法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第7回会議 議事録 第1 日 時  平成21年9月25日(金)  自 午後1時30分                        至 午後5時37分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○伊藤部会長 それでは,予定の時刻でございますので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第7回会議を開会いたします。御多忙の中御出席いただきましてありがとうございます。   それでは,配布資料につきまして事務当局から説明をお願いします。 ○波多野関係官 それでは,事務当局から,配布させていただきました資料について御説明いたします。   第7回会議のために配布させていただきました資料は,事前に送付させていただきました資料目録記載のとおりでございます。部会資料8は事務当局で作成したものでございますが,内容につきましては後ほど御説明させていただきます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,早速ですが,審議に入りたいと存じます。   前回は部会資料7の「非訟事件手続に関する検討事項(4)」の第21の「2 裁判の告知」まで終わりましたので,本日は第21の「3 裁判の効力発生時期」から審議を行いたいと存じます。そこで,事務当局から,第21の「3 裁判の効力発生時期」から第21の「7 裁判の脱漏」までの説明をお願いします。 ○波多野関係官 それでは,御説明いたします。   第21の3の「裁判の効力発生時期」では,裁判の効力発生時期について,現行非訟事件手続法第18条第1項の規律を維持するものとすることを提案しております。   なお,即時抗告を許す裁判のように確定し得る裁判も,告知によってその効力を生じ,即時抗告がされた場合も特に定めた場合についてのみ,執行停止の効力を生ずるものとすることが考えられます。   (注)では,裁判を受ける者並びに申立人,相手方及び参加人に告知することによって,裁判の効力を生ずるものとすることについて検討することを提案しております。   なお,申立人らに告知することによって裁判の効力が生じるものとした場合には,告知対象者全員に告知した時点で決定の効力が生じることになると考えられますが,告知を受けた者は,ほかのすべての告知対象者が告知を受けたか否かが分からないなどの問題があると考えられます。   4の「一部決定」では,非訟事件手続において,民事訴訟手続における一部判決と同様の規律によって,一部決定をすることができるものとすることを提案しております。   5の「中間決定」では,非訟事件手続において,民事訴訟手続における中間判決と同様の規律を設けることについて検討することを提案しております。   非訟事件手続においても,中間決定をすることが有益な場合がありますことを一概に否定できないと考えられます。しかし,民事訴訟手続においては,裁判所は中間判決に拘束されますが,非訟事件手続において,取消し又は変更の規律によって,中間決定に拘束されないという考え方もあるところでございますので,中間決定の規律を設ける意義が乏しいとも考えられます。   6の「更正決定」では,本文①におきまして,非訟事件手続においても裁判に明白な誤りがある場合にはこれを是正する必要があると考えられますので,更正決定をすることができるものとすることを提案しております。   本文②では,更正決定に対する不服申立てについて提案しております。この点につきまして,元の裁判に対して独立して不服を申し立てることができない場合には,更正決定に対しても不服申立てを認める必要はないものと考えられますことから,元の裁判に対して独立して不服を申し立てることができる裁判に係る更正決定に対してのみ即時抗告をすることができるものとすることを提案しております。この場合,元の裁判に対して不服申立てをすることができる者のみが更正決定に対して即時抗告をすることができることになります。また,更正決定は元の裁判と一体をなして,当初から更正された内容の裁判がされたことになりますので,元の裁判に対して独立して不服申立てができるかどうかは,更正決定後の裁判を基準に判断することになると考えられます。   7の「裁判の脱漏」では,民事訴訟手続における裁判の脱漏と同様の規律を設けることを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,順次それぞれの項目に即して御審議をいただきたいと存じます。   まず,3の「裁判の効力発生時期」に関して,これを受ける者に告知することによってその効力を生ずるものとすることでどうかという点と,あわせて,先ほど事務当局から(注)に関しての若干の説明といいますか問題の指摘がございましたが,このあたりについての御意見はいかがでしょうか。 ○菅野委員 (注)のところですけれども,申立人,相手方,それから参加人もいた場合,全員に告知して初めて効力が発生するとしますと,実務上困る場合もあり得るのではなかろうかという気がいたします。裁判を受ける者に対して告知するというのは当然必要なこととして,受ける者以外へも告知するというのは,結局は,その手続に関与した人に対してはその手続の結果を告知するのがよいであろうということでされるのであって,その効力自体があるかとか発生するかということとは直接リンクしないのではなかろうかとも思います。そうすると,その効力発生の要件として全員への告知を明文で定めてしまうのはどうかなという感じがいたします。実際に以前にも,送達とか告知については病理的な事柄がいろいろ考えられるというお話をしたことがあると思いますが,だれかが届かない,あるいは例えばだれかが亡くなってしまっていたとか,いろいろな事態があるときに,全員に告知できないと効力が生じないというのは,実は本当に迅速性を求めたり,数日後にこうしてくれということで非訟は申し立ててくることもありますし,そういうときにちょっと問題があるのではという,そんな心配をした次第です。 ○伊藤部会長 ただいま菅野委員からは,全員に告知すること自体はともかくとして,全員に告知して初めて効力が生ずることに関してはいろいろ実際上の問題があるのではないかという御指摘がございましたが,今の点いかがでしょうか。ほかの委員・幹事の方,どうぞ御意見をお願いいたします。 ○青山委員 私は今の菅野委員の意見に賛成でございまして,裁判の効力の発生時期と,裁判をだれに告知しなければいけないかというのは区別して考えていいのではないか。そうすると,最も中心的な者に告知がなされれば,そのときに裁判の効力が生ずるということでいいのではないかと思いますので,そういう立法にしていただければと思います。ちょうど債権の差押命令が債務者と第三債務者に送達されなくてはいけませんけれども,第三債務者に送達されたときに効力が生ずるというふうにされているのと同じ規定振りでいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○増田幹事 私も,効力発生時期については同意見です。ただ,これは後の問題ですけれども,抗告期間の始期は,それぞれの者に告知された時からということにしていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 そういたしますと,菅野委員,青山委員の御発言にありましたような考え方で,告知をする者の対象と裁判の効力の発生時期に関しては,必ずしも両者を完全に同一のものとして考える必要はないという前提で検討を進めてもよろしいということでしょうか。   特に御異論がないようでしたら,そのように理解させていただきます。なお,増田幹事御指摘の点は次に出てまいりますので,そこで改めて検討をすることにいたしたいと存じます。   4の「一部決定」ですが,これに関しては何か御意見,御質問等ございますか。   委員・幹事の皆様方はもうお分かりなのかもしれませんが,念のために,どういう場面でこの一部決定というものが実際に使われることが想定されるのかを事務当局から補足していただけますか。 ○波多野関係官 事務当局から補足いたします。4の①の規律が適用される場面として併合して申立てがされた事件の一部について決定する場合が想定されます。本文②の規律は,手続の途中で併合した数個の非訟事件の一部について決定する場合を想定しております。 ○伊藤部会長 ①は,言わば原始的に数個の非訟物が併合されているような場合,②は,手続の併合によって同様の結果が生じているような場合と思いますが,何か御意見,御質問ございますでしょうか。   こういうことで検討を更に進めてよろしいと承って差し支えございませんか。もしよろしければ,そのようにさせていただきます。   続きまして,5の「中間決定」ですが,これについては,本文に掲げられているのは,先ほど説明があったとおりですが,(補足説明)のところを御覧いただきますと,先ほども若干の言及がありましたが,このような規律を設けるまでの必要があるのかという指摘もあるようでございますが,御意見等はいかがでしょうか。必要に乏しいというようなことは主として実務上のことを想定しているのかと思いますが,裁判所,弁護士会の委員・幹事の方で何か御発言があればと思います。 ○長委員 この中間決定は,拘束力についてはどのようなことが考えられているのですか。取消し・変更の対象にもなるということでしょうし,実務上余り必要性が考えられない。終局的な決定審判の中で判断していくことになるのではないかなという気がいたします。 ○伊藤部会長 実際上,例えばどのような場面が考えられますか。 ○波多野関係官 考えられる場面といたしましては,国際的な裁判管轄が問題となっているような場面が想定できるかと考えております。ただ,実際にどこまで使われるかというのがよく分からないところではございます。 ○伊藤部会長 確かに国際裁判管轄が問題になるような事件は民事訴訟でも中間判決というのはよく見られるところですが,それ以外で余り想定しにくいのでしょうかね。審理を整序するということが目的かとは思いますが。学者の委員・幹事の方,いかがでしょう。 ○三木委員 おっしゃるように,使われる場面は極めて少ないかもしれませんが,訴訟の方の中間判決もそれほど使われるわけではなくて,制度としてあって,もしかしたら使われるかもしれないという程度でも,置いておく意味はあるのかと思います。   それから,確かに訴訟の方と違って,取消しや変更の対象になるとは思いますが,しかしそれは取消しや変更の―この後議論すると思いますが―要件を満たさなければ取消しや変更に当たらなければなお効力を有するわけですから,その限りでは意味があると思います。   使われる場面は,私も,先ほどの御説明がある前に卒然と考えていると,強いて言えば国際裁判管轄とか,そのたぐいだろうとは思います。しかし,繰り返しになりますけれども,制度として置いておいていけないということはないと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○山本幹事 結論的には私も三木委員と同意見です。ほかに,例えば家事審判のような場合には,前提となる権利関係について争いがあるような場合に,その点について中間決定をやって,あと本来的な審判事項の判断をするというようなことも論理的には考えられるのかなと思うところです。   それから,取消し・変更が認められるというのも,考え方によっては,終局決定について即時抗告が認められているような事件は,これは後の方の審議にかかわることですが,自由に取消し・変更ができないという規律をもし前提にするのならば,終局決定については取消し・変更ができないようなものについては,それに先行する判断である中間決定についても自己拘束力が認められるというような考え方もあり得ないではないような感じはいたします。しかし,そのあたりは多分法律で書くような話ではなくて,解釈論ということになるのだろうと思いますが,残しておいてそれほど実害もなさそうな感じはしますので,使えそうな場面がもしあるとすれば,こういう規定を残しておいてもいいのかなと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ほかにいかがでしょうか。 ○杉井委員 実務で時々経験することなのですが,家事事件などで中間調書をとりますということがあるのですけれども,これはやはり中間決定と考えてよろしいのでしょうか。 ○長委員 異なります。中間調書をとるというのは,当事者に合意が成立しているような場合に行われるものであり,裁判所の決定ではございません。 ○伊藤部会長 杉井委員,いかがですか。 ○杉井委員 分かりましたが,時々そういう中間調書をとりましょうなんていうことで,合意された,例えば離婚と親権者についてだけ調書をとって,その後の財産分与とか慰謝料とかというのはその後にまた調停を続けましょうというケースがよくあるのですけれども,そういうことを考えると,今お聞きして,中間決定ではないというのは分かりましたが,もしかしたら,合意ができていない部分で中間決定をした方がよくて,そしてその後の慰謝料とか財産分与の点についてまた調停を続けるという場面もあるのかなという気がしますので,やはり私も三木委員と同じように,これを置いておく意味はあると思います。 ○伊藤部会長 そういう意味では,中間の争いに相当するものは存在するであろうということですね。分かりました。   それでは,必ずしも積極的にという御意見ばかりではありませんが,しかし,こういうものをつくることが実務上桎梏になるとか,円滑な実務の運用を妨げるというほどの御意見でもないように思いますので,積極的な御意見を何人かの委員・幹事の方から出していただきましたので,ひとまずこういう方向で更に検討を続けてみるということでとりあえずはまとめさせていただきたいと存じます。   それから,6の「更正決定」についてはいかがでしょう。恐らく更正決定をすることができることについてはそれほど御異論がないかと思いますが,先ほど説明がございましたように,更正決定に対する不服申立てのできる場合に関して少し御審議をお願いできればと存じます。   (補足説明)の2の後半部分では,元の裁判に対して独立して不服を申し立てることができる裁判に係る更正決定に対してのみ即時抗告ができるというのがここでの提案の内容という趣旨の説明がございますが,これでよろしいでしょうか。それとも,ほかにも考え方があるようでしたらおっしゃっていただけますでしょうか。   こういう考え方で差し支えないというのがこの場の大勢である,そう受け止めてよろしゅうございましょうか。―はい。それでは,そのようにさせていただきます。   7の「裁判の脱漏」についてはいかがでしょう。 ○長委員 ここは教えていただきたいところなのですけれども,例えば財産分与であるとか遺産分割で検討しますときに,当事者が目的物を特定してくるのですけれども,気がつかないで残ってしまったものというのが時々出てくるのです。これは脱漏には当たらないと考えているのですけれども,そのあたりを教えていただければと思います。 ○伊藤部会長 まず,事務当局から補足的な説明をお願いします。 ○波多野関係官 民事訴訟でいいますと請求の全部について判断をしたつもりでも,客観的には一部について残っていた場面が脱漏かと思われます。非訟事件手続において,申立てに対してすべて応答した場面であれば,それは脱漏には当たらないと考えるべきではないかと整理しておるところでございます。 ○伊藤部会長 事務当局からの説明あるいは事務当局の理解は今申し上げたとおりかと思いますが,長委員からの御質問に関して,ほかの委員・幹事の方で何か御発言があればお願いいたします。―よろしいですか。特に御異論がなければ,こういう形での検討を進めさせていただきたいと思います。   そういたしましたら,次に事務当局から「第22 不服申立て」についての説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   第22の1の「抗告」でございますが,これは抗告権者について提案するものでございます。本文①は,現行非訟事件手続法第20条第1項の規律を維持するものとしております。本文②は,申立てを却下した裁判に対しては,申立人に限り抗告をすることができるものとすることを提案しております。   第22の2の「抗告の方法」では,早期安定,迅速な紛争解決の観点から,終局決定に対する不服申立てを即時抗告に限るとすることについて,検討することを提案しております。   (注)の1及び2は,即時抗告の期間についてのものでございます。ここでは,終局決定は本案の決定でありますことから,即時抗告の期間を,裁判の告知を受けた日から2週間とすること及び終局決定以外の裁判に対しては,即時抗告の期間を,裁判の告知を受けた日から1週間とすることを提案しております。   3の「抗告の効力」では,現行非訟事件手続法第21条と同様に,抗告には原則として執行停止効がないものとすることを提案しております。   この点,現行非訟事件手続法では,即時抗告につきましても原則として執行停止の効力を有しないものと解されております。   もっとも,現在,非訟事件とされております事件には即時抗告に執行停止の効力を認めているものがあることを踏まえまして,民事訴訟法と同様に,即時抗告に限って執行停止の効力を有するものとすることも考えられます。   4の「抗告及び抗告裁判所の手続」では,抗告及び抗告裁判所の手続について,第一審の手続に関する規律及び民事訴訟における抗告に関する規律と同様の規律とすることを提案しております。   なお,抗告審における審問等,再度の考案,不利益変更禁止の原則,附帯抗告及び訴訟費用の負担の裁判に関する控訴の制限につきましては,それぞれ別途検討することとしております。   非訟第一審若しくは総則の規律で非訟抗告審に妥当すると考えられるものは,(補足説明)の2に記載しておりますが,そのうち,「(11)抗告状の送付」及び「(20)事実の探知の告知」につきましては,抗告審における審問等を議論する際に併せて議論することとしたいと存じます。   次に,民事訴訟における抗告に関する規律で非訟事件手続における抗告に関する規律として妥当すると考えられるものは,(補足説明)3の(1)から(17)までの記載のとおりでございます。   (注)1では,部会資料5の14ページにおきまして,非訟行為の追完の規律を提案しておりますことから,現行非訟事件手続法第22条と同様の規律を設けないものとすることを提案しております。   (注)2では,再抗告,特別抗告及び許可抗告の申立権者について,抗告審の裁判により権利を害された者とすることについて検討することを提案しております。   5の「抗告審における審問等」は,抗告審における審問等について,非訟事件の抗告審は,第一審が相手方のある事件か否か及び第一審が申立てを却下したか認容したかの組合せにより,場合を分けて考えることができると考えております。   そのうち,本文では,第一審が相手方がない事件において,申立てを認容した決定に対して,申立人以外の者が抗告した場合の抗告審での審問等について検討することを提案しております。   A案は,相手方のない事件についての規律は抗告審でも基本的に妥当し,構造が変わらないことを前提として,例えば第一審の裁判を取消し・変更する場合には第一審の申立人を審尋しなければならないものとすることなどを提案しております。   B案は,この場合に,抗告人を一方当事者,第一審の申立人を相手方と位置づけて,必要に応じて第一審が相手方のある事件と同様の規律とすることを提案しております。   (注)1では,先ほど説明しました場合分けのうち,第一審が相手方がある事件の抗告審における審問等について,検討することを提案しております。この点につきましては,第一審と同様の規律とするまでの必要はなく,必要に応じて,手続保障の規定を設けるものとすることが考えられますが,他方で,第一審と同様の規律とすることが考えられます。   (注)2では,例えば会社法第870条に規定されていますように,特定の者の陳述聴取が必要的とされている事件の第一審の決定に対して抗告があった場合に,抗告裁判所は,第一審で陳述聴取が必要的とされている者から改めて陳述聴取をすることが必要かどうかについて検討することを提案しております。この点につきましては,原審で既に陳述聴取がされています以上,改めてその者から陳述聴取をするまでの必要はないとも考えられますが,他方で,第一審の終局決定を取消し又は変更する場合には,その者から改めて陳述聴取すべきであるとも考えられます。   6の「不利益変更禁止の原則及び附帯抗告」では,非訟事件手続にあっては,何をもって不利益といえばよいか判然としない問題がありますこと等を理由に,不利益変更禁止の原則を適用せず,附帯抗告の制度を設けないものとすることを提案しております。   7の「再度の考案」ですが,民事訴訟手続と同様に再度の考案の規律を設けるものとすることを提案しております。   もっとも,相手方のある事件において審理の終結の規律を設けた場合には,終局決定について,終結後に提出された資料等に基づく再度の考案による更正を認めることは,審理の終結を導入した趣旨が没却されることになりますので,認めるべきではないものと考えられます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,まず,第22の1の「抗告」から第22の3の「抗告の効力」のあたりまでについての御審議をお願いしたいと思いますが,順次参りまして,1の「抗告」に関して,本文の考え方あるいは(注)での問題提起についての御意見を承りたいと存じます。 ○増田幹事 質問なのですけれども,①で,「裁判によって権利を害された」という,これは一つの要件かと思うのですけれども,これは抗告の利益とはまた別の要件というように理解していいということですか。抗告の利益とは別に,自分の権利を害されているということが要件になるのですか。 ○波多野関係官 抗告の利益と権利を害されたことが直接結びつく場面がすべてかどうかは分かりませんが,通常,裁判によって権利を害された場合には,抗告の利益があると考えられると思いますので,その場面ではリンクするのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 増田幹事,いかがでしょうか。 ○増田幹事 それについて,こういう言葉を使うことを前提として意見を述べたいと思います。権利という言葉では,少し狭過ぎるのではないか,ということです。例えば民法第709条でも,昔は「権利侵害」と言っていたものが,今は「法律上の利益」と解釈されておりますし,非訟,家事の分野でも,典型的なのは面接交渉のように法文上はっきり権利性がうたわれていないものもありますので,権利かどうかというところを変に争点にしたくはないと考えます。ですから,もう少し広い用語が適当であると思う次第です。 ○伊藤部会長 ただいまの増田幹事の―言葉の問題はともかくとして,実質の方が問題かと思いますけれども―御意見に関してはいかがでしょうか。事務当局からの説明がございますか。 ○金子幹事 「権利を害された」に代わる適切な用語がもしあれば,皆さんのお知恵を拝借したいと思います。   それから,抗告の利益というお話が先ほどありましたけれども,もともと申立てで具体的な,例えば金額を請求している場合に,非訟事件ですと,それが満額認められても,さらに,より有利な裁判を求める余地があれば,これはなお抗告できると一般に解されているのではないかと思います。というのは,もちろん申立ての金額に拘束されないという前提で考えますので,例えば財産分与で具体的金額を求めて,満額が認められても,民事訴訟的には恐らく控訴の利益はないのでしょうけれども,なおその上積みを求めるということは理論上はあるので,そういう意味では,一般に言われる控訴の利益というものとは合致しない。より有利な判断を求める余地があれば,それはなお権利を侵害されたと考えております。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。そういう意味では,必ずしも訴訟法的な意味での権利の侵害ということとは重なり合わないということになるかと思いますが。 ○山本幹事 私も増田幹事と同じようなことを考えたのですが,こういう必ずしも当事者的なものではない,第三者からも抗告を認めるという制度として倒産法上の抗告があると思うのですが,倒産法は,その裁判につき利害関係を有する者という書き振りでありまして,先ほどの増田幹事の問題提起からすれば,そのようなところで抗告権者を規律するということもあり得るかなと思った次第です。 ○伊藤部会長 ただいま山本幹事からは具体的な表現,文言に関しても例示的な提案がございましたが,この点はいかがでしょうか。 ○波多野関係官 先ほど増田幹事から言われました,「権利を害された」のところの「権利」ですが,現行法も同じ文言を使っており,解釈としましては,申立人の法律上の地位そのものに直接関係するものであればよいという解釈もあるところですので,そのあたりも踏まえまして,表現としてどういう表現が適当かは更に検討させていただきたいと考えております。 ○高田(裕)委員 今の御発言でほぼ尽きているのかもしれませんが,もしよろしければ増田幹事に御質問ということで,現行法の「権利」という文言では実際に狭過ぎるという事例があり得るのかどうかということでございます。私の理解するところ,解釈としては,法律上の利益ないしは法律上保護された利益という概念に置き換え可能であり,その概念を条文でも使うという選択肢も十分あり得ようかと思いますが,文言の問題なのか,それとも現行法の規制の問題なのか,もし御意見があれば承れればと存じます。 ○増田幹事 現行法の解釈としては,法律上の利益で足りるものと理解しております。ただ,これは古い時代につくられた法律ですのでこういう文言が使われているわけで,新しく法律をつくるに当たっては,その「権利」の文言は必ずしもふさわしくはないのではないかという意見でございます。 ○伊藤部会長 実質から見ますと,非常に厳格な意味での権利ということを言っているわけではなくて,実質は法律上の利益あるいは法律上の利害関係に近いような内容で一般に解されているとは思いますが,それをどういう文言であらわすのが最も適切なのかという問題であれば,ただいまいただいた御意見を踏まえて,なお事務当局で検討してもらうということでいかがでしょうか。 ○菅野委員 今まとめていただいたところに異を唱えるわけでも何でもなくて,そういうことだと思うのです。ただ,当然ではありますが,当初の申立てをできる人の範囲ではなくて,あくまで抗告のレベルのことですから,言ってみれば,既に申立人なり,場合によっては相手方なり参加人なりがいていろいろなことが行われたと。一方で,その人たちが仮に抗告していないときに別な第三者が抗告できるかどうかというところで本当は意味が出てくる事柄なので,必ずしも柔軟に処理するのがいいのかどうかというのは微妙なところもあるように思います。例えば倒産法制ですと,当然に利害関係人というのが申立人以外に出てくるのですね。それが想定できるというのともやはり若干違うところもありまして,慎重に御検討していただければ幸いかと思います。 ○三木委員 私も部会長のおまとめでもちろん内容としては結構ですが,一言だけ申し上げますと,主として文言の問題だとは思いますが,先ほど増田幹事もちょっと触れられましたけれども,民法第709条はもともと「権利」という言葉が使われていて,解釈としてはもっと広く解釈されていましたけれども,文言としても確か「法律上保護される利益」という形を付加したのではないかと思いますが,ということですので,もともと広く解釈されているからといって,言葉を変えなくていいということではないし,そうではない先例もあるということですので,なおやはり現代立法するわけですので,言葉の方にも多少の神経配慮を使う方がいいのではないかと思います。   それから,山本幹事がおっしゃった利害関係人概念ですが,この点に関して特段の定見を現在持っておりませんが,この後のほかの規定の審議あるいは既になされた規定について事務当局がおまとめになる修正案によるのだと思いますけれども,ほかでも場合によっては利害関係人概念が使われる可能性がありまして,その場合に,もちろん必然性はないですけれども,同じ法律の中で同じ利害関係人概念が使われますと,同じに解釈される可能性が高いわけですので,利害関係人概念を使うことが,ほかの規定の規律,そこで認めた内容と同じでいいのかどうかという点の配慮もあわせてする必要があるということで,仮に,菅野委員がおっしゃるように,やや抗告人の範囲は通常の利害関係人よりは狭めに解釈する方がいいという大勢であれば,この不法行為法の規定というのは,不法行為という制度に向けての規定ですので,これが非訟にそのまま状況が当てはまるわけではありませんが,例えば「法律上保護される利益」というような言葉も立法例として若干の考慮に値するかなと思う次第です。 ○伊藤部会長 そうしましたら,ただいまの菅野委員,三木委員からの御発言も踏まえまして,更に実質をどのような形で表現するのが最も適切か,そういう点について事務当局での検討を進めてもらいます。   それから,(注)に関してですが,申立人以外の者で申立権を有する者は,申立てを却下した裁判に対して,参加の申立てとともに抗告をすることができるものとする,こういう考え方に関して御意見を伺えればと存じます。いかがでしょうか。理論面あるいは実務上の運用面のいずれからでも結構ですが,御意見ございませんか。 ○小田幹事 意見というよりは実情を幾つか申し上げようと思います。参加の申立てとともに抗告をすることができるかどうかという点は,前も議論しました,原審の段階での参加の可否とも関連してくるのだろうと思います。こちらとしてもまだどうしたいということではないのですが,一つ実務で困っているものに,後見開始事件がございます。御存じのとおり,申立人が一定の親族の範囲にあるものですから,申立資格を持つ者は複数います。通常の場合は何ら問題ないわけですが,親族間で,片や親を押さえて財産をよく知っている,片やそれに不満を持っていて財産などを知りたい,こういう状況があったときに,不満を持つ親族が原審に参加してくることがあります。それとの応用問題だろうと思いますが,参加して抗告してきたときに,記録の閲覧謄写はどうしたものかということがございます。できるだけ紛争激化を妨げたいという観点からは,親を自分のところに囲っていない親族からの記録の閲覧謄写というのは避けたい。要するに,自分の親を手元に置いていて,財産を知っていて申立てをしているというところからは財産関係などの資料が出ているわけですが,それを他の親族に見せるべきか見せないべきかというのは評価が分かれるところかもしれませんけれども,今の実務では,紛争激化するのを避けるために,一定の親族からの閲覧謄写をできるだけ認めない方向で考えたいという意識があるようです。ここでの直接のテーマとは少し遠いところがありますけれども,参加を認めるかどうかといったところと今申し上げたことは少しつながってくるところがありますので,御紹介した次第です。 ○伊藤部会長 ただいまの小田幹事からの問題の所在の指摘を踏まえまして,どうでしょうか。こういう手続の方式を定めることが果たして適当なのかどうか。 ○青山委員 倒産手続の場合の利害関係人の不服申立てなどは,参加の申立てをしないで,当然利害関係人であるという疎明をして不服申立てできると思うのです。それは,利害関係人の範囲というのは,先ほどどなたかから御指摘があったように,おのずから決まっているから,そういうことはしなくてもいいと思いますが,どこまで効力が及んでいくか分からないような非訟事件手続の場合には,その手続に参加させて何らかのアクションを起こすことを認めるかどうかという一段階の審理が必要だと思うのです。それが,参加の申立てと同時に抗告をする。そうすると,参加の拒否というのが第1段階にあって,参加を拒否すると,次に不服申立てが認められるかどうかという2段階の審査になる,論理的にはそうなると思いますが,私は,この考え方は非常に理解できると思っております。 ○伊藤部会長 青山委員の御意見は,参加の申立てをまずして,それとともに抗告をするという考え方ですか。 ○青山委員 はい。一緒にする。論理的には2段階の審査になるだろうと思いますが,一緒にするのがいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ありがとうございます。   ほかの委員・幹事の方はいかがでしょうか。青山委員がおっしゃいましたように,こういう考え方でなくて,ストレートに抗告の道をとらせるという方法も考えられなくはないのですけれども,参加という行為とともにするという,ここに掲げられている考え方の方が合理的だという御指摘ですが。 ○金子幹事 少しここの問題の認識を共有させていただければと思うのですが,②の規律と(注)の規律というのはむしろ相反するものということであります。②は,申立適格者がたくさんいても,当該手続の申立人に限って抗告することができる,却下に対してはその人に限って抗告ができるという規律を考えているものです。したがって,ほかの申立権者は,少なくとも第一審に参加して当事者となれば,そのときは申立人と同じ資格で抗告することができますが,一審の段階で参加をしていなければ,あとは却下に対して申立人が申立てをしなければ,それは事件として終わってしまう。なお,ほかの申立適格者がその判断に承服できなければ,改めてあなたが自らのイニシアチブで申し立てることで対応してくださいというのが②の規律です。それに対して,(注)の方は,申立権を有している者で第一審ではほかの申立人が手続を進めていてくれていたので,自分はその人に任せていたものが,第一審では却下になってしまったので,第一審での手続を利用して,参加とともに抗告をするという規律を考えているものです。したがって②は,申立人に限って抗告することができたのが,(注)ですと,申立権者であれば参加とともに抗告ができることになります。それで,いずれの方がよいかということで御意見をいただければと思います。なお,ここには記載していませんが,部会長からの御指摘と関係しますが,申立人に限り抗告するというのではなくて,抗告権者をより広げて,例えば申立権者であれば抗告することができることとして参加を経ずに独自の資格で,申立人としての資格で抗告できるものとする規律も考えられます。 ○伊藤部会長 論理的には言わば第三の選択肢みたいなものもあって,申立権者であれば,申立てをしていない人であっても,申立権者としての資格において,申立てを却下した裁判に対しての不服申立てができるというのはありますが,一応ここでは②の考え方と,②の考え方を言わば修正した(注)の考え方が掲げられているというふうに御理解いただければと思います。 ○青山委員 先ほどの私の発言は,少し舌足らずでしたが,今,金子幹事が御説明になったとおりだと思います。①の方の不服申立ては,もちろん直接不服申立てできる。申立てを却下された場合の不服申立ての範囲をどうするかということに限って私が意見を申し上げたと理解していただければと思います。 ○伊藤部会長 そのように理解させていただきます。 ○髙田(昌)委員 これは参考までなのですけれども,これと同じ規定はドイツ法にもあるのですが,ドイツ法では,こういった場合に,自ら申し立てていない申立権者が参加を経ずに当然に抗告をすることができるという解釈が有力に主張されているようです。その場合は,おそらく申立人というのを申立権者と読み替えているのかもしれませんが,それによって,もしも,自ら申し立てていない申立権者が抗告できないとしてしまうと,彼らがまた別途新たに申立てをするということになりますので,それであるならば,既に係属している手続を利用して処理した方がいいだろうという,要するに手続経済ということを根拠にしてそういう解釈論が展開されております。こういう文言のもとでの解釈ということで,一応御紹介いたします。 ○伊藤部会長 私の理解が不十分かもしれませんが,今御紹介いただいた有力な解釈というのは,この(注)に書いてある考え方ではないのですね。 ○髙田(昌)委員 違います。 ○伊藤部会長 参加の手続を経るということではないのですね。分かりました。 ○高田(裕)委員 ドイツについてはおっしゃるとおりだろうと思います。ただ,私の理解するところでは,あくまで有力説であって必ずしも通説ではないという理解をしています。先ほどの金子幹事の御発言で,問題状況を共有したいということですので,お教えいただければと思います。