法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成21年11月16日(月) 自 午後1時04分                        至 午後4時05分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり)                 議          事 ● 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会第1回会議を開催いたします。 ● 本日は御多忙中のところ,凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等についての審議のためにお集まりいただき,誠にありがとうございます。私の方から,本日部会が開催されるに至った経過等を御説明いたします。   去る10月28日,法務大臣から「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号」が諮問され,同日開催された法制審議会第160回会議において,同諮問については,まず部会において審議すべき旨,決定されました。そして,同会議において,同諮問を審議するための部会として刑事法(公訴時効関係)部会を設けることが決定され,同部会を構成すべき委員,臨時委員及び幹事が法制審議会の承認を経て会長から指名され,本日ここに御参集いただいたところでございます。    (委員等の自己紹介につき省略)    (部会長に井上正仁委員が互選され,法制審議会会長から部会長に指名された。)    (部会長の職務を代行する者に椎橋委員が指名された。)    (松尾浩也法務省特別顧問の関係官としての出席が承認された。) ● ただ今部会長に指名を受けました○○でございます。改めましてよろしくお願い申し上げます。   私どもに今回課されている審議事項の主要な部分を占めるのが公訴時効の在り方ということでございますが,これは御承知のように,犯罪被害者やその関係者の皆さんを始め,社会,国民の皆さんの関心が非常に高いホットな問題であると同時に,公訴権の存続・消滅にかかわる刑事訴訟法制度にとって基本的,根本的な事柄でありますので,根本に立ち入った十分な検討が必要とされるものと考えております。その意味でも,充実し,かつ円滑な議事が行えるように精一杯努めさせていただきたいと存じますので,皆様方におかれましても,是非,御支援,御協力くださいますよう,よろしくお願い申し上げます。   審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いに関してお諮りしたいと存じます。   まず,現在の法制審議会の議事録の作成方法について事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ● 法制審議会の部会における議事録の作成方法等につきましては,法制審議会第156回会議におきまして審議がなされ,以下の内容の決定がされているところでございます。その内容は,部会については,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とするというものでございます。すなわち,諮問事項の性質にかんがみまして,部会ごとに発言者名を明らかにするか否かの取扱いを決めることとなります。したがいまして,当部会におきましても,この総会における決定事項に沿いまして,部会長において,部会委員の方々の御意見を聴いた上で,当部会の議事録の作成方法における発言者名の取扱いについて御判断をいただくこととなります。 ● ただ今の御説明に関しまして,まず何か御質問がありましたら,お願いいたします。よろしいでしょうか。   それでは,ただ今の御説明を踏まえまして,委員,幹事の皆様方から御意見を伺いたいと思います。 ● この間,日弁連は刑事法部会におきまして毎度のように顕名での議事録作成を求めてきております。とりわけ今回,公訴時効制度の在り方を見直すことにつきましては,先ほど部会長からもお話がありましたように,全国民が大変関心を持ったテーマであり,議論につきましては透明性といいますか,きちんと顕名で議事を公開した上で,国民の方に情報提供することが極めて求められていると思いますので,是非とも顕名の議事録を作成すべきであると考えます。 ● ただ今,○○幹事からそのような御意見が出ましたが,他の方々はいかがでしょうか。 ● 今の御意見はごもっともという点もございますけれども,確か,前回の公訴時効あるいは被害者保護を審議した部会においても顕名主義はとられなかったと了解しております。非常に微妙な部分,問題も含んでいる今度の諮問であり,かつ,今度の諮問に対しては賛成する国民の方と,いや,反対だという御意見の方と,ある意味で非常に厳しい対立になることも予想されます。私個人としては顕名でも構わないかとは思いますが,極めて微妙な問題も含んでおりますので,これについて,ここで十分な議論をするためには,自由な意見交換の余地を残すことが必要であり,そのためには,前回の例を踏襲するのが現在のところは妥当ではないかと思料いたします。 ● ほかの方はいかがでしょうか。 ● 私の理解する範囲では,前回も,凶悪・重大な犯罪についての部会ですか,刑法及び刑事訴訟法等の改正の際には,恐らく法制審議会の部会を公開するという基本的な方針はまだ決まっていなかった段階ではなかったかと理解しておりますが,そこはいかがですか。 ● 部会の議事録における発言者名の取扱いをどのようにするかを部会の判断にゆだねるというのは,平成20年3月の法制審総会における決定でございますので,それ以前は部会で判断いただくという枠組みにはなっておりませんでした。 ● そうだとすると,ここで前回同様にというのは,やはり特別な事情があるという場合でない限り原則公開にすべきではないかと私は考えます。 ● まず質問です。先ほど御紹介された,総会の公開に関する取決めの後,刑事法部会以外の分野の部会も行われていると思いますが,その他の部会の状況がもしお分かりでしたら教えてください。主として民事法関係の部会が動いていると思うのですが。 ● 御指摘の平成20年3月の総会決定の後に開催されている刑事に関する法制審議会の部会といたしましては,「被収容人員適正化方策に関する部会」があるのみでございますけれども,この部会に関しましては,平成20年3月の総会決定がなされた後,部会の会合に先立ちまして,部会長が委員,幹事の意見を聴取した上で,議事録において発言者名を明らかにしない取扱いとされ,その後も同様の取扱いがされているものと承知しております。   ちなみに,平成20年3月の総会決定の後に開催された民事法部会としては,「民法成年年齢部会」などがございますけれども,こちらについては,議事録において発言者名を明らかにする取扱いとされていると承知しております。 ● それでは私の意見を申し上げます。結論として私は顕名にすることには反対でございます。従来の刑事法部会の扱いと同じでよいと思います。   今,御紹介がありましたとおり,民事関係の部会が顕名にしている例はあるということは承知しましたけれども,やはり,刑事法部会の取り扱う事項の性質上,特段の事情があると考えます。先ほどの○○委員と同じ趣旨でございますけれども,刑事法部会は国家刑罰権力の行使やその作動過程に深くかかわる事柄を審議しております。もちろん,民事法の事柄も大変重要なことではありますけれども,特に今回の公訴時効問題についてはそういう問題に直接かかわる。そしてこのような性格の問題については,民事法の領域に比べて強い関心を引き,場合によっては冷静な議論に圧力を加えようと,不穏当な言動で異なった考えを誹謗中傷するというような事態もないわけではない。私自身は研究者でございますし信念をもって発言いたしますけれども,それでも,○○委員はこのように言った,けしからんということを,雑音として言われるのは非常に不愉快である。不愉快なだけでなく,委員の中にはそういうことを懸念して,自由な議論が若干でも妨げられるようなことがあるということは望ましくないと思われますので,非顕名にしていだたくのが妥当だと思います。   なお,先ほど部会長が言及されました社会的関心,法制審議会総会の議論の中にも出てきました審議過程の透明化という公の利益の観点から審議の内容をできるだけ公開するというその要請は極めて重要だとは思いますけれども,私の理解によれば,法制審議会において,だれが何を言ったかではなくて,どのような事柄についてどのような議論がなされたかということが,できる限り迅速に議事録の形で公開されれば,その目的は十分達せられるのではないかと思いますので,非顕名の,これまでの刑事法部会と同じような扱いが妥当なのではないかと思います。 ● 私も非顕名にした方がいいと考えます。その理由は,かなり利害の対立する分野ですので,意見を述べるときに自由に発言することが妨げられるおそれがあるためです。議事録を公開することはいいのですけれども,だれが発言したかということについては明記しない方がいいと考えております。 ● ほかに御意見はございますでしょうか。   よろしければ,ただ今の委員,幹事の皆様の御意見を踏まえまして私なりに考えますと,審議過程を透明化していく,公開していくという要請が非常に強くなっているということは,そのとおりだと私自身も思います。ただ,他方で,今何人かの委員から,特に今回の審議事項に関しては非常に微妙な問題を含んでいる,あるいは対立が激しい事柄であるので,発言者名を明らかにした場合に自由な議論が妨げられるおそれが強いという消極意見が出されました。そういう状況のもとで,どういう意見が出て,どういうふうな議論がなされ,どういうふうになったかということは,先ほど○○委員がおっしゃったとおり,議事録自体が公開されるということで,相当程度目的が達せられるだろうと思いますし,委員の中にそういう消極論がある中で,それにもかかわらず,強いて発言名を明らかにした議事録を作成するという取扱いをすることには,なおちゅうちょを感ぜざるを得ないというのが正直なところです。従いまして,部会長としては,いただいた御意見をいろいろ勘案した結果,この部会でも,発言者名は明らかにしない形で議事録を作成する取扱いといたしたいと思いますので,御了承いただければと存じます。   それでは,さきの法制審議会総会におきまして,当部会で審議するよう決定のありました諮問第89号について審議を行います。   まず,諮問を朗読していただきます。 ● 諮問を朗読いたします。   諮問第89号    近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情にかんがみ,公訴時効の在り方等を見直す必要があると思われるので,左記の事項を始め,その法整備の要綱骨子を示されたい。              記     一 凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方     二 現に時効が進行中の事件の取扱い     三 刑の時効見直しの具体的在り方   以上でございます。 ● 次に,事務当局から諮問事項について説明を行っていただきます。 ● それでは,諮問第89号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明を申し上げます。   公訴時効制度につきましては,近時,被害者の方々を中心として殺人等の凶悪・重大な犯罪について見直しを求める声が高まっており,この種事犯においては,公訴時効制度の趣旨として一般に言及される事情が妥当しなくなっているのではないかとの指摘もなされているところでございます。そこで,法務省におきましては,本年1月から省内勉強会を開催して,公訴時効の在り方等について検討を行っておりました。この勉強会においては3月末までに公訴時効制度の趣旨等の基本的理解や,公訴時効に関連する事件の実情等を確認するとともに,検討すべき論点を整理した上で様々な観点から検討を行い,その検討の結果,基本的な論点の整理ということで中間的な取りまとめを行いました。そしてその後,意見募集手続を行って国民から御意見を募るとともに,被害者団体や学者,警察庁,日本弁護士連合会から御意見を聴くなどして検討を継続した結果,国民の意識のありようとその変化などにかんがみますと,殊に殺人等の凶悪・重大犯罪においては,その事案の真相を明らかにし,刑事責任を追及する機会をより広く確保する方向で公訴時効制度の在り方等を見直す必要があるものと考えられたところです。   このように,法務省において一定の検討を行ってまいりましたが,この問題は刑事司法の在り方にかかわる非常に重要な課題であり,更に幅広く議論を行って検討を積み重ねる必要があると考えられたことから,この段階で法制審議会に諮問し,御審議いただくこととしたものです。   次に,諮問の趣旨等について敷衍して御説明いたします。先ほど申し上げたように,国民の意識のありようやその変化を始め,近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情にかんがみて,どのようにその公訴時効の在り方等を見直すべきかについて御審議いただきたいというのが今回の諮問の基本的な趣旨でございます。そこで,諮問第89号におきましては,御審議いだたくことが必要であると思われる主な事項を挙げております。   まず,凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方です。凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方としては,公訴時効の廃止,公訴時効期間の延長,さらには例えば検察官が裁判官に請求することなどにより,個別の事件の公訴時効の進行について特別の取扱いをする制度も考えられるところです。この点の検討に当たっては,公訴時効の在り方を見直す必要があると考えられる趣旨を踏まえつつ,一方で処罰感情の希薄化や事実状態の尊重,証拠の散逸といった公訴時効の趣旨との関係をどのように考えるかということなどについても検討する必要があると思われますし,また,どのような犯罪を見直しの対象とするかなどについても検討する必要があると思われます。   なお,先ほど御説明申し上げました法務省内の勉強会における検討結果として一定の方策を示しておりますが,この検討結果も参考にしていただき,ほかの方策を含め,忌憚のない御議論をお願いしたいと考えているところでございます。   次に,現に時効が進行中の事件の取扱いについても御議論をお願いしたいと考えております。これは公訴時効制度を見直すこととした場合,その方策を現に時効が進行中の事件についても適用することとするか等に関する問題です。このいわゆる遡及適用の問題については,そもそも遡及適用が許されるという積極説と,許されないとする消極説に見解が分かれている状況にあります。