法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会 第22回会議 議事録 第1 日 時  平成21年4月30日(木)  自 午後2時00分                        至 午後5時49分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり)                議          事 ● それでは,ただ今から法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会の第22回会議を開催いたします。    (幹事の異動紹介につき省略) ● 本日は,刑の一部の執行猶予制度について,参考試案をたたき台として,第二巡目の御議論をしていただくこととしたいと存じます。   その議論に入る前に,第一巡目の議論を踏まえまして,事務当局で,統計資料等を用意したそうですので,これにつきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ● それでは,資料41として配布しております「統計資料14」につきまして御説明いたします。   前回の議論を踏まえまして,本日の議論の参考となると思われる統計資料を準備させていただいたところでございます。   まず,統計資料14の1は,「新受刑者 罪名別 刑期別内訳」でございます。   この資料は,平成19年の新受刑者について罪名別の刑期内訳を示したものでございます。   緑で薄く網掛けをしております欄が,罪名別の刑期の内訳でございます。また,黄色で網掛けをしております欄は,そのうち初入者,入所度数1度目という意味でございますが,初入者の刑期の内訳でございます。   この資料によりますと,資料1枚目の一番上の欄の「総数」欄の黄色で網掛けをしております欄ですが,新受刑者中の初入者の総数は1万4,863人でございます。そのうち,刑期が3年以下のものの累計が1万1,127人であり,初入者の総数1万4,863人に対して約74.9パーセントを占めております。   次に,この資料の4枚目の中ほどの「覚せい剤取締法」欄の緑で薄く網掛けをしているところを御覧ください。   新受刑者のうち,覚せい剤取締法違反により入所した者の総数が6,125人でございます。そのうち,刑期が3年以下のものの累計が5,155人でございます。そのうち,初入者が1,772人でございまして,この5,155人から1,772人を差し引いた3,383人が入所度数2度以上の者になります。   続きまして,統計資料14の2は,「取消事由別執行猶予取消人員」でございまして,第13回会議で配布させていただいた資料に平成19年の統計を加えたものでございます。   この資料は,平成14年から平成19年までの執行猶予言渡人員のほか,執行猶予取消人員について,取消事由の内訳などを示したものでございます。   なお,第13回会議でも御説明させていただきましたが,ここでお示しした各年ごとの執行猶予言渡人員と,その年における執行猶予取消人員とでは,その対象者が異なりますので,厳密な意味での執行猶予取消率を算出することはできませんが,各年ごとの執行猶予言渡人員に対する執行猶予取消人員の比率を知ることにより,各年における執行猶予取消しのおおよその傾向を見ることができると思われます。   また,この資料の各欄に記載しております「再犯」等の意味は,第13回会議でお配りした資料と同様,(注)3として記載しておりますので適宜御参照いただきたいと存じます。   この資料によりますと,例えば,平成19年における執行猶予取消人員6,855人のうち,再犯によって禁錮以上の刑に処せられたことを理由とするものは6,436人であり,その約93.9パーセントを占めております。また,先ほどお示ししましたように,飽くまでも参考の数値になりますが,執行猶予言渡人員に対する執行猶予者の再犯による取消人員の比率は,約13.8パーセントでございます。   統計資料14の3は,「罪名別 取消事由別 執行猶予取消人員」でございます。   この資料は,平成19年に執行猶予が取り消された者につき,罪名別に取消事由を示したものでございます。   この資料で執行猶予言渡人員に対する再犯による取消人員の比率を,執行猶予言渡罪名別に見てみますと,その割合が比較的大きいものとしては,刑法犯では,窃盗罪の執行猶予言渡人員1万1,115人に対する執行猶予者の再犯による取消人員は2,735人で,その比率は約24.6パーセントでございます。そして,住居侵入罪の執行猶予言渡人員444人に対する執行猶予者の再犯による取消人員は97人で,その比率は約21.8パーセントでございます。   他方,特別法犯で見ていきますと,毒物及び劇物取締法違反の罪の執行猶予言渡人員133人に対する執行猶予者の再犯による取消人員は68人で,その比率は約51.1パーセントでございます。その一つ上になりますが,覚せい剤取締法違反の罪の執行猶予言渡人員4,426人に対する執行猶予者の再犯による取消人員は1,116人で,その比率は約25.2パーセントとなっているところでございます。   統計資料14の4は,「覚せい剤取締法違反事件(通常第一審事件)の有罪(懲役)人員-違反態様別科刑状況-」でございます。   この資料は,平成17年から平成19年までに,通常第一審において,覚せい剤の使用若しくは営利目的ではない所持,譲渡又は譲受けにより懲役刑の宣告を受けた者の科刑状況を示したものでございます。   この資料によりますと,例えば,平成19年は,覚せい剤の使用若しくは営利目的ではない所持等により懲役刑の宣告を受けた者のうち3年以下の懲役とされたものの累計は9,918人となっております。   また,3年以下の累計の者の中のうち実刑の言渡しがなされたものが5,415人で,執行猶予の言渡しがなされたものが4,503人となっているところでございます。   統計資料の御説明は以上でございます。 ● 事務当局からのただ今の御説明につきまして,何か御質問等がございましたら,よろしくお願いいたします。 ● 頂いた資料によりますと,覚せい剤取締法違反は1年以下の刑は非常に少なくて,大多数はそれ以上ということになっておりますが,単純な所持の場合,それだけ重い刑を量定されるということはどういうねらいがあるのでしょうか。刑事責任という観点なのか,それとも特別予防の面なのか,教えていただければ有り難いと思います。 ● 一般的に覚せい剤の量刑は,私が任官した当初に比べますと,どんどん重くなっています。特に使用に関しまして申し上げれば,私が任官したころは1年以下もかなりあった印象ですが,刑事責任の重さ,あるいは社会的な影響を考慮した結果だと思いますけれども,全体的に重くなっているというのが実際だと思います。そういう意味では,単純使用あるいは少量の所持の場合でも社会的に非難すべき点が強いという刑事責任の観点がかなりあるのではないかと私自身は思っております。 ● ほかにいかがでしょうか。   もし,御議論の途中で何か御疑問が生じましたら,そのときに改めて御質問をちょうだいしたいと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,引き続き,これも第一巡目の議論を踏まえまして,薬物事犯に対する処遇に関し,事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 本日は,刑事施設における薬物事犯受刑者に対する処遇につきまして,また,薬物事犯者について刑の一部の執行猶予制度が導入された場合に刑事施設において問題になると思われる点について,御説明いたします。   最初に,お手元の資料42に基づきまして,刑事施設における薬物事犯受刑者に対する処遇について,現行の指導に至るまでの経緯も含めて説明させていただきます。   薬物事犯受刑者に対しましては,監獄法の下から,処遇類型別指導として各刑事施設が工夫しながら指導を実施してきたところでございます。しかしながら,これらの指導につきましては,法律上の根拠が必ずしも明確ではなかったこと,その内容について統一的,標準的な処遇プログラムが存在していなかったことなど,十分とは言い難い面がございました。平成15年に行われました行刑改革会議におきましても,薬物依存者の数及び出所後の再入率の高さから,薬物依存者に対する処遇の在り方について検討するよう提言を受けたところであります。   その後,監獄法が改正されまして,平成18年5月24日から「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」が施行されました。この法律は現在では題名が変わっておりまして,「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」となっておりますが,この新しい法律が施行されたことによりまして,受刑者に対し,作業に加え,改善指導及び教科指導を矯正処遇として義務付けて行うことができる法律上の根拠が明確になりました。これに伴いまして,現在,刑事施設におきましては,犯罪につながった問題性に応じ,特別改善指導といたしまして6種類の処遇プログラム,改善指導を実施しているところであります。そのうちの1つとして,現在,薬物への依存が認められる受刑者に対しまして,刑事施設の本所及び支所を含めまして81庁において薬物依存離脱指導を実施しているところでございます。   次に,薬物依存離脱指導の内容について御説明いたします。   お手元の資料42の右側に「標準プログラム」と書いてある欄があるかと思います。   この「標準プログラム」というのは,各刑事施設が指導を行うに当たっての基本となるプログラムのことでございます。各刑事施設におきましては,この「標準プログラム」を参考にして,「実践プログラム」を作成し,実際の指導に当たっているところです。標準プログラムにつきましては,先ほど述べました行刑改革会議の提言を受け,矯正局におきまして,平成16年度に薬物事犯者処遇の充実策について検討を行うため,民間の有識者を集めて開催いたしました「薬物事犯受刑者処遇研究会」の意見を踏まえ,作成したものであります。   標準プログラムの特徴といたしましては,指導方法として講義だけではなく,受刑者同士が互いに意見を述べ合うグループワークの手法を活用していることにあると言えるかと思います。   また,グループワークを行うに当たりましては,資料の左下にも例示してありますように,ダルクあるいはナルコティクス・アノニマスといった薬物問題に取り組む民間自助グループの方にも参加していただき,受刑者の指導に当たっていただいております。   民間自助グループの協力を得てグループワーク等の指導を実施している施設数につきましては,統計の関係上,PFI施設を除いた施設数を最初に申し上げますが,平成17年度の26庁から年々拡大し,平成21年度におきましては,77庁全庁において民間の自助団体を招いての指導を行っております。   また,PFI施設4庁におきましても,2庁においては民間自助グループの協力を得てグループワークを実施しており,他の2庁においては,自助グループの招へいはしておりませんが,民間の専門家の協力を得て,プログラムを実施しているところであります。   ダルク等のスタッフが参加したプログラムを受講した受刑者の感想文を見ますと,「薬物依存経験者であるダルクの人たちと薬物を止め続けるためのグループワークを経験したことにより,真剣に薬物を止め続けるための努力をしたいと切実に思った。」,「苦しみながら薬を止めている人のアドバイスは大きい。」などの前向きな意見が多く見られ,受刑者の心情によい変化をもたらしているものと考えております。   このように,矯正局といたしましては,ダルク等の民間自助グループと連携を行いながら,薬物依存離脱指導が効果的に実施できるよう努めてきているところですが,その指導内容の更なる充実を図るため,本年度におきましては,現在行っております標準プログラムに加えまして,海外で相応の効果を挙げております認知行動療法を取り入れたプログラムを導入することについて検討会議を開催することとしているところでございます。   続きまして,薬物事犯者について刑の一部の執行猶予制度が導入された場合に刑事施設において問題になると思われる点につきまして,説明させていただきます。   まず始めに問題になると思われる点は,処遇プログラム自体の問題であります。薬物依存離脱指導は,現在,3か月から6か月程度を指導期間として12単元の指導を実施することを標準としております。したがいまして,対象者の中には十分な指導期間が確保できない者が出てくることが予想されます。そのような対象者のために,指導内容を簡略化しなければならない場合が出てくるものと予想されます。その場合に十分な効果が得られるのかということを検討しなければならないと思います。   また,刑事施設において実施している特別改善指導プログラムの内容と,保護観察所において実施されている処遇プログラムの内容を,どのように有機的に連携させていくのかということも問題になると思われます。現在,刑事施設,保護観察所が連携して実施しているプログラムとしては,矯正局,保護局がそれぞれ認知行動療法という共通理論に基づいて開発しました性犯罪再犯防止指導のみでありますが,薬物依存離脱指導につきましても,共通の手法や理論に基づいたプログラムを新たに作成することについて検討を行う必要があるのではないかと思われます。   次に,この制度が導入された場合の処遇プログラムの実施体制につきましても問題になることが予想されます。平成19年において刑務所に新たに入所した新受刑者の総数は3万450人で,そのうち覚せい剤取締法が主たる罪名になっている者は,先ほどの説明にもありましたとおり,6,125人と,全体の約2割を占めております。また,これらの覚せい剤取締法が主たる罪名になっている新受刑者について刑期を見てみますと,その6,125人のうち,刑期3年以下のものが5,155人,約84パーセントを占めています。こうした薬物事犯受刑者の収容状況を見ますと,その刑期について刑の一部の執行猶予制度が導入された場合には,刑事施設においては入所後比較的短期間のうちに受刑者を次々と処遇プログラムに編入していく必要が生じますが,対象となる受刑者の数が非常に多いだけに,限られた期間内で処遇プログラムを実施できる体制を整えていくことが必要になるものと考えております。   説明は以上でございます。矯正局といたしましては,今後とも,受刑者の改善更生,円滑な社会復帰に向けて,薬物依存離脱指導を始めとする各種改善指導の充実を図ってまいりたいと考えております。 ● 引き続き保護局からも御説明をお願いいたします。 ● 薬物事犯者に対する保護観察処遇について御説明いたします。   まず,類型別処遇でございますが,これは,犯罪・非行の態様,特徴的な問題性等により保護観察対象者を類型化した上で,その特性に焦点を合わせた効率的な処遇を実施するもので,平成2年に導入され,類型としては,「覚せい剤事犯」のほか,「シンナー等乱用」,「暴力団関係」,「性犯罪等」があります。   「覚せい剤事犯」類型の保護観察対象者に対しましては,特に「断薬意志の継続・強化」,「不良集団との絶縁」,「生活習慣の改善」,「就労指導」などを重点に処遇を行っております。また,個別処遇に加えて,一部の保護観察所においては,引受人や家族に対し,覚せい剤の薬理作用及びその弊害に関する理解を深めさせるための講習会等を実施しております。また,薬物依存者の社会復帰等を行っているダルクなどの民間団体・自助グループ及び精神保健福祉センター・保健所,精神科医療施設などの関係機関・団体と連携し,保護観察処遇を行っております。   次に挙げるものといたしまして,平成16年4月から導入いたしました「簡易薬物検出検査を活用した処遇」がございます。これは,覚せい剤の使用をやめようとする意志を強化し,これを持続させることを目的として,その者の自発的意思に基づき簡易薬物検出検査を実施しているものです。平成19年では,この検査の実施対象者は3,644人,実施回数は8,616回となっております。   更生保護法の施行に伴いまして,平成20年6月から「覚せい剤事犯者処遇プログラムを活用した処遇」を導入しております。覚せい剤の自己使用の罪に当たる犯罪事実があるなどの覚せい剤事犯者について,心理学等の専門的知識に基づく体系化された手順に基づく処遇として,「覚せい剤事犯者処遇プログラム」の受講を特別遵守事項により義務付けております。このプログラムは,覚せい剤の悪影響と依存性を認識させ,覚せい剤依存に至った自己の問題性について理解させるとともに,簡易薬物検出検査において薬物が検出されない結果を出し続けることを目標として,再び使用しないとの意志を強化し,これを持続させつつ,再び乱用しないようにするための具体的な方法を習得させることを目的としております。プログラムの実施期間中,教育課程と並行して,簡易薬物検出検査が義務付けられております。   続きまして,「覚せい剤事犯者処遇プログラム」の標準的ケースについて御説明いたします。保護観察付執行猶予者の架空事例としておりますが,仮釈放者に対する覚せい剤事犯者処遇プログラムにつきましても,プログラムの導入・実施の流れは同じでございます。ただし,刑事施設での特別改善指導を含めた矯正処遇の状況等を踏まえ,内容等について個別の工夫をしているところでございます。   まず,このプログラムの対象者ですが,この事例では本件が覚せい剤自己使用であり,かつ,覚せい剤使用で少年院送致歴があるなど,反復傾向があるものであり,保護観察付執行猶予の判決宣告裁判所から特別遵守事項に関する意見として,「覚せい剤事犯者処遇プログラムを受けること。」が示された者です。   次に,初回面接と導入でございます。平成20年7月1日に判決言渡しがあり,判決宣告裁判所において簡単な説明を受け,通常,判決確定前に,住居を管轄する保護観察所に任意で出頭してきます。担当することとなる保護観察官を主任官と呼んでおりますが,主任官が保護観察の説明とともに動機付けを行い,また,保護観察の手続を行うため,裁判確定後に改めて出頭するように促します。ここでは確定後に約束どおり保護観察所に出頭しましたので,保護観察の開始手続を行い,特別遵守事項として「覚せい剤事犯者処遇プログラムを受けること。」