法制審議会国際裁判管轄法制部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  平成21年7月10日(金)  自 午後1時30分                        至 午後3時58分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  国際裁判管轄法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○髙橋部会長 法制審議会国際裁判管轄法制部会第10回会議を開催いたします。   最初に,資料その他についての説明を事務当局からお願いいたします。 ○佐藤幹事 まず,資料の御説明ですけれども,部会資料19をあらかじめお送りしております。部会資料19は,青字の部分と黒字の部分がございまして,黒字の部分が今回御提示させていただいた中間試案としてパブリック・コメントにかけるものの案でございます。青字の部分は,今回の中間試案で変更点等がありましたので,それについて,どういう点が変更されているかを補足的に説明したものでございます。これは中間試案を公表する際には削除することを予定しております。   中間試案の部会資料19ですが,従前の部会における御議論を踏まえて整理をしたものでございます。中間試案をパブリック・コメントにかける際には,この中間試案と,民事局参事官室の責任で作成いたします試案の内容の説明,これは補足説明と呼ばれておりますが,これらを併せてパブリック・コメントにかけることになろうかと思います。補足説明におきましては,この中間試案本体に載せていない,従前の様々な御議論の紹介あるいは試案の内容の説明などが記載される予定です。   本日の部会で中間試案をお取りまとめいただいた場合には,その後,できるだけ早いタイミングでパブリック・コメントにかけることになりますが,受付募集期間は1か月程度を予定しているところでございます。   以上でございます。 ○髙橋部会長 第1,第2という単位が大きなところですので,ほぼそれに沿って参りますが,まず,第1の説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 まず,第1ですが,1のタイトルは,「人に対する訴え」となっております。今回の試案におきましては,国内の土地管轄は日本の裁判所の管轄権の存在を前提としているものでございますが,国際裁判管轄につきましては,その前提となる管轄権の問題であるということもありまして,国内管轄に使われる普通裁判籍あるいは専属管轄等の言葉を用いずに,どういう場合に日本の裁判所に訴えを提起することができるという形で記載をしております。それに伴いまして,1のタイトルが「人に対する訴え」となり,1の末尾が「日本の裁判所に提起することができるものとする」というような変更を加えたというものです。   加えまして,1のウの部分ですが,趣旨を明確化するために,ただし書の部分ですが,「日本国内に最後に住所を有していた後に」という形で修文を加えております。   2については,従前の部会資料から実質的には変更がございません。末尾が「日本の裁判所に提起することができるものとする」となっております。   3につきましても,同様の修文を加えておりますけれども,実質的な変更はございません。   以上でございます。 ○髙橋部会長 人に対する訴えについて御質問・御意見をお伺いいたします。 ○道垣内委員 内容については全く異存はないのですが,「人に対する訴え等についての管轄権」というタイトルがよく分からない。この管轄原因があればどのような訴えでも提起できるということ,つまり普通裁判籍に当たるものであることは,ほかの規定との関係を見れば分かるではないかということかもしれませんが,国民に分かりやすいタイトルではないように思います。補足説明で十分お書きになるのだろうと思いますけれども,最初に見たときに違和感がございました。ほかには選択肢はなかったのだという御説明をいただければと思います。 ○佐藤幹事 タイトルにつきましては,今後更に検討していきたいと思いますけれども,実際に法律にした場合に,どこまでタイトルが必要かということにもよろうかと思います。第5条の「財産権上の訴え等についての管轄」という見出しは,1号が「財産権上の訴え」となっていることもあって付けられたものかと思いますが,それを踏まえて,今回は第1の見出しを「人に対する訴え等についての管轄権」とさせていただいたものです。この文言につきましては,また今後検討していきたいと思っています。 ○山本(克)委員 今の点ですが,例えば被告の住所等を原因とする管轄権というような,被告を基準とするものだという趣旨でタイトルを表した方が道垣内委員のおっしゃるような疑念もないし,これだけ読んでいますと,英米法で言う対物訴訟と対人訴訟の区別みたいなものを念頭に置いているのかなという気もしなくはありませんので,御配慮いただければと思います。 ○髙橋部会長 内容についてはいかがでしょうか。確かに表現はいろいろな制約があるようで,学者が論文を書くときと同じではないようですが,御指摘は十分踏まえて更に事務当局で検討はしてくださるということですが,第1に関してはそれでよろしいでしょうか。   それでは,第2につきまして,まず説明からお願いいたします。 ○佐藤幹事 第2につきましても変更点のみかいつまんで御説明いたします。   1につきましては,前回の部会で御議論いただいた案と実質的には同一ですが,本文①のアについては,若干簡潔な形にまとめたものです。   2につきましては,従前の部会資料である部会資料14から変更はございません。   3につきましても,前回の部会で御議論いただいたものでございまして,甲案から丙案を提示して,(注)の部分では,担保の目的の所在地について更に検討すると記載しております。   ただ,3の②の丙案につきましては,仮差押えの申立てが原告によりなされるという趣旨を明示するために,「原告の申立てにより」という文言を付け加えております。   4につきましては,従前の部会の議論を踏まえて修文をしたものです。②の冒頭を「日本国内において事業を継続してする者に対する訴え」と修文をしたことと,①と②の訴えの関係につきましては,①を基本にしまして,②につきましては「①の訴えを除く」という形で記載しております。それから,②の部分で,これは趣旨の明確化を意図しているものですが,「その者の」という形で形式的な修文を加えております。   5につきましても,実質的な内容に変更はありません。ただ,①の部分で,「準ずるもの」の中に会社法の訴えに準ずるものも含み得るような書き方になっていたものですから,準ずる訴えにつきましては,会社法,一般法人法以外の日本の法令によって設立された社団に関する訴えであることを明確にするための修文をしております。②につきましては,形式的な修文ということで,社団又は財団が法人である場合と法人でない場合を並列して書くような形にいたしました。従前は括弧書で社団又は財団が法人でない場合が記載されていたのですが,形式的な観点から修文をしたものです。   6につきましては,従前の部会の御議論を踏まえて修文をしたものです。   7につきましては,これも従前の御議論あるいは意見の分布状況等も踏まえて,部会資料15で記載されていた本文①及び本文②の甲案を一つに合わせたものとして,今回の案を提示させていただくものでございます。この点につきましては,様々な御意見がありましたので,補足説明等で御説明することを検討しております。   8につきましても,部会資料15から変更はございません。ただ,知的財産権の登録に関する訴えについては,独立した項目を設けていたのですが,今回は「登記又は登録に関する訴え」,具体的には登録に関する訴えに含まれることを想定しております。   9につきましては,部会資料15から実質的な変更はございません。「人に対する訴え」の部分の変更に伴って,①のウの3行目は,「日本国内に最後に住所を有していた」と修文をしております。   以上です。 ○髙橋部会長 御審議は項目ごとに行いたいと思います。   まず,1の,いわゆる義務履行地でございますが,随分御議論いただいてこういう形になりましたが,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 1の②の規定の仕方についてなのですが,「原告が上記①の規律により当該契約上の債務の履行の請求に係る訴えを日本の裁判所に提起することができるときは」というフレーズがございますが,この部分を冒頭に出して,そういうことができるときには,当該債務に関連して行われた事務管理等についても訴えることができるという書き方の方が分かりやすいと思います。しかし,それは形式的なことなので,そう思うということだけ申し上げます。   仮にこのままとする場合についてですが,下から3行目のところに「当該契約上の債務」という言葉が出てきますが,多分,趣旨としては「契約上の債務」が一つの固まりであって,これ全体に「当該」がかかるのだろうと思いますけれども,ただ,現在のままですと,当該契約上の違う債務でもよいという読み方も出てくるおそれがあります。この部分では「契約上の」という言葉はない方が誤解は生じないのではないかと思います。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。   また後で戻っていただくのも結構ですが,先に進みまして,2の「手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え」についてはいかがでしょうか。   