法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会 第24回会議 議事録 第1 日 時  平成21年6月25日(木)  自 午後1時30分                        至 午後4時33分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり)               議          事 ● それでは,ただ今から法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会の第24回会議を開催いたします。 ● 第22回会議におきまして,皆様にお諮りし,刑の一部の執行猶予制度について法整備に向けたより具体的な議論を行っていくに当たっては,刑の一部の執行猶予の取消事由に関する議論も必要であることから,事務当局にそのたたき台を作成してもらうことになりました。 本日,皆様のお手元に配布しております「刑の一部の執行猶予の取消事由等に関する資料」が,そのたたき台となる資料となります。   なお,この資料には,第1の「刑の一部の執行猶予の取消事由」のほかに,第2の「刑法第25条による刑の執行猶予の取消事由」,第3の「刑の一部の執行猶予の猶予期間の起算日」も含まれております。 第2及び第3の各事項につきましても,第1の「刑の一部の執行猶予の取消事由」に関連するものであり,また,当部会においてこれまでにも議論があった事項でありますことから,この資料の中に併せて掲げさせていただいたものであります。   そこで,本日は,この資料をたたき台として,刑の一部の執行猶予の取消事由等について御議論をいただくこととしたいと存じます。また,取消事由等のほかにも,別途議論すべき論点や御意見がございましたら,取消事由等の御議論に引き続き,御発言いただきたいと存じます。   本日は,このような進行を考えておりますが,いかがでしょうか。   特に御異論もございませんようですので,そのような進行でお願いしたいと存じます。   それでは,資料の第1の「刑の一部の執行猶予の取消事由」につきまして議論に入りたいと思います。   資料によりますと,第1の「刑の一部の執行猶予の取消事由」は,大きく分けて,1の「初入者に対する刑の一部の執行猶予の取消事由」 であるか,2の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予の取消事由」であるかという区別のほか,必要的取消事由であるか,裁量的取消事由であるかなどの区別があるようです。   そこで,まず,1の「初入者に対する刑の一部の執行猶予の取消事由」のうち,必要的取消事由である(1)に記載してある各事由について御議論いただき,次いで,裁量的取消事由である(2)に記載してある各事由と,これらのほかの刑の執行猶予の取消事由である(3)の事由を御議論いただくのが適当ではなかろうかと考えております。 その上で,2の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予の取消事由」につき,初入者の場合と異なる取扱いをする必要のあるものがあるかどうかという観点から御議論いただくのが適当ではなかろうかと考えております。   このような進め方を考えておりますが,皆様,よろしゅうございましょうか。   特段御異論もございませんようですので,そのように進めさせていただくことといたします。   それでは,最初に,資料の第1の1(1)に記載しております初入者に対する刑の一部の執行猶予の必要的取消事由について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ● それでは,資料の第1の1(1)の初入者に対する刑の一部の執行猶予の必要的取消事由から説明させていただきます。 この資料のほか,皆様の席上に,「対照表」と題する書面と,「参考図」と題する書面を配布いたしております。説明の際,これらの書面も用いたいと考えておりますので,適宜御参照願いたいと存じます。   また,以下,刑の一部の執行猶予のことを簡単に「一部猶予」と呼び,刑法第25条による刑全部の執行猶予のことを「全部猶予」とそれぞれ略称させていただきたいと考えております。   それでは,まず資料第1の1(1)アの取消事由について説明いたします。   対照表を併せて御覧いただきたいと存じますが,対照表の右側にありますとおり,現行の刑法第26条第1号は,執行猶予中に再犯を犯して禁錮以上の実刑に処せられる場合を全部猶予の必要的取消事由としております。 そして,資料第1の1(1)アは,この現行刑法の取消事由に相応するものとして,「刑の一部の執行猶予の言渡し後に更に罪を犯し,禁錮以上の刑に処せられたとき。」を一部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   ここで参考図を御覧ください。この参考図では,一番上の凡例欄にありますとおり,言い渡された懲役又は禁錮の刑を実線で,執行猶予の期間を破線でそれぞれ表しております。 そのようにして,一部猶予判決,あるいは全部猶予判決,更には刑期全部の実刑判決をそれぞれ凡例欄に記載しておりますように表しているところでございます。   そこで,参考図の1を御覧ください。実刑部分が黒い実線,執行が猶予された部分がグレーの実線,そして猶予の期間が黒の破線で示されている一部猶予が言い渡されたとお考えください。このような一部猶予が言い渡された後,例えば,刑事施設で刑務官に暴行を加えるなどして実刑部分の期間中に赤い丸で描いてあります再犯を犯したり,あるいは,猶予期間中に赤い丸で描いてありますとおり再犯を犯したりしたといたします。 このような場合には一部猶予を必要的に取り消すこととするのが,資料第1の1(1)アの取消事由でございます。   その趣旨を御説明いたします。一部猶予の制度は,これまで当部会において御議論いただいたとおり,施設内処遇と社会内処遇の連携により,対象者の再犯防止・改善更生を図ることを目的とする制度でございます。 より具体的に申しますと,刑の一部を実刑とし,残りの刑を執行猶予とすることにより,充実した施設内処遇を可能とする実刑の利点に加えまして,執行猶予の期間中単に刑を執行しないことにとどまらず,判決の感銘力を背景に,再犯に及んだような場合には執行を猶予された刑に服すべきとの心理的威嚇を担保として対象者の自発的更生を期し,その再犯を防止するという執行猶予の利点を組み合わせ得るようにするものでございます。   したがいまして,再犯に及ばないということは,一部猶予の目的であると同時に,その言渡しに内在する一部猶予の言渡しの条件であるということができます。   そういたしますと,一部猶予を言い渡されたにもかかわらず,その判決確定後からその処遇を終えるまでの間に,禁錮以上の刑に処せられるべき刑責の重い再犯に及んだ者については,当該一部執行猶予の判決によっては,一部猶予の目的を達することができなかったということが明らかになるとともに,その条件に違反したものと考えられます。   そこで,対照表でもお示ししておりますように,現行刑法と同様に,刑の一部猶予判決の確定後,猶予の期間を経過するまでの間に更に罪を犯し,禁錮以上の刑に処せられた場合を,一部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   なお,対照表で現行の刑法第26条第1号を御覧いただきますと,最後に「その刑について執行猶予の言渡しがないとき」と記載されておりますが,その左側の一部猶予の取消事由にはそのような文言はありません。   一部猶予の言渡し後の再犯について全部執行猶予を言い渡すためには,刑法第25条第1項第2号により一部猶予の刑の執行終了時から5年を経過する必要がございます。したがって,参考図の赤丸の再犯について全部猶予を言い渡すことができず,「執行猶予の言渡しがある」場合が考えられないことから,「その刑について執行猶予の言渡しがないとき」との文言を記載しなかったものでございます。   次に,資料第1の1(1)イの取消事由について説明させていただきます。   対照表を御覧いただきたいと存じますが,その右側,現行の刑法第26条第2号は,全部猶予判決の確定前に犯した他の罪について,全部猶予判決確定後に禁錮以上の実刑に処せられる場合を全部猶予の必要的取消事由としているものでございます。 そして,資料第1の1(1)イは,この現行刑法の取消事由に相応するものとして,「刑の一部の執行猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。」を一部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   お手元の参考図の2を御覧ください。例えば,黒丸で表現しておりますA罪を犯し,次にB罪を犯した後に,A罪だけが発覚して裁判を受け,黒とグレーで描かれた一部猶予の言渡しを受けて,その執行が始まったとお考えください。その後,この一部猶予の裁判が確定する前に犯した余罪であるB罪が発覚して,B罪の裁判があって,参考図で赤い実線で 描かれている全部実刑の判決,あるいは青く描かれております一部猶予の判決が確定したといたします。 このような場合には,二重線の矢印で描かれておりますように,前の一部猶予の言渡しを必要的に取り消すというのが,資料第1の1(1)イの取消事由の内容でございます。   このような一部猶予の確定裁判前の余罪について禁錮以上の刑が言い渡された場合を一部猶予の必要的取消事由とした趣旨でございますが,刑の一部の執行猶予が言い渡される場合には,対象者の再犯防止・改善更生のための必要性及び相当性を考慮して,施設内処遇及びこれに引き続く社会内処遇の各期間がそれぞれ量定されることになります。 しかし,確定裁判前の余罪について禁錮以上の刑が言い渡された場合には,一部猶予の確定裁判で量定された施設内処遇と社会内処遇に加えて,余罪についても実刑や一部猶予を言い渡せることになります。先ほどの参考図で申しますと,黒の実線等で示している一部猶予の執行のほかに,更に赤の刑期全部の実刑や,青の一部猶予の実刑部分の執行が付け加わることになります。 このような場合には,A罪についての一部猶予の確定裁判で量定された施設内処遇と社会内処遇は,裁判所が予定したとおりには実施することはできないということになり,一部猶予の確定裁判による各処遇の連携の具体的な枠組みが維持できなくなる,つまり,一部猶予の言渡しが相当であるとした確定裁判の判断の前提を欠くに至ったものと考えられます。   そこで,現行刑法の規定と同様に,一部猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられた場合を,一部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   なお,対照表で現行の刑法第26条第2号を御覧いただきますと,最後に「その刑について執行猶予の言渡しがないとき」と記載されておりますが,その左側の一部猶予の取消事由についてはそのような文言がありません。   確定裁判が全部猶予の場合には,その確定裁判の事件とその確定裁判前に犯された余罪とが仮に同時審判されていれば全体として全部猶予であった可能性があるので,同時審判がされていた場合との均衡を考慮し,判例上,確定裁判の全部猶予中でも,刑法第25条第1項により余罪について全部猶予を言い渡すことができるものとされております。