法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会 第20回会議 議事録 第1 日 時  平成21年3月10日(火)   自 午後1時28分                         至 午後3時18分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ● それでは,ただ今から,法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会の第20回会議を開催いたします。 ● まず,御審議をいただく前に,御報告がございます。   前回の部会で申し上げましたとおり,2月4日に法制審議会第158回会議が開かれ,そこで,私の方から,当部会における審議状況等について御報告をし,総会委員の皆様から御意見等をお伺いいたしました。   総会委員の皆様からは,刑の一部の執行猶予制度に関する参考試案につきましては,諮問と刑の一部の執行猶予制度はいかなる関係にあるのか,刑の一部の猶予執行制度が言い渡されると仮釈放が認められるのかといった御質問等がございました。   また,社会貢献活動を特別遵守事項とする制度に関する参考試案につきましては,「社会奉仕」としていた諮問とは異なり「社会貢献」とした趣旨はどのようなものか,あるいは,社会貢献活動として具体的にどのような内容を想定しているのかといった御質問や,逆に,社会貢献というと企業の社会貢献活動が連想され,本制度になじまないのではないかなどとの御意見をちょうだいいたしました。   本日は,お手元にその総会の議事録のうち,当部会に関係する部分につきましてお配りしておりますので,詳細につきましてはこれを御覧いただきたいと思います。 今後の審議におきましては,このような総会における御意見等も踏まえて,御議論いただければと考えております。   それでは,本日は,参考試案第2の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」につきまして御議論いただきたいと存じます。   参考試案第1の場合と同じように,第2につきまして,どの部分からでも,あるいは各制度の全体についてでも構いませんし,概括的・総括的なものでも結構ですので,委員・幹事の皆様の御質問・ 御意見などをいただきたいと存じます。 ● 参考試案の第2は対象犯罪が類型化されていますので,その意味では分かりやすいと思うのですが,御質問をさせていただきます。   「犯情の軽重その他の事情を考慮して」とございますので,その犯情が重い場合は一部執行猶予とはならなくて,全部実刑となるという御趣旨なのでしょうか。   それから,「その他の事情」というのは具体的にどのようなことを考えればよろしいのでしょうか。 ● 今の点につきまして,事務当局から御回答をお願いいたします。 ● まず,この実質要件のところで,「犯情の軽重」を記載した趣旨でございますが,この参考試案第2の制度につきましても,犯した罪に対する刑罰の言渡しの一環として,刑の一部の執行猶予を言い渡すというものでございますので,当然その刑責の範囲内で刑の一部の執行を猶予し,その範囲内で再犯防止・改善更生を図ることを趣旨としているものでございます。   そういった制度の趣旨を前提といたしますと,その刑責に見合った刑を科すという観点からは,刑の一部の執行猶予とする場合においても,刑期をどの程度の期間にするか,あるいは,実刑部分と執行猶予の部分をそれぞれどの程度の期間にするのかなどといった判断においては,犯した罪に対する刑責の重さが重要な判断要素になると考えております。   そこで,その刑責の重さを基礎付ける「犯情の軽重」を,ここに考慮事情として明記したものでございます。   それから,「その他の事情」としてどういうものが考えられるかという点でございますけれども,この実質的要件の中で,今申し上げました犯情の軽重といった観点のほかに参考試案第2の制度の趣旨のうち,再犯防止・改善更生の観点からは,刑の一部の執行を猶予するかどうかの判断において,薬物使用者に対し施設内処遇を行った上で,引き続きその効果を維持・強化するために,社会内処遇を相応の期間にわたって十分に行うことが,その薬物使用者の問題性,すなわち薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向の改善のために必要かつ相当であるか否かといったところが,重要な判断要素になるものと考えております。   そこで,「その他の事情」というところでは,例えば,薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向が認められるのかどうか,さらには,その程度がどの程度のものなのかといったところが考慮されることになるのではなかろうかと考えております。 ● そうしますと,今,おっしゃったことは,犯情が重いと,もうそれは一部執行猶予にならないという趣旨ではないということですよね。 ● 参考試案では,犯情の軽重という観点のみならず,宣告刑の範囲として3年以下の懲役であることが要件とされておりますので,刑の一部の執行を猶予するかどうかの判断においては,基本的には,宣告刑が3年を超えるかどうかといったところで刑責の重さが考慮されることになるのではなかろうかと考えております。 ● 犯情の軽重というのは,その犯情が重いと一部執行猶予というのはもうないということではなくて,犯情がある意味重いのは,むしろ実刑部分がある程度長くなるとか,トータルの刑期がある程度長くなるとか,そういうふうに反映するということがあり得るのであって,犯情が重かったら,すぐに一部執行猶予がなくなるということではないということですよね。 ● はい。基本的にそのように考えております。 ● 薬物の自己使用事犯に限られた話だと思いますけれども,その場合の「犯情が重い」というのはどういうことが考えられますでしょうか。 ● 参考試案第2の制度の対象犯罪は,薬物の自己使用の罪,あるいは自己使用目的を典型とする非営利目的の単純所持の罪ですので,犯情が重い場合というのは,例えば,薬物の単純所持であれば,その量が多ければ,それはそれだけ犯情は重いということになるだろうということが言えようかと思います。   また,薬物の自己使用でございますが,やはり常習性というのは傾向性のところにもかかわってくる話ではございますが,常習性が高ければ,それも犯情が重いということになってくるだろうと思われます。   要は,一般的に,薬物事犯以外の犯罪でも裁判の段階では犯情の軽重を考慮されることになるかと思いますけれども,そういう意味では通常の裁判で考慮される情状としての犯情の軽重と特段変わるものではないと考えております。 ● ほかにいかがでしょうか。御質問でも結構でございます。 ● 今の点に関連して,「犯情が重い」ということは,各種の犯罪についていろいろ多様なものが考えられるわけですけれども,薬物の自己使用に限定して考えれば,今おっしゃった常習性というようなことは,当然に犯情が重いということになるでしょう。しかし,一方で,常習性ある薬物の自己使用者に対してはますます何らかの処遇が必要だとも言えそうですが,その点,どうでしょうか。 つまり,単なる一過性の薬物の自己使用であれば,必ずしも必要的保護観察の下に何らかの処遇を加えなくても済むけれども,いわゆる犯情が重い薬物の自己使用者についてこそ,薬物の自己使用の再犯を防止するための処遇が一層必要ではないかということです。 ● 御指摘のとおり,常習性が高ければ犯情が重くなり,それに伴って,先ほど御説明申し上げましたように,例えば,一部執行猶予とするにしても,全体の刑期やあるいは実刑とする部分がより犯情が軽い人よりは長くなるといったところで犯情の軽重が考慮されることになろうかと存じます。   加えて,その常習性の高さは,「犯情の軽重」あるいは「その他の事情」のどちらにも当たるのかもしれませんけれども,その人間の薬物使用の傾向性の存在や,その程度等を示す要素にもなろうかと存じます。 そういう意味で,常習性が高ければ,参考試案の「薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善するために必要であり,かつ,相当であると認められるとき」との要件における必要性や相当性の要件を基礎付ける事情として考慮されることになって,その結果,刑の一部の執行を猶予するとの判断になるという場合も当然あろうかと考えております。 ● 補足させていただきます。   常習性の程度が高ければ,それだけ社会内で処遇をしていく必要というのは高まる場面もあると思うのですけれども,余りにもその常習性の程度が高く,それでもなお社会内処遇が適当と言えるかという問題も一方ではあるような気もしております。