法制審議会           第160回会議 議事録 第1 日 時  平成21年10月28日(水)   自 午後1時59分                          至 午後3時29分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題     1 民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号について   2 民法の債権関係の規定の見直しに関する諮問第88号について   3 凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号について 第4 議 事 (次のとおり)               議     事 (開会宣言の後,法務大臣政務官から次のようにあいさつがあった。) ○中村大臣政務官 本日は,法務大臣がやむを得ない所用のためにこの会議に出席することができません。大臣から託されておりますあいさつを代読させていただきます。   法制審議会第160回会議の開催に当たり,一言ごあいさつ申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところ御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に皆様方の日ごろの御尽力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は三つの議題について御審議をお願いしたいと存じます。   議題の第1は,民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号についてでございます。   この諮問事項は,民法の定める成年年齢を現在の20歳から引き下げるかどうかというものでございますが,これは国民の日常生活に大きな影響を与えるものでございますので,委員の皆様方には,前回に引き続き,十分な御審議をいただいた上,御答申をいただきますようお願い申し上げます。   議題の第2及び第3は,新たな事項について御検討をお願いしたいと存じます。   議題の第2は,民法の債権関係の規定の見直しに関する諮問第88号についてでございます。   民法は言うまでもなく民事の基本法典であり,国民生活の様々な場面に関係するものですが,民法のうち,契約を始めとする債権関係の規定については,明治29年の制定以来,全般的な見直しが行われないまま今日に至っておりますので,この間の社会・経済の著しい変化に対応させるための見直しが必要となっております。とりわけ,契約に関する規定は,国民の日常生活にも,経済活動にもかかわりの深いものでありますから,早急に見直しを行う必要があります。   そこで,民法のうち債権関係の規定について,その内容を現代社会に適合させるとともに,国民一般に分かりやすいものとするなどの観点から,契約に関する規定を中心に見直しを行うことについて御検討をお願いするものでございます。   議題の第3は,凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号についてでございます。   近時,公訴時効制度については,被害者の御遺族の方々を中心として,殺人等の凶悪・重大な犯罪について見直しを求める声が高まっており,この種事犯においては,公訴時効制度の趣旨として一般に言及される事情が妥当しなくなっているのではないかとの指摘もされているところでございます。   このような事情にかんがみ,凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等を見直す必要があると思われますので,諮問に及んだものであります。多角的な見地からの御審議をいただき,できる限り速やかな御答申をいただけるようお願い申し上げます。   それでは,これらの議題についての御審議をよろしくお願い申し上げます。 (法務大臣政務官の退出後,引き続き,本日の議題につき次のように審議が進められた。) ○青山会長 審議に入ります前に,本日の会議における議事録の作成方法についてお諮りしたいと存じます。   本日の会議における議事録の作成方法につきましては,審議の内容等にかんがみまして,会長である私といたしましては,前回の会議と同様に,発言者名を明らかにした議事録を作成することにしたいと存じますが,いかがでございますでしょうか。    (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 それでは,本日の会議につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成することといたしますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日の会議に入りたいと存じます。   まず,前回の会議に引き続きまして,民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号の審議を行いたいと存じます。本日も民法成年年齢部会の鎌田部会長に御出席いただいておりますので,報告者席に御移動いただきたいと存じます。   まず初めに,私から資料の確認をさせていただきますが,本日の審議の資料としましては,「民法の成年年齢の引下げについての意見(案)」と題する書面を配布させていただいております。そのほかに,本日は御欠席ですが,水野委員から提出されました参考資料として,日本弁護士連合会作成の「民法の成年年齢の引下げに関する会長声明」と題する書面を配布させていただきました。   次に,前回の会議から本日の会議に至るまでの経過につきまして若干御説明させていただきたいと思います。   民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号につきましては,前回の会議におきまして,御存じのとおり,民法成年年齢部会における調査・審議の結果報告を受けまして,種々御議論をいただいたところでございますが,様々な御意見が出されたことから,前回の会議におきましては,答申案の取りまとめまで行うことはしませんでした。そこで,その間,事務当局にお願いいたしまして,前回の会議において出された御意見を整理してもらい,これをできる限り反映させた総会としての答申案を作成してもらいました。これが「民法の成年年齢の引下げについての意見(案)」でございます。そこで,本日は,この「民法の成年年齢の引下げについての意見(案)」に基づきまして御議論をいただき,答申案の取りまとめを行いたいと思っております。   