法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会   第14回会議 議事録 第1 日 時  平成22年2月12日(金)  自 午後1時31分                        至 午後5時37分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  非訟事件手続法・家事審判法の改正について 第4 議 事 (次のとおり)               議 事 ○伊藤部会長 予定の時刻でございますので,法制審議会非訟事件手続法・家事審判法部会の第14回会議を開会いたします。御多忙のところを御出席いただきまして,ありがとうございます。   それでは,配布されている資料につきまして事務当局から説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 それでは,事務当局から配布いたしました資料について御説明いたします。   第14回会議のために配布いたしました資料は,本日席上にお配りいたしました資料目録記載のとおりでございます。部会資料12は家事審判手続の各論について取り上げているものでして,部会資料13は審判前の保全処分の手続の各論について取り上げているものでございます。また,部会資料12-1及び13-1は,各部会資料に対していただいた御意見等を事務当局で取りまとめたものでございます。内容につきましては後ほど御説明させていただきます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   前回は部会資料11及び11-2の「第22 未成年者等を養子とするについての許可」まで終わりましたので,本日は部会資料11及び11-2の「第23 養子の離縁後にその未成年者後見人となるべき者の選任」から審議をお願いしたいと存じます。   そこで,まず,部会資料11-2の「第23 養子の離縁後にその未成年者後見人となるべき者の選任」及び「第24 死後離縁をするについての許可」に関しての説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 それでは,御説明いたします。  「第23 養子の離縁後にその未成年者後見人となるべき者の選任」の4の「審判の告知」についてですが,部会資料11におきまして,未成年者に対して告知することを記載しなかったのは,未成年者が即時抗告権を有していないことと,未成年者に対しては未成年後見人等に選任された者や申立人から知らせればそれで足りるのではないかと考えたからであります。なお,この点は,部会資料11-2で取り上げた事件についても同様でございます。   6の「その他」ですが,ここについては,申立てを取り下げた場合,離縁はされないことになり,養子は結局親のもとで養育されることになりますので,未成年者に親権者や未成年後見人がいない状態は発生しませんから,申立ての取下げについて特に許可を要するものとする必要性はないのではないかと考えております。   第24の「死後離縁をするについての許可」の2の「事件係属の通知」についてですが,ここであえて記載いたしておりますのは,ここだけは人事訴訟法との関係が特殊なので,問題になるのではないかと考えたからでございます。事件係属の通知の一般原則については,総則の際に御意見がございましたので,別途検討する予定でございます。   3の「陳述聴取及び審判の告知」ですが,我々としては,通知をしているので,それ以上特に不要ではないかと考えたところでありますが,御検討いただければと存じます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,第23から審議をお願いしたいと存じますが,特に審判の告知及び申立ての取下げに関して御意見が出ておりますので,こういったあたりを中心に審議をお願いできればと存じます。いかがでしょうか。審判の告知と申立ての取下げに関しては,考え方はただいま事務当局から説明があったとおりですが。 ○増田幹事 審判の告知については,資料11-2に書かれているとおりですが,第35以下も含めて子どもの利害に大きな関係があるものについては,子どもに対して審判がなされたこと及びその内容を知らせ,あわせて不服申立ての機会を保障すべきであるという見地から,告知すべきであるという考え方を申し上げました。 ○伊藤部会長 ただいま増田幹事から,告知すべきであること,それから不服申立てについてもその機会を保障すべきであるという趣旨の御発言がございましたが,これに関してはいかがでしょうか。 ○脇村関係官 増田幹事に1点お伺いしたいのですけれども,未成年者後見人となるべき者の選任に対しての即時抗告も認めるべきだという前提でよろしいのでしょうか。 ○伊藤部会長 増田幹事,いかがですか。 ○増田幹事 第23につきましては即時抗告を認めるべきだという意見ではありません。ほかのところでは,認めるべきところがあるということです。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。 ○長委員 私は,担当官の御説明の理由で,原案の方がよろしいと思います。というのは,そこに既に説明されているのですけれども,この事件の場合に未成年後見人となる方から伝えていただければそれで足りるのではないかと思いますので,そのように思います。 ○伊藤部会長 分かりました。増田幹事からの御意見と,それから長委員からは,むしろ原案のような考え方が適切なのではないかという,そういう意味では相異なった意見が述べられておりますが,ほかの委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○杉井委員 私も結論的には増田幹事の意見に賛成です。未成年者後見人になった人から言われるのと裁判所からきちんと告知されるのでは子どもの受け止め方も違うと思いますし,何よりも一番の利害関係を持つのが未成年者ですので,その未成年者にやはり告知すべきであると考えます。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。内容を広い意味で告げるべきだという点に関しては,お考えは共通かと思いますが,それを裁判所からの告知という方式をとって行うべきなのか,それとも後見人になる方から告げるのがより事柄の性質上適切なのか,そういうあたりの考え方の違いかと思いますが。ほかには御意見はございませんか。   もし特段ございませんようでしたら,ただいまのことを踏まえてなお検討させていただきます。   ほかには第23の関係,取下げの関係はいかがですか。理由としては,ここで特段の制限を設けないという考え方の理由は,先ほど説明があったとおりですけれども,この点も御意見が寄せられているようですけれども,何かこの場でのお考えがありますでしょうか。 ○増田幹事 すみません,勘違いですので,そこは消しておいてください。それは結構です。 ○伊藤部会長 では,この点に関しては,この場では特別制限を設けるとか,あるいは許可に係らせるとか,そういったたぐいの御意見はないと承ってよろしいですか。 ○道垣内委員 聞くは一時の恥といいますので,分からないところを聞くだけなのですが,結局,離縁後に未成年後見人となるべき者が選任されるときには,即時抗告は申立人だけができるということなのですか。 ○脇村関係官 第23につきましては,認容審判については,即時抗告はできませんが,却下審判については,申立人のみいえるものとしています。却下になりますとこの後の離縁とかが進むことはあり得ませんので,却下については認めるということで原案としては考えているところでございます。 ○道垣内委員 そうしますと,未成年後見人となるべき者が選任されて,その人からその子に対して,僕が未成年後見人になるべき者になったよというのが伝えられたからといって,何らの法的効果も発生しないということですね。 ○脇村関係官 法的効果は,そうですね。ただ,離縁が成立した後はその人が未成年後見人になるわけですので,何も知らないまま行くということは……。 ○道垣内委員 しかし,それはその人が未成年後見人になったときの話ですね。そうすると,そのことは,ここの議論をする際に関係ないような気がするのですが。それには何の効果も発生しないのであれば。 ○脇村関係官 私の理解が誤っているのかもしれませんけれども,ここで即時抗告権を認めないけれども,養子について告知をすべきかどうかという議論になっているのは,即時抗告の関係ではもう法的効果はありませんので,ただ,その後,後見人に選ばれた人が未成年者のために働く際にそのことを何も子どもが知らないというのはおかしいのではないかという,そういった点をどのような方法で解決すべきかという議論だと思います。その方法としては先ほどのように意見の相違があるのだと理解しています。 ○道垣内委員 分かりました。 ○伊藤部会長 よろしいですか。   それでは,次の第24に参りたいと思いますが,先ほど,「事件係属の通知」について,それを取り上げるべき理由と,それから「陳述聴取及び審判の告知」に関しての意見とそれに対する考え方の説明がございましたが,第24に関してはいかがでしょうか。   まず,「事件係属の通知」をここで取り上げている理由に関しては,先ほど人訴の規定との関係での説明がございましたが,これはよろしいでしょうか。   もしそういうことで御了解いただけるのであれば,もう一つの「陳述聴取及び審判の告知」に関して御意見が寄せられているようでありますが,この点に関してどなたか御発言ございますか。 ○増田幹事 資料11-2に書かれたことで理由は尽きているのですが,やはり効果が重大なので手続保障をすべきだという考え方です。 ○伊藤部会長 分かりました。増田幹事からは,ここに記載の意見の内容をやや敷衍して御説明がありましたが,これに対してはいかがでしょうか。 ○小田幹事 趣旨説明で,人事訴訟法第28条並びと言われたと思います。そこでは,裁判所が通知をする,その後,通知を受けた者がどうするかというのは,関心があれば参加するという規律だったと理解しております。そうすると,こちらでも事件係属の通知がされましたら,いろいろな参加の規定も整備された上で,必要な方が参加してその後の通知を受けるというものと理解されるので,それをしていない人に改めて不服申立ての機会ということで再度通知ということは必要ないのではないかと思っております。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。これも先ほどの議論とやや似たところがございますけれども,実際上知る機会を与えるという点では事件係属の通知で賄えていて,それに加えて更に陳述聴取や審判の告知を必要とするだけの理由,合理性があるかどうかというあたりでの考え方の違いかと思いますが。 ○山本幹事 事務当局に確認したいのですが,この事件係属の通知というのは,事件が係属した後で記録上氏名や住所,居所が判明する,審理をしている間に判明するということになった場合には,その時点で判明した人に対して通知をするということも含んでいると理解してよろしいのでしょうか。 ○脇村関係官 特に補足等でそういった点は書いておりませんが,途中で気づいたときも含めて,記録上明らかになったときにはするということを想定していたところでございます。 ○山本幹事 そういうことであれば,基本的には家庭裁判所は,そういう人がいるのだということが分かるごとに,分かる限りで通知はしていくということですので,先ほど小田幹事が言われたように,それで本当に利害,関心がある人は参加してくるということだと思いますので,改めて裁判所の方から別途陳述聴取をしたり告知をしたりするまでの必要は,手続保障の観点から見れば,私はそこまではなくてもいいのかなという感じはします。 ○増田幹事 資料11-2に書いてある意見は,通知では足りないということなのです。通知では到達するかどうかという保証がないということも一つの理由なのですが,あと,通知が届かなかったとか,通知がなかったということを後で争えるのかという疑問がありまして,恐らく原審で通知がなかったことを上級審で争うことは難しいのではないかと思います。そういうことも踏まえて御検討いただければと思いますが。 ○伊藤部会長 分かりました。確かにおっしゃるような問題の可能性はあるかとは思いますが。いかがでしょうか。 ○三木委員 陳述聴取に関する実務を伺いたいのですけれども,実務ではこういう場合に代襲者に対する陳述聴取というのはやっているものなのかどうなのか,ちょっと実務の状況を教えていただければと思います。 ○伊藤部会長 これはどなたにお答えいただいたらよろしいですか。裁判所の関係の方とは思いますが。あるいは,少しお考えになってからでも結構ですが。 ○小田幹事 まず,端的にきちんと実情を把握しているところではございません。ただ,事件数自体がどれだけ多かったかということと,それと死後離縁の許可の中で更にこういう相続権が発生するような場合がどれだけあるかということになると,いま一つそこまで数字がとれていないものですから,実情を十分に把握できてございません。 ○平山関係官 補足させていただきますと,死後離縁の許可自体は年に何千件かあるのですが,実務上,大多数は養子の側から申し立てられていると思います。まず養親から申し立てられる例が余りないというのと,その中で更に代襲相続人がいらっしゃる事件がどれだけあるかということかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ありがとうございます。   というのが実情で,それを踏まえて事件係属の通知―事件係属の通知の意義については先ほど山本幹事と脇村関係官との間でのやりとりがあったとおりですが,それで足りるのか,更にそれを,そこにとどまらずに陳述聴取,審判の告知というところまで,いわば手厚い手続保障を与えるのか。当然のことながら,手続保障という面と手続の迅速な進行というのは互いに反すると言ってはあれですけれども,調和をとらなければいけない問題であるということも御認識のとおりでありますが。 ○三木委員 実情を御質問した趣旨を若干述べたいと思いますが,私はもちろん共通はしているのですけれども,告知の問題と陳述聴取の問題は必ずしも同じではないと考えます。告知の方は,先ほど来,事務当局からの御説明があったり,あるいはほかの委員の方がおっしゃったように,通知の手続で実質的には足りるかなという気がしております。   他方で,陳述聴取の方ですが,これは正に御質問申し上げた趣旨にかかわるのですけれども,養親側からの死後離縁の申立てというのが現実にはどういう状況でどういう動機で行われることが多いのかということが分からないと,我々研究者はよく理解できないところです。例えばですが,現実に相続争い的な要素が強いというようなことが仮にあるのであれば,当然相続権者である代襲者からの陳述聴取は必要ですし,実務で規定がなくてもやられているのだろうなと思って伺ったわけです。ただ,そういうことが養親側からの死後離縁の申立ての背景にどれぐらいあるのかがよく分からないので,したがって陳述聴取の実質的必要性が必ずしも判断し難いということで御質問したということです。したがいまして,もし仮に相続争い的な要素が強いのであるとすれば,陳述聴取の方の規定はあった方がいいかなという気がいたしております。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか。三木委員からただいま御趣旨の説明があったとおりでありますが,養親側からの死後離縁の申立事件のいわば紛争の実態というものを踏まえた場合に,果たして陳述聴取までの必要があるかどうかという視点で考えなければいけないのではないかということでございますが,そのあたりは,先ほど平山関係官の御発言によりますと,それほど養親側からのものが多いということではないようですが,もしどなたか更に今の三木委員の御発言に関連して御意見等ございましたら,お願いいたします。 ○金子幹事 死後離縁の許可の審判に対して利害関係人が即時抗告をするという規律になっているのは,結局,法定血族関係が終了するのに伴って,相続権等の諸権利が喪失する者がいるために,利害関係人にも即時抗告を認めることにしたという説明はなされているところです。その趣旨からすると,一つの選択肢としては,陳述聴取の機会を設けるというのはおかしくはないのだとは思っていますが,他方,先ほど話題に出ておりましたとおり,同じような利害状況にある人事訴訟においては,そこまでの手続保障はしなかったという,そことの平仄の問題も考えなければいけないかなと思っているところです。