法制審議会主権免除法制部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成20年9月26日(金) 自 午後1時30分                       至 午後5時08分 第2 場 所  法務省20階 第1会議室 第3 議 題  主権免除法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○飛澤幹事 それでは,時間になりましたので,主権免除法制部会の第1回会議を開催いたします。   本日は,皆様御多忙のところ御出席賜りまして,誠にありがとうございます。   私は民事局参事官の飛澤と申します。部会長を後に互選で選出していただくことになりますが,その選出まで議事を進行させていただきますので,よろしくお願いいたします。   議事に入ります前に,法制審議会及び部会について,若干御説明申し上げます。   法制審議会は,法務大臣の諮問機関でございまして,その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会には部会を置くことができることとされております。主権免除法制部会は,今月3日に開催されました法制審議会第157回会議におきまして,法務大臣から主権免除法制の整備に関する諮問第85号がされ,その審議のために部会を設置することが決定されたことによって本部会が設けられたものでございます。   法制審議会で諮問された事項は,事前に御送付申し上げました部会資料1にございますとおり,外国を当事者とする裁判手続及び外国の財産に対する保全処分又は民事執行に関する裁判権からの免除の範囲等について法制を整備する必要があると思われるので,締結に向けた作業が進められている「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約(仮称)」を踏まえて検討の上,その要綱を示されたいという内容になっております。   審議に先立ちまして,臨時委員である倉吉民事局長から一言ごあいさつ申し上げます。 ○倉吉委員 民事局長の倉吉でございます。事務当局を代表いたしまして一言ごあいさつを申し上げます。   皆様にはそれぞれ御多忙の中,法制審議会主権免除法制部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。   我が国においては,現在,外国及びその財産がいかなる場合に我が国の裁判権に服するのかという点について定めた法律はありませんが,これについて国内法を整備している国は少なくないわけであります。最高裁判所は,平成18年7月21日判決におきまして,外国がその私法的ないし業務管理的な行為については,原則的に我が国の民事裁判権から免除されないといういわゆる制限免除主義を採用することを明らかにいたしましたが,外国及びその財産が我が国の裁判権に服する範囲が具体的にどうなるのかということについては,なお不明確な点が残っております。そうした中で,平成16年12月に国連総会におきまして,「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約(仮称)」が採択されまして,我が国も平成19年1月に署名をしているわけであります。   そこで,この締結に向けた作業が進められておりますこの条約を踏まえまして,内容を明確にした国内法を整備することにより,関係する外国や私人にとって外国がいかなる場合に我が国の裁判権に服するのかということが明らかになり,法的安定性が高められるものと考えられるわけであります。もっとも本条約には内容の分かりにくい点もございますので,その点も含めて主権免除法制の内容について,法制審議会で御検討いただく必要があると考えまして,今回の諮問をさせていただいた次第でございます。   現在,法務省におきましては,主権免除法制の整備に関する所要の法律案を次期通常国会に提出することを目指しております。そのため委員,幹事の皆様方には短期間のうちに集中的にこの主権免除法制の創設に向けた御検討をお願いすることになりますが,よりよき法制の構築のため御尽力を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。   以上でございます。    (委員等の自己紹介につき省略)    (部会長に上原委員が互選され,法制審議会会長から部会長に指名された。) ○上原部会長 ただ今この部会の部会長に御指名いただきました上原でございます。何分にも初めての経験であり,また,浅学菲才の身でございますけれども,皆様の御協力を得まして,先ほどのお話のように短い期間ではありますが,十分な審議を遂げて,法律案の要綱を提案できるよう,微力を尽くしたいと思います。どうぞ皆様よろしく御協力のほどお願い申し上げます。   それでは,議事に入らせていただきますが,まず,配布されております資料について,事務当局から説明をしていただきます。 ○飛澤幹事 それでは,事前に御送付申し上げました部会資料1から7までにつきまして簡単に御説明いたします。   部会資料1は,先ほどから申し上げております法制審議会での諮問事項の内容でございます。   部会資料2は,国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約の英語の正文と,日本語の仮訳の対比表でございます。なお,この仮訳文につきましては,この条約署名時の訳を載せておりますので,今後更に変わり得ることをお含みおきください。   部会資料3は,本日御説明申し上げる主たる資料でございます主権免除法制の整備に関する要綱試案(1)でございます。   部会資料4は,主権免除法制の整備に関する調査・研究報告書でございます。   部会資料5が主権免除法担当者試案,それから部会資料6が同試案の補足説明,それから部会資料7は,後ほど詳しく御説明いたしますけれども,主権免除法担当者試案を公表してパブリックコメントに付しましたが,そのパブリックコメントに寄せられた意見の要約内容の資料となってございます。   資料の関係は以上でございます。 ○上原部会長 資料についてはよろしいでしょうか。   それでは次に,当部会の今後のスケジュールにつきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,本日席上に配布いたしました「今後の審議スケジュール(案)」という書面を御覧いただきたいと思います。   ここに記載させていただきましたように,現在のところ,部会を合計6回開催させていただきたいと考えております。そのうち本日を含めまして,3回にわたりまして要綱試案という形で一読で御検討をお願いしたいと思っております。それから,11月21日の第4回会議では,要綱案第1次案をお示ししまして,それに基づきまして御議論いただきたいと思っております。12月12日の第5回会議では,要綱案第2次案をお示ししまして,それを更に御議論いただきたいと思っております。そして,平成21年1月16日の第6回会議におきまして,要綱案の取りまとめをお願いしたいと考えております。   審議スケジュールの説明は以上でございます。 ○上原部会長 審議スケジュールにつきまして,ただ今の御説明のとおりでよろしいでしょうか。   特に御意見がないようでございますので,審議スケジュールにつきましては,このとおりといたしたいと思います。   次に,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りしたいと存じます。   まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法について,事務当局から説明をしていただきます。 ○北村関係官 関係官の北村でございます。   それでは,法制審議会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明いたします。   法制審議会の部会での議事録における発言者名の取扱いにつきましては,本年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とするとの決定がされました。   したがいまして,皆様には当部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを御決定いただく必要があるものと存じます。   以上でございます。 ○上原部会長 ありがとうございました。   それでは,事務当局からの説明につきまして,まず質問等がございましたら御発言をお願いいたします。特にございませんでしょうか。   当部会につきましては,部会長の私といたしましては,諮問事項の内容等を考えますと,発言者名を明らかにした議事録を作成することにしたいと存じますが,いかがでしょうか。特に御異議がないようでございますので,当部会につきましては,発言者を明らかにした議事録を作成することといたします。   それでは,審議に入ります。   今回は第1回の会議でございますので,まず諮問に至るまでのこれまでの主権免除法制に関する検討の経緯や諮問の内容等について,事務当局から説明していただきます。また,それとともに,パブリックコメントの結果についても併せて説明していただきます。よろしくお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,各要綱試案の具体的な御説明に入ります前に主権免除法制についての御審議をお願いする背景等につきまして御説明申し上げます。   まず,国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約の採択に至るまでの経緯について簡単に御説明いたします。   そもそも国及びその財産は,国際法上,一般に外国の裁判権から免除され,当該外国の国内法上の責任を追及されないこととされておりまして,この原則を主権免除の原則と呼んでおります。この原則に関しましては,かつては国家の平等と独立を相互に尊重するという考え方が強調されまして,基本的に外国及びその財産は無条件に他国の裁判権から免除されるという絶対免除主義が認められておりました。   しかしながら,国による経済活動が活発に行われるようになりまして,国との間で取引を行う私人に取引の安全を保障する必要が生じたため,19世紀末ころから,判例上,外国の私法的な行為に関しては,裁判権からの免除を認めないこととする制限免除主義を採用する国が出てまいりました。さらに,その後,1972年に欧州評議会が欧州国家免除条約を作成し,1976年には米国が外国主権免除法を制定しております。また,1978年にはイギリスが国家免除法を制定するなど,制限免除主義に立った国内法等を整備する国や地域も現れ,裁判実務も積み重なってきたといったような状況がございます。   このように,徐々に絶対免除主義は国際慣習法とはいえなくなってまいりましたけれども,いかなる内容の制限免除主義によるかについては,依然明確な国際慣習法が確立されるまでには至っていない状況でございます。その結果,例えば国と私人との間の取引等により生ずる裁判手続において,いかなる場合に国に裁判権からの免除が認められるのかを予見することができず,さらに,最終的に強制執行まですることができるのかといった問題まで含めて考えますと,さらに不明確な点が多くございました。   このような状況の中で,裁判権から免除される具体的範囲等につきまして明確な基準を定めることにより,国と私人との間の法律関係における法的安定性を確保するため,1977年に国連総会が国連国際法委員会に対して,主権免除に関する条文草案の作成の検討に取りかかるように勧告いたしました。そして,これを受けました国連国際法委員会が草案を起草いたしまして,2004年12月に国連総会で条約として採択されたといった経緯になっております。   次に,我が国の状況を見てみますと,昭和3年12月28日の大審院決定が絶対免除主義に立つことを明らかにしまして,それ以降,近年に至るまでこの決定が基本的に維持されてまいりました。しかしながら,近時,制限免除主義を採用したり,あるいはこの制限免除主義へ一定の配慮を示すような下級審の裁判例が現れるようになりました。そして,最高裁判所が,平成18年7月21日判決におきまして,ついに先ほど述べました昭和3年大審院決定を変更いたしまして,外国の私法的または業務管理的な行為については,原則的に我が国の民事裁判権から免除されない旨を判示し,制限免除主義を採用することを明らかにしたという状況になっております。   以上のように,我が国の判例の状況といたしましては,制限免除主義を採用することを明らかにしたというところまで至っているわけですけれども,なお外国が我が国の裁判権から免除されない範囲の外延については明らかとなっていない状況でございます。このような状況の中で,先ほどもお話に出ましたとおり,我が国は平成19年1月に本条約に署名をいたしておるところでございます。   以上に述べましたとおり,外国が我が国の裁判権から免除されるか否かについては,不確実な部分が少なくないという点がございます。それから,既に先ほども一部御紹介しましたとおり,主権免除に関する国内法を整備している国も少なくございません。こういった点にかんがみますと,我が国におきましても,国際的に受け入れられやすいルールを定めたこの条約に準拠した内容の国内法を整備する必要があると考えております。   ところで,そういった国内法の整備に当たりましては,この条約の内容自身が多岐にわたりますことから,その条約自身の正確な内容を把握するとともに,国内法の整備に関する論点の整理等を行う必要がございました。   そこで,法務省は外務省の協力を得まして,民事訴訟法,国際公法及び国際私法の研究者並びに法律実務家等から構成されます主権免除研究会を組織いたしまして,昨年12月から本年の7月にかけまして合計12回にわたって研究会を開催いたしたところでございます。研究会では条約の各条ごとに,その趣旨及び内容につきまして調査研究を行うとともに,各国の主権免除に関する国内法の内容等も参照しながら,我が国の国内法においてこの条約に対応する具体的な規定を置くべきかどうか,また,置くべきとすれば ,どのような内容のものとすべきかなどの検討を行ってきたところでございます。その成果につきましては,部会資料4「主権免除法制の整備に関する調査・研究報告書」という冊子の形でまとめられたところでございます。   この研究会が終了しました後,法務省民事局参事官室におきましては,研究会の成果を踏まえて部会資料5「主権免除法担当者試案」及びその補足説明である部会資料6を作成し,本年8月4日から9月2日まで,この二つの資料を公表した上でパブリックコメントに付した次第でございます。その結果の概要が先ほど申し上げた部会資料7として取りまとめられているところでございますけれども,その概要につきましては,後ほど御説明申し上げます。   ところで,この条約の締結のみを行いまして,国内法を整備しないということになりますと,非締約国との関係では,我が国には依然として裁判権に服するか否かについての明文の規律がないことになってしまいます。そこで,まずこの条約の非締約国との関係におきましても,我が国の主権免除法制についての明文の規律を設けるために,国内法を整備する必要があると考えております。