なお,この答申案につきましては,事務当局を通じて個別に委員の方々の御意見を伺っており,おおむね賛成の御意見を得ることができたという報告を受けておりますが,ここは法制審議会の総会の場でございますので,委員の皆様方からは,どうぞ遠慮なく,この答申案についての御意見あるいは御質問をちょうだいできれば有り難いと思っております。   そこで,この「民法の成年年齢の引下げについての意見(案)」でございますが,これについて何か意見があれば伺いたいと思います。 ○戸松委員 私は,この答申案でよろしいのではないかと思います。結論の1,2のところはよくまとめられておりますし,その前の「これらの意見を受け」という部分は,前回皆さんがおっしゃった意見をうまくとりまとめられております。さらに私事を言いますと,私の意見も取り入れられているような感じがいたしますので,これで満足しておりまして,これで結構だと思っております。 ○八丁地委員 審議会の意見としては今回おまとめいただいた内容で異論はございません。大変結構なおまとめだと思います。   前回からの繰り返しの発言をさせていただきますけれども,何と申しましても民法の成年年齢の引下げに伴いまして,これに関係する300を超える法令に影響が及ぶことになると思いますので,こうした関連法令について改正するのか,しないのか,改正するのであればどのような影響が社会とか経済,生活に及ぶのかにつきましても,是非,関係省庁が連絡を密にしていただいて,より幅広い視点から御検討いただければと改めてお願いをさせていただきます。よろしくお願い申し上げます。 ○川端委員 ただいまの御意見にもかかわるわけですが,刑事法を所管される法務省に御質問させていただきます。   今回の成年年齢の引下げで成年年齢が20歳から18歳になった場合に,法務省所管の刑事関係の法律における年齢に関連する事項についてどういう形で対応されるのかという点について御説明をいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○甲斐関係官 成年年齢に関係いたします法務省所管の刑事関係の法律も多くございます。主なものを大きく分けると三つぐらいに分けられるのではないかと考えております。一つ目は刑法とか刑事訴訟法,二つ目は少年法,三つ目は裁判員法と検察審査会法ということになろうかと思っております。   一つ目のグループの刑法,刑事訴訟法の問題でございますが,これは条文中に「未成年者」でありますとか「成年」という用語が出てくるものでございます。例えば,刑法では略取・誘拐の罪というのがありますが,刑法第224条には,「未成年者を略取し,又は誘拐した者は,三月以上七年以下の懲役に処する。」という規定がありますし,同法第226条の2には,「未成年者を買い受けた者は,三月以上七年以下の懲役に処する。」という人身取引の罪がございます。それから,刑事訴訟法でも,第37条において,「被告人が未成年者であるとき」は,裁判所が職権で国選弁護人を附することができると規定されるなどしております。これらの条文の「未成年者」というのは民法上の未成年者である20歳未満の者を指すと解されており,逆に「成年」というのは20歳以上の者を指すとされております。したがいまして,仮に民法の成年年齢が18歳に引き下げられた場合には,法律で特段の手当てをしなければ,刑法や刑事訴訟法の「未成年者」も18歳未満の者を指すということになろうかと思います。もちろん,これらが必ず民法の規定と連動しなければならないというわけではございませんので,民法に関する検討を前提に,それらの規定が設けられた趣旨をも踏まえて検討を行う必要があると思われますけれども,一応,条文の文言上は連動しているということになっております。   二つ目のカテゴリーでございます少年法は,民法で使っている「成年者」,「未成年者」という用語ではなくて,「成人」と「少年」という用語を用いて,20歳で両者を区別しております。そして,少年につきましては成人の刑事手続とは異なって,家庭裁判所に送致し,特別の手続あるいは処分を用意するという構成をとっているところでございます。したがいまして,民法の成年年齢が引き下げられた場合は条文上自動的に少年法の適用対象年齢が引き下げられることにはなっておりません。しかしながら,他方で,仮に民法や公職選挙法で年齢が引き下げられた場合には,これらの基本的な法律によって18歳以上の者を社会的・経済的に大人として扱うことになりますので,当然,少年法の適用対象年齢についてもこれを前提に検討しなければならないと思われます。もちろん,少年法につきましては民法等と適用場面が異なりますので,民法等のより一般的な法律に関する検討を前提にしつつ,少年法固有の観点からも検討を行う必要があると考えております。   三つ目のカテゴリーであります裁判員法や検察審査会法は,裁判員等の選任資格である年齢に関するものでございます。すなわち,裁判員法第13条は,「裁判員は,衆議院議員の選挙権を有する者の中から,この節の定めるところにより,選任するものとする。」と規定しております。したがいまして,これらは民法の年齢条項に直接関係しているわけではありませんけれども,公職選挙法で選挙権が付与される年齢が仮に18歳以上に引き下げられた場合には,法律上特段の手当てをしなければ,裁判員や検察審査員の選任資格も引き下げられることになります。したがって,これらの規定についても,公職選挙法に関する検討を前提に,それらの規定が設けられた趣旨をも踏まえて検討を行う必要があろうと考えております。   以上でございます。 ○青山会長 よろしゅうございますか。 ○川端委員 ただいまの御説明を受けまして十分に理解できましたので,賛否の決定に関して非常に参考になりました。どうもありがとうございました。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○佐々木委員 前回の審議の際,私は海外に出張しておりお休みさせていただきましたこともありまして,ちょっと意見を述べたいと思います。   結論からすると私は賛成に投じようと思っておりますが,先週,私どもの会社が運営しておりますインターネット上のサイト「イー・ウーマン」にて,多くの人々が誰でも自由に無料で参加して議論ができる「働く人の円卓会議」というコーナーにて,「民法での成年年齢18歳,賛成ですか」という問いかけで議論してみました。一つはサイトを見ている皆さんの意見を知りたかったということもありますし,もう一つは,新聞などが断片的に報道するものを見るよりも先に正しく理解していただける機会を提供できればなという気持ちからやってみました。1週間毎日議論を続けるのですけれども,じわじわと賛成の人が増えていったのは,理解していただいた方が多かったのかなと思っています。   