法制審議会国際裁判管轄法制部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成20年10月17日(金) 自 午後1時30分                        至 午後4時08分 第2 場 所  法曹会館 高砂の間 第3 議 題  国際裁判管轄法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○佐藤幹事 それでは,定刻になりましたので,国際裁判管轄法制部会の第1回会議を開催したいと存じます。   私は,民事局参事官の佐藤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   本日は,御多忙の中,御出席いただきましてどうもありがとうございました。   本日の予定といたしましては,部会長の選任をしていただくということが予定されておりますけれども,それまでの間,私のほうで議事を進行させていただければと考えております。   まず,議事に入ります前に,法制審議会及びこの部会について,若干御説明をさせていただければと存じます。   御案内のように,法制審議会は法務大臣の諮問機関でございまして,その根拠法令である法制審議会令の第6条第1項によりますと,法制審議会には部会を置くことができると定められております。   この国際裁判管轄法制部会は,この規定に基づいて設置されたものでございますが,具体的には,9月3日に法制審議会第157回会議が開催され,法務大臣から国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号がなされました。その際に本部会を設置することが決定されたという経緯でございます。   法制審議会に諮問された事項でございますが,これは事前に御送付申し上げました部会資料1のとおり,「経済取引の国際化等に対応する観点から,国際裁判管轄を規律するための法整備を行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでございます。   本来であれば,審議に先立ちまして,当省の倉吉民事局長からごあいさつを申し上げる予定だったのですけれども,所用のため若干遅れておりますので,到着次第,またごあいさつを申し上げることとさせていただきます。    (委員等の自己紹介につき省略)    (部会長に髙橋委員が互選され,法制審議会会長から部会長に指名された。) ○髙橋部会長 髙橋でございます。浅学非才の身でございますが,委員,幹事の皆様の御指導,御鞭撻をいただきながら部会長の職を全うしていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。   それでは,本日の議論に入ってまいりますが,まず最初に配布されている資料につきまして事務当局から説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 それでは,私のほうから御説明をさせていただきます。   事前に送付させていただいた資料でございますが,資料番号で言いますと1番から7番までとなってございます。   部会資料1は,諮問第86号でございまして,部会資料2は,国際裁判管轄に関する研究会の報告書でございます。それから,部会資料3は,「国際裁判管轄法制の整備について」と題する書面でございます。これは後ほど御説明をさせていただければと考えているところでございます。   部会資料4は,最高裁の判決でございまして,部会資料5から7までは参照条文でございます。部会資料5が我が国が締結している条約における国際裁判管轄に関する規定でございまして,部会資料6が諸外国が締結している条約,資料7が調査できる範囲ではありますが,各国の法律でございます。 ○髙橋部会長 続きまして,当部会の今後のスケジュールにつきまして説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 お手元に席上配布いたしました今後の審議スケジュール案を御覧いただければと存じます。   こちらを御覧いただきますと,平成20年度,21年度のスケジュールとしてお諮りしたい案が記載してございます。本日が第1回でございますけれども,第2回から第5回まで,既に期日が決まってございますけれども,この第2回から第5回までの間にめどとして,全体を一読といいますか,全体を一通り御審議いただきたいと考えております。   そして,来年度の4月から6月まで,これも月1回程度のペースとなろうかと思いますが,第2回目の全体の御審議をいただき,7月ころに要綱試案を取りまとめまして,8月に意見照会を行いたいと考えております。9月から12月までで3回目の全体の御審議をいただき,平成22年の1月ころに法律案の要綱案を決定していただきまして,再来年の通常国会で法案を提出するように作業をしていきたいと考えているところでございます。   第2回から第5回まででございますけれども,部会資料2として報告書をお配りしておりますが,その目次を御覧いただければと存じます。   この目次に沿って申し上げますと,報告書の第1から第3の5,すなわち特別裁判籍の途中までを次回に行い, 第3回に特別裁判籍の残りと,第4の合意管轄,応訴管轄の御審議をお願いをしたいと考えております。   第4回は,特殊分野の訴訟ということで第5の部分,そして第5回に併合管轄と国際裁判管轄に関する一般的な規律を御審議いただきたいと考えているところでございます。 これで,第5回までに報告書の項目を一通り御審議いただければと考えているところでございます。   以上でございます。 ○髙橋部会長 ただ今示されました審議スケジュールでございますが,御意見をいただければと思います。   それでは,このようなスケジュールで進めていくということでよろしゅうございましょうか。 (異議なしの声) ○髙橋部会長 ありがとうございます。   次に,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りしたいと存じます。   まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法につきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○佐藤幹事 それでは,法制審議会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明をさせていただければと存じます。   法制審議会の部会におきます議事録における発言者名の取扱いにつきましては,本年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,以下のように決定がされております。   すなわち,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請などを考慮して,発言者名を明らかにした議事録を作成することができる範囲で議事録を顕名とするということでございます。   したがいまして,委員,幹事の皆様には,当部会の議事録につきまして,発言者名を明らかにしたものとするということでよいかどうかを御決定いただければと考えているところでございます。   以上でございます。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。   繰り返させていただきますと,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請などを考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とするという決定でございますが,いかがでしょうか。   あるいは,御質問がございましたら,お願いいたします。   それでは,私の考えをたたき台として出させていただきますが,諮問事項の内容にかんがみましても,発言者名を明らかにすることによって審議過程の透明化を図るという公益的要請ということでございますが,発言者名を明らかにした議事録を作成するというのが私からのたたき台でございますが,よろしいでしょうか。 (異議なしの声) ○髙橋部会長 ありがとうございます。   では,当部会におきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにいたします。   では,審議に入ります。   国際裁判管轄の整備に関して検討すべき事項には,御承知のように多数の細かな論点が含まれております。各論から議論するのは必ずしも適当ではないと思いますので,本日は国際裁判管轄全体に関して総論的な議論を行い,共通の認識を得てから各論に進むほうがよろしいかと思っております。   まず,そこで,部会資料3につき事務当局に説明していただき,それから審議に入りたいと思います。 ○佐藤幹事 それでは,事前に配布させていただきました部会資料3「国際裁判管轄法制の整備について」と題する資料を御覧いただければと存じます。   この資料でございますけれども,今,部会長から御指摘のございましたとおり,今後の議論の基礎になる点を総論的にまとめたものでございます。委員,幹事の皆様にとりましては,既によく御存じの事項の繰り返しになってしまうかもしれませんけれども,本日は第1回ということもございますので,総論的な事項についてここで認識を共有するという観点から,この部会資料の要点を御説明させていただければと存じます。   まず1でございますけれども,これは国際裁判管轄法制の整備の必要性についてでございます。   御案内のとおり,現在の民事訴訟法には,国際裁判管轄についての明文の規定がないという状態でございます。国際裁判管轄法制の整備の必要性,それ自体につきましては,平成8年の民事訴訟法の改正の当時から認識されておったわけでございますけれども,部会資料3に記載いたしましたような理由あるいは経緯から,国内法制の整備を見送ったという経緯がございます。へーグ国際私法会議での議論の状況等にかんがみますと,近い将来,この点についての国際的な枠組みが形成される可能性も低い状況にございます。   他方,国際的な民商事紛争の解決の改善といった点につきましては,司法制度改革審議会の意見書でも指摘のあったところであり,その後,仲裁法の制定あるいは法の適用に関する通則法の制定など,国際的な民商事紛争に関連する国内法の整備が進められてきたということは御案内のとおりでございます。   国際裁判管轄に関する規律というものは,我が国の裁判所が管轄を有するかどうか,つまり訴訟の入口を画する重要な規律でございまして,昨今の社会経済の国際化に伴って,法整備によってその判断基準を明確化するという要請は,基本的にますます高まっているものと認識しているところでございます。   引き続きまして,従前の経緯あるいは現在の規律等につきまして,関係官の日暮から御説明をさせていただきます。 ○日暮関係官 続いて,2としまして,国際裁判管轄法制について,従前の検討経過について御説明いたします。   まず,(1)の平成8年に民事訴訟法が改正された際に,どのような議論がされたかについて御紹介いたします。   民事訴訟法の改正については,平成2年7月から,法制審議会民事訴訟法部会において検討が開始されましたが,国際裁判管轄もその対象とされました。そして,平成3月12月の「民事訴訟手続に関する検討事項」におきましては,そこに記載してございます①及び②の二つの考え方が示され,関係各界に対する意見照会が行われました。   この照会につきましては,関係各界から意見が寄せられましたけれども,①の国際裁判管轄規定の創設につきましては,圧倒的多数が賛成の意見でありました。②の国際的訴訟競合に関する規律を設ける考え方につきましては,賛成の意見が多数であったものの,規定を設けるのは適当ではないといった反対意見もございました。   