しかし,確定裁判が一部猶予の場合,余罪が仮に同時審判されていたとしても,全体として全部猶予が言い渡されていたとは考えられませんので,余罪について全部猶予を言い渡すことはできないと考えられます。   そこで,資料第1の1(1)イの一部猶予の取消事由におきましては,「その刑について執行猶予の言渡しがないとき」との文言を記載しなかったものでございます。   続きまして,資料第1の1(1)ウの取消事由について御説明いたします。   対照表の右側を御覧いただきたいと存じますが,現行の刑法第26条第3号は,全部猶予判決の言渡し前に,他の罪について禁錮以上の実刑に処せられた前科が発覚した場合であって,当該全部猶予の言渡しが,発覚した実刑前科の執行終了の日又は執行の免除を得た日から5年以内である場合を全部猶予の必要的取消事由としております。 資料第1の1(1)ウは,この現行刑法の取消事由に相応するものとして,「刑の一部の執行猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ,その刑について刑法第25条の規定による執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。ただし,刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者が,同条第1項第2号に掲げる者であるときは,この限りでない。」を一部猶予の必要的取消事由としているものでございます。   現行の刑法では,対照表の下段に掲げております刑法第25条第1項第2号の規定により,実刑の前科を有する者につきましては,その実刑の執行を受け終わった日又はその執行の免除を得た日から5年が経過しなければ,全部猶予を言い渡すことはできないものとされております。 そのため,現行刑法は,全部猶予の言渡し時において刑の執行終了等の日から5年が経過していない実刑前科が発覚した場合,その全部猶予の言渡しは違法ということになるため,刑法第26条第3号により,その全部猶予を取り消すことにしております。   このような事情は,初入者に対する一部猶予制度においても同様と考えられます。すなわち,参考試案の第1の1に記載しておりますとおり,前に禁錮以上の実刑に処せられた者について一部猶予の言渡しをするためには,その刑の執行終了の日又は執行の免除を得た日から5年が経過している者であること,すなわち刑法第25条第1項第2号に掲げる者であることが必要であるとされております。 したがいまして,参考図の3のように,①の黒の実線等で示しております一部猶予判決の確定後,その判決時において刑の執行終了の日又は免除の日から5年を経過していない禁錮以上の実刑前科が発覚した場合には,①の一部猶予の言渡しは違法であったということになります。   そこで,刑法第26条第3号におけるのと同様に,そのような違法な一部猶予の言渡しを必要的に取り消すこととするものです。   なお,刑法第26条第3号については,対照表の同号の下の括弧内にありますとおり,同条柱書中に「次条第3号に該当するときは,この限りでない」と規定されています。「次条第3号」とは,刑法第26条の2第3号ですが,これは,対照表の2ページ目の右側にありますとおり,全部猶予の前科が発覚した場合を指すものですから,刑法第26条柱書の趣旨は,同条第3号から全部猶予の場合を除くということになります。 そこで,これと趣旨を同じくする資料第1の1(1)ウでは,端的に「刑法第25条の規定による執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき」と記載したものですが,この資料の趣旨を具体的に条文にする場合には,その表現については改めて検討したいと存じます。   また,資料の第1の2にありますとおり,薬物使用者に対する一部猶予の取消事由につきましては,基本的には初入者に対する一部猶予の取消事由と同様のものとすることとしつつ,今御説明申し上げました資料第1の1(1)ウの取消事由を除くこととしております。 参考試案第2の1のとおり,薬物使用者に対する一部猶予制度では,前刑の執行終了日等から5年が経過していない者についても,同制度による一部猶予を言い渡すことができるものとしております。したがって,今御説明したような実刑の前科が発覚したとしても,薬物使用者に対する一部猶予制度では,その一部猶予の言渡しは違法とはいえないので,一部猶予の取消事由とはしていないものです。 ● どうもありがとうございました。   それでは,事務当局からのただ今の御説明につきまして御質問等がございましたら,お願いいたします。 ● 取消事由におきまして,更に罪を犯し,あるいは刑を言い渡されるという,その時点が執行猶予の言渡しを基準にしたように書いてあるわけですけれども,これはむしろ執行猶予の判決が確定したことを意味するということのようで,現行刑法の解釈に合わせる御趣旨かと思いますが,そのように考えてよろしいのでしょうか。 ● この資料では,例えば,資料第1の1(1)のアで「言渡し後に」と記載し,同じくイでは「言渡し前に」と記載しておりますが,この「言渡し」とは,御指摘のとおり一部猶予の裁判の確定を意味しております。これは,現行刑法の第26条でもこの「言渡し」は裁判の確定という意味で解釈されており,それに倣う趣旨でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。   特にないようでございますが,議論の段階で疑問などが生じた場合に改めて御質問いただくということでよろしいでしょうか。   それでは,資料第1の1(1)の初入者に対する刑の一部の執行猶予の必要的取消事由について御議論いただきたいと存じます。 ● 今回の一部の執行猶予を検討するに際しては,現行法の全部執行猶予の制度が基本になっているわけですので,新しい工夫をしようとしてもおのずから限度があると思いますけれども,これまでにも執行猶予制度についてはある程度の改革意見がありました。例えば,取消事由について犯罪の性質を考慮しなくてもいいか,同じ種類の犯罪の再犯を取消事由として注目すべきではないかというような議論もありました。今回,一部の執行猶予について薬物事犯という罪種を考える制度も提示されております関係で問題提起をしておきたいと思いますが,同じ種類の犯罪の再犯を特に取消事由として重視するという問題はいかがでしょうか。 ● 再犯について,同種再犯の場合に限って必要的取消事由にするという御趣旨かと承りましたが,ただ,この執行猶予制度は,薬物の制度も含めまして,単に同じ犯罪の再犯をしないということにとどまらず,一般的に再犯をしないということを目的とし,先ほど申し上げたように,そういう再犯をしないことをその言渡しの本質的な条件にしているのではないかと理解しております。そういたしますと,同種ではないにせよ,こういう禁錮以上の刑に処せられるべき重い再犯を犯してしまった,しかも猶予の言渡し後にそういう再犯を犯してしまったということからいたしますと,現行執行猶予制度との整合性をも考慮いたしますと,やはり異種の再犯であったとしても取消しの対象にせざるを得ないのではないかという理解でこの資料を作らせていただいたところでございます。 ● ただ今,再犯は同種の犯罪に限定すべきかどうかという点についての問題提起がございましたが,この点について何か御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 取消事由を同種のものに限るというのはどうかという趣旨の御発言があったのですが,これはよくよく考えてみますと,同種のものだから駄目だというのと,同種のものゆえにもう少し取消事由を甘くしてもいいのではないかというのと両方あるので,かなり難しい部分があるのではないかなと考えています。特に参考試案第2の事案については,正に同種事犯のものを絶つという意味合いで,薬物から離脱させようということを考えているわけですから,その場合について同種のものに限ると言われてしまうと,どうなのかという感じがしないでもないという感じがしています。ちょっと思い付きなのですが。 ● どうもありがとうございました。   今の点につきまして何かございましたら,お願いいたします。 ● 今の御指摘は,資料第1の1の(1)に関するところだと思いますけれども,○○委員が言われましたように,同種の事犯が再犯として起こったときの考慮というのは,特に参考試案第2の制度で問題になるのではないかと私も思います。しかし,この参考試案で挙げられている第2の3などを見ますと,同種事犯だけではなく,他の余罪をも含めて被告人の収容の必要性を考慮するという観点に基づく案として提示されているのだと思われますので,必ずしも同種事案に限定する必要はないのではないかと思っているところです。 ● 参考図の2を見てみますと,A罪で一部執行猶予の判決が確定して,B罪について全部実刑の場合と一部執行猶予の場合ということで書かれているのですが,全部実刑の場合に取消しになるのは非常に分かりやすいのですけれども,B罪について一部猶予判決の場合というのは,場合によっては,A罪とB罪の両方が審議されていれば,両方合わせても一部執行猶予になった可能性があるような事案を全部排除することになるのではないでしょうか。 ● B罪について一部猶予判決の場合であっても,A罪についての一部猶予を必要的に取り消すとしている趣旨でございますが, 先ほども説明で申し上げましたように,少なくともA罪について一部猶予を言い渡した裁判所は,この図で申し上げますと黒の実線で示している実刑期間については施設内処遇を行い,更に黒い破線で示しております執行猶予期間については社会内処遇を行うという形で,施設内処遇と社会内処遇を連携させることがA罪を犯した対象者の再犯防止・改善更生のために必要であり,かつ相当であると認めたからこそ,このような一部猶予判決を言い渡したのだということが前提になっているものと思います。その際に,A罪についての判決後,B罪について青の実線と破線で示しているような一部執行猶予の判決が言い渡されたとすると,青の実線の施設内処遇の執行が付け加わることになります。そうすると,A罪の一部猶予を言い渡した裁判所としては,先ほど申し上げましたような黒の実線と黒の破線の組合せによる処遇の連携で改善更生を図っていこうと考えていた前提が崩れる,黒の実線と破線の組合せでやっていこうと思っていたところがそのまま執行はできないということになってこようかと思います。そうなると,A罪の一部猶予を言い渡した裁判所が前提としていたところが崩れるということになろうかと存じます。   それから,参考図の2を御覧いただきますと,仮にA罪についての一部猶予を取り消さないものといたしますと,A罪についての一部猶予の猶予期間中,参考図では黒の破線の部分となりますがこの猶予期間中にB罪について, 青の実線部分となりますが,その実刑部分の執行が行われるということになります。そういたしますと,A罪について社会内処遇をしようとしていた判決裁判所の意思がその点でも実現され得なくなる。