法制審議会主権免除法制部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成20年10月10日(金) 自 午後1時30分                        至 午後5時19分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  主権免除法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○上原部会長 定刻になりましたので,主権免除法制部会の第2回会議を開催いたします。    (幹事の異動紹介につき省略)    (前回欠席された委員の自己紹介につき省略) ○上原部会長 それでは,審議に入ります前に,事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,配布資料の御説明をいたします。  事前送付させていただいたものは,部会資料8の主権免除法制の整備に関する要綱試案(2)でございます。 ○上原部会長 では,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は部会資料8の主権免除法制の整備に関する要綱試案(2)に基づきまして御議論いただきます。   まず部会資料8の第10,雇用関係につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料8の1ページ,第10,雇用契約,これは条約第11条関係ですが,その説明の1から3までをまず御説明申し上げたいと思います。   この試案第10は,条約第11条に準拠しまして,日本国内においてその全部又は一部が提供されるような労務に係る雇用契約に関する裁判手続については,まず,試案第10の1で書きましたとおり,使用者である外国等に免除が認められないとの原則を,それから,試案第10の2①から⑥まででその例外について定めているところでございます。   そこで,部会資料8の2ページの2のところと部会資料2の条約対比表7ページ,条約第11条のところを御覧いただきたいと思います。まず,条約第11条の1を御覧いただきますと,「ただし,関係国の間で別段の合意をする場合は,この限りでない」というただし書が置かれております。   実は,同様のただし書がこの条約第11条以降も記載されております。ところが,要綱試案第10の1を御覧いただければお分かりのとおり,条約で言うただし書に相当する部分を特に置いておりません。その理由についての御説明がこの要綱試案(2)の2ページの2というところで書かれているところでございます。趣旨といたしましては,このただし書というのは,関係国,つまり当該労働者を雇っている国と法廷地国との間で別段の合意がある場合には,この条約の規律よりもその当該別段の合意の方が優先することを確認するものでございます。   一般に,条約は国内法に優先すると解されておりますので,その点は国内法に特段の規定を置かなくとも問題はないと考えられましたので置いていないということです。   このようなただし書に当たるような別段の合意というのは,国民の裁判を受ける権利を制約する性質を帯びますので,国会承認条約で行われると考えられます。そして,国会承認条約については,国内法に優先するということが強く妥当するかと思われます。   条約第12条以下にも,第11条と同様にただし書等で,「関係国の間で別段の合意をする場合は,この限りでない」といったような規定がありますが,先ほど述べたことと同様の理由で,国内法には特段の規定を置く必要はないと考えております。   次に,要綱試案(2)の2ページの3に移りますけれども,これは試案第10の2①の関係でございます。現在2①では,「外国等の安全,外交上の秘密その他の外国等の重大な利益に関する事項に係る任務を遂行するために」という文言を用いております。   これについては,部会資料2,条約対比表の第11条2(a)を御覧ください。条約上の書き方としては,「被用者が政府の権限の行使として特別の任務を遂行するために採用されている場合」ということで,若干書き振りが違うところであります。   ただ,何ゆえ書き振りを変えたかという理由が正に2ページの3で書いておりますとおり,「政府の権限の行使として特別の任務」というと若干分かりにくいためであります。それは具体的にどういう内容かということについてこの条約のコメンタリー等を見ますと,ここに当たるような具体例としては,「秘書,電信官,通訳,翻訳官,その他の国家の安全又は根本的利益に関する役割を任せられた者」が挙げられております。   このようなコメンタリーに挙げられたようなものが具体例であるということを踏まえまして,それでは国内法上どういった文言で表そうということですが,文言の用例として,同じ要綱試案の3ページに記載いたしました行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第10条第2項第1号にこういった言い回しがございますので,これに倣ってこの条約の意味するところを規定したところでございます。   1から3についての説明は以上でございます。 ○上原部会長 それでは,今御説明がありました1から3までのことにつきまして御質問や御意見がありましたらお願いいたします。 ○三木委員 御質問申し上げたいのは,2①についてであります。今,御説明のように,条約の文言とは違っていますけれども,「政府の権限の行使として特別の任務」との文言を具体化するために安全とか外交上の秘密とか外国等の重大な利益というような一種具体的な言葉を入れることは結構だと思うのです。   他方でこれは仕方がないとは思いますが,条約と違って構文を変えている関係,あるいはこういう具体的な文言を入れている関係で,これらに「関する事項に係る」と,「関する」,「係る」というその言葉が二重に使われてやや分かりにくいという点はあろうかと思います。   そこで,この「係る」という言葉の意味を念のために確認したいのですが,その内容を見ますと,先ほど御説明がありましたように,部会資料8の2ページの3に挙がっているような人たちを含むということが目的だと思います。   ちなみに,本質的なことではありませんけれども,秘書の次に上がっている電信官というのは,これはコメンタリーの原文を見ると,code clerksなので,「暗号解読官」ではないでしょうか。私が過去にこの種の国連文書で見た中では「暗号解読官」とされていましたので,御確認いただければと思います。   そうすると,この秘書,暗号解読官,通訳,翻訳官という人たちというのは,こうした外交秘密等を管理処分する権限があるような上級公務員ではないけれども,職務の性質上,暗号解読とか翻訳をすると外交秘密等に触れますから,そういったものにかかわらざるを得ないという立場の人たちも含むという趣旨で挙がっているだろうと思うのです。   そこで,この御提案の文言に戻るわけですが,安全と外交上の秘密と外国等の重大な利益の三つが挙がっていますけれども,例として外交上の秘密だけを取り上げてみると,外交上の秘密に関する事項に係る任務を遂行するために雇用されている者となるわけです。「係る」という言葉は,我々法律家にとってはなじみがありますけれども,非常に便利に使われている言葉で,私が知る限りでは,法律ごとの相対性がある言葉で,非常に直接的な関係を指す場合もあれば,やや間接的な関係を指す場合もあると理解しております。第10の2①を卒然と読むと,外交上の秘密に関する事項に係る任務を遂行すると言われると,先ほど言った秘密の管理,処分権のようなものを持っている上級の公務員を指すようにも見えるわけです。この言葉で先ほど言った翻訳官等が含まれるということは問題ないのかということを確認的に質問したということです。 ○飛澤幹事 確かに,「関する」,「係る」ということで非常に分かりづらい言い回しになっているのは申し訳ないところなのですが,最終的には法制上どう整理するかということになると思います。ただ,何ゆえ「関する」,「係る」となってしまったかといいますと,先ほど申し上げた行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律自身がこの重大な利益に関する事項としており,これと任務の遂行という文言を結ぶときにどういう言葉がいいかということなのですが,ここで「に関する」とすると,「関する」という文言が重なってしまう上に更に意味が広がってしまうと思うのです。そうすると,より直接的につなげるのであれば「係る」の方がいいかなということで,とりあえず現段階ではこういった言い回しをしているところです。   それから,中身の話として,実際に秘密を処分管理する権限のある者の取扱いですけれども,こういった人についても,もちろん外交官とかになってくれば,別の条項で抜けますので,当然そちらで読んでいただくことになりますが,外交官に当たらないような人たちでそういった処分権限がある場合には,なおこの2①に含めて読むと考えているところでございます。 ○三木委員 コメンタリーを見た限りでは,条約のこれに相当する条文は,今言った秘密等を管理処分する権限のある,establishedという言葉を使っていたと思いますけれども,上級の公務員と,それからここに例示されているような通訳・翻訳等に携わられる方という,言ってみれば任務の違う職種を1か条で両方含む条文となっている。その点は条約はそうですし,この今回の御提案も同じ趣旨でおつくりになっているということは理解しております。   質問の趣旨は,何か別に私の方で対案的な表現の意見があるわけではありませんが,やむを得ないかもしれませんけれども,やや分かりにくい点もありますので,この①で,翻訳官等が含まれると読めるのかを確認をしたということです。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。 ○長谷川委員 1のところで,雇用契約についてと書いてあるのですが,ここで言う雇用契約というのは民法上の雇用契約なのか,それとも労務を提供してその対価として報酬を支払うという契約関係を対象にするのであれば,労働契約法も制定されておりますので,労働契約法上の労働契約というものを対象にした方がいいのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 長谷川委員の御指摘は,ごもっともな御指摘なのですけれども,こちら側の趣旨といたしましては,雇用契約といったからといっていわゆる民法上の雇用契約に限定する趣旨ではございません。したがって,たとえ名目上請負契約などという形になっていても実態を見て指揮命令関係とかがあればやはり雇用契約に含まれるものと考えております。   それで,何ゆえ労働契約という言葉を現段階では使ってないかと申し上げますと,今長谷川委員からも御指摘があったとおり,労働契約法上の労働契約であれば確かに広いのですけれども,労働基準法上の労働契約ととられてしまいますと,事業性の要件がありますので,かえって狭く解されるおそれが出てきてしまいます。ですので,実質,要するに民法上の雇用に限らないという趣旨で使うのであれば,むしろ労働契約という言葉を使って労働基準法上の労働契約に引き寄せられるよりは,雇用契約といった言葉を使った方がいいかなと思って,現段階ではそうしております。   ただ,この点につきましても法制上の問題もございますので,今の御指摘を踏まえて更に検討を進めていきたいと思っております。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○水島幹事 確認なのですが,三木委員が取り上げられた①の最後のところで,括弧で「②に掲げる場合を除く」という言葉が入っていますが,これは条約にもなく,かつ研究会報告書にも入っておりません。これはなくてもいいものだと思うのですが,これは念のため入れたということなのでしょうか。 ○飛澤幹事 御指摘のとおりです。2①の書き方で,外交上の秘密まで含むようなものを明文で書いてしまいましたので,そうすると次の条項との関係はどのようになるのかという御指摘もあるかと思いましたので,括弧を付け加えました。意味を変える趣旨ではございません。 ○長谷川委員 雇用契約の続きなのですが,労働者派遣の場合はどのように扱われるのでしょうか。 ○飛澤幹事 労働者派遣でもどこに着目するかなのですが,外国が派遣元になった場合でしょうか,それとも派遣先になった場合でしょうか。 ○長谷川委員 派遣元になった場合と派遣先になった場合とそれぞれについてです。 ○飛澤幹事 派遣元であれば,派遣元と労働者の関係は雇用契約の話ですし,派遣先であれば派遣会社である派遣元との間の派遣契約という文脈になりますので,その派遣契約の方をどこで取り扱うかという問題は別途ございますけれども,恐らく,これもまだ現段階の担当者レベルの考えですけれども,もしそちらの派遣契約という方に着目するのであれば,これ自身は雇用契約で読むのは難しいのかなと思います。むしろ私法上の取引になるような委任とか請負の一種ととらえるのかなと思っております。それに対して,外国がそもそも派遣元になれるのかどうか分からないのですけれども,仮にあるとすれば,それと労働者の関係については雇用契約ですので,正にこちらの規律が及ぶのかなと考えております。 ○長谷川委員 派遣契約であれば私法上の取引ということで,派遣元と労働者であれば雇用契約になるわけですね。 ○飛澤幹事 派遣契約だと派遣元であるいわゆる人材派遣会社と実際に働く派遣先との関係は,正に派遣契約だと思うのです。これはやはり現段階ですけれども,少なくとも普通の法律上の性格を見る限りはこれを雇用契約と見るのはちょっと難しいのかなと思っております。 ○上原部会長 それでは,先に進んでよろしいでしょうか。   今度は4のアについて説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,要綱試案(2)の3ページ,4のアについて御説明いたします。   4のアというのは,この試案第10の2③と④の適用範囲についてでございます。   この2③と④をどう区別をつけるかという問題なのですけれども,こちらの3ページにも書きましたとおり,基本的な考え方は,2③については雇用契約の開始に関するものについては外国等に広い裁量権を認め,既存の雇用関係を終了させるようなものについては,労働者保護の見地を重視して,外国等の裁量に一定の制約を加えようというものです。ですので,今申し上げた雇用契約の開始に関するものというのが2③の領域であって,それに対して既存の雇用関係を終了させるというのが2④に対応させるのが相当ではないかと思っているところであります。   したがって,2③というのが具体的にどのような裁判手続を考えているかというと,2③の方は,個人の採用又は雇用契約が更新されたことを理由として,現実の就労や地位の確認を求める裁判手続を, それから2④では,解雇その他の雇用契約の終了の有効性を争って現実の就労や地位の確認を求める裁判手続をそれぞれ考えております。   部会資料2,条約対比表7ページ,条約第11条2(c)を御覧ください。これが試案第10の2③に対応する条約上の条文なのですが,条約上は,「個人の採用,雇用契約の更新又は復職に関するものである場合」ということで,復職という言葉が入っておりますが,試案 第10の2③では復職という文言は抜いております。   その理由は,少なくとも日本の裁判制度では復職を命じる制度はないということもさることながら,この2③と④というのはどのような請求をするかという請求の内容ではなくて,どのような理由に基づいて請求するのかという請求の理由あるいは請求の原因で分類しているものでございまして,その分類に基づいて,現在正に条約第11条2の(c)と(d)をそれぞれ試案第10の2③と④に対応させて書いておりますので,これによって条約の内容はすべてカバーされると考えたところによります。   なお,現実の就労に関しては要綱試案の3ページの注にも書きましたとおり,我が国の労働法上は,一般的には就労請求権は認められないとするのが通説判例でございますので,実際に現実の就労請求とかが問題になり得るとすれば外国法が準拠法とされた場合等であろうということが考えられます。   4アについては以上でございます。 ○上原部会長 それでは,御意見や御質問をお願いいたします。 ○長谷川委員 労働契約の更新について③として整理されているのですが,いわゆる雇止めについてはむしろ④で取り扱うべきではないかと思います。   それともう一つは,裁判官により判断が異なるということにも多少懸念を持っておりまして,雇止めというのはやはり労働契約の終了だと考えれば,④のところに整理した方がいいのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 まず,何ゆえ2③で更新と書いてあるかというと,条約は,renewal of employmentとなっておりますので,さすがにその言葉を除くわけにはいかないといった事情がございます。   