法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  平成20年5月23日(金) 自 午後1時30分                       至 午後4時31分 第2 場 所  東京区検察庁会議室(6号館B棟5階) 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進す        るという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり)            議        事 ● ただ今から法制審議会・被収容人員適正化方策に関する部会の第15回会議を開催いたします。 ● 本日は,前回お諮りいたしましたように,「保釈の在り方」などのテーマについて御議論いただく予定でございます。   その議論に入る前に,事務当局の方で,議論の参考にしていただくため,統計関係の配布資料を用意したそうですので,まず,これにつきまして事務当局から御説明をお願いいたします。 ● それでは,統計資料について御説明申し上げます。   資料32として配布しております「統計資料11」について御説明いたします。 お配りいたしました「統計資料11」は,11の1ないし11の3が保釈・勾留等に関する統計資料,11の4がいわゆる刑事施設における未決の収容状況等に関する統計資料でございます。 なお,これらの資料に平成19年の数値が記載してございますけれども,これはいずれも概数になっておりますので,この点を御承知おきいただければと思います。   統計資料11の1でございますが,これは,昭和40年から平成19年までの地方裁判所の通常第一審における勾留率,保釈率等についての統計資料でございます。一枚目はその数値を表にしたもので,二枚目はそのうち保釈率,保釈請求率,保釈許可率及び国選弁護人選任率の推移をグラフにしたものでございます。 なお,この統計資料の勾留率,保釈率等の意義につきましては,二枚目に記載しております凡例を御参照いただければと存じます。   また,一枚目の枠囲みの色と二枚目の折れ線グラフの色とを同じにしておりますので,資料を御参照になる際の一助にしていただければと考えております。   統計資料11の2は,地方裁判所の通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期についての統計資料でございます。 この統計資料11の1と11の2によって幾つかの傾向を御説明したいと思います。   最初に,近時の保釈率と保釈許可率の動向について御説明いたします。 まず保釈率についてですが,統計資料11の1の一枚目のピンクの枠囲みの部分と二枚目のピンクの折れ線グラフを御覧いただきたいと存じます。 近時の保釈率は,平成15年に12.6パーセントとなり,その後も13パーセントほどでございましたが,平成18年には前年より1.6パーセント上昇して15パーセントとなり,平成19年には更に0.8パーセント上昇して15.8パーセントとなっております。   次に,保釈許可率でございますが,一枚目のオレンジ色の枠囲みの部分と二枚目のオレンジの折れ線グラフを御覧いただきたいと存じます。 近時の保釈許可率は,平成12年に49.3パーセントとなり,その後はおおむね50パーセント台前半でございましたが,平成19年には前年より4.3パーセント上昇して58パーセントとなっております。   続きまして,各数値の相関関係に関する動向について御説明させていただきたいと思います。   まず,保釈率と保釈請求率との関係を御説明したいと思います。 統計資料11の1の一枚目ではピンクの枠囲みと緑の枠囲みの部分を対照していただき,二枚目ではピンクの折れ線と緑の折れ線を対照していただければと存じます。 御覧のように,保釈請求率の増減と保釈率の増減とは,おおむね似た動向を示しているように見受けられます。 ただし,平成18年から平成19年にかけては,保釈請求率が0.4パーセント下降している一方で,保釈率は0.8パーセント上昇しているところでございます。   次に,保釈率と国選弁護人選任率との関係を御説明したいと思います。 統計資料11の1の一枚目ではピンクの枠囲みと黒の点線の枠囲みの部分を対照していただき ,二枚目ではピンクの折れ線と黒の点線の折れ線を対照していただきたいと存じます。 御覧のように,国選弁護人選任率の増減と保釈率の増減とは,おおむね逆の動向を示しているように見受けられます。 ただし,平成17年から平成19年までの推移を見ると,国選弁護人選任率はほぼ横ばい,正確には0.1パーセント減少している一方で,保釈率は2.4パーセント上昇しております。   続いて,保釈人員中の否認率について御説明したいと思います。 これは統計資料11の1の一枚目の中ほどにある「保釈人員の否認率(%)」と書いてある部分を御覧いただきたいと思います。この割合についてでございますが,記録のある昭和50年代前半以降,おおむね低下傾向にあることが見受けられます。 もっとも,平成17年以降は,保釈人員中の否認率が増加し,平成17年と19年を比較すると,否認率は1.5パーセント増加しております。   これに関連し,否認事件の保釈の時期について御説明したいと思います。 統計資料11の2としてお配りしてございます「通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期」を御参照いただきたいのですが,この表では,自白事件・否認事件ごとに,各年の保釈人員に対する保釈の時期別の構成比が緑の網掛けがしてある四角括弧内に示してあります。 このうち,表の右側に「否認」と記載のある部分が,否認事件についての内訳でございますけれども,平成19年の保釈人員は706人でございますが,そのうち,第一回公判期日前に保釈された者の構成比は35.1パーセント,248人でございます。これは前年の33.5パーセントより1.6パーセント増加しております。   また,勾留人員に対する保釈の時期別の構成比が黄色の網掛けがしてある丸括弧内に示してあります。   同じように,否認事件について見ますと,勾留人員中第一回公判期日前に保釈された者の構成比は,平成15年が4,754人中187人ということで3.9パーセントであったわけですが,その後毎年増加し,平成19年では勾留人員4,308人のうち,第一回公判期日前に保釈された者が248人ということで,その比率が5.8パーセントでございまして,これは前年の4.6パーセントより1.2パーセント増加しております。   統計資料11の3について御説明したいと思います。 統計資料11の3は,「勾留請求と勾留状の発付数等」でございます。この統計資料11の3の一枚目が地方裁判所の数値,二枚目が簡易裁判所の数値,三枚目が地方裁判所と簡易裁判所の数値を併せたもの,4枚目がそのうち勾留却下率の推移をグラフにしたものでございます。 この資料によりますと,平成18年,平成19年と続けて,勾留却下率が大きく上昇していることが見受けられるところでございます。   特に一枚目の地方裁判所における勾留の却下率を見ますと,昭和58年から平成17年までは1パーセントを下回っておりましたが,平成18年は1.23パーセント,平成19年は1.78パーセントとなっておりまして,この数値は昭和50年代初めと同程度の数値となっております。   続きまして統計資料11の4は,「未決等被収容者収容状況」でございます。   この資料は,刑事施設における未決等被収容者の定員に対する収容人員の割合等をお示ししたものでございます。 この資料によりますと,刑事施設における未決等被収容者の収容率は,平成17年末現在が62.6パーセント,18年が56.9パーセント,19年が51.2パーセントとなっており,17年と19年とを比較しますと,11.4パーセント減少しております。 また,未決等被収容者の収容率が70パーセント以上の施設数は,平成17年末現在では23施設であったものが,18年は17施設,19年は6施設と減少しております。 さらに,収容率が80パーセント以上の施設数は,平成17年が14施設,18年が5施設,19年が4施設,収容率が90パーセント以上の施設数は,17年が7施設,18年及び19年が各1施設となっており,いずれも減少しているところでございます。 なお,この部会資料11の4には記載しておりませんが,例えば,東京拘置所の未決等被収容者の収容率を見ますと,平成17年末現在は81.6パーセントでございましたが,平成19年には68.7パーセントとなっております。また,大阪拘置所の未決等被収容者の収容率を見ますと,平成17年は93.2パーセントでありましたが,19年には85.1パーセントとなっております。   続きまして,配布資料33,「統計資料12」について御説明いたします。   まず統計資料12の1としております「勾留された被告人の保釈の取消しに関する統計」と題する表を御覧いただきたいと存じます。 この資料は,保釈を許可された人員数,保釈を取り消された人員数,そして保釈請求人員数のそれぞれにつきまして,裁判所別の内訳を含め,平成14年から平成19年までの推移を示したものでございます。併せて,「保釈を取り消された人員数」の欄内に,括弧書きで,その年の保釈取消人員数の保釈許可人員数に占める割合を記載しております。 このうち,保釈取消人員の推移を見ますと,平成14年から平成17年までは,おおむね20人ないし30人程度で,保釈許可人員に対する割合にして 0.2パーセント台であり,平成18年には,55人,0.47パーセントとなりましたが,平成19年には,36人,0.32パーセントとなっております。   なお,当部会の第1回会議におきまして,配布資料2,統計資料1の8として,保釈を取り消された人員数等に関する統計資料をお配りしておりますが,その資料には,平成16年と平成17年の保釈を取り消された人員数につきまして統計上の誤りがございましたので,この度この統計資料12の1の方で訂正させていただいております。具体的に申しますと,第1回会議でお配りした資料では,平成16年につきまして,全裁判所で50名,地方裁判所で47名となっておりましたが,正しくは,統計資料12の1に記載しておりますように,全裁判所で30名,地方裁判所で27名でございます。また,平成17年につきましても,第1回会議でお配りした資料では,全裁判所で53名,地方裁判所で52名となっておりましたが,正しくは,統計資料12の1に記載しておりますように,全裁判所で27名,地方裁判所で26名でございます。   統計資料12の2としております「『年末現在保護観察中の人員』及び『うち所在不明人員』に関する統計」と題する表を御覧いただきたいと存じます。 この資料は,いわゆる1号から4号までの保護観察の類型別に,その年の新受件数のほか,年末現在における保護観察中の人員数及びそのうち所在不明となっていた人員数とその割合を示したものでございます。 また,その数値をお示ししている年次としては,まず,直近5年分の統計ということで,平成14年から平成18年までの各年の数値をお示しするとともに,平成14年以前についても5年おきにさかのぼり,平成9年,平成4年,そして昭和62年の数値をそれぞれお示ししております。 このうち,主に成人を対象とする3号保護観察,すなわち仮釈放を許された者と,4号保護観察,すなわち保護観察付執行猶予を言い渡された者の数字について若干御説明申し上げます。   3号保護観察の年末現在の人員のうち,所在不明の者の割合は,平成4年には20.3パーセントでありましたが,近時はその割合が減少傾向にあり,平成18年には5.1パーセントとなっております。 そして4号観察の年末現在の人員のうち,所在不明の者の割合も,3号保護観察よりは緩やかですが減少傾向にあり,昭和62年には8.6パーセントであったものが,平成18年には4.9パーセントとなっております。 ● ただ今の御説明につきまして,何か御質問あるいは御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 警察としてのデータを少し御紹介したいと思います。今,統計資料11の4において,「未決等被収容者収容状況」ということで,刑事施設におきます収容状況について御紹介がありましたが,警察の留置施設の状況も併せて御紹介を申し上げたいと思います。結論的には事務当局で作成されたデータとほぼ同じような傾向を示しておりますが,全般的に警察の留置施設におきましても,過剰収容という状況が随分と改善をされてきております。 具体的には収容率が大変下がっておりまして,統計で申し上げますと,例えば,平成16年ころは,収容率が全国で約70パーセントから80パーセントを超えておりましたが,最新のデータである平成20年2月1日現在は56.7パーセントということで,随分と収容率が下がってきております。 それと,いわゆる被留置者の中には,起訴後のいわゆる移送待ちの人たちが入っており,例えば,平成16年あたりでは,全国で,約2,500から3,000人程度が移送待ちの状態でありましたが,平成20年2月1日現在では1,942人ということで2,000人の大台を割っており,これは,やはり未決収容者の収容状況とのリンクが見られると思われますので,御参考までに御紹介をさせていただきます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の御説明も含めまして,何か御質問がございましたら,どうぞ。 ● この未決等被収容者の状況ですが,これは大都市の方が厳しいのだという一般的な観念があったかと思いますし,私もそう思っていたのですが,先ほどの御説明を伺いますと,東京は随分改善されており,大阪もややそれに近いというお話で,残っている90パーセント以上の1施設,80パーセント以上の大阪以外の3施設というのはどちらの地方でしょうか。 ● 平成19年末現在ですと,90パーセントを超えている施設は金沢刑務所でございまして,未決の収容率が93.7パーセントとなっております。