私は,そこでいろいろ議論していく中で,多くの人が,例えば「成人」と「成年」が違うとか,民法の18歳ということとたばこやお酒についての年齢はどう関係しているのかということがどうしてもごっちゃになってしまうということもありまして,そこを整理して説明したつもりです。18歳賛成に投じた多くの方は,やはり公職選挙法でいう選挙をする年齢を18歳に引き下げるのは本当にいいことだと述べているのです。一方,18歳引下げにノーの人は,どちらかというと,若者はまだ責任感がないのではないかという一般論というか雰囲気論を述べる方が多くて,イエスの方の方がきちんと整理立てて物を考えているという傾向が中で伺えました。しかしどちらにせよ,やはりどうしても一番大きいところ,すなわち選挙権年齢をどうするかということが話題になりました。円卓会議の最後の日に,私は来週は審議会にて賛成を投じようと思いますと,事前に発表したのは初めてですけれども,発表いたしました。その際にも意見を述べたのですが,一つは,部会における議論を踏まえて,私もそう思うのが,この民法の改正を行うまでには2年以上時間を置くなど,適切な期間を置いて,国民というか対象者,あるいはその周りにいる人たちの周知徹底と教育のプログラムをきちっと充実させていくことが大変重要であるということです。できれば,まず公職選挙法を,それはこちらで言うべきことかどうか分かりませんけれども,そちらを改正して18歳からの選挙を開始するということを先行して行うことがよいのではないかなと,私個人の意見としては提案させていただきたいと思います。   議論の中でも述べたのですけれども,今回の18歳の引下げというのは,若者たちを通じてどうやって日本という国が強くなり,あるいは若者も含めて多くの人が参加する社会をつくっていくかという前向きなところに活用された方がよいと思うのです。一つ一つ見ていくと不安なところはあると思うのですけれども,それを多くの人が正しく理解し,賛同し,そうだな,憂いていても仕方がない,もっと若い人にもたくさん参加してもらって,その人たちの声が反映される日本にしていこうという,その道のりなのだということを多くの人に知っていただくことが,ともすると大人になるのが20歳から18歳というふうにぽんと出てしまいがちなこの案件においては重要だと思っております。ですから,賛成を投じますけれども,できれば2年以上の適切な期間,周知徹底と教育プログラムを実施することと,まず公職選挙法を改正して18歳からの選挙を先行して行っていただくということを私の意見として述べさせていただきたいと思います。 ○青山会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございますでしょうか。 ○北村委員 18歳に引き下げることについて反対するわけではないのですが,一つお伺いしておきたいのは,先ほど川端委員がおっしゃいました,関係する法令についての検討とはどこで行われるのかというのを教えていただきたいのです。またこの法制審議会が忙しくなるのですか。 ○原幹事 年齢条項を有する法令というのは,先ほど御紹介がありましたように300以上ございます。法務省についても,民事関係の法令から,先ほど御紹介していただきましたけれども,刑事関係の法令がございまして,各府省において,今,それぞれの所管する法令について年齢を引き下げるべきかどうかについての検討をしているところでございます。この300以上の法令を大別しますと,民法に関連するものと,公職選挙法に関連するものと,大きく二つに分かれるのではないかと思います。民法については,今日御答申をいただきますと,これを踏まえて,法務省内でも,また,各府省でも,それぞれの所管法令における年齢条項をどうするかについての最終的な検討結果を出していくことになろうかと思います。それから,公職選挙法については,なかなか検討結果が出ておりませんが,民法についてこういう方針が出れば,総務省としても公職選挙法についてどうするかについての検討結果を取りまとめるということで,民法,公職選挙法について基本的な方針が出れば,政府全体としてこの問題についてどうするかという次の段階になろうかと思いますので,今後は,政府全体としての検討にゆだねられるということだろうと思います。   したがって,300以上の法令の見直しをこの法制審議会におはかりするということにはならないと理解しております。 ○青山会長 北村委員,よろしゅうございますか。 ○北村委員 はい。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○岡田委員 部会にも参加した関係で,佐々木委員が実施されたアンケートの結果を聞きまして,だんだん賛成派が増えてきたというのは,部会における賛否の推移と同じだなと感じたのですが,いずれにしても,若者を早く一人前にしなければいけないという気持ちは国民全体同じなのかなということで,18歳にするということに関してはもうコンセンサスを得たと思うのです。いつするかということで国会に託すということになるわけですけれども,余り時間が開いてしまうと,まただんだん分からなくなるような気がするので,そこのところは国会としても真剣に取り組んでいただきたいと思います。各省庁が,教育にしろ,制度にしろ,今まで以上に取り組んでいただきたいと思います。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   ほかに御意見ございませんでしょうか。   御意見がございませんようでしたら,答申案の採決に移らせていただいてよろしゅうございますでしょうか。―異議もないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   それでは,「民法の成年年齢の引下げについての意見(案)」のとおり答申をすることについて賛成の方は挙手をお願いいたします。    (賛成者挙手) ○青山会長 全員賛成でありますので,答申案であります「民法の成年年齢の引下げについての意見(案)」は原案のとおり採択されたものと認めます。   本日採択されました答申案につきましては,この会議終了後直ちに法務大臣に対しまして答申することといたします。どうもありがとうございました。   これで,諮問第84号の審議は終了ということになります。鎌田部会長には,部会の15回の審議を含めて大変御苦労をいただいたと思います。どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。 ○青山会長 それでは,ここでいったん休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○青山会長 それでは,審議を再開いたします。   