それから,長谷川委員から御指摘のありました雇止めについてですが,これは少なくとも現段階では,東芝柳町の事件とそれから日立メディコの事件にのっとって実態がどうであるかという判断をし,更新の問題といいつつ,実は先ほどの最高裁の2類型に当たるようなケースであれば,当然2③ではなくて,2④で読むという解釈になると思います。やはりこの雇止めを③で扱うのか④で扱うのかというのは,最高裁の基準があるとはいえ,個別的にどうしても判断せざるを得ないところは出てきてしまうのはやむを得ないのかなと思っております。   ですので,基本的な答えとしては,雇止めの性格を裁判所がそれぞれ各項の事件についてどのように位置づけるかによらざるを得ないのかなと考えておるところでございます。 ○阿部(泰)委員 今の御指摘は,もっともかと思うのでありますが,有期雇用契約の更新の拒絶を解雇と同じように文言上みなすということには反対いたします。判例法に従って解釈すればいいのであって,ここは今の規定どおりでいいと思います。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,続きまして,4イについて説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 次に,4ページから始まりますイを御覧ください。このイにつきましても先ほどと同じように試案第10の2③と④の関係でございます。2③と④を御覧いただきますと,甲案,乙案といった二つのブラケットがございます。そのどちらによるべきかということについて議論していただきたいと思います。   まず,金銭請求について条約はどのように考えているのかということですが,コメンタリーなどを見ますと,特に不当解雇に対する損害賠償等が主として念頭に置かれているようですけれども,そういったような金銭請求等については,やはり地位確認とかとは別扱いにしたいようです。すなわち,こういった請求については,外国を免除としないで法廷地国が裁判権を行使できるようにしようという仕切りをとっているところでございます。   ですので,少なくともそういった不当解雇を理由とする損害賠償等がこの2③と④から除かれるということは明らかなのですけれども,それ以外の金銭請求,とりわけこの(イ)で書きましたとおり,外国等が解雇等を理由に就労を拒否している期間の賃金支払請求に係る裁判について,具体的には解雇無効などを理由に地位確認請求訴訟が提起される場合には,もう既に使用者側の方は就労を拒絶している状況にありますので,もし地位確認等が認められますと就労を拒絶している期間の賃金を払ってくれといった問題も当然出てくるわけです。   その取扱いについては果たしてどうしようかというところをめぐってこちらの甲案と乙案が分かれているところでございます。   甲案の方は,こういったイで書かれているような解雇等を理由に就労を拒否している期間の賃金支払請求についても試案第10の2③なり④の仕切りから除く,つまり外国は裁判権から免除されないとするべきではないかといった立場になります。その理由についてはこの4ページのaの甲案の根拠に書いてあるところでございます。   それに対して,乙案の方は,やはり基本は解雇の無効等を理由とする不法行為に基づく損害賠償とかが主として念頭に置かれているのであって,こういった外国が解雇等を理由に就労を拒否している期間の賃金支払請求については除かれるべきだと。むしろ除かないと,例えば2③に当たるようなケースでは,地位確認については当然常に外国は裁判権から免除されることになるにもかかわらず,先ほど申し上げたとおり,就労を拒否している期間の未払賃金請求がこの2③から抜けてしまうということになると,その期間の賃金の支払の方だけは請求できてしまう。そうだとすると,間接的ではあるのですけれども,実質外国に対して雇えということを強制する作用を営むのではないか。そうすると,それはやはり何のために2③などで地位確認とかについては免除と言ったのか分からなくなってしまうといったところが乙案の根拠でございます。   イについては以上でございます。 ○上原部会長 事務局からの提案も甲案,乙案ということでまだ決めかねているところがあるわけですが,そのどちらが適当かということも含めまして御意見や御質問をお願いいたします。 ○阿部(泰)委員 乙案であるべきだと考えます。少なくとも④の雇用契約の終了の効力に関する裁判について広く金銭給付を求める裁判ができるとすると,この適用除外規定が全く意味をなさなくなるので,少なくとも2④の場合は乙案以外の選択肢はないのであって,それとの関係からいって,③においても乙案を認めておけば足りると思います。 ○鶴岡委員 これはまず条約の趣旨の読み方の問題があると思うのです。条約第11条において裁判を行う国,これは外交用語上,接受国と言うわけですけれども,裁判を行う接受国の判断がどこまで及ぶかということについて同条は仕切りをしていると私は思うのです。「雇用の部分については及ばない,採否には及ばない。」一言で言うとそういうことが書いてあるわけですね。   採否には及ばないというのはどういうことかというと,ある特定の個人を採用するときに,その国の完全な自由裁量によって行われる。その国というのは例えば,日本でアメリカの大使館が日本人なり第三国の国民なりを雇うときに,どういう採用基準なり考え方で雇っているかという採用の判断は問えませんと。しかし,その部分だけを省くのであって,その後の関係については接受国側で労働者保護の観点からは判断の余地があるというふうに大きく私は仕分けをしているのではないかと私は思うのです。   その場合,今申し上げたのは(c)のところで書いてあるところと(d)に関して先ほど事務局の方から御説明がありましたとおり,雇用の終了についてより手厚い手当てがなされているということからも言えると思うのです。この(d)のところで言われているものが議論できない,議論する余地のない判断として特出しされている理由が明らかになっていることも今申し上げたような考え方を支持するものではないかと思います。   甲案,乙案のいずれがそれを最も的確にあらわしているかということは,国内の制度に照らしたときの我が国の政府による解釈がどうしても間に入るのだと思います。条約はそれを許しているのだと思います。どれだけ手厚く見るべきなのかということ,すなわち,採用するときの判断は問えませんと。これは雇う側の国ないしその機関の全面的な裁量にゆだねられている。ただ,その後どのような雇用関係が成立しているかということについては,接受国側の法制度をもってその判断をすることが排除はされていない。しなければならないという義務はありませんけれども,そこは正に国内でこの条約を実施する際に我が国としての判断を行うべきところなのだろうと思うのです。   ですから,先ほど地位保全の話もございましたけれども,地位保全を行うと,その判断をすることが採用自体の基準ないし採用した判断自体を問うこととならざるを得ないのか。あるいは,その間にもう一つすき間があって,雇用主が行った採用の判断は別として,国内法上そういった雇用関係が成立しているとみなすことができて,かつその上で労働者の権利を保護する必要があると考えるのであれば,この穴の開け方はやはり違ってくるのではないかと思うのです。私は国内の労働法関係に明るくないものですから,そのあたりの事実,事情,また国内法上の適切な用語の用い方がよく分かりませんけれども,この全体の趣旨を考えますと,基本的にはこういう保護の対象になるのは,例えば日本であれば日本人である労働者が外国機関に雇用されている場合でありますので,日本人の労働者の権利を条約上許容されている範囲内で厚くするというのが基本的な考え方ではないかと思います。 ○上原部会長 ほかの方,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 乙案の方がよいという御意見もあったわけですが,この損害という話になりますと,採否なりあるいは解雇の当否を問題にして,それが裁判上,理由中の判断かもしれませんけれども,争われることになります。当該外国から見ますと,この条約上その問題は日本の裁判権には服さなくてよいということになっているはずなのに,なぜ解雇したのか,その理由は何だったのかということを言わざるを得なくなってしまうというのはトラブルを生むおそれがあるのではないかと思います。   コメンタリー等にこのことが書いてあるということは存じておりますけれども,そこで言っているお金の支払が解雇がされるまでの間の金銭請求であれば,書くまでもなくできるはずでありまして,解雇とは関係ないということになります。解雇に関してはこの甲案でも乙案でもなく,括弧をつけなくて済ませるという方法もあり得るのではないかと思うのですが,それは非常に困ることになるのでしょうか。 ○飛澤幹事 当方の理解が追いついてないかもしれないのですが,少なくとも不当解雇を理由とする損害賠償ということであれば,何も書かないとやはり雇用契約の終了,例えば突然首を切られたというのであれば,解雇の問題になりますので,解雇の効力に関する訴えといった文脈に入ってき得るのかなと思うのです。確かに解雇などが問題になっていない未払賃金請求みたいなものであれば,当然1で外国は免除されないというのは御指摘のとおりなのですけれども,やはりこと不当解雇とかといったように解雇の効力に関する問題がかかわってきてしまうと,④で読まれるというおそれも多分にあるので,やはり明文で抜いておかないと,それまで含めて実は1の例外として免除されてしまうと読まれるおそれがあるのかなと思っているところであり,甲案にするか乙案にするかはともかく,括弧書きを入れようと考えているところでございます。 ○道垣内委員 ただ,条約には入ってないわけです。条約には入ってないけれども,条約はその点を予定しているということがよほど正確に言えないと,実際の裁判になったときに国内法は,条約違反ということになるのか,日本国としてそれは解釈権の範囲内になるというのか,そこはちょっと分かりませんけれども,トラブルを生じるおそれがあるのではないかとも思うわけです。あえて書く理由として,今おっしゃったところだと,外国にとって触れられたくない問題を日本の裁判の中で明らかにするということになってしまうわけですが,それでよいのかということです。 ○飛澤幹事 不当解雇に基づく損害賠償は認めるというのは,コメンタリーのみならず,いろいろなところで出てくるところから見ると,やはり採否の問題については裁量権を認めるけれども,解雇の当否を争う中で外国のいろいろな秘密とかの問題も出てくるのではないかという問題は,ある意味その点の保護といった問題は少し後退しているのかなと考えざるを得ないと思っているところでございます。 ○鶴岡委員 絶対免除主義の下では議論できないものに裁判権を適用しようということで入っているわけですから,恐らくこれは新しい考え方であまり例がないのではないかと思うのです。その中で,国の専権的な主権事項であるところの採用の判断,これは問わないと,問えないということは守りつつも,コメンタリーなどでも言っている不当解雇というその不当というのはどの法律において不当であるかということは特に述べていないわけですけれども,仮に採用した国が行ったものの中で,法制上不当なものであれば,それは政府と雇用者の間で,接受国でないにせよ,相手国での訴訟はあり得るだろうと思います。   ですから,それを言っているわけではなくて,不当解雇というのは接受国における法制のもとで不当解雇と考えられるような事例を念頭に置いているのではないかと思うのです。   ただ,その場合に,裁判権が行使されたとしても,雇用主側であります国がその雇用終了の理由について述べたり正当化したりするということは求められていないので,通常の雇用関係を論ずるときに出てこない要素だと思います。その部分は恐らく先例もなければ他に並ぶ例もないと思いますけれども,その部分は不問に付しつつ,他方労働者の権利を守るために,その国の法制上不当だと判断される場合においては,そういう事例について救済をするというのがこの条約の趣旨ではないかと私は思います。   したがって,今道垣内先生もおっしゃられましたが,一定の穴の開け方を特定することが適当であるかどうかについては,これは私は余り自信がございません。もう少し正に国家実行が重ならないと分からないということが本音ではありますけれども,そういってしまいますと実定法化できませんから,何らかの指針を与えなければならないわけでありますが,その場合,この条約を国内実施する上である程度その条約の下での裁量権は私は与えられていると思います。これは多国間条約ですから,すべての国が全く同じ法制でもともとあるわけではありませんので,我が国の法制上適当と思える部分でまずはそういう穴の開け方をするということだと思うのです。   ですから,それがこの甲案と乙案のいずれかしかないということであればそのいずれかに御判断をされるのだろうと思いますけれども,他方,私が今申し上げたような抜き方がもしより適切な表現によってできるのであれば,条約の趣旨と我が国の労働者保護の考え方の双方が満たされる法制の整備ということができるのではないかと思うのであります。そのあたり専門的な知見もございませんので判断できないのですけれども,もし可能であれば今申し上げたようなことを少し念頭に置いていただいて,御検討いただければと思います。 ○始関委員 鶴岡委員にお伺いしたいのですが,お話を伺っていますと,鶴岡委員のお考えは甲案なのかなと思っていたところ,最後のところで甲案でも乙案でもないとおっしゃられたわけですけれども,どういう仕切り分けということをお考えなのでしょうか。今のお話ですとイメージがわかなかったのですけれども。 ○鶴岡委員 甲案や乙案が,非常に特定具体的な国内法上の措置を念頭に置いた規定であるとした場合,そこのところが先ほどから申し上げておるように十分知見を持っておらないものですから十分に理解していないと思いますけれども,今私が申し上げたことがどちらかの案で十分満たされているという御判断であれば,それは用語の用法の問題でありますので,特にこだわるつもりはございません。   ただ,申し上げているのは,雇用契約を始めたときの判断あるいはそれを終了させたときの判断を問うことができないから,そこから生じるすべてのその後の判断もできないというふうに免除の部分を強く判断する必要はないのではないか。これはコメンタリーその他のものを見ても,それが条約を起草した人たちの趣旨では全くないというふうには思っております。   それが金銭という表現で穴を開けるのが適当なのか損害賠償というのがいいのか,先ほどの御説明では金銭請求ということで開ければ,もともと本来判断できないはずの雇用関係の当初の採用の是非,保全の問題まで議論しなければならなくなってしまって免除の趣旨ではなくなるのではないかという御指摘もありましたけれども,そのあたりの判断をするだけの知見もございませんので,私自身が感じている問題を御指摘申し上げたわけでございます。   先ほど道垣内先生がおっしゃられたとおり,いずれにも触れないというのも一つのやり方だと思います。しかし,実はこの手のことが一番起こり得る,実際に出てくる話だと思いますので,そこはやはり指針が基本的にはあった方がいいと思っておりますので,その部分の書き振りをよく御検討いただけたら有り難いと思います。 ○水島幹事 先ほどから何回かコメンタリーで不当解雇うんぬんというのが出てきているというころですけれども,このコメンタリーは,1991年の国際法委員会の時点のコメンタリーということでよろしいですか。 ○飛澤幹事 御指摘のとおりです。 ○水島幹事 1991年の国際法委員会のコメンタリーという点でいえば,その時点ではこの④に相当する解雇という部分がなかったのですが,2004年の条約では入っているので,少なくともコメンタリーの読み方の射程については注意する必要があるかなと思います。 ○飛澤幹事 確かに文言としては入ってなかったのですけれども,同じコメンタリーの中で解雇の問題も含むといった説明もございまして,その意味では多少91年の時点から意識はされていたのかなと思っております。 ○上原部会長 甲案,乙案,それだけに限られないという御指摘もありましたので,引き続き事務当局で検討させていただくということでよろしいでしょうか。   それでは,先に進みたいと思います。部会資料8の5ページの5から7までの説明を一括してお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,要綱試案(2)の5ページの5,6,7について御説明申し上げます。   まず,5についてですが,これは試案第10の2④の関係です。2④では,「使用者である外国等の元首,政府の長又は外務大臣が,当該訴え又は申立てに係る裁判手続が当該外国等の安全保障上の利益を害するおそれがあると認めたものである場合」には,2④に当たる場合でもなお免除の可能性があるといった文脈で書かれているところでございます。