を設定する一方,プログラムの目的や全体像,簡易薬物検出検査実施上のルールなどを示してプログラム受講の動機付けを行い,プログラム受講のためにおおむね2週間に1回の保護観察所への出頭日を定めて本人に告知します。保護観察官は初回面接において今後の処遇につながる情報を入手し,裁判所及び検察庁から送付される関係資料等を参照しつつ,保護観察の実施計画を作成いたします。   プログラムの実施場面について説明いたします。プログラムは全5回でありますが,第1回目として,同年8月1日に保護観察所に出頭しましたので,まず,簡易薬物検出検査を実施します。陰性反応であることが確認されたら,本人に対して,断薬の努力を評価し,達成感を与え,努力の継続を図るよう指導するとともに,時には家族に連絡して陰性であったことを伝え,今後の協力と本人の努力に対する激励を惜しまないように依頼します。次に,教育課程の第1課程を実施します。その中では,覚せい剤を使用したことによる悪影響を認識させるなどして,断薬への動機付けの強化を行います。引き続いて主任官が面接を実施し,遵守事項の遵守状況,交友関係,金銭管理,就労・就学関係などを聴取し,特に薬物関係者等の素行不良の者との交友等について確認・評価し,健全な交友関係を維持するよう指導・助言いたします。   同様に,第2回として同年8月18日に出頭しましたので,簡易薬物検出検査と教育課程の第2課程を実施し,再使用に陥りやすいパターンがあることを理解させ,それを回避する方法について考えさせました。同様にして,第3回は,「再使用に結び付く行動,状況,考えを整理させ,危険な状況からの脱出方法を考えさせる。」,第4回は,「再使用したいという渇望が高まった状態からの脱出方法を考えさせる。」,第5回は,「第4課程までで学んだことを基礎として,断薬を維持するための再発防止計画を立てさせる。」ことを実施しました。   プログラム終了後は,必要に応じて主任官面接,簡易薬物検出検査を実施し,断薬の意志の継続・強化を図るとともに,再発防止計画をきちんと実践しているかどうかの確認を行っております。また,本人の希望により自助グループのミーティングに参加させるなどして覚せい剤事犯者の処遇を行っているところでございます。 ● それでは,事務当局からのただ今の御説明につきまして何か御質問がございましたら,お願いいたします。 ● 保護局にお伺いします。最後に出てきた矯正との連携の問題なのですが,矯正のところで民間自助グループ等の方に参加していただいて,釈放後に民間自助グループ等が実施するプログラムへの参加を動機付けるという話がありました。保護局からの説明の中でも関係機関等との連携というのがございまして,それとこの処遇プログラムというのは御説明では一応別のものとして考えていらっしゃって,終了後に本人の希望により自助グループのミーティングに参加させたということなのですが,これは保護局としても積極的に参加するように促しているということでよろしいのでしょうか。 ● 促しているという点ではそのとおりでございます。ただ,私どもで行っているこの処遇プログラムでは,覚せい剤の事犯者を多数社会内で集めての処遇というのはなかなか難しい点がありますので,現在は一対一でやっておりまして,その最後の段階で,今後覚せい剤をやめる意志を継続するために,ダルク等に通うことについて助言しているという状況でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 矯正の方にお尋ねします。このプログラムの実施に3か月から6か月ほどかかるというお話があったかと思いますが,それが終了した後,民間の自助グループとの連携などを考えると,なるべく早く外へ出した方がよいのではないかという気もいたしますけれども,その点はいかがでしょうか。 ● おっしゃるとおり,民間自助団体の方との間をつなぎとめるためには,プログラムが終わって比較的短期間で出所というのが一番パターンとしては望ましいわけですが,何分私どもで出所時期がコントロールできるわけではないということがございます。一般的には出所時期を見ながらプログラムに編入をしていくということはしておりますので,プログラムを受け終わってから3年も5年もたってから出所というようなことにはもちろんならないように考えてはいるわけですが,最適の時期というのはなかなか調整が難しいところはあるというのが実態でございます。 ● ほかにございませんでしょうか。 ● 保護局にもお尋ねしたいと思いますけれども,このプログラムで,例えば「再使用したいという渇望が高まった状態での脱出方法を考えさせる。」とあるのですが,その実態はどういったものでしょうか。使いたくなったのを抑えるための方法というのは具体的にはどういうことでしょうか。 ● 例えば,こういった渇望が高まってくる場面を幾つか本人に考えさせて,そういう状況が起きたときに違ったことを考えさせるとか,はたと気がつかせるために例えば肉体的にちょっと手をつねってみるとか,これは本当に一例でございますけれども,そのような具体的な行動を通してその渇望に対して対応する方法について考えていくというような課程でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 先ほどの矯正局の最後の御説明のところで,考えられる問題点として,3か月から6か月程度のプログラムがある際に,対象者によって不十分という言葉を使われたのですが,それは期間が不十分という意味なのか,質的な内容という意味なのか,どちらが不十分という意味でおっしゃいましたか。 ● 私どもが心配しているのは,現在の体制で覚せい剤の薬物依存離脱指導をやっていくと,どうしても漏れが出てしまう。統計数値を申し上げますと,若干古くて恐縮なのですが,平成19年度に薬物依存離脱指導を実施した実績が3,769名でございます。毎年少しずつでも体制の増強をとは思っておりますが,ある程度のボリュームのプログラムをやるとなると,今の体制ではこの辺りが一種の限界になってきている。その中で,出所状況を見極めながら受刑者をこのプログラムに編入させて実施をしている。刑期がある程度ありますと,まだ余裕があるのでということができるわけなのですが,刑の一部の執行猶予ということで,例えば1年しか刑期がないとなりますと,入所したらすぐにこのプログラムへの編入を考えていかなければいけない。そうなると,需要が錯そうするといいましょうか,この時期に入れなければいけない受刑者がたくさん出てきてしまって,うまくいい時期に編入ができないということがまず懸念されます。その意味では,12単元あるプログラムを8単元に縮小するとか,そういう簡易版のプログラムを作らなければいけないのかなと。ただ,そうなったときに十分効果があるプログラムとして機能できるだろうかと,その辺りがまだ十分検証も進んでおりませんで,大変悩んでいるところでございます。 ● もう1点なのですけれども,保護と矯正の人事交流がかなり必要になってくる感じがするのですけれども,現在の段階では,保護観察官が刑務所内に駐在 している規模はどの程度なのか,御説明いただけますか。 ● 現時点では,全国8か所の委員会のブロックごとに1名ないし2名が駐在している状況でございます。 ● それは比較的大きな刑務所という意味ですか。 ● はい,府中刑務所などでございます。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 一般的なことで結構なのですが,今の矯正のお話を伺っていると,やはり今の体制の中でやるにはおのずから限界があるようですので,そういった場合の人員の確保といいますか,今,国家公務員の人員がかなり削減されていて,保護観察官については若干増えるような傾向にありますけれども,新しい制度をつくるに当たってはそれなりの人事配置が必要ではないだろうかと思うわけであります。そういう意味で保護観察官がかなり必要になるのではないか。前回,できたら薬物に特化した形の保護観察官をこの際つくって,場合によっては,全国に分散している薬物違反者のうち自己使用等について離脱指導の可能な者については1か所に集中させて,ある種刑務所の特化を図ることも考慮に入れられるかどうかということ,そうしないと人事面での十分な手当てができないのではないかなと思いましたので,そういうことが可能かどうかということを,抽象的ですけれども,お聞きしたいと思います。 ● 保護観察の対象者についてでございますか。 ● 矯正の段階でもそれがないといけませんよね。そういう意味で,矯正についても特化する形になるし,保護観察についてもそれぞれ特化した形の保護観察官が必要になるのではないかと思っているわけです。矯正の場合はどこかの刑務所をそうすることができるかどうかということになるし,保護観察の場合についてはやはり全国的な形でおられますから,これを集約するのは難しいけれども,ある程度そういう形の方向に持っていって人事配置できるような形が可能かどうか,こういった意味合いなのですけれども。 ● 保護観察の場合におきましては,対象者はそれぞれの生活の場所がありますから,それぞれの居住地ということになると思いますが,これに対する保護観察官の対応につきましては,現時点におきましては,保護観察官全員に研修を施しまして,覚せい剤の処遇プログラムを実施する体制の整備に努めているところであります。覚せい剤のプログラムの中身,期間等,あるいはその精ち度,効率等を考えますと,現在の体制のように,担当する保護観察官が処遇するという体制だけでよろしいのかどうかについては,今後,一部猶予等を考えた場合にはもちろん検討しなければいけないと思いますし,より専門性の高い保護観察官をある程度の数用意いたしまして,そこで集中して対応することも当然検討すべき課題であると思います。 ● 若干付け加えまして,現在の保護観察の現場の実情を申し上げますと,保護観察官の数は現状においても必ずしも十分ではないというのは委員の皆様御案内のとおりでございます。それに加えまして,昨年6月に更生保護法が施行されまして,ここで御議論していただいている前提となる特別遵守事項としての処遇プログラムも実施しております。それにそれぞれの保護観察官がどう対応していくかというので,まだ1年たっておりませんけれども,現場はこの対応をどうするかということでかなり四苦八苦という状況が現状でもございます。これは,それぞれの主任官がやっているという状況でございますが,委員が御指摘のように,これは特別な処遇プログラムですから,それぞれ専門の保護観察官を充てるべきではないかというのはおっしゃるとおりなのだろうとは思います。しかし,今の人員の実情でそのように役割を分担していくことが果たしてできるのかといいますと,かなりつらい問題があるだろうなという感じがしております。現在行っております特別遵守事項としての処遇プログラムをどうするかということの実施体制といたしましても,今,御説明申し上げたように,それぞれ地区を持っている主任官がこの処遇プログラムをやる体制をとらざるを得ないという実情があることを御理解いただけたらと思っております。 ● 刑事施設につきましても,薬物指導する者を特化させて集めるというお考えも確かにあるかとは思うのですが,実情を申し上げますと,現在でも,いわゆる本所では,市原刑務所のように薬物事犯者がそもそもいないところを除いては,全庁で薬物依存離脱指導が行われており,その数が非常に多いということがまずあります。その中でグループワークをやっていくとなると,例えばダルク等の民間の資源を活用する意味でも,1か所に集めてしまうと,民間資源がそれほどその施設の周辺にあるわけではないということがありまして,むしろ全国の施設でやらなければできないぐらいのボリュームになってしまっているということは言えると考えております。先ほども申し上げましたとおり,平成19年12月末で薬物依存離脱指導が必要な受刑者が1万5,870名いるということで,1か所に集めてできればいいのですが,実際にはそういうわけにもいかない。むしろ各施設の体制を更に充実させていって,より多くの者がグループワークを受けて出所できるような形でやっていく方が現実的な対応なのではないかなと,私の個人的な意見も入っておりますが,考えているところでございます。 ● 今の矯正の御意見を踏まえまして保護の方を付け加えさせていただきますと,矯正の処遇の場合には集団処遇が原則でございますので,今,御説明されたような話になろうかと思いますが,保護観察の場合には,特に覚せい剤の処遇プログラムの場合は,先ほど保護局の幹事から説明がありましたように,やはり個別処遇を原則とするべきだろうと私どもは考えております。そうしますと,そういう専門の保護観察官をつくりましても,ではその人が集団処遇的にたくさん自分の管内の人間を集めてできるかとなると,果たしてそういう処遇がいいのか,やはり個別処遇をそれぞれやるべきではないかという議論もせざるを得ないというところも御理解いただけたらと思います。 ● 今のにも関連することなのですけれども,先ほど,矯正としては,刑期が短くなるといいますか,一部執行猶予になると刑務所にいる時間が短くなるので,場合によっては短縮版のプログラムを作らなければならないというお話があったかと思うのですけれども,刑務所内でやっている処遇プログラムの続きを外に出た後にやるというのは,今の集団でやるか個人でやるかということとの関係でおよそ無理な話なのか,あるいは,それが覚せい剤離脱のために適切だということになったら,体制さえ整えればできることなのか,そこら辺はいかがなのでしょうか。例えば,グループワークを刑務所の中で8回やって,その続きは社会の中でやることができれば,それはそれで効果的かなと思うのですけれども,そういうことは考えられないのでしょうか。 ● その点につきましては,いろいろな考え方があろうかとは思いますけれども,例えば,全体として20回のプログラムがあって,それを10回ずつ分けるという形も考えられるとは思いますが,やはり施設の中でやっているものと社会内でやっているものについては状況も違いますので,全く連続させることを考えることは難しい面もあろうかと思います。ただし,これまでのところは,覚せい剤の処遇につきましては,特に全体として共通の基盤に立ってお互いにプログラムをやっているわけではありませんから,これについては今後共同して,その共通の基盤に基づいて,集団で行うもの,あるいは出てからは個人で行うというような違いがあっても,全体として統合されたものを考えていくことが必要かと思います。   一つ追加させていただいてよろしいでしょうか。個別処遇が社会内処遇でどうして必要かということについて付け加えますと,覚せい剤事犯者につきましては,集団でやっていきますと,その集団の力,最後でどうしても覚せい剤に対する渇望が特段に高まるとか,あるいはそれが交友関係につながっていくというおそれをどうしても払拭できないというのが大きいことです。 ● 分かりやすく説明しますと,刑務所の中ですときちんと管理しておりますので,集団で行っても,その後お互いに話をしてというようなことが余り考えられないだろうと。ところが,社会内処遇ですと,幾ら保護観察所において集団で処遇いたしましても,終わった後は外に出るわけでございますので,外に出た後集まった人たちがどういう行動をとるかということまでは管理できないということにどうしてもなってしまうかと思います。 ● 以上でよろしいでしょうか。   それでは,刑の一部の執行猶予制度につきましての第二巡目の議論に入っていきたいと存じます。   第一巡目の議論におきましては,事務当局から示されました参考試案第1の「初入者に対する刑の一部の執行猶予制度」と第2の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」ごとに御議論いただきました。   第1の制度の御議論におきましては,事務当局から示されました参考試案に含まれます様々な論点について議論がなされたところでございますが,その中でも特に,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのか,特に,刑事責任の軽重により判断するのか,社会内処遇の必要性・相当性により判断するのかという論点と,制度の対象を「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けたとき」とすることの当否という論点について活発な御議論がございました。   また,第2の制度の御議論におきましても,参考試案に含まれます様々な論点について議論されたところでございますが,その中でも特に,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのか,特に,刑事責任の軽重は判断においてどのように位置付けられるのかという論点と,参考試案の第2の3で,薬物自己使用等事犯に係る罪とその罪より重い刑が定められている他の罪とに係る懲役の言渡しをするときは,その一部の執行を猶予することができないものとされていることの当否という論点について活発な御議論がございました。   そこで本日は,この第一巡目の議論を踏まえまして,今申し上げました論点について,更に議論を深めていただくのが適当ではなかろうかと考えております。   もとより議論すべき論点を今申し上げたものに限定する趣旨ではありませんので,これらの論点に関連して議論すべき論点がございましたら,随時御指摘いただければと存じます。   また,別途議論すべき論点もあろうかと存じますが,それについては,ただ今申し上げました幾つかの論点の議論に引き続き,御指摘いただければと考えております。   このような進め方を考えておりますが,そういうことでいかがでございましょうか。   特に御異論もございませんようですので,そのように進めさせていただきます。   それでは,まず最初に,第1の制度において,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのか,特に,刑事責任の軽重により判断するのか,社会内処遇の必要性・相当性により判断するのかという論点につきまして御議論をいただきたいと存じます。   