現に時効が進行中の事件の被害者等の方々からは,このような事件についても適用を望む声が強く示されておりますが,消極説の論拠には,憲法の解釈にもかかわる問題も指摘されているところであります。また,遡及適用が許されるとして,これを遡及的に適用することとすべきかという問題もあります。そこで,これらの問題を踏まえて,現に時効が進行中の事件についてどのような取扱いをするのが適当かについて御審議をお願いしたいのであります。   さらに,刑の時効見直しの具体的在り方についても御議論いただくことが適当ではないかと考えております。公訴時効制度と刑の時効制度とは一定の時間の経過により,公訴権あるいは刑の執行権が消滅することとするもので,性質が共通する面があるので,公訴時効制度を見直すこととする場合にはバランス上,刑の時効制度を見直さなくてよいか,または見直しの必要があるとすれば,その具体的内容いかんについて検討する必要があると考えられます。そこで,これらの点についても十分御審議をお願いしたいと考えるところであります。   提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等は以上のとおりです。今回の諮問につきましては,公訴時効制度の在り方を中心として刑事司法の在り方にかかわる,いずれも重要な事項に関する御検討をお願いするものでありますが,委員の皆様方におかれましては,十分御審議いただいた上で,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願い申し上げます。 ● 次に,事務当局から配布資料について説明をしていただきます。 ● それでは,配布資料の説明をさせていただきます。配布資料は資料番号1から10まででございます。   まず,資料番号1は,先ほど朗読いたしました諮問第89号でございます。   資料番号2は,統計資料でございますが,その1が,凶悪犯罪についての公訴時効完成数の推移であり,その2が,その背景となります凶悪犯罪の認知件数・検挙件数・検挙率の推移でございます。いずれも,平成11年から平成20年までの10年間についてまとめたものでございます。   資料番号3及び4でございますが,先ほど諮問の経緯等についても説明いたしましたとおり,法務省においては本年1月から7月まで,省内で勉強会を開催して凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関する検討を行い,3月に基本的な論点を整理して,それまでの検討結果を中間的に取りまとめて公表しており,7月には,それまでの検討に基づいて,制度見直しの方向性を取りまとめて公表しておりますが,番号3がその中間取りまとめ,番号4が制度見直しの方向性を示した最終的な取りまとめになります。 今回の諮問事項について審議,検討していただくに当たり,法務省におけるこれまでの検討結果等の内容についても御承知いただき,参考にしていただくことが,充実した審議,検討を行っていただくことに資するのではないかと考えられたことから,配布資料とさせていただきました。   資料番号5及び6でございますが,法務省においては,省内勉強会における検討の過程で,凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関して国民一般から意見を募集いたしましたが,その結果の概要をまとめたものが番号5,意見全般を取りまとめたものが番号6でございます。公訴時効制度の改正の必要性や,見直すこととした場合に考えられる方策などの点について本年5月12日から6月11日までの1か月間,パブリック・コメント手続に準じた意見募集手続を実施し,郵送,ファックス又は電子メールにより,国民の皆様の意見を募ったものでございます。この意見募集に対して寄せられた意見は合計341件に達しております。   資料番号7は,公訴時効制度に関する外国法制の概要をまとめたものでございます。   資料番号8は,平成16年に刑法等の一部を改正する法律により公訴時効制度が改正されておりますが,この改正に当たっての法制審議会刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会の議事録から,公訴時効関係の議論を抜粋してまとめたものでございます。   資料番号9は,今回の諮問事項について,関連すると思われる現行法の条文をまとめたものでございます。   資料番号10は,公訴時効の在り方等の見直しに関する各方面の議論において指摘あるいは提案されているところも参考に,今回の諮問事項に関して検討すべき論点を事務当局において取りまとめたものでございます。もとより,検討すべき論点がここに記載してあるものに限られるという趣旨ではございませんが,当部会における御審議の参考にしていただければと考えております。   以上,簡単でございますが,配布資料の説明をさせていただきました。 ● 事務当局からの最初の説明は以上のとおりのようであります。諮問事項に関する審議の進め方につきましては,後ほどお諮りして決めていきたいと思いますけれども,まず,この段階で,ただ今の事務当局の説明内容に関して質問がありましたら,御発言をいただきたいと思います。 ● 諮問の射程といいますか,確認したいと思って質問します。諮問では,公訴時効の在り方等を見直す必要があるということを前提として,その見直しの具体的在り方について諮問されているのですけれども,先ほどの論点の資料10の第1にもありますけれども,そもそも現在,公訴時効の在り方を見直すかどうかということ自体についても議論のあるところでありまして,今回の諮問は見直すことは当然の前提のように書いてあるのですけれども,見直すかどうかについても議論をここで尽くすということについては,当然その範囲に入っているという理解でよろしいのかどうか,それについて確認したいと思います。 ● ただ今の点,いかがですか。 ● 御指摘のとおりでありまして,諮問の趣旨といたしましては,法務省といたしましては見直しの必要があるのではないかと,いろいろな検討の結果,考えておりますが,当然それはほかの諮問の際も同様であると思いますけれども,そもそも,そういうことをやるのが必要なのか,適当なのかというところから御議論をいただくことにはなるのだろうと思っております。 ● それでよろしいですか。 ● はい。 ● ほかに御質問はございますでしょうか。よろしいですか。また議論の中でいろいろ御疑問があれば出していただきたいと思います。   それでは諮問事項の審議に早速入っていきたいと思いますけれども,今回の諮問には検討すべき事項として,先ほど読み上げていただきましたように,三つの項目が挙げられておりますが,これをどういう形で審議を進めていけばいいかを御相談したいと思います。まず,事務当局の方で,審議の進め方について何かお考えはございますでしょうか。 ● 審議の進め方につきましては,もとより,部会においてお決めいただく事柄でございますけれども,充実した議論を集中して行うという観点から,先ほど御説明いたしました資料10の論点案のペーパー,「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関し検討すべき論点(案)について」というペーパーを御参考までに作成いたしましたので,ここに記載した論点に沿った形で御審議を進めていただいてはいかがかと思っております。   もとより,検討すべき論点がそこに記載されたものに限られるという趣旨ではございません。当部会における御審議の過程で,ほかにも検討すべき論点があるということも当然考えられますけれども,当面は,ここに記載した論点に沿って御審議いただいてはいかがかと思っているところでございます。 ● ただ今,事務当局のお考えを伺いましたけれども,それを踏まえまして審議の進め方について御意見を伺いたいと思います。   特に御意見がないようでしたら,当面は,今,○○委員から御提案のありましたような形,つまり資料10の論点案に沿って議論していくことにさせていただきたいと思います。 ● ちょっとよろしいでしょうか。 ● どうぞ。 ● 資料10の第4「刑の時効見直しの必要性・具体的在り方」のところは何も項目が書いてないのですが,これは本来何か,恐らく公訴時効とのバランスとか,あと刑の時効の制度趣旨などいろいろあるのだと思うのですが,何も書いてないものですから。 ● この時点で説明が必要ですか。それとも,その部分に来たときにまた,中身について補足して説明してただくということでもよろしいかと思うのですが。このような順序で項目を立てて審議していくこと自体については,特に御異議が……。 ● それは基本的によろしいのですが,第4が余りにも中身がなさ過ぎるようなので,刑法の先生もいらっしゃいますから,中身のある議論をしていただきたいと思います。 ● 今,御説明をいただきますか,それとも,その項目のところで補足して説明してもらいますか。 ● その項目のところで御説明させていただきたいと考えております。 ● 恐らく中身がないということはなく,今,○○幹事がおっしゃったとおりのところが中心的な論点だと思いますけれども。   それでは,その項目を議論するところで補足説明をしてもらうということで進めさせていただきます。   まず,第1の「公訴時効見直しの必要性,妥当性」ですけれども,これは先ほど○○幹事の御質問に対し○○幹事から御説明があったとおりですけれども,この点を十分議論することによって,仮に見直すとして,その場合の見直しの内容や範囲,規模をどうするかといった点にもつながっていくだろうと思いますので,十分御審議いただければと思います。 議論に入る前に,この第1の事項の具体的内容について,補足的に事務当局から御説明を伺いたいと思います。 ● 資料10の論点ペーパーに掲げております「第1 公訴時効見直しの必要性,妥当性」の具体的な内容等について御説明を申し上げます。   まず,1の「公訴時効見直しの必要性」についてですが,凶悪・重大犯罪の公訴時効について,現時点において見直す必要があると考えられるのか,現行の凶悪・重大犯罪の公訴時効についてどのような問題があると考えるのか,という論点でございます。   次の2「公訴時効制度の趣旨との関係」についてでございますが,我が国における刑事上の公訴時効制度の趣旨につきましては一般に三つのことが言われております。   一つ目は,時の経過とともに証拠が散逸し訴追が困難になること,   二つ目は,時の経過とともに処罰感情等が希薄化すること,   三つ目は,一定期間訴追されていないという事実状態の尊重でございます。   これらの三つが公訴時効制度の趣旨として挙げられるわけでございますが,近時,凶悪・重大犯罪においては,公訴時効制度の趣旨として一般に言及されるこれらの事情が妥当しなくなっているのではないかとの指摘もあるところでございます。   そこで,見直しの必要性について検討するに当たっても,また,見直しの具体的在り方について検討するに当たっても,公訴時効制度の趣旨との関係をどのように考えるのかについて検討する必要があると思われるところでございます。   3の「平成16年改正との関係」につきましては,御案内のとおり,公訴時効制度については,平成16年に成立いたしました「刑法等の一部を改正する法律」におきまして,公訴時効期間の延長を内容とする改正が行われております。具体的に申し上げますと,死刑に当たる罪については,改正前は15年だった公訴時効期間が25年に,無期の懲役・禁錮に当たる罪については10年だった公訴時効期間が15年に,懲役15年以上の懲役・禁錮に当たる罪について7年だった公訴時効期間が10年に,それぞれ延長されております。   この平成16年改正の理由としましては,国民の平均年齢の延び等から,被害者の処罰感情等が時の経過により希薄化する度合いは低下していると考えられること,新たな捜査技術の開発等により,犯罪発生後相当期間を経過しても,有力な証拠を得ることが可能になっていることなどにかんがみると,特に凶悪・重大犯罪については,最長でも15年という公訴時効期間は短期に失すると思われることが挙げられております。   このように,法定刑の重い罪について公訴時効期間の延長が図られたわけですが,現時点において再び公訴時効制度を改正する必要があるか,あるいは適当かなどが論点となると考えられます。ただ今申し上げた点や,その他考えられる点を含め,多角的な見地から御審議をお願いしたいと考えております。 ● 今御説明していただきました点について何か不明な点,御質問等がございますでしょうか。 ● 平成16年改正との関係なのですけれども,私も実はそのときの法制審議会刑事法部会に幹事として出席していたのですが,今回,余りにも,それから時間がたっていない。まだ四,五年ぐらいしかたっていない状況で,法務省では省内勉強会でこれを変えるという判断をされたわけですが,結局,平成16年の改正が不十分だった,または誤っていたと,そのような認識のもとに,そのように主張されているのか,その辺がよく分からないものですから,是非,法務省の御意見を聞きたいと思います。 ● その点はいかがですか。 ● 平成16年改正が不十分であったという,そういう認識では必ずしもございません。平成16年改正後に,なお現時点において公訴時効制度を見直す必要が生じているという認識に基づくものでございます。 ● 質問か,ちょっと意見にわたってもよろしいのでしょうか。 ● まず説明についての質問ということでお願いします。 ● では,質問ということで。諮問の趣旨が「近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情にかんがみ」とございますが,この諸事情とは何かということが1点。   それから,立法事実という観点からいうと,それは16年改正との関係でいえば立法事実は恐らくありようがないので,それはちょうど民法における成年年齢の引き下げと同様ではないか。これは国民投票法の附則3条2項の要請に基づくものであると思います。つまり,社会的には,民法の成年年齢を引き下げないと困るという事態は別段生じていない,したがって,そういう意味での立法事実はない。しかし,今回の場合は立法動機はあるだろうと。その立法動機が凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情だろうと。では,その諸事情とは何かということですが,ワーキンググループの当面の検討結果の取りまとめの第1ページ目に,「公訴時効については,近時,被害者の遺族を中心として,殺人等の凶悪・重大な犯罪につき見直しを求める声が高まっている。例えば,殺人事件等の重大な犯罪について公訴時効の廃止を求める旨の被害者団体の決議など,被害者等からの意見書,要望書等が法務省に寄せられているところである。」と書かれていますが,これが恐らく諸事情なのだろうと思いますが,具体的にどのような声が寄せられて,何が諸事情であるのかということの御説明をお願いしたいと思います。 ● 何が立法動機で何が立法事実かよく分からないところもありますけれども,そういうふうに限定しないで,「諸事情」というのはどういうことを言うのかについて補足して説明していただきましょう。○○幹事も,恐らく先ほどの事務当局の説明ではまだ御不満そうでしたので,それにもお答えすることになるのだろうと思いますので。 ● 諮問第89号の中で,「近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情」ということを言っておりまして,それが何かという,端的に言うとそういうお尋ねかと思いますけれども,この点は,具体的に申し上げますと,例えば法務省で行った意見募集手続に寄せられた国民からの意見ですとか,被害者団体からのヒアリング等を踏まえた検討結果などからすると,殊に殺人等の凶悪・重大犯罪においては,事案の真相を明らかにして刑事責任を追及する機会をより広く確保する方向で,国民の意識のありようが変化しているということ,これがまず一つめでございます。   二つ目に,殺人事件について犯人が明らかになったのに公訴時効の完成により処罰し得ない事態というものが現に生じておりますが,このような事件をめぐりまして,民事上の損害賠償請求訴訟において,特段の事情があるときには,殺人の不法行為による損害賠償請求権に関する民法724条後段による除斥期間の効果が生じないとされるなど,民事上も時の経過による法律効果について特別の取扱いがなされる例が生じるに至っていること。   三つ目に,被害者等の尊厳にふさわしい処遇というものを基本理念といたします,犯罪被害者等基本法が制定されていること,そういったことが近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情として挙げられると考えております。 ● 補足説明についての御質問はこのくらいにさせていただきます。これ以上は御意見というか,審議の中身に入ってしまう思いますので,審議の中身に入っていきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   今,論点(案)の内容を見ますと三つの事項に細分化されているのですけれども,恐らく相互に関連しており,御質問が集中したのは3の点なのですけれども,3のところは,結局,1の必要性というところと密接に結びついていると思いますので,特に厳密に三つを細分化せずに御議論いただくのが適当ではないかと考えます。どなたからでも,どの点からでも結構ですので,公訴時効を今見直す必要性あるいは妥当性があるかどうか,それがどういう内容で,どの程度あるのかという点について御意見がありましたら,御発言をお願いしたいと思います。 ● 時効の問題を考える場合に,防御権の問題は大きい問題だろうと思います。25年たってからアリバイを立証しろとか,正当防衛,緊急行為を立証しようと思ってもなかなか難しい問題があります。これで時効をなくしたら被疑者,被告人は非常に窮地に立たされるのであり,これは認めるべきではないと思います。 ● 簡潔に御発言いただきましてありがとうございます。防御権という点から疑問があるということですけれども。 ● 刑事訴訟の基本は,犯罪構成要件該当事実,違法阻却事由,責任阻却事由すべてについて検察官が非常に重い挙証責任を負うというのが大原則でございます。今の御意見は,多分,時効制度の存在理由の一つである証拠の散逸等が基本的な背景になっていると思いますが,仮に時間がたつに従って証拠が散逸しますと,一般論としては重い挙証責任を負っている検察官の方が犯罪の証明に不利になると考えるのが普通ではないかと思いますので,必ずしも時効期間が延長される,あるいは,ある特定の凶悪・重大事件について公訴時効を撤廃するということがあったとしても,それだからといって,立証面で一律に被告人側に不利益になるということはないのではないかと思われます。 ● 検察官が立証責任を負うというのはそのとおりでありますけれども,例えばDNAが後から出てきて一致したと。25年後に,これだと30年後ぐらいに法廷で議論しないといけないのかな。後から出てきたということになると,やはりDNAの一致という強烈な事実上の証明力というのは弁護人としては無視できないだろうと思います。   それから,これはちょっと細かくなりますけれども,例えば事件が起きた直後には調書を取っていく。そういう関係者が全部お亡くなりになっていったとか,いなくなってしまったということになると,少なくとも供述不能の要件を満たすわけですから,そこで被疑者,被告人に不利な証拠というものが出てくる。だから立証責任が検察官にあるからといって,簡単に被告人の地位が守られるかというと,実務家としては疑問であると思います。 ● 今の点について,これは平成16年の改正のときにも議論になっていたことではあるのですが,形式的には確かに立証責任が検察官にあるのはそのとおりなのですが,こういう事件で何十年もたった後に逮捕されたと想定しますと,弁護人の防御活動というのはそこからスタートするわけでありまして,その時点では,防御活動をしようとしても何も証拠が得られない状態です。そして,検察,捜査機関は最初の事件発生当時に証拠収集をしていますが,現在日本では全面的な証拠開示はされていないために,結局,弁護人としては,何十年もたってから逮捕された人の防御活動をすることは極めて困難になると考えられます。したがって,立証責任が検察官にあるということは非常に形式的な議論でありまして,実質的には,何十年もたった後に被告人を弁護することは困難であるという,それが最大の弁護の問題でありまして,殺人罪だと現在の25年についても,もう十分長い期間であると思いますが,これをさらに延ばす又は廃止することによって,およそ防御が不可能になってしまう,弁護が不可能になってしまうという事態になるというところが最大の問題ではないかと思います。 ● そういう御意見ですが,ほかの方で御意見はございませんか。 ● 今の御議論は平成16年改正の蒸し返しのような論点が多過ぎまして,それはまた後の方で御議論になったらよろしいのではないかという気がするというのが1点です。   私としては,まず,今,公訴時効制度を見直す,特に一定の凶悪・重大犯罪についてこれを廃止するという方向での見直しが本当に必要なのか。それが本当に国民の声として法務省が真摯に受け止めなければならないような,そういう国民の規範意識あるいは国民感情というものが本当にあるのかという点について,私はなお疑問を持つものであります。一部の被害者団体の方が極めて活発に活動なさっているということはよく承知しておりますし,その活動について別段,批判を申し上げるつもりはございませんが,仄聞するところによれば,被害者団体の中には,そこまでのことは要求しないという方々もおられると聞いております。殺人といっても,もう謀殺,故殺とか,民族殺人とか,いろいろな類型にわたるわけですけれども,殺人一般について,およそ刑法199条という一くくりにして殺人というものについて時効を廃止すべきであるという,そういう公訴時効の見直しを求める声というのが国民全体として本当にあるのかという点について,これはだれが挙証責任を負うのか分かりませんけれども,それについて事務当局はどのようにお考えですか。 ● 先ほどの防御権をめぐる議論というのは妥当性の話になってくると思いますが,その議論も封殺されたわけではなく,この部会においても議論を尽くさなければならないと思います。今の○○委員が御意見を述べられた点も,今日御欠席の方もおられ,出席されておられたら,また違う御意見を出されたかもしれないと思いますが,事務当局の方に質問が行きましたので,事務当局の方で何かありましたら……。 ● 殺人などの凶悪・重大犯罪について刑事責任を追及する機会をより広く確保する方向で国民の意識のありようが変化しているというふうに,なぜそういうことが言えるのかというお尋ねだと思いますけれども,私どもの方で把握している範囲で申し上げますと,これは全国犯罪被害者の会「あすの会」ですとか,「宙の会」は殺人など凶悪事件の公訴時効の撤廃等を求める遺族の会でございますが,そういったところから,法務大臣等に対して要望書等が提出されると同時に,合計約4万7,000通余りの殺人等について時効廃止を求める署名の提出がなされているところでございます。   また,法務省が省内勉強会の活動として行った被害者団体からのヒアリングにおきましても,対象犯罪に関する主張こそ異なりますけれども,ヒアリングを行った七つの団体すべてが一定の犯罪について公訴時効の廃止又は延長を求めているところでございます。   それから,毎日新聞の平成20年7月16日の記事,それから日経新聞の平成21年8月16日の記事でございますけれども,それぞれ世論調査を行っておりまして,毎日新聞では殺人事件の時効をなくすべきだとする意見が77%,維持すべきだとする意見が15%となっております。一方,日経新聞の世論調査におきましては,時効廃止というこの時点で法務省省内勉強会が示していた考え方について,賛成する意見が84%,反対する意見が6%という結果が示されております。   また,法務省において,今年の5月12日から6月11日までの1か月間実施した意見募集に対しては,先ほど御説明したとおり,341件の意見が寄せられておりますが,改正の必要性について言及している意見のうち,8割以上が改正の必要があるという意見である上,時効制度の廃止という方策に言及した意見のうち約9割が廃止を求める意見でございました。   このような意見に照らして,私どもとしては,殺人などの凶悪・重大犯罪においては事案の真相を明らかにして,刑事責任を追及する機会をより広く確保する方向で,国民の意識のありようが変化してきていると考えているところでございます。 ● 重ねてお伺いしますが,そうすると,平成16年改正は何だったのでしょうか。平成16年改正で15年だったものを25年に延ばした,要するにそれを超えて廃止するというところまでの,被害者感情,被害者の持つ応報感情というものを無視できないというそういう,率直に言えば,それが今回の立法動機であると,そういうふうにお伺いしてよろしいのでしょうか。 ● その点で更に補足して御説明があれば伺いますが。 ● 基本的には先ほど申し上げたとおりなのでありますけれども,確かに平成16年に例えば殺人罪については15年から25年に延長されたと。そういうことを当然踏まえた上でのいろいろな御意見が出ていると考えております。その中で典型的には,先ほど御説明したとおりに,被害者団体の方々を中心に時効を廃止せよ,あるいは大幅に延長せよ等々の見直しの御意見が出てきているわけであります。もちろん,被害者の方々の声だけを私どもとして受け止めているということではありませんので,それを一つの契機として国民の皆さんのお考えはどうかという点について,今御説明申し上げたような様々な事情からうかがい取れる,推し量られるところを考えてみますと,被害者の方々に限らず,国民の皆さん一般として,平成16年改正を踏まえてもなお,もう少し刑事責任追及の機会を広げるべきであるという意識なのではないかと受け止めたということであります。したがって,委員御指摘のように,被害者の方々の応報感情というものだけを受け止めたということとはちょっと違うかなと考えております。 ● ほかの方々の御意見もお伺いしたいと思います。 ● 私が学生のときに公訴時効について学んだときには,事実状態の尊重,それから処罰感情の希薄化という理由,そして証拠の散逸という,そういうところから公訴時効を設けるというのは妥当だなというふうに納得して勉強したわけですけれども,近年になりまして,処罰感情の希薄化というのが本当にそうなのかなと,かなり年齢を経て感じるところなのかと思うのですけれども,人生といいますか,人々の寿命も延びたわけで,そして被害感情というのはそう簡単に消え去るものではないということを,被害者学会などの場でもかなり被害者の声を聞いて感じております。事実状態の尊重といいましても,平気寿命が延びておりますので,犯罪者の後の余命,余りの人生というのもかなり長いわけですね。その中で,公訴時効が過ぎてしまってから名乗り出るというふうな事態があるときに,それを法律の関係で処罰できないという法制であっていいのかなという疑問を感じております。ですから,当然この人は処罰されるべきだと国民全体が思うような人に対して,公訴時効のために訴追できないという法制であっていいのかなという,そういう感じはしております。 ● 私も,果たして本当に今,もちろん犯罪被害者の遺族の声が非常に強いということはよく理解できますし,4万7,000人という署名を集めたということが事実としてあったことも,それなりの努力をされたのだろうと思います。しかし,他方で,私ども幾つかの新聞を見てみますと,例えば朝日新聞とか11月初めの東京新聞あたりを見ますと,この議論は単にそういうふうな感情に流されることなく,もっと国民的に論議をしようというふうな形が言われているのですね。そうだとすると,正にここに課せられているのはそういう論議に火をつけるような形でのバトル的な討論があるのかもしれませんけれども,そういうことが望まれていて,それを国民がどう見るのかという形になるのだろうと思うのです。ただし,そのためには,今回の日程が月2回というかなりのペースで入っているというのがあるので,そこまで緊急性の高い必要があるのかどうかについてはかなり疑問を持っているのですが。 ● 今の御意見は進行についての御意見も含んでいると思いますが,我々としては,とにかく中身について充実した議論をやっていく,それは議事録の公開や,あるいは後で事務当局の方で報道関係者の方にもブリーフィング等されるのだろうと思いますが,そういう形で外にも出ていき,いろいろな形で国民の皆さんの御意見も伺えるように思うのです。そして,当然,我々としても,そういう御意見も意識しながら議論していかなければならないと思います。   ただ,被害者の方々の「感情論」といわれますと,今日御欠席の委員は恐らく,単にそういうものではないとおっしゃると思いますし,犯罪被害者等基本法が設けられたことから見ても,単にごく一部の方だけが感情的に何か言っておられるという位置づけにとどまるものではなく,公あるいは社会全体においても,正当な声として,それに耳を傾けるべきだという考え方がとられているのではないかと思います。その上で,どこまでほかの要請との間でバランスを取っていくのかという問題だろうと思います。十分お分かりの上,御議論されているのだとは思うのですけれども……。必要性が本当にあるのかどうかについて,さらに御意見があればお願いいたします。 ● ○○委員の発言との関係で,ちょっと反省も含めて。なるほど,処罰感情が希薄化するということについては私どももごく当たり前のように,犯罪被害者も社会も処罰感情が希薄化するというふうに言ってきたと思うのです。