法制審議会国際裁判管轄法制部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  平成21年12月11日(金)  自 午後1時33分                         至 午後4時17分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  国際裁判管轄法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○髙橋部会長 それでは,国際裁判管轄法制部会第15回会議を開催いたします。   冒頭,説明ないし配布資料の説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 本日の配布資料ですが,事前にお配りした部会資料25及び,本日は部会資料25-2をお手元に配らせていただきました。部会資料25-2は海事関係の規律についての補足的な資料です。   それから,本日の進め方ですが,お配りいたしました部会資料25の第1から順序に沿った形で御議論いただいて,前回以前の積み残しとして議論すべき点は各該当箇所で御議論いただければと思っております。その中でも,補足説明に書いたところに加えまして,本日は応訴による管轄権のところも少し御議論いただければと思っております。そのほかの部分は補足説明ないし部会資料25-2に記載した部分について主として御議論いただければと思っているところでございます。よろしくお願いいたします。 ○髙橋部会長 それでは,まず第1の説明をお願いします。 ○佐藤幹事 第1につきましては,特に前回の部会資料と変わりがございません。何かお気づきの点があれば御議論いただければと考えております。 ○松下幹事 中身には全くかかわらないことだろうと思うのですが,前回の第1次案と比べて,今回の各要綱の項目は最初に「日本の裁判所」という書き振りになっていて,前回までの資料の「訴えは」というのと表現が変わっているのですが。しかも,場所によっては,専属管轄の方ですかね,4ぺージの例えば9とか11とかは「訴えの管轄権は」が主語になっていて,これはどういう趣旨でこういう変更をされたのか,専ら形式にかかわることだとは思いますが,御説明いただけませんでしょうか。 ○佐藤幹事 それを先に御説明すべきでした。   訴えを提起する人の側に立ってどういう場合に訴えを提起することができるかと書くか,あるいは日本の裁判所が管轄権をどういう場合に有するかということを書くかということで,私どもとしては実質的な内容については変わりがないと考えております。そうなりますと,法制的にどうするかというところにかかわってくるのだろうと思いますけれども,国際裁判管轄の問題というのは日本の国の裁判所がいかなる場合に講学上の民事裁判権を行使できるかという問題であるということを踏まえまして,どちらかというとそれに沿った形で,どういう場合に日本の裁判所が管轄権を有するかというような形で表現振りを変更させていただいたものでございます。その点についても御意見があればお伺いできればと考えております。 ○松下幹事 なぜこの時点でこういう表現の変化が起きたのかということを確認したかったので。それで,より大事なのは,これまで議論した内容に実質的な変更はないということを念のため確認したかったということです。 ○佐藤幹事 内容には変更を加えていないという意図ですので,もし実質に変更があるようにお感じになられるところがありましたら,御指摘をいただければと思います。 ○松下幹事 ありがとうございました。 ○髙橋部会長 今日の資料はそうなっていますが,最終確定かどうかは多少また戻りがあるかもしれません。   いかがでしょうか。この被告の住所等による管轄の場合については,従来から議論してきたところになりますが,自然人,法人,その他を含めて,この点はこういうことで先に進んでよろしいでしょうか。   では,第2の方に移ります。   まず第2全体を御説明いただきます。 ○佐藤幹事 第2の全体ですけが,第2の中で今回御議論をいただきたいと考えております点は,3の財産権上の訴えのところ,海事関係の部分,消費者,労働関係の部分ですので,まずそれぞれの部分についてまとめて御説明させていただければと思います。 ○小島関係官 3の「財産権上の訴えの管轄権」につきましては,前回の部会におきまして,被告の差押可能財産の点については訴えを金銭の支払の請求を目的とするものに限定すべきではないかという御意見が出されましたことから,そういう場合に限定するとするとこの下線部のような文言をつけるという案を今回提示しているところでございます。 ○北村関係官 次に,7の「海事に関する訴えの管轄権」について御説明いたします。こちらにつきましては,本日席上で配布しております部会資料25-2を御覧ください。   前回の部会,またパブリックコメントにおいても同様ですけれども,船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴えについては,規律を設ける実務上の必要性があるという御意見をいただいたところでございます。そこで,更に事務当局におきまして海事関係の実務についていろいろ調べたところ,以下のような点も考慮する必要が考えられるのではないかという結論に至りました。   例えば船舶先取特権に基づいて担保権実行手続を開始した場合には,今までは債権者側の立場からの話でしたけれども,逆に債務者側の船舶所有者あるいは船舶運航者の立場からしても,担保権実行手続が開始された場合には,船舶債権不存在確認の訴えを本案として船舶航行許可の仮処分の申立てをしたり,又はその仮処分の申立てと同時に本案の訴えを提起することもあるという御説明を受けました。この場合には,船舶が日本にあるときに日本の裁判所が管轄権を有するという規律があれば,そこは端的に日本の裁判所に国際裁判管轄が認められることになるのではないかという御意見もいただいてございます。前回の部会でいただいた御意見やこれらの御意見のような実務上の必要性のほか,船舶債権その他船舶を担保とする債権については,一般的に担保の目的物がある場合に国際裁判管轄を認めることによる弊害として,この部会でも御指摘いただいていました,人的担保といった問題は存在しないことや,船舶については差押え後にいろいろ管理費等の問題もあって,差押えからいったん解放した上で,その後訴えの中で処理していくという実務上の慣行があるということに照らしますと,財産権上の訴え一般について担保の目的物がある場合に管轄権を認める場合とは異なる取扱いをすることも合理性があるのではないかと考えております。   以上のような理由から,船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴えについては,今回本文③のような規律を置くこととしてはどうかという御提案をさせていただいたところでございます。   次に,部会資料25に戻っていただきまして,4ぺージの「12 消費者契約に関する訴えの管轄権」についてでございます。   前回の部会で,本文③のアの規律の付加的合意の部分と,ウとエ,いわゆる消費者が合意を援用した場合にどうなるのかという,その規律との関係について議論をいただいたところでございますけれども,その後もう一度,事務当局で議論を整理させていただきました。その結果,現在の考えとしましては,5ぺージの「そこで」というところですけれども,本文③のウ,エに該当する場合は,アの規律により付加的な管轄権に関する合意とみなされる場合から除くこととすることが相当ではないか,すなわち消費者が自ら自己のために援用した場合にはその効力を認めるというのがウとエの規律ですので,消費者が自ら援用した場合にはウとエの方で完全な合意の効力を認めるという規律でよいのではないかと考えましたけれども,この点について御意見をいただければと思います。   次に13の「労働関係に関する訴えの管轄権」についてですけれども,本文③につきましては,前回の部会での御議論を踏まえまして,合意が効力を有する場合として部会資料24の別案2を採用いたしました。また,付加的合意とウとエの関係につきましては,先ほどの消費者契約に関する管轄権の場合と同様でございます。   第2につきましては以上でございます。 ○髙橋部会長 それでは,もちろん第2全体を対象にするわけですが,便宜上,まず説明をいただいたところから先にということで,最初に「3 財産権上の訴えの管轄権」ですが,金銭支払請求訴訟に限るということを明文で出すか,それともここまで書かなくてもいいということでよいか。ちなみに,国内法ではここまで書いていない条文になっているということでもあります。   かなり細かくなりますけれども,そして財産があるということに基づく管轄原因のときには想定しにくいのではありますが,たとえば,債務不存在確認は,こう書くと,解釈論ですけれども,文言上は駄目になるのかもしれません。そして,ますます想定しにくいのですが,差止請求などを考えますと最後は金銭執行になるわけですけれども,これも請求それ自体は金銭支払請求ではないので含まれなくなります。普通は併合してくるのでしょうけれども。というような細かいところが出てきます。別の言い方をしますと,「差し押えることができる被告の財産」とありますから内容的には限定されているのですが,更に金銭支払請求等まで,余り強調したくないのですが,国内の条文と異なって書くべきかということでありますが,いかがなものでしょうか。 ○古田幹事 それほど明確な意見を持っているわけでもないのですけれども,差押可能財産を理由として管轄を認める合理性というのは,強制執行によって本案判決の満足が得られるという点にあると思います。そうしますと,やはり金銭債権であることが前提になっているのではないかと思います。この点は,条文の解釈で読み込むことにしてもいいのですけれども,海外から見たときに日本のルールが明確かつ透明なものであるかどうかという観点からは,条文に明示しておいた方がベターなのではないかなという感覚を持っております。 ○髙橋部会長 先ほどの繰り返しですが,通常は金銭支払請求であることはそのとおりなのですが,そしてこう書いたからといってほかの請求が排除されるという解釈論に当然になるわけではありませんけれども,周辺部分の請求もあるかもしれないというあたりをどう考えるかなのですが,古田幹事はそれは捨てるということですか。 ○古田幹事 部会長から債務不存在確認請求の例が出ましたが,被告の財産の所在地に債務不存在確認の管轄を認めることの合理性は,具体的事案にもよるのかもしれませんが,咄嗟には思いつかないところです。差止請求についても,差止めを命じる本案判決の強制執行は,第一義的には被告に対して一定の作為・不作為を強制する点にありますので,被告の財産があるかどうかというのは関連性が薄いと思います。また,部会長がおっしゃったように,差止請求であれば,損害賠償も同時に提起することが多いでしょうから,その場合は,まず損害賠償請求について財産所在地の管轄が認められて,それとの客観的併合を原因として差止めにも管轄が認められるという方法もあります。それほど強い意見ではないのですが,具体的な事例としては,金銭請求以外の訴訟について財産所在地の管轄を認めなければ困るような事案が思いつかないというところです。 ○髙橋部会長 ほかの方はいかがでしょうか。細かいところで恐縮ですが,御意見をいただければ有り難いと思いますけれども。 ○手塚委員 もともと財産所在地による国際裁判管轄というのは,最高裁の法理の中では,日本の土地管轄があれば,原則,国際裁判管轄があって,でも特段の事情で絞るという法理の中でとても浮いていた条項といいますか,それをそのまま当てはめるととても広過ぎて,特段の事情の適用もとても広過ぎるので,何とか本文の方で少し限定できないかということをいろいろ考えていた部分だと思うのです。でもなかなかうまく限定できないのでこういう一般的な形で残ったということに照らすと,もともと国内法の書き方よりは狭いものでおかしくないので,私は,古田幹事がおっしゃっていたように外国の人から見ても分かりやすいということと,もともと国内法そのものよりも狭くていいぐらいだということを考えると,これを入れていただいた方がベターだと思っております。 ○髙橋部会長 御意見は分かりました。   再三申しますが,普通は金銭支払請求であることは当然の前提,99.9パーセントそうでしょうけれども,そのように書いてしまって本当にいいかというあたりで,もちろん国内法と平仄を合わせる必要はないのですが,国内法は少しぼやっとさせてあるところを国際裁判管轄では細かく書くかということです。また,何の権威があるわけでもありませんが,もとになったドイツ法も金銭支払請求というようには条文上は限定していないというところもあります。 ○道垣内委員 私も今のお二人の意見に賛成なのですけれども,ただ,中間試案の段階では入っていたものがどこかで落ちているようです。中間試案は三つ案がありますが,全部に入っていたのにどこかの段階で落ちています。その経緯が何だったのでしょうか。何か議論があって広げた方がよいということで限定がなくなったということであれば,今,それを打ち消す理由があるのかということになります。そもそも,途中で落ちた理由を教えていただければと思います。 ○佐藤幹事 ここで御議論いただきたいと考えているのは,民訴法第5条第4号の上段には,財産権上の訴えと記載してありまして,下段には三つの訴えが書いてあります。すなわち請求の目的による管轄,担保の目的による管轄,それから差し押えることができる被告の財産の所在地による管轄が掲げられていまして,この差し押えることができる被告の財産の所在地による管轄を認める場合に,それが広く財産権上の訴えすべてにそもそも適用されるのか,あるいは,この場合には三つのものを包含して書いてあるので財産権上の訴えと書いてありますが,解釈上は今回の立法と同様に金銭の支払を目的とする請求の場合を想定していると解釈するのかが必ずしも明確ではないように思われます。今回,差押可能財産の所在地による管轄の対象について国内土地管轄と異なる文言を用いる形で限定いたしますと,国内土地管轄の解釈としてはそこまで限定していないという解釈をするということが前提になるとも考えられます。そういう意味で,ここまで限定すべきなのか,あるいは,国内でもそのような解釈がそもそもあり得るのであれば,文言上そこまで限定する必要はないと考えるのか御議論いただければと考えたものです。民訴法第5条第4号の差押可能財産による管轄の場合,どこまで財産権上の訴えが入るのかというところが十分に記載してあるような文献もなかなか見当たらなかったものですから,そのあたりを少し確認したいということもありまして,御議論いただければと思った次第です。 ○髙橋部会長 そういう次第で,民訴法の中に入れるという,その方針は今でもあるのですが,そうすると法制的にはいろいろと国内法の条文との関係が目についてくるということであって,別に国際民訴自体として大きく意見が変わったわけではないのです。   では,この部会としては,中間試案まではそうだったわけですから,金銭支払請求を明記するという方向で参りましょう。ただ,これは法制上の問題もありますので,最終的には法制上の処理もあり得るというような含みで御理解いただければと思います。   実質に関係するのは7の船舶債権その他のところですが,部会資料25-2ですけれども,従来御説明いただいていた交渉過程での優位さというのもありますし,今回ある専門集団に意見を聞きましたら,こういう仮処分でいくときの債務不存在確認を本案とするというところも実務上はあるのだという指摘を受けまして,そこからはやはり規定しておいてくれた方が有り難いという申出があったということですが,いかがなものでしょうか。 ○山本(弘)委員 補足の案にあえて反対を唱えるつもりもありませんが,念のための確認です。こういうニーズがあるということですが,これはむしろ,日本の民事執行法を想定すると,担保権の実行手続を止めて,それで船舶を外に出すということですから,民事執行法第189条でしたか,むしろ船舶先取特権不存在確認の訴えを本案として実行中止とか船舶航行許可とかというのが仮処分に出てくるのではないかと思うのです。そうだとすると請求の目的物でいけるのではないかなという気が一瞬したのです。請求の目的物の所在で,船舶先取特権不存在で,船舶は日本にある,いけないかなという気がしたのですが。 ○佐藤幹事 船舶先取特権の不存在で訴えを提起する場合もあり得ますが,他にもこのような類型の訴えが考えられるということもあって,そこも含めて記載しているものです。船舶先取特権の不存在確認請求の場合は請求の目的による管轄が認められるであろうということで落としています。 ○山本(弘)委員 しかし,船舶債権不存在,船舶債権という言葉が必要なのかなという気がしますが。 ○佐藤幹事 実務上はそういう形で訴えを提起することもあるというようなお話でございました。 ○山本(克)委員 私も山本弘委員がおっしゃったのと同じ疑問を一読して持ったのですが,実務があるといっても,担保権,船舶抵当権ないし船舶上の先取特権不存在確認の訴えでいけるのであれば,あえて作らなくてもいいのではないのかなと。普通,執行法の教科書に書いてあるのは,担保権不存在を前提とする実行禁止仮処分というのが通例ですので,あえてなぜ違うものを認めて,実務があるにしても,それが本当に継続するに足りる実務なのかという観点からすると,必ずしもそうではないのではないかと思います。そうすると,あえて船舶債権のところだけ担保目的物を残す必要があるのかなというのは,私はちょっと疑問に感じております。 ○手塚委員 この問題は,弁護士会の中でも,やはり海事の専門の先生の御意見を尊重したいということでいろいろと話を伺い,これは是非入れてほしいということで,需要を感じておられることは事実なのです。本当に客観的にあるのかと言われれば,それは私には分からないのですが。ただ,国内法との関係で言うと,もともと船舶に限らず担保の所在地があって,では人的担保まで国際的に含まれ得るとするとちょっと問題ではないかというのがあります。日本国内だったらそういう議論に対しては移送だとかいろいろ調整が可能だと思うのですが,国際裁判管轄だとそう簡単に移送という形で逃れることもできないので,担保一般は消えた,でもその担保の中でも船舶債権等については残してほしいという人もいるので,そこを考えると,担保全般を国内法並みにやる必要はないにしても,船舶だけでも残してほしいという気持ちはよく分かるような気が私はするのです。 ○山本(克)委員 担保目的物の所在地を目的とする管轄について過剰管轄ではないかという議論は,人的担保だけを考えているわけではなくて,いわゆる物上保証の場合についても過剰だと考えているわけです。この提案ですと,船舶抵当権の場合について物上保証である場合,つまり船舶所有者等とは全然無関係の債務者に対する非担保債権を担保するために船舶抵当権が設定されている場合に少し困った問題,やはり過剰管轄性というのが出てくると思うのです。船舶債権だけを念頭に置けばそうでもないと思うのですが。だから,「船舶債権に基づく訴えについては」とするのではあれば一つかなと思うのですけれども,この案はそうではなくて,船舶抵当権の場合も含んでいますので,ちょっとそこが気にかかるところです。 ○古田幹事 日弁連としては,先ほど手塚委員がおっしゃったように,海事関係の実務をやっている弁護士から,船舶担保については是非とも規定を設けてほしいという要望を受けています。山本委員から,船舶債権の不存在確認でなくても,例えば先取特権の不存在確認でできるからいいではないかということもありましたが,しかし,現状の実務で二つルートがあるところを,今回の立法で一つに絞るというのは,理論的にはその方が美しいようにも思いますけれども,二つあるのをあえて一つに絞る必要性がどれぐらいあるかという疑問があります。これは船舶担保の管轄を認めることの弊害が何かあるという問題になるのだろうと思います。確かに,担保一般については,先ほど手塚委員がおっしゃったように,人的担保を含むのは広過ぎるのではないかということがある。だけれども,船舶担保については人的担保の問題はない。それから,山本克己委員から,船舶についても,例えば抵当権を設定したような場合には過剰管轄のおそれがあるのではないかという御指摘がありました。私も,実務上,船舶債権でない債権について船舶に抵当権を設定することがどれぐらい行われているかというのは知らないのですけれども,仮にそれが過剰管轄と思われる事案があれば,それについては特段の事情で調整するという余地もあります。そういう意味では,実務界から一定の要請があり,大きな弊害もないということであれば,規定は設けていただいた方がよろしいのではないかと思います。 ○髙橋部会長 ここは先ほどと違いまして内容の議論ですので,もう少しお願いしたいのですが。   海事は御承知のように独特の海事関係のルールがあるわけで,日本国内法だけの類推でいくと変だけれども,海事関係者からするとlex mercatoriaか何か知りませんが,そういうものがあって,船舶所在地に管轄があるのはそちらから見るとおかしくなくて,それを前提にした実務もちゃんとある,そのような議論となります。どうも決め手に欠けるのです。恐らく船舶抵当権の物上保証人は純粋の素人ということはまずないでしょうから,船があればどこかで押さえられるということはそういう世界の人は相当程度覚悟しているはずだということにはなるのですが。   実務家の意見は聴きましたが,海事の方の学者の意見などもまだ聴く余地はあるのかもしれませんので,最終決定はまだ次の部会もありますので,今日の段階では残しておいて,括弧をとる方向でということでよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 そういう需要があるなら私も残してよいと思います。言葉遣いの点ですが,「船舶債権その他」という言葉は,民事訴訟法と合わせているからこうなるのだろうと思いますけれども,国際的な事案であると必ずしも商法上の船舶債権とは限らず,外国法上のそれもあるわけですから,言葉を合わせたところで結局中身は違うことになります。「船舶を担保とする」という一般的な文言だけでは意味が違ってくるのでしょうか。 ○髙橋部会長 むしろ海事の方のニーズに合わせ,かつ,先ほど来申しておりますが,民事訴訟法典の中に入れるという法制的な制約をどう両立させるかということですが,御指摘ありがとうございます。検討いたします。 ○古田幹事 質問というか確認なのですけれども,部会資料25-2の(補足説明)の2ぺージ目の一番上のあたりで,船舶差押え後に差押えを解放して,その後訴えを提起することがあるという説明がされています。そういう実例があることは私も聞いているのですけれども,その場合には訴え提起時には船舶はもう日本には所在していなくて,民事保全法第22条の仮差押解放金ですとか,あるいは民事執行法第117条の保証として提供された供託金が日本国内にあるということになると思います。