法制審議会主権免除法制部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成20年12月12日(金) 自 午後1時30分                        至 午後3時31分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  主権免除法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○上原部会長 定刻になりましたので,主権免除法制部会の第5回会議を開催いたします。   審議に入ります前に,事務当局に配布資料について説明をしてもらいます。 ○飛澤幹事 それでは,配布資料の御説明をいたします。   今回の資料は,部会資料11として,主権免除法制の整備に関する要綱案第2次案を事前に送付させていただいたところでございます。今回の第2次案は,前回の第1次案での御議論をいただいた点等を踏まえて,さらに今回,特に議論をしていただきたい点などを(注)として挿入しております。ただ,部会資料11の(注)などに記載されていない部分についても,若干,御議論いただきたい点がございますので,その点については適宜,口頭で説明させていただく予定でございます。 ○上原部会長 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は,今御説明がありました部会資料11に基づいて御議論をいただきます。今回も本日の審議でこの部会資料11について一通り議論をし終える必要があります。前回と同様に進行に御協力いただきますよう,お願いいたします。   それでは,まず第1,総則につきまして,説明をしてもらいます。 ○飛澤幹事 第1の関係でございますけれども,まず,1の適用範囲については,本日は特に申し上げることはございません。   2の定義の関係につきましては,(注)のところで記載しましたとおり,2の(1)のイとウの文言の関係では,若干,本条約の文言との整合性をどうつけるかということと,それとは別に国内法の法制上,更に検討すべき点が残っております。ただ,ここで定義したア,イ,ウ,エにそれぞれに含まれる意味内容を変更するものではなく,単にその意味を表すための用語法として,どういった用語を用いるのが適当かということを,なお検討しているところでございます。   総則の関係は以上です。 ○上原部会長 それでは,ただいま説明がありました,第1,総則について,御質問,御意見ありますでしょうか。 ○阿部(潤)委員 「国等」の定義ですが,いわゆる未承認国家等はどのように考えるのかを御教示いただければと思います。 ○飛澤幹事 未承認国等をどう取り扱うのかというのは,なかなか難しい問題もあるところでございますが,特に北朝鮮のような未承認国とか,台湾をどのように取り扱うのかという点について,簡単に御説明申し上げます。   まず,我が国の政府においてこういった未承認国,あるいは台湾について,これまでどのように取り扱っていたかという点でございますが,これにつきましては,過去の取扱い等を調べてみましても,これら未承認国及び台湾が主権を有することを前提とした取扱いはしてきておりません。   それから,未承認国に限って申し上げますと,そもそも主権免除の根拠というのは主権平等というところにあると言われているところでございますけれども,正に未承認国については,日本として,これに対する主権平等を観念すべき必要性はないものと考えております。そういったわけで,未承認国,それから台湾はいずれもこの要綱案で定義している国等,あるいは外国等の定義のいずれにも当たらないと考えておるところでございます。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。   条約等の関係もあると思いますが,外務省の方から何かこの点についてございますでしょうか。 ○岡野幹事 今,飛澤幹事から御説明のあったとおりだと思います。日本政府が政府として国家承認をしていない主体との間では,この条約に基づく国際法上の権利義務関係が生じることはないというのが,まず原則です。未承認国家はそういうことですが,国家の要件に当たらない主体については,そもそも国ではないわけですから,この条約の締約国になることは想定されない。本条約にいう「国」に該当することは想定されないということであります。台湾についても同様のことが言えると思います。 ○上原部会長 はい,ありがとうございました。 ○道垣内委員 台湾についてお伺いしたいのですが,この定義のイ以下にも当たらないということでしょうか。 ○飛澤幹事 はい,定義のいずれにも入らないと考えております。 ○道垣内委員 それは,国の行政区画でもないということですか。 ○飛澤幹事 台湾は,どこかの締約国の行政区画というわけでもなかろうと考えておるところです。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。   ほかに第1につきまして,御意見,御質問ありますでしょうか。 ○髙階委員 後ほど議論になると思うのですが,例のcommercial transactionの定義なのですけれども,今回の御提案の定義の仕方を見ると,定義の条項に置いたほうがふさわしいような気がいたします。前回の御提案ですと,文章の中で定義していくというやり方もあるのかなという感じがしたのですけれども,今回のような,後で括弧をして定義するという場合には,これは定義条項に規定するという方法では駄目なのでしょうか。 ○飛澤幹事 定義の仕方はいろいろやり方があると思います。定義条項に置く場合もありますし,今のように括弧書きで定義する場合もございますので,その点は最終的に法制局とどちらのほうがすわりがよいか詰めていきたいとは思っております。 ○髙階委員 一応,条約の体裁もあるので,分かりやすさから言えば条約の形式に合わせたほうがよろしいかと思います。 ○上原部会長 髙階委員の御意見につきましては,なお検討させていただくということで,よろしいでしょうか。   それでは第2の説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 第2の関係ですけれども,特段,事務当局のほうから付け加えることはございません。 ○上原部会長 委員,幹事の方から何かございますか。   では,第3に移ります。 ○飛澤幹事 第3の1については,今日の段階では特に申し上げることはございませんが,ただ,ここに限られないのですけれども,表現ぶり等については,なお検討している部分がございますので,そこはなお詰めていきたいとは思っております。内容的に変わるところは特にございません。   それから,第3の2,条約第8条関係でございますが,こちらについては部会資料11の2ページの下の(注)を御覧ください。前回,ペンディングにしておりました条約第8条2(b)に対応する明文規定を置くかどうかというところでございます。ここに書きましたとおり,結論的には従前申し上げていたとおり,条約第8条2(b)は,同条2(a)と同様に,裁判権からの免除を主張する場合に関する規定であると考えられます。若干,敷衍しますと,この(注)の第2段落から書いてございますとおり,条約第5条では,「いずれの国も,この条約に従い,自国及びその財産に関し,他の国の裁判所の裁判権からの免除を享有する。」と規定されておりますところ,この条約第8条は,第5条の趣旨に則って,国が,自分自身について,あるいはその財産について他の国の裁判所の裁判権から免除されるのだといった主張をする場合には,当該他の国の裁判所による裁判権の行使について同意したものとは認められない旨を規定したものと考えられます。   そういったわけで,条約第8条2(a)(b)は,いずれも裁判権からの免除を主張する場合に関する規定であると考えられますので,要綱案第2次案の2の(2)で定めているもの以外に別途定めを置く必要はないと思われます。   以上です。 ○上原部会長 それでは,この1も含めて,1と2のところにつきまして御議論をお願いいたします。 ○山本委員 2の(2)についてなのですけれども,「参加する」という言葉が使われているのですが,これは何か,非常に特殊民事訴訟法的な参加を連想させてしまう文言ですけれども,そうではなくて,本案前の抗弁として主権免除を主張するという場合も含まれているわけでしょうか。といいますか,主としてむしろそれを念頭に置いているのでしょうか。私は参加という言葉が多少気にかかります。 ○飛澤幹事 従前,(2)には,いわゆる異議なき応訴をした場合と参加した場合とを並べて書いていたのですが,そのうちの,いわゆる異議なき応訴に相当する部分については,むしろ(1)のイで規律することができるのではないかということで削除することにしまして,その結果,参加のほうだけが残ってしまった。それでこの参加について,なぜ書いておかなければいけないかと申しますと,(1)のイで裁判手続に参加した場合,これは補助参加の場合ですけれども,補助参加した場合には原則としては免除されないということになっておりますので,(2)で,そういった補助参加をした場合でも裁判権からの免除を主張することを目的としている場合には,なお免除されるという規定を置いておかないと,条約と内容が異なってきてしまうと考えた次第でございます。 ○上原部会長 よろしいでしょうか。むしろ民訴法にいう参加であるという説明です。確かに,参加の方が先に出てくるところが,記述の順番として,少し分かりにくいようにも思います。このことは,(1)のイも含めていえることです。 ○山本委員 さんざん議論があったところで,直接被告とされる場合だけではなくて,裁判の効力が及ぶような場合も含むという話があって,そこで例えば,被告ではないけれども,裁判の効力が及ぶべき外国が,自分はその裁判の効力から免れるということを主張するために参加するというようなことを想定しているのでしょうか。 ○飛澤幹事 もちろん,自分が裁判手続の当事者となっていないからこそ,参加するということになります。 ○山本委員 そうですよね。つまり,判決の効力が生ずる前に自分はそこから除かれるべきだと,こう主張をして参加をするというようなことを想定しておられるわけですか。 ○飛澤幹事 そのつもりでございます。 ○山本委員 分かりました。 ○上原部会長 ほかの方は,よろしいでしょうか。   それでは,その次,3にまいります。 ○飛澤幹事 部会資料11の3ページの3でございますけれども,これについても,特段申し上げることはございません。 ○上原部会長 3については,いかがでしょうか。  特に御意見はないようですので,先に進みます。4の説明をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,4についてです。ここがcommercial transactionの問題でございます。3ページの(注)のところに若干コメントを付しましたが,前回の部会で,そもそもこの条約で使われているcommercial transaction,あるいはcommercial purposesという文言におけるcommercialというのはどういう意味なのかについて,再度,御議論いただいたところです。その議論を伺っていましたところ,基本的に本条約で言うcommercialというのは,日本法で言ういわゆる商概念より広いのではないか。つまり,営利を目的としないようなものや,事業性がないようなものも一応含み得る概念なのではないかという理解が大勢であったかと考えております。   しかし,そういった内容を,日本法でどのように表現をするかということについてもあわせて御意見をいただいたところですけれども,一方では,やはりcommercial transactionという文言である以上,そこから全く離れた日本語を使ってしまうと,それはある意味,この条約が考えている概念とは違うものを想定しているのではないかという誤解を生じさせるおそれがあるのではないかという意見があったかと思います。そういった立場からは,commercial transactionという文言については「商業的取引」という文言が適当であろうといった意見だったと承知しておるところです。   他方で,これらの規定が裁判規範になることを考えますと,「商業的取引」と書いただけで日本の商概念より広いということを示しているというのはやはり厳しいので,条文の中に,日本で言う商概念よりも広いんだという手がかりを入れる必要があるのではないかという意見があったと思われます。   そういった両サイドからの意見があったわけですが,ブラケットがたくさんできてしまって申し訳ないのですけれども,要綱案第2次案の4(1)でお示ししましたとおり,幾つかのパターンを提案させていただいておるというところでございます。   最初に,「商業的取引」,「商取引」,「私法上の取引」と三つ書いております。先ほど申し上げたような意味でのcommercialという文言を日本法で表現するには,「私法上の取引」という文言がしっくりくるところがございますが,これについては従前から御批判がありますとおり,本条約の言うcommercial transactionから文言が離れてしまうのではないかというところがございます。   そうしますと「商業的取引」あるいは「商取引」という文言にしておいて,括弧内で,いわゆる日本の商概念よりも広いんだという仕掛けを作るといった方法が考えられます。そこで,括弧内を御覧いただきますと,「民事又は商事に係る」と「商業的な」と二つの文言を並べております。従前,「民事又は商事」という文言は使えないのかという御指摘があったのに対して,私は,それは日本の法制上まだ例がないので厳しいのではないかと答えていたところなのですが,ただ,どうしても「商業的取引」とかといった商という文言を使っておきながら,なお,いわゆる日本の商業より広いんだという仕掛けを作るには,こういった「民事又は商事」といった文言も使うのも,ある意味,やむを得ないのかなと思っております。   それに対して,やはり「民事又は商事」という文言も若干,条約より広い意味を持つと解されるおそれがあるから「商業的な」という文言を用いるべきであるとの御意見もあるかと思います。しかし,前半のところで「商業的取引」あるいは「商取引」という文言を使っておきながら,括弧の中でも「商業的な」と書いてしまうと,commercialが日本の商概念より広いものを意味しているという点について,条文上のとっかかりがなくなってしまいますので,なかなか厳しい面もあるのかなと考えているところでございます。   そういうわけで,現段階では括弧の外について三つの提案,括弧の中について二つの提案を出させていただいているところでございますけれども,事務局サイドとしては,もし「商業的取引」という文言を用いるのであれば,括弧内は「民事又は商事に係る」といった形で,つり合いをとらざるを得ないのかなと考えているところですが,なお御意見があればお伺いしたいと思っているところでございます。   以上です。 ○中西幹事 御提案の組合せとは,どういうことを考えられておられるのか。例えば私法上の取引であれば,括弧の中はなしという組合せを考えておられるように思ったのですが,そういうことでよろしいのですか。 ○飛澤幹事 「私法上の取引」の場合でも,従前,例示は必要であろうと申し上げておりました。確かに,現在,その例示部分は,定義っぽく書かれておりますが,「私法上の取引」という文言を採用したからといって,括弧内の文言を除くことまでは,今のところは考えておりません。 ○中西幹事 いろいろな組合せがあり得るということですね。 ○飛澤幹事 そのとおりです。 ○岡野幹事 外務省としては,ブラケットとなっている文言のうちでは,従前述べさせていただいているように,商業的取引という文言が採用されるべきであると考えております。前回の部会において,私法的という文言については,公法上ではないものがすべて含まれるかのように解され得ることで,逆に本条約にいうcommercial transactionの概念よりも広く解されてしまって,その結果として,条約よりも国内法のほうがより広い範囲で裁判権が免除されないこととなり得るという懸念があることについて,理解を得られたと思っています。   もっとも,今,飛澤幹事が非常に的確に議論をまとめられましたように,「商」という言葉について国内法の用語の使い方の観点から,営利性,事業性が推測されるという意見があるということは,我々も十分分かっておりますので,ここで示されたオプションのうちでは,括弧の中については「民事又は商事に係る」という文言を置くことによって,商業的取引が営利性,事業性を有するものに限られないことが明確になると考えます。ですので,こういうオプションの中では初めのブラケットは「商業的取引」,その後,括弧の中については,「民事又は商事に係る」というブラケットの部分を採用されればよろしいかと,外務省としては考えております。 ○上原部会長 ありがとうございました。   