法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会     第25回会議 議事録 第1 日 時  平成21年7月28日(火)  自 午後3時04分                        至 午後4時00分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  被収容人員の適正化を図るとともに,犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり)               議          事 ● 予定の時刻になりましたので,ただ今から,法制審議会被収容人員適正化方策に関する部会の第25回会議を開催いたします。    (委員の異動紹介につき省略) ● 前回の第24回会議におきまして,刑の一部の執行猶予制度と社会貢献活動を特別遵守事項とする制度についての審議は,これまでの御議論で相当程度深められたように思われますことから,事務当局において,これまでの当部会における議論の状況を踏まえ,各制度に関する要綱骨子の案を作成してもらい,その案について御議論いただくこととしたところでございます。   本日,皆様のお手元に配布しております配布資料45が,ただ今申し上げました事務当局で用意した「要綱(骨子)案」となります。   その内容は,基本的には,これまで議論のたたき台としてまいりました参考試案と刑の一部の執行猶予の取消事由等に関する資料を基にしたものですが,これまでの御議論を踏まえまして,何点か修正しているところもあります。そこで,この要綱(骨子)案につき,第一の「刑の一部の執行猶予制度」及び第二の「社会貢献活動を特別遵守事項とする制度」のそれぞれごとに,適宜項目を分けながら,まず事務当局から,参考試案等からの変更点を中心として,この要綱(骨子)案について説明してもらい,その上で御議論いただくのが適当ではなかろうかと考えております。   このような進め方でよろしいでしょうか。   どうもありがとうございます。特段の御異議もないようですので,そのように進めさせていただくことといたします。   それでは,最初に,要綱(骨子)案第一の「刑の一部の執行猶予制度」のうち,一の「初入者に対する刑の一部の執行猶予制度」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ● それでは,要綱(骨子)案第一の「刑の一部の執行猶予制度」のうち,一の「初入者に対する刑の一部の執行猶予制度」について説明させていただきます。   この制度につきましては,これまで,「刑の一部の執行猶予制度に関する参考試案」をたたき台として御議論いただいてまいりましたが,要綱(骨子)案第一の一は,基本的に,この参考試案の第1を基にして作成したものでございます。   要綱(骨子)案の参考試案からの変更点を明らかにする趣旨で,参考試案と要綱(骨子)案を比較対照したものを皆様の席上に配布しておりますので,適宜参照いただければと存じます。   こちらの対照表からもお分かりいただけますように,要綱(骨子)案第一の一の1のうち,刑の一部の執行を猶予することができる要件について,参考試案では「情状により」としておりましたが,これを,「犯情の軽重その他の事情を考慮して,必要であり,かつ,相当であると認められるとき」と変更しております。   この要件に関しましては,第22回会議において,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのような要素により判断するのかという論点について議論が行われ,おおむね御意見の一致が見られたところでございますが,その上で,この要件は,犯罪の軽重という刑事責任を考慮する部分と,対象者の改善更生という特別予防的考慮をする部分とがあるのであるから,可能であれば,もう少しそのことを具体的に書き表すべきではないかとの御意見が複数ございました。   そこで,事務当局といたしましては,第22回会議での御議論を踏まえ,要綱(骨子)案第一の一の1にありますように,刑の一部の執行を猶予することができる要件を「犯情の軽重その他の事情を考慮して,必要であり,かつ,相当であると認められるとき」としたところでございます。 すなわち,初入者に対する刑の一部の執行猶予制度においては,刑の一部の執行猶予とするか否かをどのように判断するのかにつきましては,まず,被告人が,参考試案第1の1(1)又は(2),すなわち,「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」等のいわゆる初入者に該当するか否かについて判断した上で,その犯した罪に対する刑事責任の軽重によって,およそ刑期のすべてについて実刑とすべき者に該当するか否か,あるいは,およそ刑期のすべてについて執行猶予とすべき者に該当するか否かを判断することとなるとされたところでございます。   