それから80パーセント以上の4施設,その一つは金沢刑務所でございまして,残りの3施設ですが,奈良少年刑務所の未決の収容率が80.4パーセント,それから既に申し上げましたが,大阪拘置所が85.1パーセント,そのほかに福岡拘置所が80.2パーセントとなっております。 ● 保釈の取消しに関する統計についてですが,全体数自体がかなり少ないのですが,取消事由別の統計は取られていますでしょうか。もしそれは取っていないということでしたら,実務の感覚で結構ですので,どういう理由で取り消される場合が多いとお感じになっておられるのかを教えていただけませんでしょうか。 ● まず,統計の話でございますけれども,この取消しの理由までの統計は取られておりません。ですので,その理由の内訳というのは私どもでは把握はしておりません。実務的なところですが,私の印象では取り消されるものとして多いのはやはり裁判所に出頭しなくなる,逃亡してしまっているといったところが多いのではなかろうかと思っております。 ● 私もそんなにたくさん経験しているわけではないのですが,私が経験した事例の中では,保釈中に別の犯罪を犯して捕まった,これにより逃亡のおそれが著しく高まって,保釈を取り消さざるを得なくなったというケースもあったように記憶しています。 ● 簡単な確認でありますけれども,先ほど幹事から御紹介いただいた数字の中で,起訴後移送待ちというふうに言われましたが,これは要するに公訴提起があって,しかももう捜査も終了していて,本来であれば拘置所へ身柄を移すというようなものが移せなくて,留置施設にいるというケースを指しているというふうに理解してよろしいですか。 ● はい。正確に申し上げますと,具体的にもう警察の留置施設の方から拘置所の方に移送をしていただきたいという具体的な要請をしている場合だけでなく,今,委員がおっしゃった事実上捜査も終わっていて,具体的に要請はしていないけれども,もうそろそろ移送をしてもいいという数字も含まれており,そういう意味では今,委員がおっしゃった,捜査も終結していつでも拘置所の方に移送できる状態にあると警察が判断する数ということでございます。 ● 統計資料12の2の保護観察対象者中の所在不明人員に関することですが,保護観察対象者の中で所在不明の人がかなりいるということが更生保護改革の際に問題とされ,そこで,有識者会議でもそれに対してどういう対策を採るかというようなことが議論されて,その後,運用上の施策が講じられたと承知しています。ただ,この統計を見る限りは,問題が表面化する前から所在不明人員自体はだんだんと減ってきているわけですね。そうしますと,保護の分野では,もともと所在不明人員を減らすということで何らかの施策がとられていて,有識者会議の提言後,別途に何かを始めたということなのでしょうか,あるいはもともとは特に施策は執られていなくて,自然に減っていたということなのでしょうか。 ● 今の御質問は大変難しいところでございまして,明確に答えられない部分があるのでございますけれども,少し現場の感覚的なことも含めてお答えさせていただきますと,今,委員もおっしゃられました17年末から有識者会議の報告を受けて,その所在不明者に対する所在発見の努力を具体的に幾つかのやり方を定めて始めたということで,その成果が現れていると確実に言えるのは18年の数字かということになろうかと思います。それ以前につきましても,ただ今御覧いただいております仮釈放者につきましては,昭和の年代に17パーセント,その後20パーセントに達していたものが漸減していって,問題にされた当時7パーセント,8パーセントであったということでございますけれども,このあたりの事情については,きちんとした調査をしたこともございませんが,特に仮釈放者の所在不明者がこのように高い数値であったものから,所在不明になった者が保護観察を離脱しているという状況を遵守事項違反として重く受け止めて,それに対する運用を厳格にしていったという経緯がございまして,そのような効果もあって,昭和の末から徐々に減っていったということも言えるのではないかというふうに考えております。 ● 法の厳格な運用ということで,もう一点,保釈に関して実務の実状を伺いたいのですが,保釈を取り消した場合,保証金を没取するのかどうかは裁判所の裁量ですけれども,この点は大体においてどういう運用になっておりますでしょうか。全額没取というのが原則なのか,それとも必ずしもそうでないのか,いかがでしょうか。 ● 私は今統計資料は持ち合わせていなくて,それをとっているかどうかも含めてちょっと調べさせていただきたいと思います。経験で言いますと,もともとの取消しの件数が少ないものですから,どこまで普遍的なことを言えるかという問題はありますが,私の周囲にいる人たちの意見,過去に聞いていたもので答えさせていただくと,取り消す以上は特段の事情がない限り没取すべきであるという意見を述べる方が比較的多いような気がいたします。ただ,実際にそれがされているかどうかということはちょっと調べてみないと分かりかねるところです。 ● ほかにいかがでしょうか。   それでは,まず「保釈の在り方」のテーマについて御議論いただきたいと存じます。 この「保釈の在り方」のテーマにつきましては,第5回会議におきまして一度御議論をいただいております。ただ,その際には,諸外国の未決拘禁・保釈制度についての御紹介に続きまして,委員・幹事の皆様方から保釈制度についてどのように認識されているのかという点を一通り伺ったところでございます。 そこで,本日の議論におきましては,まず大枠の議論として,今回の諮問事項にありますように,「被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止及び社会復帰を促進するという観点から」,現行の保釈制度を見直す必要性があるのかどうか,仮にあるとしたらどの点についてなのかにつきまして,御議論をしていただくのが適当ではないかと考えておりますが,いかがでしょうか。   特に御異論もないようでございますので,そのように進めさせていただきたいと存じます。   それでは,先ほど事務当局から御説明がありました統計資料等をも踏まえまして,被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止及び社会復帰を促進するという観点から,現行の保釈制度を見直す必要性があるのかどうか,仮にあるとしたらどの点についてなのかについて御議論をいただきたいと存じます。   どうぞ御自由に御発言をお願いいたします。 ● 今,被収容人員適正化,あるいは再犯防止,あるいはまた社会復帰の観点からという三つの話がございましたけれども,実はこの部会の審議の途中で日弁連は保釈・勾留についての改革の提案をさせていただいて配布させていただいたと思うのです。それが今回の諮問の内容にマッチするかどうかという部分も若干問題があるのですが,そのことについて少しだけ話をさせていただきたいと思っております。   日弁連では,前にお配りしてございますが,まず勾留については比例原則を明確にしてほしいということを申し上げております。要するに,行った犯罪とそれと現実に科される刑罰との比較においてバランスを欠くような形の勾留はやめてほしいというような形で,刑訴法60条1項ただし書に,勾留が事件の法定刑及び想定される刑罰に比して不均衡であるときは,これをすることができないということを加えたらどうかということを提言しております。   それから,これは前回の議論もありましたけれども,刑訴法60条1項2号についてその2号を削除するか,若しくはそこをもう少し厳格化して司法権の行使を妨げる客観的な危険が具体的な証拠によって認められるときというふうに変えたらどうかという提言もしております。   そのほか,保釈についても今日本においては起訴後の保釈しかございませんので,起訴前保釈制度の創設も提言しております。刑訴法89条1号については,これは元の規定に戻すことになるのですが,対象外の犯罪の限定をもう少し厳しくして,被告人が死刑に当たる罪を犯したものであるときに改めたらどうかということを申し上げております。それから,刑訴法89条3号あるいは4号について削除する,あるいは若しくはその要件の厳格化ということで,先ほど申し上げたような形での考え方をしたらもう少し未決勾留なりが減る,あるいは起訴後の勾留が減るのではないかというようなことを申し上げておりますので,御報告させていただきます。 ● この部会は,被収容人員適正化のための部会でありますので,やはり勾留・保釈制度も含めた制度全体の見直しをする場ではないと私は思っておりますし,この部会において検討している間に,事実上,未決の被収容人員は適正な方向に向かっているように思われますので,この点につきましては,これに絞った場合,議論の対象としては,もう既に収束に向かっているという実態があるのではないかと思っております。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の御意見も踏まえまして,ほかにいかがでしょうか。 ● 先ほどの日弁連の意見というのとはちょっと離れての話ですけれども,被収容人員の適正化とか再犯の防止とかいうことの関係では,ずっと社会復帰ということが問題になっていたかと思うんですけれども,やはりいずれにしても勾留されるということで,社会といったん断絶するということは非常に社会に戻るについてはマイナスであることは間違いないわけで,いかにしてその社会から離れない形で,しかもその必要なその後の手続が円滑にいくような制度ができるかということで考えると,今の制度が100パーセントそれを満たしているかといえば,やはり本来勾留をしなくてもいい者が勾留をされているという実態はやはりあって,それが社会復帰の妨げになっているという実態もあるかと思いますので,そういう観点での見直しというのは必要なのではないかというふうに思っています。 ● 先ほど幹事の方からこの部会での議論をしている間にだんだん状況の方が変わってきたという御指摘がございましたけれども,この変化というのが何らかの理由といいますか,必然性をもって動いてきたということであれば,推移を見守るということも一つの選択肢となりましょうし,いや余り意味がなくて偶然こういうことになっているということだとすると,またそこは考えなければいけないということも出てくるのではないかという気もいたします。そのあたりで,何か具体的な事情として考えられることがあるのだろうか。あるいは,統計のところで最初に幹事の方から御説明がありました保釈等について数字に変化が見られる,あるいは,勾留の却下率の数字に変化が見られる,そういうあたりについて,何か実感として御指摘いただけるような事情というのがもしありましたらお伺いしたいと思います。 ● 実感と言われると,私は発言する資格はないですけれども,文献を通じて得た知識という意味では,大阪地裁の裁判官の方の御論文が「ジュリスト」に掲載されておりました。それによれば,最近の保釈率の向上の原因として,例えば公判前整理手続が行われるようになって,争点及び証拠の整理が早めに終わると。そうするとおのずと保釈しやすい状況が出てくるのではないかということもあり,さらにまた罪証隠滅の対象となる証拠とは何かということについても厳格な判断が進んでいるという状況がある。そういうことが合わさって,保釈率の向上を招くように思うという御指摘でありまして,私はそれはごもっともではないかと思って読んだ次第です。 ● 今,先生から御紹介があったその大阪地裁の裁判官の方の論文というのはかなり実務的にはインパクトがあったと思います。また,その少し前に,最高裁で決定のあった痴漢の事件ですけれども,この事件では,約90日間という長期間身柄を拘束した。それについて,直接的には,未決勾留日数が長くなっているのに,それを罰金の算入に当てなかったのがいけないという判断であったと思いますが,その中で,要するに軽微事案の身柄拘束の必要性についてはもっとよく考えるべきであるというような趣旨のことが書かれたりしました。それから,大阪地裁の裁判官の論文の中でも紹介がありますけれども,裁判員制度その他の新しい制度が入ってきたということを踏まえて,今後どのように刑事裁判を運営していくのかというような問題もありますし,さらに,最近のことで言うと,選挙違反の事件で何人かの方が無罪になるような事件があって,それについてもかなり身柄の拘束期間が長期化したというような様々な要因があります。それらについて,司法研修所の研究会など裁判所の内部ではありますが,意見交換をしてきたということがありまして,そういう意見交換を経て,これまでの運用でもう少し見直すべき点があるのではないかという意識が裁判官の中に徐々に生まれてきているのではないかというふうに推測される面があります。それが先ほど出ていました保釈許可率の最近の上昇ですとか,勾留請求却下率の上昇というところにもしかするとつながっているのではないかという感じがしておるところでございます。 ● 事務当局というより,検察から見た最近の勾留あるいは保釈の運用について紹介させてきただき,これからの御議論の参考としていただければと思うんですけれども,今,委員もおっしゃられましたように,以前に比べると,検察の立場からすると相当厳しくなってきているのかなと思うのです。つまり,勾留についてはより勾留がつかないような方向の判断が増えてきているのではないか,逆に保釈についてはこれまでであれば保釈が許されなかったようなケースについてもより積極的な保釈の方向で判断がなされているのではないかなというイメージを持っております。   これは,いろいろと現場の方から話を聞いたり,あるいはいろんな記録を見させていただくなりして感じていることではございますけれども,まず保釈の関係では,先ほど先生もおっしゃられましたけれども,やはり公判前整理手続の影響があるのではなかろうかと思うのです。例えば,保釈許可決定に対してした検察官の準抗告について,準抗告審が,全面否認事件,あるいは刑訴法89条1号に該当するような法定合議事件で否認しているような事件であっても,公判前整理手続である程度被告人側の主張が明らかにされてその対応も見えてきているという場合には,罪証隠滅のおそれはなおあるけれども,そのおそれの程度はさほど高くはないという判断を示し,それを理由の一つとして原決定が裁量保釈をしたことについて裁量に逸脱は認められないとし,第一回公判前になされた保釈の判断を維持するというケースがあります。