法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  平成22年2月8日(月)   自 午後3時31分                        至 午後5時05分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等について 第4 議 事 (次のとおり)               議     事 ● 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会の第8回会議を開催いたします。 ● 御多用中のところ御参集いただきまして,ありがとうございます。   前回までで要綱骨子(案)について2巡目の議論を重ね,また諮問事項全体をおさらいする意味で,前回は要綱骨子(案)全体やこれに関連する事項等についても議論を行ったところでありますが,本日は,前回も申し上げたとおり,積み残した議論等がもしあれば詰めの議論を行っていただき,その上で,できれば総会に報告すべき答申案の決定まで行いたいと考えております。   審議の進め方についてお諮りしますけれども,まず,先日公表されました凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関して内閣府が行った世論調査について資料が配布されているようですので,これについて事務当局から説明をお願いし,その後,この点に関する質疑を行いたいと思います。次に,前回,○○委員始め3名の委員・幹事から修正案の御提案をいただき,これについて審議を行ったところでありますけれども,その修正案を一部修正した,修正案の第2バージョンとでも言うべきものを提出していただいておりますので,その修正点について御提案の方々から御説明いただき,修正案全体あるいはこれに関連する事項について更に議論すべきことがあれば審議をするということにしてはいかがかと思います。また,要綱(骨子)案についても,これまでのものが縦書きの資料として提出されているようですが,要綱(骨子)案全体あるいはこれに関連する事項について更に議論すべきことがあれば審議してはいかがかと思います。そして,そのようにして議論が煮詰まったといいますか,終結したと考えられる段階に至りましたならば,部会としての意見の取りまとめに移りたい。そういう手順を考えておりますが,そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,審議に入りたいと思います。   まず,事務当局から,世論調査に関して配布資料についての説明をしていただきたいと思います。 ● 今回お配りした資料は,資料25から資料29まででございます。資料25の「要綱(骨子)案」は,部会長からも御指摘のありましたとおり,前々回の資料23の「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に係る要綱骨子(案)」を縦書きにしたものでございまして,表題は最近の例にならいシンプルに「要綱(骨子)案」としておりますが,内容は特段変更はございません。資料26から資料29は世論調査に関係する資料となります。   世論調査関係の資料について御説明いたします。   内閣府大臣官房政府広報室におきまして,昨年11月26日から12月6日にかけて,「基本的法制度に関する世論調査」を実施し,その結果が本年2月6日に公表されました。   調査の概要をまとめたものが,資料26の「基本的法制度に関する内閣府世論調査の概要」になります。調査結果をまとめたものが,資料27の「基本的法制度に関する世論調査」になります。公訴時効制度に関連する部分の調査結果をまとめたものが,資料28の「公訴時効制度に関する世論調査の結果」になり,これをグラフ化したものが,資料29の「公訴時効制度に関する世論調査について」になります。   公訴時効制度に関する世論調査の結果について,資料28と29に沿って説明いたします。   Q4,質問の4で公訴時効制度の認知度を尋ねたところ,「知っている」と回答した者の割合が76.1%,「知らない」と回答した者の割合が23.9%でした。   次にQ5,質問の5で,「殺人など死刑が科されることがある最も刑の重い犯罪の時効になるまでの期間が,25年とされていることについて,あなたはどう思いますか」と尋ね,ア「長すぎる」,イ「どちらかといえば長すぎる」,ウ「これくらいでよい」,エ「どちらかといえば短すぎる」,オ「短すぎる」という選択肢を示して回答を求めました。その結果,全回答者のうち,「長すぎる」を選択した者の割合が6.0%,「どちらかといえば長すぎる」が4.0%,「これくらいでよい」が22.5%,「どちらかといえば短すぎる」が19.8%,「短すぎる」が35.1%となり,「どちらかといえば短すぎる」と「短すぎる」を合わせた者の割合は54.9%となりました。   なお,これらの選択肢を選ばずに,「わからない・一概には言えない」と回答した者が,ほかに12.6%おりました。   なお,内閣府では,全回答者である1,944人のうち,Q4で公訴時効制度を知っていると回答した者1,480人について,Q5でどのような回答をしたかについても集計しておりますので,その結果について横に記載しました。公訴時効制度を知っていると回答した者1,480人について,Q5でどのような回答をしたかについて見ると,「どちらかといえば短すぎる」が20.9%,「短すぎる」が38.3%で,これらを合わせた者の割合は59.3%となりました。   次に,Q5でアからウと回答した者631人に,そう回答した理由を尋ねたものがSQaでございます。これもそこに書かれているアからカの選択肢を示して回答を求めたものです。その結果,ア「時間の経過とともに,正しい裁判を行うための証拠が集めにくくなる」を選んだ者の割合が49.4%,イ「時間の経過とともに,犯人を処罰してほしいと思う被害者の気持ちが薄れる」が17.6%,ウ「時間の経過とともに,犯人を処罰するべきであるという社会的な要請が弱まる」が19.3%,エ「犯人が処罰されずに一定の期間が過ぎたという状態を尊重するべきである」が12.7%,オ「いつまでも捜査を行うこととすると,人手や費用がかかりすぎる」が36.6%,カ「犯人が処罰される機会を広げても,凶悪な犯罪を減らすことにはつながらない」が28.5%となりました。   次に,Q5でエ「どちらかといえば短すぎる」又はオ「短すぎる」と回答した者1,068人にそう回答した理由を尋ねたものがSQb1でございます。これもそこに書かれているアからカの選択肢を示して回答を求めたものです。その結果,ア「その程度の期間が経過しても,十分な証拠が集められ,犯人が判明する場合がある」を選んだ者の割合が36.9%,イ「その程度の期間が経過しても,犯人を処罰してほしいと思う被害者の気持ちが薄れることはない」が55.2%,ウ「その程度の期間が経過しても,犯人を処罰するべきであるという社会的な要請が弱まることはない」が24.9%,エ「時間の経過によって,犯人が処罰されなくなるというのはおかしい」が 79.8%,オ「捜査をする労力をかけてでも事件の真相を明らかにする必要がある」が 30.2%,カ「犯人が処罰される機会を広げて,凶悪な犯罪を減らすことにつなげる必要がある」が36.4%となりました。   さらに,SQb2では,「それでは,殺人など死刑が科されることがある最も刑の重い犯罪の公訴時効制度について,どのように見直すのがよいと思いますか」と質問しております。この質問については,Q5で「どちらかといえば短すぎる」,「短すぎる」と回答した者のほか,「わからない・一概には言えない」と回答した者に対してもしております。回答者全員を含めての集計結果は資料27に記載されております。   一方,Q5で「わからない・一概には言えない」と回答した者を除いて,つまりQ5で「どちらかといえば短すぎる」,「短すぎる」と回答した者についてのSQb2の結果は,資料28にまとめているとおり,「死刑が科されることがある最も刑の重い犯罪の公訴時効制度を廃止する」を選択した者の割合が49.3%,イ「事情にかかわらず,時効になるまでの期間を25年よりも長くする」が22.1%,ウ「一定の事情がある場合には,時効になるまでの期間を25年よりも長くできるようにする」が25.9%でした。   