法制審議会 第161回会議 議事録 第1 日 時  平成22年2月5日(金)   自 午後1時30分                        至 午後2時45分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1 国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号について   2 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する諮問第90号について 第4 議 事 (次のとおり)               議     事 (開会宣言の後,法務副大臣から次のようにあいさつがあった。) ○加藤副大臣 法務副大臣の加藤公一でございます。   本来であれば千葉景子大臣自らごあいさつを申し上げるべきところでありますが,御案内のとおり国会開会中でございまして,ちょうど衆議院の予算委員会に今出席いたしております。あいさつを預かっておりますので,代読させていただきます。   法制審議会第161回会議の開催に当たり,一言ごあいさつを申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,公私ともに御多用中のところ御出席をいただき,誠にありがとうございます。また,この機会に皆様方の日ごろの御尽力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は二つの議題について御審議をお願いしたいと存じます。   議題の第1は,国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号についてでございます。   この諮問事項につきましては,平成20年9月の諮問以降,国際裁判管轄法制部会において調査審議が続けられ,その結果,国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案が取りまとめられたものと承知いたしております。   この諮問事項は,早急にその法整備を図り,適切な措置を講ずる必要がございますので,委員の皆様方には,できる限り速やかに御答申をいただきますよう,お願い申し上げます。   議題の第2は,新たな事項について御検討をお願いするものですが,児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する諮問第90号についてでございます。   近年,児童虐待が深刻な社会問題となっており,児童虐待を行う親に対しては,必要に応じて適切に親権を制限すべき場合があるとの指摘がされるようになってきております。民法上,このような場合に対処するための制度として,親権喪失制度がございますが,現行の親権喪失制度については,期限を設けずに親権全部を喪失させる制度であることから,利用しにくい面があるなどの指摘がされているところでございます。   そこで,児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から,民法の親権に関する規定の見直しを行うことについて御検討をお願いするものでございます。   それでは,これらの議題につきましての御審議をよろしくお願いいたします。 (法務副大臣の退出後,委員の異動紹介があり,引き続き,本日の議題につき次のように審議が進められた。) ○青山会長 審議に入ります前に,本日の会議における議事録の作成方法につきましてお諮りしたいと存じます。   本日の会議における議事録の作成方法につきましては,会長の私として考えるところ,審議内容等にかんがみまして,発言者名を明らかにして顕名の議事録を作成することでよいのではないかと考えておりますが,委員の皆様方,いかがでございますでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 異議がないということのようでございますので,本日の会議につきましては,発言者名を顕名にした議事録を作成することといたします。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   先ほどの法務大臣のごあいさつにございましたように,本日の議題は二つございます。   第1の議題は,国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第86号の審議をお願いしたいと存じます。   まず,国際裁判管轄法制部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました髙橋宏志部会長から御報告をお願いしたいと思います。 ○髙橋部会長 国際裁判管轄法制部会長の髙橋でございます。   諮問第86号につきまして,本年1月15日に開催されました国際裁判管轄法制部会第16回会議におきまして,国際裁判管轄法制に関する要綱案を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の概要について御報告申し上げます。   まず,要綱案の決定に至る審議の経過につきまして御報告申し上げます。   国際裁判管轄法制部会は,平成20年9月の法制審議会第157回会議において設置されたものであり,諮問の内容は,「経済取引の国際化等に対応する観点から,国際裁判管轄を規律するための法整備を行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい」というものでございます。社会経済の国際化に伴い様々な国際的な民事紛争が生じておりますが,このような紛争においては,日本の裁判所がいかなる場合に管轄権を有するかという国際裁判管轄の問題が生ずるわけであります。ところが,我が国の民事訴訟法には国際裁判管轄について明確に定めた規定がなく,実務は最高裁判所の判例が示した準則に沿って運用されていることから,従前より国際裁判管轄に関するルールの明確化が求められておりました。そこで,経済取引の国際化等に対応するとの観点から,国際裁判管轄に関する法制を整備することについて検討が求められるに至ったわけであります。   私ども国際裁判管轄法制部会におきましては,平成20年10月に審議を開始し,平成21年7月には,それまでの審議の中間的な成果として,国際裁判管轄法制に関する中間試案を取りまとめ,公表いたしました。この中間試案の概要につきましては,昨年9月の総会でも御報告申し上げました。1か月間パブリック・コメントの手続を実施いたしまして,23件の意見が寄せられました。その後,中間試案に対して寄せられた御意見を踏まえてさらに審議を進め,本年1月15日の第16回会議におきまして国際裁判管轄法制に関する要綱案の取りまとめに至ったものであります。   次に,要綱案の内容につきまして,要点に絞って概要を御説明いたします。   