ここはよろしいですね。   では,3の「財産権上の訴え」ですが,ここも随分御議論いただきましたが,こういう形でまとめました。先ほどの説明にありましたように,他人のした仮差押えに乗ってやるのはやめましょうということで,自分のした仮差押えに限るという趣旨を明確にしたということでございますが,「財産権上の訴え」はいかがでしょうか。 ○山本(和)幹事 今,部会長が言われたところなのですが,私もそうなのだろうと思います。   ちょっと気になったのは,非常に細かいところですけれども,対象が動産の場合には二重の仮差押えというのは禁止されていると思うのですが,そうすると,ほかの人が仮差押えをすると,その財産を押さえて日本で訴えを提起するということを,後の債権者はできなくなってしまうような気もするのですが,そのあたりはどうなのでしょうか。更に事件の併合とかを入れると非常に細かい感じにもなってしまうのですが。 ○佐藤幹事 動産のことは特に念頭に置いていなかったので,また検討したいと思います。丙案自体がまだ内容が固まっていませんが,御指摘の点も踏まえて検討してみたいと思います。 ○髙橋部会長 考え方の内容としては,やはり事件の併合か何かを自分でやれということですよね。ただ,動産執行の関係で,表現ですね。分かりました。 ○道垣内委員 もう少し単純な話なのですけれども,被告が大きな会社で,保全の必要がないという理由で仮差押えが認められない場合もあり得るのではないかと思います。その他,ほかの要件を欠く場合もあるかもしれません。そうしますと,私は丙案がいいのではないかということをかつて申し上げましたけれども,実際に仮差押えをやらなければならないということになると,一部の要件を欠くという理由でできないこともあるのではないか。今,山本幹事がおっしゃったのもその一つだと思いますけれども,そういういろいろなことを考えると,本当にワーカブルなのかどうか疑問があります。 ○髙橋部会長 理屈の上ではそうですね。しかし,仮差押えで,しかも,多分申立てのときに書くのでしょうが,これは国際裁判の訴えが続くのだというようなことを書いて,そして担保の額も多少安くしてくれるのかどうかは分かりませんが,実務上は保全の必要なしというのはまずないでしょうね。しかし,実務上はともかく,理論上は確かに御指摘のとおりですので。これは,丙案が固まってきたら更に表現を詰めるということになるのでしょうかね。御指摘はどうもありがとうございます。   次に,4の「事務所又は営業所を有する者等に対する訴え」についてはいかがでしょうか。 ○山本(和)幹事 (補足説明)の最後の「なお」と書かれている部分に関連する質問ですが,一つは,ある継続的な事業を日本でやっている人がいるけれども,訴えの対象になるのは,その継続的な事業とは違うような業務,例えば一つの例で,機械を販売しているような事業を日本で継続しているという事業者がいた場合に,たまたま機械ではなくて不動産を販売したと,別に不動産の販売自体は日本国内で継続してはいないものだったけれども,ただ,日本国内で行った業務であることは間違いないという場合です。その場合には,日本の裁判所に提起することはできないことになるのでしょうか。   もう一つは,抽象的にその業務が日本で継続的にやっている業務に含まれるのだけれども,具体的に紛争になった事柄自体は日本では行われなかったような場合です。これはマレーシア航空事件の場合を念頭に置いているのですが,日本でマレーシアの国内線の切符も一応販売はしていた,そういう業務は継続していたと。ただ,その事件では具体的には日本国外,マレーシアでその切符は購入したというのが,この「日本における業務に関するもの」に含まれるのかどうかということです。   その2点について原案のお考えを伺わせていただければと思います。 ○日暮関係官 まず,御質問の1点目ですけれども,日本において事業を継続している者がしていた業務ではなくて,単発的に行われたようなものについては,試案4の②の規律では訴えることができない,つまり,その業務自体も日本で継続されている事業に関係する業務でなければならないということで御提案しております。   2点目に関しましては,それは解釈にゆだねられるのかなと考えているところですが。 ○山本(和)幹事 両方あり得る提案だということですね。   第1点も,私自身も十分定見があるわけではないのですが,この日本において事業を継続するということが,実質的には日本で事務所を持っているのと同じようなことである,日本に言わば根を持って事業をやっているのだというふうに考えるのだとすると,①の方は,要するに事務所,営業所の業務に関すればいいわけですので,②の方も,日本で行われている業務,その業務自体は単発的なものかもしれないけれども,そういう日本に根を張って事業をやっている人なのだから,その人が日本でやった業務については日本で訴えられてもいいのだという考え方もありそうな感じはするのですが,そこはやはり駄目だというふうに決めないといけないのでしょうかね。 ○山本(弘)委員 ②が出てきた理由というのは,事務所,営業所を持っている者だけに限定するのは適切ではなくて,事務所,営業所は持っていないけれども,事務所,営業所に匹敵するようなコンタクトが日本にある事業者に対しても,日本で捕まえることができるようにしようという趣旨だったような気がするので,単発的な業務は除くというのは,②を作ったときのオリジナルな考え方からは必ずしも出てこないのではないかという気がいたします。事務所,営業所ではなくても,それと匹敵する程度の営業を日本でやっているような者であれば,事務所の所在にかかわらず日本の管轄を及ぼそう,そういう趣旨だったような気がするのです。だから,業務は必ずしも継続して行っているものに限定する必要はないのではないか,その業務から発生した紛争に限定する必要はないのではないかという気がするのですが。 ○髙橋部会長 考え方としてはあるのでしょうが,①ですと「営業所における業務」,これと②とはパラレルなのですね。継続している事業に係るものということで。実質は,御承知のドゥーイング・ビジネスに踏み込んだわけではないというのが立案者の頭なのですが。ただ,具体的な事件が来ますと,グレーゾーンがいろいろあるでしょうけれども。対外的説明をすることもないのでしょうが,ドゥーイング・ビジネスを日本がとるということをここの部会で考えているわけではないということですね。 ○道垣内委員 今2点お話がありましたうち,まず後者の方からですが,抽象的な業務範囲ということまで入れてしまうと,普通裁判籍に近くなってしまうのではないでしょうか。現代では,情報の管理が相当簡単なので,日本に何か拠点あるいは継続的な活動があれば,ビジネスができなくはない環境になっていると思います。そうすると,抽象的な業務範囲では限定がなくなってしまいかねませんので,日本で実際にコンタクトがあった場合に限られるのではないかと思います。すなわち,抽象的な業務範囲を含むか否かという点を解釈にゆだねてしまうと,とめどもなく広がってしまうおそれがあって,危ないのではないかと思います。これが第1点です。   それとの関係で申しますと,前者の方は,継続的ではなくても,日本での活動であるわけですから,それは山本幹事がおっしゃったように,事務所,営業所のたまたました業務と同じようなことであり,事務所,営業所がある者がたまたま日本でした一つだけの行為についても日本に管轄が認められるのと同じように,管轄を認めてもいいのではないかと思います。 ○横山委員 事務所,営業所の管轄というのは,ちょっと異なった起源を有するルールが①と②で混在しているように思いますので,解釈論としてなかなか難しいものがあるかなという気がします。もしドゥーイング・ビジネスということであれば,アメリカ法ではそもそも事業関連性については問わないのですから,ドゥーイング・ビジネスと継続的かつ組織的な取引活動と言われるものと事業の関連性というのがどう結び付くのかというのが,なかなか解釈論として展開するのは難しい。ほかの国の運用例から見て,それをそのまま持ってくるみたいな議論はなかなか難しいのではないかという気がします。   先ほど山本和彦幹事のおっしゃった第一番目の例などは,継続的という言葉の意味で,これまで継続してやってきたというだけではない,今後はまたそういうことも継続するということを取引の相手方が信ずるような外観があった場合には,やはり「継続してする」に当たることもあり得るので,②に該当しない,説明できない場合というのは,なかなか切り出すのは難しいということです。   もう一つ付け加えて言いますと,ここで余り広く射程範囲を認めるのは,今,道垣内委員がおっしゃったように,これはいかにも普通裁判籍に近くなってくるわけですが,他方で,今までの提案では,財産所在地管轄もありますし,ドゥーイング・ビジネスで言われているような場合,義務履行地管轄を日本はそれとして認めておりますから,そしてその他の併合管轄などもありますので,比較的ここは狭く解釈してもいいのではないかと思います。具体的にどう解釈するのか,そのようなことを言われても難しいですが,そのあたりが留意点ではないかと思います。 ○髙橋部会長 ほかにいかがでしょう。ここは恐らくパブリック・コメントを見ながら最終案を固めるときにもまた一つの大きな論争点になろうかと思います。   5の「社団又は財団に関する訴え」についてですが,表現につきまして前回も御指摘いただきましたが,やはりこういう形でいかがかということでございますが,御審議をお願いいたします。   かなりの部分は法制局マターかもしれませんが,中間試案としてはこのような形でよろしいでしょうか。   