法制審議会国際裁判管轄法制部会 第16回会議 議事録 第1 日 時  平成22年1月15日(金)  自 午後3時38分                        至 午後4時49分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  国際裁判管轄法制の整備について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○髙橋部会長 それでは,国際裁判管轄法制部会第16回会議を開催いたします。   最初に,配布資料等の説明を事務局からお願いいたします。 ○佐藤幹事 部会資料でございますけれども,部会資料26を事前に送付させていただいております。   本日は,主として前回の御議論を踏まえて変更した点あるいは形式的な変更をした点等につきまして御説明したいと思います。   まず,第1の①ですけれども,前の部会資料では「訴えについて,被告となる人の住所が」となっておりましたが,③の規律との平仄を合わせるということもありまして,「人に対する訴えについて」と変更いたしました。ただ,実質的な内容については何ら変更するものではありません。   それから,2ページの「4 事務所又は営業所を有する者に対する訴え等の管轄権」ですが,この②につきまして,2行目の「業務に関するもの」の後に括弧書を記載して「①の訴えを除く」としていたのですが,①と②いずれの規律によっても管轄が認められる場合にはどちらを適用しても構わないのではないかという理由から,②から「①の訴えを除く」という記載は落としました。   それから,3ページの「7 海事に関する訴えの管轄権」は,③として,前回御議論いただきました,船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴えについての規律をここに入れております。文言としては民事訴訟法第5条第7号と同様の規律でございます。   それから,8の「不動産に関する訴えの管轄権」の後に登記・登録の訴えが記載されておりましたが,これは管轄権の専属ということでまとめまして,4ページの「第3 管轄権の専属」の②といたしております。   知的財産権に関する訴えも同様,専属のところに移しております。   それから,10の消費者契約及び11の労働関係に関する訴えですが,この中には管轄権に関する合意の規律も入っていましたが,管轄権に関する合意の規律につきましては,第5に移しましたので,その関係で移動しております。   11の「労働関係に関する訴えの管轄権」の①の下から3行目ですが,「その地が定まっていない場合」との文言に変更させていただきました。もともとは「その地を特定することができない」という形になっていたのですが,その地がある場合に特定できないということを意図するものではなく,その地が実際にまだないような場合を念頭に置いておりましたので,「その地が定まっていない」という文言に,これも法制的な観点から変更させていただいております。   第3の「管轄権の専属」につきましては,今申し上げたような①から③ということでまとめたものでございます。   それから,第5の「管轄権に関する合意等」の6ページの⑤の部分ですが,もともとは紛争後の合意も入れていたのですけれども,紛争後の合意につきましては,効力が制限されるものではないということが前提になっておりました。そこで,効力が制限される場合のみを記載するということで,⑤は,将来において生ずる紛争についての合意を規律の対象とするようにいたしました。その上で,もともと⑤の中にア,イ,ウとあったのですが,イとウをまとめましてイとして記載しております。これは,実質的な内容については何も変更するものではありません。さらに,「援用したとき」とあるものは,従前の資料では「援用してその裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出したとき」となっていたものですが,その趣旨は全く変えずに,「援用したとき」という形で簡略な記載にしております。   2の「応訴による管轄権」は前回御議論いただいたところでございまして,「第一審裁判所において」という記載が「被告が」という記載の後にあったものを削除しております。   それから第6,これは特段の事情の対象として前回御議論いただきまして,その議論の状況も踏まえまして,前回はペンディングの意味で「P」とついていたのですが,その「P」を落としております。それが6ページの下から2行目から始まる括弧の部分の記載です。それから,考慮要因につきまして,これも前回の御議論を踏まえて,事案の性質は変わらないのですが,従前,当事者及び証人の住所あるいは検証物の所在地というような記載であったものを,まず応訴による被告の負担の程度を前に出しまして,更に「証拠の所在地」をその後に記載しています。これも実質的な内容の変更を意図するものではありません。   第7は,先ほど申し上げましたような,管轄権の専属に関する第3を設けたことによる整備をしたものです。   