割刑や一部執行猶予の場合も,処遇の必要性というよりむしろ責任に応じて量刑をするという発想が可能かどうかという観点からも,御検討いただければという印象を受けました。 ● 確かに,刑の一部執行猶予という制度の中には,今おっしゃったような発想も入っていると思うんですね。前に執行猶予の性格について議論をしましたけれども,責任に対応するということで言えば,責任に応じて,全部実刑と,全部執行猶予の間に,一部実刑,一部執行猶予を一つの刑罰の形態,言わば中間的な制裁として入れるというのは,十分成り立つと思います。ただ,そうだとしても,この制度の目的は,やはり再犯を予防し,社会復帰を図るというところにあるわけですから,それを中間制裁と位置づけるとしても,行為責任の程度だけでそれを適用するかどうかを決めるわけにはいかないはずです。そうである以上は,一部猶予が責任に対応する刑であることを前提に,更に,それが被告人の再犯防止に有効かどうかを裁判官は判断しなければならないということになると思います。 ● 責任に応じた刑の中で,どちらが望ましいかというのですかね。本当のところは分かりませんけれども,一応組み合わせた方が望ましいという推定をするということは,私はそんなに変なことではないように思いますので,反証がない限りは判断していいということなのかと思います。 今も責任に応じた刑として,懲役2年にするか,3年にするかというときに,限界のある資料の中で判断なさっていらっしゃるように思うんですね。それとすごく違うかというと,そんなには違わないのかなという気がいたします。例えば,2年の実刑にして満期で出てきて,次の日に犯罪を犯したという場合に,裁判官の方が失敗したというふうに思われないのであれば,2年の刑期で,1年を実刑として,残りの1年の執行を猶予したところ,1年で出てきた次の日に犯罪をしたという場合に,失敗したと思う必要は私はないのではないかと思います。 ● 先ほど,裁判官としてどのような資料が用意されるならば可能か,可能ではないか,その一つの考え方として,きちんとしたチェック項目を全部作って,それで,例えば矯正の担当者が実際に施設に入っていたときの彼の行状について全部きちんとした報告書を上げる。矯正だけではなくて,保護と連携して,保護の担当者の方が今度は社会に出した後にどういう生活環境で,どういう仕事をして,どういうことができるのかという,そういったものをきちんと用意をするということまでされたらいかがなんでしょう。 ● それは事後的に裁判所が関与する制度を前提とされているのですか。 ● そうです。 ● それはあり得るかもしれませんけれども,そこまでできていて,矯正の方で判断できない理由というのは何なんですかね。どうしても裁判所が関与しなければならない理由というのは,一体何なんですか。 ● 一つは仮釈放という制度とはまた別の制度として,司法がリーダーシップをとっていってやっていく制度としての,いわゆる社会内処遇の期間をきちんと取るという意味合いはあるのではないでしょうか。 ● 関与せざるを得ないということの意味なんですよね。行刑に裁判所が関与すべきだというのは,それは一つの御意見だと思います。諸外国にそういうところもありますから。ただ,少なくとも日本では行刑は法務省がやっているわけですよね。そこに裁判所が入らなければいけないということについては,やはり何らかの必然性がなければいけないはずですね。そこは何なんだろうかというは,やはりちょっとよく分からない感じがいたします。 ● 今日は(4),(5)中心の御論議でありましたので,それでよろしいのですが,(2),(3)も審議が終わったとして無視するのには少し惜しいような気がいたします。先ほど必要的仮釈放についてサポートする御意見を述べられた委員もおられたと思いますけれども,私も必要的仮釈放というのは,場合によっては取り得る制度かなという気はしているわけですが,問題点は無論いろいろあるので,ちょっと委員に御意見を伺えればと思うんですけれども,一つは仮に刑期の6分の5ということにしました場合に,もちろんそれ以前に裁量的に仮釈放することは可能なわけですが,それに適しない,むしろ実質は満期釈放に近いという場合に,6分の5で出所させたとします。 そうしますと,その後に引き続く保護観察の期間がどうなるかですけれども,刑期が例えば2年程度であれば,保護観察は4か月しか残らないこととなります。そうなると,次の考試期間主義を考慮に入れて,ある程度,例えば6か月を確保するということは考えられるかというのが一つの問題で,もし,次にそうしたとしますと,それは受刑者の方がそれを拒むということもあり得るのではないかと。ちょっと早く出してもらったために半年も保護観察を受けるくらいなら,満期釈放の方を望むというケースも出てくるのではないか。その辺についてどうお考えでしょうか。 ● 必要的仮釈放制度は,今,御指摘があったように,十分な釈放期間,保護観察の期間を取るということを考えると,考試期間主義と結び付ける制度になる可能性が大きいように思います。そうすると,御指摘のように,対象者に不利に働く場合があって,拒否権を認めるかという問題も出てくるように思います。 ● 先ほどどうして裁判所が関与する必要があるのかという疑問が述べられましたけれども,考試期間主義を採ると,結局それは刑の変更ですので,我が国の制度のもとでは,裁判所が関与するしかないんだと思うんですね。ですから,行刑に裁判所が関与するというよりは,刑の変更なので,裁判所が出ざるを得ないということなのではないでしょうか。 ● その説明はよく分かります。 ● 必要的仮釈放なんですけれども,私はやはり制度として非常に違和感があるのは,やはり裁判官が刑を決めたのに,それを自動的に割り引くようなイメージがやはりどうしても強いところです。事の本質をよく考えてみると,結局,そういう必要的仮釈放の制度があるという前提で裁判官が量刑されるということは,実際には,刑務所に入れるべき期間が最初に定まり,それに対して一定割合の保護観察期間が付加されるという制度になるものと思われます。