法制審議会主権免除法制部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成21年1月16日(金)  自 午後1時29分                        至 午後2時45分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  主権免除法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○上原部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会主権免除法制部会の第6回会議を開催させていただきます。     (委員の異動紹介につき省略) ○上原部会長 まず最初に,配布資料の説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 本日の部会で用います資料は,事前に送付させていただきました部会資料12の「外国等に係る民事裁判権免除法制の整備に関する要綱案」でございます。 ○上原部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日の会議は,昨年9月26日の第1回から数えまして第6回目の会議ということになります。委員,幹事の皆様の御協力によりまして,前回の部会において要綱案の実質的な内容がほぼ固まった状況にあるということができると思います。   そこで,本日は,部会資料12の「外国等に係る民事裁判権免除法制の整備に関する要綱案」に基づきまして,要綱案を取りまとめるための審議を行いたいと存じます。   まず,事務当局から前回の部会資料11の要綱案(第2次案)から修正を加えた点につきまして説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,御説明申し上げます。   前回の部会資料からの主な変更点について御説明していきたいと思います。   まず最初に,要綱案の名称でございますが,従前「主権免除法制の整備に関する要綱案」といった題名でしたけれども,取り扱っている対象は民事裁判権の関係のものですので,今回「外国等に係る民事裁判権免除法制の整備に関する要綱案」とさせていただいているところでございます。   ただ,できますれば,現在準備しております法案の題名と平仄を合わせた要綱案の名前にできればという考えも持っておりますので,その表題いかんによりましては,更に表現的な修正を加えさせていただくかもしれませんが,御了承いただければ有り難く存じます。   次に,部会資料の1ページの第1,総則のところから順に主な変更点について申し上げます。   まず,第1の1の適用範囲の関係でございます。   内容としては,この要綱案に基づく法律の適用範囲には刑事裁判権が含まれないということは全く変わっておりません。ただ,従前は,「裁判権(刑事裁判権を除く。)」という書き方をしていたのですが,より民事裁判権からの免除を取り扱うものであることを明示するために,今回,「民事裁判権(裁判権のうち刑事に係るもの以外のものをいう。)」という形に表現を修正させていただいております。   なお,民事裁判権と書いておきながら,何ゆえこの括弧書きが要るのかといった点がございますけれども,これは,民事裁判権の中に例えば行政裁判権のようなものが当然に入るかどうか若干疑義が持たれる可能性もありますので,少なくとも裁判権全体のうちから刑事に係るものを除くといった言い方にすることにより,いわゆる純粋な民事だけではなくて,一定の行政事件も入るといった仕切りにしております。   ちなみに,ここで考えている行政事件というのは極めて限定されておりまして,特許の無効をめぐる裁判などを念頭においております。この特許の無効の関係の裁判自体は私人間で行われ,当事者訴訟の形をとっておりますが,行政訴訟に分類されておりますので,そういった文脈で若干行政訴訟が入ってくる余地があると申し上げる次第でございます。   1の関係は以上です。   それから,2の定義の関係でございます。   これも実質,表現ぶりの問題なのですが,特に(1)のイとウの関係について若干表現ぶりを修正しております。   趣旨といたしましては,イというようなものは正に連邦国家の州のように,誤解を恐れずに平たく言えば,ミニ国家みたいなものはこちらで,それに対して,ウは,そうではなくて,やはり国から個別的な授権をされてその行為を行うといった団体であるといった趣旨をよりできるだけ反映できるような書き方を目指して,こういった表現にさせていただいている次第でございます。   それから,この「国等」の定義の関係では,前回の部会でも議論いたしましたとおり,国連国家免除条約は,北朝鮮といったいわゆる「未承認国家」及び台湾の取扱いについて規律したものではございません。