法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会           第10回会議 議事録 第1 日 時  平成21年11月27日(金)  自 午後1時32分                         至 午後5時30分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)                議     事 ○伊藤部会長 予定の時刻になりましたので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第10回会議を開会いたします。御多忙のところ御出席いただきましてありがとうございます。   まず,配布されている資料につきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○波多野関係官 それでは,事務当局から,配布いたしました資料について御説明いたします。   第10回会議のために配布いたしました資料は,事前にお送りいたしました資料目録記載のとおりでございます。部会資料10は事務当局で作成したものでございます。内容につきましては後ほど御説明いたします。以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,早速ですが本日の審議に入りたいと存じます。前回部会資料8まで終わっておりますので,本日は部会資料9の審議を行いたいと思います。   まず,事務当局から,「第12 本人出頭主義等」から「第15 送達」まで一括して説明をお願いいたします。 ○川尻関係官 それでは,御説明いたします。   第12の「本人出頭主義等」では,基本的には現行家事審判規則第5条の規律を維持するものとすることを提案しております。本規律における代理人の概念を一般手続上の代理人とすることと,特にやむを得ない事由がなくても補佐人とともに出頭することができるものとすることが,現行からの変更点となっております。   なお,任意代理人がついている場合でも,原則として本人自らの出頭を要することを前提としております。   (注)では,補佐人の陳述の取消し又は更正について,弁論主義を採らない家事審判手続では,法的な効果を観念することができないと考えられますことから,特に民事訴訟法と同様の規律は設けないものとすることを提案しておりますが,この点につきましては,前回の任意代理人の議論の際に,規律を設ける意義はあるのではないかとの御意見もありましたことから,更に検討したいと存じます。   第13の「中断・〔受継〕」ですが,このうち受継につきましては,非訟事件手続における議論の際に,用語として適切ではないのではないかとの御意見がありましたことから,差し当たりブラケットに入れた表記としております。   1の「中断」では,家事審判手続においては,当事者の死亡等の事由が発生した場合における中断制度は,補足説明にある理由により特に設けないものすることを提案しております。   2の「〔受継〕」,(1)の「法令により手続を続行する資格のある者がいる場合の取扱い」では,当該資格を有する者が受継決定により手続を引き継ぐことができるものとすることを提案しております。   (2)の「法令により手続を続行する資格のある者はいないが,別に申立権者がいる場合の取扱い」では,当該申立権者が受継決定により手続を引き継ぐことができるものとすることを提案しております。   (注)では,このような受継の申立てはいつまでできるのか,その可能な期間について御意見をいただければと存じます。   第14の「中止」では,民事訴訟法等と同様の規律を設けるか否かについて検討することを提案しております。   第15の「送達」では,民事訴訟法と同様の規律を設けることを提案しております。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,早速個別事項についての審議をお願いしたいと存じます。   まず第12の「本人出頭主義等」に関してはいかがでしょうか。今,説明がございました(注)の取消し又は更正に関しても併せて御意見をいただければと存じます。 ○増田幹事 本文②の本人出頭主義について原則に異議があるわけではないのですが,例外的に代理人を出頭させることができる場合について,「やむを得ない事由」というのは,法令用語としては限定し過ぎているのではないかと思います。現行法がそうであって,運用がそれほど厳しくないということはよく理解しておりますが,ここは「相当の理由があるとき」ぐらいにしていただけた方が有り難いかと思います。 ○伊藤部会長 ただいま,増田幹事から,代理人の出頭に関して,少なくとも文言上は厳格に過ぎるのではないかという御発言がございましたが,この点はいかがでしょうか。本人出頭主義というものの考え方にも関連するかと思いますが。 ○長委員 私はむしろ,家事事件におきましては本人出頭が原則になりますので,代理人の出頭ということで代える場合は限定的であるべきだと思います。したがいまして,運用については別途いろいろ考えるにせよ,法文の立て方としてはある程度限定的な方がよろしいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 異なった御意見が述べられておりますが,この点に関して,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○増田幹事 もう少し具体的に述べますと,特に裁判所が本人の住所地から見て遠隔地である場合を一応念頭に置いておりまして,「やむを得ない事由」というのは,本人が入院していて出てこられないとか,そういったケースに限定されるのではないかという感じがしますので,遠方である場合にかわりに代理人が出頭して進めていって,本人出頭は本当に本人の意見を聴かなければいけないときのみに限定するというような,そういう運用で現在もされているかと思うので,「やむを得ない事由」よりは若干緩めていただければと思う次第です。 ○伊藤部会長 長委員,今の増田幹事から御発言があったような具体例に関して,何か運用の実情のようなものを御存じでしょうか。 ○長委員 家裁は本人中心に考えておりますので,本人の方が出てきにくいという事情があれば,いろいろな手法を用いまして弾力的に運用していることは事実なのですけれども,ただ,条文が緩みまして,代理人がついた場合には本人が出なくてもいいのだという運用になると,これは大変困ったことでありまして,やはりあくまでも本人中心であるということを法律の上でははっきりさせていただいた方がよろしいのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 どうでしょうか。 ○高田(裕)委員 この点は本人出頭主義というものをどうとらえるかということに係ってくるのだろうと思います。とりわけ本文②は,「呼出しを受けた者は」ということで本文①を受けていると理解しておりますので,裁判所が呼び出したにもかかわらず,なお代理人でもよいという場合は,やはり限定された場合と考えざるを得ないのではないかという印象を私自身は持っております。 ○栗林委員 従前の家事審判規則の第5条では,事件の関係人は自身出頭しなければならないとされていまして,この第5条の意味が出頭義務を課したものなのか,それとも出頭するときは本人が行かなければいけないというものなのかというのがちょっとはっきりしないなと従前から思っていたのですが,今回の現行であると出頭義務を課したものであるという関係がよりはっきりしてくる。これが家事審判法第27条の不出頭に対する過料等との関係がどうなってくるのか,この義務をより明示して,不出頭の場合に過料を科すという形までを考えられた規定であると,本人にとって負担がより強くなるので,その点問題ないのかどうかという疑念を持っております。 ○川尻関係官 御指摘の点につきましては,現行法を動かすつもりはございませんで,現行法の規律を維持する形になっております。現行法上も,不出頭の場合には過料の制裁がありまして,この場合には必ず正式の送達,告知の方法によらなければならない,そういうことをしたにもかかわらず不出頭であれば過料の制裁を科すことができるという規律になっております。ただ,実務では余りこの不出頭の制裁というのは科されることはないとも聞いているところです。 ○長委員 そのとおりでございまして,別に杓子定規に適用しておりませんで,むしろ適用されていないのが実情だろうと思います。 ○金子幹事 今の実務を前提にした規律を考えております。ただ,先ほど高田裕成委員から御指摘があったところですが,一般的な出頭義務と,当該期日における出頭義務というものをきちんと区別した方がいいという趣旨で,本文②は「呼出しを受けた者」とうたいました。ですから,この日は本人自身に来てほしいと考えて裁判所は呼出しをしたという場面を前提にしております。にもかかわらず代理人で事足りるということは通常は想定されないので,それでここは限定的に「やむを得ない事由」ということで,こういう場合だけは代理人を出頭させることでもよしとするという趣旨です。ここを限定的にしているのはそのような理由であります。 ○増田幹事 それだと,「呼出しを受けた者」というのは,通常は第1回の相手方は「呼出しを受けた者」になるはずですね。ところが第2回以降は恐らく通常は呼出しを受けていない。そうすると,通常の調停若しくは審判期日の進行を前提とした場合,第2回以降の当事者にはこれは適用されず,第1回の相手方にのみ適用されるという理解なのでしょうか。 ○金子幹事 いや,そこで告知すれば呼び出していることになるはずです。1回目の期日に両方当事者そろいますよね。そこで次回はいついつですので来てくださいと告知すれば,それは呼出しです。 ○増田幹事 それは呼出しという理解ですね。 ○川尻関係官 本日の部会資料の20ページの2において,期日の呼出しの方法についても民事訴訟法と同様の規律を設けることでどうかということを提案しております。ですから期日の呼出しの方法は,呼出状の送達か,出頭者に対する期日の告知その他相当と認める方法ということになろうかと存じます。 ○伊藤部会長 増田幹事,今の点はよろしいでしょうか。 ○増田幹事 今の点は結構です。 ○伊藤部会長 そうなるともとに戻って,この「やむを得ない事由」か,それより用語としてやや緩やかな範囲で代理人の出頭を認めるかという点に関して,ほかに御意見はございますか。   三木委員,いかがでしょうか。 ○三木委員 格段の意見はございませんが,では少し。   現行の規律と変わっているのか,いないのか,よく分からなくて見ていたのですが,表現振りは変わっているので,「呼出しを受けた者は」という限定を付しているところとの関係を考えていたのですけれども,少なくとも今の時点では,わざわざこういう呼出しを特定的にかけた者についてその本人が出頭するのは当然で,それが代理人にかわっていい場合というのはやはりやむを得ない場合かなと思っております。 ○伊藤部会長 そういたしますと,本人出頭主義の趣旨からして,例外を設けるという実質からすると,この「やむを得ない事由」という文言で,あと事情に関しては適切な裁判所の判断にゆだねるというのが大勢のように思いますが。 ○増田幹事 誤解をされているのではないかというところがあって,本人が来て事情聴取を受ける部分,つまり訴訟で言えば人証調べのような手続については,本人の出頭が必ず要請されると思いますけれども,例えば現在の調停実務を念頭に置くと,初期の段階は争点整理ですから,そこは本人が来なければ困るというものではなくて,むしろ迅速に反する場合も多々あるわけで,代理人が争点整理をする方が審理の円滑な進行としても望ましいのではないかと私は思っております。もちろん現行の運用がそれほど堅苦しいものではないので,それほど強く緩めてくれと言うつもりはないですが,御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 そういたしますと,本人出頭主義の趣旨からしてということで,先ほど申し上げたような御意見の方が多いようですが,増田幹事からは手続の実質を踏まえての御発言がございましたので,ここは検討してもらうことにいたしましょう。   ほかにいかがでしょうか。   補佐人の陳述についての当事者又は代理人の取消し,更正に関して,(注)に掲げられているような理由から特段の規律を設けないというあたりはどうでしょう。 ○三木委員 前回述べたことと同じですが,結論においては規律を設けないことに特段異論はありませんが,「弁論主義を採らない」うんぬんという説明振りは,私個人は不適当だと思いますので,御検討いただければと思います。 ○伊藤部会長 任意代理人についての御見解を踏まえてということですね。   ほかにこの点は御発言ございませんか。   それでは,結論においては三木委員もここに掲げられている考え方と違う御見解ではないようですので,その理論的な根拠については,なお御発言を踏まえて事務当局において検討してもらうことにいたしましょう。   ほかに第12の関係での御発言がございましたら。―よろしいですか。   そういたしましたら,次の第13の1の「中断」に関して,非訟との関係もございますが,この点はいかがでしょうか。   増田幹事,確か非訟のときに御発言があったように記憶しておりますけれども。 ○増田幹事 非訟のときと全く同様です。手続を続行する資格のある者のための手続保障という点を考えると,やはり中断するのが望ましいのではないかと思います。遺産分割の事件を念頭に置いて発言いたしますが,遺産分割については特に当事者主義的運営ということが従来から強調されておりまして,当事者が主体的に主張し立証することが基本的には予定されているものであります。当事者が死亡した場合には,通常はその相続人が当事者になるわけですけれども,従前の当事者とその相続人が必ずしも利益を共通にするわけではない,意見を共通にするわけでもない,更には従前の当事者の相続人の間で意見が異なる可能性もあるので,やはりいったん手続を中断して,全員そろった段階で再開する方が望ましいのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 増田幹事からは,家事審判,特に今具体的に挙げられた例のような事件の場合に,当事者の手続保障という点から,こういった事由があっても手続が進行する可能性があることはよろしくないのではないかという御発言がございましたが,この点はいかがでしょうか。 ○長委員 今,増田幹事がおっしゃった事例の場合ですと,中断した後は,どのような手続になるのですか。 ○増田幹事 中断した後は受継するまでは動かないことになると思います。 ○長委員 受継の申立てが必要になるのですか。 ○増田幹事 申立てが必要になる。 ○長委員 そうしますと,死亡なさった相続人の次の相続人の方たちが遺産分割の手続に入ってくる。その人たちの手続保障をすることはもちろん必要だと思うのですけれども,それ以外のいろいろな調査などを進めていくということも並行して行っても,最終的に加わった方がその中身を吟味できるような手続が用意されていれば,不利益なことにはならないと思うのです。当事者主義的運用というのは別に弁論主義が入っているわけではありませんので,職権探知主義のもとであっても事案解明の責任とか義務を当事者に負わせるというのが実務のやり方でありまして,事案を解明するときに裁判所だけがやるということは不可能なのでそういうことをお願いしているわけですから,できる範囲のものについて進めていって,もちろん亡くなられた相続人の更に次の相続人の方たちが入ってきていろいろ御意見を聴かなければいけないということ,それがなければ手続が進められないような状態になれば,自然とそこで止めざるを得ないのです。しかしながらいろいろ手続が進んでいる,調査が進んでいる,ほかの相続人との関係で進められているものについて,それを一定程度進めていくということがあったとしても,それに対する吟味の機会をきちんと与えることによって御懸念のところは解決できると思うのです。したがって,遺産分割について必ずしも中断というのが必然的なものではないと考えております。 ○畑幹事 これも非訟のときに発言したのと同じことですが,私個人は,今,長委員がおっしゃったようなことは,中断はするけれども一定範囲のことはできるという規律でカバーするのがよいのではないかと考えております。   今申し上げたことと中断しないという考え方では,具体的にはこの(補足説明)の2にある即時抗告の関係がとりわけ大きな違いということになると思いますが,それ以外はそれほど変わらないことを言っているのではないかと思います。 ○伊藤部会長 畑幹事の御意見も,中断という概念を介在させるかどうかはともかくとして,一定範囲の行為を特に裁判所がすることができるということは前提にして,しかも中断という概念を取り入れることができるのではないかということですね。そうなると,実質においてはそれほど大きな違いはないように思いますが,いかがでしょうか。 ○豊澤委員 中断するけれどもそこでできる可能な行為を挙げておけばとおっしゃられるのですが,そこで本当にきちんと網羅的に限定列挙ができるのか。手続自体が職権で非常に柔軟なことでやっていけるという意味では,限定列挙というのはどうしても不安が残るのではないか。そういう意味で十分でない可能性もあると思います。それよりも,長委員がおっしゃったように,受継された後に新たに加わってこられた当事者については,当然,記録閲覧謄写,必要な手続をし,あるいは期間中に行っていたものについてはこういうことを行ったということを知らせた上で対応の機会を与える,そして最終的には審理の終結ということで区切りを入れるということになりますので,そうしておいて,当事者がそろわないとできない部分については,当然できませんよと。こちらの方が実務的には使いやすいのではないかと思います。 ○畑幹事 これも非訟のときにも申し上げたことの再び繰り返しですが,例えば当事者の関与を要さない行為についてはこの限りでないといった規定を考えれば,御懸念は当たらないのではないかと思います。 ○脇村関係官 非訟のときも中断という用語の関係で誤解を生んだのかもしれませんけれども,中断しないとしても,当事者の関与が必要なものについては当然できないことを前提にしています。ですので,仮にこの後,審問の立会権を当事者に認めるという規律をとった場合には,立会いなしに審問することはできないことになりますので,受継を経ずに審問することはできなくなる。また終結についても同様にできなくなると考えているところです。ただ,もともと当事者が関与せずにできるもの,例えば調査官による調査とか嘱託等の調査については,もともと当事者がいたときでも関与せずできるものについてまで止めるのはおかしいと思っておりますので,そういったものについてはできると考えております。   そういったことを前提に,では中断をどう考えるかということになりますと,中断というのは一般的には手続全体を全部止めてしまうという意味ですので,中断してしまいますと,先ほどできるといったことについてできなくなってしまうので,概念としては採用すべきではないのではないかと考えているところです。概念としてはそうですけれども,我々の考えている趣旨はそういったところにありますので,そういったことを前提に是非御議論いただければと思います。 ○伊藤部会長 増田幹事の先ほどの御発言も,裁判所も含めて一切の行為ができなくなるという意味では必ずしもない。畑幹事が発言されたような意味だと理解してよろしいでしょうか。 ○増田幹事 はい。そう理解していただいて結構なのですけれども,なお終結の場合,これは後で必要的審問の論点が出てきますので,それにも関係しますが,現時点では審問を開かないで終結するということもあり得るという考え方に立ちますと,中断がなければ終結ができてしまうということになりますし,またこれも非訟のときに申し上げましたけれども,審判そのものが出てしまった場合に,審級の利益の問題と,追完で処理するとなると非常に救済期間が短いという問題が残ると思います。 ○畑幹事 脇村関係官は終結ができないとおっしゃいましたか。ちょっとその御趣旨が分からなかったのですが。 ○脇村関係官 私の誤解かもしれませんけれども,借地非訟等でも,終結前に当事者が死亡した場合には中断はないですけれども,受継せず終結することはできないと理解しております。審問期日を開くのは無理でしょうし,あるいはなくても終結しますよという告知をすることもできないですし。もしかしたら皆さんの中ではいろいろな御意見があるのかもしれませんので,必ずそうだという決め打ちというわけではないのですけれども,私としてはそのような理解で先ほどしゃべらせていただきました。 ○畑幹事 今のお話では,終結の告知をしていれば終結はできるということになるわけですよね。 ○脇村関係官 実質的に引き継がないといけない人に対して告知しないといけないのではないかと考えますと,終結しないのではないかと考えていたのですけれども。 ○畑幹事 今,御提案の仕組みは,手続の中断という仕組みを入れずに,しかし引き継いでいる,当然承継の方は起きていると考えるのではないのですか。 ○脇村関係官 当然引き継いでいるという前提に立ったとしても,当然引き継いだ人に対する告知をしないといけないと思うのです。 ○畑幹事 訴訟においても承継についての議論はあり得ますが,一般的な理解によれば,もとの人に告知すれば,それは承継人に対して告知したのと同じことになるというのが素直な理解ではないのでしょうか。 ○伊藤部会長 それでは,確かに中断制度を設けるか設けないかということで言うと,非常に考え方が対立しているように思われますけれども,設けるべきであるというお考えであっても,裁判所が一切の行為ができなくなるという意味での中断ではないということは先ほど来の御意見から理解できておりますので,畑幹事のような御発言もあり,また,豊澤委員のようなその点に関する御発言もありますので,それを踏まえて,どういう行為ができなくなり,どういう行為はそれにもかかわらずできるのかというあたりをもう一度整理した上で,それを踏まえて結論を出すということでいかがでしょうか。―よろしいですか。   それでは,その点はそのような取扱いにさせていただきます。   ほかに中断の関係はよろしいですか。   そういたしましたら,第13の2の「〔受継〕」に関しては(1)と(2)がございますが,このあたり,(注)についてはまた後からお伺いいたしますが,まず(1),(2)の本文について御意見等はございますでしょうか。―特段の御意見はございませんか。 ○増田幹事 中断しないという前提であれば要らないのですけれども,中断するという前提になった場合には,相手方の受継申立権があった方がいいだろうと思います。 ○伊藤部会長 それでは,その点は先ほど申し上げたような中断との関係がありますので,ただいまの御意見に関しては,そこがある程度固まった時点で,どのように考えればいいのかを必要に応じて検討させていただきたいと思います。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○畑幹事 (2)の②の裁判所の方で受継させることができるという規律なのですが,これは確かに現行規則にもあるのですが,どういう場合を想定しているのでしょうか。コンメンタールなどを見ても余り釈然としないかに思うのですが。 ○川尻関係官 例えば後見開始の審判などにおいて,もう相当程度審理が進んでおり,これは後見開始すべきであると裁判所としても考えていたところ,申立人が死亡してしまったというような事案において,残った人たちがやりたくないですとか,面倒なのでやめたいというような場合に,ではということで全部なくなってしまっていいのだろうかと。そういった場合には,裁判所の裁量判断にはなりますけれども,裁判所がこれはやめさせてしまってはいけないと考えるのであれば,受継させることができるとしてもよいのではないかという考えに基づいております。他方において,そこまでしなくてもいいのではないかという御見解があることも確かですので,もしこの点何かありましたら御意見を伺わせていただければと存じます。 ○伊藤部会長 ということなのですが,畑幹事いかがでしょうか。 ○畑幹事 定見はありませんし,多分実際にも余り使われてはいないのではないかと推測しますが,事件の性質として職権による開始ができる事件であれば職権でこういうこともできるということもあり得そうですが,そうでない事件については若干微妙かなという気はいたします。 ○伊藤部会長 ほかに特段の御発言はございませんか。 ○平山関係官 今,川尻関係官がおっしゃった後見開始の例だと実務的には違和感はあるのかなという感じはいたします。先ほど畑幹事がおっしゃったとおり,職権で開始できる事件であれば当然職権で続けることを判断してということがあり得ますけれども,申立権を引き継ごうという意向がある方がいらっしゃらないときに現実に手続を進められるのかなという感じはいたしております。 ○伊藤部会長 どうしましょうか。あるいは,実際上の点,そういう必要性あるいは考えられる状況などについて,長委員,もし何か御発言があれば有り難いと思いますが。 ○長委員 悩ましい問題だと思います。先ほど御指摘のあった後見人選任の問題というのは,申立てに基づくにせよ,要請としては公益的要請が強いと思うのです。ですから,川尻関係官がおっしゃったような考え方というのは十分成り立つことだろうと思います。ただ,現実に私自身がそういう事態に直面したことがないものですから,ほかに適切な実例を挙げることはできませんけれども,印象としてはそのように感じます。 ○伊藤部会長 そうしますと,実際上これが利用される場面がどの程度あるかという問題は確かにありますが,こういう規定が存在することの意味が全く考えられないということでは恐らくないかと思いますので,一応こういう原案の考え方を前提にして今後の検討を進めるということでいかがでしょうか。 ○畑幹事 やはりここでも事件類型によるということがあるかと思います。今,長委員から御発言があったように,後見というのは公益的な面があり,そのことは検察官が申立てができるということにもあらわれているので,こういうこともあり得るかなという気がいたしますが,あらゆる事件についてということは恐らくどなたも想定されないのではないかと思います。 ○伊藤部会長 もちろん適用場面は合理的な理由がある場合に限られるということは当然のことかとは思います。   それでは,もう一つの(注)の部分ですが,受継の申立てができる期間について,例えばということで1か月と書いてございますが,この点はいかがでしょうか。 ○豊澤委員 民訴法で休止になったときの期日指定の申立ての期間を1か月とされていることとの並びで,この1か月の期間というのは割とバランスのいい期間ではなかろうかという印象を持っております。 ○伊藤部会長 ほかにこの点に関しての御発言はございますか。大体今御発言があったような感覚で皆さん感覚が共有されていると承ってよろしいでしょうか。 ○高田(裕)委員 特にございませんけれども,人訴で一定の場合,特別な訴訟類型においてこの種の受継があるわけですけれども,その期間は1か月より長いということでありまして,家事審判事件でございますので同様の期間は許容できないような印象を持ちますが,もしかすると1か月は,当事者からすれば忙し過ぎる場合もあり得そうな気もしますので,この段階では決めずに,もう少し皆さんからの御意見をいただいた方がよろしいのではないかという感想を持たせていただきました。 ○伊藤部会長 それでは,事務当局に検討はしてもらいますが,具体的に1か月以内では短いのでもう少し長い期間を想定した方がいいというような趣旨の御意見はございますか。もし特定の期間を示してという御意見がなければ,高田委員がおっしゃったように,完全にここで決めてしまうのはやや性急かもしれませんので,1か月という期間を支持する御意見があったことを踏まえて,何かほかに考えるべきことがあるかどうか検討してもらうことにいたしましょう。   中断,受継の関係はそのくらいでよろしいでしょうか。   もしよろしければ,第14の「中止」に関してはいかがでしょうか。 ○長委員 中止に関しましては,7ページの(補足説明)で,遺産分割事件の前提問題について訴訟が係属したような場合が挙げられているのですけれども,「他方で」以下に書かれていることは以前私も申し上げたことがあるように思うのです。一つは,訴訟が提起されて確定するまで待つということになるわけですけれども,第一審が出て控訴されて,そして確定するということになると,最近は短くなってきていますけれども,争い方によれば2年ぐらいになってしまう。そうしますと,遺産分割審判をするための分割時の状況がかなり変わってきてしまうのです。もちろん相続開始時点で決めておかなければいけない法律関係もあるのですけれども,分割時で評価とかいろいろ考えなければいけない。各人の状況も変わってくる。そういうことになりますと,実務ではこういう場合にはむしろ訴訟の方を優先していただいて,調停や審判の申立てがあっても取り下げていただくという形にしているのです。したがって,ある程度審判が進んだとか調停がある程度進んでしまった段階でということになると,いろいろもったいないという気持ちも起こると思うのですが,こういう問題点の指摘は大体初期の段階で行われるような実務になっております。そうしますと,蓄積といってもそれほどたくさんあるわけでもありませんし,中止という形で温存しておくよりは,訴訟をしなければいけないような状況になるならむしろ訴訟の方で解決していただいて,このような場合に中止という制度はとる必要が本当にあるのだろうかと考えています。 ○伊藤部会長 ただいま長委員から,中止という制度を設ける意義について,必ずしもそれは大きくないのではないかという趣旨の御発言がございましたが,いかがでしょうか。一般論として考えると,ここで中止の制度を設けるべきだということの前提があるように思えるのですが,今の長委員の御発言を聞いておりますと,確かにそういうこともあり得るなという感じがしておりますけれども,このあたりは実務にお詳しい方にまず発言していただいてと思いますが,どうでしょう。 ○杉井委員 長委員に質問なのですが,長委員の御意見というのは,この「中止」の中の①の点ですね。 ○長委員 そうです。 ○杉井委員 ②の「天災その他の事由よって」うんぬんという,この場合の中止についても必要ないとお考えですか。 ○長委員 いや,そうではありません。②は必要だと思います。私が専ら関心がありましたのは①でしたので。 ○杉井委員 そうですね。中止自体が全部必要ないということではないですね。 ○長委員 そういう趣旨ではありません。 ○杉井委員 分かりました。 ○伊藤部会長 天災地変の方は別の話だということですが,特に①に関して,杉井委員は何か御経験から御意見ございますか。 ○杉井委員 私の体験でもいつも不調か取り下げてくれとか言われて,そういう形にしていたと思うのですが,中止にしておいてほしいという当事者もいるのではないかという感じもします。確かに調停での審判がどの程度進んだかによるとは思うのですけれどね。だから,全く必要ないかというと,やはりそういう必要性もあるのではないかと思います。 ○増田幹事 現在の実務では,ほとんど取り下げていると思います。私自身は取り下げることに違和感はないのですけれども,確かに杉井委員が今おっしゃったように,当事者本人,依頼者から見れば,何で取り下げるんだという話にはなる。それをこういうことだからということで説明しているというのが実情であって,筋から言えば中止が相当なのではないかなとは思っています。 ○金子幹事 当局としてこの案をお示ししたのは,一つは手続の明確性ということで,訴訟優先で調停審判の方は訴訟の結果を待ちますということであれば,それを手続上も明確にしておいた方がいいのではないかという趣旨であります。一つのオプションなので,審判の方を進めてしまうということもあるでしょうし,あるいは取下げで対応したり期日の指定を調整するなりという方法を否定するものではありません。他方,このオプションを設けることにもし弊害でもあるということであれば,むしろ設けない方がいいということになってこようかと思うので,御意見を伺っておきたいと思うのですが,いかがでしょうか。 ○伊藤部会長 私の誤解かもしれませんが,先ほど来の御意見を伺っていると,本当はもう取り下げてもらった方が以後の手続の進め方としては合理的なのだけれども,中止ということになってしまうと,取下げに応じるとかそういうことに関してもかえって抵抗が出てきてしまってという,そういう問題ですかね。もしこの規定を設けることによって弊害が出てくるということであれば。 ○長委員 それが大きいと思います。そちらの方向に流れると思うのですが,もし仮に休んでいた場合には,2年近くたちますと記憶もありませんし,裁判官も替わっていますでしょうし,場合によっては調停委員も替わってしまうかもしれませんので,その間待っているという実益が本当にあるのか。実際の進め方として,調停の中である程度の証拠とかが出てくれば,こういうことで考えてはどうですかということで説得はするわけです。しかし,それでは,真実はそうではないのだ,これをきちんと判決で固めたいのだという方が起こされることになるものですから,そうなるともう徹底的に,むしろ訴訟で争われることの方が多いと思うのです。そういうものについて中止ということで残しておくという実益が本当にあるのかどうかというのが,実務的には疑問に思います。 ○杉井委員 でも,遺産分割のときに,権利関係について訴訟で明確にしなければいけないということで訴訟をやるとしても,その遺産以外の遺産もある場合には,遺産分割調停自体は結局は調停になり,最終的には審判でやらなければいけませんよね。だから訴訟で全部解決するということではないわけで,その場合に,権利関係について争いになっている点を明確にして,そこに一定の訴訟なりの判断が出た上で,もう一回調停審判ということは当然あり得るわけで,それをいったん取り下げてまた一からやり直さなければいけないというのは,当事者にとってはかなり負担になるし,当時の審判官あるいは調停委員などは替わるにしましても,記録そのものは保存しておくわけですよね。