第22,抗告の①と②の関係です。①で原則をうたっているわけですが,②の場合には,権利を害されたかどうかにかかわりなく,申立てを却下されれば直ちに抗告権者となるという趣旨なのか,なお②も「権利を害された者」であることを前提としているのかどうかということでございます。これは(注)で出てまいります参加のときの参加要件にかかわってくるように思うわけでありまして,参加でスクリーニングするのか,抗告でスクリーニングするかという問題はございますが,申立人以外の者は,いずれにせよ,抗告をするにはやはり「権利を害された者」という要件をパスする必要があるようにも思いまして,これは青山委員が先ほど御指摘されたことだと思いますけれども,「権利を害された者」といえるかどうかという枠組みの中で議論することを前提とすることになるのか,それとも,申立人は申立てを却下されたことで直ちに抗告権を有するということを前提に,ほかの申立権者も同じような地位にあると考える可能性も排除されていないのかという点をお伺いできればと思います。 ○伊藤部会長 では,本文の②の趣旨といいますか意義について説明をお願いできますか。 ○波多野関係官 ②の「申立人に限り,抗告をすることができるものとする」としておりますが,これは,現行法の解釈として,申立てを却下された裁判について,「権利を害された者」というのは申立人が通常であり,言わば当然の規定とも解されているところでございますので,その解釈を前提として提案しているところでございます。そして,②の規律をもって,申立人が「権利を害された者」であるか否かを問わず抗告ができるという趣旨ではなく,①の規律を前提に②の規律があるという理解をしているところでございます。 ○三木委員 1点は,今の議論にどういう意味があるのかよく分からなかったので,申立人が申立てを却下されて権利が害されないことがあるという前提の御質問なのでしょうかというのが,これは高田裕成委員に対する質問ですが,それは大したことではなくて,私が手を挙げた本来の趣旨は,私もこれを見ていて,②と(注)の関係がよく分からなかったのを,金子幹事の御説明で,そういう御趣旨かというのが立案当局のお考えとしては分かったのですが,先ほどの御説明ですと,②の「申立人に限り」というのは,裁判が出る前に申立権者が参加してきた場合には,その参加人もこの申立人に含むという御説明でよかったでしょうか。 ○金子幹事 そうですね。補助参加的な参加人は別にしますと,申立権者で参加した者であれば,そのように理解していただいていいと思います。 ○三木委員 そうすると,これは言葉だけの問題ですけれども,「申立人に限り」というのが恐らく,その案でもしいくならば,法文になるわけではないという理解でよろしいわけですか。 ○金子幹事 そうですね。ここに申立権者である参加人も含まれてくる。 ○三木委員 そうしますと,これは単純に考えればということですが,裁判までに申立権者が当事者的な立場で参加をしてきた場合には当然②で抗告ができるということであれば,それが裁判後であったからといって,抗告が突然できなくなって,別途裁判を提起しなければいけないというのは,手続経済的に考えても,あるいはバランスから考えても余り合理性はないように思うわけです。 ○伊藤部会長 三木委員の御発言の後半の方は,(注)の考え方に合理性があるという御指摘ですね。分かりました。それから,前半の方は,実は私も三木委員と同じ印象がございまして,確かに論理的には先ほどの波多野関係官からの説明もございましたし,高田裕成委員のおっしゃるとおりかと思うのですが,権利を害されないという余地がどういう場合に申立てを却下された申立人にあるのかというのはちょっとまだ理解できないところですので,高田裕成委員から補足して説明をお願いできますか。 ○高田(裕)委員 誤解があるのかもしれませんが,申立てを却下された申立人に関してはおそらくそのとおりだと思います。(注)で出てまいりましたのは,ほかの申立権者でありますから,ほかの申立権者の位置づけをどう考えるか,この(注)を卒然と読みますと,申立てを却下された者とパラレルに理解するかのように理解できるわけで,今おっしゃいましたように,手続経済を考えればそういう立場もあろうかと思いますが,抗告の段階で参加とともに抗告しようとする者というときに,①がかかってくるとすると,参加していなかった者については「権利を害された者」かどうかということを判断する必要があるようにも思います。ほかの抗告権者は裁判によって当然に「権利を害された者」といえるのかどうかというところについて私はちょっと分からなかったもので,先ほどのような発言をさせていただいた次第であります。 ○伊藤部会長 先ほど高田裕成委員の御発言にあったように,参加の申立てに関する要件を何であると考えるのかということになるわけですね。 ○高田(裕)委員 参加の申立要件と密接に関係していると思いますが,直接には,その法的地位が裁判によって害されたことを上訴に際して要求するのが①の要件の意義だと思いますので,そこにも関係するのではないかと先ほどの段階では考えておりました。 ○伊藤部会長 ちょっとそこは事務当局で検討させていただきますが,何か今の段階でありますか。 ○道垣内委員 この部会の当初から非訟事件手続法と家事審判法の関係がよく分からないままで,非訟の話をしているときに家事の話を出していいのかどうなのかというのがいつも不安でたまらないのですけれども,例えば後見開始の申立てというのは,却下されても,申立権者は権利を害されないのだと思うのです。だからこそ,小田幹事がおっしゃった問題につながってくるのであり,ほかの親族が申し立て却下された手続に関して,別の親族が抗告をし,そのとき,前の親族が出した書類を使っていいのか,使うことを認めると,プライバシーではないですけれども,親族間の紛争を激化させる可能性があるので,別にやるのならやってほしいというのが多分小田幹事のおっしゃろうとしたことではなかったのかという気がするのです。それは正に権利は―法律上の利益と言っても同じですが―害されない場合ではないかと思うのですが。 ○伊藤部会長 今の道垣内委員の発言に関して何かございますか。 ○波多野関係官 御説明いたしますと,道垣内委員が今例に挙げられました後見開始の事件ですと,家事審判法は即時抗告できる場合を家事審判規則で規定するとしておりまして,家事審判規則で即時抗告権者とされているかどうかによって,即時抗告をすることができるかどうかが決まってくると理解しております。後見開始の事件については,申立人が申立てを却下する審判に対しては即時抗告ができると規律されておりますので,却下の審判に対しては申立人が即時抗告ができるということになっていると理解しております。 ○伊藤部会長 その点に関しては,波多野関係官から説明があったとおりですが,ただ,道垣内委員の御指摘や(注)のような考え方を支持される御意見を踏まえて本文①,②,それから(注)の相互間の関係,概念を整理したいと思いますので,よろしくお願いいたします。   次に,2の「抗告の方法」で,即時抗告のみをすることができるものとする点についての趣旨は先ほど説明があったとおりです。それから,(注)に書いてありますように,終局決定に対する即時抗告と終局決定以外の裁判に対する即時抗告のそれぞれ期間を2週間,1週間とするということですが,この点に関しては御意見いかがでしょうか。 ○青山委員 2の「抗告の方法」と3の「抗告の効力」のことですけれども,この考え方は,即時抗告ならば常に執行停止になるというのではなくて,即時抗告に服する裁判であっても,執行停止があるものとないものを区別するというのが原案ということですか。現行非訟事件手続法第162条のような,それを前提としているということですね。といいますのは,民事訴訟法では,即時抗告があれば当然に執行停止になる。したがって,通常抗告と即時抗告をそこでしっかり分けているわけですが,資料では即時抗告に服するものでも,過料の裁判を命ずるものについては執行停止があると。しかし,過料の裁判の申立てを却下した場合には,即時抗告は即時抗告なのだけれども,執行停止は―この場合,執行停止,どういうことかよく分からないけれども,執行停止はない,そういうことですね。そういう理解ですね。分かりました。 ○伊藤部会長 それでは,補足して説明をお願いします。 ○波多野関係官 青山委員に整理していただいたとおりでございまして,非訟事件の中では,即時抗告であっても,総則規定としては執行停止の効力を有しないとされていまして,過料のように,各規定において執行停止効を有するとされている場合については執行停止があり,執行停止効を有する場合とそうでない場合があるという整理になっていると考えております。その趣旨で原案は提案しております。 ○青山委員 分かりました。私は,そういう意味ではこの原案に賛成でございます。 ○伊藤部会長 ほかに御意見等ございますか。   それでは,ここに掲げられているような考え方を基礎にして今後の検討を進めるということでよろしゅうございましょうか。   それでは,第22の4の「抗告及び抗告裁判所の手続」についての御審議ですが,この点に関しては,高裁で抗告審を担当されておられます鈴木委員から実務の現状等についての説明をお願いできればと存じますので,よろしくお願いいたします。 ○鈴木委員 それでは,御審議の参考にしていただくために,非訟事件の抗告の審理の実情を少しお話ししたいと思います。ただ,高裁における抗告事件は,御存じだと思いますが,記録符号ですと「ラ」というのがつきまして,この「ラ」の中にすべての民事抗告事件が入っております。訴訟の付随事件,例えば訴訟救助とか移送決定の抗告も入りますし,保全関係,執行抗告,破産も入ってまいります。そのほかにまた家裁からの抗告事件,いわゆる家事抗告も入っている。それを統計上きっちり仕分けしていないものですから,ここで今対象になっております非訟事件の抗告事件がどのくらいあるかというのは必ずしも分からない状況にございます。   私が今おります東京高裁の平成20年度の民事抗告事件が2,000件ちょっとございました。2,050件ぐらいだったと思いますが,この中に今申しました抗告事件がすべて入っているということでございまして,訴訟関係ですと,先ほど申しましたような移送とか訴訟救助,忌避,あと,よくありますのが文書提出命令です。それから,執行抗告。これは近年かなり減ってきておりますが,それでも昨年,執行抗告だけで年間250件ぐらいありました。では,ここの議論の対象となっているのはどのくらいあるかということでございますが,先日来時々出てまいります借地非訟とか商事非訟―商事非訟といっても商事の過料事件は除きまして,多いのは株式の買取価格の決定事件だと思いますが,どのくらいあるか調べてもらいましたら,借地非訟関係は昨年,年間で14件ぐらいだそうです。それから,商事非訟が9件ほどだったようです。ということで,一般的な非訟事件の抗告といいましても,高裁で仕事をしていても年間1件,2件やるかどうかという状況でございますので,議論していても,さて具体的に何を念頭に置いていいかなと困る状況でございます。ただ,いわゆる家事抗告は,昨年度,先ほどの2,050件の内数になりますけれども,780件,800件ぐらいございます。その多くは,婚姻費用の分担あるいは子供の養育費の請求,それから,遺産分割事件でございます。そういう意味では,ここで対象となっているものに入るものとしては家事抗告がほとんどであるというのが実情でございます。現在,東京高裁ではほかの事件は,民事事件を取り扱う20か部全体でやっておりますけれども,家事抗告事件については4か部で集中処理をしているという体制にございます。   審理の実情でございますけれども,抗告審の審理の構造につきましては,執行抗告等については事後審であるというような考え方もあるようでございますし,借地非訟とか保全抗告についてはそれぞれ特則がございまして,それに従ってやっているわけでございますが,一般的には続審と言われていると思います。ただ,実際にやっている立場から申しますと,訴訟,非訟を問わず,抗告審では新たな事実主張というのはほとんどない。むしろ,もう一度裁判所の判断をお願いしますといった形のものが多いこともございますし,また,簡易迅速といいますか,速く処理してくださいという事件が多いものですから,実際的な感じとしては,むしろ事後審的な感覚で審理をしているのかなという感じがいたします。殊に,事件の大多数を占めております家事抗告の乙類事件からの抗告につきましては,調停も経て原審で十分主張とか資料の提出をしておりますので,改めて何か出すというよりは,高裁の判断を求めたいということがございまして,事後審的な手続をやっているのが実情かなという気がいたします。   ここで議論の対象となっております手続でございますけれども,例えば抗告状あるいは抗告理由書の送付について申しますと,実情としては訴訟関係も含めまして当然には送付はしていない。抗告提起に当たって副本の提出も当然には求めていないという状況にございます。したがいまして,送付するか否かは担当する裁判体の判断によっている。新たな主張がある,殊に事実の上での新たな主張があるというものとか,あるいは,これは相手方の意見を再度きっちり聞いた方がいいだろうという場合には抗告状あるいは理由書を送っておりますし,また,相手方,特に代理人がついた場合には,抗告が出されたようだけれどもどうかと聞いてくるケースも結構ございます。そういうときには,求めがあれば抗告状の写しをお送りしているということでございます。   こういった書面を送るとした場合,もちろん,これが手続保障という意味で大切な手続だということはよく分かっているつもりでございますけれども,他方では,やはり時間的に遅れる。代理人がつかない事件がかなりございますし,一審では代理人がついても,抗告審ではつかないというケースもかなりございます。ですから,そもそもだれに送るかというところから問い合わせをしたりチェックをしなければいけないということがございますし,また,送った以上はやはり反応を待つ。送って,まだ反応が出ないうちに決定をしてしまうというわけにいきませんので,一定期間待たなければいけないだろう。そうすると,当事者本人などから電話がかかってまいりまして,何か出さなければいけないのでしょうかとか,どうすればいいでしょうかという電話が結構参ります。それから,代理人をまたつけなければいけませんかといったような問い合わせがありまして,そういう対応をし,それについて何らかの対応を待っていると,どうしても時間が掛かってしまうということがございます。   それから,簡易迅速という点で申しますと,先ほど申しました婚姻費用の分担事件とか養育費の事件ですと,一審での金額自体が月々数万円というものがかなりございます。こういった月々数万円のものですと,例えば義務者側が抗告しても,相手側は,そんな数千円のことはどうでもいいから,ともかく早く払ってくださいと。結論が出ないと相手は払ってくれない。現に,今のところ,原審で出たものも全然払ってくれていないと。むしろ,数千円のことはいいから,ともかく早く結論が欲しいと。電話などでよくそういうことを聞いてくることがございます。そういうことを考えますと,時間との兼ね合いというのも考えざるを得ないこともあろうかと思っております。さらに,出頭しなければいけないということになりますと,東京高裁ですと,新潟県でも下越のあたりから数万円の事件のために出てくるのかどうか。ただ,裁判所から一応出てきなさいよと言うと―もちろん,そちらの判断で出てこなくてもいいですよと言いますけれども,しかし心配になると思うのですね,本人の側からいいますと。費用は掛かる,時間は掛かる,ただ,出ていかないと不利益な判断を受けるのではないかというのが多分一般の方ですと当然の気持ちだろうと思うのです。そういう意味で,果たして一律に書面を送付するとか,必ず審問するというのがいいのかどうかというところには若干の問題があろうかなという気がいたします。   それでは,原裁判を変更する場合にはどうかということでございますけれども,これについては,一般的に言えば相手方に意見を改めて言わせる機会を与えるというのが望ましいと思います。ただ,先ほど申しましたように,原審で双方の主張立証が出そろっていて,新たな主張としては何もないという場合で,全く原審と同一枠組みで裁判所が判断をするというときに,先ほどの時間との兼ね合いもありますし,変更の程度ですね,先ほどの例ですと,月々何万円という中に例えば計算違いがあるから数千円直すというようなときにもどうかということになりますけれども,その程度のときにも相手方の意見を聴く方がいいか,場合によっては相手方は,それはいいから早く結論を出してくれということもあるのかもしれません。   先日資料として配布していただきました最高裁決定後の実情でございますが,私は今家事抗告部から離れておりますので,現在の家事抗告部に聞いてみましたら,原審を変更する場合には抗告状等を送付するということはやっているようでございます。ただ,逆に申しますと,抗告状あるいは抗告理由書を必ず相手方に送っているかというと,そうではないと。これは最高裁の決定後も同じような状況だろうという気がいたします。部によっては多少扱いが違うかもしれませんが,そういう状況だと思います。そうすると,悩ましいのが,原審を変更するというのを相手方に不利益に変更ということに言葉を置き換えてしまうと,家事審判ですと,例えば子供の面接交渉の方法を変えるという場合に,不利益変更かどうかというのがちょっと分からないことがございまして,内容は変わっているけれども,非訟事件というのはそういうところがあると思うのですけれども,果たしてこれは不利益なのかどうかというのがよく分からないケースもございます。ただ,それについては,不利益かどうかにかかわらず,やはり内容を変更するのだから相手方の意見を聴いた方がいいだろうということが言えるかと思いますので,多分そういうケースについては相手方に抗告状等を送っていると思いますけれども,私が承知している範囲では,現時点では,抗告状,抗告理由書を当然相手方に送るという扱いはしていないようでございます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの鈴木委員からの御説明も踏まえまして,「抗告及び抗告裁判所の手続」に関して何か御意見ございますでしょうか。 ○中東幹事 手続法は素人なので教えていただきたいのですが,(補足説明)の3の(5)の許可抗告について,ふだんから疑問に思っているのでお伺いしたいのですが,高裁で許可抗告が認められましたと,この場合,最高裁に行くわけですが,その場合に最高裁は必ず自らの判断を示さないといけないということになるとのことなのですが,非訟だけではないと思うのですが,訴訟であれば,判決については上告を不受理にするということができ,これは随分活用されているように私は商事について印象を持っているのですが,そういう意味で,最高裁の判断が示されることは,ひどい高裁判決が出ても余りないと理解しているのですが,ただ,非訟になってしまうと,許可抗告に乗せれば必ず最高裁は一定の判断を示さないといけないということになるので,本当にそれで手続法の先生方なり実務家の先生方いいのかなというのをかねてから疑問に思っていましたので,その点だけ教えていただけますか。 ○伊藤部会長 今の許可抗告の関係は,鈴木委員,何か補足的に,一般論で結構ですので。 ○鈴木委員 許可抗告で許可するかどうかは高裁が判断するわけですが,これは多少高裁によって違うようですけれども,東京の場合は,許可をした例は極めて少ないと思います。上告の受理は最高裁の方で考えることですから,原審では形式が整っていれば送ってしまう。そして,これは高裁で言えることではありませんけれども,上告受理はほとんど認められていないのではないでしょうか。 ○中東幹事 そうすると,高裁では許可抗告は極めて厳格に解釈されていて,もちろん文言上は同じ条件になっているわけだと思うのですが,高裁では実際に許可を出すということはほとんどされていなくて,したがって,最高裁も自ら不受理をできない仕組みになっていてもそう煩わしくはない形になっているという理解でよろしいですか。 ○鈴木委員 高裁の決定については本来,特別抗告を除いて最高裁には上がらないですね。それを改正で許可抗告という制度をつくったと。ですから,それはごく例外的に,これは是非最高裁の判断をもらった方がいいだろうというのについて許可をしている。その辺の判断の基準,広い,狭いというのは,全く別でございます。高裁の立場から申しますと,許可抗告は正に高裁の責任で判断をするということでございますが,上告受理は形式だけ判断しているということで,最高裁が許可抗告と同じような感じで上告受理をやっているかどうかというのは,少なくとも理論的には全然違う問題ですし,それほど広く認められているわけではないという意味では同じかもしれませんが,ちょっとその辺は違うのではないかという気がいたします。 ○伊藤部会長 中東幹事,いかがですか。 ○中東幹事 ありがとうございます。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,(補足説明)に掲げられているような様々な事項がございますけれども,基本的には4の本文に書いてあるようなことで検討させていただければと存じます。   それでは,5の「抗告審における審問等」の本文にありますように,まず,第一審で相手方のない事件の方ですが,申立てを認容した決定に対して,申立人以外の者が抗告した場合にA案は,相手方のない事件としての基本的な性質は変更されないけれども,必要に応じて手続保障は図るというもので,B案は,言わば相手方のある事件に性質が変わるという前提で手続保障を図る,具体的には審問というような形になるかと思いますが,第一審で相手方のない事件として始まったものについてのこの掲げられている考え方ですが,この点に関してはいかがでしょうか。いずれも手続保障を図るという意味では理念は共通しているところがございますが,言わばその図り方に関しての考え方の違いというようなことかとは思いますけれども。 ○増田幹事 私は基本的にB案に賛成でございます。第一審で申立てが認容されており,申立人以外の者から抗告がなされた場合については,申立人に対して抗告審で不利益な変更がなされる可能性があるわけですから,申立人に対する手続保障は,やはり当事者としての手続保障でなければならないと考えます。これは最高裁平成20年決定の問題でもあるのですけれども,事実問題,法律問題に関する資料,意見の提出の機会は保障されるべきですし,抗告審において抗告人が提出してきた事実や資料に対して意見を述べる機会というのも保障されなければならないと考えております。したがって,B案の,相手方のある事件と同様の手続保障が妥当するのではないかと考えます。   この場合に,実は(注)の2のようなことが起こるのかどうかということについてちょっと先回りしますけれども,第一審を経ておりますから,第一審の相手方がある事件の規定を原則的に適用するからといって,第一審で陳述聴取が必要的とされる者について再度陳述録取をするという必要は必ずしもないのではないか。B案をとったとしても(注)の2にはつながらないのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 ただいま増田幹事からは,本文のB案の考え方を基本にして検討を進めたらどうかという趣旨の発言がございましたが,この点に関してはいかがでしょうか。より当事者ないし当事者的な手続保障ということからするとB案の考え方になる,そういうことではあろうかと思いますが。 ○高田(裕)委員 私自身,現在のところまだ必ずしも定見はないわけでございますけれども,先ほど増田幹事がおっしゃられた,言わば当事者的な地位を第一審の申立人に保障する必要があるということはおっしゃるとおりだろうと思います。ミニマムには,認容事件において不利な変更がなされる場合においては意見陳述の機会を必ず与える必要があるように私も思います。ただ,その地位を保障するためにB案が不可欠かといいますと,必ずしも私には今のところ十分理解できていないところでございまして,A案におきましても,この「必要に応じて」にかかわってくるのかもしれませんが,少なくとも不利な変更をする場合においては,必ず決定前に意見陳述の機会,主張立証の機会と言い換えてもよろしいのかもしれませんが,少なくとも意見陳述の機会を与える必要があるという規定は不可欠だろうと思います。もしそうであるとしますと,B案にこだわることなく,むしろその実質を実現するという方向で議論を積み重ねることもありえてよいのではないかと思います。   振り返ってみまして,私が議論を混乱させている面もございますけれども,相手方のある事件とない事件という分け方がこれまでも必ずしも切れ味のよいものではなかったということがここにも反映しているようにも思いますが,第一審で相手方のない事件として扱われていた事件につきまして,あえて相手方のある事件の規律をすべて適用するということを前提に議論することは必ずしも必要ないのではないかと私は現在のところ考えております。 ○伊藤部会長 高田裕成委員の御意見は,A案における手続保障の趣旨に関して,(補足説明)に書いてあるように,取消し・変更をする場合には申立人の審尋をするというようなことを想定しているということですが,一応これで手続保障としては足りるということなのか,それとも更に,これに加えてより手厚い手続保障というものを考えられるということも含まれているのでしょうか。 ○高田(裕)委員 はい。とりあえずは審尋ということでよいのではないかと思いますが,それ以上の規律も十分あり得るかと思います。これは結局,第一審においてどういう規律をするかにかかわっていると思います。例えば審理の終結という議論がございましたが,私の記憶では,先の検討事項の御提案では相手方のある事件を想定して提案があったわけですが,第一審で相手方のない事件におきましてもなお審理の終結という選択肢があるとすれば,A案をとりましてもなお審理の終結という規律が入ってくる余地はあるわけでございまして,第一審の手続保障の構成を踏まえつつ議論していくということでよろしいのではないかと私は考えております。 ○伊藤部会長 高田裕成委員からは,A案を基本としながら,なお手続保障の充実を実質的に検討するという方向で考えるべきではないか,そういう御意見で,先ほどの増田幹事のB案とは若干内容の違った御意見があったように承りますけれども,ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ○中東幹事 今の高田裕成委員のお話が私には非常に分かりやすかったのですが,つまり,B案ですと,第一審では相手方ではなかったのに,第二審では相手方になってしまうという構成なわけですね。これは非常に分かりにくいといいますか,相手方のある事件,ない事件,どうやって分けたのかという話になってしまうと思いますので,そういう意味ではA案が分かりやすく,かつ,「必要に応じて」の内実によって手続保障は十分にされると思います。そういう意味では,高田裕成委員のおっしゃったことが私には分かりやすかったです。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○高田(裕)委員 念押しになりますが,もう一言付け加えさせていただきますと,増田幹事の御趣旨は,勘違いかもしれませんけれども,第一審で相手方のある事件とない事件を分けた上で,相手方のある事件については十分な手続保障をするということを前提に議論してまいりましたので,抗告審では,第一審における相手方のある事件と同程度の手続保障は考える必要があるのではないかということだろうと思います。もしそうでしたら,A案かB案かというよりも,やはり具体的にどういう手続保障を第一審の申立人に抗告審で保障すべきかという観点からの議論を増田幹事も期待されているのではないかと思うのですが。 ○増田幹事 私は正に高田裕成委員のおっしゃるとおりだと思いますし,相手方のない事件でも基本的に手続保障をすべきだ,充実させるべきだというのが高田裕成委員の以前からの御発言だったと思いますので,余り結論的には差がないのかなとは思っております。 ○波多野関係官 高田裕成委員から御説明していただいたとおり,第一審の相手方のある事件とない事件の規律自体が確定していない現段階では,相手方のある事件として扱うものとしたところで,当然に何か規律が出てくるわけでもございませんので,実質としてどういう手続保障が必要かというところを,第一審の手続保障の規律との兼ね合いも踏まえまして更に検討させていただきたいと考えております。 ○伊藤部会長 そういたしますと,増田幹事からも御発言ございましたように,実質において,この場合の第一審の申立人に対する手続保障を充実させるという点に関してはそれほどお考えの違いがないと思いますので,ただいま波多野関係官から発言がございましたような方向で更に検討させていただければと存じます。   そうしましたら,(注)の1につきましては,ただいまの議論との関係がございますので,それを踏まえて,相手方のある事件の抗告審における審理の態様については事務当局で検討するということでよろしければ,そのようにさせていただきます。   それから,(注)の2については,先ほど増田幹事から,必ずしも同じようにする必要はないではないかという御発言がございましたが,ほかにその点に関して御意見はございますか。 ○菅野委員 私も以前,東京高裁の抗告の集中部にいたことがございます。今,部会長にまとめていただいたとおりなのですが,抗告の場合に手続保障をという点はそのとおりなのですけれども,同時に,申立人の方から見れば,せっかく決定を得た,それなのにまたさらに,例えば先ほども遠隔地から出頭を求められた場合にどう考えるかとか,更に主張資料を出すようにと言われた場合にどう考えるかと,そういう手間ということがございましたが,抗告人に対して十分な手続保障が必要だとしても,例えばその前の申立人について,申立人に不利益にひっくり返すという場合でないとなった場合に,ではその申立人について十分な手続保障をしておく必要があるかというと,それはまた全然別のことのような気がいたします。それぞれの手間,利害関係,それから迅速性,いろいろなことを勘案しながら規定振りを更に御検討していただけると幸いと考える次第です。 ○伊藤部会長 正に「必要に応じて」という,その点に関する御意見かと思いますので,この点も事務当局でただいまの御発言を踏まえて更に検討を進めてもらいたいと思います。   それでは,ちょっと中途のところですけれども,一応5までは審議をいただいたということで,ここで休憩をとらせていただきます。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは,再開させていただきます。   先ほどの続きになりますけれども,「6 不利益変更禁止の原則及び附帯抗告」で,不利益変更禁止の原則は適用しない,それとの関係で附帯抗告の制度は設けないということで,実質は,先ほど説明がございましたように,訴訟におけるような訴訟物を基準とした利益・不利益ということが非訟の場合には必ずしも観念し得ないというのが一番基本的な考え方かと思いますが,この点に関しては何か御意見ございますでしょうか。 ○増田幹事 非常に難問なのですけれども,不利益変更禁止の原則とか附帯抗告の問題というのは,形式的にそれが訴訟手続であるか非訟手続であるかということではなくて,むしろ内容が実質的に訴訟事件に当たるのか非訟事件に当たるのかということが恐らく問題になるのだと思います。例えば境界確定などは訴訟手続であるけれども,実質的には非訟事件で不利益変更禁止はないと考えられているわけですが,逆に,非訟手続であるけれども,利益・不利益が比較的明らかな事件というのもありまして,例えば婚姻費用だとか財産分与だとかいうものがある。私も定見がないのですが,総論的には不利益変更禁止の原則だとか附帯抗告というのは非訟にはなじまないのではないかと思っているのですが,そういったものについて各則で例外を設けるという余地があるのかどうか,その点をお聞きしたいところです。お願いします。 ○伊藤部会長 増田幹事が例を挙げられましたように,家事審判の領域が中心になるのかと思いますが,しかし商事でもそういう問題はなくはないと思いますが,一般論としては不利益変更禁止の原則などの適用はないという考え方に立ちながら,なお特定の分野の非訟事件に関してはそういうことを検討する余地がないのかという問題提起かと思います。この点に関しては,委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ○平山関係官 今,増田幹事の御意見をお伺いして,例に挙がっておりました婚姻費用,養育費の場合でも,月額についてはある程度不利益というのははっきりするのだと思いますが,始期だとか終期だとかとの兼ね合いで全体トータルで不利なのか,例えば月額は下げても期間が長くなることによって不利なのか分からないというような場合もあると思いますし,そういったことで,必ずしも一義的に有利・不利ということが定まるのかなというところをちょっと疑問に思った次第です。 ○伊藤部会長 平山関係官のお話では,ある面をとれば一方申立人に不利かもしれないけれども,他面を見れば必ずしもそう言えないという,なかなかそこの有利・不利,不利益か利益かという判断の尺度が難しいのではないかという御指摘でございましたが,いかがでしょうか。 ○三木委員 訴訟の世界における不利益変更禁止原則というのは,私が理解する限りでは大きく二つの意味があると思います。一つは申立拘束主義というか,処分権主義に関連する要素であり,もう一つは,当事者に不意打ちを避けるというか,当事者に適切な予測とか機会を与えずに不利な裁判が突然下されるというようなことを避けるという要素があろうかと思います。   前者の方は,先ほど来話にも出ていますし,事務当局からの御説明にあったように,もともと非訟には申立拘束主義はありませんし,何が不利益かというのが形式的には分かりづらいというので,そういった意味で,不利益変更禁止原則という規定の形で設けるのは困難であろうと私も思います。ただ,後者の方の,当事者の不意を打つ形で不利な裁判がされるというようなことは避けるべきだという要請は,これはもちろん非訟でも働くのだろうと思います。その実質をどういう形で規定化するかということですが,それを民事訴訟法第304条のような不利益変更禁止原則という規定を置くというやり方でやるのはなかなか難しい,あるいは不適切かもしれないと思います。したがって,これは,既に議論に出たところ,あるいは場合によってはこれから議論に出るところの規定等を通じて実質を実現していく必要がある。   今から申し上げるのはその一つの例としてですし,その一つの例として適切かどうかは分かりませんが,例えば最高裁の判例もありますし,先ほど鈴木委員からの説明にも出てきましたが,例えば,抗告状,抗告理由書の写しの送付の点に関して言うと,少なくとも原決定を変更する場合にはそれをしなければいけないというようなことは,直接今の議論が不利益変更禁止原則そのものではないですけれども,本質において同じものをほかの規定で実現するということで,そういうものは例えば明文化する,あるいはほかの規定で幾つかありますが,先ほどの,相手方のある事件,ない事件を抗告審でどう扱うのかというような問題も含めて,なるべくここで規定を置かないことの反面として,この規定に置く,置かないにかかわらず,今言った問題は当然正面から問題になってきているし,またなるべき問題でありますが,より一層,不利益変更禁止の規定という形で置かないのであれば,そこは意識してやるというのが必要かと―ちょっと抽象論的な話で恐縮ですけれども―思います。 ○伊藤部会長 三木委員からは,不利益変更禁止の原則の機能であります手続保障あるいは不意打ちの防止ということから考えると,今まで議論がありましたし,またこれからも議論があるであろう手続保障に関する規定の充実という形で不利益変更禁止原則の機能が担っている面は実現できるのではないか,そのような趣旨の御発言がございましたが,ほかにいかがでしょうか。 ○増田幹事 今の三木委員の御発言と同趣旨なのですけれども,結局,不利益変更の禁止がない,あるいは附帯抗告を認めないということになると,抗告審において,抗告を認容しないから相手方の手続保障が薄くてもいいという結論は容認できないということになるのだと思うのです。三木委員は抽象的な話と言われましたけれども,例えば,婚姻費用などで一定の額が第一審の審判で示された,申立人としては非常に不満ではあるけれども,裁判所の決定だからそれに従おうと思って抗告はしない,しかし相手方は抗告してきたという場合です。