ですので,理屈の上で,あっておかしいというものではないとは思っていますが,他方,人事訴訟との平仄ということも考えて,今のところ事務当局としては,通知は必要だけれども陳述聴取までは,その通知を受けた者からのアクションを待ってということでもよろしいのではないかということにした次第です。 ○三木委員 通知を受けた者が係属している手続に関心があれば,参加することで対応すればよいではないかというのはやや厳しい要求であって,やはり陳述聴取の機会があれば言いたいことはあるけれども,手続参加まではとても,裁判所の敷居が高くてそこまでのことはなかなか考えないという人はそれなりにいるのではないかという気がします。したがいまして,先ほど申しましたように,ちょっと実態が分からないので,どのぐらいその必要性があるのかに係るのですけれども,その点では,先ほどの告知との関係とこの陳述聴取は若干違うかなという気がしております。   それから,人事訴訟法の立法時の議論との関係ですが,言うまでもなく,人事訴訟法の立法時には,あくまでも本体は訴訟の方でして,それと関連する非訟の部分を最低限の手当てをしたという要素が強くて,今問題になっているような養親側からの死後離縁の申立てのような場合に陳述聴取の必要性がないというようなことまで判断して置かなかったというような経緯ではなかったと記憶しておりますので,そこは余り大した理屈にはなっていないように私は思います。 ○伊藤部会長 分かりました。ほかにいかがですか。もし御意見があれば承って,特にこれ以上なければ,ただいまの述べられた意見を踏まえて更に検討してもらうことにいたしますが,それでよろしいでしょうか。―はい。それでは,そのようにさせていただきます。 ○道垣内委員 いろいろ条文を繰りながら,分からないなと思いながら伺っているのですが,養子からの離縁の方が多いという話でしたよね。このときのことを考えますと,養子縁組がされているときには,養子に子どもがいないときには,養子と血縁関係のない兄弟姉妹,典型的には養親の実子ですが,これらの者は養子の死亡時には相続人になるのではないかと思います。ところが,離縁がなされますと,兄弟姉妹は相続権を失いますね。となると,そういう人に対しては通知はしなくていいのだろうかというが気になります。それで人事訴訟法第28条という引用されている条文を見ますと,ここでは利害関係人ということになっているわけですよね。規則第16条はまだ見ていないのですが,ここの利害関係人に,私が申した場合の兄弟姉妹は入るのでしょうか。入るのならば,こちらも平仄を合わせる必要があるのではないかという気がしたのですが。ちょっとこれは私の勘違いが含まれているのかもしれないのですが。 ○伊藤部会長 事件係属の通知の相手の範囲ですね。 ○道垣内委員 はい。なぜ養親の申立てのときだけをくくり出されたのかというのがちょっと分からなかったものですから。 ○脇村関係官 部会資料を作成した当時は,人事訴訟規則第16条の別表を見ながら,この限度でいいのではないかと考えました。道垣内委員のおっしゃっている点も踏まえてもう一度検討させていただきたいと思います。 ○道垣内委員 別表の13ですね。一応平仄はとれているのだということは分かりました。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。それでは,その点は検討させていただきます。   ほかに特段の御意見がないようでしたら,次に部会資料11-2の「第25 特別養子縁組の成立」から「第27 子を懲戒場に入れる許可等」に関しての説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 説明させていただきます。   第25の「特別養子縁組の成立」について御説明いたしますと,まず「陳述聴取」ですが,部会資料11では,特別養子縁組の成立においては,対象者が8歳未満でありますので,その者の陳述聴取によりその者の意思等を把握することは現実的ではないものと考え,特段規律を設けないものとしておりました。ただ,特別養子縁組の子の陳述聴取といいますのは,前回御議論いただきました,未成年者等を養子とするについての許可等の審判をする際に,15歳未満の子の意見の把握をどのように行うのかという問題と同じ問題であると考えております。未成年者等を養子とするについての許可等の審判をする際に,15歳未満の子の意見の把握をどのように行うのかについては,現在,事務当局において前回の御議論を踏まえて再度検討を行っているところであり,特別養子縁組の成立の際の陳述聴取等についてもあわせて再度検討を行っているところであります。したがいまして,この点については,未成年者等を養子とするについての許可等の審判と同様に,再度検討の結果を示させていただきたいと考えておりますが,特別養子縁組に特有の問題があれば御意見をいただきたいと考えているところでございます。   次に,「審判の告知」及び4の「即時抗告」についてですが,対象者が8歳未満であることからしますと,特別養子縁組の成立の事件において,対象者である養子となるべき者が意思能力を有しており,審判行為能力を有していると考えることには無理があるのではないかと考えております。したがいまして,養子となるべき者に対して審判の告知をし,その者が即時抗告をすることができると考えることには無理があるのではないかと考え,部会資料11のとおりさせていただいているところでございます。   次に,第26の「特別養子縁組の離縁」の「審判の告知等」について御説明いたします。当局としては,一定の事件について,子,未成年者に対しても裁判所が審判の内容を知らせるべきであると考えているところです。しかし,他方で,その年齢とか発達程度等を考慮せずに裁判所が子に対して常に審判の内容を直接知らせるということにも無理があるのではないかと考えております。そこで,子の年齢と発達程度等を考慮した上で,裁判所が直接知らせるべき場合を選別する必要があると考えております。   また,子,未成年者に審判の内容を知らせるべき場合において,その知らせたことをもって子,未成年者の即時抗告期間の起算を開始するということは相当ではなく,子,未成年者の即時抗告期間は申立人に対して告知を行ったときから進行すべきと考えております。これは,子,未成年者の即時抗告期間が子ども等に審判を知らせたことをもって起算するとの法律効果を発生させるには,その知らせを受けるだけの能力,すなわち受告知能力が子どもに必要であると考えておりますが,実際に子どもにそのような能力があるとは限らないということからでございます。   以上をどう表現するかということですが,部会資料11では,子の福祉を害するかどうかを要件とするとともに,一般に審判の告知を受けた者の即時抗告期間は審判の告知を受けた日から進行するものとしていたので,審判の「告知」ではなく「通知」と表現しているところでございます。審判について知らせる場合には,告知をするというふうに前回御説明させていただきましたが,ここではその整理とはやや異なった整理をしているところでございます。通知とするか告知とするかについてはなお検討させていただきたいところでございますが,直接知らせることに要件を設ける,あるいは即時抗告期間の起算点について実質につき御検討いただければと考えているところでございます。   「即時抗告」のところですが,原案においても,認容審判に対しては養子に即時抗告権を認めております。しかし,離縁の申立てを却下する審判については,申立人でなかった養子に即時抗告を認めるまでの必要はないのではないかと考え,即時抗告権を否定しているところでございます。   第27の懲戒場のところですが,この点については御意見をいただいているところですけれども,我々としては,部会資料11に書いているような理由から,差し当たり現行法の規律を維持するということでどうかと考えております。   以上です。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,まず第25の「特別養子縁組の成立」の「陳述聴取」についてですが,原案に書いてある考え方は考え方として,ただいま脇村関係官から説明がありましたように,未成年の場合との関係でこのあたりはなお検討したいということのようですので,それを踏まえまして,特にこの段階で特別養子縁組に関して,陳述聴取に関する御意見があれば承っておきたいと存じます。いかがでしょうか。ここに記載されている,寄せられた意見の内容を補足していただくことでも結構ですが。 ○増田幹事 先ほどの脇村関係官の御説明どおり,改めて検討していただくということで結構でございます。 ○伊藤部会長 分かりました。それでは,その点はそのようにさせていただきます。   同じ第25の「審判の告知」と「即時抗告」に関してはいかがでしょうか。特別の規律を設けないということについての説明は先ほどあったとおりでございますが。 ○増田幹事 ここについていえば子どもが特に小さいのでいろいろと問題があるかと思いますけれども,子ども関係全般について,基本的に陳述聴取と審判の告知と即時抗告をセットとして考えているということです。告知の点については,受告知能力が問題になるということは成年被後見人のところで議論したのと同じことになると思いますが,もし受告知能力という点で分けるのであれば,例えば通知の規定を入れるとか,そういった点を御検討いただきたいと思います。それから,即時抗告については,だれがもっとも利害関係を持つかという観点から御検討いただきたい。すなわち,ここは子どもの権利,こういった自分が自分自身の生育環境に重大な利害関係を持つような審判手続について関与していく権利というものを総合的に考えていただきたい,こういうふうに希望します。 ○伊藤部会長 ただいまの増田幹事からの御発言,陳述聴取,審判の告知,不服申立てを一体として子ども自身の利益を主張する機会を与えるという意味での意見であると御説明がございましたが,これに対してほかの委員・幹事の方,何か御発言ございますか。 ○長委員 子の福祉という観点から考えたときに,必ずしも一律に通知なり告知をするというところに結びつくわけではないのではないかというのが実務的な感覚です。したがいまして,通知や告知をする場合に,画一的にされるというのは,私は賛成はしかねます。   ところで,部会資料11の46ぺージの3の②の書き方なのですけれども,ここのところはまた表現などは恐らくお考えになるところなのだろうと思いますけれども,現在の書き方からすると,養子の福祉を害すると認める場合には告知をしない,害すると認められるかどうか分からないときは告知をする,こういう立て方なのですよね。逆に,害さない場合には告知をするという立て方もありますよね。ここのところはそれを区別なさったのは何か理由があるところなのですか。 ○脇村関係官 今,長委員がおっしゃったのは,特別養子の離縁の方に書いている審判の告知だと思うのですが,我々としては,子どもに即時抗告権がまず認められるかどうかによって,そもそも審判の告知を裁判所が直接するかどうかを区分けしておりまして,即時抗告権の保障という観点からすると,害すると認められない限りは,しないといけないというのが,手続保障の観点からは妥当ではないかと思ってさせていただいたところでございます。ただ,ここはいろいろな御意見があると思います。 ○伊藤部会長 長委員,よろしいでしょうか。 ○長委員 はい。 ○杉井委員 私も,子どもに対する陳述聴取,審判の告知,即時抗告,それは全部つながっている問題だろうと思うのです。確かに現状では,年齢の低い,とりわけ特別養子のような8歳以下というときには意思能力もないのではないかということで,こういった手続保障は必要ないということになろうかとは思うのですが,しかし,弁護士会などで議論し,今までも意見を述べておりますように,子どもの代理人という形で子どもを代理補佐する,そういう特別なまた制度ができるとすれば,それはやはりその代理人なり補佐人を通じて子どもの意見陳述や即時抗告とか,そういうこともできるわけでして,そういうことで考えるならば,子ども自身に手続保障をきちっと権利として認めておくという必要があるのではないかと思います。その辺も踏まえて御検討いただけたらと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。確かにおっしゃるように,ほかの制度との関係ももちろんあるわけでございますが,ほかにいかがでしょうか。 ○小田幹事 年齢については,今,杉井委員からも少し触れられておりましたが,原則は6歳未満ということと思います。そこで,子どもについての陳述聴取,告知,即時抗告,セットということで,今ここでは特別養子縁組の成立を基本的に議論しているのだと思うのですが,成立の場面での年齢をどう考えるかということは大きいと思います。もともと事務当局からも御説明があったとおり,自分に関係あることについて本人にも知らせる,それが手続保障だという考え自体が否定されることはなかろうと思います。他方で,特別養子縁組の成立が6歳未満に限られているというのも,特にこの類型においては非常に重要です。一般的な言い方にはなりますけれども,6歳未満であればどれだけ,15歳等と違って,制度のつくり方として,そこまででなければ肉親関係を切るような養子関係の成立を認めないという考え方の背景としては,やはり子ども自身の判断能力に重きを置くというよりは,周りが子どもの福祉のために何がいいかというのを考えるのが主な制度であろうと思っております。そういった点から,ほかの類型よりもこの特別養子縁組において,陳述聴取,即時抗告,告知というのはかなり後ろに引く,感覚的な言葉で恐縮ですが,そういうことが言えるのではないかと思っております。 ○鶴岡委員 これは特別養子に限られたことではないかとは思いますが,真実の告知という問題があります。特別養子をした親がいつも悩んでいるのは,いつこの事実を子どもに伝えるかということであり,いろいろ議論もありました。新しい親子関係の円滑な形成と,子どもが実の親あるいは養子になったいきさつを知る権利というものとのせめぎ合いだと思うのですけれども,子どもが,自分は何者であるかという,そのアイデンティティーの形成につながる効果を,陳述聴取にしろ告知にしろ持っていると思われます。私は,伝える時期,タイミング,方法については,新しい親子関係の形成のプロセスを見ながら慎重にやる必要があると思っています。したがって,それを一律に通知していくということになると,子の側の健全な発達という点で,いろいろな配慮が必要なケースも出てくるのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 小田幹事,鶴岡委員からは,特別養子縁組というものを介在とした家族関係といいますか人間関係の形成という点から見て,必ずしも陳述聴取等の対象に常にするということが制度の本旨と調和するのかどうかという視点からの疑問があったように思いますが,いかがでしょうか。ほかの委員・幹事の方にも御発言をお願いできればと存じます。山田幹事,いかがですか。 ○山田幹事 大変難しい問題ですが,現時点では,私も,陳述聴取を受ける権利と,告知を受け,あるいは即時抗告をする権利ないし地位は分ける可能性があるように考えております。その理由は,先ほど三木委員が言われたことに関連するように思いますけれども,少なくとも,いかに子どもであっても最も利害関係のある者なので,何らかの方法で自己の意見をきちんと聞いてもらうという独立した地位はあるように思います。ただ,後にそれがどのように自分の法的地位に結実するか,逆に,自分が何かを言わなければ利益や地位を守れないというような重い責任を負わせるということは,避けなければならないように思います。そういう意味で申しますと,理論的には陳述聴取を受ける地位を認めるが,実際の方法については様々な工夫を施すという制度の立て方というのもあり得るのかなと考えております。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。ほかにはございませんか。   そういたしましたら,これも大変重たい問題でございますが,ただいま大きく分ければ2種類の意見がこの場で述べられたように思いますので,それを踏まえて以後の検討を進めることにいたします。   関連する問題ですが,「第26 特別養子縁組の離縁」の方に関しても,養子に対する告知とか,あるいは不服申立ての関係で問題の指摘とそれに関する説明が先ほどございましたが,この点何か御発言ございますでしょうか。 ○山本幹事 即時抗告のところなのですが,先ほどの御説明によれば,申立てを却下する場合には申立人にだけ認めて問題ないのではないかという御説明だったように伺いましたが,ほかのところでは,申立てを却下する場合に,申立権者一般に即時抗告権を認めているところもあるように思います。