法制審議会主権免除法制部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成20年11月21日(金) 自 午後1時30分                        至 午後4時45分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  主権免除法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○上原部会長 定刻になりましたので,主権免除法制部会の第4回会議を開催いたします。     (幹事の異動紹介につき省略) ○上原部会長 審議に入ります前に,事務局に配布資料の説明をしてもらいます。 ○飛澤幹事 それでは,配布資料の御説明をいたします。   本日の資料は,事前に送付させていただきました部会資料10でございまして,前回,申し上げましたとおり,事務局から一読の議論等を踏まえまして,要綱案第1次案というものを御提示させていただきまして,これをベースに更に議論をお願いしたいと思っておるところでございます。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   今,御説明がありましたように,事前送付資料である部会資料10の主権免除法制の整備に関する要綱案第1次案に基づいて御議論をいただきます。今回も本日の審議によりまして,この部会資料について一通りの議論をする必要があります。したがいまして,場合により時間がかなり長くなることがあろうかと思います。   では,まず第1,総則につきまして説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは第1,総則の1と2についてまとめて御説明させていただきます。まず,1の適用範囲につきましては,特段,現段階でコメントすることはございません。   次の2の定義の関係でございますけれども,まず第1点として,2(1)のイとウの表現振りの関係で,従前,一方には括弧書きがついていて,もう一方には括弧書きがついていないのはどうしてかという御指摘がありました。2(1)イは,属性に係る要件として書いているのに対しまして,ウは属性というよりも場合で限定しているといった違いがありますので,書き分けているところでございます。なお,この「国等」の定義につきましては,法制上の見地からなお検討をしているところでございます。   第1に関しては以上でございます。 ○上原部会長 それでは,第1,総則につきまして御発言のある方はお願いいたします。 ○阿部(潤)委員 確認ですけれども,従前いただいた要綱試案(1)という,第1回で議論したところですが,このときには定義等というところで,私法上の取引という定義を置くかという議論があったかと思います。今回拝見しますと,それは個別条文の3ページの4のところに置かれていることから,いわゆる総則的にはもう定義をしないという理解をしておけばよろしいでしょうか。 ○飛澤幹事 御指摘の点についてですが,前回,確かに定義のところで御検討いただいたのですけれども,そもそも定義規定を置かないという甲案と,例示を置くという乙案を示させていただいておりました。それで,前回の御議論を伺っていましたところ,定義規定を置きなさいというのは多数意見ではなく,むしろ例示を置いたほうがいいというのが多数意見であったと認識しております。   そういったわけで,例示を置くのであれば,この定義のところで置くのではなくて,今回の要綱案第1次案でいえば,3ページの第3の4に当たるところで規定すればよろしいかと思いまして,そちらのほうに場所を移しているというところでございます。 ○上原部会長 ほかにございますでしょうか。   特にないようでございましたら進みまして,次の第2についてお願いいたします。 ○飛澤幹事 続きまして第2の関係でございます。第2の関係で,従前からの中心的な論点といたしましては,1ページの注で書きました条約第6条2(b)に対応する明文規定を置くかどうかというところでございました。それについての現段階での事務局の考え方は,こちらの注に書かれているとおりでございます。   概要を申し上げますと,条約第6条2(b)というのは,主としてやはり対物訴訟のようなものが念頭に置かれているのであろうと考えております。ただ,条約第13条(c)などを見ますと,外国等が当事者となっていない裁判手続においても裁判権から免除されないという場合が規定されておりまして,こういったところから翻って考えますと,条約第6条2(b)には,対物訴訟以外のものも含まれると解される余地も十分にあるのではないかというところでございます。   そこで日本の制度のもとで,この条約第6条2(b)に当てはまる制度があるかどうかについて検討を加えましたが,まず第1に,そもそも裁判手続の当事者となっていない外国等に事実上影響があるとしても当該裁判の効力が及ぶわけではない場合については,やはり条約第6条2(b)の対象外ではないかと考えているところでございます。そうしますと,残るのは,当該裁判手続の当事者となっていない外国等にその当該裁判の効力が及ぶ場合でございますけれども,そういった場合もいろいろ例を考えていきますと,そもそも直ちに外国等の権利利益に影響を及ぼすかどうか分からない,あるいは及ぼすとはいえないのではないかといったようなものとか,あるいは仮に条約第6条2(b)に該当するとしても,非免除事由に該当し,結論的には条約第6条2(b)に該当しない場合と同じになる,つまり免除されないという結論になるという場合がほとんどでございます。ですので日本の制度の下において,条約第6条2(b)に該当して,裁判権から免除されるという結論になる場合は,極めて例外的な場合に限られるのではないかと思っております。   そこで,この要綱案第1次案の第2を御覧いただきますと,この文言としては現段階では「外国等が当事者となる裁判手続において」などといった限定は付しておりません。このように文言上は外国等が当該裁判手続の当事者とならない場合も含み得ることになっておりますので,そうであるとすれば,先ほど述べたような例外的な場合は,なおこの要綱案第1次案の第2で読む余地があるというところは確保されていることになります。したがって,結論的には条約第6条2(b)に対応する明文規定を特段設けなくても,現在の要綱案第1次案の案文で十分条約は担保できるのではないかと考えている次第でございます。   以上でございます。 ○上原部会長 それでは,第2につきまして御議論をお願いいたします。 ○阿部(潤)委員 今の御説明は,従前の要綱試案を考えてみますと,結論的には甲案のような形におさまっているということではあるのだと思いますが,その背景的な条約の理解としては乙案が考えていたように,対物訴訟だけではなく,それ以外のものも含み得るということもまた前提になっているというような御説明だったかと思うのですが,そのように理解しておけばいいのかというのが第1点です。それから前回の議論のときにも審理をする立場から少し意見を申し上げたのですが,外国が当事者になっていない場合に,どの程度免除が及ぶか及ばないかというのは,これは職権探知事項でもありますので,審理をするときにどこまでの事項を考慮をしておくか,逆に当事者のサイドからいえば,意外な論点で訴訟の帰趨が決まらないようにということから重要な問題だと思うのですが,その意味で免除の範囲に明確性があると非常に有り難いという感じがしたところです。今の御説明であると,事務局で多角的に御検討をいただいた結果,いずれも各論的な規定で処理できるものもあり,最終的にはそのような規定も使えばすべて対応できると,そのような御趣旨だったかと思うのですが,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 少なくとも現段階におきましては,対物訴訟だけに限定されるかというと,先ほども申し上げましたとおり,本条約自身が破産手続みたいなものについて裁判権から免除されないとしている,すなわち,外国が破産債権者のような場合は,別に当該外国はその破産手続の当事者でないわけですけれども,その破産手続には従ってもらうよという規定があるということは,裏を返せば,そもそもそういう規定がなければ免除になるということが前提となりますので,そういう意味では,本条約自身が対物訴訟以外のものも若干想定しているところがあるのかなと思っております。ただ,破産手続などの関係におきましては,結局すべて非免除という結論になっておりますので,結論的には条約第6条2(b)に当たると言おうが,当たらないと言おうが変わらないところがございます。   あと,そのほかの手続につきましては,いろいろ検討はしているところではあるのですけれども,ほとんどは非免除事由に当たる場合でございますので,条約第6条2(b)で免除されるケースは,かなり限定的かなと思っております。ですので,条約第6条2(b)に該当するか否かは,個別的に御判断いただければと思っているところでございます。 ○阿部(潤)委員 なお,時間がないので余り具体例を言うのも恐縮なのですが,この議論をするときに,ひとつの事例として,東京地裁のオマーン事件というのがありました。これは行政訴訟ですけれども,近隣住民がオマーンに対してされた建築許可を争ったという例であって,オマーンは訴訟の当事者でない外国だったというものです。このオマーン事件の場合は第2のところで考えるというよりも,個別の各論の規定で対応できるということでよろしいのでしょうか。例えば,オマーン事件の場合であると,不動産に関するものなので,今回の規定の7ページの7のあたりで最終的に判断がされるべき事柄だということになるのでしょうか。 ○飛澤幹事 オマーン事件については,確かに取消判決が出てしまうと,形成力の第三者効が生じてしまいますので,その意味ではまず条約第6条2(b)に当たり得るのかなと思います。ただ,今御指摘がございましたとおり,この部会資料10でいえば7ページの7の(1)の,不動産に関する裁判手続だということで,結論的には非免除になるのではないかと考えている次第です。 ○阿部(潤)委員 御説明は分かりました。オマーン事件のときに裁判所で問題となったのが三点ありまして,一つが今の不動産の問題です。もう一つは,いわゆる最高裁がいうところの私法的ないし業務管理的行為かという問題についても判断しているのですが,さらにもう一つ当該不動産が外交使節の利用目的だったときにどうするのかという点も問題になったような気がするのです。今の御説明ですと,不動産ということで条約第7条の問題になるとすると非免除になり,それが例え外交使節が使用するものであってもそのような結論になってしまいますが,よろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 今の点でございますけれども,これ一読のときにも若干申し上げたことがあるのですが,主権免除と外交上の免除というのは,一応別の仕切りになっておりまして,この条約におきましても,主権免除の仕切りが外交上の特権とか免除に影響を及ぼさないという仕切りになってございます。ですので,もし仮に外交特権なり外交上の免除として免除が与えられるのであれば,仮に主権免除の文脈で非免除という結論が出ても当然に非免除にはならず,免除という結論が出る可能性は十分ございます。 ○阿部(潤)委員 そのとおりだと思うのですが,12ページのところから,保全とか執行のときには,外交使節団うんぬんという財産が対象になるかどうかという規定があるものですから,こことの関係で執行だとか保全のときには除外されているものが,本案手続ではそうではない。これは執行対象ですから,最終的に別でもいいのでよろしいのですけれども,そういうバランスで考えておいてよろしいのか。ウィーン条約は外交官が主体なのでおっしゃるとおりなのですけれども,主権免除条約もそうですが,今回の要綱案も,不動産のところに例外が設けられていないので,先ほど御説明があったとおり,例えばオマーン事件だと非免除になるというふうに理解しておけばいいのかどうかという確認が一つあります。   それから少し観点が違うのですが,裁判上の効力が及ぶと言われたときの裁判上の効力というのは,既判力をイメージしておけばいいのか,もう少し広くて参加的効力まで考えるのかというところもあって,補助参加の場合も参加するときはいいのですけれども,参加し得る地位にとどまる,あるいは訴訟告知をされた場合にどう考えるのかといったところも,もしお考えがあれば聞かせいただければ有り難いと思います。 ○飛澤幹事 現段階での考えを申し上げさせていただきますと,まず参加効の関係ですが,そもそも外国が,参加効が及ぶ場合というのは補助参加した場合か訴訟告知をされた場合,可能性としては二通りあると思うのですけれども,補助参加したような場合には,条約でいうと第8条の仕切りの問題でございまして,例外に当たらない限りは,特に本案について補助参加してしまったような場合には,原則として免除されないことになります。ですので,恐らく問題になり得るのは訴訟告知をされた場合であろうと思いますけれども,参加効の場合を考えていきますと,参加効というのは実質それが働くかどうかというのは,既判力の場合には後訴において職権調査事項で判断されるという建前にはなっているのですけれども,参加効の場合には民訴の教科書などを見る限りでは,やはり当事者の援用を待って判断すると言われております。そうしますと,前訴の段階でまず主権免除かどうかを判断しなければいけないとなると,そもそもその段階で,後訴において参加効が援用されるかどうか分からない以上は,外国に影響が及ぶのかどうかについて判断できないということになりますので,基本的には参加効のみが及び得るにすぎないような場合は,条約第6条2(b)に該当しないのではないかと考えております。 ○上原部会長 ほかに何かございますか。 ○道垣内委員 従来の議論がどうだったか十分に記憶にないところでお伺いしたいのですけれども,具体的な例で申しますと,次のような事案にこの条項は影響を与えるのだろうかという点です。昭和20年代の後半だったか30年代の初めだったか,イランで石油の国有化がありまして,もとの所有者であるアングロ=イラニアンという会社からイラン国が石油の油田を取り上げて,国営の石油会社のものにし,その国営石油会社から出光興産が石油を買って,そのタンカーが日本の港に着いたところ,もとの持ち主であるアングロ=イラニアン石油会社が処分禁止の仮処分を求めたという事件がございました。当事者は処分をしようとしている出光興産と,今でも油田の所有者だと主張しているアングロ=イラニアンという会社ですが,争いの対象になっているのはイラン国のした国営化措置が有効であったかどうかという点です。このような場合,既判力でもないし参加的効力でも何でもないのですけれども,この第6条2(b)の言葉を見ますと,その国の財産とか権利とか活動まで入っていますので,それらに影響がありそうな訴訟に該当し,この規定の適用があるのではないかとも思われます。