始めの法務大臣からのごあいさつにありましたように,本日は諮問事項が2件ございます。   そこで,最初に民法(債権関係)の改正に関する諮問第88号の審議をお願いしたいと思います。   まず始めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○筒井参事官 諮問を朗読させていただきます。  諮問第88号  民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について,同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り,国民一般に分かりやすいものとする等の観点から,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。 ○青山会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○原幹事 それでは,民法の債権関係の規定の見直しに関する諮問第88号につきまして,提案に至りました経緯や諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   民法のうち第1編から第3編までの財産法部分は,明治29年に制定された後,ほとんどの規定が制定当時のまま改正されていないという状態が続いておりましたが,比較的最近になりまして重要な改正が行われてまいりました。すなわち,第1編総則につきましては,平成11年に成年後見制度の見直しによる改正が,また,平成18年に法人制度改革に伴う改正が行われました。第2編物権につきましても,平成15年に担保・執行法制の見直しによる改正が行われました。これらに対しまして,第3編債権につきましては,平成16年に第1編及び第2編とともに条文表現を現代語化した際に保証制度に関する部分的な見直しが行われたほかは,これまで全般的な見直しが行われることなく,おおむね明治29年の制定当時のまま現在に至っております。   しかしながら,この間に我が国の社会・経済情勢は,通信手段や輸送手段が高度に発達し,市場のグローバル化が進展したことなど,様々な面において著しく変化しており,現在の国民生活の様相は,民法の制定当時とは大きく異なっております。民法は国民生活の最も重要な基本法典でありますので,債権関係の規定につきましても,この変化に対応させる必要があります。そして,その中でも特に契約に関する規定につきましては,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深いものでありますので,早急な対応が求められているものと思います。   また,裁判実務は,民法制定以来110年余りの間に,解釈・適用を通じて膨大な数の判例法理を形成してまいりましたが,その中には,条文からは必ずしも容易に読み取ることのできないものも少なくありません。そこで,民法を国民一般に分かりやすいものとするという観点から,現在の規定では必ずしも明確でないところを判例法理等を踏まえて明確化する必要があります。   このような事情を考慮いたしますと,民法の債権関係の諸規定について,その内容を現代社会に適合させるとともに,国民一般に分かりやすいものとするなどの観点から,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われますので,諮問第88号に記載の事項につきまして法制審議会の意見を求めるものであります。   次に,見直しの対象範囲につきまして,若干敷衍して御説明いたします。   今回の諮問では,民法のうち債権関係の規定について見直しをすることとしておりまして,見直しの対象を,第3編債権に置かれております規定に限定しておりません。これは,例えば,第1編総則に規定が置かれております法律行為は,契約の成立・有効要件の中核を占めるものでありますし,同じく第1編に規定が置かれております時効のうち,特に消滅時効は弁済,相殺等と並ぶ債権の主要な消滅原因の一つでありますので,これらの第3編債権の規定と関係が深い第1編総則の規定につきましてもあわせて見直しの対象とすることを想定しているからであります。   他方で,第3編債権に規定されております事務管理,不当利得及び不法行為につきましては,今回の見直しの対象には含まれているものの,主たる検討対象とすることはせずに,契約関係の規定の見直しに伴って必要な範囲に限り,最小限の見直しをすることを想定しております。これらの契約以外の原因に基づく債権の規定につきましては,契約に基づく債権とは基本的な考え方が異なっておりますので,必ずしも契約関係の規定と同時に見直すことが不可欠とはいえないと考えるからであります。   民法の債権関係の規定の見直しに関する諮問第88号についての御説明は以上のとおりであります。十分御議論の上,御意見を賜りますよう,よろしくお願いいたします。 ○青山会長 それでは,ただいま御説明のありました諮問第88号につきまして,まず御質問がございましたら御発言をお願いしたいと思います。 ○野村委員 今のお話はよく分かりましたけれども,民法は第4編,第5編については昭和22年に全面改正されておりまして,今回は債権法を契約中心にということになりますと,先ほど,最近担保法制の見直しをしたということではありますけれども,担保物権について,不法行為もそうですけれども,かなり古いまま残るということになりますので,もちろん全部一挙にというわけにはいきませんので今回はこれでよろしいと思うのですけれども,将来的には残された部分も見直すことも視野にお考えいただければと思います。これは全く希望ですけれども。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   ほかに御意見ございますでしょうか。 ○八丁地委員 債権法の全面的な見直しということで,特に経済取引に非常に広範な影響を及ぼす可能性若しくは期待―懸念という部分もあるかと思いますけれども―がありますので,実務面の影響をよく御勘案賜って慎重に検討を進めていただきたいと思います。特に経済界は大きな影響を受けると考えておりますので,経済団体等も債権法の検討のワーキンググループ等を考えております。是非意見を十分吸い上げていただいて,反映させていただければと思っておりますので,よろしく御配慮いただければと思います。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでございますでしょうか。 ○北村委員 ほかの場合には,例えば諸外国でこのような形になっているとかというような説明が入っている場合が多いのですが,この民法の見直しにつきまして,日本の民法は今まで修正がなかなかなされてこなかったということですが,諸外国ではどのような状況なのでしょうか。なぜそのように伺うかといいますと,社会・経済の変化への対応を考えていきますと,割と頻繁に改正していかなければならないのではないかというようなことを思っているのですけれども。 ○原幹事 この債権法,外国では「債務法」と言うことも多いようですが,これは国際取引をする面では非常に共通性のある分野でございます。また,条約も締結されておりますし,諸外国では近年頻繁に改正されておりますので,そういった動向も踏まえて,今後,我が国の債権法の改正について検討を進めていきたいと考えております。 ○北村委員 そうすると,やはりこれからは,社会の変化によって違ってきますけれども,割と変わっていく可能性があるという形で把握しておいてよろしいのでしょうか。 ○原幹事 これだけ国際取引が活発化しており,既に国際的な規制も共通化・統一化されてきておりますので,そういった動きも踏まえて我が国の民法の在り方を考えていきたいと思っております。 ○北村委員 私は,民法というのはぼわっとした,どんな時代にでも適応できるような感じで規定しておいて,判例等できちんとやっていくというような方法もあるかなと思っていたのですが,そういう方法をとるわけではないということですね。 ○原幹事 これは,今後の御審議によるわけでございます。一方では,今,北村委員が言われたように,民法は基本法ですから,本当に基本だけ押さえておけばいいというお立場の先生方もいらっしゃるでしょうし,他方では,民法は基本法で国民生活に非常に身近な法律ですから,一般の国民の人も読んである程度分かるような内容のものでなければいけないという立場もあろうと思いますので,そういった様々な意見を踏まえながら検討を進めていきたいと思います。 ○北村委員 これからやるということですね。 ○原幹事 そうです。まだ案ができているわけではございませんので。 ○北村委員 分かりました。 ○青山会長 ほかにいかがでございますでしょうか。―よろしゅうございますか。   それでは,次は凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号の審議をお願いしたいと思います。   まず初めに,事務当局から諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○菊池参事官 諮問を朗読させていただきます。  諮問第89号  近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情にかんがみ,公訴時効の在り方等を見直す必要があると思われるので,左記の事項を始め,その法整備の要綱骨子を示されたい。    記  1 凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方  2 現に時効が進行中の事件の取扱い  3 刑の時効見直しの具体的在り方   以上でございます。 ○青山会長 続きまして,この諮問の内容あるいは諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,これも事務当局から説明をお願いいたします。 ○西川幹事 諮問第89号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   まず諮問に至る経緯でございます。   公訴時効制度につきましては,近時,被害者の方々を中心として,殺人等の凶悪・重大な犯罪について見直しを求める声が高まっており,この種事犯につきましては,公訴時効制度の趣旨として一般に言及されるような事情が妥当しなくなっているのではないかとの指摘もなされているところでございます。   そこで,法務省においては,本年1月から,省内勉強会を開催して,その公訴時効の在り方等について検討を行ってまいりました。   この勉強会においては,3月末までに,公訴時効制度の趣旨等の基本的理解や,公訴時効に関連する事件の実情等を確認するとともに,検討すべき論点を整理した上で,様々な観点から検討を行い,その検討の結果,基本的な論点の整理ということで,中間的な取りまとめを行いました。その後,意見募集手続を行って,国民から御意見を募るとともに,被害者団体や学者,警察庁や日本弁護士連合会から御意見を聞くなどして検討を継続した結果,国民の意識の有り様とその変化などにかんがみますと,殊に殺人等の凶悪・重大犯罪においては,その事案の真相を明らかにし,刑事責任を追及する機会をより広く確保する方向で,公訴時効制度の在り方等を見直す必要があるものと考えられたところでございます。   このように,法務省内において一定の検討を行ってまいりましたが,この問題は刑事司法の在り方にかかわる非常に重要な課題であり,更に幅広く議論を行って検討を積み重ねる必要があると考えられたことから,この段階で法制審議会に諮問し,御審議いただくこととしたものでございます。   次に,諮問の趣旨等について敷衍して御説明いたします。   先ほど申し上げたように,国民の意識の有り様やその変化を始め,近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情にかんがみて,どのようにその公訴時効の在り方等を見直すべきかについて御審議いただきたいというのが今回の諮問の基本的な趣旨でございます。   諮問第89号におきましては,御審議いただくことが必要であると思われる主な事項を挙げております。   まず,「凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方」でございます。凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方としては,公訴時効の廃止,公訴時効期間の延長,さらには,例えば検察官が裁判官に請求することなどによって,個別の事件で公訴時効の進行について特別な取扱いをする制度も考えられるところでございます。   この点の検討に当たっては,公訴時効の在り方を見直す必要があると考えられる趣旨を踏まえつつ,一方で,処罰感情の希薄化や事実状態の尊重,証拠の散逸といった公訴時効制度の趣旨との関係をどのように考えるかということなどについても検討する必要があると思われますし,また,どのような犯罪を見直しの対象とするかなどについても検討する必要があると思われます。   