この場合に附帯抗告の制度を認めないということになると,申立人は相手方の地位に置かれるわけで,先ほど来言われている裁判所の運用,すなわち抗告棄却であるという結論が明らかであるならば,申立人に対してはさほどの手続保障は要らないというような運用を前提にする限りは,これはもともとの申立人である,要するに抗告の相手方としては非常に不満な結論になりかねないということになると思うのです。それが恐らく三木委員がおっしゃっていた内容の実質なのだろうと考えています。 ○伊藤部会長 増田幹事からは,婚姻費用分担,家事審判に関する具体的な問題の指摘がございましたが,この点に関してはいかがでしょうか。 ○小田幹事 増田幹事に質問なのですけれども,家事審判の婚姻費用と養育費を念頭に置いて議論をされていますけれども,家事審判の中でも専らこういった類型ということでよろしいのでしょうか。ほかの身分関係であったり,同じ財産関係のものでも遺産分割ですと,相続分だとか評価額は変えなくても分割方法という,何が不利益変更か非常に分かりにくいものもございます。そうすると,非訟ということではなくて家事の方かもしれませんけれども,その中でもかなり限定された分野での話なのだろうと思うのですけれども,対象としては専ら養育費,婚姻費用をお考えということでよろしいのでしょうか。 ○増田幹事 婚姻費用,養育費,財産分与も入ると思います。それから,家事以外だったら,株式買取価格の決定などが入ってくるのではないかと思っているのですけれども,いかがでしょうか。 ○伊藤部会長 ただいまの点について御発言ございますか。 ○菅野委員 増田幹事の御見解自体に反論するものではございません。実は全体像についてきちんと理解できているかどうか自信がないのですが,例えば新株発行が無効だ,払戻金増減の裁判をする,一人の株主のみが即時抗告したと。そういうときに,抗告審で仮に原審の決定は金額が多過ぎる,逆にアップではなくてダウンの方の判断をすべきであると。その場合に,どういうふうに申立人について意見を求めるべきかとか,あるいは抗告人に対して手続を設けるか,それはある程度は考えないと確かにいけないのだと思うのです。ただし,その場合も多分不利益変更禁止の原則がかからないということ自体は,そこはよろしいのですよね。そこはよろしくて,その上で手続については考えなければならないという理解でよろしいのかという確認が1点ございます。それと,やはり第三者保護とか公益性とかいろいろなことも考えて非訟の場合に―例えば商事の非訟の場合の方で今言ったわけですけれども,考えてやっているとなると,そうすると全体的な,申立人側の方の利益とか迅速性とかいろいろなこととのバランスの中でやはり抗告審における手続保障も考えていかないとということになるので,なかなか規定として書くときに一律,まずそもそも不利益が何かということも問題があるわけですけれども,例えば不利益な場合にはこれこれをするという形でたくさんのことを書くとまた難しい問題もあるし,いろいろと本当に検討していただかないと大変なのだなと考えた次第です。 ○伊藤部会長 増田幹事,何か今の点に関して御発言ございますか。 ○増田幹事 私も不利益変更禁止の原則自体が一般的には働かないのかなとは思っているのですけれども,なお検討中です。もう一つ,今の関連で,法律に「働かない」という趣旨を書くのかどうかというのがまた問題なのかなと思っているのですけれども,そのあたりはどうお考えですか。明文で書くのか,それとも何も書かないのか,ということです。 ○伊藤部会長 ちょっとこれは先の話になりますが,一応イメージとしてどのようなことになるのかということを事務当局から説明していただけますか。仮にこういう考え方でいった場合ですね。 ○波多野関係官 何分法制的なものですが,民事訴訟法第304条の「不服申立ての限度においてのみ,これをすることができる」という規定を設けないことなるとイメージしていたところでございます。非訟においては規定を置かないことによって,その趣旨を読み取ることになるかと考えております。 ○増田幹事 それを前提に,今申し上げたような類型について,不利益変更禁止を働かせて附帯抗告を設けるという形で解決を図るのか,それとも三木委員がおっしゃったように,手続保障の充実という形で解決を図るのかということはちょっとまだ考えがまとまっていないのですけれども,三木委員がおっしゃったような考え方もあるのではないかと思っています。 ○三木委員 若干私が申し上げた趣旨を補足いたしますと,民事訴訟法本体にも不利益変更禁止原則という規定があるわけではもちろんないわけです。あるいは講学上の概念といいますか。今例に挙がっている民訴法第304条ですが,これはもちろん読み方は,人によって解釈は分かれると思いますが,卒然と読むと,これは申立拘束原則を規定している。私が先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが,この規定は置く必要はない。その意味は,仮に不利益変更禁止原則に,先ほど私が申した二つの趣旨が仮にあるとすれば,前者についての明文の規定を非訟では置かないということを申しただけで,後者の意味での不利益変更禁止原則,それをそう呼ぶとすれば,それが非訟でも全く考慮に値しないとか否定されるという趣旨ではないという意味です。もちろんそれを,後者だけの規定というのはないということでそういう規定は置かないという趣旨で申しただけでありまして,その分の実質はほかの規定でカバーするということであります。したがって,これも先の話になりますが,将来,解説書のようなものを書かれるときに,これは希望ですけれども,不利益変更禁止原則は働かないのだとかいうような書き方をされるのではなくて,その精神は十分に値するというような趣旨が伝わるような方向でやってほしいというのが私の個人の意見であり,あるいは法制審,この部会で全体がそういうので合意されるとすれば,そういう方向でやっていただきたいということです。 ○伊藤部会長 ただいまの委員・幹事の御発言を伺っていますと,民訴的な意味での不利益変更禁止原則あるいはそれを踏まえた附帯控訴の制度自体を非訟に設けることについては,やはり性質上ちょっと違うのではないか,ただ,特に第一審の申立人に不利な判断がされることが想定されるような場合の手続保障については十分検討をした上で考えなければいけない,こういう趣旨が大体の御意見の内容だったかと思いますので,それを踏まえまして事務当局で,一応本文に書いてあるような考え方に関しては大方の御意見の一致があるという前提で,なおかつその手続保障に関してどういうことを検討すべきかということで考えてもらうことでよろしゅうございましょうか。 ○道垣内委員 附帯抗告という制度は設けないというのは分かるのですが,双方抗告というのはできるのですか。 ○波多野関係官 それはできるという理解でいいかと思います。 ○伊藤部会長 では,そういうことでよろしゅうございますか。   それでは,7の「再度の考案」の本文と,(補足説明)のところで,審理の終結の規律を設けた場合に,終結後に提出された資料に基づく再度の考案による更正を認めると,審理の終結の考え方と調和しないのではないかという問題,存在が指摘されておりますが,この点に関して何か御意見ございますか。ここは,こういう本文と,審理の終結制度を導入した場合には再度の考案による更正を認めないという,ここに掲げられているような考え方でよろしいでしょうか。それとも,何か御意見ございましたらお願いいたします。 ○畑幹事 今の審理の終結の規律を設けた場合についてですが,その場合はすべからく再度の考案ができないという御趣旨なのか,それとも資料が限定されるという御趣旨なのかを明らかにしていただければと思います。 ○波多野関係官 事務当局としましては,資料を制限されるという趣旨ではなく,この事案においては再度の考案ができないという意味で提案しているところでございます。 ○伊藤部会長 畑幹事,いかがですか。 ○畑幹事 可能性は少ないとは思いますが,終結までに既に提出されている資料に基づいて,やはり変えた方がいいというときに,それを否定する理由もないように思いますが。 ○脇村関係官 これは相手方のある事件をどう組むかにもよると思うのですが,当事者双方が言い分を尽くした上で終結してやるのだという規律を置くという前提だとすると,相手方の意見を何も聴かない状態で再度の考案で変更していいかという点についてはなかなか難しい問題があるのかなと思っています。事務当局の案としては,資料を限定するだけでなく,再度の考案による変更についてもできないと考えてこのような説明がなされているところでございます。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,この点は,一応,脇村関係官からの説明のように考えてはおりますけれども,畑幹事からの御指摘を踏まえて,なお十分かどうか検討をしてもらうことにいたします。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 一個さかのぼって本当に恐縮なのですけれども,6を読んで私が理解をしたところは,不利益変更禁止の原則が働かないのだから,一方が抗告をすれば,それで裁判所はまた新たにすべての事由を判断しながら,プラスもマイナスも,場合によっては質的な変更もできる,したがって附帯抗告は要らないはずではないか,そういう論理なのだと思うのです。そうすると,なぜ双方抗告という制度が認められ得るのかというのが私には分からなくて,ペンディングな状態にすれば,あとは裁判所の自由だからという判断ならば,双方が抗告するという制度が存在するということはおかしいのではないですか。 ○金子幹事 抗告の取下げは,相手方の同意なくできるという前提で考えますと,抗告審を維持したい者が取下げに備えて他方の方も抗告しておくということは十分考えられます。 ○道垣内委員 その理由は十分に分かって,(参照条文)の民事訴訟法第293条を見てもそこはよく理解できるのですけれども,そうすると,6の話というのは,不利益変更禁止の原則が存在しないから附帯抗告の制度は設ける必要がないという論理的なつながりを持っているわけではなくて,不利益変更禁止の原則は適用しないということと附帯抗告制度は設けないというのは,二つは別の話ではないかという気がするのですが。 ○青山委員 附帯控訴をどう理解するかという民事訴訟法上の議論がありまして,附帯控訴は独立の控訴だという説も結構あるのです。だから,やはり不利益がなければ控訴の利益はないという考え方がありますけれども,現在の通説的な理解は,附帯控訴というのは,不利益変更禁止の原則があるので,そのカウンターパートとして相手方にも自己に,少なくとも原審で得た利益を維持することを保障するためにこれがあるのだ,そういう説明をしているのです。ただ,おっしゃるように,不利益変更の禁止の原則を置くかどうかという問題は,恐らくこれは置く必要はないということだと思うのです。しかし,附帯控訴のようなものを,抗告期間がなくなった人間に何らかの自分の方にも有利に判決を変更してくれという申立てを認めるかどうかは少しニュアンスが違うかなという気がいたします。だから,本来これは別に切り離してもいいと思うのですが。先ほどからの議論は,不利益変更禁止の原則は要らない。では,附帯抗告はどうするかというと,これも要らないけれども,しかしその手続保障をどうするかというところに収れんしてきていると思うのです。その判決を不利とする人間は抗告ができる,控訴ができるというのは,これは一般的な原則ですから,その大原則までをここで変更する必要は全くない。だから双方が抗告することはもちろんできるけれども,自分の抗告期間が過ぎてしまった人間に附帯抗告という形でそれを許すかどうかはまた別だということなのではないでしょうか。   ついでに,先ほどの続きで言いますと,附帯抗告は認めなくてもいいけれども,その手続保障をどうするかという点については,抗告状を送るという考え方も先ほど示されましたけれども,抗告状というのはもう大分前に提出されて,裁判をするときに,これは不利益変更禁止の原則を破って裁判をする,慌ててそのときに抗告状を送るというのはやはりおかしいのではないかという気がしますので,抗告状を送るという手続保障ではなくて,人事訴訟法第20条の職権探知主義で,職権で証拠調べをすることができる,ただし,この場合には,裁判所は,その事実及び証拠調べの結果について当事者の意見を聴かなければならないという,この条文を直して,不利益変更になる当事者,それが不利益変更かどうかは大問題ですが,とにかく相手方の意見を聴く機会,相手側に意見を述べる機会を与えるということで,その程度の手続保障でいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。   よろしいでしょうか。道垣内委員はなお御疑問があるようでありますけれども。 ○道垣内委員 なお疑問は根本的にありますが,それは結局,不服申立ての方法をどう規定するかの問題であるので,不利益変更禁止の原則と結びつける,何らかのつながりがあるというのも私はおかしいと思いますけれども,結論に余り影響しませんので,結構です。 ○伊藤部会長 もちろん,おっしゃることについて,どう整理するのがこの制度の趣旨に合致するのかということは検討してもらうようにいたします。   そうしましたら,第23の「再審」,第24の「裁判の取消し又は変更」に進んでよろしいですか。事務当局からの説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   第23の1の「再審の可否及びその対象」では,非訟事件手続におきまして,再審の申立てができるものとすることを明文化することを提案しております。その際の再審の対象につきましては,確定した終局決定に限定せず,不服を申し立てることができない終局決定に対しても再審の申立てをすることができるものとすることを提案しております。この点につきまして,不服を申し立てることができない終局決定は,当該手続内における当事者主導での是正手段は尽きていますが,現行非訟事件手続法第19条の裁判の取消し・変更の規律の存在によって,確定した裁判ではないと考えるのが一般的であると思われます。しかし,この終局決定に重大な瑕疵がある場合に当事者に不服申立ての道を残すのが相当であると考えられますことから,この決定についても再審の対象となることを提案しております。   2の「再審の手続」でございますが,この点につきましては,民事訴訟法第338条から第348条までと同様の規律とすることを提案しております。   次に,第24の1の「非訟事件手続の指揮に関する裁判」についてですが,非訟事件手続の指揮に関する裁判は,取り消すことができることを明文化することを提案しております。   2の「裁判の取消し又は変更」は,不当な裁判の取消し又は変更について,現行非訟事件手続法第19条の規律を維持するものとすることを提案しております。これは,非訟事件の裁判は,裁判所が公益的・後見的な立場から裁判所の合目的的裁量により私的な権利関係を形成する性質を有していますことから,裁判が不当な場合には,これを存続させるのは相当ではなく,職権で,これを取り消し,又は変更することができるようにすべきであると考えられることを理由としております。   ただし,職権による裁判を否定した趣旨及び不服の申立ての方法を即時抗告に限定して早期に法律関係を安定させることとした趣旨を没却させることがないように,本文(1)及び(2)の裁判を除くこととしております。   なお,ここで取消し又は変更すべき裁判には,裁判時において不当であった場合及び裁判時に基礎とした事情が裁判後に変更し,結果として裁判が不当になった場合のいずれをも含むことを前提として提案しております。   (注)の1でございますが,本文の(1)及び(2)の例外に該当し,取消し又は変更ができない裁判につきまして,裁判当時存在し,これが裁判所に認識されていたならば当該裁判がされなかったであろうと認められる事情の存在が,裁判の確定後に判明し,かつ,当該裁判が不当であってこれを維持することが著しく正義に反することが明らかな場合には取り消し又は変更することができるとする最高裁決定がありますが,他方で本文の規律では取消し又は変更することができない裁判が当初から不当であった場合には,再審の申立てにより対応することも考えられます。そこで,このような場合にはどのように対処すべきなのか検討することを提案しております。   (注)の2では,いわゆる事情変更による取消し又は変更を認めるかについて検討することを提案しております。この点につきましては,事情変更による取消し又は変更の余地を認めることも考えられますが,他方で,一般的な総則規定ではなく,個別規定により対応することも考えられます。   (注)の3では,本資料の第23の1で検討した再審の規律において不服を申し立てることができない決定について,当事者等に再審の申立権を認めないものとした場合には,当事者等に当該決定の取消し又は変更の申立権を与えることについて検討することを提案しております。   (注)の4では,抗告申立てに対する抗告裁判所の裁判は,取消し又は変更することができないものとすることを提案しております。   (注)の5では,取消し又は変更した裁判によって権利を害された者がとり得る方法について検討することを提案しております。   A案は,当該取消し又は変更した裁判に対して,取消し又は変更の対象となった裁判に対してすることができる不服申立てができるものとし,認容の裁判と却下の裁判とで不服申立ての方法が異なる場合には,変更後の裁判の内容に従って不服申立ての可否を判断するものとしております。   B案は,取消し又は変更した裁判に対しては,当該取消し又は変更の裁判によって権利を害された者は抗告ができるものとしております。   以上の説明を表にしましたものが,別紙でございます。別紙について御説明いたします。   まず,「不服を申し立てることができない終局決定」について御説明いたします。   「再度の考案」の欄ですが,再度の考案は,抗告又は即時抗告がされた場合の規律でございますので,「再度の考案」欄にはバツ印を記載しております。   また,「不服を申し立てることができない終局決定」につきましても,再審の対象とすることを提案しておりますので,「再審」の欄にはマル印を記載しております。   