中止であればね。その意味も大きいのではないかと思うのですが。 ○平山関係官 弁護士がついていらっしゃる当事者の方でありますと,ある程度熱心に事件を追行しようという御意思がある方なのだと思うのですけれども,家裁に来られる当事者の方で弁護士をつけておられない方もたくさんいらっしゃいます。そもそもかなり疎遠な親族で,事件にかかわりたくもないというような遺産分割事件の当事者なども結構おりまして,やりたいと思っているのは申立人だけだと。一応相手方として巻き込まれているけれども,手続への積極的関与はないというような事件のときに,例えば結果を待っている別の訴訟の方で申立人にとって不利益な訴訟結果が出た場合を考えると,その後,本当に手続をきちんと戻してくれるようなことをしていただけるのだろうかという不安が実務の立場としてはあります。実務ではそういった当事者の方も少なからずいるということは念頭に置いていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 長委員,何か補足的な御発言はございますか。 ○長委員 平山関係官の指摘の点ではないのですが,記録が残っていればそれを使えるのではないかということについては,私が最初にお話ししたとおりなのですけれども,遺産がたくさんある,そのうちの一つについてだけ所有権が問題になったと。それを除いても遺産分割ができるという場合,争いのある物は遺産分割の審判の対象にしません,それ以外で遺産分割を解決しますという合意ができれば,争いのない物を先に解決します。ところが,例えば争われている不動産が金額の大きなもので,一体でないと分割に応じられないということになりますと,これらを分けて処理することができないものですから,争いになっている方たちの間でほかのものを冷静に解決していこうという意欲というか,時間と労力をそこにかけられるかというと,これは現実的ではないのです。むしろ天王山となっているところの不動産の所有権の在り方について全力投球して,とにかく早く解決してもらって,それが確定しませんと全体としての紛争も解決できません。これが実情ですので,先ほどのお話については,それが重要なら,ほかのものと一緒にしないとできないのであれば,それはもう申し訳ありませんけれども,それだけ訴訟で早く解決していただいて,それが終わった段階でもう一回仕切り直しした方がよほど速やかに争点は整理できますし,分割することもできる。これが実情でございます。 ○伊藤部会長 確かに,今,長委員に御説明いただいたような事例ですと,恐らく中止の制度を設けるべきだという立場のお考えの方も同じ処理が望ましいということになるのでしょうが,そうではないものについて,なお本文①で言うような状況での中止の規定を設けることがおよそ想定できないのか,あるいはそういうことを設けるとかえって予期せざる弊害を生ずるのか,そのあたりが御意見の分かれるところかと思いますが。 ○三木委員 実務の現実を知らない者の意見ではありますが,いろいろお話を伺ってみても,規定を設けることが積極的に害になるというところまでは説得されませんでした。要するに,規定を置いたからといって別に使う義務はないわけですから,従前どおり取下げを求めるのが望ましい事件は取下げを求めればいいわけですし,理論的には取下げを命令する権利はないわけですから,現状のもとでも取下げに頑として抵抗されれば取下げはしない形で,追って指定か何か分かりませんけれども,事実上の中止ないしそれに準ずる措置をせざるを得ないだろうと思いますので,規定を設けることは望ましいと私は思います。 ○豊澤委員 仮に中止の規定を置くというのであれば,先ほど平山関係官が言っていたように,いつその問題の別件の訴訟がはっきりと結論が出て,こちらの止まっていた手続を動かせるようになるのか,これは裁判所の方では当然には分からない話ですので,それについては当事者から必ずインフォメーションが来るというような形と一体にしていただかないと,結局だれも無責任なまま事件が寝てしまう危険もあり得ますので,そのような手続的な配慮が必要なのではないかとは思います。 ○伊藤部会長 それでは,ただいま豊澤委員からお話がありましたような点も踏まえて,この場での御意見は,設けるべきである,あるいは設ける積極的な必要は認められないという御意見が拮抗しているように承りましたので,それを踏まえてなお検討してもらうことにいたしましょう。   今,第14の本文①についての議論が集中しておりますが,そのほかに関連する御発言はございますか。ほかの部分でももちろん結構です。中止に関して。―よろしいでしょうか。   それでは,第15の「送達」で,これは民訴の規定と同様の規律にするということではございますが,何か御指摘や御発言がございましたらお願いいたします。 ○増田幹事 送達については全く異論はないのですが,実際に家事審判法の中で送達をする場合というのがいかほどあるのかということに疑問があり得るわけで,送達の規定よりもむしろ告知に関する規定を整備していただくべきではないかと思います。特に告知の対象となる方が行方不明であった場合などに対する告知の方法について,こういう送達類似の規定を整備すべきではないかと思います。 ○金子幹事 公示送達をしてきちんと手続保障までする必要があるものについては,告知の方法としての送達ということも念頭にあって,「相当な方法」という中に送達を入れればよいと思っていたので,それとは別に告知の方法についての規律を設けることは考えていなかったのですが,それでは何か不足だという御趣旨でしょうか。 ○増田幹事 いえ,告知の一方法として,告知が到達しないときには公示送達を使うという趣旨であれば,特に異論はございません。 ○伊藤部会長 では,それはそういうことで御理解いただいたということにいたします。   送達について,ほかに特別の御発言はございませんか。   そういたしましたら,先に進むことにいたしまして,「第16 申立てその他の申述の方式及び申立書等の記載事項」及び「第17 家事審判事件の申立て」についての説明をお願いします。 ○川尻関係官 第16の「申立てその他の申述の方式及び申立書等の記載事項」では,民事訴訟規則と同様の規律を設けることを提案しております。   第17「家事審判事件の申立て」,1の「申立ての方式」では,本文①において,申立ては書面によるものとすることを,本文②において,申立てを特定するに足りる事項を記載するものとすることを提案しております。   2の「家事審判事件の申立ての併合」では,数個の家事審判事件を一つの申立てですることができるものとすることを提案しております。   なお,併合して申立てをした場合であっても併合管轄は生じないことを前提としておりまして,この点については各則において個別に検討することを考えております。   3の「裁判長の申立書審査権及び補正命令」では,民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   (注)では,申立書の却下に対する不服申立ての規律について取り上げております。基本的には即時抗告はできるものとしつつ,他方で,申立ての却下に対して不服申立てができないものについてまで,申立書の却下に対して不服申立てができるものとする必要はないのではないかと考えられることから,申立ての却下に対して即時抗告ができるものに限り,申立書の却下について即時抗告できるものとすることを提案しております。   4の「事件係属の通知等」では,調停をすることができる事項についての審判事件においては,相手方の手続保障という観点から,基本的には事件が係属したことを相手方に通知しなければならないものとすることを提案しております。   なお,本文②は民事訴訟法第138条第2項と同様の規律ですが,家事審判手続においてこのような規律が当てはまる場合があるのか,更によく検討する必要があると考えておりますことから,現段階ではブラケットに入れた表記としております。   (注)は,当事者以外の審判を受ける者に対する事件係属の通知について取り上げております。   なお,この点につきましては,特に必要な場合を各則において規律するということも考えられます。したがいまして,もし各則においてカバーできるのであれば,総則にこのような抽象的な規律を設ける意味は乏しくなるでしょうし,他方で各則ではカバーできない具体的な場合が想定されるのであれば,総則においてもこのような規律を設けることを検討するということになろうかと思います。結局,各則を一通り検討してからという要素が多分にございますので,現段階においては,考え方の基本的な方向性として,このようなものでよいかという点について御意見をいただければと存じます。   5の「家事審判事件の申立ての変更」では,手続を著しく遅滞させることとなる場合は申立てを変更することができないという規律部分を除いて,民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   (注)1は,仮に調停をすることができる事項についての審判事件に審理の終結制度を導入する場合には,申立ての変更は,審理の終結に至るまでできるものとすることを提案しております。   (注)2は,仮に選定当事者制度を導入する場合には,民事訴訟法第144条と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   6の「家事審判事件の申立ての取下げ」,「(1)終局審判前の申立ての取下げの要件」では,申立人は原則として自由に申立ての全部又は一部を取り下げることができるものすることを提案しております。   なお,事件類型によっては申立ての取下げを制限すべきではないかと考えられるものもございますが,この点につきましては別途検討することを予定しております。現時点で概括的に見てみますと,本日配布しました「申立ての取下げ制限」と題するペーパーに記載しました各事件類型が,取下げを制限するべきではないかとの見解が示されているものになります。   こちらのペーパーの1のうち,1ポツの未成年後見人の選任と2ポツの成年後見人,保佐人又は補助人の選任は,未成年後見人等が欠けた場合にこれを補充する目的で申立てが義務付けられているものです。3ポツの特別代理人の選任と4ポツの臨時補佐人又は臨時補助人の選任は,いわゆる利益相反状態を避けるために申立てが義務付けられているものです。最後の5ポツと6ポツは遺言関係のものになります。   2は,申立ての取下げが申立人以外の者の損失を与えるとも考えられる場合です。具体的には,いわゆる危急時遺言の場合は遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認を得なければその効力が生じませんので,これを徒過した後の申立ての取下げは問題があるのではないかとの見解がございます。   3は,必要的共同当事者の関係にある場合で,具体的には,遺産分割の際に共同申立人の一部の者による取下げや相手方の一部に対する取下げが認められるのかといった点が議論されております。   4は,その他として,成年後見等の開始について,申立人が自己の推薦する後見人等の候補者が選任される見込みがなくなると申立て自体を取り下げてしまうという問題が指摘されておりますが,他方で,この点につきましては,職権で手続を開始できないこととのバランスをどのよう考えるのかといった点も問題となります。   部会資料の方に戻りまして,(注)では,調停をすることができる事項についての審判事件においては,相手方の同意を得なければ取下げの効力は生じないとすることについて検討することを提案しております。   (2)の「終局審判後確定前の申立ての取下げの要件」では,終局審判後においては基本的には取下げは制限されるという考え方を基礎として,A案では,その例外として,調停をすることができる事項についての審判事件においては,相手方の同意があれば取り下げることができるという規律を,B案では,調停をすることができる事項についての審判事件かどうかにかかわらず,裁判所の許可を得た場合に限り,取り下げることができるという規律を提案しております。   (3)の「取下げの方式及び効果」では,本文①で,取下げは書面によるものとすることを,本文②で,取下げがあった部分については初めから係属していなかったものとみなすものとすることを提案しております。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順次参りたいと思いますが,まず第16の「申立てその他の申述の方式及び申立書等の記載事項」に関しては何か御意見等ございますでしょうか。―よろしいですか。   そういたしましたら,次の「第17 家事審判事件の申立て」の,まず1の「申立ての方式」で,本文①の書面申立てを要求すること,それから本文②で,申立事項,申立ての内容の特定要素という意味で,特にbの方ですね,申立ての趣旨及び理由を必要的記載事項にするというあたり,このあたりはいかがでしょうか。書面を要求することについての考えられる問題への対処は,(補足説明)の1に書いてあるとおりでございますが。―特別御意見等はございませんか。もしよろしければ,先へ参りましょうか。   次に,12ぺージの2の「家事審判事件の申立ての併合」,数個の事件を一つの申立てですることができるものとするという点に関してはいかがでしょうか。 ○豊澤委員 質問があるのですが,ここで想定されている併合の形態,直観的には客観的併合が一番実務的にはイメージしやすいところだと思うのですが,主観的併合の関係はどのように考えられているのでしょうか。 ○川尻関係官 この条文につきましては,客観的併合はもちろん含まれますけれども,主観的併合についても特段排除するものではないという考え方で提案しているものになります。 ○伊藤部会長 それを踏まえまして,いかがでしょうか,豊澤委員。 ○豊澤委員 主観的併合ですとどういうケースを念頭に置かれているのか,教えていただいてもよろしいでしょうか。 ○川尻関係官 例えば,扶養義務者に対して扶養義務の履行を求めるような申立てを考えますと,扶養義務者が複数人いる場合には,この者たちみんなを相手にすることができるというのが現行の規律でして,それに従って一人の扶養義務者のいるところに併合管轄が生じるという規律もございますので,そのようなものを念頭に置いているところです。 ○豊澤委員 今のケースは余り違和感がないのですけれども,その複数当事者と事件の内容とに何らかの実質的な関連性がないと,何でもかんでも併合して申立てができるというような規律になってしまうのは使いづらいのではないかという懸念があります。 ○川尻関係官 御指摘がありました点は非常に悩ましいところでして,事務当局としても議論したのですけれども,ここで何らかのメルクマールとなるような規律を抽出することができるのかという点がネックになろうかと存じます。家事審判手続というのは,多種多様であると同時に,一応は限定されているという理解ですので,これとこれはできるけれども,これとこれはできませんというようなものを,果たして画一的に全部調べて決められるのか,それもケース・バイ・ケースによって考えられるということもあるのではないかということで,何らかの基準を抽出して,それでもってすべてを規律できると考えるのは難しいのではないかと思っております。 ○平山関係官 現行の実務でも,同じ当事者の方で密接に関連するような事件を一つの申立書で書いてきていただいても,事件としてはそのまま,2件であれば2件として扱っていますが,あえて別々に申立書を出してくださいというようなことは言わずに実務上はやっておりまして,それ以上に,およそ家事事件であれば,何でもかんでも,当事者が違っても,あるいは同じ当事者であっても全く進行の態様が違うような事件を一緒にして申し立てていいですよという形を置く実益があるのか疑問があります。逆に,ここで一つの申立てということにしてしまうと,(補足説明)にもございますけれども,民訴費用法との関係で申立て一つにつき800円とか1,200円となっているものについて,そこがそちらとの関係でも一つという解釈をされてしまう危険性はないのかという点について疑問を持っております。 ○川尻関係官 その点につきましては,恐らく非訟事件手続の際にも議論がされましたが,後に裁判所が裁量で分離したり併合したりすることはできるということを前提に,では入り口の段階で一つの申立てでできるというような規律を設ける必要があるのかというところでして,後で裁判所が裁量でできるのであれば,入り口段階において当事者ができるとしてもいいのではないかという御意見が比較的多かったという感触でありましたので,現段階ではこのような形で提案しております。 ○伊藤部会長 事務当局の考え方は,理論的な筋を通してということが一つの柱になっているかと思いますが,それに対してただいま御意見があったのは,実務上どういった事態になるのかということを想定しての御懸念かと思いますが,ほかの委員・幹事の方で何かこの点に関して御発言がございますか。 ○畑幹事 非訟のときに自分がどう考えていたかというのを覚えていないのですが,とりわけ主観的併合の場合は,民訴の方でも民事訴訟法の第38条で緩やかではありますが一定の枠をはめて,その上で更に不都合があれば分離するという規律になっておりますので,御説明があったように何か要件を書くのは難しいとは思いますが,何か考えていただけるとよいのではないかという気はいたします。 ○金子幹事 今後の検討ということにさせていただこうかと思うのですが,今後検討するに当たって,お聞きしておきたいのですが,例えば数人の子に対する監護者の指定の事件とか,先ほど川尻関係官から説明のあった数人の扶養義務者に対する扶養請求事件とか,これは1件として扱っておられるのか,あるいは併合という認識でおられるのか,あるいは同時並行していて印紙も人数分徴収されているのか,そのあたりをお聞きしたいのがまず1点。   もう一つは,これは民訴の先生にお聞きした方がいいのかもしれませんが,全然関連性のないもの,例えば民訴法第38条のような要件を満たさない申立てがあったときは,全体を却下できるのか,それともそれぞれが独立した申立てとして適法と見られれば結局分離して進めざるを得ないのか,そのあたりを伺いたいと思うのですが。 ○伊藤部会長 今の金子幹事の発言のうちの前半部分の実務上の取扱いですが,先ほどの川尻関係官が想定しているようなたぐいの事件に関して,現在実務上どのような取扱いがされているのかということに関しては,どなたかお願いできますか。 ○長委員 子の監護者,あるいは子の親権とか,子供が複数いて子に対する監護権の問題になったときには,子単位で1件ずつにします。ですから,事件番号としては複数立つことになると思います。形態としては,1通で3人のお子さんのことをやっているとすれば,それは3件を併合しているということで考えていると思います。     主観的併合の場合も1通の申立書で申し立てられたといたしますね。それで証拠資料などがあわせて提出されている,違う事件のものが一緒に提出されているとすると,もし分離決定をすれば,提出されているものと同じ謄本をもう一つつくることになります。ですから,それは実は無駄な話なのです。   機会をいただければ次回までに扶養義務者複数の場合の件数について調査します。 ○伊藤部会長 では,恐縮ですが,その点はよろしくどうぞ。 ○平山関係官 長委員からの御発言に若干補足させていただきますと,併合とおっしゃったのは恐らくここで言っている申立ての併合ではなくて,別々の事件で複数の申立てがあるけれども,黙示の手続の併合でやっているという趣旨かと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。   それから,金子幹事の質問の後半の部分の理論的な問題に関してはいかがでしょうか。特に要件を満たしていないような主観的併合の訴えが提起された場合のなすべき取扱いということで,これはどなたか御発言ございますか。 ○三木委員 間違っていれば後で部会長から訂正いただきますが,私の理解では,併合要件を満たしていない場合でも,訴えそのものが不適法却下になるのではなくて,単独のものとして扱わなければいけないと理解しております。 ○伊藤部会長 ほかの委員・幹事の方,今の三木委員からの御説明のようなことでよろしいでしょうか。 ○平山関係官 今の三木委員の御見解を前提にしますと,民訴法第38条の規定が置かれております実益というのは,総額が合算逓減されるというところに主に意味があるという理解をさせていただいてよろしいのでしょうか。要するに,何かそれ以外の法的な効果が伴うものであるかということを,よろしければ教えていただきたいと思うのですが。 ○伊藤部会長 要件を満たさないような主観的併合の訴えが提起された場合に,先ほど三木委員がおっしゃったように,それは不適法になるのではなくて,裁判所が分離権限を行使してうんぬんという,そういう話でしたよね。 ○平山関係官 一つの訴えでできるということの意味なのですが,仮に民訴法第38条の要件を満たしている場合には合算逓減の利益を得られるのだけれども,本来併合できないものが1本の訴状で来た場合には合算逓減を認めることはおかしいという理屈になりまして,訴状は1本でも結局2件別々に訴額を算定して印紙を納めていただくことがあると思うのです。結局,民訴法第38条の要件を満たさない主観的併合の訴えがされた場合の効果としては,却下ができなくてそういったことにとどまるということになると思うのですけれども,印紙を別々に納めていただかなければならないということ以上に申立てに支障を生じさせるようなものではないと考えられます。そうしますと,民訴法第38条類似の申立ての併合を制限する規定を置くことによって何か問題が生じることがあるのかどうかという趣旨です。 ○金子幹事 先ほどの長委員の話も総合しますと,家事審判については印紙代の逓減というメリットは恐らくないですよね。なおかつ,要件をつくっても結局却下できずに別々に進めなければいけないということになると,基本的には今のような広く許す規定にしておいて運用で分離するということとどこが違うのかということを考えたくて御質問させていただいたのです。例えば,それは本来は許されないものなのでということで窓口で指導するというくらいのメリットなのか,何か法的な効果を伴うのでしょうか。 ○平山関係官 先ほど長委員から御指摘があったと思いますが,全く関連のない複数の事件について別々の証拠資料が提出されたときに,こちらの事件についてはこちらの証拠資料だけが関連して,こちらの事件はこちらの証拠資料だけが関連してというときに,申立書はコピーすることになるのかもしれませんが,最初から併合申立てができるということになると,その関係のない証拠資料もすべて両方の事件の記録に分離してつくるということになるのだと思います。他方で,もともとそういった併合申立てができませんよということになりますと,事実上,申立書だけはコピーをとるにしても,その関連する事件の方にだけ関連する証拠資料は記録化しておけばよいという形になるのではないかと思います。 ○伊藤部会長 併合の申立てを認める実益は少ないのではないかということですね。   それでは,ただいまの議論を踏まえて更に事務当局に検討をお願いすることにいたしましょう。 ○高田(裕)委員 確認の質問でございますけれども,この原案ですと,いわゆる甲類と乙類,調停をすることができる事項についての審判事件とそうでない審判事件の併合も可能だということでございますね。その場合それぞれの手続の在り方が異なりますとその調整が今後問題となる可能性がありますが,これは差し当たり解釈にゆだねるという理解でよろしゅうございますか。 ○川尻関係官 いずれも御指摘のとおりと考えております。 ○伊藤部会長 難しい問題ではありますが,そういうことのようです。   ほかにはよろしゅうございますか。   それでは,3の「裁判長の申立書審査権及び補正命令」の本文の部分と,(注)にございます申立書の却下命令に対する不服申立ての可能性に関してはいかがでしょうか。   本文の方はよろしいでしょうか。特に何か御意見ございますか。   そういたしましたら,(注)の部分で,申立書の却下に対して即時抗告による不服申立てができるのは,申立ての却下に対して即時抗告が認められている場合に限るという考え方,これについては御意見はいかがでしょうか。特に異なったお考えや,あるいは疑問の提起などはございませんか。 ○三木委員 あえて異論を言うほどでもないのかもしれませんが,理屈から言いますと,申立書の却下というのは必要的記載事項が書かれていないという形式要件違反の問題で,申立ての却下というのは内容面,適法要件ですので,そこは必ずしも連動しないのではないかというので,説明の意味がやや分からない。 ○伊藤部会長 おっしゃるとおりだと思いますが,しかし,ここに書いてありますように実質的なバランスを考えるということかと思います。 ○三木委員 申立ての却下自体に即時抗告ができなくても,必要的記載事項で形式要件を満たしているのに満たしてないとされた場合には,それは即時抗告ができるという処理はあり得るのではないでしょうか。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。ただいまの点に関して事務当局から何か補足してございますか。 ○川尻関係官 先ほど部会長から御説明がありましたように,バランスという観点から考えてこういう形で提案させていただいた次第です。本案という当事者にとって最も重要なものについてすら不服申立てができないにもかかわらず,申立書に必要的記載事項を書いていないという事項についてだけ即時抗告をして争えるというのはどうだろうかというところがございます。 ○三木委員 実際にそういうところがあるかどうか分からないのですけれども,むしろその逆でして,明らかに形式違反をしてないのにしているとされたときに文句が言えないというのはおかしいのではないかということを言っているわけです。 ○伊藤部会長 おっしゃる趣旨は私にもよく理解できるのですが。 ○髙田(昌)委員 もしも申立書の却下の命令を出すべきだったのに出さなかった結果,訴訟で言うところの係属の状態になってはじめて申立書の不備に気がついた場合は,却下の決定という形になると思うのです。それに対しては即時抗告ができないわけですので,やはり申立て却下の命令も即時抗告できないとしておかないとまずいのではないかという気がいたします。 ○伊藤部会長 そうですね。川尻関係官の言われたバランス論というのは,今,髙田委員がおっしゃったようなことも含んでいるのかもしれませんが。 ○三木委員 これは余りこだわりたい論点ではないのですが,今,髙田委員がおっしゃったのは,本来の形式要件却下を見逃した場合の便法として本体却下を使う場合で,仮に今のような事態が起きれば,適法要件の方の却下ができない事案でも,便法としての却下は,形式要件却下ではなくて適法要件却下の形式で,しかし認めてやらないといけないと思います。 ○伊藤部会長 ほかの方で何か御発言はございますか。   そうしましたら,ただいまの御意見を踏まえてなお検討してもらうことにいたしましょう。   それでは,ここで休憩させていただきます。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは再開させていただきます。   先ほどの続きで,14ページの4の「事件係属の通知等」で,まずこの本文の①,②のあたりはいかがでしょうか。 ○増田幹事 非訟のときにも議論がありましたけれども,ここは申立書の写しの送付を強く望む次第であります。なぜ送付をしないのかという理由がいま一つよく分からないのですが,申立書の送付がなされないことによる具体的な弊害を挙げますと,相手方が早期に準備ができない。このため,実質的に第1回が空転することが非常に多いことになります。相手方としては,受け取った後,裁判所に閲覧謄写の申立てをして,その許可が出て閲覧謄写をして初めて申立ての内容が分かることになりますので,そこから準備をするということになって,第1回には間に合わないことになります。第1回からかみ合った主張を準備するためには,申立書を受け取った上で,その内容を十分に検討することが必要です。   (補足説明)のところに,「申立書の写しをそのまま送付することは,かえって感情的対立を深めたり,無用の誤解を招き,紛争の解決を困難にするおそれもある」と書かれておりますので,このことについて若干申し上げますけれども,まず代理人が申立書を書く場合は,それを相手方が見ることを前提に書いておりますので,これは送って差し支えないだろうと思います。本人申立ての場合ですけれども,通常,本人が裁判所へ来て書く場合ということになると,いわゆる定型書式になります。定型書式はほとんど決まり切ったこと等をチェックすればいいようになっていまして,申立ての理由のところも幾らかチェックをすればいいようになっていますので,これも相手方に送ったところで恐らく差し支えはないだろうと思います。そうすると,残るはマニアックな本人というのが残るのですけれども,かなりえげつないことを書いてくる人がいるということは想像できますが,一般的な制度を考える場合にそういうマニアックな人を念頭に置いて考えるべきではないのではないか,ということです。それから,もう一つ予想される弊害として,DV関係などで住所を知られては困る場合があると思います。この場合は,住所のところを隠すとか秘匿して送るとかいう別途の手当てを規則などで考えればいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 増田幹事からは,事件の係属したことの通知ではなくて,申立書の写しを送付することが手続の適正かつ迅速な進行に資する,あるいは弊害というのは例外的な場合にしか考えられないし,場合によってはそれに対し適切な対応が可能であるという視点からの御意見がございましたが,ただいまの点に関して,ほかの委員・幹事の方,お願いいたします。 ○長委員 実務の分類の仕方なのですけれども,代理人がついた場合については,多くは増田幹事がおっしゃったとおりだと思います。しかしながら,御本人と代理人との関係によっては,代理人が御本人のつくった文書を代理人の名前でお出しになっている場合もございます。それから,御本人が定型書式をお使いになる例も多いのですけれども,それ以外の書面をつけてくる例もそれなりにあります。それから,問題になる例というのは,もちろん最後におっしゃったマニアックな例というのはその場合に当たろうかと思いますけれども,そこまでいかない場合でも問題になる記載がある場合もあります。   そのように考えたときには,確かにかなりの数の事件では申立書を送っていいものもあるのではないかと思うのですが,そうでないものもそれなりにあるということになると,申立書の送付について,例外的なものを設ける必要があると思います。そこで最大公約数のようなものが何かということになったときに,恐らくこの事件係属の通知というところに落ち着くのではないかと思います。この提案の方がよろしいのではないかと思います。 ○杉井委員 事件係属の通知ということになりますと,例えば夫婦関係調整調停の場合,結局,離婚を求めるのか,あるいは円満調整を求めるのかがはっきり分からないことが多々あるわけです。そういう意味では,申立人がどういう申立てをしているかということがはっきりつかめないと,相手方としては,先ほど増田幹事が言ったように,出ていっても,本当にそのとき,その場で調停委員から初めていろいろなことを聞かされて対応する,では返事はまた次回にという感じになってしまうと思うのです。   もう一つ,私の体験ですが,事実関係が不明確なまま調停が進められるので,当事者同士が事実をきちっと把握しないまま調停が不成立になるということがよくあるのです。これは実は調停不成立になってから私は訴訟を受けて,離婚事件の訴状を出したことがあるのですけれども,訴状に非常に細かく具体的にいろいろな事実を書いて提出しましたら,被告の方は第1回期日前に,それなら離婚に応じますということで応じてきて,訴えは取下げということがあったのです。そういうのを見ますと,恐らく,調停の段階で申立書がきちっと送られていれば相手の方も観念するというのですか,ある程度事実は事実として認めて,妻はこう思っているのか,それでは仕方がないなということで調停でまとまったと思うのです。そういうことを考えますと,迅速な紛争解決という点から言っても,申立書は相手方に送る方がいいと思います。確かに例外的に,増田幹事がおっしゃったように,どうしても住所を伏せたり,いろいろ配慮しなければいけないものはあるかと思うので,そこについては手当てはしなければいけませんけれども,やはり申立書を送るというのが原則だろうと思うのです。   それと,民事の調停については,調停の申立書自体が相手方に送られますよね。確かにそのときに感情的なことをいろいろ書いてあって,そのとき相手方はかっかするかもしれないけれども,しかし,そこはまた裁判所に来て調停委員を介して話し合う中で解消する部分もあるし,そういうことを考えるならば,やはり申立書は送付すべきだと思います。 ○長委員 最後の民事調停との対比ですけれども,これはここでは余り取り上げない方がいいだろうと思っています。というのは,やはり家族関係の問題と民事の問題は別でございますので。   次に,調停の趣旨をあらかじめはっきりさせておいた方が紛争解決に資するのではないかということがありました。最近の夫婦関係調整調停の当事者の中には,自分が本当にはどうしたらいいのか分からないという人たちも含まれているということを聞くことがあります。そして,申立ての趣旨で離婚したいということを書かれ,その趣旨が伝わりますと,これは離婚しかないのかと逆に相手方は受け止めてしまうことがあると,こういうことを聞くことがあります。   もう一つの,離婚調停が不調になったにもかかわらず事実が明らかになってなかったという御指摘がありました。これは人訴が家庭裁判所に移管される前にその傾向がありました。