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行刑改革会議 第3分科会 第1回会議

日時: 平成15年9月8日(月)
15時51分~17時04分
場所: 法務省第1会議室


午後3時51分 開会

〇高久会長 行刑改革会議第3分科会の第1回目の会議を開催いたします。
 私は,ここにも宮澤(弘)座長さんがいらっしゃるのですけれども,その宮澤(弘)座長さんから,この第3分科会の会長をするように御指名を受けました。指名された宮澤(弘)座長さんがここにおられますので,何となくあれですけれども,よろしくお願いしたいと思います。
 本来第1回ですから自己紹介ということも考えたのですけれども,皆さん方よく本会議で御存じだと思いますので省略させていただきまして,早速内容に入らせていただきたいと思います。
 お手元の資料にもありますけれども,この第3分科会,医療・組織体制等ということになっておりまして,医療体制の在り方,職員の人権意識の改革,人的物的体制の整備,職員の職務環境の改善という,いずれも非常に重いテーマを課せられていまして,分科会として限られた時間の中で前向きの報告をしたいと希望をしておりますので,よろしくお願いしたいと思います。

1.分科会の進め方について

〇高久会長 早速分科会の進め方についての議論に入らせていただきたいと思いますが,事務局と打ち合わせまして案を作成をいたしましたので,この案について杉山事務局次長の方からよろしくお願いします。
〇事務局 お手元に「第3分科会(医療・組織体制等)スケジュール(案)」という1枚物の紙があると思いますが,表のようになっている紙でございますけれども,高久会長と相談をいたしまして,今後の進め方について一案を作成いたしました。これについて御説明申し上げます。
 会長からも先ほど御発言がありましたけれども,第3分科会は医療体制の在り方,職員の人権意識の改革,人的物的体制の整備・職員の執務環境という三つの大きな論点がございまして,それぞれについていろいろな御意見が寄せられております。大変テーマも多く,これを10月,11月というところでまとめなければいけないということですので,ここは毎週月曜日に開催させていただくほかはないということになりました。そこで,祝日以外の毎週月曜日をすべて,全体会のある日は別ですけれども,分科会に充てるという日程を組ませていただきました。来週は休みでございますが,再来週の9月22日から毎週月曜日,午後2時から最大5時ごろまでということになると思いますので,よろしくお願いをいたしたいと思います。
 そしてテーマにつきましては,まず大きく分けて医療体制,人的物的体制,それから職員の人権意識という順で議論を進めるのがよいのではないかということで御提案いたしております。
 まず医療の問題ですけれども,これにつきましては去る7月の第4回会議の席で,矯正局の医療問題PTの方から,矯正医療の現状,その問題点,論点などについて,いわば法務省側の認識を報告させていただいたというところまで来ております。そこで,これに対しましては例えば弁護士会の中で刑務所問題に関心を寄せておられる方々から,様々な批判的な提言などがなされているところでございます。そこでまず,そうした提言をされている方からこれをお聞きし,こうした二つの考え方を聞いた上で更に実情を御存じの方からのヒアリングを交えながら,個々の具体的論点について考え方,改革の方向性というようなものを考えていけばよいのではないかということになります。それが基本的な考え方でございます。
 そこで本日の会議で,まずその監獄人権センターの事務局長をしておられます海渡雄一弁護士からヒアリングをいたしまして,次回には矯正の現場で実際に勤務されている医師の方からヒアリングをする。更に厚生労働省への移管あるいは健康保険の適用というような厚生労働省にかかわる問題点も多々指摘されておりますので,厚生労働省の所管事項についてお詳しい方からもヒアリングをしたいと考えております。
 そうしたヒアリングをした上で,まず矯正医療について,一体矯正医療はだれの負担でどこまでのことをやるべきなのかという基本的な問題について議論をする。そしてその後,前回の会議で整理されました論点に従いまして,費用の負担や医療水準,更には保険制度の適用の可否,是非といったことについて時間のある限り議論をできたらと考えております。
 そして医務部門が保安部門に従属しているのではないか,そんな指摘があるところですので,第3回,9月29日には,それに関連して医療の独立性の問題とか透明性の確保,更には厚生労働省への移管といった問題について議論をし,更に矯正施設の医師の確保の方策といったところについて御議論いただくのがよいのではないかと考えた次第でございます。
 そしてその次の10月6日には,医療についての残りの問題を議論するとともに,ある程度の取りまとめができればと考えて,お示しのようなスケジュールになっております。
 なお医療問題に関しましては,矯正局の医療問題PTが行刑施設に勤務する医師に対してアンケート調査を行いまして,つい最近その結果がまとっておりますので,これについて本日この後すぐに紹介したいと思っております。
 次に,10月20日の全体会,第6回の全体会がありますが,それを挟みまして10月27日と11月10日,それから場合によっては12月1日にかけまして,人的物的体制の整備ということで,本日も矯正局から紹介がありましたけれども,PFIの利用とか,その他のいわゆる民間活用についていろいろとアイディアを出していただくとともに,それらについて実際にそれが実現できるのかといった観点からも検討,議論をする。それから,人事管理の在り方について,問題点とされているところについて御議論をいただきたい。その後に,人権意識の改革方策について。これは主に刑務官に対する人権教育をどうするかということになろうかと思いますけれども,これについて御議論をいただくのがよいのではないかということで,ここに示しました案のようなスケジュールを考えましたので,御検討をお願いいたしたいと思います。
 それから審議の進め方についての提案なのですけれども,医療問題にいたしましても人的物的体制の問題にいたしましても,これに関連するあるいは人事とか人権教育とか様々な問題がありますが,いずれも実際の現場がどうなっているのかということ,あるいはいろいろとアイディアを出していただくことになると思うのですが,そういうアイディアが本当に実現可能性があるのかどうなのかといったことを抜きにしては現実的な議論はできないと思いますので,医療問題については矯正局の医療分類課長,それからその後の人的物的の体制の議論についても,しかるべき矯正局の職員に分科会の場に同席していただきまして質問対応をするというような形にしたいと考えております。この点についても御検討をお願いいたします。以上です。