これまでの前科,犯歴等を見ていくと,社会内での自立的更生が難しい,あるいは保護観察になじまないなどという点で,相当性が認められない場合もあり得るのかなという気はしますので,常習性が高い人こそ参考試案第2の制度に適しているというのも,一定程度の限界はあるのかなという感じは受けております。 ● 参考試案第2の1では,「上記第1の1(1)又は(2)に当たらないもの」となっていますので,参考試案第1の一部執行猶予制度の対象となるものは参考試案第2の対象とはならないということだと思いますが,そうすると,薬物の自己使用等の罪を犯した者について,参考試案第1の制度と第2の制度の適用の振り分けはどうなるのでしょうか。 ● 基本的には初入者であるところの薬物使用者については,第1の制度の対象になってくると考えております。 さらに,累犯者であっても,薬物犯罪の特性にかんがみると,一般的に,施設内処遇と社会内処遇を連携させて改善更生・再犯防止を図ることが必要かつ有用であると言えるだろうということから,累犯者についても,この一部執行猶予の対象にすることができるよう,参考試案第2の制度を考えてみたところでございます。 ● そうしますと,薬物事犯による初入者で,参考試案第1の一部執行猶予制度の対象とならない者は,結局,第1でも第2でも対象とならないということになるわけでしょうか。 ● 具体的にどういったものを想定されているのですか。 ● 前回の御説明では,参考試案第1の対象となるのは,これまでの制度であれば,全部実刑と全部執行猶予の中間的な刑責に当たるような場合だということでした。そうしますと,例えば,薬物の自己使用罪を犯した者で,今回が初入であるけれども,これまでの基準であれば,実刑しか考えられないという者については,中間的な刑責ではないわけですから,参考試案第1の制度の対象にはならないということになると思います。しかし,そういう人についても,その人が抱える薬物依存等の問題を解決し,再犯を防止するという観点からは,一定期間の実刑と,保護観察付の執行猶予とを組み合わせた方が効果的だという場合があるだろうと思うのですが,参考試案を前提とすると,そういう人は,第1の制度の対象にも第2の制度の対象にもならないことになりますので,そこだけが抜け落ちてしまっているように思うのですが,その点はどうなのでしょうか。 ● 抽象的に言えば,そういう場合があり得るのかもしれませんが,具体的にそういった場合が果たしてあるのかどうかというところも,更に考えなければいけないかと思います。ただ,今の御指摘の点は恐らく参考試案第1の射程をどう考えるのかというところにもよろうかと思われますので,更にまた今度,参考試案第1について,いわゆる二巡目の議論があろうかと思いますので,その際にまた御議論をいただく中で,どう住み分けるのかといったところを御議論いただくのが,より適切かと今の段階では思っております。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 質問です。参考試案第2の1の「相当」という意味ですが,これは何を取り込み,何を除こうとしているのかということを具体的にお答えいただければ有り難いです。 ● 先ほども若干申し上げたところでございますが,当部会での御議論を踏まえますと,今回の参考試案第2の制度の趣旨は,刑責を果たさせながら,刑の一部の執行を猶予して,施設内処遇と社会内処遇を連携させて,再犯防止・改善更生を図ろうというものであると理解しております。   そういう制度の趣旨のうち,再犯防止・改善更生という観点からすると,刑の一部の執行を猶予するかどうかの判断においては,当該薬物使用者に対して,まず,施設内処遇を行った上,引き続きその効果を維持・強化するために社会内処遇を相応の期間にわたって十分に行うことが,その薬物使用に係る犯罪的傾向の改善のために必要であり,かつ,相当であると認められるか否かということが重要な判断要素となると考えられることから,今申し上げたような意味での必要性と相当性といったところを要件として掲げているものでございます。   そこで,ただ今の御質問を踏まえて申し上げますと,薬物使用の傾向性が認められるために,一部執行猶予によって施設内処遇と社会内処遇を行う必要性が認められる場合であっても,そういった一部執行猶予による処遇を行ったとしても,その改善更生が期待できないような場合もあるのではないか,あるいは,一部執行猶予による処遇を行うこと自体が困難といった場合もあるのではないかということも考えられると思っております。   具体的に申しますと,例えば,出所後には所属している反社会的な組織に戻ることを明言するなど,真摯に社会内処遇を受ける意思がないことが明らかで,社会内処遇を行ったとしても,それによる改善更生が期待できないような場合もあり得るのではなかろうかと考えており,そういった場合は,仮に薬物自己使用等事犯の傾向性があって,一部執行猶予の必要性が認められたとしても,社会内処遇による改善更生が期待できず,一部執行猶予の相当性が欠けるのではないかと考えております。   そういう場合においては,一部執行猶予ではなく,その刑責の範囲内で全部実刑ということになるのではないかと考えられますことから,そういった要件を示す意味で,この相当性を記載したというものでございます。 ● 今の相当性の話に関連するわけですけれども,恐らく実刑事案で裁判官として,更に刑の一部を執行猶予にするかどうかを判断しなければならない場面においては,この相当性の判断として,どういうものを考えるかというのは,当然吟味しなければいけないと思うのです。その場合に検察官としては当然実刑だということで,一部執行猶予が相当ではないという観点から,常習性等の悪い情状を主張・立証するのでしょうか。検察官として,これは全部実刑である,一部執行猶予は許されないという立証が当然審理の中でなされるというイメージで理解しておいてよろしいのでしょうか。 ● 検察の運用にかかわりますので,今の段階で特に私の方から確定的なことは申し上げられませんが,今申し上げたような趣旨で,相当性が要件になり,考慮すべき事情の一つになるということであれば,それに沿って,適切な立証がなされるということになるのではないかとは思います。 ● 関連してですけれども,相当性には,犯罪の特別予防という観点からではなく,犯罪が重いから,懲役3年以下の刑であっても一部執行猶予はすべきではないという考慮も含まれているように読んでいたのですけれども,その点はいかがなのでしょうか。 ● 関連した質問なのですが,参考試案第2の3の要件とも関係しているのですけれども,薬物犯罪を犯していて,その犯罪的傾向を改善する必要はあるけれども,ほかにも犯罪を犯していて,そちらの刑責が重い,あるいは,薬物犯罪の犯罪的傾向を改善しただけでは他の犯罪の再犯を防止することは難しそうだという場合は,相当でないという方向に働くということでしょうか。 ● まず,他の犯罪につきましては,御指摘のとおり,併合罪になっていて,参考試案第2の3の要件自体は満たしているとしても,他の犯罪の方の問題が大きい場合であるとか,他の犯罪の犯罪的傾向もかなり進んでいるという場合には,薬物自己使用等事犯に対処するために一部執行猶予にするというだけではやはり十分でない,あるいは十分かどうか分からないということになります。そうすると,やはり相当性というところで,刑の一部の執行猶予は不相当であるという判断になるのかなと考えております。   それから,犯情の軽重が相当性に影響する場合もあるのかという御指摘でございますが,そこはいろいろな考え方があり得るのだと思います。しかし,例えば先ほど,薬物自己使用等事犯で犯情が重い場合として,所持量が非常に多い場合というのがあったと思いますが,例えば,覚せい剤の所持量が20グラムというようなかなり多量の事案になりますと,犯情が重いという面もありますが,それは営利目的所持とまでは認められなくとも,自己使用目的の犯罪なのかという問題が出てくる場合もあり得るのではないかと思います。このような場合は,犯情が重いとも言えますし,自己使用の問題ではなくて,他の問題があるという意味で,相当性にも関係してくることになり,その結果,相当ではないという判断に至ることもあり得るかなと考えております。 ● 20グラムで営利目的所持で起訴になって,それで営利目的の認定がされる場合とか,そこまでの証拠がないので,単純所持で起訴になるとか,あるいは,営利目的で起訴したけれども,事実認定が単純所持になるとか,いろいろあると思いますが,いずれにしても事実認定が単純所持となれば,参考試案第2の1の単純所持という要件には当然当てはまるわけですよね。仮に単純所持の認定がなされたときに,今の相当性に影響するとの御指摘は,具体的にはどのような証拠関係の場合にそのような影響があり得るとおっしゃるのか,あるいは,もう少し広く言うと,今までは一部執行猶予に関する立証はだれも考えていなくて,やっていないわけですけれども,今後はこの一部執行猶予の相当性を立証するために,今まで出された証拠以外の何か証拠が出てくるのかどうか,お尋ねしたいと思います。 ● まずもって,これは通常のこれまでの実務と同様でしょうが,所持量が多くなってくると,自己使用だけではないのではないかという推認は通常働くものと考えられます。さらに,営利まではいかなくても,薬物を他人に分けているというような事情がうかがわれるという場合も当然ありましょうし,そうなると,今申し上げたような所持量だけからする推認だけではなくて,もう少し強い証拠があるということになり,この者はやはり薬物自己使用の依存性だけの問題なのかということはやはり疑問が出てくるのかなというのもあります。更に申し上げますと,参考試案では自己使用と書いてございますけれども,そこは条文の書き方にもよるのですけれども,使用罪の中には他人に注射してやるというのもあるわけでして,そのような場合には,本当に自己使用の傾向性という問題なのかという事情も出てきて,そのような様々な事情によって御判断いただくのかなと考えております。そのような証拠が出てくるかどうかという点ですが,先ほど申し上げたとおり,そういう事情は,現行制度においても量刑に当たって関係ある事情だと考えられているものと思います。新しい制度において,薬物の単純な自己使用なのかどうかが関連する要素であるということであれば,検察が,あるいは,弁護側から必要に応じてそういう証拠も出てくるのではないかと考えているところであります。 ● 質問なのですけれども,今の議論全般にかかわることなのですが,参考試案第2の1を見ますと,「必要」と「相当」と書かれています。 「必要」というのは,薬物事犯に係る犯罪的傾向を改善するための必要性ですね。「相当」というのは,一部執行猶予することの相当性と理解してよろしいのでしょうか。 ● 御指摘のとおりです。 ● そういたしますと,その相当性は,犯罪者を完全に施設内で処遇するのではなくて,施設に入れるけれども,社会内処遇もすることが,その犯罪者の社会復帰を促進するという観点から判断されることになろうかと思いますので,例えば,その犯人の家族の状況,勤務先との関係,短期間矯正施設に収容したとしても,早く社会に戻すことで家庭とのリエゾンが維持されることにより再犯を防止できる,そういった正に特別予防の観点が相当入ってくるのだろうと思います。先ほどの議論は,相当性について,犯罪的傾向の改善の相当性であるとの理解に収れんしたかに思えますが,このような特別予防の観点を含めた,もう少し広いものではないでしょうか。 ● 今の点について何か補足がございますか。 ● それは御指摘のとおりだと思っておりまして,家庭環境や職業といった事柄も相当性の中では当然関係ある要素になると思っております。 ● 今のところ,御質問あるいは御意見は参考試案第2の1,2,3までですが,あと4,5もございますので,それとの関連でも何かございましたら,御遠慮なく御発言いただきたいと存じます。 ● 保護観察についてお尋ねします。   参考試案第2の制度では,必要的に保護観察に付するものとすることとされているかと思うのですが,その場合シミュレーションではあるのですが,どのくらいの人がこういう保護観察の対象になり,また,そういうような保護観察が現状の中でできるものかどうか,そこをお尋ねさせていただきたいと思います。 ● 今も既に仮釈放中の方について保護観察でこの薬物関係のが行われていると思うのですけれども,その現状についても併せてお聞かせいただければと思います。 ● どの程度の数が想定されて,どのような体制で対応すべきかということについては,今,議論されておりますように,どのような判断基準で裁判所が御判断されるのかということにかかってくるのだろうと思いますけれども,現在において,覚せい剤事犯によって仮釈放になっている者,あるいは執行猶予になっている者の数を御参考に申し上げますと,平成19年の仮釈放の新受人員は1万5,832人でございますけれども,このうち覚せい剤取締法違反の者が3,419人でございます。   保護観察付執行猶予者につきましては,全体で新受人員が4,148人でありますところ,覚せい剤取締法違反の者は377人でございます。   あと,覚せい剤事犯に限定されたものではありませんけれども,平成19年の仮釈放の許可の件数が累犯で4,335人でありまして,そのうち今回の制度と関係のあるという意味で,刑期が懲役3年以内の者につきましては3,802人という状況でございます。   続いて処遇の内容につきましては,現状の処遇の内容ということで申し上げたいと思いますけれども,薬物全般につきましては,類型別処遇ということで処遇しておりますけれども,現在特にそのうち数の多い覚せい剤事犯者につきましては,覚せい剤事犯者処遇プログラムを作成して,これによって処遇をしているという状況でございます。   簡単に申し上げますと,この覚せい剤事犯者処遇プログラムは,いわゆる認知行動療法を基礎としまして,覚せい剤使用に至る認知のゆがみとか行動のパターンを修正すること,あるいは,再使用を避ける思考,行動の仕方というものを習得させるということでございます。   より具体的には,簡易薬物検出検査とワークブックを使っての教育課程とで成り立っておりまして,簡易薬物検出検査につきましては,尿検査あるいはだ液検査で実施しております。その目的とするところは,覚せい剤事犯者の覚せい剤をやめていこうという意志を強化することでして,繰り返し陰性の結果を出していくということを主たる目的にしまして,その断薬意志の強化を図るということでやっております。   教育課程につきましては,先ほど申し上げましたような認知行動療法の考え方に基づきまして,動機付けを高めるとか,使用に陥りやすいパターンを理解して避ける方法を学ぶとか,あるいは,最後に再発防止の計画を立てるというようなことを行っております。   現行は全5回の過程で終了しておりまして,それを基本的には2週間間隔で行って,最大でも6か月以内で終了するということで実施しております。といいますのは,覚せい剤につきましては,やはり釈放された初期に渇望が高まることが一般的にございますので,その時期により強化したプログラムによる処遇によって,そこを何とかしのいで,その後の断薬につなげていくことをやっております。   その実施の体制でございますけれども,これは専門的な処遇でございますので,保護観察官が基本的には保護観察所において実施しております。保護司につきましては,全般的な生活を指導しサポートするという役割分担でやっているところでございます。   現在はそういうやり方でございますけれども,今,審議されておりますこの制度の下における対象者について,このようなプログラムを実行することで十分なのかというようなことについても御意見をいただければ有り難いと思っております。   以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今,実施体制やプログラムの内容等について御説明がありましたが,御質問された○○委員,○○幹事から補充的に何かございますでしょうか。 ● 先ほど言われた覚せい剤の関係の人員数は,自己使用に限ったものなのですか。 ● 違います。全体でございます。 ● 自己使用に限った人員数は出ないのですか。 ● 今,手元では分かりません。 ● 新しい制度でどれぐらいの人員が参考試案第2の制度の対象になるかという点でございますが,今のところは制度も検討段階であることもありますが,なかなか見積もるのは難しいところもございます。現段階では何とも申し上げようがないところでありますが,今後,必要に応じて更に検討してみたいと思います。 ● どうもありがとうございました。ほかに御質問がありますでしょうか。 ● 薬物検査のときにだ液検査と尿検査とおっしゃいましたけれども,尿検査の方が多いのでしょうか。 ● 数の上では尿検査の方が多いです。だ液の検査については,その器具も1種類しかございませんで,時間がかかるということもありまして,今のところはまだ少ないです。 ● 尿検査の方が早く結果が分かるのですか。 ● 結果は早く分かります。全体の時間ということになりますと,いろいろかとは思いますけれども。 ● 本人の同意は必要になるのですか。 ● 簡易薬物検出検査は,覚せい剤をやめようという意志を強化する,支えていくという考えに基づいてやっておりますので,対象者の自発的な意思に基づいてやっております。   ただ,今御説明しました処遇プログラムの場合は,その処遇プログラムの一環として,簡易薬物検出検査が含まれておりまして,特別遵守事項でプログラムを受講することを定めてやっておりますので,その一部として簡易薬物検出検査を行っているということでございます。 ● 関連した質問なのですが,例えば,薬物事犯で保護観察付執行猶予が言い渡され,その猶予期間が3年とか5年とかいう事案もあると思います。