法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会 第21回会議 議事録 第1 日 時  平成21年3月24日(火)   自 午後2時29分                         至 午後4時27分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ● それでは,ただ今から,法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会の第21回会議を開催いたします。    (幹事の異動紹介につき省略) ● 本日は,「社会貢献活動を特別遵守事項とする制度に関する参考試案」につきまして,御議論いただきたいと存じます。   その議論の進め方ですが,刑の一部の執行猶予に関する参考試案の場合と同じように,この試案につきましても, どの部分からでも,あるいは制度の全体についてでも構いませんし,概括的・総括的なものでも結構ですので,委員・幹事の皆様の御質問・御意見などをちょうだいするのが適当ではないかと考えておりますが,いかがでしょうか。   特段の御異論もないようですので,そのように進めさせていただくことといたします。   また,前回の部会で申し上げましたが,2月4日に開かれました法制審議会第158回会議の席上,総会委員から,社会貢献活動を特別遵守事項とする制度に関する参考試案につきまして,「社会奉仕」としていた諮問とは異なり,「社会貢献」とした趣旨はどのようなものか,あるいは,社会貢献活動として具体的にどのような内容を想定しているのか,といった御質問や,逆に,「社会貢献」というと企業の社会貢献活動が連想され,本制度にはなじまないのではないかなどとの御意見もちょうだいしておりますので,今後の審議におきましては,総会における御意見等をも踏まえて,御議論いただきたいと存じます。   議論の前提といたしまして,事務当局において現行の社会参加活動の実施状況等に関する参考資料を用意してありますので,まず,その説明を事務当局からお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ● それでは,現在,保護観察所で行っております社会参加活動の実施状況等について,御説明申し上げたいと思います。お配りしていただいております配布資料39「保護観察所における社会参加活動実施状況」を御覧いただきながら聞いていただければと思います。 これに類似した資料に基づく説明につきましては,本部会の第2回会議でも御紹介申し上げたところでありますけれども,新たに委員として加わった皆様がいらっしゃいますので,改めて御紹介させていただくものです。   社会参加活動は,保護観察処分少年のうち,短期保護観察の処遇勧告がなされた者に対する処遇方法の一形態として導入されたという経緯があり,主に短期保護観察対象者を対象にしているほか,例えば社会性に乏しく,自己評価の低い少年等,活動に参加させることによって処遇効果が期待できる保護観察処分少年などを対象に行っております。   活動の内容としましては,「高齢者等に対する介護・奉仕活動」,「清掃・環境美化活動」,「創作・体験活動・各種講習等への参加」,「スポーツ活動・レクリエーションへの参加」,「農作業・収穫作業への参加」,「社会見学・施設見学」などを実施しております。   これらの活動の企画に関しましては,保護司会,更生保護女性会,BBS会などの団体が関与しておりまして,これらの団体の協力を得て実施しているところです。   資料の(1)でございますが,これは,平成15年度から平成19年度の社会参加活動実施状況の推移を示したものです。近年は,参加人員は1,500人程度,実施側と協力者とを加えた参加者総数では約7,000人程度,実施回数は四百数十回程度で推移しております。   (2)は活動内容の内訳です。先ほど説明したとおりですが,割合の多い順番でいきますと,「高齢者等に対する介護・奉仕活動」,次に,「創作・体験活動・各種講習等への参加」と「清掃・環境美化活動」が同じ割合で,続いて,「スポーツ活動・レクリエーションへの参加」,「農作業・収穫作業への参加」,「社会見学等」となっております。   (3)はその活動の幾つかの場面を写真で示したものです。特別養護老人ホームでの介助の活動の様子,海岸での清掃活動の様子,老人ホームでの車いすの清掃活動の様子でございます。   続いて,具体的な活動の実施状況につきまして,お手元の配布資料40「社会参加活動の実際例」に基づきまして説明させていただきます。   これは昨年行われた比較的直近の活動の事例でございますが,活動内容は,海岸での清掃活動です。参加者は保護観察対象少年が3名,いずれも男子少年です。実施側は,保護観察官が1名,保護司が10名,更に更生保護女性会員2名,BBS会員4名の協力を得て,計20名で実施しておるものです。   活動内容の概要でございますけれども,午前10時に,市民センターのようなところに集合いたしまして,まずオリエンテーションを行い,そこから5キロメートルほど離れた海岸に移動して,ごみ拾いなどの清掃活動を行っています。どの程度のごみが集まったかと申しますと,自動車トランク1杯分ぐらいということです。この活動をお昼まで行いまして,お昼からは近くの公園でバーベキューの形式で,参加者の交流を図るという観点も含めて昼食を採っております。昼食後,参加少年については感想文を作成してもらい,午後2時45分に解散したというのがこの事例でございます。   その参加少年が書いた感想文の一部をそのまま抜粋いたしました。「せまい範囲でしたが,ゴミの量は多い事を感じました。」,「ゴミを拾って,最後にキレイになったのを見ると,気持ちが良かったです。」,「何気なく生活して行ったりする海や駐車場が汚れていることにびっくりしました。これから自分も気を付けていきたいです。」といった 感想が寄せられています。   以上,簡単ですが,実際例を説明させていただきました。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の御説明につきまして,何か御質問あるいは御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 資料39を拝見いたしますと,平成15年の社会参加活動の実施状況と比較しますと,近年減っているように思われるのですが,これは何か理由があるのでしょうか。 ● 実施回数で見ますと,平成15年が593回でしたが,平成19年は414回ということですので減っているというふうにも見ることができると思います。   幾つか要因が考えられると思いますけれども,一つには,なかなか,今御説明申し上げましたけれども,この社会参加活動を実施するのには相当な労力といいますか,実施する側の人員,協力する側の人,それから準備のためのいろいろな場所の設定でありますとか,これが介護の施設を手伝うということですと,その介護施設の場所との調整とか,いろいろ作業があることから,現状でなかなかこれ以上に増やしていくことも難しく,若干減りぎみにあるような状況であるというのが一つの要因かと思います。 ● そのこととの関連で,今回,社会参加活動というものを考えた場合,やはりマンパワーが不足すると,制度をつくっても制度がなかなか動かないのではないかと思いますが,その辺りのことについては今回の計画としてはどういうことをお考えでしょうか。もし決まっていればということなのですが。 ● 現状において決まっておりませんけれども,この部会におきまして,どのような者を対象とするのが適当であるのかとか,その活動の形態でありますとか,その活動の回数というようなものが,その効果を上げるのに適切なもの,内容としてあると思いますので,そのようなことを議論していただいた上で,それに対応できるような体制を整えていくことが必要であると思っております。 ● どうぞ,○○委員,お願いいたします。 ● 資料39の(1)のグラフと,それから資料40がそれにほぼ沿う中身になっていると思うのですが,これらを見ると,保護観察の対象者等の参加人数が1回の実施当たり大体3人ぐらいで,スタッフを含めた参加者総数の方は参加人数の4倍ないし5倍の人数になっています。そうすると,参加人数に対して,実際にはスタッフに当たるような人が3倍ないし4倍の数が必要とされているように見えるのですけれども,これはやはりこういう人数比でないとなかなか難しいということなのか,あるいは何かもう少し別の事情があってこういう数字になっているのか,その辺りはいかがでしょうか。 ● 一概に言えないとは思いますけれども,どちらかといいますと,そのような形でなければなかなか実行が難しいというのが現状であると思います。一つにはこの活動の目的としていることは,集団で活動して,その中でいろいろ声をかけられたりということから得る社会性の獲得というようなことも考えておりますし,そうしますと,ある程度の規模で行うことが必要でありますし,現在は少年を中心に行っている活動でもありますので,少年が活動しやすい雰囲気を醸成するために,ある程度若い人の参加も必要だということで,例えばBBS会に依頼しながら行っているというようなこともありますし,そういったその活動の趣旨,あるいは目的を考えますと,この程度の参加少年とスタッフの割合で実施するのが,今のところ適当であると考えてやっているものです。 ● 重ねてよろしいでしょうか。   例えば,資料40でいうと,スタッフ的な人が17名に対して,対象者が3人ということですけれども,素人なりに考えると,17人もスタッフがいれば,それと同じくらいの数の少年を参加させることはできるのではないかという感じも持つのですが,つまり社会性を身に付けさせるということである程度の規模が必要だということは,先ほどのお答えで分かったわけですけれども,では,これがもう少したくさんの人を一遍にやれないのかという辺り,何か御事情というのはあるのでしょうか。 ● 効率のようなことを考えた場合に,もう少し多くの対象少年が参加できればということはあると思います。保護観察所においても,そのような意味での努力をいたしておりますが,具体的にこの例で申し上げますと,この例の報告によりますと,もともとこの活動においては相当数の少年に働きかけて,6名の少年を参加予定としておりました。