そして,これらに当たらないと考えられた場合に,被告人について,刑の一部の執行猶予として施設内処遇と相応の期間の社会内処遇を連携させることが,その再犯防止・改善更生のために必要かつ相当と認められるか否かを個別具体的に判断しつつ,その刑事責任の範囲内で刑を量定していくことになるものとされたところでございます。   以上のような判断の枠組みを踏まえ,刑の一部の執行を猶予することができる要件を考えますと,刑事責任の軽重の観点に加え,特別予防の観点から刑の一部の執行猶予の言渡しをすることの必要性・相当性が判断されることになりますので,これを明らかにすることができるよう,要綱(骨子)案においてお示ししたとおり,「犯情の軽重その他の事情を考慮して,必要であり,かつ,相当であると認められるとき」としたところでございます。   なお,この要件においては,単に「犯情」ではなく「犯情の軽重」を考慮事情として特に記載しております。これは,刑の一部の執行猶予の判断においても,現行制度における刑の量定と同様に,刑事責任に見合った刑を科すという観点,すなわち,例えば,刑の一部の執行猶予とするか否か,あるいは,刑期のうちいわゆる実刑部分と執行猶予の部分とをそれぞれどの程度の期間とするのかなどの判断において,犯した罪に対する刑事責任の軽重が重要な要素となるため,刑事責任の軽重を基礎付ける「犯情の軽重」を,刑の一部の執行を猶予することができる要件における考慮事情として,特に記載する必要があると考えたことによるものでございます。 ● どうもありがとうございました。   事務当局からのただ今の御説明につきまして,何か御質問がございましたらお願いいたします。 ● 犯罪の軽重という部分を中心に先ほど御説明を伺いまして,相当であるかどうかについてはよく分かりましたが,「必要であり」というのは,何がどのように必要であると考えればよろしいのでしょうか。 ● 被告人の刑事責任の軽重の観点と被告人の再犯防止・改善更生を図るという特別予防の観点,それぞれの観点から刑の一部の執行猶予とすることが必要であるかどうか,それと相当であるかどうかといったことを判断するということで考えているところでございます。   そのうち,御指摘の刑の一部の執行猶予の必要性の要件の判断においては,例えばでございますけれども,今申し上げました,刑事責任の軽重の観点,すなわち刑事責任に見合った刑を科すという観点から考えますと,刑期すべての執行猶予では軽きに失するというようなことなどを考えまして,刑の一部の執行猶予とする必要性があると判断される例というものが考えられるのではないかと考えております。   他方で,再犯防止・改善更生を図るという特別予防の観点から必要性の要件の判断を考えますと,仮に実刑としても,その刑責の重さからいって短期の実刑となるために,仮に仮釈放を積極的に運用したとしても,短期間の社会内処遇に付すことしかできず十分な再犯防止・改善更生を図り得ないことから,相応の期間の社会内処遇を可能とするために刑の一部の執行猶予とする必要性があると判断されるような例といったことも考えられるのではないかと考えております。 ● ここで想定されている制度自体は,一方において執行を猶予する,施設に収容しないという側面と,一方において,しかし一部とはいえ実際に刑事施設に収容するという両面を持っている複雑な制度でありますので,その複雑さがいろいろな形で現れてくるかと思いますけれども,ただ今の事務当局の御説明では,その両方に関連させて必要性,相当性を御説明になったかと思うのですが,犯罪の軽重,つまり責任の程度に応じてという部分が,むしろ相当であるか否かの判断の基礎になる。しかし,保護観察にするかどうかは別といたしまして,社会において処遇することによって再犯の防止等を期するという部分,言わば積極的部分が必要性の判断に相当する。一部執行を猶予しても差し支えないというのが相当性であり,一部執行猶予をしなければならないというのが必要性の部分である。振り分けられそうな気もいたしますが,その辺はいかがでしょうか。 ● ちょっと難しい問いかけでありますけれども,恐らく整理は考え方によっていろいろあり得るのだろうと思います。