また,この条約には内容に分かりにくい点もございますので,この条約を締結するに当たり,内容を明確化した国内法を整備することにより関係する外国や私人にとって,外国がいかなる場合に我が国の裁判権に服するのかが明らかとなり,法的安定性が高められるものと考えております。   この条約は現時点では発効しておらず,その発効には30か国の締結が必要とされておりますので,我が国がこの条約を今後将来締結いたしましたとしても,その発効までにはさらに一定の時間が要すると見込まれるところでございます。それまでの間,先ほど申し上げたように,不明確な点があると申し上げたところでございますが,そういった不明確性が継続することになってしまいますので,やはり整備を予定しております国内法におきましては,内容はこの条約に準拠いたしますけれども,その発効前でも施行可能なものとしたいと考えておるところでございます。   以上のような事情がございました関係で,本年9月3日に法制審議会の総会におきまして部会資料1でお示しした諮問第85号のとおりの諮問をさせていただいた次第でございます。   最後に,先ほどから申し上げておりますパブリックコメントの結果について簡単に御説明申し上げたいと思いますので,部会資料7を御覧いただきたいと思います。   まず,全体の概要でございますけれども,部会資料7の1ページに記載させていただきましたとおり,主権免除法担当者試案について意見募集を行いましたところ,四つの団体,それから9人の個人の方から御意見をいただいたところでございます。その具体的な内容につきましては,2ページ以降に意見を要約した上で各担当者試案ごとに分類,整理してございます。   さらに,各試案に整理できないような総論的な意見につきましては,要約できる範囲でまとめましたものを18ページ及び19ページでその他の意見として記載させていただいたところでございます。   以上のような形で意見募集の結果をまとめてみましたので,今後の御審議の参考にしていただきたいと思います。   担当者試案の項目ごとについて出された意見につきましては,今後要綱試案でその当該項目を御説明するときに,併せてこのような意見がございましたという御紹介をさせていただきたいと考えているところでございます。なお,実際に寄せられた意見の写しをつづったファイルを回覧致しますので併せて御覧下さい。   私からの説明は以上でございます。 ○上原部会長 ただ今の事務当局の説明につきまして御質問がありましたらお伺いしたいと思います。どの点に関しても結構ですので,御発言をお願いいたします。 ○阿部(潤)委員 質問というよりは,確認なのですけれども,議論をしていく上で,この条約の直接適用があるかどうか,いわゆる自動執行力を持つのかどうかということは,やはり今後色々な検討をする上で大事ではないかと思うのです。つまり条約を見ますと,相当明確性を欠くと思われるような条文もあるようでして,その場合には我が国で解釈をやっていいという前提で議論を進めていいのかといった条約の性質的なものを最初に御説明いただければ有り難いのですが,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 今御指摘がございました条約の自動執行力についてはなかなか難しい問題がございます。そもそも条約全体について自動執行力があるのかといった議論もございますけれども,基本的には条約の自動執行力というのは各条文ごとで検討されるべき問題だと思っております。   ただ,いずれにいたしましても,整備を予定している国内法は,一面担保法の性格も持っておりますけれども,基本的には条約の内容に準拠した形で整備したいというところが主眼でございますので,できる限り条約の内容としては解釈できる範囲は解釈して,それを国内法に反映したいと考えているところでございます。 ○上原部会長 阿部委員,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。 ○阿部(潤)委員 ありがとうございました。 ○上原部会長 ほかに御質問あるいは御意見はございますでしょうか。   それでは,具体的な審議に入りたいと思います。試案の各項目ごとに事務当局から説明をしていただきまして,その後に御質問・御意見をいただくということにいたしたいと存じます。   まず第1をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料3「主権免除法制の整備に関する要綱試案(1)」の1ページから御説明申し上げたいと思いますので,まず1ページをお開きください。   まず,第1の適用範囲の関係でございます。   要綱試案の内容としては,この太字で書かれたような内容のものを条約第1条に対応する要綱試案として記載したいと考えているところでございます。   この試案の第1は正に法律の適用範囲を定めることを提案するものでございます。実際,国内法を作る段階になりますと,ここは適用範囲と申しますか,よく法律の第1条で書かれていますような趣旨規定とかあるいは目的規定,そういったたぐいのものになりますが,基本的にはそういった趣旨規定のようなものに相当するものだと考えております。   それで,この適用範囲の説明の中で一つ重要なのは,「裁判権(刑事裁判権を除く。)」という点でございます。裁判権からの免除と一口に申し上げましても,裁判というのは刑事裁判,民事裁判両方あるわけでありますが,この条約自身は刑事裁判以外の裁判権を規律するということになってございますので,あえて刑事裁判権を除くと書いているところでございます。ただ,条約の条文として刑事裁判権を除くといったことは書かれてございませんので,その点についてはこの説明の2というところで若干書かせていただいているのですけれども,この条約の審議過程でハフナーさんという方が議長をされていたのですが,その方が議論の総括としてこの条約で言う裁判権には刑事裁判権は含まれないということを述べられまして,この条約が国連総会で採択されます際にそのハフナー議長のステートメントが引用されるという形で,この条約でいう裁判権から刑事裁判権が除かれるということが確認されたということになっております。   この条約につきましては,1991年に草案が発表されていまして,その草案に関してコメンタリーというのが国連の事務当局によって作られているのですけれども,そのコメンタリーの中でもやはりこの条約の裁判権からは刑事裁判権が除かれるという説明がされております。そういったわけで,この条約第1条に対応する国内法を作る際にはそのこと,すなわち我が国の裁判権からの免除とは言いましても,それはあくまでも刑事裁判権以外の裁判権の問題であるということを明文上,明らかにしようということを提案したいということでございます。   それから,もう一点はこの説明の2のなお書きのところに少し書かせていただきましたけれども,条約自身は「国及びその財産の他の国の裁判権からの免除」ということで,国だけではなくてその国の財産についても明記しているところでございますけれども,日本の裁判手続におきましては財産が直接当事者のようなものになるといった手続がなく,基本的には人なり法人が裁判手続の当事者となりますので,財産に対するという文言は入れなくても日本国内法上は問題がないだろうと考えております。   また,部会資料7の2ページを御覧いただきますと,この適用範囲に関して,明確化のために「裁判権」を「日本国の裁判権」としたほうがいいのではないかという意見をいただきました。この意見を受けまして,今回の要綱試案では,「我が国の裁判権」と書いております。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,第1の適用範囲につきまして御審議をお願いいたします。御意見,御質問何でも結構ですので,御発言をお願いします。 ○髙階委員 後で出てまいります国等とか私法上の契約の定義にも絡んでくると思うのですけれども,国と国との契約というのは,この法律の対象としているのでしょうか。研究会のときには,国等と民間の法人との契約というのを典型的な事例として考えていたので,国と国との契約,しかも,それが国家主権の行為ではなくて,非常に私法上の取引,すなわち売買契約みたいなものがこの条約あるいは今検討している法律の対象とすべきなのかどうかをお聞きしたいのですけれども。 ○飛澤幹事 ただ今の点につきましては,後ほど御説明いたしますけれども,部会資料3の14ページを御覧いただきたいと思います。   要綱試案の第9の2の①でございますけれども,この条約上,国と国との間の私法上の取引,今,髙階委員が例に出されましたような売買契約などについては,非免除に対するさらに例外なので,原則どおり免除に戻るという仕切りをしているところでございます。 ○髙階委員 ここで言っているのは,私法上の取引の対象とはならないと言っているのであり,条約と制定法の対象の範囲の中なのか,それともそもそも外なのかというのがはっきりしていないと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 2の①として,あえて規定を置いたということは,いったん対象となって原則免除といったところがあるからこの規定があるのではないかと思うのです。つまり国と国との関係にも条約なりそれに基づく国内法の適用はあると思うのです。ただ,私法上の取引については非免除だという例外を置くと,ではそれは国と国との契約でも非免除になってしまうのかということで,さらに試案の第9の2の①のところで国と国との私法上の取引はそこから除くといって戻しているのです。 ○上原部会長 髙階委員の御質問は,適用範囲という表題が書いてあるので,そういうことも含めてここで検討したほうがいいのではないかということなのでしょうか。あるいは今,第9のところで具体的な規律があれば,それで明快になるということなのでしょうか。 ○髙階委員 契約だけではなくて,国と国との関係では法律関係としてはもっと広い範囲があるので,そもそもそれを対象にしているのかどうか。この適用範囲だけから言うと,国と国の財産を免除するか否かというところが対象としているということなのですけれども,そもそも国と国との間の法律関係に立った場合でも対象としているかというのは,今まで明確にされていなかったような気がするのですけれども。 ○佐野関係官 その点に関しましては,国と国との契約もこの条約あるいは法律に含まれるということが前提になっていると思います。その理由としましては,先ほど飛澤幹事から申し上げましたように,第9の私法上の取引のところに関しては,特出しで国と国とは適用しませんよ,すなわち私法上の取引という類型に限っては国と国は適用しませんよということを書いているので,例えば不法行為であるとか知財の侵害であるとか,ほかの並びのところでは国と国との間の問題についてもこの条約なり法律の範囲に入っているということが言えると思いますので,特段国と国を除外する必要もないかと思われます。 ○髙階委員 国と国との私法上の取引を除外する理由は何かないように思うのです。 ○佐野関係官 それにつきましては,先ほど申し上げました91年時点のコメンタリーを詳細に読みますと,国と国との私法上の取引につきましては,発展途上国から,例えば先進国と途上国の間で食料援助契約が行われた場合に,それが裁判になって争われてこの条約の第9が適用されて裁判権が行使されてしまうのは不都合ではないかという政治的な意見があって,特出しで抜いたという経緯があるようでございます。だから理論的に詰めて私法上の取引については,国と国を除外するという決定がなされたのではなくて,そういう途上国からの要請を受けて,そういう政治的な国際的な要因で抜いたという説明しかできない状況ではあるのです。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。 ○髙階委員 はい。 ○上原部会長 第9のところの説明あるいは議論に入ってからでないと,ほかの方には問題点がお分かりにならないかもしれません。ほかに第1につきましていかがでしょうか。 ○水島幹事 単なる表現の問題なのですが,試案のところでは,「外国等の我が国の裁判権からの免除」というふうになっていて,仮訳文からすると,仮訳文に対応した語順なのですけれども,条約の正文に照らせば,むしろ「我が国の裁判権からの外国等の免除」としたほうが条約正文にもうまく対応しているし,むしろ日本語としてもそちらのほうが素直なのではないかというような感想を持ちました。 ○飛澤幹事 これは多分に日本法の書き方という問題にもなるので,様々な考え方があるところでございますけれども,一応国内法の用例として,裁判権からの免除というのが一つの言い方としてあるようでございます。外国の免除ではなくて,裁判権からの免除という流れになるようですので,こういう言葉を使わせていただいております。 ○上原部会長 よろしいですか。   第1につきまして,ほかに御意見等はございますでしょうか。   特にないようでございますので,次に進みたいと存じます。   次に第2ですが,かなり項目が多いので,少しずつ分けて御説明と御議論をお願いいたしたいと思います。まず,第2の1につきましてお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,続きまして第2の1,定義の関係の1番目として裁判所の定義の問題について御説明したいと思います。   条約第2条ではいろいろな言葉の定義等の規定が置かれておりますが,まずその第1番目として,条約では裁判所の定義というものが置かれてございます。それで,条約では具体的にどのように定義しているのかと申しますと,部会資料3の1ページの第2の1(2)でも書かせていただきましたとおり,「司法上の任務を遂行する権限を有する国の機関」と定義しておるところでございます。そうしますと,我が国では憲法上,司法権は最高裁判所を頂点とする裁判所に集中させておりますので,日本では裁判所のみがこのcourtsに該当するのではないかと考えておりまして,そうであれば特段裁判所の定義は必要ではないのではないかということで,特段定義は置かないという提案をしているところでございます。   また,主権免除法担当者試案に対する意見を御紹介しますと,部会資料7の2ページの第2のところですが,明確化のために裁判所とは最高裁判所及び裁判所法に定める下級裁判所をいうと定義することが望ましいとありますが,日本法上はどうもやはりこういったものを指すために裁判所を定義している例はちょっとございませんので,そういった意味でも置きづらいかなと考えている次第でございます。   以上でございます。 ○上原部会長 裁判所の定義については,置く必要はないという提案ですが,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 それでは,次の国等の定義の問題,それから外国等の定義の問題について御説明させていただきたいと思います。   まず,(1)の関係でございますけれども,こういった国等についての定義を置くというのは,条約第2条1(b)に国の定義がおいてあるところを受けまして,やはり主権免除の享有主体の範囲を決めることになりますので,それについての定義を置こうということを提案しているところでございます。   本条約を見ますと,Stateの定義しか置いてございません。にもかかわらず,国内法におきましては,「国等」,それから「外国等」とわざわざ 二つの文言の定義をしようといった御提案をしております。