実際の活動のときはそのうちの3名が参加したというのが実態でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● この社会参加活動が対象としている少年についてですが,先ほど少しどのような少年を参加させているかということをおっしゃっていたのですが,それは保護局で明文化された基準のようなものがあるのでしょうか,それとも,対象者の選定は各保護観察所の判断に任されているのでしょうか。 ● 現状では,各保護観察所の判断において実施しているところでございます。 ● ○○委員,どうぞ,お願いいたします。 ● この活動は,もともとは,短期保護観察の処遇勧告がなされた少年を対象として始まったということなのですが,実務の感覚からすると,それ以外の一般の保護観察に付された少年については,その対象とするのは難しいのでしょうか。そうだとすると,具体的にどういう事情があるのでしょうか。 ● 難しいとおっしゃるのは,こういう活動に参加させることが難しいのではないかということですか。 ● はい。 ● 一概に難しいと言えない場合もあるのですけれども,難しい例といたしましては,これはもともと任意といいますか,自発的な,例えば,就職あるいは学校を辞めたものの,その後就職活動を続けないで,職にも就いていないで,遊んでいるような少年について,こういう社会参加活動に参加することを通して,もう少し生活を変えるためのきっかけにしたいなという趣旨で,そういうことで少年にも働き掛けたりするわけですけれども,なかなかこういう集団での活動というようなこともありますので,それをおっくうがってなかなか参加しなかったり,もともと生活の習慣として,約束をしてもそれを守らないという傾向も少なくありませんので,今回の事例でも含まれておりますように,当初,参加しますと言っておいても,当日参加しなかったりというような少年でありますとか,いろいろ参加を働き掛けるのに難しい少年がおりますけれども,今,お話がありましたように,一般の保護観察の少年の方に,どちらかといえばそういう者が多いような気がいたします。 ● そうしますと,導入の経緯はともかく,現時点では,必ずしも短期の保護観察少年が原則だというわけではなくて,短期,一般を問わず,それに適した少年を選んでいると理解してよろしいのでしょうか。 ● 一般の少年には,適した少年を選んでいるということでございますけれども,短期の少年については,その裁判所の処遇勧告を頂く中で,課題として社会参加活動ということを言われておりますので,それに基づいて実施しております。 ● 具体例を示していただきましたので,いろいろイメージがわくわけですけれども,ここに参加されているBBS会員,あるいは更生保護女性会員の方々,場合によっては保護司の方もそうかもしれませんが,マンパワーという以上にいろいろとサービスを提供されているのではないか。例えば,5キロ離れた海岸に行く,そのトランスポーテーションですね。車に乗せて連れて行くとか,集めたごみを運んであげるとか,やはりそういう手厚い配慮が必要なものなのでしょうか。 ● 今,お話のありましたようないろいろ細々としたといいますか,内容が必要なのが,この現在行っている社会参加活動であると思います。今,お話があったように,この具体的に御説明した事例におきましても,市内の市民センターに集合して,そこから海岸まで移動しておりますけれども,この移動には確かその保護司の方の車なども利用されていると聞いております。それで,拾い集めたごみの処理等につきましても,最終的には保護司の方を始め,協力していただいている団体の方に相当程度頼っているところが多いのが現状です。 ● 他に御質問,御意見はございますでしょうか。   特にございませんようですので,それでは,「社会貢献活動を特別遵守事項とする制度に関する参考試案」につきまして,どの部分からでも,あるいは制度全体についてでも構いませんので,御発言をお願いいたします。 ● 質問を兼ねてでございますが,参考試案ですと,更生保護法51条2項各号にこちらの案文のようなものを追加するということですけれども,現在の51条2項を見ますと,これに近いものとして,2号があるのかと思います。ここでは労働に従事すること等々で,犯罪性向を改善するような行動を実行し,又は継続することと書いてあるのですが,この2号との関係を意識してここで議論していいのかということを,少し伺いたいと思います。労働と書いてありますが,他の国々でこの種の社会貢献活動を行わせるときは大体無報酬です。それは,労働という概念に入 ってこないかもしれないと思うのですが,我が国でこういう社会的活動を課するときに,場合によりまして,実質的には労働なのですが,無報酬ということで,2号の存在を意識した上で新たな号を追加した方がいいのかなと思いました。この辺り御説明いただければと思います。 ● 御指摘のとおり,更生保護法51条2項2号で想定されている労働というのは,給与等の対価を得て労働に従事することを想定しております。そういった労働を行うことや,あるいは学校に行く,通学をすることなど,そういう通常の健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を行うことを遵守事項とすることによって改善更生を図っていくということを趣旨とするものでございます。   それに対して,この社会貢献活動でございますが,これは無償を想定しております。無償で社会に貢献する,社会に役に立つ活動を行うことによりまして,自分が社会に役立ったというような達成感を得たり,あるいはその相手方の方々などから感謝されるというようなことなどを通じ,自らの自己有用感などを高めるなどして改善更生を図っていく。そういう趣旨のものとして,新たにこのような特別遵守事項の類型を追加することを想定しているものでございます。 ● ありがとうございました。よく分かりました。 ● 「社会的活動」の意味ですが,その前の部分で「地域社会の利益の増進に寄与する」とされています。そうすると,そのような活動は,要するに社会的活動であるように思うのですけれども,この「 社会的」という言葉を特に付けてあることには何か意味があるのでしょうか。 ● このまず,地域社会の利益の増進に寄与するというところが,当該活動が行われる地域の不特定多数の住民の方々の利益の増進に役立つ,そういった活動である必要があるということを示しているところでございます。   その一方で,この社会的活動というところの趣旨でございますが,これは他人と交わることが予定されている活動ということを表すものでございます。その趣旨でございますが,善良な社会の一員としての意識をかん養するなどの効果を得るためには,やはりその地域社会の人々や,あるいは先ほど事例で御紹介がございましたけれども,そのような活動に参加あるいは協力していただけるBBS会の方々とか,あるいは更生保護女性会の方々とか,そういった善意の方々と交わるということが必要不可欠であろうと考えております。そういう趣旨を表すべく,「社会的活動」という表現をとらせていただいているという趣旨でございます。 ● どうぞ,○○幹事,お願いいたします。 ● 参考試案には「規範意識の向上に資する」とありますが,この規範意識というのは,どのようなものとして御提案なさっているのかということをお聞きしたいのと,その関係でほかの法令でこの規範意識という言葉を使っているものがあれば,御紹介いただければと思います。 ● まず,参考試案で示しております規範意識の意義でございますが,これは社会の規範を守ろうとする意識という意味でお示ししております。社会の規範とは,必ずしも法令に定められているようなものに限らず,公衆道徳にわたるようなものも含めて,広く社会の一員が守ることを期待されるというような,そういう決まりという趣旨でお示しをしております。   また,規範意識という用例があるかでございますが,承知しているところでは,学校教育法の第21条及び第23条の中に規範意識という言葉がございます。例えば,第21条は,「義務教育として行われる普通教育は,教育基本法(平成18年法律第120号)第5条第2項に規定する目的を実現するため,次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。」とし,その第1号として,「学校内外における社会的活動を促進し,自主,自律及び協同の精神,規範意識,公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養うこと。」と規定し,規範意識という用語を用いております。 ● ありがとうございます。 ● どうぞ,お願いいたします。 ● 参考試案の概要としては,今,議論の対象になりました「規範意識の向上に資する」という部分と,「地域社会の利益の増進に寄与する」という部分とが一つにつながっているのですが,これは一つのこととして理解する方がいいのか,それとも,規範意識の向上に資するとともに地域社会の利益の増進に寄与するというような,前者は対象者個人の問題であり,後者は客観的な地域社会の利益の問題であるというふうに区別をしますと,何か接続詞でつないだ方が分かりよくはないかという気もしますが,いかがでしょうか。 ● こういう文言の構成にしている趣旨でございますが,まず,その理由を申し上げますと,この参考試案の制度において,保護観察対象者が行うことになる活動というのは,まず一つには,それが社会に貢献する,社会に役立つ活動であるという必要があるものと考えております。その点で,この「地域社会の利益の増進に寄与する」活動であることが必要であります。 また,その活動は,これに従事することによりまして,これは処遇効果の面でございますけれども,「善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資する」ことが期待されるものであることが必要であります。  すなわち,参考試案の制度の活動と申しますのは,「地域社会の利益の増進に寄与する」活動であり,かつ「善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資する」活動である必要があることとなりますので,そういう趣旨を端的に表すことができますよう,参考試案の表現をとったものでございます。 ● おっしゃるとおりだと思いますけれども,今,「かつ」と言われたその部分を表に出して,やはり「とともに」というふうに書き並べる方が分かりやすくないでしょうか。 ● もちろんいろいろな考え方があろうかと思いますけれども,繰り返しで恐縮でございますが,そういう「地域社会の利益の増進に寄与する」活動であり,かつ「善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資する」活動であるということを,端的に過不足なく表現するという観点から,この参考試案としては,こういう構文をとってみたというものでございます。 ● この規定は,更生保護法51条2項の中に特別遵守事項の一つとして置かれるわけですから,当然,それは対象者の改善更生のために必要なものだということが大前提となるわけですね。そうすると,「善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資する」というのは,対象者の改善更生に必要だということを具体化したものだという理解でよろしいのでしょうか。そうではなく,地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動だけれども,この前の部分に当たらないので外れるようなものがあり得るということなのでしょうか。 ● この活動によってどういう処遇効果が期待されるのかということと,その保護観察対象者に個別具体的にいろいろな活動をさせるに当たってどういう活動をさせるのかということとは,表裏一体といいますか,密接不可分な関係でありまして,そういうねらいとする処遇効果が期待できる活動でないとやはり特別遵守事項とするのは相当ではないだろうと考えております。したがいまして,この社会貢献活動がどういうことをねらいとして,どういう趣旨の下に,これを遵守事項とするのかということを明確にする観点から,こういう「善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資する」といったところをここに付加したというものでございます。   それで,更生保護法51条2項の柱書きに,「改善更生のために特に必要と認められる範囲内において」とございますけれども,保護観察対象者の改善更生を図るためには,その問題性に応じ,様々な処遇の手段があると考えられます。その一つとして,例えば,この4号では,いろいろな処遇プログラムを通じて,特定の犯罪的傾向を改善することによって改善更生を図っていくというものです。それに対して,この社会貢献活動につきましては,こういう社会に貢献する活動を行うことを通じ,自らの自己有用感を高めるなどして,善良な社会の一員としての意識のかん養と規範意識の向上を図ることによって改善更生を図っていくというものです。ですから,同じく改善更生を図るということでも,それを実現するための道筋といいますか,手段には違いがありますことから,そういったところをより明確に表しているという趣旨でございます。 ● 先ほど地域社会の利益の増進の部分について,不特定多数ということをおっしゃっておりました。先ほど御報告のありました,少年の社会参加活動の具体例などを見ますと,特別養護老人ホームでの介助活動ですとか,農作業,収穫作業の参加などもなされております。そうすると,例えば民間企業が経営している老人ホームですとか,特定の個人の畑への参加というのは,この要件からすると,除外されるという理解でよろしいのでしょうか。 ● まず,その民間企業で,例えば福祉施設を経営している場合があろうかと思いますけれども,その事業の内容が当該地域の福祉の充実に寄与している事業活動であれば,そこでその事業活動を補助することは,とりも直さずそのような地域社会の福祉の充実に寄与することになろうかと思いますので,その事業主体が仮に民間企業であったとしても,この参考試案の「地域社会の利益の増進に寄与する」というものから排除されることにはならないと考えております。要は,その事業内容が地域の福祉の充実あるいは向上に寄与している事業であれば,その事業活動を補助することは,この試案に当たってくると考えております。   他方で,今,おっしゃられたのは農作業でしたか。 ● はい。 ● その農作業が,単にその地主の方と申しますか,そこで稲作をしておられる方個人のお手伝いをするにとどまるということであれば,もちろん事案とか,その地域における稲作の位置付けなどによるのかもしれませんけれども,一般的には,この「地域社会の利益の増進に寄与する」と言えるかどうかは微妙なところなのではなかろうかと思っております。 ● 参考試案では,社会的活動を一定の時間行うことと記載されていますが,一定の時間というのは,上限があるのですか。 ● この参考試案の「一定の時間」の趣旨としては,特別遵守事項として,この社会貢献活動を課すに当たっては,それは一定の時間に限定され,定期のものとする必要があるということを表すために,この「一定の時間」ということを記載しております。今,委員がおっしゃったのは,一定の時間というのに上限があるかどうかということかと思いますけれども,保護観察対象者の改善更生のために社会貢献活動をするに当たって,その活動をどの程度の時間行えば,その人の問題性を解消するのに役立つと言えるのか,所要の処遇効果を得ることが期待できるのかというのは,その人の問題性等に応じて様々であり,一概に言えないというところがあろうかと思われますので,そういった上限を法令で一律に定めるのはなかなか難しいし,より柔軟な運用を確保する観点からも適当ではないと考えられます。ただ,かと言って上限がないというようなことの相当性にはまた問題があるかもしれませんので,そこは例えばでございますけれども,通達等によって,その基準なりを示すことを検討する必要があるのではなかろうかと考えております。 ● その場合,刑罰としての社会貢献活動,あるいは刑罰の条件としての社会貢献活動と,遵守事項としての社会貢献活動には,おのずから時間のその最大限のリミットの部分にかなり違いがあるのではないかという気がするのですが,その辺りはどうですか。 ● その趣旨は何ですか。 ● 例えば英国ですと,40時間以上240時間,今300時間ですか。韓国ですと,500時間とかなり長時間にわたる社会奉仕なり,社会貢献が実際上命じられている例があるのですが,遵守事項としての社会貢献活動といった場合に,そういう上限というのは,かなりきついのではないかというような,要するに刑罰,あるいは刑罰に類似の形の社会貢献活動の上限と違い,保護観察の遵守事項としての上限というのについては,恐らくもっと時間的には短い時間が最大限になるのではないのかなと感じるものですから,御質問申し上げています。 ● 結局,社会貢献活動をどういう趣旨の下に導入するのか,どういう法的位置付けにするのかというところにかかってくるのかなと思っております。ただ,刑罰とするからといって,必ず相当長くなるのかというと,例えばその刑罰の重さをどう考えるのかというところにもよろうかと思います。この参考試案の制度はあくまでも保護観察対象者の処遇の手段として,その改善更生・再犯防止を図るために,その問題性を解消する手段として導入するということから考えておりますので,おのずからその制度の趣旨から導かれる時間数等というのはあるのではなかろうかと。ただそれが具体的にどれだけかと申しますと,事案ごとに様々であり,なかなか一概にはお答えしにくいかなとは思っております。 ● 今のこの参考試案で想定されている活動がその改善更生に資する活動であるという趣旨を御説明したところでございますけれども,先ほど具体的に御説明申し上げました社会参加活動は,正にそういった趣旨で行っているものでございますので,現状を御説明いたしますと,現在は,任意で自発性に働き掛けて,自発的に行うというような形態をとっていることもありますけれども,例えば介護の施設でそれを手伝うというようなことですと,半日4時間程度,公園での清掃ということになりますと,これも活動内容によりますが,長くて半日4時間程度から,先ほどの事例のように2時間程度というのが通例で,実際の活動は1回限り,単発で終わってしまうのが多いと思います。こちらとしては何回か働き掛けて,実際にもやってみたらいろいろ感じるところがあったと言って,その少年が続けることもありますけれども,基本的には1回であることが多いと思います。   一方,これはまた違いますけれども,少し話も出ている処遇プログラムの場合ですと,これも前回少しお話しさせていただいたとは思いますが,基本的に5回の実施回数で成り立っていて,その前にオリエンテーションのような活動もしますので,全体で6回ですか,これを2週間程度おきにやって,その継続的な活動によって,例えば薬物に対する態度の変容を図るとか,性犯罪的な傾向についての認知の改善を図るとかというようなことを目的としてやっておりますので,そういった改善更生というものの,その態度の変化というふうに類似して考えた場合には,一定の回数といいますか,時間といいますか,が要するというふうに想定することもあり得ると思います。 ● 今,御指摘の点ですが,恐らく刑罰なのか,あるいは改善更生目的なのかという,目的が当然違いますし,恐らくはそれに応じまして,その活動の内容が全く同じかという問題もあるのかなと考えられます。刑罰ですから,一次的には苦痛を与えるという要素がどうしても入るということもありましょうし,そのように目的とか活動の内容自体も異なるということなので,刑罰だから長くてもいい,改善更生なら短くてもいいと,一概に言えるのかという感じは受けますけれども,いずれにしましても,刑罰であれば刑事責任の範囲内である必要があると。それから改善更生目的の場合でも無制限にできるわけではございませんので,今,説明がありましたように,改善更生に必要な範囲ではやらなければいけませんし,必要のない長期に及んではならないということも一方ではそうですので,それぞれの趣旨,目的,活動内容等々に応じて時間が決まってくるのかなという印象を受けます。 ● どうぞ,お願いいたします。 ● 参考試案によれば,社会貢献活動を更生保護法51条2項に加えることになるわけですが,先ほど51条2項について,2号の「労働に従事すること」などと規定しているのに類似しているのではないかという御指摘がありました。