ほかの方はいかがでしょうか。 ○阿部(潤)委員 今回の条約と担保法の関係,あるいは担保法を作る目的を考えますと,一つは条約に忠実であるという要請があり,これは非常に大事な要素かと思うのですが,他方で,もともと国内担保法を作ろうという目的の中に,外国と取引関係に入る私人,企業あるいは団体といったものに対して,どういう要件のもとで国内裁判所に訴えれば主権免除にならず,強制執行もできるかということについて,明確な基準を提供し,また法的安定性を確保しようという要請もあったかと思うのです。ですから,条約との整合性は非常に大事であるということを否定するのでありませんが,国内法的な整合性というかバランスというのもまた大事なことと思います。恐らく一番重要だと思われるのは,条約の2条が,定義を置いており,三つほどの要素を挙げていました。それが国内において運用上確保されるというのが一番大事なことと思います。その中には先ほど飛澤幹事から御説明があった,いわゆる「商」という概念ではとらえきれないような,非営利的なものも含んでいるということが重要ではないかと思います。   ですから,このブラケットの問題については,まずその括弧内は,「民事又は商事に係る」ということがやはり必須であって,そうでないと,少なくとも条約で挙げている三つの要素が読み切れないのではないか。括弧内の「商業的」というのはこれは適当ではないという感じがします。「民事又は商事に係る」でないと,そこは読み切れないでしょう。   それで,ではトータルどうするかというと,ここは従前は例示というように理解をしていたのですが,先ほども御質問があったとおり,やや定義に近いような形になってきたものですから,そこが定義規定なのか例示なのかというところは,運用する側からすれば確定しておいていただきたいというのが一つあります。   それから,本来,国内で条約の趣旨がうまく担保されて運用できるとすることが大事だとすれば,「商業的取引」というよりも,やや広い意味ではありますが,括弧内で「民事又は商事に係る」という限定があるのであれば,「私法上の取引」というのもあながち排斥するほどのものでもないのかなと思います。ただ,いろいろな整合性があるので,何を優先するかというその順位づけは大事だろうと。この中では「商取引」というのは適当ではないとは思います。そして,「私法上の取引」について先ほど外務省の方が広すぎて公法上の概念の対比でもってしか考えられないと指摘されましたが,私自身は,括弧内とあわせてみるとあながちそうでもないのではないかという気はします。   ただ,この問題は,他方で,条約第10条のcommercialをどのように解するのかということと,船舶に関する条文,それから執行に関する条文とどのように整合性をとるのかという問題でもあるので,私としては個人的には,その整合性を一応棚上げにして議論すると,ここはブラケットであれば括弧内の「民事又は商事に係る」は必須で,そこをくくるものとしては「私法上の取引」でも,なおいいのではないかという気はいたしますが,それはそれほど強い意見ではございません。いろいろな国内立法もありますので,そのようなところの整合性をとっていただく。ただ,いずれにしても新しい概念ですので,これを適切に運用するという観点からは,やはり手がかりがたくさんほしいと考えております。 ○上原部会長 髙階委員どうぞ。 ○髙階委員 事項についてという文言なのですけれども,何かちょっと日本語として変な印象を受けるんですけれども,一つは「民事又は商事に係る」事項といったときに,事項というのが民事性とか商事性を帯びるという意味でこの字句を使っているのか,あるいは「民事又は商事に係る」というところで1回切って,身分という問題ではなくて,事項に関する契約又は取引と,こういうふうな意味で使われているのか。私は,ここのところは「民事又は商事に係る事項についての契約又は取引」でもいいのではないかなという印象を受けているのですけれども,いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 ここの部分は,従前,物品の売買,役務の調達,金銭の貸借,その他の修飾語が入るか入らないかはともかく,その他の契約又は取引とやっていたところですが,そうしてしまうと,従前申し上げたとおり,物品の売買に入ればおよそもうcommercial transactionになって,例外を認める余地がないように見えてしまうと。ただ,このcommercial transactionに例外は全く認めないのか,つまり性質説でいくのかというと,そうではない。例外の余地はあり得るというのは,多分今までの御議論の中で異論はなかったところだと思っております。   そうすると,その例外を読み得る余地を作るための窮余の策といったところであるのですけれども,いきなりその他の契約又は取引とやってしまうと,なかなかそういった例外が読みづらくなるので,「事項」という文言を入れております。この「事項」という言葉が適切かどうかは,確かに御指摘のとおり検討の余地があるところなのですけれども,ワンクッション挟んだというのは例外を読み得る余地を条文上残したかったと,そういう趣旨でございます。 ○髙階委員 私の理解ですと,目的説,性質説で,性質説的な解釈が行われているのは,今後の裁判所の解釈にゆだねるということだったと思うのですが,この「事項についての」という言葉を入れたかどうかで,その違いが出てくる印象は受けないのですけれども。 ○佐野関係官 裁判所に性質説かどうかをゆだねるという前提として,平成18年の最高裁判決で特段の事情というものが観念されておりましたので,その判例を変更するものではないという意味で,このcommercial transactionに特段の事情のようなものを加味して,なお免除に当たるということを読み得ることを法文上可能にするために,「事項についての」という語句を挿入したという経緯がございますので,そこのところは御理解いただければと思います。 ○髙階委員 一番最初の質問なのですけれども,「事項について」というのが前のほうとくっつくのか,要するに「民事又は商事に関する事項について」と読むのか,「事項についての契約又は取引」と読むのか,それはどちらで読んだほうがよろしいのでしょうか。 ○佐野関係官 その他の事項の例示として,物品の売買,役務の調達,金銭の貸借が挙がっているという関係になっています。まとまりとしては,物品の売買から民事又は商事に係る事項で一くくりであり,それらについての契約又は取引という構成になっております。 ○髙階委員 そうすると,その他の事項についての民事又は商事に係る契約又は取引という語順のほうがよろしいのではないですか。 ○佐野関係官 そういたしますと,事項について何も限定がなくなってしまいますので,いったん事項についてどういう事項ですかということで確定をする。それを踏まえて,それについての契約又は取引という,そういう論理構成のほうがよろしいのかなと思い,このような語順にしております。もし,語順について懸念等があれば,また法制上の問題でもありますので,なお検討させていただければと思います。 ○上原部会長 道垣内委員,どうぞ。 ○道垣内委員 今の点ですけれども,第1次案においては,金融という語を受けて,金融その他の事項というように受けていたのではないのでしょうか。それを今回変更しているようですが,私も「事項についての」というのは,ないほうが分かりやすいように思います。 ○佐野関係官 初めの指摘ですけれども,金融その他の事項という趣旨で前回の提案をさせていただいたわけではなくて,あくまで物品の,昔は販売になっていたかと思うのですけれども,販売や役務の提供,金融,その三つプラスその他事項という形の条文の構造だったのですけれども。 ○垣内幹事 以前にいただいていた案ですと,「外国等は,物品の売買,役務の提供及び金融その他の事項についての私法上の契約又は取引」となっておりまして,この案ですと,例えば当該契約が物品の売買に関する契約であったとしても,それが私法上の契約又は取引と言えるかどうかについては,解釈の余地がある。そういう非常に工夫された案であったかと思うのですけれども,今回の案を前提にいたしますと,物品の売買,役務の調達及び金銭の貸借というのは,民事又は商事に係る事項の例だということになるのではないかと思うのです。