法制審議会主権免除法制部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成20年10月24日(金) 自 午後1時30分                        至 午後4時37分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  主権免除法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○上原部会長 定刻になりましたので,主権免除法制部会の第3回会議を開催いたします。   本日は御多用中のところ,御参集いただきましてありがとうございます。   まず,審議の前に事務当局に配布資料の確認をしていただきます。 ○飛澤幹事 配布資料の御説明をいたします。   事前に送付させていただきました資料は,部会資料9の主権免除法制の整備に関する要綱試案(3)でございます。 ○上原部会長 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は,事前送付いたしました部会資料9の主権免除法制の整備に関する要綱試案(3)に基づいて御議論いただきたいと思います。本日もこの資料につきまして一通りの議論をする必要があります。したがいまして,なかなかタイトなスケジュールではありますが,議事の進行に御協力をお願いいたします。   それでは,まず部会資料9の第17,外国等の同意等について説明していただきます。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料9,要綱試案(3)の1ページの試案第17について御説明申し上げます。   試案第17は,保全と執行についての裁判権免除の仕切りについての定めということになります。対応する条約は一つの条文でございませんで,資料に書いてありますとおり,条約第18条,第19条(a),(b),それから条約第20条を合わせた内容のものをこちらで定めておるところでございます。   執行とか保全につきましても,外国は原則として裁判権から免除されるという大前提があるわけですが,こちらの試案を御覧になればお分かりのとおり,その内容は書かれていません。といいますのは,試案第5のところで,外国は日本の裁判所における裁判手続から免除されるといった一般原則を置いているためでございます。したがいまして,試案第17では,むしろその原則に対する例外事項を挙げているということになります。   まず,要綱試案(3)の1ページ,(2)1の柱書きについてのア「その財産に対しての保全処分」ということですが,どういった内容のものがここに含まれるかということでございます。一つには,民事保全が入るということは当然でございますけれども,そのほかにも例えばこちらの要綱試案(3)でも書かせていただきましたとおり,不動産登記法第108条の仮登記を命ずる処分等も,ここで言う保全処分に当たり得るだろうということで,そういったものも含めて,その財産に対する保全処分という言い方をしているところでございます。   それから,同じく2ページのイの「その財産に対して…民事執行」ということですが,これについては基本的には外国の財産に対する民事執行といえるものであれば,民事執行全般が含まれるだろうと考えられます。ただし,民事執行法における民事執行の定義を見れば分かるとおり,財産開示等はおよそ外国等の財産に対するものとはいえませんので,ここからは除かれるという整理になっております。   次に(3)でございますけれども,要綱試案(3)の試案第17の1②で「仲裁に関する合意」という言葉が出てきます。ここについての説明でございます。   実は,条約第18条あるいは第19条でも同じ文言が出てくるのですけれども,第18条の(a)(ⅱ)のところで,英文上はarbitration agreementという文言が用いられております。ですので,この文言を直訳しますと,仲裁合意となるところでございますけれども,我が国の仲裁法において仲裁合意というものは当事者間の紛争の解決を仲裁人の判断にゆだねること,それから当事者が仲裁判断に服すること,こういった最低限,この二つの要素が入った合意のことを言うとされております。   しかし,こちらの試案の第17の1②の文脈で言う仲裁合意というのは,そうした合意に付随する形で,保全又は執行免除の放棄の合意といったものがなされた場合ということを念頭に置いておりますので,ここについて仲裁合意と書いてしまうと先ほど申し上げたような付随的な合意が含まれないのではないかといった懸念がございます。そうしたことからあえて仲裁合意という文言は使わずに,「仲裁に関する合意」としたところでございます。   それから,もう一点は1③で書面による契約というのがございます。それとは別に,何ゆえ1②として仲裁に関する合意といった規定を設けたかということでございますが,それについては要綱試案(3)の2ページの(3)の下のほうの段落,「なお」というところから始まるところに書いてございますけれども,仲裁合意自身は日本法でも基本的には書面性が要求されるのですけれども,執行等をすることに対する同意というのは,仲裁合意に付随するものですので,書面性が必ずしも要求されるとは限りません。そうなると,そういったものについても含まれるようにするために書面による契約とは別に「仲裁に関する合意」を明記しております。そのほか,要綱試案(3)の2ページから3ページにかけては,投資紛争解決条約の文脈からの説明をしておりますが,そこは補足的な説明として御覧いただければと思います。   次に,要綱試案(3)の3ページの(4)でございます。これは試案第17の2で,「その財産を担保に供し,又は分別して管理したとき」といった言い回しをしております。本条約ではallocateという言葉とearmarkという言葉を使っておりまして,そのうちallocateというのは財産を担保に供することを当てはめればいいのではないか,また,earmarkのほうは「分別して管理したとき」という言葉を当てればいいのではないかという整理をした次第です。   この「分別して管理した」という言葉は若干なじみがない方もいらっしゃるかと思いますけれども,信託法の分野で信託財産を自己の財産から分別して管理するといったようなときに,法令上もこういった用語が用いられているところであります。試案第17の2では,正に担保に供するとか,執行とか保全の対象が分かるように,つまり押さえるならこの財産に押さえてくれと分かるように,自分の財産から分別して管理するということは,一種の同意の一形態だろう考えられるわけです。   具体的には,3ページの(4)の括弧書きでも書きましたとおり,分別して管理したときというのは,多数の原告が外国等に対して損害賠償請求訴訟を提起したケースにおいて,当該外国等が請求に理由のある者に対して支払うために,一定額の金銭を用意した場合が考えられるのではないかと考えているところでございます。   第17に関しては以上でございます。 ○上原部会長 それでは,ただ今の第17につきましての議論をお願いいたします。 ○三木委員 (3)で御説明いただいた「仲裁に関する合意」のところです。ここのarbitration agreementですが,本来の意味での仲裁合意を結びますと,当然,将来,執行も受け入れることが含意されているのが普通ではないかと思います。あえて執行免除の合意を切り出さなければいけないのでしょうか。   条約のほうの言葉はarbitration agreementで,これは少なくともほかの文章とか,それ以外一般で文字どおりの仲裁合意を指す言葉として使われているので,それがおっしゃったような広い意味だとすると,恐らく何かその場合にはむしろ積極的にその旨を書くのではないかという気がします。コメンタリーを見ても,arbitration agreementが仲裁合意以上の意味を持つという記述はないように思います。諸外国の議論でも,仲裁合意を結びますと同時に執行からの主権免除を放棄するという意味を含むんだという理解は,かなり一般的ではないかと思います。理由づけとしては黙示の合意説とか,ニューヨーク条約をてこにする説とか,いろいろあるようですけれども,私が不勉強である可能性はありますけれども,余りこのように理解する見解というのは存じませんので,諸外国でこういうふうに理解する判例とか学説とかがもしあるようでしたら,教えていただきたいと思います。 ○飛澤幹事 今の御指摘ですけれども,研究会でも若干そのあたりの議論があったのですが,仲裁合意をすれば当然,執行についての放棄もしたという考えがあることは御指摘のとおりだと思います。ただ,少なくとも条約の書き方からすると,あくまでも保全処分とか民事執行することに明示的に同意した場合という言い方をしておりますので,その同意をどういった形式でするかということについて,①から④のものがあると思います。そうすると,やはり仲裁合意をしたからといって,当然にそれだけをもって保全処分,民事執行することに同意したととっているのではなくて,仲裁合意に付随して別段のこういった免除放棄の合意をしたような場合ではないかと考えまして,そうだとすると,仲裁合意では読みにくいということで,②のように整理したという経緯がございます。 ○三木委員 私の理解が正しいかどうか余り自信がありませんけれども,今,おっしゃったのは柱書きの次の方法による明示的な同意というところを指しておられるのだと思いますけれども,正に仲裁合意それ自体が執行の主権免除の明示的な同意であるという仕切りなのだと私は理解しました。あと,参考になるか分かりませんけれども,私が若干読んだところでは,アメリカの主権免除法や欧州国家免除条約には仲裁合意があるだけで,執行の主権免除の放棄があることを前提として作られていると理解しておりました。 ○始関委員 御指摘の点は,もう少し調べてみないといけないとは思いますけれども,この条約の文言からすると,arbitration agreementしただけで明示的な合意があるというのは,やや文理的には苦しいのかなという感じがいたしまして,それを前提に研究会ではarbitration agreementの契約の中に,執行についての合意も明示的にされていなければいけないという前提で,議論がされたと記憶をしています。   また,普通の場合と主権免除は少し違うと思っております。つまり普通は仲裁をするということは,私的な裁判をするということですので,判決と同様の債務名義を取得するということなわけですが,訴訟のほうも訴訟について合意したからといって,執行までできるということにはならず,執行については別途合意しなければいけないという形に,この条約はなっているわけですね。そういったこととパラレルに考えれば,仲裁をしたからといって直ちに債務名義として執行できるということまではいかなくて,執行するためには別の合意が要るというのは論理的にはバランスがとれていて,それをあらわしているように条文の文言からは見られると思うですけれども,研究会に入られた先生方はいかがでしょうか。 ○道垣内委員 研究会のメンバーだったのですけれども,その点,議論があったところです。今,おっしゃった三木先生のような外国における理解あるいはプラクティスはあり得ると思います。この条項のby an arbitration agreementのところだけを見ると,仲裁合意をすることによって執行からの免除放棄がindicateされるとも読めると思います。しかし,そこだけならいいのですけれども,ほかも(ⅰ)も(ⅲ)もbyなのです。そうすると,例えばinternational agreementを締結することでindicateされるということになると,どんなinternational agreementを結んでも,それでindicateされてしまうということになってしまい,やはり内容的にはおかしいように思われます。日本語の翻訳では,これらは方法を書いているんだという理解を前提としているようです。byではなくinと規定されていれば,例えばwritten contractのほうはinと書いてあって,そこははっきりするのですけれども,byのほうもそういう趣旨だと理解し,そのように訳すのが正しいのではないかと思います。そうしますと,arbitration agreementするだけでは足りず,その合意の中で執行についての放棄を書き込んであることが必要であり,arbitration agreementを仲裁合意と訳すのではなく,「仲裁に関する合意」と訳したというのが,この点に関する私の理解であります。 ○山本委員 私の理解は先ほど始関委員が言われたのと同じ理解でありまして,やはりまず主権免除という非常に特殊な問題であるということが一般の私人間の合意としての仲裁とは違うということ,主権免除の中にも,訴訟からの免除と執行からの免除をこの条約は分けて使っていて,なおかつ訴訟について例えば日本国の裁判に従うという合意をしても,試案でいえば第17の(3)のように,それを執行に関する合意にまで読み込むことはできないという組み立てになっていますので,言わば判決手続に相当する手続を仲裁によるという合意をしても,そこから直ちにそれに基づく強制執行まで執行免除権限を放棄していると読み込むのは,この条約の全体の組み立てからいくと,そうではない理解に立って組み立てられているのではないかと私も思っておりました。 ○河野委員 私も研究会のメンバーでしたが,やはり始関委員や山本委員がおっしゃられたように,国家が相手の仲裁というのはかなり特殊なケースが多いと思います。それで,必ずしも仲裁地と執行の場所が一致しない場合が多いので,通常はやはり執行と裁判権の免除というのは分けて考えますし,それから,この条約はそもそもの作りとしまして,裁判権と執行は,かなり区別する形の作りになっており,しかも第18条,第19条の(a)では,措置をとることについて明示に合意をしていなければいけないので,その規定振りから見ても,仲裁に対して合意をしたことだけで執行についても合意があるというふうに読み込むのは難しいのではないかと理解いたしております。 ○三木委員 私が先ほど申し上げた考え方が正しいかどうかを強く言うだけの根拠は持っておりませんが,裁判とパラレルという議論は私は若干違うと思います。というのは,裁判の場合は裁判自体は特に合意がなくても裁判自体はできるわけですけれども,仲裁は合意があって初めてできるものですから,仲裁の合意をするというのは一般には最後の執行まで追い込んだ合意だと,今日では考えられているのではないかと思います。   いずれにせよ,今,伺いますとすべて国内での議論で,国際的なこの条約の文言とか,あるいは仲裁合意と執行免除の関係について,世界的な潮流というものを踏まえた結論ではないように伺いました。この条約が作られたときに,そういう潮流を踏まえたのかどうかは分かりませんけれども,私は踏まえているのではないかと思って読んだわけです。繰り返しになりますけれども,コメンタリーに今おっしゃったような趣旨のことは全くあらわれていない,つまり,この仲裁合意は純然たる仲裁合意であることを前提に書かれている点からもそう思います。   懸念しなければいけないのは次のようなシチュエーションだと思います。Aという外国国家とそれと違う国のBという企業,どちらも日本と関係ない二者が仲裁合意を結んで,仲裁判断が終えて執行の段階になると。それを国家の財産がC,D,そして日本と3国にあると。執行を直接国内法でやるか,ニューヨーク条約に乗っかってやるか,3国同時にかけるというときに,同じニューヨーク条約の加盟国であり,しかも同じこの主権免除条約の加盟国であり,主権免除条約が既に発効しているという事態になった場合に,A,Bか,C,Dの国では仲裁合意があるだけで執行免除の放棄がなされているという理解のもとに執行がなされ,日本だけがそうではないということを,国内法が仮にあるがゆえに違うことになるということになったら都合がよくないわけなので,ほかの国でというか,国連の場でというのか分かりませんけれども,本当にすべての国がそういう理解をしているのかは多少慎重に調べたほうがいいのではないかと思います。 ○上原部会長 この問題について,ほかの方は,いかがでしょうか。 ○青山委員 今の問題はソ連邦がまだ存続していた時期,ソ連の企業というのは国営企業が大部分でございましたから,諸外国ではソ連の公企業と契約する場合には仲裁でやっていたと思うのです。ところが仲裁で他国の企業が勝って,ソ連の国営財産に準ずる公営企業の持っている財産に強制執行をかけようとすると,正に今の状況で仲裁合意は紛争の解決のみに合意をしたのであって,国家財産に対する強制執行は許さないということを頑強に主張してきた。それでは一体何のために裁判を避けて仲裁をやるか,非常に疑問だという声が諸外国から上がってきたわけです。   そこで,その後の取扱いがはっきりしないうちにソ連邦が崩壊してしまって,その後,ロシアという国が一体それをどのように承継しているのか,arbitrationがあるだけで強制執行を許しているのか,それともarbitrationだけではなくて,さらにもう一歩踏み込んだ強制執行を受けるという別段の合意があるのか,あるいはなくてもarbitrationで負けたら強制執行対象財産についての主権免除は主張しないというふうに転換してきたのか,その事実をお調べいただきたいと思います。   他の国では,三木委員のおっしゃったように,実務でarbitrationの合意をした上で,強制執行のときにさらに主権免除を主張するということは,ほかの国ではなかったことではないかと思っておりますので,三木委員の主張というのは,私の仲裁の理解ではそうだったんですね。ところが,国家実行が違いますので,その辺のところをどのように考えていったらいいかということにかかるのではないだろうかというのが私の意見でございます。 ○河野委員 かなり特殊な仲裁の事例ですので,もしお調べになるときに少し最近の事例をお調べいただければと思うのですけれども,(3)の説明にも若干触れられております投資紛争解決国際センターの場合には,紛争解決のための仲裁の合意と,その執行を分けているように思われます。といいますのは,投資紛争解決条約の場合には,執行まで各国が義務として受けるという規定を最初入れようとしたときに主権免除に関する議論があって,結局,この条約のもとでの仲裁判断の締約国での執行に関しては執行免除に関して別途,主権免除の原則が働くことを妨げないという条項が入っておりますので,その意味では投資紛争解決条約の場合には,少なくとも仲裁の合意と執行の合意を分けているとしか,条約の文言上は考えられないと思います。   これは1960年代に作られた条約なのですが,いまだにこの条約を使って国家と外国私人の仲裁が行われる場合が多く見られますし,この種の条約の場合には必ずどこかの国で執行せざるを得ませんので,それは念頭に置かざるを得ませんから,今回のこの条約でもそれは念頭に置いていると考えられますし,国内法を作る場合にもこれは考慮せざるを得ませんので,お調べになる場合にはその点は御留意いただければと思います。 ○上原部会長 ありがとうございました。   そうすると,今の仲裁に関する問題以外に,第17につきまして御意見はございますでしょうか。 ○長谷川委員 質問ですが,この保全処分と民事執行の規定ですけれども,労働紛争の場合に未払賃金だとか退職金をめぐる訴訟のときに,賃金保全処分だとか賃金仮処分などを申し立てるのですが,労働事件のとき,保全と執行を分けて考えるのでしょうか。例えば仮処分,保全のところは第10の雇用関係として扱うのか,その仕分けをお聞かせいただけないでしょうか。 ○飛澤幹事 今の御質問は賃金仮払いの仮処分のことだと思います。ここで言う保全処分というのは,すごく厳密な言い方をすると,民事保全の場合には保全命令と保全執行があるのですけれども,そのうち保全執行のほうを考えておるところでございます。ただ,そうはいいましても,保全処分の中には民事保全命令の申立てをすれば,その申立てに保全執行の申立も兼ねられていたとして,改めて保全執行の申立をするまでもなく保全執行まで手続が進んでしまうものがあります。ただ,今御指摘のあった金員仮払いの仮処分については,保全命令の段階と保全執行の段階についてそれぞれ申立てをしなくてはならないと思いますので,金員仮払いの仮処分の保全命令を求めるほうは,ほかの判決手続とかとパラレルな基準で考えて,保全執行のほうについてはこちらの保全処分に関する規定の仕切りで読むのではないかと考えておるところでございます。 ○阿部(潤)委員 (4)のところでございます。条約第18条,第19条の(b)以降にあるearmarkedについては,今回,「分別して管理」と置き換えられたという御説明があったと思いますが,この概念がよく分からないので,具体例を挙げていただくと非常に有り難いと思います。   分別管理というのは確かに信託法上にあるのですが,これは分別管理義務が想定されていて,相当細かい規定が設けられております。条約の趣旨からは,当該外国が当該財産がいわゆる執行対象となることを自認あるいは許容していることが外形的に分かる場合をいう程度に理解できると思われますが,強制執行の場合は外形を重視するものですから,分別管理というと相当に突っ込んだ内容を想定されているような気がしますので,括弧に挙げてあるのは典型例だと思うのですが,このあたりの具体例を少し教えていただくとより概念が明確になると思います。 ○飛澤幹事 earmarkにどういう言葉を当てるかというのは悩ましい問題でございます。イメージとしては,阿部委員のほうから御指摘のあったとおり,基本的には執行保全の対象となることが分かるように,自分の本来の財産から区別して保管するという意味以上のことを申し上げるのはなかなか難しいと思います。   といいますのは,担保に供したとか分別して管理したというのは,同意とみなされる行為として挙げられているものですから,それなりの外形が必要なのかなと思っているのですが,他方,分別して管理したときということを余り緩く書いて,例えば,財産を指定したときといった言い方をしてしまいますと,執行対象となる財産を指定するというのは,同意にほかならないわけで,そうするとこの試案では同意については先ほど申し上げたように条約でとか仲裁合意でとか,書面による契約でとかとかなり方式を限定しております。それにもかかわらず,単に指定したときも非免除になるとしてしまいますと,何のために同意についていろいろ方式の限定をかけたのかといった問題も出てきてしまいます。そういうわけである程度,かちっとした書き方はないかなということで,「分別して管理したとき」という言葉を選ばせていただいたというのが一点であります。   それから,earmarkという言葉を英米法辞典などで引きますと,信託を主に想定しているのですが,分別管理したときといった意味が出てきます。ですので,earmarkという言葉の意味としても分別管理という言葉を当てるのがあながち大きくは外れていないかなと考えて,この言葉を選んだ次第でございます。なかなか的確な具体例が多く出せないのは申し訳ないのですが,イメージとしては以上のようなものでございます。 ○上原部会長 試案第17についてはよろしいでしょうか。 ○飛澤幹事 試案第17の関係でパブコメの御紹介を失念しておりましたので,御紹介をしながら,若干コメントがある部分についてはコメントさせていただきたいと思います。   部会資料7の14ページをお開きください。   一つ目のなるべく要件を明確に規定するようにという御意見ですが,その点に留意してやりたいと思います。   二つ目の意見ですけれども,これは要するに当該財産に対すると書いているから,同意に当たって財産を特定することを要件としているように読めるという御理解を示されているところなのですが,実は当方としてはこのような理解はしておりません。要綱試案(3)の1ページの試案第17の1を御覧いただきたいのですけれども,「外国等は,次のいずれかの方法により,その財産に対して」といっておりますが,まず,「その財産」というのは外国等の財産ということで,別に外国等の財産であれば,どの財産かということまで特定しておりません。そして,2段目のところに「当該財産」とありますが,これは,正に「その財産」という文言を受けて「当該財産」といっているわけですので,外国等の特定の財産というものを指しているつもりはございません。ですので,この二つ目の意見につきましては,当方が考えていることと少し違ったように読まれてしまったのかなという感じを持っておるところでございます。   三つ目の意見ですけれども,これは先ほど三木委員から御指摘になったのと軌を一にする御指摘かと思いますので,この点については割愛させていただきます。   四つ目の意見については,実は試案第18に移っておりますので,その説明の際に御紹介させていただきたいと思います。 ○朝倉幹事 今,御紹介のあった一つ目の意見や先ほどの阿部委員の御質問にも関連するのですが,具体例について一生懸命考えてみたのですけれども,括弧書きで書いていただいている,こういう目的で例えば預金を持っていたというような場合は思い付くわけですが,それ以外について例えば不動産についてとか,若しくはほかのものについて実は余り思い付きませんでした。   実際問題として,執行に当たる執行裁判所ないし執行官は,この文言からだけではいま一つ意味がよく分からないものでございますから,そのときのメルクマールとしては,立法段階で何を考えて立法されたのかということをまず考えるのだと思うわけです。そういう観点からすると,どのようなものがほかにあり得るのか,若しくは,今挙げられている例示ぐらいしかないと理解していいのかというあたりのところをお教え願えればと思います。 ○米山関係官 ほかに考えられる具体例なのですが,例えば外国が我が国の中に遊休土地を持っている場合に,差し当たりほかの銀行口座等にかかっていかれるよりは,使っていないことだし,この遊休土地にかかっていってほしいと思った場合には,この遊休土地を分別管理ということというのは考えられるのかなと思っております。 ○朝倉幹事 その外国が思っていたら,それだけで分別管理ということになりますと,証明書でも出していただいて不動産の前に張りつけておいてくれれば別ですが,そうでなければ執行裁判所の執行官としては極めて難しい,実際問題分別して管理していると認めることは無理に等しい気がいたします。 ○米山関係官 もちろん,具体的に分別管理の要件を証明できない場合には執行ができないということで,結論としてはやむを得ないのかなと考えているところではあります。 ○朝倉幹事 そもそも思っているだけでそれが分別管理という概念に当たるのでしょうか。 ○米山関係官 思っているだけというのでは足りないのだろうと思います。やはり何かしら帳簿上,明確に区分をしておくとか,そういった帳簿なり何なりのある程度の外形的な区分がないと,分別管理には当たらないと考えております。 ○朝倉幹事 何度もしつこいようですが,不動産の帳簿というのは我が国においては登記だと思いますが,登記上はそういうものを明示することは基本的にないわけです。そうすると,その大使館なり,その国の機関内において…。   そういうものを余りここで議論しても意味ないかもしれません。そうすると,ほかには例というのは余り考えられないと理解してよろしいでしょうか。 ○上原部会長 今の点について,何かございますでしょうか。 ○信森幹事 日本法のもとで,法務省がどうお考えになられたかという点はさておき,earmarkedという用語は,研究会の席上でも申し上げたのですが,比較的,国際的な金融取引ではよく使われます。具体的には,金担保で融資をするときに,この部分は担保というのか,これに差押えをかけていっていいよみたいな形で区分するというときにしばしば使われているようです。それを日本法でどう訳すべきかというのは,私もよく知らないですし,繰り返しになりますが,それが法務省が意図している言葉に当てはまるのかどうかというのは,私には分かりません。ただ,分けるという意味においては非常によく使われていて,日本法でそれを分別管理というのかというと,雰囲気としては,そんなにおかしな使い方ではないような気がしています。 ○上原部会長 今の金塊をそういうふうに分別管理するという場合に,何か明認方法というか,そういう何か外形から分かるような表示をしてあるわけですか。 ○信森幹事 そこは私も調べてみないとはっきりは分かりかねます。 ○髙階委員 今のお話を聞いていて思い付いたのは,今,外国で社債を発行するときにカバードボンドという方法があるのですけれども,それはその会社の一定の資産を取り分けておいて,取り分けの仕方というのがどの程度かはいろいろあると思うのですけれども,それで社債の返済資金としてカバーしていると。ですから,通常のコーポレートファイナンスよりも信用力があるという会社法の制度なのですけれども,例えば外国で国債を発行するときに,その国債に対して一定の予算措置をするなり,何らかの返済資金の手当てをしているという方法というのはあり得るのではないかと思います。 ○中原委員 外国等は原則として裁判権から免除されることが明文で規定されることになっています。そして,保全処分も民事執行も裁判権の行使に当たるので,原則として外国の財産に対しては,保全処分あるいは民事執行はできないということになります。日本の民法のもとにおいては,差押禁止債権とは相殺できません。ということは,債権者として外国あるいは外国の中央銀行に対して債権を持っていて,預り金や預金という債務を負担している場合であっても,相殺が禁止されることになるのでしょうか。 ○米山関係官 相殺が要綱試案(3)の第17の1柱書きの民事執行に当たるかということにかかわる御質問でしょうか。 ○中原委員 日本の民法第510条は,「債権が差押えを禁じたものであるときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。」と規定しています。新法制定により,外国・中央銀行の財産に対する保全処分及び民事執行ができないのが原則であることが明文で規定されると,民法第510条により外国や外国の中央銀行の有する債権とは相殺もできなくなるという解釈になるわけですか。 ○始関委員 その件については,今まで議論されたことは全然なかったのではないかと思いますので,ここで議論していただければと思いますが。 ○上原部会長 先ほどのearmarkにつきましては,御議論を大分いただきましたが,今日の段階ではよろしいでしょうか。そうであれば,今,中原委員が御指摘された問題につきまして議論をしたらと思います。 ○三木委員 この場で伺ったお話なので深く考えたわけではありませんが,今の御質問は結局,この要綱試案との関係でいきますと,1の柱書きに民事執行という言葉を使っているわけですが,これが条約と比べて狭過ぎるかという話ですね。条約の文言はexecutionでよろしいですか。executionが今御指摘のあった相殺権の行使のようなものも含んでいるのであれば,現在のこの案文にある民事執行という言葉が狭過ぎることになるわけですよね。結論はよく分かりませんけれども,executionという言葉自体は,卒然と考えれば民事執行よりも広いようにも思われるという気はいたします。 ○上原部会長 研究会の席上でも議論されたことのない新しい指摘だと思いますが,どなたか御発言はありますでしょうか。 ○始関委員 私も今初めて御指摘いただいて初めて考えているのですけれども,この条約は担保に供されているものについては黙示の承諾があったとして,執行裁判権の免除が得られないという形にしているわけですね。相殺は言わば担保的機能で,相殺できるからこそお金を貸しているというところが金融機関にあるのだと思うのですね。そうだとすると相殺は担保なので,その範囲内で相殺することまで制限されるわけではないと考えても,そんなにおかしいことではないのではないかなという気がしたのですけれども,ほかの先生方は,どうでしょうか。 ○山本委員 明示的にその財産を質に入れるとか,債権を質に入れるとかという形をとっているのではなくて,ただ単に相手方に対して負債を負っているというだけのことですよね。そうだとすると,それだけで財産を特定の債権のために差し出したと言える,債権を特定の債権の満足のために差し出したとは言えないような気がいたします。 ○始関委員 それは多分,国とかを相手にする国際金融実務の一般的な考え方がどうであるかということにかかわっているのではないでしょうか。つまり,普通,国内の実務であれば一般の私人間ですけれども,その分は相殺できるという前提で取引をしているというのが日本の慣行だからこそ,最高裁は非常に広く相殺権を認めているのだと思うのです。それと同じことが外国に対して貸付をするときにも行われているのかということともかかわる問題かなと思うんです。どちらにしても条文でどうこうできる問題ではなくて,解釈問題になるのだろうとは思いますけれども。 ○道垣内委員 私も考えたことがない話ではありますけれども,すべては日本法が準拠だという前提で,日本法のもとでの解釈として民法第510条で差押禁止財産債権について禁止している趣旨と,ここで問題になっている趣旨は大分違うのではないか。弱者保護といいますか,生活に困る人の保護のようなこととは,ここでの問題は関係ないのではないでしょうか。また,もう一つの点として,主権免除条約はやはり国家権力からの免除の話なので,当事者間で行われる法律行為としての相殺,特に裁判外で行われる相殺については裁判からの免除ということとおよそ関係がないと思います。少なくとも裁判外で行われる相殺については関係ないと考えてもいいのではないかと思います。 ○中原委員 そのような解釈が一般的にされるのであれば,特段問題ないと思います。しかし,民法第510条に明文規定があり,しかも本条は強行規定と言われていますので,新法において原則として保全処分や民事執行できないとされながら,解釈上は相殺は制限されないというのは,実務を行う上で不安を感じます。 ○始関委員 そういう問題というのは,外交会議で議論は多少はされたのでしょうか。 ○河野委員 そこまで細かいところはしませんでした。先ほどのearmarkも含めてですけれども,この規定はもともと国家財産を一切差押えの対象にしたくないという国と,それと少しでも差押えの対象にしたいと思う国との間のある種の妥協の産物としてでき上がっておりますので,どちらかといいますと,裁判権免除よりも執行免除のほうを広く見たいという国の意見が強く,また,そちらのほうがどちらかといえばまだ支持を得たので,少なくとも(b)の規定に関しては,恐らく国家の名前になっている財産であれば,どれもこれも全部指定して執行の裁判をしてみようという裁判事例がありますので,そういうものを避けるために,とにかく何か印があるものをという意味で入った規定というふうに,少なくとも外交会議はそのくらいの合意で入っておりますので,具体的なそれぞれの法制の中で何をearmarkとするかというのは,恐らくそこまで突き詰めて交渉はしなかったと申し上げていいかと思います。 ○上原部会長 そういたしますと,事務局としても検討が十分でない問題でもありますので,この点につきましては,また再度,提案なり,説明をさせていただくということでよろしいでしょうか。   それでは第17を終えまして,第18に進みたいと思います。 ○飛澤幹事 要綱試案(3)の3ページから始まります試案第18について御説明いたします。   試案第18は,条約第19条(c)と第21条を合わせたものです。ただ,第21条1(c)については,試案第19で別途取り扱いますので,そこの部分は除かれております。   具体的にどういう規定かということですけれども,先ほどの試案第17では保全とか執行が免除されない場合の一つとして,同意又はそれに準ずるような類型が挙げられたところであります。それに対して試案第18は執行についてだけですけれども,同意がなくても執行が可能な場合について,試案第18の1で規定しておるところでございます。それに対して試案第18の2では,そういった同意がなくても執行可能な財産には該当しないものの例を①から③までで挙げているところでございます。   要綱試案(3)の4ページ(2)を御覧いただきたいのですが,ここは条約第19条(c)を受けたところでございますけれども,条約第19条(c)では「立証された場合」という言い方がされております。それに対して試案のほうでは「立証された場合」という言葉を入れておりません。その理由について,このアで説明しております。こちらに書いてありますとおり,条約第18条でも第19条でもよいのですが,(a)(b)(c)と並んでいたところ(c)にだけ突然「立証された場合」という文言が追加されました。しかしながら,追加された理由について特段の説明はなされておりません。そうであるとしますと,(c)についてだけ「立証された場合」という文言を入れる必要はないのではないかと考えまして,入れなかったということでございます。   それから,要綱試案(3)の5ページのイのところですけれども,従前から船舶のところなどでも問題になっております私法的目的あるいは私法上の目的という文言に関する話でございます。こちらにつきましても前回,船舶のところでも御説明申し上げましたとおり,やはり「商業的」という言葉は使いづらいであろうということで私法的,又はその亜種として「私法上の」といった言い方ではどうかという提案をしているところでございます。   次のウですけれども,条約第19条(c)を御覧いただきますと,財産について「法廷地国の領域内に存在すること」といった文言がございます。しかし,日本の民事執行の場合,その対象財産が日本の領域内にあるということは当然ですので,特段,この条約に規定されている法廷地国の領域内に財産が存在するといった内容の文言は入れなかったということでございます。   それから,エで記載したところが条約第19条(c)のただし書に対する規定の要否についてでございます。まず,条約第19条ただし書を御覧ください。「ただし,判決後の強制的な措置は,訴訟手続が開始された機関と関係を有する財産に対してのみとることができる」と仮訳ベースですけれども,そういった内容が書かれているところであります。しかし,日本ではこれまた当たり前のことで,普通,判決をとった被告とは全く別人格の人に執行をかけるというのは,当然できないことが前提となっておりますので,そうだとすると,この規定は特段要らないのではないかということで置いておりません。詳しい説明はエに書いたとおりでございます。   パブリックコメントの関係を御紹介いたします。部会資料7の15ページを御覧下さい。第17の四つ目の意見ですが,ここで「立証された場合」との文言がないので,入れたほうがいいのではないかといった御意見をいただいているのですけれども,特段この文言を書かなくても立証責任の一般原則から同様の結論を導けるということは,この意見を出された方自身,認識しておられるようでして,その一般認識については当方も共有するところであります。そうだとすると,特段,ここの部分だけに「立証された場合」という文言を明記するのは,主権免除に関する法律全体を見ましても,「立証された場合」というのは基本的によほどの理由がない限りは入れておりませんので,必要はないのかなと考えている次第でございます。   それから,同じく第18の関係について意見が一つ出ております。