また,我が国においても,これまでこうした未承認国家等について,主権があることを前提とするような取扱いをすることとはしてこなかったということで,今回国内法において,これら未承認国家等に対する我が国の民事裁判権からの免除の範囲について,我が国が国家として承認している外国と同様の規律を設けますと,未承認国家等に対して主権を認めるのかなどといった難しい問題も生じてき得るかと考えられます。   そうしたこともありまして,やはり国連国家免除条約と離れて,今回国内法の仕切りとしても裁判権免除の範囲について,こういった未承認国家等について規律を設けることは難しいと考えている次第でございます。   それから,従前,commercial transaction,つまり商業的取引について,この定義のところで規定するべきではないかという御意見をいただいております。   しかしながら,商業的取引の内容については,従前どおり第3の4「商業的取引」の(1)のところに書いております。   そうさせていただきました理由は,ここで言う商業的取引という文言が使われるのは,結局,この要綱案で言うと,第3の4「商業的取引」のところ,それから第3の12「仲裁合意」の2か所でしかありませんので,やはり定義規定として置くのは難しいかなと考えたからでございます。   ただ,この点につきましては,要綱案取りまとめ後も法制上の観点からは更に検討を行う予定ではございます。   次に,部会資料12の1ページの第2の関係です。ここで「我が国の民事裁判権(以下「裁判権」という。)」と省略表示をしておりますが,これはその後,「民事裁判権」という文言を繰り返すのはやや冗長かなという考えに基づくものでございます。   それから,第3でございます。   1(1)の柱書きで,「裁判手続(外国等の財産に対する保全処分及び民事執行の手続を除く。以下第3において同じ。)」といった言い方をしております。   この要綱案第3は,いわゆる外国等の財産に対する保全処分や民事執行の手続以外の裁判について規律し,第4は外国等の財産に対する保全又は民事執行の手続について規律するということを明確に切り分けたほうが分かりやすいだろうということで,こういった仕切りをさせていただいた次第でございます。   次に,部会資料12の2ページ,第3の2のところでございますが,従前イとして規律していたものを今回(1)のイ,ウと二つに分けて表現して,さらに,従前イのただし書で表記されたものについては,今回は(2)のほうに切り分けております。   これは基本的には,参加については参加の規律,それから,異議なき応訴については異議なき応訴についての規律といったことを切り分けたほうが分かりやすいだろうということで再整理をしたというだけで,特段内容を変える趣旨ではございません。   「3 同意の擬制②」の関係では特にございません。   「4 商業的取引」の関係では,(1)の関係で1点ございます。「商業的取引(民事又は商事に係る物品の売買,役務の調達及び金銭の貸借その他の事項についての契約又は取引)」という部分でございます。   従前は,物品の売買うんぬんと続きまして,「その他の民事又は商事に係る事項についての契約又は取引」という言い方をしていたかと思いますが,これに対しては,こういった表現をしてしまうと,平成18年の最高裁判決のような特段の事情による例外を読む余地がなかなか難しくなってしまうのではないかという御指摘がございました。   そして,その際,「その他の事項についての民事又は商事に係る契約又は取引」という表現ではどうかといった御提案もあったところですけれども,そもそも例示のところで物品の売買といった例示を並べて,それで「その他の事項」といったまとめ文言において「事項」について何の限定も設けないというのは,いささか限定がなさ過ぎるのかなといったところもございますので,今回,物品の売買などの前に「民事又は商事に係る」といった文言を入れました。この「民事又は商事に係る」という文言は,物品の売買,役務の調達,金銭の貸借,その他の事項にまでに係ると考えていただければと思います。   それから,部会資料12の3ページ,第3の5「労働契約」の関係ですが,こちらについては従前,「労働者」とか「使用者である外国等」という文言を使っていたのですが,5の(1)で「外国等は,当該外国等と個人との間の労働契約であって,」という言い方をしておりますので,(2)以下ではそれを受けるという形で,使用者である外国については「当該外国」で受けて,それから労働者のほうについては,この(1)の個人を受けて,「当該個人」という言い方をするように整理しておるところでございます。   それから,同じく労働契約の(2)のオのただし書,公序のところでございますけれども,これにつきましても,従前,当事者間で管轄を有しない合意をした場合につき規定したと読めるのではないかといった御意見もございましたので,その点も踏まえまして,今回若干文言を修正させていただいたところでございます。   次に4ページですが,第3の6の関係,7の関係については特段ございません。   