〇高久会長 どうもありがとうございました。今事務局からスケジュールについて説明がありました。初めに相談したときに,御存じのように監獄人権センター事務局長の海渡弁護士さんが,この問題について今までいろいろ提案もされておられますし,それから日本弁護士連合会の方の中でも中心的な役割を演じておられると思いますので,最初のときにこの海渡さんからいろいろな問題点あるいはいろいろな提案をいただいて,その後,次回から実際にそういうことが可能なのかどうかということについて,矯正関係の医師とか厚生労働省の関係の方などに御意見を聞く。それから更に,事務局の方からも関連する方からまた意見を聞きたいと考えておりますので,そういうことできょうは医務官のアンケートについての報告をいただいて,それから海渡弁護士さんにいろいろとお話をお伺いしたい。そういうふうに考えておりますけれども,このスケジュール(案)について何か御意見はおありでしょうか。
〇江川委員 質問なのですけれども,例えば薬物依存などの事犯について,その人たちのケアとか更生とかということを考えると,これはやはり医療の部分もかかわってくると思いますし,あと先ほども出ていたPFIですか,それともかかわってくると思うのですが,この分科会の方で取り上げられるものなのでしょうか。もし取り上げられるとすると,若干このスケジュールではそれのことを討議するのにちょっと窮屈かなという感じもしないでもないのですけれども,どういうふうにお考えなのでしょうか。
〇高久会長 薬物の問題は,当然医療体制の中に入ってくると思います。実際に私も2か所回って,その医務官から話を聞きましたけれども,薬物使用者が非常に多くて,それがかなり大きな問題になっていますので,当然この中に取り上げなければならないと考えております。22日に矯正関係医師のヒアリングがありまして,この方が現場のことでかなりいろいろと御存じですから,現場の声を聞きたいと思いますけれども,そういう意味では3回の中でどれだけ議論ができるかちょっと不安な点はありますけれども,精神科医療と薬物中毒は非常に密接な関連がありますし,当然議論をしたいと考えております。
 他にどなたか。
〇野﨑委員 三つの分科会がそれぞれ重要なテーマを持っておるのですけれども,第1分科会の刑罰処遇の在り方と被収容者の法的地位,それから第2分科会の透明性の確保と外部交通の在り方というのは,これはかなり相互に関連しているのですね。ところがこの第3分科会に与えられた課題は,その他のものを皆持ってきたような形になるのですけれども,医療体制の在り方と職員の人権意識,人的物的体制の整備というのは,全くこれは関連のないもので,しかもこれはかなり重要なものであるわけです。例えば職員の人権意識というのは,今いろいろ起きておる問題に非常に大きなかかわりがある。それから人的物的体制の整備,職員の執務環境,職員の待遇の問題も,これは遠因になっているのではないかということを強く指摘されておるので,これはかなり重要な問題なのですね。ただ時間の都合がありますから,この分科会のスケジュールを見ると医療の方に頭でっかちになっておる印象が非常に強いわけですけれども,限られた時間でやるわけですから,これはもうこれで仕方がないと思うのですけれども,少なくとも人的物的体制の整備とか人権意識とか,こういう問題については事前に事務局の方で相当準備をされて,短期間に議論が終わるようにしていただかないと,ここで挙げられている問題は医療体制の問題と少なくとも同じ以上に重要な問題であると思うので,これはその点をちゃんとしておかれないと,世の中に分科会のスケジュールとして出たときも,ここは余りウエートを置いてないのではないかなというとらえ方をされかねない。しかし,本当はこれもかなり今のこの行刑会議が発足した事象に一番かかわりのあることではあるわけなので,ここはよく意識して議論をしていただきたいし,外に説明されるときもそうされたらいいと思いますね。
〇宮澤(弘)委員 私は,知らない領域を知るのも必要でございますから一生懸命勉強させていただきますが,今お話がございましたように,例えば名古屋でああいう事件が起こった。一体どうしてかということになると,やはり職員の人権意識というものがすぐ出てくる。それはここにおいでになる専門的な知識をたくさんお持ちの方だけでなく,一般の国民から言いましても,この職員の人権意識というのが今まで非常に欠けていたから,いろいろな刑務所でおかしげなことが出てきてしまうのだ,みんなそう思っていると私は思います。でございますから,私自身がいい知恵がある,なしは別にしまして,今お話がございましたように,人権意識という問題はもっとやはり幅広く,おっしゃいますように事務当局の方であらかじめかなりのものを準備をしておいていただくということが必要ではないかと思うのです。医療の問題は,これは大変,先生がここにおいでになって失礼でございますけれども,一般国民には関心がないと言っては悪いのですが,一般国民にはなかなかアピールしない。アピールすることが必要であるかどうかは別でございますが,基本的に人権意識という問題をこの際やはりピシリと築き上げていくということが,私は一番必要ではないか。何もよく分からないながら,それだけ言わせていただきます。
〇高久会長 私自身も実はよく読んでいませんで,第3分科会は医療だけだと思っていまして,それで会長を引き受けたのですが,よく見ますと,きょうもすぐ反対が出ましたPFIの問題でありますとか人権意識の問題とか入っていまして,困ったなとは思っているのですけれども,医療体制の問題については,できることとできないことがかなりはっきりしていると思いますので,もしも22日と29日で終わるならば,もうそれで終わらせて,少し早目に人的物的体制の整備とか,あるいは人権意識の方に移りたいと思っています。これは可能ならばそうしたいと思いますので,この分科会の委員の方々にもよろしく御了承いただきたいと思います。

2.行刑施設に勤務する医師に対するアンケート結果について

〇高久会長 時間の関係がありますので,きょうは予定されていますように最初に医務官アンケートの結果について御説明いただきまして,その後,海渡弁護士さんから刑務所の医療体制のことについての御意見をお伺いしたいと思いますので,では最初に大橋さんの方から,よろしくお願いします。何回も御出馬願って申し訳ないのですけれども,きょうは医務官アンケートの結果について10分ぐらい御説明,よろしくお願いします。
〇大橋医療分類課長 医療分類課長の大橋でございます。お手元に資料がございますでしょうか。矯正医療問題対策プロジェクトチームが行った行刑施設に勤務する医師に対するアンケート調査結果を報告させていただきます。表紙をめくりますと目次がありますが,これから報告する内容は,おおむねこの目次に沿って行いたいと存じます。
 まず,この資料の末尾に,医師に送付した5枚物のアンケート用紙の現物が添付してありますので,それから先にちょっと御覧ください。5枚物で,A4の縦書きです。資料は27ページまでありますが,その後のページのないものです。これが5枚物の医師に対するアンケート用紙の現物です。
 これをざっと見ていただきますと,御覧のとおりアンケートの質問項目は,矯正施設における医師の勤務年数,勤務条件や勤務内容に対する満足度,そして不満がある場合はその理由,病気の早期発見や治療に関する問題点の有無と,問題点があった場合その内容,それから医薬品の購入や患者の治療方針などについて,他部門の職員から意見を言われたことの有無,あった場合その内容。そして最後にその他として,自由記述欄から構成されています。こういうアンケート用紙を送ったわけです。