このように,準抗告審が,罪証隠滅のおそれの程度はさほど高くないとしつつ,検察官の準抗告を却下するというケースが恐らく従前に比べると増えてきているのではなかろうかと思うのです。ですので,以前に比べると相当保釈が許されるケースが増えている,それほど罪証隠滅などの問題がないようなケースについては,相当積極的に保釈が認められてきているのではなかろうかというような印象を持っております。   それと,その前提となる勾留につきましても,例えばいわゆる電車内での痴漢事犯とか,あるいは警察官に対する公務執行妨害といったケースについては,被疑者が否認している場合でも,勾留請求をしてもなかなか勾留が認められないというケースが増えているように承知しているところでございます。 ですので,これからの御議論でございますけれども,そういう最近の運用の変化も踏まえまして,結局そういう運用でもなおかつ罪証隠滅のおそれなり逃亡のおそれなりがあるとして身柄が勾留されている,あるいは保釈が許されないという場合について,例えば身柄拘束をせずに罪証隠滅なり逃亡のおそれを防止する措置が考えられるのかどうかといったところも踏まえまして,御議論をいただけると有り難いと思っております。 ● 本日配布された資料によりますと,国選弁護人のパーセンテージが増えてくると保釈率が低くなるという傾向があるというのは,弁護人の怠慢というのもあるのかもしれませんけど,最近少し保釈が認められるようになってきたという状況にかんがみた場合,例えばですけれども,台湾では,起訴された時点で,勾留の受命裁判官が起訴の時点で保釈請求を待たずに,この人間はこのまま勾留するのかしないのかというようなことを決めるということができているようなんですね。要するに勾留要件は起訴前であろうと起訴後であろうと全く同じなんですが,少なくとも起訴する時点では検察官としては公判維持がある程度可能という観点でしている場合について,保釈をするまで,保釈請求をして保釈が認められるまで勾留する必要があるのかどうかということはここで議論しても面白いのではないかなと思いますので,問題提起としてさせてもらいます。 ● それに関連してですけれども,保釈金さえあれば保釈がされるけれども,保釈金が用意できないから保釈されないというケースは一定程度あると思うんですね。それとの関係で,直ちに実現するかどうかは分からないのですが,しかもここの議論とマッチするかどうかは分からないんですけれども,韓国では,保釈保証保険というようなのがあって,要するにその保釈金の支払が保険金を支払うことでカバーできるというようなものがあるんですね。ですから,たまたまお金が用意できる人と用意できない人との差をどういうふうに埋めていくかということもあるでしょうし,それから保釈の条件として保証金の支払以外のものをどんなものでできるかどうかということによって,今保証金があれば保釈されるような人が保証金がないために保釈されないでいるという事態を改善していくということはできるのではないかと思います。どういう条件にするかというのはいろいろ考えられると思うのですが,それはまたほかの場面も含めて,あとでまたお話ししたいと思います。 ● 先ほどお答えいただいた部分でもうちょっとだけ伺いたいと思うのは,先生が御指摘になられたとおり,公判前整理手続が入ったことによって,保釈がしやすくなったというようなことが指摘されるわけですけれども,公判前整理手続をやって,争点・証拠の整理をすると具体的にどういうところで保釈をより積極的に考えやすいということになるのでしょうか。そこをお教えいただければと思います。 ● 私も今実務をやっているわけではないのでお答えしにくいんですが,恐らく公判前整理手続をやって証拠の整理が済んでいくと,罪証隠滅の抽象的には可能性があるにしても,現実にはここまで整理しているのにさらに本当に罪証隠滅に及ぶんだろうかというところでかなり判断が変わっていくケースがあるのではないかと思います。もう一つは,そういう手続の中で,弁護人も含めて議論していく中で,ある意味の信頼関係というのができてきて,この事件についてはもう出しても大丈夫だというような判断ができてくる事件というのもあるような気がいたします。そういうことなんですが,先ほどの委員のおっしゃったこととの関係で言うと,保釈請求がなくても保釈するというのは,制度上は今も可能は可能です。ただ,実際には皆無だと思います。なぜなら,やはり保釈するための条件の整備が必要な場合が多いというのが一番大きいんだと思います。つまり保釈しようと思うとやはり身柄をきちんと引き受けてくれる人がいて,それから罪証隠滅,逃亡をしないというようなあたりをきちんと環境をつくってくれないと,なかなか裁判所としては保釈しにくいわけでありますが,その仕事をやっていただけるのはやはり弁護人なんだろうと思うんです。この統計資料を見ますと確かに国選弁護人選任率が上がると保釈請求率が下がるというような関係に見えて,弁護士さんから見ると余り面白くないかもしれませんが,もちろん単純にそればかりが原因というわけではないと思います。大阪地裁の裁判官の論文の中にも出ていますが,請求率が下がっている原因としては保釈金,保証金のこともあるかもしれません。また,一般的に我が国では刑事裁判が非常に短くなってきているので,従前例えば半年かかっていたものであれば何としても保釈請求と思っていたものが,例えば判決まで2か月ちょっとで出てしまうとすると,場合によっては保釈請求しないというような場合が出てきているのではないだろうかと思うのです。それから,例えば保釈しにくい事案として昔から薬物事案と外国人事件とかがあるわけですが,そういう保釈しにくい事件の比率が昔に比べて高くなっていることですとか,そういういろいろな要素が複合的に働いているのかなという気はいたします。その上で申し上げれば,保釈請求率を上げなければいけないということを私は前からいろいろな場で申し上げています。すべてが弁護人の責任であると言うつもりはありませんが,弁護人に期待するところが大きいという感じはいたします。 ● 今のお話のとおりだと思うのですが,更にもう一つ付け加えますと,やはり裁判員制度の施行が1年後に迫っているということが一つの背景事情になっているのではないかと思います。連日的開廷というようなことが,最近までは単なるお題目であることが多かったのですが,それが現実のものになってくる。そうなりますと,やはり被告人と弁護人との緊密な連絡というのが防御活動を実行なさしめるためにどうしても必要だということが関係者みんなに分かってきます。そうなると,やはり保釈できるものならば保釈した方がいいという判断が働きやすくなってきているのではないかと思います。 ● 今の御発言に補足してでございますが,先ほど保釈許可決定に対する検察官の準抗告について,否認であっても,裁量保釈を認める原決定を維持するケースが増えているのではないかと申し上げましたが,そこで原決定の裁量保釈を相当とする理由の一つとして,先ほど公判前整理手続により,罪証隠滅のおそれがさほど高いものとは認められないということのほかに,今,先生がおっしゃったように,連日的開廷が予定されていて,被告人の防御の利益を全うするためには弁護人と綿密に打合せをする必要がある。そういったことが裁量保釈の判断の相当性を支える事情の一つとして挙げられているというケースが幾つか見受けられたということを補足させていただきます。 ● 保釈の在り方については厳しい批判があったと思うのですけれども,配布された統計資料について御説明を聞くと,非常に改善されたというふうな印象を持っていいのかどうか。日弁連が一番厳しかったと思いますけども,最近改善されているんだという認識を持っておられるのかどうかということですね。また,裁判員制度を背景としているということから見ると,保釈制度の在り方というのは改善されていくというふうに予測できるのかどうか。その点はどうお考えになっているのか。それから,本来勾留されなくていい人がまだ勾留されるのではないかという指摘を前提にすると,この諮問事項の中で突破口をどのように見つけたらいいのか教えていただきたいと思います。 ● 韓国では不拘束裁判の原則というのが法律に規定されまして,実は法律に規定されるより前から非常に身体拘束率というのが下がっているわけなんですね。確かに今の日本の保釈率だとかあるいは勾留却下率が上がっていて,それが悪いことだとは申しませんし,よい傾向なんだとは思いますけれども,4パーセントだとか3パーセントだとかそういうレベルではなくて,何割という形でどんと下がっているわけなんですね。韓国では,第一審判決を受ける段階で身体を拘束されている人が二割ぐらいというような状況なわけですね。それは,本来その身体拘束されずに裁判を受けるのが原則であって,どうしても駄目な場合に拘束するんだという,考え方の転換というのでしょうか,日本でいうと実質的には韓国の最高裁長官がそういう考え方でいくべきだというのが影響したように聞いているんですが,そんなようなこともあってかなり変わってきたという実態があるようなんですね。   そういうのと比較しますと,今の日本の状況というのは,やはりどちらかというと大きくいうと拘束されない方が原則とはなかなかちょっと言いにくい状況なのではないかなという気がします。それは,今,保釈というのは,一つは起訴後しかないわけですけれども,起訴前は,起訴前保釈と言うかどうかは別として,そもそも勾留をする必要があるのかどうかという点ではもう少し見直すべきなのではないかなと。勾留するかしないかしかないわけなんですが,その中間というのもあっていいのではないかと思うのです。例えば出頭確保という点で言えば,これからまた資料も出されて連絡方法をどうとかという話があるんですけれども,その連絡方法なり何なりをしっかりすることによって,勾留はしなくても一定の制約を課して,勾留と全くの自由との間というようなものを設けるということによって,例えば職場を失うとか,そういうことがないようにするということがあり得るのではないかと。ごく抽象的に言うとそんなことを考えておりまして,その中間をどんなものにするかというのはなかなか難しくて,こうしたらいいというのが今すぐあるわけではないんですけれども,それは考える価値があるのではないかなと思うのです。それは今,起訴前だけではなくて起訴後の保釈条件ということとの関係でも,先ほど申し上げましたように保釈金の支払以外にその後の手続を円滑にできる形,全くの自由ではないけれども,一定の制約があるところでそれを条件として保釈をするということもあっていいのではないか。あるいはそういう条件で勾留そのものを取り消してしまうということもあり得るのではないかというふうに思っております。 ● 今,韓国の例が出てきたので,若干の統計資料を申し上げたいと思います。韓国では1998年のいわゆる日本の勾留請求に当たるものなんですが,この棄却率が13.63パーセントだったんですね。それが2006年には16.36パーセントという形で,10パーセント台の棄却率があったという形のものがあります。もう一つは,韓国にある一つの制度として,勾留後に弁護人あるいは被告人の家族等から勾留の適否審査請求というのができまして,この適否審査の段階で1999年が43.54パーセントの釈放率ということになっていたのが,同じように2006年でも44.53パーセントという形で,勾留請求の段階,勾留適否審査の段階でかなりの数が落ちていくという,こういうデータを元にしていくと,今度は逆に検察官の方も勾留に慎重になるということがとられていることなんです。それで,先ほど幹事が申し上げましたけれども,起訴時点においても1998年は48.57パーセントがいわゆる身柄を拘束されている状態だったのですが,2006年には20.32パーセント,さらには判決時身柄拘束率ということになりますと,1999年に41.40パーセントが2006年には17.90パーセントという形で,言わば最終的に勾留され続けているという人は重大犯罪等を犯している人間になっているということが改革で明らかになっております。更にその上に,先ほど幹事が申し上げたように,保釈金の工面できない人については保釈保証保険会社というところが全国に支店を全部持って,裁判所とタイアップしながら,そこで実際お金を払えない場合については保険会社が金を立替払をするという制度があります。これの利用率というのも2006年は保釈許可数が5,511件のうち4,902件ということで,実に88.95パーセントが利用しているということで,そういう意味ではお金がない人もそれなりに保釈なり自由になるということがある。これはやはり特に日本のように勾留されてしまうと起訴まで少なくとも23日間,自分の勤め先に何も言わずにいるということになった場合,恐らくそこで釈放されても職場復帰が難しい。その意味では社会復帰という観点から言えば,これはもし可能ならばもっと少なくすべきではないだろうかというふうに思っております。 ● 今の点とも関連するのですが,一巡目の議論のときに,実務家の方からそれぞれの立場での意見をお聞きしたんですけれども,今の日本の制度を前提にした場合には,勾留にしろ保釈にしろ,罪証隠滅のおそれというのをどう考えるかという点が,その運用を評価する上でのポイントだと思います。もちろん,罪証隠滅のおそれという要件自体を勾留理由から外すという意見もありますけれども,それはとりあえず無理だという前提に立ちますと,そのおそれというものをどの程度厳格に判断すべきかという点についての見解の差異が,実務の現状に対する評価の分かれ目だろうという印象を持ちました。その点では,先ほど御紹介がありましたように,最近の運用において罪証隠滅のおそれについての判断が変わってきているということであれば,その点はかなり歩み寄りが見られるのかなというふうに思っています。もちろん,保釈の判断はどこまでも緩くしていけばいいという話ではなく,先ほど取消事由の点をお聞きしましたけれども,逃げてしまう人がたくさん出てくるとやはり困るわけですから,そことのバランスの問題になります。