それから,第3の8の関係でございますけれども,従前の要綱案では若干意味内容が分かりづらい面もございましたため,今回,この「当該外国等の権利又は利益に係る」という文言を「信託財産」という文言の前に持ってきております。いずれにせよ,内容を変えるというよりも,どのように表現したら分かりやすいかといった観点からの修正でございます。   それから,従前,「その他の財産の管理又は処分」といって,その前に例示を挙げておりましたけれども,特に適用範囲については若干分かりにくい面もありましたので,今回「その他これらに準ずる財産の管理又は処分」という表現をとらせていただいております。   次の第3の9の「知的財産権」の関係,10の「法人等の構成員としての資格等」の関係,それから11の「船舶」の関係は特段ございません。   それから,部会資料12の6ページ,第3の12「仲裁合意」のところでございますけれども,前回当方からお諮りした点について,この部会でいろいろ御意見をいただきましたが,そういった御意見を踏まえた上で,従前は,「商業的取引に関し書面による仲裁合意をした場合には」と表現しておりましたが,それを「商業的取引に係る書面による合意に関し」といった表現に変更しております。   第4の1の関係は特にございません。   それから,第4の2については,その(2)のウの関係ですが,従前,文化遺産と公文書は一つの項目で並べていたのですけれども,やはり分けたほうが分かりやすいだろうということで,現在,(ア)と(イ)の二つに分けておるところでございます。   それから,第4の3の関係は特にございません。   それから,第5についても今回特段特記すべき点はございません。   要綱案についての大きな変更点についての説明は以上でございます。 ○上原部会長 それでは,ただいまの事務当局の説明につきまして,御質問あるいは御意見がございましたらお願いいたします。 ○道垣内委員 全体にかかわることでございますが,法律の名前はどうなるかまだ分からないということでしたけれども,条約との関係はどこか法律に出てくることになるのでしょうか,それとも,法案としては関連して出すのだろうと思いますけれども,条約とは関係なく,この法律はひとり立ちしているという形でつくられるのでしょうか。 ○飛澤幹事 この法律は二重的性格があるというか,一面,この条約の内容にのっとって規律しており,この条約を日本が締結し,かつ,発効すれば,担保法的法律になるという面がございます。   他方,この法律はこの条約以外の非締約国も規律し得るという点や,条約の発効前でも施行するという意味では,若干純粋な担保法とは離れた面があるところでございます。 ○道垣内委員 法律の条文上は特に条約にはメンションしないということでしたら,この法律を解釈するときに,この審議会では何度も説明に出てきました条約のコメンタリーの記載はどのように作用することになるのでしょうか。   この審議会でそのコメンタリーを参照したという形で解釈に際して参照されるのか,それとも,この条約の条文についてのコメンタリーでもあるという形で参照されるのか,ややその価値といいますか位置づけが違うのではないかと思いますけれども。 ○飛澤幹事 もちろん条約が発効すれば,条約の担保法でもあり,しかも条約優位説でもありますから,条約の解釈というのは大いに影響してくると思います。   また,実際一応条約の内容については変更していないという趣旨でございますので,なおさら条約の解釈が法律の解釈に影響すると思われます。   発効以前におきましても,やはりこちらとしましても,もし解説などを書くのであれば,当然条約に準拠した内容でつくっておるということは書く予定でおりますので,そういった意味でも,発効する前は事実上の問題になるかもしれませんけれども,発効後のこともにらんで考えれば,条約の解釈というのは,この法律の解釈に当然一定の縛りをかけるものではないかと思っている次第です。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 前回,意見を申し上げ,御検討いただけるということで,その場では結論を示されませんでした点について伺います。国際機関と外国国家との間に商業的契約があり,それに基づいて国際機関が外国国家を訴える場合については,要綱案の第4の2(2)のア,イ,ウのいずれにも入らないわけですけれども,それは(1)で訴訟ができてしまうのか,それとも,それは(2)に準じて訴訟はできない裁判権免除を与えるのか,この点いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 御指摘の点でございますけれども,先ほど申し上げましたとおり,この法律は一応条約を受けてつくりたいと考えておるところでございます。   それで,この条約はというと,正に主権国家対主権国家の規律であると考えております。そうしますと,少なくとも条約上は国際機関対主権国家のことは直接規律しているものではないだろうということで,この法律も直接国際機関が外国を訴えたような場合については,規律していないものと考えております。   