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平成12年改正少年法に関する意見交換会(第1回)議事録

第1  日時

平成18年10月17日(火)午後1時31分から午後4時05分

第2  場所

法務省第1会議室

第3  出席者(敬称略,五十音順)

甲斐 行夫(法務省刑事局刑事課長)
川出 敏裕(東京大学教授)
河原 俊也(最高裁判所家庭局第二課長)
久木元 伸(法務省刑事局参事官)
武 るり子(少年犯罪被害当事者の会・代表)
武内 大徳(弁護士)
松尾 浩也(法務省特別顧問)
松村  徹(最高裁判所家庭局第一課長)
三浦  守(法務省大臣官房審議官)
望月 廣子((社)被害者支援都民センター・相談支援室長)
安永 健次(法務省刑事局付)
山崎 健一(弁護士)

第4  配付資料

第5  議題

法務省からの施行状況の説明

第6 議事

● 甲斐 皆さんおそろいのようでございますので,始めさせていただきたいと思います。
 最初に,当省の官房審議官の三浦からあいさつをさせていただきたいと思います。
● 三浦 本日はご多用中のところをお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。平成12年11月に少年法等の一部を改正する法律が成立いたしまして,平成13年4月1日から施行されております。この平成12年改正法は少年事件の処分等の在り方の見直し,少年審判の事実認定手続の適正化,少年事件の被害者への配慮の充実といった三つの柱からなっておりますけれども,その附則第3条におきまして施行後5年を経過した場合に改正後の規定の施行状況について国会へ報告するとともに,施行状況について検討を加え,必要があると認めるときには法制の整備その他所要の措置を講ずることを政府に求めているところでございます。
 さらに平成17年12月に閣議決定されました犯罪被害者等基本計画におきましては,平成12年改正法の施行後5年を経過した場合に行う検討において,少年審判の傍聴の可否を含め,犯罪被害者等の意見・要望を踏まえた検討を行い,その結果に従った施策を実施することとされております。法務省といたしましてはこれらの規定等を踏まえ,本年4月に平成12年改正法施行後5年を経過したことを受けて,同法による各制度の施行状況について取りまとめをしたうえで,本年6月9日,閣議決定を経て国会に報告を行ったところでございます。
 その内容の詳細は後ほど説明させていただきますが,当局といたしましては,今後,更に検討を行って,法制の整備その他の措置を講ずる必要性の有無を考えてまいりたいと考えております。そして,その検討に当たりまして様々な立場の方々からの御意見をお聴きしたいと考えて,今回,この意見交換の場を設けさせていただいたところでございます。
 このように,この意見交換会は,法務省といたしまして,今後の検討の参考とさせていただくために皆様に御協力をお願いして開催をするというものでございまして,当局において何らかの具体的な案をお示しして御議論をいただくというものではございませんし,また一定の改正等について答申や提言を取りまとめるということを目的とするものではございません。その意味では意見交換会と申しましても,皆様方に自由な意見交換をしていただき,法務省としても一定のコメントをさせていただきながらこうした議論をお聴きするという,ヒアリングの形に近いものとお考えいただいたほうが適当とも思われます。
 いずれにいたしましても皆様にはこのような趣旨を御理解いただきまして,どうか忌憚のない御意見をいただき,活発な意見交換を行っていただきますようお願いいたします。
 (順次,出席者の自己紹介が行われた。)
● 甲斐 ありがとうございました。
(本意見交換会について,年内に4回開催し,1回当たり2~3時間程度をめどとすること,議事録を作成しホームページに公表すること,その際,発言者名を記載し,公表に適さない部分については配慮することについて了承された。)
● 甲斐 それでは内容に入っていきたいと思いますが,最初に資料を配布させていただいておりますので,それについて説明をさせていただきます。
● 安永 配布資料について説明させていただきます。配布資料は資料1から6までです。
 資料1から4は平成12年改正少年法に関する資料です。このうち資料1は平成12年改正少年法の概要をまとめたものです。また,資料2と3はいずれもこの平成12年改正少年法の施行状況についての報告に関するものです。順序が前後いたしますが,資料3が平成12年改正法附則第3条に基づき,同法の施行日である平成13年4月1日から平成18年3月31日までの5年間における施行状況について,本年6月9日,国会に報告したものでございます。資料2はこの報告の概要をまとめたものです。
 次に,資料4につきましては,これは犯罪被害者等基本計画の抜粋でございまして,この基本計画のうち,少年保護事件に関する犯罪被害者等の意見・要望を踏まえた制度の検討及び施策の実施に関する部分を抜き出したものです。
 続きまして資料5及び6は,現在,国会に提出し,継続審議となっております少年法改正法案に関する資料です。このうち資料5はこの少年法改正法案の概要をまとめたもので,資料6は少年法改正法案に関連する資料です。
 この法案は,警察官によるいわゆる触法少年及びぐ犯少年に係る事件の調査手続,14歳未満の少年の少年院送致,保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守しなかった場合の措置等に関する規定を整備するとともに裁判所の判断により国選付添人を付する制度を新設するための所要の規定を整備するものです。平成12年改正に係る規定の施行状況とは関係なく,平成12年改正時に触れられなかった事項について所要の法整備を行おうとするものでありまして,平成12年改正後のいわゆる「5年後の見直し」と関係するものではございませんが,現在,提出している法案ですので資料として付けさせていただいております。
 以上,簡単でございますが配布資料の説明をさせていただきました。
● 甲斐 配布資料につきまして何か御質問等はございますでしょうか。今でなくても,また後刻でも御疑問の点がありましたらその都度おっしゃってください。
 それでは最初の問題であります平成12年改正法の施行状況について,法務省から説明をいたします。
● 久木元 それでは私から平成12年改正法の施行状況について御説明申し上げます。平成12年改正法の要点は,今御説明させていただいた資料のうち,資料1に記載のありますとおり,少年事件の処分等の在り方の見直し,少年審判の事実認定手続の適正化,少年事件の被害者への配慮の充実の3点でございます。この後の説明につきましては資料2と3をご参照いただければと存じます。
 まず,要点の第1であります少年事件の処分等の在り方の見直しに関する改正から御説明を始めたいと思います。
 改正前は,家庭裁判所が刑事処分を相当として事件を検察官に送致すること,いわゆる逆送をすることができるのは,16歳以上の少年に限られておりましたが,平成12年改正法により14歳以上に引き下げられました。これは年少少年による凶悪重大事件が後を絶たず憂慮すべき状況にあることに鑑み,この年齢層の少年であっても罪を犯せば処罰されることがあるということを明示することにより,社会生活における責任を自覚させ,その健全な成長を図る必要があることから,検察官への送致が可能な年齢を刑法が定める刑事責任年齢に一致させたものです。
 平成13年4月1日以降に罪が犯された事件で,同日から平成18年3月31日までの5年間に終局決定があったもののうち,裁判時,14歳又は15歳であった少年の人員は8万8,036人,これは道路交通法違反事件及び業務上重過失致死傷事件を除いております。
 また,このうち故意の犯罪により人を死亡させた事件は合計48人,これに強盗強姦を加えた,いわゆる重大事件は合計53人でした。これに対し平成12年改正法により逆送された14歳または15歳の少年は資料2及び資料3の2ページの表一にありますように5人でした。
 この5人のうち,1名は強盗強姦等で実刑に処せられ,2名は道路交通法違反で罰金に処せられましたが,2名は傷害致死により刑事裁判の結果,少年法第55条により再度家庭裁判所に移送され,少年院送致となっています。
 この5年間における年少少年の逆送率は0.01%未満であり,故意の犯罪により人を死亡させた事件に着目しても48人中2人が逆送され,割合は4.2%となっております。このように家庭裁判所においては平成12年改正法の趣旨を踏まえつつ,少年の心身の発達状況等を考慮した慎重な運用がなされているものと認識しているところであります。
 次に,平成12年改正法では,このように16歳未満の少年に対して懲役又は禁錮の言渡しをする可能性が生じますところ,16歳未満の少年受刑者については,その年齢や心身の発達の度合いを考慮し,受刑者の社会復帰のために改善更生を図るという刑罰の教育的側面を重視した行刑を適当とする場合が多く,特に,義務教育年齢の者については教科教育を重視しなければならないことから,少年法第56条第3項を新設し,懲役又は禁錮の言渡しを受けた16歳に満たない少年に対しては,16歳に達するまでの間,少年院においてその刑を執行することができ,その少年には矯正教育を授けるものとされました。
 もっとも,この5年間に懲役又は禁錮の言渡しを受けた少年で判決宣告時に16歳に満たない者はおりませんで,少年院においてその刑の執行を受けた者も当然おりませんでした。
 さらに,平成12年改正法により,少年法第20条第2項が新設されて,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては事件を検察官に送致する旨の決定をしなければならないものの,調査の結果,刑事処分以外の措置を相当と認めるときはこの限りではないとする,いわゆる原則逆送制度が導入されました。
 原則逆送制度は,何ものにも代え難い人命を尊重するという基本的な考え方を明らかにし,少年に対して自覚と自制を求めることが少年の規範意識を育て,健全な成長を図る上で必要であるとの観点に立って,犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させるという重大な犯罪を犯した場合には,事件を逆送して少年に刑事裁判を受けさせることを原則としつつも,個々の事案の判断においては,犯行の動機・態様,犯行後の状況,少年の性格,行状及び環境等の事情を家庭裁判所がきめ細かく検討し,保護処分が適当と考えられる場合には保護処分を選択することとしたものであります。
 平成13年4月1日から平成18年3月31日までの5年間に発生した原則逆送の対象となる犯罪を犯した少年は349人であります。そのうち資料2に記載のあるとおり216人が逆送され,逆送率は61.9%でした。
 なお,これに対しまして,平成12年改正法施行前の5年間では,統計の対象となる罪名が若干異なりますが,殺人,これは未遂を含みます,それから傷害致死,強盗殺人及び強盗致死についてみますと,資料3の4ページに記載のありますとおり逆送率は15.9%でした。
 これを罪名別で見ますと,同じく資料3の4ページに記載のあるとおり殺人は77人中44人であり逆送率は57.1%,傷害致死は190人中108人であり,逆送率56.8%,強盗殺人・強盗致死は50人中37人であり,逆送率は74%,危険運転致死は29人中27人であり,逆送率は93.1%,保護責任者遺棄致死は3人中0人であり,逆送率は0%となっています。
 以上のとおりでありまして,逆送率は改正前に比べて相当程度上昇しておりますが,原則逆送制度の対象となる犯罪を犯しながらも,保護処分が適当であるとして逆送されなかった少年が全体の約38%を占めており,重大な犯罪を犯した少年に自覚と自制を求めつつも,犯罪の重大性のみから少年の保護を捨象して一律に刑事罰を科するというような運用はされていないことが見てとれます。