このような認定があったことについてどのように日本の民事裁判手続上審理に上程されるのかというのが一応問題になりますが,現段階ではこのような認定については,普通の証拠調べの手続の形で審理に上程できれば足りると考えております。そうであれば普通の民訴関係の法令で処理できますので,特段,この点について新しい手続規定を設ける必要はないと考えているところでございます。   次に6について御説明いたします。2⑥のただし書の要否についてとあるのですが,2⑥自身には実はただし書を書いておりませんので,条約対比表の8ページ,条約第11条2(f)を御覧ください。こちらにただし書がございます。このただし書に対応するような文言を国内法で入れるかどうかという問題でございますが,今のこの要綱試案の段階ではこちらの6のところで書きましたとおり,少なくとも現在日本には国際裁判管轄について専属管轄を認めた規定というのはございませんので,そういった事実関係を前提として,規定がないのであれば,特段,ただし書に相当する規定を置く必要はないのではないかというのが現在の試案でございます。   ただ,この現在の試案のような仕切りについては,別の考え方もあり得るところであります。すなわち,日本には,国際裁判管轄について専属管轄を認めるような規定はございませんので,そもそもそういった国際裁判管轄で専属管轄規定を設けるかどうかというのは正に国際裁判管轄の規定についての規律を考えるときに問題とされるべきでございますが,そういった専属管轄の規定はなくても,公序等に照らして日本の裁判所が裁判権を行使するべきであると解釈されるような場合に備えて,なおこの条約第11条2(f)ただし書に対応する規定を置いておいても意味があるのではないかといった意見もあるところであります。そこで,この点についてはなおどうするかということを更に検討していきたいと考えているところでございます。   それから次が7でございます。7は,部会資料8の1ページを御覧いただきたいのですが,2①のところで使用者である外国等といった後に括弧をして,この外国等について説明を置いております。ここで言う外国等というのはある意味普通に用いられている外国等と意味が違うということになるのですが,大雑把に言うと,ここの外国等というのは外国か,あるいは連邦国家の州その他の国の行政区画のいずれかになるということを定めた規定になっております。   また,同じような用法で第10の2②のハのところ,それから同じく2④のところの外国等についても同様な意味で使いたいといった提案をしているところでございます。   その理由が部会資料8の5ページの7で書かれているところでございます。従前はここで言う外国等というのは国だけ,つまり国家だけでいいのではないかと考えていたところなのですけれども,よくよく考えてみると,国以外,つまり州その他の国の行政区画の場合も含めていいのではないかと考えられまして,そういった考慮から,今回州その他の国の行政区画も含まれるという内容を取り込んだというものでございます。   5,6,7については以上でございます。 ○上原部会長 それでは,御審議よろしくお願いします。 ○村上幹事 5のところなのですけれども,これは解雇の終了等に関する訴えが提起された後に外国の元首等がその訴えが特別な安全保障上の利益を妨げるものであるということを決定した場合かと思われますが,その決定というのはどういう形で行われるのですか。訴えが提起された後にどういうレベルでその訴えがこの例外に当たるかどうかというのを判断する手続が行われるのかがよく分からないのです。 ○飛澤幹事 この決定がどう行われるかはそれぞれの国の手続によると思います。少なくともここで書かれていますとおり,ここでいう元首かあるいは政府の長か,あるいは外務大臣がそういった旨の決定をしたということが裁判手続上何らかの形,証拠の形で出てくればそれは判断材料にしますよといったものだと考えております。 ○村上幹事 ということは,それは職権調査事項ではなくて,当事者が出してこなければその決定はなかったというふうに扱われるということですか。 ○飛澤幹事 仮に職権調査事項だとしても,裁判所が常に外国に対して調査する必要はないかと思っております。ですから,その意味では外国が積極的にその旨の証拠を出してこなければならないのかなと思います。 ○村上幹事 それが出てこなければ,どうなるのですか。 ○飛澤幹事 出てこなければ,当然手続を進めて良いと思います。 ○村上幹事 民事訴訟の一般的な証拠調べで上程されればというのは,別に司法共助うんぬんとかそういうことではなくて,その訴訟の手続とは全く別で外国の方がその国内の手続で決定したということを出してくればということになるのですか。 ○飛澤幹事 一応現段階ではそのようなイメージをしておりますが,何かやはり問題がございますか。 ○村上幹事 いえ,素朴にどういう形で行われるのかと思ったところです。 ○長谷川委員 条約第11条2(f)についてですけれども,ただし書に対応する規定は置かないという御説明でしたが,それでいいのでしょうか。条約第11条2(f)のpublic policyの訳が公の政策という言葉になっている のですけれども,これは,私どもも内部で検討したところでは,公序という意味ではないのかという意見がありました。公序というふうに訳せば,この条項の意味するところは,当事者の合意があっても公序によって規律するという趣旨になるので,雇用者である外国と被雇用者の間で書面による何か別段の合意をした場合には,直ちに主権免除を肯定するというふうにはならないのではないかと思うのです。   したがって,ただし書を置かないということで良いのかどうなのか,少し検討していただければと思います。 ○飛澤幹事 この点については先ほどの御説明で,今の段階ではこう書いておりますが,他方でそういった御意見もありますということを紹介したところでありまして,なお検討させていただきたいと思っておるところでございます。 ○三木委員 言わずもがなのことなのかもしれませんが,部会資料8の5ページの5のところですが,内容的にはこれで結構だと思います。   ただ,これはこの解説の書き振りの問題だけの話なのですが,証拠で判断するといっても,言うまでもなくこれは本案審理ではなくて,本案前というか訴訟要件審理としてやるわけです。したがって,民事訴訟の一般的な証拠調べの方法と言われると何か本案審理のような印象を与えるので,訴訟要件審理における一般的な方法でやるとした方がいいのではないでしょうか。 ○飛澤幹事 御指摘を踏まえて修正したいと思います。 ○鶴岡委員 非常に手続的なことなのですけれども,法的な御説明は今の部分ですけれども,外国が自らの権利としてそういう決定であることを我が国に通報してこない限り,この裁判が行われるという理解で全く差し支えないと思うのです。   他方,いつまでにそれをしなければならないのかとか,そういった具体的な手続までは条約に書いてありませんので,後からもう本案審理に入った段階で「いや,実は」というようなことがあると,これは全く実務的な話なのですけれども,非常に不相和が生じます。外交的にはそのような問題が起きた場合,当該大使館に対して外交実務の連絡の中でこれでよろしいですねという確認をとるのが通常ではないかと思います。後から様々な問題,別途の問題が出てくるということよりも,別に義務としてこちらは通報する必要はないと思いますけれども,国によっては全くこういったことについての知識がない場合も十分あり得ますので,その点日本に来ている大使館の数も多々ありますから,外務省としては恐らく丁寧に作業を安定的に進めるためにもそういった手続をとることは想定した方がよろしいのではないかと思います。法的には確かに何も言ってこなければこちらはそれで進めていいという解釈は成り立つと思いますけれども,つまらない問題を後で起こすことがないようにきちんと通報手続を踏むというふうなことを政府部内では調整しておいた方がよろしいのではないかと思います。 ○上原部会長 他にいかがでしょうか。 ○道垣内委員 先ほどの条約第11条2(f)のただし書の点ですけれども,確かに専属管轄を与える規定はないですけれども,昭和50年の最高裁判決は,一般的に労働契約ではなく,ビジネスの専属的合意管轄でしたけれども,公序法に反する場合は認めないということを言っているので,そういう制約をかけることは日本の現在の法としてもあり得ると思います。ただ,この条約の趣旨が専属管轄を定めているようなルールがあるときだけしか例外を置かないというのであれば,私が申し上げたように,公序に反する場合はこの限りでないと書くのは条約違反というか行きすぎということになってしまいます。この(f)の規定は,そこまでの趣旨なのでしょうか。   全くただし書を置かないと,近い将来,国際裁判管轄の立法があり得るわけですけれども,その立法がされるまでの間は,書面の定めがあれば一切手を触れないということになりかねないので,そこはもう少し御検討いただければと思います。 ○飛澤幹事 御指摘を踏まえて検討させていただきたいと思います。 ○中西幹事 私もそこについて関連してですけれども,この(f)というのは,裁判権免除のところに書いてあるけれども,結局国際裁判管轄の合意,すなわち,日本の管轄を排除して,恐らくは当該外国に管轄を与えるというそういう合意だと思うんですよね。 ○飛澤幹事 2種類あると思います。先生がおっしゃるとおり,日本を管轄から外すような管轄合意と,もう一つは端的に日本の裁判権から免除するという免除合意というのも一応考えられると思っております。 ○中西幹事 前者については,普通の管轄合意ですから普通の国際裁判管轄の合意についてのルールで規律されるわけなので,万が一これを案のように書いたとした場合,仮に,今ある昭和50年のルールとは別枠で何か特別規定,雇用契約に関して外国国家と私人がとかいう場合のそういう国際裁判管轄の合意についての特別規定みたいな感じに読まれるというのは変な話だろうと思うのです。このただし書があってもなくても,昭和50年のルールで制約がかかってくると思うので別に問題はないかと思います。 ○飛澤幹事 今御指摘のとおり,ここでいう公序が国際裁判管轄の分野で議論されるべき専属管轄においてどうすべきかということをアプリオリに決定すべきものではないと思いますので,入れるとしても,先ほどから御指摘のある昭和50年の最高裁判決の内容等も踏まえてそういった解釈の余地が読めるかどうかというあたりから検討することになるものと現段階では考えております。 ○阿部(潤)委員 2の④のところなのですけれども,条約の文言とか要綱試案の文言上は当然かとも思うのですが,「安全保障上利益を害するおそれがある」と認めるのはあくまでも外国等の元首であって,元首等が認めたという資料が提出されれば,訴訟要件の職権探知として,裁判所は元首等が認めたということを判断できますので,原則に戻って主権免除になるというように理解しておけばよろしいですか。 ○飛澤幹事 おっしゃるとおりの理解をしております。 ○竹下幹事 先ほどから議論になっている条約第11条2(f)についてですが,結局これがないとすると恐らく書面で合意をしていた場合,当該外国で裁判をやるであるとか,日本では裁判をやらないとかいろいろな形があるとは思いますが,書面で合意をしたら常に我が国の裁判権から免除されるという効果が恐らく現在のただし書を外すという案ですとそういう帰結になると思っています。個人的には条約の読み方をもう少し検討しなければならないとは思うのですが,道垣内先生がおっしゃられたことと同じで,実体的な結論としてそれはちょっと行き過ぎなのではないか,すなわち書面で合意さえすれば,常に免除が認められてしまうということでは,若干私の条約を離れた法的感覚として問題かなというところは感じます。そして,その点を回避,すなわち弱者保護の点で問題なのかなということを感じるところがあります。   ただ,条約の解釈として,今お書きのような解釈が適切であるとすれば,ただし書は置かなくても一緒であるというのはおっしゃるとおりだと思いますが,このただし書の趣旨をもう少し御検討いただきたいと思います。現時点においては判断を求められるとするならば,ただし書は置いておいた方が安全なのではないかという意見だけ述べさせていただきます。 ○始関委員 今の(f)のところなのですが,竹下幹事は残しておいた方がいいのではないかとおっしゃられたのですけれども,恐らく国内法として規定するとした場合に,この条約の書き方そのままでは日本法の法文とはなり得ないと思うのです。したがって,この条約のこのただし書が何を意味しているのかということをもう少し突き詰めないといけないと思うのです。従前研究会をしていただいたときに考えていたのは,これはその法廷地国がこの種労働事件についてはその法廷地国の専属管轄にするという取扱いをしている場合にはという意味ではなかろうかと考えていたわけです。だからこそただし書に相当する規定はいらないと考えていたわけですが,そうではないとすれば,どういう規定だということになるのでしょうか。   先ほどの長谷川委員が冒頭におっしゃられたpublic policyを公の政策と読むのか,公序と読むのかということともあるいは関係があるのかもしれませんが,その辺をもう少し御議論いただければと思います。 ○竹下幹事 研究会にも参加していて,今まで何をぼけていたのかと怒られてしまいそうですが,ここのところで本当にいわゆる我が国が専属管轄を置いていることに合意が反すると,だから合意が反するような,専属管轄の規定に対して合意が反するときにその効力を認めない余地があるという研究会での検討の結果はおっしゃるとおりそうだったと思うのですが,本当にそうなのか自信がなくなってきたというのが今の私の現状でございまして,ここのただし書の趣旨を始関委員がおっしゃられたとおり,もう少し更に検討させていただければと思います。 ○始関委員 私も実は長谷川委員の話を聞いていてちょっと不安になった口の一人なのです。というのは,今まで日本文の方しかきちんと見てなかったのですが,英文を見ると,public policyと書いてあるのです。public policyというのは普通は長谷川委員がおっしゃられたように公序と訳すわけなんです。ただ,この場合公序という言葉を使うと,その前後の文脈が専属的裁判権を与える公序という何か変な感じの文案になってしまうので,公の政策という訳になっているのはそのためなのかなと思ったりもするのです。このpublic policyという言葉をどういうふうに解釈し表現すべきなのかという点についても研究者の先生方から何か御示唆がいただければと思います。 ○上原部会長 いかがでしょうか。 ○三木委員 私の浅学な理解だと,public policyというのは,始関委員がおっしゃったように,公序と訳すべき意味で使われることもありますし,日本語の公序よりはもっと弱い意味ですね,正に公の政策という言葉がいいのかどうか分かりませんけれども,そのような趣旨で使われる場合と両方あるというふうに理解しております。   問題はこの条約の文言の趣旨なのですが,これは私の理解は以下のとおりです。もし,これが日本法で言う公序,つまり公序良俗違反無効の公序ですね,民法第90条のような,強い公序だとすれば,このただし書がなくても管轄合意自体が公序違反で無効になる,つまり,合意があったことにならないわけですね。その意味では,書面で合意さえすれば必ず裁判権が排除されるということには必ずしもならないと思います。つまり,その合意自体がやはり無効になることは,公序以外もあり得るわけです。その趣旨であればこのただし書はいらないと考えると,このただし書は正に事務局が御提案されているような,いわゆる公序よりは弱い意味で書かれているのかなという気もいたしております。 ○垣内幹事 ただし書を置くかどうかという点については,今三木委員御指摘のとおりで,これが強い意味の公序であると考えますと,仮にただし書がないとしても合意としての効力が否定される結果,この規定の適用はないという解釈は十分あり得るかと思います。   御参考までに,フランス語の正文及びコメンタールを読みますと,確かにordre publicという用語になっておりますので,これを訳すとすれば,公序しかあり得ないわけです。コメンタリーの方でも,合意をすれば別だけれども,自治というものも公序の考慮で制限を受けることがあるというような,比較的日本の公序の理解に近いような解説がなされておりますので,趣旨としてはそういう読み方があり得るのかもしれない,文字どおり公序という意味があり得るのかもしれない,と思います。   結論としては原案でもよろしいかと思いますけれども,御参考までに申し上げておきます。 ○上原部会長 ありがとうございました。   ほかに5から7までにつきましてございますか。 ○始関委員 垣内幹事からフランス版の話をしていただきましたので,更に教えていただければということでお伺いするのですけれども。