要するに,猶予期間中に実刑が執行されると結局その社会内処遇を行えないということになりますので,そういう点でも前提を欠くことになるのではないかと考えまして,B罪について一部猶予判決を言い渡された場合におきましても,A罪の一部猶予を取り消すことにするのが相当ではないかと考えたものでございます。 ● 今の点に関連してですけれども,A罪とB罪が一緒に審理された場合,これは結局一部猶予判決が両方出ているわけですから,やはり社会内処遇が必要な事件ということが想定されていると思うのです。そのときに,今のお話ですと,B罪について一部猶予判決があったとしても,その実刑部分がA罪の一部猶予に被ってしまうので,その部分については執行せざるを得ないということですが,期間的に考えた場合に,B罪の青の実線の部分というのは必ずしもA罪の残りの刑期と一致しているとは限らないわけですよね。言い方が悪いのかもしれないのですが,B罪についての実刑部分の期間とA罪の実刑の残りの部分,要するに社会内で行えばいいという,参考図でいうとグレーの実線の長さと青の実線の長さが一致するとは限らないわけですよね。この参考図はたまたま一致しているような感じがするのですけれども。例えば,B罪についての青い部分がもっと短い場合に,その部分だけ実刑にして,その後は一部猶予にするという選択肢もあってもいいのではないか。言葉を変えて言うと,必要的取消しはいいとしても,必要的全部取消しではなく,必要的一部取消しというのがあってもいいのではないかという気がするのです。ちょっと分かりにくかったかもしれないのですが。 ● 必要的一部取消しというのは,どのような御趣旨になるのでしょうか。 ● 要するに,B罪について,一部猶予ですから当然一部実刑部分があるのですけれども,その一部実刑部分の長さとA罪の実刑部分以外の部分,参考図でいうとグレーの実線の部分の長さが一致するとは限らないわけですよね。例えば,現実にあるかどうかは別としまして,例えば,グレーの部分が2年あって,B罪についての実刑部分が1年だとしますと,1年分だけ取り消せばいい。要するに,これだとA罪については全部実刑になってしまうわけですよね。A罪についても一部猶予を部分的に残してもいいのではないかと。   つまり,A罪の一部猶予のうち,黒の実線の実刑部分ではなく,執行が猶予されているグレーの実線の部分の刑期が2年であった場合,一部猶予が取り消されるとこのグレーの実線の部分が全部実刑になるわけです。だけれども,B罪についての一部猶予の判決の場合の実刑部分が例えば3か月だとしますと,このグレーの実線の部分のうちの3か月だけ実刑にして,残りは一部猶予の形で残してもいいのではないかという趣旨です。ですから,全部猶予の場合に両方合わせても全部猶予というのが認められるのと同じように,一部猶予と一部猶予の場合でも両方合わせて全体として一部猶予というのがあってもいいのではないかと,大雑把に言えばそういう趣旨です。 ● ちょっとまだ趣旨をつかみかねているのですけれども,B罪の実刑部分とA罪で一部猶予を取り消して執行する部分が同じになるというのはどういう御趣旨なのでしょうか。 ● 同じになるではなくて,これだとA罪は100パーセント実刑ですよね。取り消されるわけですから。この考え方では,A罪については一部猶予だったのだけれども,猶予部分でなくなってしまうわけでしょう。それを必ずしも全部なくさなくてもいいのではないですかと。 ● そうすると,B罪の3か月分だけを執行するのですか。 ● それを執行するから,その部分については取り消せばいいのだけれども。 ● 取り消す部分を3か月にするということですか。 ● その3か月の残りの部分については猶予でいいのではないかと。もちろん事案によっていろいろなことがあり得るのでしょうけれども,そういう選択肢を残さなくていいのでしょうかということです。 ● 重なった部分が実刑部分として競合するかどうかですね。これはどういう扱いなのですか。 ● 一部猶予の更に一部取消しという新規な概念なので,どういう整理になるか分かりませんが,少なくとも実刑の執行については,アメリカではあるかもしれませんが,コンカレントな同時執行というのは日本では今やっておらず,二つ刑があれば順次に執行することになりますので,その分はまた別途進めさせるということになるのだろうと思います。ですから,いずれにしろ,A罪の猶予期間が残ることになりますと,その期間をどの時点から起算するかにもよりますが,B罪の実刑部分が進行する過程において,他方でA罪の一部猶予の猶予期間が進行する。刑務所に入っている間も執行猶予の猶予期間が進行するという,そこがいびつなのはやはり残るのではないかとは思いますけれども。 ● 思い付きな点があるのですけれども,今論じられている論点の場合は,B罪の判決を言い渡す裁判所は,A罪についてどういう判決がなされているかということを承知の上で,B罪の量刑をするという場面ですので,B罪の裁判所にとっては,自分が言い渡したことによってA罪の刑が結局どうなるのかというのが決まっていないと量刑のしようがないのではないかと思います。全部取り消されるということであれば,B罪の裁判所は実刑部分は短くして,猶予部分の刑を長くしたりするという量刑を考えることになるのでしょうけれども,そこは一部猶予の取消裁判所が自由に決めてしまうとなると,B罪の裁判所は量刑をどうしたらいいのか困ってしまうのではないかというのが,今お聞きして感じたところでございます。 ● 今おっしゃったことに近いことだと思うのですけれども,確かに同時に審判した場合との均衡という問題はあるのでしょうけれども,やはり限界があるのかなと思っています。今,御指摘になったようなケースは,結局A罪の判決を組み直しているような形になって,確定後に判決をやり直している色彩が非常に強くなり,それを一部猶予の取消審という格好でやることになって,そういう点でいささかいかがかなという感じがいたします。 ● 今おっしゃったのはそのとおりだと思います。そういう意味で言うと,A罪とB罪が一緒に審理された場合との均衡も考慮する必要はあるのだろうとは思いますが,確かに今まで言われたような形からしますと,ここで取消事由にしないというのもいろいろ問題があるのでしょうし,先ほど言われたように,むしろB罪について実刑部分をどの程度の長さにするのかということで考慮されるということになるのですと言われれば,それはそれでいいのかなという気がしつつも,問題提起として申し上げました。 ● 今の点に関しまして何かございましたら,お願いします。   ○○委員,御指摘の点については,納得されましたでしょうか。 ● そういうことが考慮されてB罪について判決が言い渡されることになるのであれば,それでよいのではないかと思います。むしろ,今後こういう制度が導入された場合にはそのような点を考慮していただきたいと思います。 ● 分かりました。ほかにいかがでしょうか。 ● 名称の問題なのですが,第1については,初入者に対する刑の一部執行猶予制度となっているのですが,参考図の2の例でいきますと,本来で言うと,初入者という観点でA罪の方で一部猶予の判決が出ていて,二つ目のB罪でもって再びそういうことが分かったという場合についてということになると,どちらが初入なのだろうか,後の方が初入で残ってしまって,最初の初入の方が取り消されてなくなるというのは,言葉としてどうなのかと。内容ではなくて,その辺の名称のところですね。一般的な言葉として条文にもそのように書くことになるのかどうか。 ● 当然,「初入者」というのは,この資料として便宜的に付けられているものでありまして,条文上,どのように書くかは,もしこのような形でということになれば,その段階で改めて法制的な観点も含めて検討させていただくことになるので,現段階で条文上どうなるかというのは確たることは申し上げられませんが,「初入者」という言葉を余り使うとはそれほどは思えないかなというところであります。 ● 先ほど提示された問題に関連して少し考えてみたいのですけれども,複数の事件が別々に審判される場合の量刑というのは,なかなか難しいものを含んでいるような気がするのです。併合罪で言えば,刑法第45条の後段の場合ですね。   前のA罪でこういう判決を受けているということがB罪の審判において有利な情状になることもあれば,逆に不利な情状になることもあり得ると思うのですが,弁護人としては有利であるとお考えのときにはそれを公判廷で主張されるわけでしょうか。つまり,B罪の被告人は,前にA罪でこういう確定判決を受けておりますということを弁護人の方からおっしゃいますか。というのは,検察官の方で仮にそういう主張をされるとすれば,弁護人は,A罪の判決は現在のB事件の審判とはかかわりがないはずだという主張をされるだろうと思うのですけれども,そういう線引きは有利なときは持ち出せるが不利なときは拒絶できるとなるのかどうか。これをもっと難しい形にしますと,例えば,裁判員対象事件であるとして,A罪について既に確定判決がある場合に,B罪についての審判の際にそのA罪の判決をどう扱うかですね。これは同時審判の場合には区分審理という処理の仕方が法律で決まりましたけれども,別々に審判される場合の処理は必ずしも十分できていないかもしれないと思うのですが,そういう場合に,事件によって前の裁判の話を持ち出すことが極めて不利な場合もあり得るとすれば,その辺がどうなるかという疑問を感じるのです。 ● 今,問題意識の提示がなされましたが,この点について,弁護人の立場から御意見がございましたらお願いします。 ● 現実にそういう場面に遭遇したことがないので,的確な例を述べることができるかどうか分からないのですが,今おっしゃったように,前の言渡しの内容そのものが必ずしも有利とは限らない,むしろマイナスの面があるということも十分想定されるので,それを出すかどうかと言われると,総合的な判断しかないだろうと思うのです。例えば,前の罪を出すのが,態様が似ているとか,このようなことはいつもやっているとかという形で見るのか,それとも,前に一部執行猶予という形で彼は社会内ではそれなりのことをやり得る人間なのだということをいう意味であればいいのですけれども,ただ判決としてそういうものがあったということが裁判所に全部出てくれば,それは有利にも不利にも判定されてしまいますので,ここはかなり難しい問題のように思います。 ● 出すかどうかという御趣旨は,多分弁護人としてどう主張されるかということなのだと思うのですが,飽くまで前科ですので,普通はそういう確定裁判がある事実というのは,B罪の審判の中でも当然出てくることにはなると思います。その上で,もちろん有利にも不利にも判断されるのでありましょうし,今,○○委員がおっしゃったように,1件ではなくて2件だった,あるいは3件だったという意味では不利な要素にもなり得るのでありましょうが,一方で,先ほども話が出ていましたが,同時審判,併合して審判された場合との均衡をある程度見ていくということになると,既にそのうちの一部について刑を受けているという部分はある意味有利にもなって,そういう意味で両方が適切に判断されていくということなのかなと思うのでありますが,弁護人としてはそのうちの有利な方に重点を置いて御主張されるということなのかなと思うのでありますが,いかがでしょうか。 ● それほど具体的な例で考えているわけではないので説得力がないかもしれないのですが,A罪とB罪を一緒に判決されているとすればということを考えて,B罪についてだけ見られるとわずかな実刑部分しかないよと見るのではなくて,それによってA罪の方で取り消されて,実際には刑務所にこれだけ長く入るのですよ,だからこの被告人に対する処罰としては,A罪,B罪両方として見た場合にこういう量刑が正しいのではないかというような形の主張をすることになるのだろうということを考えながら先ほどは申し上げたわけです。 ● ほかにいかがでしょうか。   もし,御意見がございませんようでしたら,この問題はこれぐらいにして,また後で問題が出たときに御指摘いただければと存じます。   それでは,資料第1の1(2)及び(3)に記載しております,初入者に対する刑の一部の執行猶予の裁量的取消事由と,他の刑の執行猶予の取消事由の議論に移りたいと存じます。   まず,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ● それでは,続きまして,資料第1の1(2)の初入者に対する刑の一部執行猶予の裁量的取消事由について御説明申し上げます。   まず,資料第1の1(2)のアの取消事由について説明いたします。   対照表の2ページ目の右側を御覧いただきたいと存じますが,現行の刑法第26条の2第1号は,再犯を犯して罰金刑に処せられたことを全部猶予の裁量的取消事由としております。 そこで,資料第1の1(2)アは,この取消事由に相応するものとして,「刑の一部の執行猶予の言渡し後に更に罪を犯し,罰金に処せられたとき。」を一部猶予の裁量的取消事由とするものでございます。   これを図で説明いたしますと,参考図の4のように,一部猶予言渡し後の実刑部分の期間中又は一部猶予の期間中に,赤丸でお示しした再犯を犯して罰金に処せられた場合に,一部猶予を裁量的に取り消すということになります。   先ほど,資料第1の1(1)アの再犯により禁錮以上の刑に処せられたことによる必要的取消事由において御説明いたしましたとおり,一部猶予の言渡しを受けた者が再犯に及んだ場合には,その一部猶予判決によっては再犯防止の目的を果たせなかったことが明らかになると同時に,一部猶予の言渡しの条件違反があるということができます。 他方で,罰金に処せられる場合には様々な事案があり得ますので,一律に一部猶予を取り消すべきものとすることは相当とはいえないものと考えられます。   そこで,刑法第26条の2第1号と同様に,一部猶予の言渡し後,その猶予期間を経過するまでの間に再犯を犯して罰金に処せられたことを一部猶予の裁量的取消事由とするものでございます。   続きまして,資料第1の1(2)イの取消事由について説明いたします。   対照表の2ページ目の右側を御覧ください。現行の刑法第26条の2第2号では,全部猶予の猶予期間中,保護観察に付された場合の遵守事項違反を全部猶予の裁量的取消事由としております。 資料第1の1(2)イは,この取消事由に相応するものとして,「参考試案第1の2により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。」を一部猶予の裁量的取消事由とするものでございます。   お手元の参考図では5にありますとおり,保護観察付きの一部猶予期間中に黄色い丸で描いております遵守事項違反があれば,これにより,裁量的に一部猶予が取り消され得るものになります。   ところで,対照表の2ページ目で左右を見比べていただけるとお分かりのとおり,刑法第26条の2第2号では,「遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いとき」が裁量的取消事由とされておりますが,資料第1の1(2)イの裁量的取消事由では「その情状が重いとき」との文言を付しておりません。   その趣旨でございますが,刑の一部の執行猶予を言い渡される者は,一般に,全部猶予あるいは保護観察付きの全部猶予が言い渡されたことがあるのに,なお再犯に及び,一部猶予を言い渡されるなど,全部猶予が言い渡された者よりも犯罪傾向が進んでいる場合が多いと考えられます。 取り分け,一部猶予の猶予の期間中保護観察に付された者につきましては,刑の執行を猶予する状態に置くだけでは足りず,遵守事項を遵守するよう指導監督することなどを中心とする保護観察による積極的な処遇が必要と認められたものということができます。   また,一部執行猶予制度は,施設内処遇だけでなく相応の期間の社会内処遇を実施することを可能とし,施設内処遇と社会内処遇をより有効に連携させることにより,対象者の再犯防止・改善更生を図ることを趣旨としておりますので,この制度では社会内処遇の実効性を高めることが一層重要になると考えられます。  このような一部猶予を言い渡された者の特性や,一部猶予制度の趣旨等を考慮いたしますと,判決により一部猶予の猶予期間中保護観察に付された者について,その社会内処遇の実効性を担保し再犯防止・改善更生を図るためには,全部猶予中の保護観察におけるよりも遵守事項の遵守を一層強く促す必要があるものと考えられます。   そこで,一部猶予の猶予期間中の保護観察の遵守事項違反につきましては,「その情状が重いとき」との文言を付加しないものとしたものでございます。   なお,刑の一部猶予が言い渡された場合において,その実刑期間中に仮釈放が許されたときは,一部猶予の猶予期間に先立ち,仮釈放中の保護観察が実施されることになります。そして,仮釈放中に遵守事項違反があった場合,これを社会内処遇によって再犯防止・改善更生を図ることが困難であると認められる一事由と考え,仮釈放のみならず,一部猶予も取り消すことができるようにするという案も考えられるところです。しかし,この資料では,仮釈放中の保護観察の遵守事項違反があった場合,それは仮釈放の取消事由とはなっても,一部猶予の取消事由にはならないものと考えております。  これは,一部猶予の猶予期間中の保護観察は裁判所が判決で命じたものであるのに対し,仮釈放は飽くまで行政機関の判断によるものであることや,仮釈放の取消しにより実刑期間中の残りの刑による施設内処遇が改めて実施されることになることなどを考慮すると,仮釈放中の遵守事項違反については,行政機関の判断により仮釈放を取り消して,再度施設内処遇を実施した上で,裁判所の定めた猶予期間に移行させるのが適当であり,一部猶予の取消事由にはならないものとすべきであると考えたことによるものでございます。   続いて,この資料では,刑法第26条の2第3号に相応する一部猶予の裁量的取消事由を設けていないことについて御説明いたします。   対照表の2ページ目の右側を御覧いただきたいと存じますが,現行の刑法第26条の2第3号は,全部猶予の前科が発覚した場合を,全部猶予の裁量的取消事由とする規定でございます。   これを図で御説明いたしますと,参考図の6のとおりとなります。このような場合,対照表の1ページ目の下段に記載しております刑法第25条第2項のいわゆる再度の執行猶予の要件,すなわち1年以下の懲役又は禁錮に処せられる場合で,情状に特に酌量すべきものがあるときで,かつ保護観察が付されていなければ,本来は執行猶予が認められないはずです。  刑法第26条の2第3号は,このように初度目の執行猶予の要件より再度の執行猶予の要件が加重されていることを踏まえ,初度目の全部猶予として言い渡されたものの,客観的には,全部猶予の前科があり,再度の執行猶予であることが後に発覚した場合には,その要件を満たさないような違法な全部猶予の言渡しを取り消す趣旨で設けられたものでございます。   これに対し,初入者に対する刑の一部猶予制度の対象者には,参考試案第1の1のとおり,刑法第25条による全部猶予中の者も含まれております。 そして,全部猶予の前科があらかじめ判明していたとしても,いわゆる再度の執行猶予のように要件が加重されることなく一部猶予の言渡しが可能でありますので,一部猶予の言渡し後に全部猶予の前科が発覚したからといって当該一部猶予の言渡しが違法となるものではございません。   そこで,一部猶予の言渡し前に全部猶予判決を受けていたことが発覚したことについては,一部猶予の取消事由とはしなかったものでございます。   続きまして,他の刑の執行猶予の取消事由である資料第1の1(3)について御説明いたします。   対照表の2ページ目に記載しておりますとおり,資料第1の1(3)は,現行の刑法第26条の3に相応するものです。参考図の7-1のように,例えば,最初に①の全部猶予の判決が言い渡されて,改めて②の再度の全部猶予判決が言い渡されたというような,いわゆる再度の全部猶予が言い渡された場合には,①の黒の破線で示している前の全部猶予と,②の赤の破線で示している後の全部猶予とが併存することとなります。この場合,②の全部猶予には必要的に保護観察が付されていますから,遵守事項違反により②の全部猶予のみが取り消されるという事態が生じ得ることとなります。そのような場合,①の執行猶予の猶予期間中に②の全部猶予の取消しによる実刑が執行されることになりますが,それでは本来社会内で改善更生に努めるべき①の執行猶予の意義が損なわれることとなりますので,刑法第26条の3は,そのような事態を解消するため,残った①の全部猶予を取り消すものとする規定でございます。   そして,このような事態は,刑の一部猶予においても生じ得ます。例えば,参考図の7-2を御覧いただきたいと存じますが,確定判決の前と後に犯された各罪が併合審理され,同時に判決が言い渡されるいわゆる主文二つの場合において,二つの一部猶予が言い渡されたときには,後に資料の第3の部分で改めて説明いたしますが,この参考図7-2の下の図にございますように,二つの一部猶予の各実刑部分,この参考図でいいますと黒の実線と赤の実線,これが順次執行され,次いで,二つの一部猶予の猶予期間,黒の破線と赤の破線になりますが,これが併存して進行することになります。 そして,その場合に,参考図の赤の破線の一部猶予にのみ保護観察が付されていたとすると,その保護観察の遵守事項違反により赤の破線の一部猶予だけが取り消されることが生じ得ます。   そこで,資料第1の1(3)は,一部猶予を取り消した場合に他の猶予中の刑があるときはそれも取り消すものとして,刑法第26条の3に相応する取消事由を設けるものとするものでございます。   以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の事務当局からの御説明に対して御質問がございましたら,お願いいたします。 ● 資料第1の1(2)の遵守事項違反による取消しのところなのですが,全部猶予の場合と違って,一部猶予の場合に「情状が重いとき」という部分を外した趣旨はよく分かったのですけれども,この文言を外すことで,実際にどのような違いが生じるのかという点をお聞きしたいと思います。その前提として,現在の運用においては,「情状が重いとき」というのはどういう内容のものとしてとらえられていて,この要件があることが取消しの判断においてどういう意味を持っているのでしょうか。現行法上も,遵守事項違反は裁量的取消事由ですので,前提としての保護観察所長の申出,それに基づく検察官の請求,さらには,最終的な裁判所の取消しの判断も裁量によることになるわけですが,その際に,「情状が重いとき」という要件が,いかなる意味を持っているのかということです。 ● 現行制度において,「情状が重いとき」とは,遵守事項違反そのものに関する情状,対象者の生活態度に関する情状,保護観察に関する情状などを考慮いたしまして,保護観察を継続して改善更生を図ることが期待できるかどうかなどの観点からその情状の軽重が判断されていると承知しております。   