まず,その議論の前提として,参考試案を作成した立場から,この論点について事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 参考試案の第1の制度について,第一巡目の議論では,ただ今部会長から御指摘のありました,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのか,特に,刑事責任の軽重により判断するのか,社会内処遇の必要性・相当性により判断するのかという論点について活発な御議論がございました。   その御議論では,参考試案第1の制度の趣旨をどのようなものとして考えるのかという点に関連付けて御意見が述べられることも少なくありませんでした。   そこで,事務当局といたしましては,当部会における試案についての第一巡目の議論等を踏まえまして,第1の制度について,その趣旨をどのように考え,また,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのかにつきまして改めて整理をしてみたところでございます。   なお,ただ今部会長から御指摘のありました論点であります,第1の制度の対象を「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けたとき」とすることの当否の論点につきましても,第一巡目の議論では,第1の制度の趣旨をどのようなものとして考えるのかという点に関連付けて御意見が述べられることが少なくなかったように思われます。   その意味で,この2つの論点は,相互に関連するものと考えております。   そこで,以下,1点目の判断要素の論点と,2点目の3年以下の論点の双方につきまして,第1の制度の趣旨に触れつつ,併せて御説明いたしたいと存じます。   まず,これまでの部会の議論でもございましたけれども,犯罪者の中には,施設内処遇と社会内処遇をより適切に連携させることが,その再犯防止・改善更生のために有用であるものも含まれていると考えられます。   この点,現行制度におきましても,施設内処遇と社会内処遇を連携させる制度としては仮釈放制度が既にございますが,この制度によって可能となる社会内処遇の期間は,いわゆる残刑期間に限られており,特に全体の刑期が短い場合については,必然的に確保できる社会内処遇の期間が限られますので,施設内処遇と社会内処遇の連携を十分に図ることができない場合があるのではないかという問題意識がこの部会の御議論で示されたところでございました。   そこで,当部会における議論では現行の仮釈放制度とは別に,裁判所が判決時において刑の一部の執行猶予を言い渡し,施設内処遇と社会内処遇を連携させることを可能とする制度を採用することが考えられるのではないかとされたところでございます。   このように,刑の一部の執行猶予制度を,犯した罪に対する刑事責任を果たさせつつ,施設内処遇と社会内処遇の連携により再犯防止・改善更生を図ることを趣旨とするものと考えているところでございますが,第一巡目の議論におきましても御説明申し上げましたように,その対象には一定の限界があると考えております。   その1つが,制度の対象を「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けたとき」とすることでありますし,それ以外の制限も含めまして,これらの制限をどのように考えるのかということが,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのかという論点と密接に関連してくると思われます。   そこで,刑の一部の執行猶予制度の対象をどのようなものとするのかについて,改めて整理したところも含めて御説明申し上げます。   刑の一部の執行猶予制度は,施設内処遇における対象者の実際の改善更生の状況等を考慮することなく,裁判所が,判決の言渡し段階において,刑の一部の執行を猶予するというものであり,実際に執行すべき刑期を全体の刑期よりも短くすることを判決として許容するという側面がございます。   そして,刑の一部の執行猶予制度も刑罰制度の一内容であり,刑罰の言渡しの一環として言い渡される以上,刑罰制度の持つ諸機能や刑罰に求められる様々な要請に合致し,また,刑罰制度を支える国民一般,特に犯罪被害者の方々等の理解と納得を得るものであることが必要不可欠と考えられます。そういたしますと,凶悪・重大事犯を犯した者のように,その犯した罪に対する刑事責任が相応に重い場合や,犯した罪の社会的影響の観点から,一部とはいえ刑の執行を猶予するのが相当ではないような場合については,刑の一部の執行猶予を言い渡すことができるものとするのは相当ではないと考えられます。   加えて,刑の一部の執行猶予制度は,施設内処遇と社会内処遇を連携させて,犯罪者の再犯防止・改善更生を図ろうとするものであるにもかかわらず,仮にこの制度について社会一般の理解と納得を得られなければ,結局はこの制度の対象とされた犯罪者が社会の一員として受け入れられることは必ずしも容易ではないように思われます。   したがいまして,このような観点から,刑の一部の執行猶予制度の対象には一定の限界があるのではないかと考えているところでございます。   そこで,ただ今申し上げました刑の一部の執行猶予制度の対象とすることが相当ではない,犯した罪に対する刑事責任が相応に重い場合や犯した罪の社会的影響の観点から一部とはいえその刑の執行を猶予するのが相当ではないという場合を,どのように画定するのかについて御説明申し上げます。   一般に,犯罪の軽重は,犯した罪に対して具体的に言い渡される刑の刑期の長さに反映されることになります。   したがいまして,まずは,言い渡される刑の刑期の長さによって刑の一部の執行猶予制度の対象を画することが相当であるように思われます。   それでは,具体的にその刑期を何年とするのが相当なのかという点でございますが,この論点は,制度の対象を「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けたとき」とすることの当否の論点として,第一巡目でも活発に御議論いただいたところでございます。   事務当局といたしましては,やはり3年を超える懲役・禁錮が言い渡される事案につきましては,相応に重大・悪質なものであると考えているところでございます。そのような事案についてまで刑の一部の執行猶予制度の対象とし,一部とはいえその刑の執行を猶予することを可能とすることにつきましては,刑罰に求められる様々な要請に沿わず国民一般,特に犯罪被害者等の理解を得ることも困難であると思われるところでございます。   したがいまして,3年を超す懲役・禁錮の事案を制度の対象とすることは,一般的に相当ではないと考えているところでございます。   また別の観点となりますが,制度の対象の刑期の上限を余りに長期といたしますと,裁判官が,判決時に,長期の将来における社会内処遇の必要性・相当性を予測・判断するということになってしまいますことから,その判断可能性という観点からも,制度の対象を3年以下の懲役・禁錮とすることが相当ではないかと考えているところでございます。   以上から,刑の一部の執行猶予が可能となる場合については「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けたとき」とするのが相当であると考えたところでございます。   なお,3年以下の懲役・禁錮に当たる場合であっても,刑の一部の執行猶予制度の対象とすることが相当ではない,犯した罪に対する刑事責任が相応に重い場合や犯した罪の社会的影響の観点から一部とはいえその刑の執行を猶予するのが相当ではないという場合は,なおあり得るのではないかと思われます。   すなわち,先ほど述べましたような刑罰に求められる様々な要請や国民一般の理解等の観点からいたしますと,3年以下の懲役・禁錮が言い渡される事案でも,例えば,被害結果が重大である事案,社会問題となっている犯罪でその社会的影響や国民一般の処罰感情等の観点から厳重な処罰が必要とされる事案などにつきましては,その刑事責任を中心とした判断から,一部とはいえその刑の執行を猶予するのは相当でなく,刑期すべてについて実刑とすべき者も存するのではないかと考えられるところでございます。   他方で,3年以下の懲役・禁錮が言い渡される事案には,逆に,その犯した罪に対する刑事責任の重さから,刑の一部の執行猶予制度の対象とすべきではなく,およそ刑期すべてについて執行猶予とすべき者も存すると考えております。   すなわち,当部会におけるこれまでの議論においても御意見がございましたように,第1の制度は,刑期の一部とはいえ対象者を実刑に処するものでございます。   したがいまして,その犯した罪に対する刑事責任の重さから,およそ刑期のすべてについて執行猶予としかなり得ないような者については,たとえ施設内処遇と社会内処遇の連携が有用なものであっても,刑の一部の執行猶予を言い渡すことができるものとするのは相当ではないと考えられるところでございます。   以上につきまして,ここでいったん総括させていただきますと,第1の制度は,犯した罪に対する刑事責任を果たさせつつ,施設内処遇と社会内処遇の連携により再犯防止・改善更生を図ることを趣旨とするものであると考えております。   そして,そのような制度趣旨を前提とし,第1の制度では,この制度の導入後においてもなお,刑事責任の軽重の観点から,およそ刑期のすべてについて実刑とすべき場合と,およそ刑期のすべてについて執行猶予とすべき場合の中間の領域にある者のうち,更に特別予防の観点から,施設内処遇と社会内処遇を連携させることがその再犯防止・改善更生のために必要かつ相当なものが対象になると考えております。   したがいまして,第1の制度では,刑の一部の執行猶予とするか否かの大枠の判断においては,犯した罪に対する刑事責任の軽重という要素によって決することになり,その上で,施設内処遇と社会内処遇の連携の必要性・相当性という特別予防の要素によって,当該事案につき刑の一部の執行を猶予するかどうかを決することになるものと考えております。   なお,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素によって判断するかということを考えるに当たりましては,ある程度,具体的なイメージがあった方がいいように思われますので,先ほど申し上げましたような意味での中間の領域に当たる者の中で,施設内処遇と社会内処遇を連携させることが必要かつ相当なものとして,具体的にどのような者を刑の一部の執行猶予制度の対象とすることを考えているのかについて,ここで御説明を申し上げます。   刑の一部の執行猶予制度の対象とするのが相当な者として具体的にこの部会で議論され,おおむね皆様の意見が一致したところが,まず,現行制度で,道路交通法違反の罪などの比較的軽い罪を繰り返し,初めて実刑に処せられる者,そして,実務家の文献等で「執行猶予か実刑か微妙なケース」などとされております,現行制度で,実刑と執行猶予の境界にある者,そして,執行猶予期間中に再び比較的軽い罪を犯して懲役・禁錮に処せられる者でございました。   すなわち,これらの者につきましては,刑期のすべてについて実刑又は執行猶予とするよりも,刑の一部の執行を猶予し,施設内処遇と社会内処遇を連携させることが,その再犯防止・改善更生の実現に,より必要かつ相当と認められるものも存在するということでおおむね意見の一致があったように思います。   そして,今申し上げました者については,これまで刑務所に入ったことがない,あるいはこれと同視できるものであるという点において共通しているところでございますので,第1の制度の対象を,参考試案第1の1(1)及び(2)の者,すなわち初入者としたところでございます。   以上これまで述べたところも含めて,第1の制度が導入された後,刑の一部の執行を猶予とするか否かをどのような要素により判断するのかについて申し上げますと,まずは,参考試案第1の1(1)又は(2),すなわち,前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者等の初入者に該当するか否かについて判断することになります。   その上で,その犯した罪に対する刑事責任の軽重によって,およそ刑期のすべてについて実刑とすべき者に該当するのか否か,あるいは,およそ刑期のすべてについて執行猶予とすべき者に該当するか否かを判断いたします。このうち,およそ刑期のすべてについて実刑とすべき者であるか否かの判断においては,3年を超える懲役・禁錮が言い渡される者であるかどうか,あるいは,3年以下の懲役・禁錮が言い渡される者であっても,その刑事責任を中心とした判断から,刑期すべてについて実刑とすべき者であるかどうかを判断いたします。   そして,これらに当たらないと考えられる場合には,先ほど述べました具体的な適用対象のイメージを踏まえまして,当該事案の対象者について,刑の一部の執行猶予とし,施設内処遇と相応の期間の社会内処遇を連携させることが,その再犯防止・改善更生のために必要かつ相当と認められるか否かを個別具体的に判断しつつ,その刑事責任の範囲内で具体的な刑を量定していくことになるものと考えているところでございます。   このように,刑の一部の執行を猶予するかどうかの判断の際に考慮されるであろう要素を具体的に申し上げますと,刑の一部の執行猶予制度は,先ほども申し上げましたように,実際に執行すべき刑期を全体の刑期よりも短くし,これに見合った社会内処遇としての執行猶予とすることを判決として許容するという側面を有するものでございますので,対象者が,社会内処遇によって再犯防止・改善更生を図るのにふさわしい者であるか否かが重要な判断要素となってくると思われます。   より具体的に申し上げますと,例えば,対象者が,飲酒,不良交友等の犯行原因となった諸事情との断絶を制約するなど,更生の意欲を有していると認められることや,犯行時独居であったが今後親族と同居することとしたり,犯行時無職であったが今後正業に就ける現実的な見込みがあるなどとして,近親者,雇用主等による監督が期待できることなどは,社会内処遇によって再犯防止・改善更生が期待できることをうかがわせる事情ということができ,刑の一部の執行を猶予する必要性・相当性を肯定する重要な要素となると考えられるところでございます。   反面,例えば,犯した罪に対する反省・悔悟の情を示さず,更生意欲が認められないことや,例えば,犯行時所属していた反社会的な組織に今後も所属し続ける旨公判廷で平然と述べるなどしていることは,社会内処遇によって再犯防止・改善更生が期待できないことをうかがわせる事情ということができ,刑の一部の執行を猶予する必要性・相当性を否定する重要な要素と考えられるところでございます。   以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今,詳細な御説明をいただきましたが,まず,ただ今の御説明につきまして御質問をお受けしたいと思います。 ● かなり詳しく御説明いただきまして,どうもありがとうございました。   具体的な適用対象のイメージを3つ整理していただいて,それは具体的で分かりやすい整理だと思いますが,それぞれについてもう少し詳しく,なぜそういう場合に第1の制度を適用するのかという理由について,もう少し突っ込んで具体的に御説明いただければ有り難いと思います。 ● 先ほど第1の制度の具体的な適用対象の3つのイメージについてごく簡単に御説明いたしましたが,今,御質問がございましたので,先ほど申し上げました3つのイメージについて,なぜ,第1の制度を適用することが相当と考えられるのかについて,少し詳しく御説明したいと存じます   まず,現行制度で,道路交通法違反の罪などの比較的軽い罪を繰り返し,初めて実刑に処せられる者についてでございますが,これらの者の中には,犯罪的傾向はさほど進んでおらず,必ずしも長期ではない施設内処遇であってもその再犯防止・改善更生に有用であり,相応の施設内処遇をした後であれば社会内処遇によってその再犯防止・改善更生を図ることが可能なものが含まれていると考えられるところでございます。 また,現行制度では,これらの者に対して,その刑事責任から,比較的短期間の実刑が言い渡されるのが一般的でございます。 この実刑により,一定期間の施設内処遇が可能であり,これによって充実した矯正教育を行うことはできますが,その反面,刑期が短いことから,仮釈放が許されたとしても,短期間の社会内処遇に付すことしかできないところでございます。また,仮に,仮釈放を,例えば法律上許されている限界近くまで積極化したといたしますと,そもそも刑期全体が短いことから,施設内処遇の期間が余りに短くなってしまい,社会内処遇に移行する前に施設内で行うべき処遇を十分にできなくなってしまうおそれがあります。 そこで,これら現行制度で,道路交通法違反の罪などの比較的軽い罪を繰り返し,初めて実刑に処せられる者の中には,犯罪的傾向がさほど進んでおらず,その犯した罪の刑事責任のすべてを実刑とするのではなく,一定期間の刑事施設への収容による施設内処遇の後は,相応の期間,執行猶予の状態に置く,場合によっては更に保護観察に付す,という社会内処遇をすれば,その再犯防止・改善更生を図り得るものが存在すると考えられるところでございます。   次に,現行制度で,実刑と執行猶予の境界にある者についてですが,現行制度では,これらの者に対して,執行猶予が言い渡されることも少なくありません。現行制度における刑の執行猶予制度は,社会内処遇として有用な効果を持つ制度ではございますが,先ほどお配りした統計資料14の2で御説明いたしましたように,近時の取消事由別執行猶予取消人員を見ますと,再犯を理由として執行猶予が取り消されている人員がそのほとんどを占めておりますことなどからいたしますと,現行制度において執行猶予とされている者の中には,単純に執行猶予とするだけでは,判決の感銘力やその処遇効果において十分ではないものもいるのではないかと思われるところでございます。 また,これらの実刑と執行猶予の境界にある者が現行制度で実刑とされる場合には,その犯した罪に対する刑事責任の重さから,やはり比較的短期間の実刑が言い渡されることとなりますので,先ほど現行制度で,道路交通法違反の罪などの比較的軽い罪を繰り返し,初めて実刑に処せられる者に関して申し上げましたように,短期間の社会内処遇に付すことしかできないところでございます。 