裁判の取消し又は変更についてですが,「当初より不当な決定」の欄ですが,「不服を申し立てることができない終局決定」のうち,「申立てによってのみ決定をすべき場合で申立てを却下した決定」は,職権による裁判を否定した趣旨から取消し・変更することができないものとすることを提案しておりますので,バツ印を記載しております。   「その他の決定」は,取消し・変更することができるものとすることを提案しておりますので,マル印を記載しております。   次に,事情変更により不当となった場合ですが,終局決定の取消し又は変更は,当初から不当であった場合と事情変更により不当であった場合を区別する理由に乏しいという趣旨から,事情変更により不当となった場合も取消し・変更することができるものとすることを前提として提案しておりますので,「事情変更により不当となった決定」欄についても,「当初より不当な決定」欄と同様の印をつけております。   *1について御説明いたします。この表は,裁判の取消し・変更は職権によってのみ行うことを前提としております。したがいまして,不服を申し立てることができない終局決定を再審の対象から除外するとした場合には,今マル印をつけておりますところがバツ印となりまして,再審事由のような重要な瑕疵が存在する決定につきましても,当事者の申立てにより開始する是正手段がないことになりますので,そこで,裁判の取消し・変更について当事者の申立権を認めるかどうかについて検討することを提案しております。   次に,「通常抗告をすることができる終局決定」について御説明いたします。なお,*3に記載しておりますとおり,この「通常抗告をすることができる終局決定」の欄は,終局決定に対する不服申立ての方法を即時抗告のみとはせず,通常抗告も存在することを想定して整理したものでございます。   まず,抗告があった場合には再度の考案をすることができるものとすることを提案しておりますので,「再度の考案」欄にはマル印をつけております。   また,確定した後には再審の対象とすることを提案しておりますので,「再審」欄にもマル印をつけております。   裁判の取消し又は変更につきまして,「当初より不当な決定」につきましては,「申立てによってのみ決定すべき場合で申立てを却下した決定」は取消し又は変更することができないものとすることを提案しておりますので,バツ印を記載しております。   「その他の決定」につきましては,抗告がされるまでは取消し又は変更することができるものとすることを提案しておりますので,マル印を記載しております。   事情変更により不当となった場合ですが,抗告提起前は,事情変更により不当となった場合は取消し・変更することができるものとすることを提案しておりますので,マル印を記載しております。   なお,抗告が提起されますと,取消し・変更することができませんが,抗告後の事情変更は,抗告審で当該事情を斟酌することとなると考えられます。   確定後の事情変更についてでございますが,既に抗告が提起されておりますので,第一審の終局決定を取消し又は変更することはできませんが,この点につきましては,*2に記載しておりますとおり,確定後の事情変更による取消し・変更を検討することとしております。   最後に,「即時抗告をすることができる終局決定」について御説明いたします。   「再度の考案」及び「再審」の対象とすることを提案しておりますので,各欄にはマル印をつけております。   「即時抗告をすることができる終局決定」につきましては,取消し又は変更することができないものとすることを提案しておりますので,バツ印を記載しております。   *2に記載しておりますとおり,事情変更により不当となった決定につきまして検討することを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 ただいま事務当局から最後にまとめて説明がございましたように,大変複雑で,なかなか議論がしにくいところがあるのですが,順次御審議いただいて,その後,相互間の関係について,もう一度全体として見直してというようなことで参りたいと思います。   そこで,まず「再審」でありますけれども,1の「再審の可否及びその対象」で,終局決定で確定したもの及び不服を申し立てることができない終局決定,いずれに対しても再審の申立てをすることができるという趣旨はただいま説明があったとおりでございますが,この点に関してはいかがでしょうか。最後の表ですと,「再審」のところにいずれもマルがついている,これがそれに該当することになりますけれども。 ○平山関係官 再審の規定について定めたドイツ改正法第48条が部会資料ですと20ページの一番上に参考掲載されておりますが,こちらによりますと,第48条3項で,一定の場合に再審を制限するような事由が規定されているようなのですけれども,これの立法趣旨というか,そういったところをお分かりになる方がいらっしゃれば教えていただきたいと思うのですが。 ○伊藤部会長 ただいまの20ページのドイツ改正法第48条の3項での再審を制限するような内容の規定の趣旨に関して,これはいかがでしょうか。高田裕成委員あるいは畑幹事からこの趣旨についての説明がいただけると大変有り難いと思いますが。では,畑幹事からお願いします。 ○畑幹事 一言で申しますと,これは第三者の法的地位の安定ということだと思います。 ○伊藤部会長 もう少し説明していただけると有り難いと思いますが,どういう場面を想定して,どういう意味で第三者の地位の安定が害されるのかということについてお願いします。 ○畑幹事 実体法が違いますし,私もそこまで十分調べているわけではございませんので,推測を交えておりますが,例えば行為能力のようなものが制限されている者が第三者と何か契約をするときに許可が必要だという仕組みに実体法的になっているといたしまして,いったんその許可が効力を生じたとします。そこで,第三者としてはこれで契約が締結できたと考えていたところ,後からそれがひっくり返るというのでは困るという,例えばそういうことであろうかと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。高田裕成委員,補足がございますか。 ○高田(裕)委員 特に追加することはないと思うのですけれども,再審は実質的にみて遡及効を持つことになりますので,この遡及効によっていったん得た実体的な地位を覆滅される第三者の保護のための規定ということで,今の畑幹事の発言のとおりと理解しております。   ちなみに,そのほかにも各則の方に幾つか,いったん発生した法律関係を覆滅させないという規定も準備されているように思いますが,これらも,実質でみますと,実体的な保護規定と同じ機能を果たしているのではないかという印象を持ちます。 ○伊藤部会長 平山関係官,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。   そういたしますと,「再審の可否及びその対象」に関してはこういうことでよろしいでしょうか。 ○高田(裕)委員 内容的には結構でございますが,これは法制的な問題だろうと思いますけれども,確定という概念が一般の民訴で使われる場合と違う意味で用いられているようでございまして,非訟の世界では一般なのかもしれませんが,分かりにくいような気がします。ここでは,当該手続では上訴によって覆滅できなくなった場合であっても,取消し・変更が可能な場合には確定にはあたらないという前提で使用されているように理解いたしましたので,言葉遣いについてはなお御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 そこはよろしいですか。 ○三木委員 高田裕成委員がおっしゃったことと同じことを繰り返すようで恐縮で,念のためにということですけれども,私もそこはちょっと気になっておりまして,言葉だけの問題だろう,実質に反対するものではありませんが,再審は,訴訟の世界ではということでしょうけれども,確定した裁判を覆滅するという意味合いでとらえられておりますので,確定していない裁判の再審という概念を正面から認めるのはやや抵抗があります。そこで言う「確定していない」という意味は,職権による変更の可能性があるという意味であって,少なくとも当事者サイドによる不服申立てはできないという意味の確定はあるわけですので,いずれにしても言葉遣いや説明の問題だとは思いますけれども,高田裕成委員がおっしゃったことと全く同じですけれども,用語法とか説明そのほかで御注意いただいて,余り混乱が生じないようにしていただければと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。最終的にどういう形になるのかは事務当局も難しいところかと思いますが,御趣旨に関しては十分検討をしてもらうようにいたします。   ほかにいかがでしょうか。「再審の手続」に関してはよろしゅうございますか。何か御発言があればお願いします。―それでは,その点は特に御発言がないということでしたら,こういう形で進めさせていただきますが。 ○三木委員 賛成です。 ○伊藤部会長 どうもありがとうございます。   そういたしましたら,賛成という御発言もございましたので,このような形での検討を進めさせていただきます。   「第24 裁判の取消し又は変更」の1の非訟事件手続の指揮に関する裁判はいつでも取り消すことができる,のところは特段の御異論はないかと思います。   次に2の「裁判の取消し又は変更」で,これは内容的には先ほど説明があったとおりですが,本文及び(注)の1ないし5ですが,まず本文に関して何か御意見を伺ってから(注)に関しての審議をお願いすることにいたしましょう。本文に関してはいかがでしょうか。 ○畑幹事 質問ですが,これは裁判の確定前の段階を念頭に置いているという理解でよろしいでしょうか。 ○波多野関係官 事務当局としては,裁判確定前を念頭に置いております。 ○畑幹事 どちらにしてもこういうことはレアケースなのだろうと思うので余り議論する必要もないのかもしれませんが,例えば原案では即時抗告をすることができる裁判を取消し・変更の対象から外すということになっております。これと,先ほどの抗告を即時抗告に一本化してはどうかという提案を組み合わせますと,従来,レアケースでしょうが取消し・変更が可能であった事件類型で急にできなくなるという結果になりそうなのですが,それでいいかどうかというのはちょっと考える必要があるかなという気がいたします。 ○波多野関係官 事務当局といたしましても,終局決定に対する不服申立てを即時抗告に限るものとした場合に,影響を受けるのは,この取消し・変更ができなくなるというところだと思われますので,各個別規定において取消し・変更することができる規律を維持するべきかどうかというところはなお検討する必要があるかと考えております。 ○伊藤部会長 御指摘の問題に関してはそれぞれの各則での検討をということですが,畑幹事,いかがでしょう。 ○畑幹事 各則的な検討は大変かと思いますが,やっていただけるのであればよろしいかと思います。もともと取消し・変更を認めると事件が迅速に解決しなくなるということは必然ではないと個人的には考えております。さっさと変更した方が早く片付くという可能性もありますので。ということで,事件類型に応じて検討していただけるということであれば,それでよろしいかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ありがとうございます。ほかにはいかがですか。   それでは,本文に引き続きまして,(注)の1に関して,ここに参考として最高裁の決定が引用されておりますけれども,それとの関係で,(注)の1で,こういう判例があるのだけれども,しかしここに掲げられているような規律では取消し又は変更ができない裁判が当初から不当であったような場合に関しては,再審によって対応することができるという考え方もあるのではないかということがございますけれども,この点に関しては何か御意見ございますか。 ○山本幹事 質問なのですが,「再審申立てにより対応することも考えられる」ということは,何か再審事由に新たなものを追加するという御趣旨なのでしょうか。それとも,現行の,先ほど基本的に承認されたと思いますが,民訴法第338条に相当する規定の中で当初から不当であったような場合が読めるのではなかろうかという御趣旨なのでしょうか。 ○伊藤部会長 では,事務当局から説明をお願いします。 ○波多野関係官 事務当局といたしましては,今の再審事由に付加することは念頭に置いておりません。今の再審事由に該当する場合があるのではなかろうかということを前提にこの検討を進めていただきたいというふうに整理しているところでございます。 ○山本幹事 平成16年の最高裁決定それ自体はあれなのですが,一般論として言われている,「裁判が不当であってこれを維持することが著しく正義に反する」ということが,その裁判の不当性というのは内容面にかかわる不当性であるとすれば,現状の再審事由では拾い切れない場合もあり得るようには思われるわけですが,今のお話では,そこはもう切り捨てるというか,再審できなくても仕方がないという決断をしてもよいのではないかということでしょうか。 ○波多野関係官 山本幹事がおっしゃったように,再審で拾い切れない場合があることを否定できないのではないかと事務当局としても考えておりまして,その場合にはこの最高裁の判断枠組で救われるという場面が残ることは否定できないのではないかと考えているところでございます。 ○伊藤部会長 再審に関しては規定の整備をする方向で考える。しかし,山本幹事が御指摘のように,この最高裁の判例の事案のような場合にはなおこういう場合というのはどうしても残るのではないかという考え方もあり得るのではないかというあたりの御意見を伺いたいということなのですが,山本幹事としてはいかがでしょうか。 ○山本幹事 私自身は,この最高裁判所の決定自身が,このような判断をしたのは非訟事件の裁判の本質に照らしての判断だと最高裁判所自身言っておられますので,こういう場合が残るということは否定し切れないのかなという感じはしております。ただ,これを法律の条文として書くというのは非常に難しそうな感じがします。ですから,その部分は恐らく解釈論としてなお新しい法律のもとでも残っていくということなのかなと思っております。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○増田幹事 私は,この最高裁の平成16年決定の事案というのは,過料の裁判という非常に特殊な事案に関するものと理解すべきなのではないかと思っているのです。これを本当に非訟事件全体に広げていいのかというのは若干疑問です。過料の裁判というのは,そもそも裁判所が行政庁類似の立場で行う一種の行政処分,それも刑事処分に似たような類型の処分という性格を持っていると思いますので,課税処分の取消だとかいうのと同じような感覚で,自ら取り消すことは認められていいのではないかと思うのです。しかし,そういった特殊な類型のものですから,過料の裁判のところの各則で救済すべきであり,再審事由に影響を及ぼすべきではないと思います。 ○伊藤部会長 そういたしますと,仮に法改正が実現した後でもこの判例はその意義を失わないという考え方に立つ場合でも,それは解釈論としての判例が生きているということになりますので,総則に関する規定として,この点をどちらかに決めるという必要は結局はないわけですね。ここでの審議の内容がいろいろな形で今後の解釈論などに影響を与えるということはもちろんあり得るわけで,それからもう一つは,増田幹事御指摘のように,各則で必要があればそういうことを検討するということもあり得るかもしれませんが,この場面では特にこの点について何か結論を出すということをしなくてもよろしいでしょうか。   それでは,その点はそういうことにして,(注)の2はいかがでしょう。いわゆる事情変更で,総則規定として事情変更による取消し又は変更の余地を認めることを考えるのか,それとも個別規定,例えば新たな申立てを許すとか,そういう形での個別規定で対応すれば足りるのか,このあたりはいかがでしょう。 ○菅野委員 商事非訟の関係では,その後に一定の期間が考えられるような決定ということがございます,清算人の選任等を含めた場合。そうすると,この事情変更による取消し・変更というのは実際問題としてはあり得るところです。現在も運用上というか,規定といえば現在の非訟事件手続法第19条に結局よるということにはなるのでしょうけれども,行われているところもあります。そうしますと,こういう事情変更の規定を法制上入れるのであれば,総則で入れていただければ,むしろ好ましいというか望ましい,有り難いという感じがいたしますし,いや,それは非訟全体にそれを広げるような問題ではないのだということになれば,別途設けていただければ有り難いというところで,いずれにせよ,現場として,この(注)に書かれたような実際の運用というか考え方というのはある程度定着しているところではあるということをお伝えしておきたいと思いました。 ○道垣内委員 今の御発言について1点だけ伺いたいのですけれども,その場合に,清算人の職権による解任の手続との関係というのはどう考えて運用がなされているのでしょうか。 ○菅野委員 結局,当初のときから妥当ではなかったのだとか,あるいは問題があったのだという事柄とやはり区別したいという意識があるのです。この選任は正しいのです,清算人としても適任なのです,ただしもう必要はないのです,スポット的に清算人をお願いしただけなのですというときに解任ということを実際にやれるのか,あるいはそれが妥当かというと,やはり問題はあるという気がいたします。 ○道垣内委員 そうすると,それは事情変更による取消しで,遡及効はないという前提なのですか。 ○菅野委員 そうです。 ○増田幹事 今,菅野委員がおっしゃったような運用は実際に行われているし,妥当だと思うのですけれども,それを不当な裁判の取消し又は変更という概念の中で一緒に考えていいのかどうかは非常に疑問です。要するに,ある特定の行為をする目的のために清算人が必要な場合にその運用をやっているのですけれども,今の法律に事情変更による取消しを許す明文の規定がないものだから,選任して清算人が何らかの行為をして目的を達したら必要がなくなったとして取消しという方法を使われているだけのことであって,今般,法改正に当たっては,それは別途規定するべきかなと。