その点では,先ほどの統計資料で平成19年に運用上保釈がかなり認められるようになっても取消率が決して高くなってはいないわけですから,そうすると,現在の運用の変化というのは,本来保釈されるべきであった人が保釈されているという評価ができるのだろうと思います。ですから,そこはバランスのとれた形の運用に変わってきているといってよいのではないでしょうか。   そうだとしますと,残る問題は,先ほど幹事がおっしゃったように,逃亡を防止するための措置として保釈保証金の納付という手段しかないことが妥協なのか,それ以外に出頭を確保するという措置が考えられないかということで,現状を前提として議論するとすれば,その議論が一番建設的かなという気がします。これは前に申し上げましたが,ほかの手段で出頭確保できる人が,お金が払えないがゆえに保釈にならないというのは,やはり不当だと思いますので,それへの対処として何か考えられないかということを検討すべきではないでしょうか。 ● 私もそこが一番大事なポイントだと思うのですが,以前,保釈の議論をしたときに委員がそういう趣旨のことをおっしゃって,別の措置ということをおっしゃった記憶があるんですけれども,委員は何か具体的なことをお考えですか。 ● それについては,諸外国の例をここで御紹介いただきましたけれども,例えば出頭をさせるという誓約書のようなものを信頼できる第三者,身元の引受人のような人から提出してもらうといった方法は考えられるのではないでしょうか。現在でも保証書の制度はあるわけですが,それは結局保釈保証金と関係していますので,そうではなく,純粋に出頭させることの誓約書のようなものでも出頭の確保ができるような場合はあるのではないかと思うのですが。 ● これは諸外国の例ですが,例えば毎朝最寄りの警察署に必ず寄って,私はきちんとこれから会社へ行くんですという形のものをきちっと励行していくという形であれば,逃げも隠れもしていませんということを明らかに明確にしているという形で,ある意味で出頭確保にある程度できるのではないか。例えば海外にもし逃亡するおそれがあるのであれば,パスポートを保管するというのがイギリスや,フランスの社会統制処分の中にもあります。そういった形のものもあるだろうし,例えば,車の運転等の事件でもって,もうこれは実刑か実刑ではないか裁判がいろいろあるといった事態の場合でも,ではもう私は車を運転しないという誓約書とともに免許証を預けるとか,言わば逃亡のおそれとか,あるいは場合によっては罪証隠滅のおそれということであれば,今も保釈の場合に条件が付きますけど,一定の人間との接触禁止とか,あるいは一定の地域に立入禁止という形で,言わば罪証隠滅のおそれ,あるいは逃亡のおそれに代わる何かの代替手段をとって釈放するということは考えられていいのではないかなというふうに思います。 ● 御参考までにですが,現行の保釈の実務の運用に関して若干申し上げますと,今,委員がおっしゃられた関係者との接触禁止というのは,特に,全面否認はもとより一部否認のときもそうですけれども,否認事件で保釈をする場合では,現行の制度でもよく使われている条件だと思います。被害者等の一定の事件関係者を特定した上で,この人間との接触を弁護人を介する場合を除いて一切禁止するということが保釈条件になっております。また,先ほど身柄引受人を確保し出頭の誓約をするというお話もございましたが,現行の制度でも,そのような誓約書を差し出させることがよくあり,先ほど申し上げた準抗告の事例でも,それを裁量保釈を相当とする理由の一つとして挙げているものもございます。 ですので,少なくとも保釈条件にするという観点では,現行制度でもそういう接触禁止なりといったところは現に行われているところでございまして,それにプラスアルファで罪証隠滅なり逃亡の防止をするような措置が更に考えられるかどうかといったところが議論のポイントになってくるのかなという印象を持ちました。 ● 接触禁止が条件として付されることがあると言われましたけど,それは何か担保する方法というのはあるのですか。それとも条件として付いていて,あとで分かったときに然るべき措置がとられるというだけのことなのか,もう少し何か担保する方法があるのか。特に保釈の段階というと身柄をだれが最終的に責任を持っているかという問題もあるかと思いますし,なかなか難しいような気がいたします。   罪証隠滅の関係で申しますと,先ほど委員の方から公判前整理手続で,要は弁護人,被告人と顔を合わせることによってある種の信頼関係が確認できて,それによって罪証隠滅の点でも保釈がしやすくなるというようなことの御指摘がありましたので,それを推して考えたときに,決定をする裁判官と何らか直接顔を合わせて話を交わすような機会を設けることによって,何か積極化していくための可能性になるのかどうかというような点について,もし感覚としてあったらお教え願いたいと思います。 ● 担保の件ですけれども,今の制度ではそれは保釈条件ですので,事後的に接触していることが発覚すれば,保釈取消しになるという心理的な威嚇というところが恐らく現行制度の下では担保措置となっているのではなかろうかと思います。そこのところでだれかが監視するというわけにはなかなかいかないと思いますので,恐らくそういう心理的な威嚇というところが担保なんだろうと思っております。 ● そうだとすると,結局,それがどのくらい信頼できると考えるかによって運用が変わってくるということなのかと思いますけれども,顔を合わせるということに信頼関係という点でそれなりの意味があるということなのか。顔を合わせるだけではないのかもしれませんけれども,何か公判前整理手続以外に,委員は先ほど起訴された段階である種必要的な審査の手続を入れるということを言われましたけれども,そこで例えばヒアリングをするということにすると,顔を合わせることになるわけで,それによって何か変わってくるのか。この点についてはいかがでしょうか。 ● 顔を合わせること自体に意味があるわけではなくて,公判前整理手続で言うと,主張や証拠の整理をして,その結果として,この事件ではこういう主張をするんだということがだんだんと分かってくることによって,罪証隠滅の具体的な可能性が下がっていくことが少なくないのではないかということを申し上げたつもりなんです。 ● ただ,多分罪証隠滅といったときに,何か物的証拠を壊すというよりは証人と接触してというところが大きいのではないかと思いますが,そうだとすると,証拠を整理してこういう証人がいます云々ということが出てきたとして,証人と接触して何かそこを曲げる可能性があるかないかというのはそんなに変わってくるんですかね。 ● いったんされた主張をあとで覆すことは多くの場合不利益を伴うわけですから,実務上は大きな意味があると思いますね。 ● こういう主張をするということとの関係で,その証人に対して接触して何かができるのかというふうな,そういう具体的な考え方をしていったときに,それが限定されてくるということになるのでしょうか。 ● 申請している証人に働きかけるというのもありますし,また口裏合わせをして新たな証人を後に請求するという形の罪証隠滅ということもあると思うのですが,公判前整理手続である程度審理計画が固まれば,そういうことも難しくなっていきますので,やはり争点ですとか,証拠が確定するということは事実上の効果として罪証隠滅の余地を低減させるのだと思います。そういう意味で公判前整理手続を経たものについてはより保釈がしやすくなるということではないかなというふうに思っています。 ● 私も公判前整理手続の実務に携わっているわけではありませんので,あくまでも理屈上の可能性ということにとどまるかもしれませんけど,何らの争点とか証拠の整理をしていないということになりますと,理屈上はおよそあらゆる立証事項についてまず抽象的なレベルでいうと罪証隠滅が考えられてしまうという度合いが高いわけです。もちろん今御指摘があったようにいったんこういう主張をするといっても,理屈上はそれをひっくり返してそこを罪証隠滅をするという可能性は最後まで残るといえば残るんですけれども,やはり被告人側の主張というものが全く明らかになっていない段階と明らかになっている段階とではそこは大分違ってきて,ここでこの部分を争うんですということになれば,その部分における罪証隠滅の余地というのがそもそもないという争点の場合も当然あり得るわけであります。例えば,殺意だけ争いますということであれば,多分本人の供述などが問題でありますので,だれかと口裏合わせをするというのが余り考えられないなどというように,非常に具体的に判断できてくるということがあるんだろうと思いますし,また,例えば,争点が物的証拠の評価の問題にとどまって,証人の証言の信用性が事件全体としてはある部分があったとしても,被告人として具体的に争う部分ではそういう口裏合わせにかかわらないような争点であるということになってくる場合もあるように思います。そうだとすると,罪証隠滅のおそれはないという判断になってくるということで,公判前整理手続が進むと罪証隠滅の判断にもかかわってくるということではないのかなと思うわけであります。 ● 本日出席するに当たって,現在の実務に携わっている人から少し感触を聞いてきたので,それを御紹介したいと思うのですが,勾留と保釈のいずれについても,今現場の方向性というのは罪証隠滅の可能性というのをこれまで以上に具体的に考えましょうということをかなり強く意識してやられているようです。   その結果,どういうことが起きているかということで申し上げます。先ほどの勾留の判断でいうと,比例の原則ということをおっしゃっていましたけど,正にそういうことでありまして,例えば,現在の実務感覚からすると,痴漢事件ですとか,公務執行妨害,暴行,客引き等の事件については,自白事件であればほぼ勾留請求を却下しているんだそうです。それから,否認事件でも事案によって罪証隠滅の具体的なおそれがないと認められる場合には却下している。強制わいせつの否認でも却下することはあり得るんだというようなことのようでございます。特に身柄引受人がしっかりしていれば罪証隠滅のところについてはかなり,要するに問われる罪の大きさとの関係で具体的な罪証隠滅の可能性というのをかなり厳しく判断しているということのようであります。それが恐らく勾留却下率1.78パーセント,前年の倍か何倍かになっておりますが,こういう数字もそういう判断の積み重ねなのではないかというふうに思っています。   それから,保釈についてですが,法定合議事件,つまり権利保釈にならないものについては,やはり予想される刑が重い場合というのは逃亡のおそれの方をかなり見なければいけなくなるので,なかなかそう簡単に保釈するわけにはいかないケースが多いけれども,そうでないものについては,罪証隠滅のおそれの方をかなり具体的に考えるようになってきているようでございます。その結果として,今正に裁判官の感覚の問題ですが,保釈可能なものについては,かなりのものを保釈にしていると。それは数字でいうと,保釈許可率の数字がここ数年でかなり上がっていると思いますけれども,保釈許可率は昔はずっと50パーセントぐらいだったのがそれが6割近くになっているというのはそのあたりの判断が変わってきたことを示しているものではないかと思うのです。保釈の判断については,保釈許可したものに対してかなりの数の抗告が出ていますけれども,準抗告も含めて,それもかなりの程度維持してもらっているので,保釈の方は更に数字がそういう方向で進んでいくのではないかというのが実際に現場でやられている人たちの感覚のようであります。 ● これからの議論をより深めていただきたいという観点からの提案なのですけれども,今,委員もおっしゃられましたように,保釈の運用あるいは勾留の運用というのが相当変わってきているのではないかと。しかも検察官の目から見てもそれはものすごく変わってきているなというところがございます。それで,先ほど幹事,それから委員の方からいろいろ韓国の例等を挙げられまして,例えば,在宅と勾留の中間的なものが考えられないかという御意見でありました。いろいろな措置を執ることによって,罪証隠滅のおそれ,あるいは逃亡のおそれなりを軽減させることができるのではないかというようないろんなお話がございましたが,現行制度において,先ほどの運用の変化があってもなおかつ罪証隠滅のおそれ,あるいは逃亡のおそれがあるということで,勾留がついている,あるいは保釈が許されないといった者についても,なお何らかの措置を執れば身柄が勾留されない,あるいは保釈が許されるということが考えられるのかどうか。要するに何らかの措置を執ることによって,起訴前あるいは起訴後においてそういう罪証隠滅なり逃亡のおそれを防ぐことができる措置が何か具体的に考えられるのかどうかといったところを御議論いただければ,より議論が深まるのではないでしょうか。 ● 今の幹事の御発言と同じような感想を持って聞いていたのですが,韓国・台湾の視察に行かれて,具体的な制度を調査される以前に,そのバックボーンの話なのですけれども,先ほど委員の方からも諸外国の例が幾つか出てきたのですが,そこで言われているヨーロッパの主要国ですと,何度かここでも議論になっているのですが,裁判所の判断に対する対象者の側の心理的拘束力というものが歴史的にも,あるいは制度的にも非常に強いので,保釈許可がなされたということについて,特段の技術的な措置を執らなくても守られる場合があるし,それを破る場合には相応の覚悟が要るということで対応ができていたのだと思います。日本では今までそういう状況になかったとした場合に,近隣の諸国である韓国・台湾において,そのような思想というのでしょうか,制度の運用に対する基本的な発想があったのかどうか,もしも発想の点では日本に近い状況にあったのでしたならば,2か国における近時の状況について学ぶべき点が多いだろうと思うのですが,もしもその運用以前の理解ないし発想がかなり違っているのであれば,日本において制度を変えるとすれば,ヨーロッパ型に切り替えるか,あるいはそこまで本格的に変えるのではなく,もう少し技術的な対応に止めるのかということを,いずれにせよヨーロッパの制度を念頭において決めていかないといけないと思います。 ● 今の点について,何かございますか。 ● 韓国がどうしてこのように変わってきたのかということの一つは,韓国は既に今年の2月から裁判員制度が試行的に導入されています。そういった制度を根本的に変える上で刑事訴訟法を全面的に変えようということで,昨年の国会で刑事訴訟法を改正して,今年の1月1日から施行しているという状況下があったと思います。それと,それを推進しようというものの一つが,どうも日本の最高裁判所の長官に当たる方がそういうふうな制度にすべきだということを強くおっしゃって,自分が就任した後かなり改革のために動かれたというふうに聞いております。その当時,正に大統領は弁護士出身だったということもかなり強く影響したのではないかなと思っています。それ以前から少しずつその保釈のいわゆる勾留の在り方等が変わってきたというのもやはりその前が自らが刑事被告人なり被疑者を経験した大統領だったということもかなり影響しているのではないかなという感じがします。 ● 私の方から幹事にお伺いしますが,日本で保釈が認められにくい類型として外国人犯罪,覚せい剤などの薬物事犯があると思いますが,その点,日本と比べて韓国で違いがあるかについて,どういう印象をお持ちか,お教えいただければ有り難いのですが……。 ● どういう事件について保釈が認められていないのかというところまで突っ込んでちょっと聞けなかったものですから,それは申し訳ないのですが,最後に残ってしまっている勾留されている人がどういう人なのかというところについては,ちょっと定かではありません。 ● 感想ですが,保釈の運用を積極化する際に,委員も幹事も御指摘されていますが,出頭確保のためにどういった他の現実的な措置を採るかということと,それにもかかわらず出頭がなされなかった場合の対応というのをよく考えないといけないと思います。私が経験したところですと,イギリスでも公判期日に被告人が不出頭ということは,まま,あります。そういうときには即座に,日本流に言いますと,保釈が取り消されることになりますが,そういうものは比較的軽微な事件においてであって,向こうは陪審制度がありますが,陪審裁判で扱われる重大な事案の場合にはそういうことが起こらないように十分な措置を講じるようにしているというのが,裁判官からの説明でした。ですから,日本で保釈を積極的に行うにしても,やはり罪種に応じて考える必要があるのではないか。保釈をするということは被告人に対して,今後の刑事手続の運営に協力をするということを誓約させて,心理的には誓約をさせて社会に置いておくということですから,そういったことを要請する趣旨がどの罪種について妥当するのかということを理念的に考えると同時に,それが技術的に破られないようにする制度があるか,この二つを考えないといけないと思っております。 ● 先ほど,幹事から,逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがある場合に,現行制度の下で採られている手段にどういう措置をプラスすることでそれを解消できるのかという点がポイントではないかという御発言がありました。それを考える前提としてお伺いしたいのですが,最初に話題になりました国選弁護人の割合が増加したことと保釈率が下がったことがどういう関係にあるかという点について,国選弁護人の選任率が増加しているということはそれだけ資力のない被告人が増えているということを意味しており,そうすると,保釈保証金を払えない被告人が増えているわけだから保釈の請求率も減り,結果として保釈率が落ちているのだというようなことも言われています。この説明はある程度当たっていると思うのですが,そうすると,やはり保釈保証金の問題というのは結構大きな問題だと思います。そこでお伺いしたいのは,先ほどの幹事の御発言の中で,現在でも保釈の際に,身柄引受人から誓約書を出させるというのはよくあるという御指摘がありました。そうしますと,実務上は,そのような誓約書を出せたとしても,やはり,それとは別に保釈保証金を支払わせないと出頭が確保できない事件がほとんどだという感覚なのでしょうか。現在は,保釈の際には保証金を設定することが必須ですのでそうしているわけですが,誓約書があればそれを取らなくても出頭が確保できるという場合も,あるように思うのですが,それはどうなのでしょうか。端的に言ってしまえば,出頭しないとお金が没取されてしまうというのはそれほど重要なことなのかどうか,実務の感覚が分からないものですから教えていただきたいのですが。 ● お答えになるかどうか分かりかねますが,やはり保釈金の没取という心理的威嚇は相当大きいところがあるはずであって,なかなか仮定の話になって難しいところでありますけれども,やはり誓約書を出すということだけではなく,逃げたらいろいろな不利益を被りますよ,罪証隠滅をしたらいろいろな不利益を被りますよというところの心理的担保がないと,特に判断する側はなかなか判断しにくいのではないかなという感じであります。 ● 前に出たことと関係するかもしれませんが,韓国では不拘束が原則だという御指摘がございましたけれども,そこはいろいろ日本の実務に対する評価はあろうかとは思いますけれども,捜査側で申し上げると,我々としても,任意捜査が原則であって,不拘束が原則だということでやっているというのがまずございます。日本の場合は,その上に,初犯で何かをやったらいきなり正式に裁判になって,直ちに拘束されると,そういう運用にはなっておらず,最初は起訴猶予になるなどして,いろんな段階を経て,いよいよ犯罪傾向が進んでくると,裁判になり,更にはそれに伴って拘束されることとなるというようなことが多いと思われます。そういう意味で韓国と比較してどうかというのは,韓国の制度とか運用とかというのを承知しておりませんので,余りよく分かりませんけれども,少なくとも承知している範囲では,欧米のような,むしろまず身柄をとって,そこである意味,正式な捜査なり公判の手続を開始するというやり方,最初に原則として身柄の拘束があって,それからかなりの部分を釈放して進んでいくというものとは,ちょっとやり方が違うのかなという認識でもともとおりました。それが正しく身柄不拘束が原則になっているのかどうかというところにはもちろん評価の違いがあるんだとは思いますけれども。   そういう前提で,先ほどおっしゃられた保釈保証金を取らずに保釈するということについてでありますが,そこでもちろんこの人とは接触してはいけませんとか,この人が身柄を引き受けますということについて,保釈保証金の没取というような担保措置がなくとも問題がない場合というのは,そもそも身柄を拘束しないのではないかとも思うわけであります。いったん拘束されている人というのはやはり基本的にはもともと罪証隠滅なり逃亡のおそれがあった者ですから,捜査の進展とか,先ほど出ました公判前整理手続の進展とか,いろんな要素で事情も変わってきますけれども,これらの者を何らかの条件を付けて釈放しようということになりますと,実務的感覚から言うと,そういう条件,特に接触禁止の条件について,実効があるものとして考えているかというと,そういう感じは余りないのではないかと思います。そういうことからすると,保釈保証金というものを仮になくすということを考えるのであれば,やはり,それに代わる効果的な実効力のある担保措置というのが考えられるべきではないのかなという印象を持っております。 ● もしそうであれば,要するに,保釈の条件を守らない場合には何らかの不利益を課さないと駄目だということなのでしょうから,保釈保証金の設定を必須にしないとすれば,その没取に代わる不利益措置として何があり得るかということを考えざるを得ないだろうと思います。外国の例だと,例えば,裁判所侮辱による制裁のような手段があり得るのでしょうけれども,日本にはそれがありませんので,考えられるとすれば,保釈の条件違反に対して罰則規定を設けるといったことかと思います。被告人の経済状態によって保釈が認められるかどうかが異なるのは不平等であるという観点からすれば,万人に平等な罰則の方がいいということになるように思いますが,条件違反に罰則をかけること自体の問題も当然出てくるでしょうから,それを代替手段として考えるとすれば,その点を更に検討する必要があると思います。 ● 私は,保釈の実務について疎いのですが,弁護人が保証書を書かれるというケースは頻繁にあるのでしょうか。そして,そのときこれはいざとなれば没取されるというリスクもお考えになっているのでしょうか。 ● 私は過去に何回か保証書を出したことがあります。そのときはやはりもし逃げられてしまうと私どもが払わなければならないという覚悟を決めております。その意味では一見のお客のような方にはなかなか提示しにくいんですけど,長い付き合いの中できちんとした方であれば,それはそれで信用しましょうということになると思うんですね。 ● ほかにいかがでしょうか。   では,ここで休憩を取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ● それでは,会議を再開させていただきます。 保釈についてなお御意見がございましたら御発言をお願いいたします。 ● まず,先ほど検察官の立場から,あるいは裁判所の立場からかもしれませんけれども,保釈金がそれなりに威嚇になっていて,それとセットであれば,それがセットであるということでいろんなことが担保されるというようなことがお話であったと思うのですが,果たして本当にお金というものがそれだけ強いウエイトを占めているのかどうかということをちょっと考えてみる必要があるのではないかなと私は思います。それはなぜかと申しますと,先ほど申し上げましたように,韓国においていわゆる保釈保証金を保険金で払うという形のやり方がとられているということで,そのことによって,では逃亡したり逃げたりなんかしているかといったら実はそれほど多くはないんですね。そうだとするならば,それはもちろん何らかの形でその保険の関係で自分は経済的な負担をしたいけれども,もし,払えないような事態になってしまうと求償されるということはあるのかもしれませんけど,ある意味で,場合によってはそれほどお金というのが大きなウエイトを占めない人もかなりあるのではないだろうかというふうに思うんですね。   もうちょっと申し上げますと,先ほどの後半の議論は,ほとんど起訴後の保釈についての関係で,罪証隠滅なり逃亡のおそれという話があったんですが,実は起訴前であっても,勾留請求されて勾留されることと在宅で行われることというのは,これは天と地ほど違うんですよ。そうだとするならば,ここにも第三の道があって,いわゆる多分保釈の場合に比べてかなり厳格に運用されるとは思うんですが,いわゆる逃亡のおそれとかあるいは罪証隠滅のおそれを防止できる何かがあれば,場合によってはその第三の道でそういう条件付きである種の誓約付きで外にいわゆる釈放するという道があってもいいのかなということを私は考えているのです。そうなってくると,多分強力な何か担保措置が要るんだろうと思うのです。例えば,逃亡のおそれといった場合に,私はこれでもって勾留されてしまうと23日間会社に行けなくなって,もうここの会社で働けないという思いがあるんだとするならば,恐らくその被疑者は自分でこれは当局の方からもし電子監視をされるということであれば,それはその期間されてもいいという,自ら自分で名乗り出た場合,これはある種の意味で逃亡のおそれを担保できる強いものだろうと思うんですね。それから,今度罪証隠滅のおそれの場合についても,場合によっては,これは接触禁止をかなりもっと厳格にいろんな形で条件を付けていくということでもって,釈放するということもあり得るのではないかなと思うのです。   そこで一つお聞きしたいのは,勾留請求で勾留を棄却するか却下するか認容するかというような場合について,第三の道があったら,それを考えられるのかということを感覚として裁判官あるいは検察官の方にお聞きしたいと思います。 ● 委員,裁判官の立場からいかがでしょうか。 ● 勾留するかどうか迷うケースというのは当然やはりあるのです。身柄を勾留するとその人の社会生活にとって大きな影響が出るということは当然考えられるわけであります。他方でやはり捜査の初期の段階ですので,罪証隠滅のおそれということを考えなければならない。逃亡のおそれが主要な問題になる類型の人というのももちろんいるわけですが,例えば,きちんとした職を持っている人で,家族もおり,被疑事実もそれほど重い罪ではないというようなケースで言いますと,罪証隠滅のおそれの方が主たる検討要素になります。もちろん単に罪証隠滅するかもしれないということで勾留しているわけではやはり当然ありませんで,具体的にいろんな可能性を考えてみるわけです。例えば,いろんな証拠になり得るものが自宅にある可能性もあるわけです。そうするとやはり捜索や何かをやってみないとなかなかその段階で帰すわけにはいかないというようなケースもあります。それから,重要な証拠が証人である場合について言えば,特に近しい関係の人なんかですと,罪証隠滅のおそれ,要するに口裏合わせの可能性ということをやはり考えなくてはいけません。その意味で捜査の初期の段階では罪証隠滅のおそれがあると言わざるを得ないケースが少なくないということなんです。先ほどちょっと御紹介しました,最近,痴漢や公務執行妨害等の事案で,認めている事案ではほとんど勾留していないようですと申し上げたのは,恐らくそういうケースでは,これまでは例えば痴漢の被害者と同じ電車に乗り合わせるように時間を調整して働き掛けをするのではないだろうかと,そういうことまでを考えて勾留していたこともあるのだと思うのです。しかし本当にその罪でそこまでやるだろうかということを考え出すと,その実質的なおそれというのはかなり低いから,勾留しなくてもいいんではないかという判断が増えてきているんではないかと思うんですね。何を言いたいかというと,結局,第三の道をつくるといっても,それに的確に対応できるような第三の道というのはどういうものがあるのかなという感じが一つします。   また,何せ,捜査の初期の段階のことですので,なかなかよく実態が分からない。