今回の案ですと船舶が日本国内にあるときには管轄権を有するということになっているのですが,船舶にかわる仮差押解放金ですとか保証として提供された供託金が日本国内にあるときは,その船舶という文言に解釈上読み込むという理解でよろしいのでしょうか。 ○佐藤幹事 一応前提としてはこれは船舶ですので,船舶に代わるものまでは含んでいなかったかと思います。 ○古田幹事 そうすると,(補足説明)で書いておられる,例えば船舶を一回仮差押えをしたのだけれども,仮差押解放金を供託して船舶が日本を離れてしまった場合には,船舶担保の管轄は認めないということになるのでしょうか。仮差押解放金を供託したのが被告であれば,その仮差押解放金を被告の財産所在地として管轄を認める余地がありますが,例えば裸傭船者が運航している船舶が差し押さえられて,船舶所有者が解放金を供託したような場合というのは,裸傭船者を被告にする訴訟については,仮差押解放金は被告の財産とはいえないような場合もあるのではないかなと思います。私も実務上余り経験はないのですが,そういう場合をカバーできないと,規定としてはやや不十分なものになってしまうおそれがあるのではないかというところは少し懸念いたします。 ○北村関係官 ここの記載につきましては,前回部会で御指摘いただきましたように,保証状を差し入れて保証状の中で管轄合意するときに,どこの裁判所を管轄裁判所とするかといった実務を踏まえて書かせていただいたもので,そういった実務もあるので船舶の所在地に管轄を認めた方がいいという声があるということを書かせていただいたということです。 ○髙橋部会長 古田幹事御指摘の局面と違う局面を書いてしまったということですね。しかし,古田幹事御指摘の点はまた詰めておきます。   それでは,12の消費者契約のところは,前回も御議論があったわけですが,専属的管轄合意を優先させていい場合もあるのではないかというところです。だんだん芸が細かくなりますけれども,括弧の中に「ウ及びエに掲げるときを除き,」というのを入れるのでどうかということです。ここはいかがでしょうか。 ○古田幹事 ここは前回の部会でも少し議論になったかと思いますけれども,このウ及びエに掲げるときを除くという今回の事務局案は,個人的には非常に合理的な規律であると考えます。 ○髙橋部会長 前回もそういう御指摘をいただいて,検討した結果,こういう案でお出ししたわけです。想定されているのは,(ⅱ)の方が少しはまともですが,住所地国に提起されたのに元住所地国の方がいいというのもそうあるわけではないでしょうが,本当にあったときには,元住所地国の方が何か便利なところがあるのでしょう。管轄合意地ですが。そちらを優先させていいというのは,それはそうかもしれないということですが。 ○山本(和)幹事 その点は私も賛成なのですが,更に細かくなるようで恐縮なのですが,イとの関係で,これは私の理解に誤解があるのかもしれませんが,紛争が生じた後に消費者契約締結時の消費者の住所地国についての専属的合意がされた場合にどうなるのかということです。イの合意は専属的合意もそのまま有効になるという前提だと思うのですが,今の例はアとイが両方かぶりそうな感じになるので,したがって,その括弧内でイも除く必要はないのかという問題提起なのですが,いかがでしょうか。 ○佐藤幹事 基本的に,山本和彦幹事御指摘のとおり,この部会でのコンセンサスは,紛争後の合意については専属の合意も許されるということが前提になっていると思います。そういう意味ではアとウとエはいわば紛争前の合意にかかってくるもので,イの合意については事後のものという形になると思いますけれども,その整理自体はよろしいわけでしょうか。 ○山本(和)幹事 そうすると,このアは紛争解決前の合意に限られるという趣旨の規定だと理解していいのですか。労働契約のところは合意がされた時点を書いていますよね。ですから,このアも,「消費者契約の締結の時にされた合意であって,その時において」という書き振りであれば今の御趣旨で。部会の大勢は大体そういうことを考えてきたように私も思うのですけれども,論理的には消費者契約締結後にアのような合意がされるということもあり得るわけですので,それを排除するのであれば,それを明確に書けば確かにイとの重複はなくなると思うのです。原案はそういう趣旨だという理解でよろしいでしょうか。 ○佐藤幹事 原案自体は,紛争が生じる前であれば,後の合意であっても特に排除はしていないと思いますので,そこら辺の整合性をどう書いていくのかということになると思います。 ○山本(和)幹事 繰り返しますが,排除していないとすると,イと重複する場面が生じ得て,イの場合は専属合意を認めるのだとすれば,アの括弧内でイも除く必要があるのではないかという最初の私の問題提起になるのですが。 ○佐藤幹事 そのあたりは,イをここに入れておくのがいいのかというところもありますので,実質的なところを踏まえた形で考えたいと思っております。今,実際上,事後の合意と事前の合意に分けて考えた方がいいのかなというところもあって文言は検討しているところですので,それを反映したような形の文言を考えてみたいと思います。 ○髙橋部会長 消費者契約に関してはよろしいでしょうか。   それでは,次の13,労働関係ですが,これは前回御決定いただいたものを盛り込み,かつ管轄合意のところで消費者と同じようなものも入れてあるというところですが。 ○古田幹事 前回の別案2を採用されたものだと思いますが,私は前回,別案1の方がいいのではないかと申し上げました。今回の案に反対というわけでもないのですけれども,この案で立法したときの懸念が二つあります。一つは,労働契約締結時ですとか労働契約存続中にされた管轄合意は効力が認められませんので,合意退職をする従業員については退職合意の中で管轄合意をするという対応ができますけれども,一方的な意思表示で退職する従業員については,使用者としては管轄の手当てができないことになります。そうしますと,直接管轄の観点から言うと,退職合意なしに一方的に退職した従業員を使用者が訴えなければいけないときに,日本の使用者が困る場合があるのではないかというのが一つ目の懸念です。   もう一つは,間接管轄の観点なのですけれども,海外で労務提供をして退職後に日本に帰国した労働者が,外国で退職後に訴えられて,労働者敗訴の本案判決が出て,その判決の承認・執行を日本で求めますと,別案2に基づく立法の下では,退職時に管轄合意をしていなければ,日本では民訴法第118条第1号の間接管轄を欠くということになる,その外国判決は承認・執行できないということになるのだろうと思います。それは外国で被告になった個々の元労働者にとってはいい結末だと思うのですけれども,それが日本の法制度であるということになりますと,将来,外国を労務提供地とする労働者の募集があったときに,いろいろな国から応募があるだろうと思うのですけれども,日本から応募する人については,外国の労務提供地を管轄裁判所とする合意をしたとしても,それは日本では効力がないということになってしまいますので,結局ほかの国からの応募者との比較で不利に扱われることがあり得るのではないかと思います。そうすると,日本を飛び出して外国に仕事を求めようとする前途洋々たる若者が,ほかの国の若者よりも不利に扱われることになりはしないかというのが,二つ目の懸念です。   ですので,私としては,前回の別案1をとった上で,しかし管轄合意の効力については公序というところで厳しく審査をするという建て付けにした方がベターではないかと考えます。 ○髙橋部会長 御指摘のとおりで,前回の議事録にも載っているかもしれませんが,御指摘の第一の,退職金も要らないというのでやめていくような人を捕まえることができない,ある意味で最も悪質かもしれない人が逃げてしまうというのは前回も御指摘がありましたが,それは今回の立法としてはやむを得ない,別案の方は逆に広くなり過ぎるという強い懸念を表明する委員もいらっしゃいましたので,それでこのあたりだろうというものです。   2番目の外国の場合には,正にそのとおりで,懸念されるところなのですが,就労のときにされた合意というところの解釈である程度,あるいは相当程度盛り込めるのではないだろうかと思っております。恐らく合意そのものは,就労するときに労働契約で合意があるのでしょうが,やめるときにも何らかの形でそれをレビューされているとすれば,それも含み得るというような解釈論の余地は十分にあるという発言が前回もありましたし,あるいは恒例の一問一答にでも書いてもらって,あとはアプライする日本の労働者,研究者を含みますが,いかにその人自身に魅力があるかということになっていこうかと思っております。確かに若干不利益を受ける危険性はあるのですが,そこもある程度見た上で,しかし別案とのバランスではこちらだというものです。   もう一つ,そもそも何も書かないという案もあったわけですが,それもまた弊害が大きいということで,今回はこういう形でということでした。前回もそういうことでした。   それでは,第2で説明をしていないところもありましたが,例えば第2の「1 契約上の債務に関する訴えの管轄等」等,ここも御覧になって,改めて眺めるとここがちょっと気になるというところがございましたら,是非御指摘をお願いいたします。 ○道垣内委員 「契約上の債務に関する訴えの管轄」の①のアとイの表現振りについて申し上げます。「契約において定められた当該債務」という言葉遣いですけれども,この「契約」というのは柱書きにある「契約」とは違う契約でもよいという趣旨なのでしょうか。ア・イの「契約」には「当該」が付いていないので,違う契約でもよいということだと思うのですが,そのように解してよろしいでしょうか。と言いますのは,履行地を後から決めるとか,あるいは,特にイの方につきましては,法の適用に関する通則法第9条では事後的に準拠法を変更するということができることになっていて,当該契約ではなくて事後的に別の契約で準拠法合意をすることもあり得るものですから。そのように読めるのであればこのままとすることでもよいのですが,中間試案の段階では「当事者が」というのが主語になっていて,その次に「契約において」という文言が入っていました。私は「契約において」という文言はなくてもいいのではないかと思います。「当事者が定めた当該債務の履行地」とか「当事者が選択した地の法」とか定める方がこの点は紛れがないのではないでしょうか。法の適用に関する通則法の第7条は,「当事者が」という書き振りなので,これに合わせていただくことが可能かどうか,あるいは,それでは意味が違ってくるのかどうか,伺いたいと思います。 ○佐藤幹事 内容は同じです。「当事者が契約において定めた」という形にするか,「契約において定められた」という修辞上の違いがあるのみで,同じ趣旨です。 ○道垣内委員 「契約において」というのは必要なのでしょうか。この「契約において」というのは柱書きの「契約」ではないですよね。それも含むのですけれども,そうでなくてもよいと思われます。あえて「契約において」と書かなくても同じではないかと思うのですけれども。 ○佐藤幹事 私どもの理解では,その契約に基づく履行の訴えであれば,その契約において債務の履行地が定められている場合だという理解です。 ○道垣内委員 その場合に限るとすれば,事後的に履行地を決めたり,事後的に準拠法を変更した場合が含まれなくなってしまうのではないでしょうか。それは含んでも構わないのではないでしょうか。 ○髙橋部会長 事後的に定めたときも,事後的にその契約の中に後から入り込んで,その契約の履行地なのだと。 ○道垣内委員 もちろんそのようにも読めると思うのですが。 ○髙橋部会長 ですから実質は変わっていないので,表現だと思います。 ○佐藤幹事 事後的に定めるという契約の内容になっていれば,それは含むという理解であろうと思います。 ○髙橋部会長 それがはっきり読めるかということですね。通則法がそういう使い方をしていると,むしろ法制的にはそちらに合わせることが多いのですが。 ○道垣内委員 そうです。だからイの方がより引っかかるわけです。法の適用に関する通則法とちょっと表現振りが違うものですから。細かいことを言えば,分割指定とかもあるものですから,その場合には,当該債務について指定されている準拠法のことを言っているのだと思いますけれども。そういうことも含めて申し上げました。 ○髙橋部会長 御指摘はよく分かったつもりですので,あとは法制的なものを含めて表現を検討いたします。   ほかの点でお気づきの点はございますか。   では,第3の「併合請求における管轄権」ですが,ここは変えておりませんので,特に説明はございませんが,これでよろしいかどうか。   それでは,第4の「管轄権に関する合意等」ですが,ここは口頭で補足がございますので,お願いいたします。 ○日暮関係官 第4について御説明いたします。   まず第4の1の「管轄権に関する合意」については,従前の部会資料から特に変更を加えておりません。   本日は,2の「応訴による管轄権」について御議論いただきたい点がございます。「第一審裁判所において」という文言の要否についてでございます。この点につきましては,第10回部会において御質問をいただいたことがございまして,御議論いただいたこともございますけれども,部会資料をお送りいたしました後,内部で検討していた際にも指摘がありましたために,今回御議論いただければと思っているところです。   応訴管轄を定める国内の民訴法第12条には「第一審裁判所において」という文言がございますけれども,これは,応訴管轄が受訴裁判所の事物管轄又は土地管轄を生じさせるものであるということから,「第一審裁判所において」という文言が必要になるものと考えられるところです。また,国内事案につきましては,民訴法第299条におきまして控訴審における任意管轄違いの主張が制限されております。したがいまして,第一審において被告が管轄違いの抗弁を出して争うなどしたために応訴管轄が成立しなかった事案において,控訴審において管轄違いの抗弁を出さずに本案についての弁論をした場合につきましては,控訴審における応訴管轄の成否ということは理論的には問題とはなり得るところですけれども,応訴管轄の成立を否定したといたしましても,民訴法第299条によって,第一審裁判所の任意管轄違いの主張が制限されていることの効果として第一審裁判所の管轄権が生ずることとなるという結論には違いがないことになると考えております。   これに対しまして,第4の2の「応訴による管轄権」につきましては,その効果が日本の裁判所の管轄権を生じさせるものでして,控訴審が日本の裁判所として管轄権を有するのであれば,第一審も同様に管轄権を有することになりますので,管轄権を有する裁判所を第一審か控訴審かを区別する必要性につきましては乏しいものと考えられます。   また,国際裁判管轄違反につきましては,民訴法第299条のような主張の制限は設けず,控訴審においても常に主張することができるものといたしますと,第一審では応訴による管轄権が生じなかった事案において,控訴審で被告が日本の裁判所は管轄権を有しないとの抗弁を出さずに本案についての弁論をした場合等につきましては,日本の裁判所の管轄権を認めるという結論については御異論はないものと考えております。   そういたしますと,第4の規律から「第一審裁判所において」という文言を削除して,先ほど言いましたような事案については応訴による管轄権の規律を適用することができるようにすることが考えられないかというのが現時点での事務局の考え方でございます。御審議のほど,よろしくお願いいたします。 ○髙橋部会長 だんだん議論が細かくなってまいりますが,第一審では管轄を争っていて応訴管轄は生じていないけれども,控訴した又はされた後で,応訴,本案について争うという姿勢を示して,控訴審段階で応訴管轄が生ずるということが,民訴法第299条が適用されない国際裁判管轄ではあり得るのではないか。逆に言えば,控訴審では,民訴法第299条が働かず,第一審に国際裁判管轄がなかったということが言えるという理解,これは皆さん共通でしたので,言えるとすれば逆に控訴審段階での応訴管轄というものあり得る。とすれば第一審というのは省いてもいいのではないかということなのですが,多分共通に理解されていたものを推し進めていけばこうなるのだろうと思うのですが,その確認をさせていただきたいということです。 ○山本(弘)委員 それは,第一審で管轄を争ったけれども,管轄を認めて第一審判決が出たということですよね。それに対して控訴ですよね。そうすると,それは,特に管轄違いの抗弁を撤回しない限りは,控訴審でも争っているのではないのでしょうか。 ○髙橋部会長 そうですね。応訴管轄を認めるときに,撤回の明示の意思表示が必要か,単に本案の弁論をすれば足りるか,そういうことですかね。釈明して撤回させた方がいいかもしれませんが。 ○山本(克)委員 撤回が必要だとすると,このままでいけるのではないでしょうか。もうなくなったのだからということで抗弁が消えたということですから。 ○髙橋部会長 念のために釈明して撤回させた方がベターではあるのですが,撤回がなければいけないかどうかですね。 ○山本(和)幹事 前提は妨訴抗弁ということですか。 ○山本(克)委員 いや,妨訴抗弁では……。 ○山本(和)幹事 弁論主義が適用になる。弁論主義ではないか。職権調査事項ではない。 ○山本(克)委員 応訴管轄自体がその構成要件ですから,妨訴抗弁とかそういう趣旨ではなくなると思うのですが。 ○山本(和)幹事 ただ,「第一審裁判所において」という文言が残ると,撤回するということの意味は。 ○山本(克)委員 だから,その意思表示を撤回した結果…… ○山本(和)幹事 第一審裁判所で抗弁を提出しなかったことになる。 ○山本(克)委員 そういう扱いでいいのではないかということです。 ○古田幹事 「第一審裁判所において」という文言はなくてもいいのですけれども,あっても別に困らないと思います。これは国内の土地管轄の問題ではなくて国際裁判管轄の問題として論じていますので,少し次元の違う問題になるかと思うのですけれども,通常,第一審における被告の対応としては,日本に国際裁判管轄がないという答弁書だけを出す場合もありますし,国際裁判管轄がないという本案前の答弁をした上で,しかし仮にあるとすれば請求棄却を求めるという留保付の本案の答弁をするということもあるわけです。いずれの場合でも,第一審は,国際裁判管轄がないとして訴えを却下するかもしれないし,あるいは国際裁判管轄があるという前提で本案判決をするかもしれません。第一審判決に対して控訴がされて控訴審に移りますと,控訴審は続審ですから,控訴審で一審被告が明示的に国際裁判管轄を争うか否かにかかわらず,一審被告が第一審でいったん日本の国際裁判管轄を争ったということは記録に残っていますので,控訴審としては,まず日本の国際裁判管轄について判断をしなければいけないということになるかと思うのです。ただ,控訴審で被告の側の気が変わって,やはりこの裁判は日本で本案判決を進めたいと思うかもしれません。それを許すかどうかという問題はあるのですけれども,私としては,それは許していいのだろうと思うのです。そうすると,そのときに日本の国際裁判管轄を認める原因としては,被告が応訴したことになるのですけれども,被告は第一審では管轄違いの抗弁を出していますので,訴訟の進行としては,控訴審で本案前の主張を撤回させてから,控訴審で本案判決をするなり,あるいは一審が訴え却下をしていれば一審差戻しをするなりする形になるのだろうと思います。理論的に言うと,その場合は控訴審で本案の答弁をしますので,「第一審裁判所において」という制限はない方がいいと思いますけれども,別に「第一審裁判所において」という文言があったとしても,条文の解釈としては同じ結論は導けるだろうと思うのです。 ○髙橋部会長 被告が一審欠席,そして控訴審から本案だけやった,そういう場合ということですかね。 ○山本(和)幹事 私もその場合を考えて,抗弁を出して本案について弁論した場合は,控訴審で抗弁の撤回ということで確かにいけそうな,遡及効を認めるという前提であればいけそうな感じがしますけれども,部会長がおっしゃっているのは,抗弁も出さないで,弁論もしなかったという場合ですよね。その場合は撤回の法理は難しいような感じがするとすれば,やはり「第一審裁判所において」は削っておいた方がいいような感じもします。 ○道垣内委員 私も結論においては同じなのですが,最初の御説明はちょっと状況は違っていて,一審では管轄を争ったけれども二審ではもうそのことに言及しなかった場合,応訴管轄が生ずるという扱いにしたいとおっしゃったのではなかったでしょうか。そうだとすると,外国裁判所の判決の承認・執行の場合に,当該外国に余りにひどい管轄ルールがあり,一審では管轄がないと主張して争ったけれども,にべもなく管轄が認められてしまった,二審では管轄の点はあきらめて本案についてだけ争いましたというときに,日本から評価するときに応訴管轄がありますねという扱いになってしまいそうです。私はこのような扱いは妥当ではないように思います。そういう意味では,最初の段階で,本案の答弁をする前にきちんと管轄を争ったということで救われるような条文にしていただければと思います。 ○髙橋部会長 御議論いただいて大分はっきりしてまいりました。一審で管轄違いの抗弁を出していれば,恐らく解釈論としても,明示の撤回がなければ管轄違いの抗弁は生きている,もちろん理論上は黙示の撤回もあっていいのかもしれませんが,少なくとも運用上は明示の撤回という運用の方でいくべきでしょう。解釈論としてもそうなるのかもしれません。しかしそうでない場合もあるということですね。もっとも,そういう場合は「第一審において」と書いてあっても,解釈論でできるのでしょうけれどもね。一審欠席の場合には。その辺を勘案して,あとは法制上どちらがよいかということでしょう。私の理解では,実質において御議論はほぼ間違いなく一致していると思います。道垣内委員御指摘のような点も確かに注意しなければいけません。   応訴の方に行きましたが,その前の1の管轄合意の方,特段の事情の議論は後でいたしますが,ここに関してはよろしいでしょうか。   では,ここで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○髙橋部会長 では再開いたします。   資料8ページ,第5の一般的規律からですが,まず説明をお願いいたします。 ○日暮関係官 第5の「国際裁判管轄に関する一般的規律」でございますけれども,本日は2点,(補足説明)に記載しております。   1点目が規律の対象範囲についてですけれども,前回の部会でも御意見が出たところでして,今回は,専属的な管轄権に関する合意がされている場合をこの適用対象から除外すべきかどうかについて御議論いただければと考えております。仮に除外することといたしますと,本文がどうなるかということを括弧に入れて記載しております。各考え方の理由については,(補足説明)に記載したとおりです。   