要綱案は,御案内のように,1ページの「第1 被告の住所等による管轄権」,「第2 契約上の債務に関する訴え等の管轄権」,4ページの「第3 管轄権の専属」,5ページの「第4 併合請求における管轄権」,その次の「第5 管轄権に関する合意等」,6ページの「第6 国際裁判管轄に関する一般的規律」,7ページの「第7 管轄権の専属の場合の適用除外」,「第8 保全命令事件に関する規律」,「第9 その他」という九つの項目で構成されております。   最初に,1ページの「第1 被告の住所等による管轄権」では,個人や法人に対する訴えについて,その住所が日本国内にある場合に日本の裁判所に国際裁判管轄のあるものとするなど,被告とされた者の住所,主たる営業所所在地等を基準として日本の裁判所の国際裁判管轄を認める場合について規律しております。これらの規定は,国内の土地管轄で申しますと,いわゆる普通裁判籍に該当する規律ということになります。   次に,「第2 契約上の債務に関する訴え等の管轄権」では,訴えの類型ごとに,日本の裁判所の国際裁判管轄を認める場合について規律しております。これらの規定は,国内の土地管轄で申しますと,いわゆる特別裁判籍に該当する規律であります。   まず1ページ,「1 契約上の債務に関する訴えの管轄権」ですが,国内の土地管轄では,契約上の債務であるか,不法行為による損害賠償義務などの法律の定めにより発生した義務であるかを問わず,義務の履行地に管轄を認めることとされております。しかしながら,国際裁判管轄につきましては,当事者の予見可能性を考慮する必要があることから,原則としてその対象を契約上の債務に限定することとし,契約で定められた債務の履行地が日本国内にある場合などに日本の裁判所の国際裁判管轄を認めるということにしております。   2ページに移りまして,「3 財産権上の訴えの管轄権」ですが,国内の土地管轄と同様の考え方に立ち,日本国内に被告の財産があるときには,日本の裁判所の国際裁判管轄を認めることとしております。ただし,その財産の価額が著しく低い場合にまで国際裁判管轄を認めることは過剰な管轄を認めることとなりますので,その財産の価額が著しく低い場合には日本の裁判所の国際裁判管轄を否定することとしております。   次に,「4 事務所又は営業所を有する者に対する訴え等の管轄権」。①は,日本国内に営業所等を有する者に対する訴えで,その営業所等における業務に関するものについて,日本の裁判所に国際裁判管轄を認めるものであります。日本国内に支店を設けている外国会社との取引に関して生じた紛争が典型的な例ということになります。   他方,②の規律は,インターネットなどを介して,支店を設置することなく日本で継続的に事業を行っている者がした取引を想定したものであります。この場合にも,その者が営業所を設置して日本において行う業務と同視することができるため,日本の裁判所の国際裁判管轄を認めることとしております。   2ページから3ページにかけまして,「6 不法行為に関する訴えの管轄権」ですが,国内の土地管轄と同様の考え方に立ち,不法行為があった地が日本国内にあるときは,日本の裁判所に国際裁判管轄を認めることとしております。この不法行為があった地には,加害行為が行われた地と,その結果が発生した地の双方が含まれておりますが,国際裁判管轄の場合には,被告の応訴の負担が大きいことなどをも考慮いたしまして,加害行為が外国で行われた場合で,日本国内においてその結果が発生することが通常予見できない場合には,日本の裁判所の国際裁判管轄を認めないこととしております。   3ページから4ページにかけまして,「10 消費者契約に関する訴えの管轄権」及び「11 労働関係に関する訴えの管轄権」につきましては,今回新たな規律を設けるものであります。これらの規定は,消費者又は労働者の裁判所へのアクセスの便宜を考慮して特別な規定を設けるものであります。   まず,消費者又は労働者が原告となって訴えを提起する場合には,消費者の住所又は労働者の労務提供地が日本国内にあるときにも日本の裁判所に訴えを提起することを認めることとしております。   次に,消費者又は労働者が被告となる場合については,消費者又は労働者の住所等が日本国内にある場合には,原則として日本の裁判所に訴えを提起すべきものとしております。   続きまして,「第3 管轄権の専属」。ここでは,①の会社の設立無効の訴えなど,日本の法令により設立された社団又は財団に関する訴えなどについて,日本の裁判所のみが専属的に管轄権を有するものとしております。これらの訴えは,法律関係の画一的処理の必要性が高いことや,公益性の高いことなどの理由により,日本の裁判所が迅速かつ適正に審理判断することができると考えられる類型の訴えということになります。   5ページの「第4 併合請求における管轄権」では,複数の請求を併合して一つの訴えを提起する場合や,被告が反訴を提起する場合に関する規律であります。国内の土地管轄にも類似の規定がありますが,国際的な事案においては,被告の応訴の負担が大きいことに照らし,要件を厳格にしております。   次に,「第5 管轄権に関する合意等」のうち,「1 管轄権に関する合意」では,管轄裁判所を指定する管轄権に関する合意について,その方式及び有効要件を定めております。また,消費者契約に関する紛争及び個別労働関係紛争に関する紛争が生ずる前にされた合意については,その効力が生ずる場合を限定することとして,消費者及び労働者の権利保護に配慮しております。   6ページの「第6 国際裁判管轄に関する一般的規律」では,裁判所が事案の性質,被告の応訴の負担,証拠の所在地などの事案における具体的な事情を考慮した上で,一定の場合には日本の裁判所の国際裁判管轄を否定することができるという規律を設けることとしております。このような考え方は最高裁判所の判例においても認められ,確立した裁判実務となっておりますが,今回の立法でもこの考え方を再検証した上で採用し,明文の規定を設けることといたしました。   7ページの「第7 管轄権の専属の場合の適用除外」は,規律の適用の優先関係を定めたものであります。   続いて「第8 保全命令事件に関する規律」では,日本の裁判所に訴えを提起することができる場合や,仮に差し押さえるべき被告の財産が日本国内にあるときには,保全命令の申立てをできることとしています。これは,今回,国際的な紛争を対象とする訴えにつき国際裁判管轄を整備することとしたため,訴えの提起に先だって行われる保全命令事件についても同様の整備を行うこととしたものであります。   以上,簡単ではございますが,要綱案の主な項目につきまして御説明申し上げました。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの髙橋部会長の御報告及び要綱案の全般的な点について御質問と御意見をちょうだいしたいと思いますが,まず御質問がございましたら最初に承りたいと思いますが,いかがでございますでしょうか。 ○西田委員 全般的に素人というか専門外でございますが,1点だけ。