このpublic policy,フランス語ですとordre pubulicですか,それの後に英語ですとconferring on the courts of the State of the forum exclusive jurisdictionというふうになっており,単なる合意が公序に反するということを言っているのではなくて,専属管轄であるというそういう公序というのか,公の政策というのか,その言葉の問題はありますけれども,非常に限定されたシチュエーションの書き方になっているように思われるわけなのですけれども。そこら辺はフランス語の条文なり解説では何かそれについての参考になるような記述があるのでしょうか。 ○垣内幹事 フランス語の条文につきましては基本的には英語と同じ書き振りになっておりまして,conferringというところがconfeerantというフランス語になっております。ただ,日本語訳は,専属 管轄規定が存在していて,その根拠が公序ないし公の政策である場合,という趣旨に読めるのですが,この英語でもそうですけれども,恐らくコメンタリーなどもあわせて考えますと,次のような趣旨にも読めるのではないかと思うのです。つまり,公の政策又は公序に照らして専らその国の裁判権に服すべき事件であるような場合,という趣旨です。そうだとしますと,専属管轄の規定があって,その根拠が公序なり公の政策なりという場合はもちろんそうかもしれませんが,そうでなくても当該事件について判断をする際に,この合意があるけれども,しかし公序あるいは公の政策の観点からこの事件については日本国の裁判所で判断をするべき事件であると解される場合には,免除しないという余地をどうも残すようにも読めるように思われます。まだ検討は必要かと思いますけれども,差し当たり現段階ではそのように考えております。 ○上原部会長 どうぞ,山本委員。 ○山本委員 確認ですが,今,垣内幹事の御意見は,民法第90条的な意味での公序で契約が無効にならない場合,つまり契約が有効である場合でもなお日本で裁判をすることを認めることを許す規定として読む余地があるということですね。 ○垣内幹事 私の現在の理解ですと,狭い意味における公序によって合意が無効になる場合に限らず,法廷地国の強行法規的な考慮によって当該合意の効力を認めるべきでないような場合を含む規定として読む余地が,必ずしも排除しきれないのではないかという印象を持っている次第です。 ○上原部会長 それでは,この点につきまして様々な御意見をいただきましたが,なお検討させていただくということにいたしまして,ここで, 休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○上原部会長 それでは,再開いたします。   続きまして,第11,不法行為等というところに入ります。   事務局から説明をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,要綱試案(2)の6ページでございます。第11,不法行為等ということで,条約の第12条関係でございます。   第11というのは,条約第12条に準拠いたしまして,一定の類型の不法行為等に係る金銭によるてん補を求める裁判手続については,外国等が裁判権から免除されないことを定めることを提案しているものでございます。   ここで不法行為等と書いてありますとおり,また試案の中でも損害又は損失のてん補と書いてありますとおり,必ずしも不法行為だけには限定されておりません。   それから,「行為によって生じた場合」という文言についての説明でございますが,実は条約の原文の方では,作為又は不作為によって生じた場合と書いてございます。ただ,作為又は不作為という言葉を使ってしまいますと,現在要綱試案には,「当該行為の全部又は一部が日本国内で行われ」という言い方がありますが,ここを「当該作為又は不作為の全部又は一部が日本国内で行われ」というと,不作為が行われといったつながりがあるのかどうなのかといった問題点が出てきます。   それから,正にこのペーパーにも書きましたとおり,民法の不法行為等では,不法行為といったときには作為のみならず不作為も含む概念と整理されているようですので,ここでは行為という言葉を用いているところでございます。   第11に関しては以上でございます。 ○上原部会長 第11につきましていかがでしょうか。 ○三木委員 二点ございますが,いずれも文言に関するもので内容に関するものではございません。それから,もう一つは意見というよりも確認的な御質問です。   一点目は,行為という言葉を選択をされた点ですが,確かに国内法的にはおっしゃるとおりで何の異存もありません。日本の法律の文言を英語訳された場合から考えていくのが正しい姿勢かどうか分かりませんけれども,英語訳されたときを考えますと,行為という言葉を何と訳されるのか分かりませんが,actとかactionと訳されるとすると,それは作為と読まれるおそれがあります。確か条約の原文ではact or omissionだと思いますが,いくら意訳をしても「行為」をact or omissionという訳で外国に発表はしにくいかなと思いましたので,行為という言葉を適切な英語訳にできるのかなという点がちょっと疑問に思ったというのが一点目でございます。   それから二点目は,てん補という言葉の確認であります。賠償という言葉を使わずにてん補という言葉を使われたのには当然理由がある のだろうと思いますので,その理由を伺いたいのです。想像するに,条約ではcompensationだったと思いますので,それを訳せば確かにてん補という訳になりやすいと思います。それでいけないという趣旨の発言ではございませんが ,ここには日本法的には慰謝料を含むのだろうと思います。損害のてん補という言葉で慰謝料を含むという御趣旨なのだろうと思いますが,それでいいのかどうかということ。損害の賠償ですと慰謝料を含むことには恐らく争いがより少ないんだと思いますが,てん補でもそこは疑義が生じないということで理解でよろしいですかという質問であります。 ○上原部会長 第一点目は先ほど事務局からの説明がありましたことですから,御意見をいただいたということにしたいと思います。第二点目について事務局から何かございますか。 ○飛澤幹事 てん補という言葉を用いましたのは,今御指摘があったとおり,損害のみならず損失も含んだときに,どういう使い方がいいかなと思案して現段階ではこの言葉を選んだ次第でございます。   それで,当然このてん補という言葉を使うことによって御指摘のあった慰謝料請求を除くという趣旨は全くございませんが,やはり法律学的には抜けてしまうと読まれるおそれが高いでしょうか。 ○三木委員 私は民法学者ではありませので,民法の御専門の方がいらっしゃったら御意見を伺えればと思いますが,法律学では慰謝料もてん補賠償として理解されているのだろうとは思っているのです。ただ,厳密な意味で精神的損害に金を払っててん補かと言われるとやや分からないところもあります。 ○飛澤幹事 御指摘を踏まえまして更に検討したいと思います。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,先に進みます。 ○飛澤幹事 それでは,第12の関係について御説明申し上げます。要綱試案としては6ページからでございます。   この第12は条約第13条に準拠いたしまして,日本国内にある不動産に係る外国等の権利等に関する裁判手続を定めたり,あるいは贈与等によって生じる動産又は不動産に係る外国等の権利等に関する裁判手続について定めたもので,これが試案第12の1の①,②にそれぞれ対応するところでございます。   それに対して試案第12の2につきましては,信託,それから破産等に係る財産の管理に関する裁判手続について,外国等が裁判権から免除されないことを定めているところでございます。   実は,条約上は試案のように1と2という形では分けておりません。試案で1と2を分けました理由は,7ページのなお書きで若干書かせていただきましたとおり,1の①,②というのは基本的には外国が当事者となるような裁判手続を主に念頭に置いているのですけれども,2のような場合,例えば破産事件の場合には,外国が破産債権者であるような場合が想定されるのですけれども,破産債権者だからといって当然破産手続の当事者であるといった位置付けではございません。そういった意味で,1と2はやや異質なものを扱っているのかなということで分けて規定したところでございます。   それから,この第12に関して,前回お配りしました部会資料7,担当者試案に関する意見募集の結果を御覧下さい。1②について,遺贈とか時効取得とか負担付贈与に関する取扱いはどうなのかといった意見が出されております。   この1②というものの規定の趣旨がなかなか分かりづらいというところがあるのでございますけれども,実はこの1②のように相続,贈与,又は無主物の取得といった文言を並べている書き方というのは,例えばイギリスの国家免除法とか,あるいは欧州国家免除条約でもされているところでございまして,その並びでこういったものが出てきているのかなと考えているところでございます。   この趣旨につきましては,なかなか難しいところであるのですが,少なくともその趣旨の一つとして,オーストラリアの国家免除法のコメンタリーでは,こういった国家が無償で取得したようなものについてはやはりそれについて争うというか法廷地国の裁判権を認めてそこで争えるようにするべきだという要素があるとされております。ただ,それがすべてではないということですが,そういった面があるといった解説が若干見られるところでございます。   ですので,そういった趣旨等も勘案しますと,ここで言う相続には少なくとも遺贈は含まれるのかなと考えておりますが,さらにパブリックコメントで御指摘のあった時効などについては,ちょっと直ちに含まれるかどうか,むしろ含めるのは若干危険なのではないかという感じを持っております。   それから,負担付き贈与は基本的には贈与で読めるのではないかとは思いますけれども,負担の度合いによっては先ほど申し上げた無償で得たものについては法廷地国の裁判権を認めるという趣旨をどれだけ強調するかによって多少結論が変わり得る可能性はあるのかなと思っております。   第12の関係は以上でございます。 ○上原部会長 いかがでしょうか。 ○山本委員 第12の1と2は性質が異なるものだというのはおっしゃるとおりだろうと思います。   1の①と②というのは要するに動産,不動産の属性に着目して,①は恐らく日本の領土主権ということから,②は無償で得たものについては特に自国でのみ裁判を受ける権利というのを強く保障する必要がないという角度から,主として外国が当事者とされる場合を念頭に置いていると思うのです。   2の場合には,もちろんそういう場合も含む,例えば弁済の否認の被告になる場合も含むわけですけれども,それだけではなくて,外国が例えば自国の裁判所で破産債権について回収訴訟を起こすというような場合に,被告とされた破産者の側が自分は破産していると,破産手続のいわゆる普及効ですね,したがって破産手続によらなければ権利を行使することができないはずだという抗弁を出す。もし外国が外国破産の国内効を認めていれば,普通であれば却下になるわけです。しかし,ちょうど前回の会議で置くか置かないかを議論した正に試案第5の2ですよね,つまり破産手続によらない権利,実行を禁止という裁判の効力が外国に及ぶわけですが,そういう場合でも主権免除が本来ならば主張できるけれども,倒産処理手続の場合にはそういうことをされては困るので,その主権免除を主張して却下を主張することができない。   少し話を戻しますけれども,もし当然に外国に破産手続の効力が及ぶのであれば,結局外国は日本で破産債権の届出をするしかないわけであって,他国の裁判権に言わば従属することを強要されるわけですね。ですから,本来であればやはり主権免除が主張できるケースなのだけれども,破産の場合にはそういうことをされては困るので,正に第5の2の例外としてこういう破産の対外的効力というものを外国国家は主権免除を理由に免れることはできないというような趣旨も恐らく含んでいるのだろうと思うのです。   ですから,この第12の2というのは当事者となる場合に限られず,もっと広く外国は他国の破産手続開始,破産手続等の開始の効果が自分に及ぶことを主権免除をもって排斥できないという趣旨をも含んでいるという意味で,かなり性質の異なるものなので別立てにするということは適切なのだろうと思っております。 ○阿部(潤)委員 第12の1①についてなのですが,不動産に関する権利等とありますが,実務上関心があるのは,これに境界確定訴訟のようなものも含むのかという点です。例えば,外国等が建物の区分所有権を取得し,その敷地権が共有になっているような場合が考えられますが,この場合の敷地の境界確定訴訟は,必要的共同訴訟になり,共有者が外国等であるために訴訟が提起できないという事態になると困るからです。境界確定訴訟の訴訟物は所有権ではなく,公法上の境界とされていますから,ここの不動産に関する権利という表現からはやや広いかも分かりませんが,解釈上そういうものも含んでいると確認できれば有り難いと思います。 ○上原部会長 境界確定訴訟については,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 担当者レベルとしては,当然含むと考えておりました。権利若しくは利益といった形で広くかぶせているところもございますので,含むと考えております。 ○上原部会長 第12につきまして,ほかに御意見ございますでしょうか。 ○三木委員 引き続き文言に関する瑣末なことで恐縮なのですけれども,2のところですが,管理という言葉を使っておられて,条約のadministrationに当たる言葉として使われているわけですが, administrationと管理とを比べると,administrationの方が意味が広いような気がしております。日本語で管理というとやはり処分を除いた言葉として使われることがあって,管理及び処分という言葉は,法律用語としてよく使われるので,ここに挙がっている破産などというのは管理だけではなくて処分を含みますので,管理処分というふうに並べてもいいのかなと思った次第です。 ○飛澤幹事 御指摘を踏まえて,更に検討させていただきたいと思います。 ○道垣内委員 試案第12の1②と2に該当する条約第13条(b),(c)の解釈の点ですが,外国にある不動産についての当該外国の権利も日本で裁判すると,外国が当該外国の領土内にある不動産について持っている権利についても日本で裁判するということになりますでしょうか。例えば,日本人が持っていた外国の不動産について相続人がなくして死亡して,その不動産を当該国の国庫に帰属させたような場合にも,相続の処理が妥当だったか,その所有権は誰に帰属しているのかという裁判を日本でするということですか。 ○飛澤幹事 条約上,第13条(b)が,あえて(a)とは違って連結点を日本に限っていないのはどうも意識的にやっているようでございます。欧州国家免除条約との並びではないかと思います。そこからしますと,実効性の問題は別途あるかと思いますけれども,条約の解釈としては,外国に所在する財産についても当然日本が裁判権行使できるという理解に立たざるを得ないと考えております。 ○上原部会長 どうぞ,河野委員。 ○河野委員 一つ戻ってしまい申し訳ないのですが,第11の不法行為で,試案の2行目に「責任がある」という言葉を使っておられるのですが,条約は文言はattributableで,条約の訳は帰すると訳されているのですが,これを責任があるというふうに言い換えられたのは何か特別な意味を持っているのでしょうか。 ○川尻関係官 御指摘の点は,日本法でどのように表現するかというところで非常に悩ましかった点であります。外国に帰するとされる作為又は不作為というふうにそのまま書いてしまいますと,それは一体全体どういう意味なのかという問題が必ず起こるのではないかと思うのです。それで解釈するに,外国に帰するとされる行為というのは要するに外国に責任があると主張される,alleged toが入っておりますので主張されるという言葉を入れたのですが,責任があるとされる行為のことを指しているのであろうというふうに解釈したわけです。責任がない行為にまでここの条項が適用されるというふうには解されませんので,条約の内容を分かりやすくするという観点から責任があるという言葉に言い換えた次第です。   ただ,この言い換えに問題があるという御指摘であればもちろんお聞かせいただければ検討したいと思います。 ○河野委員 この責任があるというのは,外国の機関なり外国自身がやっていなくても監督責任とかそういったものまで含む概念で責任があるという意味なのですか。