先ほど部会資料3の14ページの第9の2の①が話題に出たのでお話ししますが,ここで正に外国等と国等と分けて使っているのですけれども,この国等という定義を別途設けましたのは,日本国について含める場合がどうしても必要な場合が出てきまして,その際に外国等という定義だけでは賄えないということで2段階の定義をさせていただいたというところでございます。そのあたりのより詳しい説明を(2)のところで書いております。   それから,国等の定義をまず2の①から④までしまして,外国等の定義につきましては,3の①だけを特出しして,あと2の②から④までに当たる部分につきましては,3の②を御覧いただければ分かりますとおり,2の②から④までに掲げるもののうち,外国に係るものとまとめておりますので,基本的には今後この2の①,②,③,④というのを念頭に置いて御説明申し上げます。   (3)の説明で,この②から④までの具体的内容ということですけれども,まず,2の②の関係ですが,これは条約2条1(b)(ⅱ)を受けた部分でございます。基本的には連邦国家の州みたいなものを外国扱いにするといった内容になっております。   それから,2の③の部分でございますけれども,これは条約2条1(b)(ⅲ)を受けた部分でございまして,こちらについては州などのようにかなり独自的な主権的な権限を持っている場合ではないような一般の地方公共団体みたいなもの,あるいは場合によっては民間団体ということもあり得るのですけれども,とにかく一定の授権によって一定の国の行うような主権的権能を行使しているような場合,そういった団体につきましても,その権限行使に関する紛争については外国と取り扱おうという趣旨で置かれたのが③でございます。   それから,④はそれぞれの代表者,国で言えば国家元首のようなものを考えているといったところでございます。   (4)は,部会資料4「主権免除法制の整備に関する調査・研究報告書試案」から変更した部分についての説明でございます。   まず,(4)のアのところでございますが,内容としては,2の②のところでございますけれども,現在は,「連邦国家の州その他の国の行政区画であって」という言い方をしておりますが,条約を見ますと,「連邦制の国の構成単位又は国の行政区画」と「又は」で結んでおりました。ただ,基本的に国の行政区画といった場合に,この「国の行政区画」というのは日本の民法で使われている用語であるのですけれども,州も市町村もすべて含まれると解されておりますので,「又は」で結ぶより,国の行政区画という大きな集合があって,その中に連邦国家の州のようなものが含まれると書いたほうがより国内法的には整理がしやすいだろうという趣旨で書き換えたということで,特段内容を変えるという趣旨で書いたというものではございません。   次に,(4)のイの関係でございます。内容としましては,国等の定義である2の③のところでございますけれども,現在,③は「①及び②に掲げるもののほか,主権的な権能の行使としての行為を行う権限を有する団体」という言い方をしておりますが,従前は「①,②に掲げるもののほか,国の主権的な権能の行使」という文言でした。今回なぜ「国の」という文言を削ったかと申しますと,実はこの③に入るような団体は,国の機関ばかりではなくて,②で言う州とかの機関もあり得るわけなのですけれども,国について2で掲げましたとおり,「国の主権的な権能の行使」としてしまいますと,この①で言ういわゆる国家の機関しか含まなくて,②で言う州とかの機関というのが含まれなくなってしまいます。ただ,本条約は,別にこの州のようなものの機関を排斥する趣旨ではないと思われましたので,そうだとすると,「国の」という文言が入ってしまうとかえって条約の内容から離れてしまうのではないかと考えまして,「国の」という文言を国内法では除こうということにいたしました。ですから,これは,国等の定義をかなり厳密に置いたがゆえの修正ということになるかと思われます。   次に,部会資料3の4ページの(4)のウの関係でございます。これは国等の定義の2の④の関係についての変更点の説明です。先ほどのイの説明と大分似たところがあるのですが,従前ここは「国の代表」という言い方をしておりました。それに対して,現在は「①から③までに掲げるものの代表者」という言い方をしています。これも国の代表としてしまいますと,いわゆる①で言う国家の代表しか含まなくなり,州知事等の②の代表などが該当しなくなるという懸念がございましたので,「国の」といった表現ではなく,「①から③までに掲げるものの代表者」に改めたという次第でございます。   したがいまして,(4)のア,イ,ウというのは,国内法を書く上において国等の定義をかなり厳密においてしまったことによる変更というのが主であるとお考えいただければと思っております。   以上でございます。 ○上原部会長 ただ今の点につきまして,御意見や御質問はございますでしょうか。 ○山本委員 念のための確認なのですが,条約第2条1(b)の定義のところではState meansなのですね。しかし,(ⅰ)のところでは,the State,(ⅱ)のところでは,subdivisionsのところだけof the Stateなんですね。それから,(ⅲ)の一番最後の行も,sovereign authority of the Stateとなっているのです。もともとの担当者試案から要綱試案に変えられたところを卒然と読むと,変更前のほうがこの条約を忠実に反映しているようにも読めてしまうのですけれども,そこは何か問題はないのでしょうか。 ○飛澤幹事 確かにこのtheとaの使い方が非常に微妙であるというのは御指摘のとおりなのですけれども,他方で,このtheを使った趣旨というのは少なくともコメンタリー等ではっきりとは出てきておりません。それから,州の機関とかは当然に除かれるのかといった点についてもはっきりしておりません。条約第2条に限らないのですけれども,ある意味この条約自身がStateという言葉をかなりラフに使っておるところでございまして,そうだとすると,ここで確かにtheがついているのは気にはなるところなのですけれども,ここだけ厳密に解釈して国家だけだとしてしまいますと,かえって本当に意味するところを失ってしまうのではないかと考えまして,ここはthe Stateとは書いてあるけれども,いわゆるここのStateで定義するようなもの全部を含むと解したほうが実質的にも妥当であろうということで,このように整理させていただいたところでございます。 ○三木委員 やはり同じく担当者試案と要綱試案で変えたところに関してですが,書き換えられたこの要綱試案ですと,連邦国家の州も国の行政区画の例示として扱っているわけですよね。本当にそう言い切っていいのかというのが私にはよく分からないのです。連邦国家というのは,例えばアメリカなどは,本来主権は州が持っていて,その各州が主権を出し合って連邦国家をつくっているというふうに素人ながら理解をしておりまして,そうすると,単なる行政の区画にとどまるものではないような気もするのですが,このような書きぶりで問題はないのか教えていただければと思います。 ○飛澤幹事 おっしゃる御趣旨については,なるほどと思うところが多々あるのですけれども,担当者としてはかなりシンプルな発想でございまして,民法第35条で国の行政区画という言葉を使っております。それで,このときの国の行政区画というのには何が含まれるかについて様々な注釈書を拝見しますと,州も含めて考えておるようです。それから,行政区画という言葉について辞書を引きましても,行政上の権限が及ぶ地域的な範囲といったような意味で使っておりますので,その意味でも,州を含めた大きな概念として国の行政区画という文言を使ってもあながち条約からは外れないかなと考えて整理させていただいたところでございます。 ○三木委員 決してこだわるものではありませんが,この法律は,もちろん国内法で国内の個人や団体のため,あるいは裁判所のための法律ですが,併せて外国国家なり外国の私人なりが見ることを想定した法律です。したがって,将来公定訳かどうかは別として,外国語訳,英語訳等がつくられて広く参照されるものだと思いますが,その訳にもよりますけれども,忠実に訳せば,国の行政区画という訳が州を含むという説明になると思うのです。そういうときに諸外国,特に連邦国家において違和感があるのではないかという点を今一度御検討いただければと思います。   それから,これも書きぶりの問題なのですが,②と③の関係について,比較的よく似た表現であるにもかかわらず,②は「かつ」で結んであるのに対して,③は括弧書きと書きぶりが違っているのですが,その理由をお教えいただければと思います。 ○上原部会長 まず,三木委員の御発言の第一点,連邦国家の州について,ほかにどなたか御意見はございますでしょうか。   特にないようでございますので,この点は事務当局で検討していただくということにします。次に,三木委員の御発言の第2点,「かつ」という表現はどうかということですが,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 これも最終的には法制上どのように書くかという書きぶりの問題ですので,最終的にこのとおりになるかどうかもまだ固まっていないところでございます。ですので,現段階では御指摘を踏まえて,日本の法制上どの程度平仄を合わせられるのかについて検討してまいりたいと思っております。 ○上原部会長 ほかにこの2及び3につきまして,御意見等はございますでしょうか。  ございませんようでしたら,その次の4に進みたいと思います。 ○飛澤幹事 それでは,4ページの4,「私法上の取引」の定義の関係について御説明申し上げます。   「私法上の取引」の定義については,甲案と乙案の二つを提示させていただいているところでございます。   まず,(1)でそもそも「私法上の取引」という文言についてでございますけれども,条約ではcommercial transactionという英語を当てております。そして,この条約の仮訳では,商取引という言葉を当てているところでございます。ただ,国内法をつくる際にこの商取引という文言は商行為に基づく取引であることを想起させられるという点がございます。では,このcommercial transactionというのは実際条約上,そういった商行為に基づくような取引に限定しているのかといいますと,その内容をコメンタリー等で見ていきますと,そうではなくてより広い概念であるようでございます。そうしますと,より広い概念であるにもかかわらず,商取引という文言を用いますと,国内法では若干誤解を招くおそれがあるのではないかといった点がございます。そういった点がございますので,「私法上の取引」という文言を用いることにしたいというのが第一点目の御提案でございます。   次に,「私法上の取引」という文言を置いた上で,その定義についてはどうするかにつきましては二つの考え方があるかと思います。甲案は,定義も例示も置かないものとするという考え方,それに対して,乙案は,「私法上の取引」について例えば次のような①から③までに掲げたような例示を挙げるという考え方であります。   甲案,乙案のそれぞれの根拠内容でございますけれども,甲案の根拠は,部会資料3の5ページの(2)でお示ししましたとおり,実際「私法上の取引」というのはかなり広い範囲をカバーするものではないか。それから,条約上も一応定義のようなものは置いていますけれども,結論的にはかなり広く読めるような内容のものになっているのではないかというものでございます。それに対して,乙案の根拠は,確かに定義を設けるのは厳しいかもしれないけれども,やはり「私法上の取引」という新しい言葉であり,かつ一つのキーとなる概念を設定するわけですので,やはりその手がかりのようなものを示すという意味で例示を置くことにより,無用の争いをある程度避けるといった効果もあるのではないかというものでございます。   ちなみに,この点につきまして,パブリックコメントに寄せられた意見としましては,甲案については明確に賛成といった意見はございませんでした。それに対して,乙案について明確に賛成といった意見が三者からございました。そこで述べられています理由は,乙案の根拠として挙げられている理由と大体似たようなところでございます。ただ,このパブリックコメントの意見で出ていますところは,乙案を採った上で,さらに今例示の仕方として①から③までのような例示を設けているところでございますが,これよりも具体的にならないかといった提案も含んでいるものと理解されます。この点についても,日本の法制上,どこまで書けるか,仮に乙案を採るとしても,どこまで書けるかという検討を進めていかなければならないところであります。現段階でこの①,②,③は,ある程度抽象的な内容でありますけれども,この程度でおさめましたのは,具体的に書くといった場合にどこまで具体的に書くかといった問題と,それから,具体的に書けば書くほど条約では直接書いていないような内容の取引も書いていくことになりますので,条約で書いていない取引をどんどん書いていって大丈夫かどうかといった多少の懸念がございまして,結論的には今の①から③の形で書かせていただいているという次第でございます。   説明としては以上でございます。 ○上原部会長 それでは,この4の甲案,乙案のどちらがいいかということも含めまして,御議論をお願いいたします。 ○阿部(泰)委員 ここは是非乙案でお願いしたいと思います。しかも,例示は先ほどの御説明ではこの①,②,③以上に何かできるかということはあったのですが,実はこの問題は日常的な経済取引にかかわることが多い問題でありますので,国のほうの定義について非常にある意味で漠然としておりますので,この経済取引,私法上の取引の定義の中身についてできる限り仕切りを明確にしていただきたいと思うのです。そういう意味では乙案を採用した上で,さらに具体的な例示で何か掲載できるものは書いていただきたいところでございます。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○鶴岡委員 甲案,乙案につきましては,乙案が好ましいと思います。   この法律を参照する人たちが必ずしも日本の法律に通じた人たちではないことが,もともと想定されているということからいっても,分かりやすさという観点から例示でこの類型を示しておくことが有益だと思います。   もう一つ申し上げたいのは,「私法上の」という用語の使い方なのですけれども,条約の仮訳は「商取引」という表現を用いておりまして,それが最終的な訳として確立するかどうかは今後の作業にかかっていると思いますけれども,その英語を見ましても,commercialという「商」という部分が中心的な考え方でありまして,公的でないものすべてということが条約の趣旨であるというふうには考えにくいと思います。その中で条約の立て方でいっている「商取引」自体の定義がこの解説にも書いてあるとおり,限定的な明確な定義をするに至っていないというのは,ある一面においては多国間の条約として多くの国が参加することを求めている条約である以上,一つの明確な定義だけを強要することが適当でないという判断もあったのではないかと思いますけれども,しかしながら,中心的な考え方は,国あるいは国の財産が商取引に関係する場合を抜き出した上で,これまでの絶対免除から免除を外すという通常の法律上の取扱いの対象にするという考え方があるのだろうと思っております。   そこで,その使われるところの「商」の概念,すなわちcommercialという概念と,私法,これをもし英語で訳すとprivateという言葉になるのでしょうか,その間には明らかに違いがあるのではないかと思います。