2ページの6の「不法行為に関する訴えの管轄権」ですが,原則としては,不法行為のあった地が日本国内にあるときは,日本が管轄権を有する,ただし,外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合は,その結果の発生が通常予見することのできないものであったときはこの限りでないという部分でございますけれども,例えば,外国で交通事故の被害者になって,そこで和解して,和解契約上,将来この事故に起因する後遺症が出た場合には賠償責任を負うものとするという契約を結んでいれば,これは第2の「契約上の債務に関する訴え等の管轄権」ということになる。しかしそういう契約を結んでいない,しかし後遺症が出た,因果関係は医学的に明らかだが,それは通常予見することができないというような場合がもしあり得るとすると―要するに,「日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときは」ということの意味でございますけれども,一番私どもの分かりやすい例で言うと,そういう場合,明らかにその事故に起因する後遺症が日本に帰ってから出たというようなときは,これに当たるのでしょうか。 ○髙橋部会長 御指摘のような問題があろうかと思いますが,それは恐らく解釈論になろうと思います。私どもが考えているのは,そういう後遺症を除くという趣旨ではありません。適切な例が出てこないのですが,アメリカならアメリカで不法行為が行われて,しかし結果はA国,B国,C国に出てくるというときに,普通そういう不法行為ならば,日本には出てこない。ほかのA国に結果が出てくる。ところが,たまたま何かの関係で,被告が動いたとか何かですかね,日本で結果が出てしまったというとき,それはアメリカにいるであろう加害者から見れば,日本で結果が出るということは通常予想していない。そういう場所的な予見可能性でありまして,後遺症というようなところは解釈論になりまして,日本の今の普通の考えであれば,後遺症はここに言う通常予見できないものではないだろうと思いますが,ここは解釈論かもしれません。 ○青山会長 よろしゅうございますか,西田委員。 ○西田委員 はい。 ○青山会長 ほかに御質問はございますでしょうか。 ○松尾関係官 4ページの「第3 管轄権の専属」でありますが,その①の4行目に,「これらに準ずるもの」という表現が見えますけれども,民事の方の立法ではこういうのはごく普通のことなのでしょうか。刑事の感覚ですと,「準ずるもの」という立法はちょっと考えにくいのですが。 ○髙橋部会長 民事一般で普通かどうかは私もよく分かりませんが,民事訴訟の関係で申しますと,どのようなものが出てくるか分からないということがありますので,「準ずる」というのを入れておくのは別に不思議ではありません。規定を置いておかなくても類推適用などということが,民事訴訟,管轄ですからそういうことは避けた方がいいのですが,しかし,万やむを得ないときにはそういう解釈にもなりますので,私の理解しております刑事ほど厳格にそういうところは考えなくていい,むしろ例外的に出てきたときには拾うという姿勢の方が民訴では強いと思っております。 ○深山関係官 私が発言するのもおかしいのですが,補充させていただくと,こういう法人法制上の訴えというのは,法人法定主義の下で様々な法人は,ほとんどすべて別々の法律で設立根拠を持っていますけれども,ほとんどすべてにあると言っていいと思います。そうすると,恐らく今回のような立法をするときには担当者は全部それらの根拠法をチェックしている―分かる範囲はですね―はずなのですが,法文上,それらを全部挙げるとすごい数になります。実際上一番多いのは,もちろん会社法上の訴えですが,それに準ずる制度を全部挙げ切れないという法文作成上の技術的な制約があります。それから,髙橋部会長が言われたように,新しい法人法制というのは毎年のように作られますが,その中に特有の法人法制上の訴えが設けられることもしばしばあります。法文上,法人法制上の訴えを全部挙げてしまうと,今度はそのたびに法改正が必要になるという問題になります。というように,全部条文に書くことはある時点では可能だけれども,それでは条文が余りに長過ぎるし,改正のたびにそこの一部改正が必要になるという,ある種の立法技術的な問題もあって,典型例を挙げて,これに準ずるものという形でその他はみんな包含されているということがきちんと分かるような形の抽象化をして書くというのは,民事の関係の法律ではよくあるのではないかと思います。 ○青山会長 ほかに御質問,あるいは御意見でも結構でございますが。 ○櫻田委員 6ページの第6の「国際裁判管轄に関する一般的規律」でございますが,ただいま御説明いただきましたように,いわゆる特段の事情論というのをこれは確立されているということで取り入れるということであったかと思いますが,特段の事情論というのは,本来,逆推知的な発想があったときに,国際的な事情というものを十分に考慮していないから管轄を排除するという意味で考慮する,そういうものであったかのように私は理解しておりましたけれども,今回は国際的な事情を十分に考慮されてルールをお作りになったのに,更にこういうものが必要になるのか。この点について私は納得できないものがございますので,御説明いただければと思います。 ○髙橋部会長 これは部会でもかなり議論がございました。御指摘のように,現在の最高裁判例では認められておりますが,今度の要綱案のような形になれば,かなり使う場面は減るだろうという予測はあります。しかし,全くなくしてしまったときに大丈夫かと。そういう意味で最後の安全弁のようなものとして残しておくべきだというのが部会の大勢でございました。規定としてはこのように残しましたが,それがどのように解釈適用されていくかは,これからの裁判所で委員の御指摘のようにほとんど使われなくなるということであれば,それはそれで大変結構なことだと思っております。 ○櫻田委員 そうしますと条文化するのが大変難しくなるように思うのですが。要綱案としてはそれでいいといたしましても,明確なルールということになってくると,条文で明確にできなければ,これは画竜点睛を欠くわけであります。その辺は立法形式とも関係していると思いますので,その辺はどういう見通しでお考えなのか,お伺いしたいのですが。 ○髙橋部会長 部会では立法技術そのものについて深く検討したわけではございません。これは今後法制局等々との御相談もあるのだろうと思います。委員の御意見はよく分かるつもりではおりますが,民訴国内法ですと,移送のところなどの規定もありますので,この程度であれば条文に載らないことはないだろうというぐらいの見通しは持っております。更に法制局等でもっと磨いていただくことになるかもしれませんが,民訴国内法の中にもややこれに似たスタイルのものが既にあるという頭でおりました。 ○櫻田委員 私が申し上げているのは,民事訴訟法規定の改正をされるのか,あるいは単行法を作られる方向であるのか。 ○團藤関係官 今回御答申をいただきますれば,私どもといたしましては,民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案という形で立案作業を進めてまいりたいと考えております。 ○青山会長 ほかにどうぞ。 ○猪口委員 私も法律の中身の方は余り申し上げないのですが,国内の法律がすごく強い国の場合,条約的なものに入ることに躊躇される場合が非常に多いと思うのです。日本はそういう国の一つなのですね。それで,何とかしてくれといったときに,どういう考えでやって。日本の国内法を納得がいくまで,それにある程度プラクティカルといいますか合わせるようにするけれども,基本的なものは,今ちょっと変える方向というのが出てきましたが,変える方向も考えないでもないというぐらいなのか,ちょっと気になります。とりわけ,国際的な条約に192か国のうち150か国ぐらい入っていても日本だけが入っていないみたいな感じ。それから,反テロリズムの国連決議なんか,ほとんどの人が入っているのに日本だけ最後まで入らなかったみたいな感じになっているような場合があるし,何か国際的なエンバラスメントに,日本がそう思われるのは嫌だなというのがまずあるのです。たまたま最近の新聞で見たら,南アフリカ共和国の大統領は,国内の民法では別に問題ないのだけれども,国際的にワーワー言う人が,奥様の数とかそういうので問題になっているなんて。日本をそういう考えから見ている国もあるのではないかなと。それで見たら,どこかで欧米の在京大使が何とかしてくれと日本政府に頼んだというような記事も読みましたし。そこら辺をどのようにやるべきかということについて,絶対死ぬまで国内法を頑張って,明治の国会開設ぐらいからできた法律を断固死守していくみたいな感じというのもちょっとどうかなという感じはしているのですが,どのようにお考えになってやっておられるのか教えていただけたらと思っています。 ○髙橋部会長 全体についてはともかく,この国際裁判管轄に関して申し上げますと,実は平成8年に今の民事訴訟法が新たに作られました。そのときに国際裁判管轄を入れようという努力はしたのですが,結局入れなかったのです。その一つは,ヘーグの国際会議で国際裁判管轄に関する統一条約案の審議が行われるということが決まっておりましたので,それを見てみようということでしたが,この国際裁判管轄は実はヨーロッパ大陸の考え方と主としてアメリカの考え方が大きく隔たっておりまして,ヘーグの国際条約の試みは率直に言って失敗いたしました。ですから,国際的な広い範囲の,グローバルな条約はできなかったということでございます。ヨーロッパだけとか,地域限定のものはあります。私どもは,そういう状況を受けまして,何もない状態が続くのはよくないというので国内規定を作ったのでありますが,委員御指摘のように,本来,国際裁判管轄ですので,条約ができるのであればそれに越したことはない。多国間条約でなくても,二国間でもいいと思います。近隣諸国とでよく国際裁判管轄でそういう事態が発生する国との間の二国間条約でもいいと思いますが,そういうものを,部会といたしましてはもちろん,諮問されておりませんから,審議はいたしませんでしたが,部会におりました委員・幹事の頭の中には,それはそれで望ましいことだという思いが強くあったと理解しております。しかし,残念ながら国際裁判管轄に関しては国際的な情勢がまだ熟していないということでございます。 ○深山関係官 この分野のお話は今の部会長のおっしゃったとおりで,私が答えるのが適切かどうかよく分かりませんが,一般的に,日本の国内法と違うルールを含む国際条約等を批准するかどうか,すなわち両者のバッティングが生ずるときに,委員御指摘の趣旨は,日本は過度に国内法の優先ということを言い過ぎて,国際協調の方にやや配慮が薄いのではないかということかと思いました。確かに多くの法分野で国際協調あるいはそれを目指した条約とか決議とか議定書とかいろいろなものがあって,それに日本としては入るか入らないか,批准するかどうかということが迫られます。ただ,これは法分野によっても随分違うという話がまず一つあります。それと,大前提として日本の憲法に抵触するおそれがあるような国際約束には全く入りようがないですし,そこまでいかなくても,刑事法と民事法との別があります。さらに,民事法の中でも,一般的に言われているのは,各国の国内法固有の伝統を重視せざるを得ないと言われている分野と,国際協調の方をより重視すべきだと言われている分野があり,例えば商業的な取引などは国際協調を重視すべきだと言われています。会社間の取引とか有価証券の取引とか,そういう国際的に取引がよく行われる分野は日本の国内法を変えてでも国際的なルールに従うべきだというわけです。何年か前にウィーン売買条約の批准というのをここで御承認いただきましたけれども,あれも国際間の物品売買について,日本の民法とは違うルールですけれども,そのルールを日本でも取り入れようということで,この種の商事的といいますか商業的な分野は,国際協調を,―日本がいつも一番先頭を切っているかというと,そうではないと思いますけれども―相応にしていると思います。先ほどちょっと話が出た身分関係,夫婦とか婚姻とか相続とか,そういう身分関係と,それから物権法と言われる分野は,一般論として自国の法意識や法文化の伝統がそれぞれの国で強くて,なかなか国際協調が難しい。奥さんの数が何人までどうかなんていう話になると,これは非常に難しいと思います。   ですから,ごく一般的に言うと今言ったようなことで,憲法上の制約を仮に除くとしても,国際協調が必要である,あるいは望ましいということは一般論としてだれしもが認めるのだけれども,法分野によって,その要請と国内法とが食い違ったときにどこまで国内法を譲歩させるかということについての抵抗の程度が違っていて,全体で見たときにやや国際協調―先進国の中ではですね―に欠けるのではないかというのは,そういう見方もあると思います。ただ,今のEUのように国家統合の方向にずっと 向かっているヨーロッパ諸国と,東洋の孤島じゃないですけれども,日本とでは,協調の程度を同じようにすることはなかなかできないということもあるのかなとは思います。 ○猪口委員 もうちょっと技術的に頭を働かせる余地はないのかなと。そういうことでも非常によく分かるのですが,例えば1930年代,ヨーロッパでドイツが非常に強くなって,近隣諸国にいろいろなドイツの法律と同じようなものを立法して実施しろというような要求を突きつけていたのですが,ハンガリーの例は,こんなことをやっていいのかなと思うのですが,ドイツ語で書いてあった,ごみについてどう処理するかという,ドイツ人らしく,こういうのはごみだとか,ごみでないとか,どこに捨てるなといったことがいろいろ書いてあるのです。ハンガリー政府がやったことは,これは頭がいいかなという気もするのですが,こういうことでは悪いかなという気もするのですが,全部マジャール語に直すのです。