2に書きました考慮すべき要因につきましては,考慮すべき具体的な事情について内容を変更するものではないのですけれども,例示として挙げる文言が,今の本文ですと「使用すべき検証物の所在地」としているのですけれども,これに代えまして,「応訴することによる被告の負担の程度」としてはどうかということを考えておりまして,この点につきましても御意見をいただければと思っております。   以上でございます。 ○髙橋部会長 二つ問題がありますが,まず最初に,前回の議論から引き続いて,専属的管轄合意に特段の事情の適用があるのかないのか。大方の想定されているのは,余り差異はなかったと思います。特段の事情を使う場合がそう多いわけではないだろうということは皆さん同じですが,しかし特段の事情を使わないという条文にしてしまうか,残しておいて,前回もありましたように,ケニアでしたか,国内問題,所有権確認のようなものが,しかし日本の司法制度をある意味で信頼してくださったのでしょう,日本でということになりましたが,日本から見ればそれに裁判所のエネルギーを注ぐのはいかがなものかと言われるような事件が絶対ないとはいえないだろうということで,いわば安全弁として残しておくかと,このような議論でしたが,更に御審議をお願いいたします。 ○古田幹事 前回も申し上げましたけれども,専属管轄については特別の事情の適用対象から除くべきであろうと思います。もちろん,仮に特別の事情が適用されるとしても,専属管轄合意があるのにもかかわらず特別の事情で訴えを却下する場合は,結論的にはほとんどないということは共通認識だと思うのです。ただ,我が国の立法として,特別の事情による却下の可能性があるという立法すること自体が,日本の法制度に対する外国から見たときの印象を,非常に奇異なものにするのではないかということを恐れます。日本と全く関係ない事件について,日本で本案の審理判断をするのは,裁判所としても非常に負担が重いような事件がもしかしたらあるかもしれませんが,それは場合によっては,例えば訴権の濫用とか,ほかの理由で対処する方法もないわけではありませんので,そういう実際上なかなか想定できないような場合までおもんぱかって一般的な規律をかぶせておくのは,余り好ましくないと考えます。 ○道垣内委員 私も同じ意見です。特に(補足説明)の下の方で,規律の対象とすべきであることの理由の②のように,日本と関係の薄い事件については,日本を指定する専属管轄合意をしても,訴えを却下する余地を残しておくことが相当であると書かれてしまいますと,日本を中立的な裁判所として利用しようという人には全く来てほしくないというメッセージになってしまいます。現時点ではなかなかそういう状況にはないかもしれませんが,前にも申し上げましたように,中国と韓国の紛争を日本の裁判所で処理するようなことはあってしかるべきではないかと思います。確かに地球の裏側からわざわざやってきて他方の当事者は驚くというのであれば,それは合意が錯誤なり,詐欺的なことがあり得ますので,それは合意の効力を否定すればいいことだと思います。両当事者が望んで日本に来たときまで「一般的規律」の規定により訴えを却下するというのは対外的なメッセージとしてよくないように思います。 ○手塚委員 私も同様に,特別の事情による却下を専属管轄合意の場合に適用すべきではないと思っております。実際には,特段の事情が専属的管轄合意にもかかるというふうに書いてしまうと,どんなに狭くてもその点が争いになる事態は必ず増えると思うのですが,やはり管轄というのは入り口問題なので,余りそれを毎回のように争うような設計にしておくのはよくないだろうということと,他方で,道垣内委員がおっしゃったように中立な裁判所として利用したいと本当に考えている当事者がいるのだったら,それをあえて否定することもない。そうなると,むしろ,非常に濫用的な使用といいますか,全く関係もないし,日本でやる合理性がほとんどない,つまり中立国だからやりたいとかそういうものもなくて,全く濫用的だという事例が今までどれだけあったのかというと,私はそういうのは見たことがないので,そういう余り起こりそうもないことのために多くの事例でその点が争いになって手間暇が多くかかるという方向へ持っていくというのは,ちょっとバランスを失しているのかなと思っています。 ○髙橋部会長 そういう御意見は分かるつもりでおりますが,条文構成からいたしますと,前回も御議論がありましたが,適正かつ迅速な審理の実現を妨げる事情,これがある限りはやはり残るのではないかと。条文の理屈からいくと,これは当事者が処分できない事情ですのでそうなるのではないかという理屈はあるのですが,それも前回御披露がありましたので,それも含めて,今日はできるだけ多くの方から御意見をいただきたいと思っておりますので,前回御発言なさらなかった方も是非御意見をいただきたいと思います。 ○松木委員 私も,専属管轄の合意については特段の事情を考慮すべきではないという方の意見に賛成です。問題のあるような管轄合意については,例えば労働関係とか消費者とかで別に除いているわけですし,こういう合意をしているところというのは,ビジネスから見ればある意味対等の当事者の関係においてそういう合意をしているところですので,そういったところについての合意の効力が別のところの考慮で否定されてしまうようなところが多く出てくるというのは,我々としては非常にやりにくいということになります。それから,先ほど御指摘があった入り口のところでもめてしまうというようなケースが増えてくるというのは,訴訟経済的に見ても余り望ましいことではないのではないかと考えております。 ○阿部委員 裁判所の立場から個人的な意見を申し上げますと,恐らく裁判所の理解としては,最高裁判例を,特段の事情の法理というのは専属的管轄合意にかぶらないという判示をしたものとは理解はしてないような気がいたします。今の実務の受け止め方として申し上げているのですが。これまでの御意見は,専属的合意をむしろ形成される立場の方の御意見であり,それはそのとおりだと思うのですけれども,審理をする立場から言うと,やはり最後の調整弁はどこか残してほしいなと思うわけです。確かに特段の事情の法理というのは多用することはないのですけれども,専属的管轄合意の事案で公序則だけで処理しろとなるといささか不安が残ってしまう。そうすると,全体の法制的な面から見ても,あえて管轄合意の部分だけ外してしまうというのもどうかという感じがして,強い意見ではないのですが,審理する立場でどうかと言われると,そこもかぶせておいていただくのがよいのではないかと。ただ,その場合にも,運用としてはおっしゃるような共通のイメージがありますので,極めて例外的な場面になるという気がいたします。 ○手塚委員 個人的な御意見なのだろうなと思うのですが,私の今までの経験で,特段の事情説が専属的管轄合意にも適用されるという前提で本当にすべての裁判官が運用してきたとはとても思えないです。そこははっきりしないというのがむしろフェアな言い方で,だからこそはっきりさせた方がいいということと,それから,安全弁というのだと,例えば,仲裁合意をしたときに,日本でやるのは迅速・適正な審理という意味では問題だと裁判所が思ったときも,それで仲裁合意の効力を認めなかったら国際問題になるわけで,仲裁合意と専属的裁判管轄合意でかくも違ってしまっていいのか。それは仲裁は仲裁で,専属的裁判管轄合意は別物だというのはあるかもしれませんけれども,やはり利用者の期待は,合意した以上は尊重してほしいということなので,裁判所が何となくやりづらいとか,おかしいと思ったから却下するという権限を持つよりは,むしろそういうものは原則行使してほしくないという方が利用者の意思に近いのではないかと思うのです。だから,私は,今の話を聞いていて,少なくとも弁護士,実務家はそういう特段の事情で最後に却下されるだろうという前提では動かしてこなかったと思っています。 ○髙橋部会長 そこはそうだろうと思いますが,しかし法律論としてどうだったのかというのは,御指摘のようにそれほど判例はありませんから,それはそのとおりです。また,仲裁との比喩も,国家裁判所と仲裁というのは似ていると言えば似ていますが,違うと言えば違うところもありますね。税金がどれだけ入り込んでいるかというようなところもあるわけですが。   御意見を更にいただければと思います。 ○山本(和)幹事 前回,意見をかなり述べましたが,その意見は特に変わっておりません。基本的には8ページの①に書かれたような理由でかぶると考えるべきなのではないかと考えているのですが,除外すべきであるというお考えの委員・幹事にお伺いしたいのは,そのお考えというのは,適正かつ迅速な審理の実現が日本の裁判所ではできない場合であってもなおそれは日本ですべきだとお考えなのか,それとも,そういう場合はその合意が公序に反するということで,基本的にはその合意は無効になる,つまり結果としてはこういう規律をする場合と差異は出てこないとお考えなのか,その前提をお伺いできればと思うのですが。 ○古田幹事 個人的な認識としては,対等な当事者が日本の裁判所で訴訟をしたいと合意をした以上は,その結果として例えば適正な判断が出なかったとしても,それは致し方のないことであろうと思います。いずれにしても私人間の権利義務関係の問題ですので,当事者がそれでいいと割り切ったのであれば,仮に神様の目から見て間違った判決が出たとしても,それは仕方がないことだと割り切るしかないのではないかと思います。   訴訟遅延の方は,これは裁判所の資源の問題もありますので,当事者が割り切ればそれで済むという問題でもないのですけれども,しかし,基本的には当事者の利益としても迅速な裁判というのは考慮した上で管轄合意をしているわけですから,そこは若干日本の司法資源を無駄に使うことになったとしても,ある程度は我慢をするといいますか,鷹揚に見てやるべきでしょう。それが甚だしい場合には,訴権の濫用ですとか管轄合意自体が公序に反するという処理で対応するということにする方がよいのではないかというのが私の意見です。 ○手塚委員 これはもともと,公序違反というのは何なのかということをもう少しはっきりさせた方がいいのではないかというのが私どもの意見だったわけですが,そこは入ってなくて,公序違反の中には,合意そのものが,つくったときに一方的だとか,あるいはつくり方の問題で公序違反だというのもあると思うのですけれども,条約の規定振りからも,その管轄を認めたのではいわば公正な裁判が行われないようなものは入っているわけで,それは例えば,合意したときにはある国はまともだったけれども,その後戦争状態になったとか,そういうのも入るわけです。そういう意味では,それに準ずるような,つまり戦争にはなっていないけれどもその国でやることは両当事者にとって極めて不都合だとか,あるいは一方当事者にとって余りにもひどいときに,それは公序違反でける手はあるだろうけれども,同じ文言でそのままやってしまいますと,この一般的規律というのは例えば財産所在地管轄を制約する原理としても働くような文言になっているので,それが毎回専属的管轄合意があるときにも同じ文言で出てくるのはちょっといかがなものかと思うのです。もちろん,分けて書いて,専属的管轄合意については当事者の公平というのは専属的な管轄合意をしたということも考慮してやるのだとか,いろいろ書いておけばはっきりするかもしれませんけれども,私は,外してしまって,公序違反のところには,事後的な事由による公序違反,著しい不正義という言い方を条約はしていますが,そういうものも入ると考えておけばほぼ足りるのではないかと思っています。 ○横山委員 結論的には,ペンディングの括弧内を入れる,削除しないということで,専属的な管轄合意があったときには特段の事情は介入しないという考え方です。   三つほど,御議論を聞きまして感じましたことは,第1番目は,公序という言葉が使われておりますけれども,訴権の濫用というだけではなくて,例えば,日本を合意したのは当事者の一方の将来執行の対象になる財産があるということで日本を管轄合意したという事情があったのだけれども,かなり長期にわたる契約関係で,いざ紛争が生じたときには当事者の財産は日本にはかけらもないというので,最初からそうだと分かっているのだったら日本の管轄を合意するということはしなかったはずだというような状況が問題になるのではないかと思うのですが,そのときは権利の濫用というよりは,むしろ当事者がなぜ日本を管轄合意したかという意思解釈の問題として解決すべき問題。そういうこともあり得るし,戦争の事例を手塚委員がおっしゃったけれども,これも当事者にとっては全く予測しなかった事態の発生ということもあり得るのだろうと思うのです。公序だけですべてが解決されるのではなく,当事者の意思解釈による解決の方法もあるのだろうと思います。   それから,第2番目の適正かつ迅速な審理と管轄合意の関係なのですが,そのままそっくり専属的管轄合意ですから,日本を管轄合意したときは当事者としても恐らく日本法を準拠法として指定していると思います。それをそのままそっくり認めてあげるというのであれば,正しく日本の裁判所は日本法を世界の中で最も適正かつ迅速に適用される機関なのですから,特段の事情などで制約しないで,そのまま認めるのがむしろ適正・迅速という目的に合致するのではないかと思います。   それから第3番目,山本和彦幹事のお考えになっていることが最初はよく分からなくて,だんだん自分なりに分かってきたと思うのですが,恐らく,専属的な裁判管轄合意が日本の裁判所についてあった場合には特段の事情を考えないということになりますと,後でも出てくるだろうと思いますけれども,事案の性質等々認めるときはというような民事訴訟法の原則とは別個独立に,それらの事情よりもプライオリティを持つものとして当事者の予見可能性が重要性を持ってくるのだと。当事者が日本の裁判所で解決しようと予見しているときには,場合によっては適正・迅速といった考慮よりもむしろそちらの方が優先してしまう,それでいいのかという根本的な疑いを民事訴訟法学の専門家として持っておられる,それが山本和彦幹事の御発言の背後にいつもあるのではないかと思うのです。もしこのままで括弧書きが維持されてくると,やはり解釈論上,管轄権そのもの。この特段の事情に関する規定というのは一般条項的な規定を持ってくるわけですから,この規定の解釈から,国際民訴に関する日本のルールでプリンシプルとして価値が一番高いのは一体何なのだとなると,普通に読んでしまうと,予見可能性というのは割と高めにある。消費者保護,労働者保護の場合でも,事後に紛争解決しようと当事者が合意したときは,本来労働者,消費者は保護しなければいけないけれども,それでも合意の方が優先してしまうわけですね。紛争後に。情報・交渉能力の非対称性を考慮しても,本来非対称なのだけれども,対称性があると考えられる状況では予見可能性を考慮して管轄合意を認めるわけですから,その規定の解釈から考えても,どうも予見可能性―国内民訴の状況を念頭に置いていると,予見可能性が適正・公平に優越するというのは,私の個人的なあれなのですけれども,なかなか考えにくいのではなかろうかなと思うので,それで山本幹事のような発言が出てくるのではなかろうかなと思うのです。   実は今の議論は結構政策的な,要するに今度の改正のキーポイントとして,どういう政策的原理に重きを置くかというのは結構重要なポイントなのではないかと思うのですが,ただ,私は根本的に,松木委員が日本のビジネスの世界では特別の事情論をかぶせない方がいいとおっしゃって,裁判所の方の御発言もそれほど頻繁に出る問題でもないし,それほど懸念されることでもないと思うのです。比較法的に見ても,イングランドというのはforum non convenienceでやっているわけですけれども,イングランドの裁判所を管轄合意しておいてforum non convenienceで訴えを却下した事件が全くないわけではない。ないわけではないけれども非常にマイナーな位置しか占めてないということを考えると,イングランドと同じような状況が日本の裁判所でも起こる保証はないですけれども,よほどのこと,普通のビジネスマンであればそんなむちゃくちゃなことはしないだろうと。事件も非常にわずかである。わずかというか,本当に教科書に載っているのは1件とかそのぐらいのケースなので,余り裁判実務を混乱させるようなこともないのではないかと考えて,この括弧書きを維持した方がいいと私は考えました。 ○手塚委員 私の理解がもし間違いでなければ,今回提案の「特段の事情」の定義というのか中身は,最高裁が言っているやつとちょっと違う部分があるのではないかと思うのです。つまり,最高裁の文言は,民訴法の文言に基づくというよりは,独自のいろいろな考慮事項を挙げた上で,日本で裁判を行うことが,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情と言っていたのではないかと思うのです。弁護士会のパブコメも,そういう最高裁の平成9年11月11日判決の規範をベースに文言を考えたらいいのではないかと言っているのですが,今回の事務局案,あるいは中間試案段階で,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情という結構広いところまで本来は含み得るというのでしょうか,理念の話だから,裁判の適正・迅速を損なうというのに比べるとちょっと概念があいまいといいますか。だから,私は,最高裁はそれをうまく使って,例えば財産所在地管轄であれば広く特段の事情でけるし,そうでないものについては狭くとかということも可能な余地が残るような,ぬえのような文言になっていて,法制的にはこれをそのまま使えないのかもしれませんけれども,今それがたまたまもっとはっきりした文言で出てきているので,裁判所のお気持ちとすれば適正・迅速な裁判ができない場合までなぜやるのだと,こうなってしまっているのですけれども,それは文言を変えたから非常にきつく見えるだけの話で,文言を変えたことによって,例えば特段の事情を財産所在地管轄をけるときに今までよりける範囲を狭くしようという立法意思はないと思うのです。法制度上乗っかりやすくしただけの話だと思うのです。だから,私から見れば,もともとこの部分は最高裁判例の論理を変えるとか範囲を変えるということはそれほど意図していなくて,法制度に乗っかりやすい文言にしただけで,本当に適正・迅速を著しく害するような場合は,先ほど申し上げたようにそれは公序違反だと言えばいい話で,何度も言っているように,むしろチリングエフェクトというか,日本では専属管轄合意があってもまた特別の事情があるかどうかということで争われてしまうのですよという,そこのデメリットの方が弊害が大きいというのが私の考えです。 ○髙橋部会長 先ほどの山本和彦幹事の御質問に対しては,私の理解したところでは,やはりすべてをカバーできるわけではない。古田幹事のではそうですよね。多くの場合はもちろんカバーされるのだけれども,しょせん理屈の世界の話ですけれども,それは残り得る。手塚委員も,戦争とかそれに準ずるとおっしゃいましたが,山本和彦幹事のお話はそれ以外も含み得るわけです。ですから,かなりの部分は別の法律構成でもできるでしょうけれども,学者の好きな教室設例的な感覚で言えば多少は残るということだろうと思いますが,さてその上で,それはそれとしてどうするかですが。 ○山本(克)委員 私も前回話しましたので余りしゃべるのはどうかと思っていたのですが,やはり括弧内は残すべきだと考えます。適正と迅速を両立させるということが理念であるにしても,当時者が合意したということはラフジャスティスでも構わないということを含意しているわけで,だからラフジャスティスでいいと日本の裁判所が割り切るかどうかです。つまり,当事者が出してくる証拠方法の取捨選択に当たって,こんな金のかかる証拠調べはしないということで裁判して,それがなぜ悪いのかということだと思うのです。私はそれでも構わないです。なぜなら,日本を裁判地として合意した以上,費用の点できちんとした裁判を受けられないかもしれないということはもう含んでいるのだと。古田幹事がしょせん当事者間の権利の問題です,私的利益の問題ですとおっしゃいましたけれども,それでいいのではないかなと思うのです。極端な言い方をしますと。ですから,そのレベルで当事者が構わないと思っているのだということでやればいい。それも極めてレアケースですし,むしろ,この規定が括弧を外した形で出ることによっていわゆる取引費用が増大する可能性があって,そちらの方が,日本の企業が日本を裁判地に選択したいというので専属的管轄合意を置かれるような場合に,それは例外があるかもしれないから,そんなのやっても相手方が予見可能性がないから嫌だと言われるデメリットというのも考えておかなければいけないわけでして,これは第三国として日本が選択される場合も同様ですが,得られるものはほんの少しなのにマイナスが余りにも大きい。やはりそれは避けるべきだろうと思います。 ○髙橋部会長 ためにする議論をさせていただきますが,両当事者はそれでいいのかもしれませんけれども,そこに振り回される裁判所あるいは他の裁判利用者へのマイナスというのも,これは観念論ですけれども,あるということと,それからチリングエフェクトということですが,先ほど横山委員も言われましたように,イングランドと同じだと言っておけばよいのではないでしょうか。イングランドも理屈の上ではforum non convenienceがかかる,しかし実際にはまずない,それと同じだという説明をして世界で通らないものでもないだろうと思うのです。   大体どういうあたりの議論をすればいいのかというのは随分明確になってきたと思いますが,多分これが今日最後の山です。もう少し時間はありますので,更に,御発言いただいていない方でこう思うと,多分今日はまだ決定はしないと思いますけれども,最終判断のための御意見を是非いただきたいと思います。 ○道垣内委員 専属的管轄合意により日本の裁判所を指定しているのに,非常にマイナーケースだとしても,この第5の規定で却下したとすると,その事件はどうなるのだろうかということが心配です。本来通常の管轄原因があるべきところに行って訴えを提起すると,日本の裁判所を専属管轄にしていますねという理由でその訴えが却下されるおそれがあります。あるいは先にそちらの裁判を試みて,専属管轄合意違反ということで却下になっている場合もあり得ます。いずれにしても,結果において裁判の拒否になってしまうという場合も出てくるのではないかと思います。ですので,非常に例外的な場合であるとしても,専属管轄合意があるのに訴えを却下してしまうと,ちょっとまずいことが起こり得るのではないかということを一言申し上げておきます。 ○山本(和)幹事 今の問題は,私もよく分からないのですが,もちろん究極的には緊急管轄という話になるのでしょうけれども,7ページの管轄合意の1の②のような規律ですね,専属的管轄合意がされているけれども,その外国の裁判所は管轄権を行使することができないというのをどう読むか。