本件は東京高裁まで行った事件ですが,裁判所はそのような他の国が当該国の領域内でした行為について,日本国の裁判所が国際法に違反するか否かという判断すること自体ができないと判示し,事実上,イラン国営石油会社への所有権の移転を認めております。そのような判断をすることがこの条約第6条2(b)の規定から日本国の義務となるのか,それともそれは関係ないことなのかという問題です。先ほどの御説明では,この条項が適用されるのは免除にならないような問題ばかりではないかとのことでしたが,そうではない場合もあり得るのではないかとも思われます。であれば,条約では詳細にここまで規定しているところ,日本法の条文では非常に単純化して規定することの差が出てくる可能性があるのかどうかをお伺いしたいと思います。 ○佐野関係官 御質問の趣旨をうまく自分で理解していなくて申し訳ないんですけれども,今のイランの事件ですと,東京高裁がどういう判断をするにせよ,国営化措置に対しては直接裁判の効力は及ばないと思います。主権免除のもともとの趣旨というのは,外国に対してある国が裁判の効力を及ぼすことになると,その外国の主権を侵害してしまうから失礼ですと。だからそういうことはやめましょうということだと思うのですけれども,今のイランの事件では,日本の裁判所の裁判の効力が直接イランの国有化措置に及んでいるわけではありません。そのため,そういう場合には,別に主権免除を認める必要は,そもそもの主権免除の趣旨からいってないというふうに思います。これが第1点です。次に,第2点としては,条約第6条2(b)の規定は,条約第6条2(a)と同じようなものとして書かれていると思うのです。条約第6条2(a)というのは,外国が当事者になっている場合には原則主権免除ですよと。そうすると,条約第6条2(b)については,(a)と匹敵するような,同視し得るような場合において,外国が当事者でなくても,なお主権免除を認めてあげましょうというのが,(a)との対比からは素直な読み方だと思われます。ですので,(b)が(a)以上に,外国に対して何らかの影響がある場合すべてに,およそ主権免除を認めることまで,条約が含意しているものではないと理解されます。したがって,今の2点からすると,条約第6条2項(b)には,道垣内委員がおっしゃった事例は,該当しないということでよろしいのではないかなとは考えております。 ○道垣内委員 第2点の解釈の在り方については,どちらでも読めるかなと思います。   第1の趣旨の点ですけれども,イランの事件において東京地裁も東京高裁も,国有化の有効性には直接触れなかったわけですが,その理由は,先ほどおっしゃったのと同じように,そのようなことを判断するのは失礼なことであるということにあるのではないかと思われます。ある国がその国の領土内で主権の行使として行ったことを,その国が当事者にはなっていない訴訟であっても,他の国の裁判所が違法だとか,無効だという判断はできないという判断があるのではないかということです。同様の判断はアメリカの裁判でも示されており,外国の国内で行われた当該国の主権的行使としての措置については判断できないとの判例があります。   この(b)がそこまでは考えてはいないのかもしれないのですが,ただ条文を見ますと,in effectとか,seeks to affectとか,非常にあいまいな言葉遣いをしているので,読めなくはないのではないか。読めなくはないので,それをどう解釈するかをはっきり決めて日本法の規定の仕方を議論をする必要があるのかどうか,気になるものですから,発言した次第です。 ○始関委員 それは今後の解釈問題ではないでしょうか。 ○三木委員 たまたま先ほど訴訟告知の話が出たので,おっしゃったことの意味を確認したいのですが,ある訴訟があって,その訴訟の中で,一方当事者が外国国家に訴訟告知をし,その訴訟告知をした当事者が敗訴したと。訴訟告知の参加的効力というのは,敗訴者間の責任分担というのが多数の見解ですから,将来,敗訴した者が訴訟告知者に対して損害賠償か何かの訴えを起こしたときに問題になるわけですね。参加的効力が働けば,その後の訴訟のほうで,訴訟告知を受けた国家が前訴の内容をその点に関して争えなくなるというのが参加的効力ですね。現在の条文の組み立て,それから先ほどの御説明ですと,そのような場合に実際にこの仕切りでどうなるかというと,要綱案の1ページの第2の規定が適用されて,他に非免除事由がなければ参加的効力がこの第2の規定で免除されて働かなくなるという理解でよろしいのでしょうか。 ○佐野関係官 今の御質問なのですけれども,第2の規定により,参加的効力が働かなくなるというわけではなくて,そもそも第2の規定に,そういう場合は該当しないということになろうかと思うのですけれども。 ○三木委員 そうすると,参加的効力から免除されるのですか,されないのですか。 ○佐野関係官 ここでの議論というのは,訴訟告知をすることによって,今現に私人間で起こっている訴訟が却下されるかどうかというものなので,参加的効力から免除されるかどうかということではないと思います。 ○三木委員 そうすると,参加的効力が生じるかどうかという問題は,どのような規定で処理されることになるのですか。 ○佐野関係官 それはあくまでこの規定というより,後訴でどういうことが行われるかということではないでしょうか。 ○三木委員 しかし,前訴の規定で,裁判権が及ぶのが免除されていれば,参加的効力は裁判権の働きの一つですよね。 ○佐野関係官 はい。 ○三木委員 だから,そこは関係はするのではないですか。 ○佐野関係官 では,言い換えますと,訴訟告知をして参加的効力が生じ得るにすぎない場合は,この第2の規定にそもそも該当しないので,現在係属している裁判というのは通常どおり本案判決,認容かあるいは棄却の判決が出ます。仮に認容判決が出た場合,前訴の被告が外国に訴え返すわけですよね。そのとき実際に参加的効力が問題になると思います。そういう関係にあると思います。 ○三木委員 そのときには,主権免除条約は全く関係しない。 ○佐野関係官 前訴の被告が外国に対して訴える後訴において,別途主権免除事由があるかどうかということが,全く別の訴訟ですから改めて判断されると思います。ただそのときに,前訴の参加的効力については,前訴において何ら非免除事由がなくて,そのまま本案判決が出ている以上,争えなくなるという関係にあるかと思うのですけれども。だから別途,後訴において主権免除が外国として認められるかどうかという際に,主権免除条約が関係するかと思うのですけれども。 ○三木委員 前訴の訴訟において,主権免除法とか主権免除条約が働いているかどうかは関係ないということですか。 ○佐野関係官 少なくとも参加的効力の場合はそのように理解しております。 ○上原部会長 第2について,ほかに御意見はございますか。よろしいでしょうか。   それでは,第3の1をお願いいたします。 ○飛澤幹事 第3の1の関係ですが,特段,こちらのほうから申し上げることはございません。 ○上原部会長 前回も特に議論はなかったと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,続きまして2をお願いいたします。 ○飛澤幹事 第3の2の関係で御議論いただきたいのは,3ページの注で書いてあるところでございます。まず第3の2の(2)のところで,条約第8条2(a)のうち,裁判権からの免除を主張することを目的として弁論又は申述した場合という点について,従前は(2)のところで明記しておりましたが,(1)との関係はどうなんだという御指摘もございました。その関係で整理しました結果,やはり裁判権からの免除を主張することを目的として弁論又は申述した場合というのは,正に異議を述べて弁論又は申述したことにほかならないと思われますので,そもそも(1)のイに該当しないということになります。ですから(2)で規定するまでもなく,裁判権から免除されるということになりますので,従前(2)で規定しておりました裁判権からの免除を主張することを目的として弁論又は申述した場合というのは,今回特に規定しないこととしました。   なお,従前議論になりました条約第8条2(b)に対応する文言の要否に関してでございますけれども,誠に申し訳ございませんが,この点については次回の部会で別途こちらから案を示させていただいて,御議論いただきたいと思いますので,今回はペンディングの形で御容赦ください。   以上です。 ○上原部会長 第3の2につきまして,いかがでしょうか。 ○三木委員 注の記載振りの問題なのですけれども,注は要綱では落ちるのでしょうから,あえて言う必要があるかどうか分かりませんが,注の2行目の「異議を述べて弁論又は申述したことになるから」という部分は,異議を述べるうんぬんというのは異議を述べて本案について弁論をするか,あるいは異議を述べないで本案について弁論するかという,本案との関係で問題になるので,正確には,「異議を述べて弁論若しくは申述をしたことになるか又は本案前の抗弁として弁論若しくは,申述したことになるから」というのが正しい説明振りだとは思います。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。それでは,次の3をお願いいたします。 ○飛澤幹事 3の関係でございますけれども,注に書いてある部分だけでございます。従前,(1)で当事者又は共同訴訟人として訴訟に参加した場合と書いておりました。しかしながら,共同訴訟人というのはやはり民事訴訟法上も当事者ということですので,今回,そちらの共同訴訟人も当事者に含むという趣旨で,当事者として訴訟に参加した場合という提案をさせていただいております。   この点は以上です。 ○上原部会長 いかがでしょうか。   この点も,特に御議論,御意見ないということでよろしいですか。   それでは4に行きます。 ○飛澤幹事 4についてでございます。こちらも御議論いただきたい点は,注1,注2,それから注3ですが,特に注1がメインになるかと思われます。   まず,この「commercial transaction」に対応する国内法の文言についてということでございます。実はこの「commercial transaction」という文言は,ここの要綱案第1次案の第3の4のみならず,10ページにあります要綱案第1次案第3の12の仲裁のところでも出てまいります。   それから,それとは別に「commercial purpose」,あるいは「commercial service」という文言が要綱案第1次案第3の11の船舶に関する規定のところ,それから要綱案第1次案第4の2の執行,保全のところに出てまいります。ですので,この注1のところでは,これら「commercial transaction」,それから「commercial purpose」について,この要綱案第1次案第3の4に限られず,ほかのところを含めて御議論いただきたいと思っているところでございます。   そこで,内容について若干御説明致しますと,まず条約第2条1(c)で「commercial transaction」についての一応の説明がされているのですけれども,この規定に挙げられている例示等の内容に照らしますと,やはり「commercial」というのは商行為に関係するものだけではなく,それよりも幾分広いものを含む趣旨ではないかと思われます。そうしますと,この「commercial」に対応する国内法の文言として,「商業上」とか「商業的」としたのでは,やはりこの条約で用いられている「commercial」の概念よりも狭く解されてしまうおそれがある。   そこで,一読のときには,事務局としては,「commercial transaction」に対応する文言ついては「私法上の取引」と,また,「commercial purpose」に対応する文言については「私法的目的」又は「私法上の目的」といった文言を提案させていただいたところでございます。ただ,これに対しては一読時のこちらの部会で,鶴岡委員を始め,外務省の方から,例えば「商業的」という文言であれば「商行為」という文言とは一応違うのであるから,本条約において「commercial」という英語が使われている以上は,やはり「商」とか「商業」とかといった文言を用いたほうがいいのではないかとか,あるいは「私法上」という文言を使ってしまうと,公法上ではない契約とか取引がすべて含まれているように解されるおそれがあって,そうだとすると,本条約でいう「commercial transaction」の概念よりも広く解されてしまうおそれがあるのではないかとか,あるいはこれは特に船舶のところの関係ですけれども,海洋法に関する国際連合条約,その他の海に関係する条約,それから日本の国内法でも領海等における外国船舶の航行に関する法律その他の船に関する法律においても,「commercial」に相当する文言については「商業的」という文言が用いられているとか,海洋法に関する国連条約では,その解釈に当たってこの国家免除条約の「commercial」を参考とした経緯もあるとか,国内法をつくった場合,これを日本の裁判所が見るのはもちろんのこと,当事者となり得る外国も参照することがあるだろうから,やはり法的安定性の見地からも,なるべく国内法の文言を本条約にそろえたほうがいいのではないかとか,そういった意味で「商業的」という文言がいいのではないかといった意見も出されていたという状況でございます。   ですので,今回,再度,本条約で使われている「commercial」という文言が何を意味するのか,要するにどこまでを含むものなのかということについて,更に議論を深めていただきたいと考えているところでございます。   そこで,御議論いただいた結果,ある程度その範囲が明らかになってくれば,おのずと国内法の文言の選択の手掛かりが出てくるのではないかと考えております。そういった点もございますので,先ほど申し上げましたとおり,部会資料10の4ページのみならず,10ページの注の関係も含めて,ここで統一的に御議論いただければと思う次第でございます。   以上が注1の関係です。 ○上原部会長 ではこの点,一番議論があるところですから,なお議論を深めたいという事務局の意向ですので,よろしくお願いいたします。 ○島田幹事 今御説明いただいたところにポイントは集約されていると思いますけれども,もう一度私のほうからも御説明させていただければと思っております。   既に何度も御議論いただいているところではございますけれども,正にここの「商業的取引」,「私法上の取引」の部分について,どういう言葉にするかということなのですけれども,御指摘のとおり,これは各条にまたがっているところで,条約でも2条,10条,16条,17条,19条,21条と,各所に「commercial」という文言が使われております。幾つかの今から御説明するポイント・理由から外務省としては現時点では「商業上」,「商業的」という文言を用いるほうが望ましいのではないかなと思っておりまして,これは事前に私どものほうから今回の御検討に当たっても,場合によっては両論併記のような形で御議論いただいてもいいのではないかなということを申し上げていたところですけれども,その上で少し外務省の立場を例示しておきたいと思います。   