それでは,6の「不法行為に関する訴え」でございます。加害行為地と原因発生地だということは,(注)で示しており,予見可能性も表現の中に入れたということでございます。ここはいかがでしょうか。 ○道垣内委員 また表現上のことなのですが,3行目の「その地における結果の発生」ということなのですが,これはピンポイントでその地である必要はないわけですよね。日本においてその種の結果が発生することが予見できていればいいはずなので,あえて「その地」と言わなくても,「日本における」でいいのではないでしょうか。もう少し広げて書いてもいいような気がいたします。そのように解釈することになるとは思いますけれども,ちょっと気になるところです。 ○髙橋部会長 鹿児島県で発生したけれども,北海道でもいいというふうな話なのですか。 ○道垣内委員 鹿児島県で発生することまでを予見して考える必要はないということです。 ○髙橋部会長 御指摘ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○横溝幹事 以前に確認したのかもしれないですけれども,「不法行為があった地」と書いてありますが,例えば知的財産権侵害などに関して,侵害されるおそれがあるということで差止めを請求するような場合にも,この不法行為に関する訴えとして管轄を認める可能性があるという理解でよろしかったと思うのですが,それでよろしいのでしょうか。ただ,「あった」というと,文言上,若干違和感があるものですから,確認させていただく次第です。 ○小島関係官 基本的には含まれると考えています。文言は確かに検討する余地があるかもしれませんが,また考えてみたいと思います。 ○佐藤幹事 差止請求が不法行為に関する訴えに含まれるかというところは,いろいろ御議論はあるところですが,私どもの理解では,最近は含まれるという見解が強いのではないかと思います。ただ,いずれにしろ,最終的には解釈になるのだろうと考えております。 ○横溝幹事 ブリュッセル規則にする際に,差止めを念頭に,あったか又はあり得るみたいな文言にしたと思うですけれども,別にそれを排除するという趣旨ではないということですね。 ○佐藤幹事 それを特にこの「あった」ということで排除する趣旨ではありません。 ○髙橋部会長 7の「不動産に関する訴え」ですけれども,このあたりから専属性が出てくるわけですが,不動産に関する訴えについては,日本の裁判所に提起することができる,すなわち専属性はないということですが,いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 確認ですが,たたき台にあった乙案が落ちたのは,ここの議論の大勢が専属性は認める必要がないという議論だったからという理解でよろしいでしょうか。 ○佐藤幹事 全体を今回整理するときに,部会で本当にいろいろな意見が出ておりますので,ある程度整理をさせていただきました。補足説明には,ここはいろいろな御議論がございましたので,記載させていただくつもりでございます。さらに,中間試案に対するパブリック・コメントを踏まえて,秋以降も議論がされるものと理解しております。 ○髙橋部会長 続きまして,8の「登記又は登録に関する訴え」ですが,こちらは専属性がある,また,(注)で知的財産権も入るということでございますが,いかがでしょうか。 ○古田幹事 従前から,登記又は登録に関する訴えを専属にする必要はないのではないかという意見を申し上げてきました。今回は,その議論は繰り返しませんけれども,一つ質問があります。日本で登記又は登録をすべき訴訟は日本の裁判所の専属管轄にするという規定なのですけれども,逆に外国で登記又は登録をすべき事件に関する訴えを日本の裁判所が審理・判断することは妨げられないということでしょうか。 ○佐藤幹事 いいえ,違います。書き振りの問題をどうするかということもあろうかと思うのですが,外国の登記又は登録に関する訴えが日本で提起された場合には,それは外国にゆだねるということで訴えを却下することを前提とした規律になっております。 ○古田幹事 恐らくそうだろうと思いました。これから立法しようという話ですから,そうだと決めて立法するのであれば,それは一つの考え方だと思います。しかし,私がちょっと調べたところでは,日本の裁判所が外国で登記又は登録をすべき権利について本案判決をした裁判例は幾つかあります。一つは東京地裁の平成5年10月22日の判決です。これは,「被告は,米国の特許庁に対し,米国特許の譲渡登録手続をせよ。」という認容判決をした事例です。この東京地裁判決は控訴審で取り消されて請求棄却になり,最高裁で上告棄却になっているのですけれども,いずれにしても,一審,控訴審,最高裁,すべて本案判決をしておりますので,国際裁判管轄は認めたということになります。もう1件,平成16年3月4日の東京地裁の判決があります。これはヨルダン国における商標権の移転登録抹消請求事件です。東京地裁は請求を棄却しておりますけれども,やはり本案判決をしております。その後,控訴棄却になっておりますので,控訴審も本案判決をしたということになります。もし今回の事務局案で立法がされた場合には,これらの事件については今後は訴えを却下するということになるのだろうと思います。けれども,例えば当事者が両方とも日本の会社で,たまたま米国特許やヨルダン商標の帰属について紛争になった場合に,わざわざ米国に行って裁判をしろ,あるいはヨルダンに行って裁判をしろという必然性があるのか,疑問です。   もう一つは,日本の特許の場合なのですけれども,これは特許庁出願支援課登録室が編著者となって平成20年1月に発行された「産業財産権登録の実務」という書物の中で,「外国の裁判所における確定命令(判決)を登録の原因書として登録申請することができますか。」という質問に対して,「民事訴訟法第118条の要件を具備している確定命令(判決)であれば,登録の原因を証明する書面とすることができます。なお,登録権利者が単独申請する場合は,民事執行法第24条(外国裁判所の判決の執行判決)の規定による,日本の裁判所の執行文の付与を得て,その書面を添付しなければなりません。」という説明がされています。つまり,特許庁の実務では,外国判決を原因証書とする日本の特許の移転登録はできるという建前で現在も運用されていると思うのです。しかし,今回の事務局案で立法がされますと,今後それもできなくなります。そのような立法が本当に必要なのかどうかというところが,従前から申し上げているとおり疑問なところです。 ○佐藤幹事 今の御指摘の点ですけれども,恐らく最初に御紹介いただいたのはカードリーダーの事件でしょうか。私どもも,幾つか判決があるということは把握しておりますので,それも今後の部会の中で御紹介させていただくなどして,またこの点についても御議論を継続していただくことを予定しております。 ○山本(弘)委員 知的財産法の知識が全然ないものですから確認させていただきたいのですが,著作権について,登録すべき地というのは観念できるのでしょうか。 ○佐藤幹事 著作権にも登録制度があって,日本の著作権の場合は日本で登録することになろうかと思うのですが。 ○山本(弘)委員 分かりました。 ○髙橋部会長 8の「登記又は登録に関する訴え」につきましては,古田幹事の御発言なども参事官室による説明の中に反映させていただきたいと思います。   ほかによろしいでしょうか。 ○手塚委員 登記又は登録に関する訴えと言った場合に,特に知的財産権ですと,典型的には登録が無効だとか抹消されるべきだというように,知的財産法そのものに根拠があるような規定というのがあり得ると思うのですが,世の中には契約から生ずる請求で登記だとか登録に関するものもあって,例えば共同開発契約をしていて,共同開発から生じた技術については,特許出願は勝手に行ってはならず,共同でやらなければいけないとか,あるいは相談してからやらなければいけないといった契約上の縛りがかかっているにもかかわらず,他方の人が勝手にやってしまったという場合に,例えば勝手に登録したことに関する損害賠償の訴えなどは,多分カバーしていないはずですし,勝手にやったものをいったん取り下げろとか,取り下げてしまうと出願の関係で,先願というか,意味をなさないから,では名義変更してくれとか,そういう,いかにも契約から生じたもので登記又は登録に関する訴えというのもあると思うのですが,ここでの趣旨は,契約から生じているものは基本的には入らないという趣旨なのか,それとも,登記又は登録に関するものは,その種の,契約から生じた登記又は登録に関連する訴えというのを広く専属にする趣旨なのか,それはどういう趣旨なのでしょうか。 ○佐藤幹事 そこはいずれにしろ解釈にはなろうと思うのですが,契約から生ずる訴えについても,先ほど手塚委員もおっしゃいました,損害賠償になると恐らく入ってこないと思いますし,契約に基づくものであっても,登録の抹消などであれば入ってくるのであろうとは考えておりますので,契約かどうかという切り口で決まるというものではないと考えております。最終的には解釈になろうかと思いますが。 ○髙橋部会長 では,9の「相続に関する訴え」ですが,いかがでしょうか。   特にないようですので,それでは,第2全体についての後注で,債務不存在確認については特段の規律は置かないということですが,これは注として入れておくということでよろしいでしょうか。   それでは,第3の説明をお願いいたします。 ○日暮関係官 6ページの第3の「管轄権に関する合意等」について御説明いたします。   