養子縁組の離縁というのは,要件としては養親による虐待とか悪意の遺棄というようなものが争点になるので,そういう意味ではかなりシビアな問題のような感じがして,そういう意味では親権の喪失なんかとも似たようなところはあると思うのですが,親権の喪失のところは即時抗告は申立権者に一般的に認めているように思いまして,そうだとすれば,ここも却下に対する即時抗告は比較的広めにとっておいた方がよろしいような感じもいたします。 ○伊藤部会長 これは,脇村関係官,何か説明がございますか。 ○脇村関係官 私の理解では,現行法でも却下については申立人に限っているのだと理解しているのですけれども,そこをあえて変えなくてもいいのではないかとは思っておりました。 ○伊藤部会長 分かりました。今,山本幹事から御発言がございました,却下の審判に対して,申立人以外の申立権者にも不服申立権を認めるべきだ,それが事柄の実質にも沿っているのではないか,こういう御発言ですが,ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ○高田(裕)委員 総論の即時抗告のときに申立権者にするか申立人にするかという議論があったところで,実質的には申立権者は抗告権が否定されても改めて申し立てればいいということだろうと思いますが,ここで申立権者を入れるということは,従前の手続を利用して更に抗告という形で争うことができることを認めるかどうかということにかかるのだろうと思います。その差をどうとらえるべきかを先ほどから考えているのですけれども,確か即時抗告一般のときの議論として,申立権者に広げることに対しては若干違和感がありえたところではなかったかと思うのですけれども,そうした全体とあわせて改めて御検討いただくということでいかがでしょうか。 ○伊藤部会長 分かりました。ありがとうございます。実務的な感覚としてはどうなのでしょうか,こういう場合に。実質は,今,高田委員からの御説明があったとおりの,それだけの違いかという気もするのですが,申立権者という形で広げておくことが実際上意味があるかどうかということで。 ○増田幹事 これは感覚的な話でして,ほかの先生方は違うかもしれないのですが,もし原審が却下だったとして,別の申立権者から依頼を受けたとすると,その手続を使うよりも新たに申し立てるのではないか。私ならそうすると思います。 ○豊澤委員 特別養子縁組の離縁の場合には,養親の方の監護に問題があるというのと,もう一つは,実父母の方で相当の監護ができる,二つの要件がそろわないと離縁が認められない,こういう類型です。実父母が申立人となるという場合が多いだろうと思うのですが,その場合に仮に申立てが何らかの理由で却下された場合に,申立人,子どもを監護する側に回るはずの実父母自体が却下審判に対して不服申立てをしないということであるとするならば,それに対する子どもやその他の者の即時抗告を認めるというのは,ちょっといかがなものかという気がいたします。申立てをした者が却下審判に対して抗告できるという現状の規律で賄えているのではないかと思います。 ○三木委員 よく分からないので想像というか仮定的な前提でお話をするのですが,高田委員がおっしゃった話で,これが申立人ではなくて申立権者一般に即時抗告権を与えるかという議論にすべてくくれるのかという点であります。抽象的に申し上げれば,二つの類型があるのではないかと思います。一つは,決定自体が事実認定的な要素を余り含まないものと,それから原決定が一種の事実認定的な要素を含む場合で,本件で問題になっている特別養子縁組の離縁は,民法に規定があるように,虐待とか悪意の遺棄という事実を認定しないと原決定が出させないわけですね。したがって,いろいろな却下の理由はあるでしょうけれども,却下の中には,そういう事実はなかったという理由で却下する。そのときに,もちろん申立権者ですから別途申立ては起こせるのですけれども,その事実自体を抗告で消したいと。そういう認定をですね。それはもちろん事実上の問題でしかないのですが,しかしそういう決定が事実認識を誤っているので,決定自体を消しておきたのだというような動機が実質的にある場合があるのではないかという気がします。先ほど言いましたように,抽象的に考えればということで,現実にそういう例はもちろんそれほど頻繁にあるわけではないと思いますが,要するに,そういった要素がこの場合にはちょっと強い。純粋に事実認定的な要素がないケースとは必ずしも同じではないのではないかという気がするわけです。したがって,仮に一般的なというか,事実認定的な要素がない類型について別途申立権者は申立てを起こせばいいのではないかという議論が妥当する―私も妥当すると思いますけれども,妥当するとしても,そうではない,事実認定的な要素を含んでいるものについては即時抗告で争うことも認めるという選択はあるのではないかという気がしました。 ○山本幹事 繰り返して恐縮ですが,私の申し上げた意見は,特別養子縁組の離縁についての意見ではあるのですが,その全体のバランスというか,申立てを却下した場合についての即時抗告権者全体の規律のバランスの整合性というのがどうかという問題提起をさせていただいた部分もあるというつもりです。先ほどのいろいろな御意見を伺うと,それは例えば親権の喪失宣告についても同様に妥当するような御意見も多かったように思いますが,原案は,親権の喪失の場合には,これは申立権者に,申立人だけではなくて子の親族等にも認めているわけですので,全体のバランスの中で御考慮をいただいて申立人だけに限定するという選択肢をとられるとすれば,それは私もそういうことかなとは思いますが,そのあたり全体的な御検討をお願いできればと思います。 ○畑幹事 すみません,前回に御説明をいただいたことであるかのような気もするのですが,ほかの申立権者は権利参加はできるということでしたでしょうか。 ○脇村関係官 はい。 ○畑幹事 とすれば,権利参加とともに即時抗告をするということはできるのですか。 ○脇村関係官 即時抗告権者ではない人が却下あるいは認容等に対して参加した上で即時抗告するというようなことは想定していません。ここで申立人に限っているということは,それ以外に関しては基本的に認めないというスタンスですので,即時抗告権者ではない人が権利参加して即時抗告権を得て参加するというようなことは想定していないところでございます。 ○伊藤部会長 畑幹事,いかがですか。 ○畑幹事 民訴で言えば,参加というのは,一般的には裁判が確定する前であれば参加をして不服申立てもできると考えられていると思うので,若干違和感はないではないですが,実質を議論する方がいい感じはいたします。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,先ほど来お話があるような,申立人以外の申立権者に不服申立ての方法で却下の審判を争わせるべき合理性があるのかどうかという実質と,それから,先ほど山本幹事がおっしゃった,ほかの同様の審判についての不服申立権者についての規律との関係,そういうあたりを整理して,もう一度検討することにいたしましょう。   ほかにはよろしいでしょうか,この関係は。 ○長委員 参加して即時抗告をするということですと抗告審で更に審理をするということになりますが一審を充実させるような形の方が当事者及び代理人,それから裁判所にとっても審理はやりやすいような気がします。参加をするならば一審からさせて一緒にやった方がいいですし,参加の上抗告して抗告審だけで主張してそこで吟味するという形は,実務的にはちょっとやりにくいような感じもいたします。先ほど実務はどちらの方がやりやすいかという御質問がありましたけれども,可能であれば一審を重視するような形で構造を考えられたらという印象を持ちました。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○脇村関係官 先ほどから陳述聴取についてはいろいろ御議論があったと思うのですけれども,陳述聴取について規律を設けるとした場合に,原案でいいのかどうかも含めて,特に裁判所が通知するということになりますと,子ども代理人という議論もありましたが,仮にそれを設けなかった場合には,恐らく審判書等の郵便を送るとか,そういう方法になると思うのですが,そういったものを例えば小さいお子さん,2歳,3歳も入ってくると思うのですけれども,切り分けとしては,一応原案はそこは考慮して,福祉を害しないときは除くということにしているのですが,その点のところについて是非御検討いただければと思うのですけれども,どんなものでしょうか。 ○伊藤部会長 なかなか難しいところですね。これは杉井委員あるいは増田幹事から何か御意見ございますか。 ○増田幹事 私たちの方も鋭意検討中でございますので,後日改めて具体的な案を出したいと思います。子どもの代理人あたりと密接にかかわることですので。 ○伊藤部会長 分かりました。では,そういうことで御協力いただくということにいたしましょう。   そうしましたら,「第27 子を懲戒場に入れる許可等」に関しての説明と,それから意見ですね。こういう施設がないところでの議論というので,ちょっと現実感がないような話ではあるのですけれども,何か御意見ございますか。   もしございませんようでしたら,この(前注)に書いてありますように,民法の規定のこの規律の検討ともあわせて,今後どうするかを考えていくということでよろしいでしょうか。―はい。   そういたしましたら,次に,「第31 親権又は管理権の喪失の宣告」から「第33 親権又は管理権の辞任の許可」についての説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 御説明いたします。   まず,「第31 親権又は管理権の喪失の宣告」の「審理構造」でございますが,親権又は管理権の喪失の宣告を調停により行うことができるのかについては,調停の対象事件が何であるのかを検討する際に別途検討する場を設ける予定ですが,現時点では,親権又は管理権の喪失の宣告を調停により行うことはできるものとするということは考えておりません。これは,親権又は管理権の喪失は,申立人と親権者との間の合意で処理することが相当であるとは考えていないからでございます。ただし,親権又は管理権の喪失の宣告事件が調停を行うことができないものであったとしても,その事件の特殊性等を考慮し,審理手続を対審的なものとすることはあり得ることであると考えているところでございます。   もっとも,部会資料11では,確かに申立人と親権者との間で意見対立がある場合が多いとはいえ,親権の喪失等については,子の福祉の観点からできるだけ迅速に処理しなければならないことを考慮いたしますと,これまで調停することができる事件として議論してきた規律のすべてを及ぼすということは相当ではないのではないか,また,親権者の手続保障としては,必要的審問の規律を設ければ最低限図ることができるのではないかと考え,親権者の手続保障として必要的審問を導入することに限って提案させていただいているというところでございますので,そういう前提にさせていただいているところでございます。   次に,「即時抗告」について御説明いたしますと,部会資料11では,認容の裁判に対しては親族として子は即時抗告することができるが,他方で,申立却下の裁判に対しては子は即時抗告することができないとする現行法の規律を維持することを提案しております。これは,民法第834条,第835条において,子の親族又は検察官が親権又は管理権喪失の宣告を請求することができるが,子自身は請求することができないことからいたしますと,申立却下について認めるということは相当ではないのではないかと考えたからでございます。   次に,第32の「親権又は管理権の喪失宣告の取消し」の「即時抗告」についてですが,部会資料11では,認容の裁判所に対しては子は即時抗告することができないが,他方で,却下の裁判に対しては親族として子は即時抗告をすることができるとする現行法の規律を維持することを提案しております。これは,先ほどのとおり,子自身は親権等の喪失の宣告を請求することができませんが,他方で,民法第836条において,親族として子が親権又は管理権喪失宣告の取消しを請求できることからいたしますと,親権等喪失宣告の取消しに対しては不服申立てを認めないが,他方で,申立却下に対しては不服申立てを認めるのが相当であると考えたからであります。   第33の「親権又は管理権の辞任の許可」の3の「審判の告知等」について御説明いたしますと,部会資料11では,子が即時抗告権を有していないことや,子に対して裁判所ではなく辞任した親権者等からその結果を知らせれば足りるのではないかと考え,審判の告知については特段規律を設けないものと提案しているところでございますが,恐らく先ほどと同じ議論であると思いますので,そういった議論を踏まえて再度検討したいと思っております。   以上です。 ○伊藤部会長 そういたしますと,まず,第31の「親権又は管理権の喪失の宣告」に関して,そもそもその審理構造をいかにすべきかというので,相手方のある事件と構成しないという考え方に対して,寄せられた意見は,相手方のある事件に属する類型として考えるべきであるという,そもそもの問題が一つと,それから,とはいえ,利益というか対立があるということも現実でありますので,それを踏まえて対審的な構造を取り入れること自体の必要は認められるけれども,それをどの範囲で取り入れるのかというあたりに関しても考え方が分かれ得るところだと思いますので,まずこの「親権又は管理権の喪失の宣告」の審理構造に関して御審議をお願いできればと存じます。いかがでしょうか。―この場で特段の御意見がなければ,先ほど脇村関係官から説明があったような方向での考え方に納得いただいているものと承ってよろしいでしょうか。 ○増田幹事 今ちょっと意見を述べるのが遅れたのは,実務的には脇村関係官の御意見とそう大した差はないのかなと思ったからです。ですから,調停に関して後回しにして,調停をすることができる事件をどうするかということを別に検討する前提で,相手方のある事件として必要的審問を入れてということになるならば,調停をすることができる事件として制度を組むということにどれほどの意味があるかということだと思うのです。手続保障をきちんとするというのが意見の趣旨でございますので。 ○伊藤部会長 脇村関係官からの,具体的な手続保障の在り方として親権者の陳述聴取ということが入っているという趣旨の説明がございましたが,そういった具体論に関しても何か御意見がございますか。 ○杉井委員 私も,脇村関係官から,陳述聴取あるいは必要的審問は考えるべきだという御提案を聞いて,それは大いに賛成なのですが,ただ,手続保障と言った場合に,自分が過去やったことがある実務の経験からすると,記録の閲覧謄写とか,非常に実質的な相手方から見ますとすごく必要なのですね。そうした場合に,要するに陳述聴取とか必要的審問というのは,あくまでも裁判所に対して申立人,相手方がそれぞれ述べるということではありますが,それぞれお互いの相手方がどういうことを陳述し,どういう書面を出しているか,そしてまた,どういう資料を出しているか,証拠を出しているかというか,そういうことについて相手方が分からないというのは,非常に手続保障としては欠けているという気がするのです。また,分からないということから非常に紛争が逆に激化するというか,疑心暗鬼が出てくるという実感があるのです。ですから,陳述聴取と必要的審問だけで手続保障が足りるのかということになると,私としてはややまだ疑問という感じです。 ○伊藤部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○脇村関係官 杉井委員がおっしゃっていることもよく分かるというか,それはそうだと思っているのですけれども,相手方のある事件というか,調停をできる事件についてすべて及ぼすのはどうかと思った一番の理由としては,一つは,終結を入れてしまうと明らかに延びるのは間違いないと思いますので,さすがにそれはやり過ぎというか,迅速に処理するのを相当阻害するのではないかと思っております。   他方,調停をすることができない事項の事件,今ですといわゆる甲類事件についても,確かに探知の告知をどうするかという話はありましたけれども,閲覧に関しては,やや要件についてはまだ議論があるところですが,原則として開示をし,閲覧できるという点については争いがないと思っておりますし,これまでの議論からいくと,親権者が権利参加するということも,まだあれですけれども,雰囲気としてはそういった流れの話もありましたので,必要的審問を入れた上で権利参加ができるという結論になった上で,閲覧謄写が見ようと思えば見られるという状態になれば,杉井委員のおっしゃっていた点については,多くの点は解決するのではないかとは思っております。ただ,確かにそもそも今言った前提がまだすべて固まっていない段階で,現時点でこれでというのが納得できないとおっしゃるのはそのとおりだと思いますので,当局としても全体を見ながら検討を進めていきたいと思っております。 ○伊藤部会長 ほかに御意見はございませんか。先ほど増田幹事からも御発言があったように,審理構造のところだけ見ると随分考え方が違うように見えますけれども,しかし,特に親権者についての陳述聴取であるとか,それから場合によっては記録の閲覧等の個別的な手続保障に関する規律をどう考えるかということについて合理的な結末が出てくれば,それほどそもそも論のところで見られるようなほどの対立はないのではないかという感じを受けますけれども,そういう,むしろ実質を考える,相手方のある事件に関する規律のうちのどれだけを取り入れることが合理的かという点で考えていくということでいかがでしょうか。よろしければ,そういうことにいたしましょう。もちろん,なお関連する部分でいろいろ御意見をいただくのは当然のことではございますけれども。   ほかにこの「親権又は管理権の喪失の宣告」に関して御意見はございませんか。 ○増田幹事 資料11-2の意見のところで述べていなかったので恐縮ですが,管轄の問題で,確かに子の住所地を原則とするというのは,筋としてはおっしゃるとおりなのですが,実際には虐待等のケースで子の住所地が分かると支障があるというケースがないではない。そういう場合に備えて,親権者の方の住所地も選択的に管轄に入れていただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○伊藤部会長 脇村関係官,お願いします。 ○脇村関係官 ここは,もともとが現行法であれば親権者のところなのですが,やはり子の状況を知るためには住所地の方がいいのではないかと思っていたところであります。ただ,今確かに増田幹事がおっしゃったように,住所が分かってしまうのは問題だというのは,ここに限らず,いわゆるDV事案についてもそうだと思うのですけれども,それについて実務上そういったDVにおける対応等で,原則としては子の住所地だけでも何かできること,そういったので対応できるということであれば今の原案でも結構だと思いますし,他方で,やはり無理だということであれば何らかの方法を考えないといけないと思いますので,今の御意見を踏まえて,もう少し当局の方で現状を踏まえて検討させていただければと思います。 ○伊藤部会長 それでは,増田幹事からの御指摘の趣旨は十分共有できていると思いますので,その点は検討させていただくことにいたしましょう。   ほかにいかがでしょうか。―よろしいですか。   そういたしましたら,次の「第32 親権又は管理権の喪失宣告の取消し」ですが,ここに関してはいかがですか。―先に進んでよろしいでしょうか。 ○増田幹事 一般論以外に何か付け加えるという趣旨ですか,それは。付け加えてくださいという趣旨ですか。 ○伊藤部会長 一般論とおっしゃるのは。 ○増田幹事 子どもの権利に関する一般的な即時抗告権の議論以外に,特にこの場合にということですか。 ○伊藤部会長 この意見として書かれていることの御趣旨ですね。 ○増田幹事 はい。先ほど一般論として申し上げたとおりなのですけれども,このケースで申し上げるならば,もともと親権を喪失するような親が戻ってくることについて,本当にいいのかどうかというのは,やはり子どもの利害に与える影響が大きいということです。 ○伊藤部会長 分かりました。ただいまの増田幹事からの,子による不服申立権に関する御発言に関して,何かほかの委員・幹事の方で発言ございますか。 ○金子幹事 子どもの即時抗告が認められるかどうかということにつきましては,多少ルールめいたものが横断的にありまして,親を,あるいは未成年後見人が奪われる場合には即時抗告を認め,それが復活するとか,それから奪われる申立てが却下されて現状維持というようなものについては即時抗告権を子どもには認めない,そういう一応のルール,恐らくこれは現行法もそうなのだと思うのですが,らしいものがある。それ自体がいいかどうかという問題があろうかと思いますし,今,増田幹事がおっしゃったような,いったん問題があった親について復帰させるということについてもやはり問題ではないかと言われればそのとおりですが,一応今の我々の案はそのような方向でつくってあるということです。 ○増田幹事 もともとそのようなルールがあるだろうなということは了解しております。ただ,奪われる方だけではなくて戻ってくる方もいいのか悪いのかというのは,今,金子幹事のおっしゃったとおりで,同じように大きな利害関係があるだろうと考えております。 ○脇村関係官 補足になるかもしれませんけれども,もともとこの辺の規律については先ほど言ったルールというのがあって,そのルールというのはもともとは民法の考え方を前提にしているものですから,そういった民法の考え方と違うものを,手続法を独自に設けるということがそもそもいいのかという問題がまずあるとは思うのですけれども,もう少し我々の方でも民法の考え方の基礎というのを検討した上で,ただ,そうはいっても,先ほどからの御意見では,それでも認めるべきだという御意見があるのは重々分かっておりますので,そういった点あたりをもう少し検討させていただければと思います。 ○伊藤部会長 ということですが,道垣内委員,何か今の関係で,そもそもの民法の考え方に根源があるということですが,御発言はございますか。 ○道垣内委員 もう少し民法の考え方を検討した上でまた。 ○伊藤部会長 よろしくどうぞ御協力いただければと思います。   では,次に「第33 親権又は管理権の辞任の許可」ですが,これについてはいかがでしょうか。60ぺージの「審判の告知」のあたりで御意見が寄せられているようですけれども,考え方としては,やはり子どもに対する手続保障といいますか,自分自身の利益を主張する場をという基本的な発想に基づく御意見かと思いますが。   ここは,こういう御意見があるということを踏まえてということで,その程度でよろしいですか。特段この場での御意見を更に出していただく必要はないということであれば,そのようにいたしますが。―では,そのような扱いにさせていただきましょう。   それでは,ここで休憩をとらせていただきます。           (休     憩) ○伊藤部会長 それでは,再開をいたします。   「第35 未成年後見人及び未成年後見監督人の選任」から「第58 親権者となるべき者の指定」に関する説明をお願いいたします。 ○脇村関係官 御説明いたします。   まず,第35の「未成年後見人及び未成年後見監督人の選任」の1の「管轄」ですが,部会資料11は,未成年後見人及び未成年後見監督人の選任及びその監督については,財産管理よりも身上監護が中心的に問題となりますが,そうだとすると,未成年者の現在の住所地の裁判所を管轄裁判所とする現行法の規律を維持する方がいいのではないかと考えまして,提案させていただいております。   「5 その他」ですが,部会資料9において取下げを検討する際に既に取り上げたところであり,現在,事務当局において,その際の議論を整理させていただいているところであります。この機会に特段の御意見がございましたら伺っておきたいと考えております。   第36の「成年後見人及び成年後見監督人の選任」の3の「審判の告知」ですが,部会資料11においては,成年被後見人に対して告知することを記載しておりませんが,これは,成年被後見人等が即時抗告権を有していないことと,成年被後見人等に対しては成年後見人等に選任された者や申立人から知らせれば足りるのではないかと考えたからでございます。この点は,部会資料11-2に取り上げている事件についても同様でございます。   5の「その他」ですが,成年後見人等の選任については,辞任した後見人による申立てを除きまして,部会資料9において取下げを検討する際に取り上げておりません。これは,成年後見人等の選任の申立てが取り下げられたことにより,成年後見人等が欠けたままの状態が生じても,裁判所は職権で成年後見人等を選任することができるので,特段問題が生じないのではないかと考えたからでございます。したがいまして,御意見をいただいているところですが,この点については裁判所の許可を効力の要件とする必要はないように思います。   なお,辞任した後見人による申立てについては,部会資料9において取下げを検討する際に既に取り上げたところであり,現在この点については事務当局において議論を整理させていただいているところであります。この機会に特段御意見がございましたら,お伺いしたいと思っております。   第58の「親権者となるべき者の指定」の「即時抗告」ですが,部会資料11において子に即時抗告権を認めなかったのは,民法上,子が関与せずに実父母が協議で親権者となるべき者を指定することができることを考慮したからでございます。この点は部会資料11-2で取り上げている他の事件についても同様でございます。   以上です。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,まず35ですね。第35の「未成年後見人及び未成年後見監督人の選任」の「管轄」についての説明がございました。先ほどの説明にございましたような理由から,現行法の規律を維持して,未成年被後見人の住所地の家庭裁判所の管轄にするということですけれども,この点については御意見もあるようですが,いかがでしょうか。―この意見として寄せられたところに尽きているということでよろしいですか。なおこれに補足したり,これに関する御意見がございますか。   よろしければ,先に行きましょうか。取下げに関しては,検討の余地ありということで説明がございましたが,この点についても何か御意見がございますか。―もしございませんようでしたら,先ほどのようなことで検討をしてもらうということにいたします。   それから,第36の「成年後見人及び成年後見監督人の選任」の関係での「審判の告知」ですが,これはいろいろな場面で出てくるのと同様の話でありまして,被後見人に対する告知が必要であるという御意見がございますが,それに関する原案の考え方は,先ほど脇村関係官から説明があったとおりです。いかがでしょうか。―特段の御意見がなければ,先に進ませていただきたいと思いますが。   それから,5の「その他」の申立ての取下げについて,これも意見としては裁判所の許可を必要とするということですが,脇村関係官の説明にございましたように,職権での可能性,それから後任についての申立てとの関係などから,許可を必要とするという合理性は認められないのではないかということかと思いますが,いかがでしょう。 ○増田幹事 脇村関係官の御説明どおりで結構でございます。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。   それでは,この場で御了解いただいたということで,残りました第58です。「親権者となるべき者の指定」の不服申立ての関係ですが,これに関しては部会資料11-2に記載のような御意見が寄せられていますけれども,原案の考え方としては,先ほど説明があったような理由で,ここについては申立権がないこととの関係で,不服申立てに関しても認めていないということですが,この点はいかがでしょう。 ○増田幹事 実体法上の権利がないから不服申立権がないという御説明だと理解したのですが,利害関係人の即時抗告権一般の問題として民訴的に考えれば,権利がないから不服申立権がないということには必ずしもなっていないと思います。その紛争の目的に関する利害関係ということになると,子が重要な利害関係人であるので,認めるべきではないかと思うのです。確かに民法がと言われると非常に苦しいところなのですけれども,その民法自体の親子法自体が古くなっているのではないかと思いますので,手続的に広げられる部分は広げておいていいのではないかと考えます。 ○伊藤部会長 これもちょっと先ほどと似たような話で,実体法と手続といいますか,裁判に関する手続的な関与の権能との関係をどう考えるかという問題ではあるかと思いますが,ただいまの増田幹事の御発言に関して何か,ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ○小田幹事 多分,子どもに即時抗告権をというのは,子どもの意見が反映されるべきだというところに根拠があろうと思っております。陳述聴取という形で聞くのと即時抗告権まで認めるというところは少々質的に差がないだろうかという気がしております。即時抗告をしたから,それが内容的に認められるというわけではありませんけれども,意見を聴くというところと,一度判断が出て,それに対する更に不服申立てというのは,かなり上回るものであって,児童の権利条約などを根拠とした場合にも,どこまで妥当性というか,そこでカバーできる範囲があるかというのは疑問だろうと思っております。 ○伊藤部会長 いかがでしょうか,今二つの相異なる意見が出ていますが。民事訴訟法の考え方という発言も増田幹事からございましたが,長谷部委員,三木委員あたりはいかがですか。 ○三木委員 もちろん理屈から言うと,この説明ぶり自体は私もやや奇妙に感じて,申立権があるかどうかと抗告権があるかどうかは訴訟法的には別にリンクしないと思いますので,こういう説明を今後も維持されることには,説明ぶりとしては違和感があります。ただ,結論がどうかということになると,ちょっと定見がございません。 ○伊藤部会長 長谷部委員はいかがでしょう。 ○長谷部委員 私は,小田幹事がおっしゃったことに賛同いたします。陳述聴取があるということと,それを経た上での裁判に対して即時抗告権が認められるかということは,質的に違うのかなと思います。養子の子どもの年齢によってもいろいろ状況が違うと思いますし,児童の権利条約も,そのあたりのことも一応考慮しているのだろうなと思いますので,少なくとも子どもの年齢を問わず一律に即時抗告権を認めるということには,ちょっと賛同できないなと思っています。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。これは,問題は,子ども代理人とか,そういう関連する制度との関係もあるかと思いますので,それぞれの方の御意見はそういったことを踏まえて発言をされていらっしゃるのだとは思いますが。ほかにいかがでしょう。 ○高田(裕)委員 今の長谷部委員の御発言との関係では,私の理解が間違えているかもしれませんが,ドイツ法では,直接この条文に対応するものではありませんが,未成年の子に独自の即時抗告を認める規定があったと思いますが,その際14歳を一つの区切りとしているような記憶もございますので,そういう選択肢もあるかなということでございます。   もう一つ,戻りますと,子の地位に大きな影響があるということが恐らく即時抗告権を認めることの前提となっているわけですが,民法上の子の地位をどうとらえるかということについて,私自身には確たる定見はないわけでございますけれども,民法の先生も含めて御検討いただくことになるのではないかと思います。原案は,民法第811条は,両親ですか,父母の協議で決めることができるとしている点に根拠を置かれたのだろうと思います。子にはそこにいわば介入と申しますか,干渉と申しますか,その決定を直接左右する権利はないという御理解で,その上で即時抗告を認めることはその民法の発想に抵触するという御説明を受けたと理解しております。これについては,増田幹事もおっしゃいましたように,民法の理解としてそれでよいかという問いはなお残り得るのだろうと思いますが,もし民法上,協議の結果に子どもは従うことを前提に第811条はでき上がっているというならば,この原案でやむを得ないのではないかというのが私の印象でございます。 ○伊藤部会長 民法御専攻の委員・幹事の方はいかがでしょうか。 ○道垣内委員 現行法としては高田委員のおっしゃるとおりで,協議で決めることができて,それに対して何か文句を言えるという仕組みにはなっていない。そのことが,私の理解としても,ここの手続を決めるときにおいては大きい事柄なのだろうと思っております。 ○伊藤部会長 ということは,この場合についても不服申立てを子どもに権利として認めるということは,やはりそういう前提とはややそごがあるということになるわけでしょうか。 ○道垣内委員 ですから,そこは微妙なところで,協議もまとまらないが故に,裁判所が公権力をもって決めるというときには,かなり利害対立や紛争が先鋭な状態にあると考えて特別な扱いをするということはあり得ないではないと思います。ただ,だれが親権者になるかということについて,子どもが一定の権利を当然に有するという仕組みには民法上はなっていないのだろうと思います。 ○杉井委員 確かに父母が協議して決まるという場合には仕方がない面があるかと思いますが,今,道垣内委員がおっしゃったように,むしろ裁判所でだれが親権者となるべきかを指定するわけですから,そういうときに一番利害関係を持っている子どもの権利を保障しないでいいのだろうか。