まず,この注のところにも指摘されておりますが,本条約にいう「commercial」というのは,いわゆる商行為,商法上の商行為に関係するものではなくて,更に広いものであり,それについての共通の認識を持っているところでございます。したがって,その「商業的」という文言では狭きに失するということをこの注のところで書いてあるのですけれども,私どもとしては必ずしも「商業的」という言葉と,「商行為」という言葉が同じ文言とは思っておりません。「商業的」と「商行為」とは異なる文言であって,「商業的」のほうが「商行為」を含み得る広い概念ではないかなと考えております。   また,先ほど御指摘があったように,海洋法に関する国際連合条約等々の国際条約の公定訳におきましても,「commercial」に対応する文言として,「商業的」という言葉を用いております。これは,平成4年当時,この海洋法に関する国際連合条約の解釈について議論があったときも,常にそのときにその解釈に当たっては,この国連国家免除条約における「commercial」の文言を参考としていたという経緯がございます。その後,領海等における外国船舶の航行に関する法律等の国内法においても,「商業的」という文言が実際に使われてきているところでございます。   2点目ですけれども,今,注の中に平成18年の最高裁判決のくだりが引用されていると思います。この「私法的ないし業務管理的な行為」という文言との連続性を考慮する必要があるという御指摘がありますけれども,ここでいいます「私法的ないし業務管理的な行為」という文言は,免除とならない行為全体を意味していると思われまして,そのような行為の一類型である「commercial transaction」とは用いられている文脈は異なると考えられます。   3点目ですけれども,先ほども指摘がありましたように,「私法的」という文言については,やはり公法上ではないものすべてが含まれるというように,非常に幅広く解される可能性がございます。逆に本条約にいう「commercial transaction」の概念よりも広く解されてしまって,本条約よりも本件国内法のほうがより広い範囲で裁判権が免除されないこととなり得る点について,外務省としても懸念しているところでございます。   さらに,前回,前々回のときも御指摘させていただきましたけれども,本件国内法のユーザーというのがやはり主に外国,外国人であることを考えますと,この「商業的」ではなくて「私法的」との文言が使われた場合,諸外国の方々の理解に戸惑い,それから混乱が生じる可能性がありまして,法的安定性の観点から望ましくないのではないかと思われます。   なお,私どもが調べたところの「私法」という文言については,過去の日本が入っております二国間条約,多数国間条約,国会に承認された条約において,ほとんど「private」なのですけれども,「private」又は「civil」の訳語として「私法」というのが使われております。もし,仮にこの「private」の訳に当たる「私法」という言葉をここで使いますと,先ほど申し上げたような混乱が生じるという懸念があると思います。したがいまして,条約の実施に責任を有しております外務省としては,この法律の中においては「商業的」という言葉,文言を使うことが望ましいのではないかと考えておる次第でございます。   この点につきましては,十分御議論をいただければと思っている次第です。 ○阿部(泰)委員 3ページの第3の4と,9ページの第3の11と言葉遣いを変えるということがあり得ないという御趣旨でよろしいのですか。どちらかに統一するのが趣旨で,こちらのほうで「私法的」と書いた上で,船舶については「商業的」という言葉遣いをするということはあり得ないという前提でよろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 その点につきましては,本条約における"commercial"の理解がもし同じであるのであれば,なるべく文言は統一したほうがいいと思っております。ただ,そうではないというのであれば,それぞれ文言の使い分けの余地はあるかと思います。ですので,そこら辺も含めて,一読時にも御議論いただいたところなのですが,もう一度,本条約における「commercial」という文言がそれぞれの場所で,どの範囲まで含む概念であるのかという点について御示唆いただければと思っている次第でございます。 ○始関委員 今の点ですけれども,3ページの第3の4のほうは「私法上の契約又は取引」として,「以下単に「私法上の取引」という」というその一つの案だけしか出されていないのに対して,9ページの11では三つブラケットで出しており,12ページの第4の2のほうはまたちょっと違うわけですね。第3の11の(1)には「非商業的目的」というのがあるけれども,第4の2のほうはないわけですね。どうして第3の4は一つの案,11は三つの案,第4の2のほうは二つの案にしたかというのを併せて説明されてはどうでしょうか。これらは,それぞれ違う組合せになることも論理的にはあり得るという前提で資料がつくられているはずですので,その辺りを併せて全部議論したほうがいいと思いますので,そこも説明されてはいかがでしょうか。 ○飛澤幹事 まず,第2の4のところでは「私法上の取引」,それから船舶のところでは「商業的目的」も入れていると。それに対して執行のところでは,また「商業」は入れていないということですが,これは先ほど説明したところとも若干関連するのですけれども,船の世界については少なくとも条約,あるいは先ほども御指摘のあった国内法,海に関する条約とか,国内法の関係でかなり「商業的」といった言い回しが浸透しているという部分がありますので,場合によっては「商業的」というのもあり得るのかなと思ったのですけれども,それに対して「commercial transaction」と,あと執行の部分でいう「commercial purpose」のところにつきましては,これは正に先ほどから議論があるところなのですが,「商業的」という言葉を使った場合に,当方としてはやはり日本法で「商」という言葉を使うと,やはり狭く解されている。要するに商行為に引き寄せて解されるおそれがあるのではないかという懸念がございましたので,なおブラケットでも「商業」は入れていないというところです。ただ,これに対しては先ほど島田幹事から,「商業的」といえば別に「商行為」という文言とは一応文言として違うのだから,意味として必ずしも引き寄せられるわけではないという反対論が出たところと了解しております。 ○米山関係官 補足させていただきますと,日本の法制上「商業」といった場合の用例ですが,法令用語辞典を見ますと,「商人の営業」というような解説がなされております。そうすると執行の場面で,例えば遊休土地のようなものは,第4の2(1)によって,外国等の同意がなくても強制執行等ができる例として挙げられるのではないかと事務局としては考えております。しかしながら,「商業的目的」とした場合に遊休土地のようなものが,外国等の同意がなくても執行できる対象として入ってくるのかというところとの関係で,やはり「商業的目的」というのは狭いのではないかと考え,第4の2(1)では,「商業的目的」という案を提案しておりません。 ○島田幹事 同じ条約を担保としてつくる際に,同じ「commercial」という言葉の訳として違う文言を使うと,もちろん理論的にはその可能性としては全く排除するわけではございませんけれども,やはり同じ趣旨,意味で使われている文言であると理解されますので,その文言に違う訳をつけるということについては,非常にやはり混乱が生じる可能性があると思いますし,それから「商業」という言葉は確かにあるのですけれども,我々が言っているのは「商業的取引」ということを入れております。しかもそれは今も事務局から御説明がありましたように,船の世界,海の世界ではそれがある意味では確立しているような場面もあるということは,ここの注にも書いてあると思うのですけれども,正にそれと同じ文言が同じ条約で使われているわけですから,もし仮にそちらで確立された「商業的」という言葉があるのならば,この法律の中を統一して「商業的」という言葉を使うことも十分に可能性はあると思っております。 ○垣内幹事 一点確認をさせていただきたいのですけれども,「商業的」,「商業」といった場合には,一般には営利的な色彩の強い活動が想定されることになるのかと思いますが,「商業」といった場合にはそうなるとして,仮に「商業的」といった場合もそういうことになるでしょうか。あるいは,関連の条約等で「commercial purpose」であるとか「commercial transaction」というようなタイプの文言が使われている場合に,それは必ず営利活動であるということを想定していて,実費しか取らないとか,必ずしも営利目的ではないとかいった取引については,これを排除するという趣旨であるのかどうか。そのあたりはどういう解釈がこれまでなされてきているのか,もし御存じでしたら教えていただけると有り難いと思います。 ○島田幹事 もちろんすべての条約を承知しているわけではないのですけれども,先ほど出ました海洋法に関する国際連合条約等々の海の関連の条約におきましては,その「商業的」という文言を使うところでは,必ずしも営利目的,営利に関するものに限定した使い方をされているということではないということでございます。 ○河野委員 先ほどの「商業」に関する法令の御説明がありましたが,「的」を入れることで,従来その日本法で考えてきた「商業」という意味が,それ以外の要素を含み得るという,つまり「商業的」ということが「商業」とは若干違う意味になるのだと解するというのは,日本法上は無理なのでしょうか。先ほどの米山関係官の御説明についての補足の御説明をいただければと思います。 ○米山関係官 「商業的」につきましては,法令用語辞典等で法制上の用例を調べてはおりません。ただ私の所感でございますが,「的」とつくことで確かに「商業」よりも若干広いといいますか,そういった意味合いになるところはあるのかなとは思います。ただ,やはり中核は,「商人の営業」というところで,やはり営利目的及び事業性というのが中核というところは,揺るがないかと思いますので,外延が多少「的」とつけることで広がるとしても,その広がる程度にはおのずと限界があって,その広がった限界の中に先ほど申し上げた,例えば遊休土地であるとか,そういったものを含むことができるのかどうかというところが問題なのかなと思っております。 ○上原部会長 いかがでしょうか。「商業的」とするかどうかをここで決める段階ではないとは思いますが,基本は先ほど事務局から説明しましたように,条約の趣旨について共通の理解を得るというのがまず第1の目的で,しかもその条約の各条でこの「commercial」という言葉が同じと考えるべきか,あるいは違うと考えるべきか,そこが今日できれば御議論いただきたいというところなんですけれども。 ○阿部(泰)委員 先ほど外務省からの御説明もありましたとおり,国連海洋法条約その他の先行する条約関連法で,「商業的」という言葉を使っておりますので,少なくとも船舶のところについては「商業的目的」ということがふさわしいと思います。本来であれば同じ条約の中で,同じ言語を違う言葉で訳してはいけないということであれば,すべて「商業的目的」とすべきだと主張をいたしますけれども,実際,経済界にかかわるところで,こういう「商業的目的」というのが出てくるのは,海洋とか宇宙とか若干ございますけれども,やはり一番中心は船舶,海洋関係なので,ここだけは絶対「商業的目的」で通していただいて,後のところについては,もし条約の中で違う文言を使うことが可能であれば,分けてもいいと思います。 ○上原部会長 研究者の方は,いかがでしょうか。 ○三木委員 なかなか決め手のない問題ですので,私が申し上げるのも余り確たる意見ではないのですが,要するに外国に対しての発信と,国内の問題と分けて考えたほうがいいようにも思うわけです。つまり,先ほど外務省の御説明にもあったように,これの主たるユーザーは外国なわけです。やはり過去の用例から見ても,日本語の意味から見ても,「商業的」という言葉を使えば英訳は「commercial」になって,そこはそごがない,外国人から見て条約とそごがないということになるわけです。   こちらのほうはそうした面が重要だとすれば譲れないとなると,逆に日本のほうで「商業的」という言葉はこの法律の文脈,あるいは条約の文脈では「私法的」という広い意味で使うんだというコンセンサスがあればいい話なので,要するに国内的なコンセンサスと対外的な受け取られ方との問題を分けて考えるならば,後者のほうは動かしにくい,つまり日本人が国際的なコンセンサスを変えることは不可能なので,国内的なコンセンサスのほうで調整するということであれば,「商業的」という言葉でもいいのかなという気もいたします。 ○始関委員 今の御指摘は,非常に大事なことだと思うのですが,実は最近,委員も御承知だと思いますけれども,外国にも関係がある国内法は,皆公定訳をつくるということになっているわけですね。そのときの公定訳をどうするかということの問題にもかかわるのですけれども,一つの方法としては,今三木委員が言われたような方法が簡単な方法ではあるのですが,英訳するときは「commercial purpose」とか,「commercial transaction」と訳す。それを決めることは当方が決められますので,そういうふうにしてしまうということで,外国には誤解を与えないという手はあると思います。 ○島田幹事 今の御指摘の点は非常に重要なところだと私も思いますし,先ほど申し上げましたように,実は「private」,「私法上の」という文言を逆に英語に訳す場合には,これまでの条約等々を調べたところ,すべて「private」若しくは「civil」となっておりまして,それを国内法の英訳だといって,もちろんこれは決めの問題だということで,これはもう「commercial」と訳すのだということになったとしても,それは相当混乱が生じるのではないかなということが懸念されます。やはり「私法上の」という言葉であれば,英訳としては「private」なり「civil」という言葉になると思いますので,そこにやはりずれが生じてくると思います。 ○三木委員 今の点は私も外務省の御意見と同じで,外国の中には,当然韓国や中国も入るわけで,漢字国がありますので,やはりちょっと「私法的」と使っていて「commercial」と訳すのは,やはり混乱を招くという気はいたします。 ○河野委員 それから,やはり外国に向けて英語は「commercial」だと言っても,彼らは結局,日本で訴訟を行うわけで,その外国としても日本語で訴訟に対応をせざるを得ないわけですから,それが英語で「commercial」と書かれていて,日本語で訴訟に携わる場合に,それが「私法」という言葉で表現されているということを発見するその外国が,それをどう受け止めるかということは,やはり若干考えざるを得ないところだろうと思うのです。   