 その内容については,裁判官らが取りまとめた施行後3年間の運用状況を対象に行った研究によりますと,原則どおり逆送された事案については,犯行の動機や経緯に酌むべき点がない。それから,態様も悪質,共犯者中の役割が大きいなどの凶悪な事案が大半であります反面,保護処分が選択された事件を見ますと,例えば殺人事件については,女子少年が妊娠を誰にも相談できずに出産したものの,えい児を死なせてしまったような事案のほか,親兄弟等に対する家庭内で発生した事件や少年の精神状態に問題があるものなどが見られ,また,傷害致死事件については,共犯による集団暴行事件において,実行行為も重要な役割行為もしていない付和雷同的な者について保護処分決定がされた事案が見られるなど,犯行の動機・経緯,犯行の態様・程度,共犯中の役割,精神状態等に特段の事情があって,反社会性や悪質性が低いと言わざるを得ず,保護処分の許容性が認められるなどとの分析がなされています。
 このようなことに照らしますと,原則逆送制度についても,制度導入の趣旨を踏まえた適正な運用がなされているものと考えております。
 なお,原則逆送対象事件であって,逆送決定がなされたものの刑事裁判の結果につきましては,資料3の5ページの表三をご覧いただきたいと存じます。
 次に,改正前の少年法第51条は,犯行時18歳未満の者について,無期刑をもって処断すべきときは10年以上15年以下の範囲内で有期刑を科することとしていましたところ,平成12年改正法では,本来,無期刑を相当とした事案について,必ず有期刑に減刑しなければならないとするのは適当ではないので,無期刑を科すか有期刑を科すかを裁判所が選択できることとされました。
 平成13年4月1日以後に罪が犯された事件について,同日から平成18年3月31日までの間に刑事裁判が確定した者のうち,罪を犯すとき18歳に満たなかった者であって,無期刑をもって処断すべき場合において無期刑が科された者は2人でした。
 さらに刑法28条において一般に無期刑については,10年を経過しなければ仮出獄を許し得ないとされていますが,少年法第58条第1号は,少年のとき無期刑の言渡しを受けた者には,7年を経過した後,仮出獄を許すことができることとしています。
 他方,少年法第51条は,犯行時18歳未満の者に対して死刑をもって処断すべきときは無期刑を科することとしており,このような場合に,死刑を減刑して無期刑とした上で,更に仮出獄期間についても緩和することとすると,いわば二重に刑の緩和をすることにより,本来死刑に処すべき者が相当短期間で社会復帰をする可能性を認めることとなって,罪刑の均衡という点からも,被害者感情,国民感情の点からも,適当ではないと考えられたため,平成12年改正法では死刑を緩和して無期刑を科した場合には,少年法第58条第1号の規定は適用しないこととされました。
 もっとも,平成13年4月1日以後に罪が犯された事件について,同日から平成18年3月31日までの間に刑事裁判が確定した者のうち,改正後の同法第51条1項により,死刑をもって処断すべきとした上で無期刑を科された者はおりませんでした。したがって,これについて仮出獄を許された例もありませんでした。
 その他,平成12年改正法では,少年の再非行を防止し,その健全な育成を図るためには,少年を保護処分に付するだけでなく,少年の保護者にその責任を自覚させ,少年の改善更生に向けた努力をさせることも重要であることから,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,保護者に対し,少年の監護に関する責任を自覚させ,その非行を防止するため,調査又は審判において,自ら訓戒,指導その他の適当な措置をとり,又は家庭裁判所調査官に命じてこれらの措置をとらせることができることとされるなどの改正も行われました。
 家庭裁判所におけるこれらの措置の具体例については,資料3の7ページから8ページにかけて記載のあるとおりでございます。
 なお,資料5,6にありますとおり,先の通常国会に提出され,継続審議となっている少年法等の一部を改正する法律案では,さらに,少年院及び保護観察所の長が保護処分中の少年の保護者に対し,指導,助言等をできることとしております。
 引き続きまして,平成12年改正法の要点の第2であります少年審判の事実認定手続の適正化に関するものについて説明いたします。
 まず,改正前は,少年事件等家庭裁判所が取り扱う事件については,他に特別の定めがない限り,1人の裁判官がこれを取り扱うこととされていましたが,近時,少年事件においても,複雑,困難な事案が見られるようになっており,事案に応じて合議体で取り扱い,多角的な視点を踏まえた審理判断を行うことを制度上可能とすることが適当であると考えられたことから,少年審判について,3人の裁判官により審理を行うことのできる裁定合議制度が導入されました。
 平成13年4月1日から平成18年3月31日までの5年間の家庭裁判所における終局人員は133万3,622人でありましたところ,この5年間に家庭裁判所において裁定合議決定がされた者は,資料2に記載のあるとおり170人であり,その家庭裁判所への送致に係る罪名別の人員は資料3の9ページ記載の表四のとおりでありました。傷害致死,殺人,強盗致死で全体の半数以上を占めております。
 なお,この170人のほか,少年法第27条の2による保護処分取消事件に係る1人及び少年院法第11条第2項による少年院への収容継続申請事件に係る1人についても裁定合議決定がされております。
 裁定合議制度については,現在,当該制度について特段の異論は見当たらず,むしろ,重大事件での処遇選択に慎重を期するためのものなどとして肯定する評価が定着しているものと思われます。
 次に,改正前は,検察官は事件を家庭裁判所に送致した後は,少年審判に関与することがありませんでしたが,平成12年改正法により,少年審判に検察官が関与する制度及び検察官関与決定をした場合に家庭裁判所が国選付添人を付する制度が導入されました。
 検察官関与制度は,まず第1に,少年審判の場で裁判官に弾劾的な質問をさせ,少年と対峙するかのような状況となることは,少年に家庭裁判所に対する不信の念を抱かせ,少年審判の教育的機能を損なう恐れがあるため,これを回避する必要がある,第2に,審判が裁判官と少年側の者のみが関与する手続で行われることについて,被害者の側から見れば,少年側の言い分だけが聞かれているのではないかとの不信の念があったという事情があることから導入されたものであります。
 検察官関与の対象となる事件は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,又は,死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪とされております。これらの事件につき,平成13年4月1日から平成18年3月31日までの5年間に家庭裁判所に新たに係属し,終局決定がされた少年は7,842人でありますところ,そのうち検察官関与決定がされた人員は,資料2に記載のあるとおり,97人で,その割合は1.2%となっており,さらに,そのうち国選付添人が付された者は25人でした。家庭裁判所への送致に係る罪名別の人員は,資料3の10ページに記載のあるとおりです。
 なお,このうち送致に係る罪名が強姦である者1人及び強制わいせつ致傷である者1人については,抗告審においても検察官関与決定がされ,また,少年法第27条の2による保護処分取消事件に係る1人について検察官関与決定がなされました。
 次に,改正前は家庭裁判所での観護措置として少年を少年鑑別所に収容する期間は最長4週間までとされておりましたが,平成12年改正法により,一定の要件を満たす事件については,観護措置期間を従来の4週間を超えて最長8週間まで更新することができることとされました。その要件については,資料3の11ページから12ページに記載しております。
 平成12年改正法は,少年事件においても,多数の証拠調べが必要であるなど相当の審理日数を要する事件があり,そのような審理を最長4週間で終えることは極めて困難であるところ,そのような場合に,身柄を釈放して審理を続けるとすると,少年が逃亡したり,自殺,自傷行為に及んだり,あるいは罪証隠滅行為を行ったりするなどの恐れがあることから,そのような事態を防止しつつ,的確な事実認定を行い,非行のある少年に最もふさわしい処遇を決定することができるようにするため,観護措置の収容期間を必要に応じて更に更新することができることとしたものであります。
 平成13年4月1日から平成18年3月31日までの5年間の家庭裁判所における終局人員は,先ほど述べましたとおり133万3,622人で,また,観護措置がとられた人員は,10万5,838人でありました。この5年間に観護措置の期間が更新されて4週間を超えて少年鑑別所に収容された者は,資料2に記載のあるとおり249人であり,終局決定のあった事例に比して0.02%,観護措置がとられた人員に比しても0.2%にとどまっています。観護措置の期間別人員は,資料2及び資料3の13ページの表七を御覧ください。
 そして,先ほど述べた,4週間を超えて少年鑑別所に収容された者の割合を見ると,家庭裁判所による極めて慎重な運用が認められるものと見ております。
 他方,資料3の12ページに記載のあるとおり,観護措置の期間が7週間を超えるもののうち,その後観護措置を取り消した上で更に審判を継続したものが,施行後5年間に3人あるほか,やはり,裁判官らが取りまとめた研究によりますと,8週間という期間であっても審理・調査に制約があった事例や,少年の住居が不定で両親も存在せず,釈放すれば直ちに所在不明になるような事例もあったとの分析がなされており,家庭裁判所においては,平成12年改正法の下でも,少年の身柄収容を最小限にとどめつつ適正な審判を行うため,相当の努力がなされているものと見ております。
 また,平成12年改正法により,少年鑑別所送致の観護措置決定及びその更新決定について,少年側が異議を申し立てることができることとされました。
 資料2及び資料3の13ページの表八に記載のあるとおり,この5年間に異議申立てに対して決定がされた人員は570人であり,そのうち41人について原決定を取り消す旨の決定がされました。
 このうち,観護措置決定につきましては524人中39人が原決定取消しとなっており,その更新決定については,46人中2人が原決定取消しとなっています。
 異議申立ての制度は,平成12年改正法により観護措置期間が延長されることに伴って,少年の身柄収容の判断を一層適正ならしめるため,少年,その法定代理人又は付添人から,観護措置及びその更新決定について不服申立てをすることができることとしたものですが,先ほど述べた,施行後5年間の運用を見ても,一定のチェック機能を果たしていると認められ,また当該制度について特段の異論は見当たらないところであります。
 さらに,改正前は,少年側にのみ保護処分決定に対する抗告が認められており,検察官には抗告が認められていませんでしたが,平成12年改正法により,検察官は,検察官関与決定がされた事件については,非行事実の決定に影響を及ぼす法令の違反又は重大な事実の誤認があることを理由として,高等裁判所に対し,抗告審として事件を受理すべきことを申し立てることができることとされました。
 この5年間に,検察官関与決定がされた少年97人のうち,「非行事実なし」として不処分とされた決定に対し,検察官から抗告受理申立てがされた少年は,資料2及び資料3の14ページから15ページの表九に記載のあるとおり5人でありまして,そのいずれについても,高等裁判所において抗告を受理する旨の決定がなされました。そのうち,3人については「非行事実なし」とした原決定に重大な事実誤認があるとしてこれが取り消されたほか,ほかの1人についても,原決定は取り消されませんでしたものの,「非行事実なし」とした原決定に事実誤認があるとされております。
 抗告受理申立て制度は,家庭裁判所が誤った審判をしたにもかかわらず,非行事実がないことを理由とする不処分等の決定がなされたため,少年らが抗告できず,あるいは抗告しない場合に,上級審による見直しの機会が全くないままでは,被害者やその家族をはじめとする国民の納得が得られないこと等にかんがみ,一定の場合に検察官が家庭裁判所の決定に対して抗告受理の申立てをすることができることとして,当該決定に対する上級審による見直しの機会を確保し,事実認定のより一層の適正化を図ろうとしたものであります。