第9の1ですけれども,この①の冒頭に,従前の部会資料では「第1から第4までの規律により」という記載がありまして,それが適切なのかという御議論もいただいたところですが,この規律自体は包括的な国内土地管轄の受け皿を念頭に置いておりますので,個別具体的な規律を挙げることなく,抽象的な書き振りにしたものでございます。これも,実質的な変更を意図するものではありません。   最後,「その他」,所要の整備ということですが,従前,絶対的な上告理由についてどうするかということも御議論いただいたところです。これはまだ検討中ですけれども,民訴法の第312条第2項第3号に「専属管轄に関する規定に違反」という事由が挙がっておりますので,その平仄なども考えまして,今のところですけれども,専属的な国際裁判管轄に関する規律について上告理由として掲げるという方向で検討をしているところでございます。   以上です。 ○髙橋部会長 それでは,第1から,審議の便宜上区切って御審議あるいは確認をお願いいたします。   まず,「第1 被告の住所等による管轄権」に限定してですが,いかがでしょうか。「人に対する」というふうに言葉を変えたということですが。   それでは,「第1 被告の住所等による管轄権」,国内で言いますと普通裁判籍に当たるものですが,これについては原案どおりでよろしいということですね。   次に,第2の「契約上の債務に関する訴え等の管轄権」ですが,これも一応区切ってやりましょう。   「1 契約上の債務に関する訴えの管轄権」。これは随分議論したものでありますが,こういう形でまとまったというものです。いかがでしょうか。   これも,先ほど申しましたが,随分議論してここまでうまく整理できたということだと思っておりますが,よろしいでしょうか。―はい。   では,2の「手形又は小切手に関する訴えの管轄権」。支払地が日本にあるときに管轄を有すると。ここは,こういうものだということですが。   これは従来から,大体大丈夫だろうということで参りましたので,これも原案どおりと。   3の「財産権上の訴えの管轄権」,いわゆる財産所在地管轄ですが,これも随分御審議いただきました。もっと望ましい形で書けないかという御議論も随分ございましたが,ただし書という形で我々の意図するところを世界に向かって多少は示したということです。この財産所在地管轄はいかがでしょうか。   それでは,「3 財産権上の訴えの管轄権」につきましても原案どおりということにいたします。   「4 事務所又は営業所を有する者に対する訴え等の管轄権」。ここも随分御審議いただきましたが,最終的にはこのようにしたと。ここの中で①を優先する,逆に,②のところでもって①の場合を除くというようなことは,考え方としてはそれでもいいのかもしれませんが,条文としてはそういうことはいいだろうということで,こういう形にまとめました。この点いかがでしょうか。   事務所・営業所管轄は,条文としてはこういう形になりますが,ここは恐らく今後いろいろ適用に当たっては解釈論,学者の議論をにぎわわすところになるのかもしれません。しかし,条文としてはこういう形でどうかということですが。   それでは,「5 社団又は財団に関する訴えの管轄権」。日本の法令により設立されたもの又は主たる事務所・営業所が日本国内にあるときと,こういうものですが。ここも内容上は「第5条第8号に掲げる」というところの中身について随分御議論いただいたところですが,条文としてはこういう形で。この辺,国内民事訴訟法典の中に入れるということもございまして,こういう形で部会としては整理してはどうかということですが。   それでは,「6 不法行為に関する訴えの管轄権」ですけれども,不法行為地に管轄がある,つまり不法行為のあったところ及び結果の発生したところと。しかし,ただし書で結果発生地については限定を付した,予見可能性の限定を付した,こういうものですけれども,いかがでしょうか。   次は,「7 海事に関する訴えの管轄権」ですが,①は船舶衝突,②が海難救助,③が船舶債権その他船舶を担保とする債権。訴えの類型が少しずつ違い,それによって管轄原因も多少ずれますが,特に③はやや,事務局も含めて私もですが,疎いところがございまして,この部会以外の専門家の御意見を伺って,入れた方がいいだろうということで入ったというものです。この海事に関する管轄,いかがでしょうか。   それでは,次に「8 不動産に関する訴えの管轄権」ですが,不動産に関する訴えは,不動産が国内にあるときということです。   では,次に「9 相続に関する訴えの管轄権」ですが,基本的には,相続開始の時点において被相続人の住所が日本国内にあるときというものであり,「相続開始の時」というのをどういうふうに考えるのか等でも御議論いただきましたし,また,これに関連して,国内法の土地管轄規定についても若干の修正をするということも当部会では御審議いただきましたが,相続に関するところ,いかがでしょうか。   