法制審議会国際裁判管轄法制部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成21年1月23日(金)  自 午後1時30分                        至 午後5時05分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  国際裁判管轄法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○髙橋部会長 ただいまから,法制審議会国際裁判管轄法制部会第4回会議を開催いたします。    (委員の異動紹介につき省略) ○髙橋部会長 それでは,部会資料11に基づきまして,海事関係の訴えから説明をお願いいたします。 ○齊藤関係官 では,資料の御説明をさせていただきます。   まず,部会資料の1ページを御覧ください。   海上の事故に基づく損害賠償の訴えにつきましては,民事訴訟法第5条第10号が国内の管轄に関して,主に証拠収集の便宜から,損害を受けた船舶が最初に到達した地の裁判所に管轄を認めております。国際裁判管轄においても同様の趣旨が妥当すると考えられますことから,損害を受けた船舶が最初に到達した地が日本国内にある場合に日本の裁判所に国際裁判管轄を認めることを御提案するものでございます。   続きまして,2ページ及び3ページを御覧ください。   補足説明の2以下は,国内の管轄に関しては民事訴訟法などに規定がございますが,国際裁判管轄においては特段の規律を置かず,他の裁判籍の規律等にゆだねることを御提案するものでございます。   まず,2ページ目,2の船員に対する財産上の訴えにつきましては,国際的に航行するいわゆる外航船については便宜置籍船が広く利用されておりまして,船籍所在地に船主の営業の拠点や船員の本拠地があるとは限らず,また,船員に対する海事関係の訴えというのは,部会資料に記載させていただいたとおりの事情から想定しにくく,また,日本人の船員については普通裁判籍によって国際裁判管轄を確保することができると考えられますことから,特段の規律を置かないものとしております。なお,船員に対する財産上の訴えの国内の管轄に関しては,民事訴訟法第5条第3号がございまして,それから次の補足説明3及び4の訴えに対応いたします国内の管轄に関しては第5条第6号,第7号があり,これらの規定に関する経緯につきましては,その下の(参考)に記載させていただいているとおりでございます。   補足説明の3でございますが,船舶所有者等に対する船舶又は航海に関する訴えにつきまして,外航船には先ほどお話させていただきましたとおり,便宜置籍船が広く利用されており,また,船舶又は航海に関する訴えというのは大変多様な請求が含まれているということでございますので,特段の規定を置かないものとしております。   次に,4の船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴えにつきましては,船舶が日本国内に所在する場合には,船舶所有者に対する訴えについては財産所在地の特別裁判籍により日本の裁判所に国際裁判管轄が認められ,他方で,船舶所有者以外の船舶債権の債務者に対する訴えについては,船舶が日本国内に所在することから直ちに日本の裁判所に国際裁判管轄を認めることは相当でないと考えられますことから,また,従前国内の管轄に関しては規定がございますけれども,これが国際裁判管轄について問題となったような裁判例も見当たらないということでございますので,特段の規定を置かないものとしております。   5の海難救助に関する訴えにつきましては,海難救助について実務上多く用いられているロイズ・オープン・フォームにロンドンを仲裁地とする仲裁合意が含まれており,こういった状況からしますと,日本の裁判所に海難救助に関する訴えが提起されることはまれであることから,特段の規律を置かないものとしております。   6の海事関係の訴えの管轄合意につきましては,これまでUNCITRALで討議されておりました国際海上物品運送契約に関する条約が昨年の国連総会において採択されておりまして,この条約には管轄合意の効力に関する規定が含まれております。ただ,この条約については日本や各国が加入するかどうかを含めて今後多国間条約の枠組みにおいて議論されることになると考えられますために,今回の法制においては特段の規律を設けないこととしております。   7の船主責任制限手続につきましては,1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約,それから国内法である船舶の所有者等の責任の制限に関する法律において定めるべき事項と考えられますことから,今回は特段の規律を置かないものとしております。   以上につきまして,御審議をよろしくお願いいたします。 ○古田幹事 民事訴訟法第5条第10号についてだけ国際裁判管轄についての管轄原因にして,それ以外の海事関係については特段の規定を置かないという趣旨に理解しましたけれども,第5条第10号だけ国際裁判管轄の管轄原因にするというのは若干疑問がございます。といいますのは,まず,第5条第10号の規定の根拠として証拠調べの便宜ということが言われているのですけれども,実際問題として被害船舶が最初に到達した地にどういう証拠があるかといいますと,おそらくは,そこで損害状況を検査した状況ということになるかと思います。ただ,実際に訴訟が係属している段階では被害船舶は他の目的地に向けて出港してしまっているのが通例です。ですから,被害船舶の検証等を法廷地で行うということは恐らくなくて,現実問題としては事故損傷状況を検査した海事検査人等のレポートが 書証で出てくるということになります。場合によってはその海事検査人の人証ということもあり得るのですけれども,また検査人が到着港にいるかどうかは分からないのです。そういう意味では被害船舶が最初に到達した地における証拠調べの必要性というのはそれほど高くないだろうという問題意識を持っております。   それから,もう一つは損害を受けた船舶が到着した地というのは,被害船舶の船長が事故の後で決めるわけですので,その被害船の船長が自分で選べる形になります。つまり,事故が起こった後に一方当事者の都合で管轄を操作できるという問題があるのではないかと思います。私が担当している損害賠償請求訴訟で,ロシア船籍の漁船とパナマ船籍の貨物船がオホーツク海で衝突したという事故があります。この事件では,たまたまパナマ船が釜石の港に最初に到達しましたので,仙台地裁に係属していますが,仙台で証拠調べを行う必要というのは恐らく全くない事件なのです。そういう意味で言うと,民事訴訟法第5条10号だけを国際裁判管轄の原因として認める必要性はそれほど高くないと思います。そういう意味では,ほかの海事事件の管轄原因について日本の国際裁判管轄の原因にしないのに,民事訴訟法第5条第10号だけを国際管轄の原因とするのはバランスが悪いと思います。それよりは,むしろ第5条第10号その他の海事関係の管轄原因すべてを一応日本の国際裁判管轄の原因としておいて,それで広過ぎるものは特段の事情で調整をするという枠組みにしたほうが立法として均整がとれているのではないかなと思います。 ○髙橋部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○手塚委員 この点なのですけれども,確か報告書にも書いてあったのではないかと思いますが,要するに国際裁判管轄の文脈では,国内の船と違って便宜置籍船の問題があるために船籍所在地を管轄地とするというのがどうも実態にそぐわないということで船籍所在地がどんどん落ちていって,海難救助については,これは国際的な文脈ではもう既にプラクティスが確立しているということで,落としていった結果として,たまたま第10号が残ったというような認識なのですね。だから,全部とるか全部入れるかというのもきれいな体裁かもしれないですけれども,やはりちょっと国内裁判管轄と国際裁判管轄とで違っているのかなというふうに思うのです。例えば,第7号は船籍ではなくて船舶所在地だから別に残してもいいのではないかという気もしますけれども,余り実際上の実例がないから入れなくてもいいという程度の話で,入れてはいけないということでもないと思います。ここは一応最高裁の考え方を尊重して国内法の管轄規定を見て,その中で残すもの,変えるものを考えていこうというアプローチをしているために今みたいなことが起きているので,私は一部だけ残してもいいのではないかと思っております。 ○松下幹事 私はこの民事訴訟法第5条第10号のみを残すという原案でもいいのかなと思っております。先ほど古田幹事からはその証拠収集の便宜というのは必ずしも当てはまらないのではないかという御指摘がありましたけれども,不法行為地の管轄でも同じようなことが言えるわけで,必ずしも証拠があるとは限らないけれども,ある場合にはそれを使えるというのがこの管轄規定のつくり方だと思います。なので,確かに立法としては,管轄地を当事者が選べるという点は問題かもしれませんけれども,そこも第2段の調整ということが考えられることから,第1段の管轄の規定としてはこの民事訴訟法第5条第10号に相当するものを国際裁判管轄の原因とするということでよろしいのではないかと考えます。   以上です。 ○青山委員 この海事関係の管轄につきましては,平成8年の民事訴訟法をつくるときに,これだけたくさん個別的に残しておくかどうかということを法務省が考えられて,当時の日本海法会に特別の研究を委託したと記憶しております。多分そちらのほうでこんなにたくさん残す必要があるかというのを個別的に検討した結果,国内の管轄としてはやはり必要ではないかということから,結局旧来の海事関係の管轄が全部残ったと聞いています。しかし,海事関係ですから当然国際裁判管轄に詳しい方がたくさんいるわけですけれども,その議論の際に国際裁判管轄についてはまた別であるという議論があって,平成8年の民事訴訟法の管轄規定が現行法のようになったと思うのです。その流れから言うと,国際裁判管轄については全く規定を置かないと私は先ほど古田幹事の言われたような事件も日本の仙台地裁に持ってこられるかどうかという問題はあるので,やはり必要なものは残しておき,これは必要ないというのは個別的に除外していくという基本的な姿勢でいいのではないかと考えています。国内裁判管轄があるものは全部国内裁判管轄と同じものにするというのが合理的とはいえないのではないだろうかと思います。 ○道垣内委員 私の基本的な認識は,手塚委員と同じです。船籍国の管轄は余り適当ではないだろうということで今のような案になっているのだと思います。ただ,船舶衝突の場合一つだけでいいかどうかについてはなお検討を要すると思います。海難救助が例えば日本の領海内で行われ,それに加えて関係する船舶が日本の港に入ってきたとしても,事務管理地の管轄を認める規定は予定されていませんし,被告の住所も日本にないということになると日本で事務管理に係る費用償還請求訴訟についての管轄原因がなくなってしまいます。プラクティスについては私はよく知りませんので,実際には余り必要ないのかもしれませんが,そのような場合と,船舶衝突の規定がカバーしようとしている場合との差は大きく違うというほどのことはないのではないかと思います。その点だけ申し上げたいと思います。 ○古田幹事 確かに船籍について便宜船籍の問題があるということはおっしゃるとおりだろうと思います。ただ,この立法で特段の規定を置かないと,そもそも国際裁判管轄がないということになってしまいます。現状では適切な実例はないのかもしれませんが,今後どういう事件が出てくるか分かりません。本当に不当なものは特段の事情で調整をするという前提で,入口のところの管轄原因としては比較的広めに規定をしておいたほうが恐らく実務的に安全なのだろうと思います。ですから,そういう意味では船籍所在地のほか,例えば民事訴訟法第5条7号あるいは第10号,第11号の管轄原因についても,国際裁判管轄の原因として一応残しておくというほうが安全なのかなと思います。 ○山本(克)委員 私も海難救助の場合については道垣内委員がおっしゃったことに賛成で,仲裁のプラクティスがあるからといって,その管轄を完全に排除する決定的な理由になるのかどうかやや疑問ですので,やはりバッファーとして海難救助については国内裁判管轄を受けたような規定をやはり国際管轄規定として置くべきだろうと思います。   それともう一つ,古田幹事がおっしゃった船舶を担保とする債権の場合ですが,これは前回でしたか,担保の目的物の所在地の国際裁判管轄については割とネガティブな意見がここでも強かったので,これも全く同じことが言えるわけですから,そことパラレルに解決すべき問題で,あちらが残るのであればこちらも残すべきだし,そうでなければ両方とも削除するというような形で考えたほうがよろしいのではないかと思います。 ○山本(弘)委員 私も松下幹事と山本克己委員が言われたことに賛成でして,不法行為地管轄についても,実際にその裁判をするときに証拠がそこにあるとは限らないけれども,例えば検察が出張っていって,検証をやったその検証調書が残っているということが証拠調べの便宜だと理解されているわけですから,それと恐らく同じなのだろうと思います。それから,船舶債権については財産所在地の管轄との平仄,もうそれがすべてであろうかと思っております。 ○髙橋部会長 大方の御意見としては,船籍所在地国というのは合理性がないということは大体皆さん御一致があるようです。そうしますと,全部残すというのは少数の意見ということになりますが,原案では船舶の衝突その他海上の事故のときだけが残っておりますが,海難救助も残してもいいのではないかという御意見もあり,船舶債権等はほかとの調整と,そういうあたりでしょうか。   第一読会としては,このぐらいにいたしまして,続きまして,知的財産権についての御説明をお願いします。 ○佐藤幹事 知的財産権に関する訴えにつきましては,部会資料11の3ページ以降に記載してございます。本文といたしましては,①が知的財産権の登録に関する訴えでして,設定の登録により発生する知的財産権,これは特許権,商標権,育成権,意匠権等を指しておりますが,その登録に関する訴えにつきましては,その登録をすべき地が日本であるときは日本の裁判所の管轄に専属するということで,登記・登録の訴えと平仄を合わせた形の記載にしてございます。   それから,本文②は,知的財産権の有効性に関する訴えでして,これは存否が問題になる場合もあろうということで,設定の登録により発生する知的財産権の存否又は効力に関する訴えとしておりますが,これにつきましても登録をすべき地あるいは登録をされている地が日本にあるときは日本の裁判所の専属管轄とするという記載にしてございます。参照条文としては,知的財産基本法第2条と特許法第168条を挙げさせていただいております。   以上の説明が(補足説明)の1と2に記載をしておりますところでして,そのほかに御議論いただきたいと考えていますのは,(注)で挙げました1,2,3です。(注1)は,特許権等の設定の登録により発生する知的財産権の侵害訴訟につきまして,その侵害訴訟が例えば日本で提起され,外国で審判手続に相当する有効性,無効性を確定する手続が係属している場合に,日本における訴訟手続を中止することができるような規定を置くかどうかということです。研究会報告書の中では,中止ができるようにすべきではないかということを御議論いただきましたので,ここに挙げたということです。   それから,(注2)に関してですけれども,これは侵害訴訟を念頭に置いたものでして,特に外国特許の侵害訴訟につきまして,その登録のされた外国の裁判所の専属管轄とするかどうかということです。こちらでは日本企業同士で外国の例えば特許権の侵害訴訟が起きているような場合に,日本の裁判所がその侵害訴訟について判断することも排除する必要はないのではないかということ,あるいは合意管轄として日本の裁判所を指定することを許さないという理由はないのではないかということから,特に登録国の裁判所の専属管轄とはしないということでどうかという御提案をさせていただいているものでございます。   (参考)の1に記載しましたように,過去の裁判例を見ましても,外国特許の侵害が問題になったということから直ちに訴えを却下しておりませんので,外国特許の侵害について管轄自体を否定するというような考え方には立っていないと考えられるかと思います。   それから,(注3)につきましては,登録が成立要件ではない知的財産権,例えば著作権に関する訴え,それからライセンス契約に関する訴えなど知的財産権をめぐる紛争は多様なものがありますが,そういう著作権侵害とかライセンス契約などにつきましては,それぞれ不法行為なり契約に基づく特別裁判籍あるいは普通裁判籍の規律にゆだねることでよろしいかどうかということを御議論いただければということで(注3)を記載してございます。   以上です。 ○髙橋部会長 それでは,御意見をお伺いしたいと思います。 ○山本(弘)委員 前提を確認させていただきたいのですけれども,知的財産権の存否又は効力に関する訴えの中には,発明がだれに帰属する権利かということをめぐる紛争は入らないという理解でよろしいのですか。 ○佐藤幹事 念頭に置いていましたのは,帰属ももちろん入るという理解でした。だれに権利があって,どこにどのように移転,登録するかということも入っているという前提なのですが,存否又は効力という中でそれが読めるのかという御指摘だと思います。それは確かに文言上は検討したほうがいいかもしれないと思いますが,実体的には含まれるという理解で記載してございます。 ○山本(弘)委員 不動産のところとの整合性が気になったので確認させていただきました。 ○髙橋部会長 では,山本和彦幹事,お願いします。 ○山本(和)幹事 私も確認ですが,先ほどの御説明の(注3)の趣旨ですけれども,例えば著作権についての登録に関する訴えというのは,前の登記又は登録に関する訴えというところがあったかと思いますが,それもこの特別裁判籍に関する規律にゆだねるというところに含まれているのでしょうか。つまり登記又は登録に関する訴えが登録国の専属管轄になったときには,基本的にはこの①の問題は消えるというふうに理解していいのかどうかということをちょっと確認いただければと思います。 ○佐藤幹事 ①の問題が消えるとはどういう意味ですか。 ○山本(和)幹事 問題が消えるという言い方は適切ではなかったかもしれませんが,つまり①が登記・登録に関する訴えの問題に吸収されて,例えば著作権の登録に関する訴えであっても登記又は登録に関する訴えに入るとすれば,それはその登録国の専属管轄ということになって①と同じ扱いになるという理解でよろしいかどうかということを確認させていただければということです。 ○佐藤幹事 著作権の場合,著作権が登記・登録によって発生する法制の場合を念頭に置かれているということでしょうか。 ○山本(和)幹事 例えば移転とか質権設定とかに関する登録,つまり対抗要件として登録がなされる場合の登録に関する訴えについてということです。 ○佐藤幹事 それが適当なのかどうか分からないのですけれども,今はその場合には①には含まれないと考えております。要は①は設定の登録によって発生する権利と定義しておりますので,特許権とかそういうものを念頭に置いているということです。したがって,その場合にはこの①の規律には入らないことにはなろうかと思います。 ○山本(和)幹事 実質論を言わせていただければ,所有権とか抵当権の登記というのももちろん対抗要件の登記なわけです。前回の議論では,法令に基づいて行われる権利の公示は公益性が強いということと,外国で登記・登録に関する訴えを起こしても,どうせその登記・登録をする国で承認が要るではないかということで専属管轄にするという意見が強かったように記憶しています。もしそうだとすれば,同じことは対抗要件である著作権の登記・登録等についても妥当して,結果として,そういう登録が成立要件でない知的財産権についてもやはり登録に関する訴えは登録国の専属管轄になるのではないかというふうに思って,そうだとすると,この①の特別の規律というのは必要ではなくなる,登記又は登録の管轄に吸収されるのではないかと思っていて,私はそのほうがいいのではないかと思います。 ○佐藤幹事 今お話を伺いながら考えていたのですが,おっしゃるように,①で登録は発生要件だということにすると,恐らく著作権のほうは特別裁判籍の一般的な規律である登記・登録の訴えに入ってきたほうがいいということでしょうか。そうなりますと,では①の規律として登録を発生要件にする必要があろうかということになり,もしそれが必要ないのであれば一般的な登記・登録の訴えに吸収しても問題ないのではないかという御指摘だと思います。それはおっしゃるとおりかなというような感じがしておりました。 ○横溝幹事 私も確認なのですけれども,②の知的財産権の存否又は効力に関する訴えの中には差止請求は含まれないという理解でよろしいのでしょうか。カードリーダーの最高裁の判決で準拠法選択に関してですが,差止請求権は特許権の効力だというふうに性質決定しておりますので,その点に関して念のため確認させていただきたいと思います。 ○佐藤幹事 念頭に置いておりましたのは,②に差止請求は含まれないという理解でございました。有効,無効だけ確認するような訴えを念頭に置いておりましたので,差止請求は侵害訴訟等の中で併せて提起されることが多いのだろうと思いますけれども,それは侵害訴訟としての一般的な規律にゆだね,②には含まれないという整理でこの資料は記載してあります。 ○古田幹事 山本和彦幹事から御指摘があった点に関連するのですけれども,前回,登記・登録に関する訴えについては我が国の専属管轄とまでする必要はないのではないかという意見を私は申し上げました。今回の知的財産に関する訴えの①ですけれども,登録によって発生する権利については日本の専属管轄にする要請は,一般の登記・登録に関する訴えよりはもう少し強いのかなと思いますが,それでもなお専属管轄とまでしなくてもいいのではないかと思っております。といいますのは,②の例えば特許の効力ですとか,あるいは特許付与の要件というのは,日本の産業政策にかかわる問題でもありますので,日本の裁判所が専属的に判断すべきだという議論はあり得るだろうと思うのです。これに対して,例えば特許の登録について冒認特許であるから名義を変えろというような請求の場合には,これは最終的には日本の産業政策の問題というよりは,だれが特許権者であるのか,あるいはだれが特許権を受ける権利を有していたかという事実認定の問題になります。このような事実認定の問題について,当事者が外国の裁判所で本案の審理・判断を受けて,その判決を日本で承認してもらおうというときに,日本ではそれは専属管轄なので承認しないとまで言う必要があるのかという点を疑問に思っております。ですから,①については専属管轄でなくてもいいのではなかろうかと思います。 ○佐藤幹事 確認ですけれども,そうすると登記・登録を要するかどうかということにかかわりなく,登記・登録の訴えとまとめた上でそれを専属にする必要がないのではないかという御意見だというように理解してよろしいでしょうか。 ○古田幹事 そのとおりです。   それから,②についての質問なのですけれども,ここでは知的財産権の存否又は効力に関する訴えについては専属管轄にするという規定なのですが,例えば抗弁として外国特許の無効の抗弁を出した場合どうなるか,あるいは侵害差止請求訴訟における反訴として外国特許の無効確認を求めた場合どうなるのでしょうか。この案を読む限りは,抗弁として特許無効を主張する限りは専属管轄ではないのだけれども,反訴なり中間確認の訴えという形で特許無効が訴訟物となった場合には専属管轄の対象になるというふうに読めるのですが,そういう趣旨の規定と理解してよろしいのでしょうか。 ○佐藤幹事 そのとおりです。例えばアメリカの特許ですと,日本で抗弁として主張ができるということになります。この点は研究会の中でも議論されたのですが,そこは準拠法の問題としてアメリカ法が選択されたということであれば,訴訟の中で抗弁を主張することができるということでした。それは外国特許権についての管轄が認められるという,アメリカの専属管轄にしないということが前提ですけれども,そういう形で訴訟の中で抗弁として主張される場合には,②には含まれないということになりますし,訴えという形で,有効,無効の訴えという形になれば②に含まれるという整理をこの部会資料ではしているところでございます。 ○古田幹事 非常にテクニカルな質問なのですけれども,例えば米国の裁判所で日本の特許に基づく侵害差止訴訟が係属した場合に,日本の特許無効の抗弁が提出されて,米国裁判所が日本の特許は無効であるという判断をして確定したとします。その米国判決を日本で承認する場合に,日本の特許は無効であるという米国裁判所の判決は承認対象にならないのでしょうか。日本の判決であれば抗弁に関する判断は理由中の判断ですから既判力はないということになるのでしょうが,米国ではissue preclusionという,いわゆる争点効的なものが認められておりますので,米国法上は日本特許が無効であるとする理由中の判断に一種の既判力のようなものが生じています。しかし,日本ではその部分は承認しないという前提なのでしょうか。 ○佐藤幹事 部会資料としては,そこまで前提にしたものではなくて,そこはアメリカにおける裁判所の判断の既判力というものが日本の承認執行の段階でどう影響するかという問題として整理されるのではないかなとは思いますけれども,そこはどちらかということを前提としてこの部会資料をつくっているということではございません。 ○古田幹事 分かりました。なお,これは弁護士会内部の知的財産関係の委員会から出ている意見なのですけれども,②に関して,例えば外国の特許権の有効性を争う訴えが日本で提起をされた場合に,当事者が特段日本の国際裁判管轄に異議を唱えず,日本で本案の審理をしようとしているのに,この②の規律があるからその裏返しとして日本の裁判所には管轄がないということになるのであれば,それは少し行き過ぎではないかという意見が弁護士会内部では出ております。 ○佐藤幹事 それは例えばアメリカの特許権の有効性なり無効性を確認する訴えが日本で提起された場合,それはアメリカの裁判所の専属管轄にするのではなくて,日本の裁判所が審理,判断をして有効,無効を確認する判決が出せるようにすべきではないかという趣旨なのでしょうか。 ○古田幹事 そこまで積極的な意見ではないのですが,外国の特許の有効性を判断するのは日本の裁判所には非常に困難なので,特段の事情があるという判断になるのかもしれませんけれども,入口のところでそもそも特許の有効性の判断はその特許を付与した国の専属管轄であるという発想を前提にして,外国特許の有効性の判断は少なくとも訴訟物の判断としては日本では一切行わないというところまで規定するには,更に慎重な検討を要するのではないかというのが日本弁護士連合会の知的財産関係の委員会からの意見でございます。 ○青山委員 その専属管轄とすることの意義がどうなるかということですよね。専属管轄というのは合意管轄を排除するという前提で議論をしているわけですね。だから,もしここで専属管轄としながら合意管轄を許すようなことになると,専属管轄の意味が二つできて,合意管轄を許すような意味の専属管轄と純粋の専属管轄で,これは被告が何と言おうと裁判所は専属管轄違背だと言って,職権でも排除するというのがこの専属管轄の意味だと従来考えてきましたので,今のような御主張があるとすれば,全部見直さないと専属管轄という意味自身を違う意味で使うというようなことを許すかどうかというそちらのほうの議論から始めないといけないのではないでしょうか。ここだけはこういうのはどうかと言われても少し議論の仕方として難しいのではないかと思います。 ○佐藤幹事 先ほどの古田幹事の指摘に関してなのですが,②で想定していますのは,今青山委員からも御指摘がありましたように,応訴管轄とか合意管轄は許さないという通常の意味の専属管轄であり,アメリカの特許の有効性であれば向こうの手続でやってくださいという趣旨で規定しているものです。したがって ,合意管轄あるいは応訴管轄を許すということであると,またここの規定ではない形になろうかと思います。合意管轄あるいは応訴管轄を許す専属管轄というのは ,概念的にはないのかもしれませんけれども,応訴管轄あるいは一部の合意管轄を許しながら専属管轄的なものを認めていくというのは,後ほど消費者契約関係や労働関係の訴えところで出てきます。けれども,この知的財産権の本文②のところは,これまでの講学上の専属管轄を意味していると御理解いただければと思います。 ○古田幹事 専属管轄の意義については,青山委員がおっしゃったように,合意管轄,応訴管轄を排除するものと理解をしております。ただ,②の今の案文の書き方が「その登録をすべき地が日本であるときは」というふうに限定をつけております。そうしますと,要するに日本の特許の有効性についての判断は日本の裁判所が専属で行うというところまで読めるのですけれども,では外国特許の有効性の判断については,その外国に専属する,日本ではやらないというところまで読めるかどうか,今の案文からだけでははっきりしません。ですから,先ほど申し上げたように,外国特許の有効性を当事者が日本で争いたいと思っているときにそれも排除する趣旨なのかどうかと,そういう意見というか疑問が日本弁護士連合会の関係委員会から出てきている状況だろうと思います。 ○佐藤幹事 趣旨としては,それも排除するという趣旨で記載してございます。もちろん実体としてそれでいいのかという御議論はあろうかと思います。 ○手塚委員 前提として,確かこの部会の資料では合意管轄について第一審については合意管轄を定めることができるというのがあって,それについては日本の法令によれば日本の裁判所の管轄に専属するような管轄原因が外国にあるときは適用しないということで,その専属管轄に服するものは合意管轄はだめですよという書き方をしたと思うのです。古田幹事が言われるのは,今回の書きぶりが日本において登録すべきときは日本の専属管轄と書いてあって,登録地の専属管轄というふうに書いていないので,要するに日本の法令によれば日本の裁判所の管轄に専属するような管轄原因というのが日本の特許だったら,日本に専属というのが外国特許のことは含んでいないのかどうかというところが案文上はっきりしないのではないかという論点ではないかと思うのです。それは書きぶりの問題ではっきりさせればいいのですが,実体的に見て,では,日本の特許は日本の裁判所の専属で外国特許は外国の裁判所の専属だから,有効性に関する争いについては当事者が例えば日本企業同士で,合意管轄で日本で裁判をやりたいと言っていて,しかも,同じ特許をいろいろな国に出していて,十把一絡げで有効性,無効性を争っているようなときもそれぞれの国でやらなければいけないということにするかどうかだと思うのです。それは立法政策の問題かもしれないのですけれども,私の理解では,例えば仲裁ですと有効性について仲裁で判断するということはできるとされている国のほうが多分多いと思いますし,アメリカはわざわざ立法して特許の有効性について仲裁で争うことはできるというふうにしたと思うのです。専門性とかということで言うと,仲裁で外国特許の有効性を判断することを許す上で,仲裁人が専門家ならいいけれども,専門家ではないとだめだとか,ほかの国籍の人ではだめだということには必ずしもそれほどなっていないと思うのです。当事者が仲裁人に任せたいというのだったらいいですよと,そういう話なのです。仲裁人が外国特許の有効性の判断をすることはできるけれども,日本の裁判官は外国特許の有効性を判断できないのかというのは,ちょっと本当に専属で当事者の合意を許さないというところまでいってしまっていいかは若干疑問が残るところかと私は思っております。 ○山本(和)幹事 私は原案でいいのではないかと思っていまして,その有効性の訴え,つまり特許の無効を確認するような訴えというものを考えたときに,日本法上は,そもそも日本の特許であれば,まず無効審判を前提として行政訴訟になるという仕組みがとられていると思うのですが,それはつまり裁判所が第一次的判断をするのではなくて,まず専門的な知見を有する行政庁が第一次的判断をして,それを裁判所は再審査するというような仕組みになっていると思うのです。外国特許の場合に,いきなり日本に特許無効の訴訟が起きて,日本の裁判所が第一次的に外国の特許については有効,無効を判断するというのは何か制度としては少し整合性がとれていないのではないかという感じもするので,やはりそれは外国の専門的なところ,それは行政機関か裁判所かは制度によりますけれども,外国の機関に判断してもらうというほうが筋としてはいいのかなという感じがしています。   それから,手塚委員が言われた仲裁でどうかというのは,私もよく承知しているわけではありませんけれども,その仲裁人が判断できるというのは当事者間での有効,無効ということではないのでしょうか。対世的な効力を持つような有効性,無効性の判断を仲裁人ができるかというと,日本の解釈論では否定的に見る解釈論が私は有力だと思っています。したがって,この場合はもちろん対世的な効力を持つ有効,無効の判断だと思いますので,仲裁の場合と必ずしもパラレルにはいかないのではないかという印象を持ちました。 ○道垣内委員 結論においては,山本幹事と同じなのですが,ただ,説明の仕方として,当事者間の公平,裁判の適正・迅速という最高裁判所の判示しているような枠組みだけで議論できる問題なのかというところは疑問に思っております。第1回目のこの審議会でも申しましたけれども,国内裁判管轄においてはそれでよいけれども,国際裁判管轄というのはやはり外国国家の行為をどれくらい尊重するか,どこまでやるとそれは失礼に当たるのか,場合によっては国際法違反というか内政干渉といいますか,そこまで行かないとしても,そういった国と国の関係があるということが民事手続法的な議論からは抜けているのではないかと思うのです。