 1ページに戻ってください。1の「アンケート実施手続」ですが,今御覧いただいた質問用紙を,行刑施設に勤務する医師で,医師でも医療刑務所長もいますから,その医療刑務所長を除いた213名に送付いたしまして,医師がみずから無記名で記入して,封筒に封入したものを,つまり施設長とか施設の他の職員に見られない形で郵送させました。その結果201名から提出がございましたが,そのうち白紙のものと,一部しか,つまり5枚物の一部しか提出しなかったものを除いたものが199名分ございまして,それを有効票として集計分析しました。したがって,有効回収率は93.4%ということになります。
 それでは,2の「単純集計」の結果から述べさせていただきます。
 まず(1)の矯正施設の勤務年数ですけれども,表1にありますとおり3年未満の医師が全体の60.8%を占め,このうち約半数は1年に満たない医師であります。
 次に(2)の勤務内容に対する満足度については,その一覧が表2にあります。順次その質問内容に沿って結果を述べますと,アの勤務全般の満足度については,満足感を抱いている者,満足感を抱いているというのは,私が言うのは「満足している」というのと「どちらかといえば満足している」の合計ですけれども,これが40.7%で,不満感を抱いている者27.2%を上回っております。ただし,個々の構成比を見ますと「どちらとも言えない」が31.1%で最大であります。
 次,イの勤務日数・勤務時間の満足度については,67.4%が満足感を抱いています。ただし,これも週2日の研修日が認められる場合であって,週5日勤務せよとなれば,たとえ給与が2倍になっても辞職する等の記述が目につきます。
 次,ウの給与・待遇の満足度につきましては,54.8%が満足感を抱いていますけれども,構成比を見ますと「どちらかといえば満足している」というのが28.2%で最大です。不満をいだく者には,ヤクザなどを相手にしていることとか,出所者からの嫌がらせや家族の生命・財産に対するリスクを考えますと甚だ安いとの記述とか,兼業を許可すべきであるとの記述があります。
 エの職場の人間関係の満足度については,74.4%が満足感を抱いていますけれども,不満を示した者は総務部や処遇部の対応に対する不満を記載していることが多くて,医療スタッフに対する不満はごく少数だったことなどから,ここで示された職場の人間関係の高い満足度は,医療スタッフ間の人間関係における満足感の高さを示していると推定されます。
 オの被収容者(患者)との関係の満足度につきましては,37.7%が不満感を抱いて,満足感を示した者18.1%の倍の構成比を示しています。不満の理由には,被収容者がうそをつく,無用の診療を強要する,訴えるきっかけを探すために受診するなど,被収容者の特質が記述されています。
 カの医療スタッフに対する満足度については,58.7%が満足感を抱いています。ただし不満感を示した者は,診療科目に応じた医師や各種検査に必要な技師等の医療スタッフが数,職種とも不足していることを指摘していますし,満足感を示した医師の中にも医療スタッフの絶対数の不足を指摘している者もいます。したがって,ここで示された医療スタッフに対する満足度は,主として医療スタッフとの人間関係についての満足度であって,医療スタッフの数についての満足度ではないと思われます。要は戦友としての関係が満足しているということだと思いますが。
 キの医療設備・機器に対する満足については,53.2%が不満感を抱いていて,このうち不満であると答えたものの構成比29.2%は,今回の調査項目中最大でした。不満の理由には,高度な医療技術が求められる反面,検査機器が不足していたり欠けていたりすることなどが記載されています。
 クの医薬品・医療用資材に対する満足度については,52.3%が不満感を抱いていて,その理由には予算のため薬剤の種類が限定されているなどの記載があります。
 (3)まとめは,以上述べた単純集計から浮かぶ医師像を記載してあります。これは省きます。
 次に,8ページを御覧ください。(4)の病気の早期発見や治療面での問題を感じたことの有無についてですが,表3のとおり,41.2%が「しばしばある」と答え,45.2%が「たまにある」と答えています。問題の内容には,詐病と思っても結果的に被収容者の思いどおりにならざるを得ない。外部病院での診療を拒否されるときがある。耳鼻科,眼科,整形外科等の専門医が不在なため,専門外の患者も診察させられることにストレスを感じるなどの記述があります。
 (5)の他部門の職員から,医薬品の購入や治療方針などについて意見を言われた経験の有無については,表4のとおり14.1%が「しばしばある」と答え,35.2%が「たまにある」と答えています。他部門の職員から言われた意見には,購入する医薬品が高価であるとか,医療コストが高い等費用に関するものと,外部病院に入院させたところ人員配置上早目に施設に戻すように相談されたとか,外部医療機関での治療を選択しようとしたところ,戒護職員が必要なためなるべく施設内で治療してほしいと言われたなど,職員不足を理由に外部病院での治療が自由にならないこと。また,休養が長くなったケースに休養を解除するように言われたなどの記載がありました。こうした他部門からの意見に対して医師のとった対応は括弧内に書いてありますが,括弧内にありますように,費用についてはその必要性を説明して了解してもらうように努めたとか,外部病院での治療については,可能な限り入院させて,その後施設内でフォローしたなどであって,それから長期休養の該当ケースについては,本人は不満を述べて医師を批判したけれども,本人に働こうとする意欲がないという問題があるために休養を解除したなどと記載されていました。
 3の「勤務年数と勤務内容に対する満足度の関係(クロス集計)」ですが,これについては時間の関係上省略させていただきますけれども,医療設備・機器あるいは医療医薬品や医療資材に対するものを除きまして,勤務年数がふえるにつれて医師の不満感が増大する傾向が認められました。
 さて,ずっと飛ばしまして,これが最後になりますが,20ページをお開きください。4の「医師アンケート自由記述欄の概要」です。アンケートのその他の自由記述欄には,有効回答者199名のうち121名が意見を表明して記述しておりました。
 ちょっと飛びますが,27ページをお開きください。グラフのところですが,自由記述ですから分析は難しいのですけれども,言及のあったものを大項目,小項目に分けてみますと,この左の表と右のグラフに示したとおりになります。大項目についてのみ述べますと,多い順に医療体制に関するものが55件,医師・被収容者関係に関するもの30件,医師の勤務形態に関するもの23件,医療内容に関するもの21件,医療費に関するもの11件,医師の確保に関するもの7件で,その他は12件です。
 具体的な記述内容の概要は22ページから26ページにある,医師アンケートの自由記述欄のまとめにあります。これも大項目,小項目に分類した形で代表的なもの,多かったものをまとめてありますので,後でじっくり御覧ください。是非読んでいただきたいと思います。