「情状が重いとき」を記載しないことによって,どういうことが考えられるかというところでございますが,具体例につきましては,個別のケースにおいて様々な事情があり得るところでございますので一概にはお答えしにくいところではございますが,例えば,所定の住居に居住せずに無断で転居するような場合,あるいは保護観察官,保護司との接触を忌避する場合など,現在の保護観察付全部猶予では,そのような事情のみでは必ずしもその情状が重いとまでは認められないことがあり得る事例についても,保護観察付一部猶予の場合には,本人のそれまでの態度など様々な事情を考慮した上で,社会内処遇を継続するのではなく,一部猶予を取り消すこともあり得るということになるのではないかと考えているところでございます。 ● 現状の保護観察付執行猶予者の取消しに当たって,どのような場合にその情状を重きときと考えて執行猶予取消しの申出をする場合があるかについて申し上げます。   ただ今の説明と重なるところもあると思いますけれども,遵守事項違反については,例えば,無断で転居したとか,近年はプログラムを受講するというのもありますので,プログラムを受講しなかったとかというのがあるわけですけれども,そういう遵守事項違反の事実に加えて,そういうことが繰り返されるとか,それに伴って保護観察そのものを実施することが困難になるということがよくございます。例えば,無断で転居した者が,いったん所在が発覚して,厳重な注意をする。それによって,住居がそこではっきりして落ち着いた生活が送れるようになるということが仮にあればそれでよろしいわけですけれども,また同じことを繰り返すというようなことがあって,そうなると保護観察を引き続き行っていくことが困難になるということが現実問題として多くあります。プログラムを受講するということについても同じであって,本来はあらかじめ届け出たりしなければいけないのですけれども,無断で休んだけれども,あのときはこういう事情であったということで,その後はきちんと受けるということであれば,保護観察そのものは今後も引き続き実施できる余地もあると考えることができると思います。   実務上は,遵守事項違反の事実が繰り返されるとか,遵守事項違反の事実に加えて保護観察の実施が事実上困難な状況が引き続きあるような場合に,情状が重いと考えて執行猶予の取消申出をすることが多いと思います。 ● 言葉の問題で教えていただきたいのですが,場面は違うのですけれども,更生保護法第67条の少年の関係で,保護観察処分少年が遵守事項を遵守しないというときについては「その程度が重いと認めるとき」となっているのですけれども,「その情状が重いとき」と「その程度が重いと認めるとき」というのは同じ意味なのか,あるいは違う意味なのか,そこら辺はいかがなのでしょうか。「程度が重い」という言葉になっていますよね。 ● 少年の場合の施設送致申請の「その程度が重いとき」というのは,遵守事項違反行為の情状が重いというような趣旨で,もともとこれは少年法改正に伴って入ったもので,そういう趣旨であったと承知しております。こちらのいわゆる4号観察の方の「その情状が重いとき」というのは,実務上は必ずしもそういう違反行為の情状のみならず,先ほど説明がございましたような事情をも考慮して情状が重いかどうかを判断しているという理解をしております。 ● 先ほどの説明は,説明として理解できないわけではないのですが,なるほど現行刑法の第26条の2と今回のものでは犯罪傾向が大分違っているというのは事実としてあると思います。その意味で,ある種の厳しい監督の仕方というのも一つの方法だろうと思います。ただ,現実には,今回の裁量的取消事由に関しては,現実にそれが重いがゆえに刑期の一部については服役しているという事実があるわけです。そうだとするならば,残りの保護観察の部分は現行と同じように,「その情状が重いとき」という要件が入ってもいいのではないかなと考えています。   取り分け,この裁量的取消事由というのは薬物使用者に対しての取消事由にもなるだろうと思いますので,その場合,具体的に,今後,保護観察に付せられるべき者が遵守すべき事項として,例えば,一定期間に必ず尿検査を受けることとかという形で,出頭するべきところを出頭しなかった場合について,出頭しない理由はいろいろあろうかと思いますけれども,場合によっては,実はちょっと薬をやってしまったから行けなかったという場合もあるだろうと思うのです。これは行ってしまったら完全に取消事由になってしまうという部分がある。しかし,私が前から言っているように,ダルクの方の話を聞いていると,薬物から離脱するというのは非常に大変なことだと。とにかくやってはいけないということを散々言っているけれども,それでもやった者を責めるのではなくて,もう一回そこから立ち直らせようという努力をしているという事情から考えてみた場合,検査のために出頭しなかったということは,内容の有無にかかわらずそのことだけをもってして簡単に任意的に取り消されるという形ではなくて,その情状がかなり頻繁に及ぶ,何回も来ない,そういうような形の場合に限定するような形で運用しないと,せっかくの薬物離脱のための社会内処遇が十分に機能しないのではないかと思います。その意味で,私は,現行と同じように「その情状が重いとき」を加えるべきではないかと考えています。 ● 今の御意見で改めて若干申し上げますと,今おっしゃった中で,さすがに再犯に及んだようなときにもう一度見るというのは,本人の特別予防といいますか再犯防止だけを考えるとそういうこともあり得べきなのかもしれませんが,一般予防的な観点といいますか応報的観点といいますか,そういうものを考えますと,再犯ということでの必要的取消事由はやむを得ないのではないかなと思っております。   その上で,例えば,1回プログラムを休んだときはどうかとか,そういうことになるわけでありましょうけれども,再犯に至らない程度ということで,先ほども申し上げたかと思うのですが,当然の前提といたしまして,裁量的取消事由でありますので,1回休んだから事情のいかんにかかわらず必ず取り消すというものではもちろんございません。基本的には遵守事項違反の内容であるとか程度であるとか,その中には休むに至った事情というのも,先ほども若干説明がありましたように当然考慮されるのでありましょうし,保護観察のそれまでの実施状況であるとか生活状況,それらもろもろの事情を総合的に考慮して裁量判断されるということでありますので,些細な遵守事項違反があったから必ず取り消すというものではなく,そこは裁量判断の中でいろいろ考えて,最終的には,保護観察における処遇をこれから続けていけるか,それによって再犯防止・改善更生を図ることができるのかどうかという中で考えていくということなので,それほど懸隔があるものではないのではないかと思うのです。先ほど申し上げたように具体的な諸事情によりますので,一概に申し上げることは難しいものの,多少違いが出るとするとということで,先ほど申し上げたようなことが考えられるのではないかということでありまして,それほど天と地ほど事情が変わるものではないのではないかとは思っております。 ● 意見になってしまうかもしれませんが,先ほどの事務当局からの御説明からすると,「情状が重いとき」というのは,単に遵守事項違反の程度が重いというものではなく,要は,総合的判断で,その対象者について,保護観察を継続することによっては改善更生が図れないような状態が生じているという意味であるように思います。そうしますと,実務においては,保護観察所長が申出をして,結果的に執行猶予が取り消されるような場合を「情状が重いとき」ととらえているということになります。その理解が正しいとすれば,仮に,一部猶予の場合に,「情状が重いとき」という要件を外したとしても,遵守事項違反は飽くまで裁量的取消事由ですから,実際に取消しがなされるのは,まさに,保護観察を継続することによっては対象者の改善更生が実現できない場合でしょうから,結局,現在と,最終的に取り消される場面というのは変わらないということになろうかと思います。そして,執行猶予を取り消すべき場合というのは,まさにそのような場合でして,そうすると,「情状が重いとき」という要件を外すことにより,本来取り消されるべきでない事案が取り消されるという事態は生じないことになります。そうであれば,最初の御説明のように,一部執行猶予の場合は,社会内処遇の実効性をより担保するために,遵守事項の遵守をより強く促すという意味で,一種のメッセージ効果を意図して,「情状が重いとき」という要件を外すという考え方もあり得るだろうと思います 。 ● もし運用において大きな違いがないのであれば,前と同じように条文を入れておいてもおかしくないのではないかと思います。 ● そこは後ほど御意見ということでまたお伺いいたします。   ほかに御質問はございますでしょうか。もうかなり意見の部分にも入っておりますので,意見を交えながらということでも結構です。今の「その情状が重いとき」というのを入れるべきかどうかという点に関して,ほかにいかがでしょうか。 ● 適切な言葉はなかなか思い浮かばないのですけれども,実際に取り消されるか取り消されないかについては確かに裁量的なのでしょうが,一応これは取消事由ですから,取消事由に当たるか当たらないかという点でいうと,この「情状が重いとき」というのと単に遵守しなかったときというのがすべて取消事由に当たるというのはかなり違うのではないかと思います。そういう意味で言うと,遵守しなかったときはすべて取消事由そのものには当たるというのは,若干の違和感を感じます。   全く同じ文言にするのがいいかどうかというのは別なのですけれども,「情状が重いとき」というのは,情状が重いことが認められるということになるのでしょうが,「情状に特に酌量すべき事情がない」というような逆の言い方をするとか,何らかの形で,遵守事項違反イコール取消事由では必ずしもないという趣旨のことをやはり入れていただきたいなという気がします。何らかの差を設けるということ自体については仕方がないのかと思いますし,それはそれで政策的にあり得ることなのだろうと思いますが,ストレートに遵守事項違反イコール取消事由というのは問題があるのではないかという意見です。 ● 保護観察の処遇をする立場から申し上げさせていただきますと,保護観察では動機付けという点が非常に難しゅうございます。つまり,最初から保護観察に乗って改善更生する意欲がある人は非常にやりやすいのですけれども,その意欲がそもそもない人というのは,最初の保護観察の軌道に乗せるまでというのが実務的には非常に苦労する場面でございます。そういった観点でこの制度を見たときに,4号観察の場合は裁判が終わってすぐ保護観察に入ってきますし,裁判の場面でも大体罪状については争いがなかったり猶予すべき事情があるから猶予になるわけで,そういう人たちが対象になっている。それと比較すると,今回の一部猶予の対象になってくる人たちというのは,判決から時間を経ていますし,施設内で処遇も受けているということで,うまく保護観察に乗るかどうかというところが問題になってくるのかなと思うのです。そういった観点で考えたときに,やはりそこは現在の保護観察付執行猶予と同列に論ずることはできないのではないか。4号観察の対象者よりももう少し遵守事項をきちんと守ってくださいということを制度上もはっきりさせておいた方がいいのではないか。