なお,先ほど御説明申し上げました法務省内の勉強会における検討結果として,一定の方策を示しておりますが,この検討結果も参考にしていただき,他の方策も含め,忌憚のない御議論をお願いしたいと考えているところでございます。   次に,「現に時効が進行中の事件の取扱い」についても御議論をお願いしたいと考えております。   これは,公訴時効制度を見直すこととした場合,その方策を現に時効が進行中の事件についても適用することとするか等に関する問題です。   このいわゆる遡及適用の問題については,そもそも遡及適用が許されるとする積極説と,許されないとする消極説に見解が分かれている状況にあります。現に時効が進行中の事件の被害者等の方々からはこのような事件についても適用を望む声が強く示されておりますが,消極説の論拠には憲法の解釈にかかわる問題も指摘されているところであります。また,遡及適用が許されるとして,これを遡及的に適用することとすべきかという問題もあります。   そこで,これらの問題を踏まえて,現に時効が進行中の事件についてどのような取扱いをするのが適当かについて御審議をお願いしたいのであります。   さらに,「刑の時効見直しの具体的在り方」についても御議論いただくことが適当ではないかと考えております。   公訴時効制度と刑の時効制度とは,一定の時間の経過により公訴権あるいは刑の執行権が消滅することとするもので,性質が共通する面があるので,公訴時効制度を見直すこととする場合には,バランス上,刑の時効の制度も見直さなくてよいか,また,見直しの必要があるとすると,その具体的内容いかんについて検討する必要があると考えられます。   そこで,これらの点についても十分な御審議をお願いしたいと考えているところであります。   提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等は以上のとおりです。今回の諮問につきましては,公訴時効制度の在り方を中心として,刑事司法の在り方にかかわる,いずれも重要な事項に関する御検討をお願いするものであり,委員の皆様方におかれましては,十分御審議いただいた上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願い申し上げます。   以上でございます。 ○菊池参事官 引き続きまして,配布資料の説明をさせていただきます。   まず配布資料3でございますが,こちらは先ほど朗読いたしました諮問第89号でございます。   続いて配布資料4でございますが,法務省におきましては,本年1月から省内で勉強会を開催して凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関する検討を行い,3月に,基本的な論点を整理して,それまでの検討結果を中間的に取りまとめて公表しておりますが,その資料になります。   この中間取りまとめの内容をかいつまんで御説明しますと,冒頭の「第1 はじめに」の部分は,勉強会開催の経緯や開催状況を記載しております。2ページから8ページは,公訴時効制度の趣旨,沿革,諸外国の法制について述べております。8ページから10ページには,公訴時効に関連する事件の実情について,罪名ごとの公訴時効期間を示した上で,公訴時効の完成数や公訴時効完成後に犯人が判明した事件の概要を記載しております。10ページの「第4 検討を要する主要な論点等」以下が論点を整理した部分であり,「1 検討を要する主要な論点」といたしまして,「(1)公訴時効制度の改正の必要性」,「(2)証拠の散逸,被告人の防御との関係」,「(3)被告人の事実状態の尊重との関係」,「(4)処罰感情等の希薄化との関係」,「(5)公訴時効制度を見直す場合の方法,対象範囲」,「(6)現に時効が進行中の事件の取扱い」,「(7)刑の時効との関係」を掲げております。12ページ以下でこれらの論点について敷衍して説明しております。   続いて配布資料5でございますが,こちらは,省内勉強会におきまして本年7月に,それまでの検討に基づいて制度見直しの方向性を取りまとめて公表した資料でございます。   概要を御説明いたしますと,冒頭で勉強会開催の経緯等について述べ,1ページの下から5ページは,中間取りまとめの内容を整理して,その概要を掲載しております。5ページの下から14ページは,中間取りまとめ後の勉強会の開催状況を記載するとともに,被害者団体や関係機関などの意見聴取の結果,意見募集に寄せられた国民一般の皆様の意見の概要などを記載しております。14ページの「第4 主要な論点についての考え方」以下におきまして,主要な論点についての考え方と見直しの方向性が検討されております。見直しの方向性といたしましては,20ページとなりますが,「①人の生命という最も重要な個人的法益を奪った殺人罪などの重大な生命侵害犯について,その中で特に法定刑の重い罪の公訴時効を廃止し,それ以外の罪についても公訴時効期間を延長する方向で見直すのが相当である。もっとも,廃止・延長の対象犯罪の範囲,延長する場合の具体的年数などの方策の詳細や,廃止する場合に捜査を行うにつき時間的制限がなくなることにより生ずる問題への対応等については更に検討を要する」,「②刑の時効についても公訴時効の見直しの内容に整合するよう見直すことが相当である」,「③上記の見直し策を現に時効が進行中の事件に対して適用することは憲法上許されるのではないかと考えられるが,その当否を含め,更に慎重に検討する必要がある」との方向性が示されております。   続いて配布資料6でございますけれども,先ほど申し上げましたとおり,法務省におきましては,凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関して国民の皆様一般からの意見を募集いたしましたが,その結果の概要をまとめたものでございます。公訴時効制度の改正の必要性や見直すこととした場合に考えられる方策などの点について,本年5月12日から6月11日までの1か月間,パブリック・コメント手続に準じた意見募集手続を実施し,郵送,ファクス又は電子メールにより国民の皆様の意見を募ったものでございます。この意見募集に対して寄せられた意見は合計341件に達しました。資料の2の(1)から(5)までに表題として記載した論点は,意見募集要領にも掲げているものでございますが,この論点ごとに寄せられた御意見の内容を総括し,それぞれの論点に関する代表的な意見の例を別紙として添付しております。   最後に配布資料7は統計資料でございますが,その1が凶悪犯罪についての時効完成数の推移であり,その2がその背景となります凶悪犯罪の認知件数,検挙件数,検挙率の推移でございます。いずれも平成11年から平成20年までの10年間についてまとめたものでございます。   以上,簡単ではございますが,配布資料の説明をさせていただきました。