つまりどういう罪証隠滅のおそれがあって,それをどういう手段を,どういう方法を講じればそれを防止できるのか,というのが捜査の初期の段階に分かるのかなという感じもいたします。 ● やはり,まず,どのような制度をお考えになるのかというのが分からないと,基本的にそれで足りる,足りないという回答はできないですし,そのほかに申し上げると,やはり捜査の初期ということになりますと,その事件の広がりとかそういうものというのは,裁判所がお分かりにならないのもそうですが,捜査官の側にとっても捜査をしてみなければ,とりあえずの現象面は見えていても,共犯者の有無とか,どこまで事件として広がるのかというのが分かりませんので,どの程度の罪証隠滅措置で足りるのかというのも分からないと思います。例えば,接触禁止という条件を付けるにしても,およそだれとも会うなというわけには,身柄を釈放する以上は,いかないでしょうから,具体的な人を挙げて特定する必要があるでしょうが,だれを挙げていいのか捜査機関としても分からないという場合がかなりあるのだろうと思います。  更に申し上げると,罪証隠滅の関係でいうと,特に昔とは違いまして,電話があるのはもとより通信手段にはいろんなものがありまして,罪証隠滅を防止するための何らかの担保措置を付けるにしても,恐らくは事後的にチェックするものになってしまうので,密かにやるというインセンティブがどうしても働くのであろうと思います。どういう措置をお考えになるかは分かりませんけれども,本当に有効な措置ができるのかという問題もやはりあるのであろうという気がして,いろんな課題はあるのかなという印象であるということでございます。 ● 委員から韓国の保険制度についてのお話がありましたので,幾つかお尋ねいたします。その点に関する日弁連の資料では,保険の手数料は非常に安いという書き出しですけれども,後の方で具体的な金額を書いてあるところを見ますと,むしろ10パーセントに近いかなり高額であるという印象を持ちますが,これはどうなのでしょうか。それから,事故率が年間一けたであるということですけれども,これはもう保険会社自体がある程度セレクションをして,逃亡しそうな人の保険は受け付けないということをやっているためでしょうか。 ● 保険の利率については10パーセントではなくて期間の長短を問わず0.64パーセントというふうに言われています。したがって,例えば,100万円ですと6,400円,500万円でも3万2,000円というかなり低い率で運用されているようです。 ● 確かに,日弁連の資料には,0.64パーセントという数字も出ているのですが,次のページには500万ウォンとか700万ウォンとか非常に高額の数字が記載されておりますが。 ● 御指摘の資料は先々週の日弁連の報告会のために急きょ作ったものなので,恐らく私どもの理解ではすべて0.64パーセントと理解しており,高い保釈保証金の場合も利用されているというふうに聞いているので,恐らく誤記ではないかと思います。もう少し調査をさせていただいて,正確なものを後で提示したいと思います。それから,事故率ですが,年間で6件から9件であり,率にして0.1から0.2パーセントということのようです。この事故が起こった場合についても回収率が62パーセントということで,保険会社としては赤字にならずにきちんと運営ができているというふうな回答をいただいております。 ● この制度から連想するのはアメリカのボンズマンというやり方ですが,あれは全国のボンズマン組織があって,逃亡すれば追及するんですね。韓国の場合そういう点はどうなっているのでしょうか。事故が非常に少ないとすれば,重大な事件は初めから取り扱わないのではないですか。 ● まず,だれがこの保険契約をするのかということなのですが,被告人もできますけれども,実際上は審査をいたします。また,その被告人では駄目だという場合について,被告人以外にどなたかいるなら,その方でやってもらいたいと。そうすると,その方に対してもし問題があれば求償するという形をとるという形になっていますので,そういう審査があるというふうに聞いています。したがいまして,かなり重い刑になってしまった場合,実は保釈そのものがなかなか認められない。むしろそういう刑についてはずっと勾留されているパターンとして20パーセントの中に入っているというふうに聞いています。 ● 今のこの韓国の保険の関係ですけれども,保険でうまくいっているから,保釈保証金というものが要らないのではないかというと,それはちょっとなかなか理解が直ちにしにくいように思われます。と申しますのは,保釈保証金の保険制度というのも,結局,求償権の存在が担保力を持っているという制度であると思われます。求償権も事実上行使していなくて,担保としてやっていないというのであれば,むしろそれは保釈保証金をなくすというのが普通の在り方なんではないかなという気がいたします。保釈保証金の保険という制度が,求償権を担保とする制度であるならば,それは結局形を変えているだけで保釈保証金の担保力ということにすぎないのではないかと思うので,保険が保釈保証金の要らない理由には余りならないような気がしますけど,いかがなものなのでしょう。 ● おっしゃる趣旨はよく分かります。自分の身銭を形の上では切ってないからという形で申し上げたつもりだったんですけど,確かにおっしゃることは分かります。 ● 保釈保証金というのは,とにかくまとまったお金をすぐに納めなければいけないわけですね。例えば,フランスの司法統制処分というのは何回かに分けてというのもあるようです。そういうことでその被告人なりの支払能力に合わせた形の保証金の支払方法というか,裁判をやっている期間がどのくらいかによって分割払にしてしまっては実際に払える金額というのは少ないのでしょうけれども,お金の払わせ方の工夫というのもあり得るのではないかと思うのです。保険というのももちろん一方であるでしょうけれども。そのお金を何らかの形で本人の身銭を切らせるという意味では,もし違反すればそれは没取されるし,場合によったら更にずっとお金を支払う義務を負い続けるというような形もあってもいいのではないかという気がします。 ● 現状では,保釈請求率が三割を切っているわけです。また,裁判所の目から見ていると,保釈請求がないために保釈できないという事件が実は相当数あるような気がするのです。その原因として,保釈保証金が高額化しているとの指摘があります。確かに統計のある平成10年の数字でも,昭和62年よりはかなり上がっているようですので,それが一つの要素になっているのかなという感じがないわけではありません。ただ,実務の感覚で申し上げますと,保釈できるのに保釈金が用意できないから保釈しないという判断をしているものというのは,実際上はそんなに多くないのではないかという感じもします。つまり保釈金としてどれだけ用意できるのかという話は当然弁護人とお話ししますので,この被告人はどんなに頑張っても150万円は出せないが,100万円までなら用意できますと言われれば100万円で保釈しているのではないかというのが私の感覚なんです。そうだとすると,本来保釈されるべきものが保釈されていないのは,保釈金が高すぎるということだけでは必ずしもない。やはり保釈請求されるべきものについて保釈請求されていないことについて,他にも検討すべき要点があるような気がするのです。   昨年,日弁連で保釈請求キャンペーンというのをやられたようなふうに聞いておるのですが,取りまとめはどういうふうになっているのでしょうか。 ● 昨年のキャンペーンは平成19年度ですけれども,ここの統計資料には18年,19年度は実はその数字が反映していないんですよね。刑弁センターの方でもキャンペーンをやった割にはそれが反映されていないということで,非常にデータとしてはここにあらわれているような形になっているということがあるので,ちょっとその運動が足りなかったというような分析をしているようには聞いています。 ● 必ずしも全部がそうかどうか分かりませんけれども,そもそも保釈の請求をするというのは,一定程度お金が用意できそうだからするわけですね。およそ無理だと思ったらそもそも請求をしないわけなので,裁判所との間でではこのぐらいしか払えませんというのは,それなりにお金がある人,用意できる人なんだろうと思うのです。そこにまで到達しないけれども,何とか頑張ってお金は払いたいと思うと。だけれども,その100万単位のお金は払えないというのももちろん数としてそんなに多いかどうか分かりませんが,一定程度はあるのではないかという気がいたします。 ● 今おっしゃったことは全くそのとおりだと思います。実際問題として,100万円であろうが50万円であろうが,用意できないという人がいるんだろうという感じがいたします。その人たちについてどうするかという議論は,それはそれでしなければいけないと思いますが,そうでないのにやっぱり保釈請求されていない部分についてどうするべきかということはちょっと別の問題として考える必要があるのではないかなという感じがいたします。   統計的なことで申し上げますと,今日のお配りいただいた統計資料11の1を見ますと,実は昔は保釈請求率がものすごく高かったんですね。これは昭和40年から50年にかけては100パーセント,これは勾留件数に対する保釈請求件数ですから,一人について二回保釈請求があれば100パーセントを超えるということになるわけですけど,昔は要するにほぼすべての人について一回保釈請求されているというぐらいの確率で保釈請求されていたものが,最近はどんどん減ってきていると。そこはその保釈金額の高額化という問題のほかに要素があるような気が私はやはりしていまして,そこの分析というのはやはり弁護士会がメインとなってやっていただかないと,なかなかよく分からないなという感じがするものですから,弁護士側にも更なる努力をお願いしたいとの趣旨で申し上げたわけです。 ● ちょっと話がまた戻りますが,未決の段階で,もし制度として考えるとしたら,恐らく保釈保証金は起訴後に比べて数段跳ね上がるような形のお金を用意しなければ駄目とか,かなり威嚇力はもっと強くなるのかなという感じはしているのですが,捜査をする検察官の方は,もしそういう制度になったら困らないですか。まだ,どういうものかということが想定されていない段階で言うのはおかしいんですが。 ● ちょっと御趣旨がよく分からなかったのですけれども。 ● あえて申し上げますと,例えば,保釈ではなくてその段階で何らかの代替措置で外へ出た場合に,例えば,私は,弁護士会はともかくとして,取調受認義務を認めますと,必ずお呼び出しがあれば参ります,取調べを受けますというような形をとるということも一つの条件に入るということもあり得るのではないかと思いお聞きしたところです。 ● 身柄拘束と取調べの問題については,いろんな御議論が御承知のとおりにありまして,あえて申し上げていませんでしたけれども,それは難しい議論に当然なるであろうと思うのです。もし,代替措置の導入ということを本当に考えるということになれば,取調べの位置付けというものの議論というのは避けて通れなくなるという気はいたします。それで日本の捜査は大丈夫なのかということは,警察・検察としてはやはり問題としては提起せざるを得なくなるんだろうとは思います。   それから,やはり保釈保証金が高額化しているということにも関連するかもしれませんが,また繰り返しになりますけれども,特に罪証隠滅ということを考えると,非常に発覚しにくいという要素がありますので,身柄拘束に代わる本当に効果的なものがあるのかというのは,特に捜査段階では大きな問題になるだろうという気はいたします。ある意味逃げ得という要素が増えはしないかという疑念は非常に強く感じます。 ● 捜査の立場から同じ意見でございますけれども,警察においても,この人は逃げるのか逃げないのかとか,証拠隠滅をしそうなのか大丈夫なのかというのは非常に判断が難しいと思います。また,起訴前の話ということであれば,私どもの理解というのはやはり捜査段階の23日間で捜査をやり遂げるというのが基本的な制度であり,多分外国というのは数か月起訴前の勾留という制度がある中でそういうことはあり得るのかとは思いますが,私どもは,この23日という期間制限があるだけではなく,任意捜査の原則の下で非常に厳選して逮捕状あるいは逮捕権の運用をしていることに加え,身柄拘束の節目節目で留置・勾留の必要性を,裁判所を始めとするそれぞれの機関が判断して,厳格な運用がなされていると考えています。   このように,私どもは,そもそも起訴前の身柄拘束期間が短い上に,身柄拘束の必要性についても慎重に判断されるという制度設計になっていると理解しており,実際にも,現行制度を慎重に運用しているということを,私の個人的考えでございますけれども,披れきさせていただければと思います。 ● 身柄拘束という関係でいうと,韓国もやはり30日ぐらい身柄拘束されるんですね。身柄拘束された場合については,起訴まで。そういう意味では,日本と制度がもともと似ていますのでね,それでも,なおかつ,かなり釈放率が高いというのは何なのかなという,それが日本人と韓国人の違いがあるとは到底思えないんですね。そういう意味で何か考えられないだろうかということで問題提起をしているわけなんですが。 ● 今の点いかがでしょうか。   韓国では逮捕前置主義が採られていないという御指摘がありますが,それとの関連についてはどのようにお考えなのでしょうか。 ● 日本と違って逮捕前置主義は採られていないし,警察の捜査は10日間というふうに決められているんですね。ですから10日を過ぎてしまうと警察に留置しておく必要もないという形になるという関係からも日本のような代用監獄の制度もないという形になっているんですけどね,確かに逮捕前置主義が採られていないんですけれども,勾留請求の段階,だから逮捕前置主義を採らずに勾留請求をしていくという形をとるという形になっているんです。実は勾留請求の段階では,これから日本もそういう制度になってくると思うのですが,この段階で弁護人がいなければ弁護人を付けて,弁護人も意見を言って,勾留請求についての却下を求める,あるいは勾留認容を検察官が主張するというやり取りがあって勾留が決まると。