ただ,その後,解釈問題として,国際機関が外国を訴えた場合にどのように取り扱っていくかというのは,当然(2)のイのような場合に準じた解釈方法の余地が全くないわけではないとは思っておりますが,ただ,この法律としてはやはり主権国家対主権国家を規律しているので,直接には書けないと考えておるところでございます。 ○道垣内委員 この法律は,主権国家対主権国家の問題だけを規律しているわけではないですよね。例えば(2)のアは当該国の国民とその国家の関係の訴訟は商業的取引でも扱えませんということを決めているわけで,被告が国家になる場合のことを定めています。日本の裁判所において外国国家が被告として登場したときに裁判をするのかしないのかを定めている法律だと思いますので,今からここに一つ加えることが難しければ,解釈上はそれは免除される可能性が高いということがインプライされているという御判断といいますか,そういうお考えでこの法律はできていると理解してよろしいのでしょうか。 ○佐野関係官 解釈上免除されるというふうにインプライされているかどうかについては,まだ全くオープンな状況かと思います。そもそもこの(2)のイが入った経緯というのは,国対国の商業的取引であっても,(1)に基づいて非免除でも何らおかしくないと思うのです。普通に売買しているだけですから。ただ,条約の制定経緯の中で,発展途上国のほうから特別に国対国の場合だけは抜いてほしいという強い政策的な意図があったものですから,特別に国と国の場合を免除としましたと。では,そこにさらに国際機関が原告になる場合も含めて政策的に抜くのかと,それについては条約上何ら議論されていませんし,国内法レベルにおいても,国際機関が原告となって外国を訴える場合まで免除にするのかと,そこについても何ら積極的,合理的に含めるべき理由がないので,解釈方向としてはまだオープンであり,条文上も明記はできないというような状況かとは思います。 ○上原部会長 ほかの委員,幹事の方,この問題につきまして何か御意見等ありますでしょうか。 ○道垣内委員 この法律は条約の実施法なのですかという最初の質問をしたのは,この法律の位置づけを明確にするためわけです。条約の実施法ではないということであれば,条約がどのように起草されたのかの話をしていなくても,今ここで議論すればいいのではないでしょうか。なぜどのように規律されるのかをブランクにしておく必要があるのでしょうか。立法をしているのですから,そのような扱いは妥当ではないように思います。そのような扱いをするということは条約の枠の中でしか思考していないことのあらわれなのではないかなと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○佐野関係官 条約上国と国を抜いたというのは,発展途上国のほうからの政策的な要請で抜きましたと。国と国との商業的取引であっても,普通は純粋な売買なのですから,対象にしてもいいにもかかわらず。   ここまではいいと思うのですけれども,次に国際機関が原告となる場合にまで同じように政策的に抜くかどうかについては,国と国の場合であったら,主権国家と主権国家なのですから,売買については合理的な交渉が行われて,仮に免除になったとしても,それなりの解決が期待できるのかもしれません。しかしながら,国際機関対国の場合は,国際機関というのは主権国家でも何でもなく,千差万別なわけですから,そういうあらゆる国際機関すべて一律に訴訟が免除になるというのは,判断としてはやや行き過ぎなのかなと思うのです。   国と国であれば,訴訟にならずとも合理的な解決が図れるかもしれないけれども,国際機関対国については,外国を訴えることができないというのはどうかなということなので,やはり国内法レベルとしても,条約と同様に明記しないほうがよろしいのではないかなとは考えております。 ○垣内幹事 私の理解が正しいかどうか,必ずしも自信はありませんけれども,まず,条約の理解としましては,条約の第1条で適用範囲を定めており,国及びその財産の他の国の裁判権からの免除について適用するとしております。この文言を重視いたしますと,これは被告が国である場合にはこの条約の適用対象になるということでありますので,国際機関が原告として訴えを提起した場合についても,それが免除の対象になるかどうかというのは,この条約の解釈として決められるべき問題だという理解があり得るかと思います。   ただ,仮にそうだといたしましても,この条約では明文でその点について規律をしていないようにみえますので,あくまで条約の解釈問題として将来に残された問題ということになるかと思いますが,それを前提といたしますと,国内法のほうでその点について,いずれかに結論を決するような規定を仮に置いた場合,条約が将来発効した際,万が一条約の解釈として国内法の規定とは異なる解釈が支配的となった場合には,非常に困る結果になるのではないかという感じもいたします。