 そして,このような事実認定の適正化の要請は現在においても全く変わりがなく,また,先ほど述べた平成12年改正法施行後5年間の運用状況を見ましても,現行の抗告受理申立て制度が,少年審判における事実認定の適正化,ひいては少年審判に対する国民の信頼確保に資する結果となっていることは明らかであると思われます。
 次に,改正前の実務におきましては,少年法第27条の2により,保護処分の継続中に限り,非行事実がなかったことを認め得る明らかな証拠を新たに発見したときは,保護処分の取消しによる救済を認めてきたところですが,平成12年改正法では,少年法第27条の2第2項が新設され,保護処分終了後における保護処分取消しの制度が設けられました。
 この制度は,平成12年改正法が,事実認定手続の適正化という観点から少年審判手続を改正するものであったことから,併せて事後的な是正に当たる救済の手続を整備したものです。
 この5年間に,少年法第27条の2第2項に基づく保護処分取消しの申立てがされて,事件が終局したのは3人であり,うち2人について保護処分取消し決定がされました。このうち1人は,交通事故による業務上過失傷害事件について,保険金詐取目的で交通事故を偽装したことが発覚したものであり,もう1人は,無免許運転による道路交通法違反事件について,身代わりであることが発覚したものです。
 さらに,要点の第3である少年事件の被害者への配慮の充実に関する点について御説明いたします。
 まず,改正前は,被害者等は,改正前の少年審判規則第7条第1項により,家庭裁判所の許可を受けた場合には,少年事件の記録の閲覧及び謄写が認められていましたが,平成12年改正法により,少年法第5条の2を新設し,一定の要件の下に少年事件の記録の閲覧及び謄写を認めることを法律に明定することとされました。要件は,資料3の16ページ以下の三の1を御覧ください。
 これは,審判係属中の場合も含めて被害者等による記録の閲覧及び謄写を法律に明定することにより,被害者等が閲覧及び謄写をより希望しやすくなるとともに,法の趣旨を踏まえた被害者等に対する配慮の徹底も期待されることから,閲覧・謄写を認めることを法律に明定することとされたものです。
 この5年間に,少年法第5条の2第1項に基づいて少年事件の記録の閲覧又は謄写を申し出た者は,資料2にも記載のあるとおり,2,880人であり,そのうち2,836人,割合にして98.5%について閲覧・謄写が認められました。閲覧・謄写が認められなかったのは,法定の申出資格がない者からの申出であったことなどによるものでした。
 次に,平成12年改正法により,少年法第9条の2を新設し,被害者等が被害に関する心情その他事件に関する意見を述べたいとの希望を持つ場合には,家庭裁判所又は家庭裁判所調査官において,その意見を聴取することとされました。
 この5年間に,少年法第9条の2に基づいて意見の陳述を申し出た者は資料2に記載のあるとおり825人であり,うち791人,割合にして95.9%の者から意見が聴取されました。意見の聴取が行われなかったのは,法定の申出資格がない者からの申出であったことなどによるものでした。その内訳は資料3の18ページを御覧ください。
 平成12年改正法は,意見の聴取により審判が被害者等の心情や意見をも踏まえた上でなされることがより明確となって,少年審判に対する被害者をはじめとする国民の信頼を一層確保することに役立つ上,少年に被害者等の心情や意見を認識させることも可能となって,この場合には,少年の反省を深め,その更生にも資することになることから,被害者等の申出による意見の聴取について規定することとしましたが,先ほど述べた5年間の運用状況を見ますと,基本的に被害者の要望に応えられているのではないかと認識しているところであります。
 さらに,平成12年改正法により,少年法第31条の2を新設し,家庭裁判所が少年審判の結果等を通知する制度が導入されました。
 この5年間に,少年法第31条の2第1項に基づいて審判結果の通知を申し出た者は,資料2に記載のあるとおり3,180人であり,そのうち3,153人,割合にして99.2%について同項に基づく通知がなされました。当該申出が認められなかったのは,法定の申出資格がない者からの申出であったことなどによるものでした。
 平成12年改正法は,少年事件においては,その審判が刑事裁判とは異なり,非公開とされていることなどから,被害者等が審判の結果について十分な情報を得ることができないという指摘がなされていたところ,少年法の目的である少年の健全育成の観点を踏まえつつも,事件の内容やその処分結果等を知りたいという被害者等の正当な要求に対して一定の配慮をすることが必要と考えられることから,被害者通知制度を導入することとしましたが,先ほど述べた平成12年改正法施行後5年間の運用状況を見ると,これまで述べた制度と同様,基本的に被害者等が要望された場合,それに応えられているのではないかと認識しているところであります。
 なお,少年事件の被害者への配慮の充実に関しましては,資料4の犯罪被害者等基本計画において,平成12年改正法施行後5年を経過した場合に行う検討において,少年審判の傍聴の可否を含めて,犯罪被害者等の意見・要望を踏まえた検討を行い,その結果に従った施策を実施することとされております。
 その他,平成12年改正法の施行状況の詳細につきましては,資料3に記載があるとおりですが,これまで述べました同法施行後5年間の運用状況によりますと,平成12年改正法による改正後の少年法等の規定は,おおむねその趣旨に沿った運用がなされているものと認識しているところであります。
 以上で平成12年改正法の施行状況の説明を終わらせていただきます。
● 甲斐 平成12年改正自体が改正事項が多うございますので,説明のほうも長くなってしまいました。それでは,今の説明について,御質問あるいは御意見をいただきたいと思います。いかがでしょうか。
● 松尾 ただ今,久木元さんから平成12年の法律改正及びその後5年間の実績について,よく整理された形での御説明を承りました。平成12年法改正のきっかけの一つは,法制審議会に対する諮問でありまして,これは先ほどお話の中にありました事実認定の適正化を対象とするものでした。この点を審議する部会が設置されまして,私は部会長を務め,答申案を作成したわけであります。
 その答申案の内容には,検察官の関与の問題や観護措置の期間を延長する問題等が含まれておりましたが,これは今考えますと簡単な話のようですけれども,実は非常に大変なことでありました。例えば検察官関与につきましては,昭和40年代の少年法全面改正の審議のときに最大の問題点の1つでありましたが,非常に反対が強くて,長期間の審議の末,結局,その改正は成り立たなかったということは御承知のとおりであります。
 あるいは,観護措置の期間といいますと,これは身柄の拘束でありますので,それはそれなりに重大な問題でありまして,刑事訴訟法にも勾留という形で身柄の拘束が認められておりますが,昭和20年代の末期のことになりますけれども,これを5日間延ばそうという改正提案は,非常に強い反対を引き起こして,ほとんど形をとどめないぐらいに縮小して,やっと成立したというような事情もありました。
 そういう歴史を踏まえて考えますと,前回の法制審議会では,ある意味で大きな改正が答申されたと言ってもよかったかと思います。ただ,その際,少年法部会全体の気持ちであったと思いますが,少年法が非行少年の保護を中心として組み立てられているという基本構造,これは変更しないで維持する,というのが大きな前提でありました。しかし,そうは言ってもやはりいくつかの点で手直しを要するところが出てきているのではないか,一部の事件に限ってというようなことにもなりますし,ある種の状況の下でということにもなりますが,そういう場合には変更するということで答申案ができたわけであります。
 その後,この答申に基づいて内閣の案がつくられたわけですが,衆議院の解散が行われたりした関係もありまして,成立が長引いているうちに,少年法に対する世論の高まりというものが平成10年から11年にかけて非常にございました。それは一方には少年の重大な非行がいくつか続発したということもありましたし,それから犯罪被害者の状況に対する理解が深まっていったということもあります。そういうものを背景にして議員立法という形で新たな提案が追加されまして,先ほど御説明の検察官逆送の問題等はそこから出てきたわけであります。やや大ざっぱな言葉を使えばもう少し厳しくという世論の高まりがあったと思います。それを盛り込んだ形で平成12年改正ができたのですが,議員立法でできた部分も,基本的なスタンスとしては,やはり少年法の基本構造を維持しつつ,必要最小限度の修正を加えるということであったのではないかと思いますが,今,この実績についての御説明を伺っておりますと,その数字の中におのずからやはりそうだったという感じがうかがわれるように思った次第でございます。
 最初に感想として述べさせていただきました。
● 甲斐 ありがとうございました。それでは質問等ございましたら,順次お願いしたいと思います。
● 川出 最初に,原則逆送事件について,2点伺いたいことがあります。第1点は,刑事処分と保護処分の振分けの基準に関わる問題ですが,配付資料3の4ページの表中,危険運転致死で29人中27名が検察官送致,2名が保護処分となっております。このうち,保護処分とされた2名の事件はどういうものなのかを,お分かりになれば教えていただきたいと思います。
 2点目は,同じく資料3の5ページの表によると,原則逆送対象事件で逆送がなされたもののうち,55条で家裁に移送になったものが11名ございますが,その理由はお分かりになりますでしょうか。例えば,刑事処分相当性,その裏返しとしての保護処分相当性に関する判断基準について家庭裁判所と地方裁判所とで差異があったということなのか,それとも,逆送後に何らかの事後的な事情が加わったことによって判断が異なったのか,その詳細が分かれば教えてください。
 それから,もう1つは被害者の方からの意見聴取に関してですが,その形態として,裁判官が審判期日に行ったもの,裁判官が期日外で行ったもの,それから調査官に命じて聴取したものという3つの形態があるということでした。実務上,この3つの形態をどういう基準で振り分けておられるのかを,お分かりになれば教えていただきたいと思います。
● 甲斐 1点目の危険運転致死傷で保護処分になった2名についての理由は分かりますか。
● 久木元 その2件がどのような理由かは把握しておりません。ただ,逆送率が高いということについてコメントを申し上げますと,免許をとっている18歳以上の年長少年が多いということ,それから犯行の動機とか被害者に落ち度がある場合はまず通常はないであろうこと,それから,自分が運転していますから,共犯者中の役割というような事情もあまりないこと,そういうところから少年法20条1項ただし書きの刑事処分以外の措置を相当と認めるという事情はなかなか見出し難いのではないか。そういう推測はしているのですが,逆に保護処分となった者について,もし最高裁の方で把握しておられればと思いますが,いかがですか。
● 河原 いえ,特に把握はしておりません。
● 甲斐 調査させていただいて,分かれば次回に御報告をさせていただくということでよろしいですか。
 では,2番目の原則逆送で逆送になった後,55条移送になった事件の内容は分かりますか。
 これも宿題ということでよろしゅうございますか。
 3番目の被害者の方の意見聴取の方法について,最高裁にお聞きしたほうがいいかもしれませんが,これはいかがでしょうか。
● 河原 これにつきましては原則としてお申出のありました被害者の方の御意向に沿った方法を選択しております。
● 川出 そうしますと,被害者の方が審判期日で意見を述べたいということであれば,原則として,審判期日で意見を聴取するという形になっているわけですね。
● 河原 はい。
● 甲斐 ほかにいかがでございましょうか。
● 山崎 まず,刑事処分年齢の引下げに関してですが,道路交通法違反について罰金で2名逆送されたということですが,この事案の中身というのはお分かりになりますか。どうしてこの事件だけが逆送されたのかが分からないものですから,その点を教えていただければというのが1点です。