その後,上記部会のもとに設置されました民事訴訟法部会小委員会において検討が進められ,国際裁判管轄に関する規定を設ける場合の方式として記載してございます①ないし③の三つの考え方が議論されました。   しかしながら,審議のための期間に制約があることなども考慮され,平成5年12月の「民事訴訟手続に関する改正要綱試案」におきましては,③の国際裁判管轄の決定に関する抽象的な基準を定める方式を前提とした上で,記載されていますとおり,なお検討するということとされました。   同様に,国際的訴訟競合につきましても記載がございますとおり,なお検討するとされるにとどまったということでございます。   その後も,国際裁判管轄及び国際的訴訟競合に関する検討が続けられましたけれども,国際裁判管轄について具体的な準則を設けることにつきましては,その準則の内容をめぐって多数の論点があって,見解が対立しているため,成案を得ることは困難であると考えられたことや,当時,ヘーグ国際私法会議におきまして議論が開始されており,その動向を見守る必要があるという考慮から,最終的な立法は見送られるということになりました。   続きまして,(2)のヘーグ国際私法会議における議論の経緯について御説明いたします。   ヘーグ国際私法会議におきましては,平成4年のアメリカの提案を受けまして,平成8年,国際裁判管轄等に関する包括的な多国間条約の作成作業に着手し,平成11年の特別委員会において,条約準備草案を採択いたしました。この草案における国際裁判管轄に関する規定は,そこに記載がございますような事項を含む広範囲に及ぶものでございました。   この草案につきましては,採択に向けて審議がされましたけれども,各国の意見の対立により草案の審議の見通しが立たないという状況になりましたため,ヘーグ国際私法会議は,条約の対象範囲を管轄の合意に限定することとし,平成17年,いわゆる管轄合意条約が採択されたということでございます。   この条約は,専属的な管轄の合意を適用範囲とするものであり,その適用範囲は非常に限定されたものであります。現在のところ,この条約にはメキシコが加入しているのみでありまして,いまだ発効もしていないという状況にございます。   以上,御説明いたしましたとおり,国際裁判管轄に関する条約作成に向けての作業は,対象を限定した小規模な条約が採択されるにとどまりました。近い将来に,国際裁判管轄に関する多国間条約が成立する可能性は低いと言わざるを得ないと思われます。   次に,3の国際裁判管轄に関する現行の民事訴訟法や日本が加盟する条約における規律について御説明いたします。   まず,現行の民事訴訟法について御説明いたしますと,現行の民事訴訟法は同法第4条ないし第22条におきまして管轄に関するルールを定めております。同法第4条は,事件の種類を問わずに常に管轄権を発生させるという普通裁判籍について,第5条は,不動産に関する訴えなど,特定の種類の事件について認められる特別裁判籍について,第6条及び第6条の2は知的財産権に関する訴えについて,第7条は請求を併合する場合についての裁判籍について,第11条は合意管轄について,第12条は被告の応訴により生ずるという応訴管轄について,第13条は当事者の意思によって別の管轄を生じさせることを許さないという専属管轄の場合の適用除外について,第16条から第22条までにつきましては,ある裁判所に係属中の事件を国内の別の裁判所に移すという移送について規定してございます。   これらの規定の中には,例えばですけれども,日本国内に住所がない者等に対する財産権上の訴えに関する管轄を定めました第5条第4号など,国際的な要素のある民事訴訟を念頭に置いた規定と思われるものもございますけれども,国際裁判管轄について定めた明文の規定というのはございません。   次に,国際裁判管轄と今御説明した国内裁判管轄との相違点について御説明いたします。   まず第1に,先ほど移送の御説明をいたしましたけれども,国際裁判管轄が問題となる事案におきましては,外国の裁判所に事件を移送するということができません。このため,我が国の裁判所の管轄が否定されると,当事者は,言語などが異なる他国での訴訟遂行を余儀なくされるということになり,当事者に与える影響は,国内事件に比べてはるかに大きいと言うことができると思います。   第2に,外国の裁判所に同一の訴訟を提起すること自体は禁じられていないと解されますので,同一の訴訟が我が国と外国に競合的に係属しているということが考えられますけれども,その調整をどのように行うかが問題となってまいります。この点は,平成8年の民訴法改正の際の検討事項とされましたのは先ほど御説明したとおりでございます。   第3に,我が国の裁判所が国際裁判管轄を有するかどうかの判断に当たっては,外国の裁判所が管轄権を有するかどうかとの点や,外国の裁判所において得られた判決が我が国で承認・執行されるかどうかとの点を考慮する必要があると考えられます。   以上のように,国際裁判管轄の判断におきましては,国内裁判管轄とは異なる特徴を有していますため,その判断基準が問題となってきますが,裁判実務は次に御紹介いたします二つの最高裁判所の判例に従っております。   まず一つ目は,部会資料4-1ですけれども,これは俗にマレーシア航空事件と呼ばれておりますが,そこに抜粋してございますとおり,条理に従って決定するのが相当であるとしました上,この条理にかなう方法としまして,民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときには,被告を我が国の裁判権に服させるべきであると判示をいたしました。   次に,二つ目の最高裁判所の判例は部会資料の4-2でございます。この平成9年の判決は,先ほど述べましたマレーシア航空事件の準則を基本的に前提としながら,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する「特段の事情」があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきであると判示いたしました。   以上の最高裁判決を踏まえて,現在の裁判実務におきましては,基本的には民事訴訟法の管轄規定に依拠しつつ,各事件における個別の事情を考慮して「特段の事情」がある場合には,我が国の裁判所の国際裁判管轄を否定するという枠組みによって,国際裁判管轄の有無が判断されていると言うことができると思います。   なお,我が国が締結している条約には,国際裁判管轄に関する規定を含むものがございますけれども,その例としましては,国際航空運送に関するモントリオール条約や,油による汚染損害に関する条約などがございます。この具体的な条文の規定は部会資料5にございますので御参照ください。   続いて,諸外国におきまして,国際裁判管轄に関する法制がどのようなものになっているかについて御説明いたします。   まず,4(1)の条約による規律ですけれども,ヨーロッパ諸国間には,国際裁判管轄についての一般的かつ広範なルールといたしましてブリュッセル条約,ルガノ条約,ブリュッセルⅠ規則の三つがございます。ブリュッセル条約は,ヨーロッパ共同体の構成国間におきまして,裁判管轄規則などの統一や簡素化を目指して締結されたものですけれども,その後ヨーロッパ自由貿易連合(EFTA)の構成国を取り込む形で,ルガノ条約が締結されました。その後,ブリュッセル条約を一部改正し,規則化したものがブリュッセルⅠ規則ということでございます。   これらの条約及び規則は,同一の基本原則を根拠として,類似する内容の規定を多数含んでおります。各条約の具体的な規定につきましては,部会資料6を御覧ください。このように,ヨーロッパ諸国間では,ほぼ共通のルールに基づいて国際裁判管轄が判断されているという状況にあると言えると思われます。   次に,各国の国内法による規律ですけれども,各国の国内法としましては,まず,国際裁判管轄に関する明文の規定を設けているというスイスや韓国などの国と,それから,国内裁判管轄に関する規定に修正を加えながら適用しているドイツなどがございます。   なお,アメリカは,各州が独立した法域を形成しているため,州をまたぐ紛争に関する管轄のルールが内外国間にわたる紛争にも適用されるという状況になってございます。   これらの諸外国の具体的な規定につきましては,部会資料7を御覧いただければと存じます。   なお,部会資料7には出典を記載してございますけれども,古いものもございますので,その後改正されている可能性がございます。もし御存じの場合にはお教えいただければと思っております。   以上でございます。 ○佐藤幹事 引き続いて,国際裁判管轄研究会について簡単に御説明を申し上げます。部会資料3の8ページの5のところでございますけれども,この研究会は,平成17年11月に第1回が開催されまして,今年の4月に報告書を取りまとめたという経緯でございます。   この研究会の中で,企業等に対するアンケートも実施いたしまして,その結果といたしましては,国際裁判管轄に関する規定を設けてほしいという意見が圧倒的多数でありました。   その理由として挙げられましたのは,予測可能性あるいは法的安定性の確保などが中心でございました。   報告書の構成は,先ほど目次を見ていただいたとおりでございますけれども,第2の普通裁判籍,第3の特別裁判籍,第4の合意管轄,応訴管轄,それから第6の併合管轄,これらは,現行の民事訴訟法にも規定のある事項でございます。   研究会では,第5の特殊分野,特別な分野の訴訟といたしまして五つ取り上げました。   それの第1といたしましては海事関係,第2といたしましては知的財産権,第3が消費者契約関係,第4が労働関係,第5が製造物責任関係の訴えでございます。   さらに,第7に記載してございますように,国際裁判管轄に関する一種特有な一般的な規律として国際訴訟競合あるいは「特段の事情」等について検討をしたというものでございます。   それから,今回の国際裁判管轄法制の整備の方向性でございますが,今回の立法の範囲につきましては,財産権法に関する事件の国際裁判管轄を取り上げることにいたしたいと考えているところございます。国際裁判管轄自体は身分法に関する事件でも問題になるところでございまして,その重要性というものは認識しているところでございますけれども,今回の法制の整備に当たっては,平成8年の民事訴訟法改正で検討対象となりました財産権法について御議論,御審議を賜れればと考えているところでございます。   今後の作業予定でございますけれども,平成22年の2月ごろに要綱案の答申をするということを目指し,さらに同じ年の通常国会に法案を提出するということを目途として作業を進めていきたいと考えているところでございます。   以上でございます。 ○髙橋部会長 それでは,部会資料3に基づきまして,自由に御議論をしていただければと思います。はい,古田幹事。 ○古田幹事 今の御説明の中で,今回の立法については財産法関係を対象にするというお話がございました。人事訴訟の国際裁判管轄については,昭和39年の最高裁判決と平成8年の最高裁判決があり,両者の関係は必ずしも明確ではないのが実情です。家族関係の国際化に伴って,人事訴訟の国際裁判管轄についても,基準の明確化あるいは法的安定性ということが実務上は要請されている状況だと理解しております。今後,人事訴訟の国際裁判管轄について,何らか立法の動きというのはあるのでしょうか。 ○髙橋部会長 いかがでしょうか。 ○佐藤幹事 先ほど申し上げましたように,国際裁判管轄については,財産権法の関係だけではなくて身分法の関係もあり,それが重要であるということは認識しているところでございます。   身分法関係というのは,単に人事訴訟だけではなくて,家事審判等も関係してくるものですから,特にここで申し上げる立法スケジュールというのはございませんが,今,家事審判の関係も研究をしているところでございますし,今回の立法に当たっては,従前,平成8年の民事訴訟法改正で議論になって,さらに国際裁判管轄研究会の対象となった財産法についての議論に限定させていただくという趣旨でございます。 ○青山委員 呼び水のつもりで発言させていただきますけれども,先ほど佐藤幹事から説明がありましたこれまでの検討の経緯についてお話をさせていただきます。   先ほどの説明にもう尽きておりますけれども,平成8年に成立した民事訴訟法の改正の際には,国際裁判管轄についても規定を置くべきだという声が非常に強くございまして,先ほどのような幾つかの案が出てまいりました。   それで,実はその案をまとめたものを当時の国際私法部会において,こういう案で民事訴訟法の中に国際裁判管轄の規定を置きたいのだけれども,どうだろうかという御相談をさせていただきました。   しかし,それは非常に簡単な案でございまして,国際私法部会の方々はもっと精密な案をお考えだったようでございます。   それからまた,当時,道垣内委員が出ておられましたヘーグ国際私法会議では国際裁判管轄を包括的に規定する条約をつくろうという動きがありました。   その二つのことがありまして,民事訴訟法に国際裁判管轄の規定を置くのはとりあえず見送ろうということになったのは先ほどの経緯の説明のとおりでございます。   しかし,民事訴訟法で,その事件を日本の民事訴訟事件として審理する前提としては,その事件が日本の裁判権に服するということが大前提でありますのに,その決定が解釈にゆだねられたまま日本の裁判所としてその事件を審理するというのはどうもおかしいのではないか,また特に,従来の国際民事訴訟法は,日本の国内裁判管轄の規定を使って逆にそれを国際的規模に類推といいますか,逆推知説といっていますが,その立場に立って,この事件は日本の裁判権が及ぶか及ばないか審理をしていたのですが,審理の土台が必ずしも明確ではなかったということがあったと思います。それで,そういうこともありまして,今回,この国際裁判管轄法制をきちんと整備すべきであるということがうたわれてきたわけでございます。   その前提としては,ヘーグ国際私法会議できちんとした条約がつくられるという前提で見送ったところ,ヘーグ国際私法会議は,先ほどのような合意管轄の条約という小ぢんまりした条約になってしまったために,やはりそれでは日本独自で国内法として国際裁判管轄の規定をつくるということになったと私は理解しております。   その意味では,今度のこの部会に託された任務というのは,非常に大きいのではないかと思っております。   それで,2度目の正直だと思っておりますので,私も一生懸命勉強させていただきますが,どうぞよろしくお願いいたしますということでございます。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。共通の認識を得ることが今日の目的でございますので,まず1回目の正直のところを御披露いただきましたけれども,当時,御関係の方もいらっしゃると思いますが,何かございますでしょうか。 ○始関委員 当時,私は国際民事訴訟関係の担当の局付だったものですから,少し申し上げさせていただきます。   もう,そうはいっても青山委員がおっしゃられたとおりでございまして,部会資料3の3ページでは,試案としては,なお検討するという試案になったというところまでは書かれているのですけれども,その後のことを青山委員はおっしゃったのでございます。実はこの試案を公表いたしましてから,意見照会をしている間に,もう少し何とかできないかということで,事務当局のほうで若干の学者の先生方の御協力を得て,国際民事訴訟研究会というのをつくりまして,比較的短期間ですけれども,検討いたしました。しかし,その結果は,やはり国際裁判管轄にしても国際訴訟競合にしても,なかなか一筋縄にはいかない,そう簡単に短時間で成案を得ることは難しいということになったわけでございます。   他方,しかし何も規定を置かなくてもいいのかということで,先ほど青山委員がおっしゃられましたように,抽象的でもいいから規定,何かきっかけになる規定を置くべきではないかということで,青山委員と当時の竹下委員,現在の法務省特別顧問ですけれども,が案を考えてくださって,それを国際私法部会に持ち込んでくださったわけでありますが,そのときは,国際私法部会は,先ほど青山委員もおっしゃられましたけれども,規定を設けるのなら,ブリュッセル条約,ルガノ条約のようなしっかりした規定を設けるべきで,このような抽象的な規定を設けてもしようがないという御意見が大勢でございました。   それから,試案についての意見照会をしたわけですけれども,国際裁判管轄関係はかなり意見が返ってきたという記憶でございまして,それも,こういう抽象的な規定を設けることにはかなり反対が多くて,具体的な規定の提案をされるものも相当数あったように記憶しておりますけれども,それもしかし,細部はまちまちであったということでございます。   他方で,部会資料3の3ページの上の法制化の見送りのところにも書いてありますように,当時ヘーグ国際私法会議で,全世界的な,しかも包括的な条約の作成作業が本格的に始まるということになったものですから,その結果を見てから考えたほうがいいだろうということになったわけであります。   その後ですけれども,この条約の作成作業は,そういう意味で日本にとっても非常に重要な問題でございますので,法制審議会で部会をつくっていただきまして,この条約の作成作業に深く関与してきたわけでございます。   また,道垣内委員が日本代表として,ずっと何回も開かれた特別委員会,それから2回に及ぶ外交会議にも出ていただいたわけで,私も何回か御一緒させていただいたのですけれども,そうやって力を入れてやってきたのですけれども,結局,アメリカとそれ以外の国との対立というのが一番大きな問題だった。ここはまた道垣内委員に補足していただければと思いますけれども,アメリカは非常に広範な自国の裁判管轄権をドゥーイング・ビジネス・ルールとかに基づいて認めているわけで,ヨーロッパは比較的理性的といいますか,そういう考え方に立ってブリュッセル条約,ルガノ条約をつくっているわけですけれども,そういうアメリカの広範な裁判管轄権を制限したいというヨーロッパや日本の考え方とアメリカとが妥協することが最後までできずに,結局,大きな条約はできなかったということでございます。   最終的には,合意管轄の条約ができたわけでございます。それを踏まえて法制審議会の部会で御議論いただいたのですけれども,この合意管轄の条約を批准するかどうかという小さなことよりも,もう世界的なルールができる見込みがなくなったのだから,むしろこの際日本国としての国際裁判管轄ルールに踏み込むべきだという部会の決定がありまして,それを当時のアキバ部会長から法制審議会の総会に報告をしていただいたわけでございます。   それを踏まえまして,先ほど佐藤幹事から御報告した部会資料2の国際裁判管轄の研究会を開催させていただいて,先生方に御議論いただいて,本当の本格的な規定を設ける案を考えていただいたと,こういう経緯でございます。   以上です。 ○髙橋部会長 ありがとうございました。   先ほど来,ヘーグ国際会議は大変な意気込みでスタートしたわけですが,結局アメリカとヨーロッパ大陸との対立のもとに小さな条約しかできなかったということでございますが,道垣内委員,何か補足していただければと思います。 ○道垣内委員 約10年かけて検討した結果,小さな条約と言われている合意管轄しかできなかったわけでございまして,私の力不足は余り関係ないかもしれませんけれども,しかし,残念なことでございました。   理由といいますか,適用範囲の広い大きな条約ができなかった原因は,アメリカ合衆国の管轄の考え方が根本的に違うという点にあったと思います。アメリカは,デュー・プロセス条項という憲法の条項に基づいて,対人的な管轄の考え方をしているので,普通裁判籍と請求権ごとの特別裁判籍を組み合わせている大陸法的な考え方とは,折り合いを付けて重ねようとしてもうまくいかなかったのだと思っています。   なお,部会資料6で他の条約と一緒に並べて挙げられておりますけれども,1999年のヘーグ条約案の仕組みは,ブリュッセル条約,ルガノ条約とは違うものですから,同じように参照されると少し誤解を与えかねないように思いますので,その点だけ申し上げますと,へーグ国際私法会議では,アメリカは,自国法は変えなくても条約はできると考え,そのような仕組みの条約の作成を目指していました。どうやったらそれができるかと申しますと,各国の管轄ルールを重ね合わせてみて,ほとんどの国が認めているような管轄原因をホワイトリストとし,そのホワイトリストに載っている管轄原因は締約国は義務として必ず守る。そして,ほとんどの国が禁止している管轄,例えば国籍に基づく管轄とか,実際,認めている国もあるのですけれども,しかし多くの国はよくないと思っているものについてはブラックリストに挙げて,それを理由に管轄を認めてはならないというように約束する。残りは,ばらばらになっているわけですが,そこはグレーエリアと名付け,そこについては従来どおりでいきましょう,つまり条約の枠外に置きましょうというのがアメリカの当初の発想でした。この枠組みが受け入れられて,ミックスド・コンベンションといっていましたけれども,そういうミックス条約の枠組みでつくった管轄リストが条文になっております。したがって,狭めに書いてあるといいますか,一国であればもう少し広くできるところを,そういう重なり合いのところでやろうとしているものですから狭くなっております。そのような枠組みのもとにおいても,結局,根本的な考え方の違いでうまく書き切れなかったというのが最後の段階で挫折したわけです。ですから,アメリカもアメリカの独自なところが本当には理解できていなかったということなのかもしれません。   以上です。 ○髙橋部会長 グローバルな条約はできなかったわけですが,しかし,ヨーロッパ大陸に限れば,それなりの共通のルールで律せられているという先ほどの御紹介もありました。   我々は,日本の法律としてこれから考えていくわけですが,平成8年改正のときには,いろいろ困難な問題があり,見解が対立していたため,成案を得ることができなかったというまとめがございますが,その状況は,十数年たって変わったのか同じなのか。   しかし,その間判例はある程度出てまいりましたので,判例をもとに,日本の実務は,大体こんなところかというのは,おぼろげではあるかもしれませんが,見えてきているのだろうと思います。学説のほうは,いろいろな見解はあるわけですが,判例を機軸にして考えていくならばある程度の議論はできるような状況にはなってきたのかと思っております。   他方,実務,本当の裁判外の社会全体のほうの実務をしていらっしゃる委員,幹事の方からも御意見を伺いたいところでございますが,先ほども引用いたしましたように,国際裁判管轄研究会のアンケートでは,回収率は高くはなかったものの,やはり規定はあったほうがいいという御意見のほうが圧倒的でございました。この研究会ではヒアリングもいたしましたが,そういうところではかなり率直な意見を伺うことができました。   国際貿易関係などに従事している方から補足していただければ有り難いと思っております。 ○松木委員 三菱商事の松木でございますけれども,実際の裁判ということになりますと,我々のところですと,合意管轄の場合がやはり多くございます。それから,管轄を決めていくところで,裁判でいくのか,それ以外でいくのかというようなところを検討しまして,どちらかというと裁判ではない形のアービトレーションを主に考えるというようなところも結構あります。   あと,入口のところはもちろん大事なのですけれども,最終的に,その訴訟などをやって勝ったときに,例えばお金を取りに行くときにきちんと取れるのかということが次の大事なポイントになります。