なおかつ,更にいろんな調査をした上で勾留期間中に勾留適否審査をするという形の手順でやっているということなんですね。 ● 保釈に関しまして,何かほかに御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 委員のお話を伺っていて,起訴前の問題ですが,今日は保釈の話なので大体は起訴後のことだけを考えていたわけですけれども,起訴前でも問題があるぞという御指摘で,23日間社会から切り離されたら大変なことだとおっしゃいましたが,私は平野龍一先生も似たような感覚を持っておられたと思います。それで,この起訴前の身柄の拘束というのはもっと高い基準でやらなくちゃいけないし,例えば,ドイツあたりでもそうやっているというお話を承ったことがあります。ただ,先生は,その後が公訴の提起については,むしろこの身柄拘束の基準より低くていいのであると。ある程度の証拠があれば起訴して,あとは裁判所に任せるというのが本来の行き方であるというふうに言っておられまして,その両方に納得する人はなかなかいないような気がするのですが,委員はいかがですか。 ● 非常に悩みますけれども,私はあらゆる機会にそういう機会があった方がいいかなという思いでお話を申し上げたのですが。 ● 本日の勾留の話を聞いていまして,やはり被疑者弁護のことも含めて考えた方がいいかなという感じがいたします。つまり,今後,正に先ほどおっしゃっていたとおり,被疑者段階で弁護士が付いて,例えば,逃亡のおそれがないこと,あるいは,罪証隠滅のおそれがないことについて勾留請求するかどうかの判断に際して検察官に対して意見を言う,あるいは勾留質問の前に裁判官に面接を求めてその点をあらかじめ言っておく。その結果として勾留請求されなかったり,勾留請求が却下されたりということが想定されるわけです。最近ある弁護士会の会報で,そういう可能性,やりがいについて触れられているものも読みました。私は全くそのとおりだと思うんですけど,制度論と同時に,やはり弁護士がどういう活動をしていくのかということについても,議論しておくべきではないかというふうに思います。 ● それに関連してですけれども,法律上なのかそういう制度としてなのかどうかは別として,先ほど委員が言われたこととか,今言われたこととの関連で申し上げますと,被疑者段階でも,勾留か全く何もなしかということだけではなくて,その中間のものがあって,例えば,弁護人がこういうふうにさせるから勾留は付けないでくれというようなものは,やはりあるんではないかと思うのです。だから,そういうものについてどんなものが考えられてお互いにどういう形でやっていけるかというのは,今後も検討していく必要があるのではないかというふうに思います。それとの関係でこれから議論することになるであろう連絡方法というのも一つ何らかの形で使えるものなのかなというふうに思っております。 ● これまでの御発言から明らかなように,議論が既に次のテーマに一部入っているようですので,ほかに御意見等がなければ,「保釈の在り方」についての御議論はこのあたりにさせていただき,次のテーマに進みたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,「社会内処遇対象者等の連絡確保又は所在確認の方法・在り方」のテーマについて議論いただきたいと存じます。   ところで,「社会内処遇対象者等の連絡確保又は所在確認の方法・在り方」と申しましても,例えば,その対象者や,連絡確保等を行う場面としてどのようなものを想定するか,また,連絡確保又は所在確認の方法としてどのようなものを想定するかについては様々なものが考えられ,それらによって,その具体的在り方も様々であると考えられます。そこで,議論の焦点がより明確になるよう,私としては,考えられる制度の大きな枠組みや検討事項を整理した上で御議論いただくのが適当ではないかと考えております。   本日,皆様のお手元に配布している配布資料34は,私が事務当局と相談して作成した資料でございます。そこで,まず事務当局の方から,この資料とこれに沿った議論の進め方について説明していただきたいと存じます。 ● お手元に配布資料34として,「『社会内処遇対象者等の連絡確保又は所在確認の方法・在り方』について」と題する1枚ものの資料をお配りいたしておりますので,この資料について御説明いたします。   社会内処遇者等の連絡確保又は所在確認の方法・在り方につきましては,先ほど部会長がおっしゃったように様々なものが想定されるところです。そこで,この資料におきましては,これまでの部会での御議論や外国制度の御報告等を踏まえ,この配布資料34の1と2において,考えられる対象者や場面,方法を例示として幾つか掲げたものでございます。   まず,「1 考えられる対象者及び連絡確保・所在確認の場面」といたしまして,①社会奉仕を義務付けられた者,②保護観察対象者,③保釈中の者を掲げるとともに,それぞれについて連絡確保等を行う場面を例示として掲げております。なお,社会奉仕を義務付ける制度の導入の当否,その他の社会内処遇等の在り方,さらには今御議論いただいた保釈の在り方について,当部会において一定の結論が出たわけではなく,今後更に御検討いただくべき事項も残されているところでございますので,引き続き御検討いただきたいと考えておりますが,ここに掲げている例につきましては,これまで当部会において御議論いただいており,諸外国における法制の御報告においても,これらの者に対する連絡確保等の制度について御紹介いただいておりますことから,差し当たって,例として掲げさせていただいたものでございます。   また,「2 考えられる連絡確保又は所在確認の方法」といたしまして,①定期的な電話連絡をさせること又はこれを受けさせること,②携帯電話等を貸与し,これを常時携帯させること,③機械的方法による連絡確保又は所在確認を掲げております。これももちろん例示として掲げさせていただいたものでございます。   他方,この1と2とは別の観点となりますが,このような連絡確保等の制度を仮に導入するとした場合,法改正が必要なものもあれば,現行制度の運用で実施できるものもあるかと思われることから,検討の視点の一つとして,「3 法改正の要否」も挙げたところでございます。   もとより,この表題のすぐ下に記載しておりますとおり,ここに掲げております検討事項は,これまでの御議論等を踏まえ,当面考えられるものを挙げたものでございまして,今後の部会での御議論を,本資料に記載した範囲に限定しようという趣旨のものではございません。   そして,この資料に沿ってどのような進め方で御議論いただくのが適当かというところの御提案でございますけれども,この配布資料34の1から3に掲げた事項は,それぞれ密接に関連し,これらが組み合わさって一つの制度の大きな枠組みとなるものでございますので,1から3に掲げた各事項を踏まえつつ,社会内処遇者等への連絡確保又は所在確認のための制度として導入が考えられるものがあるのかどうかなどについて,御議論いただくのが適当ではないかと考えております。 ● ただ今,事務当局から,お手元の資料の概要と本日の審議の進め方の案について,私と事務当局であらかじめ相談したところを御説明していただきました。まず,ただ今の御説明につきまして,何か質問がございましたら,お願いいたします。   特にございませんようですが,私としましても,議論の焦点を明確にするためには,事務当局から御説明のあった方法で御審議していただくのが適当であろうと考えていますが,皆様の御意見はいかがでしょうか。   それでは,特に御異議がないようですので,先ほど事務当局から御説明がありましたような進め方で御議論をしていただきたいと存じます。どうぞ御自由に御発言をお願いいたします。 ● 議論の前提として,現在の運用において,連絡確保や所在確認のためにどのようなことをやっていらっしゃるかを教えていただけませんでしょうか。特に保護観察対象者について問題になると思うのですが,連絡方法としてどのような方法をとっておられるか。例えば,配布資料34の2の①にある電話連絡をさせるといったことなどをやっていらっしゃるのでしょうか。   それから,もう一つ,以前,電子監視に関して議論になった点ですが,例えば,保護観察対象者に対して,夜間の外出禁止を特別遵守事項として設定することが,現在の実務であり得るかということを教えていただけますでしょうか。 ● 現在の実務でどうかということで,まず後者の方でございますけれども,夜間の外出を禁止するということを,例えば,特別遵守事項で決めているという例については,ちょっと私は承知しておりません。   また,一般的に,保護観察対象者について所在確認をどのようにしているかということでございますけれども,これは保護観察におきましては,所在の確認自体を目的として何かやるということが端からあるという感じではございませんけれども,地域社会で生活する中で指導するという全体の枠組みの中でその所在も確認していくということになります。少し具体的に申し上げますと,当初の段階では担当の保護観察官なり保護司なりがその自宅,居宅を訪問することによってその所在を確認し,あとは,月に二度あるいは三度,本人の側から保護司ないしは保護観察官を訪ねてくるというような日常的な接触の中でその所在を確認していくということであろうというふうに思います。特別な事情がある場合には保護観察官なり保護司なりが対象者を訪問して確認したり,家族あるいは周辺に住む友人等に聞いて確認するというようなことも当然にあり得るというふうに思います。   エピソ-ド的に申し上げますと,携帯電話の普及によりまして,現にいるかどうかを確認するということが難しくなったということがちょっと問題だということを保護司さんがおっしゃることはあります。かつては,自宅に電話をして,保護観察を受けている者が現に電話に出てくれば,そこにいること,つまり家にいることが確認できたわけですが,今は携帯電話に出ても,それだけではどこにいるか実際は分からないというようなことはエピソード的に申し上げたいと思います。 ● やはり質問なのですが,保釈中の者について制限住居に居住しているかどうかの確認は現実には裁判所はやっているんですかね。 ● 通常,公判期日に順当に来ている限りは確認の必要がないので,私はやっておりませんでしたし,一般的にもやっていないのではないかと思います。ただ,保釈された被告人が公判に出頭しなくなったり,あるいはたまたま別なところにいて,例えば事件に巻き込まれたなどということになると,どうしてそこにいたのか,それが保釈条件に違反していないのかというようなことを弁護人を通じて確認をし,場合によっては保釈の取消しを検討するということになろうかと思います。 ● 今の保釈の話に関連してですけれども,仮に保釈中の者について制限住居に居住しているかどうか確認する場合,現在の法制度の下では,その確認を行う主体は裁判所になるのですか。 ● 制限住居の保釈条件を決めているのは裁判所なので,裁判所ということになるでしょうけれども,本当に調査しようと思うと裁判所にそういう能力はありませんので,例えば検察庁に頼んだり,あるいは検察庁を通じて警察に頼んだりして,所在調査をやってもらうことになるのではないかなと思います。 ● その場合の所在調査の法的性格はどういうものになるのですか。司法警察活動ではないですよね。 ● そうなるのではないでしょうかということを言ったまでで,実際にどのように調査しているのかということを承知しているわけではありません。所在調査の必要性が生じる場合はどういうケースかと考えると,もともと保釈条件で制限住居を決める場合でも,通常は3日ぐらいの国内旅行については除いてありまして,制限住居にずっといなければいけないという形では保釈の場合は制限していないケースが大多数だと思うんですね。例えば2,3日旅行に行っていても,それが保釈条件に違反していない限りは制限住居に住んでいないという判断はしませんので,そうすると,先ほど御質問があったような,制限住居に常時いるかどうかということの調査が必要になるようなことはほとんどないように思います。   私が過去に経験した事例では,ある地裁の管轄区域内に制限住居があったのに,かなり離れた別の地裁の管轄区域内で別の事件の関係で逮捕されまして,その逮捕事実の事件自体は釈放になったわけですが,なぜそこに彼がいたのかを調べなければいけなくなり,その結果,どうも保釈条件に違反していたのではないかという可能性が生じたという事件を経験したことがありますので,そういう場合のことを思い出してお話をしたわけであります。 ● 今の件に関して何かございますでしょうか。警察の協力関係とか……。 ● ちょっと具体の実務が分かりませんが,確か指名手配と同様に逃亡被告人の手配がありましたので,もしそういうことがあれば,職務質問等をして,そこでそういう人がいれば把握するという制度にはあるのではないかと思っておりますが,なかなか数がそう多くないものですから,私としてもちょっと詳しいことは承知しておりません。 ● 確認したかったことは,所在確認をする場合の主体ですが,例えば,配布資料34の1の①については,それをどういう法的枠組みでやるかによるでしょうし,1の②の保護観察であれば,保護当局ということになるでしょう。けれども,これに対し,1の③の保釈中の者について所在確認の方法等を何か考える場合,仮に裁判所が行うということになるとすると,現実問題として,そこで行うことのできることもまた性格が変わってくるのではなかろうかという点です。その意味で,配布資料34の1の①・②と,③とでは,少し性格が異なり得るかなということなのですけれども。 ● ただ今,それぞれの性格の違いという御指摘がありましたが,それとの関連で何かまた御意見がございましたらお願いします。 ● 私もそれはちょっと感じておりまして,例えば保釈中の者ですと,特にそういうことが疑われておらず,現実にはまだ実際上は何も裁判所ではしていないということだとするならば,それにもかかわらずそういう人について,資料の2の②で考えられるような形で不意打ちのような形で来るとかという形のものが果たしていいのかどうかという,そういう3日以内の旅行は何も届出をしなくてもいいのに,その3日の合間に電話がかかってきて,あなたいないではないかということで,いや旅行中でしたとか,そういう言い訳までしなければならないのはどうかなという感じはちょっとしていますね。