法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会      第7回会議 議事録 第1 日 時  平成22年2月4日(木)  自 午後1時32分                       至 午後4時40分 第2 場 所  最高検察庁大議室 第3 議 題  凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等について          第4 議 事 (次のとおり) 議     事 ● 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会の第7回会議を開催いたします。 ● 本日も,御多用中のところを御参集いただきましてありがとうございます。  前回,要綱骨子案について一巡り議論を行いましたけれども,本日もこの要綱骨子案に基づいて更に議論を詰めてまいりたいと思います。また今回,○○委員初め弁護士会関係の3名の委員・幹事の方々から,個別の事件の公訴時効の進行に関して特別の取扱いをするC-1案,C-2案とも異なる,「C-3案」とでもいうべき修正案の御提示がありました。今回初めて御提出いただいたものでございますので,要綱骨子案の議論に入る前に,この今回御提出の修正案に関する議論をまず行わせていただきたいと思いますけれども,そういうことでよろしいでしょうか。  それでは,この修正案と仮に呼ばせていただきますが,これについて審議を行いたいと思いますけれども,初めに御提案いただきました委員・幹事の方々のうち,どなたからでも結構ですので,この修正案の趣旨,内容について簡単に御説明をお願いできればと思います。 ● では○○幹事の方からお願いします。 ● それでは,○○幹事,お願いします。 ● それでは,前々回に提案すると言っていたものですが,これはこれまでの議論にもありましたように,基本的に私どもは今回のようなドラスティックな廃止,大幅な延長ではなく,これは苦肉の策ではありますけれども,個別の事案について現在の,平成16年改正による現行法の公訴時効期間を事実上延長するというような扱いをするという案を考えてみました。これは基本的にはC-2をベースとしておりますけれども,この間のこの部会における議論を踏まえまして,C-2案についてこれまでの議論で最大の批判を浴びていたのは,被疑者がいない段階で裁判所が公訴時効を延長する,中断又は提出することを認めるという,そういう判断をすることについての憲法31条違反などであったと思います。また後の,被告人の裁判に対する影響などが御指摘がありました。  つきまして,今回このC-2案をベースとしつつも,裁判所が判断するのではなく検察官の公告という一方的な行為をもって中断を認め,ただし事後的にその被疑者が身柄を確保された段階で裁判所が判断するという形での構想でつくったものであります。もちろん裁判所が,後の裁判所で判断するということについては,受訴裁判所がそれを行うという考え方もあるところですが,やはり逮捕,勾留などさまざまな身柄確保後の捜査が行われることを考えると,受訴裁判所ではちょっと判断が遅過ぎるのではないかということから,この案では勾留の裁判所の段階で判断をするという,そういう枠組みを考えてみました。  このペーパーの1,2,3,4,5,6とありますけれども,1番は要件の部分でございまして,基本的にはC-2案で示されていた二つの場合,すなわち被疑者を氏名等で特定できないという場合,又は特定された被疑者の身柄を確保できないためという二つの場合について公訴が提起することができない事件ということをまず対象とした上で,その次の(2)のところでは,一応死刑に当たる罪,それから無期の懲役・禁錮に当たる罪,更にこの案では性犯罪である強姦罪と強制わいせつ罪も対象にしております。  1の(3)のところでは,私どもとしては被害者等の申し出がある場合,又は被害者がいない,例えば全員被害者といいますか,被害者となるべき人が死んでいるとかいう場合は,検察官が自ら事件の「罪質・犯状」等を考慮して必要があると認めた場合に,この制度が適用できるようにしておりまして,どんな場合でもできるというものではないと考えております。  そして(4)では,どのようなレベルのものかということについては,C-2案ではかなり高度な,犯人であることが確実であるとか高度なレベルの要件になっていたと思うのですが,ここでは逮捕・勾留と同程度のレベルの証拠があると認められるということを要件としております。  これについて(5)では,検察官が公訴時効の中断を求める公告というものを行う。そしてその公告の際にあった証拠について,証拠の標目を記載した書面を作成し,確定日付を得て,後でそれが検証できるようにしておくということで,この時効中断の公告というものを考えてみました。この公告については,公訴時効を中断する効力があると考える。これは現在の刑事訴訟法にはこの中断という制度はなくて停止という制度になっておりますが,法律では国税犯則取締法とか,一部まだ,昔のこれは戦前の刑訴にはあったのですけれども,一部そういう古い法律には現在もあるようですけれども,停止ではなくて中断ということを考えております。これは,停止と考えてしまいますと捕まるまでずっと永遠に停止し続けるということになってしまうと,廃止ではないという考え方に反するということで,一応中断ということにし,かつ3番では,その中断の場合でも最大2倍を超えることができないと。これはドイツの中断の制度に倣って2倍ということに考えてみました。  そして,平成16年の改正によって,平成16年12月31日までと17年1月1日以降では少し公訴時効が変わっておるのですけれども,それを踏まえて,例えば平成16年改正法以前の人については,例えば死刑に当たる罪は15年という公訴時効が定められていますから,現在の25年を前提に最大50年と考えますと,2回公告ができるということになる。17年1月1日以降の事件については1回だけ公告ができると考えております。  4番のところは,では公告について事後的にその公告が要件を満たしていたかどうか,適法かどうか,有効かどうかということについては,さっき言ったように受訴裁判所が判断するという考え方もあるのですけれども,ここでは検察官が勾留請求をした段階で裁判所が勾留を決定するわけですが,その判断に先立ってというか,勾留を判断する裁判所がその段階で,検察官が公告した段階で証拠の標目が何かということを書いた書面を作成しておりますので,それに基づき勾留の可否の前にそれを判断し,その段階で被告人又は弁護人の意見を聞いた上でその要件を充たしていたかを判断し,それが認められる場合にはこれは中断されていたということで,そのまま引き続き勾留請求の可否を判断することになります。また,その要件を充たしていないと判断される場合には,公訴時効が完成したことを理由として,勾留請求を却下するとともに,以後の捜査及び訴追を打ち切る旨の判断をそこで示すと考えております。また,この裁判はかなり重要なといいますか,単なる身体拘束だけでない公訴時効の判断がありますので,3人の合議体で行うという特則を設けるということを考えております。  この判断は一見大変難しそうに見えますが,実際には勾留請求の段階で,その段階での証拠というものは同時に疎明資料として提出されますから,それと公告をした段階での証拠の標目を比較すれば,何が当時あって,その後何があるのかというその差が分かりますので,それほど難しい判断ではない。しかも,要件は逮捕・勾留と同様の要件ですからそれほど難しい判断ではないと考えております。  そして,5番としては,この勾留請求を認容又は却下する裁判に対しては準抗告ができますけれども,その中で当然公訴時効の中断に関する可否についても争うことができるようにするという。当然と言えば当然でございます。  また6番ですが,これは当然現在進行形の公訴時効進行中の事件についても適用しないと,現に遺族の方々がその分についていろいろと御要望されていることを満たすことができないということで,これは遡及効を認めるという形になっております。  ということで,大体そういう内容になっています。 ● 分かりました。ありがとうございます。  まず今の○○幹事からの御説明について,御質問がございましたら,どなたからでもお願いします。 ● 質問です。この案の核心部分は,1の(5)「公訴時効中断を求める公告」,これは検察官の一方的行為のようですが,検察官はこの制度でいったい何を公告するのでしょうか。公告に何を書くのかが分からないので教えてください。 ● 基本的にはその被疑事件,そして公訴時効の中断を求めるという,そういう趣旨です。この公告という制度を考えたのは,公告というのは現在第三者所有物に関してとられていますけれども,知ろうと思えば知ることができる官報とかに掲示したり,あと検察庁の掲示板に掲示したりということです。 ● そこには何が具体的に記載されるのですか。 ● 内容は,被疑事実の要旨と,それについて公訴時効の中断を求めるという意思です。 ● (1)の被疑者の氏名等が特定できない場合は,どうやって被疑事実を書くのでしょうか。例えばDNA型とかを書くのですか。 ● それはちょっと,書き方はどうかというのはありますけれども,その公告の中にどこまで書くかというのはありますけれども,特定できているということが分かるような趣旨の表示をするのではないかと思います。 ● もう一点だけよろしいでしょうか。 ● どうぞ。 ● 対象犯罪は,死刑,無期の懲役・禁錮に当たる罪,それに加えて強姦,強制わいせつということになっておりますけれども,これについて意見がありますが,まず対象犯罪は本当にこれでよろしいのでしょうか。死刑,無期ということになると,例えば傷害致死罪や危険運転致死罪は入らない。しかし覚せい剤の密輸入のような被害者のいない犯罪も入るということになるのですが,そのような趣旨なのでしょうか。 ● (3)の被害者等の申し出があるということが要件になっている関係で,被害者がある犯罪に限られると考えておりまして,ただ傷害致死とかそういうものが入らないというのはこの今の書きぶりからすると入らないということになります。 ● 分かりました。 ● ほかの方はいかがですか。 ● 御提案になっている制度の趣旨についての質問なのですが,最初に,公訴時効の廃止や大幅な延長というのはドラスティックなので,こういう形で個別の事件ごとに公訴時効期間を事実上延長するものだという御説明がありました。その上で,ここに示された要件のもとで時効の中断を認める根拠は,どういう点にあるのでしょうか。 ● この要件の(4)というのがありますけれども,基本的にはいわゆる真犯人と疑われる人,真犯人と考えられる人については,時効制度の趣旨というのは必ずしも妥当しないと考えられることから,そういう場合については例外的にこの公訴時効制度の趣旨が妥当しないと考えられるということから,そういう場合の例外を認めることは可能ではないかと考えています。 ● 以前に取り上げたC-2案は,個別の事件において,公訴時効制度の趣旨と言われている処罰感情の希薄化とかあるいは証拠の散逸というところが妥当しないということから,例外を認めようという発想に基づくものだったのですが,今の御説明で,真犯人と疑われる人については,時効制度の趣旨が妥当しないというのは,どのような意味なのですか。 ● 事実状態の尊重とかそういうことです。そういうことについては,それが真犯人であればあまりこれを保護する必要はないと考えられますので,今,○○幹事が言われたC-2案について説明されていたものということもあり得るとは思うのですが,ここでは主としてこの1の(4)の要件がありますが,真犯人と考えられる人については,その証拠があるという場合には例外的に公訴時効の中断を認めてもよいのではないかという観点でこれを考えたものです。 ● もう一点だけいいですか。 ● 今は質問だけですが。 ● はい。真犯人と考えられる人について時効制度の趣旨が妥当しないということと,(4)のところで逮捕するに至る嫌疑があればいいのだというところとは,どう結びついているのですか。 ● ここは要件をどう考えるかということなのですけれども,今回それは検察官の一方的な行為で,公告という行為で中断を認めるという観点から,あまり高度なものを認める必要はないのではないか。そして本来であれば起訴に足りるだけのもの,つまり実体判決請求権と言われている公訴権に関して,起訴に足りるだけの証拠というのが本来はあるべきかとは思いますけれども,ここでは検察官の一方的行為で認めるという考え方なので,必ずしもそこまでのレベルのものでなくてもよいのではないかということで,一応こういうレベルにしたものです。 ● 補足いたしますと,結局この(4)の要件というのは,実際その被疑者,被告人が具体的にだれであるのかが特定されるとか,あるいは居場所が判明して捕まえられるという場合については,現に逮捕ができ勾留ができるというような場合であるということです。したがって,そのようなものについては本来逃げ隠れしない,あるいは特定ができれば手続ができたのに,時効期間のゆえにそれができないというのは,いかにも被害を受けた犯罪被害者の方々からすれば不合理だという,そういう考え方を根本的に取り入れたという理解をしております。 ● 今の御説明ですと,意見ではありません,言葉の使い方として,逮捕・勾留できる程度の嫌疑のある人を「真犯人」と疑われるものと表現されるのは大変不適切ではないかと思うのですが。 ● ちょっとすみません,私は「真犯人」という言葉は一切使ってなかったのです。○○幹事は使っていますけれども。 ● 対象犯罪なのですけれども,被害者がいる場合を(3)で読めるということでしたが,こういう書き方ですと,文言だけ見ると,(3)の「被害者等がいない」というのは,被害者等がいない犯罪も含むとも読めるのではないですか。 ● そういう趣旨ではなくて,ちょっと言葉が足りないかもしれませんが,被害者がいることを前提に,被害者が本来いるはずなのだけれども全員死んでいるというような場合は検察官が判断するという趣旨です。 ● また,傷害致死は入らず,危険運転致死や自動車運転過失致死も入らない。その理由をおっしゃらなかったのですけれども。 ● 本来的には,この制度は物すごく例外的なものと考えておりまして,全体について今回の要綱案のような,すべてのそういう自動車運転過失致死傷といういわゆる過失的なもの,傷害致死とか,そういうものを全部それを変えるというのではなくて,もうどうしてもこれは見過ごせないというものだけに絞って,例外的に苦肉の策としてつくるという観点なので,死刑,無期というのを基本にした上で性犯罪も入れたというだけでございます。 ● 性犯罪を入れて,自動車運転過失致死とか傷害致死を落としたのはなぜなのですか。