そういう観点から見ても,この法律に国際機関が原告となった場合について明文の規定を置くということは,なかなか難しいのではないか,という印象を私は持っております。 ○上原部会長 事務当局といたしましては,御指摘を受けて検討いたしましたが,今の垣内幹事の発言にもあるような方向で,特にこの点については規定を置かないという判断をしているわけですが,いかがでしょうか。 ○竹下幹事 今の点と関連してでございますが,逆にちょっと御質問させていただきたいのですが,国際機関が原告,外国等が被告となる類型の裁判について,解釈問題にゆだねるというのが多分御趣旨だと思うのですが,この商業的取引のどこの文言の解釈を行うことになるのでしょうか。   逆に言うと,今の文言を素直に読むと,免除されるという結論も一つかとは思うのですが,解釈にゆだねるとすると,どのように解釈を行うのか,御教示いただければと思います。 ○佐野関係官 先に飛澤幹事が申しましたことからすれば,(2)のイの冒頭の「当該外国等」というのは訴えられる国なわけですから,そうではなく,その後に出てくる「当該外国等以外の国等」の中に,文字どおり読めば,国際機関は含まれないというのが普通なのですけれども,さらにここに国際機関も含めて解釈するということだろうと思います。 ○竹下幹事 それは逆に言うと,定義規定のところが第1の2の(1)で係ってくると思うのですが,大丈夫なのでしょうか。 ○佐野関係官 解釈としては,文言上はかなり相当厳しいと思いますけれども,将来この条約の変容とか,(2)のイの趣旨を踏まえて,国際機関をここに含めるべきだという解釈になるのではないかとは思います。 ○竹下幹事 結局個人的にはやはり,余り文言にこだわるよりも実質を議論したほうがいいような気はするのですが,現在の文言がそのまま通ってしまうとすると,むしろ解釈にゆだねられなくなるのではないかという危惧を私としては持っております。   他方で,条約を参照いたしますと,条約第10条では,この商業的取引の点について,いずれの国も外国の自然人又は法人との間に商取引を行う場合においてという訳文となっているところでございまして,この外国の法人の中に国際機関が入るのかどうか,恐らくこれは入らないという理解なのかなと個人的には思うところでございますが,このあたりで,もちろん解釈にゆだねられるということであれば,条約とのそごは全く生じないと思うところでございますが,解釈にゆだねることが難しく,免除しない方向となったときに,条約で規律されていない事項について我が国が免除しないということだけだから,条約と反するわけではありませんので,それも一つの結論かとは思いますが,他方で,条約というよりは,むしろここの立法では一歩進んだことをやっているのではないかと思われるところですが,この点について一歩進んだことをやる趣旨なのか,そうではないとすれば,解釈についてもう少し解釈上の議論にゆだねる趣旨であるということを明示する文言を一文入れたほうが妥当なのではないかと思いますが,この点いかがでしょうか。 ○飛澤幹事 今の一歩進んだことを規律しているという点がよく分からなかったのですが。 ○竹下幹事 一歩進んだことというのは,道垣内委員が御指摘された国際機関が原告となって,外国等が被告となるという類型の訴訟について民事裁判権免除を行わない,素直に読めばそのように読めると思うのですが,あくまでそこは解釈問題というのであれば,確かにむしろ解釈問題にゆだねる文言をどこかに置かなければならないのではないかというのが私の発言の趣旨でございまして,逆に言うと,佐野関係官がおっしゃられたようなことからすると,むしろそこは免除しない方向で解釈がされていくのではないかと,免除する方向の解釈は厳しいのではないかということが出てきているところでございますので,そうだとすると,この案というのは一歩進んだことをやっているととられかねないのではないかと御指摘させていただいた次第です。 ○垣内幹事 今の竹下幹事の御発言の趣旨ですけれども,今日お配りいただいております要綱案で申しますと,2ページの4の商業的取引の(1)のところ,「外国等は,商業的取引に関する裁判手続について,裁判権から免除されないものとする。」とあるところで,「商業的取引」の直前に,条約と同様,「外国の自然人又は法人との間の」という文言を挿入したほうが条約に忠実なのではないか,という御提案だと理解してよろしいでしょうか。 ○竹下幹事 垣内幹事から御提案をしていただいたように,ここに「外国の自然人又は法人等との間の商業的取引」という文言にしたとするならば,確かにそこのところの文言の解釈として,国際機関までも対象としているのか,そうではないのか,ないしは,逆に言えば,そこの文言を入れれば,この条文の明文上は国際機関は対象としていないと。だけれども,国際機関に対してもそれを類推適用していくということは十分あり得るかと思いますので,確かに垣内幹事の御発言のような文言に変えることは一つ,逆に解釈にゆだねるとすれば妥当であると思います。 ○上原部会長 今の竹下幹事の,前提になる今の文言だと,どうしてかなり限定的な理解になるのでしょうか。