私もやはり民法は少し時代おくれだという感じがしております。   もう一つは,確かに,陳述聴取していればそれでいいではないかということはありますが,仮に意見を聞かれたとしても,その意見が最終的には否定されて,子どもが考えているのと違う結論が出たときに,それを不服申立てする権利というのは当然あってしかるべきではないかということも言えると思いますので,基本的には即時抗告権というのも子どもに認めるべきだと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。   それでは,ただいま提出していただいた意見を踏まえて更に検討してもらうことにいたしますが,なお何か御発言ございますか。   それでは,先に進むことにいたしましょう。次に,部会資料12の「家事審判手続(各論)に関する検討事項(2)」で取り扱っております各種の規律につきまして,これまでと同様の審議方法で審議を行いたいと存じます。   そこで,まず,部会資料12-2の「第1 推定相続人の廃除又は取消しの審判確定前の遺産の管理」の3の「審判の告知」及び「5 管理人の改任等」並びにそれぞれの関連箇所についての説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   「第1 推定相続人の廃除又は取消しの審判確定前の遺産の管理」の「3 審判の告知」では,相続財産の管理人の選任の審判を受ける者は相続財産の管理人であることを前提としまして,相続財産の管理人の選任の審判を相続人に告知しなければならないものとすることについて検討することを提案しております。   この点につきまして,相続財産管理人が選任されますと,相続人の管理権は少なくとも一定の制限を受けると考えられますことから,相続人に告知しなければならないとも考えられます。他方で,相続財産の管理人の選任の審判が,廃除又は廃除の取消しの審判が確定するまでの暫定的な処分であることなどから,相続人に告知することを要するまでもないとも考えられます。   関連する論点としまして,第3の「相続財産の保存又は管理」の「3 審判の告知」及び「第13 財産分離の請求があったときの相続財産の管理」の「3 審判の告知」がございます。これらの場合も,相続の承認・放棄前,相続の限定承認をしたとき,相続の放棄をしたとき,相続分離の請求がされたときで多少状況は異なりますが,相続財産の管理人が選任されることによりまして,それまで管理の任に当たっていた者の管理権が一定の制限を受けると考えられます。他方で,これらの処分は,相続の承認又は放棄がされるまで,相続財産の清算が終了するまで,相続の放棄により相続人となった者が相続財産の管理をするようになったときまでなどの暫定的な処分であると考えられます。そこで,第3の3及び第13の3についても同様に検討していただきたく存じます。   「5 管理人の改任等」につきましては,原案は現行の規律を維持することを提案するものです。この点につきましては,部会資料12-2にありますとおり,裁判所によって選任された者がその意思で自由に辞任し,管理人が不在の状況になるのは相当ではない旨の反対の御意見をいただいております。   また,部会資料11の「第17 不在者の財産の管理」の「4 管理人の改任等」における御審議の際に,管理人の届出により辞任することができるとすると,次の管理人選任までの間のつなぎの問題がありますことから,裁判所の判断を経て管理人がその任務を辞することができるような規律とすべきとの御意見が部会での大勢であったと存じます。ここでも同様の議論が当てはまると考えられますので,それを踏まえて事務当局で更に検討させていただきたいと存じますが,現時点で更に御意見等ございましたらちょうだいいたしたく存じます。   以上です。 ○伊藤部会長 それでは,「第1 推定相続人の廃除又は取消しの審判確定前の遺産の管理」について,「審判の告知」に関して,相続財産の管理人の選任の審判が,一面では相続人の管理権を制約するという点からすると,これを告知しなければいけないとするべき合理性があり,他面では,それが暫定的な保全措置であるというところを考えると,それほどの必要はないという考え方も成り立ち得るのではないか。同様のことは他の関連箇所として挙げられているようなものについても妥当するのではないかということですが,まずこのあたりから審議をお願いいたしましょう。相続人への告知の必要性に関して,御意見はいかがでしょうか。   先ほど説明があり,私も若干の補足をいたしましたが,というような理論的な問題と同時に,ちょっと私自身は判断がつきかねますが,実務上の問題もあるのかもしれませんので,そのあたりを含めて御意見をいただければと思います。   仮に,相続人の管理権に対する制約というような側面を重視して,告知しなければならないという内容の規律を設けたとして,それによって何か不都合や手続の円滑な進行を妨げるというような問題が考えられるのでしょうか。 ○小田幹事 基本的には,先ほど趣旨説明の中にありました,暫定的な処分であるからというところに賛成しておるわけでございます。そこで,今,部会長から御指摘がございました,実務上の支障という,支障と言えるかどうか,従的な理由として申し上げるわけですが,これがもしすべての相続人に対して裁判所から告知をしろということになると,その時点で相続人が確定的に分かっていなければならないわけです。そうしますと,遺産分割などでもそうなのですけれども,この人たちが相続人だと確定されるためには,被相続人から現在の相続人に至るまで,戸籍を,過去のものも含めて随分たくさん出してもらわなければいけない。そのような資料をさっとそろえてもらえるかという点はございます。   他方で,主なところとしては,暫定的な処分ということですし,それと,ここで選任された相続財産管理人は,その職務が,こういう一定の要件があって財産管理人に選任されたということですから,相続人に対して,自分が選任されました,だからこういうことですよと速やかに告知して回ることが職務そのものですから,そういった点でも,裁判所からということでなくて支障がなかろうと思っております。 ○伊藤部会長 小田幹事からは,暫定的な処分であるという処分の性質,そして,実際上告知の対象となる相続人の範囲を確定することが,かえって手続の円滑な進行を妨げるという,いわば副次的なおそれも存在するというようなことから,こういう必要はないのではないかという御意見がありましたが,いかがでしょう。小田幹事からの御意見に対する反論といいますか,違った角度からの意見等はございませんか。 ○杉井委員 まず,推定相続人の廃除又は取消しの審判の申立て時点で,結局これはやはり,相続人がだれか,だれだれがいるかということを裁判所には申立て時点で示さなければいけないのではないかと思うのです。そうなると,小田幹事がおっしゃったいろいろな,本当に過去にさかのぼった戸籍謄本云々は,もともと申立て時点で裁判所からはこういうのをそろえてくださいよと要求されるのではないかと思うのです。もし欠けていれば,ここを補充してくださいとかということで。ですから,相続財産の管理人の選任の審判をするについて,改めてそういった戸籍謄本類を追加してもらうとかいう新しい手間暇がかかるのだろうかというのが一つ疑問です。   それからもう一つ,相続財産管理人の方から相続人に,自分が管理人になりましたということで通知すれば足りるのではないかというお話がありましたが,私ども弁護士からの書面というのはなかなか信じてもらえないというか,やはり裁判所からの書面の方が全然普通の市民は信用してくれるのですよね。だから,突然弁護士から何か変な書面が来たなんていうことで言われるよりは,やはり裁判所からきちんと告知していただくという方がよろしいのではないかと思うのです。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○長委員 推定相続人廃除の事件の場合,一応相続人の範囲を調べることはすると思います。ただ,問題になるのは,被相続人と当該推定相続人との関係なものですから,推定相続人全部を把握する必要があるかというと,必ずしもそうではないと思います。被相続人と特定の推定相続人の生活関係を知っている推定相続人,親族の人たちを把握できれば足りますので,例えば住民票などについて全員のものを集めることまではしないのだろうと思います。そうなると,必ずしも遺産分割と同じようにすべてを把握できているかというと,必ずしも同じではないのではないかとは思います。   それから,もう一つの,裁判所からの告知の方が信用性があるという点は大変有り難いことですけれども,ただ,実際に相続財産管理人を選任いたしますと,その方々が連絡をされる文書には,裁判所から選任された相続財産管理人であるということが明記されますので,信用力において裁判所の文書と遜色がございませんので,その点は御懸念には及ばないところではないかと思います。 ○伊藤部会長 ありがとうございました。 ○増田幹事 もちろんこういう実例というのは余り多くはないのだろうと思いますけれども,廃除の事件については,確かに全相続人に関する資料が出ていないかもしれませんが,相続財産管理人の選任の請求をする場合には,民法第918条第2項の請求をした段階で,すべての相続人に関する資料を求めるということは可能ではないかと思います。現実にそうされているかどうかはちょっと私は分からないのですが。それほど手間暇のかかるものとは考えられないのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○長委員 極めて実務的なやりとりになってしまうのですけれども,遺産分割事件でも相続人の範囲というのは事件によって千差万別でして,それほど相続人が多人数でないものも多いのですけれども,最近は高齢社会になりましたものですから,被相続人が亡くなる年齢というのも非常に高齢になってまいります。そうすると,相続人もまた高齢になってまいりまして,その相続人の方に相続が発生したりするということもあるものですから,当事者の人数が増えてくる事件というのもそれなりに出てきております。例えば遺産分割事件のときに,全部の相続人の戸籍や住民票を要求しているのですけれども,申立人の方でそういうものをそろえるのが大変難しいということで時間がかかってしまうということもあります。ほかの必ずしも全部の戸籍や住民票が必要でない事件の場合に,全員の戸籍や住民票の提出を求めると,代理人の方々にかえって負担を強いてしまうのではないかと思います。相続人廃除の事件の場合には,廃除事由があるかないかということを調べるために必要な範囲の相続人の方々から事情を聞くということは必ずしますが,どの範囲の相続人を調べる必要があるかについては,いろいろな事例があるものですから一概には言えないというのが実務です。 ○増田幹事 どうもどちらの責任で通知すべきかというような何か見苦しい話になりそうなのでなんですけれども,結局,裁判所からは通知しないことになったとしても,相続財産管理人に選ばれた以上は相続人を確定して通知をしなければならないということになりますので,どちらが通知するかというと,やはり選んだ方が通知していただきたいと思います。理由は,先ほど杉井委員が言われたように,やはり受け取った方にとって,法的に今から相続財産の管理権はその管理人の方に暫定的にせよ移りますよということが明らかになるということだと思います。 ○畑幹事 安易な折衷案としては,記録上明らかな範囲というふうなことも当然考えられるかとは思いますけれども。 ○脇村関係官 教えていただきたいのですけれども,規定は別にして実務上は,やはり相続人のだれかが遺産を持っていてきちんと管理しないから,だれかかわりにということで管理人だと思うのですけれども,そうすると,選任したことの通知もきちんと管理していない人に行けば少なくともいいという感覚なのですか。そういうわけでもないのでしょうか。 ○長委員 これはむしろ増田幹事にお聞きしたらと思います。 ○伊藤部会長 では,増田幹事,お願いします。 ○増田幹事 実例はないですけれども,もし選ばれたら,やはり判明している限り全員には通知すると思うのですが。 ○道垣内委員 もちろん感覚的な問題として全員に通知するというのはよく分かりますし,した方がいいかどうかと聞かれれば,それはした方がいいのではないかと思うのですが,小田幹事がおっしゃったように,不在者の財産管理人にせよ,第895条による遺産の管理人にせよ,それらの者は,相続人のために管理して分配するというふうな義務を負った者ではなくて,単に現状を維持するという義務を負った者にすぎないので,私は法的に相続人を探し出して通知しなければならない義務を負っているのかというと,負っていないのではないかと思います。遺産管理人が管理している状態のときに遺産分割の申立てがなされて,その場所できちんとすべての,先ほど長委員がおっしゃったように,戸籍なり住民票なりを全部持ってこいというふうに裁判所に言われて裁判所に持っていく,これはよく分かるのですけれども,別段遺産の管理人は分割すべき債務を負っているわけではないと思いますので,通知しなければいけない義務がそもそもないのではないかという気がするのですが。 ○伊藤部会長 道垣内委員のようなお考えですと,相続財産の管理人自身にもそういう義務はないと。 ○道垣内委員 本来的にはない,ぎりぎり詰めていけばないのではないか。なった人はやった方がいいかと言われたら,やった方がいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 そうですね。そうだとすると,いわんや裁判所が相続人にそれを告知するという規律を設けることについての合理性も疑わしいと。 ○道垣内委員 合理性も疑わしいと思うのですが,小田幹事のおっしゃったことに尽きているので発言しなかったのですが,手続というか制度の性質として,散逸しないように必要な保存行為をするということだけですので。 ○増田幹事 確かに条文を読めばそうなのですけれども,実はこの第918条の事例はそれほどなく,経験もないので,ちょっと議論がしにくいのですけれども,実際に相続財産の管理人の選任という場合に,裁判所からいただく審判の中身なのですが,恐らくだれだれを相続財産管理人に選任するというだけで,特定の財産とか特定の財産の保存とかいうようなことは審判には書かれていないのだろうと思うのです。そういった場合に,果たして選ばれた人の責任が保存行為等の範囲に限定されるのかどうかというのは,微妙な問題がありまして,本当にそうだという限定がなされるのであれば,確かに言われるように必要な範囲でしか通知しないし,通知する義務もないのでしょうけれども,包括的な形で選任するだけの主文で来ることを前提とすれば,利害関係のある可能性のある人にはできる限り通知すべきというのは,法的な義務ではないかと思うのですが。 ○伊藤部会長 それでは,この点もいろいろ相続財産の管理人の義務の話ということもありますし,それから,先ほどから伺っていますと,告知にせよ通知にせよ,広い意味でだれが知らせるかというような実際上の話も関係をしているように思いますので,ただいまの審議を踏まえて検討してもらうことにいたします。そのほか,関連箇所として掲げられている第3の3,第13の3等についても同様の取扱いでよろしいですね。   それから,次に管理人の改任,5のところですけれども,これについて,特に辞任についての御意見があるようですが,これに関してはいかがでしょうか。 ○長委員 辞任に関しましては,前回御指摘をさせていただいたようなことで考えておりますので,ほかの部分についても,もし問題がなければそういう方向でお考えいただければと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。では,ほかのところで審議いただいたようなことを踏まえまして,この点についてもなお検討することといたします。関連する問題について,同様の指摘があった箇所として掲げられている点についても同じような取扱いをさせていただければと思います。   そこで,次に,「第2 相続の承認又は放棄の期間の伸長」の「3 即時抗告」から「第22 負担付遺贈に係る遺言の取消し」の「3 審判の告知」まで説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 それでは,「第2 相続の承認又は放棄の期間の伸長」の「即時抗告」について御説明いたします。   原案は,現行家事審判規則第113条が準用します第111条の規律を維持することを提案しております。これに対して,いただいた御意見は,申立てを却下する審判に対する即時抗告権者は申立人のみにすべきであるというものでございます。