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   それでは,諮問第89号と,ただいまの配布資料に基づいて御説明がございました点を含めまして,御質問がございましたら御発言をお願いしたいと思います。 ○今田委員 資料を読ませていただいて,この諮問事項の内容について理解できたと思うのですけれども,一つだけ疑問に思ったのが,前回,5年前に検討されて改正されていることについて,時代が大きく変化して,様々な社会状況が変化して,そこからいろいろな要請が出るというのは分かるのですが,5年前に体系的に検討された結果,また5年後の今日に検討するということは,時間的な経過としては適切なのかなと思うのです。先ほど民法の改正の議論があり,これは刑法の基本的な,重大な事項なので,時代が変わったからとそれに対応すべきというのは一方では正しいですけれども,やはりそう変わるというのも適切でないという考えもあると思いますので,その辺のことについて教えていただければと思います。 ○甲斐関係官 御指摘のように,平成16年に時効制度についての見直しを行っておりますが,このときの改正は,そもそも凶悪犯罪を中心とする重大事件に対して,犯罪情勢及び国民の規範意識の動向を踏まえた上で,事態の実態及び軽重に即した適正な対処を可能にするという政策目的に立って行われたものでございまして,一番大きなものは,凶悪・重大犯罪の法定刑自体を全般的に見直すということをしております。更に加えてその公訴時効制度についても見直しをしたというのが先般の改正の内容でございます。   それに対しまして,平成16年の改正以降におきましても凶悪・重大犯罪の公訴時効をめぐって種々の事情の変化があり,特に,この種の事犯,凶悪・重大犯罪については,公訴時効制度の趣旨として言われているような事情がもう当てはまらないのではないかという指摘が強くなされるなど,国民の意識の在り方が変わってきているのではないか。今回の法整備においては,平成16年改正とはやや異なった観点で,公訴時効の在り方そのものが問題にされているのではないかと考えているところでございまして,諮問をお願いしたということでございます。 ○青山会長 今田委員,よろしゅうございますか。 ○今田委員 分かりにくいというか,難しい議論で,私は法律が専門ではないので,十分な理解ができたかどうか。 ○松尾関係官 今田委員のお話を承っておりまして,誠にごもっともな御指摘であるという感じを受けました。前回,すなわち平成16年の審議におきましては,関係官からも御説明がありましたとおり,凶悪・重大な犯罪の処理全般を考えておりまして,その際の審議会の視線は専ら将来に向かっていたと思います。既に犯された犯罪についての処理をどうするか,公訴時効は多分にその性質の問題でありますけれども,それについては議論は極めて少なかった気がいたします。遡及効は与えないのが当然だろうという理解でそのままになり,法律では附則で処理されております。しかし,今日拝見した新しい諮問では,この項目1,2,3のうちの2に「現に時効が進行中の事件の取扱い」というのが明記されておりまして,今度はこれが掘り下げて深く議論されることになるのではないかと思います。その上で1の扱い,2の扱いをそれぞれに考えていくことになろうかと思いますので,その関係で今田委員の御指摘も生きてくる場面があるのではないかという気がしております。 ○青山会長 よろしゅうございますか。   ほかにいかがでしょうか。 ○徳永委員 本論とは関係ないのですが,公訴時効の完成数という統計があるのですが,殺人の中には未遂も入るのですか。 ○西川幹事 未遂も入っております。 ○徳永委員 たまたま来年,警察庁長官狙撃事件とか殺人未遂の時効が控えているものですからお伺いしました。 ○青山会長 ほかに御質問ございますでしょうか。   御質問がなければ,中身についての御意見を承りたいと思います。 ○川端委員 先ほどの御説明にもございましたように,公訴時効の見直しは刑事司法の根幹にかかわる大問題でございます。これは刑事訴訟法にもかかわりますが,3番目のものは刑法そのものの問題でございますので,これはかなり根本的な観点からの議論が必要であると思います。公訴時効制度自体,大陸法系と英米法系でかなり違う面がございまして,我が国は大陸法系の伝統のもとで一定の扱いをしてきているわけですが,その辺も根本的に見直すということであれば,徹底した御議論をしていただきたいと思います。   それから,公訴時効制度については,被害者と被疑者との間で利害の対立が生じてまいります。その調整に当たって,バランスの取れた解決策について慎重に御議論いただきたいと思います。刑事政策的観点及び刑法理論的観点だけでなく,憲法にもかかわりますので,公法理論的観点をも加味して検討していただきたくことを要望いたします。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   どうぞ,佐々木委員。 ○佐々木委員 公訴時効は一般的にも大変関心のあるテーマだと思っておりますので,丁寧に検討していくことが大切だと思っているのですけれども,一般的にテレビなどを見て分かるだけでも,弁護士の方々は,時効が長くなっても,証拠を見つけるのがとても難しくて,それほど今後変化がないのではないかというようにいろいろなメディアで発言されているのを私も聞いたことがありますし,一方で警察は,時効がないと,分からないのにずっと捜査し続けなければならず,新しいいろいろな事件が起きたときの人員の配置などで人手が足りないと言っている声もメディアを通して聞きました。一方で,被害者や,私も子供を持つ身としては,何でこの殺人事件の人は今日以降は罪に問われないの,悪いことをしてもし見つかっても何もしなくていいのということに対しては,一般的には,やはり凶悪な事件が出てくると時効というものに疑問を持つ機会も増えたように思うのです。しかしながら,法律を変えるということは,先ほどの人員のことなり費用のことなりも含めて,かなりいろいろな視点が入って検討されるものと専門的には思うのですけれども,一般の方々が一緒になって検討したという実感があるような法律改正があると本当にいいのだろうなと思います。ですから,中間報告ですとか,様々な問いかけや途中でメディアを通じて一般の方々が考える機会,あるいは様々な視点や具体的な事例ですね。ただ時効が延びればいいだけでない理由があるとすれば一体何なのかということも,もしそういった課題があるならば,一般の人たちにも知らされて,私たちにも知らされて,みんなが一緒にある程度の期間考えながら進められるといいなと思っておりますので,きっと専門家の方々がお考えになるのだろうと思うのですけれども,是非こまめな中間報告をお願いして,いい結果になっていけばいいなと思っております。