ただ今御説明した結果をグラフにして分かりやすくしたものが,資料29の「公訴時効制度に関する世論調査について」になります。   以上,簡単ではございますが,配布資料の説明をさせていただきました。 ● どうもありがとうございました。   ただ今の事務局の説明について御質問あるいはこれに関連して御意見がございましたら,どなたからでもどうぞ。今初めて御覧になる方もおられますので,ちょっと御覧いただければと思います。特に御質問,御発言ございませんでしょうか。よろしいですか。   それでは,後での審議の一つの参考にしていただければと思います。   次に,先ほど申し上げましたけれども,前回,○○委員始め3名の委員・幹事から,個別の事件の公訴時効の進行に関して特別の取扱いをする案,C-1,C-2案というのがたたき台としては出されておりましたが,そのバリエーションとも言うべき修正案の御提案があって,それについて審議を行いましたけれども,本日はその一部を変更した修正案の第2バージョンと言うべきものが提出されています。まずその第2バージョンの変更点について,提案者のどなたかららでも結構ですが,簡潔に御説明をお願いしたいと思います。 ● 前回,C-3とも言うべき修正案を提案させていただき,皆さんから忌憚のない御意見をいただいところですが,その中の御意見を踏まえ,何点か修正させていただきました。3ぺージ目を見ていただくと,変更箇所を下線で引いておりますので,こちらの3,4ぺージを見ていただいた方が早いと思いますが,書きぶりは全部要綱的な感じで書いておりますので,前回と少し書き方は変わっています。   変更点は,まず1項については,「死刑及び無期の懲役・禁錮に当たる罪のうち被害者がある事件」と,被害者がある事件に限るということを明確にしたということです。   4項は少し簡略にしたということだけです。   5項も,これは後で何度か引用するために「(以下「時効中断公告審理」という)」ということを足しただけで,内容的な変化はございません。   7項,8項ですが,前回の議論の中で,時効の中断に関しての審理を受訴裁判所が基本的には訴訟条件の審理としてやらないのはおかしいという御意見がありましたので,受訴裁判所が最終的に時効中断の審理を行うという点を7項で追加したということ。それから8項で,前回,逮捕・勾留を経ないで起訴されるケースもあり得るという御指摘がありましたので,その場合も受訴裁判所が時効中断の審理を行うということを明記したという点が変更点でございまして,基本的にはそれ以外は前回と同様でございます。 ● ありがとうございました。   変更点は,今,○○幹事から御説明のあったとおりでございます。   ただ今の御説明に関して,まず質問から出していただければと思いますが。   どなたからも御質問がないので,私から2点質問してよろしいですか。   変更後の8項で,勾留請求を経ないでいきなり起訴された場合に,受訴裁判所が時効中断公告審理を行うとなっているのですが,この時効中断公告審理というものと,7項に書いてある受訴裁判所による訴訟条件の存否の審理というのは同じなのですか,違うのですか。 ● 同じです。 ● 7項の方では,受訴裁判所は,勾留請求の段階での公告審理の結果にかかわらず,公告審理を行うことできるということなのですが,これは拘束されないということですよね。 ● そういうことです。 ● そうすると,勾留請求の段階での公告審理というのはどういう意味を持っているのですか。 ● この案は,勾留段階において,その後の勾留という身体拘束,それから当然それに伴うさまざまな捜査そして起訴ということについての暫定的な審理を想定しておりまして,確かに受訴裁判所が訴訟条件として判断するのが本来の筋なのですけれども,つまり,被疑者の立場から見ると,本来であれば時効が成立していてそういう強制捜査を受ける立場にない可能性があるということで,それを勾留段階で判断して,打ち切るべきものは打ち切ってもらうということを想定して,こういう二段階の審理ということになっておりますが,一応そういう趣旨でございます。ただ,前回,時効中断かどうかということについては,本来受訴裁判所が訴訟条件の審理として行うべきものであってという御指摘があったものですから,そこを今回明確にしたということになります。 ● 7項は,これは勾留審査の過程で行いますから,もし時効が中断していなくて時効が完成しているとすれば,勾留請求は認めないということになるわけで,身柄拘束に関してはそういう効果があるのは分かるのですけれども,それはその他の強制捜査一般をやってはいけないという効果を持つという意味ですか。 ● 5項の最後のところに,「以後の捜査及び訴追を打ち切る旨の判断をする」ということがありますので,そこでそれも打ち切る効果があります。したがって,実際に7項が意味があるのは,そこでは中断効を認めた上で,その後の捜査・訴追を認める判断が出た場合に,受訴裁判所においてはそれとは異なる,むしろこれは時効が中断していなかったと,反対にそうなる場合に意味があるということになろうかと思っています。 ● ほかに御質問がありましたら。 ● 前回,○○委員が質問されて,それに相当ダブるのですけれども,○○委員の御質問に対して,私自身も納得いくような答えが得られていないと思いますので,重なるようですけれども御質問させていただきたいと思います。   この案によりますと,相当理由の存在を根拠にして公告を認めて,公告することによって時効中断の効力を生じさせる,つまり公訴提起と同じ効力を生じさせるということを認めるわけですけれども,公訴提起という重大な効力を生ずる訴訟行為について,その要件は果たして相当理由でいいのかどうかということがまず一つあります。   次に,公訴が有効かどうかというのは,その後裁判所によって審査されて,有効でなければ公訴棄却とか免訴とか,そういう形の判断が下されることになるわけですけれども,この案によると,公訴の有効性について被告人が逮捕されるまで裁判所の審査はなされないということになります。司法審査を重視する刑訴法の構造にこの案が果たして適合するのかどうかということをお尋ねしたいと思います。   さらに,この案によりますと,今回,7項で,受訴裁判所が訴訟条件として審査できるとなっています。これは前回の示唆を受けたものだと思いますけれども,そうしますと,時効中断公告審理の際,それから勾留請求の可否,この場合,審査の対象は少しずれる部分はありますけれども,相当理由の存否を中心に行われる,しかも,これは3名の裁判官の合議体によって慎重に行われるということなります。それからさらに受訴裁判所よる訴訟条件の審理ということで,同じようなことを3回審査することになるのですけれども,そのような実益があるのだろうかという疑問がわいてきますので,そのあたりを教えていただければと思います。 ● もう御意見に入っていると思いますけれども,そういうことも含めてお答えいただければと思います。 ● 確かにこれは現行法による起訴と同様の効果,ただしこの案では中断ということになっていますけれども,それを付与するものです。C-1案はいわゆるジョン・ドゥ起訴と言われているもので,起訴することで時効停止の効力を得るということなのですけれども,これについては,要するに時効期間の延長を図るための便法にすぎないとか,さまざまな御議論があったところです。そういうことを考慮し,今回は起訴ではなく,つまりC-1案的なものではない,それとは別のものというので,公告というものを考えました。   もちろん,この公告の時点において被疑者は当然そこにはいない,つまり逃走中ないしどこにいるか分からないという状態でございますので,異議の申立て等そういう権限を認めてもその場では行使できないということから,身体を拘束されて,正にそれに対して,公告に対して実質的な異議といいますか,それに対して効力を争うという機会を事後的に認めるものです。確かに時間は長くかかるかもしれませんが,それを事後的に与えることで適正手続を保障するということを考えて,このような構成を考えております。   