日本の裁判所への管轄合意のみで,裁判手続からの免除放棄と強制執行手続からの免除放棄の双方が確保されることが望ましいと考えるといった御意見なのですけれども,これは本条約自身が明文で禁じておるところでございまして,裁判手続の同意は,執行保全に対する同意を当然に意味するものではないといった規律を置いているところでございます。それは先ほどの試案第17の3で,その条約に対応する部分は規定しておるところでございます。したがって,御意見はいただいたのですけれども,この条約には明らかに反してしまうということで,受け入れ難いといわざるを得ません。 ○上原部会長 では,第18につきまして御議論をお願いいたします。 ○相関係官 要綱試案の5ページの上から2行目のイに関して,条約第19条(c)の「政府の非商業的目的以外の目的」に対応するところで,「試案第2の3で「私法上の取引」とした以上,「商業的」ではなく私法上の取引という文言を用いるのが相当である」と書かれているのですが,前回の部会のときには,この問題については今後も検討していただけるということで,結論的なことはまだ出ていなかったように思います。この部分につきましても,商業的取引というのも検討いただくという形で,残していただくことはできますでしょうか。 ○飛澤幹事 この執行の関係で商業という文言を使ってしまうと,内容が狭くなってしまうという懸念を抱いておるところでございます。ですので,この部分こそ「商業的」というのは難しいのかなと考えている次第でございまして,ある意味,ここから出発すると,むしろ船舶のほうも前回のお話ですと商業とは書きながらも,いわゆる本当の商のコアみたいなところよりかは広いといった御見解も出されていたところですし,そういったことを考えますと,やはり商という言葉を使わずに,私法といった文言で統一ができないかと考えている次第でございます。やはりこれもまた前回の議論でも出ましたとおり,できる限り,同じ法律の中では同じ文言を使いたいと考えておるところでございまして,そういった趣旨からもここは現段階ではこの私法といった文言を使って,他の場所と平仄を合せたいと考えておるところでございます。 ○相関係官 今後,ほかのところで例えば商業的という文言が仮に採用されるようなことがあれば,この部分も変わってくるということになるということでしょうか。 ○飛澤幹事 むしろほかのところで商業的と採用してしまうとこの部分で困ってしまうので,やはり商業的という文言を使うのはなかなか難しいのではないかと考えておるところでして,繰り返しになりますけれども,先ほど商といっても実際は船の世界ですら広いのだということであれば,この法律では私法という言葉を使いながらも,実質は本条約で言っているcommercialとは実質的な意味は変わらないといったほうを担保したほうがいいのかなと考えているところでございます。 ○道垣内委員 もしかすると,これは最大の問題かもしれませんし,これにとどまらず,本来は前回の議論の続きということになってしまいますけれども,よろしいでしょうか。最高裁は,私法上ないし業務管理的行為という表現を使っていますけれども,業務管理よりは私法のほうがいいだろうということで,研究会の報告書としてはそうなっています。ただ,外務省の方のお話とかを伺いますと,commercialという英語を完全に変えてしまって私法というのが問題だとすれば,妥協があるとすれば,民事又は商事と訳すことも考えられるように思います。   ある一つの英語を複数の日本語で訳すという例はほかの条約でも例はあります。例えば送達条約では,日本では送達と告知を分けているので,送達についてservice of processという英語を「送達又は告知」と複数の言葉で訳している例もあります。日本法で「商」という言葉では「民」との関係で限定的だというのであれば,そのcommercialは日本でいえば民事又は商事だという訳もおかしくはないし,少なくとも私法上よりは少し原文に近いのではないかと思います。これは,全体を最後まとめる際に決めると言うことになると思いますが,御検討いただきたいと思います。 ○飛澤幹事 実は,民事又は商事も第1回会議のときに御議論で出てきたので検討はしたのですけれども,送達条約では,民事又は商事という言い方をしていますが,これは英文自身がcivil or commercialという言い方をしております 。国内法上の用例として民事又は商事という,民事と商事を並べて使っているのはその条約の名前を引くときだけでして,それから概念的にも一応民事は商事を包含する概念ではないかと。そうしたときにそれらの文言を並べて書くということに若干違和感があるのかなという感じを持っているところでございまして,使えたら使いたかったのだけれども,なかなか難しい面があると現段階では考えている次第でございます。 ○佐野関係官 補足いたしますと,民事又は商事にする場合には,私法上の取引のところにも関係すると思うのですが,私法上の取引については今の段階では例示を置こうという意見が多数を占めております。民事又は商事の取引にもかかわらず例示を置くというのは,当たり前のことについて何か例示を置くことになるので,法律として違和感が生じてしまうという懸念もあるかと思っております。 ○河野委員 私も先回,先々回,それから研究会のときもどうなのだろうとずっと考えてはいるのですけれども,逆にもしできればまた次回まででも結構なのですが,いわゆる日本でいう公法上の行為にあたるもので物を買ったりとか,売買にかかわるようなものというのが全くあり得ないのでしょうか。   この条約で言っているcommercial transactionというときに,恐らく本質のところには何らかの形で物を買うとか,普通の人がやっていることと等しいものという考えがあるのだろうと思うのです。もしそうだとすれば,それをどういう言葉で考えるかというときの裏返しとして一つ考えなければいけないのは,公法上の行為で物を買ったりするようなことがもしあるのであれば,この条約が考えているcommercial transactionがその部分をどう位置づけているか,日本の法律の中でそれはどう呼ばれるのかということは考えざるを得ない部分であって,そこを少し御検討いただいたほうが,実際に本当にこの条約で外国政府に対してどういう保護を与えるかというときに,条約上,考えられていることをきちんと立法できるかどうかということは,そこにかかってくるような気がいたします。   先回も結局,non-commercialという言葉とcommercialという言葉の整合性が問題になっているわけですから,恐らく私法に対応するのが公法であるとすれば,今申し上げたような点が日本法の世界でどういうふうになっているのかを少し御検討いただければと思います。 ○阿部(潤)委員 今の点ですが,事務局で更に御検討いただくということなので,少なくとも議論の共通となるコアの部分がどういうものなのか,原案でいうと「私法的目的のみに使用されている財産」というときにそのコアの部分が何かについて確認ができていれば,あとは表現の問題と思うのです。典型的な財産としてはどのようなものが考えられるか,あるいは考えておけばよろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 ここで言う私法的目的のみに使用される財産ですが,例えば外国等が土地を持っていても大使館を建てるような敷地として持っている場合には,さすがに私法的目的で当該財産が使用され,使用されるべきものとは言いづらいだろうと思います。それに対して遊休地みたいな形で持っているようなものについては,なお私法的目的のみに使用され,使用されるべきものと言っていいのではいないかと,そんな考えを持っているところでございます。 ○阿部(泰)委員 そのこととの関係があるかもしれませんが,2の③の(ⅱ)の「科学的,文化的又は歴史的意義を有する展示物」ということなのですが,もちろん,販売されておられる,販売する予定はないと限定するわけですが,例えばいわゆる書画,骨董,美術品のようなたぐいのものはこれに入るのですか。 ○飛澤幹事 書画,美術品は入ります。ただし,展示物という制限はついておりますけれども。 ○始関委員 書画,骨董が入ると言われるけれども,あくまでも文化的とか歴史的な意義がないものは入らないということでいいのですよね。 ○阿部(泰)委員 ここで歴史的意義とか文化的意義と言っておりますが,例えば当該国と全く関係ない有償の美術品は入るのですか。 ○飛澤幹事 (ⅰ)ではあえて外国の文化遺産という言い方をしていますので,例えばイギリスならイギリスに由来する文化遺産ではないと駄目なのですけれども,(ⅱ)はそういった制限がありませんので,例えば,大英博物館にあるようなエジプトの遺跡から持ってきたようなものは,展示物であれば(ⅱ)のほうで読めると考えます。 ○上原部会長 第18についてほかにいかがでしょうか。 ○三木委員 5ページのエに関するところで,よく分からないので教えていただきたいのですが,「日本法の下では,債務者と別の法人格の者が有する財産に対して執行することができないのは当然のことである」という部分なのですけれども,ここで問題になる外国等というのはなかなか広い概念で,例えば主権的な権能の行使としての行為を行う権限を有する団体も入るわけですね。こういう団体が当事者になっていて,その団体の財産ではないけれども,主権的権限を行使する団体であるがゆえに国家財産にかかっていける,つまり,それは法人格が違うかどうかもあわせて教えてもらいたいですけれども,このような国家の機関とか団体が絡む場面では,ずれる場面というのが全くないのでしょうか。 ○飛澤幹事 ここで言っているのは単に訴訟の相手である被告になった団体と別の人格であれば,そこには執行できないのは当然だと言っているだけなのですが,何か問題になるケースがございますでしょうか。 ○三木委員 ある法人格者が有する財産以外のものにも執行できる場面が国家からの場面であるとすれば,こういう条約の文言というのは,限定にするために必要な文言になってくる余地があるのでしょうか。 ○始関委員 日本でそういうことがあるかということが問題だと思うのです。日本では私が三木先生に申し上げるのは誠におこがましいのですけれども,債務名義をとっているその債務名義の被告と法人格が別の者に対する財産には執行できないですよね。 ○三木委員 債務名義は団体や個人に出すのですけれども,そのものの責任財産が団体固有財産ではなくて,国家財産に広がるケースというのは全くないのかという趣旨です。 ○青山委員 今の点,私も気になったところなのですが,日本法では民事執行法では執行力の一定の拡張を認めています。当該債務名義に仮に日本法が適用になった場合にも,先ほどの判決で当事者になった者以外には強制執行できないということは当然だということを日本法で言って,その部分を落とした場合に,民事執行法のこれが適用されるようなことになるのかどうか。承継人とか三木委員がおっしゃったほかの人間に対して強制執行しているという,この日本法の解釈とどういうふうに関係するのかということをお聞きしておきたいのですけれども,日本が被告になったような場合に,民事執行法第23条の執行力の拡張が条約の文言を落としますと当然あることになりますが,それでいいのか,条約の文言を入れておくのが判決を受けた被告だけに対して強制執行をするという限定的な意味があるのかどうかという条約の解釈を伺いたいです。 ○飛澤幹事 先生の質問を完全に理解できていないかもしれませんけれども,基本的には承継執行文が得られるケースであれば,当然,執行は可能だと思っております。ただ,ここの規定がそもそもどうして置かれたかというと,本条約の審議過程において,国営企業を相手に訴えて,それで勝訴した後に政府の財産を押えようとかいった動きがあるのを中国等の国がすごく嫌いまして,そのようなことのないように確保するという趣旨で入れられたという経緯がございまして,そうだとすると,正に国営企業と中国国家とは,別法人なのは当たり前なことですので,日本では要らないかなと考えた次第でございます。   何ゆえ国営企業に対する判決で中国政府の資産を押えたいかといったような議論が出てきたかといいますと,過小資本の問題とかがありまして,法人格否認になるようなケースでは,国営企業のほうには全く財産がなく,勝っても判決が意味をなさない状態のときに,政府の資産にかかっていきたいといった要望がある一方で,そうされては困るといったせめぎ合いがありまして,そのため,実は,基本的には別法人に対して執行できないといった規定とあわせて,法人格否認の法理の適用までは排斥されるものではないといった点も,本条約の附属書の了解条項に明記されております。ですので,法人格否認が認められるようなケースにおいては,当然,中国政府と国営企業が同一の人格とみなされて執行できるという場合はあり得るのかもしれませんけれども,それ以外の場合には別法人に執行することは駄目だと言っておりますので,そうだとすると,日本では特段規定を設ける必要はないだろうと考えた次第でございます。 ○青山委員 分かりました。 ○河野委員 今,法人格が別だというのをすごく強調しておられると思うのですが,例えば地方公共団体と国の関係でも大丈夫でしょうか。いわゆる政府の一部とか,国家機関の場合に,独立した法人格がないので,国の一部ということになりますし,この条約はどうしても地方公共団体も免除の対象になる,国の一部だという位置づけになるわけですけれども,そうすると,例えばこの条約に書いてある規定で地方公共団体が訴訟の対象になったときに,国家財産に執行が伸びないという理解をしてよろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 要綱試案(3)の5ページのエでも触れましたが,この条約の附属書に第19条の規定に関する了解事項というのがついておりまして,そこで,ここで言う(c)のentityは,独立した法人格を有する者だと明記されております。したがって,あくまでもここでは,法人格が別の場合だけを考えているのだろうと思われます。ですから,本当に中央政府と地方政府が法人格が別ではないというケースがあるのかどうなのかは分かりませんけれども,こういった条約の書き方からして,万が一,人格が別ではないということであれば,机上の論理的な帰結としては,執行は当然可能になるという場合も出てくるのではないかと思っております。 ○始関委員 日本の地方公共団体の場合ですと,国とは別法人格と考えられていますので,日本で問題になるのは,外国の日本で言う地方公共団体に相当するようなものですけれども,それが日本の地方公共団体と同じようなものであるならば,恐らく別法人格という処理になるのではないかと思います。 ○上原部会長 何かありますか。 ○三木委員 今若干出たように,よく分からない点といいますか,あるいは外国にとってかもしれませんけれども,疑義が生ずる点がありそうなところなので,あえて条約にある表現を落とさなければいけないのでしょうか。注意的であってもそういう疑義の余地がありそうなところは入れておいたほうがいいのではないかと思います。こういう条約を踏まえた法律の場合は,やや注意的に置くという姿勢があってもいいのかなという気がいたします。 ○道垣内委員 どういう議論が研究会であったか覚えていないのですけれども,少なくともこの条文は非常にあいまいに書いてあるわけです。has a connection with the entityと書いてあって,owned by the entityとは書いていない。そこは多分,締約国に任せるという趣旨ではないかと思います。先ほど青山委員のおっしゃった民事執行法第23条が認めている範囲で日本はやりますということは可能でしょうし,ほかの国はもしかすると違うかもしれません。いずれにせよ,無関係な財産にはかかっていけないということを言っているのだと思われますので,このまま条文化というのは難しくて,書くとすればこの関係をもう少し書かないと,日本法としては民事執行法との関係はどうなるんだということになると思います。書くまでもないという結論もあり得ると思います。 ○山本委員 先ほど青山先生が執行力の拡張の話はどうなるのかと御質問されたことを自分なりに考えてみたことですけれども,そもそもAという人が債務者である債務名義に基づいて,いきなりBという人の財産を差し押えることはできない。これは日本法の構造としては当然ですが,しかし,日本の民事執行法の定めによって,その承継執行文付与の申立てをする,証明文書がなければさらに承継執行文付与の訴えをする,この申立て,訴えの手続というのはここで言うところの正に裁判手続なんですよね。そこで名宛人とされているのは,Bという別人格者であって,その別人格者に対して執行文を付与してよろしいという判断が出たら,今度はBという人あてに新たにある種に債務名義の流用が認められて,強制執行が可能になっていくということなので,ですから,結局,要らないことなのではないかなと。承継執行文付与の申立て,付与の訴えというのは正に裁判手続が開始された機関になるわけで,承継執行文の問題をそれほど懸念されることはないのではないかと思っております。   厳密に申しますと,書記官が付与する手続を裁判手続というのかと言われると,懸念がないわけではないかなという気はしますけれども,最終的には執行文付与の訴えによって担保されている制度だということになりますから問題ないものと考えます。 ○上原部会長 ほかに第18につきまして御意見はございますでしょうか。   それでは,ここで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○上原部会長 では,再開いたします。   続きまして第19,外国の中央銀行等の取扱いというところに入ります。   事務局から説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,要綱試案(3)の5ページから始まります試案第19を御覧ください。   外国の中央銀行又はこれに準ずる者の財産については,先ほどの試案第18の1で言うような財産には当たらないということを特別規定したものでございます。何ゆえ,この試案第19の部分を試案第18と分けて規定したかという理由を,要綱試案(3)の6ページの2に書いたところでございますけれども,実は条約は試案第19の部分も試案第18の2の並びで規定しております。   ただ,日本法で本条約のような規定振りにしてしまいますと,中央銀行が外国等に当たる場合だけしか,その資産について免除されるといった規律が及ばないのではないかといった懸念がございましたので,そういった懸念を避けるために,あえて別に書いた次第です。それで,実際,この条約自身,これまでの審議結果等を見ますと,やはり中央銀行の財産については基本的に絶対免除なんだという趣旨でこの規定を設けたといったところが看取されますので,そうであるならば,それについて紛れがないようにしたという次第でございます。   次に,この試案第19に関するパブリックコメントについて言及させていただきます。部会資料7の16ページを御覧ください。   一つ目の意見は,中央銀行資産の取扱いについてはこのとおりでよいということですので,そういった御意見として承ります。   二つ目と三つ目の意見は,国際決済銀行の取扱いについての意見でございます。国際決済銀行,いわゆるBISについても中央銀行と同じ取扱いにするべきではないかといった意見でございます。   しかしながら,この意見について若干コメントさせていただきますと,やはり国際決済銀行というのは多かれ少なかれ国際的な要素を有する機関でございまして,国家の主権免除といった問題にしているときに,そのような国際的な要素の団体についての裁判権免除とか,執行免除といった問題を入れますと,やはりこの法律の仕切り,さらに言いますと,この法律のもとになった条約の仕切りとは,少し違ってきてしまうという懸念がございます。そういったわけで,事務当局としてはBISを中央銀行と同じ取扱いにすることは難しいのではないかという見解を持っておるところでございます。   四つ目の意見である銀行勘定についてですが,銀行勘定については実際,条約では例示として明文で書かれておりますが,特段,銀行勘定だけ国内法で出す必要もないだろうということでカットしていたところでございますが,これについて入れたほうがいいのではないかという御意見です。ただ,今申し上げましたとおり,銀行勘定だけ特出しする法制上の必要もないのではないかと現段階では考えておりますので,これについて入れなくてもいいのではないかと思っております。   それから,また公的任務の目的と私法的目的に併用される銀行勘定が執行対象となるかどうかについても,明確にすべきであるという御意見をいただいておりますが,この点につきましては現在の条文のつくり,これはむしろ試案第19というよりも試案第18の1を御覧いただきたいのですけれども,私法的目的のみに使用される場合には,裁判権から免除されないと言っておいて,試案第19では,そういった財産に当たらないといった言い方をしています。ですので,私法的目的のみに使用されているかどうかということを基準としておりますので,こういった公的任務目的と私法的目的が併用されている場合には,ここで言う私法的目的のみには該当しないと仕切れるかと思いますので,この点は明確になったのではないかと思っております。   最後に,ソブリン・サムライ債の関係の御意見をいただいておりますが,この点につきましては,正にここで書かれています債権者が訴訟を提起して勝訴した場合に,当該債権者がニューヨーク連邦銀行とか日本銀行に存在する,ソブリン・サムライ債の発行国の経済的取引に使用される資金を押えられるかどうかということですが,これが預金債権の形であれば,当然預金債権の差押えですから差し押えられると思うのですが,既に中央銀行がほかの財産と区別することなく,混蔵的に保管しているような資金については,押えることは無理であろうといった考えを持っているところでございます。   試案第19関係は以上です。 ○上原部会長 それでは,第19につきましてお願いいたします。 ○信森幹事 幾つか発言をさせていただきます。   まず,質問です。   「外国の中央銀行又はこれに準ずる者」という言葉が用いられております。一方,条約ではcentral bankとmonetary authorityとあった部分について,報告試案でも中央銀行その他の金融当局の財産ということで,金融当局という言葉を使われていました。今回,準ずる者というふうに変えられたのは,中身として変えられる趣旨なのでしょうか,それともあくまでも法制執務として,こういう用語のほうが適当とお考えになられたのでしょうか。   それから,もう一つ,これもパブリックコメントに出させていただいたのをあえてもう一言申し上げたいのですが,BISについては,今回の対象外というお話でしたけれども,そうであるとすると,法務省事務当局としてはBISは国際機関であって,国際法主体性があるとお考えになられているということで理解してよろしいのか,この二点について確認をさせていただきたいと思います。 ○飛澤幹事 まず,「これに準ずる者」ということですが,条約では通貨当局あるいは金融当局と書いておりますが,それを意味するために書いております。実は国内法上の用例として,金融当局とか通貨当局といった用例がございませんでした。これに対して,こういった「中央銀行又はこれに準ずる者」という言い方が表現としてはございましたので,こちらでも同じことを意味するので法制上は書きやすいのではないかということで,現段階ではこういった言葉を採用しているところでございます。ただ,何分法制的な書き方の問題ですので,今後,なお検討はしていきたいと思っておるところです。   それから,BISの関係ですけれども,BISに国際法主体性があるかどうかについては,事務当局としては確固たるお答えをすることは難しいかと思っておりますが,少なくとも一国の機関ではないであろうと。やはりいろんな国の中央銀行の集まりだという理解からすれば,国際的な要素は持っているのではないかと考えている次第でございます。ですので,BISが国際法主体性を持っているかどうかについては,当方で明確なお答えを出すことは難しいのではないかと思っております。 ○信森幹事 第一点目に関しましては,法制の言葉の用語だと思いますので,今の御説明で理解いたしました。   一方で,後者についてはこういう席で個別の組織についてどこまで議論させていただくのがいいか,少し迷うところではありますけれども,国際法主体性があるかどうかというのは,BISの重要性にかんがみますと,非常に重要な問題だと我々は思っております。今回の案を作る上で参考とされた日本銀行法第40条「外国の中央銀行又はこれに準ずる者」に近い箇所で,国際機関は「我が国が加盟している国際機関をいい,国際決済銀行を含む」という「含む」という用語を使って,国際決済銀行を含めています。これは,明確には国際機関では必ずしもないかもしれないものを入れた用語法と,私どもでは聞いております。そうした位置付けを踏まえますと,国際機関かどうかというのをここではっきりしていただいたほうが,今後,この問題を各関係省庁で議論していただくときに重要だと思っています。このため,外務省も含めて,国際機関なのかどうなのかというところについて,一通りの御見解をお聞きしたいのですが。 ○山本委員 BISが国際機関であるのかないのかということをここで議論することの意味が私にはよく分からないです。そもそもここで検討しているのは,主権免除条約の国内担保法なわけで,一方で国際機関であれば,この条約の対象外であるということは一応確定していますが,しかし,国際機関ではないとしても,この条約の適用対象とされるためには,先ほどの国の中央銀行か,国の金融当局でなければならないし,執行免除との関係ではそうでなければならないし,それから裁判権免除との関係では国の主権的権能を行使する中央銀行でなければならないわけです。そのいずれも恐らくBISは当たらないだろうと思いますので,この場でBISが国際機関かどうかということを議論することに,私はどういう意味があるのかちょっと分かりません。 ○信森幹事 おっしゃるとおり,私もあえて,この場で,国際決済銀行が国際機関か否かを直裁に議論していただく必要はないと思う面はありますが,一方でパブリックコメントの中でBISは自分たちが,国家的な機関だという主張をしているので,そういう意味で裏返しの問題としてはあるのかなと思っております。 ○道垣内委員 国際決済銀行がどういう法人なのかについて,資料がないので,議論しても余り意味がないかと思いますけれども,中央銀行とかmonetary authorityであるための要素というのは何かあるはずで,その要素が国際決済銀行にどれくらいあるのかということを比べるべきだろうと思います。そうではないと水かけ論といいますか,よく分からないまま議論することになってしまいます。   それから,先ほどおっしゃった中に,一つの国家の機関でなければいけないということをおっしゃったようにも思うのですけれども,複数の国が一つの中央銀行を持つ,あるいはそれに類するものを持つことはなくはないのではないか。要するに主権の一部を供出するということは,しかも外交権とか軍事権についてはありますね,幾つかの国は例えば合衆国に任せるという。例えばプエルトリコとかが中央銀行を独自に持っているのか,あるいはアメリカの中央銀行にゆだねているのか,よく承知しておりませんが,そのような場合を排除することまでの趣旨ではないのではないでしょうか。単数でof the Stateと書いてありますけれども,必ずしも単数の国の機関ではなければいけないとはいえないのではないのでしょうか。   そうすると,BISについても複数の国の中央銀行的な,あるいはmonetary authorityのような機能を果たしているのであれば入り得るかもしれない。先ほど申しました要素を比べる必要があると思いますけれども,複数の国を排除する趣旨かどうかというところをもし何か資料があるのであれば,教えていただければと思います。 ○飛澤幹事 複数の国が一つの中央銀行を持つことというのが直ちにどうかというのは,今,断定的なことは申し上げられないのですけれども,基本的にはこの条約の仕切りというのがやはり主権の平等とかと言っていますので,国家対国家,もちろん,その国の定義で附属みたいなのを含んできますけれども,そういったいわゆる古い国家観を前提として,一対一の対応関係を前提として出発しているのかなという感じはしておりましたので,そこからすると,やはり国際的な要素を持つものをこの条約あるいはこの法律の規律に取り込むことには違和感があると言わざるを得ません。 ○河野委員 少なくともどういうものを念頭に置いて条約を作ったかといいますと,まず,最初の基準として国家とその国家に関連する機関がまずこの条約のもとでの保護を享受する。そして,その機関がどういう行動をしているか,どういう財産を持っているかによって,若干保護が受けられない場合もあるのだろうという制限を設ける,例外を設けるという条約の作りになっているとしますと,単に機能が中央銀行的なというのだけで,この条約の適用範囲にするというのは,趣旨が若干違うのではないかと思います。   BISが国際機関かどうかにつきましても,国際機関という言葉は国際法上は非常に定義が難しくて,教科書によって国際機関を全部包含するような定義がなかなかできないというのが定説であるとすれば,国際機関そのものをどう定義するかということをここで議論するのは,学問的にも,実質的にも意味のないことだと思います。むしろ考えるべきなのは,今回の法律自体では恐らく対象にならないとしても,そういう実際的な必要性が今は生じていて,日本はそういう実際的な必然性を目の前にしているわけで,そうした事態について,日本の法制度がそれらの事情のすべてに対応できていないという現実があるのだとすれば,別途考えるべき問題であると思います。ただし,それを今回の法案の中で考えるというのは,若干筋が違うのではないかと思います。ただ,法的な対応が必要でないかという議論は全く別問題で,法的対応は必ず必要なわけですから,それは別途きちんと考えるべきだとここでは認識すべきではないかと思います。 ○山本委員 先ほどの私の発言は,今回の立案があくまで主権免除条約の国内担保法であるという前提で申し上げたことでありまして,それとは別枠の法律で現実の必要性に応じて,BISに主権免除の特権を与えるかどうかを議論する必要性自体を否定するものではありませんし,むしろ必要性はあるだろうと思っています。ただ,この条約の国内担保法の議論としてそれを語るのは,少し趣旨が違うという趣旨で発言をいたしました。その意味では全く今の河野先生の発言と同じであります。 ○阿部(泰)委員 そうであるならば,例えば国内法の附則にそういう規定を置くことも,十分考えられるのではないですか。 ○始関委員 附則というのは,経過措置などを置くところでして,BISに裁判権免除がどのような場合に認められるのかというのは正に本則で規定すべきものです。先ほど来いろんな方がおっしゃっているのは,ここでは主権免除とか国家免除と言われるものについての法律をつくろうという議論をしていますので,しかもBISというのはそういう主権免除とか国家免除という枠から外だということですので,BISについて何らか裁判権免除についても規定しなければいけない,恐らく裁判権免除だけでいいというわけではなく,ほかにもいろんなことがあるのだろうと思うのですけれども,それ用の別の法律なのか,条約なのか分かりませんけれども,そういう別のものでやらないと,そもそも枠が別の枠の問題ということになるのではないでしょうか。 ○上原部会長 BISの問題につきましては,ほかに御意見はございますか。   その点以外に第19につきまして,なお御意見のある方はお願いいたします。特にございませんようでしたら,次の第20に進みます。 ○飛澤幹事 それでは,要綱試案(3)の6ページから始まります試案第20の説明に移ります。   そもそも試案第20はどういうことを定めたかということですが,条約第22条に準拠いたしまして外国等に対して裁判手続を開始する文書,訴訟であれば訴状,そのほかの裁判手続であれば申立書,あるいはそういった期日の呼出状,送達方法について定めているものでございます。   7ページの(2)ですが,条約第22条1に対応する規定の要否ということでございますけれども,説明にも書いてありますとおり,外国等に対する訴状等の送達方法について規定した条約の締約国に対して,当該条約に規定されていない方法による送達を行うという本条約違反の事態が生じることを避ける必要があるために,条約第22条1の(a)と(c)に対応する規定を置くこととしております。これに対して,条約第22条1(b)の部分でございますけれども,これについてはここにも記載しておりますとおり,我が国の法令上は送達と認められていないことなどの理由等から,規定を置く必要はないと整理したところでございます。なお書き以下は,22条1(c)(ⅱ)の例について御説明したところでございますので,お読みいただければと思います。   8ページの(3)でございますけれども,条約第22条3に対応する規定の要否ということで,試案第20の3を御覧いただきますと,ブラケットを付しております。ここの部分ですけれども,(3)で書きましたとおり,条約自身,if necessaryという書き方をしておりますが,訳文添付が我が国と当該外国との間で条約で要請されている場合,あるいは個別の応諾に応じて送達を行う場合,その他,個別の応諾の条件として訳文の添付を要求された場合,さらにはそういった個別の応諾も条約もないのだけれども,外交上の経路を通じて送達する場合に訳文をつけてくださいと言われたようなときなどはif necessaryに当たるのではないかと思います。こういった事例にかんがみますと,条約第22条3に対応する規定は,何らかの形で設ける必要があるだろうと考えております。   それから,条約第22条3は,公用語が複数ある場合にはそのうちの一つの公用語で翻訳すれば足りるという意味もございますので,その点もやはり規定を置いておいたほうがいいだろうと考えているところで,そういった内容を含めたものが要綱試案第20の3で記載されているところでございます。   ただ,このような内容につきましては,果たして法律で書くべきか,あるいは規則で書くべきかといった問題点がございます。事務当局としましては,こういった送達方法についてのある種細則のような内容でございますので,基本的には,例えば,送達に関して必要な手続は規則で定めるといったような委任規定を法律に置いておいて,試案第20の3でブラケットで書いてあるような内容の規則,この場合は最高裁規則になると思うのですけれども,そのような規則を設けるのが相当ではないかと思いますが,なお,法律事項とするか,規則事項かについて御意見があれば承りたいと思っているところでございます。   試案第20については以上でございます。 ○上原部会長 それでは,まず第20の全体につきまして御意見を伺いまして,最後に3について規則事項という提案についてそれでよろしいか,御意見を伺いたいと思います。 ○阿部(潤)委員 確認ですが,第20の1,②の最初の(ⅰ)の送達の方法で,当該外国等の外務省に対してする方法というのが規定されています。具体的には,受訴裁判所から最高裁判所,最高裁判所から我が国の外務省,我が国の外務省から当該外国の外務省にという流れというのを想定しておけばいいのでしょうか。   もう一つは,3についてなのですが,8ページの(3)のところのif necessaryの例示ですがパブリックコメントのときよりも広がっているような気がいたします。パブリックコメントのときには,訳文添付が条約で要請されている場合と,個別の応諾に応じて送達を行う場合において応諾条件になっている場合ということが挙げられていたかと思います。外交上の経路,先ほど申し上げた(ⅰ)の送達方法に関連して,当該外国から要請されたときもいわゆる翻訳文の添付が必要な場合に当たるという部分は,パブリックコメントのときにはなかったかと思うのです。ここはお考えが変わったと理解すればいいのか,あるいは条約自体がやはりそこまで要求しているということかを教えていただきたいと思います。   実は,民訴条約とか送達条約で,被告たる私人が外国に居住している場合の訴状の送達にはやはり必要な場合には翻訳文を添付するというのが規則上決まっています。ところが,規則で決まっているにもかかわらず,翻訳文を添付するコストが非常にかかるものですから,実務の第一線では,ここの必要性について,当事者と裁判所との間でもめることが少なくないのです。ですから,できるだけ明確にしておいた方がいいと思うのです。条約がある場合は全然よろしいわけですが,当該外国等から要請されたときというのは,逆の当事者サイドから見てしまうと,実はこの場合には外国というのは一方で送達のルートでありながら,他方で相手方当事者になっているものですから,相手方当事者が添付して欲しいと求めてきたら必ず翻訳文を添付するのかと言われたときに,どのように説明するのかということが関心なのです。   外交上の経路を通じた送達のときに,相手方当事者から要求されたら翻訳文を添付するというのもやはりif necessaryに入ると,条約自体が理解をしているのかどうか,あるいは条約の理解からはそこまでは要求されないが,今回,パブリックコメントよりも一歩進んで,その場合にも添付が必要とするのが適当であるというお考えなのか,その点を確認させていただきたいと思います。 ○飛澤幹事 一点目についてですが,基本的にそのとおりだと思います。恐らくルートとしては,受訴裁判所,最高裁判所,日本の外務省,それから当該外国にある在日大使館か領事館,そこから恐らく相手国の外務省に行くというルートになるのかが一般的かと思われます。 ○北村関係官 二点目ですけれども,確かに担当者試案を公表した際には,if necessaryの解釈として,条約等で要求されている場合,更に個別の応諾でも相手国から要求された場合には,それが応諾の条件になっているので,それをif necessaryと呼んでいるのだろうと理解をしていたところです。ただ,改めてこういう規定を置いてみたとき,また,条約の条文を卒然と読んだときに,if necessaryと書いてあるのをそう狭く解せるのか,if necessaryと書いてある以上は,相手国から要請された場合も当然,ここはif necessaryに入ってくるだろうという理解に至ったため,今回,提案を変えさせていただいたということになります。 ○阿部(潤)委員 今の点なのですが,具体的な送達実務に必ずしも通じていないものですから,誤解があるのかも分かりませんが,個別の応諾というのは送達するかどうかの場面であって,それがなければ送達できないわけです。ところが,外交上のルートを通じて送達するというのは,そのようなルートは一応確保されていると見ておけばいいわけでしょう。そうすると,例えば,訴状を例にとると受訴裁判所から最高裁判所,最高裁判所から我が国外務省,我が国外務省から当該外国の外務省に行くというルートを考えたときに,当該外国が翻訳文を要請するというのはどの段階で分かるのかという問題があります。送達するときに必要とされているのですから,後から必要であると分かったというのでは本来駄目なはずですね。