 まとめますと,自由記述欄の分析からは,医療スタッフや医療機器の不足など,制限された医療環境の中で不安を抱きながら,特殊な対象者と対峙して,時に外部病院探しに苦労するなど,懸命に医療に従事している医師像とともに,矯正医療の困難さを理解していない批判に対して怒りを抱き,また研修や兼業許可の必要性を強く主張する医師像が浮かび上がります。また,矯正医療を適正に実施するために,一般施設における医療スタッフの増員や各専門科目別の医師の配置とともに,医療重点施設の病院化,現在これはほとんど診療所の構成ですが,医療重点施設の病院化や医療刑務所の拡充が多くの医師に望まれていることが分かるかと思います。
 甚だ簡単でございますけれども,時間をとっていただきまして感謝いたします。以上でございます。
〇高久会長 どうもありがとうございました。非常に要領よくまとめていただきまして,ありがとうございました。
 それでは,御質問,どなたかおありでしょうか。
〇広瀬委員 想像していたよりも満足度が高い感じがしますが,これは毎年の調査でもこんな感じですか。
〇大橋医療分類課長 調査は今回初めてでございます。満足度が高いというのは,現在の勤務形態であるから満足しているということです。つまり研修日というか,5日間ばっちり勤めなくてもよいと言っては変ですけれども,研修に行かせてもらえているという状況で給料がそこそこもらえるので。だから,大学から若い人が来て,大学で研究もしながら働けて生活がある程度保障されるという,こういう条件だから満足している。ところが年数が経ってくるにつれて不満感が増えてくるという,こういう感じでございます。
〇広瀬委員 大学病院の先生たちよりも,よっぽど満足度こっちの方が高いのではないですか。
〇大橋医療分類課長 それは分かりません。
〇高久会長 他にどなたか。どうぞ,江川委員。
〇江川委員 この間の読売新聞に医療の体制の批判が出ていましたけれども,つまり医師が何日間かしか働かないのにフルタイムとして保険なんかも出る。それに対して改善を指示したか指示する方向か,とにかく対応をするという法務省のコメントも出ていたような記憶ですけれども,それについて例えば今の勤務形態を変えるということを具体的に検討されているのですか。
〇大橋医療分類課長 例えば理屈どおり5日全部朝から夕方まで刑務所に勤務しろと言った場合は,恐らく医者は来ないと思います。来るのはよほどな方でないと来ないと思います。ですから,問題は研修日等をどの程度設定するか。つまり研修日と勤務日とのバランスが逆転しているとやはりそれはおかしな話ですが,どの程度のバランスで許可するかということでなければ,まず矯正施設に医師を確保すること自体が困難だろうと思いますので,その条件をきちっと整える,内部の医療設備とか医療スタッフを充実するということも同時に必要ですけれども,勤務日に関してはバランスをとった形で勤務していただくという方向で考えなければ,恐らく不可能であろうと考えております。指導はしておりますけれども,大学によってはそれでは派遣いたしませんと言われるところがありますので,徐々によいバランスの方向にもっていく。それが不可能な場合,ではどうするかということを,これから考えなればいけません。この点を建前だけではなくて本当のところで実態に合った制度というか形をとったら,医師は来やすくなるのではないかと私は考えているのですが。
〇江川委員 1年未満の人が多いのは,つまり長く続かないということなのですか。
〇大橋医療分類課長 大学からローテーションというか,1年か2年経ってまた大学に戻っていくという形で来るわけです。またこの調査した時期がちょうど6月でしたから,大学の人事異動の時期に近接していた可能性もあり,来たばかりの人が多かったのかもわかりません。でも一般に2~3年で,3年いてくれればいい方で,1~2年で動くことがあると思います。どの程度多いかは分かりませんけれども。
〇高久会長 それでは,時間が参りましたので,どうも先生,何回もありがとうございました。満足度というのは,恐らくドクターは一人か二人しかいないですから,あと看護師の人とかですから,医療チームの中の人間関係はそんなに複雑ではないのですね。ただ,私も何人かの医務官に聞きましたけれども,患者さんというか受診者に対する不満は非常にありまして,精神科の人はある程度興味を持って診ている人もいるのですけれども,内科の人はやはり仕方がないからというか,要するに医局から派遣されて,あるいは二日間自由時間があって公務員の身分を保障されているから,まあその間はというのがかなりでして,今おっしゃったようにこれで週40時間と言われたらもう即座にやめるという。精神科の人は,中にはこういう受刑者の精神状態に興味を持っている人がいますけれども,そういう方以外は余りやりたくないけど仕方なしにやっているという感じでしたね。
〇江川委員 感覚として,例えば普通の公務員のとおりに働きなさいといったら,大体どれぐらいの人がやめますかね。
〇高久会長 僕は80%ぐらいやめてしまうだろうと思います。そんなにたくさん聞いているわけではありませんけれども。

3.海渡雄一弁護士からのヒアリング

〇高久会長 それでは,ちょっと5分ほどおくれましたけれども,海渡先生,ではよろしく。
〇海渡弁護士 行刑改革会議の大切な場でプレゼンの機会を与えていただきまして,本当にありがとうございます。私,弁護士になってもう23年目なのですが,ずっと刑務所の問題をやってきまして,今から7年前ですけれども,監獄人権センターというNGOを作りまして,その事務局長として数多くの刑務所からの手紙による苦情の受付けをやっているわけですけれども,私の感覚からすると約半分ぐらいの相談が,医療に関する相談で,もちろんその中にはかなりわがままな要求だなと思われる部分もありますけれども,中には命にかかわるかもしれないような状態に陥っているのに,きちんとした検査,診察すらしてもらえないというような訴えもあります。今日,先生方のためにこういうプレゼンの資料をお作りしましたので,これを見ながら,できましたらこれは分かりやすく簡単にしたもので,それを文章化したものもつけてありますので,両方御覧いただければと思います。
 今日お話ししたい点ですけれども,まず刑務所医療の現状を受刑者と医療関係の両方の観点から問題点をまず考えてみたのですが,矯正局の方で医療関係のプレゼンをやられたときに,高額治療,インターフェロン治療とかそういうようなことをするのが妥当かどうかというような議論がされておりましたけれども,そういうことを望んでいる受刑者はいないわけでして,少なくとも自分の体に異変が起こっていると思われるときにお医者さんに診てもらいたい。そこまでいかないのだ。そういう訴えが非常に強いです。
 それから,次いでお医者さんの医療が,きっと医師の人数が足りないためでしょうけれども,非常に時間が限られている。詳しい病状の説明等もしてもらえない。立会いの刑務官がいて,もうそこらで終わりだとかいうような感じで口を挟んでくる。