ただ,現実問題としてこれだけ被害者の方がこういう声を上げているとすると,恐らく犯罪被害者の遺族にとって処罰感情が希薄化するということはあり得ないだろうと思います。そういう意味では,その部分についての従来の考え方を改めるべきものがあるのかなというふうな理解をしています。ただ,それでは社会一般の処罰感情が希薄化するかどうかということになると,そこはまた別ではないだろうか。個々の事件ごとに皆さん忘れていって,次の新しい方向に向かって生活をしているという状況が多いので,社会の処罰感情の希薄化というのはまだ残っているのではないだろうかという感じがしています。それが第1点。   もう1点は,事実状態の尊重については前回も議論がありましたけれども,平均余命とか人生が長くなってきたということがあるのですが,これについては昨今の凶悪・重大犯罪についてはかなり法定刑が高くなりました。同時に,受刑の期間も長くなっておりまして,仮釈放もなかなかしにくい状態になっている中で,人生が長くなっても,結局そこで出てこられる期間がないというものがあるとするならば,そのことは簡単には理由にならないのではないかなと理解しています。 ● 最後の点が,ちょっと理解できなかったのですが,それと事実状態の尊重の問題とどう絡むのでしょうか。 ● 事実状態を尊重することについて,人生が長くなってきたから時効はなくてもいいじゃないかという理屈になるのかというと,私はそうではないのではないかなということで意見を申し上げました。 ● 事実状態の尊重とロジカルに結びつくかどうかとはちょっと違う反論ですよね。 ● はい。 ● 分かりました。 ● 見直しの必要性についてですが,先ほどから御意見が出ていますように,平成16年改正を行って,なおかつ,いまなぜ新たな改正をする必要があるのかという点が一つのポイントであろうと思います。この関係で,本日配布されました平成16年改正の際の部会の議事録を拝見しますと,16年改正における議論というのは,公訴時効制度の存在を前提として,その上で,先ほどおっしゃったような国民の平均寿命が延びているとか,あるいは新たな捜査手段が開発されているとか,そういったことを理由として,例えば,殺人等については15年から25年に公訴時効期間を延ばしたということだろうと思います。その後に,被害者団体あるいは国民の声として,そもそも一定の重大犯罪については公訴時効制度そのものが果たして妥当なのかという意見が出てきたわけですが,そのような廃止論の主張には一定の説得力ないし妥当性があるという点から,今回の公訴時効の見直しの必要性が肯定できるのではないかと私自身は考えております。つまり,平成16年改正後に,立法事実なのか,立法動機なのかはともかくとして,平成16年改正とは異なる観点からの動きが出てきたわけですので,その意味で,平成16年改正を踏まえての,見直しの必要性は肯定できるのではないかと考えています。 ● 現在の被害者の声というものの中心をなしているのは,とりわけ「宙の会」という方々の話していることですが,現在,つまり改正前の15年という基準を前提としたときの不合理性が中心になって訴えられていて,マスコミ報道等でもそういう人たちの事例を紹介しつつ,余りにも短すぎると言っていて,要するに2004年というか,平成16年改正のことはとりあえずすっ飛んで,現在の15年という,平成16年改正が適用される前の事件についてを前提にして議論されております。つまり,現にやるのは,そこがまさに公訴時効期間があと数年とか10年とかいうレベルになっているから問題になっているわけでして,平成17年1月1日以降の犯罪については25年になっているために,全くそういう不都合性が問題になり得ないし,将来どうなるかということはありますけれども,現在,正に目の前で問題になっていて声を上げられているのは,15年という時代の方々が声を上げられていて,マスコミ報道もそれを中心に報道していますから,平成16年改正のことを,ある種,もちろん知ってはいるわけですけれども,そこは余り意識せずに議論されていて,何となくずれた議論になっているのかなと思います。現在の議論というのは正に15年が不当だという議論が中心になっていて,平成16年改正のことを横に置いた議論になっていて,その上で廃止すべきだという議論にまで言い切っているという,平成16年改正は,ある種無視されたというか,余り見ないで議論されている節が私はあると思うのです。そういう意味では,今の被害者の方々の意見の立て方については,実際の事例は正に目の前にある15年という時効があと数年に迫っているケースを中心に議論されているということを踏まえると,25年の妥当性ということはほとんど議論になっていないというか,私は25年というのは,当時,前の法制審では反対している立場でしたけれども,十分25年というのは長いと思うのですけれども,その25年が長いか短いかということは余り実証的に議論されていることはないわけでして,そういう意味では今の議論が少しずれた議論になっていると思うのです。   その中で,過激な意見としては廃止論まで行っているという状況なので,平成16年改正をもう少し,その妥当性ということを議論する必要がある。つまり25年という期間が本当に短いのか長いのかということを実証的に議論しないで廃止を議論するというのは余りにも唐突だし,立法技術としても,立法をきちんとした法律なのに,そこが無視されて議論されているのは大変問題ではないかと思っています。 ● 本当にそういう動機で議論されているのかどうかは確認する必要があると思うのですが,ただ,○○幹事が指摘されたように,既存のものを前提にしてその長短を議論するのではなくて,そもそも公訴時効というのが凶悪・重大犯罪,殺人等にあっていいのかという問題提起がそこに含まれていることは確かだと思います。それは,仮にそこの部分だけ議論したとしても,15年の公訴時効期間が適用される事件については何の影響もないはずですからね。それにもかかわらず,その点がかなり中心的あるいは象徴的な論点として出されていることもまた事実だと思うのです。だから,そういうふうに限定して言うと異論が出るかもしれません。 ● ただ,1点だけ。彼らの議論は基本的に遡及もセットになっていますから,自分たちを救う……。 ● 15年の公訴時効期間が適用され,その満了が刻々と迫っている人たちについては,そちらの方が実際的に関心の的だろうとは思いますけれども,両方が焦点として議論されているということもまた,念頭に置かないといけないと思うのです。 ● あと,議論の前提でちょっといいですか。 ● はい。 ● ○○幹事が言われたことに関連して,私は前の法制審に出ていましたけれども,そのときに確かに事務当局側は廃止は考えないと。公訴時効制度があることを前提に長くするという議論をしてくださいというふうに限定したことは確かです。それ自体が確かにどうだったのかということはありますけれども,あのときにはいろいろな課題の中の一つとして非常に,むしろ実体法が中心の法制審でしたから,時間がない中でそういう形になったと思うのですが,だから確かにそこでは廃止論は一切議論せず,あることを前提に期間の長短,しかも25年にすることが妥当かどうかだけを議論したという,そういう極めて,やり方としては議論が不十分だったということは認められるとは思います。 ● 平成16年の改正というのは公訴時効期間の延長で,今度は廃止を含めてということで,○○幹事が言われたように,質的に違う,新しい問題だと思います。今度の議論の前提として,先ほど○○幹事が言われたように,もうすぐ時効が来る,そうなったら大変だというような時効完成が迫っている遺族のつらい立場・状況などの報道があって,そういう背景の中で,海外では公訴時効を廃止している国があるのだというような報道もなされて,公訴時効が完成した場合の不条理さがかなり国民の中に共有されることによって,被害者遺族だけでなくて,国民の間にも本当に公訴時効というのは廃止されなくていいのかというような考えが相当広まってきているなという感じはしております。   それからもう一つ,公訴時効制度の根拠として,証拠が散逸して適正な裁判ができなくなるということが言われますけれども,これに関連して,DNA鑑定の精度が高くなってきていることによって,公訴時効制度の根拠の一つの大きな一角が崩れつつある。そして,アメリカ等いろいろな国で殺人のみでなくてレイプなどの犯罪について公訴時効を廃止したり,あるいはジョン・ドゥ起訴がなされるというような起訴の可能性を開くというようなことがあったりして,このような立法や実務が2003年ころにアメリカでは一つの大きなピークになっていました。2003年というのは平成15年で,2004年直前ですので,平成16年の法改正の議論の中では必ずしも十分には考慮されなかった重要な問題点が広く国民の間で共有されるようになったということですから,現在は廃止も含めた議論が必要だということは,新たな問題で,しかもそれを遺族のみならず国民がかなり広く受けとめて,そしてこのような流れになったのではないかと私は受け止めております。 ● 私も最初から時効の廃止に反対だと決めて御意見を申し上げているわけではないということをまずお断りしておきたいと思います。○○幹事がおっしゃるように,もし平成16年改正とは別にこれは白紙の状態で臨むべき問題だという立場に立ったときに,強盗とか窃盗についても公訴時効を廃止すべきなのか,そういう御意見はまず見当たらないと思うのです。時効を廃止すべきであるというのは,強盗致死とか強盗殺人など人命を奪う罪についてしか,およそ時効を廃止すべきだという御意見はないのだろうと思うのです。およそ時効というものがあっていいのかという根本的な議論から,公訴時効は廃止すべきであるという議論なのかというと,そうではない。これは○○幹事もお認めになると思うのです。そうなると,殺人とか強盗殺人とか,そういう人命を奪う罪について公訴時効を廃止すべきかという問題だというふうにとらえられる。そうなると,なぜそれについて公訴時効を廃止すべきなのかというと,そこでは例えば殺人未遂の被害者であれば,それは終生,応報感情というか処罰感情を持ち続けるから,殺人未遂の法定刑は任意的減軽ですから,これは死刑も含むということで公訴時効の廃止の対象になる。これは分からないでもない。しかし,既遂の被害者については被害者はもう亡くなられているわけですから,その場合には遺族の処罰感情,応報感情ということが基礎になる。そうすると,それ以外に特に死刑を含むような犯罪については,被害者個人あるいは遺族ではなくて,社会としての応報感情,処罰感情というものが継続するのか。その点,先ほど○○委員が○○委員の発言との関係で言われた,被害者個人の処罰感情が消滅しないというのは分かるけれども,社会としての応報感情,処罰感情はどうなのか,そこは私も今のところよく分かりません。   これを突き詰めていきますと,結局,今度の公訴時効廃止論が遺族の感情を基礎として考えるのではなく,それを超えた公益ともいうべき社会としての処罰感情・応報感情というものに基づくようなものだとすると,それは結局,絶対的応報刑というような感覚のものに帰着していくのではないか。そうしますと,刑罰の目的とは一体何なのかという問題がどうしてもそこに結びついてくる,そういう観点で,そこのところを○○幹事はどういうふうにお考えなのでしょうか。 ● 御指名ですので,○○幹事,いかがですか。 ● 実体法説で言っているところの応報感情とか処罰感情の中身なのですが,最近はともかく,伝統的には,被害者の処罰感情ということは余り想定されてこなかったと思います。そこでは,社会全体としての処罰感情,応報感情を問題としていたと思いますし,私自身も,被害者やその遺族の処罰感情を正面にすえて,その感情が収まらないから時効は廃止すべきだというのは妥当ではないと思います。その意味では,中心となるのは社会全体としての処罰感情だと思うのですが,その関係で,先ほど,殺人の場合であっても,一般の人は個々の事件を忘れていくではないかという御発言がありました。しかし,例えば,ある殺人事件から30年がたって,その事件を社会の多くの人が忘れていたとしても,実は30年前にこのような事件がありました,処罰する必要はないと思いますかと問われたときに,30年たったからもういいじゃないかと一般の人が思うかといったら,恐らくそうは考えないと思います。その点で,殺人のような重大事犯と,例えば財産犯などは異なるはずで,殺人のような場合にも時の経過によって社会の処罰感情が希薄化するというのは,私にはよく理解できないところがあります。   それから,公訴時効の根拠と刑罰論の目的との関係ですが,その点は,これまで明確に関連付けて議論されてこなかったように思います。確かに,実体法説は,応報感情ないし処罰感情という言葉を使っていますが,それは必ずしも刑罰の目的論として応報刑論に基づいているというよりも,そこはある意味であいまいなままにして,広く処罰の必要性というような意味合いで処罰感情や応報感情ということが言われてきたのではないかというのが私の印象です。刑罰の目的論とどうつながるかということは,もう少し考えてみたいと思います。 ● 恐らく,もっと素朴なことではないかと思います。刑の目的が何であるかというよりは,何年もたってから犯人と思われる人が出てきたという場合に,事実を明らかにして司法の場で裁くということがなくてよいのか,そういうことではないかと思うのです。それ以上に,この点について突き詰めて議論を本当にしていたのかというと,実はそうではなかったような気がしますね。   もう一つ,個々の被害者あるいはその遺族の感情というレベルと,社会一般あるいは国家レベルでどうかということは,確かに分けられるのですけれども,ここのところの被害者の保護,被害者の権利を尊重するということからしますと,被害者の関心は社会の関心でもあるというように,両者の間はかなり複合して考えられるようになってきていることも事実だと思います。その辺をどの程度,今回の問題においても,酌み取っていくのか。○○委員の言うように,本当に社会一般の感情がどうなのかは,測ることは難しいわけですが,世論調査の結果などもやはり念頭には置かないといけないのだろうと思います。 ● 被害者の意見が非常に多く出たというお話ですけれども,被害者は保護されることは当然なのですが,被害者というのは,被害者の立場によって見えることが多いけれども,見えなくなることもあると思うのです。被害者は応報という目で見るでしょう。それは,自分が被害を受けたらやはりそれは思いますよね。ただ,刑はもちろん応報だけではなくて一般予防とか特別予防というところがあるわけで,そういうところが見えなくなってしまう。被害者であるがゆえに見えなくなる部分もあると思うのです。そういう被害者の意見が非常に強いと言って,それで立法動機が変わるのかという疑問があります。   それから,アンケートですけれども,アンケートというのは,悪いことをして処罰を何で逃れるのか,これは非常に分かりやすい。ところが,証拠が散逸して訴訟法的な問題があるというのは分かりにくい。