この点につきまして,相続の承認又は放棄の期間の伸長は,民法上,利害関係人及び検察官が申し立てることができますが,この利害関係人には,承認又は放棄を検討している相続人,その相続人以外の共同相続人,相続債権者及び相続人の債権者が含まれると解されております。そこで,この当該相続人以外の申立人,例えば相続人の債権者が期間伸長の申立てをして,その申立てが却下された場合に,申立人が即時抗告をしない場合であっても,当該相続人による不服申立てを広く認めてもよいようにも考えられます。そこで,この点について検討していただきたく存じます。   「第12 〔相続人の債権者の請求による〕相続財産の分離」の「2 陳述聴取」では,相続人の意思を尊重する観点及び財産の分離の請求により相続財産の管理義務を負うという点から,相続人の陳述聴取を必要的とすることについて検討することを提案しております。   「第17 遺言書の検認」の「2 検認期日等」の(注)及び「4 検認通知」の(注)では,遺言書の検認に相続人その他の利害関係人の立会いは要件でないと解されますこと及び検認通知に法的効果が伴わないことを考えますと,記録上所在不明であることが明らかな相続人を通知義務の対象から除くものとすることが考えられますので,その点について検討することを提案しております。   「第22 負担付遺贈に係る遺言の取消し」の「2 陳述聴取」及びその(注)について御説明いたします。まず本文では,受遺者に負担の履行の有無について主張・資料の提出機会を確保する必要があると考えられますことから,遺言を取り消す審判をするには受遺者の陳述聴取を必要的とすることについて検討することを提案しております。   また,(注)では,受遺者が負担付遺贈の取消権者である相続人の取消しの意思表示だけで足らず,家庭裁判所の判断を得なければならないとされていますのは,取消しが受益者の利益を失わせることになり,受遺者の当初の意思と反対の結果を生じさせることになること及び相続人が受遺者と通謀して受益者の利益を不当に害することを防止する必要があることにあるとされております。そこで,受益者から陳述聴取を必要的とすることについて検討することを提案しております。   「3 審判の告知」の(注)では,遺言を取り消す審判を確定すると,その遺言は相続開始のときにさかのぼって効力を失いまして,受益者は利益を受けることはできなくなりますことから,受益者に対して審判の結果を知らせるべきであると考えて,その考えに基づき告知することについて検討することを提案しております。   以上でございます。 ○伊藤部会長 そういたしましたら,順次参りたいと思いますが,まず,第2の「相続の承認又は放棄の期間の伸長」に関して,申立てを却下する審判に関する即時抗告権者に関して,利害関係人を含める必要があるのかどうか,申立人のみに限定することに合理性があるかという点でございますが,この点はいかがでしょうか。先ほど波多野関係官からは債権者というような例も出てまいりましたが,申立人以外の利害関係人に申立てを却下する審判に対する不服申立権を認める合理性があるかということですかね。この点に関して,もしなお現行の規定よりも申立人のみに限定するべきであるという御意見があれば承りたいと思いますが,いかがでしょう。―特段そういうことはございませんか。一応意見としては寄せられているようですけれども。 ○長委員 民法第915条の期間伸長の関係について,申立てが却下された場合に,一番利害関係を持っているのは申立人なわけですから,それ以外の人が不服を言うというのはどうかなと素朴な感情として思うのですけれども,いかがなものでしょうか。 ○伊藤部会長 長委員からは,御自身で素朴とおっしゃったのですけれども,期間伸長の裁判を求める利益あるいはそれを却下する審判をなお争う利益というのはやはり申立人固有のものではないかというお考えかと思いますが,いかがでしょう。ほかの利害関係人にそういう却下の審判を争わせるべき合理的理由があるということになるでしょうか。 ○山本幹事 この民法の解釈がよく分からないところがあるのですが,仮に審理中に,あるいは却下されたときに,この3か月を既に途過しているような場合には,これは単純承認の効果がもう発生してしまっているということになるのでしょうか。 ○長委員 その伸長の審理をしていて結論が出たときには3か月が経過していたとします。それが却下で確定してしまえば,それは3か月経過したことになると思います。ただ,審理中であれば,単純承認にはならないと思います。 ○山本幹事 もしそうだとすれば,ほかの人に即時抗告権を認めないと,先ほどのここでの御議論は,申立人のみに即時抗告権者を限定しても,ほかの人はもう一回申し立てればいいのではないかという議論が先ほどのところの議論では有力だったように思ったのですが,この場合はしかし,もう一度申し立てろといっても,3か月を経過していれば申立てはできなくなっているということであるとすれば,即時抗告をしてその確定を遮断するというのはほかの人の利益がありそうな感じもするのですけれども。 ○長委員 ほかの相続人が自分の熟慮期間を伸長してほしければ,自分で申し立てておけばよろしいということにはならないのですか。 ○伊藤部会長 分かりました。道垣内委員,是非,お願いいたします。 ○道垣内委員 利害関係人には債権者が含まれると教科書には書いてあるということなのかもしれませんが,詐害行為取消しなどに関する判例法理も踏まえますと,立法論として合理性を現在持っているというか,合理性というのはここだけを見たときの合理性ではなくて,日本法全体,判例法理も含めた法制度と整合性があるのかは,若干疑問な感じがします。それで,二重に起こすことが仮に可能であると解釈上なったとしても,しかし,二重に起こしておけという差押えみたいな話をするのは,ちょっと酷な感じがします。現状の法律の文言を前提とすると,山本幹事がおっしゃったことはかなり合理性があるような気がします。 ○伊藤部会長 長委員の先ほどの御発言も,却下に対して申立人のみが不服を申し立てられ,申立人が不服を申し立てないと確定してしまう以上,ほかの利害関係人は,この伸長の申立ては自分自身の申立てとしてもできなくなることが前提ですよね。 ○長委員 自分の熟慮期間の3か月が経過してしまえば,そのようになります。 ○伊藤部会長 それを前提にしても,やはり伸長の申立てを却下する裁判にほかの利害関係人が出てきて不服を言わせるというのは合理性がないのではないかということですよね。 ○長委員 私の先ほどの意見はそのとおりです。申立人に限らない場合というのは,何をねらって抗告権者を申立人とは限らないとなさったかというのは,どんなふうな説明をすることになるのですか。 ○波多野関係官 基本的には現行の家事審判規則を念頭に置いて考えておりまして,それが申立人のみに限っていないところはどういうところにあるかと考えたところ,期間制限があることを考えると,一番利害関係がある当該相続人が申立人ではない場合には,やはり当該相続人に即時抗告権を認めるべきではないかということを考えると,現行の規律は一定の合理性を持っているのではないかと考えた次第です。 ○長委員 分かりました。私が発想したのとは違う形ですね。 ○伊藤部会長 ということですかね。利害関係人が申立てをして却下されたときに,その利害関係人しかできないというのか,でも,より根源的な利害関係がある相続人が申立権を認められるのではないかということですかね。 ○長委員 御趣旨は分かりましたので,考えてみたいと思います。 ○波多野関係官 事務当局としましても,申立ての却下についての全般的な規律との関係を踏まえて,検討させていただきたいと思います。 ○伊藤部会長 それでは,その点を更に検討することにいたしましょう。 ○三木委員 結論に反対ではなくて,不勉強なものですから,ちょっと私,議論の前提がよく分かっていないのですけれども,先ほどどなたかから,伸長の審理が継続している途中に3か月が過ぎた場合云々という話がありましたけれども,時効の中断のような規定はないとすれば,その場合であっても民法だけ見ると,やはりもう単純承認は生じているようにも見えるのですけれども,今の議論を全然覆そうとかそういうのではなくて,その解釈はどういう解釈が前提でこの議論をしているのですか。 ○波多野関係官 3か月以内に申し立てる必要があるというところまでは一般的に書かれているところかと思いますので,その期間内に申立てがあった後,審判確定が3か月を超えたとしても,それは期間の伸長がされるという効果を生じているという前提に資料を作成しているところでございます。 ○三木委員 確かに申立てだけしか書いてはいないのですけれども,そうすると,審理は何年続いても,その間は延びるという理解なのですね。 ○伊藤部会長 それで過ぎてしまうと駄目というのもおかしいですからね。 ○三木委員 それはそれでいいと思うのですけれども,これも今ここで議論しなければいけないかどうかもよく分からないのですが,二重の申立てを仮に禁止されていない場合に,それはどれか一つが延長されていれば全部が延長されているということになるのですか,申立てのどれかが。3か月を過ぎて。 ○伊藤部会長 そのあたりはここでの議論の前提となることですので,事務当局で明らかにした上で,もう一度議論をいたしましょう。   それでは,次は12の「〔相続人の債権者の請求による〕相続財産の分離」で,「陳述聴取」で,相続人の陳述を必要的とするということで,内容は先ほどの説明のとおりですが,このあたりはいかがですか。 ○畑幹事 相続人の陳述というのは,何を陳述するということを考えているのでしょうか。 ○波多野関係官 この点につきましては,相続財産分離の要件を満たすかどうかについて基本的には聞くことになるかと考えております。 ○畑幹事 第950条第1項に言う,限定承認ができる3か月の期間が経過しているかどうかとか,あるいは財産が混合しているかどうかということですか。 ○波多野関係官 はい。 ○畑幹事 分かりました。ただ,そうすると,この(補足説明)の「相続人の意思を尊重する観点」というのは,ちょっと今のお話とはずれるかなという気がいたします。 ○波多野関係官 陳述聴取することについてはその要件との関係があるかと思いますが,相続人は,この財産分離の請求がされて,認められますと,限定承認と同じような効果が生じますことから,限定承認をするかどうかは相続人自身の意思にもよりますので,その意味での手続保障ということが必要かとも思いましたので,その点から提案させていただいたところでございますが,今,畑幹事がおっしゃったように,どこまでそれが完全にリンクするのかどうか,ちょっとこちらも不明確なところもありまして,御意見をいただければと思って御提案した次第でございます。 ○伊藤部会長 いかがでしょう。やや観念的な言い方になると,相続人にとって財産分離によって生ずる効果は,自らの財産に持っている利害関係に影響するということですかね。実際上何か問題があり得るようなことがありますか。 ○長委員 分離する際に,相続人に相続財産を管理させておくのが不適当であるから管理人を選ぼうということになるのではないのですか。 ○波多野関係官 相続財産を分離するときには,管理が不適当かどうかは別として,相続人の債権者の方が相続財産と相続人の財産とがまざっては困る,責任財産としてそれぞれ確保しておきたいという利益状況にあるのかと思います。管理人が選任されるかどうかは次のステップになるかと思います。 ○長委員 分離させるかどうかを決めるために相続人の陳述を聴くとすると,どのようなことを聴くということになるのでしょうか。 ○伊藤部会長 それが先ほどの畑幹事からの質問とも関係をするのですが,今のような趣旨であるとすれば,それはこの「意思を尊重する」というのとはちょっと話が違うということなのですが,どうぞ,波多野関係官。 ○波多野関係官 ここで「聴かなければならない」というのは,先ほど御説明させていただいたとおり,相続財産の分離が,責任財産としての相続人の財産と被相続人の財産とを分離しておくということに意味がありますので,その分離をさせることが必要なのかどうかというところを相続人から陳述を聴くということになろうかと思われます。それについては,結局,限定承認というような意味での―限定承認をすると,相続人の財産と被相続人の財産というのは完全に分離しますので,本人以外の方からの申立てによってそれと同じような効果を発生させるということについて相続人本人から意見を聴くということが考えられるのではないかと考えております。 ○伊藤部会長 いかがでしょう。 ○脇村関係官 ちょっと間違っているかもしれませんけれども,相続人の債権者の立場からすると,相続人の財産だけであれば十分弁済を受けられるにもかかわらず,相続人が被相続人の債務を相続したおかげで相続人の債権者に回る財産が減るようなことは困るので,物理的に分離するとかではなくて,責任財産としてはそれだけを確保したいという思いがあると思うのです。他方,相続人の立場からすると,分離しなくても十分弁済できるのであれば,それを言いたいのではないでしょうか。ただ,そもそも必要性が審理の対象になるのかは争いがありますが。 ○道垣内委員 脇村関係官がおっしゃったように,財産分離を認めるに当たって,その必要性があるかどうかというのは,実体法上の解釈問題であり,かつ第950条にはそういう要件は記されていないわけですよね。そうなると,実体法上の解釈問題であって,それについて,必要性がある場合に認められるのだというのを前提とするような手続規定を置くのは,私はいかがかと思います。もちろん,そうであっても,相続人の意見を聴くということは正当化できるかもしれませんけれども,個人的には必要性など関係ないのではないかと思います。 ○伊藤部会長 いろいろ意見をちょうだいしましたので,もうちょっと考えてみる余地がありそうですから,ここは検討させていただくことにいたしましょう。   それから,次は第17の「遺言書の検認」で,「検認期日等」のところで,通知の対象として,36ページの上の方の(注)にあります「所在不明の相続人等について,通知義務の対象から除くことについて,どのように考えるか」,ここについては,いかがでしょうか。 ○小田幹事 積極的に除くべきとまで考えているわけではございません。実務で少しこんな悩みを抱えているということの御紹介をいたします。   何らか手続で通知をしろと定められているときには,その手続で何かが決まるので,主張したり証拠が出たりとか,そういう目的から通知をして,期日に来てくださいということが一般的と思います。他方で,遺言書の検認ではそうではないということが一つ。   もう一つは,ほかでも少し共通しますが,相続人が非常に大勢になって,中には所在不明の者もいれば,あと海外にいる人も決して珍しくないという,そういった点が悩みでございます。こちらから実務の中でそのような所在不明のときにどれだけ調べるかとか,海外に対して郵便で期日を知らせるというのは,国の公権力の行使ということで,理屈としては海外にすることがいいのかどうかというような検討をしてすることもあるわけです。そういうときには,例えば,申立人が相続人の一人であれば,そちらから知らせてくださいねというような,これも実務上の対応ですけれども,そのようにすることもございます。また,その所在不明,相続人が非常に多岐にわたって,申立人とは特に縁がない人が多数いるときには,どうしようかという悩みが生じるわけでございます。そうはいっても,ここで手続や何かが決まるということであれば,その通知をして,知らせることに意味があると思いますけれども,今現在,実際に届くことはないのだけれども一応通知をしたとされる公示送達等はしていないところです。   少しまとまりがないですが,そのような悩みがあって,これをどう解決するのがいいか。必要な場合は裁判所として通知はしていかなければいけないわけですが,この遺言書の検認ということになりますと,要は立ち会うだけであり,この日にこういう遺言書がこういう状態で存在したということを確認しました,よろしいですねぐらいの中身しかないわけです。要するに権利・義務を決めるということではなくて,そのような事実の確認ということもありまして,どうしても検認期日の通知をするというのは,先ほどのような困難があると,どうしたものかと悩むところが出てくることになってまいります。以上でございます。 ○伊藤部会長 分かりました。実務上そういう検認という手続の性質と,それとあわせて所在不明の場合の実務処理の困難さというような御指摘がございましたが,それを踏まえて,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 聞かれる前に聞いておきたいのですけれども,民法第1004条第3項の解釈なのですけれども,これは海外にいる相続人とかそういう人たちも立ち会わなければ開封できないということで処理をされているのでしょうか,現在。