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   ほかに御意見ございますでしょうか。―よろしゅうございますでしょうか。   それでは,次にこれからの審議の進め方をお諮りしたいと思いますが,諮問第88号と第89号の二つにつきましてどのように審議を進めたらいいかということでございますが,何か御意見があれば承りたいと思います。 ○野村委員 いずれの問題も,事務局の御説明を伺いますと,非常に専門性が高くて,なおかつ早急に結論を得たいということでもありますので,従来と同様に部会を設けて速やかな検討をお願いしてはどうかと思っております。ただ,先ほどもいろいろ意見が出ておりましたけれども,幅広い観点からの検討が必要だということも否定できないわけで,この法制審議会の総会にも民法や刑法以外の様々な分野の委員がおりますので,節目節目に総会で意見をいただいて,それを部会にフィードバックして議論の中に生かしていただければと思います。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   ただいま野村委員から,それぞれにつきまして部会を設置して審議を進めたらどうかということでございますが,そういうことにさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。    (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 ありがとうございました。   次にお諮りしたいことでございますが,新たに設置する部会に属すべき総会の委員,総会から部会に属すべき委員,あるいは臨時委員及び幹事につきましては慣例によりまして会長に御一任をお願いしたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。    (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 どうもありがとうございました。   次に部会の名称でございますが,諮問事項との関連から,諮問第88号につきましては「民法(債権関係)部会」,諮問89号につきましては「刑事法(公訴時効関係)部会」という名称にしたらどうかと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。    (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 それでは,そのように取り扱わせていただきたいと思います。   この機会に,総会委員としてこの二つの諮問事項の中身について,先ほど一応御意見を伺いましたけれども,更に御発言があればお伺いしたいと思いますが,いかがでしょうか。―よろしゅうございますか。   それでは,諮問第88号及び第89号につきましては,それぞれ部会をつくりまして,部会で御審議いただくこととし,部会での審議に基づきまして,この総会において更に御審議を願うことにしたいと存じます。   本日のこちらで予定しております議事はこれですべて終了ということになりますが,ほかにこの機会に御発言いただけることがございましたら,お願いいたします。 ○髙木委員 現在,法務省所管の入管法の外国人技能実習制度に関する省令案がパブリック・コメントに付されていると承知しております。この入管法の改正案が今年の第171回通常国会で可決成立したわけですが,原案に修正が加えられ,附帯決議も付されております。本来であれば,そういった修正と附帯決議を真摯に受け止めていただき,しかるべく省令が定められる必要があるのではないかと思います。しかし,省令案の概要を拝見する限りでは,法案が修正されたこと,あるいは附帯決議が付され,いろいろな内容が書かれていること等もあるにもかかわらず,国会での審議前に作成された省令案と受け止めざるを得ないと思っております。そういう意味では,パブリック・コメント等で寄せられた御意見や国会での修正・付帯決議を十分踏まえて対応いただくようお願いします。特に制度の適切な運用については,幾ら指針で定めても,これまでの経過をふまえれば,指針では実効性がほとんどあがらないと思われます。指針という形で緩やかに押さえていただいても,今の技能実習制度等にかかわる問題点がそう簡単に解決できないのではないかという認識を持っておりますので,是非,実効性が上がる省令による規制として,国会での修正と付帯決議を踏まえた内容を記載していただきたい。具体的にはまた連合からもパブリック・コメントを送付しますが,どうぞ制度の問題点への対処として実効性のある省令にしていただきたい,そのことをお願い申し上げておきたいと思います。 ○青山会長 これは御意見として伺っておけばよろしゅうございますか。 ○髙木委員 はい。今まだ作業をしていただいている途中だと承知していますので。 ○深山関係官 御指摘のとおり,今,入管局の方でパブリック・コメントの期間中でございます。今の髙木委員の御発言は,議事録に載せるのはもとより,法制審の事務当局からも所管の入管局にきっちりと伝えて,今の御趣旨を踏まえた検討がされるように要望を伝えておきたいと思います。 ○青山会長 よろしゅうございますか。 ○髙木委員 はい。よろしくお願いします。 ○青山会長 ほかに,この機会に何か御発言ございますでしょうか。―よろしゅうございますか。   それでは,御発言もないようですので,本日の会議はこれで終了いたしますが,一つだけお願いがございます。御発言をいただいた各委員の皆様には,前回同様,議事録案をメール等で送付させていただきますので,御発言内容をなるべく早く御確認していただいた上でこちらをホームページに載せたいと思っておりますので,何とぞこの点について御協力をお願いしたいと思います。   最後に,事務当局から事務連絡がございましたら,お願いいたします。 ○深山関係官 次回の総会の開催予定でございますけれども,現在のところは,来年の2月上旬に,次の御審議の機会をお願いしたいと思っております。具体的な日程調整は,まだ少し期間がありますので,もうしばらくしましたら御相談させていただきます。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   本日は,お忙しい中をお集まりいただきまして,熱心に御議論いただきました。おかげさまで答申までこぎつけることができました。会長として心から御礼申し上げます。   それでは,これで本日の会議は終了いたします。 -了-