その点はそのとおりだと思いますけれども,しかし別の見方をしますと,2号の場合はどういう労働をするかということは,対象者本人が判断してやれば済むことでありますけれども,社会貢献活動の場合には,やはりどこかで指示を受けてそれに従ってやることになると思われますが,その意味では4号の医学等々の専門的知識に基づく処遇を受けること,あるいは,5号の一定の期間施設に宿泊することなどとむしろ近似しているのではないかと思います。4号,5号は共通して,法務大臣の指定というような観念が表れていて,この社会貢献活動に対しても,その具体化はどこかで具体的な指示を出して,それに従ってもらうということになるのだろうと思いますが,その辺の具体化の手順というのはどういうことになるのでしょうか。 ● 更生保護法51条2項の柱書きにおきまして,1号から6号まで,今度この参考試案が入れば7号までになるかもしれませんけれども,こういう各類型を踏まえて,保護観察対象者の改善更生のために特に必要と認められる範囲内において,具体的に定めるものとされておりますので,例えば保護観察付執行猶予の者につきましては,裁判所の意見に基づいて保護観察所の長が定めることになっておりますので,保護観察所の長が裁判所の意見に基づきその対象者の問題性等を踏まえまして,社会貢献活動につきましても具体的に定めることになろうかと考えております。 ● そうしますと,先ほど取り上げられた一定の時間の問題についてもそこで決められるわけでありますが,法律はそれに対して何らか上限を設定しておくとか,そういう必要はないのでしょうか。 ● もちろん,刑罰であれば,これは当然法定刑ということになりますので,法律上何時間以内という形で一定の上限が必要になってくるのであろうと考えております。ただ,この社会貢献活動につきましては,あくまでも保護観察対象者の処遇の一手段として,遵守事項として義務付けることを考えております。   結局,社会貢献活動に従事することによりまして,その改善更生の意欲を高めるといった処遇効果を得るのに必要な活動の時間数というのは,やはり個々の保護観察対象者の問題性とか,あるいは行わせる活動の内容等に応じて異なるのではないかと考えております。したがって,その上限としてど れぐらいがあればいいのかということを,一概に述べることはなかなか難しい問題があるであろうと思われますし,保護観察所の長の判断で,事案ごとの問題性等に応じ柔軟な運用ができるようにしておく必要もあろうかと思われます。   そこで,法令に具体的な時間数の上限を一律に規定するのは適当ではないのではないかと考えておるのですけれども,ただその一方で,やはりし意的な運用を排除したり,あるいは人権保障を担保するという観点からは,この社会貢献活動は不定期ではなくて,定期のものである,一定の時間に限られるということを,法律に規定しておく必要があるであろうと考え,参考試案といたしましては,「一定の時間」という形で示させていただいたというものでございます。 ● ○○幹事,何か補充することがございますか。 ● 今のお話を前提といたしまして,保護観察所としてどうかということでございますと,その現状等にかんがみまして,例えば保護観察を受ける,保護観察といいますか,活動を行う対象者のその活動内容あるいはその時間数について,一定,画一的であるとか平等であるとかというのを担保する必要があると思いますので,そういう意味で時間数とか活動内容,それから活動内容に対応する,どういうような類型の人なのかというようなことを,あらかじめ何かの形で告示あるいは通達等によってお示しして,意見を伺うというようなこともあり得ると思いますし,あるいは,先ほどお話がございましたように,その改善更生の処遇効果を上げるために必要な活動の時間,内容というのは個別に異なるものなので,そういう意味で,その時間数について,上限のみを告示とかあるいは通達のような形で示しておいて,その範囲で保護観察所が柔軟に運用し得るような形という,おおむね二つが,例えば想定されるかもしれませんけれども,そういうようなことのうちのどちらが適当なのか,社会貢献活動をすることとなる者の動機付けの問題等,いろいろあると思いますので,これらを勘案して,どのような枠組みが適当なのかについて,是非御意見をお伺いできればと考えております。 ● 保護観察付執行猶予を受けた場合には,執行猶予期間が最大5年間あり得ると思います。その5年間,例えば毎週休みの日には,この社会貢献活動をずっとしなさいというようなことが,この条文だけだとできてしまうのかなと。それが本当に改善更生に資するのだろうかと,少し例外的な運用かもしれませんけれども,危ぐを持ったりするのですけれども,そこら辺に対するイメージですね。5年間の執行猶予期間がある人がどれぐらいの分量の社会貢献活動をするというイメージなのか。そこら辺,具体的なイメージと,それを全部保護観察官を信用して丸投げしてしまっていいのか,ちょっと若干不安が残るのですが,いかがでしょう。 ● やはりその保護観察対象者の方の問題性がどういうところにあるのか,その程度はどの程度のものなのか,あるいはそこで従事させる活動の内容がどういうものをさせるのかといったところによって,所要の社会貢献活動の時間数はやはり様々だと思われますので,例えば今おっしゃったように,毎週やらせる必要があるのかどうかとか,そういったところを一概に申し上げるのはちょっと難しいかなと思っております。   ただ,この特別遵守事項は,更生保護法51条2項にもございますけれども,保護観察対象者の改善更生のために特に必要と認められる範囲内において具体的に定めるものとされておりますので,必要以上のものを義務付けることは許されませんし,また,余り過剰なものをやって,かえってその改善更生に資さないということになれば本末転倒ということにもなりましょうから,そういった観点からやはり必要かつ相当な範囲内にそれはおのずととどまってくるのではなかろうかと思っております。 ● 時間の上限を一律に決めるのは難しいというのは,そのとおりだと思います。対象者の状況に応じた適切な時間数の設定という観点からは,これは特別遵守事項ですから,後に変更することは可能なわけで,例えばある時間を設定しておいたけれども,途中までやったらもうこの人は十分だとなれば,その時間数を減らすとか,あるいは逆に増やすといった形で,特別遵守事項を変更することもあり得るという理解でよろしいのでしょうか。 ● 御指摘のとおりです。 ● 今のお話の場合のように,あらかじめ設定した時間を増やす場合と,もう十分だと言って減ずる場合というのはあり得ると思いますけれども,減ずる場合については差し支えは特にないのですけれども,増やすということになりますと,途中でそれを当該本人がやる気が起きるようにできるのかなど,その動機付けの問題等もございますので,かなり難しい面もあろうかと思います。 ● どうぞ,○○委員,お願いいたします。 ● 社会奉仕命令をやった国々の実施状況を見ると,当初,例えば1年以内に240時間という形でやっていると思いますので,決め方として,例えば5年間もその社会奉仕命令を実施するということは,私はあり得ないと思います。したがって,1年以内とかあるいは半年以内に,総時間数幾らという大体の目安というのはやはり決める必要があるのではないか。つまり,少なくとも上限はやはりある程度この程度だというふうにしておくべきです。社会に徹頭徹尾奉仕しなさいみたいな内容になる必要はないし,またそれは相当ではないと思います。無論,時間数は対象者をどういうふうに選定するかに関係しますけれども。   各国の実施状況を見ると,対象者は比較的重く感じるようですね。ハードレイバーと同じだったというような新聞の見出しを昔,見たことがあるの ですけれども。仕事を持っている人にとっては,月曜日から金曜日まで働けません。また,今の社会参加活動も,土曜日が一番多いと思うのですけれども,恐らく土曜日の午前,午後に多くなると思いますので,それほど長時間にわたることを考えるのは相当ではないと考えます。 ● どうもありがとうございました。 ● 議論が戻って恐縮ですけれども,社会的活動という言葉の意味についてですが,先ほどの御説明ですと,他人と交わることが社会的という言葉によって予定されているということだったのですけれども,社会性の欠如が問題となっている非行少年について,現在行われているような社会参加活動を行うということであれば,確かにそのようなことが必要なのかなと思うのですけれども,そういう類型に法律で限定する必要があるだろうかという点については,少し疑問を持っております。先ほど対象者の問題性というのは様々であるという御発言もあったわけですけれども,善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資するということだけであれば,一人で,例えば公園で清掃活動を行うということであっても,改善更生に資する場合はあり得るように思いますし,それから,御紹介のあったような社会参加活動ですと,非常に実施する側の負担が大きくて,法律で規定してもなかなか広がらないのではないかというような気もいたしますので,その点は少し検討する必要があるのではないかという気がいたしております。 ● 対象者の選定の基準は何なのでしょうか。対象者の特性というか,そこに重点があると考えてよろしいでしょうか。つまり,国によっては犯罪の類型というか,例えば薬物犯罪とか性犯罪とかは除外するとか,そういう形で規定されるところもあるかと思うのですけれども,ここで想定されているのは,そういう対象者の個別な特性に着目して,特別遵守事項という枠組みを中に入れると,こういうふうに考えてよろしいですか。 ● 参考試案の趣旨を前提といたしますと,この制度の対象となるような保護観察対象者というのは,善良な社会の一員としての意識あるいは規範意識に乏しくて,この社会貢献活動に従事することがその改善更生のために特に必要と認められる者というように,一般的には言うことができるのだろうと思っております。その意味で,今,委員の御指摘のように,犯罪類型というよりはその人間の問題性の所在,その人間の特性といいますか,そういったところに着目して,適当な対象者かどうかといったところをも判断していくのではなかろうかと思っております。   