それとも,一部でよいということなのでしょうか。 ○長委員 今はそういう扱いをしていません。それは来ていただくのに大変なことですから。実際は,期日が開かれるということは海外の相続人の方にも伝えられてはいるのですけれども,その人が来ないとできないという扱いにはなっておりません。 ○伊藤部会長 道垣内委員,よろしいですか。 ○道垣内委員 はい。 ○増田幹事 通知の話になるといつも悩ましいのですが,一般的に「通知しなければならない」と決めてしまったら,所在不明とか海外在住の場合についても確実に届くように通知しなければいけないものなのでしょうか。というのは,例えば送達とか告知と違って,あえて通知としている以上は,通常なら届くような方法で発送しておけばそれで足りるという解釈はできないものかと思ったので,お尋ねする次第なのですが。 ○伊藤部会長 このあたりは実務的なことですので,いかがでしょう。 ○金子幹事 それは,通知をどう組むかで総則的な議論をしていただく場面かもしれません。民事訴訟規則第4条の通知は「その者が外国に在るときは,することを要しない」ということになっていまして,民事訴訟規則上要求されている通知については,所在不明の場合と外国にあるときはしなくてもいいということになっていますので,こういう規律をあわせて導入すれば,通知をするものとするとしても例外的な扱いをすることができるということになります。それから,あと個別にここの場面では除外規定を設けるというような工夫も考えられます。先日,告知と通知の仕切りをどうするのかということで御議論いただきましたが,通知というものをどういう場面にして,どのような例外を認めるかというところに絡む問題かと思います。 ○杉井委員 私は結果的にはいつも裁判所と反対の意見ばかり言っているようですが,今回は,これはむしろ裁判所の御意見に同調します。海外にいる人への通知というのはすごく大変なのですよね。そして,特に海外で所在不明なんていいますと,単なる通知であってもなかなかできない。そして,いわゆる中央当局送達なんていいますと何か月もかかるとかいうことがあります。したがって,通知の原則はまた御議論いただくとして,この検認の期日の通知については,所在不明の相続人などには通知はしなくても,いいと考えます。いずれにしても遺言書が存在したかどうかの確認だけのことで,その遺言書の効力云々ということはまた別の問題になりますので,この原案でいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。どうでしょうか。 ○波多野関係官 杉井委員に御指摘いただいたように,実質論としては,この場面において公示送達とかまでする必要はないということかと思いますので,全体との関係でどう表現するかについてはなお検討させていただきたいと思います。 ○増田幹事 基本的に同意見です。ただ,海外について通知をどう組むかは別として,例えば破産手続では海外に債権者が多数いる場合がありますけれども,それは破産手続開始決定等を普通郵便で送ってそれで済ませているという実情がありますので,この場合も同様に通知というものを簡易なものだと考えれば困難ではないだろうと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。   そうすると,通知の方法とか海外の場合という問題はありますけれども,ここで掲げられている所在不明の相続人等については,検認という事柄の性質も考えて,通知義務の対象から除外するという考え方で御異論がないように整理してよろしいでしょうか。   では,そのようにさせていただきます。4の「検認通知」についても同じことでよろしいですね。   そうしましたら,第22の「負担付遺贈に係る遺言の取消し」の関係で,まず「陳述聴取」に関して,受遺者の陳述を聴かなければいけないものとするということですね。それから,(注)のところで,遺言の取消しに関して受益者の陳述聴取を,これも必要的とするかどうかというあたりですが,この受遺者ないし受益者の陳述聴取に関してはいかがでしょう。利害関係の重要性という点から見て,いずれについても陳述聴取を必要的とするものの対象とすることでよろしいのかどうか。 ○小田幹事 受遺者と受益者と両方ございますが,積極的に入れてほしいというものではありませんが,陳述を聴く対象としてはしかるべくということであろうと思っております。受遺者については,負担の義務を果たしているかどうかということについてきちんと陳述を聴く必要があると思いますし,その受遺者としての地位そのものですから,結論としてはそのようなものが相当ではなかろうかと思っております。受益者についても,受遺者と少し違ったところはありますけれども,仮に取り消された場合というのは,現に現存利益の範囲でということのようですけれども,そのもらったものを不当利得として返すということのようですから,そのような法的効果を考えたときには,受遺者と違う扱いにする必要はなかろうと思っております。 ○伊藤部会長 陳述聴取の対象について,受遺者及び受益者に関していずれも積極的な方向で考えるべきだという御意見がございましたが,ほかにいかがでしょう。御異論がなければ,そういうことでよろしいでしょうか。―はい。   それから,「審判の告知」ですね。これもやや類似のものではございますが,審判の告知で,受益者に告知するものとすることについてどう考えるかということが(注)にございますが,これはいかがでしょう。先ほどの小田幹事からの御発言のような考え方を踏まえると,こちらについても積極に考えるということになりますか。 ○小田幹事 先ほど申し上げたとおりですので,また,即時抗告権,利害関係人も含まれるようですし,そうしますとしかるべくといいますか,結構でございます。 ○伊藤部会長 それでは,ほかに御異論がなければ,その方向で検討を今後進めてさせていただきたいと思います。   それでは,次に,「第24 夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助」の「1 管轄」,その他の関連箇所並びに「5 即時抗告」に関する説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   「第24 夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助」の「1 管轄」では,管轄について検討することを提案しております。   A案は,準備をしている申立人とそうではない相手方との公平を図ること,相手方から資料提出,事情聴取を行うには,相手方の住所地の家庭裁判所の管轄とすることが相当であることなどを理由に,現行の規律を維持するものでございます。   B案は,夫婦のいずれの住所地にも夫婦の生活状況,資力,婚姻生活,婚姻破綻の原因等についての資料が存在していると考えられますことから,夫又は妻の住所地の家庭裁判所を管轄裁判所とするものでございます。   なお,「第25 夫婦の財産管理者の変更及び共有財産の分割」の「1 管轄」,「第26 婚姻から生ずる費用の分担に関する処分」の「1 管轄」及び「第28 婚姻取消し又は離婚の場合の財産分与」の「1 管轄」につきましても同様の御意見をいただいております。   5の「即時抗告」では,夫及び妻のほかに即時抗告をすることができる者について検討することを提案しております。この点につきましては,現行家事審判規則第46条が準用します第97条は,当事者又は利害関係人が即時抗告をすることができるとしております。しかし,夫及び妻の間で協議によって扶助の内容を定めることができることを考えますと,夫及び妻が即時抗告をしない場合に,夫及び妻以外の者による即時抗告によって事件が抗告審に移審するというのは相当ではないとも考えられます。この点につきましては,「第31 扶養に関する処分」「5 即時抗告」のところで,現行家事審判規則第97条の規律について御検討していただきたく予定としております,そこで,あわせて御検討していただいた方がいいかと存じますので,第31の5の扶養に関する処分の即時抗告のところで合わせて御議論していただければと存じます。   以上です。 ○伊藤部会長 そういたしますと,まず,この審判の管轄について,現行と同様のA案と,それから,それを変更するB案の二つの考え方がそれぞれの根拠とともにそこに示されておりますので,この点に関しての議論をお願いいたします。 ○栗林委員 管轄については,B案が相当であると考えます。理由は部会資料に書いてあるとおりでございます。 ○伊藤部会長 B案御支持の意見が出ましたが,いかがでしょうか。 ○豊澤委員 申立てをする側はそれなりの準備をあらかじめ構えて申立てをする,相手方はそれを受けて立つ立場だということで,民事訴訟においても,被告の住所地,普通裁判籍が基本的な管轄原因だとされていることから考えましても,同じような当事者間の公平という観点からしますと,現行の規律にそれなりに合理性があるものを変更するだけの実質があるのだろうかと思います。また,乙類に関しましては,相続の関連の事件で相続開始地であるとか,子どもに関する事件では子の住所地とかが管轄原因とされていますけれども,それ以外のものについては相手方の住所地という形で一つの切分けになっていて,ここで双方にというのはそれだけの理由があるのだろうかと思います。 ○長委員 B案をとった場合に,例えば,夫が同居を求めて妻を相手に審判を起こしたとします。夫の住所地の家庭裁判所に起こした場合に,妻が出てきてくれることを期待できるかということを考えますと,これはやはり相手方のところに出向いていった方が速やかに手続が進むのではないかというのが実務的な感覚だと思います。 ○伊藤部会長 ということで,A案,B案,それぞれについての御支持の意見がございましたが,いずれもそれぞれの根拠が示されているわけですが,いかがでしょうか。 ○杉井委員 確かに民訴の場合に,被告の住所地というのが第1の管轄だと思うのですが,ただ,民訴の場合も複数の管轄は認められていますね。不法行為地とか債務の履行地とかがあります。ところが,これを相手方の住所地だけに限ると,やはりこれは大変不便なことが生じます。DVでないにしても,妻が夫の方から逃れてかなりの遠隔地に来て別居を始めた場合に,相手方の住所地ということになりますと,非常に遠隔で出向くのも費用的にも大変ということがございます。そういうことを考えたときに,私はやはり,人訴についても,現在では夫又は妻の住所地ということにもなっておりますし,そういうことを考えたときに,相手方の住所地だけに限るというのはかえって逆に不公平ということにもなってくるのではないかと思いますので,B案に賛成します。 ○伊藤部会長 杉井委員,先ほど長委員がおっしゃったような,相手方の住所地にしないと,特に同居を求めるような審判の場合には実際上審理への協力が得られないのではないかという,そのあたりはどうなのでしょうか,実務的な感覚からして。 ○栗林委員 相手方が協力するかどうかというのは,管轄だけの問題ではないと思うのです。裁判をやっていても,管轄が問題になることがありますけれども,遠くだから出ていかないという人は余りいないのではないか。裁判所から呼出しが来ているわけですから,遠いから協力しないとか,遠いから行かないということではないのではないかと思います。 ○伊藤部会長 ということですが。 ○増田幹事 基本的に先ほどの杉井委員と同じ意見でございますが,遠隔地では相手方が出てこない可能性があったり,相手方が手続に協力してくれなければならないときは,相手方の住所地に起こせばいいわけですね。自分の住所地に起こしているということは,相手方が協力しない可能性があるというリスクは当然あるわけなのです。そのリスクを負ってでも自分のところで起こした方が利益がある,手続費用とかいろいろな意味で利益があると考える場合に,自分のところで起こすことを否定する理由にはならないのではないかと思います。先ほど杉井委員もおっしゃったけれども,別居にはいろいろな形態があるわけです。義務者となるような人がどこかへ出ていくという形態もあるし,権利者となる方の人がどこかへ出ていくという形態もある。生活実態がどちらにあったかということは別居形態によって様々ですので,資料の存在する地とか,そういう根拠では相手方の住所地の管轄の基礎とすることはできないだろうと思います。 ○伊藤部会長 やや裁判所側の委員・幹事と弁護士会の委員・幹事の意見が対立しているような状況でございますけれども。 ○道垣内委員 定見はございませんが,同居と扶助とを一緒に議論しているところにやはり無理があるという感じがいたします。また,杉井委員がおっしゃったことに対して反論しますと,DVの場合に妻から夫に対して金銭給付を求める訴えをするというのを前提に置きますと,妻の住所地が便利だろう,それはよく分かるのですが,逆に夫から同居を求める審判の請求がなされたというときに,夫の住所地でやられるという逆の効果も出てくるわけですよね,いずれでもよいということになると。そうすると,何を念頭に置くのかでかなり違って,出されている例が,同居を出される方と扶助を出される方でちょっとずれがあるのではないかというのが,伺っていて感じるところなのですが。 ○鈴木委員 私は審判自体を直接担当していませんで,家事抗告を担当しているときに原審の記録を見た程度ですが,訴訟ですと弁論主義,当事者主義を表に出せますので,出てこなければペナルティーがあるとか立証責任とかで処理すればいいということがあるのですが,家事審判というのは職権探知ですので当事者が出てこないと裁判所として困る。そういう意味では,かたい言葉で言えば出頭を確保するというのでしょうか,まず出てきたがらない人の出頭を確保するというのが一つのポイントになるのではないかと思うのです。そういう意味では,訴訟とはちょっと違う,なるべく当事者双方をそろえられる。殊に,審判と調停とは違うのかもしれませんけれども,ひざを突き詰めて話し合うということになりますと,できるだけ双方がそろいやすい,気持ちの上でもそろいやすい場所で開くのがいいのではないかと思います。 ○伊藤部会長 そうすると,やはりA案のような考え方ということになりますか。 ○鈴木委員 そうですね。 ○伊藤部会長 相手方のところへ赴いてという。   いかがでしょう。道垣内委員からは先ほど御発言がございましたが,研究者の委員・幹事の方は是非御発言をお願いできればと思いますが。 ○高田(裕)委員 先ほど人訴の話が出ましたが,人訴は旧法では恐らく婚姻地というものが想定されていたところを,夫又は妻という形にしたわけですが,その際も夫又は妻ということで二つの管轄を認めますと管轄自体について争いが生じる,入り口において争いが生じるという懸念が出たところだと理解しております。その上でですが,人訴でこのB案に相当する規定でいいということになりましたのは,基本的には調停前置ということがあったわけでして,調停が崩れた上で訴訟になった時点での管轄ということではなかったかと思います。それに対して,ここでは審判ということですが,乙類事件ですので付調停ということが想定されているということになりますと,その点ではやや人訴とは前提が違う可能性があるという印象を持たせていただきました。B案をとりますと,先ほど増田幹事がおっしゃったことですが,増田幹事の御発言を逆に言えば,いわば早い者勝ちということになってしまうわけでありまして,管轄とり競争になるという印象を持ちます。それが審判,更には付調停を想定するこの種の事件において妥当かという点については,現在のところやや疑問を持っているところであります。   もう1点,不適切な発言になるかもしれませんが,弁護士さんの視点というのはしばしば申立人側の視点になりがちなのではないかという懸念を先ほど来感じました。相手方はしばしば弁護士がついていない,あるいは申立てを受けてから弁護士にアクセスをするということまで考えますと,どうもやはり原告,被告の公平という点で,相手方の住所地という規律の持つ謙抑性というものについてもう少し配慮が必要かなという印象を持っております。 ○増田幹事 今の高田委員の御発言に対して2点反論をしたいと思います。   一つは,まず調停の問題との関係ですけれども,調停については恐らくA案的な考え方でいいのではないかと思っております。それから,早い者勝ちが具合悪いということですが,実は遅い者勝ちはもっと具合悪くて,お互い相手が申し立てるのを待っているというケースが現在調停に関してはございます。そうすると,紛争の解決自体が遅くなる。両方とも本当は解決したいのだけれども,遠いから相手に先に申し立てさせたいといって待っている。これは調停に関してA案的な考え方をすれば同じようなことが起こるのかもしれませんが,早い者勝ちよりも遅い者勝ちの方がもっと具合悪いのではないかと思います。   