むしろ,そのような制度であるという趣旨で制度を構成するなら分かりやすいとは思うんです。しかし,裁判官が最初に全体の刑期を決めたのに,一律に刑務所に入る期間を短縮して残りの刑期を保護観察に代えるという構成なのが非常に違和感を感じるところであります。  また,これは,やはり従来から言われているところですが,実質的な面から考えましても,およそ仮釈放にはなじまないという,非常に犯罪傾向の進んだ人がいるのではないか,そのような人も一律に仮釈放の対象になるのは相当ではないのではないかという議論になっていくわけであります。むしろ,その人の犯した罪の行為責任から言うと,どうしてもこれだけの期間は実刑にする必要があるという場合に,そこに保護観察の期間を一定割合で付加するということであれば,まだ説明が付くのかもしれませんけれども。 以上のとおり,理論上,実際上双方の観点から必要的仮釈放制度には若干違和感があるのかなという印象であります。 ● 今の御説明は理解できるわけですけれども,しかし,そのお話からすれば,裁判所は,適切と認める刑期を判断した後,6分の5の逆数,つまり5分の6を掛けるということになりそうですが,そういう計算をなさいますでしょうか。 ● 恐らく今はしていないです。つまり,必要的仮釈放制度がなくても,今は現に仮釈放の制度があって,その意味では要するに裁判官が判決で言い渡した実刑部分を全部服役するという制度にはなっていないわけですけれども,行刑上変わることはあり得るという前提の基に判決をしているということだと思うんです。 ですから,先ほど委員がおっしゃったように,責任が長くなるというふうに見える場合もあり得るから,裁判所のチェックがあり得るのではないかという観点はよく分かるのですが,必要的仮釈放制度になると,判決の整合性が急にこれまでと全く違った問題になるという話は,私自身はよく分からない です。 ● およそ言い渡した刑が行刑の段階で変わってはいけないということを申し上げているわけではなくて,必ず一定期間が経過したら仮釈放をするということで一律にすべて変わっていくということに違和感がある制度の仕組みになっているということを申し上げただけであります。仮釈放というのはやはり元々が,行刑の段階で,判決後の事情を考慮し,刑の執行形態の変更をするという説明がされているわけで,それは正に個別の判断によって変えていくものです。そこまで否定しているわけではないんですけれども,およそ制度的に全部変えていくというのは,何か制度の説明の在り方として違和感があるということを申し上げただけであります。 ● 前回も申し上げましたが,日弁連は必ずしも必要的仮釈放の制度の導入を強く主張しているわけではないんですね。刑事立法研究会あるいは日弁連で考えているのは,善時制なんですね。善時制というのは,必ずしも善行を保持しなければならないということではなくて,一定の施設内において,きちんとしたルールを守って,それを守ることによって,どんどん点数を減らしていって,早めに出してあげるというものです。そういう意味では自動的に決まるものではないのですが,そういった人たちに十分な仮釈放後の保護観察の期間を取れるような制度設計をすれば,それはそれで可能ではないかなと思います。 ● 今の問題で言うと,善時制というのはアメリカの制度だと思うんですけれども,私は,日本は実質上今まで善時制をとっているのではないかというふうに思っています。 今までの議論を聞いていて,保護観察の法的性格というのは,これは是非どこかで議論をせざるを得ないのではないかという感じがいたします。つまり,今までは刑罰ではないというふうに通説的には考えられたんですけれども,それでいいのかどうかという議論が一つですね。 それから,もう一つは,途中で裁判官がチェックするかどうかという問題です。アメリカでは,今回の中間的制裁のような議論をするときに,リセンテンスという用語が出てくるのでそれで司法的なチェックをしている議論があり得る。 それから,先ほどの議論を聞いていると,いわゆるショック・プロベーションとか,ショック拘禁とか,ショック・パロールという言葉があるんですけれども,その意味というのはなかなか分かりにくいところがあって,この点の研究も必要だなと思います。それと,いわゆる分割刑制度との関連について調査研究する必要があるのではないかという気はいたします。 ● どうもありがとうございました。 ほかにいかがしょうか。 それではちょうど時間となりましたので,次回に本日の議論の続きをお願いしたいと思います。その後どのようなテーマを御議論いただくかについては,追ってお諮りしたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。 それではそのようにさせていただきます。 ● 次回議論されます(6)の刑執行終了者の議論に若干絡むかと思うのと,薬物関係のことなのでお願いなんですけれども,警察庁において,「薬物再乱用防止モデル事業」として,去年10月から今年の3月31日まで即決裁判で執行猶予となった者について,尿検査か何かが実施されていると思われるので,その状況について,何らかの形でこちらに出していただけると大変有り難いのですが。よろしくお願いいたします。 ● 対応できるかどうか調べて,事務局に御報告いたします。 ● よろしくお願いします。 それでは,今日の議論はここまでにしたいと思います。次回の日程等についての事務当局の方から御確認をお願いします。 ● 次回は,4月25日金曜日に,法務省20階の最高検察庁大会議室において,会議を行う予定でございます。 開始時刻につきましては,午後1時30分からでございます。 ● ただ今御案内がございましたように,次回は4月25日金曜日に法務省20階の最高検察庁大会議室において,会議を行うことにいたします。 開始時刻は午後1時30分からでございますので,よろしくお願いします。 それでは,本日はこれで散会といたします。 どうもありがとうございました。 -了-