そうすると,やはり従来から「civil」あるいは「private」と「私法」という言葉を訳してきたのだとすると,外国の側は随分日本語とそれと英語の間,翻訳との間に齟齬があるという印象を受けるでしょうし,それからもう一つは,例えば同じ「commercial purposes」というのを,財産と船舶で分けて立法するとすれば,そこに違う意味合いが出てきはしないのだろうかと。この法律は今作って,長い目で見て長く適応されていく法になるわけでしょうから,そうするとあえてここで違う表現を使うことが,これは別の意味合いをもち得る可能性を残すんだという意味を,もしそういう意味を持ち得るのであれば,やはり言葉を違えるというのは慎重であるべきではないかと思うんですけれども,そういう立法例が実際あるのでしょうか。 ○飛澤幹事 今の御質問には直ちに答えられないのですが,例えばイギリス法,アメリカ法,オーストラリア法あるいは欧州条約で「commercial transaction」をどう書いているかと申しますと,イギリス法では本条約と同じように3本立ての説明になっています。それで最初のaというところで,「any contract for supply of goods or services」ですので,物とかサービスの供給のためのいかなる契約,それから,bがローン,貸付け等,それからcのところが,国家が主権的権能の行使以外で入ったり,従事したりするその他の取引又は活動といったような言い方をしております。   ですので,実は今回,本条約の理解としてもう一点お伺いしたかったのは,こういったイギリス法みたいな主権的権能の行使以外のものが,いわゆる我々のイメージする「commercial」なのかどうなのかという点も,併せて御議論いただければと思うところであります。   ちなみに,アメリカ法ですが,アメリカ法は「commercial activity」という言葉を用いており,それについては,「a regular course of commercial conduct」又は「a particular commercial transaction or act」といったような定義をしております。   それから,オーストラリア法でいいますと,「commercial transaction」は「commercial trading business professional or industrial or like transaction」その他そのようなtransactionですね。それからつらつらとその後の説明が続いて,さらに「or a like activity」といった形で書いております。   それから欧州条約ですが,欧州条約のほうはそもそも「commercial」という言葉は例示の中に出てくるだけでして,「in the same manner as a private person」という言い方をしています。ただ,その後に,「in an industrial commercial or financial activity」という文脈では,「commercial」という文言が出てきているところでございます。   ですので,主な国の国内法における「commercial」,特に「commercial transaction」に対応する規定振りは今申し上げたような感じですが,先ほど申し上げましたとおり,イギリス法のように主権の行使に当たらないようなものといったような言い方は,本条約の理解としてやはり外れてしまうのかどうなのかということについて,御議論いただければ有り難く思います。 ○道垣内委員 今の御説明の中で,一番大切な点はネガティブに書くという案をどう考えるか   という点だと思うのですけれども,その前に条約の言葉と日本語とをずらして訳すという点については,この前の部会でも申しましたけれども,条約の中には,「service of process」を「送達及び告知」と言葉を増やして訳している例もございまして,日本法に照らすと,条約をそのまま訳すことが誤解を招くおそれがあるときには,日本法に即して翻訳を工夫するということは十分あり得ることだと思います。ですから,私も「商」という言葉を使うのは反対なのですけれども,ただ,だからといって「私法」が分かりやすいかというと,そうではなく,また,「主権的活動」のそのときの「的」は多分ぼやかす意味は全然ないと思うので,先ほどおっしゃった「的」をつければ何とかなるというのもちょっとまずいかなと思います。要するに「主権的活動」を裏返した「非主権的活動」が「commercial activity」なのであれば,日本法としてはすき間が生じたりしないようにネガティブに表現するという案は十分にあり得る選択肢だと思います。  条約との関係ですが,この条約は当分発効しないと思われます。ですから,この国内法だけが当分は生きていくわけで,相当な期間そうなるのではないかと思われます。そうすると,その日本法上の表現について,発効していない条約ではこうなっていますという説明では説得的ではないように思われます。ですから,この国内法として説明できる言葉を選ぶべきで,民事又は商事という選択肢を申し上げましが,それが不適切ということであれば,ネガティブに表現する方法は有力な選択肢ではないかと思います。 ○上原部会長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○垣内幹事 基本的な考え方といたしましては,この条約自身が「commercial」といっており,過去「commercial」の訳語としては「商業的」が使われているということだとすると,単に特段の問題がなければ,やはり「商業的」という言葉が第一に考えられるべきことなのだろうと思います。しかし,私が従来から検討させていただいて一番気になっておりますのは,やはりこの条約で言っているところの「commercial transaction」という概念が非常に広範であって,必ずしも営利目的の活動のみに限られないように理解できるというところでございます。   ただ,「商業的取引」といった言葉を使ったとしても,それが必ずしも営利目的のものに限られるわけではないということが十分に理解として成り立つように立法ができるということであれば,「commercial transaction」等の訳語としては,「商業的取引」という言葉を使うということもよろしいのではないかと考えます。そこで,例えばこういうやり方は姑息なのかもしれませんけれども,現在,要綱案の3ページの「私法上の取引」のところで御提案されている文言は,「物品の売買,役務の提供及び金融その他の事項についての私法上の契約又は取引(労働契約を除く。以下単に「私法上の取引」という。)」ということになっておりますけれども,ここを例えば前の例示のところも「その他の事項についての主権的な権能の行使に当たらない契約又は取引」とした上で,括弧の中で,「以下単に「商業的取引」という。」というようなやり方をするということができるということであれば,「商業的取引」という言葉を使ったとしても,その内容が必ずしも狭い意味での営利活動に限定されないという理解ができそうにも思います。あるいはそういう工夫の仕方もあり得るのだろうかということを少し考えましたので,発言させていただきました。 ○上原部会長 今のこの主権的な権能の行使に当たらないというような,消極的な表現の仕方については,どう考えますか。 ○垣内幹事 この条約の趣旨からいたしますと,「商業的」,「commercial」といったからといって,それが積極的な意味で営利性がなければ駄目だという趣旨には必ずしも読み取れませんので,その実質は,やはり主権的な権能の行使ではないということにあるのではないかと私は理解しているところです。 ○阿部(潤)委員 見識がない者が言うのもどうなのかと思うのですけれども,先ほどから外務省を中心に,ユーザーの外国がどう見るかということをいろいろ言われたのですけれども,審理する立場の国内裁判所からどう見るかということを少し申し上げたいと思います。事務局が御説明されたように,そのまま「商業的」,「商業上」についても,そういう言葉を使うとやはり「商行為」に引き付けられて,条約が想定しているよりも狭い概念だととらえてしまうのが多分普通だと思うのです。ですから,もしそういう言葉を使わざるを得ないということであれば,よほど詳細な例示が必要でしょうし,営利性は入っていないことが分かるようなものを,相当明確にしておいていただかないと,運用しろと言われたときに,やはり相当狭く考えてしまうということではないかと思います。   また,「商業的」と「的」があったからと言ってほとんど変わるものではないので,やはり「商行為」に引き付けられた理解をするのが通常だと思います。少なくとも国内立法を見るとそうなってしまうと思います。他方で「私法上」という言葉が先例がないために問題があるということになると,よほど例示をうまくしていただいて,条約が想定しているような営利に限定しない取引も含まれるということを,相当詳しい例示をするのではないと,なかなか御議論されているような条約の趣旨というのを生かした上で,これを「商業上の取引」だとか,「商業的取引」で読んで運用しろといわれると,少し難しいような感じを持っております。 ○島田幹事 先ほど御意見が出ました裏から書く一案といいますか,例えば,ここにも注に例示があると思いますけれども,主権的な権能の行使に当たらないという案というのもここに書いてあるのですけれども,実際に今の条約上の定義というのは,「commercial」というポジティブな書き方になっていますので,逆の裏から書くことによって,これが必ずしも概念的に一致するものを意図するのかどうかというところは,やはり慎重に検討する必要があると思います。恐らく条約のテキストを見る限りは,そういうふうに主権的な権能の行使に当たらないという定義であれば,そういう定義だとして条約に書かれるべきところが書いてないわけですから,そこはカバーする範囲というのはやはり微妙にずれてくる可能性があるのではないかなと思っております。 ○中原委員 今回の法制は主権免除を制限することにあります。「商業的」あるいは「商業上」という言葉を使うことにより,国内の裁判所が条約が想定しているよりも狭い概念と解釈してしまうことが懸念されるというのであれば,やはり「商業」という言葉を使うことは回避して,道垣内委員が提案されたように裏から定義するという方法のほうが,良いのではないかと思います。 ○三木委員 私は今の点についても外務省の意見に賛成で,ほかのところでもまた申し上げるつもりですけれども,確たる根拠がないのに条約の文言を変えることには慎重であるべきだと思うのです。「商業的」と「非主権的」が完全に一致するのかどうかについて,確たる証拠,データがないとすれば,なるべく条約の文言を使っておくべきであると思います。   それから,それが狭く解されるかどうかは,先ほど垣内幹事がおっしゃった書き振り,規定振りの問題で,例えば現在括弧書きで(労働契約を除く。)と書いていますが,それに並べて,言葉遣いは別として,「非営利的な行為を含む」というようなことを括弧書きに入れれば済む話ではないかという気もします。 ○髙階委員 英文の「commercial transaction」というのも,「商業的な取引」ということが最初に問題になって,それからだんだん「非営利的な取引」という概念に拡大していったように理解しているのでありますけれども,そうであるとすると,例えば,日本法上の規定の仕方としても,コアの部分として「商業的取引」及び「私法上の契約又は取引」とする。つまりコアの部分を書いておいて,それからプラスアルファの「非営利的部分」を付加的に入れて,定義のほうには「商業的取引」で終わるのではなくて,「商業的取引等」と入れれば,英語で議論されてきたところと同じような過程をたどって,なおかつ整合性がとれるということだと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○上原部会長 ほかにこの点に関して御意見があればお伺いしますが。 ○中西幹事 今までの議論の繰り返しになりますが,裏から「非主権的」というような書き方については,確かにそうなのですが,そうすると,ただ「私法上の」というような文言だと,私法か公法かということですが,実はだから本当の意味が主権的な権能の行使ではないみたいな意味であれば,「私法上の」では狭過ぎるような気もするわけですよね。ただ,本当に主権的権能の行使に当たらないというような否定的なもの全部が,その「commercial」なのかという話なのですということをまた考えると,外務省の方が一番最初におっしゃったように,これは必ずしも「commercial transaction」だけで全部免除の話を解決しようとしているわけではないわけですから,その意味ではそこまで広く指しているわけでもないというようにも思われるわけです。   そうすると,そういう観点から見てくると,また日本法で言っている「商取引」,「商行為」とかそういうのともずれているわけなので,私としてはここではこういう意味なんだというつもりで,「商業上の」などという文言にしておけばいいかと思います。 ○上原部会長 それでは,まだまだ御議論があるかもしれませんが,この点につきましてはかなり時間をとって議論をいたしましたので,このあたりで今の論点につきましては打ち切らせていただきまして,注2に関しまして御説明をお願いして,また議論を少ししたいと思います。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料10の4ページの注2について御説明いたします。   先ほど「commercial」の意味等については御議論いただいたところですが,ここでは,説明の便宜上,一応「私法上の取引」という文言で説明させていただきます。   部会資料10の3ページの(1)の書き方でございますけれども,一読時の部会におきましては,この「commercial transaction」,「私法上の取引」については例示を挙げるべきであるという御指摘がございました。他方で,この例示に当たった場合で,なおかつ「私法上の取引」に当たらない場合があるのではないか。つまり,例えば物品の売買とか役務の提供に当たっても,なおかつ「私法上の取引」に当たらないということで,例外が認められることがあるかどうかという点につきましては,極めて例外的だけれども,全くないわけではないということも,特段の御異論はなかったと思います。   そうしますと,この先はもう条文の書き方の問題になるのですけれども,従前のように「私法上の取引」の例示そのものとして,物品の売買,役務の提供,金融その他などと挙げてしまいますと,その例示に当たりながら,その例示をくくっている「私法上の取引」という概念には当たらないのだという説明が,非常に難しくなるのではないかという御指摘もあったところで,確かにその御指摘のとおりだと思います。   