それで,人訴制度が家裁に移管された後,これはどこの庁でもそうだと思いますけれども,調停と人訴のつながりを研究しました。確かに不調の理由が当事者にはっきりしていないときもある,これではいけないということで,調停の方では終わらせ方をどうしたらいいのかということを研究しまして,今の実務では,少なくとも終わらせるときに,何が問題点で,どういう対立があって不調になったのかをはっきりさせましょうと,こういう実務になっておりますので,今の点につきましては実務の中で改善されてきているのではないかと思います。 ○伊藤部会長 この点もかなり考え方が―もちろん,どういう事件類型あるいは個別的な事件を念頭に置いてということが当然あるのではありますけれども,考え方としてはかなり対立が今の各委員の御発言の中にはございましたが,他の方々,いかがでしょうか。 ○豊澤委員 事件名だけからでは申立ての趣旨,相手が何を求めているのかがはっきり分からない,例えば夫婦関係調整事件のようなケースについて,最近,一定の数の家庭裁判所では,相手方を呼び出すときに,相手方にも意見を述べてもらうための照会書を送るという取組をしています。その照会書に,申立人が例えば離婚を求めているのかとか,円満調整を求めているのかとか,仮に離婚を求めているとしたときに,財産分与とかその他こういったものまで求めているのかとか,そういった申立ての趣旨,詳しい理由とまではいきませんけれども,少なくとも申立ての趣旨がある程度分かるような形の照会書を同封して期日の呼出しをする。そうすると,相手方の方も,ああこういうことを求めているのだというのが分かって,準備もそこそこできる。結局,その相手方も当事者で,ある意味で事情はお互いによく分かっている関係ですから,そうするとある程度準備もしてきてもらって,第1回もかなり充実して進むということもありますので,事件係属の通知だけで済ますのというのではなくして,そういった取組との組合せといいますか,そういったイメージの実務の運用も今後進めていかなくてはいけないのではないかとは思っています。 ○杉井委員 いろいろな裁判所で,豊澤委員が言われましたような非常に積極的な取組をされているということは私たちも理解しています。それはすごくいいことだと思うのですが,ただ,それは結構裁判所の方が手数がかかると思うのです。申立書をそのまま送るのだったらそれで済むことが,わざわざ照会書をつくり,あるいは申立てのある程度の要旨をつくるということになると,職員の手数がかかるということもあるのではないかと思うのです。だとしたら,申立書を送る方が裁判所としてもよろしいのではないかと思うのですけれども。 ○平山関係官 杉井委員がおっしゃるとおりの部分ももちろんあるのだとは思います。きちっとした送れる申立書をつくっていただいて送れるというのは,もちろん裁判所としても有り難いことだとは思います。ただ,本当に全部の事件で送れるようなものをつくっていただけるかということも考えないといけない。ここで法制度として必ず送らなければならないということになったときには,全く例外なく,ミニマムスタンダードとして送らなければならないということになると思います。逆に事件係属の通知という形で規定を置いたときには,申立書の送付をしていくということは実務的にも全く妨げられないだろうと思っておりますし,ミニマムの規律を定めるという意味では事件係属の通知の方がよろしいのではないかという意見です。 ○増田幹事 豊澤委員の御発言の内容は,やはり第1回期日を充実させたものにする,それで相手方にも主張の要旨を知らせる必要があるということ自体は認めておられるということであって,であれば申立書の送付の方がもっと端的に目的を達成できると考える次第です。 ○伊藤部会長 内容が適切に構成されているものであれば,申立書を送付することが一番,裁判所にとってももちろんですし,当事者双方にとっても望ましいということは恐らく認識の違いは全くないと思うのです。ただ,そうでないものもあるということを前提にしたときに,いわば裁判所の裁量的判断が介在する方式で進めるのか,それとも申立書の送付を必要とするという形で規定を設けるのか,そのどちらがいいのかというあたりが,それぞれの御経験に基づく判断で食い違っているのかと思いますが。 ○増田幹事 申立書を送付しなかったからといって,相手方から閲覧謄写の申請があれば,申立書は主張ですから当然これは認められるものであって,これを許可されなかった例というのは私の経験では今まで一例もないわけです。結局,相手方に分かるわけですから,申立書の内容をわざわざ秘匿する必要はどこにもないのではないかと思っています。 ○伊藤部会長 今の増田幹事の御発言の部分はどうでしょうか。結局は相手方としてはその内容を知る,ないし知ることができる状態になるので,申立書の送付をしないという形で対処しても,実質的意味がどれだけあるのかということに関しては何か御発言ございますか。 ○長委員 今,議論なさっているのは,現行ではないのですよね。新しい,改正後のことですか。 ○増田幹事 現行でもそうです。 ○長委員 そうすると私の認識とちょっと違っていまして,私は,申立書の閲覧謄写を許可する場合はもちろんありますけれども,許可しない場合もあります。それは主張だからといってみんな許可するわけではなくて,そこに書かれている内容によって許否の判断がされていると理解しています。 ○伊藤部会長 そこは事実認識がやや一致してない部分がありますが,どうでしょうか。 ○豊澤委員 その点は現在でも,いわゆる乙類の場合には,審判の申立てから入っても大半は調停を先行させる。したがって,実質的には調停からスタートさせるという,その最初の調停手続の中でどうしているのかというような前提の話で,今の長委員の話される実務になっているのではないかと思います。 ○伊藤部会長 そこは前提の話で,そこの認識が食い違っていると議論の筋道が混乱するように思いますが,どうなのでしょう。 ○長委員 例えば弁護士がおつくりになったものですと,多くの場合それは問題ないことが多いので,許可するという扱いが普通だと思います。しかしながら,一般の方がつくられたものの場合,内容次第によっては,それは閲覧謄写させていません。調停の場合のことですが。 ○増田幹事 調停ですけれども,私だけではないのですけれども,弁護士がつくったものではなくても,申立書自体の謄写が許可されなかったという話を聞かないものですから,これは全部出ていると理解しているのですけれども。 ○杉井委員 それは裁判所によって結構違うみたいです。確かに東京家裁では私は許可されなかったことがあります。原則として認めていませんと。これは調停申立書ですけれどね。でも,大阪の方に聞いてみると,どうもほとんど許可されているというようなことです。日弁連の委員会でいろいろ聞いてみますと,裁判所によってまちまちではありますが,少なくとも現行法では確かに閲覧謄写を原則認めるという規定になっておりませんので,謄写申請しても手に入らないという事態もあるということも当然あるわけですね。 ○脇村関係官 家事でなくて非訟のときに,記録の閲覧謄写について閲覧制限を設ける,例外を設けた際に,申立書の送付にすると結局そこに書かれていたものが閲覧制限の対象になるようなケースについてどうするのかというような御指摘があったと記憶しております。今回のケースも,当局案では,後に出てくる記録の閲覧については一定の限度で裁判所側の弊害がないかどうかチェックするという仕組みをとっておりますので,制度としては,仮に申立書の送付を原則しないといけないとしたとしても,そういった観点からチェックするということは不可避ではないかと考えております。   ただ,原則として申立書の送付として例外を設けなかったのかとの御指摘があると思うのですけれども,まずどういう例外を設けていいのかどうかという難しい問題もあろうかと思います。特に,これは送付申立て段階ですので,事件をいろいろやっていて,事案が分かった段階でその弊害等を認識しているケースもある。記録の閲覧謄写で言えばそういうケースもあると思うのですが,そうでないケースもあると思いますので,どういった要件を組んで,どういった判断を求めていいのかという設定がそもそも難しいのではないかという点も一つ考えたところでございます。ですので,そういった点も考慮すると,平山関係官がおっしゃっていたように,最低限としては事件係属の通知とした上で,これは大丈夫だというケースについては当然申立書の写しを送付するということが規律としてはいいのではないかと考えたところでございます。 ○鶴岡委員 当事者支援という仕事をしている立場から申し上げますと,例えば母子家庭の多い地域に行っていろいろな申立手続などについて説明するというようなことをしております。私が感じますことは,相手とかかわりたくない,申し立てても取れるものはほとんどないというような人が大変多く,そういう方に対して,子どもの福祉を実現するために,親としての関係を回復して少しでもお金をもらう,あるいは親子の交流を実現してはどうかと勧めていくわけです。ですから,私どもは,なるべく家裁を利用してほしい,使い勝手のいいものにしてほしい,敷居を低くしてほしいということを考えておりまして,その場合に,申立書が相手方にそのまま行きますよと言うと当事者が非常にちゅうちょすると思われるのです。現在,いくつかの自治体では申立ての支援ということを考えています。そうすると申立書の書き方の支援をしていくということになりますけれども,申立書がこのまま相手方に行くということになると,紛争が激化しないように当たり障りのない形にしながら主張を書くということをサポートしなければいけないということになると思います。私が申し上げたかったのは,家裁を使いたいけれどもしり込みしている多くの層がある,そこをできるだけ使いやすくするのがこの改正の趣旨だと思っておりますので,そういう意味では申立ての趣旨を伝えるという運用でカバーする方がいいのではないかと思っております。 ○増田幹事 鶴岡委員に質問ですけれども,そういった種類の申立てでそれほど刺激的なことを書く必要があるとは思えないのですが,どうお考えですか。 ○鶴岡委員 養育費の請求だと,趣旨を伝えるだけで相手は分かりますから,それで紛争が激化するということはないと思います。しかし,母親たちが養育費は取りたいが子どもには会わせたくないというようなときに,子どもと父親の関係を回復するように,家裁を活用してはどうかと勧めるなど,葛藤状況をつくらないように支援しているわけです。 ○増田幹事 その御趣旨は分かるのですが,そういう目的で調停なり審判を申し立てたりするときにわざわざ葛藤状況をつくるような文言を入れる必要はないだろうし,相手方に送って困るような内容にする必要もないだろうと思うのです。その点について質問したいのです。つまり,相手方に送って差し支えないものが結局はできるのではないかと思っているのですが。 ○鶴岡委員 実際にはそうかもしれません。ただ,現実に歩いてみますと,どうやって書いていいか分からないという人たちはたくさんいるのですね。そういう層をこれから家裁で取り込んでいくというか,そういう人にも使ってもらいやすいミニマムスタンダードにした方がいいのではないかと思っているわけです。 ○伊藤部会長 鶴岡委員の御発言の趣旨を踏まえて,だからそういう申立書の写しを送ることを原則にした方がむしろいいのだという御意見もありましょうし,しかし,御発言の中にもありましたように,申立書がそのまま相手方に送付されるということが申立て自体を委縮させるという面もあるということで,鶴岡委員の御発言を踏まえて更に両面から検討していただきたいということかと思います。   大分時間も取りましたが,いかがでしょう。相対立する意見があって,学会からおいでの方の御意見が出てないようですけれども,それを踏まえていかがお考えでしょうか。私の正面ということで,申し訳ないのですが,山田幹事,いかがですか。 ○山田幹事 最終的な表現をなお検討できていないのですけれども,理論的に申しますと,今の議論で出ている中では,やはり申立書を送ることが原則であるべきではないかと考えております。理由は既に弁護士の委員・幹事の先生方から出ていることにほぼ尽きるだろうと思いますが,家事審判・調停の手続は非常に手続が柔軟であるからこそ,当事者には自分の置かれている手続上の状況がよく分からない場合があるかと思います。そのような当事者のために,自分に対してどういうことが言われていて,どういう反論の機会があるのかを知る手がかりを与えることが必要ですし,どのような準備をするべきなのか,例えば申立書を見て弁護士を委任すべきか否かといった段階から自ら判断をする材料と機会を与えるべきだろうと思います。ただ,議論が出ましたように,DV関係でありますとか,子の福祉に係るような問題が生じ得るところでありまして,それらは,文言は適当でないかもしれませんが,場合によっては例示をした上で,「相当でない場合にはこの限りではない。」というような例外の表現を入れるということではいかがかと考えております。 ○伊藤部会長 分かりました,ありがとうございました。 ○藤井委員 仮定の問題ですのであまり立ち入るわけにいかないのですが,ミニマムスタンダードとして事件の係属を通知とした場合,裁判所が通知だけではなく申立書を送った方がいいと判断するケースがあるとすれば,その判断理由とか,そういうケースが多いのか少ないのかをお教え頂ければと思います。   もう一つ,申立書そのものを送付したときにはいろいろ弊害が生じ得るということと,係属通知だけではそれ以降の手続が順調に進まないということがあるとすれば,ビジネスの観点からすると,中間的な方法があるのではないかという気がいたします。現物を見たことはないのですけれども,申立書の定型フォームがあるというお話ですから,ある程度事件を類型化して表示することができるということであれば,通知すべき内容を標準化して,以降の手続や調停の進め方をあらかじめ順調に進められるように通知をするというのもあるのではないかと思います。これは法律事項ではなく実務運用の問題かもしれませんが,そういう方法があると思います。そうであれば,法律の書き振りも,申立書の送付なのか係属の通知なのか,二つに一つだけではなくて,第3の書き振りもあり得るという気がいたしました。 ○伊藤部会長 藤井委員の御発言の前半部分,つまり,申立書の送付をするかどうかの判断の基準は実際上どういうところにあるのか,あるいはそれを踏まえて申立書の送付をする例というのはどのぐらいあるのかという点に関してはいかがでしょうか。 ○平山関係官 今現在こういう規定が置かれておりませんので,こういう規定が置かれた場合にどうなるのかというところを推測で申し上げるのは難しい部分はございますけれども,事件係属の通知という規定が置かれるだけでも,裁判所としては相当なインパクトがあるのではないかと思います。したがって,先ほど杉井委員がおっしゃっていましたように,もちろん申立書をそのまま送る方が裁判所としてはコストが低いということはありますので,本当に弊害がある場合を除いて,基本的には申立書を送付する運用になっていくだろうとは思います。 ○伊藤部会長 そういたしますと,これも最後に藤井委員がおっしゃったことで,それから恐らく認識は共通しているかと思いますが,申立書送付をするのが適切な場合が相当数あるし,そういう場合には当然することになるだろう,しかし適切でないと考えられる場合もないわけではないと。その点の認識が共有されているといたしますと,あとは,どちらをいわば最低限裁判所にしていただかなければいけないかということを明らかにするという視点から,どういう形での立法を検討していくかということになるかと思います。 ○金子幹事 事務当局として①のような記述にしている理由をもう一度説明させていただきます。   もちろん,申立書送付ができるケースは,申立書を送付することによって係属の通知をしたことになりますので,内容に問題なければその方が望ましいとは考えているところです。   それから,ここでは調停をすることができる事件ということですので,やがては何らかの形で事件のことを知ることになるのは間違いないわけです。しかし,家裁は,非常に難しい事件,あるいは自傷他害のおそれのあるような当事者もありますので,その辺の見立てをするということと,およそ申立書で何を求めているか分からないようなものもありますので,事件の内容で心証をとる以前の段階でどういうことを求めているかを聞いて整理した上で相手方を関与させた方がいいのではないかということがまず一つあります。しかし,そのような形で一方当事者から相当期間何回にもわたって聞き,相手方は事件係属の事実も知らないというのではさすがに相手方の手続保障の見地から問題だろうということで,少なくとも事件が係属したことについては遅滞なく通知して,事件としては係属しているのですということは最低限伝えなければならないとすることを考えたわけです。そこで,申立書送付を支持される方にお聞きしたいのですが,申立書は直ちに送るべきだということになるのかどうか,申立書送付の時期的な問題についても御意見を伺っておいた方がいいと思うのですが。 ○伊藤部会長 これについては,杉井委員,お願いします。 ○杉井委員 いつまでという明確なあれはないにしても,いずれにしても,今現在,期日の通知を出すわけですよね。それは申立てから二,三週間後ですかね。 ○長委員 通知を発送する時期のことですか。 ○杉井委員 はい,通知を出す。 ○長委員 事件によって異なるでしょうが。 ○杉井委員 早ければ2週間,二,三週間かなと私は思っているのですが,その期日の通知を出すときでいいと思うのです。先ほど山田幹事の御意見がありましたけれども,とにかく事件申立てがあったら直ちに申立書を送らなければいけないとは考えませんで,期日通知と一緒に裁判所は送る,その代わり,そのときに裁判所の判断で,これは送らない方がいいという例外的なものはきちっと設けて,そこの判断で送るものと送らないものが出てきてもいいのではないかと思うのです。ただ,あくまでも原則は送るというのが大事なことであって,確かに平山関係官がおっしゃるように,事件係属の通知をしなければいけないということになれば大体申立書を送るようになるでしょうというのは,そういう期待もありますけれども,裁判所も忙しくて大変だと思うし,そういうのは果たしてどうかということもありますので,原則はきちっと決めておいて,しかし例外的なものについては裁判所の判断で制限できるようにしておいたらどうかと思うのです。 ○平山関係官 今の金子幹事の御質問は,例えば申立書がそのままでは送りにくいような形だった場合に,何回か申立人とやり取りをして補正を促してからでないと送れないようなときに,遅れて申立書が届くのと,速やかに事件係属の通知がされるのとどちらがいいのかという趣旨の御質問と承ったのですが。 ○金子幹事 申立書の中に,裁判所が見ても何を求めているか分からないというものが一定程度あると思うのです。そういうものは,そのまま相手方に送ったところで,むしろ害の方が大きいのではないか。それであれば,申立人を呼んで聞いて,ああそういうことなのかというのを理解した上で相手方に送る。送るといっても,それはきちんとした形で申立書を出し直していただけるのなら,改めて出し直してもらった申立書を送るという話になりますし,裁判所である程度要約して,こういうことを求められているというものを把握した上でそちらを送るということの方がいい場合が相当数あるかもしれません。しかし,そのようなことをしていると必然的に送る時期が遅れるのですね。だから,その辺も踏まえて,むしろ早期に事件係属の通知をする方がよろしいのではないかという趣旨です。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。申立書の写しを送るという考え方の方は,先ほど出てまいりましたが,申立書の最低限の必要的記載事項さえ書いてあれば,内容的なところで一体どういう趣旨なのかということが常識的には分からないようなものであっても,それはやはり申立書として送るという前提なのか,今,金子幹事が言われたように,一定の申立人と裁判所の間のやり取りを踏まえてということであれば,まずなすべきなのは事件の係属の通知ということになるのではないかということかと思いますが,いかがでしょうか。 ○増田幹事 今,金子幹事が言われましたようなケースであれば,裁判所との間でいろいろやり取りをしていただいて最終的にまとまったものでも結構ですし,申立書と最終的にできた書面を一緒に送っていただいても結構ですし,それで送付の時期が多少遅れたとしても,まだ手続が実質的には始まってないわけですから,問題ないだろうと思います。訴状でも時々幾つか準備書面がくっついてくる,送達のときに訴状そのものだけでなくて,何かいろいろ裁判所とやり取りがあったのだなと思われるような形跡のある準備書面がくっついてくることもありますので,多少の遅れは問題ないのではないかと。事件係属の通知だけが来るよりはそちらの方がベターではないかと思います。 ○三木委員 実務の手間という問題は別途あるでしょうけれども,金子幹事がおっしゃったような場合には,やり方としては,第3の方法として,まず事件係属の通知を出しておいて,その後やり取りをして補正したものを後で送るというようなこともある。つまり,問題ない申立書はそのまま送るし,明らかに問題があって補正もきかないと思われるものは,事件係属の通知をして,先ほど言った第3の重畳的にやるというようなやり方もあり得るということで,両者は必ずしも排除する関係にはないように思います。   それから,余り結論に影響を与えないかもしれないのですけれども,私の方で伺いたいことがあります。いろいろ例を挙げられておっしゃる中で,それぞれ出される人によって,ある人は調停申立書を想定して出されて,ある人は審判申立書を出されている。実務を知らないものですから,その辺のイメージがよく分からないわけです。4で出てきているのは,とりあえずは審判申立書に限っての話ですよね。調停申立書と審判申立書がどのぐらいそういう刺激的な記載の点で違うのか知りませんので,仮にかなり違うのであれば,審判申立書に限定してのイメージの話をしなければいけないですし,余り違わないのであればもちろんごっちゃにして議論してもいいのですけれども,そこが私はよく分からなかったものですから,少し教えていただければと思います。 ○増田幹事 今まで議論しているのは,相手方のある事件,つまり現在で言う乙類審判事件を前提としておりますので,乙類審判の場合はいきなり審判申立書を出すということは実務的にはほとんどないし,いきなり審判を申し立てるのは弁護士代理人がついている場合に限られるのではないかと思います。ですから,今の議論の対象からいくと,審判申立書がいきなり出る場合には,ほとんど送っても問題がないようなものに属するのではないかと思います。乙類の場合は,調停から始まって,それが不調になって審判に移行するというケースが圧倒的に多いと思いますので,結局,調停申立書を念頭に置いて議論をしていると,こういう次第です。 ○三木委員 もちろん,今,問題になっているのは調停ができる事項についての審判事件であることは確かですけれども,しかしあくまでも審判事件においてはというあれですから,調停から審判移行の場合は,後に調停のところで議論があるとすれば,現在数が多いか少ないかは別にして,審判申立書の議論だと私は理解して聞いていたので,その前提が違っているのは,恐らく人によってイメージの違うところで議論されている可能性もあるのかなと,今の発言を聞いて思いました。 ○伊藤部会長 ただ,増田幹事の御発言も,当然,審判申立てで始まっているものについても先ほどの御議論は当てはまるわけでしょう。そこで何か違いがあるというわけではないですよね。 ○三木委員 今の増田幹事の御発言だと,審判申立書はほとんど問題がないけれども,調停申立書は問題があるのがしばしばあるというように聞こえましたので,事実は審判と調停では申立書が違うようにも聞こえました。 ○増田幹事 そうすると,金子幹事の方に話が戻ってしまうのですけれども,調停の方は別途の仕組みにするということを今のところお考えなのかどうか。要するに,今は審判の事項だけ議論して,調停は別に議論するということになるのかどうか。そこはいかがですか。 ○金子幹事 ここで想定しているのは審判の申立書です。しかし調停のところは似たような規律になるのかなと考えていますが,ただ,議論する場は別途設けることを考えています。しかも,いきなり審判の申立てがあったようなケースをここではイメージされた方がいい。つまり,調停からの移行の場合は,当然その間に調停を通じてやりとりがありますので,審判移行の段階になっても何を言っているか分からないという事態は想定されないわけです。しかし,一番最初にいきなり審判を申し立てられた場合でも家裁はそれなりの対応をしなければいけませんので,そこでの対応振りについて御議論いただければと思っているわけです。 ○伊藤部会長 先ほど申し上げましたように,審判を想定して議論をしているという前提でも,先ほど来のお考えは別に変わらないですよね。 ○杉井委員 変わりません。 ○増田幹事 審判を前提とした議論であれば,むしろ裁判所の方のお考えが変わるのではないかと期待しております。 ○三木委員 私は必ずしも審判と調停で規律を異にすべきだという意見を持っているわけではないですが,ただ,素人考えでは,刺激的な記述というのは恐らく調停の方に多くて,審判というのは裁判の形式から考えて相対的には少ないのだろうと思ったわけです。ですから,それを前提に議論を進めてもらいたいという趣旨で申し上げたのです。 ○伊藤部会長 三木委員自身の御意見としては,これが審判に関するものだとすると,申立書の送付をいわば原則にするのが適切だという御趣旨になりますか。 ○三木委員 そのとおりです。 ○平山関係官 前に,小田幹事から参考資料10を用いて御説明さし上げたと思うのですけれども,現実に審判申立てがございましても,実際にはまず1回前に調停に付すということもかなり多くの事件で行われておりまして,そこで審判申立てから入った場合と調停申立てから来た場合で規律をたがえるというのは,実務的にはかなり違和感があるところでございます。 ○伊藤部会長 大分時間も過ぎましたが,なおこの点について今の段階での御意見はございますでしょうか。 ○三木委員 結論的には,審判も調停も,山田幹事がおっしゃったように,原則申立書送付ですけれども,例外として住所を抹消したり,あるいは申立書を送付しないような例外規律を設けるのが望ましいと思っています。その上で,なかんずく審判に関しては,刺激的な字句を書かれているのはより例外的な場合が多いと思いますので,そこで調停を持ち出して議論するのはややミスリードだということです。 ○伊藤部会長 おっしゃるとおりかと思います。   ということで,原案の考え方について,これを支持する御意見も有力ですし,他方,手続的にどのような仕組みをつくるかということはなお検討しなければいけませんが,申立書の送付を原則とするというお考えも何人かの委員の方から有力に述べられました。他方,しかし実質においてはそれほど違いがないのではないか,第3の考え方もあるのではないかという御意見もございましたので,それを踏まえてもう一度事務当局で検討していただくということでよろしいですか。   ちなみに,15ページの(注)の部分ですが,当事者以外の審判を受ける者についての取扱いで,この(注)の第2段落ですね,「相当と認めるときは,事件の係属を通知するものとすることが考えられるが」という点,このあたりはいかがでしょうか。ここで考えられている考え方について格別の御異論はないと承ってよろしいですか。 ○高田(裕)委員 内容の理解にもかかわりますけれども,卒然と読ませていただきますと,「相当と認めるときは」という言葉遣いにどうも違和感が残るような気がいたします。後に出てまいります,いわゆる必要的審尋と申しますか,不利な判断を受ける場合における意見陳述の機会の保障という問題にもかかわってくると思うのですけれども,どこかの段階で事前にそうした意見陳述の機会を与えるべきだという議論とこの通知という手続をどういう関係でとらえるか。基本的には意見陳述の機会を与えなければいけない,それに加えて通知をなお必要とするような場合があるとすればどのような場合かという趣旨で読ませていただきますと,そうかなと思うわけでありますけれども,もし,不利な判断をされる可能性があるにもかかわらず意見陳述の可能性がない場合が残るとすれば,「相当と認めるときは」という言葉遣いには若干懸念があるような印象を持ちます。そこで,この「相当と認めるときは」というのがどういう場合を想定した議論なのかということについて,もし可能であれば御説明いただければと思います。 ○川尻関係官 今,御指摘がありました点は,要は手続保障をどのように図るべきかという点に収斂されるのだろうと思います。その一つとして,まずは事件係属の通知というのがございます。それとはまた別に必要的審問といいますか審尋といいますか,要するにその人から話を聴かなくてはいけないという規律を設けるということももう一つ考えられる事柄でして,これらの組合せの問題になると現段階では思っております。ですから,現実に規律を設ける際には,今,「相当と認めるとき」というのはちょっと違和感があるという御指摘もありましたし,個別に規律していって,この事件類型では事件係属の通知と必要的に話を聴く,あるいは,この事件類型では事件係属の通知だけをしておけば,あとは必要と認める人に適宜参加していただくという方式をとる,あるいは,この事件類型ではそのどちらも必要ないというような形で規律していくことになるのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 高田委員,そういうことでよろしいですか。 ○高田(裕)委員 基本的に組合せだということは結構だと思いますが,事件係属の通知だけをして,あとは参加にゆだねるという選択肢をとった場合に,「相当と認めるときは」という言葉遣いに若干違和感を感じるという趣旨でございます。趣旨は伝わっていると思いますので,その点御確認の上,法制化の際に表現を考えていただければと存じます。 ○髙田(昌)委員 正しく理解しているか分からないのですけれども,前に議論した,例えば権利参加のような参加制度とこの事件係属の通知というのは,どのように関係しているのでしょうか。事件係属の通知を与えることによって,こういった審判を受ける者についても参加する機会を保障するという意味で理解しておいてよろしいですか。 ○脇村関係官 前回の御議論で,一定の類型については権利参加を認めるべきだという大枠のコンセンサスが得られたものと当局としても理解しているところでございます。ただ,どの事件でどの人について認めるかについては当局としても今後更に細かく検討しないといけないと思っていますが,その際に,権利参加の対象ということをうたったケースについては実質的に権利参加を保障するために事件係属の通知をしないといけないという議論になっていくのだと理解しております。その上で,権利参加のケースと陳述聴取の対象がずれるかどうかについては,これは正に個別的な検討になりますので,恐らくほとんど一致することになると思うのですけれども,その点についてはこれから検討させていただきたいと考えているところです。 ○伊藤部会長 よろしいでしょうか。   ほかにこの点に関しては。 ○畑幹事 時期の点なのですが,確かに直ちに通知をするのが適当でない場面はあると思いますが,しかし時期を限定しないというのも何か妙な気がいたしますので,むしろ,「遅滞なく」とでもしておいた上で解釈にゆだねるというぐらいが適当ではないかという気がいたします。 ○伊藤部会長 その点はよろしいですね。 ○金子幹事 検討させていただきます。 ○平山関係官 今のところは,仮に4の本文の方の①で「遅滞なく」という用語を使い,(注)の方の規律においても「遅滞なく」となったときに,同じぐらいの時期と解釈されるおそれがないのかなというのが少し気になりました。 ○金子幹事 解釈の幅の問題かなという気もするのですが,参加の機会の保障という意味では,余り進んだところで初めて事件係属を知るというわけにもいかないので,用語についてはまた検討させていただきます。 ○脇村関係官 いわゆる甲類審判事件の必要的陳述聴取というのは,正に先ほど高田委員がおっしゃっていたように,不利益の判断を受けるケースについては聞く,認容審判するときには聞くという規律になっておりますので,それとのバランスをどう考えるかについては我々としてももう少し考えたいと思っています。場合によっては甲類事件と乙類事件によって多少違う可能性が出てくるというのは認識しているところですが,そうはいっても,それほど遅れて送るということは恐らく想定されないと思います。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,この点は,ただいまの御意見を踏まえて,もう少し詰めた制度設計の基礎の議論を提起できるように今後の検討をしてもらいたいと思います。   よろしければ次のところに参りたいと思いますが―どうぞ。 ○増田幹事 先ほど調停は除外するということだったのですが,全く別の話です。このあたりの項目でしか言う機会がないと思うので申し上げますが,DV保護命令がかかっていたり,住民基本台帳法によって住民票が容易にはとれないという方を相手方とする調停審判の申立てが事実上できなくて非常に困っているという状況があります。DV保護法やその関係の法令が,ほとんどがやりっ放し,出しっ放しで,後のケアが全くないものですから,保護を受けた人が自発的にアクションを起こさない限りは最終的な紛争解決にならないという現状があって,このことは各地の弁護士会からいろいろな事例の指摘がございます。少なくともそういう相手方に対して調停を起こす方法を考えていただきたい。要するに,事件係属の通知にしろ,ここでは事件係属の通知となっていますけれども,そういうものをその人に対して送付して実質的に審理を開始する方法を一つ検討していかなければならないと思っております。 ○伊藤部会長 ただいまの御指摘に関しては事務当局で少し研究をした上で,どのような形での対応が可能かどうかを検討させていただきます。   