その部分の妥当性についての御検討がどのような形でなされたのか。「私法上の取引」の定義といっても例示の定義でありますから,その定義の外縁部分については,例示以外の部分については「私法上の」という言葉の理解にまた戻る部分があり得るわけでありまして,この「私法上の」という言葉が我が国の法制の中で明確な概念として確立をしているのかどうか。先ほど申し上げたとおり,外国の政府あるいは外国の人がこの条文を見たときにcommercialというのを見るのと,privateというのを見るのとでは理解が異なるのではないかと私は想像するのですけれども,そういった点の議論と御検討がいかなるものであったかということをお教えいただければ幸いです。 ○上原部会長 甲案,乙案という話の前提の問題についての御意見あるいは御質問だったと思いますが,事務当局から何かございますか。 ○飛澤幹事 まず,この「商」と「私法上の」という区分けの問題ですけれども,条約自身が一方でcommercial contractとかcommercial transactionと言っているのですが,他方でそういったcommercialを付さない一般的な物品や役務の提供に関する契約のようなものを挙げております。それから,条約第2条1 (c)(ⅲ)には,professional natureなどといった文言もありまして,これが一体何を指すのかもよく分からないのですけれども,必ずしもいわゆる日本で通常想起されるような商とは関係ないようなものの例示も挙げているというところからしますと,基本的には条約は商という言葉を使いながらも商に限定していないと見るべきではないかと思います。   それから,もう一つ商というのは何をもって商と言うかということで,業としてという観点で商と見るのか,それとも営利性という観点で商と見るのかといった問題点もあるのですが,条約はこの点についても明らかにしていないので,やはり商と私法上の区別をつけられればつけたかったのですけれども,条約上その手がかりが現段階のところ見つけられていないというのが正直な感想でございます。 ○鶴岡委員 今のお答えは,商と私法の間に違いがあるということがまず第1の前提だと私は今理解したのですけれども,それで間違いございませんか。 ○飛澤幹事 一般論としてはあるのではないかと思うのです。ですから,先ほど特に営利性でメルクマールをつけるか,あるいは事業性でメルクマールをつけるかというところはあるのですけれども,少なくともこの条約でcommercialと使ってはおりますが,実はその営利性がないものは絶対含まないのかとか,あるいは事業性がないものは絶対含まないのかといったところがはっきりしない。むしろ条約の例示からすると,正に物品もしくは役務の提供に関するその他一切の契約と言っていますから,そういった営利性とか事業性がないものでも含むように読めてしまうのです。ですので,一般論としては商という言葉と私法上という言葉の区別はつけられると思うのですが,今の段階では,この条約においては結局そのメルクマールが分からないというところです。 ○佐野関係官 補足しますと,条約にはやはりcommercial transactionと書いているので,一番最初の検討順序としては,ここも同じように商業取引みたいな文言を置くことがベストだろうと思うのです。ただ,日本で商業取引とか商取引という文言を置く場合には,この試案の4ページにも書きましたとおり,既に商行為という概念とか商人という概念とか,あるいは商法の上での商取引法という概念があり,ほかにも不正競争防止法などで商取引という文言を使っていたりするので,そことこの条約とは果たして一致するのか,既存の概念に引きずられて条約が解釈されてしまうおそれがあるのではないかという誤解を防止するためにここではあえて商取引という言葉を使わずに「私法上の取引」という言葉を使ったという経緯があります。 ○青山委員 commercialというのをそのとおりに例えば商とか商取引というふうに日本語で表現しますと,日本では民,商の二つがありますので,民のほうは外れてしまうという誤解があるのでこういうことになったのだろうというふうに思います。仲裁の場合にinternational commercial arbitrationというふうに一般に使いますけれども,では,日本でそれを国際商事仲裁というように訳すと,少し狭くなるということではないだろうかというふうに思います。それで,どう使うのかということが問題になりまして,日本の仲裁法をつくるときには,仲裁というのは公法上の仲裁もあることから,民事上の紛争というようにその言葉を使いました。公法上の仲裁以外のものはこのcommercial arbitrationで受けるということを日本語として表現する場合には商事とか商業という言葉を入れると狭くなり過ぎる。だから,ここでも私法上の取引あるいは民事上の取引,そういう言葉で原語とは少し離れても日本語としてはそれのほうが条約のcommercial transactionには忠実だというふうに私は理解しております。 ○三木委員 結論として私も乙案に賛成です。理由ですが,今,青山先生も触れられましたが,私が存じ上げている国連が作成した成果物でcommercialが出てくるものの中には,UNCITRALの国際商事仲裁モデル法がありまして,もちろん場面は違うのですけれども,モデル法でもcommercialをめぐっては大変な論争というか混乱がありまして,事務局の御説明にもありましたように,commercialという概念は分かりにくい概念で,国によっても人によっても理解が一致しないところがあって,同じcommercialという言葉を使いながら同床異夢で発言されることも国連の場でもしばしばある。結局UNCITRALの仲裁モデル法でどうしたかというと,例示なのか限定なのかよく分かりませんけれども,例をたくさん並べることで一応の混乱を回避しております。つまり抽象的な文言だけでは,どうしても内容,外延が不明確になって国内でも外国人から見ても分かりにくいということがあるのだろうと思います。   したがって,限定列挙は恐らく技術的に困難でしょうから,乙案で御提案のとおり,なるべく例示列挙をすることによって,例示ですからそれで完全に概念が明確になるわけではありませんけれども,しかし,少なくともそういうやり方をとるしかないというか,とる必要があるというふうに思います。もちろん例示の在り方については,これも事務局の御懸念がありましたように,細かく挙げればよりクリアになるのですけれども,余り条約に書いていないことまで書くと,それは勇み足になるといいますか,書き過ぎになることがありますので,例示を挙げるにしてもやや抽象的な例示にならざるを得ないとは思いますが,それでも例示を挙げたほうがよろしいのではないかと思います。   それから,幾ら例示を挙げても,それを統括する概念としてこの案に上がっている私法上の取引なり商取引なり何かの言葉は使わざるを得ないわけですね。その場合にこれは事務局が御苦労されるところで,どなたがやってもこれは苦労するところなのだろうと思いますが,「私法上の取引」という言葉がいいのか,それとも青山委員がおっしゃった民事の取引という言葉がいいのか,あるいは民事及び商事という言葉がいいのかとか,これはどの言葉を使っても英語のcommercialとは,ずれると思います。このずれは不可避であると思いますけれども,先ほど言った例示がある程度必要だと思いますが,それでもなお,これも先ほどの話と同じで,将来外国語に訳されることも考えたほうがいいと思いますが,そのときに「私法上の取引」は,先ほど御発言があったようにprivateで訳されるのかどうか分かりませんし,民事といった場合にcivilと訳されるのかcivil and commercialと訳されるのか分かりませんけれども,そういったことも踏まえて言葉を選択するということになろうかと思います。 ○上原部会長 ありがとうございました。ほかにこの点について御意見ございますでしょうか。 ○髙階委員 まず,乙案に絶対的に賛成です。というのは,やはり規定は明確でないといけないと思うからであります。それから,ここで使う用語なのですけれども,公法というのは割とはっきりしていると思うのですけれども,私法といったときに果たして一体何を指しているのか,私人間の法律行為を規定する法律というような定義が可能だとしたら,これは甚だ広範な法律を含むことになります。したがって,結論から申し上げると,このcommercial transactionに対する日本語の訳として最も適当と思われる「取引行為」という用語を使ったらいかがかと思うのです。この条約の中でもcontractとtransactionといって,必ずしも契約関係ではない法律関係も含んでいるようにもうかがえますし,それから,日本の商行為という概念と,そういったときの行為というのが契約とそれから法律関係を含んでいるという理解でおります。したがって,取引行為といったときの行為というのが商行為といったときの行為と同じような意味を持つのと,それから,取引のところにcommercial transactionという意味を含むという理解ができると思います。   それから,そもそも絶対免除主義から制限免除主義に変わってきた歴史の過程で,取引の保護ということが言われてきたと思いますので,国家が主権免除を受けることによって民間人が不利益を受けることのない,そのような取引というのがそもそも対象となっていると思いますので,私法上の行為といったときには余りにもちょっと広過ぎるというふうに理解いたします。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本委員 絶対的な少数派だと思うのですが,条約第2条1(ⅲ)のようなバスケット条項を置くべきだという御意見もパブリックコメントで寄せられた御意見の中にはあるようですが,私が見る限り,やはりこの(ⅲ)に技術的な意味があるとしたら,それは何かというと,雇用契約を除くということにしか恐らく技術的には意味がないのだろうというふうに思っておりまして,そうだとすれば,雇用契約については甲案の注にも書いてありますように,試案第9で明示をすればいいことであって,余り意味のない例示規定をそれこそ条約に書かれていないような例まで挙げて規定することにどれほどの意味があるのかよく分からないというのが私の感想でございます。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○竹下幹事 判断の前提として一点御教示いただきたいのですが,4と書かれているところ,及び次の5との関係もあるのですが,例えばこれ例示をしたとすると,「物品の売買に関する契約又は取引」は,すべてこの私法上の取引という枠組みの中に入ってくるようにも思える。ただ,例えば研究会の際の議論などでも出ていたかと思いますが,武器売買であるとか,あとは大使館用の土地の売買であるとか,免除を認めるべきか認めるべきでないか,我が国においてもこれまで議論があったのではないかと思われる分野についても,一見この4を見てしまうと物品の売買に関する契約又は取引ということからいえば,第9との関係で免除が否定されることになるかと思いますが,その点は必ずしもそうではないということなのでしょうか。それとも今申し上げたような武器売買であるとか,大使館用の土地の売買といったことについては,これはもう完全に免除するんだという趣旨なのでしょうか。 ○飛澤幹事 御指摘の点ですけれども,武器売買について全部免除とするかどうかというところは,厳密には態度を決定しておりません。ただ,例えば武器売買でもいろいろなレベルがあると思いまして,戦闘機みたいな普通は国しか買えないようなものについては,私法上の取引の例示には入ってくるけれども,仮に,次の問題を先取りしてしまいますけれども,判断基準で特に何も置いておかなければ最高裁判所が平成18年判決で示したような特段の事情というので抜くという事案はあるのかなと思っております。実際,アメリカ法は,性質で判断するという明確な規定を置きながらもそういった考慮をしている場合もあるところでありまして,こうした点にかんがみましても,やはりそういった例外を認める余地はなおあるのかなと思っている次第です。   ただ,この乙案で例示を書くというのは,基本的に性質説に立つということを示すという点においては意味があるのかなと思っております。 ○竹下幹事 今の前提が確認された上での意見でございますが,そのような具体的に条文になったときにどうなるかはともかく,この試案の趣旨としてそのような留保的なところも残っているという前提であるとするならば,これまでの日本の議論にかんがみても乙案としても適切ではないかと思いますので,乙案を支持させていただきます。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。   特に御意見等がないようですので,ここで休憩をとらせていただきます。           (休     憩) ○上原部会長 それでは,再開いたします。   続きまして,第2の5につきまして説明をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,続きまして「私法上の取引」の判断基準の項について説明させていただきます。具体的な内容は,部会資料3の6ページ以降になります。   こちらにつきましても,甲案と乙案の二つの案を示させていただいているところでございます。甲案は,要するに「私法上の取引」の判断基準については,特段の規定を置かないものとするというものです。それから,乙案は,性質説に依拠しつつも,目的等も考慮に入れられる余地を残した規定を明示的に置いたほうがいいのではないかという提案でございます。   甲案の根拠といたしましては,具体的に判断基準において性質説だけの内容を書いてしまいますと,若干の先ほども話題に出ましたけれども,その契約とか取引の性質が私法上というかcommercialなものであれば直ちに例外の余地がないのかといった問題,つまり例外を認める余地がより狭くなるように解されるおそれもあるので,そうであるのであれば,特に何も書かないほうがいいのではないかという価値判断に立った提案でございます。   それに対して,乙案の根拠といたしましては,やはり性質説に対する何らかの例外を認めるのであれば,条文上の取っかかりというか,のりしろみたいなものを設けたほうがいいのではないかといったところが主な根拠になっております。ただし,この乙案に対しましては,やはり明文で書くとなると,一点目は条約上は目的を考慮できる場合には考慮する旨の規定を置くということなので,正に目的を考慮するといったような内容が入ってきてしまうことになります。ただ,いわゆる目的説は,取引の客観的な内容というよりも,よりその国家の主観的な意図のようなものに重点が置きがちになって,運用いかんによっては非常に絶対的免除主義に近づいていってしまうという批判もあるところでありますので,やはりそういった危険のある目的説を条文上の文言として入れるのはどうかという問題があります。   それから,もう一つは条約で目的を考慮できるというのは,あくまでも法廷地国において目的も考慮する慣行がある場合という規定となっておりますけれども,最高裁の平成18年7月21日判決は,特段の事情がある場合には私法上の取引の例外を認める余地があることは言っているのですけれども,その特段の事情というのが決して目的説をとる趣旨ではないということを担当調査官が書いているところからも示されておりますとおり,日本にそもそもそういった目的を考慮する慣行があるのかどうなのかというと,その点からも非常に疑わしいという面がありますので,若干乙案をとるに当たっては,そういった点を考慮しなければいけないのかなと考えている次第でございます。