それでは,「10 消費者契約に関する訴えの管轄権」。ここも十分御審議いただいたところであります。管轄合意のところは後ろに移しましたので,条文としては短いものになりましたが,消費者と事業者の非対称性に配慮して,消費者からの訴え提起のときには訴え提起時又は消費者契約締結の時における消費者の住所が日本にあるときと,このようなものにしたということになります。いかがでしょうか。   「11 労働関係に関する訴えの管轄権」,これも審議に時間をかけたものでございます。これも労働者と事業主の非対称性から特別の規律を置くということです。先ほど説明がありましたように,表現を「定まっていない場合」というふうに修正をいたしましたが,管轄合意を除いたところで申しますと,こういう①,②という形でおさまったわけであります。現時点ではこのあたりがある意味で限度であろうということで作られた条文ということです。いかがでしょうか。   では,第2を終わりまして,第3,専属性のところに入りますと,会社関係,登記・登録関係,知的財産の存否・効力に関する訴え,こういうものは,これは日本法ですので,日本の裁判所の専属という形で定めました。ここも審議の過程では,専属でなくてもいいのではないかという御議論はございましたけれども,こういう形でまとめてみてはどうかというのが大勢でございました。   続きまして第4,併合管轄ですが,いわゆる客観的併合と主観的併合をただし書という形で分けているわけですが,国内のように簡単に併合裁判籍を認めるわけにはいかないけれども,しかし全く認めないのも問題であるということからこういう形で落ち着かせたわけでありますが,いかがでしょうか。 ○横溝幹事 1点だけ確認させていただきたい点があるのですが,この併合の規定と第6の特別の事情の規定の関係なのですけれども,第6の規定では特に併合の規定を除くことはしてはいないのですけれども,ただ,第4の規定を見てみますと,「あるときに限り」という文言を使っておりますので,例えば客観的併合が使われて管轄が認められた後に特別の事情がかかわってくるということを想定していないようにも読めまして,その辺がちょっと分からないものですから,確認させていただければと思います。例えば,もしこの後にもう一回特別の事情が出るということになりますと,最初に例えば特別裁判籍で不法行為管轄があるかないかを決定する際に1回特別の事情を判断して管轄があるかないかを考えて,その後に第4の規定で客観的併合の後にもう一度特別の事情の規定で客観的併合ができるかどうかということまで考えて,2回出てくることに理論的にはなるのかどうかという点を確認させていただければと思います。 ○佐藤幹事 今の御質問は,特段の事情の考え方が最初の段階で適用になるのか,あるいは管轄が認められた後で特段の事情で却下するという思考ルートをとるのか,そういう御質問という理解でよろしいですか。正確に理解できているのかの確認なのですが。 ○横溝幹事 最後だけに出てくることにしてしまいますと,最初の一つの請求も客観的併合が特段の事情で認められない場合にはすべて却下されることになってしまうので,最後だけに出てくるということにはならないのではないかと思っているのです。そうすると,逆に,前と後に2回出てくることになるのか,それとも客観的併合をするかどうかという際に,密接に関連があるかどうかという判断の中で特段の事情の中で審理されるようなことも考えるのか,そういうことなのですけれども。 ○古田幹事 横溝幹事の想定されている事例がどういう事例か分かりませんけれども,例えば貸金請求と損害賠償の請求を併合して提起をしたような場合に,損害賠償請求について日本の裁判所が管轄を有する根拠として,不法行為地と客観的併合の両方を主張する場合があると思います。日本の国際裁判管轄の根拠として,一つは,不法行為地が日本にあることを主張し,もう一つは,貸金請求について国際裁判 管轄が日本にあることを前提に,それとの客観的併合を主張する場合です。この場合,不法行為地を根拠とする国際裁判管轄が日本にあるかどうかというのは,不法行為地が日本国内か否かという観点で判断がされますし,貸金請求との客観的併合で日本に管轄があるかどうかというのは,貸金請求との間に密接関連性があるかどうかという観点で判断されるわけですけれども,そのどちらか,あるいは両方が認められて,損害賠償請求についても一応日本に国際裁判管轄がありそうだという場合であっても,やはり特別な事情による調整が行われますから,特別な事情によって損害賠償請求について日本の管轄を否定するということはあり得るわけです。その場合に,特別の事情による調整を2回行ったというふうに考えることも理論的にはできるのでしょうけれども,通常,裁判実務では,それは最後に1回だけ調整を行ったというふうに考えているのではないかと思います。だから,2回出てくることになるのだというふうに余り疑問視する必要もないように思いますけれども。 ○横溝幹事 多分,実務的にはそうなると思うのですけれども,ただ,理論的には2回出てくる余地があるということでよろしいということですね。 ○古田幹事 第1から第5までの何らかの管轄原因がなければ,そもそも特別の事情による調整を行うまでもなく,日本の国際裁判管轄を肯定できないわけです。第1から第5に規定された管轄原因が何らか存在して,入口の段階では一応日本の国際裁判管轄は肯定されそうである,しかし,その上で,第6の特別の事情によって日本の管轄を否定する場合があるかどうか,そういう議論をしますので,そういう意味では,やはり1回使っているというふうに考えるのが自然なのではないかと思います。 ○佐藤幹事 文言上様々な解釈の余地もあるのだろうと思いますけれども,①の2行目の「管轄権を有し」というのを,管轄原因があるかどうか,例えば不法行為であれば不法行為地があるという管轄原因の有無の問題と考えるのであれば,そこは特段の事情まで含めずに考えて,最後で特段の事情で訴えを却下するかどうか決めるという考え方もあろうかと思いますし。 ○横溝幹事 その場合に,最初に認められた不法行為地管轄に関する一の請求だけは特段の事情では否定されないということになるのですか。最後に出てくるということは,客観的併合の段階で出てくるので,最後に出てくると,一かゼロかになってしまうのではないかという疑問を持つのですけれども。 ○高田委員 誤解しているのかもしれませんけれども,横溝幹事の御質問は,今正に佐藤幹事がおっしゃった,管轄権を有しているというときに,管轄原因があればいいのか,特段の事情の検討もパスしなければいけないのかということにやはり絡まっているような気がいたします。特段の事情があり,そのもととなる,日本に管轄原因がある請求について管轄権が否定された場合,なお併合管轄を認める余地があるかどうかという点で違いが出てくるのではないかと思います。これは両説あり得ると思いますが,多分,併合管轄の性質からして,併合のもととなる請求について日本に管轄権があるということまで言わざるを得ないと思いますので,管轄原因だけでは足りないという理解になるのではないでしょうか。他方,併合されている方の別の請求については,これは併合管轄要件しか管轄原因がないという前提ですから,併合要件があるかどうかを判断した後に,仮に併合要件があるにしても,なお特段の事情があれば,併合要件があっても併合による管轄は認められないという論理になるわけで,特段の事情が2回出てきますけれども,それぞれの請求ごとに出てくるわけですので,それは2回とは考えないという理解でもよろしいのではないでしょうか。 ○横溝幹事 分かりました。 ○髙橋部会長 それでは,第5,「管轄権に関する合意等」ですが,ここは2の応訴による管轄権も含めて御確認をお願いいたします。従来の管轄合意の議論に加えまして,消費者契約,労働関係の管轄合意についてもこちらに移ってきたということですが,内容を変えたわけではないということになっております。ここはいかがでしょうか。また,応訴につきましても,実際の解釈・運用のところでまた細かい議論が必要になるかもしれませんが,条文としてはこれでよろしいでしょうか。 ○長谷川委員 くどいようですけれども,一言だけ意見を述べておきたいと思います。   今回,労働契約に関して,労働契約の就労時になされた管轄合意について,労務提供地に限定して効力を認めるということについて議論されてきて,結果的にこういうことになったわけですが,何度もこの会議で申し上げましたように,本来は個別の労使紛争が生じた後の合意についてのみ認めるべきであるというのが私の基本的な考え方であります。これまでの討論経過からすれば,この内容でまとめることしかないと思いますけれども,これでも私は懸念があるということについては一言この審議会で最後に申し上げておきたいと思います。 ○髙橋部会長 御指摘をいただきましたが,しかし,この部会の出す要綱案といたしましてはこういうものでいかがかということですが,よろしいでしょうか。   では,第6,「国際裁判管轄に関する一般的規律」。特段の事情として論じていたものということになります。このとおり条文になるという保証が完全にあるというわけでもないのですが,従来の文言に比べれば随分こなれた ものになったかと思いますが,ここはいかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 先ほどの併合請求の裁判籍のところの「管轄権を有し」という言葉と関係があるのですが,従来,特段の事情の場合に判例は,特別の事情があるときは管轄権がないという言い方をしていたかと思うのですが,ここでは「訴えの全部又は一部を却下することができる」と。これは,従来の判例の趣旨,管轄権がないから却下するのだという理解は変わっていないということでよろしいのですね。その点だけ確認させていただきたいと思います。 ○佐藤幹事 そこはそのような理解です。 ○髙橋部会長 それでは,第7,「管轄権の専属の場合の適用除外」。これも前回御注意いただいたところですが,こういう形でどうかということですけれども。 ○山本(克)委員 確認のためにお伺いしたいのですが,管轄合意について適用除外を定められているわけですけれども,日本を裁判地と指定する管轄合意の場合については,訴えについては,法令に日本の裁判所に管轄権が専属する旨の定めがある場合ではなくて,日本の管轄ルールによれば,外国に専属管轄権がある場合が適用除外になるということになるはずですので,その趣旨は多分ここに一応書いてあるということで,要綱案はこれでいいかと思いますが,法文化のときはちょっと御注意いただければと思います。 ○髙橋部会長 第8,「保全命令事件に関する規律」です。仮に差し押さえるべき物若しくは係争物が日本にあるときということです。債権の所在地について,規定を置いて明確にした方がいいのではないかという御意見もありましたが,要綱案としては,これはこういう形でと。なお法制的に詰めたときにまた復活するかもしれませんが,要綱案としてはこういう形でいかがかという提案ですが,いかがでしょうか。   それでは,「第9 その他」。国際裁判管轄はあるけれども,国内の土地管轄が定まらないときどうするかというのは,要綱案といたしましては,最高裁規則の方にゆだねた。ここも1,2両方申し上げますが,随分御討議いただきましたけれども,東京地裁だけになる可能性もあるということですが,そこは規則の方でお決めいただくと。「その他」に関しましては,絶対的上告理由をどうするか。現在の絶対的上告理由の中に専属管轄というのがありますので,それとの関連はなお法制的にはどこかで詰めておくということですが,しかし,基本的な考え方は,多くのものは上告受理事由でいくという頭でいるということですけれども,「その他」のところ,何か御指摘いただけることはございますか。 ○古田幹事 今の最高裁規則の関係ですが,東京地裁だけになりそうなのかもしれませんけれども,一案としては,例えば行政事件訴訟法第12条第4項で,原告の普通裁判籍を管轄する高等裁判所所在地の地方裁判所を付加的な管轄裁判所としているのに倣って,東京地裁と,原告が普通裁判籍を有する地を管轄する高等裁判所の所在地の地方裁判所を最高裁規則で規定することも有り得ると思います。この場合は,管轄裁判所が多くても二つに絞られることになりますので,これぐらいは追加で認めてもいいのかなという気がしております。 ○髙橋部会長 要綱案に即しまして個別に見てまいりましたが,今日の段階になりますと,書かれているところは大体合意ができたところでございますので,これでお認めいただければ幸いだということになります。が,むしろ書かれていないことについて,やはり最後に一言言っておきたいことが多々あろうかと存じます。御自分のお考えをひとつ提起しておきたいということがございましたら,御遠慮なくお述べいただければと思います。 ○青山委員 この国際裁判管轄の規定をどこに取り込むかということなのですが,今までの議論では民事訴訟法の中に入れるという前提で来ておりましたし,今日の部会長の発言もそういうことになると思いますが,果たしてそれでいいかどうかということをもう一度問題提起させていただきたいと思っております。   これが必ずしもこの部会の審議事項になるかどうか。これは法務省の法律作成上の権限だということであればそれで結構ですけれども,私としてはこういうふうに考えております。   国際裁判管轄に関しては,昭和50年以前は,国際私法学者がほとんど自己の独壇場として研究をしてきて,その研究の積み重ねが来ているわけですね。今,民事訴訟学者も自分の研究領域だと思っておりますけれども,それを民事訴訟法という法典の中に取り込んでしまって本当にいいのかどうか,そういう問題が一つと,それから,これを取り込むとプラスとマイナスがあると思うのですが,プラスとしては,民事訴訟事件については,民事訴訟法典だけを見れば,国際裁判管轄も国内管轄も一目で分かる,しかも,お互いに,例えば今日の第38条前段などというのは条文の引用が同じ条文の中でできるということで,メリットは確かにあると思います。しかし,財産関係の部分を取り込みますと,今度は,身分関係はどうなるのか,それから人事訴訟はどうなるのかということになりますと,人事訴訟の改正をまたするとすれば,管轄の前にそれをまた取り込んでこなくてはいけない。それから,民訴と人訴だけならいいのですが,家事審判だとか非訟事件というのも国際的な分野がありますので,そういうそれぞれの条文の冒頭に全部国際裁判管轄で,恐らく似たような規定になると思うのですが,それが来るのがいいのかどうか,それともそういうものを全部ひっくるめて,例えば民事事件の国際裁判管轄に関する法律というような形で一本化することがいいのかどうか。私よく分からないのですけれども,単行法化というのを初めからあきらめていいのか。もちろん民訴法の中に入れた方が,今までの議論からすると入れやすいと思いますけれども,もう一つの可能性も探っていただきたいというのが一つです。   それから,民訴法の中にこれを取り込む場合に,取り込み方がいろいろあると思うのですが,現在の民訴法第5条のような表形式ですね,こういう訴えについてはどこどこという,そういう形式になるのか。