そういたしますと,物品の売買についての契約であれば,当然に民事又は商事に係る契約ということになってしまい,特段の事情的な例外の余地がないという読まれ方をしないだろうかという懸念を少し抱きますので,そういう観点からしますと,先ほど髙階委員の御提案に含まれていたかと思いますけれども,「民事又は商事に係る」の位置を「事項について」の後に持ってくるということも,確かに事項が無限定であるという問題はありますが,例外の余地を残すという点では,そちらのほうがそのように読みやすいのかなという印象も持ちました。 ○飛澤幹事 今の御指摘を踏まえて,法制上の見地も含めて,更に検討をさせていただきたいと思います。 ○髙階委員 更に申し上げたいのですけれども,条文上の規定は割と項目を分けて定義してありますので,そういう意味では分かりやすい,要するに誤解を生む余地がないと思うので,再度の御提案になりますけれども,定義規定の中で同じような,できるだけ似たような形式で定義されたほうがよろしいかと思います。 ○上原部会長 では,その点もなお検討することにいたします。 ○道垣内委員 4の(2)についてですけれども,時機に後れているかもしれませんが,イで国等という言葉が出てきて,これは2の定義で「国等」と「外国等」とを分けたというところが生きてきていいのだと思いますが,これですと,外国等と国際機関との取引というのは読めないだろうと思うのです。この条約もそこは書いていないのですが,国と国際機関との取引については,それが民事又は商事であっても,免除になるのではないかと思われます。なお,国際機関という語は一切出てこないかというと,後ろのほうで国際機関というのが出てくる箇所もあります。10のところでは,「国際機関以外の」という形で出てくるのです。なぜ条約に国等と国際機関との取引について入っていないのかはよく分かりませんが,日本国として主権免除を広く与えるのは構わないと思うので,これも除外するものとして挙げてはいかがでしょうか。もし,あえて国等と国際機関との取引は除外に入れないということであれば,その理由を御説明いただければと思います。 ○上原部会長 条約にない点でありますので,今まで検討をしていなかったということなので,もし何か問題があるということであれば,また検討して最終的なところで,御説明なり検討結果を説明するということで,いかがでしょうか。   4についてはよろしいでしょうか。   それでは5に移ります。 ○飛澤幹事 それでは部会資料11,4ページの5です。こちらから申し上げたいのは,(注1)から(注3)に書かれている事項でございます。   まず,(注1)の関係ですけれども,5の(2)ア(エ)の外国等の概念ですけれども,従前は要綱案第1次案などを御覧いただければお分かりのとおり,国家のほか州などの安全等も考慮の対象とし得るような文言としておりました。ただ,再考いたしましたところ,やはりgovernment authorityというのは日本と同等,対等の主権を有する国家を念頭に置いた概念と整理をしたほうが整理がしやすいのではないかと考えまして,今回は国家のみを対象とするような記載に変更しているところでございます。これに伴いまして,(2)アの(ウ),それから(2)ウにおける外国等についても同様の意味内容に変更することとしております。   次に,(注2)でございますけれども,これは5の(2)のイ,ウに表れてくる括弧書きの問題でございます。従前甲案,乙案とお示ししていたところですが,前回までの議論を踏まえまして乙案を採ることを提案するものでございます。   それから,(注3)でございますけれども,これは(2)のオのただし書でございます。これは前回の部会資料10のところでも述べました,条約第11条2(f)ただし書の理解,それから前回の部会での議論を踏まえさせていただきましたところ,日本の裁判所の審判対象とされた事項について,その当該裁判所が国際裁判管轄権を有しないとすることが公の秩序に反すると考えられる場合には,その事項について日本の裁判所の国際裁判管轄を認めないとする合意,あるいは日本の裁判所の裁判権から免除される旨の合意は,いずれも無効であるという趣旨を表す規定を設けるべきではないか。そういった趣旨を表すものとして,5(2)のオのただし書のような文言ではいかがかと,そういった提案をするところでございます。   以上です。 ○上原部会長 5について,御議論をお願いします。 ○髙階委員 オについてですけれども,公の秩序というと公序良俗をすぐ思い浮かんで,非常に限定的に裁判所が解するので,なかなかこのただし書が発動する機会が少ないのではないかと思うのですけれども,申し上げたいのは,やはり労働者の裁判を受ける権利が不当に害される,そういうようなケースを懸念しますので,労働者の利益を害される場合とか,何となく裁判所が適用しやすい規定の仕方にしていただきたいと思うのです。 ○飛澤幹事 恐らくおっしゃっている趣旨は,当方が考えているところとそれほど大きくは違わないとは思うのですが,ただ条約としては公の秩序といった言い方になっておりますので,やはり条文上はこの文言を使った上で,あとは裁判所の解釈にゆだねざるを得ないところがあるかと考えております。 ○村上幹事 同じくオについてなのですけれども,前回の表現と今回の表現で変わっているのは,多分,公序,公の秩序という言葉を入れたからだとは思うのですが,今回の表現ですとかなり条約の原文と表現の仕方が変わっているなという印象を受けるので,公の秩序という言葉を入れながら,第1次案のように日本国の裁判所のみが管轄権を有すべき場合というような表現にすることはできないのでしょうか。 ○川尻関係官 日本国の裁判所のみが管轄権を有する場合と規定することは,難しいと思っております。と申しますのは,日本だけが管轄権を有するということは,ほかの国が管轄権を持たない,あるいは持つことを禁止するということになりますから,それを日本が決めることはできないのではないか,その点から,日本のみが有する場合というふうに規定すると,ただし書の規定が発動される場面というのが恐らくなくなるのではないかというのがまず一つあります。   それから,労働契約というのは,やはり基本は私人間の契約ですから,国際裁判管轄を考えるに当たって,当事者間の合意を全部排除して,強制的に日本だけが管轄権を有することにするという法律なり,あるいはそういう考え方なりがとられるということは,多分ないのではないかと思っております。やはり労働者に有利な限りは,当事者間の合意であっても有効であるという考え方をとるのが基本であって,そうであれば,日本国の裁判所だけが管轄権を有するものとするというような管轄の規律が置かれるということは,想定し難いと考えております。 ○村上幹事 今のオの表現ですと,合意の内容が日本国の裁判所が管轄権を有しないとするという,そういう合意の内容の場合に限られるという意味にとれるような気がいたしますが,それでいいのでしょうか。 ○川尻関係官 そういう意味では書いておりませんが,そういうふうにとれるという御指摘であれば,その点を踏まえて検討をすることにいたします。   ここで言っているのは,合意の内容として裁判所が管轄権を有しないとするわけではなくて,日本国の管轄権を排除することは許されないという,そういう法律なり,あるいはそういう条理なりがあると認められる場合に発動されるものであって,当事者間の合意の内容を指しているものではありません。 ○水島幹事 外国等というところについて,その国に限定するという,そのgovernmental authorityというのは,国のgovernmental authorityであるという話なのですが,もしそういう理解をすると,条約第2条関係は定義のところ,すなわち1ページの2(1)ウのところで,ア及びイに掲げるもののほか,主権的な権能を行使する権限うんぬんと,ここで条約では国のというのがあるけれども,そこは州の主権的権限というようなものもあり得るので,ここは「国の」というのを,条約ではあるけれども,法律では削除するということだったと思うのですが,もし条約第11条関連でこのような理解をするのであれば,ここについて「国の」というのを復活させる必要があるのではないか。あるいは,そのほうが適当なのではないかという印象を受けました。 ○飛澤幹事 定義を規定した2(1)ウの関係では,実際問題として州の機関とかもないわけではないですし,入れてもいいのかなと考えております。これに対して,こちらの労働契約のほうで除いたのは,州の安全というのも,取り方によっては国の安全に,要するに州が危ないときにその州の属する国は危なくないということは,まず普通は言わないだろうということもあるので,無理に特出ししなくてもいいかなと考えた次第です。 ○垣内幹事 (2)のイのところでありますけれども,要綱案の第1次案では,「再雇用の有無に関する訴え又は申立て」となっていたところを,今回,「労働者の採用又は再雇用の契約の成否」というふうに若干文言が変更されております。労働法に暗いものですから自信がないのですけれども,条約の文言ですと,第11条の2(c)になるわけですが,訴訟手続の対象となる事項が個人の採用,雇用契約の更新又は復職に関するものである場合というふうになっております。ここで復職というreinstatementというものが出てまいりますけれども,これは,当該事件に実体法として適用されるところの準拠法上,そういうreinstatementというタイプの救済措置が認められるという場合が仮にあったといたしますと,それは恐らく(d)ではなくて,(c)のほうの適用の問題になるということだと思うのですが,その復職というのは,日本法の目から見ますと,再雇用というようなものを命じるというのが,一般的にはその内容だと思うのですけれども,そう考えたときに,前の案の再雇用の有無ということですと,reinstatementもここに含むのかなという印象を受けるわけですが,そういう救済を求める申立てがあったときに,再雇用の契約の成否に関する訴え又は申立てということになると,ここに含まれるのかどうかという疑いがやや生じるようにも思われます。私の今の質問の前提自体がいろいろ間違っている可能性がありますけれども,再雇用と復職との関係について事務局のほうでどういう整理をされているのかについて,念のため確認させていただければ幸いです。 ○川尻関係官 前回から文言を変えたのは法制上の問題でして,中身を変えようという意図ではございません。   内容といたしましては,条約上の雇用契約の更新又は復職をカバーするものとして,再雇用を考えております。 ○飛澤幹事 補足しますと,復職というのは,ある意味,請求の趣旨に当たるようなところで,地位確認とかと同じレベルのものだと思います。ですので,労働者の採用とか再雇用が認められるという場合に,それに対する救済方法として,復職を命じ得る国の法律が準拠法となれば,復職を命じることになるし,そうでなければ,地位確認を認めるにとどまることになります。復職というのと,個人の採用とか雇用契約の更新というのは,次元が違うのかなと思います。つまり,片や請求の内容で,片や請求の原因みたいなところがあるのかなと考えております。 ○上原部会長 それでは先に進んでよろしいでしょうか。   6について説明をお願いします。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料11の5ページの6,人の死傷又は有体物の滅失等ですが,ここの点につきましても,今日の段階では特に申し上げる点はございません。 ○上原部会長 6につきまして,何か御意見ありますか。   特にないようですので,7にまいります。 ○飛澤幹事 7の不動産に係る権利利益等についてですけれども,こちらについても現段階では特に申し上げることはございません。 ○上原部会長 7についてはいかがでしょうか。   よろしければ,8にまいります。 ○飛澤幹事 8の財産の管理又は処分に係る権利利益についてでございますけれども,日本法としてどう表現するかということについては,なお検討中の部分がございますけれども,内容等については,従前お示しした理解から変更する予定はございませんので,本日の段階では特にこれに加えて申し上げることはございません。 ○上原部会長 8についていかがでしょうか。   では,9にまいります。 ○飛澤幹事 9の知的財産権の関係ですが,これについても本日の段階では特に付け加えて申し上げることはございません。 ○上原部会長 9について,よろしいでしょうか。   では,10の説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 10の法人等の構成員としての地位等ですけれども,ここの点についても特にございません。 ○上原部会長 10はいかがですか。これもよろしいでしょうか。   では,11の説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 11の船舶の関係でございますが,こちらは(注)に書いてあるcommercial purposesの関係がございます。基本的にはこの(注)に書いたとおりですけれども,ここでいうcommercialというのも,先ほど申し上げたとおり,日本の商概念より広いものが含まれ得るだろうと考えているところでございます。従前,要綱案第1次案では,このcommercial purposesに対応する文言としては,「私法によって規律される用途」とか,「主権的目的以外の目的」,それから「商業的目的」と,三つの選択肢を挙げていたところです。ただ,これも従前から御議論いただいたり,こちらからも若干お示ししたところでございますけれども,これまでの条約等において船舶について裁判権からの免除とか非免除とかといった問題を規律する場合には,政府の非商業的役務,あるいは非商業的目的という文言が用いられていたところでございます。   そして本条約におきましても,こうしたこれまでの船舶に関する条約の例に倣いまして,裁判権からの免除の対象にならないものを,このother than governmental non-commercial purposesという言い方で表現をしているところでございます。ですので,この船舶,それから後ほどお示しします執行のところにおいては,本条約の文言どおり「政府の非商業的目的以外の目的」という文言を採用するのがよろしいのかなと思って,採用させていただいた次第でございます。   commercial purposesの関係で,執行のところについて触れましたので,このcommercial purposesのところに限って,執行のところについても言及させていただきたいと思います。部会資料11の9ページの一番下の行から10ページにかけて,執行の分野におけるcommercial purposesの取扱いについて記載しております。従前,「商業的目的」といった文言を用いると,特に執行の分野において,本条約が意味しているところよりも狭い範囲でしか執行が免除されないのではないかといった懸念があったところですけれども,他方,「私法によって規律される用途」とか「主権的目的以外の目的」といった文言については,なお広い支持を受けるまでには至っていなかったというところですので,船舶において「政府の非商業的目的以外の目的」という文言を使った関係上,こちらでもその文言を使いたいと考えております。   また,従前のように「商業的目的」と書いてしまいますと,日本の商概念に限定されるかのように感じてしまうのですけれども,今回,裏から書くといったところもあるのですが,加えて「政府の非商業的目的」といった言い方をすれば,気持ちの問題かもしれませんけれども,多少は広がりのある概念だといった手がかりにもなり得るのかなということで,船舶及び執行のところをあわせて「政府の非商業的目的以外の目的」という言い方を採用させていただいたところでございます。   以上です。 ○上原部会長 それでは,今説明がありましたように.11を中心に,それから同じ言葉が問題になっておりますので,その限りで執行のところ,第4の2の,主として(1)について御議論をお願いいたします。 ○阿部(潤)委員 今回,二つとも「政府の非商業的目的以外の目的」という文言になりましたが,従前,「政府の」というのは必ずしも必要ではないのではないかというような御見解だったかと思います。今回,「政府の」というのが復活しましたので,そうするとこの「政府の」という文言が意味するところは何かというところを,少し正確に理解しておく必要があると思うのです。これは政府の権能に関するものという程度の意味で理解しておけばよろしいのでしょうか。 ○飛澤幹事 先ほど申し上げましたとおり,船舶の世界では,目的のときは「非商業的目的」と言い,役務のときは「政府の非商業的役務」という言い方をしておるところでございます。   そして,正に船舶の世界から制限免除主義というのが始まったものと理解をしているところでございますけれども,そういった中で船舶,従前は絶対的免除だったのですけれども,だんだん制限免除ということで,特に商船みたいなものについては政府のものであっても免除しないとなってきたところです。