ですから,各則のところで,清算人などの選任事件について事情変更による取消しの規定を別途作って対応するのが筋ではないかと思います。 ○伊藤部会長 菅野委員御自身も,どういう形でどこに規定を設けるかについては,必ずしも特にここでなければということではないという御発言がございました。他方,今のような性質の事件に関しては,やはり必要がなくなったということでの取消しを認める必要性があることは否定できないというのがこの場の大方の御意見だと思いますので,それを踏まえて事務当局で検討してもらうようにいたします。 ○道垣内委員 そのおまとめで結構なのですけれども,事情変更という法理自体が民事法分野で一定の蓄積がある概念であって,必要なくなったというのとは大分違う概念だろうと思うのです。したがって,そのような制度を置かれるのは必要であると私も思いますけれども,そうすると,事情変更という題目のもとに整理をされるのはどうかなという感じがします。 ○伊藤部会長 実体法の法理としては道垣内委員の御指摘は分かりますので,その点は更に,どういう規定が適当かどうかは考えますが。 ○中東幹事 言おうとしたことを部会長に言われてしまったのですが,道垣内委員がおっしゃるように,これは本来は実体法の問題だと思うのですが,実体法が対応していないので,手続法で置くとすればこうならざるを得ないという形で整理いただいた方がいいかと思っております。 ○道垣内委員 実体法で置けないのは,実体法がそういう判断をしていないということを意味しているので,実体法で置けないから手続法で置くという考え方には反対です。 ○脇村関係官 大方の御意見としては,今スポット的な運用がなされていることを,否定すべきではなくて,できれば法的な手当てをしてほしいという御趣旨だと承りました。あと,これは前々から問題となっていますけれども,各則についてどこまでこの改正の際に検討できるのかという問題があります。ですので,法制的にどうするかについては今後更に詰めさせていただきたいのですけれども,実質としてスポット的な運用を否定していないという前提でなお検討させていただければ幸いということでよろしいでしょうか。 ○伊藤部会長 そういうことでよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 続けて話をするわけではなくて,別の話なのですが,そのように拡大をしていった場合に,先ほどドイツの改正法について,第三者の保護のために一定の制約がかかっているということが話題になりましたけれども,そういった制約というのが一般的には不要なのかというのが私は若干気になっております。私は分からないままに実は聞いていたのですが,と申しますのは,再審のところに関しましても,ドイツにおいては再審も含めて第三者の地位の安定が考えられている。さらには,即時抗告をすることができない裁判というものについて,頭の中にリストがぱっと浮かばないものですから,そういったもので第三者の地位が害されるというものがあるかどうかがちょっと分からなくて,多分ないのだろうと思って黙っていたのですけれども,もし拡大をするということになりますと,そういう点も配慮しなければならないでしょうし,また,ドイツ法というものがあって,ここで参考資料として配られている以上,説明等では,このような規定を置いても第三者保護についてドイツのような規定を置く必要はないということを何らか御説明いただいた方がよろしいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ただいまの御指摘は十分検討させていただきます。   (注)の3は先ほどのことで前提がなくなっておりますので,ここでは御審議いただく必要はないかと思います。   (注)の4は,抗告裁判所の裁判についての取消し・変更の可能性を排除するということですが,この点は何か御意見ございますか。 ○山本幹事 基本的にはこうなるのだろうなと思うのですが,1点気になったのは自判の裁判なのですが,これもやはり取消し・変更できないということなのでしょうか。というのは,差し戻されてやった原審の裁判所がやった場合は仮に取消し・変更できるのだとすると,若干バランスがとれていないという感じもしないではないのですが。 ○伊藤部会長 この点は,原案の考え方はどうでしょうか。 ○波多野関係官 事務当局といたしましては,抗告できる裁判に対して抗告がなされて,抗告裁判所が裁判をした以上,それを尊重すべきではないかという価値判断に基づいて提案しているところでございます。山本幹事がおっしゃったようなバランスを考えると,そこまで検討は至っていないところはあるとは存じますが,他方で,確定概念との関係でも,抗告裁判所がした裁判をも取消し・変更の対象としますと,非訟では取消し・変更がし得る以上確定しないと整理をするのかどうかにつきまして,難しい問題が出るところでございますので,ここは整理としては,抗告裁判所の裁判については取消し・変更ができないという整理をするのがよろしいのではないかという趣旨で事務当局としては提案しているところでございます。 ○脇村関係官 補足させていただきますけれども,先ほど終局決定については即時抗告で一本化しましたので,基本的に終局裁判についてはここで考える必要はなくなったことになると思うのです。そうしますと,ここで考えるべきは,手続的な規定について,高裁が破棄自判したケースについて取消し・変更できるかどうかということだと思うのです。そうしますと,原審が変更する分にはいいのではないかという気がしないでもないですが,高裁の判断を前提に一審の手続が動いている以上,破棄自判した高裁が一審のことを無視して取消し・変更するという事態は,さすがにそれはおかしいのではないかと思いますので,破棄自判したケースについても,手続的なことに限るという前提に立てば取消し・変更できないというのが妥当ではないかと思いますけれども。 ○伊藤部会長 山本幹事,いかがでしょうか。 ○山本幹事 必ずしも納得し切れない部分はありますが,いずれにしても,今,脇村関係官が言われたように,かなりマイナーな問題ですので,そういう御説明で結構だと思います。 ○伊藤部会長 それでは,(注)の4はそれでよろしいでしょうか。   (注)の5ですが,取消し又は変更した裁判によって権利を害された者がとり得る方法に関するA案とB案という考え方がございますが,このあたりはどうでしょうか。 ○菅野委員 手続的なことで私などが意見を述べる事柄なのかどうか分からないのですけれども,まず理屈的には不服申立ての方法ですから,やはり原裁判の横並びとする方が素直というか自然な感じがいたします。そうすると,A案になります。実際に商事非訟でいろいろ考えても,不服申立ての方法というのは,できる,できないとか,結構細々といろいろ会社法等で区々に分かれているところがありますので,そうすると,一律にやはり即時抗告あるいは抗告とするのではなく,原裁判と横並びでそれぞれ考えるというA案が恐らく妥当な結果を得られるのではなかろうかと考えました。 ○伊藤部会長 菅野委員からは,原裁判の性質を踏まえると,それに基づいて不服申立ての方法が決まってくるというA案の考え方が合理的ではないかという趣旨の御発言がございましたが,ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。菅野委員の御発言のようなことで御異論がないと理解してよろしいでしょうか。―特別の御異論がなければそのように理解をさせていただきます。   そういたしましたら,先に進ませていただきまして,今度は「費用」について説明をお願いします。 ○波多野関係官 「第25 費用」について御説明いたします。   1の「手続費用の負担者」は,非訟事件手続の費用の負担者についてのものでございます。   本文①は,費用の負担者を原則としてだれにするのかについてのものでございます。   A案は,申立人は必ずしも自らの利益のために申立てを行うとは限らないこと等を理由としまして,いわゆる各自負担の原則を提案しております。   B案は,申立人負担を原則とするものでございます。   なお,手続が決定によらないで完結した場合―取下げ等でございますが,この場合の手続費用の負担の原則につきましても,本文①で検討した結果と同様とすることを前提としております。   次に,本文②でございますが,これは本文①の原則どおりの費用の負担とすることが妥当でない場合に,裁判所が事情により裁量で原則とは異なる費用の負担の定めをすることができるものとすることを提案しております。なお,その際の要件でございますが,現行非訟事件手続法第28条の「特別ノ事情アルトキ」から「事情により」と緩和することを提案しております。ここでは,例えば,後見開始事件において被後見人となるべき者が利益を受けると考えられますので,被後見人となるべき者に費用を負担させることが考えられます。   本文③では,共同して費用を負担すべき者がいる場合の取扱いについて,現行非訟事件手続法第29条が準用する民事訴訟法第65条第1項と同様の規律とすることを提案しております。   本文④では,非訟事件手続においても,民事訴訟法第65条第2項に倣った規律を設けることを提案しております。   次に,2の「(1)費用の負担の裁判」についてでございますが,A案は,裁判所が費用の負担につき原則どおりとする判断をした場合には,費用の負担の裁判をする必要はなく,費用の負担につき原則とは異なる定めをする場合には,費用の負担の裁判をするとするものでございます。   B案は,裁判所が費用の負担につき原則どおりとする判断をした場合であっても,終局決定において,費用の負担の裁判をしなければならないとするものでございます。   2の(2)の「上級裁判所の費用の負担の裁判」では,上級の裁判所は手続の総費用について費用の負担の裁判ができるものとすることを提案しております。   2の(3)の「費用額の確定手続」では,民事訴訟法第71条から第74条までと同様の規律で,費用額の確定手続を行うものとすることを提案しております。   次に(注)でございますが,本文2の(3)で費用額の確定手続の規律を設けるものとした場合に,民事訴訟と同様に,非訟事件手続費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分に基づいて強制執行することができるものとすることを提案しております。   なお,現行非訟事件手続法第31条は,費用の裁判によって強制執行をすることができると規定していますが,上記規律を設けた場合には,同条の規定を削除することになると考えられます。   次に,3の「費用の負担の裁判に対する不服申立て」では,現行非訟事件手続法第30条ただし書と同様に,手続が裁判によらないで完結したときの費用の負担の裁判を除き,費用の負担の裁判に対しては,独立して不服を申し立てることができないものとすることを提案しております。   次に,4の「費用の立替え及び予納」でございますが,現行非訟事件手続法第32条は,職権をもって行う事実の探知,証拠調べ,呼出し,告知そのほか必要な処分の費用は,国庫において立て替えることを原則としていると解されています。しかし,非訟事件手続におきましても,当事者は自己の利益を確保するために職権発動を促す場合が多いことから,当事者等がその費用の概算額を予納することを原則とし,裁判所が必要と認める資料が得られないまま判断する不都合を避けるため,職権をもって行う事実の探知,証拠調べ,呼出し,告知そのほか必要な処分の費用は,国庫において立て替えることができるものとすることを提案しております。   次に,5の「非訟事件手続上の救助」でございますが,ここは民事訴訟法に倣いまして,非訟事件手続上の救助について規律を設けることを提案しております。非訟事件手続及び救助については,濫申立てを防止する必要がありますことから,本文②におきまして,要件を付加することを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 順次参りますが,まず「第25 費用」の「1 手続費用の負担者」についての考え方でありますけれども,A案,B案とございますが,一番大きなところは,A案の①のいわゆる各自負担,その費用を支出した者が自らの費用を負担するという考え方と,B案の①,原則は申立人の負担とするという考え方,このあたりが一番基本的なところかと思いますが,これに関して御意見はいかがでしょうか。 ○菅野委員 費用の問題につきましては,実際に非訟事件をやっている場合に,今の非訟事件手続法の規定はなかなか使いにくいというか,どうしたらいいのだろうかと非常に迷うところだったのであります。実際には,費用負担の裁判というのはほとんどされておりません。   一方で,商事の場合に費用がものすごく高いものと低いものに極端に分かれてしまうのです。一般的には非常に低い費用で,だから,ある意味でも申立人負担という何となく一律に決めてしまったところで終わっている。一方で,鑑定とかをやりますと,あっという間に1,000万円,2,000万円,物によっては5,000万円以上の費用が掛かることもあります。そういう場合に,では,どうそれを規律するか。実際には双方に話合いをさせて,任意に予納の関係で処理するという事柄があるのですけれども,それがもしできなくなってしまったらどうしようかと。だんだん対立が厳しいものになってきたらどうしようか,困ったなと思っているところで,実はこの条文案を拝読いたしましたときに,非常に有り難いなと,現状に比べてこういう形に規律していただけると非常に実務としてやりやすいという感じがいたしました。ただ,その場合に,これはA案,B案ということで書かれていて,A案に細かなことをきちんと書き込まれているので,何となくA案がお勧めなのかなと思って読んでいるのですけれども,もしそれがB案の方になっていって,必要的にやらなければ,費用の負担について考えなければいけないということになっていくと,なかなか難しい問題が生じてくるような気がいたします。今申し上げたように現場としてやりやすいのです,有り難いのですと言いましたのは,A案の場合で進んだ場合なのです。要するにそれぞれ支出した費用についてそれぞれ負担するということで処理できてしまうと。一方で,先ほど申したように,高額な手続費用が出てきた場合で,それをどう見るか,これは本当に難しい問題で,そのときには事情によりということで異なる定めをすると。こういうA案の形で進むと有り難いかなということであります。一律に申立人の負担とするということの合理性というのは余り考えにくいのではないかと考えているところでございます。 ○伊藤部会長 菅野委員からは,実情を踏まえまして,基本的な考え方としてはA案の考え方を前提にして,②以下で適切な対処をするというのが適当なのではないかという内容の御意見がございましたが,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○長委員 家事の実務では,鑑定を必要とするような場合に,例えば遺産分割ですと調停の段階で鑑定をすることも結構あるのですが,そのまま審判に移行することがあります。鑑定を調停の段階でするときには,大体法定相続分で予納していただくのですけれども,審判で費用を負担させるときにも大体そういう考え方でやっていることが多いのです。そうしますと,A案というのはそういう実務にかなり近いものなものですから,そういう意味でも違和感がございません。 ○伊藤部会長 実務の運用を踏まえて,長委員からもA案の考え方を基本とすべきではないかという御発言がございましたが,いかがでしょうか。理論的にはいかがですか。三木委員,いかがでしょう。 ○三木委員 別に理論ではなくて,利益衡量的というか,実際を考えると各自負担原則が望ましいと思っております。 ○伊藤部会長 A案ですね。 ○三木委員 A案です。 ○伊藤部会長 申立人負担原則というB案の考え方が適当だという御意見はございませんか。もしそういうことでしたら,A案を基本に今後の検討を進めたいと存じます。   次の2の「費用の裁判」,特に(1)の「費用の負担の裁判」ですが,ここでもA案とB案がございまして,A案の方は,異なる定めをするときは裁判をする,B案の方は,職権で,その審級における手続費用の全部について,その負担の裁判をしなければならないものとする,こういう考え方の違いが示されているわけですが,このあたりはいかがでしょうか。 ○三木委員 考え方というか,概念整理としてどう考えておられるかを事務局にお伺いしたいと思います。   A案①を読むと,原則とは異なる定めをする場合にのみ裁判をすると書いてありますが,その意味であります。先ほど決まった内容ですと各自負担が原則ですが,原案どおりにやる場合に,これは文字どおりの意味で裁判をしないということを宣言しているのか,それとも,表現は適切かどうか分かりませんが,黙示の裁判として原案どおりの裁判をしている,しかしそれを決定書というか裁判書には表示しないという意味なのか。それはどこで実質が出てくるのかの考え方によりますが,例えば裁判に対する不服申立てというのがその次にありますが,独立不服申立てはできないというのが原案ですが,これは逆を言うと,独立ではない形では不服申立てができるということだと思いますが,それは裁判に対する不服申立てということであるとすれば,文字どおりの意味で裁判をしていないとすると不服も言えないのかと整理されているのか,それとも,そこはそうではないということなのかをお伺いしたいと思います。 ○波多野関係官 事務当局といたしましては,黙示の裁判があるという前提で提案しているわけではございません。その場合は裁判をしないでいいという整理をしているところでございます。   不服の申立てのお話がありましたが,そこにつきましては,上級裁判所は,本体と一緒に上級審に上がった場合には職権で手続費用の総費用について定めることができる規律を設けておりますので,不服の申し立てではなく職権発動の促しということになると思われますが,それで対処することを念頭に提案しているところでございます。 ○伊藤部会長 よろしいでしょうか。考え方としてそういうことで,実際上の必要を満たすためには(2)の「上級裁判所の必要の負担の裁判」で対応できるだろうということのようですが。 ○山本幹事 今の点の続きなのですが,②の,決定によらないで完結した場合については,次の規律でも独立の即時抗告はこの原案だと認められるということですが,その場合はどうなるのでしょうか。