要綱案は,例えば「日本の裁判所は」という主語ですから,日本の裁判所が管轄があるのは次の場合とするとして,こういう事件は,こういう場合にはというふうに書いていけば,それは一覧表になると思うのですが,どうも私は,5条のような取り込み方ではなくて,今まで審議をしてきたような文章の形で取り込んでいただいた方が一般の人には分かりやすいと思います。条文の形式から見ると,短くするためには表形式の方がいいに決まっているのですが,そうではなくて,やはりここは文章形式で取り込んでほしいと思っておりますので,そこのところは検討されているかどうか分かりませんけれども,なるべくこの要綱案の文章が,もちろんそのままではないにしても,生かされるような形の条文を,民訴法の中に置くにしても作っていただければ有り難いと思っております。 ○髙橋部会長 御指摘ありがとうございました。委員・幹事の皆様の中にも,諸外国にも例があるわけですが,国際裁判管轄法という単行法もいいのではないかというお考えの方がほかにもいらっしゃるかと思いますが,その点を更にコメントしていただいても結構ですし,ほかの点でも結構ですが,最後に当たりまして御意見の御表明をお願いいたします。 ○岡田委員 消費者契約法ができたときは,果たしてこの法律は機能するのだろうかという,かなり,余りいい法律ではないとかいうのが周りでは聞かれたのですが,私は,通則法ができたときに,やはり消費者契約法ができていてよかったとすごく思ったのです。今回,この国際裁判管轄というのは本当に今までの私たち,訴えられる側の裁判所というのが頭にしみ込んでいまして,そういう中で,今みたいにいろいろな取引が国際的になってきているという部分では,これからやはり消費者が訴えたり訴えられたりということがすごく増えてくると思うのですけれども,今回とても消費者保護という部分について,特別に手当てがされているということで大変感動しています。ただ,これが法律になったときに,一般の消費者がどこまでこれを使うかというのはちょっと分からないのですが,ただ,すごく多数被害が出てきたときに,弁護士が動いてくれるという部分では大変期待できるのではないかと思っていまして,消費者契約法がここまで来たかなという意味で,法律というのは完全ではなくても,できるときに作っておいた方がいいなと思いました。 ○長谷川委員 法案の話をしているのでちょっと遠慮していたのですけれども,最後に,今日これは言わなければと思って来たことについて述べておきたいと思います。私は,この審議会が始まったときに,労働関係がこんなにもつれ込むとは全然予想していませんでした。そういう意味では,この審議会では,大変皆さんに御迷惑もおかけいたしました。ただ,よく考えてみますと,今,消費者についてもお話がありましたけれども,労働者,働く人たちの活動も非常にグローバル化しておりまして,労働事件も恐らく多様な事件が起きてくるのだと思うのです。これからの契約というものを考えたときに,消費者契約と労働契約というのは重要な柱だというふうに今回この審議会を通して感じました。私は,そういう意味では,法律のプロフェッショナルでなかったので皆さんに大変迷惑をかけたのですが,労働事件の管轄がこんなに紛糾するとすれば,どこか議論の中途段階で労働事件を扱った労働弁護士の話を聞く機会や労働法の研究者の意見を聞くような,そういう機会を設けていただけたらよかったかなと自分としても反省しております。   もう一つお願いしたいのは,私は労働側ということで参加したわけですけれども,できれば今後の審議会では,幹事でもいいのですけれども,労働弁護士のような方を参加させていただけると,もう少し皆さんとの意見交換も深めることができたのかなと思っています。是非法務省も,これ以降のいろいろな審議会をやるときに,労働側はいつもだれか一人入ってくるのですけれども,もう一人やはり研究者とか労働側の弁護士だとか,そういう人たちも審議会の中に参加するようにして,きっちりとプロフェッショナルとして意見交換を深められたらいいのではないかと思います。次回以降検討していただければと思います。   でも,この審議会では,本当に皆さんには御迷惑をかけたと同時に,お助けいただきましてありがとうございました。 ○横山委員 最後に一つお願いがあるのですが,今回の法案では過剰管轄とも通常言われている管轄原因も定められておりますし,そうではない規定につきましても,外国の事業者等が見たときにあるいは不十分と思えるような規定しかできなかったと言えるものもないわけではありませんけれども,一国の国内法でできる事柄というのは限られているので,これはやむを得ないと思うのです。一国の国内法で何もかも需要を満たそうというのは,通則法の規定と違ってできない事柄だと思います。特に日本の場合に割と顕著だと思うのは,近隣諸国との間で二国間条約が全くないという現実です。本来ならば二国間条約なり多数国間条約でやるべきこと,あるいはそういう条約があって初めてできる事柄を一国の国内法に盛り込もうと思っても,やはりなかなかできない。