その外国裁判所が管轄権を行使しない場合には,やはりその管轄合意の効力は認められないというのが極めて常識的なような感じがして,その外国が果たしてそう認めるかどうかという問題はもちろんありますけれども,一応このようなことを前提にしてもいいのかなという印象は持っています。 ○松下幹事 私は前回も意見を申し上げまして,私はここでは少数派のようですが,専属的な管轄合意がある場合もこの第5の規律をかぶせておいた方がいいのではないかという立場です。   幾つか理由はありますが,まず,先ほど来,どうしてもという場合には公序良俗だとか意思解釈だとか訴権の濫用とか,そういうところで救えるのではないかという指摘がありますが,それで救えない場合が出てくるのがどうしても私は気になります。   それから,萎縮的な効果が発生することは国民経済的にもマイナスではないかという御指摘もあり,これは私も全然実証性を持ってそれを議論するわけではないのですけれども,この規律で,裁判所は,訴えについて管轄権を有する場合で,専属的管轄合意がある場合も含めてこうだと書けば,それは確かに専属合意でもひっくり返るのかというメッセージを明らかに伝えることになりますけれども,ただこの括弧の中を全部取ったら,そういうメッセージは表には出てこないし,常識的に考えれば当事者間の公平を害するとか何とかというので,本来的な管轄原因,つまり財産所在地なのか管轄合意なのかというので違っていいというのは,私はむしろそちらの方が法律家としては常識的ではないかなと思うので,その萎縮的効果というのがどれほど大きくて,どうしてもという場合をカバーできないデメリットというのはどっちが大きいかというと,私はちょっとよく分からないなというところです。   それから,もう一つ別の理由ですが,この規律はもちろん間接管轄の場合にもきいてくるわけで,こういう管轄原因でできた債務名義を日本で執行するということも考えなければいけないわけですけれども,日本の司法制度の強制力というのをそういう債務名義にまで使うということがいいかどうかという,これも考え方の問題ですが,私はなおそこについてちゅうちょせざるを得ないので,極めてまれな,非常に幅の狭い議論をしていることは私も重々承知していますけれども,先ほど裁判所の委員から安全弁という言葉が出てきましたが,どこか一つは残しておきたいという気持ちがどうしてもぬぐえないということであります。 ○髙橋部会長 先ほども申しましたが,今日結論を出すつもりはございませんので,この国際裁判管轄法制部会としての意見も次回にまとめさせていただくことにいたします。   第5はもう一つございます。9ページの2,考慮すべき要因についてです。ここは従来,これまた国内民訴の規定を持ってきていたのですが,「検証物の所在地」というのは,理屈はそのとおりなのですが,ちょっといかがなものかというようなこともございましたので,9ページのような案でいくとすればどうだろうかと。つまり,「事案の性質,当事者及び尋問を受けるべき証人の住所,応訴することによる被告の負担の程度その他の事情」というぐらいではどうかということです。もちろんこれで法制局を通るということではなくて,そこは留保させていただきますが,こういう表現ですと少しはよくなったと皆さん考えていただけるかどうかということですが,いかがでしょうか。 ○古田幹事 従前の事務局案よりは良くなったと思います。かなり早い段階の部会で,最高裁判例の定式化そのままの方がいいのではないかという意見を申し上げましたけれども,それは法制的に難しいということでした。そのため,事務局案は民訴法第17条の規定を借りてきた形になっていると理解していますけれども,最高裁が今まで言ってきた特段の事情の中身から考えると,今回代案で出していただいたような書き方の方が,より判例の準則に近い書き方だと思いますので,私としては今回の代案の方がベターであろうと考えます。 ○山本(弘)委員 「当事者の住所」というものが置かれていることの意味なのですが,「応訴することによる被告の負担」云々というのは被告の住所地を含んでいるわけですよね。それ以外にどういう意味合いで「当事者の住所」が置かれているのか。当事者尋問の便宜を想定しているのか。「尋問を受けるべき証人の住所」は明らかに証人尋問の便宜だと思うのですが,証拠調べを想定したある種の文言を考えるのだとすれば,「取り調べるべき証拠の所在」とか,もう少し膨らませた方がいいのではないかなというのが私の感想です。 ○髙橋部会長 御指摘はよく分かるつもりです。人証に限らず物証まで含めて。 ○山本(弘)委員 「検証物」と書いてしまうとまたあれなのですけれども。 ○髙橋部会長 御指摘ありがとうございます。   更に法制マターの中で可能な線を探りますが,皆様からもこういう文言がいいのではないかというアイデアがございましたら,是非御提供いただきたいと思います。 ○山本(克)委員 今,山本弘委員がおっしゃったことには全面的に賛成です。私も被告の住所というのがダブってくるのはどうかなという気がしたのですが,それはともかくとして,「応訴することによる被告の負担の程度」というのは相当上のものではないかという気がしていまして,順序としては「事案の性質」の次ぐらいに来てもいいのではないのかという感じがしています。先ほど言いましたように,証拠の所在は場合によってはあきらめてラフジャスティスをしていいというのが私の考え方ですので,一意見として申し上げさせていただきます。 ○髙橋部会長 御指摘ありがとうございます。   それでは,ここは更にアイデアをお願いするということで。 ○古田幹事 先ほどの松下幹事の御質問であった実務的にどうなのかという点なのですけれども,専属管轄合意があって特段の事情が問題になる訴訟というのは,日本全国でも恐らく年に数件もないだろうと思います。他方,日本を専属管轄合意裁判所として行われる国際的な取引というのは恐らく数万件,数十万件はあるのだろうと思います。専属合意の場合にも特段の事情が適用され得るということが明示的に条文に書いていなければ目立たないという御指摘もあったのですが,実際上そういう取引をする場合には,例えば管轄合意が入っていますと,その管轄合意が果たして日本の裁判所でどこまでエンフォースできるかということについて,法律家がオピニオンを出すのが一般的な実務になっております。専属合意が特別の事情の適用対象でないことが,条文上明確になっていませんと,弁護士としては,日本の裁判所では特段の事情によって専属管轄合意の効力が否定される可能性があると書かざるを得ないです。そうしますと,取引当事者からすれば,日本の裁判所を専属管轄とする合意の効力について予見可能性がないから,日本の裁判所を合意管轄裁判所とするのはやめた方がいいのではないかということにもなりがちです。それはイングランドも同じではないかという御指摘もありましたが,実績と伝統のあるイングランドの裁判所を選ぶかどうかという判断をするときと,国際取引から言うとまだそれほど認知されていない日本の裁判所を選ぶかどうかという判断をするときでは,イングランドではそういう事情があってもなおイングランドの裁判所を選ぼうということになるのですが,日本の裁判所の場合にそれでもあえて日本の裁判所を選ぼうということにはなりにくくなってきます。その結果,日本の司法というものの世界的な存在感が薄れることになるのだろうと思います。それがいいかどうかという問題はまた別途あるのですけれども,私としては,日本の裁判所の優秀さ,信頼性は世界に冠たるものだと思っていますから,是非これをより利用してもらえるような法制度にしていただきたいなと考えております。 ○髙橋部会長 それでは,またもとに戻ってという御質問も結構ですが,進行上,第6,第7にまいります。 ○佐藤幹事 第6は従前のとおりです。   第7は,文言は多少変えておりますけれども,実質的な趣旨は変わりません。前回御指摘を受けた点も踏まえて,全体との平仄を考慮して文言を若干変えたものでございます。 ○道垣内委員 第6についてなのですけれども,ずっと経緯があって,条文が変わりながら,しかしこれは残ってきたわけですが,いくつか分からないことがあります。   一つは,今の条文だと第1も第2も日本の裁判所はこういう場合に管轄があると書いてありますね。その上で,この第6では日本の裁判所に管轄権が専属する場合は適用しないと言っています。いずれにしても日本にあるので,わざわざこの規定を置く意味はどこにあるのかが分からないというのが一つ。要するに重なってしまっているのではないかということです。間接管轄として書くならば,それは意味があると思うのですが,それはインプライするだけで直接管轄しか書いてないとすれば,なぜ適用しないとわざわざ言わなければいけないのかがよく分からないということであります。   もう一つの分からない点は,第3が抜けているわけですけれども,第3は併合とか反訴に関する規定でありますけれども,例えば不動産の登記の移転請求に対して,反訴で同じ不動産について,代金をまだ払ってないじゃないかというので反訴を提起する場合に,移転請求の方は専属管轄ですよね。代金請求は別に専属ではないわけですが,専属管轄の定めがある訴えについて第3は適用できないとなると反訴ができなくなるのかということなのですが,それはおかしいだろうと思います。   それから,三つ目ですが,条文としてこれを置くことはなく,これはただ整理のためですというのであればいいのですけれども,もし私の言っていることが当たっている部分があるとすれば,それぞれの条文の中に書き込めばいいことで,専属管轄の方はもう書いてありますから,先ほどの第5のところも,もし専属管轄合意がある場合を除くと第5に書くのであれば,法定専属管轄の場合も除くと一緒に書いた方が分かりやすいのではないでしょうか。以上,十分整理できていませんけれども,疑問が幾つかございますので申し上げました。 ○佐藤幹事 まず,任意的な管轄と専属的な管轄の優先関係を定めるということで,民訴法にも第13条の規定があるわけですけれども,この規定もそういう趣旨から設けているもので,専属管轄の原因となる事由が外国にある場合には直接管轄の効果としても却下されるという趣旨のものです。ちょっと御質問を正確に理解できているのか分かりませんけれども。   それから,反訴について除いているのは,反訴について第3の③の中で同様の規定を置いているからでありまして,例えば外国の土地についての移転登記請求のようなものが反訴で起こせないというのは第3の③で読むという理解でおります。   それから,条文の体裁につきましては,まとめて書いた方が分かりやすいだろうということで記載しているものでして,ここは法制的な観点からの検討になると考えております。 ○道垣内委員 それぞれまだ分かりませんけれども,特に第1の点については,この規定を裏返して読んで,外国の裁判所に専属管轄がある場合と読むということであれば分かりますが,そうは書いてないように思われるので,それで重なっているように見えるのです。おっしゃるように,日本に被告の住所があっても,日本から見れば外国の専属管轄があるような事件は,日本では裁判できないというのは分かりますけれども,第6は,「日本の裁判所に」と書いてあるので,ちょっと分からないということです。   もう一点,2番目の反訴の規定の第3の③は,反訴の方が専属管轄の場合ですね。私が申し上げたのは,本訴の方が日本の専属管轄の場合にその反訴請求が認められるのか。それは認めていいのではないかと思うので,専属の定めがある場合について除外してしまうと問題があるのではないかということを申し上げた次第です。 ○佐藤幹事 本訴・反訴の場合では,本訴の方はほかの規律が適用になりますので,その本訴に限らず,ほかの訴えについての規律で日本に専属管轄があれば,もちろん日本に専属管轄が認められることになろうと思います。   