ただ,それでもなおかつ政府固有の権能というのでしょうか,あるいは若干それよりも広がりを持つ概念かもしれないのですけれども,少なくともそこには他国の裁判所に触れてほしくないという部分があり,それをあらわす文言として,政府の非商業的役務という言い方が出てきているのではないかと考えているところでございます。   ですので,「政府の」というのについて意味するところは,今,阿部委員から御指摘がございましたとおり,正に政府の権能に関するとか,あるいは政府の機能を果たすためというようなニュアンスが多分にあるのかと思われます。   ただ,条文上もそう書けばいいではないかという御意見もあるかもしれないのですが,本条約がそこまではっきり言っているのかというと,そこは必ずしも明らかではないところもございますので,文言としては,なお「政府の」といった条約どおりの言い方をさせていただいているというところでございます。 ○山本委員 政府という言葉は,国等の定義の「国及びその政府の機関」というところでしか出てこないのですが,非商業的目的というのは,要するに軍用目的などを想定しているのではないかと思われます。そうだとすると,例えばアメリカでは州軍というのがありますが,例えば州の軍隊が軍艦を保有している場合というのは,これは含まれないということになるのかなという気もしてしまう。でも,国際法上の問題だから,考えなくていいということですか。 ○飛澤幹事 御指摘の点につきましては,こちらも定見がないのですが,ただ,船の世界の条約で,これまでずっとgovernment non-commercialという言い方を政府の非商業的と訳してきているという実績がかなり積み重ねられてきております。したがって,船の世界でそこまで実績があるのであれば,逆に違う文言を使うと,かえってほかの船の規律と違うのかと言われてしまうところが,若干,心配かなと思っているところでございます。 ○三木委員 あくまで確認なのですが,この法律で言う政府というのは国の政府だけを指すという意味で使っているのでしょうか。つまり,州政府は含まないのかという確認です。 ○佐野関係官 ここでいう政府というのは,主体としての政府という意味ではなく,実質として政府的役割としてという意味なので,主語として使っているわけではありません。 ○三木委員 恐らく山本委員も私もそうですけれども,気にしているのは,第1の2の定義との関係で,これも別に政府を定義しているわけではないのですけれども,国及びその政府の機関という使い方をしていて,それ以外の使い方をしていないので,あわせて読むとそう読めるのですかという質問です。 ○佐野関係官 第1の2の定義のところとは整合がとれていないというのは,確かにおっしゃるとおりだと思います。ただ,第1の2については,国に何が当たるかという主語を定義している文脈であり,片や船舶のところについては,どういうものが非免除になるかという文脈で,かつ海洋法で用例もありますので,そこの差異というのはこの条約の趣旨から,全体的な流れから読み取るとお分かりいただけるのかなと思っております。 ○三木委員 恐らく今の理解では同じ言葉が違う意味に使われているということをこの場で確認をしたということです。 ○飛澤幹事 佐野関係官から申し上げましたとおり,片や主体で,片や目的的な,つまり政府の機能を果たすとか,政府の権限といったような,一種の目的的なものとして使っているという理解でございます。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○朝倉幹事 あまり海洋法に明るくないものですから,教えていただきたいのですけれども,「政府の非商業的目的以外の」という用語というのは,既に国内法上,例えば海洋法などで使われているという理解でよろしいのでしょうか。   それから,「政府の」という言葉がつくことで,具体的な例としてはどういう違いが出るのか。具体例を書いていただいていないものですから,こういう場合だと,「政府の」なしだと当たることになるけれども,「政府の」があると当たらないことになるとか,何か具体的に適用場面をイメージできるようなものを教えていただけると有り難いです。今どうも議論は条約との整合性というところで,ずっと進んでいるのですが,使う方の側からしますと,どういう場面で使われて,どういう場面で使われないのかというのを教えていただかないと,これが裁判規範としてはなかなか使いづらいということになりますから,教えていただければと思います。 ○飛澤幹事 まず,現在,国内法の用例としては,むしろ「非商業的目的以外の目的」という言い方ではなくて,「非商業的目的」という言い方で政府公船の定義をしておりますので,国内法ではこういった「非商業的目的以外の目的」という文言の用例はございません。ただ,条約の世界では正に本条約がそのような文言を使っているところでございます。   それから,「政府の非商業的目的」と,「商業的目的」とはどう違うのかという御指摘だと思いますけれども,政府が入ると入らないでどれだけ変わるのかというのはなかなか難しい問題があるのですけれども,要は先ほど申し上げましたとおり,意味するところは,いわゆる日本の商概念より広く,必ずしも営利を目的としないもの,それから必ずしも事業性を有しないものも含み得るということを意味するものとして,全体として「政府の非商業的目的」という文言でそういったニュアンスを出したいと考えているところでございますし,少なくとも船の世界ではそういった理解があったものと考えているところでございます。 ○阿部(潤)委員 今の朝倉幹事と同じような関心ですがこれは政府,非政府という要素と非商業的,商業的という要素と,二つの要素を組み合わせた四つのパターンができる。多分,船舶のところはこれまでの伝統や積重ねもありますし,この分野に関する国内法も相当あるとは思うのですが,執行の場面になると,そこまで蓄積がないものですから,典型例で結構なので,どのようなものが入るというのを御教示いただくと理解に助かると思います。恐らく執行の関係では,先ほど飛澤幹事が言われたように,「政府の非商業的」という文言を使うことによって,従前,免除の範囲がやや狭いのではないかという指摘もあったところですので,それを解消しようとされているという趣旨は理解できたのですが,では具体的な場面でどうなのかというところが分かれば,なお一層よろしいのではないかという感じがいたしました。 ○上原部会長 御指摘の点につきましては,事務局で整理して,説明できるものであれば説明をお示ししたいということでよろしいでしょうか。   それでは,この11につきまして御意見がなければ,ここで休憩にいたしたいと思います。           (休     憩) ○上原部会長 では,再開いたします。   第3の12の説明をしてもらいます。 ○飛澤幹事 それでは,部会資料7ページの12,仲裁合意の効力のところを御覧ください。   こちらについて,(注)の記載はございませんが,若干,御議論,御示唆を賜りたいところがございますので,そこから御説明申し上げたいと思います。   8ページの2行目あたりから御覧いただきたいのですが,外国等が書面による仲裁合意をした場合には,当該仲裁合意の存否若しくは効力又は当該仲裁合意に基づく仲裁手続に関して裁判所が行う手続について,裁判権から免除されないものとするとしているところでございます。そのうちの,正にこの書面による仲裁合意をした場合というところの要件に,主としてかかってくるのかとも思うのですけれども,御議論いただきたい点を御説明いたします。具体例を出しますけれども,ある私人Aが外国Bとの間に仲裁合意は存在しないと考えていたにもかかわらず,仲裁手続が始まってしまったので,仲裁廷に対して,そもそも仲裁合意が不存在であるのであるから,当該仲裁廷に仲裁権限はないという,仲裁法第23条第2項に書いてあるような主張をしたとお考えください。そうしましたところ,当該仲裁廷は,仲裁合意は存在するとして,自己に仲裁権限があると判断したとします。これが仲裁法第23条第4項の関係です。そういった仲裁廷の判断に対して,当然,私人Aとしては不服があるわけですから,外国Bを相手方にして仲裁法第23条第5項に基づく,要するに当該仲裁廷に仲裁権限があるのかどうなのかといった申立てを裁判所に提起したとします。こういった,仲裁法第23条第5項の不服申立てをした場合,しかも,その理由として仲裁合意が不存在であるという主張をしたいときをちょっとお考えください。   そうした場合,先ほど申し上げましたとおり,こちらの要綱案のほうでは,今現在の書きぶりとしては,外国が免除されない場合の要件として,書面による仲裁合意をした場合,つまり仲裁合意があった場合ということを要件としております。