このアンケートは非常にバイアスがかかっていると思います。それからアンケートを頼むときに,我々弁護士会もありますけれども,いろいろな頼み方があるわけで,被害者の人に頼まれたら嫌とはいえないところもあると思います。だから,そのアンケートを非常に強調するというのは問題だろうと思いますし,4年か5年の間にそういうアンケートは多少多くても,それで変わったのかというのは非常に疑問があります。 ● 最初の,刑の目的との関係のところがちょっとよく分かりません。刑の目的がいずれであろうと,一定期間が経過すると実体法的な観点が弱まるので,時効という形で打ち切りましょうというのが制度趣旨の一つと考えられてきたわけですが,それが特別予防か一般予防か応報かということで,異なってくるものなのでしょうか。 ● 被害者の人はいつまでも罰したいということで,だから公訴時効はやるべきではないと。 ● 特別予防とか一般予防の観点からだと,そうではないということに当然になるのでしょうか。論理的にそうなるのでしたら,関連した議論なのですが,ならないとすれば,関連しない議論なので……。そこが,まだよく分からないですね。   ほかの方はいかがでしょうか。 ● 先ほどの刑罰の本質が応報刑か一般予防か特別予防かという点ですけれども,一般予防の目的のために応分の害悪を予告することには随分応報刑と重なり合う部分がありますよね。ですからいつまでたっても処罰を免れないとすることは応報目的だけでなく,そうでなくて何年かたったら逃げおおせるというふうな形で一般の人たちがとらえるとすれば,一般予防効果の点について問題があるだろうという感じはいたします。 ● ほかに。○○委員,今の点ですか。 ● いいえ。もう第1は終わるのですか。 ● もうそろそろと思っていますが,先ほど,一番最初に防御権の問題が出て,それについての議論が不十分であったかもしれませんので,その点について更に御意見があればお伺いしようかと思っていたのですが。今議論しているのは,そこに行く前に,見直しの必要性がそもそもあるのかどうかということですが,その点でしょうか。 ● 第1の1,2,3は,今,一緒に議論しているのですけれども,2について私は言いたいことがあるのですが,それは防御権の話とはちょっと違う話なので。 ● 2の点の話も既に出ていて,公訴時効の存在趣旨との関係で必要性の有無,程度を議論するということになっているわけですが。 ● では,その点についてよろしいですか。 ● はい,どうぞ。 ● 先ほど来,時効制度の趣旨との関係での議論が断片的に出ていたと思いますが,証拠の散逸に関しては先ほど委員からDNA鑑定のことが出ました。DNA鑑定というのは確かに一つの証拠ではありますけれども,それは万能なものではないし,すべての事件において利用できるわけではありませんので,そのこと自体が何か証拠散逸という訴訟法上の理由にとって決定的なものとは余り思われないというのが一つです。   それから,○○委員がおっしゃいましたとおり,この三つの理由を考え直して,時効制度そのものを全部どうするのかという議論ではなくて,その中で凶悪・重大事件に関して,この理由との関係で時効制度がどうあるべきかというのを考えるのだとすれば,第2の時の経過とともに社会一般の処罰感情が希薄化するという点については,先ほど来,議論のあったことだろうと思いますし,私も純粋に被害者の,あるいは被害者遺族の感情ではなくて,それとは別の社会全体としての被害感情が本当に凶悪・重大事件では希薄化するのかどうかということは,やはり改めて考えなければいけない問題であるだろうと思います。   それから,3番目の事実状態の尊重という制度趣旨も,従来から一般に言われているのですけれども,そもそもこれが公訴時効制度一般について事実状態の尊重というのは本当に理由になっているのかどうか自体も実は疑問です。ましてや,凶悪・重大な法益侵害を惹起したと疑われる犯人について起訴されないという事実状態に,果たして尊重するようなものがあるのかどうかということは,やはり改めて考えないといけない問題であろう。例えば,ジャンバルジャンがパン1個盗んで遂に逃げおおせたというような場合の事実状態の尊重と,人を殺害して逃亡した場合の事実状態の尊重というのは大分違うのではないか。だから,こういうところも,これまでの議論自体が時効制度の存在意義というふうに一般に言われていましたけれども,今は正にその中で凶悪・重大事件についてこういう制度趣旨の説明は本当に成り立つのかどうかを考える必要があるのではないかということを言いたかったわけでございます。 ● 今の御発言の最後の点について,私自身の発言が許されるとすれば,私自身も従来からかなり疑問を持ってきたところです。例えば,今のパンの事例なども,恐らく処罰感情あるいは処罰の必要性・相当性の減少という点とほとんどオーバーラップしており,そちらに解消できる事柄なのではないかと思います。 ● 付言しますと,事実状態による存在理由の説明というのはむしろ民事法の時効を説明するためのもの,動きのない事実状態の上に多様な権利関係が積み重なってという事態には沿う説明だと思いますが,本当に公訴時効についてこれが理由になるかというのはやはり考えた方がいいのではないかと思います。 ● 学問的な議論に踏み込み過ぎたかもしれませんので,この程度にしておきたいと思います。 ● ○○委員に関連しますけれども,私もDNA鑑定の精度がすごく良くなったという点については,それだけでは万能ではないというのは全く同意見です。最近,そういう議論がマスコミ等を通じて多いのですけれども,DNAだけでは有罪,無罪を決める決定的証拠にならない,つまり故意犯かどうかという主観的な要素をDNAだけでは証明できないわけですから,それ以外の証拠がなければ,殺人罪とかそういう証明はできないものですので,DNAというのはあくまで人を特定する,同定するという限度においてしか意味がないと思うのです。アメリカのジョン・ドゥ起訴というのはもともとは性犯罪を想定してつくられた制度で,性犯罪についてはそういう意味では確かにDNAでほとんど証明できるのかなと思う面もあるのですけれども,殺人罪というのは主観的要件までDNAで証明できるわけではありませんので,証拠の散逸という点でDNAが発達したから証拠の散逸は考えなくていいのだという議論は極端でありまして,それ以外の,従来どおり証人とか供述調書とか,そういうような状況証拠がなければ有罪を認定できない場合も多いと思いますので,状況証拠という観点から見ても,いまだに証拠の散逸は時間の経過とともに起こると思います。   先ほど,事実状態の尊重のことを言われたのですが,確かにこれは本来民事の時効制度の根拠として言われていることを援用しているだけだったとは思うのですが,ただ,重要なことは,公訴時効制度については国家権力と被疑者というか,犯人とされる者との対立関係の中で,防御権という観点を本来入れるべきで,それが今の事実状態とつながるのではないかと思うのですけれども,防御権という観点を考えないといけない。その意味では,重大犯罪ほど逆に言うと,防御権という観点を保護しなければならないという要請もあるわけでして,そういう意味で,その観点は考慮の要素の中に入れなければならないと思うのです。   それで,防御権というのは先ほど最初に議論がありましたけれども,時間の経過とともに防御が非常に困難になっていくということは私はあると思いますので,その点は十分考慮して,廃止も含めてその是非をきちんと,そこは踏まえて議論する必要があると思っています。 ● カテゴリーとしてどちらであるかはどちらでもよいのですけれども,今言われたのは,いわゆる訴訟法説の一部をなす点で,証拠が散逸して,正しい事実認定ができなくなるということですが,問題は恐らくその中身だろうと。一番最初に○○委員が出された防御権というのと同じ論点だと思うのですが,その点について,もし他の方から御意見があればお伺いしておきたいと思います。 ● 時がたてば証拠が散逸するということの効果は,検察官にとっても弁護人にとっても同じことだろうと思うわけです。確かに検察官には 事件の発生直後に集められた証拠はあるけれども,その後の証拠はだんだんなくなっていくということでありまして,時がたって犯人が捕まって弁解が出たときに,それを否定するための証拠も集まりにくくなるというわけです。時がたってから訴追し,裁判ができるかどうかというのは,その時点において証拠の評価を厳正にするということにすべて懸かっていると思いますので,証拠の散逸の問題というのは余り決定的な理由にならないのではないかと思っていたところでございます。 ● ほかにこの点で,特に御意見がなければ,先に進ませていただきますが,今の点も,これで終わりというわけではなく,次回以降にさらに議論していただかなければならない問題だと思います。第1の点については,一応粗ごなしにひとわたり議論をし,か なりいろいろな論点が出たと思いますので,このぐらいにさせていただきたいと思います。   この辺で,少しブレイクを入れさせていただいき,再開後に第2の大きな論点について御議論いただければと思います。           (休     憩) ● それでは,会議を再開いたします。   論点(案)第2の「凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方」についての議論に入りたいと思います。もちろん,第1の必要性について,必要性がないという立場ですと,論理的には,第2の点について議論をする必要もないということになるのかもしれませんが,そこはひとまず置いて,第2の論点について議論をしてただきたいと思います。   まず,事務当局から省内勉強会における検討状況等をも踏まえまして,論点の具体的内容等について御説明をいただきたいと思います。 ● それでは,「第2凶悪・重大犯罪の公訴時効見直しの具体的在り方」という論点の内容等について御説明申し上げます。   まず,1の「公訴時効制度を見直す場合の方策として考えられるもの」についてでございますが,凶悪・重大犯罪の公訴時効を見直すこととした場合に,その方策につきましては,多様なものが考えられますが,公訴時効の在り方等の見直しに関する各方面の議論において,提案あるいは指摘されているところも参考に,方策として考えられるものとして,   A案:一定の犯罪について公訴時効を廃止すること,   B案:一定の犯罪について公訴時効期間をより長い期間とすること,   C案:個別の事件の公訴時効の進行について特別の取扱いをすること。   以上三つの案を試みに提示させていただいております。   このうち,C案の個別の事件の公訴時効の進行について特別の取扱いをする方策につきましては,様々なバリエーションが考えられるところでございますが,C-1「被告人をDNA型情報等によって特定し,氏名等による特定はしないまま起訴する制度を導入すること」,C-2「確実な証拠があるとき等一定の要件を満たす場合において,検察官の裁判官に対する請求とそれに基づく裁判官の決定により,時効の進行が一定の期間停止し,又は中断する制度を導入すること」の二つを例示させていただきました。これらの方策を組み合わせることや,これ以外の他の方策をとることもあり得るところでございまして,もとより,方策として考えられるものがここに提示しておりますものに限られるという趣旨ではございません。   また,今回の諮問において見直しの対象となるのは凶悪・重大犯罪ですが,例えば一定の法定刑が定められた犯罪を対象とするという考え方,特定の罪種の犯罪を対象とするという考え方,あるいは特定の罪種のうち一定の類型の事案を対象とするという考え方など,凶悪・重大犯罪のうちどのような範囲を対象とするかについては,様々な考え方があり得るものと思われます。そこで,どのような犯罪を見直しの対象にするかという論点を掲げてございます。   見直す場合の方策に関する論点及び見直しの対象範囲の論点は,相互に関連し合うものでございますので,これらの論点の検討に当たりましては,公訴時効の在り方を見直す必要があると考えられる趣旨を踏まえつつ,一方で,証拠の散逸や処罰感情の希薄化,事実状態の尊重といった公訴時効制度の趣旨として指摘される事情との関係をどのように考えるか等の点をも考慮して検討する必要があると考えられます。   ただ今申し上げた点や,その他考えられる点を含め,御審議をお願いしたいと考えております。 ● ただ今の御説明につきまして,まず御質問等がございますでしょうか。 ● C-2案ですけれども,「確実な証拠があるとき等一定の要件を満たす場合において」とあるのですが,これはイメージとしては犯人性ですか,それとも例えば犯人は分からなくてもDNAで分かっているというような場合も入るのでしょうか。 ● 最初に資料説明で申し上げたかと思いますけれども,この論点に書きました案につきましては,この間,これまでの公訴時効の見直しの在り方をめぐる各方面の議論において御指摘あるいは御提案されているところを参考に考えてみたところでありますので,今,御質問の点につきましても,そこは一定の要件でありますので,一定の要件の考え方というのはそれはいろいろなものがあり得るということでして,この資料をまとめさせていただいた事務当局として,今この要件についてはこういうのが考えられるとか,その具体的なところまで必ずしも詰めて御提案というか,論点として御提案しているわけではありません。もしこの考え方,C-2のようなパターンといいますかモデルで考えるとすると,その一定の要件は例えばどういうふうに組んでいくのかというところもこれからの御議論の対象になるかなということでございます。 ● 今の点をもう少しクリアにしたいのですが,勉強会のまとめですと,停止とか中断とか,外国にある制度をも参考にしながら,と書かれていますね。その外国の制度では,停止とか中断は,あくまで特定の被疑者とか被告人に対する何らかの公的なアクションがなされた場合に,そういう効果を認めるという制度だと思うのですが,C-2の案は,同様に,特定の者に対するそういう効果を考えているのか,それとも,当の事件全体についてそういう効果を認めようとしているのか,そこが明確ではありません。その両方の可能性を含めてというのが,多分,事務当局としては上手な答え方だとは思うのですが,その点はいかがですか。 ● 我々が参考にした御議論で念頭に置かれているのは,恐らく犯人あるいは被疑者とおぼしき人が特定されるに至っていなくてもというところまで含んだ御趣旨ではないかとは思っております。この事件として停止するあるいは中断すると。もちろん,犯人として一定の人が浮かんでいる場合も含むのかもしれませんけれども,むしろ特定されていないというところまで含んだ意味ではないかとは思っています。 ● 私が質問したのは中断等の効果が人的にどの範囲にまで及ぶのかということですが,そうしますと,特定の被疑者や被告人にだけ及ぶのではなく,当の事件全体に及ぶ,そういう制度のイメージだということでしょうか。 ● そうですね。