社会奉仕を義務付けられた者のように,所定の場所にいるかどうかということについては,ある種の意味では,資料の1の①,②,③,すべてについて考えられると思います。それから,仮釈放で保護観察対象の場合であっても,恐らく旅行の問題について許可の問題があるので,保釈と似たようなところが出てくるのかなという感じはしています。   要は,これを四六時中そういうことが可能な状況にしておくのがいいのか,それとも,もっと限定して使うということもあるのかなというようなことも,ちょっと違うのではないか,そこで,資料の1の①・②と,③とはちょっと違うのかなという感じがちょっとしています。 ● 今の運用を前提に考えればそういうことだろうと思うんですけど,仮に保釈の方を,要するに現在であれば到底保釈できない類型,つまり法定合議事件のような事件で,逃亡のおそれがかなり高いから保釈の権利保釈事由になっていなくて,実際上も保釈していないというようなものについても保釈を考えるべきだということになってくると,それに対応するものは考えなければいけないという関係かもしれないですね。 ● それは私も理解できないことはないと思います。 ● 配布資料34を見ておりまして,1の①,②,③と書かれているのは,御指摘のようにそれぞれ連絡確保や所在確認を要する場面と時間は異なってはいるのですが,1の①ですと限定された場所と限定された時間ではございますが,②,③でそれが広がっているのですけれども,とりあえず対象者として挙げたということでして,これからどのような手段が現実に履行可能かということが,ここでの議論だろうと思います。   ですから,今の段階ではむしろ配布資料34の2の技術的な方法を検討して,それが1の①には妥当する手段か,②には何が適当かなどというふうに考えた方がよろしいのではないかと思います。 ● ただ今,委員から具体的な議論の仕方に関して御提案がございましたが,そういうことでよろしいでしょうか。 ● その前に,所在不明人員のところで,かなり平成18年は改善されたというところですけれども,保護観察官,保護司の調査では対象者の所在が分からない場合,そこから先の調査については,警察関係者の協力を得ることはあり得るのでしょうか。 ● それはございます。御承知のとおり,平成17年の初めに所在不明中の仮釈放者が起こした重大な事件というのがございまして,そのような事態を受けて,特に仮釈放中の所在不明者についての所在調査の徹底ということで,保護観察所そのものとしても所在調査の徹底に努めております。さらに,平成17年の年末からは,警察との協力においても,所在不明者を減少させるという方策を始めております。具体的には,所在不明となった仮釈放者及び保護観察付きの執行猶予者につきまして,警察に協力を求める運用を開始しておりまして,警察における通常の警察活動の中で,接触した者について,これが保護観察中の者であって現在所在不明であるというようなことが分かった場合には,内容にもよりますが,場合によっては24時間体制で保護観察所に連絡していただくということになっております。保護観察所はそれを受けまして,警察と協力して身柄の確保等に努めるということを始めておりますので,そのようなことが平成18年においては所在不明者の減少につながっているというふうに考えております。 ● 1で書かれているものもまだ議論の途中で,これをこうすると決めたわけではございませんが,先ほどのお話の,今日の議論となった保釈の話で言いますと,やはり罪証隠滅の防止に重点を置くのか,あるいは逃亡防止に重点を置くのかということに関係してくるだろうと思います。出頭確保,逃亡防止という観点ではこのような措置がかなり広い範囲の方々に適用可能だと思いますけれども,前提としての罪証隠滅の防止が重大だということでしたら,まずそこを議論しないといけないだろうと思うのです。もう,その局面に来ておりますので,まずは所在確認,逃亡防止ということに限定して,2の中でどういうものが人権侵害の少ないものとして認識されるかというところから始めてはいかがかと思います。 ● どうもありがとうございます。   委員,今の御指摘を受けて,弁護人ないし弁護士の立場から一言どうぞお願いします。 ● 私どもも今の委員と全く同じ考えでして,いかにもっとも人権侵害にならないような制度として,どれかということになると,GPSとかそういうものはかなり抵抗があるのかなと思うのです。ただ,実は弁護士の中にも例えば,保釈に関連して幅を広げていく,先ほどの議論と同じですが,広げていく場合については,それなりの条件のものでも保釈された方がいいという理解をする人たちもいるし,弁護人もその方がいいと,その方が公判の打合せもできるからというような意見もありますので,それはそれでまた考え,自らその人が望む場合については,それは考えられるのではないかなという感じはします。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ● 先ほど携帯電話でもって連絡を取るような形になっていると一体どこにいるのかが分からないということがあったんですが,最近はやはり自宅の電話,固定電話がなくて携帯電話だけという人も結構あるので,そこはどうするのかなという感じはちょっとしているんです。もともと韓国でこういった所在確認をする場合の方法として,固定電話に無差別に夕方電話がかかってきているかどうかということの確認をするというのがあったというふうに聞いていますけども,やはり携帯電話の普及によってそれをなくしてしまったものに対してはどうするのかということについては,もうちょっと方法を考える必要があるのかなという感じはしております。 ● 私もよく技術的なことは分かりませんけど,GPS付きの携帯電話等が最近はあると思いますから,2の①,②,③のような記載の方法がありますけども,場合によってはGPS付きの携帯電話の利用とか,そういうこともあり得るかもしれません。   あるいは,2の③ではGPS装置が例として挙げられていますが,もし,これが,自分では取り外せないような方法で身体に装着するものが想定されているのかもしれませんが,GPS付きの携帯電話についても議論の対象とすることも考えられるように思います。 ● 今の御指摘の点は,確か,今までの部会においても議論になっていたのではないかと思うのですが,諸外国の例を紹介した場合に,従前は本人が取り外そうとすれば規則違反が直ちに分かるという仕組みで,任意には取り外せないものが主流であったわけですけれども,少し状況が動いているようでありまして,小さくて,正にポータブルな携帯電話を渡して,そこにピンポイントのGPSをかけるのではなくて,例えば対象者には夜間外出禁止命令を出しておいて,彼がその一定の範囲から出ていくとそれが認知されるというふうなゾーンディフェンスをかけていくと。その携帯電話を持つのも持たないのも対象者の自由だけれども,彼の同意ベースで,それを持っている以上は守ってくださいというふうな,そういった意味でのソフトな所在確認の方法も検討されているようでございます。 ● 例えばですね,社会奉仕命令を義務付けられた者に関しては,今,美祢で行っているように衣服にGPS機能がついたものがありますよね。あれを利用する形でそのエリアできちんと仕事をしているのかが分かって,それが途中で止まったり,脱いだりすると止まりますから,警報が鳴るという形になりますよね。それは一つの方法として考えられるのかなという感じはしますけどね。 ● 御参考ですが,GPS付き携帯については,私もそんなに詳しいわけではないですが,先ほど24時間監視するのはどうかというお話がありました点につきましては,今のGPS付き携帯は,契約内容によって二種類あるようで,一つは,子供に持たせるような場合のもので,例えば親が24時間いつでも居場所を確認できるというのもありますし,別の契約では,他人がその携帯電話の持ち主の居場所をGPSで確認しようとすると,まず本人にそのことが通知され,本人が同意をしたときに限って位置情報が検索しようとした人に送られるという仕組みもあるようです。24時間の監視ということが問題であれば,一定の時間だけ同意をしなければいけないことにするといった工夫もあるのかなという感じを受けました。 ● 所在確認のためにどういう方法を用いるかというのは,そもそも何のために所在確認をするかということに関係すると思います。電子監視の場合ですと,諸外国の制度の御報告をお聞きするかぎり,二つの方策ないし目的があると思いました。一つは,夜間外出禁止の義務を課した上で,その義務の履行を確保するという目的で電子監視を行うというもので,他方,GPSの場合はそうではなくて,常に見張って所在を把握することを目的とするものです。   ですから,例えば,保釈中の者について連絡確保や所在確認を行うことを考えるとすれば,それはGPSを用いて常に見ることができないと,逃亡してしまって所在がつかめなくなりますので,意味がないわけです。他方,保護観察対象者について,特定の住居に居住するという遵守事項を設定し,その遵守を確保するという場合,一定の時間帯に外出することは許されるでしょうから,そのうえで夜間の外出禁止といった遵守事項を設定した上で,ではそれをどう担保するかという形になります。その場合は,GPSを使う必要はないわけです。このように,そもそも何のために所在確認するかということをはっきりさせた上で,その方法を議論する方が分かりやすいのではないかと思います。 ● 確かにそういう面ございますね。   はい,先生,どうぞお願いいたします。 ● 配布資料34の1で①,②,③となっているわけですが,どうもこの①についてはまだ社会奉仕命令の内容も十分確定していないので,ちょっと考えにくいようです。それから,1の③については先ほどもちょっとお話がありましたとおり,要するに公判廷へ出てくればいいので,制限住居に居住しているかどうかをコンスタントに確認する必要性は比較的低いように思います。   そうしますと,残りは②の保護観察対象者ですが,これについては統計資料で最近所在不明の数が随分減少しているというのは保護観察所の方でそれだけ努力をしておられることの現れだと思いますけれども,この保護観察対象者については再犯の可能性を防ぐという意味で,何らかの措置を執る必要は肯定できるだろうと思いますし,特に1号保護観察と4号保護観察については,裁判所が言い渡されるわけですから,相当強い条件を付加されることも可能ではないかと思います。これに対し,2号保護観察と3号保護観察については,行政的な処分ですので,おのずから制約があろうかと思いますけれども,ただ,強い処分を考えるとしても,やはり再犯のおそれ,したがって,犯罪の性質,例えば,性犯罪とか薬物犯罪とか,そういったものについて考慮すべきでありましょうし,それからもしこの一番強いGPS装置などを使って監視するということになれば,期間の制限を置く,例えば向こう3か月というふうなことも考えていく必要があろうかと思います。   いずれにしても,具体的なデザインまでにはまだいろいろ考える要素はあろうかなという気がします。 ● 保護観察対象者について,広い意味での電子監視ということを行うこととした場合に,どのぐらい予算が見込まれるのかということを考えておかないといけないと思うのです。いろいろ範囲を広げて経済性が損なわれることのないようにしないといけませんので,どの程度のお金がかかるのかということも常に考えなければいけないのではないかという気がいたします。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ● やはり今までだったら社会の中には置けないけれども,こういうものを使うことによって社会に出せるということになるのであれば,多少厳しい監視になるようなものでもいいという関係にあると思うんですね。ですから,先ほどの保釈中の者についてもどなたか言われましたけれども,今までと同じような運用であれば確かに必要ないのかもしれませんが,そういう監視を付ければ保釈ができるという場合に,ではどこまでそういうものを認めるのかというような関係になっていくのだろうと思いますので,そういう議論と併せてでないとなかなか難しいかなという気がします。 ● ほかになければ,「社会内処遇対象者等の連絡確保又は所在確認の方法・在り方」についての議論はこのあたりにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   どうもありがとうございます。   それでは,本日の審議はこの程度にしたいと存じます。   ここで,次回の議論について事務当局の方から何か御提案がありましたら,お願いいたします。 ● もとより審議の進め方につきましては,この部会で決定される事柄でございますけれども,本日までの御議論を踏まえまして,事務当局の方で,部会長と御相談の上,進め方の案を検討させていただき,改めて皆様にお諮りさせていただければと考えております。 ● 私もただ今事務当局から御提案のあったようにするのがよろしいのではないかと考えておりますが,皆様それでよろしいでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきます。   次回の日時,場所等につきまして,事務当局の方から御確認をお願いいたします。 ● 次回は7月4日金曜日に東京高等検察庁17階の第2会議室において会議を行う予定でございます。開始時刻につきましては午前10時からでございます。 ● ただ今御案内がございましたように,次回は7月4日金曜日に東京高等検察庁17階の第2会議室において会議を行うことといたします。   開始時刻につきましては午前10時からということになりますので,よろしくお願いいたします。   本日はこれで散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-