また,今,第2点としまして,厳密に言うと2回,3名の裁判官がこの時効中断公告に関する審理を行うのは無駄といいますか,重ねる必要はないのではないかという御指摘がありましたが,これは,本来的には訴訟条件は受訴裁判所が判断するということを前提としつつ,勾留又はその後の捜査,起訴というようなものについて,どこかの早い段階でそれを判断させることが望ましいという観点で二段階の審理がなされることになっておりまして,前回も少し議論がありましたが,最初の勾留段階における審査というのはおのずと短期間に迅速に判断しなければならないという要請もあることから,必ずしも慎重な審理ができない可能性もあるということを考え,受訴裁判所が慎重に判断できる機会を残すという趣旨で7項番の規定を入れておりまして,そういう趣旨で,確かに二重になっているし,迂遠ではないかという御指摘はありますが,勾留段階での審査と本訴,受訴裁判所の審理は少し性格が違うかと考えております。 ● 第1段階目の,5項の裁判所の審理というのは,先ほど部会長の御質問にありましたように,被告人を早期に,もし時効中断すべきでなかったのであれば,早くそういう手続から解放するという意味と,併せて,そういう事態かどうかの実際上捜査する側に立った場合でも,捜査を一生懸命やって補充をして,さらに受訴裁判所で訴訟条件を判断するという形をとった場合に,無駄になる場合があるので,そうであればその前の段階で捜査手続を遂行すべきかどうかということを判断したらどうかということで考えたものであります。 ● それでは,御意見でも結構ですので。 ● ちょっと質問しますが,もう既に回答が出ているのでしたならば,座長,どうぞ止めてください。 ● はい。 ● まず,当該事件を犯したと疑うに足る相当な理由があると認められるだけの証拠があるときということですが,注を見るとDNA等と書いてありますけれども,これは指紋なんかも入るのでしょうか。 ● はい,入ります。 ● 例えば目撃者が非常に大男であったとか,顔にあざのある2メートルも超えるような大男だったとかいうような目撃証言があった場合,これはどうでしょうか。 ● ほかの要素と合わせてその人間が被疑者と言えるかどうかという,それは特定の問題になるかと思います。 ● それでもなる場合もあるということですか。 ● そうですね。 ● それから,強姦罪は3年以上の有期懲役,強制わいせつは6月以上10年以下の有期懲役なのですが,法定刑が15年以下の傷害罪,それから15年以下の危険運転致傷罪,これは罪名からすると非常に不均衡だと思うのですが,この点はどうでしょうか。 ● どこで切り分けるのかというところの問題であろうかと理解しております。もちろん,考え方として,政策的に,今,○○委員がおっしゃったものも加えるということは可能だと思います。ただ,傷害罪について言いますと,すごく軽い傷害もあれば,重篤な傷害もありますので,これを切り分けるのは,刑法204条しかございませんので,そこは難しいのではないかというような理解をしております。危険運転致死傷罪については,政策的にはあり得ることだろうとは思いますけれども。 ● 加えることもあり得るということですね。これを見ると,検察官が時効中断の申請をする,そのときに証拠の標目を書かなければいけませんね。そうすると,そこで公告して中断した,その中断後に捜査して新しい証拠が出てきた,この新しい証拠は使えないということになるのでしょうか。 ● 私たちの考えている案では,使えますけれども,使える場合というのは,既に検察官が請求した段階で一定の要件に当たるものであれば,これは中断をするわけですから,その後に補充的な形でさらに新しい証拠が出てきたものは,起訴した後の公判等では使えるのではないかという理解です。 ● その標目と書いてありましたっけ,それに書かれていない有力な新証拠が出てきた,その場合にはこれでは使えないように思いますが,どうでしょうか。 ● 中断の要件があったかどうかということについては,標目に書かれているものだけで判断する,しかし,中断した結果訴追がなされて,本案の裁判になったら,それは証拠能力がある限り使えますということだと思うのですが。 ● そうだと思うのですが,その中断するかどうかという―つまり,真犯人だと思って逮捕したわけですね。逮捕はしたけれども,中断の申立てのときに証拠の標目がなかった。だから,後でいろいろな証拠が出てきてもそれはだめだということになってしまうということですか。 ● 要するに,最初の中断の請求をしたときに資料が足りなくて,足りないにもかかわらずいったん中断をした場合について,その後に調べたものと合わせると逮捕・勾留できるだけの要件があるというものについては,もともと中断する段階ではその証拠がなかったので,それはだめだということになるのだろうと思います。 ● 結局,この公告というのは,時効満期ぎりぎりの場合に使われるだろうと思っておりますので,その段階でなければ時効が成立する,その直前の段階で公告することを考えると,その段階で犯人といいますか当該事件を犯したと疑うに足りる相当な理由が認められるような証拠がなければ,本来それはそのまま時効になるべきものなので,それはやむを得ない。ただし,実体審理においてそれを使うことは許されると考えています。 ● 実体審理では構わないのですか。 ● 時効が成立していないと考えるわけですから。 ● 中断が正しかったかどうかということは中断前の証拠で判断するわけでしょう。 ● そうです。 ● そうすると,とにかく捕まえてみた,ところが,これは新証拠によると本人だと思うけれども,中断のときの標目では中断と認められないと令状裁判所なり受訴裁判所が認めた場合には,それは真犯人であってももう裁判ができなくなるということですか。 ● それは正に時効が成立すると判断せざるを得ないと思います。 ● さらに,これは裁判所の裁判に対して準抗告できるのですか。抗告できるのですか。 ● 準抗告です。 ● 被害者はできないのですか。 ● この提案は,検察官が公告をするきっかけとしては被害者の申出を予定していますけれども,そもそも準抗告という制度は,被害者はそこに対して何か言える立場にありませんので,残念ながらそこは入っておりません。 ● 中断の公告をするかしないかというのは検察官の判断ですね。検察官が中断の手続をとってくれなかったときに被害者を救済する制度,例えば不起訴の場合は検察審査会というのがありますけれども,そのような機関を置く必要はないでしょうか。考えられていないのでしょうか。 ● その点はこの中には何も書いておりませんけれども,この間のいろいろな被害者と検察官の関係,非常に密接なコミュニケーションをとって被害者参加制度などがつくられておりますので,基本的には,申出があれば,証拠があると判断すれば,これは公告をすべきであると考えていて,確かにそれが怠慢といいますか懈怠でなされなかった場合の救済ということも考える余地はあると思いますが,この中ではそこまで書いておりません。 ● それでは共犯者の場合ですけれども,例えば親分の命令で暴力団の組員が人を射殺した,射殺した者についてはいろいろな証拠があった,しかし親分について何もないというような共犯者の場合には,これは時効中断の効力は及ばないことになりますか。 ● 現行法上,共犯者については,共犯者の裁判になっている場合には,その間は時効は停止するという規定がありますので,それで停止している期間というのはあると思います。 ● 標目の中にはないんですよ。最初の時効中断の。標目の中には親分らしいものは何も出てこないのです。出てこないけれども,共犯者が起訴されたならば,その親分についても時効が中断されていたということになるのでしょうか。 ● これは既に現行法上にあるものとして,これとは別に,現行法上あるものはあるものとして考え,それとは別の制度としてこれは考えております。 ● よろしいですか。 ● はい。 ● 私から質問があるのですが,先ほどの御説明ですと,勾留請求がされた場合に勾留裁判官が時効中断の効果がないと判断した場合には,勾留請求を却下するだけではなくて,以後の捜査・訴追を打ち切る旨の判断をする,これは捜査機関を縛るという,そういう新しい制度をつくるということですよね。 ● そうです。 ● ところが,勾留請求がなされないと強制捜査ができるわけですね。 ● そうです。 ● 例えば強制的な捜索をすることもできるということですか。 ● 基本的には以後の捜査及び訴追を打ち切るという趣旨なので,捜査は一切,だから強制捜査はまず許さないという趣旨です。 ● そんなことを勾留裁判官ができるという根拠はどこにあるのですか。立法だから何でもできるということなのですか。何か非常に違和感があるのですけれども。しかも,勾留請求がなされないとそういうことはないわけですよね。その辺はアンバランスじゃないですか。 ● バランスという問題はあると思います。 ● もう一つは,○○委員が,できるだけ早く勾留の段階で打ち切るものは打ち切ると言われたのですけれども,検察官の公告がなされるというのは事件が発生してから何十年も待った後ですよね。それで勾留請求があって,やがて訴追がなされることになったとしても,そちらの方はわずかな期間であり,すぐ公判となるわけで,こんなに何度もやる意味が本当にあるのかという感じがします。その辺が何かものすごく重い手続になっているのですけれども,実際的に見て本当にこれだけのものを仕組む理由があるのかなという感じがするのです。感想かもしれませんが。 ● そこはどう判断するかということなのですけれども,結局時効が成立した人については時効で切れてしまうのですけれども,そこがまた延長されるとしても,延長された後に捕まったからすぐ捜査手続に全部乗っかってしまって強制捜査の対象になるというのはちょっと行き過ぎではないかなというような判断をした結果,こういう案になったという事情です。 ● 分かりました。ほかに御意見はいかがですか。 ● ほぼ前回の繰り返しになりますが,重ねて反対意見を述べます。今日改訂された部分については今御議論があったとおりの難点があると思いますが,御提案の一番基本的な問題点は,時効中断公告という制度そのものにあり,それが著しく不適当であろうと思います。そもそも正当な権利者に権利を主張する機会を与えるというのが公告という法制度だと思いますが,提案された時効中断公告制度は,検察官の一方的な判断,一方的行為によって公告をすることにより,先ほど来提案者が述べられているように,本来であれば時効が完成し起訴されなくなったはずの被疑者に対して,中断という形で再び起訴される可能性すなわち不利益を,公告がされた瞬間に生じさせるわけです。ですから,そういう不利益を与える効果を持っている公告というものがそもそも考え難いと思います。   それから,私が繰り返し主張しております適正手続の観点から,事後的に,先ほど来触れられているとおり,手厚い裁判所の審査を設定されているわけですけれども,問題は,正に不利益が発生する公告の時点,時効中断効が発生する時点で,不利益を受ける被疑者に不服を申し立てる機会がないという点は全く前回の案と変わっていないのであり,そこが正に適正手続に違反するおそれがあるだろうと思います。   加えて,公告という一方的宣言行為,訴訟行為なのかどうか分かりませんが,その行為と中断という効果の間に論理的・合理的な牽連性が全く認められないので,これはやはり文面上憲法31条に違反すると言わざるを得ないように思います。 ● ほかに御意見はいかがですか。 ● 今,○○委員がおっしゃられたところが前回からも一番批判されているところで,この案の一番のネックかなと思っています。ただ,現行法の場合でも,提出のときには,例えば逃げ隠れしているために起訴状謄本の送達ができない場合も,そのときは逃げ隠れている人は何も言えないわけですから,そういう問題は全くないわけではないと思っています。ですから,後の方で権利を保障するということで何とか適正手続の問題はクリアできるのではないかと考えているわけです。 ● この修正案のいろいろな問題点は私どももある程度認識した上で御提案しているものですが,今回,要綱(骨子)案で法定刑によって一律に廃止・延長,大幅延長をやることに対抗する案としてこれはつくっているものでありまして,この間の議論で,特にC案については,苦肉の策とか,そういう御指摘もありましたけれども,私どもとしても,一律に法定刑ですべての事件について廃止・延長するよりは,少なくとも当該事件を起こしたと疑うに足りる相当な理由がある事件についてだけ中断という効果を利用して事実上延長する効果をもたらすという方が穏当であり,全面的に,とりわけ今回は非常に広い範囲で廃止ということになるわけですが,それよりは個別に対応した方がいいだろうという趣旨で,苦肉の策として提案させていただいております。確かに法技術的ないろいろな問題点があることは十分認識した上で,とりわけC案というのはもともとそういうものを持っていた案でありまして,それをどのようにつくるかについては私どもも非常に苦悩した上でこういう提案をさせていただいているという点は御理解いただければと思っております。 ● 既にC案,特にC-2案の最大の問題として議論されたところですけれども,そもそも公訴時効制度というのは個別具体的事案の証拠の状態等によって変動すべき性質のものではなく,一律に制度として決まっているべきものだというのが基本的な考え方だろうと思います。ですから,C案の問題,そしてそのバリエーションであるこの修正案の問題も結局そこに収束するわけで,個別事案の事情,しかも事件当時にたまたま残っていた証拠に基づいて時効完成が妨げられ延びるということ自体が,基本的な考え方として,これは技術的な問題ではなく,理論的におかしいというのが私の意見です。 ● さっき○○幹事は,相当な理由がある場合に絞ったのだと言われたのですけれども,もう一つ絞っていますよね。被疑者が氏名では特定できないのだけれども,DNA型等で,特定されているかどうかについては恐らく根本的に問題があると思うのですけれども,仮にそこを突破したとしても,何か特定するだけの情報が得られているもの,DNA型とか指紋とか,そういう被疑者を特定するのに有用な情報がある場合ということで,また絞っている。しかし,そういう情報が残っているかどうかは偶然にすぎないわけで,そういうものだけに絞る正当な理由があるのかどうか,そこが恐らく被害者の方の声に応えることになっているのかという,その辺につながってくる問題だと思うのですけれども,その辺について更に補足して何か御説明はありますか。 ● 今の点は,逆に被害者の立場から見ても,DNAとかで特定している事件ですら時効になってしまうということが現在かなり批判があるところだと思いますので,さっき言ったように,本来原則的にすべての事件を延長・廃止ではなく個別事件でという考えの中で,被疑者がそれなりに特定されている―この間の議論で,確かにDNAを特定しているだけでは起訴に価するだけの特定はないという議論もあったのですけれども,これは公告という制度で起訴ではないという形でそこは回避しているつもりですが―いずれにせよ一応科学的には特定している。アメリカなどではジョン・ドゥ起訴でそれで起訴までできているという状態であれば,それを救うといいますか,それについて中断を認めるというのはある程度合理性はあるのではないかと考えています。 ● 今の点で質問なのですが,ここに書いてあります氏名等で特定できない場合ということですが,これは逆に言うと氏名ではないけれども何かで特定できている場合があるという意味だろうと思いますが,そこで想定されているのはDNAと指紋以外に何かあるのですか。 ● ここではDNAと指紋が恐らく。 ● 例えば写真があるとかですね。 ● はい。 ● これが犯人Xであるということが客観的に言えるもの,その氏名は分からない,どこのだれだか分からない,だけど特定されていなければいけないという意味だと思うのですが,DNA,指紋,そして先ほどの2メートル云々というのは氏名で特定していくための資料というか材料というか,そういうものにすぎないように思いますけれども,氏名が分からない,だれだか分からないけれども,これが犯人だと特定できているケースというのは,指紋とDNAがある場合であるというお考えですか。 ● 一般的に氏名不詳者ということで,勾留段階とか,起訴時もありますけれども,名前が特定してないということはたまにあると思います。