訴訟がいいのかアービトレーションがいいのか,それから,それをどこでやるのかということを考えたときにも,必ずしも常に日本でやるというのが一番いいということには限らないわけでして,お金を取り立てるだけだったら,むしろ相手の資産がある国に行って,そこで訴訟をやって,執行の問題も何もないところでやってしまうというほうが一番いいというような考慮もしながらやっていく,というところだろうと思います。   幸いなことに余り訴訟の経験というのがなくて,管轄の問題のところから争わなければいけないというケースを,私自身,余り担当したことはございません。   大体,合意管轄のところでやっていって,その合意管轄のところがどう決まってくるかというと,今申しましたようなところが,理論的にはそうなるのですが,最後はどっちが強いかということで,そのバーゲニングパワーによってその部分が決められてしまうというようなことも実際としてはございます。 ○髙橋部会長 よろしいですか。実際の現場をよくお知りの方が何か補足していただければと思います。   中原委員,お願いします。 ○中原委員 銀行の場合ですけれども,やはり先ほど松木さんがおっしゃったように,大体,管轄の合意は約定に置かれております。それとともに,裁判というのは,あくまでも手段であって目的ではございません。目的は,債権の回収ですから,最終的にはやはり財産のあるところをベースに考えざるを得ない,あるいは執行が可能であるというところを考えなければならないということですので,であれば大体債務者の所属する国を管轄で合意をするというケースが多いと思います。   幸いなことに,私どもも,余り管轄で最初から争いになって困ったというケースは今のところございません。大体,やはりアメリカ法,州法を準拠法にしてニューヨークに管轄を置くというケースが多いと思います。 ○松木委員 今のお話にしましたら,どちらかというと契約関係にある場合の状況なのですけれども,そうではなくて,不法行為的なものになってきますと,これは,そちらのほうでまた管轄の問題が出てきてしまいますので,こちらのほうについてはどういったときに,どういう裁判所のどういう管轄権が及んでくるのかというのは,やはり多分アンケートなどでもはっきりしたルールがあるといいというようなところは,そういうときにどうなってくるのか,この辺については,ちょっとコントロールができないところで出てくる可能性もありますので,そちらのほうについては,やはり一定のルールがきちんと分かっていると,守るほうの立場からすれば,余り変なところに連れていかなくて済むというようなことはあるのではないかと思います。 ○髙橋部会長 道垣内委員,どうぞ。 ○道垣内委員 実務が分かっているわけではございませんけれども,今度,研究会の報告書の中にも,弱者保護の規定を入れようというアイデアが出ていますけれども,そうやって日本で裁判ができるようにしてあげても,最終的に強制執行できなければ意味がないわけで,それを外国でしなければいけないということになった場合には,その外国が日本の判決を承認・執行してくれるかどうかによることになります。私の知る限り,条約の定めがない限りは,他国の判決は認めないという法制を持つ国が幾つかあって,近くでは,中国やロシアがそうだと言われていますし,北欧の国もそのような国内法のようでございます。   したがって,今回,日本で立法するのは非常によいことだと思いますけれども,ここで終わるのではなくて,また,ヘーグ条約で失敗したからといってもうやめてしまうのではなくて,条約というものはやはり意味があるので,そのことはまた別の問題として検討していくべきだと思います。さらに合意管轄についても,東京地裁を専属管轄とする合意管轄条項を契約に入れることに成功しても,中国ではその判決は執行できないわけですから,ヘーグ管轄合意条約の批准の可能性についても検討することは大切ではないかと思います。国内法が幾ら立派になっても,条約にはそれなりの意味があるということは一言申し上げておきたいと思います。 ○髙橋部会長 古田幹事,お願いします。 ○古田幹事 私は,いわゆる渉外法律事務所に所属していることもあって,国際的な取引関係の紛争事件を日常的に扱っております。こうした国際的紛争案件でも,契約紛争については ,管轄条項や仲裁条項が契約に入っている場合も結構ございまして,この場合は確かに松木委員,中原委員がおっしゃるように,日本の国際裁判管轄は余り問題にならないわけです。 ただ,管轄条項や仲裁条項がない事件というのも少なからず存在します。その場合には,果たして日本の裁判所に国際裁判管轄があるかどうかもよく問題になります。   私が弁護士になった平成3年ころには,この部会資料4-1のマレーシア航空事件が最高裁の唯一の先例でしたが,下級審は「特段の事情」でマレーシア航空事件最高裁判決の一般論を調整しているという状況でした。したがって,依頼者へのアドバイスも,最高裁判例によれば我が国に国際裁判管轄が存在するはずだが,裁判所が「特段の事情」論を採れば違った結論になるかもしれませんよという,やや玉虫色のアドバイスをするしかなかったわけでございます。 ところが,その後平成9年に最高裁が部会資料4-2の判決を出しまして,いわゆる「特段の事情」論が最高裁判例になりました。したがって,平成9年以降は,我が国の国際裁判管轄の基準は平成9年最高裁判例が示したとおりです,と依頼者に助言できるようになりました。   ただ,判例の問題点というのは,いつ変わるか分からないという点です。それも,ある日突然,最高裁が新しい判決を出して,従来の判例を変更してしまうかもしれないわけです。しかも,判例変更がされる場合には,判例変更前に生じた過去の事件についても遡及的にルールが変わってしまうことになります。その意味では,法的安定性という観点からしますと,最高裁判例をそのまま立法するということであっても,非常に大きな意味があります。もちろん立法化されたルールであっても,将来的に変更されることはあります。しかし,将来ルールが変わるときには,法改正が必要になりますから,必ず国会を経由します。ある日突然ルールが変わるわけではありません。事前にノーティスがあります。また,法改正であれば経過措置が規定され,多くの場合は遡及適用はされないことが多いでしょう。そうしますと,私ども実務家の立場からしますと,依頼者に助言をするときに,判例でこうなっていますと言うよりも,法律がこうなっていますと言うほうが,より自信を持って助言をできますし,また,外国の当事者からしましても,日本法の透明性の確保という観点から非常に意味があることだろうと思います。   以上のような観点から,仮に財産法関係に限定された立法であっても,あるいは仮に現在の判例の準則を条文化する立法にとどまるとしても,今回,国際裁判管轄に関するルールを法律にするというのは,大変意味の大きいことであろうと考えております。 ○髙橋部会長 裁判所で裁判する立場から見ても,やはり制定法というのは意味があることなのでしょうか。 ○鶴岡委員 私は,幸か不幸か,この国際裁判管轄の問題について,裁判を経験したことがございませんので,実感に基づいた発言というのはなかなかできにくいところがございます。   今回,委員になるに当たりまして,研究会の資料を読ませていただきまして,ああ,こんなにいろいろ問題があるのだなということがよく分かりました。   それで,このあたりは私の個人的な考え方になるかもしれませんけれども,法律できちんとしたルールができるということは,裁判所にとってもいいことだろうと思っております。ですから,その意味で,この部会の中で法制化に向けて議論していただくというのは大変いいことだろうと思っております。   これは,国際裁判管轄というよりは,国内の移送の問題ですとか,そういうものを考えるのに当たって思っていることではあるのですけれども,管轄が認められるか認められないかというのは,原告の立場の場合と被告の立場の場合とで随分違うのだろうなということはよく感じ取れます。ですから,その意味で,バランスをとるような形で規定をしていくということが大切なのかなということを思いました。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。 ○道垣内委員 確認のために一言申し上げたいと思います。   部会資料3の9ページで,今回の立法の範囲は国際裁判管轄だとお書きになっていることについての確認なのですが,民訴法改正のときには国際裁判管轄と国際訴訟競合の2本立てで分けて議論されていて,この紙でもそこまではそうなっているのですが,この二つの問題にどう対応したかを書いているところでは一つの言葉になっております。これは国際訴訟競合を含むということでよいのでしょうか。また,研究会の報告書の第7では「国際裁判管轄に関する一般的な規律」の中に国際的訴訟競合が入っているわけですが,これは民訴法の体系とは違う理解ではないかと思います。民訴法の中では第142条にあるわけですから,相当離れたところ,管轄のところではないところに規定されています。第7の書きぶりが何らかの理解,規定の仕方を暗示しているとか枠をはめているとかということではなく,違う規律の仕方,すなわち管轄とは関係させないで,国際的訴訟競合についての規定を設けることも排除しないということの確認をできたらさせていただきたいと思います。 ○髙橋部会長 事務当局から何かございますか。 ○佐藤幹事 そのような枠を設ける趣旨は全くございません。   道垣内委員がおっしゃるように,訴訟競合の場合に,これを管轄の問題として位置づけるのかどうかというところについては議論があるということは承知しておりますけれども,特にこの部会の中で,管轄の定義がどうかということをぎりぎりと詰めて,国際訴訟競合を入るかどうかという議論をするつもりはございませんので,国際訴訟競合も含めて御審議いただければと考えているところでございます。 ○髙橋部会長 もう少し共通認識を得たいと思うのですが,先ほど,国際的に活動されている大きな企業のお話を伺いましたが,そうでないような企業に対して,突然,外国から訴状が来るなどというようなこともあるわけで,いや応なしに巻き込まれることもございますし,あるいは国際的な交通が頻繁になってまいりますと,個人も,外国旅行へ行く方が結構あるわけですし,外国製品を買うこともよくございますので,思わぬところで国際的な裁判ということになることもございますが,そういうところにお詳しい方からも何か御発言いただければ有り難いと思いますが,いかがでしょうか。 ○古田幹事 別に詳しいわけではないのですけれども,日本の消費者保護という観点等からしますと,日本の国際裁判管轄は広範に認めるべきだという要請はあるだろうと思います。   ただ,日本の民訴法第118条では,外国判決の承認・執行の際に,その当該外国裁判所が裁判権を有することも要件になっております。そして,最高裁判例は,基本的に日本の国際裁判管轄の基準に照らして外国の裁判所の間接的国際裁判管轄を判断するという枠組みをとっております。   ですから,日本の国際裁判管轄を広めに規定をいたしますと,逆に外国判決を日本で承認する際に,当該外国裁判所には間接的国際裁判管轄がないという理由では承認を拒否できない,という事態が生じやすくなります。我が国の国際裁判管轄を拡大する場合には,間接管轄への影響も考えた上で,立法化を進める必要があると思います。 ○髙橋部会長 御指摘,ありがとうございます。   部会資料2の研究会報告書でも,第5として掲げている特殊分野の訴訟,すなわち海事,知的財産,消費者契約,労働関係,製造物責任関係については,普通の管轄の考えを少し変えていかなければいけない。   古田幹事が言われましたように,日本の消費者のためには日本の管轄を広げたほうがいいのでしょうが,思わぬところで足をすくわれるということになるかもしれない難しいバランスだろうと思います。   少し議論が盛り上がってきたところではございますが,ここでお休みをいただきたいと思います。           (休     憩) ○髙橋部会長 それでは,再開させていただきます。   