つまり,原則どおり各自負担で,この場合,A案の②というのは,その場合でも,原則どおりの場合は裁判をする必要はないという案だと理解してよろしいのでしょうね。 ○波多野関係官 はい。そのように理解することになります。 ○山本幹事 そうすると,それには即時抗告はできないということになるのでしょうか。 ○波多野関係官 結論的にはそうなると整理しております。 ○山本幹事 それはしかし,先ほどのA案の②のような事情が認められて,この場合は各自負担はおかしいのではないかという不服申立てができなくなるというのは何かおかしな感じもするのですが。 ○三木委員 山本幹事がおっしゃったことは私もそのとおりだと思いますし,更にさかのぼって言えば,本来の決定で,本体裁判と一緒にのみ,先ほどの話ですと,この案ですと職権発動を促す形でのみできるという方の規律についても,私自身は少なくとも黙示の裁判があるという概念整理をすべきだと思います。というのは,そもそもA案とB案,私が理解しているところでは,なぜA案の方が先に書かれているかというか,お勧めの案になっているかというと,要するに,ほとんどの場合原則どおり裁判をされるので,言葉はやや語弊があるかもしれませんけれども,いちいちそれを裁判の形で書く手間といいますか,負担といいますか―が大変だと。しかし,その負担というのは,表現振りは別ですけれども,括弧つきですが,黙示の裁判という形で,書かなくてもいいということにすればそこはクリアできるわけでして,本来の裁判の考え方からいくと,やはりそこには原案どおりの費用負担をするのだという裁判所の意思があらわれているはずでして,それは一種の裁判ではないかということで,やはり裁判という形で私は整理すべきだと思います。それから,本体と一緒に不服を言う場合に,確かに上級審が改めて裁量で費用負担をやる,文句を言いたければ事実上職権発動を促す形で意見が言えるとはいっても,これは言葉だけの問題,現実にさほど変わらないのかもしれませんが,やはり費用負担に関して原則,例外を定める規定がある以上,それを間違うということはあり得るわけでして,要件がないのに裁判をした,しないという,それについて権利としてやはり不服申立てが言える―それは独立であろうとなかろうとですね―というのがやはり筋ではないかと私は思います。 ○伊藤部会長 ただいまの点に関しての山本幹事,三木委員の御発言に関していかがでしょうか。 ○脇村関係官 難しくてちょっと追いついていないところもあるのですけれども,そういたしますと,終局裁判がある場合については,黙示の裁判があるのかという点については,どう整理するかという問題はありますが,A案の①のような考えでいいのかもしれませんが,他方で,終局決定をしていないケースについて,違った判断をしたときにだけ不服を申し立てることができるということがバランスを失しているのではないかという御意見が山本幹事からあったと理解させていただきました。そうすると,レジュメの中ではA案,B案で完全に分かれていますけれども,A案の①をとりつつ,B案の②をとることも選択肢として十分あると理解してよろしいのでしょうか。 ○山本幹事 私もそのように思っております。ですから,各自負担で両当事者がいいと思っていれば特に申立てはなくて,裁判所も判断を別にする必要はないわけで,どちらかが申し立ててきた場合にだけ裁判所は負担の判断をして,裁判所は仮に各自負担という判断をすれば,それに文句がある方は更に即時抗告をするという仕組みにすればよろしいのかなと思っております。 ○中東幹事 ②の問題については,和解をするならば,和解条項に費用負担を入れればそれで済む話だとは思っています。   ①の問題については,三木委員が黙示の裁判という構成をおっしゃいましたが,それがこの(注)の強制執行あるいは債務名義との関係で,そういう黙示の裁判の形のままできちんと手続が動いてくるのだろうかということについてお教えいただければ幸いです。菅野委員もおっしゃいましたように,カネボウの事件では,これは全部決定書の中でうたってあげて,5,000万円を各自按分して予納させたわけですが,それも何とか最後は,裁判そのものはまだ確定していないのであれですが,一応それで終わっても大丈夫な形になっていたと思うのですが,債務名義にもならない形で2,500万円を予納させて取り返すのが大変だなんていう話になったら非常に困ると思いますので,そこら辺,黙示の裁判でいいならばA案でいいのですが,そうでなければB案の方がいいのかなと思って拝聴しておりました。 ○青山委員 三木委員はA案がお勧めだと言われましたけれども,私は,民事訴訟の費用負担とこの非訟事件の場合が余り違い過ぎるのはどうかという気がするのです。費用負担者については勝訴者負担か各自負担か,今,各自負担だということになりましたけれども,そこのところは違うにしても,それを裁判書にどう書くかという点は民事訴訟と同じでいいのではないか。そうすると,職権で各自負担の場合もB案で,各自負担と書くのか,どういうあれか,とにかく総額を出して書くわけではないのでそれを書けばいいので,それはそれほど大変なことではないと私は思うのです。一挙手一投足ではないかと思います。後で費用負担の裁判で費用が確定決定になるとこれは大変ですけれども,ここの段階では負担の裁判はそれほど難しいのかなという気がします。   それから,黙示の裁判というのは,そういう条文ができてしまった場合に,解釈論はともかく,ここで黙示の裁判があることを前提として立法するのはどうなのかなという感じがしますので,お勧めでないかもしれませんけれども,私はB案に賛成しておきたいと思います。 ○三木委員 どうも発言の趣旨が誤解されているようなので,釈明をしておきます。もともとは,私の本心はB案に賛成です。どうしても原則どおりに費用負担をするのに,それを裁判書に書くのが負担だとおっしゃるのであれば,せめて,裁判はある,しかし書かないだけだという規律で。現在のA案は,そもそも裁判がないという構成なので,私の提案は,本来はB案であるべきだけれども,A案のような実質をとるにしても本質はB案,つまり民事訴訟と同じ形をとるべきという趣旨であって,「お勧め」と言ったのは私がお勧めしているわけではなくて,普通,事務局がAと書く場合はお勧めをしているのでしょうねという趣旨で申し上げたということです。   それから,一挙手一投足というのは,実は私が裁判官の方々との会合の席で,B案でいいだろう,一挙手一投足ではないかと言ったときに,とんでもない,この負担の重さを学者は全く分かっていないと言われたので,でしたら,せめて,裁判はあるけれども書かないという形で妥協しましょうというのが私の意見です。 ○伊藤部会長 三木委員の真意がよく分かりました。 ○菅野委員 決してこの問題について三木委員とお話合いは何もしていないのでありますけれども,先ほど,現場でこの費用の問題についてはなかなか難しい問題があると申し上げました。ただ,実際に,逆に言うと,費用償還請求というものが現実化して起きてこないと書かないのです。検討もしないことが多いのです。そういう意味で,ちょっと現場だけのわがままなのかもしれませんが,今の状態はちょっと心にひっかかるものがあります。それを更に合理化していただけるのだと有り難いというような形で見ていますので,そうすると,全件について費用について検討しなければいけない,書かなければいけないということになると,やはり重たいというか,迅速化に反するのではないかとか,困ったなというところがあるのです。実際に非訟の場合には,商事ですと人数が非常に多い場合もあるのです。何人もの人がいろいろとある。それから,申立てのもともとの範囲を画するのが難しいところがあって,実は,先ほどから非訟において勝ち負けというのがなかなか判然としないという議論が出ましたけれども,何%勝っているのだろうか,何%負けているのだろうか,それがこの人の場合どうなのだろうか,一律に考えていいのだろうかとか,非常に迷うところでもあるのです。そういう意味で,要するに原則と異なる判断をして,これは到底各自負担では公正は保たれないな,金額も大きい,そういうときには明文で書くというところでとどめて許していただけると,今の実務を言わば承認していただける感じで,かつ,条文上も整序されてしまう,大変結構だということになるので。   ちなみに,強制執行の話が出ましたが,債務名義とするためにはこの後で出てくる費用額についての処分というものが更に必要になりますので,そこは現在のシステムとはずれてくることになって,そこも合理化が今回図られていると見ているところです。現状ですと,確かに金額まで書いておく形でないとこの費用の裁判にならないので,現状では,言わばみなしとか黙示ということはなかなか言えないということになるのです。 ○青山委員 御苦労が多いことは大変よく分かりましたけれども,例外でなくて原則どおりの各自負担をする事件の場合には,その裁判に,費用負担の裁判としては,第一審なら第一審の費用の負担については各自負担とすると書くだけではないのですか。もう少し書き込むのでしょうか。そこのところを教えていただければと思います。 ○長委員 遺産分割の場合には,各自負担の裁判をよくやっています。「本件手続費用は各自の負担とする」,それだけです。   ついでに申し上げておくと,遺産分割事件の場合に鑑定をするときがあるのですけれども,これは実は鑑定費用についてはこういう割合で負担させると。例えば,たまたま申立人が全額負担しているときには,相手方は申立人に対して金幾らを償還せよというところまで実は書いてはいます。遺産分割の場合は特別でして,ほかの手続ではそこまで書く必要のないものが多いと思います。 ○伊藤部会長 青山委員,いかがでしょう。 ○青山委員 「各自負担」と書くだけであれば,その分についてはやはり一挙手一投足ではないか。そうすれば,民事訴訟の場合の費用負担の原則と合わせるためには,実態的な,敗訴者負担か各自負担かは違うけれども,書き方としてはB案で統一して。殊更にここを別にしなければならないという理由はないような気が私はいたします。 ○平山関係官 裁判書に書く,書かないというレベルでは確かに一手間という程度なのかもしれませんが,現場におりますと,当事者に裁判書を送りますと,当事者の方が主文には大変御関心をお持ちで,費用の負担裁判が書かれておりますと,これはどういう意味ですかという問い合わせとかも非常に来るようなこともあるのです。それで,中身として償還できるというような場合であれば,きちんと説明しなければいけないというのは,それはそのとおりだと思うのですが,各自負担で結局何も取れませんということをどこまで説明する負担とかを負ってしていく必要があるかというところもお考えいただければ有り難いと思います。 ○道垣内委員 それはしかし,説明しなければ駄目ではないですか。分からないようにしておいてよという発言ですよね。私は青山委員に賛成です。 ○脇村関係官 B案のほかにA案を書いた理由を簡単に説明させていただきます。費用負担について各自負担であることを前提に,法律上,各自負担であるというのをきちんと明記してあれば,原則としてはそういうことが利用者の方にも明確になっており,原則どおりのときには決定に書かなくていいのではないか,ただ,デフォルトを変えるときには当然書かないと分かりませんから,それは裁判は必要ですねということでA案を書かせていただきました。   民事訴訟法と非訟との関係ですけれども,民事訴訟法というのは敗訴者負担の原則を採用しており,結果がどうなるか分からないので,主文の中に書かないと,だれが負担者か全然分からないことになると思います。そういう意味で,民事訴訟の方では当然全部書くという取扱いになるのだろうなと思っていましたが,非訟の方では,先ほど言いましたように,デフォルトが各自負担だということであれば,その原則どおりのときについては別に書かなくても,きちんと法律に書いてあれば分かりますし,変更するときについては,それは変更するのですから書かないといけないなということで両者を区別することは可能だと思います。 ○長委員 遺産分割の場合に各自負担を書いているのは,非訟事件手続法第26条で原則が「申立人ノ負担トス」となっているために,例外的な裁判であることなので書いているのです。したがって,法律で定められている原則でいくときには,私も書かないことがあると思います。今回たまたまA案の中身の問題としては各自負担になっていて,A案の方が実態に合っているのです。そういう意味で私はA案に賛成です。必ず主文に費用の裁判について記載しなくてはいけないかという点については,そうはならないのではないかと考えています。 ○道垣内委員 私は全然実務的なことが分からないのですが,裁判に実際に携わっていらっしゃる方々が,私からすると矛盾した発言をされているのですごく気になります。脇村関係官がおっしゃったのは,書かなくても分かるではないかということですよね。平山関係官がおっしゃったのは,書くと分からないから尋ねてくるという話ですよね。それはどちらなのですか。私は,どちらかと言えば,書かなくても分かるではないかという方にかなりのフィクションがあるのではないかという気がしますけれども。長委員がおっしゃったのは理論的な話ですので,これはまた別のレベルだと思いますけれども。 ○伊藤部会長 平山関係官の分かるというのは,書いた趣旨が必ずしも一般の人にそのまま理解されないことがあるので,その確認がされることが多いということで,それ自体がいいのか悪いのかということはあれですが,趣旨はそういうことだと思いますが。 ○道垣内委員 条文ならば,読めば分かるということなのでしょうか。判決ならば,読むとびっくりして,意味が分からないから聞きに来るけれども,条文ならば分かるということになって,それはおかしいのではないかと思いますが。 ○増田幹事 非常に素朴な意見なのですけれども,手続費用の負担についてはかなり裁判所の方でも日ごろお悩みになっていることであろうと思いますが,これはやはり訴訟と違いまして勝ち負けの問題ではない。第三者の利益のために費用を支出してまで手続を追行しているという場合もありますので,これはやはり全事件について裁判所に真剣に考えていただきたい―現実にそうなのですけれども―という意味で,B案がよろしいのではないか。必要的に主文に書かなければならないということになると,人間の心理として,やはりそこは皆さんかなり慎重にお考えいただけるのではないかと思います。 ○菅野委員 いろいろと議論が錯綜しているところにまぜ返すことになってまずいのかという気もするのですけれども,基本的には,なぜ書かなければいけないのかということ自体にやはり釈然としないところがあるのです。裁判というのは権利義務を変動させるところで書く。したがって,給付条項か確認条項かという議論はありますけれども,基本的にはAからBにお金を渡せ,そして費用償還させる,そういうふうに動かすときに裁判をする。一方で,法律で各自負担と決まっている場合,費用償還の問題が生ずるときに裁判をする,その意味で分かるのです。そうでないと,要するに書いても何も起きない,何も生じないものを主文になぜ書かなければいけないのかということ自体に実は根本的な疑問もあるのです。そういう意味もあって,実は先ほど来当局から説明されているところも,それが念頭にあって多分言われている。単純に分かる,分からないという事柄ではないのだと思うのです。それをそういう表現で説明されたのだろうと私は理解して聞いていたのですけれども。 ○杉井委員 私も素朴な市民感覚ということで考えたときに,幾ら法律に書いてあるといっても,なかなか普通の市民というのは法律に接することが余りないわけですから分からないと思うのです。私たちが目指しているのは市民に分かりやすい司法ということでもあるし,この部会でのいろいろな手続保障ということもそういうところに収れんされるのだと思うのです。ですから,そういう意味で,書いても何も起きないとか,なぜ書かなければならないのかというのは,これはやはり法律専門家の意見ではないかと思うのです。そういう意味で,確かに「各自の負担とする」と書けば問い合わせはあるかもしれませんけれども,逆にそこの問い合わせのときに,道垣内委員のお話のように,きちんと説明をすれば済むことであって,むしろそうなっている方が市民に対して親切なのだと思うのです。だから,そういう意味から言っても,私はやはりB案に賛成です。 ○伊藤部会長 A案,B案,それぞれを支持される意見が拮抗しており,また,それぞれの論拠についても十分御意見が出されていると思います。したがって,今の段階でこれをどちらかに決めることは無理かと思いますので,本日の議論を踏まえまして,もう一度それぞれの根拠等を事務当局に整理してもらって検討を続けることにさせていただきたいと思います。   それとの関係で申しますと,確かに付随的な事項があるのですが,言わばその根本が決まらないと決まらないというところがございますので,例えば3の「費用の負担の裁判に対する不服申立て」のあたりも今のことを踏まえて更に検討をしたいと思います。   そして,4の「費用の立替え及び予納」,それから5の「非訟事件手続上の救助」,このあたりに関しては何か特段の御意見ございますか。   今の段階で特に御意見がなければ,本日の審議としては,先ほど説明があった「費用」のところは終えていただいたことにして,第26の「最高裁判所規則」以下を次回の審議に回したいと思います。本来はもう少し先に進む予定だったのですけれども,やはり非常に大事なところで多様な御意見が出ましたので,そういう取扱いにさせていただきたいと思います。   そういたしますと,次回は,本日の残った部分についての審議を終え,そして家事審判法の改正についての審議に入って,それを進めていただくことになります。   それでは,事務当局から次回の日程等についての連絡をお願いいたします。 ○金子幹事 次回は平成21年10月9日(金曜日)午後1時30分から,東京高等検察庁第2会議室で行います。いつも使用しておりますこの会議室と異なりますので,お間違えのないように御留意いただければと思います。資料につきましては,既にお送りさせていただいていると思います。よろしくお願いします。 ○伊藤部会長 ほかに特段の御発言はございませんか。ございませんようでしたら,本日の部会はこれで終了させていただきます。長時間熱心な御審議をいただきましてありがとうございました。 -了-