まず,第3のタイトルと1の見出しですけれども,部会資料15では,第3のタイトルを「合意管轄,応訴管轄」,1の見出しを「合意管轄」としておりましたのを,第3のタイトルにつきまして「管轄権に関する合意等」,1の見出しを「管轄権に関する合意」とそれぞれ修文しております。   1の「管轄権に関する合意」ですけれども,試案では三つの内容を御提案しております。   まず,試案①の本文ですけれども,国際裁判管轄に関する合意であるという趣旨を明らかにするために,従前,部会資料15では「管轄裁判所」としておりましたのを,「訴えを提起することができる日本又は外国の裁判所」という表現に修文しておりますが,これ以外につきましては変更はしておりません。なお,「日本又は外国の裁判所」とは,管轄権を行使するものとして合意した国に属する裁判所一般,例えば日本の裁判所ですとかアメリカの裁判所ということを意味することを前提としての御提案でございます。また,「第一審に限り」という表現につきましては,従前,この要件が必要なのかどうかというところについて御意見が出ていたところですけれども,これを残しておりますのは,例えば,第一審は外国の裁判所で行い,第二審についてのみ日本の裁判所で行うというような合意については無効とするために残したという趣旨でございます。   続いて,試案①のただし書ですけれども,第7回の部会における議論に基づきまして,部会資料15の甲案を一部修文したものを御提案しております。第7回の部会におきましては,外国の裁判所のみを管轄権を行使する裁判所として指定する合意について,最判昭和50年のチサダネ号事件の判示事項であります「その管轄の合意が甚だしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は格別,原則として有効である」とする基準を緩和した規律を設けるべきであるという御意見も出たところですけれども,このような最判昭和50年の基準を緩和した基準を具体的な規律として表現することは非常に難しいこと,それから,どの範囲の合意を有効とすべきか,どの範囲の合意を無効とすべきかという点について,第7回の部会におきましても御意見が一致することがなかったということ,かえって日本法に照らして公序法に違反すると考えられるような場合には,管轄権に関する合意の有効性が否定されるので,この点に関して特段の規律を設ける必要はないという御意見も出たことを踏まえまして,甲案を採用しております。   今回の提案は甲案を一部変更しておりますけれども,変更いたしましたのは2点でございます。   まず1点目は,「外国の裁判所の専属管轄を定めるもの」としておりましたのを,「外国の裁判所のみを訴えを提起することができる裁判所として定めるもの」と表現を修正しております。   それから,「管轄権を有しない」という表現でしたのを,「行使することができない」と今回修文しておりますけれども,これは,指定された外国の裁判所が管轄権を法律上有しないときだけでなく,事実上行使不能な場合も含めた規律にするために,事実上のものも含むということで表現を変えております。   続いて,試案②及び③ですけれども,これは部会資料15の本文③及び④から,「管轄権に関する合意」という訂正をしている以外には変更はございません。なお,部会資料15では本文②がございましたけれども,これは関連するほかの規律とともに,第7の「適用除外」としてまとめて規律することにしております。   続いて,2の「応訴による管轄権」ですけれども,こちらもタイトルを「応訴管轄」から変更しております。内容につきましては,国際裁判管轄に関する規律であることを明らかにするために,「管轄」という表現ではなくて,「管轄権」という表現に修文して,ただし書がついておりましたのを第7の「適用除外」においてまとめて規律することにした以外には部会資料15から変更はございません。   以上でございます。 ○髙橋部会長 それでは,合意管轄の方から御審議をお願いいたします。 ○松下幹事 内容にかかわることではないのですけれども,部会資料15では「管轄裁判所」となっていたところを,「訴えを提起することができる日本又は外国の裁判所」と言い直したことから生ずる問題だと思うのですが,「合意により」というのは,内容的には「定める」にかかっているわけですよね。しかし,その直前に「訴えを提起することができる」という動詞が入っているものですから,「合意により」というのはどこにかかるのかが見えにくくなっているのではないか。ですから,点を打つか,さもなければ,「訴えを提起することができる日本又は外国の裁判所を合意により定めることができる」と,どちらかにした方が趣旨がよりはっきりするのではないかと思いました。 ○髙橋部会長 御指摘ありがとうございます。 ○古田幹事 書き振りなのですけれども,第1の補足説明でもありましたが,今回は国際裁判管轄の範囲を決める立法ですので,どういう場合に日本の裁判所に訴えを提起できて,どういう場合に訴えを提起できないかを規律するわけですから,その点が明確になるような書き振りの方がいいのではないかと思います。例えば,「当事者が日本の裁判所に訴えを提起できる旨を合意したときには,日本の裁判所に訴えを提起することができる。」といった規律です。これは付加的な管轄合意の場合も専属的な管轄合意の場合も含むということです。もう一つは,「当事者が外国の裁判所にのみ訴えを提起できると合意した場合には,日本の裁判所に訴えを提起することができない。」という規律です。これは専属管轄の場合だけということになります。国際裁判管轄の立法としては,日本の裁判所に訴えを提起できる場合とできない場合の規律が明らかな書き振りにした方がいいのではないかと思います。いきなり合意の有効性から入るというのは抵抗があります。   それから,「第一審に限り」という文言を残すということなのですけれども,これは法制的な問題かもしれませんが,やはり疑問です。当事者が管轄合意をした場合に,それが有効か否かは,基本的には民事訴訟法上の規律に従うことになると思います。管轄合意が効力を有するか否かは民事訴訟法に照らして判断することを前提として,例えば日本の裁判所を管轄合意すれば日本の裁判所に訴えることができる,外国の裁判所のみを合意管轄で定めれば日本の裁判所に訴えることはできない,そういう書き方にした方がいいのではないかという気がいたします。   もう一つは,チサダネ号事件の最高裁判例との関係をどうするかという点です。今回あえて規定を置かないという事務局の御説明でした。これは以前の部会の議論でもありましたけれども,事務局案で立法したときに,チサダネ号事件の最高裁判例が以後も先例価値を有するのかどうかという点で議論が分かれたと思います。現状の実務はチサダネ号事件の判例準則を前提にして,国際的な専属管轄合意の有効性を判断しているわけですけれども,その判例準則との関係を明確にしないまま事務局案で立法をしますと,外国の裁判所を専属管轄とする合意の有効性の判断基準は,法令上もはっきりしないし,かつ,昭和50年の最高裁判例が先例価値を有するかどうかもはっきりしないという状態が,立法後当分続くことになります。そのような混沌とした状態が続くようでは,実務的にはやや混乱を招くのではないかと危惧します。ですから,専属管轄合意の有効性については,やはり今回の立法で何らかのルールをつくることを試みた方がいいのではないかと思います。 ○山本(克)委員 今の「第一審に限り」という文言ですが,(補足説明)の1のところでなぜ残したかを書いてあるのですけれども,第二審に訴えを起こすということはないので。①の文言ですと,訴えを起こすことができる裁判所がどこの国の裁判所かということですから,第二審に行くときは,上訴ないしはそれに類する不服申立行為があって初めて行くわけですよね。ですから,仮に日本の高等裁判所に訴えを起こしてきたら,それはただの訴えであって,控訴ではありませんので,そもそも日本では,訴えという形で第二審に来るということはあり得ないわけですから,やはり「第一審に限り」というのは要らないというか,むしろ国際裁判管轄というものに対する誤解を招きかねないので,削除した方がよろしいのではないでしょうか。 ○髙橋部会長 御指摘を踏まえて,また検討いたします。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,応訴管轄の方に移りますが,ここはいかがでしょうか。 ○古田幹事 細かい質問なのですが,「第一審裁判所において」という限定がついていますが,例えば,日本の裁判所に訴えを提起された被告が第一審では国際裁判管轄を争ったのだけれども,控訴審の段階では国際裁判管轄の抗弁は撤回をして本案で弁論をしたような場合には,日本の国際裁判管轄を認めてもいいように思います。本案の弁論をするのを「第一審裁判所において」というふうに限定する理由は何か特にあるのでしょうか。 ○山本(克)委員 今の点は,第一審で管轄違いの抗弁といいますか,管轄権がないことの抗弁を出さなければ当然に応訴管轄が生ずるのだということを言うためにはこう書かざるを得ないのではないかと思います。控訴審でもはや言わなかったときについては,事後的な合意管轄のようなものがあるというような解釈論で何とかなるのではないでしょうか。仮に古田幹事がおっしゃるような結論をとるためには,そのように考えれば済むのではないかという気がしますが。 ○髙橋部会長 第4に移りますが,まず,第4の1,2の説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 まず,1の「海事に関する訴え」ですが,これは部会資料15から実質的な変更はございません。船舶を担保にする債権に基づく訴えについては,(注)で記載しているとおり,これは第2の3における検討と関連していることを理由とするものです。   