そこの理由について御説明がないので……。 ● 性犯罪については,この間この部会に対しても意見書などが提出されていて,以前から性犯罪については「心の殺人」という言われ方もして,被害の程度などについては非常に重大であるという指摘がされているところで,それについてはやはり。 ● 意見書が出ているので性犯罪を入れるというのは,それとして分かるのですけれども,同じように自動車運転過失致死や傷害致死についても意見書が出ていますよね。 ● 意見書が出ているから入れているという趣旨ではないのですが。 ● 今言われたのは,意見書が出ているからということであったのではないのですか。 ● いや,それと,性犯罪は「心の殺人」と言われるように重大な被害を及ぼすものであるということを考慮して。 ● そういう基準で,一方は入れ,一方は落としたと,こういうことですか。 ● まず文言ですが,1の(3)の2行目の,「罪質・犯状」とありますが,この「犯状」という言葉は初めてなので,情けの方の犯情ではなくて。あえて「犯状」としたのですか。 ● あえてではないです。ワープロの問題だと思います。情けの方です。要するに,罪質というのは特定の犯罪の性質です。殺人なのか,それが何なのか。犯情というのは,具体的な犯罪状況といいますか,計画的かとか。 ● 私は特別な意味があると思って聞いたのですが。 ● それはそういう趣旨で,特に深い意味はないです。 ● それからもう一つですが,1の(5)の「公告」というのは,これは具体的には官報を考えておられるのか,それとも検察庁の掲示板を考えておられるのか。 ● 現在の第三者所有物の没収手続と全く同様で,これは官報とあと掲示板とか幾つかあったと思うのですが,全く同じような方式を考えております。 ● 第3,最後ですが,この1の(5)の「検察官は」という主語ですが,これは個人の担当検察官を指すのですか。それとも例えば最高検察庁とか検事総長とか特定の権限を持つ合議体ないし組織の長を言うのか,それとも個別の担当検察官を言うのですか。 ● そこは深く考えてはなかったのですが,両方あり得ると思います。 ● 起訴と同じだとすると,すべての検察官ということですね。 ● 担当検察官というイメージで,その事件を担当している人が,何らか一般的な意味で検察官と呼んだものです。 ● 公告というのは,要するに宣言行為ということですね。 ● そうですね。 ● 強姦罪と強制わいせつ罪のことでちょっと補足したいのですけれども,これを入れたのは,「心の殺人」というのももちろんあるのですけれども,それから類型的に被害申告が遅れがちであるというような主張というか意見も出ていたので,ですからこれを入れたということ。小さいときにそういう被害を受けたときになかなか言い出しにくいというような御意見もあったので,類型的に一つ被害申告が出しにくい,発覚しにくいということでこれを入れたということであります。その点補足します。 ● 分かりました。もう一つ確認なのですけれども,この1の(4)の「当該被疑者」というのは,氏名等によっては特定できないのだけれども,DNA等では特定できているということを前提にした考え方ということですか。 ● はい,注の1に書いているのですけれども,そういう前提です。 ● そうすると,さっきの○○委員の御質問のように,その「当該被疑者」を特定した公告をしないといけないですよね。その「当該被疑者」にのみ効果が及ぶわけでしょうから。 ● そうです。 ● 恐らく,私よく存じ上げませんけれども,C-1というのがジョン・ドゥ起訴というのは正に名前がだれかと分からないけれどもDNAで特定できているというのは,それなりの起訴の仕方として特定はあるのだろうと思いますので,もしこれを採用するのであれば,それらを参考にしながら公告の内容を決めることも可能かなと思っております。 ● そこは議論のあったところで,特定されていないという意見も出ましたね。議論に入ってしまいますが。  もう一つ,裁判所が絡む場面なのですけれども,実際上は,こういう重大な事件の場合には,被疑者が特定されれば逮捕して勾留請求すると思うのですが,理論的には勾留請求がないということもあり得るわけで,勾留というのは当然ではないので,その場合どうするのかということと,また,勾留裁判所が検察官の公告による公訴時効中断の効力の有無について判断するということですが,それと受訴裁判所というか公判裁判所の関係はどういうことになるのかですね。受訴裁判所でももう一回見直すことはできるのか,できないのか。この2点,お答えいただきたいと思うのですけれども。 ● 実は,当初の考えていた案は,受訴裁判所が判断するという案を考えておりまして,ただ,いろいろ検討している中で,この勾留段階でとしたのですが,勾留がない事件については受訴裁判所が判断するという規定を設けることが必要であろうと思うのと,この受訴裁判所がもう一回見直すことができるのか,つまり勾留段階での判断を覆すことができるかできないかということなのですけれども,現在の案では準抗告又は特別抗告で手続があるので,そこで争うということですので,それでいったん決まったことは受訴裁判所もそれを引き継ぐというか,拘束されるということを,この案では考えております。 ● 拘束されるということですね,分かりました。  ほかに,案の中身についての,あるいは趣旨についての御質問がありましたら。―よろしいですか。  それでは,御意見をいただければと思うのですけれども。 ● 結論は,この案には反対です。反対の理由は山ほどあるのですけれども,4点ほど申し上げます。  この案の核心部分は,逮捕,勾留できる程度の嫌疑,罪を犯したと疑うに足る相当な理由があると検察官が考えたときには時効中断を求める公告というものを行う。要するに1の(5)の公告という,先ほど御説明ありましたが,何かを掲示板等に,官報に記載すると,その効果として時効中断効という訴訟法上重要な効果が発生する。  第1に,何で公告したら時効中断という効果が発生することになるのかが全く理解できない。要件と効果の合理的な関連がなく,その理由がはっきりしませんので,それだけでも憲法31条に違反すると思います。  それから,公告については第三者没収の規定にヒントを得られたとありましたが,そもそも公告というのはある人の権利が失わせられるかもしれないので,正当な権利者を保護するために一般的な形で告知をして,関係者に権利主張や不服等を言ってもらうという制度だと思います。しかし,この案の公告は,もし公告がなければ時効が完成したかもしれない人の時効が中断されて,また最初からやり直すことになる。これはどう考えても,その人の利益ではなくて不利益になるのです。そのような不利益な効果を発生させるために公告をするというのが,一体公告という制度とそもそもどういう関係にあるのか。およそ公告などという法制度を使う場面ではないのではないか。一生懸命考えたのですが,公告されたら,「私は実は犯人と疑われている者でございます」と言って名乗り出ていただき,被告人として有罪無罪を争っていただくというのならまだ分かりますけれども,そういうことはあり得ないので,この公告というのはおよそ人の権利保護の趣旨ではなくて,正に不利益を与えるための前提要件として設定されている。そして相互の関係が全く分からない。しかも,その要件になっている証拠状態というのは,前のC-2案では罪を犯したと疑うに足る相当な理由ではなく,合理的な疑いを超える証明ができる程度の証拠だったのですが,今回の案ではせいぜい逮捕勾留ができる要件,言いかえると,もしかすると起訴されたら無罪判決が出るかもしれないような人々に対しても,そのような不利益な効果を発生させる。ですから,もう言わなくていいと思いますけれども,このような制度設計自体がおよそ不合理であるとしか言いようがないと思います。  それから,この公告は,検察官の証拠についての裁量的判断により,しかも一方的宣言行為としてできる。時効中断効という訴訟法上の重要な効果が,検察官という官憲の一方的な判断で直ちに発生するのですね。しかもその要件は,先ほど言ったように非常に緩やかな証拠上の要件でいい。そうだとすれば,これは検察官には悪いですが,やろうと思えば恣意的な中断を行うことが可能になりますけれども,果たして制度としてそこには問題がないのかどうか。  以上が,この制度の持っている最大の問題点だと思います。さらに,大前提として,C-2案が抱えていた理論的不当性がそのまま当てはまる。すなわち,現在の時効制度の基本的な考え方に反する。このような個別の証拠状態,あるいは被害者,関係者の請求といったような個別事案の状況によって,一律に決まっている時効を個別的に中断するというその発想と仕組み自体が,およそ現行法の基本的構成にはなじまない。以上の次第ですから,やめた方がよいと思います。 ● という御意見ですが,ほかの方は。 ● ここに強姦罪,強制わいせつ罪というような性犯罪を入れていただいたということは評価しております。しかし,こういう性犯罪については,今回はとにかく人を死亡させた罪に限定されておりますので,こういうものは当たらない,今回の公訴時効の延長の対象に当たっていないわけですね。ですけれども,そうしてDNAが特定されているような場合に公訴時効を中断するような訴えを認めようというケースは,むしろこういう性犯罪などに妥当するようなものだと思います。ですから,人を死亡させた罪について特に公訴時効を延長しようという,ここでの審議というものからかなり離れてきてしまうのではないかという感じがちょっとしました。  私自身,性犯罪に対する公訴時効というのは,非常に短いと思っておりまして,そしてまた今は強姦罪などの検挙率というのが大体75パーセントぐらいと出ておりましたけれども,そういうふうに殺人などに比べてかなり検挙率が低いわけです。ですから,DNAなどで特定できるようなケースについても非常に公訴時効が短いという,そこのところがかなりの問題だと感じております。   ただ,今回の,人を死亡させたような凶悪な事件について考えるのだというところからは離れてしまうかなと今思っております。ですから性犯罪の問題については,もっとほかにもいろいろな問題がありますので,また別な機会にいろいろ考え直していただきたいという希望は持っておりますが,今回これだけを入れてDNAで特定できるようにしておくという意味合いはあるかと思うのですけれども,特にここで無理して入れることはないかなと考えております。 ● 先ほど反対の理由の一番大事なところを言い損ないましたので,補充させていただきます。先ほど言いましたとおり,この案では公告の効果として時効が完成しないという被疑者に対する不利益が生ずるわけです。前のC-2案につきまして,私はそういう不利益を受ける関与者に不服申立ての機会がないこと,それは憲法31条の保障の核心部分であるノーティス・アンド・ヒアリングに反すると言いましたけれども,その点はここでも変わっていないと思います。公告の一方的効果として中断効という不利益が生じ,さらに場合によってはその後,犯人だという疑いが疎明されますと逮捕,勾留されるという不利益が予定されているわけですけれども,そのような効果を生ずる公告そのものについて,不利益を受けるであろう関係者,当事者の不服申立ての機会は設けられていません。これは事後的に裁判官が出てくるところでやることになっているのですが,その前の段階について不服申立ての機会がないことは疑いがない。そうすると,これは文面上憲法31条違反ということになると思います。 ● 私も結論的はこの案には反対でありますが,よくお考えになられて個別具体的な妥当性を図りながら,現行の公訴時効制度は維持しようという御苦心の作かと存じます。問題はやはり公告という制度でありまして,○○委員御指摘のとおり,公告というのは原則的には利害関係人に対して権利の申出の機会を与える。第三者没収の応急措置法における公告もそういう趣旨のものであることは間違いないわけです。それに対してここで言う公告は,検察官の一方的な意思表示を単に世の中に広く知らしめるというだけの公告ですから,公告という制度にはなじまないのではないか。更にもしこういう制度をつくるとしても,裁判所の関与をわざと外しておられるという御苦心の策は分かりますが,これはおよそだれもチェックできない制度ですよね。どういう合理的な証拠があるのか,それは証拠の標目を掲げさせると言っても,じゃ本当にそういう証拠があるのかとか,その証拠の標目に対応する証拠が現にあるのかとか,だれもチェックしない。そして中断の効果を認める。こんな制度はやはりあり得ないのではないですか。したがって,例えば検察審査会のような制度をこれに関連して別途つくるような,そういうものとセットとしてならばあり得るかなという気はいたしますけれども,これ単独ではとても実現可能性は私はあり得ないと思います。 ● 私が質問するのは適当でないかも知れませんが,こういう提案をなさる動機というか理由がいまひとつよく分からないのです。確かに,被害者の申出がある場合に検察官が個別に判断してということなのですけれども,ここまで行ったらB案とそんなに違わないのではないかという感じがするのですね。B案でも,実際には結局,後で検察官が被疑者を特定でき,あるいは被疑者を検挙できて,それで訴追できるだけの証拠があるというときに出てくるわけですから。それとどこが違うのか,なぜこういう個別的処置ということにあえてこだわられるのか。その辺のところがよく分からないのと,疑うに足りる相当な理由もない人に比べれば,疑いに足りる相当な理由がある人の方が,確率としては真犯人である確率が総体的には高いかもしれないですが,個別具体的に見ると,そうは必ずしも言えないはずですし,例えば例の小学校の女性の先生が殺害されて埋められていたのがずいぶん後になって分かったという事件,あれは時効完成後に被疑者というか,犯人であろう人が告白したので分かったわけですけれども,告白がなくても時効完成前に家が壊されるなどして被害者の遺体が発見され,それを契機として被疑者が特定され,訴追できるだけの十分な証拠が整うということもあり得ないわけではないと思うのですね。そういった場合と,最初からDNA型等で被疑者が「特定」されている,といっても,DNA型等の情報が分かっているというだけだと思うのですけれども,後でそれに合致する人が出てきたという場合とで,そんなに違いがあるのか,違った扱いができるのか,ですね。前者の場合には,検察官の公告による中断の対象とはならず,法定の公訴時効期間の経過により公訴時効は完成するのだけれども,後者の場合にはその対象となり,その2倍までの期間,公訴時効は完成しない。その両者をどうして区別できるのか,区別することに正当性があるのか,そこのところがどうもよく分からないのです。一般的に公訴時効期間を延長するよりは個別の方が影響は小さいということは何度も言われたのですが,今言ったような二つの場合の間で取扱いに区別をつけることの正当性はどこにあるのかについては,御説明がなくよく分からないので御説明いただきたいと思います。  