先ほどのお話では,プログラムは6か月以内に終了するということでしたが,保護観察期間が長期に渡るような事案では,その後はどういう対応をされているのでしょうか。 ● 確かに保護観察付執行猶予者の場合は,最大5年というものも少なくございません。今のプログラムは6か月で基本的には終了いたしますので,その後は通常の保護観察と同じ形での個別の問題性に応じて,その問題点の解決を図るような処遇をしていくということになります。   その処遇の強度は,特に覚せい剤処遇の者ということでは変わるものでなく,その者の生活の状態などに応じて個別的に対応しているということでございます。   覚せい剤使用者について,特にどうしているかということについて申し上げますと,そのプログラムを終了した後におきましても,自発的に簡易薬物検出検査を受け続けたいという者もおります。そういう者につきましては,例えば1か月に一度保護観察所に出頭させて,簡易薬物検出検査も行い,通常の面接も行うという指導をその後にわたって続けている場合もございます。   それから,プログラムが終わった後ですが,プログラムの最後に再発防止計画を立てると申し上げましたけれども,そういった再発防止計画に基づいた行動がきちんととられているかどうかということについて,保護観察官において,あるいは保護司においても,それを見守りながら,必要に応じた指導をしております。家族に対する働きかけ等についても進めているところでございます。 ● 大体今伺った内容にほぼ尽きるのですが,実際,今現在の執行猶予,あるいは,保護観察において,この薬物の関係者について,保護観察官の人数がどの程度確保されているのか。   それともう一点は,かなりの数の人たちが対象になるとした場合,やはりこれは薬物から離脱させるという意味では,かなり社会的な形の連携ということも必要になると思うので,そういう意味のことが考えられるのかどうか,場合によっては,心身喪失者医療観察法の社会復帰調整官と同じような形で,薬物事犯に特化した保護観察官のようなものをつくるというお考えがあるのかないのか,その辺りをお聞きしたいと思います。 ● 今の御質問につきましては,どの程度の対象人員になるかということや,実施する保護観察の内容にもよってくると思いますので,一概には言えないと思いますけれども,一部執行猶予の制度にマッチしたような形での処遇を進めるために必要な体制の整備というものが当然必要かと思っております。   先ほど少し説明不足であったと思う点がございますので,その点について付け加えさせていただきたいと思います。 先ほど,処遇プログラムを特別遵守事項として義務付けていると申し上げましたけれども,それは昨年6月に施行された更生保護法に基づいて保護観察に付された者について実施しているものでございます。 それ以前の者については,特別遵守事項で薬物,覚せい剤の事犯者の処遇プログラムを義務付けることはできておりませんので,その者につきましては,別途御説明しました自発的意思に基づく簡易薬物検出検査を実施しながら対応しております。 ● その関連ですけれども,保護観察の場面で,尿検査やだ液検査も大事だと思いますけれども,生活状況の把握も重要ではないか。特に覚せい剤事犯の場合,交友関係とか,経済状況を把握する努力が現場でなされているかと思いますが,その点,今度の更生保護法でどういう形で明確になったかということをお話しいただければと思います。 ● 覚せい剤事犯者に限らず,保護観察に付された者について,その生活状況をきちんと把握して,それに基づいて指導することは非常に重要であると思います。昨年6月に施行されました更生保護法におきましては,一般遵守事項におきまして,保護観察官,保護司による指導監督を誠実に受けることが定められておりまして,更に具体的には,保護観察官又は保護司から,その労働又は通学の状況,収入又は支出の状況,家庭環境,交友関係,そういったものを,生活の実態を示す事実であって,指導監督を行うために把握すべきものを明らかにするように求められたときは,これに応じ,その事実を申告し又はこれに関する資料を提示することと定められております。そういった一般遵守事項の背景をもって,具体的に保護観察官又は保護司がその生活の状況をきちんと把握するように,例えば,生活の状況,収入ということでしたら,給与明細を示すように指示して,それを確認することによって,生活の実態を把握するように努めているという状況でございます。 ● 先ほど委員が言われように,私は刑務所の段階でも薬物犯罪を犯した者に特化した刑務所が必要だと前々から思っているのですけれども,特に保護観察の場面でも,そういう薬物に特化した保護観察官が全国に必要であると思います。この点,今回の規模がどれぐらいになるかということも関係しますけれども,薬物の専門的な保護観察官の創設などを考慮していいのではないかと考えています。 ● 参考試案第2の3について質問あるいは意見を申し上げたいのですけれども,薬物犯罪のほかに他の犯罪を行っていて,犯罪傾向性が専らそちらにあり,薬物犯罪の犯罪的傾向を改善しただけでは全体として再犯を防止することはできないような場合については,第2の1の相当性で判断することができるというお答えでしたので,私はそのような相当性での判断ができるのであれば,第2の3の要件は不要ではないかと考えております。   仮に,第2の3のような要件が必要だとしても,現在のような法定刑の上限で比較して,一律に除外するという規定は適当でないのではないかと思います。   例えば,薬物の購入費用を得るために窃盗を行った場合,現在のような規定ですと,覚せい剤や麻薬の自己使用目的の所持であれば,一部執行猶予の対象となるのに対して,大麻,毒劇物では一部執行猶予の対象にならないということになるのではないかと思いますが,同じような犯罪的傾向で改善の必要性がある場合に,そのような区別をするのが適当とは思えませんし,麻薬や覚せい剤のように,より刑責の重い犯罪をした方が,一部執行猶予の可能性が広いというのも少し不均衡な感じがいたします。したがいまして,制限規定を設けるとしても,別の規定の仕方がいいのではないかと思っております。 ● 参考試案第2の3を御議論いただく前提として,この第2の3のような項目を設けた趣旨をまず事務当局から御説明させていただいて,委員,幹事の御意見を賜ることができればと考えております。   参考試案第2の対象となる薬物使用者については,その者の薬物への傾向性を改善し,薬物の誘惑のあり得る社会内においてもこれを維持・強化することが,その再犯防止・改善更生のための共通の課題であり,そのための施設内処遇及び社会内処遇における各処遇プログラムも既に存在しているというような状況でございます。   そのようなことから,薬物使用者の場合,一般的・類型的に,施設内処遇後に相応の期間の社会内処遇を行うことが,その再犯防止・改善更生のために必要かつ有用ということができ,対象者ごとの個別的な事情によって,必要とされる処遇の内容が大きく異なることはないというような特殊性があるのではないかと考えられます。 そういたしますと,判決時に裁判所が刑の一部の執行猶予をするかどうかを判断することも,この薬物使用者の類型に関しては十分に可能であるのではないかという当部会における御議論を踏まえまして,参考試案第2の制度では,薬物自己使用等事犯を犯した者については,初入者ではなく累犯者であっても,刑の一部の執行猶予制度の対象とすることができるというふうにしたところでございます。   ただ,その薬物使用者が,ただ今の御指摘のように,薬物自己使用等事犯とそれ以外の罪を犯してこれらが併合審判されている場合があろうかと思います。そのような場合,その者の問題性の中心は,必ずしも薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向にあるとは言えず,ほかの犯罪についての傾向性等に問題の中心がある場合も多いのではないかと考えられます。 特に,薬物自己使用等事犯より,その他の罪の方が法定刑が重い場合,一般的には犯した罪の法定刑というのは,その罪の重さを表し,複数の罪を犯した者の問題性というのは,最も重い罪を犯したことにあると考えられますので,そのような場合には,一般的・類型的に,施設内処遇後に相応の期間の社会内処遇を行うことがその再犯防止・改善更生のために必要かつ有用であるとまでは言えないのではないかと考えられるものと存じます。   そのような場合,受刑後の処遇状況も含め,対象者の性格や境遇などの個別的事情をも考慮しなければ,施設内処遇後の社会内処遇の必要性・有用性や,社会内処遇に必要な期間などを判断することは難しいのではないかと考えられますことから,参考試案第2の3におきましては,薬物自己使用等事犯とその罪より重い刑が定められているほかの罪とに係る懲役の言渡しをするときは,その一部の執行を猶予することができないものとしたものでございます。 ● 今の御説明を受けた上での御意見がございましたらお願いします。 ● 問題性の中心が薬物使用にあるということで区別するということ自体には賛成ですけれども,それが法定刑の上限で定まるのかという点についてはやはり疑問が残ります。その法定刑の上限,最も重い罪で判断するという御説明でしたけれども,窃盗にも上は10年から,下まで非常に広い範囲があります。法定刑の上限ではあくまで最も刑責の重い場合を想定して規定されているわけですが,参考試案第2の制度では,もともと3年までしか言い渡すことができないわけですから,そのような重い類型の他の犯罪ということはそもそも予想されていないわけで,その中で法定刑の上限を切り分ける類型として用いることが適当かというのは疑問があります。実際上も先ほど申し上げたような,薬物の種類によって,刑の一部執行猶予を言い渡し得るかについて非常に大きな差が出てくる。毒劇物の場合などは,多くの場合が刑の一部の執行猶予から除かれてしまうという問題もありますので,考え方のスタートは反対ではありませんけれども,その着地点についてはちょっと賛成し難いように思います。 ● 参考試案第2の3の立案については,私の推測ですけれども,新しい制度だけに,若干控え目にという気持ちも働いたのではなかろうかと思います。それと関連して,現在の執行猶予制度とのバランスを少し考えておきたいのでありますが,現在の執行猶予制度は刑全部の執行猶予であり,参考試案は刑の一部の執行猶予,裏返して言えば,一部は実刑ということでありますので,その要件に差がつくのは当然のことです。しかし,現在の再度の執行猶予を定める刑法第25条の第2項では,前の刑の執行が猶予されていること,新しい刑が1年以下であること,それから,情状に特に酌量すべきものがあるということ,この三つの点で制限が置かれているわけです。 保護観察付執行猶予中の再犯であれば,再度の執行猶予はできないという点まで加えますと,四つの点で縛りがかかっているわけです。  これに対し,今度の参考試案第2の制度では,執行猶予中の再犯である場合はもちろん累犯前科がある場合であっても,この制度を発動しますと,そのような縛りが言わば全部外れるということになるわけで,それが一部の猶予であるということだけで完全に説明できるかどうか,その辺を考えておきたいと思いましたが,いかがでしょうか。 ● ただ今御指摘のあった点につきまして,御意見がございましたらお願いいたします。 ● 補足しますと,この制度の内容について,全体のバランス,刑事責任の軽重というようなことも十分意識してこの部会で議論されているわけなのですが,その点を重視するだけで説明し切れるだろうかというのが少し疑問に感ずる点で,この社会内処遇の持っている意味をもう少し強調する必要もあるのではなかろうかという気がしたわけです。 ● これはかなり重要な点でございますので,どうぞ御自由に御意見をお述べいただきたいと存じます。 ● 先ほど○○委員がドラッグコートというようなことを言われましたけれども,やはりそれに近いような,近いと言ってしまうと少し語弊があるかもしれないのですけれども,やはり薬物事犯の特殊性があって,薬物事犯と社会内処遇の結び付きやすさというのですかね,そういうものがあって,この参考試案第2というのが認められるということなのではないかと思うのです。   だから,そういう意味で薬物事犯の特殊性による再犯防止効果が期待できるようなものについては,なるべくこの第2の制度が適用できる中身になるという制度設計がよいのではないかと思います。   そのために参考試案第2の3をどう考えるかというところまで,ちょっとまだ頭が働いていませんので,とりあえずのところの意見です。 ● これは,例えば前刑は窃盗で,今回この薬物事犯を犯したという場合は当然当てはまるわけなのでしょうか。 ● はい。 ● それで,前刑,前々刑ぐらいで窃盗を犯していて,今回は薬物事犯だけで起訴されており,薬物事犯の犯罪的傾向を改善する必要があるといえるのだけれども,これまでの受刑やその後の生活態度を見ると,窃盗の犯罪傾向の方が,この人の問題の中心だという場合は,この相当性のところで相当でないということになるということなのですか。 ● まず,異種前科をどう考えるのかというところがその前提として来るかと思いますけれども,その根拠はともあれ,現行実務では,量刑に当たり,異種前科を含め,前科・前歴の考慮自体は裁判実務の中で認められているところだと考えております。それと同じような意味で,刑の一部の執行猶予制度が導入された場合においても,やはり異種前科というのは同様に考慮されることになろうかと思います。   それで,今御指摘のような事例についてでございますけれども,そういった事例について,この参考試案第2の制度の適用を考えるに当たっては,先ほど申し上げましたように,この「犯情の軽重その他の事情を考慮して,その薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善するために必要であり,かつ,相当であると認められるとき」という要件の判断において,現行制度と同じように,被告人がそういった窃盗の前科を有していることをも含めた諸々の情状に関する事情を「犯情の軽重その他の事情」として考慮した上で,刑の一部の執行を猶予することが,覚せい剤の自己使用の罪の犯罪的傾向を改善するために必要であり,かつ相当であると認められるかどうかというところを検討することになると思われます。   そして,御指摘のとおり,相当性の判断において,被告人の窃盗の前科などを考慮してもなお,刑の一部の執行猶予とすることが被告人の再犯防止・改善更生の観点から相当と認められるような場合には,刑の一部の執行猶予を言い渡すことができることになろうかと考えております。 ● その基準としては,薬物犯罪と窃盗のどちらの犯罪的傾向がその人の問題性の中心かということを考えることになるのですか。それだけではないのですか。 ● 併合罪となっている場合と,前科として窃盗がある場合とでは,少し違うかなという感じはしております。お尋ねのあったばかりで確たるところではございませんけれども,窃盗が併合罪として入っている場合には,正にその罪を犯したことに対する責任であり,特別予防の面でいうと改善更生でありますので,問題の中心が薬物犯罪と窃盗のいずれにあるのかという形で窃盗についても対処するということになると思います。他方,前科として窃盗があるというのにとどまる場合は,薬物事犯の裁判で対処するという問題ではないはずでありますので,そこまで窃盗を正面から見据えていいのかという問題があるような気がいたします。   そうであるとすると,窃盗の前科があって,窃盗の再犯のおそれがあるという事案においては,薬物に対処するために一部執行猶予をつけても,その処遇を全うできるのかどうかというような観点から見ることは考えられるかなという感じを受けるということでございます。 ● 今の御質問に直接関係するのかどうか,よく分からないのですけれども,これは一部執行猶予のときには保護観察に付されるわけでございますので,当然特別遵守事項を考慮しなければいけないと思っております。この特別遵守事項をどうやって付けさせていただくかという手順の問題もあろうかとは思いますが,仮に最初の裁判の,要するに判決の直後に裁判所の方から特別遵守事項の見込みをちょうだいするという現行制度と同じような制度になるとするならば,その段階でどういったような特別遵守事項の見込みというものを保護観察所の方にお示ししていただけるのかということとも関係してくるのかなという感じが運用させていただく立場からするとしているところではございます。かなり複雑な構造にはなろうかなとは思いますが。 ● 参考試案第2の適用を判断するときには,恐らく薬物処遇プログラムをかなり念頭に置くのではないかと思うのですが,仮釈放の場合にもこういったプログラムというものも実施されているわけですね。 ● はい。昨年6月以降実施しております。 ● そうしますと,一部執行猶予の言渡しがされて,一部の実刑部分が執行されている間に仮釈放されて,プログラムを経るかどうかというのが裁判時ではそれが分からないわけですね。そういう状況下で,裁判官として,この薬物処遇プログラムがどうなるかというのを,仮釈放をも含めて想定しながら判断しなければいけないのか,あるいは単純に,参考試案第1の問題とも関係するのですけれども,ある意味では刑の中間的なものだからということで割り切って,仮釈放におけるプログラムがどういう状況になっているかどうかということまで考慮するのはとても無理だということで,中間的な処遇として判断するのかという,二つの考え方があり得るかなとは思ったのですけれども,仮釈放中のプログラムとの関係等についての議論というのは,今までは余りされていないのでしょうか。 ● 御趣旨がよく分からなかったのですけれども,今の場合の仮釈放のときのプログラムというのは,一部執行猶予にして,実刑部分で仮釈放になって,そこでもプログラムを受けるかもしれないという御趣旨ですか。 ● そうですね。場合によっては,プログラムが6か月ぐらいだということであれば,仮釈放段階でプログラムが終わっていることもあり得るのではないかなと思ったのです。そして,一部執行猶予の猶予期間に再び別途違う種類のプログラムを考えてもらえるのか,あるいは,一回やったら,もうそれでおしまいということで終わるのかどうか,その辺がどうなるのかなと思ったのです。 ● その辺りは,制度を前提として,これからどういう処遇をしていくかというのを検討していく中で,また変わってき得る部分だと思いますので,仮釈放中に処遇プログラムをしても,更にもう一回やるとか,延長するというのもあり得るかもしれませんし,仮釈放中に処遇プログラムをやれば,先ほども説明がありましたように,通常の保護観察といいますか,処遇プログラム以外の保護観察を続けていくことによって,再犯防止を図っていくという道もあり得るとは思いますが,その辺りは制度を導入する場合,どういう処遇をしていくかという検討結果を御覧いただいて,その上で御判断いただくということになるのではないかと思います。 ● 先ほどプログラムにつきましては,現行やっているものが6か月の期間のもので,その後につきましては,それをフォローするような形での処遇を行っているということを申し上げましたけれども,現行の仮釈放者と,今,審議されている一部猶予の対象者について何らかの差異があるのかどうかも含めて検討した上で,6か月で終了するようなプログラムで果たして十分なのか,適当なのか,更に長い期間を見越したプログラムをもって,備えなければいけないのかということについても当然検討しなければいけないなと考えております。 ● 先ほどの御質問の趣旨の中に,判決言渡し時において,どの程度のことが知り得るかということも入っているのでしょうか。 ● どの程度の資料が,裁判官が言渡し時に説明を受けられるかどうか,当事者から立証があり得るかというのは問題のあるところかと思いますけれども。 ● 現在の保護観察付執行猶予者の特別遵守事項の定め方は,御承知のところかと思いますが,必ず言渡しの段階で裁判所から特別遵守事項についての意見をお伺いして,それと保護観察所との間で少し意見のやり取りをさせていただいた上で,最終的には裁判所の特別遵守事項としてこれが必要であると言われたものの中から選択して保護観察所長が付けるという形でやっております。   現在は,そういった裁判所の特別遵守事項についての意見を伺って,特別遵守事項を定めてすぐに保護観察そのものが始まるという形でございますけれども,今回検討されているものについては,裁判所の判決と保護観察の開始との間が場合によっては非常に空いてしまう。その辺りについて,どのようにするかという問題があると考えております。 ● 今の関連で言えば,判決時に何をするか分からないような状況でこの制度を組み立てることはあり得ないと思うのです。そういう意味では,処遇プログラムは,今あるプログラムを参考にしながら,新しい,計画的で有効なプログラムというのを再構成する必要はある。 今の運用のままであるということを前提にして,この制度の導入を論じるべきではないと考えております。   また,先ほど議論がありました参考試案第2の3について,もう少し事務当局の考え方を聞いてみたいのですけれども,この第2の3を置いた趣旨については,先ほどるる述べられましたけれども,かいつまんで言えば,一体何なのか御説明ください。 ● 薬物の自己使用・単純所持事犯に類型化して,一部執行猶予を考えてはどうかということにこれまでの御議論でなったわけでありますが,その趣旨につきましては,薬物の自己使用・単純所持事犯は問題性が非常に明らかであって,事案による個性も余りなくて,それに対する対処法も,その傾向性を何とか取り除くということで共通しているのではないか,だから,こういう一部執行猶予というのが,一般的・類型的に有用であり,しかも裁判所の目から見ても,判決時でも一般的に判断しやすい,というところから出発したと理解しております。   そうだとすると,非常に割り切って考えれば,薬物の自己使用・単純所持事犯以外の罪が入っていれば,一部執行猶予の対象から除外するという選択肢も恐らくあり得るのだと思います。ただそれでは狭過ぎると考えた場合に,一方で,薬物の自己使用・単純所持事犯さえ入っていれば,ほかにどのような問題があっても,あとは裁判所にお任せすればよいというのは一つのお考えだとは思います。しかし,これまでの当部会での御議論からすると,例えば,薬物自己使用等事犯の問題性は,当該事案においては非常に小さいという場合もありましょうし,いろいろな問題のバリエーションが考えられる中で,薬物自己使用等事犯さえ入っていれば判断できるという前提に立っていいのかということを考えまして,当部会の御議論での類型化という趣旨をもう少し踏まえて,何らか類型化できないかと考えて,例えばということで,参考試案第2の3を考えてみたという次第でございます。 ● 先ほど御指摘がございましたが,ほかの執行猶予とのバランスの問題などをも踏まえて何か御意見がございましたらお願いいたします。 ● 参考試案第2の3の場合に,他の罪も犯しているけれども,やはり問題の核心は薬物にあるというケースもあるのではないかと。その場合は,言ってみれば一律に排除していいのかという疑問もあると思いますが。 ● ただ,一方では,先ほどの繰り返しになってしまいますが,これまでの当部会における類型化の議論を踏まえると,薬物自己使用等事犯さえ入っていれば,裁判時において,すべての場合について刑の一部執行猶予の判断が可能だと考えてもいいのかどうかという問題もあるかなと思います。 ● つまり立法的に見て,非常に無限定になるのはやはりいかがなものか,もっと慎重にやるべきだという趣旨が入っているということですね。 ● そうですね。当部会の御議論において,一部執行猶予の対象を類型化すべきとされた趣旨を踏まえると,例えば参考試案のような方法もあり得るかなと考えたという趣旨でございます。 ● 関連した質問ですが,例えば,他の罪が薬物自己使用事犯よりも法定刑としては低いため,第2の3の要件は満たすけれども,ただ,その罪に関しても対象者が問題を抱えている事例を想定してください。類型化という観点から言うと,裁判所として,その罪については,どの程度の期間実刑にして,それから,どの程度の期間執行猶予にしたらよいかという判断はできないという場合には,刑の一部の執行猶予を言い渡すことが相当であるとは認められないということになるのですか。 ● 併合罪として,薬物事犯以外の他の罪が入っている場合は,やはり薬物事犯とその他の罪の全体として再犯防止・改善更生を考えなければいけないのでしょうから,その観点から見て,相当とまで認められないということであれば,参考試案第2の1の要件には当てはまらないということにならざるを得ないかなとは思いますけれども。 ● そうすると,裁判所として,刑の一部執行猶予が相当かどうかについて,どちらとも判断できないような場合は,結局,相当であるとは認められないということになるわけですから,参考試案第2の3というのは,相当性についての立証をそもそもさせない点に意味があるということになるのでしょうか。 ● その相当性を判断しなければいけない範囲を一定程度限定してみてはどうかという発想であります。 ● 法文として書けるかどうかという問題はありますが,被告人が薬物事犯以外の他の罪を犯していたとしても,それが基本的には薬物に係る問題性の発露であるということが認められる場合に限って,刑の一部の執行を猶予することが相当であると認められるというような形で適用対象を限定することができないでしょうか。先ほどの話とのつながりで,相当だと判断できない場合には,刑の一部の執行猶予の対象から外れるということであれば,範囲としてはそれでいいのかなという気もします。 ● 今の御意見は,他の罪の法定刑が軽い場合だけでなく,重い場合でもということでしょうか。 ● はい。他の罪の法定刑の方が軽い場合であっても,裁判所が類型的に判断できない場合は刑の一部の執行猶予制度の対象外だということであるのならば,他の罪の法定刑が重い場合も含めて,要するに,裁判所が判断できる場合に限って刑の一部の執行猶予を認めるという形で対象を限定するという方法もあり得るのではないかということです。 ● 参考試案第2の3については,また先生方の御意見をよくちょうだいしたいと思っているのですが,そもそも刑の一部執行猶予をどういうものとして,どれぐらいいいものとして見るか,どれぐらい大きくつくるのか,あるいは,小さくつくるのかということと結構かかわっているような気がしているわけです。   