ただ,ごみというのをアペンディックスにつけて,ドイツ人がごみというのは全部ハンガリーではごみではないというふうに具体的に書いてあって,例えば道路に鼻紙を捨てるなとか,たんをするなとか,そういうのはハンガリーではごみではないというふうにしてしまって,言葉が違うだけでテキストは全く同じだけれども,アペンディックスを見ると,関係ないという感じですね。そういう怪しげなやり方は困ったかなという気はするけれども,技術上工夫すれば,もうちょっと協調をハイライトするような形でできる余地があるのではないかなという気がしてならないのです。感想だけでございます。 ○青山会長 これは御意見として承っておくということにさせていただきたいと思います。   ほかに御意見があれば。 ○岡田委員 消費者側から意見を述べたいと思いますが,通則法ができたときに,日本に向けて外国の企業が勧誘したとか,日本の企業が外国に日本の消費者を連れていって勧誘するとか,そういうものに対して日本の法律を適用させるというのができて,ああ,すごいいいものができたと思ったのですが,今回のこの国際裁判管轄は更に充実しまして,例えば消費者が外国に行って契約したものについても,日本に帰ってきて日本の裁判所に提訴できるとか,外国の企業が日本にいる消費者を訴える場合も日本に裁判管轄が認められている。これは,今まで私たち消費者が,相手が外国ということになると何もできないとあきらめていた部分が解決することになったと思います。今,現実,グローバル化と言うのですが,消費者契約に関しても,特に金融関係についてその状況が顕著になっていまして,最近の場合ですとクレジット関係,特定商取引,訪問販売とか,ああいう法律と,割賦販売法が改正になりましたけれども,クレジット関係に関してもとても消費者保護が強くなったのですが,それを受けて集金代行みたいな代行業者が出てきたのです。クレジット会社が受けられないような場合に,間に入って受け付ける。そういう事業者が日本で業務をやっておきながら,そこのところでは何ら権限が与えられていないということで,結局は外国の本部と交渉しなければいけないというふうになっておりまして,これまた私たち消費者センター並びに行政も手が出せなかったのですが,この国際裁判管轄が制定された場合,そういうこともできるようになるということと,それに加えて,通則法に関しても行政が全然積極的ではないんですよ。この国際裁判管轄を法制化した後は,通則法並びに国際裁判管轄をセットで行政並びに国民に対して啓発ないしは周知徹底をしていただきたいと思っています。 ○櫻田委員 ただいまの点につきまして,私は通則法のときには向こうの方に座っておりましたので関係するかとも思いますけれども,あれを作りましたときにも,消費者自身が日本で管轄を持っていないということが一番の問題でございまして,これで初めて通則法も生きてくると考えております。そのための今回の立法であったのではないかと考えております。   もう1点は,これは先ほどの御質問とも関係するのでしょうが,間接管轄にも及ぶルールであると考えてよろしゅうございますか。 ○髙橋部会長 法律はそういう体裁になっておりませんが,私どもの議論のときには当然間接管轄を考慮して作っているつもりであります。 ○櫻田委員 そうしますと,一番問題になりますのはアメリカとの関係だと思いますけれども,ヘーグ条約の方もそれでうまくいかなかったということでございますから。その点は大丈夫だと。 ○髙橋部会長 私どもはそういう見通しで作っております。 ○櫻田委員 ドゥーイングビジネスのようなものがちょっと入っているので,それが認められてしまうのかなと思ったものですから。 ○髙橋部会長 御指摘のとおりですが,恐らく立法ができた暁には参事官等の解説が出ると思いますが,私どもの頭ではドゥーイングビジネスそのものではないという頭ですので,その点は押さえてあるつもりです。ただ,アメリカならアメリカがどう見るかはまた別ですが。 ○青山会長 ほかに御質問,御意見はございますでしょうか。 ○水野委員 技術的な点で恐縮ですけれども,7ページの第8,保全命令の関係ですが,保全命令申立てができる場合として二つ要件が書いてありますね。前段は,本案の訴えができる場合,後段が,係争物等が日本国内にある場合。そうすると,後段は,本案の訴えは提起できないけれども係争物等が日本にある場合には,保全命令申立てができるということになろうかと思います。まずそういうものがあるのかどうか。つまり,仮に差し押さえるべきものとか係争物が日本国内にある,これは本案があるのではないのかという気がするのと,それから,文字通り読めば,本案の訴えを提起することはできないけれども係争物等が日本国内にある場合ということですから,保全処分をしたと。その場合に,では本案はどうなるのか。本案は日本でやれるのか。本来,本案だけだったら日本でやれないケースであっても,保全処分がやれるという結果,本案が日本でやれるということになるのかどうか。そうすると,前の方の本案がやれる場合,第8の後段で,保全処分がやれる場合は本案がやれるということも書いておかなければいけないのではないかという気がするのです。非常に技術的な点で恐縮ですけれども。 ○髙橋部会長 後の方を先に申しますと,仮差押えなら仮差押えをしたことによって日本に本案の管轄が生ずるという頭ではありません。したがいまして,典型例といたしましては,日本で仮に差し押さえておいて,外国で本案判決が出て,それを承認執行というときに使うことになろうかと思います。   それから,ダブっているではないかとおっしゃる点は,切り口が違いますので。本案の裁判所があるとき,あるいは押さえるべきものがあるときという。細かく見ていきますとほとんど重なってしまうのかもしれませんが,しかし,管轄原因の証明のところでは角度が違いますので,それはこういう二つの角度で意味がないわけではないと思っております。 ○青山会長 よろしゅうございますか。 ○水野委員 はい,結構です。 ○青山会長 ほかに御意見がございますでしょうか。 ○八丁地委員 冒頭にございましたけれども,経済取引のグローバル化のもとで,国際裁判管轄についてこのようにルールが明確になったことは経済的な実務上のメリットも大きく,大変期待しているところであります。特に,当事者間の事前の管轄合意をできるだけ尊重していただきたいという方向で議論させていただいたと理解しておりますが,第5の管轄権に関する合意,特に個別の労働の係争などにおいて管轄合意の効力が広く認められるということは,実務上大変バランスのある形で運用できると思いますので,非常に感謝しているところでございます。ありがとうございました。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   もし御意見がないようでしたら,原案についての採決に移りたいと存じますが,御異議はございませんでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 それでは,御異議がないということで,採決に入らせていただきます。   