こういった観点から,「情状が重いとき」ということが入り,4号観察と同じ並びになってしまうのはいかがなものかなと考えているところでございます。 ● そういう場合の保護観察と刑の一部執行を終えた後の保護観察の性質の差をどう見るかという点にも絡んでくると思いますが,いかがでしょうか。 ● 先ほどの○○委員の御意見でも取消事由の文言に差をつけること自体は認めていらっしゃるわけで,差をつけながら,しかし何もないというよりは,もう少し中間的な文言はないかということなのだろうと思います。私も適切な言葉があるのであれば何か欲しい気持ちはしているのですけれども,自分自身そういう適切な言葉を持っているわけではありません。 ● その意味では私もこだわりません。前と同じように横並びにする必要はないと思いますけれども,単純に遵守しなかったときという形で書かれるよりは,もう少し緩やかな何かの言葉があった方がいいのかなという感じがしております。 ● 今,中間的な文言といいますか,何かそういうものが考えられないかということで御議論いただいているところなのですが,そこで考えられるとすると,恐らく,「情状が重いとき」という場合よりは情状の程度が軽いような,そういう別の要件という観点からの御提案ということだと思いますが,考えてみますと,そもそも情状の軽重というのは一義的に明確なものではなく,ある意味相対的な概念なのかなと思っております。そのようなときに,全部猶予の場合における「情状が重いとき」という要件のほかにも,例えば,「情状が軽くないとき」とか,何か情状の軽重に関するような他の表現の要件を設けるものとすると,では果たしてその間にどういう違いがあるのだろうとか,そういった解釈なり運用をめぐって混乱を来すおそれがないではないのではないかなということを考えております。そういったところも踏まえて御議論いただければと思っております。 ● 今と同じ話なのですけれども,この「情状が重いとき」を外しただけで,現行の裁量判断とどう違うのだという議論にそもそもなるぐらいでありまして,平たく申し上げると,それほど細かく差をつけて具体的にどう違うのだというところがきちんと説明できて運用できるようなものになるのかなということであります。 ● 最初からの御説明を伺っていると,現在の文言も,○○委員がおっしゃったように,保護観察を続けていっても改善更生が見込めないということとほとんどイコールで,遵守事項違反自体が重大かどうかということでもないような気がするのです。そうだとすると,外すということは結局メッセージ性に重点があるわけで,メッセージ性が重点であれば,必ずしもその差が分からなくても,違うのだということが分かればいいのではないかという気がいたします。 ● 法律の言葉としていいかどうかは別ですけれども,現行では「その情状が重いとき」ということで,情状が重いということが要件ですけれども,むしろ逆に,情状に酌量すべき事情がない場合には当たるのですよという意味で,その情状酌量すべきものがないということを入れてしまうというのも一つの方法としてはあり得るのかと思います。だから,特別に情状酌量すべきものがあった場合だけ当たりませんよと。立証責任が逆になるぐらいの感覚ですが。 ● これは後で表現振りについてまた御苦労いただくことになると思いますが,ただ今の御提案ですと,「その情状に酌量すべきものがないとき」というような感じの表現になるわけですね。 ● そのような意味合いのものが入れば,一般的には遵守事項違反をしたら取消事由ですよ,ただし特別に情状酌量すべきものがある場合にはというようなニュアンスですけれども。 ● 同じく裁量的取消しといいましても,これは,第3の一部猶予の猶予期間の起算点の話にも関係してきますが,実刑部分を先に執行して,その後の,最後の段階での一部執行猶予ということでありまして,その執行猶予の法的性質についてはいろいろな議論があるかと思いますけれども,出口のところ,あと一歩の時点での制度なのですから,趣旨が違うということをはっきりさせる。そうしましても,御説明があったように,特に濫用的な取消しが予想できるとは思われません。言葉として,御指摘のように書き込んだとしても,それはそれで現場が更に混乱するのではないかと思いますので,私はこの資料の案のままでも良いのではないかと思っているところです。 ● ただ今の御意見は,「その情状が重いとき」がないものでもいいのではないかという御趣旨ですね。 ● 先ほど,「情状に酌量すべきものがないとき」という文言にしてはどうかとの御意見がございましたが,そうすると,逆に,遵守事項違反があれば原則的に取り消すように聞こえてしまい,かえって取り消されやすくなるのではないかという感想を持ちました。 ● 仮釈放になった者の保護観察を実施している立場から申し上げたいのですけれども,今,○○委員がおっしゃったところとほとんど通じるところですけれども,仮釈放になった者の保護観察は,実刑の部分とその後の仮釈放の社会内処遇をできるだけうまく組み合わせてやろうということでやっております。そういうことでやっている仮釈放につきまして,仮釈放の取消しについては,刑法第29条で仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったときとなっておりますけれども,今回の一部猶予におきましても,形としましては,まず実刑があって,その後一部猶予,つまり施設内処遇と社会内処遇を適切に組み合わせるという意味では同じ形,同じ考えに基づいているのであろうと思います。そういうことからしますと,保護観察を実施している立場からは,取消しの在り方についても同じ考えが適用されるということが適当ではないかなと思います。 ● 非常に悩ましいところがあると思うのですけれども,初入者の資料第1の1(1)のところと違って,ここは現行法の規定を削除していくところなので,きちんとした説明が必要だという感じはいたします。ただ,冒頭の御意見に尽きると思います。つまり,現行とどう違うのかという点ですね。そこに実質的な違いがないとすれば,他に適切な文言があればともかく,私はこの資料の案のままでいいのではないかと思います。なぜかといいますと,法的な本質という点で一部猶予と全部猶予には違いがあるということを前提にしますと,この資料の規定で特に大きな問題はないと思います。実務的にも,こういう規定を置いた方が,対象者に対する再犯防止に向けての心理的な圧力がより込められているとすれば,やはりこの方向をとるべきではないか。適切な文言があるというのであれば,それはまた別途検討すべきだと思いますけれども,かえって誤解を生み,何か混乱を招くのであれば,ここはシンプルでいいのではないかという感じがいたします。 ● どうもありがとうございました。   今,問題点の御指摘をいただいたことになろうかと思います。表現振りについては後でまた御検討する余地があると思いますので,そのときに更に適切な文言があれば,それについて改めて御意見を拝聴したいと考えております。   ほかにいかがでしょうか。   特にないようですので,ここで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ● 再開させていただきます。   保護観察に処せられた者が遵守事項を遵守しなかったときという点について議論をしていた途中だったと思いますが,この点に関して何かほかにございますでしょうか。   資料第1の1(3)についてまだ御意見が出てないと思いますので,この点につきましても何かございましたら,お願いいたします。   特にございませんようですので,資料の第1の2の薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予の取消しの議論に移りたいと存じます。   まず,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ● 資料の第1の2の薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予の取消事由について御説明いたします。   これまで御説明申し上げましたように,資料の第1の1の初入者に対する一部猶予の取消事由は,薬物使用者に対する一部猶予の場合においても等しく妥当するものであることから,薬物使用者に対する一部猶予の取消事由につきましても,資料の第1の1と同様としております。 もっとも,先ほど申し上げましたように,薬物使用者に対する一部猶予が言い渡された後に,実刑の前科が発覚したといたしましても,当該一部猶予の言渡しが違法となるわけではございませんので,資料の第1の1(1)ウの取消事由につきましては,薬物使用者に対する一部猶予の取消事由とはしておりません。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の御説明につきまして御質問がございましたら,お願いいたします。   特にございませんようですので,御意見をちょうだいしたいと思います。特に薬物事犯との関連,その特殊性をどう考慮するかという点を踏まえて御議論いただければと存じます。   御意見が出ないようですが,薬物事犯につきましては,この部会でも何度も議論を重ねてきており,かなり煮詰まったところがあると思います。特にございませんようでしたら先へ行きたいと思いますが,よろしいでしょうか。   特に御異論がございませんので,そのようにさせていただきます。   それでは,引き続きまして,資料の第2の刑法第25条による刑の執行猶予の取消事由の議論に移りたいと存じます。   まず,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ● それでは,資料の第2の刑法第25条による刑の執行猶予の取消事由について説明させていただきます。   現行の刑法では,第26条から第26条の3までにその取消事由が規定されておりますが,一部猶予を言い渡すことができるようになることとの関連で,刑法第25条による刑の執行猶予の取消事由,すなわち,全部猶予の猶予期間中に一部猶予が言い渡された場合等について,全部猶予を取り消すものとすべきかどうかにつきまして検討したものでございます。  対照表の3ページ目と,参考図の8ないし10を適宜御参照いただきたいと存じます。   資料の第2の1は,参考図の8にお示ししておりますとおり,①の全部猶予の期間内に再犯を犯して,②の一部猶予の言渡しを受けた場合を,①の全部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   対照表の3ページ目の右側を御覧願います。現行の刑法第26条第1号は,全部猶予の猶予期間中に再犯を犯し,禁錮以上の実刑に処せられた場合を,当該全部猶予の必要的取消事由としているものでございます。 これは,全部猶予が言い渡されたにもかかわらず,その言渡し後禁錮以上の実刑に処せられるべき刑責の重い再犯に及んだ場合,当該判決によっては再犯防止の目的を果たすことができなかったということが明らかになったものであり,また,執行猶予の言渡しの条件に違反したものであることから,当該全部猶予を必要的に取り消すものとした規定でございます。   この点,全部猶予中の再犯について一部猶予の言渡しを受けたときも,刑の一部とはいえ実際に禁錮以上の実刑に処せられることにほかならず,現行の刑法第26条第1号の趣旨が等しく妥当するものと考えられます。 