今まで御議論いただいたところでは,一部執行猶予制度は,施設内処遇と社会内処遇との懸け橋を結ぶ比較的再犯防止に役立ついい制度ではないかという御議論が一方であるのだろうと思うのです。   ただ,その一方で,では要件なしで,どのような事案に対しても刑の一部執行猶予を認めていいのかというと,そうとも言い切れない部分は確かにあるのだろうと思います。一つにはやはり,実刑の持つ感銘力というか,そういうものをどこまで緩めることができるのかということがあって,本当はこれだけ刑務所に入っているはずなのに,一部とはいえ外に出してしまうということで,刑事責任に見合うのか,あるいは,一般社会がどう思うのか,特にこれが薬物ということで,参考試案第2の範囲が限定されているから比較的問題になりにくいのですが,被害者のいる犯罪だったらどうなるのだろうかということが一つあるだろうと思うのです。   それから,もう一つは,裁判所がどれだけうまく判断できるのか,特にこれが新しい制度で,実刑か全部猶予かという選択肢しかなかったところへ,もう一つ新しい選択肢を設けますといったときに,うまくこれがさばけるのかといったような問題も生じてくるのだろうと思うのです   先ほどるる申し上げましたけれども,とりあえずそういった趣旨からすると,参考試案第2の3は,比較的問題性が明確に切り出せるところで,このような要件を設けて対象を限定してみてはどうかという一つのたたき台でございます。しかし,限定するという考え方がそもそもいいのかどうか,あるいは,もう少し要件を違う形で立てることによって対象を限定したときに,今言ったような問題がどうクリアできるのかということなのかもしれないと思っております。   先ほど御指摘がありましたけれども,臆病につくっている部分はないとは言えないと思いますので,御指導よろしくお願いしたいと思っております。 ● 先ほど来,御意見を伺っていて,やはり参考試案第2の3の部分はもう少し柔軟に運用できるような形の規定振りが考えられないだろうか,例えば,このような事例の場合については,執行猶予ができないものと断言していますけれども,原則としてできないというようなニュアンスのものを表すことによって,例外的に許容できるような道をつくるということもあってもいいのではないかなと思います。 ● 理想論といいますか,余り現実的な話ではないのかもしれませんが,薬物犯罪に対して,一部の執行猶予,あるいはそれに類似した制度をとった際に,日本以外でどういうことがなされているかといいますと,宣告した刑の順次執行,あるいは分離執行がなされるわけです。ですから,日本では,併合罪で量刑を判断するときに様々な問題が出ることは皆さん御承知のところですが,一人の被告人に対して一つの統合した刑をつくるために,なかなか,その執行が難しいのでありまして,例えばこの領域に限って,薬物使用者に対して一部執行猶予にした上で,その犯罪性向を改善するためのプログラムの活用を積極化するということを考えた場合には,この制度が使われる領域においてだけですが,刑の順次執行を認めるということも,一つの選択肢ではないか,と思っております。 ● どうもありがとうございました。   先ほどの御意見の内容としては,参考試案第2の3の場合を例外化する方向との御趣旨でしょうか。 ● 例外化といいますか,原則としてはこのとおりでよろしいのですが,これですべてをシャットアウトするのではなくて,まだ道をつくる道があっていいのではないかということで,原則として一部執行猶予の判決が言い渡せないという形の書振りをどういうふうにするかは別にして,そういうふうな表現振りがあれば必ずしも,原則は確かにこういう場合についてはシャットアウトされますけれども,場合によっては弁護側や,いろいろな立証をする過程の中で,この場合についても,やはり認めてもいいのではないかという道が開けるのではないかと考えた次第です。 ● どうもありがとうございました。   今,一巡目の議論でございますので,いろいろな可能性を含めた御意見,御提案がございましたら,お願いしたいと思います。二巡目でもっと詰めた議論をしたいと思っておりますので,御自由に御発言をお願いいたします。 ● 先ほど被害者についての御指摘がありましたが,これまで一般には薬物事犯は被害者なき犯罪として類型化されてきました。直接の被害者はありませんけれども,しかし,例えば薬物が元で凶悪な犯罪を犯すこともあり得るので,そういう点では,被害化というのが十分予想される犯罪だと思います。   また,近年,我が国でも薬物に対する非難の度合いは相当強い感じがします。したがって,そういう意味では,今回この第2の3の規定がそのままでいいかどうかは別として,社会情勢を踏まえ,工夫した形で,何らかの限定を入れることを考えてもいいのではないかと思っております。   今,具体的にどういう案がいいかというのは分かりませんけれども,もう少し議論をして考えてみてもいいのではないかという気はいたします。 ● どうもありがとうございました。 ● 参考試案第2の3のところの問題というのは,一つは責任の問題,それから,もう一つは裁判所が判断ができるのかどうかという問題,そういう二つの問題なのだろうと思います。そこで,先ほど来議論がされていますが,まず,薬物以外の罪の併合罪があって,それが薬物の問題性とは全く別のものだというときには,恐らく参考試案第2の制度の中には包摂されないだろうと思われます。 その一方で,その薬物以外の罪の併合罪があったときに,それが薬物の問題に起因していて,薬物の問題に対してこそ対処すべきであるような場合に,果たして参考試案第2の制度に包摂されないという整理でよいのかということが問題になっているということだろうと思います。   そうだとしたときに,裁判所が判断できるのかどうかという問題が提起されているわけですが,併合罪があったときに,果たしてこれが薬物犯罪に起因していて,この人の問題性は薬物なんだという判断というのは非常に難しいものなのでしょうか。仮に難しいのだとすれば,参考試案第2の3のように線を引いておくというのも一つの考え方であると思います。しかし,通常かなりの程度,犯罪が薬物に起因して,被告人の問題性が薬物にあるということは判断できるのだとすると,また違った考え方もあり得るかもしれないという気もします。 ● 率直に申し上げて,いろいろなケースがあるものですから,一概になかなか判断ができるとかできないといったことは,言い難いと思います。   一般的に,抽象的にそういう判断ができるかできないかという議論で割り切れない部分があるからこそ,何らかの基準が必要かなということもありますけれども,逆に裁判所の相当性の判断で割り切って運用できる可能性もあり得るかなと思う部分もあり,私自身もこの問題については判断しかねております。 ● 私もそれほど経験豊富ではありませんけれども,個別に見ていくと,当該犯罪全体として,薬物に起因しているかどうかと判断できるケースが多いのではないかなとは思っております。   ただ,被害者がある犯罪に関する御指摘がありましたけれども,仮に薬物に起因して,他の犯罪が被害者がある犯罪だった場合に,これはむしろ責任の観点からだと思いますけれども,それでも一部執行猶予の対象にすることについて,被害者側から納得を得られるのかという問題が,むしろかなりシビアではないかなという気がいたします。 ● 判断できるのかどうかということで言うと,正にこれはその事案でどういう立証がされるかというところにかかってくると思います。例えば,今日出た例ですと,シンナーと窃盗というのが,参考試案第2の3の要件を設けるとすれば,これはもう重い刑だからおよそ一部執行猶予はできないということになるのでしょうけれども,窃盗がシンナーを買うお金欲しさにされたのかどうかというのは,多くの場合は供述がなければなかなか立証が難しい面があるだろうと思うのです。だから,刑の一部執行猶予の対象になるということであれば,恐らく当然捜査官としてはそこのところをお聞きになって,きちんと立証がなされ,相当性を判断できる場合もあるだろうと思います。ただ当然,被疑者がそういうふうに供述するかどうかは分からないわけで,盗んだお金で,その足でシンナーを買いに行ったりしていれば,それは客観的にある程度明確な部分もあるのでしょうけれども,裁判所としては正にどういう証拠を出していただけるかということにかかってくるのではないかと思います。 ● 先ほど御指摘があったような,例えばシンナーを吸いたいから,万引きしたとか,盗んだというのがありますよね。シンナーが欲しいために,それが目的で窃盗に出ているようにも見えるけれども,場合によってはやはり,もともと窃盗について規範意識が麻ひしていて,たまたま目的物がシンナーになっただけだという事案もあって,それはどのような証拠を双方がお出しになるのかということにかかってくる。必ずしも,こういう類型であったら,すぐに判断できるでしょうというわけにはいかないのではないかなと思います。 ● 犯罪者を処遇しているという観点から,少し違うかもしれませんけれども,今のことについて感想めいたことを申し上げたいと思うのですが,やはり,覚せい剤に依存するようになって,それに要するお金欲しさに窃盗に走る,あるいは詐欺のようなことを行う,あるいは,それによって家庭内がぐじゃぐじゃになって,暴力ざたが起きているというような状況はあると思います。   その場合に,では何がもともとあるのかということで,通常一つは覚せい剤に依存するという,そこにまず大きな原因があるだろうということで,その辺りの処遇,改善に努めていって,それによって,確かに全体としての家庭内の暴力の問題であるとか,その他の問題行動も一緒に収まることもありますけれども,やはり常にそうかといえば,そうでもなくて,もともとは覚せい剤の依存に発するような場合であっても,窃盗であるとか,あるいは詐欺的な行為を繰り返しているうちに,そのような行動というのも,覚せい剤の依存と無関係に行われるということも当然あり得るわけで,その辺りについては一概には言えないというのが処遇をしている者の感覚であると思います。 ● 裁判所の御判断ということが論じられてきたと思いますけれども,「犯罪的傾向」とか,「改善 」というような言葉は今まで刑法典におよそ見たことのない言葉で,この用語が刑法典で使われるかどうかは分かりませんけれども,言葉はともかくその種の考え方が入ってくるということになれば,何か受け皿が必要だという感じがいたします。   参考試案第2の最後の項目は,「その他所要の規定の整備を行う」となっているわけですが,この文言は言わば決まり文句で,いつでも項目の最後で見かけるものではありますけれども,その受け皿という意味で,第2の5については格別の重みを持つというように考えてよろしいのでしょうか。もしそうだとすれば,所管は主に保護局になるだろうと思いますけれども,そういう点についての見通しのようなものを,今日でなくて結構ですけれども,いつかお話しいただけると,全体で議論の輪郭がはっきりしてくるのではなかろうかという気がいたします。 ● 関連してですが,もちろん保護局の保護の在り方というのは非常に重要だと思うのですが,ダルクの方々がどのような苦労をして,薬物離脱のためにやっているのかということも,これはある程度知っていただいた上でやるべきではないかと思うので,場合によってはダルクの担当者に一体薬物離脱というのはどれだけ大変なものかということと,そういう成功例と失敗例といった話も聞く機会があれば,この審議をする上で非常に有益ではないかと思っております。 ● ただ今,所要の規定の整備という点について御指摘がございましたが,私どもとしてどういう受け皿をつくらせていただくか,これが所要の規定ということになるのかどうかという問題はあろうかとは思います。   そういう意味で,どのような受け皿をつくらせていただいたらいいのかというのは,正にこの制度をどういうふうにつくっていただくかということにかかっているわけでございまして,むしろその点を含めて御議論をいただけますと大変有り難いと思う次第でございます。   ただ,処遇という点からいたしますと,1点だけ申し上げますならば,不良措置の問題があろうかとは思っております。例えば,一部執行猶予の言渡しの後,実刑部分の執行中に仮釈放になった後,仮釈放の取消しの対象となるような行為をしてしまった場合,仮釈放は取消しをするということになるのだろうと思いますが,その場合に,実刑の執行の後に控えている執行猶予はどういうことになるのか。それは一部執行猶予の判決があるのだから,それは執行を猶予するということで構わないということでいいのかどうかという問題も多分あるのだろうという感じがいたします。更に申しますならば,それは施設内で何か社会内処遇にはふさわしくないようなことが何らか発見されてきたような場合に,ではどうすればいいのかという問題も実はあるのかなという感じがしております。そういう意味で処遇という観点からいたしますと,私どもが今いろいろ悩んでおりますのは,仮釈放による社会内処遇とこの一部執行猶予制度による社会内処遇とをどういうふうに連動させ,多分一貫させて処遇させていただかないと,制度趣旨からすると,少しおかしなことになるのではないかという感じもいたしますので,そこら辺をどう整合させたらいいのかという点でございます。その辺りは,制度設計の根幹にかかわる問題でもあろうかと思いますので,御議論いただきまして,御意見をちょうだいできれば有り難いと思っている次第でございます。 ● 先ほど御指摘のあった参考試案第2の3の法定刑を基準にすることですが,全体として宣告刑を決めようとしている以上,その際の基準としては,法定刑に頼らざるを得ないと思います。また,薬物依存の状況が他の犯罪にどのような影響を及ぼしているかというと,それは,恐らくは相互依存関係であって,どちらかがメインであるということはなかなか言い難いように思います。   そういたしますと,一つの考え方といたしまして,参考試案第2の3に当たる場合には,より法定刑の重い罪について施設内処遇を行う。そういったものこそ,例えば,傷害罪のように被害者がいる犯罪が多いでしょうから,まず,そういう犯罪との関係では施設内処遇をすると。そして,施設内で処遇するときには薬物依存性除去のプログラムが履行されていると思いますが,その後に薬物に関する罪の執行をし,それについて一部執行猶予をすることとし,トータルの期間については別の基準で換算することにいたしますと,第2の3でいわれている趣旨を損なうことなく,薬物の依存性も早めに除去して,被害者の感情にも反しない制度ができるのではないかなと思います。そういった意味で,先ほど順次執行ということを申し上げましたが,それは,ここでも関連するアイデアではないか,と考えております。 ● 先ほど,ある被告人が行った犯罪全体が薬物に起因するものかどうかというのは,それを判断できる場合もあれば,判断できない場合もあるというお答えがありました。だから,一定の場合には,そもそもそれを判断させないというのが第2の3の考え方であると思うのですが,しかし,これも先ほどやり取りがありましたように,第2の3に当たらない場合であれば,裁判所は,その判断を行うということになるわけですよね。   もしそうだとすると,ある意味で割り切って,この第2の制度については,法定刑に関係なく,薬物事犯以外の他の罪がある場合は,原則としてその対象外ということにした上で,その罪も薬物に起因していて,一部執行猶予とすることにより,その者の全体としての犯罪的傾向が改善できるという場合に,例外的にその適用を認めるというのがあり得る一つの形かと思います。 そして,裁判所がそれを判断できないような場合は,相当性があるとは認められないということになり,この制度は適用されないことになるでしょうから,裁判所に困難な判断を強いることにもならないのではないでしょうか。 ● どうもありがとうございました。   具体的な形で御提案がございましたので,御検討していただきたいと思います。 ● 保護の問題だけ前面に出ているのですが,矯正の問題も重要であります。矯正と保護の連携の下では,保護だけが浮かび上がるのではなくて,やはり矯正も充実強化される必要があると思います。その点,今日ではなくてもいいですけれども,薬物犯罪者の処遇が矯正の場面で現在どういうふうにされているのか,あるいは,新しい制度が導入されれば,どういう問題点が浮かび上がるのか,あるいは,我々が検討すべき課題は何かといった点をまとめていただければ有り難いと思います。 ● 最後に何か御発言等がございましたら,お願いいたします。全体にかかわっても結構でございますが,なければ本日の審議はこの程度にしたいと存じますが,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はここまでにいたします。次回は,「社会貢献活動を特別遵守事項とする制度に関する参考試案」につきまして,委員・幹事の皆様の御質問・御意見をいただくことといたします。   次回の日時・場所等につきまして,事務当局から御確認をお願いいたします。 ● 次回は,3月24日火曜日に法務省の第1会議室において,会議を行う予定でございます。   開始時刻につきましては,午後2時30分から2時間の予定でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今御案内がありましたように,次回は3月24日火曜日に法務省第1会議室において会議を行うことといたします。   開始時刻につきましては,午後2時30分からになりますので,よろしくお願いいたします。   本日も充実した議論をしていただきまして,誠にありがとうございました。   それでは,本日はこれで散会といたします。   どうもありがとうございました。 -了-