それぞれの委員,幹事の御関心のあるところをお話しいただき,共通の認識を得るということの続きでございますが,今まで発言された方でももちろん結構でございますし,新たに御発言いただくことでも結構でございますが,いかがでしょうか。 ○岡田委員 消費者側の意見として発言させていただきます。   消費生活センターで勤務しておりますと,これからこういう国際裁判というのは増えてくるかなとか出てくるかなという感じはするのですが,あまり実感はありません。実は今回ここへ来るにも仲間の相談員が「消費者と国際裁判ってどう関係あるの」と言われて,この報告書の消費者契約の部分をコピーして,みんなで回覧するように言ってきたのですが,実は私,この報告書を見せていただいて感じたことは,消費者契約法をつくるときに私も少しかかわったのです。あのときに,こんな消費者のためにならないような法律は要らないという声が結構ありまして,私は消費者側の参考人として国会に出ておきながら,いや,絶対つくっておかなければ,今回できなかったらこの先いつできるか分からないと言って,仲間からかなりバッシングを受けたりしたのですが,でも,その後,やはり消費者契約法はできていてよかったなと思いました。   今回この報告書を見て,なおその感を強くしまして,こういうところで法律というのはやはり生きてくるんだと思ったということと,それから,法の適用に関する通則法の中にも,消費者保護というのが出てまいります。あれもとても思いがけないことで,でも,どうやって使えばいいのという感じがしていたのですけれども,それを受けて,今回,国際裁判の管轄ということなので,是非とも一本の糸になっていってほしいと願うのと,先ほどありましたが,決して消費者は自分たちのために有利な法律とは考えていませんので,やはりバランスのとれた,それでいて消費者も納得できるような,そういう法律をつくっていただきたいと思っていますので,いろいろな消費者側の問題につきましてもこの場に発表させていただきながら勉強させていただきたいと思ってます。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。長谷川委員,お願いします。 ○長谷川委員 労働事件の場合は,使用者が起こすということもありますけれども,恐らく多くは解雇や雇止めや労働条件の不利益変更などを理由に,労働者が訴えを起こすことになると思うのです。   その際,労働者と使用者を見たときに,資力だとか証拠をどちらが持っているかというのは,これはもう確実に差があるわけで,そういう意味では,労働者が労務を提供するところとか,労働者の居住地が裁判管轄だというのは,我が国の労働者を保護するという上ではすごく重要なことではないかと思います。   99年ころ話題になったのは,労働者と使用者の労働契約に個別的紛争があった場合には,本社の所在地で訴訟を行うという項目があって,なぜ本社のあるニューヨークに行かなければいけないのかという話でした。バーゲニングパワーのある労働者は,対等な労働契約を締結できると思うのですけれども,一般的な労働者というのは,労働契約を結ぶときだって,圧倒的に使用者のほうが力を持っているわけで,恐らく裁判管轄のところまできっちり見るかどうか定かではありません。また,すべてが日本語でないときもあるわけで,労働契約を結ぶときのその状況が本当に対等であるかどうかとか,そういうことはよく労働事件では問われるわけです。どこで訴訟を起こすかというのが明記されている場合だとか,労働協約に明記されている場合だとか,いろいろなケースがありますので,私どもも,今回この審議会で審議されることが,我が国の労働者保護にとってプラスになるような結論を目指していただければと思います。 ○髙橋部会長 はい,横山委員。 ○横山委員 私は,国際私法学会という学会に属しておりまして,今年5月と10月の大会において,国際裁判管轄の改正に向けたシンポジウムを開催しました。   シンポジウムの中で根本的な疑問としては,今の最高裁の判決でどこが不満なのですか,どこに問題があるのですかということがやはり根本的にあったようです。   新立法ができれば,それなりに研究者もまた対応しなければいけないわけですから,そういう余り瑣末なことを考えても,基本的に今でも特に不都合があるわけでもないのに改正する必要があるのかなという根本的な疑問はありました。   それから,もう一つ疑問が出されまして,私もこの部会資料3にあるようなことで,もともとの経緯としては,平成8年の民訴法の改正のときにも,新立法をつくることがあって,その継続的な側面があるのだということに触れたのですけれども,へーグ国際私法会議で審議されることもあると,私も漠然とこう言ったことがあるのですが,その際に,どういう関連性でそういうことを言うんだという質問がありました。   というのは,条約の場合は,各締約国が相互信頼をして,しかもしなければいけないという前提で規定というのがあるのだけれども,これは国内立法である限りは相互信頼をすべき義務というものはない状況であるから,規定の内容もおのずから違うのではないかとという,外国から見ると承認義務というのがそもそも課せられる条約と,そうでないという前提では話が違うので,あのへーグ国際会議の言及というのは,今度の国内法としての管轄規定の立法とどのような関連性があるのかというようなことも言われておりました。   そのとき,私は,うん,なるほど,そのとおりかもしれないと思ったのですけれども,この報告書や部会資料3の中にも言及されております1999年の準備草案というのは,やはり合理的な内容で,かなりの努力を傾注してつくられたものですから,仮に国内立法でもそこで得られた議論というのは十分に参考に値するもので,そういう国際的な動向をも踏まえながら国内立法をしていくという必要があったんだというようなことを言っておったのですが,私もその点確信がなくて,そういう答えが本当に適切だったのかどうなのかと思っております。   当時の民訴法改正と国際私法部会において,どんなことを議論されたかも今実は覚えていないので,その当時,へーグ国際私法会議がどのように見られていたのか,進行中のが見られていたのか,どうもまだ記憶が定かでないのですけれども,国際私法学会では,あれは非公式だったと思うのですけれども,そのようなことを説明をいたしました。   でも,これが正しいのかどうなのかよく分かりませんけれども,そういうことを言いました。   第1番目の,現状でも十分ではないですかという議論は,先ほど古田幹事などの御説明で,とにかく明文で定めるということは,それだけ法的安定性があるわけですから意義があるということでしたが,それ以外にも,立法の意義について教えていただいたら有り難いなと,学会でまた説明するときにも助かるなと思っております。 ○髙橋部会長 はい,古田幹事。 ○古田幹事 私も,最近,友人の新進気鋭の国際私法学者から,今回の立法化に何の意味があるのか,現在の判例理論で十分ではないかと言われまして,私も,確かに現在の判例理論に大きな不満はないと申し上げました。   ただ,弁護士の立場からいいますと,依頼者は自分が今正に直面している個々の事件について,我が国で訴訟を提起した場合に国際裁判管轄を肯定してもらえるかということに一番関心があるわけです。国際裁判管轄に関するルールが 判例理論という形式で存在していますと,それが仮に最高裁の判例であったとしても,将来的に判例変更というのはあり得るわけです。しかも判例変更は,今正に依頼者が直面している当該事件について,今から5年後あるいは10年後に最高裁が違うルールを適用する可能性があるわけです。 かつ,そのようなルール変更に至る過程というのは,最高裁判事の合議で決まってしまいますので,外からはうかがい知れないわけです。   これに対して,ルールが立法化されていれば,将来的に法改正がされても基本的に遡及適用はされないのが通常ですから,依頼者が今正に直面している当該事件について助言するときには,現に適用されている法律を見ればほぼ確実な助言ができることになります。しかも,将来的に法改正がされる場合には,法制審議会ですとか,あるいは国会での議論を通じて,いろいろな意見を聞いた上で変更がされるということになります。   ですから,国際取引業務に携わる実務家の立場からしますと,仮に判例理論と同内容の立法であっても,ルールが法律という形式で存在すること自体に,非常に大きな意味があると思います。 ○髙橋部会長 今のお二人のお話ですと,今の判例に大きな不満はないということでしたが,この点につきまして,ほかの皆様はどのようにお考えでしょうか。   高田委員,お願いします。 ○高田委員 では,議論を深めると申しますか,活性化するためにだけ申し上げさせていただきますと,恐らく今,判例理論に御不満はないと言われたのは,一応,現行法の裁判籍の規定に依拠しつつ「特段の事情」で調整するというレベルでの判例理論に御不満はないという御趣旨だろうと思いますが,それ自体,おっしゃるとおり,大きな枠組みとしてあり得る枠組みだろうと思います。   それ自体を明文化するということ自体にも非常に意義があると思います。ただ,現在の裁判籍の規定で,すべて適切なものがカバーできているかということになりますと,先ほど出てまいりましたように,消費者事件を始めとしてまだ空白がございますし,国際訴訟競合の領域につきましても,まだ最高裁の判例は出ていない状況ではないかと思います。   なお補充すべき事項があり,かつ,それが合理的に補充できれば,より一層透明性が高まると考えられるのではないかと思います。   もう一点,判例法理について,この先は議論が分かれるかもしれませんが,あり得る批判としては「特段の事情」というものに必要以上に負担を掛けていると。「特段の事情」で大きな調整をしているために,場合によっては透明性を欠き,場合によってはそれについて必要以上に原・被告間の主張の対立が生じ,管轄自体について決定するまでに時間がかかるといった議論ないし批判があり得るのではないかと思います。   そうだとしますと,現在の段階では「特段の事情」に課せられている負担を,現在の裁判籍に当たるものですけれども,原則的なルールで補うことができれば,あるいは明確化することができれば,そうした問題点の解消にも役立つということで,それ自体,一つ意義があるのではないかという印象を持ちます。   ついでに一点申し上げさせていただきますけれども,「特段の事情」と申しますのは,原則としては,日本に裁判管轄があるけれども,「特段の事情」がある場合には,日本は裁判権の行使を自制すべきだとか控えるべきだという議論だろうと思いますけれども,そうした微調整が必要だというのは,日本の国内裁判管轄規定におきましても移送があるということで,鶴岡委員から出てまいりましたように,原告,被告間の調整を図るという論理として非常に有効だと思います。   この微調整を図るルールは残しつつも,どの程度そのルールに微調整をゆだねるか。裏からいいますと,どの程度原則としてのルールを明確化するかということ自体についてはいろいろな幅があり得ると思うわけでして,報告書を拝見しまして,甲案と乙案のように分かれているというのも,恐らくそのあたりも関係してきている面があり得ようかと思います。   そういう意味で,これからつくるルールをどの程度厳格なものにして解釈の余地を狭めていくのが妥当なのか,それとも解釈に幅を残しつつ,裁判所に最終的には「特段の事情」による調整を広くゆだねるのが妥当なのかというあたりが,これから各論を議論するときに皆さんの御意見が分かれるのではないかと予測をいたしますけれども,そのあたりについて共通認識ができればよいという感想を持っております。 ○髙橋部会長 ありがとうございました。古田幹事,お願いいたします。 ○古田幹事 今,高田委員から御指摘がありましたけれども,私も,現行の判例理論に大きな不満はないのですけれども,幾つか問題であるかなと思うところはございます。   例えば外国の裁判所を専属管轄裁判所とする合意管轄の有効性につきましては,昭和50年のチサダネ号事件の最高裁判例が基準になっていますが,かなり緩やかな要件で専属管轄合意の有効性を認めております。