といいますのは,attributableというのはものすごく国際法で特殊な概念かと思いますけれども,外国の国家が行った行為,国家の行為とみなされるという意味でattributeとかattributableという言葉を使うとしますと,要は行為主体が国の範疇に入るかという意味のattributableなので,ここに行為そのものはやってなくても監督してないという ものまで含むのですと,趣旨がもしかしたら違うのかなと思うのです。   そういう意味で国内法に移すときに,この責任があるというのでそういう趣旨を含まない表現であればそれで結構なのですが,いかがでしょうか。 ○川尻関係官 今の御指摘は,要するに条約の表現は国の直接の行為ではないけれども,何がしかの,監督責任を国が負う場合との御趣旨でしょうか。 ○河野委員 条約のattributableという言葉は国の行為に限定される言葉であって,国自身がやっていない行為は含まないという表現だろうと思うのです。その意味で,この責任があるという言葉が監督,行為自体は国がやってないけれども,それに関連して何か責任が生じるという意味を含まないのであれば,それで結構かと思います。 ○始関委員 今河野委員がおっしゃった,国自身がやった行為というのは,国というのは一種の法人ですので,国自体が何かをやることはできない,自然人が行為するわけです。今おっしゃっているのは,自然人としてのだれがやったことをおっしゃっているのでしょうか。 ○河野委員 いわゆる国家機関ないしは国の範疇に入る何らかの形で国の権限を行使している人が行う行為という意味です。 ○始関委員 国賠法ですと,公権力の行使に従事する公務員が不法行為を行ったときは国が賠償責任を負うという形になっているのですけれども,そういうものは国の行為と考えていいのですか。 ○河野委員 そうです,入ります。 ○始関委員 そういう意味では,その限度では国は監督責任なのですけれども。 ○河野委員 責任があるというときに,実際,人自身は公権力を行使していないかもしれなくても国が何らかの形でその人にかかわる場合があるのかなと思ったのです。責任があるという言葉の範囲がそれでもう今おっしゃったような範囲だけに限定されるのであれば,責任があるという表現でいいと思いますけれども。 ○始関委員 河野委員がどういう場合を念頭に置いておっしゃっているのか理解がよくできないのですけれども,今おっしゃったのは,例えば事故米を業者が食用に流したと,それの監督不十分だったという責任は,国に帰するとはいえないという御趣旨ですか。 ○河野委員 はい,そうですね。 ○始関委員 そうだとすると,国賠とは違うのではないでしょうか。国賠であれば,その監督義務があるならば,その不作為も国賠になります。私はそういう場合も広く,例えば業者が事故米を横流しして,それを最終的な消費者が口に入れて生命,身体に害を生じたことについて国として監督義務違反があると認められるのであれば,条約のこの規定によって主権免除を主張できないということになるのかなと思っておったのですけれども,そうではないということですか。 ○河野委員 むしろ条約の規定は,国家が行った行為の範疇に入るものというふうに理解しておりましたので,attributableというのは国が行う行為だという意味だと理解していたので,今おっしゃったような例は入らないという理解をしておりました。 ○上原部会長 その点についてはこちらも研究が十分でなかったかもしれませんので,事務局の方でattributableという国際法上の概念を検討していただければと思います。   ほかにこの点について何か御意見ありますか。 ○山本委員 条約の原文は,act or omissionですよね。ですから,その中には今,始関委員が言われたようなケースも入っているのではないかと私は当然理解していました。 ○三木委員 私も始関委員がおっしゃったのと同じ理解でおりました。国際法上のattributableがどういう意味で使われているかよく存じませんが,ここは広い意味の不法行為の文脈として使われていて,国家が言わば私人と同じ形で不法行為をするという意味ですから,必ずしも国際法上どう使われているかは知りませんけれども,その意味に限定されると言い切る必要はないような気がこの段階ではしております。 ○河野委員 国際法でいいますと,監督責任の場合に,国家機関がきちんと監督していないというところで,そこの部分に責任をかけることはできますけれども,その場合,業者の行為に対しては責任は問われないことになります。 ○始関委員 そのようなことは,言っておりません。監督をしなかったということ自体がそのしなかったという国の行為が違法だと判断するというのが国家賠償の考え方ですので,それから一歩も出るものではありません。 ○河野委員 だったら結構です。 ○上原部会長 この点について,ほかに何かございますか。 ○道垣内委員 この準拠法は国内法,日本法になる可能性が高いですね。日本での不法行為の場合,国際法がいきなり適用されるわけではないのであれば,責任があるかどうかは日本の不法行為法で決めさせてもらうということになるのではないかと思います。 ○上原部会長 分かりました。   それでは,第13に進みます。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料8の7ページ,試案第13,知的財産権の関係についての説明に移ります。条約は第14条関係です。   これは基本的に日本の知財に関する裁判手続については,外国が裁判権から免除されないということを定めているものです。   それで,試案第13の①についていえば,正に日本の特許等の知財についての有効か無効かとかいった内容についての争いについては当然日本の裁判所の裁判権に服してもらいますよという話であり,②については,外国が日本において第三者が有する特許権等の知財を侵害した場合には,その侵害訴訟についても日本の裁判権に服してもらいますよといった趣旨を定めたものでございますので,条約の趣旨に照らしてそれを書き下ろしたということです。   若干文言振りにつきましては,条約の方は特許とか意匠とかと並べているのですけれども,この点については日本の場合は知的財産基本法で同じような定義規定がありますので,それを援用する形で非常に簡略な形で書いておりますが,内容が異なるというわけではございません。   以上でございます。 ○上原部会長 御意見はございますか。   特にないようでしたら,試案第14をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,8ページの試案第14,法人等の構成員としての地位又は権利義務,条約第15条関係の説明をさせていただきます。   この試案第14というのは,外国等が,法人等の構成員としての地位又はその地位に基づく権利若しくは義務に関する裁判手続について,原則として裁判権から免除されないということを定めることを提案するものであります。   まず,1の柱書きの「構成員としての地位又はその地位に基づく権利若しくは義務に関する裁判手続」という言葉でありますが, これについては,条約第15条では,会社その他の団体への当該国の参加に関する訴訟手続という言い方をしているところですが,この参加に関する訴訟手続というのをそのまま国内法で書きましても若干分かりにくいところがございます。そこで,他の外国法などの書き振りも参考にしつつ,このように書かせていただいたというところでございます。   それから,正にその文言の後ろにございます,[であって,当該外国等と法人等又は法人等の他の構成員との間の関係に関するもの]というブラケット内の部分については,実際問題としてこのブラケット内が特にこの当該外国対その外国が属する法人等,あるいはその法人の中の構成員である外国対他の構成員といったものを当事者とする裁判手続に限定する趣旨であるととらえれば必要な文言なのですけれども,文言を見る限り,別にそういった裁判手続における当事者を限定したものとは見えないところです。そうであるのであれば,基本的には先ほど申し上げましたとおり,社員その他の構成員,その他の構成員としての地位又はその地位に基づく権利若しくは義務に関する裁判手続とすれば,ブラケット内の内容も含めて全部カバーした内容を表現できるだろうということで,ブラケット内の文言については削除の可能性もあるのかなと思い,皆さんの御議論を聞きたいと考えた次第でございます。   それから,同じく9ページの3でございますけれども,試案第14の1①のところで,「国等又は国際機関以外の構成員」という文言を使っていますが,それについての説明でございます。   ここは条約第15条1(a)がこの法人その他の団体には民間部門からの構成員がいることを要件としております。そういった関係で,民間部門からの構成員がいないような場合にはここで言う非免除の問題は出てこないということで仕切っているところでございます。   それから4ですが,1②の「主たる事務所若しくは営業所」は,条約第15条1(b)のseatとprincipal place of businessを当てた文言でございます。いずれも業務の中心地であることを示していると考えられますので,主たる事務所あるいは主たる営業所という形で表現させていただいたということでございます。   第14に関しては以上でございます。 ○上原部会長 御質問や御意見がありましたらお願いいたします。   三木委員,お願いいたします。 ○三木委員 説明の2についてですけれども,条約の仮訳の表現を使わずにこういう形で書かれたということに賛成です。むしろ逆に,現在の条約の仮訳の方を修正していただきたいと個人的には思っております。   と申しますのは,参加に関する訴訟手続というのは訴訟法上はちょっと別な意味がありまして,どこで切って読むかにもよりますけれども,誤読されるおそれのある訳だと思います。原文でparticipationという言葉を使っているので単純に参加と訳されたの だと思いますが,participationは常に参加と訳さなければいけないというものでもありませんので,違った訳にされる方がいいと思います。   あわせて,ブラケット内の文言ですが,御説明にありますように,こういう書き下ろしをすればブラケット内文言は不要ではないかと思っております。 ○上原部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○鶴岡委員 この条約の立て方自体がやや理解しにくい表現を用いているように思いますが,結論から申し上げますと,今のこの括弧内の文言の訳出は不要だと思います。ただ,その際確認しておかなければならないのは,この括弧の中に入っているものがすべて訳出する表現,地位又はその地位に基づく権利うんぬんで網羅されているという理解が共有されているかどうかということでございます。条約の仮訳である「当該国の参加に関する訴訟手続」というのは,恐らく当該国がこれら団体に参加することに伴って生ずるという部分を捨象しているといいますか,短く言ってこういう表現になっているのだと思いますから,そういう法的な効果が日本語の条文の案の中にすべて網羅的に含まれているということが確認できるのであれば,括弧の中の表現は全くの重複でありますので,削除することが適当ではないかと思います。 ○上原部会長 第14はよろしいでしょうか。   では,次に進みたいと思います。 ○飛澤幹事 それでは,試案第15,船舶の関係にまいります。条約では第16条関係でございます。   まず,この試案第15は外国等が所有し又は運行する船舶及びこれにより運送される貨物について,私法的目的あるいは商業的目的で使用されていた場合には,裁判権免除が認められないことなどを定めることを提案しているものでございます。   次に,部会資料8の10ページの説明の2のところに書いてあることでございますけれども,試案1,3,4にブラケットで[私法的]という言葉と[商業的]という言葉を並べているところでございます。その点についての御説明でございます。   まず,結論的にどちらがいいかということを問うものでありますけれども,条約の原文を御覧いただければ分かりますとおり,commercialという言葉を使っております。このcommercialという言葉をどう訳すかという問題でございます。 まず,これについては従前commercial transaction を国内法でどう規定するかという問題がありましたが,その際,事務局としては私法上の取引という言葉を使わせていただきたい,商という言葉は使うのは難しいのではないかという御提案をさせていただいたところであります。   そこで,もしcommercial transactionという方で私法といった言葉が用いられたとしますと,同じcommercialという言葉を使っていながら,こちらの船舶のところでは商業としてしまうと,同じ国内法でありながら私法と言ってみたり商業と言ってみたり,何か意味が違ってきてしまうのではないかというおそれがございます。   ですから,国内法の中での表現の統一性を重視しますと,例えば私法的といったような言葉を使うのが適当ではないかというのが私法的という文言を一つのブラケットとして提案させていただいている理由でございます。   他方,商業的という言葉を並べて置いておりますのは,実は国連海洋法条約等を見ますと,船が商業目的で使われているのかどうなのかといった文脈では,要するにcommercial purposesかどうかといった面においては,既にもう商業的目的かあるいは非商業的目的かという言い方で訳されておるところでございます。   そういった国連海洋法条約の訳を受けまして,この国連海洋法条約に準拠した国内法等におきましてもやはり船については,正に商業的目的かどうかといった書き方をしているところでございます。   ですので,この船について今回作ろうとしている法律でcommercial purposesを私法的目的と訳してしまうと,国連海洋法条約あるいはその並びの国内法との表現との間にそごが出てくるといった問題がありますので,こちらについてはどちらかにそろえなければいけないわけですけれども,どちらにそろえるのが適当かについて御意見をいただければ有り難いと思っている次第でございます。   次は,部会資料8,11ページの3のところでございます。条約第16条2後段に対応する規定の要否ということで,これは条約第16条4の前段でも同じ問題が出てくるのですが,とりあえずは条約第16条2の後段で議論させていただくことにします。   部会資料2,条約対比表の10ページ,第16条2を御覧ください。「1の規定は,軍艦又は軍の補助艦について適用するものではなく」までが前段で,続いて「また,国が所有し,又は運行する他の船舶であって政府の非商業的業務にのみ使用しているものについて適用するものでもない」と規定されており,この「また」以下が後段ということでとらえておるところでございます。この条約と要綱試案とを比較していただければ分かりますとおり,要綱試案では前段の部分,つまり軍艦又は軍の補助艦,今は支援船と書いてありますけれども,要綱試案の方では,こちらの前段部分しか規定しておりません。   その理由が正に11ページの説明の3に書いてあるところでございます。ここの説明で書きましたとおり,条約第16条2後段の意味を考えていきますと,どうも単に16条1に規定されていることを裏から確認したにすぎないものではないかと思われるのです。そうであるとすると,わざわざ重ねて書く必要はないということになりまして,この条約第16条2後段に対応する規定は置かなかったということでございます。   11ページの説明4のところですけれども,条約第16条5に対応する規定ですが,結論的には要綱試案では置いておりません。   条約第16条5を御覧いただきたいのですが,条約第16条5は,「いずれの国も,私有の船舶及び貨物並びにこれらの所有者が利用することのできる防御,時効及び責任の制限に関するすべての措置を申し立てることができる」という規定でございます。   条約第16条5で書かれている内容は,いわゆる一般の商船でこういった事件が起きたときに問題となるような攻撃防御方法については,政府の公船絡みの事件で問題になった場合でも当然使えますよということでして,別に政府公船と商船を分けて考えなければいけないということは日本法ではございませんから,そうであるのであれば余りにも当たり前のことを言っている規定ということになりますので,特段規定を置かなかったといった次第でございます。   それから,条約第16条6に対応する規定の要否についてです。これは部会資料8の11ページの5に記載しているところでございますけれども,これにつきましても,条約の中身はここで引っ張っているのですけれども。要は条約第16条6というのは,裁判手続についてある国が所有若しくは運行する船舶又はある国が所有する貨物が非私法的な性質であるかどうかといった点について問題が生じた場合に,当該外国の代表者等が署名して,法廷地国の裁判所に送付した証明書が当該船舶とか貨物に関する性質の証拠となる旨を既定したものであるというものであります。   我が国の民事裁判手続におきましては,特段証拠能力について厳しい制限規定を置いているわけではございませんで,こういったものが証拠になるといったこと自体は,これまた当たり前のことですので,特段の規定は置かなかったといった次第でございます。