 あと,先ほども出ましたが,年少少年の受刑者が16歳になるまでの少年院での具体的な予定されている処遇の中身,実際にはまだないということですが,法改正によってどんな準備をされていて,どの程度の件数まで想定されているのか。そういった点も含めて教えていただければと思います。
● 河原 まず,道路交通法違反の2人につきまして,検察官送致されました2名についての事案の中身でございますが,1件は犯行時15歳であった少年が平成13年に原動機付自転車を無免許運転したという事案でございます。またもう1件は,これもよく似ておりますが,やはり犯行時15歳の少年が平成15年に原動機付自転車を無免許運転し,一方通行の道路を逆送したという事案でございます。
● 甲斐 情状的なことは分かりますか。
● 河原 事案の詳細についてコメントは差し控えさせていただきたいと思うのですが,少年が16歳に近いことですとか,あるいは前歴ですとか,本人の反省の度合いとか,こういったことなどが考慮されたのではないかと考えられます。
● 甲斐 この件は事件数が少ないものですから,特定してしまうと差支えもありますので,それぐらいでよろしいでしょうか。
 2番目の少年院での受刑者の具体的な処遇の内容ということですが,これはいかがでしょうか。
● 久木元 これは,事前にお伺いがありましたので,矯正局からも意見を聞いてまいりました。このたび16歳未満の者について少年院において刑を執行できることとしましたことから,まず少年院収容受刑者の受入れ施設を6か所指定することとしたと聞いております。これらの施設においては法的地位の違いにも配慮した適切な処遇が行えるようにしています。
 具体的に申し上げますと,義務教育未了の者についてはやはり義務教育を,医療措置が必要なものについては医師の管理の下で治療的処遇を行う。さらに犯罪の重大性を認識させて罪の意識の自覚を図る,生命の尊さを認識させて豊かな人間性をかん養する,共感性や思いやりの気持ちを育成することなどに重点を置いた処遇を行うこととしているということであります。
 それから,扱いにつきまして,例えば,各種の行事など教育上有益と思われる場合を除いて,原則として保護処分による他の在院者とは分離して処遇することとしていると聞いております。
 先ほど御説明したとおり,まだその例は生じていないわけですが,受入れに当たっては行政当局において,年齢や心身の発達の度合いを考慮しながら,個別な必要性に応じた処遇を行うために有効な処遇プログラムや教材の整備充実に努めることとしていると聞いております。
● 甲斐 どの点でも結構でございますので,順次,お気づきの点からどうぞ。。
 進め方として若干項目を区切っていくとすると,12年改正は柱が三つありまして,処分の在り方の見直しという部分と,それから,少年審判の手続を改正するという部分と,それから,被害者保護を充実させるという部分と3つあると思うのですが,最初の少年事件の処分の見直しという部分について何かございますでしょうか。
● 山崎 20条2項のいわゆる原則逆送ですが,この点,評価は非常に難しいかと思うのですが,改正の趣旨では,少年に自覚と自主性を促すということが言われていたかと思うのですが,その改正の趣旨と,その後の少年犯罪の動向との関係といいますか,法改正の趣旨が達せられたのかどうかというあたりの評価というのは法務省の方ではどのような評価をなされているのかお聞きできればと思います。
● 久木元 原則逆送制度が導入された趣旨というのは,先ほど私の説明の中でも述べさせていただいたところでございます。やはり何ものにも代え難い人命を尊重するという基本的な考え方を明らかにして,今おっしゃったように自覚と自制を求めるというのが少年の規範意識を育てて,ひいては健全な成長を図るうえで必要であるということでございます。
 その効果というのは,直ちに1つの法改正と動向が1対1関係でいえるかどうかというのは,これはもう常々言われているとおり一義的には申し上げられないのですが,とりあえず動向について申し上げますと,殺人,傷害致死,強盗殺人,強盗致傷という4つの罪につきまして平成9年から12年まで,要するに改正前の4年間と改正後の平成13年から16年の4年間を比べてみましたところ,殺人は382人が318人,傷害致死は403人が214人,強盗殺人は61人が63人,これは2人増えています。強盗致傷は4,760人が4,609人ということでありまして,強盗殺人が2人増えた他はおおむね減少しています。
 一方で逆送率は申し上げたとおり上がっているわけですが,その前と後でこういう凶悪重大事件が増えたか減ったかと言われれば減っているということでございます。
● 松尾 法律改正が国民の行動にどういう影響を及ぼすかというのは,なかなか難しい問題で,最近の例ですと飲酒運転について,法律の規定は非常に厳しくなってきているはずですが,それが見方によってはほとんど効果を上げていないという現実を突きつけられて,私も愕然としているところですけれども,新聞・テレビであれだけ報道していても,そのメッセージが十分に浸透しない。その辺のことをこれからどう工夫していけばいいのか模索の段階です。
● 武 私は専門家でもありませんし,法律を勉強したわけでもありません。ただ,子どもが少年犯罪に遭って殺されたということで代表していまして,一主婦をこういう場所に呼んでいただいたことを心から感謝しております。ここに来れただけでありがたいなと思っています。ただ,専門家ではないし勉強はしていませんが,私は遺族の話をたくさん聞いています。被害者からの叫び声も聞いています。だからそういうことを考えるとどうしてもいろいろなことを要求しますし,足りない足りないと言いがちなんですね。久木元さんがすごくいいお話をされて,統計も出されて,少年法はすごく変わったというイメージはあるんですが,私たちにとってあまり変わっていないというイメージはどうしてもあるんです。
 確かに逆送率も高くなりました。でも逆送するかしないかということを裁判所が決めるわけですね。例えばここに16歳以下の何件かの事件がありました。何ページでしたかね。ここに5件の表が書いてあります。1件は強盗強姦でこれは逆送になったんですね。私もしっかりとニュースを見ていました。新聞も見ていました。そして15歳の傷害致死のどちらかわかりませんが,一家族の遺族の方と連絡をとっているんですね。この方は事件が起きたときがあまり変わらなかったんです。きっと自分も逆送になるだろうと意見も言っていましたし,望んでいたんですね。でも逆送にならなかったんですね。そのときにその奥さんはおっしゃっていました。強盗強姦,その事件が逆送になったのになぜ私たちは死亡事件なのに逆送にならないんだ。とても悔しい思いをされていたんですね。こういうふうに少年事件というのは家庭裁判所の判断で,裁判官の考えで,これは強盗強姦と傷害致死だったから違いますが,例えば傷害致死であってもここの裁判所は逆送するけれど,ここの裁判所の裁判官はしないということがあるんですね。そういったときに,やはり遺族というのはとてもこの最初の段階で取り残されているというか,そしてやれることもやっぱり制限ができてくるんですね。そういうところはまだまだ足りないと感じています。
 そしてもう1つは,殺人,傷害致死で少年の場合は集団暴行が多いんです。私たちの会では集団暴行が多いです。そうなると保護処分になった理由として言われたのが,私たちの逆送してほしいというのは,集団暴行を例えば10人起こしたとすれば,その全員を逆送にしてほしいわけです。というのはなぜかというと,関わり方がみんな同じところで裁判をしてもらわないとわからないと思うからです。そしてそこでわかって関わりが少ないといえばもう1回家庭裁判所に送り返してもらったらいいと思っているんですが,最近はどうなのでしょうか。集団暴行事件の場合,例えば10人か何人かたくさん関わっている場合,多分1人か2人しか逆送しないと思うんです,最初から。そうなると残された子たちは家庭裁判所の審判になると思うのですが,事実認定のやり方というのはどうなるのでしょうか。そこがいつも心配ですけど難しいのではないでしょうか。
● 甲斐 では2番目の質問からですが,むしろ裁判所にお聞きしたほうがいいかもしれませんけれど,今のお話は集団暴行などの事件で刑事の裁判所と家庭裁判所とバラバラに裁判をすると,事実認定がうまくいかないのではないか。あるいは実際にはどうしているんだというような御質問だったと思うのですが,この点はいかがでしょうか。
● 松村 実際上多い16歳以上の,今の制度でいうと原則逆送事件になっている事件を念頭において申し上げたいと思うのですが,まず,大勢の人数による集団暴行の傷害致死事件のようなものが発生したときに,裁判所はどういうふうに考えてやっているかというと,途中ちょっとおっしゃられたような,その中の中心になっている何人かだけ検送して,あとは家裁の方でということではなくて,これは法律で原則として検察官送致にするということになっていますので,傷害致死の事案では集団暴行であっても原則として検送する。ただ,大勢で行われる事件の中には明らかに関与の程度がほかの少年と異なる場合がありますので,そういう少年については,やはり内容をよく吟味したうえで刑事処分が適しないと認められる場合には保護処分にすることもあるということで,今,家庭裁判所の集団の傷害致死事件に対するスタンスというのは,そのように変わってきていると我々は考えております。
 基本的には検察官送致になるとして,事案によってそういうふうに家庭裁判所で審理をする少年が出たというときに,刑事の裁判所で最終的な処分を受ける者と家庭裁判所で最終的な処分を受ける者に分かれたとき,事実認定の関係で問題が生じないかという御質問に対しては,それは共犯者がどちらで最終的な処分を受けることになろうと,そこの事実認定についてはそれぞれの裁判所でしっかりやる。刑事の裁判所でもそれはやるし,家庭裁判所の方でもさきほど説明のあった新しい事実認定のための手続がありますので,それを活用して,きちんと事実認定をやっていると考えています。
 裁判所が分かれても,例えば,別の裁判所に行った者をもう一方の裁判所に証人で呼んでくるとか,それから共通の証拠があるとかというようなこともありますので,そのことによる事実認定上の問題というのはないのではないかと思っております。
● 松尾 ひとつ教えていただきたいのですが,今の問題提起されました共犯者が大勢いるような事件,これは刑事裁判所ですと,当然,併合審理という問題になるのでしょうが,家庭裁判所の場合は,本来は1人ずつの事件として扱っておられると思います。共犯者が何名かいるという場合の扱いも同じでしょうか。
● 松村 通常,少年審判の場合は犯罪の部分だけではなく,個別の事情も見ないといけないので,審判としては個別にやることになると思います。
● 松尾 併合審判という観念はありませんですね。
● 松村 通常行っていないと思います。
● 甲斐 要するに,少年審判だと3人少年を並べて一緒に審判をやるというのはあまりやっていないという理解でいいわけで,そういうときに本人しかいないと本人の言い分だけが裁判所の耳に届いて,適当に嘘を言ったってわからないのではないかと思われるかもしれないんですが,そういうことというのは大丈夫なんですか,ということなのだろうと思うんですが。
● 松村 そういうことは決してあってはならないことなので,こちらの方では,捜査機関から証拠も来ていて,それもしっかり吟味した上で,それと少年の言い分が食い違っているときには,そこについて詳しく調べる。必要であれば証人にも来ていただくし,被害者側の関係の方にも事情を伺って,それは少年が言っているからそのままそういうことにするということはないように事実認定の手続をしっかり行っていると考えています。
● 甲斐 それから1点目のところですが,今,大分お答えいただいたところだと思うのですが,逆に,この報告の2ページのところで,傷害致死で15歳で逆送されたという事件というのはどういう内容だったのかというのは,今分かりますか。
● 久木元 事案の中身は,暴走族の構成員である少年2人,これはここに出ている2人,15歳です。それが暴走族のほかの構成員7人と一緒になって暴走族から脱退する旨を述べていた被害者15歳の人に対して,制裁を加えるために集団で暴行を加えて死亡させたという事案であります。こういうことで逆送されたわけですが,55条によって地裁は家裁に移送する判断をした。その地裁が家裁に移送する判断をするに際しては,家裁の判断そのものをただひっくり返したというよりは,公判において,要するに公開の裁判が行われたことによって大分反省が深まったというようなことを考慮して家裁の方に送り返したというような概略を承知しているところでございます。