この点について,特に海事関係をやっている弁護士に聞きますと,ちょっと緩過ぎるのではないか,外国の裁判所を専属管轄とする合意の有効性は,もっと厳しく見たほうがいいのではないかという意見を聞くことはございます。   それから,「特段の事情」の問題点ですけれども,確かに「特段の事情」が非常に肥大化をしていて,ブラックボックスになっているという御批判はよくあります。そういう意味では,詳細な管轄ルールを子細に決めてしまって,「特段の事情」による調整は減らすというのが一つの方向性だろうとは思います。それによって,予測可能性は高まります。しかし,反面,「特段の事情」による調整の余地を完全に排除してしまいますと,個別の事案を処理をするときに,既定のルールを直截に適用すると結論が余りにおかしい場合の救済が,なかなか難しくなるという懸念があります。   実は,国際裁判管轄が問題になる事件の数自体が,それほど多いわけではありません。NBLの最新号に河野教授・早川教授の論文が載っておりますけれども,公開された裁判例で国際裁判管轄が問題になった事例というのは,40件から50件ぐらいしかないということなのです。詳細な管轄ルールを作成する場合には,こうした実例を参考にして検討すること になるのでしょうけれども,いかんせん実例の母数が限られておりますので,いろいろな場合を想定した細かいルールというのは,現時点ではなかなか詰め切れないのではないかなと思うのです。現時点で立法化をするとなると,やはり平成9年最高裁判決が述べたような一般論を前提として,現時点でおおむね異論がない程度の明確化なり是正を加えた上で,最終的には「特段の事情」で調整をするという立法にせざるを得ないのではないでしょうか。それで問題があるのであれば,将来また法律を改正をして,より精緻なルールをつくっていくというのが,おそらく最も現実的なアプローチではないかなと感じております。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。 ○横山委員 鶴岡委員が先ほど研究報告書を読まれた感想として,当事者の双方のことを考えて,公平なということを考えないといけないなと感じられたとおっしゃったと記憶しておるのですけれども,それは,特にどのあたりでそうお感じになられたのでしょうか。 ○鶴岡委員 ここの議論のここの点に問題があるのではないかということをほのめかしたつもりはございません。一般的な問題として,国内の移送の問題を考える場合に,原告の立場から見るのと被告の立場から見るのと随分違うよなという感想を持っていたものですから,一般的な考え方としてそういうことを思いましたという程度のことだと御理解いただければと思います。 ○髙橋部会長 道垣内委員,どうぞ。 ○道垣内委員 最高裁の判例について,今まで御指摘がなかった点について申し上げたいのですが,当事者間の公平,裁判の適正・迅速というのが最高裁が示している基準で,それはそれなりの民事訴訟法の管轄の一般的な考え方に沿うというので,正面からの反対はない。したがって,基本的にはいいのではないかということなのですけれども,ただ,国際裁判管轄を考える場合に,それだけでよいのかといいますと,先ほど,横山委員がおっしゃった国際私法学会の議論の中では,例えば特許の関連事件について,当事者がよいと言っているのだから,外国の特許であっても日本で裁判してどこが悪いという議論がありました。そこでは,特許の有効性そのものではなくて,特許権者の特定という問題を取り上げていらっしゃいましたけれども,確かに,最高裁の示した基準だけからいうと,日本の管轄は否定すべきであるという議論は出てこないかもしれません。しかし,国際裁判管轄を考えるときには,国家の利益とか主権の衝突というのはやはり考えなければいけないのではないかと私は思っております。特許権を与えるということの法的性質が何かということですけれども,行政処分性あるいは主権の行使としての日本国としての秩序の形成といいますか,それが外国の裁判所によって否定される,あるいは外国がその外国の特許を有効である,その特許権者は誰だとしていることを,日本国が,そうではない,その特許は無効だとか,あるいは,他の者が特許権者であると判断することができるのかという検討は別途必要だと思います。逆に日本の特許の有効性等について外国の裁判所が当事者が合意管轄をしたからといって管轄を認めて自由に判断するということは,やはり主権国家の相互の関係からいうと問題なのではないかと思います。特許権の有効性についてはその特許登録国の専属管轄とすべきだというルールは,少なくともへーグ国際私法会議での多くのコンセンサスを得たところでございます。   そうすると,最高裁が前提としている通常の民事事件については,その示した基準でよいのですが,例えば外国特許権の有効性とか外国会社の設立無効確認といった事件が出てきたときに,最高裁の基準では足りないように思います。そうすると,先ほど古田幹事もおっしゃったように,突然,何か国家としてこうでなければいけないみたいな話を持ち出すのではなく,できれば事前に議論して,国際裁判管轄ならではの専属管轄の議論,これは国内民訴での議論では出てくるはずがないことですので,それをここで議論すべきではないかと思います。   以上です。 ○髙橋部会長 報告書でも,第5の特殊な分野において,知的財産権あるいは労働問題の特殊性とか,一般的な管轄と,それと別のファクターを見なければいけないものを分けておりますが,確かに我々この部会が担当するのはかなり広いもので,幸いだと私は思っておりましたが,身分関係は抜いていただきましたけれども,まだまだ広い分野に及んでいるだろうと思います。 ○松下幹事 今,部会長から広くて大変だという話を伺った直後にこういうことを申し上げるのもどうかなと思いますが,先ほど佐藤幹事から御説明がありました審議スケジュールは,報告書の目次に沿って議論をするということになっています。この報告書を見ますと,従来問題となってきたところについて,包括的にその問題を取り上げておりますので,重要な問題がこれであることについては,もちろん異論のないところではないかと思うのですが,今ここで抽象的に確認をさせていただきたいのは,報告書に書いていないことは議論をしないという趣旨ではないという点であります。   例えば,そのようなことまで議論するのかと言われそうですが,部会資料6などで配られている各種の条約でも,翻訳の対象から落ちている保全命令の管轄ですとか,あるいは先ほど古田幹事から御指摘がありましたけれども,間接管轄についてはどう考えるのかというようなことについても,その解釈にゆだねるのかどうかということも,国際裁判管轄を語る上では問題となってくることでありまして,繰り返しになりますが,この報告書に書かれていることが本部会の議論の外縁を画すものではないということだけ確認をさせていただければと思います。 ○佐藤幹事 今,松下幹事のおっしゃったとおり,報告書の項目というのは,ある程度網羅的に検討したということで,それを一つの目安としているにすぎませんので,この審議の議論をそこに限定するという意図は全くございません。   今,御指摘いただいたうち,間接管轄につきましては,いろいろな場面で恐らく議論が出てくることになろうかと思いますが,保全を御審議いただくかどうかというところは,一つの国際裁判管轄の問題になる局面として保全があるということは認識をしておりまして,そこも含めて議論するべきかどうかというところは,少し御議論をいただければかえって有り難いと考えております。 ○髙橋部会長 青山委員,お願いいたします。 ○青山委員 先ほど,横山先生の御発言の中で,国際私法学会の中には,今,国際裁判管轄法制をつくる必要があるかどうかという議論まであるという御紹介いただきましたが,もともとこの国際裁判管轄ということについて非常に深い研究をされてきたのは,従来,国際私法学者あるいは国際私法学会だったと思います。   それが,昭和50年ぐらいから,民事訴訟法学者の間でも非常にこの問題について関心が持たれ,そして新しく国際民事訴訟法という学問分野まで成立するようになったのが今日の状況だと思います。   今日では,どちらかというと,もちろん国際私法学者も一生懸命この問題をやりますけれども,民事訴訟法学者が非常に精力的な分野で取り組んでいるのがこの分野だろうと思います。   それで,この審議会で議論をしたのが,将来国際私法の先生方からそっぽを向かれるというようなことは万一ないと思いますけれども,これからの審議の過程の中では,いろいろな過程で,是非広く意見を何らかの形でフィードバックしていただく機会はこれから何回もあると思いますので,これは国際私法学会に限りませんけれども,そういう学会の意見も反映した形で立法がなされるということを望んでおります。   それが一点です。   それから,先ほどの最高裁の現在の判例の枠組みでどこが不満かということでございますけれども,これは,要するに裁判官が優秀であるということのあかしにすぎないと思うのですね。昭和56年の最高裁の判例の枠組みと,それを修正する原理としての「特段の事情」というのでは,先ほどから御発言がたくさん出ていますけれども,余りにも基準としてあいまいにすぎる。それをそれほど特別優秀な裁判官でなくても,平均的な裁判官でも裁判ができるということにするためには,やはり法律で明確な基準を立てていく必要があるのではないかというのが出発点だと私は思っております。   今日,外国でもこの国際裁判管轄法制がだんだん整備されてきているというのは,そういうこととも関係があるのではないかと思っているということを付け加えさせていただきます。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。はい,古田幹事。 ○古田幹事 少し話が戻りますが,松下先生から御指摘があった保全が入るのかという点ですけれども,昭和56年のマレーシア航空事件最高裁判決では,「裁判権の範囲は」という言い方をしております。そうしますと,これはもう保全ももちろん入りますし,むしろ人事訴訟も入ってしまうような言いぶりです。 平成9年の最高裁判決になりますと,そこがちょっと変わっておりまして,「訴訟事件については」という言い方になっております。これは,保全事件を別にする趣旨かどうかというのははっきりしないところです。いずれにせよ,今回の立法は財産法関係事件の国際裁判管轄を対象とするということですから,特に除外しない限りは,財産法関係の保全事件についても今回の立法の対象になるのではないでしょうか。   なお,先ほど冒頭申し上げたように,人事訴訟の国際裁判管轄について,昭和39年最高裁判決と平成8年 最高裁判決がございまして,いずれも昭和56年最高裁判決,平成9年最高裁判決とは違う枠組みで判断をしております。しかし,たとえば離婚訴訟においても,慰謝料請求とか財産分与といった財産法的な請求が関連することもあります。 ですから,今回の立法で人事関係を除くということであれば,人事関係と財産法関係の二つ系列のある最高裁判例をどのように仕分けをするのか,そこは明確に規定をしておく必要があるのだろうと思います。 ○髙橋部会長 議論の対象の中に入っていることは間違いないところですよね。ただ,保全事件の管轄という条項を立てるかどうか,これはまたそれ自体議論があってしかるべきものかと思います。   最終的な法律の形も,別に単行法になるのか,民事訴訟法の中に入れるのかなどというのもまだですね。それもまだですし。 ○始関委員 先ほど来,古田幹事と松下幹事から間接管轄のお話が出たと思うのですけれども,これはいろいろなところで問題になってくるのだと思いますが,ここでは第一次的には直接管轄について議論していただくことになるのだろうと思うのですけれども,間接管轄についてどう考えるかということについてある程度議論しておく必要があるのかなという気が個人的にいたしております。   