 服役前にこういう薬をもらっていたのですがというようなことを言っても,中にある薬しかもらえない。服役中どういう薬をもらっていたかということ自身も,本人には教えられていませんので,外に出たときに同じ薬をまた続けて飲むことも難しいということで,刑務所医療というのが社会の中でぽっかりそこだけ別世界になっていて,前と後との連続性がないという点が挙げられます。
 次の紙をめくっていただきまして,医務課の職員の方は大変な苦労をされていると思います。回診に回って,一人一人に,実は刑務所によっては薬を自動的にフリップというのですか,入れる機械もなくて,手作業で一つ一つ進めているようなところもあるというふうに聞いていますので,そういうものを一人一人全員に投薬するとかいう膨大な事務量がある。中には,医療従事者として倫理意識に欠けている者もいる。
 医師の観点から言いますと,一番多く言われる点は,刑務所医療というものの魅力が乏しい。要するに症例として自分で手術とかまでするというようなことがなかなかできない。本当に最初の治療だけやって,もし重篤なものがあれば外に出すしかないというようなことで,キャリアにつながらない。医局から言われて行っているというようなことで,常勤で週2~3日という,今入ってきたときに議論されていたのは恐らくそこではないかと思うのですが,現実にそういう問題点が指摘されております。
 簡単に言って,現状の問題点をまとめますと,医療従事者にモラルが欠けている場合が見られる。全員とは申しません。それから,医療が刑務所の中の保安に従属している。この点,今日のアンケート結果を私もちょっと外で見させていただいたのですが,大変いい資料がありまして,アンケート結果の8ページから9ページのあたりのところを見ますと,購入する医薬品が高価であると言われたとか,外部へ連れていく必要があるのかと言われたとか,外部に入院させたところ,人員配置のため早目に戻すよう言われたとか,まさしくこれは保安に従属している医療の姿そのものなわけです。医療上の判断ではなくて。処遇から戒護職員を出す必要がある,なるべく施設内で治療を行ってほしいと言われたとか,刑務所医療が非常に貧しい状態で,自分のところではできないのだといって外に出しているのに,戒護職員が足りないからといって戻せというふうに言われているというのは,やはりゆゆしい問題と言えるのではないかと思います。
 それから,死因の確定手続が存在しない。今回の死亡帳の関係でも,多くの事案で急性心不全という,本来死亡記録には載せてはいけない病名とも言えないような,心臓が止まってしまったという以上の意味がないわけですが,そういう記述が目立つといったような問題点が指摘されております。
 次めくっていただきまして,刑務所の中の不審死をめぐる経過ですが,もともとこの,今日持ってまいりましたが死亡帳の一覧表という,死亡帳自身1,600枚ぐらい出てきたわけですが,それですごいものですが,それをこういう一覧表にまとめてもこんなに分厚くなるぐらいの大変な数の死亡事例が10年間にあって,それが出てまいりました。死亡帳全部が不審な事例だったわけではないわけですが,死亡帳1,594件のうち,国会からの要請で238件,最終的に調査の対象になったのは250件前後だと思うのですけれども,詳しい検討がなされました。
 次めくっていただきまして,最終的に死亡帳調査班という検察官の方がヘッドになられて行われた報告で,40件が報告の対象となっている。我々は疑わしい死亡事例は70件程度あるのではないかというふうに考えていて,このほとんどの件数が一致しております。30何件まで同じケースです。それで,国会審議の中ではこの死亡帳やカルテ等を見たお医者さんの中で,急性心不全といった記載はもう許されないし,一般病院であれば200件以上の医療過誤訴訟は覚悟しなければいけないというような専門の医師の発言もありました。
 次のページめくっていただきまして,死亡事例の調査から見た刑務所医療の改善すべき点と改革の方向性ということですが,最初のはちょっとこのまま,次に詳しく出てきますので飛ばしていただきまして,まず医療を受けられないまま死んでしまったような事例がある。ここに具体的に3例挙げておきましたが,この月形刑務所の事件などは,今日は体が動かないので作業を休ませてください。今日だけでいいですというふうに訴えているのに,ゆっくりでもいいから作業をするようにという指示をして,「きさま,殺す気か」と口答えして保護房に収容して急性心不全で死んでしまっている。
 黒羽の976番というケースは,ぜんそく発作を知らせるために扉を叩いているという受刑者を,規律違反だということで取調室に連行して,その後死んでしまっている。本来ぜんそくの治療をしなければいけないのに,懲罰の対象にしてしまっているわけです。
 大阪のこのケースも,「腹が痛い。痛くてたまらん。どうにかしてくれ」と言っていて,これは実際には腹膜炎を起こしていたのですが,薬は飲んでいるから大丈夫だということで医者にも通報しないで,これは夜間のことなのですが,結果的には当直医師も自宅にいなかったというような事情もあって,119番にも通報せずそのまま死んでしまったといったケースも指摘されております。
 次をめくっていただきまして,革手錠による死亡事例というのが名古屋で問題になったわけですが,それ以外にも革手錠に関連していると思われる死亡事例が,今回のケースの中で7件もあります。これを具体的に説明すると時間がかかりますが,例えば京都595番というようなケースは,革手錠を施錠された直後に食道動脈瘤の破裂で死んでいるわけですけれども,これも私どもの方で専門のお医者さんなどに聞くと,革手錠をグッと締め上げると喉の部分に非常に圧力がかかって静脈圧が上がって破裂することはあると。これは法務省の方で聞かれている法医学者の方も同じようなことを言われています。
 あと鹿児島の424番のケースなど,革手錠されて「出してくれ」,「いつ外してくれるんや」,「開けてくれ」と言っていた人がおとなしくなって,房をあけてみたら死んでいたとか,そういったケースもあります。
 川越のケースというのも,これも非常に不可解な事件ですが,革手錠施錠後すぐに横になって,2時間後には無反応の状態になって,実際には窒息死だった。吐いたものを吸引しているというようなことが書かれています。
 次をめくっていただきまして,保護房による死亡事例で,これも全部挙げると限りがないですが,15件もの事例が報告されております。保護房内で筋肉注射が原因で死亡したと思われる府中の150番のケース。
 それから大阪の918番,これは自分から保護房に入れてほしいと言ってきた,いらいらして落ち着かないから保護房に入れてほしいと。本当はいらいらして落ち着かない人を保護房に入れてはいけないのですが,入れた後,「何でこんなところにいるんや」,「もう死にそうや」,「吐きそうなんです」と言っていた人が,結局これは恐らく過換気症候群ではないかと思うのですけれども,呼吸がとまって死んでしまっている。大阪の919番,これは時間もほとんど前後しているのですが,「出たい,出してくれ」,「腹減った。おかあちゃん助けてえな」と言っていた人が,結局窒息で死んでいる。