それから,2の「知的財産権に関する訴え」についても従前と実質的な変更はございません。従前は,登記又は登録に関する訴えの表現を踏まえて,「登録をすべき地」という文言にしていたのですが,ここで想定されている訴えは,既に登録されている場合が前提になるので,文言を「登録の地」と変更しております。そのほかは部会資料15から実質的な変更はございません。   なお,侵害訴訟については特段の規律を置かないということを,確認のため(注)で記載しております。   以上です。 ○髙橋部会長 まず,1の「海事に関する訴え」ですけれども,②は,甲案,乙案の併記という形で中間試案にさせていただきたいということですが,いかがでしょうか。   これはパブリック・コメントでどういう御意見がいただけるかということになりましょう。   それでは,2の「知的財産権に関する訴え」ですが,若干の修文はございますが,いかがでしょうか。特に御意見がないようですので,中間試案はこのような形とさせていただきます。   次の消費者契約と労働関係について説明だけさせていただいて,その後,休憩にしたいと思います。 ○北村関係官 それでは,3の「消費者契約に関する訴え」について御説明いたします。   ①の消費者から事業者に対する訴えの規律につきましては,部会資料16から実質的な変更はございません。   ②の事業者から消費者に対する訴えの規律につきましては,部会資料16の本文②の甲案と内容面で同じでございます。   (補足説明)に記載しておりますとおり,第8回部会におきましては,事業者の予測可能性も考慮して,事業者が訴えを提起することができる場合を更に認めるべきとの御意見もございました。他方,本文③の管轄権に関する合意が効力を有する場合を,部会資料16では,事後の合意と消費者が援用した場合のみとしておりましたけれども,それ以外にも認められるのであれば,管轄権の合意によって事業者の予測可能性も確保することができるとの御意見が多かったことも踏まえまして,中間試案としましては,試案②で訴えを提起することができる場合を更に認めるという方向ではなく,③の場面で検討することといたしております。   なお,従前いわゆる専属的な国際裁判管轄が認められる場合には,②のアに適用除外という形で置いておりましたけれども,今回,第7で適用除外の規律をまとめておりますので,その部分を削除しておりますが,内容的には変更はございません。   試案③の管轄権に関する合意につきましては,今御説明しましたとおり,第8回部会での御議論を踏まえまして,アの事後に合意した場合,ウの消費者が合意を援用した場合のほかに管轄権に関する合意の効力を認めるかどうかにつきまして,イの部分で甲案,乙案,丙案の3案を提案しております。   甲案は,消費者契約締結時の消費者の住所がある国の裁判所を合意した場合には,合意の効力を認める,ただし,その合意は付加的なものに限るという内容でございます。例えば,消費者契約締結時に日本に住所がある消費者と日本の事業者が消費者契約を締結し,その際,日本の裁判所を合意した場合には,その合意は効力を有するという形が甲案でございます。   乙案は,消費者契約締結時の消費者の住所がある国で,その国に第2の規律,すなわち,いわゆる国内で言いますと特別裁判籍といったものが認められる場合に,その国を合意した場合には合意の効力を認める,ただし,その合意は付加的なものに限るという規律でございます。少し分かりにくい規律でございますけれども,例えば,消費者契約締結時に日本に住所がある消費者と日本の事業者が消費者契約を締結し,第2の1の①の規律,すなわち契約において定めた契約上の債務の履行地が日本にある場合,義務履行地が日本にある場合には,その合意は効力を有するとするものでございます。   丙案は,合意の効力が認められる場合をアとウ以外には認めないとするものでございます。   そのほか,11ページの(補足説明)3(2)の「なお」以下で,いわゆる能動的消費者について触れております。試案③で甲案,乙案をとったとしても,法の適用に関する通則法第11条第6項第1号,第2号のいわゆる能動的消費者については,消費者契約関係の訴えの規律が適用除外となるわけではございません。すなわち,外国の消費者が日本に来て日本の事業者と契約を締結した場合には,日本の裁判所を合意したとしても,③の甲案,乙案ではその効力を認められるというわけではございません。もっとも,通則法第11条第6項第1号,第2号で,いわゆる能動的消費者の場合に,消費者契約の関係の規定の適用除外としておりますのは,常居所地と異なる法域に自ら赴いて契約を締結するなどした以上,消費者保護規範も含めて,その消費者が赴いた地の法が適用されることは合理的であると考えられるからだと考えておりますけれども,国際裁判管轄の場合,準拠法選択の場面よりも,消費者保護の規律の適用を受けられないことについては消費者の不利益が大きいと言えるため,いわゆる能動的消費者の規律については設けないことでよいのではないかと,従前の御議論も踏まえて考えたところでございます。その旨を記載しております。   続きまして,4の「労働関係に関する訴え」につきまして御説明いたします。   変更点でございますけれども,部会資料8,16で用いておりました「労務を提供すべき地」という文言につきましては,今回,中間試案として広く提示することを踏まえまして,通則法と異なる用い方をしているということが分かりやすくなるように,通則法と異なる「労務の提供地」という文言を用いておりますけれども,内容的に変更はございません。この部分は,今後なお法制的な面も含めて適切な文言を検討していきたいと考えております。それ以外につきましては,「消費者契約に関する訴え」の②と同様,専属的国際裁判管轄の規律を削除しておりますけれども,いずれも内容には従前の部会資料と変更はございません。   以上でございます。 ○髙橋部会長 ここで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○髙橋部会長 それでは,再開いたします。   まず,3の「消費者契約に関する訴え」に絞って御審議をお願いいたします。 ○山本(克)委員 ③のイの甲案,乙案の括弧書きですけれども,この趣旨がもう一つよく分からないのです。専属的合意管轄を除くという趣旨なのですが,そうすると,日本を合意によって指定するという,日本の裁判所を指定するというところは無効になってしまうということになるのでしょうか。単に専属性だけを否定して付加的合意管轄とみなすのであれば,それは理解できるのですけれども,この書き方ですと,日本を指定しているところまで無効だというふうに読めてしまうので,恐らくそういう趣旨ではないと思うのですけれども,少し表現を工夫していただいた方がいいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 もちろんそういう趣旨ではないわけですが,表現のところは工夫をいたします。 ○山本(弘)委員 若干内容にもかかわることなのですけれども,ウの書き振りですと,これは前回も議論され,確認されたところなのですが,(補足説明)にあるように,事業者が外国の裁判所に提起した訴えにおいて,消費者が,管轄に関する合意に基づき日本の裁判所が管轄権を有する旨主張し,その訴えが却下された場合は,管轄の合意として有効になるという効果はウからは出てこないということになりますので,②のイでは救えないということですよね。事業者が日本の裁判所に訴えを提起したときでも,合意管轄が有効であるから日本の裁判所に管轄が生じるという扱いはできないことになりますよね。だからこそ,(補足説明)で信義則による無効の主張制限うんぬんという議論が掲げられているのだと思うのです。やはり両方とも有効になるという書き振りをした方がいいのではないかなと思います。援用があれば,外国で提起された訴えにおいて,日本を管轄裁判所とする合意を援用した場合であれ,日本で提起された訴えで外国を管轄とする合意を援用した場合であれ,すべて有効になると書いておけば,(補足説明)のケースは多分②のイで救われることになるのだろうと思うのです。その管轄の合意が効力を持つときということになるので。私はやはりその方がいいのではないかという気がするので,ウの書き振りを双方的にした方がいいのではないかという気がいたします。ちょっと書き振りが難しくなるかもしれませんが。 ○山本(和)幹事 私もその御意見に賛成です。先ほど若干古田幹事から異論が出ましたけれども,第3の1の管轄合意のところは双方的な書き方をされているので,③の部分はその特則に相当すると思いますので,そういう意味では,ここも双方的に書いた方がきれいなのかなと思います。要するに,消費者が合意に基づいて認められている裁判所に訴えを提起したときとか,あるいは消費者が合意を援用して,合意されていない裁判所での訴えが提起できないという抗弁を出したときというような,書き振りは検討しなければなりませんが,そのような書き振りをした方が私もよろしいように思います。 ○髙橋部会長 援用という言葉が使えないのでなかなか苦しいところですが,御指摘いただいたところはよく分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○三上委員 確認でございますが,先ほどの山本克己委員の御発言は,非常に重要な点で,お願いしたいということと,部会資料16の方の読み方を間違っていたのかもしれないのですが,今回提案された③の場合には,例えば,事業者から消費者に対して,契約締結のときとか,第2の規律によって,管轄があるところで訴えようとすると,合意自体は必要だということになるのでしょうか。