● 甲斐 今までのところで何か。
● 武 この2人というのは暴走族の事件の2人ですか。15歳2人ですか。この表に出ている2人はそうですね。
● 久木元 はい。
● 武 私の知っている事件は教護院で教官が殺された事件を知っているんですね。それは。
● 久木元 それとは違います。それはこの16歳未満,つまり14歳,15歳で逆送された中には入っていない。
● 武 1回逆送されて保護処分ということですね,これは。
● 久木元 これはそうですね。逆送されて,少年法55条で地裁から家裁にもう1回戻ってということでございます。
● 武 私の知っている事件は,逆送されずに始めから保護処分となった事件でした。
● 松村 ちなみに,この表にございます2名については,家裁としては,いったん検察官送致が相当ということで送致したのですが,今説明があったような,その後の事情で家裁の方に再び戻って来ましたので,家裁では,中等少年院送致の,かつ期間は相当長い期間処遇するという最大厳しい処分を最終的に行ったところでございます。
● 武 私が知っている事件は,教護院で教官が殺された事件でして,奥さんとお話をするんですが,その方は始めから逆送にならなかったですね。この時期でした。この強盗強姦の事件のその近くの事件で,よく言っておられました。あの事件はなったのに,なぜうちの事件はならなかったんだということをすごくおっしゃっていたので,勘違いしました。検察官には行っていないですね。送致されていないです。
 それもひどい事件なんです。教護院で教官を殺すわけです。それも計画性があったんですね,私が話を聞いた限りでは。でも,逆送されなかったんですね。それというのはやっぱり保護処分のほうがいいと始めから決めたわけですよね。そういうふうに家庭裁判所の判断で変わってしまうと基準が曖昧というか,そういうふうに感じるんですが。
● 甲斐 その事件は何歳の少年だったかというのは分かりますか。
● 武 15歳だと思います。
● 松村 時期はいつでしょうか。
● 武 この強盗強姦の事件の近くでした。
● 久木元 愛知県の事件ですね。
● 武 はい,そうです。奥さんと話をしたんですけどね。それは教護院の在り方とかそういうこともすごく問題だなと思っているんです。それは今日ここでは多分無理なので言えないですけど,福祉施設なので,福祉施設にいろいろなことを犯すような子どもが入っているということがまず問題だと思うんですけれど,その奥さんはおっしゃっていました。そういうことがあまり公にならなかったって。本当は考えてほしかったとおっしゃっていました。今,民事裁判の途中なので被害者側が公に言うこともできないんですね。何かを言っていくと,今いい状態で民事裁判を進めていますので,それが壊れるといけないということで,外に向けて意見も言えないので,私は聞いているんですけど,教護院の在り方にも疑問を持っておられます。今は自立施設ですけどね。
● 甲斐 わかりました。ではほかの点で,処分の関係で何か御質問なり。もちろん御意見でも結構ですが,ほかにあればどうぞ。
● 武 今日は,少年犯罪被害当事者の会の宮田さんも一緒に来ているんです。長野県から来まして,意見があると思います。あとでいいそうです。すみません。
● 甲斐 それでは,処分の関係はこれぐらいにして,続いて,審判の事実認定手続について,検察官関与,観護措置期間,あと抗告受理といったところですが,何か御質問等はございますでしょうか。
● 山崎 まず97人について検察官関与の決定がなされたということですが,終局決定の内容に応じた人数が分かればありがたいと思っています。あと関与した検察官ですが,少年の取調べを担当した検察官が審判に立ち会った事例というのがこの97人のうちどのぐらいあるのかということも分かれば教えていただければと思っております。
 あと,もう1点ですが,検察官の関与が認められた事例以外にも,検察官のほうで関与の申出をなされているケースがあるかと思われますので,もし分かればその申出したけれども関与が認められなかったというケースがどのぐらいにあるのか。それに関連して,検察庁のほうで,これも事案に応じて様々なのでしょうが,どういった判断基準に基づいて関与の申出をされているのか。そういった点もわかればお教え願いたいと思っています。
● 久木元 終局決定につきましては,後で最高裁からお答えいただきたいと思います。まず,取調べを担当した検察官が審判に関与したケースでございますが,この数字的なものは,私ども調べておりませんので把握しておりません。ただ,少年事件は迅速に処理することが必要でありまして,特に観護措置期間にも制約がございますので事案によっては捜査を担当した検察官が審判に関与すること,あるいはすべきことは当然あるのだろうと思っております。
 それから,検察官が申出をして関与決定がなされなかった件数でございますが,5年間で申出をした数が167人でございます。それで55人について関与決定がなされていますので,検察官の申出がなされたにもかかわらず関与決定がなされていなかったのが112人。
 逆に97人と先ほど申し上げましたので55を引いた42人については検察官から申出がなくて,裁判所のほうで求意見をするなどして検察官関与を決めたということになります。
 もう1つは,検察官の申出の理由でありますが,これも事案ごとの事情がいろいろあると思いますが,法務省でその理由を把握しておりません。ただ制度の趣旨が証拠の収集,吟味における多角的な視点の確保でありますとか,少年と裁判官が審判廷で対峙するようなことを回避する,そういうことで事実認定手続を一層適正化する,それによって,ひいては国民の信頼を確保するというようなものでございますので,そういう趣旨を踏まえて判断をしているものと私どもとしては思っております。法務省からは以上でございます。
 あとは,裁判所のほうから終局決定別のほうを,もし分かりましたらお願いしたいと思います。
● 河原 検察官関与がされました97名につきましての終局決定の内容は今から述べるとおりです。まず,そのうち検察官送致決定を受けた者は33人,少年院送致決定を受けました者が41人。保護観察処分決定を受けました者が10人。不処分決定を受けました者が13人。以上のとおりでございます。
● 甲斐 非行なし不処分については。
● 河原 非行なし不処分につきましては8名あると承知しております。
● 甲斐 検察官関与が,全部で97件で,このうち,検察官が行きたいと言ったのが55件で,裁判所が来てくれと言ったのが42件と,半々のようになっています。ただ検察官が申出をした全体の件数は,167件で,そのうち裁判所に3分の1だけ認めてもらって,3分の2は申出が認められなかったという結果で,結構認められていないんですね。そこは評価はいろいろあると思いますが。
 ほかに手続関係で何かございますか。
● 川出 検察官関与について,とりわけ,裁判所側から検察官の関与を求めたという事例の場合の審判期日での審理というのは,どのように行われているのでしょうか。検察官関与の趣旨の一つとされた,裁判官と少年との対峙的状況の回避ということからすると,裁判所側から検察官の関与を求めるような事件の審判は,刑事の公判のような感じになるのではないかというイメージがあると思うのですが,実際には,そうした事件では,どのような形で証拠調べ等が行われているのでしょうか。
 もう1点は,観護措置についてですが,先ほどの御説明で,観護措置の期間が7週間を超えるもののうち,観護措置を取り消した上で審判を継続したものが3人あるということでした。観護措置は当然理由があってやっているわけですから,それを取り消すということになると,それによる問題が生じてくるかと思うのですが,実際上,不都合が生じたことはなかったのか,それを回避するためにどのような措置がとられたのかをお教え願いします。
● 甲斐 これはむしろ裁判所からお答え願います。
● 河原 まず,1点目は,検察官が関与された事件の審理のイメージですが,概して出席された検察官は少年審判の協力者的な立場をわきまえられた行動をされておられると聞いております。適切に証拠の評価などをしていただきまして事実認定に寄与したと聞いております。
 2点目の観護措置が取消しになったということですが,先生の御質問はどのあたりを特にお聞きになりたいということでしょうか。
● 川出 例えば,逃亡の虞とか罪証隠滅の虞があるという理由で観護措置をとっている場合に,期間が足りないために観護措置を取り消して審判を継続するということになると,逃亡や罪証隠滅の虞がなくなっているわけではない以上,困った事態が生じるように思うのですが,先の3件の事件で特段の不都合が生じなかったのか,そうだとすると,観護措置に代わるような何か事実上の措置がとられたのかということが,お伺いしたかった点です。
● 河原 裁判所としては,できる限り期日を観護措置期間内に入れて,検察官あるいは付添人の方々にも御協力いただいて頑張ったと聞いておりますが,すごく大変な事例も幾つかあるとは聞いております。
● 松村 観護措置を取り消す場合,取り消した後も,それぞれの事件で何回か審判期日を開いて,必要な証拠調べを継続しているわけですけれども,いずれも本当であれば観護措置の必要がなくなってはいないわけですから,先生の御指摘のような懸念はあるわけです。期間が来てしまったということで,これで取消しになるけれども審判期日には必ず出頭するように確約をさせた上で,また,今説明申し上げたように関係者の協力も得て,その後の審判にはきちんと出頭を得て,何とか観護措置取消し後も審判を継続して終局処分,終局決定まで至ることができた。具体的にそのときに何か紙をもらったのかとか,そのあたりまでは把握はしておりません。
● 川出 わかりました。それから最初の点ですが,そうすると,否認事件で検察官が出席している場合でも,イメージとしては,刑事裁判で行われているような証拠調べ,例えば証人尋問のような形ではないわけでしょうか。
● 河原 イメージとしては刑事裁判とはやはり異にするというふうに理解してよろしいかと思います。
● 甲斐 どこが違っているのかということが問題なんだけれども,そこはどうですか。
● 松村 これもなかなか一概には言いにくいところがあって,事案の中身であるとか,検察官の関与をお願いするのは非行事実の認定に問題がある場合ですが,非行事実にどのような形で認定上の問題があるのか,そのためにどういう証拠調べをするのかということによって検察官及び付添人がそれぞれとられる役割というのは違ってくるだろうと思うのです。
 もちろん,少年審判の中での話ですから,刑事の裁判と雰囲気の違いはあるにしても,中には,非常に刑事の裁判に近いような形で事実認定上の問題に対処したものもあるでしょうし,また,それがそうではないものもあるというような感じで,基本的には少年審判だということをわきまえつつ,それぞれの関与者がやるべきことをやっていただいて,できる限り事実認定の適正を図ろうとしている,そんな状況かなと見ています。
● 川出 例えば,少年にとって不利益な証言をすることが予想される証人の場合,刑事裁判であれば,検察官から主尋問するという形になるわけですが,審判においては,事案にもよるかもしれませんが必ずしもそうではなくて,まず裁判官が尋問するというような感じになるということでしょうか。
● 松村 その辺も,我々も1件1件細かく全部承知しているわけではないのですが,いろいろな機会に話を聞くと,尋問のやり方もこうだという形で一律ではなくて,裁判官のほうからまず聞いた上で,検察官,付添人に補充的に尋問をしてもらうケースもあれば,尋問する中身とか尋問する人によっては,まず検察官側から尋問をしてもらうというやり方もあるようで,そこはどうやってやるのが一番適正な事実認定ができるかという観点から裁判所では使い分けをしてやっていると理解しています。