 私の見るところ,保護房で亡くなっている人の幾つかのパターンがありまして,精神分裂病になってる人を,非常に頭が痛いとか言っている人をそのまま入れておいて窒息で死んでいるケース。あと,中で非常に温度が夏場など暑くなりますので,脱水症状を起こして死んでいる人もたくさんおります。そういったケースが指摘されています。
 次をめくっていただきまして,この懲罰中の姿勢の強制が保護房拘禁の理由となって,結果として死に至った事例。これは大変僕は痛ましいケースだと思うのですが,これも開示された資料によりますと,「足が痛くてどうしようもない。できないんですよ」,「できないものはできないんですよ」と顔面蒼白で泣き叫んでいる受刑者を保護房に収容した。先生方分かりにくいかもしれませんが,ずっと懲罰中は,一定の場所にあぐらをかいて座っていなければいけないわけですね。そうするとおしりの部分が本当に褥瘡のような形になって,何日もその状態が続きますから,痛くてどうしようもないと言っていたのだと思われるのですが,その後「先生,先生」と呼んで助けを求めていて,これは夏場なのですが,頭から水をかぶったりしていて,9月に入ってきっと朝が冷え込んだのかもしれませんが,肺炎を起こして急性気管支肺炎で死んでいる。現実に最後保護房から出てきたときには,おしりに10センチ四方のかさぶたもできていた。これはずっと懲罰で座っていたための褥瘡ではないかと思われます。
 それ以外に,医療の水準が非常に劣悪で亡くなったと思われる事例。摂食拒否者の治療への無理解から起きたと思われる事例が8件。これは例外なくこの人たちは独居拘禁されていた人たちです。独居拘禁されていると,人間は食欲を失っていって,摂食拒否になるようです。あと熱中症の治療への無理解。これは保護房に収容されていた人たちなのですが,5件ある。ぜんそく発作,先ほども1件紹介しましたが,ぜんそく発作の管理ができないで重責発作で死亡も3件。心臓疾患に対する管理に失敗して死亡した事件が1件。こういったものが指摘できます。
 次に,死因がはっきりしなかったケースがあります。今回の調査でも,最後まで死因が明らかでない,よってだれの責任か分からないというような記載になっているケースもあるのですが,死亡帳の記載内容もばらばらで,統一的な指針がない。死因として急性心不全が多用されていた。
 私が非常に残念に思うのは,例えば保護房の中で熱中症で死んだ事例については,実際に確定判決になって5,000万の損害賠償金が払われた事例があるのですね。そういう事例があるにもかかわらず,同じように熱中症で死んでいるケースが5件もある。これは本当にそういう事件が1件起きた。それを教訓にして保護房というところは夏場は非常に暑くなるから危険なのだ,二度とそういう事件を起さないようにしようとかいうようなことが話し合われていないのではないか。精神分裂病の被収容者を保護房に拘禁していて窒息で死んでしまっているというケースも,先ほど御紹介しましたが10件ぐらいあると思います。そういうことが現に起こっているのであれば,その原因を徹底的に究明して,二度とそういうことを起こさせないということが必要だったのではないか。独房拘禁中の摂食拒否というのも8件も起こっているわけです。これも異常な事態だと思うのですけれども,そういうケースについて刑務所の医務部,矯正局の医務担当者の間で問題点を共有して,二度とそういう事件を起させないというための対策が練られていないのではないかというふうに思わざるを得ないわけです。
 次に,ちょっとテーマを変えまして,刑務所医療改革の国際的な動向について御説明します。これはフランスとイギリスの二つの国の実情ですけれども,フランスで1994年1月18日の法律で,現実には96年から始まったのですが,刑務所の医務部というものを地域医療機関の出張所というふうに位置づけを変えるというふう大改革が現状で行われております。実際こういうふうにすると,どういうふうに変わるかというと,医療が保安から引き離される。被拘禁者の医療上のプライバシーが制度的に厚く保護されることになる。あと,被拘禁者が生産作業についている場合には,報酬額から1割程度のお金が社会保険の負担金として天引きされているそうです。一応だから,有料治療というか,フランスの場合は月々3万円ぐらいの給与が払われていますから,それの1割で3,000円ぐらい取るということで,社会保険の負担金も天引きするというような形になっております。
 最近出版されました「パリ・サンテ刑務所」という,パリのサンテ刑務所に勤務されていた女医さんの書かれた本があるのですが,きょうの資料6というところに実際のものを添付しておきましたけれども,実際にこの改革が行われてどういうふうに変わったか。「サンテ拘置所の医療部門は,最寄りのコシャン病院に正式統合され,私たちの医務室はシガール教授率いる医局の出先機関となった。医療とこれを補助するするチームは強化され,95年以降スタッフの数は2倍に増強された。全体で40名のスタッフを擁し,医師の診察を受けるための待ち時間はなくなった。患者を病院まで搬送する場合,1日4回まで警備隊の出動を要請することができる」要するに,1日4回は自分の来た元の病院に受刑者を送っていけるという権利が医療スタッフの方にあるわけです。今回の先ほどのお医者さんへのアンケートなどを見ましても,すぐ受け入れてくれる病院がなくて非常に困るとか,医療機器が非常に不十分であるとかいった,そういう数々の訴えを聞くわけですけれども,すべての刑務所に一級品の医療機器を備えることは無理なわけです。その必要もないと思います。しかし,それぞれの医務施設が地域の医療中核施設の出張所ということになれば,そこから自分の裁量で,自分の患者として,元いた大きな病院に送ることができる。その病院で100%勤務していて,給与もそこから出ている。その,例えば週のうち半分は刑務所に来るということで構わないわけです。当該のお医者さんから見ればですね。そういう……。
〇高久会長 20分を予定していたのですけれども,また皆さんから御質問もございますので。
〇海渡弁護士 あと5分程度で終わります。
 同じような改革が,イギリスでも行われておりまして,これは本当最近ですが,2003年4月から行われて,地域の医療,公的医療団体に刑務所医療の管轄を移していくということが現に実行中です。これはフランスでやったことが非常に成功したということで,イギリスでも取り入れているということです。
 あと死因確定については,イギリスの非常に進んだ制度として,必ず公開の陪審裁判で死因を確定する検死法廷というものが開かれておりまして,その具体的な実態については朝日新聞で3回ほどの連載記事がありましたので,それをきょうの資料の中に入れてあります。
 次をめくっていただきますと,ヨーロッパ拷問等防止委員会の基準というものを入れておきましたが,今日の先生方にお配りした資料の中に,ヨーロッパ拷問防止委員会のパンフレット,こういうものを入れてあるのですが,ヨーロッパのすべての国について刑務所や精神病院等を視察して,拘禁状況を改善するように提言,勧告を出し続けている委員会なのですが,そこが出している一般的な基準の中の医療に関する部分,これはページ数にすると非常に長いのですが,その項目だけを拾い出したものです。医師の治療が受けられること。これははっきりこのとおり書いてあるのですが,私も本当このとおりだと思います。一般社会と同等の医療。患者の同意と秘密を保持する。受刑者の検診は,担当医から別段の要請があった場合を除いて,職員からは聞こえない,又は見えない場所で実施する。そういったことがうたわれておりまして,あとの点はちょっと省略いたします。