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,この5につきまして御議論をお願いいたします。 ○阿部(泰)委員 ここは4項の「私法上の取引」の定義の乙案であれば,こちらは甲案,すなわち特段の規定を置かなくてよいと考えます。「私法上の取引」についてある程度具体的な判断基準が4のほうで示されるのであれば,そのあとは解釈に残すことが妥当だと思います。 ○上原部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○阿部(潤)委員 今阿部(泰)委員がおっしゃったように,まず先ほど第2の4で「私法上の行為」というのが定義あるいは具体例を含めて定義されるとすれば,そこで性質説が出るので,運用としても基本的に性質説に立った運用がされるだろうと思うのです。ただ,例外的に目的を一切考慮しないのかというと,具体的妥当性のためにややそこは穴があいていたほうがいいと思うのです。ただし,それを立法化するということは大変難しいことですので,規定を置かなくとも基本的には性質説に立った運用がされて,例外的に総合判断の中の一つの要素として客観的な意味における目的というものが入っているということがあるとは思います。実際最高裁の前後の下級審の裁判例を見ても,大体そのようなところで判断をしているではないかというふうに思いますので,第2の5については,甲案でよろしいのではないかと思います。 ○上原部会長 ありがとうございました。ほかにいかがですか。 ○垣内幹事 この問題は,どうしても先ほどの「私法上の取引」の定義に関する考え方と関係してくるかと思いますけれども,私の御質問は,先ほどの竹下幹事の質問とも関係いたしますが,御案内のあった平成18年の最高裁判決ですけれども,この判決の判断枠組みは,基本的にはある行為が私法的な行為に該当する場合であったとしても,特段の事情がある場合には我が国の裁判権を及ぼさないと,そういう枠組みになっているわけでありますけれども,仮に今御提案の法律を制定いたしました場合に,ある行為が私法上の取引ないし民事及び商事の取引等々に該当するという場合には,これは試案ですと14ページの第9でございますが,私法上の取引については,裁判権は免除しないということになっておりますが,先ほどの竹下幹事の御質問に対する御回答というのは,第9には例外の余地があると。つまり私法上の取引には該当するけれども,特段の事情のような例外的な考慮によって,やはり裁判権が及ばない,そういう場合もあり得るというのが事務局のお考えでしょうか。それとも,もう一つ考えられる処理といたしましては,この法律を前提とした場合には,特段の事情的な要素は私法上の取引該当性の枠内で判断すると。したがって,例外的に裁判権を及ぼすべきでないような場合については,それは私法上の取引に該当しないものとして扱うという理解を前提とされておられるのか。そこのところを確認していただければと思います。そのことが例示を置くかどうか,置いたときにそれがどういう効果を持つか。私は例示を置いた場合には,その例示されている事項に該当する限り,それが私法上の取引には該当しないという解釈はかなり制約を受けるのではないかという懸念を持ちますので,その点を教えていただければと思います。 ○飛澤幹事 今,垣内幹事から御指摘のあった点は,確かに難しいなと思ったのですけれども,事務当局としては実は後者,つまり特段の事情がある場合には若干判例の枠組みとは違うかもしれないのですが,私法上の取引に当たらないと結論づけるほうで読むのかなとは整理をしておりますが,確かに「私法上の取引」という文言で例示まで挙げておきながら,特段の事情があった場合にそれに当たらないというのは,ちょっと整理として難しい面もあるのではないかという御指摘もごもっともですので,この点についてはなお検討させていただきたいと思います。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。ほかにいかがですか。 ○中西幹事 先ほどの阿部さんの御意見に関連してなのですが,4で例示を挙げているから,こちらでは甲案でよろしいという話だったのですが,それで垣内幹事の意見とも関係するのですけれども,4で物品の売買に関する契約又は取引とか,それで竹下幹事の休憩前の発言とも関係するのですが,条約を見ると,物品の売買に関する商事上の契約又は取引ということで,物品売買に関する取引だからといって常に私法上の取引に当たるとは限らないわけなので,物品の売買だから,即私法上の取引というふうにはならないのではないかという気がするのです。だから4で例示を置いたからといって,直ちに甲案によっていいということにはならないような気がしたのですが,その辺はいかがでしょうか。 ○飛澤幹事 先ほどの「私法上の取引」の定義で申し上げた①,②,③の例示の仕方について今ちょうど御指摘があったので補足的に御説明させていただきますと,条約上は物品の売買に関するcommercialな契約又は取引,それから役務の取引についてもcommercialといった要件が入っております。では,なぜ①,②で商事というのを外したかと申しますと,先ほど申し上げましたとおり,実は条約の一番最後のバスケット・クローズで書かれているところで,その他一切の物品の売買及び役務の提供に関する契約または取引,これはフランス語,正文上の言い方なのですけれども,そういった言い方で結局全部商事以外のものを含めてしまっておりますので,そうであればそこの部分も取り込んだ形で例示としては商事を抜いてしまったといった点がございます。 ○上原部会長 例示の挙げ方あるいはその文言につきまして,なお問題は残るかと思いますが,今後,事務当局でもう少し検討していただくことにいたしまして,先へ進んでよろしいでしょうか。   それでは,第3にまいります。 ○飛澤幹事 それでは,第3,影響を受けない特権又は免除の関係について御説明いたします。部会資料3の7ページでございます。   ここで挙げましたのは,基本的にこの主権免除に関する法律で免除とか非免除とかという規律を設けるのですが,そういった規律に影響されない分野について挙げたものであります。つまりここで挙げた①から③までについては,それぞれ条約に明記されているものでありまして,④は後ほど御説明しますように,条約の審議経過からそのように解されているものでございます。   まず,①のいわゆる外交特権と呼ばれる領域のものにつきましては,仮に主権免除と重複するようなことがあっても,そちらの外交特権でもし免除となっているのであれば,それについては影響を及ぼさないといった内容の趣旨の規定でございます。   それから,②は国家元首についても一定の人的免除というものが現段階では条約の形では恐らくないと思うのですけれども,国際慣習法という形で存在するようですので,そちらについて仮に主権免除の文脈で免除されない,裁判権から免除されないというような場合でもこちらの元首の人的免除の文脈で免除されるというのであれば,そちらには影響しないというものでございます。   ③は外国等が所有し又は運航する航空機とか宇宙物体についても,条約等で一定の免除が与えられているような場合には,それには影響させませんよといったことを示しているところでございます。   ④のところは先ほど条約に明言されているのではなくて,条約の審議の経過にかんがみて入れたと申し上げましたが,それについての御説明は,部会資料3の8ページ,5というところに記載しております。それと併せて9ページの注に記載しているところを御覧いただきたいのですけれども,先ほど要綱試案の第1のところで,この条約の対象として裁判権のうち刑事裁判権は除かれるといったところの御説明をしたと思います。この条約から刑事裁判権が除かれるということも条約には明記されていないのですが,先ほど申しましたように,ハフナー議長がこの条約の裁判権から刑事裁判権が除かれることを言って,それを総会での条約採択時にそのステートメントに言及する形でこの条約が採択されたという経緯がございましたが,この軍の問題につきましても同じ文脈で処理されているというところでございます。すなわちハフナー議長がこの(注 )1(1)で書きましたとおり,軍事的活動については,この条約がカバーするかどうかということについてはそうではない,つまりカバーしないと考えているといった発言をいたしまして,その発言が国連総会でのこの条約の採択時にその旨のハフナー議長のステートメントを考慮するといった形で取り入れられているといった事情,それから,ノルウェーはこの条約を締結しておりますけれども,ノルウェー自身,(注)2で書きましたとおり,この条約は軍事活動についてはカバーしないといった趣旨の解釈宣言を出しておりますが,それに対して関係各国からそれはおかしいのではないかとかといった発言もないところから見ると,やはりこの条約の趣旨としては,正に外国軍隊の活動について条約あるいは国際慣習法で既に一定の特権とか免除が与えられている場合には,この主権免除の規律はそういった特権免除を害するようなものであってはならない。つまりそちらの特権免除に影響を及ぼすようなものであってはならないと規律するのが適当と思われましたので,④のような規律を①から③と並べて置いたというところでございます。   この点について,パブリックコメントに寄せられた意見が部会資料7の4ページ及び5ページに書かれていますが,まず最初の一つ目の意見として,特にこの要綱試案の第3の②の関係でございますけれども,国家元首の処理の仕方は,この試案のとおりで正しいのではないかといった意見がありました。それから,試案の第3の④の関係につきましては,このような規定を設けることについては反対であるといった意見が寄せられているところであります。その反対の理由につきましては,部会資料7の4ページ及び5ページの①,②,③として書いてあるとおりでございます。ただ,この反対意見につきましては,若干事務局としての見解を申し上げますと,この④の規定を設けることによって何か外国軍隊の活動に関して,新たに何らかの特権とか免除を認める趣旨ではございませんで,既に条約あるいは確立された国際慣習法で認められている免除等には,こちらの主権免除の規律は及ばないことを言っているにすぎないので,いささかこの④の規定の理解の仕方が当方が考えているのとは違うのかなといった印象を持っているところでございます。 ○上原部会長 では,よろしく御議論ください。特にございませんでしょうか。 ○青山委員 今の4のところの説明をお聞きして分からないこともあるのですけれども,レシプロシティーの立場から考えますと,日本の自衛隊が外国に行って,そこで何か裁判になるような場合に,日本としては国内法としてこの規定を置くということは,日本の自衛隊が海外に行った場合もそこの国でもそういう扱いをしてほしいという願望があるのかないのか,それはもうその国の国内法なりあるいは条約なり,国際慣行にゆだねて知らないという立場なのか,この辺のところについて何かお考えがあればお聞かせいただければと思います。 ○飛澤幹事 政策論はいろいろあると思うのですけれども,④を置かせていただいた趣旨というのは,この条約の審議において,外国軍隊の活動にはこの条約は影響を及ぼさないといったようなことになりましたので,それをできるだけ忠実に反映するために置いたという点が主眼でございます。   それから,横田基地訴訟の最高裁判決は,外国軍隊について裁判権免除かどうかは国際慣習法で規律されているという判断をしていますが,その判断に特段影響を及ぼすものではないという趣旨でもこの規定は置いておく意味があるのかなと思っております。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。 ○阿部(泰)委員 ②の元首に関する扱いに関する確認なのですけれども,実は中東のある国のいわゆるソブリン・ウエルス・ファンドと言われているものに国家元首の資産そのものが含まれている,要は当事者は国家元首とそのファミリーだけであって,その運用はいわゆるソブリン・ウエルス・ファンドという形態をとっており,正に王様の個人資産を増やすためにやっているというのもあるのですが,これはこの場合には該当しないということでよろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 多分文脈にもよると思いますし,この元首に関する特権免除がまずどこまで及ぶかという国際慣習法の理解にもなってくると思うのですが,そこら辺はむしろ国際法の先生にお伺いしたいところでございます。 ○上原部会長 河野委員,いかがですか。 ○河野委員 恐らくもともとは国際法の世界では,この主権免除というときに元首と国家が一体であった時代があって,その文脈で議論されることが多かったのだろうと思います。ところが,国家というものと,それから元首というものが切り離されるようになってきて,民主主義に基づく国家が出てきたときに,国家が認められる免除と,それから元首が認められる免除が分離をし始めて,その結果として今,主権免除というときには主として国家という枠組みのほうに免除を認めることになり,元首の側にはそれとは区別されるという考え方が出てくるようになってきているのだろうと思います。ただ,その区別がどこまで明確に慣習国際法上,今確立しているかというと,大変議論があるところで,その意味でどの程度分離できているのかとか,どの程度元首のみの慣習国際法が証明できるかというところは相当難しい点があるとは思います。ただ,この今の文言の趣旨というのは,そういう議論を含めて元首に関しては,少なくとも人的な部分ではこの法の対象としないという趣旨だけであるというふうに国際法学者としてはお答えせざるを得ないと考えます。  水島幹事,ほかにありますか。 ○水島幹事 きちんと事態を把握しているかどうか分からないのですが,少なくともこの条約の趣旨として念頭に置かれているのは,国家元首については少なくとも現在のところは絶対免除主義だという慣習国際法の立場があるという前提で,恐らくそれには影響を与えないということなのですが,場合によっては今後の展開というか,元首だからといって何もかもが免除されるわけではないというふうに変わっていく可能性はありますので,慣習国際法の変化次第ということであり,将来的にも必ず100パーセント免除されるかというと,それは分からないということになる。要はここで書いている元首に関する条約又は確立された国際法規のその時点での内容次第だということです。 ○岡野幹事 ここは国家実行が非常に薄いところだと思います。確立された国際法規というのは元首イコール主権免除,それは歴史的な経緯から河野委員がおっしゃったことですが,基本的にはもともとは身体の拘束等人のことについて国際判例等では出てくることはありますけれども,その持つ財産等についてまだ国家実行が十分積み重なっていません。基本的には絶対免除主義というのがあって,それから流れとしてそれがどれだけ解除されていくかという方向に流れていくと思いますけれども,そこはまだ国家実行が積み重なっていないということだと思います。 ○上原部会長 この点はこの程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,第4の経過措置に関する話に移りたいと思います。