ただ,私人Aとしてはその仲裁合意がなかったと本案では言いたいわけですので,本案では仲裁合意がなかったと言わなければいけないのに,この当該仲裁法第23条第5項の裁判についての裁判権免除の可否という文脈では仲裁合意があったと言わないと相手は免除されてしまうので,そうすると矛盾した主張を強いられてしまうのではないかと。   そういった問題を回避する一つの案としては,例えば現在「書面による仲裁合意をした場合には」と書いてあるのを,例えば「書面による仲裁合意があると主張される場合には」とかといったような書換えの方法が考えられるところであります。しかしながら,そもそも要綱案12,つまり条約第17条は,外国が仲裁合意をしたということを非免除の主たる根拠としているのではないかと考えられます。そうすると,単に仲裁合意があると主張されているというだけで外国が免除されないとすると,本条約の趣旨から若干離れてしまうのではないかといった気がするところであります。   では,仲裁合意があると主張される場合にはなどといった言い方ができないのであれば,そもそも思い切って仲裁合意の存否に関する裁判手続は,この条約第17条を受けた要綱案の12の射程外であるとする方向性も考えられなくはありません。ただ,そうしてしまいますと,仲裁法第23条第5項の裁判では,仲裁権限の存否を判断する前提として,仲裁合意の存否,効力が審判対象になっておりますところ,仲裁合意の存否について,この規律,つまり要綱案12の規律の対象外としてしまいますと,仲裁法第23条第5項の裁判のうち,仲裁合意の効力が争点になればこちらで仕切られるのに,存否を問題にした瞬間にこちらでは仕切られなくなるという,ちょっと変な感じになってしまいます。   さらに,そもそも仲裁合意の存否とか仲裁合意の効力,つまり有効,無効というのは,常に截然と分けられるのかといった御指摘も当然あるところかと思います。仮に仲裁合意の存否に関する裁判を,この仲裁合意の効力という要綱案12の射程外としたとしても,例えば「商業的取引」の定めで規律することによって,非免除という同じ結論を導くことは不可能ではないとは思っておりますけれども,ただ,やはり据わりが悪いのではないかといったところもございます。   そういった問題がございますので,まずお伺いしたいのは,ここの仲裁合意のところで非免除だという要件として,書面による仲裁合意があったことを証明しなければいけないのか,それとも主張があれば済むのかという点について,御示唆をいただきたいと思います。それから,先ほど申し上げた,そもそも仲裁合意の存否に関する裁判手続を,この要綱案12の射程外に置くことについては,やはりおかしいのかどうかについても御示唆いただければと思っているところです。   今日は特にどちらかに結論を決めるというよりも,その御示唆を踏まえて,なお部会長,それから関係当局に御一任いただいて詰めさせていただいて,次回,要綱案という形で示したいと考えているところでございますので,今後詰めていく前提として,どのようなふうに理解したらいいのか,御教示賜ればと思って御提示した次第です。 ○上原部会長 事前に資料を作成する間がなく,そのような問題点がまた出てきて悩んでいるところですので,どうぞ御議論をお願いしたいと思います。   三木委員,どうぞ。 ○三木委員 事前に考えたわけではなくて,この場で伺っての答えですので,確かな考えではありませんが,以下のように考えます。   事務局でも恐らくそういう御検討もされたのだろうと思いますが,おっしゃるように書面による合意をした場合というのを完全に外してしまって,その主張があれば主権免除が受けられないというのは,やはりそれはいき過ぎというか,おかしいだろうと思います。   文脈上は,明らかにここで言う書面による合意をした場合というのは,外形上,書面による合意の外形があるということを意味することは,恐らく普通に読めば明らかで,そうでないと意味が通じませんので,このままにしてもそう読むのが自然だという意味では,決定的な不都合があるとは思わないというのが1点です。   それから2点目として,不存在との関係ですが,恐らく,私も確認したことはないですが,条約あるいはそれ以外の仲裁に関する国連等の文書もそうですが,validityですね,有効,無効というのは,恐らく日本で言う不存在を含んだ概念として使われているだろうと当然思うわけです。 なので,そちらに合わせるということであれば,おっしゃるように日本の仲裁法の表現ぶりと少しずれるところはありますが,そちらに合わせるのであれば有効,無効ということに限るような規定ぶりにして,そこには当然,不存在だと無効です。意味によりますけれども,無効なので,それも別に無理のある解釈ではないということで,結局,選択肢としては今の二つはどちらをとるかという,政策的な判断で,書面による合意をした場合という表現を残しつつ,ここで言う,した場合というのは,その外形を持つという意味であるというふうにして維持するか,あるいは,その有効,無効のほうと不存在の関係のほうで整理をするか,というふうに単純に思いました。 ○上原部会長 他の方はいかがでしょうか。 ○道垣内委員 この管轄が日本にある場合として考えられるのは,私人が外国を訴えて,両者の間の仲裁合意の不存在確認を求める場合です。仲裁法第5条の管轄の規定を見ますと,ぴったりするのがなくて,敢えていえば,5条1項2号の無効の確認を求めているその仲裁合意に基づく仲裁の仲裁地が日本であるというのがあり得る。あるいは,仲裁地が決まっていないという扱いをすることも考えられるのかなとも思いますが,第8条を見ますと第23条が挙がっていない。とにかく仲裁地はあるということが前提なのでしょうか。いずれにしても,仲裁合意がないことの確認を求める訴えにおいて,その仲裁地であることを管轄原因とすることに既に矛盾がありますが,ただ,そういったことはよくあることなのではないかと思うのです。ですので,ここだけでそんなに大騒ぎする必要はなくて,こう書いておいても,そのような場合には適当に解釈で処理できると思いますけれども。 ○三木委員 今,道垣内委員が挙げられた例というのは,解釈によってはそういう例が使えるかもしれませんけれども,再三,申しておりますように,仲裁合意,不存在確認の訴えが起こせるかどうか自体は争いのあるところですので,それを争いのあるものを例に使って議論するというのはいかがなものかと思うので,先ほど飛澤幹事がおっしゃった23条なりを例に引いて行うということだろうと思います。   そうすると,仮に23条の場面を想定しますと,とりあえず仲裁手続が始まって,仲裁廷自身が一次的な判断をするようなケースですので,外形がないわけはないわけです。何もないところからそういう流れになっていくわけはないので,ということで,先ほど申したような自然に読むと,当然,外形のことだということにはなろうかと思います。 ○道垣内委員 私が申し上げたのは,第23条第5項の訴えのことをそのように表現しただけです。 ○飛澤幹事 御示唆ありがとうございました。合意の外形があれば仲裁合意で読めるのではないかという御示唆だったのですけれども,そもそも仲裁とか調停とか,何でも付せるというような,すごくふわっとした契約条項のようなものがそもそも仲裁合意にあたるのかどうかというときに,外形的な合意があれば,ここで言う「仲裁合意」があると言ってよいのかどうかが若干心配でした。条約第17条は,規定中では「仲裁に付する合意」としているのですが,他方,同条の表題は「仲裁合意」という文言を使っていますので,その意味では本条約も同じ問題が出てくるかと思ったのですが,外形的な合意を「仲裁合意」といえるかどうかなかなか難しいところもあるのかなと思ってお伺いしたところもございます。 ○三木委員 おっしゃるとおりで,日本の担保法の問題,固有の問題ではなくて,条約が既に抱えている問題で,条約もenter intoとなっているわけですから,これが文字どおりenter intoだったら,そもそもvalidityの問題は生じないわけなので,同じでないかと思います。 ○上原部会長 ありがとうございました。   それでは,この点を終わりにいたしまして,第4に移ります。 ○飛澤幹事 まず,第4の1の関係でございます。   最初に申し上げるのは,ここの(注)に書いてありますところで,要綱案で言えば第4の1(1)イの仲裁に関する合意のところでございます。