私どもが考えたところでは,ただ今御説明いたしましたように,刑事責任という観点からしても必要性と相当性の両面があり得るのではないか,また,特別予防といいますか,再犯防止・改善更生の観点から考えても必要性と相当性の両方があり得るのではないかというふうに考えまして,双方の観点に必要性・相当性のいずれもがかかるような書き振りにしてみたということでありますが,必要性といい相当性といっても,そういう意味では考え方の整理の仕方次第というような面があるかなと思いますので,そこは,ただ今御指摘のような整理の仕方もあり得るのかもしれないですけれども,とりあえず私どもとしては,ただ今御説明したようなことで整理してみたということであります。 ● そういうことでよろしいでしょうか。   今の点に関連して,ほかに何かございましたらお願いいたします。   ほかの点でも結構ですので,御意見,御質問がございましたらお願いいたします。 ● 先ほど御説明のように,第22回会議での議論を踏まえて骨子案を考えていただいたわけで,単に「情状により」というのでは,どうもこの制度の重みを支え切れないのではないかと心配しておりましたが,今回のような骨子案の形をとれば,その点は非常に改善されたと思います。 ● どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   現段階は立法に向けての審議ということになっていますので,これまでの議論を踏まえて,この文言でいいかどうかという観点をも加味して御議論いただければと存じます。   今のところ御異論がないようですので,次に行きまして,更に議論を深めていくことにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,要綱(骨子)案第一の「刑の一部の執行猶予制度」のうち二の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」についての議論に移りたいと存じます。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ● それでは,要綱(骨子)案第一「刑の一部の執行猶予制度」のうち,二の「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」について説明させていただきます。   この制度につきましても,これまで参考試案をたたき台として御議論いただいてまいりました。   要綱(骨子)案第一の二は,参考試案の第2の3を削除した点を除き,この参考試案第2の内容と同内容のものとして作成したものでございますが,記載振りが異なっている点がございますので,説明させていただきます。   先ほども申し上げましたように,要綱(骨子)案の参考試案からの変更点を明らかにする趣旨で,お手元に対照表がございますので,これを適宜御参照いただければと存じます。   まず,要綱(骨子)案第一の二「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」では,先ほど述べましたように,一の「初入者に対する刑の一部の執行猶予制度」の要件を修正したことを踏まえ,法制的な観点から,その記載振りを見直したところでございます。 以下,一の制度を「初入者制度」,二の制度を「薬物使用者制度」と言って説明いたします。   この点,当部会における御議論におきまして,初入者制度と薬物使用者制度は,刑事責任を果たさせつつ,一定期間の施設内処遇と相応の期間の社会内処遇とを連携させることにより再犯防止・改善更生を図ることを趣旨としており,その制度趣旨を共通にしているほか,刑の一部の執行猶予を言い渡すか否かの判断におきましても,この制度趣旨を踏まえ,刑事責任に見合った刑を科すという観点と,再犯防止・改善更生を図るという観点から,その必要性と相当性を判断することになるという点においても共通しているということで,御意見の一致が見られたところでございます。 そして,初入者制度の要件について,参考試案では「情状により」としていたところを,要綱(骨子)案において「犯情の軽重その他の事情を考慮して,必要であり,かつ,相当であると認められるとき」といたしましたが,その一方で,薬物使用者制度の要件については,参考試案におきまして,「犯情の軽重その他の事情を考慮して,その薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善するために必要であり,かつ,相当であると認められるとき」としていたことから,初入者制度と薬物使用者制度の要件はおおむね重なることとなります。   そのため,法制的な観点から,要綱(骨子)案第一の二には,薬物使用者制度の要件のうち,初入者制度と重複する点は記載する必要はなく,薬物使用者制度特有の要件,すなわち「薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善することが必要であると認められる」ことのみを記載すれば足りると考え,要綱(骨子)案第一の二の1のとおりとしたところでございます。   