法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成21年5月29日(金)  自 午後1時30分                        至 午後5時42分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○伊藤部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第3回会議を開会いたしたいと存じます。御多忙の中御出席いただきましてありがとうございます。    (委員の異動紹介につき省略) ○伊藤部会長 配布されている資料につきまして事務当局から説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 それでは,事務当局から配布させていただきました資料について御説明させていただきます。   第3回会議のために配布させていただきました資料は,本日席上に用意させていただきました資料目録記載のとおりでございます。部会資料5は,事務当局で作成したものでございますが,内容は後ほど説明させていただきます。参考資料9は,家事事件における抗告状の送付等に関する最高裁判所の決定でございます。部会資料において取り上げております「申立書の送付」を議論する際に御参考にしていただければと存じます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   本日は,部会資料4の「非訟事件手続に関する検討事項(1)」の「第8 管轄」から審議を行いたいと存じます。まず,事務当局から「第8 管轄」についての説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 それでは,御説明させていただきます。   第8は,管轄について取り上げているものでございます。(前注)にありますとおり,各非訟事件の管轄につきましては,現行法においても,個別に定めるものとされておりますので,ここでも移送等の総則的な規定について検討することとしたいと存じます。   第8の1は,普通裁判籍,住所又は相続開始地により土地管轄が定まる場合についての基準を定めることを提案しております。   普通裁判籍により土地管轄が定まるものとしては,非訟事件手続法第2編第1章の裁判上の代位に関する事件,同法第3編の公示催告事件,第4編の過料事件等がございます。   住所により土地管轄が定まるものといたしましては,信託に関する非訟事件等がございます。   相続開始地により管轄が定まるものとしては,相続に関する審判事件がございます。   なお,住所により土地管轄が定まる場合につきましては,現行非訟事件手続法上,自然人と法人その他の社団又は財団を区別しておりませんが,ここでは普通裁判籍における規定を参考に,両者に差異を設けることを提案しております。   (注)でございますが,これは,非訟事件手続法又はその他の法律によっても土地管轄が定まらない場合につきましては,財産所在地又は最高裁判所規則が定める地の裁判所に土地管轄を与えることを提案するものでございます。具体的には,普通裁判籍や本店所在地により土地管轄が定まる場合に,普通裁判籍や本店所在地が不明である場合に活用されることを考えております。   第8の2は,管轄裁判所の指定について,民事訴訟法第10条に相当する規律を設けることを提案しております。現行非訟事件手続法第4条との違いは,管轄裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができない場合に,管轄裁判所を指定することができるものとしている点でございます。   第8の3は,同一の非訟事件について矛盾,抵触する判断が示されることは妥当ではなく,手続経済の観点から相当ではないので,そういったことに対しどのように対処するのかを検討するものでございます。   A案は,既に非訟事件について申立て又は職権で手続の開始があった場合にも,別途同一の非訟事件を申し立てることができることを認めつつ,それは,先に申立て又は職権で手続の開始があった非訟事件と同時に審理及び裁判をしなければならないことを提案するものでございます。   B案は,既に非訟事件について申立てがあった場合には,別途申立てを認めないことを提案するものでございます。   第8の4は,管轄の標準時について,現行法の解釈と同様,裁判所の管轄は,非訟事件について申立てがあった時又は裁判所が職権で手続を開始した時を標準として定めるものとすることを提案するものでございます。   第8の5は,移送等について検討することを提案しております。   (1)は,管轄違いを理由とする移送について提案するものでございます。移送に関し申立権を認めるべきかどうかにつきましては,管轄裁判所において裁判を受ける権利が保障されるべきではないかと考え,移送申立権を認めることについて提案しております。   (注)では,訴訟事件として申し立てるべき事項を非訟事件として申し立てた場合に,それを訴訟事件に変更し,当該訴訟事件の管轄裁判所に移送することについて検討することを提案しております。この点については,形式的に手続を間違えたにすぎない当事者を救済すべきという意見もありますが,他方で,申し立てた手続自体を変更するようなことを認めていいのか,窓口において適切な教示を行えば足りるのではないかとの意見もあると考えられます。   なお,この点につきましては,(参考)に記載しましたとおり,最高裁判例がございまして,現行法の解釈としては否定的に解されているところでございます。   (2)は,管轄権を有する裁判所による移送について提案するものでございます。管轄権を有する裁判所が複数ある場合には,原則として,最初に申し立てたところで裁判をすべきですが,事件を処理するのにより適切な裁判所がある場合には,移送することを認めるべきであると考えられます。そこで,ここでは,このような移送を認めている現行非訟事件手続法第3条の規律を維持することを提案しております。   (3)は,移送についての裁判に対する不服申立てについて提案するものです。当事者に管轄権の有無又は適切な管轄裁判所についての判断を争う機会を保障するために,管轄違いを理由とする移送の裁判については,その管轄権の有無についての判断を争うことを,より適切であるとの理由から移送する各個の裁判については,移送先の裁判所が管轄権を有するとの判断又は移送先の裁判所はより適切であるとの判断について争うことを,移送申立ての却下についても,管轄権の有無等について争うことをそれぞれ認めることを提案しております。   不服申立ての方法についてですが,現行非訟事件手続法では通常抗告によることとされておりますが,管轄の早期確定の観点から,民事訴訟法第21条と同様,即時抗告によるものとすることをここでは提案しております。   (4)は,移送の裁判の拘束力について,民事訴訟法第22条と同様の規律を設けることを提案しております。   (5)は,地方裁判所の自庁処理及び簡易裁判所の裁量移送について定めるものです。非訟事件の中には,簡易裁判所にのみ管轄権を認めている場合がありますが,そのような場合でも,当該具体的な事案については,簡易裁判所よりも地方裁判所において審理する方が適しているような場合もあると思われます。そこで,そういった場合も考慮して,地方裁判所の自庁処理及び簡易裁判所の裁量移送を認めることも考えられるところです。   ただ,この点につきましては,そもそも簡易裁判所ではなく地方裁判所において処理すべき事案がある場合には,そういった場合に備えて,簡易裁判所だけでなく地方裁判所も管轄裁判所に加えておくべき問題であり,一般的に地方裁判所の自庁処理及び簡易裁判所の裁量移送を認める理由にはならないとも考えられるところでございます。   (6)はその他でございますが,(注)では,合意管轄を認めるかどうかは,最終的には当該非訟事件の性質等を考慮する必要があると考えられますので,個別法において対応するものとし,総則には規定を設けないとすることを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,順次審議をお願いしたいと存じます。   まず,最初の「1 土地管轄」に関連いたしまして御質問あるいは御意見ございましたら,お願いいたします。 ○山本幹事 質問なのですが,(1)と(2)の普通裁判籍と住所による土地管轄ですが,中身的にはほとんど同じようなことが書かれているような印象も受けるのですが,これらを別個の管轄原因として残しておく必要性はあるのでしょうか。 ○脇村関係官 この点につきましては,今のところ,各法律におきまして普通裁判籍,住所地という二つの用語で規律していることを前提に整理しているところでございますが,確かに幹事のおっしゃるように,そもそもそういった規律の在り方がいいのかどうかという問題ではあると存じております。現時点で当局として,この点について何か意見があるというわけではないのですけれども,何か幹事の方で御意見等ございましたら,いただければと思います。 ○山本幹事 意見というほど固まったものではないのですが,ほとんど同じものが違う概念で個別法の中で書かれているというのはやはり混乱を招く原因になるような気がいたします。また,(1)と(2)で実質的に違うのは,私が見たところ,(2)の③で,住所等で土地管轄が定まらない場合に,財産所在地等の補充管轄というか,それを認めるところが違っているような感じがするのですが,ただ,現行法のいろいろな規律を見たときに,普通裁判籍で規定されているものについてもそういうものが必要なところがあるのではないか。これは13ページの(注)に書かれているところがあったりするものですから,そうすると,余計にちょっとどうかなという感じがするので,(2)の③のようなものは普通裁判籍でもあり得て,したがって,両方を統合するような形で何かまとめて書ければ,その方がよいのかなという印象は持っております。 ○伊藤部会長 どうもありがとうございました。その点については事務当局で更に検討をするようにお願いいたします。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,また後にお気づきになったときには御指摘いただくといたしまして,とりあえず先に進ませていただきたいと思います。   2の「管轄裁判所の指定」に関してはいかがでしょうか。   大きな御疑問や御異論はないということでよろしゅうございますか。   特にないようでございますので,3の「同一の非訟事件が数個同時に係属する場合の処理」でございます。ここではA案,B案という二つの考え方が併記されておりますので,それに関する御質問,さらには,いずれの考え方が合理的なのか等について御意見を承れればと存じます。 ○朝倉幹事 私が理解する限りでは,A案が現行非訟事件手続法の規律を継承しているような案のように思いますので,実務的な観点からしますと,A案が相当ではないかと考えております。   ただ,A案には①と②がございまして,①は問題ないかと思っているのですが,②については,「併合しなければいけない」となっているところについて,実務的に若干不都合を生じる場面があるのではないかと思っておりまして,この辺のところ,例えば「併合することができる」などにしていただけるとよりいいのかなと思っております。 ○伊藤部会長 恐縮ですが,その実務的な不都合といいますか,あるいは問題について若干補足していただけると有り難いと思います。 ○菅野委員 調停・借地非訟部と商事部で実際に非訟事件等についていろいろ見ておりますので,若干御説明させていただきたいと思います。裁判官の立場からしますと,例えば,同じものが複数出てきた場合,後ろのものを切ってしまうとすると,たまたま時系列で後から出てきた人の資料とか主張は消え去っていくわけです。それは記録として利用できないと。それに対して,A案の併合型でいきますと,その資料が残るということで,こちらも割合都合がいいときもありますし,一方,当事者としても,自分が出したものが裁判所に残っているということで,やや気持ちもいいのかなと。ただ,同時に,それが絶対そうしなければならないとされてしまうと,今度,逆に手続がちょっと重たくなることも,ものによってはあると思うのです。例えば,株式の価格の決定等の場合とかで多数あり得るときに,住所の関係とか,極端なことを言えば,例えば外国の人が交じっているとか,あるいはなかなかうまく送達ができない人間が交じっているときなどに全部必ず併合しなければいけないと義務付けられてしまうと,実務的に困るときもある。そうすると,何かいいとこどりみたいで申し訳ない気もするのですが,A案の形で,原則は併合するけれども,規定振りとしては「併合することができる」という形にしていただくと一番現場としては合理的にできるのではないかとこの資料を拝見して考えさせていただきました。 ○中東幹事 私も菅野委員の御意見に賛成でございます。私は,実務的なことはよく分かりませんが,例に出された株式の価格決定等においてはやはり併合もできるし,しなくてもよいし,そこら辺は裁判官の判断に任せるという形がよろしいのではないかと思います。現に,この前出された日興コーディアルグループ事件の決定でもそのようにされていて,説得的だと思いましたので,賛成をさせていただきたいと思います。 ○金子幹事 この問題は同一事件のとらえ方と関係するのではないかと思っています。同一会社に対する複数株式の買取価格の決定の申立てについては株式ごとに事件があると。すなわち,3人の少数株主がそれぞれ申し立てた場合は,事件としては三つあると。同じ事件について同時に係属する場合は,判断の抵触が生じかねないので,これは1回でしないと問題があるのではないかという発想でつくっているのです。ですから,今の例ですと,それは併合しても併合しなくてもいいという規律になると考えております。これは後ほど併合のところで御議論いただければと思うのですが,少なくとも現行会社法上は,あの部分は併合強制の仕組みをとらなかったので,併合強制ということになると,現行法に抵触してしまいますが,そうは考えていないのです。それは事件としては別であると。例えば,一つの株式を複数人が共有していれば,それは1個の申立てになろうかと思います。共有者がそれぞれ申し立てて,判断がまちまちになってはまずいと思うので,そこは1事件である。しかし,株式が別々であれば,観念的には別事件と考えるのがいいのではないかと思っておりました。その前提のもとでつくっております。 ○鈴木委員 金子幹事の発言前に,そもそも同一事件というのは何で縛るのかなと思って質問しようと思ったら,ちょうどそういうお話が出たのですが,訴訟ですと,訴訟物とかいろいろな概念があります。それについても多少揺らぎがありますけれども,これはどういうことを前提としているのかがいま一つ分からないのです。 ○伊藤部会長 今,具体例を出していただきましたが,それでは,もう少しそれを一般的なことで説明していただくと,今の御質問についてはどのようになりますか。 ○金子幹事 非訟における審判物といいますか,その概念はいろいろなお考えがあるかもしれませんけれども,例えば一つの法律関係を形成するようなものであれば,これは一つになるのではないかと思います。例えば借地非訟であれば,同一土地についての条件変更であれば,これは一つの関係を形成するというものであろうかと思いますので,仮に賃貸人あるいは賃借人の側が複数いたとしても,そこで形成される条件変更は一つですので,これは一つの事件として考える。もちろん関係者は複数にわたるのですが,事件としては一つと考える。賃貸人と賃借人が共通する隣地があったとしても,隣地についての借地条件の変更は別件ですので,併合はできるが,事件としては別になるのではないか。 ○鈴木委員 そうすると,当事者,人は関係がないと。今の例ですと,物で縛るということですか。特に一般論なものですから,ちょっとよく分からない。 ○脇村関係官 民事訴訟の場合ですと,訴訟物の同一性は事項と当事者の同一性で判断していると考えているのですけれども,これは,既判力の矛盾,抵触が生じる場合かどうかという基準だと思います。非訟の場合ですと,既判力という概念があるかどうかは議論がありますけれども,そもそも形成力がメインになりますので,形成力が矛盾,抵触するようなケースがあるかどうかを基準に判断していくのかなと思います。そうしますと,形成力は対世効があると言われておりますので,当事者の同一性は関係がない。当該事項について形成した判断が矛盾,抵触するようなことが起こるようなケースが正に同一。そういう意味では,当該事項の同一性がメインになる。ですので,株式買取価格請求のケースですと,Aさんの持っている株式の判断が二つ出された場合には形成的な判断が二つ出て,矛盾,抵触しますけれども,AさんとBさんの株式価格が二つ出たとしても,理屈上は矛盾,抵触は生じていない。ですから,同一ではないということになるのかなと。ですので,ものによっては,事項の同一性を当事者で特定しているようなケースもありますので,離婚は,当事者間での事項についてということで,特定の中に当事者が入っているケースもありますけれども,基本的には事項の同一性で判断していくものだと理解をしておりました。 ○伊藤部会長 ただいまの点に関して,いかがでしょうか。基本的な問題にかかわるところでありますけれども。 ○朝倉幹事 質問が適切かどうかもよく分かりませんけれども,そうすると,具体例で言いますと,異なる利害関係人から一つの同じ会社について,清算人選任の申立てがなされた場合はどうなりますか。 ○脇村関係官 今の事例ですと,一つの事件になると思います。要するに,申立人は別ですけれども,やろうとしていることは,その会社の清算人を選んでくださいということでございますので,その判断が,ある裁判所はAさんがいい,別の裁判所はBさんがいいというのは,これは判断が矛盾,抵触しているということになると思いますので,同一性はあるということになると思います。 ○中東幹事 細かい点で申し訳ないのですが,総会検査役の選任については,今のような形ではどういう形になりますでしょうか。会社法ですと裁判所は一つになっているわけですが,会社からも株主からも申立てがあったという場合です。 ○金子幹事 それも事件としては一つと考える。いずれから申し立てられても,一つと考えますので,後からの申立てについては,A案でいけば併合しますし,B案でいけば却下になろうかと思います。 ○伊藤部会長 同一性の判断基準について,幾つかの例が挙がりましたが,大体共通の認識が形成されると伺ってよろしいでしょうか。それとも,なおその点に関して御疑問や御意見があれば,どうぞおっしゃってください。その上で,先ほどのA案,B案ないしA案の①,②に関してもう少し御意見をいただきたいと思いますが,同一性の判断基準に関してはいかがでしょう。 ○朝倉幹事 結局のところ,そうすると,何が懸念があるかといいますと,訴訟物の場合には,やはり権利義務関係で,同じ権利なのかどうかというのが非常に基準としては明らかなわけですが,同一の非訟物と言われますと,正直今まで余り使ったことがない概念ですし,概念としてやはりクリアにしておきませんと,実際の実務上混乱を来す可能性もあると思うものですから,その基準というものを,現に私どもも今こうやって議論しているぐらいでございますので,やはりきれいに説明していただけないだろうかというのが一つ。   その場合に,いろいろな事件について,それが本当に同一なのかどうか,その基準でいいかどうかを検証できるような形で教えていただけないだろうかと思います。事務当局に御負担を掛けるのかもしれませんが,よろしくお願いします。 ○伊藤部会長 御指摘の趣旨はよく分かります。 ○菅野委員 商事部の考え方としましても,今の点はもう少し考えさせていただきたいという気がいたしております。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○脇村関係官 この同一性は,基本的に現行非訟事件手続法第3条における事件の同一性を前提に考えてございます。ですので,現行法の解釈をもう少し我々の方でも精査すればいいのかなと。ただ,ここでの議論としては,一応3条における同一性といいますか,事件の同一性を前提に御議論いただければ間違いはないのではないかと思います。 ○伊藤部会長 ただいまの点について,学者の委員・幹事の方で何か御発言ございますか。 ○三木委員 深く考えたことはございませんが,結論から申しますと,金子幹事,脇村関係官がおっしゃったような,効果というか,先ほど形成力とおっしゃいましたけれども,形成力の同一性から逆算して考えていくことになるのかなと思います。   ちなみにですけれども,既判力があるかどうかは後に議論されるのでしょうけれども,仮に既判力もあるとすれば,既判力の同一性及び形成力の同一性から判断していくのかなという気がいたしております。 ○山本幹事 私も,A案とB案だとA案の方がいいかなと思っています。②の併合強制について質問ですが,先行する事件が即時抗告で抗告審に係属しているような場合はどのようになるとお考えでしょうか。 ○脇村関係官 そこは非常に難しい問題だと思っておりまして,今,当局でも,これだという意見が正直あるところではございません。感覚といたしましては,抗告審でやっているときに,抗告審に併合してもいいのではないかと思う反面,審級の利益をどうするのかという気も若干しつつ,とはいえ,一審と高裁で両方かかっているのが許されていいのかというのもございまして,A案自体の問題としてそこは残るのかなと思っております。そこら辺を考えますと,B案はクリアにはなるのですけれども,かといって,B案でやるのも何かちゅうちょがございまして,是非皆様の御意見をいただければと思っております。 ○三木委員 私も基本的に発想としてはA案でいいと思うのです。しかし,今の山本幹事の御発言とも関係するのですけれども,A案の①と②との関係がよく分からない。①自体は,先行する裁判所に管轄を集中するのだという管轄の規定ですね。ここは今,管轄を議論していて,事件の併合・分離の問題はまた後に議論するとすれば,②は管轄のことを書いているのだとすれば,ここで言っているのは,併合する場合には,①と同じく,先行事件の方に併合しなければいけないということを言いたいがためにここに出しているのか,併合強制の方を先取りしてここに出しているのかよく分からないのです。どちらにしても,併合もまた先行事件の方に必ず併合しなければいけないという規定だとすれば,私は,そこはちょっとどうかなと思うのです。もちろん,多くの場合には,先行事件に併合する方が望ましいでしょうけれども,場合によっては後行事件の方に併合する方が望ましい場合もあると思うのです。ですから,そこは裁量に任せて,②が先行事件の方への併合という趣旨の提案だとすれば,そこはちょっと考え直した方がいいと思うのです。   あわせて,併合強制の問題をどこまで考えるかですけれども,山本幹事がおっしゃったように,審級を異にする場合であるとか,どちらに併合するかについて裁量性があるのなら別ですけれども,もしないのだとしたら,審級を異にしなくても,一方が非常に先行して審理が進んでいて,他方が進んでいない,つまり,先に申し立てられた方が必ず審理が先に進むとは限らず,後の方がどんどん進んでいくこともあるわけですので,そうしたこともすべて考え合わせなければいけない問題で,基本的には,なぜこの①と②の性質の違うものがここに並べて書いてあるのかがよく分からない,そういうことです。 ○金子幹事 何点か御指摘いただきましたが,まず,①と②の関係についてですが,事務当局が考えておりましたのは,①で先行しているところを管轄地として固定する理由について矛盾,抵触を避けるためと考えますと,①の規律によって,官署としての裁判所に2件係属しても,併合しなければこれは意味がないので,そこで,②で管轄からは少し超えた規律になりますが,併せてここに記載してあるのです。したがって,①は正に官署としてどこの裁判所が管轄するかという問題,②は併合の問題なので,趣旨として違うものが交じっているということは間違いないところであります。   それから,後行事件への併合もあり得るのではないかというのはそのとおりなのですが,例えば,今,タイトルは「数個同時に」と書きましたが,一つの事件だけが先行して,しばらくしてからもう一つ申立てがある場合には,今あるところに提起してくださいということが①の規律で出せると思うのです。御指摘いただきましたとおり,後行事件の方が裁判所から見てふさわしいのだというような場合は,その判断を先行事件の裁判所と後行事件の裁判所でどちらが判断するのかというような問題も生じますので,例えばいったんは先行事件の方に集めて,なお別のところがいいということになれば,次の裁量移送の方で対処するということも可能かなと思いまして,今のところ,A案の①は先行事件の方を管轄地とするという規律にしてあるのです。 ○三木委員 確認ですけれども,そうすると,ここで言うA案の①の集中の管轄は専属管轄という意味ですか。それとも,任意管轄という意味ですか。 ○金子幹事 そういう意味では専属です。ほかには管轄がなくなるということかと思います。 ○伊藤部会長 よろしいですか。 ○三木委員 結論としてよろしいかどうかはちょっと疑問がありますけれども,説明としては分かりました。 ○高田(裕)委員 今の御説明でもう解決しているのかもしれませんが,A案は,今おっしゃったように,管轄で調整し,他の裁判所の管轄を奪うことによって事件を集中させるという方法であり,B案は,現行民事訴訟法の重複起訴の禁止と同じように,後からの申立てを規制することによって,一つの手続に集中させる方法であるという理解をしておりました。そうしますと,一つの手続に事件を集中させる手法として二つあるということになりますが,この案は,それと併合か却下かが結び付くという前提ででき上がっているということでしょうか。すなわち,民事訴訟法第142条におきましても,後から提起された訴えが却下されずに併合される場合があるという議論もあり得ると思いますので,B案を使いましてもなお併合という構成は考えられないわけではないように思います。それから,①につきましても,他の裁判所に提起されますと,却下になるか,管轄違いの移送になるかということで,やはり同種の問題が起こり,場合によっては却下という選択肢も残り得るような気がします。話を戻しますと,A案が併合をねらいとし,B案は却下をねらいとする規定という整理なのか,それとも,A案の立て付けで申しますと,①と②の問題があり,管轄ないしは事件の集中という問題とその後始末という整理も可能なのかどうか,その点を御説明いただければと存じます。 ○金子幹事 考え方の整理としまして,ここに提起させていただいた際には,分かりやすくということで,B案を却下と結び付けて考えておりましたが,今,高田裕成委員御指摘のとおり,ほかの組合せはないかというと,それは否定することはできないと思いますが,趣旨としてはそういう趣旨でした。ただ,B案でも却下せず移送ということは,選択肢としてはあるのだろうと思います。 ○小田幹事 まず,今,高田裕成委員が提起した点に関して,申立ての取下げのところとも関係するのですが,もし申立ての取下げを自由に認めるという考え方を採るときに,遺産分割を例に出しますと,自由に取り下げられるということだと,申立人が自分の方が不利になってきたときに取り下げる,相手方がそれについて不満を持つということが往々にしてあります。今の実務でも,裁判所から,相手方に対し,そういうおそれがあるのなら,あなたも申立てをしておいてくださいと言うことがあります。ですから,もしB案で,イコール即却下ということになるのであれば,今申し上げた実務上の工夫との関係で問題が出てくるという気がいたします。   それと,A案の①に関しては,先ほど三木委員から御指摘がありましたとおり,先行して係属した管轄裁判所がその事件について管轄裁判所として本当に適当なのかという判断には事案における具体的事情も入ってくるのではないかなという気がいたします。先ほど金子幹事からは,その点こういった手法もあるのではないかという提案もありましたが,問題意識として述べておきたいと思います。 ○山本幹事 A案の②については,更に御検討されるということだと思いますので,その際の要望として,①と同じような規律を持つのは,ほかに倒産法関係の管轄の規定とか仲裁法に同種のものがあると思われますので,そこでの②のような取扱いがどうなっているのかというところとの整合性等も考えていただければと思います。 ○三木委員 この問題は,先ほど出た,事件の同一性の問題とも関係するように思います。先ほど話があったように,事務当局の方で,何が同一かというのはより詳細に詰められて,疑義が少ないような形になっていくのでしょうけれども,しかし,当然,同一性をめぐる解釈の相違というのは実務で起こり得るわけです。したがって,①があると論理的に②につながるのだというのは,現にそういった争いがなければそうなるのですけれども,例えば,①で管轄集中の規定をつくったとしても,②の関係で,違う事件だという認識のもとに違う裁判所に提起して,その受け付けた裁判所も違う事件だとして受け付けたときには,先行と後行が同時併存し得るわけです。そのときに必ず先行裁判所の管轄でいいのかとか,そういう問題が生じ得るということ。   それから,先ほど高田裕成委員がおっしゃったことと関連しますけれども,どちらがいいかというのは私も定見はないですけれども,民事訴訟法と同じ並びにするのであれば,B案のような規律で,かつ,その処理は必ず却下ではなくて併合もあるというのが,民事訴訟における少なくとも学説上の有力説の考えということになろうかと思いますので,そういった点で―何を言いたいかというと,その方が恐らく柔軟かつ実務的に,事件の個性に応じた処理がしやすいという面もあろうかと思いますので,そうした組合せの組みかえということも併せて御検討いただければと思います。 ○菅野委員 本当に現場からの一種の希望なのですけれども,例えば同一事件ということについては,今,頭の中で何十もある会社非訟や借地非訟の中で,この場合は同一で,この場合はどうかとか非常に迷うところがあるのです。なかなか難しい問題だという気がいたしております。   それと同時に,裁判所側として見ますと,例えばほかに同一事件があるのかどうか,どこにあるのかとか,そういう調査のすべもないわけですし,この問題で一律に決められてしまう,あるいはこうしなければならないという形で,併合しなければならないとされることには何か非常に不安感というか,ためらいがあるということだけ何とか御理解,御斟酌いただければと思います。 ○伊藤部会長 同一性の判断基準に関しては,事務当局でなお検討してもらいたいと思いますが,しかし,検討しても,やはり最後のところはすべてが一義的に判断できるようなものを法文で明らかにすることは恐らくかなり難しいと思いますので,そこはどうしても解釈なり運用の余地を残さざるを得ないと思います。そのことを前提にして御議論いただきたいと思います。   それと,先ほどの高田裕成委員,三木委員の御発言で,確かにB案は,二重起訴禁止的な考え方をとっても,併合等の余地は解釈上あるいは運用上あり得るとは思うのですけれども,しかし,現在の段階で立法の方向を考えていく上では,一応,B案というのは基本的にはこういう考え方で,しかし完全に併合等の可能性が排除されるわけではないというのは念頭には当然置く必要があると思いますが,基本はこういうことだと思うのですけれども。 ○髙田(昌)委員 不勉強なので教えていただきたいのですが,先ほど,先行事件が抗告審で審理されている場合が問題になりましたけれども,その場合に,B案であれば,当然,後行事件を却下などすることで,二重の審理・審判が避けられるところ,A案の場合ですと,後行事件は,なかなか排除しにくく,そのまま審判手続に乗っていくということになると思うのですが,その場合に,先行事件が結局,形式的に確定したときは,先ほどの説明でいくと形成力が生ずるということになるのですが,仮にそうなったときに後行の事件というのはどういう扱いになるのかというところを,どなたか教えていただければ有り難いのですが。 ○脇村関係官 髙田昌宏委員御指摘の点につきましては,現在,学説等においても定型的な考えはないものだと理解しております。今のところは,既判力がないというのが学界の通説であると思うのですけれども,そういったこともあって,非訟事件の裁判は,民訴と同じように考えることはできない。では,同じ事件について,先行事件の裁判があった場合に,後行事件はどうなるのかという点につきましては,私の知っている限りでもいろいろな説があると承知しております。ただ,雰囲気としては,先行事件の裁判がある場合には,基本的には後ろのものは駄目だと。ただ,その理由は,形成力で説明する人もあれば,信義則なり権利濫用なりで説明する人もいたり,私が最近読んだ文献でもいろいろな説があったと思いますので,是非御検討いただければと思います。 ○畑幹事 私の理解によれば,今のは,先行事件で法律関係が形成されてしまえば,後行事件は申立ての利益を欠くということになるのではないでしょうか。それから,ちなみに,今おっしゃったのは,後行事件も審理を進めるということを前提にしておられたかと思うのですが,そこはストップするとか,いろいろあり得るのではないかと思います。 ○髙田(昌)委員 これは後の「管轄の標準時」とも関係するのですが,職権開始事件のケースで「職権で手続の開始があった場合」というのは,技術的にはどういった時点で手続の開始があったと判断するのかを教えていただければ有り難いのですが。 ○脇村関係官 物の本を見ますと,立件のときと書いてあるのですけれども,実際どのようになされているのかについては不勉強なところもございますので,是非実務家の方に,どういったときに立件のときと考えていらっしゃるのか教えていただければと思います。 ○伊藤部会長 そのあたりはいかがでしょうか。実務に精通されている委員・幹事の方で何か御発言ございますか。 ○小田幹事 後見監督で職権で立件する場合ですと,今,事務を合理化する観点から,必ずしも全部そのように行っているわけではないのですが,調査官が報告をした上で立件認定書に裁判官が印鑑を押す,こういった形で立件をするという例はございます。それがすべてかどうかということはよく分かりません。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   ほかに御発言はございますか。 ○朝倉幹事 A案,B案と直接つながらないかもしれないのですが,先ほど実はその点は菅野委員と高田裕成委員が双方ともおっしゃっていて,それを合わせればもしかしたら答えは出ているのかもしれないのですけれども,同一事件の係属についての調査義務を裁判所が負うのかどうかという問題ですとか,あとは,仮に同一事件の係属が分からないまま判断してしまった場合に,効果はどうなるのか。先ほどのお話ですと,後者はもう駄目だ,効力がないという畑幹事のお話だったかと思うのですが,もしかしたらそれで解決しているのかもしれませんけれども,民事訴訟でそれは定説なのかどうかも,不勉強でよく分かりませんで,そうでないものも読んだことがあるような気もしたものですから,教えていただければと思います。 ○畑幹事 いろいろな御質問があったかと思うのですが,調査義務があるのかについては,例えば訴訟の二重起訴でどうかと考えてみますと,一応職権調査事項とは言われているかと思いますので,同じようなことになるのではないか。ただ,それでも事実上分からないことがあり得るというのも訴訟と同じではないでしょうか。   それから,訴訟で先行事件が確定したらどうなるかというと,それは,当然,先行事件の既判力を前提に,場合により本案判決をすることもあれば,訴えの利益を欠くということもあるのではないでしょうか。そこで更に看過したらどうなるかということもあるかと思いますが。 ○金子幹事 同一事件のとらえ方という問題もあるかと思うのですが,ある一つの法律関係を形成しようという場合は,ともかくその1回で勝負が決まると。将来の取消し,変更は別の問題としまして,それによって形成力が生じてしまうので,結局,ほかで申し立てられれば併合するし,申し立てられなければ,参加するなりの方法をとるということで,恐らく1回で勝負をつけなさいということでよろしいのではないかなと思っています。だから,先行事件の方が既に抗告審に行っていれば,抗告審での参加の問題として処理するということでよろしいのではないかなという感じがしています。抗告審に係属していることに気付かなかった場合でも,結果として,先に出てしまえば,後行事件は効果を望めないのではないかという感じがしています。 ○伊藤部会長 ただいまの点のようなことでよろしゅうございますか。   ほかに御意見,御発言はございますか。   それでは,A案,B案という形で併記してございますが,ただいまの御発言を伺っていますと,同一の非訟事件が数個同時に適法に係属し得るという点ではA案の考え方が適当であるという御意見が比較的多かったように思います。それから,B案に関して,確かに,先ほど,高田裕成委員,三木委員の御発言にありましたように,このように規律したからといって,当然に常に却下をしてしまって,併合の取扱いをする余地がないのかという御指摘がございましたが,それは言わばB案でも柔軟な運用が可能ではないかという趣旨の御指摘であって,基本的にB案の考え方そのものが,これをとるべきであるという意味とは若干違うように理解しましたが,そういう意味ではA案のような考え方がこの場の言わば大多数の御意見であると理解してよろしゅうございましょうか。 ○青山委員 B案というのは,現行の民事訴訟法第142条と同じ形ですよね。A案は,現行の非訟事件手続法に根拠を置いて規定を立てればこんなことかということだろうと思うのです。この段階で民事訴訟法と非訟事件手続法を同じにするかどうかというのはとりあえず別の問題として,A案もB案も,管轄を集中させて,形成力の抵触を避けるためにどういう文言を用いたらいいかということの違いだと思うのです。