もう一つ,勾留裁判所ないし裁判官の決定が受訴裁判所ないし公判裁判所を拘束するということなのですけれども,訴訟条件ないし公訴提起の要件があるかどうかというのは,公判担当の裁判所が職権で判断しないといけないことなのに,別の裁判官なり裁判所の判断がそれを拘束するということはあり得るのか。これは恐らく,今の訴訟法の考え方からすると極めて異質で,理屈としては成り立たないというか,おかしいのではないかという感じがしますけれども。 ● 最初の方の個別と一律にという問題なのですけれども,基本的に私どもは平成16年の改正の内容について,今それを変える必要があるとは思わないのですけれども,変えるとしても正に変えるに値するものに絞ってというのですか,それなりの正当性というか合理性があるものだけ変えるというのは分かるのですが,一律に今全部について時効制度を変えるという方がむしろ私どもとしては違和感がありまして,変えるに当たっては変えるにある程度合理性があると考えられるものに限って,個別的にというか対応することで,それをぎりぎり現在の被害者の声を背景とする国民の意識の変化に対応できるのではないかと考えているので,その考え方のスタンスがもともと違うのかなと思っています。  第2の点ですけれども,確かに裁判所の判断で,もともとさっき言いましたように本当は受訴裁判所が判断するというのを基本的に考えておったところなのですけれども,とりあえずこの案では勾留段階でとしていますけれども,本来的には受訴裁判所が判断するということなのかなとは思うのですが,ここはちょっとまだはっきり確定していないので,現時点ではこの案を出させていただいたということです。 ● 1番目のところを合理的な理由がある場合と言われたけれども,後で犯人が分かって間違いないという場合というのも考えられるわけですよね。その場合は何で不合理なのですか。そういうたぐいの事案についても公訴時効の見直しをするというのはなぜ不合理なのですか。そこが御説明がないものですから,ちょっと不可解なのです。 ● それはでも,公訴時効制度を認める以上は公訴時効があることを前提に,それが終わった後に犯人であることが。 ● 小学校の先生の事件の場合は時効が完成していたのですけれども,あれが公訴時効期間内であったような場合について,公訴時効を廃止したりその期間を延ばしたりすべきかどうかという議論をしているわけで,そういった場合については何の手当てもしない。他方,最初からここに掲げてあるような要件で,被疑者らしき人がDNA等,指紋等でもいいのですかね,そういうもので「特定」されている,といっても,これは要するに犯人がと言っているのと違わないと思うのですけれども,まあそれはいいとして,疑うに足りる相当な理由がある程度で,公訴時効期間を延ばして倍にできる,マックスの場合,50年にできる。そっちの方にはそういう手当てをすることに合理性があるが,しかし,その段階では分からなかったのだけれども後で発覚して犯人と間違いない,「疑うに足りる」程度ではなく,まず間違いないと思われる場合には手当てをしない。手当てしなくても不合理ではないという,そこの区別がどうもよく分からないのですね。 ● 今の部会長が言ったのは,公訴時効をつくるとそういう不合理というのは出てくるのだろうと思うのですけれども,これはそもそも公訴時効制度のいい面というのを我々は考えて残そうとしているわけですから,そのいい面を考えていわば折衷的な案としてこういうのを出してきているわけです。だから,確かに部会長の言ったところはフォローできないと思います。 ● いい面というのは,防御の利益ということですか。 ● そういうことです。 ● しかし,この案でも,その要件に当たる事案については公訴時効期間を50年まで延ばすことが可能なのですよね。その場合,防御の利益はどうなるのですか。 ● ただ,全くなくなるよりはいいのかなという,そういう考え方です。 ● そうですか,分かりました。 ● 今日拝見した修正案は,いわゆるC案を出発点として考えておられるわけですが,C案自体,「個別の事件の」という書き出しで考えられていた案で,そのこと自体時効という制度の性質に合致しないのではないかという御意見は前々回あたりに伺って,私もなるほどと思ったわけです。ただその枠を何とか超えようとして,いわば苦心の策として今日の修正案を提示されたわけですけれども,これまでの御議論から明らかなように,やはり公告という手法が適切か,あるいはその要件がこれでいいか,あるいは判断者が検察官であるということでよろしいのかなどという御議論が次々に提示されて,なかなかそれを克服するのは難しいという気がいたします。  強いて言えば,既存の刑事司法の枠外に出て,例えばですけれども,検察審査会法に「民意を反映し」という条文がありますが,そういう意味で一種の特別検察審査会のようなものを設置して案件を審査してもらうということはあり得るかなという気はいたしますけれども,それでは道具立てが大げさになり過ぎることが明らかでありますし,この部会で考えていただく事項ではないと思いますので,私としてもせっかくの御苦心の修正案であるけれども,成立は難しいなという感想を持っております。 ● 実はここに至るまでの過程ではいろいろな議論がございまして,例えば4の部分について,いわゆる逮捕,勾留の要件ではなくて,起訴に値する,本人がだれか名前が特定できない,逃亡して分からない,捕まえられないというものについて,それ以外のところについてはもう検察官は起訴できるような状態の証拠がそろっているというところで,ここをもうちょっとランクを上げるか上げないかという議論がありました。  それからこの5番目のところについても,検察官が求めるという部分について,検察官は何かで決定をした上で,それがどこかにきちっと決定を受けて公告をするので,これは求めるものを公告するというところについて私も違和感があって,先ほど○○委員の方から話があったように,場合によっては単独の検察官ではなくて,検察官がそう判断して,検察官がこういうものをやったらどうかということについては検察体の合議体で何か判断をした上で決定をして公告をするというやり方もあるのかなというふうに今ちょっと思いました。 ● 今の「起訴できるような状態の証拠」という点についてコメントすると,刑事訴訟法には,どこにもそんなことは書いてない。この「疑うに足りる相当な理由」というのは,御存じのように刑事訴訟法に書いていますが,起訴の基準というのはどこまでのものなのか,学説はいろいろ言われていますけれども,全くそれだけの理由がなくても理屈の上では起訴はできるわけです。そして,起訴が仮に無効であっても,訴追の意思が表明されていれば,公訴時効の停止効はあるというのが通説・判例ですから,そこがちょっとどうかなというのと,2番目のところも,訴訟法上独任制の官庁である検察官が権限を行使するということになっているので,それと本当に整合するのかどうか。それらの点で難点があるような気もします。 ● 今の点は言おうと思っていたのですけれども,最後の方で裁判所あるいは裁判官が審査という形で出てきますけれども,やはりこの制度の骨格は広い意味での行政権の行使,法の執行アドミニストレーションである刑事司法作用の発動たる公訴権,検事が行う公訴権の行使に関する時間的限界について中断という効果を発生させ,それを後から裁判所がそれがよかったのかどうかというお墨つきを与えるようにも見えるのです。C-2案のときも,私はそもそもこれは司法権の担い手である裁判所のやる仕事かどうかにも疑問があると申しました。同じように,深読みし過ぎかもしれませんが,この案に現れている裁判所の関与は,やはり司法本来の仕事ではないのではないかと思います。また,公告そのものが刑事司法手続外の検察官の本来の仕事ではないという気がします。  それから,これは提案者の御主張の一貫性という点に関わる質問ですが,提案者の皆様は憲法39条を理由に新法の遡及適用は違憲であるというお考えだったと思うのですが,なぜここでは遡及適用を認めるのでしょうか。一貫性というのは私は大事なことではないかと思うのですけれども,どうなのでしょうか。 ● 基本的には,このところはもう日弁連は多分,日弁連の組織体としてはこの案そのものについても異論があるかと思います。特に遡及の部分とかそういうのがあると思いますけれども,実は修正案をしてそれなりにかみ合うような議論をするためにはここは妥協せざるを得ないということで,苦肉の策でありまして,本心ではないということを御理解いただきたいと思います。 ● ほかの方いかがでしょうか。 ● 制度の具体的な中身に関する問題点については,これまで指摘がなされているとおりだと思いますが,それ以前に,この制度の正当化根拠がはっきりしないというか,説明が困難ではないかという気がします。つまり,この制度の下では,被疑者が特定されている場合,あるいは氏名等によって特定できないにしてもDNA型等が分かっているような場合であって,かつ,逮捕・勾留するに足りる嫌疑があることが中断の実体的な要件であるわけですが,なぜ,そのような場合に時効の中断を認めてよいと言えるのかということです。一つの理由は,先ほど,○○委員から御説明がありましたように,被疑者が逃げていなければ逮捕・勾留手続が進められるような事件については,被害者の方としても公訴時効が完成して訴追できなくなるということを納得できないだろうから,それについては中断を認めるというものです。しかし,程度の差はあるかもしれませんが,被疑者が特定できず,逮捕・勾留するに足る嫌疑がない事件であっても,被害者の方は公訴時効が完成すれば当然納得できないでしょうから,そうだとすると,そこで截然と分けるということに果たして合理性があるのかという疑問があります。  もう一つ考えられる根拠は,被疑者が特定されていて,逮捕・勾留するに足る嫌疑がある事件の方が,そうでない事件よりは被疑者が捕まる可能性が高いから,その場合には,公訴時効に中断を認めるというものです。いわば,時効を中断させる必要性を考慮したものであるわけですが,その程度の必要性があることで,時効の中断を認めることを理論的に説明できるのかは疑問です。  以上の点で,そもそもこの制度の正当化根拠が十分に説明できていないのではないかという感想を持ちます。私自身は,個別事件における例外を認めるということ自体に疑問がありますが,仮にそのような制度にするのであれば,やはり,時効制度の存在理由に遡って要件を立てる必要があると思います。 ● ほかにいかがでしょうか。まだ御意見いただいていない方からも御意見いただきたいのですけれども。 ● 今までの非常に大きな話に対して,やや各論的になって恐縮なのですが,恐らく従前のC-2案であれば事前に事実上の証拠判断をなされた状態に対する被告人の不利益ということがあることが,一つの動機となって今回の案を考えられたと思うのですが,むしろそこで要件を軽くしてしまったことにより,聴聞がされていない公告という手続によって同様な結果を生じさせるということで整合性がとれるのかということは,本当に大きな問題であると思っております。  更に,その後勾留段階での審査ということですが,逮捕という身柄拘束の不利益を公告による効果で生じさせていいのかという問題がもう一つある。  最後ですが,今までちょっと議論されたところにも重なるのですが,相当な理由程度の嫌疑で勾留段階若しくは準抗告段階,特別抗告で審査したとしても,それによって受訴裁判所の免訴か否かの判断を本当に封殺すると,刑事被告人の利益として大丈夫なのかというところはどうしても残るのではなかろうかと思っています。あくまでも被疑者,被告人の利益の観点から立つと,以上のような問題がある上に,被害者等がいない場合という,かなり広範な場合まで広げてしまうという案で,いかなるものなのか。提案者の方は,では受訴裁判所の方で判断することを残してもよいなどといろいろ今日御意見を申し上げておられるのですが,注の方の記載を見ると必ずしもそれと両立しない中身が書いておられる。案をちょっと見たときに思った疑問を幾つか挙げますと,そんな感じになります。 ● ほかには。 ● 既に意見が出ておりますので重ねて申し上げる必要はないような気はいたしますが,一つだけ更に加えますと,現行法上の勾留というのは,簡易迅速を旨とした手続として成り立っているわけでありますので,その手続の中で証拠の中身に立ち入ってそういう判断をするというのは,これは勾留制度全般に与える影響からしても,恐らく現実的には機能し得ないだろうと思っております。  それから公告に関しては,要するに公告というのは文字どおりパブリック・アナウンスメントということですので,何かを告げるということでなければならないはずですが,今回の場合はそこには比重がなくて,公告に対していわば一方的に法的効果を付与するという形になっていますので,これは制度としてはなかなか説明しにくいだろうと思います。  それから,そもそもC案に対して批判がありましたように,時効は,時の効き目ということですから,旧法ですと「期満免除」でしたか,時の経過という客観的なものに対して一定の法律効果を付与するということであったはずですので,そこに対して証拠の実質というようなものを問題にするというのは,これはそもそも制度の趣旨に反しているだろうということで,C案に対して今まで議論されていたのと同じような批判が当てはまるのではないかと思います。以上です。 ● ほかに御意見は。よろしいですか。  御趣旨も大分分かりましたし,それに対する各委員の御意見も出していただきましたので,この修正案についても皆様の御意見はかなり明らかになったと思われます。この修正案について更に御意見等があれば,次回また出していただければと思います。  それでは,要綱骨子案についての議論の方に移りたいと思います。  順序につきましては,前回と同じように,まず第1の公訴時効の改正,次に第3の刑の時効の改正,最後にそれぞれの改正の適用範囲,こういう順序でもう一度議論してはいかがかと思いますけれども,そういう進行の仕方でよろしいでしょうか。それでは,そうさせていただきます。  それでは,要綱骨子案の方の第1,人を死亡させた罪の公訴時効の改正の部分について,前回もかなり御意見が出ましたけれども,更につけ加えて御意見があればお伺いしたいと思います。 ● それに関連して,質問がありますが,よろしいでしょうか。 ● どうぞ。 ● 日弁連選出の委員にお尋ねしますが,日弁連の会員の中で凶悪犯罪の被害者になった人がおりますか。 ● ここは個人の資格で出ておられるので……。 ● 日弁連の意見書もいろいろ出ておりますから,それについて質問するのですが,会員の中に凶悪犯罪の被害者になった人がいるのかということをまず聞きたい。 ● 委員・幹事の中で,知り得る限りで,ということでいかがですか。