相手方の視点が欠けているということですが,実は家事事件について,相手方が遠いところへ呼び出されて困るなという感じはしないのですが,いかがでしょうか。相手方の代理人になることもあるけれども,余り実感としてわかないのです。これはほかの委員の方にも伺ってほしいと思うのですが。 ○伊藤部会長 どうでしょうか。今,増田幹事から御発言がございましたが。相手方の代理人として遠くまで出かけていかなければいけないことが,最終的には当事者の負担ということなのでしょうけれども,心理的な負担,経済的な負担,いろいろあるのでしょうが,そのあたりは,杉井委員あるいは栗林委員,何か御発言ございますか。 ○杉井委員 確かに,代理人をつけられるときは,本人自身が行かなくても代理人が,遠隔地であっても,もし申し立てられた側だとしたら,それはできますので,それほど負担にならないということは言えると思います。ただ,代理人をつけられない,本人だけの相手方の場合,そのときに負担でないということはないだろうとは思います,現実に。やはり負担なので出てこないということもある程度は考えられるとは思うのです。だから,最初からすぐに出てきてはいただけないケースもあるかと思いますが,裁判所の手続ですから,それを何回か出頭勧告などもしていただく中で,全く出てこないというケースは,私自身は余り経験はしていませんけれども。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。 ○平山関係官 私の前任の勤務地が離島でございまして,やや特殊なところもあるかもしれないのですけれども,そういった所に家事事件が起こされて,申立人の住所地が島外にあって,相手方の住所地が島内にあるような場合ですら,申立人が来たくないというようなことをおっしゃる事例も実際かなりありました。もちろん,申立人側ですので,あなたが申し立てたのですから来てくださいということで説得して何とか来ていただくことはできるのですけれども,これが相手方ということになってしまうと,実際来てもらうのは本当に難しいだろうなという実感は持っております。 ○山本幹事 私は,どちらかといえばB案に賛成です。今までいろいろな方の御発言にありましたように,いろいろな紛争のパターンが考えられるということが一つあるということで,私の理解では,人事訴訟法がああいう決断をしたのは,やはり一つにはそういう様々なパターンがあって,なかなか決め切れないと。一応広く管轄は認めて,最後は具体的な事案に応じて移送で解決せざるを得ないという意識があったのではないかと思っています。とりわけ人訴改正の前も,私の理解では,夫婦関係の訴訟では,最後の共通住所地というのが管轄としてあったと思うのですが,それはやはり,夫婦の共通住所地から一方がいなくなってしまった,残った側は何の落ち度もないというような事案があるとすれば,その人が相手方のところに行かないと審判を受けられないというのはどうかということはあったのではないかと思います。私はやはり,そういう場合は,なかなか相手のところに行かないと駄目ですよということは説得力を持って言い難いようなところがあるような気がしております。ですから,そういう意味では,やはり申立人の側の住所地にも管轄を―もちろんそういう場合,家事審判の場合,自庁処理でやればいいということはあるかと思うのですが,やはり本来のデフォルトのルールとしては,管轄権を認めるべきなのではないかと思っております。相手方が協力しない,それでどうしても審理が円滑に進まない,ほかの方法ではどうしても解決がつかない場合には移送ということもあり得るのだろうとは思いますけれども,原則としては,そういう多様な紛争のパターンに対応できるということからすれば,デフォルトのルールとしては,私はB案の方がすぐれているように思っています。 ○伊藤部会長 分かりました。 ○脇村関係官 家事審判では,今の規律を前提にしますと,管轄は差し当たり一つにしておいて,多様な紛争については自庁処理あるいは管轄のないところに対する裁量移送ということで対応するという仕切りになっているのに対して,人事訴訟というのは正に専属管轄ですので,調停した裁判所は別として,管轄のないところに移送することもできないですし,原則として自庁処理もできないので,構造が人訴と家事では大分違うのではないかと思います。ただ,出発点として,本当にそれをここでも維持するのか,あるいはそもそも絞っておいた上で自庁あるいは裁量で広げるという仕切りがよくないということであればまた別だと思うのですけれども,必ずしも人訴だったからということにはならないのではないかとは思いますが。それだけです。 ○伊藤部会長 A案,B案それぞれについて大変説得力のある御意見が開陳されましたので,これももう少し本日の審議内容を踏まえて検討してもらうということにいたしましょう。   それから,即時抗告に関して,夫及び妻のほかに即時抗告権者をどうするかという話ですが,特別御意見があれば承りますが,先ほど波多野関係官から説明がありましたように,現行法で言うと基本になっているのが家事審判規則第97条なものですから,扶養のところで一括して議論をするということでいかがでしょうか。―よろしければ,そのような扱いにさせていただきます。   そうしたら,次は,部会資料12-2の第25の「夫婦の財産管理者の変更及び共有財産の分割」の2のところと,第27の「監護者の指定その他子の監護に関する処分」の「即時抗告」についての説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 御説明いたします。   「第25 夫婦の財産管理者の変更及び共有財産の分割」の「2 共有財産の分割の処分」について御説明いたします。原案は,現行家事審判規則第48条第3項が準用します第104条及び第105条の規律を維持することを検討することを提案しております。この点につきましては,部会資料12-2にありますとおり,許可参加できる者を公告して参加の機会を確保する必要はなく,また,権利参加できる者が限定的であると考えられることから,この事件類型のみ公告の方法による参加の機会を確保する必然性に乏しいとの理由から,消極の御意見をいただいているところでございます。この点につきましては,現行家事審判規則第104条及び第105条の規律について,第36の2及び9において御議論していただく予定としておりますので,そちらでまとめて御議論いただければと存じます。   「第26 婚姻から生ずる費用の分担に関する処分」の「6 その他」につきましては,部会資料12-2にありますとおり,「収入,支出についての開示義務を定め,開示命令制度の創設を検討すべきである」という御意見をいただいております。事務当局といたしましては,相手方等から資料が提出されない場合には,文書提出命令,調査嘱託等によって対応することを考えておりますが,御検討いただければと存じます。   「第27 監護者の指定その他子の監護に関する処分」の「2 陳述聴取」については,部会資料12-2にありますとおり,子の陳述聴取を必要的とするべきであるとの御意見をいただいております。事務当局といたしましては,専ら父母の経済状況が問題とされます子の監護に要する費用の分担に関する審判を除きまして,意思を形成する能力を有する子の意思について,裁判所はこれを的確に把握した上で,適切にそれを考慮する必要があると考えておりますが,具体的方法とそれを規定上どのように表現するかについては検討したいと考えております。この点につきまして,今までの子どもの陳述聴取等の議論がある程度当てはまるのではないかと考えておりますので,更に御意見がございましたらちょうだいしたいと存じます。   「3 給付命令」につきましては,原案は現行家事審判規則第53条の規律を維持することを提案しております。この点につきましては,部会資料12-2にありますとおり,子の監護についての必要な事項の例示として,面会交流の方法を明文で書かれるべきであるとの御意見がございますが,事務当局といたしましては,民法第766条の規定等のバランスをとるようにしていきたいと考えております。   「4 審判の告知」について御説明いたします。監護者の指定その他の子の監護に関する処分には幾つかの類型の処分が考えられますが,例えば子の監護者の指定では,監護者に指定された者から結果を知らせることで足りるのではないかと考えられますし,子の監護に要する費用の分担に関する審判事件では,財産についての事件ですので,子に告知することを必要的とすることが相当であるかどうかについても検討することが必要かと考えております。その他の類型の事件におきましても,事件の当事者から結果を知らせることで足りるのではないかと考えておりまして,原案を提案しているところでございます。   「5 即時抗告」について,子に即時抗告を認めなかったのは,民法上,子どもが関与せずに監護者の指定その他の監護に関する処分をすることができることを考慮したものでございます。   以上でございます。 ○伊藤部会長 そういたしますと,第25の「夫婦の財産管理者の変更及び共有財産の分割」の2で,共有財産の分割の処分の抗告に関することですが,これは,ただいま波多野関係官からの説明がありましたように,もしできましたら遺産分割に関するところで,これも先ほどと同じようになりますが,一括して審議をいただくということでいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   そうしましたら,次に,「第26 婚姻から生ずる費用の分担に関する処分」の「その他」のところで,収入,支出についての開示義務,それから開示命令制度の創設というような関係の意見がございましたが,これに関しては何か御意見ございますか。 ○増田幹事 意見を提出した責任があるので申し上げますが,具体的な考えがなかなかまとまらないのが本音でございます。ただ,そういうものが何かないか,収入について一方が開示しない場合に何か開示させる手段はないかということが実務上の悩みとなっておりますので,その解決方法が何かないかということで提案させていただきました。 ○伊藤部会長 いかがでしょう。増田幹事がおっしゃった問題意識というのは私なりに理解できるところですけれども,ただいまの点に関して,ほかの委員・幹事の方,御発言がございますか。 ○高田(裕)委員 1点御質問申し上げますけれども,これは夫婦間を想定した議論でしょうか。それとも,第三者,銀行預金なら銀行等が想定されるわけですけれども,夫婦以外の者をも想定した議論まで含め得るという御見解でしょうか。 ○増田幹事 夫婦間という認識です。第三者に関しては,調査嘱託だとか文書送付嘱託で対応すべきと考えております。 ○畑幹事 質問ですが,資料が出てこなくて困っている場合,どうされているのかということをちょっと教えていただければと思いますが。 ○伊藤部会長 これは弁護士の委員・幹事の方でも裁判所の関係の方でも結構ですが,いかがでしょうか。 ○長委員 両当事者に対して開示をするようにお願いをするのですが,出てこないこともあるというのが実情のように思います。 ○伊藤部会長 そうすると,正に増田幹事がおっしゃったような悩みがあるということですね。そういう悩み,あるいはそれの必要性というのが一方で理解できるのですが,他方,こういう制度を考える上で,積極,消極ということとはまた別かもしれませんが,いろいろ留意ないし検討しなければいけない点ということになると,どんなことになりますか。高田裕成委員,いかがでしょう。先ほどちょっと御発言ございましたが。 ○高田(裕)委員 おっしゃるとおり,どういう制度をつくるかということでかなり難しい問題があるような気がいたします。関係官から文書提出命令等の充実ということが提案され,私もそのとおりだと思いますが,その制裁と申しますか,それの実効性の裏付けをどうするかという点で,非訟一般では文書提供命令に対して一定のサンクションを科すというのもあり得ると思いますが,夫婦の婚姻費用に関してサンクションまで科して提出させるという規律が果たして夫婦関係の今後を考えた場合適切なのかどうかということについて既に疑問がありえまして,そのあたりどう調整するかということだろうかと思います。ちなみに,ドイツ法には同じような趣旨の規定があるという認識を持っていますが,私の理解するところ,ドイツ法では文書提供命令に関する義務自体が実体法と結びついて議論されており,かつドイツ法は実体法上も夫婦間では開示義務を認めておりますので,それはそれで,サンクションはなくてもそれなりの効果,とりわけ象徴的効果はあるのかもしれませんが,日本法では実体法の規律なしに議論しようということでございますので,その点でもやや難しい問題を含んでいるのではないかという印象を持たせていただきました。 ○長委員 補充させていただきますと,誠意を持って提出してくださる代理人も多数おられるのです。ただ,こういうはずではないのだというふうに他方の代理人は言われることもありますし,本当に出てこない場合もあります。裁判所としては,そういう場合に是非出してほしいということをお願いしても,出てこない場合も少なくない件数あります。 ○伊藤部会長 高田裕成委員がおっしゃったようになかなか難しい問題はあって,そう容易ではないようには思いますが,他方,今実務の観点から御発言がございましたような問題があることも恐らく御理解いただけると思いますので,この点ももう少し検討することにいたしましょうか。 ○畑幹事 実体法の議論になるのかもしれませんが,出てこないときどうするかということについて,突飛な話かもしれませんが,民事訴訟法第248条のように相当の額を認めてしまう。それがある意味では出さない場合の制裁にもなるというふうなことも,全くの思いつきでありますが,考えられるかもしれません。 ○伊藤部会長 ありがとうございます。 ○高田(裕)委員 これも日本法では機能しないと思いまして申し上げなかったのですけれども,手続費用に反映させる,それによって,手続が遅延したということに対する何らかの対応というのはあり得るかと思います。 ○伊藤部会長 そうですね。今の段階ではいろいろ考えられる選択肢を出していただくというのがむしろ大事かと思いますので,是非お願いしたいと思います。   それでは,この点はそのような形で今後の検討にゆだねることにしまして,そうしますと,「第27 監護者の指定その他子の監護に関する処分」で,ここは「2 陳述聴取」のところで,子の陳述聴取を必要的とすべきだという御意見がございますが,これについては何か補足して,あるいはこれに関しての御意見はございますか。―ここに掲げられているような御意見があるということでよろしいでしょうか。 ○増田幹事 それで結構です。前回以来主張しております陳述聴取,告知,即時抗告というのをセットで御検討いただきたい。事例としてはこの類型の事件が最も多いのだろうと思います。 ○伊藤部会長 分かりました。   それでは,この点も今の御意見を踏まえて検討することにいたしまして,第27の3の「給付命令」に関して,意見として,面会交流の方法を例示として明らかにすべきだということがございますが,この点はいかがでしょうか。 ○増田幹事 子の監護者の指定以外に,例えば養育費の支払いとか幾つか例示して,その中に面会交流の方法というのも,実務上は件数として多いので,挙げておいていただいた方が明確になる。従来,解釈上でしか認められておりませんので,それが明確になるということでございます。 ○伊藤部会長 従来,解釈上認められていたものを明確にするという意味では,それほどこれに消極だということもないのかもしれませんが,もし何か,しかし検討すべき点があれば御発言ください。―よろしいですか。それでは,その点を踏まえて検討をすることにいたします。   それから,第27の4の「審判の告知」ですが,これも陳述聴取と基本的にはつながる問題ですが,いかがでしょう。この意見に補足ないし関して発言いただくことがございますか。―よろしいでしょうか。それでは,こういう御意見を踏まえて今後の検討をさせていただきます。   最後の「5 即時抗告」に関しての(注)などに関連して何か御発言ございますか。―特別御意見がなければ,このような方向での検討を進めさせていただくことにいたします。   それでは,本日はここで審議を終えていただいたことにいたしまして,次回の日程等について金子幹事から説明をお願いいたします。 ○金子幹事 御説明します。次回の日程ですが,平成22年2月26日金曜日,午後1時30分からということで,場所はこの会議室です。進行ですが,本日残った部会資料12-2を終えた後,部会資料13,審判前の保全処分の各論を御検討いただきます。さらに調停についての資料を次回の1週間前に発送する予定ですので,そちらも御持参いただきますよう,よろしくお願いいたします。以上です。 ○伊藤部会長 それでは,これで本日の部会の審議を終了させていただきます。長時間ありがとうございました。 -了-