以上のように,初入者制度の要件を修正したこととの関係で,薬物使用者制度の要件の記載振りを見直したものにすぎず,当部会において薬物使用者制度について御議論され,御意見の一致があった内容を変更するものではございません。   また,これに併せまして,刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときの効果についても,初入者制度とは別に記載する必要はございませんので,参考試案第2の4は要綱(骨子)案の方には記載しないこととしたところでございます。   次に,要綱(骨子)案第一の二では,参考試案の第2の3,すなわち,薬物自己使用等事犯に係る罪とその罪より重い刑が定められている他の罪とに係る懲役の言渡しをするときは,その一部の執行を猶予することができないものとしていたところを削除することとしております。   この参考試案の第2の3につきましては,当部会での御議論では,薬物自己使用等事犯とそれ以外の罪とに係る懲役の言渡しをするときは,刑の一部の執行を猶予する相当性の要件で,刑の一部の執行を猶予するか否かを判断すれば足りるので,第2の3の要件は不要ではないかとの御意見がございました。 また,参考試案の第2の3の要件によれば,例えば,薬物の購入費用を得るために窃盗を行った場合,覚せい剤の自己使用目的の所持の場合は,第2の制度の対象になるのに対し,覚せい剤所持よりもっと軽い罪である,大麻の自己使用目的所持の場合や,毒物及び劇物取締法違反の場合には,第2の制度の対象とならなくなるが,このような結論は不均衡であることなどから,仮に第2の3のような要件を設けるとしても,法定刑の上限で比較して一律に除外するという規定は適当ではないのではないかといった御意見もあったところでございました。   加えて,薬物自己使用等事犯と同時に相当重大な犯罪を犯したような場合については,薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度の対象から除外すること自体は適切であるけれども,そもそも刑の一部の執行猶予制度は対象が3年以下の懲役の言渡しを受けた場合に限られているため,第2の3のような要件は不要ではないかとの御意見もあったところでございます。   そこで,事務当局といたしましては,このような御議論を踏まえまして,参考試案第2の3の要件を削除することとしました。   他方で,技術的な問題として,参考試案第2の3の要件を削除した場合に,薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度が,薬物自己使用等事犯のみを犯した場合に限定されているのか否かが参考試案第2からは必ずしも明らかではないため,この点を紛れのないような形で記載する必要があるのではないかという御指摘もこの部会であったところでございます。 そこで,薬物自己使用等事犯のみを犯した場合のみならず,薬物自己使用等事犯及び他の罪を犯した場合についても,刑の一部の執行猶予が可能であることを明確にすることとしたところでございます。   なお,薬物自己使用等事犯及び他の罪を犯した場合に,刑の一部の執行を猶予するか否かの判断は,当部会での御議論で御意見がございましたように,相当性の要件で判断することになると考えております。   そのほか,要綱(骨子)案第一の二の1では,これまで参考試案で「一の1の(一)又は(二)に当たらないもの」としていた部分につきまして,その内容をより明確にするために,要綱(骨子)案では,「一の1の(一)又は(二)に掲げる者以外の者」としております。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の事務当局からの御説明につきまして,何か御質問がございましたらお願いいたします。 ● 今の修正案そのものについては,内容を変更するものではないというふうにお伺いしましたが,参考試案と要綱(骨子)案を比べますと,参考試案の「その薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善するために必要であり,かつ,相当であると認められるとき」のうち,この前段部分が取り込まれて必要性の判断がされるのですが,それと併せて,必要性あるいは相当性の判断をするということになりますと,従前の要件より若干厳しくなるように読み込めるのですが,そこはいかがなものでしょうか。