あるいは,お答えにならないなら,ならないで結構ですけれども。 ● 趣旨がよく分からないのですが,会員の中で実際に事務所の中で殺人,被害に遭ったという会員がおられるということは,そういう例があったことは知っております。 ● それは何件ありますか。 ● 私どもそういう統計はとっておりませんので,新聞報道で知り得る範囲でしか理解しておりません。 ● その方々から,あるいは遺族から,時効制度について廃止するかしないかという意見は聴取されましたか。 ● もともと新聞報道で知り得る範囲ですから,具体的なその方々について御意見を伺うということはしておりません。 ● それでは,時とともに応報感情が薄れるということを日弁連はよくおっしゃいますが,それは何によって調査されたのですか。被害者に直接会って聞いて,そういう結論を出されたのかどうか。それもちょっとお聞きしたいのです。 ● かつての日弁連の意見書については,そういう形のものがあったというのは理解しておりますが,今回といいますか,昨年の6月以降の意見書については,犯罪被害者が時とともに処罰感情が薄れるということは,ある意味で擬制であって正しくなかったということは,私はここで第1回でもお話し申し上げていますので,そのことについて日弁連がと言われても困ってしまうのです。私どもの理解としては,○○委員なども存じ上げておりますし,その中で皆さんが御意見をお持ちだったり,いろんなことの会合にも出させていただいていますから,そのことについて私どもは今言おうとは思っておりません。そうではないと理解しておりますから。 ● それでは,被害者が現実に目の前で泣いている。加害者はどこにいるか分からない。名前は分かっているのかもしれないし,分からない場合がある。その人,現実に泣いている被害者よりも,名前の分からない逃げている加害者の方を有利に扱おうというのが,私は,この皆さんが出された制度だと思うのですが,それはどうしてですか。 ● ですから,それは前回もお話ししたと思いますが,私たちが扱っているのは加害者,すなわち,現に実際にもうこの人以外に犯人はあり得ないという者以外の部分で私たちは弁護活動をすることがありますので,その人たちの利益を考えた場合,我々としてはやはり問題だという理解をしておりますので,先生がおっしゃるようにそれは犯人で決まっているとおっしゃるのであれば,ちょっとそこは違うのではないかと思います。 ● そうしますと……。 ● 御発言については,進行役である私を通していただけますか。 ● 泣いている被害者が大事か,逃げ回っている加害者が大事か,どちらが大事だ,どちらの人権を守らなくてはいけないと日弁連は考えておられるのか,○○委員は考えておられるのか。 ● 私は,どこで調和をとるのかという理解で自分たちとしては発言しているつもりで,犯罪被害者の方々を無視しているという認識は私にはありません。 ● でも,犯罪被害者は捕まえてほしい,何年たっても捜査してほしいという希望を持っているのですよ。現実に名前の分かる被害者です。それよりどんな人間か分からない,逃げ回っている人を守るような制度をつくらなければいけないという理由は,どこから出てくるのでしょう。 ● それは,私どもは被疑者,被告人を刑事裁判の中で最大限利益を擁護していくという立場からそれを考えているわけでありまして,実際問題,昔はともかくてして犯罪被害者の方々もなかなか団結をすることができなかったけれども,今はこういう形で皆さんいろんな活動をされておられるけれども,実は被疑者,被告人は団体をつくることはできません。私たち弁護をする側から,彼らに不利益になるようなことがあるのであれば,それはそれで明確にしていくのが私たちの務めだと理解しております。 ● それでは○○幹事に質問しますが。 ● ○○委員,この部会の審議としては、もう少し一般的な形で御質問いただいた方がいいと思うのですが。 ● 私はどの程度の調査をした上でいろんな案を出されたのか,それに疑問を持っているわけです。 ● ○○幹事にも同じような質問ですか。 ● 反対している被害者団体があるということをこの間おっしゃいましたけれども,その被害者団体の名前とその被害者団体の構成それから規約,その他を調べた上でおっしゃっているのかどうかということを聞きたいと思います。 ● 日弁連では,意見集約の際には,被害者支援委員会というところを通して被害者の方々の意見をその委員会を通して聞いている形で,直接具体的に個別の団体に対してヒアリングをするとか,そういうことは必ずしもしておりません。 ● 被害者支援委員会は,この問題についてはあまりタッチしていないと聞いていますが。 ● 意見集約の段階では意見を聞いておりまして,具体的な意見を出していただいていますので,その中で被害者がどういう考えをしているのかということを聞いています。 ● その被害者支援委員会の中では,どういう意見が出ているのですか。 ● 日弁連の意見書を集約する段階で意見を聞いて,必ずしも強い反対はなかったと聞いておりますので。もちろんいろんな意見があったとは聞いておりますけれども,日弁連の意見書に対する意見として,これを格別に強く反対するという意見はなかったというふうに認識しています。 ● ○○委員,そろそろ御意見をいただいた方が……。 ● 少なくとも弁護士の家族が凶悪犯罪に遭った人たちに対して,これは時効についてどう思うかという調査ぐらいは私はやってもらいたいと思う。例えば坂本弁護士の場合,これは日弁連が鳴り物入りで加害者の調査をしました。その遺族,今でもいらっしゃいますね,坂本さんもそうだし,奥さんの都子さんもそう。その方々が,時効制度についてどう思うかという調査はされましたか。 ● 今言ったように,個別にそういう調査はしておりません。 ● 私は,今朝,都子さんのお父さんの大山さんと電話してきました。時とともに悔しさが募ってくる,殺してやりたいくらいだと。死刑判決になっていますが。そういうことを綿々と訴えられましたよ。私はここで発言するについて,いろんな殺人の被害者の意見を十分聞いてきました。公訴時効の廃止ということを皆さんおっしゃっておられる。ただちょっと違うのは,家族親戚間の死亡事件。これはちょっと何とも言えないという意見がございました。それくらい被害者は公訴時効の廃止を望んでいる。公訴時効が廃止になったならば,国家が応報権を行使してくれないなら自分でやる,自分で殺すと,こういう被害者が相当います。本村君が被害者の裁判のときに,死刑にしないならすぐ釈放してくれ,自分の手で殺すと,こういうことを当初の段階で言いましたね。被害者というのはそういうものなのです。実際,私は公訴時効が廃止になって,加害者が捕まったら自分がやると,こう言っている被害者を知っています。ある傷害を受けた被害者の家族は,ただで殺したらもったいないから,足一本,腕一本切ってしまって,傷害を受けたらどんなに苦しいかということを思い知らせる。そのために自分が刑務所に何年行ってもいい。こういう被害者もいるのです。  そこで○○委員に今度は質問したいのですが,よろしいですか。 ● 質問は,ある程度で抑えていただいた方がいいと思うのですが,どうぞ。 ● 公訴時効が完成した後で,被害者が,その加害者があらわれてそれを殺害した。捕まった。今度は被害者が被告人になるわけでしょうけれども。「私は,公訴時効というものがなくて,国が処罰してくれるのならこんなことをしませんでした。公訴時効があるからやむを得ず私は殺しました。」,こう言って弁護を頼まれたときに,あなたは何と言って弁護しますか。 ● 個別の弁論ということでしょうか。弁護方針ということでしょうか。 ● 弁護方針というよりも,「公訴時効という制度があって,国がやってくれないから自分がやりました,それをよく訴えてください」と,こう言った場合には,何と言って弁護しますか。 ● それは個別の弁論だったら,その本人の事情を主張させると思います。 ● 公訴時効が撤廃されないからこんなことになったと,こう言って弁護をするわけですか。 ● それは,本人のそういう思いがあるということで弁護をするということですね。 ● 弁護士の意思は違っても。 ● 弁護人の弁論と,個別の弁護士の心情とは別じゃないでしょうか。例えば本人が死刑存置を認めていても,場合によっては,どうしようもない事件であれば死刑廃止論を言うことも,弁論としてはあると思います。個人の心情と弁護人の職業的な弁論の仕方というのは違うと思います。弁護人の弁論と,その弁護士本人とを同一視してならないというようなことも言われていると思いますけれども。 ● そうすると,「あなたは公訴時効の廃止に反対したようですが,私の弁護をちゃんとやってくれますか。」,こう言われたらどう言いますか。 ● そろそろ御意見があれば御意見を言っていただきたいと思うのですが,よろしいですか。  では,総論的な話なのですけれども,骨子案の第1について更に御意見があれば。今まで一通り議論をしてきたのですけれども,対象犯罪の範囲について意見が両様ありました。性犯罪の点については,さっきの修正案をめぐって提案者の方の御意見と○○委員の御意見がありましたが,他方で,人を死亡させた罪でも故意がある場合に限定すべきではないかという御意見を○○委員がおっしゃった。その段階では○○幹事もそれに賛成されていたので,今日はちょっとびっくりしたのですけれども,それと今日は,自動車運転過失致死については,修正案では外すという案を掲げられているのですが,その辺を含めて対象犯罪についてもう少し御意見を伺っておいた方がいいと思います。 ● 対象犯罪については,前回,○○委員が故意の殺人行為に限って廃止をするのが妥当だという趣旨の御意見を述べたと思います。私も,何回か前の部会で一般的な議論をしていた際に,故意で人を殺害するというのはだれが見ても異論なく典型的な凶悪・重大犯罪であり,別格の扱いをしても皆さん納得するであろう。そして,他方でこれまで存在した時効を廃止するのは大変ドラスティックなことであるから,私自身もまだあのとき態度を決めておりませんでしたけれども,そういう決断をするに当たり,対象を限定してくくり出すとすれば,このような異論なく最も重大な類型だけを取り出すという立法政策はあり得るだろうとも述べました。現在も私はそういう気持ちもあるのですけれども,他方で,今の時効制度が刑法典の法定刑に対応して定まっており,それは刑法という実体法が,ある個別構成要件の法益についての一定の評価を示していることに従う趣旨と考えられること,死刑しかない罪というのはなく,死刑を科すことのできる罪と,そうでない罪という区別をしていることを前提にしますと,私が今述べたような特別の凶悪犯罪だけ取り出す方策はこれにそぐわない。法定刑が全部対応していれば非常にすっきりするのですが,現在そういうことになっていない。そうすると,故意殺害類型だけを取り出すのはかなり難しいということを考慮して提案された,人を死亡させた罪で死刑に当たるもの,すなわち,人の死亡と死刑という最も重い法定刑という刑法による評価を組み合わせて,これについて時効を廃止するという案に私は賛成します。ただ,前提として今のような悩みがあったということを付言したいと思います。 ● 前半おっしゃったことは正にそのとおりで,時効制度というのはそれなりに理由を持っていると私は考えますし,歴史もあるし,根拠もそれなりのものを持っているわけです。それをおよそ,部分的であるにせよ,廃止してしまうということはかなり大変なことだという,そういう思い,それは○○委員のおっしゃったとおりです。14歳のときの犯罪を90歳になっても訴追することも可能となるわけで,これは別に架空事例ではなくて,ドイツでは現にそのたぐいの事件が起こっているところです。ただ90歳を超えて,もう記憶もなくなってしまっている,訴訟能力も否定されて,その結果,手続を打ち切りとするという事件が数件,知られています。そういう非常にドラスティックな改正をしようということになれば,それはやはり生命という至高の法益,○○委員が非常に印象的にそのことを語ったので,私は心を打たれたのですけれども,生命という至高の法益を故意をもって害するようなそういう犯罪に限定してそうすべきだと考えるのです。そういうものであればだれしもが納得するだろうと思うのです。  ちなみに,ドイツのことをもう一回引き合いに出しますと,確かに時効を廃止したのですけれども,それは故意の殺人に限定した上で,しかも故意の殺人全部ではなくて,故意殺の中でも特に重いものだけ,いわゆる謀殺と言われている加重殺人罪だけについて時効を廃止したのです。私の提案する故意による殺人というのよりも,ずっと狭い部分について廃止したのです。ドイツはヨーロッパ社会に復帰するために,その意味での社会復帰のためにぎりぎりの選択としてそれをやったのだと言われます。そういう背景もない日本において,ドイツよりもはるかに広い範囲で時効を廃止する必要があるのかというと,やはりそれはないのではないかと思うのです。  次に,○○委員のおっしゃった後半部分についてですけれども,法定刑というのは生命侵害という部分,あるいは生命侵害についての故意・過失というところだけで決まっているのではないのです。そこには,いろんなファクターが考慮されて決まっているわけです。例えば放火についても死刑が入っている,あるいは強盗致死についても死刑が入っている,航空機強取致死についても死刑が入っているというのは,それは単に生命侵害との関係での責任の重さだけで考えているのではない,いろんな異質のファクターが入っているわけです。今回の改正というのは,むしろ生命侵害というファクターに注目してやろうというわけですから,単に死刑に当たっているから全部というのではなくて,その中で故意を持って至高の法益を侵害するものに限定するというのは,これはむしろ首尾一貫しているのです。逆に,ここで急に異質のファクターが入っている法定刑に戻って,それを基準にして全部ひとくくりにしましょうというのは,逆にピュアな改正ではないと私は思うわけであります。  また,これは裁判官の方に聞きたいのですけれども,強盗致死,つまり故意のない強盗致死の事案で,死刑を科すことが考慮される場合というのは本当にあるのかどうか,です。実際,そのようなことはないわけで,刑法240条という条文はありますけれども,実務においては,この条文は二つに分かれて機能しているのだろうと思うわけです。そういう実務を前提に考えれば,それは法定刑がそうなっているからというだけの形式的な理由でもって全部含めてしまうというのは,あまりにも大ざっぱな議論ではないかと思うわけです。 ● ほかの方はいかがでしょうか。  「最初の趣旨と違う」というところがちょっとよく分からなかったのですが,○○委員のような出発点をとれば確かにそういうことだと思うのですけれども,人を死亡させたということが出発点だとすれば,もっと広いですよね。だから,結論が先にある議論のような気がするので。