そこで今回,物品の売買,役務の提供及び金融その他の事項とした上で,それについての「私法上の契約又は取引」という言い方をしまして,物品の売買とか役務の提供等を「私法上の取引」の直接的な例示とはせず,その他の事項といったものをかませることによって,間接的な例示とする案を御提案させていただきました。そうすることによってたとえ物品の売買に当たっても,平成18年の最高裁判決でいうような,特段の事情がある場合には,なおかつ「私法上の取引」に当たらないという場合も,条文上読み得る余地が出るのではないかと考えております。   ただ,注2でも書きましたとおり,例外が認められるといいましても,基本は性質説であるということは前回の部会でも本条約の考え方としてそうだろうというお話でしたので,安易に目的説的な発想を持ち込むべきではないといったスタンスを変えるものではございません。   以上です。 ○上原部会長 いかがでしょうか。 ○竹下幹事 この点につきましては,第1回目の部会で発言させていただいたかと思いますが,事務局がお書きのような趣旨であれば,非常に例外的な余地が認められて,今後もなお解釈論,仮にですけれども,「私法上の取引」という概念の中での解釈論の展開によって,より適切な主権免除の範囲が我が国の裁判例として積み重ねられ,かつ学説として蓄積されていくことでよいかと思うというのがまず第1点。なので賛成なのですが,ただこの点と関連いたしまして,このことですごい御苦労されているなと思ったのは,この「の事項についての」という言葉があることが,多分その趣旨の一番核となるところだと思うんですが,このことを明確化するという観点からということになってしまって,先ほどの議論に戻ってしまうのですが,「commercial transaction」という言葉自体何を使うか,なかなかまだ決めかねているところはあるのですが,この(2)にある趣旨を明確にするという観点からは,この「主権的な権能の行使に当たらない契約又は取引」と書いたとするならば,正に例外的な主権的な行使に当たる売買であるとかはここに含まれないということは,非常に明確になるのかなということは思いましたので,発言させていただきます。 ○阿部(潤)委員 今,御発言があったとおり,前回の部会の議論のときに,このところでは一つの要素としてできるだけ概念を明確化して例示を挙げようということと,もう一つの要素として,例外的な事象をどう読み込むかという話がありました。例示のところに例外的な事象を放り込むと,なかなか理論的にすっきりしないのではないかというのが,確か研究者の委員,幹事の御意見だったかと思うのです。   確かに今回の表現になると,例外的な事象,恐らく最高裁が言っている特段の事情に当たると思うのですが,それを読み込むことはうまくできるのかも分からないのですが,では例示を挙げて,その概念を明確化しようという点はどうかというと,これがやや後退してしまって一見トートロジーのように思えてしまう。我々としましては先ほどから「私法上の取引」がいいかどうかという議論もあり,ここは例示をできるだけ正確にしておいていただくと運用は助かるという面があります。そうなってくると確かに例外を除外するという観点からはうまくいくのですが,例示をすることによって概念を明確化するという観点からは,一歩後退したような気がしており,その点少し不安を感じております。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。   あと,注3に関して,説明をお願いします。 ○飛澤幹事 要綱案の5ページにある注3ですけれども,こちらについては形式的な内容ですので,御一読いただければと思います。 ○上原部会長 それでは,ここでいったん休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○上原部会長 それでは,再開いたします。   次は,5の労働契約につきまして,説明と議論をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料10の5ページ5の説明をさせていただきます。   大きな内容は6ページの注1,注2でございますけれども,その前に若干,文言の変更がありますので,その点について御説明したいと思います。   まず,従前,ここの部分は「雇用契約」と言っていたのを,「労働契約」に変更しております。従前「労働契約」のほうがいいのではないかという御指摘に対して,事務局といたしましては,労働契約法上の労働契約に引き寄せてもらえれば全く問題はないけれども,労働基準法上の労働契約概念に引き寄せられると,若干狭くなってしまうおそれがあり,そこの点を嫌って「雇用契約」にしたという説明を申し上げておりました。ただ,最近の立法例とか見ますと,特段定義を置かなくても,いわゆる労働契約法上でいう「労働契約」を意味するということで,「労働契約」という文言を使っている例もございますし,そもそも国内法上の用例としては,「雇用契約」よりも「労働契約」のほうが圧倒的に多いという点もございました。ですので,今回,労働契約法上の「労働契約」を意味するという趣旨ではございますけれども,「労働契約」という文言に変えております。その関係で,従前「被用者」と言っていた部分が「労働者」という言い方に変わっております。   それから文言の変更で比較的大きなところの2番目は,同じく部会資料10の5ページの(2)のウのところです。従前,ここの部分は,「個人の採否又は雇用契約の更新の有無に関する訴え又は申立て」という言い方をしておりましたが,個人の採否という言い方が用例上難しいかなとも思われましたので,「労働者の採否」という文言に変えております。   それから従前は「雇用契約の更新」という言い方をしていたのですが,これは部会でも御指摘がありましたとおり,「雇用契約の更新」としてしまいますと,特に更新の有無ということになりますと,労働契約の終了とか解雇との区別の問題が出てきまして,解釈としてはともかく,文言としてはなかなか区別が難しいのではないかという御指摘を受けたところであります。   そこで,いわゆる解雇権濫用法理が適用されるようなものについては,雇用契約の更新と仮に書いたとしても,ウで読むのではなくて,エで読むといった解釈は従前申し上げたところと変わらないのですけれども,その点をより明確に出すという意味では「再雇用」という言い方にしたほうが,ウの適用が,本当に一回限りの,つまり更新が予定されていないような,あるいは更新の期待を持つような場面ではないといったような場合に限定されるという意味で,よろしいのではないかということで,ウについては「再雇用」という文言を現段階では使わせていただいているというところでございます。   それから,次の文言の変更点は,6ページのオのただし書でございます。従前は「恒常的に居住する場合」といった言い方をしていたのですが,これも現在なお検討中ではありますけれども,その意味するところを考えた場合,「通常居住する」としたほうがいいのではないかと考えておりまして,現段階ではこういった文言にさせていただいております。   以上が文言の主な変更点でございます。   次に6ページの注1のところでございますけれども,これは(2)のウ,エのブラケットにあります甲案,乙案のところでございます。これについてどちらがよいかということを,一読時に御議論いただいたわけですけれども,今回,一読時の御議論を踏まえさせていただきますと,ここに書きましたとおり,甲案にしてしまうと,もし賃金支払請求訴訟等が繰り返されるようなことがあれば,事実上ですけれども,外国に対して雇用を強制する効果がより強まってしまうのではないかといった懸念等もございますので,今回,事務局としては乙案のほうが望ましいと考えて御提案させていただこうと思いますが,それについてなお御意見をお伺いできればと思っている次第であります。   それから注2でございますが,これは(2)のカのただし書の部分ですけれども,これは条約第11条2(f)のただし書に相当する部分でございますけれども,まずそもそもこの条約第11条2(f)ただし書の理解として,正に裁判手続の対象となる事項について,日本の裁判所に「exclusive jurisdiction」を認める「public policy」があると認められるときには,これに反するような当事者間の合意,合意のパターンとしてはここに書きました①と②の二つのケースがあるのですけれども,そういったものは効力を有しないということを意味している規定ではないかと思われます。   次に「exclusive jurisdiction」の意味は,どうなのかということですが,二通り解釈が考えられまして,一つは,文字通りに読みますと「専属管轄」ですので,日本だけにしか管轄が認められない,すなわち,ほかの国には管轄が認められないというものであり,もう一つは,労働契約においては部会資料10にも書きましたブリュッセルⅠ規則等のようないわゆる片面的な専属管轄を定めたと言われているようなものがございますので,そのような意味であるというものです。そのどちらの理解に寄せるかということでして,もし(1)に書いたいわゆる日本でいう「専属管轄」の意味となりますと,こちらの(2)のカのブラケットで書いたように,「のみ」という言葉が必要になりますが,そうでなければブラケットの中の文言は必要でないだろうと考えております。   それから次に「public policy」の理解についてですけれども,これはこの注にも書いてありますとおり,1983年段階の条文草案では,「the law of the State of the forum」という文言でありましたけれども,労働者保護のための法規範といえるものは,いわゆる「law」に限られないだろうということでして,そういった意味で「public policy」と言い換えられたといった経緯がございます。ですので,そういった経緯にかんがみますと,ここで言う「public policy」というのは,明文の強行規定に加えて,これと同視されるような判例実務,慣習法等も含む広い概念であるのではないかと考えているところでございます。   こういった点を踏まえまして,そもそもこの(2)のカのただし書のような規定を条約第11条2(f)のただし書になぞらえて,国内法でも規定する必要があるかどうかという点でございますけれども,こちらに書きましたとおり,管轄に関する公序違反を理由として,日本に国際裁判管轄を認めない当事者間の合意を無効とするという効果だけでしたら,民法第90条からも導き得る効果であると思われるのですけれども,外国等が日本の裁判権から免除される旨の当事者間の合意をも無効にする効果ということになりますと,民法第90条から直ちに導けるかどうかについては,必ずしも明らかとは言えないのではないか。そうだとすると,その意味において明文規定を置く意味はなおあるのではないかと考えているところでございます。   ただ,基本的には今御説明したような線で条文化したいところですが,現在のこの(2)のカのただし書については,なお表現振りについてはペンディングの状態でございまして,今後更に検討していきたいと思っているところでございますので,この点についても何か御示唆いただければ有り難く存じます。   以上です。 ○上原部会長 それでは,前回までの試案から文言を変更した点について,特に御意見ありますでしょうか。 ○長谷川委員 今回の文言の変更はよろしいのではないかと思います。労働契約法ができましてから,「労働契約」という表現が多く使われておりますし,労働契約法の労働契約は,労働基準法の労働契約よりも若干広いというふうな解釈もされており,立法のときもそういうふうにとらえておりますので,「雇用契約」を「労働契約」とした今回の変更はよろしいのではないかと思います。   また,「雇用契約の更新」としていた部分について,今説明されたような理由で再雇用とされるということで,雇止めについて解雇権濫用法理が類推適用されるようなものについてはこれと区別されるということが,これで希釈できるとすればそれでいいのではないかなと思っています。   それから,注1のところは,前回述べましたように何度も訴訟が行われるのではないかという心配もございまして,乙案のほうがいいのではないかと考えております。   次に,注2とカの関係でありますけれども,私は明文規定を置いたほうがいいと思っていますし,規定の表現振りについては検討していただけるということなので,是非検討していただきたいと思います。本日示された案のカの「のみ」という,日本国の裁判所のみが管轄権を有すべきものと認められるときはという下りの「のみ」をここに書く意味合いは何なのかなとは思っております。「のみ」はいらないのではないかと思うのですけれども,ここをもう一度御説明していただければと思います。 ○飛澤幹事 「のみ」の点でございますけれども,これは6ページの注2の第2段落で「exclusive jurisdiction」のところで書いたのですが,ここで「exclusive jurisdiction」を日本の民事訴訟でいう「専属管轄」,つまり管轄は世界の中で日本だけだということで,仮に労働者に有利な管轄合意がされても,それをも無効としてしまうような意味に理解されるとすると,「のみ」と入れないと本条約の意味を反映しないことになりますので,ブラケットで「のみ」と入れています。   ただ,現段階で事務当局としては,労働契約の分野では,いわゆる日本的な意味での「専属管轄」ではなくて,正にブリュッセルⅠ規則のような,要するに片面的な専属管轄なのではないかと思っておりますので,そういった理解からすると「のみ」は消したほうがいいのかなと思っております。もっとも,(2)のカのただし書の書き振りにつきましては,現在ほとんどペンディング状態でございますので,なお検討していきたいと思っているところでございます。 ○長谷川委員 私も今,回答がございましたように,ブリュッセルⅠ規則で,労働者の住所又は労務供給地と書かれており,労働者保護の観点からいえば,これに忠実な理解をした書き方をすることによって労働者保護ができるのではないかと思いますので,是非この観点で検討していただければと思っています。 ○上原部会長 全般につきまして今御意見を伺いましたが,まず文言については3か所の変更点があるのですが,そこはいかがでしょうか。特によろしいでしょうか。   それでは,5の(2)のウとエのうち,このブラケットがある部分,甲案,乙案がある部分につきまして,御意見をいただきたいと思います。   事務局といたしましては,先ほど説明いたしましたように,乙案がよいのではないかと現時点では考えているということなのですが,その点に関していかがでしょうか。   特に御意見がないようです。ではその次の注2に関するカの部分,ただし書についてはいかがでしょうか。 ○道垣内委員 カについてです。言葉遣いについては,今ここで議論しないということでしたけれども,しかし,今のこの文言ですと,何らの基準もなく,日本の裁判所が管轄権を有すべきものと認められるときはこの限りでない,とされているだけです。