受訴裁判所としては,訴状が提出されたときに翻訳文の添付を求める,翻訳文が添付されてから送達に入るという話になるので,ここの当該外国から要請があったというのはいつの時点になるのかは気にはなるところです。後から当事者に翻訳をさせるというのはなかなか難しくなってくるので,他の例示はよく分かったのですが,この最後の相手国から要請された場合というのが,具体的場面も考え見ると,やや広いのではないかという印象があります。 ○北村関係官 やはりif necessaryと書いてある以上は,送達をする場合にはif necessaryの場合には付けなければならないと条約上要請されている以上,それは追完することにならざるを得ないのではないかと理解しております。 ○阿部(潤)委員 そうすると,3番目の例というのはあくまで追完のパターンという話になってしまいますが,それでよろしいのかどうか。あと少し気になるのは,第21条のところの説明では,送達の有効要件となるというような書き方がされているので,非常に大事なことだと思うのです。最初の時点で翻訳文を添付させるのはいいのだけれども,後で追完する,追完しないで当該外国の外務省に書類が届いているのに,送達の効力に差が出てくると相当大きな問題になります。第3番目の例というのは,やはり条約上,要求されていると見るのかどうか,そこが私は分からないところであります。 ○始関委員 この問題に限らないのですけれども,この条約のコメンタリーは,それほど詳しく書かれておりません。ですから,if necessaryがどこまでかということなど,我々実務家レベルで知りたいことが全部書かれているわけではないものですから,はっきりしないところがあるのですけれども,余り狭く解しても外国が受け取ってくれないということになりかねませんので,実務では外務省を通じて大使館,領事館に渡すことになるのでしょうけれども,そのときに訳文がついていないから受け取れませんと言われるのではないかと思うのです。そうなれば外務省も戻さざるを得なくなるので,そこでつけてくれということになるのではないでしょうか。そうなったら,送達したいのならつけろ,駄目なら却下だということにせざるを得ないのではないでしょうか。 ○阿部(潤)委員 それは分かるのですけれども,今回,例示として,パブリックコメントから一歩進んだ解釈を出されているので,それが条約の理解としてコンセンサスが得られているのか,条約からはやはりそこまで求められているというところをお考えなのかどうかなというのを確認したかったのです。 ○北村関係官 パブリックコメントの段階では,if necessaryを狭く解していたのですけれども,やはり条約を読んで,改めてコメンタリーを読んでも詳しいことは書いていない。そうすると条約を国内法で担保するためには,もう少し広く考える必要があるのではないかという考えに至ったため,今回,提案を変えたということになります。 ○朝倉幹事 現在の司法共助の実務からしますと,この条約に基づく法はまだないですから,送達条約などに基づいて行うことが普通なわけですが,特例規則では先ほど阿部委員がおっしゃられたように,「必要があるとき」というのが第2条第2項にございます。その実際の運用については最高裁の基本通達というのがあり,それによると在外領事等に対する送達の嘱託の場合には,「嘱託をする裁判所は,送達すべき文書に,送達すべき地における公用語又は送達を受け入れるべき者が解する言語によって作成された翻訳文を添付する。ただし,送達を受けるべき者が日本語を解することが明らかな場合には,翻訳文の添付を要しない。この場合にはその旨を嘱託書に付記する。」となっております。   実際には相手が日本人若しくは日本語が分かる人だという以外の場合には,必要だという判断のもとに,すべて翻訳文をつけるというのが実際の運用です。そうすると,if necessaryの解釈として,実は通達により日本語を解しない人の場合は基本的に necessaryだという前提で実務が今行われているわけですが,仮に後で規則を作るということになりますと,今の試案の解釈だと,そうではなくて,まずは日本語でやってみろと,外国から翻訳文が必要だと言われたらif necessaryだからもう一回翻訳文とともに送達し直すということになるのでしょうか。   つまり,if necessaryの解釈がパブリックコメントのときと今は違っており,印象からすると,半歩前に行っている気がいたします。そして,現在の実務ともちょっと違う。そうすると現在はif necessaryを解釈して,翻訳文を一律に付けさせていますが,相手が日本人でなければ,一律ではないということになると,現場で「必要があるとき」に当たるかどうかについてせめぎ合いが起きてしまうということになりかねないのかなという印象を持ったのですけれども,その辺は後に議論することになるのですかね。 ○始関委員 議論が後になっているのですけれども,3のブラケットの部分を法律に書くかどうかという問題とも絡む問題だと思うのです。法律に書くとするならば,条約が「必要があるときは」としか書いていないので,しかも解釈が必ずしも余りはっきりしませんから,「必要があるときは」のまま規定せざるを得なくなって,そうすると,8ページに書かれているように考えないと,もしかしたら不都合な状況が生じるかもしれないということになるわけなのですけれども,規則で書くのであれば,条約が要求している以上のことを要求したって別に構わないはずなので,必ずつけろとしても構わないのではないでしょうか。 ○朝倉幹事 始関委員がおっしゃるとおりだと思いますが,立法の趣旨に関する解説文がある場合,規則でもともとの立法趣旨以上のことをやるのかということになってしまうものですから,そういう意味では後で議論すればいいことなのかもしれませんが,理解としては先ほど阿部委員がおっしゃられたように,明確にしておいていただいたほうが本来はいいのかもしれないと思いました。 ○阿部(潤)委員 余り議論を錯綜させたくないのですが,やはり対国家ということが前面に出て,対私人のところとは違うという感覚を当事者サイドは持っているのですね。先ほど朝倉幹事が言われたように,私人である当事者が日本語を解さないのだったらしようがない,それはいいと。ただ,国家 だろうと言われたときに,if necessaryというのがどの程度の必要性をいうのかを巡って第一線としてはせめぎ合いがあるものですからね。ただ,国家のときは全部添付する,私人のときには添付しなくてもよい場合があるとして穴があいていてバランスがいいのかどうかは,重々,議論しなければいけない点があると思いますので,今回,私の印象からすると,パブリックコメントにはなかった例示が忽然と出てきたものですから,ここのところはそれなりの論拠があるのかどうかに関心があったということでございます。 ○上原部会長 この送達の問題につきまして何か御意見はありますか。 ○中原委員 後で追完するということであれば,時間をまた要することになります。であれば,最初から添付が必要であると言ってもらったほうが,利用する側とすればやりやすいと思います。 ○上原部会長 そういたしますと,if necessaryの解釈あるいは条約の前提になっている考え方が必ずしもはっきりしない中で,本日の議論としましてこれが規則でいいのかどうかということも,議論がしにくいように思いますが,いかがでしょうか。規則にするにしても,それなりの内容的なイメージを持った上で,ここでまとめなければならないわけですが,何かその点につきましてなお意見のある方はございますか。 ○三木委員 規則事項でもいいかということの確認ですが,送達はもちろん裁判権の行使であり,権力行為なのですが,これが送達の有効要件だとすれば,規則でいいということにはならないのではないでしょうか。 ○始関委員 そんなことはないのではないでしょうか。法律で定めるか,規則で定めるか,どちらであってもきちんと定まっていれば,それで条約は担保されているはずですし,それを満たしていなければ駄目だということになるはずです。 ○三木委員 当事者の権利を奪うような国家による裁判行為は法律事項ではないですか。 ○上原部会長 そこは訳文の添付がどの程度の重みを持つ事項なのかという,その判断にかかるのではないでしょうか。 ○三木委員 おっしゃるとおりで,阿部委員の御質問とも関係しますけれども,普通に相手が私人であれば,卒然と考えれば権利にかかわるとも思えますけれども,国家なので考え得る最も巨大な組織ですから,訳文がないだけで権利を奪う行為と言えるかどうかというところが問題になるのかもしれません。 ○上原部会長 青山委員,どうぞ。 ○青山委員 民事訴訟手続に関する条約等の実施に伴う民事訴訟手続の特例等に関する規則との並びでいうと,これは規則事項にしても十分対応できるのではないだろうかと思います。現在の最高裁規則もここで対象としているような条項も,文書の翻訳文を添付するかどうかということについても含んでおりますので,規則事項にしておかしい事項ではないと思っています。 ○三木委員 付け加えますと,条約にある規定との関係なので,先ほど始関委員がおっしゃったようにコメンタリーなどに全部書いてあるわけではないですけれども,要は条約の訳文添付の規定が当該国家の権利として規定されているものかどうかにかかわるのだと思います。つまり,既存の国内法の解釈と同じとは限らないわけです。条約が裁判を受ける権利の一つとして当該国家の裁判を受ける権利なのか,その他の権利か分かりませんが,一種の権利性のあるものとして置いているのかどうかにかかわるのではないかと思います。 ○上原部会長 ほかに何か御意見等ございますでしょうか。 ○青山委員 別の点でございますけれども,第20の1の①条約その他の国際約束で定める方法と包括的に書いてございますが,これですと,例えば今の送達告知条約の10条(a)という条項,つまり日本の国を相手に訴訟をするのに,外国の例えばアメリカの私人,企業が郵便で送達をしてくるという方法も認めているわけですね。日本はそれを拒否していないということですから,こういう送達をこのままですと認めることになる。私は今度の条約についてはこれはこれでいいにしても,この機会に民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約第10条に「名あて国が拒否を宣言しない限り」というのがありますが,拒否の宣言はいつまでにしなければいけないということではないと思うので,この際,ただ,郵便を出せばいいという形の送達を日本でそれは拒否するということをこの条約を立法する際に,あわせて検討するということは不可能でしょうかと。もしできるならば,そういうことを検討していただきたいと思います。 ○朝倉幹事 その点について補足の説明ですが,(a)について我が国は拒否の宣言をしていないのですけれども,我が国に対する郵便による直送に送達の効果を認める趣旨かどうかということについては,平成元年4月のヘーグ国際私法会議特別委員会で,郵便による直送が送達として有効であることを認める趣旨ではなく,郵便による直送が我が国の主権を侵害することにはならないという意味にすぎないことを表明しております。それで一応はカバーされているのかなと思うのですが,それ以上にということでしょうか。 ○青山委員 それであっても,なおこれで送達としての効力があるので,きちんと応訴しなければならないかというのを,今度は国の場合は幾らでも拒否できるにしても,企業がこういう形で外国から裁判所も全然通さないで来たと。これを応訴しなければならないのかどうかということに対して,やはり判断が迷うわけですね。だから,今のヘーグ国際私法会議の平成元年のそういう日本の表明以上のことが今回できないかどうかということを申し上げている次第でございます。 ○始関委員 その問題はこの条約の締結とか,あるいは国内法の制定とは少し違う問題ですが,関連があるという御指摘はそのとおりかと思いますので,並行して検討はさせていただきたいと思いますけれども,外務省とも御相談しなければいけない問題であり,(b)と(c)は拒否宣言をしたけれども,(a)はしなかったことが不当だったのではないかという御指摘を多々昔からいただいていることは重々承知しておりますけれども,さりとて(a)を今さら拒否宣言するのは,外交儀礼上いかがなものかということもあって,平成元年に先ほど朝倉幹事が読み上げてくださったステートメントが出されたと承知しておりますものですから,拒否宣言を今さらやるのかという,ややかこつけてやるということを御提案いただいているんだと思いますけれども,ちょっと別途検討させていただくということでよろしいでしょうか。 ○青山委員 はい,結構です。 ○上原部会長 それでは,第20につきましてよろしいでしょうか。   では,第21に進みます。 ○飛澤幹事 それでは,要綱試案(3)の8ページ,試案第21について御説明いたします。   試案第21は,条約第23条に準拠いたしまして,外国等が口頭弁論期日に出頭しない場合に,欠席判決するための要件,あるいは欠席判決についての送達方法とか,欠席判決に対する控訴の期間の特例について定めたものでございます。   