それでは,先に進んでよろしいでしょうか。   「5 家事審判事件の申立ての変更」に関しては,まず本文の部分に関して何か御発言はございますか。このような考え方で今後の検討を進めるということでよろしいでしょうか。   もし格別の御意見がなければ,(注)の1及び2についてはいかがでしょう。「申立ての変更は,審理の終結に至るまでできるものとする」というのと,選定当事者の関係での申立ての追加などですが。 ○三木委員 (注)の1,2については,この御提案のとおりで賛成です。   あわせて,本文に関係することで,これは非訟のときに申し上げたことの繰り返しですが,ここでの申立ての変更というのは,いわゆる追加的変更を意味する変更ですので,このように当事者のイニシアチブで後発的な追加的併合を認めるのであれば,ページは戻りますけれども,12ページの2の申立ての原始的併合を認めないという理屈はないだろうということを繰り返し述べたいと思います。 ○伊藤部会長 他に特に御意見がなければ,ここに掲げられている考え方を前提にして今後の検討を進めることにいたします。   続きまして,「6 家事審判事件の申立ての取下げ」で,まず(1)の「終局審判前の申立ての取下げの要件」で,原則は特段の制限を設けないということで,それが本文。そして,(注)のところで,この種の事件に関しては,事件係属の告知がなされた後においては,相手方の同意を得る必要があるということに関して,しかしなおその点に関して検討すべきことがあるというのが18ページの上の段落のあたりに書いてございますが,(1)の審判前の申立ての取下げの原則的な考え方及び(注)に掲げられている問題に関してはいかがでしょうか。 ○増田幹事 任意に取り下げられるということについては,2点ほど問題が指摘されておりまして,一つは,後見人選任のような,この「申立ての取下げ制限」と題する資料に書かれている上の類型ですけれども,審判が出る前に事実上後見人がだれであるかが分かる,あるいは場合によっては内定した後見人候補者が実質的に活動を開始する場合がある。そういう人選や候補者の活動が気に入らないということで取下げがあった場合には,後見開始の必要があるにもかかわらず後見開始の審判ができないという事態が起こる。これはいかにも被後見人となるべき人の保護に欠けるものではないかという指摘が一つです。   もう一つは,これは相手方のある事件で,ここには第3の類型として遺産分割が挙がっておりますが,いろいろ努力をして長いこと手続を進めてきたにもかかわらず,最終局面に近くなって,どうも自分に具合が悪い審判が出そうだということになって取り下げられるということになれば,今までつき合わされた相手方の手続負担はどうなるのかという問題です。これは遺産分割だけではなくて,実際に,子の監護者の指定などで,家庭裁判所調査官の調査報告書が出た段階で自分に不都合だったために取下げがあって,結局その段階では結論を出せなかったという事例も報告されておりますので,任意の取下げということについては少し検討が必要かと思います。 ○伊藤部会長 ただいま,増田幹事から,二つの類型の事件について,それぞれ任意の取下げを自由とするということについて,それを制限すべき場合があるのではないかという御指摘がございましたが,この点に関してはいかがでしょうか。 ○平山関係官 今の御指摘は,いずれも自分に望まない結果が出そうな場合に取下げを任意で認めてよいかという御指摘だと思いますけれども,一つ目に御指摘のありました後見等開始につきましては,「申立ての取下げ制限」というペーパーの4に書かれておりますとおり,職権で手続を開始できないこととのバランスは考えておく必要があるのだろうと思っております。仮に公益的にどうしてもこれは問題だと考えられましたら,今回の部会資料の後ろの方に検察官への通知というような規定の御提案もされておりますけれども,そういった形で,検察官から申し立てていただければ判断するということも可能でございますし,そういった申立てもないのに裁判所が職権でそういったことをしてしまってよいのかという疑問点がございます。   それから,2点目にございました遺産分割,子の監護者指定等でございます。今,同じペーパーの3でとおっしゃったのですが,ここで書かれているのは,必要的共同当事者のときに一部の者に対する取下げがどうかという整理だと思いますので,むしろ(注)の論点にかかわる問題かと思っておりますけれども,これにつきましては,別途の申立てを新たにしていただくということは妨げられるわけではございませんし,事実の調査を前の記録についてしてほしいというようなことをおっしゃっていただければ,事実上裁判所もそれを相当程度尊重するということが想定されます。他方で,非訟のときの議論でも出たところですけれども,民事訴訟の場合には棄却の裁判を求めるという前提があって同意権があるということだと思いますが,非訟事件でそのような本案裁判を受ける権利という申立てが何らない以上,同意権を基礎づける論拠は何なのかということについては疑問を持っております。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,二つございますので,まず後見人の選任のこの類型の事件について,今,平山関係官からも御指摘がありましたが,「申立ての取下げ制限」の4に書いてあるような点を考慮して,しかし他方,増田幹事が先ほど言われたような問題の所在も考えた上で,何らかの制限を設けるべきかどうかという点について御議論いただきましょうか。この点はいかがでしょうか。平山関係官の御意見は先ほどお話があったとおりですが。職権で手続開始できないこととのバランスというのはここに書いてあるとおりですが,制限するというのは,いったん申立てをして,非訟事件の裁判権の発動を求めた以上という,理屈としてはそういうことになるのですかね。それでいけるかどうか。実際上何か問題があるというのは増田幹事の御指摘のとおりだとは思うのですが。 ○脇村関係官 私の聞いている範囲では,職権で開始ができないということから現行の実務等では取下げについては制限できないというのが支配的な見解であるということを前提に,こういう濫用的な問題があるというケースについては,先ほど検察官という話もありましたけれども,別途,成年後見の場合ですと市町村長が申立てもできますし,ほかの親族もできますので,そういった人に連絡をとった上で申立てをするというように実務上対処していると聞いていますし,裁判例の中には,いわゆる権利濫用というか,実際上の解釈として,取下げの効果を認めなかったケースもあると聞いています。ただ,いずれも職権開始でないので一般則として認めるのは苦しいというのが恐らく現行法の解釈で,それに対してそういった対応で実務上は対応しているのだということで,今のところ一応の解決というか対応はしているのだと思うのですけれども,実際上そういった事件がどの程度あるのかとか,皮膚感覚で結構ですので,教えていただけると大変助かるなと思うのですけれども。 ○伊藤部会長 今の脇村関係官からの質問に関しては,裁判所の委員・幹事の方,どなたかお願いできますか。 ○長委員 成年後見開始の申立てをした後に取り下げるということは,あり得ることだろうなとは思うのです。現にそういう裁判例があるわけですから。ただ,それほど多いわけではないとは思いますけれどね。申し訳ありません。 ○川尻関係官 確かに濫用的な申立ての取下げというようなものはあるので,当初この資料をつくっていた際には,これは必要な方向に行くのではないかと思っていたのです。ただ,その後更に検討してみまして,総則規定として一律に取下げの制限をするということになりますと,本当にその取下げを認めても問題がない場合にまでその規制がかかってきてしまうのは,逆に問題になるのではないかと考えるに至りました。例えば,保佐や補助の開始の申立てをしたけれども,保佐人に予定していた息子さんが急きょ海外転勤になってしまったので,いったん仕切り直しをしたいというような場合も十分あるかと思うのですが,そのような場合は仕切り直しを認めてあげても何の問題もない事案ではないかと思われます。ですから,こういう提案の形をしておいて大変恐縮なのですけれども,ケース・バイ・ケースになるのかなというところが現段階での個人的な感触になっております。 ○増田幹事 先に解決法を申し上げなかったのですが,ケース・バイ・ケースになるということは,取下げを裁判所の許可にかからしめるという方向でいかがかと思っている次第です。 ○平山関係官 先ほど長委員が申し上げたとおり,実務的には,もちろん濫用的な事例がゼロとは申しませんが,数は多くないと思います。それにもかかわらず,圧倒的多数の問題ない取下げについてまで許可の縛りがかかるということになってきますと,そこの目的についてどれだけ審理しなければならないのかということで,やはり濫用的な事例は,一般原則というよりは,例外的な,先ほど脇村関係官がおっしゃったような措置で対処していく方が望ましいのではないかと思います。 ○豊澤委員 取下げの背景にはいろいろな事情がある場合もあって,一律こういうケースだったら不当だというイメージの場合もあれば,そうではないケースもあるわけですが,そのときに一番重たく,取下げを認めないとか制限をかけるとかというのは仕組みとしていかがかと思いますし,裁判所の許可と言われましても,甲類事件は軽いものから重いものまでいっぱいあって,ほとんどのケースは取下げを認めても問題がないにもかかわらず,取下げを許可にかからせてしまうと,裁判所の負担も大きくなりますし,かつまた許可するかどうかの要件をどこで見るのだというようなこともあります。最終的に濫用的な取下げについてどう対処するかというのであれば,それはそれに絞った形で,何らかの仕組みを考えるなり,―現行法の対処方法でいくのか,それに何かプラスアルファを乗せるのかというのはあるかもしれませんけれども,―いずれにしても一般的な形で全部を許可にかからしめるというのは重たいと思います。 ○増田幹事 裁判所の方にお伺いしたいのですけれども,こういった後見人選任の類型の事案の取下げというのは,本当に感覚的な話で結構ですけれども,そんなに多いのでしょうか。 ○長委員 感覚としては,そんなにたくさんあるわけではないと思います。 ○平山関係官 割合としてはそれほど高くないと思うのですが,手元の司法統計で見ておりましても1割未満ですけれども,全体の母数が大きいものですから,後見等開始事件が3万数千件ある中で3,000件あれば,3,000件というのはそれなりのボリュームだという意味で申し上げたということです。 ○伊藤部会長 それでは,この点もいろいろ御議論がありましたので,それを踏まえて検討させていただきます。   それから,もう一つの,調停をすることができる事項についての審判事件における取下げを相手方の同意にかからせるということについても,先ほど増田幹事からの御意見の開陳がございましたが,これに関しては,ほかの委員・幹事の方,何か御発言ございますか。 ○畑幹事 これも非訟のときに申し上げたことと同じですが,ここは増田幹事に賛成であります。嫌ならもう一度申立てをして事実の調査をするというお話もありましたが,それはどうも便法という感じがいたします。 ○伊藤部会長 (注)の18ページの第2段落の点,「この点については」うんぬんというので問題点の指摘もありますよね。相手方が手続に全く関与しようとしない場合等々で,こういう規律があると非常に手続が窮屈になってしまうのではないかという問題の指摘もございますが,このあたりはどうでしょうか。 ○長委員 今おっしゃったのは,(1)の(注)のところでよろしいのですね。 ○伊藤部会長 はい。 ○長委員 前にもちょっと申し上げましたけれども,このとおりでして,ここは本当に困るのです。いや,こういうことがよくあるのです。そうすると,本当に同意が必要なのかと,実務家の感覚としてはそういう気持ちです。 ○伊藤部会長 という御発言もございますが,いかがでしょう。 ○畑幹事 そこは何か工夫を考えることができないでしょうか。例えば,「相手方が異議を述べない場合は」とすればいいのではないでしょうか。 ○高田(裕)委員 私も同じことを考えまして,「異議がある場合はこの限りでない」というのが畑幹事の御趣旨だと思いますが,その前提として,ある申立人が取り下げたいと欲している,しかし他に続行したいという当事者がいる場合においてどうするかですけれども,いろいろな組み立て方があると思います。取下げの意思表示をした時点で直ちに取下げの効果が発生して,あとは別件を立てて,先ほどおっしゃったように前の事件の記録について事実の調査をするという組み立て方もあるとは思いますけれども,審判手続では反訴にあたるものがございませんので,申立人がいるがゆえにその手続に乗ってきた,しかし申立人が取り下げるならば続行したいという場合もあり得ると思うのです。そういう場合,実務上は何らかの手当てをされているような気もするのですけれども,そのあたりはいかがなのでしょうか。そういう手当てができるならば,実質は,同意ないしは異議がないことですか,異議を要件とする場合と大きな差がないのかなという印象を持ちますけれども。 ○長委員 今の設例は,申立人がある期日で取り下げた,同じ期日に相手方の方が,手続を進めてほしい,したがって新たな申立てをしたという場合にどうしているかということですね。 ○高田(裕)委員 はい。 ○長委員 それは,取り下げるという意思表示をした段階でその事件は終了しまして,新たな申立てをしていただく。申立てのためには一応申立書を出していただいて,新たな申立てがされた後,事実上同じ調停委員会,同じ審判官がやることにするか,あるいは,いろいろな事情があればもう一回仕切り直しをするか,そういうことになると思います。取り下げた方の記録については,いわゆる曳き舟のようにして利用することはあります。 ○脇村関係官 御質問したいのですけれども,昔,こういう乙類的なもので相手方も一定のものを欲しいとか,例えば財産分与だと反対に欲しいというようなこともあるかもしれないのですけれども,相手方も何か欲するときについては,取下げとか関係なく,それ以前に別途申立てを促しておいて,申立人が後でやめたと言ってもそのまま続行できるような形で工夫している例があるというようなことも聞いたことがあるのですけれども,そのように運用が定着するということであれば,あるいは原則認めなくても不都合はないのかもしれないのですけれども,実際問題,相手方が別に申立てをしたりするケースというのはどれぐらいあるものなのでしょうか。 ○長委員 何例か体験しています。今どういう状況にあるかということは双方共通認識が得られるようにしています。相手方が,申立人によってこれが取り下げられるのではないか,しかし自分としては審判を求めたいというときには,取下げよりも前に申立てをすることもあります。取り下げた後に申立てをすることもあります。件数としてはそれほど多くありませんけれども,そういうものもあることはあります。 ○金子幹事 しかし,そういうことを想定して申立てをさせておくというような運用は無用な申立てを誘発することになって,いろいろな負担も考えますと,何か事態が起きたときに解決する仕組みをつくった方が手続としてはいいのではないかという気がしているのですが。 ○長委員 補足しますと,取下げがあった後,申立てがされるということもあるのですけれども,取下げがあってしばらく冷却期間といいますか,そういうものが置かれるものの方が恐らく多いのだろうと思います。現に曳き舟になって来るような場合に,例えばこれは1年前に申し立てられているとかということが気付かれるものがありますし,あるいはもっと前のものもありますので,近接しているものは少ないと思います。ですから,先ほどの相手方が取り下げることをおもんぱかって自分が申し立てたという例も,これはごく少数ですがあります。明確にこの例はそうだというのを私が確認した例もあるのですけれども,それほどありません。 ○川尻関係官 この点につきまして,ほかの似た非訟手続はどうしているのだろうと考えまして少し調べてみたのですけれども,まず労働審判は,これは本来訴訟でやるべき最も当事者の対立が激しいものと言われているものですが,相手方の同意は要らないと考えられております。棄却による既判力を得られない以上は,あくまでも事実上の利益にすぎないものであって,相手方の同意は不要であるという理論構成になっているようです。それから,民事保全法も債務者の同意は不要となっておりまして,これは民事保全法第18条なのですけれども,保全異議又は保全取消しの申立てがあった後においても債務者の同意を得ることを要しないという形になっております。そういったところのバランスで考えますと,取下げに相手方の同意を要するというのはちょっと難しいところがあるのかなというのが現段階の感触でして,それが法律上明文の規定で守るだけの利益といえるのかどうかという点は,慎重に検討する必要があるのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 ただいまの川尻関係官からの指摘に関しては何か御発言ございますか。 ○増田幹事 まず,先ほどの子の監護者の指定については保護される対象が別に存在するということで明らかに事案が違いまして,一方的に取り下げて不安定な地位に置いていいのかどうかという問題があります。   それから遺産分割については,これも余り病理的な現象を前提に言うのもどうかとは思いますが,一般的に言っても保全とか労働審判に比べると非常に長く時間のかかる手続であるということが言えると思います。 ○伊藤部会長 それではこの程度にして,いろいろな考慮すべき問題,それから想定される事態,あるいは考慮しなければならない手続の基本原理などについて御発言いただきましたので,検討を続けさせていただくことにいたします。   次に(2)の「終局審判後確定前の申立ての取下げの要件」で,先ほど説明がございましたように,A案,B案ということで,A案は,終局審判がなされた後は取下げをすることができないという原則を立てながら,調停をすることができる事項についての審判事件に関しては,相手方の同意にかからせるという考え方で,B案は,事件類型を問わず,裁判所の許可があれば取下げができる,なければできないという,いわば一律の要件を設ける,こういう二つの考え方がございますが,このあたりに関してはいかがでしょうか。 ○豊澤委員 A案は,基本的には終局してしまった後は申立ての取下げを許さないとした上で,例外的に乙類についてだけ審判後は同意を条件とするというもので,これは,終局審判まで行った後に取下げをして,民訴のように再訴の制限にかからないのだとすると,明らかに手続や審判が無駄になってしまうのを防ぐ意味かと思います。乙類に関して言えば,当事者間の合意で別の和解ができたとか合意ができたのなら,それはそれで構わない,そういう任意処分を許している事件ですので,ただし書で当事者の同意がある場合に申立ての取下げを許すことは考えられます。その意味で,A案は妥当かと思います。ただ,B案の方は,甲類,乙類を通してということになり,事件の種類も本当にいっぱいあって,先ほどの話になりますが,許可の要件,基準がますますわけが分からないということになりますので,実務的にはやはりA案でお願いしたいと思います。 ○伊藤部会長 豊澤委員からはA案支持の御意見のようですが,ほかの委員・幹事の方,いかがでしょう。A案ということでこの場の考え方がほぼ一致しているという認識でよろしいでしょうか。 ○畑幹事 このA案,B案というのを分かりやすく二つ示しておられると思いますが,非訟で同じような議論をしたような気もしますが,いろいろな組合せが可能なのだろうと思います。そして,調停をすることができる事項についてはA案ただし書でよいかなと思います。他方,甲類のようなものについて申立てを取り下げることが一切できないということで,何か不都合はないのかなということが少し気になるところではあります。実務的には全く問題ないということであればいいのかもしれませんが,少し気にはなります。 ○伊藤部会長 今の畑幹事からの問題提起に関してはいかがでしょうか。調停をすることができる事項についての審判以外の終局審判に関しては,取下げはおよそ不可能というか,許さないということで,何か問題が生ずるおそれはないのかということですが,いかがでしょう。特段のことがなければ。 ○金子幹事 甲類でも背景に紛争性があって,その紛争が裁判外で解決したことを理由に取り下げる場合など,取下げ相当という場合があるのではないかなという気がしています。ちょっと考えてみたところでは,例えば相続人の廃除などは,被相続人になる人が宥恕して取り下げたいというような場合は取下げを認めてもいいのではないか。これは,今,乙類とされていますが,調停での合意はできないという意見もあります。そのような,裁判外で実質和解ができて,紛争が解決して取り下げるというケースが甲類にあるとすれば,考える余地はあるのかなと思いました。 ○伊藤部会長 今の金子幹事からの指摘に関してはいかがでしょう。 ○長委員 それは甲類でもいいという議論はあるかもしれませんけれども,相続人の廃除は設例としては微妙な感じがするのです。何か別の例で甲類の審判を求める実質がもうなくなってしまったような場合というのが,すぐには思い浮かばないのですけれども,あるかもしれませんね。そうしたときにどうするかという問題だと思うので,そこは今後の検討にゆだねるしかないと思いますけれども,その余地は検討してもいいのかもしれません。 ○豊澤委員 ここは,終局審判をして,即時抗告が可能なケースで,その間に何か事情が変わってという話ですから,あるいは審判が出る直前ぐらいに事情が変わって,それが反映されないというような場合の問題だと思います。その前提で,背後に当事者間で実質解決可能な紛争があるようなケースは極めて少ないと思うのです。仮に本当にそのように事情が変わって宥恕がされたというのなら,それは事情が変わったのだからというので改めて取消しの申立てをするなりすればいいだけの話であって,そういう極めて少ないケースを念頭に置いて甲類に関しても縛りをきつくするというのはどうかと思います。ケースが全くないとは思いませんけれども,数として極めて少ないであろうケースに比重をかけるのはバランスが悪いのではないかという気がします。 ○脇村関係官 今,いろいろな人の御意見を聞いていて,机上の空論ですけれども,例えば,特別養子縁組の申立てをして成立したのだけれども,実父母が即時抗告した,ただ事情の変更で実父母が育ててもいいというような状況になったときに,取下げ等で解消する実益がもしかしたらあるのかもしれないのですけれども,よく考えれば,そういったケースは,そういった事情をくんで高裁がひっくり返せばいいのかなという気もしたものですから。ただ,確かに適切な例が私個人も浮かばなかったですけれども。 ○伊藤部会長 そうしましたら,考え方としてはA案の考え方がこの場の大勢であるという前提で,しかし,申立てを取り下げることができないと本文の方で割り切ってしまうことで何か問題がないかということは,事務当局で関係の方に御教示をいただきながら,念のために研究するということにいたしましょう。   (2)はそれでよろしいでしょうか。   そういたしましたら,次の「(3)取下げの方式及び効果」,ここは余り問題はないかと思いますが,何か御意見はございますか。   もしよろしければ,この点はここに掲げられているとおりで今後の検討を進めさせていただきたいと思います。   それでは,次に「第18 審理手続」についての説明をお願いいたします。「第18 審理手続」の1,2,3のあたりまでですね。お願いします。 ○川尻関係官 第18の「1 家庭裁判所及び当事者の責務」では,民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   「2 期日及び期間」では,基本的には民事訴訟法と同様の規律を設けるものとすることを提案しております。   なお,最初の期日の変更につきましては,最初の期日とその後の期日を区別する理由はなく,また公益性の観点から事案によっては迅速な対処が求められるものもございますので,期日の変更については裁判所の適宜適切な裁量にゆだねることとして,民事訴訟法第93条第3項ただし書に相当する規律は設けないものとしております。   「3 手続の非公開」では,現行家事審判規則の規律を維持するものとすることを提案しております。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,順次御審議をお願いしたいと存じます。   まず1の「家庭裁判所及び当事者の責務」に関してはいかがでしょうか。 ○杉井委員 私は,もちろん当事者が信義に従ってできるだけ誠実に家事審判手続を追行しなければいけないという,いわば道義的な義務といいますか,そういうものがあることには全然異論がないのですけれども,これを法律で規律するのはどうなのかと思います。民訴の場合は当事者主義ですので,当事者のそういう意味の責務が規律されてもいいと思うのですが,審判手続は基本的には職権主義であるわけですから,裁判所の責務と当事者の責務が全く同列の形で規定されるということにはちょっと違和感を感じています。 ○伊藤部会長 杉井委員から,民訴には類似の規定がございますが,審判手続の特質上,それとは同一には論じられないのではないか,こういう趣旨の御指摘がございましたが,いかがでしょうか。 ○長委員 実際に家事審判をやっておりまして,裁判所の職権主義と言われても限界があるものでして,職権探知主義といえども,当事者の方たちに公正な立場で信義に従った手続運営に協力していただけなければ法の目的というのは遂げられないという意を大変強くしております。職権探知主義の文献を読むと,昔のものはいかにも裁判所だけが証明責任を負うかのように書いてあるのですけれども,どうしてそうなっているのか,いつも疑問に思っております。むしろ,当事者も責任を負うし,裁判所も責任を負う,みんなが責任を負わなければならないと思います。真実を求めるのだと書いてあるにもかかわらず,裁判所だけにその職責を負わせるとしたら,それはおかしいのではないか,当事者も裁判所も一緒に負うことによって初めて実現できるのではないかと実はかねがね考えておりまして,是非この機会に先生方の御意見を伺いたいと思っております。 ○伊藤部会長 こういう責務を明らかにするという意味での理念にかかわる規定を設けるか設けないかということですので,是非,学者の委員・幹事の方に積極的な御発言をお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○畑幹事 いずれにしても理念的な規定であろうと思いますので,強い意見ではないのですが,仮に職権探知主義であるとしても,当事者が信義に従い誠実に追行しなくていいということは恐らくないのではないかと思いますので,原案の方に賛成です。 ○三木委員 この規定をめぐっては,確か非訟のときも同じような議論があったと思いますが,結論は必要だということですけれども,これは畑幹事がおっしゃるような理念的な規定ではなくて,民訴の方では効力的な規定として使われるケースも多々あるわけで,私は当然効力的に使われることもあり得るという前提ですし,どちらかというと強い意見です。   それから,余りこういう場でごちゃごちゃ言うのは好みませんが,職権探知主義だから要らないということにはもちろん論理的な関係はないだろうと思います。人事訴訟法は民事訴訟法の特別法ですから,民事訴訟法の信義誠実規定が人事訴訟にも恐らく適用されているのだと思いますが,あれは職権探知主義のもとで信義誠実規定が適用されているわけですから,職権探知主義だろうと信義誠実規定と背馳するということはないと思います。   もう一点,これも余計ですけれども,長委員がおっしゃったような職権探知主義の理解は,長委員自身がおっしゃったように古い文献には書かれておりますけれども,最近はそういう理解をしない人が多いし,またそう書いていないものもあるのではないでしょうか。 ○伊藤部会長 長谷部委員はいかがでしょう。 ○長谷部委員 私は三木委員よりも畑幹事と同じような考え方でありまして,確かに公正かつ迅速に行われるように努めるのは当たり前と言えば当たり前のことでありまして,あえて書く必要があるかどうかということは問題だとは思いますけれども,書いてまずいということもないだろうと思いますので,原案どおりで結構かと思います。 ○髙田(昌)委員 既に先生方が言われたことなのですけれども,杉井委員がおっしゃった点は,35ページの「当事者の事案解明協力」のところで職権探知主義とかかわってくる問題であり,それに対して,ここでは,信義誠実の原則という一般的法原則が手続追行の場面でも妥当するという前提でこういう規定が置かれていると考えられます。そうであるならば,一般的法原則の適用を否定する理由はないだろうと思いますので,私もこういった規定は置いておいてよいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 そういたしますと,先ほど杉井委員からの御意見がございましたが,この場の多くの意見としては,この種の規定は家事審判手続においても意味があるということのように承りましたので,それを前提にして今後の検討を進めさせていただくということでいかがでしょうか。 ○栗林委員 今,三木委員が言われたように,この規定が何らかの効力とか解釈の前提になるのか,道徳的なものかということがあって,そこが我々としては気にしているところでもありますので,ここで方向づけというのではなくて,これを書くとしても,その性質づけはまた別ではないかなと思います。 ○伊藤部会長 もちろんそれは,仮にこういう趣旨の規定ができても,その規定の性質等についてはいろいろな議論が更にあるところだと思いますが,三木委員はその一つの考え方を開陳されたものと理解しています。   次の「期日及び期間」についてですが,先ほど期日の呼出しに関しては若干関連する議論がございましたが,この「期日及び期間」全体について何か御議論がありますでしょうか。若干,(補足説明)のところで,期日の変更に関する民訴の規定に対応する規定は設けないということの補足的説明がございましたが,それも含めまして御審議をお願いできればと思います。―特段の御意見はございませんか。   それでは,ここに掲げられているようなことで今後の検討の基礎にさせていただきたいと思います。   もう一つ,3の「手続の非公開」でございますが,この点に関しては何か御意見等はございますか。これも現在の規則に対応したものでございますが,あえてその点について検討を加える等の必要はないということで承ってよろしいでしょうか。   それではそういうことにさせていただいて,本来はもう少し進行させていただくつもりでおりましたが,本日はこの部分までということで審議を終了させていただいて,その後の部分は次回に審議をお願いしたいと思います。   それでは,次回のことにつきまして事務当局から説明をお願いいたします。 ○金子幹事 次回の説明の前に,皆さんにお諮りしたい件がございます。   今,家事審判法のいわば狭義の家事審判手続の総則部分の検討をお願いしております。家事審判法のカバーするものとして調停の総則部分があります。それから家事審判手続の各則の検討が残っております。順番としましては,調停の手続のところはひとまず先にしまして,狭義の家事審判手続の総則の検討が終わりましたら,家事審判手続の各則の検討に入っていただこうかと思っております。その進め方についての御相談なのですが,この部分は規律自体相当細かい話になってまいります。今,家事審判事項とされている個別の事件について,管轄を具体的にどうするか,意見陳述の機会を与えるべき者はだれにするか,審判の告知をだれにするか,即時抗告権者はどうするかというような規律を全部検討しなければいけないわけですが,これを今のようなやり方でしていますと到底時間が足りなくなりそうです。そこで,審議の方法についてですが,まずは事務当局の方からたたき台の案を資料の形で皆様のもとに送らせていただきますが,それを事前に見ていただいて,御意見を事前にちょうだいして,それを取りまとめたものをこの場で検討するという方法をとらせていただけないかと思っております。今のように1週間前の送付ということでは到底間に合いませんので,どんなに遅くとも2週間前までにお手元に届くように発送させていただきますので,1週間前までに御意見をいただきましたら,私どもの方で事前にできる検討をさせていただいて,そこを中心に御議論をお願いしたいと思っております。今日の進行の関係でちょっと暗雲が立ち込めてきたのですが,次々回には各則の検討に入らせていただければなと思っておりまして,その前提で,来週の月曜日にも各則の前半部分の資料を皆様にお送りしますので,18日に使用することを前提にしますと,11日までに御意見をいただければなと思っています。詳細につきましては,資料と一緒に事務連絡を入れさせていただきます。そういう形で進めさせていただければと思って提案させていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 委員・幹事の方々に改めて御負担をお願いすることになって大変恐縮ですけれども,全体としてやや予定よりずれ込んでいるという状況もございまして,かつ審議すべき事項が多岐にわたるということで,いわば一種の争点整理的な手続をして集中的に審議をお願いしたいということですので,ここはまげて御協力賜れれば有り難いと思いますが,いかがでしょうか。―よろしいでしょうか。是非御協力をお願いしたいと存じます。 ○金子幹事 どうもありがとうございます。   そうしましたら,次回の予定です。次回は,12月4日金曜日,同じく1時半から,この会議室で引き続きの検討をお願いしたいと思います。資料9の続きと資料10についての御検討をお願いしたいと思っております。よろしくお願いします。 ○伊藤部会長 それでは,ほかに特別の御意見がなければ,本日はこれで終了させていただいて,また来週でございますけれども,どうぞよろしくお願いいたします。御苦労さまでございました。 -了-