● 甲斐 私の聞いているところでは,検察官の冒陳というのはやらないので,いきなり審理の中に入ってしまうのでしょうが,証人尋問でも特に保護しなければいけない証人の方,例えば性犯罪の被害者の方などがいて,いきなり家庭裁判所にその証人,女性が呼び出されて少年側と弁護士さんと裁判官だけという,そういう場はよろしくないので,そのような場合は検察官としては手を挙げて一緒について行って保護する。必要があればいろいろな措置もとれるようにするということなのだろうと思います。
 実際に質問の順番をどうするかというのは,そこは裁判所の御判断がありますので,裁判所は記録を読んでいるわけで,ポイントはわかっているわけですので,ポイントのところをお聞きになる。あるいは検察官の方から先に気持ちをほぐしながら話を聞くということをやっているのではないでしょうか。
 弁護士の先生方で御自身の経験で何かありますか。検察官関与の議論をしていたときは,いかにも検事が家裁の審判に入ってくると少年を取って食うのではないかというイメージで言われていたこともあったのですが,実際に立ち会ってみてどんなイメージであったかというのは,いかがでしょうか。
● 山崎 私自身は実際に事件で担当したケースはなかったんですけれども,実態の調査を日弁連でして,そこも必ずしも検察官関与の事例があまりたくさんは上がってこなかったというのが実情です。言われているように,協力者としてむしろ座っているだけといいますか,特に尋問をしなかったという例も複数ありましたし,中には成人と同様にかなり糾問的に少年を弾劾したという例も報告されています。この点については,多分抗告受理申立てが可能になったというあたりとの関係で評価していかないとなかなか難しいところかなと個人的には思っていまして,まだそこの評価ができる情報が十分に来ていないという感じがしています。
● 武 検察官関与の審判廷の様子がよくわからないんですけれども,どんな感じなのでしょうか。裁判官がいて,付添人の方がいて,本人がいて,親もいるのでしょうか。そして検察官がいる。被害者側はいないんですよね。やはり成人の場合の刑事裁判とは違います。私たちはいつもそう思うんですけれども,成人の刑事裁判に比べると期間も短いですし,私たちがいつも言うのは重大犯罪のことを言うんですが,重大犯罪の場合,そんな短い期間の中でたとえ検察官が入っても公開でない場所で進められるというのはとても不安なんですね。だから一般的にいえば少年審判も検察官が入るようになってよかったじゃないという人が多いと思うんですが,私たちはそういうイメージではないんですね。ここで我慢しておきなさいという感じに見えて仕方がない。すごく不安だし,不信感があるんです。公開でないということがまず大きいんですが,それと,審判廷というと,私はある大学で審判廷をつくっていまして,少年審判はどんなところで行われるかということを見学に行ったことがあったんですけど,とても狭い部屋なんですね。狭くて加害者側がずらっと並んでいるわけですね。優秀な弁護士さんがおられて。そうなると検察官がどう関わっていかれるのか。もっと時間がいるのではないかとか不安がありますし,そこにものすごく不信感があるのです。
 だったら重大犯罪は刑事裁判にお願いしたいんです。そして刑事裁判の中で工夫をしてくださいということはいつも言っています。少年が萎縮するんだったら専門家を横に付けるとか,衝立をするとか,私たちはそういうことを工夫をして,それでもやっぱり刑事裁判にしてくださいというのはそこなんですね。
● 松尾 審判廷の様子がよくわからないというお話が出ましたけれども,私にもよくわからないのですが,以前,法律雑誌の座談会をやっておりましたときに,家庭裁判所の保護手続で証拠調べをするケースというのは実は少ないんですと聞きました。そのとき10年ほど前の数字で年間165件というのを伺った記憶があるんですが,今でも大体そんなものでしょうか。
● 松村 尋問数は今すぐ用意はしておりません。
● 松尾 保護手続で今でも法律上は証人尋問その他できるわけですね。それをおやりになるというのは,1つは少年が事実を争った場合でしょうし,もう1つは記録だけでは心証が十分とれないとお考えの場合でしょうけれども,それを併せても圧倒的多数の事件においては証拠調べを行うまでもなく記録で十分心証がとれる,あとは少年との話合いということになるのでしょうか。
● 松村 数の点はまた調べてまいりますけれども,家庭裁判所のほうで間違いなく事実認定ができる場合には尋問が行われないことになると思いますので,事案としてはやはりそちらのほうが多いと思いますが,必要があれば当然証人尋問の手続を少年審判でもとっております。
● 松尾 検察官関与はもちろん証拠調べをするような事件ということが前提になるわけですね。
● 松村 通常はそうです。
● 武内 素朴な疑問で恐縮ですが,検察官関与の場合,審判廷の中での検察官の着座位置みたいなものは,裁判所は,運用上工夫されていることはおありなのでしょうか。例えば,付添人などの場合,通常,私も横浜の家庭裁判所しか存じ上げませんが,審判官の隣に付添人の席が用意してあって,少年とか家族とちょっと区別した席に座ることが多いかと思うのですが,検察官関与の場合にも,やはりそういうふうに検察官席みたいなものを設けることが多いのか,それとも,少年あるいは保護者と同じような席に着座することが多いのか,運用によるかと思いますが,御承知でしたらお教え願えませんか。
● 松村 裁判所によって部屋が四角かったり細長かったりいろいろと審判廷の形も違いますので,一律にということではないのですが,一般的には検察官が関与する事件では,検察官のための席を設けて,そこに着座していただく形になると思います。非常に物理的な問題ですが,テーブルが個別になっている場合と大きなテーブルにつながっていて端に座る場合とかそういうパターンがいろいろあると思いますが,検察官がお入りになる場合には検察官の場所を決めて,そこで活動をしていただくことになります。
● 甲斐 ほかに,手続関係で何か御質問なり御意見なりはございますか。
● 山崎 先ほど,川出先生から出された7週間以上で観護措置が取消しになった3件ですが,終局処分の内容が分かればお教えいただければと思います。
● 河原 終局処分は,1件が保護観察,残り2件は中等少年送致となっております。
● 山崎 そうすると,少年院送致になった少年も観護措置は取消しになったけれども,実際,送るときには特段の問題なしと考えてよろしいのでしょうか。
● 河原 はい。
● 松尾 観護措置の期間につきまして,前に部会の際には家庭裁判所側の委員の方から8週間で足りないケースも絶無ではない。もう少し延ばして欲しいというお話もあったと思うのですが,この点については現在裁判所の状況はどうなんでしょうか。
● 松村 従来,旧法では最大4週間というときに,これはどういうふうにしたらよいかということについて,いろいろシミュレーションをして困っている事例とかも検討させていただいて,どのぐらいの期間が必要なのかということは裁判所としては申し上げてきたところで,言ってきたニーズが全くなくなってしまったということではないと思うのですが,今回の改正で,相当の手当てがされていて,裁判所としては手当てされた範囲内でできる限り頑張ってきたという状態に今あって,その中で基本的には大半の事件は何とか対処することができた。若干はみ出てしまったものもあるけれども,それも致命的なことにはならずにすんだ。そういう状況の下で,さあどのようにしていただくか,そんなような感じだと思います。
● 甲斐 もともと観護措置4週を3倍にして12週にしてはどうかというのが裁判所の御意見で,最終的に2倍の8週というところで法改正がなされました。ただ,観護措置は観護措置だけの問題ではなくて,併せて,裁定合議だとか,検察官関与だとか,国選弁護人もついてやるようになりました。さてその状態で,まだ8週以上の観護措置期間が必要なのか,そんな感じの話になるのでしょうか。
● 松村 そうです。事実認定面で観護措置だけではないいろいろな手当てがなされましたので,それを活用しながら何とか頑張ってきて,本当に致命的なことにはならずに5年間やってきたという状況です。
● 甲斐 先ほどの3件は一応逃げずにすんだけれど,ひょっとすると逃げてしまうかもしれないという可能性はあるわけですね。
● 松村 そういうことはあります。
● 甲斐 手続関係でほかにはございますか。
● 山崎 検察官関与の関係で,全司法労働組合の調査結果を見ますと,事実認定手続のみならず要保護性の審理にまで検察官が関与したという報告があったのですが,法務省の方で何かその点把握されていらっしゃいますでしょうか。
● 久木元 そのような事例があったのかなかったのか,どういう対応だったのかということは承知しておりません。ただ,検察官は非行事実の認定に資するために必要な限度で関与すると定められておりますので,要保護性を認定するための手続に関与することは予定されていないわけであります。もしそのような要保護性についてのみの手続に検察官がいるということになれば手続を主宰する裁判所,それから当然検察官関与ですから弁護士の付添人がついているわけですから,何らかのアクションがあったのではないかと思われますが,日弁連からいただいている報告書では初期にこのようなことがあって,以降はそうした報告は上がっていないと私はそれを読んだ限りでは承知しております。
 ただ,もう1つ言えることは,少年審判では事実認定の手続と要保護性の手続がはっきり切り分けられるわけでないところがあり,ある証拠調べが非行事実の認定のためにも,同時に要保護性の認定のためにも使われるということはしばしばあると思いますので,専ら要保護性を認定するためだけの手続には関与しないという意味だと思いますが,さっき述べたように両方に当たるような場合があって,見方によってはそれはよくないと思って報告に上がったということはあり得るのではないかと推測するところでございます。
● 甲斐 ほかにはいかがでしょうか。
● 武 今のは何に関わったとおっしゃったんですか。分からなかったんですが。
● 久木元 保護の必要性ということで要保護性という言葉を使うわけです。検察官の関与というのは基本的には事実認定,非行事実の認定の場面で関与するのであって,その子がどんな環境でどうかという要保護性については基本的には関与しないという切分けになっているわけですが,今私が申し上げたのは要保護性に関係があったとしても非行事実にも絡んでくることもありますので,そういう場合は検察官が立ち会って関与するということは出てくるのではないかと思います。
 ただ,専ら明らかに事実とは関係なくて子どもの環境とか要保護性ですよというところには検察官は関与しないという法律の切分けになっているという前提を申し上げたところです。
● 松尾 検察官関与の一環として抗告受理申立てという新しい制度ができたわけですが,これをつくりましたときに,抗告審の裁判をどうするかというのは1つの問題点で,刑事訴訟法では控訴審は破棄する場合,差し戻すのが原則という法律の規定にはなっておりますが,実際にはほとんど自判しているんですね。だから,少年法の場合もあるいはそのほうがいいかなという気もしたのですが,やはり家庭裁判所の一審としての判断を重んじるということで必ず差し戻す,自判はできないという形の規定になったのですが,最近,裁判官の書かれる論文を拝見していますと,抗告審における自判を認めることにも長所はあるのではないかという御指摘が見受けられるんですけれども,このあたりはいかがでしょうか。
● 松村 そういう意見もあるということは承知しておりますが,最終的な処分を,どの処分を選び,どの処遇をし,その期間がどうかというあたりの細かいところは,現状では専門設備を備えた家庭裁判所で決めるのがふさわしいということで,そういう形になっているのだろうと思います。将来的にどういうふうにするかというのは審級の組み方の問題とか,人的,物的設備の分配の仕方とかもありますので我々も考えてみたいと思います。
● 甲斐 検察官の抗告受理については,これも前回の審議の際にも必要ないのではないかとか,いろいろ言われました。では仮に制度が導入されたとして,どれぐらい抗告するのか,あるいはどれぐらい必要があるのかという議論になり,参考として,成人の刑事事件で無罪になった場合に,検察官が控訴して,その結果どうなるのかというのを調べたことがありました。そうしましたところ,高裁で一審判決を破棄する,あるいは事実誤認を認めてもらえたという検察官側が勝った割合は,大体8割であったわけです。一審判決に不服があってもしようがないかと控訴しない件数もそれなりにあるわけですが,しかしながらこれはとてもおかしいではないかということで控訴をすると8割ぐらいは検察官の主張が認めてもらえるという結果であったわけです。