併合の点をもし別のところに持ってくるとすれば,管轄の入口の点では,A案の①とB案とはそれほど違っているものだと思わないものですから,もう少し先の方の検討を進めていただいて,最終的に文言が管轄のところでB案になっても,それは構わないのではないかと思っているのです。ですから,ここでB案をとらないと決めてしまわなくてもいいのではないかという気がしております。 ○伊藤部会長 青山委員のお考えは,B案を今の段階で排斥してしまう必要はない。要するに数個の同一の非訟事件が同時に係属し,それが併合を強制するかどうかは別として,適切な場合には併合処理がされるようなところへ持っていけるような仕組みが全体としてできればそれでよろしいのではないかというような御指摘かと思いましたが,そういう理解でよろしゅうございましょうか。 ○青山委員 はい。 ○伊藤部会長 先ほど来出ております,同一性の判断基準ですとか,そのほか,A案に関連して,一方の事件が抗告審に係属中であるような場合とか,幾つか関連する問題の御指摘がございましたし,A案の②で,併合を義務付けるかどうかという点については,実務的な立場からすると,そこは裁判所の合理的裁量にゆだねる方がよろしいという御意見がございましたが,その点に関しては何かほかに御意見はございますか。それとも,先ほど菅野委員などがおっしゃったような考え方,あるいは中東幹事もそういう趣旨の御発言がございましたが,そのような考え方がこの場での大方の御意見であると承ってよろしいでしょうか。 ○増田幹事 併合強制の点ですけれども,裁判所の合理的裁量と言われますが,そうなると,併合されない場合の後行事件については,当事者が行った主張や証拠提出の結果は無駄になるのではないかという危険を感じます。やはり結果的に一つの結論が出るのであれば,それは必ず併合すべきだと考えます。 ○伊藤部会長 増田幹事からむしろ義務とする方が適切であろうという御発言がございましたが,ほかに今の点に関して御意見がございますでしょうか。 ○杉井委員 これもやはり同一の事件をどのように見るかによると思うのですけれども,先ほど来の事務当局の御説明からしますと,同一事項で基本的に違った判断がされるのは望ましくない,そういうものを同一事件と見るとするならば,やはりそれは併合しなければならないというふうにしておかないといけないと考えます。併合できるというだけですと,併合しない場合には違った判断も出てきます。そうなると,増田幹事がおっしゃったように,後行事件が無駄になります。訴訟経済という点でも無駄になるのではないかと思います。あくまでも同一事件をどのように定義するか,そこが非常に大事だと思いますが,そこをきちっとした上であれば,やはり併合強制の方が論理的なのかなと思います。 ○菅野委員 単なる病理現象にすぎないのかもしれませんけれども,例えば訴訟の局面におきましてさえも,ある事件が一定程度のところまで行くと,判断にかなり熟してくる,そうすると,また次の追加提訴が出る。それが進むと,次にまた出てくるということで,そこら辺をどうするか,どこかで見切りをつけて前の方だけやらないと動かないとか,いろいろなことがございます。同じように,非訟の場合でも,完全に義務付けにしてしまいますと,一定にこう行ったらまた1件出て,また次のものが出て。一律に併合しなければならないとすると,最初の方のかなり進んだ事件について動かせないとか,いろいろ不都合が出ないかなと,そういうことも心配しているところでございます。 ○脇村関係官 今の御指摘に関して質問させていただきたいのですけれども,菅野委員のお考えとしては,同一事件という前提でありますけれども,最初の事件がある程度進んできていて,後になって言ってきたと。恐らく併合してしまうと,またそれとの関係の証拠提出等があって事件が長引くのではないかという御指摘ではないかと理解したのですけれども,菅野委員の御意見としては,今のような病理現象の際の後行事件を併合しないときの取扱いについてはどのように処理されるのがベストだと思われるでしょうか。 ○菅野委員 先ほど,先行事件でもし決まってしまえば却下という話がありましたけれども,先行事件の方が例えばあと1回で終了するとしたら,後行事件はそのままにしておいて,では1回だけとにかく主張の機会を与え,その上で先行事件の方を先に判断してしまうとか。後行事件の方も,その主張次第によっては,もしかしたら,これは意味があるのかなと,今までの審理結果を覆しても全体をカバーするのかななんていうこともあるかもしれませんけれども,そういう訴訟指揮面での幅を持たせたいな,そういう意味合いでございます。 ○脇村関係官 そうしますと,委員の御趣旨としては,同じ事件について二つの判断をするというのではなくて,その処理の方法としては,併合してやるときも認めていいし,却下なりで処理することも認めていいのではないかという御趣旨ですね。 ○菅野委員 そう思いますが。 ○三木委員 今の菅野委員の御発言とも若干関連するのですけれども,A案の②のような規定を何らかの形で置くのであれば,先ほどの抗告審と一審の関係もあったりするので,普通この種の処理については,併合又は停止というのが訴訟の方では学説でずっと言われてきたことで,後行事件を場合によっては停止すると。先行事件が例えば抗告審に行っていて,しかし,その事件が却下されることもあり得るわけですよね。そうすると,後行事件を生かさなければいけないということもありますし,後行事件却下ではなくて後行事件停止の方が望ましい事件ももちろんあるわけですね。ですので,今までは民訴の方はそれを解釈で議論されていたわけですけれども,規定を置くのであれば,併合だけを明文で入れて,あたかも停止などの処理ができないかのごとき規定にするのはちょっとどうかなと思うのです。 ○伊藤部会長 ほかにいかがでしょうか。   そういたしましたら,ただいまの点について,必ずしも今の段階でA案か,B案かに決めてしまう必要はないかと思いますが,大体の御意見の分布状況は御理解いただいたとおりでございます。それから,A案の②の関係につきましても,一方では裁判所の合理的裁量にゆだねるのが適当であるという御意見がある一方,当事者の訴訟追行の結果を無駄にしないとか,あるいは,場合によっては手続保障などの視点から併合の義務付けをするべきである,こういうような御意見があったことも確認させていただいて,ただ,いずれも,その前提としての,事件の同一性の判断基準とも関係をいたしますから,そのあたりを,本日の議論を事務当局に整理していただいて,以後の審議につなげたいと思いますが,そういうことで,先に進んでよろしゅうございましょうか。―はい。ありがとうございます。   4の「管轄の標準時」ですが,この点はいかがでしょうか。裁判所が職権で手続を開始したときの意義については先ほど若干の御発言がございましたが。この点は格別の御意見等はございませんか。もしございませんようでしたら,格別の御異論がないということで,先に進ませていただきたいと思います。   それから,5の「移送等」ですね。このあたりはいかがでしょうか。5の(1),管轄権を有しない裁判所による移送の問題についてはどうでしょう。(注)で指摘された,訴訟事件として申し立てるべき事項を非訟事件として申し立てた場合の取扱いについても,御意見があれば承りたいと存じます。 ○石田関係官 (注)の関係で確認させていただきたいのですけれども,これは,仮に訴訟事件として申し立てるべき事項を非訟事件として申し立てた場合に,訴訟事件に変更して,管轄裁判所に移送することを規定で設けるという御趣旨でございますか。 ○脇村関係官 規定に置くのか解釈でやるのかについては現時点で決まっているわけではございませんが,この方向で決まりました場合には,それをどのように表現するのかについては当局として考えていきたいと思っております。 ○伊藤部会長 実質を御議論いただきたいという趣旨の注かと思いますが。 ○菅野委員 参考と書かれているところからすると,これは,こういう規定は設けないという御趣旨でこの(注)で書いてあるのだろうと思って読んでいたのですが,今のお話を聞くと,私誤解していたかなと思いまして,そこら辺はどういうことでございますか。 ○金子幹事 この問題について,移送できるという積極の結論でありますと,この最高裁判決と結論的に逆になりますので,規定を設けるべきという方向になるのではないかなとは思います。逆に,ほうっておいても解釈でなお移送の余地は残る。それは最高裁判決に反することになるのかもしれませんが。そこは民訴に規定がないのと同じように,置かないということになろうかと思いますが,逆に,できないという規定は置きようがないと思いますので,その選択肢がまずない。できるとした場合に,それをどうするのかというのは,法制問題も絡んで,問題はなお残るとは思いますが,明確にするのであれば置いた方がいいのかなと。 ○伊藤部会長 いかがでしょう。非常に基本的な問題であるわけですけれども。 ○中東幹事 検討をお願いしたいというだけの話ですが,会社訴訟については提訴期間に制限がかかっているものが多くあるものですから,非訟でいったん間違って申立てをした場合にどうなるのかというのも解釈論上あるいは出てくるかもしれません。そこら辺をなお検討の上,更に今後御審議いただければと存じます。 ○菅野委員 余り考えてはいなかったのですけれども,実務的には,非訟関係の申立てというのはやはり間違いとか相談とか,いろいろなことがあるのですね。そうすると,窓口で,この場合は駄目ですよと言ってそのまま撤回になるか,あるいは申立てを受理した上で取下げということになるか,そして訴訟として出し直していただく,そういう手続に現状だとなっていると思うのです。それはある意味で非常にフットワークの軽い手続で,割合迅速にやれることなのです。移送ということになりますと,それなりの手続や決定が必要であり,さらに,それに対して争えるのかとか,いろいろな問題も生じます。一方で今度,受け付けた方の訴訟裁判所はそれに拘束されるのか,つまり,非訟として申し立てられたことの処理によって今度訴訟事件の裁判所が移送の拘束を受けるのかと,いろいろとややこしい問題が出てくるような気がいたしまして,規定で今あえて実務を変更していただかないと困るというような事柄は現場では余りないような感じがいたしております。 ○秋武委員 今の菅野委員と全く実務レベルでは同じなのです。特に家庭裁判所は本人が大体出てきますので,ここを必ず移送というようなことになってしまうと,本人の意思がまず何度確認してもはっきりしない。これでいいですねと言っても,手続をとると,いや,実はこうだったのに裁判所はこのように処理したというトラブルが非常に多いです。となると,これは規定を置かれるよりは,解釈で考えられるのだったら,解釈論でやっていただいた方が実務としては非常にスムーズにいくだろうと思われます。 ○高田(裕)委員 解釈論にゆだねるというのも一つの選択肢だと思いますが,先ほど金子幹事も言われたように,恐らく判例とは違う解釈をとることになると思いますので,その抵抗と申しますか,ハードルは若干あるように思います。その際,こうした移送を認めるべき場合があるかどうかということで,今お二方の委員から御説明されましたように,多くの場合は窓口指導で対処されると思いますので,誤った選択に対する手当てというのは,ある程度はできているのではないかという印象は持ちますが,ここから先は,ある意味で杞憂か,考え過ぎかということだろうと思いますけれども,あり得る問題とすれば,いわゆる消極的抵触と申しますか,双方の判断が違って,どちらも受け付けてもらえないという可能性があるのかどうか。もし仮にあるとすれば,これは,先ほどの菅野委員の御発言を受ければ,拘束力を持った移送というものによってのみ対処できる状況だと思いますので,それに対する手当てが必要かどうかということを考えることになるのかなという感想を持ちました。現在の段階で,定見はございませんが,その点についてもし考える必要があるとすれば,判例と異なる取扱いを認めるという道を開くことを考えてもよいのかなという印象を持ちます。 ○伊藤部会長 手続の選択を誤った申立てに対して適切な救済を図るべきであるという基本的認識は恐らく違いがないのかと思いますが,それを実務上の運用で対処する方が適切だという御意見と,今,高田裕成委員の御発言にございましたように,場合によってはそれだけで十分でない場合というのがあり得るのではないか,こういう御意見がございましたが,他の方はいかがでしょうか。 ○二本松委員 これもまた実務的な発想からの意見ですが,実際こういうケースにつきましては,やはり窓口で,これは非訟事件として申し立ててくださいというふうに指導するわけですが,受付段階で申立人がこの手続でやってくれと言ったときには,やはり裁判所は受理を拒否できないわけですね。ですから,本人の選択の誤りが,やむを得なくてかわいそうだなという場合もあるのでしょうが,実は裁判所の受付の指導に従ってくれずに,どうしてもこれでやってくれと言ってきて,いったん受け付けて,それを今度裁判所が,ではほかの手続に切り替えて移送をしてくれという,現場の感覚からすると,それはないのではないでしょうかと,そういった意見が出るのではないかと思います。 ○伊藤部会長 確かにそういう場合があるということはよく分かりますが,ほかに今の御発言とも関連して何か御意見ございますか。 ○脇村関係官 私も定見があるわけではないのですけれども,恐らく裁判所の方が,表題には家事審判事件と書いてあっても,これはどう見ても人事訴訟であるということであれば,多くの場合については,表題は家事審判事件であっても,訴訟事件として普通は受理した上で適切に処理されるのだろうなと思うのです。ですので,この問題が一番先鋭化するのは恐らく,二本松委員のおっしゃっていたように,裁判所が言っていることと違うことをしたいと。(参考)で書いています最高裁判決も,私の記憶では,確かそのような事例を念頭に置いた判決であったと思っておりますので,明文によって規定しなくても,食い違っていないケースは適切に処理されるわけですので,いいのかなという気はいたしておりました。 ○伊藤部会長 ほかにいかがでしょうか。   そういたしましたら,この点については,ただいま御発言のあったような,実務上の処理による適切な対応,しかし,それにもかかわらず,当事者が自己の行った選択について,あくまでその選択を正しいものとして求めている場合にどうするかというような問題についての御指摘もございました。他方,先ほど高田裕成委員からの御発言にもありましたが,そういったことを踏まえて更に検討させていただきたいと思います。   あとは,(2)の「管轄権を有する裁判所による移送」,それから(3)の「移送についての裁判に対する不服申立て」,このあたりでは何か御発言ございますか。   格別の御意見がないということで,大体ここに記載されているような方向での検討でよろしいという理解でよろしいでしょうか。   それでは,あとは(4)の「移送の裁判の拘束力」,このあたりは何か御意見ございますか。   もしございませんようでしたら,この点も,ここに掲げられているような内容での検討を進めさせていただきたいと思います。   それから,(5)の「地方裁判所の自庁処理及び簡易裁判所の裁量移送」,このあたりはいかがでしょうか。 ○中東幹事 会社非訟は地裁専属ですので,結論には特に意見はないのですが,この(補足説明)の1で,簡易裁判所については判事の資格が緩やかだから,地方裁判所で裁判すれば,当事者に不利益にならないばかりか,かえって利益となる,こういう理由付けというのがいいのかどうかを教えていただけませんでしょうか。 ○脇村関係官 なかなかうまく説明できないところでございますが,実際上の問題としては,簡易裁判所というのは簡易迅速に処理するように,実務上人的・物的体制が整っていて,地方裁判所は簡易裁判所に比べますと,人的,物的にも大規模事件にも対応できるようなシステムを作っていることを踏まえて,どうかということを言いたかったのではありますが,表現がちょっと稚拙で申し訳ございません。 ○道垣内委員 進みが早くてちょっと私の頭でついていけなかったものですから,さかのぼってしまうのですが,1点教えていただければ有り難いのですけれども,移送の申立てというのは,ここに移送してくれと言って申し立てるのですか。つまり,移送の申立ての却下というのが,概念としてよく分からないのです。つまり,管轄が自分のところにはないと,もし16ページの「移送するものとする」となったと仮定し,かつ裁判所は自分のところに管轄がないと言っているときに,移送の申立てをするのだけれども,それを却下するというのはどういうシチュエーションが念頭に置かれている概念なのですか。 ○脇村関係官 却下するようなケースについては,例えばA裁判所に申立人が管轄があると思って申立てをしましたと。それはほかの関係人もいたので,関係人の方は,いや,A裁判所ではなく,本当はB裁判所ですといって申立てをしたところ,申立てを受けていたところは,いやいや,うちですよといって却下するようなときを私は念頭に置いていたのですけれども。 ○道垣内委員 関係人というのがよく分からないのですが。 ○脇村関係官 訴訟で言えば被告のようなものを想定しているのですけれども。 ○道垣内委員 そうすると,これは移送の申立てではなくて,管轄がないという主張になるのか。そこの申立てなのですかね。管轄がないという主張なのではないですか。 ○脇村関係官 管轄がないことを理由とする移送の申立てでしょうかね。 ○道垣内委員 分かりました。 ○伊藤部会長 それでは,自庁処理の点ですね。特に御意見がなければ,これも部会資料に記載されているような形での内容を前提にして検討を進めさせていただきたいと思います。   「その他」のところで,(注)にあります,合意管轄を認めるかどうかについて,総則には規律を設けないことでどうかと。もちろん,事件の類型によってはそういう必要があるということは前提ですが。 ○増田幹事 前回の議論で,相手方のいる事件の一般的規律を設けるかどうかというのがありましたけれども,この規律を置くという前提に立った場合には,相手方のいる事件,つまり当事者対立構造を有する事件については,合意管轄を認めることを前提に考えるべきかと思います。それは,当事者対立構造を有する事件については,基本的に当事者が主導する運営が期待されているものだと考えられますし,また,公益的要請よりも,むしろ当事者の利益が優先する事件の類型の方が多いだろうと考えるからです。当事者が最もよく手続運営をできる場所ということになれば,それは当事者が合意する裁判所が最も適していると考えます。もちろん,公益の方が優先するケースがあるのであれば,その場合にはむしろ原則と例外を逆転させて,個別規定の中で,この事件類型では合意管轄を認めないという形にすればよいと考えております。 ○菅野委員 以前,借地非訟と調停の関係も統括する部にいましたので,その点で少し気になって発言させていただくのですけれども,非訟では確かに,例えば調停は調停法の中に当然に合意管轄ができるという規定がございますけれども,これは正に調停は当事者で合意して最後に調停というものが成立していくわけですから,当事者に任せるところが非常に大きいということになるのですね。ただ,それ以外のことを考えますと,非訟は本当に様々なパターンがございますし,単に公益という発想だけではなく,その事件を審理していく上で非常に後見的な見方でいろいろなことをやる場合もあります。例えば借地非訟の場合は決定するためには,鑑定委員会を3名で組織して,現地を見るという鑑定が義務付けになっているのですね。その場合,正に物件の所在地ということが非常に大きいわけで,ではその借地非訟手続をどこでやるかというのは,例えば契約したときの会社の本店がどこにあるからそこにしてくれとか,そういうことではなく,手続をむしろ適正,公平にやるためにはどこでやるのがいいか,そういうことだと思うのです。あるいは,別な会社非訟の関係で見ても,いろいろな周辺の背景としての人とか関係者とかがどれだけ広がりがあるか等を考えると,どこの場所で審判するかということについては,訴訟の場合とかなり違う考慮も必要なときがあるような気がします。では,全部について合意管轄否定とか,そういう意味で申し上げているわけではもちろんないのです。先ほどの,原則と例外の逆のような話かもしれませんが,総則の方で合意ということで決めるのはどうかなという,そんな感じがいたします。 ○伊藤部会長 分かりました。ただいまの点,要するに総則規定として合意管轄の規定を一般的に設けることが合理的なのか,それとも,それはそれぞれの事件の性質に応じて認めるべきものは認めるということで足りるのか,そのような御意見の違いかと思いますが,他の委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○二本松委員 今の菅野委員の意見に賛成です。これは家事審判事件にも同じようなことが妥当するのではないかと思います。家事審判事件については,もちろん家事審判規則と特別家事審判規則でそれぞれの事件類型ごとに管轄がきちんと決められているわけです。それはやはり,その事件類型に応じて何を一番考えないといけないかということを基準に管轄が定められているわけです。そういったことを抜きにして,当事者の便宜のためにだけ,あるいは場合によっては当事者の代理人の便宜だけによって,合意でどこか関係のない地に管轄を定めて,そこの裁判所が審理するというのは,やはり管轄を定めている法の趣旨に反することになるのではないかということと,その都度また,そうなったら,一番適切な裁判所に裁量で移送しなければいけないことになる,そういう問題が生じますので,やはりこれはそれぞれの事件に応じて管轄をきちんと決めて,もちろん合意管轄を認めていい事件類型もあろうかと思います。ですから,そこは各則のところで決めるということで,総則に一般的に合意管轄を認めるという規定を設けるのは反対です。 ○小田幹事 家事審判に関して若干補足いたします。今,二本松委員からも申し上げたとおり,現行でどうなっているか申し上げますと,家事審判規則で調停については合意管轄が入っているけれども,その上の部分では合意管轄というのは入っていない。それは,正に各則で必要な部分については合意管轄を認めることのあらわれだろうと思っております。   もう1点は,今,前提としているのは相手方のある事件ということだろうと思います。その点については前回議論がされたところですが,家事審判事項に関してそれを見てみますと,調停も可能な乙類,これは今,調停でも可能といったところと親和性があると思いますけれども,他方で,前回一つ明らかになった,相手方のある事件としては,後見人解任,親権喪失といった地位剥奪型があると思います。こういった事件について見ますと,必ずしも合意管轄がそのままなじむかという問題があります。もう一つは,今,二本松委員が申し上げたことと重複にはなりますけれども,特に後見人解任についてみますと,具体的には,そこでどういう管轄の決め方がされているかというと,後見開始や,それまでの後見監督事件を担当した裁判所が担当できるような定めに基本的にはなっております。そういった公益的なところを果たして合意管轄ということで,そもそも相手方のある事件といってもいろいろ性質がある中で,総則に取り込むことがいいだろうかという点から疑問があろうと思っております。 ○増田幹事 先に,今おっしゃった後見人だとか,不在者財産管理人とか一時取締役などもそうだと思うのですけれども,ある事務処理をする人を選任する,あるいは解任するというのは,これは選任された人の任務遂行地と密接な関連がありますので,これについて合意管轄をすべきだと言っているわけではないのです。これは各則で排除すべきだと考えています。   ただ,例えば典型的には遺産分割を考えているのですけれども,当事者が全くいない場所に被相続人の相続開始地があるなどということも多々あるわけであって,そういう場合を念頭に考えた場合,やはり当事者が最も追行しやすい場所というのが一番ふさわしいのではないかと考えているわけです。むしろそういうケースの方が当事者対立構造のあるものには便利ではないかということです。   また,専属管轄が決められた時代と今とでは大分違う要素があると思うのです。例えば情報の取得方法だとか,情報がどれだけ簡単に取得できるかどうかということについて,昔は遠くへ行くということは大変な作業だったし,遠くから情報をとることも大変だった。しかし,今は,交通機関も発達していますし,あるいはインターネットなどで簡単にいろいろな情報がとれる時代ですね。ですから,当事者がここでいいと言っているのに,あえて別のところで,例えばそういう情報に近いからということで,地理的な近さがどれほど影響するものかということも考えてみなければならないと思います。   私も,事件の性質によって,合意管轄をすべきでない,認めるべきでないという事件は認めているわけです。つまり,ここで言っているのは,当事者対立構造を有する事件について,どちらを原則にして,どちらを例外にするか,そこが違うだけだと思います。 ○脇村関係官 合意管轄,必要的移送のところですけれども,恐らく問題としては,当事者がそこでしたいと言ったときに必ずそこでしないといけないのかという問題と,管轄地ではないのだけれども,二人がやりたいと言うのだからそこでやることができるようにするという二つの問題があるのではないかと考えております。皆さんが今おっしゃっていた,例えば家事審判の例でいきますと,現行法の規律を前提にする限り,二人が望んでいて,でも管轄ではないところでやることについては裁量移送でカバーできるという意味では,家事審判ではその面での意見の対立は余り意味がないのかなと思っておりました。ただ,家事審判を前提にしても,必ずそこでしないといけないという規律を置くかどうかというのはまた別途問題になるのかなと思っております。   非訟については,増田幹事の御意見がどちらの御意見なのかがちょっと分かりかねますけれども,必ずそこで二人が望んだときはしないといけないという規律を念頭に置いていらっしゃるのか,それとも,二人がいいと言っていて,裁判所もそれでいいかなと思っているときにはそこでもできるということを念頭に御意見をおっしゃっているのか,そこを教えていただければなと思います。 ○増田幹事 結論から言えば後者でございます。合意していても,移送というのはあり得るだろうと考えております。 ○伊藤部会長 それでは,これも実質において両側からの意見が真正面から違っているというよりも,先ほど増田幹事の発言にもございましたように,どちらを原則とするのか,あるいは一般規定としてそれを設けるのがいいのか,それとも事件の性質に応じて合意管轄についての規定を設けるのがいいのかというあたりで,違いはそれほど大きくはないかなという印象はございますけれども,しかし,形としては両様の意見がございましたので,それを踏まえて更に検討するということで,先に進ませていただきたいと思いますが,ほかに特に今の点に関して御意見ございますか。   特にないようですので,ただいまから休憩をとらせていただきたいと思います。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは,再開いたします。   引き続きまして,事務当局に「第9 当事者能力等」及び「第10 任意代理人及び補佐人」について説明をお願いします。 ○脇村関係官 それでは,説明させていただきます。   第9の1は,当事者能力について提案するものでございます。本文①では,現行法の解釈と同様,当事者能力は,特別の定めがある場合を除き,民法その他の法令に従うものとすることを提案しております。本文②では,例えば,いわゆる権利能力なき社団又は財団が土地を借りている場合に,借地条件の変更等の裁判手続を権利能力なき社団又は財団として行うことができないことは相当ではないのではないかと考え,法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは,当事者能力を有するものとすることを提案しております。   第9の2は,選定当事者についてですが,非訟事件の中には,複数の当事者がいる場合や,同一の事件ではないが各事件の目的,原因が共通している場合がございます。前者の例としては,非訟事件手続法第80条に規定する共有物分割に関する証書保存者の指定申立事件,後者の例としては,同一原因を理由とする株式買取価格決定申立事件が考えられるところでございます。このような場合に,多数者が当事者として手続に関与することによる審理手続の煩雑化を避け,手続を簡易にするための方法として,民事訴訟法と同様,選定当事者制度を導入することを提案しております。   第9の3は,非訟事件手続で有効に行為をすることができる能力である非訟能力及び法定代理権について,民事訴訟法第28条,第31条から第33条までと同様の規律を設けることを提案しております。   なお,本文③では,職権で開始した非訟事件について対処するために,職権で開始した非訟事件について訴訟行為をするのに,保佐人等の同意,授権を要しないものとしております。   第9の4は,非訟能力や法定代理権等を欠く者がした非訟行為も,後に非訟能力や法定代理権等を有するに至った者が追認すれば有効になることを提案するものでございます。   第9の5は,特別代理人について,民事訴訟法第35条と同様の規律とすることを提案しております。ただ,非訟事件では,裁判を受ける者に対し裁判を告知しなければその効力は生じないことになりますが,その規律を前提にしますと,裁判を受ける者が未成年者等であって非訟能力を欠き,裁判の告知を受けることはできないということ,それによって裁判の効力を生じないということになりますと困りますので,そういった場合に対処するため,職権により特別代理人を選任した上で,その者に対して裁判の告知をし,裁判の効力を生じるということもできるようにしてはどうかと考えております。   第9の6は,法定代理権消滅の効力発生時期等について検討することを提案するものでございます。法定代理権は,民法等に定める事由により消滅しますが,実体法上の消滅事由が発生しても,裁判所やその他の当事者には分からない場合がございます。そのような場合に,法定代理権を当然消滅させてよいのかが問題になると思われます。   そこで,A案は,法定代理権の消滅は,裁判所に通知しなければ効力が生じないものとすることを提案しております。   それに対し,B案は,相手方がない事件では,相手方がおらず,相手方を保護する必要はございませんので,実体法上の消滅事由の発生により直ちに法定代理権の消滅は効力を生じるものとしつつ,相手方がある事件では,法定代理人が代理権を有しているとの相手方の信頼を保護する必要もある場合も考えられることから,法定代理権の消滅は本人又は代理人から相手方に通知しなければ,その効力を生じないものとすることを提案しております。ただ,この点につきましては,法定代理権は通常どの時点で消滅したのか時期は明確でございますし,法定代理権が消滅しない結果,本人が不利益を受けるということも考えられるところでございますので,A案又はB案のように,法定代理権消滅の効力発生時期に制限を設けることについては反対する御意見もあるかと思われます。   第9の7は,法人の代表者等について,民事訴訟法第37条と同様の規律とすることを提案するものでございます。   次に,第10の「任意代理人及び補佐人」について説明いたします。   第10の1は,法律事務に精通していない当事者の利益保護の観点から,法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか,弁護士でなければ原則として任意代理人となることはできず,弁護士以外の者は裁判所の許可を受けて初めて任意代理人となることができるものとすることを提案しております。   (注)では,抗告審は通常,紛争を有している事件が多いので,当事者の利益保護の観点からは,弁護士のみが任意代理人となることができるようにすべきとも考えられるので,抗告審においては弁護士以外は任意代理人になることはできないものとすることを提案しております。   第10の2は,任意代理権の証明について,現行非訟事件手続法第7条第1項及び第2項の規律を維持しつつ,第3項については廃止するものとすることを提案しております。なお,この点につきましては,最終的には最高裁判所規則により定めるべきものではないかとも考えられます。   第10の3は,任意代理権の範囲について,民事訴訟法第55条と同様の規律を設けることを提案しております。なお,現行非訟事件手続法第6条第1項ただし書では,当事者本人の出頭が命じられた場合には,代理人が当事者にかわって出頭することはできないとされておりますが,ここでは記載はしておりませんけれども,そのような規律を変更する趣旨ではなく,当然のことなのかなと思いましたので書いていないということでございます。   第10の4は,手続の円滑迅速な進行を図る観点から,任意代理人が数人あるときは,そのそれぞれが当事者を代理するものとすることを提案しております。   第10の5は,任意代理権は,原則として,民法等が規定する消滅事由により消滅しますが,手続の迅速円滑な進行を図る観点から,民事訴訟法第58条と同様,当事者の死亡等により任意代理権は消滅しないものとすることを提案しております。   第10の6は,任意代理権消滅の効力発生時期について提案するものでございます。任意代理権の消滅事由としては,任意代理人の死亡・破産,代理人が後見開始の審判を受けたこと,解任・辞任,本人の破産等が考えられるところでありますが,こういった事情が発生しても,裁判所又は相手方が知らないということもございます。また,辞任・解任については,辞任・解任の時期を後から偽装するということも考えられるところでございます。   そこで,A案は,任意代理権の消滅は,裁判所に通知しなければ効力を生じないものとすることを提案しており,B案は,相手方がない事件では,相手方がいなくて相手方を保護する必要はございませんので,実体法上の証明事由の発生により直ちに法定代理権の消滅は効力を生じるものとしつつ,相手方がある事件では,任意代理人が代理権を有しているとの相手方の信頼を保護する必要もあるので,任意代理権消滅は,本人又は代理人から相手方に通知しなければ効力を生じないということを提案しております。なお,この点については,場合によっては消滅事由ごとに通知しなければいけないということにすることも考えられなくはないのではないかと思います。   第10の7は,任意代理権を欠く者が行為をした場合であっても,本人等が追認することができるものとすることを提案しております。   第10の8は,当事者又は任意代理人は,裁判所の許可を得て,補佐人とともに出頭することができるものとすることを提案しております。なお,弁論主義がとられていない非訟事件手続においては,当事者又は訴訟代理人が補佐人の陳述を取消し又は更正する制度を設ける必要はないのではないかと考えておりますので,記載はございません。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,順次御審議をお願いしたいと存じます。   まず,第9の「当事者能力等」の1の「当事者能力」に関してはいかがでしょうか。本文②の法人でない社団又は財団に関しては,先ほどの説明の例のようなことが考えられるという視点から,当事者能力を認めることはここに掲げられておりますが,いかがでしょうか。   格別の御意見がないということは,ここに掲げられている方向での検討を進めることで差し支えがないと承ってよろしいでしょうか。もしそうであれば,先に進みたいと思います。   それでは,2の「選定当事者」に関してはいかがでしょうか。説明がございましたような類型の事件を想定すると,民事訴訟の場合と同様の選定当事者の制度を設ける必要があるのではないかという考え方に立っての記載がございますが,この点はいかがでしょう。 ○菅野委員 行政訴訟の裁判官を大分長く経験しておりますが,選定当事者というものは,実際に裁判の現場でぶつかることがほとんどないのです。いろいろな本でも,余り活用されていないというのが訴訟について書いてあります。私は,非常に数少ないのですが,経験はあるのですけれども,そのときは若干病理的現象のようなものがございまして,それを考えるときに,全然理屈の問題ではないのですが,民訴に確かにあるけれどもそれほど活用されていない,あるいはいい効果が出ていないということがあります。したがって,非訟の方に総則として入れておく意味があるのだろうか。あるいは,もし本当に入れるのだとしたら,それによって例えば手続が逆に重たくなったりとか,あるいはいろいろな手続問題が生じないように何か工夫しなければいけないのではなかろうか,そのような不安感を少し持った次第です。 ○伊藤部会長 ただいまの菅野委員の御発言に関して,御意見ございますか。必ずしも実際上の合理的な必要が多いという判断もできないし,仮に必要があるとしても何らかの工夫をすることを検討しなければいけないという趣旨の御指摘だったかと思いますが,他の委員・幹事の方,いかがでしょう。 ○三木委員 余り強い意見ではないのですが,選定当事者を非訟手続に入れるかどうかという問題は研究会のときも話がありました。もちろん研究者も,これが民事訴訟法の世界でも余り使われていないということはもちろん重々承知しておりますし,制度的に見てもこれが集合代表訴訟として望ましい制度なのかについては,個人的にも種々疑問があるところですが,結論から言うと,整合性として民事訴訟に入れて非訟に入れない理由がないというか,これを便利に有意義に使ってくれる当事者がいれば,それは結構なことだというような意味で入れるべきではないかと考えております。   