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,この第15につきまして御質問や御意見をお願いいたします。 ○阿部(泰)委員 用語の問題ですけれども,国連海洋法条約のほか国内法規でやはり商業的という言葉を慣用的に使ってきたので,ほかのところとの整合性の問題が生じないのであれば,ここは商業的という言葉の方が分かりやすいのではないかと思います。 ○飛澤幹事 第15に関してはパブリックコメントで意見が寄せられておりますので,それについてのコメントをしたいと思います。部会資料7の13ページでございます。   試案第15の2で用いられています軍の支援船なのですが,この「支援船」という文言があいまいではないかといった御指摘のようでございます。では,軍の支援船とはそもそも何を指すのかということですが,担当者として考えておりますのは,軍の任務を円滑に遂行するための補助的な任務を行う船舶と考えております。   「軍艦又は軍の支援船」という言い方は,同じく先ほどから申し上げております国連海洋法条約の訳の並びで書いてあるところでございまして,国連海洋法条約も特段軍の支援船について定義を設けてないのですけれども,関係する注釈等を見ますと,先ほど申し上げたような意味で理解しているようでございます。   ですので,商船との混同が生じる可能性があるという御指摘を受けているのですけれども,直ちに混同が生じるのかなという感想を持っているのが現在正直なところでございます。この点についても何か御指摘があれば承りたいと思っております。 ○上原部会長 いかがでしょうか。 ○水島幹事 私法的か商業的かという点なのですが,commercial transactionについてどのように日本語で表記するかというところで議論されたところから考えると,恐らく私法的というのがやはり適当なのだと思います。国連海洋法条約第236条というのは,正に主権免除の規定で,これまで確かに商業的という言葉が当てられてきましたけれども,条約の訳としてどういう言葉を使うかはともかくとして,少なくとも日本国内法として使うときはむしろ私法的というのが適当なのではないかと思っております。むしろ例えばここで挙げられている国内法令,領海等における外国船舶の運航に関する法律という最近できたばかりのもので恐縮なのですが,むしろ私法的として,今後はそちらの方でいってもらうという方が私としては適当なのではないかなという印象を持っています。 ○山本委員 非商業的,商業的という言葉が国内法令で使われているという場合のその商業的の意味ですが,それは海商法の規定に言うところの船舶の定義よりは広いのでしょうか。 ○飛澤幹事 大変難しいところなのですけれども,そもそも先ほど国内法で商業的目的と使っているのは大抵外国公船の定義のところで使っておりまして,その場合に国連海洋法条約があるからということでその並びでどうも表現しているといったところが大きいようで,余りコメンタリーとかを見ても特段商を使うことによって商事に近づけるとかといった意味は,今調べている範囲ではございません。 ○始関委員 先ほど阿部委員から,ここはほかの条約や国内法令でも商業的という言葉を船の場合は使っているから,ほかとの並びで支障がないならそれにあわせたらどうかというお話があったのですけれども,先ほど水島幹事もそれをおっしゃろうとされたのだと思うのですけれども,支障はあるのだと思うのです。他のところは私法的という言葉を使いながら,ここは商業的という言葉を使うとなると,両者には違う意味があるはずだというふうに普通は考えるわけです。したがって,やはり違う言葉を使うというのは妥当ではないのではないかなという感じがしております。水島幹事もそういう御趣旨ですよね。 ○水島幹事 そういう趣旨です。 ○阿部(泰)委員 正直言ってこだわるわけではなく,なじみの問題なので,絶対にここは商業的でやるべきだという主張ではないのです。commercial transactionが商業的であっておかしくはないと私は思っていたので,そういう意味ではこの法律あるいは条約との整合性全体をとるのであればこだわりません。 ○鶴岡委員 整合性の観点が一つと,外国人が日本語を全く読まないかというと,実定法は日本語になるわけですから,そしてこの法律は外国人にこそ読んでもらいたい法律であるわけですので,その部分についても考慮いたしますと,先ほども御指摘のあった国連海洋法条約に伴う実定法の用語とこの用語が異なるということになれば,政府の立法意図としてどういう変化をそこに生ませる,法的に生じさせることを意図したのかということが説明できないと異なった用語を使うということは基本的には避けるべきことではないかと思います。   前回も申し上げましたけれども,語感の観点から言っても「商業的」という言葉の方が「私法的」よりもいいのではないかと思います。免除を定めるときに,原則主権の免除がある中の穴の抜き方の議論をしているわけですから,その抜く部分が際限なく広がっていくというよりも,特定の考え方によって抜かれるということがより明示的になる。実はこの公船と商船,その他の海の規律を考えるときにもこれはかなり議論してきている話でありまして,正にこれも例外と原則のやりとりの中から生まれてきている概念ですので,この法律の世界だけで自己完結的に一つつくるというのはこの海の部分が入ってくると私はやや無理があるのではないかなと思います。国連海洋法条約の一般規律というのは,国際的に確立をしておりまして,日本自身もそれに入っているわけですから,そことの関係でもちろん法律は違いますから言葉を定義すればそれでいいですけれども,しかし異なった言葉で実は同じことを結局は言っている部分に当たると思いますので,そこで違う国内法上の用語を使ったときに用語の混乱ということは避けられないのではないかと思います。   したがって,私はここは「私法」という表現よりも「商業」が好ましいと思いますし,仮にここを「商業」とするのであれば,commercial transactionもやはり「商業」の言葉を用いるのが適当ではないかと思います。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○水島幹事 別の点なのですが,第15の1と3のところで,「紛争の原因となる事実が生じた時において」と書かれているのですが,僕の印象としては,条約が書いてあることと若干ずれがあって,かつ紛争のとらえ方次第では実際の適用に当たってややトラブルのもととなるのではないかという印象があります。これは日本の国内法的な観点からすると,全く問題がない,あるいはこうとしか書きようがないのかどうか,ちょっと教えていただけると有り難いのですが。 ○飛澤幹事 条約の仮訳では,「訴訟の原因が生じた時点において」とありますが,それを「紛争の原因となる事実が生じたときにおいて」にすると,どの辺りのずれを問題とされているのでしょうか。 ○水島幹事 つまり,紛争をどうとらえるかという話なのですけれども。 ○飛澤幹事 これも実は言葉の選択に困ったところなのです。実はここを訴訟の原因としてしまいますと,この手続は,訴訟手続だけではなくてそれより広い裁判手続も含むものと考えていますので,まず訴訟の原因という言葉は使えない。それでは裁判の原因が生じた時点でという言葉は使えないかということでいろいろと用例を探したのですけれども,やはりない。そこで,趣旨としては条約の意味を変えるつもりはないのですけれども,紛争の原因と書けば一応用例はあるので,その文言を用いることとしたところでございます。なかなか書き振りの難しいところでありますが。何かより適切な用語例がありますでしょうか。 ○水島幹事 実際の用例があるのであればそれで問題はないと思います。 ○三木委員 今指摘されるまでこの文言に違和感を持ったことはなかったのですが,訴訟の原因というのは結局紛争の原因ですから,ずれはないのではないかと思います。 ○上原部会長 水島委員,よろしいですか。 ○水島幹事 特に異論はないです。 ○上原部会長 ほかに何かございますでしょうか。 ○始関委員 先ほど少し議論になっていました商業的,私法的の部分をもう少し議論していただいた方がいいと思うのです。ほかの委員の方々はどうお考えなのでしょうか。 ○山本委員 先ほど私が質問した趣旨は,国内法令で商業的という言葉が使われている場合に,それはその商行為を目的とするものでない船舶も含めた意味で商業船として使われているのかどうかということです。そういうものとして理解されているのが一般的であるならば,別にここで商業的という言葉を使っても構わないと思っております。   つまり,商行為ではない私法的取引,私法的な貨物輸送を行うことを主として目的としている船舶であっても,それは国連海洋法条約とか海洋に関する国内法令ではそれは商業船として理解されているのでしょうか。 ○上原部会長 何か知見をお持ちの方は是非御意見をお願いいたします。 ○山本委員 それで違和感なく商業的というけれども,そういうものも全部含む意味だということが違和感なく語られているのであれば,私は商業的でも構わないという気はするのですが,そうでないとすると,別にこれは商行為としての海運輸送だけを目的としているのでは恐らくないのではないかという気もいたします。 ○鶴岡委員 大変的確な御質問だと思います。国連海洋法条約だけではないのですけれども,通常の裁判権からの免除を認める理由は,公権力の行使に当たるものについては主権の不可侵の原則が働くので,そのような裁判の権限が及ばないという整理になるわけですけれども,国連海洋法条約の中でもその考え方を今度は船の使用形態,使用目的に適用した上で裁判権を認めさせることができる事例として,仮に国が運行していたとしてもそれが商業目的とみなされるようなものについては特権免除について制約を加えることがあり得るという定め方になっているわけです。   ですから,それは何も商売をするということでは必ずしも限定されないで,公権力の行使としての一番端的なものは軍艦ですけれども,その他船舶というものも国の所有にかかわるものは相当ありますので,世界的にもそういう船団を持っている国も多々あるものですから,それら船団に対する通常の船に対する特権免除を主張されては,かえって軍艦の本来の主権の尊重というものも危うくなるという点で線引きをする一つの概念の道具として商業ということが少なくとも国連海洋法条約の中では一応確立されておるわけです。   ですから,それによって金銭のやりとりがあるとか,これは必ずしも判断する際の必要条件というふうには確立はしていないと思います。ただ,それは個々具体的な事情をまた見ませんともちろん分からないわけですけれども,国内法上の考え方とそういう点では今おっしゃられた商行為ということと直結するということでは必ずしもなく,それを含むものだということではあろうかと思いますけれども,厳密な意味での定義ということになれば,国内法の定義と国際法の定義にはもちろん広がりの違いがあります。商業的なという言葉,仮に国内法上定義があるとすればですね,私は存じ上げないのですが,国際的な商業的なという言葉が今使われている理由は申し上げたとおりでありますから,そういう点で公権力の行使との対比の部分で使われている概念だと思うのです。   今回主権免除の議論をしているのは条約であり国内法ですので,実は同じ用語で同じ考え方を反映させるのが先ほど私が適当ではないかということを申し上げた次第であります。 ○三木委員 同じ法律の中の違う条文で本来同じ意味の概念を違う言葉で使うことの問題性と,異なる法律間とか法律と条約間で同じ概念なのに異なる文言を使うことの問題性を比べると,それは前者の方が問題性は大きいと思います。つまり,同じ法律の中では基本的には同じ概念は同じ言葉を使う。法律が違えば,あるいは法律と条約であれば,望ましいとは思いませんけれども,概念の相対性ということはあり得る話ですから,それはどちらがより罪が重いかといえば,同一法典内で違う言葉を使う方が罪が重いと思います。   そうすると,前回議論したcommercial transactionの訳に当たる言葉と,それからこちらの言葉とはなるべく同じ言葉を使うべきだということになります。その場合に,私法的,商業的あるいは第三の言葉がいいかという話で,ここはなかなか定見のないところですが,一つは,前回の議論のときにも感じていたのですが,確かにcommercial transactionのところは日本語で普通言う商業的とかあるいは商行為よりは広いと思うのです。しかし,私法をすべて含んでいるかというと,あがっている解説とか例とかを見ると,その私法的な行為の中でやはりやや商的色彩を帯びているものを挙げているようで,ここは日本語と英語とが,あるいはフランス語でもそうですけれども,1対1に対応していないということからくるのがやむを得ざるずれなのではないでしょうか。   したがって,商業的という言葉を両方に使って,かつそれは商法で言う商行為よりは広い意味であって,正に私法の中でやや商的な色彩を帯びているものを含む,特有の概念だという意味で両方商業的というのを使う。これは国連海洋法条約とかとも整合するので,一つの解決策だと思います。   もう一つは,今回の法律の条文すべて私法的と使うことにより,法律内の整合性はとることができる。そして,既存の条約との関係が問題になりますが,ここは法律が違うという概念,相対性で押し切ることになるのでしょうか。   もう一つは,これは乱暴な意見だろうと思いながら申すのですが,公定訳というのは後に改正できないものなのでしょうか。法律や憲法は改正できるわけですから,本当にそういう表現が望ましいということであれば,むしろ昔選択した言葉を後で変えることだってあり得ると思うわけです。とにかく言葉を違わせない方がいい。特に同じ法典内で違わすべきではないと思います。 ○山本委員 私も揺れてはいるのですが,例えば海洋に関する条約とかそれに関する国内法が商業的という言葉を使っている。しかし,その商業的の中には例えば難民援助船のようなものも商業的な船なのだと,民間のNPO法人がやっている難民の輸送とか難民のための食糧の輸送などに使っている船も商業的船舶の中に含まれるのだということであるとすれば,私はむしろcommercialをそのまま商業的と訳してきた従来の条約の公定訳とか,それに基づく国内法の用法がむしろ適切ではなかったのではないかなという気がしております。   ですから,今回のこの主権免除法,あるいはそれの国内法化を機にやはりcommercialだからといって商業的という訳を当てるのをやめるという方向に踏み切って,法律内整合性を保ちつつ,今後はそちらの方にもっていくべきではないかというふうに,今のところはそう考えております。 ○河野委員 私もその御意見に賛成です。結局どうしても条約を作るときに成文法がある国の条文に引っ張られざるを得なかったという経緯があるのだろうと思うのです。というのは,成文法がある国は今のところ世界的に見ますと,どちらかといいますと英米法系の国が多くて,英米法系の国が多い中でcommercialという形容詞がたまたま使われてきているのです。ところが,例えば大陸法系の例えばフランスの判例などを見ますと,どちらかというとprivateという形容詞が判決の中で使われる例が多々ございました。それは要は公法と私法の区別をどこで線引きをするかとか,それから公法と私法がしっかり分かれているかどうか,それが各国法体系によって違うわけです。ただ,そういういろいろな国の法体系の違いの中で,たまたま成文法がある国の文言に引っ張られた言葉だとしましたら,前回のcommercial transactionのところで,日本法上は私法的と訳すのが妥当であり,商業的と訳すことの方がかえって誤解を招くという判断をするのであれば,この際commercialという言葉は少なくともこの法律の中では私法的というふうに訳すべきだと思います。   今後,commercialという言葉が使われている条約が出てきたときに,やはりそれが本当の意味でcommercialいわゆる商業なのかそれとも私法なのかというのを注意するという方向で是正を図るというので,私はこの文脈もどちらかといえば私法的と訳す方が条約の趣旨に沿っているのではないか,それから,国家免除,主権免除のそもそもの概念の趣旨にあう訳語になるのではないか,訳語というか法律の文言になるのではないかと思います。 ○上原部会長 ほかに御意見ありますか。 ○竹下幹事 多分私の意見は非常に少数説なのではないかと思いますが,様々な角度から分析するという意味で,発言させていただきます。   同一の法典内で使われている言葉が同一の意味というのは基本的にはおっしゃられるとおりだろうとは思うのですが,個人的にはこの条約の中でcommercialという言葉が使われている場合に,commercial transactionで使われているcommercialと,ここの条文で使われているcommercialは違う意味として想定し得るのではないかと考えているところです。   