では,具体的に,どういう類型の者がこの社会貢献活動に適切なのかといったところにつきましては,この部会でも十分御議論いただいて,そういった御意見も踏まえながら,その運用の在り方を検討していくのが適当だろうと思っておりますので,まずはこの部会でもいろいろ御意見をちょうだいできればと思っております。 ● ○○委員の発言に触発されて話を申し上げますが,結局,社会的活動という形になってしまうと,恐らく今行われている少年の社会参加活動の延長線上での成人の対象者を考えるという形で,ある意味で狭い意味での対象者の選定になるのではないかという感じがしないでもないですね。そういう意味ではもうちょっとこの用語は変えてもいいのかなと,要するに,もっと幅広くやることは可能ではないだろうかと思っているのですが。 ● 同趣旨の発言ですけれども,保護観察官をもっと法律を定めるのに信頼を申し上げてもいいのかなという感じがしております。要は一定の活動を一定の期間行うことという,ちょっとそれだと余りにも漠とし過ぎていますけれども,改善更生に資する活動ということは柱書きで明らかなわけですので,あとなかなか適切な活動を見付けるのは,現場では大変な御苦労が予想されますので,余りこの活動の中身について法令で縛りをかけなくてもいいのかなと考えております。 ● 今の御意見は分かりますけれども,ここの地域社会うんぬんという言葉が出てくるのは,これは一種の開放処遇でありますので,やはり地域の協力というか,賛成といったものがどうしても必要になってくると思います。社会内で処遇するというだけではなくて,それは同時に地域社会にも役に立つことをさせますという断り書きが必要なのではないかということです。 ● この参考試案をつくらせていただいている事務当局の立場で一言申し上げますならば,更生保護法第51条の特別遵守事項の規定は,そもそもこれは義務付けるわけでございまして,現在行っている任意のものとは全く法的性格が違うということは十分意識しているつもりでございます。   先ほど来御指摘がございましたように,更生保護法第51条ではそれぞれ規定されていますのは,例えば一番似ているのではないかとおっしゃっていただいた4号の,いわゆる専門的処遇プログラムの規定といったものでございますが,これはおのずとその対象者がどういう者であるかというのは限定されてくるわけです。要するに犯罪の性質によって大体限定されてくる。しかも,何をやらせるかということについても,法務大臣が定めなさいということで縛りをかけています 。ここまでやはり厳しく,対象者はこういうふうにしなさい,やらせることはこういうふうにしなさいというふうに,ある程度厳格に定めさせていただいているというのは,やはりこれは特別遵守事項でございますので,執行猶予,仮釈放等の取消しという,不良措置ということは当然の前提になってくるということがございますので,正に対象者の権利義務との大きなかかわりを持つ規定であります。したがって,ある程度縛りをかけていかざるを得ないということになろうかと思います。   そういう意味で,この社会貢献活動を規定するのに当たっては,できる限り,対象者がどういう者であるか,どういうことをさせるかということが明確化していないと,やはりこの更生保護法第51条の特別遵守事項として果たしてよろしいのでしょうかというようなところもございまして,こういうような縛りというか,限定をつけさせていただいているというふうに理解をしているところでございます。 ● 例えば,かなり芸能的なエンターテインメンターが何か問題を起こした場合に,私は自分で非常に悪いことをしたんだ,何か世の中に役立つことをしたいということで,刑務所で慰問することも,これは社会貢献活動になるのでしょうか。 ● それは,地域社会の利益の増進に寄与すると言えるかどうかというところかと思いますが,かつ,そうすることによってその芸能人の方が,単に今まで自分がやっていた芸能活動の延長線上ではなくて,そうすることによって更にその改善更生に資するということが言えるかどうかというところになってくるのだろうと思いますけれども。ですので,それは具体的な事案ごとの判断とならざるを得ないように思われます。 ● 今の御質問,御意見にも関連するのですけど,地域社会の利益の増進とお書きになったのは,関係官も御指摘のように,元は恐らくコミュニティサービスオーダーということを意識されているのだろうと思います。   でも,例えば公益奉仕労働という,もう少し広い意味で,地域に限定せず自分が存在している社会全般に対して償いをするというイメージで制度をつくっている国もありますので,私は今,○○委員が言われたようなものも入ってきていいのだろうと思います。また,別の論点にも関連する発言になりますが, ここでは対象者の属性ごとの社会貢献活動を念頭に置いておられますが,それとともに,犯した犯罪との対応は否定されるわけではないでしょうから,今のような特技を持っている方はそれで償いができるかもしれません。典型例としては,前から申し上げていますように,落書きをした,バンダリズムをしたようなとき,すなわち器物損壊のときには,他人がやった器物損壊の結果を消して回るというふうなことも考えられるでしょうし,図書館で本を破った人は図書館で修復作業をするということもあり得ますので,要は,この部会で,言葉の趣旨は合意する必要があると思うのですけれども,想定されたプランを執行するときには,地域社会であるとか社会的という言葉に限定されなくてもいいのではないか,という気はしております。 ● 諸外国の例では,いろいろな活動の事例はあるのだろうと思いますけれども,先ほど来,話が出ておりますように,現在想定しております社会貢献活動は,特別遵守事項として義務付ける活動でございますので,その活動を実施しなかった場合に不良措置が執られることも前提に行う活動であるということを考えますと,やはりある程度保護観察所においてきちんと一定の活動をしていて,一定の枠組みで,一定の時間数をしているというようなことが把握できることが必要であるということも,ある程度想定できるのではないかと思います。一方,そういった,また直感的にはしょく罪的な活動のようなイメージを持ったのですけれども,そのような活動につきましては,保護観察の中でも任意の活動としてやっていただくということは可能であろうかと思います。 ● 感想程度でございますけれども,「地域社会」という用語にそれほど強い限定の意味はないとは思うのですけれども,むしろ今の芸能人の例で言うと,そういうことをやって善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資するといえるのかなという,そこがきちんとそういうものなんだということであれば,それも入るということなのかなという印象ですけれども。 ● どうもありがとうございました。   社会貢献活動を遵守事項の中に取り込むという形で議論が進んできていて,その中に,社会の一員としての意識のかん養などに役立つかどうかという視点も入ってきた場合,この社会的活動というものの枠付けの点が議論されているわけですが,その点についてどうぞ御自由に御発言いただきたいと存じます。先ほど○○先生からも御指摘がございましたが,それを踏まえて御意見をちょうだいしたいと存じます。 ● 今日は,保護観察所における社会参加活動の実施状況をお話しいただいて,大変有益だったと思いますけれども,ただ今やっておられる社会参加活動は,対象者の同意を得るのが前提でございましょう。その点で,ここで議論している問題とかなり質的な差異があるという気がいたしますが,その意味で,これは刑罰ではないという前提ではあるのですけれども,若干の制裁的要素を含んでいるとすれば,例えばその不服申立ての方法などをどこかにつくっておかなくてもいいかという気がいたしますが,その点はどうでしょう。 ● 社会貢献活動は特別遵守事項として義務付ける活動でございますので,特別遵守事項の設定については不服審査の申立てができる制度となっております。 ● 今のお話と多少関連すると思うのですが,具体的にどのようなケースで,どのような人にこの社会貢献活動が命じられるのかというイメージが,ちょっと共通のものなのかどうかがよく分からないのですが,特に執行猶予付判決の場合ですけれども,法廷で刑事手続の中で全く話題にもならないのに,裁判官の方で多分保護観察所の方に意見を言うということは余りないのかなと。裁判所からの意見がないときに,付けるようにというような意見がないときに,保護観察所で保護観察官の方が付けることになるのかどうかですとか,そうすると,恐らく検察官の方から付けたらどうかというような話になるよりは,弁護人の方からこれを付けてもらってもいいので執行猶予をくださいという形で使うことになる場面が多いのかななどというようなところが,ちょっと,実際どういうような運用になっていくのだろうというのが,弁護人というんですか,弁護士としては気になっておりますので,まだ制度を議論している最中で運用の話ではないのかもしれませんが,そこら辺についてもし関係者の方でイメージがあれば,お述べいただければと思います。 ● 先ほど不服審査の話がございましたが,その不服審査は行政不服審査法上の不服審査でございます。その不服審査の対象になるという点を補足させていただきます。   それと,ただ今の対象者の話でございますが,先ほど私の方からも,具体的にどういう類型の方が適当と考えられるのか御議論いただきたいということで申し上げたところでもございますが,この参考試案を作成した立場から,御参考までに,例えばどういうものが想定されるのかについて,あくまで例でございますけれども御紹介させていただいて,その上で皆様の御意見を伺うことができればと考えております。まず,自己の社会的価値に関する劣等感や,社会からの孤立感が強く,改善更生の意欲に乏しいような者という類型が考えられます。   続いて,暴走族の構成員など,自己中心的・反社会的な価値観を有している少年,あるいは若年の成人という類型が考えられます。   さらに,家庭もあり,正業もあるものの,例えば,道路交通等の法令に関する規範意識が乏しく道路交通法違反等を繰り返しているような者という類型も考えられます 。   