逆に今の御提案のような文言を入れると,類推適用の余地が出てくるのかというその違いがどうも余りはっきりしないように思うのですが。 ○竹下幹事 今現在の御提案ですと,外国等は商業的取引に関する裁判手続について,裁判権から免除されないものとするというのが,これがそのままの条文になるかは私存じ上げませんが,この(1)だけを卒然と読むと,道垣内委員が御指摘になったような国際機関が外国等を訴えた場合にも免除されないということになると思われると。   その上で,(2)で「次に掲げる場合には,適用しないものとする。」で,最初に御指摘いただいたのは,イのところで「当該外国等以外の国等との間の商業的取引である場合」,ここに国際機関が訴えて,国際機関と外国等の裁判が含まれ得るのではないかという御趣旨だったかと思うのですが,ただ,ここのイというもののこの「当該外国等以外の国等との間の商業的取引」で,この「国等」というのは既に定義として第1,総則,2,定義のところに定義がされておりますので,定義を柔軟に打たれている概念について,柔軟に解釈を認めるというのは少し筋が通らないのではないかというのが私の,その結果として現在の提案だとすると,その解釈で読むところがほかにないのではないかという御趣旨でございます。 ○佐野関係官 そもそも国際機関をこの法律の中の解釈で読み込むような仕掛けをつくるかどうか,あるいは国際機関について他の法律ができるかもしれないということもあります。   なおかつ,文言についてはまだ最終的に法案ができるまでに若干の変更もあるかと思いますので,今の御議論も踏まえて検討させていただければと思います。 ○河野委員 国際機関という言葉をもしこの法律の中に新たに入れるとしますと,そもそも国際機関というものをどう定義するかという問題が別途出てまいりますので,今回はこの法律の中で国際機関に明文で言及しないほうが妥当ではないかと考えます。   その上で,いずれにしても解釈にゆだねるという理解をするほうが,この法律限りで言えば,先ほど佐野関係官もおっしゃいましたように,やはり国際機関に関して何らかの形で法的手当てが必要であるということは理解は得られているところでございますので,今回の法律では明文では言及しないほうが,その将来との関係でも妥当ではないかと考えます。 ○上原部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○竹下幹事 先ほどはまとまらないままお話ししてしまったので,なかなか分かりにくかったかと思いますが,私の趣旨といたしましても,今の河野委員の御意見と全く変わりがないところでございまして,実質のところにおいて解釈にゆだねられるということが本審議会の意見として確認されれば,私としてはそれで別に構いません。   ただ,ちょっと今の文言だと難しいかなと。アなども何か考えられるのかなと思いつつも,なかなか難しいかなと思っているという印象はありますが,そこは若干印象論になりますので,実質として国際機関のことについては特段触れていないということが確認されれば,私としてはそれで異存はございません。 ○上原部会長 ありがとうございました。   問題点の御指摘はいただきましたが,要綱案自体としては今直ちに何か確定的な文言をもって修正するということは,今までの議論からは難しいと思います。そこで,原案どおりとさせていただいて,その上でこれから法案化に向けて考える際に,今の御指摘の問題も含めて,なお検討するということでいかがでしょうか。   御異論が無いようですので,そういうことにさせていただくことにいたします。   ほかの点について,いかがでしょうか。 ○河野委員 まず,国等につきまして,先ほど飛澤幹事から御説明がありましたように,今回の法律で未承認国等をこの法律の適用対象とすべきではないというお立場に賛成をさせていただきたいと思います。   確かに日本国が国家として承認しておらない団体でございましても,一定の存在であることは事実だと考えられます。しかしながら,日本国として承認をしていない限りは,その団体を主権を持つものとして扱うことをまだ認めていない団体であるということは変わりません。   したがいまして,本法律が規律いたしますのは,日本国が主権国家としての扱いをすることを認めたものに対して与えられるべき裁判権免除と強制執行の免除の問題であると考えられます。   したがいまして,本法律が未承認国等の主権免除の問題を規律し得ると考えますと,主権国家として日本国がいまだ扱っていない団体を主権を持つものとして扱う可能性を認めることになると考えられますので,そのような結果は法律の目的からかんがみまして適当ではないと考えますので,先ほどの御説明に賛成させていただきたいと思います。 ○上原部会長 ほかに全体についてございませんか。   特に無いようでございますので,ここでいったん休憩をいたしたいと思います。           (休     憩) ○上原部会長 それでは,審議を再開いたします。   