そこで,これら現行制度で,実刑と執行猶予の境界にある者の中には,一定期間の刑事施設への収容による施設内処遇の後は,相当の期間,執行猶予の状態に置く,場合によっては更に保護観察に付す,という社会内処遇をすれば,その再犯防止・改善更生を図り得るというものが存在するのではないかと考えられるところでございます。   なお,念のために申し上げますと,先ほど御説明いたしました,「およそ刑期のすべてについて執行猶予とすべき者」につきましては,刑の一部の執行猶予制度の対象とすべきではないと考えているところでございます。したがいまして,「現行制度で,実刑と執行猶予の境界にある者」で第1の制度が適用されるのは,当然のことながら「およそ刑期のすべてについて執行猶予とすべき者」でないことが前提となります。   最後に,執行猶予期間中に再び比較的軽い罪を犯して懲役・禁錮に処せられる者についてでございますが,新入受刑者の犯時の身上を見ますと,比較的軽い罪を犯して受刑する者には執行猶予中の者が多いところでございます。 現行制度では,これらの者は,前刑の刑期と新たに犯した罪の刑期とを併せた期間刑務所に収容されることとなりますが,その多くは初めて実刑判決を受ける者であって,その中には,再度の執行猶予とするだけでは,その刑事責任からしても,処遇効果からしても不十分であるが,犯罪的傾向はさほど進んでおらず,必ずしも長期ではない施設内処遇であってもその再犯防止・改善更生に有用であり,相応の期間の施設内処遇をした後であれば,社会内処遇によってその再犯防止・改善更生を実現することが可能であるというものが含まれていると考えられるところでございます。 そこで,これら猶予期間中に再び比較的軽い罪を犯して懲役・禁錮に処せられる者の中には,犯罪的傾向がさほど進んでおらず,その犯した罪の刑事責任のすべてを実刑とするのではなく,一定期間の刑事施設への収容による施設内処遇の後は,相当の期間,執行猶予の状態に置く,場合によっては更に保護観察に付すという社会内処遇をすれば,その再犯防止・改善更生を図り得るものが存すると考えられるところでございます。   以上が,これら3つのイメージの者について参考試案第1の制度を適用するのが相当と考えている理由でございます。 ● 別の点なのですが,先ほどの御説明ですと,犯した罪に対応する刑事責任の軽重の観点から見て,全部実刑にすべき場合と全部執行猶予にすべき場合を除いた残りの部分が一部執行猶予が可能な場合であり,その中で,特別予防の観点から,一部執行猶予にするか,それとも全部実刑にするかを決めるという枠組みだということでした。それと関連して,お伺いしたいのは,現在の実務の量刑の仕方というのは,まず,罪の重さに応じて実刑か執行猶予かを先に決めて,その後で刑期を考えるという発想で行われていると理解してよろしいのでしょうか。 ● 私がすべて実務の状況を把握しているわけではございませんので,更に不十分であれば実務家の委員・幹事の皆様に補足していただければと思いますけれども,いろいろな文献等を見ますと,今,委員がおっしゃったような形で判断するものもあれば,刑期を判断しながら実刑とするか執行猶予とするかを同時並行的に判断するというケースもあるということでございまして,文献等で見た限りではございますが,そういういろいろなやり方があるのではないかと承知しているところでございます。 ● なぜこのようなことを伺ったかといいますと,先ほどの御説明の中で,一部執行猶予を3年以下の刑を言い渡す場合に限るという点について,宣告刑が3年を超える場合については,犯罪として非常に重大なので一部執行猶予にするにはふさわしくないということでした。もし,実務における量刑の仕方というのが,実刑か執行猶予かを,刑期を決めるよりも先に判断しているというのであれば,一部執行猶予における制限も,要するに,結果として3年を超えるような刑が言い渡される事件というのは,裁判官の判断としては,刑事責任の重大性からして初めから全部実刑にすべきという判断になるので,3年を超える場合には一部執行猶予が言い渡せないというのは,それをいわば確認した規定であるという説明になるのかと思ったのですが,刑期の判断と実刑か執行猶予かの判断を同時並行的にする場合もあるのだとすると,必ずしも,そのような説明にはならないわけですね。 ● 先ほど申し上げましたのは,現在の実務では,全部猶予か実刑かの判断を先行する場合もあると思われますが,全部猶予か実刑かだけをまずは判断するというケースだけではなく,全部実刑にするならこれぐらいの刑,執行猶予にするならこれぐらいの刑というのを頭に置きながら全部実刑か執行猶予かを判断しているケースもあるのではないかという趣旨でございます。そのような意味で,御指摘のように,実刑か執行猶予かの判断を先行させた場合に,実刑の判断の後に3年を超える刑とするときには,全部実刑を確認したような形になるのかもしれませんが,今申し上げましたように,具体的な刑期も頭に置きながら,全部実刑か執行猶予かを判断するようなケースでは,現行制度では,3年を超える刑でありながら執行猶予となる場合はあり得ないので,そもそも3年を超える刑期が頭にあるような場合には,そもそも実刑か執行猶予かという判断はする余地がないということになるということなのだと思います。 ● 刑期を先に考えるのか,それとも執行猶予にするかどうかを先に,あるいは併せて考えるのかという点については,従来も議論のあったところだと思いますけれども,現行法が3年以下の刑を「言い渡したときは」という表現をしているということは,刑期を先に決めるという考え方が少なくとも明治40年当時は支配的だったためでしょう。しかし,その後だんだんと,判例でも不利益変更禁止との関係で刑の軽重を総合的に判断するようになってきていて,そこで改正刑法草案を作りましたときは「言い渡した」という過去形の表現をやめて,「言い渡すときは」という現在形に直したわけで,そのときはおっしゃるとおり全部を合わせて総合的に判断するという気持ちが強かったからだと考えられます。今回出されている参考試案では,現行法に合わせる形で「言い渡したときは」と書いてあるわけですけれども,この点はもう少し柔軟に考えることもできようかと思っています。 ● 今の点はよろしいですか。 ● はい。 ● 実務家の方で今の点に関して御意見を述べられまたは現状に関する御説明をしていただける方がございましたら,お願いいたします。 ● 現状といいますか,やはり3年を超える刑を言い渡すべき事案かどうかというのが実務家,検察官にとっては量刑上の最大の関心事であり,量刑上の主要な争点として,検察官あるいは弁護人のそれぞれの立場から主張をし,それに対して裁判官に判断いただくということであったと思います。これは執行猶予かどうかというよりも,3年を超える刑を言い渡すべき事案であるかどうかという形で議論が今までは行われていたのではないかなと思います。そういう意味では,例えば懲役1年の実刑にするときに,まず刑を決めるのか,懲役1年の実刑にするのか,懲役1年6か月の刑にした上で執行猶予にするのかがある意味同時に考えられる,それはおっしゃる意味も分からないではないのですけれども,少なくとも3年を超えるような事件については,これは刑期として3年を超えるべき事件であるという形で量刑がされてきたのではないでしょうか。そういう意味で,3年という分水嶺は非常に重みがあるものとしてこれまで考えられてきたものであり,これは今後とも,国民感情としても,3年を超える刑なのに刑務所に,一部とはいえ,行かなくていい世界が生じるというのは,かなりショッキングなことなのではないかと感じている次第でございます。 ● どうもありがとうございました。   ほかに御質問はございますでしょうか。 ● あえて前々回の議論を蒸し返すようで恐縮なのですが,なるほど3年を超える事件というのは重大な犯罪も入っていますので,それを一律に全部対象にしていいかどうかというのは問題があると言えば問題があるのかもしれないのですが,確率としては低いけれどもそれにチャンスを与えなくていいのかどうかと私は思うのです。前回からの議論で,執行猶予というのは全部を執行猶予するわけで,一部執行猶予とは違うわけですから,同じ枠組みの中で判断するのではなくて,4年なり5年という選択肢もあるのかなと。ただし,恐らく重大な犯罪等がかなり入っていますのでそう簡単には適用されないかもしれないけれども,その可能性をすべて否定していいかどうかについて若干疑問を感じています。 ● ほかに御質問はございませんでしょうか。 ● 少し違った観点からの質問ですが,今の御説明で,相応の施設内処遇が先にあれば残りは社会内処遇でも足りるという点が重要な部分ではないかと思って聞いておりましたが,御提案されている第1あるいは第2のところで,相応の施設内処遇について,ある一定の限界というのでしょうか,最低限この程度は入っているべきだということが読み取れるのかどうか,あるいはその辺をお考えになっているのかどうか,その辺りのことを教えていただければと思います。 ● 試案としては,確かに御指摘のとおり,例えば実刑部分をどれだけにしなければならないというような枠を文言として設けているわけではございません。ただ,私どもが考えておりますのは,制度の趣旨は,犯罪者に対し,施設内処遇を行い,その後社会内処遇を行うことにより,施設内処遇と社会内処遇を連携させて,その再犯防止・改善更生を図ることにあると考えておりますので,例えばでございますが,全体の刑期に対して極端に短い刑期の部分についてのみ実刑とするというようなことは制度の趣旨にそぐわないと考えております。ただ,それを具体的にどれだけだという形で,規定として一律に枠を設けることにはなかなか難しい問題もございますし,事案ごとの刑事責任の軽重なり,特別予防の必要性なり,そういった先ほど申し上げましたような様々な要素を考慮して適切に判断がなされるのではないかと考えているところでございます。 ● ありがとうございます。   伺いながら思っていたことですが,現行法の懲役刑の下限,それに法律上の減軽や酌量減軽をしたときの下限のようなものを念頭に置かれ,その制度と今回御提案の制度は違いますけれども,少なくともその程度の縛りをかけているのか,それとも,今改めて御説明があったように,今回の新たな制度の趣旨に照らしてケース・バイ・ケースに御判断されるのか,どちらなのかなと思っておりましたが,後の方という理解でよろしいでしょうか。 ● 基本的には御指摘のとおりでございます。具体的にどの程度の期間が相当なのかということになりますと,先ほど申し上げましたとおり,犯した罪の刑事責任の軽重,対象者の犯罪的傾向の内容・程度,自発的更生の可能性等を考慮しながら,全体の刑期の長さとの相関関係で決せられることになろうかと考えておりますので,正に個別具体的な事案ごとに判断されることになるのではないかと思います。ただ,一般的に申しますと,例えばでございますが,1か月を切るような刑を実刑部分としたりするというようなことは相当ではないのではないかと考えているところでございます。 ● ほかに御質問はございませんでしょうか。 ● 大まかなイメージとしての話ですが,今日拝見した統計資料14の1ですが,例えば1ぺージでも,1年以下,2年以下,3年以下と分類して数字が出ております。これは新受刑者でありますから,実刑になったということでありましょうけれども,一部執行猶予が導入されると,実刑部分だけを考えればこの数字が左,つまり短い方へある程度動く,しかし刑期そのものとしてはむしろ右へ動くということになるだろうと思います。その際,3年という絶対的な枠がありますので,そこをはみ出すことはないわけですけれども,刑期そのものとしては3年以下の範囲で数字が少し右へ動くと,そう考えてよろしいでしょうか。 ● 一般的には御指摘のとおりでございます。仮に一部執行猶予制度が導入された場合におきましては,実刑となる期間は相対的に短くなるのでないかと思います。ただ,その一方で,前にも申し上げましたけれども,この制度の導入によって刑事責任を軽く評価するということではないと考えておりますので,全体の刑期は相応に長くなるのではないかと考えております。 ● 少しだけ補足させていただきます。個別の刑期について申し上げると,今御説明したとおりだと思いますが,統計上反映される割合がどれぐらいになるかとか,その辺りは,先ほど申し上げたように個別の事情による判断がございますので,何とも言えない部分もあるかもしれないということであります。 ● ほかに御質問はございませんでしょうか。   御質問がございませんようでしたら,ここで休憩をとりまして,その後御議論に入っていきたいと存じますが,それでよろしいでしょうか。   それでは,ここで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ● 再開させていただきたいと存じます。   先ほどの事務当局の御説明を踏まえまして,第1の制度において,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのか,特に,刑事責任の軽重により判断するのか,社会内処遇の必要性・相当性により判断するのかという論点につきまして御議論をしていただきたいと存じます。 ● 先ほどの御説明で,刑の一部の執行猶予とするか否かということにつきまして,まずは犯した罪に対する刑事責任の軽重ということで大枠を決めて,全部の実刑でも全部の猶予でもないという中間の領域の者について,先ほど御説明のあったような諸事情を考慮して,社会内処遇によって再犯防止とか改善更生を図るのにふさわしい者か否かを判断するという御説明がありまして,私の実務的な量刑の感覚からすると大変うなずけるところかなと思っております。ただ,実際に量刑を考える上で,そういう事情がどのように主張立証されるのかというのがやはり一番気になるところでございまして,その辺りについて,事務当局で何かお考えがあるのか,あるいは弁護士の委員・幹事の方からも何か御意見が伺えればと思っております。 ● どうもありがとうございました。 ● まず,事務当局から今御指摘のあった点について考えているところを御説明したいと思います。   第1の制度の具体的な適用対象のイメージということで,先ほど説明させていただきましたが,それは比較的軽い罪を犯して,初めて刑務所に入ることとなるものであったり,あるいは実刑となるか,執行猶予となるかという境界にあるものということであったところでございます。   今申し上げましたような者につきましては,現行制度におきましても,検察としては,適正な量刑が得られるように,情状面も含めた諸般の事実関係について,相応の証拠収集を行い,その結果を公判でも立証することに努めているものと承知しており,第1の制度が導入された場合におきましても,それと同様の運用がなされるのではないかと思っております。   付け加えて申し上げますと,第1の制度が導入された後におきましては,現行制度であれば実刑とされていた者について,一部とはいえ執行が猶予される可能性が出てまいります。 そういたしますと,これは私が言うより弁護士の委員・幹事の方からお話しいただいた方がよいのかもしれませんけれども,恐らく被告人・弁護人側としては,現行制度であれば実刑にしかならないということで,少し言葉は悪いかもしれませんが,あきらめていたような事案についても,一部執行猶予によって効果的に被告人の更生を図ることができると考えられるような場合には,一部執行猶予とすることが相当であることを根拠付ける諸事実についての主張立証を積極的に行うこととなるのでないかと考えております。 その場合,検察側といたしましては,その被告人・弁護人側の主張立証に必ずしも納得できない点がありましたら,必要に応じて反論や反証をすることになるのではないかと思っております。 そのような意味において,これまで実務の運用で法廷にあらわれていた以上の材料が裁判官の判断の対象となるようなこともあるのではないかと思われるところでございます。 ● ただ今の御意見を踏まえた上で,いかがでしょうか。弁護士の先生方に対して御質問があったようですので,よろしくお願いいたします。 ● 制度の理念は脇に置きまして,法廷戦略として弁護人であればという観点で意見を申し上げますと,やはり被告人にとっては執行猶予か実刑かというところが最大の関心事になろうかと思いますので,まずは全部執行猶予が取れないかということで,そのための主張立証をしていくのだろうと思います。なかなかそれが難しいということになると,今度はその刑期を短くするための主張立証活動をしていくのだと思います。今は単純に刑事責任が軽い等の主張をしていくことになるのだと思いますが,この制度が導入されますと,一部執行猶予の制度を使って,社会内処遇をこれだけしてくれるのであればこの程度でいいのではないか,社会内処遇でこれだけ更生改善の効果が見込まれるではないかという主張立証をしていくことになるのかなと考えています。 ● 今のに若干付け加えまして,先ほど3つのイメージについて御説明があったと思うのですけれども,道交法事案などを何度も繰り返しているような場合は,その前が執行猶予という場合も結構あるのだろうと思うのです。そうすると恐らく法律上は実刑しかないというような場合が多いのだろうと思いますが,その場合に,ただ刑務所に入れるだけではなく,一部執行猶予にした方がこの人は改善更生するのだという立証は弁護人の側がするのかなと思います。   それから,境界事例の場合は,弁護人としては一部執行猶予を求めるということは普通あり得ないと思いますので,それは全部執行猶予を求めるということで,それで社会内処遇の相当性ということを言って,結果としてそれが一部になるか全部になるかということなのだろうと思います。   三番目の事案は,恐らく再度の執行猶予の要件がある場合は再度の執行猶予ということを求めるのだと思いますが,現状ではなかなかそれは認めてもらえない場合があるので,要件に当たる場合は,その中で一部になるものもあるでしょうし,その再度の執行猶予の要件は満たさないけれども,この一部執行猶予の要件を満たす場合には,今までは全部実刑でしかあり得なかったのでしょうけれども,それについて,先ほどのと同じですけれども,社会内処遇を一部入れることによって改善更生が図られるのだ,社会内処遇をすることが適切なのだということを併せて主張していくことになるのだろうと思います。 ● ありがとうございました。