なぜかというと,この条文に関していえば,かなり国連海洋法条約を意識して作った条文であることが明らかであります。他方で恐らく前の部分で私法,いわゆる我々が私法取引と呼んでいた条文というのは,もちろん国際法の分野ということでは関連はするものの,主権免除の枠組みの中で歴史的に議論されてきて形成されてきたcommercialという概念ですので,そこでcommercialというのが概念に分離が見られる。ただ,議論全体としてみると両方commercialという印をつけて議論していたというのが現在の結論なのではないかなと個人的には考えているところです。   では,日本の立法に当たるにどういう文言を使うべきかは迷っているところではございますが,一つの選択肢としては,commercial transactionという概念が前回も御確認させていただいたとおり,若干ぶれのある概念であるということを考えると,そちらは私法的と訳しつつ,国連海洋法条約との連続性が見られる条文については商業的と訳す,こういった手法も一つあり得るかもしれないなと思いましたので,発言だけさせていただきます。 ○上原部会長 髙階委員,どうぞ。 ○髙階委員 commercial transactionと言ったときには,取引の相手方の保護ということで,必ず相手方がいる話だと思うのです。しかし,ここで言っているnon-commercial purposes,しかもother than non-commercial purposesと二重否定になっていて,これを私法的目的というふうに単純にできるだけ分かりやすくしていると思うのです。ここの文章は公法的目的以外で使用されていることというふうに理解すべきなのだと思うのです。要するにどういう目的でやっているか,使用しているかということですので,相手のことを考える必要がない。であるならば,ここはその公法的目的で使っている,それの場合には免除が主張できるけれども,それ以外の場合には免除を主張できないという規定の趣旨だと思います。 ○上原部会長 多様な意見をいただいているところですが,事務局から何かありますか。 ○飛澤幹事 先ほど竹下幹事から御指摘受けた点なのですけれども,commercial purposesという言葉は,実はもう1か所執行のところでも出てきてしまいます。そうすると,今度は同じcommercial purposesという言葉を使っていながら,船のところと執行のところで表現の平仄をどうつけるのかという話も出てきてしまうのです。そこら辺の整合性をどうしようかと迷っているところなのですが,何か御示唆をいただければ有り難く思います。 ○竹下幹事 検討させていただければと思います。 ○上原部会長 ほかに御意見はないでしょうか。   よろしいですか。かなり重要な点で,前回も問題になったところも含めて今後また考えなければならないので,できる限り御意見を出しておいていただいた方が今後の審議の上でもよろしいのですけれども。 ○三木委員 先ほど2通りの考え方が結論としてあると言いましたけれども,その後の御発言などを伺って,すべて私法的でもいいかなと思っております。 ○阿部(泰)委員 同じ法律の中に違う言葉が出てくるということがあり得るのだとしたら,例えば定義規定でこの条約16条関係については国連海洋法条約と同じ趣旨でこの商用目的,要は国連海洋法条約では政府が所有する船を商船,商用目的船とそうでない軍艦,非商業の目的に分けているわけで,それと同じだということを定義で置いておくということはできないのでしょうか。   ここは国連海洋法条約の商業的,非商業的との使い分けは同じ意味を使っていると思いますが,前のところのcommercial transactionは商業的か非商業的かということとは関係なく,既に確定した国際条約で使われている用語の趣旨あるいは国連海洋法条約の規定の趣旨にあわせたことを再度述べているにすぎないわけなので,そのときに違った言葉を使うというのはかなり違和感があるのです。だけれども,もし同じ法律の中で同じ単語を違う日本語に訳していいというのであれば,定義規定でそれを明確に置いておくことで解決できないのでしょうか。 ○飛澤幹事 その点も含めて検討させていただきたいとは思います。 ○鶴岡委員 国際法と国内法の決定的な違いは,国際法については条文上の明確な定義が確定するという場合もありますけれども,なかなかそういうことが国家実行の積み重ねも不十分なために明確になっていないものが多いわけです。この今回の条約の起草段階の歴史を振り返ると,この部分を起草したときに国連海洋法条約を勘案していることは間違いない事実でありますけれども,だからといってここで使われている概念が完全に国連海洋法条約の概念と一致しているということはだれも有権的に言えない理解になるわけです。   したがって,我が国は国内法の中でそういうことを示すと,世界で初めて日本がその解釈を明確にするということになりかねないものですから,そこまで言えるだけの国家実行の積み重ねがない以上は,その部分については現段階においては明確にすることはできないといわざるを得ないわけです。   先ほどから申し上げている国連海洋法条約その他の海洋法の歴史と併せて読むということがそのいずれの相手を海洋法条約の歴史を否定するような,あるいは異なるようなことをここであたかも言っているかのような誤解を生じさせないようにする必要があるということを私は先ほどから申し上げているわけで,そのときに,日本語に訳するときにはどうしても国内法,まず条約の日本語訳も第一歩ですけれども,次はそれを国内法にすることが第二歩でありまして,より明確に日本としてのその条約の義務の公定解釈を明らかにするわけです。ですから,そのときに言葉が違ってくるとどうしてもその言葉の違いについては少なくとも説明できるようにしておかなければいけないのです。ただ語感でもって書いたということはできないわけで,先ほど公定訳の変更は可能かというお話がありました。もちろんそれは法律だって憲法だって改正は可能なのですからできないわけはないのですけれども,それは理由がなければできないわけです。ですから,それはそれでもともとcommercialという言葉が英文で正文になっているわけですから,そのときにその正文まで変えなければいけないというところに理論上はどんどん議論は伸びていくわけです。そういう議論ではちょっとなかなか対外的な説明としては,我々は自分たちの理解が国際的な一つの理解だということを説得することをあえて買って出るようなことになりかねないものですから,そこまでいくようなことをここでする必要があるのでしょうか。特にこの海洋の世界では,先ほどもどなたかから御指摘がありましたけれども,確立された議論,解釈が大分出てきているところでありますし,国際法廷まであるところですから,ほかの一般的な国際法の世界とは少し性格を異にしますので,その部分についてもよくお考えいただいた上での適切な誤解のない用語を国内法ではお使いいただきたいと思います。 ○三木委員 今の御発言はよく分からなかったのですが,別に公定訳の改正にこだわるわけではないですけれども,公定訳はあくまで公定といっても訳ですから,正文を変えることにはならないと思いますので,今の正文を変えることになるという御発言はよく分かりませんでした。   それから,私も国連の会議にも過去8年ぐらいこれとは違う分野ですけれども出ておりますので,若干国連の条約とかその他文章の正文というものも目にしております。実は国連の文章,条約も含めてですが,正文といっても言語がもともと1対1で対応していない関係で,英語正文とフランス語正文にずれが生じていることはあるわけです。したがって,正文が何かというのもそういう意味ではなかなか分からないところがあります。   例えばフランスにおいて,正文に則して国内法をつくるときには,フランスなりの解釈による正文で国内法をつくって,英語の条約正文と比べるとずれているということがあるわけですね。   したがって,正文という言葉にこだわって議論する場合にも限界はあると思います。 ○始関委員 とりわけ髙階委員の御議論を伺って,個人的に突然思いついたのですけれども,もともとこの条約の第16条やあるいは先ほど飛澤幹事が指摘された第21条は二重否定の形,つまり非商業的目的以外の目的のためにと書いているわけですね。それはしかし,研究会で議論したときに,要するに非商業的目的以外の目的での商業,non-commercial purposes以外の目的というのは,突き詰めると二重否定をやめればcommercial purposesだというので私法的目的というふうにし直そうということにしてこの形になっているのです。   一つの解決策としては,この二重否定をそのまま認め,法制執務上認められるのかどうかということが問題なのですけれども,この目的以外の目的というときには商業的という言葉は非常に狭いニュアンスがあるのでいいのですね。それは直接正面からcommercial purposesのときはというふうに書くと,それを商業的目的のときはと書くと非常に狭いような感じになってしまう,逆の意味で狭い形になるので問題のように見えるので。   一つの選択肢として,commercial transactionの方の訳はまた別途考えることにして,commercial purposesの方は国連海洋法条約などにあわせて商業的目的という言葉を使いながら,二重否定を維持するという髙階委員のお考えは一つの解決策なのかもしれないと思うのですけれども,その点について,委員,幹事の皆さんは,どうお考えでしょうか。 ○阿部(泰)委員 かえって分かりやすくなるので,それでよいかと思います。 ○三木委員 ただ,今の始関委員の説ですと,やはり同じ法典内で違った言葉使いになるという前提になりますでしょうか。それはやはり望ましくないと私は思います。 ○始関委員 commercial transactionの方は,部会資料3の5ページを御覧いただきたいのですが,そこにはフランス語正文のことが書かれております。このcommercial transactionにどのようなものが含まれるかという規定のフランス語正文ですけれども,そこでは物品若しくは役務の提供に関するその他一切の契約又は取引というふうにフランス語正文には書いてあるので,これを商取引とか商業的取引というふうにするのはこの定義に反すると思うのですね。少なくとも日本語のニュアンスとしては全く違うので,ここでは商という言葉は非常に使いたくない感じがいたします。   それに対して,こちらの目的の方はcommercial transactionと違ってもともと定義みたいなものが条約の中に全くないわけでありますし,使われ方も二重否定という形で使われているというところに違いがあるので,そこに着目することができるのかどうかではなかろうかと思います。私もできるという自信は,今思いついただけですので全くないのですけれども,だからこそ先生方の御感触を伺えればと思っております。 ○三木委員 前回議論をしたcommercial transactionの方が商よりもずっと広い意味だというのはおっしゃるとおりだと思います。他方で,委員の方々のお話を伺っていると,こちらの方だって正に商よりずっと広く使われていて,どなたか公法的な目的以外すべて含むとおっしゃった方もいらっしゃいましたけれども,結局は同じではないかと思うのです。 ○垣内幹事 今の始関委員の御提案についてですけれども,ごく一般的に申しますと,商業的目的と私法的目的を比べますと,やはりニュアンスとしては商業的目的の方が若干狭い印象を与えると思います。そう考えますと,非商業的目的というのは非私法的目的というよりも逆に広いということになるかと思うのです。   ただ,条約の文言を見ますと,その前にgovernment non-commercial purposesというふうになっていまして,訳でも政府の非商業的目的というふうになっているわけです。このgovernmentという修飾にどれほど実質的な意義があるのかということはコメンタリー等からも格別はっきりしているわけではありませんけれども ,非商業的といった場合には広い感じがするわけですが,政府の非商業的目的といった場合には単に非商業的目的といっているよりも若干限定がかかっているようにも思われます。結果的にそれは非私法的と言っているのと同じことにならないかと私は考えておりまして。そうだといたしますと,二重否定の規定振りを採用するとしても,非商業的だけではやや問題が残るような感じがいたします。その場合には,「政府の」が法制用語としていいのか分かりませんけれども,何らかの限定が必要ではないでしょうか。要するに,政府の非商業的目的というのは公権力の行使ないし主権の行使というようなことを裏から言っているものと思いますので,それは別の言葉で言えば非私法的であって,単に非商業的だけではやや問題があるように私は思います。   ですから,その意味でも非商業的ではなくて,使うとしても非私法的,積極的に言うとすれば私法的というのがその限りでは適切なように現在のところ考えております。 ○河野委員 私もその御意見に賛成です。研究会のときに確かこのgovernment non-commercialというのが余りはっきりしないので,それであえてgovernmentの政府のという訳語を外してはどうかという結論になったかと思うのです。   ただ,その議論が可能になる前提は,そのgovernmentというのを外しても,政府の権限行使とか公権力の行使という文脈がきちんと読み込める訳語という意味を含めないといけないというのはあったと思うのです。   もし,ですから,non-commercialを非商業的目的と訳すのであれば,というかそういう文言を使うのであれば,このgovernmentという言葉が何らかの形で入るような形の文言振りにしないと,今垣内先生がおっしゃったように,若干意味合いが違ってくるような気がいたします。その意味で,非私法的というのであれば,まずまずいいのかなと思った次第ではございます。 ○飛澤幹事 今の垣内幹事と河野委員の御意見についてなのですけれども,単に非商業的というよりも「政府の」が入ることによって何が狭くなるのでしょうか。といいますのは,実は先ほど国連海洋法条約等を受けた国内法では非商業的という文言を使っているというのですが,実はあれは非商業的といっているだけで,いずれも「政府の」という文言は抜いてしまっております。   ですので,そういった意味からも「政府の」と入れることによって一体何が抜けるのかというところをちょっとはっきりしていただけると有り難いなと思いまして御質問した次第です。 ○垣内委員 今直ちにどういう具体例がこうであるということは申し上げることはできませんけれども,前提として,もし私法的といったときと商業的といったときと内容が同じであるというのであれば,別に「政府の」という修飾を入れるまでもなく,非商業的であっても非私法的であっても全く同じことだと思いますが,その解釈自体がよく分からないのです。商業的あるいは非商業的といったときに,その内実は別に定義規定がきちんとあるというわけではないわけです。そのときにどちらの方が適切な表現か,誤解を与えない表現かと考えると,非私法的の方が非商業的よりもニュアンスとしては狭いので,適切なのではないかということです。   前提として商業的,私法的というのが全く同じ意味として使うことができる言葉であるというのであれば,別に「政府の」という言葉をつける必要はありませんし,恐らく条約等の翻訳でもそういう前提に立っているという理解が可能だと思いますが,それがずれる印象を与えるとすれば,という仮定のもとでの意見ということになります。 ○河野委員 commercial transactionのところの形容詞を訳すときに,形容詞をどうするかを決めるときに商法とのかかわりで私法的という言葉を選ぶという結論に至ったと記憶しておるのですけれども,もしそうであるとすれば,そもそもcommercialという言葉が商法とのかかわりで問題がないのであれば,そちらも商業的という言葉でいいわけです。それがcommercialという言葉にあえて商業的よりは私法的という訳語の方が妥当であるという結論に至るのであれば,それはやはりnon-commercialというときにも意味が違うからこそcommercialという言葉に私法的という言葉を当てるという決断をしたのだとしますと,non-commercialという言葉の使い方も若干意味が違ってくる。   ですから,今の御議論をされるのだとすれば,commercial transactionも商取引とか商業的という言葉を当ててもいいという議論になっていってしまうと思いますので,その点は逆にどのようにお考えになるのでしょうか。 ○上原部会長 今の時点で何か答えございますか。 ○飛澤幹事 今の時点ではございません。 ○上原部会長 この点につきましては,多くの意見をいただきまして,問題点自体はかなりはっきりとしてきたと思います。