要綱案につきまして,最終的な御意見をちょうだいできたかと存じます。そこで,要綱案の取りまとめに移りたいと思います。   本日御提案しました資料のとおり,この主権免除法制部会として要綱案を決定するということでよろしいでしょうか。   御了承いただきありがとうございます。それでは,そのように決定させていただきます。   なお,この要綱案につきましては,これまでも字句,表現の修正がいろいろされてまいりましたが,今後,総会での答申に至りますまでの間にも法律案作成の観点から形式的な表現等の修正があり得ると存じます。このような形式的な修正につきましては,部会長である私と事務当局に御一任いただきたいと存じますが,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   では,事務当局から今後の日程等につきまして説明をお願いいたします。 ○飛澤幹事 それでは,御説明申し上げます。   本日は要綱案の決定をいただき,ありがとうございました。   2月4日に法制審議会の総会が開催される予定でございまして,そこでこの要綱案について御審議いただいた上,答申をいただく予定でございます。   その後,民事局におきまして所要の法案を作成し,今通常国会に提出したいと考えている所存でございます。   今後ともどうぞよろしく御指導のほどお願い申し上げます。 ○上原部会長 では,ここで倉吉委員からごあいさつがございます。 ○倉吉委員 審議の終了に当たりまして,担当部局の責任者といたしまして,一言御礼のごあいさつをさせていただきます。   このたびは,本日の要綱案をお取りまとめくださいまして,誠にありがとうございました。この裁判権免除法制につきましては,平成16年12月2日に国連総会において採択され,政府として締結を予定している国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約に準拠した内容の国内法を整備するという方針のもと,当部会におきまして,平成20年9月開催の第1回会議から,本日冒頭に部会長からお話ありました全6回にわたりまして,多岐にわたる論点につきまして熱心な御審議を,しかも短期間のうちに極めて集中的にしていただきました。   極めて御苦労の多いタフな作業をお願いすることとなってしまいましたが,本日このようにして要綱案をお取りまとめいただきまして,これを来月に行われます法制審議会の総会の審議に付することができるというこの段階に至りましたのも,ひとえに上原部会長を始めとする当部会の委員,幹事の皆様の多大な御尽力のおかげであったと心から御礼申し上げる次第であります。   来月の法制審議会の総会で要綱案の御承認が得られましたならば,その後は私どもといたしまして,全力を尽くしてこの通常国会に法案を提出いたしますとともに,これが法律として成立するように組織を挙げて全力をかけて取り組んでまいりたいと思っております。   ただ,皆様御承知のとおりの政治情勢にありまして,これから国会審議の先行きがどうなるのかというところがなかなか先が読みにくいという面がございます。   また,これは別の話でございますけれども,法律が成立した後,国民一般はもちろん,諸外国にもこの法律の内容を様々な方法によって広く周知していかなければならないという仕事もございます。   したがいまして,委員,幹事の皆様方には大変恐縮ではございますが,今後とも様々な形での御支援,御協力をお願い申し上げたいと考えておりますし,私どももこの間の皆様方の御尽力に是非報いるよう,先ほどの繰り返しになりますが,全力を挙げて取り組んでまいりたいと思っておりますので,引き続きよろしくお願いいたします。   最後に,これまでの熱心な御審議と要綱案の取りまとめに向けた御尽力とに重ねて厚く御礼を申し上げまして,私のあいさつとさせていただきます。   どうも本当にありがとうございました。 ○上原部会長 どうもありがとうございました。   私からも一言ごあいさつ申し上げたいと存じます。   昨年9月以来,6回という短い回数ではございましたが,諮問の趣旨にのっとりまして,充実した審議を踏まえて,外国等が係る民事裁判手続につきまして,外国等の主権と国民の裁判を受ける権利の調整という困難な問題を解決するための要綱案をまとめることができたと存じます。   この部会が始まる前に研究会でかなり長時間にわたって検討したわけですけれども,なお検討が足りなかった点も多々あり,この部会において様々な角度から御審議をいただけたことは,誠に幸いであったと存じます。   私,部会長を務めるのは初めての経験でございまして,司会者として誠に不慣れでございましたが,先達の方々の御助言をいただき,また,委員,幹事の方々の御協力により何とか重責を果たすことができました。重ねまして,皆様方の御協力,御尽力に対して御礼を申し上げたいと存じます。どうもありがとうございました。   それでは,この部会の審議を終了とさせていただきます。   ありがとうございました。 -了-