最終的には立証された事情に基づいて裁判所が裁量で量刑判断していくことになろうかと思いますけれども,更生の意欲があるかどうかとか,近親者とか雇用主の監督が期待できるかどうかとか,あるいは社会内処遇によって再犯防止が図れるかどうかというのは,今の執行猶予か実刑かの判断をするときにも出てきている事情ではあるだろうと思うのですが,もしこの制度が入るということになると,さらに,施設内処遇やその後の社会内処遇でどのようなプログラムがあるかとか,どういう配慮がされるかという辺りのことについても場合によっては立証されて,裁判所の判断に影響を与えるようなことがあるのかなと思って伺った次第です。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 今おっしゃった御意見に賛成で,もしこの制度が導入されますと,社会内処遇でどういうことができるのかということがこの制度の活用に大きく関係してくるように思います。そうすると,正に保護局で用意していただけるメニューなどが豊富になった方がこの制度の活用ができるのかなと思っていますので,場合によってはそちらの法律も併せて検討していくことが必要なのかなと考えています。 ● この部会の議論で社会内処遇という言葉が使われますけれども,事務当局としては単純猶予の場合も含めて社会内処遇という言葉を使っておりまして,社会内処遇イコール保護観察が付くかどうかというところは,意識的に使い分けて議論した方がいいのかなと思っております。   それと,現状の保護観察付執行猶予の運用の面で申しますと,実際の4号保護観察の事件を見ておりまして,社会内処遇が相当かどうかということよりも,むしろ保護観察を付けることによって再度の執行猶予がないのだと,つまり,この被告人については実刑判決も十分考え得るところではあるのだけれども,保護観察を付けることによって再度の執行猶予はないのだということで,より強い威嚇の下で執行猶予に置くのだという判断を裁判所においてされたのかなと思われるような事案もあるところでございまして,実務上は保護観察というのは,先ほど委員からも再度の執行猶予という話がございましたけれども,ある意味保護観察を付けるかどうかが刑事責任の軽重と関連して判断されているようなところもあるのかなと思っておりまして,そこのところも議論していただければと考えております。 ● どうもありがとうございました。 ● 今の点で,第1の制度の対象者を保護観察に付するかどうかについては,今回検討されている制度におきましては,保護観察に付するかどうか,初入者の場合については裁量的とされているところで,その点をどう理解するのかというところと非常に関連してくるところがございます。そこで,私の個人的な意見でもありますけれども,現行の実務上は,保護観察に付するかどうかというのは,ただ今,幹事からも御指摘がありましたように,単純執行猶予の場合には再度の執行猶予を付する余地があるけれども,保護観察付執行猶予の場合には再犯を犯した場合には実刑判決しかないため,量刑の問題として保護観察を付するかどうかというのが重要な論点になってきたと思うのです。しかし,今回の一部執行猶予につきましては,一部とはいえ実刑判決がなされるわけですので,その一部執行猶予とされた部分につき保護観察に付しても付さなくても再度の執行猶予はあり得ず,この点に違いはないので,威嚇的な効果をねらって保護観察に付すということにはならないと思います。ただ,今回の一部執行猶予の制度の対象としてどのような人が乗ってくるのかということと,この制度に対する国民の信頼という二つの観点から考えますと,やはり量刑の問題として,一部執行猶予の部分について保護観察を付すべき場合が多いのではないかと思います。   それはどうしてかといいますと,一つは,執行猶予中の再犯者についても初入者に対する一部執行猶予制度が適用されるということでございますけれども,その場合は,現に執行猶予の恩恵に浴していたにもかかわらず再犯に及んでしまったということとなりますので,一般的には,一部実刑部分があるとはいっても,もう一度再犯に及んでしまうのではないかと懸念される場面ということができ,効果的に本人の改善更生を図ってもらう,あるいは再犯を防止してもらう,あるいは国民も安心して見ていられるという意味では,ほとんどの場合,量刑の問題として,保護観察を言い渡すのが相当ではないか,特段の事情がない限りそういう判断が相当ではないかというのが第1点でございます。   第2点は,前科・前歴の無い者でありましても,例えば懲役3年の刑を受けて一部執行猶予の言渡しがされる場合,そのうち半分が実刑になるのか,3分の2が実刑になるのか,これは枠組みとして決められておりませんので,正にこれからの運用の問題になるかと思いますけれども,いずれにせよ,私が感覚的に考えますと,多くの場合,少なくとも半分ぐらいは実刑に服することになるのではないかなと考えております。そうだとすると,3年の例で考えますと,1年半近く,あるいはそれ以上刑務所内で受刑して,それから執行猶予になるわけでございまして,その場合の改善更生というのは,刑務所に入っていなかった場合よりも本人の自助努力,相当真しな努力をしないと立ち直りは難しいので,それを助けるという意味でも保護観察というのがそういう場合には必要になってくるのではないかという感じがいたします。そういう意味では,純粋な初犯者であっても,ある程度長期の刑が言い渡された場合には,原則として保護観察を付するのが相当ではないかと考えているところでございます。   これは,このスキームですと恐らく量刑の問題として考慮されてくるのではないかと思いますけれども,今申し上げましたようなことを考えますと,このような場合には,特別な事情がないのに保護観察を付さなければ,量刑不当という問題が生じるのではないかなと考えているところでございます。 今申し上げましたところは,むしろ運用の場面の問題ではありますけれども,この際御議論いただければ,この制度に対するイメージが相当違ってくるのではないかと思います。制度的には任意的にすべきで,一律保護観察にするというのは過剰だという感触がいたしますけれども,実際の事件を想定してみますと,相当部分については保護観察を付さないといけないし,そうしないとこの制度についての信頼も根付かないのではないかという感触を持っております。 ● どうもありがとうございました。   今,量刑の問題として保護観察をどう考えるかという重要な問題の指摘がございましたが,ただ今の点につきましても御意見がございましたら,お願いいたします。 また,そのほかの点でも結構ですので御意見がございましたら,御自由に御発言をお願いしたいと思います。今,理念の問題,それから運用にかかわる問題も連動してきておりますので,どうぞ,その辺は御自由に判断されて御意見をお願いしたいと思います。制度の理念の問題として事務当局から御説明をいただいておりますが,これも今までの第一巡目の議論を踏まえてこういう形での説明振りになっているわけでございますが,この点はいかがでしょうか。 ● 私は第一巡目の議論の際に,3年を超えることを考えて検討してもいいのではないかという意見を申し上げたのですけれども,今日の御説明を伺いましても,御説明にありましたように一部執行猶予の制度は刑責を軽くするわけではないわけですから,恐らく刑事責任に見合った一部執行猶予というのは必ずあるはずで,3年に限定しないといけないというのは刑事責任の観点からは必ずしも言えないのではないかという気がいまだにしているのです。ただ一方で,全く新しい制度ですので,国民の理解と納得が必要であるというのはそのとおりで,それは立法の点でもそうでしょうし,社会内処遇の円滑な実施という点でもそのとおりであろうと思います。先ほど委員から,3年を超える懲役に一部執行猶予が付くのはかなりショッキングな世界ではないかという御発言がありましたけれども,もし仮にそうだとすると,新しい制度を導入するに際して上限を設ける,3年という従来の上限に従うということには賛成できるかなと考えております。それで実施して国民に受け入れられれば,また将来延長することも考えられるのではないかという意味で,私は3年以下という案に賛成したいと思います。 ● どうもありがとうございました。 ● 最初に御説明のあった,一部執行猶予の位置付けにかかわる話だと思いますが,一部執行猶予の制度は刑責を軽くするものではなく,個々の事案においては,刑事責任の程度において一部執行猶予と対応する全部実刑というのは必ず想定しうるというのはそうだとしても,類型的に見た場合には,全部実刑,一部執行猶予,全部執行猶予というかたちで,刑事責任の程度は段階的に下がっていくということになるのだろうと思います。そういう前提に立つなら,一部執行猶予を中間的な責任に対応する制度として位置付けるという考え方も成り立ち得るだろうと思います。   それから,3年以下の刑が言い渡される場合に限るという点ですけれども,私も,前回は,3年以下に限る必要はないのではないかと申し上げました。ただ,最初の御説明にあったように,現行法の下で執行猶予が言い渡し得るのが3年以下の刑の場合に限定されている趣旨が,刑期が3年を超えるような事件については,刑事責任の重大性という観点から執行猶予にすることはできないということにあり,それが一部執行猶予についても同じように当てはまるということであれば,3年という線の引き方もあり得るだろうと思います。 ● どうもありがとうございました。   当初,理念の問題をどうするかという点と,3年以下にするかという点を分けて考えようと思っていたのですが,もう既に3年以下の問題にも入ってきており,賛同を得ています。ほかに御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 私は先ほど意見として言ってしまったのですけれども,確かに検察側―裁判所も恐らくそうなのかもしれませんけれども―からすると,3年を超えるのはそれなりの重い刑だということで,それに何らかの形で釈放的な要素を入れるのには抵抗があるというのは分からないでもないです。ただ,私ども弁護側からすると,すごく微妙なところで3年を超えてしまう場合があるのです。その場合にもう執行猶予の道がないわけですから,そうだとするならば一部執行猶予の道をつくってあげてもいいのではないかと。ですから,前回も申し上げましたけれども,私は必ずしもそれが5年―5年でなくてもいいですね,4年でもいいからチャンスを与えることが可能な法制度がつくれないかという意味で私はまだちょっと抵抗がありまして,3年ではない枠組みでここでつくることができないだろうかと思っています。   ただ,今日の一連の事務当局の説明は非常に分かりやすくて,3年で線を引くことによってどのように物を考えればいいかということまでいろいろ話をされたりしていますので,今度それを超えたものが出てくるというと,どうやって判断するのだろうという議論が出てくるのかなという気はちょっとしています。ただ,私どもとしては,そこの3年はもうちょっと何とかならないかなという気持ちを持っているということであります。 ● どうもありがとうございました。   どうぞ,○○先生,お願いいたします。 ● 今の点についてですが,私は先ほど,統計資料14の1の数字を見ながら,実刑としては左,少ない方へ,しかし刑期としては右の方へ動く傾向を生ずるのではないでしょうかと申しました。その場合,右の方へ動くときの大きな歯止めになっているのがこの3年という線なので,もしこれを外してしまいますと,例えば,実際には3年の求刑のところが,実刑としては2年でよろしいから刑期としては4年にしたいということも生じ得るわけで,将来はともかくといたしまして,取りあえず制度の発足時としては3年という歯止めをかけておいた方がいいのではなかろうかと思っている次第です。 ● どうもありがとうございました。   制度の歯止めという問題と,最初の出発点での枠決めという問題もございます。そういう観点もございますし,先ほど何人かの委員の方々からも御指摘がありましたが,国民がどういう観点からこれを受け入れるだろうかという視点も重要な意味を持つだろうと考えられますので,そういった点も踏まえて更に御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 参考試案の第1の1の要件が「情状により」となっているわけですが,「情状」という言葉は御承知のとおり非常に多義的であります。この参考試案ないし現行法の執行猶予に関する刑法第25条も同じですが,「情状により」というのは非常に広い意味で用いられていると思います。しかし,刑事訴訟法の起訴便宜主義の規定などを見ますと,犯罪の軽重と情状とが分けて書かれておりまして,その場合の「情状」というのは犯罪の軽重以外のことを指しているわけです。それで,試案の「情状」というのは何かということですけれども,改正刑法草案などの考え方では,刑の適用の一般基準の趣旨を考慮してということで明確にする努力がなされていたと思いますが,要するに犯罪の軽重という刑事責任に対応する部分と,対象者の改善更生という特別予防的考慮の部分と両方が併存する必要があるのではないか。もし可能ならそのことをここに書き表して,そういう意味での情状だということが明らかにならないだろうかという気もするのですが,これは立法上は非常に難しい注文をしているのかもしれません。   しかし,なお一言付け加えますと,この要件については,前回も裁判所で量刑の判断をするときにもう少し基準を明確にしておく必要があるという御趣旨の御発言が相次いだかと思いますけれども,これは実は検察官についても同じなわけで,求刑をされるときにどういう求刑をされるか,あるいは,現在は執行猶予については求刑では触れないということかもしれませんけれども,この制度が入ってきたらやはり触れざるを得ないケースもあるのではないか。そのことは恐らく弁護人についても同様であって,ただ執行猶予を求めますと言うだけでは足りない場合も出てくるのではないか。そうなると何らかの基準が条文の上でも欲しいなという気がしてくるわけですが,その辺はいかがでございましょうか。 ● 試案の第1に挙がっている「情状により」という文言に関しての御意見でございますが,この点について何か意見がございましたら,お願いいたします。 ● 今は第1の議論をしているわけでありますが,第2では「犯情の軽重その他の事情を考慮して」と記載されていて,それ以外に必要性と相当性を判断するという形になっているので,その表現と,第1の制度の「情状により」というのはどういう違いがあるのでしょうか。意味合いとしての違いですね。 ● まず第1の方の「情状により」でございますが,以前御説明申し上げましたとおり,犯情の軽重でありますとか,あるいは犯情以外の一般情状を含めた様々な情状を考慮して一部の執行猶予にするのかどうかを判断するということでございます。現行の執行猶予制度においても,そういう犯情の軽重,刑事責任の軽重なり,一般情状その他の事情を総合的に考慮して執行猶予にするのかどうかを判断しており,そういう意味で共通するところがあるということで,試案の第1の方では「情状により」と記載させていただきました。   他方,第2の方でございますが,第1の制度の方は薬物犯罪に限らず様々な犯罪が対象となっているのに対して,第2の制度の方は対象は薬物犯罪に特化されております。このように第2の制度では対象がより限定されておりますので,「犯情の軽重その他の事情を考慮して,その薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善するために必要であり,かつ,相当であると認められるとき」という形で実質的要件をより具体化したところでございます。「犯情の軽重その他の事情」というところは,そういった意味では共通するものではないかと考えております。 ● 第1の制度の「情状により」という要件部分と,第2の制度の要件部分ということでございますが,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのかについての御議論がそれぞれ第一巡目の議論であったわけであります。そういう意味では,事務当局で試案を書いたのは書いたのですけれども,改めて整理したところを今日御説明申し上げて,それを更に御議論いただいて,これから第2の制度の方についても御議論いただくということになりますので,そういう実質的といいますか実態的な部分でどういう要素として考えていくのかということを踏まえて,その御議論の結果で,では今後更にどのように書いていくのかということになるのではないかと思っております。ただ今,第1の制度の情状についてという部分についてももう少し書き込めないかという御意見をいただきましたが,そこは,どういう要素により判断するのかというところをまず御議論いただいて,書き方につきましては法制技術的な観点も恐らくあろうかと思いますので,そういう実質的な御議論を踏まえた上で,更に法制技術的な観点も踏まえて検討していくことになるのかなと思っております。 ● 「情状」という文言で申しますと,執行猶予の取消しの場面でも,今度は情状が重いときということで同じく「情状」という言葉が出てまいります。保護観察の場面においては,遵守事項を守らない場合にどうするかということで,そこは,このまま保護観察を続けていいのかどうなのか,社会内処遇をこのまま継続していいのかどうなのかという観点から,その辺の情状も判断して執行猶予の取消しの申出をしているということでございますので,そこで使われる「情状」というのはまた少し違った意味になるのかということで,情状をどこまで具体的に書くのかどうなのかという観点は入口の議論ですけれども,出口の方の議論もあるということで,併せて議論していただければ幸いでございます。 ● 今の事務当局の御説明は大変よく分かるのですが,その「情状」という用語ですが,そこには,犯罪と認定された者のいろいろな犯罪に至る動機あるいは状況というものが入って,広い意味では刑事責任の存否を決める事情としても「情状」という言葉は使われていると思います。しかし,広い意味での執行猶予というものが,刑事責任の存在を前提とした上でどのような形で刑事責任をとらせるかという問題であると整理するならば,この第1の制度のところで言われている「情状」というものも,本当ならば刑事責任の軽重という点は所与のものとして,それとは別に,犯罪者の処遇の在り方を決めるメルクマールとして,そのように純化されたものとして理解した方が明確かなという気がいたします。