国内裁判管轄の議論では必要ないですが,国際裁判管轄はそこが必要なのではないでしょうか。どこまで手を出すと失礼になるのか,それは人によって違うと思います。私は不動産物権についても勝手に判断するのは失礼ではないかという感じを持っているのですが,多くの方はそうではありませんでした。しかし,結論においては,山本幹事も特許については,私と同じ考えなのではないかと思います。   そういった観点から申しますと,要するに当事者間の効力でしかないのだからいいではないかとか,対世効がないのだからいいではないかみたいな話だと日本の訴訟はすべてそうだと思いますので,線引きができなくなるのではないかと思います。外国特許の無効確認訴訟をXとYの間でした場合,その無効確認判決が対世効を持つかというと,それは当事者間の効力でしかないとされると思うのです。そうだとすると,やっていいという議論になりそうなのですが,仲裁でできることがなぜ裁判所ができないかというと,仲裁はしょせん私人間の約束でやっていることであるのに対して,裁判所という国家機関が正面から外国国家がしている行為について有効だとか無効だとかということは,差があるのではないかと私は思います。うまく説明できませんけれども,そのことだけ申します。 ○古田幹事 私個人も,結論としては,この②の規律でよいのではないかと思います。ただ,そこで対象になる判決というのは対世効を持つ判決だけではなくて,私人間で特許権無効確認訴訟を行う場合であっても,これは判決は私人間の効力だけですけれども,やはりこれも専属管轄に服するのだろうと思います。その理由としては道垣内委員がおっしゃったような主権の問題だからというほどのことを言わなくても,登録によって発生する知的財産権というのは一国の産業政策の問題に非常に関連しておりますので,そういうものについてはその国の裁判所が専属的に判断をするのだと,そういう合理性があるのではないかと思います。   それから,手塚委員から仲裁の場合の議論があったのですけれども,私は米国の仲裁法のことは存じ上げないのですが,我が国の仲裁法のもとで,例えば日本の特許権の有効性について,仲裁裁定によって判断できるかどうかというのは,まだ確定的な見解もないですし,立法的に解決されていない問題ではないかと思います。 ○山本(克)委員 最初に山本弘委員がおっしゃった帰属の点なのですが,発生時における帰属の問題は確かに効力の問題と密接にかかわりますので,それにふさわしいのだと思いますが,譲渡あるいは相続,特に遺産分割をしたときに,だれに帰属しているのかということは完全に民事法の問題であって,知的財産法の問題ではないのではないかなという気がいたします。国内裁判管轄の例の東京,大阪各地方裁判所の専属管轄を定める改正を行った際も,そういう相続の帰属に関する事項というのは専門的な知見を必要としない例であるというふうに言われて,ちょっと専門性の問題と今の効力の問題ではややずれがあるのですけれども,やはり性質が違うという認識があったと承知しております。なので,少しこの今のやり方,②の形でやるとちょっと過剰に専属管轄を設定しているような印象を免れないような気がするのですが,その点はいかがでしょうか。 ○佐藤幹事 確認させていただきたいのですが,特許権の帰属というのは,登録の移転に限らないということになるのでしょうか。というのは,②で存否又は効力と言っている,効力は有効,無効だと思うのですけれども,②の存否としては特許権の例えば不存在,存在というのはあり得るのか分からないのですが,必ずしも帰属を念頭に置いていなかったので,そういう意味では山本克己委員のおっしゃったのは,帰属については存否という文言に入ってくるということが前提としてあり,そこまで含めるのが問題ではなかろうかと,そういう理解でよろしいですか。 ○山本(克)委員 はい。 ○髙橋部会長 そこはもう少し検討させていただきますが,(注1)にあります手続の中止の規定は規定したほうがいいのか,事実上できないこともありませんが,事実上の運営,訴訟指揮に任せておけばいいとお考えでしょうか。 ○山本(和)幹事 私はあったほうがいいのではないかという感じがしています。これは侵害訴訟で特許の有効性が問題になったときに,裁判所が侵害だというので請求を認めた後で無効審判とかが出ると,それが再審事由になるかどうかというのは議論があるかもしれません。けれども,少なくとも齟齬するような判断がなされてしまういうことを懸念した制度だとすると,結局その判決をするときには特許は有効だというふうにその裁判官は思っているけれども,ひょっとしたら違う判断を特許庁が出すかもしれないというような裁判所の懸念がある場合に,手続を中止しておいてその判断を待つということなのだろうと思うのです。しかし,そうだとすると,外国のほうがよりそういう不安というのは大きくなるのかなという感じがして,日本だとある程度特許の有効性というのは裁判所も一定程度自信を持って判断できるような気もするのですが,本当に仮に外国で無効審判のようなものが出ている場合に,それが通るか通らないかということを適切に判断するということはなかなか難しい場合があって,そういう場合にはやはり訴訟のほうを中止しておいて,外国の手続を見守るという必要性はありそうな感じがします。そうだとすれば,日本でこういう規定があるのであれば,外国の特許についてもやはり同じようなことがあってもいいのではないかと思います。 ○古田幹事 私も山本幹事の意見に賛成で,中止の規定があったほうがいいと思います。以前少し文脈は違いますが,国際訴訟競合について中止の規定を設けるかどうかという点について裁判官の方にお話を伺ったことがあるのですけれども,裁判官の方から,中止の規定を設けると,その要件の具備をどう判断するのか,あるいは訴訟再開の判断をどうするかというのが大変手間で面倒なので,それよりは期日の追って指定ですとか事実上の措置でやるほうが柔軟に対応できて良いのではないかという御意見を伺っておりました。この外国特許の場合にも同様の問題はあろうかと思いますので,裁判所としてどういうふうにお考えになるかというのは御意見を伺いたいところでございます。 ○鶴岡委員 今,国際訴訟競合のお話がありましたけれども,そこの問題とこの特許の問題,特許のほうが限定されていますので,ちょっと局面は違うのかなと思っております。では,この場面で中止の規定を置くべきかどうかというところにつきましては,先ほど山本幹事がおっしゃったことと同感でありまして,日本の特許についてもこういう制度が設けられているという前提でものを考えた場合に外国の特許について要らないというふうに言う理由はないかなと思っております。   以上です。 ○松下幹事 私も手続の中止という規定があったほうがいいのではないかと考えます。広く言えば関連請求に係る中止という昔あった制度のうち特殊なものだけがここに残っているということかと思います。必要性が高いというのは既に指摘されたとおりですが,管轄の問題そのものではないので,今回の作業の枠の中に入るのかどうかという法制的な問題だと思いますけれども,この部会で日本の民事訴訟法の中止の規定をいじるということを提案されているということでよろしいのでしょうか。 ○髙橋部会長 最終的にどうなのかは別ですが,とりあえずその後をどう考えるかということで,どの法律になるのか,最終的にはこの部会の管轄外だと言って無視されるのか,そこはちょっとまだ詰め切っておりませんが,単行法をつくるとすれば国際裁判管轄法制ではないのかもしれません。そこは御指摘のとおりです。 ○山本(弘)委員 今の中止の問題ですが,やはり後のほうで出てくる国際的訴訟競合に関する規律を踏まえて議論したほうがよろしいかと思います。現在のこの国際的訴訟競合の規律は全く同一訴訟物の場合だけを想定しているようですけれども,その対世効を持つような訴訟が外国で係属している場合に,その効果を訴訟物とする訴訟が日本に係属しているというのは特許以外にも考えられるケースはあるだろうと思うのです。ですから,こういう同一の訴えというふうに限定するのではなくて,正に関連請求については場合によっては中止できるという一般的な規定を置いて,それで対応するというような対応策もあり得るだろうと思いますので,そこでもう一度議論したほうがよろしいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 知的財産権についてほかにいかがでしょうか。   最終的に①が登記・登録に吸収されるかどうかはもう少し詰めたいと思います。それから,専属性に関しましては,御議論があったということ,それから,権利の帰属の点のところをどうするかというのをもう少し詰めなければいけません。第6回までには整理しておきたいと思いますが,そういうあたりでよろしいでしょうか。   それでは,次の消費者契約関係の訴えについて説明をしていただきます。 ○日暮関係官 それでは,消費者契約関係の訴えについて御説明させていただきます。   部会資料11の6ページを御覧ください。   まず,この本文③が対象としています消費者契約関係の訴えにつきましては,本文の①に定義してございます。消費者契約関係の訴えにつきましては,消費者契約に関する訴えを対象としております。そして,その消費者契約の定義につきましては,法の適用に関する通則法第11条第1項と同じ文言を利用しておりまして,その根拠になっておりますのは消費者契約法第2条第1項ないし第3項でございます。   本文①ですけれども,こちらは消費者が原告となる場合の規定でございまして,消費者が原告となって事業者を被告として提起する消費者契約に関する訴えにつきまして,原告である消費者の住所地が日本国内にある場合については日本の裁判所の管轄を認めるということを提案するものであります。この本文①ですけれども,こちらは任意管轄の定めとしての提案でございまして,専属管轄を定める記述につきましては,そちらが優先的に適用されるということを前提としているものでございます。(注)で書かせていただきましたが,この管轄の根拠となります消費者の住所の有無を定める基準時につきまして,通常の場合ですとその管轄の基準ですので訴え提起時のものが基準となるとされておりますけれども,それでよいのか,それともそれに加えて消費者契約締結時の住所も含むという考え方もあり得るかと思いますので,この点を御議論いただければと思っております。(参考)で書かせていただきましたのはヨーロッパの条約等に関する記述でございます。   続きまして,本文②ですけれども,部会資料11の9ページを御覧ください。   本文②は,事業者が原告となって消費者に対して訴えを提起する場合でございますけれども,この場合につきましては,被告である消費者について日本国内に住所がない場合には原則として日本の裁判所の管轄を認めないということにいたしまして,ただし,例外的に本文②のアからウまで三つの場合,具体的には当該訴えについて専属管轄の定めがある場合や消費者が応訴した場合,それから消費者と事業者との間の管轄合意が効力を有する場合,こちらにつきましては,主としては消費者契約に関する紛争が生じた後に締結された合意というのを念頭に置いておりますが,このような例外的な場合につきましては,日本の裁判所の国際裁判管轄を認めるものとすることを御提案させていただくものでございます。   続きまして,本文③ですけれども,こちらは消費者と事業者との間の管轄合意につきまして,原則としては消費者契約に関する紛争が生じる前に締結されたものにつきましては,無効とするということを提案させていただくものでございます。消費者保護のためということでございますけれども,ただし,消費者がその管轄合意に基づいて訴えを提起する場合には,消費者にその管轄合意を有効なものとして援用する意思があることが明らかであって,その合意の効力を認めるのが相当であると思われますために,例外的に合意の効力を認めるということを御提案するものでございます。こちらは仲裁法の附則第4条を参考にしたものでございまして,仲裁法の附則第4条は,個別労働関係紛争に関する仲裁合意について,当分の間,無効とすると規定されております。この本文③ですけれども,合意の方式等につきましては前回御検討いただきました合意管轄のところでございましたような一般的な規律が適用されるということを前提にしています。   (参考)1に書かせていただきましたのは用例の問題ですけれども,研究会の報告書では管轄の合意につきまして,消費者が合意の効力を援用した場合に限り有効とするとされておりましたけれども,援用という用語につきましては,主として時効の援用という場合に使われておりまして,合意の効力の有無について当事者の援用の有無にかからしめるということにつきましては,やはり法制的な問題があると考えられるため,仲裁法の附則を参考にして御提案させていただいたということでございます。   続きまして,本文④ですけれども,部会資料11の10ページに記載してございますが,こちらはいわゆる能動的な消費者につきまして,本文①から③までの規律の適用を除外するということを御提案するものでございます。こちらは法の適用に関する通則法の第11条第6項第1号・第2号に同じように能動的な消費者についての規定がございまして,この規定では消費者の常居所地法と法を異にする地,同じくする地というような用語になっておりますけれども,管轄につきましては国単位で考えるべきと考えられますので,すべて外国というふうに文言を修正した上で御提案させていただいているものでございます。   法の適用に関する通則法の第11条第6項第3号及び第4号には,同じく能動的消費者とされる場合として主観的な要素を基準とする例外事由というのが設けられていますけれども,管轄の判断に際し,裁判所がこれらの主観的な要素を含む事由の有無を判断することには困難があると考えられますために,こちらについては国際裁判管轄については能動的消費者とはしないということを御提案させていただいております。   以上でございます。 ○佐藤幹事 1点だけ補足いたしますと,本文③はなかなかどういう書き方をするか難しいと思っておりまして,基本的に仲裁法の規定を見ますと,仲裁法の附則第3条では消費者に関するもの,第4条では労働契約に関するもので,第3条は消費者の場合は有効を前提にして解除できるという形になっていまして,第4条のほうは無効になっています。研究会の報告の中では消費者に関する規律と労働関係に関する規律を分けていなかったものですから,援用というような表現がなかなか使えないということになりますと,いずれに合わせるかということになろうかと思いますが,この本文の中では,第4条のように無効とするとした上で,援用がある場合をこの限りではないとしているのですが,仲裁法の附則第3条は解除することができるとした上で,その仲裁の申立てを消費者がした場合にはこの限りでないとなっています。なので,若干今の本文③のような書き方でいいのかというところも問題があろうかと思いますので,御議論をいただければと考えております。 ○山本(克)委員 ③について確認させていただきたいのですが,この消費者が管轄合意を援用する場面というのは,一つは正に自分が管轄合意に沿った管轄国に訴えを提起する場合というのがありますが,もう一つは被告として専属管轄の合意があるということで訴え却下を求めるという場合があり得るのだろうと思うのです。現在の案ですと,そこをカバーし切れていないのではないでしょうか。研究会報告書が援用というあいまいな言葉を使ったら恐らくそれもカバーされるという趣旨だったというふうに理解しますと,少しずれが出てきているのかなという印象を持っていますが,その辺はどうなのでしょうか。 ○佐藤幹事 そのあたりは正に援用とは一体何を意味するのかというところで,当面私どもで議論した中では訴えを提起する場合ぐらいであろうということだったのでこう書いてあるのですが,ほかにも援用の場面をいろいろ御示唆いただければ,それに合わせた文言にしていければというふうに思っておりますので,今,山本克己委員から御指摘があった点も含めて考えていきたいと思います。 ○髙橋部会長 それでは,ここで休憩を入れたいと思います。           (休     憩) ○髙橋部会長 再開いたします。   休憩前に③について御議論がございました。そこでこの御議論から再開したいと思いますが,経緯は援用という言葉を使いたいところ,法制上なかなかそれが難しいというので合意は無効,ただし,消費者が訴えを提起したときとは除くとしたのですが,抗弁として出すこともあるのではないかという御指摘ですが,典型的にはどのような場合ですか。 ○山本(克)委員 ほとんど想定できないとは思うのですが,例えばアメリカに国際裁判管轄を認める管轄合意がある消費者契約について,日本で訴えを起こされた消費者がこれはアメリカの管轄だというので訴え却下を求めるというようなことだろうと思います。恐らく仲裁法の附則で無効構成をとらずに解除構成をとったのは,そういう場合にも対応できるということを考えていたのではないでしょうか。この点は山本和彦幹事のほうがお詳しいかと思いますので,あとで補足いただければと思いますが,恐らくそういうふうなことだろうと私は認識しております。