すなわち,参考試案では,あくまでも薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善するために必要であり,相当であるという要件しか付いていなかったものが,今度は,先ほど話があったように,何が必要であり相当であるかという第一の方の初入者に関連するその要件を再びかぶせて判定するということになると,少なくとも必要性の部分については,何かもう一つ屋上屋を架するような感じに読み込めないわけではないので,その点はいかがなのでしょうか。 ● 事務当局といたしましては,特段その要件を厳しくするものではないと考えております。参考試案の方でも「犯情の軽重その他の事情を考慮して」という部分が考慮事由として掲げられていますので,これまでの部会でも御説明しましたように,犯情の軽重によって基礎付けられる刑事責任の軽重の観点から一部執行猶予の必要性・相当性が認められるということが薬物使用者制度における参考試案でも求められていたものだと考えておりまして,その意味では,要綱(骨子)案は,これまで説明していたところをより明確にしたというものだと考えており,特段その要件を厳しくしたというものではないと考えております。 ● 結局,「一の1を適用する」ということは,一の1の要件における必要性と相当性の判断がもう一回されるのではないかということでお聞きしているのです。 ● 御説明申し上げたとおり,結局,重なる部分を2回書くのではなく1回だけ書くようにした方がいいのではないかという趣旨でこうしただけであり,「一の1を適用することができる」というのは,要綱(骨子)案の二の1に記載されておらず,一の1に記載されている要件が元のとおりに戻ってくるというような意味で考えております。例えば,「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において」という要件はもちろん,相当であるということや,あるいは「犯情の軽重その他の事情を考慮して」という考慮事情というのも,当然二の1にかぶってまいりますが,これらを二の1にあえてもう一度書くのは重複を避けるという意味で控えているというにとどまると考えております。ただ,必要性の部分については,薬物の制度に特有の要件と申しますか,特有の考慮の視点といったものがあるので,その点は二の1に書いておくべきではないかという趣旨で書いたということで,特段このように書いた趣旨として,何らか従前の御議論をしていただいたところの中身を変えるという意図は全くないということでございます。 ● 今の点は,それでよろしいでしょうか。 ● はい。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 参考試案第2の3を削除することとの関係で,相当性で判断するという御説明だったのですが,その具体的なイメージについてもう少し御説明いただければと思います。というのは,「薬物自己使用等事犯及び他の罪を犯した場合」ということなのですけれども,他の罪というのはいろいろなものが考えられると思います。例えば裁判員裁判対象事件のような重大犯罪である場合とか,部会では,他の罪が薬物自己使用等事犯自体に関連している場合であるとか,あるいはそのほか他の罪に係る問題性がとても大きい,例えば盗癖が深刻だとか,いろいろなイメージが議論されたように思いますけれども,それぞれの場合について相当性判断というのがどんなふうにされるのかという辺りについてイメージがございましたら聞かせていただきたいと思います。 ● これまで部会でも御議論いただいて,事務当局からも御説明させていただいたところだと承知しておりますが,そういったところを整理して改めて御説明させていただければと考えております。   今御指摘いただきましたように,「薬物自己使用等事犯及び他の罪を犯した場合」といっても,まさに様々な場合が考えられます。   まず,例えばでございますが,薬物自己使用等事犯のほか,今,裁判員裁判対象事件というような形で御指摘がございましたけれども,例えば殺人罪のような重大犯罪を犯して併合審理されているような場合も考えられます。ただ,そのような場合には,その犯した罪の刑事責任の重さによって,3年を超える懲役が言い渡されることが多いであろうと考えております。そうすると,そもそも「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合」という要件を満たさないことになりますので,そういった場合は,相当性の要件を判断するまでもなく,この一部執行猶予の制度の対象にならないことが多いのではないかと考えております。   