諮問第86号につきまして,国際裁判管轄法制部会からただいま報告されました国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案のとおり法務大臣に答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ○青山会長 全員の方が挙手をしているということでございますので,採決の結果,全員一致で国際裁判管轄法制部会から報告されましたただいまの国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案は原案のとおり裁決されたものと認めます。   採択されました審議結果につきましては,この会議終了後法務大臣に対しまして答申することとしたいと存じます。   髙橋部会長には,16回にわたります部会の審議と御報告,どうも御苦労さまでございました。ありがとうございました。   続きまして,第2の議題であります児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する諮問第90号の審議をお願いしたいと存じます。   まず初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○飛澤参事官 民事局で参事官をしております飛澤でございます。   それでは諮問を朗読させていただきます。  諮問第90号  児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から民法の親権に関する規定について見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。   以上でございます。 ○青山会長 それでは,続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○團藤関係官 それでは,私の方から御説明を申し上げます。   児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する諮問第90号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   近年,児童虐待は深刻な社会問題となっております。児童虐待の問題をめぐりましては,平成12年に児童虐待防止等に関する施策を促進することを目的として,児童虐待の防止等に関する法律が成立し,その後,同法及び児童福祉法につきまして,児童虐待防止等の観点から所要の改正が行われてまいりましたが,民法の親権に係る制度につきましては,このような観点からの見直しが行われておりません。   民法には,現在,親権を制限するための制度として親権喪失制度がございますが,この制度につきましては,期限を設けずに親権全部を喪失させるものであることなどから,利用しにくいという指摘がされております。そこで,児童虐待や親権の不適切な行使がある場合など親権を制限することが必要なときに,その必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするための制度の在り方について検討を行う必要があると考えられます。   この点につきましては,平成19年に成立いたしました児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律の附則第2条第1項におきまして,「政府は,この法律の施行後3年以内に,児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から親権に係る制度の見直しについて検討を行い,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と定められております。したがいまして,政府といたしましては,この改正法が施行されました平成20年4月1日から3年以内,すなわち平成23年4月までに,児童虐待の防止を図るなどの観点から親権に係る制度の見直しについて検討を行い,必要な措置を講ずることが必要でございます。   そこで,児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から民法の親権に関する規定について見直しを行う必要があると思われますので,諮問記載の事項につきまして法制審議会の意見を求めるものでございます。   児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する諮問第90号についての御説明は以上のとおりでございます。よろしくお願い申し上げます。 ○青山会長 それでは,ただいま御説明がありました諮問第90号につきまして御質問及び御意見を承りたいと思いますが,御質問からちょうだいしたいと思います。何か御質問はございますでしょうか。   なければ,意見もあればお伺いしたいと思います。 ○今田委員 いただいている資料に研究会報告というのがあるのですが,これは検討に当たってどのような位置づけになるのかということが1点と,もう一つ,今後検討するに当たって要望があるのですけれども,その前半について簡単に教えていただきたい。 ○團藤関係官 この研究会報告,「児童虐待防止のための親権制度の見直しの必要性及びその内容に関する調査研究報告書」と題するものであろうかと思います。これは,先ほど御説明申し上げました児童虐待防止法及び児童福祉法の一部を改正する法律附則第2条第1項で,検討を行い,必要な措置を講ずるとされているわけでございますが,まず,私ども,これまで法制審議会に民事関係の基本法の整備に関する諮問をさせていただく際には,改正の必要性があると思われるのでその要綱をお示しいただきたいという形でお願いしてきているところでございます。先ほどの附則の規定の趣旨も踏まえますと,まず民法の親権に係る規律について見直しを行う必要性があるのかどうかという点について検討を行う必要があったわけでございまして,そういった点も含めまして,政府としての検討の一環としてこの研究会を組織し,そこで関係の専門の皆様方の御意見をいただいた上で,その必要性についてありという判断に至り,それが今回の諮問につながった,そういう位置づけであると御理解いただければと思っております。 ○今田委員 この研究会報告の内容に関しては,今後,諮問を受けて審議していく上で検討資料になると考えてよろしいのですか。 ○團藤関係官 参考としていただくべき資料の一つであろうと考えております。 ○今田委員 分かりました。   それで要望なのですけれども,今後この諮問を受けて検討していくに当たって,是非基本的なスタンスとしてとっていただきたいことを要望として申し述べたいと思います。   それは,親権を見直すというのも,今回のテーマは児童虐待防止という目的がある,その観点から親権の在り方を見直すということなのでしょうけれども,この親権を議論するに当たって,是非,現代における家族という問題を中心的に,かなり重要な問題として議論していただきたいということが申し上げたいことの趣旨です。