つまり,当事者間に特別な合意がなければ訴えることはできない,そういう趣旨ですか。 ○髙橋部会長 はい。 ○三上委員 逆に言いますと,合意があれば,書き方が専属なのか非専属なのかあいまいになっていても,少なくとも日本で訴えられるという範囲においては合理的解釈ができるという理解でよろしいですか。 ○髙橋部会長 はい。 ○山本(和)幹事 すごく細かいことで恐縮なのですが,②で第1の1の規律が除かれているわけなのですが,第1の2の外交官は除かれないのかなというのがちょっと……。外交官が消費者契約を結んだような場合というのは,実際にはないとは思いますが,論理的には除かれてもいいのかなという気がしたということです。 ○髙橋部会長 ここは,甲案,乙案,更には丙案までありまして,パブリック・コメントの結果を受けて,また秋以降,更に審議していくところでございますが,11ページの(補足説明)3(2)なお書きにあります能動的消費者は,中間試案としては規定を置かないといいますか,それを書くことをしないということですが,ここは大体そういう御意見の方が強かったということでそうさせていただきました。もちろん参事官室による説明の中では触れるはずですが,よろしゅうございましょうか。   それでは,ここも難しいところでございますが,こういう形で中間試案とさせていただきます。   次に,4の「労働関係に関する訴え」ですけれども,補足説明は短いのですが,内容的にはここも大きなところでございますが,いかがでしょうか。 ○長谷川委員 確認ですが,①にある「労務の提供地」について,現在はこういう表現をするということなので,それでいいと思うのですが,これは,この間の議論で複数あるというような意見で来たと思うのですけれども,その理解でいいのでしょうか。   それと,私もちょっと前回舌足らずだったのですが,今回,「労務の提供地(その地を特定できない場合にあっては……)」となっているのですが,「労務の提供地又は当該労働者を雇い入れた事業所の所在地」とした方がそれでもっと拾えるのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。前回そういう意見もあったような気がしているのですが。 ○北村関係官 まず,「労務の提供地」という言葉を今回選択したのは,先ほども御説明したとおり,通則法と同じだと一つに限られるという解釈になるかなと思ったので,とりあえず別の言葉を置いたということで,従来から御説明させていただいているとおり,複数あるという解釈を変えているわけではございません。 ○佐藤幹事 括弧内の雇入地ですが,従前の御議論は,この括弧が必要なのかどうかという御議論であったかと理解しておりまして,これを補足的な管轄の原因となる地と見るのかが議論されたものと理解しています。今のお話だと,むしろ雇入地も一つの並列的なものとするという御意見だと思いますが,この試案自体は,主たる労働者のアクセスという意味では労務の提供地が主であろうということでそちらを挙げさせていただいて,ただ,そこが特定できない場合は雇入地にするということを前提にしているものでございます。 ○高田委員 長谷川委員もおっしゃいましたように,労働者側が提起する訴えですので,括弧内を残すのであれば「特定できない場合」という限定する必要性は必ずしもないように思いますので,私自身も「又は」で結ぶという選択肢は十分あり得るのではないかという印象を持ちました。確か前回,道垣内委員もそうおっしゃったような気もいたしますが。なお御検討いただければと思います。 ○道垣内委員 私が申し上げたのは,この「雇い入れた事業所の所在地」を削除してしまうよりはあった方が労働者保護に資するのではないですかということだったと記憶しております。前回は,これを削除した方がよいという御趣旨がよく理解できなかったので,質問の中で,その選択もあり得るということを申し上げただけです。私は必ずしも「又は」とするとの考え方をしているわけではありません。 ○髙橋部会長 労働関係もいろいろと御議論いただきましたので,参事官室による説明にはそれなりのことが書かれると思いますが,中間試案としてはこういう形でよろしいでしょうか。 ○古田幹事 事務局案ですと,事業者が労働者を訴える場合には,基本的には労働者の普通裁判籍が日本にないと日本では裁判ができないということになります。これは以前にも申し上げたかもしれませんが,ちょっと狭いような気はします。消費者契約の場合には,管轄合意の効力を一定の限度で認めて,例えば,契約締結時の消費者の住所が日本にあるときに,日本の裁判所を管轄裁判所とする合意は有効にするというような規律も想定されているのですから,労働契約の場合にも,例えば労務の提供地が日本である場合に,日本の裁判所を合意管轄裁判所とする場合とか,あるいは,日本で雇入れをした労働者について日本の裁判所を管轄合意裁判所とするような場合については,管轄合意の効力を認めるという選択肢もあり得るようには思うのです。その点は補足説明の中で議論するということでしょうか。 ○佐藤幹事 当然これまでの議論で十分出ていると思いますので,そこは記載させていただく予定でおります。 ○手塚委員 繰り返しなのですが,消費者契約に関する訴えの方で認められた範囲で合意管轄があり,かつ契約締結時の住所地でもあり,かつそこが義務履行地になっている等の特別裁判籍もあるという,その三本,合わせ技一本というのですかね,そのぐらい整っているのであれば,消費者との並びで労働者についても,合意管轄を事業者からの訴えで認めた方がいいのではないかと私は思っていて,それはやはり,何度も申し上げているように,とりわけ高給取りで,秘密保護の必要性の高いような人がヘッドハントで,家族も家も日本にまだ残っているのだけれども,本人だけアメリカへ行ってがんがん競争しているというようなときに,権利濫用とか信義則というよりは,むしろその程度はやはり合意管轄でというのは認めてほしいなと私は思っております。 ○山本(和)幹事 今日余り議論するところではないのかもしれませんが,消費者は自分で自分の常居所地,住所地は選べるわけですけれども,労働者の場合は,使用従属関係に基づいて,この国で労務を提供しろということになるとすれば,それは仮に債務履行地,あるいは普通裁判籍がその国にあって,合意管轄がされても,それはすべて使用者の一存でそうなっている可能性もあり得るわけなので,やはりそれは消費者と完全にパラレルに考えることはできないのではないかと私自身は思っています。 ○手塚委員 私が申し上げているのは,私が申し上げたような範囲で合意管轄が一応効力を持つとしても,特段の事情ではねるということはやはりあり得て,それこそ従属的にそういうところで,本来の常居所地でもないところが住所になっているようなときには,例外的に処理しても構わないと思うのですが,今の規定ですと,本当に事業者としては,濫用的な,不法行為者的従業員というのでしょうか,それに対する日本における手段がなく,かつ,現在の仲裁法だと仲裁合意を入れても駄目だとなってしまうので,ちょっとそれだと救いがないなと,そういうポイントです。 ○長谷川委員 例えば,手塚委員がおっしゃるように,すごい高給取りの労働者に限るというのはどのように書くのか。労働者と使用者の労働契約のときの合意の問題をいろいろ申し上げてきたのですけれども,言っていることは分からないわけではないのだけれども,では,すごい高給取りで,そういう労働者をこの中でどう規律するかというのはすごく難しいのではないですか。 ○手塚委員 私は別に給与で基準をつけると言っているのではなくて,もともと日本に住んでいる人と日本で契約をして,かつ合意管轄は日本だよと,そして,日本で競争してはいけないとか,日本向けに競争品を輸出するようなところに勤めてはいけませんとか,そういう条項を入れていたのに,それが合意に反して外国へ行ってしまいましたというときに,それは給料の額にかかわらず,そういうものについては管轄を認めた方がいいと思うのですが,よく見てみたら,山本幹事がおっしゃったみたいに,本来の常居所地でもないのだけれども,かなり拘束的にというか,押しつけでたまたま日本にいて,その人を日本で訴えるというのは,確かに契約にはあるかもしれないけれども,ちょっと気の毒だと思うのです。そういうときこそ特段の事情で却下すればいいので,余りにも例外なしに事業者が救われないようなところで線を引くのはどうかなということです。 ○髙橋部会長 ここ数回その議論をしておりますので,参事官室による説明には,それは十分反映して,パブリック・コメントを受けて,また秋に審議いたしますが,今日の段階で中間試案を変えるのは大勢ではないように思います。それが問題点であることは,長谷川委員も,手塚委員が言われることは分かるとはおっしゃいましたので。そういう問題が起こり得ることはそのとおりなのですが。では,参事官室による説明ということでよろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,次の第5,「併合請求における管轄権」ですが,まず説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 併合請求につきましても,実質的な内容については部会資料16から変更がございません。ただ,文言として,④の甲案,乙案につきましては表現を変えておりますが,これも実質的には国内管轄で言うところの法令上の専属管轄あるいはほかの裁判所の専属管轄に属するというようなことを表現しようとしたものでございます。   