ですから,二面ですね,自ら能動的に訴えを起こす場合と抗弁の場合の両方をカバーすべきだろうと考えています。 ○古田幹事 今御指摘があった点ですけれども,例えばアメリカに居住している消費者に対して,アメリカで事業者が訴えを起こしたという場合に,被告になったアメリカの消費者が契約の中で日本の裁判所を専属とする合意があったという本案前の抗弁を出して,それが認められて米国では訴えが却下をされ,その後,その事業者がアメリカに住んでいる消費者を日本の裁判所に訴えたという場合を想定しますと,今の案文ですと②のア,イ,ウいずれかがないと日本で裁判ができないということになると思うのです。しかし,そうすると,このウの日本の裁判所を専属とする合意がある場合に当たるかどうかというところなのですけれども,③の規律をそのまま適用しますと,消費者はその専属合意に基づいて訴えを起こしたわけではないので,やはり③の本文に戻って専属合意は無効であることになります。そうすると,日本でも裁判ができないということになろうかと思います。これが研究会報告書のように「管轄合意を援用したとき」という表現ですと,米国での訴訟の本案前の抗弁で援用しているわけですから,その場合には合意は有効になりますので,米国での訴訟が却下されたとしても日本では裁判ができるということになります。そういう意味で「援用したとき」という文言を使うのか,「基づいて訴えを提起したとき」という文言を使うのかで,実際に違いが出てくるのだろうと思います。ただ,現在の文言であっても,米国で本案前の抗弁で管轄合意を援用しておきながら日本での訴訟に応訴しない場合には,恐らく日本の裁判所は信義則に反するとか禁反言とかという理由で対応して,結論的には問題は生じないのでしょう。けれども,これから法律をつくるのであれば,その点をはっきりさせておいたほうがいいのだろうと思います。   それから,③の趣旨の確認なのですが,管轄合意は無効とするというのは国際裁判管轄の原因としても無効とするだけではなくて,国内裁判管轄との関係でもやはり無効な合意であると考えるという趣旨なのでしょうか。 ○佐藤幹事 前提として考えていましたのは,これはどこの国で裁判をやるかという国際裁判管轄の原因としていうことでございます。 ○古田幹事 例えば日本の消費者と日本の事業者との間で,東京地裁を管轄裁判所とする合意を事前に結ぶことはあるだろうと思うのですけれども,合意締結後に消費者が外国に移住をしてしまったような場合は,どのように処理するのでしょうか。恐らく今の想定ですと,この②の規律が及ぶことになるのだと思いますが,その場合の管轄合意の有効性の判断というのは,③の規律が及ぶのか及ばないのか,その点が現状の案文ではっきりしないように思います。 ○山本(和)幹事 今の古田幹事の問題設定で私も原案がちょっとよく分からなかったのは,この④の趣旨なのですが,この①との関係では確かにこういうことが書きたいのかなという感じがするのですが,②,③との関係ではこれは外国と国内が逆になるような気もいたします。というのは,今,正に古田幹事が言われたように,国内の事業者が国内に住んでいる人と国内で契約をする,物を売ったりお金を貸すという契約をした後にその人が外国に行ってしまったという場合は,私の印象ではこの④がカバーしていると思います。その外国人とかが日本に自発的に来て日本で契約をしているのだなとか,それはその後外国に行っても日本で起こせるのかなと思っていたのですが,現在の書きぶりではそうはなっていないので,今の古田幹事の合意管轄がどうかという問題になるのですが,その合意管轄を結ばないような場合でも普通に物を売った場合で管轄合意などをしなかった場合でも,日本で物を売った場合には日本で裁判ができるという趣旨なのかなという感じを持っていたのですが,それはやはり原案の趣旨はそうではないという理解でよろしいのでしょうか。 ○佐藤幹事 今の点は正直なところ余り念頭になかったので,そこは今日の御議論を踏まえて検討させていただきたいと思います。④で想定していたのは,例えば日本の消費者が外国に行って契約をするとか,それから外国のホテルを予約してそこに泊まるとか,法の適用に関する通則法のときに議論されていたような事例でございましたので,今の点は少しまた検討をさせていただければと思います。 ○横山委員 ④についてなのですが,法の適用に関する通則法第11条第6項の規定に鼓吹された規定ぶりとなって,ここではアクティブ・コンシューマーとノット・パッシブ・コンシューマーとの区別をしようとしておられると思います。考え方としては法の適用に関する通則法の規定も国際裁判管轄権の規定も確かに共通しているところがあります。ざっくばらんに言うと,法の適用に関する通則法では,日本で事業者が事業活動をしているときはその事業者は日本の消費者保護法の商法に関する強行規定の適用を強いられてもやむを得ませんよという考え方です。国際裁判管轄権では日本で事業活動を展開している限りは日本の裁判所での応訴義務は課せられますよという考え方で,日本における事業展開,取引が継続的でなくてもということがキーワードになっているのだろうと思うのです。そのことを前提にして考えると,このパッシブ・アクティブはどの意味があるのだろうかというのが一つで,例えば④のアのように,日本の消費者がわざわざ外国まで行って契約締結したという場合でも義務の具体的なイメージは分かりませんけれども,義務履行地が日本であれば,今のままで行くと義務履行地管轄がBtoBでも出てくるわけ,肯定されるのに,何でわざわざ勧誘がここでされていないと義務履行地管轄が認められないということになるのだろうかということ,要するにアの場合でも,もし義務履行地が日本だったらという場合です。アは,わざわざ外国に行って契約を締結したけれども,その契約での義務の履行は日本で行われるという場合もあり得るわけです。   それから,イの場合は契約の締結は日本だったけれども,義務の履行は完全に外国で行われるというような場合を考えておられると思うのです。しかし,契約の締結地が日本であれば,これは勧誘を出すまでもなく,契約の締結という事業活動をやっているのだから,当然消費者保護ということを考えていけば日本の管轄権を肯定していいのではないかなと思うので,パッシブ・アクティブということがどれほど管轄権との関連で意味を持つのかなと思うのです。 ○岡田委員 質問ですが,消費者相談の現場でまだ国際裁判管轄のような事例というのが余りないのですが,これから考えられるとすればインターネットの契約かなと思います。これはもう現実に出てきているのではないかと思うのですが,これを見ますと消費者がその国に赴いてとなっているので,日本にいながら外国の企業と契約をするといった場合に,日本に向けてインターネットで勧誘していれば,日本の法律が適用されると思っていたのですが,能動的な消費者という部分ではインターネットの契約というのは含まれていないのでしょうか。 ○佐藤幹事 今,④のアの中でただし書の前の部分は,こういう消費者が外国に行って契約をした場合には消費者のこの特別の規定は適用しないということになるのですが,ただしの後で例えばその場合でも事業者からその契約を締結する勧誘を日本で受けたときを除くとされています。契約を締結する勧誘はインターネットで行われることもあり得ると思います。 ○岡田委員 そういう考え方なのですね。 ○佐藤幹事 文献などに上がっている例としては,高級ブランドの品物で,日本の店よりもフランスの店のほうが非常に品ぞろえがいいので,是非フランスへお越しくださいというメールを受けて,フランスに行って買ったという場合は勧誘を受けて行っているということになりますので,この消費者保護の規定が適用されるとされています。同じようにイも勧誘を日本において受けていたということですので,そういう関係ではインターネットで勧誘を受けている場合というのが想定できるのかなと考えております。 ○岡田委員 その勧誘なのですけれども,諸外国が日本に向けて発しているのか,ないしはこちらの日本人がすごく能力があって自分からアクセスしているのかとか,その辺がちょっと明確でないようなケースもあるのですが,まずはここにおいてはその消費者がその国に赴いていくというのが前段で,④アのただし以降のところは行かなくても日本から海外にアクセスした場合というふうに解釈して,インターネットは後ろのほうで含まれるということでしょうか。 ○佐藤幹事 アについては,少なくとも行かなければ①~③の消費者に関する規定は適用になりますが,行ってしまった場合でもその契機になったものがインターネットでの勧誘である場合には,消費者保護の規定は適用になるという趣旨で記載させていただいております。ただ,アについて言えば,行くことがなければそもそも消費者に関する規定の適用が排除されることはありません。 ○岡田委員 そうですね。そこはすごく分かるんです。そうすると,行かなくてもというのは後ろのほうでとかちょっと私が分からなくて…… ○横山委員 現実に行かなければいけないのです。少なくともアとイのもとになった法の適用に関する通則法第11条第6項の規定は行くことで,アのほうは日本人女性がミラノに買物ツアーに来て,ミラノの靴屋さんで靴を買ったというような場合が典型的な例かと思いますけれども,2番目は日本で切符を買って,ユーロディズニーで遊んだという場合で,いずれにしても契約の締結や債務の履行は,物理的に外国において行われているというのが前提です。ただ,ミラノの靴店から秋の新作ができましたという勧誘のメールを受けて,その結果としてミラノに靴を買いに行ったという場合はこのアのただし書が当てはまる勧誘に当たるから,日本の裁判所に国際裁判管轄権があるということになります。同様にイの場合も,日本でユーロディズニーに行こうと思ったのは,やはりインターネットで勧誘ということです。だからネットサーフィンとかというような形ではないので,バーチャルな動きではないのです。 ○岡田委員 そうすると,インターネットの契約というのはこの部分では全然考慮というか範疇に入っていないということですか。 ○横山委員 ④の範疇にはないのです。 ○岡田委員 そうですか。いや,具体的な苦情になることが考えられるとすれば,日本から外国のサイトへ飛んでしまってトラブルになったという部分なので,果たして日本で裁判を起こせるのか外国まで行かなければいけないのかという部分が結構消費者には身近なものですから,ちょっと疑問を感じたのです。 ○横山委員 岡田委員の想定されるようなケースを救済しようと思ったら,インターネットで勧誘を受け,それで双方向的にとかそこで通信販売で物を買ったというような場合は,これはもう日本の管轄権を肯定されるのだろうと思います。そうではないんです,そういう場合でも。 ○岡田委員 なかなか現状では難しいのかなと思うのですけれども。 ○横山委員 結局,勧誘よりもどんなものとしてとらえるかということになるのだろうとは思いますけれども。 ○岡田委員 分かりました。 ○古田幹事 今,岡田委員から指摘があった点ですけれども,今の案ですと,外国のインターネットサイトで購入した場合というのは,恐らく④ではなく①が適用され,購入者が日本に居住している消費者であれば,日本で裁判ができるという趣旨の案だと理解しております。④という規律がどこまで必要か,あるいは実効性があるかということなのですけれども,法の適用に関する通則法の場合には日本の消費者保護の強行法規の潜脱を防ぐというのがまず前提にあって,ただ,能動的消費者はその例外にしても良いという整理だったのですが,国際裁判管轄の場合ですと,例えば,②との関係では,これは外国にいる消費者を想定していますので,そのような外国消費者について,④のように外国からまた別の外国に行って契約をした場合の規律というのは果たして設けておく必要があるのかどうか若干疑問でございます。それから,③の管轄合意の有効,無効というのは,これは管轄合意で日本の裁判所を合意することもありますし,外国の裁判所を合意することもあるわけですので,日本の消費者が外国に積極的に行って契約した場合の管轄合意は原則有効だという分け方というのもやや整合性がないのかなと思います。①との関係では,④の例外を設けることに実質的に意味はあるのだろうと思いますけれども,ただ,日本にいる消費者が積極的に外国に行った場合について一律に日本の管轄を否定するまでの必要も恐らくないと思いますので,それは特段の事情として考慮するという対応も可能ではないかと思います。そうすると,わざわざ④のような規律でこの管轄の議論の中で能動的消費者という概念を持ち込む必要はそれほど大きくないのではないかと思います。 ○道垣内委員 最初に横山委員がおっしゃったこの④のアとイは要らないのではないかという御意見の中で,私の理解が違っていれば御指摘いただきたいのですが,④のアの場合に日本が義務履行地になっていればいいのではないかという点は,私はそれはそうなるだろうと思うのです。この④は消費者の住所地での訴訟というルールは発動されないというだけで,既に一般ルールとして議論されている契約上の義務履行地が日本にあれば日本での訴訟はできると,それは生きていたはずなので,それはこのアのルールがあることのマイナスではないのではないでしょうか。それから,イについて日本で契約を締結していたらどうかということもお話になりましたけれども,締結してあるだけでは管轄は認めないというのが一般ルールの規律ではないかと思いますので,そこは今までの話からすると難しい,要するに管轄はないということなのではないかと思います。古田幹事もおっしゃったように,この④については批判もあろうかと思いますけれども,私は是非必要であると思います。消費者保護は確かに大切ですけれども,事業者側の予見可能性の保護も大切で,いかなる場合でも消費者の住所地国で訴えられてはかないませんし,日本の事業者から見て外国判決の執行の段階できちんとブロックできるということにするためには,日本に買物に来た外国人が購入して自国に持ち帰った物について不満があるとしても,その訴訟は日本でやってほしいというルールにすべきです。外国の消費者の住所地国で訴訟をされては困る場合があるということを明確にするためには,この例外規定は必要なのではないかと思います。   その方向から申しますと,消費者の住所地を知らなかったこととか,あるいは知らなかったことに過失がない場合,それから,消費者であることの誤認あるいは誤認したことに相当な理由がある場合に例外扱いとするといったルールをあえて置かないことの当否についても,確かにそのような例外規定を置くと争いが複雑化するというのは確かなのですが,これを置かなくても特段の事情でそのようなことは主張され,そこは判断せざるを得なくなる可能性はあるのではないかと思うのです。特に消費者側が欺罔をしたような場合,つまり事業者側がこの商品はヨーロッパでしか売りませんと明示しているのに,消費者が自分はヨーロッパに住んでいると申告してその商品を購入した場合,有体物を発送するようなときには消費者の住所地はヨーロッパではないと分かっていて販売したということになりますが,商品をインターネットを介した配信により販売するときには事業者として消費者にその住所地を欺網されたということになるのではないでしょうか。また,事業者向けと消費者向けとで,同じ商品に異なる値段が表示してあって,あなたはどちらですかと聞かれたときに,値段が安いほうの事業者ですと言って買った人が後になって自分は実は消費者だと言って消費者保護の裁判管轄ルールに基づく管轄を主張するとすれば,これも事業者側からするとサプライズになるので,そういった積極的な欺罔があった場合は少なくともこの特則は適用されないということぐらいは規定してもいいのかなと思います。 ○手塚委員 能動的消費者についてなのですけれども,前にも御意見が出ていましたが,この④は,結局,日本の消費者が海外に能動的に出て行ったというところを問題にしていて,外国の消費者が日本に能動的に来られていましたというときに言わば日本で契約を締結したり義務の履行をするということになっていた事業者にとっては,その場合でもやはり日本で合意管轄というのを入れていても結局認められないのではないかと思います。要するに②のところが飛ばないと思うのです。ですから,道垣内委員の御発言にもありましたが,事業者側の事情なども考えると,この④についてはやはり双方向的に入れておかないと,何で日本の消費者だけ能動的かどうかというのを問題にするのかというのは余り理論として筋が通らないのではないかなと思います。 ○山本(和)幹事 今,正に手塚委員がおっしゃられたことを言おうと思ったのですが,先ほどの繰り返しになりますが,今の④の書きぶりは,②の記述が,消費者の住所が日本国内にある場合に,外国の裁判所の管轄に服するのは,その消費者が応訴をした場合や契約後に合意をした場合に限るという規律になっていれば,この④はパラレルになると思うのです。その消費者が能動的に外国に出かけた場合にはその規律は適用せず,外国で訴えられても仕方がありませんという例外の規律になると思うのですが,②は逆の方向で書いてあるわけですね。