それは留置番号で特定したり,あとはその人の容貌とかで特定するということは,氏名を黙秘した場合にはあり得ますので。 ● それは人間がいるわけですよね。 ● そうです。 ● それは違う事柄だと思うのです。現に被疑者がいて特定はできているのだけれども,氏名が分からないので,留置番号だとか写真でその人を表示する。刑訴法でもそういう規定になっていますよね。そのことと,被疑者がだれであるかは分からないがDNA型の情報が残っている,指紋が残っているので,将来そのDNA型あるいは指紋に合致すると判明するかもしれない人を被疑者あるいは被告人とするというのとは,やはり違うのではないですか。 ● もちろん違うと思いますが,これはそれを入れるという。これはもともとC-2案をベースにつくったもので。 ● 途中までそういうふうに説明されたでしょう。 ● ですから,基本的に氏名等が特定できないというのは,ここではDNAとか指紋を想定したものです。 ● それでよいのだとすると,写真でいけない理由というのもないような気がするのです。鮮明に犯人の容ぼうが写っているような場合にはですね。 ● あり得るとは思うのです。 ● それはまあ。 ● その程度にして,ほかに御意見等ございますでしょうか。 ● ○○委員がおっしゃったことと関連するのですけれども,非常に被害者に不公平をもたらすと思うのです。例えば初動捜査のミスで犯人を取り逃がした。例えば警察官が抱きついたのに,それを振り払って加害者が逃げた。被害者には全く責任がないんですよね。にもかかわらず,取り逃がされたがために時効が完成してしまう。そのときに捕まえておれば当然加害者は処罰されるのですけれども。そういう不公平感というのを非常に感ずるのです。被害者の責任において証拠を集められなかったというのなら仕方がないけれども,どうしようもない被害者というのはいっぱいいて,その中でたまたま捜査機関が一生懸命捜査してくれた,それは捕まえられる。そうでないのは被害者は泣き寝入りする。ここに,被害者はもちろん,国民も不公平感を持つのです。それについてはどうお考えでしょうか。 ● それは確かに,DNAとか指紋が現場に残るかどうか又はそれが警察によって採取されるかどうかというのは偶然の要素によると思いますけれども,少なくともそれが採取されて,特定かどうかという問題はありましたけれども,後で犯人が逮捕されてDNAが一致するというようなことがあり得るというレベルでのDNAとか指紋が残っているというケースについてすら全く何もできないよりは,少しでも救えたら救った方がよいという考えでこれはつくったものです。 ● 被害者にとっては,先ほど法のもとの平等ということを○○委員がおっしゃいましたけれども,私も思うのです。実は,私はきのう,千葉であと2年で時効になる人のビラ配りに参加して一緒にやってまいりました。やはり被害者は悔しくて一生懸命やっている。そのときにも,隣の人は犯人を見ているし,もし警察官を呼んでもらってすぐ捜査すれば捕まったかもしれない。その目撃した隣の人がそれをやってくれなかったために捕まらないので,何回も何回も懸賞金かけてやっているのです。それを不公平だと思いませんか。 ● ○○委員は,それが不公平だという御意見ですね。○○幹事の御説明は,要するに濃淡があって,特に必要性の高いものに限ってというか,それすら時効の中断ないし延長ができないのは不当なので,そこに絞ってやると,こういう御説明ですよね。 ● はい。 ● 同じことの繰返しになっていますのでこのぐらいにしたいと思いますが,ほかに新たな論点があれば。 ● 被疑者を氏名等で特定できない場合という,「特定」という観念がキーワードになっているわけですけれども,しかし,先ほどからDNAとか指紋というお話がありましたが,例えば大勢の目撃者がいて,その供述によれば一定の人間像が浮かび上がってくるというような場合は,特定されているのか,そうでないのか。その観点をもっと極端に推し進めますと,要するに当該事件というのは事件として特定しているわけで,したがって当該事件の犯人も特定していることになるのではないか。そういう意味では,氏名等によって特定できない場合という観念は非常に浮動的な感じがするのですが,どうでしょうね。 ● そこに被疑者・被告人がいるのだけれども氏名が分からないので留置番号だとか写真でその被疑者等を特定するというのは,表示の問題であって,人自体を特定はできていると思うのです。ところが,こちらの場合は,今,○○先生がおっしゃったように,本当に人物自体を特定できているのか,単に犯人の情報を示しているにすぎないのではないか,そういう問題だと思うのです。しかし,それはお分かりの上で,ここには入れたということですよね。 ● そういう趣旨です。 ● 起訴だったらだめだけれども,公告だったらいいのだというのがさっきの御説明です。   ほかによろしいですか。大分新たな御質問等が出ましたが,この修正案第2バージョンについてはこのぐらいでよろしいでしょうか。   次の審議に移りたいと思いますが,諮問事項全体についてのおさらいの議論,前回もやったとおりですが,今回も要綱(骨子)案やこれに関連する事項その他について全体的な議論を行いたいと思います。部会としての意見の集約の前に,積み残した点や,この際是非とも発言しておきたいということがございましたら,御発言いただきたいと思います。   まず,この要綱(骨子)案自体については何かさらに補足して御意見ございますでしょうか。 ● 「人を死亡させた罪」という用語ですけれども,これで一応分かるのですが,例えば放火によって人を死亡させたという場合はここには入ってこない。要するに,構成要件要素として致死ないし死亡させるというのが入っている罪,そういう趣旨でここは使われているわけですよね。 ● 立案者としてはそういう御説明でしたよね。 ● 「人を死亡させた罪」というと,結果として人が死亡したことになった罪とも読めるので,「人の死亡を要素とする罪」というような言い方をしないといけない気もします。みんな分かるからいいやと言えばそれはそれでいいのですが,この「人を死亡させた罪」という用語は,何か放火で人が死んだという場合も含んでしまうにも見えかねない。だから,せめて注記で,「人を死亡させた罪とは,構成要件において,人の死亡が構成要件的結果となっているものをいう」という注記でもお付けになった方がよろしいのではないかという気がしております。 ● 要綱の骨子ですからね。条文に書くときには必ずしもこういう書き方にしない可能性もあると思うのですが。 ● 今,部会長から,条文に書くときはこういう書き方はしないと言われたのですけれども,これと違う書き方をするというのは,むしろ要綱と違うことになってしまわないのですかね。「人を死亡させた罪」と明確に要綱で書いている以上は,それと違う書き方を条文でするというのはちょっと。 ● 条文上も可能であるかどうかというのは更に検討いたします。少なくとも全く不可能ではないとは思っているのですが,ただ,御議論いただいている範囲を変更させるようなことにはならないように留意した上で,いかなる文言が適切かということで検討をさらにさせていただきたいと思います。 ● もし条文に書くとすれば,○○委員の御心配のようなことが将来起こるかもしれませんので,そこは明確に書く必要があると思います。 ● これは犯罪被害者等の団体の方々にとって,例えば,故意ではなかったにしろ放火によって人が亡くなった場合について,やはり時効廃止してほしいと思うのではないですかね。そこを○○委員に伺いたいのですが。 ● 放火によって死亡させているわけですね。それは思います。思うけれども,これは立法の妥協だから余り固執してもしようがないと思っています。 ● 「人を死亡させた罪」についてもう一度補足させていただきたいのですが,例えば,被害者参加制度の対象事件についてどういう記載となっているかを見ますと,刑事訴訟法の316条の33第1項第1号でございますが,これによると,「故意の犯罪行為により人を死傷させた罪」となっております。「死傷」と入っておりますけれども,傷害を除いたとするならば,「人を死亡させた罪」というのも用例上あるのではないかと思われます。