それで,ここから先はややここの場で言う必要はないのかもしれませんけれども,個人的には,将来,民事訴訟法の方で選定当事者制度を含めたこういう集合的な訴訟制度をどうあるかという見直しの時期がもしかしたらあるかもしれませんので,そういうことがもしあるとすれば,民事訴訟法と非訟事件手続法を一緒に改正するようなこともあり得ないわけではない。そういうときのために,落としておるとこちらの方も手をつけられなくなるということもありますので,今言った後者の方はやや迂遠な議論かもしれませんが,結論としては入れておいてもまずいことはない。むしろ,先ほどみたいに,だれか上手な使い方を発見していただいて使ってくれることもあり得るというような趣旨で,入れておいたらいいのではないかと思います。 ○杉井委員 私の個人的な経験なのですが,もちろんこれは訴訟ですけれども,息子さんが予防接種禍で障害を負って,その両親が行政相手に訴訟を起こしたという事案がありました。私は市の代理人で被告の立場だったのですけれども,原告は全く代理人をつけずに本人訴訟なのです。もちろん,訴訟を起こしたときにお父さんとお母さんの名前で提起しているのですが,実際上はお母さんの方は全く出廷してこない。そして最終段階を迎えたのです。そしてまた,その段階でお母さんの陳述書が出たので,お母さんの本人尋問をやろうと裁判所も考えたのですが,結局,その段階で医者のとても出廷に耐えられないという診断書を出してきて出廷しない。そういう段階で,実は裁判所の方も困ってしまって,最終的に結局いろいろな検討をした結果,裁判所の方からお父さんの方をお母さんの選定当事者という形で最終的に判決が出たという経験があるのです。そういうのを見ますと,確かにほとんど例がないのかもしれませんが,実際には,むしろ裁判所にとってはそういう事態のときに,意外と利用価値のある制度なのかなと思います。そういうことを考えたときに,訴訟で認めて非訟では認めないというのもやはりどうなのかなと思いますので,三木委員と同じように,私もこれは入れるべきではないかと思います。 ○朝倉幹事 今の御指摘ですが,地方裁判所のときには弁護士以外の方が代理人になれないものですから,弁護士をつけないという方であると,御指摘のような問題は確かに起きるのだと思います。ただ,非訟の場合には,この後で出てまいります,任意代理人について,弁護士以外の方についても裁判所の許可で代理人にすることができるという規定を事務局から提案されていますが,もしそのとおりだとすれば,今,委員のおっしゃったような問題は,わざわざ選定当事者という煩雑な手続を使わなくても,これで許可してしまえば一発でいってしまい,特に非訟に規定を設ける必要性というのはないのかなという気もしないではありません。 ○金子幹事 非訟における選定当事者の議論は,民訴の既判力の主観的な範囲の問題と同一には論じられないところがあるので,どちらかというと,置く理由は,手続を円滑に,あるいは簡易に進められる,例えば一人を相手に通知をすればいいとか,そちらに導入の重点があるものと理解しております。そういう意味でも,およそかえって煩雑になるとか,あるいは弊害があるというようなことであれば,むしろという議論になろうかと思うのですが,置いておいて無駄がないとか,あるいは少なくともある局面では利用する,そういう面からの利用価値があるということであれば,置く意義があるのではないかということですので,むしろ何か弊害が予想されるのであれば,御指摘いただければ,また検討させていただきたいと思いますが。 ○菅野委員 先ほど事柄の性質上やや抽象的にお話ししたのですけれども,弊害というほどではないのかもしれないのですが,やはり,例えば複数の人あるいは多数の人がいる場合に,その人たちの利害をまとめたり代表するというのは非常に難しいことです。弁護士の訴訟代理人であっても難しいことはあるかもしれない。そういうときに,それを普通の個人の資格で選定当事者としてやっていくということについては,要するにそれほど今まで使われてこなかったということには,そういうおのずからの難しさというものが一つあったからだろうと思うのです。それが代理ではない当事者であって,でもほかの当事者の利害も代表する,そのために,そういうのを実際にやってくると,本当に必要性があってやる場合ということもあるのかもしれませんけれども,やはり本来ちょっと問題のある方とか,本当に利害を代弁しているのかなと思われるような方等が本人訴訟の方で選定当事者を使って出てくるという事例に,たまに会うことがあります。しかも,そのたまに選定当事者によるときというのが,そういうものに当たることが結構多いことがありまして,気になります。ただ,それはある意味で一種の病理現象ですから,それがゆえに絶対こういう規定が駄目かと言われたら,なかなか説得力が弱いという気も自分でもいたします。ただ,現場としてはそういう感想を持っているというところは一つあるのです。この点は,以前にたまたま部内でも議論してみたのですけれども,やはり,うまくいった例はあるかというような話をしましても,部内でなかなか出てきませんでした。   あと,先ほど何か工夫をしなければという話もしましたけれども,①から⑥までを見ますと,例えば④に選定取消しとか変更ということがございますが,こういうのも場合によっては裁判所側で振り回されることがあるかなと思います。例えば選定当事者は,送達するのに便利ではないかとかという考えもありますが,かえって逆になるかもしれない。そうすると,例えば④の取消し,変更については,何らかの制限をつけるか,あるいは一定の時間的限界を設けるかとか,何かした方がよいかなと考えるところです。また,手続によっては,もし総則でこの選定当事者を設けるとすれば,逆に各則でこれを抜くべきものというのもきっとあるのではないかなという,そんなことも考えます。 ○二本松委員 選定当事者の問題は,家事審判法のところではまた家事審判法においてこういう選定当事者制度が認められるかという検討がされるのかと思うのですが,この前に行われました非訟事件・家事審判手続研究会では,家事事件の中では遺産分割事件に選定当事者という制度が利用できるのか,特にここで言う共同の利益ということで使えるのかという議論になったように聞いているのですが,これは今度は質問なのですが,その点については事務当局はどういうお考えでおられるのでしょうか。 ○脇村関係官 現時点でそれについて事務当局として何か考えがあるという段階ではございません。そこは恐らく家事審判で議論する際に検討するのだろうなと事務当局としては考えていました。それはなぜかといいますと,個別的に適用される場面の話ではないかと思いましたので,そこについて,この段階で仮にそこの適否が,そこの考えによって必ず選定当事者制度を置くのか置かないのかという結論が変わるものではないのではないかと思いましたので,現時点でこれだという考えは持っていないということでございます。 ○二本松委員 そうしますと,家事事件で当事者が多数で選定当事者の制度が利用できたら便利かなという,送達等の関係ですぐ思い付くのは遺産分割事件ぐらいで,そのほかの事件でそもそもこういう選定当事者制度を使って何か簡易あるいは当事者の利便ということを考えて処理するような事件があるのかなと考えているわけです。遺産分割事件については,事案によってということになりますと,相続人の間でグループごとに全員平等で,そのグループの中では全員平等という約束ができている場合は選定当事者制度が利用できて,そうでないときは共同の利益に当たらないということで使えないという,そういう制度もおかしいのではないかなと思いますが,またこれは改めてそのところで検討させてもらいたいと思います。 ○中東幹事 私も二本松委員と同じ問題意識に立つものなのですが,家事事件は全然分からないのですが,やはり選定当事者という制度が合うカテゴリーの事件とそうでない事件があるのではないかと思っています。その点では,(補足説明)の1で書かれていらっしゃいますように,同一事件につき複数の当事者がある場合と,同一の事件ではないが各事件の目的,原因が共通している場合が例として挙げられており,後者の例として,同一原因を理由とする株式買取価格決定申立事件が挙げられているのですが,実際に,もし選定当事者を使われた場合に,事件としてどのような流れになって,どのような形でこの決定の効力が皆に及んでいくのかというイメージがわかないのです。あるいは,これは裁判の運用上余りよろしくないことも生じ得るのかなとも思いまして,その点もう少し具体的にイメージがわく形で,こういう感じになりますという御説明をお願いしたいと思います。本来やはり制度たるもの必要性があってこう使われるということが明示されるべきものだとも思いますし,その点ではこの価格決定申立ての場合どういう感じになっていくのか,教えていただけますでしょうか。 ○脇村関係官 株式買取価格決定申立事件に関しては,雑誌等で載っている事件の結論部分しか見る機会はないのですけれども,そういった例を見ますと,何人かでグループを形成して,そのグループごとに弁護士がついて申立てをするという類型があると思います。ですので,そういう各グループを構成した上で,一人の弁護士を選任しているようなケースについては,使われるかどうかは別ですけれども,そういったのを一人の株主にした上で手続をしていくということは考えられるのかなと思っていましたが,それがいいのかどうかについては是非皆さんの御意見をいただきたいと思っております。 ○中東幹事 価格決定事件については,基本的にはやはり代理人を選任するという形で処理ができていると思いますし,適宜グループ分けもしないといけないというのは菅野委員のおっしゃったとおりだと思います。その意味で,選定当事者という制度に乗せるメリット,あるいは乗せてしまったがために柔軟な運用ができないとか,そういうことはないのかということをお教えいただければと思うのですが。 ○菅野委員 株式買取価格決定の場合でもグループごとに弁護士がつかれて,まとめてされる。それはそれで非常にやりやすいのです。ところが,選定当事者制度はそれと異なるのです。しかも,その一番大きな差というのは,言ってみれば,裁判所側ではそれを拒否するということはできないということです。例えば任意代理でいけば,これは恐らく許可にかからしめられると思うのです。そうすると,適切なグループ分けなのか,この方が本当に全員の利害を代表しているのかも何も分からないのです。そこのところが,弁護士代理というところを一つ介在していれば,その弁護士の方で当然利害の一致した人を引き連れてきて訴訟活動をされているのだろうという考えで安心して進めていくことができるのです。仮に今の株式の買取価格決定の場合に,選定当事者で来た場合には,こちらはやはりいろいろ不安を持つ,あるいはどのように手続を進めるか考えます。それほど安心して軽い,簡易な手続として選定当事者制度を利用できるかというと,ちょっとやはり疑問ではないかという気がしております。 ○金子幹事 お聞きしていると,選定当事者制度そのものの問題のように聞こえてきます。つまり,選定された方がきちんと利益を代表しているかという点は,その後の選定された者が受けた裁判の効力が及ぶかどうかを考える中で考えるという仕組みに多分なっているのだと思うのです。お伺いしているのは,非訟プロパーの問題ではないような気がしますので,そうすると,民訴にあるものを非訟に置かないという,そちらの議論なのかという気がしてくるのですが。民訴においてうまく利用できていないというか,利用する件数が少ないということをもって非訟に置かないということがうまく説明できるかどうかという,そちらの問題のような気がしますが,いかがでしょう。 ○菅野委員 堂々めぐりかもしれませんが,結局,こちらの問題意識というのは,言ってみれば民訴において十分活用され効果が上がっていないものをなぜ広げる必要があるのだろうかという問題意識になってしまうのです。ただし,先ほども申しましたけれども,確かにそれはそういう病理的なものもある。でも,先ほど御紹介のありましたように,うまく使われていることもあるのだからやはり残しておくべきだということになれば,そちらも理論的に絶対おかしいと言っているわけではありませんので,絶対反対ということを言っているわけではないのです。 ○伊藤部会長 なかなか決め手のない問題ではありますが,一つは,選定当事者制度そのものに対する肯定的か消極的な評価かという発想の違いがあるように思います。これは別に訴訟,非訟に限ったことではないと思いますが。皆さんの御意見を伺っていますと,あえて訴訟,非訟で若干違う点があるとすれば,やはり訴訟物を基準にして考える訴訟の場合の共同の利益というものと,非訟の場合には必ずしもそのように分けられないのではないかという問題もあるように思って,そのあたりが非訟の場合には判断が難しくなる要素かなという印象はございます。しかし,いろいろな角度からの議論がございましたので,本日の議論を踏まえて更に内容を整理するということでよろしいですね。   それでは,次に行きまして,3の「非訟能力及び法定代理」についてですが,民訴と並びにするという,基本的な考え方はそうですが,何か御意見,御質問等ございますか。 ○道垣内委員 現行の非訟の解釈がよく分からないままに発言して大変恐縮なのですけれども,現在,例えば①ですが,①と同じように考えられているのだろうと思うのですけれども,そのときには民法第13条第1項第4号における訴訟行為に非訟行為を含むという解釈をされるのでしょうか。それとも,このような条文を置くときには,民法の改正が必要であるという前提なのでしょうか。 ○脇村関係官 説明不足で大変申し訳ございませんでした。現行民法第13条第1項第4号の解釈といたしましては,大審院の判断がございまして,非訟行為は含まないという判断が示されております。ですので,ここの御議論で,保佐人については民訴並びにするという結論になった場合には,民法第13条第1項第4号の訴訟行為を,非訟行為を含むという解釈の前提で立法してしまうのか,あるいは分かりにくいので非訟行為も書き入れるのか,そういった手当てをすることについて検討していくものと考えていたところでございます。分かりやすさの観点から言えば,入れた方がいいのかなという気もする反面,解釈でもいいのかなという気もしていますが,現時点で当局としての考えは決まっておりません。 ○道垣内委員 分かりました。   もう1点よろしいでしょうか。③,④における「授権」というのは何なのですか。「同意」とは違う概念なのですか。 ○伊藤部会長 ③,④の「同意その他の授権」あるいは「特別の授権」の意味ですね。これは一般的な概念ですよね。 ○道垣内委員 と申しますのは,後見とか保佐,補助の制度について,「同意」という言葉以外には民法上は用いられていないわけなのですが,ここであえてもう一つの概念を入れるということの意味がよく分からなくて,かつ,④になりますと,「特別の授権」となって,「同意」というのは入らないわけですね。そうすると,これは,一番分かりやすいのは後見人という法定代理人ですが,後見人というのはA,Bのような内容についての権利はそもそも持っていなくて,同意だけでは足りなくて特別の授権が必要であると読むようになりそうなのですが,私は,それは民法の解釈としてはおかしい解釈であって,全部があって,ただ,民法第13条第1項第4号に当たるようなものについては後見監督人の同意が必要であると。権限としては持っているのだけれども,その権限行使に当たって同意が必要であるというのが民法上の仕組みなのではないかという気がするので,これは民訴の並びでありますから仕方がありませんと言われれば引っ込めますけれども,民訴がおかしいのではないかと。 ○伊藤部会長 では,その点は一般的な概念のことですから,確認していただいた上で,必要があれば次のときに説明してもらうようにしましょう。   ほかにいかがでしょうか。   もしよろしいようでしたら先に進みまして,4の「非訟能力等を欠く場合の措置等」ですが,ここはいかがでしょう。   よろしければ,先に進みたいと思います。5の「特別代理人」で,先ほど説明がございましたように,(補足説明)のところで,「職権により特別代理人を選任することができるものとしている」点についてですが,何か御意見ございますか。   特に御意見がなければ,先に進みたいと思います。6の「法定代理権消滅の効力発生時期」というところで,ここは先ほどの説明をお聞きになってもお分かりいただけますように,A案,B案ないしは更に別の案も考えられるということで,御意見をいただいた上で今後の進行を考えたいと思いますが,御発言をお願いしたいと思います。 ○菅野委員 裁判所の特に民事系の方から見ますと,法定代理権の消滅というのは,言ってみれば教えていただかないとまずは分からない。そうしないと,いろいろと空振りになることもある。そういうことを考えますと,やはり裁判所に通知しなければ,非訟事件手続上その効力を生じないというA案に非常に魅力を感じます。B案の場合も,この場合に,では裁判所の方にはどうなるのだろうか。届出義務等が別途つくのだろうか。B案で絶対駄目という,そういう意識でもないのですけれども,このB案の文言に書かれていることだけで終わってしまうとどうなるのだろうか,あるいは相手方のない事件の場合にどうなるのだろう,そういう点で非常に疑問を感じるところでございます。 ○伊藤部会長 今の菅野委員からの御指摘について,B案の考え方は,言わばこれを前提にしたときにどういう取扱いになるのか,少し補足していただけますか。 ○脇村関係官 B案につきましては,基本的に民訴並びでしかないのですけれども,民事訴訟におきましても,民事訴訟規則第17条におきまして,裁判所の方に届け出るという手当てがなされており,非訟においても,ここにあるような手当ては,相手方がある事件,ない事件両方についてすると考えていたところでございます。これはちょっと菅野委員からの御質問とは関係ないのかもしれませんけれども,A案,B案あるいはここについて考える際に当局として考えていましたのは,法定代理権の消滅を最初に念頭に置いていたというよりは,後に出てくる任意代理権の消滅の辞任・解任について何の届出もせずにやっていいのかというのが出発点でございました。そこで,検討する以上は民訴並びで法定代理権もどうかなと思っていたところでございます。ただ,先ほど言いましたように,A案を採って存続させてしまうと本人が困ってしまうというのもありますので,何も置かないで,民事訴訟規則のような形で手当てすることも一つの考えかなと思っていたところでございます。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。今,脇村関係官から,言わば第3案といいますか,A案でもB案でもないという考え方もあり得るという説明がございましたが,それも含めて皆さんの御意見を伺いたいと思います。 ○石田関係官 確認させていただきたいのですけれども,法定代理権消滅の効力発生時期という案に関しましては,資料27ぺージで法人の代表者等へ準用するというのがございますので,この7について特に異論がない場合には,法人の代表者等についてもこの規定が適用になるという理解でよろしいのでしょうか。 ○脇村関係官 はい,さようでございます。 ○高田(裕)委員 私も今の点が実質的には一番重要かと思いますが,C案ですと,法定代理権がなくなった場合には直ちに代理権が消滅するという前提をとることになると思います。法人の代表者の代表権が消滅した後に当該代表者が行った非訟行為はすべて法人に効力が帰属しないことにするというのがC案だろうという理解でございますが,この理解でよろしいわけでございますか。 ○脇村関係官 御指摘のとおり,取締役会でやめさせられた人に関しては代理権がなくなってしまう。もちろん,別に定まっていないときに緊急的に商法,会社法で手当てされている間はできるのかもしれませんけれども,委員のおっしゃっているとおりの結論になると思っております。ただ,それを認めることになると,辞任・解任,その辺どうなのだろうなというのが正直当局としては気になっているところでございます。 ○畑幹事 先ほど,A案あるいはB案では本人が困ることがあるのではないかというお話があったかと思うのですが,26ぺージの(参考)のところに書いてある,この通知を状況として要求できない場合は別論であるということは,A案とかB案を採った場合にも妥当するということを確認したいのですが。 ○脇村関係官 ここにつきましては,一応,A案,B案は文言どおりとっていただきたいという趣旨なのですけれども,民訴の解釈は,実際上不都合が生じてきているので,そのように解釈したということもありましたので,そういった解釈がとられていることも踏まえて,どうかということをお聞きしたいと思います。A案,B案は,案としては文言どおりとっていただければと思います。 ○畑幹事 しかし,やはり状況としておよそ通知を求めることができない場合についての解釈だと思うので,A案やB案をとった場合でも,これはやはりほぼ必然的にとらざるを得ないのではないでしょうか。 ○道垣内委員 (参考)の2行目に書いてある「本人」というのはだれのことなのですか。 ○脇村関係官 これにつきましては,例えば後見人が代理していたケースにおける被後見人とか,親権者がやっているときの未成年者とか,そういった「本人」を想定してます。 ○道垣内委員 そうしたときに,どうして「本人からの通知を要求することは無理なので」とつながるのかが実はよく分かりません。法定代理人が死亡したときや後見開始の審判を受けた場合というのは,法定代理人がなのですか。法定代理人が後見開始の審判を受けた場合に,被後見人が通知をするのは無理なのは,被後見人というのはしょせん十分な事理弁識能力がない人だからという理由なわけですか。 ○金子幹事 はい,そうです。 ○道垣内委員 そうすると,別に法定代理人が死亡したときに限らず,解任その他で成年後見人の法定代理権が終了したとき一般に言えることであって,およそ本人が制限行為能力者である場合においては適用されないということになるのではないでしょうか。 ○高田(裕)委員 誤解かもしれませんが,本来は法定代理人が通知することができるが,通知をすべき法定代理人がいないから本人に頼らざるを得ない。しかし,本人ができないという状況を想定していると理解しておりましたが。 ○道垣内委員 そうすると,例えば成年後見人が解任されるというのは,例えば職務をきちんとしないとか,あるいは横領があるとか,そういう理由で解任されて,その解任された本人に「私,解任されちゃいました」と言うということを期待するということなのでしょうか。それは私は多少理解しにくいところがあるのですが。 ○脇村関係官 道垣内委員の御指摘というのは,法定代理人がついている以上は,本人がもう通知とかもできないので法定代理人がついていると。だから,その法定代理人がいなくなったときに通知しないという解釈をとるのであれば,およそそういうことばかりではないかという御趣旨なのですか。 ○道垣内委員 例えば,制限行為能力を原因とする法定代理人というときに,高田裕成委員のお話では,(参考)のところの「本人」というのを,どちらかといえば法定代理人と読んでいらっしゃる感じの言葉ですよね。つまり,その人自体が死亡したり後見開始を受けたときには,その人から言うことは不可能ではないかと読むということなのでしょうけれども,それはそれで分かるのですが,では,成年被後見人に一定の帰責性を認めることができるのかというと,それはできないのであって,(参考)のところは何を意味しているのかというのが,事務当局の回答と高田裕成委員の前提とが若干違うのではないかという気がするのですが。 ○金子幹事 (参考)は今の民事訴訟法の一般的な理解だと思って記載したのですが,これに限られないのではないかという御指摘は,あるいはそうかもしれませんが,例えば会社代表者が辞任した場合は,辞任しましたのでと届けることを要求することは何らおかしいことではないですよね。 ○道垣内委員 まず,この原則があって,それが会社などに準用されるときに,準用された先のことを理由にしてこのことを決めるのはおかしいと思います。 ○金子幹事 いや,成年後見人が解任された場合であっても,それは成年後見人が届け出るべきだというのが民事訴訟法の解釈だと思います。法律上はそれは届け出るという趣旨だと思います。 ○道垣内委員 分かりました。それなら,その一つの判断としてはよく分かるのですが,そうすると,(参考)における2行目の「本人」というのは元法定代理人のことですか。 ○金子幹事 これは被後見人です。後見人ができないので,では本人からできるかというと,本人からすることは無理なのでという,ちょっと言葉を補わなければいけないのかもしれませんが,そういう趣旨です。 ○道垣内委員 両方からできないという趣旨ですか。 ○金子幹事 そうです。第一義的にはもちろん法定代理人の方がすべきなのですが,法定代理人に通知を期待できないような死亡とか,法定代理人自身が後見開始を受けたような場合は,では本人にできるかというと,それは無理なのでという趣旨で書いてあります。 ○道垣内委員 10文字ぐらいちょっと補った方がいいかもしれません。 ○金子幹事 ですから,先ほどの高田裕成委員と事務当局の理解は一致しているのだと思います。 ○道垣内委員 両方できないということですね。元法定代理人からできるのならば,その人がしないということの不利益は本人に帰属すると。いいのかどうなのかというのは疑問がかなりありますが,それは民訴並びであるということですね。分かりました。 ○高田(裕)委員 それを前提に畑幹事と同じことを繰り返しますが,民事訴訟法上通知が期待されている場合においても,非訟手続では通知は要らないという解釈をあえてとるだけの理由があるかという点がC案に対する疑問になるのではないかと思います。あと,A案かB案かは通知の相手方の問題ですので,これは相手方のある事件をくくり出すことの是非とつながってくるのではないかという印象を持っております。 ○伊藤部会長 仮に相手方のある事件という類型を設けたときのあれとしては,やはりB案ということですか。 ○高田(裕)委員 確認になりますが,B案は,相手方のない事件は不要という原案ですね。 ○金子幹事 そうです。ただ,相手方がない事件については,A案とのハイブリッドは考えられるところです。ただ,分かりやすいように両極を一応置いてみましたが,御議論いただければ,その中間は十分あり得るところです。 ○伊藤部会長 先ほど菅野委員からA案についての御発言がございましたが,相手方のある事件という概念をそもそも立てるかどうかということは別にして,B案ないしB案のような考え方,相手方のある事件というものを想定した場合にこういう規律を設けることに関して,これを積極的に支持するというような御発言はございますか。 ○杉井委員 やはり相手方のある事件という類型をつくるとすれば,それは,通知はまず第一に相手方に通知するというのが原則ではないかと私は思うのです。もちろん民訴並びで規則か何かで,その旨をまた裁判所に届け出なければいけないという,そういうフォローは必要だとは思いますけれども,原則はやはり相手方への通知ということになるのではないかと思います。 ○増田幹事 相手方のない事件の話なのですけれども,相手方のない事件というのは,公益的な要素が強くて,裁判所の後見的役割が望まれる事件であろうかと思うのですけれども,そういう場合にA案というのはいかがなものか。裁判所の便宜というのは非常によく分かるのです。消滅しても分かるわけがないではないかと言われるのは非常によく分かるのですけれども,その場合に,法定代理権の消滅は通知しなければ駄目だということは本人の保護に欠けるのではないかという気がするのです。むしろ相手方のない事件については,本人の保護の要請が一般的に高いのではないかと考えております。ですから,C案かなと思っているのですが。 ○伊藤部会長 当然に消滅するということですね。 ○増田幹事 はい。 ○脇村関係官 一応ここの問題につきましては,恐らく職権探知と当事者の協力義務といいますか,そういったバランスをどうとるかという問題も一つあるのかなと思っております。増田幹事がおっしゃるように,私もC案も魅力を感じつつ,ただ,やはりA案を捨て難いというのも,一つとしては,申立人本人が利益を受けない事件の方が非訟事件というのは多いのではないか。つまり第三者が利益を受けるようなケースについて,届出をしていないその人を犠牲にするのはいいと思うのですけれども,届出をしていない人ではなく,その人以外の第三者を害することがあっていいのかなというのも何かひっかかっているところでございまして,公益性,職権探知というだけで必ずしも答えは出ないのかなという気もしているのですけれども。 ○伊藤部会長 この点について結論の一致を見ることは,なかなか容易ではないと思いますので,A案,B案ないしC案についてそれぞれの長短をもう一度整理してもらって,更に議論を続けましょう。それでは,そういうことにさせていただきます。  7の「法人の代表者等への準用」については,先ほど関連する議論もございましたが,これ自体についてはよろしゅうございますか。  それでは,第10「任意代理人及び補佐人」の1の「任意代理人の資格」で,内容は先ほど説明があったとおりでございますが,これについて何か御質問,御意見ございますか。 ○藤井委員 弁護士でなければ任意代理人になれないとされているが,特に訴訟事件であれば納得できるのですけれども,通常は特段の法律判断を必要としない非訟事件まで弁護士でなければならないという制限を必要とするのかどうかを指摘したいと思います。企業の立場からすると,例えば企業の法務部の担当者がグループ会社のお手伝いをするというようなことはよくある話ですので,必ずしもこのような制限を必要とするものなのかどうかということには少し疑問があります。 ○脇村関係官 その点につきましては,そういった事例では,裁判所が許可することになるのではないかと思っていたところです。ただ,やはり非訟事件といっても中身的には訴訟とほとんど同じような複雑な事件もある状況において,全く縛りをかけなくていいのかなというのが正直なところでございます。もちろん会社の法務部の方が会社について詳しいというのは重々承知しておりますが,民事訴訟,民事執行のある場面では,許可を受けてやっていらっしゃるケースがあるように,それは許可で足りると思っていたのが正直なところでございます。 ○藤井委員 申請をすれば裁判所は許可するだろうということですが,それはやってみないと分からないことですし,この場の議論がどこまで裁判所に浸透するのかよく分からないところですので,そこについては楽観的に期待してよいかどうかと思いますので,そうであるとすれば何らかの形で明らかにする必要があると思います。 ○秋武委員 藤井委員のお気持ちは分かりますけれども,裁判所としては,これは是非やっていただきたいと思っております。確かに弁護士の中にもとんでもない人がないわけではないけれども,やはり一応資格を持っているわけですから,特に家事事件ですといろいろありますので,これはやはりこのままの案に賛成いたします。 ○伊藤部会長 藤井委員の御指摘もごもっともで,ただ,結局,事件の類型とその代理人になる方の属性のようなものですよね。それを一般的にどう考えるかということになるとなかなか難しいということだと思いますが,御指摘は十分検討させていただきたいと思います。   2の「任意代理権の証明」についてはいかがでしょうか。―特に御発言がなければ,こういう形で検討を進めさせていただきます。   それから,3の「任意代理権の範囲」についてはいかがでしょうか。(補足説明)の2のところで若干関連の指摘がございますが。 ○山本幹事 ①について質問なのですが,「強制執行及び保全処分に関する非訟行為」となっているのですが,この非訟行為という概念が私はよくとらえ切れていないのかもしませんけれども,これは,民事執行法上の強制執行を申し立てるような行為もここで言うところの非訟行為に含まれるという理解でよろしいのでしょうか。 ○脇村関係官 山本幹事の御指摘を踏まえてもう少し詰めさせていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。概念の整理については更に検討を事務当局でしてもらうようにいたします。   その他の点に関して何か御発言ございますか。   よろしければ,その先へ進みたいと思います。4の「個別代理」,それから5の「任意代理権の不消滅」,このあたりはいかがでしょうか。―特別の御発言がなければ,こういう形で検討を進めさせていただきたいと思います。  それから,6の「任意代理権消滅の効力発生時期」でございますが,これは先ほど法定代理に関して議論があったところと関係をいたしますが,この点に関してはいかがでしょう。 ○菅野委員 先ほど話したことと関連しますが,法定代理の場合には,先ほどたくさん御指摘がありましたように,またいろいろな考慮というもの,あるいは本人の保護,あるいは本人の保護だけでいいのかとか,いろいろなことが出てくると思うのですが,この任意代理の場合は,正に自分が代理人を選んだということですし,しかも,本人においても代理人においても,それを本来通知することができるはずであると。一方で裁判所の方は分からないという,先ほど申し上げたことがストレートに当てはまる類型だと思いますので,こちらの方はA案に非常になじむような気がいたしております。 ○伊藤部会長 それに対して,相手方のある事件という類型についてはB案のような考え方もあり得るのではないかというのが事務当局からの問題提起でございますが,いかがでしょう。 ○高田(裕)委員 念のためですが,先ほどの議論と同じことが成り立ち得るわけで,相手方のある事件についてB案,ない事件についてA案という選択肢も残り得るということと,民訴と異なる規律をするだけの理由があるかどうかということについて,なお御検討いただければと存じます。 ○伊藤部会長 高田裕成委員からの御指摘に関しては更に検討するということにさせていただきたいと思います。   そうすると,この点に関しては,法定代理の場合と違って,特にB案の考え方でいくべきだというような御意見はございませんか。 ○山本幹事 高田裕成委員がそういう御趣旨だったのではないかと。私は,これも基本的に,相手方がある場合にはB案で,ない場合はA案でよろしいのかなと思っております。 ○伊藤部会長 そういう意味でのC案ですね。 ○山本幹事 はい,そうです。 ○伊藤部会長 分かりました。そうすると,相手方のある事件についてB案,ない事件についてはA案という中間案の御意見があったという認識で整理させていただきます。 ○中東幹事 先ほどの「法人の代表者等への準用」との関係なのですが,今の実質的な議論をお聞きしていると,任意代理権不消滅の場合に法人の場合の代表者等の場合も近いような感じがしています。そうすると今の民訴を批判するのかと言われてしまいそうですが,そういう感触を持っているということだけ述べさせてください。 ○道垣内委員 具体的に内容について何か異論があるというわけではないのですけれども,今の中東幹事の話にも関係するのですが,前半で使われている「法定代理」という文言は,民法上定まる法定代理権の範囲内において訴訟についてはどういうことをするのかという話なのに対して,後半の「任意代理」という文言は,いわゆる民法で言う任意代理の話と違って,訴訟代理というものをここに置き替えようとした概念であって,私は性格が多少違うのではないかと思うのです。これを民法の通常の任意代理における任意代理であると考えると,会社の取締役は法定代理なのかというと,それは任意代理であると。したがって,任意代理の規定の方の準用の方が素直であるという話になりがちなような気がするのですけれども,「任意代理」という言葉を本当は使わないで,何か新しい概念を使った方がかえって分かりやすいのではないかという気がするという,感想的な話なのですけれども。今まで「任意代理」と言われてきたのですか。そうですか。それなら結構です。 ○伊藤部会長 この局面だけの話ではないのですけれども。 ○三木委員 確認だけすると,訴訟の世界では「訴訟代理」と言って「任意代理」と言わないのですけれども,訴訟ではないので「訴訟代理」と言えないから,「任意代理」と言っているという話ですよね。 ○脇村関係官 はい。表現振りにつきましては,「非訟代理」とかいろいろ考えてみたのですけれども,皆さんの御意見を踏まえてよりよい表現を考えたいと思います。 ○伊藤部会長 ただいま三木委員からも御発言がありましたが,脇村関係官の発言のような経緯でとりあえずこういう表現を使っているということで御理解いただきたいと思います。   それでは,A案,B案ないしC案については,先ほどのようなことで,A案の支持の御意見もございましたし,B案の内容を取り込んだ意味でのC案というような御意見もありましたので,それに沿って整理をさせていただきます。   それから,7の「任意代理権を欠く場合の措置等」,それから8の「補佐人」,このあたりはいかがでしょうか。何か御意見ございますか。 ○髙田(昌)委員 8の「補佐人」のところで,民事訴訟法第60条第3項に相当する規定を落としているのですけれども,そこの理由付けをもう一度御説明いただければと思います。 ○脇村関係官 少なくとも民事訴訟法の場合ですと,陳述,主張があって初めて認定ができるという意味で,その主張を取り消す,取り消さないというのは,非常に重要な意味を持つと理解しております。ただ,非訟事件の場合にはそういったことはございませんで,主張がなくても認定して結構ですし,あっても無視できるという意味では,訴訟と非訟で同じように考える必要はないのかなと。あと,そういう陳述があったということを資料として認定できるかどうかについては,陳述が取り消されても民事訴訟においても弁論の全趣旨としてそれを認定に使えるということでございますし,恐らく非訟でもそれはそのままストレートに認定に使ってもいい。その点を考慮すると,弁論主義が妥当していない非訟事件ではこの規定を置くほど特段の理由がないのではないかなと思うのですけれども,やはりあった方がよろしいでしょうか。 ○三木委員 今の御説明自体は分かるのですけれども,職権探知主義等が働く手続であっても,主張という概念自体はあるわけですね。