 きょうの御説明で14ページに抗告受理の申立てがされた事件の抗告審の結果というのが表九に記載されています。5件抗告受理の申立てがあって,うち3件は差戻しで,もう1件の強姦というのは抗告棄却にはなっていますが,実際は原決定は事実誤認はあるけれども,ほかの事件で少年院送致になっているので,結論として原決定を取り消す必要はない,だから検察官の主張は一応通ったということになります。
 ですから,全然だめだったというのは最後の1件ですので,5戦して4勝しているという意味で,やはり8割になっているので,私の当時の予想としては結構いい線をいっていたのかなというのが感触です。
 当時の問題意識としてはそれぐらい検察官が上訴申立てをした場合に8割はひっくり返るので,それを放っておいていいのかという問題意識で制度を導入する必要があるのではないかということであったわけです。
 手続関係はこれぐらいでよろしゅうございますか。
 それでは,最後の3点目の被害者への配慮の充実という部分につきまして,最初の久木元参事官の説明について何か御質問,御意見がございましたら何でもよろしくお願いします。
● 川出 最初に質問したことの確認ですが,先ほどの最高裁からの御説明で,意見聴取の形態は被害者の方の希望によっているというお話でした。私の記憶に間違いがなければ,この意見聴取の規定がつくられたときに,刑事事件における意見陳述と違って,審判期日における意見聴取という形にしなかったのは,それを当然に審判期日でできるということになると,少年事件の場合は事件からあまり時間がたっていない段階で審判が開かれることが多く,そうすると被害者の方のお気持ちもまだ感情的に整理されていない場合が多いため,そういう状態で審判期日で少年を前にして意見聴取をするということになると,場合によっては,意見聴取の際に少年に対してかなり厳しい非難等がなされることも考えられる,それにより,少年の情操が害され,審判の運営に支障を来す場合もあるだろう,だから,必ず審判期日で意見聴取することを認めないというような説明であったと思うのです。
 そうしますと,先ほどの御回答からすると,実際のところは被害者の方の御希望に沿った形で運営したとしても,当初懸念されていたような弊害は生じていないと理解してよろしいでしょうか。
● 河原 そう理解していただいて結構だと思います。
● 松村 そのときの事案とかシチュエーションによってはいろいろな配慮が必要になってくるものもあるかもしれませんけれども,先ほどこちらから御説明したのは基本的にはできる限り被害者の方の御意向,被害者の方の配慮を充実するための制度ですから,御意向を尊重して,そのやり方も決めていこうということで,そういう気持ちで運用してきたと考えています。
● 甲斐 被害者の方が,私は裁判官に聞いてもらいたいんだ,あるいは審判期日,少年の前で意見を言いたいんだと言っているのに,まあまあと言って審判期日でないところで調査官からお気持ちはここで聞きますからと言ってなだめてやってしまったという例はあまりないのでしょうか。
● 松村 そういうのは統計上はわからないのですが,なだめてという表現が適切かどうかは別にして,この事案ではどうしてもだめな事情があって,そこを御説明した上で意見聴取の方法について調整させてもらったというのは,審判期日かどうかとか,裁判官とか調査官とかいろいろな類型間の移動が全くなかったとは言えないと思いますが,基本的にはそういう姿勢で対処しています。件数として,そういうのがどのぐらいあったかとか,ちょっとそこまでは分かりません。
● 甲斐 意見陳述のやり方,審判期日における意見陳述のやり方の問題ですが,それは当然少年もいて,被害者の方が出て意見を言われて,それで手続が終わったらすぐ帰ってしまうわけですか。もうちょっと残って見ているという,そんな感じではないのですか。
● 松村 この意見陳述の手続については意見陳述の手続が終わった段階で御退席いただくか,そのための期日を設けてやるかということです。
● 甲斐 逆に,少年との間でトラブルになったとか,ワーッと言ってちょっとやめておきなさいと言ってみたりとか,そういうことというのはあったのですか。お聞きになっていますか。
● 松村 そういうトラブル的なものは聞いておりませんが,そこは裁判官が審判指揮でそういうことが起こらないように対処したり,起こりそうになったときに対処したりしているのだろうと思います。
● 山崎 参考になろうかと思うので申し上げます。私は付添人の立場として経験したことが1件あるのですが。まず,被害者の方に通常被害者調査といって調査官の方々の調査で被害者の状況を確認されるということが最近すごく増えている感じがします。そこで,被害者の方に事実上,意見陳述を促すといいますか,御希望があるかどうかを聞かれるということもかなり行われているように感じていまして,私がやったケースでも,まず裁判所のほうからそういう調査をして,被害者の方が陳述を希望されたので,最初,調査官が期日外に聞かれて,また審判廷で直接少年の前で陳述したいという御希望だったので,審判をそのために開いて陳述をしたというケースがありました。
 そこでは,調査官の調査のときに,これは裁判官も立ち会われていたかどうか私はちょっと確認していないんですが,期日外でやられた際にかなり時間をとって詳しく聞かれていて,それで少年に対してどういうことを話してもらうのがいいのかというあたりを多分調査官なり裁判官とも被害者の方が一度すべてを期日外で話されたうえで審判廷に来られたものですから,当然激しい言葉もあったんですが,少年が受け止められるような形で陳述をされて,少年側もそれを十分受け止めたのではないかなというケースがありました。
 その場で少年に話をさせると,その少年はなかなか生育上も難しい問題もあったものですから,その辺も裁判官が配慮されて,聞いた少年の感想などは「君の審判で聞くから。」という形では終わりました。そういう形で裁判所も配慮をされているのではないかということは感じました。
● 望月 そうすると,要するに被害者の方が,意見陳述をしたい,あるいは加害者に向かって,裁判官に向かって言いたいということを申出されたときに,陳述の内容というのは必ず期日外に調査というか聴取をされて,そこでならされたものになっていくということですか。
● 山崎 そうではないと思います。その事案がたまたまそうだったというだけで,直接審判廷でなされるケースもあるのではないかとは思います。
● 望月 刑事裁判ですと,いいんですよ,何を言っても,というふうに言ってくださる検事さんが多くなってきているんですね。時間の配分と,それからおっしゃりたいことは何でも言っていいんですよということ。少年審判の場合も何かそういうところでの操作があったり,あるいはこれを言いたいんだけれども,それはやめてほしいというような,期日外でのそういうことはあるんでしょうか。
● 松村 ないと思います。この制度は被害者の方のお申出によって述べられた意見を陳述していただくための制度ですので,それをこれは困りますとか,そういうことはないと思います。
● 山崎 誤解なきように申し上げます。私が申し上げた具体的な部分は,例えばこういうふうな形で損害が出ていますという経済的損害の部分,おっしゃっていた部分はかなり事前にまとめられていまして,それは事前に聞きましたから,おっしゃりたいことをおっしゃってください。そういう運びを裁判官がされたという趣旨です。
● 武 その犯罪の種類で多分違うと思うんですね。山崎先生が言われた種類というのはどんなものですか。
● 山崎 後遺症が一生涯残るような重大な事件ですね。
● 武 死亡事件とか凶悪犯罪にあって,もし遺族が意見を言おうとしたときに感情が出たりするのは当然のことだと思うんですね。それをとんでもない人たちみたいに言われる必要はなくて,少年事件だから言われてしまうんです。少年事件の被害者,特に私が普段話を聞いているのは皆死亡事件なものですから,その遺族が感情を出したらいけないという,そういう仕組みでした。少年に殺されたら我慢をまずしなさいって。言う言葉も気をつけなさいって。加害者の将来も考えなさいという,そういう仕組みでした。おかしいです。だから少年法が一部改正になってずいぶん変わりました。でも,まだここにある意見陳述1つにしても閲覧にしても,凶悪犯罪に限っていいますと,やはり刑事裁判とは違います。そして,刑事裁判の方はどんどん被害者の参加が進んでいます。どんどん差が出ています,少年犯罪の扱いと。ここは少年犯罪の種類によって凶悪犯罪であれば,もう少し考えてもいいと思います。その我慢は無理です。
● 望月 そうすると,被害者の方は心情を語っていいということで,そういうことが成立する以前の段階として,例えば少年側に問題があったような場合は,そういうことを加味されていいですよというような許可が出るんですか。それとも被害者の申出が優先されるのですか。
● 松村 少年側に問題とは。
● 望月 何か起きたときに少年が審判の席で精神的に動揺するのではないかとか,そういう懸念があるような場合がもしあったとしたら,それは避けてもらうということで,意見陳述の申出があってもできませんというようなことになるのか。あるいは被害者がやりたいと言った,これに該当する事案に関してはできるというようなことなのか。それはどちらなのでしょうか。
● 松村 そこは先ほどの説明が不足していたかもしれませんけれども,被害者の方が審判廷で少年のいるところで意見をおっしゃりたいということであれば,できる限りそれに添えるようにこの制度を運用していこうと思っています。これまでもそうやってきたつもりですけれども,これからも家裁としてはできる限りそうやっていきたいと思います。
 ただ,どうしても事案の状況によって御相談させていただくことはあるかもしれませんけれども,気持ちとしては今申し上げたような気持ちです。
● 甲斐 記録の閲覧とか,あとは審判結果の通知とか,そういった点で何か御質問なり御意見なりはございますか。
● 武内 主に裁判所にお伺いするんですが,改正に係る制度3種類は,それぞれ被害者からの申出を前提としておりますが,裁判所のほうで被害者の方に対して制度の説明等,あるいはこういう申出があればできますよということに対しての告知の機会等について,何か工夫をされておられることはございますでしょうか。
● 松村 この制度ができて,制度を被害者の方に利用していただくために制度があるということを知っていただく必要がありますので,これについては裁判所の方でも被害者の方にその制度をわかりやすく書いたリーフレットをつくって配布をしておりますし,いろいろなところで広報をさせていただいています。
 それからこういう制度全体について捜査機関の方でもいろいろとやっていただいているかと思いますが。
● 久木元 検察庁でも被害者通知制度というのを設けておりまして,家裁に送りましたという処分はお知らせすることになっております。捜査の段階で接触させていただいて,御希望のある方には,処分結果は大人の公判請求も,あるいは少年事件の家裁送致も同様にお知らせすることになっています。
 それからリーフレットですが,これは少年事件だけに限ったものではありませんが「犯罪被害者の方々へ」と題するリーフレットを作成して検察庁に来られた方は待合室などで自由に手にとってお持ち帰りになれるようにしております。これの27,28ページのところに少年審判の流れ,それから,右側に家庭裁判所における改正によって設けられた制度のことは記載させていただいておりまして,こういう制度を使うときは家裁のほうに言ってくださいということで検察庁にお立ち寄りになった被害者の方々がこれを目にしていただければ,少しでもこの制度の周知に役に立つようにという配慮をさせていただいているつもりであります。またそのほか,事情聴取の過程でありますとか,検察庁は,最近,全庁に被害者支援員というのを置いてホットラインをつくっております。そういうところから相談があれば,そのようなことも折に触れて説明させていただいていると承知しております。