この点,我が国の通説は,間接管轄については直接管轄の裏返しである,つまり,同じルールを外国に適用した場合に,外国に管轄権があるのであれば,日本は判決をした外国裁判所に管轄があるとしてほかの要件をチェックして承認の可否を決めるという,そういう考え方が通説だと青山先生のコンメンタールに書いてありました。   確か一部の学説では,間接管轄のほうが広いという学説もないわけではないということが御紹介されていたと思うのですけれども,これは必然的なものなのかどうかということで,つまり国粋主義的に物事を考えると,自国民保護という観点からすれば,自国の管轄はできるだけ広く認め,他国の管轄は狭くするということも政策論的にはないわけではないと思うのですけれども,国際協調主義という観点から非常に問題はあろうかと思うのですけれども,そのあたりをどう考えるべきかというようなことはいかがなのでしょうか。 ○髙橋部会長 今日は別に決め切るわけではなくて,共通の理解を得るという感じだけでということですが,はい,古田さん。 ○古田幹事 始関委員がおっしゃったように,間接管轄については,少なくとも今の日本の最高裁の判例は,基本的に直接管轄の基準で判断するとしております。   もちろんそれは判例ですので,立法で変えることはもちろん可能です。   ただ,間接管轄の考え方を変えるということになりますと,それは外国判決の承認・執行の問題になってまいりますので,今回の立法でカバーすべきか否か,よく分からないところではございます。 ○道垣内委員 昔から気になっているところなのですが,民訴法第118条第1号で,外国裁判所の裁判権という言葉を使っていまして,確かにその裁判権免除という国際法上の問題としての裁判権があることは当然必要なのですけれども,それに加えて,日本から見て国際裁判管轄があることも定めており,当然そのように解釈されてきたと思うのです。   法律の形はどのようになるのか分からないということでしたけれども,国際裁判管轄という言葉を使った立法ができたり,あるいは国際裁判管轄という名前の節とか何かができた場合には,民訴法第118条第1号の文言は,もしかすると「及び国際裁判管轄」という言葉を入れたほうが,より正確に理解されるかもしれないなと思います。要するに,裁判権免除の条約批准という話もございますけれども,それとこの新しい国際裁判管轄立法との関係からいいますと,言葉の整理が必要になるように思います。   そこに国際裁判管轄という文言を入れれば,直接管轄と同じ基準で判断するということがインプライはされると思います。例えば,国際裁判管轄に関する法律ということになるのか,あるいは民訴法の新しい章か分かりませんが,そこに定めているルールを外国裁判所に当てはめたときに管轄がある場合と民訴法第118条第1号に書けるかどうか,立法の美学としては,そこまで書かなくてもいいのかもしれませんが,いずれにせよ,第118条にも今回の立法の影響は及び得るのではないかと思いましたので,以上申し上げました。 ○髙橋部会長 立法の問題につきましては,本日は,省略させていただきますが,直接管轄を考えるときに,これと同じ基準の外国判決は日本でも承認しなければいけないのかという観点ですね,そのときに,リジッドにそう考えるのか,そうでないのかというあたりは共通の理解があれば有り難いと思います。   先ほど,始関委員がおっしゃいましたように,直接管轄と同じだというのと,間接管轄の方が狭いというのもありますが,広いという意見も,学者はいろいろなことを言いますから,あるわけで,どの辺のスタンスでいくのかというのは,これは別にこの段階で統一する必要はありませんが,審議していく中では,おのずから御発言の背景として違ってくるのかもしれません。   何が学会の多数説かというのは,これ自体難しいのでしょうが,大体一致するということなのだろうと思います。多数説が常に正しいとは限りませんが。 ○道垣内委員 私も一致すると思っていますけれども,ただ,先ほど言及された最高裁判決の調査官解説では「違い得る」ということが書かれております。ですので,必ずしもすべてそうだとはいえないかもしれません。 ○髙橋部会長 始関委員,お願いします。 ○始関委員 現行法の解釈もさることながら,これから立法するわけですので,変えたって理論的には構わないわけですね。   その辺について,やはりそこは同じであるべきという思想で議論をしていったほうがいいということなのでしょうか。 ○山本(弘)委員 私もこの報告書の研究会のメンバーの一員でございましたけれども,そのときの議論も,もう当然の前提として,こう書いたら,日本企業が外国で訴えられたときにこうだから,だからこういう書き方をすべきだという議論をずっとしてきた,それがもう我々の議論を拘束していた枠組みなのですね。   ですから,今からそこをフリーにして議論をしましょうと言われてしまうと,もうちょっと寄って立つ土俵がなくなってしまうような気がいたします。 ○髙橋部会長 古田幹事,どうぞ。 ○古田幹事 私の経験ですと,民訴法第118条第1号の実際的な機能というのは,外国の過剰な裁判管轄からの保護にあったと思います。日本の国際裁判管轄と比較しますと,海外には非常に広く裁判管轄を認める法域がございます。非常に広範に裁判管轄を行使する外国で言い渡された本案判決について,日本での承認・執行を制限するというのが,今まで民訴法第118条第1号が実際的に担っていた機能です。その意味では,外国裁判所の間接管轄は,日本の裁判所の直接管轄 と同じ基準で判断すると言っていれば足りたわけです。   これまでの研究会での議論も,直接管轄の基準と間接管轄の基準は基本的に同一であるという前提の下に,日本の裁判所の直接管轄を広げることが,今度は外国裁判所の間接管轄という形で外国判決の承認・執行に影響してきますが,それでも構わないかという観点で議論されていたのだろうと思います。その前提を変えることは,これはもちろん立法作業ですから,始関委員がおっしゃるように自由なのですが,では,変えるとしてどう変えるかというと,なかなか変える基準が難しいと思います。   確かに最高裁判例の調査官解説は,道垣内委員が御指摘のように,直接管轄の判断と間接管轄の判断は違い得ると言っています。しかし,その違いというのは,要するにこれから本案審理を始めるときの基準と比べ,既に本案審理が終わってしまった裁判を後から評価するときの基準というのは,少し緩やかでもいいのではないかという程度の違いだと思います。直接管轄の判断と間接管轄の判断が大きく違うという認識は,少なくとも実務家の私としてはそれほど持っておりません。要するに直接管轄の判断と間接管轄の判断は基本的には同じだという認識です。 ○髙橋部会長 はい,横溝幹事。 ○横溝幹事 国際裁判管轄研究会における検討について少しお伺いしたいのですけれども,特殊分野の訴訟類型に関しまして,ブリュッセルⅠ規則などでは規定がある保険事件の管轄については規定が置かれなかったのですけれども,その点については何か御議論があったのでしょうか。   それからもう一つは,先ほどの「特段の事情」の件なのですけれども,国際私法学会における議論の認識は横山先生とは若干ずれておりまして,せっかく立法するのであれば,予測可能性を追求するためにも「特段の事情」というものをまずは削除するべきなのではないか。それに対して,報告書の第7の1で「特段の事情」というものをつけるということは,現在の裁判実務を追認する結果にはならないだろうかという危惧があったと思うのですが,その点についてこの研究会では,具体的には裁判実務に関してはどういう御認識を示されているのかということをお伺いできればと思います。 ○髙橋部会長 まず,保険事件の件につきましては,本格的にやった記憶はありませんが,この報告書は,我々を拘束するものではありませんから,別にそれを排除するつもりはありません 。   「特段の事情」につきましては,これは正にその第一読会の最後になりますかね,そこで御議論いただければと思いますが。報告書は,基本的に裁判所の枠,現在の判例の枠組みの上に立ってはいるのでしょう。国際私法学会で強い批判があったということもお聞きはしておりますが。 ○山本(弘)委員 確かに「特段の事情」のような,一般条項で管轄を削る方向でああいう一般条項を認めるということに対して,非常にネガティブな態度をとられる方々が,とりわけいわゆる国際私法の分野の方に多いということは存じ上げておりますし,私どもも,そういう議論が一方では有力であるということは,常に頭の中に置いた上で議論をしてきたと記憶しております。   特に,これは申し上げようかなと思っていたことなのですが,要するに,ブリュッセル条約のようなリジッドな,かっちりした体系を理想的なものととらえる方々は特にそういう考え方をとられると思います。特に大陸法系の裁判管轄の考え方が特にそうですし,日本も大陸法系の一つであり,大陸法系の学問の強い影響を受けてきた国であるから,またそういう傾向が顕著に見られるわけでございますが,しかし,反面考えなければいけないのは,このブリュッセル条約というのは,ヨーロッパ共同体でありまして,要するに政治,経済,文化,歴史,そういったものがある程度近似した,そういうサークルの内部の規定であるわけです。   ところが,我々が国内立法を考えるときには,世の中千差万別,いろいろな国があることを考えなければいけないわけでありまして,そういったときに,緩衝材というものをおよそ設けない立法をつくることが,やはり将来をにらむと,かえって自分たちの首を絞めてしまうのかもしれないというような意識がかなり強くあって,それでこういう,どちらかというと「特段の事情」的なものに最後は頼らざるを得ない報告書になっているというのは,そういう理由だったかなという記憶を持っております。 ○髙橋部会長 古田幹事,お願いします。 ○古田幹事 今,横溝幹事から指摘があった「特段の事情」の点なのですけれども,日本の民訴法の構造というのは,国内の土地管轄規定についても,割と広めに特別裁判籍を認めておいて,それで不都合な場合には,事件を他の管轄裁判所に移送することによって調整をしようという構造になっています。日本の裁判所は,こうした処理に非常に慣れているわけです。   そういう意味からいいますと,国際裁判管轄についても,割と広めにまず国際裁判管轄を認めておいて,「特段の事情」で調整をしようというのは,日本の裁判所としても,実務的には非常に使いやすい枠組みだろうと思います。   その結果,現状は「特段の事情」が勝負になっていて,そこがブラックボックスになってしまうのではないかという指摘は分かるのですが,ただ,「特段の事情」を完全に排除してしまいますと,やはり個別の事案の処理において,どうしても結論が不当になる事例の救済が図れないという懸念があります。   理想論として,入口のところで,国際裁判管轄の管轄原因を詳細かつ限定的に規定していけばよいのですが,先ほど申し上げたように,現状,国際裁判管轄が問題になる事件というのは非常に件数が限られ,数十件しかないという状態ですので,そこから国際裁判管轄の管轄原因として何が必要かというのを網羅的に抽出するのは,現時点ではかなり難しい作業ではないかと思います。   ですから,現時点で立法するのであれば,最高裁が言っているような割と広目の管轄原因をまず措定しておいて,その不都合は「特段の事情」で調整をするという立法で満足するほかないのではないかと思います。こうした立法は生ぬるいと言われればそうかもしれませんけれども,それでも,今,立法しないよりは,今,立法するほうが,より意味があることだと思います。 ○髙橋部会長 山本克己委員,お願いします。 ○山本(克)委員 「特段の事情」の件ですが,仮にこの報告書の第7の1に相当するような規定を来るべき国際裁判管轄に関する法律で規定しなくても,裁判所はいずれにしろ「特段の事情」というのを,国内管轄に関する裁量移送の規定を類推適用して使うかもしれないわけで,「特段の事情」を考慮してはいけないなどという法律というのは今まで私は見たことがございませんので,恐らく法制的に無理なのだろうと思いますから,余りそれを今の段階でそう議論してもせんないことで,むしろ,本来の管轄のルールをいかに磨いていくかということを主として考えた上で,最終的にそこをどうするかという判断をするほうが生産的であると私は考えております。   