ただ,それが,弁論主義が働かないので弁論主義の拘束力が働かないというだけなので,主張を取り消せる,あるいは取り消せないという話は,必ずしも弁論主義がとられていないから要らないと直結はしないように思うのです。 ○脇村関係官 事実上,陳述を取り消すことがあることを否定するつもりは全然ないのですけれども,法律に書くということは,何か法律的な効果があるので書くことになると思うのですけれども,その規定として仮に書くというときには,それはどういう効果を目指して書くということになるのでしょうか。 ○伊藤部会長 実際上そういうことがあり得るということはもちろんのことですよね。 ○三木委員 そうすると,人事訴訟とかでもこれは要らないということですか。 ○鈴木委員 今ごろ言うのもなんですが,民事訴訟法第60条第3項の読み方なのですが,この規定がないと,陳述は当事者の主張とはみなされないということになるのか,それとも,これは取消権があるということを書いた規定なのか。どちらに民事訴訟法の第60条第3項の意味があるのかがちょっと……。民訴ですので,今ごろ何を言うかと言われてしまいそうですけれども。論理的にはどちらになるのでしょうか。 ○高田(裕)委員 おっしゃるとおり,取り消すことができるかという点に着目して議論しておりましたが,規定自体は,今の鈴木委員の御発言で改めて認識しましたけれども,補佐人の地位について,補佐人が言わば代理権を有すると説明してもよいのかもしれませんが,一種の代理人としての地位を持つということをこの条文はあらわしているということではないかと考えるにいたりましたが。 ○伊藤部会長 どうもありがとうございました。その説明を前提にして,先ほど来の議論はどうでしょうか。確かに三木委員がおっしゃるように,弁論主義ということに設けないことの根拠を求めるのが説明として十分かということになると,御指摘のようなことも,なるほどという気もするのですけれども。 ○脇村関係官 そういたしますと,例えばですけれども,後で議論する取下げを審問期日でできると整理した場合に,補佐人が取り下げると言ったときには,仮に民事訴訟法第60条第3項のような規定があると,補佐人の取下げによって,本人等の取消しがなければ取下げになってしまうということになるのかなと,それであれば置く意味はあるのかなという気がしてきたのですけれども,そういう理解で正しいのでしょうか。 ○伊藤部会長 これは私だけかもしれませんが,十分問題の整理等,考える方向を整理し切れないところがありますから,御指摘を踏まえてもう一度検討していただきましょう。   そういうことで,当事者関係あるいは代理人関係のところはほかに何か御発言ございますか。   もし,とりあえずよろしければ,第11の「中断・受継」,それから第12の「中止」及び第13の「送達」についての説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 第11は「中断・受継」でございます。   第11の1は,中断について提案するものでございます。当事者が死亡した場合において,法令により手続を続行する資格のある者がいないときには,手続を続行する者がいませんので,当該手続は終了することになると思います。ただ,当事者が死亡した場合において,法令により手続を続行する資格のある者がいるときには,手続を続行する者がいますから,当該手続は終了することはないと考えられます。   具体的には,借地条件の変更とかで賃貸人が亡くなったケースについて,包括承継で息子さんなりが相続するようなときには,これは法令により手続を続行する資格がある者がいるということになるのだと思います。こういった場合には,そういう手続を続行する資格のある人が手続を実際上追行できないと。遠隔地にいるとか,死亡したのを知らないといった場合に手続の進行を止めて,つまり中断させなくていいのかという問題が生じると思われます。この点,民事訴訟では,手続保障の観点から,当該手続を当然中断ということにさせています。ただ,非訟事件は,訴訟事件に比べて比較的迅速処理の要請が強いと考えられますし,手続を仮に中断ということにしなくても,当該当事者に対して行うべき行為や,当事者が関与しないとできない行為については,結局法令により手続を続行する資格のある者に対して行うか,その人が関与しない限りはできなくなるので,中断しなくても,そういう意味では手続保障が一定の限度で保障されるのではないかと考えられます。こういったことから,非訟事件については中断制度を設ける必要はないのではないかということで提案させていただいているところでございます。   なお,裁判の告知後に当該当事者が死亡等の事由によって手続を続行することができない場合に,法令により手続を続行する資格のある者が,そういった裁判があったことに気づかず,知らぬ間に抗告期間が徒過してしまって抗告権を失ってしまうということも問題としては考えられますが,この点については民事訴訟法第97条のような追完制度を設けることによって対処していけばいいのではないかと考えているところでございます。  次に,第11の2は,受継について提案するものでございます。   (1)は,先ほど言いました,法令により手続を続行する資格のある者がいる場合の取扱いについて検討するものでございます。当事者等が死亡した場合において,法令により手続を続行する資格のある者がいるときには,何の手続もせずに,法令により手続を続行する資格のある者が当該手続を当然引き継ぐ,そのまま手続をやっていくということも考えられますけれども,だれが当該手続を引き継ぐのかを明確にし,手続の円滑な進行を図るために裁判所がその点を確認する手続を設けた方がいいのではないかと考えておりまして,そういったことから,ここでは,受継決定によって,法令により手続を続行する資格のある者が当該手続を受継するといったことではどうかということを提案しております。  (2)は,先ほどのようなケースではなくて,法令により手続を続行する資格のある者はいないけれども,別に申立権者がいる場合の取扱いについて検討するものでございます。具体的には,成年後見開始の申立て等を御本人の奥さんがしていたところ亡くなってしまいましたというときに,これは申立ての地位を引き継ぐ人は恐らくいないと思うのですけれども,その息子さんなり親族なりが自分たちも申立権があるのでやりましょうというようなことを想定しているところでございます。当事者が死亡した場合に,法令により手続を続行する資格のある者がいないときには,先ほど申し上げましたように,手続を追行する者がいないので終了することになり,別の申立権者が新たに申立てをするということになりますけれども,それまでやっていた審理結果を利用できれば,より迅速な処理につながるのではないかと思われます。そこで,ここでは,当事者が死亡したような場合に,法令により手続を続行する資格のある人はいないのだけれども,別に申立権者がいる場合には当該手続を引き継ぐことができることにしてはどうかということを提案しております。   (注)の1は,法令により手続を続行する資格のある者はいないが,別に申立権者がいる場合に,裁判所が,あなたやりなさいと言っていいのかどうかというところを検討しているものでございますが,この点につきましては,申立権者が本来自分の意思で申し立てするかどうか決めることができるということと矛盾すると思われますので,先ほどのようなケースで,お母さんが亡くなったケースに,息子さん,あなたが引き継ぎなさいというようなことは言えなくていいのではないかということを提案しているところでございます。   (注)の2は,当事者が死亡した後いつまでもできるということになってはその取扱いも非常に困難ではないかということもありますので,一定期間,期間制限を設けてはどうかということを提案しております。   第12の「中止」でございますが,本文①では,非訟事件では,ある権利関係の存否を前提に終局的な裁判をすることがありますけれども,そういった場合に,別の訴訟等でその権利関係の存否について終局裁判と違う判断がされますと,その訴訟の判断と矛盾する限度で非訟事件の終局裁判は効力を失うものと考えられているところでございます。そうしますと,非訟事件が係属中にその事件の終局裁判の前提となる権利関係について別に訴訟が係属しているときには,その訴訟の結果を待った上で非訟事件の終局裁判をすべき場合もあるのではないかと思われます。そこで,ここでは,非訟事件の終局裁判の前提となる権利関係について,訴訟その他の事件が係属しているときには,その事件が終了するまで非訟事件を中止することができるということではどうかということを提案しているところでございます。   本文②は,天災その他の事由によって裁判所が職務を行うことができないときには中止するしかないのかなと思いましたので,その旨提案しており,本文③では中止の効果について提案しているところでございます。   (注)は,民事訴訟法第131条では,当事者は不定期間の故障により訴訟手続を中止することができると規定しているのですけれども,非訟事件では,先ほど言いましたように,当事者が亡くなった場合でさえ手続を中断させていないので,させることになるかもしれませんので,そういったことを考慮すると同じ並びでいいのかなということで,御検討いただければということで掲げさせていただいているところでございます。   第13は「送達」でございまして,民事訴訟法のような規律でどうかということを提案させていただいているところでございます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,まず第11の「中断・受継」から参りたいと思います。   まず,1の「中断」で,「法令により手続を続行する資格のある者がいるときであっても,当該非訟事件手続は中断しないものとする。」,このあたりが議論をしていただきたいところかと思いますが,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 単純な質問なのですが,法令により手続を続行する資格がある者というのはどうやって定まるのですか。 ○脇村関係官 当事者,申立人とか相手方を基礎づけている地位が移転しているようなケースを念頭に書かせていただいているところでございます。そういった意味では,実体法上で決まるということかなと思います。 ○道垣内委員 したがって,相続人であれば当然に法令により手続を続行する資格があるということにはならないのだけれども,34ページの上から2行目,3行目に出てきているような,裁判上の代位の申請事件のような財産上の事件については引き継ぐけれども,しかしながら,36ページに出てきているような,成年後見開始の審判において配偶者が申し立てたのだけれども,それが死亡して,子がその配偶者を相続する場合には,これには当たらないという,かなり微妙な解釈を施して決まるのですか。それとも,比較的安定した解釈というのがある前提なのでしょうか。 ○脇村関係官 安定しているのではないかと思っていたのですけれども。 ○道垣内委員 それなら結構です。 ○脇村関係官 皆さんの御意見を踏まえて検討いたしますが,ただ,比較的民事訴訟の訴訟承継などとパラレルに考えれば,おのずと結論が出るのではないかと思っておりました。 ○伊藤部会長 よろしいですか,道垣内委員。 ○道垣内委員 参考条文として,民事訴訟法第124条とやっていまして,当事者の死亡のときは,相続人と書いてあるけれども,これは相続人は恐らく訴訟を続行すべき者に一般的に当たるという規定なのでしょうね。だけれども,民事訴訟法とパラレルに単純に考えるのではなくて,成年後見開始の申立てとかについてはこれに当たらないというわけなので,決まるのならば別段私は異論はないのですが。 ○伊藤部会長 もし今のところで何か民訴の先生方で補充していただければと思います。 ○畑幹事 民訴の方でも相続人が常に承継するという解釈では実はなくて,一身専属的な権利に関するものであれば訴訟は当然終了と観念されておりますので,民訴の方もおっしゃるような微妙な問題は実はあるという状態かと認識しております。 ○伊藤部会長 どうもありがとうございました。   ということを前提にして,続行する資格のある者がいるときであっても中断しないという考え方,これは後の受継と関係をいたしますけれども,いかがでしょうか。 ○増田幹事 およそ当事者となる適格を有していて,それを承継するという人がいるということが分かっていながら,その人の手続的な権利を奪ってまで迅速を優先すべきケースというのは,一般的に存在するのかというと,そうはないだろうと考えます。その適格者の陳述の機会だとか証拠提出の機会を奪った判断で結果的に適切な判断がなされるとは考えにくいと思われることから,中断は非訟手続の場合も認めるべきではないかと考えております。これもまた非訟事件手続法ができたころの訴訟と非訟の区別とは実際上違っていて,今は非訟手続でも当事者主義的な運営をすべき事案が増えているのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 中断しないということになると,受継がされる場合は実際上は問題ないとしても,そうでなければ,手続だけが進んでしまうということも可能性としては存在するということですね。 ○脇村関係官 今の点でございますが,例えば相手方がない甲類のような事件を念頭に置きますと,審判を受けるような,影響力を受ける者をほっておいてやっていいのかという問題だと思うのですけれども,最終的には告知をしないと,非訟事件は裁判,効力が発生しませんので,最後までほっておいてやるということは,中断しようがしまいができないのではないかと考えております。ここで中断を設けない方がいいのではないかということを提案させていただいているのは,3か月たたないと相続人が確定しませんし,その間,裁判所,中断するということは何もできないということでございますので,家事審判の例を出すと,いいのかどうか分かりませんけれども,家裁調査官の調査だって理屈を言えば止まるはずですし,それ以外の事実の調査もすべてできないと。本当にそこまでする必要があるのかなと。最終的にはそういう心証をとる場合には,後の規律によりますけれども,事実の探知の告知を必要だと考えれば,告知しないと心証をとれなくなるわけですし,終了しないとできないという規律にすれば終了できなくなりますので,そこで手当てはできているのかなと思ったのですけれども,どうでしょうか。 ○増田幹事 その点については,事実の調査についても,後で受継した人間が調査結果を自ら顕出する余地はあると思うのです。それから,先ほどおっしゃった追完の議論ですけれども,追完というのは民訴でいくと1週間しかありません。非常に短い期間でして,現実にそれを,後で追完があるからいいではないかという議論にはなかなかならないのではないかと思っています。そもそも,中断事由があると分かっていたら,裁判所は止めるのではないかなと思っているのですけれども。そうなると,問題は,むしろ中断を知らずに進んだ手続を後でどう評価するかという点かと思っています。あと,実定法上の根拠としては,破産法第46条,民事再生法第40条第3項,会社更生法第53条などを見ると,行政手続が中断するのですよね。行政手続ですら中断するのに非訟が中断しないというのはおかしいのではないかと思っています。 ○伊藤部会長 今のもともとの事務局の考え方と,それに対して増田幹事からの,言わば手続保障というのでしょうか,そういう観点を重視した御意見がございましたが,他の委員・幹事の方は,いかがでしょうか。 ○畑幹事 あるいは折衷的に,中断はするけれども,当該当事者が関与することを必要としないことはできるという規律も考えられるかなと思います。それから,追完で救済というのがどうかなというのは,私も増田幹事に同感であります。 ○栗林委員 基本的に増田幹事と同じ意見なのですけれども,先ほど脇村関係官から,最終的に告知をするので,その時点で分かるではないかという話だったのですが,告知後に例えば破産をした場合などは,一応即時抗告の期間は済んで確定するという理解でよろしいのでしょうか。 ○脇村関係官 そこが追完でどうかなと思ったのですけれども。一応当局としては,そこは原則確定だけれども追完できるということで救済はできるではないかと思っていたのですけれども,皆さんの御意見を伺えればなと思います。 ○栗林委員 いずれにせよ,1週間というのは現実の問題として本当に追完することはできるのかというのは感覚的にはあると思うのです。ですから,追完の方の条件をもう少しどうにかするとかいうことはあるかもしれません。 ○杉井委員 私も基本的に増田幹事の意見に賛成です。例えば,中断しても裁判の告知をしなければいけないので,その告知の手続があるから手続保障だというのは,ちょっとこれはいかがなものかと思います。告知というものは本当に最後の段階ですから,やはり告知に至るまでのプロセスで当事者の手続保障というのはなされなければいけないと思いますので,中断はしないというのはちょっと賛成しかねます。 ○青山委員 こういう手続ですから,手続保障が大事だという弁護士の委員の方の発言はよく分かりますけれども,それに対して非訟事件の迅速性ということで,3か月中断しておくわけにはいかないという,そこのことも分からないわけではないので,裁判所の方からどうお考えなのかという点についてもし御意見を聞かせていただければ,私としては大変有り難いと思います。 ○秋武委員 裁判所から言わせていただければ,これは原案のとおりでやりたいですね。それで,先ほど増田幹事がおっしゃったように,裁判所はそういう場合はとめるではないかというのだったら,とまらないのを原則にしておいて,必要なときにとめればいいし,そういうような運用をやるだろうと思います。当然手続保障をしなければいけないようなものについては。そうではなくて急いでやらなければいけないものについては,迅速に処理できないと,後で取り返しのつかないことになろうかと思っております。 ○菅野委員 非訟の場合,やはり訴訟と違いまして,当事者にとっても,あるいは当事者になる受継するはずの人にとっても,手続が進むことが必ず利益侵害とか何かされるとは限らないのですよね。むしろやってもらいたいということで申し立てたと。みんなやってもらいたいのだけれども,今最終的に相続についてはまだ別なことで問題がある,別な家のことで問題があるとか。そういういろいろなことが考えられまして,必ずしも裁判所が止める,何もしないということが当事者の保護になるのかどうか自体が非常に微妙なような気がいたします。ただ,この資料を読んだときには,そういう意味で,要するに抗告の追完の手当てがあると。そこで手当てされるのだからいいのではないかと考えていましたが,それについていろいろ御指摘があったことはそれなりに今考えているところです。 ○金子幹事 抗告期間の問題あるいは決定の告知の問題だけではなくて,今後,手続保障の在り方を考えていく中で改めて考えていただいた方がいいのかなと思いました。