類似の記載ぶりとしては,少年法22条の2第1項第1号,これは「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」というのがございます。 ● それは放火は入っているのですか。 ● いいえ。その他同種の用例はございますが,こういった書き方をしているものについては,先ほど御指摘いただいたような,構成要件要素として人を死亡等させた結果が記載されているものを指すという解釈がされておりまして,放火罪については除かれていると整理されているところでございます。 ● その解釈というのは,立案のときの説明ということですか。 ● はい。 ● 分かりました。ほかにありますか。 ● つけ加えれば,裁判員裁判の対象となる事件とか,少年法上の今のような規定とか,いろいろなところでこういうものが出てきますので,紛らわしくないように,条文としては一読して分かるものになることを要望しておきたいと思います。 ● ほかに。 ● 確かに条文上,「故意の犯罪行為により人を死亡させた罪」とかいう表現はあちこちに使われているのですが,今回は前の「故意の犯罪行為により」というのを取ってしまうことになるので,「人を死傷させた罪」というのはひょっとしたら過失もない場合も入ってしまうのかどうかとか,「人を死亡させた罪」と単独で使ったことは恐らくないのではないかと思うのですが,言葉の語感とかも含めて非常にあいまいな感じがする言葉ですので,その点は是非立法時においては明確にしていただきたいと思います。 ● それも新たな視点ですね。さっきの放火の話は,「故意の犯罪行為により」でも入るかどうか,疑義は生じ得る。今までの公定解釈では,それは入らないということになっているということですが。   ほかにはありますか。特にこの際御発言しておきたいという点がありましたら,ここでお願いします。 ● それでは,この際,今まで議論したものについて,私どもの方で一つ意見として口頭で述べていきたいと思います。   私ども修正案を提出した3名の委員・幹事は,採決に先立って,要綱(骨子)案に対して次のとおり意見を述べたいと思います。   まず要綱(骨子)案の第1と第2についてであります。これまでの部会の審議でも再三述べてきましたように,私どもは,現時点において公訴時効の見直しの必要性,妥当性はないと考えております。   第1に,公訴時効については平成16年改正法が存在しているという点であります。平成16年12月に成立し,平成17年1月1日に施行された刑事訴訟法の改正により,死刑に当たる罪は15年から25年に延長するなどの改正がなされ,その附則によって「なお従前の例による」とされました。要綱(骨子)案の第1が成立すると,公訴時効期間は,平成16年改正前のものと,平成16年改正法施行後のものと,今回の要綱(骨子)によるものの3種類となり,極めて複雑なものとなり,国民にとっても大変分かりにくいものとなってしまいます。また,改正法施行後5年余りで公訴時効を見直し,人を死亡させた罪で死刑に当たる罪については平成16年改正法を一度も適用しないまま法改正を行うことになり,立法論として相当でないと考えられます。我が国は広く殺人罪を規定し,諸外国のように謀殺や1級殺人あるいは集団殺人などの特別の類型を設け,それについてだけ廃止されるのとは異なり,極めて広範に公訴時効が廃止されることになります。しかも,強盗致傷などの結果的加重犯についても,法定刑に死刑があることを理由に公訴時効を廃止するというのは広過ぎると考えられます。部会の審議においては,平成16年改正法施行後の被害者の声を背景とした国民感情の変化があったことが大きな根拠とされています。しかしながら,本日報告されました内閣府における世論調査の結果においても,現在の公訴時効期間が短いとするのは公訴時効の意味を知っている人の6割弱であり,決して国民の大多数が公訴時効の見直しを求めているとは言えません。したがって,現時点で公訴時効を見直す必要性,妥当性はないと考えます。   第2に,証拠の散逸と被告人・弁護人の防御権との関係です。検察官において立証責任があるとされる現行刑事訴訟法のもとでも,具体的な事件においては,長期間経過していることによって証拠が散逸し,被告人・弁護人が被告人のアリバイや正当防衛などの立証に困難を来しかねないことは否定できません。特に,今回の要綱(骨子)案による公訴時効の廃止や大幅な延長によって,この防御に関する困難はいやが上にも増すものとなります。また,証人の記憶の薄れや死亡等によって,刑事訴訟法第321条1項2,3号書面が証拠能力を獲得するだけでなく,実質的にその証明力も高いものとして扱われる可能性があるが,同書面には被告人に有利な事情が何ら記載されていないことがあるから,被告人の防御権には多大な困難をもたらすおそれがあります。とりわけ長年月経過した後に立件された被告人が冤罪者の場合には,アリバイ証人を確保するどころか,自らが事件当時どこで何をしていたかすら記憶がなく,防御活動が全くできないということも想定されます。これまでの部会の審議においては,検察官にも立証責任がある以上,長年月の経過は被告人側だけに不利益に働くわけではないとの反論がなされていますが,長年月の経過を経て検察官が起訴する場合,犯行時から証拠収集活動をし有罪の証拠を十分準備している検察側に対し,長年月経過後から証拠収集活動を始めなければならない被告人側の立証上のハンデは大きく,防御に著しい支障があると考えられます。   第3に,捜査機関と捜査資源等の有限性との関係であります。捜査機関の捜査資源からして,すべての事件について長期的に捜査本部や捜査員を配置することが無理であることは部会の審議においても明らかになっておりますし,捜査記録を長期間保管し続けるためには膨大なスペースが必要となります。とりわけ人を死亡させた罪について公訴時効制度を廃止する場合には,少なくとも被疑者が死亡したと考えられる時期まで捜査記録を保存することが必要となりますから,捜査資源や予算が限られている捜査機関にとって相当の負担とならざるを得ません。また,実際には,公訴時効の廃止や大幅な延長をしても,捜査資源との関係や実際の捜査の現状から見て,被疑者の検挙の増大をもたらすものでないことは明らかであります。そうすると,公訴時効が廃止される殺人等の被害者遺族は,いつまでもただ被疑者の検挙を待ち続けるしかない状態に置かれることになります。この部会においても,公訴時効によって犯人がのうのうと生き延びることを許すことは遺族として許せないのだという意見が出されています。そのような考えも理解できないわけではありませんが,歴史的に成立しこれまで運用されてきた客観的な法制度である公訴時効を見直す根拠としては相当でないと考えます。   以上から,要綱(骨子)案の第1に反対いたします。   次に,要綱(骨子)案の第2の,現に公訴時効が進行中の事件にも第1の内容を適用するとする,いわゆる遡及適用についてお話しします。   公訴時効は被疑者の利益のためにも存在する制度であり,挙証責任の転換などと同様に被疑者の実質的地位に直接影響を与える実体法に密接な手続規定として憲法39条の趣旨が及ぶものと考えます。また,公訴時効は,証拠の散逸という訴訟法上の理由だけでなく,犯罪の重大さに応じて一定期間の経過によってその可罰性が減少するという実体法上の意味を持っていることは否定できないのであり,刑法6条若しくはその趣旨に従い,軽い旧法を適用すべきです。平成16年改正法が被疑者の利益をも考慮し,附則第3条2項により,「なお従前の例による」と定めた趣旨は今回も堅持されるべきであり,法的安定性という観点からも新法を適用するのは相当でないと考えますので,要綱(骨子)案第2にも反対いたします。   次に,要綱(骨子)案第3の刑の時効の見直しについて述べます。   部会の審議においても,当初は,公訴時効を見直すこととのバランス上,刑の時効も見直すべきであるという意見が出されていましたが,公訴時効が法定刑を基準としているのに対し,刑の時効が宣告刑を基準としていることから,厳密な意味でバランスをとることが困難であることが明らかとなり,その後,公訴時効見直しを契機として刑の時効を見直すことにしたのだから特にバランスをとる必要はないという意見が出されました。