外国に住所のある消費者が日本に来るときにどういう場合に管轄がありますかというときに,基本的に応訴とかをしない限りには管轄を認められませんという規律ぶりになっているので,それにあわせるとすれば,④は逆にならないとやはりおかしいのだろうと思います。外国の消費者が日本の事務所で契約をして,あるいは日本で義務履行地があるような場合には,②の規律は適用されずに日本で訴えられても仕方がないという規律にならないと整合性はとれないような感じがするということを申し上げたかったのです。結論的には今の手塚委員の御発言と同じことです。 ○古田幹事 今の点に関連して言いますと,そもそもこの②の規律の趣旨が問題になります。①については日本の消費者保護という観点が明らかなのですが,そうしますと,②は外国の消費者の保護のために日本がわざわざ管轄を指定するという規律になります。しかし,果たしてそこまでする必要があるのだろうかという気はします。先ほど手塚委員がおっしゃった例えば日本の土産物屋で外国人観光客がお土産を買って,その後例えば代金を払わなかったとか,そのまま外国に帰ってしまったような場合に②の規律があると,なかなか日本で裁判ができないということになるわけですけれども,それはやや日本の管轄を狭くし過ぎているのではないかと思います。しかも②は一般原則に対する例外ですので,仮に一般的に義務履行地管轄が日本にあったとしても,消費者契約であれば,②の規律が優先的に適用されるということになってしまうわけです。そういう意味では,②の規律がそもそも必要なのかどうかという問題もございます。仮にこういう規律をするとしても,もう少し日本の管轄を認める場合を広げて,例えば債務の履行全部が日本でされた場合については日本で裁判ができるということにしておくなどの配慮が必要ではないかなと思います。 ○山本(和)幹事 古田幹事が言われることは誠にもっともだと思うのですが,これはもともと恐らく双面的なあれを前提にした規定で,日本でこういう規律を置くことによって外国で日本の消費者に対して仮にこういうア,イ,ウを満たさないような管轄に基づいて判決がなされたとしても,それは日本では承認しませんよという形で間接的に日本の消費者を保護するためにこういう規定を置いたのだろうというのが私の理解です。確かにそれならばむしろ承認のところに置くべきだという議論はあり得るかもしれないのですが,ただ,基本的には国際裁判管轄の話合いをするところなので直接管轄でこういう形で書いて,それを間接管轄のほうに及ぼして日本の消費者を保護しようという発想の規定なのかなと私は理解しているのです。 ○佐藤幹事 今,山本幹事がおっしゃるとおり,これはもともとは日本の消費者を保護する趣旨です。もともとは間接管轄を念頭に置いて消費者の住所が日本にあれば,日本で訴えなければいけないということにして,間接管轄としても逆に認めないということにする,ただ,応訴あるいはアからウに書いたような場合にはいわゆる通常の専属管轄等の規定とはまた少し違うだろうということでこういう書き方をしているということです。こういう書き方をしているがゆえに④との関係でどう書くかというところは今日御指摘を受けて更に考えてみたいと思いますけれども,主として外国にいる消費者を念頭に置いてこの規定をつくったわけではもともとないということは申し上げたいと思います。 ○山本(克)委員 ①なのですが,この場合に法定専属管轄が外国にある場合を例外にする必要はないのでしょうか。②のほうでアの例外があるのであれば,外国に法定専属管轄があるときはどうでしょうか。例えば不動産登記に関して,個人の別荘を外国に買って,その別荘の所有権移転登記訴訟を日本で起こすことがこれだとできてしまうということになりますが,それはちょっと登記のところの考え方とそぐわないのではないのかという気がいたします。 ○佐藤幹事 趣旨としては今,山本克己委員がおっしゃったような場合はむしろ所有権移転登記訴訟のほうをアメリカでやるということを前提にして,これは任意管轄的なものになっています。外国に専属管轄を認めるような原因がある場合にはそちらでやるような実体的な規律としては,この書き方がいいかは分からないのですけれども,そういうことは想定してございます。 ○岡田委員 先ほど消費者相談の現場ではまだ具体的な事例はないと申し上げたのですが,今回の案を見ますと,消費者保護が非常に考慮されていると思うのです。④のア,イは分かりやすくするという部分でやはりあったほうがいいと思うのです。ただ,この勧誘とか,それからその国に赴いて,ここは大事なのですが,勧誘という言葉に関して,もう少し具体的にいろいろな解釈が出てこないような,そういう考慮をしていただければ私はこの部分はあっていいなと思います。 ○髙橋部会長 御意見は承っておりますが,既にこういう法律があるのでいかがでしょうか。   横山委員,お願いします。 ○横山委員 勧誘はなかなか特定できないのではないですか。やっぱりそれはテクノロジーの発達とともに,やはり変わっていくので,今,法文として固定するのは難しいのではないでしょうか。やはり事業者も自分を防衛するテクノロジーはいろいろ出てくると思いますので,今ではもう勧誘に該当しないものがなくなるとかいろいろあり得ると思いますので,なかなか無理かなと思います。私は道垣内委員とは多分考え方がかなり実質的に違うと,前提が違うので思うのですが,私は一般的な管轄権で救えない部分について,消費者を救済するのがこの規定だと思っております。ですから,例えば事業所管轄の関連ででてきた部会資料8の3ページの乙案のように,日本で継続的取引が必要だと。私は消費者については1回限りの取引でもそれが事業活動である限り,管轄権を肯定すべきだと,消費者のようにという考え方なのです。それでこの④との関係で引っかけて申したので,やはり多分実質的な判断がかなり違っていると思います。だけれども,岡田委員がそれでもアとイぐらいは必要だとおっしゃられると,ああ,そうかなと思う次第なのです。 ○岡田委員 分かりやすいかなというふうに思ったのです。 ○髙橋部会長 ②についてですが,浅草の土産物屋さんで外国人に物を売ったときに売主である事業者が日本で訴えを提起する,それがパラレルはパラレルなのですが,何か重みが違うといいますか,そういう訴訟はやはり起きるのでしょうか。 ○古田幹事 現実問題としては,事業者が消費者を訴えなければいけなくなるようなビジネスは,そもそもビジネスモデルが間違っているとも言えます。したがって,そのような場合というのは,実務上は恐らく余り想定しなくても良いのだろうと思います。けれども,例えばインターネットで日本の会社が外国の方に商品を売って,商品を先に発送したけれども代金が払われないという場合に,その裁判を当該外国まで行ってやらなければいけないのか,あるいは日本でもできるのかというのは,将来の事業計画に関係してまいりますので,やはり今回立法ができれば影響はかなり大きいだろうと思います。 ○髙橋部会長 ほかの点に移りますが,8ページの(注)は,特に①を念頭に置いて考えるわけですが,消費者の住所を定める基準時は,民事訴訟法の普通の考えですと,訴え提起時で住所地を決めますが,契約があった後に住所地が移るということを想定して消費者契約締結時もプラスすべきかという議論がありますが,いかがでしょうか。 ○古田幹事 これは日本弁護士連合会の消費者関係の委員会からですけれども,これは是非両方含むという解釈をしてほしいという意見でございます。私個人の意見としても両方含むというふうにしておいていいのではないかと思います。被告の予測可能性という観点からしますと,訴え提起時の住所よりは恐らく契約締結時の住所のほうが予測しやすいわけです。ですから,被告側の便宜を考えれば,契約締結時の住所を基準にすることよりは,むしろ訴え提起時の住所を基準にすることの方が問題です。ただ,訴え提起時の住所を基準にしますと,消費者の方が自分で住所を選んでフォーラムショッピングをするということも可能になるわけです。けれども,そういう弊害は恐らく特段の事情のところの考慮材料とすれば足りるかと思います。結論としては消費者の特則の中では契約締結時の住所も訴え提起時の住所も両方含むという概念で理解してよいのではないかと思います。 ○横山委員 私もそう思います。日本に契約締結後引っ越してきて,日本で訴えを提起するという場合に,その事業者が日本においても事業活動を展開しているという場合もありますから,そうであるときには特に特段の事情で管轄権を否定することもないし,逆に全く事業者が日本を予測していないという状況で日本で訴えを提起したと,新住所地を基準にというときは,これはまた特段の事情で処理できると思います。そのようなことはまずめったにないケースだと思いますけれども,両方認めていいのではないかなと思っています。 ○山本(克)委員 今のお二人の御意見ですと,日本の事業者が何か取引をし,その後当該消費者のほうが外国に行って,外国において日本の事業者を訴えたときに出された判決を承認せざるを得なくなるということになるのではないかという気がします。消費者のことだけ考えればそれでいいのですが,日本の事業者との関係でそれが本当にいいのかどうかはやはり慎重に考えなければいけないのではないでしょうか。 ○古田幹事 今御指摘があった点ですけれども,承認執行の際の間接管轄の基準は,日本の直接管轄の基準で判断するというのが大原則です。その場合の直接管轄の基準というのは,この消費者の特則だけではなくて,特段の事情を含めた上での判断になるだろうと思います。今,山本克己委員がおっしゃったような事例については,外形上はこの消費者の特則に該当するけれども,しかし,特段の事情で米国裁判所の管轄を否定すべき場合なのだという救済の方法ができるのではないかと思います。 ○山本(克)委員 それは事後的にはそうなのですが,事業者の事前のリスク計算として,特段の事情が肯定されるかどうかというのは不明確であるということをどうとらえるかということになろうかと思うのです。 ○横山委員 特段の事情といっても割と類型化されたパターンで,これはブリュッセルⅠ規則の16条か何かで出ているパターンですので,それはこのパターンだと特段の事情が働くと類型的に言えるのではないでしょうか。リスク計算でそれほど大げさに言う必要もないと思うのです。 ○髙橋部会長 その点はよろしいですか。   では,ほかに消費者契約関係についてございますでしょうか。 ○古田幹事 これも日本弁護士連合会の消費者関係の委員会からの意見なのですけれども,②のイには,本案の応訴した場合には例外とするという規定があるのですけれども,この点について消費者は応訴の意義をよく知らないままに応訴してしまう可能性があるので,その点,何らかの考慮が必要ではないかという意見が出ておりました。 ○髙橋部会長 ごもっともでありますが,条文上どう書くかというのはなかなか苦しいところです。しかし,御指摘の趣旨はよく分かります。 ○佐藤幹事 先ほど管轄原因をどこの基準時で認めるかという話ですが,山本克己委員の御意見はむしろ消費者契約時一本で行くということでしょうか。 ○山本(克)委員 そこまでは言っていません。原則はそうだという話です。 ○佐藤幹事 消費者契約時とするか,あるいは消費者契約時プラス訴えの提起時とするかということで,両方とって特段の事情で考慮すればいいのではないかという御意見と,事業者にとっての予見可能性という意味では消費者契約時でとるべきではないかという御意見とがあったという整理の仕方でよろしいでしょうか。 ○髙橋部会長 そうしますと,消費者契約関係はかなり御意見をいただきまして,もう少しパラレルにというのですかね,そういう議論も①と②ですね,その関係もありますし,④につきましても両方要らないという御意見もありましたし,もっと入れたほうがいいという御意見もございました。③に関してはちょっと書き方の問題ということでございますが,ここはもう少し勉強し直して第6回に臨むつもりでおります。   それでは,労働関係の訴えについての説明に入ります。 ○日暮関係官 労働関係の訴えでございますけれども,部会資料の11ページを御覧ください。   4の労働関係の訴えが対象とする訴えでございますけれども,こちらは個別労働関係民事紛争に関する訴えということにしております。これは,本文①に定義がございまして,この定義は労働審判法第1条と同じものを用いております。報告書では,個別労働関係紛争解決促進法第1条の個別労働関係紛争という定義を用いておりましたけれども,個別労働関係紛争解決促進法は,募集採用を含む広範なものを対象としておりまして,必ずしも労働契約の締結を前提としておらず,その同法の第5条第1項で定めています都道府県労働局長によるあっせんの対象からは労働者の募集及び採用に関する事項は除外されておりますので,同法のあっせんの対象となります個別労働関係紛争と,労働審判法上の個別労働関係民事紛争とはほぼ同義であると考えられることから,労働審判法の定義を参照してこのような提案をさせていただいております。   ここで御議論いただきたい点ですけれども,(注)で書かせていただきました管轄の基準となる労働者の労務提供地ですけれども,契約上定められた労務を提供すべき地を基準とするべきか,それとも労働者が現実に労務を提供した地を基準とするべきかどうかという点です。   それから,その労務提供地を定める基準時ですが,訴え提起時の労務提供地を基準とするのか,それともそれに加えて請求の目的となる権利の発生した時点,例えば未払の賃金請求ですと,その権利の発生した時点での労務提供地を基準とするかという見解も考えられるかと思いますけれども,御議論いただければと考えております。   (参考)の1は日本で問題になりました裁判例を御紹介したもので,2はヨーロッパの条約の定めを御紹介したものです。   続いて,本文②は,事業主が原告となる場合についての規律でございます。本文①は労働者が原告となって訴えを提起する場合の基準,すなわち労務提供地を基準とすべきという御提案ですけれども,本文②につきましては,事業主が原告となって労働者に対して訴えを提起する場合でございます。この場合につきましては,日本国内に労働者の住所がない場合につきましては,原則として日本の裁判所の管轄を認めないということといたしまして,例外的に二つの場合,すなわち労働者が応訴した場合と,管轄合意が効力を有する場合につきまして,日本の裁判所を管轄裁判所とすることができるものとすることを提案するものでございます。消費者の関係では専属管轄に関する例外規定を設けておりましたけれども,労働関係につきましては,専属管轄の定めが問題になる場合が考えられませんので,例外規定は設けないという御提案をさせていただいております。   続いて,部会資料の14ページ,本文③は,管轄合意についての特則的なものになりますが,労働者と事業主との間の管轄の合意につきましては,個別労働関係民事紛争が生ずる前に締結された管轄の合意については原則として無効とすることで,仲裁法附則第4条と同じような規定を設けるということでございます。こちらにつきましても,合意管轄についての合意の方式等についての一般的な規律については適用されるということを前提として御提案させていただいております。参考1は裁判例の御紹介,参考2が条約等の規律の御紹介となっております。   以上でございます。 ○髙橋部会長 それでは,労働関係の訴えについて御審議をお願いします。 ○長谷川委員 幾つか確認させていただきたいのですが,まず,①は労働者が事業主を訴える場合の裁判管轄を広げる規定で,②は事業主が労働者を訴える場合の裁判管轄をある意味では狭く制限する規定,③は管轄合意の効力を制約する規定というふうな形で受け止めていいのかということと,今までの裁判管轄と比較してある意味では労働者の権利を不利益に変更する内容のものは一切含まれていない,要するに労働者の権利が不利益になることはないということを確認させていただきたいと思います。   その上で本文①について,労働者が事業主を訴える場合に,通常の裁判管轄,つまり事業主の所在地だとか義務の履行地の裁判管轄を排除するものではなくて,これに加えてさらに労務提供地についても裁判管轄を認めるというふうに受け止めていいのでしょうか。   それから,①が具体的に適用される場面をお伺いしたいのですが,外国の航空会社の日本人の客室乗務員で,外国に客室乗務員が所属するベースがあり,住所も外国にあって,賃金も外国で支払われており,日本とその外国の間を往復する飛行機に乗務するという労働関係の裁判があったわけですけれども,こういう例を考えますと,退職後にその人が日本に戻ってきて,日本で航空会社を提訴するということに対して,日本が義務履行地であるとの事実認定をするというのはなかなか容易でなくても,労務提供地については当該外国でなくて,日本も労務提供地であったとの事実認定がされれば,日本の裁判管轄が認められると解釈してよろしいのでしょうか。   その次は,これも実際にあった例ですけれども,外資系の証券会社とか販売会社の日本人社員が,海外で採用されて海外の事務所に所属し,外貨で賃金が支払われて,日本に長期の出張扱いで滞在して仕事をしている場合,この日本人が日本で提訴するときには,日本も労務提供地であったという事実認定がされれば日本の裁判管轄が認められると理解してよいのでしょうか。   