結局,「故意によって人を死亡させたというのが特に著しく重大なので,それに限るべきだ」という御意見かなと思うのですけれども,ほかの方,いかがでしょうか。 ● 強盗殺人か致死であるかというのは,なかなか区別がつかないですね,これは。殺意があって傷害を与えて,まだ死に切れないうちに発覚した。これは,強盗強姦致死でも同じだと思います。だからこれは捜査を遂げてから初めて裁判をやって分かることであって,最初から捜査段階では分けられないと思うのです。だからこの法定刑で決める以上は,やはりこれは廃止の対象にすべきだと思います。その中から,法定刑の中から条文を抜き出してやるということになると,またいろんなものを抜き出してもらいたいものが私たちもありますし,やはりこの条文で死刑となっているものについては廃止する,そういう分かりやすいやり方でやっていった方がいいと思います。 ● ほかの方は。 ● ○○委員のおっしゃった,時効を廃止するということについてはやはり慎重に考えなければいけないというのはそのとおりだと思います。他方で,若干細かい話なのですが,そもそも240条の規定を見ると,主にはというか,そもそも強盗致死の場合を規定しにいっているわけで,強盗殺人も含めますというのはむしろ解釈で読み込まれているようなところがあって,その場合を逆に切り離すというか,メインの部分を切り離しているようなちょっと違和感を感じるところがあるというのが一つあります。 ● その点の立法過程の問題なのですけれども,これは立法史研究により明らかにされているところですが,立法過程を見ると強盗殺人を含ませることは最初から予定されているのですね。決して解釈論として殺人との均衡でそこに無理やり故意の場合を読み込んでいるというのでは実はないのです。 ● ちょっと質問なのですけれども,その場合に,○○委員の言う故意のない強盗致死も同じ法定刑にしているわけですよね。殺人より重い法定刑にしているのだけれども,それはそういう立法者の評価だったということなのでしょう。そうすると,○○委員が分けるというのは,立法者の意思に反するというか,立法者の意思のうちあるところは尊重するのだけれども,あるところは切り捨てると,こういうことにならないですか。 ● そうです。歴史的立法者の価値判断に拘束される理由はさらさらないし,現に実務は拘束されていないわけです。裁判官の方に聞きたいのですけれども,本当に強盗致死の事案で死刑を科すことを考慮するような事案があるのかどうか。 ● そういう言い方をすると,殺人だって実態からいうと同じことになってしまうのではないですか。 ● といいますか,私が聞きたいのは,実務においては,殺意をもって殺した形態のものと,そうじゃない場合というのは明らかに区別して意識されて分かれているのではないか,ということです。 ● そういう御質問ですけれども。 ● 結果としての量刑が分かれているか分かれていないかという御質問であれば,それはおっしゃるように分かれているという結果になるのだろうと思います。それは,犯情が違うという面が考慮されているということなのですが,だからといってこの場合に強盗致死の部分は廃止から外すのだという,その結論の方には,私はやはり法定刑で画一に決まっている方がいいと考えておりますので,そこは賛成はできません。 ● 私の発言が途中になってしまいましたが,そのことで刑法240条が泣き別れになってしまうということの問題が一つと,もう一つは法定刑としては殺人より強盗致死の方が重いのに,公訴時効の面では逆になってしまう,そういう逆転現象が起こるということが,やはり座りが悪いのではないかというのが二つ目です。  三つ目は,○○委員のお話は遡及適用の話もかかわってくるところですが,今回の見直しというのが,ある意味で,犯罪の悪質性というか,そういうものを再評価する作業をしているのだと考えると,それを遡及適用するのもおかしいし,再評価するのだから法定刑にとらわれる必要もないであろうと,こういう御議論もあり得るのかなと思います。その意味で○○委員のお話は非常に一貫しているような気がするのですが,私は,必ずしも犯罪の悪質性を再評価しているわけでは決してなくて,公訴時効の限りにおいて刑事責任を追及できる期間をどこまでとるのが適切かということではないかという気がしております。そういう意味において,逆に再評価するということになると,特に法定刑を離れて再評価するということなると,前回の議論でもありましたように,いやいや,公共危険罪で人が死んだ場合はやはり重大で,こんなに人がいっぱい死んだらどうしてくれるのだとか,いやいや私はこの範囲が重大だとか,それはちょっとまとまりがつかないと思います。もちろん故意がある部分が重大なのだという御議論はもちろんあり得るところなのだろうと思うのですが,そこはパンドラの箱をあけるような御議論になるのではないかという気がしているということでございます。 ● 私も前回から故意によるものに限定すべきではないかということで,○○委員と全く同じ考えをしています。今のお話の中で,強盗殺人の関係の強盗致死と切り分けて,強盗致死だけを廃止しないと,公訴時効と故意の時効がアンバランスになるという部分については,もともと死刑というものがここに入っていたことに起因するものを,今回それから切り分けるのですから,実際の構造のランクとしては強制わいせつのこの黄色い部分に落として,実質30年にすればイコールになりますので,あえてそこら辺については技術的なことで解決できるのではないかとも思います。 ● 今の○○委員の御意見は,さっきの修正案とはまた別ですね。 ● 別です。 ● 一番最初のころ議論になったことがいささか気になるのですけれども,16年の改正との関係なのですが,あのときは法定刑についての議論を中心として行い,その結果として時効も延びたということだが,今回はまさに時効そのものについて,○○委員は「再評価」という言葉を使って,再度もう一回今の時点でいろいろなことを考え直して再検討,再評価をしているのだと,私はそういうふうに理解しております。それでよろしいですね。そこはやはり,私としては認識していたいということなのです。 ● 前回も出たのですけれども,今回人を死亡させた罪という,法定刑基準とは違う基準を持ち込もうとしているわけでして,その中で,前回も出たのですけれども,そこは一種の法定刑と違う基準を持ち込みながら,更に具体的な罪名というか,そこでは強盗殺人と強盗致死は一緒の条文なので一緒にやるという,何かそこは,バランスというか,理論的に何か。いったん法定刑基準だけでない基準を持ち込んだのであれば,その先この強盗致死を例えば書き分けといいますか,分けて,そこは廃止しないというようなことはあり得るのであって,法定刑基準だということを持ち出されて,具体的な個別の強盗致死は別だということはできないのだというのは必ずしも理論的に一貫してないと思います。私も基本的には○○委員の意見に同調といいますか,考え方に同調したのですけれども,やはり今回ドラスティックな廃止をする。先ほどから○○委員も言っておりますけれども,だれもが納得する,だれもがこれは仕方がないと思うというものについて,今の基準ではそれを超えるものが入っている。とりわけ強盗致死というには,実務家の感覚で言うと,前回も言っていますけれども,事後強盗が,つまり窃盗が発展して致死に至るというケースがありますので,そういうものを廃止するというのは非常に違和感がございまして,そういうものが入ってしまうということでは,どうしても,国民の意識というのは分かるのですけれども,非常に具体的な妥当性に著しく欠けるような気がいたしますので,基本的にはだれもが違和感を持たない故意によるものだけを入れる。人を死亡させた罪というのはそういう意味で理解していくべきではないか。そういう意味では,逆に第1の2の中で,過失ですね,危険運転致死とか自動車運転過失致死とか,そういうものも今回すべてバランスということから引き上げようとしているのですけれども,そこは必ずしも過失のものを人を死亡させた罪の中に入れて,逆にそこを公訴時効期間を延長するというのは,人を死亡された罪という概念を逆に拡張させる方に使っているという意味で,望ましくないのではないかと思っております。今回問題になっているのは,凶悪・重大な部分についてどうするか,そこに焦点が当たっているわけでありまして,それ以外のものについて,今回バランスだということでそれを変える,大幅に延長する,2倍に公訴時効期間を延長するというのは,それはバランスを強調し過ぎているのであって,今回の焦点はあくまで廃止するかどうかというところに絞って,どういうものについて廃止するかということを慎重に議論すべきであると思っております。 ● 三つ違うことを言われたので,話が拡散してしまったのですけれども,1番目は,人を死亡させた罪という切り方をしながら,その中で法定刑を基準にして対応を変えていくというのは理論的に一貫しないのではないかということですが,これについては,議論をもうかなりやりましたよね。  2番目は,廃止については故意のある場合に限るべきだという点ですが,しかし公共危険罪の致死も廃止の対象に入ると言われたので,ちょっと違うように思うのです。  3番目は,延長の方は必要ないという議論ですか。 ● 私はもともと必要ないというか,今回のところはそこまで求められてないというか,それはバランスだというのですけれども,正に16年改正から時間がたってない現在,その下の方のものを全部いじっていくというのは,正に時期尚早といいますか,必要ないと考えています。 ● その部分は,修正案では対象にしていますよね。そこは修正案のような形だと必要がある,あるいは妥当だと,こういう御意見ですか。 ● 修正案というのは,さっき言った傷害致死とかそういうのは入れてないわけですね。自動車運転過失致死とか。 ● そういうのは落ちていますけれども,ある意味では広がっている部分もありますよね。 ● 広がってはいますけれども,これよりは狭いと思います。 ● ですから,修正案的な対応だとOKなのだけれども,組み合わせのうちの延長案だとそういうものを対象にするのはおかしいと,こういうことなのですか。 ● 修正案と関係なく,この現在の要綱案に対する意見を述べているのであって。 ● でも,同じ人の提案であり発言であるわけでしょう。 ● もちろんそれはそうですけれども。 ● 委員・幹事としては,そのぐらいの一貫性を持たせないとやはりおかしいのではないですか。 ● それはでも,今要綱案についての意見を述べているのであって。 ● 分かりました。修正案とは切り離して,この要綱案についてだけの御意見だということですね。 ● そういうことです。 ● ○○委員の御意見もよく理解できますけれども,やはり殺人にしろ傷害致死にしろ,現場では被害者と加害者しかいないわけなので,故意でやったかどうかというのは,それは捜査をして,被疑者が捕まって,公判になって証拠が出て,いわば後になって分かる話なので,それを事前に故意の場合だけに限ると言われても,では捜査現場としてみると,これはどうも強盗殺人ではなく強盗致死みたいだから,もう公訴時効は30年だねと,そういう判断を現場の方に求められるかというと,それは無理だろうと思うのです。ですから,罪名としてかつ人を死亡させたという枠内で法定刑という形で切っていかなければ,実態として,実質論としては分かりますけれども,手続あるいは実務的な適用ということを考えたときには,やはりこの案がベストとは言いませんが,より妥当性のある案であるということで,私は原案に賛成です。 ● 分かりました。ほかの方は。よろしいですか。  それでは,この点についてはこれぐらいにして,更に次回また考えていただいて,補足することがあれば次回また御意見を出していただきたいと思います。 ● 広げる案などもあるのではないですか。要綱骨子よりももっと広げるべきだという。 ● ○○委員としてあるのですか。 ● ありません,私は。 ● ここで休憩にしたいと思います。          (休     憩) ● それでは再開させていただきます。  次の論点に議論を進める前に,1点だけ,見落としていました。それは,この要綱骨子案で対象犯罪,特に延長の方の対象犯罪の中に,自動車運転過失致死と並んで業務上過失致死も入っているのですが,業務上過失致死の「業務」にはかなり多様なものがあって,これについてまで延長する必要があるのかどうか,妥当なのかどうかという御意見があるやにも聞いていますので,確認の意味で御意見があれば伺っておいた方がいいかなと思います。 ● まず質問ですが,今おっしゃったのは,自動車事故による致死の部分がとれた業過致死のことですね。 ● そうです。 ● 今思いつくのは,大きな電車事故事案などが対象になると思うのですけれども,業務上過失致死はほとんどが自動車事故だったので,それが抜かれると,あとは何が考えられるのか,例えばどのような事案類型が考えられるのでしょうか。 ● 今お話があった点についてなのですが,もう少し具体的に申しますと,医療過誤の問題を指摘される方がいて,医療過誤の事件でも業務上過失致死の一種として今回の案だと時効期間が5年から10年に延長されることになるけれども,医療に従事しておられる方の感覚からすると,そんなに延ばす必要は本当にあるのかという御意見もあるようにお聞きしております。その点について,もし何か御意見があればということでございます。 ● 先ほどから○○委員に対する反論でも申し上げましたけれども,そこまで個別の案件というか類型に踏み込むことはこの際避けるべきなので,業務上過失致死そのもの,重過失致死そのものを外すというのなら分かりますけれども,それを外す理由として医療事故についてはいかがなものかという理由付けは表立ってはできない以上,それを特別扱いすることは無理だというのが私の意見です。 ● 結論的には区別しない方がいいのだろうと思うわけであります。自動車と一緒に扱った方がいいのだろうと思うわけであります。○○委員は殺意をもって殺すかどうかというところで線を引きましたけれども,私は,要綱骨子案では人を死亡させたかどうかというところで線が引かれていると理解しておりまして,人を死亡させた罪の中で故意があるとないという大きな二つの分かれがありまして,故意がある方の中で,法定刑というものを目安にして,極悪なものと,悪い類型と,普通の故意に人を死亡させた罪と3類型にして,過失の方は悪い類型と単純過失,二つに分けてやる。そのような類型分けをした時効期間の設定をしたのだという理解で私はおりますので,そうすると重過失も業務上過失も,単純過失よりはワンランク悪いものにくくり上げられた類型ですから,そういう類型の中では仲間ということで,それ以上細かく分け始めると,○○委員がおっしゃっているように,もう収拾がつかなくなりますので,このくらいのくくりが適当ではないかと思います。 ● 分かりました。