なお,解決策につきましてはこの場ではとても結論が出そうもありませんので,また二読のときに提案させていただくということでよろしいでしょうか。   それでは,最後に第16というところにいきます。 ○飛澤幹事 それでは,要綱試案(2)の12ページでございます。   試案第16は,私法上の取引に係る紛争に関する仲裁合意の効力を定めることを提案するものであります。   2のところで,「当該仲裁合意に基づく仲裁手続に関して裁判所が行う手続」という言い方をしております。これについても条約と対比して御説明した方がよろしいかと思いますので,条約対比表の11ページ,第17条を御覧ください。   条約第17条は御覧のとおり,(a),(b),(c)という形で列挙しております。つまり,(a)として仲裁の合意の有効性,解釈又は適用,(b)として仲裁手続,(c)として仲裁判断の確認又は取消しといった事項に関する訴訟手続については,基本的には外国は免除を援用できないといった仕切りでございます。   国内法を作るに当たっては,この(a)から(c)までという文言に変えて先ほど申し上げたとおり,「当該仲裁合意に基づく仲裁手続に関して裁判所が行う手続」と規定しているところでございます。その理由は要綱試案の12ページの2にも書いてありますとおり,このような書き方は実は日本の仲裁法第1条の規定を借りた言い回しになっております。正に条約第17条の(a)から(c)までの内容というのは仲裁法にすべて規定されておるところでございまして,そうであるのであれば,正に仲裁法1条でいう,「仲裁手続に関して裁判所が行う手続」と書けば正に(a)から(c)のものをすべて取り込んだものとして書けるということで適当であろうと考えた次第でこういう表現を用いたということでございます。   第16に関しては以上です。 ○上原部会長 いかがでしょうか。 ○三木委員 今御説明があった条約と書き振りが違っているところですが,それによって内容が変化していないかどうかを確認したいのですけれども,要綱試案の方ですと,「書面による仲裁合意がある場合には,当該仲裁合意に基づく仲裁手続に関して裁判所が行う手続について,裁判権から免除されない」という表現です。   そうすると,これは仲裁合意がなければこの文言が適用されないわけです。他方で,条約の方の(a)を見ますと,仲裁合意の有効性を争う裁判が挙がっているわけですね。有効性を争うということは無効な場合がもちろんあり得るわけですから,仲裁合意が有効であるかどうかはこの裁判が終わらないと分からないという趣旨かと思ったのです。   そうすると,この(a)がこの要綱試案の表現だと飛んでいることになるのかならないのかという点をちょっと教えていただければと思います。 ○飛澤幹事 基本的にはこの仲裁合意の有効性が争われるというのは,仲裁法第44条に規定する仲裁判断の取消しの文脈がメインかと思っております。   それから,すごくレアなケースですけれども,仲裁合意の無効確認というのもないわけではないというところは確かにございますが,非常にレアなケースであるということと,そもそも仲裁合意の無効確認が起こされるようなケースというのは非常にひどいケースでありまして,そういう場合であれば試案第16による規定を類推するということもできると思います。仮にここで読めないとしても,恐らく私法上の取引のところに引き寄せて,同じ結論を導く可能性もあるのかなと考えております。そうであるのであれば,あえてこの仲裁合意無効確認訴訟までを絶対含まなければいけないという,含むような書き方をしなくてもいいかなと,とりあえず担当者レベルではそういう仕切りで書いたところでございます。 ○三木委員 仲裁合意無効確認の訴えを含めたいから発言したわけではありません。仲裁合意無効確認の訴えがそもそも日本で許されるかどうかについては両説ありまして,世界的には認められない方向に進んでいるのだろうと思いますので,その点は私はさほど気にしてはおりません。   例えば,今おっしゃった仲裁判断の取消しの訴え以外にも仲裁合意の有効性が争われる場面は多々ありまして,例えば仲裁法第23条第5項に規定するコンペテンツ・コンペテンツがあります。コンペテンツ・コンペテンツでまず仲裁廷が一時的に仲裁合意の有効,無効を判断した場合に,5項で30日以内に,裁判所に対してその判断を求めることができ,この判断の中には仲裁合意の有効,無効の判断も含むと理解しておりますが,この規定はどのようになるのでしょうか。   あるいはもう少し一般的な話をしますと,仲裁合意が外形上結ばれていると。外国国家の側はその仲裁合意は不存在とか無効であると思っているというので,仲裁合意はないという前提で,自ら原告になって裁判を起こした場合,その裁判の中で仲裁合意の存在による妨訴抗弁が出されるというときに,これは仲裁合意に関する裁判になるのでしょうか。このような事例は,よくある話なのですけれども,この規定振りだとどのようになるのでしょうか。 ○飛澤幹事 基本的には正に仲裁法が念頭に置いているような裁判手続についてはすべて含める趣旨で仲裁法第1条の言い回しを引っ張ったというところがございます。 ○三木委員 仲裁法はあくまで仲裁法ですので,そういう訴訟手続の中で本案前の審理として仲裁合意が争われる場合はもちろん仲裁法は記述してないわけです。しかし,こちらの条約の方はもちろんそのような仲裁法ではありませんので,そういったものも含めてすべてカバーする関係の法律になってしまうはずなのですね。   この条約の規定振りですと今言ったような問題は,すべて私の見たところでは懸念が及ばないのですけれども,条約と異なる言い回しを用いた場合において趣旨が変わっているのかいないのかということを確認したいということです。 ○上原部会長 三木委員の今の御質問の前提は,恐らく条約の日本語仮訳からすると,書面により合意する場合という表現と,この試案の方の書面による合意がある場合というのとで違うのではないかということでしょうか。 ○三木委員 おっしゃる点が正に第一点です。そこよりより問題になるのは,当該仲裁合意に基づくといっているところもさらにあって,上原部会長がおっしゃるように,条約の方は割と客観的な表現になっていて,つまり契約を結ぶことをすればということだけであって,その有効無効みたいなことがきちんとこの段階では問題にならないように配慮されているのだろうと私は思うのです。   日本語の書き振りですと,外形ではなくて,内容に踏み込んでいるようにも読めるわけです。もちろんそういう趣旨は起草した側にはないと思いますが,しかし誤解を招くのではないかという趣旨です。 ○上原部会長 ありがとうございました。 ○飛澤幹事 今の御趣旨ですと,端的にこの例えば仲裁合意で仲裁法第2条第1項に規定する仲裁合意をと引いていますが,そういったのを引いたり,あるいは当該仲裁合意に基づくという記載がやはりよくないということでしょうか。 ○三木委員 詳細に検討したわけではありませんので,また考えさせていただければと思いますが,卒然と今考えているところでは,おっしゃるようにこの文脈では仲裁法の条文を引いての規定振りだとそういった問題が生じ得ると一つ思います。それから,その後の続けての表現振りにも,前者でそういう形をとると,その後に続く文章はこういう文章になりやすいのですけれども,あわせて問題を生じると考えております。   ちなみに逆にこの日本法の規定振りですと,先ほど私が言った問題を除けば,条約にあるwhich is otherwise competent in a proceeding which relates toという部分は書かなくてもこれでいいと思うのですが,逆に条約のような規定振りにするとこの文言は必須でありまして,つまり国家が絡まなければ本来普通の仲裁であれば裁判所が介入できる場合には国家が絡んでも一定の場合にはやはり裁判所が介入できるということになるので,そこは大事なところではないかと思います。   先ほど飛澤幹事がおっしゃったとおり,仲裁合意の有効性に裁判所がどこまで介入できるかというのは大変大きな問題で,国によっても全然違います。日本だって解釈が全く分からないところが多々ありますし,現在世界的に動いているところなので,こういう限定文言を入れてその仲裁合意に裁判所が普通の場合に解釈できるような制度をとっている国の裁判においてはということは必須でありますから,私は何もここで仲裁合意の有効性に関する裁判がどんどんできるようにしろという趣旨はもちろん全くありません。 ○上原部会長 ほかに仲裁に関するこの規定についていかがでしょうか。 ○水島幹事 少し細かくて,また私自身考えがまとまっていないのですが,第16のところで,「外国等は,当該外国等以外の国の個人又は法人との間で」ということなのですが,この外国等のところに,部会資料8の1ページの第10の2の⑤のところに書いてあるような,「外国等(第2の3①の政府の機関及び同②に掲げるものにあっては,それらが所属する外国)」という言葉が必要なのではないかなと思っているのです。   というのは,そうでないと,例えばアメリカのある州がアメリカ国民と私法上の取引に関し書面による仲裁合意うんぬんという場合には,裁判権から免除されないことになってしまうのではないかなと思うのですが,いかがでしょうか。 ○三木委員 今の点は裁判権免除されなければならない理由は何ですか。 ○水島幹事 少なくとも条約では国と外国の私人又は法人との間については免除援用できないとなっているので,それ以外は免除されるということになるわけです。それについて免除を与えないといけないその実質的な理由があるかないかと言われれば,ないかもしれないのですが,少なくとも条約からすると,免除が与えられることになる場面なのではないかと思うのです。 ○三木委員 今の御発言の趣旨をきちんと理解しているかどうか分かりませんが,もともとこの条約は,外国国家と外国の個人が外国で仲裁をやった場合などもこの文言の射程には含んでいるということでよろしいのでしょうか。 外国国家,外国個人,つまり仲裁の段階では日本は一切絡まないと。ただ,それが日本で裁判になることというのはあり得るわけですね。 ○飛澤幹事 仲裁地が日本であれば当然あり得るかと思います。 ○三木委員 仲裁地も外国であるが,仲裁判断の承認執行とかが問題になってくると,日本が裁判をすることはあり得るわけですね。 ○飛澤幹事 文言を見る限りは排斥されてないような感じがいたします。 ○三木委員 私も排斥されてないように見えて,しかも排斥されるべきではないと思うのですが,それで先ほどの水島幹事の御発言に対する答えにはなっているのでしょうか。 ○水島幹事 議論をよく理解しておりませんので,もう一回考えさせてもらいたいなと思います。 ○山本委員 先ほど来条約の書き方の方がいいのか,この第16の書き方でいいのかということで,三木さんの話は,この第16の書き方だと不足が生じるのではないかという御意見なのですが,例えば外国国家が日本の個人と私法上の取引について仲裁契約を結んだところ,日本人の個人の方はこの仲裁契約は無効だと考えて,日本の裁判所で民事訴訟を起こした場合,外国国家が仲裁の抗弁を出すわけですよね。その場合には仲裁の抗弁が出されれば,日本の裁判所は本案前の抗弁として仲裁の合意が有効であるかを判断しなければならないと思うのですが,この手続というのが当該仲裁合意に基づく仲裁手続に関して裁判所が行う手続の中に入るのでしょうか。 ○飛澤幹事 今の正に妨訴抗弁の出されたケースですよね。 ○山本委員 ええ。 ○三木委員 少なくとも私の発言の趣旨は,内容が不適切と言っているのではなくて,書き振りの問題ですので,書き振りでカバーするような,この表現でいいのか,いいならば維持していただいていいですし,カバーする書き振りに変えていただくならそれで全く私の方は疑問があるわけではありません。 ○飛澤幹事 今の妨訴抗弁の話ですと,仲裁法が第14条で規定している場面とは違うのでしょうか。 ○三木委員 山本委員がおっしゃった趣旨は,私も同じ趣旨で言ったつもりですけれども,一般に仲裁合意に基づく仲裁手続に関して裁判所が行う裁判手続というと,仲裁法上仲裁手続に関して裁判所にいろいろ裁判権限が与えられているわけですが,当然それのみを指すものだと普通は考えるわけです。 ○始関委員 今の山本委員の御指摘の事例というのは,要するに仲裁合意に反して訴えを起こして,それに対して外国等の側が妨訴抗弁と出すという場合ですよね。確かにそういう場合というのは仲裁手続は全く行われていないわけですから,仲裁手続に関して裁判所が行う手続という言葉では読みにくいことは明らかだと思います。したがって,この部分は,表現を抜本的に考え直す必要があると思います。 ○道垣内委員 後で御検討いただければいいのですが,ドラフティングの1案として,「に基づく」を削除して,「又は当該仲裁合意に係る」を挿入してはどうかと思います。というのは,「又は」の前のところで仲裁合意に関して裁判所が行う手続を表し,その後のところは,当該仲裁合意に係る仲裁手続に関して裁判所が行う手続を表すという趣旨です。要するに仲裁法の1条が少し短縮しすぎていて,仲裁合意に係る手続を書いてないという点が問題だと思います。仲裁合意自体に関する手続というのを書かないと,条約の少なくとも(a)が抜けてしまうおそれがあるということではないかと思います。 ○上原部会長 分かりました。   ほかに,いかがでしょうか。 ○三木委員 道垣内委員の表現振りでもしかしたらいいのかもしれませんし,もっとほかの表現振りがあるのかもしれません。そうやって条約の趣旨に沿った書き振りをした場合には,先ほどちょっと私申しましたけれども,条約が意図的に,しかもこれはコメンタリーを見ると非常に重要なものとして長々と解説が書いてありますが,抜いているwhich is otherwiseに当たる部分ですね,つまり,この条約によって仲裁合意に関する裁判所の介入権についてのいろいろな問題を国家が絡む場合には何か一義的な答えを出したのだということにはならないということを明示しておかないとこれは大変危ないことになるということ, つまり,表現振りを変えて,カバーする範囲を適切にすれば,この文言が必要な可能性が出てくるということだけ申し上げたいと思います。 ○始関委員 今の三木委員のおっしゃったことはちょっとよく分からないのですが,ほかのところにも共通する問題だと思うのですけれども,仮に国でなかったとすれば,管轄権がある場合というのは当たり前なのではないでしょうか。 ○三木委員 そうではなくて,書き振りにもよるのですが,例えば条約に則して言うと,条約第17条(a)で,仲裁合意の有効性に関しては裁判権免除がされないと書かれています。そうすると,この文脈では,which is otherwiseがないと仲裁法固有の問題として仲裁合意の有効性に裁判所がどこまで介入できるかというのは大きな問題があ る。これは私の意見ではなくて,コメンタリーにそういう趣旨でこの文言を入れたということが長々と書いてあるわけです。 ○上原部会長 ただ,日本で裁判権免除をしないからといって仲裁手続についてどこまで日本の裁判所が干渉できるかという問題を,今回作る法律で書き切る必要があるのかどうか,疑問にも思うのですが。 ○三木委員 逆です。この文言を入れるとこの法律では何もそこはタッチしていないということになると思います。 ○上原部会長 いや,そうではなくて,入れないからといって書き切ったことになるのかということなのですが。 ○三木委員 私が申し上げているのは,日本の国内法の問題もありますけれども,仲裁,特に最近仲裁に国家が絡むケースが増えていますが,当然外国はここのところは非常に気にするわけです。ですから,国際的には仲裁に関しては,そこのところは非常に慎重な文言を入れますので,その常識に反すると日本の法律はそこの常識は違うというふうに見られる可能性があるということです。 ○始関委員 ここでは,裁判権から免除されないということを書いているだけですので,もともと私人であれば裁判所が関与できない,もともと私人についても管轄権がないようなことについてまで裁判権から免除されないということによって国であるがゆえに管轄権が特に生じるということはあり得ないはずなんですね。 ○三木委員 そうであるのに条約では入れているわけです。しかも,入れた理由をきちんと書いているわけです。ですから,条約の趣旨に即していただきたいということです。 ○上原部会長 その点につきましては,今後検討させていただくということでいかがでしょうか。   ほかにございますでしょうか。   なければ,今日の審議はこれまでといたしたいと思いますが,よろしいですか。   それでは,事務当局から次回の議事日程につきまして御連絡があります。 ○飛澤幹事 次回の議事日程について御連絡いたします。   次回,第3回会議の日程は,10月24日金曜日,1時30分からで,場所は法務省第1会議室を予定しておりますので,よろしくお願いいたします。 ○上原部会長 それでは,本日の会議を終了させていただきます。   長時間にわたる御審議,ありがとうございました。  -了-