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料3の9ページにございます,経過措置について御説明いたします。条約では,第4条のこの条約の不遡及というところに規定がございますが,これに対応する規定を国内法でどうするかということなのですけれども,基本的にはこれは国内法では本則ではなく,附則においてどのような経過措置を置くかといった問題でございますので,少なくとも国内法の本則ではこの第4条に対応する規定は置く必要はないと考えているところでございます。   以上でございます。 ○上原部会長 この点は特に御議論いただかなくてもよろしいかと思いますが,いかがでしょうか。   それでは,その次,第5にまいります。 ○飛澤幹事 それでは,第5の説明に移らせていただきます。   第5については,外国等が基本的に法廷地国の裁判権から免除されるという原則について定めたものでございます。条約第5条,第6条でそのあたりのことが書いてありますので,それを受けまして,まず第5の1でその原則を表したというところでございます。   次に,部会資料3の10ページの2(2)のところになりますが,この条約第6条2(b)に対応する規定についてどう処理するかということにつきまして,ここにお示ししましたように,甲案と乙案の2案がございます。甲案は,条約第6条2(b)に対応する規定は置かないというものです。部会資料2の対比表を御覧下さい。どのような場合に外国等に対して裁判手続が始まったものと見るかということで,条約第6条2(a)は当然のことなのですけれども,当該手続で外国等が当事者となった場合,それから,今回問題になります甲案,乙案が出ています条約第6条2(b)は,直接その外国等が裁判手続の当事者としては出てこないけれども,この当該裁判手続が結果として当該外国等の財産,権利,利益又は活動に影響を及ぼそうとしている場合には,やはりその外国等に対して裁判手続が開始されたものとみなして原則免除だという規律を及ぼそうというものです。条約第6条2(b)というのは,そういった趣旨の規定でありますけれども,これに対応する規定を国内法で置くのか置かないのかというところがこの甲案,乙案の議論でございます。   部会資料3の10ページの(2)アのところで甲案の根拠を書いております。甲案,つまり条約第6条2(b)に対応する規定は置かないという考え方の根拠は,そもそも条約第6条2(b)というのはどのような趣旨の規定なのかということを探索しましたところ,コメンタリー等の記載からすると,どうやらこの6条2(b)が念頭に置いているのは,英米法系の国で見られる対物訴訟と呼ばれる訴訟,これに準ずるような訴訟も含むのですけれども,そういった訴訟あるいは保全処分とか民事執行の手続が対物的に行われるような制度を念頭に置いているのではないかと考えられます。そうだとしますと,日本にはまず対物訴訟とかそれに準じたような人ではなくて物を対象とするような裁判手続はございません。また,保全処分や民事執行につきましても,あくまでも当事者は人であって,物が当事者となるような裁判手続はございません。そうすると,条約第6条2(b)が念頭に置いているような場面は,日本の裁判手続の制度では存在しないと言えるのではないか。そうであれば,条約第6条2(b)に対応する規定は置かなくても良いのではないかというのが甲案の根拠でございます。   それに対して乙案の根拠につきましては,部会資料3の11ページのイにも書きましたように,外国等が裁判手続の当事者ではないが,当該外国等に当該裁判の効力が及ぶ場合も1と同様にする。つまり先ほど申し上げましたとおり,外国等が直接当事者ではない裁判手続についても主権免除が認められる可能性を認め,そのような趣旨の規定を置こうといったものであります。まず,条約の理解として,先ほどの甲案は条約第6条2(b)が念頭に置いているのは対物訴訟か対物的なその他の裁判手続であって,日本にはそのような制度はないという整理だったのですけれども,乙案はそもそも条約第6条2(b)が念頭に置いている制度の理解として,主として対物訴訟を念頭に置いているという理解は同じなのですけれども,それだけに限らずやはり裁判手続の結果がその当該外国に及ぶことが制度上予定されているような場合も一定程度含めなければいけないのではないかというものです。それで,乙案としては裁判の効力が及ぶ場合という書き方をしています。この裁判の効力には形成力とか既判力などがありますが,そのような裁判の効力の中でどのような効力が外国等に及ぶ場合に主権免除を認めるかというと,当該訴訟の既判力が外国等に及ぶ場合については,当該訴訟について外国等が当事者でなくとも主権免除を認めるような形にしようといったのが乙案でございます。   では,既判力が及ぶ場合だけでいいのかということなのですが,それについては,部会資料3の11ページのイの括弧書きで「例えば」というところで書きましたとおり,補助参加をできるような場合ということが一点考えられますけれども,補助参加できるような場合というのは,やはりその当該訴訟の判決の結果によって,外国等は事実上利害を害される可能性がある場合も当然含まれるわけですから,そういった場合を含めるかどうかというのを一つの例として考えてみますと,やはりそれは少し広過ぎるのではないかと思われます。何ゆえ広過ぎるかといいますと,先ほどから申し上げておりますとおり,この乙案の考え方というのは,要は当該訴訟自身を見たときには,外国等は当事者としてどこにも出てこないにもかかわらず,その結果が外国等の権利,利益に影響を与えるからということで,当該訴訟について主権免除を認める,つまり訴え却下の可能性を認めるといったことになると,結局私人間の訴訟であるにもかかわらず,主権免除ということで訴え却下という話になり,それは正に私人,個人の裁判を受ける権利の侵害という問題も出てくるのではないかといった懸念もあります。そこで,やはり一定程度限定する必要があるのではないかといった種々の考慮をした結果,先ほど申し上げたとおり,判決の効力という言葉は使っていますけれども,基本的には既判力の場合を念頭に置いて,そういった場合には免除の可能性を認めましょうというのが乙案ということでございます。   この点に対するパブリックコメントの結果でございますけれども,部会資料7の5ページ及び6ページを御覧ください。まず,この試案の第5全体についてのコメントということで紹介しますと,若干条約と試案では書きぶりが違うので,論理的にはいろいろ違いが出てくる余地もあり得るけれども,結論的には試案のような書き方でも良いのでは ないかという意見がありました。それから,条約第6条2(b)について,甲案をとるか乙案をとるかについて意見を三者からいただきました。それを分けると甲案に賛成というのが一者,それから乙案に賛成というのが一者,それから残りの一者は意見が割れたということで,それぞれの賛成の理由を書いてきたといった形になっておりまして,それは部会資料7の6ページでそれぞれ紹介したような内容となっているところでございます。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,第5につきまして検討をお願いいたします。 ○阿部(泰)委員 条約第6条2(b)が適用される場合として,例えば民訴法第115条第1項第2号,すなわち当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人というのはあり得るのですか。 ○飛澤幹事 法定訴訟担当のケースですので,債権者代位訴訟みたいなものを考えております。 ○山本委員 確認なのですけれども,もし乙案のように対物訴訟以外にも既判力が外国等に及ぶような場合があり得るということを想定して,そういう既判力拡張があるような場合には主権免除の対象とするというふうに定めた場合に,その法的効果は外国等自身が訴えられた場合と同じように却下になるのでしょうか。例えば,対物訴訟を想定しても,却下をしてもそれをどこで訴訟をやるのだろうという気がしなくもないんですね。まして我が国で例えば判決の対世効みたいなのが定められている訴訟を却下してしまっていいのかという話になるのかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 御指摘の点は非常に難しい点でございまして,悩ましいところなのですが,例えば今,対世効のお話が出ていましたが,対世効の及ぶ場合に常に却下というのはおかしいのではないかということで,もちろんそういう場合は単に外国に判決の効力が及ばないとすればよいのかもしれません。しかし,他方で全体について合一的な確定をしなければいけない判決というのもございまして,そういった場合にはなお訴え却下としないと厳しい点もありまして,そこら辺の区別がなかなか難しいところで,むしろ何かいい御示唆をいただければと思っているところでございます。 ○山本委員 基本的には主権免除というのはある外国が自分の国の裁判所で訴えられる権利を有するということですよね。ですから,他国で訴えられた場合は,その権利を侵害することになるから主権免除の対象にすると。そうだとすると,自分が当事者,被告として訴えられるのではないけれども,実質的には自分に既判力が及んで,自国で仮に自分が被告とされた場合であっても,その不可争力を受けて争えないというのは,実質的には主権免除を受ける権利を侵害していることになるから同じように扱おうというのは,発想としては分からなくもないのですが,今おっしゃったような対世効のようなケースですと,そもそも例えば法人関係の社団の組織に関する訴訟などは,恐らく法人の設立・準拠地法国とか本拠地法国以外でそもそも裁判はなし得るのだろうかという気がしなくもないのです。だから,そういうことまで考えていくと,いよいよ分からなくなってしまう規定でして,だからどうするかと言われると,私も判断しかねている部分があって,何も置かないというのが一つの対応ですし,あるいはもし何も置かないという対応をしてしまったときに,この条約を我が国が批准した場合,条約が本来外国に与えている主権免除の特権を外観上狭めているような形になるとするとまずいということであれば,条約の文言をそのままの形で国内法とするか,それとも判決効という形に限定して規定するかはともかくとして,何か置いておかなければいけないのかなという気もしなくもない。ですから,私も今日の段階では甲案,乙案どちらとも態度を決定しかねる部分がございます。 ○三木委員 私も意見というよりも疑問を呈するようなことになるのですが,やはり乙案の前提となっている考え方がよく分からないのです。これは事務局案が分からないというよりも,もとの条約の規定が分からないと言ったほうがいいのかもしれませんが,仮に乙案のようにこの条約の規定が対物訴訟を超えて既判力が第三者に及ぶ場合も含んでいると考えたとした場合でも,既判力の第三者に対する拡張には,先ほど阿部(泰)委員がおっしゃった民訴法第115条の特定第三者に対する拡張と,山本委員がおっしゃった一般第三者に対する拡張,いわゆる対世効とあるわけですね。対物訴訟というのは日本にない概念ですから,私の専門ではありませんから理解が間違っているかもしれませんが,私のごく薄い理解だと,どちらかといえば対世効に近いわけですよね。そうすると,特定第三者に対する拡張,つまり民訴法第115条のような局面をそもそも想定しているのかどうかがまず分からないのです。仮に想定しているとしても,結論だけ言うと,そういう場合には別に主権免除の対象に入れなくてもさほど不都合が起きるとは私は思えないのです。他方で,対世効的な場合,これも具体例を挙げないとなかなか空中戦の議論をやってもよく分からないところがあって,外国が対世効を受けるような訴訟で,日本に裁判管轄があるケースというのがどういうケースなのか,例が浮かばないので,そもそも対世効があるケースのうち,この条文がケアしなければいけないケースはどのようなものなのかというのをもし事務当局が御検討の際に想定していたものであれば教えていただきたいのです。 ○佐野関係官 お尋ねの点につきましては,事務局でも詳しく詰めているわけではないのですけれども,例えば民訴法第115条のケースで外国にこういう効力を及ぼさないと免除の恩恵を与からせないと困るケースとしましては,外国が債務者となっている債権者代位訴訟が挙げられると思います。この場合,今の日本の債権者代位の制度では執行まで完了してしまうわけですから,免除にならないと外国が知らぬ間に債権をとられてしまう可能性があるわけです。そういう場合は条約6条2(b)で救済するべきなのかどうかということがまだよく分からないというところが例としてあります。 ○三木委員 個別の例で議論はしたくないのですけれども,先ほどの代位訴訟の場合,無資力要件が要るわけで,外国国家の事件で無資力要件が働く場合はどんな場合があるのでしょうか。 ○佐野関係官 外国がファンドを発行した場合だと思うのですけれども,そういうケースではなきにしもあらずかなと,破綻した場合です。机上の空論ということが多分にあるのですけれども,細かく考えるとそういう例があるかなという感じです。 ○山本委員 ただ,債権者代位というのはむしろ民事執行ですよね。債権差押えなどと同じように考えて解決するのが筋かなという気がいたします。この条約というか担当者試案でいくと,第17ですか。これに引き寄せて考えるのが適切なのではないかなと思います。実質差押えですから。 ○三木委員 私も同じことを言おうとしたのですけれども,あれは民法の先生のほうが詳しいですけれども,特殊な差押えの制度を取り入れたもので,ドイツ法にはない概念ですよね。ですから,その議論がなじむのかどうか分からないですし,それからもう一つ,先ほど申し上げましたけれども,特定第三者への拡張をそもそも議論の前提にしていいのでしょうか。国連の立法の議論をつまびらかに知らないので,むしろ教えていただきたいのですけれども,どうも先ほどから言っているアクション・イン・レムを主として想定しているということは,特定第三者の拡張ではないわけですよね。ですから,その辺の前提もよく分からないですし,先ほどの代位訴訟に戻りますと,そもそも国家の財政が破綻して対外債務が超過しているなどの場合に,それがいわゆる債権者代位訴訟の無資力要件に当たるかどうか自体も私は疑問だと思いますし,もろもろの疑問があってちょっと例としては適切ではないので,なお適切な例があって議論をすべき問題ではないかと思います。 ○上原部会長 御指摘は分かりました。これは研究会のときには随分議論しましたが,この条約の趣旨を明らかにすることができていないわけでありまして,そのような条約を前提としてどうするのかというのは,非常に難しい問題であると思います。そこはもう少し事務局等で考えていただきまして,また議論したいと思います。   この点につきましてほかに御意見はございますでしょうか。 ○髙階委員 日本の訴訟でこの条文の適用があるケースとして,二つ思い付いたのですけれども,一つは国家の財産を民間の機関のほうに信託して,民間の機関が受託先として保有しているケースにおいて,民間の受託先に対して訴訟が起こされて,その効果が委託者である国家に影響が及ぶというケースです。それから,もう一つは,民間が保有している財産の利用権を国家が持っている場合,民間の機関に対して訴訟が行われて,その結果として国家が利用権を失うというケースなのですが ,この二つというのは該当しないのでしょうか。 ○上原部会長 後者の例につきましては,研究会で多少議論したようにも記憶しておりますが,そこも含めて事務当局で少し検討してもらってはどうでしょうか。   それでは,その次に進んでよろしいでしょうか。 ○阿部(潤)委員 事務局で御検討していただく際に参考にしていただければと思いますけれども,判決が及ぶという場合には,先ほど委員の方々が言われたように,種々雑多なものが含まれています。債権者代位訴訟もそうなのですけれども,会社関係訴訟,行政訴訟,そして人事訴訟のようなものまであります。これらについては判決の拡張される理論的背景とか根拠がそれぞれ違っております。全部を網羅してはいませんが,例えば民訴法第115条の口頭弁論終結後の承継人になると主権免除はどうなるのかというものを考えていくだけでも結構むずかしい問題が起こるように思われます。結構どういう場面で免除がどのように働くのか,その結果,裁判所は却下の判決をしなければいけないのか,あるいは何かの申立てを退ける判断をしなければならないのか等々を考えていると,非常に難しい問題に直面します。そこで,条約が対物訴訟を想定しているといえるのであれば,結果的に甲案が相当であるという意見になります。   他方で,乙案はこのパブリックコメントにもありますように,条約が直接適用になるとすると,訴訟の場面で法律が条約違反だとか条約を直接適用したことに基づいていろんな主張が出てくるのを排斥できないのではないかという漠然たる不安感に基づくものです。パブリックコメントの回答をするに際してそのようなところが議論されたような気がしますので,参考にしていただいて御検討いただければ有り難いと思います。 ○上原部会長 ありがとうございました。 ○飛澤幹事 続きまして第6の御説明をさせていただきたいと思います。部会資料3の11ページからでございます。   第6は,先ほど第5において外国の裁判権からの免除の原則のようなものについてお示ししましたが,それに対する例外の第1として,まず外国等がそもそも他の国での裁判権の行使に対して,明示的に同意した場合といったものがございますので,その明示の同意の形態等について示しているのがこの試案の第6でございます。   それで,試案の第6の1のほうは明示の同意というけれども,更にどういった方法で同意されたものであることが必要かということで①から③までの3通りが挙げられております。また,2はある種の解釈規定でありまして,法令の適用に関する同意,いわゆる準拠法の関係の同意を裁判権行使の同意と解釈してはいけないといった規定でありまして,いずれも条約に書かれております内容に準拠して規定を置いたものであります。   同じく部会資料3の12ページに移りまして,若干コメントという感じになりますけれども,「裁判手続」という用語を用いております。実は条約の仮訳とかでは訴訟手続をこのproceedingという言葉で訳しているのですけれども,実際ここで守備する範囲は,いわゆる日本で言う訴訟手続に限られませんで,それ以外の非訟関係も含みますので,国内法上や裁判手続と言うほうが相当かなと思いまして,裁判手続という文言に変えております。   それから,(3)の関係ですけれども,1③の「書面による通知」に関しまして,試案を御覧いただければ分かりますとおり,「裁判所若しくは相手方に対する書面による通知」ということで,通知の対象について言葉を補っております。なぜこの文言を入れたかと申しますと,この条約のコメンタリーでこの書面による通知は裁判所又は相手方,要するに外国等にとっての相手方に対するものであると注釈がついておりましたので,そうであるとすると,何も書かないとそこら辺がはっきりしないのかなと思いましたので,確認的に入れたという趣旨でございます。   なお,(4)のところはこういった同意について裁判所外でなされたものについて特に民事訴訟等で審理にどうやってこういった同意を上程するのかといった問題が一応ございますけれども,一般的な証拠調べの方法によれば足りると思いますので,特段この上程方法については規定を置く必要はないと整理しております。   以上でございます。 ○上原部会長 いかがでしょうか。   ございませんようでしたら,その次,やはり同意に関する規定ですが,第7に移ります。 ○飛澤幹事 それでは,引き続きまして第7の説明に移らせていただきます。   先ほどの第6は明示的な同意のお話でしたけれども,第7は同意に相当するような外国の行為があった場合,やはりそういった行為がなされた場合には外国等は裁判権から免除しないといった内容を規定しているものでございます。   まず,部会資料3の13ページの(2)を御覧いただきたいと思います。こちらは条約8条1(b)と,同条の2にいう他の措置をとる,taken any other stepという言葉を条約上使っているのですけれども,この意味が日本法上どのようなことを想定しているのかということが問題になりました。検討した結果,基本的にはいわゆる異議なく応訴をした場合だろうと考えられました。ただ,先ほど申し上げましたとおり,異議なき応訴というのはあくまでも訴訟手続上の言葉でありまして,この第7におきましても,訴訟手続に限らず裁判手続という広い概念を使っておりますので,異議なき応訴という言葉をそのまま用いることは難しいと考え,それにかわる言葉として,応訴にかわる言葉として弁論若しくは申述した場合といった文言を使っております。   それから,(3)で報告書試案からの変更点について御説明いたします。これは試案の2に関することでございます。部会資料2の条約の対比表の第8条を御覧ください。   条約第8条2は,「いずれの国も,次のことのみを目的として,訴訟手続に参加し,又は他の措置をとる場合には,他の国の裁判所による裁判権の行使に同意したものとは認められない。」とし,(a)として,「裁判権からの免除を援用すること。」,(b)として,「訴訟手続において問題となっている財産に関する権利又は利益を主張すること。」とそれぞれ規定しております。実はこの2に関して,条約は(a)と(b)の二つを挙げているところでございます。それに対して,この要綱試案の2を比較して御覧いただければ分かるとおり,要綱試案の2では,先ほどの条約の(a)のところだけを書きまして,(b)のところは記載しておりません。では何ゆえ(b)を除外したかといったことでございますが,それについての説明が先ほどの部会資料3に戻りまして,13ページの(3)で書いてあるところでございます。   すみませんが,(3)のところの説明の「報告書試案の第7の2では②として」というところから,そこを1行目として3行目のところの「甲案をとる場合」のあとの「はもちろんのこと,乙案をとる場合でも」という部分についてはややミスリーディングな点もありますので,この「はもちろんのこと,乙案をとる場合でも」というのは削除していただければ有り難いと思います。   (3)で書いてある内容のことなのですが,何ゆえ条約第8条2(b)を削ったかということですけれども,前提の理解として,先ほどの第6条2(b)に対応する規定を置くかどうかというところと関係しております。先ほどの第6条2(b)のところで甲案,つまりそれに対応する規定を置かないということになりますと,基本的には外国等が当事者とならない訴訟については,日本では主権免除の主張の余地は認めないという整理になるわけですから,そうした場合,条約第8条2(b)というのは正にそういった対物訴訟みたいに外国等が直接の当事者となっていないのだけれども,当該訴訟で問題となっている財産について権利又は利益を主張する場合に初めて意味のある規定であると。つまり条約第6条2(b)と8条2(b)はリンクしているものだと考えまして,6条2(b)に対応する規定を置かないのであれば,8条2(b)に対応する規定も置かないのが相当ではないかと考えられます。実質的な理由しては,部会資料にも書きましたけれども,実際問題として,全く8条2(b)というのは,6条2(b)がなければ主権免除という文脈から意味のない規定なのですけれども,それにもかかわらずこういった規定を入れておきますと,外国等が私人間の訴訟について,目的となっているものについて自分の権利とか利益に影響を及ぼすというような主張をして補助参加をしておきながら,自分が補助参加をした当事者が負けそうになってきた段階で実は主権免除だといった主張をして,実際補助参加して負けますと,訴訟費用の負担を命じられるなどの不利益を被るわけなのですが,そういったことを避けようといった動きがとられる可能性があると考えられます。この8条2(b)のような規定を入れておくと,そういった場合に濫用的な用い方を認める余地を作ってしまうのではないかといった理由から,国内法には,この8条2(b)に相当するものを入れないほうがいいのではないかということを提案しているということでございます。   これに対して,8条2(a)に対応する規定は入れておりまして,なおかつ試案の第7の2を御覧いただければ分かりますとおり,「外国等が裁判権からの免除を主張することを目的として裁判手続に参加し」という言葉がございます。そうすると,この場合も外国が参加してくるわけですから,当該訴訟で外国等は当事者ではなかったというわけなのですが,では何ゆえこの規定を残したかと申しますと,事務当局としては,この(a)まで全部参加も含めて削ってしまいますと,仮に外国等が本当に主権免除を主張する,日本の制度を誤解して対物訴訟みたいなものがあるとか,あるいは権利主張すれば主権免除が得られるのだと誤解をして主権免除を主張する意味で参加をしてきた場合に,主権免除だと言っているにもかかわらず,こうした規定が何もないと試案の第7の1に戻りまして,結局参加すれば基本的には免除されないということになってしまいますので,主権免除と言っているのに免除されないような場合が出てきてしまいます。それはさすがに問題だろうということで,すごくレアなケースかと思いますけれども,一応主権免除を主張することを目的としての参加というのは,安全弁として規定は残しておいたといった趣旨でございます。   次に,パブリックコメントの結果についても併せて御説明いたします。   部会資料7の7ページ及び8ページでございます。第7に関する意見は,四つ寄せられました。まず,一つ目 の意見につきましては,今回のお示しした担当者試案では,この意見を参考にして書き換えているといった整理をしているところでございます。   それから,二つ目の意見につきましても,この意見を踏まえまして,先ほど申し上げた8条2(b)に対応する規定を削除しようといった考えに至ったわけでございます。   次に,三つ目の意見につきましても,基本的に現在の要綱試案では対応しているところでございます。   最後の四つ目の意見ですけれども,この意見は,そもそも現在の試案では8条2(b)についての規定は全部落としてしまっておりますので,落とす限りはこの意見はちょっと反映のしようがないといった整理になります。   以上でございます。 ○上原部会長 いかがでしょうか。 ○三木委員 内容というよりも規定振りの問題なのかもしれませんが,1の②と2の関係なのですが,参加は特に問題ないので参加を外して読むと,裁判手続に異議を述べないで本案について弁論若しくは申述をした場合で,2のほうが裁判権からの免除を主張することを目的として弁論若しくは申述をする場合となるわけですよね。1の②のほうで,これは異議を述べないで本案について弁論,申述をした場合ですから,異議を述べて本案について弁論,申述をした場合と,それからそもそも本案前の弁論等をした場合は,これは同意とみなされないということになるわけですよね。他方で2のほうですが,裁判権からの免除の主張を目的としての弁論というのは,これは読み方にもよりますけれども,免除目的の弁論というのは,本案弁論ではなくて本案前弁論ですから,そうすると,何か別に矛盾があるとは思いませんけれども,リダンダントというか,何か重複があるような気がするのでその辺ちょっと教えていただければと思います。 ○飛澤幹事 実は全く御指摘のとおりでございまして,参加について書くので重複しているけれども,入れてもいいかということで入れているのですが,おっしゃるとおり,正に主権免除を主張することを目的として弁論,申述をするということは異議を述べないで弁論又は申述をする場合に当たりませんので,削ったほうがやはりいいというのであれば削る方向も当然視野に入れたいと思っております。 ○三木委員 内容について異論を述べているわけではなく,規定をつくる段階でよりスマートな規定を考えていただければいいというだけの話です。 ○上原部会長 分かりました。ほかにいかがでしょうか。 ○阿部(潤)委員 第7の2のことなのですけれども,一つはこのなお書きを御説明いただきましたように,「のみ」がなくなったということで,そうすると,主位的には本案前の主張としてまず主権免除を主張し,予備的あるいは仮定的に本案についても答弁を行うというような場合には,これは原則の1に戻るというふうに理解をするのでしょうか。 ○飛澤幹事 趣旨としては,仮定的に本案の答弁をしたとしても,主位的には本案前の答弁をしている以上は2,つまりそれによっていわゆる本案について異議なき応訴をした場合にはみなさないということになると考えております。 ○阿部(潤)委員 そういうことですね。 ○飛澤幹事 それに対して「のみ」を入れてしまうと,そういった予備的にでも本案の主張をすると,実は2ではなくて1に戻ってしまうのではないかというおそれがあるではないかという意見がありましたので,念のため「のみ」を削ったといった次第でございます。 ○阿部(潤)委員 パブリックコメントのときの担当者試案には,この「目的として」という文言がとれていたので,やや客観的なニュアンスがあったように受け止めていたのですけれども,要綱試案では訴訟行為に「目的として」という修飾語句があります。審理をする立場からすると,客観的な目的というのであればよろしいのですが,主観的な動機がこうだったと言われて,それが主権免除の例外になるかどうかという重要なポイントになるとすると,むしろ客観的なほうがいいのではないかという気はいたします。ただ,ここで書いてある目的はそういう主観的なものではなく,行為の性質から当然導き出される客観的なものだという理解ではないかと思いますけれども,なお条約には目的というのが書いてあることが重視されたのかもしれない。しかし,条約には同じく「のみ」というのも書いてあって,こちらの方は要綱試案では落とされております。条約との関係で検討する必要がありますが,担当者試案と比較して,要綱試案の「目的として」というのは若干違和感があるかなという気がいたします。 ○上原部会長 書き振りの問題としてなお検討させていただきます。   ほかにいかがでしょうか。 ○鶴岡委員 条約第8条2(b)を受けた条項がこの今の整理によると,なくなるということで理解してよろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 特に6条2(b)で甲案をとった場合には,特になくしたいということです。 ○鶴岡委員 私の理解が十分でないのかもしれないのですけれども,少なくとも8条2の規定は,この締約国としての義務は定めていると思うのです。条約上,日本が締結した場合にはこういうことについては他の国の行為について,こう理解してはならないという義務を定めていますね。