例えば,審問への立会いの規律を入れますと,これはそろわないと恐らくできないということにもなりますし,それから,終結概念を入れたときに終結できるかというと,これは終結を告知しなければ意味がないので,そういう場合は事実上終結できないというようなことも出てくると思います。その手続保障をどこまで入れていくかというようなところともかかわるような気がしますので,もう少し進んでから改めて検討するということでもいいのではないかと思いました。 ○山本幹事 私自身,まだ十分定見はありませんけれども,先ほど畑幹事の発言はなるほどと思いました。現在の民事訴訟法は,中断中でも判決の言渡しだけはできるわけですよね。それはやはり,判決の言渡しというのは特に当事者の関与が必要ない訴訟行為なのでできるということだと思うのですが,訴訟においては判決の言渡しぐらいしか考えられないのでこういうことになっているのかなと思うのですが,非訟だともう少しそこは広がる可能性はあり得て,仮に中断という規定を入れても,そこはもう少し柔軟になるという手当てはできるのかなと思いました。 ○増田幹事 非訟だと職権的に進めることができる手続が多くなるということですが,逆に多いゆえに危険なのではないかと思うのです。訴訟の場合は,少なくとも弁論に出てこなければ,要するに終結の前の弁論には出てこなければ駄目だろうと思うのですが,非訟の場合は全く関与しないまま終わらせることが可能なのです。それゆえにかえって危険かなという気がしております。要するに,当事者の関与しない手続は進めていいという意見に対してはそういうことです。 ○伊藤部会長 そういたしますと,非訟の特質を考えて,中断しないで非訟手続を進める余地を認めるべきだという御意見と,それに対して,手続保障の観点から中断という制度を設けて,受継されるまでは手続を進めることができないとするべきだという御意見と,それから,事項によってできる事項とできない事項とを区別するのが合理的ではないかと。大体御意見の分布としてはそのようなことかと思います。したがいまして,この事務当局の用意した考え方について,それが必ずしも皆さん全員から支持していただいているというわけではないので,更に検討を今日の御指摘を踏まえてさせていただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。   それでは,更に御指摘を踏まえた検討をしてもらいます。   次に,2の「受継」に関してです。関連する問題ではあるのですが,いかがでしょうか。これに関して,(1)の「法令により手続を続行する資格のある者がいる場合の取扱い」については,もちろん先ほどの中断制度の問題とは関係はいたしますけれども,受継そのものに関しては,ここに掲げてあるような考え方でよろしいでしょうか。 ○山本幹事 質問なのですが,任意代理人がいる場合はどういうことになるとお考えなのでしょうか。 ○脇村関係官 恐らく山本幹事の御質問は,民訴との対比での御質問だと思うのですけれども,これは受継という概念をどう整理するかにもよってくると思います。民訴並びで,中断を認めた上で受継制度を置くという意味であれば,任意代理人がいる場合には,受継がないのかなという気もしますけれども,事務当局の最初の案は,中断はしないけれども,この人が当事者ですよということを確認するものという意味で受継を整理をしておりましたので,その整理であれば,任意代理人がいようがいまいが受継をしてもいいのかなと考えていたところでございます。ただ,代理人がいる場合に,ではどこまでぎりぎり受継決定をするのかということに関しては,場合によっては,判決釈明とは言いませんけれども,裁判書で明らかにすれば足りるのかなという気もしますし,それがある場合には,その前にはっきりとさせておくことも考えられるという気もいたします。 ○山本幹事 もしそういうことであれば,受継という言葉はやめた方がいいのではないかという気がします。概念として,やはり受継というのは中断を解消するという意味合いを含んだ概念だと思いますので,違う言葉を使った方が混乱がないようと思います。 ○脇村関係官 その点につきましても,おっしゃるとおりでございまして,安直に借地非訟の概念をそのままここで流用したというところでございますので,表現振り等の概念整理につきましては,先ほどの中断の整理等も踏まえてなお検討したいと思います。 ○栗林委員 同じ点なのですけれども,例えばAさんが死亡して,それで甲,乙が相続したと。任意代理人がいた場合は,手続が進んで,それで審判書でAさんを当事者として審判を出すとか,Aさんの権利関係を確定するとかした場合に,後で分かったときというのは当然に相続人に変えるべきであって,受継するというのはその審判書の訂正みたいな意味合いで,手続上の受継とは違うのではないかとも思ったのです。それはどうなのでしょうか。 ○脇村関係官 民事訴訟におきましては,そういったケースは恐らく,中断しないのでそもそも受継がなくて,当然に当事者になるという整理で,気づかないまま判決した場合には表示の訂正で対応するのだと思うのですけれども,ただ,そこは,先ほど言いましたように,ここで言う受継の確認,受継の意味が少し民事訴訟とは違うケースもございますので,栗林委員のおっしゃっていたようなケースについてどうするかについては,概念整理も含めてもう一度検討したいと思います。 ○金子幹事 民訴の理解で,今のようなケースも,中断はしないけれども受継手続はしても構わないわけですよね。しなくてそのままというケースはあると思いますが。 ○増田幹事 その辺の概念なのですけれども,民訴の教科書を読むと,受継は中断した手続を再開させるわけだから,中断が前提になっているのですよね。ところが,実務家はみんな,先ほど言われたような,訴訟代理人がいて当事者が死んだ場合で,相続人からまた訴訟代理人が受任をした場合には中断がなくても受継の申立てをしているというのが実務慣例だと思います。この辺,多分裁判所の方も争いはないと思いますが。 ○山本幹事 民事訴訟法の概念だと,民事訴訟規則第52条に定められている中断事由の届出という概念になるのではないのですかね。中断しなければ受継というものはないと兼子先生などは書かれていたように記憶しておりますが。 ○金子幹事 相続で争いがあるような場合には,実務上は,裁判所が受継手続させることはあると思いますが。 ○高田(裕)委員 山本幹事と同じことになりますが,増田幹事もおっしゃったように,中断と受継はパラレルというのが民事訴訟法の前提だと思いますが,中断の前提として当事者変更,当然承継による当事者変更があるわけで,その当事者変更をどう手続に反映させるかという問題が別個残っているわけです。その手当てを民訴がしていないもので,現在使える受継手続を借用して当事者変更の手続をしていると私は理解しております。 ○伊藤部会長 それでは,受継という概念をここで言わば借用することの是非や表現の問題について,それから,それに関連する点に関しては更に検討をさせていただきたいと思いますが,基本的な考え方としては,ここに示しているようなことを前提にして更に検討を進めたいと思います。 ○増田幹事 もし,中断をしないという前提をとる場合には,法令により手続を続行する資格のある者がいる場合に,ここで言う受継をさせることを義務的にしていただけないだろうかと思っています。 ○伊藤部会長 では,その点は検討させていただきます。   それからもう一つ,(2)の「法令により手続を続行する資格のある者はいないが,別に申立権者がいる場合の取扱い」として,この場合に受継の申立てをすることができるという考え方を示しているわけですが,この点についてはいかがでしょうか。 ○畑幹事 ここでもやはり前提は,中断はしないが受継ということですか。 ○脇村関係官 ここはそもそも,原則亡くなった時点で手続終わりという前提でございますので,中断と言うかどうかは別にして,手続はとまるはずです。申立人が亡くなった以上,申立開始事件で申立人がいないまま手続を最後までできるというのはやはり問題があるのではないのかなと考えておりますので。 ○伊藤部会長 ですから,ここで言う受継もかなり特別な意味での受継なのですよね。言葉が適当かどうかは御意見があるかと思いますが。ということで,従来の言葉の使い方から,あるいは概念の整理から言うとかなり違っている側面がございますが,考え方としてはよろしいでしょうか。 ○畑幹事 実質はこういうことかなと思います。期間制限はやはり必要かなという気はいたします。ちなみに,概念の整理としては,前の方に出てきた参加を一定期間できるとする規律と非常に似ていますね。感想だけですが。 ○高田(裕)委員 同じことを申し上げることになりますし,改めて指摘するまでもないかもしれませんけれども,人事訴訟法第41条以下による受継と類似した状況だと思いますので,期間制限をやはり考えてしかるべきではないかなと思います。ただ,事件ごとに期間制限を異にするという選択肢があり得るわけでして,そうしたことも考える必要があるのかどうかということも併せて御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 ほかに御質問,御意見ございますか。   もしございませんようでしたら,期間制限の点の御指摘を踏まえて検討するということで,(注)の1の最後のあたりですが,「裁判所が,当該非訟事件の申立てをする資格のある者に手続を受継させる制度」,現在のものとしてここに引用がございますが,これは設けないものとするということでどうかという問題の提起がございますが,これについてはいかがでしょうか。その理由等はその上に書いてあるところですけれども。こういうことでよろしいですか。平たい言い方をすると,申立人というものの言わば主体性を尊重するということになるのでしょうか。裁判所の職権で受継させる制度というのはつくることに合理性がないのではないかという問題の提起ですが,こういう認識でよろしいでしょうか。 ○秋武委員 当然その場合,一定の期間を定めて催告,どうするのですかというような催告はできるということですよね。何もなしということではなくて。 ○脇村関係官 必ず催告というか,別の申立権者がいる場合,やりますかとかいうことを必ず言えということまでは必要ないと思うのです。というのは,これは別に申立てができるわけですので,そういった意味で催告を義務付けることは考えていませんが,裁判所の方で,せっかくだからやりませんかということはやっていただければと思います。 ○伊藤部会長 もちろん,そういうことを排除する趣旨ではないということですよね。ただ,制度として,受継をさせるという手続をつくることに関しては,消極の考え方が示されているわけですが。 ○小田幹事 確かにこれで受継させる制度というのは,実際どれぐらい件数があるかというところまでは把握していないのですが,これを設けるということは,職権で立件できることとかなり似たところがあると思います。もともとその事件が職権で立件できるという建前をとっていないのであれば,むしろそれは自然ではないかと思っております。むしろ先ほど議論があったように,そういったものであっても期間制限は必要だろうと思っております。 ○伊藤部会長 では,今の点は,事務局からの問題提起について大方の御賛同をいただいたものと受け取らせていただきます。   「中止」についてはいかがでしょうか。特に①に関してですが,こういう考え方でよろしいかどうか,あるいは実際上もこういう必要性があるという前提で議論をしていいのかどうか,このあたりはいかがでしょう。 ○菅野委員 調停や借地非訟について携わった経験から申し上げさせていただきたいのですが,非訟の中では,先ほどから繰り返されるように,かなり事件類型というかいろいろなカテゴリーがございます。その場合に,逆に,この規定振りで「手続を中止することができるものとする」という場合に,読んだときにやはり中止が原則かなと読み取られるおそれがあると思うのです。そうすると,例えば調停について訴訟があるときに中止が原則か。あるいは借地非訟は正にそういう規定が現在もあるわけですけれども,ではそれは実際に中止することが今原則となっているかというと,むしろ逆なのですね。調停の場合でも,そこで当事者がそれぞれ会い,あるいは専門家の意見なども聞きながら進めているときは,むしろそちらの方を優先すべきというような発想を裁判所では持っております。借地非訟につきましても,訴訟よりはむしろ借地非訟の方がいろいろな専門家の知見を得やすい。先ほど鑑定のことを御紹介いたしましたけれども,そういうものがある。一方でまた,これもちょっと病理現象かもしれませんけれども,非訟の方でやっていて不利になったなと思うときに,では一つ揺さ振りということで訴訟を提起するというのは極めて一般的な,かなりルーチンな訴訟活動の一つでございます。ではそれをどう見るか。これは本当に先決問題の方で,これは絶対無理だなと思うようなときには確かに中止するということはあるのですけれども,かなり例外的なのですね。借地非訟ですと,私自身も直接単独事件として担当したことも2年間あるのですけれども,その中で中止すべきかどうかが問題になったことは数十回あるわけですけれども,中止したことは実はたった2回しかございません。そういう状況なので,総則規定の中で一般的に非訟事件手続を中止することができると書くのは若干いかがかなという危惧を感じるところでございます。 ○青山委員 中止は非訟事件だけではなくて訴訟一般にもあることですよね。ほかに先決問題が係属しているとか,他の事件が係属しているとか,あるいは外国にあるとかいうような場合もございますので,その場合に,訴訟の場合に中止の場合には,では中止決定に対し即時抗告ができるかとかいう問題もありますので,そういうことも含めてもう少し先に検討を進めていただければと思います。今日ここでこの問題をすぐ議論するのは難しいのではないかという気がしますが。 ○小田幹事 余り理屈ということではなくて,実務の運用という観点からの懸念を述べたいと思います。   まず,少し共通しておりますのが,今,菅野委員からは,これが原則になるというのは,借地非訟との観点ではそれはどうだろうかということがございました。特に先決問題が問題になるというのは遺産分割事件でございます。遺言の有効性,相続人の範囲等について,もちろんその中で合意ができれば手続は進んでいくわけですが,できない場合が多くて訴訟になることは間々ございます。現在の実務でどういう場合が多いかということを申し上げますと,大体の場合は,そういうことであれば訴訟にまず専念して,こちらはひとまず取り下げてやってきたらどうかということが多いわけです。もちろん遺産分割の手続も残しておくという選択肢はあるのかもしれませんが,その背景にありますのが,往々にしてそういった訴訟が長くなり,一審で片付いてすぐ返ってくるということがなかなか望めないということが現状としてございます。また,遺産分割の場合には申立ての費用など,印紙が訴額に応じたものでもありませんので,そういった面での障害がそれほどないということや,また,どうしても時間がたってしまいますと,当初の記録がどれだけ使えるかという問題も出てまいります。そういったことから,事実上取下げを促して,その理解のもとに取り下げてもらって,その後訴訟で前提問題がきれいになってくれば再度申立てをしてもらうということが多くございます。そういうことからすると,この①のところで,これが原則ということだと,今申し上げたようなところと少し兼ね合いが難しいところがあろうと思っております。 ○金子幹事 こちらの①の案の趣旨ですが,前提問題について訴訟がかかったらとめるのを原則とすべきだとは考えていないのです。ただ,手続の明確性の観点から,前提問題の訴訟事件が他方で係属しましても,非訟事件について進めるという選択肢もありますし,事実上とめておくという選択肢もあります。裁判所にとっても,まずこれは訴訟でやりましょうということであれば,中止を宣言することによって明確になりますし,もちろん進めたい事件は進めていただいていいのですが,当事者からしても,進めてほしいという人と,訴訟を待ってほしいという人が出るかもしれません。そういう意味で,訴訟の帰趨を待ちましょうと裁判所が考えるのであれば,その意思を鮮明にした方が裁判所にとっても,この手続に関係している者にとっても明確で,宙ぶらりんな状況にならないので,いいのではないか。したがって,もし裁判所の方が,訴訟は訴訟ですけれども,非訟は非訟で進めますというお考えであれば,どんどん進めればよろしいのであって,そういう場合もとめてくださいというつもりで提示しているものではありません。 ○伊藤部会長 趣旨は,今,金子幹事から申し上げたとおりなのですが,しかしなおこういう規定を設けることによる言わば実際上の効果という,そういう見地からの御懸念かと思いますが,青山委員からの御指摘もございましたので,この点についても更に検討させていただきたいと思います。   それでは,今のことの関係ですが,(注)のところに,先ほど脇村関係官からの説明もございましたが,当事者が不定期間の故障により非訟事件の手続を続行することができないときは,裁判所は,その中止を命ずることができるものとすることについてはどう考えたらいいかという問題の投げ掛けがございましたが,この点は何か御意見ございますでしょうか。実際上こういう事態が起きるのか,あるいは起きた場合の取扱いとしてこういう趣旨の規定を設けることが合理的なのか,そのあたりはどうでしょう。 ○菅野委員 事前に考えたときには,このような規定ができたとしても特段の支障はないはずだなと考えておりました。 ○伊藤部会長 分かりました。そういう趣旨の御意見がございましたので,これに関してはそれを踏まえて更に検討するということでよろしいですか。―はい。   それでは,13の「送達」ですが,これは格別新しいことを考えているというよりは,民訴と同様の規律を設けるということを示しているわけですが,何か特に御意見ございますでしょうか。   それでは,ここは格別の御異論がないということで承らせていただきます。   そういたしますと,資料4について一応御審議を終えていただいたということでとどめさせていただきまして,資料5については次回にさせていただきたいと思います。   最後に,次回の日程の説明をお願いいたします。 ○金子幹事 次回の日程を確認させていただきます。次回は平成21年6月26日(金曜日)午後1時半からで,場所は法務省第1会議室になりますので,よろしくお願いします。   それから,予定ですが,資料5からということになりまして,審問の在り方等恐らくいろいろ議論になるところが盛りだくさんではありますが,資料6を次回までにはお届けする予定ですので,できれば,資料6の方にも入らせていただくという決意で事務当局の方は臨みたいと思っていますので,よろしくお願いします。 ○伊藤部会長 事務当局がそういう決意でございますので,よろしく審議の御協力をお願いいたします。   それでは,ほかに格別の御発言がございませんようでしたら,これで閉会にさせていただきます。どうも長時間,審議に参加いただきましてありがとうございました。 -了-