 最後に第5に移りまして,刑務所医療をどういうふうに改革していったらいいかという点ですけれども,今回大量の不審死が発覚して,刑務所で亡くなったケースの場合,極力公表するというような方向で変わってきているということは歓迎すべきと思いますが,外部に対する透明性,説明責任を果たしていくためにも,刑務所内のすべての死亡事案について検死の実施を義務化すべきではないか。そして,刑務所外の法医学者,法律家を構成員とする検死手続と記録の公表を求めたいと思います。この点に関しては,きょうの資料の中にも朝日新聞の投書で,法医学会の理事長さんが,全国の法医学者がこれに協力したい,そういうことを是非やりたいということを言われていて,年間150件程度だと思うのですけれども,それぐらいであれば全国の法医学教室で十分対応できるというような,法医学会という公の団体の理事長として協力申出があるということで,是非今回の改革の中でそういう道筋を開いていただきたいなと思います。
 次に,被収容者の保険加入と刑務所医療を法務省から厚生労働省へ移管すること。これは行政上のさまざまな問題があってかなり難しいことではないかというふうに高久先生もおっしゃられていたのですけれども,私はむしろ今刑務所医療が抱えている医師のなり手を探すのが難しいとか,アルバイトと併用でないと難しいとか,いろいろ言われていますけれども,ひとたび刑務所医療の担い手を地域の医療中核病院の医師だというふうに決めてしまえば,刑務所に来るのは数日でいいわけです。それ以外の日は自分の元いた病院で働けばいい。そうすれば,たくさんの症例にも触れられますし,キャリアの断絶にもならない。毎日受刑者を相手にして頭が痛くなったりすることもないということで,すべてがうまくいくのではないか。例えば医療コストなどの点についても,これは保険で賄うという形になりますから,医療の水準も保険医療ということになります。保険を越えるような高度医療までは必要ないわけで,普通に保険を受けている際の外部医療と同等性のものを保障すればいいのではないか。
 その上で,刑務官による医療行為のスクリーニングを禁止しても,十分やっていけるのではないか。フランスの場合はこういう形でやって,日本では詐病の問題が非常に重大で,この点で医療担当者の方は困っているわけですけれども,こういう体制をつくって外部の病院である。そこに普通の患者として自分も保険加入者として行くのだという形になれば,今のような極端な詐病現象なども抑止できるのではないかというふうに思います。すべての被収容者を健康保険に加入させることによって,不必要な医療のチェックもできるようになっていくということで,是非ともこの点の改革というのは,私どももフランスだけが事例かというふうに思っていたわけですが,いろいろ調査していく中で,イギリスもつい最近今年の4月からそういう改革をしているということに意を強くしておりまして,今回,英仏にも先生方のうちの何人かは行かれるというふうに聞いていますので,刑務所医療を大改革する本当に大きなチャンスがめぐってきていると思いますので,先生方の御尽力で刑務所の中で安心して暮らせるような,そのための最も出発点は,適切な医療がきちんと受けられるということではないかと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
〇高久会長 どうもありがとうございました。今御説明をいただきましたけれども,どなたか御質問。
〇江川委員 今の説明の中で,こういうふうにすれば詐病もなくなるということなのですが,それがよく分からないのですけれども・・・。実際にお医者さんたちのアンケートを見ても,詐病とかいろいろ何か薬の強要とかそういうのがあって大変だということが書いています。なぜこうするとそういう問題がなくなるのか。つまり詐病というのは,作業に行くのが嫌で保健室みたいなところに行けば,その間作業しなくてよかったり,あるいは病人だということで作業を免れたりという,そういうことを企図しているのだと思うのですね。だからそういうシステムの問題とはちょっと違うような気がするのですけれども,どうなのでしょうか。
〇海渡弁護士 結局,先ほどフランスの制度で御説明したときに,フランスの場合は報酬金が月々3万円ぐらいいただけるわけです。それで生産作業についている場合には,報酬額から1割程度のお金を社会保険の負担金として支払っているということですから,一種の自分でちゃんと費用を払って保険治療を受けているという感覚になると思うのです。それに保険の初診料みたいなものを取るかとか,そういうような問題ももちろん起こってくるとは思うのですけれども,刑務所の医療は基本的に無料とすべきだというような原則もあるとは思うのですけれども,何らかの,お金がないという人の場合には保険の場合には生活保護を受けている人の無料治療のようなものもあるわけですから,お金がある場合には一定の負担をさせるというようなこととリンクさせれば,詐病の飛躍的な減少につなげられるのではないかという趣旨で申し上げたのです。
〇江川委員 例えばフランスでは詐病がなくなったとか,そういうことの具体的な例があるわけではない。
〇海渡弁護士 少なくとも非常にはっきりしている点は,フランスでは医師の診察を受けるための待ち時間はなくなったと書いてありますから,このなくなった原因は医療スタッフが充実されたということもあると思います。しかし,ある意味ちょっと言葉は悪いのですが,刑務所当局に対して不満がある人が刑務所の医師に対してその不満をぶつけているという面が,今の医療にあると思うのです。しかしそこにいる刑務所のお医者さんが外部の人だということになれば,刑務所に対する不服を刑務所の中に医務室のある別の病院の医者にぶつけても仕方がないことになるわけですよね。
〇江川委員 それはこちらの理屈ではないでしょうか。
〇海渡弁護士 いや,でもそれは心理的には,このサンテ刑務所のことを書いているヴェロニックさんが,医務課入り口の張り紙は,この場所が公立病院の施設であることを告げている。つまり,監視によるチェックはあっても刑事施設とは無関係な区画なのだ,そういうものだというふうに思っているから攻撃性がなくなってくるわけですね。みんなのんびりしているというわけです。彼女は,この改革の前からずっといた人だから,その前と後で何が変わったかというと,医務に来て待ち合いしている受刑者の顔つきが変わった。何かちょっと説明しづらいですけれども,そこの部分は刑務所じゃないわけですよね。刑務所の中にあるけれども刑務所じゃない部分だというところに来ているということによって,ある意味,余り自分が病気でもないのに詐病で来るというようなことは恥ずかしいという感情だって芽生えてくるでしょうし,僕はそういういろんな心理的な問題が非常に重要ではないかなと。