条約第23条1(a)についてはここで書きましたとおり,いずれにせよ,前条1,3を受けているものでございますので,いずれも置かないと整理したものでございます。   それから,(3)の条約第23条1(c)に対応する規定の要否でございますけれども,これにつきましてもここに書きましたとおり,裁判権の存在というのは訴訟要件でございますので,特段,国内法で条約第23条1(c)に対応する規定を置かなくても,十分,その趣旨は全うできると考えておりますので,その旨の規定は入れなかったということでございます。 ○上原部会長 では,第21についてですが,いかがでしょうか。 ○三木委員 確認ですが,3の控訴というのは異議申立てなどは意図的に外しているという理解でよろしいわけでしょうか。 ○飛澤幹事 なお検討させていただきます。 ○上原部会長 ほかに何かございますでしょうか。 ○道垣内委員 3のところで「控訴」と書いていますけれども,控訴だけでよろしいのでしょうか。上告等,上訴全体を含まなくていいのかどうかなのですが。 ○北村関係官 確かにどこまで含めるのかということも検討はしたのですけれども,まず,前提としまして,基本的には日本法で言ういわゆる欠席判決と呼ばれているものについて,控訴でもいわゆる欠席判決があり得ることは承知はしてはいるのですけれども,基本的にこの条文としては,外国が知らないときに知らないうちに判決をされた場合に,その外国が不服を申し立てる期間を確保しようという趣旨だという理解をしていますので,それであれば控訴の特例を定めておけば十分ではないのかなという,正にそこを確保すればよいのではないかという理解で,ここは「控訴」と書いた次第です。 ○山本委員 先ほどの異議申立ての話とそれから道垣内先生の上告の話で思い出したんですけれども,例えば特許無効審決の取消訴訟の一審である東京高裁において,被告外国が欠席するということが万が一にもないとは限らないような気もします。 ○青山委員 英文どおり取消しを求める申立てというのではいけないのでしょうか。控訴というと随分狭くなったなという感じがいたします。判決の取消しを申し立てる申立てという言葉だと,日本語にはぴったりしないでしょうか。御検討いただければと思います。 ○飛澤幹事 検討させていただきます。ただ,取消しを求めるというのを書かなかったのは,やはりこちらで考えている欠席判決,いわゆる英米法系のデフォルトジャッジメントとしての欠席判決の故障申立てみたいなものを想定して取り消せるとかと考えているのとは,日本にはそういった制度がないので,やはり日本で欠席判決に対する不服申立てというのは,基本的には上告とかというのはありますけれども,基本は控訴だろうなと考えたので「控訴」と書いた次第です。しかしながら,先ほど手形判決に対する異議の申立ての問題もあるのではないかなどの御指摘を受けておりますので,なお検討したいと思います。 ○上原部会長 それでは,最後の第22にまいります。 ○飛澤幹事 試案第22は,要綱試案(3)の9ページになります。これは条約第24条を受けたものでありまして,そのうち規定したのは条約第24条1の部分を国内法で規定しているところでございます。   試案第22で記載しましたのは,基本的に民事の裁判手続において裁判所の命令に従わなかった場合の民事制裁の関係,民事制裁としての勾引とか過料については,外国には適用しないといった趣旨を規定したものでございます。これに対して,裁判の当事者である外国に対して文書提出命令が出され,外国がそれに従わなかった場合に,民訴法によれば,いわゆる主張の真実擬制とかがあるわけですけれども,それについてはここで禁止はされていないということでございます。この点についてはコメンタリーで特別に真実擬制みたいなものについては当然許されるといった趣旨の説明がございます。   それから,条約第24条2ですが,これは被告である外国に対して担保提供命令のようなものを出すことを念頭に置いている規定でございます。しかしながら,日本の民事訴訟法では,第75条以下にあるのですけれども,担保提供命令は原告に対してだけしか出せませんので,そうだとすると,条約第24条2が想定しているようなものは日本の民事訴訟の制度ではないのかなと考えまして,第24条2に対応する規定は置かなかったということでございます。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,第22ですが,いかがですか。 ○相関係官 確認ですが,条約の24条1に規定される「他のいかなる結果」に関して,今回の法律案にある「勾引及び過料」以外に我が国国内法上そういったいわゆる制裁に当たるようなものはないと考えてよろしいのでしょうか。 ○北村関係官 先ほども説明させていただきましたように,この条約自体がまず刑事については規定していないということですので,民事制裁に何があるのかを考えて,現時点で考えられるものとしては勾引か過料だろうということで,今のところ整理をしているというところになります。 ○上原部会長 よろしいですか。   第22につきまして御意見がないということですと,これで全体につきまして一応の審議をいただいたということになるわけですが,なお,全体につきまして御意見がございましたら,お願いいたします。 ○長谷川委員 前回の雇用契約についての議論の中で,試案第10の2③と④の扱いについて,甲案がいいか,乙案がいいかという議論が行われましたが,そのとき甲案がいいか,乙案がいいか,明確な見解を申しませんでしたので,本日発言させていただければと思います。   あのとき労働者にとっては甲案がいいのではないかと思ったのですけれども,甲案をとると,相手方は結局ずっとその労働者に賃金を支払い続けなければならなくなると思うのです。1回目の訴訟が確定すると,また第2次訴訟を起こして,ずっと訴訟が行われていくというようなことが起きるのではないか。そうすると実務上,非常に混乱するのではないか。そういう意味では,前回,甲案と乙案という案が示されましたが,乙案のほうがいいのではないかと思いましたので,そのことだけ述べさせていただきたいと思います。 ○髙階委員 そこに近いところで6,すなわち国際裁判管轄に関するパブリックポリシーがある場合のただし書の規定なのですけれども,特に制定法でこういう国際裁判管轄に関して規定が,要するに労働の事件に関しては日本国内で日本の裁判所が管轄すべきだという制定法の規定があるわけではないというのは,そのとおりだと思うのですけれども,一方,実際に例えば外国の大使館に勤務している日本の労働者が解雇されたケースに関しましては,日本の裁判所が管轄を持つべきだという考え方もあるかと思うので,この点について日弁連の労働関係の委員会でも検討しておりますので,私の個人的意見としても,制定法がなくても条約上,例えば労働者の権利を不当に害さないことを条件とするとか,いろんな規定の仕方を国内法で盛り込むことは可能だと思いますので,どういう規定がよろしいかというのは日弁連の労働委員会の意見も聞いて,二読あるいはその前に御提案したいと思っています。 ○長谷川委員 先ほどの発言に追加して申し上げると,試案第10の2の③と④がなければ,それで本当は解決できるのですが,条約の関係で③と④というのをなくすことができるかということになってくると難しいのではないかと思っております。したがって,③と④を生かしながら,日本の解雇,雇止めの訴訟の大多数は地位確認の訴訟なのですが,損害賠償請求の訴訟もあるので,乙案かなと思った次第です。 ○水島幹事 今日議論となったBISの主権免除法の位置づけについては,山本委員や河野委員がおっしゃったことと基本的には同じ意見なのですけれども,それとの関連で第1回で問題になったところなのですが,現在の要綱試案では第2の定義等というところの国等の定義の③で,①及び②に掲げるもののほか,主権的な権能の行使としての行為を行う権限を有する団体となっていて,ここで「国」の主権的な権能の行使としてのという部分を除いたということになっていて,私は州の主権的な行為というのもあり得るかなということで,第1回のときはそれでいいなと思ったのですが,今日のBISの話を踏まえていうと,このままの定義だと,若干揚げ足取りな解釈かもしれませんが,文字どおり読めば国際機構が入ってき得る可能性があるような気がするのですけれども,そうすると何かやはり国と限定すると問題があるかもしれませんが,何か限定するものがないと,国が本来持っていた主権的な権限を複数の国が移譲して国際機構を作ったと。その国際機関が何かしたという場合には,主権的な権能の行使と見ることができる。BISのコメントの中で,我々も何か主権的な行為をするんだということを書いてあるように,このままだと何か国際機構が入ってきてしまうような形になりかねないような気がいたしました。 ○髙階委員 本日の一番最初に議論のあったところですが,部会資料9の1ページの第17で執行の免除に関して原則として免除するという規定は,第5の1に明記されているので必要ないというのが要綱試案の考え方なのですけれども,条約を見ますと,該当する第5条についてはまず第2部に一般原則ということが明記されております。それから第5条でも自国及び自国の財産に関して,したがって,財産に対する執行に関する免除についても規定しているわけです。   それであるにもかかわらず,第18条で国の財産に対する差押保全処分等の判決前の強制的な措置は,他の国の裁判所における訴訟手続に関連してとることができないという免除の原則を明記しているわけです。したがいまして,私の理解は,裁判権の免除と執行の免除を別に分けて規定している。重複するという考え方も分かるのですけれども,このような構造的な審議経過を経て,この条約はできているのだと思いますので,日本の法制上,特に重複することが問題を明確にするということで許されるのであれば,執行免除について免除の原則という条文を入れたほうがよろしいかと思います。 ○飛澤幹事 今の御指摘の点ですけれども,条約は確かに第5条で書いてあるのを更に第18条,第19条でももう一回免除と書いてあるのですが,少なくとも日本では執行手続も訴訟手続も合わせて裁判手続というくくりをしてしまっております。第5というのは総則的な位置づけとなって いるわけですから,それにもかかわらず改めて,免除についての定めを置くというのは,法制上,厳しいのかなという印象を持っております。 ○髙階委員 そうであれば,例えば第5条で執行免除の意味も明確にされたらいかがですか。 ○飛澤幹事 裁判手続という以上に執行免除というと,どういった文言にすればいいのでしょうか。日本の場合はやはり訴訟も執行も合わせて裁判手続と呼んで整理しておりますので,別出しするのはつらいかなという印象を持っております。 ○髙階委員 条約では自国及び自国の財産というふうに財産という言葉が入っているのですけれども,日本法だと多分財産という言葉も入れない規定の仕方になるかと思うのですが,裁判権の中に例えば財産に対する執行というような文言を括弧書きで入れるなり,それを含むという規定の仕方というのはいかがなんでしょうか。 ○飛澤幹事 何分,法制に精通しているわけではございませんけれども,私の狭い知識の範囲内では,少なくとも日本の国内で裁判手続と書いたときに,さらに執行について書いてあるというのは,よほど何か別段の目的がない限りは,そういった用例はなかなかないのかなという感じを持っておるところなんですけれども。 ○長谷川委員 先ほどの送達のところなのですけれども,どのような順番になるのかということで,裁判所,最高裁,外務省,在外日本大使館,外国の外務省という説明がありましたが,例えば大使館に雇われている労働者が損害賠償請求を起こした場合でも同様のルートになるのでしょうか。 ○北村関係官 そうだと思います。 ○長谷川委員 そのようなときに,裁判所,最高裁,外務省,在日の大使館というルートはとれないのですか。 ○飛澤幹事 やはり送達については労働事件といえども,民事訴訟一般の送達方法によらざるを得ないと思うので,もし民訴条約とか送達条約が使えるというケースは,もちろんそれにしたがうことになりますけれども,そのような条約等がなく,外交上のルートでいくといった方法が選択された限りは,なかなかその経路を変えるというのは難しいのではないかと思っている次第でございます。 ○上原部会長 いかがでしょうか。ほかに御意見がないようでしたら,第3回の審議はこれで終了とさせていただきますが,よろしいでしょうか。   本日で第一読会を終了いたしまして,次回はこれまでの議論を踏まえて,事務当局に要綱案第一次案を準備していただきまして,それに基づきまして重点的に御議論をいただくということにしたいと存じます。   事務当局から次回の議事日程等につきまして御連絡を申し上げます。 ○飛澤幹事 次回の議事日程について御連絡いたします。   次回の日程は,11月21日金曜日午後1時30分からで,場所は東京地方検察庁教養課会議室でございます。本日とまた開催場所が変わりますので,どうぞ御注意くださいますようお願い申し上げます。 ○上原部会長 それでは,本日の会議はこれで閉会といたします。   どうもありがとうございました。  -了-