しかしながら,人を死亡させた罪について公訴時効見直しと刑の時効の見直しとの間に大きなずれが生ずることになり,本来見直す必要がない刑の時効まで見直すことになる点で著しく不当であると考えます。刑の時効については被害者や国民感情の変化も見られませんから,現時点において刑の時効を見直す必要性や,それを裏付ける立法事実は存在していないのであり,刑の時効の見直しにも反対いたします。   以上が私たちの見解でありますが,今回,犯罪被害者等の時効制度に対する不満あるいは苦渋をどうしてもこの機会,この部会に反映させて立法化を目指すというのであれば,一挙にドラスティックな廃止・延長ということではなく,中断という制度を導入することによって対処することとし,公訴時効制度の廃止・延長はいま一度検討しながら将来の課題とするのが次善の策というものであるので,委員・幹事3名は修正案を提案するものであります。   以上です。 ● ほかの方,何か御意見はありますか。 ● 今,御意見を聞いたのですけれども,内閣府の調査によると,死刑の必要性を認める人が非常に増えています。死刑の必要性を認める人は逃げ得を許さないということにつながると思うのです。時効について聞くと,「時効」という言葉すら知らなくて,逃げ得は許されなくて,いつまでも追及されるのかと思っていたという人がむしろ多いのです。私たちの関係ではね。私たちは,犯罪被害者,私たちの会員に対して意見を聞いてみました。そうすると,まず殺人罪については,142名からの回答ですけれども,時効制度は廃止すべきだと。現状でいいというのは一人もいません。延長すべきだというのが5%いました。これは家族間の犯罪,そういうものがあったと思います。それから,殺人以外の凶悪犯罪の時効につきましても,廃止すべきだというのが83.9%ありました。現状維持でいいというのは1.5%であります。遡及効を認めるかということは,この回答については,認めるべきというのが99.2%となっておりまして,時効という制度がいかに被害者を苦しめるのかということを示しているのです。ある団体のように,時効という制度があるために被害者はいつまでたっても心の整理ができないという点についても意見を聞いてみましたけれども,とんでもないという意見が全員でございました。   そしてまた,立法事実につきましては,16年改正というのは基本法のできた年です。この基本法によって被害者の意識は大きく変わりました。被害者というものは法律の言葉を知りませんし,制度を知りませんから,泣き寝入りをしてきたのです。だけど,今考えてみると,何で自分たちが泣き寝入りしなければいけないのだ,本来応報権は自分たちにあるのではないか,それを国に譲った,その国が25年たったからもう刑罰権を行使しませんよと言うとは何事かというふうに,意識が極めて大きく変わってきているということであります。   それからまた,先ほどもちょっと申しましたけれども,証拠があるかないか,○○委員が出されたように,証拠によって被害者が左右されていいのかということです。これは初動捜査のミスによって捕まるべき加害者が捕まらなかったこともあります。現に,私の事件の山一事件ではもう一人殺されています。警察も検察庁も会社の者も皆,同一犯人だと,あの男だと言っているのですが,しかし確証がない。その現場へ行っている写真は,高速道路の写真で残っています。下見に行ったことも残っています。だけど,その事件が暗いところで行われて,見ている人が何人かいましたけれども,全部言うことが違う。たった一人,近いところで正確に見た人がいますけれども,その人は耳の不自由な人でした。手話しかできない。その手話も姉さんとしかできなくて,姉さんとだけ通ずる手話なのです。そういうことで不起訴になりました。立件もされませんでした。その御遺族の奥さんが私の事件の最終回までずっと公判を傍聴しておられましたけれども,そして私も一緒に検察や警察を回って,何とか捜査して起訴してくださいと言ったのですけれども,できないということになりました。そうすると,あれだけ私のところに来ていた奥さんが,もう姿を見せなくなりました。手紙を出しても返事も来ません。同じ犯人に殺されながら,私の場合は犯人が無期懲役になり,自分の場合は永久に彼は罪を受けないということがたまらなくて,私の前から姿を消したのだろうと私は思っております。そういう例がいっぱいあるんですよ。被害者というのは本当に苦しいのです。たまたま証拠があるから中断させてやろう,そうでなければ一定期間で無罪放免だということは納得できない。法の下の平等に反するのです。○○幹事はそうではなくて,時効という制度を置きながら例外的に救済してやろうではないかという立場をおとりのようですけれども,そうじゃないのですね,被害者の気持ちというのは。そこを是非御理解いただきたいし,また国民も,時効制度ということを知った人たちは,逃げ得は許さないと,このような気持ちになっています。私たちのところにもいっぱい手紙が来ます。そういう逃げ得を許すな,そんな反倫理的な国をつくってくれるな,そのような手紙が来ているわけであります。そして,真犯人が判明しても,もう時がたったからそのままにしてもらう,後で犯人が出てきても何もできない,こんな正義の行われない国をつくってはいけないと私は思うのです。   それから,捜査資源の問題もありました。しかし,いつまでも永久に特別捜査本部をつくってくれと言っているのではないのです。時とともに捜査人員は少なくなる,これは当然のことです。しかし,捜査本部が解散になった後でも,いつ出てくるかも分からないのです。捜査をやめても出てくる場合があるのです。房の中で聞いたという人たちだって出てくることがある,刑務所の中で。そのような場合にまで時効によって許してやる必要はない。捜査資源の問題ということはそんなに問題にはならないと私は思っております。   そして何よりも,私たちの会員の中に,もうずっと前,30年以上前に殺害された人の奥さんが会に入っています。それは30年,もっと前かもしれません。その方が一生懸命私たちの運動でビラ配りをやってくれたというのは,30年たったから忘れたのではないです。忘れられない,時とともに悔しさが募るから寒い中をビラ配りに協力するのです。昨日もビラ配りに来てくれておりました。そういう心情を是非理解していただきたいのです。一般の人はよく理解してくれます。ところが法律家がどうしても理解してくれない。それは今までの制度にとらわれるからだと思うのですが,是非とも,今はすっかり被害者の意識も変わり,国民の意識も変わったのだということで御理解いただきたいと思っております。   それから,実体法につきましても,刑の時効の改正についても,これは当然なことだと私は思っております。是非この要綱(骨子)案でこの部会がまとまってくれるように私は心から願っております。 ● ほかに御発言ございますでしょうか。―よろしいでしょうか。   それでは,諮問事項全体及び事務当局の要綱(骨子)案等についての議論は一通り終了したというふうに理解させていただきます。   そこで,今回改めて,○○委員ほかの方々からいただいた修正案のほかに修正の御提案というものはございますでしょうか。無いようですので, これで議論は終結とさせていただきます。   それでは,部会としての意見を取りまとめることにさせていただきます。   諮問第89号は,「近年における凶悪・重大犯罪をめぐる諸事情にかんがみ,公訴時効の在り方等を見直す必要があると思われるので,左記の事項を始め,その法整備の要綱骨子を示されたい。」というものでありました。当部会の議論を踏まえて事務当局から要綱(骨子)案を提出され,また○○委員始め3名の委員・幹事の方から,これに対する修正案が提出されております。   そこで,採決の順序,方法ですが,これまでの議論の状況にかんがみ,また事柄の順序からしましても,まず○○委員等から提出された修正案,これは今日更に修正があった第2バージョンですが,これについて採決を行うこととしたいと思います。その後,事務当局作成の要綱(骨子)案の第1から第3までについて,第1,第2,第3と区切って各項目ごとに採決したいと考えておりますけれども,よろしいでしょうか。