〇江川委員 フランスの場合は,作業というのは義務ではないのですよね。
〇海渡弁護士 ほとんど大半の人は作業していると思います。
〇高久会長 ほかにどなたか。
〇広瀬委員 私まだ府中の刑務所を一度見学しただけなので,その印象からちょっとお聞きしたいのですけれども,確かに医療を受ける人たちが静かに待合室にずっと並んで,えらくおとなしそうな感じで順番を待つ。そういう風景を見ていると,いい医療施設がああいうところにも是非必要だという気がするのですが,一方で独房に入って,ただただ暴れ回っているというような,そういう患者といいますか受刑者もいるわけですね。そして,その連中に医療的な手当てをする。おとなしいと言いますか,本当の患者さんと性格破綻的な,これは医療が当たるのかもっと別なものが当たるのかは別ですけれども,一概に論じると,それは医者だけではなくて矯正の職員も含めて,だんだんやはり難しい状況になってくると思うのです。そして覚せい剤だとか,そういう性格破綻的な受刑者は,全く別個に医療を中心とした刑務所をつくっていて,そうでないまともなと言っては何ですけれども,比較的そういうこととは無縁な,例えば受刑者で肝臓が悪いとか心臓が弱いとかいうのならば,そこに健康保険を適用しようともっと手厚くしようと,社会全般の支持が得られると思うのですね。現に透析などで毎日受けに来る受刑者もいますというような話もありましたけれども,そういうことは大いに手厚くすべきだと思うのですけれども,一方でそういう何かめちゃくちゃ,彼らはただたださぼりたいためにも何かやるだろうし,刑務所に対する反発そのものでも暴れまくるのではないかというような,その辺の問題を,あなたも長くやっていてどういうふうに感じますか。
〇海渡弁護士 刑務所の中に非常に処遇の困難な受刑者がいるというのは,僕も理解できます。むしろそういう人たちに僕たちも苦しめられているというか,そういう非常に攻撃的な,ちゃんとした対応をしてくれないから訴えてやるみたいな手紙もよくもらうのですけれども,僕の経験からして,もちろん本当にその人の性格がそうだというケースもあるとは思うのですけれども,そういう状態になっている人のかなりは,ほとんどと言っていいと思うのですが,独房に入れられているのですね。独居拘禁になっているわけです。独居拘禁に入っているときには,人間というのは非常に攻撃的になるわけです。猜疑心も強くなる。それは刑務所のお医者さんが書かれた本の中なんかでも出ていますけれども,そういう人を,一生懸命刑務所の当局と交渉し合って,とりあえず試しでもいいから一度出してみましょう。普通の工場に出してみましょう。いや,それは難しいとかいろいろあるのですけれども,まあいったん出してみようと。出すと,全部とは言いません。また戻ってしまう人もいますけれども,10中8,9までいくかな,7,8割ぐらいまではそのままうまくいくのです。結局,その独房に入れていたことの方が本人の性格をおかしくしていた。独房から出た後に我々が面会に行くと,普通に話ができるようになるのです。やはり人間というのは,孤独の状態に置いておくと非常に精神的にも病んでいく存在なので,むしろ刑務所が起源となって,独房に入れているためにそういう状態になったということも十分あり得るのではないか。
 きょう報告されていた名古屋の12月事件の当事者というのは,最後確かに大変暴れるような状態になっていたようです。しかし,彼ももともと普通に受刑生活を送っていた時期がある。そのきっかけになったのは,競馬の雑誌を読めるかどうかという,非常にくだらないことで,そのことを読めなくなったことについて情願の申立てをしようとしたことがきっかけになって保護房に入れられ,最後は抵抗する状態でああいうふうになっていったということで,やはり僕は刑務所側の人の取り扱い方によって,非常に処遇が困難とされている人たちにも精神科的な,あとカウンセリング的な対応をすれば救える部分があるのではないかという感じがしておりますけれども。
〇広瀬委員 かなり,動機は別として,そうした攻撃的な人間たちとつき合わなくてはいけない医者,そしてまた矯正の職員,そういう人たちがまた医者の気持ちを,つき合うのも嫌だというような感じにさせていくとか,職員をもまた非人間的にしていくとか,その種の変な効果があると思うのですよね。それで1割か2割か分かりませんけれども,人に迷惑をかけるばかり,それが一般房に入ったのでは他の連中はみんなおかしくなるとか,そういうのもやはり収容するところは別個つくって,非常に重たい重荷から医者でも職員でも若干解放していくべきではないかという気もするのですよね。
〇海渡弁護士 ちょっと1件だけよろしいですか。
〇高久会長 もう時間になりましたので,では最後に。
〇海渡弁護士 今のお話を聞いて一つだけ事例を紹介したいのですけれども,僕が担当した事件でイラン人の受刑者の人で,府中刑務所に入っていた方で,もともと体重が65キロあったのが,一番ひどいときで29キロまで落ちてしまった人がいるのです。彼は独房で摂食拒否になって死にかけていたわけですけれども,アムネスティインターナショナルというところに家族が通報して僕が行ったのですけれども,この状態では非常に危険だと思って府中刑務所にお願いして,八王子医療刑務所に移してもらいました。医療刑務所で非常にいい精神科のお医者さんに当たって,それまでは彼は,「俺は拷問を受けているのだ。ひどい暴力を受けた」とか言うのだけれども,それはどうも証明できないのですね。そういう事実があったかどうかも僕は分かりませんでしたけれども,とにかくお医者さんと私も一緒に行って,この治療を受けなさいということを説得して,IVH治療という栄養を補給するような治療を受けて体重が回復していったわけです。体重がある程度回復したところで,今度は絶対独房に帰さないで工場に戻してくださいというふうにお願いして,おっかなびっくりだったのですけれども,府中刑務所に戻ったときに工場に戻してくださったのです。そうするとみるみるよくなって,普通に働ける。そういう被害感情などもなくなるような形に変わったというケースがあるのです。
 ですから,先生がおっしゃるように本当にもうどうしようもない性格異常のような人が世の中にはいるとは思うのですけれども,僕は本当にそれは少ないのではないか。刑務所の中で本当にハリネズミみたいになって,自分はひどい目に遭っていると言っている人も,やさしい声をかけることによって変わるということなのです。普通の処遇に戻っていける。そういうルートもやはりつくっていただきたいな。そういう人はもう隔離してしまうとかいう前に,もう一回戻せるルートも欲しいなというふうに思うのですけれども。
〇高久会長 どうもありがとうございました。ちょうど時間過ぎましたので。きょうの御意見を,特に御提案をいろいろいただきましたので,今後のこの会で検討させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
 それでは,これできょうは第3分科会を終わらせていただきます。また22日にいろいろとヒアリング等,意見の交換をしたいと思います。よろしくお願いします。どうもありがとうございました。


午後5時04分 閉会