ほかに。 ● 今の業務上過失致死の問題についてですけれども,私も○○委員がおっしゃったとおりだと思うのです。それと,どのような事案があるかについてですが,通常の業務上過失致死というのは,例えば工事現場でだれかが転落したという事案は結構あると思いますけれども,最近時効との関係で問題になったのは○○の湯沸かし器事件です。あれは相当前から人が死んできて,事件性はなかなか分からないまま推移してきて,最後に残った1件だけ時効未完成であって,それで例の機械の不具合が発見されて,その最後の1件だけ事件になって立件しているのです。その前は,要するに単なる自過失ではないかということで捜査でも分からなかったのが随分あります。被害者御遺族からの真相を解明してほしいという声で捜査が動き出したという経緯なのです。  そのほか,例えば○○のエレベーター事故とか○○の爆発事故とか,割に時間がかかる捜査が多いのが一つの特徴です。したがって,結果で人が亡くなる,その重みも同じだと思いますし,時効期間について,ではこのままにしていいのかと言われると,そうではないのではないかと思います。 ● 分かりました。ほかによろしいですか。  それでは,先ほど○○委員が言われた広げる方も含めて,更にお考えがあれば次回引き続きお伺いすることにさせていただきたいと思います。  それでは次に,刑の時効の改正についての議論に入りたいと思いますが,この具体的在り方について前回かなり御議論いただいたところですけれども,更に付け加えて御意見があればお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。特に前回に付け加えて御意見ございませんでしょうか。   今日の段階でないということなら,次回また更にあれば付け加えていただくということで,よろしいでしょうか。  それでは適用範囲の問題について,公訴時効の改正の適用範囲,改正したという場合の適用範囲についてまず御議論いただきたいと思います。現に時効が進行中の事件に適用するかどうか,この点についてもこれまでかなり突っ込んで議論したところで,論点はほぼ出ているように思いますけれども。更に付け加えて御意見があれば。  それでは,刑の時効の改正の適用範囲の問題も含めて,議論していただきましょうか。 ● 前回第2の公訴時効の適用範囲と,それから第3の3について平仄が合っていないのではないかという発言をしたのですけれども,それは決して第3の3についても第2と同じようにすべきだという趣旨ではなくて,やはり第3の3で従前の例によるものとすることというのがむしろ原則なので,こちらが原則であるという意味では,私はこの原案に賛成します。だから平仄が合わないのだけれども,むしろだから第3の3に平仄を合わせてほしいという意見だというふうに発言を言い直させていただきたいと思います。 ● 原則だというのは,どういう理由によるのですか。第2の方,別の方が原則だと言われたので。 ● 要するに第2についても,「なお従前の例による」ものとすべきと私は考えています。 ● それで平仄が合うということでしょうか。 ● そっちに平仄を合わせるべきだということです。 ● 分かりました。ほかの方はいかがですか。 ● 私は第2の刑事手続法規たる時効規定の適用につきましては,今第2に書いてあることが原則だと考えておりますので,こちらにつきましてはこれが妥当だと思います。それ以外の憲法に関する議論は既に述べたとおりです。 ● ほかの方,どうでしょうか。 ● 平成16年の改正の附則は,公訴時効について,「なお従前の例による」とした。その附則が,今回の新しいこの第2によると,それが公法によって書きかえられたということなのかどうかということなのですが,附則が結局ある種もう意味がなくなるわけです。平成17年1月1日以降の罪について。逆にその前のことについては,従前の例だと言っていたのを,今回これが否定することになるので,結局平成16年のときの附則がどうなるのかということについてお聞きしたいと思うのですけれども。 ● これは立法技術的な話になってしまうのでまだ確定的ではございませんけれども,今回仮に改正案が答申されて,立法してそれが施行されると,その施行時において完成していないもの,時効が進行中のものについては,それは平成16年改正の附則の規定と抵触するものであっても附則の規定を破ってそれについては適用ができるようにしたい,こういう趣旨でお諮りしているもので,そのように理解していただいているものと思っています。あとは,立法技術的にその附則との関係をどう整理するかという問題だと理解しております。 ● 訴訟法では新法が適用されるのが原則だという考えに立てば,これまで附則に書いていたことは,正に例外だからこそ書いてあったのだと整理される。だから筋を通すと今回は附則に何も書かなければ原則により新法が適用される。ただ,立法の仕方の問題として,新法が適用されることを明記してはっきりさせるのは望ましいことだろうと考えております。 ● ○○委員も○○委員も,どちらに合わせるかは別として,同じにすべきだという御意見ですね。 ● ○○委員はそうです。 ● ただ,○○委員は,第3の3については別に意見は言っておられない。 ● 公訴時効の方に合わせろと言われたのかなと思ったのですが。 ● 私の言いたかったのは,○○委員が原則とおっしゃった点について意見を異にしますので,そこが反対であるという意味です。 ● ○○委員の場合は,二つの制度の間で性質の違いは特にないというお考えですか。 ● はい,そうです。 ● 今回,人を死亡させた罪のうちという形でこういう区分をしているわけですから,人を死亡させずに終わった場合,殺人未遂の公訴時効については16年の改正が適用されることになるのですか。 ● そういう趣旨です。 ● そうしますと,それについては従前の例によるという形になるけれども,人を死亡させたものについてのみ新法適用という形になるわけですね。そこは平仄が合わなくていいのですか。 ● すみません,何と何の平仄でしょうか。 ● 要するに殺人未遂でなかなか犯人が見つからないような場合であっても,恐らく刑訴法250条でもって25年というものが,この法律ができたとしても残ると思うのです。それについては旧法の適用という形になりますよね。ですからそこの部分で,未遂の部分については旧法適用で,既遂の部分については今回のこの法律によって新法適用になるということで平仄は合わなくていいのですかとお聞きしたのです。 ● 平仄って,何と何の平仄なのですか。 ● ですから新法適用と旧法適用の関係は,そこでもって区分されてしまっていいのですかという質問です。 ● 要は今回の見直しの対象がどういう範囲かというところが大前提でございますので,見直しの対象となったものについては前回の附則にかかわらず現に時効が進行中のものにも新法を適用するという改正をしたいと言っているわけでございますから,見直しの対象になっていないものについてはなおその附則が生きているという整理でございます。 ● 理解いたしました。 ● 別に前の附則まで取ってしまえという御意見ではないのでしょう。16年改正を今から改めるという御提案ではないのでしょう。 ● そういう提案ではないです。 ● 分かりました。ほかの方,いかがでしょうか。 ● その16年の附則を取らなくても遡及はできるわけですね,この新法については。 ● 16年改正については,新法が成立した後発生した事件にその新法は適用されるということですよね。そのうちの今回見直しの対象になった犯罪といいますか,類型については,もし法改正がなったとすれば,その新々法が現に時効が進行中のものにも適用されることになるので,その限りにおいて現行法の附則のその部分は結果として改められることになる,そういうことですよね。 ● 改めて整理いたしますと,三つの類型がございます。まず今度の改正法が成立した場合に,施行時に既に完成しているものについてどうするか。これについては何も対象としない。未完成のもの,現に時効が進行中のものについては二類型あって,16年改正の附則によって「なお従前の例による」とされているものと,16年の法改正後今回の施行時までに犯されて時効が進行しているもの,この2類型ありますけれども,その2類型は区別せず,現に進行中であるものについては今回の見直しの対象となっている規定を適用しよう,こういう発想でございます。 ● 確認ですが,そうしますと,16年改正で15年の時効にかかっている未遂事件のようなものの場合について,前回もお話ししましたけれども,かなり重篤な被害者で,自分では行動ができないで車いすで介護が必要とされているという場合,なおかつ正に家族の人たちがその介護にかかわっているというかわいそうな事案については,残念ながら15年で時効が来たらさようならと,こういうことですね。 ● それは遡及の問題以前に,そもそもこの見直しの対象範囲の問題から御議論いただくべきことのように思いますけれども。 ● ちょっとバランスを欠くのではないかなという感じがしたのです。 ● もしバランスを欠くとすると,殺人未遂も今回の見直しの対象にして,それで新法適用ということにしないと完結しないですよね。 ● それは多分,仮にやるとした場合という形でしか私は言えないのですけれどもね。 ● だから,新法を適用するというところだけ手当てをしても,今回見直しの対象になってないわけなので,結局16年改正のそこをいじるということになってしまいますよね。 ほかの方はいかがですか。公訴時効の方でも刑の時効の方でも結構なのですけれども。かなり御意見が出て,論点が尽きてしまっているのかなという感じもしないわけではないのですけれども。よろしいですか。 ● これは取越し苦労だという御批判を受けそうですけれども,一つだけ気になる点を申し述べますと,骨子案の第1の1を採用した場合,死刑というのが非常に表に出てきて目立つと思います。そのことに対する国際社会の反応はどうだろうかというのが,少し心配になる点でして,もちろん時効制度に関する議論の本筋からは外れる問題ではありますけれども,先ほどの○○委員の御提案とも関連するかと思いますので,申し述べた次第です。 ● 刑の時効のところで先ほど発言しなかったのですけれども,結局10年以上のものについてだけ見直すということになっていますよね。それ未満のものについては見直さないと。それは死亡させた,凶悪な事件について公訴時効のことを考えているのだからということなのですけれども,業務上過失致死なんていうのも公訴時効は延ばしているわけです。ちょっと気になりますのは,罰金については3年,それから拘留,科料及び没収については1年という刑の時効が定まっています。それには,今凶悪・重大な事件のみを扱っているのだから手を触れないのだというお考えなのかと思うのですけれども,没収も今麻薬犯罪等に対する没収は非常に重大な制裁手段であり,不正収益を取り上げねばならないという重大な役割を持っていますよね。ですから,そういうものの刑の時効が1年ぐらいでいいのかなと思います。刑の時効については,今回はすべてについて見直したのではないのだという,そういう考えでよろしいのでしょうか。何か他の部分についても少し考え直さなければいけないかなと思いますが。 ● この前そういう御趣旨の御質問とか御意見が出て,事務当局の説明としては,公訴時効の方を廃止ないし延長した場合に,同じ罪種について有罪とされ宣告刑として最大のものを言い渡された場合の刑の時効がそれより短くなってしまうとバランスが欠けるというか,制度全体としての整合性が欠けてしまうので,少なくとも両者が逆転したような形にならない範囲で手当てをするのだということであったと記憶します。その条件でいくと,今おっしゃったような今回対象にならない部分というのは手当てをしなくても済む,そういうことではないかと思うのです。何か積極的に刑の時効について,こういう必要があるのでこれだけ延ばすのだと,そういう話ではなかった。没収についてはもっと必要が強いので,その部分を見直しましょうと,そういう議論であったので,そこがちょっと違っているように思いますね。 ● 先ほどの○○先生の発言と関係するのですが,結局将来いつになるか分かりませんが,死刑廃止するというような事態になったときには,今回は死刑がある罪というものが凶悪・重大だと見たわけですから,死刑がもし廃止された場合,当然に無期のものを廃止するというわけにはいかなくて,もう一回議論をしないといけなくなると思うのです。今回死刑のある罪だけを廃止することによって,結局そういうことが将来立法上死刑は全部廃止するとした場合に,全部無期にしてしまった場合,また無期より重いものをつくった場合でも,何が重大なのかということになって,もう一回議論しなければ公訴時効は定められないと思うのですけれども,今回死刑を選んだ場合そういうような問題が立法上はあるかなと思います。 ● 仮に将来,死刑が廃止されたとした場合に,当然に,今回の改正が前提を失って無効になるということではないのでしょう。 ● ではないですけれども,そのときに無期のものが。 ● 公訴時効廃止の対象犯罪として特に重大なものを選び出す際に死刑が法定刑とされているということを目安としたということなので,当然ではない。無論,そういったことが起こった場合には,またその段階で公訴時効制度の在り方についても見直しの議論が出る可能性はあるとは思いますが。 ● 結局それをはらんでしまうといいますか,当然にそれがなった場合にはもう一回議論しなければ,結局何を廃止するのかという議論をもう一回しなければいけなくなってしまうと思います。 ● 当然かどうかは別だと思うのですけれども,それはその段階でそういう議論になるかどうかということではないでしょうか。 ● 私も取越し苦労という前提でお話をしたわけですけれども,今先進国で死刑を持っている国は非常に少なくなってきておりますので,そこで時効の廃止という問題と絡めて死刑というメルクマールが真っ正面に出てくるということは,国際的に一種の誤解をもたらすおそれはないかという心配をしたわけです。その点が,先ほどの○○委員のようなお考えに従いますと,死刑という字が消えるわけですので,実質はほとんど変わらなくて,今回の時効改正に関する考え方は貫徹できることになるのではないかという趣旨でありました。 ● それはそれ自体として,もし問題だとすれば,正面から議論すべき問題ではないかと思いますね。 ● もう全く枠外の話なので一言だけ私の意見を述べておきたいと思いますが,今回の見直しの対象になりませんでしたけれども,罰金刑について一律3年という公訴時効期間は,法人重科になって7億円以下の罰金とか10億円以下の罰金とか5億円以下の罰金というような,法人重科が非常に煩雑に立法化されてきた時代に,それが一律3年で時効にかかるということについては,やはりちょっと妥当性を欠くのではないか。