何か基準を書かないことには適用するときに困ってしまうのではないかと思います。 ○中西幹事 よく分かっていないのですけれども,「exclusive」というのはどこに,「のみ」を落とした場合というのは,どういうふうな形で出てくるのですか。 ○川尻関係官 その場合は「有すべき」というところでその趣旨をあらわすと考えておりました。ただ,ここは先ほど飛澤幹事から申し上げましたように,書き振りにつきましては現在検討中でございますので,「のみ」を落とした場合に,では今度どのような書き方がふさわしいのかということは,今後検討していきたいと考えております。 ○飛澤幹事 先ほど道垣内委員から判断基準を入れてはどうかという御示唆をいただいたのですが,例えばどのような基準を盛り込む可能性があり得るのでしょうか。 ○道垣内委員 条約に書いてあるのは,公の秩序ですので,それに倣って,公の秩序又は善良の風俗という文言を使うのは一つの案かもしれません。また,法律に別段の定めがあるときということを入れておくことも,新しい国際裁判管轄立法で労働契約事件の管轄権について規定ができるかもしれませんので,考えられるとは思いますが,ただ,その新しい立法において裁判権免除の例外を定める規定が置かれることはないように思います。この点,現在の案では,「管轄権」という文言が用いられているのは,単に専属管轄を日本とする定めがあれば,主権免除の例外となるということを意図されているのでしょうか。 ○髙階委員 こういう規定を置く趣旨は,労働者保護の観点からということなので,こういう言葉が適切かどうか分からないのですけれども,注2の説明の中にもある「労働者保護の観点から日本国の裁判所が管轄権を有すべきものと認められるときは」という趣旨がよろしいのではないでしょうか。 ○河野委員 私も文言を具体的に申し上げられないので申し訳ないのですが,ただやはりここの現状の書き方ですと,条約の中に「any consideration of public policy」と書かれていて,これはやはり法廷地における労働者の保護とか,労働政策という趣旨で入っている文言ですし,そもそもこの規定がここに,先ほどの条約ですと10条とは違う文言としてここに座るというのは,やはり法廷地における労働政策の配慮というのがあるという説明があるので,若干何かこの文言を考慮した言葉が必要な気がいたします。 ○上原部会長 特にほかに御意見がございませんでしたら,次へ進みたいと思います。   6をお願いいたします。 ○飛澤幹事 部会資料10の7ページの6でございますけれども,こちらについては一読時とほとんど文言も変わっておりませんで,特段,コメントすることはございません。 ○上原部会長 6はよろしいでしょうか。   では,7をお願いいたします。 ○飛澤幹事 7に関してですけれども,若干文言の変更等がございますが,特段,意味を変える趣旨ではございません。一つは表題自身を「動産又は不動産に係る権利利益等」と変更しております。これは要するに権利利益に関する規定ですので,そのような表題をつけさせていただいたというところです。   それから(1)のア,イと2号立てで書いているところでございますけれども,これ従前は一つで書き切っていたのですが,やはりちょっと読みにくいだろうということで,二つに分けただけでございまして,特段,意味の変更を伴うものではございません。   それから条約第13条(c)のいわゆる財産の管理又は処分に係る外国の権利又は利益に関する規定ですが,従前は,要綱案第1次案の7と同じところに定めを入れていたのですが,やはりこの7で挙げた(1)(2)とは異質なものだろうということで,要綱案第1次案では,8として別立てにしております。特に内容を変える趣旨ではございません。   以上です。 ○上原部会長 そういうわけで7と8は,もともとは一つのものであったわけですから,そこを一緒に御意見いただきたいと思います。 ○飛澤幹事 8について若干,御説明いたしますと,これ従前,「財産の管理に係る」という言い方をしていたのですが,一読時に「処分」も含めたほうがいいのではないかという御指摘もあり,検討いたしました結果,今回「財産の管理又は処分」という言い方に変更しております。ただ,別に内容を変える趣旨ではございません。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。   それでは9をお願いいたします。 ○飛澤幹事 9の知的財産権の関係ですが,ここについては(2)で,従前は「日本国において行ったと主張される侵害」と書いておったところですけれども,「侵害」を「行う」といったつながりの用例がございませんでしたので,その関係で現在は,この「したものと主張される」といった言い方に変更しております。特段,内容に変更を伴うものではございません。 ○上原部会長 9についていかがでしょうか。   特にないようですので,では10をお願いいたします。 ○飛澤幹事 10については,部会資料10の9ページの注で記載しているところがこちらから申し上げたい点でございます。一読時にはこの(1)のところに「であって,当該外国等と法人等又は法人等の他の構成員との関係に関するもの」という文言をブラケットに入れておりましたが,今回,それを削除しております。前回の部会での御議論も踏まえて,更に検討をした結果,条約第15条1の参加に関する裁判手続を国内法において,「社員その他の構成員としての地位又はその地位に基づく権利若しくは義務に関する裁判手続」と表現すれば,一読時にお示しした要綱試案の第14のブラケット内の文言に相当する部分も当然含まれてくるだろうと思われましたので,今回はブラケット内の文言は削除したということでございます。   以上です。 ○上原部会長 いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,11をお願いします。 ○飛澤幹事 11の船舶のところは,先ほど「commercial」の関係は併せて御議論いただいたと思っておりますので,特に補足することが何かあればということぐらいで,それ以外に現段階で当方から申し上げることはございません。 ○上原部会長 この点は先ほど大分御議論いただきましたので,よろしいでしょうか。   それでは,次に12,仲裁合意の効力というところに行きます。 ○飛澤幹事 部会資料10ページの12,仲裁合意の効力のところでございます。これは一読時の議論で,要綱試案のような文言では補足できていない部分があるのではないかという御指摘を受けまして,更に検討いたしました結果,今回この仲裁合意の存否又は効力に関して,裁判所が行う手続についても適用範囲に含まれることを明確にさせていただきました。   以上でございます。 ○上原部会長 12についてはいかがでしょうか。 ○三木委員 結論としては,これで結構かと思うのですけれども,若干,申し上げさせていただきたいと思います。   仲裁合意の存否を入れていただくことによって,妨訴抗弁のようなものを広げるということで,その点,結構だろうと思うのですが,ただこういう言葉を入れると,仲裁合意,存否そのものを確認する訴訟が起こせるのかというふうに受け取られる余地がないわけではないと。もちろん,日本法の解釈としてはそうはとらないのだと思いますが,先ほどから出ていますように,主たるユーザーは外国ですので,外国の方々がこの今の文言を卒然と読むと,そういうふうに見える余地はある。だからこそ,規定振りは違いますけれども,条約の第17条は前回も申し上げました「which is otherwise competent」というような表現をわざわざ置いて,本来の仲裁法理で認められないものはここで認められるわけではないということを確認しているのだと思うのですね。   安全の意味から,特に外国向けの発信の意味からは,そういう言葉を入れるほうが望ましいと思いますが,ただ日本の法制的にそれが余りやりにくいというか,例がないということであれば,あえてこだわりはしませんが,解説等をお書きになるときに,ここはそういった仲裁合意,無効確認の訴えを認めるという趣旨で書いているわけではもちろんなくて,主として妨訴抗弁を念頭に置いてそういうふうにした規定である。実際にも妨訴抗弁が問題になって前回議論されたわけですので,その点がクリアになるように御配慮いただきたいということです。 ○飛澤幹事 今の御指摘の点で,仲裁合意の無効確認の存否は,若干日本国内でも争いのあるところですので,そちらの解釈次第ということになるのかと。 ○三木委員 もちろん,私の聞いたのはそういう趣旨で,この規定がそこの点について何か決めを打っているわけではないということを言ってほしいという趣旨です。結論がどちらかというのは議論があるところですので。 ○飛澤幹事 分かりました。 ○上原部会長 12につきまして,ほかに御意見はありますでしょうか。   では,進みまして第4に行きます。第4の1をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料10の11ページ,第4の1について御説明いたします。   この関係でこちらから申し上げるのは,この注1と注2に記載してあることと,あともう一点ございますので,順に御説明申し上げていきます。   まず,注1ですけれども,これは1の(1)イの部分でございます。現在,仲裁に関する合意と書いてあるところでございますが,この点について,一読時では「仲裁合意」と書くべきではないかという御指摘がございました。それとあわせて,そもそも仲裁合意をした場合には当然執行とかの免除の放棄についても,同意されたと見るべきではないかという点についても,併せて御指摘を受けたところであります。   そこで検討いたしましたが,まず,仲裁合意をすれば当然に執行とか保全とかの免除放棄につながるかという点でございますけれども,12ページの上から2行目の「ちなみに」から始まるところを御覧ください。外国の法制を見てみましたところ,アメリカの主権免除法は確かに仲裁合意があった場合には,仲裁判断に基づく執行から免除されないといった規定をしておるところでございます。しかしながら,そもそもアメリカの主権免除法の第1610条aというのは,執行できるのが商業活動のために使用される外国財産に限定されておりますので,結論的には本条約の仕切りと大差はないのかと思われます。   それから,イギリスとオーストラリアの各国家免除法を見てみますと,仲裁判断に基づく執行については,原則的に免除するが,商業目的で使用される財産等に関する執行については非免除としておりますので,少なくともこの条文構造を見る限り,イギリスとオーストラリアでは仲裁合意があったからといって,直ちに仲裁判断に基づく執行の免除放棄までを意味するとは解していないのではないかと思われます。   それから欧州国家免除条約はどう扱っているのかということなのですけれども,これもこちらに書きましたとおり,仲裁判断に基づく執行は,そもそもこの条約の23条で仕切るところではないということですので,この条約自身はこの「仲裁合意」が直ちに執行等の免除放棄の意思を含むのかどうかについては,態度決定をしていないということになるのかと思われます。   ですので,海外の法制を見ても「仲裁合意」が直ちに執行の免除までの放棄までを意味するかというと,必ずしもそうではないということと,それからこれは一読時にも事務局から申し上げたことですが,本条約の構造として,やはり執行等の免除放棄については,別段の方法で合意するといった仕切りになっております。その合意の方法として,要綱案第1次案でも書かせていただきました(1)のア,イ,ウ,エの方法でやるんだという,つまり免除放棄の合意をするんだという仕切りになりますので,そうだとすると,いわゆる日本法でいう「仲裁合意」は,部会資料10の11ページの注にも書きましたけれども,一般に当事者間における一定の法律上の紛争の解決を私人である第三者にゆだねて,その判断に服する旨の合意であるとされていますから,執行免除の放棄は,やはりこの「仲裁合意」には含まれてこないだろうと考えられます。したがって,「仲裁合意」と書けないのであれば,確かに熟さない文言ではありますが,仲裁に付随してなされた合意ということで,「仲裁に関する合意」というのが一つの案としてやむを得ないのかなということで,引き続きこの言葉を提案させていただいているという次第です。これが注1の関係です。   それから注2の関係ですけれども,一読時には「保全処分又は民事執行の目的を達することができるようにその財産を担保に供し,又は分別して管理した」というふうにしまして,英語の「allocate」に対応するのは財産を担保に供することだけ,それから「earmark」に対応するのが分別して管理することだけという仕切りにしていたのですが,やはり「allocate」に対応するものが担保の提供だけであると断定するのもやや難しいのかなと思われましたので,従前は財産の指定という文言がよろしくないのではないかと私は申し上げましたが,「earmark」「allocate」あわせて言葉を選ぶとすると,財産の指定と書かざるを得ないのかなというところがありまして,要綱案第1次案においては「財産の指定」という文言を使わせていただいているところでございます。   ちなみにこの(2)に当たる例としては,こちらの注2の第2段落で書かせていただいたようなものが考えられるかと思います。   それから部会資料10には明記していないのですが,第3点目に一読時の議論の中で中原委員から,執行について主権免除を原則として認めるということは,特に債権執行等の分野においては,ある種の差押禁止債権を認めることになるのではないかと。そうだとすると,日本の民法第510条は差押禁止債権については,相殺禁止といった効果を定めておりますので,正に外国の有する債権というのが,民法第510条の相殺禁止の債権に当たり得るおそれがあるのではないかといった懸念が示されたところでございます。これも最終的には裁判所の解釈になるところがあるかと思うのですけれども,一応,事務局として考えたところでは,民法第510条で何ゆえ一定の債権が相殺禁止とされているかと申しますと,やはりそのような債権については債権者に現実の給付がされるべきであるから,相殺についても禁止するのが相当であるという考慮に基づいていると思われます。このように民法第510条が債権の属性に着目して差押えを禁止しているのだという理解に立ちますと,主権免除の文脈で差押えが禁止されるというような場合には,むしろ債権の属性というよりも,正にそれが外国の債権だからという債権者の属性に着目していることになりますので,このような場合には,民法第510条の趣旨に照らしても,同条の射程に入らないのではないか,つまり,民法第510条が本来適用される場面ではないのではないかと,そう考えているところでございます。   以上でございます。 ○上原部会長 第4の1につきまして,御意見等はございますでしょうか。 ○三木委員 注1の関係なのですが,ここでのポイントは,先ほどの「commercial」と同じように,条約と違う文言を使うことが妥当かということに尽きると思うのですね。