恐らく捜査の中で時効が問題になる時点において具体的に犯人あるいは被疑者とおぼしき人が浮かんでいないという場合にも使えるようにという御提案だと思われますので,効果につきましても,その事件についてはその後の捜査で浮かんできた人について及ぶということを構想されていると認識しております。 ● 分かりました。   ほかに御質問どうぞ。 ● もともとこれは恐らく被害者団体からの要望書などで出てきたものかなと思うのですけれども,それは具体的にどういう主張で,そして,基になっている制度は,恐らく海外の諸制度を参考にされているのかなと思うのですが,その制度がどういう制度なのか。法務省の取りまとめを見ても非常に分かりづらい。どういう人なのかよく分からない主張をされているにように思うのですけれども,そこをもう少し,前提となっている被害者側から出された要望書とか,何という形でこれが求められていたのかとか,何の制度を基にしてこれが構想されているのかとか,もし分かれば教えていただければと思います。 ● そういう御意見をお持ちなのは,必ずしも被害者団体だけではないと思いますが……。 ● 何を参考にこれを考えられたのか,かなり突拍子もない主張をされているようにも思うのですが。もともと制度としては。 ● C-1につきましては,先ほど御指摘がありましたように,アメリカで行われているいわゆるジョン・ドゥ起訴と呼ばれるものを参考にされた,あるいはそのものと同様のものを我が国でも導入すべきであるという御意見がございましたので,それを参考にして書かれております。犯人とおぼしき人,あるいは被告人がどこのだれなのか,氏名等まで特定されていなくても,犯行現場に遺留されていた資料から特定されたDNA型情報等によって,その被疑者,被告人を特定して,そのDNA型情報等を持っている人を起訴するという制度だと理解しております。 ● 今のはC-1案ですね。 ● C-2の方は,それほど詳しく御主張を展開されているものは余り見当たっておりませんので,ここにお書きした程度かなと思っていますが,確実な証拠があるときというのは,恐らくC-1と同じように,遺留資料によって犯人と思われる人のDNA型情報が分かっているときというようなことを念頭に一つは置かれているのだとは思いますが,それに限られるのかどうかというのは,それ以上詳しいことは,我々が目にした範囲の御提案の中でもなかったので,先ほど申し上げたように,もしこの制度を考えていくということになれば,その一定の要件の中身も議論していくことになるのだろうと思います。   そのほかには,一定の要件の内容として触れられているところとしては,殺人等の中でも特に犯状悪質なものという挙げ方をされているものもあったかと思います。 ● C-2との関連で,外国法制のフランスは時効期間が人道に対する罪を除くと10年とかですが,これは確か予審との関係で公訴時効が停止ないし中断というような制度とコンビだったような気がするのですが,フランスの制度とC-2の制度と,フランスの予審が介入した場合の効果がどうだったのか,情報としてお教えいただきたい。それと,C-2がフランス型のような考え方をとっているのか。お分かりの範囲で結構ですけれども。 ● フランスにつきましては,委員御指摘のように,時効の中断という制度がございます。予審の活動が行われることによって時効が中断する,リセットされることになっているかと思います。また,ドイツにも同じ中断の制度があったかと思いますけれども,ドイツの方は,リセットするけれども,さらにリセットされた場合の時間的制限があったと思います。フランスの方は,中断についてその回数や期間が制限されるというようなことがないとなっていたと思いますので,確かに,いわゆる時効としては比較的短期のものが定められておりますけれども,予審による中断ということも併せて考える必要があるだろうとは思います。   それでは,論点ペーパーに挙げたC-2という案が,フランスやドイツにおける時効中断の制度を前提としたものかというと,こういう御提案をされる見解の中にはそういう制度も念頭にあるのかもしれませんけれども,フランス,ドイツで,C-2で掲げているようなものに相当する制度があって,それと同じものをという提案ではないと考えております。 ● その場合,フランスの予審で中断という,予審というのはどの程度のところまでの要件があれば開始されて,それによって時効が中断するのか。 ● フランスの予審は,検察官の請求か,予審判事自身の職権で開始することができるはずです。 ● それは被疑者不特定でもいいのですか。 ● 被疑者が不特定でも予審を開始することもできるはずですが,時効との関係でも,被疑者不特定のまま予審が開始されても,停止なり中断の効果が事件全体に及ぶのか,それとも特定の被疑者との関係で及ぶのか,そこが知りたいところですね。 ● それは犯罪事実なのか被疑者なのか。 ● うろ覚えですが,予審においても,公判につながる事件の場合には,ある段階からは予審被告人というのが特定されるはずですので,それとの関係なのではないかなとも思います。もしそうだとすると,C-2案の制度とは考え方が違うことになるわけですけれども,その辺はお分かりですか。 ● フランスの場合には,被疑者が不詳であっても予審が開始できるとされていると理解しています。予審の開始に中断が結びつけられておりますので,被疑者が不詳であっても予審が開始され,それによって時効が中断されると理解しています。 ● そうすると,予審が開始されると,後で被告人となる者にはすべて,その中断の効果が及ぶということでしょうか。 ● ただ今お答えした範囲しか承知しておりませんので,また詳しく,必要に応じて調べたいと思います。 ● もし今のような制度だとすれば,C-2案に比較的類似した制度ということになると思いますけれども,その点は事務当局で御確認の上,また説明を補充していただくとうことにしましょう。 ● フランスの場合は分かりませんけれども,ドイツの場合は確か,時効が中断するためには被疑者は特定されていないといけなかったのではないですか。 ● フランス,ドイツを含めて更に調査させていただくとともに,フランスの被疑者不詳の予審請求というのは具体的にどのような場合に,どういうふうにしているのかということも可能であれば,まさにこのC-2案で言っているような場面を考えてやっているのかどうかということも問題になるのかなとは思いますので,被疑者不詳での予審請求というのは制度上は可能になっているようでありますけれども,実際のところも含めて,調べてみたいと思います。 ● 先ほど来の御議論に関連して少し申し述べたいと思います。   ドイツ,フランス,旧刑訴法時代の日本を含めて大陸法は大体において時効の中断という制度をとっておりましたが,その中断のきっかけとなるのは,先ほどおっしゃった予審のようなものもありますが,もっと広く,日本の旧刑訴法で言えば,裁判官による強制処分ということで時効が中断することになっておりました。比較的簡単に中断できたのではないかと思います。   戦後,刑訴法改正のときにGHQサイドでは,どうも日本の制度は幾らでも中断できて,結局,時効が有名無実になるのではないかというような懸念を述べて,結局,今の停止という制度に置き換えられたという経過があります。 ● 先ほどと関連してですけれども,C-2に関して言うと,アメリカのある州で逮捕状を発付したことが時効中断になるという制度があるという紹介もありまして,実は,民主党が今回マニュフェストに掲げた案も,このC-2に近いのですけれども,その議論の中にはアメリカのそういう制度があるということも参考にしてつくられたという経緯もあると聞いております。 ● 逮捕状ですから,相手方は特定されていますね。 ● そうですね。先ほどの事件だとすると,日本的に言うと事件の同一性の問題が,要するに公訴事実の同一性というか,その辺がまた問題になるような感じもあって,その辺が海外とどうなのかというのはあるかなと思います。 ● C-2についてなのですが,ここに「一定の期間停止し」とあるのですが,一定の期間というのはどういうような感じなのでしょうか。 ● そこもまさしくいろいろな考え方があろうかというところでございまして,私どもの方で,特定のこれぐらいの期間と考えているものではございません。 ● 確かに終期がよく分からないですね。 ● 期間というより趣旨として何かあるということもないのですか。要するにこの一定の期間というのは何年とかというのではなくて,被疑者が特定されるまでとか,そういうことでもないのですか。 ● 私どもの理解としましては,一定の期間というのは正に年数を念頭に置いているのかなと思っていまして,例えば20年なら20年,実際上時効の完成が遅れることになるという制度かなと思っていましたけれども,もちろん,今御指摘のように特定の事象が発生するまでという決め方もそれはあるのかもしれないとは思います。 ● C-1案については,アメリカの制度では,一度このようにして起訴したら,公訴時効期間の制限には服さなくなるのであり,停止や中断後,再び公訴時効期間が進行を始めるというようなことはない,そういう制度であったと思いますが,C-2案については,確かに終期というものが考えられるのか,この文章だけですと,ちょっと分からないですね。   そのような,いわばざくっとした案であるということを前提に議論をしていきましょう。   ほかに御質問はありませんか。 ● すごく実務的なことなのですが,「公訴時効制度に関する外国法制の概要」という資料を頂いているのですけれども,現実の問題としては,我々実務的には例えば証拠品をいつまで保管するのかという問題があるのですけれども,時効をなくしている国の場合,その辺りのところはどういうふうにしているのか,これは資料として何か提供いただけるのでしょうか。 ● 調査の上,分かりました範囲で御提供したいと思います。 ● よろしいですか。また,議論の中身のところで疑問点があれば出していただきたいと思います。   それでは,ただ今の説明と質疑を前提にして,議論の中身に入りたいと思いますが,先ほど御説明がありましたように,1と2に細分化されておりますけれども,1と2は相関するところがあると思いますので,あえて1と2を分けないで一緒に議論したいと思いますが,いかがでしょうか。どなたからでも御発言をお願いしたいと思います。 ● C-2はちょうど法務省の勉強会で議論が取りまとめられていて,それから見直しの方向性についても書いておられて,難点がいろいろあると書いておられる。よくまとまっておるのではないかなと思うわけです。私も誠にそのとおりで,これは非常に難点が多いし,特に今も質問の中でもあったように,一体どのような制度なのかもさっぱり分からないような状態になっているし,そういったようなことも考えまして,私としてはこの制度は現実的ではないので反対したいと思います。 ● C-2について御意見が出ましたので私も申し上げますが,私はこの文言だけでは,いかなる趣旨の制度なのかが理解できない。先ほど比較法的な基礎はあるのかという御質問もありましたけれども,これと全く同じような法制度が存在する国はないであろうと思います。比較法的並びに理論的基礎のある何らかの素材に基づいて考案されたものではないのではないかと思われます。   今,○○委員がおっしゃったとおり,法務省の勉強会の取りまとめに,この案の抱えている様々な難点はほとんど書いてあると思いますので,繰り返しません。私もこの案には反対です。更に一言だけ言いますと,そもそも,一番根源的な問題は,検察官の請求という訴訟行為の法的性質が不明であり,それからそれに基づいて裁判所が決定,これは裁判ですね,この裁判も理論的に一体何を審理対象としていかなる判断作用をやっているのかが全く理解できない。あえて理解すれば,これは要するに,端的に時効の完成を阻止することを目標にして一定の証拠というような要件で検察官が止めたいと考える個別具体的な事件についてそれを行うということでしょう。請求を受ける裁判所は一体,何を刑事手続の中で審判の対象にし,何を要件にして何を判断しているのかということ自体が理論的にも全く説明がつかない。およそ条文を書けば何でもできるというようなお考えならともかく,刑事手続法の世界でこのような法制度そのものが理論的に成り立ち得ないものではなかろうかと思います。   更に言いますと,これは裁判だとすれば,令状の発付ではないのですから,相手方が一定の証拠に基づいて主張立証し,その上で裁判所が事実認定をして何かの効果を出すというのが普通なのに,相手がいないのが前提になっていて,不服申立てをしたり上訴したりすることもおよそ考えられない。このような条文をつくっても,憲法31条に反するのではないかと思います。この案は難点が多過ぎて,しかも,理論的な基礎も説明も不可能な制度ではないかと考えているところでございます。 ● 憲法31条に反するというのは,今の御意見だけでは,どのような理由によるのかよく分からないところがありますし,比較法的な基礎がなくても,我が国なりの制度をつくるということも論理的には可能だと思うのですけれども,おっしゃったことは理解できるところです。 ● 今,C-2の案について御議論が多くなっていて,これを主張されている方がここにいらっしゃるわけでは多分ないので,どういう意図でこのような案を考えているのだということに的確にお答えすることが非常に難しいところだろうと思います。私どもの方で,ある意味推測として考えられる考え方としては,C-2の案というのは,そもそも殺人であるとか強盗殺人であるとか,すべからく何らかの一定の犯罪について全部時効期間をものすごく延ばしてしまうというのはやはりちょっと乱暴ではないかという考え方が背景にあるのではないかなと思います。   他方で,そうは言っても,もっと延ばしておいた方がいい事件があるのも事実ではないかと。そこを切り分けるのに,一つは確実な証拠があるような事件,例えばC-1でありますけれども,現場にかなりの血痕が落ちていて,犯人のものとしか思われないようなものがあって,DNA情報もあると。それがだれのものであるかが分かれば,もう犯人であることはかなり確実に分かり得る状況であるというような事案もあるだろう。他方で,手掛かりも全然分からない,あるいは事件性もあるかどうか分からないというような事件もあって,それを全部一律に扱うのはいかがなものかということから出てきている発想ではないかなと思います。そういったときに,それをどうやって切り分けるのかということを考えると,検察官が,これはもう時効は延びたと勝手に認定して言い張ってしまうというわけにもいかないだろうし,法律上惜しい事件と書くわけにも多分いかないだろうということを考えると,やはり信頼できるのは裁判所なので,検察官がかなり証拠があって延ばすのに相当な事件だということを考えたら,裁判官にお認めいただいたらいいのではないかと。停止というのは,もう少し頑張ってみるという期間を多分指しておられるわけで,それが5年になるのか10年になるのか知りませんが,もうちょっと頑張ってみる期間,時効を延ばしましょうと。