また,例えばでございますが,トルエン吸入などの,いわゆる毒劇法違反の罪に係る犯罪的傾向を有する者が,トルエン吸入したさに有機溶剤を窃取したといった場合のように,他の罪というものが薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向から犯されたといったものであるような場合があろうかと思います。すなわち,他の罪というのが,先ほどこれも御指摘がございましたけれども,薬物自己使用等事犯に関連するものである場合が考えられます。そういった場合は,今申し上げた例で言いますと,毒劇法違反の罪に係るトルエン吸入の傾向性といった,毒劇法違反に係る犯罪的傾向の改善こそが,他の罪を犯したことも含めまして被告人の再犯防止・改善更生につながることとなりますので,毒劇法違反の罪を中心として,その刑の一部の執行を猶予する相当性の有無を判断することになると考えております。   さらに,これは今申し上げました例とは逆になろうかと思いますが,他の罪が薬物自己使用等事犯に関連しないものという場合も考えられます。そういった場合には,他の罪の問題性の程度等を相当性の要件で考慮し,その刑の一部の執行を猶予すべきか否かを判断することになるものと考えております。   例えばでございますが,覚せい剤自己使用といった覚せい剤取締法違反の罪に係る犯罪的傾向を有する者が,たまたま無免許で車の運転をして道路交通法違反の罪を犯し,それで覚せい剤取締法違反の罪と道交法違反の罪が併合審理されたといった場合のように,被告人にとって他の罪の問題性が小さい場合が考えられます。その場合,覚せい剤取締法違反の罪と道交法違反の罪を併せた犯情が必ずしも重いとまでは言えないように考えられます。そして,道交法違反の罪というその他の罪の問題性が小さいことから,覚せい剤取締法違反の罪に係る犯罪的傾向を改善すれば,その再犯防止・改善更生を十分に図り得ると認められ, また,仮に刑の一部の執行を猶予しても,道路交通法違反の罪という他の罪の問題性がその猶予の期間中の保護観察等の社会内処遇の実施に障害になるおそれは低いなどの事情が認められるようなときには,刑の一部の執行を猶予することが相当であるという判断がなされることとなるのではないかと考えております。   ただ,他方で,これも例えばでございますが,覚せい剤取締法違反の罪に係る犯罪的傾向を有する者が,併せて職業的に侵入盗やすりを繰り返すなど盗犯の常習性を顕著に有しており,その現れである窃盗罪についても併合審理された場合のように,被告人にとって他の罪の問題性が大きい場合が考えられます。その場合は,仮に覚せい剤取締法違反の罪及び窃盗罪を併せた刑事責任の重さが刑の一部の執行猶予を不相当とする程度に重くはなく,かつ,覚せい剤取締法違反の罪に係る犯罪的傾向を改善するために刑の一部の執行を猶予することが必要と言える場合であっても,窃盗罪という他の罪の問題性が大きくて,刑の一部の執行を猶予して覚せい剤取締法違反の罪に係る犯罪的傾向を改善するだけでは,その者の再犯防止・改善更生を十分に図り得ないと認められるようなときには,刑の一部の執行を猶予することは相当ではないと判断されることになると思われます。   さらに,窃盗罪という他の罪の問題性が大きくて,例えば仮に刑の一部の執行を猶予しても,その猶予の期間中に窃盗の再犯を犯すなどして,結局は処遇プログラム等を受講することが見込まれなかったり,保護観察の指導監督に服さない可能性が高いなどの事情が認められる場合には,結局のところ,施設内処遇の後の社会内処遇によって覚せい剤取締法違反の罪に係る犯罪的傾向を改善することすらできず,その再犯防止・改善更生もおよそ図り得ないということになりましょうから,やはり刑の一部の執行猶予をすることが相当ではないと判断されることになると思われます。 ● 御説明で大体イメージできたのですが,そうすると,他の罪の法定刑の重い,軽いというのは,相当性判断の一つの要素としては考え得るというように位置付けてよろしいのでしょうか。 ● 結局,問題性の大小を指し示す一つの現れとして当然そういったところを考慮いただいても,それはよろしいのではないかと思います。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 1点確認ですが,ここでは,「その薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善することが必要であると認められる」ことが要件とされています。仮にこの文言がなかったとしても,犯罪的傾向を改善することが必要でないような場合は,大本である要綱(骨子)案第一の一の1に規定されている必要性の要件が満たされないことになると思います。