というのは,社会学などをやっている者から言うと,現代の社会学では,家族理論がもう崩壊しているというか,ないという現状です。それは正に現代における家族というものが非常に大きな変容の中にあってそういう理論が十分対応できていないということ,そういう現実に裏付けされているものです。それほどに現代の家族というのは溶解しているというか,いろいろな言い方がされていますが,少なくともかつての民法で親権が問われたときの家族の枠組みとは大きく異なるような今日の家族状況がある。しかしながら,やはり親権を議論するときには家族というものが基礎になるわけですから,この問題の議論を避けて通ることはできない。でも,今申し上げましたように家族というのが非常に難しい,とらえ難い状況であるということから,親権を議論するに当たって,大変難しいでしょうけれども,是非,家族というものの在り方,その中での親権の在り方という観点から徹底して議論していただけたらということを要望として申し述べたいと思います。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   川端委員,どうぞ。 ○川端委員 児童虐待を防止するという観点から見直すこと自体に私は賛成でございます。いったん保護された子供が親権を理由に取り戻されてまた虐待されるということも結構あるようですので,それを防ぐのは非常に望ましいことだと思っております。   それとの関連で若干要望させていただきます。子供に申立権を認めるということですが,その際の年齢の設定,つまり何歳から認めるのかについては慎重に議論していただけたらと思います。意思能力等の点について十分な御配慮をお願いいたします。   次に,法人に対して未成年後見を導入するかどうかという議論がございますが,この場合に,民間の法人が営利追求だけを行ってこの制度を濫用するおそれがないのかどうか,もしあるとすれば,それに対する防止策等についてもよく御検討いただきたいと考えております。   それから,刑法との関連でございますが,刑法では親権の一内容として懲戒権の行使が問題となります。この懲戒権の制約ないし廃止ということもあり得るかと思いますが,その際,刑法上は,懲戒権は刑法第35条の違法性阻却事由としてかなり意味を有しております。それが権利としてなくなるという場合,親権の内容としての監護権だけで従来の違法性阻却の機能を果たし得るのかどうかについても検討していただきたいと思います。   以上,要望でございますので,よろしくお願いいたします。 ○青山会長 いずれも重要な点だと思います。   ほかに御意見ございますでしょうか。   ないようでしたら,この案件についてどのように審議を進めていくかという審議の進め方について何か御意見があれば承りたいと思います。   それでは,戸松委員からお願いいたします。 ○戸松委員 今お話にも出てきましたが,この問題は非常に専門的領域,あるいは基本的な考え方の違いにかかわり,いろいろ難しい問題があると思いますので,部会でやっていただくのが適当ではないかと思います。ただ,その際にも,外国の例を持ってきてそれを見るというよりも,先ほど今田委員がおっしゃったように,日本の家族とか家庭の状況とか,そういうことをきちんと見た上で検討していただきたいと思います。私がちょっと見聞したところでも,イリノイ州の方式とかドイツの方式とかを見ても日本とは大分事情が違うようであります。この分野の専門の方も外国のことばかり言わずに,日本のことをきちんと見据えて,現在の状況を見ながら部会でしっかり議論していただきたいと思っています。 ○青山会長 どうもありがとうございました。   野村委員,どうぞ。 ○野村委員 私も部会を作って議論していただいた方がいいのではないかと思うのです。今の御説明,御意見を伺っていますと,なかなかいろいろな問題を考えなければいけないということと,平成23年4月という時間的な制約もあるので,部会で集中的に議論していただくのがいいのではないかと思います。 ○青山会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   それでは,この審議の進め方でございますが,戸松委員及び野村委員から部会設置等の御提案がございましたが,部会を設置して,その部会でまず審議するということでよろしゅうございますでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 それでは,諮問第90号につきましては,新たに部会を設けて調査審議をすることに決定いたします。   その場合に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,それから臨時委員及び幹事等につきましては会長に御一任いただければ有り難いと存じます。その際に,ただいまいただきました御意見を踏まえまして最も適切な方に委員及び幹事に入っていただくということは当然の前提でございますが,事務当局及び会長に人選の一任をお願いできますでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○青山会長 どうもありがとうございました。それでは,今の点は私に一任していただいたということにさせていただきます。   次にこの部会の名称でございますが,これはここで決めさせていただきたいと思います。今の諮問事項との関連から申しますと,諮問第90号につきましては,ちょっと長いのですけれども,「児童虐待防止関連親権制度部会」という名称にしたいと存じておりますが,いかがでございますでしょうか。よろしゅうございますか。―どうもありがとうございました。それではそのように図らせていただきます。   総会委員としてこの諮問事項の中身等につきまして,先ほどもお話を伺いましたけれども,まだ追加的にお話がございましたら承りたいと思います。そういう部会ができるという前提で更に注文等がありましたら伺いたいと思っておりますが,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,早速部会を立ち上げさせていただきまして,この諮問第90号につきましてそちらで審議をさせていただくということにいたします。適当な折か,あるいは最後にか,それはこれからの進行でございますが,総会においてその報告を受け,更にここで中身について審議を続けるということになるかと思います。その節はよろしくお願いいたします。   これで本日私どもが予定している案件は終了となりますが,ほかにこの機会に何か御発言がございましたら,お願いしたいと思います。何かございますでしょうか。 ○徳永委員 これは意見というか感想なのですけれども,法務省で選択的夫婦別姓の民法改正案を今の通常国会に出すというようなことが一部言われていまして,これは選択的夫婦別姓がいい悪いということを言うのではなくて一般論なのですけれども,それを政治主導ということでやられるならそれでいいのですけれども,法制審答申も過去に出ているということを支えにやるというような報道もあるのです。