中断というのは,あと25年頑張りましょうというようなことを想定しておられるのではないかなと思います。もちろん,これをお勧めするということで申し上げているわけではありませんけれども,ぱっと見たときに,何を考えてこういう制度をつくっているか分からないということで,御批判があるということだけではちょっとあれなので,補足して申し上げました。 ● 今の○○委員の御発言と関連するのですけれども,私どもの警察の現場的な事情を申し上げますと,○○委員の御説明はある程度理解できるといいましょうか,そういう点がございます。というのは,殺人事件だけでも認知が年間千二,三百という状態でありますけれども,そのうち時効まで捜査を継続して,時効がなければ犯人が検挙できるというのは非常にまれなケースだろうと思います。ただ,時効寸前に犯人が検挙されるというケースもないわけではありません。あるとすれば,現在のところはDNA資料があって,たまたま犯人がほかの犯罪で検挙されてDNAと照合して,その殺人の犯人が特定できるというようなケースがまれにございます。そうしますと,すべての凶悪事件について時効を撤廃して捜査態勢をそれなりに維持して,あるいは現場資料とか証拠品の保管管理をどこかで切らないといけないと思いますけれども,理屈上は未来永劫続けていくためのコストと,それから得られるものを考えると,ある程度何らかの方法で事件を絞るという議論があってもいいのかなとは思うわけであります。   ただ,相当無理な議論になるかもしれませんし,それから,そもそも事件性を認知できていなかったものが時効完成後に真犯人が出てきて,事件があったんだということになる,そういうケースとの不均衡の問題もあるので,そういう観点で考えると,A案,B案がすべてを解決する面が大きいのだろうと思いますけれども,それには,先ほど申しましたような,ある意味でのコストというものが必要だということを前提で御議論いただいた方がいいかなと思います。 ● 今のお二人の説明で,この案の背景というのはよく分かるのですが,○○委員が問題にされたのは,それを決めるのがなぜ裁判所なのかということではないでしょうか。現行の我が国の法制で,公訴権の存続・消滅を個別的に認めているのは恩赦の関係だと思いますが,それは内閣のレベルで決めることになっており,極めて重大な判断だという位置づけなのですね。同様に公訴権の存続・消滅にかかる判断を,個別の事件ごとに司法裁判所に行わせるというのが適切なのかどうか。裁判所の職務の性質という点でも,その判断は裁判ではなくて行政行為のような性格のものですので,裁判所になじむものなのかどうか。そこが問題になるように思うのですね。   もう一つは,効果の及ぶ射程との関係を考えますと,参考にした外国の制度というのが,特定の個人に対して起訴前の何らかの公的アクションがあった場合に,それに停止の効力,中断の効力を認めるというものであるとすれば,事件全体に対して効果を持つ という点や,裁判所による認定を介するという点で,似て非なるものということになりますね。裁判所の判断を入れないで,起訴前の一定のアクションに停止ないし中断の効力を認めるという方が,まだなじみやすいようにも思われるのですが……。ちょっと出過ぎた発言であったかもしれませんが,問題点を整理するとそういうことになるかなと思います。 ● C案の1,2両方にかかわる点ですけれども,事件の具体的な証拠関係によって時効が停止なり中断なりをしたり,しなかったりするという発想は,今回重大事件についての時効を見直そうという趣旨とちょっと違っているのではないのかなという感じがします。つまりそれは,端的に被害者の遺族の立場からすれば,証拠のあるなしによって時効の長短が変えられるのはなかなか承服し難い点もあろうと思いますし,それは被害者にとどまらず国民一般の感情に照らしても,証拠関係がどうかというのは,偶然に左右されているわけですから,そのような事情に基づき時効期間を変えてしまっていいのかなという感じがするというのが1点でございます。   C-2については,「検察官の請求にかかる」というのは,要件をどう考えるのだろうか,大変難しいなと思った点であります。   C-1の方でありますが,こういう起訴の制度,被告人が特定されない起訴というのは,まず送達というのはどうするのかなというのが分からないところなのですが,公示送達でもいいですが,具体的に送達されることを予定していない起訴という形を考えた場合,検察官の観点でまず最初に感じるのが,1回も弁解を聞かないで起訴するというのはすごく違和感があるわけですね。DNAといっても万能ではないという御意見が既に出ていますように,当該犯罪と人的に一定の関係があるという証拠にとどまるのですね。それで起訴してしまって,起訴後に被告人からきちんとした弁解が出てきて公訴維持ができなくなるというのでは,検察官としてはなかなか,一切弁解も聞かずに起訴するというのはかなり抵抗感があるという感じでございます。 ● C-1案については,私どもが作った法科大学院用のケースブックの中で,そのような形での起訴というのは許されるだろうかという設問を置いているのですけれども,そもそもそういった形での起訴は特定の個人に対する起訴として成り立つのかどうか,○○幹事はどう思われますか。 ● アメリカは,DNAだけでも起訴された個人の特定としては十分であるという前提に立っているのだと思いますけれども,日本の刑事訴訟では,起訴というのは,それに引き続いて手続が進められていく起点となるものですから,起訴されたのが一体だれであって,その後の手続をだれに対して進めていくかが分からないということでは,起訴された者が特定できていないということになるように思います。つまり,少なくとも,具体的な人としてその顔が想定できないような形で起訴しても,それでは被告人を特定したことにはならないというのが,現在の実務の考え方だと思います。 ● もしそうだとすると,起訴としてそもそも成り立っていないということですよね。我が国では,公訴の提起が公訴時効の停止の効果を持つためには,特定の個人に対して検察官の公訴提起の意思が表明されているといえなければならないと考えられていますので,その点で理論的障害があるということになる。アメリカの場合は,あるいはそれとは違う発想でできているのかもしれませんが,そういう理論上のの問題があるということですね。   そこに限らず,ほかの,A案,B案についても含めて御議論いだきたいと思いますが。 ● C-1とC-2の関係なのですが,先ほど○○委員がおっしゃったものの裏返しとして,これはどうしても被疑者を弁護,被告人の弁護をするという立場からすると,ある意味でさじ加減で変わってしまうようなニュアンスというのはどうしても避けられないという,そういう意味でかなり一律にやるものと違って,場合によっては不平等が生じる。あの人は時効を超えて事実上起訴ができた,起訴ができない,あるいは,一定の場合に期間が停止してしまって,その人は起訴されて,この人は起訴されないという,こういう不平等は被告人の側にもあるだろうというふうな意味で,かなり問題だろうと思います。 ● 1番のところで,見直しは必要ないという議論に立ってしまったので議論がやりづらいのですけれども,逆に,C-1,C-2がよくないから,ではAとかBだという消極論から廃止論に結びつくのは極めて危険な議論だと思うので,廃止論は廃止論できちんと別途議論するけれども,何か今の議論の仕方が,まずCを否定した上で,だからAしかないとかBしかないという,消極論でむしろ廃止論に結びついていくという,そういう流れを感じるので危険だと思うのです。ただ,私は,もちろん理論的な問題はC-2は相当あると思っているのですけれども,先ほどもあったように,実際の事件の,つまり証拠がある事件とない事件というのがあるわけで,とりわけDNAとかそういう重要な,もちろんDNAだけでは駄目なのですけれども,たくさん証拠がある事件と,ほとんどない事件があるわけで,それを切り分けて一律に廃止とか延長ではなく,個別事件について考えるという一つの在り方としては,もし公訴時効を見直すのであれば,そういう考え方はあり得るのではないかとは思っています。   一律に公訴時効を廃止とか延長というのは,余りにもこれはラジカルといいますか,議論でありまして,個別事件について考えるという考え方としてはあり得ると。その上でC-2という考え方もあり得る。民主党のマニフェストにも,これに近い案が採用されているのですけれども,廃止とか延長はちょっと極端過ぎるので個別事件で考えようと。逆に個別事件で救っていこうという。例えばC-2だと現在進行形の事件も救える可能性が出てくるのではないかという考え方もあると思います。つまり遡及効を議論しないで救えるという可能性が出てくるということもあろうかと思っています。   C-1というのは,ジョン・ドゥ起訴というのは性犯罪をもともと想定した類型,最近は殺人罪にも適用されているらしいのですけれども,性犯罪については確かに何度も累犯といいますか可能性があるので,別の事件で引っ掛かるということがあると思うのですが,殺人罪について何件も起こす人がそれほどたくさんいるとは思えないものですから,ジョン・ドゥ起訴の議論を,殺人罪とか,日本的に言う重大犯罪に適用するというのは少し議論の仕方に無理があるのかなと思っております。アメリカはもともと性犯罪でそれが累犯する,何度も犯罪を繰り返すということで見つかるという,そういう立法事実というか,そのようなものがあったかと思うのですが,殺人罪については何件も何件も繰り返すということは考えにくいということを考えると,この方法ではなかなか,逆に実際には救えないといいますか,実際には特定できないまま終わってしまうケースがいっぱい出てきてしまうということもあるので,個別案件で考えるという考え方だとC-2の方が,まだより現実的かなと思います。 ● C-2案をとれば遡及の議論をしなくて済むとおっしゃったけれども,そのような制度を入れたとしても,それを遡及させないと,現在進行中の事件については適用できないことには変わりはないですよね。 ● そこはどう考えるかということですけれどもね。これについてはまた,いわゆる廃止した場合の遡及の議論と,中断のものの遡及は議論の仕方が違ってくるのかなと思いました。 ● 私は今の○○幹事の意見のうち,前半部分に全面的に反対でございます。そもそも,公訴時効という非常に基本的な法制度について,先ほど○○委員がおっしゃったように,個別具体的事案の証拠の状況のような事柄によって,時効を止めたり中断したりするという,そういう発想そのものが根本的に私は誤っているというか,適当でないと思います。公訴時効という基本的な制度は,現行法の下では,法定刑に応じて一律の期間を定めるというシステムをとっているわけですから,その考え方と,個別具体的な事件の証拠状況で時効完成を妨げるというような発想それ自体が基本的に適当でないと思います。DNA起訴というC-1についても,C-2についても,具体的な一定の証拠があるかないかというのは偶然に左右されるわけで,そのようなことによって刑事訴追権の消長という刑事手続の根幹に係る事項が決定されるというのは,制度設計の発想としてまことによろしくないと思います。 ● 現在,現行法上は停止として,国外にいる場合は,これは個別事件に正に応じて,その人が国外にどれだけいたのかということを個別に判断して停止を決めているわけでして,停止とかについては個別事案によって変わるということは大いにあり得ると思うわけです。したがって,一般的な公訴時効自体は確かにそれは一律に適用すべきですけれども,中断とか,とりわけ停止については個別事案に応じていろいろな判断があり得る。そこは立法政策としてはそれはあり得ると思います。 ● 個別といえば個別なのでしょうけれども,現行法の停止の場合,特定の人との関係で,一定の客観的事情により停止したりしなかったりする。ところが,C-2案の場合には,どういう構成にするのかによるかもしれませんけれども,個々の事件において,例えば,被疑者の特定につながる証拠がどの程度集まっているのかを裁判官が吟味して,しかも事件全体について,公訴時効を停止ないし中断させるといったものであるとすると,質的に大きく違ってくるので,その辺が抵抗感が感じられる点ではないかと思うのですね。 ● 私は,公訴時効を見直すとすれば,今回の立法動機からすればA案しかないだろうと思うのです。それは,もうある意味で非常に理念的な改正に終わる可能性がありますけれども,結局,延長しても延長しても,それでも,分かったということにならなければ,どこまでたってもそれはもう無限連鎖の話なので,まず延長ということはもう適さないだろうと。100年延長するというのならば,10歳の子供が犯した犯罪についてはなおあり得るかもしれませんが,そのような極端な,100年という延長を考えないのであれば,それはもう廃止しかない。今回の立法動機からすれば理念的な意味にとどまると私は思いますけれども,A案しかないと。   それから,C案も確かに証拠が固いものについて個別具体的に対応する方がコストの面からもよろしいという御意見は,よく分かりますけれども,結局,時効制度を廃止すれば最終的に固い証拠が残っているのでなければ起訴できないのはもう目に見えているので,そうでないものはもう検察官は結局不起訴にせざるを得ないことになると思いますので,A案をとってもC案のような実態の運用になると想像されます。   それから,○○委員の御発言ですけれども,これは送検してしまえばもう証拠は一応検察庁に移って,その保管等については検察庁のコストということになるのではないですか,そこら辺はいかがですか。 ● 被疑者不特定では送検できませんが。 ● では,もうずっと警察でとどまるということですか。制度設計としては送検まではできるという制度があり得るのではないですか。 ● 被疑者が特定されていない段階でですか。 ● 送検まではするという。立法論としては。 ● 今の制度を前提に考えますと,被疑者を特定して,要するに警察の捜査を遂げて送検するということになりますので,被疑者が例えば特定できない,あるいは逃亡して検挙に至らないという間は警察の捜査は継続することになります。 ● それに,仮にそういう制度をとったとしても,検察では捜査を続けないといけないわけですから,問題は解消しないのではないでしょうか。 ● では,最後の部分は結構ですけれども,最初の部分は意見として申し上げます。 ● 2の対象犯罪の範囲という問題とも密接に結びついてくると思うのですけれども,対象犯罪にグレードが仮にあるとすると,AとBの組合せというのも論理的にはあり得るのかなと思うのですが。 ● それはあり得ますけれども,今回の主たる論点はA案ではないかと思います。 ● 御趣旨は,平成16年改正で時効期間を延ばしているので,それで不十分だという議論をするのなら,もう切りがないということでしょうか。 ● そうです。 ● 分かりました。 ● ○○委員が廃止という問題こそ主たる論点だと言われましたので,それに関連する感想ですけれども,5年前に時効を扱ったときには,専ら期間の延長を問題にしました。