将来の課題としては,高額罰金については別途,罰金刑についても公訴時効期間について見直しをすべきではないかという意見を持っているということを申し添えます。 ● 一応要綱骨子案については,今日の段階ではこのくらいにしたいと思います。そこで,なおこの諮問事項全体について検討が及んでいない点,あるいはこれに関連する事項について御意見があればこの際伺っておきたいと思います。 ● 前々から機会があったらちょっとお話をさせていただきたいなと思っていたことがあったのですが,要綱骨子案の話をしているときになかなか手を挙げにくかったもので,そろそろいいかなと思って,一言申し上げたいと思います。  捜査実務に公訴時効の廃止というものがどんな影響を及ぼすのだろうかというようなくくりの問題でございます。公訴時効を今回廃止するということになったとすれば,捜査というのはいつまでどういうふうに続けていくのだろうという問題が出てくると思うのです。既に○○委員の方から数字をも含めて御説明いただいておりますように,時が経過をすればそれだけ検挙は困難になっていくというのは,もう明らかな事実でございますし,常識的にもすべての国民がお分かりいただけることだろうと思います。そのことからいけば,総じて言えばこれは捜査体制とか捜査の密度というのでしょうか,そういうものは時の経過とともに次第に小さくなっていく,事案によって全然違うものはございますが,トータルで見ていけばそうなっていくのは仕方がないことだし,合理的な捜査の在り方という観点からいけば,それが当然だという見方もできるのだろうと思うのであります。今後検討することではございますけれども,事案によっては捜査は凍結するというような,そんな状態になるということも検討に値する事柄ではないかと思うのです。   ただ,いずれにしても,捜査は合理的なやり方でやるようにしても,いずれかの段階で,どこかで捜査を打ち切って事件を終わらせる必要というのは出てくるだろうと思うのです。これは捜査を区切るという意味もございますし,もう少し現実的な事務的な話だと,記録と証拠品をいつ処分できるのかという側面でも出てくる問題でございます。  現在どうしているかということですが,これは時効の制度がございます。それで,時効完成とか被疑者死亡という理由で不起訴処分にすることができるわけであります。これはもう犯罪の嫌疑がどれだけあっても,時効完成あるいは被疑者死亡になれば法的な訴追の可能性がなくなりますので,その段階で捜査を打ち切る,刑事事件は終結であります。そういたしますと,訴追の可能性はゼロですので,記録も証拠品もほどなく処分してよろしいということになる。そんな体制で今やっておるわけであります。  これが,時効が今度廃止されたらどうなるかというと,時効完成というものは当たらなくなるわけでございますね。また,犯人が特定されてない事件では,被疑者死亡ということは言えないわけでありますので,では未来永劫続いてしまうのかということになるわけでございます。しかし,ここも常識的なお話かと思いますけれども,既に長期間時がたって,およそ人が生存している可能性,犯人が生存している可能性はないというくらい時が経過すれば,そのときは被疑者の死亡に準ずる考え方で,捜査を打ち切る,事件を不起訴として終わらせる,そういうことにせざるを得ないのだろうと思います。それがどのぐらいの期間なのかというのは,平均寿命の関係もございましょうし,今考えても50年後にまた延びている可能性もあるので何とも言えませんが,要するに犯人がもう生存可能性がないような時に達すれば,そこで事件を終わらせるということについてはおおむね異論がなかろうと,その段階になれば,記録と証拠品も持っている必要もなくなるのではないだろうかと思うわけでございます。  ただ,事件というのは,犯罪性がはっきりしてないものとか,いろんな濃いものから薄いものまでございますので,何もすべての事件をそういう被疑者が死亡していると思われるような100年とか,そんな時間持ってなければいけないというわけではないわけでございます。だからこれは事案に応じて被害者の心情でありますとか社会的な影響力とかもろもろのことを考慮して,どこかの段階で事件を終わらせるということはあるのだろうと思います。ただ,ある程度の段階で事件を打ち切る場合には,今回時効制度を廃止するという意味の一つとして,将来何らかの関係で犯人が名乗り出てくるとか,何らかの関係で犯人,犯罪が分かる場合があり得ますので,そういうときに備えた範囲内では,これは記録とか証拠品の保管は継続しておくのが今回の法改正の趣旨に沿う取扱いになるのだろうかと思うわけです。  要するに大事なことは,そういう場合に対応できるようにしておくということでございますけれども,これは前回,前々回でしたか,警察の方から証拠品の保管のための容積とか記録を並べたときの長さとかいろいろ数字を挙げて,どれだけの負担があるのだという御説明がありましたが,全くそのとおり,大きな負担になるわけでございます。ですから,そこは事案の実態を踏まえて,非常に合理的な対応というのを考えなければいけないのだと思うわけです。  我々が実務的なこととして考えていることを一つ具体的に申しますと,証拠品の還付をどうするのかというのがありまして,例えば100年たって還付をしようとしたときに,もう所有者は3代ぐらい相続を行って大変なことになってしまっているであろう,大体返すべき人を探すこと自体がそもそも不可能になっている可能性もある,100年間差押えを続けるのはいかがかという問題もありますけれども,いずれにしても返しにくくなることは確かでございます。そこで,わざわざ現物を持っている必要がないものにつきましては,事案の実態も見まして,例えば写真に撮れば足りるものは写真に撮るだろうし,もう少し死体に準ずるような厳密な形で証拠保全をしなければいけないものはそういうことのやり方があるかもしれません。保管が不便な証拠物については,そういうやり方で証拠価値を保全して返していく,返せるものは返す,直接必要がなさそうなものは思い切って返すということもあるかもしれませんし,どんどん返していくということも考えなければいけないだろうと思います。  次に,記録なのですけれども,紙は恐らく100年はもたないのだろうと思うのですね。再審事件とかの非常に古い事件の記録は,手に触るのが怖いぐらいのものというのがありまして,裁判所から借りても「御注意ください」とか言われるのがありますので,そうすると,捜査,その後証拠として必要のないようなものは処分していくということも必要だと思いますし,他方必要なものはきちんととっておくということが,また大事なことでありますので,それをどういう媒体に置き換えるのがいいかとか,そういう実務的な技術的な検討もこれからしていかなければいけないことになるのかなと思うわけです。  そんなふうに,実務的には恐らくこれから被害者の心情というものを十分に,どう尊重した対応をしていくのかというところと,片や合理的なところまで削り込んでいかなければいけないという二つの,もっとあると思いますけれども,いろいろな要素を勘案しながら検討していかなければいけない問題があると思いますが,いずれにしても,どこかの段階で事件を終わらせていくというやり方になっていくということになると思うのですが,そういう考え方が今回の時効廃止の趣旨に合うのかどうかとか,あるいは現行刑訴法の解釈の関係で何か問題が出てくるかとか,何かございましたら,この際ちょっと御意見をいただいて,また今後の実務的な検討に役立てたいと思うところでございます。 ● 実務上の課題ということだと思いますが,1点は捜査をどこかで打ち切るということで,もう一つは証拠物とか記録の保存のことですが,最初の方の御趣旨は,被疑者が特定されていなくても送検をしてもらって不起訴処分にする,こういうことをお考えなのですか。 ● 被疑者の死亡みたいな場合が典型ですけれども。 ● それは被疑者が特定されていますよね。それはいいのですけれども,特定されていない場合はどうですか。今でも被疑者不詳だけれども送検して不起訴にする場合があるのですか。 ● あります。 ● そういう形で対応することを考えてもよいのかどうか,実務的な視点からの問題提起ですけれども,理論的にどうかということも御質問がありましたので,理論家の方から御発言いただければと思いますが。どうぞ,どなたでも。 ● 実務上の御趣旨は理解しました。実質的に捜査を終結し手続を打ち切る手段として,現行法の制度としては,検察官の事件処理の一つとしての不起訴処分があると思います。捜査は何のためにやっているかといえば,若干例外はありますが,捜査の目的は将来公訴を提起し公判を遂行して判決を得る。その目的のために捜査すなわち,犯人を探索し証拠を収集する活動をしているわけです。○○委員がおっしゃったような,どう考えても事実上被告人となるべき犯人は死亡しているであろうというような長期間たっているということは,言い換えれば,およそ公訴提起と公判の遂行が事実上不可能になっているわけですから,これを目的とした捜査も,もはや目的を失いやっても仕方がないと考えるのが自然だろうと思います。公訴提起と公判の遂行がおよそ不可能である被疑者死亡による不起訴処分の場合と同様に,長い年月がたった事案について,もはや公訴提起の見込みがないということで不起訴処分をするということについては,現行法の解釈適用として特段の問題はないように思います。  それからもう一つは,捜査でそれまで収集した証拠をどうするか。これは同じ理由ですけれども,もはや公判で使用するということがおよそ考えられないという時間がたっていれば,不起訴処分に伴ってそれも廃棄するというのは特段,刑訴法の解釈上は問題点がないように思います。ただ,事件を再起することはあるかもしれないという時期はまた別ですけれども,最終的には先ほどおっしゃったようなことをされても,それは時効が無期限に存在するということとは独立に考えられる措置であろうし,問題はないと思います。 ● そうしなければならないというものではないということですね。不起訴処分ですから,今言われたように再起ということは理屈の上では可能なので,事実上そこでクローズしているだけで,時効期間が延びるとか廃止されるということとは,理屈の上では矛盾しない。 ● はい。時効が廃止されれば,理論的には公訴権は一定の犯罪類型については無期限に存続する。いわゆる抽象的な意味での公訴権はその罪については未来永劫存在しているわけですけれども,それを個別具体的な事案に適用する場合の公訴権の行使については,その権限を有する検察官が合理的な理由に基づき不起訴処分という事件処理を行い,事実上捜査を終結させるということができるでしょう。これについては理論的には問題はないと思います。 ● 分かりました。ということですが。 ● 確認なのですけれども,先ほど○○委員がおっしゃった例といいましょうか,恐らく間違いなく被疑者は死亡しているであろうという,そういう時点で不起訴処分というのは恐らく問題はないのだろうとお聞きしましたけれども,捜査が事実上もうやるべきことをやり尽くし,全く進展がない,止まっている。もうこれ以上捜査を続けても,恐らく実質的な意味は得られないだろうというような展開になった時点で,例えば警察から送致をし,検察官において不起訴処分にする。時効はありませんので,あるいは延長されているので,犯人が判明した場合には再起ということも含めて,今の刑訴法上問題はないと考えてよろしいのでしょうか。 ● 今の点,どうですか。 ● 私の先ほどの説明は,捜査の目的という観点から立ち返って考えてみると,その目的の主要部分は,犯人を特定しその人を刑事訴追して公判を実行する,それが目的であるとすると,事実上そのような見込みがおよそ立たないという場合であれば,捜査をする目的が失われていることになりますので,それを終結して,その終結の方法として不起訴処分というのは可能ではないかと思います。ただ,○○委員の挙げた事例というのは,およそもう生きてないだろうというのが被疑者死亡に匹敵するということだったとは思いますけれども。 ● 私は二つ申し上げたつもりでおったのですが,被疑者死亡に準ずるものというのは,いわば最後の打ちどめ状態でありまして,そこに至らないものはケース・バイ・ケースで,いろいろなものがあるだろうという形で,私さらっと申し上げてしまったのですけれども,正にもう本当に事件というものは犯人性,犯罪性,いろいろなものがありまして,でも逆に言えばこれ以上捜査をやることが何もないという状態に達してしまうということもあるとは思うのです。ただその場合でも,何もないという判断をするのはとりあえず第一次捜査機関における判断の話でありまして,何もないかどうかというのは,その事件の社会的影響とか,いろんな周囲の状況でまた一概に言いにくいところがございます。ただそういうもろもろの事情を考慮しても,これはおよそ訴追は無理ですねという場合になったときに,いったんその捜査を区切るというやり方は当然あるだろうと思います。そのときには,改正の趣旨に従って万が一に備えた最低限のといいますか,合理的範囲の記録等の保存は当然必要になってくるだろうなということであります。 ● 私は実務家でないので,○○委員が最後におっしゃったような状態とか○○委員がおっしゃったような状態というのが実際にどういう状態なのかというのが,そう言い切れる事態というのがよく分からないのですが,もしそういう事態があるとすれば,先ほど申したとおりで理屈としては同様に考えられると思います。 ● 今のような廃止ということになると,捜査がやるべきことはやり尽くして,しかるべきときに必要なものだけ残すと言われてしまうと,後で出てきたときに,それこそ30年ぐらいして私が犯人ですと出てきたときに,少数の証拠で裁判をやられると,それこそ被告人の有利なものもなくなってしまう可能性があるので,私は廃止は反対ですけれども,もし廃止するのなら,あるとき突然出てきたときのことも考えていただきたいなと思いますけれども。 ● 一方の立場に有利な証拠だけを残すとか,そういう趣旨ではございませんので。必要な証拠として価値がある必要なものは保全するけれども,その段階での事件の捜査の結果を踏まえて,明らかに持っておく必要がないというものもきっとあるはずです。そういうものは,合理性の観点から証拠価値の保存の仕方も考えたりいろいろして,合理化する,省力化,省スペース化するとか,少量化する。そういう努力は当然必要だろう。そういうことを言っただけです。 ● その価値があるという判断が,捜査側の判断と防御側の判断とは違うと思うのです。ですから,私は反対ですけれども,もし廃止するのなら,生きている間はあるものは残していただきたいなと,弁護側としては思います。だれが考えても死んでいるというのなら,それはしようがないと思いますけれども,どこかで突然私が犯人ですと出てくる場合に,もう必要最小限と思った証拠しか残ってないということになったら,幾ら証拠開示してもらっても,我々としてはなかなか厳しいものがあると思います。 ● 言い方がちょっと誤解を招いたかもしれません。基本的に証拠価値があるものをなくすということを言っているつもりはなかったのです。紙でずっと捜査報告書を山ほど持っているものを,何かもう少し小さくする形とか,そういう工夫が必要になってくるのではないかということを私は申し上げたつもりです。 ● それはマイクロフィルム化するとか,そういうことでしょうか。 ● そういうことも含めて。電子情報化を活用するとか。 ● そういうことであればいいですけれども。 ● 御心配はよく分かります。検察官として証拠価値がないだろうと思って切り捨てられては困り,十分防御上の可能性というのを視野に入れて,どの範囲でどういう形で残すのか,あるいはどういう形で処置するのかを考える,そういう問題ですよね。 ● おっしゃるとおり,なかなか御理解いただけるかどうか分かりませんけれども,何も死体が上がったら全部起訴するためだけに捜査しているのではなくて,ちゃんと事案の実態がどちらなのかということを見るために捜査をするわけですので,そういう目で,もちろん証拠はちゃんと,保全すべきものは保全しなければいけないのは,それは当然のことでございます。 ● 問題は要するに,捜査の一応の打切りの話と証拠等の記録の保存の問題があって,打切りについては,理屈の上では,いつ打ち切っても悪いということはない。訴訟法的に違法だというわけではないと思うのです。ただ,それは怠慢だという批判を浴びたり,検察審査会に持ち込まれて問題にされるということはあり得る。そういう問題だと思うのです。理屈の上では,そんなに難しい問題ではないと思うのですけれども,実際上の扱いのところで,かなり実質的な判断を要する問題だと思います。○○委員,犯罪被害者の立場から見ると,今の点はいかがですか。 ● 実際問題として,廃止された場合には,今までと同じような,最初の初動と同じような捜査に人員を力を注ぐ,これは不可能なことだと思います。次から次へと新しい事件が発生しますから。だから,そうなりますと記録を一体どうするのかという問題が起こると思いますが,だれが考えてももう犯人は死亡しているだろうということがはっきりした場合には,運用で記録を何とかする,あるいは別の決定か何かですが,それはやむを得ないのではないかと思います。お話があったように,世田谷事件なんかはこの部屋の半分ぐらいを証拠が占めるというのですけれども,それは永久にそうしておいていただくというわけにもいかないと思います。だから,それをいつどういうふうにするかということについては運用ではありますが,何らかの決定があった方がはっきりはするかなとは思います。証拠自体は,これは仕方がないだろうと思います。いつまでも100年も200年も置いておけというわけにはいかないですから。 ● 分かりました。ほかに関連して,何か御発言ございますでしょうか。 ● 証拠品等の保管の問題が出ましたので,1点ちょっと申し上げたいと思いますけれども,今も警察署には証拠品というのはかなりたくさん保存している状態にあるのですけれども,例えば殺人事件なんかでは相当たくさんの証拠品を押収する。特に今,現場の資料というのが将来にわたって大きな意味を持つという捜査になっていますので,例えば事件によっては1年か2年ぐらいたった時点で千数百点の証拠品があるというような捜査本部もございます。ただ,捜査の進展によって全く犯人とか事件とかと関係がないということが判明する場合がございます。そのようなものについては留置の必要がないと判断して,司法警察員が送致前でも今の刑訴法の222条第1項で準用されております123条の1項,124条の1項の規定によって還付あるいは被害者還付を行うことができます。問題は受還付人が所在不明等でいないというような場合に,還付も被害者還付もできないという事態が生じるわけでございまして,刑訴法の499条1項の還付公告の主体に司法警察員が含まれていないということから,還付公告は行えず,したがって処分ができない。つまり証拠として必要がないものについても持ち続けるという状態が今生じております。  例えばどういうケースがあるかというと,殺人事件の捜査の過程でAさんとBさんが容疑者として浮上した。Aさんの自宅について捜索,差押えを行って,例えば日記ですとかメモですとかレシートとかというものを押収した。捜査を進めていった結果,Bが犯人であるということが明確になってきて,Bが逃亡した。指名手配を打っているけれども,なかなかBが発見できないというような事態になって,捜査がすごく長引く。Aについてはシロの捜査がきちっとできて,その嫌疑が否定されるということで,Aさんの自宅から押収したものを返す,還付するという必要が出てくるわけですけれども,Aがその時点で所在不明だということで,もう返せないというケースがございます。あるいは他殺死体が発見されて,被害者の居宅について捜索差押許可状で,アパートで関連の資料を差し押さえた。ただ,その居宅がデリヘル嬢が多数同居しているところであって,他人のものもそのときに併せて差押えをしてきているというケースもあるのですけれども,その同居人についてはもう嫌疑はないということがはっきりして,それは返すという場合も,デリヘル嬢であるがゆえにもうそこにはいなくなってしまっている,警察の捜査との関連を嫌ってですね,というようなケースが実際にございます。したがって,事件におよそ関係のないということが明らかになった資料の保管をずっと続けるというような,例えば髪の毛が付着したブラシとか,いろんなものがありますけれども,保管を続けるというのが今の実態になっております。  公訴時効が廃止された場合には,押収物を保管する期間が理論上はずっと続くということになりますので,留置の必要がないと判断して還付ができないという場合に,そういう押収物が増加してくる可能性があるかなと思っています。この保管が非常に捜査現場にとっては過重な負担になる可能性がありますので,必要なものはやはり適正に保管していくということは当然なのですけれども,捜査上必要ない,事件には関係がないというものについては早期に処分していくということが必要になってくると思っています。こういう点について,どういう法制上ないし運用上の手当てが可能かということについて検討をしていただけるとかなり助かるということでございます。 ● 今の点について,事務当局は何かお考えがありますか。 ● ただいま○○委員から御指摘のあった還付公告の関係ですけれども,押収物の還付公告につきましては刑事訴訟法499条に規定してございまして,還付公告の主体が検察官とされております。しかし,ではどうして検察官とされているのかというところを見ますと,歴史的な沿革によるところが大きいと思われます。この現行刑訴の499条は,旧刑事訴訟法の560条をほぼそのまま引き継いでいるものでございます。旧刑事訴訟法のもとでは検察官が捜査の主宰者とされ,司法警察官はその補佐機関とされており,基本的に証拠物は検察官の手元に集まることとなっておりましたから,還付公告の主体を検察官としておけば足りたのではないかと思われるところです。これに対しまして,現行刑訴では,司法警察職員は第一次捜査機関として位置付けられておりまして,246条では証拠物は事件とともに送致することとされ,事件送致までは証拠物が司法警察職員の手元に置かれることとなることから,旧刑訴法のもととは事情が異なっているのではないかと考えられます。そもそも司法警察員は,現行法のもとでも押収法の還付,仮還付,被害者還付を行うことができますし,それだけでなく,危険を生じるおそれのある押収物の廃棄を行うことができるほか,没収することのできる押収物で滅失,破損のおそれがあるもの,又は保管に不便なものについては,これを売却してその代価を保管することができることとされており,押収物の処分権限が相当程度与えられているところでございます。  還付公告というのは,還付及び被害者還付の権限があるにもかかわらず,受還付人の所在不明等によりこれらの処分を行うことができないという執行上の不都合を回避するため,これらに付随するものとして認められていると考えられることからしますと,司法警察員にも還付及び被害者還付の権限が認められている以上,その執行方法の一形態である還付公告も行うことができることとするのが自然であると考えられます。このようなことからすると,理論的には司法警察員が還付公告を行うこととすることも十分あり得るのではないかと考えております。 ● ○○委員,手を挙げておられましたが。 ● この問題はちょっと難しくて,ここの審議会でそこまで全部やってしまわなければいけないかどうかということを感じますが。 ● 先ほどの実務上の取扱いの話に付随して,そういう問題があるという御発言で,それにどう対応するかというのは,警察にとっては大きな問題であることは間違いないのですけれども,どちらかというとテクニカルな問題のように思います。 ● この問題を考える上での前提として,一つ質問があるのですが,499条で検察官が還付公告できるということになっているのですが,捜査段階において検察官が還付公告する場合も,この499条に基づいて還付公告をしているのでしょうか。 ● 御案内のように,499条は「第七編 裁判の執行」に規定されている条文でございますので,捜査段階における還付公告の手続は,いわばこの499条を解釈上準用する形で行われているものと理解しています。 ● 準用するというのは,どのような根拠で準用しているのですか。 ● 「準用」と言うのがいいのかどうか,今の表現が適切だったかというのはございますけれども,要は執行の編の規定であっても,捜査段階もこの規定で解釈上読めるという趣旨です。 ● 分かりました。その上で,司法警察員に還付公告の権限を認めることについてですが,先ほど○○幹事の御説明にもあったように,還付の権限がある以上は,その執行方法の一形態である還付公告の権限も認めてよいはずだというのは,そのとおりだと思います。その場合に何か法制上手当てをする必要があるのかどうかが次の問題になりますが,検察官による捜査段階での還付公告についても499条で認めている根拠が,もし,裁判段階の還付に関する規定が捜査段階にも準用されるからというものだとすれば,捜査段階では司法警察官にも還付権限はあるわけですから,解釈として,499条を準用する形で,司法警察員 による還付公告を認めるという考え方もあり得るように思います。ただ,現在の実務はそれとは異なる解釈を採っているわけですので,立法で明確に司法警察官員も還付公告ができると定めた方が望ましいと思います。 ● 実務上やられているのはやられている。それが499条1項との関係でどういう理屈でそうなっているのですかね。その規定の解釈で当然できるのだという考え方なのか,それとも準用なのか。準用だとすると,○○幹事の言われる可能性もあると思いますね。ただ,裁判の執行のところで検察官に限っているというのが特殊な意味を持っているとすれば,当然にはそうならないということになります,仮に準用だとしても。その辺は恐らく非常にテクニカルな問題だと思います。実質的に見て,やはりそこが抜け落ちており,非常に不都合が生じているし,もし公訴時効を廃止あるいは大幅に延長ということになれば,そこのところが実務上は,特に警察にとっては大きな負担になってくるということですので,これは恐らく公訴時効を見直しということになった場合に,それに伴う問題として,法改正によるのか解釈なのかは別として,何らかの対応をするということについてはあまり異論がないのではないかと思います。ここではその程度のまとめにして,あとは実務的な観点,それと法制的な観点で対応を考えていただくということにしてはいかがかと思うのですが,それでよろしいでしょうか。  ほかに御意見がございませんでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。今回の審議で要綱骨子案についての議論はかなり深めることができたように思います。考えられる論点というのはほとんど出て,御意見の分布もかなりはっきりしたと思います。   そこで次回は,積み残した議論等がもしあれば,いわば詰めの議論を行っていただいた上で,できれば答申案についての決定というところまで行きたいと思っております。もちろん今日の議論を踏まえて,なお皆様方から要綱骨子案に対する修文ですとか,あるいはこういう案もあるのではないかということがありましたら,お出しいただければと思います。これもこの前お願いしたように,もしそういうことがありましたらできるだけ早く出していただいて,皆さんがあらかじめそれを御承知の上でここに臨んでいただくというのが審議の円滑な進行に役立つと思いますので,是非そういうふうにお願いしたいと思います。そういうことで進行に御協力いただけばと思いますが,よろしゅうございましょうか。 ● 私は一つ大きな誤解をしていたようです。遡及については,今度問題になっている罪名ですか,これについてだけ16年の「従前の例による」を撤廃するというか,こういうことなのですね。私は全部について16年の「従前の例による」を撤廃してくれるのかとばかり思っておりまして,そこに大きな勘違いがあったなと今思いました。例えばここに全部致死ばかりですから,致死でない,前から言うような重大な傷害を受けて残っている人たちが,16年改正の恩典を全く受けないというのはどうも不合理だなと思いまして,そういうことばかりだと私は思っていました。さっきの話を聞いて,これは自分の勘違いだったなと思ったのですけれども。 ● この骨子案の趣旨としては,今回見直しの対象とするものについてということです。その点についても,もし御意見があれば次回お出しいただけばと思いますし,あらかじめ事務当局の方に文書の形で御提出いただいても結構だと思います。もしそういう御意見があれば,次回にまた議論するということでよろしいでしょうか。  今回はこのくらいで終わらせていただきたいと思います。  次回の日時場所について,説明をお願いしたいと思います。 ● 次回の部会の関係では,2月8日月曜日の午後1時半から5時半まで,法務省ゾーン17階の東京高等検察庁第2会議室を確保してございます。 ● 一応2月8日(月)午後1時半から5時半ごろまで場所は確保してあるとのことですが,かなり議論は煮詰まっていますので,もし皆さんに特に強い御反対がなければ,開始時刻を後ろの方にずらさせていただいて,午後3時半から開始ということにさせていただきたいと思うのですが,よろしいでしょうか。  では午後3時半から,場所は検察庁ゾーン17階の東京高検の第2会議室ということでございますので,よろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました。                                      -了-