法制審答申が出たのは確か96年で,今から14年前になるわけですけれども,十年一昔というようなことも言われて,一般的に10年もたつと国民意識も社会情勢も変わって,果たして14年前の法制審答申を支えにそういうことをやることがどうなのか,私はそれに非常に違和感がありまして,そうすると20年前,30年前の法制審答申で決着が出ていないものでも,それを持ち出してきて,法制審答申があるからということができるのかどうか。私は,やはり10年以上たったものは,当時の法制審答申をベースにしてもいいのですけれども,もう一度審議会に諮るのが筋ではないかと。これは選択的夫婦別姓に限らず一般的にそう思ったので,これはあくまで感想ですけれども,述べさせていただきました。 ○青山会長 團藤関係官,何かお答えになることがありますか。 ○團藤関係官 ただいま徳永委員から御発言がございましたように,法務省におきましては,今国会に選択的夫婦別氏制度の導入を始めといたします民法及び戸籍法の一部を改正する法律案,現時点での仮称でございますが,それを提出するということで私ども事務的に準備を進めさせていただいているところでございます。ただ,この法案の中身,詳細自体につきましては,現時点におきましては政務三役を中心としてなお検討中ということでございまして,詳細について現時点で御説明できる状況にはございません。先ほど御紹介がございましたように,平成8年に法制審議会から御答申をいただいております。法案策定に当たりましてはその際の要綱を意識しながらということになるのであろうという思いを持ちつつ,事務的な準備は進めているという状況でございますが,今後のことにつきましては,誠に申し訳ございませんが,現時点では私どもとして確たることは申し上げられない状況にございます。 ○青山会長 法制審議会の会長として私から一言言わせていただきますと,法制審議会で答申をした案件は,従来は法務省でしっかり法案を作って国会に上程して,しかし国会でそれが否決されたり継続審議になったり廃案になったり,そういうことは随分ございました。しかし,選択的夫婦別姓につきましては,答申はしたけれども,政党の中の問題もありまして法律案として国会に上程できなかった。それがずっと今まで続いていたということでございます。そういう例は唯一選択的夫婦別姓だけでございます。法制審議会の委員は2年ごとに交代しておりますけれども,しかし法制審議会としては継続的・一体的なものだと考えておりますので,いったん法制審議会としてそういう答申を出した以上,またそれをもう一度審議し直してくれといっても,それはできない相談ではないかと思っております。私としては,ああいう答申を出した以上は,それをどのように法案にするのかは最高の意思決定機関である国会にお任せするというのが最も賢明な選択肢ではないかと思っているということでございます。ですから,内容は,今,團藤関係官がおっしゃったとおりと思っております。 ○徳永委員 法制審答申というのは当然国民世論とかを見極めた上で出されているわけでしょうけれども,14年前の国民世論と今の国民世論というのは非常に違ってきている―これは選択的夫婦別姓ではなくて一般的に言っているわけですけれども―可能性がある。そういう変化を,例えば当時法制化していれば,時代の状況に合わせて法が改正されたり,いろいろされてくるものですよね。それが14年前のものを持ち出して,そっくりそのまま法案化するというのはいかがなものかと。私はこれ以上言いませんけれども,素朴な疑問ということでございます。 ○青山会長 承っておきます。どうぞよろしくお願いいたします。   ほかにどうぞ。 ○水野委員 これは事務局に対する要望ですけれども,今回の国際裁判管轄の問題で,1月28日付けで第14回の議事録が送られてまいりました。この議事録の中身は,別案1,別案2というような表現が出てきまして,そこの何番というのが出てくるのです。ところが,その別案1,2というのがついていないものですから,中身はよく分からない。大部なものであれば無理だと思うのですけれども,そういったものは是非今後もつけていただきたいというのが一つ。   それから,今日決議をしたわけですけれども,その間に15回と16回の議事があったわけですよね。これもまだ私どもは拝見していないのです。ですから,決議をする前には部会の議事録は全部委員の手元に届くように是非御配慮いただきたいということを要望として申し上げておきます。 ○深山関係官 全く当然のお話だと思います。お送りしていない資料があったとすれば,それはもとより論外ですし,議事録もできる限り早くお届けするように努めたいと思います。これは前にも指摘されたことがあって,そのときもお詫びを申し上げたのですが,議事録については,発言者の方に発言内容を確認していただくとか,業者の方の若干の手続が要るとかということもあって,本当に直近に開かれた部会のものを出すのはなかなか難しいのですけれども,そうは言っても,こちらの努力で相当程度短縮できるのは御指摘のとおりなので,できる限り早く,審議で採決する前に全体を御覧になりたいという御要望は至極当然だと思いますので,そうできるように最大限努力したいと思います。 ○青山会長 ほかに何か,この際,御意見,御要望ございますでしょうか。―よろしゅうございますか。   それでは,本日の会議はこれで終了させていただきたいと思います。   本日の会議の内容につきましては,今の水野委員の御発言にも関係しますが,後日御発言をいただいた委員の方には議事録案をメール等で御送付させていただきますので,御発言の内容をなるべく早く確認していただいた上,お返しいただきたいと思います。そうすれば法務省のホームページに速やかに公開できるということになると存じますので,よろしくお願いいたします。   最後に,事務当局から何か事務連絡がございましたらお願いいたします。 ○深山関係官 それでは,次回の開催予定について説明させていただきます。   次回の会議は,本年2月24日,水曜日です。始まる時間は午後1時30分から,場所は法務省の地下棟大会議室になります。   議題として,現在のところ確定していますのは,被収容人員適正化方策に関する部会からの報告,二つ目が会社法制の見直しに関する諮問を予定しています。また,現在調査審議中の刑事法(公訴時効関係)部会につきましても,まだ部会が進行中ですけれども,部会の意見が取りまとめられた場合には,追加して審議事項として審議をお願いすることを考えておりますので,次回も期日が近い上に盛りだくさんですけれども,よろしくお願いいたします。 ○青山会長 そういうことでございますので,また2月24日,よろしくお願いしたいと思います。   本日は,大変お忙しいところをお集まりいただきまして,熱心に御議論をいただきまして,誠にありがとうございました。それでは,本日はこれにて終了いたします。 -了-