そのときの審議の対象は,本来は実体法の法定刑の引上げの問題でありましたので,専ら期間の点が念頭にあり,時効については最長25年にするということを決定して,それで終わったわけです。   その後,5年間の推移を見ておりますと,確かに時効について社会の関心が高まり,新聞報道なども非常に増えました。しかし,その増えた内容を見ますと,論議の中心は個別事件の救済に関するものであって,そもそも時効とは何かという大きな物語は余り無かったと思います。   ○○委員が詳しいドイツの時効廃止の問題ですが,あのときはドイツの国会も学会も非常に悩みに悩んだ上で時効の廃止を決めましたが,これはナチス犯罪の追及という非常に大きな,世界史的な物語を背景にしていたわけで,現在の日本は事情が違うと思います。ただ,新聞等が熱心に報道したために,時効についての議論が盛り上がり,そして,被害感情というのは決して,刑訴法学者が言っているように,時間によって薄らぐようなものではないということは社会の共通認識になってきたように思いますけれども,しかしそれは飽くまで個別事件の積み重ねから出てきている話であって,そこで廃止論まで行くのは,ちょっと議論が膨らみ過ぎたのではないかという気がするわけです。 ● ほかの方はいかがでしょうか。 ● ○○先生の今の御意見は,延長にとどめるべきだという御意見ですか。 ● 5年前の期間延長が遡及されなかったために,現在の緊急事態を招いているのではないかということです。 ● 次の論点の方に主たる焦点があるのではないかという御意見だろうと思いますけれども。 ● 理論的な考え方を教えていただければと思うのですが,一定の犯罪については時効期間を決めながら,あるものについては時効期間は決めないという考え方というのは,ごく普通に統一的に説明できるものなのでしょうか。それとも,時効期間を定めないというのは,異質な考え方を,別のものを継ぎ足しているのか,どのように考えるべきなのか,お教えいただければと思います。 ● 比較法的には結構,そういうところが多いですよね。特に英米の場合は,もともと公訴時効というものはなかったところに,軽い事件について,そういうものを設けたという,そういった成り立ちの仕方だったと思います。 ● それは別な理由で軽いものにつける。ドイツの場合は,逆に,時効期間がある前提で特別なものだけ外したと。 ● そうですね。 ● そうすると,今度,我々はむしろドイツ型の延長のようなことで考えることも分かりやすいということになりますか。 ● そうでしょうね。 ● ドイツでは,立法動機がナチス犯罪への追及をやめないという政治的アピールであったけれども,今回,日本の場合には,それほどそういうものかというのが○○先生の御意見で,私も全く同感ですが,確かに前回のときに遡及効まで認めていれば,この問題は起きなかったのかもしれないということはあり得るかもしれませんね。 ● ほかの方はいかがでしょうか。 ● 一定の犯罪について公訴時効を廃止して,それ以外については残すという点ですが,公訴時効制度の趣旨との関係で言えば,一定の犯罪についてはそれが妥当しないと考えることで,区別はつけられるのではないでしょうか。 ● 公訴時効の存在根拠ですよね。 ● はい。その上で,廃止なのか延長なのかという話なのですが,平成16年の改正との関係でいうと,もう一度延長するというのは説明がつかないように思います。平成16年改正で公訴時効を延長したときに,国民の平均寿命が長くなったとか,新しい捜査手法が開発されたということが根拠とされたわけですが,その後の5年間でそうした事情が変わったのかと言われれば,それは変わっていないはずなので,その上で,もう一度延ばすというのは説明がつくのか疑問です。そういう意味で,今回は平成16年とは違う観点からの見直しだとすれば,それは再延長というよりは廃止ということになるのではないかと思います。 ● 議論がちょっと飛躍していませんか。平成16年にそういう事情があったので延ばしたことは確かですが,延ばし方には結局,評価の問題,換言すれば,その時点での国民の意識・感覚によっていたということだと思うのですけれども,その評価が変わってきたと考えれば,説明はつくようにも思うのですが。 ● 5年の間に,平成16年改正で延長された期間では短すぎるという評価が国民の意識としてなされるようになったということですか。 ● あえて説明すれば,説明のつかないものでもないのではないかということです。 ● 納得はしないと思います。 ● 納得するかどうか,そもそも基本的なスタンスのところで違うのでしょうけれども……。 ● 対象犯罪の範囲との関係ですけれども,一律に法定刑でいくか,それとも,罪種ごとに考えて結果的加重犯のようなものは除くか。今回の趣旨からいって一律に法定刑というのはいかがかと思うので,罪種ごとに考えて結果的加重犯は除いていいのではないか。例えば刑法240条の後段の強盗致死ですけれども,同条後段の中の更に強盗殺人のみ除くとか,そのぐらいきめの細かい定め方がよいのではないか,単純に法定刑でやるというのはちょっといかがかなと。もう少し罪質のようなものも含めて考えて,単純に法定刑で割り切るという対象犯罪の範囲の確定の仕方はしない方がいいのではないかと思います。 ● 立法動機から言うと,ということですか。 ● ええ。 ● そうすると,それは,公訴時効期間が延びるところも出てきますよね。理屈で言うと。 ● そうですね。 ● 縮減するところがあると同時に,延びるところも出てくる……。 ● それはもうしようがないということですね。 ● 分かりました,そのような御意見ですが……。 ● そこは比較法的に特にイギリスとか,とりわけアメリカですね。アメリカでは,資料3では,第1級謀殺,第2級謀殺等のA級重罪が公訴時効にかからないと。日本はそういう区別をしておらず,単純な殺人罪しかないわけでして,その辺をどう考えるかということがあろうかと思うので,単純に殺人罪を全部無くすというのはちょっとアメリカとも違うという。 ● そこまでの個別化は無理ですよ。 ● そうですけれども。 ● 我が国の制度も最初フランス法によったときは,重罪と軽罪の別に応じた決定の仕方でした。一方,アメリカなどの場合も,A級だとかB級だとかというのは法定刑とおおむね相応しているので,実態としてはそう大きく違わないのではないでしょうか。   それと,英米の場合はもともと基本的には公訴時効がないところに,制定法でつくっていった。それに対して,公訴時効制度が現に存在し,しかも基本的に法定刑に対応して時効期間が設定されているところで,そのような制度を根幹としながら,それとは異質の考え方をどうやって持ち込めるのか,そこが多分争点になるのだろうと思うのです。 ● ただ,日本の歴史的にかなり長い間,こういう制度,特に昔は大体15年だった。これを長年続けてきて,それが四,五年前に1回変わった。それが今回一気に廃止にいくというのは,かなり流れとして,歴史的な,これまでそれほど不都合があったとは思えないのですけれども,それが5年ぐらいで廃止までいくというのはかなり飛躍しているような印象を受けます。 ● 先ほどの御議論とは論点が違いますね。延長するにしろ廃止するにしろ,罪質というか罪種で区別すべきだというのが先ほどの御議論で,今のは廃止論までいくべきではないという御議論ですから。 ● はい,それはちょっと違う部分です。 ● 対象犯罪の範囲についてはもう少し違った視点もあって,罪種とか罪質とか,あるいは関係の方々の関心が強いかどうかといった点で,例えば交通関係の犯罪で人が亡くなっている,そういうものも入れるべきだという意見もありますので,そういった点についても議論しておいた方がいいのではないかと思うのですが……。 ● 今,部会長がおっしゃった点との関連で事務当局に対する質問です。交通事故で身内を亡くされた方々の団体はたくさんおられて,これまでの立法過程においても被害者の声をということでいろいろな御意見があったわけですけれども,今回の件ですと,凶悪・重大事件とされてはおりますけれども,命が奪われたという結果の点で強く時効についての見直しを求めておられる方々もいらっしゃるのだろうと思うのです。ただ,多くの通常の自動車事故による死亡というのは過失犯でありますので,故意殺人のような凶悪事件とはおよそ法的性質が違う。それから,自動車事故の場合に,それ自体として犯人が分からないということではなく,多分ひき逃げ事犯の犯人が見つからないという事態が想定されていると思われます。そうすると,時効について問題提起されている方々の中には,道路交通法違反のひき逃げについても検討を求める意見がおそらくあるだろうと思います。また,これまでもいろいろな経緯があって,自動車による人の死亡の中には特別の重い犯罪類型もつくってあるわけですので,そのあたりはどうするかというのは議論しなければいけないだろうと思われます。議論の対象としては,今のような認識でよろしいのでしょうか。 ● いただいた資料の中にそういうのがありましたか。 ● 資料4でございます。法務省の本年7月の検討結果の取りまとめの6ページから8ページにかけて,被害者団体の方々から御意見を頂いたものを概要としてまとめております。その中に,交通事故関係の被害者団体からの御意見が7ページのオ,カ,キと,三つの団体から伺った内容が記載されておりまして,そこによりますと,危険運転致死あるいは道路交通法上の救護義務違反についての時効の撤廃という御意見もございますし,自動車運転により人を死傷させた事件についての廃止といったような御意見もあるところでございます。 ● 自動車運転過失致死傷という犯罪類型をつくって,刑を5年から7年に重くしたとき,被害者側の主張は,窃盗罪でも10年なんだからということで10年ということだったのです。それが,結局7年ということになって,そういう意味では公訴時効に余り影響はなかったわけなのですけれども,逆にだから,今回,法定刑で切っているという,これは実体法説の根拠になっていますが,法定刑で時効期間を決めるのか,または犯罪類型ごとに決めるのかみたいなそういう議論をする必要があるのではないかと思います。現行法ではこれを法定刑で切って,何年なら何年という形で決めていますけれども,そういう形では対応できないのかどうか。つまり凶悪・重大というところでもう既にもう単純に法定刑ではないというものが加わっているわけでして,そういう今の刑事訴訟法の決め方自体を改めるべきなのかどうかということが問われているのではないかという気がします。 ● ○○委員が言われたのも同趣旨だと思いますけれども,ただ,それはすごく大きな議論になりますね。ただ,今回の諮問における「凶悪・重大」というのは,そこまでのことを意味しているわけでは必ずしもなくて,一般に凶悪・重大と言われている殺人等について見直しの必要があるということではないかと思われます。そして,見直す場合に,その対象とする範囲をどこで区切るのかが問われているということなのではないでしょうか。ところで,今の御意見だと,自動車運転過失致死については,法定刑は7年で据え置くとして,公訴時効は改めるべきだということになるのでしょうか。 ● いや,それを主張するつもりではないのですけれども,理論的にはそういう問題になってくる。そうすると,逆に法定刑と必ずしもリンクしないわけですから,もともと実体法説はどちらかというと,これがリンクしているから実体法的なとらえ方が必要だと思うのですけれども,それも変わってくるかもしれませんし。 ● 恐らくそこは一種のフィクションのようなものなのでしょうね。法定刑の重さに応じて,処罰感情あるいは処罰の相当性の薄れ方も一律に下がるのだという,一種のフィクションだと思うのですけれども。   ほかの方,今の点はいかがでしょうか。○○幹事はどう思われますか。 ● 実体法説が言うところの処罰感情の希薄化という点からすれば,公訴時効期間を定めるに当たって,法定刑とは別の基準,例えば罪種によって一定のものを切り出すという方法は,十分あり得るように思います。ただ,その場合に,法定刑を基準とした場合の上限に当たる類型,つまり死刑に当たる罪について,その中から,例えば殺人を特別に切り出すというのは分かりやすいのですが,その部分だけではなくて,法定刑としては軽い類型のところでも,法定刑と切り離して特定の罪種を切り出すということになると,技術的に可能なのかどうか,まだよく分からないところがあります。 ● 分かりました。また御見解を御披露いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。大分御議論が出まして,最初の一当たりの議論としてはこのぐらいでよろしいでしょうか。以上の御議論を整理していただいて,それを踏まえて,今後,更に議論を進化させていくことにしようと思います。   それでは,予定した時間が経過しましたので,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。次回の審議の予定につきまして,事務当局から何かありましたらお願いいたします。 ● 審議の進め方につきまして,一つ御提案を申し上げたいと思います。凶悪・重大犯罪の公訴時効の見直しにつきましては,犯罪被害者の遺族の方々を中心として多くの要望等が寄せられているところでございます。他方で,公訴時効の見直しに慎重な意見の被害者の方もいらっしゃるとお聞きしております。当部会における審議を考えた場合に,こうした被害者の方々の様々な御意見を踏まえて御審議をいただくということも有益ではないかなと思いますので,被害者団体の方から直接この場で御意見を拝聴する機会を設けてはいかがかと思っております。 ● ただ今,事務当局から,被害者の御遺族の団体,被害者団体の方々から直接御意見をお伺いしてはどうかという御提案がございましたが,その点については皆さんの御了解が得られましたら,次回の会議においてそのような機会を設けることを考えたいと思いますけれども,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは,御同意いただいたということで,そのようにさせていただきます。具体的にどの団体から御意見を伺うのかについては,部会長に御一任いただいてよろしいでしようか。   それでは,次回は,主として被害者団体の方々から御意見を伺うということにさせていただきたいと思います。日程についてはどうなっていますか。 ● 部会の日程につきましては,各回ごとに時刻と場所が異なったりしますので別途御連絡させていただくこととしておりますけれども,次回の部会につきましては,11月25日水曜日の午後1時30分から午後4時30分までで,場所は法務省20階の第1会議室となっております。 ● もう一度申しますと,次回は11月25日水曜日,時間は1時30分から4時30分ころまでということで,場所は法務省側の20階の第1会議室でございます。よろしく御参集いただければと思います。   本日はどうもありがとうございました。 -了-