あるいはほかの採決方法としてこういうのがあるのではないかということがあれば御意見いただければと思うのですが,今申したとおりにさせていただいてよろしいでしょうか。―では,そのようにさせていただきます。   まず○○委員始め3名の方から御提案の修正案,第2バージョンの方ですが,を部会の意見とすることに賛成の委員の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● ありがとうございました。   次に反対の委員の挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● ありがとうございます。   それでは,事務当局から採決の結果を報告してください。 ● ただ今の採決の結果を御報告いたします。賛成の委員の方2名,反対の委員の方12名でした。出席委員総数は,部会長を除きまして14名でした。 ● ありがとうございます。   ただ今御報告がありましたとおり,○○委員始め3名御提出の修正案につきましては,挙手された委員の反対多数で否決されたものと認めます。   次に,事務当局の要綱(骨子)案について採決させていただきます。   まず,事務当局作成の要綱(骨子)案の「第1 人を死亡させた罪の公訴時効の改正」を部会の意見とすることに賛成の委員の挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● よろしいですか。   次に,これに反対の委員の挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● よろしいですか。   では,集計していただけますか。 ● ただ今の採決の結果を御報告いたします。賛成の委員の方11名,反対の委員の方3名でした。なお,出席委員総数は先ほどと同様でございます。 ● ただ今御報告がありましたとおり,事務当局の要綱(骨子)案の第1が賛成多数で可決されました。   次に,事務当局作成の要綱(骨子)案の「第2 第1の適用範囲」を部会の意見とすることに賛成の委員の挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● よろしいですか。   それでは,これに反対の委員の挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● よろしいですか。   それでは,集計の結果を報告してもらいます。 ● ただ今の採決の結果を御報告いたします。賛成の委員の方10名,反対の委員の方4名でした。なお,出席委員総数は先ほどと同様でございます。 ● ただ今御報告がありましたとおり,事務当局作成の要綱(骨子)案の第2が賛成多数で可決されました。   次に,事務当局作成の要綱(骨子)案「第3 刑の時効の改正」について採決させていただきます。この要綱(骨子)案の第3を部会の意見とすることに賛成の委員の挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ● よろしいですか。   次に,これに反対の委員の挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ● ありがとうございます。   それでは,採決の結果を報告していただきます。 ● ただ今の採決の結果を御報告いたします。賛成の委員の方12名,反対の委員の方2名でした。なお,出席委員総数は先ほどと同様でございます。 ● ただ今御報告がありましたとおり,事務当局の要綱(骨子)案の第3が賛成多数で可決されました。   以上ですべての事項についての採決を終わり,諮問第89号につきましては,事務当局から示された要綱(骨子)案を部会の意見として総会に報告することに決しました。   この決定につきましては部会長から総会に報告させていただきます。部会長報告につきましては,慣例としては部会長に御一任願っておりますけれども,今回もそういうことでよろしいでしょうか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ● ありがとうございます。   それでは,本日予定しておりました議事はすべて終了いたしました。この際特に発言しておきたいことがある方がいらっしゃいましたら,どうぞお願いいたします。―よろしいでしょうか。 事務当局から何かございますか。 ● 事務当局を代表いたしまして,一言御礼のごあいさつを申し上げたいと存じます。   委員・幹事・関係官の皆様方には,御多忙のところにもかかわらず,今回の諮問につきまして,毎回,長時間にわたり,大変熱心な御審議をいただき,厚く御礼を申し上げます。また,部会長には,議事の進行,意見の取りまとめに格段の御尽力を賜り,誠にありがとうございました。   今回の諮問の内容は刑事司法の在り方にかかわる非常に重要な課題でありましたが,皆様方に多角的な見地から御議論いただいた上で,本日その成果としまして,本部会の御意見を賜ることができました。   本部会の冒頭でも申し上げましたが,今回諮問した凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等につきましては,近時,被害者の方々を中心として,殺人等の凶悪・重大な犯罪においては,公訴時効制度の趣旨として一般に言及されている処罰感情の希薄化などの事情が妥当しなくなっているのではないか,また逃げ得を許すような制度は不合理ではないかなどの指摘がなされ,凶悪・重大犯罪の公訴時効制度の見直しを求める声が高まってきたところでございます。他方で,公訴時効の在り方の見直しは,見直し方策はどのようなものとするかや,見直し方策を改正前に行われた犯罪で時効が完成していないものに及ぼすかなど,理論的にも,また実務的にも,種々の困難な論点が含まれております。本部会においては,委員・幹事の皆様に,今申し上げたような国民の声を真摯にかつ冷静に受けとめつつ,深い学識経験に基づいて難解な論点について議論を尽くしていただき,在るべき公訴時効制度に関し,熱心かつ濃密な御審議をいただいたところであり,重ねて御礼を申し上げます。   最後に今後のスケジュールでございますけれども,本日の部会における諮問第89号に関する御決定は,2月24日に開催が予定されております法制審議会の総会に部会長から御報告いただき,速やかに答申を頂戴いたしました上で法案の立案作業を進め,できる限り早期に,関連する法律案を国会に提出したいと考えておりますので,委員・幹事・関係官の皆様方には,今後とも引き続き御支援,御協力のほどよろしくお願い申し上げます。本当にどうもありがとうございました。 ● この際,部会長として一言御礼を申し上げます。   最初に申し上げたとおり,本部会のテーマは,被害者の方々を始め国民の皆様の関心の強い,非常にホットなテーマであると同時に,公訴権の存続,消滅を左右する刑事訴訟制度に基本的な重大な事柄であったわけですが,審議を通じても明らかになりましたように,古くから知られている,あるいは教科書などでも説明されている事柄でありながら,しかし実は必ずしも詰めた,あるいは実質的な検討が十分なされてはこなかったのではないかと思われるところも多々ある問題領域でしたけれども,この部会の審議は全体の期間としてはそう長くはなかったものの,短い間隔で回を重ね,また一回一回皆様の熱心な御議論を得まして,充実した審議が行われたのではないかと思います。その結果として本日,部会としての意見をまとめることができまして,これにつきましては皆様の御協力に深く感謝申し上げる次第です。   同時に,私はこのとおりのがさつな人間であります上に,大学では余り学問と関係ないといいますか,管理行政事務にずっと携わっているものですから,久し振りに刑事訴訟法らしい問題の議論に加えていただき,そういうこともあってか,部会長としてはやや行き過ぎた発言や粗雑な言葉遣いをしたところがあり,皆様を不快にさせたかもしれませんが,こういう充実した審議ができたということに免じてお許しいただきたいと思います。本当にどうもありがとうございました。                                      -了-