ですから,第1の制度も第2の制度も,制度の理念としての御説明としては刑事責任の軽重プラス社会内処遇の当否,可否ということだと思いますが,一部執行猶予を決める要件としての「情状」というときには,可能であれば,刑事責任ということを除いて,社会内処遇の必要性・相当性に純化させた方がいいのではないかと思っております。刑事責任の存否と社会内処遇の取り方というのは,連動はしていますがベクトルの向きは違うとも理解できるので,本当は分けた方がいいのではないかなと個人的には思っております。 ● どうもありがとうございました。 ● 本日,事務当局からの御説明でも申し上げたように,刑事責任といいますか,犯情の軽重により,一部猶予の対象とすることができるか否かが区切れる部分もありますので,その点を要件から全く区別してしまうというのは考え方としてどうかなという印象であります。もちろんそれだけではないということで考えていくわけではありましょうけれども,完全に刑事責任の軽重の点を除いた要件に純化するということには慎重な検討が必要と思われます。 ● 第1の制度につきまして,ほかに御意見がございますでしょうか。 ● 今おっしゃったのは,先ほどの事務当局の御説明にもありましたが,3年以下の場合で,この試案の要件で言えば一部執行猶予とする可能性がある場合でも,刑事責任の重さという点から一部執行猶予にすべきでない場合があるということでしょうか。 ● 先ほど御説明いたしましたように,もちろん3年以下の場合でも刑事責任の観点から一部執行猶予にすべきでない場合はあり得ると思っておりますが,3年を超える刑期の場合にはそもそも対象から外すことになっておりますので,その部分で犯罪の軽重といいますか刑事責任の軽重というのも当然見ていくこととなります。したがいまして,その限りにおいて,この一部猶予制度の適用をするかどうかを考えるに当たってはそういう視点も入ってくるのではないかということを申し上げただけでございます。 ● 今の御発言の趣旨は理解いたしましたが,先ほどの事務当局の御説明にもありました刑が3年を下回る場合であって一部執行猶予にするのが相当でない場合というのは,どのような場合のことを事務当局としては想定されているのかをお伺いできればと思います。 ● 先ほど御説明申し上げましたように,刑の一部の執行猶予制度も刑罰制度の一内容であり,刑罰の言渡しの一環として言い渡されるものであります以上,刑罰制度の持ついろいろな機能や,刑罰に求められる様々な要請に合致し,また,刑罰制度を支える国民一般,特に犯罪被害者等の理解と納得を得るものであることが必要不可欠と考えております。 そういたしますと,凶悪・重大事犯を犯した者のようにその犯した罪に対する刑事責任が相応に重い場合や,犯した罪の社会的影響の観点から一部とはいえその刑の執行を猶予するのが相当でないような場合については,刑の一部の執行猶予を言い渡すことができるものとするのは相当ではないと考えているところでございます。   今,御指摘がありましたように,3年以下の刑期の場合であっても,犯した罪の罪種や罪質,具体的行為態様,社会的影響等によっては,現行制度において3年を下回る刑期でありながらも実刑は動かないという判断がされることがあるのと同じように,刑の一部の執行猶予制度の対象とすることが相当ではない場合というのはあり得るものと考えております。   具体的に申し上げますと,例えば,起訴された事実の被害額は少額であるものの,反社会的な組織に属する者が,その組織の一員としての立場で,組織的に行った詐欺行為によるものであるような場合には,3年以下の刑期であっても,およそ刑期のすべてについて実刑とすべき場合であると判断されることがあり得るのではないかと考えているところでございます。 ● 反社会的組織に属するというお話もあると,何となく行為者属性も複合的に絡んでいるような気がしないわけでもないですね。感想ですけれども。 ● 申し上げた趣旨は,反社会的な組織というのは,もちろん行為者属性ではあるのかもしれませんが,ある意味行為責任にかかわる問題でありましょうし,そういう意味ではいわゆる特別予防的要素というものからは少し違う面を持っている部分でもあるのかなということで,その一つの例として挙げたということであります。 ● 「情状により」の内容なのですが,前に御説明があったように,これは,現在の刑法第25条の「情状により」と基本的には同じ中身になると思います。したがって,犯罪の軽重も当然考慮されるでしょうし,それと併せて特別予防的なことを考慮するということになると思います。その意味では,後でまた出てくると思いますが,第2の制度の方での考慮要素とそれほど変わらないと思いますので,同じような形で具体化することが望ましいとは思うのですが,そうしますと,25条が今のまま残るということになると,同じ執行猶予の中で,全部執行猶予か一部執行猶予かで,要件の表現が異なることになります。それが,法制的に妥当なのかどうかというところが問題になるようにも思いますが,それで特に問題ないということであれば,もう少し具体化するという方が望ましいのではないでしょうか。 ● これは第2の制度とも関連しますので,後でまたその点は議論させていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ● 「情状」という要件を犯罪の軽重に特化して考えることもできなくはないように思います。先ほど幹事が挙げられた例でも,財産犯の被害額は少額である,しかしその行為の態様が悪質であると言われましたが,ここで問題になるケースというのは,確かにそういう重くする要素と軽くする要素と両方を含んでいる場合でありましょう。先ほど,中間的な領域というお話も伺いましたが,そういう両方がある場合に,一体この制度はどちらを考えればいいのだろうかということですけれども,もともと執行猶予というのは,全部実刑にできるはずのところを一部にせよ執行を猶予するというのでありますから,考え方としては軽くする要素だけを取り出せばよいのではないかとも思われます。つまり,重くする方の要素は懲役何年という量刑のところで既にあらわれていて,刑期に反映しているので,しかしその刑期を全部実刑という形で執行すべきかどうかという点になりますと,情状憫諒すべきという現行法にもあらわれているような考え方が出てくるのではないか,被害額はわずかである,示談のために努力もしているということで,それでは一部を執行猶予しようということになる。そのように思われるのですが,いかがでしょう。 ● 例えば,第2の制度でも「犯情の軽重」と書いた趣旨といたしましては,一部執行猶予にするとして,具体的に実刑とする部分をどれくらいの刑期にし,執行を猶予する部分をどれくらいの刑期にし,総体をどれくらいの刑期にし,執行猶予の期間をどれくらいの期間にするのかなどを考えていく場合においては,特別予防的要素だけを重視し過ぎてもまずい場面もあるのかなとも思っておりまして,やはり,当然のことではございますが,刑事責任の範囲内で刑の量定をするということを明確にするということがございます。すなわち,特別予防的には,長期間の執行猶予期間,あるいは執行猶予期間の前提となる執行を猶予する部分の刑期が相当程度長期間必要であると考えられるとしても,やはりそこには犯罪の軽重といいますか,刑事責任的な枠があるのではないかという部分がありますので,そういう意味でも総合的に考えて量定していくことになるのではないかと思っております。 ● 今の点はいかがでしょうか。これは制度の根幹にもかかわる論点でございますので,御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 今のお話ですが,第1の2においては,第1の制度の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができるということが出ていますので,「情状により」というのは軽い方ばかりではなくて重い方も入って,先ほど来,保護観察を刑責の一つに考えるというのであれば,「情状により」を軽い方だけ考えるというのは整合性がなくならないかなという気がいたします。 ● 今の点について,何かございますか。   先ほど委員から保護観察の問題について御指摘があって,ここでまたこれが連動してきているわけですが,この点に関して御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 第1の制度の場合に保護観察を刑事責任の考慮要素というか一つと考えるかどうかということについて,いろいろ御議論していただきたいところだとは思うのですけれども,恐らく,先ほど説明がございましたように,現行のいわゆる保護観察付執行猶予制度の下においては,おっしゃるとおり,保護観察付執行猶予中の再犯の場合にはこれは必ず取消しになりますので,刑事責任が当然連動してくるだろうと。しかし,今回のこの制度の場合には,保護観察が付いているか付いていないかということによって取消しが何か差異が出てくるのかというところ,これからの御議論だろうと思いますが,私はどういう差異が出てくるのかなというのがもう一つよく分からないなという感じがしておりまして,その辺も含めて御議論していただければと思います。そういう意味では,本当に現行の保護観察付執行猶予制度とパラレルに考えるのかどうかというところも一つの御議論の対象かなという感じはしております。 ● 今,保護観察の問題に関して御指摘がございましたけれども,それも踏まえて御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 私も,この場合の保護観察は,やはり特別予防といいますか,対象者の改善更生という点から付けられるべきものだと思います。第2の制度の方で保護観察を必要的にしているのはそういう趣旨ですので,それとパラレルに考えれば,第1の制度においてもやはり保護観察はその観点から付けるということになるのではないでしょうか。 ● ただ今の御意見は,第1の制度で,対象者に保護観察を付するのは必ずしも責任の重さを重くするためのものではないという趣旨でございますね。 ● 私もそのとおりだと思います。先ほどの委員の御意見も,それを前提とした上で,しかし第1の制度で一部執行猶予になる場合の多くは保護観察に付すことが必要ではないかという御趣旨だと伺って,私もそのとおりだろうと伺っておりました。 ● ○○委員,もし補充がございましたらお願いします。 ● 私が考えましたのは,保護観察に当然付するべきであったのに付されなかったときに,これが上訴の理由になるのかどうかという場面を考えますと,これは量刑不当ということでしか取り上げようがない話でございまして,保護観察が付いている執行猶予と付いてない執行猶予では,保護観察に服さなければならないという点では重い処分であることは間違いないので,言い渡した刑が重いか軽いかという意味では,保護観察が付してない執行猶予よりも保護観察が付された執行猶予の方が重いということになり,逆に言いますと,保護観察を付するべきであるのに付されなければ,量刑が不当に軽いということになるのではないかという意味で申し上げたつもりでございます。 ● どうもありがとうございました。 ● 先ほどからお話が出ています「情状により」というところをもう少し中身を書き込むかどうかという点に戻らせていただきたいと思いますが,これは私の個人的な感想なのですが,その点は,正に先ほどもお話がありましたように,どういう要素をここで考えていくかということと裏腹の関係になるのだろうと思っています。ただ,それを書き込みにいくとした場合に,どのように書き込むかによって,この制度をどういうものとして位置付けるのかにかなり影響が出てくる可能性があるのかなと思います。現行制度では,「情状により」として,裁判官にそれなりにお任せしてしまっているようなところがあるわけですが,細かく書き込めば書き込むほど,裁判官の指針となるべきものが表に出てくる,あるいは当事者の活動方針がそれに沿ったものとして出てくることになろうかと思います。また,他方で,それだけかというと,先ほどの刑責なのか特別予防の観点を重視するのかというところとも関連して,どちらを重視して物を見ていくのかということにも影響を与えるであろうと思います。   もう一つは,これは見た目の印象との関係かもしれないのですが,書き込めば書き込むほど,それをクリアしないと一部執行猶予にならない,全部実刑だというような側面も出てきはしまいか。今のところは「情状により」ということで,ある程度自由につけられる部分も見えるのですが,きちんと要件を書けば若干ハードルが上がりそうな気はしていますので,それも含めて御議論いただければと思います。 ● どうもありがとうございました。   ただ今規定の仕方に関連して御意見がございましたが,これについても何かありましたらお願いいたします。 ● 保護観察の関係で,先ほどの議論で,裁判所が刑の一つの類型として,単純執行猶予と保護観察付執行猶予と実刑と,この3パターンの刑責の一つとしてとらえているというところ,これは多くの裁判官がそういうイメージを持っていることはあり得ると思うのですが,ただ,現実に裁判官によって保護観察に対する考え方はいろいろあると思うのです。これは裁判所と保護観察所との連絡協議会等でもしばしば議論になる問題でして,保護観察の本来の有り様からすれば刑の一種ではなくて,保護観察が機能し得るような適切な対象者を選ぶべきではないかという議論はあるわけで,そういう観点から保護観察を付けるかどうかを検討,判断するという裁判官もたくさんおられると思います。ですので,運用としてどうなるかということを考えますと,この場合の保護観察と今までの保護観察の運用の仕方は恐らくまた違うものがあるのではないかとも思いますし,さらに,単純に実刑の事案で一部執行猶予だから,刑が重いから保護観察が付くという考え方は一つあり得ると思うのですけれども,それ以上に保護観察の必要性というか有用性についてきちんと主張立証していただくのが筋ではないかなと,私自身はそのように考えております。 ● どうもありがとうございました。 ● 今の委員の御意見に関して申し上げますならば,保護の立場からいたしますと,従来の保護観察付執行猶予の運用につきましても,できれば委員がおっしゃったように,本来保護観察に適する者に関して保護観察を付けていただきたい。処遇させていただく立場からすると,これは当然の希望ということになろうかと思いますが,そういう形で裁判所に対しても現状の保護観察の実情等をいろいろ御説明させていただいている現状がございます。そういうことを考えますと,新しい制度の下におきましては,先ほど申しましたように,刑事責任の軽重ということも否定はできないのかしれませんけれども,やはり正面から,本来保護観察に適する者を保護観察に付けていただくことを前提とした制度としていただくと,私どもの立場としますと,今後の保護観察が大変やりやすいということは言えるのかなという感想を持っております。 ● どうもありがとうございました。   議論が非常に活発化しておりますので,なお第1の制度の問題を続けて御議論していただければと思います。今,保護観察の問題に触れて議論が進んできておりますが,ほかに何かございましたら,お願いいたします。 ● 今の話に関連してですが,現行制度の場合は執行猶予の段階で保護観察を付けるかどうかということについて裁判所が判断をされるということなのですが,この新しい制度においてはその中間に施設内処遇が入っていますので,その施設内処遇にもある程度の期待をした上で,更に執行猶予のところで保護観察を付けるというのがこの制度だろうと思うのです。その場合に,裁判所が今おっしゃったような意味合いで,保護としては保護観察を付けてきちんとやっていただけるような人を選んでほしいと言われる人材を判決の段階ですぐに見つけることができるかという大きな問題があるのではないかと思います。弁護人は弁護人で,それなりの状況があればそれなりの主張立証はいたしますけれども,裁判所としては,この制度における保護観察というのは,施設内処遇でそれなりの教科指導等があってその上にという形のものを前提にしているので,今までと少し違うのかなという感じがいたします。 ● どうもありがとうございました。 ● 私が最初に申し上げた趣旨ですけれども,今回の制度のそもそものねらいが,施設内処遇と社会内処遇を有機的に連携させて,裁判所の判決の選択肢を増やして,犯罪者ごとに柔軟な対応を図れるようにする,それによって再犯防止あるいは改善更生を図るということにあるわけで,それが相当期待できるものがこの制度の対象となってくると思われます。そういたしますと,先ほどから議論されております保護観察を付すべきかどうかの議論が,保護観察に付したのに保護観察に全く通ってこないような者を想定して,そういう者には初めから保護観察を付さない方がいいのではないかということであれば,そもそもそういう者が改善更生の意欲があったのかという問題に返ってしまい,そこは最初に事務当局から説明がありましたけれども,改善更生に意欲がある者というのが今回の制度の対象になるかどうかの重要な判断要素になるということですので,保護観察にしても効果が上がらないというときには,通常は,そもそもそういう者に一部とはいえ執行猶予してもいいのかと,私としてはそちらの方が問題になってくるのではないかという気がいたします。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の点に関してほかにございますでしょうか。更に保護観察の問題に関して議論がかなり展開されておりますが,ほかにいかがでしょうか。 ● 保護観察に関係するところで,質問のような意見のようなものなのですけれども,第1の制度は必要的保護観察ではないというのは,逆に言うと,保護観察に付さなくても社会内処遇の効果がある人がいるという前提でそうなっていると理解してよろしいのでしょうか。先ほどの話の関連で言いますと,保護観察が不適切だから保護観察に付さないということではなく,むしろ保護観察の必要もない人がいるということで,必要的ではないと書かれているのだという理解でよろしいのでしょうか。 ● 参考試案で第1の制度におきまして保護観察を任意的にしている趣旨でございますが,基本的には御指摘のとおりだと思っておりまして,事案によっては,あるいは対象者によっては,一定期間の施設内処遇を行い,その後刑の執行が猶予された状態に置くこと自体によって,再犯防止・改善更生の効果が期待できる者もいるのではないか,そういうことから考えると,一律に法律上必要的に保護観察を付すとするまでの必要性はないのではないかという考えの下に,第1の制度におきましては保護観察を任意的としたものでございます。 ● 付け加えますと,先ほど御指摘があったように,恐らく保護観察に不適切というか,保護観察に付されて,指導監督等々で保護観察官のところに行きなさいと言っても,およそ来ない。それは理屈だけを考えれば,保護観察官のところには行かないけれども立派に立ち直る人がいるのかもしれませんけれども,普通は考えにくいといたしますと,先ほど御指摘がございましたように,保護観察に応じないような者であれば,それは広い意味での社会内処遇によって改善更生が図られるということが期待できず,そもそも一部猶予の言渡しをするのが相当であるとはなかなか認められないのではないかと思います。 ● 第1の制度につきましては以上でよろしいでしょうか。   それでは,これから参考試案の第2の制度の議論に入っていきたいと思います。   第2の制度におきまして,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのか,特に,刑事責任の軽重は判断においてどのように位置付けられるのかという問題について御議論いただきたいと存じます。   その前に,その議論の前提として,参考試案を作成した立場から,この論点について事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 第2の制度についての第一巡目の議論では,ただ今,部会長から御指摘のありましたように,第2の制度において,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのか,特に,刑事責任の軽重は判断においてどのように位置付けられるのかという論点について活発な御議論がございました。 そこで,事務当局といたしましては,当部会における第一巡目の議論等を踏まえ, この論点につきまして改めて整理をしてみたところでございますので,御説明いたしたいと存じます。   まず,刑の一部の執行猶予制度の採用が考えられるに至りました経緯,その制度趣旨,制度対象には一定の限界があること,制度的な制限の一つとして「3年以下の懲役の言渡しを受けたとき」とするのが相当であることに関しましては先ほど第1の制度について述べたのと同様であると考えております。   また,第2の制度の対象とすることが相当でない場合というのは,3年以下の懲役に当たる場合であってもあり得ると思われる点も第1の制度について述べたのと同様であると考えております。   すなわち,先ほど第1の制度で述べましたような刑罰に求められる様々な要請や国民一般の理解等の観点から,3年以下の懲役が言い渡される事案でも,例えば,薬物の所持罪で所持量が多い事案などの厳重な処罰が必要とされる事案につきましては,その刑事責任を中心とした判断から,一部とはいえその刑の執行を猶予するのが相当ではなく,刑期すべてについて実刑とすべき者も存するのではないかと考えられるところでございます。   したがいまして,第2の制度は,第1の制度同様,犯した罪に対する刑事責任を果たさせつつ,施設内処遇と社会内処遇の連携により再犯防止・改善更生を図ることを趣旨とするものでございまして,刑の一部の執行猶予とするか否かの大枠の判断においては,犯した罪に対する刑事責任の軽重という要素によって決し,その上で,施設内処遇と社会内処遇の連携の必要性・相当性という特別予防の要素によって,当該事案について刑の一部の執行を猶予するかどうかを決することとなるものであると考えているところでございます。   以上を踏まえまして,第2の制度が導入された後,刑の一部の執行猶予とするか否かの判断をどのような要素により判断するのかについて申し上げますと,まず,薬物自己使用等事犯を犯した者,すなわち,「規制薬物又は毒劇物の自己使用・単純所持に係る罪」を犯した者に該当するか否かについて判断することになります。   その上で,その犯した罪自体の刑事責任の軽重によって,およそ刑期のすべてについて実刑とすべき者に該当するか否か,すなわち,3年を超える懲役が言い渡される者であるのかどうか,3年以下の懲役が言い渡される者であっても,その刑事責任を中心とした判断から,刑期すべてについて実刑とすべきものであるのかどうかが判断されます。   そして,これに当たらないと考えられた場合には,当該事案の対象者について,刑の一部の執行を猶予とし,施設内処遇と相応の期間の社会内処遇を連携させることが,その再犯防止・改善更生のために必要かつ相当と認められるか否かかを個別具体的に判断しつつ,その刑事責任の範囲内で刑を量定していくこととなるものと考えているところでございます。   このように刑の一部の執行を猶予するかどうかの判断の際に考慮されるであろう要素を具体的に申し上げますと,第2の制度も,第1の制度同様,実際に執行すべき刑期を全体の刑期よりも短くし,これに見合った社会内処遇としての執行猶予とすることを判決として許容するという側面を有するものでございますので,対象者が,社会内処遇によって再犯防止・改善更生を図るのにふさわしい者であるか否かが重要な判断要素になってくると思われます。   特に第2の制度は,薬物自己使用等事犯を犯した者の中でも再犯者を対象とし,また,猶予期間中の保護観察を必要的としておりますことなどからしますと,保護観察に付すことによって再犯防止・改善更生を図ることが必要かつ相当か否かが重要な判断要素になってくると思われます。   より具体的に申しますと,例えば,対象者が,薬物やこれに関連した不良交友等との断絶を誓約するなどして更生の意欲を有していると認められることや,犯行時独居であったが今後親族と同居することとしたり,犯行時無職であったが今後正業に就ける現実的な見込みがあるなどして,近親者や雇用主等による監督が期待できることなど,対象者本人の意識や対象者を取り巻く環境等から,対象者が,猶予期間中に行われることとなる保護観察の指導・監督に服し,特に,保護観察の一内容として行われるであろう処遇プログラムを受講することが見込まれるというような事情は,刑の一部の執行を猶予する必要性・相当性を肯定する重要な要素になると考えられるところでございます。   反面,例えば,不合理な弁解によって犯行自体を否認するなどして,犯した罪に対する反省・悔悟の情を示さないなど,更生意欲が認められないことや,あるいは犯行時所属していた反社会的な組織に今後も所属し続ける旨公判廷で平然と述べるなどしていることは,保護観察の指導・監督に服さないことをうかがわせる事情ということができ,刑の一部の執行を猶予する必要性・相当性を否定する重要な要素になるのではないかと考えているところでございます。 以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の事務当局からの御説明に対して御質問がございましたら,お願いいたします。 ● 第2の制度の場合は,既に実際に施設内処遇を受けたり,あるいは一部執行猶予の経験があって,その一部執行猶予部分の社会内処遇を受けた,そういった経験者も当然対象に入ってくると思いますが,仮にその辺のプログラムを経た人たちであれば,そういったプログラムがどういったものであったか,それがうまくいったのか,うまくいかないがためにまた再犯を犯したのかとか,こういった事情を当然裁判所は知りたいわけですけれども,その辺は事務当局の検討の中ではどのように考えておられたのか,あるいは立証の中で当然そういうのが出てくるのだと理解してよろしいのでしょうか。 ● 先ほど御説明申し上げましたように,一部猶予とすることの相当性が認められるかどうかということに関連いたしまして,今,委員から御指摘のあったような事情は重要な要素を占め得るものだと考えられますので,当然のことながら,それはその事案の必要に応じて当事者から主張立証があり得るのであろうと考えております。さらに,そういった要素がどのように考慮されるのかという点も含めて御説明させていただきますと, 御指摘のとおり,第2の制度の対象となり得る者は,第1の制度の対象となり得る者ではないものとしておりますので,いわゆる初入者ではないものということになります。 御指摘のような前科における処遇内容につきましては,例えば,前科に当たる罪につき,刑の一部の執行猶予制度等により猶予期間中保護観察に付されるなどし,本来であれば,猶予の期間中,保護観察官の指導・監督を受けながら,処遇プログラムを受講するなどしなければならないにもかかわらず,その指導・監督に服さず,あるいは処遇プログラムを真摯に受講することなく,保護観察の期間中に再び薬物自己使用等事犯を犯した場合のように,これまで対象者が保護観察の指導・監督に服さなかったような経歴があるといった事情は,個別具体的な事案にもよりますが,刑の一部の執行を猶予をする相当性を否定する重要な要素になると考えられるところでございます。   また,これまでにも前科に当たる罪について,何度か保護観察に付されて処遇プログラムを受講するなどしたことがあるにもかかわらず,再び薬物自己使用等事犯を犯した場合のように,対象者の薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向性の改善に保護観察,すなわち,猶予期間中保護観察に付し,対象者を指導・監督するとともに,処遇プログラムを受講させるなどするという社会的処遇が有用であるか疑問があるといった事情は,個別具体的な事案にもよりますが,刑の一部の執行を猶予する相当性を否定する重要な要素となると考えられるところでございます。 ● 先ほどの事務当局の御説明では,更生意欲の弱い者についてはその刑の一部の執行を猶予するのは不適当であるというお話でありましたが,今日いただいた保護観察に関するプログラムを拝見しますと,「規制薬物の使用を反復する傾向が強い」者を対象としてこのプログラムを行うという記述があるのですが,この辺はどう折り合わせたらよろしいでしょうか。つまり,保護の方では,薬物に関して更生意欲のない者も引き受けるぞという決意を示しておられるように見えるのですが。 ● そのような決意を表明できればよろしいのですが。ここは現在行っているプログラムについての御説明でございまして,単発的に覚せい剤の自己使用に至ったという者ではなくて,かつてそういった覚せい剤ないしはシンナー等にも手を出したことがある,その程度はいろいろでございますけれども,現在はそういう者を中心に対象として保護観察のこの処遇プログラムを実施しているということでございます。これはもとより更生の意欲に乏しい者を選んでやっているわけではなく,更生意欲は認められるが,処遇の困難性の観点から,一過性ではない者について,普通の保護観察でこれまで行ってきているような内容に加えて,体系的な処遇プログラムを実施することによって改善更生をより図っていこうという趣旨でございます。 ● 今の話と重なるかもしれませんが,第2の制度の対象者というのは再入者でありまして,覚せい剤の前科も当然ある,執行猶予なり何なりの前科もあるという者の場合が多いと思うのですが,そういう意味で薬物に対する依存性がある場合が多いと思われますので,だからこそ,それを効果的に改善するために,実刑にし,更に社会内処遇をしようということでございます。そういう意味では,およそここで書いてあるような薬物使用を反復する傾向がない人はそもそも再犯はしないのではないかという問題もございますけれども,そのような傾向があっても,立ち直る意欲といいますか改善更生の意欲がなく,そもそも保護観察に乗ってこない,あるいはここで言う処遇プログラムに乗ってこないような者,つまり,薬物の反復傾向,依存傾向が強くて,かつ改善更生する気もないものにつきましては,さすがに第2の制度の対象外にせざるを得ないように思われます。やはり,少なくとも主観的には意欲があるというのが最低限の要件ではないかと思われますし,更には主観的な意欲があっても本当に保護観察に乗っていけるのかということも恐らく問題になってくるように思われます。 ● 制度の趣旨の話ですけれども,前回の御説明ですと,第1の制度の方は中間的刑責という観点に,第2の制度の方は対象者の改善更生という観点に重点が置かれていたようにお聞きしたのですが,今日の事務当局の御説明ですと,第2の制度の方も,要は全部実刑と全部執行猶予の中間の領域にあるものだという位置付けですので,そうすると第1の制度と第2の制度は趣旨としては基本的に同じだということで理解してよろしいでしょうか。 ● 御指摘のとおりだと思っておりまして,ただ,その対象が異なっているということになると考えているところでございます。 ● 若干関連するかもしれませんが,第1の制度と第2の制度が同じ趣旨であるということで,違いは,第1の方は保護観察が任意的で,第2の方は必要的ということですよね。そのような違いを導く文言の整理ということが先ほどから議論になっているわけですけれども,第2の制度の方を見ますと「犯情の軽重その他の事情」ということですから,「犯情の軽重」にも情状に入るものがあるかと思うのですけれども,薬物使用者ということで,客観的な罪名でまず外枠を決めている上に「犯情の軽重」という文言をお使いになっておりますので,その「犯情の軽重」の内実が,ここに挙がっている犯罪に固有の事情なのか,あるいは一般的な情状という概念と重なる点が多いものなのか,その辺の御説明があればと思います。あるいは文言の第1の制度と第2の制度の統一性という点について,御説明いただければ分かりやすくなるのかなと思っておりますので,質問にわたるのかもしれませんが,よろしくお願いします。 ● 先ほども御説明申し上げましたように,第2の制度も,基本的にはその対象になるかどうかというところの大枠の判断は刑事責任を中心とした判断によることとなり,その上で,特別予防の観点から必要性・相当性を検討して考えていくのではないかと考えているところでございます。   「犯情の軽重」というところでございますが,基本的には,当然のことながら当該事案における犯情についての軽重ということでございまして,第2の制度は薬物事犯者を対象にしておりますので,一般的な言い方で申し上げますと,「犯情の軽重」として考えられる事情としては,例えば,同種前科の有無でありますとか,常習性の程度でありますとか,その犯行の態様がどういうものであるのかとか,あるいは薬物所持の事案であればその所持量といったところが「犯情の軽重」として考慮すべき事情として具体的に考えられるところではないかと考えております。 ● そうしますと,先ほど御説明がありましたけれども,犯行時は独居であったけれども親族と同居するに至っているようだというようなことは,むしろ「その他の事情」という切り口でしょうか。そして,不合理な弁解というのがどちらに入るか分からないのですけれども,反社会的組織に入っていてという事情は薬物犯罪者に固有の状況かもしれないので,そういったものは特に確認的という趣旨で「犯情の軽重」とお書きになったと,そのように理解してもよろしいのでしょうか。 ● 先ほど申し上げましたように,社会内処遇あるいは保護観察を付すことによって改善更生・再犯防止を図ることが期待できるかどうか,そういったものにふさわしいかどうかという意味で,相当性を判断するに当たって考慮すべき事情ということで申し上げたところでございます。また更には,その意欲を示すものとして犯罪事実に対してどういう態度で向き合っているのかというようなところを申し上げました。そういう意味では,独居でその後親族と同居できるようになったかどうかというのは,犯情というよりは,社会内処遇がふさわしいかどうかということを基礎付けるものとして,適切な監督者がいるかどうかという事情のものとして申し上げたものでございます。 ● ほかに御質問はございますでしょうか。   もし,ございませんようでしたら,御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 先ほど質問したことにもかかわるのですが,第1の制度と第2の制度の関係について,前回の議論の際に,第1の制度の対象を中間的刑責か否かの観点から判断し,他方で,第2の制度の対象を専ら特別予防という観点から判断する場合には,対象者として抜け落ちる部分があるのではないかという趣旨の質問をした記憶があります。ただ,今日の御説明ですと,第2の制度の方も,あくまで全部実刑と全部執行猶予の間の中間的な領域をとらえて,一部執行猶予にするか,それともそうでないかを考えるということでしたので,そうなると,抜け落ちる部分は出てきませんので,その点は問題ないということになろうかと思います。 ● どうもありがとうございました。 ● 基本的なことなのですが,今日頂いた統計資料14の3のデータを見ますと,執行猶予の取消事由別のものを見ると,薬物の関係では大麻取締法について執行猶予人数が1,125人で,そのうち取り消されたのが55人となっているのですが,他方,統計資料14の1の「新受刑者 罪名別 刑期別内訳」にその欄がないのは,この年についてはゼロということなのでしょうか。それとも「その他」に入っているのでしょうか。 ● これは統計の取り方の問題でございまして,今,委員がおっしゃった大麻取締法違反についての数値が統計資料14の1に出ておりませんのは,これは矯正統計年報に即して罪名を抽出していることによるものでございます。その矯正統計年報では大麻取締法違反が罪名の内訳に入っておりませんので,統計資料14の1の表には入っていないということでございます。他方,統計資料14の3の「罪名別 取消事由別 執行猶予取消人員」は,検察統計年報をベースにしております。検察統計年報では大麻取締法違反が罪名として抽出されておりますので,その数値が記載されているということでございます。統計資料14の1と同14の3にそれぞれ記載されている罪名の違いは,その違いによるものでございまして,そういう意味では,統計資料14の1の「新受刑者 罪名別 刑期別内訳」では「その他の特別法犯」の欄に大麻取締法違反は入っているということになります。 ● 先ほど,反復傾向の強い者に関して保護局にお尋ねしたわけですけれども,反復傾向の強い薬物常習者に対しては,施設内処遇だけではとても無理であるというのが共通の認識になりつつあるのではないかという気もします。したがって,見方によっては更生意欲の乏しい者ほど社会内処遇でしっかり直させることが必要なのではなかろうかという気もいたしますが,その辺り,今度は矯正の方ではいかがですか。やはり引き受けて施設内でやるという決意をお持ちかどうか。 ● 決意をと言われるとなかなかお答えしづらいのですが,刑事施設におきましては,当然のことながら,身柄を受領しましたら,必要な改善指導はできるだけやりたいと考えております。現に,先ほど申し上げましたとおり,平成19年度も4,000名弱の薬物依存離脱指導をグループワークで実施しているわけでございます。ただ,御指摘のとおり,刑事施設の中だけで本当にいいのかと言われますと,結局,出所した後に,例えばダルク等の自助団体にきちんと出頭して自分で努力を続けることができるかどうか,そこにかかってくるという部分はもちろんございますので,何らかの形で社会内においても本人を促すような仕組みがあればより望ましいということは言えるかと思います。   それともう一つ,では刑事施設を経由しないで全部社会内でやるのはどうなのかということですが,やはり一定期間薬と全く接触できない環境に置くということで,一つは,薬物がまだ体内に残っているといいましょうか,そういう状態にある者については,薬の影響を除外するという意味で非常に意味があると思いますし,そうではない者につきましても,いったんは誘惑のない環境に置いた上で自分の来し方と行く末を考えさせるというのは,やはりある意味で必要なのではないかなと私どもは考えております。 ● 今の関連なのですけれども,あるアンケート調査によると,刑務所へ入って薬物の受刑者がどう思ったかというのは,「ほっとした」というのがかなりある。刑務所へ来てようやく薬から離れることができた,あるいは売人から,あるいは組織から離れることができたという感想が多いようです。いずれにしても,そういう薬物からの強制的なカットが必要だと思います。それと同時に,社会中での誘惑を断ち切らないと一生涯薬を立ち切れないわけですから,そういう点で,誘惑と闘う手段はどこで覚えるかというと,先ほど言ったダルクとか,あるいは保護観察官とか保護司の努力というか,それとの交流の中で自ら体得しなければならない。前に保護局から説明がありましたように,お金がなかったら買えませんので,収入の状況を保護司や保護観察官がとらえておくとか,あるいは仕事をきちんとしているかどうかをとらえておくとか,そういうことが非常に大事です。正に薬物犯罪者というのは矯正と保護の適切な連携というのが重要なところだと思います。そういう意味でこの制度は非常に必要というか,重要性を感じるところです。 ● どうもありがとうございました。 ● ただ今の点,保護の立場で若干申し上げますと,薬物事犯,更生の意欲がないというか,どういう者であっても社会内処遇で保護観察できちんとやるべきであろうというのは確かにおっしゃるとおりだろうと思いますが,現実問題として,社会内処遇なり保護観察の在り方とすると,先ほども申し上げましたように保護観察官の数が大変少のうございます。したがって,保護司の方にお願いしている部分がほとんどというのが実情でございます。そういった場合に,いわゆる処分に乗ってこないというか,そういう処遇が非常に困難な者に対してどういう処遇をしていくかとなりますと,これは保護司の方にお願いするわけにはいかない。そうなりますと,保護観察官が直接これを指導監督していくということをせざるを得ないわけでございますが,その場合の正に体制の問題というのが私どもの非常につらいところになろうかなと思っております。したがいまして,この制度をおつくりいただくということにつきましても,私どもの体制の整備はどうやってやらせていただけるかということも当然前提として御検討していただきたいなという感じがしているところでございます。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ● 正に今おっしゃった体制の整備が非常に必要だろうと思います。ただ,法務省は,数年前に医療観察法で社会復帰調整官という制度をつくることに成功しております。もちろんこれは厚労省とのかかわりがあったことは存じ上げているわけでありますが,しかし,新しい制度をつくって,それが世の中のためになり,社会復帰させるための制度として再犯も減るのだということであれば,国民の理解は得られると思うのです。そうだとするならば,それなりの手当ては当然なされるべきだという形の予算の要求を法務省にもしていただきたいなと思います。私たち弁護士も,こういったことに関連しては,後押しがどの程度できるか分かりませんが,弁護士会を通じながらそれをやることも可能だろうと思いますので,そういう形で整備を尽くして初めてこの制度は機能するのではないかと思いますので,是非頑張っていただきたいと思っています。 ● 力強いお言葉,ありがとうございます。 ● ただ,保護観察対象者数というのは減少しつつあると見てよろしいですね。 ● 保護観察に対して求められていることが,根本的に変わってきていると思いますが,単に対象者数ということであればそう見ることはできます。 ● そういう点で今の保護観察官の数を増やせという議論との整合性というのは非常に難しいところがあります。しかし,新機軸というか,新しい一つの政策を立ち上げて,観察官の増員につなげることができないかと考えております。 ● この問題については以上でよろしいでしょうか。   それでは,次の論点に移りたいと存じます。参考試案の第2の3で,薬物自己使用等事犯に係る罪とその罪より重い刑が定められている他の罪とに係る懲役の言渡しをするときは,その一部の執行を猶予することができないものとされていることの当否の論点につきまして御議論いただきたいと存じます。   まず,その議論の前提として,参考試案を作成した立場から,この論点について事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 第2の制度についての第一巡目の議論では,ただ今部会長から御指摘のありました,参考試案の第2の3で,薬物自己使用等事犯に係る罪とその罪より重い刑が定められている他の罪とに係る懲役の言渡しをするときは,その一部の執行を猶予することができないものとされていることの当否の論点について活発な御議論がございました。   事務当局といたしましては,第一巡目の御議論の際に御説明申し上げましたように,薬物自己使用等事犯とそれ以外の罪を犯してこれらが併合審理されている場合には,その対象者の問題性の中心は,必ずしも薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向にあるとは言えず,ほかの犯罪についての傾向性等に問題の中心がある場合も多いのではないかと考えられ,特にこのことは,薬物自己使用等事犯より,その他の罪の方が法定刑が重い場合に言えるので,刑の一部の執行を猶予することの当否をより判断しやすくするためには第2の3を設けるのが相当ではないかと考えたところでございます。   しかしながら,第一巡目の御議論では,薬物自己使用等事犯とそれ以外の罪とに係る懲役の言渡しをするときは,第2の1の刑の一部の執行を猶予する相当性の要件で,刑の一部の執行を猶予するか否かを判断すれば足りるので,第2の3は不要ではないかという御意見があったところでございます。   また,第2の3の要件によりますと,例えば,薬物の購入費用を得るために窃盗を行った場合に,覚せい剤の自己使用目的の所持の場合は,第2の制度の対象になるのに,それよりもっと軽い犯罪である,大麻の自己使用目的所持の場合や,毒物及び劇物取締法違反の場合には,第2の制度の対象にならなくなるけれども,この結論は不均衡であることなどから,仮に第2の3のような要件を設けるとしても,法定刑の上限で比較して一律に除外するという規定は適当ではないのではないかという御意見もあったところでございます。   そこで,事務当局といたしましても,このような第一巡目における御意見なども踏まえまして,第二巡目の議論におきまして,第2の3を設けることの当否等につきまして,改めて,委員・幹事の皆様の御意見を賜りたいと考えているところでございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の事務当局からの御説明に対して御質問がございましたら,お願いいたします。 ● 事柄の実質を考えますと,先ほど大麻取締法等の例を引かれましたが,5年とか10年とかの法定刑であって,更にそれより重いということになりますと,相当重大な犯罪になると思うのです。そこだけをとらえますと,それを除外する方が適切なように見えますけれども,しかし全体として3年以下の刑を言い渡す場合に限られているので,そうだとすればむしろこの絞りは要らないのではないかと思われます。ただ,新しい制度だからなるべく控え目にという考え方を強調すればあってもよいのかなという気もいたします。 ● どうもありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ● 強い意見ではございませんが,薬物事犯から見ると確かに万引きした途端に一部執行猶予の制度が適用できなくなるのはおかしいという意見もありますけれども,傷害など被害者のある事件から見ますと,薬物犯罪を一緒にやっているがゆえに一部執行猶予が適用されるようになるという逆の見方も成り立つわけで,これは相当意見が対立する余地のある論点ではないかと思われます。だからどうした方がいいという結論めいたことまで申し上げるつもりはございませんけれども,恐らくいろいろな角度からいろいろな見方ができる論点ではないかなと思います。 ● ただ今の点も含めて,どうぞ御意見をお願いします。 ● 私も,たまたま薬物使用をしたからこの制度の恩恵を受けることができるというのが適切でないというのは全くそのとおりだと思いますが,その趣旨をこの第2の3がうまく表現できているかというと,前回も申し上げましたように,もっといい案があれば検討に値すると思いますけれども,第2の3はやはり適切ではないと思います。それは,先ほど御紹介いただいたように,不均衡が起こってしまうという問題もございますし,今御指摘がありましたように,そもそも3年で上限を切っているわけですから,3年より上の法定刑はもともと制度の対象とされていないにもかかわらず,それを基準にするというのは合理性がないように私には思えます。したがって,もし適切な条文がないのであれば,先ほど委員が御指摘になったような点は相当性で判断していただくしかないのではないかと思います。 ● どうもありがとうございました。 ● 関連した質問ですが,先ほど委員が御指摘になった,傷害が一緒についていて,その傷害の方が犯情としては重いという場合も,一部執行猶予は中間の領域を対象としたものだという点からすれば,その傷害の点を考慮して,そもそも全部実刑しかない事案だから一部執行猶予の対象から外れるということはあり得るわけですね。 ● 御指摘のとおりです。 ● それを踏まえて,この第2の3で言っていることは,それとは違う意味で,ほかの犯罪の問題性が中心である場合は一部執行猶予の対象から外そうということなわけですね。 ● 第2の3は,法定刑の比較という,ある意味形式的な基準により,併合罪として一緒に審判されている薬物犯罪以外の罪の方が法定刑が重い場合は一律に制度の 対象から除外してみてはどうかという案でございます。 ● そうだとしますと,被害者の方のことを考えると,一部執行猶予の対象とするのは妥当ではないというような事案は,そもそも刑事責任の観点から全部実刑が相当な事案だからという理由で外れるのではないかと思います。その上で更に制限を加えるかというのが,ここでの問題なのですが,前回の議論の際に,この第2の3に当たらない,つまり,他の罪の方が法定刑が軽いという場合であっても,そこに対象者の問題性の中心があるときには,相当性を欠くのだというようなお話がありましたので,そういう判断ができるということであれば,法定刑が重い場合も含めて相当性のところで考えるというのも一つの在り方かなと思います。 ● 第2の制度の方は,薬物犯罪に限って,本来であれば執行猶予にならない者についても執行猶予の可能性を広げようという性格のものですので,先ほど委員が言われたような,何か別の犯罪の方が刑事責任の主を成しているのに,たまたま薬物犯罪がついたがゆえに刑の一部の執行が猶予されることとなるというようなことは,やはりおかしいということになろうかと思います。第2の3の考え方というのは,重い刑が定められていることによって,併合罪だとするとそちらが処断刑の枠を決める関係にあるということと関連しているような気もしますけれども,その場合でも,処断刑といいますか法定刑が重い方の犯罪をベースにして常に量刑がされるのか。もしそうだとすると,現在の考え方でもいいのかもしれませんが,私はよく分かりませんけれども,恐らくは犯罪の中身に従って処断刑の枠の中で考えるということなのではないかと思います。そうすると,薬物犯罪の刑事責任の方が中心であると判断できるような場合については,一律に外すのはやはり不合理なのではないか。相当性のところで判断できるとすれば,そのような考え方をした方がより柔軟に対応できるのではないかという感じがいたします。 ● どうもありがとうございました。 ● 私も,前回,第2の3についてはできないという形で断言するのではなく,原則できない形にして,その場合であっても一部執行猶予をつけられる場合があるという規定の仕方がどうかということを申し上げましたけれども,実際問題としては,第2の1の方の相当性で判断できるのであればこの第2の3は要らないのではないかと思っております。 ● どうもありがとうございました。   ほかに御意見あるいは御質問がございますでしょうか。 ● 技術的な問題だけなのですけれども,第2の3を落とした場合に,現在の第2の1の規定の仕方として,薬物自己使用等事犯を犯した者が主体になっているだけですので,果たしてそれだけを犯した場合に限定している趣旨なのか,あるいはほかの罪を犯した場合も想定している趣旨なのか,よく分からない面もありますので,また今後参考試案を事務当局で検討されることがあると思いますので,あるいは条文化の段階でも,その辺,紛れのないような形で,両方含んで考えているのだというのが分かるような形に御検討していただければと思います。 ● どうもありがとうございました。 ● 私も今の意見に賛成なのですけれども,確かにこの第2の3の条項は,初めての制度であるというところから非常に慎重な制度設計をしていると思うのです。そういう点では一定の意味合いというのはよく分かるところがあるので,一慨に絶対駄目だとは言いませんけれども,相当であると認められるときということである程度乗り切れるということであれば,私は第2の3の条項は要らないのではないかと思います。ただ,第2の3を入れなかったら刑の一部の執行猶予制度に対する信頼を損なうような事態が想定できるのであれば,それを基に言葉の工夫をして第2の3のような条項を入れるのは私は妥当であると考えています。この条項のままではいろいろな問題点を含んでいるというのは確かにそうだと思いますので,もう一工夫してみたらいかがでしょうか。 ● どうもありがとうございました。   第2の3についてはいろいろ文言上の問題があるという御指摘があったかと存じます。   ほかにいかがでしょうか。   特段御意見もないようですので,この論点はこれで終わりにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,第2の3に関する議論はこの辺りにさせていただきます。   刑の一部の執行猶予制度に関する参考試案につきまして,これまで議論した論点に関連し,あるいは別途検討すべき論点がございましたら,どなたからでも結構でございますので,その点御指摘を賜りたいと存じます。 ● 論点になるかどうかという問題はあるのですが,今日,保護局,矯正局から,現状における薬物離脱指導の在り方について具体的な説明をいただきましたが,現実に薬物の中に正に経験を持っていて,そこからはい上がってきたという意味合いの苦労は,私ども何度かいろいろな場で聞かされているのですが,前回も申し上げましたが,例えばダルクなり,そういう民間自助団体の方の厳しい状況というのも聞いておく必要はないだろうか。今日のお話を伺ってその辺の話まである程度分かればと思ったのですが,その部分はなかなか,処遇する側と処遇される側なものですから,その辺りのところがもし可能ならばと思っております。 ● 今のは御要望ということでお伺いさせていただきます。   ほかに何かございますでしょうか。   それでは,ここで一点皆様にお諮りしたいことがございます。刑の一部の執行猶予制度につきまして,法整備に向けたより具体的な議論を行っていくに当たっては,これまでも御指摘がございましたように,刑の一部の執行猶予の取消事由に関する議論が必要かと思われます。   ただ,現行の執行猶予の取消事由も踏まえますと,やや技術的な検討も要するように思われますので,事務当局にそのためのたたき台を作成してもらった上で,御議論いただくのが適当ではないかと考えておりますが,皆さんの御意見はいかがでしょうか。 特段御異論もないようですので ,事務当局に,刑の一部の執行猶予の取消事由のたたき台を作成していただいて,それに基づいてまた御議論をさせていただきたいと思います。   それでは,本日の議論はこの程度にしたいと存じます。 次回の日時・場所等について事務当局から御確認をお願いいたします。 ● 次回は5月27日水曜日でございます。場所は法務省第1会議室において,会議を行う予定でございます。開始時刻につきましては,午後5時からでございます。 ● ただ今,御案内がございましたように,次回は5月27日水曜日に法務省第1会議室において会議を行うことといたします。開始時刻につきましては,午後5時からになりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日はこれで散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-