それから,この点につきましては,今回は中間試案ということで実質的な内容を提示させていただいておりますが,国内の法令として規定する段になりますと,反訴で言いますと民事訴訟法第146条とか,そのあたりとの関係をどう書いていくのかという点が問題になろうかと思います。今回は,規律の実質的な内容を切り出して,こういう規律でいかがでしょうかという形で提示させていただいたものでございます。   以上です。 ○山本(克)委員 表現振りにかかわる問題で,実質にかかわる問題ではないのですが,④の乙案の括弧書きは,専属的合意管轄を念頭に置いておられると思いますけれども,合意管轄の場合における管轄権を有することとなる事由は合意ですから,それが外国にあるとかないとかいうことは言いにくいのではないかと思いますので,甲案の「あるとき又は」という形で外国を指定する専属的合意管轄というのを切り出した方が表現としては適切なのではないかという気がいたします。 ○佐藤幹事 表現についてはまた検討させていただきます。 ○古田幹事 これも表現振りの問題なのですが,①が客観的併合についての規律で,③が主観的併合についての規律を想定しているのだと思います。したがって,主観的併合と客観的併合が競合しているような事件の場合には,客観的に併合されている請求の間では①の規律で管轄を考えて,主観的に併合されている請求の間では③の規律で考えるというのが立案者の意図だと思います。けれども,今の文言だと,①の括弧書きで「数人からの又は数人に対する訴えを除く」と言ってしまっていますので,主観的併合と客観的併合が競合しているような事件の場合には,①は全く適用されなくて,客観的に併合されている請求の間についても,主観的に併合されている請求の間についても,③だけが適用されるという読み方になってしまう可能性もあります。この点は更に検討した方がよいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,第6の「国際裁判管轄に関する一般的規律」ですが,まず説明からお願いします。 ○佐藤幹事 この点につきましては,前回御議論をいただいておるところでございまして,前回御指摘いただいた点を踏まえて,主体を裁判所としたこと,それから,当事者の申立ての有無にかかわらないという形に変更したということで,「申立てにより又は職権」という表現を修文いたしました。ほかには特に変更はございません。 ○髙橋部会長 ここも「証人の住所,検証物の所在地」という表現でいいかというのは御議論いただきましたが,中間試案としてはとりあえずこういう形で出させていただきたいということですが。 ○古田幹事 文章の末尾が「できるものとする」という記載になっているのですが,これは特別の事情があっても,なお却下しない裁量が裁判所にあるという趣旨なのでしょうか。今までの最高裁の考え方というのは,特段の事情があれば訴えを却下しなければならないという建て付けだったように思います。最高裁判例の考え方に沿って立法化するのであれば,この文章の末尾も,「訴えの全部又は一部を却下するものとする」とか「しなければならないものとする」という,裁量の余地がない書き振りになるのではないかと思います。 ○横山委員 前回は,当事者の予測ということを考慮要素とした方がいいので,個人的には比較的多くの賛同者がいたような印象を持っていたのですが,その点については記載がありませんけれども……。 ○髙橋部会長 御指摘いただいたことはよく覚えております。 ○佐藤幹事 実質的に当事者の予測というのは考慮要因に入るということを否定する趣旨ではないのですが,そのあたりは,法制的にどのような文言を使えるかということもございます。文言自体はまた検討していきたいとは思っております。 ○手塚委員 これはコメントというよりは質問,確認ということかと思いますが,先ほどの古田幹事の指摘にあるように,もし最後のところで,「却下することができる」ということではなく「却下するものとする」という,言わば管轄権が例外的になくなるのだという規定にした場合なのですが,間接管轄の場合に,他国で管轄権を認めてはいたけれども,いろいろな事情から見て当事者間の衡平を害し,適切かつ迅速な審理の実現を妨げるような事情があったにもかかわらず却下しなかった場合には,承認・執行のところで,日本的な管轄基準からすればそれを却下すべきだったから,承認・執行を認めないのだというところまで多分使えそうな気がしますし,裁量的に却下できたのだというような形で,言わばフォーラム・ノン・コンビニエンスのような制度だと考えると,裁量権の行使が著しくおかしい場合などでないと,直ちに日本法的には間接管轄が否定されると言えないのかなという気がします。私は,今までの流れで言うと,「却下することができる」という書き方の方が何となくいろいろな場合に対処できるような気はしているのですけれども,そういうふうに書いた場合の一つの問題点としては,間接管轄のところでどうなるのだというところが一つ問題が出てきてしまうので,そこはどういう御見解になっているのかを御教示いただければと思うのですが。 ○古田幹事 事務局の考えとしては,適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認める場合であってもなお訴えを却下しないことができる,という趣旨の案文なのでしょうか。 ○手塚委員 これも「却下しなければいけない」というような規定にしますと,特別裁判籍はともかくとして,普通裁判籍の場合でも,当事者間の衡平だとか適正迅速というところを裁判所はいちいち全部審理して,却下しなければいけないのかどうかを考えなければいけないのではないかと思うのです。それで,普通裁判籍でそこに住所があってというときに,それでも証拠はみんな外国だというような理由で外国でやってくれと言われたときに,私の実務感覚からすると,そのようなものは裁量権としては別に却下しないのだということを裁判所ができた方が,いちいちこの要件があるかどうかを見なければいけないというよりは実務的にはワークしやすいのではないかという気がするのです。だから,普通裁判籍まで入っていて,そういうエクイティー的にというか,あるいは審理の迅速性その他の要件を全部見た上で,却下するかどうかいちいち決めなければいけないというのはどうかなと。そこは私はちょっと疑問に思っているのです。 ○古田幹事 そこは立法ですので,どちらでも可能性はあると思うのですが,少なくとも平成9年の最高裁判例では,民事訴訟法が規定する裁判籍のいずれかがあれば,原則として国際裁判管轄はあるのだけれども,当事者間の衡平,裁判の適正迅速を期するという理念に反する特段の事情があるときには,国際裁判管轄を否定すべきであると定式化していますので,特段の事情があれば訴えを却下することが義務的になっているのですね。今回の立法で,特段の事情があるときでも,裁判所になお却下しないという裁量があるのだということになると,平成9年の最高裁判例とはちょっと違うことになるのではないかと思います。それで,先ほど,事務局としてどちらのお考えなのかというのを伺ったのです。 ○佐藤幹事 そこは今の段階ではっきりとお答えできないのですが,基本的には,こういう事情があるときは訴えを却下するという権限を付与することなのだろうと思いますので,「できる」という書き方も,その中にいろいろなニュアンスで書かれているものがあるものですから,そういうものも踏まえて検討しないといけないかなとは思っております。   あと,間接管轄につきましては,そもそも間接管轄が全くの鏡像というかミラーなのかどうかというようなところもありますし,特段の事情をどうするのかというところ自体解釈の余地がかなりあるところだと思いますので,こちらの書き振りが,もちろん影響を与えるとは思いますけれども,間接管轄そのものを直ちに縛ってしまうというものではないのかなと思っているのですが,そこはまだいろいろな見解もある分野であろうと思っておりますので,いずれかの立場をとっているというものではありません。 ○青山委員 私は原案に賛成です。こういう例外的なものは,ただ権限を与えて,その権限の行使を義務的にするというのではなくて,権限を与えて,かつ,それは裁量に任せていいのではないかと思います。直接管轄,間接管轄の関係では,直接管轄のあるものとぴったり一致して間接管轄があるということでも必ずしもないと思うので,こういう例外的なものは,少し食い違うことがあっても,それは構わないのではないだろうか。このままに書いておくと,確かに「できる」の解釈について疑義が生ずることがあるけれども,それはこれからの国際民訴学者の楽しみとしてとっておけばいいのではないだろうかというくらいに思っております。 ○髙橋部会長 これこれの事情があると認めるときはという,要件自体が抽象的ですのでね。少なくとも,「できる」という表現によって強い裁量性というのですか,自由裁量に近いようなものを与えたという感覚は余りなかったと思うのですが,逆に,「却下しなければいけない」とやると,これもまた強くなり過ぎる。「できる」という表現はいろいろな意味を持ちますので,その解釈論になるのでしょうが,皆さんもここで裁判所に強い裁量性を与えるものだとまでは思っていないということは大体よろしいですね。あとは,「できる」という表現をするかどうか,少しお任せいただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。   では,第7の「適用除外」は条文の整理みたいなものですが,この説明をお願いします。 ○佐藤幹事 従前は,国内管轄で言うところの法令上の専属管轄の規律につきまして,例えば管轄権の合意のところですとか応訴とか,それから労働,消費者,いろいろなところに個別に規律を設けていたのですが,中間試案を提示させていただくということで少し整理いたしまして,言わば法定専属管轄に類するものが優先する場合をここで明示させていただいたものです。   