そうしますと,あえて,要綱(骨子)案第一の二の1のところに,この要件を入れた趣旨は,二の1で,薬物使用等事犯だけでなく「他の罪」を犯した場合も含まれているため,このような場合に,薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向を改善することが必要だということを要求しないと,条文の文言上は,薬物自己使用等事犯については問題がないが,他の罪についてその犯罪的傾向を改善する必要がある場合に,初入者でなくても一部執行猶予の対象になってしまうので,それを明確に排除するためだと理解してよろしいでしょうか。 ● 基本的に御指摘のような趣旨を踏まえているところでございます。薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度というものを設け,累犯者であっても刑の一部の執行猶予の対象にしようと考えたのは,薬物の傾向性を持っている者については,施設内処遇によってその傾向性を改善するだけではなく,薬物の誘惑のあり得る社会内においても,その改善の効果を維持・強化することができるように,引き続き相応の期間にわたり社会内処遇を行うことが,その者の再犯防止・改善更生のために一般的・類型的に必要かつ有用ということができるなどの特殊性があると考えられることから,薬物自己使用等事犯を犯した者をあえて切り出したところでございます。そういう意味からすると,薬物使用者制度を適用するための固有の要件というのは,ここに書いてありますように,薬物自己使用等事犯に係る犯罪的傾向が認められて,それを改善する必要性があるということが固有の要件になるのだろうということで,それについては要綱(骨子)案第一の二の1の中にはっきりと明記することにしたという考え方でございます。 ● それでよろしいですか。 ● はい。 ● 特に御質問がないようでしたら御意見を賜りたいと存じますので,御自由に御発言をお願いいたします。   特に御発言もございませんようですので次へ行きたいと存じますが,よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,要綱(骨子)案第一の「刑の一部の執行猶予制度」のうち,三の「刑の一部の執行猶予の取消事由」,四の「刑法第二十五条による刑の執行猶予の取消事由」,五の「刑の一部の執行猶予の猶予期間の起算日」及び六の「その他所要の規定の整備」について,併せて議論したいと存じます。まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 要綱(骨子)案第一の「刑の一部の執行猶予制度」の三から六まででございますが,これにつきましては,前回の第24回会議においてお配りいたしました配布資料44の「刑の一部の執行猶予の取消事由等に関する資料」と実質的に同内容のものでございますが, 細かい修正がございますので,御説明申し上げます。   対照表の3ページ目を御覧いただきたいと存じます。資料の方では1の(一)の(3)のただし書になりますが,「刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者が,」となっているところを,要綱(骨子)案の方では,その「,」を取っております。そのただし書は刑法第26条の柱書きのただし書を参考にしているところでございますが,刑法26条柱書きのただし書は「,」がない形になっておりますので,それに合わせたものでございます。   続きまして,対照表の4ページ目の1行目の(三)について,資料の方では「(一)及び(二)により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは」とされていたところを,要綱(骨子)案の方では「(一)又は(二)により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは」として,「及び」を「又は」に改めております。この(三)は,前回,取消事由の際に御説明申し上げたところでございますが,刑の一部の執行猶予と他の執行猶予が併存している場合に,刑の一部の執行猶予の方だけが取り消されたときは,併存していた他の執行猶予の方も併せて取り消すという取消事由でございます。この(三)の趣旨としては,(一)が刑の一部の執行猶予の必要的取消事由,(二)がその裁量的取消事由でありまして,(一)あるいは(二)によって刑の一部の執行猶予が取り消されたときはということを表現していたものだったわけでございますが,そういう趣旨だとすると「及び」ではなくて「又は」という方が正しいだろうということで,要綱(骨子)案の方では「又は」という形に改めさせていただいたものでございます。   それと,もう1点ございまして,対照表の5ページ目でございます。