次は,飛行機のパイロットがアメリカの人材派遣会社に採用されて,日本の航空会社に派遣されて日本をベースにして就労して,賃金の支払はアメリカの人材派遣会社からドル立てで送金を受けていたという場合です。日本の航空会社の飛行機を操縦していたという例ですけれども,このパイロットの人材派遣元の会社に対する訴訟に関しても,日本も労務提供地であったという事実認定がされれば,日本の裁判管轄が認められると理解していいのかどうかということです。これが①の項目に関するものです。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。たたき台の考えはいかがでしょうか。 ○佐藤幹事 たたき台の考えということで御議論いただければと思いますけれども,まず最初の①,②,③の整理ですが,おっしゃるように,①は通常の普通裁判籍,特別裁判籍にプラスして労務提供地を管轄原因として認めるというものでございます。②は事業者が労働者を訴える場合に従前の管轄を狭めるという意味ではそのとおりかと思います。労働者の住所で基本的に訴えるということを原則とするということでございます。それから,③も管轄合意についてある程度制限をしていくという理解でございます。これがすべていずれも労働者保護の見地に立った規定であるということが言えようかと考えております。   それから,①につきましては,これは通常の特別裁判籍,普通裁判籍に加えて労務提供地ということですので,義務履行地が認められる場合であれば,義務履行地で管轄があるということで訴えることもできると思いますし,労務提供地でもできるということになろうと思います。事業者の場合には営業所に係る業務を原因とする管轄の場合もあるでしょうし,義務履行地の場合もあるでしょうが,それはその形で訴えることもできるものと考えているところでございます。   適用される場面ということで幾つか御提示いただいた点ですが,まず外国の航空会社が外国にベースがあるフライトアテンダント等で,住所も外国,支払も外国ということになりますが,ここは事実認定になろうかと思います。ユナイテッド航空の事案はシカゴで採用されたわけですけれども,成田ベースで勤務をしていて,それで成田をベースにして飛んでいたと,その試用期間中に退職届を出したという事案ですので,日本にベースがあったという事案です。今おっしゃったような外国にベースもあって日本に往復をしていて,当然日本に何日間か,トータルすればある程度の期間滞在していたような場合,これは事実認定として労務提供地と認められるかどうかということになろうかと思います。事実認定として労務提供地と認められるのであれば,①の管轄に乗ってくるということになろうと思います。   ②の事案で外資系の証券会社の事案は,長期出張扱いという形にはなっているが,実際は日本で勤務をされていて労務提供地は日本だということであれば,①で管轄が認められるということになろうかと思います。   それから,③のケースにつきましても,人材派遣の場合,これは会社自体がアメリカにあってなかなか営業所管轄等が認められないような場合であっても,実際上,パイロットの人が日本をベースにしていて,労務提供地が日本ということであれば①の管轄が認められるということになるのではなかろうかと考えております。   以上がたたき台の考え方でございます。 ○髙橋部会長 今の点について何かございますでしょうか。 ○横山委員 先ほど長谷川委員は,義務履行地管轄とこの労務提供地の管轄の関係をお尋ねになられていたと思うので,これと別個にまた義務履行地管轄というのがあり得るのかということをおっしゃっていたように思うのですけれども。 ○長谷川委員 最後に言おうと思っているのですけれども,今回のこの①の提起の中で労務を提供すべき地が加わったのですが,労務を提供すべき地というのではなく,労務を提供した地とか労務提供地とすると,今おっしゃいました事実認定の問題でできるのではないかと考えています。そうすると,今までよりはこの①は労働者保護になるのではないかと思います。 ○髙橋部会長 まず,その義務履行地管轄はあるという点はいかがでしょうか。 ○佐藤幹事 今の法制上は義務履行地なり,それから営業所所在地等で訴えざるを得なかったということで,それに加えて労務提供地を今回認めたということになります。例えば義務履行地を認められる場合であって,労務提供地も加わるということになりますと,義務履行地というのは比較的評価的な概念でなかなか確定が難しいという場合もありますが,労務提供地であることが明らかであれば,そちらのほうで訴えることもできるということですので,従前の特別裁判籍を排除するものではないという理解です。 ○長谷川委員 そうすると,今回のこの労務提供地という考え方が出てくると,従来より管轄が少し広がるのではないかと思いますけれども。 ○横山委員 それは広がると思います。 ○髙橋部会長 後でいただいた労務提供地という言葉にするか,提供すべき地とするのかという点は後ほど議論したいと思います。 ○髙橋部会長 では,長谷川委員,本文②に関してお願いします。 ○長谷川委員 本文②は事業主は別な意見があると思いますので,私は労働者の立場からお伺いいたします。   まず,確認なのですけれども,事業主が日本国内に住所のない労働者を訴える場合,具体的には外国人労働者が日本で働いた場合だと思うのですけれども,通常の裁判管轄に制限を加えて,労働者が裁判に応訴したとき又は事件発生後の管轄合意があるときだけ日本の裁判管轄を認めるという趣旨だと受け止めてよろしいのでしょうか。その上で,例えば,外国人労働者が日本で働いて,労働契約に関する例えば不法行為や債務不履行を行い,その外国人労働者が帰国してしまったという例を考えたときに,事業主が日本の裁判所に提訴できるのは,労働者が裁判に応訴したとき又は紛争発生後の管轄合意があるときだけだととらえていいのかどうかを教えていただければと思います。 ○佐藤幹事 今言われた例で言いますと,訴え提起の時点で管轄の原因を見ていくのか,あるいは請求権の発生なりの時点で見るのかという問題は別だと思います。仮に,訴え提起時で見るということになりますと,今おっしゃった事例で外国人労働者が帰国してしまったということになりますと,日本の裁判所で訴えられる場合は応訴管轄が発生する場合か管轄合意が有効と認められるような場合,具体的には事後的に管轄合意をした場合ということになろうかと思います。このような理由から今おっしゃった趣旨の案になっています。 ○髙橋部会長 長谷川委員,本文③についてもありますか。 ○長谷川委員 ③は仲裁合意のときも労働契約に関しては紛争発生後の合意があった場合のみでそれ以外は無効とするということがいろいろな議論の経過の中で附則としてついたわけです。③は,それと同じ趣旨だと理解してよろしいかということを確認させていただきたいと思います。それから,今回の案の中で①もそうですけれども,個々の労働者と事業主との間に生じた紛争となっているのですが,労働契約法は労働者と使用者という形で少し広めにとっておりますので,これは事業主というよりは使用者としたほうがいいのではないかと思います。それと,先ほどの申しました労務を提供すべき地ということに関して言えば,労務供給地とか労務を供給する地とか供給していた地としたほうがいいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 今の労務を提供すべき地に関することですか。 ○横山委員 労働審判法第2条には,現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地という形で土地管轄の規定がありますが,その趣旨と基本的に同じではないかと思っております。ただ,派遣の場合は派遣元ではなくて派遣先も含むという事業主ということの意味でここでは使われているのだろうと思いますけれども。 ○長谷川委員 労働審判法ができたときはまだ労働契約法ができておらず,労働契約法をつくるときに,事業主となると労働基準法の事業主になるので,それは非常に狭いということになり,労働契約法のときはそれで広げたと承知しております。 ○髙橋部会長 使用者か事業主かはまた後で議論しますが,労務を提供すべき地では狭くて,労務を提供した地にすべきであるという御趣旨ですか。 ○長谷川委員 はい。すべき地は契約を結んだときに非常に近い気がいたします。実際は提供しているのはAという国と日本だったりするわけで,そういう意味では労務を提供した地とすれば,先ほど私が言った幾つかの例のところはそういうところの考え方でできるのではないかと思います。あとは住居移転のことはいかがでしょうか。 ○髙橋部会長 12ページに関連した(注)がございますが,ここは御意見を聞きたいということですから。 ○長谷川委員 これはどうですかと聞いているのです。 ○横山委員 やはりこの労務提供地を管轄権の基礎としたのは,労働者が最も容易に裁判を受けることができるようにするという趣旨から出ているのですから,現実に労務提供を行われた場所ということになるべきで,それとは違った提供すべき地ではないはずなので,現実に物理的にも最も近い場所でないといけない,具体的にどうなるか分かりませんが,そういう趣旨で理解すべきものだと思います。 ○佐藤幹事 多分,長谷川委員のおっしゃる御趣旨は労務提供地という言い方に比べると,労務を提供すべき地は,例えば現実に労務を提供している地と本当にこれからとれるのかとか,例えば労務提供地が複数認められる場合にどれか一つが労務を提供すべき地に当たるということで複数認められないのではないかと,そういう観点から労務を提供すべき地という用語がふさわしいのかという御懸念というか,御指摘という理解でよろしいでしょうか。 ○長谷川委員 そうですね。大体こういうのは客室乗務員の人たちをほぼ想定しているのですけれども,そのときは必ずしも1か所ではなく,2か所とか3か所あるので,そういうことからすれば労務提供地というのが労務を提供すべき地よりはいいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 この点,ほかの委員,幹事の方々はいかがでしょうか。 ○横山委員 客室乗務員の方の場合には,①の括弧書きのその労務を提供すべき地を特定できない場合に該当するという考え方もあり得るのだろうと思います。それは本当に事実認定の問題で,この法の適用に関する通則法の規定等にもあると思うのですが,特定できないという場合にはやはり客室乗務員のことが念頭にあったようにも記憶しております。だから,そういうときはここで言うと,雇入地ということになります。 ○長谷川委員 雇入地だけでも難しいと思います。先ほどの例も言いましたけれども,他の外国で契約も雇入れも全部行われていて,しかし,労務というか働いた場所は日本とそこだったというときがあるわけですね。そうすると,労務提供地としておけば,あとは事実認定で,ほとんどこの国際裁判管轄で問題になってくるのは大体三つのケースぐらいしかなくて,客室乗務員と先ほどの証券会社の日本に長期出張した例と,アメリカの派遣会社の話と大体そのぐらいで,ほかはほぼこれまでどおり労働者はほとんど訴訟の面で,問題は起きていないのではないかと思います。 ○手塚委員 労働者と使用者の間の紛争というのはいろいろなものが実はありまして,労働者の中にも技術関係で非常に高い給料をもらって,会社の核心の技術みたいなものを持っている人が海外の企業に引き抜かれて発生したような紛争も実は結構あります。実際に起きた事例ですと,ついこの間まで日本で技術本部長をやっていたような人を引き抜いてアメリカに移してしまったというときに,労働契約や就業規則の中には,秘密を守りなさいと,あるいは何年間そういう拘束ができるのかというのはありますけれども,競業会社で競業部門で仕事をしませんというようなノン・コンペティション・クローズを入れたりとか,そういうのもあるのですけれども,この書きぶりだと労働者の住所が日本国内にないという住所の判断基準が例えば訴え提起時だということになりますと,ある意味ではお抱えで外国企業が引き抜いて渡航費用から何から全部出してあげた場合のように,全体として見ると労働者保護というよりは,これは不正競争の問題みたいな事案も一切日本では訴えられないということになります。だから,やめるときの覚書などで退職金を満額払ってあげるけれども,2年間はほかの企業で競業してはいけませんよと,秘密を守ってくださいねと言っても,それはもう全部すっ飛んでしまうと,もう詐欺みたいなことが起きかねなくて,そのときに緊急管轄だというのもちょっとおかしな話だと思うのです。だから全体として客室乗務員とかそういう文脈ではこの規制は私はいいと思うのですけれども,いろいろな類型があるので,本当にこのままで今申し上げたような現実に起こり得る事態に対してフェアな対応ができるのでしょうか。特に事業者側の方から見ると,これがそのまま通った場合は仲裁合意をしてもだめですし,もうやりようがないということにならないのかというのが懸念であります。 ○髙橋部会長 今,手塚委員の言われたのは12ページの(注)の後段ですね。先ほどの議論に似ているのですが,請求の目的となる権利の発生した時点の労務提供地である程度カバーはできるのでしょうか。これでも無理でしょうか。 ○手塚委員 そうですね。だから,労働者の権利を広く保護するということになって,日本国内に住所が訴え提起時になければ,もうこの②の基準をとるということになると,今言ったような事例ではちょっとアンフェアなことが起こり得るかなということです。 ○髙橋部会長 はい,分かりました。 ○古田幹事 2点あります。1点目は今,手塚委員の御指摘とも関連するのですけれども,②の規律についてです。これは先ほどの消費者契約関係の訴えの議論を前提にしますと,恐らく間接管轄のほうを念頭に置いた規定だということになるのですけれども,規定ぶりは直接管轄の規定になっております。しかし,直接管轄の規定としては狭いのではないかと思います。やはり使用者が従業員を訴えなければいけない場合,先ほど手塚委員がおっしゃったような場合というのはあるわけです。使用者の住所が日本国内にあれば①の規律になるのですが,②の場合,その従業員が退職後,外国に行ってしまったような場合には,労務提供地が日本かどうかというのは現在の②の案文では問題になっておりませんので,その労務提供の基準を訴え提起時にしようが,あるいは実際に就業していたときにしようが,いずれにしても②ではカバーできないということになります。なので,もし②のような規律を設けるのであれば,直接管轄の観点からは,少なくとも労務提供地であったことを日本の国際裁判管轄の管轄原因とする必要があるのではないかと考えます。   2点目は③についてです。これは先ほどの消費者契約関係のところでも同様の規律がありまして,そこでも申し上げるべきだったと思うのですが,管轄合意が一律無効というのはかなり過激な立法ではないかなと思います。部会資料の14ページの(参考)1で裁判例が挙がっておりますけれども,私が被告代理人を務めた事案です。この事案では会社としては全く理由なく専属的管轄合意をしたわけではありません。判決文でも認定されているのですけれども,米国の組合との労働協約がございまして,労働協約上,米国の管轄合意をしなければいけないという一定の理由があった事案です。この裁判例は昭和50年の最高裁判例(チサダネ号事件)を前提にしまして,管轄合意が甚だしく不合理かどうかという基準で判断をして,甚だしく不合理とは言えないとして管轄合意を有効にした事案です。その専属管轄合意の有効性がチサダネ号事件の基準でいいかという点については議論があるところで,もう少し厳しく有効性を判断すべきではないかという議論は従前からしているところです。それにしても一定の合理性がある管轄合意については,やはり有効と考えるべき場合があるのではないかと思います。消費者契約の場合も同様なのですけれども,労働者と使用者の間の将来において生ずべき管轄合意は一律無効とするというのは,やや行き過ぎではないでしょうか。また,これが仮に立法されますと,少なくとも実務ではかなり大きな衝撃が走るのではないかと思います。 ○長谷川委員 今の古田幹事の合意管轄の件ですが,これは仲裁法をつくるときに労働事件も仲裁法の中に取り込もうという意見がありまして,そのときやはり労働協約で仲裁に関する規定があった場合にはどうなのかというその当時も同じ議論がやはりされました。しかし,その協約の合意が本当にどうなのかというのは,アメリカと日本の協約の締結の仕方なども違うわけでありまして,必ずしもその協約で全部担保できるかという大きな議論があって,その結果,個別労働紛争の場合は紛争が生じた後の合意があれば有効ですけれども,そうでない場合は無効とするということになったと思うのです。仲裁法の附則を直そうという動きもあったのですけれども,現に今も載っているわけで,そこは我が国の法律の中で今,この問題を国際裁判管轄の場面で記載するということには非常に大きな反発があるのではないかと思います。