一番顕著にあらわれたのが国際訴訟競合の問題で,あの規定の中にいろいろなものを盛り込もうと思っても,相手国のイメージが様々になって,そこで焦点が絞り切れなくて明文の規定には出てこないような形になってしまったと思うのですけれども,特定国があって初めて規定ができる問題と,そうではなくて,どこの国が相手でも一応対応できる規定とはやはり違う。先ほど申しましたように,ヨーロッパ各国は,ブラッセル条約とかがある以前に,二国間条約その他多数国条約がネットワークのようにあって初めてブラッセル条約というのはできるわけなのです。日本の場合は二国間条約,管轄権と承認執行に関する条約は全くゼロだという状況というのがどうしても問題なので,この立法が今回仮に制定されたとしましても,別に私,東アジア構想なんて大それたことを考えておるわけでは全くないのですけれども,やはりこれだけ近隣諸国が1950年代,60年代,70年代とは違った状況にあるわけでありますから,まず二国間条約ということを真剣に考えるべきなのではないか。その中でできること,それから一国の国内法ではできないことというものを考えて,例えば国際訴訟競合の規定でも,相手国がしっかり定まっていれば,かなり実りのある議論ができるし,将来,二国間条約をつくろうとしたときに,この審議会で議論された事柄というのは論点として非常に大きなものを生み出したのではないかと考えて,そういう意味ではプラス思考でおるのですけれども,特定国との間の条約というものをつくらないと,なかなかうまく機能しない。司法というのはなかなかうまいこといかないだろうと考えております。 ○山本(和)幹事 まず最初に質問なのですが,仮に民事訴訟法の中にこういう規定を置くということを前提にするとすれば,人事訴訟については適用除外の規定を設けることになりそうな感じがするのですが,それはそのような理解でよろしいのでしょうか。 ○佐藤幹事 まだ法制的にはこれから検討を続けていくことになると思いますけれども,今,山本幹事から御指摘があったような方向で考えております。 ○山本(和)幹事 そういうことを前提にしてですけれども,今回こういう規定ができれば,既に倒産手続については国際裁判管轄の規定があり,今回,民事訴訟及び民事保全についてもこういう規定ができるということになると思うのですが,やはり残された裁判手続についても是非規定を整備していただく必要があるのではないかという意見であります。これはこの部会の第1回の会議でも確か申し上げたと思いますし,もう一つの非訟事件手続法・家事審判法部会でも私はそのような意見を申し上げたのですけれども,今のような形で,人事訴訟に仮に適用除外の規定が入るというようなことを想定しますと,その適用除外というのは,結局,人事訴訟における国際裁判管轄の規律を空白にするという意味での適用除外の規定になるということになるのだと思いますけれども,本来はやはり法律で規定しなければいけない部分を空白にするために適用除外規定を設けるというのは,私は,それが長期にわたって継続されるということになるとすれば,いかがなものかと考えるところです。したがって,現在は,とりわけ人事訴訟と家事審判については,管轄合意等による処理が困難な分野だと思いますので,特に法律による規定が必要なところだと思います。現在は,家事審判については,国内手続法制に関する規律がなお議論されているわけですけれども,そういった議論が終わった後,できるだけ迅速に手当てをしていただければという希望を持っているということを最後に申し上げたいと思います。 ○髙橋部会長 いろいろな御意見どうもありがとうございました。   それでは,確認でございますが,本日配布の資料26の「国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案」を当部会の案として固めまして,法制審議会総会に御提出する,そういうことでよろしいという御確認をお願いいたします。はい。ありがとうございます。   なお,もう一度見直しますと,内容には変更がないけれども,微細な表現については,こう書いた方がいいとか,句読点まで含めてそういう点が生ずるかもしれませんが,恐縮でございますけれども,そういう微細な表現の変更は部会長に御一任いただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。はい。ありがとうございます。   それでは,要綱案の今後の行方でございますが,事務当局から説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 要綱案をお取りまとめいただきましてありがとうございました。今後は,2月5日に法制審の総会が予定されておりますので,そちらの方で本日お取りまとめいただいた要綱案の審議をしていただく予定でございます。そこで要綱案が取りまとめられて,大臣に答申という形になりますけれども,それを踏まえて,法案として次期通常国会,つまり本年の通常国会に提出をするということで鋭意作業をしていきたいと考えております。 ○髙橋部会長 それでは,民事局長からお願いいたします。 ○原委員 それでは,当部会での審議の終了に当たりまして,事務当局を代表して一言ごあいさつをさせていただきたいと思います。   この度は,国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案をお取りまとめいただきまして,誠にありがとうございました。   委員・幹事の皆様も御存じのとおり,この国際裁判管轄法制の整備は,平成8年の民事訴訟法の改正の際にも検討がされたわけでございますが,その当時はヘーグ国際私法会議において条約作成のための交渉が行われておりましたので,立法化が見送られることとなり,いわば積年の立法課題として引継ぎがされてきたものでございます。その後,ヘーグ国際私法会議において,当初予定しておりました包括的な条約が作成されなかったことや,今日,経済活動のグローバル化が一層進展していることなどにかんがみますと,国際裁判管轄法制の整備をする意義はますます大きくなっているものと考えております。   当部会における審議は平成20年10月に始まりましたので,約1年4か月間にわたり,合計16回にも及ぶ会合を重ねてきたわけでございますが,この間,委員・幹事の皆様におかれましては,多岐にわたる難しい論点について大変密度の濃い審議をしていただきました。もちろん意見の対立の激しい論点もございましたが,本日このようにして全会一致により要綱案の取りまとめができましたことは,髙橋部会長を始めとします委員・幹事の皆様方の多大な御尽力,御協力があったおかげであると深く感謝申し上げる次第でございます。   今後は,先ほど担当参事官から御説明しましたとおり,来月5日に開催が予定されております法制審議会の総会におきまして要綱案についての御承認が得られましたならば,私どもとしましては,来週18日に召集されます通常国会に法案を提出いたしまして,会期内の法律の成立に向けて全力を尽くしてまいりたいと考えております。委員・幹事の皆様には引き続き様々な形での御支援,御協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。   最後となりましたが,これまでの熱心な御審議と,要綱案の取りまとめに向けまして御尽力,御協力をいただいたことに対しまして重ねて御礼を申し上げまして,私のあいさつとさせていただきます。本当にどうもありがとうございました。 ○髙橋部会長 お時間をおとりして恐縮でございますが,部会長を仰せつかった者としても一言申し上げさせていただきます。   ただいまの原民事局長のお話と重複いたしますが,平成8年の民事訴訟法は形式的な形では新立法でございますが,民事訴訟法立法の際にもこの問題が議論されまして,私は当時幹事として参加しておりました。当時は十人十色ではなく百人百様,いろいろな御意見がありまして,前にもどこかでも話をしたことがあるかもしれませんが,法務省内の担当の幹事の方は随分御尽力くださったのですが,これはとてもできないということで,そして,ヘーグの会議がありますので,そちらの方に譲った,そういう経緯があり,期待していたヘーグの方の会議は,ヨーロッパ大陸派とアメリカ派の対立だけではないのでしょうが,基本的な物の考え方が違うということで包括的な案はできなかったということです。そういうことを思いますと,日本国内の立法とはいえ,国際裁判管轄に関しまして要綱案を取りまとめることができたということは,自画自賛になりますが,すばらしいことだったと思っております。もちろん,まだ立法ができたわけではございませんので,佐藤参事官を始め事務当局の方々には随分これまでも御尽力いただきましたけれども,そして,私も委員の一人でございますが,委員・幹事はこれで半分以上仕事が終わったということになるのでしょうけれども,参事官を初め事務当局の方々はこれからがまたもう一つ大きな山を越えなければいけないということになります。是非,会議としてはもうありませんけれども,何か個別の点などにつきまして先生方のお知恵をお借りしたいということを事務局の方が言ってきた場合には気持ちよく応じていただければ有り難いと思っております。また,委員・幹事の先生方には,委員・幹事としては今日で終わりでございますが,是非とも,立法ができたという前提でございますけれども,立法後に,この解釈を磨き,適用を適切にするという解釈・適用において,この国際裁判管轄法制を更に磨いていくという仕事があるはずです。それにつきましても先生方のエネルギーの一部を,あるいは相当程度を割いていただければ大変有り難いと思っております。   幸いにして,予定されていたスケジュールに大体沿って今日まで至ることができました。全体といたしましては,委員・幹事の皆様方の御協力により予定どおり進行できたことを大変感謝しております。   それでは,簡単でございますが,以上をもちまして私のおしまいの言葉とさせていただければと思います。どうもありがとうございました。 -了-