第1が人に対する訴え等,第2が国内で言う特別裁判籍で,そのうち括弧内でいわゆる専属管轄に当たるものを除いております。第3が管轄権に関する合意の部分でして,第4が個別の分野ということで,第4の2を除いているのは知的財産権の部分です。それから,第6ということで,これは特別な事情による却下を認める規定ということで,これについては,専属的な規律が優先することを明らかにするためのものでございます。   以上です。 ○髙橋部会長 ここは,条文は形式で,実質はそれぞれのところで専属性があるかとその他のところですが,何か御注意いただくところはございますか。 ○古田幹事 第5が入っていないのは何か特別な理由があるのでしょうか。 ○佐藤幹事 第5は④のところで規律を置いています。その理由は,第5で適用になるのは「管轄権を有することとなる事由が外国にあるとき」ということで,外国にある場合なものですから,ここで個別に置かせていただいたというものでございます。 ○古田幹事 分かりました。 ○山本(和)幹事 ここに書かれている第1,第2,第3というのは,日本の裁判所に訴えを提起することができる場合を書いているわけですよね。その規律が,日本の法令に日本の裁判所のみが管轄権を行使する旨の定めがある訴えについては適用しないということの意味がもう一つはっきりしないような気がします。趣旨としては,外国に,日本の法令であれば,例えば外国の登記又は登録を求めるような訴えであって,その場合には普通裁判籍,第1などを適用しない,そういうことなのですよね。 ○佐藤幹事 おっしゃるとおりです。 ○山本(和)幹事 先ほどの第5の④の甲案とか乙案とかというのは,「管轄権を有することとなる事由が外国にあるとき」と書かれているので,はっきりする感じがするのですが,第7のところはそれが書かれていないので,少し変な感じがいたします。誤解する人もいないのかもしれないですけれども。 ○髙橋部会長 御指摘のとおりですね。 ○佐藤幹事 専属管轄に近いものをどう書くのかという点については,日本にどういう場合に訴えを提起することができるのかという形で統一的に書いているものですから,書き振りに苦労をしたのですが,趣旨としては,今,山本幹事から御指摘があったように,外国に専属管轄になるような事情がある場合,そのときに,国内に普通裁判籍のようなものを適用する事情がある場合でも,それは専属的な規定を優先するということを言わんとするものです。 ○山本(和)幹事 内容は全く賛成なのですが,表現の問題だと思います。 ○山本(克)委員 確認ですけれども,第6は,日本に法定専属管轄があって,それを第6で否定することはできないということですから,そこは違いますね。 ○髙橋部会長 中間試案で間に合うかどうか分かりませんが,最終的には分かりやすい表現にしたいと思います。   では,第8の「国際訴訟競合に関する規律」ですが,説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 この点につきましても,前回の部会で御議論をいただいたところです。(注)には,試案自体は単に不服申立てとのみ書いてあり,そこがA案,B案の相違点になりますので,試案を出す段階で,不服申立ての制度,手続を考えるに当たっての検討事項を注記した方が分かりやすいのではなかろうかということで注記をさせていただいたものでございます。   以上です。 ○髙橋部会長 ここも随分御議論いただいたところですが,こういう形で中間試案とするということでよろしいでしょうか。   それでは,最後の「保全命令事件に関する規律」の説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 保全につきましては,第8回部会で御議論いただいたところですけれども,その議論を踏まえまして,部会資料16でいう甲案を提案させていただいているところでございます。ただ,部会の中でもいろいろな問題点等は御指摘いただきましたので,検討すべき事項につきましては補足説明の中に記載するつもりでおります。 ○髙橋部会長 御質問,御意見はございますか。   それでは,最後の最後に(全体についての後注)で,国内土地管轄の規定を考えなければいけないものがあるだろうけれども,それは更に検討するということが書いてあります。 ○山本(和)幹事 それ自体は全く問題ないのですが,これ以外にもあるのではないかと思うのです。例えば合意管轄で日本の国際裁判管轄の合意だけはしているけれども,国内のどこかというのは合意をしていないし,国内に普通裁判籍も特別裁判籍もないとか。ですから,これは「等」などを入れた方がいいのではないでしょうか。 ○髙橋部会長 ありがとうございます。   では,また全体に戻りまして,個別の問題の再現でも結構ですし,全体についての御発言でも結構でございますが。 ○古田幹事 ちょっと細かい点ですが,資料3ページの「財産権上の訴え」の②乙案のイでは,「外国裁判所が,差し押さえることができる被告の財産が」と書かれていますけれども,この「差し押さえることができる」という部分は必要なのでしょうか。例えば,外国の裁判所が差し押さえることができる財産かどうか,例えば差押禁止財産に該当するか否かを検討しないで,単に被告の財産があるという理由で管轄を認めたような場合に,今のイの文言ですと,これが適用になるのかどうかはっきりしないと思います。解釈の問題かもしれませんけれども,「差し押さえることができる」という文言は削除してもいいのではないかと思いました。 ○髙橋部会長 ②全体の平仄もありますが,御指摘の点は分かりました。   ほかにいかがでしょう。 ○道垣内委員 前から思っていることなので,もしかしたら一度申し上げたかもしれないのですが,全体の並べ方なのですけれども,第3と第4がこの順番であることは必然的なのでしょうか。第4というくくりの中に,民事訴訟法第5条に入っているものの一部があり,また,新しいものも入っています。「個別分野」という言い方ですが,例えば6ページの9の相続なども個別分野であるようにも思います。私としては,第2に全部入れてしまってもいいと思うのです。間に第3として「合意管轄」が入っているのが,読んでいて,どうなのかなと思った次第です。何か理由があってのことでしょうか。 ○佐藤幹事 今の構成自体は,従前の研究会からの流れでこのようになっているところがある程度あります。合意管轄が先に来ているのは,労働,消費者の規定に特則が置かれているということで,先に合意管轄自体を検討した方がよいのではないかというようなことが理由です。ただ,例えば海事に関する訴えは今も民事訴訟法第5条の規定に入っておりますし,最終的な並べ方は考えなければいけないと思っております。そのような議論も出ていたのですが,今回,中間試案の段階でそこを私どもの方で考えて並べかえをしてしまうと非常に分かりにくいのではなかろうかと,逆に,どこに何が行ったということが分かりにくくなることもあるのではないかと思われました。ということで,中間試案は従前の部会資料に沿った構成で提示させていただいて,また秋以降の議論の中でその点は考えて部会資料を作っていきたいと考えております。 ○山本(克)委員 先ほどの古田幹事の御発言なのですが,私は,「差し押さえることができる」というのを残した方がよろしいのではないかと思います。というのは,債権については,所在地をどうするかというのは倒産法と執行法で扱いが違っておりますので,どちらが基準になるかということを明確にするという点では,民事執行法の第144条第2項がこの場合適用があるのだということが「差し押さえることができる」ということによって明らかになると思いますので,私は,「差し押さえることができる」ということを残した方が今後の解釈の紛れがないのだろうと思います。 ○古田幹事 イは外国裁判所が判断することになっていますので,日本と同じ法制であればおっしゃるとおりかと思うのですが,外国裁判所が日本の民事執行法と同じ基準で判断する保証はないので,イの「差し押さえることができる」という文言はなくてもいいのかなと思った次第です。 ○山本(克)委員 多分そこは日本法を適用してという,民事執行法第144条第2項を適用すればということになるのではないでしょうか。ミラーイメージでいけば。 ○髙橋部会長 全体について,どの点でも結構ですが。よろしいでしょうか。   それでは,中間試案の黒い字のところを今後更に検討しまして,微細な表現の変更の必要が生じた場合には,恐縮でございますが,部会長一任ということで御了承賜りたいと思います。   それから,再三話に出ております参事官室による説明というものは,参事官室の責任で作るということになっておりますので,その点も御了承をお願いいたします。   では,今後の予定をお願いします。 ○佐藤幹事 今後の予定でございますが,次回は9月4日,その次は10月2日を予定しております。パブリック・コメントの募集期間を1か月といたしましても,8月の終盤まで,あるいは8月いっぱいということになろうかと思いますので,次回の部会では,これまで御議論のうち,まだ意見が分かれているところもございますので,その点などを中心に御議論いただきまして,10月以降パブリック・コメントの結果の御報告をさせていただくというような段取りで進めさせていただければと考えているところでございます。 ○髙橋部会長 それでは,本日の審議はこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。 -了-