最初の点につきましては,法制的にどう明確に書けるかということだろうと思います。外国の裁判所に専属管轄が認められるというのは正に外国の法令によってということになりますので,日本の立場から書くと,不動産の移転登記請求であれば,それは日本の不動産の移転登記請求である場合と外国である場合があって,その場合,外国で専属管轄になるかどうか分からないということで,少なくとも外国の場合には日本の裁判所では認められないということを書こうとしているということで,その場合に外国の裁判所の専属になるかどうかというのは外国の法令によってしまうものですから,そこをいかに工夫して文言として書くかということで,今の御指摘も踏まえて,法制化の段階ではできるだけ分かりやすい文言を心掛けて法制化したいと考えております。 ○髙橋部会長 御指摘はまた検討いたします。   ほかに,第6,第7に関して何かございますか。 ○山本(克)委員 第7の方ですが,修文された部分については何も異論ございませんが,民事保全法第12条第6項の登記・登録物件で,移転に登記・登録が必要である場合については登記・登録地を所在地とみなすという規定と同様のものをここにも置かないと,無体財産権が仮差押物件あるいは係争物である場合に,日本にあるということを明確にする趣旨から置いておいた方がいいのではないかという気がするのですが。 ○佐藤幹事 検討します。 ○髙橋部会長 御指摘ありがとうございます。   それでは,第8ということになりますが,これも何かありますか。 ○佐藤幹事 本文①は従前のとおりです。 ○齊藤関係官 本文②について若干御説明いたします。   本文②につきましては,第1回において配布させていただいた研究会報告書にも同様の考え方が示されているものです。相続に関する訴えの本文②に対応する国内土地管轄の規定は現行民訴法第5条第15号でございます。ただ,第5条15号は相続財産が所在することを要件としております。しかし,この要件については,今回の国際裁判管轄法制との検討も併せて検討しますと,(補足説明)の一番最後のページの第2段落に書かせていただいたような理由によりますと,括弧書きの相続財産の存在という要件は不要ではないかとも考えられますことから,この点に限っては国内土地管轄法についても要件を削除することとしてはどうかということで記載しているものでございます。御審議をよろしくお願いします。 ○髙橋部会長 ここだけなぜと言われると困るのですが,ちょっと目立ちましたので。   これは相続開始の地でいいので,普通,財産が何もないということもないのでしょうけれども,そういう要件は要らないということが,先ほど申しましたが目立ち過ぎますので,ここは国内の方も削らせていただきたいということですが,特に御異論はないということでよろしいでしょうか。 ○山本(和)幹事 前回,山本克己委員からあった御提案はとらないという結論だと思うのですが,私自身はなかなか魅力的な提案ではないかと思っていたのですけれども,御検討の結果,やはりなかなか難しいということなのでしょうか。移送できるという規定ですが。 ○髙橋部会長 魅力あるアイデアだと私も思いますが,倒産法はそれなりにうまくできたのですが,一般化すると移送全体に響き得る議論ですので,それは改めて,国内民事訴訟法の改正がいつあるか分かりませんが,そのときで足りるのかなということでどうでしょうか。そういうアイデアを出していただいたということは議事録に残っておりますので。もちろん最高裁規則を決めるときにまた御議論されても結構だと思いますが。 ○山本(和)幹事 恐らく最高裁規則では無理で,家事審判規則第4条に同旨の,基本的に管轄がないところにも送れるという規定があると思うのですが,あれは今回の非訟の改正で法律の方になるということですので,多分法律で手当てをしないと移送は難しいのかなと思ったものですから,確認をさせていただいたということです。 ○髙橋部会長 余計なことを申しました。先ほど言った方が正しいことになりますね。民訴全体で考え直すときにということで。   ほかにということですが,私の方で用意しておりますものは,前回も議論がございました上告の関係でございます。国内の専属管轄と国際裁判管轄を比べたときに,国内の専属管轄は絶対的上告理由になって権利上告できる。しかし,国際裁判管轄は,何も規定を置かなければ,現在最高裁も上告受理で処理しているようですが,上告受理ということになって,絶対的上告理由にならない。これはバランスを欠いていると見ることもできるし,そうでないという御意見もあるのかもしれません。そういう問題提起をいたしましたが,前回,それはそういう見解があってもいいけれども,裁判権免除でさえ絶対的上告理由にしなかったし,絶対的上告理由と並べられているものが本当にそれに値するのかというのは学問的にはもともと議論のあるところでして,再審と重複しているなどというのも沿革的な理由以外の理由は余り考えにくいところですが,それはまた民事訴訟法のそういうところを改正するときに考えるべきものではないかという御議論もございました。そのあたりをもう少し,御意見を賜りたいということでございます。   前回もありましたが,弁護士会としては,別に絶対的上告理由になっていなくても,上告受理事由になっているわけですから…… ○古田幹事 弁護士会として特に議論しているわけではないのですけれども,私の個人的な意見で言えば,大使・公使の裁判権免除ですとか国家の主権免除についても上告受理事由の限度にとどまっていて,絶対的上告理由にはなってないわけですから,国際裁判管轄も上告受理事由にとどめておく方がいいのだろうと思います。しかも,実務上も国際裁判管轄が争われる事件というのはそれなりにありますので,これを絶対的上告理由にしますと最高裁の負担がかなり大きくなると思うのです。そういう観点からも,上告受理事由になっていればそれで足りるというのが私の個人的な意見です。 ○横溝幹事 前回もそうだったのですけれども,裁判権免除との対比の話が出ていまして,その裁判権免除で尊重しなければいけないのは外国の主権的な活動でありますけれども,専属管轄の場合に保護しようと考えているのは我が国の方の公益でありますので,そこはパラレルに考えられないのではないかと思います。そこで,どちらでもいいのではという意見もありましたが,私は絶対的上告理由にしてもいいのではないかと思っています。 ○髙橋部会長 主権免除とのバランス論がどちらがいいかも含めて,上告制度全般,最高裁の負担はまだ軽減されていないという指摘もありますので,つまり上告受理事由をつくっただけではまだ足りなかったというような議論もございますので,そのときにということにはなろうかと思いますが,なお御意見があれば。   では,今日の部会資料全体からでもよろしいですし,書いてないところでも結構でございますが,御指摘いただける点がございましたらお願いいたします。 ○朝倉幹事 前回も申し上げたことなのですが,先ほども話に出た最高裁規則との関係で,伺えればと思います。今のお話ですと移送の話はほかの問題とまとめて検討されることになるだろうと。前回の山本克己委員のお話でも,移送の問題の出てくる前提としては規則で規定する場所は1か所-民訴規則の第6条との関係で言いますと千代田区なのかなとも思わないではないのですが-になろうかと思います。前に古田幹事から違う御意見もあったところですが,一応その確認をさせていただきたいと前回申し上げて,今回ご意見をいただけるのかなと思っていたものですから,もししていただけるのであればお願いします。もちろん次回でも構わないのですが。 ○髙橋部会長 山本克己委員の御意見は,先ほど魅力あるアイデアと申しましたが,立法的には相当重いものになります。古田幹事は,8高裁所在地でしたか,そういう御意見もありました。しかし,確認はできませんが,従来の流れからすると東京都千代田区ということになる可能性もあります。その辺を御意見いただけたらということですが。 ○古田幹事 日本の国際裁判管轄は認められるのだけれども土地管轄の規定で国内土地管轄が決まらない場合というのは,実際にはあまり生じないような気もします。私は前回,8高裁所在地というのはどうかということを申し上げましたが,しかしそうでなければいけないという強い意見を持っているわけでもありません。従来の流れからいけば,恐らく東京都千代田区ということになるのだろうと思います。それで実務上それほど支障が出るかというと,その規定を使う場合はそれほどないでしょうから余り支障はないと思いますし,当事者がそれで困ると思えば民訴法第19条で必要的移送をするという方法もあります。私としては高裁8か所所在地を実現できたらいいなと思いますけれども,仮に従来の流れで東京地裁になったとしても,実務的には対応できるのだろうと思います。 ○髙橋部会長 民訴法第19条第1項の本案前でも,訴え提起後に一方があそこに移送してくれと言って,相手方も同意すればそれで動くという規定ですね。   事務当局もいろいろ調べて,絶対ないという自信はないけれども,そう頻発することもなさそうだと見ているのです。一時は結構心配したようなのですが,いろいろ見てみると,国際裁判管轄は日本にあるけれども日本国内の土地管轄がないというのはそうあるわけでもなさそうだという見通しなのですが。   そうしますと,東京都千代田区ということに積極的に賛成するわけでもありませんが,そう書かれたからといって大きく反対するわけでもないというあたりでしょうか。 ○道垣内委員 私もどれぐらいあるのか分かりませんけれども,消費者契約とか労働契約に関する事件において,地方で働いている,あるいは住んでいる人も東京まで来なければ訴訟をすることができないのかというと,外国の事業者で日本に拠点がない者との紛争ではありますけれども,やはりちょっと優しくないかなと思います。 ○佐藤幹事 消費者契約の場合も,例えば損害賠償とかそういうことであると,国内の規定は義務履行地の範囲が広いものですから,そういう意味では非常に例外的な場合に限られると考えております。 ○山本(克)委員 ①の射程ですが,第4が入っているのは適当なのでしょうか。第3のうち①の場合ですと,どれか一つに適用すれば足りるわけですので,第3固有の問題ではないですし,②の場合は本訴がもう既に提起されていて,そこの管轄の問題で,これが特に必要であるわけでもないと思いますので,第3は理屈上入らないような気がするのですけれども。 ○髙橋部会長 御指摘は分かりました。ちょっと調べてみます。その可能性は大いにあります。 ○山本(克)委員 もう一つ,先ほど第7のところで申し上げた点ですが,債権の所在地の問題も同様にございますので。ちょっと落としておりました。 ○髙橋部会長 債務者の普通裁判籍。 ○山本(克)委員 第三債務者の普通裁判籍です。 ○髙橋部会長 大体御議論は,少なくともこちらで御議論いただきたいことは終わりましたので,皆様から御指摘があれば議論いたしますが,次回といいますか,予備日のことを少し御相談したいのです。12月25日に予備日を用意しておりましたが,海事債権とか管轄合意と特段の事情とかの議論がまだ若干残っております。しかし,その二つで予備日1時半から5時いただくこともないのではないかと思います。もちろん1月にもう一回あります。最終予定日ですが。予備日は取り消すということでよろしいでしょうか。   それでは,25日は行わないということにさせていただきます。   では,今日の会議はこれで終了です。どうもありがとうございました。 -了-