私は基本的にルール主義者ですので「特段の事情」は好きではありませんけれども,その必要性は,私自身はやはり経験の少ないこの領域では,そういうバッファーがないといけないのかなとは思っておりますけれども,そこは一応括弧にくくった上で,個別のルールをまず磨いていくということのほうが望ましいのではないかと考えております。 ○髙橋部会長 ほかの観点からでも結構ですが,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 日本では多分そういう議論はないと思うのですけれども,へーグ国際私法会議ですごく印象的だったのは,憲法論です。義務履行地管轄をめぐって,義務の履行を約束した地が義務履行地であるとして管轄を認めてよいかという問題について,アメリカは,履行の約束というだけのコンタクトしかない場合,約束した者に対する約束違反についての裁判の管轄を認めるのは憲法違反であると主張しておりました。要するに,適正手続の観点から,まだ行ってもいない地で何かパフォーマンスをしますという約束をしただけで,その地で裁判されるのはおかしいと言うわけです。   したがって,調整するフォーラム・ノン・コンビニエンスとアメリカではいいますが,「特段の事情」のある調整規定がどうしても必要だという議論をしておりました。   それに対して,ドイツの司法省の人ですけれども,フォーラム・ノン・コンビニエンスのようなあいまいな規定で,裁判官の裁量でその却下をしたりするなんていうことは,裁判を受ける権利を侵害しドイツ基本法に反すると主張しておりました。   売り言葉に買い言葉なのかどうか分かりませんけれども,そういう議論もございました。この点,日本では「特段の事情」を置いても置かなくても憲法には関係しないということだけ共通認識として確認をできればと思います。もしそこに,枠があるのだということであれば,憲法改正しない限り,どちらかになってしまうわけですが,そのような関係はないということの確認です。 ○始関委員 今の点に関連して,道垣内委員にちょっと教えていただければと思うのですけれども,部会資料6の19ページで,ヘーグ国際私法会議の条約草案の第22条という規定が草案としては設けられているのですが,今のドイツの議論からしますと,第22条第1項のような規定を設けることは,ドイツ基本法に反するということになりはしないのかなと思うのですけれども,最終的には,この草案は,採択されなかったわけですが,この草案をつくること自体には合意はある程度されたんだと思うのですけれども,そのときの議論というのはどうだったのでしょうか。 ○道垣内委員 訴訟競合に関する第21条とフォーラム・ノン・コンヴィニエンスに関する第22条をパッケージでワーキング・グループが起草し,本会議ではそれ以上の議論をしないで採択するということで採択されていたのです。   したがって,草案の段階ですので入っていますが,外交会議で本当に最後の最後のところまではいっていません。   ですから,本当にドイツの憲法解釈がどうなのかは残念ながら確かめられておりません。 ○髙橋部会長 横山委員,お願いします。 ○横山委員 もう事実認識というだけのことで申しますと,「特段の事情」に類するフォーラム・ノン・コンビニエンスのようなものを認め,先ほどの第22条第1項のような規定を認める上,置くことを国内法上の憲法違反だと言うのはドイツだけだと思います。フランスでそのような議論は,聞いたことがありません。   しかし,学説上も,割と有力なドイツの学者は憲法違反ということを持ち出します。もちろん,ドイツの中にもこれは別にフォーラム・ノン・コンビニエンスをドイツの民訴法の解釈論として取り込もうというような方もおられるのですが,割とそれは少数派だということは確かだと思います。   逆に,フランスではそのようなことを言う人はいないし,少なくとも憲法違反だなんて言う人はいないですし,割と有力な学者もむしろフォーラム・ノン・コンビニエンスを採用すべきだという考え方の人もおられるわけで,むしろブリュッセル条約に対して不満,その点がないことが不満であるという人も,有力な方にはおられるということだけ付け加えさせていただきます。 ○手嶋幹事 先ほど来「特段の事情」が話題になっておりますが,全く一裁判官個人として感想を申し上げさせていただければと思うのですが,やはり事件を担当しておりますと,思っている以上にいろいろなことが起こるなというのが正直なところでございまして,そういう意味では,やはり最終的に何らかのバッファーがないと,実際の事件処理としては厳しいところがあるのではないかなというふうな感想を持っております。   ただ,それとは別に,先ほど山本克己委員からも御発言がありましたとおり,個別のルールを磨いていくということは非常に重要だと思っておりまして,特に裁判管轄の問題というのは事件の入口の問題になりますので,そこの入口のところが余りにあいまいもことしているがゆえに時間をとっているというのでは,事件自体の解決に資さないということがございますので,そこはできる限りこういう場で個別ルールを磨いていただいて,それにのっとって迅速に判断をしていけるようになればいいのではないかなという感想を持っておるところでございます。 ○古田幹事 今,手嶋幹事がおっしゃった管轄の問題は入口の問題なので迅速にすべきだというのは,全く同感です。国内訴訟でも,移送の問題は決定手続で処理されることになっており,仮に即時抗告された場合でも3か月から,半年ぐらいで結論が出るのが通例です。   ところが,国際裁判管轄の問題になりますと,訴えを却下する判決手続になりますので,結論が出るまでに1年,2年かかってしまうことが珍しくありません。しかも,裁判所は中間判決を出すことに消極的なことも多く,結局,本案の審理も並行して行った上で,終局判決で訴え却下ということにもなりかねないのです。   そういう意味では,これは手続論になりますが,国際裁判管轄の問題についても,現在の判決手続ではなくて,決定手続で迅速に解決をするという制度設計も一応あり得るのではないか,制度設計としてはむしろ決定手続にした方がいいのではないかなと思っております。 ○髙橋部会長 そうですね。 ○手嶋幹事 今の御発言に関連してなのですが,国際裁判管轄について決定手続にするというのは,認める場合も認めない場合もまずすべて決定手続をかませるという御趣旨でしょうか。 ○古田幹事 そこまで考えておりませんが,そういうことになるかと思います。 ○手嶋幹事 現状でも,例えば直ちに国際裁判管轄がないという判断ができる前提であれば,却下としてすぐに終局判断ができるわけでございまして,そうでない場合に,どう訴訟が帰趨していくかというところが非常に重要な問題かと思うのです。 ○古田幹事 現行制度の問題点は,一審が国際裁判管轄ありという判断をしますと,仮に中間判決をした場合でも独立の上訴ができませんので,第一審で本案の審理をして,本案判決がされることになります。その後,本案判決に対する控訴がされて,控訴審が国際裁判管轄なしという判断をしますと,一審の本案判決を取り消して訴え却下判決をすることになるのです。仮に 一審が早い段階で管轄 がないと判断をしてくれて,判決で訴えを却下をしてくれれば,その後は,その却下判決に対する控訴という形で,上級審の判断を仰げるのですけれども,一審が管轄ありと判断をして,控訴審が管轄がなしと判断する,あるいは,一審,控訴審が管轄ありと判断して,最高裁が管轄なしと判断をした場合には,非常に無駄に時間がかかってしまうという問題が生じます。そういう意味では,国際裁判管轄の判断を決定手続で行うことにすれば,恐らく最高裁まで行っても,せいぜい1年ぐらいで結論が出るのではないかと思うのです。   ただ,それが本当に理論体系的に日本の今の民訴法と整合するのかどうかという問題はあります。特に,国際裁判管轄というのは訴訟要件の問題ということになりますので,本質的に決定事項ではなく,判決事項ではないかという問題はあると思います。けれども,立法課題としては,一応,検討する価値はあるのかなと思います。 ○山本(克)委員 今の点は,部会資料2,研究会の報告書107ページの第7の4の2でも記載されていますように,一応検討したけれども,難しいなで終わっているところでして,組み方としては,やはり国内管轄ですと,移送という形で処理をされるということが前提ですので決定手続で組まれていますけれども,やはり却下判決という制度を維持する限りは,口頭弁論の必要性が,若干の例外はございますが,かかってくることになりますので,なかなか決定手続というのは,相当大きく民訴法の考え方を変えないと無理なのではないか。あり得るとしたら,中間判決なのだろうと思いますけれども,ここに記載してあるように,そのときの研究会で考えたときには,いい知恵が浮かばなかったと記憶しております。 ○髙橋部会長 先ほどの憲法論を聞いておりますと,なぜグローバルな条約ができないのかが分かったような気がいたします。   私としては,今日の御議論,共通の認識を得るという意味で大変有意義でございました。 ○倉吉委員 民事局長の倉吉でございます。所用により大変遅れてしまいまして申し訳ございません。   本来であれば,この第1回会議の冒頭にごあいさつをすべきところでございまして,おわび申し上げます。   最後の議論だけでしたが,さわりを聞かせていただいたようで,初日から白熱した議論が展開されたのではないかと,こう思いました。   聞きながら思い出したのですが,もう20年以上も前の現場の一線で裁判官をやっていたころ,この国際裁判管轄の問題で,非常に悩んだことを思い出しました。   確かに,この議論は,ある程度の広がりを持った共通の理念に立って議論をするというのがいかに難しいかというのは,ヘーグの国際私法会議の議論の推移を見てもよく分かるわけでございます。   それから,平成8年の現行の民事訴訟法の議論をしていた当時にも,相当意見の対立があったと伺っております。それを今度取りまとめようということで,これも大変御苦労いただく,御負担を掛ける検討をお願いするということで,大変恐縮に存じておりますが,何とか世界にも誇れる,そして,国内の実務家も納得の得られるいい国際裁判管轄法制が構築できるように,是非御尽力をいただきたいと思います。   どうぞよろしくお願いいたします。 ○髙橋部会長 どうもありがとうございました。   世界に輝く立法をつくるべく努力をしていかなければいけませんが。精力的に審議日程が組まれておりますので,次回の議事日程について連絡があります。 ○佐藤幹事 本日は長時間御議論いただきましてありがとうございました。   本日の議論の中で「特段の事情」について大分議論がされましたけれども,私自身といたしましても「特段の事情」の議論というのは,個別の管轄規定をどれだけ磨いていくかということにも深く関連している問題であろうかと思います。   そこで,次回ですけれども,次回からは,まず個別の管轄規定を,山本委員のおっしゃいましたように,磨く作業を開始したいと考えておりまして,11月28日金曜日の1時30分から,法務省の第1会議室にて開催いたしますので,お間違いのないようによろしくお願いいたします。   なお,審議のスケジュールといたしましては,先ほど御了承いただきましたとおり,普通裁判籍及び特別裁判籍の途中までということで,報告書に則して言いますと,第1から第3の5まで。第1は総論ですので,主として第2の普通裁判籍と第3の特別裁判籍のうち,第3の5までを予定してございます。 ○髙橋部会長 それでは,第1回の会議を終了させていただきます。   実り多い会議であったと思っております。   どうもありがとうございました。 -了-