もちろんこれらに尽きるところではないと思われますが,参考試案の趣旨を前提とすると,今申し上げたような類型が考えられるのではなかろうかということでございます。 ● 先ほどおっしゃった手続面で補足させていただきたいのですけれども,現在の保護観察付執行猶予者について,特別遵守事項を定めるときの手続でございますけれども,これは裁判所から意見を頂いて,その意見の中から保護観察所の長が設定することになっております。その実際の運用は,裁判所との共通認識の下にといいますか,裁判の確定前に意見の見込みを頂いた上での打合せの下に,裁判確定後裁判所から頂いた意見を基本的に尊重して特別遵守事項として定めている運用でございます。 ● その場合,交通法規違反とかそういう犯罪類型によってはある程度のことが分かると思いますが,それ以外のところで社会貢献活動に適するかどうかということを,裁判所が判決前調査をなくして可能なのかどうかというのは,かねてから議論されていたのですが,その辺りのところを裁判官の委員の方に御意見を伺えればと思います。 ● 先ほど少し言い逃した点が一つございます。特別遵守事項の設定でございますけれども,法律上,事後的に付加又は変更できる手続にはなっておりますけれども,現在の運用は,当初に裁判所から頂いた意見のもので設定し,その変更の手続をとる場合は,非常に特殊なその後の事情の変化があったような場合,例えば,それまでに全く問題となっていなかったような暴力組織の人との交際が始まったということが認められたような場合に,そういうことを禁ずる特別遵守事項について,裁判所に意見を求めた上で定めているのが実情でございます。一般には,その保護観察に付される執行猶予者にこれを守らなければいけないというような動機付けを持たせるには,裁判直後が効果的ということもありまして,当初の裁判所意見によって特別遵守事項を定めているというのが現状でございます。 ● 先ほどの御質問に関連して,事務当局としてどう考えているかというところですけれども,保護観察付執行猶予を言い渡された者については,結局はその制度趣旨をどうとらえるのか,それを前提に,公判において当事者がどういう主張・立証するのかというところによってくるのかなと思っております。   すなわち,制度の趣旨を前提として,その公判の中で,例えば犯行の動機がどうであるのかとか,その被告人の前科・前歴はどうであるのかとか,あるいは生活状況がどうであるのかとか,そういったところが恐らく立証されることになるものと思われます。そのような立証を踏まえて,裁判所が,これは判決後の話になるかもしれませんけれども,保護観察所に対し,特別遵守事項の設定に関し,しかるべき意見をおっしゃることになってくるのではなかろうかと思います。ですから,制度趣旨と当事者の主張・立証によってくるのではないかと考えているところでございます。 ● 裁判所はどうかとのお尋ねですが,もともと立法の段階で,これはこういう人に,例えば今問題になっているこういう社会貢献活動をすべきだという,こういう法制度の趣旨を御説明いただいて,それで立法していただいて,そういう証拠をお出しいただくということなんだと思うのです。ですから,何もないところで裁判所はどう判断するんだと言われても,これはあくまで立法なので,それはやはりその制度趣旨を当然明らかにして立法されるのではないかと思うのですけれども。 ● そうすると,先ほど○○幹事から話があったように,恐らく弁護人の方から,具体的にこの人はこういう犯罪を犯したけれども,こういう事情でこういうことがあって,彼はこういう特技を持っていてこういうことがやれるので,こういう仕事をやらせたらどうかということを,具体的に主張・立証するということになるのですかね。 ● ○○委員,どうぞ,お願いいたします。 ● 裁判所が何かを判断するについても,それから弁護人が主張するについても,具体的にどういう作業が現実に可能なのかというイメージがある程度ないと,それは主張もできないと思うのです。韓国などでは,保護観察所から裁判所に対してこういう受入場所があるということを定期的に通知するようになっているのですが,そのようなことというのは考えられるのでしょうか。例えば,今の社会参加活動の場合に,委託先があるわけですが,そこの委託先というのは,先ほどの話ですと,例えば1回だけ受け入れるのか,あるいは何度も受け入れているのか,そこら辺の状況が裁判所に分かるのかどうかというところなのですが。 ● そのような点につきましては,要請があれば,例えば受入場所の状況がどのようになっているのか,それはどの程度の頻度で活動可能なところなのかとかというようなことにつきまして,一般的に御説明することは当然できると思います。 ● 先ほど○○幹事が社会参加活動の実施状況の中で,裁判所の勧告に基づいて行われているという趣旨のことを言われたと思うのですけれども,その裁判所の勧告というのは,具体的にどういうアクションなのでしょうか。 ● 裁判所の勧告で行われていますのは,少年の,短期の保護観察の場合でございます。これにつきましては,その処遇勧告の中で,こういう社会参加活動をさせることが保護観察の課題ということで示されておりまして,それに基づいて実施しているものでございます。 ● 勧告に至るそのプロセスはどのようなものですか。裁判官にとって,いろいろなアクションの中で何がキーポイントになっているでしょうか。 ● これは処遇勧告として頂いているものでありますけれども,裁判所において処遇勧告としてその内容を決めるに当たっては,恐らくでありますけれども,少年につきましては,少年調査記録を私どもも頂いて,それを処遇の参考にさせていただいているわけですけれども,先立ってそのような充実した調査があるわけですので,そういうものに基づいているのであろうと想像しております。 ● そうしますと,弁護人が先ほどやるべきだということになると,裁判所の社会調査記録と同じような形のものを弁護人が用意するというのは,これまた大変な作業で,我々の弁護活動が非常に難しくなるような気がするのですが。 ● いや,今の場合は,少年の処遇勧告ですから,当然少年の審判段階での調査があるというお話であったと思います。保護観察付執行猶予者の場合は,現在の特別遵守事項には,いろいろな類型があるのでございますが,基本的に公判段階での主張・立証を踏まえて,裁判所が特別遵守事項の意見を判断するという形になっておりますので,基本的にはそれと同様であろうと思います。   先ほど来,話が出ておりますが,制度の趣旨,あるいは具体的に明示している対象者としてはどのような者があるのかといったところや,先ほどお話も出ましたけれども,その具体的な地域の保護観察所ではどのような活動が可能なのかということを踏まえて,弁護人の活動としては,この被告人の改善更生という観点から見ると,例えばでありますが,刑務所に入れる必要はなくて,保護観察に付して,こういう社会貢献活動をすれば十分改善更生が可能であるという主張・立証が考えられるということなのではないかと思いますので,そのような主張・立証がおよそ不可能というものではないのではないかということであります。 ● 先ほど事務当局から対象者についての三つの類型の提示がございましたが,それを踏まえて何か御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 少し戻ってしまうのですが,社会的活動の意味に関連して,事務当局から,この社会参加活動の対象者としてどのような者が想定されるかということで,三つの類型が挙げられました。このうち,暴走族の構成員ですとか,道交法違反を繰り返すような者については,その規範意識を向上させるという観点からすれば,必ずしも他人と交わるような活動である必要はないように思います。もちろん,自宅で何かやるといった活動ですと,遵守事項違反があったかどうか確かめようがないので,そのようなものは外れると思うのですけれども,例えば,先ほど出ていたように,公園を一人で掃除するとか,どこかのペンキを塗るといったことは,規範意識の向上という観点からすれば,除外する理由はないと思います。他人と交わることが絶対条件というか,前提になるとまで厳しく考えなくてもいいのではないでしょうか。 ● 規範意識の向上のために,例えば,いろいろな公共の場所の掃除をして,たばこのポイ捨てとか,そういう社会に迷惑のかかるようなことが,そういうルールを破ることがいろいろな害悪をもたらしていることを認識するという意味では,一人でやってもということはあるのかもしれませんけれども,それのみならず,この社会貢献活動の趣旨としましては,やはり社会貢献活動を行うに際して様々な他人と交わる,例えば,介護補助の局面では,介護を受ける方がいらっしゃいますが,そういった方と接触し,障害等を持っていながら懸命に生きておられる,あるいは,そういう方から感謝されることなどを通じ,他人を大切にするという気持ちをはぐくんでもらうということも処遇効果として期待しております。そして,そのように他人を大切にすることが恐らく他人の集まりであるところの社会のルールを守るという規範意識の向上につながることを期待しております。さらには,やはり保護司の方,BBS会の方,更生保護女性会の方など,善意で社会のために尽くしていらっしゃる方がいて,そういった方を見て学ぶというところもあるだろうと思います。そういう様々な局面で,より一層の処遇効果を上げるということを考えて,やはりそれは単独でというのではなく,他人と交わる社会的な活動ということが望ましいのではないかと考えているところでございます。 ● それが望ましいのはおっしゃるとおりだと思うのですが,それに限るとまで言う必要があるのでしょうか。 また,他人と交わるというのも,どういう意味なのか,よく分からないところがあります。例えば,3人の保護観察対象者が公園の掃除をし,一人の保護観察官が,それをしっかりやっているかどうかを見ている,ボランティアの人は全く参加していないというような事例の場合はどうなのでしょうか。これは,3人でやっていて他人と交わっているから,社会的活動に当たるということになるのでしょうか。 ● 自分一人ではなくて,3人でやり,また,その場所を例えば地域の方などが通り掛かって,ああ,きれいにしてくれているねというような声を掛けることなどが考えられるのであれば,他人と交わることが予定されていますので,「社会的活動」に当たると言ってもいいのではないかと考えております。 ● 私も○○委員の御意見と全く同じで,より望ましい処遇類型があり,実施側の人員も十分あって行われるのであれば,それはそれで望ましいことだと思うのですが,法律であらかじめそれに限定してしまうということに,非常に違和感があります。ある処遇類型に法律で最初から限定してしまう必要があるのでしょうか。法律では,もう少し広めに規定しておいて,実施できるのであれば一番望ましい形態で実施する方がいいのではないかという気が,話を伺っていてどうしてもしてしまうのですけれども。 ● 一人の保護観察官の下で保護観察対象者一人がやっているということでも,ここで達成しようとしている効果は実現できるのではないかと思うのです。先ほど3人を一人が監督するということでしたけれども,一人がやって,例えば保護観察官の方は人手が足りないので,幾つかの場所を回ってチェックをすると。最終的にそれがこの目的に合っているかどうかチェックされれば,事後的ではありますが,社会貢献活動としての意義を持つものとして許容されるのではないかと思います。結論として,意見ですが,○○委員と○○委員と同じように思っているところです。 ● ただ今の点は御意見でございますので,いろいろ御議論いただければと思いますけれども,少し補足させていただきますと,先ほど出た暴走族構成員等の自己中心的・反社会的な価値観を有するものという類型ですが,これは必ずしも規範意識の向上のみを意識した例とは限っていないということでありまして,やはり善良な社会の一員としての意識,社会の一員としてみんなで支え合って生きている社会だということを意識してもらう,理解してもらうという意味合いがかなり入っている例であるということを申し上げたいと思います。   それから,望ましいのはそうではないかという御議論ではありますけれども,これは先ほども出ておりましたけれども,やはり特別遵守事項でありまして,義務付けであって,それに違反があった場合の不良措置があり得るというものでありますので,より処遇効果が高いものに絞るべきではないかという観点もあり得るのかなとは思いますので,そのような点も踏まえて御議論いただければと思います。 ● 一連の話でございますけれども,その望ましさのレベルなのか,あるいは不可欠のレベルというように相当程度質的に違うのかどうかまでは分かりませんですけれども,実際にその社会参加活動という形で行ってきている者の目から見ますと,やはり1対1でとか,あるいは何か少数の者だけが対象で,草取りのような作業をしているということになりますと,もともとねらっている処遇効果である,改善更生の意欲とか,その社会的な意識の向上とかということからすると,なかなか難しいような感じがします。ただ黙々と作業をするという,そういう活動も考えられるのかもしれませんですけれども,そういうことでは,今ここで期待しているような活動の効果を期待できるかどうかということからすると,難しいような気がいたします。   と言いますのは,社会の善良な一員としての意識とか,あるいは規範意識というものですけれども,何か宙から降ってきたようにいきなり頭に入るとかということではなくて,やはり身の周りの人との具体的な交わりを通じて自分のものとなっていくというのが,一番効果的といいますか,普通の在り方だと思います。そういう意味では,もちろん現在の社会参加活動のような形がベストと思っているわけでもなくて,今回の参考試案の制度に基づき,また別途考えなければいけないと思いますけれども,一人で活動することも許容されていいのではないかということについては,実際の活動例からは,先ほど申し上げたことが言えるのではないかということを,御参考までに申し上げたいと思います。 ● 参考試案の表題は,社会貢献活動となっておりますが,試案の内容として社会的活動という用語が使われたために御議論を誘発した部分があると思います。   菊池寛の作品に,「恩讐の彼方に」というのがありまして,あれは,岩山を一人でこつこつとくり抜いて,十数年かけて通路をこしらえる話です。全く孤独の作業ですけれども,社会貢献には間違いないので,そういうのもやはり社会貢献活動として対象になり得るのではないかという気がいたします。つまり,この社会的活動という言葉にこだわらないこともできるのではないかということです。 ● どうもありがとうございました。   社会とのかかわりについて議論が進んできているわけですが,ほかに何か御意見がございましたらお願いいたします。 ● やはりある意味で一人でやるというのは,結構あるのではないかと思います。韓国では,経済犯罪を犯した人などについて,執行猶予された場合に,現実にその人がいろいろなところで講演をすることができる人だといった場合には,講演を何時間するという形の義務付けをして,それでいろいろな社会に還元しているというのもあるのです。その場合に,恐らく保護観察官はそこについていかなくても,実際上,多くの人が集まって,その話を聞いていますから,一人でもできるのではないかなという気はします。 ● 先ほどの芸能人の例と似ているのですけれども,お考えのイメージの中に,しょく罪というイメージがかなり強いのかなという印象を受けました。この参考試案の制度は,しょく罪をして,ある意味,責任を果たすというよりは,改善更生のために,善良な社会の一員としての意識をかん養し,規範意識を向上してもらうというところですので,そういう意味でも,やはりちょっと今の講演というのはいかがなものかなという感じを受けるということであります。 ● 先ほど○○先生が言われたのとむしろ逆なのですが,社会貢献活動というネーミング自体が,むしろこの中身と反するのではないかという気も一方でいたします。要するに,社会貢献というのは何らかの形で還元するというか,返すということで,しょく罪的な意味合いも含まれていて,社会貢献と言葉は変わったけれども,かなり社会奉仕命令の方に近づいて考えられるイメージがあるのではないかという気がするのです。   それよりはむしろ,ここで言われている,先ほどの,どのような人が対象者として適当かということで,でも改善更生の方にとにかく,この特別遵守事項にするということ自体がそうなのですけれども,そちらに主眼があって,この地域社会の利益に増進するというのも,それはそちらに主眼があるというよりは,そういうことによってその本人の改善更生に資するという方に主眼があるのかなと考えると,社会貢献活動をむしろそのまま中に出てくる社会的活動というふうにしてしまってもいいのかなと思うのですけれども。この制度の趣旨は,諸外国の社会奉仕命令はかなり処罰的な意味合いが強いと思うのですけれども,それとはかなり違うものだと。むしろ社会参加活動の方に近いようなものだと位置付けるのであれば,先ほど来のお話との関係でも,その社会的というのにそれなりの意味を持たせてもむしろいいのではないかと思います。 ● 名称の問題も,前にお話ししましたように,法制審議会総会で議論されております。今,○○委員から御意見が出されましたが,社会貢献活動という名称を妥当と考えるかどうかという点も踏まえて,御意見がございましたらお願いいたします。 ● ネーミングの問題ではないのですが,○○委員の御発言について意見を述べさせていただきますと,確かに特別遵守事項として改善更生のためという形で制度が構想されてはいるわけですけれども,先ほど御紹介のありました社会参加活動の中には,例えば創作・体験活動ですとか,スポーツ活動・レクリエーションといったものが挙がっていますが,このようなものは社会貢献活動には入らないのだろうと思うのです。そういう意味では,やはり社会の利益の増進に寄与するという,奉仕,貢献という側面,あるいはその中にはもしかするとしょく罪という要素も入ってくるかもしれませんけれども,そういう面がこの制度には不可欠ではないかという気も一方でいたします。ですから,すべて改善更生という形で割り切ることはちょっと難しいのかなという気がいたします。 ● ただいま御意見が出されましたけれども,これに関しましてどうぞ御自由に御発言いただきたいと存じます。 ● この制度の名称という点でございますけれども,先だって事務当局から説明がありましたように,この制度を特別遵守事項の一つという形で今回位置付けておりますので,ボランタリーに行う社会奉仕という用語は必ずしも適当ではないのではないかという印象を持っております。   それで,この社会奉仕という用語は,他の法令でどういう形で用いられているのかというのを調べてみたところ,例えば学校教育法ですとか社会教育法の中で「ボランティア活動など社会奉仕体験活動」という用い方をされていたり,保護司法の中で,保護司の使命として,「保護司は,社会奉仕の精神をもつて,犯罪をした者及び非行のある少年の改善更生を助ける」という用い方をしている例があります。ほかにもいろいろあるのですが,いずれにしましても,社会奉仕という用い方をしている場合につきましては,自発的,任意に行うボランタリーな活動であるということが前提となっておるようですので,今回のような制度の位置付けとするのであれば,やはり社会奉仕という文言よりも,社会貢献活動という言い回しをした方がよいのではないかという印象を持っております。 ● どうもありがとうございました。   今の点に関しまして,ほかにいかがでしょうか。 ● ただ今のボランタリーかどうかというのに関連するかと思うのですけれども,社会貢献活動の中身として,本人が自分はこういうものができますからこういう形で貢献したいという個別的な申出がそもそも想定されているのか,あるいは保護観察所の方である程度こういうメニューを全部セットしておいて,その中で選んでいくのかというのが,そもそもよく分からないのですけれども。それが仮に社会貢献に当たるとしても,個別的に本人からの申出により,そういうのもあり得るという前提で考えてよろしいのかどうかを教えていただければと思うのですが。 ● 具体的運用に当たる部分でありますので,必ずしも現段階で全部お答えできるかという問題はありますけれども,また,今お聞きした御趣旨を正確に理解できているかも分からないのですけれども,御趣旨として,例えば本人がこんな活動をしたいからと言ってきて,それを認めるかと,そういう御趣旨でありますか。 ● その場合に,もちろん客観的に見て,社会貢献活動に当たるという評価ができる場合であれば,認めてもいいという運用になるのか。それとも,やはりそれはおのずから保護観察所でメニューというものはセットされるべきものであって,そのセットの仕方の広さは,議論は当然あると思うのですけれども,その中から選ぶという運用になるのか。対象者から突然そんなことを言われても,そういうメニューを用意している以上,個別的にそれを許すわけにはいかないのではないかと,こういう議論も場合によってはあり得るかなと思ったものですから。 ● 可能かどうかという観点からでございますけれども,裁判所において,これが社会貢献活動に当たる行為だということで,この者についてはこのぐらいのこういう活動をするのが適当だと認めて,保護観察所に意見として頂ければ,保護観察所はそれを受けて行うということもあり得ると思います。 ● 補足させていただきますと,今のシステムと同じだと思いますけれども,手続的にはまず裁判所の方で,こういう特別遵守事項に関する意見を付けるけれどもどうなのかという,まず見込みの段階で保護観察所に御提示をしていただきます。その見込みの段階で,その見込みが実施できるかどうかを保護観察所の方で判断させていただいて,御意見を裁判所に申し上げます。それを踏まえて,裁判所の方で最終的な御意見を付して保護観察所の方に送っていただけるという手続になっておりますので,これを前提といたしますと,今のお話ですと,公判等の段階で本人から仮に申出があったとしても,それが裁判所としてこういう特別遵守事項,こういう社会貢献活動を行わせることが相当ではないかということですと,まずそれについてこういうことを,これだけのことを,社会貢献活動を特別遵守事項として設定をするのはどうかという,まず見込みを頂けると。そして,その見込みの段階で,保護観察所とすると,それが実施できるかどうかということを直ちに判断させていただいて,それはちょっと不可能ですということであれば,こういうことで不可能ですと。実施できるならば,それなら大丈夫ですと。こういう御意見を申し上げるというようなイメージなのかなという気がしておりますが。 ● 現在の運用ですと,特別遵守事項の設定について,裁判所の方で意見の見込みを申し上げていることはもちろんなのですけれども,ある程度類型化された標準設定項目というものが設定されておって,そこにチェックする形でやっています。対象者の人から,例えば自分はこういう特殊な貢献ができるということを,裁判所で法律の趣旨にかなうかどうか判断して意見を申し上げると,これはやはり難しい面があろうかと思っています。   社会貢献活動ということの中で,例えば更生保護法51条2項の4号と5号の中には,法務大臣が定めるとか指定するというようなことで,ある程度枠がかかっていると思うのですけれども,今回いただいている参考試案の中では必ずしもそういうものがなくて,恐らくそれは保護観察所あるいは裁判所の方で,それぞれの対象者について柔軟に設定するというようなことを担保するものなのかなと思って読んでいたのですけれども,その辺り,そういう理解でよろしいのでしょうか。特に,先ほど通達というような話もあったのですけれども,法務大臣が定めるとかいうことがその社会貢献活動にかぶっていないのは,むしろその対象者の人の特性などに応じて,柔軟に,ある程度そこはメニューの中から設定していくというような理解でよろしいのでしょうか。 ● 基本的に御指摘のとおりだと理解しております。 ● 今度は視点が少し異なるのですが,仮釈放の段階で社会貢献活動を義務付けるという場合ですが,現状の仮釈放の許される期間というのは,何か月かという短い期間で行われていることが多いと思うのですが,そういった場合について,言わば社会に出すタイミングをもう少し早めて,社会貢献活動をした上で,従前の形の,言わば仕事に就いたりいろいろなことをするという期間も,やはりいろいろ仕事を探さなければならないとか,そういうものもあると思うのです。ですから,今までの仮釈放のときに残されている期間,残刑期間以上のものが確保されるのか,されないのか。その辺り,どうなのですか。これは運用の問題なのですが。 ● その仮釈放の期間において,この社会貢献活動をさせる意義とか期間との関係になるかと思いますけれども,その期間の長短等についてはいろいろ考えがあるのではないかと思うのですけれども,この社会貢献活動との関係で言いますと,一般に仮釈放になった者については,まず社会に出て,いろいろ職業のことでありますとか,住居のことでありますとか,家族のことでありますとか,いろいろ再び社会に戻って適応する,落ち着いて生活できるようになるというところがまず第一の課題になる場合がありますが,特に職業の問題が大きくて,第一の問題になる場合が多いのではないかと考えられます。そういう観点からすると,それとの兼ね合いで社会貢献活動の意味合いを考える必要があるのではないかと思います。 ● 今の関係で言いますと,多分執行猶予を付ける場合よりも,仮釈放の段階の方が実際上,矯正の段階で,その個人のいろいろな性格などが見られるという意味で,この人ならば社会貢献活動としてこういうことをさせたらいいのではないかという選定も可能ではないかと思うのです。そうだとすると,もちろん,一度社会から隔離されていますので,新しい社会をきちんとセッティングするという意味では,かなりのやはりそういう時間も必要だという形になるので,やはりそうなった場合,いわゆる残刑期間というのはどうしても延びないと,実際上,今のままの仮釈放の状況に,もちろん保護観察が付いているのですけれども,これに社会貢献活動がもし義務付けられるとするとかなり重い負担になるような気がするので,そういう意味で,もう少しいわゆる前倒しで出ることが可能かどうかということをお聞きしているのですが。 ● 仮釈放につきましては,いろいろな考慮の要素がありますけれども,それは変わるというわけではございませんので,その社会貢献活動のみを考慮において,それによっていろいろ考える基準の適用が変わるのかどうかということについては,ちょっとどうかなということがございます。   それと繰り返しになりますけれども,確かに矯正施設においていろいろな調査等もあって,社会貢献活動にふさわしいといいますか,適切なという資料はあるとは思いますけれども,一方では,先ほどの繰り返しになりますけれども,まず社会生活が安定して営めるようなことがまず第一にあって,その上でというような気もいたしますので,その辺りを十分に勘案しなければいけないと思う次第でございます。 ● 今の点,補足させていただきますと,これも保護観察付執行猶予と同じなのですけれども,やはり仮釈放の場合にも,特別遵守事項ですと,仮釈放の当初において設定しないと,なかなかその後で設定するのは実際問題として難しい問題になってくると。そうすると,当初はやはりどうやって生活を安定させるかということになってきますと,これを義務付けてまでさせるということが果たして相当なのかどうかというのは,特別遵守事項を定める地方更生保護委員会としても悩むところなのではないかなという感じがしております。 ● 先ほどの○○委員の御意見は,大変貴重なものだと思って拝聴していたのですが,改めて考えてみますと,御発言の前提が対象者の特技のようなものであって,かつそれが社会の一員としての意識のかん養や規範意識の向上に資するものであるということでお話しされていたと思うのですが,その対象者が得意としているものをまたそこでやらせても,果たしてそれが対象者の規範意識,社会の多くの方々が持っているような意識の向上に役立つのかというと,必ずしもそうはならないように思われます。   諸外国の例を見ておりましても,大体出されてくるアイデアとしては,無償で労働をさせるという辺りでして,それには本当ならば対価が伴うはずですが,しょく罪の意味も持たせる必要がありますので,つらい目を体験させ,そのことを通じて規範意識を修得するというところからスタートしているようであります。そこで,我が国でも,そういう制度をつくったといたしましても,最初はやはりもう少し決まった型があって,多くの人がそれなりの効果を見込めるものを準備し,そこからスタートする方が,運用しやすいのではないかなと思った次第です。これは感想でございます。 ● どうもありがとうございました。   ほかにございませんでしょうか。 ● この部会の最初に,部会長から総会での議論の御紹介がありました。「社会貢献」という言葉に対して若干の疑問も表明されたということでありましたが,「社会奉仕」という言葉はソーシャル・サービスを訳してつくったのでありましょうけれども,適切な訳語ではないだろうと思います。日本で「社会奉仕」といえば,かなり道徳的なものと結び付いているので,先ほどは保護司法の中の字句を引用されましたけれども,もっと極端な例を挙げますと,褒章条例というのがありまして,社会奉仕活動を一生懸命やっていると,緑綬褒章をもらえるのですね。もっともこれは自ら進んでという要件も入っていますので,命令を受けてやっていたのでは褒章をもらえるはずはないのですけれども,ことほどさように,モラルというものとつなげて考えられてきたのではないかと思います。その点ではそういう副作用を取り去った「社会貢献」という用語は,ベストかどうかはよく分かりませんけれども,ベターではないかという気がします。 ● どうもありがとうございました。   御意見が出尽くした感がありますので,本日の審議はこの程度にしたいと存じます。   次回は,「刑の一部の執行猶予制度に関する参考試案」につきまして,第二巡目の御審議をお願いしたいと考えております。   次回の日時・場所等について,事務当局から御確認をお願いいたします。 ● 次回は,4月30日,木曜日でございますが,法務省の第1会議室において,会議を行う予定でございます。   開始時刻につきましては,午後2時からでございます。 ● ただ今御案内がありましたように,次回は4月30日,木曜日に,本日と同じ法務省の第1会議室において会議を行うことといたします。   開始時刻につきましては,午後2時からということになりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日はこれで散会といたします。   どうもありがとうございました。 -了-