● 甲斐 家裁のリーフレットというのはどこでもらえるんですか。家裁ですか。
● 松村 もちろん家裁にもありますし,その他の公共機関であるとか,関係機関にも配布していただいています。
● 甲斐 機関というと。
● 松村 警察署などです。
● 甲斐 警察にあるわけですね。家裁に来なければもらえないのだったら,家裁に来るかどうかが問題なので,何かグルグル回ってしまうような気がして。そうではないということですね。
● 松村 そうではないです。
● 甲斐 分かりました。
● 武内 続けてお尋ねします。資料2になりますが,それぞれの制度の申出数の中で意見の聴取に関してが文字通り1桁少ないかなと思うんですが,裁判所の方で9条の2に定めている件数,死亡事案が,全体で何件あって,そのうちの何件意見聴取をしたのかというような割合的なものというのはお分かりになりますか。これだと申出があって実施されたものの割合ですが,対象事件の中で申出があったものの割合が分かればと思いまして。全体の件数のうちで申出があったのがどのぐらいかということです。
● 松村 ぐ犯少年以外は全部ということになるのですが。
● 武内 ここだけずいぶん申出が少ないような印象を受けたものですから,何か理由なり裁判所で思い当たるところとかおありであればお話を聞かせていただければなと思いまして。
● 河原 これは本当に申出がないのです。そのために我々も今いろいろリーフレットの配布等に努めている。そういうところであります。
● 武内 それから,それぞれの制度の申出ですが,統計があるかどうかは分かりませんが,被害者御本人の方からの申出と代理人弁護士がついての申出等について,裁判所の方では何かデータをお持ちですか。
● 松村 それは数えていないと思います。
● 武内 了解しました。
● 甲斐 意見聴取は95.9%となっているのですが,意見申出があったけれども審判自体がもう終わってしまっていたので無理ですというような例もあるのですか。
● 久木元 確か2,3件はありました。825人中791人ですから,34人が意見聴取を認められなかったわけですが,そのうちの私の記憶では2,3件が終局後になってしまっていたということだったと思います。
● 武 閲覧と謄写ですが,少年犯罪の場合,社会記録とかそういうのはもちろん消されているんですけれど,今も変わらなく消されているのでしょうか。加害少年の社会記録とか生育に関わるそういうものが消されているんですね。私たちのころはなかったんですが,調書の中で消されていたんですが,今もそうなんでしょうか。
● 河原 閲覧,謄写につきましては,法律で非行事実の認定に係る部分に限るとなっていますので,ほかの法律,いわゆる法律記録,捜査機関がつくった記録に限られております。その中でどこの部分を閲覧,謄写を許可するかというのは個々の裁判官の裁判事項ということになります。
● 武 育ちがどうのこうのということが塗られていることが多いんです。少年の事件は特に多いのですが,私たちはその子たちのプライバシーや育ち方を知りたいわけではないっていつも言っているのです。ただ処分に大きく関わってくるんですね,育ちがこうだったから,例えば親がこうだったからとか,すごく少年犯罪の場合,そういうことが理由になってくるので,処分に対する理由に関するものは欲しいわけですが,割と塗られていることが多いんですね。そういうこともちょっと考えていただきたいことです。
● 甲斐 記録の分け方はいろいろな分け方があるのでしょうが,検察庁でまとめて送る記録があって,それから家庭裁判所でさらに追加して収集したり,あるいは調査官なりが集めて社会記録としてちょっと違う区分けをしているものがあると思うのです。社会記録は今のところは見ていただく対象にはなっていないんですが,検察庁から送る記録の中にも,例えば,少年本人の供述の中でどういう学校に行きましたとか,親からなぐられましたとか,いろいろな話が書いてある。あるいは親の調書があって,昔から万引きしていましたという話が書いてある。そういう調書が入っていることはありますよね。
 そういうものは閲覧,謄写はしてもらうことはあるわけですか。それは対象外になってしまうのでしょうか。
● 河原 そういったものも含めて,裁判官があとは相当性,必要性などを総合的に考慮するとなっています。
● 甲斐 対象としては,閲覧は,裁判官がいいと言えばできる対象にはなっているということですね。非行事実はどうですか。
● 松村 非行事実とこれに密接に関連する重要な事実も対象になっていますので,その範囲で認められるものは認めていっているのだろうと思います。
● 甲斐 あとは個別の事件,判断になってしまうのでしょうが,およそあり得ないということは多分ないのだろうと思うのです。事件に至る経緯の部分も結構絡んでくるので,例えばどうしてこの子がこんな大それたことを犯したのかという話をたどっていくと,その生育歴というか親から虐待を受けていましたとか,そういうのが背景になっていることがあって,それは個人的な生育歴だけかと言われればそうではなくて,犯罪の背景としての意味ももちろん持っているわけで,だからこそ警察も検察庁もそこは調べますということがあり得るだろうと思うのです。それは閲覧の対象にはなっているでしょうけれども,そこは他方でプライバシーとの関係があるから裁判所のほうで個別に判断するしかありません。
 社会記録の部分はむしろそういう部分だけに特化した部分なので,もともと法律の仕組みとして閲覧対象にはしていないという,ちょっと区分けがあるのだろうと思います。
● 武内 質問ではなく感想ということになりますが,被害者の方に依頼を受けて閲覧・謄写の申立てを代理人弁護士としてやる場合,法律上の要件は損害賠償請求権の行使その他正当な理由がある場合と。そうすると,少年事件の場合,被害者が損害賠償を請求しようとする相手というのは少年本人よりも保護者というか親権者になるわけですよね。そうすると法律上の構成としては親の監督義務違反,育て方に過失があったんだということを民事の裁判で立証していかなければいけない。ところが,その部分に関して記録をくださいと言うと社会記録そのものの部分はともかくとしても,捜査の段階で親御さんが警察や検察に話を聞かれた部分に関して非行事実と直接関係がないということで切られてしまうケースが割と多いように,私などは印象を持っておりまして,だから損害賠償をする弁護士からすると,一番武器になる部分を出してくれないと感じています。必ずしもそれもプライバシーを暴くとか生育歴とかではなくて,損害賠償請求権の行使のために非常に必要性が高いのに,そこが出てこないというジレンマというのはよく現場で感じることがあります。
● 武 とても苦労しました。
● 甲斐 ほかに,被害者の部分も含め,あるいはその前の処分の部分,手続の部分でももちろん結構ですが,御質問なり御意見なりはありますでしょうか。
● 武内 改正少年法の施行状況というところから少しずれますが,基本計画で審判の傍聴の話も出ておりますので少し伺わせてください。現行法でも少年審判規則の29条でその他相当と認めるものの在席を許すことができるということで,理屈の上では被害者の方の在席,審判廷への在席というのも現行法でも可能と承知しておりますが,実際,裁判所での運用状況等について被害者の方がこの規則を使って在席をさせたケースとかについて何か統計あるいは具体的な事例とかご存じありますでしょうか。
● 河原 統計というものはないのですが,29条の一般的な解釈としては被害者の方などは入らないのではないかと言われているということは承知しています。新聞報道というかマスコミ報道のようなもので,そのようなものがあるようにも聞いておりますが,正式に最高裁で把握しているものはございません。
● 甲斐 ほかにございますでしょうか。
 では,今後も何回か続きますので疑問があったときに,また聞いていただければと思います。今日はこの程度とさせていただきたいと思います。
 (武るり子氏随行の宮田幸久氏(少年犯罪被害当事者の会会員)から発言の申出あり。)
● 宮田 今日は参加させていただいて本当にありがとうございます。少し感想めいたことも含めて述べさせていただければと思っております。今まで長い間,少年法をどうするかという問題は大きな議論になっていたわけですけれども,そこに当事者としての被害者が声を上げてきたというのはこの10年ぐらいです。武さんを始めとする人たち,私たちも含めてですけれども,声を上げたからだと思っております。8年ぐらいほど前から,各省庁あるいは日弁連,東京弁護士会,大阪弁護士会もお訪ねをしてお話を聞いていただく機会を持っていただいたんですけれども,当時は絶対にこの部分は守る,この部分は守るというところがお互いにありまして,絶対に席を同じゅうせずというような形のことをそれぞれの皆さんから言われておりましたけれども,私は,ここでこのような会に参加させていただくのは初めてですが,当時から私たち被害者,被害の当事者が思っていたのはこういう内容の会議がそれぞれを代表する方々が集まってなぜできないのかということを,長いこと申し上げてきたんですが,快く御参加もいただいたり,また主催される皆さん,本当に努力されたということで私は心から感謝を申し上げたいと思います。
 さて,そこで私たちが言いたかったのは,今もそうですが,被害者が,殺された者が,強盗殺人に遭った被害者が,それまで命を持っていた人として認められていなかったということに,まず親として,親族として気がついたということなんです。ですから,今最後のところで被害者への「配慮」ということにも分かるように,そう言えば被害者もいたなと,多少気を遣わなければいけないなというのが現状だと私は思っています。
 なぜ配慮なのか。今日,日本の社会にあって最大の損害を被ったのは被害者本人なんです。ここにあなたはなぜ殺されたのか。どういう損害を被ったのか。加害者はどういうことで君を殺したのかということは,被害の当事者や遺族が事を改めて請求したり,謄写のお願いをしたり,意見陳述をすることではないんですね。最大の被害者が殺された人間だとするならば,私は,そこが今まだまだ被害者が人間だったということが認められていないなと思っています。そういう点で,今後,こういう円卓会議を持っていただきながらよりよい方向に改正を,改正というよりは,改正というと必ず改悪というし,お互いの立場に固執するだけになってしまいますから,要は現時点で不満がそれぞれあっても改善すべき点があるということを認識していただけるよう,それぞれの団体の皆さんになっていただけたらなと思っております。
 それから,最後のところで意見の聴取の話ですが,意見を述べさせていただきたいと被害の当事者が申し込むときは,なぜ申し込むかといえば,自分の怒りとか感情ということでなくて,1つは審判をどうとらえるかということですが,この前も日弁連の子どもの権利委員会のところで,全員の皆さんではなかったですがお話ししたんですが,私たちとしては,事件の事実すべてを知らなければ死んだ者を理解することはできないんです。すべてを知らないで横たわっている息子や娘を理解することは到底不可能です。だから審判廷というのは事実認定をする場所できちっとやってほしいというのが私はあります。ただ,それを刑事法廷と同じようにするかどうかということも含めてですが,そういう中で私たち遺族がすべての記録をいつの時点でいただけるのかということがあるんです。したがって事実がわからなければ意見陳述の内容もないんです。それは単なる感情をぶつけるだけで。事実は違うのではないかということを言えないんですね。だから,何が何でも審判廷に刃物を隠し持って入ってぶちまけてやるという,そういう問題ではないんです。だから仕組みと意見陳述の申出が少ないというのは,そういうことがいろいろあると思うんです。
 だから,ここで最大の被害者,もちろんこの世にいないわけですから救うことはできないんですけれども,何をどうすることが同じ人間だった者として同等に扱えるのだろうかということを考えてほしいなと思っております。
 今日はすみません,勝手な感想だけで申し訳ないんですが。
● 甲斐 ありがとうございました。次回は日弁連から御意見をちょうだいして質疑をするということでよろしゅうございますか。
 では,どうもありがとうございました。
-了-

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