刑の一部の執行猶予の猶予期間の起算日でございまして,資料の方では2でございますが,「1に規定する期間の刑の執行を終わったとき」としていたところを,要綱(骨子)案の方では「終わった時」ということで「とき」を漢字の「時」にしております。これも趣旨といたしましては,刑の一部の執行猶予の猶予期間というのは,原則としては,いわゆる実刑期間の刑の執行が終わった日から猶予期間を起算する。ただし,実刑期間の刑の執行が終わった時点で他にも執行すべき懲役刑又は禁錮刑があったときは,その執行すべき懲役刑又は禁錮刑の執行終了の日等から猶予期間を起算するといったことを御説明したところでございます。それで,ここで問題になっているのは,一部猶予の実刑期間の執行が終わった時点で他に執行すべき懲役刑なりがあるかということでございまして,要するに特定の時点が問題になっているわけでございます。そうだとすると,そのように特定の時点を表す場合は,「とき」ではなくて漢字の「時」を使うのが用例としては正しいので,これを「時」という形に改めたというものでございます。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の御説明についての御質問,御意見がございましたらお願いいたします。   内容的に変更がないということですので,この問題についても以上でよろしいということでいかがでしょうか。   御異論がないようですので,引き続きまして,要綱(骨子)案第二の「社会貢献活動を特別遵守事項とする制度」についての議論に移りたいと存じます。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ● 要綱(骨子)案第二の「社会貢献活動を特別遵守事項とする制度」でございますが,これにつきましては,参考試案と同内容のものになっているところでございます。 ● 今の点につきまして,何か御質問,御意見がございましたらお願いいたします。 ● 「善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資する」という部分の「資する」がどこへ続くかといえば,「社会的活動」に続くのだろうと思うのですが,そうしますと,「地域社会の利益の増進に寄与する」というのも社会的活動に続いているわけで,両者の関係というのは,前にも一度申しましたので恐縮ですけれども,この二つをはっきり並列させるわけにはいかないでしょうか。「規範意識の向上に資するとともに」と入れれば分かりやすくなるような気がいたしますが,いかがでしょう。 ● 法制的な観点からの検討等も踏まえまして,このような表現とさせていただいたところです。この社会貢献活動の性格というものが,その制度趣旨から導かれるものでございますけれども,まずは社会に貢献する活動ということで,地域社会の利益の増進に寄与する活動であるということが必要であり,さらに,そこでねらいとしている処遇効果というところがございまして,こういう活動に従事することによって善良な社会の一員としての意識のかん養及び規範意識の向上に資する,こういったことが期待できる活動である必要がある。要するに,そういう両面の必要性と言いますか,そういった両方の性格を満たす活動であるということを過不足なく,端的に表すべくこういうような表現振りとしたところでございます。 ● ほかにいかがでしょうか。   特にございませんようですので,この問題についてもこの辺りにさせていただきたいと存じます。よろしいでしょうか。   以上をもちまして,事務当局の要綱(骨子)案の各事項につきましての御議論は一通り行うことができたということになるわけでございます。   先ほども申し上げましたように,これまでの当部会における御議論で,刑の一部の執行猶予制度と社会貢献活動を特別遵守事項とする制度についての審議は相当程度深められ,さらに,今回の会議におきましては,要綱(骨子)案を基に議論を深めることができたように存じます。この二つの制度に関しましては,法改正に向けての御意見もおおむね出そろったように思われます。   そこで,次回は,この二つの制度につきまして詰めの審議を行い,答申案の決定まで行きたいと考えております。   なお,委員・幹事の皆様方には,もし,要綱骨子の修文案,あるいはそのような堅苦しいものでなくても,良い法律を作るための御協力としての御意見等がございましたら,事務当局に御提出いただければと存じます。   そういうことでよろしゅうございましょうか。   どうもありがとうございます。   次回の日時・場所等についてですが,日程調整の上,改めて指定させていただきたいと存じます。   それでは,本日はこれで散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-