この点につきましては,従前から少なくとも条約の英語版ではarbitration agreementと使っているのであるから,仲裁合意のほうが相当ではないかという御指摘を受けていたところでございますが,他方フランス語版,あるいはスペイン語版を見ますと,先ほどの要綱案で言えば12,条約で言うと17条で使われている場合の仲裁合意という文言と,こちらの要綱案の第4の1の(1)イで用いられている仲裁の合意については,違う文言が充てられているところでもございます。そういった事情等,それから従前申し上げていた理由等も勘案しますと,第4の1(1)イについては,なお従前から御提案させていただいているとおり,「仲裁に関する合意」という文言のほうが相当なのではないかと考えて,(注)で書かせていただいた次第でございます。   それから,2点目は,(注)には書いてございませんけれども,従前の部会で同意等についての撤回について明文の規定を設ける必要がないかといった御指摘がございました。確かに,その御指摘の際にも指摘されたアメリカ法,あるいはオーストラリア法もそうなのですけれども,免除放棄の撤回については一応規定を設けているところでございます。ただ,今回,結論的にはそういった規定を設けておりません。その理由の一つとしましては,こういった免除放棄の同意というのは,恐らく日本の訴訟法的な概念で無理やり分類するとすれば,いわゆる訴訟行為の撤回の問題になるかと思われます。そうした場合,日本の民訴等においては訴訟行為の撤回については,特段明文規定は設けられず,解釈にゆだねられているというところがございますので,同じ手続法の一つである,主権免除に関する法律でも解釈にゆだねてもいいのかなと考えております。   では,解釈にゆだねた場合,どうにでもなってしまうのかというところがございますけれども,これは実際のところ,この条約のコメンタリーで,基本的にはアメリカ法で規律をしているものと同様な内容の仕切りとすべきだといったコメントが付されております。アメリカ法では,免除の放棄が行われた契約の中でその放棄についての撤回についての定めもあった場合には,その撤回の定めの条件に従う限りにおいて撤回が許されるという言い方をしておりまして,コメンタリーのほうもそれに準じた記載をしておりますので,解釈をする際にはそういったコメンタリーに書かれているようなことが指針となるのかなと考えているところでございます。   以上です。 ○上原部会長 それでは第4の1について,御議論をお願いします。 ○道垣内委員 撤回のことを以前の審議会で申し上げたので一言。二つ理由をおっしゃって,相互が矛盾をしているのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。日本法上の撤回と同じ扱いにするという御説明と,条約の解釈としてはこう言われているという御説明ですが,日本法の民訴の中の撤回の扱いは,今おっしゃったコメンタリーの扱いと同じなのでしょうか。 ○飛澤幹事 実は訴訟行為の撤回というのは,教科書を読む限り,一律の効果ではなくて,やはり訴訟行為の中でもいろいろ趣旨,目的を考えて,ある行為についてはもうおよそ撤回を許さない,ある行為については撤回を許すといった仕切りをしていますので,そうだとすると,日本の訴訟行為の撤回の解釈に従うという場合,その解釈指針としてはコメンタリーの示す仕切りが役に立つのではないかと考えている次第でございます。 ○上原部会長 ほかに1について,いかがでしょうか。   特によろしければ,2にまいります。 ○飛澤幹事 2に関してですけれども,先ほど,commercial purposesの点につきましては,船舶のところで一緒に御議論いただいたと理解しておりますので,その他の点については現段階では特段申し上げることはございません。 ○上原部会長 2についていかがでしょうか。   それでは3に進みます。 ○飛澤幹事 3についてですけれども,これについても現段階で特段申し上げることはございません。 ○上原部会長 3もよろしいでしょうか。   それでは,第5の1から3までをまとめて説明をしてもらいます。 ○飛澤幹事 第5の1,2,3でございますけれども,この点につきましても特に内容的に従前から変更した点はございませんので,特段コメントすることはございません。 ○上原部会長 訴状等の送達,外国等の不出頭の場合の取扱い,それから勾引,過料に関する規定の適用除外についてですが,いかがでしょうか。特に御発言がありませんので, 最後の4にまいりますが。 ○飛澤幹事 最後の4についてでございますが,これも1次案から特に変更点はございませんので,特段申し上げることはございません。 ○上原部会長 いかがでしょうか。以上で,第2次案につきまして,一通りの説明と御議論が済みました。全体として何か御発言があればお願いいたします。 ○道垣内委員 法制審議会は中身を議論するところだと思うので,この場がいいのかどうか分かりませんけれども,法律の形について一言。この法律は,条約を実施する法律という形になり,裁判権免除条約のことに言及する法律になるのでしょうか,それとも,まだ条約は発効していないので,国内法独自の立法の形とし,外国国家等の免除に関して以下の規定によるというようなことを書くのでしょうか。そのいずれによるのかによって,コメンタリーの記載の扱いが違ってくるのではないでしょうか。しばしば,コメンタリーではこのように書かれていますという御説明がありましたが,その記載が本当に参考になるのかということについて,条約に言及した法律であれば,その条約が下敷きにあるということは国民にも分かりますし明確ですけれども,そうでないと,そういう条約が背後にあるということは分からないのではないかと思います。もしお考えがあればお聞かせいただければと思います。 ○飛澤幹事 この法律には,御指摘のとおり二つの性格がございまして,一つは条約の担保法という性格です。本条約も批准の方向で準備を進めることになるかと思われますので,もし批准された暁には,この法律は正に本条約の担保法的性格を持つことになります。もちろん,正確には,本条約が発効してからということになりますが。それから他方で,本条約の発効を待たずにこの法律が施行されること,それから,本条約の締約国でない国にも適用されるという意味では,この法律独自の意味があるところではあります。   ただ,やはりこの条約が将来発効した場合には担保法となるという大前提はございますので,その意味では,この法律は本条約の内容に準拠しているものでなければならないと考えております。確かに法律の文言上,この条約について触れるというわけではございませんけれども,この法律が本条約の内容に準拠したものであるということは,当然今までも説明してきておりますし,今後も説明していく予定ではおりますので,全く本条約とは無関係の仕切りでこの法律がつくられたという理解にはならないのかなと思っている次第でございます。 ○青山委員 今の説明でそのとおりだと思いますが,将来,国内法と条約が不一致を来した場合のことがあり得ると思うのです。その場合に日本の裁判権の行使を放棄するといいますか,免除の範囲を広くする場合には,特に条約違反ということはないと思いますけれども,免除の範囲を狭くするような国内法で,そこに抵触すると,やはり国内法と条約どちらが優先するかという問題が出てくると思うのです。だから条約と国内法がぴったり一致することが望ましいのですが,若干,解釈がずれるようなことがあるとすれば,一方の場合には条約違反,片方は条約以上に日本がその裁判権の行使を譲歩しているという意味で,それは条約違反ではないという,そういう解釈になるかと思いますので,その辺も少し気をつけていただければと思います。 ○上原部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の議論はここまでとしてよろしいでしょうか。   そういたしますと,本日でいわゆる三読を終了したことになります。   次回は,これまでの議論を踏まえまして事務当局に要綱案の取りまとめをしていただき,それに基づいて御議論いただいて,この部会としての案を決定いたしたいと思います。   では,事務当局から次回の議事日程等について御連絡をいたします。 ○飛澤幹事 次回の日程でございますけれども,日時は,来年1月16日金曜日,午後1時30分からで,場所は本日と同じ法務省第1会議室で行う予定でおります。   どうぞよろしくお願いいたします。 ○上原部会長 それでは,これで本日の会議を終了させていただきます。   どうもありがとうございました。  -了-