確かに御説明があったように,諸外国を見ると,というか古くからこの仲裁合意があったときに,それは裁判権免除をこうやるのは当たり前ですけれども,同時に執行免除合意まであるのかという点についてはかなり議論があるところです。   現在,例えば確かに欧州主権免除条約はその点について決めを打っておりません。各国の国内主権免除法にゆだねており,各国の国内主権免除法ではその解釈をめぐって正に解釈があると。つまり解釈にゆだねているという状況で,各国の主権免除法がこの点について決めを打っているという例は,私は知らないわけですね。   それからアメリカについても,結論的には解釈にゆだねられていると聞いております。英国も条文で書いてないところは,すべて解釈にゆだねられていると。いずれにしてもこの問題がどうなるかというのは,解釈にゆだねられていると。そうすると逆に言うと,既存の条約や国内法は解釈の余地を残す形で規定がなされているということになります。   問題は,主権免除条約のこの規定が解釈の余地を残して規定しているのか,解釈上の決めを打った規定なのかという点が問題で,いずれにしても日本は条約に従って立法することになるわけですね。この条約制定時の議論を伺ったり,あるいはコメンタリーを見たりすると,そこの点を意識してこの規定がされているとは思えない。何の議論もないし,コメンタリーにもその記述はないわけですね。つまり余り考えずにその点についてどちらがいいということは考えずに,規定をされているのではないかと私は見たわけですね。間違っていれば後で御指摘いただきたいと思います。   そうすると条約は決めを打っていないし,条約で使っている文言は「仲裁合意」という文言,これはほかの読みようがなくて,「仲裁合意」としか読みようがないわけです。つまり仲裁に関する合意という規定はしていないと。そうすると,恐らく将来,この条約が効果を発して,解釈されるときには,これがどういう意味なのかと。つまり執行免除まで含むのかどうかという点について,解釈上の争いがされることになるのではないかと思います。   そのときに,現在の日本法のこの案文ですと,これは別途の合意がいるということについて,解釈上の決めを打った条文案になっている。前回の説明とあわせると文言も違いますし,説明とあわせると決めを打ったことになっている。決めをそういう形で打った例というのは,果たしてほかにあるのかどうかという点ですね。それは教えていただきたいと思います。   現在,解釈それ自体も,これは私がきちんと調べたわけではありませんけれども,若干の外国の文献を見ると,むしろ別途の合意はいらないという論文は見つかりましたけれども,合意がいるという論文は見つからないので,それをもって趨勢がどうかということを言うほどのデータはありませんけれども,少なくともここで日本法が決めを打っている解釈は,論文では出てこなかったと。ここで解釈論を争うつもりはないのですけれども,この決めを打った形で条文を作ったときに,将来条約の解釈が例えばこうだと固まった場合には,日本法がそれと違う解釈をしていたことになるわけですね。他方,条約と同じ文言を使っていれば,条約の解釈が固まれば日本法も同じ解釈だということは,比較的自然に導けるわけですね。なので,違った文言を使うことは危険ではないかという意味で,どちらの解釈の決めを打てという意味ではなくて,むしろ打たないために条約と同じ文言を使ったほうがいいのではないかというのが,私の前回の発言の趣旨であります。 ○米山関係官 まず,条約第18条,第19条(a)の読み方に解釈の余地があるとの御意見だったのですけれども,条文を素直に読む限りは,あくまでもこの(i)から(iii)までに挙げられている方法によって,明示的に保全なり執行なりの免除放棄をすると,その明示的な放棄の方法が(i)から(iii)までに掲げられているとしか読めないのではないでしょうか。そうすると,仲裁合意に付随して,仲裁合意の際に執行免除について明示的に放棄をしたという場合を指すとしかこの(ii)の「arbitration agreement」は読めないのではないかと思っているところなのですけれども,条約第18条,第19条(a)の読み方に解釈の余地があるという御指摘でしたので,どのようなところから解釈の余地があると言えるのか御示唆いただければと思います。   また,諸外国の法制との関係ですが,主権免除条約では,第19条(c)で商業財産につきましては,外国等の同意がなくとも執行ができるという仕切りになっておりまして,要綱試案第4の2(1)でも同条項に対応する規定を置いております。他方でアメリカやイギリスやオーストラリアの主権免除法制でも,仲裁合意があった場合に外国の同意がなくても執行できる財産は,商業財産に限られております。ですので,第4の1(1)イのとおり,「仲裁に関する合意」としておきまして,仲裁合意から直ちに執行免除の放棄までが擬制されるという解釈をとらなくても,アメリカ法,イギリス法及びオーストラリア法との仕切りは違ってこないと考えられます。そういった意味で事務当局の提案は,諸外国の主権免除法制との仕切りと合致する解釈であると考えておるところでございます。 ○三木委員 正におっしゃったように,ここの1から3までで執行の主権免除の合意方法を書いているのですけれども,その合意方法の2番目として「仲裁合意」と書いているわけですね。ですから条文,条約は仲裁合意がその免除の方法であって,それと別途の合意とは書いてないわけですから,仲裁合意が手段だと書いているという。おっしゃったような解釈があり得ないとはいいませんが,そうであれば先ほどの「commercial」のときと同じような話ですが,条約はそう書いたはずであって「仲裁合意」という言葉ではなくて,仲裁合意に付加する合意とか何とかという言葉をむしろ使ったはずだという気もします。条約が「仲裁合意」と使っている以上,先ほどおっしゃったのも一つの解釈であって,確たる証拠がない以上,条約の文言を使った方がよいのではないか。   ちなみにどういう解釈があるかというと,一般に諸外国でなされている解釈は仲裁合意,それ自体は仲裁を約束する合意であるけれども,それを結ぶことによって黙示で執行の主権免除の放棄合意がされているという解釈,これを書いている論文はたくさんあります。ただ,繰り返しますけれども,ここでその解釈論,どっちが正しいかということを議論したいわけではなくて,仲裁合意と条約が書いているのが仲裁合意ではないという確たる証拠がない以上は,条約どおりの文言で訳しておくべきではないかという趣旨です。 ○始関委員 おっしゃる趣旨はよく分かっているつもりなのですけれども,「仲裁合意」という言葉は,仲裁法第2条第1項で定義されています。それでその仲裁合意というのがどういうふうに定義されているかというと,「既に生じた民事上の紛争又は将来において生ずる一定の法律関係(契約に基づくものであるかどうかを問わない。)に関する民事上の紛争の全部又は一部の解決を一人又は二人の仲裁人にゆだね,かつ,その判断(以下「仲裁判断」という。)に服する旨の合意をいう。」と。だから仲裁合意の中で明示的に合意するというのは,日本法の文章としてはうまく合わないので,意訳になりますけれども,「仲裁に関する合意」という表現をとらざるを得ないのではないでしょうか。それで先生のおっしゃっている解釈の余地が全然なくなってしまうのかどうかというのは,そうとも言えないのではないでしょうか。 ○三木委員 「仲裁に関する合意」という文言を使っただけだと,その合意の解釈ができるのですけれども,前回の文章につけられたような説明ですね。つまり明示的に解説では別途の合意がいるという解説だったのですが,そうすると,それは公定解釈ではないのかもしれませんが,解釈の余地がなくなることを恐れるわけですね。 ○始関委員 そうすると,先生の主たる御議論の中心というのは,解釈の余地ということだと思いますので,それは先生自身も先ほどおっしゃられたように,「仲裁合意」という言葉を使うか,「仲裁に関する合意」という言葉を使うかではなくて,担当者がどういう解説をするかということなのだろうと思います。担当者の解説内容を私がどうこう言うことはもちろんできないわけですけれども,仮に担当者がどのような解説をしようが,三木先生が論文をお書きになればどちらを裁判所がとるかということになるのだろうと思いますので,そこは余り何か大上段に議論しなくてもいいのかなという気がいたします。 ○三木委員 先ほどと同じで,この法律も英語訳ができると思うのですが,「仲裁に関する合意」と日本語で規定すると,「arbitration agreement」とは訳せない,つまり,何か違った言葉になると思うのです。そうすると,当然,外国人は何か違った意味で日本語を使っていて,何か解釈を固めたのだろうともちろん見るわけですが,それでいいのかということですね。逆に言うと,条約と同じ文言を使って何が不都合かよく分からない。条約どおりの文言をただ訳したというだけの話ですから,むしろ真っ当なやり方ではないかなと思うのです。 ○始関委員 ここは先ほどのところとはちょっと違って,「仲裁に関する合意」という言葉を使っていても,英語に直すときは「arbitration agreement」と訳すのではないかと理解していました。 ○三木委員 それは私はできないと思います。これはほかでも,仲裁法を訳すときは既に訳ができているかどうかは知りませんけれども,「仲裁合意」イコール「arbitration agreement」で訳していくことになるのだと思いますので,違う言葉を同じ訳にするというのはどうかという気はします。 ○水島幹事 御参考になるかどうか分からないのですが,これは垣内幹事が研究会のときに指摘されたことなのですが,条約第17条の英語版ですと,「arbitration agreement」と同じなのですけれども,フランス語版を見ると17条のところは「un accord de l'arbitrage」であって,18条のところが「une convention d'arbitrage」となっていて,実はフランス語版だと17条と18条と違った言葉が使われております。   以上,参考になるかどうか分かりませんが。 ○上原部会長 この点につきまして,ほかの方はいかがでしょうか。   では,11に関しまして,「仲裁に関する合意」か「仲裁合意」かどちらが適当かということにつきましては,今回も御議論があったということで,なお検討させていただくということにいたしたいと思います。   第4の1のほかの点についてはいかがでしょうか。 ○道垣内委員 条約には書いていないように思われるのですけれども,指定とか同意は撤回できるのでしょうか。特に執行については,慎重に契約交渉をしようと思えば,日本の企業が外国国家と契約をする場合に,担保提供を依頼し,それはできないと言われたときには,次善の策として,では,せめてearmarkだけでもつけてくださいということを交渉するということが考えられます。契約の中にそのことをどのように表現するのか分かりませんが,これこれの財産にearmarkをつけたという規定を入れたとします。しかし,実際に紛争になった段階で,外国国家の側がその指定をやめることが自由にできるのでは意味がないことになります。アメリカだったかイギリスだったかは,裁判からの免除特権の放棄の同意などについても,撤回できないという規定を入れているものがございます。この点は解釈に任せてしまうということもあり得るわけですが,しかし,できればそこは明確に同意は撤回できないとか,あるいは指定は撤回できないということをどこかまとめて規定しておいていただくのも,一つの考え方ではないかと思います。いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 御指摘の点については,若干コメンタリーでは議論されているところかと思います。ですので,あとは本条約の解釈としてどこまで書けるかという問題とのすり合わせもございますので,その点も踏まえてなお検討してみたいと思っております。 ○信森幹事 注2及び相殺に関してのコメントに関してでもよろしいですか。両者とも事務局案に賛成という立場です。まず,注2のところにつきましては,先般,「earmark」のところについて,私のほうから多少例を挙げて「分別管理」という言葉でもおかしくないのではないかと申し上げました。その折,席上で質問もいただいたかと思うのですが,お答えできなくて少し気になりましたので,その後知り合いの米国人弁護士に確認をしてみました。そうしましたら,幾つか回答が返ってきた中では,両者は余り区別して使っていないということを言った人はいる一方で,区別しているという意見はありませんでした。そういう意味では意識的に必ずしも分ける必要はないのかなと考えております。前回の席上で,私は「earmark」という言葉を単独で取り上げた際の訳として「分別管理」でもおかしくないのではないかと申し上げた訳ですが,両者を書き分ける必要があるということまで言ったわけでもございません。このため,事務局案の「指定」という言葉の選択の是非や,英語として二つある単語を一つにまとめて訳すのがいいのかについて,他に強い意見がなければ,私自身は事務局案でよいと思っています。   それから相殺の点に関しましては,重要な問題だと思って多少調べ,事務局にも資料を差し上げました。本日の事務局説明では,解釈問題ではあるが,民法との関係ではこれは入らないのではないか,言い換えれば相殺可能とおっしゃられました。条約との兼ね合いでそこはどう整理されているかというのは私も知らないのですが,少なくともアメリカ法では同じような論点があり,比較的確立した判例として,相殺はできるとされているようです。この点は,確かイギリスも同様で,資料を引き続き探しているのですけれども,相殺可能だったと記憶しています。事務局が解釈問題と整理されたので,どこまでこの場で議論するのがいいのか分かりませんが,民法との関係が理論的に御説明のとおり整理できるとすると,実務的には相殺権を期待していると思うので,直感的な意見で恐縮ですが,事務局の説明でよろしいのではないか,逆に,この条約で相殺を禁止しているとなると,かなり混乱があるのではないかなと,思いました。   以上です。 ○上原部会長 ほかの方で御意見ありますでしょうか。 ○三木委員 先ほどの話ですけれども,仲裁に関する合意を維持して,その意味も前回の説明どおり,仲裁合意とは別途合意がいるのだとした場合に,それはアとウに含まれるもの以外に何があるということになるのでしょうか。 ○米山関係官 御説明申し上げますと,仲裁合意であれば書面でなされるのが通常であるという問題意識からの御質問かと思うのですが,書面による契約や条約その他の国際約束に当たらないイの類型として考えられるのは,これは一読の際の部会資料でも書かせていただきましたが,紛争を仲裁に付するという合意自体は書面で行うけれども,それに附属する執行や保全処分からの免除放棄の合意については,これは口頭でしても良いのだというところで,そういったものがイでは拾えるのではないかと考えているところでございます。 ○三木委員 これも確認なのですけれども,条約のこれはaの(2)に当たると思うのですけれども,(2)は全体として全部書面性を要求しているものしか挙がっていませんが,口頭合意を含むというのは,条約かコメンタリーなどに出てくるのでしょうか。 ○米山関係官 コメンタリー等でそのような解説があったということではございませんけれども,書面による契約とは別に,仲裁合意というのが並べられているその意味というのを考えると,先ほど申し上げたような解釈に至るのではないかと考えております。 ○三木委員 口頭合意が入るかどうか自体は確認してもらう必要があると思いますのと,それが入るからこういう解釈だというのは論理が逆ではないかと思います。 ○始関委員 米山関係官が言われたのは,部会資料9の要綱試案(3)の2ページ(3)の第一段落に書かれているほうの例を挙げられたのだと思いますが,むしろ研究会のときに指摘された重要な問題は,2ページの終わりから3ページにかけての事柄で,これは確か私の記憶では河野委員から御指摘いただいたと思いますけれども,投資紛争解決条約の場合は,書面による合意という形で仲裁合意をするとは限らなくて,ここに書いてあるように,一方が仲裁に付する者に同意すれば書面による合意という形でなくても,仲裁合意というのか,仲裁に関する合意というのかはありますけれども,そういったものが成立するという取扱いになっている。そこも考慮されたのではないかということだろうと思うのです。 ○三木委員 投資紛争解決条約であればアで含まれるわけですよね。条約ですから。 ○始関委員 条約というのは,国と国同士のものですから,その条約を締結することによって,一方当事者である国側は合意しているけれども,ここで問題になるのは投資家側との合意ですので,その投資家の行為というのは個別の書面の合意でなくてもいいというのが投資紛争解決条約だと思うのです。 ○三木委員 おっしゃる意味は分かりましたけれども,その場合には条約優位説に従って,投資紛争解決条約等の条約の解釈の問題になって,国内法である主権免除法の問題ではなくなるのではないですか。 ○河野委員 今,始関委員がおっしゃったのは,通常投資紛争解決条約のもとでのそのICSIDの仲裁手続を使う場合には,一応,同意を得る場合に幾つかパターンがありまして,特別仲裁で仲裁そのものについて当事者間で書式の合意がある場合と,それ以外に国家の側が国内立法あるいは条約,多くの場合には投資保護条約あるいは経済連携協定みたいなものに,相手国あるいは締約国の国民との間の紛争については仲裁に付すという1項を入れておきますと,それを使って投資家の側のほうが仲裁をしたいと思えば,それでそこに相手側の国家の側の同意は読み込むという形で仲裁が成立するという場合がございますので,そういう趣旨の御説明です。 ○三木委員 先ほど言いましたようにICSID条約が適用される場合と,主権免除法との関係は,ICSID条約の解釈問題が優先するのではないですかという趣旨です。 ○河野委員 ICSID条約の解釈が優先するというのは,どういう意味でしょうか。 ○三木委員 ICSID条約上,主権免除の問題をICSID条約上の仲裁合意したときに,主権免除の問題をどう扱うかというのは,ICSID条約上の問題とは違うのですか。 ○河野委員 いいえ,そうではないです。ICSID条約の場合には,主権免除については別途規定がありまして。 ○三木委員 その規定の問題ではないかという趣旨。 ○河野委員 そうではありません。その規定の書き振りは,前回も少し御説明申し上げたと記憶しているのですが,もともとの投資紛争解決条約の趣旨は,確実に締約国ですべてこの条約のもとでのICSIDの仲裁判断は,すべて締約国のどこかの国の裁判所で執行できるようにしたいという趣旨で条約体制をつくろうとしたのですけれども,主権免除に関しては,少なくとも交渉時にかなり反対論がありまして,それで各国の主権免除に関する規則を害しないという形でしか入らなかったので,したがって,条約のもとでも各国の主権免除法の適用が認められるという趣旨の規定が別途,承認執行については入っていますので,条約だけで物事が解決できるという規定振りにはなっていないと考えられます。 ○三木委員 今おっしゃったのは,ICSID条約の55条だと思いますが,その点についてはアメリカの判例などでおっしゃったのと違った趣旨の判例も出ております。しかし,そこは解釈問題ですので,これ以上申しませんが,今おっしゃった点も争いがあるようだということと,ICSIDの問題は置いておいても,少なくともこの主権免除条約が言っている,この規定が口頭合意を認める趣旨なのかどうかは,なお条文とコメンタリーからは私は読み取れませんでしたので,今の説明ですと,このア,イ,ウのイは口頭合意を入れるためだけの規定になってしまうわけですね。というのは,書面合意はウでカバーしていますし,条約上はアでカバーしていますから。だから本当にそれでいいのかどうかも,併せて確認をしていただければと思います。 ○飛澤幹事 どうもちょっとICSIDの関係に議論が偏ってしまったのですが,必ずしもICSIDでなくても,ある国の国内立法で合意でなくても同意が並存する形でも仲裁合意とみなし,仲裁合意に附属する執行免除の放棄の合意についても同様に取り扱うといったような立法がされた場合には,法令による国の側の同意と私人の側の同意が並存するにすぎないわけですから,それをさすがに書面による契約とは読めないだろうということで,そういった場合,まだそういった立法が現にあるかどうか分かりませんけれども,そういった立法ができた場合にも対応できるようにするという意味においてウとは別にイを設ける意義があるのではないかと考えております。 ○三木委員 おっしゃることも分かりますし,その点も議論したいとか争いたいわけではなくて,そういったことを入れたいがために,この条約の2の条文があるのかどうかということ。それから先ほどの繰り返しになりますけれども,条約自体はそういうこともすべて踏まえた上で,「仲裁合意」という言葉を使っているのとは違うのですかということを言っているだけです。 ○上原部会長 三木委員の問題点の御指摘はよく分かりましたので,なお検討いたしまして,次回また提案させていただくことにいたします。   他に何かございますか。 ○河野委員 一番事例が多いので,ICSIDと申し上げてしまいましたけれども,条約の中にはICSID以外に例えば商業会議所ですとか,スウェーデンの仲裁とか,いろいろな仲裁フォーラムを指定している条約は現に存在しますので,今の議論は必ずしもICSIDに限定される議論ではないことを付言させていただきます。 ○上原部会長 よろしいですか。   それでは,次の第4の2の説明をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料10の12ページの下のほうから始まる第4の2についてですが,こちらとして論点として取り上げたいのは,13ページの注1,注2でございますが,そのうち注1につきましては,先ほど「commercial transaction」のところと併せて御議論いただいたところだと思っております。   それから注2のところですが,「commercial purpose」のみに使用され又は使用されることが予定されている財産とは何ぞやというところがございますので,このようなものが当たるのではないかということを例示で挙げさせていただいたというところでございます。   2については以上です。 ○上原部会長 いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,3をお願いします。 ○飛澤幹事 3についてはこの現段階では特に申し上げることはございません。 ○上原部会長 特に御発言はありますか。よろしいですか。   それでは第5,補則というところの1,訴状等の送達についてお願いします。 ○飛澤幹事 第5の1は,部会資料10の13ページから始まるのですが,ここで取り上げる問題は,14ページの注で書いてある部分でございます。一読時の議論で,そもそも翻訳文に関する規定を規則事項にするか,法律事項にするかという御議論をいただいたところですけれども,今回,基本的には規則事項とすべきではないかという提案をさせていただいております。   それから条約第22条3の翻訳文が必要な場合,「if necessary」をどのように解釈するかということなのですが,前回,外国から要求された場合といった御説明をしたのですけれども,そうしますと必要性の有無を事前に判断することが難しいというところもございます。   それからそもそも翻って考えますと,普通,外国等が訴えられた場合,日本語だけの訴状等が送られてきて,それで了解したという外国は普通はないものと思われます。そうなりますと,やはりここの注で書きましたとおり,当該外国等が日本語以外を公用語としている限り,すなわちすべての外国について翻訳文添付が必要なのではないかと考えている次第でございます。   あとは文言的な問題ですけれども,(2)のところですが,従前,「外務省」と書いていたのですが,そもそも外国の外務省について,「外務省」という言い方で足りるのかといった,若干,法制上の問題がありますので,現在のところは,外務省に相当する当該外国等の機関とか,あるいは当局といったような言い方をしております。ただ,これについてはなお更に法制上詰める必要があると思っておりますので,現段階ではペンディングの要素もございます。   以上です。 ○上原部会長 いかがでしょうか。   では,この点につきましても,法制上の問題はなお残るようですが,特に内容としては御議論は特に本日はないということでよろしいですか。   ではその次,2,外国等の不出頭の場合の取扱いのところをお願いします。 ○飛澤幹事 14ページの2のところでございますが,変更点は15ページの注に書いたところでございます。前回,この(4)に相当する部分について,控訴だけを挙げておりましたが,控訴以外にも上告,あるいは手形訴訟や小切手訴訟,少額訴訟における異議申立てについても入れる必要があるのではないかといった御指摘を受けまして,検討しました結果,そのとおりかなと思いましたので,それらも含まれることを文言上明らかにしたといった部分が大きな変更点でございます。   以上です。 ○三木委員 質問自体が適切かどうか分からないのですが,こうやって並べていくと漏れがないかということがやはり心配になるわけです。非訟事件とかの上訴の欠席決定と上訴の関係みたいなものは問題にならないということでよろしいのでしょうか。 ○北村関係官 条約第23条が予定しているもの,「default judgment」と書かれておりますけれども,英米法でいう「default judgement」は日本にないので,日本でそれに相当するものは何かと考えますと,応答せずに自白したとみなされて,その結果,認容判決がされる場合だという理解をしておりますので,非訟等の場合はここには含まれないと理解しております。 ○上原部会長 ほかに。よろしいでしょうか。   それでは次をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,15ページの3でございますが,この点については事務当局から特に申し上げる点はございません。一読時から変更点もございません。 ○上原部会長 特にないようでございますので,では最後の4にまいります。 ○飛澤幹事 15ページの4は,注に書きましたとおり,変更がされております。   従前,ここの規定は例えば外交特権とか,あるいは国の元首の場合とかといった場合に,それらに認められた特権免除には,この主権免除の規律は影響を及ぼさないといった書き方をしておったところでございます。ただ,いずれにせよ確認的な規定でありましたところ,やはり条約又は確立された国際法規に基づいて外国等が特権又は免除を享有する場合というのは,従前,一読時に挙げていた四つの場合に限定されるものではないのではないかと考えまして,上記のような表現とさせていただいたところでございます。   以上です。 ○上原部会長 このような一般的な規定に変えるということと同時に,順番としてもかなり最後のほうで御議論をいただくことになりましたがいかがでしょうか。 ○水島幹事 結論としては,これでよろしいのではないかなと思っているのですが,その形式上の問題ではなくて,その実際上の問題として,従前の案では条約には書いていないその外国軍隊の活動に関する条約又は確立された国際法規に基づきうんぬんというものについては影響を及ぼさないというのを要綱案では書いていて,そこには例えば横田基地事件のようなものについて,この法律ではなくて特別なルールがあり得て,それをまず見てくださいという趣旨だったと思うのですけれども,この形にするとメッセージとしては伝わりにくくなって,その最高裁の平成14年判決の立場からすれば,外国軍隊に関する特別な法というのはなくて,一般的な主権免除でやるんだということと,少なくとも私は最高裁判決はそういうものだったというふうに理解しておりまして,そうすると外国軍隊については特別な国際法があり得るんだというメッセージが,これだとちょっと伝わりにくくはなるなという,これは問題点の指摘というよりは確認的なことで指摘させていただきたいと思った次第です。 ○飛澤幹事 今の御指摘の点ですけれども,趣旨としては前回と変えるつもりはないのですけれども,やはりこう書いてしまうと,何か内容が変わってしまうところがございますでしょうか。 ○水島幹事 いえ,内容は変わらないと思います。私は結論としてはこれでいいと思って,注で指摘されていることもそのとおりだということで,それで全く構わないと私は思っています。ただ,実際上の問題として,何かそのメッセージが少なくとも直接的には伝わりにくくなるなという。中身が変わるのではなくて,そのメッセージの伝わる度合いというか,実際上の問題というぐらいです。 ○上原部会長 いかがでしょうか。ほかに御意見,御質問等ございますでしょうか。   そういたしますと,本日用意いたしましたこの要綱案第1次案につきまして,全体にわたって御意見をいただいたということになりますので,本日のところはこれで会議を終了したいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,次回は今日の議論,あるいは前回までの議論を踏まえまして,第2次案を事務局のほうで用意いたしまして,それに基づいて更になお議論があり得るところを中心に御議論いただきたいと思います。   では,事務当局から次回の日程等につきまして,御連絡をお願いしたいと思います。 ○飛澤幹事 次回の議事日程について御連絡いたします。   次回,第5回会議になりますけれども,日時は12月12日金曜日,午後1時30分からで,場所はまたもとに戻りまして,法務省の第1会議室となります。 ○上原部会長 それでは,本日の会議を終了させていただきます。   どうも長時間にわたって御熱心な御議論,ありがとうございました。  -了-