それともう一つは個別労働紛争のときの労働者と使用者の合意というのは,労働者と使用者が情報量も交渉力も対等であればまだしも,やはり労働契約の特徴は交渉力も,それから情報量も全く違うと言われていまして,ここのところを考慮すると非常に合意の問題というのは難しいのではないかと思います。 ○鶴岡委員 今の合意の関係とは少し違う話なのですけれども,これまでの御議論でも出ていたところにかかわってくるのですが,この①と②の規律をどうするかという点については,労働契約の場合いろいろな局面があって,いろいろな紛争というのがあり得ますので,ある程度こういう場合はどうなんだというのを具体的に想定しながら議論していったほうが無難なのではないかなという気がしております。先ほどは②の規律の点で問題があるのではないかという御指摘がありましたけれども,例えば①の関係でもここの権利発生時というのを基準に含めるのかどうかという議論がありまして,これも具体的にこういう場合はどうなんだというのを少し考えてみたほうがいいかなという気がいたします。例えば一つ例を挙げますと,労働者がA国で採用されて,その後B国,C国というふうに転勤をしていって,C国で勤務している途中でB国,C国で行った非違行為に基づいて懲戒戒告を受けた場合はどうでしょうか。その場合にどこで訴えを提起できるかという話なのですけれども,権利発生地というのが労働契約上の地位の発生地だと考えますと,契約を結んだのはA国ということになりますので,A国で訴えが提起できるのですが,実は非違行為が行われたのはB国,C国だという場合に,A国で訴えを提起させるというのが果たして合理的なのだろうかという問題もあるような気がします。ほかにもいろいろなケースが考えられるとしますと,先ほど申し上げたように少し具体例を考えたほうがいいのではないかなと思いました。 ○髙橋部会長 はい,道垣内委員。 ○道垣内委員 2点ございまして,まずは労務提供地のことです。この言葉遣いは法の適用に関する通則法と同じになっているわけですが,しかし,やろうとしていることは違うはずで,法の適用に関する通則法のほうは準拠法を一つに決めたいわけです。それに対して,国際裁判管轄は必ずしも一つでなくてよいはずで,日本とドイツの間を飛んでいて,向こうに3日,こっちに4日住んでいて,さすがに飛んでいる途中のロシアというわけにはいかないかもしれませんが,ドイツと日本のどちらもこの労務提供地には当たるという解釈もあり得るし,それでいいのではないかと思います。ですから,この括弧書きの中の特定という意味も法の適用に関する通則法では一つに特定できないときという意味だと思いますが,こちらはそうではなくて,不明な場合というかどれがどれなのか分からないというような場合のことを言っていて,ですから,そうだとすると法文としては言葉を変えたほうがいいかもしれないなと思います。そうではなくてこれも一つにするんだということであれば,またそれは格別の議論が必要だと思います。   それからもう一点,②の規定です。このとおりになるかどうかは分かりませんが,しかし,例外が消費者契約と違っています。少なくとも今の段階で違って,それは専属管轄ルールと衝突することは考えられないから,とおっしゃいますが,本当にないのかどうかは相当考えなければいけません。ないということの実証はなかなか難しいわけですが,例えばあえて言えば,外国から日本に出張で来ていた労働者が,勝手に日本で自分の名義で何らかの登録をして外国に帰ってしまったという場合はどうでしょうか。事業者側がその労働者に対してその登録の抹消請求を求める訴えを提起する場合には,登録に関する訴えとして日本で訴訟することになるのではないでしょうか。もしそういったことはあり得ないんだということであれば結構ですけれども,もう一度御検討いただければと思います。 ○青山委員 ③の管轄合意の無効という問題ですが,これは先ほどの消費者契約の場合の③も同じでございますけれども,仲裁契約の場合は先ほど最初に御説明があったように,消費者契約のほうは解除することができるとなっています。それから,労働契約の場合には無効とすることができるというふうになって,そこを書き分けているのがどういうことなのかということなのですけれども,仲裁契約の場合には国内仲裁で建設工事紛争審査会の仲裁などというのは実際に実績がありまして,それは消費者と事業者との間で請負契約をした場合は,仲裁をするというのは非常に一般的に行われておりますから,それを一律に無効とするということに対しては非常に抵抗がございました。それで,やはり無効にしたいのであれば,消費者のほうから積極的に解除するという意思表示をせめてするべきだというのが第1点でございます。   もう一つは,消費者契約の場合には個別的には1回限りの契約であるのに対しまして,この労働者のほうは継続的な契約であるのでより保護すべきであるという考慮もありまして,消費者契約においては将来に向かって解除するとし,労働契約においては無効とするというふうに書き分けたわけです。それでもそういうものを仲裁でやろうということであれば,もちろんそれは構わないというふうにはしておりましたけれども,立法をつくるときにはそういうふうに書き分けたわけです。それで,ただ今回の場合にそれを片方を解除,片方は無効というわけにはやはりいかないと思うのです。というのは,将来に向かってこの管轄の合意をするというのは予測可能性がやはりあるということが必要ですし,仲裁の場合と違ってそこをそれほど区別する必要もない,どちらも労働者の保護も消費者の保護も一律でいいのではないでしょうか。特にドイツの民事訴訟法は消費者についても無効としておりますので,それを日本に持ってきてもいいというのが立法の趣旨だろうと思います。それをもしこの無効とするというのを無効とするだけではなくて,もう少し有効とすべき場合もあるのではないかということを古田幹事はおっしゃったのですが,それに対して長谷川委員は,それに対する反論を先ほどお述べになりました。私も仲裁法とやはり体系的にそろえる必要があるのではないかと思います。もしここで消費者保護という観点を後退させるのであれば,仲裁法の附則はそれでよかったのかということになります。あれは当分の間というふうに当時としては限定してそういうことをしたのですが,もうちょっと今は考えるべきなのだということになれば,ここのところも考える余地がありますけれども,一応仲裁法は平成16年にできてまだ数年たったばかりでございますので,今はそこまで思い切って考え直すという時期ではないのではないかというのが私の判断でございます。 ○髙橋部会長 ③の合意管轄有効の問題につきまして,ほかの委員の方はいかがでしょうか。 ○山本(和)幹事 今の青山委員の御意見は,私も仲裁法に関与した人間として聞いていましたが,やはりそういうことではないかと思います。その観点からちょっと1点,非常に細かいところで恐縮ですが,気になるのはこの③の対象が個別労働関係民事紛争となっているということです。仲裁法は先ほど御説明のあったとおり,個別労働関係紛争ということになっていて,対象範囲がこの場合は限定されています。具体的には採用とか募集とかというものがこの国際裁判管轄法制では含まれずに,そこの合意管轄は有効だということになっているのですが,そこが何か理由がどの程度あるのかなという感じがしております。仲裁法はもちろんこういうあっせん等については,個別労働関係紛争の場合にあっせん等の対象となるかどうかということは考慮した上で,しかし,できるだけその労働者の保護を図るためには可及的に広くとろうということでこういう採用等も排除しないで,個別労働関係紛争と規律したという経緯があったように承知しています。そういう意味では長谷川委員がこれでいいとおっしゃるのであればいいのかなとも思いますが,整合性という観点から言えば,この③については,あるいは対象は個別労働関係紛争とするということも考えられるのかなという意見を持っております。 ○古田幹事 ③で無効とされる管轄合意の範囲なのですけれども,先ほどの消費者契約での佐藤幹事の御議論を前提にしますと,国内土地管轄の合意としては有効だが,国際裁判管轄の合意としては無効だという趣旨だと理解します。その理解を前提にいたしますと,例えば東京の会社が東京に住んでいる従業員を雇い入れて,その労働契約では将来発生すべき一切の個別労働紛争については東京地方裁判所を専属管轄裁判所とするという規定があったとします。従業員の退職後に不正行為が発覚したので,会社がその従業員を訴えたいけれども,従業員は今は札幌に転居しているという場合には,労働契約における管轄合意は国内管轄合意としては有効だということですから,東京地方裁判所に土地管轄はあって,ただし民事訴訟法第17条による裁量移送の可能性は残るということになります。しかし,その従業員の転居先が東京ではなくてソウルだということになりますと,今度は②の規律に服することになり,かつ当該管轄合意は国際裁判管轄の合意ということになりそうですので,③によって無効とされることになります。そうすると,②のアにもイにも当たらないということになりまして,東京地方裁判所には裁判管轄がないということになります。この結果が私としてはややバランスを欠いているのではないかなという気がしております。その観点から言いますと,現在の③の一律無効という規律はやはりやや行き過ぎだと思います。合理性を欠くような管轄合意を無効とするのは差し支えないと思いますけれども,管轄合意の内容を全く吟味しないで無効だというふうに言ってしまうのは,やはり問題ではないかなと思います。   また,先ほどの仲裁合意とのバランスといいますか,均衡についてですが,仲裁合意の場合には,例えば消費者契約については青山委員がおっしゃったように,今まで実績のある機関もあるわけですが,労働契約についてはそういう組織が日本には少なくともなかったということと,仮に労働契約について仲裁合意を有効としますと,あらかじめ労働契約の中で仲裁人を使用者が指定しておくということも可能になってしまい,そうしますと使用者が自己に有利な人をあらかじめ仲裁人に指定することも可能になってしまいますので,そういう弊害を除くために仲裁合意は当分の間,無効とするということになったと理解をしております。あくまでも仲裁法附則における「当分の間」の措置ですから,将来的に日本でも労働仲裁の基盤が整えば,労働契約における仲裁合意を有効にすることも想定されているのだろうと思います。これに対して,今回は労働契約についての管轄合意を,「当分の間」の措置ではなくて,法律の本則で,恒久的な措置として無効にしようということですので,これはやはり行き過ぎではないかというのが私の意見でございます。 ○髙橋部会長 ②に関しては,事業主が労働者を訴えるときに労務提供地も管轄原因にしておくべきではないかと古田幹事が言われました。これは鶴岡委員の御指摘のように,どういう労働者を想定するかによってイメージが変わってくるので,もう少し整理しなければいけませんが,今の段階できちんと整理できませんので,少しぼやっとした議論でございますけれども,いかがでしょうか。 ○青山委員 古田幹事の出された例で,それは東京地裁で訴えを提起しないと不合理でしょうか。ソウルで訴えを提起してどこがいけないのでしょうか。 ○古田幹事 もちろん会社の側がソウルで訴えることにしてソウルで訴訟を提起すればそれでよいのですけれども,従業員が退職後に転居した先が札幌なのかソウルなのかによって会社側の選択肢が変わってくるというのは,少なくとも会社の側からしてみると,余り合理性がないといいますか,バランスを失しているのではないかと思います。 ○青山委員 国内土地管轄と国際裁判管轄を区別して,この規定は国際裁判管轄に関する規定だと区別すると,それは札幌とソウルとどちらが近いかという問題になりますけれども,一応国内の場合には移送もできるけれども,外国の場合にはそこへ行ってやってくれというのが一つの切り分けなのではないでしょうか。それで私はおかしいとは思いません。 ○古田幹事 そこは恐らく価値判断で立法政策の問題です。私は使用者側の代理人をすることが多いからかもしれませんけれども,会社側から見ますと,従業員がどこに引っ越すかによって裁判ができる場所が大きく変わることになります。従業員の転居先如何で管轄合意の有効性が全く変わってくるというのは,非常に衝撃の大きな立法だろうと思います。 ○髙橋部会長 合意とは切り離して②に行きたかったのですが,先ほど言われた例ですと,やはり競業避止義務違反とか何かですけれども,外国の会社に引き抜かれるという例でしたでしょうか。労務提供地で行ったことについての競業避止ですよね。それはやはり労務提供地でもいいのではないかという御提案だと思ったのですが。 ○古田幹事 ②について労務提供地が入れば,私は先ほどの設例というのはそちらである程度カバーできるのだろうと思います。ただ,やはり先ほど消費者契約のところでも申し上げましたけれども,国内の管轄合意としては有効なのだけれども,国際裁判管轄合意になった途端に無効になるというのは,私の感覚で言いますと,バランスを失しているように思いますし,国内の管轄合意なのか国際裁判管轄の合意なのかという認定が難しい場合もあるのではないかと思うわけです。例えば日本国内同士の当事者で契約をした時点では国内管轄の合意だと思っているのだけれども,当事者の一方がその後外国に移住したような場合には,今度は国際裁判管轄の問題になりますので,合意の有効性が事後的に変更されるということになり得るわけです。それが果たして法制度としてよいのかどうかという点について疑問がございます。 ○山本(和)幹事 やはりこの②も何となく日本の労働者が外国に働きに行っているような場合もかなり念頭に置かれていて,そういうような場合にやはり外国で働いていて仕事が終わればやはり普通は日本に帰ってくるだろうと思います。その場合に,例えば中国なりで働いていて,そこで何か問題が起こったときに中国で訴えを起こされて,中国で出された判決が日本で承認されてしまうということになるのはやはり労働者にとって酷ではないかと思います。中国で弁護士を雇って攻撃防御するというのは普通の労働者はなかなか難しいでしょう。その描いている労働者像とかの違いとかにもよるのだろうと思うのですが,そういうような議論もあってやはりこういう住所を基準にするということになったのかなと記憶しております。 ○髙橋部会長 先ほど道垣内委員から,労務提供地は複数あっていいという御発言がありました。ここは認定の合理性というのはありますが,複数あってはいけないということではないだろうと思います。この点はよろしいでしょうか。 ○横山委員 私も括弧書きのところの法の適用に関する通則法で想定していたのは客室乗務員のようなものを考えていたと言っているだけの話で,一つでなければいけないということではありません。何せ指揮命令に従って労務給付しているのですから,事業者としてはすべて予測している地なのです。ですから,それは複数あって当然だと思います。   それから,古田幹事や手塚委員は,労働者が自主的に労務提供地とは別の国に移動したというケースを挙げられているのですけれども,普通の場合,この外国に移動するとかしないとかというのは使用者の指揮命令の結果として移動するということのほうが多いと思うのです。どうも私は,自主的に他の会社で働くために移動したという例とか退職後外国に行ったとかという例は,典型的な例ではないように思うので,その例の範囲ではなるほど,妥当するかもしれないけれども,どうも外国へ労務提供地から移動するというのは,普通は使用者の指揮命令の結果として移動しているのではなかろうかなと思います。余計なことですけれども,ちょっと気になりましたので申し上げました。 ○長谷川委員 ②で先ほど山本和彦幹事がお話ししたのと同じなのですが,この例えば②というのが日本人労働者が外国で裁判を受けて,労働者が負けた場合に,そのときにもこの規定は,日本国内というのを当該外国の国内とかと,日本の裁判所を当該外国の裁判所にそれぞれ読み替えて,これらを満たす場合でなければ,日本の裁判所は日本での判決の効力を認めず強制執行を許さないという趣旨だと私も理解しています。だから,そうするとこの規定でいいのではないでしょうか。ただ,使用者のことで何か労働者と使用者が対等ではないのではないかと言っていますけれども,ここの規定はこういうこともあるので,これでいいのではないかと思います。   あともう一つ,私は労働者の代表ですから,労働者はやはりどういうときに働くのかということとどういうときにどういうふうに移動していくのかということと,労働者と使用者というのはやはりどういう関係なのかということは,労働法というか労働関係に関する様々な法律をつくるときに常に考慮しなければならないのではないかと考えています。両者は常に対等ではないわけですので,そのところは是非御配慮をお願いしたいと思います。 ○髙橋部会長 事業主か使用者かという言葉がございましたが,これは法制的な整理なのですか。 ○佐藤幹事 事業主という用語がいいのか,あるいは使用者という用語がいいのかということで,労働審判法や個別労働関係紛争解決促進法では,事業主という用語を使っているということで,この①自体は労働契約の存否その他ということで労働契約において労務を提供すべき地となっていますので,労務契約というのを前提にしていると,事業主体が契約の当事者になることが通常であろうということで,使用者ではなくて事業主のほうがふさわしいのではなかろうかということでこのように書かせていただいたということでございます。使用者とすると,もう少し事業主よりも広い範囲になろうかと思うのですが,事業主とした場合には使用者の中から事業主ではないけれども,使用者に含まれる場合,それはどのような場合があるのだろうかということも考えたのですが,はっきりと確たる回答を持っているわけではないのですけれども,例えばセクハラが問題になるような会社内の一定の立場にあるような方のセクハラの事件等は,あるいはこの範囲に落ちてくる可能性もあるのかなという感じもしていました。その本文自体が労働契約を前提にしているということから事業主という言葉を選択したということでございます。それでいいのかどうかというところも含めて御議論いただければと思います。 ○長谷川委員 どういう人が漏れるのかなというのを検討したときに,まず家事使用人だとか,家庭教師のような人,それから非営利の国際NPO組織などの人たちが漏れるのではないかと思ったのですがいかがでしょうか。 ○佐藤幹事 労働基準法第116条で家事使用人の場合は適用しないとされているので,家事使用人は労働基準法上の労働者から漏れています。加えて家事使用人の場合には国際裁判管轄が問題になるような事例があるのだろうかということです。労働者とした場合に漏れてきてしまうような場合は先ほど申し上げたように,セクハラのような事案があり得るのかなとは思ったのですが,そのような事案は一般的な特別裁判籍なり普通裁判籍にゆだねるということでもよろしいのではなかろうかと考えておりました。それでよいのかどうかというのはまた御議論の対象になろうかと思います。   それから,先ほど山本和彦幹事から御指摘のありましたあっせん,募集採用を入れるかどうかということで,労働審判法はやはり労働契約を前提としているということから,どうもそれを除いているということのようでございまして,本件の①についても労働契約において労務を提供すべき地というような表現になってございますので,そういう意味では労働契約成立前の募集採用は除いたというようなことで個別労働関係紛争というような用語を使わなかったということでございます。 ○山本(和)幹事 ①については異存はありません。①は労働契約で定められた労務提供地が基本になっているので,労働契約が締結されないものは対象外であるということは当然そうだろうと思います。③については管轄合意が労働契約とは別に締結される場合というのがあり得るのではないかと考えられまして,仲裁合意もそれを念頭に置いていると思うのです。その採用等をする前提として,まず仲裁合意を結んでおいて,後でしかし労働契約ができなかったかもしれないけれども,紛争が生じたときにその仲裁合意が生きると,裁判管轄合意ですので,どの程度あるのか分かりませんが,そういうこともあり得るとすれば,その③については仲裁合意と並びになるのかなというのが先ほどの意見の趣旨です。 ○佐藤幹事 先ほど鶴岡委員から御指摘がありました表現として請求の目的となる権利が発生した時点というその表現自体がいいのかというところがございます。先ほど言われたような非違行為が発生するような場合,この表現自体は未払賃金が発生するような場合を念頭に置いているものですから,こういう表現になっているのですが,その前提としてもう少し御議論いただければ有り難いと思っておりますのは,その基準時を訴え提起時にするのか,その前の時点にするのかということで,それについてのお考えをもう少しお伺いできればと思います。 ○古田幹事 基準時については退職後に紛争が起こることが非常に多いわけですので,訴え提起時を基準にするということだけだと,恐らく現実的に機能しないのだろうと思います。ですから,過去いずれかの時点で現に日本で労務を提供したことがあれば,日本に労務提供地があるという認定でよろしいのではないかなと思います。 ○佐藤幹事 その場合,A,B,Cと国がまたがっていくのです。それで訴え提起時はある国になるのですが,A,B,Cの中で請求と関連しているものは例えばBとCでAは関係ないという場合に,ではBとCと,それから現在の訴え提起時ということでよろしいとお考えでしょうか。 ○古田幹事 例えばA国,B国,日本,C国というふうに転勤をされた方がB国で発生した権利について日本で訴訟を起こしたような場合にどうするかという問題かと思います。労務提供地がいったん日本にございますので,労働契約の特則上は日本に国際裁判管轄があるということになります。その請求権が,日本と全く関係がないという事情は特段の事情の材料として考慮すれば足りるのではないかと思います。 ○佐藤幹事 そうすると,労務提供地であれば例えばA,B,Cに行った場合はA,B,Cどこでもその対象になると。その上で請求…… ○古田幹事 直接管轄の基準としてどうなるかということでしょうか。直接管轄の基準としては日本でその会社のために労務を提供したことがあれば,労働契約の特則上,すなわち入口の段階では日本に管轄があり,あとは特段の事情の有無の問題になるのではないかと思います。 ○髙橋部会長 そういう御意見も有力であったということですが,特段の事情はなるべく使いたくないという御意見の委員,幹事もいらっしゃったと思いますが,請求に関連したというのを何かそこに入れたいのですか。 ○山本(和)幹事 研究会のときの議論は,私の理解する限りではその請求の目的が発生したときの労務提供地と現在の労務提供地で,それはそれぞれその時点で先ほどのように複数あれば,その複数は含むということで,例えばその中間にどこか別のところで働いていたとか,あるいはその前にどこかで働いたというのは,それが例え日本であっても,それはカウントしないという議論であったように記憶して,私はそれはそれなりに合理的かなと思っていました。 ○佐藤幹事 研究会での議論で,今回のベースもそのような考え方に立っていると。今,古田幹事が言われたのは,労務提供地と認められるのであれば,請求との関連に関係なく広く認めた上で,それは特段の事情で考慮すると,こういうお考えでよろしいでしょうか。 ○古田幹事 それでも構わないという考え方ですが,そうしなければいけないというほどでもありません。山本幹事がおっしゃったように,請求と関連する労務提供地が日本であった場合あるいは現在の労務提供地が日本である場合に限るというのも,立法論としては非常に合理的だろうと思います。 ○山本(克)委員 私も異存があるわけではないのですが,現在の労務提供地という基準を採用した場合において,既に労働契約が終了している場合に最後の労務提供地というのを代替で入れるかどうかというのが一つの問題だと思うのですが,その辺は私は入れるべきではないのかなという気がしています。 ○髙橋部会長 ほかにございますでしょうか。 ○古田幹事 これは日本弁護士連合会の労働関係の委員会からの意見なのですが,①の管轄原因として労務提供地だけではなくて,労働者の住所地というのも加えるべきではないかという意見が出ておりましたので,御報告いたします。想定している事案は先ほど山本幹事がおっしゃったように,中国で就労していた労働者が退職後,日本に戻ってこられて,日本で中国企業を訴えるような場合に,やはり日本で管轄を認める必要がある場合があるのではないかという問題意識のようでございます。 ○髙橋部会長 その問題意識は,そのまま山本幹事のご意見では,間接管轄においては危険だということですよね。 ○山本(和)幹事 そうです。ただ,今の例は,その請求権の原因になっているのは中国で働いていたときのあれだという…… ○古田幹事 私の意見ではなく,その労働関係の委員会の意見なのでそこまで分かりませんけれども,少なくとも私が聞いた範囲では,一般的に労働者の住所地を管轄原因としてはどうかと,それがよろしいのではないかという意見ですので,その請求権がどこで発生したかというのは恐らく考慮せず,現在の労働者の住所地というものだけを基準にするという考えだろうと思います。 ○髙橋部会長 労務提供地と違うこと,同じならばすべてがイコールであれば問題はないわけですから,多分,山本幹事の御意見は労務提供地でないということなのでしょう。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 時間の限定の点ですけれども,私は,基本的には現在又は直近といいますか,過去もう退職しているのであれば,最後の労務供給地が基本ではないかと思います。請求権との関係で管轄を認めるという考え方がいま一つよく分かりません。私は消費者契約のほうは契約締結時でいいと思っているのですけれども,個別労働事件の方は労働者にとって都合がよい,便利がよいところであって,かつ事業者から見てもそこで訴えられるのは仕方ないと思うところではないかと思います。過去の権利発生時の労務供給地なり,請求に係る労務供給地ということにしますと,もう事業者もそこから撤退して,労働者ももちろんそこにはいないという場合でも管轄はあるということになるわけです。そういった過去の労務供給地は日本の裁判所の管轄原因としても,外国判決承認・執行の場合の間接管轄の原因としても,余り適切な管轄原因ではないような気がします。 ○古田幹事 山本幹事の御質問に対する回答の補足ですが,先ほどの内国関連性の話なのですけれども,労働者の住所地を管轄原因とすべきであるが,それによって使用者に過度の負担を掛けることが予想される場合には,事案等の一定の内国関連性を要件に付加することについてやぶさかではないというのが労働関係の委員会からの意見でございました。 ○髙橋部会長 はい,山本克己委員。 ○山本(克)委員 これは現在又は直近のというのにプラスアルファする部分なので,それが排他的な非両立なら少し道垣内委員のおっしゃるような問題点はあるのですが,これはどちらでも構わないという趣旨であればそれほど弊害はないと思います。少なくとも労働者の側には何の不利益もないということですよね。もう一つ考えなければいけない不法行為地の管轄と似たような側面をそれは持つのではないでしょうか。つまり証拠の収集の便宜とかという点から認めるということは,請求の目的が発生した時点での労務提供地というのは意味があるのではないかなという気もいたします。 ○道垣内委員 もちろん不法行為地管轄が別に認められるのではあれば,それはそれで使えるはずです。そうでないタイプの問題についてもその証拠の便宜で管轄を認めるとする場合,やはり相手方とのバランスも考えなければいけないはずで,おっしゃるように労働者から見れば数が増えるだけなのでいいわけですけれども,もはやお互い関係ないという極端な場合も想定されるわけで,確かに問題はそこでの勤務中に起こったことではあるけれども,裁判自体は違うところでやるということはおかしくないように思います。 ○山本(和)幹事 研究会では,事業主は職務命令によって労働者を配置換えすることができて,恣意的に自己の優位な地に労働者の労務提供地を変えられる可能性があるという議論がなされました。だから,現在のところでしか訴えを提起できないとすると,使用者が自分に有利なところに変えてしまって,もとのところではできなくしてしまうおそれがあるのではないかという議論もされたようです。 ○山本(克)委員 今の点もございますし,先ほど横山委員がおっしゃったように,事業主はそこで働かせたわけです。ですから,それほど事業主に対して酷だとも言い切れないのではないかということです。 ○髙橋部会長 労働関係の訴えにつきまして,ほかにございますでしょうか。   こちらも法制的なものを含め,幾つかの宿題をいただきましたが,③に関して申しますと,管轄合意を有効にしてもいい場合があるのではないかという御指摘をいただきましたが,私の感覚では多数の方はそうでないということで整理してよろしいでしょうか。もちろん多数であったから決まりということではなくて,第二読会にもちろん行くのですが,それに関連いたしまして,②のところでも労務提供地を加えるという貴重な御指摘がありましたが,これも多数はそうでもないということだったと,今日の議論はそういうものだということで よろしいでしょうか。鶴岡委員から言われた点が頭にこびりついておりますが,どうも労働者といっても簡単ではないと,しかし,立法するときに高給をとっている労働者とそうでない労働者と分けるわけにはいきませんし,なおいろいろ考えなければいけませんが,少なくとも議論のときには分けて議論するというのは生産的だとは思います。しかし,それもどこまでできるかちょっと自信はございませんが,努めるようにはしたいと思います。   労働関係につきまして事務局が気にしているところがございますのでお願いします。 ○佐藤幹事 実はこの部会資料をお送りした時点では余り考えていなかった点で,今の時点で我々として確たる考えがあるわけではないのですが,少し感触だけでもお伺いしたいと思っておりますのは,労働審判と訴えが連続しているということがございます。労働審判法を見ますと,管轄の規定が第2条にございまして,これは合意で定めた地方裁判所も入っているということになります。労働審判自体は広く使ってもらおうということで比較的広く管轄を認めているということになります。そうすると,労働審判を申し立てて審判が出て,その後異議がありますと,訴え提起の擬制があるということになりますので,その場合に何らかの国際裁判管轄との関係で,管轄の手当をしなくていいのだろうかということを考えておりまして,基本的には労働審判が係属していた地方裁判所に訴え提起があるとみなされることになると思われます。さらに移送等の規定があるわけですけれども,そうなりますと,国際裁判管轄が問題になるような,例えば外国の会社なり労働者が一方当事者にいるような場合に,この国際裁判管轄と労働審判における訴えの提起の擬制の関係をどう考えるべきだろうかというようなところを少し考えておりまして,この時点でお諮りをするような案があるわけではないのですけれども,そんなような点につきまして何か御示唆等をいただければ今後の検討の材料にしてまいりたいと思います。 ○髙橋部会長 国際裁判管轄をある程度限定しても,労働審判のほうは広いですし,それは広くあってしかるべきですから,そこから上がってくるものが我々がここで議論している国際裁判管轄法制の規定の潜脱になってしまう可能性があるということです。 ○古田幹事 全くの感触ですけれども,労働審判は今までの労働仮処分に代替する機能が非常に強いと思います。したがって,労働審判の管轄は広めに認めてもいいのだろうと思います。ただ,訴訟になった場合にはやはり国際裁判管轄の問題になります。労働審判を日本で行ったから自動的に日本で本案訴訟ができるというのはやはり据わりが悪いと思います。ですから,仮に国際裁判管轄について日本の管轄をある程度狭くするのであれば,労働審判から移行してくる本案訴訟についても,国際裁判管轄についてはやはり国際裁判管轄法制の規律に服せしめるのが整合的ではないかと思います。 ○山本(克)委員 私も今の古田幹事の御意見に賛成です。労働審判は一応異議による訴訟手続への移行を前提にしていますので,ある程度強制手続性はあるにしろ,訴訟と比べればはるかにその度合いが低いわけです。なので,やはり強制手続に移った以上は訴訟の規律に従っていただくというのが筋ではないかと思います。 ○髙橋部会長 附則になるのでしょうが,条文上どう書くかというのは,それはまた法制局と相談しますが,大体皆さんの御感触もそういうあたりということで,また次回以降別のお考えをいただければ,それはそれで結構でございます。このペーパーに書いておりませんでしたけれども,そういう問題があるということです。 ○山本(弘)委員 先ほど佐藤幹事の御説明の中で,家事使用人等の話があったのですが,雇用契約と労働契約の関係を民事訴訟法でやる場合にどう考えるかというのはやはり少し考えたほうがいいのかなという気はしなくはないです。労働立法は労働問題を正に労働契約上の問題を主として扱うわけですが,民事訴訟法は雇用契約全般を扱うということも可能なので,そういう労働契約に該当しないような雇用契約の使用人の保護を類推適用でいけるという仕切りもあるのだろうと思うのですが,法制的に難しいことは重々承知していますが,少し考えていただいたほうがいいような気がします。 ○髙橋部会長 家事使用人も今後渉外性を帯びるかもしれません。御指摘ありがとうございます。   それでは,本日の会議はこれでよろしいでしょうか。次回の日程の確認をお願いします。 ○佐藤幹事 次回は,2月27日の金曜日を予定しております。   議事内容につきましては,特段の事情あるいは国際訴訟競合等の一般的な規律と併合等の手続的な規律について御議論をいただければと考えてございます。 ○髙橋部会長 それでは,法制審議会国際裁判管轄法制部会第4回会議を閉会させていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 ―了―