また,全部猶予中の再犯により刑の一部猶予に処せられたのに当該全部猶予を取り消さないものとすれば,その全部猶予の猶予期間中に,一部猶予の実刑部分の刑が執行されるということになりまして,全部猶予による社会内処遇は実際上行われ得ないことになります。 さらに,猶予中再犯による全部猶予の取消しの余地も相当狭くなり,再犯があっても猶予された刑が執行される可能性が少なくなることから,全部猶予判決の感銘力の維持も困難になるものと考えられます。   このようなことから,全部猶予中の再犯について一部猶予の言渡しを受けたときを全部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   なお,この資料第2の1の考え方を前提といたしますと,現行の刑法第26条第1号は「禁錮以上の刑に処せられ,その刑について執行猶予の言渡しがないとき」と規定しておりますことから,同号にいう「執行猶予の言渡し」というものが刑法第25条による全部猶予の言渡しに限られるということを明らかにすることになるものと考えられます。   次に,資料第2の2について御説明いたしますが,併せて参考図の9を御覧いただきたいと存じます。参考図の9にお示ししておりますとおり,A罪を犯し,次いでB罪を犯した後,A罪のみについて全部猶予が言い渡され,その後,A罪の確定裁判前に犯したB罪について一部猶予の言渡しを受けた場合を,A罪の全部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   対照表の3ページ目の右側を御覧願いますが,現行の刑法第26条第2号は,全部猶予の確定裁判前の余罪について禁錮以上の実刑に処せられた場合を,当該全部猶予の必要的取消事由としているものでございます。   この第26条第2号は,余罪について実刑の判決が言い渡された以上,仮に,余罪と確定裁判の事件とが同時に審判されたときには全体として禁錮以上の実刑に処せられると考えられるので,確定裁判の執行猶予を維持すべきではないということと,このような場合に確定裁判の全部猶予を取り消さないものとすれば,確定裁判の全部猶予の猶予期間中に,余罪の実刑が執行されることになり,確定裁判の全部猶予による社会内処遇が実際上行われ得なくなることなどから,全部猶予の必要的取消事由とされているところでございます。   そして,全部猶予の確定裁判前に犯した余罪について,参考図の9に示しておりますように,一部猶予の言渡しを受けた場合,これも刑の一部とはいえ禁錮以上の実刑に処せられたことにほかならず,刑法第26条第2号の趣旨が等しく妥当いたしますので,資料第2の2の場合を全部猶予の必要的取消事由とするものでございます。   なお,資料第2の2の考え方を前提といたしますと,刑法第26条第2号は「禁錮以上の刑に処せられ,その刑について執行猶予の言渡しがないとき」と規定しておりますので,同号にいう「執行猶予の言渡し」が刑法第25条による全部猶予の言渡しに限られるということを明らかにすることになるものと考えられます。   最後に,資料第2の3について御説明いたしますが,併せて参考図の10を御覧ください。参考図の10にお示ししておりますとおり,①の全部猶予の言渡し前に他の罪について②の一部猶予を言い渡されていたということが発覚し,①の全部猶予の言渡しが,②の一部猶予の刑の執行終了等の日から5年以内になされたものである場合を,①の全部猶予の必要的取消事由にするものでございます。   対照表の3ページ目の右側を御覧ください。現行の刑法第26条第3号は,全部猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の実刑に処せられていたことが発覚し,その発覚した実刑前科の執行終了等の日から5年以内に当該全部猶予が言い渡されたものである場合を,当該全部猶予の必要的取消事由としております。   刑法第26条第3号の趣旨は,資料第1の説明の際にも申し上げましたとおり,この第3号に該当するような全部猶予の言渡しは違法であることから,違法な全部猶予の言渡しを是正することにあります。 そして,参考図の10にありますように,全部猶予の言渡し前に,他の罪について一部猶予判決を受けたことが発覚した場合には,仮に,その一部猶予があらかじめ判明していたとすれば,当該一部猶予の刑の執行の終了等の日から5年を経過していたときを除き,全部猶予の要件を満たさないこととなりますので,その全部猶予の言渡しは違法なものとなり,現行の刑法第26条第3号の趣旨が等しく妥当いたします。   そこで,資料第2の3のように全部猶予の言渡し前に一部猶予を言い渡されたことが発覚したことを,全部猶予の必要的取消事由としたものでございます。   なお,今申し上げました資料第2の3の考え方を前提といたしますと,刑法第26条第3号の取消事由は,第26条の2第3号に該当するとき,すなわち「猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ,その執行を猶予されたことが発覚したとき」を除外しておりますので,この第26条の2第3号にいう「その執行を猶予されたこと」というものが刑法第25条による全部猶予に限られるということを明らかにすることになるものと考えられます。   以上でございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の事務当局からの御説明に対して,御質問をお受けしたいと思います。   特にございませんようですので,御意見をちょうだいしたいと思います。 ● 今の御説明どおりで,私の理解では技術的な読み替え規定の範囲の話のように思いますので,逆に言うと解釈で当然なることで,条文も要らないのではないかということでございますので,当然意見はないということでございます。 ● もちろんそういう解釈もあるのかもしれませんが,先ほど申し上げましたのは,例えば,刑法第26条第1号でいいますと,「猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ」で,その後に「その刑について執行猶予の言渡しがないとき」となっておりまして,一部執行猶予も執行猶予の言渡しがあると言えばあるわけですので,この文言だけを見ると一部執行猶予の場合も含まれるようにも見えることから,その前提として,一部執行猶予を言い渡された場合が第26条第1号に当たるのか,全部猶予の猶予期間内に再犯を犯して一部猶予を言い渡された場合に,そもそも全部猶予を取り消す必要があるのかどうかというところを御議論いただくのが望ましいのではないかということで御説明申し上げたところでございます。 ● 情状としては一部の執行猶予が適切であるという状況で,前の罪は,当時としては全部執行猶予されたわけですが,現在の時点で見ると,一部実刑にし,一部猶予にしたいという場合もあるかもしれませんが,いかがですか。 ● 先ほどの話と同じですけれども,後の方の一部猶予判決で元の全部猶予判決の執行猶予分が取り消されて実刑になるということを考えて,例えば,後の方の一部猶予については実刑部分を極端に短くするというような形で解消するのかなと思います。 ● どうもありがとうございました。   この論点につきましても十分に御意見が出たということで,更に先へ行きたいと思いますが,よろしいでしょうか。   では,資料の第3の刑の一部の執行猶予の猶予期間の起算日についての御議論に移りたいと思います。まず,それにつきましての御説明を事務当局からお願いいたします。 ● それでは,資料第3の一部猶予が言い渡された場合における猶予期間の起算日について説明させていただきたいと存じます。   資料第3の1は,一部猶予の期間は,その刑のうち執行が猶予されていない期間の刑の執行を終わった日から起算するものとするというものでございます。   この一部猶予制度は,これまでこの部会でも御議論いただきましたように,一定期間の施設内処遇に引き続き,その効果を維持・強化するために相応の期間の社会内処遇を実施し,施設内処遇と社会内処遇をより有効に連携させることによりまして,再犯防止・改善更生を図ることを趣旨としているところでございます。 したがいまして,そのような社会内処遇の期間となる一部猶予の猶予期間というものは,施設内処遇の期間後,すなわち執行が猶予されていない期間の刑の執行を終わった日から起算するものであることを明らかにしたものがこの資料第3の1でございます。   次に,資料第3の2でございますが,一部猶予のいわゆる実刑部分の刑の執行が終わった時点で,他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは,その後の一部猶予の猶予期間は,その時点で直ちに起算するのではなく,当該他の執行すべき懲役又は禁錮の執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から起算するとするものでございます。   ここで,お手元の参考図の11を御覧いただきたいと存じます。例えば,①の黒破線でお示ししております全部猶予の猶予期間中に再犯を犯し,その再犯について②の一部猶予が言い渡されたときは,赤の実線でお示ししております当該一部猶予判決の実刑部分の刑が執行されることとなります。 他方で,先ほど御議論いただきました資料の第2の1のとおり,一部猶予の言渡しを受けたことを理由として,③のように前の全部猶予の言渡しも取り消されることとなり,赤の実線の一部猶予の実刑部分の刑とは別に,グレーの実線になりますが,執行すべき懲役又は禁錮が生じることになります。 このような場合に,一部猶予の猶予期間の起算について何ら手当てをしないものとすれば,参考図では「資料第3の1による起算」とされている図のように,資料第3の1の原則により一部猶予の実刑部分の刑の執行が終わると猶予期間が起算されることになる一方で,それと同時に,参考図でグレーの実線でお示ししております全部猶予の取消しにより生じた実刑の執行も開始されることになります。 そうすると,社会内処遇のためのはずである猶予期間において,実際には,刑事施設に収容されて施設内処遇を受けることになり,社会内処遇が行われないことになります。   また,このような場合には,①の全部猶予の取消しが取り消されることにより生ずる実刑も含めて,まずは,すべての施設内処遇を実施し,その後に,一部猶予の猶予期間における社会内処遇を実施することが,施設内処遇に引き続いて,これと連携した社会内処遇を行って対象者の再犯防止・改善更生を図るという一部猶予の制度の目的にかなうということができます。   そこで,このような場合につきましては,参考図では「資料第3の2による起算」とされている図のように,他に執行すべき刑の執行終了後から,すなわち,グレーの実線の終了時から一部猶予の猶予期間を起算するものとしたところでございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の事務当局の御説明につきまして御質問がございましたら,お願いいたします。 ● 資料第3の2の部分の確認ですが,この場合に,一部執行猶予の実刑部分を先に執行するというのは,当然にそうなるのですか。 ● もちろんそうでない場合もあるかとは思うのですが,例えば,先ほど御説明申し上げました参考図の11の場合を例にして御説明申し上げますと,②の再犯についての一部猶予判決が確定することを理由として①の全部猶予が取り消されるという前後関係になりますので,こういう場合には,通常であれば赤の一部猶予の実刑部分が先に執行され,その後に,先ほど申し上げたような順序で取り消されることになるグレーの実刑が執行されることになりますことから,こういった場合を考えておく必要があるだろうという趣旨でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。   特にございませんようですので,御意見をお願いいたします。 ● 資料第3の関係なのですが,参考図を見ますと,執行を終わった日若しくは執行の免除を得た日となっていますけれども,例えば,この実刑部分について仮釈放がなされた場合についても,執行が終わったときというのは同じような形で読み込むことができるのですか。 ● 現行制度でもそうなのですけれども,仮釈放された場合は,刑期が進行しているという解釈になっております。ですので,仮釈放の期間が経過したときが刑の執行終了時点だということになりますので,それと同様に考えて,実刑部分で仮釈放が許された場合は,その実刑部分における仮釈放の期間が満了したときが執行が終わったときということになるものと考えております。 ● ほかにいかがでしょうか。   特にないようですので,この点につきましてはこの辺りにさせていただきたいと存じますが,よろしいでしょうか。   それでは,本日御議論いただいた刑の一部の執行猶予の取消事由全般につきまして,あるいはそれに関連して御意見等がございましたら,お願いしたいと思います。 ● 一部執行猶予の制度が導入されることになった場合にどのぐらいこれを積極的に活用できるかということで,内部で議論した際に若干出た意見を踏まえて述べさせていただきます。   これまで部会でも繰り返し議論されていることですけれども,施設内処遇と社会内処遇がそれぞれどれだけ充実されるかということが大変重要ではないかという意見がございました。第1の2の薬物の方は既にプログラムがあり,これが将来的に充実されていくということで,比較的イメージがわくのですけれども,第1の1の初入者の制度につきましては,部会の中でも,例えば,現状でも仮釈放を積極的に運用するのはなかなか難しい面があるというような実情などを伺いますと,実際に運用される場合にどうなっていくのだろうかと意見があったところです。意見の中には,例えば,運用では原則的には保護観察を付けるようなことになるのではないだろうかとか,施設内あるいは社会内でのプログラムが果たしてどうなっていくのか,それを組み合わせることでどういう効果が期待されるのかといった点について,できるだけタイムリーに適切な情報をいただきたい,これは制度面でも個別事件でもいただきたい,そういうことが適正な判断につながるし,ひいてはその刑に対する国民の理解や納得にもつながっていくのではないだろうかという意見がございましたので,御紹介させていただきます。 ● 今の御発言に関連しまして,私ども,一部猶予になって保護観察に付された場合の者について,これまで話し合われてきましたように,施設内処遇と社会内処遇をいかに適切に組み合わせて社会内処遇の方の効果が上がるかを考えていかなければいけないと思っています。その際には,これまでも,新規の施策等を実施するに当たりましては,当局から最高裁判所に,あるいは現場では保護観察所から該当の裁判所に対してその内容等について御説明をさせていただき,協議もさせていただいているところですけれども,今回も,もし,この一部猶予の制度が実施されるということになりましたならば,同様に充実した施策について検討させていただいて,準備が整いましたら,かなり内容豊富であると思いますので,処遇の内容の策定あるいはそれを実施するに当たっての必要な体制をどのように整えるかというようなことについては相当の期間がかかるのではないかとも思いますけれども,いずれにしましても,そのような準備が整った段階で御説明させていただき,協議させていただきたいと考えております。 ● どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。全般的な観点から御意見あるいは御質問がございましたら,お願いします。 ● 現在,裁判員裁判がもう現実に動いておりますけれども,裁判員裁判の中で一部執行猶予のことも問題になり得るのではないか,それが果たして相当かどうかという点について,いろいろ意見があり得ると思うのです。裁判員裁判のような重大事件について一部執行猶予の制度をどのように考えるか,あるいは裁判員にどのように説明するかということが今後問題になるかと思うのですが,事務当局の方で何か検討されていることがあれば,この機会に伺わせていただければと思います。 ● 今,御指摘いただきましたように,参考試案の第2の方は余り関係ないということになろうかと思いますけれども,参考試案の第1,初入者の制度については,確かに裁判員裁判の対象事件が制度としては対象になり得るというような関係になるのかと思っております。   そこで,これはおさらいになるのかもしれませんが,当部会の第22回会議で御説明申し上げましたように,初入者に対する刑の一部執行猶予制度において,刑の一部の執行猶予とするか否かは,まず,参考試案第1の1(1)又は(2),すなわち,前に禁錮以上に刑に処せられたことがない者等に該当するか否かを判断した上,その犯した罪に対する刑事責任の軽重によって,およそ刑期のすべてについて実刑とすべき者に当たるかどうか,あるいはおよそ刑期のすべてについて執行猶予とすべき者に該当するか否かということが判断されます。そして,その刑期すべてについて実刑とすべきものであるかどうかという判断におきましては,これも第22回会議で御議論いただいたところですけれども,3年を超える懲役・禁錮が言い渡される者であるのかどうか,あるいは3年以下の懲役・禁錮が言い渡される者であっても,その刑事責任を中心とした判断から,刑期すべてについて実刑とすべきものであるかどうかを判断し,これに当たる場合には刑の一部の執行猶予の判断はなされないこととなります。   少し前置きが長くなりましたけれども,裁判員裁判はどういう事件が対象になっているかと申しますと,御指摘のとおり,いわゆる重大事件でございまして,死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件,及び裁判所法第26条第2項第2号に掲げる事件,すなわち短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るものを対象にしているところでございます。当然のことながら,個別具体的な事件ごとの判断となって一概には申し上げられないところではございますが,一般的には,裁判員対象事件のそのような罪質から考えますと,多くの場合,刑の一部の執行猶予の判断はされないことになるのではないかと考えているところでございます。 ● 刑の一部の執行猶予を認める場合の要件が何であるかということは,この部会のスタートの時点から常に議論され,意識されていた問題であると思いますが,その答えを出すことはなかなか難しいわけで,それは,この制度自体が,刑事責任を明らかにするという側面と,対象者の再犯を防止し改善更生を図るという側面と,両方を含んでいる。それが,一面において実刑である,一面において執行猶予であるという複雑さを持っていると思います。   ただ,たまたま今朝の新聞でも,仮釈放の問題について,満期釈放の方が半数を超えたという指摘がありまして,刑罰制度が硬直していないかという点が社会的な関心の対象になっていることが感じられますが,刑罰制度を弾力化しようとすればどうしても現行法より複雑なものが出てくるということは避け難いところであろうと思います。その意味で,刑の一部の執行猶予もその複雑さに耐えながら実現したい制度だと感ずるわけですけれども,それにしても,要件として「情状により」というだけでは少し単純過ぎないかと感じられるところであります。   明治38年に執行猶予に関する法律が初めてできましたときに「情状により」ということが言われて,それをそのまま現在まで引き継いでいるわけですけれども,しかし,その後,法律の改正のたびに,「重い情状」とか「情状に特に酌量すべきものがある」とか,そういう修飾語が付け加わって,情状にも幾つかの段階があるということが明らかにされてきているわけです。その意味では,今回の制度についても,例えば,改正刑法草案などを参考にしますと,「一部の執行猶予を相当とする情状」というように,情状について何か内容を示す余地がありはしないか。これも,ではその内容は何だと言われると,それは裁判所の解釈あるいは実務の運用に任されているわけですけれども,少なくともその限度ではこの新しい制度についても付け加える余地がありはしないかという気がしております。   だんだん審議が一つのゴールに近付いているような気もしますので,一言付け加えさせていただきました。 ● どうもありがとうございました。   さらに,社会貢献活動を特別遵守事項とする制度についても議論してまいりましたので,その点につきましても,この際,御意見あるいは御質問等がございましたら,お願いしたいと思います。 ● 1点確認だけしておきたいのですけれども,仮釈放の算定の仕方につきまして,3分の1の算定というのは,一部実刑部分の3分の1ということではなくて,刑の全体を対象にすることでよろしいわけですね。 ● 当部会のこれまでの会議でも,その点について御説明申し上げたかと存じますけれども,事務当局としては,今御指摘があったとおり,刑期全体の3分の1ということで考えております。これはいわゆる分割刑のような話ではなくて,刑としては一つでございますので,そういったところで考えております。 ● それでよろしいでしょうか。   ほかに,いかがでしょうか。   特にございませんようですので,本日の審議はこの程度にしたいと存じます。   刑の一部の執行猶予制度と社会貢献活動を特別遵守事項とする制度についての審議は,これまでの御議論で相当程度深められたように思われます。   そこで,事務当局において,これまでの当部会における議論の状況を踏まえ,各制度に関する要綱骨子の案を作成してもらって,その案について御議論いただくこととするのが適当ではないかと考えておりますが,その点いかがでしょうか。   特段御異論がないようでございますので,事務当局に,これまでの部会の議論を踏まえ,刑の一部の執行猶予制度と社会貢献活動を特別遵守事項とする制度について要綱骨子の案を作成してもらい,これを御議論いただくことにしたいと思います。   それで,次回の日時,場所等について,事務当局から御確認をお願いいたします。 ● 次回は,7月21日火曜日に法務省20階の第1会議室において会議を行う予定でございます。開始時刻につきましては午後1時30分からの予定でございます。 ● ただ今御案内がございましたように,次回は7月21日の火曜日に,法務省20階の第1会議室において会議を行うことにいたします。開始時刻につきましては午後1時30分からということになりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日はこれで散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-