その義務を条約上は残ってくるわけですけれども,国内法の中に受け皿がつくられない場合に,全くのこれは机上の空論かもしれないのですけれども,仮に裁判所で(b)の部分について動いた国があったとすると,その結果この事例に書いてあるとおり,後で訴訟費用の支払いなどを要求されたということがあった場合,その国がこの8条2(b)を直接提起して,ここで免除されているはずだということを言ってくれば,これは国としてどう判断することになるのでしょうか。 ○飛澤幹事 担当者サイドとして考えておりますのは,少なくとも8条2(b)というのは,正に(a)で言う裁判権免除を援用することというのと同じ内容なのだけれども,特に対物訴訟のケースがあるので特出しして書いたというふうに理解しておりますので,基本的には対物訴訟の規定を置かない限りは要らないだろうと考えております。ただ,先ほども申し上げましたとおり,日本には対物訴訟の制度はないのだけれども,あると誤解したとか,要は主権免除を主張する意図で権利又は利益を主張した場合には,訴訟活動等から判断して主権免除を主張する意図であったと読めるのであれば,今書いてある中でも試案の第7の2で書いてありますこの外国等が裁判権から免除を主張することを目的として裁判手続に参加しという方向で読めるかと考えております。ですので,(b)があくまでも主権免除の目的でそういった主張をされている限りは,記載しなくてもなお救済の余地はあると考えているところでございます。 ○佐野関係官 付け加えますと,イギリス法には対物訴訟における参加というふうな形で規定されておりまして,この6条2(b)と同様の対物訴訟を念頭に置いた規定だろうと考えております。本来ならば,6条1で参加した場合は,もう免除を受けられません,同意とみなすとなっているけれども,6条2であえて財産に関する権利主張だけは救ってあげますよとしているのです。何で財産に関する権利主張だけ特別扱いするのかという点については,参加の形態としては財産に関する権利主張ではなくて,普通のほかの補助参加とかの形態もあるわけですけれども,何で特出しで財産に関する権利主張だけ救っているのかと。それはまさしく対物訴訟しか考えられないため,ここについては削除するのが適切ではないかというのが事務局の意見でございます。 ○髙階委員 そもそもその条約の6条と8条の規定の整合性がちょっとよく分からなくなってきたのですけれども,6条のほうでは,この場合にはその訴訟が開始されたものとみなされるわけで,そうすると,要するに訴訟の当事者となったとみなされるというぐらいの意味で理解するのですけれども,その中でもし8条のほうも同じような趣旨の対物訴訟での話で,その中で財産の権利主張をすると,正に当事者として権利主張しているので,免除を放棄しているとみなされてもおかしくないように思いますけれども,ここの整合性はどう理解したらよろしいのでしょうか。 ○佐野関係官 今の御質問ですけれども,この8条2のところは,財産に関する権利主張をして参加したのだから,免除は放棄しているのではないかという御質問ですか。 ○髙階委員 それをわざわざそうではないというふうに言っている趣旨がよく理解できないのです。 ○佐野関係官 そこの趣旨については,私も全く同感でございまして,だからあえて対物訴訟を念頭に置いたとしか理由としては考えられない。自ら財産に関する権利主張をして入ってきているにもかかわらず,免除ですよというのは,普通に考えてもおかしいので,やはりこれは対物訴訟を念頭に置いたとしか考えられない。逆にこれを残すと何かとんちんかんな規定になってしまうので,条約の解釈としても窮するという状況になると。だからこその対物訴訟だというふうに落ち着くのかなと思います。 ○髙階委員 6条は対物訴訟を含んでと言っているから,対物訴訟以外のものも想定しているということになりますよね。 ○佐野関係官 想定している可能性もあるということです。 ○髙階委員 なおかつ対物訴訟だと言っていて,それが訴訟が開始されたものとみなされるといって,訴訟の当事者と同じ扱いにするという規定の仕方ですよね。そうすると,何か整合性がとれていないということはないのでしょうか。 ○飛澤幹事 今のは必ずしも当事者として扱うというのではなくて,免除の文脈において外国が当事者となったと訴訟と同じように考えると言っているにすぎないのではないですか。やはり当事者となっていたら,当事者として何かできるのかという話になってしまうと思うのです。 ○髙階委員 確かに開始されたものとみなされると,そこまでしか言っていないです。 ○上原部会長 やはりこの6条にしろ,8条にしろ条約の趣旨が我々としてなかなか理解困難というところがあるものですから,事務当局もそれを前提とした国内法の規定につきまして,非常に苦労しているところでございます。御指摘を踏まえまして,もう少し検討したいと思いますが,よろしいでしょうか。 ○鶴岡委員 今の御説明は,いろいろ事務局の中で検討された結果,論理的にはこういう説明しかないだろうという前提のもとで整理をするとこのようになるという御趣旨であると理解したのですけれども,他方,国内法が条約に先行していて,あとから条約が作成された国とか既に条約を運用しているところもあるわけですね。それは理論的な話ではなくて,現実に国内法を施行し,かつ対物訴訟の仕組みもあるようなところでどう考えているのか。それでは大陸法系ではどうなるのか。これはここの理論的な問題として,この「はずだから」ということで外す部分が条約上は義務になっていることですから,私たちはそう思ったのですということだけでは,仮に条約違反を提起されたときの答弁としては弱いのではないかと思うのです。ですから,少しここは諸外国の実行とか法制度の違いから出てくるような部分についてももう一度検討をする必要があるのではないかと思います。 ○上原部会長 先ほど事務当局からは,イギリス法の規定につきまして御説明いたしましたが,なお他の国につきましても検討するということでよろしいでしょうか。   それでは,第8をお願いします。 ○飛澤幹事 続きまして,部会資料3の13ページの第8,反訴の関係について御説明いたします。   実際の説明内容は14ページのほうにございますけれども,この第8も先ほどの第7と同様に外国側の行為をもって同意とみなすといった規定の二つ目の類型です。基本的には反訴ということでして,その反訴の内容について1の場合と2の場合の二つを挙げているといったところでございます。   それで,14ページの(2)として書きましたとおり,条約第9条の1,2を見ますと,arising out of the same legal relationship or facts as the principal claimというのが要件としてあるのですけれども,日本法上の反訴の要件とほぼ同じというか,まず重なりますので,反訴と書けばこの部分については明示する必要はないと考えて整理したところでございます。   以上です。 ○上原部会長 第8についていかがでしょうか。 ○三木委員 言葉だけの問題ですが,「当事者若しくは共同訴訟人として」というのは,どういう趣旨でこう書かれたのでしょうか。質問の趣旨は,共同訴訟人も当事者ではないかというだけの話です。 ○飛澤幹事 これは後々法制的に整備することかと思いますが,一応趣旨としては補助参加ではない独立当事者訴訟参加とかいわゆる参加人が当事者となるような訴訟であることを言いたかったということと,その場合,独立当事者訴訟参加とか共同訴訟参加の民事訴訟法の条文の例を見ると,当事者として参加とか共同訴訟人として参加という言葉がありましたので,とりあえずそれを並べて書きましたが,法制上の問題としては更に検討したいと思います。 ○上原部会長 第8についてよろしいでしょうか。   それでは,次に第9にまいります。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料3の14ページの第9について御説明いたします。   先ほど部会資料3の4ページ等で議論しました「私法上の取引」ということについて,第9のほうではこの私法上の取引の場合に関係する裁判手続については,外国等は他の国の裁判権から免除されない,端的に言うと,国内法で言えば日本の裁判権から免除されないといった内容です。つまり先ほど最初,免除の原則を掲げまして,その後に例外として同意があった場合あるいはその同意に準じる場合という例を並べてきたのですが,第9以降は私法上の取引とか,これは次回以降になりますが,雇用契約とか不法行為のたぐいとかそういった行為類型による非免除のものが挙がっていきます。その第1番目の例として私法上の取引というのが挙がっているところであります。   部会資料3の14ページの(2)ですが,先ほど私法上の取引のところでも少し話題が出たところでございますが,試案で言うと,2の①で当該外国等と当該外国等以外の国等との間の私法上の取引である場合が適用除外となっていますが,そのところでなぜ国等という言葉を使っているかといった説明になります。つまり第9の1では,基本的には外国対私人間の私法上の取引については,その関係で生じる紛争についての裁判手続において,外国は日本の裁判権から免除されないということなのですが,国対私人ではなくて,国対国の取引の場合は,その例外であると。つまり免除になるといったことを規定しているのですけれども,この国対国の取引というのは,当該外国とさらにそれ以外の外国,例えばアメリカ対イギリスとかそういったものもあれば,アメリカ対日本といった場合もあります。特に後者の場合,先ほども申し上げましたとおり,外国等という定義だけですと,その日本の場合が含められませんので,国等という定義を設けたといったのは先ほど御説明したとおりですが,それを適用しまして当該外国等と当該外国等以外の国等という両方の事案を含めるためにこういった記載をさせていただいたというところでございます。   それから,15ページの(3)でございますけれども,条約第10条3に相当する規定を置いておりません。その理由ですけれども,まず,部会資料2の条約と訳の対比表の6ページを御覧いただきたいと思います。条約第10条の3は,「独立の法人格を有し,かつ,次の能力を有する国営企業又は国によって設立された他の団体が,当該国営企業又は団体が行う商取引に関する訴訟手続に関与する場合であっても,当該国が享受する裁判権からの免除は,影響を受けない。」と規定しており,(a)で「訴え,又は訴えられる能力」,(b)として「財産を取得し,所有し,又は占有し,及び処分する能力」といった規定があるのですが,そもそも独立の法人格を有する国営企業が裁判手続の当事者となった場合には,国家とは別法人格ですので,日本においては法人格否認などの法理が適用される場合はともかく,独立の法人格を有する国営企業等が当事者となる場合には,国営企業のみが当事者であって,別に直ちに国が当然当事者になるとかそういった問題は起こり得ませんので,あえて条約第10条3に相当する規定は置く必要がないと考えているところです。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,第9につきまして御検討をお願いいたします。 ○村上幹事 第9の2というのは,私法上の取引に当たる場合でも主権免除が認められる場合というのを規定していると思うのですが,この二つは平成18年の最高裁判決の特段の事情に当たる場合と考えてよいのでしょうか。もしそうだとすると,規定の仕方としてこの第9のところに私法上の取引の判断基準についての規定が入ってくるという余地もあるのかどうかを教えていただきたいと思います。というのは,その判断基準の規定がどこに入るかによって,その意味合いがちょっと異なってくるのかなという気がしていまして,先ほど垣内先生の御意見にもあったと思うのですが,もし私法上の取引の定義のところに判断基準を置くと,そもそも私法上の取引に当たるかどうかのところで性質も考慮した上で若干比較考慮などをして該当するかどうかを考えて,そこに該当するとされた場合には,もう例外規定はこの第9の2で挙げられた二つに限られるということになるかと思うのですが,一方で,こちらの第9の規定のところに置くと,とりあえずは第4の乙案をとった場合ですけれども,そこに例示列挙されているものに当たるかどうかで考えて,第9のほうで私法上の取引に当たるけれども,例外規定がもうちょっとここで挙げられているよりも増える可能性が出てくるという構成になるのかどうか。結論はもしかして同じなのかもしれないのですけれども,その辺を教えていただければと思います。 ○飛澤幹事 今の点でございますが,恐らく条約のつくり自身は,条約の第2条1(c)及び2の部分だと思うのですけれども,(c)のところで商取引とは次のものということで,2条の2でその判断基準みたいなものを置いているところからすると,条約は正に私法上の取引に当たるかどうかのところで判断基準を考えているのかなと思います。   それから,先ほどの第9の2に挙げた事項が最高裁の言う特段の事情と同列のものかどうなのかという点でございますけれども,この点につきましては,少し違うのかなと思っております。違うといいますか,理論的には同列なのかもしれませんけれども,最高裁の特段の事情も私法上の取引に当たるといった上で特段の事情というのであれば,当たった上での例外を定めるということですから,その文脈において9条の2というのも恐らく私法上の取引には当たった上での例外を定めていますので,そういった文脈では一緒かと思いますけれども,それ以上のつながりというか関係というのはあるのかなというところが正直な感想でございます。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○三木委員 条約第10条3に当たる規定を置かないというのは,御説明はよく分かりますし,理論的にはおっしゃるとおりだと思うのです。そこに異論はないのですが,立法政策的な判断として,この規定というのは要するに特に外国国家にとって,これは当たらないという保障を与えるというか,安心を与える規定ですので,条約にあるのをわざわざ外すと,若干の不安感が外国に生じるので,当たり前の規定,我が国の国内法的に考えれば当たり前の規定ではありますが,当たり前の規定であってもこういう国際的な影響のある法においては,なお確認的に置くということはほかの法律でもされることがありますので,冒頭言いましたように,そうすべきだというほどの強い意見ではございませんけれども,御考慮いただいた上での御提案であるということは分かっていますが,なお条約第10条3に当たる規定を置くことを御検討いただければと思います。 ○上原部会長 それでは,本日予定していました事項につきましてはすべて御議論いただいたものと判断いたします。   これで今日の審議は終わりたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,事務局から次回の議事日程等につきまして御連絡があります。 ○飛澤幹事 それでは,次回の議事日程について御連絡申し上げます。   次回は,10月10日金曜日,時間は本日と同じく午後1時30分から午後5時30分ぐらいまでをめどに行いたいと思っております。会議の開催場所が本日の第1会議室ではなく,東京高等検察庁第2会議室になりますので,よろしくお願いいたします。   なお,本日お配りしました部会資料につきましては,次回以降も御参照いただくことがございますので,御持参いただければ大変有り難く思います。 ○上原部会長 それでは,これで法制審議会主権免除法制部会第1回の会議を終了させていただきます。本日は御熱心な御審議をいただきまして,ありがとうございました。 -了-